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特表2022-512863脳損傷を治療するための組成物及び方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-07
(54)【発明の名称】脳損傷を治療するための組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20220131BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220131BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20220131BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20220131BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220131BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220131BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220131BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20220131BHJP
   A61K 51/10 20060101ALI20220131BHJP
   A61K 49/00 20060101ALI20220131BHJP
   A61K 49/04 20060101ALI20220131BHJP
   A61K 49/16 20060101ALI20220131BHJP
   A61K 49/22 20060101ALI20220131BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20220131BHJP
   A61K 47/55 20170101ALI20220131BHJP
   C07K 16/18 20060101ALN20220131BHJP
   C07K 16/46 20060101ALN20220131BHJP
   C07K 16/42 20060101ALN20220131BHJP
   C07K 16/28 20060101ALN20220131BHJP
   C12N 15/113 20100101ALN20220131BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P25/00
A61P31/00
A61P9/10
A61P43/00 121
A61K39/395 U
A61K39/395 D
A61K48/00
A61K31/7088
A61K51/10 200
A61K49/00
A61K49/04
A61K49/16
A61K49/22
A61K47/68
A61K47/55
C07K16/18 ZNA
C07K16/46
C07K16/42
C07K16/28
C12N15/113 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021523487
(86)(22)【出願日】2019-11-01
(85)【翻訳文提出日】2021-06-24
(86)【国際出願番号】 US2019059446
(87)【国際公開番号】W WO2020092937
(87)【国際公開日】2020-05-07
(31)【優先権主張番号】62/754,750
(32)【優先日】2018-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516008350
【氏名又は名称】アネクソン,インコーポレーテッド
(71)【出願人】
【識別番号】506115514
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア
【氏名又は名称原語表記】The Regents of the University of California
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ロシ,スザンナ
(72)【発明者】
【氏名】クルコウスキ,カレン
(72)【発明者】
【氏名】イェドノック,テッド
(72)【発明者】
【氏名】サンカラナラヤナン,セテュ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C085
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076CC01
4C076CC11
4C076CC31
4C076CC41
4C076EE59
4C084AA13
4C084AA17
4C084AA19
4C084AA20
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA011
4C084ZA361
4C084ZB212
4C084ZB311
4C084ZC412
4C084ZC751
4C085AA13
4C085AA14
4C085AA15
4C085AA16
4C085BB11
4C085BB31
4C085BB41
4C085BB43
4C085CC23
4C085EE01
4C085EE03
4C085GG01
4C085GG02
4C085GG03
4C085GG04
4C085GG06
4C085GG10
4C085HH03
4C085HH05
4C085HH07
4C085HH09
4C085HH11
4C085KA04
4C085KA05
4C085KA27
4C085KA28
4C085KA29
4C085KB55
4C085KB56
4C085KB57
4C085KB82
4C085KB92
4C085LL01
4C085LL13
4C086AA01
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA01
4C086ZA36
4C086ZB31
4C086ZC75
4H045AA11
4H045BA10
4H045DA76
4H045EA21
4H045EA28
(57)【要約】
本開示は、脳損傷、好ましくは外傷性脳損傷、低酸素性脳損傷、脳の感染症、又は脳卒中を治療する方法であって、補体経路の阻害剤を対象者に投与するステップを含む方法と一般的に関連する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
古典的補体経路の阻害剤を対象者に投与するステップを含む、脳損傷を治療する方法。
【請求項2】
前記阻害剤が、脳損傷後、最初の4週間の期間中又はそれ以内で投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記阻害剤が、脳損傷後、最初の1週間の期間中又はそれ以内で投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記阻害剤が、脳損傷後、24時間の期間中又はそれ以内で投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記阻害剤が、脳損傷後、1、2、3、4、5、又は6時間の期間中又はそれ以内で投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記阻害剤が、前記脳損傷により誘発されたシナプス喪失を阻害することによる、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記脳損傷が、外傷性脳損傷、低酸素性脳損傷、脳の感染症、又は脳卒中である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記古典的補体経路の阻害剤が、C1q阻害剤である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記C1q阻害剤が、抗体、アプタマー、アンチセンス核酸、又は遺伝子編集剤である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記抗体が、抗C1q抗体である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記抗C1q抗体が、C1qと自己抗体の間、又はC1qとC1rの間、又はC1qとC1sの間の相互作用を阻害する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記抗C1q抗体が、循環又は組織からのC1qの排除を促進する、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記抗体が、100nM~0.005nMの範囲、又は0.005nM未満の解離定数(KD)を有する抗C1q抗体である、請求項10~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記抗体が、20:1~1.0:1の範囲、又は1.0:1未満の結合化学量論でC1qと結合する抗C1q抗体である、請求項10~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記抗体が、6:1~1.0:1の範囲、又は1.0:1未満の結合化学量論でC1qと結合する抗C1q抗体である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記抗体が、2.5:1~1.0:1の範囲、又は1.0:1未満の結合化学量論でC1qと結合する抗C1q抗体である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記抗体が、C1qに特異的に結合し、その生物学的活性を中和する、請求項9~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記生物学的活性が、(1)自己抗体へのC1q結合、(2)C1rへのC1q結合、(3)C1sへのC1q結合、(4)IgMへのC1q結合、(5)ホスファチジルセリンへのC1q結合、(6)ペントラキシン3へのC1q結合、(7)C反応性タンパク質(CRP)へのC1q結合、(8)球状C1q受容体(gC1qR)へのC1q結合、(9)補体受容体1(CR1)へのC1q結合、(10)βアミロイドへのC1q結合、(11)カルレティキュリンへのC1q結合、(12)アポトーシス細胞へのC1q結合、又は(13)B細胞へのC1q結合である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記生物学的活性が、(1)古典的補体活性化経路の活性化、(2)抗体及び補体依存性細胞傷害の活性化、(3)CH50溶血、(4)シナプス喪失、(5)B細胞抗体産生、(6)樹状細胞成熟、(7)T細胞増殖、(8)サイトカイン産生、(9)ミクログリア活性化、(10)免疫複合体形成、(11)シナプス若しくは神経終末の食作用、(12)補体受容体3(CR3/C3)発現細胞の活性化、又は(13)神経炎症である、請求項17又は18に記載の方法。
【請求項20】
CH50溶血が、ヒト、マウス、ラット、イヌ、アカゲザル、及び/又はカニクイザルのCH50溶血を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記抗体が、CH50溶血の少なくとも約50%~少なくとも約90%を中和することができる、請求項19又は20に記載の方法。
【請求項22】
前記抗体が、150ng/ml未満、100ng/ml未満、50ng/ml未満、又は20ng/ml未満の用量で、CH50溶血の少なくとも50%を中和することができる、請求項19~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記抗体が、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、組換え抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、多重特異性抗体、又はその抗体断片である、請求項9~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記抗体が、抗体断片であり、前記抗体断片が、Fab断片、Fab'断片、F(ab')2断片、Fv断片、ダイアボディ、又は単鎖抗体分子である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記抗体が、標識基に結合している、請求項9~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記標識基が、光学標識、放射性同位元素、放射性核種、酵素基、ビオチニル基、核酸、オリゴヌクレオチド、酵素、又は蛍光標識である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記抗体が、配列番号5のアミノ酸配列を有するHVR-L1、配列番号6のアミノ酸を有するHVR-L2、及び配列番号7のアミノ酸を有するHVR-L3を含む軽鎖可変ドメインを含む、請求項9~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記抗体が、配列番号9のアミノ酸配列を有するHVR-H1、配列番号10のアミノ酸を有するHVR-H2、及び配列番号11のアミノ酸を有するHVR-H3を含む重鎖可変ドメインを含む、請求項9~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記抗体が、配列番号4及び35~38から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも約95%の相同性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインを含み、前記軽鎖可変ドメインが、配列番号5のアミノ酸配列を有するHVR-L1、配列番号6のアミノ酸を有するHVR-L2、及び配列番号7のアミノ酸を有するHVR-L3を含む、請求項9~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記軽鎖可変ドメインが、配列番号4及び35~38から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記抗体が、配列番号8及び31~34から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも約95%の相同性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインを含み、前記重鎖可変ドメインが、配列番号9のアミノ酸配列を有するHVR-H1、配列番号10のアミノ酸を有するHVR-H2、及び配列番号11のアミノ酸を有するHVR-H3を含む、請求項9~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記重鎖可変ドメインが、配列番号8及び31~34から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記古典的補体経路の阻害剤がC1r阻害剤である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記C1r阻害剤が、抗体、アプタマー、アンチセンス核酸、又は遺伝子編集剤である、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記抗体が抗C1r抗体である、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記抗C1r抗体が、C1rとC1qの間若しくはC1rとC1sの間の相互作用を阻害し、又は前記抗C1r抗体がC1rの触媒活性を阻害し、若しくはプロC1rから活性型プロテアーゼへのプロセシングを阻害する、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記抗体が、100nM~0.005nMの範囲又は0.005nM未満の解離定数(KD)を有する抗C1r抗体である、請求項35又は36に記載の方法。
【請求項38】
前記抗体が、20:1~1.0:1の範囲又は1.0:1未満の結合化学量論でC1rと結合する抗C1r抗体である、請求項35~37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記抗体が、6:1~1.0:1の範囲又は1.0:1未満の結合化学量論でC1rと結合する抗C1r抗体である、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記抗体が、2.5:1~1.0:1の範囲又は1.0:1未満の結合化学量論でC1rと結合する抗C1r抗体である、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記抗C1r抗体が、循環又は組織からのC1rの排除を促進する、請求項35~40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
前記古典的補体経路の阻害剤がC1s阻害剤である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
前記C1s阻害剤が、抗体、アプタマー、アンチセンス核酸、又は遺伝子編集剤である、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記抗体が抗C1s抗体である、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記抗C1s抗体が、C1sとC1qの間、又はC1sとC1rの間、又はC1sとC2若しくはC4の間の相互作用を阻害し、或いは前記抗C1s抗体が、C1sの触媒活性を阻害し、又はプロC1sから活性型プロテアーゼへのプロセシングを阻害し、又はC1sの活性化した形態と結合する、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記抗体が、100nM~0.005nMの範囲又は0.005nM未満の解離定数(KD)を有する抗C1s抗体である、請求項44又は45に記載の方法。
【請求項47】
前記抗体が、20:1~1.0:1の範囲又は1.0:1未満の結合化学量論でC1sと結合する抗C1s抗体である、請求項44~46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
前記抗体が、6:1~1.0:1の範囲又は1.0:1未満の結合化学量論でC1sと結合する抗C1s抗体である、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
前記抗体が、2.5:1~1.0:1の範囲又は1.0:1未満の結合化学量論でC1sと結合する抗C1s抗体である、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記抗C1s抗体が、循環又は組織からのC1sの排除を促進する、請求項44~49のいずれか一項に記載の方法。
【請求項51】
前記古典的補体経路の阻害剤が抗C1複合体抗体であり、任意選択的に、前記抗C1複合体抗体がC1r若しくはC1sの活性化を阻害し、又はC2若しくはC4に作用するその能力を阻止する、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項52】
前記抗C1複合体抗体が、C1複合体内のコンビナトリアルエピトープと結合し、前記コンビナトリアルエピトープが、C1q及びC1sの両方、C1q及びC1rの両方、C1r及びC1sの両方、又はC1q、C1r、及びC1sのそれぞれのアミノ酸を含む、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記抗体が、C4の切断を阻害し、C2の切断を阻害しない、請求項9~52のいずれか一項に記載の方法。
【請求項54】
前記抗体が、C2の切断を阻害し、C4の切断を阻害しない、請求項9~52のいずれか一項に記載の方法。
【請求項55】
前記抗体が、哺乳類のC1q、C1r、又はC1sと結合する、請求項9~54のいずれか一項に記載の方法。
【請求項56】
前記抗体が、ヒトC1q、C1r、又はC1sと結合する、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
前記抗体が、哺乳類のC1複合体と結合する、請求項9~54のいずれか一項に記載の方法。
【請求項58】
前記抗体が、第1の抗原及び第2の抗原を認識する二重特異性抗体である、請求項9~57のいずれか一項に記載の方法。
【請求項59】
第2の抗原が、トランスフェリン受容体(TR)、インスリン受容体(HIR)、インスリン様増殖因子受容体(IGFR)、低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質1及び2(LPR-1及び2)、ジフテリア毒素受容体、CRM197、ラマ単一ドメイン抗体、TMEM30(A)、タンパク質形質導入ドメイン、TAT、Syn-B、ペネトラチン、ポリアルギニンペプチド、アンジオペップペプチド、又はANG1005である、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
前記抗体が、古典的補体活性化経路を、少なくとも30%~少なくとも99.9%の範囲の量で阻害する、請求項9~59のいずれか一項に記載の方法。
【請求項61】
前記抗体が、C1q結合により開始される代替的補体活性化経路を阻害する、請求項9~60のいずれか一項に記載の方法。
【請求項62】
前記抗体が、代替的補体活性化経路を、少なくとも30%~少なくとも99.9%の範囲の量で阻害する、請求項9~61のいずれか一項に記載の方法。
【請求項63】
抗C1q抗体、抗C1r抗体、及び抗C1s抗体から選択される第2の抗体を投与することをさらに含む、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項64】
治療有効量の代替的補体活性化経路の阻害剤を前記対象者に投与することをさらに含む、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項65】
対象者の脳損傷を発症するリスクを決定する方法であって、
(a)抗C1q抗体、抗C1r抗体、又は抗C1s抗体を前記対象者に投与するステップであって、前記抗C1q、抗C1r、又は抗C1sが、検出可能な標識と結合している、ステップ
(b)検出可能な標識を検出して、前記対象者内のC1q、C1r、又はC1sの量又は位置を測定するステップ、及び
(c)C1q、C1r、又はC1sのうちの1つ以上の量又は位置を参照と比較するステップであって、前記脳損傷を発症するリスクが、C1q、C1r、又はC1sのうちの1つ以上の量又は位置を参照と比較することに基づき特徴付けられる、ステップ
を含む、方法。
【請求項66】
前記検出可能な標識が、核酸、オリゴヌクレオチド、酵素、放射性同位元素、ビオチン、又は蛍光標識を含む、請求項65に記載の方法。
【請求項67】
前記検出可能な標識が、X線、CT、MRI、超音波、PET及びSPECTのための造影剤を使用して検出される、請求項65~66のいずれか一項に記載の方法。
【請求項68】
前記蛍光標識が、フルオレセイン、ローダミン、シアニン染料又はBODIPYから選択される、請求項65~67のいずれか一項に記載の方法。
【請求項69】
前記脳損傷が、外傷性脳損傷、低酸素性脳損傷、脳の感染症、又は脳卒中である、請求項65~68のいずれか一項に記載の方法。
【請求項70】
前記抗C1q抗体が、配列番号5のアミノ酸配列を有するHVR-L1、配列番号6のアミノ酸を有するHVR-L2、及び配列番号7のアミノ酸を有するHVR-L3を含む軽鎖可変ドメインを含む、請求項65~69のいずれか一項に記載の方法。
【請求項71】
前記抗C1q抗体が、配列番号9のアミノ酸配列を有するHVR-H1、配列番号10のアミノ酸を有するHVR-H2、及び配列番号11のアミノ酸を有するHVR-H3を含む重鎖可変ドメインを含む、請求項65~70のいずれか一項に記載の方法。
【請求項72】
前記抗C1q抗体が、配列番号4及び35~38から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも約95%の相同性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインを含み、前記軽鎖可変ドメインが、配列番号5のアミノ酸配列を有するHVR-L1、配列番号6のアミノ酸を有するHVR-L2、及び配列番号7のアミノ酸を有するHVR-L3を含む、請求項65~71のいずれか一項に記載の方法。
【請求項73】
前記軽鎖可変ドメインが、配列番号4及び35~38から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項72に記載の方法。
【請求項74】
前記抗C1q抗体が、配列番号8及び31~34から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも約95%の相同性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインを含み、前記重鎖可変ドメインが、配列番号9のアミノ酸配列を有するHVR-H1、配列番号10のアミノ酸を有するHVR-H2、及び配列番号11のアミノ酸を有するHVR-H3を含む、請求項65~73のいずれか一項に記載の方法。
【請求項75】
前記重鎖可変ドメインが、配列番号8及び31~34から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項74に記載の方法。
【請求項76】
請求項9~61のいずれか一項に記載の抗体、及び前記抗体を使用して脳損傷を治療又は予防するための説明書を含む添付文書を含むキット。
【請求項77】
前記脳損傷が、外傷性脳損傷、低酸素性脳損傷、脳の感染症、又は脳卒中である、請求項76に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、脳損傷を治療するための組成物及び方法に関する。
【0002】
関連出願
本特許出願は、2018年11月2日に出願の米国仮特許出願第62/754,750号の優先権を主張し、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0003】
配列リスト
本出願は、ASCIIフォーマットで電子的に提出され、及びその全体が参照により本明細書に組み込まれる配列リストを含有する。2019年10月24日作成の前記ASCIIコピーは、ANH-02325_SL.txtと命名され、またそのサイズは34,436バイトである。
【0004】
権利事項の記載
本発明は、国立衛生研究所により授与された認可番号AG056770に基づき、政府支援を得てなされた。政府は、本発明において所定の権利を有する。
【背景技術】
【0005】
外傷性脳損傷(TBI)は、欧米社会の若年成人における死亡及び能力障害の第一の原因であり、また米国軍人は、毎年20,000例を超えるTBIを抱えている。TBI罹病率の増加及び機能的回復の低下の両方が高齢化集団において認められることから、TBIは高齢化コミュニティーにとって特別な懸念とされる。それに加えて、TBIは、アルツハイマー病及びその他の神経変性障害の発症に対する最強の環境的リスク因子である。中程度~重度のTBIを患う大部分の患者は、人格変化、認知障害、及び精神病罹患率の増加を含む、慢性的且つ衰弱性の神経心理学的後遺症を有する。残念ながら、TBIに対する治療選択肢は現在のところ限定されており、また医学的支援及びリハビリテーションから主に構成される。明らかに、短期及び長期の両方において、認知転帰及び行動転帰を改善する薬物を含む、TBIの治療に対してより良好な療法上のオプションが必要である。
【発明の概要】
【0006】
本開示は一般に、外傷性脳損傷(TBI)を予防し、その発症リスクを低下させ、又はそれを治療する方法であって、補体経路、好ましくは古典的補体経路の阻害剤を対象者に投与することを含む、方法に関する。
【0007】
本開示は一般に、古典的補体活性化を阻害することにより、例えば補体因子Clq、Clr、又はClsを、例えば抗体(これらの補体因子のうちの1つ以上に結合する)、例えばモノクロナール抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、抗体断片等の投与を通じて阻害することにより、脳損傷、好ましくは外傷性脳損傷、低酸素性脳損傷、脳の感染症、又は脳卒中を予防し、その発症リスクを低下させ、又はそれを治療する方法に関する。
【0008】
複数の実施形態では、補体因子、例えばC1q、C1r、又はC1s等の活性は、古典的補体経路の活性化をブロックし、脳損傷、好ましくは外傷性脳損傷、低酸素性脳損傷、脳の感染症、又は脳卒中を低速化させ若しくは予防するために阻害される。古典的補体経路を阻害しても、レクチン及び代替的補体経路はそのまま残り、その正常な免疫機能を司る。脳損傷、好ましくは外傷性脳損傷、低酸素性脳損傷、脳の感染症、又は脳卒中において、補体因子、例えばC1q、C1r、又はC1s等を中和することと関連する方法が、本明細書に開示される。
【0009】
1つの態様では、本開示は、脳損傷、例えば外傷性脳損傷、低酸素性脳損傷、脳の感染症、又は脳卒中等を治療する方法であって、古典的補体経路の阻害剤を対象者に投与するステップを含む方法を提供する。
【0010】
本明細書に記載される本発明の態様のいずれかに適用され得る非常に多くの実施形態が、更に提供される。例えば、いくつかの実施形態では、阻害剤は、脳損傷後の最初の4週間の期間中又はそれ以内、脳損傷後の最初の1週間の期間中又はそれ以内、脳損傷後の24時間の期間中又はそれ以内、又は脳損傷後の1、2、3、4、5、若しくは6時間の期間中又はそれ以内で投与される。いくつかの実施形態では、阻害剤は、脳損傷により誘発されたシナプス喪失を阻害する。
【0011】
特定の好ましい実施形態では、古典的補体経路の阻害剤は、C1q阻害剤、例えば抗体、アプタマー、アンチセンス核酸、又は遺伝子編集剤である。いくつかのそのような実施形態では、抗体は抗C1q抗体である。いくつかのそのような実施形態では、抗C1q抗体は、C1qと自己抗体の間、又はC1qとC1rの間、又はC1qとC1sの間の相互作用を阻害する。特定の実施形態では、抗C1q抗体は、循環又は組織からのC1qの排除を促進する。抗体は、100nM~0.005nMの範囲又は0.005nM未満の解離定数(KD)を有する抗C1q抗体であり得る。抗体は、20:1~1.0:1の範囲若しくは1.0:1未満、6:1~1.0:1の範囲若しくは1.0:1未満、又は2.5:1~1.0:1の範囲若しくは1.0:1未満の結合化学量論でC1qと結合する抗C1q抗体であり得る。いくつかの実施形態では、抗体は、C1qに特異的に結合し、(1)自己抗体へのC1q結合、(2)C1rへのC1q結合、(3)C1sへのC1q結合、(4)IgMへのC1q結合、(5)ホスファチジルセリンへのC1q結合、(6)ペントラキシン3へのC1q結合、(7)C反応性タンパク質(CRP)へのC1q結合するC1q、(8)球状C1q受容体(gC1qR)へのC1q結合、(9)補体受容体1(CR1)へのC1q結合、(10)βアミロイドへのC1q結合、(11)カルレティキュリンへのC1q結合、(12)アポトーシス細胞へのC1q結合、又は(13)B細胞へのC1q結合等のC1qの生物学的活性を中和する。生物学的活性の別の例は、(1)古典的補体活性化経路の活性化、(2)抗体及び補体依存性細胞傷害の活性化、(3)CH50溶血、(4)シナプス喪失、(5)B細胞抗体産生、(6)樹状細胞成熟、(7)T細胞増殖、(8)サイトカイン産生、(9)ミクログリア活性化、(10)免疫複合体形成、(11)シナプス又は神経終末の食作用、(12)補体受容体3(CR3/C3)発現細胞の活性化、又は(13)神経炎症である。いくつかの実施形態では、CH50溶血は、ヒト、マウス、ラット、イヌ、アカゲザル、及び/又はカニクイザルCH50溶血を含む。いくつかの実施形態では、抗体は、150ng/ml未満、100ng/ml未満、50ng/ml未満、又は20ng/ml未満の用量で、CH50溶血の少なくとも約50%~少なくとも約90%を中和し、又は少なくともCH50溶血の50%を中和することが可能である。
【0012】
抗体は、モノクロナール抗体、ポリクロナール抗体、組換え抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、多重特異性抗体、又はその抗体断片、例えばFab断片、Fab'断片、F(ab')2断片、Fv断片、ダイアボディ、又は単鎖抗体分子等であり得る。抗体は、標識基、例えば光学標識、放射性同位体、放射性核種、酵素基、ビオチニル基、核酸、オリゴヌクレオチド、酵素、又は蛍光標識等とカップリングし得る。
【0013】
特定の好ましい実施形態では、抗体は、配列番号5のアミノ酸配列を有するHVR-L1、配列番号6のアミノ酸を有するHVR-L2、及び配列番号7のアミノ酸を有するHVR-L3を含む軽鎖可変ドメインを含む。その他の好ましい実施形態では、抗体は、配列番号4及び35~38から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも約95%の相同性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインを含み、該軽鎖可変ドメインは、配列番号5のアミノ酸配列を有するHVR-L1、配列番号6のアミノ酸を有するHVR-L2、及び配列番号7のアミノ酸を有するHVR-L3を含む。いくつかのそのような実施形態では、軽鎖可変ドメインは、配列番号4及び35~38から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0014】
同様に、特定の好ましい実施形態では、抗体は、配列番号9のアミノ酸配列を有するHVR-H1、配列番号10のアミノ酸を有するHVR-H2、及び配列番号11のアミノ酸を有するHVR-H3を含む重鎖可変ドメインを含む。その他の好ましい実施形態では、抗体は、配列番号8及び31~34から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも約95%の相同性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインを含み、該重鎖可変ドメインは、配列番号9のアミノ酸配列を有するHVR-H1、配列番号10のアミノ酸を有するHVR-H2、及び配列番号11のアミノ酸を有するHVR-H3を含む。いくつかのそのような実施形態では、重鎖可変ドメインは、配列番号8及び31~34から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0015】
その他の実施形態では、古典的補体経路の阻害剤はC1r阻害剤である。C1r阻害剤は、抗体、アプタマー、アンチセンス核酸、又は遺伝子編集剤であり得る。抗体は、例えばC1rとC1qの間若しくはC1rとC1sの間の相互作用を阻害する抗C1r抗体であり得るが、又は該抗C1r抗体はC1rの触媒活性を阻害し、若しくはプロC1rから活性型プロテアーゼへのプロセシングを阻害する。抗体は、100nM~0.005nMの範囲又は0.005nM未満の解離定数(KD)を有する抗C1r抗体であり得る。抗体は、20:1~1.0:1の範囲若しくは1.0:1未満、6:1~1.0:1の範囲若しくは1.0:1未満、又は2.5:1~1.0:1の範囲若しくは1.0:1未満の結合化学量論でC1rと結合する抗C1r抗体であり得る。いくつかの実施形態では、抗C1r抗体は、循環又は組織からのC1rの排除を促進する。
【0016】
その他の実施形態では、古典的補体経路の阻害剤はC1s阻害剤である。C1s阻害剤は、抗体、アプタマー、アンチセンス核酸、又は遺伝子編集剤であり得る。抗体は、例えばC1sとC1qの間、又はC1sとC1rの間、又はC1sとC2若しくはC4の間の相互作用を阻害する抗C1s抗体であり得るが、或いは該抗C1s抗体は、C1sの触媒活性を阻害し、又はプロC1sから活性型プロテアーゼへのプロセシングを阻害し、又はC1sの活性化した形態と結合する。いくつかの実施形態では、抗体は、100nM~0.005nMの範囲又は0.005nM未満の解離定数(KD)を有する抗C1s抗体である。いくつかの実施形態では、抗体は、20:1~1.0:1の範囲若しくは1.0:1未満、6:1~1.0:1の範囲若しくは1.0:1未満、又は2.5:1~1.0:1の範囲若しくは1.0:1未満の結合化学量論でC1sと結合する抗C1s抗体である。いくつかの実施形態では、抗C1s抗体は、循環又は組織からのC1sの排除を促進する。
【0017】
その他の実施形態では、古典的補体経路の阻害剤は抗C1複合体抗体であり、任意選択的に、該抗C1複合体抗体は、C1r若しくはC1s活性化を阻害し、又はC2若しくはC4に作用するその能力を妨害する。いくつかの実施形態では、抗C1複合体抗体は、C1複合体内のコンビナトリアルエピトープと結合し、前記コンビナトリアルエピトープは、C1qとC1sの両方;C1qとC1rの両方;C1rとC1sの両方;又はC1q、C1r、及びC1sのそれぞれのアミノ酸を含む。
【0018】
いくつかの実施形態では、抗体はC4の切断を阻害するがC2の切断を阻害しない、又はC2の切断を阻害するがC4の切断を阻害しない。
【0019】
いくつかの実施形態では、抗体は、哺乳動物のC1q、C1r、又はC1s、好ましくはヒトC1q、C1r、又はC1sと結合する。いくつかの実施形態では、抗体は哺乳動物のC1複合体と結合する。
【0020】
いくつかの実施形態では、抗体は、第1の抗原及び第2の抗原を認識する二重特異性抗体である。第2の抗原は、トランスフェリン受容体(TR)、インスリン受容体(HIR)、インスリン様増殖因子受容体(IGFR)、低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質1及び2(LPR-1及び2)、ジフテリア毒素受容体、CRM197、ラマ単一ドメイン抗体、TMEM30(A)、タンパク質形質導入ドメイン、TAT、Syn-B、ペネトラチン、ポリアルギニンペプチド、アンジオペップ(angiopep)ペプチド、又はANG1005であり得る。
【0021】
いくつかの実施形態では、抗体は、少なくとも30%~少なくとも99.9%の範囲の量だけ古典的補体活性化経路を阻害する。いくつかの実施形態では、抗体は、C1qの結合により開始される代替的補体活性化経路を、例えば少なくとも30%~少なくとも99.9%の範囲の量だけ阻害する。
【0022】
いくつかの実施形態では、方法は、抗C1q抗体、抗C1r抗体、及び抗C1s抗体から選択される第2抗体を投与するステップを更に含む。いくつかの実施形態では、方法は、治療有効量の代替的補体活性化経路の阻害剤を対象者に投与するステップを更に含む。
【0023】
別の態様では、脳損傷を発症する対象者のリスクを決定する方法であって、(a)抗C1q、抗C1r、又は抗C1s抗体を対象者に投与するステップであり、抗C1q、抗C1r、又は抗C1sが検出可能な標識とカップリングしているステップ; (b)検出可能な標識を検出して、対象者内のC1q、C1r、又はC1sの量又は場所を測定するステップ;及び(c)C1q、C1r、又はC1sのうちの1つ以上の量又は場所を参照と比較するステップを含み、脳損傷を発症する前記リスクが、C1q、C1r、又はC1sのうちの1つ以上の量又は場所を参照と比較することに基づき特徴付けられる方法が提供される。検出可能な標識は、核酸、オリゴヌクレオチド、酵素、放射性同位体、ビオチン、又は蛍光標識を含み得る。検出可能な標識は、X線、CT、MRI、超音波、PET、及びSPECT用の造影剤を使用して検出され得る。例えば、蛍光標識は、フルオレセイン、ローダミン、シアニン色素、又はBODIPYから選択され得る。脳損傷は、外傷性脳損傷、低酸素性脳損傷、脳の感染症、又は脳卒中であり得る。任意の適する抗C1q、抗C1r、又は抗C1s抗体、例えば本明細書においてより詳細に記載される任意の抗体等が使用され得る。
【0024】
別の態様では、キットは、本明細書に記載される抗体、及び抗体を使用して、脳損傷、例えば外傷性脳損傷、低酸素性脳損傷、脳の感染症、又は脳卒中等を治療又は予防するためのインストラクションを含む添付文書を含む。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1A-1C】高齢動物における挫傷後の病変及びキャビテーションサイズを示す図である。図1A図1Bは、受傷動物の脳のMR画像を示す。図1Cは、損傷後1日目においてピークに達し、1カ月までプラトーに至った病変サイズを示す。図1Dは、キャビテーションサイズの増加を経時的に示す。
図1D図1A-1Cの続きである。
図2A】損傷後にBBBの完全性が損なわれたことを示す図である。図2Aは、血管漏出を通じて造影剤の蓄積が増加したことを示す。図2Bは、BBBの破綻を示す。
図2B図2Aの続きである。
図3A】挫傷後に、ミクログリア数及び食細胞活性が慢性的に増加したことを示す図である。図3Aは、高齢動物の海馬におけるCD11b遺伝子発現変化をqPCR分析により測定したことを示し、模擬、損傷後7日、及び30日の間で発現レベルを比較している。ミクログリア及びマクロファージに対するマーカーであるCD11bは、損傷後有意に増加する。図3Bは、ミクログリア数の有意な増加が、10dpi及び30dpiの両方で、模擬動物と比較して高齢受傷動物において明白であったことを示す。図3Cは、30dpiに、高齢受傷動物において、標識されたシナプスを貪食したミクログリアの割合(%)が有意に増加したことを対応する模擬対照と比較して示す。一元ANOVAより、有意差(F=21.12; p<0.0001)が明らかとなった。Tukey事後検定より群間の差異が明らかとなった。n=4~6/群。
図3B-3C】図3Aの続きである。
図4A-4B】挫傷が高齢の脳内で強固な補体開始を誘発することを示す図である。図4A及び図4Bは、高齢動物の海馬内のC1q及びC3遺伝子発現変化を、模擬、損傷後7日、14日、及び30日の間で発現レベルを比較しながら、qPCR分析によりそれぞれ測定したことを示す。C1q及びC3発現レベルのいずれも、損傷後増加した。一元ANOVAより、有意差が明らかになった(C1q-F=15.89; p<0.0001; C3- F=50.58; p<0.0001)。Tukey-事後検定より群間の差異が明らかになった。n=4~6/群。図4Cは、C1qタンパク質の発現を、背側海馬内で免疫組織化学染色により測定したことを示す。模擬及びTBI (30dpi)動物から得られた代表的な画像の挿入図。C1qタンパク質発現は、損傷後慢性的に増加する。セカンダリー単独において反応性は認められなかった。倍率200×。n=4~6/群。図4Dは、海馬を収集したこと、及びショ糖勾配法とその後のサイズキャリブレーションビーズによりシナプトソームを単離したことを示す。シナプスにおけるC1q同時局在(抗体染色TBIにより測定(30dpi))は、模擬動物と比較して有意に増加した。スチューデントのt検定。n=6/群。バーは群平均値及びSEMを表す。
図4C-4D】図4A~4Bの続きである。
図5A-5B】挫傷性損傷は、高齢の脳内で慢性的なシナプス喪失を引き起こすことを示す図である。図5Aは、海馬を収集したこと、及びショ糖勾配法とその後のサイズキャリブレーションビーズ、次に前及び後シナプスマーカーの同時発現によりシナプトソームを単離したことを示す。前シナプスマーカーのシナプシン-1及び後シナプスマーカーのPSD-95は、模擬群と比較した場合、TBI (30dpi)群において総シナプトソーム数が有意に減少している。n=8~9/群。図5Bは、シナプスレベルを背側海馬内でPSD-95染色により測定したことを示す。代表的な画像の挿入図。高齢のTBI (30dpi)動物ではPSD-95発現が減少した。セカンダリー単独において反応性は認められなかった。倍率200×。n=3/群。スチューデントのt検定。バーは群平均値及びSEMを表す。
図6A-6B】補体封鎖は、挫傷後の高齢動物における記憶欠損を防止することを示す図である。外傷誘発型の記憶欠損を、新規オブジェクト認識により測定した。動物を2つの同一オブジェクトに曝露し、24時間後、動物を1つの熟知しているオブジェクト及び1つの新規オブジェクトに曝露する。記憶欠損は、新しい(新規)オブジェクトの識別における欠陥により計算する。図6Aは、オス及びメス動物の両方がTBI (30dpi)後、記憶欠損を示したことを表す。2元配置分散分析より、有意な損傷効果(p<0.05)が明らかとなった。オスn=15~17/群;メス6~7/群。図Bは、補体開始因子を遺伝的(C3-/-)又は薬理学的(C1q阻害Ab)により封鎖すれば、外傷誘発型の欠損が防止されることを示す。TBI (WT) =マウス27匹; TBI (C3-/-)=マウス4匹; TBI+ C1q Ab =マウス7匹。一元ANOVAより、有意差が明らかになった(F=6.35; p<0.01)。群間差に関するTukey-事後検定。
【発明を実施するための形態】
【0026】
概要
本開示は一般に、外傷性脳損傷(TBI)を予防し、その発症リスクを低下させ、又はそれを治療する方法であって、補体経路の阻害剤、好ましくは古典的補体経路の阻害剤を対象者に投与するステップを含む方法と関する。
【0027】
外傷性脳損傷(TBI)は、頭蓋骨内損傷としても公知であり、外力が脳を傷つける場合に生じる。TBIは、重症度、機構(閉鎖又は貫通頭部損傷)、又はその他の特性(例えば、特定の場所又は広く分布したエリアに生じる)に基づき分類され得る。頭部損傷は、その他の構造、例えば頭皮及び頭蓋骨等に対する損傷と関係し得るより広いカテゴリーである。TBIは、物理的、認知的、社会的、感情的、及び行動的な症状を引き起こすおそれがあり、また転帰は、完全回復~永続的能力障害又は死亡まで広がり得る。
【0028】
TBIの原因として、落下、自動車衝突、及び暴力が挙げられる。脳の外傷は、頭蓋内の突然の加速又は減速の結果として、又は運動及び突然の衝撃の両方の複雑な組合せにより生じる。損傷時に引き起こされた傷害に付加して、損傷後数分~数日内に生じた様々な事象が、二次損傷を引き起こす可能性がある。これらのプロセスには、大脳血流及び頭蓋骨内圧における変化が含まれる。診断で使用されるイメージング技術のうちの一部として、コンピュータ断層撮影法及び磁気共鳴画像法(MRI)が挙げられる。
【0029】
補体遺伝子を欠損させ、又は補体タンパク質を阻害すると、齧歯類モデルにおいて、TBI病理学又は行動的欠陥が減弱することが本明細書において見出された。従って、特定の実施形態では、C1q(古典的補体カスケード内の開始因子)をブロックすることにより補体活性化経路を阻害することで、TBIを予防し、及び/又はその発症リスクを低下させ、及び/又はTBIを治療する。十分なレベルでBBBを横断し、CNS内のC1qをブロックすることができる、C1qに対してきわめて特異的且つ強力な阻害性抗体が本明細書に開示される。齧歯類では、抗C1q抗体治療により、フリーレベルのC1qは、血清及びCSFにおいて完全に取り除かれる。同様に、霊長類では、血清及びCSF中のフリーのC1qレベルは、抗C1q抗体の単回投与後20日間で取り除かれる。この抗体は、ギラン・バレー症候群、視神経脊髄炎、アルツハイマー病、ハンチントン舞踏病、及び脊髄性筋萎縮症のモデルを含む、神経変性及び脱髄のいくつかのマウスモデルにおいて有効である。C1q発現は、TBI後の急性時点において上昇することが見出されており、またシナプスの喪失も測定される場合、亜急性時点において上昇したまま存続する。特定の実施形態では、補体カスケードの活性化は、ニューロン機能/行動的機能の喪失を引き起こすおそれがある。どのような特定の理論にも拘泥するものではないが、TBIにおいて、明細書で開示される抗C1q抗体は、急性補体活性化/神経傷害及び死亡をブロックし;並びに/又はTBI後の数日間~数週間にわたりCMNDの開始を阻止することにより作用し得る。
【0030】
高齢動物において、病変サイズ及びキャビテーションの経時的増加が認められ、それが損傷後最長1カ月まで遷延することを確認するのに、T2強調MRIを利用した。ガドリニウムベースの造影剤を注射した後にT1強調MRIを使用すると、血管漏出を通じて造影剤の蓄積が増加することから明らかなように、BBBの完全性が損なわれたことが特定された。損傷後1カ月において、病変サイズ、キャビテーション、及びBBB崩壊の長期継続的変化が認められたが、若年の受傷動物では存在しないことがこれまでに判明した。保護バリア機能が継続的に破綻すると、末梢免疫細胞が脳実質中に急激に進入することに寛容な環境が生み出され、遷延性の炎症性応答が測定されるおそれがある。
【0031】
高齢の脳内で損傷を生じさせた後、長時間経過したときに、炎症応答を本明細書において調査した。損傷後1カ月において、遷延性の有意なミクログリア細胞の活性化、及びミクログリア細胞が経時的に食細胞活性を発達させていることが認められる(30dpi)。損傷後、ミクログリア細胞の活性化が急速に生じるが、貪食活性の増強が、初期エンドポイント(損傷後10日間)においては観測されなかったことは興味深い。これらの結果は、骨髄コンパートメントの変化は損傷後長期間進行する可能性があり、また高齢動物は、損傷後より悪化した認知障害を発症するという事実と関連し得ることを示唆する。療法上の介入を考慮する場合、これらの結果は、より長期又は後期の治療ウィンドウは、骨髄細胞の活性化を標的とする場合、有益となり得ることを示唆する。
【0032】
C1q、C3、及びCR3(CD11b)の発現増加は、損傷後最長1カ月間持続することが検出された。シナプス上のC1q蓄積と相まって、シナプス喪失及びミクログリア細胞の食細胞能力の強化が、高齢の受傷動物に認められた。これらの結果は、シナプスの補体タグ化及びミクログリア細胞の貪食活性増加は、高齢の受傷脳における認知力衰退の潜在的制御因子であることを実証する。
【0033】
TBIは、補体及び補体受容体の発現(ミクログリア細胞の食細胞活性の漸進的増加と関連する)を、高齢動物において少なくとも1カ月間誘発する。重要なこととして、補体経路を遺伝的又は薬理学的に妨害すると、高齢動物における記憶力衰退が防止される。年齢及び損傷は、補体発現及び神経炎症経路に対して複合的効果を有する可能性があり、これらの経路に対するより広い療法オプション及びウィンドウを示唆する。補体膜侵襲複合体(MAC)の形成をブロックすることで、重度TBI後の急性的欠損が低下する一方、C3の阻害が慢性炎症及び継続的ニューロン喪失を防止するのに必要とされる(30dpiにおいて)。高齢動物のCNSにおける特殊な変性状態を調査した。古典的補体カスケードの特異的調節(C1qの阻害による)は、認知機能の喪失に対して保護性である。C1qは古典的補体経路の開始分子であり、また加齢に伴いシナプス上に蓄積し、より若年の動物よりも最大300倍高いレベルに達することが明らかにされている。そのようなC1qの蓄積は、老化した脳を、TBIを含む神経変性の傷害に関するリスクに晒す可能性がある。C1qの活性化は、C3の活性化成分(ミクログリア上の受容体CR3により認識される)によるシナプスのタグ化を引き起こし、シナプスの除去及び神経炎症をもたらす。C1qを阻害すれば、この経路におけるC3の下流での役割がブロックされる一方、レクチン及び代替的補体経路において、C3がその正常な免疫機能(ニューロンの健康にとって重要であり得る)を保持するのを可能にする。
【0034】
高齢動物におけるTBI誘発型の長期記憶欠損は、脳内初期補体カスケード成分(C1q、C3、及びCR3)の発現増加と関係し、補体発現及び炎症の増加は、ミクログリア細胞によるシナプス貪食活性の漸進的増加と関連し、C1qの阻害又はC3の欠損を通じて古典的補体カスケードを阻害すると、認知力衰退に対する保護をもたらす。重要なこととして、補体に基づく妨害は、老化した脳におけるTBI誘発型の認知障害の治療に対する療法上のオプションを提供し得る。
【0035】
本明細書で開示される抗C1q抗体は、C1qの強力な阻害剤であり、また末梢神経系及びCNSの両方において継続的に阻害するために任意の期間にわたり投与されるが、その活性がCNS修復にとって重要であり得るときには、次に正常なC1q機能の復帰を可能にするために任意選択的に中止され得る。動物試験において、本明細書で開示される抗C1q抗体を用いて取得された結果は、同一抗体のヒト化バージョンを用いて、クリニックにも容易に導入可能である(本明細書における開示抗体はマウス及びヒトC1qと交差反応する)。
【0036】
C1qは18本のポリペプチド鎖(6本のC1q A鎖、6本のC1q B鎖、及び6本のC1q C鎖)からなる460kDaの巨大多量体タンパク質である。C1r及びCrs補体タンパク質はC1q末端領域に結合してC1複合体(C1qr2s2)を形成する。
【0037】
補体因子、例えばC1q、C1r、又はC1s等の活性を中和することで古典的補体活性が阻害され、脳損傷、好ましくは外傷性脳損傷、低酸素性脳損傷、脳の感染症、又は脳卒中を低速化させ又は予防する。脳損傷、好ましくは外傷性脳損傷、低酸素性脳損傷、脳の感染症、又は脳卒中において、補体因子、例えばC1q、C1r、又はC1s等を中和することと関連する方法が本明細書に開示される。
【0038】
本開示に記載されるすべての配列は、本明細書が開示する抗体及び関連する組成物について、本明細書により参照として組み込まれる米国特許出願第14/933,517号、米国特許出願第14/890,811号、米国特許第8,877,197号、米国特許第9,708,394号から参照として組み込まれる。
【0039】
特定の態様では、脳損傷、好ましくは外傷性脳損傷、低酸素性脳損傷、脳の感染症、又は脳卒中を予防し、その発症リスクを低下させ、又はそれを治療する方法であって、補体経路の阻害剤を対象者に投与するステップを含む方法が本明細書で開示される。
【0040】
脳損傷、好ましくは外傷性脳損傷、低酸素性脳損傷、脳の感染症、又は脳卒中を阻害する方法であって、抗体、例えば抗Clq抗体、抗Clr抗体、又は抗Cls抗体等を患者に投与するステップを含む方法が本明細書で開示される。特定の好ましい実施形態では、抗体は、C1q、C1r、又はC1sと結合し、補体活性化を阻害する。
【0041】
完全長抗体は、組換えDNAエンジニアリング技術の使用により調製され得る。そのような操作されたバージョンは、例えば、天然抗体の可変領域から、天然抗体のアミノ酸配列における又はそれへの挿入、欠失又は変化によって生成されるものを含む。この種類の特定の例には、1種類の抗体に由来する少なくとも1つのCDR及び場合により1つ以上のフレームワークアミノ酸、及び第2の抗体に由来する可変領域の残りの部分を含有する、操作された可変領域が含まれる。抗体をコードするDNAは、完全長抗体をコードするDNAの所望の部分以外、すべてを欠失させることにより調製され得る。キメラ化抗体をコードするDNAは、ヒト定常領域を実質的に又はもっぱらコードするDNAと、非ヒト哺乳類の可変領域の配列に実質的に又はもっぱら由来する可変領域をコードするDNAを再結合させることにより調製され得る。ヒト化抗体をコードするDNAは、対応するヒト抗体領域に実質的に又はもっぱら由来する相補性決定領域(CDR)以外の定常領域及び可変領域をコードするDNAと、非ヒト哺乳類に実質的に又はもっぱら由来するCDRをコードするDNAを再結合させることにより調製され得る。
【0042】
抗体をコードする適切なDNA分子の供給源として、細胞、例えば完全長抗体を発現するハイブリドーマなどが挙げられる。例えば、抗体は、抗体の重鎖及び/又は軽鎖をコードする発現ベクターを発現する宿主細胞から単離され得る。
【0043】
抗体断片は、抗体可変及び定常領域をコードするDNAの操作と再発現を含む組換えDNAエンジニアリング技術の使用によっても調製され得る。さらなるアミノ酸又はドメインを必要に応じて改変し、付加し、又は欠失させるために、標準的な分子生物学的技術を使用してもよい。可変又は定常領域に対する任意の変更も、本明細書において使用される「可変」及び「定常」領域という用語になおも包含される。いくつかの事例では、CH1ドメインの翻訳が鎖間システインで停止するように、CH1の鎖間システインをコードするコドンの直後に停止コドンを導入して抗体断片を生成させるのに、PCRが使用される。適切なPCRプライマーを設計するための方法は、当技術分野で周知であり、抗体CH1ドメインの配列は容易に入手できる。いくつかの実施形態では、部位特異的突然変異誘発技術を使用して停止コドンを導入してもよい。
【0044】
本開示の抗体は、例えばIgG、IgM、IgA、IgD及びIgEと、例えばIgG1、IgG2、IgG3及びIgG4を含むそのサブクラスを含む、任意の抗体アイソタイプ(「クラス」)に由来してもよい。特定の好ましい実施形態では、抗体の重鎖及び軽鎖はマウスIgG1に由来する。
【0045】
いくつかの実施形態では、阻害剤は、抗体、例えば抗C1q抗体、抗C1r抗体、又は抗C1s抗体などである。抗C1q抗体は、C1qと自己抗体の間、又はC1qとC1rの間、又はC1qとC1sの間の相互作用を阻害し得る。抗C1r抗体は、C1rとC1qの間、又はC1rとC1sの間の相互作用を阻害し得る。抗C1r抗体は、C1rの触媒活性を阻害し得る、又は抗C1r抗体は、プロC1rから活性型プロテアーゼへのプロセシングを阻害し得る。抗C1s抗体は、C1sとC1qの間、又はC1sとC1rの間、又はC1sとC2又はC4の間の相互作用を阻害し得る、或いは抗C1s抗体は、C1sの触媒活性を阻害し得る、又はプロC1sから活性型プロテアーゼへのプロセシングを阻害し得る。いくつかの事例では、抗C1q抗体、抗C1r抗体、又は抗C1s抗体は、循環又は組織からのC1q、C1r、又はC1sの排除を引き起こす。
【0046】
本明細書に開示の抗体は、例えば、哺乳類のC1q、C1r、又はC1s、好ましくはヒトC1q、C1r、又はC1sと結合するモノクローナル抗体であり得る。抗体は、マウス抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、又は抗体断片であり得る。本明細書に開示の抗体は、血液脳関門(BBB)も通過し得る。抗体は、BBB受容体媒介型の輸送システム、例えばインスリン受容体、トランスフェリン受容体、レプチン受容体、LDL受容体、又はIGF受容体を利用するシステムなどを活性化し得る。抗体は、ヒトへの投与に適する十分なヒト配列を有するキメラ抗体であり得る。抗体は、グリコシル化されてもよく、また非グリコシル化されてもよい。いくつかの実施形態では、抗体は、例えば、CHO細胞内での翻訳後修飾により生成されるグリコシル化パターンでグリコシル化される。
【0047】
抗体は、第1及び第2の抗原を認識する二重特異性抗体であり得、例えば、第1の抗原は、C1q、C1r、及びC1sから選択され、並びに/又は第2の抗原は、抗体が血液脳関門を通過するのを可能にする抗原、例えばトランスフェリン受容体(TR)、インスリン受容体(HIR)、インスリン様増殖因子受容体(IGFR)、低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質1及び2(LPR-1及び2)、ジフテリア毒素受容体、CRM197、ラマ単一ドメイン抗体、TMEM30(A)、タンパク質形質導入ドメイン、TAT、Syn-B、ペネトラチン、ポリアルギニンペプチド、アンジオペップ(angiopep)ペプチド、若しくはANG1005から選択される抗原などである。
【0048】
本開示の抗体は、C1q、C1r、又はC1に結合し、その生物学的活性を阻害し得る。例えば、(1)自己抗体へのC1q結合、(2)C1rへのC1q結合、(3)C1sへのC1q結合、(4)ホスファチジルセリンへのC1q結合、(5)ペントラキシン-3へのC1q結合、(6)C反応性タンパク質(CRP)へのC1q結合、(7)球状C1q受容体(gC1qR)へのC1q結合、(8)補体受容体1(CR1)へのC1q結合、(9)β-アミロイドへのC1q結合、又は(10)カルレティキュリンへのC1q結合。他の実施形態では、C1qの生物学的活性は、(1)古典的補体活性化経路の活性化、(2)抗体及び補体依存性細胞傷害の活性化、(3)CH50溶血、(4)シナプス喪失、(5)B細胞抗体産生、(6)樹状細胞成熟、(7)T細胞増殖、(8)サイトカイン産生、(9)ミクログリア活性化、(10)アルサス反応、(11)シナプス又は神経終末の食作用、又は(12)補体受容体3(CR3/C3)発現細胞の活性化である。
【0049】
いくつかの実施形態において、CH50溶血は、ヒト、マウス、及び/又はラットのCH50溶血を含む。いくつかの実施形態において、抗体は、CH50溶血の少なくとも約50%~少なくとも約95%を中和することができる。抗体は、150ng/ml未満、100ng/ml未満、50ng/ml未満、又は20ng/ml未満の用量で、CH50溶血の少なくとも50%を中和することもできる。
【0050】
補体活性を測定するためのその他のインビトロアッセイ法として、補体活性化期間中に形成する補体成分又は複合体の分裂産物を測定するためのELISAアッセイが挙げられる。古典的経路による補体活性化は、血清中のC4d及びC4のレベルを監視することにより、測定可能である。代替的経路の活性化は、循環中のBb又はC3bBbP複合体のレベルを評価することによるELISA法で測定可能である。インビトロでの抗体媒介型の補体活性化アッセイ法は、C3a産生の阻害を評価するのにも利用可能である。
【0051】
本開示の抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、組換え抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、多重特異性抗体、又はその抗体断片であり得る。
【0052】
本開示の抗体は、抗体断片、例えばFab断片、Fab'断片、F(ab')2断片、Fv断片、ダイアボディ、又は単鎖抗体分子などであってもよい。
【0053】
対象者に、第2の薬剤、例えば第2の抗体又は第2の阻害剤などを投与する方法が、本明細書に開示される。抗体は、抗C1q抗体、抗C1r抗体、又は抗C1s抗体であり得る。阻害剤は、抗体依存性細胞傷害活性、代替的補体活性化経路の阻害剤;及び/又は自己抗体と自己抗原の間の相互作用の阻害剤であり得る。
【0054】
いくつかの実施形態では、脳損傷、好ましくは外傷性脳損傷、低酸素性脳損傷、脳の感染症、又は脳卒中を発症する対象者のリスクを決定する方法であって、(a)検出可能な標識とカップリングしている抗体(すなわち、抗C1q、抗C1r、又は抗C1s抗体)を対象者に投与するステップ、(b)検出可能な標識を検出して、前記対象者内のC1q、C1r、又はC1sの量又は場所を測定するステップ、及び(c)C1q、C1r、又はC1sのうちの1つ以上の量又は場所を参照と比較するステップを含み、脳損傷、好ましくは外傷性脳損傷、低酸素性脳損傷、脳の感染症、又は脳卒中を発症する前記リスクが、C1q、C1r、又はC1sのうちの1つ以上の量又は場所を参照と比較することに基づき特徴付けられる方法が提供される。検出可能な標識は、核酸、オリゴヌクレオチド、酵素、放射性同位元素、ビオチン、又は蛍光標識を含み得る。いくつかの事例では、抗体は、例えばビオチン化のプロセスを使用して、ビオチンなどのコエンザイムで標識され得る。ビオチンが標識として使用される場合、抗体の検出は、例えばアビジン又はその細菌対応物のストレプトアビジンなどのタンパク質の付加により達成され、これらのいずれかは例えば前述の染料、例えばフルオレセインなどの蛍光マーカー、放射性同位元素又は例えばペルオキシダーゼなどの酵素といった検出可能なマーカーに結合することができる。いくつかの実施形態では、抗体は、抗体断片(例えば、Fab、Fab'-SH、Fv、scFv、又はF(ab')2断片)である。
【0055】
本明細書に開示の抗体は、標識基、例えば、放射性同位元素、放射性核種、酵素基、ビオチニル基、核酸、オリゴヌクレオチド、酵素、又は蛍光標識に結合され得る。標識基は、立体障害の可能性を低下させる任意の適切な長さのスペーサーアームを介して抗体に結合され得る。タンパク質を標識する様々な方法が、当技術分野において公知であり、またそのような標識化抗体を調製するのに利用可能である。
【0056】
様々な投与経路が考えられる。そのような投与方法として、局所的、非経口、皮下、腹腔内、肺内、髄腔内、鼻腔内、及び病変内投与が挙げられるが、但しこれらに限定されない。非経口輸液として、筋肉内、静脈内、動脈内、腹腔内、又は皮下投与が挙げられる。中枢神経系の状態を治療する場合、抗体は、非侵襲的末梢投与経路、例えば静脈内、筋肉内、皮下、腹腔内投与など、又は経口投与であっても、その後に血液脳関門を通過するように構成され得る。
【0057】
適切な抗体として、補体成分C1q、C1r、又はC1sに結合する抗体が挙げられる。そのような抗体として、Fab、F(ab')2、Fv、及び単鎖抗体を含む、モノクローナル抗体、並びにその相同体、類似体、及び改変若しくは派生形態が挙げられる。
【0058】
好ましい抗体は、(1)ヒト血漿又は血清から得られた精製済みの補体成分の酵素消化に由来する天然型の補体成分(例えば、C1q、C1r、若しくはC1s)、又は(2)真核生物系若しくは原核生物系により発現される組換え補体成分若しくはその派生断片を用いて、齧歯類(例えば、マウス、ラット、ハムスター、及びモルモット)を免疫化することにより生成し得るモノクローナル抗体である。その他の動物、例えば、非ヒト霊長類、ヒト免疫グロブリンを発現する遺伝子導入マウス、及びヒトBリンパ球を移植した重度複合型免疫不全(SCID)マウスも、免疫化に利用可能である。
【0059】
病原体に対して免疫系が応答すると、ポリクローナル及びモノクローナル抗体が、免疫グロブリン(Ig)分子として自然に生成される。ヒト血清中における8mg/ml濃度の支配的様式では、~150-kDa IgG1分子は、2つの同一の~50-kDaの重鎖と2つの同一の~25-kDaの軽鎖から構成される。
【0060】
ハイブリドーマは、免疫動物から得たBリンパ球をミエローマ細胞と融合させる従来手順により生成可能である。さらに、抗C1q抗体、抗C1r抗体、又は抗C1s抗体が、ファージディスプレイシステムにおいて、ヒトBリンパ球由来の組換え単鎖Fv又はFabライブラリーをスクリーニングすることにより生成可能である。MAbsのヒトC1q、C1r、又はC1sに対する特異性は、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、ウェスタン免疫ブロット法、又はその他の免疫化学技術により試験可能である。
【0061】
スクリーニングプロセスにおいて識別された抗体の、補体活性化に対する阻害活性は、代替的補体経路の場合、未感作のウサギ若しくはモルモットRBC、又は古典的補体経路の場合には、感作ニワトリ又はヒツジRBCを使用する溶血アッセイにより評価可能である。古典的補体経路に対して特異的な阻害活性を示すそのようなハイブリドーマは、限界希釈法によりクローン化される。抗体は、上記のアッセイにより、ヒトC1q、C1r、又はC1sに対する特異性について特徴付けを行うために精製される。
【0062】
抗C1q抗体、抗C1r抗体、又は抗C1s抗体の可変領域の分子構造に基づき、抗体の結合領域の分子構造を模倣し、またC1q、C1r、又はC1sの活性を阻害する小分子を生成、及びスクリーニングするのに、分子モデリング及び合理的分子設計が利用可能である。このような小分子は、ペプチド、ペプチド模倣物、オリゴヌクレオチド、又は有機化合物であり得る。模倣分子が、炎症性兆候及び自己免疫疾患における補体活性化の阻害剤として利用可能である。或いは、コンビナトリアル化合物のライブラリーから適する小分子を単離するために、当該分野で使用される大規模なスクリーニング手順を一般的に使用することができる。
【0063】
本明細書に開示するような抗体の適切な用量は、血清1ml当たり10~500μgの間であり得る。最適な用量を決定する従来の方法、すなわち、様々な用量を投与し、どの用量が望ましくない副作用を伴わずに適する有効性を提供するか判断した後に、実際の用量が臨床トライアルで決定可能である。
【0064】
組換えDNA技術の到来前は、抗体分子の構造を分析し、分子のどの部分がその様々な機能を担っているのかを決定するために、ポリペプチド配列を切断するタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)が使用された。プロテアーゼパパインを用いる限定消化により、抗体分子は3つの断片に切断される。Fab断片として公知の2つの断片は、同一であり抗原結合活性を含有する。Fab断片は抗体分子の2つの同一なアームに対応し、そのそれぞれは、重鎖のVH及びCH1ドメインと対になった完全な軽鎖からなる。その他の断片は抗原結合活性を含まないが、容易に結晶化することが元来観察され、この理由のためにFc断片(Fragment crystallizable)と名付けられた。
【0065】
Fab分子は、定常ドメインCH2及びCH3を欠いた重鎖を有するIg分子の人工的な~50kDa断片である。2つのヘテロ親和性(VL-VH及びCL-CH1)ドメイン相互作用が、Fab分子の2本鎖構造を支えており、これはさらにCLとCH1の間のジスルフィド架橋によって安定化される。Fab及びIgGは、VL及びVHから3個ずつ(LCDR1、LCDR2、LCDR3及びHCDR1、HCDR2、HCDR3)の6個の相補性決定領域(CDR)により形成される同一の抗原結合部位を有する。CDRは抗体の超可変抗原結合部位を規定する。最も高い配列のバリエーションはLCDR3及びHCDR3に見出され、これは天然の免疫系ではそれぞれVL及びJL遺伝子又はVH、DH及びJH遺伝子の再構成によって生成される。LCDR3及びHCDR3は通常は抗原結合部位のコアを形成する。6個のCDRをつなぎ且つ提示する保存領域はフレームワーク領域と呼ばれる。可変ドメインの3次元構造では、フレームワーク領域は、外側では超可変CDRループにより、及び内側では保存されたジスルフィド架橋により連結された2つの相対する逆平行βシートのサンドイッチを形成する。
【0066】
本明細書に記載される様々な実施形態の特性の1つ、一部、又は全部は、本明細書に提示される組成物及び方法のその他の実施形態を形成するために組み合わされ得るものと理解される。本発明に関連する実施形態のすべての組合せが、本発明によって特別に包含され、各それぞれの組合せが、個別且つ明示的に開示されるかのように本明細書に開示される。それに加えて、様々な実施形態及びその要素のすべての部分組合せもまた、本発明によって特別に包含され、各それぞれのそのような部分組合せが個別且つ明示的に本明細書に開示されるかのように、本明細書に開示される。本明細書に提示される組成物及び方法のこれら及びその他の態様は、当業者にとって明白となるであろう。
【0067】
本明細書において議論される公開資料は、本出願の出願日以前のその開示についてもっぱら提供される。本明細書内のいずれにおいても、先行する発明の恩恵に浴するからといって、本発明が先行する日付のそのような公開資料に対して主張する法的権利がないという承認とみなされるべきではない。更に、提示される公開資料の日付は実際の公開資料の日付とは異なる場合もあり、それは個別に確認される必要があり得る。
【0068】
抗補体C1q抗体
本開示の抗体は、補体因子C1q及び/又は古典的補体活性化経路のC1複合体内のC1qを特異的に認識する。認識される補体因子は、非限定的に、任意の哺乳生物、例えばヒト、マウス、ラット、ウサギ、サル、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ラクダ、ヒツジ、ヤギ、又はブタ等を含む、補体系を有する任意の生物に由来し得る。
【0069】
本明細書で使用される場合、「C1複合体」とは、非限定的に、1つのC1qタンパク質、2つのC1rタンパク質、及び2つのC1sタンパク質(例えば、C1qr2s2)を含み得るタンパク質複合体を指す。
【0070】
本明細書で使用される場合、「補体因子C1q」とは、野生型配列及び天然に存在するバリアント配列の両方を指す。
【0071】
本開示の抗体により認識される補体因子C1qの非限定的な例は、3つのポリペプチドA鎖、B鎖、及びC鎖:
C1q、A鎖(ホモ・サピエンス(homo sapiens))、受託番号タンパク質データベース: NP_057075.1; GenBank番号: NM_015991:
>gi|7705753|ref|NP_057075.1補体|C1q
サブコンポーネントサブユニットA前駆体[ホモ・サピエンス]
C1q、B鎖(ホモ・サピエンス)、受託番号タンパク質データベース:NP_000482.3; GenBank番号: NM_000491.3:
>gi|87298828|ref|NP_000482.3補体|Clq
サブコンポーネントサブユニットB前駆体[ホモ・サピエンス]
C1q、C鎖(ホモ・サピエンス)、受託番号タンパク質データベース:NP_001107573.1; GenBank番号: NM_001114101.1:
>gi|166235903|ref|NP_001107573.1補体|C1qq
サブコンポーネントサブユニットC前駆体[ホモ・サピエンス]
を含むヒトC1qである。
【0072】
従って、本開示のヒト化抗C1q抗体は、C1qタンパク質のポリペプチド鎖A、ポリペプチド鎖B、及び/又はポリペプチド鎖Cと結合し得る。いくつかの実施形態では、本開示のヒト化抗C1q抗体は、ヒトC1q又はそのホモログ、例えばマウス、ラット、ウサギ、サル、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ラクダ、ヒツジ、ヤギ、若しくはブタC1q等のポリペプチド鎖A、ポリペプチド鎖B、及び/若しくはポリペプチド鎖Cと結合する。
【0073】
好適な阻害剤として、脳損傷、好ましくは外傷性脳損傷、低酸素性脳損傷、脳の感染症、又は脳卒中を予防し、その発症リスクを低下させ、又はそれを治療する方法のための、補体C1qタンパク質と結合する抗体(すなわち、抗補体C1q抗体は、抗C1q抗体及びC1q抗体としても本明細書において呼ばれる)、及びそのような抗体をコードする核酸分子が挙げられる。
【0074】
C1qタンパク質との結合に適するその他の抗C1q抗体は当技術分野において周知であり、例えば、抗体カタログ番号AF2379、AF1696、MAB1696、及びMAB23791 (R&D System社)、NBP1-87492、NB100-64420、H00000712-B01P、H00000712-D01P、及びH00000712-D01 (Novus Biologicals社)、MA1-83963、MA1-40311、PA5-14208、PA5-29586、及びPA1-36177 (ThermoFisher Scientific社)、ab71940、ab11861、ab4223、ab72355、ab182451、ab46191、ab227072、ab182940、ab216979、及びab235454 (abcam社)等が挙げられる。それに加えて、C1q発現を低下させる複数のsiRNA、shRNA、CRISPRコンストラクトが、上記で引用された会社の市販製品リスト、例えばSiRNA製品番号sc-43651、sc-44962、sc-105153、sc-141842、ShRNA製品番号sc-43651-SH、sc-43651-V、sc-44962-SH、sc-44962-V、sc-105153-SH、sc-105153-V、sc-141842-SH、sc-141842-V、CRISPR製品番号sc-419385、sc-419385-HDR、sc-419385-NIC、sc-419385-NIC-2、sc-402156、sc-402156-KO-2、sc-404309、sc-404309-HDR、sc-404309-NIC、sc-404309-NIC-2、sc-419386、sc-419386-HDR、sc-419386-NIC、sc-419386-NIC-2等(Santa Cruz Biotechnology社等)に見出され得る。
【0075】
下記の20のパラグラフに記載されるすべての配列は、本明細書が開示する抗体及び関連する組成物について、本明細書により参考として組み込まれる米国特許第9,708,394号から参照として組み込まれる。
【0076】
抗体M1の軽鎖及び重鎖可変ドメイン配列
標準技術を使用して、抗体M1の軽鎖可変ドメイン及び重鎖可変ドメインをコードする核酸及びアミノ酸配列を決定した。抗体M1の軽鎖可変ドメインのアミノ酸配列は、
である。
【0077】
軽鎖可変ドメインの超可変領域(HVR)を太字及び下線付きの文字で表す。いくつかの実施形態では、M1軽鎖可変ドメインのHVR-L1は配列RASKSINKYLA(配列番号5)を有し、M1軽鎖可変ドメインのHVR-L2は配列SGSTLQS(配列番号6)を有し、M1軽鎖可変ドメインのHVR-L3は、配列QQHNEYPLT(配列番号7)を有する。
【0078】
抗体M1の重鎖可変ドメインのアミノ酸配列は、
である。
【0079】
重鎖可変ドメインの超可変領域(HVR)を太字及び下線付きの文字で表す。いくつかの実施形態では、M1重鎖可変ドメインのHVR-H1は配列GYHFTSYWMH(配列番号9)を有し、M1重鎖可変ドメインのHVR-H2は配列VIHPNSGSINYNEKFES(配列番号10)を有し、M1重鎖可変ドメインのHVR-H3は配列ERDSTEVLPMDY(配列番号11)を有する。
【0080】
軽鎖可変ドメインをコードする核酸配列を、
として決定した。
【0081】
重鎖可変ドメインをコードする核酸配列を、
として決定した。
【0082】
材料の供託
下記の材料を、ブダペスト条約に基づき、アメリカンタイプカルチャーコレクション、ATCC特許供託機関、10801 University Blvd., Manassas, Va. 20110-2209, USA (ATCC)内に供託した:
【0083】
【0084】
M1抗体(マウスハイブリドーマC1qM1 7788-1(M) 051613)を産生するハイブリドーマ細胞系は、特許出願係属期間中、及び30年間若しくは直近の依頼後5年間、又は特許の有効存続期間のいずれかより長い期間、培養物にアクセス可能であることを前提とする条件の下でATCCに供託されている。供託物は、その期間中に無成育性となった場合には交換される。本願のカウンターパート又はその後継(progeny)が出願されている国の国外特許法令により、供託物は必要に応じて入手可能である。しかしながら、供託物が利用できるといっても、そのことが行政措置により授与された特許権の特例において本発明を実行するライセンスを構成するものではないと理解すべきである。
【0085】
軽鎖可変ドメイン及び重鎖可変ドメインを含む抗C1q抗体を投与する方法が本明細書に開示される。抗体は、少なくともヒトC1q、マウスC1q、又はラットC1qに結合し得る。抗体は、ヒト化抗体、キメラ抗体、又はヒト抗体であり得る。軽鎖可変ドメインは、受託番号PTA-120399として預託されたハイブリドーマ細胞系により産生されたモノクローナル抗体M1のHVR-L1、HVR-L2、及びHVR-L3を含む。重鎖可変ドメインは、ATCC受託番号PTA-120399として預託されたハイブリドーマ細胞系により産生されたモノクローナル抗体M1のHVR-H1、HVR-H2、及びHVR-H3を含む。
【0086】
いくつかの実施形態では、軽鎖可変ドメイン及び重鎖可変ドメインのアミノ酸配列は、HVR-L1の配列番号5、HVR-L2の配列番号6、HVR-L3の配列番号7、HVR-H1の配列番号9、HVR-H2の配列番号10、及びHVR-H3の配列番号11のうちの1つ以上を含む。
【0087】
抗体は、好ましくはHVR-L1 RASKSINKYLA (配列番号5)、HVR-L2 SGSTLQS (配列番号6)、及びHVR-L3 QQHNEYPLT (配列番号7)を保持しつつ、配列番号4と少なくとも85%、90%、又は95%同一の軽鎖可変ドメインアミノ酸配列を含み得る。抗体は、好ましくはHVR-H1 GYHFTSYWMH (配列番号9)、HVR-H2 VIHPNSGSINYNEKFES (配列番号10)、及びHVR-H3 ERDSTEVLPMDY (配列番号11)を保持しつつ、配列番号8と少なくとも85%、90%、又は95%同一の重鎖可変ドメインアミノ酸配列を含み得る。
【0088】
C1qと自己抗体の間の相互作用を阻害する抗C1q抗体を投与する方法が、本明細書に開示される。好ましい実施形態では、抗C1q抗体は、循環又は組織からのC1qの排除を引き起こす。
【0089】
抗C1q抗体は、C1qタンパク質に結合することができ、また(a)配列番号1のアミノ酸残基196~226(配列番号16)、又は配列番号1のアミノ酸残基196~226(GLFQVVSGGMVLQLQQGDQVWVEKDPKKGHI)(配列番号16)に対応するC1qタンパク質A鎖(C1qA)のアミノ酸残基;(b)配列番号1のアミノ酸残基196~221(配列番号17)、又は配列番号1のアミノ酸残基196~221(GLFQVVSGGMVLQLQQGDQVWVEKDP)(配列番号17)に対応するC1qAのアミノ酸残基;(c)配列番号1のアミノ酸残基202~221(配列番号18)、又は配列番号1のアミノ酸残基202~221(SGGMVLQLQQGDQVWVEKDP)(配列番号18)に対応するC1qAのアミノ酸残基;(d)配列番号1のアミノ酸残基202~219(配列番号19)、又は配列番号1のアミノ酸残基202~219(SGGMVLQLQQGDQVWVEK)(配列番号19)に対応するC1qAのアミノ酸残基;並びに(e)配列番号1のアミノ酸残基Lys 219及び/若しくはSer 202、又は配列番号1のLys 219及び/若しくはSer 202に対応するC1qAのアミノ酸残基から選択されるアミノ酸残基内のC1qタンパク質の1つ以上のアミノ酸と結合する。
【0090】
いくつかの実施形態では、抗体は、(a)配列番号3のアミノ酸残基218~240(配列番号20)、又は配列番号3のアミノ酸残基218~240(WLAVNDYYDMVGIQGSDSVFSGF)(配列番号20)に対応するC1qタンパク質C鎖(C1qC)のアミノ酸残基;(b)配列番号3のアミノ酸残基225~240(配列番号21)、又は配列番号3のアミノ酸残基225~240(YDMVGIQGSDSVFSGF)(配列番号21)に対応するC1qCのアミノ酸残基;(c)配列番号3のアミノ酸残基225~232(配列番号22)、又は配列番号3のアミノ酸残基225~232(YDMVGIQG)(配列番号22)に対応するC1qCのアミノ酸残基;(d)配列番号3のアミノ酸残基Tyr 225、又は配列番号3のアミノ酸残基Tyr 225に対応するC1qCのアミノ酸残基;(e)配列番号3のアミノ酸残基174~196(配列番号23)、又は配列番号3のアミノ酸残基174~196(HTANLCVLLYRSGVKVVTFCGHT)(配列番号23)に対応するC1qCのアミノ酸残基;(f)配列番号3のアミノ酸残基184~192(配列番号24)、又は配列番号3のアミノ酸残基184~192(RSGVKVVTF)(配列番号24)に対応するC1qCのアミノ酸残基; (g)配列番号3のアミノ酸残基185~187、又は配列番号3のアミノ酸残基185~187(SGV)に対応するC1qCのアミノ酸残基;(h)配列番号3のアミノ酸残基Ser 185、又は配列番号3のアミノ酸残基Ser 185に対応するC1qCのアミノ酸残基から選択されるアミノ酸残基内のC1qタンパク質の1つ以上のアミノ酸とさらに結合する。
【0091】
特定の実施形態では、抗C1q抗体は、配列番号1に示すようなヒトC1qAのアミノ酸残基Lys 219及びSer 202、又は配列番号1に示すようなLys 219及びSer 202に対応するヒトC1qAのアミノ酸、並びに配列番号3に示すようなヒトC1qCのアミノ酸残基Tyr 225、又は配列番号3に示すようなTyr 225に対応するヒトC1qCのアミノ酸残基と結合する。特定の実施形態では、抗C1q抗体は、配列番号1に示すようなヒトC1qAのアミノ酸残基Lys 219、又は配列番号1に示すようなLys 219に対応するヒトC1qAのアミノ酸残基、及び配列番号3に示すようなヒトC1qCのアミノ酸残基Ser 185、又は配列番号3に示すようなSer 185に対応するヒトC1qCのアミノ酸残基と結合する。
【0092】
いくつかの実施形態では、抗C1q抗体は、C1qタンパク質と結合し、また(a)配列番号3のアミノ酸残基218~240(配列番号20)、又は配列番号3のアミノ酸残基218~240(WLAVNDYYDMVGIQGSDSVFSGF)(配列番号20)に対応するC1qCのアミノ酸残基;(b)配列番号3のアミノ酸残基225~240(配列番号21)、又は配列番号3のアミノ酸残基225~240(YDMVGIQGSDSVFSGF)(配列番号21)に対応するC1qCのアミノ酸残基;(c)配列番号3のアミノ酸残基225~232(配列番号22)、又は配列番号3のアミノ酸残基225~232(YDMVGIQG)(配列番号22)に対応するC1qCのアミノ酸残基;(d)配列番号3のアミノ酸残基Tyr 225、又は配列番号3のアミノ酸残基Tyr 225に対応するC1qCのアミノ酸残基;(e)配列番号3のアミノ酸残基174~196(配列番号23)、又は配列番号3のアミノ酸残基174~196(HTANLCVLLYRSGVKVVTFCGHT)(配列番号23)に対応するC1qCのアミノ酸残基;(f)配列番号3のアミノ酸残基184~192(配列番号24)、又は配列番号3のアミノ酸残基184~192(RSGVKVVTF)(配列番号24)に対応するC1qCのアミノ酸残基;(g)配列番号3のアミノ酸残基185~187、又は配列番号3のアミノ酸残基185~187(SGV)に対応するC1qCのアミノ酸残基;(h)配列番号3のアミノ酸残基Ser 185、又は配列番号3のアミノ酸残基Ser 185に対応するC1qCのアミノ酸残基から選択されるアミノ酸残基内のC1qタンパク質の1つ以上のアミノ酸と結合する。
【0093】
いくつかの実施形態では、本開示の抗C1q抗体は、C1qとC1sの間の相互作用を阻害する。いくつかの実施形態では、抗C1q抗体は、C1qとC1rの間の相互作用を阻害する。いくつかの実施形態では、抗C1q抗体は、C1qとC1sの間、及びC1qとC1rの間の相互作用を阻害する。いくつかの実施形態では、抗C1q抗体は、C1qと別の抗体、例えば自己抗体などの間の相互作用を阻害する。好ましい実施形態では、抗C1q抗体は、循環又は組織からのC1qの排除を引き起こす。いくつかの実施形態では、抗C1q抗体は、2.5:1; 2.0:1、1.5:1、又は1.0:1未満の化学量論で各相互作用を阻害する。いくつかの実施形態では、C1q抗体は、相互作用、例えばC1q-C1s相互作用などを、C1q及び抗C1q抗体につき、ほぼ等モル濃度で阻害する。他の実施形態では、抗C1q抗体は、20:1未満、19.5:1未満、19:1未満、18.5:1未満、18:1未満、17.5:1未満、17:1未満、16.5:1未満、16:1未満、15.5:1未満、15:1未満、14.5:1未満、14:1未満、13.5:1未満、13:1未満、12.5:1未満、12:1未満、11.5:1未満、11:1未満、10.5:1未満、10:1未満、9.5:1未満、9:1未満、8.5:1未満、8:1未満、7.5:1未満、7:1未満、6.5:1未満、6:1未満、5.5:1未満、5:1未満、4.5:1未満、4:1未満、3.5:1未満、3:1未満、2.5:1未満、2.0:1未満、1.5:1未満、又は1.0:1未満の化学量論でC1qと結合する。特定の実施形態では、抗C1q抗体は、20:1~1.0:1の範囲、又は1.0:1未満の結合化学量論でC1qと結合する。特定の実施形態では、抗C1q抗体は、6:1~1.0:1の範囲、又は1.0:1未満の結合化学量論でC1qと結合する。特定の実施形態では、抗C1q抗体は、2.5:1~1.0:1の範囲、又は1.0:1未満の結合化学量論でC1qと結合する。いくつかの実施形態では、抗C1q抗体は、C1qとC1rの間、又はC1qとC1sの間、又はC1qとC1r及びC1sの両者間の相互作用を阻害する。いくつかの実施形態では、抗C1q抗体は、C1qとC1rの間、C1qとC1sの間、及び/又はC1qとC1r及びC1sの両者間の相互作用を阻害する。いくつかの実施形態では、抗C1q抗体は、C1qA鎖に結合する。他の実施形態では、抗C1q抗体は、C1qB鎖に結合する。他の実施形態では、抗C1q抗体は、C1qC鎖に結合する。いくつかの実施形態では、抗C1q抗体は、C1qA鎖、C1qB鎖、及び/又はC1qC鎖に結合する。いくつかの実施形態では、抗C1q抗体は、C1qA鎖、B鎖、及び/又はC鎖の球状ドメインに結合する。他の実施形態では、抗C1q抗体は、C1qA鎖、C1qB鎖、及び/又はC1qC鎖のコラーゲン様ドメインに結合する。
【0094】
本開示の抗体が、2つ以上の補体因子の間の相互作用、例えばC1qとC1sの相互作用、又はC1qとC1rの間の相互作用などを阻害する場合、抗体の存在下で生じる相互作用は、本開示の抗体が存在しない対照と比較して、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも99%低下し得る。特定の実施形態では、抗体の存在下で生じる相互作用は、本開示の抗体が存在しない対照と比較して、少なくとも30%~少なくとも99%の範囲の量で低下する。
【0095】
いくつかの実施形態では、本開示の抗体は、本開示の抗体が存在しない対照と比較して、C2又はC4の切断を、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも99%、又は少なくとも30%~少なくとも99%の範囲の量で阻害する。C2又はC4の切断を測定する方法は、当技術分野において周知されている。C2又はC4の切断に関する本開示の抗体のEC50値は、3μg/ml、2.5μg/ml、2.0μg/ml、1.5μg/ml、1.0μg/ml、0.5μg/ml、0.25μg/ml、0.1μg/ml、0.05μg/ml未満であり得る。いくつかの実施形態では、本開示の抗体は、C1q及び各抗C1q抗体についてほぼ等モル濃度でC2又はC4の切断を阻害する。
【0096】
いくつかの実施形態では、本開示の抗体は、本開示の抗体が存在しない対照と比較して、自己抗体依存性及び補体依存性細胞傷害(CDC)を、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、若しくは少なくとも99%、又は少なくとも30%~少なくとも99%の範囲の量で阻害する。自己抗体依存性及び補体依存性細胞傷害の阻害に関する本開示の抗体のEC50値は、3μg/ml、2.5μg/ml、2.0μg/ml、1.5μg/ml、1.0μg/ml、0.5μg/ml、0.25μg/ml、0.1μg/ml、0.05μg/ml未満であり得る。
【0097】
いくつかの実施形態では、本開示の抗体は、本開示の抗体が存在しない対照と比較して、補体依存性細胞媒介性細胞傷害(CDCC)を、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、若しくは少なくとも99%、又は少なくとも30%~少なくとも99%の範囲の量で阻害する。CDCCを測定する方法は、当技術分野において周知されている。CDCC阻害に関する本開示の抗体のEC50値は、3μg/ml、2.5μg/ml、2.0μg/ml、1.5μg/ml、1.0μg/ml、0.5μg/ml、0.25μg/ml、0.1μg/ml、0.05μg/ml未満であり得る。いくつかの実施形態では、本開示の抗体は、抗体依存性細胞傷害(ADCC)ではなく、CDCCを阻害する。
【0098】
ヒト化抗補体C1q抗体
本開示のヒト化抗体は、古典的補体経路のC1複合体内の補体因子C1q及び/又はC1qタンパク質に特異的に結合する。ヒト化抗C1q抗体は、ヒトC1q、ヒト及びマウスC1qに、ラットC1q、又はヒトC1q、マウスC1q、及びラットC1qに特異的に結合し得る。
【0099】
下記の16のパラグラフに記載されるすべての配列は、本明細書が開示する抗体及び関連する組成物について、本明細書により参考として組み込まれる米国特許出願第14/933,517号から参照として組み込まれる。
【0100】
いくつかの実施形態では、ヒト重鎖定常領域は、配列番号47のアミノ酸配列を含む、又は配列番号47と少なくとも70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%の相同性を有するヒトIgG4重鎖定常領域である。ヒトIgG4重鎖定常領域は、1つ以上の改変及び/又はKabat番号付与に基づくアミノ酸置換を有するFc領域を含み得る。そのような場合、Fc領域は、248位においてロイシンからグルタミン酸へのアミノ酸置換を含み、そのような置換は、Fc領域がFc受容体と相互作用するのを阻害する。いくつかの実施形態では、Fc領域は、241位においてセリンからプロリンへのアミノ酸置換を含み、そのような置換は、抗体内でのアームスイッチングを阻止する。
【0101】
ヒトIgG4(S241P L248E)重鎖定常ドメインのアミノ酸配列は、
である。
【0102】
抗体は、重鎖可変ドメイン及び軽鎖可変ドメインを含むことができ、前記重鎖可変ドメインは、配列番号31~34のうちの任意の1つから選択されるアミノ酸配列、又は配列番号31~34のうちの任意の1つから選択されるアミノ酸配列と少なくとも約90%の相同性を有するアミノ酸配列を含む。特定のそのような実施形態では、軽鎖可変ドメインは、配列番号35~38のうちの任意の1つから選択されるアミノ酸配列、又は配列番号35~38のうちの任意の1つから選択されるアミノ酸配列と少なくとも約90%の相同性を有するアミノ酸配列を含む。
【0103】
重鎖可変ドメインバリアント1(VH1)のアミノ酸配列は、
である。VH1の超可変領域(HVR)は、太字及び下線付きの文字で表す。
【0104】
重鎖可変ドメインバリアント2(VH2)のアミノ酸配列は、
である。VH2の超可変領域(HVR)は、太字及び下線付きの文字で表す。
【0105】
重鎖可変ドメインバリアント3(VH3)のアミノ酸配列は、
である。VH3の超可変領域(HVR)は、太字及び下線付きの文字で表す。
【0106】
重鎖可変ドメインバリアント4(VH4)のアミノ酸配列は、
である。VH4の超可変領域(HVR)は、太字及び下線付きの文字で表す。
【0107】
κ軽鎖可変ドメインバリアント1(Vκ1)のアミノ酸配列は、
である。Vκ1の超可変領域(HVR)は、太字及び下線付きの文字で表す。
【0108】
κ軽鎖可変ドメインバリアント2(Vκ2)のアミノ酸配列は、
である。Vκ2の超可変領域(HVR)は、太字及び下線付きの文字で表す。
【0109】
κ軽鎖可変ドメインバリアント3(Vκ3)のアミノ酸配列は、
である。Vκ3の超可変領域(HVR)は、太字及び下線付きの文字で表す。
【0110】
κ軽鎖可変ドメインバリアント4(Vκ4)のアミノ酸配列は、
である。Vκ4の超可変領域(HVR)は、太字及び下線付きの文字で表す。
【0111】
抗体は、HVR-L1 RASKSINKYLA (配列番号5)、HVR-L2 SGSTLQS (配列番号6)、及びHVR-L3 QQHNEYPLT (配列番号7)を保持しつつ、配列番号35~38と少なくとも85%、90%、又は95%同一の軽鎖可変ドメインアミノ酸配列を含み得る。抗体は、HVR-H1 GYHFTSYWMH (配列番号9)、HVR-H2 VIHPNSGSINYNEKFES (配列番号10)、及びHVR-H3 ERDSTEVLPMDY (配列番号11)を保持しつつ、配列番号31~34と少なくとも85%、90%、又は95%同一の重鎖可変ドメインアミノ酸配列を含み得る。
【0112】
いくつかの実施形態では、本開示のヒト化抗C1q抗体は、Fab領域を含有する重鎖可変領域、及びFc領域を含有する重鎖定常領域を含み、前記Fab領域は本開示のC1qタンパク質に特異的に結合するが、Fc領域はC1qタンパク質と結合することができない。いくつかの実施形態では、Fc領域は、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、又はIgG4アイソタイプに由来する。いくつかの実施形態では、Fc領域は、補体活性を誘発することができず、及び/又は抗体依存性細胞傷害(ADCC)を誘発することができない。いくつかの実施形態では、Fc領域は、限定されないが、アミノ酸置換を含む、1つ以上の改変を含む。特定の実施形態では、本開示のヒト化抗C1q抗体のFc領域は、Kabat番号付与規定に基づく248位、若しくはKabat番号付与規定に基づく248位に対応する位置において、及び/又はKabat番号付与規定に基づく241位、若しくはKabat番号付与規定に基づく241位に対応する位置においてアミノ酸置換を含む。いくつかの実施形態では、248位又は248位に対応する位置におけるアミノ酸置換は、Fc領域がFc受容体と相互作用するのを阻害する。いくつかの実施形態では、248位又は248位に対応する位置におけるアミノ酸置換は、ロイシンからグルタミン酸へのアミノ酸置換である。いくつかの実施形態では、241位又は241位に対応する位置におけるアミノ酸置換は、抗体内でのアームスイッチングを阻止する。いくつかの実施形態では、241位又は241位に対応する位置におけるアミノ酸置換は、セリンからプロリンへのアミノ酸置換である。特定の実施形態では、本開示のヒト化抗C1q抗体のFc領域は、配列番号47のアミノ酸配列、又は配列番号47のアミノ酸配列と少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、若しくは少なくとも約95%の相同性を有するアミノ酸配列を含む。
【0113】
いくつかの実施形態では、本開示のヒト化抗C1q抗体は、C1qタンパク質に結合し得るが、また(a)配列番号1のアミノ酸残基196~226(配列番号16)、又は配列番号1のアミノ酸残基196~226(GLFQVVSGGMVLQLQQGDQVWVEKDPKKGHI)(配列番号16)に対応するC1qタンパク質A鎖(C1qA)のアミノ酸残基、(b)配列番号1のアミノ酸残基196~221(配列番号17)、又は配列番号1のアミノ酸残基196~221(GLFQVVSGGMVLQLQQGDQVWVEKDP)(配列番号17)に対応するC1qAのアミノ酸残基、(c)配列番号1のアミノ酸残基202~221(配列番号18)、又は配列番号1のアミノ酸残基202~221(SGGMVLQLQQGDQVWVEKDP)(配列番号18)に対応するC1qAのアミノ酸残基、(d)配列番号1のアミノ酸残基202~219(配列番号19)、又は配列番号1のアミノ酸残基202~219(SGGMVLQLQQGDQVWVEK)(配列番号19)に対応するC1qAのアミノ酸残基、並びに(e)配列番号1のアミノ酸残基Lys 219及び/若しくはSer 202、又は配列番号1のLys 219及び/若しくはSer 202に対応するC1qAのアミノ酸残基から選択されるアミノ酸残基内のC1qタンパク質の1つ以上のアミノ酸と結合する。
【0114】
いくつかの実施形態では、ヒト化抗C1q抗体は、(a)配列番号3のアミノ酸残基218~240(配列番号20)、又は配列番号3のアミノ酸残基218~240(WLAVNDYYDMVGIQGSDSVFSGF)(配列番号20)に対応するC1qタンパク質C鎖(C1qC)のアミノ酸残基、(b)配列番号3のアミノ酸残基225~240(配列番号21)、又は配列番号3のアミノ酸残基225~240(YDMVGIQGSDSVFSGF)(配列番号21)に対応するC1qCのアミノ酸残基、(c)配列番号3のアミノ酸残基225~232(配列番号22)、又は配列番号3のアミノ酸残基225~232(YDMVGIQG)(配列番号22)に対応するC1qCのアミノ酸残基、(d)配列番号3のアミノ酸残基Tyr 225、又は配列番号3のアミノ酸残基Tyr 225に対応するC1qCのアミノ酸残基、(e)配列番号3のアミノ酸残基174~196 (配列番号23)、又は配列番号3のアミノ酸残基174~196(HTANLCVLLYRSGVKVVTFCGHT)(配列番号23)に対応するC1qCのアミノ酸残基、(f)配列番号3のアミノ酸残基184~192(配列番号24)、又は配列番号3のアミノ酸残基184~192 (RSGVKVVTF)(配列番号24)に対応するC1qCのアミノ酸残基、(g)配列番号3のアミノ酸残基185~187、又は配列番号3のアミノ酸残基185~187(SGV)に対応するC1qCのアミノ酸残基、(h)配列番号3のアミノ酸残基Ser 185又は配列番号3のアミノ酸残基Ser 185に対応するC1qCのアミノ酸残基から選択されるアミノ酸残基内のC1qタンパク質の1つ以上のアミノ酸とさらに結合し得る。
【0115】
特定の実施形態では、本開示のヒト化抗C1q抗体は、配列番号1に示すようなヒトC1qAのアミノ酸残基Lys 219及びSer 202、又は配列番号1に示すようなLys 219及びSer 202に対応するヒトC1qAのアミノ酸、並びに配列番号3に示すようなヒトC1qCのアミノ酸残基Tyr 225、又は配列番号3に示すようなTyr 225に対応するヒトC1qCのアミノ酸残基に結合し得る。特定の実施形態では、抗C1q抗体は、配列番号1に示すようなヒトC1qAのアミノ酸残基Lys 219、又は配列番号1に示すようなLys 219に対応するヒトC1qAのアミノ酸残基、及び配列番号3に示すようなヒトC1qCのアミノ酸残基Ser 185、又は配列番号3に示すようなSer 185に対応するヒトC1qCのアミノ酸残基と結合する。
【0116】
いくつかの実施形態では、本開示のヒト化抗C1q抗体は、C1qタンパク質に結合し得るが、また(a)配列番号3のアミノ酸残基218~240(配列番号20)、又は配列番号3のアミノ酸残基218~240(WLAVNDYYDMVGIQGSDSVFSGF)(配列番号20)に対応するC1qCのアミノ酸残基、(b)配列番号3のアミノ酸残基225~240(配列番号21)、又は配列番号3のアミノ酸残基225~240(YDMVGIQGSDSVFSGF)(配列番号21)に対応するC1qCのアミノ酸残基、(c)配列番号3のアミノ酸残基225~232(配列番号22)、又は配列番号3のアミノ酸残基225~232(YDMVGIQG)(配列番号22)に対応するC1qCのアミノ酸残基、(d)配列番号3のアミノ酸残基Tyr 225、又は配列番号3のアミノ酸残基Tyr 225に対応するC1qCのアミノ酸残基、(e)配列番号3のアミノ酸残基174~196 (配列番号23)、又は配列番号3のアミノ酸残基174~196(HTANLCVLLYRSGVKVVTFCGHT)(配列番号23)に対応するC1qCのアミノ酸残基、(f)配列番号3のアミノ酸残基184~192(配列番号24)、又は配列番号3のアミノ酸残基184~192(RSGVKVVTF)(配列番号24)に対応するC1qCのアミノ酸残基、(g)配列番号3のアミノ酸残基185~187、又は配列番号3のアミノ酸残基185~187(SGV)に対応するC1qCのアミノ酸残基、(h)配列番号3のアミノ酸残基Ser 185、又は配列番号3のアミノ酸残基Ser 185に対応するC1qCのアミノ酸残基から選択されるアミノ酸残基内のC1qタンパク質の1つ以上のアミノ酸と結合する。
【0117】
抗補体C1s抗体
適切な阻害剤として、補体C1sタンパク質と結合する抗体(すなわち、抗補体C1s抗体、本明細書では抗C1s抗体及びC1s抗体とも呼ぶ)、及びそのような抗体をコードする核酸分子が挙げられる。補体C1sは、補体カスケードの上流に位置し、またその基質特異性の範囲が狭いので、魅力的な標的である。さらに、活性化形態のC1sに特異的に結合する抗体(例えば、モノクローナル抗体、但しこれに限定されない)を取得することが可能である。
【0118】
下記の2つのパラグラフに記載されるすべての配列は、本明細書が開示する抗体及び関連する組成物について、本明細書により参考として組み込まれる米国特許出願第14/890,811号から参照として組み込まれる。
【0119】
特定の態様では、抗C1s抗体を投与する方法が本明細書に開示される。抗体は、マウス抗体、ヒト化抗体、又はキメラ抗体であり得る。いくつかの実施形態では、軽鎖可変ドメインは、HVR-L1、HVR-L2、及びHVR-L3を含み、また重鎖は、2013年5月15日付けでATCCに預託されたハイブリドーマ細胞系又はその後継(ATCC受託番号PTA-120351)により産生されたマウス抗ヒトC1sモノクローナル抗体5A1のHVR-H1、HVR-H2、及びHVR-H3を含む。他の実施形態では、軽鎖可変ドメインは、HVR-L1、HVR-L2、及びHVR-L3を含み、また重鎖可変ドメインは、2013年5月15日付けでATCCに預託されたハイブリドーマ細胞系又はその後継(ATCC受託番号PTA-120352)により産生されたマウス抗ヒトC1sモノクローナル抗体5C12のHVR-H1、HVR-H2、及びHVR-H3を含む。
【0120】
いくつかの実施形態では、抗体はC1s又はC1sプロ酵素に特異的に結合し、その生物学的活性、例えばC1sのC1qへの結合、C1sのC1rへの結合、又はC1sのC2若しくはC4への結合などを阻害する。生物学的活性は、C1sのタンパク質分解酵素活性、C1sプロ酵素から活性型プロテアーゼへの変換、又はC2若しくはC4のタンパク質分解での切断であり得る。特定の実施形態では、生物学的活性は、古典的補体活性化経路の活性化、抗体の活性化、及び補体依存性細胞傷害、又はC1F溶血である。
【0121】
以下の62のパラグラフ内のすべての配列は、本明細書が開示する抗体及び関連する組成物について、本明細書により参考として組み込まれるVan Vlasselaerの米国特許第8,877,197号から参照として組み込まれる。
【0122】
補体成分C1sのドメインIV及びVを包含する領域内のエピトープに特異的に結合するヒト化モノクローナル抗体を投与する方法が本明細書に開示される。いくつかの場合では、抗体は、C1sが補体成分4(C4)に結合するのを阻害し、及び/又はC1sのプロテアーゼ活性を阻害しない。いくつかの実施形態では、方法は、C1複合体内の補体成分C1sと高い結合性(avidity)を有して結合するヒト化モノクローナル抗体を投与することを含む。
【0123】
配列番号57のアミノ酸配列を含む抗体軽鎖可変領域の相補性決定領域(CDR)のうちの1つ以上、及び/又は配列番号58のアミノ酸配列を含む抗体重鎖可変領域のCDRのうちの1つ以上を有する抗C1s抗体を投与する方法が、本明細書に開示される。抗C1s抗体は、ヒト又はラット補体C1sタンパク質と結合し得る。いくつかの実施形態では、抗C1s抗体は、補体C1sタンパク質により切断される少なくとも1つの基質の切断を阻害する。
【0124】
特定の実施形態では、抗体は、a)配列番号51、配列番号52、配列番号53、配列番号54、配列番号55、及び配列番号56から選択されるアミノ酸配列を有する相補性決定領域(CDR)、並びに/又はb)配列番号62、配列番号63、配列番号53、配列番号64、配列番号65、及び配列番号66から選択されるアミノ酸配列を有する相補性決定領域(CDR)を含む。
【0125】
抗体は、配列番号51のアミノ酸配列を有するCDR-L1、配列番号52のアミノ酸配列を有するCDR-L2、配列番号53のアミノ酸配列を有するCDR-L3、配列番号54のアミノ酸配列を有するCDR-H1、配列番号55のアミノ酸配列を有するCDR-H2、及び番号56のアミノ酸配列を有するCDR-H3を含み得る。
【0126】
他の実施形態では、抗体は、配列番号67のアミノ酸配列を有する可変領域の軽鎖CDR、及び/又は配列番号68のアミノ酸配列を有する可変領域の重鎖CDRを含み得る。
【0127】
抗体は、補体成分C1sに特異的に結合するヒト化抗体であり得るが、前記抗体は、エピトープとの結合において、配列番号57若しくは配列番号67のアミノ酸配列を含む抗体軽鎖可変領域のCDRのうちの1つ以上、及び/又は配列番号58若しくは配列番号68のアミノ酸配列を含む抗体重鎖可変領域のCDRのうちの1つ以上を含む抗体と競合する。
【0128】
その他の事例では、抗体は、補体C1sに特異的に結合するヒト化抗体であり得るが、前記抗体は、a)補体C1sタンパク質内のエピトープに特異的に結合するヒト化抗体であって、エピトープとの結合において、配列番号51、配列番号52、配列番号53、配列番号54、配列番号55、及び配列番号56から選択されるアミノ酸配列を有するCDRを含む抗体と競合する前記ヒト化抗体、並びにb)補体C1sタンパク質内のエピトープに特異的に結合するヒト化抗体であって、エピトープとの結合において、配列番号62、配列番号63、配列番号53、配列番号64、配列番号65、及び配列番号66から選択されるアミノ酸配列を有するCDRを含む抗体と競合する前記ヒト化抗体から選択される。いくつかの場合では、抗体は、エピトープとの結合において、a)配列番号51、配列番号52、配列番号53、配列番号69、配列番号55、及び配列番号56、又はb)配列番号62、配列番号63、配列番号53、配列番号64、配列番号65、及び配列番号66を含む重鎖及び軽鎖CDRを含む抗体と競合する。
【0129】
抗体は、異なるポリペプチド中に存在する軽鎖領域及び重鎖領域を含み得る。抗体は、Fc領域を含み得る。
【0130】
配列番号57のアミノ酸配列と90%同一であるアミノ酸配列の軽鎖可変領域、及び配列番号58のアミノ酸配列と90%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含む抗C1s抗体が、本明細書に開示される。
【0131】
抗C1s抗体は、抗原結合断片、Igモノマー、Fab断片、F(ab')2断片、Fd断片、scFv、scAb、dAb、Fv、単一ドメイン重鎖抗体、単一ドメイン軽鎖抗体、単特異性抗体、二重特異性抗体、又は多重特異性抗体から選択され得る。
【0132】
抗体IPN003(本明細書では「IPN-M34」又は「M34」又は「TNT003」とも呼ぶ)が結合するエピトープとの結合において競合する、例えば、抗体IPN003の可変ドメインを含む抗体、例えば抗体IPN003などを投与する方法が、本明細書に開示される。
【0133】
いくつかの実施形態では、方法は、補体C1sタンパク質内のエピトープに特異的に結合する抗体を投与することを含む。いくつかの実施形態では、単離された抗C1s抗体は、活性化したC1sタンパク質と結合する。いくつかの実施形態では、単離された抗C1s抗体は、C1sの不活性化形態と結合する。その他の事例では、単離された抗C1s抗体は、活性化したC1sタンパク質とC1sの不活性化形態の両方と結合する。
【0134】
いくつかの実施形態では、方法は、C4の切断を阻害するモノクローナル抗体を投与することを含み、その場合、単離されたモノクローナル抗体はC2の切断を阻害しない。いくつかの実施形態では、方法は、C2の切断を阻害するモノクローナル抗体を投与することを含み、その場合、単離されたモノクローナル抗体は、C4の切断を阻害しない。いくつかの場合では、単離されたモノクローナル抗体はヒト化されている。いくつかの場合では、抗体は、古典的補体経路の成分を阻害する。いくつかの場合では、抗体により阻害される古典的補体経路の成分はC1sである。本開示は、C4の切断を阻害するが、但しC2の切断は阻害しない単離されたモノクローナル抗体、又は該単離されたモノクローナル抗体を含む医薬組成物を、それを必要としている個体に投与することにより、補体媒介型の疾患又は障害を治療する方法も提供する。
【0135】
いくつかの実施形態では、方法は、C1sによるC2又はC4の切断を阻害する、すなわち、C1s媒介型のC2又はC4のタンパク質分解での切断を阻害するモノクローナル抗体を投与することを含む。いくつかの場合では、モノクローナル抗体はヒト化されている。いくつかの場合では、抗体は、C2又はC4がC1sに結合するのを阻害することにより、C1sによるC2又はC4の切断を阻害するが、例えば、いくつかの場合では、C2又はC4がC1sのC2又はC4の結合部位に結合するのを阻害することにより、抗体はC1s媒介型のC2又はC4の切断を阻害する。したがって、いくつかの場合では、抗体は、競合的阻害剤として機能する。本開示は、C1sによるC2又はC4の切断を阻害する、すなわちC1s媒介型のC2又はC4のタンパク質分解での切断を阻害する単離されたモノクロナール抗体を、それを必要としている個人に投与することにより、脳損傷、好ましくは外傷性脳損傷、低酸素性脳損傷、脳の感染症、又は脳卒中を治療する方法も提供する。
【0136】
いくつかの実施形態では、方法は、C1sによるC4の切断を阻害するモノクローナル抗体を投与することを含み、その場合、該抗体は、C1sによる補体成分C2の切断を阻害しない、すなわち、該抗体は、C1s媒介型のC4の切断を阻害するが、C1s媒介型のC2の切断を阻害しない。いくつかの場合では、モノクローナル抗体はヒト化されている。いくつかの場合では、モノクローナル抗体は、C4がC1sと結合するのを阻害するが、C2がC1sと結合するのを阻害しない。いくつかの実施形態では、方法は、C1sによるC4の切断を阻害する単離されたモノクローナル抗体を、それを必要としている個体に投与することにより補体媒介性の疾患又は障害を治療することを含み、その場合、該抗体は、C1sによる補体成分C2の切断を阻害しない、すなわち、該抗体はC1s媒介型のC4の切断を阻害するが、C1s媒介型のC2の切断を阻害しない。本方法のいくつかの実施形態では、抗体はヒト化されている。
【0137】
いくつかの実施形態では、方法は、C1sのドメインIV及びVを包含する領域内のエピトープに特異的に結合するヒト化モノクローナル抗体を投与することを含む。例えば、ヒト化モノクローナル抗体は、図1に示し、配列番号70に記載のアミノ酸配列のアミノ酸272~422内のエピトープに特異的に結合する。いくつかの場合では、ヒト化モノクローナル抗体は、図1に示し、配列番号70に記載のアミノ酸配列のアミノ酸272~422内のエピトープに特異的に結合し、C4がC1sと結合するのを阻害する。いくつかの実施形態では、方法は、図1に示し、配列番号70に記載のアミノ酸配列のアミノ酸272~422内のエピトープに特異的に結合し、C4のC1sとの結合を阻害するヒト化モノクロナール抗体を、それを必要としている個人に投与することにより、補体媒介性の疾患又は障害を治療することを含む。
【0138】
いくつかの実施形態では、方法は、C1sのドメインIV及びVを包含する領域内の高次構造エピトープに特異的に結合するヒト化モノクローナル抗体を投与することを含む。例えば、図1に示し、配列番号70に記載のアミノ酸配列のアミノ酸272~422内の高次構造エピトープに特異的に結合するヒト化モノクローナル抗体。いくつかの場合では、ヒト化モノクローナル抗体は、図1に示し、配列番号70に記載のアミノ酸配列のアミノ酸272~422内の高次構造エピトープに特異的に結合し、C4がC1sと結合するのを阻害する。いくつかの実施形態では、方法は、脳損傷、好ましくは外傷性脳損傷、低酸素性脳損傷、脳の感染症、又は脳卒中を含み、方法は、図1に示し、配列番号70に記載のアミノ酸配列のアミノ酸272~422内の高次構造エピトープに特異的に結合し、C4がC1sと結合するのを阻害するヒト化モノクローナル抗体を、それを必要としている個体に投与することを含む。
【0139】
いくつかの実施形態では、方法は、C1複合体内の補体成分C1sと結合するモノクローナル抗体を投与することを含む。C1複合体は、C1qにつき6分子、C1rにつき2分子、及びC1sにつき2分子から構成される。いくつかの場合では、モノクローナル抗体はヒト化されている。したがって、いくつかの場合では、C1複合体内の補体成分C1sと結合するヒト化モノクローナル抗体。いくつかの場合では、抗体は、C1複合体内に存在するC1sと高い結合性を有して結合する。
【0140】
いくつかの実施形態では、抗C1s抗体(例えば、補体C1sタンパク質内のエピトープに特異的に結合する対象抗体)は、a)IPN003抗体の1、2、又は3つのVL CDRを含む軽鎖領域、及びb)IPN003抗体の1、2、又は3つのVH CDRを含む重鎖領域を含み、その場合、VH及びVL CDRは、Kabatの定義に従う(例えば、表1、及びKabat 1991を参照)。
【0141】
他の実施形態では、抗C1s抗体(例えば、補体C1sタンパク質内のエピトープに特異的に結合する対象抗体)は、a)IPN003抗体の1、2、又は3つのVL CDRを含む軽鎖領域、及びb)IPN003抗体の1、2、又は3つのVH CDRを含む重鎖領域を含み、その場合、VH及びVL CDRはChothiaの定義に従う(例えば、表1、及びChothia 1987を参照)。
【0142】
IPN003抗体のCDRのアミノ酸配列、並びにVL及びVHのアミノ酸配列を表2に提示する。表2は、アミノ酸配列のそれぞれに割り振られた配列番号も提示する。
【0143】
いくつかの実施形態では、抗C1s抗体(例えば、補体C1sタンパク質内のエピトープに特異的に結合する対象抗体)は、a)配列番号51、配列番号52、及び配列番号53から選択される1、2、又は3つのCDRを含む軽鎖領域、及びb)配列番号54、配列番号55、及び配列番号56から選択される1、2、又は3つのCDRを含む重鎖領域を含む。いくつかのこのような実施形態では、抗C1s抗体は、ヒト化VH及び/又はVLフレームワーク領域を含む。
【0144】
いくつかの実施形態では、抗C1s抗体は、配列番号51、配列番号52、配列番号53、配列番号54、配列番号55、及び配列番号56から選択されるアミノ酸配列を有するCDRを含む。
【0145】
いくつかの実施形態では、抗C1s抗体は、配列番号51、配列番号52、及び配列番号53のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。
【0146】
いくつかの実施形態では、抗C1s抗体は、配列番号54、配列番号55、及び配列番号56のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含む。
【0147】
いくつかの実施形態では、抗C1s抗体は、配列番号51のアミノ酸配列を有するCDR-L1、配列番号52のアミノ酸配列を有するCDR-L2、配列番号53のアミノ酸配列を有するCDR-L3、配列番号54のアミノ酸配列を有するCDR-H1、配列番号55のアミノ酸配列を有するCDR-H2、及び配列番号56のアミノ酸配列を有するCDR-H3を含む。
【0148】
いくつかの実施形態では、抗C1s抗体は、配列番号57に記載のアミノ酸配列と85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。
【0149】
いくつかの実施形態では、抗C1s抗体は、配列番号58に記載のアミノ酸配列と85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含む。
【0150】
いくつかの実施形態では、抗C1s抗体は、配列番号57のアミノ酸配列と90%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。
【0151】
いくつかの実施形態では、抗C1s抗体は、配列番号58のアミノ酸配列と90%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含む。
【0152】
いくつかの実施形態では、抗C1s抗体は、配列番号57のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。
【0153】
いくつかの実施形態では、抗C1s抗体は、配列番号58のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含む。
【0154】
いくつかの実施形態では、抗C1s抗体は、配列番号57のアミノ酸配列と90%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域、及び配列番号58のアミノ酸配列と90%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含む。
【0155】
いくつかの実施形態では、抗C1s抗体は、配列番号57のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域、及び配列番号58のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含む。
【0156】
いくつかの実施形態では、抗C1s抗体は、補体C1sタンパク質内のエピトープに特異的に結合し、前記抗体は、エピトープとの結合において、配列番号57のアミノ酸配列を含む抗体軽鎖可変領域の軽鎖CDR、及び配列番号58のアミノ酸配列を含む抗体重鎖可変領域の重鎖CDRを含む抗体と競合する。
【0157】
いくつかの実施形態では、抗C1s抗体は、配列番号57のアミノ酸配列を含む抗体軽鎖可変領域の軽鎖CDR、及び配列番号58のアミノ酸配列を含む抗体重鎖可変領域の重鎖CDRを含む。
【0158】
いくつかの実施形態では、抗C1s抗体(例えば、補体C1sタンパク質内のエピトープに特異的に結合する対象抗体)は、a)配列番号62、配列番号63、及び配列番号53から選択される1、2、又は3つのCDRを含む軽鎖領域、並びにb)配列番号64、配列番号65、及び配列番号66から選択される1、2、又は3つのCDRを含む重鎖領域を含む。
【0159】
いくつかの実施形態では、抗C1s抗体は、配列番号62、配列番号63、配列番号53、配列番号64、配列番号65、及び配列番号66から選択されるアミノ酸配列を有するCDRを含む。
【0160】
いくつかの実施形態では、抗C1s抗体は、配列番号62、配列番号63、及び配列番号53のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。
【0161】
いくつかの実施形態では、抗C1s抗体は、配列番号64、配列番号65、及び配列番号66のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含む。
【0162】
いくつかの実施形態では、抗C1s抗体は、配列番号62のアミノ酸配列を有するCDR-L1、配列番号63のアミノ酸配列を有するCDR-L2、配列番号53のアミノ酸配列を有するCDR-L3、配列番号64のアミノ酸配列を有するCDR-H1、配列番号65のアミノ酸配列を有するCDR-H2、及び配列番号66のアミノ酸配列を有するCDR-H3を含む。
【0163】
いくつかの実施形態では、抗C1s抗体は、配列番号67に記載のアミノ酸配列と85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。
【0164】
いくつかの実施形態では、抗C1s抗体は、配列番号68に記載のアミノ酸配列と85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含む。
【0165】
いくつかの実施形態では、抗C1s抗体は、配列番号67のアミノ酸配列と90%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。
【0166】
いくつかの実施形態では、抗C1s抗体は、配列番号68のアミノ酸配列と90%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含む。
【0167】
いくつかの実施形態では、抗C1s抗体は、配列番号67のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。
【0168】
いくつかの実施形態では、抗C1s抗体は、配列番号68のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含む。
【0169】
いくつかの実施形態では、抗C1s抗体は、配列番号67のアミノ酸配列と90%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域、及び配列番号68のアミノ酸配列と90%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含む。
【0170】
いくつかの実施形態では、抗C1s抗体は、配列番号67のアミノ酸配列と95%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域、及び配列番号68のアミノ酸配列と95%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含む。
【0171】
いくつかの実施形態では、抗C1s抗体は、配列番号67のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域、及び配列番号68のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含む。
【0172】
いくつかの実施形態では、抗C1s抗体は、補体C1sタンパク質内のエピトープに特異的に結合し、前記抗体は、エピトープとの結合において、配列番号67のアミノ酸配列を含む抗体軽鎖可変領域の軽鎖CDR、及び配列番号68のアミノ酸配列を含む抗体重鎖可変領域の重鎖CDRを含む抗体と競合する。
【0173】
いくつかの実施形態では、抗C1s抗体は、配列番号67のアミノ酸配列を含む抗体軽鎖可変領域の軽鎖CDR、及び配列番号68のアミノ酸配列を含む抗体重鎖可変領域の重鎖CDRを含む。
【0174】
いくつかの実施形態では、抗C1s抗体は、配列番号67に記載のアミノ酸配列と85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。
【0175】
いくつかの実施形態では、抗C1s抗体は、配列番号68に記載のアミノ酸配列と85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含む。
【0176】
抗C1s抗体は、配列番号79に記載し、図2に示すアミノ酸配列(VHバリアント1)と85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含み得る。
【0177】
抗C1s抗体は、配列番号80に記載し、図3に示すアミノ酸配列(VHバリアント2)と85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含み得る。
【0178】
抗C1s抗体は、配列番号81に記載し、図4に示すアミノ酸配列(VHバリアント3)と85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含み得る。
【0179】
抗C1s抗体は、配列番号82に記載し、図5に示すアミノ酸配列(VHバリアント4)と85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含み得る。
【0180】
抗C1s抗体は、配列番号83に記載し、図6に示すアミノ酸配列(VKバリアント1)と85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含み得る。
【0181】
抗C1s抗体は、配列番号84に記載し、図7に示すアミノ酸配列(VKバリアント2)と85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含み得る。
【0182】
抗C1s抗体は、配列番号85に記載し、図8に示すアミノ酸配列(VKバリアント3)と85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含み得る。
【0183】
抗C1s抗体は、表3に示すIPN003親抗体FRのアミノ酸配列と比較して、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、又は12個のフレームワーク(FR)アミノ酸置換を含む重鎖可変領域を含み得る(図9)。
【0184】
定義
本明細書で使用されるとき、「a」又は「an」は1以上を意味し得る。本明細書において請求項で使用される場合、「含む」という単語と一緒に使用される際には、「a」又は「an」という単語は、1又は1より大きいことを意味し得る。例えば、(an)「抗体」への言及は、1つから多数の抗体への言及である。本明細書で使用されるとき、「別の」は、少なくとも第2の、又はその後のものを意味し得る。
【0185】
本明細書で使用するとき、別の化合物又は組成物と「併用した」投与は、同時投与及び/又は異なる時点での投与を含む。併用投与は、合剤として投与すること、又は異なる投与頻度若しくは間隔、及び同一の投与経路若しくは異なる投与経路の使用を含む、個別組成物として投与することも包含する。
【0186】
用語「免疫グロブリン」(Ig)は、本明細書において「抗体」と互換的に使用される。本明細書において、用語「抗体」は、最も広い意味で使用され、具体的には、所望の生物学的活性を示す限り、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、少なくとも2つのインタクト抗体から形成される多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)及び抗体断片を含む。
【0187】
基本的な4本鎖抗体ユニットは、2つの同一の軽(L)鎖及び2つの同一の重(H)鎖から構成されるヘテロ四量体糖タンパク質である。VH及びVLの対は一緒になって、単一の抗原結合部位を形成する。異なるクラスの抗体の構造及び特性について、例えば、Basic and Clinical Immunology, 8th Ed., Daniel P. Stites, Abba I. Terr and Tristram G. Parslow (eds.), Appleton & Lange, Norwalk, CT, 1994, page 71 and Chapter 6を参照されたい。
【0188】
任意の脊椎動物種由来のL鎖を、それらの定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ(「κ」)及びラムダ(「λ」)と呼ばれる2つの明確に異なるタイプのうちの1つに割り当てることができる。それらの重鎖(CH)の定常ドメインのアミノ酸配列に応じて、免疫グロブリンを異なるクラス又はアイソタイプに割り当てることができる。免疫グロブリンには5クラス:IgA、IgD、IgE、IgG及びIgMがあり、それぞれ、アルファ(「α」)、デルタ(「δ」)、イプシロン(「ε」)、ガンマ(「γ」)及びミュー(「μ」)と称する重鎖を有する。γ及びαクラスは、CH配列及び機能の相対的にわずかな差異に基づいて、サブクラス(アイソタイプ)にさらに分類され、例えば、ヒトは、以下のサブクラス、すなわちIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1及びIgA2を発現する。免疫グロブリンの様々なクラスのサブユニット構造及び三次元立体配置は周知であり、例えば、Abbas et al., Cellular and Molecular Immunology, 4th ed. (W.B. Saunders Co., 2000)に一般的に記載されている。
【0189】
「天然抗体」は、通常、2つの同一の軽(L)鎖及び2つの同一の重(H)鎖で構成される約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。各軽鎖は1つの共有ジスルフィド結合によって重鎖に連結され、一方、ジスルフィド結合の数は、異なる免疫グロブリンアイソタイプの重鎖間で異なる。各重鎖及び軽鎖はまた、規則的に間隔をおいた鎖内ジスルフィド架橋を有する。各重鎖は、一端に可変ドメイン(VH)、続くいくつかの定常ドメインを有する。各軽鎖は、一端に可変ドメイン(VL)、その他端に定常ドメインを有し、軽鎖の定常ドメインは、重鎖の第1の定常ドメインと整列し、軽鎖可変ドメインは、重鎖の可変ドメインと整列する。特定のアミノ酸残基は、軽鎖と重鎖の可変ドメイン間の界面を形成すると考えられる。
【0190】
「単離された」分子又は細胞は、それが生成された環境において元来関連付けられる少なくとも1つの夾雑分子又は細胞から同定及び分離される分子又は細胞である。好ましくは、単離された分子又は細胞は、生成環境に関連するすべての成分が付随していない。単離された分子又は細胞は、それが天然に見出される形態又は設定以外の形態にある。したがって、単離された分子は、細胞中に天然に存在する分子とは区別され、単離された細胞は、組織、器官又は個体において天然に存在する細胞と区別される。いくつかの実施形態において、単離された分子は、本開示の抗C1s、抗C1q、又は抗C1r抗体である。他の実施形態では、単離された細胞は本開示の抗C1s、抗C1q、又は抗C1r抗体を生成する宿主細胞又はハイブリドーマ細胞である。
【0191】
「単離された」抗体は、その生成環境(例えば、天然又は組換え)の成分から同定、分離及び/又は回収された抗体である。好ましくは、単離されたポリペプチドは、その生成環境に由来する他のすべての夾雑成分が付随していない。その生成環境に由来する夾雑成分、例えば、トランスフェクトされた組換え細胞から生じるものは、典型的には、抗体の研究、診断的又は治療的使用に干渉する物質であり、酵素、ホルモン及び他のタンパク性又は非タンパク性溶質が含まれ得る。特定の好ましい実施形態において、該ポリペプチドは、(1)例えばLowry法によって決定したとき抗体の95重量%を超えるまで、いくつかの実施形態において99重量%を超えるまで、(2)スピンニングカップシークェネーター(Spinning cup sequenator)の使用によってN末端又は内部アミノ酸配列の少なくとも15残基を得るのに十分な程度に、又は(3)非還元又は還元条件下でクーマシーブルー、又は好ましくは銀染色を用いたSDS-PAGEで均質になるまで精製される。単離された抗体には、組換えT細胞内のインサイチュ抗体が含まれる。これは、該抗体の天然の環境の少なくとも1つの成分が存在しないためである。しかしながら、通常、単離されたポリペプチド又は抗体は、少なくとも1つの精製ステップを含む過程によって調製される。
【0192】
抗体の「可変領域」又は「可変ドメイン」は、抗体の重鎖又は軽鎖のアミノ末端ドメインを指す。重鎖及び軽鎖の可変ドメインは、それぞれ「VH」及び「VL」と称することができる。これらのドメインは、一般的に、抗体の最可変部分(同じクラスの他の抗体と比較して)であり、抗原結合部位を含む。
【0193】
用語「可変」とは、可変ドメインの一定のセグメントが、抗体間で配列に関して広範囲に相違するという事実を指す。Vドメインは抗原結合を媒介し、その特定の抗原に対する特定の抗体の特異性を規定する。しかしながら、可変性は、可変ドメインの全長にわたって均質に分布していない。代わりに、可変性は、軽鎖と重鎖の可変ドメインの両方の超可変領域(HVR)と呼ばれる3つのセグメントに集中する。可変ドメインのより高度に保存された部分は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる。天然の重鎖及び軽鎖の可変ドメインは、各々4つのFR領域を含み、大部分はベータシート立体配置を採り、3つのHVRによって連結され、それらはベータシート構造を連結するループを形成し、いくつかの場合ではベータシート構造の部分を形成する。各鎖のHVRは、FR領域によって極めて接近して一緒に保持され、他の鎖のHVRとともに抗体の抗原結合部位の形成に寄与する(Kabat et al., Sequences of Immunological Interest, Fifth Edition, National Institute of Health, Bethesda, MD (1991)を参照されたい)。定常ドメインは、抗原への抗体の結合には直接的には関与しないが、例えば抗体依存性細胞傷害への抗体の参加などの多様なエフェクター機能を示す。
【0194】
本明細書で使用されるとき、用語「CDR」又は「相補性決定領域」は、重鎖及び軽鎖のポリペプチドの可変領域の中に見出される不連続抗原結合部位を意味することが意図される。CDRは、Kabat et al., J. Biol. Chem. 252:6609-6616 (1977);Kabat et al., U.S. Dept. of Health and Human Services, "Sequences of proteins of immunological interest" (1991)(本明細書ではKabat 1991も参照される);by Chothia et al., J. Mol. Biol. 196:901-917 (1987)(本明細書ではChothia 1987も参照される);及びMacCallum et al., J. Mol. Biol. 262:732-745 (1996)に記載されており、そこではその定義は、互いに比較した場合に重複する又は一部のアミノ酸残基を含む。それでもなお、抗体若しくは移植抗体又はそのバリアントのCDRを指すためにどちらの定義を適用する場合も、本明細書で規定され使用される用語の範囲内であることが意図される。上記の引用文献の各々により規定されるCDRを包含するアミノ酸残基は、比較として下記の表1中に示される。表2中に記載されるCDRはKabat 1991に従って規定された。
【0195】
【表1】
【0196】
【表2】
【0197】
本明細書で使用されるとき、用語「CDR-L1」、「CDR-L2」及び「CDR-L3」は、それぞれ軽鎖可変領域の第1、第2及び第3のCDRを指す。本明細書で使用されるとき、用語「CDR-H1」、「CDR-H2」及び「CDR-H3」は、それぞれ重鎖可変領域の第1、第2及び第3のCDRを指す。本明細書で使用されるとき、用語「CDR-1」、「CDR-2」及び「CDR-3」はそれぞれいずれかの鎖の可変領域の第1、第2及び第3のCDRを指す。
【0198】
用語「モノクローナル抗体」とは、本明細書で使用するとき、実質的に均質な抗体集団から得られる抗体を指す。すなわち、該集団の個々の抗体は、少量で存在し得る天然に存在する可能性がある突然変異及び/又は翻訳後修飾(例えば、異性化、アミド化)を除いて同一である。モノクローナル抗体は、高度に特異的であり、ただ1つの抗原部位に指向される。典型的には種々の決定基(エピトープ)に指向される種々の抗体を含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、各モノクローナル抗体は抗原上のただ1つの決定基に指向される。それらの特異性に加えて、モノクローナル抗体は、典型的にはハイブリドーマ培養によって合成され、他の免疫グロブリンによる夾雑がないため有利である。修飾語「モノクローナル」は、実質的に均質な抗体集団として得られるという抗体の特徴を示し、いずれかの具体的な方法による抗体の生成を要求すると解されるべきではない。例えば、本開示に従って用いられるモノクローナル抗体は、例えば、ハイブリドーマ法(例えばKohler and Milstein., Nature, 256:495-97 (1975)、Hongo et al, Hybridoma, 14 (3): 253-260 (1995)、Harlow et al, Antibodies: A Laboratory Manual, (Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2d ed. 1988)、Hammerling et al, Monoclonal Antibodies and T-Cell Hybridomas 563-681, (Elsevier, N. Y., 1981))、組換えDNA法(例えば、米国特許第4,816,567号を参照されたい)、ファージディスプレイ技術(例えば、Clackson et al, Nature, 352: 624-628 (1991)、Marks et al, J. Mol Biol. 222: 581-597 (1992)、Sidhu et al, J. Mol. Biol. 338(2): 299-310 (2004)、Lee et al, J. Mol. Biol. 340(5): 1073-1093 (2004)、Fellouse, Proc. Nat'l. Acad. Sci USA 101(34): 12467-472 (2004)、及びLee et al, J. Immunol. Methods 284(1-2): 119-132, (2004)を参照されたい)、及びヒト免疫グロブリン遺伝子座又はヒト免疫グロブリン配列をコードする遺伝子の部分又は全部を有する動物においてヒト又はヒト様抗体を製造する技術(例えば、WO1998/24893、WO1996/34096、WO1996/33735、WO1991/10741、Jakobovits et al, Proc. Nat'l. Acad. Sci USA 90: 2551 (1993)、Jakobovits et al, Nature 362: 255-258 (1993)、Bruggemann et al, Year in Immunol. 7:33 (1993)、米国特許第5,545,807号、第5,545,806号、第5,569,825号、第5,625,126号、第5,633,425号及び第5,661,016号、Marks et al, Bio/Technology 10: 779-783 (1992)、Lonberg et al, Nature 368: 856-859 (1994)、Morrison, Nature 368: 812-813 (1994)、Fishwild et al, Nature Biotechnol 14: 845-851 (1996)、Neuberger, Nature Biotechnol. 14: 826 (1996)、並びにLonberg and Huszar, Intern. Rev. Immunol. 13: 65-93, (1995)を参照されたい)を含む多様な技術によって作製できる。
【0199】
用語「全長抗体」、「インタクト抗体」及び「全抗体」は、抗体断片とは対照的に、実質的に無傷な形態で、抗体を指すために互換的に使用される。具体的には、全抗体は、Fc領域を含む重鎖及び軽鎖を有するものを含む。定常ドメインは、天然配列の定常ドメイン(例えば、ヒト天然配列の定常ドメイン)又はそのアミノ酸配列バリアントであってもよい。いくつかの場合において、インタクト抗体は、1つ以上のエフェクター機能を有することができる。
【0200】
「抗体断片」は、インタクト抗体の一部分、好ましくはインタクト抗体の抗原結合領域及び/又は可変領域を含む。抗体断片の例には、Fab、Fab'、F(ab')2及びFv断片、ダイアボディ、線状抗体(米国特許第5,641,870号、実施例2、Zapata et al, Protein Eng. 8(10): 1057-1062 (1995)を参照されたい)、単鎖抗体分子及び抗体断片から形成された多重特異性抗体が含まれる。
【0201】
抗体のパパイン消化は、「Fab」断片と呼ばれる2つの同一の抗原結合断片、及び残りの「Fc」断片(容易に結晶化する能力を反映した呼称)を生じる。Fab断片は、完全なL鎖と併せてH鎖の可変領域ドメイン(VH)及び1つの重鎖の第1の定常ドメイン(CH1)からなる。各Fab断片は、抗原結合に関して一価であり、すなわち、それはただ1つの抗原結合部位を有する。抗体のペプシン処理は、ただ1つの大きなF(ab')2断片を生じ、それは大ざっぱに、異なる抗原結合活性を有する2つのジスルフィド連結されたFab断片に対応し、なお抗原を架橋することができる。Fab'断片は、抗体のヒンジ領域に由来する1つ以上のシステインを含むCH1ドメインのカルボキシ末端にいくつかの追加の残基を有するという点でFab断片と異なる。Fab'-SHは、Fab'についての本明細書における呼称であり、定常ドメインのシステイン残基が遊離チオール基を保持する。F(ab')2抗体断片は、もともとFab'断片の間にヒンジシステインを有するFab'断片の対として生成された。抗体断片の他の化学的結合物もまた公知である。
【0202】
Fc断片は、ジスルフィドによって一緒に保持された両H鎖のカルボキシ末端部分を含む。抗体のエフェクター機能は、Fc領域の配列によって決定され、その領域はまたある種の細胞上で見出されるFc受容体(FcR)によって認識される。
【0203】
本明細書において、用語「Fc領域」は、天然配列Fc領域とバリアントFc領域を含む、免疫グロブリン重鎖のC末端領域を規定するために用いられる。免疫グロブリン重鎖のFc領域の境界は変動する可能性があるが、ヒトIgG重鎖Fc領域は、通常、Cys226位のアミノ酸残基又はPro230からそのカルボキシル末端までの一続きの長さと規定される。Fc領域のC末端リジン(EU番号付与システムによる残基447)は、例えば、抗体の製造若しくは精製中に、又は抗体の重鎖をコードする核酸を組換えにより操作することによって除去することができる。したがって、インタクト抗体の組成は、すべてのK447残基が除去された抗体集団、K447残基が除去されていない抗体集団、及びK447残基をもつ抗体及びもたない抗体の混合物を有する抗体集団を含むことができる。本開示の抗体で使用するために適切な天然配列のFc領域としては、ヒトIgG1、IgG2、IgG3及びIgG4が含まれる。
【0204】
「天然配列のFc領域」は、天然に見出されるFc領域のアミノ酸配列と同一であるアミノ酸配列を含む。天然配列のヒトFc領域には、天然配列のヒトIgG1 Fc領域(非A及びAアロタイプ)、天然配列のヒトIgG2 Fc領域、天然配列のヒトIgG3 Fc領域、及び天然配列のヒトIgG4 Fc領域並びに天然に存在するそれらのバリアントが含まれる。
【0205】
「バリアント(変種)Fc領域」は、少なくとも1つのアミノ酸修飾、好ましくは1個以上のアミノ酸置換によって、天然配列のFc領域のものとは異なるアミノ酸配列を含む。好ましくは、バリアントFc領域は、天然配列のFc領域又は親ポリペプチドのFc領域と比較して、少なくとも1つのアミノ酸置換、例えば、天然配列のFc領域又は親ポリペプチドのFc領域において、約1個~約10個のアミノ酸置換、及び好ましくは約1個~約5個のアミノ酸置換を有する。本明細書において、バリアントFc領域は、好ましくは天然配列のFc領域及び/又は親ポリペプチドのFc領域と少なくとも約80%相同性を有し、最も好ましくは、それと少なくとも約90%相同性、より好ましくは、それと少なくとも約95%相同性を有する。
【0206】
「Fc受容体」又は「FcR」は、抗体のFc領域と結合する受容体を表す。好ましいFcRは、天然配列のヒトFcRである。さらに、好ましいFcRは、IgG抗体と結合するもの(ガンマ受容体)であり、FcγRI、FcγRII及びFcγRIIIサブクラスの受容体を含み、これには対立遺伝子バリアント及びこれらの受容体の別のスプライス型を含む。FcγRII受容体はFcγRIIA(「活性化受容体」)及びFcγRIIB(「阻害性受容体」)を含み、それらは同様のアミノ酸配列を有し、主としてその細胞質ドメインにおいて相違する。活性化受容体FcγRIIAは、イムノレセプターチロシン系活性化モチーフ(「ITAM」)をその細胞質ドメインに含む。阻害性受容体FcγRIIBは、イムノレセプターチロシン系阻害モチーフ(「ITIM」)をその細胞質ドメインに含む。(例えば、M. Daeron, Annu. Rev. Immunol. 15: 203-234 (1997)を参照されたい)。FcRは、Ravetch and Kinet, Annu. Rev. Immunol. 9: 457-92 (1991)、Capel et al, Immunomethods 4: 25-34 (1994)及びde Haas et al, J. Lab. Clin. Med. 126: 330-41 (1995)に概説されている。他のFcRは、将来同定されるものを含み、本明細書において用語「FcR」に包含される。また、FcRは、抗体の血清半減期を増加させ得る。
【0207】
FcRnとのインビボでの結合及びヒトFcRn高親和性結合ポリペプチドの血清半減期は、例えば、ヒトFcRnを発現するトランスジェニックマウス若しくは遺伝子導入されたヒト細胞株で、又はバリアントFc領域を有するポリペプチドを投与した霊長類でアッセイすることができる。WO2004/42072(Presta)は、FcRとの結合が改善された又は低下した抗体バリアントを記載している。例えば、Shields et al, J. Biol. Chem. 9(2): 6591-6604 (2001)も参照されたい。
【0208】
「Fv」は、完全な抗原認識部位及び抗原結合部位を含む最小の抗体断片である。この断片は、しっかり固定された非共有結合の1つの重鎖及び1つの軽鎖の可変領域ドメインの二量体からなる。これらの2つのドメインの折畳みからは、6つの超可変ループ(H鎖及びL鎖からそれぞれ3ループ)が発し、それは、抗原結合のためのアミノ酸残基に寄与し、抗原結合特異性を抗体に付与する。しかしながら、ただ1つの可変ドメイン(又は1つの抗原に特異的な3つのHVRのみを含む半分のFV)でも、抗原を認識し、結合することが可能であるが、親和性は完全な結合部位よりも低い。
【0209】
「単鎖Fv」は、「sFv」又は「scFv」とも略され、1本のポリペプチド鎖に連結されたVH及びVL抗体ドメインを含む抗体断片である。好ましくは、sFvポリペプチドはさらに、抗原結合のためにsFvに所望の構造を形成させることができるポリペプチドリンカーをVHとVLドメインの間に含む。sFvの概説については、Pluckthun in The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, vol. 113, Rosenburg and Moore eds., Springer-Verlag, New York, pp. 269-315 (1994)を参照されたい。
【0210】
抗体の「機能的断片」は、インタクト抗体の一部分を含み、一般的には、インタクト抗体の抗原結合領域若しくは可変領域、又は修飾されたFcR結合能力を保持若しくは有する抗体のF領域が含まれる。抗体断片の例には、線状抗体、単鎖抗体分子及び抗体断片から形成された多重特異性抗体が含まれる。
【0211】
用語「ダイアボディ」は、Vドメインの鎖内ではなく鎖間の対形成が達成されるように、それによって二価断片、すなわち、2つの抗原結合部位を有する断片を生じるように、VHとVLドメインの間に短いリンカー(約5~10残基)を有するsFv断片(先行するパラグラフを参照されたい)を構築することによって調製された小さな抗体断片を指す。二重特異性ダイアボディは、2つの「クロスオーバー」sFv断片のヘテロダイマーであり、2つの抗体のVH及びVLドメインが異なるポリペプチド鎖上に存在する。ダイアボディは、例えば、EP404,097、WO1993/011161、WO/2009/121948、WO/2014/191493、Hollinger et al, Proc. Nat'l. Acad. Sci. USA 90: 6444-48 (1993)に非常に詳細に記載されている。
【0212】
本明細書で使用するとき、「キメラ抗体」は、重鎖及び/又は軽鎖の一部分が、特定の種に由来する又は特定の抗体クラス若しくはサブクラスに属する抗体の対応する配列と同一又は相同であり、一方、鎖の残余部分は、別の種に由来する又は別の抗体クラス若しくはサブクラスに属する抗体の対応する配列と同一又は相同である抗体(免疫グロブリン)、並びに所望の生物学的活性を示す限り、このような抗体の断片を指す(米国特許第4,816,567号、Morrison et al, Proc. Nat'l. Acad. Sci. USA, 81: 6851-55 (1984))。本明細書において対象とするキメラ抗体は、PRIMATIZED(登録商標)抗体を含み、該抗体の抗原結合領域は、例えば、対象とする抗原を用いてマカクザルを免疫することによって産生される抗体由来である。本明細書で使用するとき、「ヒト化抗体」は、「キメラ抗体」のサブセットである。
【0213】
非ヒト(例えば、マウス)抗体の「ヒト化」形態は、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小配列を含むキメラ抗体である。いくつかの実施形態において、ヒト化抗体は、ヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)であり、レシピエントのHVR由来の残基が、所望の特異性、親和性及び/又は能力を有する非ヒト種(ドナー抗体)、例えば、マウス、ラット、ウサギ又は非ヒト霊長類のHVR由来の残基によって置き換えられる。いくつかの例において、ヒト免疫グロブリンのFR残基は、対応する非ヒト残基によって置き換えられる。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体及びドナー抗体で見出されない残基を含むことができる。これらの修飾は、例えば結合親和性などの抗体の性能をさらに洗練するために実施され得る。一般的に、ヒト化抗体は、少なくとも1つの、典型的には2つの可変ドメインの実質的に全部を含み、超可変ループの全部又は実質的に全部が、非ヒト免疫グロブリン配列のものと対応し、FR領域の全部又は実質的に全部が、ヒト免疫グロブリン配列のものであるが、FR領域は、抗体の性能、例えば、結合親和性、異性化、免疫原性などを改善する個々のFR残基の1つ以上の置換を含むことができる。FRにおけるこれらのアミノ酸置換の数は、典型的には、H鎖では6個以下であり、L鎖では3個以下である。ヒト化抗体はまた、場合により、免疫グロブリン定常領域(Fc)、典型的にはヒト免疫グロブリンの定常領域の少なくとも一部分を含む。さらなる詳細については、例えば、Jones et al, Nature 321: 522-525 (1986)、Riechmann et al, Nature 332: 323-329 (1988)及びPresta, Curr. Op. Struct. Biol. 2: 593-596 (1992)を参照されたい。また、例えば、Vaswani and Hamilton, Ann. Allergy, Asthma & Immunol. 1: 105-115 (1998)、Harris, Biochem. Soc. Transactions 23: 1035-1038 (1995)、Hurle and Gross, Curr. Op. Biotech. 5: 428-433 (1994)、並びに米国特許第6,982,321号及び第7,087,409号を参照されたい。
【0214】
「ヒト抗体」は、ヒトによって産生された抗体のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を有するヒト抗体、及び/又は本明細書に開示されるヒト抗体を作製するための技術のいずれかを用いて作製されたヒト抗体である。このヒト抗体の定義は、具体的には、非ヒト抗原結合残基を含むヒト化抗体を除外する。ヒト抗体は、ファージディスプレイライブラリーを含む、当該技術分野において公知の多様な技術を用いて製造することができる。Hoogenboom and Winter, J. Mol. Biol., 227:381 (1991)、Marks et al, J. Mol. Biol., 222:581 (1991)。さらにヒトモノクローナル抗体の調製には、Cole et al, Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, p. 77 (1985)、Boerner et al, J. Immunol., 147(1): 86-95 (1991)に記載された方法が利用できる。van Dijk and van de Winkel, Curr. Opin. Pharmacol, 5: 368-74 (2001)も参照されたい。ヒト抗体は、抗原チャレンジに応答してこのような抗体を産生するように修飾されているが、その内在性遺伝子座は不能にされているトランスジェニック動物、例えば、免疫ゼノマウスに抗原を投与することによって調製できる(例えば、XENOMOUSE(商標)技術に関しては米国特許第6,075,181号及び第6,150,584号を参照されたい)。さらに、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術により生成されるヒト抗体に関しては、例えば、Li et al, Proc. Nat'l. Acad. Sci. USA, 103:3557-3562 (2006)を参照されたい。
【0215】
用語「超可変領域」、「HVR」又は「HV」は、本明細書で使用するとき、配列が超可変である及び/又は構造的に規定されたループを形成する抗体の可変ドメイン領域を指す。一般的に、抗体は、6つのHVRを含み、3つはVHにあり(H1、H2、H3)、3つはVLにある(L1、L2、L3)。天然の抗体では、H3及びL3は6つのHVRで最大の多様性を示し、特に、H3は抗体に精密な特異性を付与する上で固有の役割を果たすと考えられる。例えば、Xu et al, Immunity 13:37-45 (2000)、Johnson and Wu, in Methods in Molecular Biology 248: 1-25 (Lo, ed., Human Press, Totowa, NJ (2003))を参照されたい。実際に、天然に存在するラクダ科の重鎖のみからなる抗体は、軽鎖の非存在下で機能し、安定である。例えば、Hamers-Casterman et al., Nature 363:446-448 (1993)及びSheriff et al, Nature Struct. Biol. 3: 733-736 (1996)を参照されたい。
【0216】
いくつかのHVRの範囲決定が用いられ、本明細書に包含される。Kabatの相補性決定領域(CDR)であるHVRは配列可変性に基づき、最も一般的に用いられている(Kabat et al.、上述)。Chothiaは、むしろ構造性ループの配置に言及する(Chothia and Lesk, J. Mol. Biol. 196: 901-917 (1987))。AbM HVRは、Kabat CDRとChothia構造性ループの折衷案を提示し、オックスフォードモレキュラー(Oxford Molecular)のAbM抗体モデリングソフトウェアで用いられている。「接触」HVRは、利用可能な複合結晶構造の分析に基づいている。これらHVRの各々の残基を下記に記す。
【0217】
【0218】
HVRは以下の通りの「伸長HVR(extended HVR)」を含むことができる:VLにおいて24-36又は24-34(L1)、46-56又は50-56(L2)及び89-97又は89-96(L3)、並びにVHにおいて26-35(H1)、50-65又は49-65(好ましい実施形態)(H2)及び93-102、94-102又は95-102(H3)。可変ドメイン残基は、これらの伸長HVRの定義の各々についてKabat et al.(上述)に従って番号付与される。
【0219】
「フレームワーク」又は「FR」残基は、本明細書で定義されるHVR残基以外の可変ドメイン残基である。
【0220】
語句「Kabatの可変ドメイン残基の番号付与」又は「Kabatのアミノ酸の位置の番号付与」及びそれらの変型は、抗体の編集に関して重鎖可変ドメイン又は軽鎖可変ドメインについて用いられるKabat et al.(上述)の番号付与システムを指す。この番号付与システムを用いると、実際の直線的なアミノ酸配列は、可変ドメインのFR又はHVRにおける短縮又は挿入に対応してアミノ酸の減少又は付加を含むことができる。例えば、重鎖可変ドメインは、H2の残基52の後ろに1アミノ酸の挿入(Kabatによる残基52a)及び重鎖FR残基82の後ろに挿入残基(例えば、Kabatによる残基82a、82b及び82cなど)を含むことができる。残基のKabat番号付与は、Kabat番号付与が実施された「標準」配列と所与の抗体の配列の相同性領域におけるアラインメントによって該抗体について決定することができる。
【0221】
Kabat番号付与システムは、一般的に、可変ドメインにおける残基(軽鎖の残基1-107程度及び重鎖の残基1-113程度)に言及する場合に使用される(例えば、Kabat et al., Sequences of Immunological Interest. 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, Md. (1991))。「EU番号付与システム」又は「EUインデックス」は、一般的に、免疫グロブリン重鎖定常領域における残基に言及するときに使用される(例えば、Kabat et al.(上述)において報告されているEUインデックス)。「KabatにおけるようなEUインデックス」とは、ヒトIgG1 EU抗体の残基番号付与を指す。本明細書において他に記述がなければ、抗体の可変ドメインにおける残基番号への言及は、Kabat番号付与システムによる残基番号付与を意味する。本明細書において他に記述がなければ、抗体の定常ドメインにおける残基番号への言及は、EU番号付与システムによる残基番号付与を意味する(例えば、米国特許公開第2010-280227号を参照されたい)。
【0222】
「アクセプターヒトフレームワーク」は、本明細書で使用するとき、ヒト免疫グロブリンのフレームワーク又はヒトコンセンサスフレームワーク由来のVL又はVHフレームワークのアミノ酸配列を含むフレームワークである。ヒト免疫グロブリンフレームワーク又はヒトコンセンサスフレームワークに「由来する」アクセプターヒトフレームワークは、その同じアミノ酸配列を含んでもよく、又は既存のアミノ酸配列変化を含んでもよい。いくつかの実施形態において、既存のアミノ酸変化の数は、10個以下、9個以下、8個以下、7個以下、6個以下、5個以下、4個以下、3個以下又は2個以下である。既存のアミノ酸変化がVHに存在する場合、好ましくはそれらの変化は、位置71H、73H及び78Hのほんの3つ、2つ又は1つで起こり、例えば、それらの位置でのアミノ酸残基は71A、73T及び/又は78Aであってもよい。いくつかの実施形態において、VLアクセプターヒトフレームワークは、VLヒト免疫グロブリンフレームワーク配列又はヒトコンセンサスフレームワーク配列と配列が同一である。
【0223】
「ヒトコンセンサスフレームワーク」は、ヒト免疫グロブリンのVL又はVHフレームワーク配列の選択における最も一般的に存在するアミノ酸残基を示すフレームワークである。一般的に、ヒト免疫グロブリンのVL又はVH配列の選択は、可変ドメイン配列のサブグループに由来する。一般的に、配列のサブグループは、Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991)におけるようなサブグループである。VLについての例には、Kabat et al.(上述)におけるようなサブグループであり得るカッパI、カッパII、カッパIII又はカッパIVが含まれ得る。さらに、VHについては、サブグループは、Kabat et al.(上述)におけるようなサブグループI、サブグループII又はサブグループIIIであり得る。
【0224】
特定の位置の「アミノ酸修飾」は、特定の残基の置換若しくは欠失、又は特定の残基に隣接する少なくとも1つのアミノ酸残基の挿入を指す。特定の残基に「隣接する」挿入は、その1つ又は2つの残基内の挿入を意味する。挿入は、特定の残基のN末端側又はC末端側であり得る。本明細書では好ましいアミノ酸修飾は置換である。
【0225】
「親和性成熟」抗体は、その1つ以上のHVRにおいて1つ以上の変更を有する抗体であり、該変更は、そのような変更をもたない親抗体と比較して、抗原に対する該抗体の親和性の改善をもたらす。いくつかの実施形態において、親和性成熟抗体は、標的抗原に対してナノモル親和性又はピコモル親和性さえ有する。親和性成熟抗体は、当該技術分野において公知の手順によって製造される。例えば、Marks et al., Bio/Technology 10:779-783 (1992)は、VH及びVLドメインシャッフリングによる親和性成熟を記載している。HVR及び/又はフレームワーク残基のランダム突然変異誘発は、例えば、Barbas et al. Proc Nat. Acad. Sci. USA 91:3809-3813 (1994)、Schier et al. Gene 169:147-155 (1995)、Yelton et al. J. Immunol. 155:1994-2004 (1995)、Jackson et al., J. Immunol. 154(7):3310-9 (1995)及びHawkins et al, J. Mol. Biol. 226:889-896 (1992)に記載されている。
【0226】
本明細書で使用するとき、用語「特異的に認識する」又は「特異的に結合する」とは、測定可能であり、再現性を有する相互作用、例えば、標的と、抗体との間の引力又は結合を指し、生物学的分子を含む不均質な分子集団の存在下で該標的の存在を決定できる。例えば、標的又はエピトープと特異的に又は優先的に結合する抗体は、それが他の標的又は標的の他のエピトープと結合するよりも高い親和性、結合性(avidity)で、より迅速に、及び/又はより長い時間、この標的又はエピトープと結合する抗体である。また、例えば、第1の標的に特異的又は優先的に結合する抗体(又は部分)は、第2の標的に特異的に又は優先的に結合してもよく又は結合しなくてもよいことが理解される。したがって、「特異的な結合」又は「優先的な結合」は、必ずしも排他的な結合を必要としない(但し、排他的な結合を含んでもよい)。標的に特異的に結合する抗体は、少なくとも約103M-1若しくは104M-1、時々約105M-1若しくは106M-1、他の例においては約106M-1若しくは107M-1、約108M-1~109M-1、又は約1010M-1~1011M-1或いはそれを超える結合定数を有してもよい。様々なイムノアッセイフォーマットを用いて、特定のタンパク質と特異的に免疫反応する抗体を選択することができる。例えば、固相ELISAイムノアッセイを慣用的に用いて、タンパク質と特異的に免疫反応するモノクローナル抗体を選択する。特異的な免疫反応性を決定するために用いることができるイムノアッセイフォーマット及び条件の説明については、例えば、Harlow and Lane (1988) Antibodies, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Publications, New Yorkを参照されたい。
【0227】
「同一性」とは、本明細書で使用するとき、アライメントされた配列内の任意の特定の位置において、アミノ酸残基が、配列間で同一であることを表す。「類似性」とは、本明細書で使用するとき、アライメントされた配列内の任意の特定の位置において、アミノ酸残基が、配列間で類似したタイプであることを示す。例えば、ロイシンは、イソロイシン又はバリンに置換され得る。高頻度で相互に置換可能なその他のアミノ酸として、
- フェニルアラニン、チロシン、及びトリプトファン(芳香族側鎖を有するアミノ酸)、
- リジン、アルギニン、及びヒスチジン(塩基性側鎖を有するアミノ酸)、
- アスパラギン酸及びグルタミン酸(酸性側鎖を有するアミノ酸)、
- アスパラギン及びグルタミン(アミド側鎖を有するアミノ酸)、並びに
- システイン及びメチオニン(イオウ含有側鎖を有するアミノ酸)
が挙げられるが、但しこれらに限定されない。
【0228】
同一性及び類似性の程度は、直ちに計算可能である(例えば、Computational Molecular Biology, Lesk, A.M., ed., Oxford University Press, New York, 1988、Biocomputing. Informatics and Genome Projects, Smith, D.W., ed., Academic Press, New York, 1993、Computer Analysis of Sequence Data, Part 1, Griffin, A.M., and Griffin, H.G., eds., Humana Press, New Jersey, 1994、Sequence Analysis in Molecular Biology, von Heinje, G., Academic Press, 1987、及びSequence Analysis Primer, Gribskov, M. and Devereux, J., eds., M Stockton Press, New York, 1991を参照)。
【0229】
本明細書で使用するとき、補体タンパク質と第2のタンパク質の間の「相互作用」は、限定されないが、タンパク質-タンパク質相互作用、物理的相互作用、化学的相互作用、結合、共有結合及びイオン結合を包含する。本明細書で使用するとき、抗体は、抗体が2つのタンパク質間の相互作用を破壊し、減少し、又は完全に排除するとき、2つのタンパク質間の「相互作用を阻害する」。本開示の抗体又はその断片は、該抗体又はその断片が2つのタンパク質のうちの1つに結合するとき、2つのタンパク質間の「相互作用を阻害する」。
【0230】
「ブロッキング」抗体、「アンタゴニスト」抗体、「阻害」抗体又は「中和」抗体は、該抗体が結合する抗原の1つ以上の生物学的活性、例えば、1つ以上のタンパク質との相互作用を阻害又は低減する抗体である。いくつかの実施形態において、ブロッキング抗体、アンタゴニスト抗体、阻害抗体又は「中和」抗体は、1つ以上の生物学的活性又は抗原の相互作用を実質的に又は完全に阻害する。
【0231】
抗体の「エフェクター機能」は、抗体のFc領域(天然配列Fc領域又はアミノ酸配列バリアントFc領域)に起因するそれらの生物学的活性を指し、抗体アイソタイプとともに変動する。
【0232】
本明細書で使用するとき、用語「親和性」は、2つの物質(例えば抗体と抗原)の可逆的結合の平衡定数を指し、解離定数(KD)として表される。親和性は、無関係のアミノ酸配列に対する抗体の親和性よりも、少なくとも1倍大きく、少なくとも2倍大きく、少なくとも3倍大きく、少なくとも4倍大きく、少なくとも5倍大きく、少なくとも6倍大きく、少なくとも7倍大きく、少なくとも8倍大きく、少なくとも9倍大きく、少なくとも10倍大きく、少なくとも20倍大きく、少なくとも30倍大きく、少なくとも40倍大きく、少なくとも50倍大きく、少なくとも60倍大きく、少なくとも70倍大きく、少なくとも80倍大きく、少なくとも90倍大きく、少なくとも100倍大きく、又は少なくとも1,000倍大きく、又はさらに大きくてもよい。標的タンパク質への抗体の親和性は、例えば、約100ナノモル濃度(nM)から約0.1nMまで、約100nMから約1ピコモル濃度(pM)まで、又は約100nMから約1フェムトモル濃度(fM)まで、又はさらに大きくてもよい。本明細書で使用されるとき、用語「結合性(avidity)」は、2つ以上の物質の複合体の、希釈した後の解離に対する抵抗性を指す。用語「免疫反応性」及び「優先的に結合する」は、本明細書では抗体及び/又は抗原結合性断片に関して互換的に使用される。
【0233】
用語「結合する」は、例えば、塩橋及び水架橋などの相互作用を含む、共有結合、静電気的、疎水性、及びイオン性並びに/又は水素結合性の相互作用による、2つの分子の間の直接的結合を指す。例えば、対象の抗C1s抗体は、補体C1sタンパク質中のエピトープに特異的に結合する。「特異的結合」は、少なくとも約10-7M以上、例えば、5×10-7M、10-8M、5×10-8M及びそれよりも大きい親和性を有する結合を指す。「非特異的結合」は約10-7M未満の親和性での結合、例えば、10-6M、10-5M、10-4Mなどの親和性での結合を指す。
【0234】
用語「kon」は、本明細書で使用するとき、抗原への抗体の結合に関する速度定数を指すことが意図される。
【0235】
用語「koff」は、本明細書で使用するとき、抗体/抗原複合体からの抗体の解離の速度定数を指すことが意図される。
【0236】
用語「KD」は、本明細書で使用するとき、抗体-抗原相互作用の平衡解離定数を指すことが意図される。
【0237】
本明細書で使用するとき、ペプチド、ポリペプチド又は抗体の配列に関して「パーセント(%)アミノ酸配列同一性」及び「相同性」は、配列をアラインさせ、必要な場合にギャップを導入して最大のパーセント配列同一性を達成した後、配列同一性の部分として保存的置換を一切考慮しないで、該特定のペプチド又はポリペプチド配列中のアミノ酸残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基のパーセンテージを指す。パーセントアミノ酸配列同一性の決定を目的とするアラインメントは、当該技術分野の技術範囲内である多様な方法、例えば、公開されているコンピュータソフトウェア、例えば、BLAST、BLAST-2、ALIGN又はMEGALIGN(商標)(DNASTAR)ソフトウェアを用いて達成できる。当業者は、アラインメントを測定するために適切なパラメータを決定することができ、それには、比較される配列の全長にわたって最大のアラインメントを達成するために必要な、当該技術分野で公知の任意のアルゴリズムが含まれる。
【0238】
「生物学的試料」は個体から取得された多様な試料の種類を含み、診断又は監視のアッセイにおいて使用することができる。この定義には、血液及び他の生物学的起源の液体試料、例えば生検標本又は組織培養又はそれに由来する細胞及びその子孫などの固形組織試料が含まれる。この定義には、試薬による処理、可溶化、又は例えばポリヌクレオチドなどの特定の成分の濃縮などにより、その調達後に任意の方法で操作されている試料も含まれる。用語「生物学的試料」には、臨床試料が含まれ、また培養、細胞上清、細胞溶解物、血清、血漿、生物学的液体、及び組織試料における細胞も含む。用語「生物学的試料」には尿、唾液、脳脊髄液、間質液、眼液、滑液、例えば血漿及び血清などの血液分画などが含まれる。用語「生物学的試料」にはまた固形組織試料、組織培養試料、及び細胞試料も含まれる。
【0239】
「単離された」核酸分子は、同定されている核酸分子であって、該核酸分子が生成された環境で通常付随する少なくとも1つの夾雑核酸分子から分離されている核酸分子である。好ましくは、単離された核酸は、生成環境に関連するすべての成分が付随していない。本明細書のポリペプチド及び抗体をコードする単離された核酸分子は、それが天然で見出される形態又は設定以外の形態にある。したがって、単離された核酸分子は、細胞内に天然に存在する本明細書の任意のポリペプチド及び抗体をコードする核酸と区別される。
【0240】
用語「ベクター」は、本明細書で使用するとき、それが連結されている別の核酸を輸送することができる核酸分子を指すことが意図される。1つのタイプのベクターは「プラスミド」であり、これは、その中に付加的なDNAセグメントを連結させ得る環状の二本鎖DNAを指す。別のタイプのベクターはファージベクターである。別のタイプのベクターはウイルスベクターであり、この場合、付加的なDNAセグメントをウイルスゲノム中に連結させることができる。ある種のベクターは、それらが導入される宿主細胞内で自律複製することができる(例えば、細菌複製起点を有する細菌ベクター及びエピソーム哺乳動物ベクター)。他のベクター(例えば、非エピソーム哺乳動物ベクター)は、宿主細胞内に導入されたときに宿主細胞のゲノム中に組み込まれることができ、それによって、宿主ゲノムとともに複製される。さらに、ある種のベクターは、それらが機能的に連結されている遺伝子の発現を導くことができる。このようなベクターは、本明細書において、「組換え発現ベクター」又は単に「発現ベクター」と呼ばれる。一般に、組換えDNA技術において有用な発現ベクターは、多くの場合、プラスミドの形態である。プラスミドが最も一般的に使用されるベクターの形態であるため、本明細書において、「プラスミド」及び「ベクター」は互換的に使用することができる。
【0241】
「ポリヌクレオチド」又は「核酸」は、本明細書で互換的に使用するとき、任意の長さのヌクレオチドのポリマーを指し、DNA及びRNAを含む。ヌクレオチドは、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、修飾されたヌクレオチド若しくは塩基、及び/又はそれらの類似体、或いはDNA若しくはRNAポリメラーゼによって又は合成反応によってポリマーに取り込ませることができる任意の基質であることができる。ポリヌクレオチドは、メチル化ヌクレオチド及びそれらの類似体などの修飾されたヌクレオチドを含むことができる。存在する場合、ヌクレオチド構造に対する修飾は、ポリマーのアセンブリの前又は後に与えることができる。ヌクレオチドの配列は、非ヌクレオチド成分によって中断されてもよい。ポリヌクレオチドは、標識とのコンジュゲーションなどの、合成後になされる修飾(複数可)を含むことができる。他の修飾の種類には、例えば、「キャッピング」、天然に存在するヌクレオチドのうちの1つ以上を類似体に置換すること、例えば、非荷電結合(例えば、ホスホン酸メチル、ホスホトリエステル、ホスホアミデート、カルバメートなど)を有するもの及び荷電結合(例えば、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエートなど)を有するものなどのヌクレオチド間修飾、例えば、タンパク質(例えば、ヌクレアーゼ、毒素、抗体、シグナルペプチド、ポリ(ply)-L-リジンなど)などのペンダント部分を含有するもの、インターカレーター(例えば、アクリジン、ソラレンなど)を有するもの、キレート剤(例えば、金属、放射性金属、ホウ素、酸化金属など)を含有するもの、アルキル化剤を含有するもの、修飾された連結を有するもの(例えば、アルファアノマー核酸など)、並びにポリヌクレオチドの非修飾形態が含まれる。さらに、糖の中に通常存在するヒドロキシル基のうちのいずれかを、例えば、ホスホン酸基、リン酸基によって置き換える、標準的な保護基によって保護する、若しくはさらなるヌクレオチドとのさらなる連結を調製するために活性化することができる、又は固体若しくは半固体の支持体にコンジュゲートさせることができる。5'及び3'末端のOHは、リン酸化するか、又はアミン若しくは1~20個の炭素原子の有機キャップ基部分で置換することができる。他のヒドロキシルを標準的な保護基へと誘導体化することもできる。ポリヌクレオチドは、例えば、2'-O-メチル-、2'-O-アリル-、2'-フルオロ-、又は2'-アジド-リボース、炭素環式糖類似体、α-アノマー糖、例えばアラビノース、キシロース、又はリキソースなどのエピマー糖、ピラノース糖、フラノース糖、セドヘプツロース、非環状類似体、及び例えばメチルリボシドなどの塩基性ヌクレオシド類似体を含む、当該技術分野において一般に公知のリボース又はデオキシリボース糖の類似形態を含有することもできる。1つ以上のリン酸ジエステル結合を代替の連結基によって置き換えることができる。これらの代替の連結基には、限定されないが、リン酸が、P(O)S(「チオエート」)、P(S)S(「ジチオエート」)、(O)NR2(「アミデート」)、P(O)R、P(O)OR'、CO、又はCH2(「ホルムアセタール」)によって置き換えられている実施形態が含まれ、ここで、各々のR又はR'は、独立して、H、又はエーテル(-O-)結合、アリール、アルケニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、若しくはアラルキルを場合によって含有する置換若しくは非置換アルキル(1~20個のC)である。ポリヌクレオチド中のすべての連結が同一である必要はない。前述の説明は、RNA及びDNAを含む、本明細書で言及されたすべてのポリヌクレオチドに適用される。
【0242】
「遺伝子編集剤」は、本明細書で使用される場合、ある遺伝子編集剤として定義され、その代表的な例として、CRISPR関連ヌクレアーゼ、例えばCas9及びCpfl gRNA、エンドヌクレアーゼのアルゴノートファミリー、クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)ヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写アクチベーター様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、メガヌクレアーゼ、その他のエンド及び/又はエキソヌクレアーゼが挙げられる。参照により本明細書に組み込まれるSchiffer、2012、J Virol 88(17):8920-8936を参照。
【0243】
「RNA干渉剤」は、本明細書で使用される場合、RNA干渉(RNAi)により標的バイオマーカー遺伝子を妨害し、又はその発現を阻害する任意の薬剤として定義される。そのようなRNA干渉剤として、本発明の標的バイオマーカー遺伝子と相同であるRNA分子又はその断片を含む核酸分子、短鎖干渉RNA(siRNA)、及びRNA干渉(RNAi)により標的バイオマーカー核酸の発現を妨害又は阻害する小分子が挙げられるが、但しこれらに限定されない。
【0244】
「RNA干渉(RNAi)」は進化的に保存されたプロセスであり、そのプロセスによって、標的バイオマーカー核酸と同一又はきわめて類似した配列のRNAの発現又は導入が、標的とされる遺伝子から転写されたメッセンジャーRNA (mRNA)の配列特異的分解又は特異的転写後遺伝子サイレンシング(PTGS)を引き起こし(Coburn, G. and Cullen, B. (2002) J. of Virology 76(18):9225を参照)、これにより標的バイオマーカー核酸の発現が阻害される。1つの実施形態では、RNAは、二本鎖RNA (dsRNA)である。このプロセスは、植物細胞、無脊椎動物細胞、及び哺乳動物細胞において記載されている。自然界では、RNAiは、長鎖dsRNAをsiRNAと呼ばれる二本鎖断片に進行的に切断するのを促進するdsRNA特異的エンドヌクレアーゼダイサーにより開始される。siRNAは、標的mRNAを認識及び切断するタンパク質複合体中に組み込まれる。RNAiは、標的バイオマーカー核酸の発現を阻害し又は発現停止させるために、核酸分子、例えば合成siRNA、shRNA、又はその他のRNA干渉剤を導入することによっても開始され得る。本明細書で使用される場合、「標的バイオマーカー核酸発現の阻害」又は「マーカー遺伝子発現の阻害」には、標的バイオマーカー核酸又は標的バイオマーカー核酸によりコードされるタンパク質の発現、又はタンパク質活性若しくはレベルのあらゆる減少を含む。RNA干渉剤の標的とされなかった標的バイオマーカー核酸の発現、又は標的バイオマーカー核酸によりコードされるタンパク質の活性若しくはレベルと比較して、減少は、少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、若しくは99%、又はそれ超であり得る。
【0245】
RNAiに付加して、ゲノム編集は、目的とするバイオマーカー、例えば構成的ノックアウト又は誘発的ノックアウト等のコピー数又は遺伝子配列、或いは目的とするバイオマーカー、例えばC1q、C1r、及び/又はC1sのような補体経路成分等の突然変異を調節するのに使用可能である。例えば、CRISPR-Casシステムは、ゲノム核酸の正確な編集に使用可能である(例えば、非機能的又は無発現変異を創出するために)。そのような実施形態では、CRISPRガイドRNA及び/又はCas酵素が発現され得る。例えば、Cas9酵素についてトランスジェニックな動物又は細胞には、ガイドRNAのみを含有するベクターが投与可能である。類似した戦略が使用され得る(例えば、デザイナージンクフィンガー、転写アクチベーター様エフェクター(TALE)又はホーミングメガヌクレアーゼ)。そのようなシステムは、当技術分野において周知されている(例えば、米国特許第8,697,359号;Sander and Joung (2014) Nat. Biotech. 32:347-355; Hale et al. (2009) Cell 139:945-956; Karginov and Hannon (2010) Mol. Cell 37:7; U.S. Pat. Publ. 2014/0087426 and 2012/0178169; Boch et al. (2011) Nat. Biotech. 29:135-136; Boch et al. (2009) Science 326:1509-1512; Moscou and Bogdanove (2009) Science 326:1501; Weber et al. (2011) PLoS One 6:e19722; Li et al. (2011) Nucl. Acids Res. 39:6315-6325; Zhang et al. (2011) Nat. Biotech. 29:149-153; Miller et al. (2011) Nat. Biotech. 29:143-148; Lin et al. (2014) Nucl. Acids Res. 42:e47を参照)。そのような遺伝子戦略は、当技術分野において周知の方法に基づく構成的発現系又は誘導的発現系を使用することができる。
【0246】
「Piwi相互作用RNA (piRNA)」は、小型の非コードRNA分子の最も大きなクラスである。piRNAは、piwiタンパク質との相互作用を通じてRNA-タンパク質複合体を形成する。これらのpiRNA複合体は、生殖系列細胞、特に精子形成に関わる細胞において、レトロトランスポゾン及びその他の遺伝的要素のエピジェネティックな遺伝子サイレンシング及び転写後遺伝子サイレンシングの両方と関連していた。piRNAは、サイズ(21~24ntより長い26~31nt)においてマイクロRNA (miRNA)とは異なり、配列保存を欠いており、また複雑性も増加している。しかしながら、その他の小型RNAのように、piRNAは、遺伝子サイレンシング、特にトランスポゾンのサイレンシングに関与していると考えられている。piRNAの大部分は、トランスポゾン配列に対してアンチセンスであり、トランスポゾンはpiRNAの標的であることを示唆する。哺乳動物では、胚の発達期間中、トランスポゾンのサイレンシングにおいて、piRNAの活性が最も重要と思われ、またC.エレガンス(C. elegans)及びヒトの両方において、piRNAは精子形成に必要である。piRNAは、RNA誘導型のサイレンシング複合体(RISC)の形成によるRNAサイレンシングにおいて役割を有する。
【0247】
「アプタマー」は、特異的標的分子に結合するオリゴヌクレオチド又はペプチド分子である。「核酸アプタマー」は、様々な分子標的、例えば小分子、タンパク質、核酸等、並びに細胞、組織、及び生物にさえも結合するように、インビトロ選択の反復ラウンドを通じて、又は同じようにSELEX (systematic evolution of ligands by exponential enrichment(指数関数的富化によるリガンドの系統的進化))を通じて工学操作された核酸種である。「ペプチドアプタマー」は、特定の標的分子と結合するように選択又は工学操作された人工タンパク質である。これらのタンパク質は、タンパク質スキャフォールドにより提示された可変配列の1つ以上のペプチドループからなる。該タンパク質はコンビナトリアルライブラリーから一般的に単離され、多くの場合、定方向突然変異又は数ラウンドの可変領域突然変異誘発と選択によりその後改良される。「アフィマータンパク質」はペプチドアプタマーの発展形で、小型でペプチドループを提示するように工学操作された高度に安定なタンパク質であり、特定の標的タンパク質に対して高親和性結合表面を提供する。アフィマータンパク質は、シスタチンのシステインプロテアーゼ阻害剤ファミリーに由来する低分子量(12~14kDa)のタンパク質である。アプタマーは、一般的に使用される生体分子である抗体の特性に匹敵する分子認識特性を提供するので、生物工学的用途及び療法上の用途において有用である。それらの傑出した認識に付加して、アプタマーは、試験管内で完全に工学操作可能であり、化学合成により容易に製造され、望ましい保管特性を有し、療法上の用途において免疫原性をほとんど又はまったく惹起しないので、抗体に勝る長所を提供する。
【0248】
「短鎖干渉RNA」(siRNA)は、本明細書において「低分子干渉RNA」とも呼ばれ、例えばRNAiにより標的バイオマーカー核酸の発現を阻害するように機能する薬剤として定義される。siRNAは化学的に合成され、インビトロ転写により製造され、又は宿主細胞内で産生され得る。1つの実施形態では、siRNAは、長さ約15~約40ヌクレオチド、好ましくは約15~約28ヌクレオチド、より好ましくは長さ約19~約25ヌクレオチド、及びより好ましくは長さ約19、20、21、又は22ヌクレオチドの二本鎖RNA (dsRNA)分子であり、各鎖上に約0、1、2、3、4、又は5ヌクレオチドの長さを有する3'及び/又は5'オーバーハングを含有し得る。オーバーハングの長さは、2つのストランドの間で独立であり、すなわち1つのストランド上のオーバーハングの長さは、第2のストランド上のオーバーハングの長さに依存しない。好ましくは、siRNAは、標的メッセンジャーRNA (mRNA)の分解又は特異的転写後遺伝子サイレンシング(PTGS)を通じてRNA干渉を促進することが可能である。
【0249】
別の実施形態では、siRNAは、小ヘアピン(ステムループとも呼ばれる) RNA (shRNA)である。1つの実施形態では、これらのshRNAは、短鎖(例えば、19~25ヌクレオチド)アンチセンス鎖、その後に5~9ヌクレオチドループ、及び類似のセンス鎖から構成される。或いは、センス鎖は、ヌクレオチドループ構造に先行する場合があり、アンチセンス鎖が後続し得る。これらのshRNAは、プラスミド、レトロウイルス、及びレンチウイルス内に含まれ得るが、また例えばpol III U6プロモーター又は別のプロモーターから発現され得る(例えば、参照により本明細書に組み込まれるStewart, et al. (2003) RNA Apr;9(4):493-501を参照)。
【0250】
「宿主細胞」は、ポリヌクレオチドインサートの組込み用のベクターのレシピエントとすることができる又はそれであった個々の細胞若しくは細胞培養物を含む。宿主細胞は、単一の宿主細胞の子孫を含み、子孫は、天然の、偶発的な又は意図的な突然変異のために、もとの親細胞と必ずしも完全に同一(形態構造において又はゲノムDNA相補体において)でなくてもよい。宿主細胞は、本開示のポリヌクレオチドをインビボでトランスフェクトされた細胞を含む。
【0251】
「担体」は、本明細書で使用するとき、薬学的に許容される担体、賦形剤又は安定化剤を含み、採用される用量及び濃度でそれに曝露される細胞又は哺乳動物に対して毒性を示さない。多くの場合、生理学的に許容される担体はpH緩衝水溶液である。生理学的に許容される担体の例には、緩衝剤、例えば、リン酸、クエン酸及び他の有機酸、酸化防止剤、例えば、アスコルビン酸、低分子量(約10残基未満)ポリペプチド、タンパク質、例えば、血清アルブミン、ゼラチン又は免疫グロブリン、親水性ポリマー、例えば、ポリビニルピロリドン、アミノ酸、例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン又はリジン、単糖類、二糖類及び他の炭水化物、例えば、グルコース、マンノース又はデキストリン、キレート剤、例えば、EDTA、糖アルコール、例えば、マンニトール又はソルビトール、塩形成対イオン、例えば、ナトリウム、及び/又は非イオン性界面活性剤、例えば、TWEEN(商標)、ポリエチレングリコール(PEG)及びPLURONICS(商標)が含まれる。
【0252】
用語「予防すること(preventing)」は当該技術分野において認識されており、また状態例えば脳損傷、好ましくは外傷性脳損傷、低酸素性脳損傷、脳の感染症、又は脳卒中等と関連して使用される場合、当技術分野において十分理解されており、また組成物の投与を受けない対象者と比較して、対象者における医学的状態の1つ以上の症状の頻度若しくは重症度を低下させ、又はその発症を遅延させる組成物の投与が含まれる。従って、脳損傷、好ましくは外傷性脳損傷、低酸素性脳損傷、脳の感染症、又は脳卒中の予防には、例えば療法を受ける患者集団において、療法を受けなかった対照集団と比較して、例えば統計的及び/又は臨床的に有意な量だけ、血小板数を増加させることが含まれる。同様に、脳損傷、好ましくは外傷性脳損傷、低酸素性脳損傷、脳の感染症、又は脳卒中の予防には、療法を受けない患者と比較して、療法を受ける患者が脳損傷、好ましくは外傷性脳損傷、低酸素性脳損傷、脳の感染症、若しくは脳卒中、又は関連する症状を発症する蓋然性を低下させることが含まれる。
【0253】
「対象者」という用語は、本明細書で使用されるとき、生体の哺乳類を指し、用語「患者」と互換的に使用され得る。哺乳類の例は、以下に限定されないが、哺乳類の分類の任意のメンバー:ヒト、非ヒト霊長類、例えばチンパンジーなど、並びに他の類人猿及びサルの種;家畜、例えばウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタなど;飼育動物、例えばウサギ、イヌ、及びネコなど;齧歯類、例えばラット、マウス、モルモットなどを含む実験動物を含む。この用語は特定の年齢や性別を意味しない。
【0254】
用語「治療すること」又は「治療」は、本明細書で使用されるとき、対象者の状態を安定化若しくは改善するか、又は対象者が治療を受けなかった場合と同程度に対象者の状態が悪化する見込みを減少させるために、症状、臨床上の徴候、又は状態の基礎病理を減少、停止又は無効にすることを含む。
【0255】
治療の対象となる方法に関する化合物の「治療上有効量」という用語は、(哺乳類、好ましくはヒトに対して)望ましい投薬レジメンの一部として投与される場合に、治療されるべき障害若しくは状態のための、又は美容上の目的のための臨床上許容される基準に従って、例えば任意の医学治療に適用可能な妥当なベネフィット/リスク比で、症状を緩和し、状態を改善し、又は疾患状態の開始を遅らせる、調製物中の化合物の量を指す。本明細書中の治療上有効量は、いくつかの因子、例えば患者の疾患状態、年齢、性別、及び体重、並びに個体において望ましい反応を誘発する抗体の能力などに従って変化し得る。
【0256】
本明細書で使用するとき、特定の疾患、障害、若しくは状態を発症する「危険性(リスク)がある」個体は、検出可能な疾患若しくは疾患の症状を有しても又は有していなくてもよく、本明細書に記載されている治療方法の前に検出可能な疾患若しくは疾患の症状を示していても又は示していなくてもよい。「危険性がある」とは、個体が1つ以上の危険因子を有することを示し、該危険因子は、当該技術分野において公知の特定の疾患、障害、又は状態の発症と相関する測定可能なパラメータである。これらの危険因子の1つ以上を有する個体は、これらの危険因子のうち1つ以上を有しない個体よりも、特定の疾患、障害、又は状態を発症する確率が高い。
【0257】
「慢性的」投与とは、長期間にわたり、初期の治療効果(活性)を維持するように、急性様式ではなく連続的様式での医薬の投与を指す。「間欠」投与とは、中断することなく連続的に行われないが、むしろ本質的には周期的/定期的である治療を指す。
【0258】
本明細書で使用される場合、別の化合物又は組成物との「併用的」投与には、同時投与及び/又は異なる時間における投与が含まれる。併用投与には、合剤としての投与、又は異なる投与頻度若しくは間隔を含み、また同一の投与経路又は異なる投与経路を使用する個別組成物としての投与も含まれる。
【0259】
他に定義されない限りは、本明細書中で使用されるすべての技術的及び科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者に一般的に理解される同じ意味を有する。本明細書中に記載されるものと類似した又は等価な任意の方法及び材料は本発明の実施又は試験で使用され得るが、好ましい方法と材料が次に説明される。本明細書中で言及された出版物のすべては、出版物が引用される関連の方法及び/又は材料を開示及び説明するために参照によって本明細書に組み込まれる。例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual 3d edition (2001) Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y.、Current Protocols in Molecular Biology (F.M. Ausubel, et al. eds., (2003))、the series Methods in Enzymology (Academic Press, Inc.): PCR 2: A Practical Approach (M.J. MacPherson, B.D. Hames and G.R. Taylor eds. (1995)), Harlow and Lane, eds. (1988) Antibodies, A Laboratory Manual, and Animal Cell Culture (R.I. Freshney, ed. (1987))、Oligonucleotide Synthesis (M.J. Gait, ed., 1984)、Methods in Molecular Biology, Humana Press、Cell Biology: A Laboratory Notebook (J.E. Cellis, ed., 1998) Academic Press、Animal Cell Culture (R.I. Freshney), ed., 1987)、Introduction to Cell and Tissue Culture (J.P. Mather and P.E. Roberts, 1998) Plenum Press、Cell a
nd Tissue Culture: Laboratory Procedures (A. Doyle, J.B. Griffiths, and D.G. Newell, eds., 1993-8) J. Wiley and Sons、Handbook of Experimental Immunology (D.M. Weir and C.C. Blackwell, eds.)、Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells (J.M. Miller and M.P. Calos, eds., 1987)、PCR: The Polymerase Chain Reaction, (Mullis et al., eds., 1994)、Current Protocols in Immunology (J.E. Coligan et al., eds., 1991)、Short Protocols in Molecular Biology (Wiley and Sons, 1999)、Immunobiology (C.A. Janeway and P. Travers, 1997)、Antibodies (P. Finch, 1997)、Antibodies: A Practical Approach (D. Catty., ed., IRL Press, 1988-1989)、Monoclonal Antibodies: A Practical Approach (P. Shepherd and C. Dean, eds., Oxford University Press, 2000)、Using Antibodies: A Laboratory Manual (E. Harlow and D. Lane (Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1999)、The Antibodies (M. Zanetti and J. D. Capra, eds., Harwood Academic Publishers, 1995)、及びCancer: Principles and Practice of Oncology (V.T. DeVita et al., eds., J.B. Lippincott Company, 1993)に記載されている幅広く利用される方法論など。
【0260】
核酸、ベクター及び宿主細胞
本開示の方法で使用するのに適する抗体は、例えば、米国特許第4,816,567号に記載されているように、組換え法及び組成物を用いて生成することができる。いくつかの実施形態において、本開示の抗体のいずれかをコードするヌクレオチド配列を有する単離された核酸が提供される。このような核酸は、抗C1q抗体、抗C1r抗体、又は抗C1s抗体のVL/CLを含むアミノ酸配列、及び/又はVH/CH1を含むアミノ酸配列をコードすることができる。いくつかの実施形態において、このような核酸を含む1つ以上のベクター(例えば、発現ベクター)が提供される。そのような核酸を含む宿主細胞も提供され得る。宿主細胞は、(1)抗体のVL/CLを含むアミノ酸配列、及び抗体のVH/CH1を含むアミノ酸配列をコードする核酸を含むベクター、又は(2)抗体のVL/CLを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含む第1のベクター、及び抗体のVH/CH1を含むアミノ酸配列をコードする核酸を含む第2のベクターを含み得る(例えば、それで形質導入されている)。いくつかの実施形態において、宿主細胞は、真核生物であり、例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞又はリンパ系細胞(例えば、Y0、NS0、Sp20細胞)である。
【0261】
抗C1q、抗C1r又は抗C1s抗体を作製する方法が本明細書に開示される。方法は、抗体の発現に適した条件下で、抗C1q、抗C1r又は抗C1s抗体をコードする核酸を含有する本開示の宿主細胞を培養することを含む。いくつかの実施形態において、抗体は、その後、宿主細胞(又は宿主細胞培養培地)から回収される。
【0262】
本開示のヒト化抗C1q、抗C1r又は抗C1s抗体の組換え産生のために、抗体をコードする核酸を単離し、宿主細胞におけるさらなるクローニング及び/又は発現のための1つ以上のベクターに挿入する。このような核酸は、従来の手順を使用して(例えば、抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合することができるオリゴヌクレオチドプローブを使用することによって)、容易に単離され、配列決定され得る。
【0263】
本明細書に記載されている、本開示の抗体又はそれらの断片ポリペプチド(抗体を含む)のいずれかをコードする核酸配列を含む適切なベクターは、限定されないが、クローニングベクター及び発現ベクターを含む。適切なクローニングベクターは、標準的な技術に従って構築することができ、又は当該技術分野において利用可能な多数のクローニングベクターから選択することができる。使用を意図された宿主細胞に応じて、選択されたクローニングベクターが変化し得る一方で、有用なクローニングベクターは、一般的に自己複製する能力を有し、特定の制限エンドヌクレアーゼの単一の標的を有し得、及び/又はベクターを含むクローンの選択に使用することができるマーカー遺伝子を担持することができる。適切な例としては、プラスミド及び細菌ウイルス、例えば、pUC18、pUC19、Bluescript(例えば、pBS SK+)及びその誘導体、mpl8、mpl9、pBR322、pMB9、ColE1、pCR1、RP4、ファージDNA、並びに例えばpSA3及びpAT28などのシャトルベクターが挙げられる。これら及び多くの他のクローニングベクターは、例えばBioRad、Strategene及びInvitrogenなどの市販業者から入手可能である。
【0264】
対象とする核酸を含むベクターは、いくつかの適切な手段のいずれかによって宿主細胞に導入され得、手段としては、エレクトロポレーション、塩化カルシウム、塩化ルビジウム、リン酸カルシウム、DEAE-デキストラン又は他の物質を採用するトランスフェクション、微粒子銃、リポフェクション、及び感染(例えば、ベクターがワクシニアウイルスなどの感染性病原体である場合)が含まれる。ベクター又はポリヌクレオチドの導入の選択は、多くの場合、宿主細胞の特徴に依存する。いくつかの実施形態において、ベクターは、本開示の抗C1q、抗C1r又は抗C1s抗体をコードする1つ以上のアミノ酸配列を含む核酸を含む。
【0265】
抗体をコードするベクターのクローニング又は発現に適切な宿主細胞には、原核細胞又は真核細胞が含まれる。例えば、本開示の抗C1q、抗C1r又は抗C1s抗体は、特に、グリコシル化及びFcエフェクター機能が必要ない場合、細菌中で産生され得る。細菌における抗体断片及びポリペプチドの発現に関して、(例えば、米国特許第5,648,237号、第5,789,199号及び第5,840,523号、並びに大腸菌における抗体断片の発現を記載するCharlton, Methods in Molecular Biology, Vol. 248 (B.K.C. Lo, ed., Humana Press, Totowa, NJ, 2003), pp. 245-254)。発現後、抗体は、可溶性画分中の細菌細胞ペーストから単離されてもよく、さらに精製することができる。
【0266】
抗体スクリーニング
候補抗体が補体活性化を調節する能力についてスクリーニング可能である。そのようなスクリーニングは、インビトロモデル、遺伝子的に改変された細胞若しくは動物、又は精製タンパク質を使用して実施され得る。多様なアッセイが、この目的、例えばインビトロ培養システムなどで利用可能である。
【0267】
候補抗体は、結合アッセイなどにより、コンピューターに基づくモデリングを使用しても同定され得る。様々なインビトロモデルが、抗体が補体と結合するか、又はそれ以外の方法でその活性に影響を及ぼすか判断するのに利用可能である。そのような候補抗体は、健常ドナーから得た血漿と接触させることによりテストされ得るが、また補体の活性化を判定し得る(例えば、抗原C3c捕捉ELISAにより)。そのような抗体は、脳損傷、好ましくは外傷性脳損傷、低酸素性脳損傷、脳の感染症、又は脳卒中に対する効果について、インビボモデルにおいて更にテストされ得る。
【0268】
一般的に、複数のアッセイ混合物が、様々な濃度に対する異なる反応を取得するために、異なる抗体濃度で並行して試験される。一般的に、これらの濃度のうちの1つが、陰性対照、すなわち濃度ゼロ又は検出レベル未満のものとして使用される。
【0269】
医薬組成物及び投与
本開示の補体(例えば、抗体)は、医薬組成物の形態で投与され得る。
【0270】
本開示の阻害剤の治療用製剤は、所望の純度を有する阻害剤を、場合によって薬学的に許容される担体、賦形剤、又は安定剤(Remington's Pharmaceutical Sciences 16th edition, Osol, A. Ed. [1980])とともに混合することによって、凍結乾燥製剤又は水溶液の形態で貯蔵用に調製され得る。許容される担体、賦形剤、又は安定剤は、採用される用量と濃度でレシピエントに無毒性であり、また緩衝剤、例えばリン酸、クエン酸、及びその他の有機酸など;アスコルビン酸及びメチオニンを含む酸化防止剤;保存剤(例えばオクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチル若しくはベンジルアルコール;アルキルパラベン、例えばメチル若しくはプロピルパラベンなど;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;及びm-クレゾールなど);低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;タンパク質、例えば血清アルブミン、ゼラチン、若しくは免疫グロブリンなど;親水性ポリマー、例えばポリビニルピロリドンなど;アミノ酸、例えばグリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、若しくはリジンなど;グルコース、マンノース、若しくはデキストリンを含む、単糖類、二糖類、及びその他の炭水化物;キレート化剤、例えばEDTAなど;糖類、例えばスクロース、マンニトール、トレハロース、若しくはソルビトールなど;塩形成対イオン、例えばナトリウムなど;金属錯体(例えば、Zn-タンパク質錯体);並びに/又は非イオン性界面活性剤、例えばTWEEN(商標)、 PLURONICS(商標)、若しくはポリエチレングリコール(PEG)などを含有する。
【0271】
リポフェクション又はリポソームもまた、抗体又は抗体断片を細胞内に送達するために使用することができ、ここで、標的タンパク質の結合ドメインに特異的に結合するエピトープ、又は最小断片が好ましい。
【0272】
阻害剤はまた、例えば、コアセルベーション技術によって又は界面重合によって調製されたマイクロカプセル、例えば、ヒドロキシメチルセルロースマイクロカプセル又はゼラチンマイクロカプセル、及びポリ-(メチルメタクリレート)マイクロカプセル中にそれぞれ取り込むことができ、コロイド薬送達システム(例えば、リポソーム、アルブミン小球体、マイクロエマルジョン、ナノ粒子、及びナノカプセル)中、又はマクロエマルジョン中に取り込むことができる。このような技術は、Remington's Pharmaceutical Sciences 16th edition, Osol, A. Ed. (1980)に開示されている。
【0273】
非経口投与のために使用される製剤は無菌でなければならない。これは、無菌濾過膜を通る濾過によって容易に達成される。
【0274】
徐放調製物が調製できる。徐放調製物の適切な例は、阻害剤を含有する固体疎水性ポリマーの半透過性マトリックスを含み、これらのマトリックスは造形品の形態、例えば、フィルム又はマイクロカプセルである。徐放マトリックスの例は、ポリエステル、ヒドロゲル(例えば、ポリ(2-ヒドロキシエチル-メタクリレート)又はポリ(ビニルアルコール))、ポリラクチド(米国特許第3,773,919号)、L-グルタミン酸とγエチル-L-グルタミン酸塩のコポリマー、非分解性エチレン-酢酸ビニル、分解性乳酸-グリコール酸コポリマー、例えばLUPRON DEPOT(商標)(乳酸-グリコール酸コポリマー及び酢酸ロイプロリドから構成される注射可能なミクロスフェア)など、及びポリ-D-(-)-3-ヒドロキシ酪酸を含む。ポリマー、例えばエチレン-酢酸ビニル及び乳酸-グリコール酸などは、100日以上の間分子を放出できる一方で、特定のヒドロゲルは、より短い期間でタンパク質を放出する。
【0275】
本開示の抗体及び組成物は、局所的、非経口、皮下、腹腔内、肺内、鼻腔内、及び病変内投与を含む、但しこれらに限定されない様々な経路により一般的に投与される。非経口投与経路として、筋肉内、静脈内、動脈内、腹腔内、髄腔内、又は皮下投与が挙げられる。
【0276】
医薬組成物は、所望の製剤に応じて、動物又はヒトへの投与のための医薬組成物を製剤化するために一般的に使用されるビヒクルとして規定される、希釈剤の薬学的に許容される無毒性担体も含むことができる。希釈剤は、組合せ物の生物学的活性に影響を与えないように選択される。そのような希釈剤の例は、蒸留水、緩衝水、生理食塩水、PBS、リンガー溶液、デキストロース溶液、及びハンクス溶液である。さらに、医薬組成物又は製剤は、他の担体、アジュバント、又は無毒性で非治療的な非免疫原性の安定剤、賦形剤などを含むことができる。また組成物は、生理学的条件に近づけるための追加の物質、例えばpH調整剤及び緩衝剤、毒性調整剤、湿潤剤、及び界面活性剤なども含むことができる。
【0277】
組成物は、様々な安定化剤のいずれか、例えば抗酸化剤などを含むことができる。医薬組成物がポリペプチドを含む場合、該ポリペプチドは、ポリペプチドのインビボでの安定性を増強する、そうでなければその薬理学的特性を高める(例えば、ポリペプチドの半減期を増加させる、その毒性を低減させる、その他の薬物動態学的及び/又は薬力学的な特徴を強化する、溶解性又は取り込みを高める)、様々な周知の化合物と複合体化することができる。そのような修飾剤又は複合体化剤の例には、硫酸、グルコン酸、クエン酸、及びリン酸が含まれる。組成物のポリペプチドはまた、それらのインビボでの属性を高める分子と複合体化することができる。このような分子としては、例えば、炭水化物、ポリアミン、アミノ酸、他のペプチド、イオン(例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、マンガン)、及び脂質が挙げられる。様々な種類の投与に適した製剤に関するさらなる指導は、Remington's Pharmaceutical Sciences, Mace Publishing Company, Philadelphia, Pa., 17th ed. (1985)に見出すことができる。薬物送達のための方法の簡単な概説については、Langer, Science 249:1527-1533 (1990)を参照されたい。
【0278】
活性成分の毒性及び治療有効性は、例えばLD50(集団の50%に致死的な用量)及びED50(集団の50%に治療上有効な用量)を決定することを含む、細胞培養及び/又は実験動物における標準的な薬学的手順に従って決定することができる。毒性及び治療効果の間の用量比は治療指数であり、これはLD50/ED50の比として表すことができる。大きい治療指数を示す化合物が好ましい。
【0279】
細胞培養及び/又は動物試験から得られるデータは、ヒトのための用量の範囲を定式化する際に使用することができる。活性成分の用量は、一般的に、毒性の低いED50を含む循環濃度の範囲内にある。用量は、採用される剤形及び利用される投与経路に依存して、この範囲内で変化し得る。
【0280】
本明細書に記載される医薬組成物は、様々な異なる方法で投与することができる。例としては、経口、鼻腔内、直腸、局所、腹腔内、静脈内、筋肉内、皮下、真皮下、経皮、髄腔内、及び頭蓋内の方法により、薬学的に許容される担体を含有する組成物を投与することが挙げられる。
【0281】
経口投与について、有効成分は、固体の剤形、例えばカプセル、錠剤、及び粉末など、又は液体の剤形、例えばエリキシル、シロップ、及び懸濁液などで投与することができる。有効成分は、不活性成分及び粉末担体、例えばグルコース、ラクトース、スクロース、マンニトール、デンプン、セルロース又はセルロース誘導体、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、サッカリンナトリウム、滑石、炭酸マグネシウムなどとともにゼラチンカプセルに封入することができる。望ましい色、味、安定性、緩衝能力、分散、又は他の公知の望ましい特徴を提供するために添加することができる追加の不活性成分の例は、赤色酸化鉄、シリカゲル、ラウリル硫酸ナトリウム、二酸化チタン、及び食用白色インクである。同様の希釈剤を使用して、圧縮錠剤を作製することができる。錠剤とカプセルの両方は、数時間にわたって薬剤の連続放出を提供する徐放製品として製造することができる。圧縮錠剤は、いかなる不快な味もマスクし、錠剤を大気から保護するために糖衣で被覆され若しくはフィルムで被覆され、又は胃腸管における選択的崩壊に関して腸溶被覆され得る。経口投与用の液体の剤形は、患者の許容性を高めるために着色料及び香味料を含有することができる。
【0282】
非経口投与に適切な製剤には、水性及び非水性、等張滅菌注射溶液が挙げられ、それらには、酸化防止剤、緩衝剤、静菌剤、及び製剤を意図されたレシピエントの血液と等張にする溶質、並びに懸濁化剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、及び防腐剤を含み得る水性及び非水性無菌懸濁液が含まれ得る。
【0283】
医薬組成物を製剤化するために使用される成分は、好ましくは、高純度のものであり、潜在的に有害な夾雑物を実質的に含まない(例えば、少なくともナショナルフード(NF)グレード、一般には、少なくとも分析グレード、より典型的には少なくとも医薬品グレード)。さらに、非経口用として意図された組成物は、通常無菌である。所与の化合物が使用前に合成されなければならない程度に、得られた生成物は、典型的には、合成又は精製プロセス中に存在し得る、いかなる潜在的に有毒な作用物質、特にいかなる内毒素も実質的に含まない。非経口投与用の組成物はまた、実質的に等張性であり、GMP条件下で作製される。
【0284】
本開示の組成物は、任意の医学的に適切な手順、例えば、血管内(静脈内、動脈内、毛細血管内)投与、脳脊髄液への注入、硝子体内、局所、体腔内、又は脳内直接注入を使用して投与されてもよい。髄腔内投与は、公知の技術に従って、オンマヤリザーバの使用により実施してもよい(F. Balis et al., Am J. Pediatr. Hematol. Oncol. 11, 74, 76(1989))。
【0285】
治療剤が脳において局所的に投与される場合には、本開示の治療用組成物を投与するための1つの方法は、任意の適切な手順により、例えば、投与のために腔又はシストの中に、直接注入(必要な場合には、注入シリンジの定位固定の位置決定に助けられて)するか、又はオンマヤリザーバの先端を配置することなどによって、その場所の中又は付近に配置することによる。或いは、対流強化送達カテーテルを、その場所の中へ、天然の又は外科的に生成されたシストの中へ、又は正常な脳塊の中へ直接埋め込んでもよい。そのような対流強化医薬組成物送達装置は、組成物の脳塊全体への拡散を大きく改善する。この送達装置の埋め込まれたカテーテルは、治療用組成物を脳及び/又は腫瘍塊へ送達するために、拡散流ではなく高流動微量注入を利用する(約0.5~15.0μl/分の範囲の流速を用いる)。そのような装置は米国特許第5,720,720号に記載され、参照により本明細書に全体が組み入れられる。
【0286】
特定の患者に与えられる治療用組成物の有効量は様々な因子に依存し得るが、そのいくつかは患者間で異なり得る。能力のある臨床医は、患者に投与する治療剤の有効量を決定することができる。薬剤の用量は、治療、投与経路、治療の性質、患者のその治療に対する反応性などに依存する。LD50動物データ及び他の情報を利用して、臨床医は、投与経路に依存して、個体にとっての最大安全用量を決定することができる。通常の技術を利用して、能力のある臨床医は、通常の臨床試験の過程で特定の治療用組成物の用量を最適化することができる。組成物は、一連の1つより多い投与において対象者に投与することが可能である。治療用組成物の場合、一定の周期的な投与が時に必要である、又は望ましい場合がある。治療レジメンは薬剤によって変わり、例えば、いくつかの薬剤は、1日又は半日毎に長期間服用してもよいが、より選択的な薬剤は、より特定された時間経過、例えば、1日、2日、3日以上、1週以上、1月以上などで、1日毎、半日毎、半週毎、毎週毎で投与されてもよい。
【0287】
製剤は、脳における保持及び安定化のために最適化してもよい。薬剤が頭蓋区画に投与される場合、薬剤は、区画内に保持され、拡散されず、さもなければ血液脳関門を通過しないことが望ましい。安定化技術は、分子量の増加を達成するために、架橋、多量体化、又は基、例えばポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド、中性タンパク質担体などへの連結などを含む。
【0288】
保持を増加させるための他の方策には、生分解性又は生侵食性移植物への薬剤の取り込みが含まれる。治療的活性剤の放出速度は、ポリマーマトリックスを通過する輸送速度及び移植物の生分解によって調節される。また、ポリマー障壁を通過する薬物の輸送は、化合物の溶解度、ポリマーの親水性、ポリマーの架橋度、ポリマー障壁を薬物に対してより透過性にする吸水時のポリマーの膨張、移植物の形状などによっても影響を受ける。移植物は、移植部位として選択される領域のサイズ及び形状に見合った大きさのものである。移植物は、粒子、シート、パッチ、プラーク、繊維、マイクロカプセルなどであってもよく、また選択された挿入部位に適合する任意のサイズ又は形状であってもよい。
【0289】
移植物は、モノリシックであってもよく、すなわち活性剤を、ポリマーマトリックスにわたり均一に分布させるか又はカプセル化し、この場合、活性剤のリザーバはポリマーマトリックスによってカプセル化される。採用されるポリマー組成物の選択は、投与部位、所望の治療期間、患者の耐性、治療されるべき疾患の性質などにより変化する。ポリマーの特徴としては、移植部位での生分解性、目的の薬剤との適合性、カプセル化の容易性、生理学的環境における半減期が含まれる。
【0290】
採用することができる生分解性ポリマー組成物は、分解したとき、単量体を含む生理学的に許容される分解生成物をもたらす有機エステル又はエーテルであり得る。無水物、アミド、オルトエステルなどは、単独で又は他の単量体と組み合わせて用途を見出すことができる。ポリマーは、縮合ポリマーであり得る。ポリマーは、架橋であっても、また非架橋であってもよい。特に興味深いのは、ヒドロキシ脂肪族カルボン酸のポリマー、ホモポリマー又はコポリマーのいずれか、及び多糖類である。対象とするポリエステルには、D-乳酸、L-乳酸、ラセミ乳酸、グリコール酸、ポリカプロラクトン、及びそれらの組合せのポリマーが含まれる。L-ラクテート又はD-ラクテートを採用することによって、ゆっくりと生分解するポリマーが達成され、一方、分解は、ラセミ化合物で実質的に高められる。グリコール酸と乳酸のコポリマーは、特に関心が高く、この場合、生分解速度は、乳酸に対するグリコール酸の比率によって調節される。最も急速に分解されるコポリマーは、ほぼ同量のグリコール酸と乳酸を有し、この場合、ホモポリマーのいずれかは分解に対してより抵抗性がある。乳酸に対するグリコール酸の比率はまた、移植物における脆性にも影響し、この場合、より柔軟な移植物はより大きい形状に望ましい。対象とする多糖類には、アルギン酸カルシウム、及び官能化セルロース、特に約5kD~500kDの分子量、水不溶性であることによって特徴付けられるカルボキシメチルセルロースエステルなどがある。生分解性ハイドロゲルはまた、本開示の移植物に採用することもできる。ハイドロゲルは、典型的には、液体を吸収する能力によって特徴付けられるコポリマー材料である。採用され得る例示的な生分解性ハイドロゲルは、Heller: Hydrogels in Medicine and Pharmacy, N. A. Peppes ed., Vol. III, CRC Press, Boca Raton, Fla., 1987, pp 137-149に記載されている。
【0291】
キット
本開示はまた、医薬組成物の成分のうちの1つ以上が充填された1つ以上の容器を備える医薬パック又はキットも提供する。そのような容器と関連するものとして、医薬品又は生物学的製品の製造、使用、又は販売を規制する政府機関が規定する書式の注意書きを挙げることができ、該注意書きは、ヒトへの投与を目的とする製造、使用、又は販売を所管する機関による承認を反映する。
【0292】
本開示のキットは、精製された抗C1q抗体、抗C1r抗体、又は抗C1s抗体を含む1つ以上の容器、及び当技術分野で公知の方法に基づく使用説明書を含み得る。一般的に、これらの説明書は、当技術分野で公知の任意の方法に従って、疾患を治療又は診断するための阻害剤の投与の説明を含む。キットは、個人が、脳損傷、好ましくは外傷性脳損傷、低酸素性脳損傷、脳の感染症、又は脳卒中を有するかその有無の特定に基づき、治療に適する個人を選択することについての説明を更に含み得る。
【0293】
説明書は、一般的に、意図された治療のための用量、投薬スケジュール及び投与経路に関する情報を含む。容器は、単位用量、バルクパッケージ(例えば、複数用量パッケージ)又はサブユニット用量であってもよい。本開示のキットに付属される説明書は、典型的には、ラベル又は添付文書(例えば、キットに含まれる紙シート)の指示書であるが、機械によって読むことができる説明書(例えば、磁気又は光学記憶ディスク上に担持された説明書)も許容される。
【0294】
ラベル又は添付文書は、組成物が、脳損傷、好ましくは外傷性脳損傷、低酸素性脳損傷、脳の感染症、又は脳卒中を治療するのに使用されることを表示する。説明書は、本明細書に記載されている方法のいずれかを実施するために提供されてもよい。
【0295】
本開示のキットは、好ましくは適する包装内に配置される。適する包装として、バイアル、ボトル、ジャー、柔軟包装(例えば、密閉されたマイラ又はプラスチック袋)などが挙げられるが、但しこれらに限定されない。また、吸入器、経鼻投与デバイス(例えば、アトマイザー)又は注入デバイス、例えばミニポンプなどの特定のデバイスと組み合わせて使用するためのパッケージが企図される。キットは無菌アクセスポートを有してもよい(例えば、容器は、静脈内溶液バッグ又は皮下注射針によって貫通可能なストッパーを有するバイアルであってもよい)。容器はまた無菌アクセスポートを有してもよい(例えば、容器は、静脈内溶液バッグ又は皮下注射針によって貫通可能なストッパーを有するバイアルであってもよい)。組成物中の少なくとも1つの活性剤は古典的補体経路の阻害剤である。容器は、第2の薬学的活性剤をさらに含んでもよい。
【0296】
キットは、場合により、緩衝液及び解釈的情報などの追加の要素を提供することができる。通常、キットは、容器と、容器上又は容器に関連するラベル若しくは添付文書を含む。
【0297】
補体の阻害
補体の活性を阻害するいくつかの分子が公知である。公知の化合物に加えて、適切な阻害剤が本明細書に記載される方法によりスクリーニングされ得る。上述の通り、正常な細胞は補体活性を遮断するタンパク質、例えばCD59、C1阻害剤などを産生し得る。本開示のいくつかの実施形態では、補体はそのようなポリペプチドをコードする遺伝子の発現を上方制御することにより阻害される。
【0298】
補体活性化を遮断する分子の改変もまた当技術分野で公知である。例えば、そのような分子は、限定されないが、改変補体受容体、例えば可溶性CR1などを含む。CR1の最も一般的なアロタイプの成熟タンパク質は、1998個のアミノ酸残基(1930残基の細胞外ドメイン、25残基の膜貫通領域、及び43残基の細胞質ドメイン)を含む。細胞外ドメイン全体は、それぞれ60個~70個のアミノ酸残基からなる短いコンセンサスリピート(SCR)又は補体制御タンパク質リピート(CCPR)と呼ばれる30回繰り返しユニットで構成される。近年のデータは、C1qがヒトCR1に特異的に結合することを示す。したがって、CR1は、3つの補体オプソニンのすべて、すなわちC3b、C4b及びC1qを認識する。膜貫通ドメイン及び細胞質ドメインを有さない、可溶性バージョンの組換えヒトCR1(sCR1)が生成されており、天然CR1の公知の機能のすべてを保持することが示されている。虚血/再灌流損傷の動物モデルにおけるsCR1の心保護的役割が確認されている。数種類のヒトC1q受容体(C1qR)が記述されてきた。これらには、C1qのコラーゲン様ドメインに結合することからcC1qRと呼ばれる、遍在的に分布する60kDa~67kDaの受容体が含まれる。このC1qRバリアントは、カルレティキュリン(単球の食作用を調節する126kDa受容体)であることが示された。gC1qRは膜結合型分子ではなく、C1qの球状領域に親和性を有する分泌型可溶性タンパク質であり、補体活性化の液相制御因子として機能し得る。
【0299】
崩壊促進因子(DAF)(CD55)は、4つのSCR、及び広範なO-結合型グリコシル化が可能であるセリン/スレオニン富化ドメインから構成される。DAFは、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカーにより細胞膜に結合しており、そのC4bとC3bに結合する能力を通じて、C3及びC5コンバーターゼを解離することにより働く。DAFの可溶性バージョン(sDAF)は補体活性化を阻害することが示されている。
【0300】
「セルピン」ファミリーのセリンプロテアーゼ阻害剤のメンバーであるC1阻害剤は、液相C1活性化を妨げる高度にグリコシル化された血漿タンパク質である。C1阻害剤は、C1r及びC1sの活性部位を遮断し、それらをC1qから解離させることによって、古典的経路の補体活性化を制御する。
【0301】
補体活性化のペプチド阻害剤としてC5aが挙げられ、またその他の阻害性分子として、フカン(Fucan)が挙げられる。
【0302】
治療方法
補体活性化を阻害する薬剤を投与することにより、脳損傷、好ましくは外傷性脳損傷、低酸素性脳損傷、脳の感染症、又は脳卒中を媒介する抗原特異的抗体の生成が低下し得る。そのような薬剤として、抗C1q抗体、抗C1r抗体、又は抗C1s抗体阻害剤が挙げられる。その他の薬剤として、天然補体発現を上方制御する阻害剤、又は細胞におけるC1q、C1r、又はC1s合成を下方制御する薬剤、補体活性化を遮断する薬剤、補体活性化に対するシグナルを遮断する薬剤などを挙げることができる。
【0303】
方法は補体の生物学的活性を中和する。影響を受ける補体の生物学的活性は、(1)自己抗体へのC1q結合、(2)C1rへのC1q結合、(3)C1sへのC1q結合、(4)IgMへのC1q結合、(5)ホスファチジルセリンへのC1q結合、(6)ペントラキシン3へのC1q結合、(7)C反応性タンパク質(CRP)へのC1q結合、(8)球状C1q受容体(gC1qR)へのC1q結合、(9)補体受容体1(CR1)へのC1q結合、(10)βアミロイドへのC1q結合、(11)カルレティキュリンへのC1q結合、(12)アポトーシス細胞へのC1q結合、又は(13)B細胞へのC1q結合であり得る。影響を受ける補体の生物学的活性は、更に(1)古典的補体活性化経路の活性化、(2)抗体及び補体依存性細胞傷害の活性化、(3) CH50溶血、(4)シナプス喪失、(5) B細胞抗体産生、(6)樹状細胞成熟、(7)T細胞増殖、(8)サイトカイン産生、(9)ミクログリア活性化、(10)アルサス反応、(11)シナプス若しくは神経終末の食作用、又は(12)補体受容体3 (CR3/C3)を発現する細胞の活性化であり得る。
【0304】
組成物は、インビボ使用に関する医師のガイダンスに従い、取得及び使用され得るものと考えられる。治療用製剤の投薬量は、疾患の性質、投与頻度、投与方法、宿主からの薬剤排除などに依存して幅広く変化し得る。
【0305】
特定の患者に投与される治療組成物の有効量は、様々な因子に依存し得るが、そのうちのいくつかは、患者間で異なり得る。通常の技術を利用して、能力のある臨床医は、通常の臨床試験の過程において特定の治療用組成物又は造影組成物の投薬量を調製することができる。
【0306】
治療剤、例えば補体の阻害剤、遺伝子発現のアクチベーターなどは、適切な薬学的に許容される担体又は希釈剤との併用によって、治療用投与のための多様な製剤に取り込むことができ、また固形、半固形、液体、又はガス状の形態の調製物、例えば錠剤、カプセル剤、粉末、顆粒剤、軟膏、液剤、坐薬、注射剤、吸入剤、ゲル剤、ミクロスフェア剤、及びエアロゾル剤などに製剤化してもよい。したがって、化合物の投与は、経口、頬側、直腸、非経口、腹腔内、皮内、経皮、髄腔内、経鼻、気管内などの投与を含む多様な方法で達成し得る。活性剤は、投与後に全身性であってもよいし、又は局所投与、壁内投与の使用によって、又は活性用量を移植部位に保持するように働くインプラントの使用によって局在化させてもよい。
【0307】
併用治療
本開示の補体阻害剤は、非限定的に、任意の追加の治療、例えば脳損傷、好ましくは外傷性脳損傷、低酸素性脳損傷、脳の感染症、又は脳卒中を治療するための抗凝固剤等と併用して使用され得る。
【0308】
いくつかの実施形態では、本開示の抗体は、補体活性化の代替的経路の阻害剤と組み合わせて投与され得る。そのような阻害剤として、限定されないが、B因子遮断抗体、D因子遮断抗体、CD59の可溶性、膜結合型、タグ化、又は融合タンパク質形態、DAF、CR1、CR2、Crry、又はC3の切断を遮断するコンプスタチン様ペプチド、非ペプチドC3aRアンタゴニスト、例えばSB 290157など、コブラ毒因子又は非特異的補体阻害剤、例えばメシル酸ナファモスタット(FUTHAN; FUT-175)、アプロチニン、K-76モノカルボン酸(MX-1)、及びヘパリンなどを挙げることができる(例えば、T.E. Mollnes & M. Kirschfink, Molecular Immunology 43 (2006) 107-121を参照)。
【0309】
診断アッセイ
本発明は、一部、脳損傷、好ましくは外傷性脳損傷、低酸素性脳損傷、脳の感染症、又は脳卒中を発症する対象者のリスクを決定する方法であって、抗C1q、抗C1r、又は抗C1s抗体を対象者に投与するステップであり、抗C1q、抗C1r、又は抗C1sが検出可能な標識とカップリングしているステップ、検出可能な標識を検出して、前記対象者内のC1q、C1r、又はC1sの量又は場所を測定するステップ、及びC1q、C1r、又はC1sのうちの1つ以上の量又は場所を参照と比較するステップを含み、脳損傷、好ましくは外傷性脳損傷、低酸素性脳損傷、脳の感染症、又は脳卒中を発症する前記リスクが、C1q、C1r、又はC1sのうちの1つ以上の量又は場所を参照と比較することに基づき特徴付けられる、方法を提供する。
【0310】
C1q、C1r、又はC1sのレベルを検出するための代表的な方法、従ってサンプルが、脳損傷、好ましくは外傷性脳損傷、低酸素性脳損傷、脳の感染症、若しくは脳卒中、又はその臨床的サブタイプと関連するか、その関連性を分類するのに有用な方法は、テスト対象者から生体サンプルを取得するステップ、及びC1q、C1r、又はC1sのレベルが生体サンプル内で検出されるように、生体サンプルを、C1q、C1r、又はC1sを検出することが可能な抗体と接触させるステップと関係する。特定の事例では、統計的アルゴリズムは、単一の学習型統計分類子システムである。例えば、単一の学習型統計分類子システムが、C1q、C1r、又はC1sの予測又は確率値及び存在又はレベルに基づき、C1q、C1r、又はC1sサンプルとしてサンプルを分類するのに使用可能である。単一の学習統計分類子システムを使用することで、ある感度、特異性、正の予測値、負の予測値、及び/又は少なくとも約75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、若しくは99%の全体的な正確性を有して、C1q、C1r、又はC1sサンプルとして、サンプルは一般的に分類される。
【0311】
その他の好適な統計アルゴリズムは当業者に周知されている。例えば、学習型統計分類子システムには、複雑なデータセット(例えば、目的とするマーカーのパネル)に適合し、そのようなデータセットに基づき決定を下すことが可能な機械式学習アルゴリズム技術が含まれる。いくつかの実施形態では、単一の学習型統計分類子システム、例えば分類木(例えば、ランダムフォレスト)等が使用される。その他の実施形態では、2、3、4、5、6、7、8、9、10、又はそれ超の学習型統計分類子システムの組合せが、好ましくはタンデム方式で使用される。学習型統計分類子システムの例として、帰納学習を使用するシステム(例えば、決定/分類木、例えばランダムフォレスト、分類及び回帰木(C&RT)、ブースティング木等)、確率的近似的に適正な(PAC)学習、コネクショニスト学習(例えば、ニューラルネットワーク(NN)、人工ニューラルネットワーク(ANN)、ニューロファジーネットワーク(NFN)、ネットワーク構造、パーセプトロン、例えば多層パーセプトロン等、多層フィードフォワード型ネットワーク、ニューラルネットワークの応用、ビリーフネットワーク内のベイジアン学習等)、強化学習(例えば、公知環境における受動的学習、例えばナイーブ学習等、適応動的学習、及び時間的差分学習、未知環境における受動的学習、未知環境における能動的学習、学習型行動価値関数、強化学習の応用等)、及び遺伝的アルゴリズム、及び進化論的プログラミングが挙げられるが、但しこれらに限定されない。その他の学習型統計分類子システムには、サポートベクターマシン(例えば、カーネル法)、多変量適応回帰スプライン(MARS)、Levenberg-Marquardtアルゴリズム、Gauss-Newtonアルゴリズム、混合ガウス分布、勾配降下アルゴリズム、及び学習ベクトル量子化(LVQ)が含まれる。
【0312】
1つの実施形態では、方法は、対照生体サンプル(例えば、C1q、C1r、又はC1sが関わりを有する状態又は障害を有さない対象者から得られた生体サンプル)、寛解状態にあり若しくはC1q、C1r、C1sが関わりを有する状態若しくは障害を発症する前の対象者に由来する生体サンプル、又はC1q、C1r、若しくはC1sが関わりを有する状態若しくは障害の発症について治療中の対象者に由来する生体サンプルを取得するステップと更に関係する。
【0313】
C1q、C1r、又はC1sの有無を検出するための代表的な方法は、対象者に対する抗C1q、抗C1r、又は抗C1s抗体であり、但し該抗C1q、抗C1r、又は抗C1s抗体は、検出可能な標識とカップリングしている。いくつかの実施形態では、検出可能な標識は、核酸、オリゴヌクレオチド、酵素、放射性同位体、ビオチン、又は蛍光標識を含む。いくつかの実施形態では、検出可能な標識は、X線、CT、MRI、超音波、PET、及びSPECT用の造影剤を使用して検出される。いくつかの実施形態では、蛍光標識は、フルオレセイン、ローダミン、シアニン色素、又はBODIPYから選択される。
【0314】
[実施例]
[実施例1]:方法
外傷施術
高齢動物を2~2.5%イソフルランで麻酔し、そこで維持し、非外傷性イヤバーを用いて定位固定フレームに固定した。頭皮の毛髪を電気カミソリでシェービングして除去した。眼科用ルブリカントをその眼に点眼し、ベタジン及び70%のアルコールを頭皮に適用した。正中切開を行い、頭蓋骨を露出させた。
【0315】
片側的TBIを、制御式皮質衝撃(CCI)モデルにより頭頂葉内に誘発した。マウスは、次の座標:ブレグマに対して体軸方向に-2.00mm及び中外側方向に+2.00mmにおいて、電気マイクロドリルを使用して直径約4mmの頭蓋骨切除術を受けた。硬膜の破綻により過剰の出血を伴った動物は、いずれも試験から除外された。頭蓋骨切除術後、電磁式インパクター(Impact One, Leica社)に連結した3mm凸面チップを使用して挫傷を引き起こした。インパクトパラメーターを、4.0m/sの速度で挫傷深度0.95mm (硬膜から)に設定し、300ms間継続した。CCIの後、頭皮を縫合した。模擬動物も同様の手技を受けたが、但し頭蓋骨の除去は行わずに若干の穿孔のみが施された。
【0316】
施術後、完全に歩行可能となり、回復するまで、動物をヒートパッド上部のケージ内に配置した。回復後、動物をそのホームケージに戻し、実験の全期間を通じて正常行動及び体重の維持についてモニタリングした。
【0317】
インビボMRの取得
全てのインビボ MR実験を、100 G/cmグラジエント及び1Hボリュームコイル(OI = 40 mm)を備えた14.1 tesla vertical MR system (Agilent Technologies社、Palo-Alto、CA)上で実施した。
【0318】
各イメージングセッションでは、イソフルラン(O2中1~2%)を使用してマウスを麻酔し、27 Gカテーテルを尾静脈内に固定してMagnevist(登録商標)の静脈内(iv)注射を可能にした。動物を、次に一定の麻酔を維持する、MRボア内に位置する専用クレードル内に配置し、全取得期間中に呼吸及び温度を連続的にモニタリングして、動物の健康状態及びデータ再現性を確実にした。
【0319】
初期スカウト画像の後、高分解能T2強調解剖学的画像を、下記のパラメーター: TE/TR = 12/2000 ms、スライス厚 = 0.5 mm、平均数 = 8、マトリックス = 256 × 256、視野(FOV) = 30 × 30 mm2、取得時間= 8分を使用して取得した。次に、2分30秒の遅延により分離された2つの同一高分解能グラジエントエコーシーケンスを使用してBBB病変を評価し、その期間中500μLのMagnevist(登録商標) (1mmol/kg)を20秒にわたり注射した。対応するパラメーターは以下の通りであった: TE/TR = 4.6/112 ms、スライス厚 = 0.5 mm、平均の数 = 30、フリップ角=10マトリックス = 256 × 192、視野(FOV) = 25×25 mm2、取得時間=10分41秒。
【0320】
MRデータ分析
T2強調画像を使用して、動物毎に各スライスについて3つの領域を手作業により線描して、脳、病変、及びキャビテーションに対するマスクを作成した。病変ROIは、CCI焦点周辺の異常を呈する脳構造を包含する。キャビテーションは、挫傷周辺の超強度置換組織として定義された。全てのセグメンテーションを、ImageJ (University of Wisconsin、USA)を用いて実施した。これらのマスクから、3D再構成図をAMIRAソフトウェア(Mercury Computer systems社、San Diego、USA)を使用して取得した。
【0321】
T1強調画像を使用して、増強効果比マップを下記の方程式を使用して取得した:
【0322】
【数1】
式中、Spre及びSpostは、各ボクセルにおけるMagnevist(登録商標)注射前後のシグナル強度をそれぞれ表す。ImageJを使用して、マニュアルROIを挫傷ポイント周辺(同側的)において描き、反対側(対側的)でも繰り返した。平均増強効果比を両ROIにおいて動物毎に算出した。
【0323】
組織の収集
ケタミン(10mg/ml)とキシラキシン(xylaxine) (1mg/ml)の混合物を使用して、全てのマウスについて致死的過量投与を行った。動物を完全に麻酔したら、胸腔を開き、動物を1×リン酸バッファー溶液(PBS)、pH7.5 (Gibco社、Carlsbad、CA、70011-044)で灌流した。
【0324】
凍結組織の場合、PBS後、脳全体を素速く取り出し、脳領域(海馬、皮質、損傷部位等)を切除し、ドライアイス上で急速凍結し、-80℃で保管した。
【0325】
qPCR分析
切除した同側海馬をqPCR分析に使用した。RNAの単離及びcDNAへの変換を完了した。NanoDrop (Thermo Scientific社)を使用して、RNA濃度及び質を決定した。300ナノグラムのRNAを、高能力cDNA逆転写キット(Applied Biosystems社)を使用して逆転写した。個々のサンプルを、製造業者が提案したプロトコールに従い、SYBR Green Master Mix (Applied Biosystems社)を使用して二重で調査した。標的遺伝子の相対的発現を2-ΔΔCt法により決定し、Statagene Mx3005P Real-Time PCRシステムを使用して、βアクチン遺伝子発現に対して標準化した。使用したプライマーは、
CD11b: Fw 5' CTGAGACTGGAGGCAACCAT-3' (配列番号69) Rev 5' GATATCTCCTTCGCGCAGAC-3' (配列番号70)
C1qa: 5': - 3'
C3: 5' - 3'
GAPDH: Fw 5' AAATGGTGAAGGTCGGTGTG-3' (配列番号71) Rev 5' TGAAGGGGTCGTTGATGG-3' (配列番号72)
であった。
【0326】
免疫組織化学分析
免疫組織化学分析では、PBS後、動物を4%のパラホルムアルデヒド、pH7.5 (PFA、Sigma Aldrich社、St. Louis、MO、441244)で灌流し、脳を氷冷4%のパラホルムアルデヒド、pH7.5 (PFA、Sigma Aldrich社、St. Louis、MO、441244)中で2時間固定し、その後スクロース(Fisher Science Education社、Nazareth, PA、S25590A)保護(15%~30%)が続いた。脳を、30%のスクロース/Optimal Cutting Temperature Compound (Tissue Tek社、Radnor、PA, 4583)混合物を用いてドライアイス上で包埋し、-80℃で保管した。Leica cryostat (Leica Microsystems社、Wetzlar、Germany)を使用して、脳を14μmのスライスに切片化し、スライドに取り付けた(ThermoFisher Scientific社、South San Francisco、CA)。使用する前に、スライドを室温(20℃)まで戻した。スライドを、トリス緩衝生理食塩水ツイーン溶液中で10分間、及びトリス緩衝生理食塩水(TBS)を用いて10分間2回、それぞれ洗浄した。全てのスライドを、ブロック試薬(Perkin Elmer社、Waltham、MA、FP1020)中、暗光において30分間ブロックした。スライドを、C1q又はPSD-95に対して特異的な一次抗体で終夜染色し、TBS中で3回洗浄し、二次抗体、ヤギ抗ウサギAlexa-568 (Invitrogen社、Carlsbad、CA、A-11011)について染色した。組織をProLong Gold (Invitrogen社、Carlsbad、CA、P36930)を使用して固定し、標準スライドカバーをマニキュア液でシールした。背側海馬において、50~100μm分離した3~4画像を1動物毎に平均化した。9μmのzスタック画像を、Nikon High Speed Widefield Confocal microscope (Ti inverted fluorescence; CSU-W1)上、UCSF Nikonイメージングセンターにおいて取得した。
【0327】
フローシナプトサイトメトリー
ガラス製ダウンス型ホモジナイザー内、0.32Mスクロースを含むHEPES (Sigma Aldrich社、St. Louis、MO H0887)中で海馬をホモジナイズした。大型の組織断片を遠心分離(1200×g、10分間)により除去し、上清を収集した。シナプトソームを更なる遠心分離(13000×g、20分間)により単離し、上清を廃棄し、シナプトソームを含有するペレットを収集した。染色手順用としてサンプルを冷却状態に保つ(氷上又は冷却型遠心機内)。総タンパク質濃度を測定して、シナプトソーム収集物をサンプル間で標準化した(Pierce BCA Protein Assay、Thermo Scientific社、Rockford、IL、23225)。シナプトソーム(50μg/ml)を、染色用として1.5ml微量遠心チューブに分けた。細胞外染色では、シナプトソームを、一次抗体(C1q)を用いて4℃で30分間染色し、15分後にかき混ぜた。700μlの抗体染色バッファー(PBS+5%BSA)を用い、サンプルを13,000×g、4℃において、5分間、2回洗浄した。二次抗体(ヤギ抗ウサギ647、Invitrogen社、Carlsbad、CA、A21244)を30分間添加し、15分後、暗光内、4℃でかき混ぜた。細胞内染色では、シナプトソームを、最初にCytofix/Cytoperm固定溶液(BD Biosciences社、San Diego、CA、554722)により氷上で20分間、透過処理した。700μlのperm/洗浄バッファー(BD Biosciences社、San Diego、CA、554723)を用い、サンプルを13,000×g、4℃において5分間、2回洗浄した。一次抗体(シナプシン-1及びPSD-95)を30分間添加し、15分後にかき混ぜた。700μlのperm/洗浄バッファーを用い、サンプルを13,000×g、4℃において、5分間、2回洗浄した。二次抗体(ヤギ抗ウサギ405、Invitrogen社、Carlsbad、CA A31556;ヤギ抗マウス488 Invitrogen社、Carlsbad、CA、A11001;ヤギ抗マウス647 Invitrogen社、Carlsbad、CA、A21236)を30分間添加し、15分後に、暗光内、4℃においてかき混ぜた。全ての試薬を各染色日に更新した。シナプトソームをサイズ較正ビーズ、並びに前(シナプシン-1)及び後シナプス(PSD-95、GluR1)マーカーに対して特異的な抗体を用いた共染色により確認した。(1)シナプトソームを含まない、(2)二次抗体のみ含有するサンプルにおいて、陽性染色は認められなかった。各群に由来するサンプルのサブセットをフローシナプトサイトメトリー分析用に選択した。1日当たり最大4サンプルを分析した。各日、少なくとも模擬及びTBIサンプルを、模擬群に対して標準化して分析した。サンプルを二重測定した。データをLSRII (BD社)上で収集し、Flowjo(商標)ソフトウェア(v10、Tree Star Inc.社)を用いて分析した。全シナプトソームについて、30,000イベントを収集した。C1q発現末端について、50,000イベントを収集した。
【0328】
C1q抗体投与
C1q (ANX-M1、M1)に対する阻害抗体又はアイソタイプ対応対照抗体(マウスIgG1)の腹腔内注射を、TBI施術直後に開始して高齢オス動物に施した。抗体はAnnexon Biosciences社(South San Francisco、CA)より提供され、それはエンドトキシン及び防腐剤を含まず、4℃で保管された。実験完了(動物終了)まで、注射(100mg/kg)を動物に毎週施した。
【0329】
新規オブジェクト認識
全ての行動アッセイにおいて、実験者は、施術及び治療の両方に対して盲検化された。行動分析前の1週間、実験者及び室内設定に順応させるように動物を取り扱った。行動は、動物覚醒サイクル期間中は暗室内で実施した。ビデオトラッキング及び分析システム(Ethovision XT 12.0、Noldus Information Technology社)と接続したオーバーヘッドカメラを使用して、全ての行動を記録した。トラッキングが最適でなかった場合、施術及び治療に対して盲検化された調査担当者により手作業によりビデオをスコア化した。
【0330】
認識記憶機能を、施術後1カ月から開始し、新規オブジェクト認識アッセイ(NOR)により測定した。テスト環境は、赤色照明下のオープンフィールド活動領域(30cm2)からなる。2回の10分間活動領域探索を、連続2日間マウスにさせた(順応段階)。3日目(訓練段階)、2つの同一オブジェクト(赤色のLego(商標)ブロック)を、マグネットを使用して活動領域の相対するコーナーのフロアに固定し、活動領域及びオブジェクトについてマウスに5分間探索させた。24時間後の4日目(テスト段階)、オブジェクトのうちの1つを類似した寸法及びテクスチャーの新規オブジェクト(オレンジ色のLego(商標)フラワー)に置き換えた。マウスに5分間探索させた。70%のエタノールを用いてオブジェクト及び活動領域を、トライアル間及び動物間で洗浄した。トライアルを記録し、探索行動は、動物がオブジェクトの方向にその鼻を向けるのに費やされた時間として定義した。データは、マウスが各オブジェクトの探索に費やした時間の割合(%)として表す。訓練又はテスト期間において、探索時間に5秒未満しか有さなかったマウスを分析から除外した。
【0331】
データ分析
プリズムソフトウェア(v7.05、GraphPad(商標); La Jolla、CA)を使用して結果を分析し、平均値±平均値の標準誤差(SEM)として表した。統計分析を以下に掲載するように実施し、0.05未満のP値を有意とみなした。
【0332】
[実施例2]
高齢動物における挫傷後の病変進行
19月齢動物に対する軽度~中程度の局所的挫傷を、極めて再現性の高い制御式皮質損傷(CCI)モデルを用いて検査した。T2強調MR画像化法と造影剤強調前/後のT1強調MR画像化法の組合せを使用して、病変サイズ、キャビテーション、及び血液脳関門(BBB)の崩壊を経時的に調査した(図1及び図2)。T2強調MRIでは、病変は高及び低強度コントラストの混合として現れ、測定された全病変サイズを線描した。同一画像上で、十分に線描された高強度キャビテーショが、受傷半球において認めることができる。病変サイズ及びキャビテーションの増加を、損傷後1日目(dpi)で測定し、損傷後最長1カ月間継続した。病変サイズは1dpiにおいてピークに達し、次に1カ月までプラトーとなった一方、キャビテーション容積は、継続的に増大し、1カ月までに約8mm3の容積に達した(図1C及び図1D)。次に、臨床現場で一般的に使用されるように、ガドリニウムベースの造影剤を注射した後、T1強調MRIを使用して局所的挫傷後のBBBの崩壊を測定した。高齢の脳では、BBBの完全性は、血管漏出を通じて造影剤の蓄積が増加したことにから明らかなように、損傷後に損なわれた。BBBの崩壊を損傷後最長1カ月間測定した(図2)。全体として予想された通り、病変サイズ及びキャビテーションは、若年動物と比較して高齢動物において挫傷後悪化する。
【0333】
[実施例3]
挫傷後のミクログリア数の慢性的増加
老化した動物の受傷脳において、若年動物(3月齢)から得られた脳と比較した場合、TBI後最長7日間、ミクログリア細胞の増加が認められる。認知障害もやはり観測される場合、7dpiにおいて観測されたミクログリアの増加がその後の時点において遷延するか判断するために、独立した2方法、定量的PCR (qPCR)を用いたmRNA測定法、及びフローサイトメトリー染色を用いたタンパク質レベル測定法を使用した。損傷後の7dpiから開始して最長30日間継続して、CD11b (補体受容体3又はCR3) mRNA発現の増加を、高齢の対応する模擬動物と比較しながら、受傷海馬において測定した(図3A)。これらの結果は、海馬由来ミクログリアのフローサイトメトリー染色を使用して更に確認された(CD45lo、CD11b+)。ミクログリア数の有意な増加は、模擬動物と比較して高齢の受傷動物では、10及び30dpiの両方において明白であった(図3B)。
【0334】
[実施例4]
挫傷は高齢の脳内のミクログリア食細胞活性を増悪させる。
ミクログリアの食細胞性特性を、高齢の脳において、新規に改変されたインビボ貪食アッセイにより調査した。このアッセイでは、蛍光抗体標識PSD-95シナプス粒子が、高齢の模擬動物又は受傷動物の受傷海馬中に注射される。注射後3日間、ミクログリアを単離し、食細胞活性を、標識されたシナプス(細胞内PSD-95-FITCを同時発現するCD45lo、CD11b+)を貪食するミクログリアの割合を測定することにより定量化する。対応する模擬対照と比較した場合、高齢の受傷動物において、標識されたシナプスを貪食するミクログリアの割合の有意な増加が30dpiにおいて判明した(図3C)。重要なこととして、模擬動物とTBI動物の間の差異は10dpiにおいて測定されないので、ミクログリア貪食活性の増加は、長期エンドポイントに限定される。これらの結果は、高齢の脳における損傷誘発性の変化は損傷後漸進的に進行し、より不良な認知転帰に関係している可能性があることを示唆する。
【0335】
[実施例5]
挫傷は高齢の脳内で強固な補体発現を誘発する。
異なる神経変性条件おけるミクログリア及び補体発現/活性化と関連する報告に起因して、損傷のC1q発現に対する効果を経時的に調査した。qPCR分析を使用して、損傷後の7、14、及び30日において、受傷海馬内C1q mRNA発現の有意な増加を測定した(図4A)。下流補体因子C3もまた損傷後に上方制御された(図4B)。C1qの慢性的誘発も海馬の免疫組織化学分析により確認された(CA1) (図4C)。特に、個々のシナプスと同時局在化しているC1qタンパク質が30dpiにおいて有意に上昇している(フローシナプトサイトメトリー(図4D)を使用)。上記したように、補体C3受容体(CR3又はCD11b)の発現もやはり増加しており(図3A)、これらの結果と整合する。
【0336】
[実施例6]
挫傷性損傷は、高齢の脳内の慢性的シナプス喪失を引き起こす。
シナプスにおけるC1qの局在化は、シナプス数の減少と直接関連することが明らかにされている。従って、慢性的なC1q蓄積(30dpi)が、高齢動物における損傷後の海馬シナプス喪失と関連するか、その蓄積について調査した。海馬内のシナプス数を、シナプス単離後、フローサイトメトリー染色により評価した。標準的な前シナプスマーカーとしてシナプシン-1を、及び後シナプスマーカーとしてPSD-95を使用した。シナプス数の有意な減少を、年齢対応の模擬動物と比較して高齢の受傷動物において測定した(図5A)。サイトメトリー分析により測定された減少は、後シナプスマーカーPSD-95に対する免疫組織化学染色により更に確認された(図5B)。
【0337】
[実施例7]
補体遮断薬は挫傷後の高齢動物における記憶欠損を予防する。
補体発現増加が損傷誘発型の慢性的記憶欠損発症において役割を果たすという潜在的役割を確認するために、2つの補完的アプローチ: 1)高齢のC3ノックアウト(C3-/-)マウスを用いた遺伝的アプローチ、及び2)抗C1q抗体を用いた薬理学的介入を使用した。30dpiにおいて記憶機能を測定するために、新規オブジェクト認識テストを使用した。このテストは嫌悪刺激を有さず、また新しい物を探索するという先天的な傾向に基づく。動物は、2つの同一オブジェクトに最初に曝露され、24時間後、動物はこれまでに遭遇したことのあるオブジェクト(熟知している)のうちの1つ、及び新規のものに曝露される。認識記憶は、マウスが、熟知しているものと比較して新規オブジェクトを探索するのに費やす時間により測定される。高齢受傷動物は、模擬対応動物と比較して新規オブジェクトを認識するその能力において有意に毀損しており、記憶障害を示した(図6A)。重要なこととして、記憶欠損がオス及びメスの高齢受傷動物の両方に認められ、性別依存性の差異は存在しなかった(図6A)。特に、C1q遮断抗体の投与(毎週投与)を受けたC3-/-高齢受傷動物及び高齢野生型受傷動物は、高齢受傷野生型動物と比較した場合、認識記憶能力の有意な改善を示した(図6B)。これらのデータは、古典的補体経路の活性化は、受傷高齢動物の記憶欠損の発症において重要な役割を果たしていることを実証する。最も重要なこととして、補体開始経路を標的とすることで、高齢動物における慢性的な外傷誘発型の欠陥を予防することが可能となる。
【0338】
参照による組込み
本明細書に記載される全ての公開資料、特許、及び特許出願は、個別の公開資料、特許、又は特許出願それぞれが参照により組み込まれるものと特別且つ個別に指摘されたかのように、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。矛盾する場合、本出願が、本明細書におけるあらゆる定義を含め、コントロールする。
【0339】
等価物
当業者は、本明細書に記載される発明の特定の実施形態の多くの等価物を、通常の実験に過ぎないものを使用して認識するか、又は確認することができる。そのような等価物は以下の特許請求の範囲によって含まれることが意図される。
図1A-1C】
図1D
図2A
図2B
図3A
図3B-3C】
図4A-4B】
図4C-4D】
図5A-5B】
図6A-6B】
【配列表】
2022512863000001.app
【国際調査報告】