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特表2022-512773加齢関連クローン性造血およびそれに関係する疾患の予防
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-07
(54)【発明の名称】加齢関連クローン性造血およびそれに関係する疾患の予防
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20220131BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220131BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20220131BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220131BHJP
   A61K 31/40 20060101ALI20220131BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220131BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20220131BHJP
   A61K 31/4725 20060101ALI20220131BHJP
   A61K 31/506 20060101ALI20220131BHJP
   A61K 31/496 20060101ALN20220131BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P35/00
A61P35/02
A61K48/00
A61K31/40
A61P43/00 111
A61K31/7088
A61K31/4725
A61K31/506 ZNA
A61K31/496
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021521513
(86)(22)【出願日】2019-10-28
(85)【翻訳文提出日】2021-06-09
(86)【国際出願番号】 IL2019051165
(87)【国際公開番号】W WO2020089892
(87)【国際公開日】2020-05-07
(31)【優先権主張番号】262658
(32)【優先日】2018-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IL
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516040109
【氏名又は名称】イェダ リサーチ アンド ディベロップメント カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】YEDA RESEARCH AND DEVELOPMENT CO.LTD.
【住所又は居所原語表記】at the Weizmann Institute of Science, P.O.Box 95, 7610002 Rehovot, Israel
(71)【出願人】
【識別番号】500213834
【氏名又は名称】メモリアル スローン ケタリング キャンサー センター
(74)【代理人】
【識別番号】100133503
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 一哉
(72)【発明者】
【氏名】シュラッシュ,リラン
(72)【発明者】
【氏名】アブデル-ワハブ, オマール
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA13
4C084AA17
4C084NA14
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZB271
4C084ZB272
4C084ZC201
4C084ZC202
4C084ZC521
4C084ZC522
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC05
4C086BC30
4C086BC42
4C086BC50
4C086EA16
4C086GA02
4C086GA07
4C086GA08
4C086GA12
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB26
4C086ZB27
4C086ZC20
4C086ZC52
(57)【要約】
スプライシング因子における1つ以上の変異について陽性である、高リスク対象における造血障害または悪性腫瘍を予防する方法が開示される。方法は、スプライソソーム活性を阻害することができるが、RBM39活性を阻害しない薬剤を対象に投与することを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高リスク対象における造血障害または悪性腫瘍を予防する方法であって、前記対象がスプライシング因子の1つ以上の変異について陽性であり、スプライソソーム活性を阻害することができる薬剤を前記対象に投与することを含み、前記薬剤がRBM39活性を阻害しない、方法。
【請求項2】
スプライシング因子の1つ以上の変異について陽性である、高リスク対象における造血障害または悪性腫瘍の予防に使用するための、スプライソソーム活性を阻害することができる薬剤であって、RBM39活性を阻害しない薬剤。
【請求項3】
スプライソソーム活性を阻害することができる前記薬剤が、EC番号2.1.1.319、2.1.1.320または2.1.1.321に示されるタンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ(PRMT)を阻害することができる薬剤である、請求項1に記載の方法、または請求項2に記載の使用のための薬剤。
【請求項4】
スプライソソーム活性を阻害することができる前記薬剤が、スプライシング阻害剤である、請求項1に記載の方法または請求項2に記載の使用のための薬剤。
【請求項5】
スプライソソーム活性を阻害することができる前記薬剤が、プロテアソーム分解化合物である、請求項1に記載の方法または請求項2に記載の使用のための薬剤。
【請求項6】
前記PRMTが、タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ1(PRMT1)、タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ3(PRMT3)、タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ4(PRMT4)、タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ5(PRMT5)、タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ6(PRMT6)およびタンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ9(PRMT9)からなる群から選択される、請求項3に記載の方法または請求項3に記載の使用のための薬剤。
【請求項7】
前記PRMTを阻害することができる前記薬剤が、ポリペプチド、ポリヌクレオチドまたは小分子である、請求項3もしくは6に記載の方法または請求項3もしくは6に記載の使用のための薬剤。
【請求項8】
前記薬剤が、I型PRMT阻害剤MS-023二塩酸塩、またはその誘導体もしくは類似体である、請求項3、6もしくは7のいずれか一項に記載の方法、または請求項3、6もしくは7のいずれか一項に記載の使用のための薬剤。
【請求項9】
前記PRMTがPRMT5を含む場合、前記薬剤がGSK591二塩酸塩またはGSK3326595、またはその誘導体もしくは類似体を含む、請求項3、6もしくは7のいずれか一項に記載の方法、または請求項3、6もしくは7のいずれか一項に記載の使用のための薬剤。
【請求項10】
前記PRMTがPRMT1を含む場合、前記薬剤がC-21、フラミジン二塩酸塩またはTC-E 5003、またはその誘導体もしくは類似体を含む、請求項3、6もしくは7のいずれか一項に記載の方法、または請求項3、6もしくは7のいずれか一項に記載の使用のための薬剤。
【請求項11】
前記PRMTがPRMT3を含む場合、前記薬剤が、SGC707またはUNC2327、またはその誘導体もしくは類似体を含む、請求項3、6もしくは7のいずれか一項に記載の方法、または請求項3、6もしくは7のいずれか一項に記載の使用のための薬剤。
【請求項12】
前記PRMTがPRMT4を含む場合、前記薬剤が、MS049オキサレート塩またはTP064、またはその誘導体もしくは類似体を含む、請求項3、6もしくは7のいずれか一項に記載の方法、または請求項3、6もしくは7のいずれか一項に記載の使用のための薬剤。
【請求項13】
前記PRMTがPRMT6を含む場合、前記薬剤が、MS049オキサレート塩、またはその誘導体もしくは類似体を含む、請求項3、6もしくは7のいずれか一項に記載の方法、または請求項3、6もしくは7のいずれか一項に記載の使用のための薬剤。
【請求項14】
前記スプライシング阻害剤が、ポリペプチド、ポリヌクレオチドまたは小分子である、請求項4に記載の方法または請求項4に記載の使用のための薬剤。
【請求項15】
前記スプライシング阻害剤が、スデマイシン、スプライソスタチン、FR901464、プラジエノライド、ヘルボキシジエン、メアヤマイシン、イソギンクゲチン、マドラシン(Madrasin)、テトロカルシン、N-パルミトイル-L-ロイシン、プソロム酸、クロトリマゾール、NSC635326、ナプタザリン、エリスロマイシン、SAHA、ガルシノール、オカダ酸、NB-506、ユビスタチン、G5、またはそれらの誘導体もしくは類似体からなる群から選択される、請求項4もしくは14に記載の方法または請求項4もしくは14に記載の使用のための薬剤。
【請求項16】
前記スプライシング阻害剤が、E7107、H3B-8800、FD-895、GEX1Q1-5、RQN-18690、NSC659999、BN82865、NSC95397、テトラサイクリン、ストレプトマイシン、スプライトマイシン、タウトマイシン、ミクロシスチン、ジオスピリン、クロルヘキシジン、またはそれらの誘導体もしくは類似体からなる群から選択される、請求項4、14もしくは15のいずれか一項に記載の方法、または請求項4、14もしくは15のいずれか一項に記載の使用のための薬剤。
【請求項17】
前記プロテアソーム分解化合物が、SF3b複合体のコアメンバー、U2AF複合体、またはPRMT酵素およびRNA結合タンパク質からなる群から選択されるスプライソソーム関連タンパク質を標的とする、請求項5に記載の方法または請求項5に記載の使用のための薬剤。
【請求項18】
前記プロテアソーム分解化合物が、SF3B1、SF3B2、SF3B3、PHF5a、U2AF1、U2AF2、PRMT5、PRMT1、PRMT2、PRMT3、PRMT4、PRMT6、PRMT8、SUPT6H、hnRNPHおよびSRSF10からなる群から選択されるスプライソソーム関連タンパク質を標的とする、請求項17に記載の方法または使用のための薬剤。
【請求項19】
前記変異が、U2AF1、SF3B1、SRSF2およびZRSR2からなる群より選択されるスプライシング因子にある、請求項1もしくは3~17のいずれか一項に記載の方法、または請求項2~17のいずれか一項に記載の使用のための薬剤。
【請求項20】
前記変異が点変異である、請求項1もしくは3~19のいずれか一項に記載の方法、または請求項2~19のいずれか一項に記載の使用のための薬剤。
【請求項21】
前記点変異が、挿入、欠失または置換である、請求項20に記載の方法または請求項20に記載の使用のための薬剤。
【請求項22】
前記変異が、U2AF1ポリペプチド中のS34またはQ157における変異である、請求項19~21のいずれか一項に記載の方法または請求項19~21のいずれか一項に記載の使用のための薬剤。
【請求項23】
前記変異が、SF3B1ポリペプチドにおけるR625L、N626H、K700E、G740E、K741N、Q903R、E622D、R625G、Q659R、H662Q、H662D、K666Q、K666E、K666N、K666T、K666RまたはG742Dの変異である、請求項19~21のいずれか一項に記載の方法または請求項19~21のいずれか一項に記載の使用のための薬剤。
【請求項24】
前記変異が、SRSF2ポリペプチド中のP95における変異である、請求項19~21のいずれか一項に記載の方法または請求項19~21のいずれか一項に記載の使用のための薬剤。
【請求項25】
前記変異が、前白血病性造血幹細胞および前駆細胞において検出される、請求項1もしくは3~24のいずれか一項に記載の方法、または請求項2~24のいずれか一項に記載の使用のための薬剤。
【請求項26】
前記変異が、前記対象の生体サンプル中で検出される、請求項1もしくは3~25のいずれか一項に記載の方法、または請求項2~25のいずれか一項に記載の使用のための薬剤。
【請求項27】
前記造血障害または悪性腫瘍が白血病である、請求項1もしくは3~26のいずれか一項に記載の方法、または請求項2~26のいずれか一項に記載の使用のための薬剤。
【請求項28】
前記造血障害または悪性腫瘍が骨髄異形成症候群(MDS)である、請求項1もしくは3~26のいずれか一項に記載の方法、または請求項2~26のいずれか一項に記載の使用のための薬剤。
【請求項29】
前記対象がヒト対象である、請求項1もしくは3~28のいずれか一項に記載の方法、または請求項2~28のいずれか一項に記載の使用のための薬剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2018年10月28日に出願されたイスラエル特許出願第262658号の優先権の利益を主張し、その内容は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
配列表の記載
【0002】
本出願の出願と同時に提出された、109キロバイトを有する、79291 Sequence Listing.txtという表題のASCIIファイルは、2019年10月28日に作成され、参照により本明細書に組み込まれる。
【0003】
本発明は、そのいくつかの実施形態において、スプライソソーム機構変異を保有する高リスク対象における白血病の予防、より具体的には、限定されないが、スプライソソーム活性を阻害することができる薬剤の使用による白血病の予防に関する。
【背景技術】
【0004】
急性骨髄性白血病(AML)および骨髄異形成症候群(MDS)は、転帰の改善が強く求められている血液悪性腫瘍である。最近の研究により、前白血病変異(pLM)を保有する前白血病造血幹細胞および前駆細胞(preLHSPC)がAMLおよびMDSの起源細胞であることが発見され、これらの障害の病因の見解が変わった。preLHSPCは、診断の数年前に白血病関連変異を獲得し、明白な疾患への形質転換の数年前までほぼ正常な機能を維持する。pLMは、AMLおよびMDSの発症が予定される個体の間で発見され得るが、健康な個体の20~30%にも存在し、その大部分は生涯、AML/MDSを発症しない。明白な疾患を伴わないpLMの存在は、加齢関連クローン性造血(ARCH)と呼ばれる。
【0005】
AMLの初期段階におけるARCH体細胞事象の役割が最近研究された[Abelson et.al、Nature(2018)559:400-404(2018)]。特異的変異によってAMLを診断の数年前に予測できるかどうかを理解するために、AML診断の平均7年前に末梢血(PB)を採取し、配列決定し、年齢が一致する対照とARCH事象について比較した。前AML症例および対照の両方における最も一般的な変異遺伝子がDNMT3aおよびTET2変異であることが特定されたが、驚くべきことに、スプライソソーム機構変異(SMM)は、前AMLにほぼ限定されていることが明らかになった。SMMを保有する50~60歳のほぼすべての個体がAMLを発症した。前AMLの中では、対照と比較して、より若い年齢でSMMが発生する傾向があった。明白なMDS/AMLにおけるSMMは、ほとんどの場合、明白なMDS/AMLの有害な転帰に関連するSRSF2およびU2AF1の変異によって、特定の 「ホットスポット」 残基においてSF3B1、SRSF2およびU2AF1に影響を及ぼす[Yoshida,K.et al.Nature(2011)478:64-69;Papaemmanuil,E.et al.N Engl J Med(2011)365:1384-1395;Graubert,T.A.et al.Nat Genet(2012)44:53-57]。前白血病の状況では、コドンP95でのSRSF2、ならびにコドンS34およびQ157でのU2AF1の変異は、圧倒的に前AML症例で見られた。U2AF1変異の保有者は、全員AMLを発症した。
【0006】
SF3B1、SRSF2およびU2AF1におけるSMMは一貫してヘテロ接合性であり非常に限定された残基において点変異として生じ、これらが発癌性の機能転換の変化であることを示唆する。これと一致して、これらの変化の各々を有する細胞のトランスクリプトーム分析により、これらの因子の各々における変異が、機能喪失とは異なる様式でスプライシングを変化させることが特定された。例えば、エクソンスプライシングエンハンサーに結合してスプライシングを促進する補助スプライシング因子であるSRSF2に影響を及ぼす変異は、そのRNA結合優先性を配列特異的に変化させ、それによってエクソン封入の効率を変化させる。3’ssでAGジヌクレオチドに結合するU2AFヘテロ二量体の小サブユニットであるU2AF1に影響を及ぼす変異は、AGジヌクレオチドに隣接する配列に基づいて3’ssを促進または抑制する。
【0007】
スプライシング機構に対するSF3B1、U2AF1およびSRSF2の変異の効果は互いに異なるが、これらの3つの因子に影響する変異が互いに排他的である理由は不明である。Srsf2またはSf3b1における変異の誘導性発現を、単独でまたは合わせて有するマウスの評価によって、各変異が異なる様式でRNAスプライシングに影響を及ぼすことが明確に実証された。それにもかかわらず、これらの2つの変異は、同じ細胞で共発現された場合には許容されなかった。同様に、ヘミ接合性(Srsf2P95H/KO)またはホモ接合性(Srsf2P95H/P95H)状態での変異型Srsf2の発現により、造血機能が完全に失われた。まとめると、これらのデータは、SMMを有する細胞がスプライシングプロセスに対するさらなる遺伝的摂動に耐えられないことを示している[Kim et al.、Cancer Cell(2015)27(5):617-630]。
【0008】
SMM細胞は残りのWT対立遺伝子の発現に依存し、共存するスプライソソーム遺伝子変異は合成致死であるので、SMMを発現する細胞がスプライソソーム機能を損なう化合物に感応し得るかどうかをさらに試験した。SF3B1に結合し、スプライソソームのU2 snRNP成分の活性を阻害する薬物E7107およびH3B-8800を含む、スプライソソーム機能を損なう様々な化合物をAML治療のために試験した。E7107の抗白血病効果は、SRSF2変異を有する、または有さない同質遺伝子型MLL-AF9マウスAMLモデルにおいて例証された。ここで、スプライソソーム-変異AMLは、同質遺伝子型スプライソソーム-WT対照物と比べて、インビボでのスプライシングの阻害に対して差次的に感応することが確認された[Lee et al.Nat Med(2016)22:672~678]。SF変異を有する、または有さないAML患者由来の異種移植片(PDX)モデルでは、スプライソソーム変異白血病はE7107に応答して、それらのWT対照物よりもヒト白血病細胞量を大きく減少させたが、完全な根絶は達成できないことが示された[Lee et al.、Nat Med(2016)、前掲]。H3B-8800と呼ばれる、E7107の経口で生物学的に利用可能な類似体もまた、スプライシング忠実度の用量依存的減少を誘導し、SF3B1およびSRSF2変異AMLならびに慢性骨髄単球性白血病(CMML)において優先的効果を示した[Seiler et al.、Nature Medicine(2018)24(4):497-504]。
【0009】
さらなる背景技術には、以下が含まれる。
米国特許出願第20150025017号は、1つ以上のスプライソソームタンパク質PHF5A、U2AF1またはDDX1のアンタゴニストを用いて癌を治療するための組成物および方法を開示している。そのようなスプライソソーム阻害剤には、スデマイシン、スプライソスタチン、FR901464、プラジエノリド、E7107、ヘルボキシジエンおよびメアヤマイシンが含まれる。
【0010】
米国特許出願第20140364439号は、SF3B1を調節する化合物、例えば、スプライソスタチン、E7107、またはプラジエノリドの投与による慢性リンパ性白血病(CLL)の治療を開示している。
【0011】
米国特許出願第20160271149号は、タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ活性を抑制して腫瘍増殖を低減する治療化合物を開示している。
【0012】
米国特許出願第20180140578号は、スプライシング因子(すなわち、U2AF1、SF3B1、SRSF2、およびZRSR2)に変異を示し、かつ/または対照と比較してDCAF15の量が増加している対象における癌を治療する方法を開示している。治療は、対象におけるRBM39の活性を、例えばアリールスルホンアミド(例えば、インジスラム、タシスラム、クロロキノキサリンスルホンアミド)の使用によって阻害することで行われる。
【発明の概要】
【0013】
本発明のいくつかの実施形態の1つの態様によれば、スプライシング因子の1つ以上の変異について陽性である高リスク対象における造血障害または悪性腫瘍を予防する方法が提供され、方法は、スプライソソーム活性を阻害することができる薬剤を対象に投与することを含み、薬剤はRBM39活性を阻害しない。
【0014】
本発明のいくつかの実施形態の1つの態様によれば、スプライシング因子の1つ以上の変異について陽性である高リスク対象における造血障害または悪性腫瘍の予防に使用するための、RBM39活性を阻害せずにスプライソソーム活性を阻害することができる薬剤が提供される。
【0015】
本発明のいくつかの実施形態によれば、スプライソソーム活性を阻害することができる薬剤は、EC番号2.1.1.319、2.1.1.320または2.1.1.321に示されるような、タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ(PRMT)を阻害することができる薬剤である。
【0016】
本発明のいくつかの実施形態によれば、スプライソソーム活性を阻害することができる薬剤は、スプライシング阻害剤である。
【0017】
本発明のいくつかの実施形態によれば、スプライソソーム活性を阻害することができる薬剤は、プロテアソーム分解化合物である。
【0018】
本発明のいくつかの実施形態によれば、PRMTは、タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ1(PRMT 1)、タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ3(PRMT 3)、タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ4(PRMT 4)、タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ5(PRMT 5)、タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ6(PRMT 6)およびタンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ9(PRMT 9)からなる群から選択される。
【0019】
本発明のいくつかの実施形態によれば、PRMTを阻害することができる薬剤は、ポリペプチド、ポリヌクレオチドまたは小分子である。
【0020】
本発明のいくつかの実施形態によれば、薬剤は、I型PRMT阻害剤MS-023二塩酸塩、またはその誘導体もしくは類似体である。
【0021】
本発明のいくつかの実施形態によれば、PRMTは、PRMT5を含み、薬剤は、GSK591二塩酸塩またはGSK3326595、またはその誘導体もしくは類似体を含む。
【0022】
本発明のいくつかの実施形態によれば、PRMTは、PRMT1を含み、薬剤は、C-21、フラミジン二塩酸塩またはTC-E 5003、またはそれらの誘導体もしくは類似体を含む。
【0023】
本発明のいくつかの実施形態によれば、PRMTは、PRMT3を含み、薬剤は、SGC707またはUNC2327、またはその誘導体もしくは類似体を含む。
【0024】
本発明のいくつかの実施形態によれば、PRMTは、PRMT4を含み、薬剤は、MS049シュウ酸塩またはTP064、またはその誘導体もしくは類似体を含む。
【0025】
本発明のいくつかの実施形態によれば、PRMTはPRMT6を含み、薬剤はMS049シュウ酸塩、またはその誘導体もしくは類似体を含む。
【0026】
本発明のいくつかの実施形態によれば、スプライシング阻害剤は、ポリペプチド、ポリヌクレオチドまたは小分子である。
【0027】
本発明のいくつかの実施形態によれば、スプライシング阻害剤は、スデマイシン、スプライソスタチン、FR901464、プラジエノライド、ヘルボキシジエン、メアヤマイシン、イソギンクゲチン、マドラシン(Madrasin)、テトロカルシン、N-パルミトイル-L-ロイシン、プソロム酸、クロトリマゾール、NSC635326、ナプタザリン、エリスロマイシン、SAHA、ガルシノール、オカダ酸、NB-506、ユビスタチン、G5、またはそれらの誘導体もしくは類似体からなる群から選択される。
【0028】
本発明のいくつかの実施形態によれば、スプライシング阻害剤は、E7107、H3B-8800、FD-895、GEX1Q1-5、RQN-18690、NSC659999、BN82865、NSC95397、テトラサイクリン、ストレプトマイシン、スプライトマイシン、タウトマイシン、ミクロシスチン、ジオスピリン、クロルヘキシジンまたはそれらの誘導体もしくは類似体からなる群から選択される。
【0029】
本発明のいくつかの実施形態によれば、プロテアソーム分解化合物は、SF3b複合体のコアメンバー、U2AF複合体、またはPRMT酵素およびRNA結合タンパク質からなる群から選択されるスプライソソーム関連タンパク質を標的とする。
【0030】
本発明のいくつかの実施形態によれば、プロテアソーム分解化合物は、SF3B1、SF3B2、SF3B3、PHF5a、U2AF1、U2AF2、PRMT5、PRMT1、PRMT2、PRMT3、PRMT4、PRMT6、PRMT8、SUPT6H、hnRNPHおよびSRSF10からなる群から選択されるスプライソソーム関連タンパク質を標的とする。
【0031】
本発明のいくつかの実施形態によれば、変異は、U2AF1、SF3B1、SRSF2、およびZRSR2からなる群から選択されるスプライシング因子における変異である。
【0032】
本発明のいくつかの実施形態によれば、変異は、点変異である。
【0033】
本発明のいくつかの実施形態によれば、点変異は、挿入、欠失または置換である。
【0034】
本発明のいくつかの実施形態によれば、変異は、U2AF1ポリペプチドのS34またはQ157における変異である。
【0035】
本発明のいくつかの実施形態によれば、変異は、SF3B1ポリペプチドにおけるR625L、N626H、K700E、G740E、K741N、Q903R、E622D、R625G、Q659R、H662Q、H662D、K666Q、K666E、K666N、K666T、K666RまたはG742Dの変異である。
【0036】
本発明のいくつかの実施形態によれば、変異は、SRSF2ポリペプチドにおけるP95の変異である。
【0037】
本発明のいくつかの実施形態によれば、変異は、前白血病性造血幹細胞および前駆細胞において検出される。
【0038】
本発明のいくつかの実施形態によれば、変異は、対象の生物学的サンプルにおいて検出される。
【0039】
本発明のいくつかの実施形態によれば、造血障害または造血悪性腫瘍は、白血病である。
【0040】
本発明のいくつかの実施形態によれば、造血障害また造血悪性腫瘍は、骨髄異形成症候群(MDS)である。
【0041】
本発明のいくつかの実施形態によれば、対象はヒト対象である。
【0042】
別途定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および/または科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載されるものと類似または同等の方法および材料を本発明の実施形態の実施または試験に使用することができるが、例示的な方法および/または材料を以下に記載する。矛盾する場合、定義を含む特許明細書が優先する。さらに、材料、方法、および実施例は例示にすぎず、必ずしも限定することを意図するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0043】
本発明のいくつかの実施形態は、添付の図面を参照して、単なる例として本明細書に記載されている。以下の図面に関する詳細な具体的な言及と共に、示されている詳細は例示のためのものであり、本発明の実施形態の例示的な説明のためのものであることを強調する。この点に関して、図面を用いてなされた説明により、本発明の実施形態がどのように実施され得るかを当業者に明らかにする。
【0044】
図1A-E】スプライシングに対するPRMT阻害の効果を示す。(図1A)スプライシング制御におけるPRMT5およびI型PRMTの役割の図である。PRMTは、スプライシングタンパク質上のアルギニンをメチル化してスプライソソーム集合を促進し、適切なスプライシング機能に必要とされる。PRMT5阻害剤GSK591(図1B)、またはPRMT1阻害剤MS-023(図1C)に曝露したスプライソソーム変異急性骨髄性白血病細胞またはそれらのWT対照物のIC50曲線。(図1B)および(図1D)それぞれの細胞からの、(図1D)対称性ジメチルアルギニン(SDMA)または(図1E)非対称性ジメチルアルギニン(ADMA)のウエスタンブロット。
図2】SMM、またはPRMT5の部分的喪失を伴うAML細胞の、スプライシング、PRMTまたはLSD1の阻害剤に対する薬物感受性を示す。MLL-AF9 Srsf2WT/WT;MLL-AF9 Srsf2P95H/WTまたはMLL-AF9 Prmt 5+/-細胞を、示された化合物によって(化合物ごとに、5つの上昇させた濃度)384ウェル中で7日間処理した。7日目の生存率をMTSアッセイによって記録し、対照処理細胞(DMSOで同等に希釈)に対する比として報告した。実験は生物学的トリプリケートで実行し、それぞれ個々の実行をテクニカルトリプリケートで繰り返した。
図3】SMM AMLがI型またはII型PRMTの阻害に対して優先的に感応することを示す。MLL-AF 9/Srsf2WT細胞(黒色)またはMLL-AF 9/Srsf2変異細胞(赤色)を移植し、続いてPRMT5阻害剤GSK591(左)またはI型PRMT阻害剤MS-023(右)で処置したレシピエントマウスのカプラン・マイヤー曲線。
図4A-D】スルホンアミドがRBM39の分解によってSMM細胞に優先的効果を示すことを示す。(図4A)スルホンアミドはRBM39をCUL4-DDB1-DDA1-DCAF15 E3ユビキチンリガーゼ複合体に架橋し、RBM39のポリユビキチン化およびプロテアソーム分解をもたらす。同質遺伝子型の(図4B)K562および(図4C)NALM6 WTまたはSF3B1変異体におけるスルホンアミドE7820のIC50曲線。(図4D)1mMのスルホンアミドインジスラムまたはE7820に暴露した、(図4C)の細胞からのRBM39のレベルのウエスタンブロット。
図5A-D】スプライソソーム変異造血細胞がインジスラムに対して優先的に応答することを示す。(図5A)同質遺伝子型K562細胞(左)およびNALM-6細胞(右)のインジスラムに対するIC50プロット。これらは、内因性遺伝子座にスプライソソーム遺伝子変異が導入された細胞である。(図5B)インジスラムの漸増投与での(図5A)のK562細胞におけるRBM39のウエスタンブロット。(図5C)スプライシング因子に自然発生する変異を伴うAML細胞株の、インジスラムに対する応答のLog10 IC50ウォーターフォールプロット。赤色棒は、スプライシング因子に自然発生する変異を伴う細胞を表す。(図5D)親細胞、SF3B1K700E/WTおよびSRSF2P95H/WT K 562細胞にわたる差次的スプライシング事象の数の棒グラフ。各棒の上の数字は、差次的にスプライシングされた事象の数を示す。
【発明を実施するための形態】
【0045】
本発明は、そのいくつかの実施形態において、スプライソソーム機構変異を保有する高リスク対象における白血病の予防、より具体的には、限定されないが、スプライソソーム活性を阻害することができる薬剤の使用による白血病の予防に関する。
【0046】
本発明の原理および作用は、図面および添付の説明を参照してよりよく理解され得る。
【0047】
本発明の少なくとも1つの実施形態を詳細に説明する前に、本発明は、その適用において、以下の説明に記載されるかまたは実施例によって例示される詳細に必ずしも限定されないことを理解されたい。本発明は、他の実施形態が可能であり、または様々な方法で実施または実行することができる。また、本明細書で使用される表現および用語は、説明のためのものであり、限定するものと見なされるべきではないことを理解されたい。
【0048】
最近の研究により、前白血病変異(pLM)を保有する前白血病造血幹細胞および前駆細胞(preLHSPC)がAMLおよびMDSの起源細胞であることが発見され、AMLおよびMDSの病因の見解が変わった。preLHSPCは、診断の数年前に白血病関連変異を獲得し、明白な疾患への形質転換の数年前までほぼ正常な機能を維持する。pLMは、AMLおよびMDSの発症が予定される個体の間で発見され得るが、健康な個体の20~30%にも存在し、その大部分は生涯、AML/MDSを発症しない。AML/MDSのリスクがある、加齢関連クローン性造血(ARCH)を有する個体の特定は、MDSおよびAMLの有病率および治療に重要な意味を有し得る大きな課題である。
【0049】
本発明を実施に移している間に、本発明者らは、臨床パラメータに基づいて前白血病を発症することが予定されている、ARCHを有する患者を治療するための手段を発見し、したがって、これらの患者における前白血病の発症を予防するための手段を発見した。
【0050】
具体的には、本発明者らは、スプライソソーム機構変異(SMM)の存在が前白血病を高度に予測し、ARCHを有する高リスク個体を、疾患を発症する前の時点で特定および治療するために使用できることを確認した。さらに、本発明者らは、スプライソソーム阻害剤(例えば、E7101、H3B-8800)、タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ活性を抑制する化合物(例えば、GSK591、GSK3326595)および/またはプロテアソーム分解化合物(例えば、スルホンアミド系薬物)を含むスプライシング阻害剤を使用して、高リスクの健康な個体においてSMMを保有する(例えば、それらの末梢血にSRSF2またはU2AF1ホットスポット変異を保有する)前白血病細胞を標的化し、それによってSMMを保有する細胞のクローンサイズを減少させ、それらのさらなる増殖を予防し、疾患発症を予防または遅延させることができることを示した。
【0051】
したがって、本発明の1つの態様によれば、スプライシング因子の1つ以上の変異について陽性である高リスク対象における造血障害または悪性腫瘍を予防する方法が提供され、方法は、スプライソソーム活性を阻害することができる薬剤を対象に投与することを含み、薬剤はRBM39活性を阻害しない。
【0052】
本発明の1つの態様によれば、スプライシング因子の1つ以上の変異について陽性である高リスク対象における造血障害または悪性腫瘍の予防に使用するための、RBM39活性を阻害せずにスプライソソーム活性を阻害することができる薬剤が提供される。
特定の実施形態によれば、薬剤は、RBM39活性を直接阻害しない。
【0053】
本明細書で使用される「直接阻害する」という語句は、RBM39と相互作用し、その生物学的活性を阻害する薬剤を指す。
【0054】
1つの実施形態によれば、薬剤は、RBM39分解を直接促進しない。
【0055】
本明細書で使用される「スプライソソーム」という用語は、多くの真核生物の遺伝子転写を中断する、イントロン配列の除去を担う高分子複合体を指す。スプライソソームは、U1、U2、U3、U4、U5およびU6として知られる5つの核内低分子リボ核タンパク質(snRNP)と、100を超えるさらなるタンパク質とから構成される。
【0056】
本明細書で使用される場合、「スプライシング因子」という用語は、スプライソソーム上のpre-mRNAのスプライシングに関与するタンパク質のいずれかを指す。例示的なスプライシング因子としては、これらに限定されないが、U2AF1(U2AF35としても知られるU2核内低分子RNA補助因子1、例えばアクセション番号NM_001025203.1(配列番号1)、NM_001025204.1(配列番号2)またはNM_006758.2(配列番号3)(mRNA)、またはNP_006749.1(配列番号4)、NP_001020375.1(配列番号5)またはNP_001020374.1(配列番号6)(タンパク質)を有する)、スプライソソームのU2 snRNP複合体の成分;SF3B1(SF3B155またはSAP155としても知られるスプライシング因子3bサブユニット1、例えばアクセション番号NM_001005526.2(SEQ ID NO:7),NM_001308824.1(SEQ ID NO:8)またはNM_012433.3(配列番号9)(mRNA)、またはNP_001295753.1(配列番号10)、NP_001005526.1(配列番号11)またはNP_036565.2(配列番号12)(タンパク質)を有する);SRSF2(SC35またはSFRS2としても知られるセリンおよびアルギニンリッチスプライシング因子2、例えばアクセション番号NM_001195427.1(配列番号13)、NM_003016.4(配列番号14)またはXM_017024942.2(配列番号15)(mRNA)、またはNP_003007.2(配列番号16)、NP_001182356.1(配列番号17)またはXP_016880431.1(配列番号18)(タンパク質)を有する);およびZRSR2(URPとしても知られるU2核内低分子リボ核タンパク質補助因子35kDaサブユニット関連タンパク質2、例えば、アクセション番号NM_005089.3(配列番号19)、XM_005274597.3(配列番号20)、XM_011545589.3(配列番号21)、XM_017029881.2(配列番号22)またはXM_017029882.2(配列番号23)(mRNA)、またはXP_024308223.1(配列番号24)、XP_016885371.1(配列番号25)、XP_016885372.1(配列番号26)、NP_005080.1(配列番号27)、またはXP_005274654.2(配列番号28)(タンパク質)を有する)が挙げられる。
【0057】
いくつかの実施形態では、スプライソソーム機構変異(SMM)と呼ばれるスプライシング因子の1つ以上の変異を、造血障害または悪性腫瘍の検出および予防に使用することができる。そのような変異は、典型的にスプライソソーム遺伝子産物(例えば、スプライソソームタンパク質)に影響を及ぼし、不完全な細胞スプライシング機構をもたらし、その結果、タンパク質コードRNAにメッセンジャーRNA前駆体(pre-mRNA)の不完全なRNAスプライシングをもたらす。
【0058】
1つの実施形態によれば、変異は体細胞変異である。
【0059】
1つの実施形態によれば、変異は点変異である。
【0060】
1つの実施形態によれば、点変異は、挿入、欠失または置換である。
【0061】
1つの実施形態によれば、変異は、単一ヌクレオチドの変異である(例えば、挿入、欠失または置換)。あるいは、変異は、少なくとも2、3、4、5、10またはそれ以上のヌクレオチドの変異であり得る。
【0062】
1つの実施形態によれば、変異は、ミスセンス変異をもたらす。
【0063】
特定の実施形態によれば、変異は、U2AF1ポリペプチドにおける残基S34またはQ157の変異である。したがって、例えば、変異は、U2AF1遺伝子から翻訳されたタンパク質のアミノ酸34におけるSからFまたはYへの置換(例えば、配列番号4および6に示すもの)であり得る。別の例によれば、変異は、U2AF1遺伝子から翻訳されたタンパク質のアミノ酸157におけるQからPまたはRへの置換であり得る(例えば、配列番号4および6に示すもの)。
【0064】
特定の実施形態によれば、変異は、SF3B1ポリペプチドにおける残基R625、N626、K700、G740、K741、Q903、E622、R625、Q659、H662、K666またはG742の変異である。したがって、例えば、変異は、SF3B1遺伝子から翻訳されたタンパク質の、アミノ酸625におけるRからLへの置換(例えば、配列番号12に示されるもの);アミノ酸626におけるNからHへの置換(例えば、配列番号12に示されるもの);アミノ酸662におけるHからQまたはDへの置換(例えば、配列番号12に示されるもの);アミノ酸700におけるKからEへの置換(例えば、配列番号12に示されるもの);アミノ酸740におけるGからEへの置換(例えば、配列番号12に示されるもの);アミノ酸741におけるKからNへの置換(例えば、配列番号12に示されるもの);アミノ酸903におけるQからRへの置換(例えば、配列番号12に示されるもの);アミノ酸622におけるEからDへの置換(例えば、配列番号12に示されるもの);アミノ酸625におけるRからGへの置換(例えば、配列番号12に示されるもの);アミノ酸659におけるQからRへの置換(例えば、配列番号12に示されるもの);アミノ酸666におけるKからN、T、E、RまたはQへの置換(例えば、配列番号12に示されるもの);アミノ酸742におけるGからDへの置換(例えば、配列番号12に示されるもの)であり得る。
【0065】
特定の実施形態によれば、変異は、SRSF2ポリペプチドにおける残基P95の変異である。したがって、例えば、変異は、SRSF2遺伝子から翻訳されたタンパク質のアミノ酸95におけるPからH、LまたはRへの置換(例えば、配列番号16~18に示されるもの)であり得る。
いくつかの実施形態では、対象は、健康な対象よりも高いDCAF15のレベルを示す。
【0066】
本明細書で使用される「健康な対象」という用語は、スプライシング因子に変異を有さず、造血障害または悪性と診断されておらず、造血障害または悪性の症状に罹患しておらず、造血障害または悪性腫瘍を発症するリスクが高くない対象を指す(以下に考察される)。
【0067】
本明細書で使用される場合、「DCAF15」という用語は、アクセッション番号NP_612362.2(配列番号30)(タンパク質)またはNM_138353.3(配列番号29)(mRNA)を有する、ホモサピエンス由来のDDB1 And CUL4 Associated Factor 15を指す。
【0068】
特定の実施形態では、スプライシング因子(例えば、U2AF1、SF3B1、SRSF2、およびZRSR2)の変異を示す対象は、健康な対象と比較して、DCAF15のレベルが上昇している。
当技術分野で公知の任意の方法を使用して、変異を検出することができる。例えば、実施され得る染色体およびDNA染色方法には、これらに限定されないが、
例えばQuijada-Alamo M.et al.J Hematol Oncol.2017;10:83で教示される、間期染色体の蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)分析;
遺伝子欠失の検出(Tharapel SA and Kadandale JS,2002.Am.J.Med.Genet.107:123-126)、胎児の性別の判定(Orsetti,B.,et al.、1998.Prenat.Diagn.18:1014-1022)、および染色体異数性の同定(Mennicke,K.et al.,2003.Fetal Diagn.Ther.18:114-121)に用いられるPRINS分析;
Lemke et al.(Am.J.Hum.Genet.71:1051-1059,2002)によって詳細に記載されている、YAC/BACおよび領域特異的顕微解剖DNAライブラリーを間期染色体用のDNAプローブとして使用する、間期染色体の高解像度マルチカラーバンディング(MCB);
特異的プローブの蛍光強度の変動を測定することによって染色体異常を検出する定量的FISH(Q-FISH)、が含まれる。Q-FISHは、以前に記載されたように(Pellestor FおよびPaulasova P、2004;Chromosoma 112:375-380)、ペプチド核酸(PNA)オリゴヌクレオチドプローブを使用して実施することができる。あるいは、Truong K et al,2003,Prenat.Diagn.23:146-51に記載されているように、間期核で全染色体ペインティングプローブ(例えば、染色体21および22用)を共ハイブリダイズさせることによって、Q-FISHを実施することができる。
【0069】
追加的または代替的に、スプライシング因子遺伝子における配列変化、例えば一塩基多型(SNP)を決定するために、限定するものではないが、以下を含む様々な方法を使用することができる。
【0070】
制限断片長多型(RFLP)-この方法は、RFLPの生成または破壊をもたらす制限酵素の認識部位を修飾する、単一ヌクレオチド(SNPヌクレオチド)の変化を使用する。DNAヘテロ二重鎖の単一ヌクレオチドのミスマッチも認識され、いくつかの化学物質によって切断され、一般に「ミスマッチ化学的切断」(MCC)(Gogos et al.、Nucl.Acids Res.、18:6807-6817、1990)と呼ばれる、単一塩基置換を検出するための代替戦略を提供する。しかしながら、この方法は、臨床検査室での使用に適さない非常に有害な2つの化学物質、すなわち四酸化オスミウムおよびピペリジンの使用を必要とする。
【0071】
配列決定分析-単離されたDNAは、ダイターミネーター(非標識プライマーおよび標識ジデオキシヌクレオチド)またはダイプライマー(標識プライマーおよび非標識ジデオキシヌクレオチド)サイクル配列決定プロトコルを使用して、自動化ジデオキシターミネーター配列決定反応に供される。ダイターミネーター反応では、非標識PCRプライマーを使用してPCR反応を実施し、続いてプライマー、デオキシヌクレオチドおよび標識ジデオキシヌクレオチドミックスのうちの1つの存在下で配列決定反応を実施する。ダイプライマー反応では、ユニバーサルプライマーまたはリバースプライマー(各方向に1つ)にコンジュゲートしたPCRプライマーを使用してPCR反応を実施し、続いてユニバーサル配列またはリバース配列に特異的な標識プライマーおよび対応する非標識ジデオキシヌクレオチドをそれぞれ含む4つの個別のミックス(A、G、C、Tヌクレオチドに対応する)の存在下で配列決定反応を実施する。
【0072】
マイクロシーケンシング分析-この分析は、上記のような増幅反応(PCR)によって得ることができるスプライシング因子遺伝子の特定の領域に対してマイクロシーケンシング反応を行うことによって達成され得る。マイクロシーケンシングプロトコルは、例えば、Nyren et al.(1993)Anal Biochem 208(1):171~175およびPastinen et al.(1997)Genome Research 7:606~614に記載されている。
【0073】
ポリメラーゼおよびリガーゼに基づくミスマッチ検出アッセイ-「オリゴヌクレオチド連結アッセイ」(OLA)は、標的分子の一本鎖の隣接配列にハイブリダイズできるように設計された2つのオリゴヌクレオチドを使用する。オリゴヌクレオチドの一方はビオチン化されており、他方は検出可能に標識されている。OLAは、Nickerson et al.(1990)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.87:8923-8927に記載のとおり、一塩基多型を検出することができ、PCRと有利に組み合わせてもよい。
【0074】
Ligase/Polymerase-mediated Genetic Bit Analysis(商標)-核酸分子の予め選択された部位におけるヌクレオチドの同一性を決定するための別の方法(国際公開第95/21271号に記載)。
【0075】
ハイブリダイゼーションアッセイ方法-一塩基変化の検出を可能にするハイブリダイゼーションに基づくアッセイは、10、15、20、または30~100ヌクレオチド長であり得るオリゴヌクレオチドの使用に依存する。米国特許第5,451,503号は、鋳型DNAまたはRNA中のSNPを検出するために利用され得るオリゴヌクレオチド配置のいくつかの例を提供している。
【0076】
オリゴヌクレオチドアレイへのハイブリダイゼーション-例えば、BRCA1遺伝子での、出芽酵母変異株での、およびHIV-1ウイルスのプロテアーゼ遺伝子での変異のスクリーニングのために記載されるチップ/アレイ技術[Hacia et al.,(1996)、Nat Genet、1996;14(4):441-447;Shoemaker et al.,(1996)Nat Genet 1996;14(4):450-456;Kozal et al.,(1996)Nat Med 1996;2(7):753-759を参照のこと]。
【0077】
集積システム-配列変化を分析するために使用され得る別の技術は、単一の機能装置内でPCRおよびキャピラリー電気泳動反応などのプロセスを小型化および区画化する、多成分集積システムを含む。そのような技術の例は、PCR増幅およびキャピラリー電気泳動のチップへの集積について記載する、米国特許第5,589,136号に開示されている。
【0078】
対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチド(ASO)-この方法では、対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチド(ASO)は、プライマー伸長またはライゲーション事象がマッチまたはミスマッチの指標として使用され得るように、多型ヌクレオチドに近接してハイブリダイズするように設計される。放射性標識された対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチド(ASO)とのハイブリダイゼーションもまた、特異的SNPの検出に適用されている(Conner et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.,80:278-282,1983)。
【0079】
使用され得るさらなる配列決定方法としては、例えば、Pyrosequencing(商標)分析(Pyrosequencing,Inc.Westborough、MA、米国)、Acycloprime(商標)分析(Perkin Elmer、Boston、Massachusetts、米国)、米国特許出願第20150025017号(参照により本明細書に組み込まれる)に記載されている配列決定方法、RNA配列決定(RNA-seq)、マイクロアレイ分析、遺伝子発現の連続分析(SAGE)、MassARRAY(登録商標)技法、またはそれらの任意の組み合わせが挙げられる。
【0080】
追加的または代替的に、変異の検出は、例えば、ペプチドのアミノ酸配列分析、例えば、気相シークエンサー、酵素免疫測定法(EIA)/酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)などの免疫特異性反応を利用するエドマン法を用いて、または質量分析法、例えば、Q-TOF/MS法によってポリペプチドレベルで行われ得る。
【0081】
本明細書で使用される場合、「予防する」という用語は、疾患または障害のリスクがあり得るが、疾患または障害、例えば造血障害または悪性腫瘍(例えば、白血病またはMDS)を有するとまだ診断されていない対象において、疾患、障害または状態の発生を防ぐことを指す。
【0082】
本明細書で使用される場合、「対象」または「それを必要とする対象」という用語は、病理、例えば造血障害または悪性腫瘍(例えば、白血病またはMDS)を発症するリスクがある、あらゆる年齢または性別の哺乳動物、好ましくはヒトを含む動物を指す。
【0083】
1つの実施形態によれば、対象は、定期的な健康診断を受けている。
【0084】
1つの実施形態によれば、対象は、70歳未満、65歳未満、60歳未満、55歳未満、50歳未満、45歳未満、40歳未満、35歳未満、30歳未満、25歳未満または20歳未満である。
【0085】
1つの実施形態によれば、対象は、造血障害または悪性腫瘍を発症するリスクがあり(例えば、造血障害または悪性腫瘍を発症する遺伝的または他の素因を有するヒト)、造血障害または悪性腫瘍(例えば、白血病またはMDS)と診断されていない。
【0086】
特定の実施形態によれば、対象は、スプライシング因子に少なくとも1つの変異を有するが、造血器悪性腫瘍の症状、例えば、(末梢血変異体対立遺伝子頻度(PB-VAF)によって測定される)大型細胞クローン(larger cell clones)、2つ以上のARCH定義事象、赤血球分布幅(RDW)の増大、単球細胞数の減少、血小板細胞数の減少、赤血球数の減少、白血球数の減少、ヘモグロビンレベルの低下、コレステロールレベルの低下、長期の発熱、リンパ節および/または脾臓の腫大のいずれかの組み合わせに罹患していない。
【0087】
本明細書で使用される場合、「高リスク対象」は、本明細書に記載されるような造血障害または悪性腫瘍の発症と相関する測定可能なパラメータである、1つ以上のいわゆるリスク因子に起因して造血障害または悪性腫瘍(例えば、白血病またはMDS)を発症する可能性が高い対象である。これらのリスク因子の1つ以上を有する対象は、これらのリスク因子を有しない個体と比較して、造血障害または悪性腫瘍を発症する確率が高い。
【0088】
1つの実施形態によれば、対象は、疾患または障害、例えば造血障害または悪性腫瘍(例えば白血病またはMDS)を有すると診断されていない。
【0089】
1つの実施形態によれば、対象は、(上記で論じられたような)スプライシング因子における1つ以上の変異について陽性である。
【0090】
本明細書で使用される場合、「陽性」という用語は、当技術分野で公知の任意の方法(本明細書上記に詳細に記述)によって判定される、スプライシング因子に少なくとも1つの変異を示す対象のゲノムを指す。
【0091】
さらなるリスク因子には、例えば、年齢、性別、人種、食事、体重、過去の病歴、前駆疾患(例えば、前白血病)の存在、遺伝的(例えば、世襲的)考慮事項、および環境曝露(例えば、放射線または化学的曝露)が含まれ得る。いくつかの実施形態では、造血障害または悪性腫瘍(例えば、白血病またはMDS)を発症するリスクが高い対象には、例えば、その血縁者がこの疾患を経験しており、そのリスクが遺伝的マーカーまたは生化学的マーカーの分析によって決定される対象が含まれる。そのような対象は、以下で詳細に説明するように、特定の遺伝的異常の存在によって識別され得る。
【0092】
いくつかの実施形態では、造血障害または悪性腫瘍(例えば、白血病またはMDS)を発症するリスクが高くない対象、例えば健康な対象と比較して、これらに限定されないが、(末梢血変異体対立遺伝子頻度(PB-VAF)によって測定される)大型細胞クローン(larger cell clones)、2つ以上のARCH定義事象、赤血球分布幅(RDW)の増大、単球細胞数の減少、血小板細胞数の減少、赤血球数の減少、白血球数の減少、ヘモグロビンレベルの低下、コレステロールレベルの低下、長期の発熱、リンパ節および/または脾臓の腫大、またはそれらの任意の組み合わせのいずれかを対象が示す場合、造血障害または悪性腫瘍(例えば、白血病またはMDS)を発症するリスクが高い対象である。
【0093】
リスク因子の決定は、アンケートの使用、身体検査および標準的な血液検査(例えばCBC)の使用などによって、当業者によって行われ得る。
【0094】
1つの実施形態によれば、高リスク対象は、単一のSMM変異を有する。
【0095】
1つの実施形態によれば、高リスク対象は、2、3、4、5つまたはそれ異常の(上記で論じられたような)SMM変異を有する。
【0096】
1つの実施形態によれば、対象は、リスク因子(上記のリスク因子、例えば年齢、性別、人種、細胞数、ヘモグロビンレベルなどのいずれかを伴うSMM変異)の組合せを有する。
【0097】
したがって、本明細書に詳述される予防方法は、場合によっては、1つ以上のSMM変異、例えばU2AF1およびSRSF2変異、またはそれらの任意の組み合わせの存在または非存在を検出することによる高リスクの対象の選択を利用できることが理解される。さらに、本発明の方法は、場合により、上記のリスク因子(例えば、年齢、性別、人種、細胞数、ヘモグロビンレベル、またはそれらの任意の組み合わせ)のいずれかを評価することによる高リスクの対象の選択を利用することができる。
【0098】
1つの実施形態によれば、変異および/または他のリスク因子は、造血幹細胞および造血前駆細胞において検出される。
【0099】
1つの実施形態によれば、変異および/または他のリスク因子は、前白血病性の造血幹細胞および造血前駆細胞において検出される。
【0100】
1つの実施形態によれば、変異および/または他のリスク危険因子は、対象の生物学的サンプルにおいて検出される。
【0101】
本明細書で使用される場合、「生物学的サンプル」は、これらに限定されないが、全血、血漿、血清、血球、髄液、リンパ液、皮膚の外部切片、呼吸器、腸および泌尿生殖路、涙液、唾液、痰、乳汁、腫瘍、嚢胞、神経組織、器官を含む、対象から単離された組織または体液のサンプル、およびインビボ細胞培養成分のサンプルを指す。
【0102】
特定の実施形態によれば、生物学的サンプルは、前白血病性造血幹細胞および前駆細胞を含む。
【0103】
変異の存在を判定するために、組織または体液を収集する数多くの周知の方法を利用して、生物学的サンプルを対象から収集することができる。収集方法には、これらに限定されないが、細針生検、針生検、コア針生検および外科生検(例えば、脳生検)、頬側スミアおよび洗浄が含まれる。使用される手順にかかわらず、一度生検/サンプルを得れば、変異体のレベルを測定することができ、したがって選択を行うことができる。
【0104】
スプライシング因子の変異を伴う多くの疾患および状態は、本教示を使用して予防することができる。スプライシング因子の変異を伴う最も一般的な状態は、造血障害または悪性腫瘍である。
【0105】
「造血障害」という用語は、これらに限定されないが、造血器悪性腫瘍、異常ヘモグロビン症、および免疫不全を含むあらゆる血液障害を指す。
【0106】
本明細書で使用される「造血器悪性腫瘍」(血液悪性腫瘍とも呼ばれる)という用語は、血球の無制御な異常増殖を特徴とする、あらゆる血球癌を指す。用語「造血器悪性腫瘍」には、白血病、骨髄異形成症候群(MDS)、リンパ腫および形質細胞障害が含まれるが、これらに限定されない。
【0107】
「白血病」という用語は、身体の組織中の白血球の数の異常な増加を特徴とし、対応して循環血液中の白血球が増加する、またはしない、血液形成組織の疾患を指す。本発明の白血病には、リンパ性(リンパ芽球性)白血病および骨髄性(骨髄性または非リンパ性)白血病が含まれる。白血病の例示的なタイプには、慢性リンパ性白血病(CLL)、慢性骨髄球性白血病(CML)[慢性骨髄性白血病(CML)としても知られる]、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、および急性骨髄球性白血病(AML)[急性骨髄性白血病(AML)、急性非リンパ性白血病(ANLL)および急性骨髄芽球性白血病(AML)としても知られる]が含まれるが、これらに限定されない。
【0108】
「急性白血病」という用語は、悪性細胞へと変化する未成熟血液細胞の数が急速に増加し、悪性細胞が急速に発達および蓄積し、それが血流に流れ出て身体の他の器官に広がることを特徴とする疾患を意味する。
【0109】
「慢性白血病」という用語は、比較的成熟しているが異常である白血球の過剰な増進を特徴とする疾患を意味する。
【0110】
1つの実施形態によれば、白血病は、急性骨髄性白血病(AML)である。
【0111】
「骨髄異形成症候群」または「MDS」という用語は、骨髄が前白血病プロセスを示唆する定性的および定量的変化を示すが、必ずしも急性白血病として終結しない慢性経過を有する状態を指す。
【0112】
「リンパ腫」という用語は、Bリンパ球に由来するリンパ芽球の悪性腫瘍を指す。例示的なタイプのリンパ腫には、ホジキンリンパ腫(HL)、非ホジキンリンパ腫(NHL)、成熟B細胞リンパ腫、成熟T細胞リンパ腫およびナチュラルキラー細胞リンパ腫、ならびに免疫不全関連リンパ増殖性障害が含まれるが、これらに限定されない。
【0113】
「形質細胞障害」という用語は、形質細胞増殖による形質細胞増加症を指す。例示的なタイプの形質細胞障害には、多発性骨髄腫(MM)および形質細胞白血病(PCL)が含まれるが、これらに限定されない。
【0114】
本明細書で使用される「異常ヘモグロビン症」という用語は、ヘモグロビンとして知られる血液の酸素運搬成分に関する障害を指す。異常ヘモグロビン症の例示的なタイプとしては、限定されないが、鎌状赤血球貧血、ファンコーニ貧血およびサラセミアが挙げられる。
【0115】
本明細書で使用される「免疫不全」という用語は、正常な免疫応答の開始が不可能であることを指す。「免疫不全症」という用語は、遺伝性(遺伝子的)および後天性免疫不全症の両方を包含する。免疫不全症の例示的なタイプには、重症複合免疫不全症(SCID)、X連鎖無ガンマグロブリン血症(XLA)、分類不能型免疫不全症(CVID)、免疫複合体病(例えば、ウイルス性肝炎)およびAIDSが含まれるが、これらに限定されない。
【0116】
本明細書中上記で述べられたように、本発明の方法は、RBM39活性を阻害することなく、スプライソソーム活性を阻害することができる治療有効量の薬剤を、それを必要とする対象に投与することによって実行される。そのような薬剤がスプライソソーム機構変異(例えば、前白血病細胞)を既に含む細胞にとって致死的であるのは、これらの細胞が、残りの野生型対立遺伝子の発現に依存するからである。
【0117】
「スプライソソーム活性を阻害する」という用語は、薬剤と接触していない細胞と比較して、細胞のスプライシング活性を少なくとも約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、99%または100%低下させることを指す。
【0118】
スプライソソームタンパク質(例えば、スプライシング因子)の発現、集合または活性をダウンレギュレーションすることによって、スプライシング活性を低下させることができる。したがって、スプライソソームタンパク質(例えば、スプライシング因子)のダウンレギュレーションは、ゲノムレベル(例えば、相同組換えおよび部位特異的エンドヌクレアーゼによって)、ならびに/または転写および/もしくは翻訳を妨害する種々の分子(例えば、RNAサイレンシング剤)を使用した転写レベル、ならびに/またはタンパク質レベル(例えば、アプタマー、小分子および阻害性ペプチド、アンタゴニスト、ポリペプチドを切断する酵素、抗体など)で行うことができる。
【0119】
同じ培養条件では、発現は、一般に、薬剤と接触していないかまたは対照とも呼ばれるビヒクル対照と接触した、同じ種の細胞における発現と比較して表現される。
【0120】
発現のダウンレギュレーションは、一過性または永続的のいずれかであり得る。
【0121】
特定の実施形態によれば、発現のダウンレギュレーションとは、それぞれRT-PCRまたはウエスタンブロットによって検出されるmRNAおよび/またはタンパク質の非存在を指す。
【0122】
他の特定の実施形態によれば、発現のダウンレギュレーションとは、RT-PCRまたはウェスタンブロットによってそれぞれ検出されるmRNAおよび/またはタンパク質のレベルの低下を指す。低下は、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%の低下であり得る。
【0123】
スプライソソームタンパク質(例えば、スプライシング因子)の発現のダウンレギュレーションによってスプライソソーム活性を阻害することができる薬剤の非限定的な例は、本明細書中下記で詳細に記載される。
【0124】
1つの実施形態によれば、薬剤は、スプライシング因子の活性または発現を直接ダウンレギュレーションする。「直接」という用語は、薬剤が、補因子、スプライシング因子の上流活性化因子または下流エフェクターではなく、スプライシング因子核酸配列またはタンパク質に作用し、かつ/またはそれらと直接相互作用することを意味する。そのような薬剤は、典型的にはスプライシングを遮断する。
【0125】
1つの実施形態によれば、スプライソソーム活性の阻害がスプライシング阻害剤によって行われる。
【0126】
1つの実施形態によれば、スプライシング阻害剤は、スプライシング複合体形成が起こらないようにスプライソソーム集合を妨害する。
【0127】
1つの実施形態によれば、スプライシング阻害剤は、スプライソソームタンパク質のアセチル化状態を妨害する。
【0128】
1つの実施形態によれば、スプライシング阻害剤は、スプライソソーム活性に関連するキナーゼおよびホスファターゼを標的とする。
【0129】
1つの実施形態によれば、薬剤は、これらに限定されないが、U2AF1、SF3B1、SRSF2、およびZRSR2を含むスプライシング因子を阻害する。
【0130】
例示的なスプライシング阻害剤には、スデマイシン(Sudemycin)、スプライソスタチン、FR901464、プラジエノリド、ハーボキシジエン、メアヤマイシン(Meayamycin)、イソギンクゲチン、マドラシン(Madrasin)、テトロカルシン(Tetrocarcin)、N-パルミトイル-L-ロイシン、プソロム酸、クロトリマゾール、NSC635326、ナプタザリン(Napthazarin)、エリスロマイシン、SAHA、ガルシノール、オカダ酸、NB-506、ウビスタチン、G5、またはそれらの誘導体もしくは類似体が含まれるが、これらに限定されない。
【0131】
特定の実施形態によれば、スプライシング阻害剤には、E7107、H3B-8800、FD-895、GEX1Q1-5、RQN-18690、NSC 659999、BN82865、NSC95397、テトラサイクリン、ストレプトマイシン、スプライトマイシン、タウトマイシン、ミクロシスチン、ジオスピリン、クロルヘキシジンまたはそれらの誘導体もしくは類似体が含まれるが、これらに限定されない。
【0132】
本教示に従って使用することができるさらなるスプライシング阻害剤は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、Kerstin A.Effenberger、Veronica K.Urabe、およびMelissa S.Jurica、「Modulating splicing with small molecular inhibitors of the spliceosome」、Wiley Interdiscip Rev RNA.著者原稿;PMC 2018年3月1日、に開示されている。
【0133】
1つの実施形態によれば、薬剤は、スプライシング因子の活性または発現を間接的にダウンレギュレーションする。「間接的に」という用語は、薬剤が補因子、スプライシング因子の上流活性化因子または下流エフェクターに作用することを意味する。
【0134】
1つの実施形態によれば、スプライソソーム活性は、プロテアソーム分解を介してスプライシングを乱すことによって阻害される。
【0135】
特定の実施形態によれば、薬剤は、RBM39活性を阻害しない。
【0136】
1つの実施形態によれば、薬剤は、RBM39の生物学的活性を変化させない。
【0137】
1つの実施形態によれば、薬剤は、インビボポリユビキチン化アッセイによって決定されるようなRBM39のユビキチン化をもたらさない。
【0138】
1つの実施形態によれば、薬剤は、例えば、ウエスタンブロットアッセイ、内因性RBM39のC末端タグ付けアッセイ、RBM39のオーキシン誘導分解アッセイおよび/またはRBM39複合体の免疫沈降によって判定されるように、RBM39分解をもたらさない。
【0139】
1つの実施形態によれば、薬剤は、RBM39のユビキチン化および分解をもたらさない。
【0140】
「RBM39」という用語は、RNA結合モチーフタンパク質39を指す。いくつかの実施形態では、RBM39は、ホモサピエンスに由来し、アクセション番号NM_004902(配列番号31)(mRNA)またはNP_004893(配列番号32)(タンパク質)を有する。
【0141】
1つの実施形態によれば、薬剤は、アリールスルホンアミドではない。
【0142】
特定の実施形態によれば、薬剤は、インジスラムではない。
【0143】
特定の実施形態によれば、薬剤は、タシスラムではない。
【0144】
特定の実施形態によれば、薬剤は、クロロキノキサリンスルホンアミド(CQS)ではない。
【0145】
1つの実施形態によれば、薬剤は、これらに限定されないが、SF3b複合体(例えば、SF3B1、SF3B2、SF3B3、およびPHF5a)、U2AF複合体(例えば、U2AF1、U2AF2)、PRMT酵素(例えば、PRMT5、PRMT1、PRMT2、PRMT3、PRMT4、PRMT6、およびPRMT8)またはRNA結合タンパク質(RBP、例えばSUPT6H、hnRNPHおよびSRSF10)のコアメンバーを含む、スプライソソームタンパク質の分解を促進する。
【0146】
特定の実施形態によれば、薬剤は、SF3b複合体(例えば、SF3B1、SF3B2、SF3B3、およびPHF5a)、U2AF複合体(例えば、U2AF1、U2AF2)、PRMT酵素(例えば、PRMT5、PRMT1、2、3、4、6、および8)またはRNA結合タンパク質(RBP、例えばSUPT6H、hnRNPH、およびSRSF10)のコアメンバーのプロテアソーム分解が可能であり、本教示に従って使用することができる。
【0147】
1つの実施形態によれば、スプライソソーム活性の阻害は、タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ(PRMT)の阻害によって達成される。
【0148】
本明細書中で使用される場合、「タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ」または「PRMT」とは、ヒストンおよび非ヒストンタンパク質の対称性または非対称性メチル化を触媒する能力によって広範囲の標的遺伝子の発現を調節するタンパク質のファミリーを指す。
【0149】
例示的なPRMTには、タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ1(PRMT1、例えばEC番号2.1.1.319に記載されている)、タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ2(PRMT2、例えば、EC番号2.1.1.319に記載されている)、タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ3(PRMT3、例えば、EC番号2.1.1.-に記載されている)、タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ4(PRMT4)、タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ5(PRMT5、例えば、EC番号2.1.1.320に記載されている)、タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ6(PRMT6、例えば、EC番号2.1.1.319に記載されている)、、タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ7(PRMT7、例えば、EC番号2.1.1.321に記載されている)、タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ8(PRMT8、例えば、EC番号2.1.1.-に記載されている)、およびタンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ9(PRMT9、4q31とも呼ばれる)が含まれるが、これらに限定されない。
【0150】
1つの実施形態によれば、薬剤は、タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼのメチルトランスフェラーゼ活性を阻害する。
【0151】
特定の実施形態によれば、薬剤は、I型PRMT阻害剤であるMS-023二塩酸塩、またはその誘導体もしくは類似体である。
【0152】
特定の実施形態によれば、PRMTがPRMT5を含む場合、薬剤は、GSK591二塩酸塩またはGSK3326595、またはその誘導体もしくは類似体を含む。
【0153】
特定の実施形態によれば、PRMTがPRMT1を含む場合、薬剤は、C-21、フラミジン二塩酸塩またはTC-E5003、またはそれらの誘導体もしくは類似体を含む。
【0154】
特定の実施形態によれば、PRMTがPRMT3を含む場合、薬剤は、SGC707またはUNC2327、またはその誘導体もしくは類似体を含む。
【0155】
特定の実施形態によれば、PRMTがPRMT4を含む場合、薬剤は、MS049オキサレート塩またはTP064、またはその誘導体もしくは類似体を含む。
【0156】
特定の実施形態によれば、PRMTがPRMT6を含む場合、薬剤は、MS049オキサレート塩、またはその誘導体もしくは類似体を含む。
【0157】
本教示に従って使用することができるさらなるPRMT阻害剤は、H.Umit Kaniskan、Michael L.MartiniおよびJian Jin、「Inhibitors of Protein Methyltransferases and Demethylases」、Chem.Rev.(2018)118:989-1068;ならびにHao Hu,Kun Qian,Meng-Chiao Ho,およびY.George Zheng、「Small Molecule Inhibitors of Protein Arginine Methyltransferases」、Expert Opin Investig Drugs.(2016)25(3):335-358に開示され、両方ともその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0158】
上記の薬剤に加えて、スプライソソームタンパク質(例えば、スプライシング因子)をダウンレギュレーションできる薬剤は、スプライソソームタンパク質(例えば、スプライシング因子)に結合し、かつ/またはそれを切断する任意の分子であり得る。そのような分子は、小分子、アンタゴニスト、または阻害性ペプチドであり得る。
【0159】
スプライソソームタンパク質(例えば、スプライシング因子)の少なくとも触媒部分または結合部分の非機能的類似体も、スプライソソーム活性を阻害する薬剤として使用できることが理解されよう。
【0160】
代替的または追加的に、スプライソソームタンパク質(例えば、スプライシング因子)のタンパク質機能(例えば、触媒作用または相互作用)を妨害する小分子またはペプチドを使用することができる。
【0161】
スプライソソームタンパク質(例えば、スプライシング因子)をダウンレギュレーションするために本発明のいくつかの実施形態と共に使用することができる別の薬剤は、スプライソソームタンパク質(例えば、スプライシング因子)の活性化または基質結合を防止する分子である。
【0162】
ポリペプチドレベルでスプライソソーム活性を阻害することができるさらなる薬剤としては、抗体、抗体断片およびアプタマーが挙げられる。
【0163】
特定の実施形態によれば、スプライソソームタンパク質(例えば、スプライシング因子)をダウンレギュレーションすることができる薬剤は、スプライソソームタンパク質(例えば、スプライシング因子)に特異的に結合することができる抗体または抗体断片である。好ましくは、抗体は、スプライソソームタンパク質(例えば、スプライシング因子)の少なくとも1つのエピトープに特異的に結合する。本明細書で使用される場合、「エピトープ」という用語は、抗体のパラトープが結合する抗原上の任意の抗原決定基を指す。エピトープ決定基は、通常、アミノ酸または炭水化物側鎖などの分子の化学的に活性な表面群からなり、通常、特有の三次元構造特性および特有の電荷特性を有する。
【0164】
スプライソソームタンパク質(例えば、スプライシング因子)は細胞内に局在するので、スプライソソームタンパク質(例えば、スプライシング因子)に特異的に結合することができる抗体または抗体断片は、典型的には細胞内抗体である。
【0165】
ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体ならびにそれらの断片を生成する方法は、当技術分野で周知である(例えば、参照により本明細書に組み込まれるHarlowおよびLane,Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,New York,1988を参照されたい。)。
【0166】
スプライソソームタンパク質(例えば、スプライシング因子)をダウンレギュレーションするために、本発明のいくつかの実施形態と共に使用することができる別の薬剤は、アプタマーである。本明細書で使用される場合、「アプタマー」という用語は、タンパク質などの特定の分子標的に結合する二本鎖または一本鎖RNA分子を指す。タンパク質特異的アプタマーを設計するために使用することができる様々な方法が、当技術分野で公知である。当業者は、Stoltenburg R、Reinemann CおよびStrehlitz B(Biomolecular engineering(2007)24(4):381-403)に記載されているように、効率的な選択のためにSELEX(試験管内進化法)を使用することができる。
【0167】
核酸レベルでのダウンレギュレーションは、典型的には、核酸骨格、DNA、RNA、それらの模倣物またはそれらの組み合わせを有する核酸作用物質を使用して行われる。核酸作用物質は、DNA分子からコードされ得るか、またはそれ自体が細胞に提供され得る。
【0168】
したがって、スプライソソームタンパク質(例えば、スプライシング因子)のダウンレギュレーションは、RNAサイレンシングによって達成することができる。本明細書中で使用される場合、語句「RNAサイレンシング」とは、対応するタンパク質コード遺伝子の発現の阻害または「サイレンシング」をもたらすRNA分子によって媒介される調節機構[例えば、RNA干渉(RNAi)、転写遺伝子サイレンシング(TGS)、転写後遺伝子サイレンシング(PTGS)、抑制、共抑制および翻訳抑制]の群を指す。RNAサイレンシングは、植物、動物、および真菌を含む多くの種類の生物において観察されている。
【0169】
本明細書で使用される場合、「RNAサイレンシング剤」という用語は、標的遺伝子の発現を特異的に阻害または「サイレンシング」することができるRNAを指す。特定の実施形態では、RNAサイレンシング剤は、転写後サイレンシング機構を介してmRNA分子の完全なプロセシング(例えば、完全な翻訳および/または発現)を妨げることができる。RNAサイレンシング剤には、非コードRNA分子、例えば対の鎖を含むRNA二重鎖、およびそのような小さい非コードRNAを生成することができる前駆体RNAが含まれる。例示的なRNAサイレンシング剤には、siRNA、miRNAおよびshRNAなどのdsRNAが含まれる。
【0170】
一実施形態では、RNAサイレンシング剤は、RNA干渉を誘導することができる。
【0171】
別の実施形態では、RNAサイレンシング剤は、翻訳抑制をもたらすことができる。
【0172】
本発明の一実施形態によれば、PCR、ウエスタンブロット、免疫組織化学および/またはフローサイトメトリーによって判定されるように、RNAサイレンシング剤は、標的RNA(例えば、スプライシング因子)に特異的であり、標的遺伝子に対して99%以下の全体的相同性、例えば、標的遺伝子に対して98%未満、97%未満、96%未満、95%未満、94%未満、93%未満、92%未満、91%未満、90%未満、89%未満、88%未満、87%未満、86%未満、85%未満、84%未満、83%未満、82%未満、81%未満の全体的相同性を示す他の標的またはスプライス変異体を相互抑制またはサイレンシングしない。
【0173】
RNA干渉とは、低分子干渉RNA(siRNA)によってもたらされる、動物における配列特異的転写後遺伝子サイレンシングのプロセスを指す。
【0174】
以下は、本発明の特定の実施形態に従って使用することができるRNAサイレンシング剤に関する詳細な説明である。
【0175】
DsRNA、siRNAおよびshRNA-細胞中の長いdsRNAの存在は、ダイサーと呼ばれるリボヌクレアーゼIII酵素の活性を刺激する。ダイサーは、dsRNAの、低分子干渉RNA(siRNA)として知られるdsRNAの短い断片へのプロセシングに関与する。ダイサー活性から誘導された低分子干渉RNAは、典型的には約21~約23ヌクレオチド長であり、約19塩基対の二重鎖を含む。RNAi応答はまた、siRNA二重鎖のアンチセンス鎖に相補的な配列を有する一本鎖RNAの切断をもたらす、一般にRNA誘導サイレンシング複合体(RISC)と呼ばれるエンドヌクレアーゼ複合体を特徴とする。標的RNAの切断は、siRNA二重鎖のアンチセンス鎖に相補的な領域の中央で起こる。
【0176】
したがって、本発明のいくつかの実施形態は、dsRNAを使用してmRNAからのタンパク質発現をダウンレギュレーションすることを意図する。
【0177】
1つの実施形態によれば、30 bpよりも長いdsRNAが使用される。様々な研究により、長いdsRNAを使用して、ストレス応答を誘導することなく、または著しいオフターゲット効果を引き起こすことなく、遺伝子発現をサイレンシングできることが実証されている。例えば、[Strat et al.,Nucleic Acids Research,2006,Vol.34,No.13 3803-3810;Bhargava A et al.Brain Res.Protoc.2004;13:115-125;Diallo M.,et al.,Oligonucleotides.2003;13:381-392;Paddison P.J.,et al.,Proc.Natl Acad.Sci.USA.2002;99:1443-1448;Tran N.,et al.,FEBS Lett.2004;573:127-134]を参照のこと。
【0178】
本発明のいくつかの実施形態によれば、インターフェロン経路が活性化されていない細胞にdsRNAが提供される。例えば、Billy et al.,PNAS 2001,Vol 98、14428-14433頁、およびDiallo et al,Oligonucleotides、2003年10月1日、13(5):381-392.doi:10.1089/154545703322617069を参照のこと。
【0179】
本発明の一実施形態によれば、長いdsRNAは、遺伝子発現をダウンレギュレーションするために、インターフェロン経路およびPKR経路を誘導しないように特異的に設計される。例えば、品川および石井 [Genes&Dev.17(11):1340-1345,2003]は、RNAポリメラーゼII(Pol II)プロモーターから長い二本鎖RNAを発現するための、pDECAPと呼ばれるベクターを開発した。pDECAPからの転写物は、細胞質へのds-RNAの輸送を促進する5’-キャップ構造および3’-ポリ(A)テールの両方を欠くので、pDECAPからの長いds-RNAはインターフェロン応答を誘導しない。
【0180】
哺乳動物系におけるインターフェロン経路およびPKR経路を回避する別の方法は、トランスフェクションまたは内因性発現のいずれかによる低分子阻害RNA(siRNA)の導入によるものである。
【0181】
「siRNA」という用語は、RNA干渉(RNAi)経路を誘導する低分子阻害RNA二重鎖(一般に18~30塩基対)を指す。典型的には、siRNAは、中央の19 bp二重鎖領域および末端に対称的な2塩基3’オーバーハングを有する21量体として化学合成されるが、最近では、25~30塩基長の化学合成されたRNA二重鎖は、同じ位置の21量体と比較して効力が100倍増加し得ることが記載されている。RNAiの誘発において、より長いRNAを使用して効力の増加が得られたことは、産物(21量体)の代わりに基質(27量体)をダイサーに提供したことに起因し、これによってsiRNA二重鎖のRISCへの進入の速度または効率が向上することが示唆される。
【0182】
3’-オーバーハングの位置はsiRNAの効力に影響を及ぼし、アンチセンス鎖上に3’-オーバーハングを有する非対称二重鎖は、センス鎖上に3’-オーバーハングを有するものよりも一般に強力であることが見出されている(Rose et al.、2005)。これは、アンチセンス転写物を標的化する場合に逆の有効性パターンが観察されることから、RISCへの非対称鎖ロードに起因する可能性がある。
【0183】
二本鎖干渉RNA(例えば、siRNA)の鎖は、ヘアピンまたはステムループ構造(例えば、shRNA)を形成するように連結され得る。したがって、述べられたように、本発明のいくつかの実施形態のRNAサイレンシング剤はまた、短いヘアピンRNA(shRNA)であり得る。
【0184】
本明細書で使用される「shRNA」という用語は、ステム-ループ構造を有し、相補性配列の第1および第2の領域を含み、領域の相補性および配向の程度が領域間で塩基対形成が起こるのに十分であり、第1および第2の領域がループ領域によって連結され、ループがループ領域内のヌクレオチド(またはヌクレオチド類似体)間の塩基対形成の欠如から生じる、RNA作用物質を指す。ループ内のヌクレオチドの数は、3~23、または5~15、または7~13、または4~9、または9~11を含む範囲の数である。ループ内のヌクレオチドの一部は、ループ内の他のヌクレオチドとの塩基対相互作用に関与し得る。ループを形成するために使用することができるオリゴヌクレオチド配列の例としては、5’-CAAGAGA-3’および5’-UUACAA-3’(国際特許出願第WO2013126963号および同第WO2014107763号)が挙げられる。得られた一本鎖オリゴヌクレオチドがRNAi機構と相互作用することができる二本鎖領域を含むステム-ループまたはヘアピン構造を形成することは、当業者によって認識されるであろう。
【0185】
本発明のいくつかの実施形態での使用に適したRNAサイレンシング剤の合成は、以下のように達成され得る。最初に、スプライソソームタンパク質(例えば、スプライシング因子)mRNA配列を、AAジヌクレオチド配列のAUG開始コドンの下流でスキャンする。各AAおよび3’隣接19ヌクレオチドの発生は、潜在的なsiRNA標的部位として記録される。非翻訳領域(UTR)は調節タンパク質結合部位が豊富であるので、siRNA標的部位は、好ましくはオープンリーディングフレームから選択される。UTR結合タンパク質および/または翻訳開始複合体は、siRNAエンドヌクレアーゼ複合体の結合を妨害し得る[Tuschl ChemBiochem.2:239-245]。しかし、5’ UTRに向けられたsiRNAが細胞GAPDH mRNAの約90%の減少をもたらし、タンパク質レベルを完全に無効にしたGAPDHについて実証されているように、非翻訳領域に向けられたsiRNAも有効であり得ることが理解されよう(www(dot)ambion(dot)com/techlib/tn/91/912(dot)html)。
【0186】
第2に、潜在的な標的部位を、NCBIサーバーから入手可能なBLASTソフトウェア(www(dot)ncbi(dot)nlm(dot)nih(dot)gov/BLAST/)などの任意の配列アラインメントソフトウェアを使用して、適切なゲノムデータベース(例えば、ヒト、マウス、ラットなど)と比較する。他のコード配列と有意な相同性を示す推定標的部位を除外する。
【0187】
適格な標的配列をsiRNA合成の鋳型として選択する。低いG/C含有量を含む配列は、55%を超えるG/C含有量を有する配列と比較して、遺伝子サイレンシングの媒介においてより効果的であることが証明されているので、好ましい配列である。いくつかの標的部位を、評価のために標的遺伝子の長さに沿って選択することが好ましい。選択されたsiRNAのより良好な評価のために、陰性対照を併用することが好ましい。陰性対照siRNAは、好ましくはsiRNAと同じヌクレオチド組成を含むが、ゲノムに対する有意な相同性を欠く。したがって、他のいかなる遺伝子に対しても有意な相同性を何ら示さないならば、siRNAのスクランブルされたヌクレオチド配列を使用することが好ましい。
【0188】
例えば、スプライソソームタンパク質(例えば、スプライシング因子)に対する適切なsiRNAは、Santa Cruz Biotechnology,Inc.から購入することができる。
【0189】
本発明のいくつかの実施形態のRNAサイレンシング剤は、本明細書中上記で言及されるように、RNAのみを含有する分子に限定される必要はなく、化学的に修飾されたヌクレオチドおよび非ヌクレオチドをさらに包含することが理解されるであろう。
【0190】
miRNAおよびmiRNA模倣物-別の実施形態によれば、RNAサイレンシング剤はmiRNAであり得る。
【0191】
「マイクロRNA」、「miRNA」および「miR」という用語は同義であり、遺伝子発現を調節する約19~28ヌクレオチド長の非コード一本鎖RNA分子の集合体を指す。miRNAは、広範囲の生物(ウイルス→ヒト)において見出され、発達、恒常性および疾患病因において役割を果たすことが示されている。
【0192】
以下、miRNA活性の機構について簡単に説明する。
【0193】
miRNAをコードする遺伝子が転写され、pri-miRNAとして知られるmiRNA前駆体の生成をもたらす。pri-miRNAは、典型的には、複数のpri-miRNAを含むポリシストロニックRNAの一部である。pri-miRNAは、ステムおよびループを有するヘアピンを形成し得る。ステムは、ミスマッチ塩基を含み得る。
【0194】
pri-miRNAのヘアピン構造は、RNase IIIエンドヌクレアーゼであるドローシャ(Drosha)によって認識される。ドローシャ(Drosha)は、典型的には、pri-miRNAにおける末端ループを認識し、およそ二つのらせん状ターンをステムに切断して、pre-miRNAとして知られる60ヌクレオチド~70ヌクレオチド前駆体を生成する。ドローシャ(Drosha)は、RNase IIIエンドヌクレアーゼに典型的な互い違いの切断によってpri-miRNAを切断し、5’リン酸および約2ヌクレオチドの3’オーバーハングを有するpre-miRNAステムループをもたらす。ステムのおよそ1つのらせん状ターン(約10ヌクレオチド)がドローシャ(Drosha)切断部位を越えて延びることが、効率的なプロセシングに必須であると推定される。その後、pre-miRNAは、Ran-GTPおよび搬出受容体Ex-portin-5によって核から細胞質へ活発に輸送される。
【0195】
次いで、pre-miRNAの二本鎖ステムが、RNase IIIエンドヌクレアーゼでもあるダイサーによって認識される。ダイサーはまた、ステムループの塩基における5’リン酸および3’オーバーハングを認識し得る。次いで、ダイサーは、末端ループの2つのらせん状ターンをステムループの塩基から切断し、さらなる5’リン酸および約2ヌクレオチドの3’オーバーハングを残す。ミスマッチを含み得る、得られたsiRNA様二重鎖は、成熟miRNAと、miRNA*として知られる類似サイズの断片とを含む。miRNAおよびmiRNA*は、pri-miRNAおよびpre-miRNAの対向するアームから誘導される。miRNA*配列は、クローン化miRNAのライブラリーにおいて見出され得るが、典型的にはmiRNAよりも低い頻度で見出され得る。
【0196】
miRNAは、最初はmiRNA*との二本鎖種として存在するが、最終的には一本鎖RNAとして、RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)として公知のリボ核タンパク質複合体に組み込まれる。様々なタンパク質がRISCを形成することができ、これにより、miRNA/miRNA*二重鎖に対する特異性、標的遺伝子の結合部位、miRNAの活性(抑制または活性化)、およびmiRNA/miRNA*二重鎖のどの鎖がRISCにロードされるかを変化させることができる。
【0197】
miRNA:miRNA*二重鎖のmiRNA鎖がRISCにロードされると、miRNA*が除去され、分解される。RISCにロードされるmiRNA:miRNA*二重鎖の鎖は、その5’末端があまり緊密に対合していない鎖である。miRNA:miRNA*の両端がほぼ同等の5’対合を有する場合、miRNAおよびmiRNA*の両方が遺伝子サイレンシング活性を有し得る。
【0198】
RISCは、miRNAとmRNAとの間の高レベルの相補性に基づいて、特にmiRNAのヌクレオチド2~7によって標的核酸を特定する。
【0199】
いくつかの研究では、翻訳の効率的な阻害を達成するためのmiRNAとそのmRNA標的との間の塩基対合要件を調査した(Bartel 2004、Cell 116-281によって検討)。哺乳動物細胞では、miRNAの最初の8ヌクレオチドが重要であり得る(Doench&Sharp 2004 GenesDev 2004-504)。しかしながら、マイクロRNAの他の部分もmRNA結合に関与し得る。さらに、3’での十分な塩基対形成は、5’での不十分な対形成を補うことができる(Brennecke et al、2005 PLoS 3-e 85)。全ゲノムに対するmiRNA結合を分析する計算研究は、標的結合におけるmiRNAの5’における塩基2~7についての特異的な役割を示唆しているが、通常「A」であることが見出された最初のヌクレオチドの役割もまた認識された(Lewis et at 2005 Cell 120-15)。同様に、Krekら(2005、Nat Genet 37-495)は、ヌクレオチド1~7または2~8を使用して標的を同定および検証した。
【0200】
mRNA中の標的部位は、5’UTR、3’UTRまたはコード領域内にあり得る。興味深いことに、複数のmiRNAは、同じ部位または複数の部位を認識することによって同じmRNA標的を調節し得る。遺伝子的に同定されたほとんどの標的における複数のmiRNA結合部位の存在は、複数のRISCの協同作用が最も効率的な翻訳阻害を提供することを示し得る。
【0201】
miRNAは、2つの機構、すなわちmRNA切断または翻訳抑制のいずれかによって遺伝子発現をダウンレギュレーションするようにRISCに指示し得る。mRNAがmiRNAに対してある程度の相補性を有する場合、miRNAはmRNAの切断を指定し得る。miRNAが切断を誘導する場合、切断は、典型的には、miRNAの残基10および11に対するヌクレオチド対合の間である。あるいは、miRNAがmiRNAに対して必要な程度の相補性を有しない場合、miRNAは翻訳を抑制し得る。動物はmiRNAと結合部位との間の相補性の程度がより低い可能性があるので、翻訳抑制は、動物においてより一般的であり得る。
【0202】
miRNAおよびmiRNA*のいかなる対の5’末端および3’末端にも変動性があり得ることに留意されたい。この変動性は、ドローシャ(Drosha)およびダイサーの酵素プロセシングの切断部位に関する変動性に起因し得る。miRNAおよびmiRNA*の5’末端および3’末端における変動性はまた、pri-miRNAおよびpre-miRNAのステム構造におけるミスマッチに起因し得る。ステム鎖のミスマッチは、異なるヘアピン構造の集団をもたらし得る。ステム構造の変動性はまた、ドローシャ(Drosha)およびダイサーによる切断産物の変動性をもたらし得る。
【0203】
「マイクロRNA模倣物」または「miRNA模倣物」という用語は、RNAi経路に入り、遺伝子発現を調節することができる合成非コードRNAを指す。miRNA模倣物は、内因性miRNAの機能を模倣し、成熟した二本鎖分子または模倣前駆体(例えば、またはpre-miRNA)として設計することができる。miRNA模倣物は、修飾または非修飾のRNA、DNA、RNA-DNAハイブリッド、または代替的な核酸化学物質(例えば、LNAまたは2’-O,4’-C-エチレン架橋核酸(ENA))から構成され得る。成熟した二本鎖miRNA模倣物の場合、二重鎖領域の長さは、13~33、18~24または21~23ヌクレオチドの間で変動し得る。miRNAはまた、合計で少なくとも5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39または40個のヌクレオチドを含み得る。miRNAの配列は、pre-miRNAの最初の13~33ヌクレオチドであり得る。miRNAの配列はまた、pre-miRNAの最後の13~33ヌクレオチドであり得る。
【0204】
miRNA模倣物の調製は、当該分野で公知の任意の方法(例えば、化学合成または組換え方法など)によって達成され得る。
【0205】
本明細書中上記で提供される記述から、細胞とmiRNAとの接触は、細胞に、例えば成熟した二本鎖miRNA、pre-miRNAまたはpri-miRNAをトランスフェクションすることによって達成され得ることが理解されるであろう。
【0206】
pre-miRNA配列は、45~90、60~80または60~70ヌクレオチドを含み得る。
【0207】
pri-miRNA配列は、45~30,000、50~25,000、100~20,000、1,000~1,500または80~100ヌクレオチドを含み得る。
【0208】
アンチセンス-アンチセンスは、そのmRNAに特異的にハイブリダイズすることによって遺伝子の発現を防止または阻害するように設計された一本鎖RNAである。スプライソソームタンパク質(例えば、スプライシング因子)のダウンレギュレーションは、スプライソソームタンパク質(例えば、スプライシング因子)をコードするmRNA転写物と特異的にハイブリダイズすることができるアンチセンスポリヌクレオチドを用いて達成され得る。
【0209】
スプライソソームタンパク質(例えば、スプライシング因子)を効率的にダウンレギュレーションするために使用され得るアンチセンス分子の設計は、アンチセンスアプローチにとって重要な2つの態様を考慮しながら行われなければならない。第1の態様は、適切な細胞の細胞質へのオリゴヌクレオチドの送達であり、第2の態様は、細胞内の指定されたmRNAに、その翻訳を阻害する方法で特異的に結合するオリゴヌクレオチドの設計である。
【0210】
先行技術は、オリゴヌクレオチドを多種多様なタイプの細胞に効率的に送達するために使用することができる、いくつかの送達戦略を教示している [例えば、Jaaskelainen et al.Cell Mol Biol Lett.(2002)7(2):236-7;Gait,Cell Mol Life Sci.(2003)60(5):844-53;Martino et al.J Biomed Biotechnol.(2009)2009:410260;Grijalvo et al.Expert Opin Ther Pat.(2014)24(7):801-19;Falzarano et al,Nucleic Acid Ther.(2014)24(1):87-100;Shilakari et al.Biomed Res Int.(2014)2014:526391;Prakash et al.Nucleic Acids Res.(2014)42(13):8796-807およびAsseline et al.J Gene Med.(2014)16(7-8):157-65を参照されたい]。
【0211】
さらに、標的mRNAおよびオリゴヌクレオチドの両方における構造変化のエネルギー論を説明する熱力学的サイクルに基づいて、標的mRNAに対する結合親和性が最も高いと予測される配列を同定するためのアルゴリズムも利用可能である[例えば、Walton et al.Biotechnol Bioeng 65:1-9(1999)を参照されたい]。そのようなアルゴリズムは、細胞においてアンチセンスアプローチを実施するために首尾よく使用されている。
【0212】
さらに、インビトロシステムを使用した、特定のオリゴヌクレオチドを設計し、効率を予測するためのいくつかのアプローチも公開された(Matveeva et al.,Nature Biotechnology 16:1374-1375(1998)]。
【0213】
したがって、非常に正確なアンチセンス設計アルゴリズムおよび多種多様なオリゴヌクレオチド送達システムの生成により、当業者は、過度の試行錯誤の実験に頼る必要なく、既知の配列の発現をダウンレギュレーションするのに適したアンチセンスアプローチを設計および実施することが可能になる。
【0214】
核酸作用物質は、以下に要約されるようにDNAレベルで作用することもできる。
【0215】
スプライソソームタンパク質(例えば、スプライシング因子)のダウンレギュレーションはまた、遺伝子構造における機能喪失型変化(例えば、点変異、欠失および挿入)を伴う標的化変異の導入を通して遺伝子(例えば、スプライシング因子)を不活性化することによっても達成され得る。
【0216】
本明細書で使用される場合、「機能喪失型変化」という語句は、発現産物、すなわちmRNA転写産物および/または翻訳されたタンパク質の発現レベルおよび/または活性のダウンレギュレーションをもたらす遺伝子(例えば、スプライシング因子)のDNA配列におけるあらゆる変異を指す。そのような機能喪失型変化の非限定的な例としては、ミスセンス変異、すなわちタンパク質中のアミノ酸残基を別のアミノ酸残基で変化させ、それによってタンパク質の酵素活性を消失させる変異;ナンセンス変異、すなわちタンパク質中に終止コドン、例えば酵素活性を欠くより短いタンパク質をもたらす初期終止コドンを導入する変異;フレームシフト変異、すなわち変異、通常はタンパク質のリーディングフレームを変化させ、終止コドンをリーディングフレームに導入することによる早期の終了(例えば、酵素活性を欠く短縮型タンパク質),または タンパク質の二次または三次構造に影響を及ぼし、かつ非変異ポリペプチドの酵素活性を欠く非機能性タンパク質をもたらす、より長いアミノ酸配列(例えば、リードスルータンパク質)をもたらし得る核酸の欠失または挿入;フレームシフト変異または修飾終止コドン変異に起因する(すなわち、終止コドンがアミノ酸コドンへと変異する場合)、酵素活性の消滅を伴うリードスルー変異;プロモーター変異、すなわち、プロモーター配列、通常は5’から遺伝子の転写開始部位における、特定の遺伝子産物のダウンレギュレーションをもたらす変異;制御変異、すなわち、上流または下流領域、または遺伝子内における、遺伝子産物の発現に影響を及ぼす変異;欠失変異、すなわち、遺伝子配列中のコード核酸を除去する、フレームシフト変異またはインフレーム変異をもたらし得る変異(コード配列内での、1つ以上のアミノ酸コドンの欠失);挿入変異、すなわち、コードまたは非コード核酸を遺伝子配列に挿入する、1つ以上のアミノ酸コドンのフレームシフト変異またはインフレーム挿入をもたらし得る変異;逆転、すなわち、コードまたは非コード配列の逆転をもたらす変異;スプライス変異、すなわち、異常なスプライシングまたは不十分なスプライシングをもたらす変異;および重複変異、すなわち、インフレームであり得るか、またはフレームシフトを引き起こし得る、コードまたは非コード配列の重複をもたらす変異、が含まれる。
【0217】
特定の実施形態によれば、遺伝子の機能喪失型変化は、遺伝子の少なくとも1つの対立遺伝子を含み得る。
【0218】
本明細書で使用される「対立遺伝子」という用語は、遺伝子座の1つ以上の代替形態のいずれかを指し、その全ての対立遺伝子は形質または特徴に関連する。二倍体細胞または生物において、所与の遺伝子の2つの対立遺伝子は、相同染色体対上の対応する遺伝子座を占める。
【0219】
他の特定の実施形態によれば、遺伝子の機能喪失型変化は、遺伝子の両方の対立遺伝子を含む。そのような場合、例えば、スプライソソームタンパク質(例えば、スプライシング因子)は、ホモ接合型またはヘテロ接合型であり得る。
【0220】
目的の遺伝子に核酸変化を導入する方法は、当技術分野で周知であり[例えば、Menke D.Genesis(2013)51:-618;Capecchi,Science(1989)244:1288-1292;Santiago et al.Proc Natl Acad Sci USA(2008)105:5809-5814、国際特許出願第WO 2014085593号、同第WO 2009071334号および同第WO 2011146121号、米国特許第8771945号、同第8586526号、同第6774279号、およびUP特許出願公開第20030232410号、同第20050026157号、同第20060014264号を参照されたい(その内容は参照によりその全体が組み込まれる)]、標的相同組換え、部位特異的リコンビナーゼ、PBトランスポザーゼ、および操作されたヌクレアーゼによるゲノム編集が含まれる。目的の遺伝子に核酸変化を導入するための薬剤は、公に利用できる原料で設計することができ、またはTransposagen、AddgeneおよびSangamo Biosciencesから購入することができる。
【0221】
以下は、本発明の特定の実施形態に従って使用することができる、目的の遺伝子に核酸変化を導入するために使用される様々な例示的方法およびそれを実施するための薬剤の説明である。
【0222】
操作されたエンドヌクレアーゼを使用するゲノム編集-このアプローチは、人工的に操作されたヌクレアーゼを使用して、特定の二本鎖切断をゲノム内の所望の位置で切断および生成し、次いで、相同組換え修復(HDS)および非相同末端結合(NHEJ)などの細胞内因性プロセスによって修復される逆遺伝学法を指す。NHEJは、二本鎖切断のDNA末端を直接接合する一方、HDRは、切断点で欠損DNA配列を再生するための鋳型として相同配列を利用する。ゲノムDNAに特定のヌクレオチド修飾を導入するために、所望の配列を含むDNA修復鋳型がHDR中に存在しなければならない。
【0223】
ほとんどの制限酵素はDNA上のいくつかの塩基対をそれらの標的として認識し、認識された塩基対の組み合わせがゲノム全体の多くの位置で見出され、所望の位置に限定されない複数の切断をもたらす確率が非常に高いため、従来の制限エンドヌクレアーゼを使用してゲノム編集を行うことはできない。この課題を克服し、部位特異的な一本鎖または二本鎖切断を作り出すために、いくつかの異なる部類のヌクレアーゼがこれまでに発見され、生物工学的に作られた。これらは、メガヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)およびCRISPR/Casシステムを含む。
【0224】
メガヌクレアーゼ-メガヌクレアーゼは、一般に4つのファミリー、すなわちLAGLIDADGファミリー、GIY-YIGファミリー、His-CysボックスファミリーおよびHNHファミリーに分類される。これらのファミリーは、触媒活性および認識配列に影響を及ぼす構造モチーフを特徴とする。例えば、LAGLIDADGファミリーのメンバーは、保存されたLAGLIDADGモチーフの1つまたは2つのコピーを有することを特徴とする。メガヌクレアーゼの4つのファミリーは、保存された構造要素、したがってDNA認識配列特異性および触媒活性に関して互いに大きな隔たりがある。メガヌクレアーゼは、一般に微生物種において見られ、非常に長い認識配列(>14bp)を有するという独特の特性を有するため、当然所望の位置での切断に非常に特異的になる。
【0225】
これは、ゲノム編集において部位特異的な二本鎖切断を作製するために利用することができる。当業者は、これらの天然に存在するメガヌクレアーゼを使用することができるが、そのような天然に存在するメガヌクレアーゼの数は限られている。この課題を克服するために、変異誘発およびハイスループットスクリーニング法を使用して、独特の配列を認識するメガヌクレアーゼ変異体を作製してきた。例えば、様々なメガヌクレアーゼが融合され、新しい配列を認識するハイブリッド酵素が作製されている。
【0226】
あるいは、メガヌクレアーゼのDNA相互作用アミノ酸を変更して、配列特異的メガヌクレアーゼを設計することができる(例えば、米国特許第8,021,867号明細書を参照されたい)。メガヌクレアーゼは、例えば、Certo,MT et al.Nature Methods(2012)9:073-975;米国特許第8,304,222号;8,021,867号;8,119,381号;8,124,369号;8,129,134号;8,133,697号;8,143,015号;8,143,016号;8,148,098号;または8,163,514に記載されている方法を用いて設計することができ、各々の内容は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。あるいは、部位特異的切断特性を有するメガヌクレアーゼは、市販の技術、例えばPrecision BiosciencesのDirected Nuclease Editor(商標)ゲノム編集技術を使用して得ることができる。
【0227】
ZFNおよびTALEN-操作されたヌクレアーゼの2つの異なる部類、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)および転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)は、両方とも標的二本鎖切断の作成に有効であることが証明されている(Christian et al.、2010;Kim et al.、1996;Li et al.、2011;Mahfouz et al.、2011;Miller et al.、2010)。
【0228】
基本的に、ZFNおよびTALEN制限エンドヌクレアーゼ技術は、特異的DNA結合ドメインに連結された非特異的DNA切断酵素を利用する(それぞれ一連のジンクフィンガードメインまたはTALE反復のいずれか)。典型的には、DNA認識部位と切断部位とが互いに離れている制限酵素が選択される。切断部分を分離し、次いでDNA結合ドメインに連結することにより、所望の配列に対して非常に高い特異性を有するエンドヌクレアーゼが得られる。そのような特性を有する例示的な制限酵素は、Foklである。さらに、Foklは、ヌクレアーゼ活性を有するために二量体化を必要とするという利点を有し、これは、各ヌクレアーゼパートナーが固有のDNA配列を認識するにつれて特異性が劇的に増加することを意味する。この効果を増強するために、Foklヌクレアーゼは、ヘテロ二量体としてのみ機能することができるように、かつ触媒活性が増加するように操作されている。ヘテロ二量体機能ヌクレアーゼは、望ましくないホモ二量体活性の可能性を回避するので、二本鎖切断の特異性が増す。
【0229】
したがって、例えば、特定の部位を標的とするために、ZFNおよびTALENは、ヌクレアーゼ対として構築され、対の各メンバーは、標的部位で隣接配列に結合するように設計される。細胞での一過性発現時に、ヌクレアーゼはそれらの標的部位に結合し、FokIドメインはヘテロ二量体化して二本鎖切断を作成する。非相同末端結合(NHEJ)経路を通じたこれらの二本鎖切断の修復は、ほとんどの場合、小さな欠失または小さな配列挿入をもたらす。NHEJによって行われる各修復は独特であるので、単一のヌクレアーゼ対の使用は、標的部位に様々な異なる欠失を有する対立遺伝子系列を生成することができる。
【0230】
欠失は、典型的には、数塩基対から数百塩基対のいずれかの範囲に及ぶが、2対のヌクレアーゼを同時に使用することによって、より大きな欠失が細胞培養において正常に発生した(Carlson et al.、2012;Lee et al.、2010)。さらに、標的領域と相同性を有するDNAの断片をヌクレアーゼ対と併せて導入すると、相同組換え修復によって二本鎖切断を修復して、特異的修飾を生じさせることができる(Li et al.、2011;Miller et al.、2010;Urnov et al.、2005)。
【0231】
ZFNおよびTALENの両方のヌクレアーゼ部分は同様の特性を有するが、これらの操作されたヌクレアーゼの違いは、それらのDNA認識ペプチドにある。ZFNはCys2-His2ジンクフィンガーに依存し、TALENはTALEに依存する。これらのDNA認識ペプチドドメインの両方は、組み合わせでそれらのタンパク質中に当然に見られるという特徴を有する。Cys2-His2ジンクフィンガーは、典型的には、3 bp間隔の繰り返しで見られ、様々な核酸相互作用タンパク質中の多様な組み合わせで見られる。他方、TALEは、アミノ酸および認識されたヌクレオチド対間の認識比1対1で繰り返しで見られる。ジンクフィンガーおよびTALEの両方が反復パターンで発生するので、種々の組み合わせを試して、多種多様な配列特異性を作り出すことができる。部位特異性ジンクフィンガーエンドヌクレアーゼを作製するためのアプローチとしては、例えば、モジュラー組み立て(トリプレット配列と相関するジンクフィンガーが連続して付着されて、必要な配列をカバーする)、OPEN(トリプレットヌクレオチドに対するペプチドドメインの低ストリンジェンシー選択、続いて細菌系での最終標的に対するペプチド組み合わせの高ストリンジェンシー選択)、およびジンクフィンガーライブラリーの細菌ワンハイブリッドスクリーニングなどが挙げられる。ZFNは、設計することもでき、例えば、Sangamo Biosciences(商標)(Richmond,CA)から購入することもできる。
【0232】
TALENを設計および入手する方法は、例えば、Reyon et al.、Nature Biotechnology 2012年 5月;30(5):460-5;Miller et al.、Nat Biotechnol.(2011)29:143-148;Cermak et al.、Nucleic Acids Research(2011)39(12):e 82およびZhang et al.、Nature Biotechnology(2011)29(2):149-53に記載されている。最近開発されたMojo Handという名のウェブベースのプログラムは、ゲノム編集用途のためのTALおよびTALEN構築物を設計するためにMayo Clinicによって導入された(www(dot)talendesign(dot)orgからアクセスすることができる)。TALENは、設計することもでき、例えば、Sangamo Biosciences(商標)(Richmond,CA)から購入することもできる。
【0233】
CRISPR-Casシステム-多くの細菌および古細菌は、侵入するファージおよびプラスミドの核酸を分解することができる内因性RNAベースの適応免疫系を含む。これらのシステムは、RNA成分を生成する、クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)遺伝子と、タンパク質成分をコードするCRISPR関連(Cas)遺伝子とからなる。CRISPR RNA(crRNA)は、特定のウイルスおよびプラスミドとの短い範囲の相同性を含み、対応する病原体の相補性核酸を分解するようにCasヌクレアーゼに指示するガイドとして作用する。化膿性連鎖球菌のII型CRISPR/Casシステムの研究は、3つの成分、Cas9ヌクレアーゼ、標的配列に対して20塩基対の相同性を有するcrRNA、およびトランス活性化crRNA(tracrRNA)がRNA/タンパク質複合体を形成し、合わせると配列特異的ヌクレアーゼ活性に十分であることを示した。(Jinek et al.、Science(2012)337:816-821。)。
【0234】
crRNAとtracrRNAとの間の融合物で構成される合成キメラガイドRNA(gRNA)は、インビトロでcrRNAに相補的なDNA標的を切断するようにCas9に指示することができることがさらに実証された。合成gRNAと組み合わせたCas9の一過性発現を使用して、様々な異なる種において標的化二本鎖切断を生成できることも実証された(Cho et al.、2013;Cong et al.、2013;DiCarlo et al.、2013;Hwang et al.、2013a、b;Jinek et al.、2013;Mali et al.、2013)。
【0235】
ゲノム編集のためのCRIPSR/Casシステムは、2つの異なる成分、すなわちgRNAおよびエンドヌクレアーゼ、例えばCas9を含む。
【0236】
gRNAは、典型的には、標的相同配列(crRNA)と、crRNAを単一のキメラ転写物中のCas9ヌクレアーゼ(tracrRNA)に連結する内因性細菌RNAとの組み合わせをコードする20ヌクレオチド配列である。gRNA/Cas9複合体は、gRNA配列と補体ゲノムDNAとの間の塩基対合によって標的配列に動員される。Cas9の結合を成功させるために、ゲノム標的配列はまた、標的配列の直後に正しいプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列を含有しなければならない。gRNA/Cas9複合体の結合は、Cas9がDNAの両方の鎖を切断して二本鎖切断を引き起こすことができるように、Cas9をゲノム標的配列に局在化させる。ZFNおよびTALENと同様に、CRISPR/Casによって生成される二本鎖切断は、相同組換えまたはNHEJを被ることができる。
【0237】
Cas9ヌクレアーゼは、2つの機能ドメイン、すなわちRuvCおよびHNHを有し、それぞれが異なるDNA鎖を切断する。これらのドメインの両方が活性である場合、Cas9は、ゲノムDNAにおいて二本鎖切断を引き起こす。
【0238】
CRISPR/Casの重要な利点は、合成gRNAを容易に作製する能力と相まって、このシステムの高い効率が、複数の遺伝子を同時に標的化することを可能にすることである。さらに、変異を保有する細胞の大部分は、標的遺伝子において二対立遺伝子変異を提示する。
【0239】
しかしながら、gRNA配列とゲノムDNA標的配列との間の塩基対合形成相互作用における明らかな柔軟性は、Cas9によって切断される標的配列に対する不完全なマッチを可能にする。
【0240】
単一の不活性触媒ドメイン、RuvC-またはHNH-のいずれかを含有するCas9酵素の修飾バージョンは、「ニッカーゼ」と呼ばれる。ただ1つの活性ヌクレアーゼドメインを含む、Cas9ニッカーゼは標的DNAの唯一の鎖を切断し、一本鎖切断または「ニック」を形成する。一本鎖切断またはニックは、通常、無傷の相補性DNA鎖を鋳型として使用して、HDR経路を通して迅速に修復される。しかしながら、Cas9ニッカーゼによって導入された2つの近位の反対鎖ニックは、しばしば「二重ニック」CRISPRと呼ばれるシステムにおいて、二本鎖切断として扱われる。二重ニックは、遺伝子標的に対する所望の効果に応じて、NHEJまたはHDRのいずれかによって修復することができる。したがって、特異性および低いオフターゲット効果が重要である場合、Cas9ニッカーゼを使用して、2つのgRNAを標的配列のすぐ近く、かつゲノムDNAの反対鎖上に設計することによって二重ニックを作成すると、いずれか1つのgRNAがゲノムDNAを変化させないニックをもたらすので、オフターゲット効果が低下する。
【0241】
2つの不活性触媒ドメイン(死んだCas9、またはdCas9)を含有するCas9酵素の修飾バージョンは、ヌクレアーゼ活性を有さないが、gRNA特異性に基づいて、依然としてDNAに結合することができる。dCas9は、不活性酵素を既知の調節ドメインに融合することによって、DNA転写調節因子が遺伝子発現を活性化または抑制するためのプラットフォームとして利用することができる。例えば、ゲノムDNA中の標的配列へのdCas9単独の結合は、遺伝子転写を妨害し得る。
【0242】
標的配列の選択および/または設計を支援するために利用可能な、公に利用できるいくつかのツール、ならびに異なる種の異なる遺伝子について生物情報学的に決定した固有のgRNAのリスト、例えば、Feng Zhang研究室のTarget Finder、Michael Boutros研究室のTarget Finder(E-CRISP)、RGEN Tools:Cas-OFFinder、CasFinder:Flexible algorithm for identifying specific Cas9 targets in genomes、CRISPR Optimal Target Finderなどが数多くある。
【0243】
CRISPRシステムを使用するためには、gRNAおよびCas9の両方が標的細胞において発現されなければならない。挿入ベクターは、単一のプラスミド上に両方のカセットを含有することができ、あるいはカセットは2つの別個のプラスミドから発現される。CRISPRプラスミドは、Addgeneのpx330プラスミドなどが市販されている。
【0244】
「ヒットエンドラン」または「イン-アウト」-2工程組換え手順を含む。第1の工程では、二重陽性/陰性選択マーカーカセットを含む挿入型ベクターを使用して、所望の配列変化を導入する。挿入ベクターは、標的遺伝子座と相同性を有する単一の連続領域を含み、目的の変異を有するように修飾される。この標的化構築物を、相同領域内の1つの部位で制限酵素を用いて線状化し、細胞に電気穿孔し、陽性選択を行って相同組換え体を単離する。これらの相同組換え体は、選択カセットを含む介在ベクター配列によって分離された局所重複を含む。第2の工程では、標的化クローンを陰性選択に供して、重複配列間の染色体内組換えによって選択カセットを失った細胞を特定する。局所的組換え事象は、重複を除去し、組換え部位に応じて、対立遺伝子は、導入された変異を保持するか、または野生型に戻る。最終結果は、いずれの外因性配列も保持することなく所望の修飾を導入することである。
【0245】
「二重置換」または「タグおよび交換」戦略-ヒットエンドラン手法と同様の2工程選択手順を含むが、2つの異なる標的化構築物の使用を必要とする。第1の工程では、3’および5’相同性アームを有する標準的なターゲティングベクターを使用して、変異が導入される位置の近くに二重陽性/陰性選択可能カセットを挿入する。電気穿孔および陽性選択の後、相同的に標的化されたクローンを特定する。次に、所望の変異と相同する領域を含む第2のターゲティングベクターを標的化クローンに電気穿孔し、陰性選択を適用して選択カセットを除去し、変異を導入する。最終対立遺伝子は、望ましくない外因性配列を排除しながら所望の変異を含有する。
【0246】
部位特異的リコンビナーゼ-P1バクテリオファージ由来のCreリコンビナーゼおよび酵母サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)由来のFlpリコンビナーゼは、それぞれ固有の34塩基対のDNA配列(それぞれ「Lox」および「FRT」と呼ばれる)を認識する部位特異的DNAリコンビナーゼであり、Lox部位またはFRT部位のいずれかに隣接する配列は、CreまたはFlpリコンビナーゼのそれぞれの発現時に部位特異的組換えによって容易に除去することができる。基本的に、部位特異的リコンビナーゼシステムは、相同組換え後に選択カセットを除去するための手段を提供する。トランスポザーゼ-本明細書で使用される場合、「トランスポザーゼ」という用語は、トランスポゾンの末端に結合し、トランスポゾンのゲノムの別の部分への移動を触媒する酵素を指す。本明細書で使用される場合、「トランスポゾン」という用語は、単一細胞のゲノム内の異なる位置に移動することができるヌクレオチド配列を含む可動性遺伝要素を指す。このプロセスにおいて、トランスポゾンは、変異を引き起こし、かつ/または細胞のゲノム中のDNAの量を変化させることができる。
【0247】
例えば脊椎動物の細胞内で転位することもできる、いくつかのトランスポゾンシステム、例えば、Sleeping Beauty [Izsvak and Ivics Molecular Therapy(2004)9,147-156]、piggyBac [Wilson et al.Molecular Therapy(2007)15,139-145]、Tol 2[川上ら、PNAS(2000)97(21):11403-11408]またはFrog Prince [Miskey et al.Nucleic Acids Res.Dec 1,(2003)31(23):6873-6881]などが、単離または設計されている。一般に、DNAトランスポゾンは、単純なカットアンドペースト方式で1つのDNA部位から別のDNA部位に転位する。
【0248】
組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)プラットフォームを使用したゲノム編集-このゲノム編集プラットフォームは、哺乳動物生細胞のゲノム内のDNA配列の挿入、欠失または置換を可能にするrAAVベクターに基づく。rAAVゲノムは、一本鎖デオキシリボ核酸(ssDNA)分子であり、陽性または陰性のいずれかが感知され、約4.7 kbの長さである。これらの一本鎖DNAウイルスベクターは、高い形質導入率を有し、ゲノム内の二本鎖DNA切断の非存在下で内因性相同組換えを刺激するという独特の特性を有する。当業者は、所望のゲノム遺伝子座を標的とし、細胞内で全体的および/または微妙な内因性遺伝子変更の両方を実施するためのrAAVベクターを設計することができる。rAAVゲノム編集は、単一の対立遺伝子を標的とし、いかなるオフターゲットゲノムも変更しないという利点を有する。rAAVゲノム編集技術は、例えばHorizon(商標)(Cambridge、英国)からrAAV GENESIS(商標)システムとして市販されている。
【0249】
有効性を認定し、配列変化を検出するための方法は、当技術分野で周知であり、DNA配列決定、電気泳動、酵素ベースのミスマッチ検出アッセイおよびハイブリダイゼーションアッセイ、例えばPCR、RT-PCR、RNase保護、インサイチュハイブリダイゼーション、プライマー伸長、サザンブロット、ノーザンブロットおよびドットブロット分析が含まれるが、これらに限定されない。
【0250】
特定の遺伝子における配列変化はまた、例えばクロマトグラフィー、電気泳動法、ELISAなどの免疫検出アッセイおよびウエスタンブロット分析および免疫組織化学を使用してタンパク質レベルで決定することができる。
【0251】
スプライソソーム活性の阻害は、培養中の細胞の増殖阻害または細胞傷害性を使用するなど、当技術分野で公知の任意の方法を使用して評価することができる。追加的または代替的に、選択内因性遺伝子転写物のスプライシングを測定するインビトロアッセイを実施することができる。そのような方法は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、Kerstin A.Effenberger、Veronica K.Urabe、およびMelissa S.Jurica、「Modulating splicing with small molecular inhibitors of the spliceosome」、Wiley Interdiscip Rev RNA.著者原稿;PMC 2018年3月1日、に説明されている。
【0252】
本発明のいくつかの実施形態の薬剤は、それ自体を、または適切な担体もしくは賦形剤と混合される医薬組成物で生物に投与することができる。
【0253】
本明細書で使用される場合、「医薬組成物」は、生理学的に適切な担体および賦形剤などの他の化学成分を含む、本明細書に記載の活性成分の1つ以上の調製物を指す。医薬組成物の目的は、生物への化合物の投与を容易にすることである。
【0254】
本明細書において、「有効成分」という用語は、生物学的効果を説明できる、スプライソソーム活性を阻害することができる薬剤を指す。
【0255】
以下、交換可能に使用され得る「生理学的に許容される担体」および「薬学的に許容される担体」という語句は、生物に対して重大な刺激を引き起こさず、投与された化合物の生物学的活性および特性を無効にしない担体または希釈剤を指す。アジュバントは、これらの語句の下に含まれる。
【0256】
本明細書において、「賦形剤」という用語は、活性成分の投与をさらに容易にするために医薬組成物に添加される不活性物質を指す。賦形剤の例としては、限定されないが、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、多様な糖およびデンプンの種類、セルロース誘導体、ゼラチン、植物油およびポリエチレングリコールが挙げられる。
【0257】
薬物の製剤化および投与のための技術は、参照により本明細書に組み込まれる「Remington’s Pharmaceutical Sciences」、Mack Publishing Co.、Easton、PA、最新版にて見出すことができる。
【0258】
適切な投与経路としては、例えば、経口、直腸、経粘膜、特に経鼻、腸または非経口送達、例えば、筋肉内、皮下および髄内注射、ならびに髄腔内、直接脳室内、心臓内、例えば、右または左心室腔内、一般的な冠動脈内、静脈内、腹腔内、鼻腔内、または眼内注射が挙げられ得る。
【0259】
中枢神経系(CNS)への薬物送達のための従来のアプローチには、神経外科的戦略(例えば、脳内注射または脳室内注入);BBBの内因性輸送経路の1つを利用する試みにおける薬剤の分子操作(例えば、それ自体がBBBを通過することができない薬剤と組み合わせて、内皮細胞表面分子に対して親和性を有する輸送ペプチドを含むキメラ融合タンパク質の生成);薬剤の脂質溶解度が増加するように設計される薬理学的戦略(例えば、水溶性薬剤と脂質またはコレステロール担体とのコンジュゲーション);および 高浸透圧破壊によるBBBの完全性の一時的な破壊(頸動脈中へのマンニトール溶液の注入またはアンジオテンシンペプチドなどの生物学的に活性な薬剤の使用により生じる)が含まれる。しかしながら、これらの戦略の各々は、制限、例えば侵襲的外科処置に関連する特有のリスク、内因性輸送系に特有の制限によって課されるサイズ制限、CNSの外側で活性であり得る担体モチーフから構成されるキメラ分子の全身投与に関連する潜在的に望ましくない生物学的副作用、およびBBBが破壊される脳の領域内の脳損傷のリスクの可能性などを有するので、最適ではない送達方法である。
【0260】
あるいは、例えば、医薬組成物を患者の組織領域に直接注射することによって、全身的ではなく局所的に医薬組成物を投与することができる。
【0261】
「組織」という用語は、1つまたは複数の機能を果たすように設計された細胞からなる、生物の一部分を指す。例としては、脳組織、網膜、皮膚組織、肝臓組織、膵臓組織、骨、軟骨、結合組織、血液組織、筋肉組織、心臓組織、脳組織、血管組織、腎組織、肺組織、性腺組織、造血組織が挙げられるが、これらに限定されない。
【0262】
本発明のいくつかの実施形態の医薬組成物は、当技術分野で周知のプロセス、例えば、従来の混合、溶解、造粒、糖衣錠作製、研和、乳化、カプセル化、封入または凍結乾燥方法によって製造することができる。
【0263】
本発明のいくつかの実施形態に従って使用するための医薬組成物は、したがって、賦形剤および補助剤を含む1つ以上の生理学的に許容され得る担体を使用して従来の様式で製剤化することができ、これによって、活性成分の薬学的に使用可能な調製物への加工が容易になる。適切な製剤は、選択される投与経路に依存する。
【0264】
注射の場合、医薬組成物の活性成分は、水溶液、好ましくは生理学的に適合する緩衝液、例えばハンクス液、リンガー液または生理学的塩緩衝液に製剤化され得る。経粘膜投与の場合、浸透されるバリアに適切な浸透剤が製剤に使用される。そのような浸透剤は、当技術分野で一般的に知られている。
【0265】
経口投与の場合、医薬組成物は、活性化合物を当技術分野で周知の薬学的に許容される担体と組み合わせることによって容易に製剤化することができる。そのような担体は、患者による経口摂取のために、医薬組成物を錠剤、丸剤、糖衣錠、カプセル、液体、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁液などとして製剤化することを可能にする。経口使用のための薬理学的調製物を、固体賦形剤を使用し、得られた混合物を場合により粉砕し、顆粒の混合物を加工することで作製し、所望に応じて適切な補助剤を添加した後、錠剤または糖衣錠コアを得ることができる。適切な賦形剤は、特に、糖、例えばラクトース、スクロース、マンニトール、またはソルビトールなどの充填剤;セルロース調製物、例えばトウモロコシデンプン、コムギデンプン、コメデンプン、ジャガイモデンプン、ゼラチン、トラガカントゴム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボメチルセルロースナトリウム;および/または生理学的に許容されるポリマー、例えばポリビニルピロリドン(PVP)である。所望であれば、架橋ポリビニルピロリドン、寒天、またはアルギン酸もしくはその塩、例えばアルギン酸ナトリウムなどの崩壊剤を添加してもよい。
【0266】
糖衣錠コアには適切なコーティングが施されている。この目的のために、アラビアゴム、タルク、ポリビニルピロリドン、カルボポールゲル、ポリエチレングリコール、二酸化チタン、ラッカー溶液および適切な有機溶媒または溶媒混合物を任意選択的に含有し得る濃縮糖溶液を使用してもよい。識別のために、または活性化合物用量の異なる組み合わせを特徴付けるために、染料または顔料を錠剤または糖衣錠コーティングに添加してもよい。
【0267】
経口的に使用することができる医薬組成物には、ゼラチン製の押し込み型カプセル、ならびにゼラチンおよび可塑剤、例えばグリセロールまたはソルビトールで作られた軟密封カプセルが含まれる。押し込み型カプセルは、ラクトースなどの充填剤、デンプンなどの結合剤、タルクまたはステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤、および場合により安定剤と混合して活性成分を含有し得る。軟カプセルの場合、活性成分は、脂肪油、流動パラフィン、または液体ポリエチレングリコールなどの適切な液体に溶解または懸濁されてもよい。さらに、安定剤を添加してもよい。経口投与のための全ての製剤は、選択された投与経路に適した投与量でなければならない。
【0268】
頬側投与の場合、組成物は、従来の様式で製剤化された錠剤またはトローチ剤の形態をとることができる。
【0269】
経鼻吸入による投与の場合、本発明のいくつかの実施形態による使用のための活性成分は、好適な噴射剤、例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロ-テトラフルオロエタンまたは二酸化炭素を使用して、加圧パックまたはネブライザーからエアロゾルスプレーの形態で便利に送達される。加圧エアロゾルの場合、投与単位は、計量された量を送達するための弁を提供することによって決定され得る。ディスペンサーで使用するための、例えばゼラチンのカプセルおよびカートリッジは、化合物とラクトースまたはデンプンなどの適切な粉末基剤との粉末混合物を含めて製剤化され得る。
【0270】
本明細書に記載の医薬組成物は、例えばボーラス注射または連続注入による非経口投与のために製剤化され得る。注射用製剤は、単位剤形で、例えばアンプルで、または場合により防腐剤を添加した複数回投与容器で提供され得る。組成物は、油性または水性ビヒクル中の懸濁液、溶液またはエマルジョンであってもよく、懸濁化剤、安定化剤および/または分散剤などの配合剤を含有してもよい。
【0271】
非経口投与のための医薬組成物は、水溶性形態の活性調製物の水溶液を含む。さらに、活性成分の懸濁液は、適切な油性または水性注射懸濁液として調製され得る。適切な親油性溶媒またはビヒクルには、ゴマ油などの脂肪油、またはオレイン酸エチル、トリグリセリドもしくはリポソームなどの合成脂肪酸エステルが含まれる。水性注射懸濁液は、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトールまたはデキストランなど、懸濁液の粘度を増加させる物質を含有し得る。場合により、懸濁液はまた、適切な安定剤、または活性成分の溶解度を上げて高濃度溶液の調製を可能にする薬剤を含有し得る。
【0272】
あるいは、活性成分は、使用前に適切なビヒクル、例えば滅菌したパイロジェンフリーの水性溶液と構成するための粉末形態であってもよい。
【0273】
本発明のいくつかの実施形態の医薬組成物はまた、例えば、カカオバターまたは他のグリセリドなどの従来の坐剤基剤を使用して、坐剤または停留浣腸などの直腸組成物に製剤化され得る。
【0274】
本発明のいくつかの実施形態の状況での使用に適した医薬組成物には、有効成分が意図された目的を達成するのに有効な量で含まれる組成物が含まれる。より具体的には、治療有効量は、障害(例えば、白血病またはMDS)の症状を予防、緩和もしくは改善するため、または治療されている対象の生存を延長するために有効な有効成分(スプライソソーム活性を阻害することができる薬剤)の量を意味する。
【0275】
治療有効量の決定は、特に本明細書で提供される詳細な開示に照らして、十分に当業者の能力の範囲内である。
【0276】
前白血病の動物モデルは、例えば、Maggio et al.、Yale J Biol Med.(1978)51(4):469-76およびCook et al.、Cancer Metastasis Rev.(2013)Jun;32(0):63-76に記載されている。
【0277】
本発明の方法で使用されるあらゆる調製物について、治療有効量または用量は、最初にインビトロおよび細胞培養アッセイから推定することができる。例えば、用量は、動物モデルに製剤化して、所望の濃度または力価を達成することができる。そのような情報を使用して、ヒトにおける有用な用量をより正確に決定することができる。
【0278】
本明細書に記載の活性成分の毒性および治療有効性は、インビトロ、細胞培養物または実験動物における標準的な薬学的手順によって決定することができる。これらのインビトロおよび細胞培養アッセイおよび動物研究から得られたデータを使用して、ヒトで使用するための投与量の範囲を策定することができる。投与量は、使用される剤形および利用される投与経路に応じて変化し得る。正確な製剤、投与経路および投与量は、患者の状態を考慮して個々の医師が選択することができる(例えば、Fingl,et al.,1975,「The Pharmacological Basis of Therapeutics」、Ch.1 p.1を参照されたい)。
【0279】
投与量および投与間隔を個々に調整して、生物学的効果を誘導または抑制するのに十分な活性成分のレベル(最小有効濃度、MEC)を前白血病細胞(例えば造血幹細胞および前駆細胞)に与えることができる。MECは調製物ごとに異なるが、インビトロデータから推定することができる。MECを達成するために必要な投与量は、個体の特徴および投与経路に依存する。検出アッセイを使用して血漿濃度を決定することができる。
【0280】
予防される状態の重症度および応答性に応じて、投薬は、単回または複数回の投与であってもよく、一連の治療は、数日から数週間、または治癒がもたらされるまで、または疾患状態の軽減が達成されるまで続く。
【0281】
投与される組成物の量は、当然のことながら、治療される対象、苦痛の重大性、投与様式、処方医師の判断などに依存するであろう。
【0282】
本発明のいくつかの実施形態の組成物は、所望に応じて、有効成分を含有する1つ以上の単位剤形を含み得るパックまたはディスペンサー装置、例えばFDA承認キットで提供され得る。パックは、例えば、金属またはプラスチック箔、例えば、ブリスターパックなどを含み得る。パックまたはディスペンサー装置は、投与のための説明書を付随させてもよい。パックまたはディスペンサーはまた、医薬品の製造、使用または販売を規制する政府機関によって規定された形態の容器に関連する通知に適合させてもよく、この通知は、組成物の形態またはヒトもしくは獣医学的投与に対する、政府機関の承認を反映する。そのような通知は、例えば、処方薬について米国食品医薬品局によって承認されたラベル、または承認された製品添付文書の通知であってもよい。適合性医薬担体中に製剤化された本発明の調製物を含む組成物もまた、調製され、適切な容器に入れられ、上記でさらに詳述されるような、示される状態の治療についてラベルを付けられてもよい。
【0283】
別の実施形態によれば、造血障害または悪性腫瘍の予防を強化するために、本発明は、治療に有益であり得るさらなる治療法を対象に投与することをさらに想定する。当業者は、そのような決定を行うことができる。
【0284】
したがって、例えば、本明細書中に記載される組成物は、栄養補助食品、ホルモン療法、標的療法、免疫療法、化学療法、放射線療法または外科的処置と併せて投与され得る。そのような抗癌療法およびそれを利用する方法は、当業者に周知である。
【0285】
本出願から満了までの特許の存続期間中に、スプライソソーム活性を阻害することができる多くの関連する薬剤が開発されることが予想され、薬剤という用語の範囲は、そのようなすべての新しい技術を先験的に含むことが意図される。
【0286】
本明細書で使用される場合、「約」という用語は、±10%を指す。
【0287】
用語「含む(comprise)」、「含む(comprising)」、「含む(include)」、「含む(including)」、「有する」およびそれらの活用形は、「含むが限定されない」ことを意味する。
【0288】
用語「からなる」は、「含み、かつ限定される」ことを意味する。
【0289】
「から本質的になる」という用語は、組成物、方法または構造が追加の成分、工程および/または部分を含み得るが、追加の成分、工程および/または部分が、特許請求される組成物、方法または構造の基本的かつ新規な特徴を実質的に変化させない場合に限ることを意味する。
【0290】
本明細書で使用される場合、単数形「a」、「a」、および「the」は、文脈上他に明確に指示されない限り、複数の言及を含む。例えば、用語「化合物」または「少なくとも1つの化合物」は、それらの混合物を含む複数の化合物を含み得る。
【0291】
本出願全体を通して、本発明の様々な実施形態は、範囲形式で提示され得る。範囲形式での説明は、単に便宜および簡潔さのためのものであり、本発明の範囲に対する柔軟性のない限定として解釈されるべきではないことを理解されたい。したがって、範囲の説明は、すべての可能な部分範囲ならびにその範囲内の個々の数値を具体的に開示したと見なされるべきである。例えば、1~6などの範囲の説明は、1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6などの部分範囲、ならびにその範囲内の個々の数、例えば1、2、3、4、5、および6を具体的に開示していると見なされるべきである。これは、範囲の幅に関係なく適用される。
【0292】
本明細書において数値範囲が示されるときはいつでも、示された範囲内の任意の引用される数字(分数または整数)を含むことを意味する。第1の指示数と第2の指示数との「間の範囲に及ぶ(ranging/ranges between)」、および第1の指示数「から」第2の指示数「までの範囲に及ぶ(ranging/ranges from)」という語句は、本明細書では互換的に使用され、第1および第2の指示数ならびにそれらの間のすべての分数および整数を含むことを意味する。
【0293】
本明細書で使用される場合、「方法」という用語は、所与のタスクを達成するための様式、手段、技術および手順、例えば限定されないが、化学、薬理学、生物学、生化学および医学の分野の当業者に公知であるか、または当業者によって公知の様式、手段、技術および手順から容易に開発される様式、手段、技術および手順を指す。
【0294】
本明細書で使用される場合、「治療する」という用語は、状態の進行の抑止、実質的な阻害、遅延もしくは逆転、状態の臨床的もしくは審美的症状の実質的な改善、または状態の臨床的もしくは審美的症状の出現の実質的な予防を含む。
【0295】
明確にするために別個の実施形態の文脈で説明されている本発明の特定の特徴は、単一の実施形態において組み合わせて提供されてもよいことが理解される。逆に、簡潔にするために単一の実施形態の文脈で記載されている本発明の様々な特徴はまた、別個に、または任意の適切な部分的組み合わせで、または本発明の他の任意の適切な実施形態に記載されて提供されてもよい。様々な実施形態の文脈で説明される特定の特徴は、実施形態がそれらの要素なしでは動作不能でない限り、それらの実施形態の本質的な特徴と見なされるべきではない。
【0296】
上記で正確に概説され、以下の特許請求の範囲の項で特許請求される本発明の様々な実施形態および態様は、以下の実施例において実験的裏付けを見出す。
【実施例
【0297】
ここで、本発明を上記の説明と共に非限定的に例示する、以下の実施例に言及する。
【0298】
一般に、本明細書で使用される命名法および本発明で利用される実験室手順には、分子、生化学、微生物学および組換えDNA技術が含まれる。そのような技術は文献で十分に説明されている。例えば、「Molecular Cloning:A laboratory Manual」 Sambrook et al.,(1989);「Current Protocols in Molecular Biology」 Volumes I-III Ausubel,R.M.,ed.(1994);Ausubel et al.,「Current Protocols in Molecular Biology」,John Wiley and Sons,Baltimore,Maryland(1989);Perbal,「A Practical Guide to Molecular Cloning」,John Wiley&Sons,New York(1988);Watson et al.,「Recombinant DNA」,Scientific American Books,New York;Birren et al.(eds)「Genome Analysis:A Laboratory Manual Series」,Vols.1-4,Cold Spring Harbor Laboratory Press,New York(1998);米国特許第4,666,828号;4,683,202号;4,801,531号;5,192,659号および5,272,057号に記載されている方法論;「Cell Biology:A Laboratory Handbook」、Volumes I-III Cellis,J.E.、ed.(1994);「Current Protocols in Immunology」 Volumes I-III Coligan J.E.、ed.(1994);Stites et al.(eds)、「Basic and Clinical Immunology」(第8版)、Appleton&Lange、Norwalk、CT(1994);Mishell and Shiigi(eds)、「Selected Methods in Cellular Immunology」、W.H.Freeman and Co.,New York(1980)を参照されたい;利用可能な免疫測定法は、特許および科学文献に広範囲にわたり記載されており、例えば、米国特許第3,791,932号;3,839,153号;3,850,752号;3,850,578号;3,853,987号;3,867,517号;3,879,262号;3,901,654号;3,935,074号;3,984,533号;3,996,345号;4,034,074号;4,098,876号;4,879,219号;5,011,771号および5,281,521号を参照のこと;「Oligonucleotide Synthesis」Gait、M.J.、ed.(1984);「Nucleic Acid Hybridization」Hames,B.D.,and Higgins S.J.,eds.(1985);「Transcription and Translation」Hames、B.D.、and Higgins S.J.、Eds.(1984);「Animal Cell Culture」Freshney、R.I.、ed.(1986);「Immobilized Cells and Enzymes」IRL Press,(1986);「A Practical Guide to Molecular Cloning」Perbal,B.,(1984)および「Methods in Enzymology」Vol.1-317,Academic Press;「PCR Protocols:A Guide To Methods And Applications」、Academic Press,San Diego,CA(1990);Marshak et al.,「Strategies for Protein Purification and Characterization-A Laboratory Course Manual」CSHL Press(1996)を参照されたい。これらの全ては、あたかも本明細書に完全に記述されるかのように、参照によって組み込まれる。他の一般参照は、本文書全体にわたり提供されている。その中の手順は、当技術分野で周知であり、読者の利便性のために提供される。そこに含まれるすべての情報は、参照によって本明細書に組み込まれる。
一般的な材料および実験手順
【0299】
細胞
自家幹細胞移植からのサンプルを同定し、SMMについて配列決定した。これらのサンプルは、異種移植片モデルで研究することができる高頻度のヒトpreL-HSPCを含んでいた。
【0300】
動物
SMMの保有者由来のPreL-HSPCを、NSGマウスまたはNSG-SGM3の右大腿骨に注射した。注射したマウスおよび対照群を、スプライソソーム阻害剤で処置した。8週間後に骨髄細胞を採取し、抗ヒトCD45によってヒト細胞の頻度を推定することによって、ヒト生着を評価した。
【0301】
タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ(PRMT)の阻害
同質遺伝子型マウスSrsf2WTおよび変異型(Srsf2P95H/WT)MLL-AF 9 AML細胞を、PRMT5阻害剤(GSK 591)および全PRMT I型阻害剤(MS-023)を含む、いくつかのメチルトランスフェラーゼ/デメチラーゼ阻害剤(Structural Genomics Consortium Torontoからの化学プローブ収集物)でインビトロ処理した。SF3B1阻害剤、E7107を陽性対照と同じアッセイで使用した。
【0302】
RBM39のプロテオソーム分解
インジスラムおよびスルホンアミド類似体E7820の効果を、最初に遺伝的に異なる18のAML細胞株のパネルにわたって試験した。
【0303】
インビボ薬物研究
生着後にSMMを保有する、骨髄細胞およびリンパ系細胞の両方を生着(多系統異種移植)させることができるSMM保有サンプルを使用した。SMMを調節するあらゆる処置がpreL-HSPCを選択的に標的化しているかどうかを試験するために、処置群および未処置対照群において全ヒト生着を測定した。さらに、マウスから抽出されたヒト細胞におけるSMMの変異対立遺伝子頻度(VAF)を、処理マウス対非処理マウスにおいて測定した。CD34細胞(10,000~50,000)を、5匹の治療マウスおよび5匹の未治療マウスに大腿骨内(IF)注射した。注射後35日目に、マウスを以下の化合物、すなわちH3B-8800、GSK3326595、MS-023、E7820、またはビヒクル対照で処置した。細胞注射後56日目に、マウスを絶命させた。他の対照実験には、ヒト臍帯血由来および再発性前白血病性変異を有しない高齢者由来のCD34細胞を使用した同じ実験が含まれた。preL-HSPCの標的化が完全白血病の治療よりも有利であるという証拠を提供するために、SMMを有するAMLサンプルもNSGマウスおよびSGM3マウスに注射し、白血病生着(CD33)を同定した。
【0304】
スプライソソームモジュレーターE7107のインビトロおよびインビボ投与
すべてのインビトロ実験のために、E7107をDMSOに溶解した。薬物感受性研究のために、細胞を10μM~0.05nMのE7107に曝露した。インビボ投与のために、E7107をビヒクル(滅菌PBS中の10%エタノールおよび4%ツイーン80)に溶解し、4 mg/kg/日でI.V.注射によって投与した。薬物有効性研究のために、薬物投与の開始前に全血球計算(CBC)分析を行い、WBC数平均が治療群とビヒクル群で同等であることを確認することによって無作為化を行った。全てのマウスにE7107を10回連続して投与した。インビボ薬物研究またはデータ分析では盲検化を行わなかった。マウスMLL-AF 9白血病モデルにおけるRNA-seq分析のために、E7107を5回連続投与し、最後の投与の3時間後にマウスを絶命させ、BM Mac 1GFP細胞をフローサイトメトリーによって精製した。
【0305】
RNA-seqリードマッピング
すべてのヒトおよびマウスサンプルを同じパイプラインを使用して処理した。
【0306】
工程1:リードを、Bowtie v1.0.0およびRSEM v.1.2.4を使用して、それらのそれぞれのゲノムアセンブリにマッピングした。後者は、-v 2でBowtieを呼び出すように内部修正され、パラメータ--bowtie-m 100--bowtie-chunkmbs 500--calc-ci-output-genome-bamで遺伝子アノテーションファイル上で実行された。
【0307】
工程2:工程1からのBAMファイルを濾過してリードを除去し、ここで(i)アライメントマップqスコアは0であり、(ii)スプライスジャンクションオーバーハングは6ヌクレオチド未満であった。
【0308】
工程3:パラメータ--bowtie 1--read-mismatches 3--read-edit-dist 2--no-mixed-no-discordant--min-anchor-length 6--splice-mismatches 0--min-intron-length 10--max-intron-length 1000000--min-isoform-fraction 0.0--no-novel-juncs-no-novel-indels--raw-juncsで呼び出されたTopHat v 2.0.8bを使用して、残りのすべてのアライメントされていないリードをスプライスジャンクションアノテーションファイルにマッピングした。--mate-inner-distおよび--mate-std-dev引数は、リードを構成的にスプライシングされたエクソンジャンクションにマッピングするMISO exon_utils.py scriptを使用して計算した。
【0309】
工程4:スプライスジャンクションにアラインメントされたリードを工程2と同様に濾過した。
【0310】
工程5:得られたすべてのBAMファイルを組み合わせて、すべてのアライメントされたRNA-seqリードの組み合わせファイルを作成した。
【0311】
差次的スプライシングの同定および定量化
すべての選択的スプライシング事象についてのアイソフォーム割合を、MISO v 2.0を使用して定量した。構成的にスプライシングされたエクソンおよびイントロンを、ジャンクション全域のリードを使用して定量した。コンディショナルノックインマウスおよびノックアウトマウスをペアワイズ様式で比較し、各ペアについて、どちらかまたは両方のアイソフォームをサポートする20以上のリードを含むスプライシング事象に分析を限定し、そこで事象は、サンプルペアにおいて選択的にスプライシングされていた。その事象のサブセットから、以下の基準を満たすものを差次的にスプライシングされたと定義した。(i)両方のサンプルにおいて少なくとも20の関連リードを有した、(ii)絶対的アイソフォームの割合の変化が10%以上であった、(iii)ワーゲンメイカーズの枠組みを使用して計算した場合、アイソフォーム割合の統計分析が5以上のベイズ因子を有した。ヒトAMLサンプルを、28個すべてのSRSF2野生型サンプルにわたるアイソフォーム割合の中央値を計算し、それを各SRSF2変異体サンプルとペアワイズ様式で比較することによって、ノックインマウスおよびノックアウトマウスと同じ方法論を用いて分析した。Mx1-CreSrsf2+/+またはMx1-CreSrsf2P95H/+E7107処置マウスを、同じ方法論を使用して、それらのビヒクル処置対照物のアイソフォーム割合の中央値とペアワイズ様式で比較した。MLL-AF9 AML形質転換マウスについては、Srsf2P95Hおよび野生型遺伝子型内で個別に群ベースの比較を行うのに十分な反復実験があった(各遺伝子型と処置の組み合わせについてN=5)。E7107処置マウスとビヒクル処置マウスとを、各処置群内のアイソフォームリードの総数を用いて両側ウィルコクソン順位和検定で比較した。以下の基準を満たす場合、事象を差次的にスプライシングされたものとして分類した。(i)両方のサンプルで少なくとも20の関連リードを有した、(ii)絶対的アイソフォーム割合の中央値の変化が10%以上であった、(iii)P値が0.01未満であった。
【実施例1】
【0312】
スプライソソーム機構変異(SMM)を示す細胞の治療標的化
本発明者らは、疾患発症前にスプライシング忠実度を変えるための新しい手段を検討した。この目的のために、SMM白血病において優先的効果を示すスプライシングを標的とする手段として、以下のアプローチが特定された。
【0313】
タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ(PRMT)の阻害によるスプライシング忠実度の低下:
Smタンパク質のタンパク質アルギニンメチル化の阻害によってスプライソソーム集合を阻害することは、治療的スプライシング阻害の代替手段を提供することが報告されている[Koh,C.M.et al.,Nature(2015)523:96-100]。具体的には、PRMT5の遺伝子欠失または薬理学的阻害により、Smタンパク質の対称性ジメチル化、核内低分子リボ核タンパク質(snRNP)に必要なプロセスおよびスプライソソーム集合が減少した[Koh,C.M.et al.Nature(2015)、前掲]。これらの結果に基づいて、本発明者らは、アルギニンメチル化を阻害することによってスプライシング忠実度を低下させると、野生型対照物よりもSF変異白血病細胞が強力に優先的に死滅することを今回発見した。
【0314】
これらの研究は、Srsf2変異細胞は、PRMT5阻害剤(GSK591)および全PRMT I型阻害剤(MS-023)に対して感受性がより高いことを明らかにした(図1A図1E)。注目すべきことに、SF3B1阻害剤であるE7107を陽性対照と同じアッセイで使用した。同様の変異選択的効果が、GSK591およびMS-023のインビボ試験において見られた(図3)。注目すべきことに、それぞれアルギニンの非対称性および対称性ジメチル化を触媒するI型(PRMT1、PRMT4およびPRMT6)ならびにII型PRMT酵素(PRMT5およびPRMT9)の両方が、スプライソソームの成分をメチル化する。スプライシング、PRMTまたはLSD1の阻害剤に対する、SMM、またはPRMT5の部分的喪失を有するAML細胞を図2に示す。MLL-AF9 Srsf2WT/WT;MLL-AF9 Srsf2P95H/WTまたはMLL-AF9 Prmt 5+/-細胞を、示された化合物によって(化合物ごとに、5つの上昇させた濃度)384ウェル中で7日間処理した。7日目の生存率をMTSアッセイによって記録し、対照処理細胞(DMSOで同等に希釈)に対する比として報告した。実験は生物学的トリプリケートで実行し、それぞれ個々の実行をテクニカルトリプリケートで繰り返した。
【0315】
RBM39のプロテアソーム分解によるスプライシングの撹乱:
既知の抗がん特性を有するスルホンアミド薬物の部類が、それらの優勢な抗腫瘍作用機構としてスプライシングを阻害することが以前に発見された[Uehara,T.et al.,Nat Chem Biol(2017)13:675-680]。興味深いことに、これらの薬物は、細胞ユビキチンリガーゼ機構を利用して、重要なスプライソソームタンパク質であるRBM39のプロテオソーム分解を促進する。これらの観察に基づいて、本発明者らは、スルホンアミドがSMMを有する細胞に対して優先的効果を示すことを確認した(図4A図4D)。これには、RNAスプライシング因子に変異を有するまたは有さない同質遺伝子型細胞、ならびにRNAスプライシング因子に自然発生の変異を有するAML細胞に対するインジスラムの優先的効果を実証するデータが含まれる(図4A図4Dおよび図5A図5C)。これらの実験は、インジスラムおよびスルホンアミド類似体E7820の両方を使用して行った。
【0316】
インジスラムおよびスルホンアミド類似体E7820の効果を、最初に遺伝的に異なる18のAML細胞株のパネルにわたって試験した。スルホンアミド曝露時の細胞生存率の測定により、多くのAMLサブタイプにわたって強力な阻害活性による幅広い抗白血病効果が明らかにされ、ほとんどの細胞株がマイクロモル以下の感受性を示した。スプライシング因子の白血病関連変異に変異を有する白血病細胞は、スルホンアミドに対する感受性が最も高い細胞中にあることが見出された。さらに、スプライソソーム遺伝子変異を有しないいくつかのAML細胞株も、スルホンアミドに対する感受性を示した。相対的DCAF15 mRNA発現の評価により、DCAF15 mRNAの相対レベルの最高および最低が、E7820に対する応答の最高および最低とそれぞれ相関することが明らかになった。スプライソソーム遺伝子変異を有する白血病細胞に対するスルホンアミドの優先的効果は、E7820およびインジスラムへの曝露によって、内因性遺伝子座およびB細胞急性リンパ芽球性白血病(NALM-6細胞)からのSF3B1、SRSF2、およびU2AF1にホットスポット変異を発現するように操作された一連の同質遺伝子型AML株(K 562およびTF-1)においてさらに確認された。各例において、スプライソソーム変異細胞は、スルホンアミドの増殖阻害に対してスプライソソーム野生型細胞よりも優先的に感応した。同質遺伝子型細胞では、E7820への曝露は、白血病細胞株においてRBM39の同様の用量依存的分解をもたらした。
【0317】
スプライソソーム変異細胞に対するスルホンアミドの優先的効果の基礎を理解するために、スプライソソーム遺伝子変異のノックインを含む、または含まない同質遺伝子型AML細胞のパネルにわたるRBM39タンパク質レベルを評価した。これは、RBM39の分解が、スプライソソーム遺伝子変異の状態にかかわらず、細胞株にわたって同等の用量依存的様式で起こったことを示し(図5B)、残りの野生型スプライシング機能に対する依存性の増加が、スプライソソーム変異細胞のスルホンアミドに対する感受性の増加の基礎であり得ることを示唆した。スプライソソーム変異細胞がそれらの野生型対照物よりもスプライシングの変化に対して優先的に感応することを考慮して、1μMのE7820(親K562細胞に対するE7820のIC50を意味する。図5D)で処理した親K562ならびにSF3B1K700EおよびSRSF2P95H変異を発現する同質遺伝子株のRNA配列決定を行った。並行して、SF3B1の分岐点への結合を妨げることによってスプライシングを阻害する小分子である、E7107で処理した同じ細胞株からRNA-seqを実行した[Finci et al.、Genes&Dev.、(2018)、32:309~320]。E7820またはE7107のいずれかで、各薬物の親K562細胞に対するIC50で処理すると、スプライソソーム遺伝子変異状態にかかわらず、DMSO処理と比較してカセットエクソンンスキッピングおよびイントロン保持が増加した。しかしながら、興味深いことに、等効力の非毒性用量では、E7820は、この用量でのE7107と比較して、各細胞型内および各スプライシングカテゴリにわたってスプライシングをより大きく変化させた。さらに、SF3B1野生型対照物と比較して、E7820で処理したSF3B1K700E細胞では、各タイプのスプライシング内でより多くの差次的スプライシング事象が確認された。これらのデータは、野生型細胞と比較したSF3B1変異体に対するスルホンアミドの優先的効果の少なくとも1つの理由が、RBM39分解に対するSF3B1変異体細胞のスプライシング応答の違いであることを示唆している。
【0318】
本発明者らはまた、スルホンアミド曝露時の多数の差次的スプライシング事象が、アップレギュレーションされ、AML細胞の生存のために必要とされるRNA結合タンパク質(RBP)をコードするmRNAに関与することに気付いた。これらには、SUPT6H、hnRNPHおよびSRSF10が含まれ、E7820曝露は、スプライソソーム変異細胞で最も顕著なイントロン保持をもたらした。さらに、RBM39の分解によってまた、スプライソソーム変異AMLにおけるHOXA9標的遺伝子BMI-1およびMYBおよびいくつかのRBPの異常スプライシングが、WT型の対照物と比較して増強された(U2AF2およびRBM3における異常スプライシング事象を含む)。さらに、E7820に応答した差次的スプライシング事象の遺伝子セット濃縮分析により、MYCおよびPI3K-AKT-mTORシグナル伝達の標的、ならびに炎症に応答して関与するmRNAのダウンレギュレーションも明らかにされ、これらはすべてAMLの病因または進行において重要であることが知られている。したがって、RBM39の遺伝的分解および薬理学的分解の両方が、白血病誘発性に必要なスプライシングならびに他の経路を破壊する。全体として、これらのデータは、スプライソソーム遺伝子変異の存在ならびにDCAF15発現が、AMLにおけるRBM39分解に対する応答の重要な予測因子として役立ち得ることを示唆している。
【実施例2】
【0319】
AML/MDS診断前のSMM細胞の治療標的化
上記の治療アプローチの各々は、明白なMDS、AMLおよび関連する骨髄性悪性腫瘍の状況で評価されており、SMMを保有する細胞に対する優先的効果を実証している。本発明者らは、前白血病期およびARCHの前臨床モデルならびにインビトロおよびインビボにおける、スプライス阻害剤、例えばPRMT阻害剤およびスルホンアミドの、SMMを保有するpreL-HSPCに対する効果を試験している。
【0320】
SMMを有する前AMLに対するスプライソソーム調節化合物のインビトロ有効性:
スプライソソーム調節化合物に対するpreL-HSPCの応答性を判定するために、本発明者らは、SMMを保有するCD34preL-HSPCをMS5細胞と共培養している。試験される薬物には、臨床グレードのSF3b調節化合物(H3B-8800)、II型PRMT阻害剤(GSK3326595)、I型PRMT阻害剤(MS-023)、スルホンアミド化合物(E7820)、またはビヒクル対照治療薬が含まれる。ウェル(6ウェルプレート)あたり10,000のpreL-HSPCを72時間培養した後、薬物をさらに72時間添加する。曝露後の細胞は、FACS分析に供し、SMMの対立遺伝子量ならびにスプライシングおよび遺伝子発現についてRNA-seqで分析する。これらのインビトロ試験により、様々な治療下での細胞の死および生存の機構をよりよく理解すること、および異なる薬物の組み合わせを試験することが可能になる。
【0321】
SMMを有する前AMLに対するスプライソソーム調節化合物のインビボ有効性の研究:
生着後にSMMを保有する骨髄細胞およびリンパ系細胞の両方を生着させる(多系統異種移植)ことができるサンプルを、多系統異種移植が可能な、寛解期にあるAML患者からの自己移植バッグと共にこれらの研究で使用する。SMMを調節するあらゆる処置がpreL-HSPCを選択的に標的化しているかどうかを試験するために、処置群および未処置対照群において全ヒト生着を測定する。さらに、マウスから抽出されたヒト細胞におけるSMMのVAFを、処置マウス対非処置マウスにおいて測定する。CD34細胞(10,000~50,000)を、5匹の処置マウスおよび5匹の未処置マウスに大腿骨内(IF)注射する。注射後35日目に、マウスを以下の化合物、すなわちH3B-8800、GSK3326595、MS-023、E7820、またはビヒクル対照で処置する。細胞注射後56日目に、マウスを絶命させる。他の対照実験には、ヒト臍帯血由来および再発性前白血病性変異を有しない高齢者由来のCD34細胞を使用した同じ実験が含まれる。preL-HSPCの標的化が完全白血病の治療よりも有利であるという証拠を提供するために、本発明者らはまた、SMMを有するすべてのAMLサンプルをNSGマウスおよびSGM3マウスに注射し、白血病生着(CD33)を同定している。白血病生着サンプルが同定された後、それらを注射し、上記でpreL-HSPCのために提案されたように、治療対ビヒクルで再び分析する。
【0322】
本発明をその特定の実施形態と併せて説明してきたが、多くの代替形態、修正形態および変形形態が当業者には明らかであることは明白である。したがって、添付の特許請求の範囲の精神および広範囲に含まれるすべてのそのような代替形態、修正形態および変形形態を包含することが意図されている。
【0323】
本明細書で言及されるすべての刊行物、特許および特許出願は、あたかも各個々の刊行物、特許または特許出願が参照により本明細書に組み込まれることが具体的かつ個別に示されているのと同程度に、その全体が本明細書に組み込まれる。さらに、本出願における任意の参考文献の引用または特定は、そのような参考文献が本発明の先行技術として利用可能であることの承認として解釈されるべきではない。セクションの見出しが使用される場合において、それらは必ずしも限定的であると解釈されるべきではない。
【0324】
さらに、本出願のあらゆる優先権書類は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
図1A
図1B-1C】
図1D
図1E
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図5A
図5B
図5C
図5D
【配列表】
2022512773000001.app
【国際調査報告】