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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-07
(54)【発明の名称】肺炎症治療用のナノキャリア
(51)【国際特許分類】
   C07K 19/00 20060101AFI20220131BHJP
   C07K 14/705 20060101ALI20220131BHJP
   C07K 14/47 20060101ALI20220131BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20220131BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20220131BHJP
   A61K 31/4409 20060101ALI20220131BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20220131BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220131BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220131BHJP
   A61K 9/127 20060101ALI20220131BHJP
   A61K 9/51 20060101ALI20220131BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20220131BHJP
   A61K 47/46 20060101ALI20220131BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220131BHJP
   C12N 15/62 20060101ALN20220131BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20220131BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20220131BHJP
【FI】
C07K19/00
C07K14/705
C07K14/47
A61P11/00
A61K31/7105
A61K31/4409
A61K31/7088
A61K45/00
A61K48/00
A61K9/127
A61K9/51
A61K47/42
A61K47/46
A61P43/00 105
C12N15/62 Z ZNA
C12N15/12
C12N5/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021521287
(86)(22)【出願日】2019-10-18
(85)【翻訳文提出日】2021-06-15
(86)【国際出願番号】 US2019056997
(87)【国際公開番号】W WO2020081974
(87)【国際公開日】2020-04-23
(31)【優先権主張番号】62/747,987
(32)【優先日】2018-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514137997
【氏名又は名称】オハイオ・ステイト・イノベーション・ファウンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】特許業務法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イギータ-カストロ,ナタリア
(72)【発明者】
【氏名】ギャレゴ-ペレス,ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】ガディアリ,サミール
(72)【発明者】
【氏名】イングラート,ジョシュア
(72)【発明者】
【氏名】セン,チャンダン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C084
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA03
4B065CA24
4B065CA44
4C076AA19
4C076AA65
4C076AA95
4C076BB11
4C076CC15
4C076CC26
4C076EE41
4C076EE56
4C084AA13
4C084AA17
4C084MA05
4C084MA24
4C084MA38
4C084NA13
4C084ZA591
4C084ZA592
4C084ZB211
4C084ZB212
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC17
4C086EA16
4C086MA02
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA24
4C086MA38
4C086NA13
4C086ZA59
4C086ZB21
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA50
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
開示内容は、抗炎症性カーゴを載せた肺標的細胞外小胞(EV)、ならびにその組成物、システム、および作製方法である。開示のEVには、肺の標的部分を含む融合タンパク質などの肺を標的とするリガンドが含まれる。また、開示の融合タンパク質を含むEVを含んだ組成物も開示される。一部の実施形態では、EVには抗炎症性カーゴが載る。また、開示EVを産生するように設計されたEV産生セルも開示される。また、EV産生に適した条件下で開示EV産生細胞を培養することを含む、開示EVの作製方法も開示される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
肺サーファクタントタンパク質A(SPA)またはCD200、およびエクソソームまたはリソソーム膜貫通タンパク質を含む、融合タンパク質。
【請求項2】
請求項1に記載の融合タンパク質を含む細胞外小胞。
【請求項3】
治療用カーゴをさらに含む、請求項2に記載の細胞外小胞。
【請求項4】
前記治療用カーゴがmiR146aを含む、請求項3に記載の細胞外小胞。
【請求項5】
前記治療用カーゴがY-27632を含む、請求項3または4に記載の細胞外小胞。
【請求項6】
請求項1に記載の融合タンパク質をコードする核酸を含む細胞。
【請求項7】
治療用RNAをコードする核酸をさらに含む、請求項6に記載の細胞。
【請求項8】
細胞外小胞を産生する方法であって、小胞分泌に適した条件下で請求項6または7に記載の細胞を培養すること、および前記細胞によって分泌された細胞外小胞を単離することを含む、方法。
【請求項9】
前記細胞外小胞に治療薬剤を積載することをさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
対象の肺障害を治療する方法であって、請求項3~5のいずれか一項に記載の細胞外小胞を治療有効量、前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項11】
前記肺障害が急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を含む、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年10月19日に出願された米国仮出願第62/747987号の優先権を主張し、米国仮出願第62/747987号の内容のすべてを本出願明細書の一部を構成するものとして援用する。
【0002】
配列表
本出願は、2019年10月18日に作成された「321501-2340 Sequence Listing_ST25」というタイトルのASCII.txtファイルとして電子形式で提出された配列表を含む。配列表の内容のすべてを本出願明細書の一部を構成するものとして援用する。
【背景技術】
【0003】
急性呼吸窮迫症候群(ARDS)は、重度の低酸素血症、び慢性の両側性肺浸潤を引き起こし、肺コンプライアンスを低下させるのが特徴である。現在、ARDS治療法で認可されているものはない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本明細書で開示されるのは、抗炎症性カーゴを載せた肺細胞を効率よく標的とし、ARDSに罹った肺の炎症を調節するための、ナノキャリアシステムである。これらのナノキャリアは、さまざまなトランスフェクション技術(バルクエレクトロポレーション、ナノエレクトロポレーション、組織ナノトランスフェクション、ウイルストランスフェクションなど)を用いた、試験管内の細胞または生体内の組織トランスフェクションにより得られる。開示のナノキャリアは、マイクロRNA―146aなどの抗炎症性カーゴを載せたカスタムメイドの細胞外小胞(EV)であり、これを肺微小環境下、特定受容体に対するリガンド修飾を介して機能化し、標的化遺伝子を導入する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
図1に示すように、例えば、特定のカーゴまたはリガンドをコードするプラスミドDNAをトランスフェクトすることにより、EVに抗炎症性カーゴを搭載、および/または細胞を標的とするリガンドによる修飾が可能となる。制御する必要のある炎症経路に応じてカーゴを改良したり、また標的細胞のタイプに応じて表面装飾の程度を変えたりすることができる。
【0006】
例えば、II型肺胞上皮細胞および肺マクロファージは、それぞれ、肺サーファクタントタンパク質A(SPA)および膜糖タンパク質CD200をコード化するプラスミド遺伝子を使って標的化することができる。SPAで機能化されたEVは、II型細胞の受容体P63/CKAP4と相互作用する一方で、CD200で機能化されたEVは、肺胞マクロファージ中のCD200R受容体と優先的に相互作用する。
【0007】
EVは、肺血管系の受容体CXCR7と相互作用するSDF1で機能化される。これは、たとえば血管内法によるEVの導入に役立つ。
【0008】
図2に示すように、表面修飾後のEVには、また濃度勾配によりEVに拡散する膜透過性薬理学的化合物(例えば、Y-27632 Rho阻害剤、Calbiochem社製)である抗炎症性カーゴを載せることができる。
【0009】
本発明の1つ以上の実施形態の詳細を、添付の図面を使って以下にて説明する。本発明の他の特徴、目的、および利点を、以下の説明および図面、ならびに特許請求の範囲から明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、細胞または組織をトランスフェクションした後の抗炎症性カーゴを載せた、および/または細胞を標的とするリガンドで装飾した、カスタムメイドのナノキャリアの産生を示す概略図である。
図2図2は、他の抗炎症性カーゴ、例えば、膜透過性薬理学的化合物を載せた表面修飾後のEVを示す概略図である。
図3A図3Aから3Eでは、試験管由来のデザイナーEVの特性評価結果を示す。図3Aおよび3Bでは、初代マウス胚性線維芽細胞(PMEF)をナノトランスフェクションしてから24時間後に、単離し得られたmiR-146aを載せたデザイナーEVを示す。その粒子サイズは200nmの範囲で、EVの集結度は1mLあたり数十億の粒子の範囲であった。図3Cでは、miR-146Aをコード化するプラスミドと偽/対照プラスミド(p値=0.041)を用いてナノトランスフェクションを行ってから48時間後にマウス樹状細胞から得られた、miR-146A積載のデザイナーEVのqRT-PCR特性を示す。図3Dでは、これらのmiR-146Aまたは偽デザイナーEV(p値<0.001)で処理したA549肺上皮細胞および分化THP-1単球における、miR-146Aの相対的発現を示す。図3Eでは、PMEFに由来する蛍光標識されたmiR-146aデザイナーEVで48時間処理した後のC57BL/6マウス初代肺胞上皮細胞を示し、白い矢印でEVの取り込みを強調した。
図3B】同上。
図3C】同上。
図3D】同上。
図3E】同上。
図3F】同上。
図3G】同上。
図3H】同上。
図3I】同上。
図4A図4Aから4Fでは、生体由来のデザイナーEV特性を示した。図4Aは、生体内での皮膚の組織ナノトランスフェクション(TNT)、およびその後でデザイナーEVを単離した場合の概略図である。図4Bでは、皮膚1cmあたり10兆EVのオーダーの粒子濃度を示している。図4Cは、109~135nmの範囲の平均粒子サイズを示している。図4Dでは、偽EVとmiR―146aデザイナーEVの両方ともが、膜EVマーカーのテトラスパニンCD9の陽性を発現したことが示される。図4Eは、これら生体由来のmiR-146AデザイナーEVのqRT-PCR特性を示しており、分子カーゴの積載に成功していることが示される。図4Fおよび4Gでは、標識化デザイナーEVの生体内産生状態を示しており、ここでは、CD63-GFP(EVトレーサー)をコード化するプラスミドを含む皮膚をTNTしてから24時間後に、GFP標識化デザイナーEVが、トランスフェクトされていない動物からの対照組織(図4G)と比較し、トランスフェクトされた皮膚細胞(白い矢印)によって明らかに産生されていることが示されている。
図4B】同上。
図4C】同上。
図4D】同上。
図4E】同上。
図4F】同上。
図4G】同上。
図5A図5Aから5Fでは、生体由来のデザイナーEVにより肺の炎症が調整されることが示される。換気下治療4時間後のmiR―146AデザイナーEVの効果によって、生理学的パラメーター(図5Aから5D)が改善され、BALタンパク質含有量の有意な減少(図5E)、および炎症性サイトカインの分泌量の減少傾向が見られる(図5Fp値=0.022)。
図5B】同上。
図5C】同上。
図5D】同上。
図5E】同上。
図5F】同上。
図6図6Aおよび6Bでは、炎症を起こした肺を標的とする機能化されたデザイナーEVを示す。デザイナーEVは、肺胞腔の様々な細胞内コンパートメントを標的化するように機能化できる。肺胞マクロファージを標的とするCD200リガンドで機能化されたデザイナーEVでもって動物を24時間処理し、そこから収集された器官の生体内画像を図6Aに示す。図6Bには、肺組織を蛍光標識化機能化デザイナーEVで治療し、24時間経った後のIF画像を示したが、取り込みに成功した例が示されている(矢印)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本願の開示内容は、抗炎症性カーゴを積んだ肺標的細胞外小胞(EV)、ならびにその組成物、システム、および作製方法である。開示のEVには、肺の標的化部分を含む融合タンパク質などの肺を標的とするリガンドが含まれる。また、開示の融合タンパク質を含むEVを含んだ組成物も開示される。一部の実施形態では、EVは抗炎症性カーゴを載せる。また、開示EVを産生するように設計されたEV産生細胞も開示される。また、EV産生に適した条件下で開示EV産生細胞を培養することを含む、開示EVの作製方法も開示される。この方法においては、細胞からEVを精製する方法がさらに包含される。
【0012】
本願をより詳細に開示する前に、本願の開示内容は特定の実施形態に限定されず、もちろん改良が許されることに言及しておく。本開示で使用する用語は特定の実施形態を説明するためにのみ使用され、本開示の範囲が添付の特許請求の範囲のみに限定されるからして、当該用語の限定を意図されるものではないことも理解される。
【0013】
本明細書に記載される数値の範囲として、その範囲内の数値は、その範囲の上限および下限間、乃至は記載範囲内の他の任意の値またはその間において、文脈上明確で別段の指示がなされない限り、下限の単位の10分の1まで本開示に含まれる。この範囲よりさらに狭い範囲の上限および下限は、本開示内で独立してより狭い範囲に含まれ得、また、記載された範囲において特別に除外された制限値を設けることができる。記載された範囲が一方または両方の制限値を含む場合、いずれかまたは両方を除外する範囲も本開示に含まれる。
【0014】
別段定義されない限り、本開示で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本開示の技術分野に属する当業者によって普通に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載されているものと類似または同等の任意の方法および材料もまた、本開示の実施または試験に使用することができるが、好ましい方法および材料を以下に説明する。
【0015】
本開示で引用されるすべての刊行物および特許は、個々の刊行物または特許が具体的かつ個別に示されているかのように本開示中に援用され、引用出版物と関連した本方法および/または材料を開示および説明するために本開示中に援用される。引用出版物はいずれも本願の出願日より前に開示することを目的とするが、これにより本開示がそのような出版物に対して先行する権利がないのを認める、と解釈されるものではない。さらに、提供される発行日は、個別に確認する必要がある実際の発行日とは異なる場合がある。
【0016】
当業者に明らかであるように、本開示を読むと、本開示中に記載および図示される個々の実施形態は、本開示の範囲または精神から逸脱しない範囲で、他のいずれかの特徴から容易に分離できること、または組み合わせ可能な別個の構成要素および特徴を有することが分かる。列挙された任意の方法は、列挙された順序で、または論理的に成り立つのであれば任意の順序で実行することができる。
【0017】
本開示の実施形態は、他に示されない限り、当技術分野の技術の範囲内である化学、生物学などの技術を使用する。
【0018】
以下の実施例は、当業者に対して、本明細書において開示および特許請求された方法や使用を、完全な形で開示および説明するために提示される。数値(例えば量、温度など)に関して正確さを確保するよう努めたが、場合によっては誤りや偏差に対する釈明が必要になる。特に明記されない限り、部材の単位は重量部であり、温度は摂氏で、圧力は大気圧またはその近傍の圧力である。標準の温度と圧力は、20℃および1気圧として定義される。
【0019】
本開示の実施形態を詳細に説明する前に、本開示は、別段の指示がない限り、特定の材料、試薬、反応材料、製造プロセスなどに限定されず、改良の可能性があることに言及しておく。本開示中で使用される用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的としており、それに限定することを意図するものではない。本開示では、論理的で矛盾の無い場合、各工程を異なる順序で実施することも可能である。
【0020】
本開示および添付の特許請求の範囲で使用されるように、ある対象が単数形「a」、「an」でおよび「the」という語句付きで表記される場合には、文脈上明らかでない限り、その対象には複数形も含まれるとする。
【0021】
開示のEVとしては、一部の実施形態において、細胞により産生され得るものであればいずれのものでもよい。細胞は幅広い直径と機能を持つ細胞外小胞(EV)を分泌するが、これにはアポトーシス小胞(1~5μm)、微小胞(100~1000nmのサイズ)、およびエクソソーム(50~150nm)として知られるエンドソーム起源の小胞が含まれる。
【0022】
開示の細胞外小胞は、当技術分野における既知の方法によって調製することができる。例えば、開示の細胞外小胞は、真核細胞中で細胞を標的とするリガンドをコードするmRNAを発現させることによって調製できる。一部の実施形態において、細胞はまた、抗炎症性カーゴをコードするmRNAを発現する。細胞を標的とするリガンドおよび抗炎症性の積み荷用のmRNAは、開示EVの産生に適する産生細胞にトランスフェクトされるベクターから発現することができる。細胞を標的とするリガンドおよび抗炎症性カーゴ用のmRNAは、同じベクター(例えば、ベクターが細胞を標的とするリガンドおよび抗炎症性カーゴ用mRNAを別々のプロモーターから発現する場合)、または細胞を標的とするリガンドと抗炎症性カーゴ用のmRNAを、別々のベクターから発現させることができる。当該ベクターまたは細胞を標的とするリガンドおよび抗炎症性カーゴ用のmRNAを発現するベクターを、開示の細胞外小胞の調製用に設計されたキットに詰め込むことができる。
【0023】
開示の標的化リガンドを有するEVを含む組成物も開示される。一部の実施形態では、EVは、開示の抗炎症性カーゴを積んでいる。開示のEVを分泌するよう設計されたEV産生細胞も開示されている。
【0024】
エクソソームなどのEVは、Bリンパ球、Tリンパ球、樹状細胞(DC)およびほとんどの細胞の免疫細胞を含む多くの異なるタイプの細胞によって産生される。EVは、例えば、神経膠腫細胞、血小板、網状赤血球、ニューロン、腸上皮細胞、および腫瘍細胞によっても産生される。開示の組成物および方法で使用されるEVは、上記の特定細胞を含む、任意の適当な細胞から誘導することができる。大量産生に適したEV産生細胞の非限定的な例には、樹状細胞(例えば、未成熟樹状細胞)、ヒト胎児腎臓293(HEK)細胞、293T細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、およびヒトESC由来間葉幹細胞が含まれる。EVは、エクソソームを導入した患者の免疫応答の発生を低減または回避できるように、自家患者由来、他家ハプロタイプ適合性幹細胞または他家幹細胞から取得することもできる。この目的のために、任意のEV産生細胞を使用することができる。
【0025】
また、開示のEVに抗炎症性カーゴを載せる方法であって、これには開示のEVを分泌するよう操作し、開示のEV産生細胞を培養することが含まれる。この方法には、さらに細胞からEVを精製することも含まれる。
【0026】
細胞から産生されたEVは、任意の適切な方法により培地から収集できる。通常、EVは、遠心分離、濾過、またはこれらの方法を組み合わせて、細胞培養または組織上清から調製することができる。たとえば、より大きな粒子球状EVを得るために、低速(<20,000g)で遠心分離して、続いてEVの球状化のために高速で(>100,000g)遠心分離して、適当なフィルターを使用したサイズろ過、勾配超遠心分離(たとえば、ショ糖勾配を使用)またはこれらの方法を組み合わせてEVを調製することができる。
【0027】
開示のEVは肺の中にある肺細胞の表面上で発現し、細胞表面と結合する標的化部分の発現により標的化される。標的化部分の適当な例としては、その標的化部分がエクソソーム表面で発現されることを前提として、短いペプチド、scFvおよび完全タンパク質が挙げられる。ペプチドを標的とする部分は通常、その長さが100アミノ酸未満、例えば、50アミノ酸未満、30アミノ酸未満であり、最小長が10、5または3アミノ酸であってよい。
【0028】
一部の実施形態において、II型肺胞上皮細胞を肺サーファクタントタンパク質A(SPA)の使用により標的化することができる。SPAで機能化されたEVは、II型細胞の受容体P63/CKAP4と相互作用する。一部の実施形態において、標的化部分は、以下のアミノ酸配列を有するSPA1である:MWLCPLALNLILMAASGAVCEVKDVCVGTPGIPGECGEKGEPGERGPPGLPAHLDEELQATLHDFRHQILQTRGALSLQGSIMTVGEKVFSSNGQSITFDAIQEACARAGGRIAVPRNPEENEAIASFVKKYNTYAYVGLTEGPSPGDFRYSDGTPVNYTNWYRGEPAGRGKEQCVEMYTDGQWNDRNCLYSRLTICEF(配列番号1)か、またII型細胞上の受容体P63/CKAP4と相互作用できる配列番号1との同一性が少なくとも以下:65%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、である多様体および/またはそのフラグメントである。
【0029】
一部の実施形態において、標的化リガンドは、SPA1のフラグメントであって、少なくとも、100、110、120、130、140、141、142、143、144、145、156、147、148、149、150、151、152、153、154、155、156、157、158、159、160、161、162、163、164、165、166、167、168、169、170、171、172、173、174、175、176、177、178、179、180、181、182、183、184、185、186、187、188、189、190、191、192、193、194、195、196、197、198、または199の、配列番号1の連続アミノ酸を含むものかまたはその多様体である。
【0030】
一部の実施形態において、標的化部分は、以下のアミノ酸配列を有するSPA2部分である:MWLCPLALTLILMAASGAACEVKDVCVGSPGIPGTPGSHGLPGRDGRDGVKGDPGPPGPMGPPGETPCPPGNNGLPGAPGVPGERGEKGEAGERGPPGLPAHLDEELQATLHDFRHQILQTRGALSLQGSIMTVGEKVFSSNGQSITFDAIQEACARAGGRIAVPRNPEENEAIASFVKKYNTYAYVGLTEGPSPGDFRYSDGTPVNYTNWYRGEPAGRGKEQCVEMYTDGQWNDRNCLYSRLTICEF(配列番号2)か、またはII型細胞上の受容体P63/CKAP4と相互作用できる配列番号2との同一性が少なくとも65%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、である多様体および/またはそのフラグメントである。
【0031】
一部の実施形態において、標的化リガンドは、SPA2のフラグメントであって、少なくとも、100、110、120、130、140、141、142、143、144、145、156、147、148、149、150、151、152、153、154、155、156、157、158、159、160、161、162、163、164、165、166、167、168、169、170、171、172、173、174、175、176、177、178、179、180、181、182、183、184、185、186、187、188、189、190、191、192、193、194、195、196、197、198、199、200、201、202、203、204、205、206、207、208、209、210、211、212、213、214、215、216、217、218、219、220、221、222、223、224、225、226、227、228、229、230、231、232、233、234、235、236、237、238、239、240、241、242、243、244、245、246、247、または248、の配列番号2の連続アミノ酸を含むものかまたはその多様体である。
【0032】
一部の実施形態において、肺マクロファージは、膜糖タンパク質CD200を使用して標的化され得る。CD200で機能化されたEVは、肺胞マクロファージ中のCD200R受容体と優先的に相互作用する。一部の実施形態において、標的化部分は、以下のアミノ酸配列3を有するCD200である:MERLVIRMPFCHLSTYSLVWVMAAVVLCTAQVQVVTQDEREQLYTPASLKCSLQNAQEALIVTWQKKKAVSPENMVTFSENHGVVIQPAYKDKINITQLGLQNSTITFWNITLEDEGCYMCLFNTFGFGKISGTACLTVYVQPIVSLHYKFSEDHLNITCSATARPAPMVFWKVPRSGIENSTVTLSHPNGTTSVTSILHIKDPKNQVGKEVICQVLHLGTVTDFKQTVNKGYWFSVPLLLSIVSLVILLVLISILLYWKRHRNQDREP(配列番号3)か、または肺マクロファージと相互作用できる配列番号3との同一性が少なくとも65%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、である、その多様体および/またはそのフラグメントである。
【0033】
一部の実施形態において、標的化リガンドはCD200のフラグメントであって、少なくとも100、110、120、130、140、141、142、143、144、145、156、147、148、149、150、151、152、153、154、155、156、157、158、159、160、161、162、163、164、165、166、167、168、169、170、171、172、173、174、175、176、177、178、179、180、181、182、183、184、185、186、187、188、189、190、191、192、193、194、195、196、197、198、199、200、201、202、203、204、205、206、207、208、209、210、211、212、213、214、215、216、217、218、219、220、221、222、223、224、225、226、227、228、229、230、231、232、233、234、235、236、237、238、239、240、241、242、243、244、245、246、247、248、249、250、251、252、253、254、255、256、257、258、259、260、261、262、263、264、265、266、267、268、または269の配列番号3の連続アミノ酸を含むものかまたはその多様体である。
【0034】
場合によっては、細胞を標的とするリガンドを、エクソソームまたはリソソーム膜貫通タンパク質との融合タンパク質として、EVの表面上に発現させることができる。多くのタンパク質がエクソソームと関連していることが知られている。つまり、それらは形エクソソームに組み込まれる。例としては、Lamp―1、Lamp-2、CD13、CD86、flotillin、Syntaxin―3、CD2、CD36、CD40、Cd40l、CD41a、CD44、CD45、ICAM-1、Integrin alpha4、LiCAM、LFA-1、Mac―1アルファおよびベータ、Vti―IAおよびB、CD3イプシロンおよびゼータ、CD9、CD18、CD37、CD53、CD63、CD81、CD82、CXCR4、FcR、GluR2/3、HLA-DM(MHC II)、免疫グロブリン、MHC-IまたはMHC-II成分、TCRベータおよびテトラスパニンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0035】
開示の細胞外小胞には、抗炎症剤をさらに載せることができるが、細胞外小胞は、抗炎症剤を標的細胞に輸送する。適当な抗炎症剤としては、治療薬剤(例えば、小分子薬剤)、治療用タンパク質、および治療用核酸(例えば、治療用RNA)が挙げられるが、これらに限定されない。一部の実施形態において、開示の細胞外小胞は、治療用RNA(本開示では「カーゴRNA」とも呼ばれる)を含む。例えば、一部の実施形態においては、さらに細胞を標的とするモチーフを含む融合タンパク質には、細胞から細胞外小胞が分泌される前にカーゴRNAを細胞外小胞に詰め込むのを目的として、カーゴRNAに存在する1つ以上のRNAモチーフに結合するRNAドメイン(例えば、融合タンパク質の細胞質ゾルのC末端における)が含まれる。このように、融合タンパク質は「細胞を標的とするタンパク質」および「パッケージングタンパク質」の両方として機能できる。一部の実施形態においては、パッケージングタンパク質は、細胞外小胞搭載タンパク質または「EV搭載タンパク質」と呼ばれる。
【0036】
一部の実施形態においては、カーゴRNAは、miRNA、shRNA、mRNA、ncRNA、sgRNA、またはそれらの任意の組み合わせである。例えば、一部の実施形態では、抗炎症剤はマイクロRNA 146aである。
【0037】
追加で使用できる抗炎症性マイクロRNAとしては、miR-155、miR-9、miR-210、miR-146b、およびmiR-181が挙げられる。抗炎症性miR-155、miR-9、miR-210、miR-146bは、高一回換気量換気および急性肺損傷(ALI)、誘発性肺損傷(VILI)、および変形性関節症などに罹ったマウスのモデルを使ったALI/ARDS中に上方制御されることが示されている。一方、MiR-181は、IL-1αを介してマクロファージの炎症反応を調整する。MiR-9、miR-511、miR-146a、miR-23b、およびmiR-181aは、特に敗血症およびARDS中に肺で上方制御される抗炎症性miRNAとして既に報告されている。
【0038】
デザイナーEVはまた、主要な成長因子、調節タンパク質、および抗炎症性サイトカインを効率的に輸送して、肺の炎症および損傷を軽減し、さらにARDS/VILI中の組織修復を強化するものとして使用することができる。たとえば、抗炎症性サイトカインのインターロイキン-10とインターロイキン-4、調節タンパク質分泌型白血球プロテアーゼ阻害剤(SLPI)、およびケラチノサイト増殖因子(KGF)を載せることができる。これらにより、ARDSによる死亡率が低下し、炎症を調節できることが示されている。
【0039】
開示の細胞外小胞のカーゴRNAは、その長さは任意の適当な長さであってよい。例えば、一部の実施形態では、カーゴRNAは、少なくとも約10nt、20nt、30nt、40nt、50nt、100nt、200nt、500nt、1000nt、2000nt、5000ntまたはそれ以上のヌクレオチド長を有してよい。他の実施形態では、カーゴRNAは、約5000nt、2000nt、1000nt、500nt、200nt、100nt、50nt、40nt、30nt、20nt、または10nt以下のヌクレオチド長を有してよい。さらなる実施形態において、カーゴRNAは、これらの設計ヌクレオチド長の範囲内のヌクレオチド長、例えば、約10nt~5000ntの範囲のヌクレオチド長、または他の範囲を有してよい。開示の細胞外小胞のカーゴRNAは、例えば、カーゴRNAがmRNAまたは別の比較的長いRNAを含む場合には、比較的長くてもよい。
【0040】
一部の実施形態において、抗炎症性カーゴとは、細胞によって分泌された後にEVに搭載される膜透過性を有する薬理学的化合物のことである。例えば、一部の実施形態では、抗炎症性カーゴには、濃度勾配によりEVに拡散できるY-27632 Rho阻害剤(カルビオケム)が含まれる(図2を参照)。
【0041】
開示の方法によれば、臨床上関連する親油性化合物および他の抗炎症性膜透過性化合物をEVに搭載できる。このタイプの化合物の一例としては、スタチン、より具体的には、臨床現場で使用される血中のコレステロールレベルを低下させるシンバスタチンが挙げられる。シンバスタチンは、デザイナーEVを介して炎症を起こした肺に局所的に効果的に導入され、炎症を抑制し、たとえばALI/ARDSまたはVILIの患者の回復を早めるのに役立つ。
【0042】
一部の実施形態において、抗炎症性カーゴは、濃度勾配による拡散によってEVに載せられる。
【0043】
本開示では、EVの使用方法についても説明する。例えば、開示の細胞外小胞を使って開示の抗炎症性カーゴを標的肺細胞に導入してもよいが、当方法には標的細胞を開示のEVと接触させることも含まれる。したがって、本開示には、対象の肺疾患を治療する方法であって、本開示のカーゴを搭載した肺を標的とするEVを含む組成物を対象に治療有効量投与し治療する方法も含まれる。一部の実施形態では、対象はARDSを発症する。
【0044】
開示のデザイナーEVは、基本的にEV修飾用のリガンドを設計することによって、肺だけでなく異なる器官系における多種多様な炎症状態を調整するのに使用できる。肺の疾患例として、人工呼吸惹起性肺損傷(VILI)、肺線維症、および敗血症、インフルエンザ、肺炎などの感染症が挙げられる。
【0045】
肺の疾患または障害の治療用の医薬組成物の一部として、開示のEVを処方してもよく、医薬組成物を肺の病気または障害を治療する際に、必要とする患者に投与し、カーゴを標的肺細胞に導入することができる。
【0046】
開示のEVは任意の適当な手段によって対象に投与することができる。ヒトまたは動物といった対象への投与の仕方は、非経口、筋肉内、脳内、血管内、皮下、または経皮投与から選択することができる。通常、デリバリー方法は注射による方法が用いられる。好ましくは、注射は筋肉内または血管内(例えば静脈内)である。医師は、特定の患者ごとに必要な投与経路を決定することができる。
【0047】
EVは好ましくは組成物として導入される。組成物は、非経口、筋肉内、脳内、血管内(静脈内を含む)、皮下、または経皮投与用に処方することができる。非経口投与用の組成物としては、緩衝液、希釈剤、および他の適切な添加剤も含む滅菌水溶液が挙げられる。EVは、これに加え、薬学的に許容される担体、増粘剤、希釈剤、緩衝液、防腐剤、および他の薬学的に許容される担体または賦形剤などを含む医薬組成物として処方してもよい。
【0048】
非経口投与は、一般に、皮下、筋肉内、または静脈内などの注射をすることを特徴とする。非経口投与する際に用いる調製物としては、使用直前の溶媒と併用する注射用の滅菌溶液や皮下錠剤を含む凍結乾燥粉末、注射用の滅菌懸濁液、さらには使用直前のビヒクルおよび滅菌エマルジョンと併用する注射用の滅菌乾燥不溶性製品が挙げられる。溶液は水性または非水性のいずれかでよい。
【0049】
静脈内投与するのに適した担体としては、生理食塩水またはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)、ならびにグルコース、ポリエチレングリコール、およびポリプロピレングリコールなどの増粘剤および可溶化剤、ならびにそれらの混合物を含む溶液が挙げられる。非経口製剤として使用し薬学的に許容される担体としては、水性ビヒクル、非水性ビヒクル、抗菌剤、等張剤、緩衝液、抗酸化剤、局所麻酔薬、懸濁剤および分散剤、乳化剤、封鎖剤またはキレート剤、および他の薬学的に許容される物質が挙げられる。水性ビヒクル群としては、たとえば塩化ナトリウム注射、リンガー注射、等張デキストロース注射、滅菌水注射、デキストロースおよび乳酸リンガー注射が挙げられる。非水性非経口ビヒクル群としては、植物由来の脂肪油、綿実油、コーン油、ゴマ油、落花生油が含まれる。抗菌剤は、フェノールまたはクレゾール、水銀、ベンジルアルコール、クロロブタノール、メチルおよびプロピルp-ヒドロキシ安息香酸エステル、チメロサール、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウムを含む複数回投与用の容器に詰め込まれた非経口製剤に、静菌性または静真菌性を発現する濃度で添加する必要がある。等張剤としては、塩化ナトリウムとデキストロースが挙げられる。緩衝液としては、リン酸塩とクエン酸塩が挙げられる。酸化防止剤としては硫酸水素ナトリウムが挙げられる。局所麻酔薬としては塩酸プロカインが挙げられる。懸濁剤および分散剤としては、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロースおよびポリビニルピロリドンが挙げられる。
【0050】
乳化剤としては、ポリソルベート80(TWEEN(登録商標)80)が挙げられる。金属イオンの封鎖剤またはキレート剤としてはEDTAが挙げられる。医薬品担体としては、水混和性ビヒクル用のエチルアルコール、ポリエチレングリコール、およびプロピレングリコール、pH調整用の水酸化ナトリウム、塩酸、クエン酸または乳酸が挙げられる。薬学的活性な化合物の濃度は、注射により所望の薬理学的効果を生み出すのに有効な量となるように調整される。正確な用量は、当業界で知られているように、患者または動物の年齢、体重、および状態に依存する。
【0051】
アンプル、バイアル、または針付き注射器に単位用量の非経口製剤を充填することができる。非経口投与に使う調製物のすべては、当技術分野ですでに実践されているように、無菌にしておかなくてはならない。
【0052】
組成物は治療上有効な量を投与する。その用量は様々な要因に沿って、特に治療を受ける患者の重症度、年齢、および体重;投与経路;そして必要な養生法に沿って決定すればよい。特定の患者に必要な投与経路と投与量は医師が決める。最適な投与量は、個々の構成体の相対的効能に応じて変える場合があるが、一般には試験管内および生体内の動物モデルにより有効であると判明しているEC50に基づいて推定できる。投与量は一般に体重1kgあたり0.01mgから100mgである。典型的な1日の投与量は、特定の構成体の効能、治療を受ける対象の年齢、体重、および状態、病気の重症度、投与の頻度と経路に応じて、体重1kgあたり約0.1から50mg、好ましくは約0.1mg/kgから10mg/kgである。投与を筋肉内注射にするか全身(静脈内または皮下)注射にするかによって、構成体の投与量を変えて投与する。
【0053】
単回筋肉内注射の用量は、好ましくは約5から20μgの範囲である。単回または複数回の全身注射の用量は、好ましくは、体重に対して10から100mg/kgの範囲である。
【0054】
構成体のクリアランス(および任意の標的分子の分解)が原因で、患者としての治療を繰り返し、例えば、毎日、毎週、毎月、または毎年1回以上、受けなければならない場合がある。当業者は、体液または組織中の構成体の滞留時間や濃度に基づいて、投薬の反復回数を容易に推定することができる。治療に成功した後でも、患者に維持療法を受けさせることが望ましい場合があり、この場合には、構成体を体重1kgあたり0.01mg/kgから100mgの範囲の維持用量で、1日1回以上から20年に1回投与する。
【0055】
本発明における多数の実施形態を説明してきた。それにも関わらず、本発明の精神および範囲から逸脱することのない範囲において、様々な改良を行うことができる。ただし、その実施形態は以下の特許請求の範囲に包含される。
【実施例
【0056】
実施例1
図3に生体由来のデザイナーEVの特性評価と導入結果とを示す。図3Aは、qRT-PCRを介してmiR-146aおよびSHを載せたEVの特徴を示す棒グラフである。SH-CTまたはmiRを載せたEVを、換気前に気管内に差し込んだ挿管を介して導入した。図3Bは、SH-CTまたはmiR-146Aを載せたEV(MVプロトコール:1回換気量12cc/kg、呼吸数150呼吸/分、4時間の0cm HO下での呼気終末陽圧)で処理した動物の生理学的測定値の棒グラフを示す。図3Cは、MVを4時間行った後にSHおよびmiR-146aで処理した動物のBALタンパク質含有量の変化を示す棒グラフである。図3Dには、モックプラスミド(偽コントロール-SH)または抗炎症性miR-146aを載せたEVの平均サイズ分布の棒グラフを示す。
【0057】
抗炎症性miR-146aを載せた生体由来のデザイナーEVをmiR-146a(OriGene)をコードするプラスミドで、C57BL6マウス(8~10週齢)の背部皮膚をナノトランスフェションすることによって得た。皮膚トランスフェクションしてから24時間後に、搭載後のEVを皮膚生検から収集し、ExoQuickキット(SystemBio)で単離した。単離後、EVを粒状に保ち、その後の使用するために0.9%塩化ナトリウム溶液に懸濁させた。EVの搭載効率は、qRT-PCRを介してmiR-146aのコピー数を定量化して測定した。
【0058】
デザイナーEVを生体内で評価した。簡単に説明すると、重大な肺損傷を誘発する可能性のある既報の換気プロトコールに従って、機械的人工呼吸(MV)を行った。この際の条件は、1回換気量12cc/kg、呼吸数120呼吸/分、4時間の0cmHO下の呼気終末陽圧であった。これらの実験では、MV前に気管内注射(2μL/gのマウス重量を使用)を介してデザイナーEVをこれらのマウスの肺に導入した。肺の生理機能と酸素飽和度のデータを換気過程中に収集する。4時間後、動物を安楽死させ、気管支肺胞洗浄(BAL)検査データおよび組織を収集した。
【0059】
例2:デザイナーEVの製造に向けた試験管内アプローチ
ナノチャネル系のエレクトロポレーションを使用して、ドナー細胞内で目的のカーゴを制御範囲内で過剰に発現させ、EVの含有量および表面修飾の程度を所望する範囲に設定した。ナノチャネル系のエレクトロポレーションにより、トランスフェクション効率と細胞生存率を最大100%にすることができ、キャプシドサイズの制限は受けなかった。このアプローチを使って、マウス樹状細胞および胚性線維芽細胞の初代培養物、ならびにヒト細胞株などの複数の細胞源から得られる抗炎症性miR-146Aを載せたデザイナーEVを取得した(図3A-3E)。EV含有量の特性評価結果から、偽積載EVと比較して、目的の分子カーゴの取り込みに成功していることが示された(図3C)。次に、このようなEVを有効に使用して、ヒト肺上皮細胞およびヒトマクロファージを培養する際の遺伝子発現を調節した(図3D)。前神経因子遺伝子ASCL1、BRN2、およびMYT1l(ABM)を載せたデザイナーEVも、マウス線維芽細胞の初期初代培養物から得た。ABMを搭載したデザイナーEVの動的放出と取り込みを検討した結果、ドナー細胞からのEV放出は、トランスフェクションの24時間後にピークに達し、その時の濃度は数十億粒子/mlのオーダーであることが明らかになった。EV内に充填された遺伝子のコピー数は、「ドナー」細胞にデリバーされた元のコピー数を約3桁上回り、EV放出前の治療用カーゴが細胞内で増幅することが示唆された。
【0060】
例3:デザイナーEVの製造に向けた生体内アプローチ
生体内組織からデザイナーEVを誘導するナノチャネル系の組織トランスフェクションを行うと、おそらく患者自身の組織を量産型のEVバイオリアクターとして使えるようになると考えられるが、このことは臨床上および産生への橋渡し上重要な意味を持つ。この方法によれば、約1cmのマウス皮膚から、抗炎症性miR-146Aを載せた約10兆個のEVが得られる(図4)。このようなEVを有効に活用すると、機械的人工呼吸により引き起こされる炎症を抑制できる(図5)。
【0061】
例3:
ARDS発症の場合の救命救急の必要性、入院の長期化および回復の遅延を考えると、ARDSにかかわる医療システムにかかる負担は甚大である。American Lung Association(2013)によると、米国では年間約19万件のARDSが発生している。ARDS患者の死亡率は高く、38~45%に達する。ARDSは通常、肺への鈍的外傷や敗血症などの基礎疾患により引き起こされる。肺に損傷が起こると、感染で引き起こされる重度の全身性炎症反応を伴う敗血症に罹り生命の危険にさらされ、そのため多くのICU患者が亡くなっている。ARDSの特徴として、重度の低酸素症、肺胞毛細血管バリア機能障害、肺サーファクタントの産生低下による小気道氾濫、および炎症誘発性経路の活性化が挙げられる。機械的人工呼吸は酸素療法をサポートする一方で、機械的ストレスにより初期損傷を悪化させ、より死亡率の高い人工呼吸器誘発肺損傷(VILI)を引き起こす可能性がある。これらすべてが要因となり、根底にある肺損傷をさらに悪化させ、炎症を助長し、多臓器不全や死につながる得る正のフィードバックループを助長する。現在、ARDSの治療法はないが、肺を標的とした抗炎症性カーゴを使うアプローチに対する期待は大きい。細胞ベース(例えば、内皮前駆細胞、間葉系幹細胞)の治療法を使えば、例えば、炎症を軽減し、栄養メカニズムおよび抗炎症/感染メカニズムを介して肺の修復が助長される。ただし、過剰な体外処理に一部起因するものであるが、腫瘍の形成や高免疫原性反応を引き起こす可能性のある前駆細胞をベースとした細胞治療の安全性については、依然、重大な懸念が残っている。特定の治療薬の正体はすでに明らかになっている一方で、炎症を起こした肺への治療薬の効率的な導入方法については、重症患者にとっては依然として大きな課題である。こういった制限を克服する上で鍵となる抗炎症性および抗菌性分子カーゴは、機能化デザイナーEVにより効率的かつ選択的に導入され、肺の炎症と損傷を軽減し、敗血症誘発性ARDS中の組織を修復する機能を高める。表1に、分子カーゴを搭載したデザイナーEVの設計内容を示す。
【表1】
【0062】
実験プロトコールを最適化し、生体組織に由来するデザイナーEVを取得した。この重点分野においては、表1に記載されているように、8~10週齢のC57BL6マウスの皮膚に各因子をコードするプラスミドを生体内でナノトランスフェクションすることにより、抗炎症性または抗菌性カーゴを積んだ生体由来のデザイナーEVを得た。組織ナノトランスフェクションプラットフォームは、既報したように、投影/接触フォトリソグラフィー、および深掘り反応性イオンエッチングとの組み合わせによりクリーンルームで製造した。EVは、トランスフェクション後のさまざまな時点で皮膚生検から収集した。EVを分離するために、gentleMACS解離剤を使用して皮膚サンプルを解離および均質化した。トータルエクソソーム分離キットを使用してEVを選択的に沈殿させ、後で使用するために-80℃で保存した。
【0063】
デザイナーEVを機能化し、ARDS炎症の重要な拠点となる肺上皮およびマクロファージの細胞コンパートメントへの標的導入を行う。機能化デザイナーEVは、肺サーファクタントタンパク質A(SPA)および膜糖タンパク質CD200のプラスミドを用いたナノトランスフェクションを行うことにより得られる(図6)。SPAによる機能化EVは、肺胞肺細胞の受容体p63/CKAP4と相互作用し、これらの細胞のトル様受容体-2(TLR2)にも結合して、NFκβ炎症経路の活性化を弱めると予想される。CD200で機能化されたEVは、肺胞マクロファージのCD200R受容体と優先的に相互作用する傾向にあり、これにより炎症誘発性状態が調節される。内皮を標的とする追加のリガンドはSPAおよびCD200と組み合わせて使用し、体循環により導入されるデザイナーEVが肺微小血管系と相互作用しやすくなるようにした。SDF1リガンドと共機能化されたEVは、肺血管系のCXCR7受容体と優先的に相互作用する。これにより、損傷状態下で上方制御され、その後デザイナーEVが肺胞腔へ移行する際に、肺血管系へ固着し易くなる。デザイナーEVの最適な投与経路を特定することも、デザイナーEVを治療用途向けに最適化するための重要な項目となる。そのため、3つの非侵襲的投与経路(表2)を比較して、治療用途に最適な導入方法を決めた。
【表2】
【0064】
導入方法ごとに、機能性および非機能性の抗炎症性、抗菌性、または偽デザイナーEVで治療された健康な動物および罹患した動物に対して、服用量感受性分析を行った(表3)。この分析では、気管支肺胞洗浄検査物(BAL)、血液、および肺が収集され、導入された分子カーゴをコードする遺伝子の相対的発現度合い、ならびに鍵となる炎症誘発性および抗炎症因子(表4)がqRT-PCRを介して定量化される。この分析により、生体内での肺の炎症を有意的に調整するための最適な服用量濃度が決められる。これらの結果は、デザイナーEVの最適濃度を取得するのに必要なトランスフェクトされた皮膚の面積と相関する。オフターゲット部分の蓄積とクリアランスについては、定量的な生体内分布の調査に基づき試験される(図6)。
【表3】

【表4】
【0065】
生体内での検討に加えて、広範なEVの試験管内特性評価結果により、EVの本質がよりよく理解される。この評価には、たとえばNanosightおよびゼータ電位アナライザーシステムを使った、カーゴおよび表面修飾の関数としてのサイズ分布、電荷、および粒子濃度の分析が含まれる。EVの積載効率は、各プラスミドDNAに対して作成された標準曲線から求めた絶対定量qRT-PCRプロトコールを使って、EVごとに詰められた各遺伝子のコピー数を定量化することで決められる。これらの結果は、皮膚にトランスフェクトされたコピー数と相関する。全RNA配列を使って、抗炎症、抗菌性、または偽分子からなるカーゴを載せたデザイナーEVの内容物を特徴付け、これによりデザイナーEV内に詰め込まれたコード化および非コード化RNAの形態に関する詳細な情報を得る。さらに、機能性および非機能性デザイナーEVの(膜およびサイトゾルレベルでの)比較プロテオミクス分析を実施して、抗炎症効率および抗菌性分子カーゴの詰込み効率、ならびに膜リガンドの発現効率を決める。
【0066】
デザイナーEVの作用メカニズムをよりよく理解するために、肺損傷のマウスモデル(表3)における生体内性能評価結果を、損傷に関して十分に確立された試験管モデル(表5)に対するベンチマークとして採用した。試験管モデルでは、特定の細胞集団に対するデザイナーEVの効果的かつ体系的な研究が可能となり、一方、生体内モデルでは、複数の臓器系間の相互作用が重要となる病態生理学上の条件の元での応答をより良く理解することができる。生体内では、炎症および細菌感染を低減する上でのデザイナーEVの有効性を、敗血症誘発性ARDSのマウスモデルおよび2ヒットモデルを使って評価した。これらのモデルは、感染下にある特定濃度のデザイナーEVから観察された炎症減衰レベルの潜在的な影響を判断するのに役立つ。圧外傷および容積外傷の試験管モデルを使って、デザイナーEVを肺組織および細菌培養物から単離した細胞成分上でプロービングした。
【表5】
【0067】
生体内損傷モデルでは、デザイナーEVを様々な用量(例えば、単回対反復)および時点(例えば、損傷前対損傷後)で投与した(表2)。敗血症誘発性ARDSをモデル化するために、8~10週齢のC57BL6マウスを盲腸結紮穿刺(CLP)または偽開腹術の対象とした。肺水腫は、Vevo2100システムによる超音波画像診断からCLP後に評価した。動物を犠牲にし、BAL、血液、および主要な臓器(すなわち、肺、心臓、脾臓、肝臓、および腎臓)を、下流分析のために滅菌生理食塩水で灌流した後に収集した。2ヒットモデルを使用すると、感染患者が機械的人工呼吸を必要とする場合のように、より臨床的に関連性のある状態の再現が可能になる。このモデルでは、8~10週齢のC57BL6マウスを、最初にCLPまたは偽開腹手術し、CLPの24時間後に、有害なプロトコール(1回換気量12cc/kg、120呼吸/分、およびFlexiVent FX、SCIREQを使用して4時間0cm HO下の呼気終末陽圧)の条件にて機械的換気にさらした。肺の生理機能と酸素飽和度のデータをMV過程中に収集したのち、MVの最後に動物を麻酔薬の過剰摂取により犠牲にし、BAL、血液、および主要臓器を下流分析のために滅菌生理食塩水で灌流した後に収集する。BALサンプルの細胞含有量は、炎症性細胞カウント数(すなわち、肺胞マクロファージ、リンパ球、好酸球、好中球、および肥満細胞)により決めた。タンパク質含有量の上昇は肺胞毛細血管バリア機能の完全性の喪失と相関するため、BALタンパク質含有量も測定した。タンパク質の定量後、カスタムメイドのサイトカインアレイを使用して、炎症誘発性および抗炎症性のサイトカインおよび因子を発現するために、すべてのBALおよび血漿サンプルをスクリーニングする(表4)。生体内に導入された分子カーゴの相対的発現(表1に記載されている治療法に対する)およびこれらの治療法の鍵となる抗炎症性および炎症誘発性分子マーカー(表4に記載)の発現への効果については、qRT-PCRを介して評価された。
【0068】
生体内損傷モデルの場合、初代肺上皮細胞とマウス由来のマクロファージとの共培養物は、圧外傷または量(体積)外傷損傷に晒される。圧外傷は、以前公開された周期的圧力モデルを使うことで誘発される。このため、細胞をトランスウェルインサート上で共培養し、頂端コンパートメントを24時間加圧して、0.2Hzの周波数で0~20cm HO下の周期的振動圧をかけ、人工呼吸器および通常の呼吸数の場合と同じ状態をシミュレートした。容積外傷は、FlexcellFX-5000テンションシステムを使用してシミュレートした。このモデルでは、細胞をエラストマー底部付きの改良型6ウェルプレート上で共培養し、細胞培養インキュベーター内で24時間、1.25Hzで10~20%の伸長率で連続的かつ周期的に伸長を繰り返した。主要な炎症誘発性分子(表4)の培地への分泌をモニターした。密着結合の形成と保持状態を評価するために、ZO-1を外傷後の上皮-内皮バリア機能の指標として、IFを介して染色および画像化した。この評価に採用された実験グループを表5に示す。
【0069】
特段の言及がない限り、本開示で使用されるすべての技術用語および科学用語は、開示の分野に属する当業者によって通常理解されるのと同じ意味を有する。本開示で引用されている刊行物および引用資料は、本開示中にて援用される。
【0070】
当業者は、本開示書に記載の本発明に特定の実施形態と同等のものを多数認識し、または通常の実験でもって確認することができるが、以下の特許請求の範囲に包含されるように意図される。
図1
図2
図3A
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図6
【配列表】
2022512752000001.app
【国際調査報告】