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特表2022-512868C2c1ヌクレアーゼに基づくゲノム編集のためのシステムおよび方法
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  • 特表-C2c1ヌクレアーゼに基づくゲノム編集のためのシステムおよび方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-07
(54)【発明の名称】C2c1ヌクレアーゼに基づくゲノム編集のためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20220131BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220131BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20220131BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20220131BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20220131BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20220131BHJP
   A61P 25/18 20060101ALI20220131BHJP
   A61P 25/30 20060101ALI20220131BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220131BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220131BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20220131BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20220131BHJP
   C12N 15/866 20060101ALN20220131BHJP
   C12N 15/863 20060101ALN20220131BHJP
   C12N 15/861 20060101ALN20220131BHJP
   C12N 15/864 20060101ALN20220131BHJP
   C12N 15/867 20060101ALN20220131BHJP
【FI】
C12N15/09 110
A61P35/00
A61P25/16
A61P29/00
A61P9/00
A61P25/28
A61P25/18
A61P25/30
A61P43/00
A61K48/00
A61K35/76
A61K31/7088
C12N15/866 Z ZNA
C12N15/863 Z
C12N15/861 Z
C12N15/864 100Z
C12N15/867 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021523583
(86)(22)【出願日】2018-11-30
(85)【翻訳文提出日】2021-06-29
(86)【国際出願番号】 CN2018118458
(87)【国際公開番号】W WO2020087631
(87)【国際公開日】2020-05-07
(31)【優先権主張番号】201811300251.6
(32)【優先日】2018-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512256605
【氏名又は名称】インスティテュート オブ ズーオロジー、チャイニーズ アカデミー オブ サイエンシーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リー,ウェイ
(72)【発明者】
【氏名】ジョウ,チー
(72)【発明者】
【氏名】テン,フェイ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4C084AA13
4C084NA14
4C084ZA15
4C084ZA16
4C084ZA18
4C084ZA36
4C084ZB11
4C084ZB26
4C084ZC51
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA15
4C086ZA16
4C086ZA18
4C086ZA36
4C086ZB11
4C086ZB26
4C086ZC51
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA12
4C087NA14
4C087ZA15
4C087ZA16
4C087ZA18
4C087ZA36
4C087ZB11
4C087ZB26
4C087ZC51
(57)【要約】
本発明は、遺伝子操作の分野に関する。特に、本発明は、C2c1ヌクレアーゼに基づくゲノム編集システムおよび方法に関する。本発明はまた、C2c1ヌクレアーゼと組み合わせ、ゲノム編集のために使用することができる人工ガイドRNAに関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞のゲノム内の標的配列の部位特異的改変のためのゲノム編集システムであって、以下のi)~v)のうちの少なくとも1つ:
i)C2c1タンパク質またはそのバリアント、およびガイドRNA;
ii)C2c1タンパク質またはそのバリアントをコードするヌクレオチド配列を含む発現構築物、およびガイドRNA;
iii)C2c1タンパク質またはそのバリアント、およびガイドRNAをコードするヌクレオチド配列を含む発現構築物;
iv)C2c1タンパク質またはそのバリアントをコードするヌクレオチド配列を含む発現構築物、およびガイドRNAをコードするヌクレオチド配列を含む発現構築物;
v)C2c1タンパク質またはそのバリアントをコードするヌクレオチド配列およびガイドRNAをコードするヌクレオチド配列を含む発現構築物
を含み、
ガイドRNAが、C2c1タンパク質またはそのバリアントと複合体を形成し、C2c1タンパク質オルソログまたはそのバリアントを、細胞ゲノム内の標的配列にターゲティングすることができる、ゲノム編集システム。
【請求項2】
C2c1タンパク質が、アリシクロバチルス・アシドフィルス(Alicyclobacillus acidiphilus)に由来するAaC2c1タンパク質、アリシクロバチルス・カケガウェンシス(Alicyclobacillus kakegawensis)に由来するAkC2c1タンパク質、アリシクロバチルス・マクロスポランギダス(Alicyclobacillus macrosporangiidus)に由来するAmC2c1タンパク質、バチルス・ヒサシ(Bacillus hisashii)に由来するBhC2c1タンパク質、バチルス属に由来するBsC2c1タンパク質、バチルス属に由来するBs3C2c1タンパク質、デスルホビブリオ・イノピナタス(Desulfovibrio inopinatus)に由来するDiC2c1タンパク質、ラセイェラ・セディミニス(Laceyella sediminis)に由来するLsC2c1タンパク質、スピロヘータ(Spirochaetes)細菌に由来するSbC2c1タンパク質、またはツベリバチルス・カリダス(Tuberibacillus calidus)に由来するTcC2c1タンパク質である、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
C2c1タンパク質が、アリシクロバチルス・アシドフィルス(Alicyclobacillus acidiphilus)NBRC 100859に由来するAaC2c1タンパク質、アリシクロバチルス・カケガウェンシス(Alicyclobacillus kakegawensis)NBRC 103104に由来するAkC2c1タンパク質、アリシクロバチルス・マクロスポランギダス(Alicyclobacillus macrosporangiidus) DSM17980株に由来するAmC2c1タンパク質、バチルス・ヒサシ(Bacillus hisashii) C4株に由来するBhC2c1タンパク質、バチルス属NSP2.1に由来するBsC2c1タンパク質、バチルス属V3-13コンティグ_40(contig_40)に由来するBs3C2c1タンパク質、デスルホビブリオ・イノピナタス(Desulfovibrio inopinatus)DSM10711に由来するDiC2c1タンパク質、ラセイェラ・セディミニス(Laceyella sediminis) RHA1株に由来するLsC2c1タンパク質、スピロヘータ(Spirochaetes)細菌GWB1_27_13に由来するSbC2c1タンパク質、またはツベリバチルス・カリダス(Tuberibacillus calidus)DSM17572に由来するTcC2c1タンパク質である、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
C2c1タンパク質が、配列番号1~10のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を含むか、またはC2c1タンパク質のバリアントが配列番号1~10のいずれか1つに記載のアミノ酸配列との少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項5】
ガイドRNAがsgRNAである、請求項1~4のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項6】
sgRNAが、配列番号31~38または39~75から選択されるヌクレオチド配列によってコードされるsgRNA足場配列を含む、請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
C2c1タンパク質が、天然の遺伝子座がCRISPRアレイを有しないC2c1タンパク質である、請求項1~6のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項8】
C2c1タンパク質またはそのバリアントをコードするヌクレオチド配列がコドン最適化されている、請求項1~7のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項9】
C2c1タンパク質またはそのバリアントをコードするヌクレオチド配列が、配列番号11~20から選択される、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載のシステムを細胞内に導入することを含む、細胞のゲノム内の標的配列を部位特異的に改変する方法。
【請求項11】
細胞が、ヒト、マウス、ラット、サル、イヌ、ブタ、ヒツジ、ウシ、ネコなどの哺乳動物;ニワトリ、アヒル、ガチョウなどの家禽;イネ、トウモロコシ、コムギ、ソルガム、オオムギ、ダイズ、ピーナッツおよびシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)などの単子葉植物および双子葉植物を含む植物に由来する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
システムが、リン酸カルシウムトランスフェクション、プロトプラスト融合、エレクトロポレーション、リポフェクション、マイクロインジェクション、ウイルス感染(例えば、バキュロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルスおよび他のウイルス)、遺伝子銃法、PEG媒介性プロトプラスト形質転換、アグロバクテリウム媒介性形質転換から選択される方法によって細胞内に導入される、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
疾患の治療を必要とする対象における疾患を治療する方法であって、対象に、有効量の請求項1~9のいずれか一項に記載のゲノム編集システムを送達して、対象における疾患と関連する遺伝子を改変することを含む、方法。
【請求項14】
疾患の治療を必要とする対象における疾患を治療するための医薬組成物の調製のための請求項1~9のいずれか一項に記載のゲノム編集システムの使用であって、ゲノム編集システムが対象における疾患と関連する遺伝子を改変するためのものである、使用。
【請求項15】
疾患の治療を必要とする対象における疾患を治療するための医薬組成物であって、請求項1~9のいずれか一項に記載のゲノム編集システムと、製薬上許容し得る担体とを含み、ゲノム編集システムが、対象における疾患と関連する遺伝子を改変するためのものである、医薬組成物。
【請求項16】
対象がヒトなどの哺乳動物である、請求項13~15のいずれか一項に記載の方法、使用または医薬組成物。
【請求項17】
疾患が、腫瘍、炎症、パーキンソン病、心血管疾患、アルツハイマー病、自閉症、薬物中毒、加齢黄斑変性、統合失調症、および遺伝性疾患から選択される、請求項16に記載の方法、使用または医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子操作の分野に関する。特に、本発明は、C2c1ヌクレアーゼに基づくゲノム編集システムおよび方法に関する。本発明はまた、C2c1ヌクレアーゼと組み合わせ、ゲノム編集のために使用することができる人工ガイドRNAに関する。
【背景技術】
【0002】
精密ゲノム編集は、特に、CRISPR (クラスター化された規則的な配置の短い回文配列リピート(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats))-Cas(CRISPR関連タンパク質(associated protein))システムの出現と共に、遺伝子療法におけるその明るい見通しのための有望な分野である。今まで、3つの型のCRISPR-Casシステム、II型Cas9(Cong, L.ら、Science 339, 819-823 (2013); Mali, P.ら、Science 339, 823-826 (2013))、V-A型Cpf13(Zetsche, B.ら、Cell 163, 759-771 (2015))およびV-B型C2c1が、哺乳動物のゲノム操作を容易にするために成功裏に利用されてきた。II型およびV型CRISPR-Casシステムについては、ガイドRNAおよびCasエフェクタータンパク質が、標的DNAの認識および切断のための2つのコア成分である(Wright, A.V., Nunez, J.K. & Doudna, J.A. Cell 164, 29-44 (2016); Shmakov, S.ら、Nat Rev Microbiol 15, 169-182 (2017))。以前の研究により、RNAおよびタンパク質成分が密接に関連するCas9システム(Fonfara, I.ら、Nucleic Acids Res 42, 2577-2590 (2014))ならびにCpf1システム (Zetsche, B.ら、Cell 163, 759-771 (2015))において互換性であり、事前に最適化することができることが示された(Nishimasu, H.ら、Cell 156, 935-949 (2014); Zalatan, J.G.ら、Cell 160, 339-350 (2015))。いくつかの新たなCRISPR-Casシステムおよびこれを補強する検討はCRISPR-Casシステムの幅広い適用を促進するが (Wright, A.V., Nunez, J.K. & Doudna, J.A. Cell 164, 29-44 (2016); Shmakov, S.ら、Nat Rev Microbiol 15, 169-182 (2017))、酵素的ゲノム操作システムを再設計するか、またはさらには新たに(de novo)合成する方法に関しては依然としてほとんど知られていない。
【0003】
V-B型CRISPR-C2c1システムは、ゲノム操作のための新たな有望な技術である。しかしながら、哺乳動物ゲノム編集に使用することができるC2c1は、稀であり、その用途が大きく制限されている。哺乳動物ゲノム編集に使用することができる新しいC2c1ヌクレアーゼに基づくゲノム編集システムが依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0004】
一態様では、本発明は、細胞のゲノム内の標的配列の部位特異的改変のためのゲノム編集システムであって、以下のi)~v)のうちの少なくとも1つ:
i)C2c1タンパク質またはそのバリアント、およびガイドRNA;
ii)C2c1タンパク質またはそのバリアントをコードするヌクレオチド配列を含む発現構築物、およびガイドRNA;
iii)C2c1タンパク質またはそのバリアント、およびガイドRNAをコードするヌクレオチド配列を含む発現構築物;
iv)C2c1タンパク質またはそのバリアントをコードするヌクレオチド配列を含む発現構築物、およびガイドRNAをコードするヌクレオチド配列を含む発現構築物;
v)C2c1タンパク質またはそのバリアントをコードするヌクレオチド配列およびガイドRNAをコードするヌクレオチド配列を含む発現構築物
を含み、
ガイドRNAが、C2c1タンパク質またはそのバリアントと複合体を形成し、C2c1タンパク質オルソログまたはそのバリアントを、細胞のゲノム内の標的配列にターゲティングすることができる、ゲノム編集システムを提供する。
【0005】
いくつかの実施形態では、C2c1タンパク質は、アリシクロバチルス・アシドフィルス(Alicyclobacillus acidiphilus)に由来するAaC2c1タンパク質、アリシクロバチルス・カケガウェンシス(Alicyclobacillus kakegawensis)に由来するAkC2c1タンパク質、アリシクロバチルス・マクロスポランギダス(Alicyclobacillus macrosporangiidus)に由来するAmC2c1タンパク質、バチルス・ヒサシ(Bacillus hisashii)に由来するBhC2c1タンパク質、バチルス属に由来するBsC2c1タンパク質、バチルス属に由来するBs3C2c1タンパク質、デスルホビブリオ・イノピナタス(Desulfovibrio inopinatus)に由来するDiC2c1タンパク質、ラセイェラ・セディミニス(Laceyella sediminis)に由来するLsC2c1タンパク質、スピロヘータ(Spirochaetes)細菌に由来するSbC2c1タンパク質、ツベリバチルス・カリダス(Tuberibacillus calidus)に由来するTcC2c1タンパク質である。例えば、C2c1タンパク質は、アリシクロバチルス・アシドフィルス(Alicyclobacillus acidiphilus)NBRC 100859に由来するAaC2c1タンパク質、アリシクロバチルス・カケガウェンシス(Alicyclobacillus kakegawensis)NBRC 103104に由来するAkC2c1タンパク質、アリシクロバチルス・マクロスポランギダス(Alicyclobacillus macrosporangiidus) DSM17980株に由来するAmC2c1タンパク質、バチルス・ヒサシ(Bacillus hisashii)C4株に由来するBhC2c1タンパク質、バチルス属NSP2.1に由来するBsC2c1タンパク質、バチルス属V3-13コンティグ_40(contig_40)に由来するBs3C2c1タンパク質、デスルホビブリオ・イノピナタス(Desulfovibrio inopinatus)DSM10711に由来するDiC2c1タンパク質、ラセイェラ・セディミニス(Laceyella sediminis) RHA1株に由来するLsC2c1タンパク質、スピロヘータ(Spirochaetes)細菌GWB1_27_13に由来するSbC2c1タンパク質、ツベリバチルス・カリダス(Tuberibacillus calidus)DSM17572に由来するTcC2c1タンパク質である。
【0006】
第2の態様では、本発明は、本発明のゲノム編集システムを細胞内に導入することを含む、細胞のゲノム内の標的配列を部位特異的に改変する方法を提供する。
【0007】
第3の態様では、本発明は、対象に、有効量の本発明のゲノム編集システムを送達して、対象における疾患と関連する遺伝子を改変することを含む、疾患の治療を必要とする対象における疾患を治療する方法を提供する。
【0008】
第4の態様では、本発明は、ゲノム編集システムが、対象における疾患と関連する遺伝子を改変するためのものである、疾患の治療を必要とする対象における疾患を治療するための医薬組成物の調製のための本発明のゲノム編集システムの使用を提供する。
【0009】
第5の態様では、本発明は、本発明の方法における使用のためのキット、本発明のゲノム編集システムを含むキット、および使用のための指示書を提供する。
【0010】
第6の態様では、本発明は、本発明のゲノム編集システムと、製薬上許容し得る担体とを含み、ゲノム編集システムが、対象における疾患と関連する遺伝子を改変するためのものである、疾患の治療を必要とする対象における疾患を治療するための医薬組成物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】ゲノム編集試験のために選択される非冗長C2c1オルソログおよびその遺伝子座の系統樹を示す図である。(a)本研究において試験されたC2c1オルソログの進化的関係を示す近接結合系統樹である。(b)(a)において強調された8種のC2c1タンパク質に対応する細菌ゲノム遺伝子座のマップである。crRNA DRおよび推定tracrRNAのin silicoでの同時フォールディングは、安定的な二次構造を示す。DR、直接反復。それぞれの細菌ゲノムスペーサーの数は、そのCRISPRアレイの上または下に示される。
図2】C2c1オルソログのタンパク質アラインメントを示す図である。本研究において試験された10種のC2c1オルソログのアミノ酸配列の複数配列アライメントである。保存されている残基を、赤色の背景で強調し、保存された突然変異を、輪郭および赤色のフォントで強調する。
図3】ヒト293T細胞内でのC2c1オルソログ媒介性ゲノムターゲティングを示す図である。(a)ヒトゲノム内でその同族sgRNAと組み合わせた8種のC2c1タンパク質のゲノムターゲティング活性を示すT7EIアッセイの結果である。赤色の三角は、切断されたバンドを示す。(b)ヒト293T細胞内でその同族sgRNA(Bs3sgRNA)と組み合わせたBs3C2c1によって媒介される同時的多重ゲノムターゲティングを示すT7EIアッセイの結果である。(c)Bs3sgRNAと組み合わせたBs3C2c1によって誘導される代表的なインデルを示すサンガー配列決定である。PAMおよびプロトスペーサー配列は、それぞれ、赤色および青色で着色されている。インデルおよび挿入は、それぞれ、紫色の破線および緑色の小文字で記号化されている。
図4】RNAでガイドされたゲノム編集のための直交C2c1タンパク質を示す図である。(a)本研究において試験された10種のC2c1オルソログの概略図である。サイズ(アミノ酸)が示される。(b)ヒト293T細胞内でその同族sgRNAによって指向される8種のC2c1オルソログのゲノムターゲティング活性を示すT7EIアッセイの結果である。赤色の三角は、切断されたバンドを示す。(c~d)ヒト293T細胞内でAasgRNA(c)およびAksgRNA(d)によって指向される8種のC2c1オルソログのゲノムターゲティング活性を示すT7EIアッセイの結果である。赤色の三角は、切断されたバンドを示す。
図5】C2c1のsgRNAのDNAアラインメントを示す図である。本研究において試験された10種のC2c1遺伝子座に由来する8種のsgRNAのDNA配列の多重配列アラインメントである。
図6A】C2c1オルソログとそのsgRNAとの互換性を示す図である。ヒト293T細胞内でAasgRNA(a)、AksgRNA(b)、AmsgRNA(c)、Bs3sgRNA(d)およびLssgRNA(e)によって指向される8種のC2c1オルソログのゲノムターゲティング活性を示すT7EIアッセイの結果である。赤色の三角は、切断されたバンドを示す。
図6B】C2c1オルソログとそのsgRNAとの互換性を示す図である。ヒト293T細胞内でAasgRNA(a)、AksgRNA(b)、AmsgRNA(c)、Bs3sgRNA(d)およびLssgRNA(e)によって指向される8種のC2c1オルソログのゲノムターゲティング活性を示すT7EIアッセイの結果である。赤色の三角は、切断されたバンドを示す。
図7】人工sgRNAにより媒介される多重ゲノムターゲティングを示す図である。(a)DiC2c1およびTcC2c1に対応する細菌ゲノム遺伝子座のマップである。2つのC2c1遺伝子座は、CRISPRアレイを有しない。(b~c)ヒト293T細胞内でAasgRNA(b)およびAksgRNA(c)によって指向されるAaC2c1、DiC2c1およびTcC2c1のゲノムターゲティング活性を示すT7EIアッセイの結果である。赤色の三角は、切断されたバンドを示す。(d)ヒト293T細胞内でAksgRNAと組み合わせたTcC2c1によって媒介される同時的多重ゲノムターゲティングを示すT7EIアッセイの結果である。(e)人工sgRNA足場13(artsgRNA13)の二次構造を示す概略図である。(f)ヒト293T細胞内でartsgRNA13と組み合わせたTcC2c1によって媒介される同時的多重ゲノムターゲティングを示すT7EIアッセイの結果である。
図8】ゲノム編集のための直交sgRNAにより指向されるC2c1を示す図である。ヒト293T細胞内でAasgRNA(a)、AksgRNA(b)、AmsgRNA(c)、Bs3sgRNA(d)およびLssgRNA(e)によって指向されるAaC2c1、DiC2c1およびTcC2c1のゲノムターゲティング活性を示すT7EIアッセイの結果である。赤色の三角は、切断されたバンドを示す。
図9】TcC2c1により媒介される多重ゲノム編集を示す図である。(a)ヒト293T細胞内でAmsgRNAと組み合わせたTcC2c1によって媒介される同時的多重ゲノムターゲティングを示すT7EIアッセイの結果である。(b~c)AksgRNA(b)およびAmsgRNA(c)と組み合わせたTcC2c1によって誘導される代表的なインデルを示すサンガー配列決定である。PAMおよびプロトスペーサー配列は、それぞれ、赤色および青色で着色されている。インデルおよび挿入は、それぞれ、紫色の破線および緑色の小文字で記号化されている。
図10A】ゲノム編集のための人工sgRNAにより指向されるTcC2c1を示す図である。(a)36種の人工sgRNA(srtsgRNA)足場(足場:1~12および14~37)の二次構造を示す図である。(b)ヒト293T細胞内でartsgRNAにより指向されるTcC2c1のゲノムターゲティング活性を示すT7EIアッセイの結果である。赤色の三角は、切断されたバンドを示す。(c)ヒト293T細胞内でartsgRNA13と組み合わせたAaC2c1によって媒介される同時的多重ゲノムターゲティングを示すT7EIアッセイの結果である。
図10B】ゲノム編集のための人工sgRNAにより指向されるTcC2c1を示す図である。(a)36種の人工sgRNA(srtsgRNA)足場(足場:1~12および14~37)の二次構造を示す図である。(b)ヒト293T細胞内でartsgRNAにより指向されるTcC2c1のゲノムターゲティング活性を示すT7EIアッセイの結果である。赤色の三角は、切断されたバンドを示す。(c)ヒト293T細胞内でartsgRNA13と組み合わせたAaC2c1によって媒介される同時的多重ゲノムターゲティングを示すT7EIアッセイの結果である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.定義
本発明において、本明細書で使用される科学および技術用語は、別途特定しない限り、当業者によって一般的に理解されるものとしての意味を有する。また、本明細書で使用されるタンパク質および核酸化学、分子生物学、細胞および組織培養、微生物学、免疫学関連用語、ならびに実験手順は、対応する分野において広く用いられている用語および慣用的な工程である。例えば、本発明において使用される標準的な組換えDNAおよび分子クローニング技術は、当業者には周知であり、以下の文献:Sambrook, J., Fritsch, E.F. およびManiatis, T., Molecular Cloning: A Laboratory Manual; Cold Spring Harbor Laboratory Press: Cold Spring Harbor, 1989(本明細書では以後、「Sambrook」と呼ぶ)に完全に記載されている。その一方で、本発明をより良く理解するために、関連する用語の定義および説明を以下に提供する。
【0013】
一態様では、本発明は、細胞のゲノム内の標的配列の部位特異的改変のためのゲノム編集システムであって、以下のi)~v)のうちの少なくとも1つ:
i)C2c1タンパク質またはそのバリアント、およびガイドRNA;
ii)C2c1タンパク質またはそのバリアントをコードするヌクレオチド配列を含む発現構築物、およびガイドRNA;
iii)C2c1タンパク質またはそのバリアント、およびガイドRNAをコードするヌクレオチド配列を含む発現構築物;
iv)C2c1タンパク質またはそのバリアントをコードするヌクレオチド配列を含む発現構築物、およびガイドRNAをコードするヌクレオチド配列を含む発現構築物;
v)C2c1タンパク質またはそのバリアントをコードするヌクレオチド配列およびガイドRNAをコードするヌクレオチド配列を含む発現構築物
を含み、
ガイドRNAが、C2c1タンパク質またはそのバリアントと複合体を形成し、C2c1タンパク質またはそのバリアントを、細胞のゲノム内の標的配列にターゲティングすることができる、ゲノム編集システムを提供する。いくつかの実施形態では、ターゲティングは、標的配列内の1個以上のヌクレオチドの置換、欠失および/または付加をもたらす。
【0014】
本明細書で使用される「ゲノム」は、核に存在する染色体DNAだけでなく、細胞の細胞内成分(例えば、ミトコンドリア、プラスチド)内に存在するオルガネラDNAも包含する。
【0015】
「C2c1ヌクレアーゼ」、「C2c1タンパク質」および「C2c1」は、本明細書では互換的に使用され、C2c1タンパク質またはその断片を含むRNA特異的ヌクレアーゼを指す。C2c1は、ガイドRNA媒介性DNA結合活性およびDNA切断活性を有し、DNA標的配列をターゲティングし、これを切断して、ガイドRNAの誘導下でDNA二本鎖切断(DSB)を形成することができる。DSBは、細胞内の内在性修復メカニズム、非相同末端結合(NHEJ)および相同組換え(HR)を活性化して、細胞内のDNA損傷を修復することができる。修復プロセスの間に、特異的DNA配列は、部位特異的編集を受ける。
【0016】
いくつかの実施形態では、C2c1タンパク質は、アリシクロバチルス・アシドフィルス(Alicyclobacillus acidiphilus)に由来するAaC2c1タンパク質、アリシクロバチルス・カケガウェンシス(Alicyclobacillus kakegawensis)に由来するAkC2c1タンパク質、アリシクロバチルス・マクロスポランギダス(Alicyclobacillus macrosporangiidus)に由来するAmC2c1タンパク質、バチルス・ヒサシ(Bacillus hisashii)に由来するBhC2c1タンパク質、バチルス属に由来するBsC2c1タンパク質、バチルス属に由来するBs3C2c1タンパク質、デスルホビブリオ・イノピナタス(Desulfovibrio inopinatus)に由来するDiC2c1タンパク質、ラセイェラ・セディミニス(Laceyella sediminis)に由来するLsC2c1タンパク質、スピロヘータ(Spirochaetes)細菌に由来するSbC2c1タンパク質、ツベリバチルス・カリダス(Tuberibacillus calidus)に由来するTcC2c1タンパク質である。
【0017】
例えば、C2c1タンパク質は、アリシクロバチルス・アシドフィルス(Alicyclobacillus acidiphilus)NBRC 100859に由来するAaC2c1タンパク質、アリシクロバチルス・カケガウェンシス(Alicyclobacillus kakegawensis)NBRC 103104に由来するAkC2c1タンパク質、アリシクロバチルス・マクロスポランギダス(Alicyclobacillus macrosporangiidus) DSM17980株に由来するAmC2c1タンパク質、バチルス・ヒサシ(Bacillus hisashii) C4株に由来するBhC2c1タンパク質、およびバチルス属NSP2.1に由来するBsC2c1タンパク質、バチルス属V3-13コンティグ_40に由来するBs3C2c1タンパク質、デスルホビブリオ・イノピナタス(Desulfovibrio inopinatus)DSM10711に由来するDiC2c1タンパク質、ラセイェラ・セディミニス(Laceyella sediminis) RHA1株に由来するLsC2c1タンパク質、スピロヘータ(Spirochaetes)細菌GWB1_27_13に由来するSbC2c1タンパク質、ツベリバチルス・カリダス(Tuberibacillus calidus)DSM17572に由来するTcC2c1タンパク質である。
【0018】
本発明のいくつかの実施形態では、C2c1タンパク質は、天然の遺伝子座がCRISPRアレイを有しないC2c1タンパク質である。いくつかの実施形態では、天然の遺伝子座がCRISPRアレイを有しないC2c1タンパク質は、DiC2c1またはTcC2c1タンパク質である。
【0019】
いくつかの実施形態では、C2c1タンパク質は、配列番号1~10のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を含む。例えば、AaC2c1、AkC2c1、AmC2c1、BhC2c1、BsC2c1、Bs3C2c1、DiC2c1、LsC2c1、SbC2c1、およびTcC2c1タンパク質は、それぞれ、配列番号1~10に記載のアミノ酸配列を含む。
【0020】
いくつかの実施形態では、C2c1タンパク質のバリアントは、それぞれ、野生型C2c1タンパク質(例えば、野生型AaC2c1、AkC2c1、AmC2c1、BhC2c1、BsC2c1、Bs3C2c1、DiC2c1、LsC2c1、SbC2c1、またはTcC2c1タンパク質)との少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、それぞれ、野生型C2c1タンパク質(例えば、野生型AaC2c1、AkC2c1、AmC2c1、BhC2c1、BsC2c1、Bs3C2c1、DiC2c1、LsC2c1、SbC2c1、TcC2c1タンパク質)のゲノム編集および/またはターゲティング活性を有する。
【0021】
いくつかの実施形態では、C2c1タンパク質のバリアントは、1個以上のアミノ酸残基が、それぞれ野生型C2c1タンパク質(例えば、野生型AaC2c1、AkC2c1、AmC2c1、BhC2c1、BsC2c1、Bs3C2c1、DiC2c1、LsC2c1、SbC2c1、TcC2c1タンパク質)に対して置換、欠失または付加されたアミノ酸配列を含み、野生型C2c1タンパク質(例えば、野生型AaC2c1、AkC2c1、AmC2c1、BhC2c1、BsC2c1、Bs3C2c1、DiC2c1、LsC2c1、SbC2c1、TcC2c1タンパク質)のゲノム編集および/またはターゲティング活性を有する。例えば、C2c1タンパク質のバリアントは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10個のアミノ酸残基が、それぞれ野生型C2c1タンパク質(例えば、野生型AaC2c1、AkC2c1、AmC2c1、BhC2c1、BsC2c1、Bs3C2c1、DiC2c1、LsC2c1、SbC2c1、TcC2c1タンパク質)に対して置換、欠失または付加されたアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、アミノ酸置換は、保存的置換である。
【0022】
「ポリペプチド」、「ペプチド」、および「タンパク質」は、アミノ酸残基のポリマーを指すように本発明では互換的に使用される。この用語は、天然に存在するアミノ酸ポリマーに加えて、1個以上のアミノ酸残基が、対応する天然に存在するアミノ酸の人工化学アナログであるアミノ酸ポリマーに適用される。用語「ポリペプチド」、「ペプチド」、「アミノ酸配列」および「タンパク質」はまた、限定されるものではないが、グリコシル化、脂質ライゲーション、硫酸化、グルタミン酸残基のγカルボキシル化、およびADPリボシル化などの改変形態を含んでもよい。
【0023】
配列「同一性」は、当業界で認識された意味を有し、2つの核酸またはポリペプチド分子または領域の間の配列同一性のパーセンテージを、開示された技術を使用して算出することができる。配列同一性を、ポリヌクレオチドもしくはポリペプチドの全長に沿って、または分子の領域に沿って測定することができる(例えば、Computational Molecular Biology, Lesk, A.M.(編)、Oxford University Press, New York, 1988; Biocomputing: Informatics and Genome Projects, Smith, D.W., ed., Academic Press, New York, 1993; Computer Analysis of Sequence Data, Part I, Griffin, A.M.、およびGriffin, H.G.(編)、 Humana Press, New Jersey, 1994; Sequence Analysis in Molecular Biology, von Heinje, G., Academic Press, 1987;ならびにSequence Analysis Primer, Gribskov, M. and Devereux, J.(編)、M Stockton Press, New York, 1991を参照されたい)。2つのポリヌクレオチドまたはポリペプチド間の同一性を測定するための多くの方法が存在するが、用語「同一性」は、当業者には周知である(Carrillo, H. & Lipman, D., SIAM J Applied Math 48: 1073 (1988))。
【0024】
ペプチドまたはタンパク質内の好適な保存的アミノ酸置換は、当業者には公知であり、一般的には、得られる分子の生物活性を変化させることなく実行することができる。一般に、当業者は、ポリペプチドの非必須領域内の単一のアミノ酸置換が、生物活性を実質的に変化させないことを認識する(例えば、Watson et al., Molecular Biology of the Gene、第4版、1987, The Benjamin/Cummings Pub. co., p.224を参照されたい)。
【0025】
いくつかの実施形態では、C2c1タンパク質のバリアントは、ヌクレアーゼデッドC2c1タンパク質(dC2c1)を包含する。ヌクレアーゼデッドC2c1タンパク質とは、RNA媒介性DNA結合活性を保持するが、DNA切断活性を有しないC2c1タンパク質を指す。いくつかの実施形態では、ヌクレアーゼデッドC2c1タンパク質は、二本鎖標的DNAの一方の鎖のみを切断するC2c1ニッカーゼを包含する。
【0026】
いくつかの実施形態では、C2c1タンパク質のバリアントは、dC2c1とデアミナーゼとの融合タンパク質である。例えば、融合タンパク質内のdC2c1およびデアミナーゼを、ペプチドリンカーなどのリンカーによって連結することができる。
【0027】
本明細書で使用される場合、「デアミナーゼ」とは、脱アミノ化反応を触媒する酵素を指す。本発明のいくつかの実施形態では、デアミナーゼは、基質として一本鎖DNAを受け入れることができ、シチジンまたはデオキシシチジンの、それぞれ、ウラシルまたはデオキシウラシルへの脱アミノ化を触媒することができるシトシンデアミナーゼを指す。本発明のいくつかの実施形態では、デアミナーゼは、基質として一本鎖DNAを受け入れることができ、アデノシンまたはデオキシアデノシン(A)をイノシン(I)に触媒することができるアデニンデアミナーゼを指す。CからTへの変換またはAからGへの変換などの、標的DNA配列における塩基編集を、C2c1バリアントと、デアミナーゼとの融合タンパク質を使用することによって達成することができる。
【0028】
本発明のいくつかの実施形態では、本発明のC2c1タンパク質またはそのバリアントは、核局在化配列(NLS)をさらに含む。一般に、C2c1タンパク質またはそのバリアント内の1つ以上のNLSは、植物細胞の核内のC2c1タンパク質またはそのバリアントが、塩基編集機能の量の蓄積を達成するのを誘導するのに十分な強度のものであるべきである。一般に、核局在化活性の強度は、C2c1タンパク質またはそのバリアント内のNLSの、数、位置、使用される1つ以上の特異的NLS、またはこれらの因子の組合せによって決定される。
【0029】
本発明のいくつかの実施形態では、本発明のC2c1タンパク質またはそのバリアントのNLSは、N末端および/またはC末端に位置してもよい。いくつかの実施形態では、C2c1のタンパク質またはそのバリアントは、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10個以上のNLSを含む。いくつかの実施形態では、C2c1タンパク質またはそのバリアントは、N末端に、またはその近くに、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10個以上のNLSを含む。いくつかの実施形態では、C2c1タンパク質またはそのバリアントは、C末端に、またはその近くに、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10個以上のNLSを含む。いくつかの実施形態では、C2c1タンパク質またはそのバリアントは、N末端の1つ以上のNLSおよびC末端の1つ以上のNLSなどの、これらの組合せを含む。1つより多いNLSが存在する場合、それぞれを、他のNLSとは無関係となるように選択することができる。本発明のいくつかの好ましい実施形態では、C2c1タンパク質またはそのバリアントは、2つのNLSを含み、例えば、2つのNLSは、それぞれ、N末端およびC末端に位置する。
【0030】
一般に、NLSは、タンパク質の表面上に露出した正に荷電したリシンまたはアルギニンの1つ以上の短い配列からなるが、他の型のNLSも公知である。NLSの非限定例としては、KKRKV、PKKKRKV、またはSGGSPKKKRKVが挙げられる。
【0031】
さらに、編集しようとするDNAの位置に応じて、本発明のC2c1タンパク質またはそのバリアントはまた、細胞質局在化配列、葉緑体局在化配列、ミトコンドリア局在化配列などの他の局在化配列を含んでもよい。
【0032】
本発明のいくつかの実施形態では、標的配列は、18~35ヌクレオチド、好ましくは、20ヌクレオチドの長さである。本発明のいくつかの実施形態では、標的配列の5'末端フランキングは、5'TTTN-3'、5'ATTN-3'、5'GTTN-3'、5'CTTN-3'、5'TTC-3'、5'TTG-3'、5'TTA-3'、5'TTT-3'、5'TAN-3'、5'TGN-3'、5'TCN-3'および5'ATC-3'(式中、NはA、G、CおよびTから選択される)から選択されるプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列である。
【0033】
本発明では、改変される標的配列は、ゲノム内の任意の位置に、例えば、タンパク質コード遺伝子などの機能的遺伝子内に位置してもよく、または例えば、プロモーター領域もしくはエンハンサー領域などの遺伝子発現調節領域内に位置してもよく、それによって、遺伝子機能の改変または遺伝子発現の改変を達成することができる。ゲノムの標的配列内の置換、欠失および/または付加を、T7EI、PCR/REまたは配列決定法によって検出することができる。
【0034】
「ガイドRNA」および「gRNA」は、本明細書では互換的に使用することができ、典型的には、互いに部分的に相補的であり、複合体を形成するcrRNAおよびtracrRNA分子から構成され、crRNAは、標的配列の相補体とハイブリダイズするために標的配列と十分に同一であり、CRISPR複合体(C2c1+crRNA+tracrRNA)に、標的配列に特異的に結合するように指向する配列を含む。しかしながら、crRNAとtracrRNAとの両方の特徴を含有する単一ガイドRNA(sgRNA)を設計し、使用することができる。
【0035】
本発明のいくつかの実施形態では、ガイドRNAは、sgRNAである。いくつかの特定の実施形態では、sgRNAは、
(式中、Nxは、X個の連続するヌクレオチドからなるヌクレオチド配列(スペーサー配列)を表し、Nは、A、G、CおよびTから独立に選択され;Xは、18≦X≦35の整数、好ましくは、X=20である)からなる群から選択されるヌクレオチド配列によってコードされる。いくつかの実施形態では、配列Nx(スペーサー配列)は、標的配列の相補体に特異的にハイブリダイズすることができる。sgRNA内のNx以外の配列は、sgRNAの足場配列である。いくつかの実施形態では、sgRNAは、配列番号31~38のいずれか1つのヌクレオチド配列によってコードされる足場配列を含む。
【0036】
本発明者らは驚くべきことに、異なるC2c1システム内のC2c1タンパク質およびガイドRNAは互換的に使用することができ、それによって、ユニバーサルガイドRNAの人工的設計を可能にすることを見出した。
【0037】
かくして、いくつかの実施形態では、本発明は、
(式中、Nxは、X個の連続するヌクレオチドからなるヌクレオチド配列(スペーサー配列)を表し、Nは、A、G、CおよびTから独立に選択され;Xは、18≦X≦35の整数、好ましくは、X=20である)をコードするヌクレオチド配列から選択される人工sgRNAを提供する。いくつかの実施形態では、配列Nx(スペーサー配列)は、標的配列の相補体に特異的にハイブリダイズすることができる。sgRNA内のNx以外の配列は、sgRNAの足場配列である。
【0038】
いくつかの実施形態では、人工sgRNAは、配列番号39~75のいずれか1つのヌクレオチド配列によってコードされる足場配列を含む。
【0039】
いくつかの実施形態では、本発明のゲノム編集システム内のガイドRNAは、本発明の人工sgRNAである。
【0040】
標的細胞内での効率的な発現を達成するために、本発明のいくつかの実施形態では、C2c1タンパク質またはそのバリアントをコードするヌクレオチド配列は、ゲノム編集される細胞が由来する生物についてコドン最適化されている。
【0041】
コドン最適化は、宿主細胞の遺伝子内でより頻繁に、または最も頻繁に使用されるコドンによる天然配列の少なくとも1個のコドン(例えば、約1、2、3、4、5、10、15、20、25、50個以上のコドン)の置き換えを指し、目的の宿主細胞内での発現を増強するために天然アミノ酸配列を維持しながら核酸配列を改変することを指す。異なる種は、特定のアミノ酸のある特定のコドンに対する特異的な選択性を示す。コドン選択性(生物間のコドン使用の差異)は、メッセンジャーRNA(mRNA)の翻訳の効率と関連することが多く、翻訳されるコドンの性質および特異的転移RNA(tRNA)分子の利用可能性に依存すると考えられる。細胞内の選択されるtRNAの利点は一般に、ペプチド合成のための最も頻繁に使用されるコドンを反映する。したがって、コドン最適化に基づいて所与の生物内で発現される最良の遺伝子となるように、遺伝子をカスタマイズすることができる。コドン使用表は、例えば、www.kazusa.orjp/codon/で使用可能なコドン使用データベース内で容易に取得でき、これらの表を異なる方法で調整することができる。Nakamura Y.ら、Codon usage tabulated from the international DNA sequence databases: status for the year 2000 Nucl.Acids Res, 28: 292 (2000)を参照されたい。
【0042】
細胞を本発明のシステムによってゲノム編集することができる生物は、好ましくは、限定されるものではないが、ヒト、マウス、ラット、サル、イヌ、ブタ、ヒツジ、ウシ、ネコなどの哺乳動物;ニワトリ、アヒル、ガチョウなどの家禽;イネ、トウモロコシ、コムギ、ソルガム、オオムギ、ダイズ、ピーナッツおよびシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)などの単子葉植物および双子葉植物などの植物を含む、真核生物である。
【0043】
本発明のいくつかの実施形態では、C2c1タンパク質またはそのバリアントをコードするヌクレオチド配列は、ヒトのためにコドン最適化される。いくつかの実施形態では、 AaC2c1、AkC2c1、AmC2c1、BhC2c1、BsC2c1、Bs3C2c1、DiC2c1、LsC2c1、SbC2c1、TcC2c1タンパク質をコードするコドン最適化されたヌクレオチド配列は、それぞれ、配列番号11~20から選択される。
【0044】
本発明のいくつかの実施形態では、C2c1タンパク質もしくはそのバリアントをコードするヌクレオチド配列および/またはガイドRNAをコードするヌクレオチド配列は、プロモーターなどの発現調節エレメントに機能し得る形で連結される。
【0045】
本発明で使用される場合、「発現構築物」とは、生物内での目的のヌクレオチド配列の発現にとって適切な組換えベクターなどのベクターを指す。「発現」とは、機能的生成物の産生を指す。例えば、ヌクレオチド配列の発現は、ヌクレオチド配列の転写(例えば、mRNAもしくは機能的RNAを産生するための転写)および/またはRNAの前駆体もしくは成熟タンパク質への翻訳を指してもよい。本発明の「発現構築物」は、線状核酸断片、環状プラスミド、ウイルスベクターまたはいくつかの実施形態では、翻訳することができるRNA(mRNAなど)であってもよい。
【0046】
本発明の「発現構築物」は、調節配列および異なる起源に由来する目的のヌクレオチド配列、または調節配列および同じ供給源に由来するが、通常、天然に存在するものとは異なる様式で配置される目的のヌクレオチド配列を含んでもよい。
【0047】
「調節配列」および「調節エレメント」は、コード配列の上流(5'非コード配列)、中央または下流(3'非コード配列)に位置するヌクレオチド配列を指すように互換的に使用され、関連するコード配列の転写、RNAプロセッシングまたは安定性または翻訳に影響する。調節配列は、限定されるものではないが、プロモーター、翻訳リーダー、イントロンおよびポリアデニル化認識配列を含んでもよい。
【0048】
「プロモーター」は、別の核酸断片の転写を制御することができる核酸断片を指す。本発明のいくつかの実施形態では、プロモーターは、それが細胞に由来するにしろ、そうでないにしろ、細胞内の遺伝子の転写を制御することができるプロモーターである。プロモーターは、構成的プロモーターまたは組織特異的プロモーターまたは発生調節性プロモーターまたは誘導性プロモーターであってもよい。
【0049】
「構成的プロモーター」とは、一般に、大抵の場合、多くの細胞型において遺伝子の発現を引き起こすことができるプロモーターを指す。「組織特異的プロモーター」および「組織選択的プロモーター」は互換的に使用され、それらが1つの組織または臓器において主として発現されるが、必ずしもそれだけではなく、特定の細胞または細胞型においても発現されることを意味する。「発生調節性プロモーター」とは、その活性が発生事象によって決定されるプロモーターを指す。「誘導性プロモーター」は、内因性または外因性の刺激(環境、ホルモン、化学シグナルなど)に応答して機能し得る形で連結されたDNA配列を選択的に発現する。
【0050】
本明細書で使用される場合、用語「機能し得る形で連結される」とは、ヌクレオチド配列の転写が、転写調節エレメントによって制御および調節されるような、調節エレメント(例えば、限定されるものではないが、プロモーター配列、転写終結配列など)の、核酸配列(例えば、コード配列またはオープンリーディングフレーム)への連結を指す。調節エレメント領域を核酸分子に機能し得る形で連結するための技術は、当業界で公知である。
【0051】
本発明において使用することができるプロモーターの例としては、限定されるものではないが、ポリメラーゼ(pol)I、pol IIまたはpol IIIプロモーターが挙げられる。pol Iプロモーターの例は、野鶏属RNA pol Iプロモーターを含む。pol IIプロモーターの例としては、限定されるものではないが、極初期サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、ラウス肉腫ウイルスの長い末端反復(RSV-LTR)プロモーター、および極初期サルウイルス40(SV40)プロモーターが挙げられる。pol IIIプロモーターの例としては、U6およびH1プロモーターが挙げられる。メタロチオネインプロモーターなどの誘導性プロモーターを使用することができる。プロモーターの他の例としては、T7ファージプロモーター、T3ファージプロモーター、βガラクトシダーゼプロモーター、Sp6ファージプロモーターなどが挙げられる。植物において使用することができるプロモーターとしては、限定されるものではないが、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター、トウモロコシUbi-1プロモーター、コムギU6プロモーター、イネU3プロモーター、トウモロコシU3プロモーター、イネアクチンプロモーターが挙げられる。
【0052】
本発明の方法によって編集することができる細胞は、好ましくは、限定されるものではないが、ヒト、マウス、ラット、サル、イヌ、ブタ、ヒツジ、ウシ、ネコの細胞などの哺乳動物細胞;ニワトリ、アヒル、ガチョウなどの家禽の細胞;イネ、トウモロコシ、コムギ、ソルガム、オオムギ、ダイズ、ピーナッツおよびシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)などの単子葉植物および双子葉植物などの植物の細胞を含む、真核細胞である。本発明のいくつかの実施形態では、細胞は、真核細胞、好ましくは、哺乳動物細胞、より好ましくは、ヒト細胞である。
【0053】
別の態様では、本発明は、細胞ゲノム内の標的配列を改変する方法であって、本発明のゲノム編集システムを細胞内に導入することを含み、それによって、ガイドRNAが、C2c1タンパク質またはそのバリアントを、細胞のゲノム内の標的配列にターゲティングする、方法を提供する。いくつかの実施形態では、ターゲティングにより、1個以上のヌクレオチドが標的配列内で置換、欠失および/または付加される。
【0054】
本発明の核酸分子(例えば、プラスミド、線状核酸断片、RNAなど)またはタンパク質の細胞への「導入」は、核酸またはタンパク質が細胞内で機能することができるように、核酸またはタンパク質を使用して細胞を形質転換することを意味する。本発明で使用される場合、「形質転換」は、安定的な形質転換と、一過的な形質転換との両方を含む。「安定的な形質転換」とは、外来配列の安定的な遺伝をもたらす、外因性ヌクレオチド配列のゲノム内への導入を指す。一度安定的に形質転換されると、外因性核酸配列は、生物および任意のその後の世代のゲノム内に安定的に組み込まれる。「一過的形質転換」とは、外因性配列の安定的な遺伝なしにその機能を実行する、核酸分子またはタンパク質の細胞内への導入を指す。一過的形質転換では、外因性核酸配列は、ゲノム内に組み込まれない。
【0055】
本発明のゲノム編集システムを細胞内に導入するために使用することができる方法としては、限定されるものではないが、リン酸カルシウムトランスフェクション、プロトプラスト融合、エレクトロポレーション、リポフェクション、マイクロインジェクション、ウイルス感染(例えば、バキュロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルスおよび他のウイルス)、遺伝子銃法、PEG媒介性プロトプラスト形質転換、アグロバクテリウム媒介性形質転換が挙げられる。
【0056】
いくつかの実施形態では、本発明の方法は、in vitroで実施される。例えば、細胞は、単離された細胞である。いくつかの実施形態では、細胞は、CAR-T細胞である。いくつかの実施形態では、細胞は、誘導胚性幹細胞である。
【0057】
他の実施形態では、本発明の方法を、in vivoで実施することもできる。例えば、細胞は、生物内の細胞であり、本発明のシステムを、例えば、ウイルス媒介性方法によってin vivoで細胞内に導入することができる。例えば、細胞は、患者内の腫瘍細胞であってもよい。
【0058】
別の態様では、本発明は、遺伝子改変された細胞を生産する方法であって、本発明のゲノム編集システムを細胞内に導入することを含み、それによって、ガイドRNAが、C2c1タンパク質またはそのバリアントを、細胞のゲノム内の標的配列にターゲティングする、方法を提供する。いくつかの実施形態では、ターゲティングにより、1個以上のヌクレオチドが標的配列内で置換、欠失および/または付加される。
【0059】
別の態様では、本発明はまた、本発明の方法によって生産された遺伝子改変された細胞またはその子孫細胞を含む、遺伝子改変された生物も提供する。
【0060】
本明細書で使用される場合、「生物」は、ゲノム編集にとって好適である任意の生物を含み、真核生物が好ましい。生物の例としては、限定されるものではないが、ヒト、マウス、ラット、サル、イヌ、ブタ、ヒツジ、ウシ、ネコなどの哺乳動物;ニワトリ、アヒル、ガチョウなどの家禽;イネ、トウモロコシ、コムギ、ソルガム、オオムギ、ダイズ、ピーナッツ、シロイヌナズナなどの単子葉植物および双子葉植物を含む植物が挙げられる。本発明のいくつかの実施形態では、生物は、真核生物、好ましくは、哺乳動物、より好ましくは、ヒトである。
【0061】
「遺伝子改変された生物」または「遺伝子改変された細胞」は、そのゲノム内に、外因性ポリヌクレオチドまたは改変された遺伝子または改変された発現調節配列を含む生物または細胞を含む。例えば、外因性ポリヌクレオチドは、該ポリヌクレオチドがその後の世代に伝えられるように、生物または細胞のゲノム内に安定に組み込まれる。外因性ポリヌクレオチドを、ゲノム内に単独で、または組換えDNA構築物の一部として組み込むことができる。改変された遺伝子または改変された発現調節配列は、生物または細胞のゲノム内で、前記配列が1つ以上のヌクレオチド置換、欠失、または付加を含むことを意味する。配列を参照する「外因性」は、外来種に由来する配列を意味するか、または同じ種に由来する場合、意図的なヒトの介入によって、組成および/または遺伝子座の有意な変化がその天然の形態から生じる配列を指す。
【0062】
別の態様では、本発明は、本発明のヌクレアーゼデッドC2c1タンパク質に基づく遺伝子発現調節システムを提供する。このシステムは、標的遺伝子の配列を変化させないが、本明細書の範囲内のゲノム編集システムとしても定義される。
【0063】
いくつかの実施形態では、遺伝子発現調節システムは、以下:
i)ヌクレアーゼデッドC2c1タンパク質またはヌクレアーゼデッドC2c1タンパク質と転写リプレッサータンパク質との融合タンパク質、およびガイドRNA;
ii)ヌクレアーゼデッドC2c1タンパク質またはヌクレアーゼデッドC2c1タンパク質と転写リプレッサータンパク質との融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む発現構築物、およびガイドRNA;
iii)ヌクレアーゼデッドC2c1タンパク質またはヌクレアーゼデッドC2c1タンパク質と転写リプレッサータンパク質との融合タンパク質、およびガイドRNAをコードするヌクレオチド配列を含む発現構築物;
iv)ヌクレアーゼデッドC2c1タンパク質またはヌクレアーゼデッドC2c1タンパク質と転写リプレッサータンパク質との融合タンパク質を含む発現構築物、およびガイドRNAをコードするヌクレオチド配列を含む発現構築物;または
v)ヌクレアーゼデッドC2c1タンパク質またはヌクレアーゼデッドC2c1タンパク質と転写リプレッサータンパク質との融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列およびガイドRNAをコードするヌクレオチド配列を含む発現構築物
のうちの1つを含む、遺伝子抑制またはサイレンシングシステムである。
【0064】
ヌクレアーゼデッドC2c1タンパク質またはガイドRNAの定義は、上記の通りである。転写リプレッサータンパク質の選択は、当業者の技術の範囲内にある。
【0065】
本明細書で使用される場合、遺伝子抑制またはサイレンシングとは、好ましくは、転写レベルでの、遺伝子発現の下方調節または除去を指す。
【0066】
しかしながら、本発明の遺伝子発現調節システムはまた、ヌクレアーゼデッドC2c1タンパク質と、転写活性化因子タンパク質との融合タンパク質を使用することができる。この場合、遺伝子発現調節システムは、遺伝子発現活性化システムである。例えば、本発明の遺伝子発現活性化システムは、下記:
i)ヌクレアーゼデッドC2c1タンパク質と転写活性化因子タンパク質との融合タンパク質、およびガイドRNA;
ii)ヌクレアーゼデッドC2c1タンパク質と転写活性化因子タンパク質との融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む発現構築物、およびガイドRNA;
iii)ヌクレアーゼデッドC2c1タンパク質と転写活性化因子タンパク質との融合タンパク質、およびガイドRNAをコードするヌクレオチド配列を含む発現構築物;
iv)ヌクレアーゼデッドC2c1タンパク質と転写活性化因子タンパク質との融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列含む発現構築物、およびガイドRNAをコードするヌクレオチド配列を含む発現構築物;または
v)ヌクレアーゼデッドC2c1タンパク質と転写活性化因子タンパク質との融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列、およびガイドRNAをコードするヌクレオチド配列を含む発現構築物
のうちの1つを含んでもよい。
【0067】
ヌクレアーゼデッドC2c1タンパク質またはガイドRNAの定義は、上記の通りである。転写活性化因子タンパク質の選択は、当業者の技術の範囲内にある。
【0068】
本明細書で使用される場合、遺伝子活性化とは、好ましくは、転写レベルでの、遺伝子発現レベルの上方調節を指す。
【0069】
別の態様では、本発明はまた、疾患の治療における本発明のゲノム編集システムの使用も包含する。
【0070】
本発明のゲノム編集システムによって疾患関連遺伝子を改変することによって、疾患関連遺伝子の上方調節、下方調節、不活化、活性化、または突然変異の修正を達成することによって、疾患の防止および/または治療を達成することができる。例えば、本発明では、標的配列は、疾患関連遺伝子のタンパク質コード領域内に位置するか、または例えば、プロモーター領域もしくはエンハンサー領域などの遺伝子発現調節領域内に位置してもよく、それによって、疾患関連遺伝子の機能的改変または疾患関連遺伝子の発現の改変を可能にする。
【0071】
「疾患関連」遺伝子とは、非疾患対照の組織または細胞と比較して、疾患に罹患した組織に由来する細胞内で異常なレベルで、または異常な形態で転写または翻訳産物を産生する任意の遺伝子を指す。発現の変化が疾患の出現および/または進行と関連する場合、それは異常に高いレベルで発現される遺伝子であってもよく、またはそれは異常に低レベルで発現される遺伝子であってもよい。疾患関連遺伝子はまた、疾患の病因の直接の原因となるか、または疾患の病因の原因となる1つ以上の遺伝子との遺伝子連鎖を有する、1つ以上の突然変異または遺伝子変化を有する遺伝子も指す。転写または翻訳された産物は、公知または未知のものであってよく、正常または異常レベルにあってもよい。
【0072】
したがって、別の態様では、本発明はまた、対象に、有効量の本発明のゲノム編集システムを送達して、疾患と関連する遺伝子を改変することを含む、疾患の治療を必要とする対象における疾患を治療する方法も提供する。
【0073】
別の態様では、本発明はまた、ゲノム編集システムが疾患と関連する遺伝子を改変するためのものである、疾患の治療を必要とする対象における疾患を治療するための医薬組成物の調製のための本発明のゲノム編集システムの使用も提供する。
【0074】
別の態様では、本発明はまた、本発明のゲノム編集システムと、製薬上許容し得る担体とを含み、ゲノム編集システムが疾患と関連する遺伝子を改変するためのものである、疾患の治療を必要とする対象における疾患を治療するための医薬組成物を提供する。
【0075】
いくつかの実施形態では、対象は、ヒトなどの哺乳動物である。
【0076】
そのような疾患の例としては、限定されるものではないが、腫瘍、炎症、パーキンソン病、心血管疾患、アルツハイマー病、自閉症、薬物中毒、加齢黄斑変性、統合失調症、遺伝性疾患などが挙げられる。
【0077】
別の態様では、本発明はまた、本発明の方法における使用のためのキット、本発明のゲノム編集システムを含むキット、および指示書も含む。キットは一般に、キットの内容物の意図される使用および/または使用方法を示すラベルを含む。ラベルという用語は、キット上にもしくはキットと共に、又はキットと共に提供される、任意の記載物または記録物を包含する。
【実施例
【0078】
本発明の理解を容易にするために、本発明を、特定の実施例および添付の図面を参照して、本明細書の以後、より完全に説明する。本発明の好ましい実施形態は、図面中に示される。しかしながら、本発明は、多くの異なる形態で具体化することができ、本明細書に記載の実施形態に限定されない。むしろ、これらの実施形態は、本開示がより完全に理解されるように提供される。
【0079】
材料および方法
1.DNA操作
DNAの調製、消化、ライゲーション、増幅、合成、精製、アガロースゲル電気泳動などを含むDNA操作を、いくつかの改変を加えながら、Molecular Cloning: A Laboratory Manualに従って行った。簡単に述べると、細胞トランスフェクションアッセイのためのキメラ単一ガイドRNA(sgRNA)足場のターゲティングを、BsaIで消化されたpUC19-U6-sgRNA(配列番号23~30)ベクター内へのアニーリングしたオリゴヌクレオチド(オリゴ)(表1)のライゲーションによって構築した。
【0080】
【表1】
【0081】
2.de novo遺伝子合成およびプラスミド構築
PSI-BLASTプログラム(Altschul, S.F. et al. Nucleic Acids Res 25, 3389-3402 (1997))を採用して、新しいCRISPR-C2c1オルソログを同定した。それらのコード配列をヒト化し(Grote, A. et al., Nucleic Acids Res 33, W526-531 (2005))、C2c1遺伝子およびsgRNA合成のためのオリゴを、GeneDesignプログラム(Richardson, S.M. et al., Genome Res 16, 550-556 (2006))を使用して設計した。それぞれのC2c1遺伝子を、論文(Li, G. et al., Methods Mol Biol 1073, 9-17 (2013))に従って合成した。精製された生成物を、NEBuilder(登録商標)HiFi DNA Assembly Master Mix (NFB)を使用して、in vitroでの相同組換えによって発現ベクター内に集結させた。pCAG-2AeGFP (配列番号21)およびpUC19-U6ベクター(配列番号22)を、それぞれ、C2c1タンパク質およびsgRNAの哺乳動物発現のために適用した。
【0082】
3.細胞培養およびトランスフェクション
ヒト胚性腎臓293T細胞を、10%ウシ胎仔血清(FBS、Gibco)および1%抗生物質-抗真菌剤(Gibco)を添加したDulbeccoの改変イーグル培地(DMEM、Gibco)中、37℃で5%CO2インキュベーションを用いて培養した。293T細胞を、製造業者の推奨プロトコールに従ってLipofectamine LTX(Invitrogen)を使用してトランスフェクトした。48ウェルプレートのそれぞれのウェルについて、合計400ngのプラスミド(C2c1: sgRNA=2:1)を使用した。次いで、トランスフェクションの48時間後、ゲノムDNA抽出のために細胞を直接収獲した。
【0083】
4.T7エンドヌクレアーゼI(T7EI)アッセイおよびSanger配列決定
収獲された細胞を、プロテアーゼKを添加したバッファーL(Bimake)で直接溶解し、55℃で3時間インキュベートし、95℃で10分間不活化した。それぞれの遺伝子についてC2c1標的部位を取り囲むゲノム領域を、PCR増幅した(補表5)。200~400ngのPCR産物を、ddH2Oと混合して10μLの最終容量にし、以前の方法に従って再アニーリングプロセスにかけて、ヘテロ二本鎖形成を可能にした。再アニーリング後、生成物を、37℃で30分間、1/10容量のNEBufferTM 2.1および0.2μLのT7EI(NEB)で処理し、3%アガロースゲル上で分析した。相対バンド強度に基づいてインデルを定量した(Cong, L. et al., Science 339, 819-823 (2013))。T7EIアッセイにより同定された突然変異した生成物を、TAクローニングベクター内にクローニングし、コンピテント大腸菌(E.coli)株(Transgen Biotech)内に形質転換した。一晩培養した後、コロニーを無作為に拾い、配列決定した。
【0084】
実施例1
新しいC2c1タンパク質の同定
多様な細菌に由来する6種の代表的なC2c1ファミリータンパク質ならびに4種の以前に報告されたC2c1オルソログを選択し、de novoで合成して、ヒト胚性腎臓293T細胞内でのゲノム編集を行った(図1、2および配列番号1~10)。これらのうち、10種のC2c1オルソログ、D.inopinatus(DiC2c1)およびT.calidus(TcC2c1)に由来するC2c1は、予測された前駆体CRISPR RNA(プレ-crRNA)も、逆方向反復トランス活性化crRNA(tracrRNA)も有しなかったが(図1b)。これは、これらの2種のC2c1タンパク質がゲノム編集用途に適していない可能性があることを示唆している。
【0085】
哺乳動物ゲノム編集を行うために、本発明者らは、293T細胞に、個々のC2c1酵素および適切なPAMを含有するヒト内因性遺伝子座を標的とするその同族キメラ単一ガイドRNA(sgRNA)をコトランスフェクトした(図1)。T7エンドヌクレアーゼ(T7EI)アッセイの結果、以前に報告されたAaC2c1およびAkC2c1とは別に、4種の新規C2c1オルソログ(AmC2c1、BhC2c1、Bs3C2c1およびLsC2c1)が、ヒトゲノムを強固に編集することができるが、そのターゲティング効率が異なるオルトログ間で、および異なるターゲティング部位で変化することが示された(図1bおよび図3a)。本発明者らはまた、単に複数のsgRNAを使用することによって、ヒトゲノム内の4つの部位を同時に編集するようにBs3C2c1をプログラムすることによって複数のゲノム操作を達成した(図3b、c)。これらの新しく同定されたC2c1オルソログは、C2c1に基づくゲノム操作のための本発明者らの選択肢を広げる。
【0086】
実施例2
異なるC2c1とデュアルRNAとの交換可能性
C2c1システム内のデュアルRNA(crRNAとtracrRNA)とタンパク質成分との互換性を精査するために、本発明者らは最初に、C2c1タンパク質とデュアルRNAとの両方の保存を分析する。C2c1オルソログの保存されたアミノ酸配列に加えて(図4aおよび図2)、プレ-crRNA:tracrRNA二本鎖のDNA配列およびその二次構造も高い保存を示した(図1bおよび図5)。次に、本発明者らは、8種のC2c1システムに由来するそれぞれのsgRNAと複合体化した8種のC2c1オルソログを用いて別々に293T細胞内でゲノム編集を行った。示されたT7EIアッセイの結果として、AaC2c1、AkC2c1、AmC2c1、Bs3C2c1およびLsC2c1遺伝子座に由来するsgRNAは、元のsgRNAを、哺乳動物ゲノム編集のために置換することができるが、それらの活性は、異なるC2c1オルソログとsgRNAとの間で異なっていた(図4c、dおよび図6)。これらの結果は、異なるC2c1遺伝子座に由来するデュアルRNA及びC2c1の交換可能性を示していた。
【0087】
実施例3
ゲノム編集のための天然の遺伝子座にCRISPRアレイを有しないC2c1オルソログの使用
本発明者らの仮説をさらに証明するために、本発明者らは、crRNA:tracrRNA二本鎖の配列を予測不可能なものにする、遺伝子座がCRISPRアレイを担持しない2つのC2c1オルソログ(DiC2c1およびTcC2c1)を選択して(図7a)、その後の実験を行う。本発明者らは、293T細胞内で異なるゲノム部位をターゲティングする他の8種のC2c1オルソログの遺伝子座に由来するsgRNAと組み合わせて、DiC2c1およびTcC2c1ならびにAaC2c1をコトランスフェクトした。T7EIアッセイの結果、AaC2c1、AkC2c1、AmC2c1、Bs3C2c1およびLsC2c1に由来するsgRNAが、TcC2c1にヒトゲノムを強固に編集させることができることが示された(図7b、cおよび図8)。さらに、TcC2c1は、AasgRNAまたはAksgRNAのいずれかによって同時に指向される多重ゲノム編集を容易にすることができた(図7dおよび図9)。これらの上記の結果は、異なるシステムに由来するC2c1及びデュアルRNAの互換性が、天然の遺伝子座内にCRISPRアレイを有しないC2c1オルソログに、哺乳動物ゲノムを操作する力を与えることができることを示していた。
【0088】
実施例4
C2c1媒介性ゲノム編集のための人工sgRNAの設計
異なるC2c1システム内のC2c1とデュアルRNAとの交換可能性は、C2c1媒介性ゲノム編集を容易にするための新規人工sgRNA(artsgRNA)足場を設計するように本発明者らを促した。C2c1オルソログ間でのDNA配列および二次構造の保存を考慮して(図1bおよび図3)、本発明者らは、ヒトCCR5遺伝子座をターゲティングする37種のsgRNA足場を設計し、de novoで合成した(図7eおよび図10a)。T7EIアッセイの結果、22種のartsgRNA足場が効率的に働くことができることが示唆された(図10b)。本発明者らのartsgRNAの一般化を検証するために、本発明者らは、artsgRNA13によって指向されるTcC2c1またはAaC2c1を使用する多重ゲノム編集を利用した(図10a)。T7EIアッセイの結果、artsgRNA13が、TcC2c1とAaC2c1との両方を用いた多重ゲノム操作を同時に容易にすることができることが示された(図7fおよび図10c)。本発明者らの結果は、本発明者らが、C2c1媒介性多重ゲノム編集を容易にするためにartsgRNAを設計および合成することができることを示唆していた。
【0089】
【表2】
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10A
図10B
【国際調査報告】