(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-07
(54)【発明の名称】CARおよびTCR形質導入用のモジュール式ポリシストロニックベクター
(51)【国際特許分類】
C12N 15/85 20060101AFI20220131BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20220131BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20220131BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20220131BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220131BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20220131BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220131BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20220131BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20220131BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20220131BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220131BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220131BHJP
C07K 19/00 20060101ALN20220131BHJP
C07K 16/00 20060101ALN20220131BHJP
C07K 14/725 20060101ALN20220131BHJP
【FI】
C12N15/85 Z ZNA
C12N15/13
C12N15/12
C12N15/62 Z
C12N5/10
A61K35/17 Z
A61P35/00
A61P37/02
A61P37/06
A61P29/00
A61K45/00
A61P43/00 121
C07K19/00
C07K16/00
C07K14/725
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021527119
(86)(22)【出願日】2019-11-18
(85)【翻訳文提出日】2021-07-13
(86)【国際出願番号】 US2019062014
(87)【国際公開番号】W WO2020106621
(87)【国際公開日】2020-05-28
(32)【優先日】2018-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2018-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-01-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500039463
【氏名又は名称】ボード オブ リージェンツ,ザ ユニバーシティ オブ テキサス システム
【氏名又は名称原語表記】BOARD OF REGENTS,THE UNIVERSITY OF TEXAS SYSTEM
【住所又は居所原語表記】210 West 7th Street Austin,Texas 78701 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】レズヴァニ、ケイティ
(72)【発明者】
【氏名】シュポール、エリザベス
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AA93Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BA21
4B065BD09
4B065BD12
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4C084AA19
4C084NA14
4C084ZB07
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4C084ZC75
4C087AA01
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4C087BB65
4C087NA14
4C087ZB07
4C087ZB08
4C087ZB11
4C087ZB26
4C087ZC75
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA50
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】 ポリシストロニックベクターに関する方法及び組成物を提供する。
【解決手段】 1つ以上の抗原レセプターを発現させるための細胞の遺伝子のリプログラミング用などのモジュール式ポリシストロニックベクターシステムが本明細書中に提供される。そのシステムのモジュール特性により、特定のシストロン内の1つ以上の構成要素に加えて1つ以上のシストロンの交換が可能になる。具体的な実施形態では、そのシステムのモジュール性により、共刺激ドメイン、scFv、ヒンジ、シグナル伝達ドメインなどの交換のような、キメラ抗原レセプターの構成要素の交換が可能になる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれが1つ以上の制限酵素部位に隣接する少なくとも3つのシストロンを含むポリシストロニックベクターであって、少なくとも1つのシストロンが、少なくとも1つの抗原レセプターをコードする、ポリシストロニックベクター。
【請求項2】
前記シストロンの2つ、3つ、4つまたはそれ以上が、単一のポリペプチドに翻訳可能であり、前記ポリペプチドは、別々のポリペプチドに切断可能である、請求項1に記載のベクター。
【請求項3】
前記シストロンの4つが、単一のポリペプチドに翻訳可能であり、別々のポリペプチドに切断可能である、請求項2に記載のベクター。
【請求項4】
前記ベクター上の隣接シストロンが、2A自己切断部位によって隔てられている、請求項1~3のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項5】
前記シストロンの各々が、前記ベクターから別々のポリペプチドを発現するように配置されている、請求項1に記載のベクター。
【請求項6】
前記ベクター上の隣接シストロンが、IRESエレメントによって隔てられている、請求項5に記載のベクター。
【請求項7】
前記ベクター上の前記シストロンの少なくとも1つが、2つ以上のモジュール式構成要素を含み、あるシストロン内の前記モジュール式構成要素の各々は、1つ以上の制限酵素部位に隣接している、請求項1~6のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項8】
シストロンが、3つ、4つまたは5つのモジュール式構成要素を含む、請求項7に記載のベクター。
【請求項9】
シストロンが、対応するモジュール式構成要素によってコードされるレセプターの異なる部分を有する抗原レセプターをコードする、請求項7または8に記載のベクター。
【請求項10】
シストロンの第1のモジュール式構成要素が、前記レセプターの抗原結合ドメインをコードする、請求項9に記載のベクター。
【請求項11】
シストロンの第2のモジュール式構成要素が、前記レセプターのヒンジ領域をコードする、請求項9または10に記載のベクター。
【請求項12】
シストロンの第3のモジュール式構成要素が、前記レセプターの膜貫通ドメインをコードする、請求項9、10または11に記載のベクター。
【請求項13】
シストロンの第4のモジュール式構成要素が、第1の共刺激ドメインをコードする、請求項9~12のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項14】
シストロンの第5のモジュール式構成要素が、第2の共刺激ドメインをコードする、請求項9~13のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項15】
シストロンの第6のモジュール式構成要素が、シグナル伝達ドメインをコードする、請求項9~14のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項16】
前記ベクター上の異なる2つのシストロンが、それぞれ抗原レセプターをコードする、請求項1~15のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項17】
両方の抗原レセプターが、2つ以上のモジュール式構成要素を含むシストロンによってコードされる、請求項16に記載のベクター。
【請求項18】
前記抗原レセプターが、キメラ抗原レセプター(CAR)および/またはT細胞レセプター(TCR)である、請求項1~17のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項19】
前記ベクターが、ウイルスベクターまたは非ウイルスベクターである、請求項1~17のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項20】
前記ウイルスベクターが、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクターまたはアデノ随伴ウイルスベクターである、請求項19に記載のベクター。
【請求項21】
前記ベクターが、モロニーマウス白血病ウイルス(MMLV)の5’LTR、3’LTRおよびプサイパッケージングエレメントを含む、請求項1~20のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項22】
前記プサイパッケージングが、前記5’LTRと前記抗原レセプターコード配列との間に組み込まれている、請求項21に記載のベクター。
【請求項23】
前記ベクターが、pUC19配列を含む、請求項1~22のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項24】
少なくとも1つのシストロンが、サイトカイン、ケモカイン、サイトカインレセプターおよび/またはホーミングレセプターをコードする、請求項1~23のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項25】
前記サイトカインが、インターロイキン15(IL-15)、IL-7、IL-12、IL-21、IL-18またはIL-2である、請求項24に記載のベクター。
【請求項26】
前記2A切断部位が、P2A、T2A、E2Aおよび/またはF2A部位を含む、請求項4に記載のベクター。
【請求項27】
シストロンが、自殺遺伝子を含む、請求項1~26のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項28】
シストロンが、レポーター遺伝子産物をコードする、請求項1~27のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項29】
第1のシストロンが、自殺遺伝子をコードし、第2のシストロンが、抗原レセプターをコードし、第3のシストロンが、レポーター遺伝子産物をコードし、第4のシストロンが、サイトカインをコードする、請求項1~28のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項30】
前記抗原レセプターの異なる部分が、対応するモジュール式構成要素によってコードされ、前記第2のシストロンの第1の構成要素が、抗原結合ドメインをコードし、第2の構成要素が、ヒンジおよび/または膜貫通ドメインをコードし、第3の構成要素が、共刺激ドメインをコードし、第4の構成要素が、シグナル伝達ドメインをコードする、請求項29に記載のベクター。
【請求項31】
請求項1~30のいずれか1項に記載のベクターを含む免疫細胞。
【請求項32】
前記免疫細胞が、T細胞、末梢血リンパ球、B細胞、NK細胞、インバリアントNK細胞、NKT細胞、iNKT細胞、マクロファージ、幹細胞またはそれらの混合物である、請求項31に記載の免疫細胞。
【請求項33】
前記幹細胞が、間葉系幹細胞(MSC)または人工多能性幹(iPS)細胞である、請求項32に記載の免疫細胞。
【請求項34】
前記免疫細胞が、iPS細胞に由来する、請求項31に記載の免疫細胞。
【請求項35】
前記T細胞が、CD8+T細胞、CD4+T細胞またはガンマ-デルタT細胞である、請求項31に記載の免疫細胞。
【請求項36】
前記T細胞が、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)である、請求項32または35に記載の免疫細胞。
【請求項37】
前記免疫細胞が、ある個体に対して同種異系である、請求項31~36のいずれか1項に記載の免疫細胞。
【請求項38】
前記免疫細胞が、ある個体に対して自己である、請求項31~36のいずれか1項に記載の免疫細胞。
【請求項39】
前記免疫細胞が、ヒト細胞である、請求項31~38のいずれか1項に記載の免疫細胞。
【請求項40】
前記免疫細胞が、臍帯血、末梢血、骨髄、CD34+細胞またはiPSCに由来する、請求項31~39のいずれか1項に記載の免疫細胞。
【請求項41】
前記免疫細胞が、臍帯血に由来する、請求項40に記載の免疫細胞。
【請求項42】
前記免疫細胞が、細胞集団に含まれている、請求項31~41のいずれか1項に記載の免疫細胞。
【請求項43】
前記免疫細胞が、薬学的に許容され得るキャリアに含まれている、請求項31~42のいずれか1項に記載の免疫細胞。
【請求項44】
拡大する免疫細胞を作製するための方法であって、
(a)免疫細胞の出発集団を得る工程;
(b)前記免疫細胞の出発集団を人工提示細胞(APC)の存在下において培養する工程;
(c)請求項1~30のいずれかに記載のベクターを前記免疫細胞に導入する工程;および
(d)前記免疫細胞をAPCの存在下において拡大し、それによって、拡大された免疫細胞を得る工程
を含む、方法。
【請求項45】
前記免疫細胞の出発集団が、フィコール-パーク密度勾配を用いて単核細胞を単離することによって得られる、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記APCが、ガンマ線を照射したAPCである、請求項44または45に記載の方法。
【請求項47】
前記拡大された免疫細胞の集団を凍結保存する工程をさらに含む、請求項44に記載の方法。
【請求項48】
請求項31~43のいずれか1項に記載の免疫細胞の集団および薬学的に許容され得るキャリアを含む、薬学的組成物。
【請求項49】
個体の疾患または障害の処置において使用するための、有効量の請求項31~43のいずれか1項に記載の免疫細胞を含む組成物。
【請求項50】
前記疾患が、癌であるか、または前記障害が、免疫関連障害である、請求項49に記載の組成物。
【請求項51】
個体の癌または免疫関連障害の処置のための、有効量の請求項31~43のいずれか1項に記載の免疫細胞を含む組成物の使用。
【請求項52】
個体の疾患または障害を処置する方法であって、有効量の請求項31~43のいずれか1項に記載の免疫細胞を前記個体に投与する工程を含む、方法。
【請求項53】
前記疾患または障害が、癌、自己免疫障害、移植片対宿主病、同種移植片拒絶または炎症状態である、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
前記自己免疫障害が、炎症状態であり、前記免疫細胞が、糖質コルチコイドレセプターの発現を本質的に有しない、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
前記被験体が、ステロイド療法を受けたことがあるかまたは受けている、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
前記免疫細胞が、前記個体に対して自己である、請求項52~55のいずれか1項に記載の方法。
【請求項57】
前記免疫細胞が、前記個体に対して同種異系である、請求項52~55のいずれか1項に記載の方法。
【請求項58】
前記疾患が、癌である、請求項52、53、56または57のいずれか1項に記載の方法。
【請求項59】
前記癌が、固形癌または血液悪性腫瘍である、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
少なくとも第2の治療薬を前記個体に投与する工程をさらに含む、請求項59に記載の方法。
【請求項61】
前記第2の治療薬が、化学療法、免疫療法、手術、放射線療法または生物療法を含む、請求項60に記載の方法。
【請求項62】
前記免疫細胞が、静脈内に、腹腔内に、気管内に、腫瘍内に、筋肉内に、内視鏡的に、病巣内に、経皮的に、皮下に、領域性に、灌流によって、または直接注射によって、前記個体に投与される、請求項52~61のいずれか1項に記載の方法。
【請求項63】
前記第2の治療薬が、静脈内に、腹腔内に、気管内に、腫瘍内に、筋肉内に、内視鏡的に、病巣内に、経皮的に、皮下に、領域性に、灌流によって、または直接注射によって、前記個体に投与される、請求項61または62に記載の方法。
【請求項64】
それぞれが1つ以上の制限酵素部位に隣接する少なくとも4つのシストロンを含むポリシストロニックベクターであって、前記ベクター上の前記シストロンの少なくとも1つが、2つ以上のモジュール式構成要素を含み、シストロン内の前記モジュール式構成要素の各々が、1つ以上の制限酵素部位に隣接する、ポリシストロニックベクター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2018年11月19日出願の米国仮特許出願第62/769,414号;2018年11月30日出願の米国仮特許出願第62/773,394号;および2019年1月11日出願の米国仮特許出願第62/791,491号に対する優先権を主張する。これらの仮出願はすべて、それらの全体が参照により本明細書中に援用される。
配列表
【0002】
本願は、ASCII形式で電子的に提出された配列表を含み、その全体が参照により本明細書に援用される。2019年11月13日作成の前記ASCIIのコピーは、名称がUTFC_P1152WO_SL.txtであり、サイズが2,502バイトである。
【背景技術】
【0003】
1.分野
本開示は、概して、免疫学、細胞生物学、分子生物学、組換え技術および医学の分野に少なくとも関係する。より詳細には、本発明は、抗原レセプターの発現用などのポリシストロニックベクターに関する。
2.関連技術の説明
【0004】
癌と診断された患者に利用可能な診断オプションおよび処置オプションの技術的進歩は目覚ましいが、なおも予後は不良なままであることが多く、多くの患者を治癒できない。免疫療法は、さらに標的化された強力な処置を、様々な腫瘍と診断された患者に提供できる可能性を秘めており、正常な組織を傷つけずに悪性の腫瘍細胞を全滅させる能力がある。理論上は、免疫系のT細胞は、腫瘍細胞に特異的なタンパク質パターンを認識することができ、種々のエフェクター機構によってそれらの破壊を媒介する。
【0005】
癌養子免疫療法に向けたナチュラルキラー(NK)細胞などの免疫細胞の遺伝子のリプログラミングは、感作を事前に必要としない生得的な抗腫瘍監視 移植片対宿主反応性がない同種異系の有効性、ならびに標的腫瘍の直接的な細胞媒介性細胞傷害および細胞溶解などの臨床的に妥当な用途および利点を有する。キメラ抗原レセプター(CAR)を発現している免疫細胞の投与(例えば、養子T細胞療法またはNK細胞療法)は、患者自身の免疫細胞が腫瘍を全滅させる能力を利用および増幅し、そしてこれらのエフェクターが、健康な組織を傷つけずに、残留している腫瘍を効果的に排除するような状態で、それらのエフェクターを患者に戻そうとする試みである。一般に、CARは、ヒンジ領域および膜貫通領域を介してT細胞シグナル伝達分子の細胞質ドメインに結合した、腫瘍関連抗原(TAA)に特異的な抗体の一本鎖可変フラグメント(scFv)を含む。
【0006】
複数の遺伝子を所望の比率で同時発現することは、遺伝子のリプログラミングを含む広範囲の基礎研究および生物医学的応用にとって非常に魅力的である。多重遺伝子の同時発現を目指したストラテジーとしては、複数のベクターの導入、単一ベクター内での複数のプロモーターの使用、融合タンパク質、遺伝子間のタンパク分解性の切断部位、配列内リボソーム進入部位、および「自己切断」2Aペプチドが挙げられる。しかしながら、いくつかの例として、CAR、T細胞レセプター(TCR)、サイトカイン、サイトカインレセプター、ケモカインレセプターおよびホーミングレセプターを含む、複数の遺伝子のコンビナトリアル発現のための方法に対するニーズが未だ対処されていない。本開示は、そのニーズを満たす。
【発明の概要】
【0007】
要旨
本開示の実施形態は、それぞれが1つ以上の制限酵素部位に隣接する少なくとも2つ、少なくとも3つまたは少なくとも4つのシストロンを含むポリシストロニックベクターに関する方法および組成物を含み、少なくとも1つのシストロンが、少なくとも1つの抗原レセプターをコードする。いくつかの場合において、2つ、3つ、4つまたはそれ以上のシストロンが、単一のポリペプチドに翻訳され、別々のポリペプチドに切断される。ベクター上の隣接シストロンは、コードされるポリペプチドが別々の分子になる能力を提供する部位によって隔てられていることがある。例えば、ベクター上の隣接シストロンは、2A自己切断部位などの自己切断部位によって隔てられていることがある。いくつかの場合において、各シストロンが、ベクターから別々のポリペプチドを発現する。特定の場合において、ベクター上の隣接シストロンは、IRESエレメントによって隔てられている。
【0008】
本開示の特定の実施形態において、ベクター上のシストロンの少なくとも1つは、2つ以上のモジュール式構成要素を含み、シストロン内のモジュール式構成要素の各々は、1つ以上の制限酵素部位に隣接している。シストロンは、例えば、3つ、4つまたは5つのモジュール式構成要素を含み得る。少なくともいくつかの場合において、シストロンは、対応するモジュール式構成要素によってコードされるレセプターの異なる部分を有する抗原レセプターをコードする。シストロンの第1のモジュール式構成要素は、レセプターの抗原結合ドメインをコードし得る。さらに、シストロンの第2のモジュール式構成要素は、レセプターのヒンジ領域をコードし得る。さらに、シストロンの第3のモジュール式構成要素は、レセプターの膜貫通ドメインをコードし得る。さらに、シストロンの第4のモジュール式構成要素は、第1の共刺激ドメインをコードし得る。さらに、シストロンの第5のモジュール式構成要素は、第2の共刺激ドメインをコードし得る。さらに、シストロンの第6のモジュール式構成要素は、シグナル伝達ドメインをコードし得る。
【0009】
本開示の特定の態様において、ベクター上の異なる2つのシストロンはそれぞれ、同一でない抗原レセプターをコードする。両方の抗原レセプターが、2つ以上のモジュール式構成要素を含む別個のシストロンを含む、2つ以上のモジュール式構成要素を含むシストロンによってコードされ得る。抗原レセプターは、例えば、キメラ抗原レセプター(CAR)および/またはT細胞レセプター(TCR)であり得る。
【0010】
具体的な実施形態において、ベクターは、ウイルスベクター(例えば、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクターまたはアデノ随伴ウイルスベクター)または非ウイルスベクターである。ベクターは、モロニーマウス白血病ウイルス(MMLV)の5’LTR、3’LTRおよび/またはプサイパッケージングエレメントを含み得る。具体的な場合において、プサイパッケージングは、5’LTRと抗原レセプターコード配列との間に組み込まれている。ベクターは、pUC19配列を含んでもよいし、含まなくてもよい。ベクターのいくつかの態様において、少なくとも1つのシストロンが、分泌型サイトカインまたは膜結合型サイトカイン(例えば、インターロイキン15(IL-15)、IL-7、IL-21、IL-12、IL-18またはIL-2)、ケモカイン、サイトカインレセプターおよび/またはホーミングレセプターをコードする。
【0011】
2A切断部位が、ベクターにおいて使用されるとき、その2A切断部位は、P2A、T2A、E2Aおよび/またはF2A部位を含み得る。
【0012】
ベクターの任意のシストロンが、自殺遺伝子を含み得る。ベクターの任意のシストロンが、レポーター遺伝子をコードし得る。具体的な実施形態において、第1のシストロンが、自殺遺伝子をコードし、第2のシストロンが、抗原レセプターをコードし、第3のシストロンが、レポーター遺伝子をコードし、第4のシストロンが、サイトカインをコードする。ある特定の実施形態において、第1のシストロンが、自殺遺伝子をコードし、第2のシストロンが、第1の抗原レセプターをコードし、第3のシストロンが、第2の抗原レセプターをコードし、第4のシストロンが、サイトカインをコードする。具体的な実施形態において、抗原レセプターの異なる部分が、対応するモジュール式構成要素によってコードされ、第2のシストロンの第1の構成要素が、抗原結合ドメインをコードし、第2の構成要素が、ヒンジおよび/または膜貫通ドメインをコードし、第3の構成要素が、共刺激ドメインをコードし、第4の構成要素が、シグナル伝達ドメインをコードする。
【0013】
本開示の方法および組成物は、単一ベクター上に任意の好適な順序のシストロンを含む。
【0014】
本開示の実施形態は、本明細書中に包含される任意のベクターを有する任意の種類の細胞を含む。具体的な実施形態では、本開示のベクターを含む免疫細胞が存在し、その免疫細胞は、T細胞、末梢血リンパ球、B細胞、NK細胞、インバリアントNK細胞、NKT細胞、iNKT、マクロファージまたは幹細胞(例えば、間葉系幹細胞(MSC)または人工多能性幹(iPS)細胞)であり得る。T細胞は、CD8+T細胞、CD4+T細胞またはガンマ-デルタT細胞であり得る。具体的な実施形態において、T細胞は、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)である。任意の細胞が、個体に対して同種異系または自己であり得る。免疫細胞は、ヒト細胞であり得る。免疫細胞は、臍帯血、末梢血、骨髄、CD34+細胞またはiPSCに由来し得る。複数の免疫細胞が、細胞の集団として含められ得る。具体的な場合において、免疫細胞は、薬学的に許容され得るキャリアに含められる。
【0015】
本開示の1つの実施形態において、免疫細胞を作製するための方法が存在し、その方法は、(a)免疫細胞の出発集団を得る工程;(b)その免疫細胞の出発集団を人工提示細胞(APC)の存在下において培養する工程;(c)本開示に包含されるベクターをその免疫細胞に導入する工程;および(d)その免疫細胞をAPCの存在下において拡大し、それによって、拡大された免疫細胞を得る工程を含む。免疫細胞の出発集団は、フィコール-パーク密度勾配を用いて単核細胞を単離することによって得ることができる。APCは、ガンマ線を照射したAPCであり得る。上記方法のいくつかの場合において、その方法は、拡大された免疫細胞の集団を凍結保存する工程をさらに含む。
【0016】
本開示の実施形態は、本明細書中に包含されるような免疫細胞の任意の集団および薬学的に許容され得るキャリアを含む薬学的組成物を含む。
【0017】
特定の実施形態において、個体の疾患または障害(例えば、癌または免疫関連障害)の処置において使用するための、有効量の本明細書中に包含されるような免疫細胞を含む組成物が提供される。具体的な実施形態において、個体の癌または免疫関連障害の処置のための、有効量の本開示によって包含される免疫細胞を含む組成物の使用が存在する。
【0018】
1つの実施形態において、個体の疾患または障害を処置する方法が存在し、その方法は、有効量の本開示によって包含される免疫細胞を個体に投与する工程を含む。具体的な実施形態において、その疾患または障害は、癌(固形癌または血液悪性腫瘍)、自己免疫障害、移植片対宿主病、同種移植片拒絶または炎症状態である。自己免疫障害は、炎症状態であり得、免疫細胞は、糖質コルチコイドレセプターの発現を本質的に有しない場合がある。被験体は、ステロイド療法を受けたことがあるかまたは受けている場合がある。免疫細胞は、個体に対して自己または同種異系であり得る。上記方法は、少なくとも第2の治療薬(例えば、化学療法、免疫療法、手術、放射線療法または生物療法)を個体に投与する工程をさらに含み得る。具体的な実施形態において、免疫細胞は、静脈内に、腹腔内に、気管内に、腫瘍内に、筋肉内に、内視鏡的に、病巣内に、経皮的に、皮下に、領域性に、灌流によって、または直接注射によって、個体に投与される。特定の実施形態において、第2の治療薬は、静脈内に、腹腔内に、気管内に、腫瘍内に、筋肉内に、内視鏡的に、病巣内に、経皮的に、皮下に、領域性に、灌流によって、または直接注射によって、個体に投与される。
【0019】
いくつかの実施形態において、ポリシストロニックベクターは、それぞれが1つ以上の制限酵素部位に隣接する少なくとも2つ、少なくとも3つまたは少なくとも4つのシストロンを含み、そのベクター上のシストロンの少なくとも1つは、2つ以上のモジュール式構成要素を含み、シストロン内のモジュール式構成要素の各々は、1つ以上の制限酵素部位に隣接している。
【0020】
本開示の他の目的、特徴および利点は、以下の詳細な説明から明らかになるだろう。しかしながら、この詳細な説明から当業者には本開示の趣旨および範囲内での様々な変更および改変が明らかになるので、その詳細な説明および具体例は、本開示の特定の実施形態を示すが、単に例証として与えられることを理解するべきである。
【0021】
以下の図面は、本明細書の一部を成し、本開示のある特定の態様をさらに実証するために含められる。本開示は、本明細書中に提示される具体的な実施形態の詳細な説明と併せてこれらの図面の1つ以上を参照することによって、より理解される可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1A】複数のモジュール式構成要素を有する少なくとも1つのシストロンを含む複数のモジュール式シストロンを含むポリシストロニックベクターの一実施形態。Xは、少なくとも1つの制限酵素部位を表す。
【0023】
【
図1B】複数のモジュール式構成要素を有する少なくとも1つのシストロンを含む複数のモジュール式シストロンを含むポリシストロニックベクターの別の実施形態。Xは、少なくとも1つの制限酵素部位を表す。
【0024】
【
図2】7つのオープンリーディングフレーム(ORF)(抗原レセプターシストロン内に構成要素を含む)を発現する4つのシストロンを3つの2A自己切断部位を介して含むポリシストロニックなレトロウイルスベクターの一例の線形表現を示している概略図。
【0025】
【
図3】複数のシストロンおよび3つの2A切断部位を含むポリシストロニックなプラスミドの一例。
【発明を実施するための形態】
【0026】
例証的な実施形態の説明
ある特定の実施形態において、本開示は、複数のシストロンを実質的に同一レベルで発現する能力を有するポリシストロニックベクターを利用したフレキシブルなモジュール式のシステムを提供する。このシステムは、複数の遺伝子のコンビナトリアル発現(過剰発現を含む)を可能にする細胞操作に使用され得る。具体的な実施形態において、このベクターによって発現される遺伝子の1つ以上が、具体的な実施形態では非天然のレセプターである、1つ、2つまたはそれ以上の抗原レセプターを含む。その複数の遺伝子としては、CAR、TCR、サイトカイン、ケモカイン、ホーミングレセプター、CRISPR/Cas9媒介性遺伝子変異、デコイレセプター、サイトカインレセプター、キメラサイトカインレセプターなどが挙げられ得るが、これらに限定されない。そのベクターは、(1)1つ以上のレポーター、例えば、細胞アッセイ用および動物イメージング用などの、蛍光レポーターまたは酵素レポーター;(2)1つ以上のサイトカインまたは他のシグナル伝達分子;および/または(3)自殺遺伝子をさらに含み得る。
【0027】
具体的には、上記ベクターは、2A切断部位などの任意の種類の切断部位によって隔てられた少なくとも4つのシストロンを含み得る。このベクターは、プサイパッケージング配列とともに3’および5’LTRをpUC19骨格に含む、モロニーマウス白血病ウイルス(MoMLVまたはMMLV)に基づくベクターであってもよいし、そうでなくてもよい。このベクターは、遺伝子交換のために3つ以上の2A切断部位および複数のORFを含む4つ以上のシストロンを含み得る。このシステムは、サブクローニングによる迅速なインテグレーションのための制限酵素認識部位に隣接した複数の遺伝子(7つ以上)のコンビナトリアル過剰発現を可能にし、このシステムはまた、いくつかの実施形態では、少なくとも3つの2A自己切断部位も含む。したがって、このシステムは、複数のCAR、TCR、シグナル伝達分子、サイトカイン、サイトカインレセプターおよび/またはホーミングレセプターの発現を可能にする。このシステムは、レンチウイルス、アデノウイルスAAVならびに非ウイルスプラスミドを含むがこれらに限定されない、他のウイルスベクターおよび非ウイルスベクターにも適用され得る。
【0028】
上記システムのモジュール式の性質は、ポリシストロニック発現ベクター内の4つの各シストロンに遺伝子を効率的にサブクローニングすること、および迅速試験などのために遺伝子の交換も可能にする。ポリシストロニック発現ベクター内に戦略的に配置された制限酵素認識部位により、遺伝子の交換が効率的に行える。制限酵素部位の例としては、少なくとも、以下が挙げられる:BlnI、BstEII、EcoRV、AccI、AluI、ApaI、BamHI、BclI、BglII、BsmI、CfoI、ClaI、DdeI、DpnI、DraI、EclXI、EcoRI、HaeIII、HindIII、HpaI、KpnI、KspI、MvaI、NcoI、NdeI、NheI、NotI、NsiI、PstI、PvuI、PvuII、RsaI、SacI、SalI、Sau3AI、ScaI、SfiI、SmaI、SpeI、SphI、TaqI、XbaIおよび/またはXhoI。
【0029】
本明細書中に包含されるモジュール式ベクターを用いて免疫細胞を遺伝的に操作するための方法がさらに本明細書中に提供される。その免疫細胞は、任意の種類であってよく、例えば、T細胞、B細胞、NK細胞、NKT細胞または間葉系間質細胞(MSC)が挙げられる。例えば癌、感染症または自己免疫疾患の処置などのための、ベクターによって操作された免疫細胞の投与を含む免疫療法の方法も本明細書中に提供される。
I.定義
【0030】
本明細書中で使用されるとき、特定の構成要素に関する「本質的に含まない」は、その特定の構成要素が、意図的に組成物に製剤化されていないことおよび/または夾雑物としてでさえもしくは微量でさえ存在しないことを意味するために本明細書中で使用される。ゆえに、ある組成物の任意の意図されない混入に起因する、その特定の構成要素の総量は、0.05%未満、好ましくは、0.01%未満である。標準的な分析方法ではその特定の構成要素の量を検出できない組成物が最も好ましい。
【0031】
長年の特許法の慣習に沿って、語「a」および「an」は、語「~を含む」と合わせて本明細書(請求項を含む)において使用されるとき、「1つ以上の」を表す。本開示のいくつかの実施形態は、本開示の1つ以上のエレメント、方法工程および/または方法からなり得るか、または本質的になり得る。本明細書中に記載される任意の方法または組成物が、開示される実施形態の本明細書中に記載される他の任意の方法または組成物に対して実行することができ、本開示の趣旨および範囲から逸脱することなくなおも同様または類似の結果をもたらすことができると企図される。請求項での用語「または」の使用は、選択肢だけを指すと明示的に示されない限り、またはそれらの選択肢が相互排他的でない限り、「および/または」を意味するために使用されるが、本開示は、選択肢だけおよび「および/または」を指すという定義を支持する。本明細書中で使用されるとき、「別の」は、少なくとも第2のものまたはそれ以上のものを意味し得る。
【0032】
本明細書中で使用される用語「シストロン」とは、遺伝子産物を生成し得る核酸配列のことを指す。
【0033】
本明細書中で使用される用語「モジュール式」とは、例えば、いくつかの場合ではユニークな制限酵素部位を含む1つ以上の制限酵素部位の利用などの標準的な組換え手法を用いることによる、シストロン全体またはシストロンの構成要素の除去および置換などによってその相互交換可能性を可能にさせる、それぞれシストロンまたはシストロンの構成要素のことを指す。
【0034】
本願全体を通じて、用語「約」は、ある値が、その値を測定するために用いられるデバイス、方法に対する固有の誤差のばらつきを含んでいること、または研究の被験体間に存在するばらつきを示すために用いられる。
【0035】
「免疫障害」、「免疫関連障害」または「免疫媒介性障害」とは、免疫応答が、その疾患の発症および/または進行において重要な役割を果たす障害のことを指す。免疫媒介性障害としては、例えば、自己免疫障害、同種移植片拒絶、移植片対宿主病ならびに炎症状態およびアレルギー状態が挙げられる。
【0036】
「免疫応答」は、刺激に対する、B細胞またはT細胞または自然免疫細胞などの免疫系の細胞の応答である。1つの実施形態において、応答は、特定の抗原に特異的である(「抗原特異的応答」)。
【0037】
「自己免疫疾患」とは、免疫系が、正常な宿主の一部である抗原(すなわち、自己抗原)に対して免疫応答(例えば、B細胞応答またはT細胞応答)を起こし、その結果、組織が傷害される疾患のことを指す。自己抗原は、宿主細胞に由来し得るか、または共生生物(例えば、通常、粘膜表面にコロニー形成する微生物(共生生物として知られる))に由来し得る。
【0038】
疾患もしくは状態を「処置する」または疾患もしくは状態の処置とは、その疾患の少なくとも1つの徴候または症状を軽減する目的で、1つ以上の薬物または治療(細胞を含む)を患者に投与することを含み得るプロトコルを実行することを指す。処置の望ましい効果としては、疾患の進行速度の低下、疾患状態の回復または緩和、少なくとも1つの症状の発生の遅延、および予後の緩解または改善が挙げられる。軽減は、現れる疾患または状態の徴候または症状が現れる前、ならびに現れた後、またはその両方において生じ得る。したがって、「処置する」または「処置」は、疾患または望ましくない状態を「予防する」またはそれらの「予防」を含み得る。さらに、「処置する」または「処置」は、1つ以上の徴候または症状の完全な軽減を必要とせず、治癒を必要とせず、詳細には、患者に対して周辺効果しか及ぼさないプロトコルを含む。
【0039】
本願全体にわたって使用される用語「治療効果」または「治療的に有効な」とは、その状態に対する医学的処置に関して被験体の福祉を増進または向上させる何らかのことを指す。これには、ある疾患の1つ以上の徴候または症状の頻度または重症度の低下が含まれるが、これらに限定されない。例えば、癌の処置は、例えば、腫瘍サイズの減少、腫瘍の侵襲性の低下、癌の成長速度の低下、および/または転移の予防を含み得る。癌の処置とは、癌を有する被験体の生存時間の延長のことも指し得る。
【0040】
「被験体」および「患者」および「個体」とは、ヒトまたは非ヒト、例えば、霊長類、哺乳動物および脊椎動物のことを指す。特定の実施形態において、被験体は、ヒト、イヌ、ネコ、ウマ、ウシなどである。
【0041】
句「薬学的に許容され得るまたは薬理学的に許容され得る」とは、ヒトなどの動物に適宜投与されたとき、有害反応、アレルギー反応または他の不都合な反応をもたらさない分子実体および組成物のことを指す。抗体またはさらなる活性成分を含む薬学的組成物の調製は、本開示に照らせば当業者に公知である。さらに、動物(例えば、ヒト)への投与の場合、調製物は、FDA Office of Biological Standardsが要求する無菌性、発熱性、一般的な安全性および純度の規格を満たすべきであることが理解される。
【0042】
本明細書中で使用されるとき、「薬学的に許容され得るキャリア」は、当業者に公知であるように、任意のおよびすべての水性溶媒(例えば、水、アルコール溶液/水溶液、食塩水、非経口ビヒクル、例えば、塩化ナトリウム、リンゲルデキストロースなど)、非水溶媒(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油および注射可能な有機エステル、例えば、オレイン酸エチル)、分散媒、コーティング、界面活性剤、酸化防止剤、保存剤(例えば、抗菌剤または抗真菌剤、抗酸化剤、キレート剤および不活性ガス)、等張剤、吸収遅延剤、塩、薬物、薬物安定剤、ゲル、結合剤、賦形剤、崩壊剤、潤滑剤、甘味剤、香味剤、色素、流動性および栄養補給剤、そのような同様の材料ならびにそれらの組み合わせを含む。薬学的組成物中の様々な構成要素のpHおよび正確な濃度は、周知のパラメータに従って調整される。
【0043】
用語「抗原提示細胞(APC)」とは、免疫系の特定のエフェクター細胞が認識できるペプチド-MHC複合体の形態で1つ以上の抗原を提示でき、それにより、提示される抗原に対して効果的な細胞免疫応答を誘導できる、細胞のクラスのことを指す。用語「APC」は、インタクトな細胞全体(例えば、マクロファージ、B細胞、内皮細胞、活性化T細胞および樹状細胞)、または抗原(例えば、ベータ2-ミクログロブリンに複合体化された精製済みのMHCクラスI分子)を提示できる天然に存在する分子もしくは合成分子を包含する。
II.モジュール式ポリシストロニックベクターシステム
【0044】
本開示の実施形態は、ポリシストロニックベクターを利用するシステムを包含し、そのベクターの少なくとも一部は、例えば、1つ以上のシストロン(または1つ以上のシストロンの構成要素)の除去および置換を可能にすることによって、例えば、そのベクターのモジュールの使用を容易にするために同一性および位置が特異的に選択された1つ以上の制限酵素部位を利用することによって、モジュール化されている。このベクターは、複数のシストロンが、単一のポリペプチドに翻訳され、別々のポリペプチドにプロセシングされ、それにより、別個の遺伝子産物を実質的に等モル濃度で発現するというこのベクターの利点を付与する実施形態も有する。
【0045】
本開示のベクターは、そのベクターの1つ以上のシストロンを変更することおよび/または1つ以上の特定のシストロンの1つ以上の構成要素を変更することができるモジュール性が得られるように配置される。そのベクターは、1つ以上のシストロンの末端に隣接するおよび/または特定のシストロンの1つ以上の構成要素の末端に隣接するユニークな制限酵素部位を利用するようにデザインされ得る。
【0046】
ある特定の実施形態において、本開示は、例えば1つ、2つまたはそれ以上の抗原レセプターを含み得る複数のシストロンのコンビナトリアル発現(過剰発現を含む)を可能にする細胞操作のためのシステムを提供する。特定の実施形態において、本明細書中に記載されるようなポリシストロニックベクターを使用することにより、そのベクターが同じmRNAから等モルレベルの複数の遺伝子産物を生成することが可能になる。その複数の遺伝子としては、CAR、TCR、サイトカイン、ケモカイン、ホーミングレセプター、CRISPR/Cas9媒介性遺伝子変異、デコイレセプター、サイトカインレセプター、キメラサイトカインレセプターなどが挙げられ得るが、これらに限定されない。このベクターは、細胞アッセイ用および動物イメージング用などの1つ以上の蛍光レポーターまたは酵素レポーターをさらに含み得る。このベクターは、ベクターを有する細胞がもはや必要なくなったときまたは提供された宿主にとって有害になったとき、それらの細胞を終結させるための自殺遺伝子産物も含み得る。
【0047】
具体的な場合において、上記ベクターは、γ-レトロウイルストランスファーベクターであり得る。そのレトロウイルストランスファーベクターは、pUC19プラスミド(HindIII制限酵素部位とEcoRI制限酵素部位との間に大型フラグメント(2.63kb))などのプラスミドに基づく骨格を含み得る。この骨格は、5’LTR、プサイパッケージング配列および3’LTRを含むモロニーマウス白血病ウイルス(MoMLV)由来のウイルス構成要素を有し得る。LTRは、レトロウイルスのプロウイルスのどちらかの側に見られる末端反復配列であり、トランスファーベクターの場合、CARおよび関連構成要素などの目的の遺伝的積荷の両脇に置かれる。ヌクレオカプシドによるパッケージングのための標的部位であるプサイパッケージング配列も、5’LTRとCARコード配列との間にシスで挟まれた形で組み込まれる。したがって、トランスファーベクターの一例の基本構造は、pUC19配列-5’LTR-プサイパッケージング配列-目的の遺伝的積荷-3’LTR-pUC19配列のように構成され得る。このシステムは、レンチウイルス、アデノウイルスAAVならびに非ウイルスプラスミドを含むがこれらに限定されない、他のウイルスベクターおよび非ウイルスベクターにも適用され得る。
【0048】
特定の実施形態において、上記ベクターの複数のシストロンは、対応する複数のシストロンから単一の転写物への遺伝子の発現を提供する1つ以上のエレメントによって隔てられる。続いて、その単一の転写物は、翻訳されて、多タンパク質ポリペプチドを生成し、そのポリペプチドは、タンパク質が別個のタンパク質分子になるようにプロセシングされる(例えば、切断によって)。例示的なエレメントは、2Aペプチド切断配列などの自己切断ペプチドをコードする部位である。他の切断部位としては、フューリン切断部位またはタバコエッチウイルス(TEV)切断部位が挙げられる。他の場合では、ベクターのシストロンは、別個のシストロンの異なる翻訳を提供する1つ以上のエレメント(例えば、IRES配列)によって隔てられる。いくつかの場合において、ベクターは、両方のタイプのエレメントの組み合わせを利用する。
【0049】
目的の遺伝的積荷は、ベクターから発現され得る少なくとも1つのORFを含む1、2、3、4、5、6、7、8、9、10個またはそれ以上のシストロンを含み得る。本開示の実施形態は、目的の遺伝的積荷が現時点ではベクターに収容されていないかもしれない状態のベクターを含むが、そのベクターは、それらが存在するときは、シストロンの発現および/またはさらなるプロセシングに必要な1つ以上の構造エレメントまたはハウスキーピングエレメント(例えば、プロモーター、複数の2A配列など)をなおも保持する。そのベクターは、単一のポリペプチドに翻訳されることおよび別々のポリペプチドにプロセシングされることができる(例えば、隣接シストロン間の2A自己切断部位を用いることによって)複数のシストロンを有し得る。代替の実施形態では、複数のシストロンが、別々のポリペプチドとして発現される(例えば、隣接シストロンの間のIRESエレメントを用いることによって)。
【0050】
具体的な場合において、ベクターにおける目的の遺伝的積荷の構造は、以下のとおりであり得る:
シストロン1-2A-シストロン2-2A-シストロン3-2A-シストロン4
ここで、具体的な実施形態において、シストロン1、シストロン2、シストロン3およびシストロン4は、異なる遺伝子である。少なくともいくつかの場合では、ベクター内の2A配列は、同一である場合もあるし、同一でない場合もある。
【0051】
具体的な実施形態において、上記シストロンの少なくとも1つは、自殺遺伝子をコードする。いくつかの実施形態において、上記シストロンの少なくとも1つは、サイトカインをコードする。ある特定の実施形態において、少なくとも1つのシストロンは、抗原レセプターをコードする。シストロンは、レポーター遺伝子をコードする場合もあるし、しない場合もある。ある特定の実施形態では、少なくとも2つのシストロンが、異なる2つの抗原レセプター(例えば、CARおよび/またはTCR)をコードする。シストロンは、レポーター遺伝子をコードする場合もあるし、しない場合もある。特定の場合において、目的の遺伝的積荷は、以下のとおりである:
自殺遺伝子-2A-抗原レセプター-2A-レポーター遺伝子-2A-サイトカイン;または
自殺遺伝子-2A-抗原レセプター-2A-サイトカイン-2A レポーター遺伝子;または
自殺遺伝子-2A-サイトカイン-2A レポーター遺伝子-2A-抗原レセプター;または
自殺遺伝子-2A-サイトカイン-2A 抗原レセプター-2A-レポーター遺伝子;または
自殺遺伝子-2A-レポーター遺伝子-2A-サイトカイン-2A 抗原レセプター;または
自殺遺伝子-2A-レポーター遺伝子-2A-抗原レセプター-2A-サイトカイン;または
抗原レセプター-2A-サイトカイン-2A-レポーター遺伝子-2A-自殺遺伝子;または
抗原レセプター-2A-サイトカイン-2A-自殺遺伝子-2A-レポーター遺伝子;または
抗原レセプター-2A-レポーター遺伝子-2A-サイトカイン-2A-自殺遺伝子;または
抗原レセプター-2A-レポーター遺伝子-2A-自殺遺伝子-2A-サイトカイン;または
抗原レセプター-2A-自殺遺伝子-2A-レポーター遺伝子-2A-サイトカイン;または
抗原レセプター-2A-自殺遺伝子-2A-サイトカイン-2A-レポーター遺伝子;または
レポーター遺伝子-2A-抗原レセプター-2A-自殺遺伝子-2A-サイトカイン;または
レポーター遺伝子-2A-抗原レセプター-2A-サイトカイン-2A-自殺遺伝子;または
レポーター遺伝子-2A-サイトカイン-2A-自殺遺伝子-2A-抗原レセプター;または
レポーター遺伝子-2A-サイトカイン-2A-抗原レセプター-2A-自殺遺伝子;または
レポーター遺伝子-2A-自殺遺伝子-2A-抗原レセプター-2A-サイトカイン;または
レポーター遺伝子-2A-自殺遺伝子-2A-サイトカイン-2A-抗原レセプター;または
サイトカイン-2A-レポーター遺伝子-2A-自殺遺伝子-2A-抗原レセプター;または
サイトカイン-2A-レポーター遺伝子-2A-抗原レセプター-2A-自殺遺伝子;または
サイトカイン-2A-自殺遺伝子-2A-抗原レセプター-2A-レポーター遺伝子;または
サイトカイン-2A-自殺遺伝子-2A-レポーター遺伝子-2A-抗原レセプター;または
サイトカイン-2A-抗原レセプター-2A-自殺遺伝子-2A-自殺遺伝子;または
サイトカイン-2A-抗原レセプター-2A-レポーター遺伝子-2A-レポーター遺伝子。
【0052】
目的の遺伝的積荷の特定の配置において、単一のベクターが、第1の抗原レセプターをコードするシストロン、および第1の抗原レセプターと同一ではない第2の抗原レセプターをコードするシストロンを含み得る。具体的な実施形態において、第1の抗原レセプターがCARをコードし、第2の抗原レセプターがTCRをコードするか、またはその逆である。特定の実施形態において、第1の抗原レセプターおよび第2の抗原レセプターをそれぞれコードする別個のシストロンを含むベクターは、サイトカインまたはケモカインをコードする第3のシストロンおよび自殺遺伝子をコードする第4のシストロンも含む。しかしながら、その自殺遺伝子および/またはサイトカイン(またはケモカイン)は、ベクター上に存在しないことがある。特定の場合において、目的の遺伝的積荷は、以下のとおりである:
自殺遺伝子-2A-第1の抗原レセプター-2A-サイトカイン-2A-第2の抗原レセプター;または
自殺遺伝子-2A-第1の抗原レセプター-2A-第2の抗原レセプター-2A-サイトカイン;または
自殺遺伝子-2A-サイトカイン-2A-第1の抗原レセプター-2A-第2の抗原レセプター;または
自殺遺伝子-2A-サイトカイン-2A-第2の抗原レセプター-2A-第1の抗原レセプター;または
自殺遺伝子-2A-第2の抗原レセプター-2A-第1の抗原レセプター-2A-サイトカイン;または
自殺遺伝子-2A-第2の抗原レセプター-2A-サイトカイン-2A-第1の抗原レセプター;または
第1の抗原レセプター-2A-サイトカイン-2A-第2の抗原レセプター-2A-自殺遺伝子;または
第1の抗原レセプター-2A-サイトカイン-2A-自殺遺伝子-2A-第2の抗原レセプター;または
第1の抗原レセプター-2A-自殺遺伝子-2A-第2の抗原レセプター-2A-サイトカイン;または
第1の抗原レセプター-2A-自殺遺伝子-2A-サイトカイン-2A-第2の抗原レセプター;または
第1の抗原レセプター-2A-第2の抗原レセプター-2A-サイトカイン-2A-自殺遺伝子;または
第1の抗原レセプター-2A-第2の抗原レセプター-2A-自殺遺伝子-2A-サイトカイン;または
サイトカイン-2A-第1の抗原レセプター-2A-自殺遺伝子-2A-第2の抗原レセプター;または
サイトカイン-2A-第1の抗原レセプター-2A-第2の抗原レセプター-2A-自殺遺伝子;または
サイトカイン-2A-自殺遺伝子-2A-第1の抗原レセプター-2A-第2の抗原レセプター;または
サイトカイン-2A-自殺遺伝子-2A-第2の抗原レセプター-2A-第1の抗原レセプター;または
サイトカイン-2A-第2の抗原レセプター-2A-第1の抗原レセプター-2A-自殺遺伝子;または
サイトカイン-2A-第2の抗原レセプター-2A-自殺遺伝子-2A-第1の抗原レセプター。
【0053】
いくつかの場合において、上記ベクター内のシストロンの1つは、レポーター遺伝子ではないか、またはサイトカインではない。上で提供されたシストロンの配置の代替の実施形態では、2Aペプチド配列の代わりに、種々のシストロンの同時発現を可能にする代替のエレメント(例えば、IRES配列)が存在し得る。単一のベクターにおいて、2Aペプチド切断配列とIRESエレメントとの組み合わせを利用してもよい。
【0054】
特定の実施形態において、少なくとも1つのシストロンが、それ自体がモジュール式である複数の構成要素を含む。例えば、1つのシストロンが、複数の部分を有する抗原レセプターなどの複数の構成要素の遺伝子産物をコードし得る。具体的な場合において、その抗原レセプターは、単一のシストロンからコードされ、それにより、単一のポリペプチドが最終的に生成される。複数の構成要素をコードするシストロンは、1つ、2つ、3つ、4つ、5つまたはそれ以上の制限酵素消化部位(そのシストロンを含むベクターに特有の1つ、2つ、3つ、4つ、5つまたはそれ以上の制限酵素消化部位を含む)によって隔てられた複数の構成要素を有し得る(
図1Aおよび
図1B)。具体的な実施形態において、複数の構成要素を有するシストロンは、複数の対応する部分を有する抗原レセプターであって、その対応する各部分が、ユニークな機能をそのレセプターに属させる抗原レセプターをコードする。具体的な実施形態において、複数の構成要素のシストロンの構成要素の各々または大部分が、ベクターに特有の1つ以上の制限酵素消化部位によって隔てられており、それにより、所望する場合に、別個の構成要素の相互交換可能性が可能になる。
【0055】
例示として、複数の構成要素のシストロンの一例のモジュール性は、下記のとおり構成され、それぞれXによって表される1つ以上のユニークな制限酵素部位が存在する:
【0056】
構成要素1--X1-構成要素2---X2-構成要素3---X3-構成要素4---X4-構成要素5---X5-など。
【0057】
具体的な実施形態において、複数の構成要素のシストロンの各構成要素は、キメラ抗原レセプター(CAR)などのコードされる抗原レセプターの異なる部分に対応する。例証的な実施形態では、構成要素1は、レセプターの抗原結合ドメインをコードし得;構成要素2は、レセプターのヒンジドメインをコードし得;構成要素3は、レセプターの膜貫通ドメインをコードし得;構成要素4は、レセプターの共刺激ドメインをコードし得、構成要素5は、レセプターのシグナル伝達ドメインをコードし得る。具体的な実施形態において、抗原レセプターは、1つ以上の共刺激ドメインを含み得、その各共刺激ドメインは、レセプター内の共刺激ドメインが相互交換可能になるように、ユニークな制限酵素消化部位によって隔てられている。
【0058】
図1Aおよび
図1Bを参照すると、これらの図示は、本開示の1つのベクターの少なくとも一部分の実施形態の例を提供しており、そのベクターのモジュール式の性質を示している。
図1Aは、隣接シストロンが2A切断部位によって隔てられている4つの別個のシストロンを有するポリシストロニックベクターを図示しているが、具体的な実施形態では、2A切断部位の代わりに、別個のポリペプチドを直接または間接的にシストロンから生成させるエレメント(例えば、IRES配列)が存在する。
図1Aでは、4つの別個のシストロンが、3つの2Aペプチド切断部位によって隔てられており、各シストロンは、標準的な組換え手法を用いるとき、特定のシストロンの相互交換可能性(例えば、別のシストロンまたは他のタイプの配列との相互交換可能性)を可能にする、シストロンの各末端に隣接している制限酵素認識部位(X
1、X
2など)を有する。具体的な実施形態において、各シストロンに隣接する制限酵素部位は、組換えを容易にするためにベクターに特有であるが、代替の実施形態において、その制限酵素部位は、ベクターに特有ではない。
【0059】
特定の実施形態において、ベクターは、特定のシストロン内の相互交換可能性(特定のシストロンの複数の構成要素内の相互交換可能性を含む)を可能にすることによってユニークな第2のレベルのモジュール性を提供する。特定のシストロンの複数の構成要素は、そのシストロン内の1つ以上の構成要素の相互交換可能性を可能にするために1つ以上の制限酵素部位(ベクターに特有のものを含む)によって隔てられ得る。
図1Aでは、一例として、シストロン2は、5つの別個の構成要素を含むが、シストロン1つあたり2つ、3つ、4つ、5つ、6つまたはそれ以上の構成要素が存在してもよい。
図1Aにおける例は、標準的な組換えが、異なる構成要素1、2、3、4、および/または5を交換できるように、それぞれがユニークな制限酵素部位X
9、X
10、X
11、X
12、X
13およびX
14によって隔てられた5つの構成要素を有するシストロン2を含む。
図1Bは、複数の制限酵素部位が異なる構成要素(ユニークであるが、あるいは1つ以上はユニークではない)の間に存在し得ること、および配列が複数の制限酵素部位の間に存在し得る(が、あるいは存在しないことがある)ことを図示していることだけが
図1Aと異なる。ある特定の実施形態において、シストロンによってコードされるすべての構成要素が、相互交換可能であることを目的としてデザインされる。特定の場合において、あるシストロンの1つ以上の構成要素が、相互交換可能であるようにデザインされているのに対して、そのシストロンの他の1つ以上の構成要素は、相互交換可能であるようにデザインされていないことがある。
【0060】
具体的な実施形態において、
図1Aおよび
図1Bの例では、シストロンは、複数の構成要素を有するCAR分子または他の抗原レセプターをコードする。例えば、シストロン2は、構成要素1、構成要素2、構成要素3などによって表される別個の構成要素を有するCAR分子をコードする配列を含み得る。そのCAR分子は、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つまたはそれ以上の相互交換可能な構成要素を含み得る。具体例では、
図1Aまたは
図1Bにおける構成要素1は、目的の抗原に対するscFvをコードし;構成要素2は、ヒンジをコードし;構成要素3は、膜貫通ドメインをコードし;構成要素4は、共刺激ドメインをコードし(交換のために、制限酵素認識部位に隣接した第2またはそれ以上の共刺激ドメインをコードする構成要素4’も存在し得るが);構成要素5は、シグナル伝達ドメインをコードする。特定の例において、構成要素1は、CD19scFvをコードし;構成要素2は、IgG1ヒンジおよび/または膜貫通ドメインをコードし;構成要素3は、CD28をコードし;構成要素4は、CD3ゼータをコードする。
【0061】
当業者は、ベクターのデザインにおいて、様々なシストロンおよび構成要素が、必要である場合にはインフレームで維持されるように配置されなければならないことを認識する。
【0062】
図1Aまたは
図1Bの特定の例では、シストロン1は、自殺遺伝子をコードし;シストロン2は、CARをコードし;シストロン3は、レポーター遺伝子をコードし;シストロン4は、サイトカインをコードし;シストロン2の構成要素1は、scFvをコードし;シストロン2の構成要素2は、IgG1ヒンジをコードし;シストロン2の構成要素3は、CD28をコードし;構成要素4は、CD3ゼータをコードする。代替の実施形態では、シストロンのいずれもが、抗原レセプターをコードしない。
【0063】
制限酵素部位は、任意の種類であってよく、その認識部位に任意の数の塩基(例えば、4~8塩基)を含み得る。認識部位の塩基数は、少なくとも4、5、6、7、8またはそれ以上であり得る。その部位は、切断されると、平滑末端または粘着末端を生成し得る。制限酵素は、例えば、I型、II型、III型またはIV型であり得る。制限酵素部位は、Integrated relational Enzymeデータベース(IntEnz)またはBRENDA(The Comprehensive Enzyme Information System)などの利用可能なデータベースから入手することができる。
【0064】
例示的なベクターを
図2および
図3に示す。
図2において、ベクターDNAは、円形であり、慣例により、1位(円の上部にある12時の位置で、残りの配列は時計回りの向きである)が、5’LTRの開始点に設定されている。
【0065】
自己切断2Aペプチドを利用する実施形態において、2Aペプチドは、真核細胞において翻訳中のポリペプチドの「切断」を媒介する18~22アミノ酸(aa)長のウイルスオリゴペプチドであり得る。「2A」という呼称は、ウイルスゲノムの特定の領域のことを指し、種々のウイルス2Aが、概してそれらが由来するウイルスにちなんで命名されている。初めて発見された2Aは、F2A(口蹄疫ウイルス)であり、その後、E2A(ウマ鼻炎Aウイルス)、P2A(ブタテッショウウイルス-1 2A)およびT2A(thosea asignaウイルス2A)も同定された。2A媒介性の「自己切断」の機序は、リボソームが、2AのC末端においてグリシル-プロリルのペプチド結合の形成をスキップすることであると発見された。高度に保存された配列GDVEXNPGP(配列番号5)は、種々の2AのC末端で共有されており、立体障害の発生およびリボソームスキッピングにとって有用である。スキッピングの成功および翻訳の再開により、「切断された」2つのタンパク質が生じる。2A配列の例は、以下のとおりである:
T2A:(GSG)EGRGSLLTCGDVEENPGP(配列番号1)
P2A:(GSG)ATNFSLLKQAGDVEENPGP(配列番号2)
E2A:(GSG)QCTNYALLKLAGDVESNPGP(配列番号3)
F2A:(GSG)VKQTLNFDLLKLAGDVESNPGP(配列番号4)
A.作製方法
【0066】
当業者であれば、本開示の抗原レセプターを発現させるために標準的な組換え手法(例えば、Sambrook et al.,2001およびAusubel et al.,1996(両方が参照により本明細書中に援用される)を参照のこと)によってベクターを構築する能力を充分に備えているだろう。
1.調節エレメント
【0067】
本開示において有用なベクターに含められる発現カセットは、特に、タンパク質コード配列に作動可能に連結された真核生物転写プロモーター、介在配列を含むスプライスシグナル、および転写終結/ポリアデニル化配列を(5’から3’の方向で)含む。タンパク質をコードする遺伝子の転写を真核細胞において制御するプロモーターおよびエンハンサーは、複数の遺伝的エレメントを含み得る。細胞機構は、各エレメントによって運ばれる調節情報を集め、統合することができ、それにより、異なる遺伝子が、多くの場合は複雑なパターンである異なるパターンの転写制御を展開することが可能になる。本開示の状況において使用されるプロモーターとしては、例えば、構成的プロモーター、誘導性プロモーターおよび組織特異的プロモーターが挙げられる。ベクターが、癌治療の作製に使用される場合、プロモーターは、低酸素の条件下において有効であり得る。
a.プロモーター/エンハンサー
【0068】
本明細書中に提供される発現構築物は、抗原レセプターおよび他のシストロン遺伝子産物の発現を駆動するプロモーターを含む。プロモーターは、一般に、RNA合成のための開始部位の位置を特定するように機能する配列を含む。これの最もよく知られている例は、TATAボックスであるが、哺乳動物のターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ遺伝子のプロモーターおよびSV40後期遺伝子のプロモーターなど、一部のプロモーターでは、TATAボックスを欠き、開始部位自体と重なっている不連続なエレメントが、開始の場所を固定するのを助ける。さらなるプロモーターエレメントが、転写開始の頻度を制御する。通常、これらは、開始部位の上流の領域に位置するが、いくつかのプロモーターは、開始部位の下流にも機能的エレメントを含むと示されている。コード配列をプロモーター「の支配下に」するためには、転写読み枠の転写開始部位の5’末端を、選択されたプロモーターの「下流」(すなわち、3’)に置く。「上流」のプロモーターは、DNAの転写を刺激し、コードされるRNAの発現を促進する。
【0069】
プロモーターエレメント間の間隔は、変更がきくことが多く、エレメントが、反転されるかまたは互いに対して移動された場合でも、プロモーターの機能は保存される。例えば、tkプロモーターでは、プロモーターエレメント間の間隔は、活性が低下し始めるまで最大50bp広げられ得る。プロモーターに応じて、個々のエレメントは、協同的にまたは独自に機能して転写を活性化し得るとみられる。プロモーターは、核酸配列の転写性の活性化に関わるシス作用性制御配列のことを指す「エンハンサー」と併せて使用されてもよいし、使用されなくてもよい。
【0070】
プロモーターは、コードセグメントおよび/またはエキソンの上流に位置する5’非コード配列を単離することによって得られることがあるような、ある核酸配列と天然に会合したプロモーターであり得る。そのようなプロモーターは、「内在性」プロモーターと呼ぶことができる。同様に、エンハンサーは、ある核酸配列の下流または上流に位置する、その配列と天然に会合したエンハンサーであり得る。あるいは、ある核酸配列とその天然の環境では天然には会合していないプロモーターのことを指す、組換えプロモーターまたは異種プロモーターの支配下にコード核酸セグメントを置くことによって、一定の利点が得られる。また、組換えエンハンサーまたは異種エンハンサーは、その天然の環境では核酸配列と天然には会合していないエンハンサーのことを指す。そのようなプロモーターまたはエンハンサーには、他の遺伝子のプロモーターまたはエンハンサー、ならびに他の任意のウイルスまたは原核細胞もしくは真核細胞から単離されたプロモーターまたはエンハンサー、ならびに「天然に存在」しない、すなわち、種々の転写制御領域の種々のエレメントおよび/または発現を変化させる変異を含む、プロモーターまたはエンハンサーが含まれ得る。例えば、組換えDNAの構築において最もよく使用されるプロモーターとしては、βラクタマーゼ(ペニシリナーゼ)、ラクトースおよびトリプトファン(trp-)プロモーターシステムが挙げられる。プロモーターおよびエンハンサーの核酸配列を合成的に作製することに加えて、組換えクローニング、および/またはPCR(商標)をはじめとした核酸増幅技術を用いて、ある配列が、本明細書中に開示される組成物に関連して作製され得る。さらに、核以外のオルガネラ(例えば、ミトコンドリア、葉緑体など)内での配列の転写および/または発現を指示する調節配列も同様に使用できることが企図される。
【0071】
当然、発現のために選択されたオルガネラ、細胞型、組織、器官または生物におけるDNAセグメントの発現を効果的に指示するプロモーターおよび/またはエンハンサーを使用することが重要になる。分子生物学の当業者は、一般に、タンパク質発現のために、プロモーター、エンハンサーおよび細胞型の組み合わせを使用することを承知している(例えば、参照により本明細書中に援用されるSambrook et al.1989を参照のこと)。使用されるプロモーターは、構成的プロモーター、組織特異的プロモーター、誘導性プロモーター、および/または導入されたDNAセグメントの高レベル発現を指示する、適切な条件下において有用なプロモーター(例えば、組換えタンパク質および/または組換えペプチドの大規模生成において有益なプロモーター)であり得る。そのプロモーターは、異種であっても、内在性であってもよい。
【0072】
さらに、任意のプロモーター/エンハンサーの組み合わせ(例えば、epd.isb-sib.ch/のワールドワイドウェブを介したEukaryotic Promoter Data Base EPDBに従って)も、発現を駆動するために使用され得る。T3、T7またはSP6細胞質発現系の使用が、別の実行可能な実施形態である。適切な細菌ポリメラーゼが、送達複合体の一部としてまたはさらなる遺伝的発現構築物として提供される場合、真核細胞は、ある特定の細菌プロモーターからの細胞質での転写を支持し得る。
【0073】
プロモーターの非限定的な例としては、初期ウイルスプロモーターまたは後期ウイルスプロモーター(例えば、SV40初期または後期プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)最初期プロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RSV)初期プロモーター);真核細胞プロモーター(例えば、ベータアクチンプロモーター、GADPHプロモーター、メタロチオネインプロモーター);および連鎖状応答エレメントプロモーター(例えば、サイクリックAMP応答エレメントプロモーター(cre)、血清応答エレメントプロモーター(sre)、ホルボールエステルプロモーター(TPA)およびミニマルTATAボックス近傍の応答エレメントプロモーター(tre))が挙げられる。ヒト成長ホルモンプロモーター配列(例えば、Genbank(登録商標)に記載されているヒト成長ホルモンミニマルプロモーター、アクセッション番号X05244、ヌクレオチド283-341)またはマウス乳腺腫瘍プロモーター(ATCCから入手可能,Cat.No.ATCC45007)を使用することも可能である。ある特定の実施形態において、プロモーターは、CMV IE、デクチン-1、デクチン-2、ヒトCD11c、F4/80、SM22、RSV、SV40、Ad MLP、ベータ-アクチン、MHCクラスIまたはMHCクラスIIプロモーターであるが、しかしながら、治療用の遺伝子の発現を駆動するために有用な他の任意のプロモーターも本開示の実施に適用できる。
【0074】
ある特定の態様において、本開示の方法は、エンハンサー配列、すなわち、プロモーターの活性を増加させる核酸配列であって、シスで、かつその向きを問わず、比較的長い距離(標的プロモーターから最大数キロベース離れた距離)にわたって作用する能力を有する核酸配列にも関する。しかしながら、エンハンサーは、所与のプロモーターに対して近位でも機能し得るので、エンハンサーの機能は必ずしもそのような長い距離に限定されない。
b.開始シグナルおよび連結発現
【0075】
コード配列の効率的な翻訳のために、本開示に提供される発現構築物において特異的な開始シグナルも使用され得る。これらのシグナルは、ATG開始コドンまたは隣接配列を含む。外来性の翻訳制御シグナル(ATG開始コドンを含む)が提供される必要がある場合がある。当業者であれば、これを判断することおよび必要なシグナルを提供することが容易にできるだろう。インサート全体の翻訳を確保するためには、開始コドンが、所望のコード配列の読み枠と「インフレーム」でなければならないことは周知である。その外来性の翻訳制御シグナルおよび開始コドンは、天然のものまたは合成のものであり得る。適切な転写エンハンサーエレメントを含めることによって、発現効率が高められ得る。
【0076】
ある特定の実施形態において、配列内リボソーム進入部位(IRES)エレメントの使用は、多重遺伝子のメッセージ、すなわちポリシストロニックなメッセージを生成するために使用される。IRESエレメントは、5’メチル化キャップ依存的翻訳のリボソームスキャニングモデルを迂回し、内部の部位において翻訳を開始することができる。ピコルナウイルス科の2つのメンバー(ポリオおよび脳心筋炎)由来のIRESエレメント、ならびに哺乳動物のメッセージ由来のIRESが、報告されている。IRESエレメントは、異種のオープンリーディングフレームに連結できる。各々がIRESによって隔てられた複数のオープンリーディングフレームが、一緒に転写され得、ポリシストロニックなメッセージが生成され得る。IRESエレメントのおかげで、各オープンリーディングフレームが、効率的な翻訳のためにリボソームに接近できるようになる。単一のプロモーター/エンハンサーを用いて複数の遺伝子を効率的に発現して、単一のメッセージを転写することもできる。
【0077】
本明細書中の他の箇所で詳述されるように、本開示に提供される構築物内の遺伝子の連結発現または同時発現をもたらすために、ある特定の2A配列エレメントが使用され得る。例えば、オープンリーディングフレームを連結して単一のシストロンを形成することによって遺伝子を同時発現するために、切断配列が使用され得る。例示的な切断配列は、ウマ鼻炎Aウイルス(E2A)またはF2A(口蹄疫ウイルス2A)または「2A様」配列(例えば、Thosea asignaウイルス2A;T2A)またはブタテッショウウイルス-1(P2A)である。具体的な実施形態では、単一のベクターにおいて、複数の2A配列は、同一でないが、代替の実施形態では、同じベクターが、2つ以上の同じ2A配列を利用する。2A配列の例は、US2011/0065779(その全体が参照により本明細書中に援用される)に提供されている。
c.複製開始点
宿主細胞においてベクターを増殖させるために、そのベクターは、1つ以上の複製開始部位(「ori」と呼ばれることが多い)、例えば、複製が開始される特異的な核酸配列である、上に記載されたようなEBVのoriPまたはプログラミングにおける機能が似ているかもしくは高められた遺伝的に操作されたoriPに対応する核酸配列を含み得る。あるいは、上に記載されたような染色体外で複製する他のウイルスの複製起点、または自律複製配列(ARS)を使用することができる。
d.選択マーカーおよびスクリーニング可能なマーカー
【0078】
いくつかの実施形態において、本開示の構築物を含む細胞は、マーカーを発現ベクターに含めることによって、インビトロまたはインビボにおいて特定され得る。そのようなマーカーは、発現ベクターを含む細胞を容易に特定できるようにする特定可能な変化を細胞にもたらす。一般に、選択マーカーは、選択を可能にする特性を付与するマーカーである。ポジティブ選択マーカーは、そのマーカーが存在することによってその選択が可能になるマーカーであり、ネガティブ選択マーカーは、その存在が選択を妨げるマーカーである。ポジティブ選択マーカーの例は、薬物耐性マーカーである。
【0079】
通常、薬物選択マーカーを含めることにより、形質転換体のクローニングおよび特定が助けられ、例えば、ネオマイシン、ピューロマイシン、ハイグロマイシン、DHFR、GPT、ゼオシンおよびヒスチジノールに対して耐性にする遺伝子が、有用な選択マーカーである。条件の実行に基づいて形質転換体の判別を可能にする表現型を付与するマーカーに加えて、比色解析を基礎とする、GFPなどのスクリーニング可能なマーカーをはじめとした他のタイプのマーカーも企図される。あるいは、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(tk)またはクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)などの、ネガティブ選択マーカーとしてスクリーニング可能な酵素が利用され得る。当業者であれば、免疫学的マーカーをおそらくはFACS解析と併せて使用する方法も承知しているだろう。使用されるマーカーは、遺伝子産物をコードする核酸と同時に発現されることが可能である限り、重要ではないと考えられている。選択マーカーおよびスクリーニング可能なマーカーのさらなる例は、当業者に周知である。
B.遺伝的に操作された抗原レセプター
【0080】
上記ベクターは、1つ以上の抗原レセプター(例えば、操作されたTCR、CAR、デコイレセプター、サイトカインレセプター、キメラサイトカインレセプターなど)をコードし得る。複数のCARおよび/またはTCR(例えば、異なる抗原に対するもの)が、本ベクターシステム内で使用され得る。単一のベクターが、2つの別個のCAR分子をコードし得るか、または単一のベクターが、1つ以上のCAR分子をコードし得、それらのCAR分子の少なくとも1つは、同一でない2つの抗原に対して特異性を有する(例えば、二重特異性CAR、二重特異性TCRまたは二重特異性CAR/TCR)。本開示のベクターによってコードされる抗原レセプター、それらのベクター自体、およびそのベクターを有する細胞は、人間の手によって作製され、自然界に存在しない。
【0081】
いくつかの実施形態において、上記CARは、抗原に特異的に結合する細胞外の抗原認識ドメインを含む。上記CARは、特定の組織または細胞型の抗原を標的化するように特異的にデザインされ得る。いくつかの実施形態において、その抗原は、細胞表面上に発現されるタンパク質である。いくつかの実施形態において、上記CARは、TCR様CARであり、抗原は、TCRと同様に主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子の状況において細胞表面上で認識される、プロセシングを受けたペプチド抗原(例えば、細胞内タンパク質のペプチド抗原)である。
【0082】
CARおよび組換えTCRをはじめとした例示的な抗原レセプター、ならびにそれらのレセプターを操作するための方法およびそれらのレセプターを細胞に導入するための方法には、例えば、国際特許出願公開番号WO200014257、WO2013126726、WO2012/129514、WO2014031687、WO2013/166321、WO2013/071154、WO2013/123061、米国特許出願公開番号US2002131960、US2013287748、US20130149337、米国特許第6,451,995号、同第7,446,190号、同第8,252,592号、同第8,339,645号、同第8,398,282号、同第7,446,179号、同第6,410,319号、同第7,070,995号、同第7,265,209号、同第7,354,762号、同第7,446,191号、同第8,324,353号および同第8,479,118号、ならびに欧州特許出願番号EP2537416に記載されているもの、および/またはSadelain et al.,2013;Davila et al.,2013;Turtle et al.,2012;Wu et al.,2012によって記載されたものが含まれる。いくつかの態様において、遺伝的に操作された抗原レセプターには、米国特許第7,446,190号に記載されているようなCAR、および国際特許出願公開番号WO/2014055668Alに記載されているものが含まれる。
1.キメラ抗原レセプター
【0083】
いくつかの実施形態において、上記CARは、上記ベクターによってコードされ、a)細胞内のシグナル伝達ドメイン、b)膜貫通ドメイン、およびc)少なくとも1つの抗原結合領域を含む細胞外のドメインを少なくとも含む。
【0084】
いくつかの実施形態において、操作された抗原レセプターには、活性化型または刺激型のCAR、共刺激型のCAR(WO2014/055668を参照のこと)および/または阻害型のCAR(iCAR、Fedorov et al.,2013を参照のこと)をはじめとしたCARが含まれる。それらのCARは、一般に、1つ以上の細胞内のシグナル伝達構成要素に、いくつかの態様ではリンカーおよび/または膜貫通ドメインを介して連結された、細胞外の抗原(またはリガンド)結合ドメインを含む。そのような分子は、通常、天然の抗原レセプターを介するシグナル、共刺激レセプターとともにそのようなレセプターを介するシグナル、および/または共刺激レセプターのみを介するシグナルを模倣するかまたはまねる。上記CARは、第1世代、第2世代もしくは第3世代またはそれ以降の世代であり得る。
【0085】
本開示のある特定の実施形態は、細胞内のシグナル伝達ドメイン、膜貫通ドメイン、および1つ以上のシグナル伝達モチーフを有する細胞外のドメインを含む、抗原特異的CARポリペプチド(免疫原性を低減するためにヒト化されたCAR(hCAR)を含む)をコードする核酸を含む核酸の使用に関する。ある特定の実施形態において、そのCARは、1つ以上の抗原の間で共有される空間を含むエピトープを認識し得る。ある特定の実施形態において、結合領域は、モノクローナル抗体の相補性決定領域、モノクローナル抗体の可変領域、および/またはそれらの抗原結合フラグメントを含み得る。別の実施形態において、その特異性は、レセプターに結合するペプチド(例えば、サイトカイン)に由来する。
【0086】
ヒトCAR核酸は、ヒト患者に対する細胞免疫療法を増強するために使用されるヒト遺伝子に由来し得ると企図される。具体的な実施形態において、本開示は、上記ベクターによってコードされる、CARの完全長cDNAまたはコード領域を含む。その抗原結合領域またはドメインは、特定のヒトモノクローナル抗体に由来する一本鎖可変フラグメント(scFv)のVH鎖およびVL鎖のフラグメント(例えば、参照により本明細書中に援用される米国特許第7,109,304号に記載されているもの)を含み得る。そのフラグメントは、ヒト抗原特異的抗体の任意の数の異なる抗原結合ドメインでもあり得る。より具体的な実施形態において、そのフラグメントは、ヒト細胞における発現のためにヒトコドン使用頻度に最適化された配列によってコードされる抗原特異的scFvである。
【0087】
配置は、多量体であり得る(例えば、ダイアボディまたは多量体)。その多量体は、軽鎖および重鎖の可変部分がダイアボディに交差対形成することによって形成される可能性が最も高い。その構築物のヒンジ部分には、完全欠失から、1つ目のシステインが維持されること、セリン置換ではなくプロリン置換であること、1つ目のシステインまで切断されることにまで及ぶ複数の選択肢があり得る。Fc部分は、欠失していてもよいし、欠失していなくてもよい。安定したかつ/または二量体化する任意のタンパク質が、この目的にかない得る。Fcドメインのうちの1つだけ、例えば、ヒト免疫グロブリンのCH2ドメインまたはCH3ドメインを使用することができる。二量体化を改善するように改変されたヒト免疫グロブリンのヒンジ、CH2およびCH3領域を使用することもできる。免疫グロブリンのヒンジ部分だけを使用することもできる。CD8アルファの部分を使用することもできる。
【0088】
いくつかの実施形態において、上記CAR核酸は、膜貫通ドメインおよび1つ以上の細胞内シグナル伝達ドメイン(例えば、CD28細胞内シグナル伝達ドメイン)などの、他の共刺激レセプターをコードする配列を含む。他の共刺激レセプターとしては、CD28、CD27、OX-40(CD134)、DAP10、DAP12および4-1BB(CD137)のうちの1つ以上が挙げられるが、これらに限定されない。CD3ζによって惹起される1次シグナルに加えて、ヒトCARに挿入されたヒト共刺激レセプターによって提供されるさらなるシグナルが、NK細胞の完全な活性化に利用され得、インビボでの持続性および養子免疫療法の治療の成功の改善を助け得る。
【0089】
いくつかの実施形態において、CARは、養子療法によって標的化される特定の細胞型において発現される抗原などの特定の抗原(またはマーカーまたはリガンド)、例えば、癌マーカーおよび/または減衰応答を誘導することを目的とした抗原(例えば、正常細胞型上または非罹患細胞型上に発現される抗原)に対する特異性を有するように構築される。したがって、上記CARは通常、その細胞外の部分に、1つ以上の抗原結合分子(例えば、1つ以上の抗原結合フラグメント、抗原結合ドメインもしくは抗原結合部分)または1つ以上の抗体可変ドメイン、および/または抗体分子を含む。いくつかの実施形態において、上記CARは、抗体分子の抗原結合部分(例えば、モノクローナル抗体(mAb)の可変重鎖(VH)および可変軽鎖(VL)に由来する一本鎖抗体フラグメント(scFv))を含む。
【0090】
キメラ抗原レセプターのある特定の実施形態において、そのレセプターの抗原特異的部分(抗原結合領域を含む細胞外ドメインと称され得る)は、腫瘍関連抗原結合ドメインまたは病原体特異的抗原結合ドメインを含む。抗原には、デクチン-1などのパターン認識レセプターによって認識される糖鎖抗原が含まれる。腫瘍関連抗原は、腫瘍細胞の細胞表面上に発現される限り、任意の種類であってよい。腫瘍関連抗原の例示的な実施形態としては、CD19、CD20、癌胎児抗原、アルファフェトプロテイン、CA-125、MUC-1、CD56、EGFR、c-Met、AKT、Her2、Her3、上皮性腫瘍抗原、黒色腫関連抗原、変異型p53、変異型rasなどが挙げられる。ある特定の実施形態において、CARは、腫瘍関連抗原の量が少ないとき、持続性を改善するためにサイトカインと同時発現され得る。例えば、CARは、IL-2、IL-21、IL-12、IL-18またはIL-15と同時発現され得る。
【0091】
キメラレセプターをコードするオープンリーディングフレームの配列は、ゲノムDNA起源、cDNA起源から得ることができるか、または合成することができるか(例えば、PCRを介して)、またはそれらの組み合わせである。イントロンはmRNAを安定化すると見出されているので、ゲノムDNAのサイズおよびイントロンの数に応じて、cDNAまたはそれらの組み合わせを使用することが望ましい場合がある。また、mRNAを安定化するために内在性または外来性の非コード領域を使用することもさらに有益であり得る。
【0092】
上記キメラ構築物は、裸のDNAとしてまたは好適なベクターに入った状態で免疫細胞に導入され得ることが企図される。裸のDNAを用いたエレクトロポレーションによって細胞を安定的にトランスフェクトする方法は、当該分野で公知である。例えば、米国特許第6,410,319号を参照のこと。裸のDNAとは、一般に、発現にとって適切な向きで発現ベクターに含められたキメラレセプターをコードするDNAのことを指す。本開示のモジュール式ポリシストロニックベクターは、ウイルスベクターであってもよいし、ウイルスベクターでなくてもよい(例えば、プラスミド)。例証的な実施形態の場合、本明細書中で詳述されるベクターは、レトロウイルスベクターであるが、他の場合、ベクターは、ウイルスベクターでもあるが、その代わりに例えば、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクターまたはレンチウイルスベクターである。
【0093】
キメラ構築物を免疫細胞に導入するために、任意のベクターを用いることができる。本開示の方法に従って使用するのに適したベクターは、免疫細胞において非複製性のベクターである。ウイルスに基づくベクターが多数知られており(例えば、HIV、SV40、EBV、HSVまたはBPVに基づくベクター)、細胞内に維持されるそのウイルスのコピー数は、その細胞の生存能を維持するほど十分低い。具体的な場合において、ベクターは、モロニーマウス白血病ウイルスに基づく。
【0094】
いくつかの態様において、抗原に特異的に結合する構成要素または抗原特異的認識構成要素は、1つ以上の膜貫通ドメインおよび細胞内のシグナル伝達ドメインに連結される。いくつかの実施形態において、上記CARは、CARの細胞外ドメインに融合された膜貫通ドメインを含む。1つの実施形態において、そのCARにおけるドメインの1つと天然に会合する膜貫通ドメインが使用される。いくつかの場合において、その膜貫通ドメインは、レセプター複合体の他のメンバーとの相互作用を最小限に抑えるためにそのようなドメインが同じまたは異なる表面膜タンパク質の膜貫通ドメインに結合するのを回避するように、選択されるかまたはアミノ酸置換によって改変される。
【0095】
膜貫通ドメインは、いくつかの実施形態において、天然起源または合成起源に由来する。起源が天然である場合、そのドメインは、いくつかの態様において、任意の膜結合型タンパク質または膜貫通タンパク質に由来する。膜貫通領域は、T細胞レセプターのアルファ鎖、ベータ鎖またはゼータ鎖、CD28、CD3ゼータ、CD3イプシロン、CD3ガンマ、CD3デルタ、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、CD154、ICOS/CD278、GITR/CD357、NKG2DおよびDAP分子に由来する(すなわち、その膜貫通領域を少なくとも含む)膜貫通領域を含む。あるいは、膜貫通ドメインは、いくつかの実施形態において、合成の膜貫通ドメインである。いくつかの態様において、合成の膜貫通ドメインは、ロイシンおよびバリンなどの疎水性残基を主に含む。いくつかの態様では、フェニルアラニン、トリプトファンおよびバリンのトリプレットが、合成の膜貫通ドメインの各末端に見られることがある。
【0096】
ある特定の実施形態において、免疫細胞(例えば、T、NK、iNKT、BまたはMSC細胞)を遺伝的に改変するための本明細書中に開示されるプラットフォーム技術としては、(i)エレクトロポレーションデバイス(例えば、ヌクレオフェクター)を用いた非ウイルス遺伝子導入、(ii)エンドドメイン(例えば、CD28/CD3-ζ、CD137/CD3-ζまたは他の組み合わせ)を介してシグナル伝達するCAR、(iii)長さが不定の細胞外ドメインであって抗原認識ドメインを細胞表面に接続する細胞外ドメインを有するCAR、およびいくつかの場合では、(iv)CAR+免疫細胞を頑強かつ数値的に拡大することができる、K562に由来する人工抗原提示細胞(aAPC)(Singh et al.,2008;Singh et al.,2011)が挙げられる。
2.T細胞レセプター(TCR)
【0097】
いくつかの実施形態において、遺伝的に操作された抗原レセプターには、組換えTCR、および/または天然に存在するT細胞からクローニングされたTCRが含まれる。「T細胞レセプター」または「TCR」とは、可変a鎖および可変β鎖(それぞれTCRαおよびTCRβとしても知られる)または可変γ鎖および可変δ鎖(それぞれTCRγおよびTCRδとしても知られる)を含む分子であって、MHCレセプターに結合した抗原ペプチドに特異的に結合することができる分子のことを指す。いくつかの実施形態において、TCRは、αβ型である。
【0098】
通常、αβ型およびγδ型として存在するTCRは、一般に構造が似ているが、それらを発現しているT細胞は、解剖学的位置または機能が異なり得る。TCRは、細胞表面上にまたは可溶型として見られ得る。一般に、TCRは、T細胞(またはTリンパ球)の表面上に見られ、通常、その表面上で、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子に結合した抗原の認識に関与する。いくつかの実施形態において、TCRは、定常ドメイン、膜貫通ドメイン、および/または短い細胞質テイルも含み得る(例えば、Janeway et al,1997を参照のこと)。例えば、いくつかの態様において、TCRの各鎖は、1つのN末端免疫グロブリン可変ドメイン、1つの免疫グロブリン定常ドメイン、膜貫通領域、およびC末端に短い細胞質テイルを有し得る。いくつかの実施形態において、TCRは、シグナル伝達の媒介に関わるCD3複合体のインバリアントタンパク質と会合される。別段述べられない限り、用語「TCR」は、その機能的TCRフラグメントを包含すると理解されるべきである。この用語は、αβ型またはγδ型のTCRをはじめとしたインタクトなまたは完全長のTCRも包含する。
【0099】
したがって、本明細書中の目的では、TCRへの言及には、任意のTCRまたは機能的フラグメント(例えば、MHC分子において結合した特異的な抗原ペプチド、すなわち、MHC-ペプチド複合体に結合するTCRの抗原結合部分)が含まれる。交換可能に使用され得る、TCRの「抗原結合部分」または抗原結合フラグメントとは、TCRの構造ドメインの一部しか含まないが、完全なTCRが結合する抗原(例えば、MHC-ペプチド複合体)に結合する分子のことを指す。いくつかの場合において、抗原結合部分は、特異的なMHC-ペプチド複合体に結合するための結合部位を形成するのに十分なTCRの可変ドメイン(例えば、TCRの可変a鎖および可変β鎖)を含み、例えば一般に、各鎖が3つの相補性決定領域を含む。
【0100】
いくつかの実施形態において、TCR鎖の可変ドメインは、会合してループ、または免疫グロブリンに類似の相補性決定領域(CDR)を形成し、それにより、抗原認識がもたらされ、TCR分子の結合部位を形成することによってペプチド特異性が決定され、ペプチド特異性が決定される。通常、免疫グロブリンと同様に、CDRは、フレームワーク領域(FR)によって隔てられる(例えば、Jores et al.,1990;Chothia et al.,1988;Lefranc et al.,2003を参照のこと)。いくつかの実施形態において、CDR3は、プロセシングされた抗原の認識に関与する主要なCDRであるが、アルファ鎖のCDR1は、抗原ペプチドのN末端部と相互作用するとも示されているのに対して、ベータ鎖のCDR1は、そのペプチドのC末端部と相互作用する。CDR2は、MHC分子を認識すると考えられている。いくつかの実施形態において、β鎖の可変領域は、さらなる超可変性(HV4)領域を含み得る。
【0101】
いくつかの実施形態において、TCR鎖は、定常ドメインを含む。例えば、免疫グロブリンと同様に、TCR鎖の細胞外の部分(例えば、a鎖、β鎖)は、2つの免疫グロブリンドメインである、N末端における可変ドメイン(例えば、VaまたはVp;通常、KabatナンバリングであるKabat et al.,“Sequences of Proteins of Immunological Interest,US Dept.Health and Human Services,Public Health Service National Institutes of Health,1991,5th ed.に基づくアミノ酸1~116)、および細胞膜に隣接した1つの定常ドメイン(例えば、a鎖定常ドメインまたはCa、通常、Kabatに基づくアミノ酸117~259、β鎖定常ドメインまたはCp、通常、Kabatに基づくアミノ酸117~295)を含み得る。例えば、いくつかの場合、それらの2本の鎖によって形成されるTCRの細胞外の部分は、2つの膜近位定常ドメイン、およびCDRを含む2つの膜遠位可変ドメインを含む。TCRドメインの定常ドメインは、システイン残基がジスルフィド結合を形成する短い接続配列を含み、それにより、それらの2本の鎖の間に連結が形成される。いくつかの実施形態では、TCRが、定常ドメインに2つのジスルフィド結合を含むように、そのTCRは、α鎖およびβ鎖の各々に追加のシステイン残基を有してもよい。
【0102】
いくつかの実施形態において、TCR鎖は、膜貫通ドメインを含み得る。いくつかの実施形態において、膜貫通ドメインは、正に帯電している。いくつかの場合において、TCR鎖は、細胞質テイルを含む。いくつかの場合において、その構造のおかげで、TCRはCD3のような他の分子と会合することができる。例えば、膜貫通領域とともに定常ドメインを含むTCRは、そのタンパク質を細胞膜に固定し得、CD3シグナル伝達装置または複合体のインバリアントサブユニットと会合し得る。
【0103】
一般に、CD3は、哺乳動物においては3つの異なる鎖(γ、δおよびε)およびζ鎖を有し得る多タンパク質複合体である。例えば、哺乳動物では、この複合体は、CD3γ鎖、CD3δ鎖、2つのCD3ε鎖、およびホモ二量体のCD3ζ鎖を含み得る。CD3γ鎖、CD3δ鎖およびCD3ε鎖は、単一の免疫グロブリンドメインを含む免疫グロブリンスーパーファミリーの高度に関連した細胞表面タンパク質である。CD3γ鎖、CD3δ鎖およびCD3ε鎖の膜貫通領域は、負に帯電しており、これは、これらの鎖が、正に帯電したT細胞レセプター鎖と会合できるようにする特性である。CD3γ鎖、CD3δ鎖およびCD3ε鎖の各細胞内テイルは、免疫受容活性化チロシンモチーフまたはITAMとして知られる保存された単一のモチーフを含むのに対して、各CD3ζ鎖は、3つ含む。一般に、ITAMは、TCR複合体のシグナル伝達能に関わる。これらのアクセサリー分子は、負に帯電した膜貫通領域を有し、TCRから細胞へのシグナルの伝播において役割を果たす。CD3鎖およびζ鎖は、TCRと一体となって、T細胞レセプター複合体として知られる複合体を形成する。
【0104】
いくつかの実施形態において、TCRは、2本の鎖αおよびβ(または必要に応じてγおよびδ)のヘテロ二量体であり得るか、または一本鎖TCR構築物であり得る。いくつかの実施形態において、TCRは、ジスルフィド結合などによって連結された2本の別個の鎖(α鎖とβ鎖またはγ鎖とδ鎖)を含むヘテロ二量体である。いくつかの実施形態において、標的抗原(例えば、癌抗原)に対するTCRが特定され、細胞に導入される。いくつかの実施形態において、TCRをコードする核酸は、公的に入手可能なTCR DNA配列のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅などによって、種々の起源から得ることができる。いくつかの実施形態において、TCRは、生物学的起源、例えば、細胞、例えば、T細胞(例えば、細胞傷害性T細胞)、T細胞ハイブリドーマまたは他の公的に入手可能な起源から得られる。いくつかの実施形態において、T細胞は、インビボで単離された細胞から得ることができる。いくつかの実施形態において、高親和性T細胞クローンが、患者から単離され得、TCRが単離され得る。いくつかの実施形態において、T細胞は、培養されたT細胞ハイブリドーマまたはクローンであり得る。いくつかの実施形態において、標的抗原に対するTCRクローンは、ヒト免疫系遺伝子(例えば、ヒト白血球抗原系またはHLA)で操作されたトランスジェニックマウスにおいて産生された。例えば、腫瘍抗原(例えば、Parkhurst et al.,2009およびCohen et al.,2005)を参照のこと。いくつかの実施形態では、ファージディスプレイを用いて、標的抗原に対するTCRが単離される(例えば、Varela-Rohena et al.,2008およびLi et al.,2005を参照のこと)。いくつかの実施形態において、TCRまたはその抗原結合部分は、TCRの配列の知識によって合成的に作製され得る。
C.サイトカインの同時発現
【0105】
1つ以上のサイトカインが、抗原レセプターとは別個のポリペプチドとしてベクターから同時発現され得る。例えば、インターロイキン-15(IL-15)は、組織限定的であり、病的条件下でのみ、任意のレベルで血清中または全身で観察される。IL-15は、養子療法にとって望ましいいくつかの特質を有する。IL-15は、ナチュラルキラー細胞の発生および細胞増殖を誘導し、腫瘍常在性細胞の機能抑制の緩和を介して、確立された腫瘍の全滅を促進し、AICDを阻害する、恒常性サイトカインである。
【0106】
いくつかの実施形態において、本開示は、CARおよび/またはTCRベクターとIL-15との同時利用に関する。IL-15に加えて、他のサイトカインも想定される。これらとしては、サイトカイン、ケモカイン、ならびにヒトへの適用のために使用される細胞の活性化および増殖に寄与する他の分子が挙げられるが、これらに限定されない。IL-15を発現するNK細胞またはT細胞は、継続した支持的なサイトカインシグナル伝達が可能であり、これは、注入後のそれらの生存に絶対不可欠である。
【0107】
遺伝的改変の後、上記細胞は、直ちに注入され得るか、または保存され得る。ある特定の態様において、遺伝的改変の後、細胞への遺伝子導入後の約1、2、3、4、5日以内またはそれ以降に、それらの細胞は、数日間、数週間または数ヶ月間、エキソビボでバルク集団として増殖され得る。さらなる態様において、トランスフェクタントは、クローン化され、単一のインテグレートされたまたはエピソームに保持された発現カセットまたはプラスミドの存在、およびキメラレセプターの発現を示すクローンが、エキソビボで拡大される。拡大のために選択されるクローンは、CD19を発現している標的細胞を特異的に認識し、溶解する能力を示す。組換え免疫細胞は、IL-2、または共通ガンマ鎖に結合する他のサイトカイン(例えば、IL-7、IL-12、IL-15、IL-21など)を用いた刺激によって拡大され得る。組換え免疫細胞は、人工抗原提示細胞を用いた刺激によって拡大され得る。さらなる態様において、遺伝的に改変された細胞は、凍結保存され得る。
D.抗原
【0108】
遺伝的に操作された抗原レセプターによって標的化される抗原には、養子細胞療法を介して標的化される疾患、状態または細胞型の状況において発現される抗原が含まれる。それらの疾患および状態には、血液癌、免疫系の癌(例えば、リンパ腫、白血病および/またはミエローマ、例えば、B、Tおよび骨髄性白血病、リンパ腫ならびに多発性骨髄腫)をはじめとした癌および腫瘍を含む、増殖性、腫瘍性および悪性の疾患および障害、ならびに自己免疫性または同種免疫性の状態が含まれる。いくつかの実施形態において、抗原は、正常細胞もしくは正常組織または非標的化細胞もしくは非標的化組織と比べて、その疾患または状態の細胞上、例えば、腫瘍細胞上または病原性細胞上に、選択的に発現されるかまたは過剰発現される。他の実施形態において、抗原は、正常細胞上に発現され、かつ/または操作された細胞上に発現される。いくつかの場合において、抗原は、免疫関連障害に関連する。
【0109】
任意の好適な抗原が、本方法において使用され得る。例示的な抗原としては、感染性物質、自己(auto)抗原/自己(self)抗原、腫瘍関連抗原/癌関連抗原、および腫瘍新抗原に由来する抗原性分子(Linnemann et al.,2015)が挙げられるが、これらに限定されない。特定の態様において、それらの抗原には、NY-ESO、EGFRvIII、Muc-1、Her2、CA-125、WT-1、Mage-A3、Mage-A4、Mage-A10、TRAIL/DR4およびCEAが含まれる。特定の態様において、2つ以上の抗原レセプターに対する抗原としては、CD19、EBNA、WT1、CD123、NY-ESO、EGFRvIII、MUC1、HER2、CA-125、WT1、Mage-A3、Mage-A4、Mage-A10、TRAIL/DR4および/またはCEAが挙げられるが、これらに限定されない。これらの抗原に対する配列、例えば、CD19(アクセッション番号NG_007275.1)、EBNA(アクセッション番号NG_002392.2)、WT1(アクセッション番号NG_009272.1)、CD123(アクセッション番号NC_000023.11)、NY-ESO(アクセッション番号NC_000023.11)、EGFRvIII(アクセッション番号NG_007726.3)、MUC1(アクセッション番号NG_029383.1)、HER2(アクセッション番号NG_007503.1)、CA-125(アクセッション番号NG_055257.1)、WT1(アクセッション番号NG_009272.1)、Mage-A3(アクセッション番号NG_013244.1)、Mage-A4(アクセッション番号NG_013245.1)、Mage-A10(アクセッション番号NC_000023.11)、TRAIL/DR4(アクセッション番号NC_000003.12)、および/またはCEA(アクセッション番号NC_000019.10)は、当該分野で公知である。
【0110】
腫瘍関連抗原は、前立腺癌、乳癌、直腸結腸癌、肺癌、膵臓癌、腎癌、中皮腫、卵巣癌または黒色腫に由来し得る。例示的な腫瘍関連抗原または腫瘍細胞由来抗原としては、MAGE1、3およびMAGE4(または他のMAGE抗原、例えば、国際特許公開番号WO99/40188に開示されているもの);PRAME;BAGE;RAGE、Lage(NY ESO1としても知られる);SAGE;およびHAGEまたはGAGEが挙げられる。腫瘍抗原のこれらの非限定的な例は、黒色腫、肺癌、肉腫および膀胱癌などの広範囲の腫瘍タイプにおいて発現される。例えば、米国特許第6,544,518号を参照のこと。前立腺癌の腫瘍関連抗原としては、例えば、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、前立腺特異的抗原(PSA)、前立腺酸性リン酸塩、NKX3.1および前立腺の6回膜貫通上皮抗原(STEAP)が挙げられる。
【0111】
他の腫瘍関連抗原としては、Plu-1、HASH-1、HasH-2、CriptoおよびCriptinが挙げられる。さらに、腫瘍抗原は、多くの癌の処置において有用な自己ペプチドホルモン、例えば、完全長の性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)、短い10アミノ酸長のペプチドであり得る。
【0112】
腫瘍抗原には、HER-2/neuの発現などの腫瘍関連抗原の発現を特徴とする癌に由来する腫瘍抗原が含まれる。目的の腫瘍関連抗原には、系列特異的腫瘍抗原、例えば、メラノサイト-黒色腫系列抗原MART-1/Melan-A、gp100、gp75、mda-7、チロシナーゼおよびチロシナーゼ関連タンパク質が含まれる。例証的な腫瘍関連抗原としては、p53、Ras、c-Myc、細胞質セリン/トレオニンキナーゼ(例えば、A-Raf、B-RafおよびC-Raf、サイクリン依存性キナーゼ)、MAGE-A1、MAGE-A2、MAGE-A3、MAGE-A4、MAGE-A6、MAGE-A10、MAGE-A12、MART-1、BAGE、DAM-6、-10、GAGE-1、-2、-8、GAGE-3、-4、-5、-6、-7B、NA88-A、MART-1、MC1R、Gp100、PSA、PSM、チロシナーゼ、TRP-1、TRP-2、ART-4、CAMEL、CEA、Cyp-B、hTERT、hTRT、iCE、MUC1、MUC2、ホスホイノシチド3-キナーゼ(PI3K)、TRKレセプター、PRAME、P15、RU1、RU2、SART-1、SART-3、ウィルムス腫瘍抗原(WT1)、AFP、-カテニン/m、カスパーゼ-8/m、CEA、CDK-4/m、ELF2M、GnT-V、G250、HSP70-2M、HST-2、KIAA0205、MUM-1、MUM-2、MUM-3、ミオシン/m、RAGE、SART-2、TRP-2/INT2、707-AP、アネキシンII、CDC27/m、TPI/mbcr-abl、BCR-ABL、インターフェロン制御因子4(IRF4)、ETV6/AML、LDLR/FUT、Pml/RAR、腫瘍関連カルシウムシグナル伝達物質1(TACSTD1)TACSTD2、レセプターチロシンキナーゼ(例えば、上皮成長因子レセプター(EGFR)(特に、EGFRvIII)、血小板由来成長因子レセプター(PDGFR)、血管内皮成長因子レセプター(VEGFR))、細胞質チロシンキナーゼ(例えば、srcファミリー、syk-ZAP70ファミリー)、インテグリン結合キナーゼ(ILK)、シグナル伝達性転写因子STAT3、STATSおよびSTATE、低酸素誘導因子(例えば、HIF-1およびHIF-2)、核因子-カッパーB(NF-B)、Notchレセプター(例えば、Notch1-4)、c-Met、ラパマイシンの哺乳動物標的(mTOR)、WNT、細胞外シグナル制御キナーゼ(ERK)およびそれらの調節サブユニット、PMSA、PR-3、MDM2、メソテリン、腎細胞癌-5T4、SM22-アルファ、炭酸脱水酵素I(CAI)およびIX(CAIX)(G250としても知られる)、STEAD、TEL/AML1、GD2、プロテイナーゼ3、hTERT、肉腫転座切断点(sarcoma translocation breakpoints)、EphA2、ML-IAP、EpCAM、ERG(TMPRSS2 ETS融合遺伝子)、NA17、PAX3、ALK、アンドロゲンレセプター、サイクリンB1、ポリシアル酸、MYCN、RhoC、GD3、フコシルGM1、メソテリアン(mesothelian)、PSCA、sLe、PLAC1、GM3、BORIS、Tn、GLoboH、NY-BR-1、RGsS、SART3、STn、PAX5、OY-TES1、精子タンパク質17、LCK、HMWMAA、AKAP-4、SSX2、XAGE 1、B7H3、レグマイン(legumain)、TIE2、Page4、MAD-CT-1、FAP、MAD-CT-2、fos関連抗原1、CBX2、CLDN6、SPANX、TPTE、ACTL8、ANKRD30A、CDKN2A、MAD2L1、CTAG1B、SUNC1、LRRN1ならびにイディオタイプのうちのいずれか1つ以上に由来するかまたはいずれか1つ以上を含む腫瘍抗原が挙げられるが、これらに限定されない。
【0113】
抗原は、腫瘍細胞において変異した遺伝子由来の、または正常細胞と比べて腫瘍細胞において異なるレベルで転写される遺伝子由来の、エピトープ領域またはエピトープペプチド(例えば、テロメラーゼ酵素、サバイビン、メソテリン、変異型ras、bcr/abl再配列、Her2/neu、変異型または野生型p53、シトクロムP450 1B1、およびN-アセチルグルコサミン転移酵素-Vなどの異常に発現されるイントロン配列);ミエローマおよびB細胞リンパ腫においてユニークなイディオタイプを生成する免疫グロブリン遺伝子のクローン性再配列;オンコウイルスのプロセスに由来するエピトープ領域またはエピトープペプチドを含む腫瘍抗原(例えば、ヒトパピローマウイルスタンパク質E6およびE7);エプスタイン・バーウイルスタンパク質LMP2;腫瘍選択的に発現する変異していない腫瘍胎児性タンパク質(例えば、癌胎児抗原およびアルファ-フェトプロテイン)を含み得る。
【0114】
他の実施形態において、抗原は、病原性微生物または日和見病原性微生物(本明細書中で感染症微生物とも呼ばれる)(例えば、ウイルス、真菌、寄生生物および細菌)から得られるかまたはそれらに由来する。ある特定の実施形態において、そのような微生物に由来する抗原には、完全長タンパク質が含まれる。
【0115】
本明細書中に記載される方法において使用が企図される抗原を有する例証的な病原性生物としては、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、単純ヘルペスウイルス(HSV)、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、サイトメガロウイルス(CMV)、エプスタイン・バーウイルス(EBV)、インフルエンザA、BおよびC、水疱性口内炎ウイルス(VSV)、水疱性口内炎ウイルス(VSV)、ポリオーマウイルス(例えば、BKウイルスおよびJCウイルス)、アデノウイルス、メチシリン耐性Staphylococcus aureus(MRSA)を含むブドウ球菌属の種、ならびにStreptococcus pneumoniaeを含む連鎖球菌属の種が挙げられる。当業者が理解するように、本明細書中に記載されるような抗原として使用するためのこれらおよび他の病原性微生物に由来するタンパク質、ならびにそれらのタンパク質をコードするヌクレオチド配列は、刊行物ならびにGENBANK(登録商標)、SWISS-PROT(登録商標)およびTREMBL(登録商標)などの公的データベースにおいて特定され得る。
【0116】
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)に由来する抗原には、HIVビリオン構造タンパク質のいずれか(例えば、gp120、gp41、p17、p24)、プロテアーゼ、逆転写酵素、またはtat、rev、nef、vif、vprおよびvpuによってコードされるHIVタンパク質のうちのいずれかが含まれる。
【0117】
単純ヘルペスウイルス(例えば、HSV1およびHSV2)に由来する抗原としては、HSV後期遺伝子から発現されるタンパク質が挙げられるが、これらに限定されない。後期群の遺伝子は、ビリオン粒子を形成するタンパク質を主にコードする。そのようなタンパク質としては、ウイルスキャプシドを形成する(UL)の5つのタンパク質:UL6、UL18、UL35、UL38ならびに主要キャプシドタンパク質UL19、UL45およびUL27(これらの各々が、本明細書中に記載されるような抗原として使用され得る)が挙げられる。本明細書中で抗原としての使用が企図される他の例証的なHSVタンパク質としては、ICP27(H1、H2)、糖タンパク質B(gB)および糖タンパク質D(gD)タンパク質が挙げられる。HSVゲノムは、少なくとも74個の遺伝子を含み、その各々が、抗原として使用され得る可能性があるタンパク質をコードする。
【0118】
サイトメガロウイルス(CMV)に由来する抗原としては、CMV構造タンパク質、ウイルス複製の前初期および初期に発現されるウイルス抗原、糖タンパク質IおよびIII、キャプシドタンパク質、コートタンパク質、低分子マトリックスタンパク質(lower matrix protein)pp65(ppUL83)、p52(ppUL44)、IE1および1E2(UL123およびUL122)、UL128~UL150の遺伝子クラスターのタンパク質産物(Rykman,et al.,2006)、エンベロープ糖タンパク質B(gB)、gH、gN、ならびにpp150が挙げられる。当業者が理解するように、本明細書中に記載される抗原として使用するためのCMVタンパク質は、GENBANK(登録商標)、SWISS-PROT(登録商標)およびTREMBL(登録商標)などの公的データベースにおいて特定され得る(例えば、Bennekov et al.,2004;Loewendorf et al.,2010;Marschall et al.,2009を参照のこと)。
【0119】
ある特定の実施形態において使用が企図されるエプスタイン・バンウイルス(EBV)に由来する抗原としては、EBV溶解性タンパク質gp350およびgp110、エプスタイン・バン核抗原(EBNA)-1、EBNA-2、EBNA-3A、EBNA-3B、EBNA-3C、EBNA-リーダータンパク質(EBNA-LP)、ならびに潜伏感染膜タンパク質(LMP)-1、LMP-2AおよびLMP-2Bを含む、潜伏感染サイクル中に生成されるEBVタンパク質が挙げられる(例えば、Lockey et al.,2008を参照のこと)。
【0120】
本明細書中で使用が企図される呼吸器合胞体ウイルス(RSV)に由来する抗原としては、RSVゲノムによってコードされる11個のタンパク質またはそれらの抗原性フラグメント:NS1、NS2、N(ヌクレオキャプシドタンパク質)、M(マトリックスタンパク質)SH、GおよびF(ウイルスコートタンパク質)、M2(第2のマトリックスタンパク質)、M2-1(伸長因子)、M2-2(転写制御)、RNAポリメラーゼ、ならびにリンタンパク質Pのうちのいずれかが挙げられる。
【0121】
使用が企図される水疱性口内炎ウイルス(VSV)に由来する抗原としては、VSVゲノムによってコードされる主要な5つのタンパク質およびその抗原性フラグメント:巨大タンパク質(L)、糖タンパク質(G)、核タンパク質(N)、リンタンパク質(P)およびマトリックスタンパク質(M)のうちのいずれか1つが挙げられる(例えば、Rieder et al.,1999を参照のこと)。
【0122】
ある特定の実施形態において使用が企図されるインフルエンザウイルスに由来する抗原としては、赤血球凝集素(HA)、ノイラミニダーゼ(NA)、核タンパク質(NP)、マトリックスタンパク質M1およびM2、NS1、NS2(NEP)、PA、PB1、PB1-F2、ならびにPB2が挙げられる。
【0123】
例示的なウイルス抗原としては、アデノウイルスのポリペプチド、アルファウイルスのポリペプチド、カリシウイルスのポリペプチド(例えば、カリシウイルスのキャプシド抗原)、コロナウイルスのポリペプチド、ジステンパーウイルスのポリペプチド、エボラウイルスのポリペプチド、エンテロウイルスのポリペプチド、フラビウイルスのポリペプチド、肝炎ウイルス(AE)のポリペプチド(B型肝炎コアまたは表面抗原、C型肝炎ウイルスのE1もしくはE2糖タンパク質、コアまたは非構造タンパク質)、ヘルペスウイルスのポリペプチド(単純ヘルペスウイルスまたは水痘帯状疱疹ウイルスの糖タンパク質を含む)、感染性腹膜炎ウイルスのポリペプチド、白血病ウイルスのポリペプチド、マールブルグウイルスのポリペプチド、オルトミクソウイルスのポリペプチド、パピローマウイルスのポリペプチド、パラインフルエンザウイルスのポリペプチド(例えば、赤血球凝集素ポリペプチドおよびノイラミニダーゼポリペプチド)、パラミクソウイルスのポリペプチド、パルボウイルスのポリペプチド、ペスチウイルスのポリペプチド、ピコルナウイルスのポリペプチド(例えば、ポリオウイルスのキャプシドポリペプチド)、ポックスウイルスのポリペプチド(例えば、ワクシニアウイルスのポリペプチド)、狂犬病ウイルスのポリペプチド(例えば、狂犬病ウイルスの糖タンパク質G)、レオウイルスのポリペプチド、レトロウイルスのポリペプチド、およびロタウイルスのポリペプチドも挙げられるが、これらに限定されない。
【0124】
ある特定の実施形態において、抗原は、細菌抗原であり得る。ある特定の実施形態において、目的の細菌抗原は、分泌型ポリペプチドであり得る。他のある特定の実施形態において、細菌抗原には、細菌の細胞外面上に露出したポリペプチドの一部を有する抗原が含まれる。
【0125】
使用が企図される、メチシリン耐性Staphylococcus aureus(MRSA)を含むブドウ球菌属の種に由来する抗原としては、ビルレンス制御因子、例えば、Agrシステム、SarおよびSae、Arlシステム、Sarホモログ(Rot、MgrA、SarS、SarR、SarT、SarU、SarV、SarX、SarZおよびTcaR)、SrrシステムおよびTRAPが挙げられる。抗原として役立ち得る他のブドウ球菌属のタンパク質としては、Clpタンパク質、HtrA、MsrR、アコニターゼ、CcpA、SvrA、Msa、CfvAおよびCfvBが挙げられる(例えば、Staphylococcus:Molecular Genetics,2008 Caister Academic Press,Ed.Jodi Lindsayを参照のこと)。Staphylococcus aureusの2種(N315およびMu50)のゲノムが、配列決定済みであり、例えば、PATRIC(PATRIC:The VBI PathoSystems Resource Integration Center,Snyder et al.,2007)において公的に入手可能である。当業者が理解するように、抗原として使用するためのブドウ球菌属のタンパク質は、GenBank(登録商標)、Swiss-Prot(登録商標)およびTrEMBL(登録商標)などの他の公的データベースにおいても特定され得る。
【0126】
本明細書中に記載されるある特定の実施形態において使用が企図されるStreptococcus pneumoniaeに由来する抗原としては、ニューモリシン、PspA、コリン結合タンパク質A(CbpA)、NanA、NanB、SpnHL、PavA、LytA、Phtおよびピリンタンパク質(RrgA;RrgB;RrgC)が挙げられる。Streptococcus pneumoniaeの抗原性タンパク質も、当該分野で公知であり、いくつかの実施形態において抗原として使用され得る(例えば、Zysk et al.,2000を参照のこと)。Streptococcus pneumoniaeの毒性株の全ゲノム配列は、配列決定済みであり、当業者が理解するように、本明細書中で使用するためのS.pneumoniaeタンパク質は、GENBANK(登録商標)、SWISS-PROT(登録商標)およびTREMBL(登録商標)などの他の公的データベースにおいても特定され得る。本開示に係る抗原として特に興味深いタンパク質としては、肺炎球菌の表面に露出すると予測される病原性因子およびタンパク質が挙げられる(例えば、Frolet et al.,2010を参照のこと)。
【0127】
抗原として使用され得る細菌抗原の例としては、アクチノマイセス属のポリペプチド、バチルス属のポリペプチド、バクテロイデス属のポリペプチド、ボルデテラ属のポリペプチド、バルトネラ属のポリペプチド、ボレリア属のポリペプチド(例えば、B.burgdorferi OspA)、ブルセラ属のポリペプチド、カンピロバクター属のポリペプチド、キャプノサイトファーガ属のポリペプチド、クラミジア属のポリペプチド、コリネバクテリウム属のポリペプチド、コクシエラ属のポリペプチド、デルマトフィルス属のポリペプチド、エンテロコッカス属のポリペプチド、エーリキア属のポリペプチド、エシェリキア属のポリペプチド、フランシセラ属のポリペプチド、フソバクテリウム属のポリペプチド、ヘモバルトネラ属のポリペプチド、ヘモフィルス属のポリペプチド(例えば、H.influenzae b型外膜タンパク質)、ヘリコバクター属のポリペプチド、クレブシエラ属のポリペプチド、L型細菌のポリペプチド、レプトスピラ属のポリペプチド、リステリア属のポリペプチド、マイコバクテリウム属のポリペプチド、マイコプラズマ属のポリペプチド、ナイセリア属のポリペプチド、ネオリケッチア属のポリペプチド、ノカルジア属のポリペプチド、パスツレラ属のポリペプチド、ペプトコッカス属のポリペプチド、ペプトストレプトコッカス属のポリペプチド、肺炎球菌のポリペプチド(すなわち、S.pneumoniaeのポリペプチド)(本明細書中の説明を参照のこと)、プロテウス属のポリペプチド、シュードモナス属のポリペプチド、リケッチア属のポリペプチド、ロシャリメア属のポリペプチド、サルモネラ属のポリペプチド、シゲラ属のポリペプチド、ブドウ球菌属のポリペプチド、A群連鎖球菌のポリペプチド(例えば、S.pyogenesのMタンパク質)、B群連鎖球菌(S.agalactiae)のポリペプチド、トレポネーマ属のポリペプチド、およびエルシニア属のポリペプチド(例えば、Y pestisのF1およびV抗原)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0128】
真菌抗原の例としては、アブシディア属のポリペプチド、アクレモニウム属のポリペプチド、アルテルナリア属のポリペプチド、アスペルギルス属のポリペプチド、バシジオボラス属のポリペプチド、ビポラーリス属のポリペプチド、ブラストミセス属のポリペプチド、カンジダ属のポリペプチド、コクシジオイデス属のポリペプチド、コニディオボラス属のポリペプチド、クリプトコッカス属のポリペプチド、カーバラリア属のポリペプチド、エピデルモフィトン属のポリペプチド、エクソフィアラ属のポリペプチド、ゲオトリクム属のポリペプチド、ヒストプラズマ属のポリペプチド、マヅレラ属のポリペプチド、マラセチア属のポリペプチド、ミクロスポルム属のポリペプチド、モニリエラ属のポリペプチド、モルチエレラ属のポリペプチド、ケカビ属のポリペプチド、ペシロマイセス属のポリペプチド、ペニシリウム属のポリペプチド、フィアレモニウム属(Phialemonium)のポリペプチド、フィアロフォラ属のポリペプチド、プロトテカ属のポリペプチド、シュードアレシェリア属のポリペプチド、シュードミクロドキウム属(Pseudomicrodochium)のポリペプチド、フィチウム属のポリペプチド、リノスポリジウム属のポリペプチド、クモノスカビ属のポリペプチド、スコレコバシジウム属(Scolecobasidium)のポリペプチド、スポロトリクス属のポリペプチド、ステンフィリウム属(Stemphylium)のポリペプチド、白癬菌属のポリペプチド、トリコスポロン属のポリペプチドおよびキシロヒファ属(Xylohypha)のポリペプチドが挙げられるが、これらに限定されない。
【0129】
原生動物の寄生生物抗原の例としては、バベシア属のポリペプチド、バランチジウム属のポリペプチド、ベスノイチア属(Besnoitia)のポリペプチド、クリプトスポリジウム属のポリペプチド、エイメリア属のポリペプチド、エンセファリトゾーン属のポリペプチド、エントアメーバ属のポリペプチド、ジアルジア属のポリペプチド、ハモンディア属(Hammondia)のポリペプチド、ヘパトゾーン属のポリペプチド、イソスポラ属のポリペプチド、リーシュマニア属のポリペプチド、微胞子虫門のポリペプチド、ネオスポラ属のポリペプチド、ノゼマ属のポリペプチド、ペンタトリコモナス属のポリペプチド、プラスモディウム属のポリペプチドが挙げられるが、これらに限定されない。蠕虫寄生生物抗原の例としては、アカントケイロネマ属のポリペプチド、アエルロストロンギルウス属(Aelurostrongylus)のポリペプチド、鉤虫属のポリペプチド、住血線虫属のポリペプチド、回虫属のポリペプチド、ブルギア属のポリペプチド、ブノストムム属のポリペプチド、キャピラリア属のポリペプチド、カベルチア属(Chabertia)のポリペプチド、クーペリア属のポリペプチド、クレノソマ属(Crenosoma)のポリペプチド、ディクチオカウルス属のポリペプチド、ジオクトフィーメ属のポリペプチド、ディペタロネマ属のポリペプチド、裂頭条虫属のポリペプチド、ジプリジウム属のポリペプチド、イヌ糸状虫属のポリペプチド、ドラクンクルス属のポリペプチド、エンテロビウス属のポリペプチド、フィラロイデス属(Filaroides)のポリペプチド、ヘモンクス属のポリペプチド、ラゴキラスカリス属(Lagochilascaris)のポリペプチド、ロア糸状虫属(Loa)のポリペプチド、マンソネラ属のポリペプチド、ムエレリウス属(Muellerius)のポリペプチド、ナノフィエツス属(Nanophyetus)のポリペプチド、アメリカ鉤虫属のポリペプチド、ネマトジルス属のポリペプチド、腸結節虫属のポリペプチド、オンコセルカ属のポリペプチド、オピストルキス属のポリペプチド、オステルタギア属のポリペプチド、パラフィラリア属(Parafilaria)のポリペプチド、肺吸虫属のポリペプチド、パラスカリス属(Parascaris)のポリペプチド、フィサロプテラ属のポリペプチド、プロトストロンギルス属(Protostrongylus)のポリペプチド、セタリア属のポリペプチド、スピロセルカ属(Spirocerca)のポリペプチド スピロメトラ属のポリペプチド、ステファノフィラリア属のポリペプチド、ストロンギロイデス属のポリペプチド、ストロンギルス属のポリペプチド、テラジア属のポリペプチド、トキサスカリス属のポリペプチド、トキソカラ属のポリペプチド、旋毛虫属のポリペプチド、毛様線虫属のポリペプチド、鞭虫属のポリペプチド、ウンシナリア属のポリペプチドおよびウケレリア属のポリペプチド(例えば、P.falciparumのスポロゾイト周囲ポリペプチド(PfCSP))、スポロゾイト表面タンパク質2(PfSSP2)、肝臓状態抗原(liver state antigen)1のカルボキシル末端(PfLSA1 c末端)、ならびに搬出タンパク質1(PfExp-1)、ニューモシスチス属のポリペプチド、サルコシスティス属のポリペプチド、住血吸虫属のポリペプチド、タイレリア属のポリペプチド、トキソプラズマ属のポリペプチド、ならびにトリパノソーマ属のポリペプチドが挙げられるが、これらに限定されない。
【0130】
外寄生生物抗原の例としては、ノミ;カタダニおよびヒメダニを含むマダニ;ハエ、例えば、小虫、蚊、スナバエ、ブユ、ウマバエ、ノサシバエ、メクラアブ、ツェツェバエ、サシバエ、ハエ幼虫症の原因となるハエおよび刺して血を吸う小さな羽虫(biting gnats);アリ;クモ、シラミ;ダニ;ならびに半翅類の昆虫、例えば、トコジラミおよびサシガメのポリペプチド(抗原ならびにアレルゲンを含む)が挙げられるが、これらに限定されない。
E.自殺遺伝子
【0131】
本開示によって包含されるベクターを有するように改変された本開示の細胞は、1つ以上の自殺遺伝子を含み得る。本明細書中で使用される用語「自殺遺伝子」は、プロドラッグまたは他の作用物質が投与された際に、遺伝子産物が、宿主細胞を殺滅する化合物に変化する遺伝子と定義される。使用され得る自殺遺伝子/プロドラッグの組み合わせの例は、単純ヘルペスウイルス-チミジンキナーゼ(HSV-tk)と、ガンシクロビル、アシクロビルまたはFIAU;オキシドレダクターゼとシクロヘキシミド;シトシンデアミナーゼと5-フルオロシトシン;チミジンキナーゼチミジル酸キナーゼ(Tdk::Tmk)とAZT;およびデオキシシチジンキナーゼとシトシンアラビノシドである。
【0132】
プロドラッグである6-メチルプリンデオキシリボシドを毒性のプリンである6-メチルプリンに変換するいわゆる自殺遺伝子であるE.coliのプリンヌクレオシドホスホリラーゼが使用され得る。プロドラッグ治療とともに用いられる自殺遺伝子の他の例は、E.coliのシトシンデアミナーゼ遺伝子およびHSVチミジンキナーゼ遺伝子である。
【0133】
例示的な自殺遺伝子としては、CD20、CD52、EGFRv3または誘導性カスパーゼ9が挙げられる。1つの実施形態では、切断バージョンのEGFRバリアントIII(EGFRv3)が、セツキシマブによって切断され得る自殺抗原として使用され得る。本開示において使用され得る当該分野で公知のさらなる自殺遺伝子としては、プリンヌクレオシドホスホリラーゼ(PNP)、シトクロムp450酵素(CYP)、カルボキシペプチダーゼ(CP)、カルボキシルエステラーゼ(CE)、ニトロ還元酵素(NTR)、グアニンリボシルトランスフェラーゼ(XGRTP)、グリコシダーゼ酵素、メチオニン-α,γ-リアーゼ(MET)およびチミジンホスホリラーゼ(TP)が挙げられる。具体的な実施形態では、2018年11月19日出願の米国仮特許出願62/769,405および2018年11月30日出願の米国仮特許出願62/773,372および2019年1月11日に出願の米国仮特許出願62/791,464(これらはすべて、その全体が参照により本明細書中に援用される)に記載されているように、細胞膜上に発現されるため抗体などの阻害剤による標的化が可能になる非分泌性のTNFアルファタンパク質をコードする変異TNF-アルファ自殺遺伝子が使用される。
III.免疫細胞
【0134】
本開示のある特定の実施形態は、キメラ抗原レセプター(CAR)および/またはT細胞レセプター(TCR)などの1つ以上の抗原レセプターを発現する免疫細胞に関する。それらの免疫細胞は、任意の種類であってよく、例えば、T細胞(例えば、制御性T細胞、CD4+T細胞、CD8+T細胞またはガンマ-デルタT細胞)、NK細胞、インバリアントNK細胞、NKT細胞、B細胞、幹細胞(例えば、間葉系幹細胞(MSC)または人工多能性幹(iPSC)細胞)である。いくつかの実施形態において、それらの細胞は、単球または顆粒球、例えば、骨髄性細胞、マクロファージ、好中球、樹状細胞、マスト細胞、好酸球および/または好塩基球である。養子細胞療法などのために、免疫細胞を作製および操作する方法ならびにそれらの細胞を使用および投与する方法も本明細書中に提供され、その場合、それらの細胞は、レシピエントに対して自己または同種異系であり得る。したがって、免疫細胞は、癌細胞を標的化するためなどの免疫療法として使用され得る。
【0135】
上記免疫細胞は、治療を必要とする個体を含む被験体、特にヒト被験体から単離され得る。それらの免疫細胞は、目的の被験体(例えば、特定の疾患もしくは状態を有すると疑われる被験体、特定の疾患もしくは状態の素因を有すると疑われる被験体、または特定の疾患もしくは状態に対する治療を受けている被験体)から得ることができる。免疫細胞は、それらが被験体内に存在する任意の位置から回収することができ、それらの位置としては、血液、臍帯血、脾臓、胸腺、リンパ節および骨髄が挙げられるが、これらに限定されない。単離された免疫細胞は、直接使用され得るか、または凍結などによって、ある時間にわたって保存され得る。
【0136】
上記免疫細胞は、それらが存在する任意の組織から濃縮/精製されてもよく、それらの組織としては、血液(血液バンクまたは臍帯血バンクによって回収された血液を含む)、脾臓、骨髄、外科手技中に除去および/または露出された組織、ならびに生検手技を介して得られた組織が挙げられるが、これらに限定されない。免疫細胞が濃縮、単離および/または精製される組織/器官は、生存している被験体と生存していない被験体の両方から単離され得る。ここで、生存していない被験体は、臓器ドナーである。特定の実施形態において、免疫細胞は、末梢血または臍帯血などの血液から単離される。いくつかの態様において、臍帯血から単離された免疫細胞は、CD4陽性またはCD8陽性T細胞の抑制によって測定されるような、高い免疫調節能を有する。具体的な態様において、免疫細胞は、高い免疫調節能を求めて、プールされた血液、特に、プールされた臍帯血から単離される。プールされた血液は、2つ以上の起源(例えば、3、4、5、6、7、8、9、10個以上の起源(例えば、ドナー被験体))からの血液であり得る。
【0137】
免疫細胞の集団は、治療を必要とする被験体または低い免疫細胞活性に関連する疾患に罹患している被験体から得ることができる。したがって、それらの細胞は、治療を必要とする被験体にとって自己であり得る。あるいは、免疫細胞の集団は、ドナー、好ましくは、組織適合性がマッチしたドナーから得ることができる。その免疫細胞集団は、末梢血、臍帯血、骨髄、脾臓、または免疫細胞が前記被験体もしくはドナーに存在する他の任意の器官/組織から収集され得る。それらの免疫細胞は、被験体および/またはドナーのプール、例えば、プールされた臍帯血から単離され得る。
【0138】
免疫細胞集団が、被験体とは異なるドナーから得られるとき、そのドナーは、好ましくは同種異系であるが、但し、得られる細胞は、それらの細胞が被験体に導入可能であるという点で、被験体と適合している。同種異系ドナー細胞は、ヒト白血球抗原(HLA)が適合していてもよいし、そうでなくてもよい。被験体に適合性にするために、免疫原性を低下させるように同種異系細胞を処置することができる(Fast et al.,2004)。
IV.処置方法
【0139】
いくつかの実施形態において、本開示は、有効量の、本明細書中に提供されるモジュール式ベクターシステムを発現するように操作された本開示に包含される免疫細胞を投与する工程を含む、免疫療法を含む治療のための方法を提供する。いくつかの実施形態において、レシピエント個体において免疫応答を誘発する免疫細胞集団の移入によって、内科疾患または内科障害が処置される。本開示のある特定の実施形態において、免疫応答を誘発する免疫細胞集団の移入によって、癌または感染症が処置される。個体の癌を処置するためまたは癌の進行を遅延させるための方法が本明細書中に提供され、その方法は、有効量の抗原特異的細胞療法(1つ以上の抗原に特異的な細胞療法)を個体に投与する工程を含む。本方法は、免疫障害、固形癌、血液癌およびウイルス感染症の処置に適用され得る。
【0140】
治療を必要とする個体が癌を有する場合、その癌は、血液癌であり得るか、または固形腫瘍を含み得る。本処置方法が有用な腫瘍には、任意の悪性細胞タイプ、例えば、固形腫瘍または血液悪性腫瘍に見られる細胞タイプが含まれる。例示的な固形腫瘍としては、膵臓、結腸、盲腸、胃、脳、頭部、頸部、卵巣、腎臓、喉頭、肉腫、肺、膀胱、黒色腫、前立腺、皮膚、甲状腺、胆嚢、脾臓、肝臓、骨、子宮内膜、精巣、子宮頸部、食道、前立腺および乳房からなる群より選択される器官または組織の腫瘍が挙げられ得るが、これらに限定されない。例示的な血液腫瘍としては、骨髄の腫瘍、TまたはB細胞悪性腫瘍、白血病、リンパ腫、芽腫、ミエローマなどが挙げられる。本明細書中に提供される方法を用いて処置され得る癌のさらなる例としては、肺癌(小細胞肺癌、非小細胞肺癌、肺腺癌および肺扁平上皮癌を含む)、腹膜癌、胃(gastric)癌または胃(stomach)癌(消化器癌および消化管間質癌を含む)、膵癌、子宮頸癌、卵巣癌、肝臓癌、膀胱癌、乳癌、結腸癌、直腸結腸癌、子宮内膜癌または子宮癌、唾液腺癌、腎臓癌または腎癌、前立腺癌、外陰癌、甲状腺癌、様々なタイプの頭頸部癌、および黒色腫が挙げられるが、これらに限定されない。
【0141】
癌は、具体的には以下の組織タイプの癌であり得るが、これらに限定されない:新生物、悪性;癌腫;癌腫、未分化;巨細胞および紡錘形細胞癌;小細胞癌;乳頭状癌;扁平上皮癌;リンパ上皮癌;基底細胞癌;毛母癌;移行上皮癌;乳頭状移行上皮癌;腺癌;ガストリノーマ、悪性;胆管癌;肝細胞癌;肝細胞癌・胆管癌の混合型;索状腺癌;腺様嚢胞癌;腺腫性ポリープ内腺癌;腺癌、家族性大腸ポリポーシス;固形癌;カルチノイド腫瘍、悪性;細気管支肺胞腺癌;乳頭状腺癌;嫌色素性癌;好酸性癌;好酸性腺癌;好塩基性癌;明細胞腺癌;顆粒細胞癌;濾胞腺癌;乳頭状・濾胞腺癌;非被包性硬化癌;副腎皮質癌;類内膜癌;皮膚付属器癌;アポクリン腺癌;皮脂腺癌;耳垢腺癌;粘表皮癌;嚢胞腺癌;乳頭状嚢腺癌;乳頭状漿液性嚢胞腺癌;粘液性嚢胞腺癌;粘液性腺癌;印環細胞癌;浸潤性導管癌;髄様癌;小葉癌;炎症性癌;パジェット病、乳房;腺房細胞癌;腺扁平上皮癌;扁平上皮化生を伴う腺癌;胸腺腫、悪性;卵巣間質腫瘍、悪性;莢膜細胞腫、悪性;顆粒膜細胞腫、悪性;アンドロブラストーマ、悪性;セルトリ細胞癌;ライディッヒ細胞腫瘍、悪性;脂質細胞腫瘍、悪性;傍神経節腫、悪性;乳房外傍神経節腫、悪性;褐色細胞腫;グロムス血管肉腫;悪性黒色腫;無色素性黒色腫;表在拡大型黒色腫;悪性黒子黒色腫;末端黒子型黒色腫;結節性黒色腫;巨大色素性母斑内悪性黒色腫;類上皮細胞黒色腫;青色母斑、悪性;肉腫;線維肉腫;線維性組織球腫、悪性;粘液肉腫;脂肪肉腫;平滑筋肉腫;横紋筋肉腫;胎児性横紋筋肉腫;胞巣状横紋筋肉腫;間質肉腫;混合腫瘍、悪性;ミュラー管混合腫瘍;腎芽腫;肝芽腫;癌肉腫;間葉腫、悪性;ブレンナー腫瘍、悪性;葉状腫瘍、悪性;滑膜肉腫;中皮腫、悪性;未分化胚腫;胎児性癌;奇形腫、悪性;卵巣甲状腺腫、悪性;絨毛癌;中腎腫、悪性;血管肉腫;血管内皮腫、悪性;カポジ肉腫;血管外皮腫、悪性;リンパ管肉腫;骨肉腫;傍皮質骨肉腫;軟骨肉腫;軟骨芽細胞腫、悪性;間葉性軟骨肉腫;骨巨細胞腫瘍;ユーイング肉腫;歯原性腫瘍、悪性;エナメル上皮歯牙肉腫;エナメル上皮腫、悪性;エナメル上皮線維肉腫;松果体腫、悪性;脊索腫;グリオーマ、悪性;上衣腫;アストロサイトーマ;原形質性アストロサイトーマ;細線維性アストロサイトーマ;星芽腫;膠芽腫;乏突起膠腫;希突起芽腫;原始神経外胚葉性;小脳肉腫;神経節神経芽腫;神経芽腫;網膜芽腫;嗅神経原腫瘍;髄膜腫、悪性;神経線維肉腫;神経鞘腫、悪性;顆粒細胞腫、悪性;悪性リンパ腫;ホジキン病;ホジキン;側肉芽腫;悪性リンパ腫、小リンパ球性;悪性リンパ腫、大細胞型、びまん性;悪性リンパ腫、濾胞性;菌状息肉腫;他の特定の非ホジキンリンパ腫;B細胞リンパ腫;低悪性度/濾胞性非ホジキンリンパ腫(NHL);小リンパ球性(SL)NHL;中悪性度/濾胞性NHL;中悪性度びまん性NHL;高悪性度免疫芽球性NHL;高悪性度リンパ芽球性NHL;高悪性度小非切れ込み型細胞NHL;巨大病変(bulky disease)NHL;マントル細胞リンパ腫;AIDS関連リンパ腫;ワルデンシュトレームマクログロブリン血症;悪性組織球増殖症;多発性骨髄腫;肥満細胞肉腫;免疫増殖性小腸疾患;白血病;リンパ性白血病;形質細胞性白血病;赤白血病;リンパ肉腫細胞白血病;骨髄性白血病;好塩基球性白血病;好酸球性白血病;単球性白血病;肥満細胞白血病;巨核芽球性白血病;骨髄性肉腫;ヘアリー細胞白血病;慢性リンパ性白血病(CLL);急性リンパ芽球性白血病(ALL);急性骨髄性白血病(AML);および慢性骨髄芽球性白血病。
【0142】
特定の実施形態は、白血病の処置方法に関する。白血病は、血液または骨髄の癌であり、血液細胞、通常は白血球細胞(白血球)の異常な増殖(分裂増殖による生成)を特徴とする。白血病は、血液腫瘍と呼ばれる広範な疾患群の一部である。白血病は、多種多様な疾患を網羅する広義語である。白血病は、急性および慢性の形態に臨床的におよび病理学的に分けられる。
【0143】
本開示のある特定の実施形態において、免疫細胞は、それを必要とする個体(例えば、癌または感染症を有する個体)に送達される。次いで、それらの細胞は、その個体の免疫系を増強して、それぞれの癌細胞または病原性細胞を攻撃する。いくつかの場合では、その個体に免疫細胞が1回以上提供される。個体に免疫細胞が2回以上提供される場合、投与間の時間は、その個体において伝播するのに十分な時間であるべきであり、具体的な実施形態では、投与間の時間は、l、2、3、4、5、6、7日間またはそれ以上である。
【0144】
本開示のある特定の実施形態は、免疫媒介性障害を処置または予防するための方法を提供する。1つの実施形態において、被験体は、自己免疫疾患を有する。自己免疫疾患の非限定的な例としては、円形脱毛症、強直性脊椎炎、抗リン脂質抗体症候群、自己免疫性アジソン病、副腎の自己免疫疾患、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性肝炎、自己免疫性卵巣炎および自己免疫性睾丸炎、自己免疫性血小板減少症、ベーチェット病、水疱性類天疱瘡、心筋症、セリアック多発性皮膚炎(celiac spate-dermatitis)、慢性疲労免疫不全症候群(CFIDS)、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパシー、チャーグ・ストラウス症候群、瘢痕性類天疱瘡、CREST症候群、寒冷凝集素病、クローン病、円板状狼瘡、本態性混合型クリオグロブリン血症、線維筋痛症-線維筋炎、糸球体腎炎、グレーヴズ病、ギランバレー、橋本甲状腺炎、特発性肺線維症、特発性血小板減少紫斑病(ITP)、IgAニューロパシー、若年性関節炎、扁平苔癬、エリテマトーデス、メニエール病、混合結合組織病、多発性硬化症、1型糖尿病または免疫媒介性糖尿病、重症筋無力症、ネフローゼ症候群(例えば、微小変化群、巣状糸球体硬化症または膜性腎症)、尋常性天疱瘡、悪性貧血、結節性多発性動脈炎、多発性軟骨炎、多腺症候群、リウマチ性多発筋痛症、多発性筋炎および皮膚筋炎、原発性無ガンマグロブリン血症、原発性胆汁性肝硬変、乾癬、乾癬性関節炎、レイノー現象、ライター症候群、関節リウマチ、サルコイドーシス、強皮症、シェーグレン症候群、スティフ・マン症候群、全身性エリテマトーデス、エリテマトーデス、潰瘍性大腸炎、ブドウ膜炎、脈管炎(例えば、結節性多発性動脈炎、高安動脈炎、側頭動脈炎/巨細胞性動脈炎または疱疹状皮膚炎脈管炎)、白斑ならびにウェゲナー肉芽腫症が挙げられる。したがって、本明細書中に開示される方法を用いて処置され得る自己免疫疾患のいくつかの例としては、多発性硬化症、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、I型糖尿病、クローン病;潰瘍性大腸炎、重症筋無力症、糸球体腎炎、強直性脊椎炎、脈管炎または乾癬が挙げられるが、これらに限定されない。被験体は、喘息などのアレルギー性障害も有し得る。
【0145】
さらに別の実施形態では、被験体は、移植される器官または幹細胞のレシピエントであり、拒絶反応を予防および/または処置するために免疫細胞が使用される。特定の実施形態において、被験体は、移植片対宿主病を有するか、または移植片対宿主病を発症するリスクがある。GVHDは、血縁ドナーまたは非血縁ドナーからの幹細胞を使用するまたは含む任意の移植に関して起こり得る合併症である。GVHDには、急性と慢性の2種類がある。急性GVHDは、移植後の最初の3ヶ月以内に現れる。急性GVHDの徴候としては、手および足における赤みがかった発疹が挙げられ、それは、剥皮または皮膚の水疱形成を伴って広がることがあり、より重篤になることがある。急性GVHDは、胃および腸にも影響することがあり、その場合、筋痙攣、悪心および下痢が認められる。皮膚および目の黄変(黄疸)は、急性GVHDが肝臓に影響していることを示す。慢性GVHDは、その重症度に基づいて等級付けされる:ステージ/グレード1が軽度であり;ステージ/グレード4が重度である。慢性GVHDは、移植の3ヶ月後またはそれ以降に発症する。慢性GVHDの症状は、急性GVHDの症状と似ているが、さらに、慢性GVHDは、眼の粘液腺、口の唾液腺ならびに胃壁および腸を滑らかにする腺にも影響し得る。本明細書中に開示される任意の免疫細胞集団を使用することができる。移植される器官の例としては、臓器移植片、例えば、腎臓、肝臓、皮膚、膵臓、肺および/または心臓、あるいは細胞移植片、例えば、小島、肝細胞、筋芽細胞、骨髄または造血性幹細胞もしくは他の幹細胞が挙げられる。移植片は、複合性の移植片、例えば、顔面の組織であり得る。免疫細胞は、移植の前、移植と同時、または移植の後に、投与され得る。いくつかの実施形態において、免疫細胞は、移植の前に、例えば、移植の少なくとも1時間前、少なくとも12時間前、少なくとも1日前、少なくとも2日前、少なくとも3日前、少なくとも4日前、少なくとも5日前、少なくとも6日前、少なくとも1週間前、少なくとも2週間前、少なくとも3週間前、少なくとも4週間前または少なくとも1ヶ月前に投与される。1つの非限定的な具体例では、治療有効量の免疫細胞の投与は、移植の3~5日前に行われる。
【0146】
いくつかの実施形態において、被験体には、免疫細胞療法の前に骨髄非破壊的なリンパ球除去化学療法が投与され得る。その骨髄非破壊的なリンパ球除去化学療法は、任意の好適な経路によって投与され得る任意の好適なそのような治療であり得る。その骨髄非破壊的なリンパ球除去化学療法は、特に、癌が転移性であり得る黒色腫である場合、例えば、シクロホスファミドおよびフルダラビンの投与を含み得る。シクロホスファミドおよびフルダラビンの例示的な投与経路は、静脈内である。同様に、任意の好適な用量のシクロホスファミドおよびフルダラビンが投与され得る。特定の態様では、およそ60mg/kgのシクロホスファミドが2日間投与され、その後、およそ25mg/m2のフルダラビンが5日間投与される。
【0147】
ある特定の実施形態では、免疫細胞の増殖および活性化を促進する成長因子が、免疫細胞と同時にまたは免疫細胞に続いて被験体に投与される。免疫細胞成長因子は、免疫細胞の増殖および活性化を促進する任意の好適な成長因子であり得る。好適な免疫細胞成長因子の例としては、インターロイキン(IL)-2、IL-7、IL-15およびIL-12が挙げられ、これらは、単独でまたは様々な組み合わせで(例えば、IL-2とIL-7、IL-2とIL-15、IL-7とIL-15、IL-2とIL-7とIL-15、IL-12とIL-7、IL-12とIL-15、またはIL-12とIL2)使用され得る。
【0148】
治療有効量の免疫細胞が、非経口投与をはじめとしたいくつかの経路、例えば、静脈内、腹腔内、筋肉内、胸骨内もしくは関節内の注射または注入によって投与され得る。
【0149】
養子細胞療法において使用するための免疫細胞の治療有効量は、処置される被験体において所望の効果を達成する量である。例えば、これは、進行を阻害するために必要な免疫細胞の量、または自己免疫疾患もしくは同種免疫疾患を後退させるために必要な免疫細胞の量、または自己免疫疾患によって引き起こされる症状、例えば、疼痛および炎症を和らげることができる免疫細胞の量であり得る。これは、炎症に伴う症状、例えば、疼痛、浮腫および体温上昇を和らげるために必要な量であり得る。これは、移植された器官の拒絶反応を減少させるまたは予防するために必要な量でもあり得る。
【0150】
上記免疫細胞集団は、疾患状態を回復させるために、上記疾患と一致した処置レジメンで、例えば、1日から数日間にわたって1回または数回で、投与され得るか、または疾患の進行を阻害するためおよび疾患の再発を予防するために、長期間にわたる定期的な投与で投与され得る。製剤において用いられる正確な用量は、投与経路および疾患または障害の重篤度にも依存し、医師の判断および各患者の状況に従って決定されるべきである。免疫細胞の治療有効量は、処置される被験体、苦痛の重症度およびタイプならびに投与様式に依存する。いくつかの実施形態において、ヒト被験体の処置において使用され得る用量は、少なくとも3.8×104、少なくとも3.8×105、少なくとも3.8×106、少なくとも3.8×107、少なくとも3.8×108、少なくとも3.8×109または少なくとも3.8×1010免疫細胞/m2で変動する。ある特定の実施形態において、ヒト被験体の処置において使用される用量は、約3.8×109~約3.8×1010免疫細胞/m2で変動する。さらなる実施形態において、免疫細胞の治療有効量は、約5×106細胞/kg体重~約7.5×108細胞/kg体重、例えば、約2×107細胞~約5×108細胞/kg体重または約5×107細胞~約2×108細胞/kg体重で変動し得る。免疫細胞の正確な量は、被験体の年齢、体重、性別および生理学的状態に基づいて当業者によってすぐに決定される。有効量は、インビトロモデルまたは動物モデルの試験系から導かれた用量反応曲線から外挿され得る。
【0151】
上記免疫細胞は、免疫媒介性障害を処置するための1つ以上の他の治療薬と併用して投与され得る。併用療法としては、1つ以上の抗菌剤(例えば、抗生物質、抗ウイルス剤および抗真菌剤)、抗腫瘍剤(例えば、フルオロウラシル、メトトレキサート、パクリタキセル、フルダラビン、エトポシド、ドキソルビシンまたはビンクリスチン)、免疫枯渇剤(例えば、フルダラビン、エトポシド、ドキソルビシンまたはビンクリスチン)、免疫抑制剤(例えば、アザチオプリンまたは糖質コルチコイド、例えば、デキサメタゾンまたはプレドニゾン)、抗炎症剤(例えば、糖質コルチコイド(例えば、ヒドロコルチゾン、デキサメタゾンまたはプレドニゾン)または非ステロイド性抗炎症剤(例えば、アセチルサリチル酸、イブプロフェンまたはナプロキセンナトリウム))、サイトカイン(例えば、インターロイキン-10またはトランスフォーミング成長因子-ベータ)、ホルモン(例えば、エストロゲン)またはワクチンが挙げられ得るが、これらに限定されない。さらに、カルシニューリン阻害剤(例えば、シクロスポリンおよびタクロリムス);mTOR阻害剤(例えば、ラパマイシン);ミコフェノール酸モフェチル、抗体(例えば、CD3、CD4、CD40、CD154、CD45、IVIGまたはB細胞を認識する抗体);化学療法剤(例えば、メトトレキサート、トレオスルファン、ブスルファン);照射;またはケモカイン、インターロイキンまたはそれらの阻害剤(例えば、BAFF、IL-2、抗IL-2R、IL-4、JAKキナーゼ阻害剤)を含むがこれらに限定されない免疫抑制剤または免疫寛容誘発剤が投与され得る。そのようなさらなる医薬品は、所望の効果に応じて免疫細胞の投与前、投与中または投与後に投与され得る。上記細胞および作用物質のこの投与は、同じ経路または異なる経路による投与、および同じ部位または異なる部位における投与であり得る。
A.薬学的組成物
【0152】
免疫細胞(例えば、T細胞またはNK細胞)および薬学的に許容され得るキャリアを含む薬学的組成物および製剤も本明細書中に提供される。
【0153】
本明細書中に記載されるような薬学的組成物および製剤は、所望の程度の純度を有する活性成分(例えば、上記細胞)を1つ以上の自由選択の薬学的に許容され得るキャリア(Remington’s Pharmaceutical Sciences 22nd edition,2012)と混合することによって、凍結乾燥された製剤または水溶液の形態で調製され得る。薬学的に許容され得るキャリアは、一般に、使用される投与量および濃度においてレシピエントにとって無毒性であり、それらのキャリアとしては、緩衝剤(例えば、リン酸、クエン酸および他の有機酸);酸化防止剤(アスコルビン酸およびメチオニンを含む);保存剤(例えば、塩化オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム);塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム;塩化ベンゼトニウム;フェノールアルコール、ブチルアルコールまたはベンジルアルコール;アルキルパラベン(例えば、メチルパラベンまたはプロピルパラベン);カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;およびm-クレゾール);低分子量(約10残基未満)のポリペプチド;タンパク質(例えば、血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリン);親水性ポリマー(例えば、ポリビニルピロリドン);アミノ酸(例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニンまたはリジン);単糖類、二糖類および他の炭水化物(グルコース、マンノースまたはデキストリンを含む);キレート剤(例えば、EDTA);糖類(例えば、スクロース、マンニトール、トレハロースまたはソルビトール);塩形成対イオン(例えば、ナトリウム);金属錯体(例えば、Zn-タンパク質複合体);および/または非イオン性界面活性剤(例えば、ポリエチレングリコール(PEG))が挙げられるが、これらに限定されない。例示的な本明細書中の薬学的に許容され得るキャリアとしては、間質薬物分散剤、例えば、中性で活性な可溶性ヒアルロニダーゼ糖タンパク質(sHASEGP)、例えば、ヒト可溶性PH-20ヒアルロニダーゼ糖タンパク質、例えば、rHuPH20(HYLENEX(登録商標),Baxter International,Inc.)がさらに挙げられる。rHuPH20を含むある特定の例示的なsHASEGPおよび使用方法は、米国特許公開第2005/0260186号および同第2006/0104968号に記載されている。1つの態様において、sHASEGPは、1つ以上のさらなるグリコサミノグリカナーゼ、例えば、コンドロイチナーゼと併用される。
B.併用療法
【0154】
ある特定の実施形態において、本実施形態の組成物および方法は、少なくとも1つのさらなる治療と併用される免疫細胞集団を含む。そのさらなる治療は、放射線療法、手術(例えば、ランペクトミーおよび乳房切除術)、化学療法、遺伝子治療、DNA治療、ウイルス治療、RNA治療、免疫療法、骨髄移植、ナノ治療、モノクローナル抗体治療または前述の組み合わせであり得る。そのさらなる治療は、アジュバント療法またはネオアジュバント療法の形態であり得る。
【0155】
いくつかの実施形態において、さらなる治療は、小分子酵素阻害剤または抗転移剤の投与である。いくつかの実施形態において、さらなる治療は、副作用制限剤(例えば、処置の副作用の発生率および/または重症度を下げることを目的とする作用物質、例えば、抗悪心剤など)の投与である。いくつかの実施形態において、さらなる治療は、放射線療法である。いくつかの実施形態において、さらなる治療は、手術である。いくつかの実施形態において、さらなる治療は、放射線療法と手術の併用である。いくつかの実施形態において、さらなる治療は、ガンマ線照射である。いくつかの実施形態において、さらなる治療は、PBK/AKT/mTOR経路を標的化する治療、HSP90阻害剤、チューブリン阻害剤、アポトーシス阻害剤および/または化学予防剤である。さらなる治療は、当該分野で公知の化学療法剤の1つ以上であり得る。
【0156】
免疫細胞療法は、免疫チェックポイント療法などのさらなる癌治療の前、最中、後または様々な組み合わせで投与され得る。それらの投与は、同時から数分、数日、数週間までの範囲の間隔で行われ得る。免疫細胞療法がさらなる治療薬とは別に患者に提供される実施形態では、それら2つの化合物が、なおも患者に対して有益な併用効果を発揮できるように、各送達時点の間にかなりの期間が経過しないことを保証するのが一般的である。そのような場合、抗体療法と抗癌療法とが、互いの約12~24または72時間以内に、より詳細には、互いの約6~12時間以内に患者に提供され得ることが企図される。いくつかの状況において、それぞれの投与間に数日(2、3、4、5、6または7)から数週間(1、2、3、4、5、6、7または8)が経過した場合、処置期間をかなり延長することが望ましいことがある。
【0157】
様々な組み合わせが使用され得る。下記の例の場合、免疫細胞療法が、「A」であり、抗癌療法が、「B」である:
A/B/A B/A/B B/B/A A/A/B A/B/B B/A/A A/B/B/B B/A/B/B
B/B/B/A B/B/A/B A/A/B/B A/B/A/B A/B/B/A B/B/A/A
B/A/B/A B/A/A/B A/A/A/B B/A/A/A A/B/A/A A/A/B/A
【0158】
本実施形態の任意の化合物または治療の患者への投与は、それらの作用物質に毒性がある場合はそれを考慮して、そのような化合物を投与するための一般的なプロトコルに従う。ゆえに、いくつかの実施形態では、併用療法に起因し得る毒性をモニタリングする工程が存在する。
1.化学療法
【0159】
多種多様の化学療法剤が、本実施形態に従って使用され得る。用語「化学療法」とは、薬物を使用して癌を処置することを指す。「化学療法剤」は、癌の処置において投与される化合物または組成物を意味するために使用される。これらの作用物質または薬物は、細胞内でのそれらの活性様式によって、例えば、それらが細胞周期に影響するか否かおよびどのステージにおいて細胞周期に影響するかによって、分類される。あるいは、作用物質は、DNAを直接架橋する能力、DNAにインターカレートする能力、または核酸合成に影響することによって染色体異常および有糸分裂異常を誘導する能力に基づいて特徴付けられ得る。
【0160】
化学療法剤の例としては、アルキル化剤(例えば、チオテパおよびシクロスホスファミド);スルホン酸アルキル(例えば、ブスルファン、インプロスルファンおよびピポスルファン);アジリジン(例えば、ベンゾドパ(benzodopa)、カルボコン、メツレドパ(meturedopa)およびウレドパ(uredopa));エチレンイミンおよびメチルアメラミン(methylamelamines)(アルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホルアミド、トリエチレンチオホスホルアミドおよびトリメチローロメラミン(trimethylolomelamine)を含む);アセトゲニン(特に、ブラタシンおよびブラタシノン);カンプトテシン(合成アナログであるトポテカンを含む);ブリオスタチン;カリスタチン;CC-1065(そのアドゼレシン、カルゼレシン(carzelesin)およびビゼレシン(bizelesin)合成アナログを含む);クリプトフィシン(特に、クリプトフィシン1およびクリプトフィシン8);ドラスタチン;デュオカルマイシン(合成アナログであるKW-2189およびCB1-TM1を含む);エレウセロビン(eleutherobin);パンクラチスタチン(pancratistatin);サルコジクチイン(sarcodictyin);スポンギスタチン(spongistatin);ナイトロジェンマスタード(例えば、クロラムブシル、クロルナファジン(chlornaphazine)、コロホスファミド(cholophosphamide)、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタミン、塩酸メクロレタミンオキシド、メルファラン、ノベンビキン(novembichin)、フェネステリン(phenesterine)、プレドニムスチン、トロフォスファミド(trofosfamide)およびウラシルマスタード);ニトロソ尿素(例えば、カルムスチン、クロロゾトシン、フォテムスチン、ロムスチン、ニムスチンおよびラニムヌスチン(ranimnustine));抗生物質(例えば、エンジイン抗生物質(例えば、カリケアマイシン、特に、カリケアマイシンガンマlIおよびカリケアマイシンオメガI1));ジネマイシン(dynemicin)(ジネマイシンAを含む);ビスホスホネート(例えば、クロドロネート);エスペラミシン;ならびにネオカルチノスタチンクロモフォアおよび関連色素タンパク質であるエンジイン抗生物質クロモフォア、アクラシノマイシン、アクチノマイシン、アウトラルニシン、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン、カラビシン(carabicin)、カルミノマイシン(carminomycin)、カルジノフィリン(carzinophilin)、クロモミシニス、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン(detorubicin)、6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン、ドキソルビシン(モルホリノ-ドキソルビシン、シアノモルホリノ-ドキソルビシン、2-ピロリノ-ドキソルビシンおよびデオキシドキソルビシンを含む)、エピルビシン、エソルビシン(esorubicin)、イダルビシン、マルセロマイシン(marcellomycin)、マイトマイシン(例えば、マイトマイシンC)、ミコフェノール酸、ノガラルニシン、オリボマイシン、ペプロマイシン、ポトフィロマイシン(potfiromycin)、ピューロマイシン、クエラマイシン(quelamycin)、ロドルビシン(rodorubicin)、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン、ウベニメクス、ジノスタチンおよびゾルビシン;抗代謝産物(例えば、メトトレキサートおよび5-フルオロウラシル(5-FU));葉酸アナログ(例えば、デノプテリン(denopterin)、プテロプテリンおよびトリメトレキサート);プリンアナログ(例えば、フルダラビン、6-メルカプトプリン、チアミプリン(thiamiprine)およびチオグアニン);ピリミジンアナログ(例えば、アンシタビン、アザシチジン、6-アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビンおよびフロクスウリジン);アンドロゲン(例えば、カルステロン、プロピオン酸ドロモスタノロン、エピチオスタノール、メピチオスタンおよびテストラクトン);抗副腎(anti-adrenals)(例えば、ミトタンおよびトリロスタン);葉酸補給剤(例えば、フロリン酸(frolinic acid));アセグラトン;アルドホスファミドグリコシド(aldophosphamide glycoside);アミノレブリン酸;エニルウラシル;アムサクリン;ベストラブシル(bestrabucil);ビサントレン(bisantrene);エダトラキセート(edatraxate);デホファミン(defofamine);デメコルチン;ジアジコン;エルフォルミチン(elformithine);酢酸エリプチニウム(elliptinium acetate);エポチロン;エトグルシド;硝酸ガリウム;ヒドロキシ尿素;レンチナン;ロニダイニン(lonidainine);メイタンシノイド(maytansinoids)(例えば、メイタンシンおよびアンサミトシン(ansamitocins));ミトグアゾン;ミトキサントロン;モピダンモール(mopidanmol);ニトラエリン;ペントスタチン;フェナメット(phenamet);ピラルビシン;ロソキサントロン(losoxantrone);ポドフィリン酸(podophyllinic acid);2-エチルヒドラジド;プロカルバジン;PSK多糖複合体;ラゾキサン;リゾキシン;シゾフィラン;スピロゲルマニウム;テヌアゾン酸;トリアジクォン(triaziquone);2,2’,2”-トリクロロトリエチルアミン;トリコテシン(特に、T-2トキシン、ベラクリンA、ロリジン(roridin)Aおよびアングイジン(anguidine));ウレタン;ビンデシン;ダカルバジン;マンノムスチン;ミトブロニトール;ミトラクトール;ピポブロマン;ガシトシン(gacytosine);アラビノシド(「Ara-C」);シクロホスファミド;タキソイド、例えば、パクリタキセルおよびドセタキセルゲムシタビン;6-チオグアニン;メルカプトプリン;白金配位錯体(例えば、シスプラチン、オキサリプラチンおよびカルボプラチン);ビンブラスチン;白金;エトポシド(VP-16);イホスファミド;ミトキサントロン;ビンクリスチン;ビノレルビン;ノバントロン;テニポシド;エダトレキセート;ダウノマイシン;アミノプテリン;キセロダ(xeloda);イバンドロネート;イリノテカン(例えば、CPT-11);トポイソメラーゼ阻害剤RFS2000;ジフルオロメチルオルニチン(DMFO);レチノイド(例えば、レチノイン酸);カペシタビン;カルボプラチン、プロカルバジン、プリコマイシン、ゲムシタビエン、ナベルビン、ファルネシル-タンパク質タンスフェラーゼ阻害剤、トランスプラチナ(transplatinum)、ならびに上記のいずれかの薬学的に許容され得る塩、酸または誘導体が挙げられる。
2.放射線療法
【0161】
DNA損傷を引き起こす、広く使用されてきた他の因子としては、γ線、X線および/または腫瘍細胞への放射性同位体の定方向送達として一般的に知られているものが挙げられる。マイクロ波、陽子ビーム照射(米国特許第5,760,395号および同第4,870,287号)およびUV照射などの他の形態のDNA損傷因子も企図される。これらの因子のすべてが、DNA、DNAの前駆体、DNAの複製および修復ならびに染色体のアセンブリおよび維持に対して広範囲のダメージをもたらす可能性が最も高い。X線の線量の範囲は、長期間(3~4週間)にわたる50~200レントゲンという1日線量から、2000~6000レントゲンという単回線量までの範囲である。放射性同位体の線量の範囲は、大きく異なり、同位体の半減期、放射される放射線の強度およびタイプ、ならびに腫瘍性細胞による取り込みに依存する。
3.免疫療法
【0162】
当業者は、さらなる免疫療法が上記実施形態の方法と併用してまたは併せて使用され得ることを理解する。癌の処置の状況において、免疫治療薬は、通常、癌細胞を標的化し、破壊するために免疫エフェクター細胞および免疫エフェクター分子を使用することに頼る。リツキシマブ(RITUXAN(登録商標))が、そのような例である。免疫エフェクターは、例えば、腫瘍細胞の表面上の何らかのマーカーに特異的な抗体であり得る。その抗体は、単独で治療のエフェクターとして機能し得るか、または他の細胞をリクルートして、実際に細胞殺滅に影響し得る。その抗体はまた、薬物またはトキシン(化学療法剤、放射性核種、リシンA鎖、コレラ毒素、百日咳毒素など)に結合体化され得、標的化剤として役立ち得る。あるいは、そのエフェクターは、腫瘍細胞標的と直接または間接的に相互作用する表面分子を有するリンパ球であり得る。様々なエフェクター細胞には、細胞傷害性T細胞およびNK細胞が含まれる。
【0163】
抗体-薬物結合体は、癌治療の発展に対する画期的なアプローチとして台頭した。癌は、世界の主要な死因の1つである。抗体-薬物結合体(ADC)は、殺細胞薬に共有結合的に連結されたモノクローナル抗体(MAb)を含む。このアプローチは、抗原標的に対するMAbの高い特異性を非常に強力な細胞傷害性薬物と組み合わせることから、豊富なレベルの抗原を有する腫瘍細胞にペイロード(薬物)を送達する「武装した」MAbをもたらす。また、薬物の標的化送達は、正常組織への曝露を最小限に抑えることから、毒性の低減および治療指数の改善をもたらす。FDAによって2011年にADCETRIS(登録商標)(ブレンツキシマブベドチン)、および2013年にKADCYLA(登録商標)(トラスツズマブエムタンシンまたはT-DM1)という2つのADC薬物が承認されたことで、このアプローチの妥当性が確認された。現在、30を超えるADC薬物候補が、癌を処置するために様々な段階の臨床試験中である(Leal et al.,2014)。抗体の操作およびリンカー-ペイロードの最適化の完成度が上がるにつれて、新しいADCの発見および開発は、このアプローチに適した新しい標的の同定および検証ならびに標的化Mabの作製にますます依存するようになる。ADC標的に対する2つの基準は、腫瘍細胞におけるアップレギュレート/高レベル発現および頑健な内部移行である。
【0164】
免疫療法の1つの態様において、腫瘍細胞は、標的化の影響を受けやすい何らかのマーカー、すなわち、他の大部分の細胞上に存在しない何らかのマーカーを有さなければならない。多くの腫瘍マーカーが存在し、これらのいずれかが、本実施形態の状況において標的化に好適であり得る。一般的な腫瘍マーカーとしては、CD20、癌胎児抗原、チロシナーゼ(p97)、gp68、TAG-72、HMFG、Sialyl Lewis抗原、MucA、MucB、PLAP、ラミニンレセプター、erb Bおよびp155が挙げられる。免疫療法の代替の態様は、抗癌効果と免疫刺激効果とを組み合わせることである。IL-2、IL-4、IL-12、GM-CSF、ガンマ-IFNなどのサイトカイン、MIP-1、MCP-1、IL-8などのケモカイン、およびFLT3リガンドなどの成長因子をはじめとした免疫刺激分子も存在する。
【0165】
現在研究中または使用中の免疫療法の例は、免疫アジュバント、例えば、Mycobacterium bovis、Plasmodium falciparum、ジニトロクロロベンゼンおよび芳香族化合物(米国特許第5,801,005号および同第5,739,169号;Hui and Hashimoto,1998;Christodoulides et al.,1998);サイトカイン療法、例えば、インターフェロンα、βおよびγ、IL-1、GM-CSFならびにTNF(Bukowski et al.,1998;Davidson et al.,1998;Hellstrand et al.,1998);遺伝子治療、例えば、TNF、IL-1、IL-2およびp53(Qin et al.,1998;Austin-Ward and Villaseca,1998;米国特許第5,830,880号および同第5,846,945号);ならびにモノクローナル抗体、例えば、抗CD20、抗ガングリオシドGM2および抗p185(Hollander,2012;Hanibuchi et al.,1998;米国特許第5,824,311号)である。1つ以上の抗癌療法が、本明細書中に記載される抗体療法とともに使用され得ることが企図される。
【0166】
いくつかの実施形態において、免疫療法は、免疫チェックポイント阻害剤であり得る。免疫チェックポイントは、シグナル(例えば、共刺激分子)を強めるかまたはシグナルを弱めるかのいずれかである。免疫チェックポイントの遮断によって標的化され得る阻害性免疫チェックポイントとしては、アデノシンA2Aレセプター(A2AR)、B7-H3(CD276としても知られる)、BおよびTリンパ球アテニュエーター(BTLA)、細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4(CD152としても知られるCTLA-4)、インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)、キラー細胞免疫グロブリン(KIR)、リンパ球活性化遺伝子-3(LAG3)、プログラム死1(PD-1)、T細胞免疫グロブリンドメインおよびムチンドメイン3(TIM-3)、ならびにT細胞活性化のV-ドメインIgサプレッサー(VISTA)が挙げられる。特に、免疫チェックポイント阻害剤は、PD-1軸および/またはCTLA-4を標的化する。
【0167】
免疫チェックポイント阻害剤は、小分子、組換え型のリガンドまたはレセプターなどの薬物であり得るか、または特に、ヒト抗体などの抗体である(例えば、国際特許公開WO2015016718;Pardoll,Nat Rev Cancer,12(4):252-64,2012;両方が参照により本明細書中に援用される)。免疫チェックポイントタンパク質またはそのアナログの公知の阻害剤が、使用され得、特に、キメラ化型、ヒト化型またはヒト型の抗体が使用され得る。当業者が承知しているように、代替のおよび/または等価な名称が、本開示において述べられるある特定の抗体に対して使用され得る。そのような代替のおよび/または等価な名称は、本開示の文脈において相互交換可能である。例えば、ランブロリズマブが、代替のおよび等価な名称であるMK-3475およびペンブロリズマブとしても知られていることは公知である。
【0168】
いくつかの実施形態において、PD-1結合アンタゴニストは、PD-1がそのリガンド結合パートナーに結合するのを阻害する分子である。具体的な態様において、PD-1リガンド結合パートナーは、PDL1および/またはPDL2である。別の実施形態において、PDL1結合アンタゴニストは、PDL1がその結合パートナーに結合するのを阻害する分子である。具体的な態様において、PDL1結合パートナーは、PD-1および/またはB7-1である。別の実施形態において、PDL2結合アンタゴニストは、PDL2がその結合パートナーに結合するのを阻害する分子である。具体的な態様において、PDL2結合パートナーは、PD-1である。アンタゴニストは、抗体、その抗原結合フラグメント、イムノアドヘシン、融合タンパク質またはオリゴペプチドであり得る。例示的な抗体は、米国特許第8735553号、同第8354509号および同第8008449号に記載されており、これらはすべて、参照により本明細書中に援用される。本明細書中に提供される方法において使用するための他のPD-1軸アンタゴニストは、当該分野で公知であり、例えば、米国特許出願第20140294898号、同第2014022021号および同第20110008369号に記載されているものである。これらの米国特許出願はすべて、参照により本明細書中に援用される。
【0169】
いくつかの実施形態において、PD-1結合アンタゴニストは、抗PD-1抗体(例えば、ヒト抗体、ヒト化抗体またはキメラ抗体)である。いくつかの実施形態において、抗PD-1抗体は、ニボルマブ、ペンブロリズマブおよびCT-011からなる群より選択される。いくつかの実施形態において、PD-1結合アンタゴニストは、イムノアドヘシン(例えば、定常領域(例えば、免疫グロブリン配列のFc領域)に融合されたPDL1またはPDL2の細胞外の部分またはPD-1結合部分を含むイムノアドヘシン)である。いくつかの実施形態において、PD-1結合アンタゴニストは、AMP-224である。MDX-1106-04、MDX-1106、ONO-4538、BMS-936558およびOPDIVO(登録商標)としても知られるニボルマブは、WO2006/121168に記載されている抗PD-1抗体である。MK-3475、Merck3475、ランブロリズマブ、KEYTRUDA(登録商標)およびSCH-900475としても知られるペンブロリズマブは、WO2009/114335に記載されている抗PD-1抗体である。hBATまたはhBAT-1としても知られるCT-011は、WO2009/101611に記載されている抗PD-1抗体である。B7-DCIgとしても知られるAMP-224は、WO2010/027827およびWO2011/066342に記載されているPDL2-Fc融合可溶性レセプターである。
【0170】
本明細書中に提供される方法において標的化され得る別の免疫チェックポイントは、CD152としても知られる細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4(CTLA-4)である。ヒトCTLA-4の完全cDNA配列は、Genbankアクセッション番号L15006を有する。CTLA-4は、T細胞の表面上に見られ、抗原提示細胞の表面上のCD80またはCD86に結合したとき「切」スイッチとして作用する。CTLA4は、ヘルパーT細胞の表面上に発現される免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーであり、T細胞に阻害シグナルを伝達する。CTLA4は、T細胞共刺激タンパク質であるCD28に似ており、両分子は、抗原提示細胞上のCD80およびCD86(それぞれB7-1およびB7-2とも呼ばれる)に結合する。CTLA4は、T細胞に阻害シグナルを伝達するのに対して、CD28は、刺激シグナルを伝達する。細胞内CTLA4は、制御性T細胞にも見られ、それらの細胞の機能にとって重要であり得る。T細胞レセプターおよびCD28を介したT細胞の活性化により、B7分子に対する阻害性レセプターであるCTLA-4が高発現される。
【0171】
いくつかの実施形態において、免疫チェックポイント阻害剤は、抗CTLA-4抗体(例えば、ヒト抗体、ヒト化抗体またはキメラ抗体)、それらの抗原結合フラグメント、イムノアドヘシン、融合タンパク質またはオリゴペプチドである。
【0172】
本方法における使用に適した抗ヒトCTLA-4抗体(またはそれ由来のVHおよび/もしくはVLドメイン)は、当該分野で周知の方法を用いて作製され得る。あるいは、当該分野で認められている抗CTLA-4抗体を使用することができる。例えば、US8,119,129、WO01/14424、WO98/42752;WO00/37504(トレメリムマブとしても知られ;以前はチシリムマブとしても知られた、CP675,206)、米国特許第6,207,156号;Hurwitz et al.(1998)Proc Natl Acad Sci USA 95(17):10067-10071;Camacho et al.(2004)J Clin Oncology 22(145):Abstract No.2505(抗体CP-675206);およびMokyr et al.(1998)Cancer Res 58:5301-5304に開示されている抗CTLA-4抗体が、本明細書中に開示される方法において使用され得る。上述の各刊行物の教示が、参照により本明細書に援用される。これらの当該分野で認められている任意の抗体とCTLA-4への結合について競合する抗体も使用され得る。例えば、ヒト化CTLA-4抗体が、国際特許出願番号WO2001014424、WO2000037504および米国特許第8,017,114号に記載されており、すべてが参照により本明細書中に援用される。
【0173】
例示的な抗CTLA-4抗体は、イピリムマブ(10D1、MDX-010、MDX-101およびYervoy(登録商標)としても知られる)またはその抗原結合フラグメントおよびバリアントである(例えば、WO01/14424を参照のこと)。他の実施形態において、その抗体は、イピリムマブの重鎖CDRおよび軽鎖CDRまたは重鎖VRおよび軽鎖VRを含む。したがって、1つの実施形態において、その抗体は、イピリムマブのVH領域のCDR1、CDR2およびCDR3ドメインならびにイピリムマブのVL領域のCDR1、CDR2およびCDR3ドメインを含む。別の実施形態において、その抗体は、CTLA-4上の、上述の抗体と同じエピトープへの結合について競合し、かつ/またはCTLA-4上の、上述の抗体と同じエピトープに結合する。別の実施形態において、その抗体は、上述の抗体に対して少なくとも約90%の可変領域アミノ酸配列同一性(例えば、イピリムマブと少なくとも約90%、95%または99%の可変領域同一性)を有する。
【0174】
CTLA-4を調節するための他の分子としては、CTLA-4リガンドおよびCTLA-4レセプター(例えば、米国特許第5844905号、同第5885796号ならびに国際特許出願番号WO1995001994およびWO1998042752(すべてが参照により本明細書中に援用される)に記載されているもの)、ならびにイムノアドヘシン(例えば、米国特許第8329867号(参照により本明細書中に援用される)に記載されているもの)が挙げられる。
4.手術
【0175】
癌を有する人のおよそ60%が、予防的手術、診断的手術または進行度診断手術、根治的手術および緩和手術をはじめとした何らかのタイプの手術を受ける。根治的手術には、癌性組織の全部または一部を物理的に除去、切除および/または破壊する摘出術が含まれ、他の治療(例えば、本実施形態の処置、化学療法、放射線療法、ホルモン療法、遺伝子治療、免疫療法および/または代替療法)と併せて使用され得る。腫瘍摘出術とは、腫瘍の少なくとも一部を物理的に除去することを指す。手術による処置には、腫瘍摘出術に加えて、レーザー手術、凍結手術、電気手術および顕微鏡下手術(モース術)が含まれる。
【0176】
癌性細胞、組織または腫瘍の一部または全部を切除する際、身体に空洞が形成され得る。処置は、さらなる抗癌療法によるその領域の灌流、直接注射または局所適用によって達成され得る。そのような処置は、例えば、1、2、3、4、5、6もしくは7日ごとに、または1、2、3、4および5週間ごとに、または1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11もしくは12ヶ月ごとに、反復され得る。これらの処置は、様々な投与量でもあり得る。
5.他の作用物質
【0177】
処置の治療効果を改善するために、本実施形態のある特定の態様と組み合わせて他の作用物質が使用され得ることが企図される。これらのさらなる作用物質としては、細胞表面レセプターおよびギャップ結合のアップレギュレーションに影響する作用物質、細胞分裂抑制剤および分化剤、細胞接着の阻害剤、アポトーシス誘導物質に対する過剰増殖細胞の感度を高める作用物質、または他の生物学的作用物質が挙げられる。ギャップ結合数を増加させることによる細胞間のシグナル伝達の増加は、隣接する過剰増殖細胞集団に対する抗過剰増殖効果を高め得る。他の実施形態では、処置の抗過剰増殖の有効性を改善するために、本実施形態のある特定の態様と組み合わせて細胞分裂抑制剤または分化剤が使用され得る。本実施形態の有効性を改善するために、細胞接着の阻害剤が企図される。細胞接着阻害剤の例は、接着斑キナーゼ(FAK)阻害剤およびロバスタチンである。アポトーシスに対する過剰増殖細胞の感度を高める他の作用物質(例えば、抗体c225)が、処置の有効性を改善するために本実施形態のある特定の態様と組み合わせて使用され得ることがさらに企図される。
V.製品またはキット
【0178】
免疫細胞を含む製品またはキットも本明細書中に提供される。その製品またはキットは、個体の癌を処置するためもしくは癌の進行を遅延させるためにまたは癌を有する個体の免疫機能を高めるために免疫細胞を使用するための指示を含む添付文書をさらに含み得る。本明細書中に記載される抗原特異的免疫細胞のいずれかが、その製品またはキットに含められ得る。好適な容器としては、例えば、ボトル、バイアル、バッグおよびシリンジが挙げられる。その容器は、ガラス、プラスチック(例えば、ポリ塩化ビニルまたはポリオレフィン)または金属合金(例えば、ステンレス鋼またはハステロイ)などの種々の材料から形成され得る。いくつかの実施形態において、その容器は、製剤およびラベルを保持し、そのラベルは、容器に付着しているかまたは関連付けられており、その容器には、使用法が示されている場合がある。その製品またはキットは、商業的な観点およびユーザーの観点から望ましい他の材料をさらに含むことがあり、それらの材料としては、他の緩衝液、希釈剤、フィルター、針、シリンジ、および使用するための指示を含む添付文書が挙げられる。いくつかの実施形態において、その製品は、1つ以上の別の作用物質(例えば、化学療法剤および抗悪性腫瘍剤)をさらに含む。その1つ以上の作用物質に適した容器としては、例えば、ボトル、バイアル、バッグおよびシリンジが挙げられる。
【実施例】
【0179】
VI.実施例
以下の実施例は、本開示の特定の実施形態を実証するために含められる。以下の実施例に開示される手法は、本開示の方法の実施において十分に機能すると本発明者が発見した手法であり、ゆえにその実施に対する特定の形式であると考えることができることが当業者によって認識されるべきである。しかしながら、当業者は、本開示に鑑みて、開示される具体的な実施形態において多くの変更を行うことができ、それらの変更は、本開示の趣旨および範囲から逸脱することなく、なおも同様または類似の結果をもたらすと認識するはずである。
実施例1-モジュール式ベクターシステム
【0180】
ベクターをγ-レトロウイルストランスファーベクターとして作製した。レトロウイルストランスファーベクターpSFG4は、5’LTR、プサイパッケージング配列および3’LTRを含む、モロニーマウス白血病ウイルス(MoMLV)由来のウイルス構成要素を有するpUC19プラスミド(HindIII制限酵素部位とEcoRI制限酵素部位との間に大型フラグメント[2.63kb])に基づく骨格を有した。LTRは、レトロウイルスのプロウイルスのどちらかの側に見られる末端反復配列であり、トランスファーベクターの場合、CARおよび関連する遺伝的構成要素などの目的の遺伝的積荷の両脇に置かれる。ヌクレオカプシドによるパッケージングのための標的部位であるプサイパッケージング配列も、5’LTRとCARコード配列との間にシスで挟まれた形で組み込まれた。したがって、pSFG4トランスファーベクターの基本構造は、pUC19配列-5’LTR-プサイパッケージング配列-目的の遺伝的積荷-3’LTR-pUC19配列のように略述され得る。
【0181】
例示的なベクターを
図2および
図3に示す。
図3において、ベクターDNAは、円形であり、慣例により、1位(円の上部にある12時の位置で、残りの配列は時計回りの向きである)が、5’LTRの開始点に設定されている。
【0182】
本明細書中に開示および特許請求される方法のすべてが、本開示に鑑みて、過度の実験を行うことなく実施および実行され得る。本発明の組成物および方法を好ましい実施形態の点から説明してきたが、本発明の概念、趣旨および範囲から逸脱することなく、本明細書中に記載された方法および方法の工程または工程の順序に変更が適用されてもよいことが当業者には明らかだろう。より詳細には、同じまたは類似の結果が達成される限り、化学的かつ生理的に関係するある特定の作用物質を本明細書中に記載される作用物質の代わりに用いてもよいことが明らかだろう。当業者に明らかなそのような類似の代替物および改変のすべてが、添付の請求項によって定義される本発明の趣旨、範囲および概念の範囲内であるとみなされる。
文献
以下に言及されたすべての刊行物は、各個別の刊行物の全体が参照により援用されると明確かつ個別に示されたのと同程度に、参照により本明細書中に援用される。
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