(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-07
(54)【発明の名称】ユビキチンリガーゼアゴニストをスクリーニングする方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/00 20060101AFI20220131BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20220131BHJP
C12N 9/00 20060101ALN20220131BHJP
【FI】
C12Q1/00
G01N33/50 Z
C12N9/00 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021521194
(86)(22)【出願日】2019-10-17
(85)【翻訳文提出日】2021-06-08
(86)【国際出願番号】 US2019056738
(87)【国際公開番号】W WO2020081815
(87)【国際公開日】2020-04-23
(32)【優先日】2018-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】514104933
【氏名又は名称】ユニヴァーシティ オブ ワシントン
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヂョン,ニン
(72)【発明者】
【氏名】ツァオ,シユン
(72)【発明者】
【氏名】ハインズ,トーマス・アール
(72)【発明者】
【氏名】リー,ホン
(72)【発明者】
【氏名】マオ,ハイビン
【テーマコード(参考)】
2G045
4B050
4B063
【Fターム(参考)】
2G045AA40
2G045FB01
4B050CC07
4B050LL03
4B063QA20
4B063QQ40
(57)【要約】
ユビキチンリガーゼアゴニストを同定する方法が本明細書に開示され、本方法は、(a)ユビキチンリガーゼを候補アゴニスト及び新基質と接触させるステップと;(b)上記候補アゴニストが、上記ユビキチンリガーゼを新基質に結合させるのに有効かどうか決定するステップとを含み、上記新基質への上記ユビキチン基質の結合により、上記候補アゴニストをユビキチンリガーゼアゴニストとして同定する、方法である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユビキチンリガーゼアゴニストを同定する方法であって、
(a)ユビキチンリガーゼを候補アゴニスト及び新基質と接触させるステップと;
(b)前記候補アゴニストが、前記ユビキチンリガーゼを前記新基質に結合させるのに有効かどうか決定するステップとを含み、
前記新基質に対する前記ユビキチン基質の結合が、前記候補アゴニストをユビキチンリガーゼアゴニストとして同定する、方法。
【請求項2】
前記新基質に対する前記ユビキチンリガーゼの結合が、前記ユビキチンリガーゼ、前記アゴニスト及び前記新基質を含む複合体を形成する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記候補アゴニストが、前記ユビキチンリガーゼを前記新基質に結合させるのに有効かどうか決定するステップが、前記結合によって生成されるシグナルを観察するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ユビキチンリガーゼが、第1のレポーティング物質をさらに含み、前記基質が、第2のレポーティング物質をさらに含み、前記新基質に前記ユビキチンリガーゼが結合すると、前記第1のレポーティング物質が、前記第2のレポーティング物質と共に作用して、シグナルを生成する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第1のレポーティング物質を含む前記ユビキチンリガーゼが、励起状態にある場合に活性酸素種を生成するように構成されているドナービーズであり、前記第2のレポーティング物質を含む前記新基質が、前記新基質に前記ユビキチンリガーゼが結合すると活性酸素種の存在下で光を生成するように構成されているアクセプタービーズである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ドナービーズが、増感剤が励起状態にある場合に前記活性酸素種を生成するように構成されている前記増感剤を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記増感剤が、刺激電磁放射が照射された場合に前記活性酸素種を生成するように構成されている光増感剤である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記光増感剤がフタロシアニンである、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記アクセプタービーズが、ルミネッセンス化合物が活性酸素種の近くにある場合にルミネッセンス光を生成するように構成されている前記ルミネッセンス化合物を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
前記ルミネッセンス化合物が、チオキセン、アントラセン、ルブレネイン及びその組合せからなる群から選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記活性酸素種が、一重項酸素である、請求項5に記載の方法。
【請求項12】
前記候補アゴニストが、前記ユビキチンリガーゼを前記新基質に結合させるのに有効かどうか決定するステップが、前記結合によるシグナルの増加を観察するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記ユビキチンリガーゼが、第1のレポーティング物質をさらに含み、前記新基質が、第2のレポーティング物質をさらに含み、前記新基質に前記ユビキチンリガーゼが結合すると、前記第1のレポーティング物質が、前記第2のレポーティング物質と共に作用してシグナルの増加をもたらす、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記ユビキチンリガーゼが、マルチサブユニットE3ユビキチンリガーゼのカリンRINGスーパーファミリーのメンバー、基質結合ドメインを持つRING型E3リガーゼのメンバー、又は基質結合ドメインを持つHECT型E3リガーゼのメンバーである、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記ユビキチンリガーゼが、KEAP1である、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記新基質が、KRAS又はKRAS変異体である、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年10月17日に出願の米国特許出願第62/746,957号の利益を主張し、特にその全体を参照により本明細書に組み込む。
【0002】
配列表に関する記載
本出願に関連する配列表は、紙原稿の代わりにテキスト形式で提供され、本明細書に参照によりここに組み込む。配列表を含有するテキストファイル名は、70157_Sequence_final_2019-10-16.txtである。テキストファイルは、2KBであり;2019年10月16日に作成され;明細書の申請と共にEFS-Webによって提出されている。
【0003】
発明の背景
ユビキチンプロテアソーム系(UPS)は、真核細胞において無数のタンパク質の代謝回転を媒介することによって多様な細胞機能を調節する[Hershko,A.及びCiechanover,A.The ubiquitin system.Annu Rev Biochem 67巻、425~479頁、doi:10.1146/annurev.biochem.67.1.425(1998年)]。分解のためにタンパク質をタグ付けするために、真核細胞は、ポリユビキチン鎖によってタンパク質を先ず共有結合的に改変し、そのポリユビキチン鎖は、プロテアソーム標的化シグナルとしての機能を果たす。この翻訳後改変(すなわちユビキチン化)は、3種類の酵素、E1、E2及びE3の連続した作用によって達成される[Pickart,C.M. Mechanisms underlying ubiquitination.Annu Rev Biochem 70巻、503~533頁、doi:10.1146/annurev.biochem.70.1.503(2001年)]。これら酵素の中で、ユビキチンE3リガーゼは、特定のタンパク質基質を認識し、ユビキチンコンジュゲートE2酵素から標的タンパク質へのユビキチンの転移を促進することにより酵素的カスケードで中心的な役割を果たす[Zheng,N.及びShabek,N.Ubiquitin Ligases:Structure、Function、and Regulation.Annu Rev Biochem 86巻、129~157頁、doi:10.1146/annurev-biochem-060815-014922(2017年)]。ユビキチン化の特異性は、したがって、E3-基質界面に規定される。ヒトは、数百種もの異なるE3を有する。さらなるアダプタータンパク質の助けを借りて、これらE3リガーゼは、数千個とまではいかないが、数百種の基質タンパク質を高い特異性で認識し、ユビキチン化することができる。それでもなお、E3リガーゼの基質でないタンパク質が存在する。
【0004】
ユビキチンリガーゼを再配線して、ユビキチン化しなければE3によってプロセッシングされない所望の基質をユビキチン化し、分解させ得る分子接着剤E3アゴニストを発見し、開発するのに有効な方法を確立する必要性がある。本発明は、この必要性を満たし、さらに関連する利点を提供することを試みる。
【0005】
概要
一態様において、ユビキチンリガーゼアゴニストを同定する方法が、開示される。一実施形態において、本方法は、(a)ユビキチンリガーゼを候補アゴニスト及び新基質と接触させるステップと;(b)候補アゴニストが、ユビキチンリガーゼを新基質に結合させるのに有効かどうか決定するステップとを含み、新基質に対するユビキチン基質の結合が、候補アゴニストをユビキチンリガーゼアゴニストとして同定する、方法である。特定の実施形態において、新基質に対するユビキチンリガーゼの結合は、ユビキチンリガーゼ、アゴニスト及び新基質を含む複合体を形成する。
【0006】
本方法の特定の実施形態において、候補アゴニストが、ユビキチンリガーゼを新基質に結合させるのに有効かどうか決定するステップは、結合によって生成されるシグナルを観察するステップを含む。
【0007】
本方法の特定の実施形態において、ユビキチンリガーゼは、第1のレポーティング物質をさらに含み、基質は、第2のレポーティング物質をさらに含み、新基質にユビキチンリガーゼが結合すると、第1のレポーティング物質は、第2のレポーティング物質と共に作用してシグナルを生成する。これらの実施形態のいくつかにおいて、第1のレポーティング物質を含むユビキチンリガーゼは、励起状態にある場合に活性酸素種を生成するように構成されているドナービーズであり、第2のレポーティング物質を含む新基質は、新基質にユビキチンリガーゼが結合すると活性酸素種の存在下で光を生成するように構成されているアクセプタービーズである。これら実施形態のいくつかにおいて、ドナービーズは、増感剤が励起状態にある場合に活性酸素種を生成するように構成されている増感剤を含む。これらの実施形態のいくつかにおいて、増感剤は、刺激電磁放射が照射された場合に活性酸素種を生成するように構成されている光増感剤である。特定の実施形態において、光増感剤はフタロシアニンである。特定の実施形態において、アクセプタービーズは、ルミネッセンス化合物が活性酸素種の近くにある場合にルミネッセンス光を生成するように構成されているルミネッセンス化合物を含む。代表的なルミネッセンス化合物には、チオキセン、アントラセン、ルブレネイン(rubrenein)、及びその組合せがある。特定の実施形態において、活性酸素種は一重項酸素である。
【0008】
本方法の特定の実施形態において、候補アゴニストが、ユビキチンリガーゼを新基質に結合させるのに有効かどうか決定するステップは、結合によるシグナルの増加を観察するステップを含む。
【0009】
本方法の特定の実施形態において、ユビキチンリガーゼは、第1のレポーティング物質をさらに含み、新基質は、第2のレポーティング物質をさらに含み、新基質にユビキチンリガーゼが結合すると、第1のレポーティング物質は、第2のレポーティング物質と共に作用してシグナルの増加をもたらす。
【0010】
本方法の特定の実施形態において、ユビキチンリガーゼは、マルチサブユニットE3ユビキチンリガーゼのカリン(cullin)RINGスーパーファミリーのメンバー、基質結合ドメインを持つRING型E3リガーゼのメンバー、又は基質結合ドメインを持つHECT型E3リガーゼのメンバーである。
【0011】
本方法の特定の実施形態において、ユビキチンリガーゼはKEAP1である。
本方法の特定の実施形態において、新基質はKRAS又はKRAS変異体である。
【0012】
本発明の前述の態様及び付随する多数の利点は、添付の図面と併せて、それらが以下の詳細な説明を参照することによってよりよく理解されるようにさらに容易に認識されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】PROTACとE3アゴニストである分子接着剤との比較を示す図である。
【
図2】KEAP1とKRAS間の相互作用を促進できる分子接着剤化合物の概略図を示す図である。
【
図3】当初計画したAlphaScreenに基づく一次スクリーン及びカウンタースクリーンアッセイ並びに二次スクリーンアッセイの設計を示す図である。Hisタグ付きKRASはアクセプタービーズに固定化されており、ビオチン化KEAP1は、ドナービーズに結合されている。小分子化合物がKEAP1-KRAS相互作用を促進できる場合、AlphaScreenにおいてシグナルが生成されることになる。RBD-NRF2デグロン融合タンパク質は、陽性対照として使用されることになる。
【
図4】二次スクリーンとしてのCisbio TR-FRETを示す図である。TR-FRETアッセイの背後にある原理の概略図であり、このアッセイも近接性に基づくタンパク質-タンパク質相互作用アッセイである。
【
図5】低親和性結合を追跡するための調整可能なプラットフォーム(adjustable platform for tracking low affinity binding)(APTLAB)アッセイの設計を示す図である。本アッセイは、分子接着剤化合物によって誘導される、2つのタンパク質間の弱い相互作用を検出するために開発された。本アッセイは、DNAオリゴ間の調整可能な弱い相互作用を使用して化合物に誘導される弱いタンパク質-タンパク質相互作用を増強させる。この系において、2つのタンパク質は、一本鎖DNAと個々にコンジュゲートされ、タンパク質コンジュゲートされたDNAオリゴに相補的な配列を持つより長い一本鎖DNAによって合体され得る。DNA-タンパク質コンジュゲーションは、細菌HUHタンパク質によって媒介される。細菌HUHタンパク質は、各個々のタンパク質に融合され、チロシン残基を介する特定のDNA配列に対するHUHのコンジュゲーションを触媒できる。
【
図6A】APTLABに使用したDNAオリゴを示す図である。HUH特異的DNA配列(ACCAG)に加えて、DNAオリゴは、ブリッジオリゴに相補的な配列を持つ、異なる長さを特徴とする。この調整可能な特徴を使用して、DNAオリゴ間に段階的な親和性を導入することができる。
【
図6B】APTLABに使用したDNAオリゴを示す図である。HUH特異的DNA配列(ACCAG)に加えて、DNAオリゴは、ブリッジオリゴに相補的な配列を持つ、異なる長さを特徴とする。この調整可能な特徴を使用して、DNAオリゴ間に段階的な親和性を導入することができる。
【
図7A】KEAP1及びKRASへの一本鎖DNAオリゴのコンジュゲーションを示す図である。異なる長さを持つ2つのDNAオリゴにコンジュゲートされる前後のKEAP-HUH及びKRAS-HUHのSDS-PAGE分析である。
【
図7B】KEAP1及びKRASへの一本鎖DNAオリゴのコンジュゲーションを示す図である。異なる長さを持つ2つのDNAオリゴにコンジュゲートされる前後のKEAP-HUH及びKRAS-HUHのSDS-PAGE分析である。
【
図8A】異なる長さを持つ3つのssDNAブリッジオリゴの設計を示す図である。(A)3つのオリゴの特異的配列を示す図である。(B)Octet BLIによって検出される結合シグナルを生成する3つのオリゴの活性を示す図である。(C)2つのオリゴの存在下でOctet BLIによって検出される結合シグナルに対する1つのヒット化合物の効果を示す図である。
【
図8B】異なる長さを持つ3つのssDNAブリッジオリゴの設計を示す図である。(A)3つのオリゴの特異的配列を示す図である。(B)Octet BLIによって検出される結合シグナルを生成する3つのオリゴの活性を示す図である。(C)2つのオリゴの存在下でOctet BLIによって検出される結合シグナルに対する1つのヒット化合物の効果を示す図である。
【
図8C】異なる長さを持つ3つのssDNAブリッジオリゴの設計を示す図である。(A)3つのオリゴの特異的配列を示す図である。(B)Octet BLIによって検出される結合シグナルを生成する3つのオリゴの活性を示す図である。(C)2つのオリゴの存在下でOctet BLIによって検出される結合シグナルに対する1つのヒット化合物の効果を示す図である。
【
図9】APTLABによって検証された19個のヒット化合物の活性の概要である。結合開始の10分後のOctet BLI結合シグナルを、Y軸にプロットした。
【
図10】ヒット検証のためのスプリットルシフェラーゼアッセイの設計を示す図である。KEAP1とKRAS間の化合物に誘導される弱い相互作用は、結合タンパク質のうちの1つに個々に融合された2つの半分のルシフェラーゼ間の相互作用を促進することができる。ヒット化合物の活性は、増強ルシフェラーゼ活性によって検出され得る。
【
図11】スプリットルシフェラーゼアッセイによって検証されたヒット化合物活性の概要である。
【0014】
詳細な説明
一部の実施形態は、ドラッガブル(druggable)でない癌遺伝子産物と、別の方法ではその癌遺伝子産物を結合しないヒトE3リガーゼと、の相互作用を助長する(すなわち、分子接着剤の作用によって、リガーゼの新基質になる)小分子化合物(例えば、分子接着剤)を発見する方法に関する。
【0015】
一部の実施形態は、ユビキチンリガーゼを候補アゴニスト及び新基質と接触させるステップと;候補アゴニストの存在下で新基質に対するユビキチンリガーゼの結合活性を測定するステップとを含む、ユビキチンリガーゼアゴニストをスクリーニングする方法に関する。
【0016】
本明細書では、用語「新基質」とは、所与のユビキチンリガーゼに対して本来は基質ではないタンパク質のことを指す。用語「新基質」とは、リガーゼ、アゴニスト及び新基質を含む複合体を形成するのに有効な分子接着剤としての機能を果たすアゴニストの存在下でのみ所与のユビキチンリガーゼに結合するタンパク質のことを指す。PROTAC化合物(タンパク質標的化キメラ分子)とは対照的に、分子接着剤は、各タンパク質に対して低い親和性しか有しない又は親和性を有しないが、3者間の相互作用を促進する(
図1)。PROTACと分子接着剤の両方が、E3アゴニストであり、標的したタンパク質の分解を促進できるが、それらは機構的に異なる。PROTACは、リンカーによって連結された2つの別々の弾頭を持つ二官能性分子である。これらの弾頭は、E3及び基質を同時に集めるのに十分高い親和性を有する必要がある。この要件は、PROTACを本質的に大きくし、分子量で500Daを容易に超えさせる。PROTACの基質は、弾頭の化学的部分に対する親和性を示すために、リガンドになり得るタンパク質でなければならない。PROTACを開発する手法は、従来通りのハイスループットスクリーン方法を使用してE3及び基質を別々に結合できる化合物を発見するステップと、リンカー部分と一緒に2つの化合物を連結するステップとを含む。対照的に、分子接着剤化合物は、リガンドになり得ない標的であり得る基質に対して高い親和性を示す必要はない。分子接着剤化合物の予想される分子量は、典型的な小分子と同じ範囲になる。
【0017】
一部の実施形態において、候補アゴニストの分子量は、500Da未満、250Da未満、200Da未満、175Da未満、125Da未満又は100Da未満である。一部の実施形態において、候補アゴニストは、新基質に対する親和性を実質的に持たない。一部の実施形態において、候補アゴニストは、新基質に対して親和性を持たない。一部の実施形態において、候補アゴニストは、ユビキチンリガーゼに対して親和性を実質的に持たない。一部の実施形態において、候補アゴニストは、ユビキチンリガーゼに対して親和性を持たない。一部の実施形態において、候補アゴニストは、新基質と結合する部分及びユビキチンリガーゼと結合する部分の両方を含まない(例えば、二官能性でない)。
【0018】
一部の実施形態において、ユビキチンリガーゼ及び新基質の存在下における候補アゴニストの用量応答は、候補アゴニストの濃度の増加に応じたリガーゼ/新基質結合の大幅な低下を呈しない。一部の実施形態において、リガーゼ/新基質結合の程度は、リガーゼ/新基質結合の最大時の濃度より高い濃度における最大結合度の5%、10%、15%、25%、30%、35%、40%、45%、又は50%より低下しない。
【0019】
一部の実施形態において、本明細書に記述される方法は、1つ又は複数のアッセイを使用して結合活性を測定するステップを含む。一部の実施形態において、スクリーニング方法は、一次アッセイを使用して結合活性を測定するステップと、検証のために1つ又は複数の二次アッセイを使用して結合活性を測定するステップとを含む。
【0020】
一部の実施形態において、アッセイは、ユビキチンリガーゼ及び新基質を含む。
一部の実施形態において、一次アッセイは、化学増幅型ルミネッセンスプロキシミティホモジニアスアッセイ(amplified luminescent proximity homogenous assay)である。一部の実施形態において、二次アッセイは、TR-FRET結合アッセイ、Biacore結合アッセイ、Octet BLI結合アッセイ又はin vitro活性アッセイから選択される。
【0021】
一部の実施形態において、新基質に対するユビキチンリガーゼの結合は、ユビキチンリガーゼ、アゴニスト及び新基質を含む複合体を形成する。
【0022】
一部の実施形態において、本明細書に記述される方法は、候補アゴニストをスクリーニングして、候補アゴニストが、ユビキチンリガーゼを新基質に結合させるのに有効かどうか決定するステップを含む。一部の実施形態において、候補アゴニストをスクリーニングするステップは、結合によって生成されるシグナルを観察するステップを含む。
【0023】
一部の実施形態において、ユビキチンリガーゼは、第1のレポーティング物質をさらに含み、基質は、第2のレポーティング物質をさらに含み、新基質にユビキチンリガーゼが結合すると、第1のレポーティング物質は、第2のレポーティング物質と共に作用して、シグナルを生成する。
【0024】
一部の実施形態において、第1のレポーティング物質を含むユビキチンリガーゼは、励起状態にある場合に活性酸素種を生成するように構成されているドナービーズであり、第2のレポーティング物質を含む新基質は、新基質にユビキチンリガーゼが結合すると活性酸素種の存在下で光を生成するように構成されているアクセプタービーズである。
【0025】
一部の実施形態において、ドナービーズは、増感剤が励起状態にある場合に活性酸素種を生成するように構成されている増感剤を含む。
【0026】
一部の実施形態において、増感剤は、刺激電磁放射が照射された場合に活性酸素種を生成するように構成されている光増感剤である。
一部の実施形態において、光増感剤はフタロシアニンである。
【0027】
一部の実施形態において、アクセプタービーズは、ルミネッセンス化合物が活性酸素種の近くにある場合にルミネッセンス光を生成するように構成されているルミネッセンス化合物を含む。
【0028】
一部の実施形態において、ルミネッセンス化合物は、チオキセン、アントラセン、ルブレネイン及びその組合せからなる群から選択される。
【0029】
一部の実施形態において、活性酸素種は、一重項酸素である。
一部の実施形態において、候補アゴニストが、ユビキチンリガーゼを新基質に結合させるのに有効かどうか決定するステップは、結合によるシグナルの増加を観察するステップを含む。
【0030】
一部の実施形態において、ユビキチンリガーゼは、第1のレポーティング物質をさらに含み、新基質は、第2のレポーティング物質をさらに含み、新基質にユビキチンリガーゼが結合すると、第1のレポーティング物質は、第2のレポーティング物質と共に作用してシグナルの獲得をもたらす。
【0031】
一部の実施形態において、ユビキチンリガーゼは、マルチサブユニットE3ユビキチンリガーゼのカリンRINGスーパーファミリーのメンバー、基質結合ドメインを持つRING型E3リガーゼのメンバー、又は基質結合ドメインを持つHECT型E3リガーゼのメンバーである。一部の実施形態において、ユビキチンリガーゼは、基質結合ドメインを持つリガーゼのHECT、RING型、U-ボックス及びPHDフィンガー型のメンバーである。
【0032】
一部の実施形態において、ユビキチンリガーゼはKEAP1である。一部の実施形態において、新基質はKRAS又はKRAS変異体である。
【0033】
スクリーニングの方法
以下は、小分子をスクリーニングして、標的化した新基質分解(ユビキチン化による)のためのユビキチンリガーゼの小分子アゴニストを同定する代表的な方法について記載する。
【0034】
一部の実施形態において、本明細書に記載される方法に使用されるアッセイは、ユビキチンリガーゼ結合活性をスクリーニングするために設計される。一部の実施形態において、本明細書に記述される方法に使用されるアッセイは、KEAP1及びKRAS/KRAS変異体結合をスクリーニングするためのものである。
【0035】
一部の実施形態において、2つ以上のアッセイが、スクリーニングに使用される。一部の実施形態において、スクリーニング方法は、一次アッセイにより候補アゴニストをスクリーニングするステップを含む。一部の実施形態において、スクリーニング方法は、結合活性を検証するために二次スクリーンアッセイにより候補アゴニストをスクリーニングするステップを含む。
【0036】
一部の実施形態において、スクリーニングに使用されるアッセイは、化学増幅型ルミネッセンスプロキシミティホモジニアスアッセイであり、このアッセイはユビキチンリガーゼ及び新基質を含む。一部の実施形態において、アッセイは、ドナービーズが結合しているユビキチンリガーゼ及び受容体ビーズに結合している新基質を含む。一部の実施形態において、アッセイは、アクセプタービーズが結合しているユビキチンリガーゼ及びドナービーズに結合している新基質を含む。一部の実施形態において、ユビキチンがユビキチンリガーゼアゴニストの存在下で新基質に結合する場合、ドナービーズ及びアクセプタービーズは相互作用してシグナルを生成する。
【0037】
一部の実施形態において、スクリーニングに使用されるアッセイは、低親和性結合を追跡するための調整可能なプラットフォームアッセイ(APTLAB)である。一部の実施形態において、スクリーニングに使用したアッセイは、TR-FRET(時間分解蛍光共鳴エネルギー移動)である。一部の実施形態において、スクリーニングに使用したアッセイは、スプリットルシフェラーゼアッセイである。
【0038】
一部の実施形態において、本明細書に記述される方法は、1つ又は複数のアッセイを使用して結合活性を測定するステップを含む。一部の実施形態において、スクリーニング方法は、一次アッセイを使用して結合活性を測定するステップと、検証のために1つ又は複数の二次アッセイを使用して結合活性を測定するステップとを含む。
【0039】
一部の実施形態において、アッセイは、ユビキチンリガーゼ及び新基質を含む。
一部の実施形態において、一次アッセイは、化学増幅型ルミネッセンスプロキシミティホモジニアスアッセイである。一部の実施形態において、アッセイは、ユビキチンリガーゼアゴニストの存在下でユビキチンリガーゼと新基質との結合を増強させるのに使用できるDNAオリゴ間の調整可能な相互作用を利用する。一部の実施形態において、ユビキチンリガーゼは、第1の一本鎖DNAにコンジュゲートされ、新基質は、第2の一本鎖DNAとコンジュゲートされ、第1の一本鎖DNA及び第2の一本鎖DNAは、タンパク質コンジュゲートされた第1及び第2の一本鎖DNAに対して相補的な配列を持つ一本鎖DNAのより長い断片によって合体される。DNA-タンパク質コンジュゲーションは、細菌HUHタンパク質によって媒介される。細菌HUHタンパク質は、各個々のタンパク質に融合され、チロシン残基を介する特定のDNA配列に対するHUHのコンジュゲーションを触媒できる。一部の実施形態において、ユビキチンリガーゼアゴニストの存在下でのユビキチンリガーゼと新基質との結合は、相補的DNA間の相互作用によって増強され、結果として検出可能なシグナルを得ることができる。
【0040】
一部の実施形態において、二次アッセイは、TR-FRET結合アッセイ、Biacore結合アッセイ、Octet BLI結合アッセイ又はin vitro活性アッセイから選択される。
【0041】
標的選択
一部の実施形態において、本明細書に記載される方法は、先ず新基質を選択するステップを含む。一部の実施形態において、本明細書に記載される方法は、基質タンパク質を選択するステップを含む。一部の実施形態において、基質タンパク質は、ユビキチン化され、分解され得る。一部の実施形態において、本明細書に記載される方法は、新基質及び基質タンパク質に結合すると基質タンパク質をユビキチン化できる1つ又は複数のE3ユビキチンリガーゼを選択するステップを含む。一部の実施形態において、基質タンパク質及びE3ユビキチンリガーゼは、新基質と相互作用した後に結合することができる。従来通りの創薬とは異なり、E3リガーゼを化学的に再プログラムして新基質をユビキチン化する試みは、2つの「標的」、ユビキチンE3リガーゼ及び基質タンパク質を必要とする。第1のステップとして、「基質中心の」手法は、ユビキチン化され、分解される対象のタンパク質を先ず選択することによって行われた。この手法は、特定のE3に焦点を合わせ、異なる基質をユビキチン化するE3の潜在性を探査する「リガーゼ中心の」手法とは対照的である。基質が同定されたら、1つ又は複数の適当なE3が、以下で指定されるいくつかの基準に基づいて選択された。
【0042】
一部の実施形態において、新基質タンパク質は、新基質の非存在下でE3ユビキチンリガーゼに直接結合しない。多数のヒト疾患は、突然変異、異常調節又は有害な遺伝子産物によって引き起こされ、それら産物の下方調節は、疾患の増悪を減速し、病徴を軽減することができる。分子接着剤E3アゴニストの固有の長所を利用するために、ドラッガブルでなく、特にリガンドになり得ない標的が考慮された。これらの標的は、ドラッガブルでない球状ドメインを有する可能性があり又はリガンドになり得る部位のない本質的な障害がある。特にコドン12及び61におけるKRASの突然変異並びに他のRASアイソフォームは、GTPアーゼを発癌性にする可能性があり、膵臓がん、肺がん及び大腸がんにしばしば見られる。そのGTP結合ポケットのため、細胞性GTPは高親和性且つ高濃度であるためKRAS変異体はドラッガブルでない可能性がある。KRASは、そのヌクレオチド結合ポケットの外に小分子によって標的され得る深い表面腔をほとんど示さない。既存のKRAS結合性化合物について報告されている最も高い親和性は、およそ100μMである[Maurer,T.ら、Small-molecule ligands bind to a distinct pocket in Ras and inhibit SOS-mediated nucleotide exchange activity.Proc Natl Acad Sci USA 109巻、5299~5304頁、doi:10.1073/pnas.1116510109(2012年)]。発癌性産物は、したがって、分子接着剤E3アゴニストによる下方調節の標的になり得る。
【0043】
一部の実施形態において、本明細書に記載される方法は、KRAS又はKRAS変異体を結合し、ユビキチン化することができるユビキチンリガーゼを選択するステップを含む。いくつかの基準を使用して、適当なE3を選択することができる:(1)ユビキチンリガーゼが、KRASが合成され、官能化されるサイトゾル又は細胞膜に局在する;(2)作用する化合物が、異なるがん適応症について試験され得るようにユビキチンリガーゼが多数の組織において普遍的に発現される;(3)ユビキチンリガーゼが、よく特徴付けらており、モノユビキチン化又はLys48連結によらないポリユビキチン鎖構築の代わりに基質のポリユビキチン化及び分解を促進することが知られている;(4)ユビキチンリガーゼの内在性機能が、分子接着剤化合物によって損なわれることがないように、ユビキチンリガーゼが相当に豊富である;及び(5)ユビキチンリガーゼが、構造的に分析されており、大規模精製のために修正可能である。E3リガーゼの中で、KEAP1は、上に挙げた基準をすべてではないにしてもほとんど満たす候補として同定された(
図2)。
【0044】
一部の実施形態において、ユビキチンリガーゼは、サイトゾル又は細胞膜に局在する。一部の実施形態において、ユビキチンリガーゼは、新基質が官能化され、合成される場所に局在する。一部の実施形態において、ユビキチンリガーゼは、1つ又は複数の組織において発現される。一部の実施形態において、ユビキチンリガーゼは、モノユビキチン化又はLys48連結によらないポリユビキチン鎖構築の代わりに基質のポリユビキチン化及び分解を促進することができる。一部の実施形態において、ユビキチンリガーゼは、小分子アンタゴニストへの結合後にその内在性機能を維持するのに十分な量で存在する。一部の実施形態において、ユビキチンリガーゼは、大規模精製に適している。
【0045】
一部の実施形態において、本明細書に記載される方法は、ユビキチンリガーゼに直接又は本来結合しない新基質を同定するステップを含む。
【0046】
一部の実施形態において、本明細書に記載される方法は、ユビキチンリガーゼと新基質との相互作用を助長する化合物をスクリーニングするステップを含む。一部の実施形態において、本明細書に記載される方法は、KEAP1とKRASとの相互作用を助長する化合物をスクリーニングするステップを含む。一部の実施形態において、本明細書に記載される方法は、改変タンパク質-タンパク質相互作用(PPI)アッセイを使用して候補アゴニストをスクリーニングするステップを含む。KRAS-KEAP1相互作用を助長できる化合物を同定するために、小分子ライブラリが、改変された従来のタンパク質-タンパク質相互作用(PPI)アッセイを使用してスクリーニングされた。PPI阻害性小分子を探索する一般的な「ダウン」スクリーン(「down」 screen)の代わりに、本明細書に記載されるアッセイは、非相互作用対としてKRAS及びKEAP1を準備し、「アップ」スクリーン(「up」 screen)が、陽性PPIシグナルを生じる化合物を探すために実行された。その目的は、KRAS-KEAP1相互作用の誘導において検出可能な活性を示す任意の小分子を同定することであった(
図2)。PPIアップスクリーンのこの型は、以前に系統的に試験されてこなかった。アップスクリーンにおけるシグナルの増加に関連する偽陽性ヒットは、ダウンスクリーンにおける偽陽性ヒットより低い。KRAS及びKEAP1は無数の方法で互いに表面を提示することができ、多数の化学物質が、これらの不完全な相互作用のうちの1つを相補して三元複合体形成を促進する機会を有する可能性がある。
【実施例】
【0047】
ハイスループットスクリーンアッセイ
一次スクリーンアッセイ
AlphaScreen(Perkin Elmer,Inc.,Waltham WA)は、ビーズに基づく、非放射性の化学増幅型ルミネッセンスプロキシミティホモジニアスアッセイである。アッセイ系は、ドナー及びアクセプタービーズからなり、生物学的相互作用によって誘導されるそれらビーズの近接性が、大きく増幅されたシグナルを生成する化学反応カスケードを誘発することになる。使用したドナービーズは、ストレプトアビジンドナービーズ(PE#6760002s)であり、使用したアクセプタービーズは、抗6×Hisアクセプタービーズ(PE#AL128C)であった。レーザー励起によってドナービーズにおける光増感剤は、環境酸素をより励起された一重項状態に変換する。一重項状態の酸素分子は、全体に拡散してアクセプタービーズ中のチオキセン誘導体と反応し、同ビーズ中に含有されるフルオロフォアをさらに活性化する370nmのケミルミネッセンスを生成する。フルオロフォアは、520~620nmの光をその後放出する。AlphaScreenは、広範囲にわたる親和性(pM~mM)を検出するのに適した極めて高い感度、小型化に対する適応性及び多重化に対する潜在性のために選択された。このPPIアッセイにおいて、精製したビオチン化KEAP1ケルチリピートドメインをストレプトアビジンドナービーズに固定化し、8×Hisタグ付きの全長S
G12D変異体タンパク質を抗Hisアクセプタービーズに固定化した(
図3)。2つのタンパク質は、通常お互いと相互作用しないので、2つのビーズの混合物は、いかなるAlphaシグナルも生じなかった。
【0048】
アッセイを、384ウェル白色プレート中で、室温で行った。試験溶液は、25mM HEPES、pH7.4、100mM NaCl、0.1% Tween20、0.05% BSA及び1mM TCEPを含有した。KEAP1及びKRASタンパク質並びに試験化合物各10μLを各ウェル内で混合した。アクセプタービーズ10μLを添加し、混合物を暗所でインキュベートした。最後に、ドナービーズ10μLを混合物に添加し、インキュベートし、続いてプレートを読み取った。アッセイは、最高4%のDMSOを容易に許容することができる。ヒットカットオフとして平均+3×標準偏差(SD)を使用すると、2-プレートパイロット試験では、ヒット率が1.52%に達することを示した。アッセイを検証した後、17,774個の化合物ライブラリによる小規模のパイロットスクリーンを実行した。平均+3×SDカットオフに基づいて、パイロットスクリーンは575個のヒットを生じ、ヒット率3.2%であった。
【0049】
化合物検証
二次スクリーン-Cisbio TR-FRET
AlphaScreenアッセイの非常に高い感度のため、AlphaScreenに対して直交する二次スクリーンを使用して、ヒット化合物をさらに検証した。Cisbio PPI技術、TR-FRET(時間分解蛍光共鳴エネルギー移動)を使用して用量応答研究に基づいて最も高い潜在力を持つ化合物を確認した(
図4)。
【0050】
AlphaScreenによる反復用量応答研究で残り、TR-FRETによって試験された化合物の中から、上位20個のヒットを、KRAS
G12D-KEAP1相互作用を促進する活性(TR-FRETによる検証でより高い潜在力)により同定した(
図4)。
【0051】
二次スクリーン-APTLAB
TR-FRETは、ヒット検証のための有益な二次スクリーンとして使用され得るが、その原理はAlphaScreenと類似しており、ビーズに基づく近接性誘導シグナルを利用する。ヒット化合物を、AlphaScreen及びTR-FRET方法とは別の追加の方法でさらに検証した。Octetバイオレイヤー干渉法(BLI)、サイズ排除クロマトグラフィー及び親和性プルダウンを含めたPPIを検出するための従来の方法のいくつかがいかなる陽性結果も生じなかったことは、ヒットの活性が極めて低い可能性があることを示唆した。換言すれば、これら化合物が、KRAS-KEAP1相互作用を促進できる可能性があっても、得られる三元複合体は、不安定すぎて従来の方法によって検出できない可能性がある。この問題を解決するために、新たなアッセイを設計し(低親和性結合を追跡するための調整可能なプラットフォーム、本明細書においてAPTLABと称する)(
図5)、様々な長さを持つ相補的DNA鎖間の弱い相互作用を使用してKRASとKEAP1間の化合物誘導性低親和性結合を増強し、その低親和性結合を従来の方法によって検出可能にした。
【0052】
調整可能なDNAオリゴヌクレオチド相互作用を低親和性タンパク質-タンパク質相互作用、タンパク質フォールドとカップリングするために、特定の一本鎖DNA(ssDNA)オリゴヌクレオチドと反応し、共有結合的に連結されたタンパク質-DNAコンジュゲートを形成することができるHUH[Lovendahl,K.N.、Hayward,A.N.及びGordon,W.R. Sequence-Directed Covalent Protein-DNA Linkages in a Single Step Using HUH-Tags.J Am Chem Soc 139巻、7030~7035頁、doi:10.1021/jacs.7b02572(2017年)]を利用した。HUHタンパク質を、KEAP1及びKRAS
G12DのC末端に個々に融合させ、それにより2つのキメラタンパク質が、HUH反応性配列を含有するssDNAと共有結合を各々形成できるようにした(
図5及び
図6)。精製したHUH融合タンパク質を、20mM HEPES(pH7.5)、50mM NaCl、0.5mM TCEP、1mM MgCl
2及び1mM MnCl
2を含有する緩衝液中に100μMになるように調整した。ssDNAオリゴヌクレオチドを、終濃度120μMになるように添加した。室温で1時間インキュベーションした後、反応試料を、陰性対照と並べてSDS-PAGEゲルに流して、コンジュゲーション効率を確認した。DNAにコンジュゲートされたHUH融合タンパク質は、SDS-PAGEゲル上でよりゆっくり流れた。
【0053】
2つのキメラタンパク質に連結された2つのssDNAオリゴヌクレオチドは、HUH反応性配列に加えてそれぞれ追加の配列も含有し、その配列は、ssDNAブリッジオリゴヌクレオチドの片方に相補的である(
図6)。ブリッジssDNAは、タンパク質を連結した2つのオリゴヌクレオチドとアニールすると、KRAS及びKEAP1を単一複合体に物理的に合体させることになる。ブリッジssDNAの長さを変動させることによって、DNA-DNA相互作用の親和性は変化することになる。ブリッジオリゴヌクレオチドが十分に長い場合、2つのキメラタンパク質は、DNA部分を介して互いと安定して会合することになる。得られた複合体の形成は、Octet BLIなどの従来の方法によって検出可能である。ブリッジssDNAの長さを徐々に短縮すると、DNA-DNA相互作用の親和性は弱まり、検出不能になる。ブリッジオリゴヌクレオチドの長さを滴定することによって、特定の長さで変曲点が観察されることになる。この変曲点において、2つのキメラタンパク質間の追加の弱い相互作用は複合体の安定性を増強する潜在性を有し、その安定性を従来の方法によって検出可能にする。この手法を後押しする理論的根拠は、結合エネルギー変化と結合親和性の差異の間の非線形関係によって決まる。
ΔΔG=-RT ln(K
d1/K
d2) (1)
【0054】
方程式(1)に基づくと、追加の結合エネルギーを少量導入することにより、2つの相互作用相手の親和性を指数関数的に増強させ得る。全体として、APTLABは、強い相互作用を測定するのに適している従来の方法を使用して、別の弱い相互作用によって増大される弱いPPIを検出するように設計されている。
【0055】
APTLABを実施するために、HUHを融合したビオチン化KEAP1及びHis-KRAS
G12Dを調製し、ssDNA及びHUHコンジュゲーションアッセイを実行し、そのアッセイにおいて、2つのssDNAオリゴヌクレオチドを、HUHと融合されたビオチン-KEAP1(
図6A)及びHis-KRAS
G12D(
図6B)へ個々に連結した。ssDNA Reco-C12連結ビオチン-KEAP1-HUH、これをKEAP1-ssDNA12と命名、及びssDNA Reco-A18連結His-KRAS
G12D-HUH(KRAS
G12D-ssDNA18)を以下のAPT-LAB試験のために選択した。
【0056】
ssDNAブリッジオリゴヌクレオチドを33、28及び23ヌクレオチド(nt)の異なる長さで合成し(
図8A)、BLIによってモニターされる2つのssDNA-タンパク質コンジュゲート間の複合体形成を促進する能力を試験した。最も長いssDNA-ブリッジ33ntは、KEAP1-ssDNA12とKRAS
G12D-ssDNA18間の堅牢な複合体の形成を促進し、高いBLIシグナルを生じた(
図8B)。それに対して、ssDNA-ブリッジ28ntに対する結合シグナルは有意により低く、一方最も短いブリッジオリゴヌクレオチドssDNA-ブリッジ23ntによって媒介される相互作用は、弱すぎて検出できなかった。従って、ssDNA-ブリッジ28ntは、変曲点ブリッジオリゴヌクレオチドであると決定され、ヒット化合物によって誘導されるKEAP1とKRASとの弱い結合を試験するのに潜在的に適していた。
【0057】
化合物をDMSOに溶解した。本研究に使用されるssDNAを表1に挙げた。ssDNAは、ヘアピンを回避するように注意深く設計された。DNA-DNA対合領域の場合、Reco-C12は、33.3%のA及び66.7%のCを適用し、それに対して、Reco-A18は、33.3%のC及び66.7%のAを適用し、この差異により、ssDNA-ブリッジはReco-C12及びReco-A18を所望の方向で結合する。ssDNA及びHUHのin vitroコンジュゲーションの方法は、これまでに報告されている[Lovendahl,K.N.、Hayward,A.N.及びGordon,W.R. Sequence-Directed Covalent Protein-DNA Linkages in a Single Step Using HUH-Tags.J Am Chem Soc 139巻、7030~7035頁、doi:10.1021/jacs.7b02572(2017年)]。コンジュゲーション後に、ssDNA標識タンパク質をさらに精製して、遊離ssDNA及び未標識のタンパク質を除去した。KEAP1-ssDNA12(ssDNA Reco-C12連結ビオチン-KEAP1-HUH)及びKRASG12D-ssDNA18(ssDNA Reco-A18連結His-KRASG12D-HUH)を、Octetによって検出される以下の結合アッセイに使用した。
【0058】
MGなし/ありで、ssDNAブリッジの存在下でKEAP1-ssDNA12(ビオチンタグ付き)とKRASG12D-ssDNA18の相互作用を、製造業者の手順に従ってOctet Red 96(ForteBio、Pall Life Sciences)を使用して測定した。第1に、ストレプトアビジンコートされた光プローブを緩衝液中で水和させた。第2に、プローブに50nM KEAP1-ssDNA12をロードして、光シグナルをおよそ1.6nMにした(大部分のストレプトアビジンはKEAP1-ssDNA12を結合した)。第3に、プローブを500nMビオサイチンに浸けて、プローブ上に残っている遊離ストレプトアビジンをふさいだ。第4に、プローブをベースラインのために緩衝液に入れた。第5に、プローブを試料ウェルに挿入して(化合物なし/ありの1μM KRASG12D-ssDNA18及び82.5nM ssDNAブリッジの混合物)、KEAP1-ssDNA12とKRASG12D-ssDNA18の会合を検出し、光シグナルの増加は結合が起こったことを示し、結合シグナルとして処理した。第6に、プローブを緩衝液に浸漬して、結合しているKRASG12D-ssDNA18の解離をモニターした。反応を、30℃で維持した黒色96ウェルプレート中で実施し、反応容量は各ウェル200μLであった。アッセイ緩衝液は、0.05% BSAを含む25mM HEPES、pH7.4、100mM NaCl、0.1% Tween20を含有し、1mM TCEPを新たに添加した。
【0059】
表1.ssDNA
ssDNA 配列(注:小文字の配列は、HUHによって認識される。)
Reco-C12 5’-aagtattaccagCCACCACACACC-3’
(配列番号2)
Reco-A18 5’-aagtattaccagCAAAACAACAACAACAAC-3’
(配列番号3)
ssDNA-ブリッジ33nt 5’-GTTGTTGTTGTTGTTTTGTATGGTGTGTGGTGG-3’
(配列番号4)
ssDNA-ブリッジ28nt 5’-GTTGTTGTTGTTTTGTATGGTGTGTGGT-3’
(配列番号5)
ssDNA-ブリッジ23nt 5’-GTTGTTGTTTTGTATGGTGTGTG-3’
(配列番号6)
【0060】
この実験設定下で、一次スクリーンのヒット化合物のうちの1つを試験した。DMSOのみの対照と比較して、ヒット化合物の添加は、KEAP1-ssDNA12及びKRAS
G12D-ssDNA18によるBLIシグナルを有意に増加させた(
図8C)。また、効果は用量依存的であり、KEAP1-ssDNA12とKRAS
G12D-ssDNA18両方の存在に依存した。これらの結果は、ヒット化合物が、おそらく2つのタンパク質間の界面で結合することによってKEAP1-ssDNA12とKRAS
G12D-ssDNA18の相互作用を促進する活性を有することを強く示唆した。類似の手法を使用して、TR-FRET二次スクリーンにおいて同定された20個のヒット化合物の大多数の活性を検証した(
図9)。
【0061】
二次スクリーン-スプリットルシフェラーゼアッセイ
APTLABの開発と並行して、代替の二次スクリーンアッセイを、追加の弱い相互作用によって増大する弱い相互作用を検出するのと同じ原理を使用して開発した。スプリットルシフェラーゼアッセイは、分子酸素の存在下でフリマジンを利用して高輝度ルミネッセンスを生成することができる小さく、安定なルシフェラーゼであるアッセイに基づいて開発された(
図10)[Dixon,A.S.ら NanoLuc Complementation Reporter Optimized for Accurate Measurement of Protein Interactions in Cells.ACS Chem Biol 11巻、400~408頁、doi:10.1021/acschembio.5b00753 (2016年)]。酵素(PDB ID:5IBO)は2つの部分、Large BiT(LBiT;159アミノ酸、17.6kDa)及びSmall BiT(SBiT;11アミノ酸)に分割され、それらは対象となる2つのタンパク質に融合され得る。これら2つの融合タンパク質を密接に近接させ得るタンパク質-タンパク質相互作用がある場合、LBiT及びSBiTは、機能的なNanoluc酵素を形成して高輝度ルミネッセンスシグナルを生成することができる。LBiTとSBiT間の本質的な親和性は極めて弱い(K
d=190μM)ので、この技術は、分子接着剤化合物によって誘導されるKEAP1とKRAS
G12Dの間の相互作用など、弱いタンパク質-タンパク質相互作用を検出するのに適している。
【0062】
この設計を実施するために、SBiT及びLBiTを、KRASG12DのN末端及びKEAP1のC末端にそれぞれ融合させた。KRASG12D及びKEAP1は、本来互いに相互作用しないので、2つのキメラタンパク質及びルシフェリンの混合物は、極めて低いルミネッセンスシグナルを生成した。
【0063】
スプリットルシフェラーゼアッセイを、Promegaによって開発されたNanoLuc Binary Technologyのために記載されている一般的な手順に従って実行した。SBiT-KRAS
G12D及びKEAP1-LBiT融合タンパク質を、20mM HEPES、pH7.5、100mM NaCl及び0.1% BSA-FAFを含有する緩衝液50μL中に終濃度2.5nMで混合し、1時間インキュベートした。同じ反応緩衝液50μLを、Promegaから購入したルシフェリン保存溶液2μLと混合し、次いでそれを96ウェル白色プレート中のタンパク質混合物溶液に添加し、その後2分間振盪した。プラスチックシートでプレートを覆って、反応の時間的経過を、ルシフェリン混合の4分間後にPerkin Elmer Enspire 2300 Multiplate Readerを用いてモニターした。このアッセイを使用して、TR-FRET二次スクリーンにおいて同定された20個のヒット化合物の大多数を検証した(
図11)。
【0064】
タンパク質調製方法
クローニング
異なるアッセイのためのすべての構築物を、ヒトKEAP1ケルチドメイン(残基320~612、UniProtKB-Q14145、以下KEAP1と記載する、PDB ID:2FLU)及び部位突然変異G12Dを持つ全長ヒトKRAS4B(UniProtKB-P01116-2)(以下KRASG12Dと記載する、PDB ID:4DSN)の構造に基づいて設計した。
【0065】
すべてのタンパク質コードDNA配列をPCRによって増幅し、pET15及びpET41から改変した1組のライゲーション非依存(LIC)発現ベクターにクローニングした。8×His-(GS)4-KRASG12D及び8×His-(GS)4-KRASG12D-(GS)8-HUHの両方を、pET41 LICベクターに挿入した。他の構築物を、N末端6ヒスチジンタグを有するpET15 LICベクターにクローニングした。N末端のマルトース結合タンパク質(MBP)融合タグを使用して、114-(GS)8-KRASG12Dの収率を改善した。
【0066】
タンパク質発現及び精製
プラスミドを、BL21(DE3)大腸菌(E.coli)宿主に形質転換し、細胞を600nmで光学密度およそ0.5になるまで37℃で培養し、次いで16℃へ移した。次いで、吸光度が0.8に達したら、イソプロピル-β-d-1-チオガラクトピラノシド(IPTG)を終濃度0.2mMになるように添加した。細胞を、16℃で16時間IPTG誘導した後に採取した。
【0067】
細胞ペレットを、20mMトリス-HCl、pH8.0、200mM NaCl、0.5mMトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)、20mMイミダゾール及び1mMフッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF)を含有する緩衝液に再懸濁した。マイクロ流動化装置に通すことによって溶解した後、細胞溶解物を20000gで1時間遠心分離し、上清をNi-NTAカラムにロードした。標的タンパク質を、同じ緩衝液中の200mMイミダゾールで溶出した。
【0068】
KEAP1構築物の場合、N末端Hisタグを、タバコエッチウイルス(TEV)プロテアーゼによって切断した。ビオチン化後に、KEAP1タンパク質をイオン交換及びサイズ排除クロマトグラフィーによってさらに精製した。Ni-NTAカラムから溶出した後、KRASG12Dを、HiTrap-SPカラム(GE Healthcare)でさらに精製した。次いで、ヌクレオチド交換アッセイを実行して、均質なGTP結合KRASG12Dを得、その後サイズ排除クロマトグラフィーをした。
【0069】
ビオチン化反応
AviTagTM技術(Avidity)を使用して、KEAP1構築物をビオチン化した。AviTag[配列:GLNDIFEAQKIEWHE(配列番号1)]は、大腸菌ビオチンリガーゼ(BirA)酵素の基質であり、リジン残基にビオチン分子をコンジュゲートする。精製したAviTag融合KEAP1の濃度を100μMに調整した後、ATP、塩化マグネシウム、精製したビオチンリガーゼBirA及びD-ビオチンを、それぞれ終濃度2mM、5mM、1μM及び200μMになるように添加した。試料を室温で1時間インキュベートした。ビオチン化効率を、ストレプトアビジンゲルシフトアッセイによって決定した:ビオチン化KEAP1試料1μL及び1×SDS-PAGE緩衝液10μLを含有するPCR管をそれぞれ2つ用意し;両方の試料を95℃で5分間加熱し;試料を室温まで冷ました後、試料のうち一方に100μMストレプトアビジン(IBA-Lifesciences)1μLを添加し、室温で5分間インキュベートし;両方の試料を並べてSDS-PAGEゲルに流した。ストレプトアビジン存在下でのKEAP1の完全な消失は、ビオチン化反応の完了を示した。
【0070】
ヌクレオチド交換
KRASの本質的なGTPアーゼ活性のため、精製したKRASの大多数は、最終的にはGDPが結合した不活性状態に転換された。GTPが結合した活性化型形態のタンパク質を調製するために、結合しているGDPを、グアノシン-5’-[(β、γ)-メチレノ]三リン酸(GMP-PCP)などの加水分解抵抗性GTP類似体によって置き換えた。KRASG12Dの濃度を、40mMトリス-HCl、pH7.5、200mM (NH4)2SO4、10μM ZnCl2、5mM DTT及び1mM GMPPCPを含有する緩衝液中に100μMになるように調整した。セファロースビーズ(Sigma P-0762)にコンジュゲートしたアルカリホスファターゼを、10U/mLになるように添加した。穏やかに撹拌しながら室温で1時間インキュベーションした後、反応を10mM MgCl2で補充し、アルカリホスファターゼビーズを短い遠心分離回転によって除去した。GTP結合KRASG12Dをサイズ排除クロマトグラフィーによってさらに精製して、20mM HEPES(pH7.5)、50mM NaCl、10mM MgCl2、0.5mM TCEPを含有する緩衝液中の遊離ヌクレオチドを除去した。
【0071】
上記の参照文献を、全体として参照により組み込む。
例示的な実施形態を、例示し、記載してきたが、様々な変更が、本発明の精神と範囲から逸脱することなくなされ得ることはいうまでもない。
独占的財産権又は特権が主張される本発明の実施形態が、以下の通り定義される:
【配列表】
【国際調査報告】