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特表2022-512974生体内CRISPR超抑制因子による合成免疫調節
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-07
(54)【発明の名称】生体内CRISPR超抑制因子による合成免疫調節
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20220131BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20220131BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20220131BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220131BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20220131BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20220131BHJP
   C12N 15/864 20060101ALN20220131BHJP
【FI】
C12N15/09 110
A61P31/04 ZNA
A61K35/76
A61K48/00
A61P7/00
G01N33/53 P
C12N15/864 100Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021525082
(86)(22)【出願日】2019-11-07
(85)【翻訳文提出日】2021-07-12
(86)【国際出願番号】 US2019060285
(87)【国際公開番号】W WO2020097344
(87)【国際公開日】2020-05-14
(31)【優先権主張番号】62/899,584
(32)【優先日】2019-09-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/757,679
(32)【優先日】2018-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】504318142
【氏名又は名称】アリゾナ ボード オブ リージェンツ オン ビハーフ オブ アリゾナ ステート ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100136249
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 貴光
(72)【発明者】
【氏名】キアニ サミラ
(72)【発明者】
【氏名】エブラヒムカニ モ レザ
(72)【発明者】
【氏名】モガダム ファルザネ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4C084AA13
4C084NA06
4C084NA14
4C084ZA511
4C084ZA512
4C084ZB351
4C084ZB352
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA12
4C087NA06
4C087NA14
4C087ZA51
4C087ZB35
(57)【要約】
本明細書では、CRISPRベースの合成抑制系、ならびに敗血症、対象における有害な免疫応答およびワルダンストロムマクログロブリン血症を治療するための合成抑制系を使用する方法および組成物が提供される。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一のアンプリコンを含む、骨髄分化一次応答88(MyD88)発現を生体内で抑制するための合成抑制系であって、
(a)(i)MyD88の一部に相補的なガイド配列および(ii)RNA結合タンパク質に特異的なアプタマー標的部位を含むガイドRNA(gRNA)と、
(b)1つ以上の抑制ドメインに融合した前記アプタマーRNA結合タンパク質をコードするヌクレオチド配列と、
(c)多機能性Casヌクレアーゼをコードするヌクレオチド配列と、を含み、
前記単一のアンプリコンが、DNAベースのウイルス送達のためにベクターにパッケージされている、合成抑制系。
【請求項2】
前記gRNAガイド配列のヌクレオチド長が15以下である、請求項1に記載の合成抑制系。
【請求項3】
前記gRNAガイド配列が、MyD88のTATAボックス領域の上流100塩基対(bp)以内を標的とする、請求項1に記載の合成抑制系。
【請求項4】
gRNAガイド配列が、配列番号1~4からなる群から選択される、請求項1に記載の合成抑制系。
【請求項5】
前記アプタマー標的部位が、MS2アプタマー標的部位であり、前記RNA結合タンパク質が、バクテリオファージMS2コートタンパク質である、請求項1に記載の合成抑制系。
【請求項6】
前記gRNAが前記MS2アプタマー標的部位を含み、前記ガイド配列のヌクレオチド長が15以下である、請求項5に記載の合成抑制系。
【請求項7】
前記抑制ドメインが、クルッペル関連ボックス(KRAB)ドメイン、メチル-CpG(mCpG)結合ドメイン2(meCP2)、スイッチ独立3転写調節因子ファミリーメンバーA(SIN3A)、ヒストン脱アセチル化酵素HDT1(HDT1)、メチル-CpG結合ドメイン含有タンパク質2(MBD2B)のn末端短縮、タンパク質ホスファターゼ1の核阻害因子(NIPP1)、およびヘテロクロマチンタンパク質1(HP1A)からなる群から選択される、請求項5に記載の合成抑制系。
【請求項8】
(b)の前記ヌクレオチドが、少なくとも2つの抑制ドメインに融合したMS2をコードする、請求項7に記載の合成抑制系。
【請求項9】
抑制ドメインに融合したMS2をコードする前記ヌクレオチド配列が、配列番号55、59、61、および63からなる群から選択される配列を含む、請求項8に記載の合成抑制系。
【請求項10】
前記アプタマーRNA結合タンパク質および抑制ドメインに融合した多機能性Casヌクレアーゼをコードするヌクレオチド配列を含む、請求項1に記載の合成抑制系。
【請求項11】
前記Casヌクレアーゼが、黄色ブドウ球菌Cas9ヌクレアーゼまたは化膿性連鎖球菌Cas9ヌクレアーゼである、請求項1に記載の合成抑制系。
【請求項12】
前記ベクターが、AAV2/1送達ベクターである、請求項1に記載の合成抑制系。
【請求項13】
請求項1に記載の合成抑制系、および薬学的に許容される送達ビヒクルを含む、薬学的組成物。
【請求項14】
敗血症の対象に、治療有効量の請求項13に記載の組成物を投与することを含む、敗血症の対象を治療する方法。
【請求項15】
免疫関連マーカーIcam-1、Tnfα、Ncf、Il6、Ifn-α、Ifn-β、Ifn-γ、およびStat4のレベルが、前記対象への投与後に減少する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
Icam-1、Tnfα、Ncf、Il6、Ifn-α、Ifn-β、Ifn-γ、およびStat4からなる群から選択される少なくとも1つの免疫関連マーカーの前記レベルを監視するステップと、前記少なくとも1つの免疫関連マーカーのレベルが低減するまで前記対象に追加用量の前記合成抑制系組成物を投与するステップと、を追加的に含む、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
血清乳酸が投与後に前記対象において減少する、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
対象において有害な免疫応答を予防する方法であって、AAVベクターを基本とするの遺伝子治療薬を対象に投与する前、または同時に、治療有効量の請求項13に記載の組成物を前記対象に投与することを含み、Icam-1、Tnfα、Ncf、Il6、Ifn-α、Ifn-β、Ifn-γ、およびStat4からなる群から選択される免疫関連マーカーの前記レベルが、前記AAVベクターを基本とするの遺伝子治療薬を受けているが前記治療的合成抑制系組成物を受けていない対象と比較して前記対象において低減する、方法。
【請求項19】
前記対象が、少なくとも1つのAAVベクターを基本とするの遺伝子治療薬を以前に受けた、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
Icam-1、Tnfα、Ncf、Il6、Ifn-α、Ifn-β、Ifn-γ、およびStat4からなる群から選択される少なくとも1つの免疫関連マーカーの前記レベルを監視するステップと、前記少なくとも1つの免疫関連マーカーの前記レベルが低減するまで前記対象に追加用量の前記合成抑制系組成物を投与するステップと、を追加的に含む、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
治療を必要とする被験者におけるワルデンシュトレームマクログロブリン血症を治療する方法であって、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症の対象に、治療有効量の請求項13に記載の組成物を投与することを含む方法。
【請求項22】
L265遺伝子座でMyD88を切断するように構成されたgRNAおよび前記L265遺伝子座で野生型MyD88の一部をコードする相同性指向修復テンプレートを含む組成物を前記対象に投与することをさらに含み、それによって内因性L265P変異体MyD88のレベルが前記対象で低下する、請求項21に記載の治療方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年11月8日出願の米国仮出願第62/757,679号および2019年9月12日出願の米国仮出願第62/899,584号に対する優先権を主張し、これらの仮出願のそれぞれの全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
連邦政府の資金提供を受けた研究に関する陳述
この発明は、国立衛生研究所によって授与されたR01 EB024562およびDARPAによって授与されたHR001IL6-23657の下で政府の支援を受けて行われた。政府は、本発明において一定の権利を有する。
【0003】
EFS-WEB経由で提出された配列リストの参照
「112624_0ll35_ST25.txt」という名前の48.4kbのサイズのASCIIテキストファイルの配列リストの内容は、2019年11月7日に作成され、EFS-Webを介して本出願とともに電子的に提出され、その全体が本明細書に参照として組み込まれる。
【背景技術】
【0004】
一般的な遺伝子送達方法と比較して、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターは、様々な種類の組織を高効率で標的とする驚くべき能力により、治療用遺伝子送達に幅広い可能性を有している。AAVベクターは、現在、臨床で使用されている一般的なタイプのDNAウイルスである。慢性疾患の治療には、AAVで達成される導入遺伝子の長期的かつ安定した発現が必要である。しかしながら、AAVベクターまたは送達された導入遺伝子が適応免疫応答を引き起こし、ウイルスのカプシドまたは導入遺伝子を発現する細胞に対する抗体の産生および細胞傷害性T細胞応答を引き起こすことが示されている。その後、この適応宿主免疫応答は、導入遺伝子の効果的な発現を危うくし、生体内でのAAV媒介性遺伝子治療において大きな課題となっている。
【0005】
並行して、クラスター化された規則的に間隔をあけた短いパリンドローム反復(CRISPR)-Cas9系は、遺伝子編集と遺伝子調節を促進することにより、遺伝子治療に前例のない機会を提供している。非常に有望であるが、これまでに研究されたCRISPRの最も一般的な形態であるStreptococcus Pyogenes(Sp-Cas9)由来のCas9タンパク質は、潜在的な免疫応答およびゲノム特異性を含む、臨床移行に関する多くの課題に直面している。ヒト試料に関する最近の研究は、試験された患者のサブセットにおけるSp-Cas9に対する既存の体液性および細胞性免疫応答を示唆しており、Cas9タンパク質が新しい患者でも細胞性および体液性免疫応答を誘発する可能性があるという考えを提起している。さらに、細胞内のCas9発現の一時的な制限は、ゲノム内のCRISPRのオフターゲット活性を減らすのに有益であることが実証されている。まとめると、これらの証拠は、CRISPRとその送達媒体(AAVウイルスを含む)の悪影響をオンデマンドで調節する戦略が、臨床移行の安全性にとって非常に重要であることを示唆している。
【発明の概要】
【0006】
第1の態様では、(a)(i)MyD88の一部に相補的なガイド配列と、(ii)RNA結合タンパク質に特異的なアプタマー標的部位と、を含む、ガイドRNA(gRNA)と、(b)1つ以上の抑制ドメインに融合したアプタマーRNA結合タンパク質をコードするヌクレオチド配列と、(c)多機能性Casヌクレアーゼをコードするヌクレオチド配列と、を含む単一のアンプリコンを含み、単一のアンプリコンが、DNAベースのウイルス送達のためにベクターにパッケージされている、骨髄分化一次応答88(MyD88)発現を生体内で抑制するための合成抑制系が本明細書において提供される。いくつかの実施形態において、gRNAガイド配列は、14ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態において、gRNAガイド配列は、MyD88のTATAボックス領域の上流100塩基対(bp)以内を標的とする。いくつかの実施形態において、gRNAガイド配列は、配列番号1~4からなる群から選択される。いくつかの実施形態において、アプタマー標的部位は、MS2アプタマー標的部位であり、RNA結合タンパク質は、バクテリオファージMS2コートタンパク質である。いくつかの実施形態において、gRNAはMS2アプタマー標的部位を含み、ガイド配列は14ヌクレオチド長である。
【0007】
いくつかの実施形態において、抑制ドメインは、クルッペル関連ボックス(KRAB)ドメイン、メチル-CpG(mCpG)結合ドメイン2(meCP2)、スイッチ非依存性3転写調節因子ファミリーメンバーA(SIN3A)、ヒストン脱アセチル化酵素HDT1(HDT1)、メチル-CpG結合ドメイン含有タンパク質2のn末端切断(MBD2B)、タンパク質ホスファターゼ-1の核阻害剤(NIPP1)、およびヘテロクロマチンタンパク質1(HP1A)からなる群から選択される。いくつかの実施形態において、(b)のヌクレオチドは、少なくとも2つの抑制ドメインに融合したMS2をコードする。いくつかの実施形態において、抑制ドメインに融合したMS2をコードするヌクレオチド配列は、配列番号55、59、61、および63からなる群から選択される配列を含む。
【0008】
いくつかの実施形態において、系は、アプタマーRNA結合タンパク質および抑制ドメインに融合された多機能性Casヌクレアーゼをコードするヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施形態において、Casヌクレアーゼは、黄色ブドウ球菌Cas9 ヌクレアーゼまたは化膿性連鎖球菌Cas9ヌクレアーゼである。いくつかの実施形態において、ベクターはAAV2/1送達ベクターである。
【0009】
第2の態様において、本明細書に記載される合成抑制系および薬学的に許容される送達ビヒクルを含む薬学的組成物が、本明細書において提供される。
【0010】
第3の態様では、敗血症の対象に、本明細書に記載の合成抑制系を含む組成物の治療有効量を投与することを含む。敗血症の対象を治療する方法が本明細書において提供される。いくつかの実施形態において、免疫関連マーカーIcam-1、Tnfα、Ncf、Il6、Ifn-α、Ifn-β、Ifn-γ、およびStat4のレベルは、投与後の対象において減少する。いくつかの実施形態において、方法は、Icam-1、Tnfα、Ncf、Il6、Ifn-α、Ifn-β、Ifn-γ、およびStat4からなる群から選択される少なくとも1つの免疫関連マーカーのレベルをモニターするステップと、および少なくとも1つの免疫関連マーカーのレベルが低減するまで合成抑制系組成物の追加用量を対象に投与するステップと、を追加的に含む。いくつかの実施形態において、対象において、投与後に血清乳酸が減少する。
【0011】
第4の態様では、対象にAAVベクターを基本とするの遺伝子治療薬の投与前または投与と同時に、本明細書に記載の合成抑制系を含む組成物の治療有効量を対象に投与することを含む、対象における有害な免疫応答を予防する方法であって、Icam-1、Tnfα、Ncf、Il6、Ifn-α、Ifn-β、Ifn-γ、およびStat4からなる群から選択される免疫関連マーカーのレベルが、AAVベクターに基づく遺伝子治療を受けたが、治療用合成抑制系組成物を受けなかった対象と比べて対象において低減する方法が本明細書において提供される。いくつかの実施形態において、対象は、少なくとも1つのAAVベクターを基本とするの遺伝子治療を以前に受けた。いくつかの実施形態において、この方法は、Icam-1、Tnfα、Ncf、Il6、Ifn-α、Ifn-β、Ifn-γ、およびStat4からなる群から選択される少なくとも1つの免疫関連マーカーのレベルをモニターするステップと、少なくとも1つの免疫関連マーカーのレベルが低減するまで、合成抑制系組成物の追加用量を対象に投与するステップと、を追加的に含む。
【0012】
第5の態様において、ワルデンストレームマクログロブリン血症を有する対象に、本明細書に記載の合成抑制系を含む組成物の治療有効量を投与することを含む、それを必要とする対象においてワルデンストレームマクログロブリン血症を治療する方法が本明細書において提供される。いくつかの実施形態において、方法は、L265遺伝子座でMyD88を切断するように構成されたgRNA、およびL265遺伝子座で野生型MyD88の一部をコードする相同性指向修復テンプレートを含む組成物を対象に投与することを追加的に含み、それにより対象において内因性L265P突然変異体MyD88のレベルが低減する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1A-1H】インビトロおよび生体内でのCRISPRベースの標的化されたMyd88抑制を示し、AAVベースの遺伝子治療に対する宿主応答の調節における有効性を実証している。(図1A)上部:Myd88遺伝子座のプロモーターを標的としたgRNA結合部位の模式図。下部:マウス神経芽細胞腫(N2A)細胞株に、MyD88 gRNA対またはmock gRNA対照をCas9ヌクレアーゼおよび、MS2-KRABまたはMS2-HP1aKRABカセットとともにトランスフェクトした。トランスフェクションの72時間後、細胞を10μg/mlの濃度のリポ多糖(E.coli LPS、血清型0111:B4)で処理してMyd88発現を誘導した。(図1B)LPS処理後のMyd88発現mRNAレベルのqRT-PCR分析。倍率変化は、非標的化Mock gRNAを受けた細胞の発現レベルに対して定量化された(N=4独立したトランスフェクション)。(図1C)Cas9ヌクレアーゼトランスジェニックマウスへのAAV-MyD88またはMockリプレッサーの眼窩後注射を含む実験の概略図。(図1D)MS2-HP1a-KRABまたはMS2-KRABを有するAAV/Myd88またはAAV/Mockベクターの1E+12GCの眼窩後注射の3週間後のCas9トランスジェニックマウスの肺、血液、および骨髄におけるMyd88発現レベルのqRT-PCR分析(注射されたグループの場合はN=4~5、注射されていないグループの場合はN=2)。倍率変化は、ユニバーサルコントロールに対する(図1Eおよび1F)ユニバーサルコントロールに対するIcam-1(図1E)およびTnfα(図1F)mRNAの発現レベルの倍率変化である。(注射されたグループの場合はN=4~5、および注射されていないグループの場合はN=2)。ユニバーサルコントロールは、AAV注射を受けなかった注射されていないマウスから収集された血液試料中の所望の転写物のレベルである。**P<0.01および*P<0.05は、スチューデントのt検定によって測定された統計的有意性を示す。(図1G)Myd88-Ms2-HP1aKRAB対Myd88-MS2-KRABで処置したマウスから採取した骨髄試料間の差次的に発現する遺伝子の有意性対発現を示すボルケーノプロット。点線より上の点は、遺伝子が有意に上方および下方に調節されている(調整されたp値<0.05)ことを表している。MS2-HP1aKRABの存在下で高度に下方抑制された遺伝子は、免疫グロブリン重鎖および軽鎖のファミリーである。(図(1H)ELISAによって測定された抗AAV1 IgG2A抗体の分析は、AAV1特異的抗体がMyd88前処置で著しく抑制されることを明らかにする。**P<0.01および*P<0.05は、スチューデントのt検定によって測定された統計的有意性を示す。
図2A-2H】宿主炎症性応答のCRISPRベースの調節がLPS媒介性敗血症の後に保護を与えることを示す。(図2A)敗血症におけるCRISPR媒介性MyD88抑制の保護効果を評価するための実験の概略図。1E+12GCのAAVベクターを、後眼窩注射を介してCas9発現マウスに注射し、約3週間後、それらはLPS(5mg/kg)により腹腔内で治療された。LPS注射の6時間後、マウスを屠殺した。(1]図2B~2D)炎症性遺伝子の内因性抑制。LPS注射後のユニバーサルコントロールに対する生体内Myd88(図2B)、Tnfα(図2C)、およびIcam-1(図2D)の発現のqRT-PCR分析(注射されたグループの場合はN=5~6、注射されていないグループの場合はN=2)。(図2E)多重ELISAアッセイを用いた血漿および肺における炎症性サイトカインのパネルの測定。測定された濃度を10を底とする対数として値をヒートマップに表示する。(図2F)LPS注射の6時間後にマウスから採取した血漿試料中の循環L-乳酸(N=4)。(1]図2G)LPS注射の6時間後の肝臓試料における生体内Myd88発現のqRT-PCR分析。倍率変化の発現レベルは、ユニバーサルコントロールと比較して定量化された(注射されたグループの場合はN=4~6、注射されていないグループの場合はN=2)。(図2H)コレステロール、HDL、LDL、およびALTの血漿濃度(N=3~4)。「ユニバーサルコントロール」は、AAV注射を受けていない非注射マウスから採取した血液試料中の目的転写物のレベルである。2B~Dおよび2Cについては、「非注射」マウスのデータも図1D~Fに報告されていることに注意されたい。**P<0.01および*P<0.05は、スチューデントのt検定によって測定された統計的有意性を示す。
図3A-3B】インビトロでのアプタマー媒介性CRISPR抑制を示す。(図3A)リプレッサードメインのCRISPR複合体へのアプタマー媒介性動員の概略図。(図3B)HEK293FT細胞におけるCRISPR複合体へのリプレッサードメインのアプタマー媒介性動員後の標的遺伝子のmRNA発現。倍率変化は、dCas9のみの対象群と比較して定量化された。N=3独立したトランスフェクション。
図4】異なる組織に対するAAV2/1指向性の生体内分析を示す。AAV2/1-GFPは、後眼窩注射を介してC57BL/6マウスに送達された。GFP発現は、qRT-PCRによって様々な組織で評価された。平均倍率変化発現レベルは、各グループの上に示され、注射されていないマウスと比較して定量化されている(注射されていないグループの場合はN=3、AAV-GFPグループの場合はN=4~6)。
図5A-5C】AAV-Myd88-MS2-HP1aKrab対AAV-Myd88-MS2-Krabで処置されたマウスから収集された骨髄試料のRNA配列分析を示す。(図5A)Myd88-MS2-HP1aKRAB対Myd88-MS2-KRABからの骨髄の2つの複製における遺伝子の発現を比較する散布図(100万のマップされたリード当たりの転写物のキロベース当たりのフラグメント、FPKM)。Myd88、Il1b、IcamI、Tnfα、およびIL6は赤で強調表示され、MyD88-MS2-KRABと比較してMyd88-Ms2-HP1a-KRABグループで最も下方抑制された遺伝子はシアンで強調表示されている。(図5B)AAV-Myd88-MS2-HP1aKrab対AAV-Myd88-MS2-Krabで処置したマウスから採取した骨髄試料を比較するGO富化ヒストグラム。GO富化分析で有意に濃縮された上位20の項が表示される。*は、padj値<0.05および有意性。HP1aKRABを使用した場合、Myd88シグナル伝達に関連する細菌に対する防御応答などの経路は、ほとんどが下方抑制されていることに注意されたい。(図5C)Myd88-MS2-HP1aKRAB対Myd88-MS2-KRABのBM試料を比較しているReactomeデータベースの上位20の富化された遺伝子を表示するReactome富化の棒グラフ。*有意性padj値<0.05および有意性。
図6】LPS損傷後の一連の免疫関連転写産物の分析を示す。肺、血液、および骨髄におけるNcf、Il6、Ifnγ、およびIl1b mRNA発現のqRT-PCR分析は、LPS注射後のユニバーサルコントロールと比較して定量化した(注射されたグループの場合はN=5~6、注射されていないグループの場合はN=2)。ユニバーサルコントロールは、注射されていないCas9トランスジェニックマウスから収集された血液試料中の所望の転写物のレベルである。*P<0.05、有意
図7】LPS注射後の肺および骨髄における免疫関連遺伝子パネルのレベルの評価を示す。肺および骨髄へのLPS注射後のユニバーサルコントロールと比較した、生体内CD68(マクロファージマーカー)、Infα、Infβ、CD4、Cxcl1、およびStat4のqRT-PCR分析。(注射されたグループの場合はN=5~6、注射されていないグループの場合はN=2)。「ユニバーサルコントロール」は、注射されていないCas9トランスジェニックマウスから収集された血液試料中の目的転写物のレベルである。*P<0.05、有意
図8A-8C】Myd88遺伝子座の異なる領域を標的とするgRNAのセットの抑制効率の評価を示す。(図8A)Myd88遺伝子座のプロモーターを標的とするgRNA結合部位の模式図。(図8B)N2A細胞に、示されたgRNAおよびMS2-HP1aKRABカセットを含むCRISPR機構の他の成分をトランスフェクトした。トランスフェクションの3日後にqRT-PCRによってMyd88抑制のレベルを分析した(N=2)。倍率変化は、gRNAを受けていないグループに対する(ガイドなし)。(図8C)AAVの後眼窩注射の3週間後の生体内Myd88発現のqRT-PCR分析。遺伝子発現の倍率変化は、ユニバーサルコントロールに対して定量化された(注射されたグループの場合はN=4~6、注射されていないグループの場合はN=2)。ユニバーサルコントロールは、注射されていないCas9トランスジェニックマウスから収集された血液試料中の所望の転写物のレベルである。(図8C)AAV-Mock-MS2-HP1aKRABおよびAAV-Myd88set1-MS2-HP1aKRABデータに関する注記も図1Dに報告されている。*P<0.05、有意
図9】LPS損傷後に損傷を受けた血清マーカーの分析を示す。腎臓への損傷のマーカーである血清血中尿素窒素(BUN)は、LPS損傷後に血清中で増加し、Myd88抑制によりそのような増加が防止された。LPS治療とMyd88抑制は、一般的に膵臓の損傷を示す血清リパーゼレベルに有意な影響を与えなかった。*P<0.05、有意
図10A-10C】Cxcr4の内因性抑制を示す。(図10A)Cxcr4遺伝子座のプロモーターを標的とするgRNA結合部位の模式図。(図10B)未処理の264.7細胞に、AAV-Cas9とともにAAV-CXCR4を形質導入した。Cxcr4 mRNAの発現レベルは、形質導入の5日後にqRT-PCRを使用して分析された。倍率変化は、同じ用量のAAV-Mockを受けた細胞の発現レベルに対して定量化された。(N=2)。(図10C)Cas9トランスジェニックマウスへのAAV注射の3週間後の肺試料における生体内Cxcr4発現のqRT-PCR分析。倍率変化発現レベルは、同じ用量のAAV-Mockを受けたマウスに対して定量化された。(N=4)*P<0.05、有意。
図11】MS2-HP1aKRABとCas9-HP1aKRABとの違いを示す。データは、Cas9とMS2融合HP1a-KrabリプレッサーおよびHP1a-Krabと融合したCas9を使用した同様のレベルの抑制を示している。
図12】Myd88および下流サイトカインの抑制とそれに続く野生型マウスへのCRISPR送達を示す。
図13】Myd88および下流サイトカインの抑制とそれに続くLPSを注射した野生型マウスへのCRISPR送達を示す。
図14】異なる遺伝子座を標的とする14nt対20ntのgRNAガイド配列を有するCas9の抑制効率の比較を示す。データは、14nt gRNAまたは20nt gRNAと組み合わせたCas9+MS2-HP1a-Krabリプレッサーを使用した同様のレベルの抑制を示している。
図15】CRISPR送達24時間後の生体内Myd88発現のqRT-PCR分析を示す。マウスは2.5mg/kgLPSを受けた。LPS注射の2時間後、マウスはpepjetを使用してCRISPR合成抑制系を受けた。Myd88発現のqRT-PCR分析は、肺、肝臓、および骨髄におけるMyd88のレベルの低下を示している。
図16】IDEXX肝臓パネルのデータを示している。マウスは2.5mg/kgLPSを受けた。LPS注射の2時間後、マウスはpepjetを使用してCRISPR合成抑制系を受けた。
【0014】
参照による組み込み
本明細書に記載されているすべての刊行物、特許、および特許出願は、個々の刊行物、特許、および特許出願が参照により組み込まれるように具体的かつ個別に示されている場合と同じ程度に、参照により本明細書に組み込まれる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示は、骨髄性分化一次応答88(MyD88)の発現を生体内で抑制するための組成物および方法を記載する。本明細書に記載の組成物の使用および方法は、アデノ随伴ウイルスベクターおよびCRISPR遺伝子編集構築物の投与に関連する免疫応答を治療または予防するのに有益である。さらに、本明細書に記載の組成物および方法は、敗血症に関連する異常な免疫応答を治療または予防するのに有用である。
【0016】
本明細書において提供されるCRISPR合成リプレッサー系は、MyD88の転写を阻害するように構成されている。MyD88は、自然免疫応答および適応免疫応答における重要なノードであり、Toll様受容体(TLR)およびインターロイキン(IL)-1ファミリーのシグナル伝達を含む多くのシグナル伝達経路の必須アダプター分子として機能する。多機能性CasヌクレアーゼとgRNAアプタマーを使用して開発された合成リプレッサー系は、生体内で内因性MyD88レベルを調節し、標的細胞の自然免疫応答および適応免疫応答の免疫調節に貢献する。例えば、標的細胞に多機能性Casヌクレアーゼを(i)MyD88に相補的なgRNA-MS2アプタマー結合標的複合体および(ii)MS2に結合した抑制ドメインとともに導入することにより、合成リプレッサー系はMyD88の転写を減少させ、MyD88機能に関連するシグナル伝達経路を下方抑制し、細菌およびウイルスなどの異物に対する細胞性免疫応答に関係している。
【0017】
したがって、本明細書において提供されるいくつかの態様は、MyD88の生体内発現を調節するための合成抑制系である。特定の実施形態において、系は、(a)(i)MyD88遺伝子の少なくとも一部に相補的である15ヌクレオチド長(nt)以下であるガイド配列と、(ii)RNA結合タンパク質に特異的なアプタマー標的部位と、を含むガイドRNA(gRNA)と、(b)抑制ドメインに融合したアプタマーRNA結合タンパク質をコードするヌクレオチド配列と、(c)多機能性Casヌクレアーゼをコードするヌクレオチド配列と、を含む。いくつかの実施形態において、gRNAヌクレオチド、抑制ドメインヌクレオチド、およびCasヌクレアーゼヌクレオチドは、単一のアンプリコンを含む。特定の実施形態において、単一アンプリコンは、DNAベースのウイルス送達のためにベクターにパッケージされる。
【0018】
好ましい実施形態において、CRISPRベースの合成抑制系は、エキソソーム、ウイルス、ウイルス粒子、ウイルス様粒子、またはナノ粒子などの送達ベクターを使用して哺乳動物細胞に生体内送達するためにパッケージングできる単一のアンプリコンである。特定の実施形態において、単一のアンプリコン中に、場合によっては抑制ドメインに融合される多機能性Casヌクレアーゼ、および14ヌクレオチド長のガイド配列を含むgRNAを含む合成調節系であって、哺乳類細胞において切断および/または転写を調節する合成調節系が、本明細書において提供される。
【0019】
本明細書で使用される場合、「ガイドRNA」(gRNA)は、標的遺伝子に少なくとも一部に相補的なガイド配列、およびCasヌクレアーゼを標的遺伝子に動員する二次構造および一次配列(例えば、tracrRNA)を提供する足場配列を含むヌクレオチド配列を指す。いくつかの実施形態において、gRNAは、ヘアピンループ、テトラループ、ステムループ、およびそれらの組み合わせなどであるがこれらに限定されない二次構造要素を含む。gRNA配列および構造のバリエーションは、当技術分野で知られている。当業者は、開示された合成抑制系に適した、Cas9媒介性抑制に適用可能なgRNA配列の変動耐性を認識するであろう。gRNA標的遺伝子はまた、標的遺伝子の標的部位のすぐ下流に位置するプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)も含む。PAM配列の例は既知である(例えば、Shah et al.,RNA Biology 10(5):891~899,2013を参照)。いくつかの実施形態において、PAM配列は、アーキテクチャで使用されるCasヌクレアーゼの種に依存する。
【0020】
いくつかの実施形態において、標的遺伝子の少なくとも一部に相補的なgRNAのガイド配列は、約20ヌクレオチド(nt)の配列である。いくつかの実施形態において、標的遺伝子の少なくとも一部に相補的なgRNAのガイド配列は、15以下のヌクレオチド(nt)の切断されたガイド配列である。いくつかの実施形態において、gRNAは、15ntのガイド配列、14ntのガイド配列、または13ntのガイド配列を含む。特定の製造者ニズム、理論、または作用機序に拘束されることなく、本明細書に記載の合成抑制系は、ヌクレアーゼが20ntのガイド配列ではなく14ntのガイド配列を有するgRNAに結合すると、Casヌクレアーゼ活性の除去を利用する。Cas複合体を標的遺伝子の標的部位に動員することにより、ヌクレアーゼ活性を阻害するが、Cas複合体は標的遺伝子を切断せず、標的遺伝子の発現を阻害および抑制する。停止したCas複合体への抑圧ドメインのさらなる動員は、標的遺伝子の抑圧を増強する。
【0021】
特定の実施形態において、gRNAは、1つ以上の内因性遺伝子を標的とするように構成される。例として、抑制の対象となる内因性遺伝子には、成長因子、サイトカイン、相同組換え修復に関与する遺伝子、非相同末端結合(NHEJ)に関与する遺伝子、代謝酵素、細胞周期進行酵素、および創傷治癒と組織修復の経路に関与する遺伝子が含まれるが、これらに限定されない。好ましい実施形態において、内因性遺伝子はMyD88である。いくつかの実施形態において、gRNAは、MyD88の転写開始部位の上流または下流200塩基対(bp)以内を標的とするように構成される。いくつかの実施形態において、gRNAは、MyD88遺伝子におけるTATAボックス領域の100bp上流以内を標的とするように構成される。いくつかの実施形態において、gRNAのガイド配列は、配列番号1~4からなる群から選択される。
【0022】
遺伝子抑制の有効性とシステムのスケーラビリティを向上させるために、ガイドRNA(gRNA)は、場合によっては、RNA結合タンパク質に特異的なヘアピンアプタマー標的部位を含むように操作されている場合がある。場合によっては、アプタマーの標的部位は、gRNAのテトラループとステムループに付加される。RNA認識モチーフは当技術分野で知られており、例えば、限定するものではないが、MS2結合モチーフ、COM結合モチーフ、または特定のタンパク質、MS2コートタンパク質、COM、またはPP7がそれぞれ結合するPP7結合モチーフなどである。場合によっては、アプタマーの標的部位は、二量体化したMS2バクテリオファージコートタンパク質に結合することができる。PP7は、バクテリオファージPseudomonasのRNA結合コートタンパク質である。PP7は、MS2と同様に、特定のRNA配列と二次構造に結合する。PP7 RNA認識モチーフは、MS2のモチーフのものとは異なる。その結果、PP7とMS2を多重化して、異なるゲノム遺伝子座で異なる効果を同時に仲介することができる。
【0023】
いくつかの実施形態において、gRNAは、RNA Pol IIプロモーターまたはRNA Pol IIIプロモーターの制御下で発現される。pol IIIプロモーターの例には、U6およびH1プロモーターが含まれるが、これらに限定されない。pol IIプロモーターの例には、レトロウイルスRous肉腫ウイルス(RSV)LTRプロモーター(任意選択でRSVエンハンサーを伴う)、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター(任意選択でCMVエンハンサーを伴う)、SV40プロモーター、ジヒドロ葉酸還元酵素プロモーター、β-アクチンプロモーター、ホスホグリセロールキナーゼ(PGK)プロモーター、およびEF1αプロモーターが含まれるが、これらに限定されない。場合によっては、CRISPR応答プロモーターが使用される。本明細書で使用される「CRISPR応答性プロモーター」という用語は、真核生物プロモーター、ならびに調節された遺伝子発現のための合成遺伝子調節装置および回路を包含する。いくつかの実施形態において、CRISPR応答性プロモーターは、RNA Pol IIプロモーターまたはRNA Pol IIIプロモーターを含む。CRISPR応答性プロモーターは、CRISPR抑制性プロモーター(CRP)またはCRISPR活性化プロモーター(CAP)であり得る。
【0024】
gRNAおよび短鎖ヘアピンRNA(shRNA)の発現に使用されているU6およびH1などの標準的なPol IIIプロモーターは、下流遺伝子の空間的または時間的制御を許可しない。CRISPR gRNAの空間的制限には、特にヒトの治療に関して、いくつかの重要な利点がある:1)gRNAの発現を目的の組織/細胞型に制限し、これにより、送達ツールがCRISPRコーディングカセットを全身に送達するという懸念がなくなる。2)生殖細胞におけるCRISPR活性に対する懸念を排除することにより、生殖細胞変異を回避する。3)隣接細胞またはクロストーク細胞における差次的な遺伝子編集/調節;異なる細胞型特異的プロモーターによるgRNA調節により、科学者は異なる細胞型における異なる遺伝子セットの発現を調節することができる。したがって、特定の実施形態において、CRISPRベースの遺伝子回路は、細胞型特異的プロモーターを使用してガイドRNA(gRNA)の発現を駆動するように構成される。場合によっては、CRISPRベースの遺伝子回路は、合成プロモーターの代わりに内因性または細胞型特異的プロモーターを含むように構成される。例えば、合成RNA Pol IIまたはPol IIIプロモーターは、細胞型またはコンテキスト固有のプロモーターと交換でき、細胞内シグナル伝達と連動して、多段階のセンシングと細胞挙動の調節を可能にする。場合によっては、転写抑制カスケードは、相互接続された2、3、または4つのCRISPR転写抑制回路(NAND論理ゲート)で構成される。
【0025】
一般に、プロモーターは、産物をコードする核酸の転写を開始する核酸の領域である。プロモーターは、産物をコードする核酸の転写開始部位から上流(例えば、0bpから-100bp、-30bp、-75bp、または-90bp)に位置するか、または転写開始部位がプロモーター内に位置する場合がある。プロモーターは、100~1000ヌクレオチド塩基対長または50~2000ヌクレオチド塩基対長を有し得る。いくつかの実施形態において、プロモーターは、少なくとも2キロベース(例えば、2~5kb、2~4kb、または2~3kb)の長さを有する。
【0026】
特定の実施形態において、RNA pol IIプロモーターからのgRNA発現は、Csy4エンドリボヌクレアーゼ媒介性切断を使用して調節することができる。場合によっては、Csy4によって処理される単一のコーディング領域から複数のgRNAがタンデムに配置される。場合によっては、20ntのgRNA標的部位がU6プロモーター部位とgRNAの本体の両方に挿入されている改変されたU6駆動型14nt gRNAカセットを使用することにより、高いオン/オフ比が達成される。この構造は、インビトロ、生体内、およびエキソビボで20ntのgRNAの発現時に14ntのgRNAカセットの完全な破壊を可能にする、第二世代キルスイッチを形成する。場合によっては、そのようなキルスイッチは、例えば、遺伝子治療の標的となることが多く、免疫寛容原性環境である組織などにおいて、生体内で発現する。本明細書に記載の合成リプレッサー系での使用に適したCas媒介性キルスイッチの追加の実施形態は、PCT公開第WO2019/005856号に記載されており、その全体は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0027】
場合によっては、gRNAに組み込まれたアプタマー標的部位に特異的なRNA結合タンパク質(例えば、MS2、COM、またはPCP)は、例えば、クルッペル関連ボックス(KRAB)ドメインなどの抑制ドメインに融合される。他の好適な抑制ドメインは当技術分野で知られており、メチル-CpG(mCpG)結合ドメイン2(meCP2)、スイッチ非依存性3転写レギュレーターファミリーメンバーA(SIN3A)、ヒストン脱アセチル化酵素HDT1(HDT1)、メチル-CpG-結合ドメイン含有タンパク質2のn-末端切断(MBD2B)、タンパク質ホスファターゼ-1の核阻害剤(NIPP1)、およびヘテロクロマチンタンパク質1(HP1A)を含むが、これに限定されない。いくつかの実施形態において、RNA結合タンパク質は、KRABおよび少なくとも1つの追加の抑制ドメインに融合される。いくつかの実施形態において、RNA結合タンパク質MS2は、KRABおよび少なくとも1つの追加の抑制ドメインに融合される。いくつかの実施形態において、MS2は、KRABおよびHP1Aに融合される。いくつかの実施形態において、MS2は、KRABおよびMECP2に融合される。いくつかの実施形態において、MS2は、MECP2、KRAB、およびMBD2Bに融合される。いくつかの実施形態において、MS2は、MBD2BおよびHP1Aに融合される。いくつかの実施形態において、RNA結合タンパク質-抑制ドメイン融合は、操作された核酸によってコードされる。
【0028】
いくつかの実施形態において、RNA結合タンパク質および少なくとも1つの抑制ドメインは、多機能性Casヌクレアーゼに融合される。いくつかの実施形態において、多機能性Casヌクレアーゼは、操作された核酸からコードされる。例えば、特定の実施形態において、転写修飾因子は、部位特異的転写修飾を可能にするために多機能性Casヌクレアーゼに融合される。このような融合分子を操作するためには、様々な戦略を使用できる。場合によっては、転写調節因子が多機能性Casヌクレアーゼに直接融合される。他の場合には、調節因子はCas/gRNA/DNA複合体に動員するために、調節因子はMS2バクテリオファージコートタンパク質などの別のRNA結合タンパク質に融合される。
【0029】
場合によっては、多機能性Casヌクレアーゼは抑制ドメインに融合される。他の場合では、抑制ドメインを使用せずに、Casヌクレアーゼ媒介性立体障害によって抑制が達成される。抑制ドメインは、例えば、クルッペル関連ボックス(KRAB)ドメインなどの抑制ドメインに融合したRNA結合タンパク質(例えばMS2)を含むことができる。他の適切な抑制ドメインは、本明細書に記載されている。
【0030】
本明細書に記載の合成抑制系の構成要素は、単一のアンプリコン中に提供されることが好ましい。しかし、場合によっては、成分は2つ以上のポリヌクレオチド配列の形であり得る。このような場合、合成抑制系は、CRISPRベースの合成抑制系の構成要素を含む3つのカセットを単一細胞に導入することを含むことができ、第1のカセットは多機能性Cas9ヌクレアーゼのポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含み、第2のカセットはgRNA構築物を含み、第3のカセットは、RNA結合タンパク質-抑制ドメイン融合をコードする。いくつかの実施形態において、合成抑制系は、CRISPRベースの合成抑制系の構成要素を含む2つのカセットを単一細胞に導入することを含み、第1のカセットは、抑制ドメインに融合した多機能性Cas9ヌクレアーゼのポリペプチドをコードするヌクレオチドを含み、第2のカセットは、gRNA構築物を含む。いくつかの実施形態において、1つ以上のカセットは、誘導性プロモーターの制御下にあり得る。場合によっては、多機能性Cas9ヌクレアーゼをレポーターポリペプチドまたは目的の他のポリペプチド(例えば、治療用タンパク質)に融合することが有利である。レポーターポリペプチドは、近赤外蛍光タンパク質(iRFP)などの蛍光ポリペプチドであり得る(Cas9タンパク質動態を監視するため)。
【0031】
場合によっては、誘導性プロモーターのアクチベーターは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれるPCT公開第WO2019/005856号に記載されているもののような、安全構築物を含むカセットによって提供される。アクチベーターは、CRISPR-Cas複合体へのポリメラーゼ機構の動員を仲介または促進できる。アクチベーターは、VP16転写活性化ドメインまたはVP64転写活性化ドメインなどの活性化ドメインに融合したジンクフィンガータンパク質であり得る。特定の実施形態において、MS2などの直交的に作用するタンパク質結合RNAアプタマーは、アプタマーを介したCRISPR-Cas複合体へのアクチベーターの動員に使用される。例えば、MS2-VPR融合タンパク質は、アプタマーを介したCRISPR-Cas複合体へのアクチベーターの動員により、CRISPR-CAS/14-nt gRNA媒介性遺伝子活性化を助けるために使用することができる。インデューサーの存在下では、安全な20nt gRNAが発現し、14ntg RNAカセットが破壊される。合成調節回路は、操作されたポリヌクレオチドであってもよい。
【0032】
本明細書で使用される「操作された核酸」および「操作されたポリヌクレオチド」という用語は互換的に使用され、当技術分野で既知のインビトロ技術を使用して設計および作製された核酸を指す。いくつかの実施形態において、本明細書において回路とも呼ばれる操作されたポリヌクレオチドは、生物のゲノムから単離されていない核酸である。いくつかの実施形態において、操作されたポリヌクレオチドは、細胞、複数の細胞、器官または生物に導入され、多様な機能を実行する(例えば、細胞の分化、細胞内のセンサーとして、センサーとして機能するように細胞をプログラムする、および選択的な細胞ベースの治療剤の送達)。
【0033】
いくつかの実施形態において、操作されたポリヌクレオチドは、誘導性プロモーター、構成的プロモーター、または組織特異的または細胞型特異的プロモーターなどの1つ以上のプロモーターを含む。誘導性プロモーターは、遺伝子発現の調節を可能にし、外因的に供給される化合物、温度などの環境要因、または特定の生理学的状態、例えば急性期、細胞の特定の分化状態の存在、または複製中の細胞のみにおいて調節することができる。場合によっては、細胞型特異的プロモーターは、例えば、ホスホグリセレートキナーゼ2(Pgk2)プロモーターなどの生殖細胞特異的プロモーターである。誘導性プロモーターおよび誘導性系は知られており、Invitrogen、Clontech、およびAriadを含むがこれらに限定されない様々な商業的供給源から入手できる。多くの他の系が説明されており、当業者は容易に選択することができる。外部から供給されたプロモーターによって制御される誘導プロモーターの例には、亜鉛誘導性ヒツジメタロチオネイン(MT)プロモーター、デキサメタゾン(Dex)誘導性マウス乳房腫瘍ウイルス(MMTV)プロモーター、T7ポリメラーゼプロモーター系[WO98/10088]、エクジソン昆虫プロモーター[No et al,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,93:3346~3351(1996)]、テトラサイクリン抑制系[Gossen et al,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89、5547~5551(1992)]、テトラサイクリン誘導性系[Gossen et al,Science,268:1766~1769 (1995)、Harvey et al,Curr.Opin.Chem.Biol.,2:512~518(1998)も参照されたい]、RU486誘導性系[Wang et al,Nat.Biotech.,15:239~243(1997)およびWang et al.,Gene Ther.,4:432~441(1997)]およびラパマイシン誘導系[Magari et al,J.Clin.Invest.,100:2865~2872(1997)]が含まれる。この文脈において有用であり得る、さらに他のタイプの誘導性プロモーターは、特定の生理学的状態、例えば、温度、急性期、細胞の特定の分化状態、または複製中の細胞のみにおいて調節されるものである。制御要素の非限定的な例には、プロモーター、アクチベーター、リプレッサー要素、インシュレーター、サイレンサー、応答要素、イントロン、エンハンサー、転写開始部位、終結シグナル、リンカーおよびポリ(A)テールが含まれる。そのような制御要素の任意の組み合わせが本明細書で企図される(例えば、プロモーターおよびエンハンサー)。
【0034】
いくつかの実施形態において、プロモーターは肺特異的プロモーターである。適切な肺特異的プロモーターは当技術分野で知られており、アルブミンプロモーターおよびヒトα-1抗トリプシンプロモーターが含まれるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、プロモーターは血液特異的プロモーターである。いくつかの実施形態において、プロモーターは骨髄特異的プロモーターである。いくつかの実施形態において、プロモーターは、CD11Bなどのマクロファージ特異的プロモーターである。いくつかの実施形態において、プロモーターは、CD19などのB細胞特異的プロモーターである。いくつかの実施形態において、プロモーターは、CD11Cなどの樹状細胞特異的プロモーターである。いくつかの実施形態において、プロモーターは、CD4およびCD8などのT細胞特異的プロモーターである。
【0035】
CRISPR系は、異なる繰り返しパターン、遺伝子のセット、および種の範囲を有する異なるクラスに属する。CRISPR酵素は、通常、I型またはIII型のCRISPR酵素である。CRISPR系は、有利にはタイプIIのCRISPR系から誘導される。II型CRISPR酵素は、任意のCas酵素であり得る。「Cas」および「CRISPR関連Cas」という用語は、本明細書では交換可能に使用される。Cas酵素は、任意の天然ヌクレアーゼ、ならびに任意のキメラ、突然変異体、ホモログ、またはオルソログであり得る。いくつかの実施形態において、CRISPR系の1つ以上の要素は、Streptococcus pyogenes(SP)CRISPR系またはStaphylococcus aureus(SA)CRISPR系などの内因性CRISPR系を含む特定の生物に由来する。CRISPR系は、II型CRISPR系であり、Cas酵素はCas9または触媒的に不活性なCas9(dCas9)である。Casタンパク質の他の非限定的な例には、Cas1、Cas1B、Cas2、Cas3、Cas4、Cas5、Cas6、Cas7、Cas8、Cas9(Csn1およびCsxl2としても知られる)、Cas10、Csy1、Csy2、Csy3、Cse1、Cse2、Csc1、Csc2、Csa5、Csn2、Csm2、Csm3、Csm4、Csm5、Csm6、Cmr1、Cmr3、Cmr4、Cmr5、Cmr6、Csb1、Csb2、Csb3、Csx17、Csx14、Csx10、Csx16、CsaX、Csx3、Csx1、Csx15、Csf1、Csf2、Csf3、Csf4、それらのホモログ、またはそれらの改変バージョンが含まれる。Casタンパク質ファミリーの包括的な概説は、Haft et al.(2005)Computational Biology,PLoS Comput.Biol.1:e60に提示されている。これまでに少なくとも41のCRISPR関連(Cas)遺伝子ファミリーが記述されている。
【0036】
本明細書に記載のCRISPR-Cas系は、細胞内で天然に存在しない、すなわち、操作された、または細胞に対して外因性であることが理解される。本明細書で言及されるCRISPR-Cas系は、細胞に導入されている。細胞にCRISPR-Cas系を導入する方法は当技術分野で知られており、本明細書の他の場所でさらに説明されている。本発明によるCRISPR-Cas系を含む、またはCRISPR-Cas系が導入された細胞は、機能的CRISPR複合体を確立し、標的DNA配列を改変(例えば切断)することができるCRISPR-Cas系の個々の構成要素を含むか、または発現することができる。したがって、本明細書で言及されるように、CRISPR-Cas系を含む細胞は、標的DNA配列を改変(例えば切断)できる機能的CRISPR複合体を確立するCRISPR-Cas系の個々の構成要素を含む細胞であり得る。あるいは、本明細書で言及されるように、好ましくは、CRISPR-Cas系を含む細胞は、細胞で発現され得、標的DNA配列を改変(例えば切断)できる、CRISPR-Cas系の個々の構成要素をコードする1つ以上の核酸分子を含む細胞であり得る。
【0037】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の合成CRISPRベースの抑制系は、生物系(例えば、ウイルス、原核細胞または真核細胞、接合体、胚、植物、または動物、例えば、非ヒト動物)に導入され得る。原核細胞は細菌細胞であり得る。真核細胞は、例えば、真菌(例えば、酵母)、無脊椎動物(例えば、昆虫、虫)、植物、脊椎動物(例えば、哺乳類、鳥類)の細胞であり得る。哺乳動物細胞は、例えば、マウス、ラット、非ヒト霊長類、またはヒト細胞であり得る。細胞は、任意の種類、組織層、組織、または器官起源であってもよい。いくつかの実施形態において、細胞は、例えば、リンパ球またはマクロファージなどの免疫系細胞、または線維芽細胞、筋細胞、脂肪細胞、上皮細胞、または内皮細胞であり得る。細胞は、培養中で無限に増殖することができる不死化哺乳動物細胞株であり得る細胞株のメンバーであり得る。
【0038】
複数の遺伝子の内因性抑制を達成するために、抑制ドメインは複数のgRNAに含まれている。場合によっては、gRNAは、特定のタンパク質(MS2コートタンパク質、COM、またはPCP)が結合するMS2、COM、またはPP7などの1つ以上のアプタマーをさらに含む。抑制ドメインはアプタマー結合タンパク質に融合され、したがって、Cas9/gRNA複合体に動員されて、内因性遺伝子の転写の抑制を達成する。PP7は、バクテリオファージPseudomonasのRNA結合コートタンパク質である。PP7は、MS2と同様に、特定のRNA配列および二次構造に結合する。PP7 RNA認識モチーフは、MS2のモチーフのものとは異なる。その結果、PP7とMS2を多重化して、異なる遺伝子座で異なる効果を同時に仲介することができる。
【0039】
場合によっては、SMAShまたは別の分解/不安定化ドメインは、本明細書に記載のCas9ヌクレアーゼまたは他のタンパク質融合体に融合される。一般に、不安定化ドメインは小さなタンパク質ドメインであり、リガンドの非存在下では不安定で分解さるが、その安定性は高親和性の細胞透過性リガンドに結合することによって救援される。不安定化ドメインを目的のタンパク質に遺伝子融合すると、融合体全体が分解される。不安定化ドメインにリガンドを付加すると、融合体が分解から保護され、このようにして、目的のタンパク質にリガンド依存性の安定性が追加される。
【0040】
場合によっては、ウイルスまたはプラスミドベクター系が、本明細書に記載の合成CRISPRベースの抑制系の送達に使用される。好ましくは、ベクターは、レンチウイルスまたはバキュロウイルス、または好ましくはアデノウイルス/アデノ随伴ウイルスベクターなどのウイルスベクターであるが、他の送達手段も知られており(酵母系、マイクロベシクル、遺伝子銃/金ナノ粒子へのベクター付着手段など)、提供される。いくつかの実施形態において、ウイルスまたはプラスミドベクターの1つ以上は、リポソーム、ナノ粒子、エキソソーム、微小胞、または遺伝子銃を介して送達され得る。特定の好ましい実施形態において、CRISPRベースの抑制系またはその構成要素(例えば、gRNA)は、1つ以上のウイルス送達ベクターで細胞に送達するためにパッケージ化される。適切なウイルス送達ベクターには、アデノウイルス/アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、レンチウイルスベクター、および単純ヘルペスウイルス1(HSV-1)ベクターが含まれるが、これらに限定されない。例えば、合成CRISPRベースの抑制系は、1つ以上の単純ヘルペスアンプリコンベクターに導入することができる。
【0041】
いくつかの実施形態において、合成CRISPRベースの抑制系は、1つ以上のAAVベクターに導入される。いくつかの実施形態において、AAVベクターはAAV2/1ベクターである。本明細書で使用される「AAV2/1ベクター」は、AAV2末端逆位反復およびAAV1 RepおよびCap遺伝子を含む組換えアデノ随伴ウイルスベクターを指す。他の適切なAAVベクターは、当技術分野で知られており、例えば、AAV1などであるが、これに限定されない。
【0042】
ウイルスベクターとウイルス粒子は、遺伝子治療に一般的に使用されるウイルス送達プラットフォームである。したがって、より迅速な臨床移行のために、本明細書に記載のCRISPRベースの遺伝子回路は、埋め込まれたキルスイッチを使用して構築し、単純ヘルペスアンプリコンベクターに組み込むことができる。好ましくは、単一の担体ベクターを使用して、すべての合成遺伝子成分の標的細胞へのトランスフェクションを達成する。特定の理論または作用機序に拘束されるものではないが、20ntのgRNAを切断することだけを追加することでCRISPR機能を制御する能力は、gRNAの小さなDNAフットプリントとウイルス粒子の限られたペイロード容量のため、理想的な安全キルスイッチメカニズムを提供すると考えられている。場合によっては、単純ヘルペスウイルス(HSV)送達系が操作されたポリヌクレオチドの送達に使用できる。他の場合には、非ウイルス粒子が送達に使用できる。例えば、CRISPR遺伝子回路の制御された空間的トランスフェクションおよび/または破壊は、すべてのCRISPRベースの遺伝子回路要素を、大きなペイロード容量(150kb)を持ち、複数の標的細胞に感染することができるHSV-1アンプリコンベクターに組み立ててパッケージ化することによって達成される。
【0043】
別の態様において、方法が単一細胞に2つのAAVベクターを導入することを含む、共ウイルス(co-virus)戦略が本明細書において提供される。第1のベクターは、(i)Cas9ヌクレアーゼの融合ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列、および(ii)本明細書に記載の遺伝子調節のために構成されたgRNAを運ぶ。場合によっては、Cas9ヌクレアーゼがレポーターポリペプチドに融合している。レポーターポリペプチドは、近赤外蛍光タンパク質(iRFP)などの蛍光ポリペプチドであり得る(Cas9タンパク質動態を監視するため)。第2のベクターは「安全ベクター」であり、PCT公開第WO2019/005856号に記載されているように(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)、20ntの制御可能なgRNAを運ぶ。第1のウイルスによって運ばれるCas9-iRFP融合ポリペプチドの発現が両方のAAVベクターが導入された細胞でのみ起こることを確実にするために、融合ポリペプチドの発現は誘導性プロモーターの制御下にある。場合によっては、誘導性プロモーターのアクチベーターが安全なウイルスによって運ばれる。アクチベーターは、Pol II機構のCRISPR-Cas複合体への動員を媒介または促進できる。アクチベーターは、VP16転写活性化ドメインまたはVP64転写活性化ドメインなどの活性化ドメインに融合したジンクフィンガータンパク質であり得る。特定の実施形態において、MS2などの直交的に作用するタンパク質結合RNAアプタマーは、アクチベーターのCRISPR-Cas複合体へのアプタマー媒介性動員に使用される。例えば、第2のウイルス(安全なウイルス)は、アプタマーのCRISPR-Cas複合体へのアクチベーターの動員により、CRISPR-CASおよび14-nt gRNA媒介性遺伝子活性化を支援するMS2-VPR融合タンパク質を運ぶことができる。インデューサーの存在下では、安全な20ntのgRNAが発現し、14ntのgRNAカセットが破壊される。
【0044】
本明細書に記載のCRISPRベースの遺伝子回路の用途には、様々な細胞型における慢性および急性状態を治療するための生体内CRISPRベースの精密遺伝子治療、CRISPR細胞分類子のプラットフォームは、様々な治療および/または予防適用のために、様々な細胞、組織、または器官に適用できる、CRISPR媒介性内因性遺伝子活性化を含む、CRISPRアクチベーターおよびリプレッサーを使用した内因性遺伝子の生体内調査、が含まれるが、これらに限定されない。例として、治療的適用には、対象における敗血症の治療、対象における免疫応答の予防または治療、およびワルデンストレームマクログロブリン血症の治療が含まれるが、これらに限定されない。
【0045】
特定の態様において、敗血症を治療する方法、対象における免疫応答を治療または予防する方法、およびワルデンストレームマクログロブリン血症を治療する方法が本明細書に提供される。本明細書に記載の治療または予防の方法は、治療有効量の本明細書に記載のCRISPRベースの合成抑制系、または本明細書に記載のCRISPRベースの合成抑制系をコードするポリヌクレオチドおよびベクターを含む薬学的組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む。本明細書で使用される「薬学的組成物」という用語は、哺乳動物への投与に適した化学的または生物学的組成物を指す。そのような組成物は、典型的に、活性剤および薬学的に許容される担体を含む。本明細書で使用される用語「薬学的に許容される担体」には、薬学的投与に適合する生理食塩水、溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤などが含まれる。補助的な活性化合物も組成物に組み込むことができる。そのような治療用途に適した組成物の例には、非経口、皮下、経皮、皮内、筋肉内、冠動脈内、心筋内、腹腔内、静脈内または動脈内(例えば、注射可能な)、または無菌懸濁液、乳液、およびエアロゾルなどの気管内投与用の製剤が含まれる。場合によっては、治療用途に適した薬学的組成物は、1つ以上の薬学的に許容される賦形剤、希釈剤、または滅菌水、生理食塩水、グルコースなどの担体と混合されてもよい。例えば、本明細書に記載のCRISPRベースの合成抑制系の組成物は、担体溶液を含む薬学的組成物として対象に投与することができる。
【0046】
製剤は、経口、直腸、鼻、全身、局所または経粘膜(頬側、舌下、眼、膣および直腸を含む)および非経口(皮下、筋肉内、静脈内、動脈内、皮内、腹腔内、髄腔内、眼内、および硬膜外を含む)投与のために設計または意図され得る。一般に、水性および非水性の液体またはクリーム製剤は、非経口、経口または局所経路によって送達される。他の実施形態において、組成物は、任意の経路、例えば、経口、局所、口腔、舌下、非経口、エアロゾル、皮下デポーまたは腹腔内または筋肉内デポーなどのデポー剤による投与に適した、水性または非水性液体製剤または固体製剤として存在し得る。場合によっては、薬学的組成物は凍結乾燥される。他の場合には、本明細書で提供される薬学的組成物は、投与経路および所望の調製に応じて、湿潤剤または乳化剤、pH緩衝剤、ゲル化または増粘添加剤、防腐剤、香味剤、着色剤などの補助物質を含む。薬学的組成物は、従来の製薬慣行に従って製剤化することができる(例えば、Remington:The Science and Practice of Pharmacy,20th edition,2000,ed.AR Gennaro,Lippincott Williams & Wilkins,Philadelphia、およびEncyclopedia of Pharmaceutical Technology,eds.J.SwarbrickおよびJC Boylan,1988-1999,Marcel Dekker,New Yorkを参照)。静脈内投与の場合、適切な担体には、生理食塩水、静菌水、Cremophor EL(登録商標)(BASF,Parsippany,N.J.,USA)またはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)が含まれる。すべての場合において、非経口投与用の組成物は無菌でなければならず、注射しやすいように処方されるべきである。組成物は、製造および保管条件下で安定でなければならず、細菌および真菌などの微生物による汚染から保護されていなければならない。
【0047】
いくつかの実施形態において、非経口、皮内、または皮下投与に使用される溶液または懸濁液は、以下の成分を含むことができる:注射用水、生理食塩水、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールまたは他の合成溶媒などの無菌希釈剤、ベンジルアルコールまたはメチルパラベンなどの抗菌剤、アスコルビン酸または亜硫酸水素ナトリウムなどの抗酸化剤、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)などのキレート剤、酢酸塩、クエン酸塩またはリン酸塩などの緩衝液、および塩化ナトリウムまたはデキストロースなどの張度調整剤。pHは、塩酸または水酸化ナトリウムなどの酸または塩基で調整できる。調剤は、ガラスまたはプラスチック製のアンプル、使い捨て注射器、または複数回投与用バイアルに封入することができる。患者または治療を行う医師の便宜のために、用量製剤は、一連の治療(例えば、7日間の治療)に必要なすべての装置(例えば、薬のバイアル、希釈剤のバイアル、注射器および針)を含むキットで提供することができる。
【0048】
無菌の注射用溶液は、必要に応じて、活性化合物を適切な溶媒中に必要な量で、必要に応じて上に列挙した成分の1つまたは組み合わせを組み込み、続いて濾過滅菌することによって調製することができる。一般に、分散液は、活性化合物を無菌ビヒクルに組み込むことによって調製され、分散液は、基本的な分散媒と、上に列挙した必要な他の成分を含む。無菌注射液の調製のための無菌粉末の場合、典型的な調製方法には、真空乾燥および凍結乾燥が含まれ、これにより、その事前に無菌濾過した溶液から活性成分および任意の追加の所望の成分の粉末を得ることができる。
【0049】
好ましい経路は、例えば、対象の病的状態または年齢、または治療に対する対象の反応、または状況に適したものによって異なり得る。製剤は、2つ以上の経路によって投与することもでき、その場合、送達方法は本質的に同時であるか、組成物が対象に投与される時間に時間的重複がほとんど、または全くない本質的に連続的であり得る。
【0050】
初回投与およびさらなる用量または連続投与に適した投与レジメンも可変であり、初回投与とそれに続くその後の投与を含み得るが、それでもなお、当業者は本開示、本明細書に引用する文書、本技術分野の知識から確認することができる。
【0051】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載されるCRISPRベースの合成抑制系の組成物は、注入、局所適用、外科的移植、または移植を使用して、それを必要とする対象に投与される。例示的な実施形態において、投与は全身的である。このような場合、本明細書に記載のCRISPRベースの合成抑制系の組成物は、対象への静脈内投与に適合した薬学的組成物中で、それを必要とする対象に提供することができる。通常、静脈内投与用の組成物は、無菌等張水性緩衝液の溶液である。このような緩衝液および希釈剤の使用は、当技術分野で周知である。必要に応じて、組成物は注射部位の痛みを緩和するために局所麻酔薬を含んでもよい。一般に、成分は、例えば活性剤の量を示すアンプルなどの密閉容器内の凍結保存濃縮物として、個別に、または単位剤形で一緒に混合して供給される。組成物が注入によって投与される場合、無菌の製薬グレードの水または生理食塩水を含む注入ボトルを用いて投与することができる。組成物が注射によって投与される場合、投与前に成分を混合できるように、注射用の無菌水または生理食塩水のアンプルを提供することができる。場合によっては、本明細書に記載のCRISPRベースの合成抑制系の組成物は、投与前に凍結乾燥される。
【0052】
一実施形態において、本明細書に記載のCRISPRベースの合成抑制系の組成物は、静脈内投与される。例えば、本技術の薬剤は、急速静脈内ボーラス注射によって投与され得る。いくつかの実施形態において、本技術の薬剤は、一定速度の静脈内注入として投与される。
【0053】
本技術の薬剤は、経口、局所、鼻腔内、筋肉内、皮下、または経皮的に投与することもできる。一実施形態において、経皮投与はイオントフォレーシスによるものであり、帯電した組成物は電流によって皮膚を通って送達される。
【0054】
他の投与経路には、頭蓋室内、脳室内、またはくも膜下腔内が含まれる。脳室内とは、脳の脳室系への投与を指す。髄腔内とは、脊髄のくも膜下の空間への投与を指す。したがって、いくつかの実施形態において、中枢神経系の器官または組織に影響を与える疾患および状態に対して、脳室内またはくも膜下腔内投与が使用される。
【0055】
全身、脳室内、くも膜下腔内、局所、鼻腔内、皮下、または経皮投与の場合、本技術の薬剤の製剤は、従来の希釈剤、担体、または賦形剤など、当技術分野で既知のものを利用して現在の技術の薬剤を送達する。例えば、製剤は、以下の1つ以上を含んでもよい:安定剤、非イオン性界面活性剤などの界面活性剤、および任意選択で塩および/または緩衝剤。本技術の薬剤は、水溶液の形態、または凍結乾燥形態で送達することができる。
【0056】
本明細書に記載されるCRISPRベースの合成抑制系の組成物の治療上有効な量が、それを必要とする対象に投与される。有効な用量または量は、有益なまたは望ましい臨床結果をもたらすのに十分な量である。本発明の方法に関して、1回または複数回の投与で投与できる有効用量または量は、薬剤が投与される対象において治療効果を引き出すのに十分な、本明細書に記載のCRISPRベースの合成抑制系の組成物の量である。本明細書に記載の用量範囲は例示であり、限定を意図するものではない。本技術の薬剤の用量、毒性、および治療効果は、細胞培養または実験動物における標準的な薬学的手順によって、例えば、LD50(人口の50%に致死性の用量)およびED50(人口の50%で治療上有効な用量)を決定するために決定することができる。毒性効果と治療効果の用量比は治療指数であり、比LD50/ED50として表すことができる。
【0057】
細胞培養アッセイと動物実験から得られたデータは、ヒトで使用するための用量の範囲を処方する際に使用できる。そのような化合物の用量は、好ましくは、毒性がほとんどまたは全くないED50を含む循環濃度の範囲内にある。用量は、使用される投与形態および使用される投与経路に応じて、この範囲内で変化し得る。本明細書に記載の方法で使用される本技術の任意の薬剤について、治療上有効な用量は、細胞培養アッセイから最初に推定することができる。動物モデルにおいて、細胞培養で決定されるIC50(すなわち、症状の最大阻害の半分を達成する試験化合物の濃度)を含む循環血漿濃度範囲を達成するための用量を処方することができる。このような情報は、ヒトの有用な用量をより正確に決定するために使用できる。血漿中のレベルは、例えば、高速液体クロマトグラフィーによって測定することができる。
【0058】
典型的には、治療効果または予防効果を達成するのに十分な、本明細書に記載のCRISPRベースの合成抑制系の組成物の有効量は、約1×109ゲノムコピー(GC)/キログラム(kg)体重~約1×1014GC/kg体重の範囲である。いくつかの実施形態において、用量範囲は、約1×109GC/kg体重/日~約1×1014GC/kg体重/日である。例えば、約1×109GC/kg体重~約1×1014GC/kg体重の用量は、毎日、2日ごと、または3日ごと、または1×109GC/kg体重~約1×1014GC/kg体重の範囲内で毎週、2週間ごとまたは3週間ごとに投与され得る。一実施形態において、本技術の薬剤の単回用量は、1×109GC/kg体重~約1×1014GC/kg体重の範囲である。例示的な治療レジメンは、1日1回または1週間に1回の投与を伴う。治療用途では、疾患の進行が軽減または終息するまで、または対象が疾患の症状の部分的または完全な改善を示すまで、比較的短い間隔で比較的高用量が必要になる場合がある。その後、患者に予防的なレジメンを投与することができる。投与スケジュールは、標的組織における治療濃度を維持するために、毎日一回または毎週の投与などによって最適化されるが、連続投与も含まれる(例えば、非経口注入または経皮適用)。
【0059】
当業者は、疾患または障害の重症度、以前の治療、一般的な健康状態および/または対象の年齢、および他の病気の存在を含むがこれらに限定されない、特定の要因が対象を効果的に治療するために必要な用量およびタイミングに影響を及ぼし得ることを理解するであろう。さらに、本明細書に記載の治療有効量の治療組成物による対象の治療は、単一の治療または一連の治療を含むことができる。
【0060】
いくつかの態様において、対象における敗血症を治療するための方法が本明細書において提供される。敗血症を治療する方法は、敗血症を有する、または敗血症の危険性がある対象に、治療有効量の、本明細書に記載され、MyD88の抑制に特異的なCRISPRベースの合成抑制系の組成物を投与することを含む。自然免疫および適応免疫におけるその役割により、MyD88の抑制によって、敗血症に関連する異常な免疫応答が減少をもたらす。本明細書に記載の組成物で治療された対象は、治療前の免疫関連マーカーのレベルと比較して免疫関連マーカーIcam-1、Tnfα、NCf、およびIl6、Ifn-α、Ifn-β、Ifn-γ、およびStat4のレベルが低減する可能性がある。いくつかの実施形態において、免疫関連マーカーIcam-1、Tnfα、NCf、およびIl6、Ifn-α、Ifn-β、Ifn-γ、およびStat4のレベルは、内部または外部対照または参照標準と比較される。本明細書に記載の組成物で治療された対象は、治療前のサイトカインのレベルと比較して、肺および血清のサイトカインのレベルが低下する可能性がある。明細書に記載の組成物で治療された対象は、治療前に測定されたレベルと比較して、血清乳酸レベルが低減する可能性がある。
【0061】
いくつかの態様において、アデノ随伴ウイルスベクター遺伝子治療またはCRISPRベースの遺伝子治療を受けている対象における有害な免疫応答を治療または予防する方法が、本明細書において提供される。対象における有害な免疫応答を防止する方法は、対象へのAAVベクター療法の投与前に、治療有効量の、本明細書に記載され、MyD88の抑制に特異的なCRISPRベースの合成抑制系の組成物を対象に投与することを含む。本明細書に記載の組成物は、AAVベクター療法の前に、または同時に投与することができる。いくつかの実施形態において、対象は、複数コースのAAVベクター療法処置を受けた、または受ける予定であり、本明細書に記載の組成物は、AAVベクター療法の前、直後、または同時に投与される。本明細書に記載の組成物で治療される対象は、免疫関連マーカーIcam-1、Tnfα、NCf、Il6、Ifn-α、Ifn-β、Ifn-γ、およびStat4のレベルが、本明細書に記載された、MyD88の抑制に特異的なCRISPRベースの合成抑制系の組成物ではないAAVベクター療法を受けた対象で観察された免疫関連マーカーのレベルと比較して低減している可能性がある。本明細書に記載の組成物で治療された対象は、本明細書に記載され、MyD88の抑制に特異的なCRISPRベースの合成抑制系組成物ではなく、AAVベクター療法を受けた対象で観察された免疫関連マーカーのレベルと比較して、肺および血清サイトカインのレベルが低減している可能性がある。
【0062】
いくつかの実施形態において、治療方法は、Icam-1、Tnfα、NCf、116、Ifn-α、Ifn-β、Ifn-γ、およびStat4からなる群から選択される少なくとも1つの免疫関連マーカーのレベルをモニタリングし、少なくとも1つのマーカーのレベルが減少するか、対象がAAVベクター治療を受ける前、または対象が敗血症を患う以前のレベルに戻るまで、対象に、本明細書に記載され、MyD88の抑制に特異的なCRISPRベースの合成抑制系の組成物を対象に再投与することを含む。
【0063】
いくつかの態様において、ワルダンストロムマクログロブリン血症の治療方法が本明細書において提供される。ワルダンストロムマクログロブリン血症は、リンパ球増殖とマクログロブリン産生が抑制されないことを特徴とする非ホジキンリンパ腫の一種である。Myd88突然変異L265Pは、NF-κBシグナル伝達を通じて悪性増殖をサポートし、その阻害は癌細胞の生存率の低下に関連している。対象のウォルダンストロムマクログロブリン血症を治療する方法は、それを必要とする対象に、本明細書に記載され、MyD88の抑制に特異的なCRISPRベースの合成抑制系の組成物を投与することを含む。いくつかの実施形態において、本明細書に記載のCRISPRベースの合成抑制系は、内因性の突然変異体MyD88発現を抑制し、L265P突然変異を修正するために相同組換え修復(HDR)を使用するように設計されている。いくつかの実施形態において、組成物は、MyD88のL265遺伝子座付近のCasヌクレアーゼ切断に特異的なgRNAをさらに含み、L265遺伝子座で正しい野生型配列をコードするHDRテンプレートを含む。
【0064】
本明細書で提供される組成物、方法、およびシステムをより容易に理解できるように、特定の用語を定義する:
【0065】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用されるように、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」は、文脈上明確に別段の指示がない限り、複数形を含む。本明細書における「または」への言及は、特に明記しない限り、「および/または」を包含することを意図する。
【0066】
本明細書で使用される用語「含む(comprising)」、「含む(comprises)」および「含む(comprised of)」は、「含む(including)」、「含む(includes)」または「含む(containing)」、「含む(contains)」と同義であり、包括的またはオープンエンドであり、追加的、非列挙されたメンバー、要素、または方法のステップを排除しない。本明細書で使用される表現および用語は、説明を目的としており、限定と見なされるべきではない.「含む(including)」、「含む(comprising)」、「有する(having)」、「含む(containing)」、「関与する(involving)」およびそのバリエーションは、その後にリストされた項目および追加の項目を含むことを意味する。クレームの要素を修飾するための請求項における「第1」、「第2」、「第3」などのような序語の使用は、それ自体は、ある請求項要素の別の請求項要素に対する優先度、優先度、または順序、または方法の行為が実行される時間的順序を暗示しない。序語は、請求項要素を区別するために、単にある名称を有する請求項要素を同じ名称を有する別の要素と区別するためのラベルとして使用される(序語として使用するのではなく)。
【0067】
本明細書で使用される「合成」および「操作された」という用語は交換可能に使用され、人の手によって操作されたという態様を指す。
【0068】
本明細書で使用される場合、1つ以上の標的核酸配列を「改変する(modifying)」(「改変する(modify)」)は、(1つ以上の)標的核酸配列のすべてまたは一部を変更することを指し、標的核酸配列の全部または一部の切断、導入(挿入)、置換、および/または欠失(除去)を含む。標的核酸配列のすべてまたは一部は、本明細書で提供される方法を使用して、完全にまたは部分的に改変することができる。例えば、標的核酸配列の改変には、標的核酸配列のすべてまたは一部を1つ以上のヌクレオチド(例えば、外因性核酸配列)で置換すること、または標的核酸配列のすべてまたは一部(例えば、1つ以上のヌクレオチド)を除去または削除することが含まれる。1つ以上の標的核酸配列を改変することは、1つ以上のヌクレオチド(例えば、外因性配列)を1つ以上の標的核酸配列内へ(into)内に(within)導入または挿入することも含む。
【0069】
別段の定義がない限り、技術用語および科学用語を含む本開示で使用されるすべての用語は、本発明が属する当業者によって一般に理解される意味を有する。
【0070】
この説明は特定の態様または実施形態に言及しているが、そのような態様または実施形態は、本質的に例示であり、網羅的ではない。本開示を検討すると、当業者は、多数の他の可能な変形または代替の構成または態様が可能であり、本開示の範囲内で企図されることを容易に認識し、理解するであろう。
【0071】
実施例1
ここで説明する実施形態は、CRISPRベースの合成抑制系を使用して、インビトロおよび生体内で内因性MyD88発現を抑制することを実証している。
【0072】
ここに記載されている実施形態は、以前に報告されたCRISPR多機能性の概念を使用する(それぞれが参照により本明細書に取り組まれる、Dahlman,J.E.et al.”Orthogonal gene knockout and activation with a catalytically active Cas9 nuclease,”Nature biotechnology 33,1159(2015)、およびKiani, S. et al. ”Cas9 gRNA engineering for genome editing,activation and repression,”Nature methods 12,1051(2015)を参照されたい)。単一のCas9タンパク質のヌクレアーゼ依存性機能と非依存性機能を切り替える能力は、遺伝子編集とエピジェネティックな操作を組み合わせる刺激的な可能性を提供する。発明者らは、5’末端からのガイドRNA(gRNA)の切断により、遺伝子の転写調節のためのヌクレアーゼコンピテントCas9タンパク質の適用が可能になることを以前に報告した。Liao et al.は最近、遺伝子の転写活性化のための生体内でのこのシステムの有用性を示した。(Liao,H.-K. et al.”In vivo target gene activation via CRISPR/Cas9-mediated trans-epigenetic modulation,”Cell 171,1495-1507.e1415(2017)。しかしながら、転写抑制またはDNA切断/転写の同時変調、および臨床的に関連する条件におけるこの概念のより広範な有用性は、まだ調査されていない。この開示は、CRISPRベースの生体内治療の安全性と制御可能性の文脈でこの概念を利用する技術について説明する。
【0073】
骨髄分化一次応答88(MyD88)は、自然免疫応答および適応免疫応答における重要なノードであり、Toll様受容体(TLR)およびインターロイキン(IL)-1ファミリーのシグナル伝達を含む多くのシグナル伝達に不可欠なアダプター分子として作用している。自然免疫および適応免疫におけるMyD88シグナル伝達の中心的な役割を考慮して、発明者らは、発明者が生体内で内因性Myd88レベルの調節を通じて合成免疫調節を達成できるかどうかを決定することに着手した。
【0074】
本発明者らは、強化されたCRISPRベースの転写抑制因子が、インビトロで、触媒的に死んだCas9タンパク質(MeCP2、MBD2またはHP1a)に対して調節因子のセットの直接融合によって発現したことを以前に報告した。本発明者らは、MS2コートタンパク質(ここではMS2と呼ぶ)に融合し、gRNAアプタマー結合によってCRISPR複合体に動員された場合に効率的な転写抑制をもたらすことができる、我々が以前に報告した候補から抑制ドメインを決定する実験を最初に考案した(図3A)。ヒト胚性腎臓293(HEK293FT)細胞における一連の標的遺伝子の定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(qRT-PCR)分析により、MS2-HP1aKRAB[ヘテロクロマチンタンパク質1(HP1a)-クルッペルl関連ボックス(KRAB)]が発明者らが試験した遺伝子にわたって効率的な抑制を可能にすることを立証した(図3B)。
【0075】
これらの知見を生体内に移行するために、本発明者らは、ヌクレアーゼコンピテントStreptococcus Pyogenes(Sp)-Cas9タンパク質および切断されたl4nt gRNAを、生体内でのMyd88の転写抑制のために利用することに着手した。本発明者らは、最初に、MS2-HP1aKRABを介した内因性マウスMyd88レベルの抑制をインビトロで調べ、一般的に使用されるKRABベースの転写抑制と効率を比較した。本発明者らは、内因性マウスMyd88遺伝子座のTATAボックス領域の100bp上流内を標的とする2つの14ntのgRNAを合理的に設計するか、以前に報告された非標的化mock gRNAを対照として使用した(図1A)。Myd88のqRT-PCRは、gRNAのインビトロ機能性と、内因性Myd88の抑制におけるMS2-HP1aKRABの優位性を実証する。(図1B)。
【0076】
これらのリプレッサーを生体内で試験するために、本発明者らは、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター内にgRNAおよびMS2抑制カセットをパッケージングすることによる送達を追求した。AAVの血清型は、CRISPRを生体内で送達するために使用され、最も一般的な血清型はAAV9であり、多数の実質細胞集団に対して高い親和性がある。ここで、本発明者らは、AAV2末端逆位反復からなる組換えAAVベクターであるAAV2/1と、AAV1RepおよびCap遺伝子を使用した。AAV1は、免疫系の構成要素、および樹状細胞および内皮細胞などの非実質細胞の形質導入に効果的であることが示されている。さらに、AAV1キャプシドは、宿主のAAVに対する免疫経路の一部としてMyD88シグナル伝達を誘導できる。AAV2/1組織親和性の我々の評価は、血液、肺および骨髄において最も高い発現を明らかにした(図4)。その後、本発明者らは、MS2-HP1aKRABまたはMS2-KRABカセットを有するAAV/Myd88 gRNAまたは対照AAV/Mock gRNAの、Cas9ヌクレアーゼトランスジェニックマウスへの全身送達を実施した(図1C)。Myd88のCRISPRを介した転写抑制が、AAVに対する免疫応答に生理学的に関連する効果を生み出すことができるかどうかを試験するために、発明者らは、Cas9の送達に関連する潜在的な交絡効果を排除できるので、Cas9発現マウスを特に選択した。注射から3週間後、血液、肺、骨髄を採取し、qRT-PCRによってMyd88の発現を評価した(図1D)。注射されていない対照と比較して、AAVベクターの送達は、発明者が試験した異なる組織にわたってMyd88の増加をもたらした。HP1aKRABで内因性Myd88を抑制するCRISPRによる治療は、mock gRNA治療グループと比較して、血液(約84%)、肺(約75%)、および骨髄(約63%)におけるMyd88のレベルの有意な減少につながった。これらの組織に対するAAV2/1の高い親和性と一致している。KRABドメインのみの投与により、肺(約52%)、血液(約59%)、および骨髄(約34%)におけるMyd88の抑制はそれほど顕著ではなく、試験した動物間でわずかに高いばらつきがあった(図1Dおよび表1)。
【0077】
【表1】
【0078】
下流の遺伝子調節ネットワークの変化における抑制の効力を評価するために、発明者らは、腫瘍壊死因子-α(TNF-α)および細胞間接着分子-1(ICAM-1)のレベルを評価し、2つのシグナル伝達経路はMyD88シグナル伝達経路により直接調節された。MS2-HP1a-KRABによるMyd88ターゲティングにより複数の組織にわたるIcam-1およびTnfαの発現が顕著に低減したが、MS2-KRABによる標的化では同様の一貫した効果をもたらさなかった(図1E-1Fおよび表1)。
【0079】
MS2-KRABと比較したMS2-HP1aKRAB系の抑制効率の全身評価を行うために、発明者らは、これらの構築物で処置したマウスの骨髄で次世代RNAシーケンシングを行った。MS2-HP1aKRAB処置マウスは、MS2-KRAB処置マウスと比較して低いMyD88レベルを発現し(図5A)、Il1βなどの下流シグナル伝達経路の変化を伴う。注目すべきことに、GO富化分析により、Myd88-MS2-HP1aKRAB処置マウスは、Myd88機能に関連する経路である外来生物および細菌に対する免疫および防御応答に関与するシグナル伝達経路の有意な下方抑制を有することが明らかになった(図5B)。同様に、Reactomeデータベースは、MS2-HP1aKRABの存在下で下方抑制される非常に重要な経路の1つとしてTLR経路を明らかにした(図5C)。この証拠は、Myd88およびその下流の免疫経路の調節が、生体内でのMS2-HP1a KRABリプレッサーで最も効果的であることを示唆している。
【0080】
興味深いことに、差異的に発現する遺伝子のボルケーノプロットにより、免疫グロブリンG1およびG2(Ighg1およびIghg2b)の重鎖の定常領域、および他の免疫グロブリン関連重鎖および軽鎖遺伝子の定常領域が、KRABと比較してHP1a KRABで最も下方抑制されていることが明らかになった(図1G)。
【0081】
以前の研究は、ウイルスDNAがTLR(すなわち、TLR9)を刺激し、次にMyD88を活性化し、適応免疫およびAAVに対する抗体産生につながる下流のシグナル伝達イベントを開始することを実証している。以前の証拠および免疫グロブリン経路の抑制が観察されたことに照らして、本発明者らは、Myd88抑制群においてAAV特異的体液性応答が減少したかどうかを調べた。本発明者らは、AAV1キャプシドに対する免疫グロブリンG(IgG)応答を測定した。非注射対照と比較して、本発明者らは、AAV/Mock処置動物におけるAAV1に対する血漿IgG2aレベルの11倍の増加を検出した。しかし、AAV/Myd88を受けた患者は、AAV-1に対して血漿IgG2aが有意に低かった(60%)(図1H)。この発見は、現在のAAVベースの遺伝子治療における重要な課題である、AAVに対する体液性免疫を調節する刺激的な機会を提示し、同時に遺伝子編集(ヌクレアーゼコンピテントCRISPR)を実行するのに本質的に適したツールを提示する。
【0082】
MyD88の転写調節のためのより強力なCRISPRリプレッサーを特定したので、本発明者らは、次に、敗血症などで全身の転写反応が増強された場合に、この抑制が下流の宿主反応を調節し、保護を与えるのに十分かどうかを調べた。さ敗血症は、抗生物質耐性の出現と慢性疾患に苦しむ患者の延命により、差し迫った医学的問題である。らに、敗血症による高い死亡率は、依然として戦場での外傷後の医学的課題であり、新しい予防戦略の必要性を浮き彫りにしている。
【0083】
本発明者らは、Cas9マウスをAAV/Myd88-MS2-HP1aKRABまたはAAV/Mockで前処理し、3週間後に全身性リポ多糖(LPS)(Escherichia coli 0127:B8から)で処理した。LPS治療の6時間後、本発明者らは肺、血液および骨髄を採取し、Myd88および主要な炎症性サイトカインの転写レベルを評価した(図2A)。本発明者らは、AAV/Mock処置マウスと比較して、肺(61%)、血液(80%)および骨髄(76%)におけるMyd88の有意な抑制を観察した(図2B)。LPSに応答して、Myd88の抑制は、Icam-1、Tnfα、NCf、およびIl6、Ifn-α、Ifn-β、Ifn-γ、およびStat4などのMyd88シグナル伝達の直接的または間接的に下流にある広範囲の炎症および免疫関連マーカーの上方調節を妨げた(図2C~2D、図6、および図7)。定量的ELISAベースの化学発光アッセイを使用した血清および肺のサイトカインレベルの分析により、Myd88抑制マウスにおけるサイトカインのレベルの低下が明らかになった(図2E)。さらに、敗血症および組織損傷に関連する全身マーカーである血清乳酸レベルは、LPS曝露前にマウスをAAV/Myd88抑制カセットで前処理した場合に有意に低く、全身損傷の低減を示した(図2F)。
【0084】
次に、本発明者らは、Myd88プロモーターの異なる領域を標的とすることにより、Myd88抑制レベルを調査した。本発明者らは、転写開始部位の100bp上流内を標的とするgRNAを構築し(セット2)、以前のgRNAセット(セット1)と比較して優れたインビトロ効力を検出した(図8A~8B)。驚くべきことに、新しいMyd88 gRNAは、以前のgRNAセットと比較した場合、肝臓で優れた抑制をもたらしたが、gRNAの以前のセットと比べて血液、肺、および骨髄であまり優れないMyd88の抑制をもたらした(図8C)。これは、LPS損傷後にも観察され(図2G)、内因性プロモーター内のgRNA標的部位の潜在的な器官および細胞型特異的効果を示している。次に、本発明者らは、このCRISPRベースのMyD88抑制が、LPS誘発性損傷後に病態生理学的に関連する表現型を誘発するのに十分であるかどうかを調べた。全身性炎症反応および肝臓の組織損傷の血清マーカーの分析は、CRISPR-Set 2による前処理がLPS注射の有害な影響を弱めることを示した(図2H)。特に、高密度リポタンパク質(HDL)は、LPS治療後に増加して全身のLPSを排除し、組織を損傷から保護し、MyD88シグナル伝達に関連付けられていることが示された。これに従って、本発明者らは、LPSがHDL、低密度リポタンパク質(LDL)、およびmock治療群においてコレステロールの上昇を誘発したが、MyD88抑制下では誘発しないことを見出した。さらに、MyD88抑制は、肝細胞損傷のマーカーであるアラニントランスアミナーゼ(ALT)の上昇と、急性腎障害のマーカーである血中尿素窒素(BUN)の上昇を抑制し、これはMyD88抑制が敗血症後に肺および全身組織損傷を緩和することをさらに示唆する(図2Hおよび図9)。最後に、本発明者らは、インビトロおよび生体内でのCXCR4などの他の免疫学的に関連する遺伝子座の合成制御に対するMS2-HP1aKRAB超抑制の拡張性を示した(図10A-10C)。
【0085】
要約すると、本発明者らは、内因性Myd88に対して新たに開発されたCRISPRベースの転写超抑制因子を使用して、生体内で免疫応答を合成制御するための組成物、システム、および方法を提供する。本発明者らは、このシステムが下流シグナル伝達層の調節に有効であり、生体内で目に見える保護表現型を作り出すことができることを示している。この概念は、生体内でより小さな細胞集団を標的とすることが知られているあまり一般的ではないAAV血清型(AAV2/1)を使用した送達の場合に特に魅力的である(例えば非実質細胞)。
【0086】
本発明者らは、Myd88-/-動物における抗原特異的IgG2a応答の生成の失敗に関する以前の報告と一致して、AAV/CRISPRでMyd88遺伝子座を標的化すると、AAV1 に対して生成されるIgG2aが減少し、一般的な免疫グロブリン発現パターンが調節されたことを実証する。さらに、AAV-1は樹状細胞を標的にできることが示されており、これらの細胞におけるMyd88シグナル伝達は、AAV に対する適応免疫応答を開始するために重要であった。この経路は、生体内でのAAV2/1だけではなく多くのAAV血清型に対する体性免疫を誘導する重要なノードであることが実証さているので、CRISPRベースの合成リプレッサーを使用してMyd88レベルを制御する能力は、AAVベースの臨床遺伝子治療に関連する一般的な課題に照らして重要である。この研究でヌクレアーゼコンピテントCas9と切断されたgRNAを採用すると、免疫応答を調節しながら標的遺伝子編集にCRISPRを同時に適用する機会が開かれ、CRISPR媒介性遺伝子抑制がshRNAなどの以前に使用されていたシステムに対して優位になる。
【0087】
この戦略は、(LPS)誘発性内毒血症に対する全身性炎症反応の調節にも効果的であった。Myd88 の CRISPR媒介性内因性抑制は、広範囲の炎症マーカーの上方抑制を防ぎ、保護的表現型を付与した。この概念は、炎症状態を調節し、敗血症から保護するための容易にプログラム可能なツールとして、CRISPR ベースの転写調節の用途に有望である。最後に、Myd88(L265P)の体細胞変異の活性化は、チェックされていないリンパ球増殖とマクログロブリン産生を特徴とする非ホジキン リンパ腫の一種であるワルデンストレームマクログロブリン血症に関係している。Myd88突然変異は、NF-κBシグナル伝達を通じて悪性増殖をサポートし、その阻害は癌細胞の生存率の低下に関連している。したがって、この研究で示されているようにMyd88(および CXCR4)を全身的に抑制する能力は、このグループの患者に刺激的な治療の機会を提供することができる。
【0088】
方法
MS2融合リプレッサー-MS2融合転写リプレッサーを構築するために、対象の特定のドメインは、我々のグループで以前に公開されたベクターから増幅され、続いてpcDNA3-MS2-VP64バックボーン(AddgeneプラスミドID:79371)10にクローンされた。pcDNA3-MS2-VP64ベクターをNotIおよびAgeIで消化してVP64ドメインを除去し、増幅されたリプレッサーをギブソンアセンブリ法によってこのバックボーンにクローニングした。
【0089】
U6-gRNA-MS2プラスミド-これらのプラスミドを生成するために、gRNAの14bpまたは20bpのスペーサーを、ゴールデンゲート反応を介してBbsI部位においてsgRNA-MS2クローニング骨格(Addgene プラスミドID:61424)に挿入した。すべてのgRNAシーケンスを以下に示す。
【0090】
AAVベクター-gRNAをU6-sgRNA-MS2骨格にクローニングした後、U6-gRNAコード領域をこのベクターから増幅し、ゴールデンゲート反応を使用してゲートウェイエントリーベクター内に挿入した。同じ方法を使用して、リプレッサードメインとshef1aプロモーターをゲートウェイエントリーベクターにクローニングした。設計された安全スイッチsgRNA配列は、gblocks(Integrated DNA Technologies)として合成され、HindIIIおよびSphIで消化されたゲートウェイエントリーベクター(AddgeneプラスミドID#62084)に挿入された。LR反応(Invitrogen)を介してこれらすべての成分をAAV骨格にさらにサブクローニングして、AAVベクターを作成した。すべてのプライマーとgRNA シーケンスを以下に示す。
【0091】
AAVのパッケージングと精製-構築されたAAVベクターをSmaI消化によって消化し、ウイルス生成の前にITR領域の完全性を試験した。検証済みのAAVベクターを使用して、PackGene(登録商標)、Biotech、LLC製のAAV2/1-Myd88、AAV2/1-CXCR4、AAV2/DJ-TTN、AAV2/DJ-Cas9、およびAAV2/1-Cas9を生成した。ウイルス力価は、線形化された親AAVベクターを使用して、標準曲線に対して1.5E+13GC/mlでリアルタイム SYBR Green PCR によって定量化した。
【0092】
【化1】
【化2】
【化3】
【0093】
【化4】
【化5】
【化6】
【0094】
【化7】
【化8】
【化9】
【0095】
内因性標的抑制のための細胞培養-HEK293FT、Neuro-2a、およびRaw264.7細胞株(ATCCから購入)を、37℃および5%CO2のインキュベーター中、10%のウシ胎児血清(FBS-Life Technologies)、2mMのグルタミン、1.0mMのピルビン酸ナトリウム(Life Technologies)および1%のペニシリン-ストレプトマイシン(Life Technologies)を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM-Life Technologies)で維持した。
【0096】
インビトロ培養細胞のトランスフェクション-HEK293FT細胞を24ウェルプレートのウェルあたり約50,000細胞に播種し、翌日にトランスフェクトした。HEK293FT細胞は、トランスフェクショ対照(25ng)としてgRNA(10ng)、dCas9(200ng)、MS2融合リプレッサー(100ng)、ピューロマイシン耐性遺伝子(50ng)、およびエンハンスブルー蛍光タンパク質(EBFP)をコードするプラスミドDNAでコトランスフェクトした。ポリエチレンイミン(PEI)(Polysciences)を使用して、HEK293FT細胞をトランスフェクトした。トランスフェクション複合体は、製造元の指示に従って調製した。トランスフェクションの24時間後に、細胞を0.5ug/mlのピューロマイシン(Gibco-life tech)で処理した。トランスフェクションの72時間後に細胞を収集し、RNAeasy Plusミニキット(Qiagen)を使用して細胞から全RNAを収集した。
【0097】
Neuro-2a細胞を24ウェルプレートに1ウェルあたり約50,000個の細胞で播種し、翌日にトランスフェクトした。細胞に、gRNA(100ng)、Cas9ヌクレアーゼ(70ng)、およびトランスフェクション対照としてのEBFP(25ng)、およびピューロマイシン耐性遺伝子(50ng)をコードするプラスミドをコトランスフェクトした。プラスミドは、Lipofectamine LTXを使用してNeuro-2a細胞に送達した。トランスフェクションの24時間後に、細胞を0.5ug/mlのピューロマイシン(Gibco-life tech)で処理した。5日後、細胞を10ug/mlの濃度のLPSで処理し、5時間後、RNAeasy Plusミニキット(Qiagen)を使用して細胞から全RNAを収集した。
【0098】
CXCR4抑制のために、未処理の264.7細胞を24ウェルプレートのウェル当たり約50,000セル24で播種し、翌日に形質導入した。細胞培養培地を除去し、250マイクロリットルの培地中、1E+9GC/細胞でAAVを培養に加えた。形質導入の12時間後に培地を更新した。5日後、細胞を0.1ug/mlの濃度のLPSで5時間処理し、RNAeasy Plusミニキット(Qiagen)を使用して全RNAを回収した。
【0099】
定量的RT-PCR分析-細胞または組織を溶解し、RNeasy Plus ミニキット(Qiagen)またはtrizol(Life Technologies)を使用してRNAを抽出し、続いてHigh-Capacity RNA-to-cDNA Kit(Thermo Fisher)またはiScript cDNA合成キット(Bio-Rad)を使用してcDNAを合成した。qRT-PCRは、SYBR Green PCR Master Mix(Thermo Fisher)を使用して実施した。すべての分析は18s rRNA(ΔCt)に対して正規化され、インビトロ実験では非トランスフェクト対照またはCas9のみのグループ、生体内実験ではAAV-GFP注射グループに対して倍率変化が計算された(2-ΔΔCt)。qPCRのプライマー配列を以下に示す。
【0100】
DNAの分離とリアルタイム組織におけるAAVゲノムのPCRコピー-組織からのDNA単離は、DNeasy血液および組織キット(Qiagen)を使用して、製造業者のプロトコルに従って行った。qPCR反応は、製造者のプロトコルに従って、各サンプルからの100ngのテンプレートDNAと、プローブベースのqPCRマスターミックス(IDT)を使用したウイルス末端逆位反復(ITR)のプライマーおよびプローブからなる。データは、マウスAcvr2b対照遺伝子に対して正規化された。
【0101】
ELISAベースの化学発光アッセイ-マウスを採取した後、血漿サンプルを収集し、-80°Cで1回分を保存した。肺サンプルは、1x細胞溶解バッファー(Cell Signaling)(1mlのバッファーに対する100mgの組織の比率)を使用して溶解し、その後、溶解組織のホモジナイゼーションと超音波処理を行った。アッセイは製造者のプロトコルに従って、Q-Plex(商標)マウスサイトカイン-スクリーン(16-Plex)キット(Quansys Biosciences)を使用して実施した。簡単に言うと、サンプルまたはキャリブレーターを、GMCSF、IL-1α、IL-1β、IL-4、IL-5、IL-6、IL-12p70、IL-17、MCP-1、MIP-1α、RANTES、およびTNFαを捕捉する分析物特異的抗体が配列された96ウェルプレートのウェルに追加した。プレートを洗浄し、ビオチン化分析物特異的抗体を加えた。洗浄後、ストレプトアビジン-西洋ワサビペルオキシダーゼ(SHRP)を加えた。さらに洗浄した後、化学発光基質を添加して、アレイの各位置に残っているSHRPの量を測定した。
【0102】
抗体ELISA-ウイルス粒子当たり2×109含有する1×コーティング緩衝液(13mMの炭酸ナトリウム、35mMの重炭酸ナトリウム緩衝液、pH9.2)で希釈したAAV粒子50マイクロリットルを、Microlon(登録商標)高タンパク質結合96ウェルプレート(Greiner)の各ウェルに添加した。ウェルを1xトリス緩衝生理食塩水+Tween-20(TBST、Bethyl)で3回洗浄し、1xトリス緩衝生理食塩水+1%BSA(Bethyl)で1時間室温でブロックした。ウェルをTBSTで3回洗浄した。標準曲線は、精製されたマウス宿主IgG2a抗AAV1(Fitzgerald)抗体を使用して、TBST+1%BSA+1:500陰性コントロールマウス血清で2倍に希釈し、10,000ng/mlノAAV1抗体の濃度から始めて作成した。標準をプレートに加え、続いて血清サンプルを1:500の希釈度で加え、室温で1時間インキュベートした。ウェルをTBSTで4回洗浄し、ヤギ抗マウスHRP抗体を1:500の濃度で加え、室温で1時間インキュベートした。ウェルを洗浄バッファーで4回洗浄し、TMB基質をウェルに加えた。標準曲線の作成後(15分)、0.18MのH2SO4を添加して反応を終了させた。最後に、プレートリーダー(BioTek)を使用して、450波長での吸光度を測定した。吸光度の結果はエクスポートされ、Excelで分析した。
【0103】
乳酸アッセイ-血液サンプルは、EDTAコーティングされたチューブを使用して収集した。サンプルを1,000xgで10分間遠心分離した。血漿を採取し、-80℃で保存した。乳酸アッセイは、製造者のプロトコル(L-乳酸アッセイキット、Cayman Chemicals)に従って行った。簡単に言えば、0.5M MPAを添加することにより試料からタンパク質を取り除いた。タンパク質をペレット化した後、上澄み液を炭酸カリウムに加え、4℃、10,000xgで5分間遠心分離した。サンプルを4倍に希釈し、指定されたウェルに加えた。次に、アッセイ緩衝液補因子混合物、蛍光基質、および酵素混合物を各ウェルに加えた。プレートを室温で20分間インキュベートし、励起波長530~540nmおよび発光波長585~595nmを使用して蛍光を測定した。製造者のプロトコルに従って、吸光度の結果をエクスポートし、Excelで分析した。
【0104】
LPS注射後の肝損傷の検査-血漿サンプルをIDEXX研究所に送り、ALT、コレステロール、LDL、HDL、BUN、リパーゼを含む組織損傷マーカーのパネルを測定した。
【0105】
動物-動物を使ったすべての実験は、アリゾナ州立大学の施設内動物管理使用委員会(IACUC)によって承認され、施設のガイドラインに従って実施されている。すべての実験は、グループごとに6~8週齢の少なくとも3匹のマウスで行われた。雄と雌の両方が各実験に含まれた。各グループのサンプルサイズは、各図の凡例に示されている。すべてのマウスは同等に扱われた。雄のC57BL/6マウス(JAXストック番号:000664)は、AAV2/1-GFP、様々な臓器への向性、およびAAV-CRISPR活性化実験の研究に使用した。雄と雌のRosa26-Cas9ノックインマウス(JAXスック番号026179)をAAV-CRISPR抑制実験に使用した。
【0106】
眼窩後注射-AAV粒子は、静脈洞の眼窩後注射によってマウスに送達した。動物を3%イソフルランで麻酔し、ウイルス粒子を左眼に100マイクロリットルのAAV溶液(Cas9発現マウスを用いた実験ではマウスあたり1E11~1E12ゲノムコピーおよび-C57BL/6マウスの場合は合計1.01E+12GC AAV-TTNおよびAAV-Cas9(100:1比))を注射した。
【0107】
組織収集-マウスを注射後の3週間目にCO2吸入によって安楽死させた。肝臓、脾臓、肺、精巣、骨髄、および血液から採取した組織サンプルをRLT(Life Technologies)で収集するか、RNA分析用に急速凍結した。
【0108】
InvivoLPS誘導-LPS誘導では、マウスを、50mg/mlの濃度のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に溶解したリポ多糖(Escherichia coli 0127:B8(Sigma-Aldrich,St.Louis MO,USA)から)の腹腔内(i.p.)注射によって処理した。CO2吸入によりLPS注射の6時間後にマウスを安楽死させた。
【0109】
RNAシーケンシングおよびデータ分析-RNAは、RNeasy Plusミニキット(Qiagen)を使用してマウス骨髄サンプルから抽出され、続いてGLOBINclear(商標)キット、マウス/ラットキット(Thermofisher)を使用してグロビンmRNAを枯渇させた。Novogene CorporationInc.で方向性のないライブラリの準備を行い、その後、Illumina Nova Platformを使用したペアエンド150ラン(2×150塩基)を使用してRNAシーケンシングを行った。カバレッジは、サンプルあたり最低2,500万回の読み取りであった。次に、STARソフトウェアを使用してFASTQファイルをマウスゲノムシーケンスにアラインメントし、独自にマップされたリードカウントをIntegrative Genomics Viewer(IGV)で視覚化した。遺伝子発現レベルは、マップされたリードの数によって計算した。各サンプルの全遺伝子発現レベル(RPKMまたはFPKM)から、グループ間のサンプルの相関係数を算出した。遺伝子発現解析から得られたリードカウントは、示差的発現分析に使用され、異なるグループの示差的発現分析は、DESeq2 Rパッケージを使用して実行した。すべての比較グループ内で、log10(FPKM+1)の結合差次的発現遺伝子の階層的クラスタリング分析を行った。GO富化、DO富化、KEGG富化、Reactome富化などの富化分析には、ClusterProfilerソフトウェアを使用した。
【0110】
統計分析-統計分析は図の凡例に含まれている。すべてのデータは、平均±平均値の標準偏差または平均±標準偏差として表示される。N=インビトロ実験のためのトランスフェクションの数、N=生体内実験のための動物の数。統計分析は、prims 7 Software(GraphPad)を使用して行った。本発明者は、両側のスチューデントのt検定を行った。p<0.05の値は有意と見なした。*(p<0.05)、**(p<0.01)、***(p<0.001)またはn.s.(有意差なし)として表される
【0111】
【表2】
【0112】
【表3】
【0113】
【表4】
【0114】
【表5】
【0115】
【化10】
【0116】
【化11】
【0117】
【化12】
【0118】
【化13】
図1A
図1B-1D】
図1E-1F】
図1G-1H】
図2A-2C】
図2D-2E】
図2F-2H】
図3A-3B】
図4
図5A
図5B
図5C
図6
図7
図8A-8C】
図9
図10A-10C】
図11
図12
図13
図14
図15-1】
図15-2】
図16
【配列表】
2022512974000001.app
【国際調査報告】