(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-07
(54)【発明の名称】めっき密着性及び耐腐食性に優れた亜鉛めっき鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 2/06 20060101AFI20220131BHJP
C23C 2/40 20060101ALI20220131BHJP
C23C 2/26 20060101ALI20220131BHJP
C22C 18/04 20060101ALI20220131BHJP
C22C 18/00 20060101ALI20220131BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20220131BHJP
C22C 38/06 20060101ALN20220131BHJP
【FI】
C23C2/06
C23C2/40
C23C2/26
C22C18/04
C22C18/00
C22C38/00 301T
C22C38/06
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021529848
(86)(22)【出願日】2019-11-27
(85)【翻訳文提出日】2021-07-02
(86)【国際出願番号】 KR2019016475
(87)【国際公開番号】W WO2020111775
(87)【国際公開日】2020-06-04
(31)【優先権主張番号】10-2018-0150031
(32)【優先日】2018-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2019-0150456
(32)【優先日】2019-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】ハン、 ド-キョン
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ヒュン-ユン
【テーマコード(参考)】
4K027
【Fターム(参考)】
4K027AA05
4K027AB05
4K027AB07
4K027AB44
4K027AC64
4K027AE02
4K027AE03
4K027AE22
(57)【要約】
本発明の一側面は、めっき密着性に優れるだけでなく、一定水準のFe溶出によりめっき層の摩擦特性が向上し、優れた耐腐食性を有する亜鉛めっき鋼板及びその製造方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
素地鋼板と、前記素地鋼板の少なくとも一面に形成された亜鉛めっき層と、を含み、
前記亜鉛めっき層は、重量%で、アルミニウム(Al):5.1~35.0%、マグネシウム(Mg):4.0~25.0%、残部亜鉛(Zn)及びその他の不可避不純物を含み、
前記素地鋼板と亜鉛めっき層との界面に、厚さ0.01~15μmのAl-Fe抑制層を含む、めっき密着性及び耐腐食性に優れた亜鉛めっき鋼板。
【請求項2】
前記亜鉛めっき層は、Feの含量が40~95%である第1領域と、Feの含量が0.01%以上~40%未満である第2領域と、を含み、
前記第2領域は、前記亜鉛めっき層の表層部に面積分率0.01~40%で形成される、請求項1に記載のめっき密着性及び耐腐食性に優れた亜鉛めっき鋼板。
【請求項3】
前記亜鉛めっき層は、重量%で、アルミニウム(Al):11~15%、マグネシウム(Mg):5.1~9.0%、残部亜鉛(Zn)及びその他の不可避不純物を含む、請求項1に記載のめっき密着性及び耐腐食性に優れた亜鉛めっき鋼板。
【請求項4】
前記亜鉛めっき層は表面粗さ(Ra)が3~4μmである、請求項1に記載のめっき密着性及び耐腐食性に優れた亜鉛めっき鋼板。
【請求項5】
重量%で、アルミニウム(Al):5.1~35.0%、マグネシウム(Mg):4.0~25.0%、残部亜鉛(Zn)及びその他の不可避不純物を含む亜鉛めっき浴を準備する段階と、
前記亜鉛めっき浴に素地鋼板を浸漬し、めっきを行って亜鉛めっき鋼板を製造する段階と、
前記亜鉛めっき鋼板を冷却する段階と、を含み、
前記亜鉛めっき浴の温度は555℃超過~600℃未満であり、前記素地鋼板の引込温度は565℃超過~600℃未満である、めっき密着性及び耐腐食性に優れた亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記素地鋼板の引込温度が、前記亜鉛めっき浴の温度に比べて5~20℃高い、請求項5に記載のめっき密着性及び耐腐食性に優れた亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記冷却は、230~270℃まで0.01~5℃/sの冷却速度で冷却する段階と、常温まで0.05~20℃/sの冷却速度で冷却する段階と、を含む、請求項5に記載のめっき密着性及び耐腐食性に優れた亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項8】
前記冷却はガスを噴射して行う、請求項5に記載のめっき密着性及び耐腐食性に優れた亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項9】
前記冷却を行う前に、前記亜鉛めっき鋼板をガスワイピングする段階をさらに含む、請求項5に記載のめっき密着性及び耐腐食性に優れた亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項10】
前記亜鉛めっき浴は、重量%で、アルミニウム(Al):11~15%、マグネシウム(Mg):5.1~9.0%、残部亜鉛(Zn)及びその他の不可避不純物を含む、請求項5に記載のめっき密着性及び耐腐食性に優れた亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛めっき鋼板に関し、より詳細には、めっき密着性及び耐腐食性に優れた亜鉛めっき鋼板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の溶融亜鉛めっき鋼板は、母材鋼板とめっき層との間(界面)に形成されるFe-Al抑制層(inhibition layer)が存在し、かかる抑制層は、母材鋼板とめっき層との界面でめっき密着力を確保するとともに、母材からめっき層への、濃度勾配によるFeの拡散を抑えることで知られている。
【0003】
母材とめっき層との界面に抑制層が連続的に形成されない場合、母材中のFeがめっき層中に溶出し、めっき密着力が低下することにより、めっき層が剥離するという問題がある。したがって、一定水準以上のめっき密着力を確保するためには、抑制層が連続的に形成される必要がある。
【0004】
一方、母材中のFeがめっき層に拡散する場合、めっき層の粗さ及び表面粗さの向上といった、摩擦特性に関する効果が得られる。
【0005】
しかし、母材とめっき層との界面に抑制層が連続的に形成される場合には、Feの拡散が抑えられ、上記摩擦特性に関する効果の利用するのに多くの制約がある。
【0006】
そこで、めっき密着力を維持しながらも、Feの拡散による効果を同時に得ることができる方法に関する技術の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】韓国公開特許第10-2015-0074882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の一側面は、めっき密着性に優れるだけでなく、一定水準のFeの溶出によりめっき層の摩擦特性が向上し、優れた耐腐食性を有する亜鉛めっき鋼板及びその製造方法を提供することをその目的とする。
【0009】
本発明の課題は上述の内容に限定されない。本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者であれば、本発明の明細書に記載された内容から本発明の付加的な課題を理解するのに何ら困難がない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一側面は、素地鋼板と、上記素地鋼板の少なくとも一面に形成された亜鉛めっき層と、を含み、上記亜鉛めっき層は、重量%で、アルミニウム(Al):5.1~35.0%、マグネシウム(Mg):4.0~25.0%、残部亜鉛(Zn)及びその他の不可避不純物を含み、上記素地鋼板と亜鉛めっき層との界面に、厚さ0.01~15μmのAl-Fe抑制層を含む、めっき密着性及び耐腐食性に優れた亜鉛めっき鋼板を提供する。
【0011】
本発明の他の一側面は、重量%で、アルミニウム(Al):5.1~35.0%、マグネシウム(Mg):4.0~25.0%、残部亜鉛(Zn)及びその他の不可避不純物を含む亜鉛めっき浴を準備する段階と、上記亜鉛めっき浴に素地鋼板を浸漬し、めっきを行って亜鉛めっき鋼板を製造する段階と、上記亜鉛めっき鋼板を冷却する段階と、を含み、
上記亜鉛めっき浴の温度は555℃超過~600℃未満であり、上記素地鋼板の引込温度は565℃超過~600℃未満であることを特徴とする、めっき密着性及び耐腐食性に優れた亜鉛めっき鋼板の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、素地鉄からめっき層中へのFeの溶出が発生しても、めっき密着性に優れた亜鉛めっき鋼板を提供することができる。
【0013】
また、本発明の亜鉛めっき鋼板は、耐腐食性に優れるだけでなく、めっき層の摩擦特性が向上することにより、加工性の向上を誘導する効果があるといえる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態による発明例1と比較例5の断面を観察した写真を示したものである。
【
図2】本発明の一実施形態による発明例1と比較例5のシーラーベンディングテスト(sealer-bending test)結果を示したものである(ここで、スケールバー(scale bar)は2mmである)。
【
図3】本発明の一実施形態による発明例1と比較例5の曲げ試験後における外巻部のクラックの形状を観察した写真を示したものである。
【
図4】本発明の一実施形態による発明例1と比較例5の表面の粗さを3Dスキャンした結果を示したものである。
【
図5】本発明の一実施形態による発明例1と比較例5の塩水噴霧試験後に表面を撮影した写真を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者らは、亜鉛めっき鋼板のめっき密着性は維持しながらも、めっき層の摩擦特性と耐腐食性を向上させることができる方法について鋭意研究した。
【0016】
その結果、めっき浴中の合金組成とめっき条件を最適化し、(Fe-Al合金層を素地鋼板(素地鉄)とめっき層との界面に形成する従来の方法とは異なって)めっき層中で素地鉄から拡散されたFeが濃度勾配を有するようにめっき層を構成することにより、意図する物性を有する亜鉛めっき鋼板を提供することができることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0018】
本発明の一側面によるめっき密着性及び耐腐食性に優れた亜鉛めっき鋼板は、素地鋼板と、上記素地鋼板の少なくとも一面に形成された亜鉛めっき層と、を含むことができる。
【0019】
本発明では、上記素地鋼板の種類は特に限定されず、例えば、通常の亜鉛めっき鋼板の素地として用いられるFe系素地鋼板、すなわち、熱延鋼板または冷延鋼板であってもよい。但し、熱延鋼板は、その表面に多量の酸化スケールを有し、このような酸化スケールは、めっき密着性を低下させてめっき品質を劣化させるという問題がある。したがって、酸溶液により酸化スケールを予め除去した熱延鋼板を素地とすることがより好ましい。一例として、自動車用素材として用いられる炭素鋼、極低炭素鋼、高マンガン鋼などが挙げられる。
【0020】
一方、上記亜鉛めっき層は、上記素地鋼板の片面または両面に形成することができる。
【0021】
上記亜鉛めっき層は、重量%で、アルミニウム(Al):5.1~35.0%、マグネシウム(Mg):4.0~25.0%、残部亜鉛(Zn)及びその他の不可避不純物を含むことができ、これは、上記含量でAl、Mg、残部Zn及びその他の不可避不純物を含むめっき浴から形成することができる。
【0022】
上記亜鉛めっき層中のMgは、めっき層の耐食性の向上において非常に重要な役割を果たす元素であり、めっき層の内部に含有するMgは、過酷な腐食環境で耐食性の向上効果が少ない亜鉛酸化物系腐食生成物の成長を抑え、緻密でかつ耐食性の向上効果が大きい亜鉛水酸化物系腐食生成物をめっき層の表面で安定化させる。
【0023】
かかるMgの含量が4.0%未満である場合には、Zn-Mg系化合物の生成による耐食性の向上効果が十分に得られないのに対し、その含量が25.0%を超える場合には、耐食性の向上効果が飽和される一方、Mg酸化性ドロスがめっき浴の浴面に過度に生成されるという問題がある。
【0024】
したがって、本発明では、上記亜鉛めっき層中に、Mgを4.0~25.0%含有することが好ましい。上記Mgは、より好ましくは5.1%以上含有し、さらに好ましくは9.0%以下含有することができる。
【0025】
上記亜鉛めっき層中のAlは、Mgを添加した溶融亜鉛合金めっき浴内でMg酸化反応により発生するドロスを減少させる目的で添加するものである。Alは、Zn及びMgと組み合わせ、めっき鋼板の耐食性を向上させる上でも有利である。
【0026】
かかるAlの含量が5.1%未満である場合には、Mgの添加によりめっき浴の表層部の酸化を防止する効果が十分ではなく、耐食性の向上効果が十分に得られない。これに対し、その含量が35.0%を超える場合には、めっき浴に浸漬された鋼板のFe溶出量が急増してFe合金系ドロスが形成され、さらには、めっき層中にZn/Alの2元共析相が形成され、断面部及び塗装部に対するMgの耐食性の向上効果を低下させる。
【0027】
したがって、本発明では、上記亜鉛めっき層中にAlを5.1~35.0%含むことが好ましく、より好ましくは11~15%含むことができる。
【0028】
上述のように、本発明において、亜鉛めっき層は一定量のAl、Mgと、残部としてZn及び不可避不純物を含むものであって、Zn-Al-Mg系合金めっき層と称することができ、20~40μmの厚さ、好ましくは20~35μmの厚さを有することができる。
【0029】
本発明の亜鉛めっき鋼板は、上記素地鋼板と亜鉛めっき層との界面に厚さ0.01~15μmのAl-Fe抑制層を含むことができ、上記Al-Fe系抑制層はFeAl3合金相であることが好ましい。
【0030】
具体的に、上記Al-Fe系抑制層は、素地鉄とめっき層との間に介在し、素地鉄と合金めっき層との密着力を与える役割を果たすことができる。特に、亜鉛めっき鋼板の加工時に、上記Al-Fe系抑制層がめっき層の剥離を予防することで、加工性をより向上させる効果も得られる。
【0031】
一方、上記Al-Fe抑制層は、厚さ偏差が0.01~3μmを満たすことが好ましい。Al-Fe抑制層の厚さ偏差が3μmを超える場合には、抑制層が不連続的に形成され、抑制層によるめっき密着性の効果が十分に得られない。上記Al-Fe抑制層の厚さ偏差は0であることが最も好ましいが、本発明は、後述のように素地鉄からめっき層中にFeが拡散されるため、これを考慮して、上記厚さ偏差の下限を0.01μmに制限することができる。
【0032】
本発明の亜鉛めっき層は、内部に、Feの含量が40~95%である第1領域と、Feの含量が0.01%以上~40%未満である第2領域と、を含み、上記Feは、素地鉄からめっき層中に拡散(溶出)したものを主に含む。
【0033】
上記第1領域と第2領域は上記Al-Fe抑制層の上部に形成されたものであり、そのうち上記第1領域は、上記亜鉛めっき層中で主に素地鉄と隣接して存在し、上記第2領域は、主に上記亜鉛めっき層の表面と隣接して存在する。これにより、上記第2領域は、上記亜鉛めっき層の表層部に面積分率で0.01~40%形成されることができる。
【0034】
図1を参照して説明すると、発明例を示す図面において、素地鉄とめっき層との界面において連続的に暗く見える部分が第1領域であり、それを除いためっき層の表層までの残りの領域が第2領域である。
【0035】
本発明において、上記亜鉛めっき層中において上記第1領域と第2領域は、めっき層の全厚にわたって形成することができるが、そのサイズ、形状、分率(めっき層の断面または表面において占める分率)などについては特に限定されないが、本発明で提案するめっき条件による場合、上記のようにFeの含量による領域が区分されて形成されることを明らかにしておく。
【0036】
上述のように、本発明の亜鉛めっき層は、素地鉄からめっき層中へのFeの拡散が起こるにもかかわらず、素地鉄とめっき層との界面にAl-Fe抑制層が連続的に形成され、めっき密着性に優れるだけでなく、Feの拡散(溶出)によりめっき層の表面特性が改善し、3~4μmの表面粗さ(Ra)を有することができる。
【0037】
すなわち、従来の亜鉛めっき材に比べて高い表面粗さ(Ra)を有することで、摩擦及び潤滑特性が向上し、後続の加工時における加工性の向上に有利であるという効果がある。
【0038】
以下、本発明の他の一側面によるめっき密着性及び耐腐食性に優れた亜鉛めっき鋼板を製造する方法について詳細に説明する。
【0039】
本発明の亜鉛めっき鋼板は、素地鋼板とともに亜鉛めっき浴を準備する段階と、上記亜鉛めっき浴に上記素地鋼板を浸漬し、めっきを行って亜鉛めっき鋼板を製造する段階と、上記亜鉛めっき鋼板を冷却する段階と、を含んで製造することができる。
【0040】
この際、上記亜鉛めっき層は、上記素地鋼板の片面または両面に形成することができる。
【0041】
上記素地鋼板は上述のとおりであり、上記亜鉛めっき浴は、本発明で意図する亜鉛めっき層を得るために、重量%で、アルミニウム(Al):5.1~35.0%、マグネシウム(Mg):4.0~25.0%、残部亜鉛(Zn)及びその他の不可避不純物を含むことが好ましい。より好ましくは、上記Alを11~15%含むことができる。また、より好ましくは、Mgを5.1%以上含み、9.0%以下含むことができる。
【0042】
本発明は、上述の合金組成を有する亜鉛めっき浴に素地鋼板を浸漬してめっきを行う際、上記亜鉛めっき浴の温度は555℃超過~600℃未満であり、上記素地鋼板の引込温度は565℃超過~600℃未満であることを特徴とする。
【0043】
通常、亜鉛めっき鋼板を製造する場合、めっき浴の温度を融点以上、最大500℃を超えない温度に制御するが、本発明では、亜鉛めっき浴の温度を相対的に高く制御することで、意図するめっき層を形成することができる。
【0044】
具体的に、本発明は、素地鋼板を亜鉛めっき浴内に浸漬してめっきを行う際、素地鉄とめっき層との界面にAl-Fe抑制層を形成すると同時に、素地鉄中のFeがめっき層中に拡散できるように、熱的エネルギーを十分に提供する必要がある。ただし、上記亜鉛めっき浴の温度を555℃以下に制御したり、素地鋼板の引込温度を565℃以下に制御した場合にはこれを達成できない。すなわち、Al-Fe抑制層が不連続的に形成されたり、めっき層中へのFeの拡散が十分に行われなかったりして、意図する物性を有する亜鉛めっき層が得られなくなる。
【0045】
これに対し、上記亜鉛めっき浴の温度が600℃以上であると、素地鋼板及びめっき浴の内部設備が浸食され、装置の寿命短縮をもたらす可能性が高くなる。また、上記亜鉛めっき浴の温度が高すぎるか、上記素地鋼板の引込温度が600℃以上である場合には、Fe合金ドロスが増加してめっき材の表面が不良になるという問題がある。
【0046】
より好ましくは、上記素地鋼板の引込温度は、上記亜鉛めっき浴の温度に比べて5~20℃高く制御することができる。
【0047】
本発明では、上述のようにめっきを行うにあたり、130~180g/m2のめっき付着量となるように行うことができ、これにより、厚さ20~40μmの亜鉛めっき層を得ることができる。
【0048】
上記のように亜鉛めっき浴内でめっきを完了した後、得られためっき材を冷却することができる。本発明では、上述の第1領域及び第2領域を有する亜鉛めっき層を得るために、段階的に冷却を行うことができる。
【0049】
具体的に、上記冷却は、230~270℃まで0.01~5℃/sの冷却速度で冷却する第1冷却段階と、常温まで0.05~20℃/sの冷却速度で冷却する第2冷却段階と、を含むことができる。
【0050】
本発明では、第1冷却工程により、単相の凝固を十分に進行させながら固体-液体相を適宜形成させた後、第2冷却時に、冷却速度を第1冷却に比べて相対的に上昇させて行うことで、完全に固相化させることができる。
【0051】
本発明では、上記冷却時に、水分を含んで冷却する方法を除き、好ましくは、ガスを噴射して行うことができる。
【0052】
この際、めっき材の前面及び背面の両方にガスを噴射し、上記ガスの圧力を調節することで所望の冷却速度を確保することができる。一例として、上記ガスとしては、窒素、アルゴンなどの不活性ガスを用いることができる。
【0053】
一方、上記冷却を行う前に、めっき層が形成されためっき材をガスワイピング処理する段階をさらに含むことができる。上記ガスワイピングは、めっき付着量を調整するための工程であり、その方法は特に限定されない。
【0054】
この際、用いられるガスとしては空気または窒素が使用可能であり、中でも、窒素を用いることがより好ましい。これは、空気を用いる場合、めっき層の表面でMgの酸化が優先的に発生することで、めっき層の表面欠陥を誘発する可能性があるためである。
【0055】
上述の一連の工程を完了することで、素地鉄とめっき層との界面に連続的に形成されたAl-Fe抑制層を含み、かつ、めっき層中に上述の第1領域と第2領域を含む亜鉛めっき層が形成された、本発明の一側面による亜鉛めっき鋼板を得ることができる。
【0056】
このような本発明の亜鉛めっき鋼板は、めっき密着性及び耐腐食性に優れるだけでなく、めっき層の表面の摩擦特性が改善されるため、後続の加工時における加工性が向上するという効果も得られる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。但し、下記の実施例は、本発明を例示してより詳細に説明するためのものに過ぎず、本発明の権利範囲を限定するためのものではないということに留意する必要がある。本発明の権利範囲は特許請求の範囲に記載の事項と、それから合理的に類推される事項によって決まるものである。
【0058】
(実施例)
めっき用試験片として、厚さ1.0mm、幅110mm、長さ200mmの冷延鋼板(0.0016%C-0.081%Mn-0.002%Si-0.0091%P-0.0043%S-0.036%Sol.Al)を素地鋼板として準備した後、下記表1の条件でめっきを行ってそれぞれの亜鉛めっき鋼板を製造した。この際、めっき後の冷却は、鋼板の前面及び背面に窒素を噴射して行い、第1冷却は250℃で終了し、第2冷却は常温まで行った。
【0059】
【0060】
上記により製造されたそれぞれの亜鉛めっき鋼板に対して、めっき密着性、表面特性、及び耐腐食性を評価した。
【0061】
先ず、めっき浴の組成だけでなく、めっき鋼板の製造工程条件が本発明の範囲を満たす発明例1-3は、いずれも素地鉄とめっき層との界面に連続的なFe-Al抑制層が形成可能であり、粗さが上昇することで摩擦/潤滑特性が維持可能であって、加工時におけるめっき層の脱落を効果的に抑えることができるため、耐腐食性に優れていた。
【0062】
一方、めっき浴の組成は本発明の範囲内であるが、めっき鋼板の製造工程条件が本発明の範囲を外れた比較例1-2は、低いめっき浴及び引込温度によって、素地鋼板のFe拡散に必要な熱的エネルギーが低く、連続的なFe-Al抑制層を形成することが困難であった。したがって、粗さの減少によりめっき層の摩擦/潤滑特性が低下して、加工後に、めっき層中に枝状のクラックが発生し、めっき層の脱落により耐食性が低下した。
【0063】
また、比較例3-4は、発明例に比べてMgの含量が低いため、表面及び断面部の耐食性が良くなかった。
【0064】
尚、めっき浴の組成成分だけでなく、製造工程条件が本発明の範囲を外れた比較例6は、素地鋼板のFe拡散に必要な熱的エネルギーが低く、連続的なFe-Al抑制層を形成することが困難であった。したがって、粗さの減少によりめっき層の摩擦/潤滑特性が低下して、加工後に、めっき層中に枝状のクラックが発生し、めっき層の脱落により耐食性が低下した。さらに、Mg-Zn共析相の形成量が少ないため、めっき層の表面及び断面部の耐食性が低下した。
【0065】
一方、亜鉛めっき鋼板の断面を観察するために、圧延方向の垂直方向(厚さ方向)に切断した後、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、SEM)を用いて観察した。
図1は、本発明の実施例において、発明例1と比較例5のめっき層の断面を観察した写真を示したものである。
【0066】
図1に示したように、発明例1と比較例5は、いずれも素地鉄とめっき層との間にFe-Al抑制層が存在し、めっき層中へのFe拡散が起こったことが確認できる。ところが、上記比較例5は、Feの拡散が起こると同時に、Fe-Al抑制層が不連続的に形成されることにより、めっき密着力が低下するものと予測される。
【0067】
一方、亜鉛めっき鋼板の断面を観察するに際し、切断面をFIB加工し、加工部を保護するために、平板部に白金、金、またはカーボンでコーティングを行う。
図1は平板部にコーティングされた領域の一部がともに観察されたものである。
【0068】
また、亜鉛めっき鋼板のめっき密着力を評価するために、シーラー曲げ試験(sealer-bending test)を行い、その結果を
図2に示した。
図2は、本発明の実施例における発明例1と比較例5のシーラー曲げ試験(sealer-bending test)の結果を示したものである(ここで、スケールバー(scale bar)は2mmである)。上記シーラー曲げ試験は、マスチックシーラー(紫色)と平板のめっき層に接着剤を塗って貼り合わせた後、平板部を90度曲げ(bending)、その曲げた部位におけるマスチックシーラー部分のめっき層付着度合いを評価した。この際、光学顕微鏡で撮影した上記マスチックシーラー部分の写真を
図2に示した。
【0069】
図2に示したように、発明例1では、めっき層の剥離が発生しなかったのに対し、比較例5ではめっき層が剥離されたことが確認できる。
【0070】
そして、亜鉛めっき鋼板の曲げ試験後に外巻部のクラック発生有無を観察し、その結果を
図3に示した。
図3は、本発明の実施例において発明例1と比較例5の曲げ試験後に外巻部のクラックの形状を観察した写真を示したものである。この際、上記曲げ試験では、めっき材自体を180度曲げた後、外巻部を走査型電子顕微鏡で撮影した写真を
図3に示した。
【0071】
図3に示したように、発明例1は、クラックの形状が一方向に平行に形成されていたのに対し、比較例5は、一方向に平行に形成される挙動から枝状(branch-type)に変化される破壊及びクラック伝播挙動が観察された。このような結果は、加工された部位の耐食性に影響を与えるものと予想される。
【0072】
また、亜鉛めっき鋼板の表面特性を確認するために、亜鉛めっき鋼板の粗さを3Dスキャンし、その結果を
図4に示した。
図4は、本発明の実施例において発明例1と比較例5の表面の粗さを3Dスキャンした結果を示したものである。
【0073】
図4に示したように、めっき層の全体でFe拡散が起こり、そのめっき層中でFeの濃度勾配によって層が分離された発明例1は、比較例5に比べて粗さ及び表面粗さが大きく向上していることが確認できる。
【0074】
さらに、
図5は、本発明の実施例において発明例1と比較例5のめっき鋼板に対して塩水噴霧試験を1200時間行った後、表面を撮影した写真を示したものである。この際、チャンバー内に5vol.%のNaCl塩水(35℃)を積置し、上記塩水を各めっき材(150×70(mm
2)のサイズの試験片)に時間当り1.55mlで噴霧して、赤錆が発生する時間から耐腐食性を評価した。
【0075】
図5に示したように、発明例1は、腐食環境で耐腐食性を1200時間維持していたのに対し、比較例5では、腐食が大きく発生したことが確認できる。
【国際調査報告】