(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-07
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂のキー中間体の調製方法
(51)【国際特許分類】
C07D 303/08 20060101AFI20220131BHJP
B01J 31/34 20060101ALI20220131BHJP
C07D 301/03 20060101ALI20220131BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20220131BHJP
【FI】
C07D303/08
B01J31/34 Z
C07D301/03
C07B61/00 300
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021523035
(86)(22)【出願日】2019-08-19
(85)【翻訳文提出日】2021-04-30
(86)【国際出願番号】 CN2019101296
(87)【国際公開番号】W WO2020082863
(87)【国際公開日】2020-04-30
(31)【優先権主張番号】201811233504.2
(32)【優先日】2018-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520394447
【氏名又は名称】江蘇揚農化工集団有限公司
【氏名又は名称原語表記】JIANGSU YANGNONG CHEMICAL GROUP CO.,LTD.
(71)【出願人】
【識別番号】521170475
【氏名又は名称】江蘇瑞祥化工有限公司
【氏名又は名称原語表記】JIANGSU RUIXIANG CHEMICAL CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】No.2,Dalian Road,Yizheng,Chemical Industry Park,Yangzhou,Jiangsu 225000(CN)
(71)【出願人】
【識別番号】521170486
【氏名又は名称】江蘇瑞恒新材料科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】JIANGSU RUIHENG NEW MATERIALTECHNOLOGY CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】Room 316,Building 2,Small And Medium-sized Enterprise Park,Jiangsu Avenue,Xuwei New District,Lianyungang,Jiangsu 222002(CN)
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】特許業務法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】孫 誠
(72)【発明者】
【氏名】徐 林
(72)【発明者】
【氏名】丁 克鴻
(72)【発明者】
【氏名】王 怡明
(72)【発明者】
【氏名】黄 傑軍
(72)【発明者】
【氏名】李 明
(72)【発明者】
【氏名】馬 慶炎
(72)【発明者】
【氏名】呂 麗
【テーマコード(参考)】
4C048
4G169
4H039
【Fターム(参考)】
4C048AA01
4C048BB04
4C048BC01
4C048CC01
4C048UU03
4C048XX02
4G169AA02
4G169BA21A
4G169BA21B
4G169BB07A
4G169BB07B
4G169BC60A
4G169BC60B
4G169BD07A
4G169BD07B
4G169BE01A
4G169BE17A
4G169BE17B
4G169CB07
4G169CB73
4G169DA05
4H039CA42
4H039CC40
(57)【要約】
【要約】
エポキシ樹脂のキー中間体の調製方法であって、前記調製方法は、3-クロロプロペン、ヘテロポリ酸触媒及び含窒素複素環化合物をオートクレーブに入れ、撹拌しながら60℃~65℃に昇温し、系圧が0.2MPa~0.24MPaであり、さらに前記オートクレーブ内に過酸化水素を等速で注入し、反応させた後、エポキシ樹脂のキー中間体が得られる。この方法によれば、反応中のジクロロプロパノールの生成が抑制されるとともに、エピクロロヒドリンの加水分解の確率も減少し、反応選択性を99.5%まで向上させることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3-クロロプロペン、ヘテロポリ酸触媒及び含窒素複素環化合物をオートクレーブに入れ、撹拌しながら60℃~65℃に昇温し、系圧が0.2MPa~0.24MPaであり、さらに前記オートクレーブ内に過酸化水素を注入し、反応させた後、エポキシ樹脂のキー中間体が得られる、ことを特徴とするエポキシ樹脂のキー中間体の調製方法。
【請求項2】
3-クロロプロペン、ヘテロポリ酸触媒及び含窒素複素環化合物をオートクレーブに入れ、撹拌しながら60℃~65℃に昇温し、系圧が0.2MPa~0.24MPaであり、さらに前記オートクレーブ内に過酸化水素を等速で注入し、過酸化水素の滴下時間を1時間とし、過酸化水素の添加完了後に1時間保温する、ことを特徴とする請求項1に記載のエポキシ樹脂のキー中間体の調製方法。
【請求項3】
前記ヘテロポリ酸触媒の構造は[(C
nH
2n+1)N(CH
3)
3]
3PW
4O
16であり、ここでn=1~18である、ことを特徴とする請求項1又は2に記載のエポキシ樹脂のキー中間体の調製方法。
【請求項4】
前記含窒素複素環化合物はピリジン、ピロール、ピペリジン、イミダゾール、ピラゾール又はピリミジンである、ことを特徴とする請求項1又は2に記載のエポキシ樹脂のキー中間体の調製方法。
【請求項5】
前記含窒素複素環化合物の重量は前記ヘテロポリ酸触媒の重量の0.1%~10%である、ことを特徴とする請求項1又は2に記載のエポキシ樹脂のキー中間体の調製方法。
【請求項6】
前記含窒素複素環化合物の重量は前記ヘテロポリ酸触媒の重量の0.5%~6%である、ことを特徴とする請求項5に記載のエポキシ樹脂のキー中間体の調製方法。
【請求項7】
前記含窒素複素環化合物の重量は前記ヘテロポリ酸触媒の重量の0.5%~2%である、ことを特徴とする請求項6に記載のエポキシ樹脂のキー中間体の調製方法。
【請求項8】
前記3-クロロプロペンと前記過酸化水素とのモル比は1~6:1である、ことを特徴とする請求項1又は2に記載のエポキシ樹脂のキー中間体の調製方法。
【請求項9】
前記3-クロロプロペンと前記過酸化水素とのモル比は1~4:1である、ことを特徴とする請求項8に記載のエポキシ樹脂のキー中間体の調製方法。
【請求項10】
前記ヘテロポリ酸触媒の重量は前記3-クロロプロペンの重量の0.1%~10%である、ことを特徴とする請求項1又は2に記載のエポキシ樹脂のキー中間体の調製方法。
【請求項11】
前記ヘテロポリ酸触媒の重量は前記3-クロロプロペンの重量の2%~8%である、ことを特徴とする請求項10に記載のエポキシ樹脂のキー中間体の調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機化学の分野に属し、具体的には、エポキシ樹脂のキー中間体の調製方法に関し、より具体的には、エピクロロヒドリンの合成工程における塩素化副反応を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エピクロロヒドリンは、主にエポキシ樹脂の生産に使用される重要な石油化学製品であり、エポキシ樹脂のキー中間体である。現在、エピクロロヒドリンの生産工程は、主にクロロヒドリン法とグリセロール法の2つがある。国内のエピクロロヒドリンの70%は、クロロヒドリン法によるものであり、その最大の欠点は50トン/トンのエピクロロヒドリンの塩分含有廃水が発生し、環境汚染が深刻であることである。現在、国内の新規生産能力はすべてグリセロール法によるものであるが、当該工程はグリセロールの供給に制限されており、生産能力を増やし続けることが難しく、日々増加する需要を満たすことができない。
【0003】
これに鑑み、研究者は過酸化水素法に注目するようになった。グリーンケミストリーの観点から、過酸化水素は、より環境に優しく、よりクリーンな酸素源である。ヘテロポリ酸を触媒とする反応系は、その特殊な反応相転移特性、すなわち反応中に溶解し、反応終了後に析出し、触媒が回収しやすく安定性に優れることから、工業的応用が期待されている。
【0004】
しかしヘテロポリ酸触媒の強酸性により、反応過程でクロロプロペン、エピクロロヒドリン、3-クロロ-1,2-プロパンジオールなどの塩素化副反応が促進され、最終的にはジクロロプロパノールが生成し、これにより反応の選択性が低下する。同時に、ジクロロプロパノールは沸点が高く、最終的には精留残渣中に存在し、残渣の処理量を増加させる。
【0005】
クロロプロペンのエポキシ化反応におけるジクロロプロパノールの生成が反応に与える影響に着目した既存の文献資料は少なく、中国特許CN201410740410.Xには副生成物としてジクロロプロパノールが生成され、その後の精留によりエピクロロヒドリンとジクロロプロパノールとを分離することが言及されているが、反応中にジクロロプロパノールの生成を抑制する方法について言及されておらず、ジクロロプロパノールの生成問題を発生源から解決することはできない。
【0006】
したがって、上記の問題を解決するために、エポキシ樹脂のキー中間体の改良された調製方法を提供する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の主な目的は、エポキシ樹脂のキー中間体の合成工程における塩素化副反応を抑制し、それにより反応選択性をさらに向上させることが可能なエポキシ樹脂のキー中間体の調製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るエポキシ樹脂のキー中間体の調製方法は、
3-クロロプロペン、ヘテロポリ酸触媒及び特定の含窒素複素環化合物をオートクレーブ(1Lステンレス鋼)に入れ、撹拌しながら60℃~65℃に昇温し、系圧が0.2MPa~0.24Mpaであり、さらにオートクレーブ内に過酸化水素を注入し、反応させた後、エポキシ樹脂のキー中間体が得られることである。
【0009】
本発明の方法は、クロロプロペンのエポキシ化反応中に生成されるジクロロプロパノールの量を制御することができる。当該技術案の原理は、特定の含窒素複素環化合物を加圧反応系に添加することにより、一方で系の酸度及びアルカリ度を調整し、他方で含窒素複素環化合物が触媒と錯体を形成することで、加圧反応中のクロロプロペンが脱塩素化又は脱塩化水素化し、さらにエピクロロヒドリン又は3-クロロ-1,2-プロパンジオールと塩素化反応してジクロロプロパノールを合成してしまう確率を低減することである。脂肪族アミンなどの他の錯化剤を選択すると、形成される錯体の結合力が強すぎ、反応結果に影響を及ぼす。
【0010】
より好ましくは、エポキシ樹脂のキー中間体の調製方法は、
3-クロロプロペン、ヘテロポリ酸触媒及び特定の含窒素複素環化合物をオートクレーブ(1Lステンレス鋼)に入れ、撹拌しながら60℃~65℃に昇温し、系圧が0.2MPa~0.24Mpaであり、さらにオートクレーブ内に(蠕動ポンプ、計量ポンプを用いて)過酸化水素を等速で注入し、過酸化水素の滴下時間を1hとし、保温時間を1hとすることである。
【0011】
反応終了後、触媒を分離し、反応液を分液漏斗に注いで成層化し、サンプリングして分析したところ、油層中のジクロロプロパノールの含有量は0.5%から0.05%以下に低下し、反応選択性は99.5%に達した。
【0012】
本技術案では、前記含窒素複素環化合物は、ピリジン、ピロール、ピペリジン、イミダゾール、ピラゾール、ピリミジンなどであり、その添加量は、ヘテロポリ酸触媒の重量の0.1wt%~10wt%であり、好ましくは0.5wt%~6wt%であり、最も好ましくは0.5wt%~2wt%である。
【0013】
前記ヘテロポリ酸触媒の構造は[(CnH2n+1)N(CH3)3]3PW4O16であり、ここでn=1~18である。当該ヘテロポリ酸触媒は市販のものでも自家製のものでもよく、合成方法は以下のとおりである。n=16を例にすると、99.5%のNa2WO43.32g(10mmol)と脱イオン水20mLをビーカー100mlに添加し、Na2WO4をすべて溶解させた後、その中に36%~38%の濃HCl1.97g(20mmol)を添加し、直ちに淡黄色の沈殿物を生じさせ、その後27.5%のH2O28.65g(70mmol)を添加し、淡黄色の沈殿物が速やかに消失して淡黄色の溶液となり、さらにその中に85%のH3P040.288g(2.5mmol)を添加した。得られた溶液を三口フラスコに移し、さらに室温で20min撹拌した後、7.5mmolの[C16H33(CH3)3]NClを含むC2H4Cl2溶液(60mL)を激しく撹拌しながら滴下した。滴下完了後、1h撹拌を続けた。触媒を遠心分離し、洗浄液pH=5になるまで触媒を脱イオン水で洗浄し、最後に赤外線ランプで乾燥させて触媒を得た。前記3-クロロプロペンと過酸化水素とのモル比は、1~6:1であってもよく、好ましくは1~4:1であり、ヘテロポリ酸触媒の重量は3-クロロプロペンの重量の0.1~10%であり、好ましくは2~8%である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の方法は3-クロロプロペンとヘテロポリ酸触媒を用いてエピクロロヒドリンを合成する際に、特定の含窒素複素環化合物の添加により、加圧反応系の酸度及びアルカリ度が調整され、一方でジクロロプロパノールの生成が抑制されるとともに、エピクロロヒドリンの加水分解の確率も減少し、反応選択性を99.5%まで向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
なお、本願における実施例及び実施例における特徴は、衝突することなく相互に組み合わせることができる。以下、実施例と併せて本発明を詳細に説明する。
【0016】
以下、具体的な実施例を参照して本願をさらに詳細に説明するが、これらの実施例は、本願の特許請求の範囲を限定するものと理解されるべきではない。
【0017】
実施例1
3-クロロプロペン307.5g、[(C16H33)N(CH3)3]3PW4O1620g及びピリジン0.3gを1Lオートクレーブに投入し、撹拌しながら65℃に昇温し、系圧が0.24MPaであり、計量ポンプによりオートクレーブに50%の過酸化水素68gを添加し、過酸化水素の添加時間を1hとし、過酸化水素の添加完了後、1h保温反応させた。終了後、材料を注ぎ出して成層化し、油層中のジクロロプロパノールの含有量が0.02%であり、エピクロロヒドリンの選択性が99.6%であった。
【0018】
実施例2(比較例で、実施例1と比較してピリジンを添加しなかった。)
3-クロロプロペン307.5g、[(C16H33)N(CH3)3]3PW4O1620gを1Lオートクレーブに投入し、撹拌しながら63℃に昇温し、系圧が0.22MPaであり、計量ポンプによりオートクレーブに50%の過酸化水素68gを添加し、過酸化水素の添加時間を1hとし、過酸化水素の添加完了後、1h保温反応させた。終了後、材料を注ぎ出して成層化し、油層中のジクロロプロパノールの含有量が0.52%であり、エピクロロヒドリンの選択性が97.8%であった。
【0019】
実施例3(比較例で、実施例1と比較してピリジンを添加することを、脂肪族アミンであるn-ブチルアミンを添加することに変更した。)
3-クロロプロペン307.5g、[(C16H33)N(CH3)3]3PW4O1620g及びn-ブチルアミン0.3gを1Lオートクレーブに投入し、撹拌しながら65℃に昇温し、系圧が0.24MPaであり、計量ポンプによりオートクレーブに50%の過酸化水素68gを添加し、過酸化水素の添加時間を1hとし、過酸化水素の添加完了後、1h保温反応させた。終了後、材料を注ぎ出して成層化し、油層中のジクロロプロパノールの含有量が0.59%であり、エピクロロヒドリンの選択性が97.62%であった。
【0020】
実施例4
3-クロロプロペン280g、[(C4H9)N(CH3)3]3PW4O1618g及びピロール2gを1Lオートクレーブに投入し、撹拌しながら62℃に昇温し、系圧が0.22MPaであり、計量ポンプによりオートクレーブに50%の過酸化水素68gを添加し、過酸化水素の添加時間を1hとし、過酸化水素の添加完了後、1h保温反応させた。終了後、材料を注ぎ出して成層化し、油層中のジクロロプロパノールの含有量が0.04%であり、エピクロロヒドリンの選択性が99.51%であった。
【0021】
実施例5
3-クロロプロペン320g、[(C18H37)N(CH3)3]3PW4O1615g及びピペリジン0.12gを1Lオートクレーブに投入し、撹拌しながら62℃に昇温し、系圧が0.21MPaであり、計量ポンプによりオートクレーブに50%の過酸化水素68gを添加し、過酸化水素の添加時間を1hとし、過酸化水素の添加完了後、1h保温反応させた。終了後、材料を注ぎ出して成層化し、油層中のジクロロプロパノールの含有量が0.06%であり、エピクロロヒドリンの選択性が99.49%であった。
【0022】
実施例6
3-クロロプロペン292g、[(C12H25)N(CH3)3]3PW4O1615g及びピラゾール0.1gを1Lオートクレーブに投入し、撹拌しながら61℃に昇温し、系圧が0.21MPaであり、計量ポンプによりオートクレーブに50%の過酸化水素68gを添加し、過酸化水素の添加時間を1hとし、過酸化水素の添加完了後、1h保温反応させた。終了後、材料を注ぎ出して成層化し、油層中のジクロロプロパノールの含有量が0.045%であり、エピクロロヒドリンの選択性が99.56%であった。
【0023】
実施例7
3-クロロプロペン300g、[(C18H37)N(CH3)3]3PW4O1618g及びピリミジン0.4gを1Lのオートクレーブに投入し、撹拌しながら65℃に昇温し、系圧が0.24MPaであり、計量ポンプによりオートクレーブに50%の過酸化水素68gを添加し、過酸化水素の添加時間を1hとし、過酸化水素の添加完了後、1h保温反応させた。終了後、材料を注ぎ出して成層化し、油層中のジクロロプロパノールの含有量が0.024%であり、エピクロロヒドリンの選択性が99.61%であった。
【0024】
実施例8~13(実施例1と同様の実験方法を採用する。)
【表1】
【0025】
上記に記載されたものは、本発明の好ましい実施例にすぎず、本発明を限定することを意図するものではなく、当業者にとって、本発明に対して様々な修正及び変形を行うことができる。本発明の精神及び原理の範囲内でなされたいかなる修正、等価な置換、改良なども、本発明の保護範囲に含まれるものとする。
【国際調査報告】