(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-07
(54)【発明の名称】Tiおよび/またはSiでマイクロ合金されたバナジウム窒化アルミニウム(VAIN)
(51)【国際特許分類】
C23C 14/06 20060101AFI20220131BHJP
C23C 14/14 20060101ALI20220131BHJP
C23C 14/58 20060101ALI20220131BHJP
C22C 21/00 20060101ALI20220131BHJP
C22F 1/04 20060101ALI20220131BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20220131BHJP
【FI】
C23C14/06 A
C23C14/14 B
C23C14/58 A
C22C21/00 N
C22F1/04 Z
C22F1/00 613
C22F1/00 627
C22F1/00 631B
C22F1/00 630C
C22F1/00 630D
C22F1/00 630G
C22F1/00 650A
C22F1/00 682
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021522464
(86)(22)【出願日】2019-10-28
(85)【翻訳文提出日】2021-06-17
(86)【国際出願番号】 EP2019079411
(87)【国際公開番号】W WO2020084167
(87)【国際公開日】2020-04-30
(32)【優先日】2018-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】598051691
【氏名又は名称】エリコン・サーフェス・ソリューションズ・アクチェンゲゼルシャフト,プフェフィコーン
【氏名又は名称原語表記】OERLIKON SURFACE SOLUTIONS AG, PFAEFFIKON
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヤラマンチリ,シバ・ファニ・クマール
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029AA02
4K029BA03
4K029BA17
4K029BA35
4K029BA58
4K029BB02
4K029BB07
4K029BC02
4K029BD05
4K029CA04
4K029CA06
4K029DA08
4K029DC04
4K029DD06
4K029EA01
4K029EA08
4K029GA01
(57)【要約】
本発明は、気相成長プロセスによって製造可能な、要素Al、VおよびNを含むマイクロ合金を備える高温安定セラミック被覆構造を開示する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気相成長プロセスによって製造可能な、要素Al、VおよびNを含むマイクロ合金を備える、高温安定セラミック被覆構造。
【請求項2】
前記被覆構造は準安定被覆構造として形成され、前記準安定被覆構造は、特に立方相でウルツ鉱相形状の、少なくとも900℃を超える温度で多層形状である、請求項1に記載の被覆構造。
【請求項3】
前記被覆構造は、900℃を超えると硬度が増加し、および/または耐摩耗性が増加し、前記硬度の増加および/または前記耐摩耗性は、好ましくは前記被覆構造の相変態に関連し、特に前記被覆構造の前記相変態に基づく、請求項1または2に記載の被覆構造。
【請求項4】
前記被覆構造は、50時間を超える、好ましくは75時間を超える、特に100時間を超えるより長い露光時間の間、900℃より高い温度で安定する、前記請求項のいずれか1項に記載の被覆構造。
【請求項5】
前記被覆構造は、10μmより小さい、好ましくは1μmより小さい、特に500nmより小さい層厚さを有する、前記請求項のいずれか1項に記載の被覆構造。
【請求項6】
前記被覆構造は、薄膜形状またはバルク形態である、前記請求項のいずれか1項に記載の被覆構造。
【請求項7】
前記被覆構造は、多層構造として形成される、前記請求項のいずれか1項に記載の被覆構造。
【請求項8】
前記マイクロ合金は、Nに加えてAlおよびVのみを、好ましくはAlのVに対する比率がAl
65V
35で含む、前記請求項のいずれか1項に記載の被覆構造。
【請求項9】
前記マイクロ合金は、Al、VおよびNに加えて、さらに他の要素、好ましくはTiおよび/またはSiを、各場合に特に5at.-%より小さな量で含む、前記請求項のいずれか1項に記載の被覆構造。
【請求項10】
前記マイクロ合金は、Al、VおよびN、TiおよびSiを含み、前記マイクロ合金は好ましくは、Al
64V
33Ti
2Si
1Nとして形成される、前記請求項のいずれか1項に記載の被覆構造。
【請求項12】
前記被覆構造はさらに、窒化物に加えて、酸化物および/または炭化物を備える、前記請求項のいずれか1項に記載の被覆構造。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載の高温安定セラミック被覆構造を製造するための気相成長プロセスであって、
前記要素AlおよびVを含む対象材料を蒸着させるステップと、
蒸着させた前記対象材料を好適な基板に堆積して、前記高温安定セラミック被覆構造を形成するステップとを備える、気相成長プロセス。
【請求項14】
異なる対象材料を用い、前記異なる対象材料は好ましくは同時に蒸発される、請求項13に記載の気相成長プロセス。
【請求項15】
前記対象材料のうち1つはAlおよびVを、好ましくはAl
65V
35の比率で含む、請求項14に記載の気相成長プロセス。
【請求項16】
前記対象材料のうち1つは、TiおよびSiを、好ましくはTi
75Si
25の比率で含む、請求項14または15に記載の気相成長プロセス。
【請求項17】
Co含有基板が用いられ、前記基板は特にWC-Coとして形成される、請求項13~16のいずれか1項に記載の気相成長プロセス。
【請求項18】
前記基板の温度は200℃~500℃、好ましくは300℃~450℃、特に400℃である、請求項13~17のいずれか1項に記載の気相成長プロセス。
【請求項19】
反応被覆ガスが用いられ、好ましくは前記反応被覆ガスとして窒素が用いられる、請求項13~18のいずれか1項に記載の気相成長プロセス。
【請求項20】
負のバイアス電圧が前記被覆プロセス中に前記基板に印加され、前記バイアス電圧は、120Vより小さい、好ましくは90Vより小さい、より好ましくは75Vより小さい、請求項13~19のいずれか1項に記載の気相成長プロセス。
【請求項21】
前記被覆プロセスは、PVD被覆プロセスとして、好ましくはスパッタリングプロセスとして、特にHiPIMSまたはARC PVDプロセスとして形成される、請求項13~20のいずれか1項に記載の気相成長プロセス。
【請求項22】
請求項1~12のいずれか1項に記載の前記被覆構造の複数の層が互いに堆積されて、多層構造を形成する、請求項13~21のいずれか1項に記載の気相成長プロセス。
【請求項23】
特に自動車産業および/または航空宇宙産業で用いられる、切削工具および成形工具の製造のための、請求項1~12のいずれか1項に記載の前記被覆構造の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、800℃を超える高温での用途向けに、PVDプロセスおよび/または関連プロセスで被覆された、遷移金属-Al-Nを少なくとも備える耐摩耗被覆合金に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術
準安定c-TM-Al-NからなるPVD被覆が、耐摩耗用途に関してよく知られている(注記:「c」は立方を意味し、「TM」は遷移金属を意味し、「Al」はアルミニウムを意味し、「N」は窒素を意味する)。
【0003】
これらの被覆は、硬度、耐破壊性、および耐酸化性の最適な組合せを示す。その結果、数ミクロンの薄い被覆を設けるだけで、自動車産業および航空宇宙産業における切削、成形、ならびに他の関連用途での工具および部品の寿命の大幅な延長につながる。
【0004】
しかしながら、準安定相からなるこれらの公知の被覆は、これらの被覆に関して最高と思われる適用温度を示す(後で
図1に示すような)アニール温度の関数として硬度で計測された、限られた熱安定性を示す。
【0005】
この主題に関する複数の研究は、c-TM-Al-Nの準安定合金が800℃~900℃の中間のアニール温度で硬度向上を示し得ることを明らかにしている。
【0006】
主要な課題は、
図1にも示すように、以下の反応によって、準安定合金がそれぞれの基底状態に分解して、その結果硬度の損失が生じる、900℃を超えるアニール温度において見られる。
【0007】
この分解は、以下のように示すことができる。
準安定c-TM-Al-N----->c-TMN+w-AlN (1)
ここで、TMはたとえば、Ti、Cr、Nb、Vでもよい。
【0008】
結果として生じるw-AlNは、300GPaという低い弾性率と、25GPaという低い硬度とを有する。
【0009】
相変態によって生じる上述の硬度の低下は、これらの被覆の適用温度を、最大で100時間の長い露光時間の場合は800℃の最高温度に制限し、最大で1時間の短い露光時間の場合は900℃の最高温度に制限する。
【0010】
900℃を超える高いアニール温度および100時間を超える長時間の露光を伴う用途の場合、そのような用途はたとえば、溶銑作業またはタービン先端密封剤用途の場合があり、安定した硬度が900℃のアニール温度を超える温度で維持される、必要な優れた合金が必要とされる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的
本発明の目的は、従来技術に関する1つ以上の問題を軽減または克服することである。特に、本発明の目的は、高温で安定し、かつ、容易で費用効率が高い方法で製造可能な、硬質で、耐破壊性および耐酸化性を有する被覆構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の説明
我々は、異なる合金の組合わせを調査し、驚くことに、TiおよびSiとマイクロ合金されたAlVN合金が、高温用途に関してそれらの合金をより魅力的にする硬度異常を示すことを発見した。
【0013】
したがって、本発明の第1の態様では、気相成長プロセスによって製造可能な、要素Al、VおよびNを含むマイクロ合金を備える高温安定セラミック被覆構造が開示される。
【0014】
本発明の文脈における高温安定被覆構造という用語は、特に、最高で少なくとも800℃の温度まで長期間にわたって安定した構造、すなわち、硬度を著しく損失することなく、800℃を超える温度で最大で100時間使用可能な構造であると理解される。
【0015】
第1の態様の他の例では、被覆構造は準安定被覆構造として形成され、準安定被覆構造は、特に立方相でウルツ鉱相形状の、少なくとも900℃を超える温度で多層形状である。
【0016】
第1の態様の他の例では、被覆構造は、900℃を超えると硬度が増加し、および/または耐摩耗性が増加し、硬度の増加および/または耐摩耗性は、好ましくは被覆構造の相変態に関連し、特に被覆構造の相変態に基づく。
【0017】
第1の態様の他の例では、被覆構造は、50時間を超える、好ましくは75時間を超える、特に100時間を超えるより長い露光時間の間、900℃より高い温度で安定する。この文脈での安定は特に、相安定ではなく材料安定を意味する。
【0018】
第1の態様の他の例では、被覆構造は、10μmより小さい、好ましくは1μmより小さい、特に500nmより小さい層厚さを有する。
【0019】
第1の態様の他の例では、被覆構造は、薄膜形状またはバルク形態である。
第1の態様の他の例では、被覆構造は多層構造として形成される。
【0020】
第1の態様の他の例では、マイクロ合金は、Nに加えてAlおよびVのみを、好ましくはAlのVに対する比率がAl65V35で含む。
【0021】
第1の態様の他の例では、マイクロ合金は、Al、VおよびNに加えて、さらに他の要素、好ましくはTiおよび/またはSiを、各場合に特に5at.-%より小さな量で含む。これらの可能なさらに他の要素に加えて、本発明に係る被覆構造はまた、他の要素、好ましくは遷移金属、特にZrおよび/またはNbおよび/またはTaを備え得る。
【0022】
第1の態様の他の例では、本マイクロ合金は、Al、VおよびN、TiおよびSiを含み、本マイクロ合金は好ましくは、Al64V33Ti2Si1Nとして形成される。
【0023】
第1の態様の他の例では、被覆構造はさらに、窒化物に加えて、酸化物および/または炭化物を備える。本発明の第1の態様によると、被覆構造はまた、ケイ化物および/またはホウ化物を備え得る。
【0024】
第2の態様では、前述の高温安定セラミック被覆構造を製造するための気相成長プロセスが開示され、気相成長プロセスは、
要素AlおよびVを含む対象材料を蒸着させるステップと、
蒸着させた対象材料を好適な基板に堆積して、高温安定セラミック被覆構造を形成するステップとを備える。
【0025】
本発明の第2の態様によると、基板は、少なくとも部分的に金属化合物として形成可能である。
【0026】
第2の態様の他の例では、異なる対象材料が用いられ、異なる対象材料は、好ましくは同時に蒸着される。
【0027】
第2の態様の他の例では、対象材料のうち1つはAlおよびVを、好ましくはAl65V35の比率で含む。
【0028】
第2の態様の他の例では、対象材料のうち1つは、TiおよびSiを、好ましくはTi75Si25の比率で含む。
【0029】
第2の態様の他の例では、Co含有基板が用いられ、この基板は特にWC-Coとして形成される。
【0030】
第2の態様の他の例では、基板温度は200℃~500℃、好ましくは300℃~450℃、特に400℃である。
【0031】
第2の態様の他の例では、反応被覆ガスが用いられ、好ましくは反応被覆ガスとして窒素が用いられる。本発明の第2の態様によると、窒素に加えて、アルゴンまたはメタンなどの他のガスを、反応被覆ガスとして使用可能である。
【0032】
第2の態様の他の例では、負のバイアス電圧が被覆プロセス中に基板に印加され、バイアス電圧は120Vより小さい、好ましくは90Vより小さい、より好ましくは75Vより小さい。
【0033】
第2の態様の他の例では、被覆プロセスは、PVD被覆プロセスとして、好ましくはスパッタリングプロセスとして、特にHiPIMSまたはARC PVDプロセスとして形成される。
【0034】
第2の態様の他の例では、前述の被覆構造の複数の層が互いに堆積されて、多層構造を形成する。
【0035】
第3の態様では、特に自動車産業および/または航空宇宙産業で用いられる切削工具および成形工具を製造するための、前述の被覆構造の使用が開示される。
【0036】
本発明は、例に基づき図面を参照して、以下で詳細に説明される。
詳細な説明
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】TiNおよび異なるTM-Al-Nのアニール温度の関数として硬度の変化を示す図である。
【
図2】(a)は本発明の被覆を合成するために用いられる組合わせ堆積チャンバを示す図であり、(b)は本発明の被覆の組成を示す図であり、(c)は本発明の被覆の金属副格子組成を示す図である。
【
図3】(a)は本発明のc-AlVTiSiNのアニール温度の関数として硬度の変化を示す図であり、(b)はアニール温度の関数としてc-AlVTiSiNのX線ディフラクトグラムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
図1は、TiNおよび異なるTM-Al-Nのアニール温度の関数として硬度の変化を示す図である。
図1に示すように、Ti-Al-NおよびCr-Al-NおよびNb-Al-NなどのTM-Al-Nのほとんどは、
図1に示すように900℃を超えるアニール温度で硬度低下を示す。これとは対照的に、本発明のミクロ合金AlVNは、後で
図3に示すように、900℃を超えるアニール温度の関数として硬度の向上を示す。このような硬度の性質は、再現可能であった。
【0039】
提案される合金は、特に900℃を超えるアニール温度で高いH/E比によって耐摩耗性が増加することがあり、本発明の組成は、高温構造用途にとって興味深い場合がある。
【0040】
図2(a)は、本発明の被覆を合成するために用いられる組合わせ堆積チャンバを示し、
図2(b)は本発明の被覆の組成を示し、
図2(c)は本発明の被覆の金属副格子組成を示す。第1の実施形態によると、本発明の合金は、WC-Co基板上で、
図2に示すようなAl
65V
35およびTi
75Si
25からなる異なる化学性質を有する対象との組合わせアプローチで合成される。堆積の詳細について、以下で説明する。
【0041】
図2の位置2からの被覆は、特許請求される硬度の性質を示している。被覆の組成は、
図2bおよび
図2cに示される。
【0042】
図2の位置2からの本発明の被覆ならびに標準的なc-Al
66Ti
34N被覆およびc-Ti
75Si
25N被覆に対して、60分の浸漬時間で、800℃、900℃、1000℃、および1100℃の温度で10
-5Paのバックグラウンド圧力の電熱炉内で行われる真空アニール実験が行われる。
【0043】
膜の硬度はナノインデンテーションを用いて計測されており、構造進化は、異なるアニール温度の関数としてXRDを用いてマッピングされている。
【0044】
図3(a)は、本発明のc-Al
64V
33Ti
2Si
1N合金についての、ならびにc-Al
66Ti
34Nおよびc-Ti
75Si
25Nについてのアニール温度の関数として硬度の変化を示す図である。
【0045】
なお、標準的なc-Al66Ti34N被覆およびc-Ti75Si25N被覆は、1000℃を超えるアニール温度で硬度低下を示す。これに対して、本発明のc-Al64V33Ti2Si1N被覆の場合、硬度は、異常であり公知でない性質である、アニール温度の関数として増加する。
【0046】
図3(b)は、真空アニールの関数として、本実施形態に係る本発明のc-Al
64V
33Ti
2Si
1Nの構造の変化を示す図である。XRDは、900℃のアニール温度を超える温度でウルツ鉱AlN相の変化を示す。合金が以下の反応を経ることが示されている。
【0047】
c-Al64V33Ti2Si1N--->c-TiVSiN+w-AlN (2)
公知のTM-Al-N合金の場合、w-AlN相の析出によって、硬度が低下する。しかしながら驚くことに、本発明の被覆の場合、w-AlNの析出にもかかわらず硬度は増加している。
【0048】
被覆は、工業規模で、5Paの圧力、400℃の基板温度、および70Vのバイアス電圧の窒素雰囲気中で、陰極アークを用いたOerlikon Innovaマシン上で成長させた。アーク放電中、Mag14の磁場と200Aのアーク電流が、27Vの燃焼電圧を生じた。
【0049】
この例では、本発明の被覆は組合わせアーク堆積によって成長すると示されたが、同じ組成を有する被覆を、薄膜およびバルク形態として、アークプロセス、スパッタリングプロセスおよび他の関連プロセスにおいて本発明の組成を有する対象を用いることによって、成長させることができた。
【国際調査報告】