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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-07
(54)【発明の名称】酵素核酸分子
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/113 20100101AFI20220131BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220131BHJP
   C12N 15/85 20060101ALI20220131BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220131BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220131BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20220131BHJP
   A61P 13/08 20060101ALI20220131BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20220131BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20220131BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20220131BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20220131BHJP
   A61K 9/127 20060101ALI20220131BHJP
   C12N 15/34 20060101ALN20220131BHJP
【FI】
C12N15/113 140Z
C12N5/10
C12N15/85 Z
A61P35/00
A61K48/00
A61P15/00
A61P13/08
A61K31/7088
A61K47/02
A61K47/24
A61K35/76
A61K9/127
C12N15/34 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021524200
(86)(22)【出願日】2019-10-31
(85)【翻訳文提出日】2021-07-05
(86)【国際出願番号】 GB2019053103
(87)【国際公開番号】W WO2020089646
(87)【国際公開日】2020-05-07
(31)【優先権主張番号】1817990.3
(32)【優先日】2018-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520364037
【氏名又は名称】ユニヴァーシティ・オブ・エセックス・エンタープライジズ・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】グレッグ・ブルック
(72)【発明者】
【氏名】アントニオ・マルコ
(72)【発明者】
【氏名】アンジェラ・パイン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C084
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA23
4B065CA27
4B065CA44
4C076AA19
4C076CC17
4C076CC27
4C076DD23
4C076DD63
4C084AA13
4C084MA24
4C084NA14
4C084ZA811
4C084ZA812
4C084ZB261
4C084ZB262
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA24
4C086NA14
4C086ZA81
4C086ZB26
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA12
4C087MA24
(57)【要約】
本発明の特定の態様は、前立腺がんの治療のための方法及び試薬に関する。また、触媒コア、及びアンドロゲン受容体mRNA分子に含まれる核酸配列に相補的な2つの特異的結合アームを含む、酵素核酸分子(「DNAザイム」)を本発明に含む。また、酵素核酸分子を含む組成物、及びこのような核酸分子の使用を含む、障害、例えば、前立腺がんを治療する方法を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトアンドロゲン受容体遺伝子の発現を制御する酵素核酸分子。
【請求項2】
mRNA分子を切断可能な、約15核酸残基を含む触媒領域を含む、請求項1に記載の酵素核酸分子。
【請求項3】
アンドロゲン受容体mRNA分子に含まれる核酸配列に相補的な配列を含む少なくとも1つの領域を含む、請求項1又は2に記載の酵素核酸分子。
【請求項4】
アンドロゲン受容体mRNA分子に含まれる核酸配列に相補的な配列をそれぞれが含む2つの領域を含む、請求項3に記載の酵素核酸分子。
【請求項5】
アンドロゲン受容体mRNA分子に含まれる核酸配列に相補的な配列を含む第1の領域を触媒領域の5'末端に、及びアンドロゲン受容体mRNA分子に含まれる核酸配列に相補的な配列を含む第2の領域を触媒コアの3'末端に含む、請求項4に記載の酵素核酸分子。
【請求項6】
1つ若しくは複数の修飾核酸残基及び/又は1つ若しくは複数の非天然核酸残基を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の酵素核酸分子。
【請求項7】
少なくとも1つのロックド核酸残基を含む、請求項6に記載の酵素核酸分子。
【請求項8】
アンドロゲン受容体RNA分子にハイブリダイズすると前記RNA分子を触媒的に切断し、任意選択で、触媒切断事象が、少なくとも約50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の切断効率である、請求項1から7のいずれか一項に記載の酵素核酸分子。
【請求項9】
LNCaP細胞から抽出されたアンドロゲン受容体RNAを少なくとも50%触媒的に切断する、請求項1から8のいずれか一項に記載の酵素核酸分子。
【請求項10】
a.配列番号1(DZAR3)に示す核酸配列、
b.配列番号2(DZAR18)に示す核酸配列、
c.配列番号3(DZAR15)に示す核酸配列、
d.配列番号4(DZAR8)に示す核酸配列、
e.配列番号5(DZAR34)に示す核酸配列、
f.配列番号6(DZAR24)に示す核酸配列、
g.配列番号7(DZAR23)に示す核酸配列、
h.配列番号8(DZAR28)に示す核酸配列、
i.配列番号9(DZAR27)に示す核酸配列、
j.配列番号10(DZAR25)に示す核酸配列、
k.配列番号11(DZAR7)に示す核酸配列、
l.配列番号12(DZAR29)に示す核酸配列、
m.配列番号13(DZAR5)に示す核酸配列、
n.配列番号14(DZAR9)に示す核酸配列、
o.配列番号15(DZAR19)に示す核酸配列、
p.配列番号16(DZAR14)に示す核酸配列、
q.配列番号17(DZAR21)に示す核酸配列、
r.配列番号18(DZAR33)に示す核酸配列、
s.配列番号19(DZAR13)に示す核酸配列、
t.配列番号20(DZAR16)に示す核酸配列、
u.配列番号21(DZAR1)に示す核酸配列、
v.配列番号22(DZAR20)に示す核酸配列、
w.配列番号23(DZAR2)に示す核酸配列、
x.配列番号24(DZAR26)に示す核酸配列、
y.配列番号25(DZAR4)に示す核酸配列、
z.配列番号26(DZAR10)に示す核酸配列、
aa.配列番号27(DZAR11)に示す核酸配列、
bb.配列番号28(DZAR12)に示す核酸配列、
cc.配列番号29(DZAR17)に示す核酸配列、
dd.配列番号30(DZAR22)に示す核酸配列、
ee.配列番号31(DZAR30)に示す核酸配列、
ff.配列番号32(DZAR31)に示す核酸配列、
gg.配列番号33(DZAR32)に示す核酸配列
から選択される核酸配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する核酸配列を含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の酵素核酸分子。
【請求項11】
a.配列番号1(DZAR3)に示す核酸配列、
b.配列番号2(DZAR18)に示す核酸配列、
c.配列番号3(DZAR15)に示す核酸配列、
d.配列番号4(DZAR8)に示す核酸配列、
e.配列番号5(DZAR34)に示す核酸配列、
f.配列番号6(DZAR24)に示す核酸配列、
g.配列番号7(DZAR23)に示す核酸配列、
h.配列番号8(DZAR28)に示す核酸配列、
i.配列番号9(DZAR27)に示す核酸配列、
j.配列番号10(DZAR25)に示す核酸配列、
k.配列番号11(DZAR7)に示す核酸配列、
l.配列番号12(DZAR29)に示す核酸配列、
m.配列番号13(DZAR5)に示す核酸配列、
n.配列番号14(DZAR9)に示す核酸配列、
o.配列番号15(DZAR19)に示す核酸配列、
p.配列番号16(DZAR14)に示す核酸配列、
q.配列番号17(DZAR21)に示す核酸配列、
r.配列番号18(DZAR33)に示す核酸配列、
s.配列番号19(DZAR13)に示す核酸配列、
t.配列番号20(DZAR16)に示す核酸配列、
u.配列番号21(DZAR1)に示す核酸配列、
v.配列番号22(DZAR20)に示す核酸配列、
w.配列番号23(DZAR2)に示す核酸配列、
x.配列番号24(DZAR26)に示す核酸配列、
y.配列番号25(DZAR4)に示す核酸配列、
z.配列番号26(DZAR10)に示す核酸配列、
aa.配列番号27(DZAR11)に示す核酸配列、
bb.配列番号28(DZAR12)に示す核酸配列、
cc.配列番号29(DZAR17)に示す核酸配列、
dd.配列番号30(DZAR22)に示す核酸配列、
ee.配列番号31(DZAR30)に示す核酸配列、
ff.配列番号32(DZAR31)に示す核酸配列、
gg.配列番号33(DZAR32)に示す核酸配列
から選択される核酸配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する核酸配列からなる、請求項10に記載の酵素核酸分子。
【請求項12】
a.配列番号1(DZAR3)に示す核酸配列、
b.配列番号2(DZAR18)に示す核酸配列、
c.配列番号3(DZAR15)に示す核酸配列、
d.配列番号4(DZAR8)に示す核酸配列、
e.配列番号5(DZAR34)に示す核酸配列、
f.配列番号6(DZAR24)に示す核酸配列、
g.配列番号7(DZAR23)に示す核酸配列、
h.配列番号8(DZAR28)に示す核酸配列、
i.配列番号9(DZAR27)に示す核酸配列、
j.配列番号10(DZAR25)に示す核酸配列、
k.配列番号11(DZAR7)に示す核酸配列、
l.配列番号12(DZAR29)に示す核酸配列、
m.配列番号13(DZAR5)に示す核酸配列、
n.配列番号14(DZAR9)に示す核酸配列、
o.配列番号15(DZAR19)に示す核酸配列、
p.配列番号16(DZAR14)に示す核酸配列、又は
q.配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15若しくは16に示す核酸配列と比較して最大4つの修飾を有する配列
から選択される核酸配列を含む、請求項10又は請求項11に記載の酵素核酸分子。
【請求項13】
a.配列番号1(DZAR3)に示す核酸配列、
b.配列番号2(DZAR18)に示す核酸配列、
c.配列番号3(DZAR15)に示す核酸配列、
d.配列番号4(DZAR8)に示す核酸配列、
e.配列番号5(DZAR34)に示す核酸配列、
f.配列番号6(DZAR24)に示す核酸配列、
g.配列番号7(DZAR23)に示す核酸配列、
h.配列番号8(DZAR28)に示す核酸配列、
i.配列番号9(DZAR27)に示す核酸配列、
j.配列番号10(DZAR25)に示す核酸配列、
k.配列番号11(DZAR7)に示す核酸配列、
l.配列番号12(DZAR29)に示す核酸配列、
m.配列番号13(DZAR5)に示す核酸配列、
n.配列番号14(DZAR9)に示す核酸配列、
o.配列番号15(DZAR19)に示す核酸配列、
p.配列番号16(DZAR14)に示す核酸配列
から選択される核酸配列からなる、請求項10又は請求項11に記載の酵素核酸分子。
【請求項14】
配列番号4(DZAR8)、配列番号6(DZAR24)、配列番号8(DZAR28)若しくは配列番号11(DZAR7)
に示す核酸配列を有する核酸分子を含むか、又はこれからなる、請求項13に記載の酵素核酸分子。
【請求項15】
次の修飾:
a)置換ロックド核酸分子、及び/又は
b)オリゴヌクレオチドの3'末端に位置する逆位デオキシチミジン
の少なくとも1つを含む、請求項1から14のいずれか一項に記載の酵素核酸分子。
【請求項16】
デオキシチミジンコンジュゲートを含む、請求項1から15のいずれか一項に記載の酵素核酸分子。
【請求項17】
2価カチオンの存在下で触媒活性を有する、請求項1から16のいずれか一項に記載の酵素核酸分子。
【請求項18】
MgCl2+の存在下で触媒活性を有する、請求項17に記載の酵素核酸分子。
【請求項19】
生理学的濃度のMgCl2+中で触媒活性を有し、任意選択で、前記生理学的濃度が1~4mM MgCl2+のMgCl2+濃度と定義される、請求項18に記載の酵素核酸分子。
【請求項20】
DNA酵素である、請求項1から19のいずれか一項に記載の酵素核酸分子。
【請求項21】
ヒトアンドロゲン受容体遺伝子の発現を下方制御する、請求項1から20のいずれか一項に記載の酵素核酸分子。
【請求項22】
請求項1から21のいずれか一項に記載の酵素核酸分子及び薬学的に許容される担体又は賦形剤
を含む組成物。
【請求項23】
2価カチオンを更に含み、任意選択で、前記2価カチオンがMgCl2+である、請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
医薬として使用される、請求項22又は請求項23に記載の組成物。
【請求項25】
がんの治療において使用される、請求項1から21のいずれか一項に記載の酵素核酸分子又は請求項22若しくは請求項23に記載の組成物。
【請求項26】
前立腺がん及び乳がんから選択されるがんの治療において使用される、請求項1から21のいずれか一項に記載の酵素核酸分子又は請求項22若しくは請求項23に記載の組成物。
【請求項27】
多嚢胞性卵巣症候群の治療において使用される、請求項1から21のいずれか一項に記載の酵素核酸分子。
【請求項28】
2価カチオンとともに使用され、任意選択で、前記2価カチオンが生理学的濃度であり、更に任意選択で、前記2価カチオンがMgCl2+であり、前記MgCl2+が1~4mMの濃度である、請求項25から27のいずれか一項に記載の酵素核酸分子。
【請求項29】
請求項1から21のいずれか一項に記載の酵素核酸分子又は請求項22若しくは請求項23に記載の組成物を含む送達剤。
【請求項30】
がんの治療のための方法であって、
a)それを必要とする対象に治療有効量の請求項1から21のいずれか一項に記載の酵素核酸分子又は請求項22若しくは23に記載の組成物を投与する工程
を含む方法。
【請求項31】
対象が、前立腺がん又は乳がんに罹患している、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記投与が、2価カチオンの存在下で行われる、請求項30又は請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記2価カチオンがMgCl2+である、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記2価カチオンが生理学的濃度であり、任意選択で、前記生理学的濃度が1~4mM MgCl2+のMgCl2+濃度と定義される、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
酵素核酸分子が、送達剤とともに投与される、請求項30から34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記送達剤が、脂質、例えば、カチオン性脂質である、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記脂質が、リン脂質である、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記送達剤が、リポソームである、請求項35に記載の方法。
【請求項39】
前記送達剤が、改変アデノ随伴ウイルスである、請求項35に記載の方法。
【請求項40】
前記送達剤が、ナノ粒子、アプタマー及び生体材料から形成されるナノ構造から選択され、任意選択で、前記送達剤が、生体材料によるナノ担体である、請求項35に記載の方法。
【請求項41】
請求項1から21のいずれか一項に記載の酵素核酸分子を含む発現ベクター。
【請求項42】
任意選択でヒト細胞である、請求項41に記載の発現ベクターを含む哺乳動物細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の特定の態様は、前立腺がんの治療のための方法及び試薬に関する。また、触媒コア、及びアンドロゲン受容体mRNA分子に含まれる核酸配列に相補的な2つの特異的結合アームを含む、酵素核酸分子(「DNAザイム」)を本発明に含む。また、酵素核酸分子を含む組成物、及びこのような核酸分子の使用を含む、障害、例えば、前立腺がんを治療する方法を含む。
【背景技術】
【0002】
前立腺がんは、男性における最も一般的ながん診断であり、依然として男性における第3の主な死因となっている。英国において毎日診断される前立腺がんの新たな症例が平均130件存在し、これにより前立腺がんは、2番目に多いがんとなっている。前立腺がんの発症率は、英国において2035年までに12%上昇すると予測されている。現在の治療手段は、手術を含み、放射線療法と、並びにがんの進行期では、ホルモン療法及び化学療法と併用することが多い。ホルモン療法の更なる詳細は、以下に提供する。
【0003】
アンドロゲン及びアンドロゲン受容体(AR)は、男性表現型の発現において中心的役割を果たす。アンドロゲンは、リガンド依存性の転写因子であるアンドロゲン受容体と結合する。アンドロゲン受容体の細胞核への転座及び2量体形成は、細胞質におけるアンドロゲンとの結合時に生じる。核において、活性化アンドロゲン受容体は、ホルモン応答エレメントと呼ばれる特異的DNA配列に結合する。アンドロゲン受容体シグナル伝達経路は、特異的遺伝子の上方又は下方制御を生じる。
【0004】
前立腺がんは、アンドロゲン受容体機能における変化と関連する。アンドロゲン受容体シグナル伝達経路は、多くのがん、特には、前立腺がんの増殖における基本的プロセスである。前立腺がんを治療する現在の方法では、このアンドロゲン依存性を利用して、シグナル伝達経路を破壊することにより、腫瘍の増殖を阻害する。
【0005】
アンドロゲン受容体が、選択的スプライシング事象を経るか、又はがんの増殖に有利な変異を受ける可能性があるため、このような治療に対する抵抗性は、なお生じ得る。したがって、多型のアンドロゲン受容体を下方制御し、シグナル伝達経路を破壊する新規の治療戦略の設計が、最も重要である。最近の治療戦略は、リボザイム及びアンチセンス分子を使用して、アンドロゲン受容体を下方制御するように設計されている。
【0006】
また、ホルモン療法は、手術の候補者ではない限局性前立腺がん患者のために単独で行い得る。ホルモン療法は、アンドロゲンの産生又は作用を遮断するために使用する。前立腺がんのための現在の治療計画では、複数の副作用、例えば、骨密度の低下、骨粗鬆症脆弱性骨折のリスクの上昇、体重増加及び疲労が生じ、患者の生活の質の大幅な低下に繋がる。
【0007】
前立腺がんためのホルモン治療、特には、アンドロゲン枯渇療法は、症例の大多数において初期には有効である。しかし、その後に再発し、更なるホルモン療法が無効となる、更に高悪性度の去勢抵抗型の前立腺がんを発症することは患者にとって珍しくない。したがって、治療抵抗性疾患を標的とする新規の治療戦略並びに最前線の治療に対する大きな必要性が存在する。
【0008】
また、アンドロゲン受容体(AR)により媒介されるアンドロゲン作用が、女性の生殖生理学における役割をも有することが考えられる。アンドロゲン受容体のスプライスバリアントは、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)における病原学的役割を有すると提唱されている。
【0009】
酵素核酸分子(デオキシリボザイム、DNA酵素又はDNAザイムとも呼ばれる)は、1本鎖デオキシリボ核酸ポリマーから構築される合成触媒であり、10-23又は8-17酵素核酸のいずれかに分類することができる。酵素核酸は、2つの特異性配列と隣接する触媒コアからなり、複雑な2次構造に折り畳む能力を有する。触媒コアは、2価カチオン、例えば、Mg2+、Ca2+、Pb2+を、触媒的に活性とする補助因子として典型的に必要とする。現在、DNAザイムは、広範な触媒機能を有し、最も一般的なものの1つは、リボヌクレアーゼ活性である。酵素核酸のリボヌクレアーゼ活性は、酸塩基触媒機構により生じるエステル交換反応によって行われる。酵素核酸分子の触媒活性は、補助因子、すなわち、エステル交換反応における塩基として作用する2価カチオンの存在を必要とし得る。2価カチオンは、標的RNAの隣接するホスホジエステル結合における2'-ヒドロキシ基の求核攻撃を媒介する。
【0010】
リボヌクレアーゼ活性を有する酵素核酸分子は、標的mRNAに対する隣接配列のワトソン・クリック塩基対形成を介して、この標的を認識する。隣接配列による標的の塩基相補性認識により、特異的標的に対する酵素核酸の選択及び設計が可能となり、これにより、特異的mRNAに対する触媒作用が行われる。酵素核酸分子の特異性を利用して、特異的遺伝子の発現をこれらの転写物の分解を介して制御し、これにより、特定の細胞経路、特には、病状により破壊された細胞経路全体の調節を付与することができる。
【0011】
酵素核酸分子は、細胞機構とは独立的に機能するため他の遺伝子発現治療薬に対する利点を有し、標的mRNAに対して特異的であり、化学的かつ更に酵素的な安定性を高度に有する。また、DNAポリマーの低コストで容易な合成は、他の治療法に対する利点である。
【0012】
治療的使用における酵素核酸分子の現在の不利益は、触媒活性を行うために相対的高濃度の2価カチオンに、これらが依存することである。酵素核酸分子は、細胞内で有効な遊離2価カチオン濃度において、触媒活性を殆ど又は全く示さないことが多い。生理学的濃度の2価カチオンにおいて所望の割合の触媒作用を経て、治療的に前向きな結果を誘導することが可能な、酵素核酸分子を開発する必要性が存在する。
【0013】
いくつかの疾患に有効な多数の酵素核酸分子が開発されている。このようなもののいくつかは、現在、結節性基底細胞癌、上咽頭癌、重度のアレルギー性気管支喘息、アトピー性皮膚炎及び潰瘍性大腸炎の治療のための臨床試験中である。
【0014】
現在、アンドロゲン受容体のmRNAを標的とし、これにより、アンドロゲン受容体関連障害、例えば、前立腺がんを治療する酵素核酸は、設計されていない。例えば、前立腺がんの治療における、アンドロゲン受容体特異的酵素核酸分子の適用により、腫瘍増殖の停止が生じ、進行した抵抗型を治療する能力が更にもたらされ得る。したがって、アンドロゲン受容体の現在の変異体及びスプライス部位バリアント型は、特異的酵素核酸分子の触媒的分解に対して脆弱である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の特定の実施形態の目的は、先行技術と関連する上記の問題を少なくとも部分的に軽減することである。
【0016】
本発明の特定の実施形態の目的は、前立腺がんの増殖を阻害することである。
【0017】
本発明の特定の実施形態の目的は、アンドロゲン受容体シグナル伝達により生じるか、又はこれと関連する障害の、核酸に基づく治療を提供することである。
【0018】
本発明の特定の実施形態の目的は、前立腺がん及び他のがんの、核酸に基づく治療を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
広範な態様では、本発明において、アンドロゲン受容体活性を調節するため、及びアンドロゲン受容体シグナル伝達が関与する疾患の治療のための、方法及び組成物を提供する。適切には、本発明の態様では、前立腺がんの治療のための、方法及び組成物を提供する。適切には、本発明の態様では、多嚢胞性卵巣症候群の治療のための、方法及び組成物を提供する。
【0020】
更なる態様では、本発明において、アンドロゲン受容体遺伝子及び触媒コアにおける標的配列に特異的に結合して標的RNAに対する切断を媒介し、これにより、この標的の発現を低下させるように設計したRNA結合成分を含む、酵素核酸を提供する。
【0021】
適切には、酵素核酸分子は、ヒトアンドロゲン受容体遺伝子産物にハイブリダイズしそれを切断するように構成されている。詳細には、酵素核酸分子は、ヒトアンドロゲン受容体mRNAを切断するように構成されている。
【0022】
本発明の第1の態様では、ヒトアンドロゲン受容体遺伝子の発現を制御する酵素核酸分子を提供する。
【0023】
一部の実施形態では、酵素核酸分子は、典型的には、約15ヌクレオチドの長さの触媒領域を含むが、触媒コアは、11、12、13、14、16、17、18又は19残基の長さであり得ることが理解され得る。特定の実施形態では、触媒領域は、15ヌクレオチドの長さである。
【0024】
一実施形態では、酵素核酸分子は、アンドロゲン受容体mRNA分子に含まれる核酸配列に相補的な配列を含む少なくとも1つの領域を含む。
【0025】
更なる実施形態では、酵素核酸分子は、それぞれがアンドロゲン受容体mRNA分子に含まれる核酸配列に相補的な配列を含む2つの領域を含む。
【0026】
特定の実施形態では、酵素核酸分子は、アンドロゲン受容体mRNA分子に含まれる核酸配列に相補的な配列を含む第1の領域を触媒領域の5'末端に、及びアンドロゲン受容体mRNA分子に含まれる核酸配列に相補的な配列を含む第2の領域を触媒コアの3'末端に含む。
【0027】
一実施形態では、酵素核酸分子は、1つ若しくは複数の修飾核酸残基及び/又は1つ若しくは複数の非天然核酸残基を含む。
【0028】
特定の実施形態では、酵素核酸分子は、少なくとも1つのロックド核酸残基を含む。
【0029】
一実施形態では、酵素核酸分子は、アンドロゲン受容体RNA分子にハイブリダイズするとRNA分子を触媒的に切断する。特定の実施形態では、酵素核酸分子は、約50%~約100%の切断効率でアンドロゲン受容体RNA分子を切断する。例えば、触媒切断事象は、少なくとも約50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の切断効率であり得る。
【0030】
更なる実施形態では、酵素核酸分子は、LNCaP細胞から抽出されたアンドロゲン受容体RNAを少なくとも50%触媒的に切断する。更なる実施形態では、酵素核酸分子は、LNCaP細胞から抽出されたアンドロゲン受容体RNAを少なくとも55%、例えば、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%又は95%触媒的に切断する。
【0031】
一実施形態では、酵素核酸分子は、
a.配列番号1(DZAR3)に示す核酸配列、
b.配列番号2(DZAR18)に示す核酸配列、
c.配列番号3(DZAR15)に示す核酸配列、
d.配列番号4(DZAR8)に示す核酸配列、
e.配列番号5(DZAR34)に示す核酸配列、
f.配列番号6(DZAR24)に示す核酸配列、
g.配列番号7(DZAR23)に示す核酸配列、
h.配列番号8(DZAR28)に示す核酸配列、
i.配列番号9(DZAR27)に示す核酸配列、
j.配列番号10(DZAR25)に示す核酸配列、
k.配列番号11(DZAR7)に示す核酸配列、
l.配列番号12(DZAR29)に示す核酸配列、
m.配列番号13(DZAR5)に示す核酸配列、
n.配列番号14(DZAR9)に示す核酸配列、
o.配列番号15(DZAR19)に示す核酸配列、
p.配列番号16(DZAR14)に示す核酸配列、
q.配列番号17(DZAR21)に示す核酸配列、
r.配列番号18(DZAR33)に示す核酸配列、
s.配列番号19(DZAR13)に示す核酸配列、
t.配列番号20(DZAR16)に示す核酸配列、
u.配列番号21(DZAR1)に示す核酸配列、
v.配列番号22(DZAR20)に示す核酸配列、
w.配列番号23(DZAR2)に示す核酸配列、
x.配列番号24(DZAR26)に示す核酸配列、
y.配列番号25(DZAR4)に示す核酸配列、
z.配列番号26(DZAR10)に示す核酸配列、
aa.配列番号27(DZAR11)に示す核酸配列、
bb.配列番号28(DZAR12)に示す核酸配列、
cc.配列番号29(DZAR17)に示す核酸配列、
dd.配列番号30(DZAR22)に示す核酸配列、
ee.配列番号31(DZAR30)に示す核酸配列、
ff.配列番号32(DZAR31)に示す核酸配列、及び/又は
gg.配列番号33(DZAR32)に示す核酸配列
から選択される核酸配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する核酸配列を含む。
【0032】
特定の実施形態では、酵素核酸分子は、
a.配列番号1(DZAR3)に示す核酸配列、
b.配列番号2(DZAR18)に示す核酸配列、
c.配列番号3(DZAR15)に示す核酸配列、
d.配列番号4(DZAR8)に示す核酸配列、
e.配列番号5(DZAR34)に示す核酸配列、
f.配列番号6(DZAR24)に示す核酸配列、
g.配列番号7(DZAR23)に示す核酸配列、
h.配列番号8(DZAR28)に示す核酸配列、
i.配列番号9(DZAR27)に示す核酸配列、
j.配列番号10(DZAR25)に示す核酸配列、
k.配列番号11(DZAR7)に示す核酸配列、
l.配列番号12(DZAR29)に示す核酸配列、
m.配列番号13(DZAR5)に示す核酸配列、
n.配列番号14(DZAR9)に示す核酸配列、
o.配列番号15(DZAR19)に示す核酸配列、
p.配列番号16(DZAR14)に示す核酸配列、
q.配列番号17(DZAR21)に示す核酸配列、
r.配列番号18(DZAR33)に示す核酸配列、
s.配列番号19(DZAR13)に示す核酸配列、
t.配列番号20(DZAR16)に示す核酸配列、
u.配列番号21(DZAR1)に示す核酸配列、
v.配列番号22(DZAR20)に示す核酸配列、
w.配列番号23(DZAR2)に示す核酸配列、
x.配列番号24(DZAR26)に示す核酸配列、
y.配列番号25(DZAR4)に示す核酸配列、
z.配列番号26(DZAR10)に示す核酸配列、
aa.配列番号27(DZAR11)に示す核酸配列、
bb.配列番号28(DZAR12)に示す核酸配列、
cc.配列番号29(DZAR17)に示す核酸配列、
dd.配列番号30(DZAR22)に示す核酸配列、
ee.配列番号31(DZAR30)に示す核酸配列、
ff.配列番号32(DZAR31)に示す核酸配列、及び/又は
gg.配列番号33(DZAR32)に示す核酸配列
から選択される核酸配列と少なくとも85%、例えば、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99又は100%の同一性を有する核酸配列を含む。
【0033】
更なる実施形態では、酵素核酸分子は、
a.配列番号1(DZAR3)に示す核酸配列、
b.配列番号2(DZAR18)に示す核酸配列、
c.配列番号3(DZAR15)に示す核酸配列、
d.配列番号4(DZAR8)に示す核酸配列、
e.配列番号5(DZAR34)に示す核酸配列、
f.配列番号6(DZAR24)に示す核酸配列、
g.配列番号7(DZAR23)に示す核酸配列、
h.配列番号8(DZAR28)に示す核酸配列、
i.配列番号9(DZAR27)に示す核酸配列、
j.配列番号10(DZAR25)に示す核酸配列、
k.配列番号11(DZAR7)に示す核酸配列、
l.配列番号12(DZAR29)に示す核酸配列、
m.配列番号13(DZAR5)に示す核酸配列、
n.配列番号14(DZAR9)に示す核酸配列、
o.配列番号15(DZAR19)に示す核酸配列、
p.配列番号16(DZAR14)に示す核酸配列、
q.配列番号17(DZAR21)に示す核酸配列、
r.配列番号18(DZAR33)に示す核酸配列、
s.配列番号19(DZAR13)に示す核酸配列、
t.配列番号20(DZAR16)に示す核酸配列、
u.配列番号21(DZAR1)に示す核酸配列、
v.配列番号22(DZAR20)に示す核酸配列、
w.配列番号23(DZAR2)に示す核酸配列、
x.配列番号24(DZAR26)に示す核酸配列、
y.配列番号25(DZAR4)に示す核酸配列、
z.配列番号26(DZAR10)に示す核酸配列、
aa.配列番号27(DZAR11)に示す核酸配列、
bb.配列番号28(DZAR12)に示す核酸配列、
cc.配列番号29(DZAR17)に示す核酸配列、
dd.配列番号30(DZAR22)に示す核酸配列、
ee.配列番号31(DZAR30)に示す核酸配列、
ff.配列番号32(DZAR31)に示す核酸配列、及び/又は
gg.配列番号33(DZAR32)に示す核酸配列
から選択される核酸配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する核酸配列からなる。
【0034】
特定の実施形態では、酵素核酸分子は、
a)配列番号1(DZAR3)に示す核酸配列、
b)配列番号2(DZAR18)に示す核酸配列、
c)配列番号3(DZAR15)に示す核酸配列、
d)配列番号4(DZAR8)に示す核酸配列、
e)配列番号5(DZAR34)に示す核酸配列、
f)配列番号6(DZAR24)に示す核酸配列、
g)配列番号7(DZAR23)に示す核酸配列、
h)配列番号8(DZAR28)に示す核酸配列、
i)配列番号9(DZAR27)に示す核酸配列、
j)配列番号10(DZAR25)に示す核酸配列、
k)配列番号11(DZAR7)に示す核酸配列、
l)配列番号12(DZAR29)に示す核酸配列、
m)配列番号13(DZAR5)に示す核酸配列、
n)配列番号14(DZAR9)に示す核酸配列、
o)配列番号15(DZAR19)に示す核酸配列、
p)配列番号16(DZAR14)に示す核酸配列、
q)配列番号17(DZAR21)に示す核酸配列、
r)配列番号18(DZAR33)に示す核酸配列、
s)配列番号19(DZAR13)に示す核酸配列、
t)配列番号20(DZAR16)に示す核酸配列、
u)配列番号21(DZAR1)に示す核酸配列、
v)配列番号22(DZAR20)に示す核酸配列、
w)配列番号23(DZAR2)に示す核酸配列、
x)配列番号24(DZAR26)に示す核酸配列、
y)配列番号25(DZAR4)に示す核酸配列、
z)配列番号26(DZAR10)に示す核酸配列、
aa)配列番号27(DZAR11)に示す核酸配列、
bb)配列番号28(DZAR12)に示す核酸配列、
cc)配列番号29(DZAR17)に示す核酸配列、
dd)配列番号30(DZAR22)に示す核酸配列、
ee)配列番号31(DZAR30)に示す核酸配列、
ff)配列番号32(DZAR31)に示す核酸配列、及び/又は
gg)配列番号33(DZAR32)に示す核酸配列
から選択される核酸配列と少なくとも85%、例えば、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99又は100%の同一性を有する核酸配列を含む。
【0035】
別の実施形態では、酵素核酸分子は、
a.配列番号1(DZAR3)に示す核酸配列、
b.配列番号2(DZAR18)に示す核酸配列、
c.配列番号3(DZAR15)に示す核酸配列、
d.配列番号4(DZAR8)に示す核酸配列、
e.配列番号5(DZAR34)に示す核酸配列、
f.配列番号6(DZAR24)に示す核酸配列、
g.配列番号7(DZAR23)に示す核酸配列、
h.配列番号8(DZAR28)に示す核酸配列、
i.配列番号9(DZAR27)に示す核酸配列、
j.配列番号10(DZAR25)に示す核酸配列、
k.配列番号11(DZAR7)に示す核酸配列、
l.配列番号12(DZAR29)に示す核酸配列、
m.配列番号13(DZAR5)に示す核酸配列、
n.配列番号14(DZAR9)に示す核酸配列、
o.配列番号15(DZAR19)に示す核酸配列、
p.配列番号16(DZAR14)に示す核酸配列、及び/又は
q.配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15若しくは16に示す核酸配列と比較して最大4つ、例えば、1、2、3若しくは4つの修飾を有する核酸配列
から選択される核酸配列を含む。
【0036】
ある実施形態では、酵素核酸分子は、
a.配列番号1(DZAR3)に示す核酸配列、
b.配列番号2(DZAR18)に示す核酸配列、
c.配列番号3(DZAR15)に示す核酸配列、
d.配列番号4(DZAR8)に示す核酸配列、
e.配列番号5(DZAR34)に示す核酸配列、
f.配列番号6(DZAR24)に示す核酸配列、
g.配列番号7(DZAR23)に示す核酸配列、
h.配列番号8(DZAR28)に示す核酸配列、
i.配列番号9(DZAR27)に示す核酸配列、
j.配列番号10(DZAR25)に示す核酸配列、
k.配列番号11(DZAR7)に示す核酸配列、
l.配列番号12(DZAR29)に示す核酸配列、
m.配列番号13(DZAR5)に示す核酸配列、
n.配列番号14(DZAR9)に示す核酸配列、
o.配列番号15(DZAR19)に示す核酸配列、及び/又は
p.配列番号16(DZAR14)に示す核酸配列
から選択される核酸配列から本質的になる。
【0037】
一実施形態では、酵素核酸分子は、
a)配列番号4(DZAR8)に示す核酸配列、
b)配列番号6(DZAR24)に示す核酸配列、
c)配列番号8(DZAR28)に示す核酸配列、及び/又は
d)配列番号11(DZAR7)に示す核酸配列、
e)配列番号4、6、8若しくは11に示す核酸配列と比較して最大4つ、例えば、1、2、3若しくは4つの修飾を有する核酸配列
から選択される核酸配列を含む。
【0038】
一実施形態では、酵素核酸分子は、
a)配列番号4(DZAR8)に示す核酸配列、
b)配列番号6(DZAR24)に示す核酸配列、
c)配列番号8(DZAR28)に示す核酸配列、及び/又は
d)配列番号11(DZAR7)に示す核酸配列、
e)配列番号4、6、8若しくは11に示す核酸配列と比較して最大4つ、例えば、1、2、3若しくは4つの修飾を有する核酸配列
から選択される核酸配列からなる。
【0039】
一実施形態では、酵素核酸分子は、配列番号4(DZAR8)に示す核酸配列を含むか、又はこれからなる。
【0040】
一実施形態では、酵素核酸分子は、配列番号6(DZAR24)に示す核酸配列を含むか、又はこれからなる。
【0041】
一実施形態では、酵素核酸分子は、配列番号8(DZAR28)に示す核酸配列を含むか、又はこれからなる。
【0042】
一実施形態では、酵素核酸分子は、配列番号11(DZAR7)に示す核酸配列を含むか、又はこれからなる。
【0043】
一実施形態では、酵素核酸分子は、次の修飾:
a)置換ロックド核酸分子、及び/又は
b)逆位デオキシチミジン
の少なくとも1つを含む。
【0044】
特定の実施形態では、デオキシチミジンの逆位は、酵素核酸分子の3'末端に位置する。
【0045】
一実施形態では、酵素核酸分子は、デオキシチミジンコンジュゲートを含む。
【0046】
特定の実施形態では、酵素核酸分子は、2価カチオンの存在下で触媒活性を有する。更なる実施形態では、酵素核酸分子は、MgCl2+の存在下で触媒活性を有する。更なる実施形態では、酵素核酸分子は、生理学的濃度のMgCl2+中で触媒活性を有し、任意選択で、この生理学的濃度は1~4mM MgCl2+のMgCl2+濃度と定義される。
【0047】
本明細書に開示するように、酵素核酸分子は、DNA酵素である。
【0048】
特定の実施形態では、酵素核酸分子は、ヒトアンドロゲン受容体遺伝子の発現を下方制御する。
【0049】
本発明の第2の態様では、本明細書に記載の酵素核酸分子及び薬学的に許容される担体又は賦形剤を含む組成物を提供する。組成物は、2価カチオンを更に含み、任意選択で、この2価カチオンはMgCl2+である。適切には、本明細書に開示する組成物は、医薬として使用される。
【0050】
一実施形態では、本明細書に開示の酵素核酸分子又は組成物は、がんの治療において使用される。適切には、酵素核酸分子又は組成物は、前立腺がん及び乳がんから選択されるがんの治療において使用される。適切には、酵素核酸分子又は組成物は、前立腺がんの治療において使用される。
【0051】
特定の実施形態では、本明細書に開示する酵素核酸分子は、2価カチオンとともに使用される。任意選択で、2価カチオンは生理学的濃度であり、更に任意選択で、2価カチオンはMgCl2+であり、MgCl2+は1~4mM+の濃度である。
【0052】
特定の実施形態では、送達剤は、本明細書に開示の酵素核酸分子又は組成物を含む。
【0053】
本発明の別の態様では、がんの治療のための方法であって、それを必要とする対象に治療有効量の本明細書に開示の酵素核酸分子又は組成物を投与することを含む方法を提供する。適切には、方法は、対象が前立腺がん又は乳がんに罹患している、がんの治療のための方法である。
【0054】
別の実施形態では、方法は、治療有効量の酵素核酸分子又は組成物を投与することを含み、この投与は、2価カチオンの存在下で行われる。適切には、この2価カチオンはMgCl2+である。更なる実施形態では、この2価カチオンは、生理学的濃度であり、任意選択で、この生理学的濃度は1~4mM MgCl2+のMgCl2+濃度と定義される。
【0055】
特定の実施形態では、本明細書に開示する酵素核酸分子は、送達剤とともに投与される。更なる実施形態では、送達剤は、脂質である。適切には、脂質は、カチオン性脂質若しくはリン脂質又はリポソームである。
【0056】
特定の実施形態では、送達剤は、改変アデノ随伴ウイルスである。更なる実施形態は、送達剤が、ナノ粒子である方法である。
【0057】
特定の実施形態では、本明細書に開示の酵素核酸分子を含む発現ベクターを提供する。適切には、発現ベクターを含む哺乳動物細胞を提供する。哺乳動物細胞は、ヒト細胞であり得る。
【0058】
ここで、本発明の実施形態は、添付の図面を参照して、単なる例示のために、以下に記載されることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
図1】本発明の特定の実施形態による抗アンドロゲン受容体(AR)酵素核酸分子の模式図を例示する。ヒトアンドロゲン受容体配列は、国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI)から得た。各酵素核酸分子は、ワトソン・クリック相互作用によってその配列の種々の領域を標的とするように設計した2つの固定配列5'及び3'結合アームを組み込むことによりin vitroで特異的RNA分子を標的とするように設計した。各酵素核酸分子は、標的AR RNAを活発に切断する10-23DNAザイム触媒コアを含む。
図2】種々の酵素核酸分子による合成アンドロゲン受容体mRNAの切断を例示する。濃度測定を実施し、種々の酵素核酸分子により可能となった切断のパーセンテージを算出し、切断効率実験を3つ組で行った。
図3】酵素核酸分子DZAR3(配列番号1)酵素核酸分子DZAR18(配列番号2)酵素核酸分子DZAR15(配列番号3)酵素核酸分子DZAR8(配列番号4)酵素核酸分子DZAR34(配列番号5)酵素核酸分子DZAR24(配列番号6)酵素核酸分子DZAR23(配列番号7)酵素核酸分子DZAR28(配列番号8)酵素核酸分子DZAR27(配列番号9)酵素核酸分子DZAR25(配列番号10)酵素核酸分子DZAR7(配列番号11)酵素核酸分子DZAR29(配列番号12)酵素核酸分子DZAR5(配列番号13)酵素核酸分子DZAR9(配列番号14)酵素核酸分子DZAR19(配列番号15)酵素核酸分子DZAR14(配列番号16)酵素核酸分子DZAR21(配列番号17)酵素核酸分子DZAR33(配列番号18)酵素核酸分子DZAR13(配列番号19)酵素核酸分子DZAR16(配列番号20)酵素核酸分子DZAR1(配列番号21)酵素核酸分子DZAR20(配列番号22)酵素核酸分子DZAR2(配列番号23)酵素核酸分子DZAR26(配列番号24)酵素核酸分子DZAR4(配列番号25)酵素核酸分子DZAR10(配列番号26)酵素核酸分子DZAR11(配列番号27)酵素核酸分子DZAR12(配列番号28)酵素核酸分子DZAR17(配列番号29)酵素核酸分子DZAR22(配列番号30)酵素核酸分子DZAR30(配列番号31)酵素核酸分子DZAR31(配列番号32)酵素核酸分子DZAR32(配列番号33)のヌクレオチド配列を例示する。 また、図3は、酵素核酸分子の、黒色で示す可変結合アーム、及び赤色で示す一貫した配列(GGCTAGCTACAACGA(配列番号34))を有する触媒コアに加えて、上記酵素核酸分子の切断効率を0%~100%で例示する。
図4a】アンドロゲン受容体RNAの6つの異なる領域(a、308-352bp b、509-548bp c、565-604bp d、989-1028bp e、1304-1343bp、f、1496-1535bp)を標的としてFAM標識アンドロゲン受容体RNAを切断するように特異的に設計した、酵素核酸分子の効率を例示する。非切断及び切断RNAは、ゲル電気泳動を使用して可視化し、切断効率実験は、3つ組で行った。
図4b】アンドロゲン受容体RNAの6つの異なる領域(a、308-352bp b、509-548bp c、565-604bp d、989-1028bp e、1304-1343bp、f、1496-1535bp)を標的としてFAM標識アンドロゲン受容体RNAを切断するように特異的に設計した、酵素核酸分子の効率を例示する。非切断及び切断RNAは、ゲル電気泳動を使用して可視化し、切断効率実験は、3つ組で行った。
図4c】アンドロゲン受容体RNAの6つの異なる領域(a、308-352bp b、509-548bp c、565-604bp d、989-1028bp e、1304-1343bp、f、1496-1535bp)を標的としてFAM標識アンドロゲン受容体RNAを切断するように特異的に設計した、酵素核酸分子の効率を例示する。非切断及び切断RNAは、ゲル電気泳動を使用して可視化し、切断効率実験は、3つ組で行った。
図4d】アンドロゲン受容体RNAの6つの異なる領域(a、308-352bp b、509-548bp c、565-604bp d、989-1028bp e、1304-1343bp、f、1496-1535bp)を標的としてFAM標識アンドロゲン受容体RNAを切断するように特異的に設計した、酵素核酸分子の効率を例示する。非切断及び切断RNAは、ゲル電気泳動を使用して可視化し、切断効率実験は、3つ組で行った。
図4e】アンドロゲン受容体RNAの6つの異なる領域(a、308-352bp b、509-548bp c、565-604bp d、989-1028bp e、1304-1343bp、f、1496-1535bp)を標的としてFAM標識アンドロゲン受容体RNAを切断するように特異的に設計した、酵素核酸分子の効率を例示する。非切断及び切断RNAは、ゲル電気泳動を使用して可視化し、切断効率実験は、3つ組で行った。
図4f】アンドロゲン受容体RNAの6つの異なる領域(a、308-352bp b、509-548bp c、565-604bp d、989-1028bp e、1304-1343bp、f、1496-1535bp)を標的としてFAM標識アンドロゲン受容体RNAを切断するように特異的に設計した、酵素核酸分子の効率を例示する。非切断及び切断RNAは、ゲル電気泳動を使用して可視化し、切断効率実験は、3つ組で行った。
図5】LNCaP細胞から抽出した完全長アンドロゲン受容体RNAを標的とする酵素核酸分子: DZAR3、DZAR7、DZAR8、DZAR10、DZAR15、DZAR24、DZAR25、DZAR27、DZAR28及びDZAR34の生理学的に適切な切断能を例示する。完全長アンドロゲン受容体RNAが、アンドロゲン受容体RNAの短い断片と比較してRNA折畳みにおける差を示し得るため、完全長AR RNAを使用してRNA切断の生理学的モデルを確立した。RNAをcDNAに逆転写させてqPCR解析を実施し、このqPCRでは、アンドロゲン受容体RNA転写物を最終的に定量した。反応は、3つ組で実行した。酵素核酸分子DZAR7、DZAR8、DZAR24及びDZAR28は、完全長アンドロゲン受容体RNAを標的とする優れた能力を示し、少なくとも50%の切断効率を有した。
【発明を実施するための形態】
【0060】
特定の実施形態の更なる詳細を以下に提供する。
【0061】
本明細書の説明及び特許請求の範囲を通して、単語「含む(comprise)」及び「含む(contain)」並びにこれらの変形は、「~を含むが、~に限定されない」ことを意味し、他の部分、添加物、成分、整数又は工程を除外することを意図しない(及び除外しない)。本明細書の説明及び特許請求の範囲を通して、単数は、文脈上他に必要としない限り、複数を包含する。特には、不定冠詞を使用する場合、明細書は、文脈上他に必要としない限り、複数性並びに単数性を考えるものとして理解されるべきである。
【0062】
本発明の特定の態様、実施形態又は例と組み合わせて記載する特徴、整数、特性又は群は、それと不適合でない限り、本明細書に記載の他の任意の態様、実施形態又は例に適用可能であると理解されるべきである。本明細書(添付する任意の特許請求の範囲、要約及び図面を含む)に開示する特徴の全て、及び/又はこのように開示する方法若しくはプロセスの工程の全ては、任意の組合せで併用し得るが、少なくとも一部の特徴及び/又は工程が相互排他的である組合せを除く。本発明は、前述のいかなる実施形態のいかなる詳細にも制限されない。本発明は、本明細書(添付する任意の特許請求の範囲、要約及び図面を含む)において開示する特徴の任意の新規の1つ又は新規の組合せ、及びこのように開示する任意の方法又はプロセスの工程の任意の新規の1つ又は任意の新規の組合せに及ぶ。
【0063】
本出願と関連する本明細書と同時又はこれ以前に出願され、本明細書により公開される全ての論文及び文書に、読者の注意は向けられ、このような全ての論文及び文書の内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0064】
本開示は、ヒトアンドロゲン受容体の発現を制御する酵素核酸分子の使用に関する。本発明の態様は、酵素核酸分子のヌクレアーゼ活性によるアンドロゲン受容体mRNAの触媒的切断に関する。
【0065】
用語「核酸分子」又は「ポリヌクレオチド」は、本明細書において、互換的に使用し、任意の長さのヌクレオチドの多量体型として認識され、非修飾又は修飾ヌクレオチドのモノマーを含むものとする。糖が単純なリボースである場合、ポリマーは、RNA(リボ核酸)であり、糖がデオキシリボースのようなリボースに由来する場合、ポリマーは、DNA(デオキシリボ核酸)である。本明細書において使用する場合、用語「ヌクレオチド」は、当技術分野において認識されるものとして使用し、5炭糖、リン酸基及び窒素複素環塩基を含む分子を指す。用語「ヌクレオチド」は、天然のヌクレオチド、例えば、リボース及びデオキシリボース、並びに化学的若しくは生化学的に修飾した、非天然の、及び/又は誘導体化したヌクレオチドの両方を含むと理解されるものとする。ヌクレオチドは、糖、リン酸及び/又は塩基部分において非修飾又は修飾であり得る。
【0066】
本明細書において使用する場合、用語「酵素核酸分子」は、種々の長さ及び折畳みパターンの核酸分子を指し、これは、特定のRNA標的に対する相補性を有し、また、標的RNAを特異的に切断するのに活性な酵素活性を有する。本発明の特定の実施形態は、ヌクレアーゼ又はリボヌクレアーゼ活性を有するものとして代替的に記載することがあり、このような用語は、本明細書において互換的に使用し得る。酵素核酸分子は、RNAを分子間で切断し、これにより、標的RNA分子を不活化することができる。相補領域は、酵素核酸分子の標的RNAへの十分なハイブリダイゼーションを可能として、分子間ヌクレアーゼ活性により、このRNA標的の切断を促進する。用語「酵素核酸分子」は、天然及び修飾ヌクレオチド、並びに当技術分野において公知の他の用語、例えば、「デオキシリボザイム」若しくは「触媒DNA分子」又は「DNAザイム」をも包含する。酵素核酸分子は、合成的に生成するか、又は生物若しくは他のソースに由来し得る。
【0067】
適切には、酵素核酸分子は、DNA分子である。
【0068】
本明細書において記載する酵素核酸分子は、修飾核酸を含み得る。本明細書において使用する場合、用語「修飾ヌクレオチド」及び「修飾核酸分子」は、当技術分野において公知の、天然に存在するヌクレオチド、及び人工の、例えば、化学的又は生化学的に修飾した、非天然の、又は誘導体化したヌクレオチドの両方の、全ての公知の修飾ヌクレオチドを指す。
【0069】
修飾ヌクレオチドの一例は、「ロックドヌクレオチド」である。本明細書において使用する場合、用語「ロックドヌクレオチド」は、「ロックド核酸分子」として定義されるポリマーに含まれる修飾ヌクレオチドを指す。ロックド核酸ヌクレオチドのリボース部分は、2'及び4'炭素を結合する追加の架橋により修飾する。架橋により、A型のDNA又はRNAに見出されることが多い3'エンド構造的立体構造においてリボースを「ロック」する。ロックド核酸分子ヌクレオチドは、DNA若しくはRNAと混合するか、又はポリマーを形成する場合に誘導体を修飾することができる。ロックドリボース立体構造により、塩基の積み重ね及び骨格の前構築を増強し得る。これにより、ポリヌクレオチドの熱安定性が向上し得る。
【0070】
修飾核酸分子の別の例としては、デオキシチミジン(dT)の逆位の導入が挙げられる。オリゴヌクレオチドは、5'と5'又は3'と3'の結合を組み込むように設計することができる。dTの逆位は、オリゴヌクレオチドの3'末端に導入して3'と3'の結合を生成することができ、これにより、DNAポリメラーゼによるDNA配列の更なる伸長を防ぎ、オリゴヌクレオチドを3'エキソヌクレアーゼ切断から保護することを含むが、これらに限定されないユニークな特性がもたらされる。
【0071】
特定の実施形態では、酵素核酸分子は、好ましくは、生理学的条件下で、本明細書に開示する完全長アンドロゲン受容体ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列へのハイブリダイゼーションを可能とし得る、少なくとも1つの相補核酸領域を含む。アンドロゲン受容体バリアントポリペプチドは、例えば、本明細書に記載のものを含むスプライスバリアントをコードするポリヌクレオチドを含む、アンドロゲン受容体バリアントポリヌクレオチドによりコードされるものであり得る。本明細書において使用する場合、用語「アンドロゲン受容体」は、ホルモン、詳細には、アンドロゲンファミリーのホルモン、例えば、限定されないが、テストステロン及びジヒドロテストステロンを認識する核内受容体スーパーファミリーの細胞内タンパク質ステロイド受容体を指す。本明細書に記載する酵素核酸分子は、ヒトアンドロゲン受容体にハイブリダイズする。
【0072】
用語「アンドロゲン受容体」では、アンドロゲン受容体の変異体及びスプライスバリアント型を包含する。変異体は、アミノ酸の付加、挿入、短縮化及び欠失を有するアンドロゲン受容体タンパク質を含む。アンドロゲン受容体スプライスバリアントの例は、例えば、限定されないが、AR-V1、AR-V2、AR-V3、AR-V4、AR-V5、AR-V567es、AR-V6又はAR-V7の短縮型である。更なるアンドロゲン受容体変異は、点変異として存在し、点変異の例は、限定されないが、T877A、D879G、W741C、W741L、M749L、R629Q、G124V、P533S、T575A、H874Y又はF876Lである。アンドロゲン受容体の変異バリアントは、当技術分野において、リガンドの低特異性としばしば呼ばれる、広範なリガンドと結合する能力を得、これにより、アンドロゲン受容体の結合及び活性化、並びにこの後のシグナル伝達経路の活性化が、他の生理学的に適切なホルモンにより可能となり得る。ヒトARのアミノ酸配列は、受託番号P10275バージョン3(UniProtKB)の項目下に見出すことができる。種々のスプライスバリアントは、P10275バージョン3に示すように公知である。
【0073】
一部の実施形態では、酵素核酸は、アンドロゲン受容体の発現を防ぐか、又は低下させる。本明細書において使用する場合、用語「発現」は、遺伝子の「転写」により、遺伝子においてコードされる遺伝情報をRNA(例えば、mRNA、rRNA、tRNA又はsnRNA)に、及びmRNAの「翻訳」により、タンパク質をコードする遺伝子をタンパク質に変換するプロセスを指す。遺伝子発現は、プロセスの多くの段階において制御することができる。「下方制御」又は「抑制」は、コードされたタンパク質の産生を低下させるような制御を指す。一実施形態では、本発明は、mRNA分子を切断可能な、約15核酸残基を含む触媒領域を含む、酵素核酸分子に関する。
【0074】
更なる実施形態では、この酵素核酸分子の触媒活性は、生理学的条件下で生じ得る。
【0075】
一実施形態では、酵素核酸分子は、好ましくは、生理学的条件下で、LNCaP細胞から得た完全長アンドロゲン受容体ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列へのハイブリダイゼーションを可能とし得る、少なくとも1つの相補核酸領域を含む。本明細書において開示するように、LNCaP細胞は、アンドロゲン感受性の前立腺がん細胞株を指す。
【0076】
本発明の特定の実施形態では、酵素核酸分子は、標的核酸分子の配列に相補的な、配列同一性を有する少なくとも1つの相補核酸領域を含む。本明細書に定義するように、酵素核酸分子の相補領域は、完全長天然ポリペプチドをコードする完全長天然核酸配列の核酸配列と、少なくとも約80%の核酸配列同一性を有する。
【0077】
通常は、少なくとも1つの相補核酸領域を含む酵素核酸分子は、完全長天然配列をコードする核酸配列と、少なくとも80%の核酸配列同一性、或いは、少なくとも約81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の核酸配列同一性を有する。
【0078】
用語「配列同一性」、「パーセント同一性」及び「配列パーセント同一性」は、2つ以上の核酸又はポリペプチドの文脈において、いかなる保存的アミノ酸置換をも配列同一性の一部として考慮せずに、最大対応値について比較及びアラインメントした場合(必要に応じて、ギャップを導入して)、同一であるか、又は同一のヌクレオチド若しくはアミノ酸残基を特定のパーセンテージで有する、2つ以上の配列又は部分配列を指す。パーセント同一性は、配列比較ソフトウェア若しくはアルゴリズムを使用して、又は目視検査により測定することができる。種々のアルゴリズム及びソフトウェアは、当技術分野において公知であり、アミノ酸又はヌクレオチド配列のアラインメントを得るために使用することができる。
【0079】
パーセント配列同一性の判定に適するプログラムとしては、例えば、米国政府国立バイオテクノロジー情報センターのBLASTウェブサイト(http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi)から入手可能なBLASTプログラム一式が挙げられる。2つの配列間の比較は、BLASTN又はBLASTPのいずれかのアルゴリズムを使用して行うことができる。BLASTNは、核酸配列を比較するために使用し、一方、BLASTPは、アミノ酸配列を比較するために使用する。ALIGN、ALIGN-2(Genentech社、South San Francisco、California)又はDNASTARから入手可能なMegAlignは、公的に入手可能な更なるソフトウェアプログラムであり、配列をアラインメントするために使用することができる。当業者は、特定のアラインメントソフトウェアによる最大アラインメントのための適切なパラメータを決定することができる。特定の実施形態では、アラインメントソフトウェアの初期設定パラメータを使用する。
【0080】
本発明の特定の実施形態では、酵素核酸分子の生物学的活性は、生理学的条件下で保持される。
【0081】
一部の実施形態では、酵素核酸分子は、2価カチオンとともに使用される。本明細書において使用する場合、用語「2価カチオン」は、2の原子価を有するイオン、詳細には、カチオンを指すために使用し、この原子価は、化学結合の形成に利用可能な電子を表す。特定の実施形態では、2価カチオンは、MgCl2である。適切には、2価カチオンは、in vivoにおける内在性2価カチオンである。
【0082】
本明細書において使用する場合、用語「生理学的条件」は、哺乳生物、特にはヒトにおいて細胞内に見出されるものを模倣する反応条件を指す。生理学的条件に言及する場合、温度の変動、カチオンの有効性、及びpH範囲を包含し得る。生理学的条件は、約35°~40℃の温度並びに約7.0~8.0のpHを含むことが当技術分野において公知であり、好ましくは、2価の、カチオンの有効性を更に含み、約2~15mMのMgCl2濃度が特に好ましい。
【0083】
本発明の特定の実施形態では、アンドロゲン受容体タンパク質の発現は、このmRNAの分解時に抑制され得る。
【0084】
本発明の更なる態様では、本明細書に記載の酵素核酸分子を含む組成物が存在する。特定の実施形態では、組成物は、医薬組成物であり、対象への投与を目的とする。特定の実施形態では、対象は、哺乳動物対象である。特定の実施形態では、対象は、ヒトである。
【0085】
本明細書において使用する場合、用語「治療」は、症状の徴候の緩和を含み、このような兆候の緩和、例えば、徴候の発生率の低下又は予防に関し得る。この文脈における低下は、重症度及び/又は1つ若しくは複数の徴候の発生率の低下、例えば、前立腺がん及び他のアンドロゲン受容体疾患のホルモン療法に対する抵抗性の低下を指し得る。本明細書に記載の酵素核酸分子による疾患の治療は、治療有効量の組成物の専門の当業者による投与を必要とし得る。本発明の一実施形態では、酵素核酸分子は、アンドロゲン受容体依存性疾患、例えば、限定されないが、乳がん、前立腺がん、卵巣がん、膀胱がん、膵臓がん及び多嚢胞性卵巣疾患を治療するために使用し得る。
【0086】
特定の実施形態では、本発明は、本明細書に記載の酵素核酸分子の投与を含む、がんの治療のための方法に関する。本明細書に定義するように、がんは、固形腫瘍、例えば、メラノーマ、皮膚がん、小細胞肺がん、非小細胞肺がん、神経膠腫、肝細胞(肝臓)癌、胆嚢がん、甲状腺腫瘍、骨がん、胃(gastric/stomach)がん、前立腺がん、乳がん、卵巣がん、子宮頸がん、子宮がん、外陰がん、子宮内膜がん、精巣がん、膀胱がん、肺がん、神経膠芽腫、子宮内膜がん、腎臓がん、腎細胞癌、結腸がん、結腸直腸がん、膵臓がん、食道癌、脳/CNSがん、頭頸部がん、神経細胞がん、中皮腫、肉腫、胆道がん(胆管細胞癌)、小腸腺癌、小児悪性腫瘍、類表皮癌、肉腫、胸膜/腹膜のがん、並びに急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、及び多発性骨髄腫を含む白血病からなる群から選択され得る悪性腫瘍を指す。
【0087】
特定の実施形態では、本発明は、前立腺がんの治療のための方法に関する。用語「前立腺がん」は、本明細書において使用する場合、前立腺において腺を起源とする悪性腫瘍を指す。特定の実施形態では、対象は、雄性、例えば、ヒト男性である。
【0088】
更なる実施形態では、本発明は、去勢抵抗性前立腺がんとも呼ばれる、進行期の治療のために使用し得る。本明細書において使用する場合、用語「去勢抵抗性」は、アンドロゲン/ホルモン枯渇療法にもかかわらず前立腺がん疾患が進行することを説明し、血清前立腺特異的抗原レベルの連続的上昇、基礎疾患の進行、及び/又は新たな転移の出現のいずれかを呈し得る。本発明の特定の実施形態では、医薬組成物は、薬学的に許容される賦形剤を含む。本明細書において使用する場合、用語「薬学的に許容される賦形剤」は、本発明の特定の実施形態の組成物の生成における使用のための、1つ又は複数の薬学的に許容される添加剤を含む、水又は他の薬学的に許容される水溶液として定義する。
【0089】
特定の実施形態では、がんの治療のための方法は、治療有効量の本明細書に開示の酵素核酸分子を投与することを含む。用語「投与」は、本明細書において使用する場合、健全な医療行為において、治療する対象に医薬を送達して、例えば、疾患の治療において有効とする、任意の方法を指す。
【0090】
特定の実施形態では、本明細書に記載する酵素核酸分子は、対象における多嚢胞性卵巣症候群の治療において使用され得る。特定の実施形態では、対象は、雌性、例えば、ヒト女性である。
【0091】
医薬の送達は、送達剤の使用により促進され得る。適切には、送達剤は、治療有効量の組成物の送達を促進する1つ又は複数の分子である。用語「送達剤」は、当技術分野において認識されている用語であり、治療薬又は他の物質の細胞内送達を促進する分子を含む。送達剤の例としては、脂質(例えば、カチオン性脂質、ヴィロソーム又はリポソーム)、ナノ粒子、生体材料によるナノ担体及び/又はウイルスベクター、例えば、アデノ随伴ウイルスベクターが挙げられる。特定の実施形態では、送達剤は、アプタマー又は生体材料から形成されるナノ構造であり得る。特定の実施形態では、送達剤は、生体材料によるナノ担体である。
【0092】
本明細書において使用する場合、用語「治療有効量」は、がんの文脈において治療的又は健康的利点をもたらすのに十分な量を指す。正確な投与用量は、治療の目的に依存し、公知の技術を使用して当業者により決定される。例えば、去勢抵抗性前立腺がんの、感作細胞では、治療有効用量は、非感作細胞のための通常の治療有効用量よりもしばしば低くなり得る。この場合、「感作細胞」は、そのホルモン基質を活性化に必要とするアンドロゲン受容体を発現する細胞として定義する。
【実施例
【0093】
腫瘍の小進化が治療抵抗性を媒介するため、腫瘍の増殖により、しばしば抗がん治療への課題が示される。以下の実施例では、本発明の特定の実施形態の試薬が、前立腺がん治療に対する腫瘍誘導抵抗性を防ぐために使用可能かどうかの判定に焦点を当てる。
【0094】
抗アンドロゲン受容体酵素核酸の設計
図2に示す切断実験において使用するアンドロゲン受容体(AR)配列を、国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI)から得た。各酵素核酸分子は、ワトソン・クリック相互作用によりAR RNAの種々の領域を標的とする5'及び3'結合アームを組み込むことによって、特異的RNA分子を標的とするように設計した。各酵素核酸分子は、プリン-ピリミジンジヌクレオチドモチーフ間のエステル交換反応により標的AR RNAを活発に切断する10-23DNAザイム触媒コアを含む。
【0095】
(実施例1)AR RNA断片の切断
種々の酵素核酸分子の切断効率の解析は、50mMのトリスHCL(pH7.5)、10mMのMgCl2、150MmのNaCl及び0.01%のSDSを含む緩衝液により酵素核酸分子を1μMの最終濃度に初期希釈することにより判定した。RNAを0.2μMの最終濃度に希釈した。次いで、酵素核酸分子を、フルオレセインアミダイト(FAM)標識アンドロゲン受容体RNA断片とともに2時間インキュベートした後、RNAローディング色素(NEB)の追加により終結させ、ドライアイス上で瞬間凍結させた。非標的DNAザイムを陰性対照(-)として使用した。
【0096】
実施例1の結果は、図2に示す。AR RNAの短鎖断片を使用したin vitroでの切断実験において、種々の酵素核酸分子が、他と比較して優れた効率で切断することが観察された。特には、DZAR3及びDZAR18は、標的RNAの切断をおよそ100%媒介した。
【0097】
ゲル電気泳動
次いで、試料を70℃で煮沸した後、尿素PAGE 15%ゲルを使用して分離しRNAの2次構造を変性させ、断片をFusion FX検出システム上で可視化した。
【0098】
濃度測定
ゲル画像はImageJを使用して解析し、濃度測定を実施して非切断及び切断産物を定量した。酵素核酸分子により可能となった切断のパーセンテージを算出した。
【0099】
(実施例2)完全長AR RNAの切断
LNCaP細胞(ATCC)をロズウェルパーク記念研究所培地((RMPI)1640、2mMのlグルタミン、10%のストレプトマイシン及びPhenyl Red(PSG)、10%のウシ胎仔血清(FBS)、Biosera社を添加)中で培養した。細胞を37℃及び5%の二酸化炭素で培養し、80%の培養密度で継代した。
【0100】
LNCaP細胞から抽出した完全長アンドロゲン受容体RNAを標的とする酵素核酸分子、DZAR3、DZAR7、DZAR8、DZAR10、DZAR15、DZAR24、DZAR25、DZAR27、DZAR28及びDZAR34の切断能を判定した。全RNAは、RNA抽出キット(RBC Bioscience社)を使用してLNCaP細胞から抽出した。全AR RNA 500ngを切断反応において利用した。次いで、RNaseフリー水を使用して試料を希釈し、RNAをcDNAに逆転写させてqPCR解析を実施し(LightCycler、Roche社)、このqPCRでは、アンドロゲン受容体RNA転写物を最終的に定量した。データは内部対照(L19)に対して正規化し、相対発現は2-ΔΔCt法を使用して算出した。
【0101】
実施例2の結果は、図4に示す。図4は、LNCaP細胞から抽出した全RNA、結果として完全長AR RNAを標的とする酵素核酸分子の切断効率を例示する。種々の酵素核酸分子が、他と比較して優れた切断能を有することが見出された。興味深いことには、DZAR7、DZAR8、DZAR24及びDZAR28は、最も高い切断効率を示し、50%を超える切断を示した。
図1
図2
図3
図4a
図4b
図4c
図4d
図4e
図4f
図5
【配列表】
2022512929000001.app
【国際調査報告】