(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-07
(54)【発明の名称】採鉱用超硬合金インサート内での結合剤の再分配
(51)【国際特許分類】
C22C 29/08 20060101AFI20220131BHJP
B23B 27/14 20060101ALI20220131BHJP
E21B 10/52 20060101ALI20220131BHJP
C22C 1/05 20060101ALN20220131BHJP
【FI】
C22C29/08
B23B27/14 B
E21B10/52
C22C1/05 G
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021524270
(86)(22)【出願日】2019-11-06
(85)【翻訳文提出日】2021-07-02
(86)【国際出願番号】 EP2019080305
(87)【国際公開番号】W WO2020099197
(87)【国際公開日】2020-05-22
(32)【優先日】2018-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520344785
【氏名又は名称】サンドヴィック マイニング アンド コンストラクション ツールズ アクティエボラーグ
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】リリヤ, ミルジャム
(72)【発明者】
【氏名】アルバニティディス, イオアンニス
【テーマコード(参考)】
2D129
3C046
4K018
【Fターム(参考)】
2D129AA04
2D129BA19
2D129GA09
2D129GB03
2D129GB06
3C046FF32
3C046FF37
3C046FF50
3C046FF52
4K018AD06
4K018BA04
4K018BB04
4K018EA11
4K018FA24
4K018KA15
(57)【要約】
1種または複数の硬質相成分および結合剤を含む採鉱用超硬合金インサートの結合相を再分配させる方法であって、a)未処理の採鉱用超硬合金インサートを準備する工程と、b)金属酸化物または金属炭酸塩から選択される少なくとも1種の結合剤プラーを、未処理の採鉱用超硬合金インサートの表面に塗布する工程と、c)未処理の採鉱用超硬合金インサートを焼結する工程と、を含み、金属酸化物または金属炭酸塩が未処理の採鉱用超硬合金インサートの表面の少なくとも1つの局所的領域のみに塗布されることを特徴とする、方法、また硬度勾配を有する超硬合金ならびにその使用。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
WC硬質相成分、場合によって1種または複数のさらなる硬質相成分、および結合剤を含む採鉱用超硬合金インサートの結合相を再分配させる方法であって、
a)未処理の採鉱用超硬合金インサートを準備する工程と、
b)金属酸化物または金属炭酸塩から選択される少なくとも1種の結合剤プラーを、採鉱用超硬合金インサートの表面に塗布する工程と、
c)未処理の採鉱用カーバイドインサートを焼結する工程と、
を含み、金属酸化物または金属炭酸塩が未処理の採鉱用超硬合金インサートの表面の少なくとも1つの局所的領域のみに塗布されることを特徴とする、方法。
【請求項2】
結合剤プラーがCr
2O
3である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程b)とc)との間に、
金属カーバイド、炭素粉末またはこれらの混合物から選択される少なくとも1種の結合剤プッシャーを、採鉱用超硬合金インサートの表面上の少なくとも1つの異なる局所的領域に塗布する工程
をさらに含む、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
結合剤プラーおよび結合剤プッシャーが未処理の採鉱用超硬合金インサートの表面の実質的に対向する局所的領域に塗布される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
結合剤プラーおよび結合剤プッシャーが対称的に塗布される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
結合剤プラーおよび結合剤プッシャーが非対称的に塗布される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
焼結後、採鉱用超硬合金インサートが転動プロセスで処理される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
転動プロセスが「高エネルギー転動」プロセスであり、転動後、均一な採鉱用超硬合金インサートが、ΔHV3%≧9.72-0.00543*HV3
バルクとなるように変形硬化する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
1種または複数の硬質相成分および結合剤を含む採鉱用超硬合金インサートであって、採鉱用超硬合金インサートの表面の第1の部分から表面の第2の部分まで硬度勾配が存在し、表面の第1の部分が表面の第2の部分に実質的に対向していることによって、焼結後、
-表面の第1の部分が、表面の第2の部分より30HV3だけ柔軟~80HV3だけ硬質であり、
-表面の第1の部分がバルクより5~120HV3だけ硬質であり、
-表面の第2の部分がバルクより20HV3~70HV3だけ硬質である
ことを特徴とする、採鉱用超硬合金インサート。
【請求項10】
採鉱用超硬合金インサート内で、最大結合剤濃度(%結合剤-max)が最小濃度(%結合剤-min)より20%未満高い、請求項9に記載の採鉱用超硬合金インサート。
【請求項11】
%結合剤-minが、焼結した採鉱用超硬合金インサートの全高のパーセンテージで、表面の第1の部分から1~50%の深さにある、請求項9または請求項10に記載の採鉱用超硬合金インサート。
【請求項12】
-第1の結合剤最大濃度(%結合剤-max1)が、表面の第1の部分に存在し、
-第2の結合剤最大濃度(%結合剤-max2)が、焼結した採鉱用超硬合金インサートの全高のパーセンテージで、表面の第1の部分の15~75%の深さに存在する、
請求項9から11のいずれか一項に記載の採鉱用超硬合金インサート。
【請求項13】
第1のクロム最大濃度(%Cr-max1)が、表面の第1の部分に存在する、請求項9から12のいずれか一項に記載の採鉱用超硬合金インサート。
【請求項14】
さらなる第2のクロム濃度最大(%Cr-max2)が、表面の第2の部分に存在し、
-%Cr-max1>%Cr-max2であり、
-クロム最小濃度(%Cr-min)が、%Cr-max1~%Cr-max2の間に位置する、
請求項13に記載の採鉱用超硬合金インサート。
【請求項15】
%Cr-minが、焼結した採鉱用超硬合金インサートの全高のパーセンテージで、表面の第1の部分から40~99%の深さにある、請求項14に記載の採鉱用超硬合金インサート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、採鉱用超硬合金インサート内に結合剤を再分配させる方法、硬度勾配を有する採鉱用超硬合金インサートおよびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
超硬合金は、良好なレベルの強靱性と共に、高い弾性率、高い硬度、高い圧縮強度、高い耐摩耗性および耐摩擦性の独特な組合せを有する。したがって、超硬合金は採鉱用ツールなどの製品に共通して使用されている。一般的に、超硬合金の硬度および強靱性は、結合剤含有量および硬質相の粒子サイズを変化させることにより変更することができる。通常、より高い結合剤含有量は、超硬合金の強靱性を増加させるが、その硬度および耐摩耗性は低減する。より微細な硬質相粒子サイズは、より高い耐摩耗性を有する、より高い硬度の超硬合金をもたらすのに対して、粒子サイズの粗い硬質相はそれ程硬質ではないが、より高い耐衝撃性を有する。
【0003】
採鉱用超硬合金インサートの効率を最大限にするため、これら特性の組合せが所望され、製品の異なる部分の材料に対して異なる需要が存在する。例えば、削岩および鉱物切削用のインサートにおいて、不具合の危険性を最小化するより強靭な内部および耐摩耗性を最適化するより硬質な外部を有することが望ましい。
【0004】
WO2010/056191は、硬質相および結合相を含む超硬合金体を形成する方法であって、中間表面ゾーンの少なくとも1つの部分が本体の内部より低い平均結合剤含有量を有する方法を開示している。
【発明の概要】
【0005】
しかし、さらにより大きな硬度勾配を作り出すことができ、特定の用途に対して勾配を調整することができ、非対称の採鉱用超硬合金インサートにさえ適用することができる方法に対する必要性が依然として存在する。炭素含有量に関して化学量論的にバランスの取れた標準的カーバイド粉末から開始して、結合相を再分配することができる方法に対する必要性もまた存在する。
【0006】
これにより、本開示は、したがって、1種または複数の硬質相成分および結合剤を含む採鉱用超硬合金インサート内に結合相を再分配させる方法であって、
a)未処理の採鉱用超硬合金インサートを準備する工程と、
b)金属酸化物または金属炭酸塩から選択される少なくとも1種の結合剤プラーを、未処理の採鉱用超硬合金インサートの表面に塗布する工程と、
c)未処理の採鉱用超硬合金インサートを焼結する工程と、
を含み、金属酸化物または金属炭酸塩が未処理の採鉱用超硬合金インサートの表面の少なくとも1つの局所的領域のみに塗布されることを特徴とする、方法を提供する。
【0007】
本方法は、結合剤を、調整された、最も良好な方式で再分配して、採鉱用超硬合金インサートに最適な機能性を得ることを可能にする。例えば、異なる用途に対して特定の硬度プロファイルを作り出すことができる。
【0008】
さらに、本開示は、1種または複数の硬質相成分および結合剤を含む採鉱用超硬合金インサートであって、採鉱用超硬合金インサートの表面の第1の部分から表面の第2の部分まで硬度勾配が存在し、表面の第1の部分が表面の第2の部分に実質的に対向していることによって、
-表面の第1の部分が、表面の第2の部分より30HV3だけ柔軟~80HV3だけ硬質であり、
-表面の第1の部分がバルクより5~120HV3だけ硬質であり、
-表面の第2の部分がバルクより20HV3~70HV3だけ硬質である
ことを特徴とする、採鉱用超硬合金インサートに関する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】対向する側に対称的に塗布された結合剤プラーおよび結合剤プッシャーを示すインサートの略図である。
【
図2】対向する側に非対称的に塗布された結合剤プラーおよび結合剤プッシャーを示すインサートの略図である。
【
図3】実施例1で開示された試料Aに対するHV3恒硬度プロットである。
【
図4】実施例1で開示された試料Bに対するHV3恒硬度プロットである。
【
図5】実施例1で開示された試料Cに対するHV3恒硬度プロットである。
【
図6】実施例1で開示された試料Dに対するHV3恒硬度プロットである。
【
図7】実施例1で開示された試料Eに対するHV3恒硬度プロットである。
【
図8】実施例1で開示された試料Fに対するHV3恒硬度プロットである。
【
図9】実施例1で開示された試料Gに対するHV3恒硬度プロットである。
【
図10】実施例1で開示された試料Hに対するHV3恒硬度プロットである。
【
図11】実施例1で開示された試料Iに対するHV3恒硬度プロットである。
【
図12】実施例1で開示された試料Jに対するHV3恒硬度プロットである。
【
図13】実施例1で開示された試料Kに対するHV3恒硬度プロットである。
【
図14】実施例1において結合剤プラーがどこに塗布されたか示すインサートの略図である。
【
図15】実施例1で開示された試料A、BおよびCに対するHV3中心線硬度プロファイルである。
【
図16】実施例1で開示された試料D、EおよびFに対するHV3中心線硬度プロファイルである。
【
図17】実施例1で開示された試料G、HおよびIに対するHV3中心線硬度プロファイルである。
【
図18】実施例1で開示された試料JおよびKに対するHV3中心線硬度プロファイルである。
【
図19】結合剤プラーおよび結合剤プッシャーが非対称的に塗布された実施例2に対するHV5恒硬度プロットである。
【
図20】振り子ハンマー試験に対する設定の略図である。
【
図21】試料DおよびGに対して実施例5で考察されたコバルト濃度プロファイルである。
【
図22】試料DおよびGに対して実施例5で考察されたクロム濃度プロファイルである。
【
図23】実施例5試料DおよびGに対して実施例5で考察されたCr/Co濃度プロファイル。
【
図24】試料Kに対して実施例5で考察されたコバルト濃度プロファイルである。
【
図25】試料Kに対して実施例5で考察されたクロム濃度プロファイルである。
【
図26】フィールド試験の間測定された試料C、FおよびIに対する掘削深さの関数として、インサート直径の変化を示すプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1つの態様によると、本開示は、WC硬質相、場合によって1種または複数のさらなる硬質相成分および結合剤を含む採鉱用超硬合金インサートの結合相を再分配させる方法であって、
a)未処理の採鉱用超硬合金インサートを準備する工程と、
b)金属酸化物または金属炭酸塩から選択される少なくとも1種の結合剤プラーを、未処理の採鉱用超硬合金インサートの表面に塗布する工程と、
c)未処理の採鉱用超硬合金インサートを焼結する工程と、
を含み、金属酸化物または金属炭酸塩が未処理の採鉱用超硬合金インサートの表面の少なくとも1つの局所的領域のみに塗布されることを特徴とする、方法に関する。
【0011】
1種または複数のさらなる硬質相成分は、TaC、TiC、TiN、TiCN、NbC、CrCから選択することができる。結合相はCo、Ni、Feまたはこれらの混合物から選択することができ、好ましくはCoおよび/またはNiであり、最も好ましくはCoであってよい。採鉱用カーバイドインサートは約4~約30重量%、好ましくは約5~約15重量%の適切な結合剤含有量を有する。採鉱用カーバイドインサートはまた、結晶微細化化合物を結合剤含有量の≦20重量%の量で場合によって含んでもよい。結晶微細化化合物は、カーバイド、混合カーバイド、バナジウム、クロム、タンタルおよびニオブの炭窒化物または窒化物の群から適切に選択される。採鉱用カーバイドインサートの残りは、1種または複数の硬質相成分からできている。
【0012】
本方法の一実施形態では、採鉱用超硬合金インサートは、少なくとも80重量%のWC、好ましくは少なくとも90重量%のWCを含む硬質相を含有する。
【0013】
本開示において、「未処理の(green)」という用語は、硬質相成分および結合剤を一緒に粉砕し、次いで破砕紛体を加圧して、小型の採鉱用超硬合金インサートを形成することにより生成される採鉱用超硬合金インサートを指し、未だ焼結されていないものである。「結合剤プラー」という用語は、採鉱用超硬合金インサートの表面に塗布された場合、焼結工程中、結合剤をその表面に向かって移動させる、すなわち、「結合剤プラー」が塗布された表面の方向に結合剤を引き寄せる物質を指す。結合剤プラーは炭素を局在的に消費し、これにより、結合剤を、正常な炭素レベルを有する領域から、炭素レベルが枯渇した局所的領域へと流動させることにより作用する。
【0014】
発明者らは、金属酸化物または金属炭酸塩から選択される結合剤プラーを、未処理の採鉱用超硬合金インサートの表面の少なくとも1つの局所的領域に塗布することにより、その炭素が、焼結中この領域で局在的に消費されて、炭素電位を形成することを見出した。これは、結合相を、正常またはより高いレベルの炭素を有する領域から、炭素レベルが枯渇した局所的領域へと移動させることを促進する。したがって、これによって採鉱用超硬合金インサートの表面の局所的領域上に結合剤が豊富な領域が形成される。結合剤プラーが塗布された未処理の採鉱用超硬合金インサートの表面は、「酸化物/炭酸塩ドープした」表面と呼ばれる。結合剤が豊富な領域および結合剤が枯渇した領域は、焼結後、それぞれ引張応力および圧縮応力がかかることは周知である。引張応力を導入することは通常好ましいことではない。しかし、発明者らは、遠心転動などの処理後、高レベルの圧縮応力が、転動した表面下少なくとも1mm未満の深さまで導入されて、存在する引張応力に反作用することができることを見出した。したがって、結合剤プラーを塗布する利点が、引張応力を導入するという有害な影響を受けることなく得られる。
【0015】
「未処理の採鉱用超硬合金インサートの表面上の少なくとも1つの局所的領域」とは、結合剤含有量を増加させる必要条件がどこにあるかに応じて、表面上の任意の位置、例えば、先端、底部または側面であってよい。結合剤プラーは、所望の作用が、強靱性または耐摩耗性の局所的増加を作り出すことであるかどうかに応じて、採鉱用超硬合金インサートの表面の1つまたは複数の局所的領域に塗布することができる。各「局所的領域」は、採鉱用超硬合金インサートの総表面積の0.5~85%、好ましくは3~75%であってよい。
【0016】
焼結温度は、適切には約1000℃~約1700℃、好ましくは約1200℃~約1600℃、最も好ましくは約1300℃~約1550℃である。焼結時間は適切には約15分間~約5時間、好ましくは約30分間~約2時間である。
【0017】
本方法の一実施形態では、金属酸化物または金属炭酸塩である結合剤プラーは、Cr2O3、MnO、MnO2、MoO2、Fe酸化物、NiO、NbO2、V2O3、MnCO3、FeCO3、CoCO3、NiCO3、CuCO3またはAg2CO3から選択される。代わりに金属を未処理の採鉱用超硬合金インサートの表面に塗布することもまた可能であり、この場合、焼結工程中、加熱により酸化物を形成する。金属酸化物または金属炭酸塩の選択は、焼結後の超硬合金の特性、例えば、変形硬化、耐熱性および/または耐食性に影響を与え、必要とされる用途に最も適した選択を行うことができる。金属炭酸塩は、同等の金属酸化物が有毒であり、金属炭酸塩が有毒でない場合に選択される。本方法では、結合剤プラーが塗布される部分についての選択の自由度は高く、例えば、結合剤プラーは、酸化物または炭酸塩中の金属が超硬合金の耐摩耗性を改善するかしないかに応じて、カーバイドツールの摩耗ゾーンの中に塗布することも、または離れた所に塗布することもできる。
【0018】
本方法の一実施形態では、結合剤プラーはCr2O3である。Cr2O3を結合剤プラーとして使用することは、クロム合金の豊富な表面層が形成され、この表面は転動処理に対する応答を増強するという利点を有する。したがって、より高い圧縮応力が導入され、採鉱用超硬合金インサートの摩耗特性は改善される。Cr3O2は、粒子精密化に貢献し、したがって、Cr3O2が塗布されたインサートの側面には減少した粒子サイズが測定される。
【0019】
金属酸化物または金属炭酸塩は、表面に約0.1~約100mg/cm2の量で、好ましくは約1~約50mg/cm2の量で適切に提供される。開始する超硬合金粉末ブレンドは、0.95<Com/%Co<1と同等の炭素収支を適切に有するか、または酸化物もしくは炭酸塩の適用による炭素の減少を埋め合わせる過剰の炭素を有する。Comは、100*S、インサート/σS、コバルト[式中、σSはTm3/kgで測定される重量特異的な飽和磁化であり、σS、コバルト=2.01E-4Tm3/kgである]。Comは、Foerster Koerzimat CS.1097単位で測定される。
【0020】
本方法の一実施形態では、結合剤プラーは採鉱用超硬合金インサートの最上部に塗布される。本方法の別の実施形態では、結合剤プラーは、採鉱用超硬合金インサートの側面に塗布される。したがって、採鉱用超硬合金インサートの特性は、用途に適合するよう調整できる。結合剤プラーはおそらく、最も高い摩耗に曝露される採鉱用超硬合金インサートの表面上の位置に塗布されるように選択される。
【0021】
一実施形態では、本方法は、工程a)とb)の間に、少なくとも1種の結合剤プッシャーを未処理の採鉱用超硬合金インサートの表面の少なくとも1つの異なる局所的領域に塗布する工程をさらに含む。本開示では、「結合剤プッシャー」という用語は、採鉱用カーバイドインサートの表面に塗布された場合、焼結工程中、結合剤をその表面から離れるように移動させる、すなわち結合剤を、「結合剤プッシャー」が塗布された表面から離れる方向に押し出す物質を指す。表面の少なくとも1つの局所的領域に塗布された結合剤プラーと、採鉱用超硬合金インサートの表面の少なくとも1つの異なる局所的領域に塗布された結合剤プッシャーとを組み合わせた用途とは、標準的に使用されている範囲内の、例えば、0.95<Com/%Co<1の範囲内の炭素含有量を有する未処理の採鉱用超硬合金インサートが、標準的プロセスを使用して、したがって生産における効率を許容するように作製され得ることを意味する。好ましくは、移動は、インサートの表面に沿うというよりむしろインサートの深さに向けられる。
【0022】
本方法の一実施形態では、結合剤プッシャーは、金属カーバイド、炭素粉末、例えば、グラファイト、またはこれらの混合物から選択される。金属カーバイド、炭素粉末またはこれらの混合物の塗布は炭素勾配を作り出し、この炭素勾配は、それが塗布された表面から離れるようにコバルトを移動させ得る、すなわち結合剤は、この局所的領域の内部バルクに向かってカーバイドの表面から離れるように押し出される。金属カーバイドの選択は、塗布された局所的領域内での粒子の微粒化という追加の作用を有するのに対して、炭素粉末の選択は塗布された局所的領域内で粒子の成長を推進する作用を有する。作り出された粒子成長勾配において生じる差異は、結合剤勾配が硬度勾配にもたらす作用ほど有意なものではない。
【0023】
一実施形態では、結合剤プッシャーは金属カーバイドと炭素粉末の組合せである。金属カーバイドの炭素粉末に対する重量比は、約0.05~約50、好ましくは約0.1~約25、より好ましくは約0.2~約15、さらにより好ましくは約0.3~約12、最も好ましくは約0.5~8が適切である。金属カーバイドは、約0.1~約100mg/cm2の量で、好ましくは約1~約50mg/cm2の量で表面上に適切に提供される。炭素粉末は、約0.1~約100mg/cm2の量で、好ましくは約0.5~約50mg/cm2の量で表面上に適切に提供される。
【0024】
グラファイトなどの炭素粉末のみが結合剤プッシャーとして選択された場合、これは、それが塗布された領域内の硬質相粒子の粗雑化をもたらす。これにより、作業している岩に曝露された採鉱用ボタン上のゾーン内の高い耐摩耗性と改善された熱伝導率との組合せ、およびこれらのゾーン後方の高い強靱性を達成することが可能となる。
【0025】
本方法の一実施形態では、金属カーバイドは、クロム、バナジウム、マグネシウム、鉄またはニッケルのカーバイド、好ましくはクロムのカーバイド、例えば、Cr3C2、Cr23C6、Cr7C3から選択される。
【0026】
炭素粉末と組み合わせたCr3C2などの金属カーバイドを選択することは有利である。これは、この組合せが、結合剤をドープした表面から移動させ、炭素の添加はCr3C2の粒子微細化作用を阻止するからである。
【0027】
焼結中、未処理の採鉱用超硬合金インサートの表面に塗布された任意の金属カーバイドは実質的に溶解するはずである。
【0028】
本方法の一実施形態では、結合剤プラーおよび結合剤プッシャーは、採鉱用超硬合金インサートの表面の異なる局所的領域に塗布される。結合剤プラーおよび結合剤プッシャーを異なる局所的領域に塗布することにより、2つの表面の間に結合剤勾配が作り出される。この結合剤の勾配は、結合剤プッシャーが塗布された部分により硬質な、結合剤が枯渇した表面が形成され、結合剤プラーが塗布された部分により強靭な、結合剤が豊富な表面が形成されて、硬度勾配が作り出されたことを意味する。結合剤プラーおよび結合剤プッシャーを採鉱用超硬合金インサートの表面の異なる局所的領域に組み合わせて塗布することは、以前から公知の方法では十分に深い勾配を作り出せないような、より大きなカーバイド体において硬度勾配を作り出すために特に有用である。結合剤プラーは未処理の採鉱用超硬合金インサートの表面上の選択された領域に塗布することができ、結合剤プッシャーは未処理の採鉱用超硬合金インサートの表面上の異なる選択された領域に塗布することができる。結合剤プッシャーを摩耗ゾーンに配置して結合剤含有量を減少させ、したがってその領域の耐摩耗性を改善することができ、またはより高い熱伝導率を有することが好ましい場合にもその領域の耐摩耗性を改善することができる。結合剤プラーおよび結合剤プッシャーの局所的な塗布は、必要に応じた特性を有するカーバイド体を作り出すための独特な可能性を提示する。
【0029】
本方法を使用する別の利点は、表面の異なる領域の摩耗率が一様でない場合、セルフシャープニングゾーンを作り出すことができることである。すり減ったインサートと岩との間の接触圧は、接触領域が減少するので、先端がより鋭いほど増加する。均一な材料を用いると、摩耗により、摩耗した平坦面が形成され、この平坦面は多くの場合ダイヤモンド研削ツールを使用したリシャープニング(re-sharping)が必要となる。研削によるリシャープニングはコストがかかり、ドリルビットを取り外されなければならない。不均一な材料特性を有することにより、より速く摩耗するゾーンと、より遅く摩耗するゾーンとを有することが可能である。摩耗率が異なる領域を有する摩耗表面を有するように採鉱用インサートの材料特性を調整した場合、摩耗による平坦面の形成は回避され、結果的に、均一な材料を使用した場合と比較してより鋭い摩耗表面が作り出される。
【0030】
本方法の一実施形態では、結合剤プラーおよび結合剤プッシャーは、採鉱用超硬合金インサートの表面の実質的に対向する局所的領域に塗布される。
【0031】
一実施形態では、結合剤プラーおよび結合剤プッシャーを塗布する方法は、加圧、ディッピング、ペインティング、スプレー(空気ブラッシング)、スタンピングまたは3Dプリンティングから選択される。ディッピングはマスキングを用いて、または用いないで行うことができる。結合剤プラーおよび結合剤プッシャーは、液体分散体またはスラリーの形態で未処理の採鉱用超硬合金インサートの表面に塗布することができる。そのような場合、液相は、適切には、水、アルコールまたはポリマー、例えば、ポリエチレングリコールである。スラリーの濃度は、適切には液相中の粉末の5~50重量%、例えば、15~40重量%である。この範囲は結合剤プラーまたはプッシャーの十分な作用が認識されるような有利なものである。粉末含有量が高すぎる場合、液体分散体またはスラリー内の目詰まりおよびランピングによる問題が存在し得る。代わりに、結合剤プラーおよび結合剤プッシャーは、例えば、適切な位置で、加圧型に粉末を加えることにより、固体物質として導入することができる。粉末は、硬質相粉末、例えばWCベースの粉末と混合することができる。結合剤プラーおよび結合剤プッシャーはまた、任意の他の適切な方式で、採鉱用超硬合金インサートに塗布することもできる。スラリーの組成および濃度ならびにそれを塗布する方式は、結合剤の再分配の制御に影響を及ぼし、したがって採鉱用超硬合金インサートの硬度プロファイルの制御を可能にする。
【0032】
本方法の一実施形態では、
図1に示されている通り回転対称的に、結合剤プラーが表面の第1の部分(10)に塗布され、結合剤プッシャーが表面の第2の部分(20)に塗布される。
【0033】
本方法の一実施形態では、
図2に示されている通り回転非対称的に、結合剤プラーが表面の第1の部分(10)に塗布され、結合剤プッシャーが表面の第2の部分(20)に塗布される。
【0034】
結合剤プラーおよび結合剤プッシャーが塗布された部分には可撓性が存在するので、これにより「摩耗ゾーン」の位置、すなわち最も増強された摩耗特性を有する表面上の位置を調整することが可能となる。例えば、摩耗ゾーンは、採鉱用超硬合金インサートと掘削されている岩との間の相互作用が最も高い場所に応じて、インサートの最上部または側面のいずれかであってよい。これは、それが使用される用途および岩ドリルビット上の採鉱用超硬合金インサートの位置に応じて変動する。
【0035】
採鉱用超硬合金インサートは高い圧縮荷重下に置かれる。結果的に、小さな亀裂により生じる表面クラッキングが、繰り返される断続的な高い荷重を介して危機的サイズまで成長することが、インサートの不具合の共通の原因である。圧縮応力の存在は亀裂の成長および材料の摩耗を阻止することができるので、圧縮応力をインサートの表面に導入することにより、この問題を減少させることができることは公知である。圧縮応力を採鉱用超硬合金インサートの表面に導入する公知の方法は、ショットピーニング、振動転動および遠心転動を含む。これらの方法はすべて本体の外面の機械的衝撃または変形に基づき、採鉱用超硬合金インサートの寿命を増加させる。
【0036】
本方法の一実施形態では、焼結後、採鉱用超硬合金インサートを転動プロセスで処理する。高レベルの圧縮応力をインサートに導入する後処理表面硬化に、採鉱用超硬合金インサートを供する。採鉱用インサートに対して、これは通常転動処理であり、遠心または振動であってよい。しかし、他の後処理表面硬化方法、例えばショットピーニングを使用することもできる。転動後、通常磁気保磁力(kA/m)の増加を測定する。
【0037】
「標準的な」転動プロセスは通常、振動タンブラー、例えば、Reni Cirillo RC 650を使用して行い、この振動タンブラーで、約30kgインサートを50Hzで約40分間転動させる。代替の典型的な「標準的」転動プロセスであれば、遠心タンブラー、例えば、最上部に密閉した蓋を有し、底部に回転ディスクを有するERBA-120を使用する。ディスク(Φ600mm)が回転している間、抗酸化剤を有する冷却水が毎分5リットル連続的に送り込まれる。タングステンカーバイド媒体を加えて、タンブラーの荷重を増加させることもできる。回転により、インサートは他のインサートと、または加えた任意の媒体と衝突する。衝突およびスライディングは鋭い縁を除去し、歪み硬化を引き起こす。「標準的な」転動に対して、遠心タンブラーを使用した転動作業は通常、120RPMから、少なくとも20分間作動させる。
【0038】
本方法の一実施形態では、転動プロセスは「高エネルギー転動」(HET)法である。より高いレベルの圧縮応力を採鉱用超硬合金インサートに導入するために、高エネルギー転動プロセスを使用することができる。タンブラーの種類、加える媒体の容量(もしある場合には)、処理時間およびプロセスの設定、例えば、遠心タンブラーに対するRPMなどを含めて、HETを導入するために使用することができる多くの可能な異なるプロセスの設定が存在する。したがって、HETを定義する最も適当な方式は、「約20gの質量を有する、WC-COからなる均一な採鉱用超硬合金インサートにおいて、特定の程度の変形硬化を導入する任意のプロセスの設定」という点からである。本開示では、HETは、少なくとも以下の転動(ΔHV3%)後、HV3を使用して測定される、硬度の変化を導入する転動処理と定義される:
ΔHV3%=9.72-0.00543*HV3バルク(方程式1)
ΔHV3%=100*(HV30.3mm-HV3バルク)/HV3バルク(方程式2)
[式中、HV3バルクは採鉱用超硬合金インサートの最内側(中心)で測定した少なくとも30個の圧痕点の平均であり、HV30.3mmは、採鉱用超硬合金インサートの転動した表面から0.3mm下の少なくとも30個の圧痕点の平均である]。これは、均一な特性を有する採鉱用超硬合金インサートに対して行った測定に基づく。「均一な特性」とは、焼結後、表面ゾーンからバルクゾーンまでの硬度の差異が1%以下であることを意味する。均一な採鉱用超硬合金インサートに対して方程式(1)および(2)に記載された変形硬化を達成するために使用した転動パラメーターは、勾配特性を有する超硬合金体に適用される。
【0039】
HET転動は、転動作業が、媒体を用いずに、もしくは転動しているインサートより大きなサイズの媒体を用いて実施された場合には約150RPMで作動する、または転動しているインサートより小さなサイズの媒体が使用された場合には約200RPMで作動する、約600mmのディスクサイズを有するERBA120を使用して通常実施することができる。転動作業が、媒体を用いずに、もしくは転動しているインサートより大きなサイズの媒体を用いて実施された場合には約200RPMで作動する、または転動しているインサートより小さなサイズの媒体が使用された場合には約280RPMで作動する、約350mmのディスクサイズを有するRoslerタンブラーを使用して通常実施することができる。通常、パーツは少なくとも40~60分間転動させる。HETから導入された圧縮応力は、結合剤が枯渇したゾーンに隣接する結合剤を豊富に含むゾーンのより高い熱膨張係数により形成された引張応力と反作用するので、HETは、結合剤を豊富に含む表面ゾーンの使用を可能にする。
【0040】
本発明の別の態様は、1種または複数の硬質相成分および結合剤を含む採鉱用超硬合金インサートであって、採鉱用超硬合金インサートの表面の第1の部分から表面の第2の部分まで硬度勾配が存在し、表面の第1の部分が表面の第2の部分に実質的に対向していることによって、焼結後、
-表面の第1の部分が、表面の第2の部分より30HV3だけ柔軟~80HV3だけ硬質であり、
-表面の第1の部分がバルクより5~120HV3だけ硬質であり、
-表面の第2の部分がバルクより20HV3~70HV3だけ硬質である、
採鉱用超硬合金インサートに関する。
【0041】
硬度測定は、焼結後および任意の焼結後処理、例えば、転動の前に行う。
【0042】
一実施形態では、硬度勾配は、
-表面の第1の部分が表面の第2の部分より2%柔軟~+6%硬質であり、
-表面の第1の部分がバルクより+0.5~+10%だけ硬質であり、
-表面の第2の部分がバルクより+0.3%~6%だけ硬質である
とする。
【0043】
表面の第1の部分は、結合剤プラーが塗布されて、酸化物/炭酸塩ドープした表面を形成する表面である。表面の第2の部分は、結合剤プラーが塗布された部分に対向する表面(酸化物/炭酸塩ドープした表面に対向する側面)である。場合によっては、表面の第2の部分は、結合剤プッシャーが塗布されて、カーバイドドープした表面を形成する表面になってもよい。
【0044】
【0045】
「バルク」という用語は本明細書では、岩ドリルインサートの最内側の部分(中心)の超硬合金を意味し、本開示に対しては、最も低い硬度を有するゾーンである。
【0046】
Vickers硬度マッピングを使用して、超硬合金インサートの硬度を測定する。超硬合金体を縦軸に沿って切断し、標準的な手順を使用して研磨する。次いで、3kg荷重でのVickers押込みを研磨された区域にわたり対称的に分配する。
図3~13および16のひし形はHV3の押込みの場所を示している。硬度測定は、Euro Products Calibration Laboratory、UKから発行されているHV3テストブロックに対して較正したKB Pruftechnik GmbH製のプログラミング可能な硬度テスター、KB30Sを使用して実施する。硬度はISO EN6507に従い測定する。
【0047】
HV3測定を以下の方式で行った:
-試料の縁をスキャニングする。
-試料の縁から特定された距離において圧痕を生成するよう硬度テスターをプログラミングする。
-すべてのプログラミングした座標において3kg荷重で圧痕を作る。
-コンピュータは、圧痕を有する各座標にステージを移動し、自動調節ライト、自動フォーカスを作動し、各圧痕のサイズを自動的に測定する。
-ユーザーは、フォーカスおよび結果を撹乱する他の物質について圧痕のすべての写真を検査する。
【0048】
10~40個の圧痕を作り、酸化物/炭酸塩ドープした表面および酸化物/炭酸塩ドープした表面に対向する側面に対するHV3測定を、表面から下の0.3~0.8mmの距離において行い、次いで平均HV3測定値を計算した。バルクに対するHV3測定は、研磨された区域の中心付近の最も低い硬度を有する位置において、約1.5~2mm2の領域にわたり行い、約15~20個の圧痕からの平均を取る。
【0049】
一実施形態では、採鉱用超硬合金インサート内で、最大濃度(%結合剤-max)が最小濃度(%結合剤-min)より20%未満高い。
【0050】
一実施形態では、%結合剤-min(例えば、最小Co濃度/%Co-min)は、焼結した採鉱用超硬合金インサートの全高に対するパーセンテージで、表面の第1の部分から1~50%、好ましくは5~40%の深さにある。%結合剤-minは通常、表面の第1の部分から0.5~10mmの深さ、好ましくは0.8~7mmの深さにある。
【0051】
一実施形態では、結合剤濃度に2つのピークが存在する。1つは表面付近にあり、1つは採鉱用超硬合金インサートのバルクにある。第1の最大結合剤濃度(%結合剤-max1)(例えば%Co-max1)は、表面の第1の部分(例えば、酸化物/炭酸塩ドープした表面)に存在し、第2の最大結合剤濃度(%結合剤-max2)(例えば%Co-max2)は、採鉱用超硬合金インサートの全高のパーセンテージで、表面の第1の部分(例えば、酸化物/炭酸塩ドープした表面)から15~75%、好ましくは20~65%の深さに存在する。一実施形態では、%結合剤-max1≧%結合剤-max2である。代替の実施形態では、%結合剤-max1≦%結合剤-max2である。%結合剤-max2は通常、表面の第1の部分から2~15mm、好ましくは4~2mmにある。%結合剤-minと%結合剤-max2の高さの差異は通常1.5~12mm、好ましくは2.5~10mmである。
【0052】
一実施形態では、第1のクロム濃度最大(%Cr-max1)は、表面の第1の部分(例えば、酸化物/炭酸塩ドープした表面)に存在する。一実施形態では、さらに第2のクロム濃度最大(%Cr-max2)は、表面の第2の部分(例えば、酸化物/炭酸塩ドープした表面に対向する表面)に存在し、%Cr-max1>%Cr-max2である。クロム最小濃度(%Cr-min)は、採鉱用超硬合金インサートのバルク内、%Cr-max1~%Cr-max2の間に位置する。%Cr-minは好ましくは、焼結した採鉱用超硬合金インサートの全高のパーセンテージで、表面の第1の部分から40~99%の深さ、より好ましくは50~98%の深さにある。「表面において」とは表面から0.3mmまでと定義される。
【0053】
採鉱用超硬合金インサート内の化学物質濃度は、波長分散型分光器(WDS)を使用して、採鉱用超硬合金インサート断面の中心線に沿って測定する。
【0054】
本開示の別の態様は、本明細書でこれより以前またはこれより以降に記載されている採鉱用超硬合金インサートの、削岩またはオイルおよびガス掘削への使用に関する。
【0055】
以下の実施例は例示的、非限定的例である。
【実施例】
【0056】
実施例1
結合剤プラーのみの塗布
表2は分析した試料の概要を示す:
【0057】
表2の試料A~Iに対して、超硬合金インサートは、94重量%のWCおよび6重量%のCoの組成物を有する粉末ブレンドを使用して生成した。FSSSとして測定したWC粉末粒子サイズは、粉砕前5~7μmであった。ボールミル内湿式条件下で、エタノールを使用して、2重量%のポリエチレングリコール(PEG8000)を有機結合剤(加圧剤)として、および超硬合金粉砕体を添加して、WCおよびCo粉末を粉砕した。粉砕後、スラリーをN2雰囲気内でスプレー乾燥し、次いでこれに一軸性圧縮をかけて、外径(OD)約12mmおよび高さ約17~20mmのサイズ(試料B=高さ18.7mm;試料C=高さ17.4mm;試料D=高さ18.7mm;試料EおよびF=高さ17.4mm;試料G、HおよびI=高さ20.2mm)、重量およそ14~17g、それぞれ最上部に球状ドーム(「切断縁」)を有する採鉱用インサートにした。インサートは負の部分の上を研削したが、ドームおよび底部の部分は焼結したままの状態で置いた。
【0058】
試料A、BおよびCはスラリー塗布しなかった。試料D、EおよびFは、ディッピング技術を使用して結合剤プッシャーのみが「炭素ドープしたスラリー」の形態で、最上部、すなわち採鉱用超硬合金インサートのドーム型表面に塗布された比較例である。炭素ドープしたスラリーは、25重量%のCr3C2および水中に分散した5重量%のグラファイトからなり、インサート全長の約60%がカーバイドドープしたスラリーに曝露されるように超硬合金インサートに塗布した。試料F、GおよびHは、結合剤プラーのみが塗布された本発明の実施例であり、試料は、30重量%のCr3O2および70重量%のPEG300を含む「酸化物ドープしたスラリー」を、超硬合金インサートのドーム型表面に0.25~0.28mg/mm2の量で、インサート全長の約60%を酸化物スラリーに曝露させて塗布することにより処理した。Sinter-HIPを使用して、55バールのAr-圧力で、1410℃で1時間すべての試料を焼結した。これらの実施例に対して、スラリーは対称的に塗布した、すなわち、ドーム型表面に、インサートの側面のそれぞれから下方に広がる等しい距離だけ塗布した。
【0059】
試料B、EおよびHは、「標準的な転動」を使用し、ERBA-120遠心タンブラーを120RPMで30分間使用して転動した。試料C、FおよびIは、「高エネルギー転動(HET)」を使用し、ERBA-120遠心タンブラー170RPMをまたは40分間使用して転動した。
【0060】
試料JおよびKは、超硬合金インサートがより高い結合剤含有量を有する本発明の実施例である。超硬合金インサートは、89重量%のWCおよび11重量%のCoの組成物を有する粉末ブレンドを使用して生成した。FSSSとして測定したWC粉末粒子サイズは、粉砕前8~12μmであった。ボールミル内湿式条件下で、エタノールを使用して、2重量%のポリエチレングリコール(PEG8000)を有機結合剤(加圧剤)として、および超硬合金粉砕体を添加して、WCおよびCo粉末を粉砕した。粉砕後、スラリーをN2雰囲気内でスプレー乾燥し、次いでこれに一軸性圧縮をかけて、外径(OD)約17mmおよび高さ約22mmのサイズ、およそ31g重量、それぞれ最上部に円錐状の先端(「切断縁」)を有する採鉱用インサートにした。インサートは円柱状の部分の上を研削したが、円錐体の先端および底部の部分は焼結したままの状態で置いた。
【0061】
試料JおよびKは、結合剤プラーのみが塗布された本発明の実施例であり、試料は、ディッピング技術を使用して、30重量%のCr3O2および70重量%のPEG300を含む「酸化物ドープしたスラリー」を、円錐体先端および円柱状の区域の部分にわたり、0.25~0.35mg/mm2の量で、インサート全長のおよそ75%が酸化物ドープしたスラリーに曝露されるように塗布することにより処理した。Sinter-HIPを使用して、55バールのAR-圧力で、1410℃で1時間試料を焼結した。これらの実施例に対して、スラリーは対称的に塗布した、すなわち、ドーム型表面に、インサートの側面のそれぞれから下方に広がる等しい距離だけ塗布した。
【0062】
試料Kは、「高エネルギー転動(HET)」を使用して、RoslerモデルFKS 04.1 E-SA遠心タンブラー内で、250RPMで60分間、直径7mmのカーバイドボールの形態の50kgの媒体を用いて転動した。
【0063】
図3~13は、試料A~Iに対するHV3恒硬度マップをそれぞれ示し、
図15~18は表2からの試料A~Kに対する中心線プロットを示している。超硬合金インサートの硬度プロファイルは表1に記載されている通りである。
図14に示されている通り、結合剤プラーは採鉱用超硬合金インサートの先端(30)に塗布した。
【0064】
本発明の硬度プロファイルは先行技術とは非常に異なり、バルク内により柔軟なコアゾーンが存在し、採鉱用超硬合金インサートの最上部と底部との両方により高い硬度が存在することを示すことが見て取れる。
【0065】
実施例2
結合剤プラーおよび結合剤プッシャーの塗布
超硬合金インサートは、試料JおよびK(89重量%のWC+11重量%のCo)と同じ出発物質ならびに表2/実施例1に記載されている方法を使用して形成した。長さ24mmならびに直径19mmの円柱状底部および球状(半ドーム)先端を有する採鉱用インサートを一軸性加圧により形成した。2種のPEGスラリーを作った。第1の「結合剤プラー」は30%Cr
2O
3+PEGからなり、第2の「結合剤プッシャー」は25%Cr
3C
2+5%C+PEGからなった。次いで、インサートをスラリーにディッピングすることにより、スラリーをインサートの表面に塗布した。次いで、インサートを、1410℃、50バール圧力で、アルゴン雰囲気内で焼結した。この実施例では、2種のスラリーを対向する側面に非対称的に塗布した。すなわち、
図2に示されている通り、結合剤プラーをインサート(10)の側面に塗布し、結合剤プッシャーをこの反対側(20)に塗布した。HV5恒硬度マップが
図19に示されている。この方法を使用してより柔軟なコアが生成され、この硬度プロファイルにより効率的な掘削挙動が得られることが示されていることが見て取れる。2種のスラリーは、
図1に示されている通り、代わりに対称的に塗布することもできた。2種のスラリーの塗布の濃度および位置決めを制御することにより、用途の必要性を満たすための結合相の再分配を調整できる能力が促進される。
【0066】
実施例3
インサート圧縮試験
表2/実施例1に記載されている試料B、C、E、F、HおよびIのドリルビットインサートの強靱性を、インサート圧縮(IC)試験を使用して特徴付けた。IC試験方法は、ドリルビットインサートを、インサートに不具合が生じるまで、2つの並行面の硬質カウンター表面の間で、一定の変位速度で圧縮することを含む。ISO 4506:2017(E)規格「硬質金属-圧縮試験」に基づき、2000HVを上回る硬度の超硬合金アンビルを有する試験固定具を使用した一方、試験方法それ自体は岩ドリルインサートの強靱性を試験するように適応させた。固定具をInstron5989試験枠にフィットさせた。
【0067】
荷重軸は、インサートの回転対称の軸と同一であった。固定具のカウンター表面は、ISO 4506:2017(E)規格で必要とされる並行の程度、すなわち最大偏差0.5μm/mmを満たした。試験したインサートは、不具合が生じるまで、荷重変位曲線を記録しながら、0.6mm/分と等しい一定速度のクロスヘッド変位で荷重をかけた。試験評価前に試験装置および試験固定具の整合性を、測定した荷重変位曲線から差し引いた。試料の種類ごとに3つのインサートを試験した。各試験前、カウンター表面を損傷について検査した。測定した荷重が突然少なくとも1000N低下した場合、インサート不具合が生じたと定義した。試験したインサートのその後の検査で、すべての場合において、これは巨視的に可視の亀裂の発生と一致することを確認した。破断までに吸収された全変形エネルギーの点から材料強靱性を特徴付けた。インサート圧縮試験の結果が表3に示されている:
【0068】
IC試験結果によると、本発明の方法に従い処理した試料の強靱性は、同じように転動した試料を比較した場合、先行技術において公知の試料より高い。
【0069】
実施例4
振り子ハンマー
振り子ハンマー試験に対して、半径5.0mmおよび直径10.0mmのドーム型先端を有する採鉱用超硬合金インサートを生成し、実施例1に記載されている方法のように試料B、C、E、F、HおよびIを処理した。振り子ハンマー試験の設定の略図が
図20に示されている。ドーム区域がのみ突出するように、インサートをホルダー(30)にしっかりと固定した。振り子(40)には、硬質なカウンター表面が振り子ハンマーヘッドに固定されている(50)。使用したカウンター表面は、およそ1900HV30のVickers硬度を有する硬質な、微粒子の硬質金属等級の研磨したプレート(h=5.00mm、l=19.40mm、w=19.40mm)であった。振り子が放たれると、カウンター表面は試料先端をヒットする。試料が不具合を生じた場合には、試料により吸収された、ジュール(J)で測定される衝撃エネルギー(E)は記録しない。付与された最初の振り子角度に対して、衝撃エネルギーを方程式3[式中、mは振り子ハンマー4.22kgの全質量であり、gは重力定数9.81m/s2であり、Lは振り子ハンマーの長さ0.231であり、mおよびαはラジアンでの角度である]を使用して計算する。
E=(mtot×g×L×(1-cos(α))(方程式3)
【0070】
試料を破断するのに必要とされるエネルギーを決定するため、最初は適切な低い角度から放たれた振り子を試料に衝突させる。次いで、試料が不具合を起こすまで、角度を5度のぺースで段階的に増加させる。その後、同じ試料でできたインサートを、不具合を引き起こした衝突角度より3度低い角度で衝突させ、衝突する角度の増加分をより小さくして試験を繰り返す。インサートが破損しない角度を記録し、対応する衝突エネルギーを計算する。これらの試験において、カウンター表面は5~10回の衝突ごとに交換する。結果は以下の表4に示されている:
【0071】
結果は、同等の方式で転動した試料を比較した場合、本発明の方法を使用して生成した試料に対して耐衝撃性の有意な増加が存在することを示している。
【0072】
実施例5
化学分析
Jeol JXA-8530F ミクロプローブを使用して波長分散型分光器(WDS)分析手段により試料の化学勾配を調査した。表2/実施例1に記載されている試料D(比較)およびG(本発明)に対して、転動前に、焼結した材料の断面について、中心線に沿ってラインスキャンを行った。精密カッターで試料を調製し、これに続いて機械的研削および研磨を行った。1μmダイヤモンドペースト剤を付けた軟質の布を用いて研磨することにより、試料調製の最終工程を行った。加速電圧15kVを使用して、ステップサイズ100μmおよびプローブ直径100μmで、ラインスキャンを実施した。試料1つ当たり3回のラインスキャンを行って、平均を報告する。コバルト濃度プロファイルは
図21で比較され、クロム濃度プロファイルは
図22で比較され、Cr/Co濃度プロファイルは
図23で比較されている。
【0073】
より高い結合剤濃度を有する採鉱用超硬合金インサートとの比較のため、転動後の試料Kの断面について中心線に沿ってラインスキャンを行った。転動は化学組成にもWDS分析にも影響を与えないと想定している。Co濃度およびCr濃度に対するラインスキャンがそれぞれ
図24および25に示されている。
【0074】
本発明の方法に従い生成した試料に対して、最も高いCo濃度が超硬合金インサートの先端およびバルクに見出すことができ、最も低いCr濃度および最も低いCr/Co濃度が超硬合金インサートのバルクに見出されることが見て取れる。
【0075】
実施例6
フィールド試験
花崗閃緑岩(珪岩(quartsite)を有する花崗岩)を掘削するTampere、FinlandのSandvik試験鉱山のフィールドトレイルで、超硬合金インサートC(比較)、F(比較)およびI(本発明)を試験した。
【0076】
ビット1つ当たり6つのゲージインサートおよび3つのフロントインサートを使用してドリルビットを作製した。ゲージインサートは焼結直径10mmおよび高さ16.6mmを有した。フロントインサートは、焼結直径9mmおよび高さ13.8を有した。すべてのインサートは球状のドーム先端を有した。この試験では、ゲージインサート上の摩耗を比較した。ビット寿命という点からこれがビットの最も重要な部分だからである。したがって、すべてのビットに対するフロントインサートは、標準的超硬合金を使用して、実施例1、試料Cに従い作製し、摩耗に対する組成物の作用を評価するため、ゲージインサートはそれらの組成を変えた。
【0077】
作動圧力210バール、供給圧力90バール、回転圧70バールでの回転230rpmで、水圧式HFX5トップハンマードリル装置(Sandvik Tamrock製)を使用して試験を実施した。
【0078】
スライドノギスを使用して、およそ50mごとに測定した掘削の深さの関数としてゲージインサートの直径を測定した。Cインサートを有する2つのビット、Fインサートを有する1つのビットおよびIインサートを有する3つのビットを回収した。直径のより大きな変化はより大きな摩耗の徴候である。掘削深さの関数としての直径の変化が
図26に示されており、掘削したメートルの概要が直径損失の関数として以下の表5に示されている:
【0079】
直径の変化1mm当たりの掘削メートルは、比較用インサート(CおよびF)と比較して、本発明のインサート(I)がより大きく、本発明のインサート(I)は比較用インサート(C)と比較して耐摩耗性の55%の増加および比較用インサート(F)と比較して耐摩耗性の32%の増加を有することが明確に見て取れる。
【国際調査報告】