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特表2022-513133水素遅延破壊特性及びスポット溶接性に優れた熱間プレス用鉄-アルミニウム系めっき鋼板及びその製造方法
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  • 特表-水素遅延破壊特性及びスポット溶接性に優れた熱間プレス用鉄-アルミニウム系めっき鋼板及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-07
(54)【発明の名称】水素遅延破壊特性及びスポット溶接性に優れた熱間プレス用鉄-アルミニウム系めっき鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 2/28 20060101AFI20220131BHJP
   C23C 2/12 20060101ALI20220131BHJP
   C23C 2/40 20060101ALI20220131BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20220131BHJP
   C22C 38/06 20060101ALI20220131BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20220131BHJP
   C22C 21/02 20060101ALI20220131BHJP
   C22C 21/06 20060101ALI20220131BHJP
   C21D 9/00 20060101ALN20220131BHJP
   C21D 1/18 20060101ALN20220131BHJP
【FI】
C23C2/28
C23C2/12
C23C2/40
C22C38/00 301T
C22C38/00 302A
C22C38/06
C22C38/60
C22C21/02
C22C21/06
C21D9/00 A
C21D1/18 C
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021529449
(86)(22)【出願日】2019-11-29
(85)【翻訳文提出日】2021-07-21
(86)【国際出願番号】 KR2019016766
(87)【国際公開番号】W WO2020111883
(87)【国際公開日】2020-06-04
(31)【優先権主張番号】10-2018-0152573
(32)【優先日】2018-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2019-0156854
(32)【優先日】2019-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】オー、 ジン-クン
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ソン-ウ
(72)【発明者】
【氏名】キム、 サン-ホン
(72)【発明者】
【氏名】チョ、 ヨル-レ
【テーマコード(参考)】
4K027
4K042
【Fターム(参考)】
4K027AA05
4K027AA23
4K027AB02
4K027AB05
4K027AB13
4K027AB48
4K027AC64
4K027AC73
4K027AE12
4K027AE22
4K042AA25
4K042BA08
4K042BA11
4K042CA02
4K042CA05
4K042CA06
4K042CA08
4K042CA09
4K042CA10
4K042CA12
4K042CA13
4K042DA06
4K042DC02
4K042DC03
(57)【要約】
本発明は、素地鋼板;及び上記素地鋼板の表面に形成されためっき層を含み、上記合金めっき層は、立方構造(Cubic structure)のFe-Al系金属間化合物を含む拡散層;及び上記拡散層上に形成され、立方構造とは異なる合金相からなる合金化層;を含み、上記拡散層の厚さは3~20μmであり、上記拡散層の厚さは、上記めっき層の全体厚さの50%超過である鉄-アルミニウム系めっき鋼板及びその製造方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間プレス成形に用いられる鉄-アルミニウム系めっき鋼板であって、
素地鋼板;及び前記素地鋼板の表面に形成されためっき層;を含み、
前記めっき層は、
立方構造(Cubic structure)のFe-Al系金属間化合物を含む拡散層;及び前記拡散層上に形成され、前記立方構造とは異なる結晶構造からなる合金化層;を含み、
前記拡散層の厚さは3~20μmであり、
前記拡散層の厚さは、前記めっき層の全体厚さの50%超過である、鉄-アルミニウム系めっき鋼板。
【請求項2】
前記めっき層の厚さは5~20μmである、請求項1に記載の鉄-アルミニウム系めっき鋼板。
【請求項3】
前記めっき層は、重量%で、前記素地鋼板から拡散したFe含有量を除いた合金組成を100%とするとき、Si:0.0001~7%、Mg:1.1~15%、残部Al及びその他の不可避不純物を含む、請求項1に記載の鉄-アルミニウム系めっき鋼板。
【請求項4】
前記素地鋼板は、重量%で、C:0.04~0.5%、Si:0.01~2%、Mn:0.01~10%、Al:0.001~1.0%、P:0.05%以下、S:0.02%以下、N:0.02%以下、残部Fe及びその他の不可避不純物を含む、請求項1に記載の鉄-アルミニウム系めっき鋼板。
【請求項5】
前記素地鋼板は、重量%で、Cr、Mo及びWからなる群から選択された1種以上の合計:0.01~4.0%、Ti、Nb、Zr及びVからなる群から1種以上の合計:0.001~0.4%、Cu+Ni:0.005~2.0%、Sb+Sn:0.001~1.0%及びB:0.0001~0.01%のうち一つ以上をさらに含む、請求項4に記載の鉄-アルミニウム系めっき鋼板。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の鉄-アルミニウム系めっき鋼板を熱間プレス成形して得られた熱間プレス成形部材であって、
前記拡散層の厚さが前記めっき層の全体厚さの90%以上である、熱間プレス成形部材。
【請求項7】
前記熱間プレス成形部材内の拡散性水素含有量が0.1ppm以下であり、前記熱間プレス成形部材のスポット溶接の電流範囲が1kA以上である、請求項6に記載の熱間プレス成形部材。
【請求項8】
熱間プレス成形に用いられる鉄-アルミニウム系めっき鋼板の製造方法であって、
素地鋼板を用意する段階;
前記素地鋼板を、重量%で、Si:0.0001~7%、Mg:1.1~15%、残部Al及びその他の不可避不純物を含むアルミニウムめっき浴に浸漬して片面当たり10~40g/mのめっき量でめっきしてアルミニウムめっき鋼板を得る段階;及び
めっき後の前記アルミニウムめっき鋼板を670~900℃の加熱温度範囲で1~20秒維持して熱処理するオンライン(on-line)合金化により鉄-アルミニウム系めっき鋼板を得る段階;
を含む、鉄-アルミニウム系めっき鋼板の製造方法。
【請求項9】
前記アルミニウムめっき鋼板を得る段階の後に前記アルミニウムめっき鋼板の表面にアルミニウムパウダーを噴射する段階をさらに含む、請求項8に記載の鉄-アルミニウム系めっき鋼板の製造方法。
【請求項10】
前記アルミニウムパウダーの平均粒径は、5~40μmである、請求項9に記載の鉄-アルミニウム系めっき鋼板の製造方法。
【請求項11】
前記素地鋼板は、重量%で、C:0.04~0.5%、Si:0.01~2%、Mn:0.01~10%、Al:0.001~1.0%、P:0.05%以下、S:0.02%以下、N:0.02%以下、残部Fe及びその他の不可避不純物を含む、請求項8に記載の鉄-アルミニウム系めっき鋼板の製造方法。
【請求項12】
前記素地鋼板は、重量%で、Cr、Mo及びWからなる群から選択された1種以上の合計:0.01~4.0%、Ti、Nb、Zr及びVからなる群から1種以上の合計:0.001~0.4%、Cu+Ni:0.005~2.0%、Sb+Sn:0.001~1.0%及びB:0.0001~0.01%のうち一つ以上をさらに含む、請求項11に記載の鉄-アルミニウム系めっき鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素遅延破壊特性及びスポット溶接性に優れた熱間プレス用鉄-アルミニウム系めっき鋼板及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、石油エネルギー資源の枯渇及び環境に関する関心の高まりに伴い、自動車の燃費向上に対する規制は日々、強化されつつある。材料的側面から、自動車の燃費を向上させるための1つの方法として、用いられる鋼板の厚さを減少させる方法が挙げられるが、厚さを減少させる場合には、自動車の安全性に問題が生じる可能性があるため、必ず鋼板の強度向上が確保される必要がある。
【0003】
このような理由から、高強度鋼板に対する需要が継続的に発生し、様々な種類の鋼板が開発されている。ところが、かかる鋼板は、それ自体が高い強度を有するため加工性が不良であるという問題がある。すなわち、鋼板の等級別に強度と延伸率の積は常に一定の値を有する傾向を有していることから、鋼板の強度が高くなる場合には、加工性の指標となる延伸率が減少するという問題があった。
【0004】
かかる問題を解決するために、熱間プレス成形法が提案されている。熱間プレス成形法は、鋼板を加工しやすい高温で加工した後、これを低い温度で急冷することにより、鋼板内にマルテンサイトなどの低温組織を形成させ、最終製品の強度を高める方法である。この場合、高い強度を有する部材を製造するとき、加工性の問題を最小限に抑えることができるという利点がある。
【0005】
ところが、上記熱間プレス成形法によると、鋼板を高温で加熱する必要があることから鋼板の表面が酸化するにつれ、プレス成形後に鋼板表面の酸化物を除去する過程が追加されるという問題があった。かかる問題点を解決するための方法として、特許文献1が提案されている。上記発明では、アルミニウムめっきを行った鋼板を熱間プレス成形または常温成形後、加熱し急冷する過程(単に「後熱処理」とする)を用いている。アルミニウムめっき層が鋼板表面に存在するため、加熱時に鋼板が酸化することはないが、めっき層の厚さが厚くなる場合には、熱間プレス成形部材のスポット溶接性が悪くなる問題があった。
【0006】
一方、熱間プレス成形を経る場合、鋼板は1000MPa以上、場合によっては、1400MPa以上の強度を有することができ、最近では強度に対する要求水準がさらに高くなって、1800MPa以上の強度を有する場合もある。しかし、鋼板の強度が高くなると、水素遅延破壊に対して敏感になって少量の水素を含有する場合にも、鋼板が破断に至ることもある。また、アルミニウムめっき鋼板を熱間プレス成形する場合、鋼板の素地鉄から表面のめっき層までFeの拡散が起こるようになり、めっき層に合金化が起こり、このような合金化層によって熱間プレス成形時に浸透した水素が容易に抜けず、熱間プレス成形部材の耐水素特性が劣化する問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許公報第6,296,805号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の一側面によると、水素遅延破壊特性及びスポット溶接性に優れた熱間プレス成形用鉄-アルミニウム系めっき鋼板及びその製造方法を提供することができる。
【0009】
本発明の課題は、上述した内容に限定されない。本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者であれば、本発明の明細書の全体的な事項から本発明のさらなる課題を理解するのに何ら困難がない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一側面による鉄-アルミニウム系めっき鋼板は、素地鋼板;及び上記素地鋼板の表面に形成されためっき層を含み、上記めっき層は、立方構造(Cubic structure)のFe-Al系金属間化合物を含む拡散層;及び上記拡散層上に形成され、立方構造とは異なる結晶構造からなる合金化層;を含み、上記拡散層の厚さは3~20μmであり、上記拡散層の厚さは、上記めっき層の全体厚さの50%超過であることができる。
【0011】
上記めっき層の厚さは5~20μmであることができる。
【0012】
上記めっき層は、重量%で、素地鋼板から拡散したFe含有量を除いた残りの合金組成を100%とするとき、Si:0.0001~7%、Mg:1.1~15%を含むことができる。
【0013】
上記素地鋼板は、重量%で、C:0.04~0.5%、Si:0.01~2%、Mn:0.01~10%、Al:0.001~1.0%、P:0.05%以下、S:0.02%以下、N:0.02%以下、残部Fe及びその他の不可避不純物を含むことができる。
【0014】
上記素地鋼板は、重量%で、Cr、Mo及びWからなる群から選択された1種以上の合計:0.01~4.0%、Ti、Nb、Zr及びVからなる群から1種以上の合計:0.001~0.4%、Cu+Ni:0.005~2.0%、Sb+Sn:0.001~1.0%及びB:0.0001~0.01%のうち一つ以上をさらに含むことができる。
【0015】
本発明の他の一側面による熱間プレス成形部材は、上記鉄-アルミニウム系めっき鋼板を熱間プレス成形して得られ、拡散層の厚さがめっき層の全体厚さの90%以上であることができる。
【0016】
本発明の他の一側面による鉄-アルミニウム系めっき鋼板の製造方法は、素地鋼板を用意する段階;上記素地鋼板を重量%で、Si:0.0001~7%、Mg:1.1~15%、残部Al及びその他の不可避不純物を含むアルミニウムめっき浴に浸漬して片面当たり10~40g/mのめっき量でめっきしてアルミニウムめっき鋼板を得る段階;めっき後に上記アルミニウムめっき鋼板を冷却せず、連続して670~900℃の加熱温度範囲で1~20秒維持し、熱処理するオンライン(on-line)合金化を介して鉄-アルミニウム系めっき鋼板を得る段階;を含む。
【発明の効果】
【0017】
上述したように、本発明は、熱間プレス成形前のめっき鋼板の表面に立方構造を有する主にFe-Al系金属間化合物からなる安定した拡散層をめっき層の全体厚さの50%を超えて形成することにより、熱間プレス成形部材の水素遅延破壊特性及びスポット溶接性を顕著に向上させることができるという効果がある。
【0018】
また、本発明は、めっき浴のうちSi、Mg成分及び合金化熱処理の工程条件を適宜制御し、溶融アルミニウムめっき後に冷却せず、すぐに熱処理することで立方構造を有する主にFe-Al系金属間化合物からなる安定した拡散層を形成することができるとともに、製造コストが削減され、生産性が向上した鉄-アルミニウム系めっき鋼板の製造方法を提供することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一側面による製造方法が実現された製造装置を概略的に示したものである。
図2】発明例1によって製造された鉄-アルミニウム系めっき鋼板の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した写真である。
図3】比較例8によって製造された鉄-アルミニウム系めっき鋼板の断面を光学顕微鏡で観察した写真である。
図4】発明例1によって製造された鉄-アルミニウム系めっき鋼板を熱間プレス成形した後のめっき断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した写真である。
図5】比較例8によって製造された鉄-アルミニウム系めっき鋼板を熱間プレス成形した後のめっき断面を光学顕微鏡で観察した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0021】
本発明において、各元素の含有量を示すとき、「%」は特に断りのない限り、「重量%」を意味することに留意する必要がある。また、結晶や組織の割合は、特に異なって表現しない限り、面積を基準とする。
【0022】
本発明者らは、従来の熱間プレス成形時に、アルミニウムめっき鋼板に形成されるFe-Al系金属間化合物からなる複数層の合金相について深く研究した。その結果、上記Fe-Al系金属間化合物のうち立方構造(Cubic Structure)を有する合金相(例えば、FeAl(Si)、FeAlなど)は安定するが、その他の異なる合金相(例えば、FeAl、FeAlなど)は脆性(brittle)を有することを発見した。
【0023】
これについてより深く研究した結果、本発明者らは、熱間プレス成形後、水素が部材から除去されるが、水素が除去される様相は、熱間成形前の鋼板の表面に如何なる種類のめっき相が形成されるかによって大きく異なるという点と、特に形成された合金相でFeAlのような直方晶系(orthorhombic)結晶相がめっき層に形成されると、水素の移動が遮断されて鋼板中の水素が外部に排出されることができなくなるという点を発見した。かかる結果に基づいて、本発明者らは、立方構造を有する主にFe-Al系金属間化合物からなる拡散層をめっき層の全体厚さの50%超過になるように形成すると、熱間プレス形成後の部材で拡散層が90%以上形成され、優れた耐水素抵抗性を確保することができるという点に着目し、本発明を完成するに至った。
【0024】
以下、本発明の一側面による鉄-アルミニウム系めっき鋼板について詳細に説明する。
【0025】
[鉄-アルミニウム系めっき鋼板]
本発明の一実施形態による鉄-アルミニウム系めっき鋼板は、素地鋼板;及び上記素地鋼板の表面に形成されためっき層;を含み、上記めっき層は、立方構造(Cubic Structure)のFe-Al系金属間化合物を含む拡散層;及び上記拡散層上に形成され、立方構造とは異なる結晶構造からなる合金化層;を含み、上記拡散層の厚さは3~20μmであり、上記拡散層の厚さは、上記めっき層の全体厚さの50%超過であることを特徴とする。
【0026】
通常的に、アルミニウムめっき鋼板について熱間プレス成形を行う場合、素地鋼板のFeがAl含有量が高いアルミニウムめっき層に拡散し、複数層の様々な硬質の合金相であるFe-Al系金属間化合物が現れるようになる。この場合、素地鋼板に近い側では、主に耐水素脆性に優れた立方構造(Cubic structure)のFe-Al系金属間化合物からなる層が形成されて安定するが、表面に向かうにつれ、直方晶系などの結晶構造を有する合金相が形成され、このような結晶相がめっき層に形成されると、水素の移動が遮断されて鋼板中の水素が外部に排出されることができなくなり、耐水素の特性が劣化する。
【0027】
このような従来の問題を解決するために、本発明の一側面による鉄-アルミニウム系めっき鋼板では、図2に示すように、立方構造(Cubic structure)のFe-Al系金属間化合物からなる拡散層の厚さを3~20μm及び全体めっき層の厚さの50%超過である条件を満たすように形成する。
【0028】
まず、本発明の一実施形態によると、上記拡散層は、立方構造を有するFe-Al系金属間化合物を含むことができる。また、上記拡散層は、立方構造のFe-Al系金属間化合物を主に含むことができる。
【0029】
具体的には、本発明の一実施形態によると、上記拡散層は、立方構造のFe-Al系金属間化合物を50%以上含むことができ、80%以上含むことが好ましく、90%以上含むことがより好ましく、95%以上含むことが一層好ましい。
【0030】
また、本発明の一実施形態によると、上記拡散層は、立方構造のFe-Al系金属間化合物を主に含み、 不可避に含まれる不純物及びめっき浴に含まれる余地がある他の元素も少量含むことができる。
【0031】
例えば、Mgを添加すると、拡散層のうちFe-Al系金属間化合物の合金相にMgが一部含まれることもでき、拡散層はFe-Al-Mg系合金相を含む他の合金相も含むことができる。
【0032】
立方構造を有するFe-Al系金属間化合物からなることができる。このようなFe-Al系金属間化合物において立方構造は、Fe含有量が比較的高い領域で形成され、合金化熱処理時に素地鋼板のFeがアルミニウムめっき層に拡散することで形成される。また、これに制限するものではないが、立方構造を有するFe-Al系金属間化合物の合金相としては、FeAl(Si)、FeAlなどが挙げられる。
【0033】
上記拡散層の厚さが3μm未満であると、耐食性が劣化し、これに対し、拡散層の厚さが20μmを超えると、溶接性が低下する問題が生じる。したがって、上記拡散層の厚さは、3~20μmの厚さに制限することが好ましく、3.7~17.9μmの厚さであることがより好ましい。
【0034】
また、上記拡散層の厚さは、合金化層を含むめっき層の全体厚さの50%超過であることができ、或いは54%以上であることができる。また、70%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。上記拡散層の厚さがめっき層の全体厚さの50%を超えると、この後の熱間プレス成形部材のめっき層で立方構造のFe-Al系金属間化合物の厚さが90%以上を占めるめっき層の構造を容易に得ることができる。耐水素抵抗性の観点から、立方構造を有するFe-Al系金属間化合物の割合が高いほど好ましいため、その上限は限定しなくてもよい。
【0035】
また、上記めっき層の厚さは4.5~20μmであることができる。上記めっき層の厚さが4.5μm未満であると、耐食性が劣化し、これに対し、上記めっき層の厚さが20μmを超えると、熱間プレス成形前のめっき層で拡散層を50%超過して確保することが困難になり、たとえ、拡散層を50%超過して確保しても熱間プレス成形後のめっき層の厚さが過度に厚くなって、スポット溶接性を確保し難くなるという問題が生じる。したがって、本発明において、上記めっき層の厚さは4.5~20μmであることができ、4.5~18.9μmであることがより好ましい。
【0036】
本発明の一実施形態によると、上記めっき層は、重量%で、素地鋼板から拡散したFe含有量を除いた残りの合金組成を100%とするとき、Si:0.0001~7%、Mg:1.1~15%、残部Al及びその他の不可避不純物を含むことができる。
【0037】
より詳細には、本発明の一実施形態において、Siは0.0001~7%含むことができる。上記Siは、めっき層内でFeとの合金化を均一にする役割を果たし、このような効果を得るためには、少なくとも0.0001%以上含まれる必要がある。一方、SiはFeの拡散を抑制する役割も果たすため、7%を超えて含有される場合、Feの拡散が過度に抑制され、本発明が所望するめっき構造が得られなくなる。上記Si含有量は、0.03~7%であることができ、1~7%であることが好ましく、4~7%であることがより好ましい。
【0038】
一方、Mgはめっき鋼板の耐食性を向上させる役割を果たし、合金化速度を増加させる効果もある。上記効果を得るためには、少なくとも1.1%以上含まれる必要があるが、15%を超えて含まれる場合、溶接性及び塗装性が劣化する問題が生じるおそれがある。Mg含有量は1.2~12.5%であることが好ましく、1.1~10%であることがより好ましく、1.1~5%であることが一層好ましい。また、めっき層内のMgは、表面側に拡散する傾向があるため、上記めっき層の表面から0.5μmの深さでGDS(glow discharge spectrometer)を用いて測定したMg含有量は、1~20重量%であることができる。
【0039】
本発明の一実施形態によると、上記めっき層の表面から0.1μmの深さでGDS(glow discharge spectrometer)を用いて測定した酸素が10重量%以下であることができ、上記GDSは、米国LECO社のGDS 850A(機器名)を使用して測定することができる。めっき層の表面の酸素が10重量%を超えると、めっき鋼板の表面に汚れが生じ、表面品質が劣化することがある。一方、めっき層の表面における酸素は少ないほど有利であるため、その下限は制限しなくてもよい。
【0040】
本発明の一実施形態によると、素地鋼板(素地鉄)は、熱間プレス成形用鋼板として熱間プレス成形に使用される場合、特に制限しなくてもよい。但し、一つの非制限的な例を挙げると、素地鋼板は重量%で、C:0.04~0.5%、Si:0.01~2%、Mn:0.01~10%、Al:0.001~1.0%、P:0.05%以下、S:0.02%以下、及びN:0.02%以下を含む組成を有することができる。
【0041】
C:0.04~0.5%
上記Cは、熱処理部材の強度を向上させるための必須元素であって、適正量で添加することができる。すなわち、熱処理部材の強度を十分に確保するために、上記Cは0.04%以上添加することができる。上記C含有量の下限は0.1%以上であることが好ましい。但し、その含有量が高すぎると、冷延材を生産する場合、熱延材を冷間圧延する際に熱延材の強度が高すぎ、冷間圧延性が大きく劣化するだけでなく、スポット溶接性を大きく低下させるため、十分な冷間圧延性及びスポット溶接性を確保するために0.5%以下添加することができる。また、上記C含有量は、0.45%以下であることができ、0.4%以下に制限することがより好ましい。
【0042】
Si:0.01~2%
上記Siは、製鋼において脱酸剤として添加される必要があるだけでなく、熱間プレス成形部材の強度に最も大きく影響を与える炭化物の生成を抑制する役割を果たす。本発明では、熱間プレス成形におけるマルテンサイトの生成後に、マルテンサイトラス(lath)粒界に炭素を濃化させて残留オーステナイトを確保するために0.01%以上の含有量で添加することができる。また、圧延後の鋼板にアルミニウムめっきを行う際に、十分なめっき性を確保するために、上記Si含有量の上限を2%に定めることができる。上記Si含有量を1.5%以下に制限することも好ましい。
【0043】
Mn:0.01~10%
上記Mnは、固溶強化の効果を確保することができるだけでなく、熱間プレス成形部材においてマルテンサイトを確保するための臨界冷却速度を下げるために、0.01%以上の含有量で添加することができる。また、鋼板の強度を適切に維持することにより、熱間プレス成形工程の作業性を確保し、製造コストを削減し、スポット溶接性を向上させるという点から、上記Mn含有量は10%以下に制限することができる。上記Mn含有量は、9%以下であることが好ましく、場合によっては、8%以下であることができる。
【0044】
Al:0.001~1.0%
上記Alは、Siと共に製鋼において脱酸作用を行って、鋼の清浄度を高めることができ、上記効果を得るために、0.001%以上の含有量で添加することができる。また、Ac3温度が高すぎないようにして熱間プレス成形時に必要な加熱が適切な温度範囲で行われるようにするために、上記Al含有量は、1.0%以下に制限することができる。
【0045】
P:0.05%以下
上記Pは、鋼内に不純物として存在し、できるだけその含有量が少ないほど有利である。したがって、本発明において、P含有量を0.05%以下に制限することができ、0.03%以下に制限することが好ましい。Pは少ないほど有利である不純物元素であるため、その含有量の上限を特に定める必要はない。但し、P含有量を過度に下げるためには、製造コストが上昇するおそれがあるため、これを考慮すると、その下限を0.001%とすることができる。
【0046】
S:0.02%以下
上記Sは、鋼中不純物として部材の延性、衝撃特性、及び溶接性を阻害する元素であるため、最大含有量を0.02%に制限し、さらに0.01%以下に制限することが好ましい。また、その最小含有量が0.0001%未満であると、製造コストが上昇するおそれがあるため、その含有量の下限を0.0001%とすることができる。
【0047】
N:0.02%以下
上記Nは、鋼中に不純物として含まれる元素であって、スラブの連続鋳造時にクラック発生に対する敏感度を減少させ、衝撃特性を確保するためには、その含有量が低いほど有利であることから、0.02%以下含むことができる。下限を特に定める必要はないが、製造コストの上昇などを考慮すると、N含有量を0.001%以上に定めることができる。
【0048】
本発明では、必要に応じて選択的に上述した鋼の組成に加えて、Cr、Mo及びWからなる群から選択された1種以上の合計:0.01~4.0%、Ti、Nb、Zr及びVからなる群から1種以上の合計:0.001~0.4%、Cu+Ni:0.005~2.0%、Sb+Sn:0.001~1.0%及びB:0.0001~0.01%のうち一つ以上をさらに添加することができる。
【0049】
Cr、Mo及びWからなる群から選択された1種以上の合計:0.01~4.0%
上記Cr、Mo及びWは、硬化能の向上と、析出強化の効果による強度及び結晶粒微細化を確保することができるため、これらの1種以上を含有量の合計基準で0.01%以上添加することができる。また、部材の溶接性を確保するために、その含有量を4.0%以下に制限することもできる。なお、これら元素の含有量が4.0%を超えると、効果が飽和するため、含有量を4.0%以下に制限することができる。
【0050】
Ti、Nb、Zr及びVからなる群から選択された1種以上の合計:0.001~0.4%
上記Ti、Nb及びVは、微細析出物の形成によって熱処理部材の鋼板の向上と、結晶粒微細化によって残留オーステナイトの安定化、及び衝撃靭性の向上に効果があるため、これらのうち1種以上を含有量の合計で0.001%以上添加することができる。但し、その添加量が0.4%を超えると、その効果が飽和するだけでなく、過度な合金鉄の添加によってコストの上昇を招くおそれがある。
【0051】
Cu+Ni:0.005~2.0%
上記Cu及びNiは、微細析出物を形成して強度を向上させる元素である。上述した効果を得るために、これらのうち一つ以上の成分の合計を0.005%以上にすることができる。但し、その値が2.0%を超えると、過度なコスト増加となるため、その上限を2.0%とすることができる。
【0052】
Sb+Sn:0.001~1.0%
上記Sb及びSnは、Al-Siめっきのための焼鈍熱処理時に、表面に濃化してSiまたはMn酸化物が表面に形成されることを抑制することで、めっき性を向上させることができる。このような効果を得るためには0.001%以上添加することができる。但し、その添加量が1.0%を超えると、過度な合金鉄のコストがかかるだけでなく、スラブの粒界に固溶し、熱間圧延時のコイルのエッジ(edge)クラックを誘発させる可能性があるため、その上限を1.0%とする。
【0053】
B:0.0001~0.01%
上記Bは、少量の添加でも硬化能を向上させるだけでなく、旧オーステナイト結晶粒界に偏析されて、P及び/またはSの粒界偏析による熱間プレス成形部材の脆性を抑制することができる元素である。したがって、Bは0.0001%以上添加することができる。但し、0.01%を超えると、その効果が飽和するだけでなく、熱間圧延において脆性をもたらすため、その上限を0.01%とすることができる。一実施形態では、上記B含有量を0.005%以下にすることができる。
【0054】
上述した成分以外の残部としては、鉄(Fe)及び不可避不純物が挙げられるが、熱間プレス成形用鋼板に含まれることができる成分であれば、特に追加的な添加を制限しない。
【0055】
上述した層構造を有するめっき層からなる鉄-アルミニウム系めっき鋼板を880~950℃の温度範囲、3~10分の熱処理後に、熱間プレス成形して熱間プレス成形部材を製造すると、熱間プレス成形部材のめっき層の90%以上が立方構造(Cubic structure)のFe-Al系金属間化合物からなり、熱間プレス成形時に鋼材内に浸透した水素が容易に抜け出し、鋼材内の拡散性水素含有量を0.1ppm以下にすることができ、耐水素の特性が向上することができる。また、スポット溶接の電流範囲が1kA以上を満たしてスポット溶接性が向上することができる。
【0056】
以下では、本発明の他の一側面による熱間プレス成形用鉄-アルミニウム系めっき鋼板の製造方法を詳細に説明する。但し、下記熱間プレス成形用鉄-アルミニウム系めっき鋼板の製造方法は、一例示であるだけであって、本発明の熱間プレス成形用鉄-アルミニウム系めっき鋼板が必ずしも本製造方法によって製造される必要があるというわけではなく、如何なる製造方法であっても本発明の特許請求の範囲を満たす方法であれば、本発明の各実施形態を実現するのに何ら問題がないことに留意する必要がある。
【0057】
[鉄-アルミニウム系めっき鋼板の製造方法]
本発明の他の一側面による鉄-アルミニウム系めっき鋼板の製造方法は、熱間圧延または冷間圧延された素地鋼板の表面に片面当たり10~40g/mのめっき量で溶融アルミニウムめっきを行い、めっき工程に連続してすぐに熱処理するオンライン(on-line)合金化処理を行うことで得られる。
【0058】
アルミニウムめっき鋼板を得る段階
本発明の一実施形態では、素地鋼板を用意し、上記素地鋼板を重量%で、Si:0.0001~7%、Mg:1.1~15%、残部Al及びその他の不可避不純物を含むアルミニウムめっき浴に浸漬して素地鋼板の表面に片面当たり10~40g/mのめっき量でアルミニウムをめっきすることで、アルミニウムめっき鋼板を得ることができる。一方、上記めっき量は片面当たり11~38g/mであることがより好ましい。また、選択的にめっき前の鋼板に対して焼鈍処理を行うこともできる。
【0059】
アルミニウムパウダーを噴射する段階
上記アルミニウムめっき後、必要に応じて、上記アルミニウムめっき鋼板の表面にアルミニウムパウダーを噴射することができる。アルミニウムパウダーは、表面を局部的に冷却させるだけでなく、表面のスパングル(spangle)を微細化することができる。この時、アルミニウムパウダーによって局部的に表面だけが冷却されると、この後のオンライン合金化過程でめっき層にあるMgが表面に拡散することをより抑制して、熱間プレス成形後、Mgが表面に拡散して生成されるMg酸化物を減らすことができ、スポット溶接性を向上させることができる。また、表面のスパングルを微細化することで、熱間プレス成形後の表面を均一に生成させることができる利点がある。
【0060】
上記アルミニウムパウダーの平均粒径は、5~40μmであることができ、10~30μmであることがより好ましい。上記アルミニウムパウダーの平均粒径が5μm未満であると、表面の冷却及びスパングル微細化の効果に劣り、これに対し、平均粒径が40μmを超えると、めっき層に十分溶解されず、表面に残存して表面品質の問題を引き起こすおそれがある。
【0061】
本発明において、アルミニウムパウダーの噴射量は、パウダー噴射後の表面温度が640℃未満に低下しない条件を満たす限度内で決定されることができる。パウダー噴射後の鋼板表面温度が640℃未満に低下すると、後続のオンライン合金化熱処理における合金化のために、より多くの出力を加える必要があるため、設備に負荷が発生するおそれがある。アルミニウムパウダーの噴射量は、鋼板表面温度と関連があるが、上記鋼板表面温度は、実施時の工程条件、設備、環境条件などによって大きく異なる可能性があるため、一律に定めることができない。したがって、アルミニウムパウダー噴射量は、上記条件を満たせばよいことから、その具体的な噴射量の範囲は、特に限定しなくてもよい。但し、非限定的な一実施形態として上記アルミニウムパウダーはアルミニウムめっき鋼板の1m当たり0.01~10gの範囲内で噴射することができる。
【0062】
合金化熱処理して鉄-アルミニウム系めっき鋼板を得る段階
上記アルミニウムめっき後に最小限の空冷を経た後、すぐに連続して熱処理するオンライン(on-line)合金化処理を行うことができる。また、アルミニウムめっき後に選択的にアルミニウムパウダーを噴射する場合、パウダー噴射後、すぐに連続してオンライン合金化処理を行うことができる。このとき、合金化熱処理時の加熱温度範囲は、670~900℃であることができ、維持時間は1~20秒であることができる。
【0063】
本発明において、オンライン合金化処理は、図1に示されたとおり、溶融アルミニウムめっき、または溶融アルミニウムめっき及びアルミニウムパウダーの噴射後の最小限の空冷後に昇温して熱処理する工程を意味する。本発明によるオンライン合金化方式では、溶融アルミニウムめっき後のめっき層が冷却されて固まる前に熱処理が開始されるため、別途の昇温過程が必要でなく、短い時間で熱処理が可能である。但し、従来通常のめっき層が厚いアルミニウムめっき鋼板は、その厚さにより短い時間内に合金化を完了させることができなかったため、めっき後すぐに熱処理するオンライン(on-line)合金化方法を適用することが難しかった。しかし、本発明では、上述のめっき浴成分の調節とともに、アルミニウムめっき層のめっき量を片面当たり10~40g/mに制御することで、1~20秒の短い熱処理時間にも関わらず、アルミニウムめっき層の合金化を効果的に完了することができる。
【0064】
上記加熱温度は、熱処理される鋼板の表面温度を基準とする。加熱温度が670℃未満であると、合金化が不十分になる問題が生じるおそれがあり、これに対し、加熱温度が900℃を超えると、合金化の後に冷却させ難く、冷却速度を速くする場合は、素地鋼板の強度が非常に高くなる問題が生じるおそれがある。したがって、合金化熱処理時の加熱温度は、670~900℃に制限することが好ましく、680~880℃であることがより好ましく、700~800℃であることが一層好ましい。
【0065】
一方、合金化熱処理時の維持時間は、1~20秒に制限することができる。本発明における維持時間は、鋼板で上記加熱温度(偏差±10℃を含む)が維持される時間を意味する。上記維持時間が1秒未満であると、加熱時間が短すぎて、十分な合金化が行われない。これに対し、上記維持時間が20秒を超えると、生産性が低下しすぎる問題が生じるおそれがある。したがって、合金化熱処理時の維持時間は、1~20秒に制限することが好ましく、1~12秒であることがより好ましく、1~10秒であることが一層好ましい。
【0066】
合金化熱処理による拡散層の形成は、熱処理温度及び維持時間に依存するが、同時にアルミニウムめっき層に含まれたSi及びMgの含有量にも影響を受ける。アルミニウムめっき層内に含まれたSiが少ないほど、且つMgが多いほど、合金化速度が増加するようになるため、拡散層の厚さも厚くなることがある。本発明のように、オンライン熱処理を行う場合、箱焼鈍方式に比べて熱処理時間が比較的非常に短いため、その工程条件を細かく制御しないと、十分な厚さの拡散層を得ることができない。したがって、本発明者らはSi及びMgの含有量及び熱処理条件を制御することで、1~20秒の短い熱処理時間にも関わらず、十分な厚さの拡散層を効果的に得ることができる。
【0067】
一方、本発明の他の一実施形態によると、上述した本発明の鉄-アルミニウム系めっき鋼板を熱間プレス成形して得られた熱間プレス成形部材が提供されることができる。このとき、熱間プレス成形は、当該技術分野で一般的に用いられる方法を利用することができ、例えば、本発明による鉄-アルミニウム系めっき鋼板を880~950℃の温度範囲で3~10分加熱した後、プレス(press)を用いて、上記加熱された鋼板を所望する形状に熱間成形することができるが、これに限定されるものではない。また、本発明の熱間プレス成形部材は、素地鋼板の表面に立方構造のFe-Al系金属間化合物からなる拡散層の厚さがめっき層の全体厚さの90%以上であることができる。また、熱間プレス成形部材の素地鋼板の組成は、上述した鉄-アルミニウム系合金めっき鋼板の素地鋼板の組成と同一であることができる。
【実施例
【0068】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。但し、下記実施例は、本発明を例示して、より詳細に説明するためのものにすぎず、本発明の権利範囲を限定するためのものではない点に留意する必要がある。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項と、それから合理的に類推される事項によって決定されるものであるためである。
【0069】
(実施例)
まず、素地鋼板に下記表1の組成を有する熱間プレス成形用冷間圧延鋼板を用意し、上記素地鋼板表面に、下記表2に示しためっき浴組成、めっき浴温度660℃及び合金化熱処理条件でアルミニウムめっき及び合金化熱処理を実施した。
【0070】
そして、合金化熱処理後に冷却した後、上記方法によって得られた鉄-アルミニウム系めっき鋼板の合金化めっき層の構造を光学顕微鏡及び走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、めっき層及び拡散層の厚さを確認した。
【0071】
また、合金化層の部分を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した図2のうち、拡散層部分に対するEDS分析を行い、この相が立方構造を有するFeAl及びFeAlであることを確認した。
【0072】
また、図2のうち、拡散層上に形成される合金化層の部分に対するEDS分析を行い、重量%で、Al:48%、Fe:50%、Si:2%を検出し、この相が立方構造ではなく、直方晶系(orthorhombic)構造を有するFeAlであることを確認した。
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】
【0075】
以後、それぞれの鉄-アルミニウム系めっき鋼板について大気雰囲気において、930℃で6分間鋼板を加熱した後、熱間プレス成形を行って熱間プレス成形部材を得た。その後、上記部材のめっき層構造を観察し、拡散性水素含有量及びスポット溶接性を測定して表3に示した。拡散性水素含有量は、ガスクロマトグラフィー法を用いて試験片を300℃まで加熱して放出される水素含有量を測定し、スポット溶接性はISO 18278に基づいて評価し、電流範囲を分析した。
【0076】
【表3】
【0077】
上記表1~3から分かるとおり、発明例1~12は、本発明で提示するめっき浴成分及び合金化熱処理条件をすべて満たし、めっき鋼板で立方構造であるFe-Al系金属間化合物の合金相を含む拡散層の厚さ割合は50%以上であった。
【0078】
また、熱間プレス成形部材を製造したとき、鋼材内の拡散性水素含有量は0.1ppm以下であり、スポット溶接の電流範囲が1kA以上を満たして水素遅延破壊特性及びスポット溶接性に優れることが確認できる。
【0079】
しかし、比較例1及び4は、合金化熱処理温度が670℃未満である場合であって、比較例1は、拡散層が十分形成されず、拡散層の厚さ割合が50%以下であり、比較例4は、拡散層が厚さ3μm未満で形成された。これにより、比較例1及び4のめっき鋼板で製造した熱間プレス成形部材では拡散層の厚さ割合が90%未満となり、水素が容易に抜けず、拡散性水素含有量が0.1ppm以上となり、耐水素の特性が劣化した。
【0080】
比較例2及び6は、合金化熱処理温度が900℃を超えた場合であって、めっき層及び拡散層の厚さが20μmを超えて過度に形成された。これにより、熱間プレス成形部材において、スポット溶接の電流範囲が1kA未満となってスポット溶接の特性が劣化した。
【0081】
一方、比較例3及び5は、合金化熱処理時の維持時間が本発明の範囲から外れた場合であって、比較例3の場合、熱処理時間が非常に短く、拡散層が十分形成されず、熱間プレス成形部材の拡散層の厚さ割合が75%と小さく、耐水素特性が低下した。また、比較例6の場合、熱処理時間が25秒と長く、めっき層の厚さが20μmを超えており、これにより、スポット溶接性が劣化した。
【0082】
比較例7、9及び10は、アルミニウムめっき浴の成分のうち、SiまたはMgの含有量が本発明の条件を満たしていない実施例である。比較例7は、Mgが添加されていない場合であり、比較例9は、Siが7%を超えて添加された場合であって、合金化速度が遅くなって拡散層が十分形成されず、これにより、熱間プレス成形部材で鋼材内の拡散性水素含有量が高くなるにつれ、耐水素抵抗性が低下した。また、比較例10は、Mgが15%を超えて添加され、めっき層が厚さ20μmを超えて形成され、これにより、スポット溶接性が劣化した。
【0083】
比較例8は、アルミニウムめっき量が本発明の範囲から外れた場合であり、めっき層の厚さが26.7μmと厚くなって拡散層の厚さ割合が減り、耐水素抵抗性が劣化した。
【0084】
以上の実施例を参照して説明したが、当該技術分野の熟練した通常の技術者は、下記の特許請求の範囲に記載された本発明の思想及び領域から逸脱しない範囲内で本発明を多様に修正及び変更させることができることを理解することができる。
【符号の説明】
【0085】
1 熱処理炉
2 アルミニウムめっき浴
3 アルミニウムパウダー噴射装置
4 合金化熱処理装置
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】