(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-07
(54)【発明の名称】(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミドおよびその薬学的に許容される塩
(51)【国際特許分類】
C07D 277/56 20060101AFI20220131BHJP
A61K 31/426 20060101ALI20220131BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220131BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220131BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20220131BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20220131BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20220131BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20220131BHJP
A61P 25/14 20060101ALI20220131BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20220131BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20220131BHJP
A61P 17/06 20060101ALI20220131BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20220131BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220131BHJP
A61K 31/45 20060101ALI20220131BHJP
A61K 31/573 20060101ALI20220131BHJP
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A61K 31/455 20060101ALI20220131BHJP
A61K 31/4458 20060101ALI20220131BHJP
A61K 31/519 20060101ALI20220131BHJP
A61K 31/437 20060101ALI20220131BHJP
A61K 31/136 20060101ALI20220131BHJP
A61K 31/18 20060101ALI20220131BHJP
A61K 31/166 20060101ALI20220131BHJP
【FI】
C07D277/56 CSP
A61K31/426
A61P43/00 121
A61P43/00 111
A61P35/00
A61P35/02
A61P25/28
A61P25/00 101
A61P25/16
A61P25/14
A61P29/00
A61P29/00 101
A61P19/02
A61P17/06
A61P1/04
A61K45/00
A61K31/45
A61K31/573
A61K31/4184
A61K31/455
A61K31/4458
A61K31/519
A61K31/437
A61K31/136
A61K31/18
A61K31/166
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021533192
(86)(22)【出願日】2019-12-09
(85)【翻訳文提出日】2021-08-06
(86)【国際出願番号】 US2019065299
(87)【国際公開番号】W WO2020123414
(87)【国際公開日】2020-06-18
(32)【優先日】2018-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517405149
【氏名又は名称】トランスレイショナル・ドラッグ・ディベロップメント・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100187540
【氏名又は名称】國枝 由紀子
(72)【発明者】
【氏名】ワン,トン
(72)【発明者】
【氏名】ゲイトリー,スティーヴン
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
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(57)【要約】
本発明は、新規なヒストン脱アセチル化酵素阻害剤である化合物(S)-n-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミドに関する。本発明はさらに、HDACアイソフォームのヒストン脱アセチル化活性の阻害およびヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)関連疾患の治療のための化合物の使用に関する。本発明はまた、化合物を含む医薬組成物および医薬組成物の調製に関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミド
【化1】
またはその薬学的に許容される塩、エステル、誘導体、アナログ、プロドラッグもしくは溶媒和物。
【請求項2】
ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)関連疾患を治療するための医薬組成物であって、
(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミド、N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミド、およびそれらの薬学的に許容される塩、エステル、誘導体、アナログ、プロドラッグまたは溶媒和物からなる群から選択される少なくとも第1の有効成分を含む有効成分と、
薬学的に許容される担体と
を含む医薬組成物。
【請求項3】
ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)関連疾患を治療するための医薬組成物を作製する方法であって、有効成分を熱力学ミキサー中で薬学的に許容される担体と約250℃未満で300秒未満混合するステップを含み、有効成分が、(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミド、N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミド、およびそれらの薬学的に許容される塩、エステル、誘導体、アナログ、プロドラッグまたは溶媒和物からなる群から選択される少なくとも第1の有効成分を含む、方法。
【請求項4】
(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミド、またはその薬学的に許容される塩、エステル、誘導体、アナログ、プロドラッグもしくは溶媒和物が第1の有効成分の80~100重量%である、請求項2に記載の医薬組成物または請求項3に記載の方法。
【請求項5】
有効成分が第2の有効成分をさらに含む、請求項2または4に記載の医薬組成物、または請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
第2の有効成分が、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤、ブロモドメイン阻害剤または両方を含む、請求項5に記載の医薬組成物または方法。
【請求項7】
第1の有効成分、第2の有効成分または両方の量が治療上有効量である、請求項2および4から6のいずれか一項に記載の医薬組成物、または請求項3から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
薬学的に許容される担体が、医薬ポリマー担体、処理剤、界面活性剤およびこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項2および4から7のいずれか一項に記載の医薬組成物、または請求項3から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
医薬ポリマー担体が、セルロース系医薬ポリマー、架橋医薬ポリマー、高溶融粘度医薬ポリマー、非イオン性医薬ポリマー、非イオン性セルロース系医薬ポリマー、非イオン性水溶性医薬ポリマー、熱不安定性医薬ポリマー、水溶性医薬ポリマー、水溶性セルロース系医薬ポリマーおよびこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項8に記載の医薬組成物または方法。
【請求項10】
医薬ポリマー担体が、カルボマー、酢酸酪酸セルロース、酢酸フタル酸セルロース、酢酸トリメリト酸セルロース(cellulose acetate trimelletate)、クロスポビドン、クロスカルメロースナトリウム、ジメチルアミノエチルメタクリレート-メタクリル酸エステルコポリマー、エチルアクリレート-メチルメタクリレートコポリマー、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ポリ(ブチルメタクリレート-co-(2-ジメチルアミノエチル)メタクリレート-co-メチルメタクリレート)1:2:1、ポリカルボフィル、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(メタクリレートエチルアクリレート)(1:1)コポリマー、ポリ(メタクリレートメチルメタクリレート)(1:1)コポリマー、ポリ(メタクリレートメチルメタクリレート)(1:2)コポリマー、ポリ(酢酸ビニル)-co-ポリ(ビニルピロリドン)コポリマー、ポリ(酢酸ビニル)フタレート、ポリ(ビニルアルコール)、ポリビニルカプロラクタム-ポリ酢酸ビニル-ポリエチレングリコールグラフトコポリマー、ポリ(ビニルピロリドン)、カルボキシメチルセルロースナトリウムおよびこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項8または9に記載の医薬組成物または方法。
【請求項11】
処理剤が可塑剤を含む、請求項8から10のいずれか一項に記載の医薬組成物または方法。
【請求項12】
界面活性剤が、ジオクチルナトリウムスルホスクシネート、グリセロールポリエチレングリコールオキシステアレート-脂肪酸グリセロールポリグリコールエステル-ポリエチレングリコール-グリセロールエトキシレート、グリセロールポリエチレングリコールリシノレート-ポリエチレングリコール-ポリエチレングリコール-エトキシル化グリセロールの脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート、ドデシル硫酸ナトリウム、ソルビタンラウレート、ビタミンE TPGSおよびこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項8から11のいずれか一項に記載の医薬組成物または方法。
【請求項13】
細胞のヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)アイソフォームのヒストン脱アセチル化活性を阻害する方法であって、細胞を、(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミド、N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミド、およびそれらの薬学的に許容される塩、エステル、誘導体、アナログ、プロドラッグまたは溶媒和物からなる群から選択される化合物を含む組成物と接触させるステップを含む方法。
【請求項14】
組成物が、0.0005~2μMの半数阻害濃度(IC
50)でHDACアイソフォームのヒストン脱アセチル化活性を阻害する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
HDACアイソフォームが、HDAC1、HDAC2、HDAC3、HDAC6およびHDAC10からなる群から選択される、請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
HDACアイソフォームが、HDAC1、HDAC3、HDAC6およびHDAC10からなる群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
組成物が、少なくとも30%、HDACアイソフォームのヒストン脱アセチル化活性を阻害する、請求項13から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
細胞が、がん細胞、神経細胞、免疫系の細胞、循環系の細胞およびこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項13から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
がん細胞が、急性リンパ性白血病(ALL)細胞、急性骨髄性白血病(AML)細胞、急性前骨髄球性白血病(APL)細胞、膵臓の腺扁平上皮がん、血液がん細胞、脳腫瘍細胞、乳がん細胞、子宮頸部扁平上皮細胞、慢性骨髄性白血病(CML)細胞、結腸がん細胞、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)細胞、子宮内膜がん細胞、消化管間質腫瘍(GIST)細胞、神経膠芽腫(GBM)細胞、肝細胞がん細胞、ホジキンリンパ腫細胞、白血病細胞、肝臓がん細胞、肺がん細胞、黒色腫細胞、中皮腫細胞、多発性骨髄腫細胞、非ホジキンリンパ腫細胞、非小細胞肺がん(NSCLC)細胞、神経芽細胞腫細胞、卵巣がん細胞、膵臓がん細胞、膵管腺がん細胞、末梢T細胞リンパ腫細胞、咽頭がん細胞、前立腺がん細胞、腎臓がん細胞、横紋筋肉腫(rhabdomyocarcoma)細胞、皮膚がん細胞、甲状腺がん細胞、舌腫瘍細胞、子宮がん細胞、ワルデンシュトレーム骨髄腫細胞およびこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
がんが、膵臓の腺扁平上皮がん、RHOA変異を伴うびまん性胃がん、悪性ラブドイド腫瘍、卵巣の高カルシウム血症型の小細胞がん、ブドウ膜黒色腫およびこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
組成物が、細胞増殖を阻害する、細胞死を誘発する、またはその両方である、請求項13から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
対象のヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)関連疾患を治療する方法であって、(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミド、N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミド、およびそれらの薬学的に許容される塩、エステル、誘導体、アナログ、プロドラッグまたは溶媒和物からなる群から選択される少なくとも第1の有効成分を含む組成物を対象に投与するステップを含む方法。
【請求項23】
疾患が、がん、自己免疫障害、炎症性障害、神経変性疾患およびこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
がんが、急性リンパ性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(AML)、急性前骨髄球性白血病(APL)、乳がん、慢性骨髄性白血病(CML)、結腸がん、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、消化管間質腫瘍(GIST)、神経膠芽腫(GBM)、肝細胞がん、ホジキンリンパ腫、白血病、肺がん、多発性骨髄腫、非ホジキンリンパ腫、非小細胞肺がん(NSCLC)、神経芽細胞腫、卵巣がん、膵管腺がん、末梢T細胞リンパ腫、前立腺がん、子宮がん、ワルデンシュトレーム骨髄腫およびこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
自己免疫障害または炎症性障害が、気道過敏、クローン病、炎症性腸疾患、多発性硬化症、乾癬、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、1型糖尿病、潰瘍性大腸炎およびこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
神経変性障害が、アルツハイマー病(AD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脳虚血、ハンチントン病(HD)、パーキンソン病(PD)、脊髄性筋萎縮症およびこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
組成物が、約4時間、8時間、12時間、16時間または24時間毎に、対象1kg当たり10~400mgで投与される、請求項22から26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
対象がヒトである、請求項22から27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
組成物が第2の有効成分をさらに含む、請求項22から28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
第2の有効成分が、化学療法薬、MEK阻害剤、抗原提示を増強する薬剤、エフェクター細胞応答を増強する薬剤、腫瘍免疫抑制を減少させる薬剤およびこれらの組み合わせからなる群から選択される治療剤である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
化学療法薬が、ポマリドミド、デキサメタゾンおよびこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
抗原提示を増強する薬剤が、腫瘍細胞の溶解を増強する薬剤、食細胞を刺激する薬剤、食細胞を脱抑制する薬剤、樹状細胞を活性化する薬剤、マクロファージを活性化する薬剤、樹状細胞を動員する薬剤、マクロファージを動員する薬剤、ワクチンおよびこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項30または31に記載の方法。
【請求項33】
抗原提示を増強する薬剤が、細胞ベースのワクチン、抗原ベースのワクチン、腫瘍溶解性ウイルス、I型インターフェロン(IFN)活性化因子、二重特異性細胞エンゲージャー、三重特異性細胞エンゲージャーおよびこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
抗原提示を増強する薬剤が、インターフェロン遺伝子刺激因子のアゴニスト(STINGアゴニスト)、Toll様受容体(TLR)のアゴニスト、TIM-3モジュレーター、血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)阻害剤、c-Met阻害剤、TGFb阻害剤、IDO/TDO阻害剤、A2ARアンタゴニスト、腫瘍溶解性ウイルス、ワクチン、二重特異性細胞エンゲージャー、三重特異性細胞エンゲージャー、二重特異性抗体分子、三重特異性抗体分子、IDO/TDO阻害剤およびこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項32に記載の方法。
【請求項35】
エフェクター細胞応答を増強する薬剤が、二重特異性細胞エンゲージャー、二重特異性T細胞エンゲージャー、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)を活性化する薬剤、TILを脱抑制する薬剤、免疫調節剤、アポトーシス阻害因子(IAP)の阻害剤、ラパマイシン標的タンパク質(mTOR)の阻害剤、インターロイキン、インターロイキンバリアント、リンパ球活性化因子、NK細胞モジュレーター、NK細胞療法、T細胞モジュレーター、三重特異性細胞エンゲージャー、ワクチンおよびこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項30から34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
腫瘍免疫抑制を減少させる薬剤が、M2極性化を増加させる薬剤、T細胞動員を増加させる薬剤、T
reg枯渇を増加させる薬剤、マクロファージ2の活性を調節する薬剤、MDSCの活性を調節する薬剤、T
regの活性を調節する薬剤、マクロファージ2のレベルを調節する薬剤、MDSCのレベルを調節する薬剤、T
regのレベルを調節する薬剤およびこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項30から35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
腫瘍免疫抑制を減少させる薬剤が、免疫調節剤、CSF-1/1R阻害剤、IL-17阻害剤、IL-1ベータ阻害剤、CXCR2阻害剤、ホスホイノシチド3-キナーゼの阻害剤、BAFF-R阻害剤、MALT-1/BTK阻害剤、JAK阻害剤、CRTH2阻害剤、VEGFR阻害剤、IL-15またはそのバリアント、CTLA-4阻害剤、IDO/TDO阻害剤、A2ARアンタゴニスト、TGFb阻害剤、PFKFB3阻害剤、免疫チェックポイント分子の阻害剤およびこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項30から36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
第2の有効成分が、N-((S)-2,3-ジヒドロキシ-プロピル)-3-(2-フルオロ-4-ヨードフェニルアミノ)イソニコチンアミド、CI-1040、PD035901、AZD6244、GSK1 120212、GDC-0973、U0126、XL-518、ARRY-162、ARRY-300、PD184161、PD184352、PD0325901、ARRY-142886(AZD6244)、RO4927350、PD0325901、CIP-1374、TAK-733、CH4987655、RDEA119、トラメチニブ、コビメチニブ、レファメチニブ、セルメチニブ、ビニメチニブ、PD098059、U0126、CH4987655、CH5126755、GDC623、それらの薬学的に許容される塩およびこれらの組み合わせからなる群から選択されるMEK阻害剤である、請求項30に記載の方法。
【請求項39】
薬学的に許容される塩が、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウム、亜鉛およびこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の化合物、請求項2および4から12のいずれか一項に記載の医薬組成物、または請求項3から38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
【化2】
を含む、式1aの医薬化合物を合成する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その内容全体が参照により本明細書に組み込まれる、2018年12月10日に出願された、米国仮特許出願第62/777600号の利益を主張する。
【0002】
本発明は、チアゾール化合物、医薬組成物、ならびにヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)を阻害し、HDAC関連疾患を治療するための化合物および医薬組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
がんは米国の死亡原因の第2位である。死亡率減少をもたらしたブレイクスルーにもかかわらず、多くのがんは、治療に難治性のままである。また、多くのがんが、通常時間とともに現在の化学療法に対する抵抗性が生じる。化学療法、放射線療法および外科手術などの典型的な治療はまた、広範囲の望ましくない副作用を引き起こす。
【0004】
ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)は、遺伝子転写を調節することが知られているヒストンおよび非ヒストンタンパク質を脱アセチル化する酵素のファミリーである。HDACは、種々の細胞型の増殖および分化、ならびにがん、間質性線維症、自己免疫疾患および炎症性疾患、および代謝障害を含む疾患の発病に関連している。新規なHDAC阻害剤、ならびにこのような新規なHDAC阻害剤を単独でまたは他の治療様式と組み合わせて使用して、がんおよび他のヒストン脱アセチル化酵素関連疾患を治療する方法が必要とされている。
【0005】
新規なHDAC阻害剤のラセミ混合物のキラル分割は、阻害剤がHDACを阻害する能力を増加させ得る、阻害剤の薬物動態を改善し得る、またはその両方であり得る。しかしながら、光学的に純粋なエナンチオマーを得るためのキラルクロマトグラフィーは、低い収率、および一定のエナンチオマーが一定の溶媒系中で不安定であるなどの不確実性を伴う。キラルカラムの種類、溶媒系の組み合わせおよび勾配等が方法開発中の重要な可変要素である。技術的な課題を克服し、新規なHDAC阻害剤のラセミ体を分割することが必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
一定の態様では、本発明は、(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミド
【0007】
【0008】
またはその薬学的に許容される塩、エステル、誘導体、アナログ、プロドラッグもしくは溶媒和物を提供する。
本発明はまた、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)関連疾患を治療するための医薬組成物であって、(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミド、N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミド、およびそれらの薬学的に許容される塩、エステル、誘導体、アナログ、プロドラッグまたは溶媒和物からなる群から選択される少なくとも第1の有効成分を含む有効成分と;薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物を提供する。
【0009】
他の態様では、本発明は、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)関連疾患を治療するための医薬組成物を作製する方法であって、有効成分を熱力学ミキサー中で薬学的に許容される担体と約250℃未満で300秒未満混合するステップを含み、有効成分が、(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミド、N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミド、およびそれらの薬学的に許容される塩、エステル、誘導体、アナログ、プロドラッグまたは溶媒和物からなる群から選択される少なくとも第1の有効成分を含む、方法を提供する。
【0010】
一態様では、(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミド、またはその薬学的に許容される塩、エステル、誘導体、アナログ、プロドラッグもしくは溶媒和物が第1の有効成分の80~100重量%である。
【0011】
一定の態様では、有効成分が第2の有効成分をさらに含む。一態様では、第2の有効成分が、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤、ブロモドメイン阻害剤または両方を含む。
【0012】
一定の実施では、第1の有効成分、第2の有効成分または両方の量が治療上有効量である。
他の実施では、薬学的に許容される担体が、医薬ポリマー担体、処理剤、界面活性剤およびこれらの組み合わせからなる群から選択される。医薬ポリマー担体の非限定的な例としては、セルロース系医薬ポリマー、架橋医薬ポリマー、高溶融粘度医薬ポリマー、非イオン性医薬ポリマー、非イオン性セルロース系医薬ポリマー、非イオン性水溶性医薬ポリマー、熱不安定性医薬ポリマー、水溶性医薬ポリマー、水溶性セルロース系医薬ポリマーおよびこれらの組み合わせが挙げられる。
【0013】
さらに他の態様では、医薬ポリマー担体が、カルボマー、酢酸酪酸セルロース、酢酸フタル酸セルロース、酢酸トリメリト酸セルロース(cellulose acetate trimelletate)、クロスポビドン、クロスカルメロースナトリウム、ジメチルアミノエチルメタクリレート-メタクリル酸エステルコポリマー、エチルアクリレート-メチルメタクリレートコポリマー、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ポリ(ブチルメタクリレート-co-(2-ジメチルアミノエチル)メタクリレート-co-メチルメタクリレート)1:2:1、ポリカルボフィル、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(メタクリレートエチルアクリレート)(1:1)コポリマー、ポリ(メタクリレートメチルメタクリレート)(1:1)コポリマー、ポリ(メタクリレートメチルメタクリレート)(1:2)コポリマー、ポリ(酢酸ビニル)-co-ポリ(ビニルピロリドン)コポリマー、ポリ(酢酸ビニル)フタレート、ポリ(ビニルアルコール)、ポリビニルカプロラクタム-ポリ酢酸ビニル-ポリエチレングリコールグラフトコポリマー、ポリ(ビニルピロリドン)、カルボキシメチルセルロースナトリウムおよびこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0014】
一態様では、処理剤が可塑剤を含む。別の態様では、界面活性剤が、ジオクチルナトリウムスルホスクシネート、グリセロールポリエチレングリコールオキシステアレート-脂肪酸グリセロールポリグリコールエステル-ポリエチレングリコール-グリセロールエトキシレート、グリセロールポリエチレングリコールリシノレート-ポリエチレングリコール-ポリエチレングリコール-エトキシル化グリセロールの脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート、ドデシル硫酸ナトリウム、ソルビタンラウレート、ビタミンE TPGSおよびこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0015】
いくつかの実施では、本発明は、細胞のヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)アイソフォームのヒストン脱アセチル化活性を阻害する方法であって、細胞を、(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミド、N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミド、およびそれらの薬学的に許容される塩、エステル、誘導体、アナログ、プロドラッグまたは溶媒和物からなる群から選択される化合物を含む組成物と接触させるステップを含む方法を提供する。
【0016】
一定の態様では、組成物が、0.0005~2μMの半数阻害濃度(IC50)でHDACアイソフォームのヒストン脱アセチル化活性を阻害する。
いくつかの実施では、HDACアイソフォームが、HDAC1、HDAC2、HDAC3、HDAC6およびHDAC10からなる群から選択される。他の実施では、HDACアイソフォームが、HDAC1、HDAC3、HDAC6およびHDAC10からなる群から選択される。
【0017】
一態様では、組成物が、少なくとも30%、HDACアイソフォームのヒストン脱アセチル化活性を阻害する。別の態様では、細胞が、がん細胞、神経細胞、免疫系の細胞、循環系の細胞およびこれらの組み合わせからなる群から選択される。さらに他の態様では、がん細胞が、急性リンパ性白血病(ALL)細胞、急性骨髄性白血病(AML)細胞、急性前骨髄球性白血病(APL)細胞、膵臓の腺扁平上皮がん、血液がん細胞、脳腫瘍細胞、乳がん細胞、子宮頸部扁平上皮細胞、慢性骨髄性白血病(CML)細胞、結腸がん細胞、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)細胞、子宮内膜がん細胞、消化管間質腫瘍(GIST)細胞、神経膠芽腫(GBM)細胞、肝細胞がん細胞、ホジキンリンパ腫細胞、白血病細胞、肝臓がん細胞、肺がん細胞、黒色腫細胞、中皮腫細胞、多発性骨髄腫細胞、非ホジキンリンパ腫細胞、非小細胞肺がん(NSCLC)細胞、神経芽細胞腫細胞、卵巣がん細胞、膵臓がん細胞、膵管腺がん細胞、末梢T細胞リンパ腫細胞、咽頭がん細胞、前立腺がん細胞、腎臓がん細胞、横紋筋肉腫(rhabdomyocarcoma)細胞、皮膚がん細胞、甲状腺がん細胞、舌腫瘍細胞、子宮がん細胞、ワルデンシュトレーム骨髄腫細胞およびこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0018】
一態様では、がんが、膵臓の腺扁平上皮がん、RHOA変異を伴うびまん性胃がん、悪性ラブドイド腫瘍、卵巣の高カルシウム血症型の小細胞がん、ブドウ膜黒色腫およびこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0019】
一定の実施では、組成物が、細胞増殖を阻害する、細胞死を誘発する、またはその両方である。
他の実施では、本発明は、対象のヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)関連疾患を治療する方法であって、(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミド、N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミド、およびそれらの薬学的に許容される塩、エステル、誘導体、アナログ、プロドラッグまたは溶媒和物からなる群から選択される少なくとも第1の有効成分を含む組成物を対象に投与するステップを含む方法を提供する。
【0020】
いくつかの態様では、疾患が、がん、自己免疫障害、炎症性障害、神経変性疾患およびこれらの組み合わせからなる群から選択される。他の態様では、がんが、急性リンパ性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(AML)、急性前骨髄球性白血病(APL)、乳がん、慢性骨髄性白血病(CML)、結腸がん、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、消化管間質腫瘍(GIST)、神経膠芽腫(GBM)、肝細胞がん、ホジキンリンパ腫、白血病、肺がん、多発性骨髄腫、非ホジキンリンパ腫、非小細胞肺がん(NSCLC)、神経芽細胞腫、卵巣がん、膵管腺がん、末梢T細胞リンパ腫、前立腺がん、子宮がん、ワルデンシュトレーム骨髄腫およびこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0021】
さらに他の態様では、自己免疫障害または炎症性障害が、気道過敏、クローン病、炎症性腸疾患、多発性硬化症、乾癬、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、1型糖尿病、潰瘍性大腸炎およびこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0022】
一態様では、神経変性障害が、アルツハイマー病(AD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脳虚血、ハンチントン病(HD)、パーキンソン病(PD)、脊髄性筋萎縮症およびこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0023】
一定の実施では、組成物が、約4時間、8時間、12時間、16時間または24時間毎に対象1kg当たり10~400mgで投与される。他の実施では、組成物が、対象1kg当たり10~350mg、対象1kg当たり10~300mg、対象1kg当たり10~250mg、対象1kg当たり10~200mg、対象1kg当たり10~150mg、または対象1kg当たり10~100mgで投与される。さらに他の実施では、組成物が、1時間毎、2時間毎、3時間毎、4時間毎、6時間毎、8時間毎、10時間毎、12時間毎、14時間毎、16時間毎、18時間毎、20時間毎、22時間毎、または24時間毎に1回投与される。
【0024】
いくつかの態様では、対象がヒトである。他の態様では、組成物が第2の有効成分をさらに含む。一定の態様では、第2の有効成分が、化学療法薬、MEK阻害剤、抗原提示を増強する薬剤、エフェクター細胞応答を増強する薬剤、腫瘍免疫抑制を減少させる薬剤およびこれらの組み合わせからなる群から選択される治療剤である。
【0025】
一態様では、化学療法薬が、ポマリドミド、デキサメタゾンおよびこれらの組み合わせからなる群から選択される。別の態様では、抗原提示を増強する薬剤が、腫瘍細胞の溶解を増強する薬剤、食細胞を刺激する薬剤、食細胞を脱抑制する薬剤、樹状細胞を活性化する薬剤、マクロファージを活性化する薬剤、樹状細胞を動員する薬剤、マクロファージを動員する薬剤、ワクチンおよびこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0026】
一定の実施では、抗原提示を増強する薬剤が、細胞ベースのワクチン、抗原ベースのワクチン、腫瘍溶解性ウイルス、I型インターフェロン(IFN)活性化因子、二重特異性細胞エンゲージャー(engager)、三重特異性細胞エンゲージャーおよびこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0027】
他の実施では、抗原提示を増強する薬剤が、インターフェロン遺伝子刺激因子のアゴニスト(STINGアゴニスト)、Toll様受容体(TLR)のアゴニスト、TIM-3モジュレーター、血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)阻害剤、c-Met阻害剤、TGFb阻害剤、IDO/TDO阻害剤、A2ARアンタゴニスト、腫瘍溶解性ウイルス、ワクチン、二重特異性細胞エンゲージャー、三重特異性細胞エンゲージャー、二重特異性抗体分子、三重特異性抗体分子、IDO/TDO阻害剤およびこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0028】
さらに他の実施では、エフェクター細胞応答を増強する薬剤が、二重特異性細胞エンゲージャー、二重特異性T細胞エンゲージャー、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)を活性化する薬剤、TILを脱抑制する薬剤、免疫調節剤、アポトーシス阻害因子(IAP)の阻害剤、ラパマイシン標的タンパク質(mTOR)の阻害剤、インターロイキン、インターロイキンバリアント、リンパ球活性化因子、NK細胞モジュレーター、NK細胞療法、T細胞モジュレーター、三重特異性細胞エンゲージャー、ワクチンおよびこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0029】
一定の態様では、腫瘍免疫抑制を減少させる薬剤が、M2極性化を増加させる薬剤、T細胞動員を増加させる薬剤、Treg枯渇を増加させる薬剤、マクロファージ2の活性を調節する薬剤、MDSCの活性を調節する薬剤、Tregの活性を調節する薬剤、マクロファージ2のレベルを調節する薬剤、MDSCのレベルを調節する薬剤、Tregのレベルを調節する薬剤およびこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0030】
一態様では、腫瘍免疫抑制を減少させる薬剤が、免疫調節剤、CSF-1/1R阻害剤、IL-17阻害剤、IL-1ベータ阻害剤、CXCR2阻害剤、ホスホイノシチド3-キナーゼの阻害剤、BAFF-R阻害剤、MALT-1/BTK阻害剤、JAK阻害剤、CRTH2阻害剤、VEGFR阻害剤、IL-15またはそのバリアント、CTLA-4阻害剤、IDO/TDO阻害剤、A2ARアンタゴニスト、TGFb阻害剤、PFKFB3阻害剤、免疫チェックポイント分子の阻害剤およびこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0031】
別の態様では、第2の有効成分が、N-((S)-2,3-ジヒドロキシ-プロピル)-3-(2-フルオロ-4-ヨードフェニルアミノ)イソニコチンアミド、CI-1040、PD035901、AZD6244、GSK1 120212、GDC-0973、U0126、XL-518、ARRY-162、ARRY-300、PD184161、PD184352、PD0325901、ARRY-142886(AZD6244)、RO4927350、PD0325901、CIP-1374、TAK-733、CH4987655、RDEA119、トラメチニブ、コビメチニブ、レファメチニブ、セルメチニブ、ビニメチニブ、PD098059、U0126、CH4987655、CH5126755、GDC623、それらの薬学的に許容される塩およびこれらの組み合わせからなる群から選択されるMEK阻害剤である。
【0032】
さらに他の態様では、薬学的に許容される塩が、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウム、亜鉛およびこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0033】
他の実施では、本発明は、
【0034】
【0035】
を含む、式1aの医薬化合物を合成する方法を提供する。
一定の態様では、本方法は、出発物質(すなわち、2-(4-メトキシフェニル)ブタン酸)に特異的に開発された合成スキームを含み、第1のステップにおいて特有の試薬(すなわち、S-α-PEAとしても知られるS-α-フェネチルアミン)によって誘導されるキラル選択的沈殿(すなわち、結晶化)を含む。この第1のステップでは、極性、溶解度等などの出発物質の物理特性の小さな変化が結晶化に影響を及ぼし得る。出発物質中の官能基の変化またはシフトが、これらの物理特性に有意な影響を及ぼし得る。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミドの一般的な合成スキームを示す図である。
【
図2】#1aの優先的で有意な腫瘍取り込みおよび保持を示す図である。
【
図3】HDAC6酵素に対する#1aについてのK
off動態を示す図である。
【
図4】HDAC6酵素に対する#1bについてのK
off動態を示す図である。
【
図5】2つのエナンチオマー、#1a(保持時間=1.49分)および#1b(保持時間=4.33)をもたらすCHIRALPAK(登録商標)ID-3による#1の分割を示す図である。
【
図7】(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミド(すなわち、#1a)の合成スキームを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
ここに提示される本発明の態様および適用を本発明の図面および詳細な説明で以下に説明する。明示的に述べない限り、明細書および特許請求の範囲中の単語および句は、適用可能な分野の当業者にとって明白な、通常のおよび慣れた意味を与えられることが意図される。本発明者らは、所望であれば自身が辞書編集者となり得ることを完全に理解している。
【0038】
本発明者らはまた、英文法の通常の教訓を認識している。よって、名詞、用語または句をなんらかの方法でさらに特徴付ける、指定する、または狭めることを意図する場合、このような名詞、用語または句は、英文法の通常の教訓に従った追加の形容詞、記述用語または他の修飾語を明確に含むだろう。このような形容詞、記述用語または修飾語を使用しない場合、名詞、用語または句にその最も広範な可能な意味が与えられることが意図される。
【0039】
単数形「a」、「an」および「the」は、文脈が明確に指示しない限り、複数指示対象を含む。よって、例えば、「薬剤(an agent)」への言及は、1つまたは複数のこのような薬剤への言及を含む。
【0040】
以下の説明において、および説明する目的で、本発明の種々の態様の完全な理解を提供するために多数の具体的な詳細が示される。しかしながら、本発明がこれらの具体的な詳細なしに実行され得ることが関連分野の当業者によって理解されるだろう。他の例では、本発明を不鮮明にすることを回避するために、既知の構造および装置がより一般的に示されるまたは論じられる。多くの場合、操作の説明は、本発明の種々の形態を実行することを可能にするのに十分である。開示される発明が適用され得る多くの異なるおよび代替の構成、装置、組成物および技術が存在することが留意されるべきである。本発明の完全な範囲は、以下に記載される例に限定されない。
【0041】
本開示は、化合物(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミド(化合物#1a、以下「#1a」)、その薬学的に許容される塩、エステル、誘導体、アナログ、プロドラッグまたは溶媒和物に関する。
【0042】
本開示は、#1aが想定し得る任意の生理化学的形態を包含する。生理化学的形態の非限定的な例としては、水和形態、溶媒和形態、結晶(既知のまたはまだ開示されていない)、多形性結晶および非晶質形態等が挙げられる。このような生理化学的形態を調製する方法は当業者に知られているだろう。
【0043】
本開示はまた、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)関連疾患を治療するための医薬組成物に関する。医薬組成物は、(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミド(#1a)、N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミド(化合物#1、以下「#1」)、およびそれらの薬学的に許容される塩、エステル、誘導体、アナログ、プロドラッグまたは溶媒和物からなる群から選択される少なくとも第1の有効成分を含む。
【0044】
いくつかの態様では、#1a、その薬学的に許容される塩、エステル、誘導体、アナログ、プロドラッグまたは溶媒和物が、第1の有効成分の80~100重量%、またはその間の任意のパーセント範囲、例えば85~100重量%、85~99.99重量%、90~99.99重量%、90~99.9重量%、92.5重量%~99.9重量%、92.5重量%~99.5重量%、95~99.5重量%、95~99重量%もしくは97.5~99重量%等である。他の態様では、#1a、その薬学的に許容される塩、エステル、誘導体、アナログ、プロドラッグまたは溶媒和物が、第1の有効成分の少なくとも80重量%、少なくとも85重量%、少なくとも90重量%、少なくとも92.5重量%、少なくとも95重量%、少なくとも97.5重量%または少なくとも99重量%である。
【0045】
薬学的に許容される塩には、有機酸または無機酸から誘導される任意の塩が含まれる。このような塩の例としては、それだけに限らないが、以下が挙げられる:臭化水素酸、塩酸、硝酸、リン酸および硫酸の塩。有機酸付加塩は、例えば、酢酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、カンファースルホン酸、クエン酸、2-(4-クロロフェノキシ)-2-メチルプロピオン酸、1,2-エタン二スルホン酸、エタンスルホン酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、フマル酸、グルコヘプトン酸、グルコン酸、グルタミン酸、N-グリコリルアルサニル酸、4-ヘキシルレゾルシノール、馬尿酸、2-(4-ヒドロキシベンゾイル)安息香酸、1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、ラクトビオン酸、n-ドデシル硫酸、マレイン酸、リンゴ酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、メチル硫酸(sulpuric acid)、ムチン酸、2-ナフタレンスルホン酸、パモ酸、パントテン酸、ホスファニル酸(phosphanilic acid)((4-アミノフェニル)ホスホン酸)、ピクリン酸、サリチル酸、ステアリン酸、コハク酸、タンニン酸、酒石酸、テレフタル酸、p-トルエンスルホン酸、10-ウンデセン酸、または現在知られているもしくはまだ開示されていない任意の他のこのような酸の塩を含む。このような薬学的に許容される塩が薬理学的組成物の製剤に使用され得ることが当業者によって認識されるだろう。このような塩は、当業者に知られている様式で、開示される化合物を適切な酸と反応させることによって調製され得る。
【0046】
好ましい実施形態では、#1aについての薬学的に許容される塩が、Na+、K+、Mg2+、Ca2+、Zn2+およびAl3+からなる群から選択される。好ましい実施形態では、#1についての薬学的に許容される塩が、Na+、K+、Mg2+、Ca2+、Zn2+およびAl3+からなる群から選択される。
【0047】
医薬組成物の物理形態は、いくつかの因子に依存する(takes depend on)。例えば、望ましい投与方法、開示される化合物またはその薬学的に許容される塩によってとられる物理化学形態がある。物理形態の非限定的な例としては、固体、液体、気体、ゾル、ゲル、エアロゾル等が挙げられる。いくつかの実施形態では、医薬組成物が、いずれの他の添加剤も含まないで、開示される化合物またはその薬学的に許容される塩からなる。
【0048】
他の実施形態では、医薬組成物が、#1aまたは#1とは別個の化学式の第2の有効成分を含む。いくつかの態様では、第2の有効成分が、#1aまたは#1の標的と同じまたは類似の分子標的を有する。他の実施形態では、第2の有効成分が、1つまたは複数の生化学経路に関して#1aまたは#1の分子標的の上流で作用する。さらに他の実施形態では、第2の有効成分が、1つまたは複数の生化学経路に関して#1aまたは#1の分子標的の下流で作用する。開示される化合物を含む医薬組成物は、製薬分野で周知の方法論を使用して調製され得る。
【0049】
いくつかの実施形態では、医薬組成物が、投与単位の物理形態を修正することができる材料を含む。非限定的な例では、組成物が、化合物を保持するコーティングを形成する材料を含む。材料の非限定的な例としては、糖、シェラック、ゼラチンおよび他の不活性コーティング剤が挙げられる。
【0050】
本発明は、対象のヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)関連疾患を治療する方法であって、#1a、#1、およびそれらの薬学的に許容される塩、エステル、誘導体、アナログ、プロドラッグまたは溶媒和物からなる群から選択される組成物を対象に投与するステップを含む方法に関する。
【0051】
ヒストンアセチル基転移酵素(HAT)は、ヒストンの周りのDNAのコイリングおよびアンコイリング(uncoiling)を制御することによって遺伝子発現に影響を及ぼす。ヒストンアセチル基転移酵素は、コアヒストン中のリジン残基をアセチル化して、あまりコンパクトでないより転写活性のクロマチンをもたらすことによってこれを達成する。対照的に、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)は、リジン残基からアセチル基を除去して、より凝縮した転写的にサイレンシングされたクロマチンをもたらす。コアヒストンの末端尾部の可逆的修飾が、高次クロマチン構造をリモデリングし、遺伝子発現を制御するための主要なエピジェネティックな機構を構成する。HDAC阻害剤(HDI)はこの作用を遮断し、ヒストンの高アセチル化をもたらし、それによって遺伝子発現に影響を及ぼすことができる。Thagalingam S.、Cheng K H、Lee H Jら、Ann.N.Y.Acad.Sci.983:84~100、2003;Marks P A. Richon V M、Rifkind R A、J.Natl.Cancer Inst.92(15)1210~16、2000;Dokmanovic M、Clarke C.、Marks P A、Mol.Cancer Res.5(10)981~989、2007。
【0052】
ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤は、細胞周期停止、分化および/またはアポトーシスを誘導することによって、培養物中およびインビボで腫瘍細胞の増殖を阻害する細胞分裂阻害剤の新たなクラスである。アセチル化および脱アセチル化は、クロマチントポロジーの調節および遺伝子転写の制御において重要な役割を果たす。ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤は、クロマチンの多くの領域で高アセチル化ヌクレオソームコアヒストンの蓄積を誘導するが、遺伝子のほんの一部の発現のみに影響を及ぼし、いくつかの遺伝子の転写活性化をもたらすが、等しいまたはより多量の他の遺伝子の抑制をもたらす。転写因子などの非ヒストンタンパク質も、種々の機能的効果を有するアセチル化の標的である。アセチル化は、腫瘍抑制因子p53および赤血球分化因子GATA-1などの転写因子の活性を増強するが、T細胞因子およびコアクチベータACTRを含む他の転写活性を抑制し得る。近年の研究は、エストロゲン受容体α(ERα)が、ヒストン脱アセチル化酵素阻害に応じて高アセチル化され得、これにより、リガンド感受性が抑制され、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤による転写活性化が制御されることを示した。他の核内受容体中のアセチル化ERαモチーフの保存は、アセチル化が多様な核内受容体シグナル伝達機能において重要な制御的役割を果たし得ることを示唆している。いくつかの構造的に多様なヒストン脱アセチル化酵素阻害剤は、動物モデルにおいて、インビボでほとんど毒性なしに強力な抗腫瘍有効性を示した。いくつかの化合物は、現在、単独療法として、ならびに細胞傷害剤および分化剤と組み合わせての両方で、固形がんおよび血液がんのための潜在的治療薬として初期臨床開発中である。
【0053】
HDAC酵素ファミリーは、それぞれの酵母オルソログとの相同性に基づいて、4つのサブクラス;クラスI~IVに分類され得る18種の遺伝子のファミリーを構成する。クラスI、IIおよびIVに属するHDACは、11のメンバー、すなわち古典的HDACと一般的に呼ばれるHDACアイソフォーム1~11を含み、金属依存性加水分解酵素である。サーチュイン、すなわちSirt1~7として知られる、7つのメンバーを含むクラスIIIのHDACは、NAD+依存性加水分解酵素である。クラスI HDACは、遍在的組織発現を有する核タンパク質である。クラスIIおよびIV HDACは、核と細胞質の両方で見られ、組織特異的発現を示す。クラスII HDACファミリーは、サブクラスIIAおよびIIBにさらに細分される。クラスIIAはアイソフォームHDAC4、HDAC5、HDAC7およびHDAC9を含み、クラスIIBはアイソフォームHDAC6およびHDAC10を含む。HDAC6は、2つのタンデム脱アセチル化酵素ドメインおよびC末端ジンクフィンガードメインを含む。HDAC10はHDAC6に構造的に関連するが、1つの追加の触媒ドメインを有する。表1は、古典的HDACの細胞内位置および組織発現を表す(Witt,Oら、Cancer Lett.、277:8~21(2008)から適合)。
【0054】
【0055】
HDACは、正常および異常の両方の細胞増殖および分化において重要な役割を果たす。HDACは、それだけに限らないが、種々の形態のがんなどの細胞増殖性疾患および状態を含む、増殖を伴ういくつかの疾患状態に関連付けられてきた(Witt,O.ら、Cancer Lett.、277:8~21(2008);およびPortella A.ら、Nat.Biotechnol.、28:1057~1068(2010)に概説される)。クラスIおよびII HDACは、抗がん療法にとっての魅力的な標的として同定されてきた。特に、中でも卵巣がん(HDAC1~3)、胃がん(HDAC2)および肺がん(HDAC1および3)を含むいくつかのがんで、別個のクラスIおよびクラスII HDACタンパク質が過剰発現されている。また、HDAC8と急性骨髄性白血病(AML)との間の可能な相関が示唆された。クラスII HDACタンパク質に関しては、いくつかの乳がん細胞でHDAC6の異常な発現が誘導される。その臨床効果に基づいて、腫瘍細胞増殖を抑制し、細胞分化を誘導し、抗がん効果に関連する重要な遺伝子を上方制御するHDAC阻害剤が同定された。HDACはまた、種々の型のがん(Bali Pら、「Inhibition of histone deacetylase 6 acetylates and disrupts the chaperone function of heat shock protein 90:A novel basis for antileukemia activity of histone deacetylase inhibitors」、J.Biol.Chem.、2005 280:26729~26734;Santo L.ら、「Preclinical activity,pharmacodynamic and pharmacokinetic properties of a selective HDAC6 inhibitor,ACY-1215,in combination with bortezomib in multiple myeloma」、Blood、2012、119(11):2579-89)、自己免疫疾患または炎症性疾患(Shuttleworth,S.J.ら、Curr.Drug Targets、11:1430~1438(2010))、認知疾患および神経変性疾患(Fischer,A.ら、Trends Pharmacol.Sci.、31:605~617(2010);Chuang,D.-M.ら、Trends Neurosci.32:591~601(2009))、線維性疾患(Pang,M.ら、J.Pharmacol.Exp.Ther.、335:266~272(2010))、原生動物疾患(例えば、米国特許第5922837号参照)、ならびにウイルス疾患(Margolis,D.M.ら、Curr.Opin.HIV AIDS、6:25~29(2011))にも関係づけられている。
【0056】
近年、がん治療薬および/または補助療法としてのHDAC阻害剤を開発するための努力がなされている。Mark P A.ら Expert Opinion on Investigational Drugs 14(12):1497~1511(2005)。化合物が作用する正確な機構は不明確であるが、正確な生物学的経路を解明するのを助けるためにエピジェネティック経路が研究されている。Claude Monneret、Anticancer Drugs 18(4):363~370 2007。例えば、HDAC阻害剤は、p53の腫瘍抑制因子活性の制御因子であるp21(WAFI)発現を誘導することが示されている。Rochon V M.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.97(18):10014~10019、2000。HDACは、網膜芽細胞腫タンパク質(pRb)が細胞増殖を抑制する経路に関与している。pRbタンパク質は、ヒストンを脱アセチル化するようにHDACをクロマチンに引き付ける複合体の一部である。Brehm A.ら、Nature 391(6667):597~601、1998。HDAC1は、直接的相互作用を通して心血管転写因子クルッペル様転写因子5を負に調節する。Matsumura T.ら、J.Biol.Chem.280(13):12123~12129、2005。エストロゲンは、エストロゲン受容体α(ERα)への結合を介して乳がんの腫瘍形成および進行に関与する分裂促進因子として十分に確立されている。近年のデータは、HDACおよびDNAメチル化によって媒介されるクロマチン不活性化が、ヒト乳がん細胞をサイレンシングするERαの重要な成分であることを示している。Zhang Z.ら、Breast Cancer Res.Treat.94(1):11~16、2005。
【0057】
典型的には、本方法は、開示される化合物、またはその薬学的に許容される塩、エステル、誘導体、アナログ、プロドラッグもしくは溶媒和物のいずれか1つを対象に投与するステップを含む。
【0058】
疾患の非限定的な例としては、細胞増殖性疾患(例えば、がん)、自己免疫障害、炎症性障害、神経変性疾患およびこれらの組み合わせ等が挙げられる。
いくつかの実施形態では、細胞増殖性疾患が、がんである。がんの非限定的な例は、急性リンパ性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(AML)、急性前骨髄球性白血病(APL)、乳がん、慢性骨髄性白血病(CML)、結腸がん、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、消化管間質腫瘍(GIST)、神経膠芽腫(GBM)、肝細胞がん、ホジキンリンパ腫、白血病、肺がん、多発性骨髄腫、非ホジキンリンパ腫、非小細胞肺がん(NSCLC)、神経芽細胞腫、卵巣がん、膵管腺がん、末梢T細胞リンパ腫、前立腺がん、子宮がん、ワルデンシュトレーム骨髄腫、およびこれらの組み合わせ等を含む。
【0059】
いくつかの実施形態では、がんが、卵巣がん、前立腺がん、肺がん、急性骨髄性白血病、多発性骨髄腫、膀胱がん、腎がん、乳癌、結腸直腸がん、神経芽細胞腫、黒色腫、胃がん、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される。いくつかの態様では、式(I)の化合物が、がん細胞増殖を阻害する、がん細胞死を誘発する、またはその両方である。
【0060】
自己免疫障害または炎症性障害の非限定的な例は、気道過敏、クローン病、炎症性腸疾患、多発性硬化症、乾癬、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、1型糖尿病、潰瘍性大腸炎、およびこれらの組み合わせ等を含む。
【0061】
神経変性障害の非限定的な例としては、アルツハイマー病(AD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脳虚血、ハンチントン病(HD)、パーキンソン病(PD)、脊髄性筋萎縮症およびこれらの組み合わせ等が挙げられる。
【0062】
いくつかの態様では、疾患が、HDAC1、HDAC2、HDAC3、HDAC4、HDAC5、HDAC6、HDAC7、HDAC8、HDAC9、HDAC10、HDAC11、またはこれらの組み合わせに関連する。他の態様では、HDAC関連疾患が、HDAC1、HDAC2、HDAC3、HDAC6、HDAC10またはこれらの組み合わせに関連する。さらに他の態様では、HDAC関連疾患が、HDAC1、HDAC2、HDAC6またはこれらの組み合わせに関連する。
【0063】
本発明の一定のより具体的な態様では、組成物が、0.0001~4μM、またはその間の任意の数値範囲、例えば0.0002~4μM、0.0002~3.5μM、0.0005~3.5μM、0.0005~3μM、0.001~3μM、0.001~2.5μM、0.002~2.5μM、0.002~2μMもしくは0.005~2μM等の半数阻害濃度(IC50)でがん細胞増殖を減少させる。
【0064】
他の態様では、組成物が、0.001~10μM、またはその間の任意の数値範囲、例えば0.001~8μM、0.002~8μM、0.002~6μM、0.003~6μM、0.003~4μM、0.005~4μM、0.005~2μMもしくは0.01~2μM等の半数阻害濃度(IC50)でがん細胞増殖を減少させる。さらに他の態様では、組成物が、0.02~10μM、またはその間の任意の数値範囲、例えば0.05~10μM、0.05~9μM、0.1~9μM、0.1~8μM、0.2~8μM、0.2~7μM、0.4~7μMもしくは0.4~6μM等の半数阻害濃度(IC50)でがん細胞増殖を減少させる。さらなる態様では、式(I)の化合物が、1μM未満、0.5μM未満、0.2μM未満、0.1μM未満、0.01μM未満、0.001μM未満等の半数阻害濃度(IC50)でHDACアイソフォームの活性を阻害する。
【0065】
いくつかの実施形態では、組成物が、少なくとも90%、少なくとも80%、少なくとも70%、少なくとも60%、少なくとも50%、少なくとも40%、少なくとも30%、少なくとも20%または少なくとも10%、がん細胞増殖を減少させる。他の実施形態では、組成物が、10~100%、またはその間の任意のパーセント範囲、例えば10~90%、15~90%、30%~90%、15~80%、20~80%、30%~80%、20~70%、25~70%、30%~70%、25~60%、30~60%もしくは30~50%等、がん細胞増殖を減少させる。
【0066】
いくつかの実施形態では、組成物が、少なくとも90%、少なくとも80%、少なくとも70%、少なくとも60%、少なくとも50%、少なくとも40%、少なくとも30%、少なくとも20%または少なくとも10%、HDACアイソフォームのヒストン脱アセチル化活性を阻害する。他の実施形態では、組成物が、10~100%、またはその間の任意のパーセント範囲、例えば10~90%、15~90%、30%~90%、15~80%、20~80%、30%~80%、20~70%、25~70%、30%~70%、25~60%、30~60%もしくは30~50%等、HDACアイソフォームのヒストン脱アセチル化活性を阻害する。
【0067】
いくつかの態様では、組成物が、10~400mg/kg、またはその間の任意の数値、例えば10~350mg/kg、20~350mg/kg、20~300mg/kg、30~300mg/kg、30~250mg/kg、40~250mg/kg、40~200mg/kg、50~200mg/kg、50~150mg/kg、60~150mg/kgまたは60~100mg/kg等で投与される。
【0068】
他の態様では、組成物が、約4時間、8時間、12時間、16時間または24時間毎に投与される。さらに他の態様では、組成物が、1~24時間、またはその間の任意の数値、例えば2~24時間、2~18時間、3~18時間、3~16時間、4~16時間、4~12時間、5~12時間、5~8時間等毎に投与される。
【0069】
いくつかの実施形態では、組成物が、化学療法薬、抗原提示を増強する薬剤(「抗原提示組み合わせ」)、エフェクター細胞応答を増強する薬剤(「エフェクター細胞組み合わせ」)、腫瘍免疫抑制を減少させる薬剤(「抗腫瘍免疫抑制組み合わせ」)およびこれらの組み合わせからなる群から選択される第2の有効成分をさらに含む。
【0070】
化学療法薬の非限定的な例としては、ポマリドミドまたはデキサメタゾン等が挙げられる。
キナーゼ阻害との組み合わせ
抗増殖活性に関する小分子調節の1つの特定の魅力的な標的はMEKである。MEK1(MAPK/ERKキナーゼ)の阻害は、異常なERK/MAPK経路シグナル伝達に依存する腫瘍の成長を制御する有望な戦略である。MEK-ERKシグナル伝達カスケードは保存された経路であり、成長因子、サイトカインおよびホルモンに応答して細胞成長、増殖、分化およびアポトーシスを調節する。この経路は、ヒト腫瘍で通常上方制御または突然変異しているRasの下流で作動する。MEKがRas機能の重要なエフェクターであることが実証されている。ERK/MAPK経路は全腫瘍の30%で上方制御されており、K-RasおよびB-Rafにおける発癌活性化突然変異が、それぞれ、全がんの22%および18%で同定されている。悪性黒色腫の66%(B-Raf)、膵臓がんの60%(K-Ras)および4%(B-Raf)、結腸直腸がんの50%(結腸、特にK-Ras:30%、B-Raf:15%)、肺がんの20%(K-Ras)、甲状腺乳頭および未分化がんの27%(B-Raf)、ならびに子宮内膜卵巣がんの10~20%(B-Raf)を含むヒトがんの大部分が、活性化RasおよびRaf変異を有することが報告されている。ERK経路の阻害、および特にMEKキナーゼ活性の阻害が、主として細胞-細胞接触および運動性の減少ならびに血管内皮増殖因子(VEGF)発現の下方制御により抗転移効果および抗血管新生効果をもたらすことが示されている。さらに、ドミナントネガティブMEK、またはERKの発現は、細胞培養ならびにインビボでヒト腫瘍異種移植片の原発性および転移性増殖において見られるように変異Rasのトランスフォーミング能力を低下させた。したがって、MEK-ERKシグナル伝達経路は、治療介入の標的への適切な経路である。
【0071】
MEKキナーゼを阻害する薬剤の非限定的な例は、N-((S)-2,3-ジヒドロキシ-プロピル)-3-(2-フルオロ-4-ヨードフェニルアミノ)イソニコチンアミド、CI-1040、PD035901、AZD6244、GSK1 120212、GDC-0973、U0126、XL-518、ARRY-162、ARRY-300、PD184161、PD184352、PD0325901、ARRY-142886(AZD6244)、RO4927350、PD0325901、CIP-1374、TAK-733、CH4987655、RDEA119、トラメチニブ、コビメチニブ、レファメチニブ、セルメチニブ、ビニメチニブ、PD098059、U0126、CH4987655、CH5126755およびGDC623、または薬学的に許容される塩およびこれらの組み合わせからなる群から選択され得る。
抗原提示組み合わせ
抗原提示を増強する薬剤の非限定的な例としては、抗原提示を増強する薬剤、腫瘍細胞の溶解を増強する薬剤、食細胞を刺激する薬剤、食細胞を脱抑制する薬剤、樹状細胞を活性化する薬剤、マクロファージ(例えば、マクロファージI)を活性化する薬剤、樹状細胞を動員する薬剤、マクロファージ(例えば、マクロファージI)を動員する薬剤またはワクチン等が挙げられる。一定の非限定的な態様では、抗原提示を増強する薬剤が腫瘍抗原提示を増強する。
【0072】
ワクチンの非限定的な例としては、細胞ベースのワクチン(例えば、Provenge(登録商標)などの樹状細胞ベースのワクチン)、または抗原ベースのワクチン(例えば、MUC1と組み合わせたIL-2)等が挙げられる。腫瘍細胞の溶解を増強する薬剤の非限定的な例は腫瘍溶解性ウイルスである。食細胞を刺激する薬剤の非限定的な例は、I型インターフェロン(IFN)活性化因子、例えばTLRアゴニストまたはRIG-I様受容体アゴニスト(RLR)等である。樹状細胞またはマクロファージを活性化および/または動員する薬剤の非限定的な例としては、二重特異性細胞エンゲージャーまたは三重特異性細胞エンゲージャー等が挙げられる。
【0073】
いくつかの実施形態では、抗原提示を増強する薬剤が、インターフェロン遺伝子刺激因子のアゴニスト(STINGアゴニスト)、Toll様受容体(TLR)のアゴニスト、TIM-3モジュレーター、血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)阻害剤、c-Met阻害剤、TGFb阻害剤、IDO/TDO阻害剤、A2ARアンタゴニスト、腫瘍溶解性ウイルス、ワクチン、二重特異性細胞エンゲージャー、三重特異性細胞エンゲージャー、二重特異性抗体分子、三重特異性抗体分子、IDO/TDO阻害剤およびこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0074】
TLRの非限定的な例としては、TLR-3、TLR-4、TLR-5、TLR-7、TLR-8またはTLR-9等のアゴニストが挙げられる。TIM-3モジュレーターの非限定的な例は抗TIM-3抗体分子である。TGFb阻害剤の非限定的な例は抗TGFb抗体である。ワクチンの非限定的な例は足場ワクチン(scaffold vaccine)である。いくつかの態様では、腫瘍溶解性ウイルスが、サイトカイン、例えばGM-CSFまたはCSF(例えば、CSF1もしくはCSF2)等を発現する。二重特異性または三重特異性細胞エンゲージャーの非限定的な例としては、Fcドメインを有するまたは有さない、CD47およびCD19に対する二重特異性または三重特異性抗体分子が挙げられる。
エフェクター細胞組み合わせ
エフェクター細胞応答を増強する薬剤の非限定的な例としては、リンパ球活性化因子、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)を活性化および/または脱抑制する薬剤、NK細胞モジュレーター、インターロイキンまたはインターロイキンバリアント、二重特異性または三重特異性細胞エンゲージャー、NK細胞療法、NK細胞および抗原/免疫刺激剤を誘導するワクチン、免疫調節剤、T細胞モジュレーター、二重特異性T細胞エンゲージャー、IAP(アポトーシス阻害因子)の阻害剤、またはラパマイシン標的タンパク質(mTOR)の阻害剤等が挙げられる。
【0075】
リンパ球活性化因子の非限定的な例としては、NK細胞活性化因子またはT細胞活性化因子等が挙げられる。腫瘍浸潤リンパ球(TIL)の非限定的な例としては、NK細胞またはT細胞等が挙げられる。NK細胞モジュレーターの非限定的な例は、NK受容体のモジュレーター(例えば、抗体分子)、例えばNKG2A、KIR3DL、NKp46、MICA、CEACAM1またはこれらの組み合わせ等のモジュレーターである。インターロイキンの非限定的な例としては、IL-2、IL-15、IL-21、IL-13R、IL-12サイトカインまたはこれらの組み合わせ等が挙げられる。二重特異性または三重特異性細胞エンゲージャーの非限定的な例としては、NKG2AおよびCD138の二重特異性抗体分子、またはCD3およびTCRの二重特異性抗体分子等が挙げられる。免疫調節剤の非限定的な例としては、共刺激分子の活性化因子、または免疫チェックポイント分子の阻害剤等が挙げられる。
【0076】
いくつかの実施形態では、T細胞モジュレーターが、チェックポイント阻害剤の阻害剤から選択されるT細胞モジュレーターである。チェックポイント阻害剤の阻害剤(例えば、抗体)から選択されるT細胞モジュレーターの非限定的な例としては、PD-1の阻害剤、PD-L1の阻害剤、TIM-3の阻害剤、LAG-3の阻害剤、VISTAの阻害剤、ジアシルグリセロールキナーゼ(DKG)-アルファの阻害剤、B7-H3の阻害剤、B7-H4の阻害剤、TIGITの阻害剤、CTLA4の阻害剤、BTLAの阻害剤、CD160の阻害剤、TIM1の阻害剤、IDOの阻害剤、LAIR1の阻害剤、IL-12の阻害剤またはこれらの組み合わせ等が挙げられる。
【0077】
他の実施形態では、T細胞モジュレーターが、共刺激分子のアゴニストまたは活性化因子から選択されるT細胞モジュレーターである。共刺激分子のアゴニストまたは活性化因子から選択されるT細胞モジュレーターの非限定的な例としては、GITR、OX40、ICOS、SLAM(例えば、SLAMF7)、HVEM、LIGHT、CD2、CD27、CD28、CDS、ICAM-1、LFA-1(CD11a/CD18)、ICOS(CD278)、4-1BB(CD137)、CD30、CD40、BAFFR、CD7、NKG2C、NKp80、CD160、B7-H3またはCD83リガンド等のアゴニスト抗体、その抗原結合断片、または可溶性融合物等が挙げられる。二重特異性T細胞エンゲージャーの非限定的な例は、CD3および腫瘍抗原、例えば上皮成長因子受容体(EGFR)、PSCA、PSMA、EpCAMまたはHER2等に結合する二重特異性抗体分子である。
抗腫瘍免疫抑制組み合わせ
腫瘍免疫抑制を減少させる薬剤の非限定的な例としては、Treg、マクロファージ2および/またはMDSCの活性および/またはレベルを調節する薬剤、M2極性化、Treg枯渇および/またはT細胞動員を増加させる薬剤が挙げられる。
【0078】
腫瘍免疫抑制を減少させる薬剤の非限定的な例としては、免疫調節剤、CSF-1/1R阻害剤、IL-17阻害剤、IL-1ベータ阻害剤、CXCR2阻害剤、ホスホイノシチド3-キナーゼの阻害剤、BAFF-R阻害剤、MALT-1/BTK阻害剤、JAK阻害剤、CRTH2阻害剤、VEGFR阻害剤、IL-15もしくはそのバリアント、CTLA-4阻害剤、IDO/TDO阻害剤、A2ARアンタゴニスト、TGFb阻害剤、またはPFKFB3阻害剤、免疫チェックポイント分子の阻害剤等が挙げられる。
【0079】
免疫調節剤の非限定的な例としては、共刺激分子(例えば、GITRアゴニスト)の活性化因子、または免疫チェックポイント分子(例えば、PD-1、PD-L1、LAG-3、TIM-3もしくはCTLA-4等)の阻害剤等が挙げられる。CSF-1/1R阻害剤の非限定的な例は、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)の阻害剤である。ホスホイノシチド3-キナーゼの阻害剤の非限定的な例は、PI3K、例えばPI3KガンマまたはPI3Kデルタ等である。免疫チェックポイント分子の阻害剤の非限定的な例としては、PD-1の阻害剤、PD-L1の阻害剤、LAG-3の阻害剤、TIM-3の阻害剤、CEACAM(例えば、CEACAM-1、CEACAM-3および/またはCEACAM-5等)の阻害剤、またはCTLA-4の阻害剤等が挙げられる。
【0080】
いくつかの実施形態では、第2の有効成分が、1つもしくは複数の抗原提示を増強する治療剤、1つもしくは複数のエフェクター細胞応答を増強する治療剤、および/または1つもしくは複数の腫瘍免疫抑制を減少させる治療剤を含む。
【0081】
一定の実施形態では、第2の有効成分が、STINGアゴニスト、TLRアゴニスト(例えば、TLR7アゴニスト)、TIM-3モジュレーター(例えば、TIM-3阻害剤)、GITRモジュレーター(例えば、GITRアゴニスト)、PD-1阻害剤(例えば、抗PD-1抗体分子)、PD-L1阻害剤、CSF-1/1R阻害剤(例えば、M-CSF阻害剤)、IL-17阻害剤、IL-1ベータ阻害剤およびこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0082】
第2の治療剤と#1a、N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミド、またはその薬学的に許容される塩によって治療されるヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)関連疾患の非限定的な例としては、乳がん、結腸直腸がん、頭頸部がん、血液がん、白血病、肝臓がん、肺がん、黒色腫、骨髄腫、非ホジキンリンパ腫、膵臓がん、前立腺がん、腎臓がんまたはがんの転移病巣等が挙げられる。
【0083】
投与経路は、本発明の物理形態および治療される障害によって影響を受け得る。いくつかの実施形態では、医薬組成物が気体として調製される。他の実施形態では、医薬組成物がエアロゾルとして調製される。エアロゾルは、コロイドおよび加圧パッケージを含む種々の系を包含する。この形態の組成物の送達の非限定的な例としては、液化ガスを通した、他の圧縮ガスを通した、および適切なポンプシステムを使用した医薬組成物の推進が挙げられる。エアロゾルは、単相、二相または三相系で送達され得る。
【0084】
本発明はさらに、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)関連疾患を治療するための医薬組成物に関する。典型的には、医薬組成物は、有効成分と薬学的に許容される担体とを含む。有効成分は、(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミド、N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミド、およびそれらの薬学的に許容される塩、エステル、誘導体、アナログ、プロドラッグまたは溶媒和物からなる群から選択される少なくとも第1の有効成分を含む。いくつかの非限定的な態様では、第1の有効成分が非晶質分散体を形成する。いくつかの実施形態では、薬学的に許容される塩が、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウム、亜鉛およびこれらの組み合わせからなる群から選択される。他の実施形態では、医薬組成物が、(最終剤形で)第2の有効成分をさらに含む。いくつかの態様では、第2の有効成分が、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤、ブロモドメイン阻害剤または両方を含む。
【0085】
いくつかの態様では、薬学的に許容される担体が、医薬ポリマー担体、処理剤、界面活性剤およびこれらの組み合わせからなる群から選択される。
医薬ポリマー担体の非限定的な例としては、セルロース系医薬ポリマー、架橋医薬ポリマー、高溶融粘度医薬ポリマー、非イオン性医薬ポリマー、非イオン性セルロース系医薬ポリマー、非イオン性水溶性医薬ポリマー、熱不安定性医薬ポリマー、水溶性医薬ポリマーまたは水溶性セルロース系医薬ポリマー等が挙げられる。
【0086】
非イオン性医薬ポリマー担体の非限定的な例としては、セルロース系ポリマー、水溶性ポリマーまたはセルロース系水溶性ポリマー等が挙げられる。非イオン性水溶性医薬ポリマーの非限定的な例としては、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリ(酢酸ビニル)-co-ポリ(ビニルピロリドン)コポリマー、ポリ(ビニルアルコール)、ポリビニルカプロラクタム-ポリ酢酸ビニル-ポリエチレングリコールグラフトコポリマー、ポリ(ビニルピロリドン)またはカルボキシメチルセルロースナトリウム等が挙げられる。
【0087】
架橋医薬ポリマーの非限定的な例としては、カルボマー、クロスポビドン、ポリカルボフィルまたはクロスカルメロースナトリウム等が挙げられる。
医薬ポリマーの非限定的な例としては、酢酸酪酸セルロース、酢酸フタル酸セルロース、酢酸トリメリト酸セルロース(cellulose acetate trimelletate)、ジメチルアミノエチルメタクリレート-メタクリル酸エステルコポリマー、エチルアクリレート-メチルメタクリレートコポリマー、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ポリ(ブチルメタクリレート-co-(2-ジメチルアミノエチル)メタクリレート-co-メチルメタクリレート)1:2:1、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(メタクリレートエチルアクリレート)(1:1)コポリマー、ポリ(メタクリレートメチルメタクリレート)(1:1)コポリマー、ポリ(メタクリレートメチルメタクリレート)(1:2)コポリマー、ポリ(酢酸ビニル)-co-ポリ(ビニルピロリドン)コポリマー、ポリ(酢酸ビニル)フタレート、ポリ(ビニルアルコール)、ポリビニルカプロラクタム-ポリ酢酸ビニル-ポリエチレングリコールグラフトコポリマー、ポリ(ビニルピロリドン)またはカルボキシメチルセルロースナトリウムが挙げられる。
【0088】
処理剤の非限定的な例は可塑剤である。
界面活性剤の非限定的な例としては、ジオクチルナトリウムスルホスクシネート、グリセロールポリエチレングリコールオキシステアレート-脂肪酸グリセロールポリグリコールエステル-ポリエチレングリコール-グリセロールエトキシレート、グリセロールポリエチレングリコールリシノレート-ポリエチレングリコール-ポリエチレングリコール-エトキシル化グリセロールの脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート、ドデシル硫酸ナトリウム、ソルビタンラウレートまたはビタミンE TPGS(d-α-トコフェリルポリエチレングリコール1000スクシネートとしても知られる)が挙げられる。
【0089】
いくつかの態様では、医薬組成物が複合体である。いくつかの実施形態では、医薬組成物が溶融ブレンド医薬複合体である。さらなる実施形態では、医薬組成物が、均質、不均質または不均質的均質組成物である。他の態様では、医薬組成物が経口剤形に製剤化される。経口剤形の非限定的な例としては、錠剤、カプセル剤またはサシェ等が挙げられる。
【0090】
本開示はまた、医薬組成物を調製する方法に関する。典型的には、本方法は、有効成分を熱力学ミキサー中で薬学的に許容される担体と一定の長さの時間混合するステップを含み、有効成分は、#1a、#1、およびそれらの薬学的に許容される塩、エステル、誘導体、アナログ、プロドラッグまたは溶媒和物から選択される少なくとも第1の有効成分を含み、有効成分と薬学的に許容される担体の熱力学的配合が、溶融ブレンド医薬複合体を形成する。
【0091】
医薬組成物を調製する方法のいくつかの態様では、有効成分が、最終剤形で(#1a以外の)第2の有効成分、例えばDNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤、ブロモドメイン阻害剤または両方をさらに含む。
【0092】
混合時間の長さの非限定的な例としては、1200秒未満、900秒未満、600秒未満、500秒未満、400秒未満、350秒未満、250秒未満、200秒未満または150秒未満が挙げられる。好ましい実施形態では、混合時間の長さが300秒未満である。
【0093】
本方法のいくつかの態様では、混合が定義される温度で実施される。例えば、約400℃未満、約375℃未満、約350℃未満、約325℃未満、約300℃未満、約275℃未満、約225℃未満または約200℃未満等である。好ましい実施形態では、混合が約250℃未満で実施される。
【0094】
いくつかの態様では、医薬組成物が、薬学的に許容される溶媒または2種以上の溶媒の混合物に溶解される。溶媒は、対象の深刻な合併症なしにHDAC関連疾患を治療するのに十分な量の開示される化合物を送達する。溶媒の非限定的な例としては、ピリジン、クロロホルム、プロパン-1-オール、オレイン酸エチル、乳酸エチル、エチレンオキシド、水またはエタノール等が挙げられる。
【0095】
医薬組成物は、組成物の物理化学的形態および投与型に応じて、任意の数の製剤をとり得る。組成物の形態の非限定的な例としては、液剤、懸濁剤、乳剤、錠剤、丸剤、ペレットまたはカプセル剤等が挙げられる。カプセル剤の非限定的な例としては、液体、散剤、徐放製剤、誘導放出製剤、凍結乾燥物、坐剤、乳剤、エアゾール剤、スプレー、顆粒剤、散剤、シロップ剤またはエリキシル剤等が挙げられる。
【0096】
適切な医薬担体の例は、全体が参照により本明細書に組み込まれる、「Remington’s Pharmaceutical Sciences」 E.W.Martinに記載されている。
【0097】
投与方法の非限定的な例としては、経口投与および非経口投与が挙げられる。非経口投与の非限定的な例としては、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内、硬膜外、舌下、粘膜内(intramsal)、脳内、脳室内、髄腔内、膣内、経皮、直腸、吸入、および局所(例えば、耳、鼻、目または皮膚に)等が挙げられる。いくつかの態様では、投与が、注入またはボーラス注射からなる群から選択される注入技術、および上皮または粘膜皮膚裏層(例えば、口腔粘膜、直腸および腸管粘膜)を通した吸収を使用する。他の態様では、非経口投与用の組成物が、ガラス、プラスチックまたは別の材料でできたアンプル、使い捨て注射器または複数回投与バイアルに封入される。
【0098】
いくつかの実施形態では、投与が全身である。他の実施形態では、投与が局所、すなわち、治療を必要とする領域への投与である。局所投与の非限定的な例としては、外科手術中の局所注入、局所施用および局所注射(カテーテル、坐剤またはインプラントによる)が挙げられる。いくつかの態様では、投与が、がん、腫瘍、前がん組織の部位または前の部位での直接注射である。他の態様では、投与が、例えば脳室内または髄腔内注射による中枢神経系への直接注射である。さらに他の態様では、脳室内注射が、脳室内カテーテルによって促進される。さらなる態様では、脳室内カテーテルがレザバー(例えば、オンマイヤーレザバー)に取り付けられる。いくつかの実施形態では、肺投与が使用される。肺投与の非限定的な例としては、吸入器またはネブライザーの使用、エアロゾル化剤による製剤化、およびフルオロカーボンまたは合成肺サーファクタントにおける灌流が挙げられる。他の実施形態では、医薬組成物が、天然または合成小胞において送達される。さらに他の実施形態では、医薬組成物がリポソームで送達される(delivered a liposome)。
【0099】
いくつかの態様では、医薬組成物が、溶液を形成するために、開示される化合物を水で溶解することによって調製される。他の態様では、均質な溶液または懸濁液の形成を促進するために界面活性剤が添加される。界面活性剤は、化合物の溶解または均質な懸濁を促進するために、開示される化合物との非共有結合的相互作用が可能な任意の複合体を含む。
【0100】
さらに他の態様では、医薬組成物が、局所または経皮投与を促進する形態、例えば、液剤、乳剤、軟膏、ゲル基剤、経皮パッチまたはイオン導入装置の形態で調製される。このような組成物で使用される基剤の非限定的な例としては、ペトロラタム(opetrolatum)、ラノリン、ポリエチレングリコール、蜜蝋、鉱油、希釈剤(例えば、水またはアルコール)、乳化剤、安定剤、増粘剤等が挙げられる。
【0101】
一定の実施形態では、本発明は、1つまたは複数の種々の細胞のHDACアイソフォームを阻害する方法に関する。細胞を有効量の式(I)の開示される化合物またはその薬学的に許容される塩のいずれか1つと接触させるステップを含む方法。
【0102】
いくつかの実施形態では、細胞が、がん細胞、神経細胞、免疫系の細胞、循環系の細胞、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される。他の実施形態では、細胞が、がん細胞である。さらに他の実施形態では、細胞が神経細胞である。さらなる実施形態では、細胞が免疫系の細胞である。なおさらなる組み合わせでは、細胞が循環系の細胞である。
【0103】
がん細胞の非限定的な例は、急性リンパ性白血病(ALL)細胞、急性骨髄性白血病(AML)細胞、急性前骨髄球性白血病(APL)細胞、乳がん細胞、慢性骨髄性白血病(CML)細胞、結腸がん細胞、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)細胞、消化管間質腫瘍(GIST)細胞、神経膠芽腫(GBM)細胞、肝細胞がん細胞、ホジキンリンパ腫細胞、白血病細胞、肺がん細胞、多発性骨髄腫細胞、非ホジキンリンパ腫細胞、非小細胞肺がん(NSCLC)細胞、神経芽細胞腫細胞、卵巣がん細胞、膵管腺がん細胞、末梢T細胞リンパ腫細胞、前立腺がん細胞、子宮がん細胞およびワルデンシュトレーム骨髄腫細胞等を含む。
【0104】
いくつかの実施形態では、HDACアイソフォームが、HDAC1、HDAC2、HDAC3、HDAC4、HDAC5、HDAC6、HDAC7、HDAC8、HDAC9、HDAC10、HDAC11、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される。他の実施形態では、HADCアイソフォームが、HDAC1、HDAC2、HDAC3、HDAC6、HDAC10、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される。さらに他の実施形態では、HDACアイソフォームが、HDAC1、HDAC3、HDAC6およびこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0105】
いくつかの態様では、式(I)の化合物が、0.0001~4μM、またはその間の任意の数値範囲、例えば0.0002~4μM、0.0002~3.5μM、0.0005~3.5μM、0.0005~3μM、0.001~3μM、0.001~2.5μM、0.002~2.5μM、0.002~2μMまたは0.005~2μM等の半数阻害濃度(IC50)でHDACアイソフォームのヒストン脱アセチル化活性を阻害する。他の態様では、式(I)の化合物が、0.001~10μM、またはその間の任意の数値範囲、例えば0.001~8μM、0.002~8μM、0.002~6μM、0.003~6μM、0.003~4μM、0.005~4μM、0.005~2μMまたは0.01~2μM等の半数阻害濃度(IC50)でHDACアイソフォームのヒストン脱アセチル化活性を阻害する。さらに他の態様では、式(I)の化合物が、0.02~10μM、またはその間の任意の数値範囲、例えば0.05~10μM、0.05~9μM、0.1~9μM、0.1~8μM、0.2~8μM、0.2~7μM、0.4~7μMまたは0.4~6μM等の半数阻害濃度(IC50)でHDACアイソフォームのヒストン脱アセチル化活性を阻害する。さらなる態様では、式(I)の化合物が、1μM未満、0.5μM未満、0.2μM未満、0.1μM未満、0.01μM未満、0.001μM未満等の半数阻害濃度(IC50)でHDACアイソフォームの活性を阻害する。
【0106】
いくつかの実施形態では、化合物が、少なくとも90%、少なくとも80%、少なくとも70%、少なくとも60%、少なくとも50%、少なくとも40%、少なくとも30%、少なくとも20%または少なくとも10%、HDACアイソフォームのヒストン脱アセチル化活性を阻害する。他の実施形態では、化合物が、10~100%、またはその間の任意のパーセント範囲、例えば10~90%、15~90%、30%~90%、15~80%、20~80%、30%~80%、20~70%、25~70%、30%~70%、25~60%、30~60%または30~50%等、HDACアイソフォームのヒストン脱アセチル化活性を阻害する。
【0107】
いくつかの実施形態では、式(I)の化合物が、HDACアイソフォームのヒストン脱アセチル化活性を阻害し、それによって細胞増殖を阻害する、細胞死を誘発する、またはその両方である。
【0108】
いくつかの態様では、本方法がインビトロで実施される。非限定的な例は、HDACの阻害における未知の化合物の活性を測定するための陽性対照、標準または両方として式(I)の化合物を使用するスクリーニングアッセイである。
【0109】
いくつかの態様では、本方法がインビボで実施され、それによって対象のHDACアイソフォームを阻害する。接触が、化合物またはその薬学的に許容される塩形態を、HDACアイソフォームを阻害するのに有効な量投与することによって達成される。他の態様では、対象がヒト、例えば患者である。
【0110】
がん細胞は、腫瘍、新生物、がん、前がん、細胞株、または無制限の増加および増殖が潜在的に可能な任意の他の供給源に由来する細胞を含む。いくつかの態様では、がん細胞が、天然に存在する供給源に由来する。他の態様では、がん細胞が、人工的に作製される。いくつかの実施形態では、がん細胞が、動物宿主に入れた場合、組織への侵入および転移が可能である。がん細胞はさらに、他の組織に侵入した、転移したまたはその両方である任意の悪性細胞を包含する。いくつかの態様では、生物の1つまたは複数のがん細胞が、がん、腫瘍、新生物、増殖、悪性腫瘍、またはがん性状態の細胞を記載する当技術分野で使用される別の用語として呼ばれる。
【0111】
がん細胞の増加は、がん細胞に由来する個々の細胞の数の上昇をもたらす任意の過程を含む。がん細胞の増加は、インビトロにせよインビボにせよ、がん細胞の有糸分裂、増殖または任意の他の形態の増加から生じ得る。がん細胞の増加はさらに、侵入および転移を包含する。がん細胞は、同じクローンまたは遺伝的に同一であってもなくてもよい異なるクローンからのがん細胞と物理的に近接し得る。このような凝集は、そのいずれもインビボで起こってもインビトロで起こってもよい、コロニー、腫瘍または転移の形態をとり得る。がん細胞の増加の遅延は、増加を促進する細胞過程を阻害することによって、または増加を阻害する細胞過程をもたらすことによってもたらされ得る。増加を阻害する過程は、有糸分裂を遅延させる過程および細胞老化または細胞死を促進する過程を含む。増加を阻害する特定の過程の例は、カスパーゼ依存性および非依存性経路、オートファジー、壊死、アポトーシス、ならびにミトコンドリア依存性および非依存性過程を含み、さらにまだ開示されていない任意のこのような過程を含む。
【0112】
医薬組成物のがん細胞への添加は、がん細胞に対する医薬組成物の効果が理解される全ての作用を含む。選択される添加の型は、がん細胞がインビボ、エキソビボまたはインビトロであるかどうか、医薬組成物の物理的または化学的特性、および組成物ががん細胞に対して有する効果に依存するだろう。添加の非限定的な例は、医薬組成物を含む溶液の、インビトロがん細胞が増殖している組織培養培地への添加;静脈内、経口もしくは非経口、または任意の他の投与方法を含む、医薬組成物が動物に投与され得る任意の方法;あるいは免疫細胞(例えば、マクロファージおよびCD8+T細胞)または血管新生もしくは脈管形成の過程で血管構造に分化し得る内皮細胞などのがん細胞に対する効果を同様に有し得る細胞の活性化または阻害を含む。
【0113】
開示される化合物の有効量の決定は、特に本明細書で提供される詳細な開示に照らして、当業者の能力の範囲内にある。特定の目的ならびにその毒性、排出および全体的耐性をもたらすために使用される医薬組成物の有効量は、当業者によって現在知られている製薬および毒性学手順によって、またはまだ開示されていない任意の同様の方法によって、細胞培養物または実験動物で決定され得る。一例は、細胞株または標的分子におけるインビトロでの医薬組成物のIC50(半数阻害濃度)の決定である。別の例は、実験動物での医薬組成物のLD50(試験される動物の50%で死を引き起こす致死用量)の決定である。有効量の決定に使用される正確な技術は、医薬組成物の種類および物理的/化学的特性、試験される特性、ならびに試験がインビトロで実施されるかインビボで実施されるかなどの因子に依存するだろう。医薬組成物の有効量の決定は、その決定の実施で任意の試験から得られるデータを使用する当業者に周知であるだろう。がん細胞に添加するための開示される化合物の有効量の決定はまた、ヒト中を含む、インビボで使用するための有効用量範囲の製剤を含む有効治療量の決定を含む。
【0114】
治療は、それだけに限らないが、哺乳動物(特にヒト)ならびに絶滅の危機に瀕した状態のものを含む、経済的または社会的に重要な他の哺乳動物を含む生きている実体で企図される。さらなる例は、ヒトによる消費用に一般的に繁殖される家畜または他の動物および飼いならされた伴侶動物を含む。
【0115】
がん細胞の増殖の遅延をもたらす開示される化合物の有効量は、放射線または化学療法化学剤に以前曝露されたまたは現在曝露されている非新生物細胞を含む非新生物細胞に対する少ない効果(最大で効果なしおよび効果なしを含む)で、新生物細胞の細胞増殖を遅延させるのに有効な標的組織でのまたは標的組織付近での濃度であるだろう。これらの効果をもたらす濃度は、例えばインビトロまたはインビボで、アポトーシス指数(apoptotic index)および/またはカスパーゼ活性などのアポトーシスマーカーを使用して決定され得る。
【0116】
状態の治療は、疾患実体を疾患発症前の状態に戻すまでの、疾患、障害もしくは状態の進行の停止、阻害、遅延もしくは好転、疾患、障害もしくは状態の臨床症状の実質的な改善、または疾患、障害もしくは状態の臨床症状の出現の実質的予防を意図した任意の方法、プロセスまたは手順の実行である。
【0117】
治療上有効量の開示される化合物の添加は、化合物を投与する任意の方法を包含する。開示される化合物の投与は、有効成分として開示される化合物を含むいくつかの医薬組成物のいずれかの複数回投与のうちの単回を含み得る。例は、徐放性組成物の単回投与、定期的もしくは不定期の数回の治療を伴う一連の治療、疾患状態の減少が達成されるまでの期間にわたる複数回投与、症状の誘因前に施用される予防的治療、または当業者が潜在的に有効なレジメンと認識するような当技術分野で知られているもしくはまだ開示されていない任意の他の投与レジメンを含む。投与の規則性および様式を含む最終的な投与レジメンは、それだけに限らないが、治療される対象;苦痛の重症度;投与様式、疾患発達の段階、妊娠、乳児期などの1つもしくは他の状態の存在、または1つもしくは複数の追加の疾患の存在;または投与様式の選択に影響を及ぼす、現在知られているもしくはまだ開示されていない任意の他の因子、投与される用量および用量が投与される期間を含むいくつかの因子のいずれかに依存するだろう。
【0118】
開示される化合物を含む医薬組成物は、化合物を含んでも含まなくてもよい第2の医薬組成物の投与の前、投与と同時または投与後に投与され得る。組成物が同時に投与される場合、これらは互いに1分以内に投与される。同時に投与されない場合、第2の医薬組成物は、化合物を含む医薬組成物の1または複数分、時間、日、週間または月期間の前または後に投与され得る。あるいは、医薬組成物の組み合わせが周期的に投与され得る。サイクリング療法は、組成物の1つもしくは複数に対する耐性の発達を減少させるため、組成物の1つもしくは複数の副作用を回避もしくは減少させるため、および/または治療の有効性を改善するために、一定期間の1つまたは複数の医薬組成物の投与、引き続いて一定期間の1つまたは複数の異なる医薬組成物の投与、およびこの逐次投与の反復を伴う。
【0119】
本発明はさらに、開示される化合物の疾患実体への投与を促進するキットを包含する。このようなキットの例は、化合物の単一または複数単位投与量を含む。単位投与量が、好ましくは滅菌容器に封入され、開示される化合物と薬学的に許容される担体とで構成されるだろう。別の態様では、単位投与量が化合物の1つまたは複数の凍結乾燥物を含むだろう。本発明のこの態様では、キットが、別の好ましくは凍結乾燥物を溶解することができる溶液を封入する滅菌容器を含み得る。しかしながら、このような溶液がキットに含まれる必要はなく、凍結乾燥物と別に得られてもよい。別の態様では、キットが、化合物と組み合わせて使用される単位投与量または医薬組成物の投与に使用される1つまたは複数の装置を含み得る。このような装置の例は、それだけに限らないが、注射器、ドリップバッグ、パッチまたは浣腸を含む。本発明のいくつかの態様では、装置が、単位投与量を封入する容器を含む。
【0120】
開示される化合物を含む医薬組成物は、がんを治療する方法に使用され得る。このような方法は、治療量の開示される化合物および/またはその薬学的に許容される塩を含む医薬組成物の哺乳動物、好ましくはがんと診断された哺乳動物への投与を伴う。
【0121】
治療量は、新生物、悪性または転移状態へのがんの進行の予防をもたらす量をさらに含む。このような予防的使用は、特に、過形成、化生または異形成からなる非新生物細胞増殖が起こっている、新生物またはがんへの先行する進行が知られているまたは疑われる状態において適応となる(このような異常な増殖状態の概要については、RobbinsおよびAngell、1976、Basic Pathology、第2版、W.B.Saunders Co.、フィラデルフィア、68~79頁を参照されたい)。過形成は、構造または活性の有意な変化を伴わない、組織または器官の細胞数の上昇を伴う制御された細胞増殖の形態である。例えば、子宮内膜増殖症が通常子宮内膜がんに先行し、前がん性結腸ポリープが通常がん性病変に変化する。化生は、ある型の成人または完全に分化した細胞が別の型の成人細胞に取って代わる制御された細胞増殖の形態である。化生は、上皮または結合組織細胞で生じ得る。典型的な化生は、いくぶん無秩序の化生性上皮を伴う。異形成は、頻繁にがんの前兆であり、主に上皮で見られる;これは、非新生物細胞増殖の最も無秩序な形態であり、個々の細胞均一性および細胞の構築的配向の喪失を伴う。異形成細胞は通常、異常に大きな、深く染色された核を有し、多形性を示す。異形成は、特徴として、慢性刺激または炎症が存在する場所で生じ、通常、子宮頸部、気道、口腔および胆嚢に見られる。
【0122】
あるいは、または過形成、化生もしくは異形成として特徴付けられる異常な細胞増殖の存在に加えて、患者に由来する細胞試料によってインビボで示されるまたはインビトロで示される、形質転換表現型または悪性表現型の1つまたは複数の特徴の存在が、化合物を含む医薬組成物の予防的/治療的投与の望ましさを示し得る。形質転換表現型のこのような特徴は、形態変化、緩い基質付着、接触阻害の喪失、足場依存性の喪失、プロテアーゼ放出、糖輸送増加、血清要求減少、胎児抗原の発現、250000ダルトン細胞表面タンパク質の消失等を含む(形質転換または悪性表現型に関連する特徴について、同上84~90頁も参照されたい)。さらなる例は、予防的介入の望ましさを示す前新生物性病変である、上皮の良性に見える過形成もしくは異形成病変である白板症または上皮内癌であるボーエン病を含む。別の例では、嚢胞性過形成を含む線維嚢胞性疾患、乳腺異形成、腺疾患または良性上皮過形成が、予防的介入の望ましさを示している。
【0123】
本発明のいくつかの態様では、開示される化合物の使用が、予後および化合物による治療に対するありうる反応を示す腫瘍サイズおよび悪性度または1つもしくは複数の分子マーカーおよび/または発現サインなどの1つまたは複数の物理的因子によって決定され得る。例えば、エストロゲン(ER)およびプロゲステロン(PR)ステロイドホルモン受容体状態の決定が、乳がん患者の評価における日常的手順になってきている。例えば、Fitzgibbonsら、Arch.Pathol.Lab.Med.124:966-78、2000を参照されたい。ホルモン受容体陽性の腫瘍は、ホルモン療法によりよく反応する見込みがあり、また典型的にはあまり侵攻的に増殖せず、それによってER+/PR+腫瘍を有する患者のより良い予後をもたらす。さらなる例では、ヒト上皮増殖因子受容体2(HER-2/neu)、膜貫通チロシンキナーゼ受容体タンパク質の過剰発現が、乳がん予後不良と相関しており(例えば、Rossら、The Oncologist 8:307-25、2003参照)、乳房腫瘍におけるHer-2発現レベルが、抗Her2モノクローナル抗体治療トラスツズマブ(Herceptin(登録商標)、Genentech、South San Francisco、CA)に対する反応を予測するために使用される。
【0124】
本発明の別の態様では、疾患実体が、化合物を含む医薬組成物の投与によって治療され得る悪性腫瘍についての1つまたは複数の素因を示す。このような素因は、それだけに限らないが、慢性骨髄性白血病についてのフィラデルフィア染色体および濾胞性リンパ腫についてのt(14;18)などの悪性腫瘍に関連する染色体転座;結腸がんを示すポリポーシスもしくはガードナー症候群の発生;多発性骨髄腫を示す良性単クローン性免疫グロブリン血症、がんもしくは前がん性疾患を有していたもしくは現在有する人の血縁、発癌物質への曝露、または現在知られているもしくはまだ開示されていないがん発生率増加を示す任意の他の素因を含む。
【0125】
本発明はさらに、開示される化合物を含む医薬組成物の投与と別の治療様式を含む併用療法を含む、がんを治療する方法を包含する。このような治療様式は、それだけに限らないが、放射線療法、化学療法、外科手術、免疫療法、がんワクチン、放射免疫療法、開示される化合物を含むもの以外の医薬組成物による治療、または現在知られているもしくはまだ開示されていない、開示される化合物と組み合わせてがんを有効に治療する任意の他の方法を含む。併用療法は相乗的に作用し得る。すなわち、2つの療法の組み合わせが、単独で投与されるいずれの療法よりも有効である。これは、より低い投与量の両治療様式が有効に使用され得る状況をもたらす。このことが、今度は、もしある場合には、有効性の減少を伴わないでいずれかの投与様式に関連する毒性および副作用を減少させる。
【0126】
本発明の別の態様では、開示される化合物を含む医薬組成物が、治療上有効量の放射線療法と組み合わせて投与される。放射線療法は、化合物を含む医薬組成物の投与と同時、投与の前または投与の後に投与され得る。放射線療法は、化合物を含む医薬組成物と相加的または相乗的に作用し得る。本発明のこの特定の態様が、放射線療法に反応性であることが知られているがんで最も有効となるだろう。放射線療法に反応性であることが知られているがんは、それだけに限らないが、非ホジキンリンパ腫、ホジキン病、ユーイング肉腫、精巣がん、前立腺がん、卵巣がん、膀胱がん、喉頭がん、子宮頸がん、上咽頭がん、乳がん、結腸がん、膵がん、頭頚部がん、食道がん(esophogeal cancer)、直腸がん、小細胞肺がん、非小細胞肺がん、脳腫瘍、他のCNS新生物、または現在知られているもしくはまだ開示されていない任意の他のこのような腫瘍を含む。
【0127】
開示される化合物と組み合わせて使用され得る医薬組成物の非限定的な例は、シスジアミンジクロロ白金(II)(シスプラチン)、ドキソルビシン、5-フルオロウラシル、タキソールなどの核酸結合組成物、ならびにエトポシド、テニポシド、イリノテカンおよびトポテカンなどのトポイソメラーゼ阻害剤を含む。さらに他の医薬組成物は、メトクロプラミド、ドンペリドン、プロクロルペラジン、プロメタジン、クロルプロマジン、トリメトベンズアミド、オンダンセトロン、グラニセトロン、ヒドロキシジン、アセチルロイシン、モノエタノールアミン、アリザプリド、アザセトロン、ベンズキナミド、ビエタナウチン(bietanautine)、ブロモプリド、ブクリジン、クレボプリド、シクリジン、ジメンヒドリナート、ジフェニドール、ドラセトロン、メクリジン、メタラタール(methallatal)、メトピマジン、ナビロン、オキシペルンジル(oxyperndyl)、ピパマジン、スコポラミン、スルピリド、テトラヒドロカンナビノール、チエチルペラジン、チオプロペラジンおよびトロピセトロンなどの制吐組成物を含む。
【0128】
開示される化合物を含む医薬組成物と組み合わせて使用され得る医薬組成物のさらに他の例は、造血コロニー刺激因子である。造血コロニー刺激因子の例は、それだけに限らないが、フィルグラスチム、サルグラモスチム、モルグラモスチムおよびエポエチンαを含む。あるいは、開示される化合物を含む医薬組成物は、抗不安薬と組み合わせて使用され得る。抗不安薬の例は、それだけに限らないが、ブスピロン、およびベンゾジアゼピン、例えばジアゼパム、ロラゼパム、オキサゼパム(oxazapam)、クロラゼペート、クロナゼパム、クロルジアゼポキシドおよびアルプラゾラムを含む。
【0129】
開示される化合物を含む医薬組成物と組み合わせて使用され得る医薬組成物は、鎮痛薬を含み得る。このような薬剤は、オピオイドまたは非オピオイド鎮痛薬であり得る。オピオイド鎮痛薬の非限定的な例は、モルヒネ、ヘロイン、ヒドロモルフォン、ヒドロコドン、オキシモルフォン、オキシコドン、メトポン、アポモルヒネ、ノルモルヒネ、エトルフィン、ブプレノルフィン、メペリジン、ロペルミド、アニレリジン、エトヘプタジン、ピミニジン、β-プロジン、ジフェノキシラート、フェンタニル、スフェンタニル、アルフェンタニル、レミフェンタニル、レボルファノール、デキストロメトルファン、フェナゾシン、ペンタゾシン、シクラゾシン、メタドン、イソメタドンおよびプロポキシフェンを含む。適切な非オピオイド鎮痛薬は、それだけに限らないが、アスピリン、セレコキシブ、ロフェコキシブ、ジクロフェナク(diclofinac)、ジフルニサル(diflusinal)、エトドラク、フェノプロフェン、フルルビプロフェン、イブプロフェン、ケトプロフェン、インドメタシン、ケトロラク、メクロフェナメート、メフェナム酸、ナブメトン、ナプロキセン、ピロキシカム、スリンダク、または現在知られているもしくはまだ開示されていない任意の他の鎮痛薬を含む。
【0130】
本発明の他の態様では、開示される化合物を含む医薬組成物が、エキソビボでのがんの治療を伴う方法と組み合わせて使用され得る。このような治療の一例は、自家幹細胞移植である。この方法では、疾患実体の自家造血幹細胞が収集され、全てのがん細胞が一掃される。次いで、患者自身の幹細胞またはドナー幹細胞の添加により実体の骨髄を修復する前に、治療量の開示される化合物を含む医薬組成物が患者に投与され得る。
【0131】
単独でまたは別の治療様式と組み合わせて開示される化合物を含む医薬組成物によって治療され得るがんは、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨原性肉腫、脊索腫、血管肉腫、内皮肉腫(endotheliosarcoma)、リンパ管肉腫、リンパ管内皮肉腫(lymphagioendothelio-sarcoma)、滑膜腫、中皮腫、ユーイング腫瘍、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、結腸がん、結腸直腸がん、腎がん、膵がん、骨がん、乳がん、卵巣がん、前立腺がん、食道がん、胃がん、口腔がん、鼻がん、咽頭がん、扁平上皮がん、基底細胞がん、腺がん、汗腺がん、脂腺がん、乳頭状がん、乳頭状腺がん、嚢胞腺がん、髄様がん、気管支原性がん、腎細胞がん、肝癌、胆管がん、絨毛がん、セミノーマ、胚性癌腫、ウィルムス腫瘍、子宮頸がん、子宮がん、精巣がん、小細胞肺癌、膀胱がん、肺がん、上皮がん、神経膠腫、多形性膠芽腫、星状細胞腫、髄芽腫、頭蓋咽頭腫、上衣腫、松果体腫、血管芽腫、聴神経腫、乏突起膠腫、髄膜腫、皮膚がん、黒色腫、神経芽細胞腫および網膜芽細胞腫などの固形腫瘍を含む。
【0132】
開示される化合物を含む医薬組成物によって治療され得る追加のがんは、急性リンパ性白血病(ALL)、急性リンパ性B細胞白血病、急性リンパ性T細胞白血病、急性骨髄性白血病(AML)、急性前骨髄球性白血病(APL)、急性単芽球性白血病、急性赤白血病、急性巨核芽球性白血病、急性骨髄単球性白血病、急性非リンパ性白血病、急性未分化白血病、慢性骨髄性白血病(CML)、慢性リンパ性白血病(CLL)、有毛細胞白血病、多発性骨髄腫、リンパ性白血病、骨髄性白血病(myelogenous leukemia)、リンパ球性白血病、骨髄性白血病(myelocytic leukemia)、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症、重鎖病および真性多血症などの血液系がんを含む。
【0133】
本開示を以下の実施例によってさらに説明するが、これらの実施例は限定するものと解釈されるべきでない。
【実施例】
【0134】
化合物
N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミド(#1)(M+1:336)
【0135】
【0136】
(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミド(#1a)
【0137】
【0138】
(R)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミド(#1b)
【0139】
【0140】
N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミド(#1)の合成
化合物#1の合成は以下の一般的なスキーム(
図1)に従う。式IIのカルボン酸と式IIIのアミノチアゾールとの間のアミド形成反応は、N,N-ジメチルホルムアルデヒド(DMF)中N,N,N’,N’-テトラメチル-O-(7-アザベンゾトリアゾール-1-イル)ウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HATU)およびジイソプロピルエチルアミン(DIEA)によって媒介される。式IVのカップリング生成物をテトラヒドロフランおよびメチルアルコール溶液中ヒドロキシルアミンおよび水酸化ナトリウムで処理すると、式Vの対応するヒドロキサム酸が得られる。Vのキラル分割によって、光学活性エナンチオマーVaが得られた。エステル化およびスルホン化などのさらなる化学変換によってVIが得られた。
(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミド(#1a)および(R)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミド(#1b)
ステップ1.2-(4-メトキシフェニル)ブタン酸(135mg、0.70mmol)およびエチル2-アミノチアゾール-5-カルボキシレート(100mg、0.58mmol)のDMF中溶液に、DIEA(112mg、0.87mmol)およびHATU(264mg、0.70mmol)を添加した。反応物を室温で4時間攪拌し、酢酸エチルと水に分配した。有機層を乾燥させ、濃縮した。残渣をbiotageカラムクロマトグラフィーによって精製して、エチル2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキシレート(163mg)を得た。
【0141】
ステップ2.メチル2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキシレート(112mg、0.322mmol)のテトラヒドロフラン/メタノール(4:1)の混合物中溶液に、ヒドロキシルアミン(水中50%)2.8mL、引き続いて水酸化ナトリウム溶液(1N、1.0mL)を添加した。混合物を室温で一晩攪拌し、濃縮した。残渣を1N HClで酸性化し、C18 biotageカラムクロマトグラフィーによって精製して、化合物(±)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミド(71mg)を得た。MS(M+1についての計算値:349;実測値349)。
【0142】
ステップ3.ステップ2からのラセミ混合物をCHIRALPAK(登録商標)ID-3によって分割して2つのエナンチオマー、化合物#1a(保持時間=1.49分)および化合物#1b(保持時間=4.33)を得た(
図3)。カラムクロマトグラフィー条件は以下であった:
共溶媒:MEOH:DCM=1:1(0.2%IPA)
カラム:CHIRAL PAK ID-3 4.6
*250mm 5μm
注入体積:3
共溶媒%:50%
カラム温度:36.6℃
試料ウェル:P1:3A
総流量:4
背圧:100
圧力損失:68
(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミド(#1a)の合成
化合物#1aの合成は
図7に示されるスキームに従う。
ステップ1
【0143】
【0144】
(2S)-2-(4-メトキシフェニル)ブタン酸
S-α-フェネチルアミン(S-α-PEA)(49.6g、1.0当量)を、N2下でアセトン400mLに溶解した。これに、2-(4-メトキシフェニル)ブタン酸(80.0g、1.0当量)のアセトン(400mL)中溶液を滴加した。溶液を50~55℃に加熱し、2時間攪拌し、室温に冷却した。沈殿を濾過し、アセトンで洗浄し、水(1600mL)および2N HCl(60mL)に溶解した。溶液を酢酸エチル(3×80mL)で抽出した。合わせた有機相を水(2×80mL)で洗浄し、濃縮して(2S)-2-(4-メトキシフェニル)ブタン酸(化合物VII)23.2g(LC純度98.60%、98.2%ee)を得た。
ステップ2
【0145】
【0146】
エチル2-{[(2S)-2-(4-メトキシフェニル)ブタノイル]アミノ}-1,3-チアゾール-5-カルボキシレート
化合物VII(22.0g、1.0当量)のジクロロメタン(220mL)中溶液に、N2下、0℃でSOCl2(40.4g、3.0当量)を滴加した。反応物を5~15℃で3時間攪拌し、濃縮した。残渣をTHF(330mL)に溶解し、濃縮して残留SOCl2を除去し、THF(330mL)に溶解した。この酸塩化物溶液を、エチル2-アミノ-1,3-チアゾール-5-カルボキシレート(化合物III)(21.46g、1.1当量)およびトリエチルアミン(25.38g、2.0当量)のTHF中溶液に0℃で添加した。反応物を室温に加温し、一晩攪拌し、反応物を室温で、水(440mL)でクエンチした。混合物をメチルt-ブチルエーテル(460mL)で抽出した。有機層を1N HCl(230mL)、0.5N NaHCO3(230ml)および5%NaCl(115mL)で洗浄し、濃縮した。残渣をn-ヘプタン(230mL)と混合し、40~50℃で0.5時間攪拌し、次いで、室温に冷却した。沈殿を濾過し、アセトン/n-ヘプタン(1:10、46mL)で洗浄した。濾過ケークを回収し、真空下45℃未満でエチル2-{[(2S)-2-(4-メトキシフェニル)ブタノイル]アミノ}-1,3-チアゾール-5-カルボキシレート(化合物VIII)(35.8g)が得られるまで乾燥させた。
ステップ3
【0147】
【0148】
(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミド
化合物VIII(35.8g、1.0当量)のTHF(720mL)およびMeOH(180mL)中溶液に、50%NH2OH(水中50%、900mL)を添加した。これに、1N NaOH(330mL)を滴加した。反応物を15~25℃で一晩攪拌し、pHが約6になるまで濃HClでクエンチした。混合物を酢酸エチル(2×720mL)で抽出した。合わせた有機相を5%ブライン(360mL)で洗浄し、濃縮した。残渣に、ジクロロメタン(540mL)を添加し、混合物を室温で1時間攪拌した。固体を濾過し、DCM(100mL)で洗浄し、ケークを回収し、真空下45℃未満で乾燥させて、(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミド(#1a)(27.9g)を得た。
#1aおよび#1bによるHDAC酵素の阻害
化合物を、表2Aに概説されるように、11種のHDAC酵素に対して12点濃度-反応形式で試験した。試験化合物を、3倍希釈ステップを使用して、100%DMSOに希釈した。アッセイにおける最終化合物濃度は、100μM~0.565nMの範囲または要求通りであった。化合物を各希釈について単一ウェルで試験し、全アッセイでのDMSOの最終濃度を1%に保った。参照化合物を同一の方法で試験した。結果を表2Bに提示する。
【0149】
【0150】
【0151】
#1、#1aおよび#1bの細胞生存率に対する効果
種々の時点での種々の濃度の上に列挙される化合物の存在下での細胞生存率を使用して、化合物の細胞傷害性および細胞増殖に対する効果を評価した。細胞株における開示される化合物についてのIC50(または%活性)データが表3に要約される。
細胞生存率アッセイ
Promega(Madison、WI)製のCellTiter-Glo(登録商標)細胞生存率アッセイによって細胞生存率を測定した。CellTiter-Glo(登録商標)Luminescent Cell Viability Assayは、代謝的に活性な細胞の存在を示す、存在するATPの定量化に基づいて培養物中の生細胞の数を決定する均質法である。処理後、CellTiter-Glo(登録商標)を処理ウェルに添加し、37℃でインキュベートする。Molecular Devices Spectramaxマイクロプレートリーダーを使用して発光値を測定した。
単一薬剤試験
細胞を70%コンフルエントまで増殖し、トリプシン処理し、計数し、最終濃度2.5×103~5×103個細胞/ウェル(0日目)で、96ウェル平底プレートに播種した。細胞を増殖培地で24時間インキュベートさせた。試験薬剤または標準薬剤による処理を1日目に開始し、72時間続けた。72時間時点で、処理含有培地を除去した。上記のCellTiter-Glo(登録商標)細胞生存率アッセイによって、生細胞数を定量化する。これらの試験の結果を使用して、各化合物についてのIC50値(対照の50%、細胞増殖を阻害する薬物の濃度)を計算した。
データ収集
単一薬剤および組み合わせ試験について、各実験からのデータを収集し、以下の計算を使用して%細胞増殖として表した:
%細胞増殖=(f試験/fビヒクル)×100
式中、f試験は試験される試料の蛍光であり、fビヒクルは、薬物が溶解されるビヒクルの蛍光である。用量反応グラフおよびIC50値を、以下の式を使用して、Prism 6ソフトウェア(GraphPad)を使用して作成した:
Y=(頂部-底部)/(1+10((logIC50-X)-ヒル勾配))
式中、Xは濃度の対数であり、Yは反応である。Yはシグモイド形の底部で始まり、頂部まで行く。
【0152】
【0153】
【0154】
【0155】
【0156】
【0157】
【0158】
【0159】
【0160】
薬物動態
マウスにおける#1、#1aおよび#1bの薬物動態試験を表4および5に示す。#1aは、#1または#1bと比較して有意に増加したVz/F(経口投与後の終末期中の見かけの分布容積)を実証している。分布容積は、薬物候補の最も重要な薬物動態特性の1つであり、抗がん薬については、腫瘍への薬物分布増加をもたらし得る。
図2は、#1aが優先的で有意な腫瘍取り込みおよび保持を有することを示している。
【0161】
【0162】
【0163】
HDAC6タンパク質に対するK
off動態の決定
100nM HDAC6タンパク質を0.120μM化合物#1a、#1bまたはDMSOと3時間プレインキュベートすることによって、#1a(
図3)または#1b(
図4)についての解離速度を決定した。プレインキュベーション後、化合物-酵素複合体を、基質ペプチドを含むアッセイ緩衝液に希釈した(200倍)。Labchip3000機器を使用して、約8時間の反応進行曲線を観察した。化合物とのプレインキュベーション後の反応進行曲線(青色)を、以下の式:((A+Vs
*x))+(((Vo-Vs)
*(1-exp(((-1)
*Kobs)
*t)))/Kobs))により当てはめて、観察される解離速度を決定した。滞留時間をLn(2)/Kobsとして決定した。
【0164】
結果は、#1bと比較した#1aについての驚くべき、予期しないK
offおよび滞留時間の改善を実証している。化合物1aは、HDAC6の極めて密に結合した阻害剤であるように見える。この知見は、24時間の透析後のわずか5%の#1aの回収を実証する補助透析試験によって確認された。#1aのHDAC6への結合についての滞留時間は、化合物#1bについてのわずか35分と比較して、1915分であり、#1aについての滞留時間は55倍増加した。
#1aのX線結晶学
(#1a)の単一無色板状結晶を、ゆっくりした蒸発によってDCMとメタノールの混合物から再結晶した。適切な結晶(0.47×0.20×0.03)mm
3を選択し、Bruker APEX-II CCD回折計においてパラトン油(paratone oil)を用いてナイロンループに載せた。データ収集中、結晶をT=173(2)Kに維持した。Olex2(Dolomanovら、2009)を使用して、構造を、Intrinsic Phasing解析法を使用して、ShelXT(Sheldrick、2015)構造解析プログラムで解析した。最小二乗最小法を使用してXL(Sheldrick、2008)のバージョンでモデルを精査した。
結晶データ
C15H17N3O4S、Mr=335.38、三斜晶系、P1(番号1)、a=7.75950(10)Å、b=8.76580(10)Å、c=11.92240(10)Å、α=87.8140(10)°、β=73.8220(10)°、γ=80.9970(10)°、V=769.220(15)Å3、T=173(2)K、Z=2、Z’=2、μ(CuK□)=2.097、14374反射を測定、4991固有(Rint=0.0353)、これらを全ての計算で使用した。最終wR2は0.0867(全データ)であり、R1は0.0342(I>2(I))であった(
図5参照)。
【0165】
特に定義されない限り、本明細書中の全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載されるものと類似または均等な任意の方法および材料を本発明の実施または試験に使用することができるが、好ましい方法および材料を本明細書に記載する。引用される全ての刊行物、特許および特許公開は、全ての目的のために全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0166】
本明細書で論じられる刊行物は、本出願の出願日前の開示についてのみ提供される。本明細書中のいずれも、本発明が先行発明によってこのような刊行物に先立つ権利がないことの自認として解釈されるべきではない。
【0167】
本発明をその具体的な実施形態に関して記載してきたが、さらなる修正が可能であり、本出願が、概して、本発明の原理に従い、本発明が関係する分野内の既知のまたは慣用的な実施内であり、上に示される必須の特徴に適用され得、添付の特許請求の範囲の範囲に従う、本開示からのこのような逸脱を含む、本発明の任意の変形、使用または適合を網羅することが意図されていることが理解されるだろう。
参考文献
1. COSMO-V1.61 - Software for the CCD Detector Systems for Determining Data Collection Parameters, Bruker axs, Madison, WI (2000).
2. O.V. Dolomanov and L.J. Bourhis and R.J. Gildea and J.A.K. Howard and H. Puschmann, Olex2: A complete structure solution, refinement and analysis program, J. Appl. Cryst., (2009), 42, 339-341.
3. Sheldrick, G.M., A short history of ShelX, Acta Cryst., (2008), A64, 339-341.
4. Sheldrick, G.M., ShelXT-Integrated space-group and crystal-structure determination, Acta Cryst., (2015), A71, 3-8.
5. Software for the Integration of CCD Detector System Bruker Analytical X-ray Systems, Bruker axs, Madison, WI (after 2013).
【国際調査報告】