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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-07
(54)【発明の名称】ムコ多糖症IVA型の動物モデル
(51)【国際特許分類】
   A01K 67/027 20060101AFI20220131BHJP
   C12Q 1/06 20060101ALI20220131BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220131BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20220131BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20220131BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20220131BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20220131BHJP
【FI】
A01K67/027 ZNA
C12Q1/06
C12N5/10
C12N5/071
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
C12N15/09 110
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021526348
(86)(22)【出願日】2019-11-14
(85)【翻訳文提出日】2021-07-13
(86)【国際出願番号】 EP2019081303
(87)【国際公開番号】W WO2020099548
(87)【国際公開日】2020-05-22
(31)【優先権主張番号】18382806.0
(32)【優先日】2018-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500031124
【氏名又は名称】エステベ ファーマシューティカルズ,ソシエダッド アノニマ
【氏名又は名称原語表記】ESTEVE PHARMACEUTICALS,S.A.
【住所又は居所原語表記】Passeig de la Zona Franca,109,4a Planta,08038 Barcelona,Spain
(71)【出願人】
【識別番号】510207313
【氏名又は名称】ウニベルシタット アウトノマ デ バルセロナ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITAT AUTONOMA DE BARCELONA
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】ボッシュ-トゥーベルト,マリア-ファティマ
(72)【発明者】
【氏名】ベルトリン-ガルベス,ホアン
(72)【発明者】
【氏名】ガルシア-マルティネス,ミゲル
(72)【発明者】
【氏名】サンチェス-クラレス,ビクトル
(72)【発明者】
【氏名】プホール-アルタリーバ,アンナ-マリア
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
2G045AA29
2G045AA40
2G045CB17
4B063QA01
4B063QA07
4B063QQ67
4B063QQ73
4B063QQ75
4B063QQ79
4B063QQ89
4B063QR72
4B065AA91X
4B065AA91Y
4B065AB05
4B065BA01
4B065CA44
(57)【要約】
本発明は、ムコ多糖症IVA型またはモルキオ症候群A型の新規の動物モデルを提供し、前記動物モデルを作製する方法およびその5つの用途に提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非ヒト動物モデルであって、
配列番号2の386位におけるアルギニン(R)がシステイン(C)によって置換されているヒトミスセンス変異R386Cに対応する内在性のGalns遺伝子におけるミスセンス変異、または配列番号1の1156位におけるシトシン(C)のチミン(T)への置換(1156C>T)によって特徴付けられる変異を含んでおり、前記モデルは、ムコ多糖症IVA型またはモルキオ症候群A型に付随する少なくとも1つの表現型を発現している、
ムコ多糖症IVA型またはモルキオ症候群A型の、遺伝学的に改変されている非ヒト動物モデル。
【請求項2】
前記ミスセンス変異は、配列番号3に記載の通りのヌクレオチド配列における1162位のシトシン(C)のチミン(T)への置換(1162C>T)によって、または388位のアルギニン(R)のシステイン(C)への置換(R388C)からなる、配列番号4に記載のアミノ酸配列における変異によって特徴付けられる、請求項1に記載の非ヒト動物モデル。
【請求項3】
前記少なくとも1つの表現型は、多発性異骨症である、請求項1または2に記載の非ヒト動物モデル。
【請求項4】
前記多発性異骨症は、野生型動物と比べて抑えられている体長および/または骨長を含む、請求項3に記載の非ヒト動物モデル。
【請求項5】
前記非ヒト動物モデルは、変形性関節症、歯の薄いエナメル質、歯の脆弱性、不正咬合、角膜混濁、聴覚障害、中耳炎、心臓弁膜症、呼吸の不全(resporatory compromise)、肝脾腫、およびこれらの組み合わせから選択される表現型をさらに発現している、請求項3~4のいずれか1項に記載の非ヒト動物モデル。
【請求項6】
前記非ヒト動物は、齧歯類である、請求項1~5のいずれか1項に記載の非ヒト動物モデル。
【請求項7】
前記齧歯類は、ラットである、請求項6に記載の非ヒト動物モデル。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の非ヒト動物モデルに由来する細胞株。
【請求項9】
ムコ多糖症IVA型またはモルキオ症候群A型の処置または予防のための化合物のスクリーニングのための、請求項1~7のいずれか1項に記載の動物モデルまたは請求項8に記載の細胞株の、使用。
【請求項10】
前記動物モデルを前記化合物と接触している状態におくこと、および前記化合物に対する反応としての、前記動物の生理学的、組織学的または形態学的な変化の存在もしくは非存在を検出することを含む、
請求項1~7のいずれか1項に記載の動物モデルに対する化合物の影響を決定する方法。
【請求項11】
ムコ多糖症IVA型またはモルキオ症候群A型に対する処置の有効性を評価するための、請求項1~7のいずれか1項に記載の動物モデルの使用。
【請求項12】
医薬組成物または医薬化合物の有効性を評価する方法であって、
i)請求項1~7のいずれか1項に記載の非ヒト動物モデルを準備する工程と、
ii)前記医薬組成物または化合物を用いた処理の、前記非ヒト動物モデルに対する影響を評価する工程と、
を含む、方法。
【請求項13】
i)請求項1~7のいずれか1項に記載の非ヒト動物モデルに、試験される医薬組成物または化合物を与える工程と、
ii)医薬組成物または化合物を用いて処理した前記モデルに対して認められた影響を評価する工程と、
を含む、ムコ多糖症IVA型またはモルキオ症候群A型の処置の効果を評価する方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔技術分野〕
本発明は、ムコ多糖症IVA型またはモルキオ症候群A型の非ヒト動物モデル、ならびに該動物モデルを作製する方法およびその使用に関する。特に、この疾患の処置のための治療法の評価における前記モデルの使用に。
【0002】
〔背景技術〕
リソソームとは、動物細胞の細胞質に存在する細胞小器官で、50種類以上の加水分解酵素を含み、古くなった細胞成分の再利用時、あるいはウイルスや細菌の貪食後に、生体分子を分解する。この細胞小器官は、プロテアーゼ、ヌクレアーゼ、グリコシダーゼ、リパーゼ、ホスホリパーゼ、ホスファターゼおよびスルファターゼを含むいくつかの種類の加水分解酵素を含む。すべての酵素は酸性の加水分解酵素である。
【0003】
リソソーム蓄積症(LSD)は、1つまたは複数のリソソーム酵素に影響を及ぼす遺伝的欠陥によって引き起こされる。これらの遺伝疾患は一般に、リソソームに存在する特定の酵素活性の欠損に起因する。また、より少ない頻度ではあるが、これらの疾患は、リソソームの生合成に関与するタンパク質の欠損が原因であることもある。
【0004】
LSDは個人ではまれであるが、集団としてはこれらの疾患は一般集団に比較的よくみられる。LSDの総罹患率は、出生5,000人当たり約1人である。しかし、一般集団の中でもいくつかの集団は、特に高い発生率でLSDに罹患する。例えば、中部および東ヨーロッパのユダヤ系(アシュケナージ)のそれぞれの子孫において、ゴーシュ病およびテイ=サックス病の罹患率は、それぞれ、出生児の600人に1人、および出生児の3900人に1人である。
【0005】
ムコ多糖症(MPS)は、グルコサミノグリカン(GAG)の代謝に関与する特定のリソソーム酵素の不在または欠損を特徴とする7つのLSD疾患群である。X染色体連鎖遺伝を有するMPSII(ハンター病)以外のすべてのMPSは常染色体劣性遺伝形式をとる。
【0006】
7つのMPSのうち、ムコ多糖症IV型(MPSIVまたはモルキオ症候群)にはAとBの2つの亜型がある。モルキオAとBはともに常染色体劣性遺伝の病態であり、男女とも等しく罹患する。モルキオAまたはMPSIVAはまれな病態であり、罹患率に関する既存のデータは不足しており、変わりやすい。報告されている推定値は、北アイルランドの76,320人当たり1人から西オーストラリアの641,178人当たり1人までの範囲である。MPSIVAは、GAGケラタン硫酸(KS)およびコンドロイチン6‐硫酸(C6S)の分解に関与する酵素の1つの欠損によって引き起こされる。この酵素をコードする遺伝子が同定され、様々な突然変異が報告されている。
【0007】
MPSIVAはガラクトサミン(N-アセチル)-6-スルファターゼ(GALNS、EC3.1.6.4)という酵素の活性の欠損によって生じる。GALNSは、コンドロイチン-6-硫酸(C6S)の非還元末端のN-アセチルガラクトサミン-6-硫酸の硫酸エステル基と、ケラタン硫酸(KS)の非還元末端のガラクトース-6-硫酸の硫酸エステル基を加水分解するリソソーム酵素である。非分解C6SおよびKSの持続的な蓄積の結果として、進行性の細胞損傷が起こり、多臓器性疾患をもたらす。現在、ヒトGALNS遺伝子中で、GALNS酵素の活性の欠損に至る、約180の異なる変異が同定されている。
【0008】
KSおよびC6Sの大部分は軟骨細胞によって産生されるため、分解されなかった基質は主に軟骨の細胞および細胞外マトリックスに蓄積する。これは、軟骨および骨の発達に直接的な影響を及ぼし、全身性骨格形成異常を引き起こす。モルキオAの患者では、軟骨細胞が空胞化しており、その結果、軟骨形成異常および/または軟骨内骨化が生じる。MPSIVA患者のほとんどは健康な外見で生まれ、症状は徐々に進行する。初期症状は1~3歳の間に認められ、診断時の平均年齢は4.7歳前後である。主な骨格的特徴として、顕著な体幹小人症、歯突起形成不全、手根胸筋、脊柱後弯症、側弯症、外反膝、外反股、下位肋骨の発赤、過可動関節および転倒傾向を伴う異常歩行が挙げられる。その他の潜在的な合併症として、肺障害、心臓弁膜症、難聴、肝腫大、微細な角膜混濁、粗い顔貌、異常に薄いエナメル質と頻回の齲蝕を伴う広範囲の歯牙が挙げられる。MPSIVA患者は知能を保つ。疾患の進行速度および存在する表現型の特徴は、患者間で様々である。MPSIVAの表現型は、一生を通して、最終身長が120cm未満の場合は重度、最終身長が120cmを超え140cm未満の場合は中度、最終身長が140cm以上の場合は軽度と定義される。平均寿命は、10代から70代までの範囲で報告されている。この変動性は、突然変異の性質、民族性または患者が受ける医療における差など、複数の因子に関係している可能性がある。
【0009】
2014年、エロスルファーゼアルファ、VIMIZIM(登録商標)(BioMarin Pharmaceutical Inc)として商業化された組換えヒトGALNSは、食品医薬品局(FDA)および欧州医薬品庁(EMA)によってMPSIVAの治療用に承認された。この酵素補充療法は、この疾患の2つの異なるマウスモデルにおいて試験されている(Tomatsu et al., 2008, 2010a, 2015)。
【0010】
3つのMPSIVAマウスモデル:i)遺伝子欠失によるノックアウト(KO)マウス、ii)不活性ヒトGALNSを発現するノックインマウス、iii)活性部位にミスセンス変異を有するノックインMPSIVAマウスモデルが、生成されている(Tomatsu et al. 2003, Tomatsu et al. 2005, Tomatsu et al. 2007)。
【0011】
1つ目のホモ接合GALNS KOマウスは、Galns遺伝子のエクソン2を破壊することによって生成された。このKOマウスは、検出可能なGALNS活性が末梢組織において認められず、脳、肝臓、脾臓または腎臓などの様々な器官におけるKSの蓄積を伴う尿中KSレベルの上昇も示す(Tomatsu et al. 2003)。具体的には、2か月齢では、リソソーム内蓄積が肝臓と脾臓の類洞並列細胞およびクッパー細胞で検出された。12か月齢マウスでは、肝細胞や腎尿細管上皮細胞に空胞変性は認められなかった。心臓弁の基部の細胞のみが空胞変質を呈した。脳では、蓄積物質は、髄膜細胞、ならびに新皮質および海馬の神経細胞においてのみ検出された。さらに、免疫組織化学により、角膜上皮細胞の細胞質において過剰なKSまたはC6Sも認められた。しかし、健常な野生型マウスと比較して、KOマウスは同様の生存率を有し、分析したどの月齢においても明らかな骨格異形成を示さなかった。
【0012】
もう一つのMPSIVAマウスモデルは、Galns遺伝子の標的化された変異生成によって、ヒトの変異されたGALNS遺伝子によるマウスの内在性遺伝子の置換によって生成された。このMPSIVAマウスモデルは、ヒトGALNSに対して寛容性であり、酵素補充療法に対する免疫反応を防ぐために生成された(Tomatsu et al. 2005a)。このマウスモデルは、GALNS活性を示さなかったが、血清KSレベルは野生型マウスと比較して差異が無かった。グリコサミノグリカンの蓄積は、内臓器官、軟骨、骨、角膜および脳でのみ検出された。KOマウスと同様に、リソソーム性の蓄積物質は、脾臓の類洞並列細胞内およびクッパー細胞内で検出され、肝細胞においても検出された。軟骨レベルでは、軟骨細胞が細胞質においてリソソーム性の蓄積物質を示した。リソソームの膨張は、骨(特に骨細胞および骨芽細胞)において検出もされた。このリソソーム性の蓄積にもかかわらず、MPSIVA耐性マウスと野生型マウスとの間で、脚、脊椎または肋骨にX線像上の差異は認められなかった。さらに、大腿骨および脛骨における骨密度(BMD)のマイクロCT分析は、野生型マウスとMPSIVAマウスとの間で有意に変化しなかった(WT:496.24±38.75mgHA/cc、MPSIVA:500.73±22.25mgHA/cc)。内臓器官および軟骨細胞にグリコサミノグリカンの蓄積が認められたが、MPSIVA耐性マウスでは骨格異形成は認められず、血中KSレベルは正常であった(Rowan et al. 2013)。
【0013】
3つ目のMPSIVAマウスモデルは、マウス内在性Galnsにおいて、標的変異生成を用いて、SerによってCys76を置き換えることによって生成された別のノックインマウスであった(Tomatsu, 2007)。ホモ接合型マウスでは、検出可能なGALNS酵素活性は認められず、リソソーム性の蓄積が2~4か月齢ですでに認められた。複数の器官においてGAGの内臓性の蓄積が認められたが、骨に変化は認められなかった。したがって、このマウスモデルは、ヒトMPSIVA患者の身体的な特徴の不十分さによって、軽度な表現型を示した。
【0014】
骨および軟骨のリソソームにおける未分解の物質の蓄積にもかかわらず、これらのMPSIVAマウスモデルは、モルキオA患者の骨病変を発症しなかった。
【0015】
したがって、ムコ多糖症IVA型またはモルキオ症候群A型の処置の有効性を評価するために使用され得、かつヒト疾患を模倣する、モルキオ症候群A型の新しい動物モデルが、求められている。
【0016】
〔発明の概要〕
本発明は、ムコ多糖症IVA型またはモルキオ症候群A型の新規の動物モデルを提供する。
【0017】
従来技術において別の動物モデルがモルキオ症候群A型に関連する特徴のいくつかを示すことは、明らかにされているが、このような動物が、すべての中心的な特徴のすべてを示し得るとも、このような動物が、モルキオ症候群A型または他の病状のためのモデルとみなされるとも、明らかにされていない。
【0018】
したがって、第1の態様において、本発明は、配列番号2の386位におけるアルギニン(R)がシステイン(C)によって置換されているヒトミスセンス変異R386Cに対応する内在性のGalns遺伝子におけるミスセンス変異、または配列番号1の1156位におけるシトシン(C)のチミン(T)への置換(1156 C>T)によって特徴付けられる変異を含んでおり、前記モデルは、ムコ多糖症IVA型またはモルキオ症候群A型に付随する少なくとも1つの表現型を発現している、ムコ多糖症IVA型またはモルキオ症候群A型の、遺伝学的に改変されている非ヒト動物モデルに関する。
【0019】
別の態様では、本発明は、本発明に係る非ヒト動物モデルに由来する細胞株に関する。
【0020】
本発明のさらなる態様は、ムコ多糖症IVA型またはモルキオ症候群A型の処置または予防のための化合物のスクリーニングのための、本発明に係る動物モデルまたは細胞株の使用に関する。
【0021】
さらに、本発明のさらなる態様は、本発明に係る動物モデルへの化合物の影響を決定する方法であって、前記動物モデルを前記化合物と接触している状態におくこと、および前記化合物に対する反応としての、前記動物の生理学的、組織学的または形態学的な変化の存在もしくは非存在を検出することを含む、方法に関する。
【0022】
その上にさらなる態様では、本発明は、ムコ多糖症IVA型またはモルキオ症候群A型に対する処置の有効性を評価するための、本発明に係る動物モデルの使用に関する。
【0023】
別の態様では、本発明は、医薬組成物または医薬化合物の有効性を評価する方法であって、
i)本発明による前記非ヒト動物モデルを提供する工程と、
ii)前記医薬組成物または前記化合物で処置した前記非ヒト動物モデルにおける効果を評価する工程とを含む方法に関する。
【0024】
さらなる態様では、ムコ多糖症IVA型またはモルキオ症候群A型の治療の効果を評価する方法であって、
i)本発明に係る非ヒト動物モデルを準備する工程と、
ii)前記医薬組成物または化合物を用いた処理の、前記非ヒト動物モデルに対する影響を評価する工程とを含む方法もまた包含される。
【0025】
〔図面の簡単な説明〕
図1.Galns-/-ラットの遺伝学的および生化学的な解析。(A)WT(Galns+/+)、ヘテロ接合型(Galns+/-)およびホモ接合型(Galns-/-)のラットを遺伝子型決定するとき得られた、MboII制限酵素による消化後のPCRアンプリコンを示すアガロースゲルの代表的な画像。(B)GALNS活性を、5カ月齢のオスおよびメスの、F0 野生型およびGalns-/-ラットの血清試料において測定した。値は、1群につき2~10のラットの、平均±SEMである。ND:検出できず。
【0026】
図2.3回の戻し交配後のMPSIVAラット(F4世代)におけるGALNS活性の測定。(A)GALNS活性レベルを、1カ月齢のWT、ヘテロ接合型(Galns+/-)およびホモ接合型(Galns-/-)ラットの血清試料において測定した。(B)GALNS活性レベルを、1カ月齢のオスのWTおよびGalns-/-ラットの肝臓、脾臓、心臓および肺において測定した。値は、1群につき4~5ラットの平均±SEMである。*** P<0.001 対 Galns+/+ラット。ND:検出できず。
【0027】
図3.液体クロマトグラフィー-質量分析法(LC-MS/MS)による、オス(A)およびメス(B)のラットの血清試料におけるケラタン硫酸(KS)レベルの定量。値は、1群につき4~5ラットの平均±SEMである。オスおよびメスのGalns+/+ラットに対して、* P<0.05 対 オスおよびメスのGalns+/+ラット、** P<0.01 対 オスおよびメスのGalns+/+ラット、*** P<0.001 対 オスおよびメスのGalns+/+ラット。
【0028】
図4.オス(A)およびメス(B)のWTおよびGalns-/-ラットの体重。値は、1群につき36~40動物の平均±SEMである。* P<0.05 対 Galns+/+ラット、*** P<0.001 対 Galns+/+ラット。
【0029】
図5.3カ月齢のオス(A)およびメス(B)のWTおよびGalns-/-ラットの体長(鼻~肛門の長さ)の測定。* P<0.05 対 Galns+/+ラット、*** P<0.001 対 Galns+/+ラット。
【0030】
図6.3カ月齢のGalns-/-ラットで観察された歯の変化の代表的な画像。(A)正常なエナメル質および正常な咬合を有するWTのラット。(B)および(C)エナメル質の欠陥、歯の脆弱性および不正咬合を示すMPSIVAラット。
【0031】
図7.3カ月齢のオスのラットのマイクロコンピュータ断層撮影(μCT)分析。(A)WTおよびGalns-/-ラットにおける、内側顆から内果までの脛骨長の数量化。値は、1群につき3~4ラットの平均±SEMである。* P<0.05 対 Galns+/+ラット。(B)WTおよびGalns-/-ラット頭部の冠状断面による代表的なμCT画像であり、Galns-/-は、WTの顎と比べて変化した下顎骨(矢印)を示している。
【0032】
図8.MPSIVAラットの骨の形態学的および組織学的分析。磁気共鳴画像法(MRI)により分析したMPSIVAラットにおける変形性関節症の徴候。MPSIVA動物の脛骨頭における、矢頭によって印を付されている液体の病的な存在を証明している、6カ月齢のWTおよびGalns-/-ラットの膝の、代表的な矢状断面(A)および冠状断面(B)。(C)8カ月齢のホモ接合MPSIVAラットにおける関節軟骨の減少および軟骨細胞の肥大を示す脛骨断面のヘマトキシリン-エオシン染色の代表的な画像。
【0033】
図9.生存分析。野生型およびGalns-/-のオスのラットにおけるカプラン-マイヤー生存分析。WTについてn=15、Galns-/-についてn=36。Galns-/-ラット 対 WTラットについて、P=0.013。
【0034】
〔定義〕
用語「ヌクレオチド配列」または「単離されたヌクレオチド配列」または「ポリヌクレオチド配列」または「ポリヌクレオチド」または「単離されたポリヌクレオチド配列」は、本明細書では互換的に用いられ、DNAまたはRNAのいずれかの核酸分子(それぞれ、デオキシリボ核酸またはリボ核酸を含んでいる)を指す。上記核酸は、二本鎖配列であっても、一本鎖配列であっても、または二本鎖もしくは一本鎖配列の両方の一部分が含まれていてもよい。
【0035】
「発現」は、ポリ核酸がmRNAに転写され、ペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質に翻訳されるプロセスを意味する。ポリ核酸がゲノムDNAに由来し、かつ適切な真核宿主細胞または生物が選択されるなら、発現は、mRNAのスプライシングを包含し得る。「核酸」は、リボ核酸(RNA)、または相補的DNA(cDNA)もしくはゲノムDNAであり得るデオキシリボ核酸(DNA)を包含する。
【0036】
用語「%の配列同一性」または「%の同一性」または「%の配列相同性」は、候補配列が最大の「%の配列同一性」を達成するように揃えた後において、参照配列におけるヌクレオチドまたはアミノ酸と同一である上記候補配列のヌクレオチドまたはアミノ酸の割合を指す。好ましい実施形態では、配列同一性は、2つの任意の配列番号の全長またはその一部に基づき計算される。上記「%の配列同一性」は、本技術分野において定着している任意の方法またはアルゴリズム(ALIGN、BLASTおよびBLAST2.0アルゴリズムなど)によって決定することができる(Altschul S, et al., Nuc Acids Res. 1977;25:3389-3402およびAltschul S, et al., J Mol Biol. 1990;215:403-410を参照)。本明細書において、上記「%の配列同一性」または「%の同一性」または「%の配列相同性」は、上記参照配列および上記候補配列を揃えた後に同一であるヌクレオチドまたはアミノ酸の数を、上記参照配列のヌクレオチドまたはアミノ酸の総数で除し、その結果を100倍することにより計算される。
【0037】
任意で、アミノ酸同一性の程度を決定する際、当業者は、いわゆる「保存的」なアミノ酸置換を考慮してもよい。このことは、当業者には明らかであろう。保存的なアミノ酸置換は、類似の側鎖を有する残基の交換可能性に基づく。例えば、脂肪族側鎖を有するアミノ酸のグループは、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、およびイソロイシンを含む。脂肪族-ヒドロキシル側鎖を有するアミノ酸のグループは、セリンおよびスレオニンを含む。アミド含有側鎖を有するアミノ酸のグループは、アスパラギンおよびグルタミンを含む。芳香族側鎖を有するアミノ酸のグループは、フェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファンを含む。塩基性側鎖を有するアミノ酸のグループは、リジン、アルギニン、およびヒスチジンを含む。硫黄含有側鎖を有するアミノ酸のグループは、システインおよびメチオニンを含む。本明細書で開示するアミノ酸配列の置換変異体は、開示された配列中の少なくとも1つの残基が除去され、その場所に別の残基が挿入されたアミノ酸配列である。好ましくは、アミノ酸変化は保存的である。天然に存在するアミノ酸それぞれに対する好ましい保存的な置換は以下の通りである。AlaからSer;ArgからLys;AsnからGlnまたはHis;AspからGlu;CysからSerまたはAla;GlnからAsn;GluからAsp;GlyからPro;HisからAsnまたはGln;IleからLeuまたはVal;LeuからIleまたはVal;LysからArg;GlnからGlu;MetからLeuまたはIle;PheからMet,LeuまたはTyr;SerからThr;ThrからSer;TrpからTyr;TyrからTrpまたはPhe;ValからIleまたはLeu。
【0038】
用語「法典化する(codify)」または「暗号化(coding)」は、どのようにヌクレオチド配列がポリペプチドまたはタンパク質に翻訳されるかを決定する遺伝子コードを指す。配列中のヌクレオチドの順序は、ポリペプチドまたはタンパク質に沿ったアミノ酸の順序を決定する。
【0039】
用語「タンパク質」は、1本以上のアミノ酸鎖またはポリペプチドから構成される高分子を指す。タンパク質は、システイン残基の3-オキソアラニンへの変換、糖鎖形成、または金属の結合のような翻訳後の修飾を受けうる。タンパク質の糖鎖形成とは、種々の炭化水素(アミノ酸鎖に共有結合されている)の付加である。
【0040】
本明細書で使用される用語「治療する」または「治療」は、化合物または組成物を投与して、疾患の進行を制御することを指す。疾患の進行の制御は有益または所望の臨床結果の達成として理解され、これらには症状の減少、疾患の持続期間の減少、病理学的状態の安定化(特に、さらなる悪化を回避するため)、疾患の進行の遅延、病理学的状態の改善、および寛解(部分的および全体的の両方)が含まれるが、これらに限定されない。疾患の進行の制御には、治療を適用しない場合に予期される生存期間と比較しての生存期間の延長も含まれる。
【0041】
用語「有効量」は、意図された目的を達成するために充分な物質の量を指す。疾患または障害を治療するための「治療上の有効量」とは、疾患または障害のシグナルおよび症状を減少または根絶するのに十分な量である。所与の物質の有効量は、物質の性質、投与経路、物質を受ける動物のサイズおよび種、ならびに物質を与える目的などの要因によって変化する。個々の場合における有効量は、当業者によって、当技術分野において確立された方法に従って経験的に決定され得る。
【0042】
用語「個体」は、哺乳類を指し、好ましくはヒトまたは非ヒト哺乳類を指し、より好ましくはマウス、ラット、その他の齧歯類、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、ウシ、ウマまたは霊長類を指し、さらに好ましくはヒトを指す。
【0043】
他に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明の属する分野における当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
【0044】
本明細書および添付の請求の範囲においては、単数形「a」、「および」、および「the」は、文脈からみて明らかに反する場合を除き、対象が複数である場合も含む。したがって、例えば、単数の「ペプチド」への言及は、そのペプチドが複数である場合も含む。
【0045】
〔発明を実施するための形態〕
MPSIVAは、ガラクトサミン(N-アセチル)-6-スルファターゼ(GALNS)という酵素の活性の欠損によって生じる。GALNSは、コンドロイチン-6-硫酸(C6S)の非還元末端のN-アセチルガラクトサミン-6-硫酸の硫酸エステル基と、ケラタン硫酸(KS)の非還元末端のガラクトース-6-硫酸の硫酸エステル基を加水分解するリソソーム酵素である。非分解C6SおよびKSの持続的な蓄積の結果として、進行性の細胞損傷が起こり、多臓器性疾患をもたらす。
【0046】
前述のように、これまでに記載されたMPSIVA動物モデルは、いずれもモルキオA患者の骨病変を発症しない。したがって、ムコ多糖症IVA型またはモルキオ症候群A型の処置の有効性を評価するために使用され得る、ヒト疾患を模倣するモルキオ症候群A型の新しい動物モデルが求められている。
【0047】
本発明は、ムコ多糖症、特に、ムコ多糖症IVA型またはモルキオ症候群A型の新規の非ヒト動物モデルを提供する。実際に、本発明者らは、ヒト疾患の中心的な歌うこと(sings)を再現するモルキオ症候群A型の新規の動物モデルを見出した。
【0048】
ヒトでは、ガラクトサミン(N-アセチル)-6-スルファターゼ(GALNS)遺伝子は、染色体16q24.3上にあり、14のエクソンを含んでいる。GALNS cDNAは、522アミノ酸のタンパク質をコードする1566bpのオープンリーディングフレームを有する。約140の異なる変異が詳述されており、これらの約70%はミスセンス変異である。これらの変異のいくつかには、遺伝子型/表現型の相関が存在する。本明細書で使用する用語「ミスセンス変異」は、一塩基における点変異によって生じる、タンパク質中の1アミノ酸の変化をいう。
【0049】
本発明の動物モデルは、内在性Galns遺伝子におけるミスセンス変異を含んでいる。本発明の実施例に示すように、配列番号2の386位におけるアルギニン(R)がシステイン(C)によって置換されているヒトミスセンス変異R386Cに対応する、内在性Galns遺伝子におけるミスセンス変異、または配列番号1の1156位のシトシン(C)がチミン(T)で置換されている変異1156C>Tを含んでるGalns-/-動物は、野生型動物と比較して脛骨長の有意な減退を示した(図7)。また、骨に変化も見られた(図7および8)。実際、これらの結果から軟骨細胞の変化が確認された。この軟骨細胞の変化は、関節軟骨の異常を生じ、変形性関節症の発症を最終的にもたらす。ヒトMPSIVA患者において同様の変化が認められる。さらに、脛骨顆の変化は外反膝の徴候と一致し得る。これは、脚を真っすぐに伸ばしたときの膝の曲がり方と膝同士の接触によって特徴付けられるヒトにおけるMPSIVAの臨床的な特徴である。
【0050】
したがって、第1の態様において、本発明は、配列番号2の386番目のアルギニン(R)がシステイン(C)で置換されたヒトミスセンス変異R386Cに対応する内在性Galns遺伝子におけるミスセンス変異、または配列番号1の1156位のシトシン(C)のチミン(T)による置換によって特徴付けられる変異1156C>Tを含み、前記モデルは、ムコ多糖症IVA型またはモルキオ症候群A型に関連する少なくとも1つの表現型を発現する、ムコ多糖症IVA型またはモルキオ症候群A型の、遺伝学的に改変されている非ヒト動物モデルに関する。
【0051】
後述の実施例に示すように、非ヒト動物において対応するGalns変異(1156C>T)の位置を特定するために、ヒトGALNSタンパク質配列(配列番号2)を非ヒト動物GALNSタンパク質配列(例えば、Rattus norvegicus GALNSタンパク質配列(配列番号4))とアラインさせる。したがって、第1のアプローチでは、非ヒト動物タンパク質におけるヒトR386の位置を同定する。次いで、これに相当するアミノ酸、特にアルギニン386を、非ヒト動物、特にラットのタンパク質において同定する。例えば、後述するラットモデルにおけるアルギニンアミノ酸は、388位(R388C)に位置した。さらに、1156位(配列番号1)に位置するヒトC>Tに相当するヌクレオチドを、配列アライメント技術によって同定した。実施例に示すように、当該ヌクレオチドは、ラットGALNSコード配列(配列番号3)の1162位に位置する。
【0052】
好ましい実施形態において、本発明の非ヒト動物モデルは、ミスセンス変異が内在性Galns遺伝子に導入されるように、遺伝学的に改変された動物である。本発明によれば、この変異は、配列番号1に記載のヌクレオチド配列における1156位のシトシン(C)のチミン(T)による置換によって特徴付けられる点変異1156C>Tによって生じる、配列番号2の386番目のアルギニン(R)がシステイン(C)で置換されたヒトミスセンス変異R386Cに対応する。
【0053】
本発明のさらなる特定の実施形態では、前記ミスセンス変異は、配列番号3に記載のヌクレオチド配列における内在性Galns遺伝子の1162位のシトシン(C)のチミン(T)による置換(1162C>T)によって、または配列番号4に記載のアミノ酸配列における388位のアルギニン(R)のシステイン(C)による置換(R388C)からなる変異によって特徴付けられる。
【0054】
内在性Galns遺伝子における1162C>Tミスセンス変異は、配列番号3に記載のヌクレオチド配列における1162位のシトシン(C)のチミン(T)による置換を意味し、これは、配列番号4の388位におけるアルギニン(R)のシステイン(C)への変化を生じる。特定の実施形態では、前記変異は、配列番号1に記載のヌクレオチド配列における1156位のシトシン(C)のチミン(T)による置換である、ヒトGALNS遺伝子における1156C>T変異に対応する。
【0055】
本明細書で使用される用語「非ヒト動物」は、非ヒト脊椎動物を含み、より好ましくは、飼養化された家畜(例えば、ウシ、ウマ、ブタ)、ペット(例えば、イヌ、ネコ)、または齧歯類などの哺乳類を含む。用語「齧歯類(rodent)」または「齧歯類(rodents)」は、系統学上の目である齧歯目(例えば、マウス、ラット、リス、ビーバー、ウッドチャック、ホリネズミ、ハタネズミ、マーモット、ハムスター、モルモット、およびアグーチ)の任意のおよびすべてのメンバーを指し、それらに由来するすべての将来の世代の、あらゆるすべての子孫を含む。本発明の特定の実施形態において、動物は、齧歯類であり、より好ましくは、動物は、ラットである。
【0056】
本明細書で使用される用語「非ヒト動物モデル」は、疾患または病態の特徴を有するかまたは示す上述の非ヒト動物をいう。動物モデルとしての使用とは病気または病状を研究するための動物の任意の使用(例えば、進行もしくは発症、または新規もしくは既存の処置に対する反応を研究するための使用)を意味する。
【0057】
上述のように、従来技術に記載されたMPSIVAマウスモデルは、いずれもモルキオAヒト患者の骨病変を発症しない。したがって、従来技術に記載されたモルキオAマウスモデルでは、コンドロイチン-6-硫酸(C6S)およびケラタン硫酸(KS)の蓄積の組織学的徴候が明らかであったが、この動物では、ヒト患者に特徴的な異骨症の表現型を示さなかった。
【0058】
他の特定の実施形態では、本発明は、本発明に係る非ヒト動物モデルであって、ムコ多糖症IVA型またはモルキオ症候群A型に関連する少なくとも1つの表現型を発現し、該少なくとも1つの表現型は多発性異骨症である、モデルに関する。
【0059】
本明細書で使用される用語「異骨症」、「多発性異骨症」、「骨格異形成症」または「骨軟骨異形成症」は、骨格の異常な形状およびサイズ、ならびに長骨、脊椎および頭部の不均衡を生じる、軟骨および骨成長の異常によって特徴付けられる疾患を指す。
【0060】
本発明によれば、本発明の動物モデルは、モルキオA患者の骨病変を示す表現型を示し、骨成長の異常を示す。特に、本発明の実施例に示すように、本発明の動物モデルの体長は、野生型動物と比較して減退する。体長は、例えば、動物の鼻~肛門の長さを測定することによって容易に測定できる。また、実施例に示すように、本発明の動物モデルの骨長は、野生型動物と比較して減退する。脛骨長などの骨長は、後述の実施例に示すように測定できる。したがって、本発明の特定の実施形態では、前記多発性異骨症の表現型には、野生型動物と比較して減退した体長および/または骨長を含む。
【0061】
本発明のさらなる特定の実施形態では、前記動物モデルは、変形性関節症、薄い歯エナメル質、歯の脆弱性、不正咬合、角膜混濁、聴覚障害、中耳炎、心臓弁膜症、呼吸障害、肝脾腫大、およびこれらの組み合わせから選択される表現型をさらに示す。
【0062】
本発明は、非機能的なGALNSタンパク質、すなわち、野生型GALNSタンパク質と比較して1以上の組織において活性が低下したGALNSタンパク質を発現する非ヒト動物に関する。非機能的または活性の低下とは、コンドロイチン‐6‐硫酸(C6S)の非還元末端のN‐アセチルガラクトサミン‐6‐硫酸の硫酸エステル基、およびケラタン硫酸(KS)の非還元末端のガラクトース‐6‐硫酸の硫酸エステル基を、GALNSが加水分解できないことを指す。結果として、非分解C6SおよびKSが持続的に蓄積し、多臓器性疾患が生じる。
【0063】
GALNSは、変異され得る、トランケートされ得る、またはそうでなければ非機能的にされ得る。一実施形態では、本発明のGalnsノックインマウスモデルによって発現するアミノ酸は、配列番号4に記載の配列(変異型のGALNSタンパク質が、野生型GALNSタンパク質と比較して1以上の組織において低下している活性を有しているように、388位のアルギニンがシステインに変異されているGALNSアミノ酸配列に対応する)を包含している。本発明の実施例に示すように、ホモ接合型Galns-/-ラットは、GALNS活性を示さなかった(図2A)。さらに、Galns-/-ラットは、肝臓、脾臓、心臓または肺などの末梢組織において検出可能なGALNS活性を示さなかった(図2B)。また、異なる月齢でMPSIVAラットの血清試料において、KSレベルの漸進的な増加が認められる(図3Aおよび3B)。
【0064】
他の実施形態では、動物モデルは、動物Galnsと同様に、変異したヒトGALNSを発現し得る。
【0065】
本発明に包含される非ヒト動物には、上記GALNSポリペプチドおよびDNA分子の変異体が含まれる。ポリペプチド「バリアント」は、本明細書で使用されるとき、GALNSがコンドロイチン-6-硫酸(C6S)の非還元末端のN-アセチルガラクトサミン-6-硫酸の硫酸エステル基、およびケラタン硫酸(KS)の非還元末端のガラクトース-6-硫酸の硫酸エステル基を加水分解できない状態が保持されるように、置換および/または改変のみによって、記載されたポリペプチドと異なるポリペプチドである。さらにまたは代替的に、バリアントは、他の改変(GALNSの機能的な特性に対する最少の影響を有しているアミノ酸の欠失または付加が挙げられる)を含み得る。
【0066】
本発明は、GALNSポリペプチド、そのバリアント、または本明細書に記載のアミノ酸配列と類似性のアミノ酸配列を有するそれらを発現する動物を含む。このようなポリペプチドは、本明細書において、GALNS類似物(例えば、相同物)、または変異体もしくは誘導体として定義される。「類似性の」または「相同性する」アミノ酸配列とは、GALNS配列と十分な同一性を有しているアミノ酸配列を指す。例えば、類似物ポリペプチドは、1つ以上のアミノ酸残基がGALNSタンパク質のいずれか1つのアミノ酸残基と異なるものの依然としてGALNSの機能的特性を有するような、アミノ酸配列における「サイレント」な変化を伴って産生され得る。このような差異の例には、GALNSのアミノ酸配列の残基の付加、切断、欠失または置換が挙げられる。
【0067】
本発明の非ヒト動物モデルは、任意の種類の非ヒト動物として、作製され得る。このような実験に適した動物は、商業的な通常の供給源から得ることができる。これには、マウスおよびラットのような動物、更には、ブタ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、モルモット、家禽、エミュー、ダチョウ、ウシ、ヒツジ、ウサギなどのより大きな動物、および当業者に公知の技術を用いて遺伝学的に改変されている他の動物が含まれる。
【0068】
一例として、本発明の非ヒト動物は、細胞ゲノムにおけるGALNS遺伝子に変異を挿入することを含むプロセスによって得ることができる。特定の実施形態では、当該変異は、適した細胞(例えば、内在性GALNS遺伝子を発現する分化細胞、または胚性幹(ES)多能性細胞など)のゲノムに存在する内在性GALNS遺伝子における相同性組換えによって、本明細書に記載の本発明の非ヒト動物を生成するために使用され得る上記細胞において相同性組換えベクターを導入することによって、導入される。
【0069】
特定の実施形態において、本発明の非ヒト動物は、Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic RepeatsおよびCRISPR関連タンパク質9(CRISPR-associated protein 9、Cas9)技術(以下、CRISPR/Cas9技術と称する)を使用して作製される。用語「Cas9」は、一部の細菌のCRISPR適応免疫系に関連するRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼ酵素をいう。Cas9は、塩基対合を利用して、ガイドRNA(gRNA)に対して相補性を有する標的DNAを認識し、切断する。予め計画可能なCas9の配列特異性は、多くの生物においてゲノム編集および遺伝子発現制御に利用されている。
【0070】
簡単に述べると、ゲノム中のDNAの特定標的配列に結合する短い「ガイド」配列を有する短いRNAを作製する(gRNA)。このRNAは、Cas9酵素にも結合する。この改変RNAを用いてDNA配列を認識し、Cas9酵素が標的位置でDNAを切断する。Cas9が最も頻繁に使用される酵素であるが、他の酵素(例えば、Cpf1)を使用することもできる。
【0071】
DNAが切断されると、細胞自身のDNA修復機構が遺伝物質の一部を付加もしくは欠失させ、またはカスタマイズされたカスタムDNA配列によって既存のセグメントを置き換えることによってDNAを変化させる。
【0072】
本発明の特定の実施形態では、特定のDNA部位を標的とし、所望のゲノム部位の近くでCas9二本鎖切断を引き起こすように、特異的なRNAガイドを2つ設計する。また、子孫動物の遺伝子型決定分析に有用な一本鎖ドナーDNA配列は、所望の変異および新しい制限部位の両方を導入するために設計され得る。ドナーDNAには、Galnsゲノム配列との相同組換えを可能にするために、2つのホモロジーアームを含めることもできる。次に、動物のGalns遺伝子に所望の変異を導入するために、特定のgRNA、ドナーDNA、Cas9 mRNAを1細胞期胚にマイクロインジェクションする。Cas9二本鎖切断およびドナーDNAとの相同組換えの後、動物のGalns遺伝子にミスセンス変異が導入される。
【0073】
好ましい実施形態において、動物のGalns遺伝子に導入される所望の変異は、配列番号2の386番目のアルギニン(R)がシステイン(C)によって置換されたヒトミスセンス変異R386C(配列番号1に記載のヌクレオチド配列における1156位のシトシン(C)のチミン(T)による置換(1156C>T)によって特徴付けられる点変異を形成する生じる)に対応する変異である。より詳細には、前記変異は、配列番号3に記載のヌクレオチド配列における内在性Galns遺伝子の1162位のシトシン(C)のチミン(T)による置換(1162C>T)、または配列番号4に記載のアミノ酸配列における、388位のアルギニン(R)のシステイン(C)による置換(R388C)からなる変異によって特徴付けられる。
【0074】
本発明のさらなる特定の実施形態では、前記ドナーDNAは、配列番号7に記載の通りである。該DNAは、左および右の相同性アーム、gRNA標的配列を含み、所望のミスセンス変異、特に、配列番号7の66位にC>Tミスセンス変異を含む。
【0075】
本発明による非ヒト動物の子孫は、本発明のさらなる態様の構成要素である。本発明の非ヒト動物の子孫は、従来の方法によって得ることができ、例えば、本発明の非ヒト動物間で行われる古典的な交配技術によって、または本発明の非ヒト動物の卵子および/または精子のインビトロ受精によって、得ることができる。本明細書において、用語「子孫」は、最初に形質転換された非ヒト動物の後の、各世代のおのおのすべての子孫をいう。
【0076】
本発明の非ヒト動物は、インビボ試験に使用することができる。さらに、本発明の非ヒト動物は、体細胞、胎仔細胞または胚細胞のソースとして使用でき、これら細胞は、一旦単離して培養すれば、インビトロ試験において使用することができる。さらに、所望であれば、従来技術を用いて前記細胞から不死化細胞株を調製することが可能である。したがって、本発明は、別の態様において、本発明の非ヒト動物に由来する単離細胞株を提供する。特定の実施形態では、本発明によって提供される細胞株は、Galns内在性遺伝子にミスセンス変異を含むマウス細胞株であり、より詳細には、内在性Galns遺伝子のエクソン11に1162C>Tミスセンス変異を含むマウス細胞株である(配列番号3)。
【0077】
別の態様において、本発明は、任意に不死化され得、かつ増殖され得る、前記非ヒト動物から単離された細胞に関する。該細胞は、ヘテロ接合体(すなわち、Galns変異遺伝子について1つの変異アレルと1つの野生型アレルを含む)またはホモ接合体(すなわち、Galns遺伝子について2つの変異アレルを含む)であり得る。
【0078】
また、本発明は、モルキオ症候群A型の治療または予防のための化合物をスクリーニングする方法を提供する。これに関して、本発明に係る非ヒト動物モデルまたは本発明に係る細胞株は、モルキオ症候群A型の治療または予防のための化合物のスクリーニングに使用され得る。
【0079】
したがって、他の実施形態では、本発明は、ムコ多糖症IVA型またはモルキオ症候群A型の治療または予防のための化合物のスクリーニングのための、本発明による動物モデルまたは本発明に係る細胞株の使用に関する。
【0080】
本発明の方法において使用される候補化合物または薬物には、ペプチド、オリゴ糖または多糖類、脂肪酸、ステロイドなどを含むすべての異なる種類の有機または無機分子を含み得る。また、スクリーニングされ得る化合物には、例えば、造血幹細胞、酵素(例えば、エロスルファーゼアルファ)、および遺伝子治療製品(例えば、組換えベクターなど)が含まれる。該化合物は、単独で、または互いに組み合わせて投与することができる。
【0081】
また、本発明は、本発明に係る非ヒト動物モデルに試験化合物を投与すること、および当該動物に対する影響を判定することを含む、モルキオ症候群A型に影響を及ぼす化合物を同定する方法を提供する。本発明は、この動物モデルを用いてスクリーニングし得る病気の進行を、防ぐ、処置するまたは変更する化合物を含む。
【0082】
候補化合物は、特定の疾患表現型が現われる前、出現中、または出現後に投与することができる。疾患の進行または軽減の徴候は、当業者に公知の診断テストを用いてモニタすることができる。一例として、モルキオ症候群A型の進行または軽減の徴候には、身長または骨長の測定、エナメル質の欠陥、歯の脆弱性および不正咬合などの歯の変化の評価が含まれる。また、例えば、骨における形態学的および組織学的な変化(例えば、変形性関節症の徴候)は、磁気共鳴画像法(MRI)によって測定することができる。同様に、疾患の進行についてのマーカーは、血液、血漿、尿または任意の利用可能な体液をアッセイすることでモニタすることができる。一例として、血清中のケラタン硫酸(KS)レベルを本発明の実施例に示すように疾患進行の指標として測定することができる。
【0083】
本発明による動物モデルにおける化合物の有効性を判定する方法もまた、本発明に関連して包含される。この方法は、前記動物モデルを前記化合物と接触させること、および前記化合物に対する反応として、前記動物における生理学的、組織学的または形態学的変化の有無を検出することを含む。動物における生理学的、組織学的または形態学的変化を判定する方法は当業者に周知である。この方法の例には、例えば、以下の実施例に示されるような骨変形性関節症を分析する磁気共鳴画像法(MRI)、液体試料中のKSレベルを定量する液体クロマトグラフィー-質量分析法(LC-MS)などが含まれる。
【0084】
したがって、他の実施形態において、本発明は、ムコ多糖症IVA型またはモルキオ症候群A型の処置の有効性を評価する方法に関する。この方法は、
i)本発明に係る非ヒト動物モデルに試験医薬組成物または試験化合物を与える工程と、
ii)医薬組成物または化合物で処理した前記モデルに対して認められた影響を評価する工程と含む。
【0085】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記認められた影響は、生理学的な変化である。本発明の動物モデルにおいて検出される前記生理学的な変化は、上述のような動物モデルに認められる生理学的な変質のあらゆる改善(例えば、血清または末梢組織(肝臓、脾臓、心臓または肺など)において、GALNS活性レベルの上昇(コントロール(非処置動物)と比較した)を処置後に検出すること、および/または血清試料におけるケラタン硫酸(KS)またはコンドロイチン-6-硫酸(C6S)レベルの低下(非処置動物と比較した)を検出すること)を指す。
【0086】
他の実施形態において、本発明は、ムコ多糖症IVA型またはモルキオ症候群A型の治療の有効性を評価するための、本発明による動物モデルの使用に関する。
【0087】
他の特定の実施形態において、本発明は、医薬組成物または化合物の有効性をスクリーニングする方法に関する。この方法は、
i)本発明に係る非ヒト動物モデルを準備する工程と、
ii)前記医薬組成物または化合物で処置した前記非ヒト動物モデルに対する影響を評価する工程とを含む。
【0088】
好ましくは、本発明の化合物は、薬学的に許容される賦形剤のなかにあって投与される。適切な医薬賦形剤は、当業者に知られている。非経口投与用には、通常は、化合物を滅菌水または生理食塩水に溶解または懸濁させる。経腸投与用には、化合物を不活性担体に組み込んで錠剤、液体、またはカプセル形態とする。適切な担体は、デンプンまたは糖であってもよく、滑沢剤、香料、結合剤、および同様の性質を有する他の材料を含んでもよい。また、化合物は、液剤、クリーム、ゲル、またはポリマー材料(例えば、PluronicTM、BASF)の局所塗布によって局所的に投与することができる。
【0089】
あるいは、この化合物は、リポソームまたはマイクロスフェア(またはマイクロパーティクル)中に存在させて投与することができる。患者に投与するためのリポソームおよびマイクロスフェアの調製方法は、当業者に知られている。基本的には、材料を水溶液に溶解させ、適切なリン脂質および脂質を添加し、この際、必要であれば界面活性剤も共に添加して、材料を必要に応じて透析または超音波処理する。ポリマーまたはタンパク質で形成されるマイクロスフェアは、当業者に周知であり、そして胃腸管を通って血流中に直接入るように調製することができる。あるいは、化合物は組み込まれ得、数日から数ヶ月の期間にわたる徐放のために埋め込まれる複数のマイクロスフェア、またはマイクロスフェアの複合物。
【0090】
好ましくは、本発明の方法は、このような病態の症状または徴候を軽減させる化合物を同定する方法である。
【0091】
前記方法に代わる本発明の方法として、試験化合物を本発明の非ヒト動物モデルに投与すること、および行動をモニタすることを含んでもよい。
【0092】
以下、実施例を用いて本発明を説明する。以下の説明は単なる例示であり、本発明の普遍的な精神を限定するものではない。
【0093】
(一般的な手順)
1.MPSIVAラットの作製
MPSIVAラットを、CRISPR/Cas9技術を用いて作製した。gRNA、ドナーDNA、およびCas9mRNAを、1細胞ラット胚の前核にマイクロインジェクションした。Cas9二本鎖切断およびドナーDNAとの相同組換えの後、1162C>Tミスエンセンス変異がラットGalns遺伝子のエクソン11に導入された。
【0094】
ラットは、離乳後から6か月齢まで週1回体重を測定した。
【0095】
2.ラットの遺伝子型決定
共通の順方向(配列番号8)および逆方向(配列番号9)プライマーを用いて遺伝子操作ラットの遺伝子型決定を行った。PCR反応により915bpのアンプリコンを作製し、さらにこれをMboII制限酵素で消化した。MboII消化により、WTアレルにおいて697、142および76bpの3つの断片と、MPSIVAアレルにおいて381、316、142および76bpの断片を生じた。同じプライマーを用いてPCRアンプリコンからサンガーシーケンスを行った。サンガーアンプリコンを野生型Galns配列とアラインし、MPSIVAアレルを検出した。さらに、MPSIVAラットにおいて1162C>T変異および新しいMboII制限部位を確認するために、TIDEウェブツールを使用した。
【0096】
3.サンプルの収集
殺処分に際し、動物に深く麻酔を施し、その後、心臓を経由して100mLのPBSを潅流させて、組織から血液を完全に除去した。いくつかの体性組織(肝臓、脾臓、肺、心臓および骨を含む)を収集し、次の組織学的分析のために、液体窒素中で凍結させ-80℃にて保存するか、ホルマリン中に浸漬した。
【0097】
4.ガラクトサミン(N-アセチル)-6-スルファターゼ(GALNS)活性およびケラタン硫酸の定量
肝臓組織サンプルを、Mili-Q水中で超音波処理し、大腿骨サンプルを、25mmol/lのTris-HCl、pH7.2、および1mmol/lのフェニルメチルスルホニルフルオリドからなるホモジナイゼーションバッファーでホモジナイズした。上述したように、4-メチルウンベリフェロン由来の蛍光源基質(Toronto Rerearch Chemicals Inc, Ontario, Canada)によって、ガラクトサミン(N-アセチル)-6-スルファターゼ(GALNS)活性を測定した(van Diggelen et al., 1990)。タンパク質の全量に対して肝臓、脾臓、心臓および肺のGALNS活性レベルを正規化し、Bradford protein assay(Bio-Rad, Hercules, CA, US)を用いて定量した。
【0098】
血清試料中のケラタン硫酸(KS)レベルを、液体クロマトグラフィー-質量分析法(LC-MS/MS)により測定した。
【0099】
5.組織学的分析
大腿骨および脛骨を中性緩衡ホルマリン(10%)中で12~24時間固定し、エチレンジアミンテトル酢酸( ethylenediaminetetracetic acid)(EDTA)で毎週脱灰し、パラフィンに包埋して、切片を作製した。
骨切片をヘマトキシリンおよびエオシンで染色し、関節軟骨における構造変化を分析した。
【0100】
6.骨の分析
マイクロコンピュータ断層撮影(μCT)により骨量と骨構造を評価した。マウス脛骨を中性緩衝ホルマリン(10%)中で固定し、eXplore Locus CTスキャナー(General Electric)を用いて27ミクロンの分解能でスキャンした。骨のパラメータは、MicroView 3D Image Viewer & Analysis Toolを用いて計算した。脛骨長は、内側顆から内果までを測定した。
【0101】
7.磁気共鳴画像法(MRI)分析
インビボ1H磁気共鳴画像法(MRI)研究を、ミニイメージンググラジエントセット(400mT/m)を備え内径72mmの直交トランシーバボリュームコイルを使用した7T Bruker BioSpec 70/30 USR(Bruker BioSpin GmbH、エットリンゲン、ドイツ)システムを用いて行った。ラットは、体温調節のための一体型熱水回路を備えたベッドに配置(仰臥位)し、これにより麻酔(イソフルラン、O2中2.0~3.0%、1L/分)の送達を可能にした。初めに、低分解能T2強調高速スピンエコー画像を、軸方向面、矢状面および冠状面において得て、参照スカウト画像として使用した。その後、高分解能T2強調高速スピンエコー画像を、膝を通る矢状面および冠状面において取得した。
【0102】
8.統計分析
すべての結果を平均±SEMとして表した。一元配置分散分析を用いて統計比較を行った。Dunnettの事後検定を用いてコントロール群と処置群との間の多重比較を行い、チューキーの事後検定を用いてすべての群の間の多重比較を行った。P<0.05の場合、統計的有意であると見なした。カプラン-マイヤー法を用いて生存率を分析し、ログ・ランク検定を用いて比較した。
【0103】
〔実施例〕
(実施例1:ヒトおよびラットのcDNAアラインメント)
活性部位におけるアルギニン-システインアミノ酸変化(R386C)(配列番号2)を導く、ヒト変異1156C>T(配列番号1)(Tomatsu, 2005)を、ラットゲノムに導入した。このために、ヒトGALNSタンパク質配列(配列番号2)をRattus norvegicusのGALNSタンパク質配列(配列番号4)とアラインさせ、ラットタンパク質におけるヒトR386の位置を同定した。モルキオA型のヒト患者において、アミノ酸変化は、386位における、システインへのアルギニンである(R386C)。対応するアルギニンアミノ酸は、ラットタンパク質における388位に位置していた(R388C)。ヒトGALNSコード配列において、C>Tの単一のヌクレオチド変化は、1156位(配列番号1)に位置していた。対応するCは、ラットGALNSコード配列(配列番号3)の1162位に位置しており、ラットGalns遺伝子のエクソン11に位置していた。
【0104】
(実施例2:MPSIVAラットモデルの生成)
以上に記載されている点変異を含むムコ多糖症IVA型のためのラットモデルを、CRISPR/Cas9技術を用いて生成している。
【0105】
1162C>T変異は、ラットGalns遺伝子のエクソン11に導入され、活性部位におけるアルギニン-システインアミノ酸変化(R388C)を生じた。2つの特異的なRNAガイド:
gRNA1:CCCATATTTTATTACCGTGGCA(配列番号5)および
gRNA2:TACCGTGGCAACACACTGATGG(配列番号6)
を、エクソン11を標的にし、かつ1162C>Tのゲノム部位の近くにCas9二本鎖切断を引き起させるために、設計した。子孫動物の遺伝子型をする分析に有用な一本鎖ドナーDNA配列(配列番号7)を、1162C>Tミスセンス変異および新しいMboII制限部位の両方を導入するために、設計した。2つの相同性アームをまた、Galnsゲノム配列との相同組換えを可能にするために、前記ドナーDNAに含めた。特異的なgRNA、ドナーDNA、およびCas9 mRNAを、ラットGalns遺伝子のエクソン11に1162C>Tミスセンス変異を導入する目的で、1細胞期の胚にマイクロインジェクションした。
【0106】
(実施例3:CRISPR/Cas9編集済のラットの、遺伝子型決定を決定する生化学的な分析)
胚のマイクロインジェクションの後に誕生したラットの第1世代(F0)を、1162C>Tミスセンス変異部位のフランキング配列に位置する複数の特異的プライマーを用いたPCR分析によって遺伝子型を決定した。次に、PCR産物をMboIIによって消化し、ラットの遺伝子型に応じた異なるパターンを生じさせた(図1のA)。さらに、PCR産物はまた、サンガーシーケンスによって分析されて、1162C>Tミスセンス変異の存在をさらに確認した。サンガーアンプリコン(配列番号10および配列番号11)をRattus norvegicusのGalns遺伝子とアラインし、ホモ接合型のF0 MPS IVAラットにおける、1162C>Tミスセンス変異およびMboII制限部位の存在を明らかにした。
【0107】
ホモ接合型のMPSIVA F0ラットは、野生型の対照物と比較して、血清サンプルにおいて検出可能なレベルのGALNS活性を示さず(図1B)、導入された変異が、酵素活性における完全な欠損(ヒト患者にも同様に認められる)を生じることを確認した。
【0108】
(実施例4:99%のオフターゲット分離(off-target segregation)を達成するための選択的戻し交配)
C>T変異を示したF0ラットを野生型ラットと交配させて、起こり得るCRISPR/Cas9オフターゲットを分離した(segregate)。これまでに報告されている通り、ヘテロ接合型のGalns+/-ラットと野生型ラットとの間の3世代の戻し交配後に、起こり得るオフターゲットのほぼ99%が分離された。ヘテロ接合型のラットの第4世代(F4)を、それから交配させて、ホモ接合型のGalns-/-ラットを得た。
【0109】
(実施例5:ラット組織におけるGALNS活性の分析)
MPSIVAラットからの血清試料におけるGALNS活性レベルを分析した。ヘテロ接合型ラット(Galns+/-)は、野生型ラットの、約50%のGALNS活性を示し、ホモ接合型ラット(Galns-/-)は、GALNS活性を示さなかった(図2A)。さらに、MPSIVAラットは、肝臓、脾臓、心臓または肺などの末梢組織において検出可能なGALNS活性を示さなかった(図2B)。
【0110】
(実施例6:血清中ケラタン硫酸(KS)レベルの分析)
種々の齢にあるMPSIVAラットから血清試料を採取して、LC-MS/MS質量分析法によってKSレベルを決定した。KSレベルの漸進的な増加は、オス(図3A)およびメス(図3B)のMPSIVAラットの両方において、1~3ヶ月齢まで検出された。
【0111】
(実施例6:血清中ケラタン硫酸(KS)レベルの分析)
種々の齢にあるMPSIVAラットから血清試料を採取して、LC-MS/MS質量分析法によってKSレベルを決定した。KSレベルの漸進的な増加は、オス(図3A)およびメス(図3B)のMPSIVAラットの両方において、1~3ヶ月齢まで検出された。
【0112】
(実施例7:MPSIVAラット体重の追跡調査)
WTおよびMPSIVAの両方の、オスのラットおよびメスのラットは、約40日齢まで同様の体重増加を示した。その後、MPSIVAラットの体重増加は、野生型対照と比較して小さく、有意な体重差が、オス(図4A)およびメス(図4B)両方のMPSIVAラットにおいて認められた。さらに、3カ月齢では、MPSIVAラットは、野生型対照と比較して体長(鼻~肛門の長さ)の減退も示した(図5)。
【0113】
(実施例8:MPSIVAラットの歯の不具合の、分析)
形態学的分析により、Galns-/-ラットの切歯において歯の異常が確認された。WTラットは、正常な咬合およびエナメル質形成を示したが(図6A)、3ヶ月齢のMPSIVAラットは、エナメル質の欠陥(図6B)、歯の脆弱性(図6B)および不正咬合(図6C)を示した。さらに、エナメル質の欠陥による象牙質の不具合が、Galns-/-臼歯に見られた(図6A~C)。これらの歯の変化は、GALNS活性の不足と関連しており、ヒトMPSIVA歯の問題と類似している。
【0114】
(実施例9:MPSIVAラット骨のマイクロコンピュータ断層撮影(μCT)分析)
WTおよびMPSIVAラットの脛骨長を、内側顆から内果まで、3か月齢においてμCTによって分析した。オスのGalns-/-ラットは、オスの野生型ラットと比較して脛骨長に有意な減退を示した(図7A)。骨の変化は、3ヶ月齢のオスのGalns-/-ラットの顎骨にも見られた(図7B)。
【0115】
(実施例10:MPSIVAラット骨の形態学的および組織学的分析)
大腿骨および脛骨の磁気共鳴画像法(MRI)分析により、6か月齢のオスのMPSIVAラットにおいて変形性関節症の徴候が確認された。滑液の異常な存在を、矢状断面(図8A)および冠状断面(図8B)において、脛骨顆内部に認めた。これは、関節軟骨の減少に起因して生じたものであった。また、大腿骨および脛骨の薄片をヘマトキシリン-エオシン染色によって染色して、変形性関節症を組織学的に分析した。軟骨細胞の肥大および関節軟骨の変化が、MPSIVAラットにおいて認められた(図8C)。これらの結果は、ラット軟骨細胞の変化が、変形性関節症を最終的に生じさせる異常な関節軟骨をもたらすことを、追認した。同様の変化が、ヒトMPSIVA患者に見られる(Tomatsu, 2014)。さらに、脛骨顆の変化は、MPSIVAの臨床的特徴である外反膝の徴候と一致し得る(Tomatsu, 2014)。
【0116】
(実施例11:MPSIVAラットの生存の追跡調査)
オスの野生型ラットと比較して、MPSIVAの生存曲線に有意差が認められた。6ヶ月齢では、カプラン-マイヤーの生存分析は、100%の野生型ラットが生存し、かつ生存しているMPSIVAラットの割合が約50%であることを示した(図9)。
【図面の簡単な説明】
【0117】
図1】Galns-/-ラットの遺伝学的および生化学的な解析。(A)WT(Galns+/+)、ヘテロ接合型(Galns+/-)およびホモ接合型(Galns-/-)のラットを遺伝子型決定するとき得られた、MboII制限酵素による消化後のPCRアンプリコンを示すアガロースゲルの代表的な画像。(B)GALNS活性を、5カ月齢のオスおよびメスの、F0 野生型およびGalns-/-ラットの血清試料において測定した。値は、1群につき2~10のラットの、平均±SEMである。ND:検出できず。
図2】3回の戻し交配後のMPSIVAラット(F4世代)におけるGALNS活性の測定。(A)GALNS活性レベルを、1カ月齢のWT、ヘテロ接合型(Galns+/-)およびホモ接合型(Galns-/-)ラットの血清試料において測定した。(B)GALNS活性レベルを、1カ月齢のオスのWTおよびGalns-/-ラットの肝臓、脾臓、心臓および肺において測定した。値は、1群につき4~5ラットの平均±SEMである。*** P<0.001 対 Galns+/+ラット。ND:検出できず。
図3】液体クロマトグラフィー-質量分析法(LC-MS/MS)による、オス(A)およびメス(B)のラットの血清試料におけるケラタン硫酸(KS)レベルの定量。値は、1群につき4~5ラットの平均±SEMである。オスおよびメスのGalns+/+ラットに対して、* P<0.05 対 オスおよびメスのGalns+/+ラット、** P<0.01 対 オスおよびメスのGalns+/+ラット、*** P<0.001 対 オスおよびメスのGalns+/+ラット。
図4】オス(A)およびメス(B)のWTおよびGalns-/-ラットの体重。値は、1群につき36~40動物の平均±SEMである。* P<0.05 対 Galns+/+ラット、*** P<0.001 対 Galns+/+ラット。
図5】3カ月齢のオス(A)およびメス(B)のWTおよびGalns-/-ラットの体長(鼻~肛門の長さ)の測定。* P<0.05 対 Galns+/+ラット、*** P<0.001 対 Galns+/+ラット。
図6】3カ月齢のGalns-/-ラットで観察された歯の変化の代表的な画像。(A)正常なエナメル質および正常な咬合を有するWTのラット。(B)および(C)エナメル質の欠陥、歯の脆弱性および不正咬合を示すMPSIVAラット。
図7】3カ月齢のオスのラットのマイクロコンピュータ断層撮影(μCT)分析。(A)WTおよびGalns-/-ラットにおける、内側顆から内果までの脛骨長の数量化。値は、1群につき3~4ラットの平均±SEMである。* P<0.05 対 Galns+/+ラット。(B)WTおよびGalns-/-ラット頭部の冠状断面による代表的なμCT画像であり、Galns-/-は、WTの顎と比べて変化した下顎骨(矢印)を示している。
図8】MPSIVAラットの骨の形態学的および組織学的分析。磁気共鳴画像法(MRI)により分析したMPSIVAラットにおける変形性関節症の徴候。MPSIVA動物の脛骨頭における、矢頭によって印を付されている液体の病的な存在を証明している、6カ月齢のWTおよびGalns-/-ラットの膝の、代表的な矢状断面(A)および冠状断面(B)。(C)8カ月齢のホモ接合MPSIVAラットにおける関節軟骨の減少および軟骨細胞の肥大を示す脛骨断面のヘマトキシリン-エオシン染色の代表的な画像。
図9】生存分析。野生型およびGalns-/-のオスのラットにおけるカプラン-マイヤー生存分析。WTについてn=15、Galns-/-についてn=36。Galns-/-ラット 対 WTラットについて、P=0.013。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図7
図8A
図8B
図8C
図9
【配列表】
2022513037000001.app
【国際調査報告】