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特表2022-513152腫瘍療法の診断マーカー及び治療標的としてのMyb関連転写因子(MYPOP)
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-07
(54)【発明の名称】腫瘍療法の診断マーカー及び治療標的としてのMyb関連転写因子(MYPOP)
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6851 20180101AFI20220131BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220131BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220131BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20220131BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20220131BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20220131BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20220131BHJP
   C12Q 1/06 20060101ALI20220131BHJP
   G01N 33/574 20060101ALI20220131BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20220131BHJP
   C07K 14/47 20060101ALN20220131BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20220131BHJP
   C12N 15/113 20100101ALN20220131BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20220131BHJP
   C07K 16/18 20060101ALN20220131BHJP
   C12N 5/09 20100101ALN20220131BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20220131BHJP
【FI】
C12Q1/6851 Z
A61K48/00 ZNA
A61P35/00
A61P35/02
A61K31/7088
A61K38/16
C12Q1/686 Z
C12Q1/06
G01N33/574 A
C12N15/12
C07K14/47
C12N15/13
C12N15/113 Z
C12N5/10
C07K16/18
C12N5/09
C12N15/09 110
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021530284
(86)(22)【出願日】2019-11-28
(85)【翻訳文提出日】2021-07-20
(86)【国際出願番号】 EP2019082845
(87)【国際公開番号】W WO2020109439
(87)【国際公開日】2020-06-04
(31)【優先権主張番号】16/206,526
(32)【優先日】2018-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520363878
【氏名又は名称】ユニバーシタッツメディズィン デア ヨハネス グーテンベルク-ユニバーシタット マインツ
(71)【出願人】
【識別番号】521228293
【氏名又は名称】ソラックスクリニク-ハイデルベルク ゲーゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】フローリン,ルイーズ
(72)【発明者】
【氏名】ヴステンハーゲン,エレナ
(72)【発明者】
【氏名】シュナイダー,マーク
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4C084
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA13
4B063QA19
4B063QQ08
4B063QQ53
4B063QQ79
4B063QQ96
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR48
4B063QR58
4B063QR62
4B063QS10
4B063QS14
4B063QS25
4B063QS33
4B063QS39
4B063QX02
4B065AA93X
4B065AA93Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA01
4B065BB34
4B065BB40
4B065BD39
4B065CA44
4B065CA60
4C084AA02
4C084AA13
4C084BA21
4C084CA27
4C084NA14
4C084ZB26
4C084ZB27
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB26
4C086ZB27
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA75
4H045EA20
4H045EA51
4H045FA74
4H045HA05
4H045HA06
(57)【要約】
本発明は、(i)患者サンプルにおけるMyb関連転写因子(MYPOP)またはその一部の発現レベルを決定することと;(ii)患者サンプルのMYPOPの発現レベルを正常サンプルのレベルと比較することと;(iii)正常サンプルのレベルと比較した患者サンプルのMYPOP発現のレベルを、癌の陽性または陰性の診断または予後と相関させることと、を含む、癌の診断または予後のための方法に関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌の診断または予後のための方法であって、
(i)患者サンプルにおけるMyb関連転写因子(MYPOP)またはその一部の発現レベルを決定することと;
(ii)前記患者サンプルのMYPOPの発現の前記レベルを正常サンプルのレベルと比較することと;
(iii)前記正常サンプルの前記レベルと比較した前記患者サンプルのMYPOP発現の前記レベルを、癌の陽性または陰性の診断または予後と相関させることと、を含む、方法。
【請求項2】
前記患者サンプル中のMYPOPタンパク質の減少または欠如が、癌の陽性診断を示す、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
MYPOPのタンパク質発現の前記レベルを比較することが、約60kDaの分子量を有するMYPOPの大きい形態(MYPOP L形態)を同定することを含み、前記患者サンプルにおける前記MYPOP L形態の欠如が、癌の陽性診断を示す、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
MYPOPの発現の前記レベルを決定することが、前記患者サンプル中のMYPOP、MYPOPの断片、またはMYPOPの短縮型もしくは伸長型のmRNA発現またはタンパク質発現の分析を伴う、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
MYPOPタンパク質の前記発現レベルを決定することが、MYPOPに特異的な抗体を用いて実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
MYPOPタンパク質を測定することが、MYPOPのN末端に特異的な抗体を用いて実施される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記患者サンプルにおいて決定されるMYPOPが、MYPOPのアミノ酸配列をコードする配列番号1の核酸配列、または1つ以上の縮重核酸によって置換され、その結果、MYPOPの同じアミノ酸配列をもたらすそのバリアントを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記患者サンプルにおいて決定されるMYPOPが、配列番号1の核酸配列、または配列番号1の核酸配列に対して少なくとも75%、少なくとも85%、少なくとも90%、もしくは少なくとも95%の相同性を共有し、その一方で、Myb関連転写因子として、MYPOPの生物学的活性を保持するその相同体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記患者サンプルにおいて決定されるMYPOPが、配列番号2、配列番号3、配列番号4または配列番号5のアミノ酸配列、または1つ以上のアミノ酸が別のアミノ酸によって欠失され、付加され、または置換され、その一方で、Myb関連転写因子として、MYPOPの前記生物学的活性を保持している、それらのバリアントを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記患者サンプルにおいて決定されるMYPOPが、配列番号2、配列番号3、配列番号4もしくは配列番号5のアミノ酸配列、または配列番号2、配列番号3、配列番号4もしくは配列番号5のアミノ酸配列と少なくとも75%、少なくとも85%、少なくとも90%または少なくとも95%の相同性を共有する他の種に見られ、Myb関連転写因子として、MYPOPの前記生物学的活性を保持しているMYPOPの相同体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
MYPOPの発現の前記レベルを決定することが、配列番号1~5に記載の前記配列またはその一部のいずれか1つを使用して、MYPOPの前記mRNAレベルまたはタンパク質レベルを定量的または定性的に分析することによって実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
有効量のMyb関連転写因子(MYPOP)を患者の腫瘍細胞に投与するかまたは導入することにより、腫瘍疾患を治療するかまたは予防する方法。
【請求項13】
前記投与することが、前記腫瘍細胞においてMYPOPタンパク質またはその一部(N末端)を発現することによって行われる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記腫瘍疾患が、発癌性ヒトパピローマウイルス(HPV)誘発性癌または前癌段階であるか、または潜伏感染を治癒させるための、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記腫瘍疾患が、黒色腫、乳癌、肺癌、肝癌、胃癌、大腸癌、頸癌、膵癌、前立腺癌、卵巣癌、リンパ腫、白血病、腎癌、膀胱癌、または子宮内膜癌からなる群から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
Myb関連転写因子(MYPOP)及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
【請求項17】
MYPOPが、配列番号1の核酸配列、または配列番号1の核酸配列に対して少なくとも75%、少なくとも85%、少なくとも90%、もしくは少なくとも95%の相同性を共有し、その一方で、Myb関連転写因子として、MYPOPの生物学的活性を保持するその相同体を含む、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
MYPOPが、配列番号2、配列番号3、配列番号4または配列番号5のアミノ酸配列、または1つ以上のアミノ酸が別のアミノ酸によって欠失され、付加され、または置換され、その一方で、Myb関連転写因子として、MYPOPの生物学的活性を保持している、それらのバリアントを含む、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項19】
前記MYPOPが、配列番号2、配列番号3、配列番号4もしくは配列番号5のアミノ酸配列、または配列番号3、配列番号4もしくは配列番号5のアミノ酸配列と少なくとも75%、少なくとも85%、少なくとも90%または少なくとも95%の相同性を共有する他の種に見られ、Myb関連転写因子として、MYPOPの前記生物学的活性を保持しているMYPOPの相同体を含む、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項20】
腫瘍疾患の治療または予防に使用するための、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項21】
前記腫瘍疾患が、発癌性ヒトパピローマウイルス(HPV)誘発性癌もしくは前癌段階または潜伏性ウイルス感染である、請求項20に記載の医薬組成物。
【請求項22】
前記腫瘍疾患が、黒色腫、乳癌、肺癌、肝癌、胃癌、大腸癌、頸癌、膵癌、前立腺癌、卵巣癌、リンパ腫、白血病、腎癌、膀胱癌、または子宮内膜癌からなる群から選択される、請求項20に記載の医薬組成物。
【請求項23】
Myb関連転写因子(MYPOP)の阻害剤を含む培地での細胞のインキュベーションを含む、細胞培養における細胞増殖を増強する方法。
【請求項24】
前記阻害剤が抗体である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記阻害剤がプロフィリン、RNAiまたはsiRNAである、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記MYPOP遺伝子が、例えば、CRISPR CAS9技術によって導入されるMYPOP遺伝子ノックアウトによって突然変異されるかまたは除去される、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
MYPOPの前記発現レベルが、MYPOPのタンパク質合成を阻害することによって、または細胞内MYPOPタンパク質を分解することによって低下する、請求項23に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Myb関連転写因子(MYPOP)の発現または生物学的活性を標的とすることによって癌を検出し、阻害するための組成物及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Myb関連転写因子(MYPOP)は、ヒト、マウス、ラットなどの哺乳動物において相同体が同定されている新規タンパク質である。MYPOPのオーソロガスマウスタンパク質p42POPは、最小ヘルペスウイルスチミジンキナーゼプロモーターに導入されたときに、コンセンサスMyb認識エレメント(MRE)を抑制できることが示された(Lederer M.Jockusch BM,Rothkegel M.Profilin regulates the activity of p42POP,a novel Myb-related transcription factor,J Cell Sci.2005;118:331-41)。MYPOPは、両方のウイルスの長い制御領域(LCR)活性を抑制するため、発癌性ヒトパピローマウイルス(HPV)16型及び18型の制限因子として作用することが発明者によって以前に発見された(Wustenhagen et al.,The Myb-related protein MYPOP is a novel intrinsic host restriction factor of oncogenic human papillomaviruses,Oncogene,17 July 2018)。MYPOPが転写後レベルでHPV形質転換された腫瘍細胞内で排除されることが本発明者らによってさらに発見された。このように、MYPOPの総量は、子宮頸癌のウイルスHPV形質転換細胞株内で大幅に減少することが見出された。
【0003】
現在、本発明者らは、MYPOPが、黒色腫、乳癌、肝細胞癌、及び肺癌のような他のすべての試験された腫瘍細胞においても大幅に下方制御されていることを発見した。これは、肺癌患者の腫瘍サンプルで確認された。これらの原発性肺腫瘍細胞及び他の腫瘍細胞株では、MYPOPの回復により細胞増殖が阻止された。したがって、MYPOPはすべての腫瘍細胞内に存在しない一般的な腫瘍抑制因子であり、MYPOPの回復により癌が治癒される。さらに、本発明者らは、MYPOP mRNAレベルの増加、おそらくMYPOPタンパク質喪失後の癌細胞の代償機構が、予後不良及び生存率の低下と相関することを見出した。
【0004】
MYPOPのマウス型であるp42POPは、核内のプロフィリンと相互作用する(Lederer M.Jockusch BM,Rothkegel M.Profilin regulates the activity of p42POP,a novel Myb-related transcription factor,J Cell Sci.2005;118:331-41)。p42POPは、単一のMyb様ドメイン、酸性ドメイン、核外輸送シグナル、ロイシンジッパー、及びプロフィリンを媒介するプロリンクラスターの独自の組み合わせを含む。データベースでのアミノ酸配列の比較により、p42POPは新規のこれまでに同定されていなかったタンパク質であることが明らかになった。p42POPのN末端には、Myb関連転写因子のDNA結合ドメイン(DBD)に似たトリプトファンクラスターモチーフと、それに続くいくつかのMybタンパク質に存在する転写活性化ドメインを連想させる酸性領域が含まれている。さらに、p42POPはMyb DNAコンセンサス配列に結合し、Myb DNAコンセンサス配列には、Myb関連DNA結合ドメインを含むN末端領域が関与している(Lederer M.Jockusch BM,Rothkegel M.Profilin regulates the activity of p42POP,a novel Myb-related transcription factor,J Cell Sci.2005;118:331-41)。
【0005】
これまで、MYPOP/p42POPの診断及び医薬特性は調査していないため、依然として不明であった。
【0006】
癌の信頼できる診断及び予後のための新規マーカーを同定し、腫瘍疾患を治療するために、腫瘍細胞を特異的に標的とするが、正常で健康な細胞は標的としない活性剤を所有することは、依然として現代の癌療法の主要な課題である。
【0007】
この背景に対して、本発明の目的は、ヒトまたは動物の患者における腫瘍疾患の診断、予後及び治療のための新規方法及び組成物を提供することである。
【0008】
この目的は、本発明によって提示される方法及び組成物によって解決される。好ましい実施形態は、本発明の特定の態様に関するものであり、従属請求項に記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Lederer M.Jockusch BM,Rothkegel M.Profilin regulates the activity of p42POP,a novel Myb-related transcription factor,J Cell Sci.2005;118:331-41
【非特許文献2】Wustenhagen et al.,The Myb-related protein MYPOP is a novel intrinsic host restriction factor of oncogenic human papillomaviruses,Oncogene,17 July 2018
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の発明者らは、MYPOP発現(マウスに見られるp42POPとのヒト等価物/相同体)が入ってくるウイルスを感知し、ウイルス遺伝子の転写を抑制することを示した(Wustenhagen et al.,The Myb-related protein MYPOP is a novel intrinsic host restriction factor of oncogenic human papillomaviruses,Oncogene,17July2018)。
【0011】
これにより、MYPOPは、制限因子として作用し、発癌性HPVウイルスの感染に対する細胞の許容度を制限する。これにより、HPVの早期の発癌性発現が抑制され、その後、癌が抑制される。
【0012】
本発明者らは、驚くべきことに、黒色腫、乳癌、肝細胞癌、及び肺癌のような他のすべての試験された腫瘍細胞においても、MYPOPが大幅に下方制御されていることを発見した。一例として、これは肺癌患者の腫瘍サンプルで確認された。これらの原発性肺腫瘍細胞及び他の腫瘍細胞株では、MYPOPの回復により細胞増殖が阻止された。したがって、MYPOPは、すべての腫瘍細胞内に存在しない一般的な腫瘍抑制因子として同定され、MYPOPの回復により癌が治癒されることは明らかである。さらに、本発明者らは、MYPOP mRNAレベルの増加、おそらくMYPOPタンパク質喪失後の癌細胞の代償機構が、癌疾患に罹患している患者の予後不良及び生存率の低下と相関することを見出した。
【0013】
本発明において、本発明者らは、MYPOPが、それぞれ約60kDa及び42kDaの分子量を有する2つのアイソフォームまたは2つの異なる修飾形態で存在するものとして同定した。本明細書に示すとおり、MYPOPのより大きい(L)形態は、腫瘍細胞において有意に減少するか、または存在しない。本発明で同定されるとおり、mRNAレベルは、腫瘍の進行と負に相関しており、これは、おそらく、MYPOPタンパク質の喪失を補償するものである。これにより、MYPOPは、mRNA及び/またはタンパク質レベルで分析したときの癌の診断または予後の好適なマーカーになる。
【0014】
癌疾患を診断するかまたはモニターするための本発明の方法では、影響を受けた組織の細胞内におけるMYPOPの発現レベルを分析する。この方法は、ヒトまたは動物の患者から単離された腫瘍組織などの生物学的サンプル中のMYPOPタンパク質またはMYPOP mRNAを検出すること及び/または定量することを伴う。この方法は、(i)生物学的サンプルを、検出可能な物質で直接的または間接的に標識されたMYPOPに特異的な抗体と接触/反応させるステップと、(ii)検出可能な物質を検出するステップと、を含む。MYPOPタンパク質の発現レベルの低下、または生物学的サンプル中でのMYPOP mRNAの発現レベルの上昇は、対象における腫瘍の存在または進行を示している。
【0015】
本明細書に示すとおり、MYPOP mRNAレベルの上昇は、影響を受けた腫瘍患者の生存に負に相関しており、これにより、MYPOPは、腫瘍の進行を評価するための好適な予後マーカーとなる。MYPOP mRNAの決定または分析は、例えば、MYPOP mRNA由来のcDNAを使用し、その後定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)を使用することによって実施できる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
癌の診断または予後のための方法は、(i)ヒトまたは動物のサンプルであり得る患者サンプルにおけるMYPOPまたはその一部の発現レベルを決定することと、(ii)決定されたMYPOPまたはその一部の発現レベルを正常サンプルで観察された発現レベルと比較することと、(iii)正常サンプルの発現レベルに対する患者サンプルでのMYPOP発現のレベルを、癌の陽性または陰性の診断または予後と相関させることと、を含む。
【0017】
患者サンプル中のMYPOPタンパク質の発現レベルが低下している場合、またはMYPOPのmRNAが正常な非腫瘍細胞と比較して過剰発現している場合には、癌の陽性診断である可能性が高い。MYPOPタンパク質の継続的な減少または患者サンプル中のMYPOP mRNAレベルの上昇を使用して、腫瘍の進行を定量的に分析し、癌のさらなる発症、したがって生存の定性的な予後を患者に示すことができる。MYPOPの発現レベルが、正常組織内で見られるMYPOPの発現レベルに対応している場合には、癌の陰性診断となる。
【0018】
本発明の好ましい実施形態では、約60kDaのより大きい(L)形態のMYPOPタンパク質が、患者サンプルが癌の陽性または陰性の診断を有するかを決定するための生物学的指標として使用される。MYPOPの60kDa L形態の減少または欠如は、癌の陽性診断を示す。生物学的サンプル中のMYPOPのL形態の量の定量分析では、腫瘍のさらなる進行の予測が可能になり、したがって、患者における癌のさらなる進行の予後となる。腫瘍細胞におけるMYPOPタンパク質レベルまたはMYPOPタンパク質発現の回復(例えば、遺伝子療法による)は、細胞分裂の減少及びその後の細胞死をもたらす。このように、MYPOPは、癌の治療及び/または予防のための好適な治療標的である。
【0019】
別の態様では、本発明はまた、MYPOP、MYPOP安定化物質またはMYPOP発現促進物質を活性剤として含む医薬組成物に関する。本明細書に示すとおり、MYPOPは、細胞増殖を減少させ、細胞死を誘導する。そのため、MYPOPは、特に抗ウイルス及び/または癌療法に使用できる。これは、MYPOPを患者に投与するか、影響を受けた腫瘍細胞内でMYPOPのタンパク質発現を再確立することによって行うことができる。
【0020】
本発明の医薬組成物は、MYPOP、またはin vivoにおいて影響を受けた腫瘍細胞におけるMYPOP発現を増強する1つ以上の物質のいずれかを含む。本発明の組成物は、子宮頸癌(HPV誘発性)などのウイルス誘発性癌、非HPV癌、例えば、黒色腫、乳癌、肺癌、肝癌、胃癌、大腸癌、子宮頸癌、膵癌、前立腺癌、卵巣癌、リンパ腫、白血病、腎癌、膀胱癌、または子宮内膜癌などの腫瘍疾患の治療または予防に好適である。
【0021】
本発明は、MYPOP発現の阻害剤を含む培地中での細胞のインキュベーションを含む、細胞培養における細胞増殖を増強する方法にさらに関する。これにより、MYPOPは、細胞量及び結果を増加させるために細胞培養の成長を促進するための好適な標的となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】MYPOPがHPV形質転換癌細胞株において減少することを示す図である。
図2】MYPOPのL形態が、試験したすべての腫瘍細胞株(1:初代細胞、2-4:腫瘍細胞株)中で大幅に減少していることを示す図である。
図3】MYPOP L形態は、扁平上皮癌(A)または腺癌(B)の非小細胞肺癌(NSCLC)患者で大幅に減少していることを示す図である。T=腫瘍、N=正常組織
図4】MYPOPの2つの異なるアイソフォーム(L形態及びS形態)が2つの異なる抗体によって示差的に検出できることを示す図である。
図5】MYPOPのmRNAレベルが、正常な肺と比較してNSCLC腫瘍組織で2倍増加していることを示す図である。
図6】腫瘍中及び正常組織中におけるMYPOPのmRNAレベルが、癌NSCLC患者の全生存率と負に相関していることを示す図である。
図7】MYPOPが、HPV形質転換細胞及び非ウイルス形質転換細胞のコロニー形成を阻害することを示す図である。
図8】MYPOPの再発現により細胞増殖を減少させ、乳癌細胞での細胞死を誘導することを示す図である。
図9】MYPOPの再発現が、細胞増殖を減少させ、NSCLC細胞内で細胞死を誘導することを示す図である。
図10】MYPOP-FlagまたはMYPOP-N(DNA結合ドメイン)が、プロモーター活性を調節することを示す図である。
図11】MYPOP-FlagまたはMYPOP-N(DNA結合ドメイン)の両方が、癌細胞の細胞増殖を阻止する際に活性があることを示す図である。
図12】MYPOPL形態が、SUMO-1修飾MYPOPタンパク質であることを示す図である。
図13】MYPOPタンパク質レベルが、細胞増殖と負に相関していることを示す図である。
図14】MYPOPの下方制御が、タンパク質発現を増強することを示す図である。
図15】MYPOPの再発現が、細胞増殖を減少させ、肝臓、肺扁平上皮及び腺癌細胞株内で細胞死を誘導することを示す図である。
図16】MYPOP発現レベルによるMYPOP及びMYPOP-Cシュードウイルス(PsV)のHPV16PsVの形質導入効率の試験を示す図である。
図17】MYPOP-ベクター(遺伝子療法)が、ケラチノサイト癌細胞株(治療標的)の細胞増殖を減少させるのにどのように機能するかを示す図である。
図18】MYPOP-ベクター(遺伝子療法)が、肺癌細胞株(治療標的)の細胞増殖を減少させるのに機能的であることを示す図である。
図19】MYPOP-ベクターが、正常なヒト上皮ケラチノサイト(NHEK)に影響を有さないか、または軽度の影響のみ有することを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
技術が本明細書に記載されているとおり、使用されるセクションの見出しは組織的な目的のためのみであり、いかなる方法でも主題を制限するものとして解釈されるべきではない。
【0024】
様々な実施形態の詳細な説明では、説明の目的で、開示された実施形態を完全に理解するために、多数の特定の詳細が示されている。しかし、当業者は、これらの様々な実施形態が、これらの特定の詳細の有無にかかわらず実施され得ることを理解するであろう。さらに、当業者であれば、方法が提示され、実行される特定のステップは、例示的であり、これらのステップは、変更することができ、それでも本明細書に開示される様々な実施形態の趣旨及び範囲内にあることは容易に理解できる。
【0025】
これらに限定されないが、特許、特許出願、記事、本、論文、及びインターネットWebページなど、本出願で引用されたすべての文献及び同様の資料は、あらゆる目的のためにその全体が参照により明示的に組み込まれる。別段の定義がない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、本明細書に記載の様々な実施形態が属する当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。組み込まれた参考文献の用語の定義が本明細書の教示において提供されている定義と異なると考えられる場合、本明細書の教示において提供されている定義が優先するものとする。
【0026】
定義
本技術の理解を容易にするために、いくつかの用語及び句を以下に定義する。追加の定義は、詳細な説明全体に記載されている。
【0027】
明細書及び特許請求の範囲を通じて、以下の用語は、文脈が明確に別段の指示をしない限り、本明細書に明示的に関連付けられた意味をとる。
【0028】
「MYPOP」という用語は、マウス(Lederer M.Jockusch BM,Rothkegel M.Profilin regulates the activity of p42POP,a novel Myb-related transcription factor,J Cell Sci.2005;118:331-41)及びヒト(Wustenhagen et al.,The Myb-related protein MYPOP is a novel intrinsic host restriction factor of oncogenic human papillomaviruses,Oncogene,17 July 2018)においてp42POPとして同定された新規のMyb関連転写因子を指す。診断または予後については、一部または断片のみを分析に使用するのみで十分である。したがって、「MYPOP」という用語は、MYPOPの短縮形態または細長い形態も含むものとする。
【0029】
本明細書で使用される「L形態」という用語は、例えば、ウエスタンブロッティングまたは他の好適な方法によって同定された、60kDaのMYPOPの形態を指す。
【0030】
本明細書で使用される「S形態」という用語は、例えば、ウエスタンブロッティングまたは他の好適な方法によって同定された、42kDaのMYPOPの形態を指す。
【0031】
本明細書で使用される「一実施形態では」という句は、必ずしも同じ実施形態を指すとは限らないが、同じ実施形態を指す場合もある。さらに、本明細書で使用される「別の実施形態では」という句は、異なる実施形態を指す場合もあるが、必ずしも異なる実施形態を指すとは限らない。したがって、以下に記載するとおり、本発明の様々な実施形態は、本発明の範囲または趣旨から逸脱することなく、容易に組み合わせることができる。
【0032】
さらに、本明細書で使用される場合、「または(or)」という用語は、包括的「または」演算子であり、文脈が明確に別段の指示をしない限り、「及び/または」という用語と同等である。「をベースにした(based on)」という用語は排他的ではなく、文脈で明確に別段の指示がない限り、記載されていない追加の因子をベースすることが可能になる。さらに、本明細書全体を通して、「a」、「an」、及び「the」の意味は、複数形の言及を含む。「in」の意味には、「in」及び「on」が含まれる。
【0033】
「核酸」という用語は、2つ以上のデオキシリボヌクレオチド及びリボヌクレオチドを有する分子を指し、これらは、未修飾DNAもしくはRNAまたは修飾DNAもしくはRNAであり得る。正確なサイズは、多くの因子に依存し、またオリゴヌクレオチドの最終的な機能もしくは使用に依存する。オリゴヌクレオチドは、化学合成、DNA複製、逆転写、またはそれらの組み合わせなど、あらゆる方法で生成され得る。DNAの典型的なデオキシリボヌクレオチドは、チミン、アデニン、シトシン、及びグアニンである。RNAの典型的なリボヌクレオチドは、ウラシル、アデニン、シトシン、及びグアニンである。
【0034】
本明細書で使用される場合、「ヌクレオシド」という用語は、リボースまたはデオキシリボース糖に共有結合により連結したプリンまたはピリミジン塩基を有する分子を指す。例示的なヌクレオシドとしては、アデノシン、グアノシン、シチジン、ウリジン及びチミジンが挙げられる。
【0035】
「ヌクレオチド」という用語は、糖部分へのエステル結合内で結合された1つ以上のリン酸基を有するヌクレオシドを指す。例示的なヌクレオチドとしては、ヌクレオシド一リン酸、二リン酸及び三リン酸が挙げられる。
【0036】
本明細書で使用されるとき、「mRNA」という用語は、一般に、リボヌクレオチドの一本鎖ポリマーを指す。「RNA」はまた、主に(すなわち、80%を超える、または好ましくは90%を超える)リボヌクレオチドを含むが、任意により少なくとも1つの非リボヌクレオチド分子、例えば、少なくとも1つのデオキシリボヌクレオチド及び/または少なくとも1つのヌクレオチド類似体を含むポリマーを指すことができる。
【0037】
「DNA」という用語は、一般に、デオキシリボヌクレオチドのポリマーを指す。DNA分子及びRNA分子は、自然に合成され得る(例えば、それぞれDNA複製またはDNAの転写によって)。RNA分子は、転写後修飾され得る。DNA分子及びRNA分子も、化学的に合成できる。DNA分子及びRNA分子は、一本鎖(すなわち、それぞれssRNA及びssDNA)または多本鎖(例えば、二本鎖、すなわち、それぞれdsRNA及びdsDNA)であり得る。
【0038】
「修飾ヌクレオチド」という用語は、天然に存在しないリボヌクレオチドまたはデオキシリボヌクレオチドなどの非標準ヌクレオチドを指す。好ましいヌクレオチド類似体は、ヌクレオチドの特定の化学的性質を変更するが、ヌクレオチド類似体がその意図された機能を実行する能力を保持するように、任意の位置で修飾される。
【0039】
「変性」という用語は、異なるコドンが1つのアミノ酸をコードできる遺伝暗号を指す(例えば、GUU、GUA、GUG、すべてバリンをコードする)。
【0040】
本明細書で使用される場合、核酸配列に関する「バリアント」という用語は、1つ以上のヌクレオチドが別の、通常は関連するヌクレオチド酸配列とは異なる核酸配列を指す。アミノ酸配列に関して使用される場合の「バリアント」という用語は、1つ以上のアミノ酸が別の、通常は関連するアミノ酸配列とは異なるアミノ酸配列を指す。
【0041】
「相同体」は、他の生物または種に見られるMYPOPに関連している。
【0042】
「診断」という用語は、一般に、疾患または障害に対する対象の感受性の決定、対象が現在疾患または障害によって影響を受けているかに関する決定、疾患または障害によって影響を受けている対象の予後(例えば、転移前もしくは転移性の癌性状態、癌の病期、または療法に対する癌の応答性の同定)、及びセラメトリックス(therametrics)(例えば、治療の効果または有効性に関する情報を提供するために対象の状態をモニターすること)を含む。診断は、好ましくは、対象の病状または状態の検出または同定、対象が所与の疾患または状態を発症する可能性の決定、疾患または状態を有する対象の療法に応答する可能性の決定、疾患または状態を有する対象の予後(またはその可能性のある進行もしくは退行)の決定、ならびに疾患または状態を有する対象に対する治療の効果の決定を含む。例えば、診断は、子宮頸癌または乳癌に罹患している対象の存在もしくは可能性、またはそのような対象が化合物(例えば、医薬品、例えば、薬物)もしくは他の治療に好意的に応答する可能性を検出するために使用できる。
【0043】
本明細書で使用される「マーカー」という用語は、障害関連細胞を正常細胞から区別することによって、障害(例えば、癌性障害)を診断または予知することができる物質(例えば、核酸または核酸の領域)を指す。
【0044】
本明細書で使用される場合、「患者」または「対象」という用語は、本発明によって提供される様々な試験または治療法の対象となる生物を指す。「対象」という用語は、動物、好ましくはヒトなどの哺乳動物を含む。
【0045】
本明細書で使用される場合、「癌」、「腫瘍」、及び「癌腫」という用語は、本明細書で交換可能に使用され、比較的自律的な成長を呈する細胞を指し、その結果、それらは、細胞増殖の制御の有意な喪失を特徴とする異常な成長表現型を示す。
【0046】
一般に、本出願における検出または治療のための目的の細胞としては、前癌性(例えば、良性)、悪性、転移性、及び非転移性の細胞が挙げられる。癌細胞の検出は特に興味深い。
【0047】
「サンプル」または「生物学的サンプル」または「患者サンプル」は、任意の物理的状態(例えば、固体、液体、半固体、蒸気)及び任意の複雑体の、ヒトまたは非ヒト対象からの目的の物質の任意の組成物であり得る。好ましいサンプルは、ヒトまたは動物の対象から得られた動物細胞または組織を含む。好ましくは、サンプルは生体液である。サンプルは、例えば、細胞培養物またはヒト組織であり得る。細胞組織の体液ホモジネートは、開示された方法による検出のためにMYPOPを含み得る生体液である。他のものは、血液または尿などの体液組織である。サンプルは、担体、試験管、培養容器、マルチウェルプレート、または他の任意の容器内に含まれ得る。
【0048】
本明細書で使用される場合、「抗体」という用語は、免疫グロブリン分子及び免疫グロブリン分子の免疫学的活性部分(断片)、すなわち、抗体結合部位またはパラトープを含む分子を指す。この用語には、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体及び断片、ならびに一本鎖組換え抗体が含まれる。
【0049】
本明細書で使用される場合、「投与する」、「導入する」、「適用する」、「治療する」、「送達する」という用語及びそれらの文法的変形は、in vitro、ex vivoもしくはin vivoで細胞を標的にするためにMYPOPを提供するか、または対象にMYPOPを含む遺伝子修飾(操作)細胞を提供するために同義的に使用される。
【0050】
「同時投与」という用語及びその変形は、2つ以上の剤を同時に(1つ以上の調製物中で)、または連続して投与することを指す。例えば、1つ以上の型の遺伝子修飾細胞を他の剤と同時投与することができる。
【0051】
「ベクター」という用語は、コード情報(例えば、MYPOP発現分子)を宿主細胞に伝達するために使用される任意の分子(例えば、核酸、プラスミド、またはウイルス)を指すために使用される。「発現ベクター」及び「転写ベクター」という用語は、宿主細胞(例えば、対象の細胞)での使用に好適であり、外因性核酸配列の発現を指示するかつ/または制御する核酸配列を含むベクターを指すために同義的に使用される。イントロンが存在する場合、発現としては、これらに限定されないが、転写、翻訳、及びRNAスプライシングなどのプロセスが挙げられる。
【0052】
本明細書で使用されるとき、「RNA干渉」(「RNAi」)という用語は、RNAの選択的な細胞内分解を指す。RNAiは、細胞内で自然に発生し、外来RNA(ウイルスRNAなど)を除去する。天然のRNAiは、分解機構を他の類似のRNA配列に向ける遊離dsRNAから切断された断片を介して進行する。あるいは、RNAiは、例えば、MYPOPなどの内因性標的遺伝子の発現を抑制するために、ヒトの手によって開始させ得る。
【0053】
本明細書で使用される場合、「低分子干渉RNA」(「siRNA」)(当技術分野では「短鎖干渉RNA」とも呼ばれる)という用語は、RNA干渉を指示するかまたは媒介することができる約10~50ヌクレオチド(またはヌクレオチド類似体)を含むRNA(またはRNA類似体)を指す。
【0054】
本明細書で使用される場合、「in vitro」という用語は、例えば、精製された試薬または抽出物、例えば、細胞抽出物を含む、その当技術分野で認識されている意味を有する。「in vivo」という用語はまた、例えば、生物中の生細胞、例えば、生物中の不死化細胞、一次細胞、及び/または細胞株を含む、その当技術分野で認識されている意味を有する。
【0055】
「検出」という用語及びその変形は、標的MYPOP(MYPOPをコードする核酸配列またはMYPOP遺伝子産物(ポリペプチド))、そのアイソフォーム(例えば、MYPOPのL形態)、または剤結合標的の組み合わせなどのその存在または非存在をアッセイもしくは他の方法で決定すること、または肝癌、転移、病期、もしくは同様の状態の1つ以上の事実上の特徴を分析、調査、確認、確立、もしくは他の方法で決定することを含む。この用語は、MYPOP及び任意により他の癌バイオマーカーの診断、予後、及びモニター用途を含む。(MYPOPタンパク質をコードする核酸分子とは対照的に)MYPOPタンパク質の検出を含む実施形態では、検出方法は、好ましくは、ELISAベースの方法である。好ましくは、検出方法は、対象からのサンプル中のMYPOPの存在、不在、または量に関する情報を出力(すなわち、読み出しまたは信号)に提供する。例えば、出力は、定性的(例えば、「正」または「負」)、または定量的(例えば、ミリリットルあたりのナノグラムなどの濃度)であり得る。
【0056】
本明細書で使用される「治療有効量」という用語は、MYPOP単独、または研究者、獣医、医師もしくは他の臨床医によって求められている細胞(例えば、組織(複数可))において生物学的または医学的応答を誘発する別の剤との組み合わせの量を意味する。これには、治療されている疾患または障害の症状の緩和及び/または予防が含まれる。本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される担体」という用語は、医薬投与と互換性のある、任意のすべての溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤及び抗真菌剤、等張剤及び吸収遅延剤などを含むことを意図している。薬学的に活性な物質のためのそのような媒体及び剤の使用は、当技術分野において周知である。
【0057】
診断及び予後マーカーとしてのMYPOP
本発明者らは、MYPOPが上皮で高発現し、子宮頸癌及び他の腫瘍の主要な原因物質であるマイナーキャプシドタンパク質L2及びヒトパピローマウイルス(HPV)のDNAに結合することを以前に発見した。発癌性HPV16型及び18型の初期プロモーター活性及び初期遺伝子発現は、MYPOPによって強力に抑制される。細胞のMYPOP枯渇により、HPV16感染の制限が緩和され、MYPOPが制限因子として作用することを示している。MYPOPタンパク質レベルは、多様なHPV形質転換細胞株及びHPV誘発子宮頸癌内で有意に減少する。さらに、E7がMYPOPの分解を刺激すると考えられる。MYPOPの過剰発現により、HPV及び非ウイルス性形質転換ケラチノサイトのコロニー形成が阻止されることも見出され、それにより、MYPOPが腫瘍抑制特性を呈することが示唆された。
【0058】
本発明者らは、ここでは、MYPOPがまた、黒色腫、乳癌、肝細胞癌、及び肺癌のようなすべての試験された腫瘍細胞において大幅に下方制御されていることを発見している。これは、肺癌患者の腫瘍サンプル内でさらに検証された。これらの原発性肺腫瘍細胞及び他の腫瘍細胞株では、MYPOPの回復により細胞増殖が阻止された。したがって、MYPOPはすべての腫瘍細胞内に存在しない一般的な腫瘍抑制因子であり、MYPOPの回復により癌が治癒される。さらに、本発明者らは、MYPOP mRNAレベルの上昇、おそらくMYPOPタンパク質喪失後の癌細胞の代償機構が、患者の予後不良及び生存率の低下と相関することを見出した。
【0059】
本発明者らはまた、MYPOPが、例えば、ヒトのケラチノサイトまたは肺組織のサンプルを使用するウエスタンブロット分析によって決定されるように、それぞれ約60kDa及び42kDaの分子量で出現する2つのアイソフォームで存在することを見出した。腫瘍細胞内では、MYPOPの大きい(L)形態が有意に減少されるかまたは排除される。これにより、MYPOP L形態は、癌検出の診断マーカーとして好適である。
【0060】
癌の診断または予後のための本発明の方法は、(i)生物学的サンプル中のMYPOPの発現レベルを決定すること、(ii)上記発現レベルを正常サンプルと比較すること、(iii)正常なサンプルに対する患者サンプルでのMYPOP発現のレベルを、癌の陽性もしくは陰性の診断または予後と相関させることを含む一連のステップを特徴とする。「正常サンプル」は、同じ組織または他の組織の非腫瘍細胞、すなわち健康なドナー細胞に由来するサンプルである。
【0061】
本発明者らは、HPV感染及び非ウイルス形質転換癌細胞の両方において、腫瘍発生におけるMYPOP、好ましくはMYPOP L形態の役割を初めて同定した。ヒトまたは動物の患者の腫瘍組織から単離された生物学的サンプルにおけるMYPOPタンパク質の発現レベルの低下が腫瘍疾患の存在を示すことは驚くべき発見であった。本明細書に示されるように、MYPOPは、これらに限定されないが、黒色腫、乳癌、肺癌、肝癌、胃癌、大腸癌、頸部癌、膵癌、前立腺癌、卵巣癌、リンパ腫、白血病、腎癌、膀胱癌、または子宮内膜癌など、任意の癌種の検出のための普遍的なマーカーとして使用できる。
【0062】
また、本発明者らは、MYPOP、好ましくはMYPOP L形態が細胞増殖と負に相関し、細胞死を誘導することを発見した。mRNAレベルは、癌患者の生存と負に相関するため、MYPOPのmRNAレベルを使用してさらなる腫瘍発生の予後を予測することができる。これにより、腫瘍のさらなる進行を評価し、患者にさらなる生存の予後を示すことができる。一方でmRNAレベルの上昇と他方でMYTOPのタンパク質レベルの減少が腫瘍細胞に特異的である根本的な機構は、完全には理解されていないが、MYPOPタンパク質の合成または翻訳に作用するフィードバック機構が関与している可能性がある。
【0063】
好ましい実施形態では、本発明の方法は、ヒトまたは動物の患者の生物学的サンプル中のMYPOPのタンパク質レベルを決定する。好ましい態様では、60kDaの分子量を有するMYPOPのL形態が決定され、そのL形態の減少または不在は、サンプル中に腫瘍細胞が存在することを示す。生物学的サンプル中のMYPOPのタンパク質発現レベルが、同じかまたは異なる対象の正常組織サンプル内に見られるタンパク質発現レベルと相関している場合、これは癌の陰性診断を示す。MYPOPのタンパク質発現レベルが正常細胞のタンパク質発現レベルよりも低い場合、これは癌の陽性診断の兆候となる。
【0064】
本発明のさらなる態様では、mRNA発現レベルは、癌の診断または予後のための指標として使用できる。MYPOPのmRNAレベルの上昇は、癌の陽性診断及び患者の生存の可能性の低下を示す。正常組織サンプル内に見られる正常レベルと比較してmRNA発現量を定量的に決定することにより、腫瘍の進行を評価し、患者の生存を予測することができる。腫瘍組織内で見られるmRNA発現レベルが高いほど、患者の生存機会は低くなる。
【0065】
本発明の好ましい実施形態では、MYPOPのタンパク質発現のレベルの比較は、約60kDaの分子量を有するMYPOPの大きい形態(MYPOP L形態)を同定することを含む。患者サンプル中にMYPOP L形態がないことは、癌の陽性診断を示している。分子量が42kDaである小さい形態のMYPOP(MYPOP S形態)の発現は、正常細胞と比較して腫瘍細胞内では影響を受けない。
【0066】
MYPOPの発現レベルの決定は、mRNAレベルまたはタンパク質レベルのいずれかで実行できる。好ましい実施形態では、MYPOPタンパク質の発現レベルの決定は、MYPOPに特異的な抗体を用いて実施される。MYPOPに特異的である任意のポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体を使用できる。さらにより好ましい実施形態では、MYPOPタンパク質の発現レベルの決定は、MYPOPのN末端に特異的である抗体を用いて実施される。好ましくは、抗体は、検出可能なシグナルを付与するタグまたはラベルで標識されている。そのようなラベルとしては、これらに限定されないが、酵素、例えば、アルカリホスファターゼ、グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ、及び西洋ワサビペルオキシダーゼ、リボザイム、プロモーター、染料、蛍光、例えば、フルオレセイン、イソチオシアネート、ローダミン化合物、フィコエリスリン、フィコシアニン、アロフィコシアニン、o-フタルアルデヒド、及びフルオレスカミン、イソルミノールなどの化学発光体、増感剤、補酵素、酵素基質、放射性標識、ラテックスまたはカーボン粒子などの粒子、リポソーム、細胞、などが挙げられ、これはさらに染料、触媒または他の検出可能な群で標識することができる。
【0067】
これらに限定されないが、血液または尿などの固体組織または流体など、任意の生物学的サンプルを本発明の方法で使用することができる。MYPOPの生物学的活性またはタンパク質は、癌細胞内で大幅に減少するかまたは排除されるため、癌細胞は、原発性黒色腫細胞、頸部癌細胞、黒色腫細胞、乳癌細胞、または肺癌細胞など、あらゆる腫瘍組織または体液内で同定され得る。
【0068】
好ましいMYPOP生成物は、配列番号1~配列番号4の配列を含む、本明細書に提示される配列表によって特徴付けられる。
【0069】
好ましい実施形態では、本発明のMYPOPタンパク質は、配列番号1のmRNA配列を含む核酸配列によってコードされる。本発明はまた、対応する未改変または未修飾のmRNAと比較して、少なくとも1つの改変されたかまたは修飾されたヌクレオチドを有するバリアントまたはRNA類似体を含む。
【0070】
配列番号2のアミノ酸配列は、MYPOPのN末端に関連し、DNA結合ドメイン及び単一の核局在化シグナル(NLS)を含む最初の126のアミノ酸を含む。配列番号3のアミノ酸配列は、ヒトにおけるMYPOPの完全長アミノ酸配列に関連し、配列番号4のアミノ酸配列は、マウスにおけるMYPOPの完全長アミノ酸配列に関連し、配列番号5のアミノ酸配列は、ラットにおけるMYPOPの完全長アミノ酸配列に関する。しかし、本発明は、他の生物に見られるMYPOPに対してある程度の相同性を呈する他のタンパク質または核酸も網羅する。好ましくは、そのような相同体は、配列番号2に記載のMYPOPアミノ酸配列と少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%の相同性を有する。したがって、配列番号1による核酸配列または配列番号2~4のアミノ酸配列は、コードされたMYPOP遺伝子産物の生物学的挙動及び/または活性を有意に変化させることなく、変異(置換、付加、欠失)を含み得る。
【0071】
本発明のMYPOPは、好ましくは、MYPOPのアミノ酸配列をコードする核酸配列、または1つ以上の核酸が縮重核酸によって置換され、その結果、MYPOPの同じアミノ酸配列をもたらすそのバリアントを含む。好ましい実施形態では、本発明はまた、腫瘍細胞においてMYPOPを形質転換させ、発現させるためのMYPOPの遺伝子を含むベクターまたはプラスミドを網羅する。さらにより好ましい実施形態では、本発明はまた、完全長のMYPOPと比較したときに、完全な腫瘍抑制機能を示す、腫瘍細胞においてMYPOPを形質転換させ、発現させるためのDNA結合ドメイン(すなわち、MYPOPのN末端)をコードするMYPOPの遺伝子を含むベクターまたはプラスミドを網羅する。コードするDNA配列は、配列番号2のアミノ酸配列から構成される。本発明はまた、天然に存在しないリボヌクレオチドまたはデオキシリボヌクレオチドに関連するMYPOPのヌクレオチド類似体、改変ヌクレオチドまたは修飾ヌクレオチドを含む。
【0072】
好ましい実施形態では、患者サンプル(例えば、生物学的組織サンプル)において決定されるMYPOPは、配列番号1の核酸配列または配列番号1の核酸配列と少なくとも75%、少なくとも85%、少なくとも90%または少なくとも95%の相同性を共有するその相同体またはバリアントを含み、その間相同体またはバリアントは、Myb関連転写因子として、MYPOPの生物学的活性を保持している。
【0073】
好ましい実施形態では、患者サンプル(例えば、生体組織サンプル)内で決定されるMYPOPは、配列番号2、配列番号3または配列番号4のアミノ酸配列、または配列番号2、配列番号3または配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも75%、少なくとも85%、少なくとも90%または少なくとも95%の相同性を共有するその相同体またはバリアントを含み、その間、相同体またはバリアントは、Myb関連転写因子として、MYPOPの生物学的活性を保持している。
【0074】
好ましくは、MYPOPの発現レベルの決定は、配列番号1~5による配列のいずれか1つまたはその断片を使用して、MYPOPのmRNAレベルまたはタンパク質レベルを定量的または定性的に分析することによって実施される。
【0075】
この文脈における相同体は、他の種に見られるMYPOPのタンパク質または核酸を指し、バリアントは、MYPOPの生物学的性質を変えることなく1つ以上の核酸またはアミノ酸交換を含み得る。
【0076】
MYPOPがMyb関連転写因子として作用するかの決定は、これらに限定されないが、DNA結合アッセイ、プロモーターアッセイ、ウエスタンブロットアッセイ、またはELISAアッセイなど、当技術分野において公知である任意の好適なアッセイによって分析することができる。
【0077】
腫瘍療法で使用するためのMYPOP
(遺伝子療法または化学療法のいずれかによる)MYPOP発現の回復が腫瘍細胞の成長の低下をもたらすという本発明者の発見により、MYPOPは腫瘍細胞内おけるMYPOP活性を回復する治療剤の好適な標的となる。
【0078】
したがって、本発明のさらなる態様は、腫瘍疾患を治療するかまたは予防する方法における好適な標的としてのMYPOPの使用に関する。本明細書に示すとおり、腫瘍の進行は、影響を受けた腫瘍細胞におけるMYPOPの発現の再回復によって減少させるかまたは完全に停止させることができる。MYPOPの発現は、MYPOPを発現するウイルスまたは非ウイルスのビヒクル、プラミドまたはベクターを腫瘍細胞に送達することによって達成できる。あるいは、MYPOPは、経口投与、静脈内投与、または影響を受けた腫瘍組織への注射など、患者に好適な方法で投与できる。MYPOPの発現は、腫瘍細胞内でMYPOPの発現を回復させる好適な物質を投与することによっても回復させ得る。さらに、発現ベクターまたは転写ベクターは、影響を受けた腫瘍細胞内でMYPOPを発現させるために使用することができる。
【0079】
治療方法は、障害のリスクがある(またはその影響を受けやすい)、またはMYPOP活性の低下に関連する障害を有する対象を治療する予防的及び治療的方法をさらに含む。あるいは、標的遺伝子の発現または活性は正常(異常ではない)であり得るが、それにもかかわらず、MYPOP遺伝子の発現または活性の増加は、対象に有益な効果を有するであろう。
【0080】
本発明の別の実施形態では、対象は、MYPOP発現を調節するか、または影響を受けた腫瘍細胞におけるMYPOPタンパク質合成を加速する剤を投与される。乳癌、肺癌、肝癌など、異常なMYPOP遺伝子発現またはMYPOP mRNAの過剰発現によって引き起こされるか、またはその原因となる状態のリスクがある対象は、当技術分野において公知であり、かつ本明細書に記載されている例えば、診断アッセイまたは予後アッセイのいずれかまたはそれらの組み合わせによって同定できる。
【0081】
好ましい実施形態では、治療剤は、酵素を不活性化するかまたは分解するMYPOPの生物学的活性のうちの1つ以上を阻害するか、または腫瘍細胞におけるMYPOPタンパク質の合成を回復させる。そのような治療剤の例としては、ブロッキングペプチド、低分子阻害剤、及び抗標的抗体が挙げられる。これらの調節方法は、in vitroで(例えば、細胞を剤と共に培養することによって)、あるいは、in vivoで(例えば、剤を対象に投与することによって)実施することができる。このように、標的遺伝子タンパク質または核酸分子の異常な発現または活性を特徴とする疾患または障害に罹患している個体を治療する方法が提供される。一実施形態では、この方法は、標的遺伝子の発現または活性を調節する(例えば、上方制御または下方制御する)剤または剤の組み合わせを投与することを含む。別の実施形態では、この方法は、標的遺伝子の発現または活性の低下または異常を補償するための治療として、標的遺伝子タンパク質または核酸分子を投与することを伴う。そのような調節方法または剤は、影響を受けた腫瘍細胞におけるMYPOPの生物学的活性または安定性の増加をもたらすことが提供される。
【0082】
治療方法には、腫瘍の進行を低減するかまたは予防するためのMYPOPまたはその相同体を投与することまたは同時投与することも含まれる。例えば、一実施形態では、この方法は、低MYPOPタンパク質レベルを発現する細胞集団を有する個体に所望の薬物を投与すること、及び腫瘍細胞内におけるmRNA過剰発現を調節するために標的遺伝子合成の阻害剤を同時投与することを伴う。投与ステップ及び同時投与のステップは、同時にまたは任意の順序で実行することができ、また細胞によるいずれかの化合物の取り込みを根絶させるのに十分な時間間隔によって分離することができる。例えば、MYPOP合成を回復するペプチドまたは低分子を含む医薬組成物は、MYPOP遺伝子の発現及び/またはタンパク質の産生を調節するために、薬物投与の十分前に個体に投与できる。癌細胞内などでMYPOP遺伝子産物が異常に下方制御されている状況では、MYPOP活性の回復が望ましい。
【0083】
好ましい実施形態では、MYPOPタンパク質の一部は、好ましくはMYPOPのDNA結合ドメインを含み、好ましくはMYPOPのN末端を含むポリペプチド、タンパク質またはペプチドとして投与される。好ましい実施形態では、N末端を含むMYPOPの一部は、配列番号2で定義されるアミノ酸配列を含む。
【0084】
本明細書に開示される治療剤を投与するための投薬量範囲は、MYPOPの症状が治療される所望の効果を生み出すのに十分な大きさのものである。投薬量は、望ましくない交差反応、アナフィラキシー反応などの有害な副作用を引き起こすほど多くあってはならない。一般に、投薬量は、患者の年齢、状態、性別、及び症状の程度によって異なり、当技術分野によって決定され得る。投薬量は、何らかの反対兆候(counter indication)の事象の場合、個々の医師によって調整され得る。投薬量は、治療される特定の障害及び患者に依存する可能性があり、これらの障害の治療に通常のスキルを有する医師による既知の投薬量調整技術を使用して容易に決定することができる。投薬量は、一般に、さらなる罹患率及び死亡率を最小限に抑えながら治療効果をもたらすであろう治療化合物の確立された治療枠内にある。
【0085】
治療方法の一実施形態では、投薬量は、活性ドメインを含むMYPOPのN末端を発現して、癌の進行を阻害し、腫瘍細胞を治療薬物または遺伝子療法に感作させ、したがってこれらの治療の有効性を改善することに十分である。
【0086】
好ましい実施形態では、MYPOP分子は、分子療法の標的として使用される。このために、MYPOP mRNAアンタゴニストとしての低分子干渉RNA(siRNA)の適用など、いくつかのアプローチを使用して、腫瘍細胞におけるMYPOPの発現を上方制御することができる。さらに、MYPOPの過剰発現は、腫瘍細胞を現在の治療薬物または遺伝子療法に対して感度を高くすることができ、これにより治療の有効性が改善される。
【0087】
MYPOPタンパク質は、保護効果を有し、腫瘍細胞内でのみ減少し、正常細胞では減少しないと考えられる。MYPOPのタンパク質レベルが回復することにより、細胞死または腫瘍細胞分裂の阻止がもたらされる。したがって、腫瘍疾患を治療するかまたは予防する好ましい方法は、リスクのある対象にMYPOPタンパク質を投与することによるものである。さらに好ましい実施形態では、腫瘍細胞は、MYPOPのタンパク質合成が維持されるかまたは増加されるように形質転換される。
【0088】
治療すべき好ましい癌の1つは、発癌性ヒトパピローマウイルス(HPV)誘発性癌または前癌段階である腫瘍疾患または潜伏性ウイルス感染である。
【0089】
あるいは、MYPOPタンパク質発現の追加または回復によって治療できる他のすべての腫瘍疾患(他の病原体誘発腫瘍及び/または非ウイルス誘発腫瘍など)は、黒色腫、乳癌、肺癌、肝癌、胃癌、大腸癌、子宮頸癌、膵癌、前立腺癌、卵巣癌、リンパ腫、白血病、腎癌、膀胱癌、または子宮内膜癌からなる群から選択される。しかし、本発明はこれらの特定の癌に限定されないが、他の腫瘍疾患に有益であり得る。
【0090】
本発明はまた、治療有効量のMYPOP発現分子またはタンパク質及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物に関する。従来のいずれの媒体または剤も活性化合物と適合しない場合を除いて、組成物内でのそれらの使用が企図される。補足的な活性化合物もまた、本組成物に組み込むことができる。
【0091】
医薬組成物は、その意図された投与経路と適合性があるように配合される。投与経路の例としては、非経口、例えば、静脈内、皮内、皮下、経口(例えば、吸入)、経皮(局所)、経粘膜、及び直腸投与が挙げられる。非経口、皮内、または皮下投与に使用される溶液または懸濁液としては、以下の成分:滅菌希釈剤、例えば、注射用水、食塩水、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールまたは他の合成溶媒;抗菌剤、例えば、ベンジルアルコールまたはメチルパラベン;抗酸化剤、例えば、アスコルビン酸または亜硫酸水素ナトリウム;キレート剤、例えば、エチレンジアミン四酢酸;緩衝液、例えば、酢酸塩、クエン酸塩またはリン酸塩;及び張性を調整するための剤、例えば、塩化ナトリウムまたはデキストロースを挙げることができる。pHは、塩酸または水酸化ナトリウムなどの酸または塩基により調整できる。非経口調製物は、アンプル、使い捨て注射器、またはガラス製もしくはプラスチック製の複数回投与バイアルに入れることができる。
【0092】
一実施形態では、MYPOPまたはMYPOP発現を媒介する剤は、インプラント及びマイクロカプセル化送達システムなどの制御放出製剤など、身体からの急速な排除または身体内での分解から保護するであろう担体を用いて調製される。エチレン酢酸ビニル、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、及びポリ乳酸などの生分解性、生体適合性ポリマーを使用することができる。このような製剤は、標準的な技術を使用して調製され得る。リポソーム懸濁液(モノクローナル抗体で抗原提示細胞を標的とするリポソームなど)も、薬学的に許容される担体として使用できる。
【0093】
別の実施形態では、MYPOP遺伝子は、例えば、当技術分野で公知である方法を使用して、遺伝子コンストラクト、例えば、ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、発現カセット、またはプラスミドウイルスベクターに挿入できる。遺伝的コンストラクトは、例えば、吸入、経口、静脈内注射、局所投与、または定位注射によって対象に送達することができる。送達ベクターの医薬調製物は、許容可能な希釈剤中にベクターを含むことができるか、または送達ビヒクルが埋め込まれている徐放性マトリックスを含むことができる。あるいは、完全な送達ベクターが組換え細胞、例えばレトロウイルスベクターから無傷で産生され得る場合、医薬調製物は、ポリヌクレオチド送達システムを産生する1つ以上の細胞を含み得る。
【0094】
(i)注射可能組成物
注射可能な使用に好適である医薬組成物としては、無菌水溶液(水溶性の場合)または分散液、及び無菌の注射可能な溶液または分散液の即時調製のための無菌粉末が挙げられる。静脈内投与の場合、好適な担体としては、生理食塩水、静菌水、Cremophor EL(BASF;Parsippany,N.J.)またはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)が挙げられる。すべての場合において、組成物は無菌である必要があり、容易な注射可能性が存在する程度まで流動性でなければならない。製造及び保管の条件下で安定している必要があり、また、細菌及び真菌などの微生物の汚染作用から保護されている必要がある。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、及び液体ポリエチレングリコールなど)、及びそれらの好適な混合物を含む溶媒または分散媒体であり得る。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングの使用、分散の場合に必要な粒子サイズの維持、及び界面活性剤の使用によって維持することができる。微生物の作用の防止は、様々な抗菌剤及び抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなどによって達成することができる。多くの場合、組成物には、等張剤、例えば、糖のほか、マンニトール、ソルビトール、塩化ナトリウムなどの多価アルコールを含めることが好ましいであろう。注射可能な組成物の長期吸収は、吸収を遅延させる剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンを組成物に含めることによってもたらされ得る。
【0095】
滅菌注射液は、必要に応じて、上記に列挙した成分のうちの1つまたはそれらの組み合わせを含む適切な溶媒に必要な量の活性化合物を組み込み、その後濾過滅菌することによって調製することができる。一般に、分散液は、活性化合物を、基本的な分散媒及び上記に列挙されたものからの必要な他の成分を含む滅菌ビヒクルに組み込むことによって調製される。無菌の注射可能溶液を調製するための無菌粉末の場合、好ましい調製方法は、真空乾燥及び凍結乾燥であり、これにより、有効成分の粉末に加えて、以前に滅菌濾過されたその溶液から任意の追加の所望の成分が得られる。
【0096】
(ii)経口組成物
経口組成物は、一般に、不活性希釈剤または食用担体を含む。それらはゼラチンカプセルに封入するか、錠剤に圧縮することができる。経口治療投与の目的で、MYPOP化合物は、賦形剤と一緒に組み込まれ、錠剤、トローチ、またはカプセルの形態で使用され得る。経口組成物はまた、うがい薬として使用するための流体担体を使用して調製することができ、流体担体中の化合物は、経口により適用され、吐き出されるかまたは飲み込まれる。医薬的に適合性のある結合剤、及び/またはアジュバント材料を本組成物の一部として含めることができる。錠剤、丸薬、カプセル、トローチなどは、以下の成分のいずれか、または同様の性質の化合物を含むことができる:微結晶性セルロース、トラガカントガムまたはゼラチンなどの結合剤;デンプンまたはラクトースなどの賦形剤、アルギン酸、プリモゲル、またはコーンスターチなどの崩壊剤;ステアリン酸マグネシウムまたはステロイドなどの潤滑剤;コロイド状二酸化ケイ素などの流動促進剤;ショ糖またはサッカリンなどの甘味料;または、ペパーミント、サリチル酸メチル、オレンジフレーバーなどのフレーバー剤。これらは典型的には、ポリヌクレオチドまたは抗体の投与には使用されない。
【0097】
(iii)肺投与のための組成物
吸入による投与の場合、化合物は、好適なプロペラント、例えば二酸化炭素などのガス、またはネブライザーを含む加圧容器またはディスペンサーからエアロゾルスプレーの形態で送達される。
【0098】
(iv)局所投与用の組成物
全身投与はまた、経粘膜的または経皮的手段によるものであり得る。経粘膜または経皮投与の場合、浸透するバリアに適した浸透剤が製剤中に使用される。そのような浸透剤としては、当技術分野において一般に知られており、例えば、経粘膜投与用、洗浄剤、胆汁酸塩、及びフシジン酸誘導体が挙げられる。経粘膜投与は、鼻内スプレーまたは坐剤を使用して行うことができる。経皮投与の場合、活性化合物は、当技術分野において一般に知られているように、軟膏(ointment)、軟膏(salve)、ゲル、またはクリームに配合される。
【0099】
(v)非経口投与
非経口投与用の調製物としては、滅菌水溶液または非水溶液、懸濁液、及び乳濁液が挙げられる。非水性溶媒の例としては、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油などの植物油、及びオレイン酸エチルなどの注射可能な有機エステルである。水性担体としては、水、アルコール/水溶液、乳濁液、または生理食塩水及び緩衝培地などの懸濁液が挙げられる。非経口ビヒクルとしては、塩化ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース、デキストロース及び塩化ナトリウム、乳酸リンゲル、または固定油が挙げられる。静脈内ビヒクルとしては、液体及び栄養素補充剤、電解質補充剤(リンゲルデキストロースをベースにしたものなど)などが挙げられる。例えば、抗菌剤、抗酸化剤、キレート剤、及び不活性ガスなどの防腐剤及び他の添加剤も存在し得る。
【0100】
化合物はまた、坐剤(例えば、カカオバター及び他のグリセリドなどの従来の坐剤ベースを用いて)または直腸送達のための保持浣腸の形態で調製することができる。
【0101】
投与の容易性及び投薬量の均一性のために、投与単位形態で組成物を配合することは特に有利である。本明細書で使用される投与単位形態は、治療される対象の単一投薬量として適した物理的に個別の単位を指す。各単位は、必要な医薬担体と関連して所望の治療効果を生み出すように計算された所定量の活性化合物を含む。投与単位形態の仕様は、活性化合物の固有の特性及び達成されるべき特定の治療効果、ならびに個体の治療のためにそのような活性化合物を配合する技術に固有の制限によって指示され、これらに直接依存する。
【0102】
医薬組成物は、投与説明書と共に、容器、パック、またはディスペンサーに含めることができる。
細胞培養におけるプロモーターとしてのMYPOP
【0103】
本発明は、細胞培養における細胞増殖を増強する方法にさらに関する。これにより、MYPOPは、細胞の成長、特に産生細胞、好ましくは産生細胞株の産生細胞の成長を増強するための好適な標的となる。例えば、これは、細胞の発現速度及び/または増殖速度を増加させるために、MYPOP活性の阻害剤を使用することによって達成することができる。これにより、MYPOPは産業用途、例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、酵母、または他の細胞などの生産細胞株用に好適となる。MYPOP活性の好ましい阻害剤は、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体のいずれかの抗体である。あるいは、プロフィリンを使用してMYPOP活性を阻害することができる。MYPOPを阻害することにより、細胞培養の成長が促進され、細胞量及び結果が増加する。
【0104】
阻害剤は、in vitroまたはin vivoでのMYPOPの発現またはMYPOPの生物学的活性を阻害する任意のものであり得る。好ましい実施形態では、MYPOPの阻害剤は、形質転換細胞に導入されたノックダウンまたはノックアウトMYPOP遺伝子である。MYPOPの発現レベルは、MYPOPのタンパク質合成を阻害するか、またはMYPOPタンパク質を分解することによって(例えば、プロテアーゼによる)低下させることができる。あるいは、RNAiまたはsiRNAアプローチは、MYPOP RNAの細胞内分解を選択すること、またはRNA干渉を仲介するために使用され得る。さらに、例えばCRISPR CAS9技術によるMYPOPノックアウトは、MYPOPの発現を阻害するために使用できる。
【0105】
さらに、MYPOPの発現は、産生細胞株を、少なくともCAS9などの遺伝子編集ヌクレアーゼ及びMYPOPに特異的なガイドRNA(gRNA)などのガイド核酸と接触させることによって阻害することができる。
実施例
【0106】
本発明は、以下の実施例でさらに説明される。しかし、本発明は、いかなる形態によってもこれらの例に限定されるものではない。
【0107】
(i)実施例1:診断及び予後マーカーとしてのMYPOP
実験は、MYPOPがすべての試験された腫瘍細胞株及び患者において大幅に減少することを示すために実施した。特に、本発明者らは、MYPOP L形態(約60kDa)が腫瘍細胞株において減少することを見出した。
【0108】
図1は、HPV形質転換細胞株及び癌組織におけるMYPOPの減少を示している。
【0109】
初代ケラチノサイト(NHEK)及びHPV形質転換細胞株HeLa(HPV18)、SiHa及びCaSki(両方ともHPV16)におけるMYPOPタンパク質及びmRNAの定量化。全細胞mRNAは、定量的リアルタイムPCR(qPCR)によって分析した。NHEKを100%に設定し、データ(n=6)を両側の対応のないt検定を使用して分析した:p=0.000944、t=-4.6245、dF=10(HeLa)またはウェルチの両側t検定p=0.01839、t=-3.3236、dF=5.4495(SiHa)または両側の対応のないt検定p=6.653x10-5、t=6.5284、dF=10(CaSki)。ウエスタンブロットのデンシトメトリーによる定量化(代表的なウエスタンブロットは上部パネルに示す)は、ImageJソフトウェアを使用して実行し、相対的MYPOPバンド強度は、β-アクチンに対して正規化した。NHEK細胞を100%に設定し、データ(n=5)をウェルチ両側t検定を用いて分析した。p=9.81x10-7、t=-19.968、dF=6.0255(HeLa)、p=9.71x10-7、t=19.949、dF=6.035(SiHa)、p=92.11x10-7、t=-17.647、dF=7.5346(CaSki)。
【0110】
図2は、MYPOP L形態が、試験を行ったすべての腫瘍細胞株(子宮頸癌、黒色腫、乳癌細胞株)において大幅に減少していることを示している。ウエスタンブロットは、MYPOPが約60kDa(大きい形態、L形態)及び42kDa(小さい形態、S形態)の2つの形態で存在することを示している。MYPOP L形態は、癌細胞株内で大幅に減少する。1:正常なヒト上皮ケラチノサイト(NHEK)、2:子宮頸癌細胞(SiHa)、3:黒色腫細胞(WM266.4)、4:乳癌細胞(MCF-7)。正常なケラチノサイト(NHEK)は、対照として機能し、MYPOPの高発現レベルを示す。
【0111】
図3は、MYPOP L形態が、扁平上皮癌(A)または腺癌(B)を有するすべての試験された非小細胞肺癌患者において大幅に減少していることを示している。示されているのは、それぞれ4名の患者のウエスタンブロット分析におけるMYPOPである。
【0112】
図4は、MYPOP L形態及びS形態が、2つの異なる抗体によって異なって検出できることを示している。示されているのは、ポリクローナルウサギProteoGenix抗体(左)またはポリクローナルウサギAbcam抗体(右)を使用したHeLa(1)、HaCaT(2)、及びNHEK(3)細胞溶解物のウエスタンブロット分析におけるMYPOPである。MYPOP抗体及びイムノブロットにおけるそれらの反応性の両方の比較を行った。HeLa、HaCaT、及び初代ケラチノサイト細胞溶解物をSDS-PAGEによって分離し、ウエスタンブロットでプロセシングを行い、免疫検出により分析した。MYPOPの検出は、ProteoGenixまたはAbcam抗体のいずれかを使用して実行した。矢印は、L形態及びS形態を示している。明解かつ簡潔にするために、ウエスタンブロット画像は、トリミングしている。
【0113】
(ii)実施例2:MYPOP mRNAは肺癌細胞内で増強され(診断マーカー)、発現は生存率と負に相関する(予後マーカー)。
MYPOP mRNAは、肺癌細胞内で増強され、生存率と相関する。本発明者らは、MYPOP RNAの発現レベルが癌細胞において増加し、それにより、MYPOP RNAが診断マーカーとして好適になることを見出した。さらに、タンパク質レベルでは、MYPOPタンパク質の発現が癌細胞内では減少することを見出した。さらに、MYPOP mRNAの発現は、生存率と負に相関し、それにより、MYPOPが予後マーカーとして好適になることを見出した。
【0114】
図5では、MYPOPのmRNAレベルが正常な肺組織と比較して、腫瘍組織(腺癌(n=55)及び扁平上皮癌(n=43)において有意に高いことが示されている(MYPOPのΔC-値が低いほど発現が高いことを示す)。対応のある分析は、肺癌患者(腫瘍対正常組織)において、2倍増加したmRNAの発現を示している(ADC=腺癌;SQCC=扁平上皮癌)。
【0115】
図6:MYPOP mRNAレベルは、癌患者の生存に関する予後マーカーである。カプランマイヤー分析は、mRNAレベルがNSCLC患者の全生存率と負に相関していることを示している。
【0116】
2つの群は、すべての患者の倍率変化の中央値(腫瘍対正常組織)(2つの群の限界としての中央値)を使用して分離させた。
0=低発現
1=高発現
P=0,018=有意な影響
【0117】
正常組織と比較して腫瘍内での強い過剰発現により、患者の全生存率が低下する。
(iii)実施例3:治療標的としてのMYPOP。MYPOPは、細胞増殖を低減させ、細胞死を誘導する。
【0118】
図7は、MYPOPがHPV形質転換細胞及び非ウイルス形質転換細胞のコロニー形成を阻害することを示している。a~cの細胞にMYPOP発現プラスミドまたは対照プラスミドのいずれかをトランスフェクトし、G418で6~12日間選択した。対照またはMYPOPトランスフェクト細胞のコロニーをメタノールで固定し、クリスタルバイオレットを使用して染色した(上部パネルa~c)。プレートは、ImageJプラグイン「ColonyArea」(下部パネルa~c)を使用して定量化し、値は箱ひげ図として示す。A:SiHa細胞の代表的な画像及び5つの独立した実験から得られた値を示す。対照トランスフェクト細胞は100%に設定した。データ(n=20)は、ウィルコクソン順位和検定を使用して分析した。p=1.451x10-11、W=400。B:HeLa細胞の代表的な画像及び9つの独立した実験から得られた値を示す。対照トランスフェクト細胞は100%に設定した。データ(n=30)は、ウィルコクソン順位和検定を使用して分析した。p=2.2x10-16、W=899。C:HaCaT細胞の代表的な画像及び6つの独立した実験から得られた値を示す。対照トランスフェクト細胞は100%に設定した。データ(n=22)は、ウェルチの両側t検定を使用して分析した。p=0.00105、t=3.5361、dF=39.71;**、p≦0.01、***、p≦0.001。
【0119】
図8は、MYPOPの再発現(L形態の回復)により細胞増殖が減少し、乳癌細胞(MCF-7)内で細胞死を誘導することを示している。A:MCF-7細胞にMYPOP-GFP発現プラスミドまたは対照GFPプラスミドをトランスフェクトし、G418で10日間選択した。GFPまたはMYPOP-GFP発現細胞の形成されたコロニーが示されている(左)。対照またはMYPOPトランスフェクト細胞のコロニーをメタノールで固定し、クリスタルバイオレットを使用して染色した(A、右)。B:ウエスタンブロットは、MYPOP-GFPの24時間後または細胞の対照トランスフェクション後のL形態の再保存を示している(上部パネル)。形成されたコロニーは、ImageJプラグイン「ColonyArea」(下部パネル)を使用して定量化した。これらの値は、2つの独立した実験から得られた。対照トランスフェクト細胞は100%に設定した。(n=5)
【0120】
図9は、MYPOPの再発現により、肺癌患者から単離された肺癌細胞株の細胞増殖が減少し、かつ細胞死を誘導することを示している。細胞にMYPOP-Flag発現プラスミドまたは対照Flagプラスミドをトランスフェクトし、G418で7日間選択した。Flag(対照)またはMYPOP-Flag発現細胞(左)の形成されたコロニーを示している。対照またはMYPOPトランスフェクト細胞のコロニーをメタノールで固定し、クリスタルバイオレットを使用して染色した(左)。ウエスタンブロットは、MYPOP-Flagまたは細胞の対照トランスフェクションの24時間後にMYPOPが再保存されていることを示している(右)。
【0121】
(iv)実施例4:
MYPOPを標的とした癌療法は、MYPOPの活性の回復をベースとしている。特に、MYPOPメインバンド(L形態)の活性を回復することがMYPOPベースの癌療法の目的である。
【0122】
図7~9及び図11で実施された実験では、MYPOP、MYPOP-GFP、MYPOP-GST、MYPOP-His(図示せず)、MYPOP-Flag及びMYPOP-N-Flagを癌患者の遺伝子療法に使用できる。
【0123】
図10は、MYPOP-FlagまたはMYPOP-N(DNA結合ドメインを含む)がプロモーター活性を調節することを示している。(A)HaCaT細胞は、示されているように、24時間、対照FLAGベクターまたはMYPOP-wt、-Nまたは-Cと共にpGL4.20 HPV16LCRルシフェラーゼレポータープラスミドで一時的に同時トランスフェクトさせた。次に、細胞を溶解して、モノクローナルマウスFLAG(M2)抗体を使用した免疫検出によるMYPOP発現をモニターした。下部パネルは、ローディング対照として不特定のバンドを示している。(B)実験は、(A)に記載のとおり行ったが、細胞を溶解し、プロモーター活性の尺度としてのルシフェラーゼ活性をLDH測定によって評価し、正規化した。4つの独立した実験から得られた値は箱ひげ図として示され、空のFLAGベクターを使用したpGL4.20 16LCRは100%に設定した。データ(n=15)は、両側の対応のないt検定を使用して分析した。
【0124】
図11は、MYPOP及びMYPOP-Nの発現により、癌細胞内において細胞増殖が減少することを示している。HeLa細胞は、示されているとおりFLAGベクターまたはMYPOP-wt、-Cまたは-Nのいずれかでトランスフェクトさせ、G418で10日間選択された。Flag(対照)またはMYPOP-wt、-Cまたは-NFlag発現細胞の形成されたコロニーが示されている。対照またはMYPOPトランスフェクト細胞のコロニーをメタノールで固定し、クリスタルバイオレットを使用して染色した。
【0125】
MYPOP L形態を安定化させることができる剤は、癌療法にとって有用な剤であることがさらに期待されていた。L形態とS形態の差を分析するために、MYPOPの推定SUMO化の試験を行った。実際に、MYPOPはSUMO-1によって修飾された。SUMO抗体は、精製されたMYPOP-Myc-his6サンプル中でMYPOP L形態を検出する。したがって、脱SUMO化機構の阻止またはSUMO修飾MYPOPの分解の阻害は、MYPOPのL形態の喪失を阻害し、発癌を防ぐことが期待されている。
【0126】
図12では、MYPO L形態は、SUMO-1修飾MYPOPタンパク質である。MYPOPの不安定化は、脱SUMO化によって媒介される可能性がある。(A)FLAG-MYPOPまたは0-FLAGは、HaCaT細胞内でSUMO1-GFP、SUMO2-GFP、または0-GFPと24時間共発現した。細胞を溶解し、SDS-PAGE及びモノクローナルマウスFLAG抗体を使用したウエスタンブロットによってプロセシングした。(B)MYPOP-Myc-his6は、HEK293T細胞内で発現され、そのhis6タグを介して精製され、SDSサンプルバッファーで溶解した。1つのサンプルをSDS-PAGEに2回ロードし、分離してウエスタンブロットによってプロセシングを行った。メンブレンを切断し、各部分をポリクローナルウサギSUMO抗体またはモノクローナルマウスMyc抗体のいずれかと同時にインキュベートした。
【0127】
(v)実施例5:生産性を高めるためのMYPOP
MYPOPの品質は、産生細胞株の生産性を高めるために使用できる。MYPOPタンパク質の減少により、細胞の増殖及び発現が増強され、それによって、生産細胞株の細胞分裂及び細胞増殖を加速させるために使用することができる。
【0128】
図13は、MYPOPタンパク質レベルが細胞増殖と負に相関していることを示している。これは、診断用途または治療用途のみでなく、細胞株の生産性を高めるための産業用途にも有用である。HaCaT細胞は、MYPOP特異的shRNAを含むレンチウイルスにより形質導入された。ノックダウン効率(A、上部パネル)、アクチンレベル(A、下部パネル)、及び相対的LDHレベルが示されている。対照shRNA処理細胞は、100%に設定した。アクチンレベル及びLDHレベルは、細胞の量の尺度として機能する。
【0129】
図14は、MYPOPの下方制御によりタンパク質発現が増強することを示している。HaCaT細胞にMYPOP特異的shRNAを含むレンチウイルスを形質導入して、MYPOPタンパク質レベルを低下させた。7日後、細胞にルシフェラーゼベクターを形質導入した。遺伝子発現の尺度としての相対的なルシフェラーゼ活性は、24時間後に評価した。対照siRNA処理細胞を100%に設定し、ウィルコクソン順位和検定を使用してデータ(n=16)を分析した:p=0.0004666、W=39(#9)。
【0130】
図15は、MYPOPの再発現により、a)ヒト肝癌細胞株、b)肺扁平上皮癌細胞株、及びc)肺腺癌細胞株の細胞増殖が減少することを示している。コロニー形成アッセイは、図7~9に記載のとおり実施した。データは、細胞死が肝癌細胞、肺癌細胞、及び腺癌癌細胞内で誘導されるという証拠を提供する。
【0131】
図16は、MYPOP及びMYPOP-C PsVのHPV16シュードウイルス(PsV)形質導入効率をMYPOP発現レベルによって試験を行った結果をまとめたものである。MYPOP-WTまたはMYPOP-ADPsVは、Optiprep-グラジエント分画によって精製し、収集した。ウエスタンブロットアッセイは、MYPOPまたはMYPOP-Cの発現を示している。
【0132】
分画10及び11は、2つのグラジエントのピーク分画であり、その後の実験に使用された。
【0133】
さらなる実験のために、PsVをMYPOP発現プラスミドのウイルスベクターとして利用した。HPV16のキャプシドをMYPOP-発現プラスミドの送達用ベクターとして使用して、MYPOP(野生型)及びMYPOP-C(DNA結合ドメインのないMYPOPのより短いバージョン)の発現プラスミドを含むシュードウイルスを調製した。このコンストラクトは、プロモーターベースのアッセイでは不活性であり、対照として機能する。これにより、MYPOP発現プラスミドのトランスファーベクターが作成された。HPV16シュードウイルス(PsV)は、以前に記載しているとおりに生成した(Buck et al.,2004)。ここでは、MYPOP-Flag発現プラスミドまたは不活性な欠失コンストラクトMYPOP-C-Flagをシュードゲノム(パッケージ化されたDNA)として使用した。
【0134】
図17は、MYPOPベクター遺伝子両方がケラチノサイト癌細胞株の細胞増殖を減少させるのに機能的であり、したがってMYPOPが有益な治療標的として使用できることを示していることを例示している。HPV18形質転換Hela細胞を用いたコロニー形成アッセイを実施して、抗癌遺伝子療法におけるMYPOP PsVの試験を行った。細胞を播種し、2日または3日の定期的な間隔で、MYPOP PsV対対照、Optiprep(対照)及びMYPOP-Cにより処理した(図17A)。殺傷効率(図17B)は、メタノールで固定し、クリスタルバイオレットで染色した後、ImageJ及びプラグインの「コロニー領域」により被覆面積及び強度を測定することによって決定した。MYPOP-ベクターによる細胞処理後、細胞増殖の有意な減少を測定した。このデータは、MYPOP-ベクターが、腫瘍細胞の細胞増殖を減少させ、それにより、MYPOPを腫瘍療法の好適な治療標的にすることができることを示している。
【0135】
図18は、MYPOP-ベクター遺伝子療法が腫瘍細胞の細胞増殖の減少に機能しているという追加の例を示す。ここでは、肺癌細胞株がMYPOPベクターにより処理されている。肺癌細胞株を用いたコロニー形成アッセイを実施し、図17Aのように細胞を播種して処理した。
【0136】
図19は、正常な非腫瘍細胞に対してMYPOPベクターの有意な細胞毒性効果がないことを示している。正常ヒト上皮ケラチノサイト(NHEK)を用いたコロニー形成アッセイは、正常細胞に対する推定細胞毒性副作用の試験を行うために実施した(図19A)。細胞を播種し、2日または3日の定期的な間隔で、MYPOP PsV対対照、Optiprep(対照)及びMYPOP-Cで処理した。殺傷効率(図19B)は、メタノールで固定し、クリスタルバイオレットで染色した後、ImageJ及びプラグインの「コロニー領域」により被覆面積及び強度を測定することによって決定した。MYPOP-ベクターによる細胞処理後、細胞増殖の有意な減少はいずれも測定されなかった。
【0137】
要約すると、腫瘍細胞の細胞増殖の有意な減少は、MYPOP発現ウイルスベクターにより癌細胞を感染させることによって観察できるが、正常で健康な非腫瘍細胞ではいかなる効果も観察できなかった。このデータは、本発明がヒトのみでなく他の哺乳動物でも機能すること、及び軽微な副作用のみが予想されるかまたはいかなる重篤な副作用も予想されないことを示唆している。
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【配列表】
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【国際調査報告】