(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-07
(54)【発明の名称】エチレングリコールをベースにした、水素を充填および排出するための可逆的液体有機システム
(51)【国際特許分類】
C01B 3/22 20060101AFI20220131BHJP
B01J 31/28 20060101ALI20220131BHJP
C01B 3/00 20060101ALI20220131BHJP
【FI】
C01B3/22 A
B01J31/28 M
C01B3/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021534809
(86)(22)【出願日】2019-12-30
(85)【翻訳文提出日】2021-06-16
(86)【国際出願番号】 IL2019051440
(87)【国際公開番号】W WO2020141520
(87)【国際公開日】2020-07-09
(32)【優先日】2018-12-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IL
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500018608
【氏名又は名称】イエダ リサーチ アンド ディベロップメント カンパニー リミテッド
【住所又は居所原語表記】at the Weizmann Institute of Science,PO Box 95,7610002 Rehovot,Israel
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】特許業務法人 大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ミルステイン、デヴィッド
(72)【発明者】
【氏名】シュウ、ユー―クアン
(72)【発明者】
【氏名】アナビー、アヴィエル
【テーマコード(参考)】
4G140
4G169
【Fターム(参考)】
4G140AA31
4G140DA01
4G140DB05
4G140DC03
4G169BA27A
4G169BA27B
4G169BC31A
4G169BC32A
4G169BC62A
4G169BC66A
4G169BC67A
4G169BC68A
4G169BC70A
4G169BC70B
4G169BC71A
4G169BC72A
4G169BD01A
4G169BD01B
4G169BD02A
4G169BD02B
4G169BD04A
4G169BD04B
4G169BD06A
4G169BD06B
4G169BD07A
4G169BD07B
(57)【要約】
本発明は、可逆的水素充填および排出システム、ならびに水素を充填および排出するための可逆的方法を提供する。本発明のシステムおよび方法は、液体有機水素キャリアとしてのエチレングリコールと、少なくとも1つの遷移金属とを含む。エチレングリコールを少なくとも1つの遷移金属と反応させることによって、エチレングリコールの少なくとも1つの水素分子および少なくとも1つのオリゴエステルが形成され(水素放出)、エチレングリコールの少なくとも1つのオリゴエステルを、少なくとも1つの遷移金属および少なくとも1つの水素分子と反応させることによって、少なくとも1つのエチレングリコールが形成される(水素充填)。
【選択図】
図3A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体有機水素キャリアとしてのエチレングリコールと、
少なくとも1つの遷移金属と、を含む、可逆的水素充填および排出システム。
【請求項2】
当該システムが、
前記液体有機水素キャリア(LOHC)および触媒を収集するように構成された反応チャンバと、前記液体有機水素キャリア(LOHC)および前記触媒を加熱して、水素を放出するように構成された加熱要素と、
前記水素を収集して一時的に貯蔵するように構成された、前記反応チャンバと流体連通しているバッファタンクと、
前記水素を選択された圧力に加圧するように構成された、前記バッファタンクと流体連通している圧縮機システムと、
選択された量の前記水素を貯蔵するように構成された、前記圧縮機システムと流体連通している貯蔵システムと、
前記水素を水素燃料電池または内燃機関に分配するように構成された、前記貯蔵システムと流体連通している分配システムと、を備える、請求項1に記載の可逆的水素充填および排出システム。
【請求項3】
前記少なくとも1つの遷移金属が、Mn、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Cu、Ag、またはそれらの任意の組み合わせから選択される、請求項1に記載の可逆的水素充填および排出システム。
【請求項4】
前記少なくとも1つの遷移金属が、少なくとも1つの配位錯体に配位されている、請求項1に記載の可逆的水素充填および排出システム。
【請求項5】
前記少なくとも1つの遷移金属が、不溶性マトリックス上に支持され、前記不溶性マトリックスが、無機酸化物(例えば、任意にテザーを介して結合された、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、ゼオライト、およびそれらの組み合わせ)、または不溶性ポリマー(テザーを介して結合された架橋ポリスチレンなど)などの不溶性無機化合物である、請求項1に記載の可逆的水素充填および排出システム。
【請求項6】
前記少なくとも1つの配位錯体が、ルテニウムピンサー錯体触媒である、請求項4に記載の可逆的水素充填および排出システム。
【請求項7】
前記ルテニウムピンサー錯体が、式(I)の錯体であり、
【化1】
式中、Mは、-Ru(CO)HX、-Ru(CO)H、-RuHXであり、
X、はハロゲンであり、
mまたはnは、0、1、2であり、
L
1およびL
2は各々独立して、P(alk
1)(alk
2)、P(alk
1)(アリール)、P(アリール)(アリール)、N(alk
1)(alk
2)、NH(alk
1)、NH(アリール)、NH(ベンジル)、N(alk
1)(アリール)、N(アリール)(アリール)、およびヘテロアリールから選択され、
環Aは、ピリジン、ピリミジン、アクリジン、ジヒドロアクリジン、ピロール、キノリンから選択され、
式中、alk
1、alk
2は各々独立して、直鎖または分岐鎖のC
1-C
10アルキルであり、ヘテロアリールは、ピリジン、ピリミジン、アクリジン、ジヒドロアクリジン、ピロール、キノリンから選択される窒素-アリール誘導体である、請求項6に記載の可逆的水素充填および排出システム。
【請求項8】
前記少なくとも1つのルテニウムピンサー錯体触媒が、
(a)Ru-PNNH錯体(式中、L
1は、P(alk
1)(alk
2)であり、L
2は、NH(alk
1)である)、
(b)Ru-PNN錯体(式中、L
1は、P(alk
1)(alk
2)またはP(フェニル)(フェニル)であり、L
2は、N(alk
1)(alk
2)およびヘテロアリールから選択される)、
(c)Ru-PNP錯体(式中、L
1およびL
2は独立して、P(alk
1)(alk
2)またはP(フェニル)(フェニル)である)、
ならびそれらの任意の組み合わせから選択される、請求項7に記載の可逆的水素充填および排出システム。
【請求項9】
前記少なくとも1つのルテニウムピンサー錯体触媒が、
【化2】
ならびそれらの任意の組み合わせから選択される、請求項6に記載の可逆的水素充填および排出システム。
【請求項10】
少なくとも1つの有機溶媒をさらに含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の可逆的水素充填および排出システム。
【請求項11】
少なくとも1つの有機塩基をさらに含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の可逆的水素充填および排出システム。
【請求項12】
当該システムが、約130℃~150℃の温度下で機能している、請求項1~11のいずれか一項に記載の可逆的水素充填および排出システム。
【請求項13】
前記システムが、約80ミリバール~110ミリバールの圧力下で機能している、請求項1~12のいずれか一項に記載の可逆的水素充填および排出システム。
【請求項14】
前記水素の排出が、前記エチレングリコールを前記少なくとも1つの遷移金属と反応させ、それによって水素分子(H
2)およびエチレングリコールのオリゴエステルを形成することによって達成される、請求項1~13のいずれか一項に記載の可逆的水素充填および排出システム。
【請求項15】
前記水素の充填が、前記エチレングリコールのオリゴエステルを水素分子(H
2)と反応させ、それによってエチレングリコールを形成することによって達成される、請求項14に記載の可逆的水素充填および排出システム。
【請求項16】
少なくとも4重量%の水素貯蔵容量を有する、請求項1~15のいずれか一項に記載の可逆的水素充填および排出システム。
【請求項17】
(a)エチレングリコールが少なくとも1つの遷移金属触媒と反応し、それによって水素分子(H
2)およびエチレングリコールのオリゴエステルを形成する、水素放出プロセスと、
(b)前記エチレングリコールのオリゴエステルが少なくとも1つの遷移金属および水素分子(H
2)と反応し、それによってエチレングリコールを形成する、水素充填プロセスと、を含む、可逆的水素充填および排出方法。
【請求項18】
前記少なくとも1つの遷移金属触媒が、Mn、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Cu、Ag、またはそれらの任意の組み合わせから選択される、請求項17に記載の可逆的水素充填および排出方法。
【請求項19】
前記少なくとも1つの遷移金属触媒が、配位錯体である、請求項17に記載の可逆的水素充填および排出方法。
【請求項20】
前記少なくとも1つの遷移金属錯体が、不溶性マトリックス上に支持され、前記不溶性マトリックスが、無機酸化物(例えば、任意にテザーを介して結合された、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、ゼオライト、およびそれらの組み合わせ)、または不溶性ポリマー(例えば、テザーを介して結合された架橋ポリスチレンなど)を含む無機化合物である、請求項17に記載の可逆的水素充填および排出方法。
【請求項21】
前記少なくとも1つの遷移金属触媒が、ルテニウムピンサー錯体触媒である、請求項17に記載の可逆的水素充填および排出方法。
【請求項22】
前記ルテニウムピンサー錯体が、Ru-PNNH錯体、Ru-PNN錯体、Ru-PNP錯体、およびそれらの任意の組み合わせから選択される、請求項21に記載の可逆的水素充填および排出方法。
【請求項23】
前記少なくとも1つのルテニウムピンサー錯体が、[Ru(P
tBuNNH
tBu)H(CO)Cl](Ru-1)、[Ru(P
PhNNH
tBu)H(CO)Cl](Ru-2)、[Ru(P
tBuNNH
Bn)H(CO)Cl](Ru-3)、[Ru(P
tBuNN
Et)H(CO)Cl](Ru-4)、[Ru(P
tBuNN)H(CO)Cl](Ru-5)、[Ru(P
iPrNN)H(CO)Cl](Ru-6)、[Ru(P
tBuNP
tBu)H(CO)Cl](Ru-7)、[Ru(P
iPrNP
iPr)H(CO)Cl](Ru-8)、[Ru(アクリジン-P
iPrNP
iPr)H(CO)Cl](Ru-9)、および[Ru(9H-アクリジン-P
iPrNP
iPr)H(CO)](Ru-10)、ならびにそれらの任意の組み合わせから選択される、請求項22に記載の可逆的水素充填および排出方法。
【請求項24】
少なくとも1つの有機溶媒をさらに含む、請求項17に記載の可逆的水素充填および排出方法。
【請求項25】
少なくとも1つの有機塩基をさらに含む、請求項17に記載の可逆的水素充填および排出方法。
【請求項26】
当該方法が、約130℃~150℃の温度下で機能している、請求項17に記載の可逆的水素充填および排出方法。
【請求項27】
当該方法が、約80ミリバール~110ミリバールの圧力下で機能している、請求項17に記載の可逆的水素充填および排出方法。
【請求項28】
少なくとも4重量%の水素貯蔵容量が可能である、請求項17に記載の可逆的水素充填および排出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレングリコールをベースにした、水素を充填および排出するための可逆的液体有機システムに関する。
【背景技術】
【0002】
工業化のプロセスは、過去数世紀の間に人類の大部分に繁栄および富をもたらした。しかしながら、これらのプロセスに関連する1つの根本的な障害は、廃棄物および排出物の生成に加えて、増え続ける化石資源の枯渇である。これは直接環境への悪影響を及ぼし、将来、地球の生活状況を大きく脅かす可能性がある。したがって、現在の化石燃料ベースの技術に取って代わる代替の持続可能なエネルギーシステムの探求は、我々の社会の中心的な科学的課題の1つになっている。これに関連して、水素は、非常に高い重量エネルギー密度(より低い発熱量:33.3kWh/kg)を有し、燃焼時に唯一の副産物として水を生成する、理想的な代替のクリーンエネルギーベクトルと長い間見なされてきた。水素のこれらの固有の特性により、水素は固定式および移動式の用途の両方にとって特に魅力的な候補になる。
【0003】
近年、水素を動力源とする燃料電池が大幅に進歩した。それにもかかわらず、エネルギーベクトルとしての水素はまだ一般に応用されておらず、これは、その貯蔵および輸送に関連する問題が原因である可能性がある。水素の効率的な貯蔵は、その体積エネルギー密度が低いため、重大かつ困難である。伝統的に、水素は、高圧下でガスタンクに物理的に貯蔵されるか、または極低温で液体として貯蔵される。しかしながら、貯蔵に必要な高エネルギー投入、低い体積エネルギー密度、および潜在的な安全性の問題により、水素分子を使用する用途は大幅に制限される。水素をナノ構造材料、金属有機フレームワーク、および金属水素化物中に貯蔵するために多大な努力が払われてきたが、これらのシステムは、低い水素貯蔵容量(HSC)、過酷な条件、低いエネルギー効率、および高いコストに悩まされている。
【0004】
対照的に、小さい有機分子、特に有機液体の化学結合中に水素を貯蔵することは、過去数年の間にかなりの研究的関心を集めてきた。適切な触媒システムを使用すると、脱水素化反応を促進することによる水素の効率的な放出、および水素化による水素が枯渇した物質の回収が可能になる。このシナリオでは、水素が運ばれるときに、メタノール、ホルムアルデヒド、またはギ酸が頻繁に導入される。それにもかかわらず、CO
2放出(例えば、メタノールおよびホルムアルデヒド)、毒性、およびギ酸の低い水素貯蔵容量(4.4重量%)などの要因が、これらのアプローチを制限する。したがって、経済的および生態学的な利益を満たす新規で可逆的な水素貯蔵システムの開発が非常に望ましい。この点で、液体有機水素キャリア(LOHC)は、この目標を前進させるための独特で強力なツールとして現れた。水素豊富有機液体および水素欠乏有機液体の対は、可逆的かつ触媒的な脱水素化および水素化サイクルによって、水素を繰り返し排出および充填することができる(
図1A)。理想的には、LOHCは、高い安全性および純度、低いコスト、容易な輸送、および可逆性を特徴とし、液体エネルギーベクトルとしての化石燃料の既存のインフラストラクチャに適合する。重要なことに、LOHCシステムを経済的に実行可能にするために、欧州連合および米国政府は、それぞれ5.0重量%および5.5重量%の水素貯蔵容量(HSC)の目標を設定した。このパラダイムは、ドデカヒドロ-N-エチルカルバゾール(H12-NEC)およびN-エチルカルバゾール(NEC)に基づく水素貯蔵システムで例示され、HSCは、5.8重量%に達した(
図1B)。(例えば、シクロアルカンと比較して)好ましい脱水素化熱力学により、液体有機水素キャリアは、N含有複素環が連続的に占め、それにもかかわらず、触媒プロセスが効率的であるためには、高い温度(しばしば分解生成物をもたらす)および圧力を必要とする。エタノールアミン、エタノール-エチレンジアミン、1,4-ブタンジオール-エチレンジアミン、またはメタノール-エチレンジアミンから始まる、脱水素化によるアミドの形成およびそれらの水素化を通したいくつかのLOHCシステムが開発されてきた。ほとんどの場合、アミド(水素欠乏化合物)は、アミンとアルコールとの脱水素カップリングから固体として形成される。理想的なLOHCシステムは、液体として水素豊富有機化合物および水素欠乏有機化合物の両方を特徴とする。したがって、水素貯蔵容量が高く、安価で、環境に優しく、再生可能で、かつ豊富な有機液体をベースにした、可逆的な液体から液体への水素貯蔵システムが依然として必要とされている。
【0005】
広く入手可能な無臭、無色、粘性の液体であるエチレングリコール(EG)は、最も単純な隣接ジオールである。EGは、世界的に使用されており、2016年には世界で3400万トンを超える生産能力がある。例えば、これは、自動車の不凍液および冷却液システム、フロントガラスおよび航空機の融氷液に不可欠な構成成分である。さらに、これは、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル繊維および樹脂の製造にも広く適用されている。重要なことに、エチレングリコールは、化石資源だけでなく、バイオマス由来の炭化水素にも由来しており(
図1C)、持続可能な資源としてのその可能性を強調している。EGは安価で再生可能であり、すでに工業的に適用されている製品であることを考えると、LOHC用途の有望な候補になる。文献の先例は、EGが不均一な条件において水の存在下で水素を遊離させるのに実際に適していることを示している。それにもかかわらず、EGを再形成するための水素化による充填/排出サイクルの終わりは達成されておらず、これは、競合経路が副産物として水素、二酸化炭素、およびガス状アルカン(C1-C2)を形成することが進行中のためである。2005年に、金属-配位子協働を介してルテニウムピンサー錯体によって触媒されるアルコールの効率的なアクセプターレス脱水素カップリングが、穏やかな条件下で水素を放出しながら幅広いエステルへのアクセスを可能にすることが開示された。1年後、低圧下での均一系触媒によるエステルの水素化が報告された。それ以降、様々な基質へのこれらのプロセスの一般化可能性を強調する独創性に富んだ研究が報告されている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
したがって、本発明の第1の態様では、本発明は、エチレングリコールと、少なくとも1つの遷移金属とを含む、可逆的水素充填および排出システムを提供する。
【0007】
一実施形態では、本発明は、液体有機水素キャリアとしてのエチレングリコールと、少なくとも1つの遷移金属とを含む、可逆的水素充填および排出システムを提供する。
【0008】
本発明の別の態様では、本発明は、以下のステップ:
(a)エチレングリコールが少なくとも1つの遷移金属と反応し、それによって少なくとも1つの水素分子およびエチレングリコールの少なくとも1つのオリゴエステルを形成する、水素放出プロセスと、
(b)前述のエチレングリコールのオリゴエステルが少なくとも1つの遷移金属および少なくとも1つの水素分子と反応し、それによって少なくとも1つのエチレングリコールを形成する、水素充填プロセスとを含む、可逆的水素充填および排出方法を提供する。
【0009】
エチレングリコール(水素豊富有機液体)は、液体オリゴエステル(水素欠乏有機液体)への脱水素エステル化反応を受けることができ、これはその後、エチレングリコールに可逆的に水素化され得る(
図1D)。このサイクルの実行が成功すると、最大理論HSCが6.5重量%の新規のLOHCシステムが提供され、これは、欧州連合(5.0重量%)および米国エネルギー省(5.5重量%)によって2020年に関して設定された目標を上回る。HSCの進化を重合度とプロットすると、ペンタマーからすでに高いHSCが得られることが明確に示され(つまり、5.21重量%超、HSC=(2n×M
H2)/[(n+1)×M
EG]、M
H2:水素のモル質量(2.02g/mol)、M
EG:エチレングリコールのモル質量(62.07g/mol))、高分子量ポリマーへの完全な変換は、2020年に関して設定された目標を達成するために必要ではない(
図1E)。
【0010】
本発明の可逆的水素充填および排出/放出システムは、前述のシステムで実施される反応の反応物を保持することが可能な任意のタイプの配置を指し、水素分子の排出および充填は、エチレングリコールおよび少なくとも1つの遷移金属を使用して実施される。
【0011】
エチレングリコールが前述の少なくとも1つの遷移金属と反応すると、水素分子が放出されて、対応するオリゴエステルおよび水素分子を形成する。オリゴエステルは、別のエチレングリコール分子と再び反応して、さらなる水素分子とより高次のオリゴエステルを形成することが可能である。
【0012】
水素分子が充填されると、オリゴエステルは、水素分子と反応してエチレングリコールを形成する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
本発明とみなされる主題は、本明細書の結論部分で特に指摘され、明確に特許請求される。しかしながら、本発明は、その目的、特徴、および利点と共に、操作構成および方法の両方に関して、添付の図面と共に読まれる場合、以下の詳細な説明を参照することによって最良に理解され得る。
【0014】
【
図1A】エチレングリコールをベースにした液体有機水素キャリアシステムの開発を示す。(
図1A)液体有機水素キャリアの一般的な概念。OLS、有機液体;Cat、触媒。(
図1B)N-エチルカルバゾールをベースにした十分に確立された液体有機水素キャリア。NEC、N-エチルカルバゾール。(
図1C)エチレングリコールの生成方法。(
図1D)液体有機水素キャリアとしてエチレングリコールを使用する概念および利点。HSC、水素貯蔵容量。(
図1E)エチレングリコールをベースにした水素貯蔵容量対重合度。(
図1F)エチレングリコールを使用した脱水素化および逆水素化の可能な反応経路、ならびに仮定された課題。EG、エチレングリコール;HEG、2-ヒドロキシエチルグリコレート。
【
図1B】エチレングリコールをベースにした液体有機水素キャリアシステムの開発を示す。(
図1A)液体有機水素キャリアの一般的な概念。OLS、有機液体;Cat、触媒。(
図1B)N-エチルカルバゾールをベースにした十分に確立された液体有機水素キャリア。NEC、N-エチルカルバゾール。(
図1C)エチレングリコールの生成方法。(
図1D)液体有機水素キャリアとしてエチレングリコールを使用する概念および利点。HSC、水素貯蔵容量。(
図1E)エチレングリコールをベースにした水素貯蔵容量対重合度。(
図1F)エチレングリコールを使用した脱水素化および逆水素化の可能な反応経路、ならびに仮定された課題。EG、エチレングリコール;HEG、2-ヒドロキシエチルグリコレート。
【
図1C】エチレングリコールをベースにした液体有機水素キャリアシステムの開発を示す。(
図1A)液体有機水素キャリアの一般的な概念。OLS、有機液体;Cat、触媒。(
図1B)N-エチルカルバゾールをベースにした十分に確立された液体有機水素キャリア。NEC、N-エチルカルバゾール。(
図1C)エチレングリコールの生成方法。(
図1D)液体有機水素キャリアとしてエチレングリコールを使用する概念および利点。HSC、水素貯蔵容量。(
図1E)エチレングリコールをベースにした水素貯蔵容量対重合度。(
図1F)エチレングリコールを使用した脱水素化および逆水素化の可能な反応経路、ならびに仮定された課題。EG、エチレングリコール;HEG、2-ヒドロキシエチルグリコレート。
【
図1D】エチレングリコールをベースにした液体有機水素キャリアシステムの開発を示す。(
図1A)液体有機水素キャリアの一般的な概念。OLS、有機液体;Cat、触媒。(
図1B)N-エチルカルバゾールをベースにした十分に確立された液体有機水素キャリア。NEC、N-エチルカルバゾール。(
図1C)エチレングリコールの生成方法。(
図1D)液体有機水素キャリアとしてエチレングリコールを使用する概念および利点。HSC、水素貯蔵容量。(
図1E)エチレングリコールをベースにした水素貯蔵容量対重合度。(
図1F)エチレングリコールを使用した脱水素化および逆水素化の可能な反応経路、ならびに仮定された課題。EG、エチレングリコール;HEG、2-ヒドロキシエチルグリコレート。
【
図1E】エチレングリコールをベースにした液体有機水素キャリアシステムの開発を示す。(
図1A)液体有機水素キャリアの一般的な概念。OLS、有機液体;Cat、触媒。(
図1B)N-エチルカルバゾールをベースにした十分に確立された液体有機水素キャリア。NEC、N-エチルカルバゾール。(
図1C)エチレングリコールの生成方法。(
図1D)液体有機水素キャリアとしてエチレングリコールを使用する概念および利点。HSC、水素貯蔵容量。(
図1E)エチレングリコールをベースにした水素貯蔵容量対重合度。(
図1F)エチレングリコールを使用した脱水素化および逆水素化の可能な反応経路、ならびに仮定された課題。EG、エチレングリコール;HEG、2-ヒドロキシエチルグリコレート。
【
図1F】エチレングリコールをベースにした液体有機水素キャリアシステムの開発を示す。(
図1A)液体有機水素キャリアの一般的な概念。OLS、有機液体;Cat、触媒。(
図1B)N-エチルカルバゾールをベースにした十分に確立された液体有機水素キャリア。NEC、N-エチルカルバゾール。(
図1C)エチレングリコールの生成方法。(
図1D)液体有機水素キャリアとしてエチレングリコールを使用する概念および利点。HSC、水素貯蔵容量。(
図1E)エチレングリコールをベースにした水素貯蔵容量対重合度。(
図1F)エチレングリコールを使用した脱水素化および逆水素化の可能な反応経路、ならびに仮定された課題。EG、エチレングリコール;HEG、2-ヒドロキシエチルグリコレート。
【
図2】エチレングリコールの触媒アクセプターレス脱水素カップリングの結果を示す。反応条件:エチレングリコール(2.0mmol)、ルテニウムピンサー錯体(1mol%)、
tBuOK(1~2mol%)、トルエン/DME(1.0mL/1.0mL)、150℃、72時間。すべての変換率を、内部標準としてメシチレンを使用した反応混合物の
1H NMR分析によって決定した。*2mol%
tBuOKを使用した。
§1mol%
tBuOKを使用した。
【
図3A】脱芳香族化錯体Ru-10を使用した、エチレングリコールの触媒アクセプターレス脱水素カップリングの結果を示す。(
図3A)塩基を含まない脱芳香族化錯体Ru-10によって触媒される、エチレングリコールのアクセプターレス脱水素カップリング。(
図3B)Ru-10によって触媒される反応混合物の水素化。(
図3C)溶媒を用いず部分真空下で実施された大規模反応。
【
図3B】脱芳香族化錯体Ru-10を使用した、エチレングリコールの触媒アクセプターレス脱水素カップリングの結果を示す。(
図3A)塩基を含まない脱芳香族化錯体Ru-10によって触媒される、エチレングリコールのアクセプターレス脱水素カップリング。(
図3B)Ru-10によって触媒される反応混合物の水素化。(
図3C)溶媒を用いず部分真空下で実施された大規模反応。
【
図3C】脱芳香族化錯体Ru-10を使用した、エチレングリコールの触媒アクセプターレス脱水素カップリングの結果を示す。(
図3A)塩基を含まない脱芳香族化錯体Ru-10によって触媒される、エチレングリコールのアクセプターレス脱水素カップリング。(
図3B)Ru-10によって触媒される反応混合物の水素化。(
図3C)溶媒を用いず部分真空下で実施された大規模反応。
【
図4】提案された触媒サイクルを示す。すべての値は、423.15Kでのギブズ自由エネルギーに対応する(出発物質に対してkcal.mol
-1で)。
【
図5】提案された触媒サイクルのエネルギーレベルを示す。値は、423.15Kでのギブズ自由エネルギーに対応する(出発物質に対してkcal.mol
-1で)。構造における値は、OH-π相互作用(Åで)を強調し、SP
2をSP
3 C-O結合と区別する。明確にするために、C-H結合は省略されている。
【0015】
実例を単純かつ明確にするために、図に示される要素は、必ずしも縮尺どおりに描かれていないことが理解されるであろう。例えば、いくつかの要素の寸法は、明確にするために他の要素に比較して誇張され得る。さらに、適切であると考えられる場合、対応する要素または類似の要素を示すために、参照番号が図の間で繰り返され得る。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下の詳細な説明において、本発明の完全な理解を提供するために、多くの具体的な詳細が記載される。しかしながら、本発明がこれらの具体的な詳細を伴わずに実行されてもよいということが、当業者によって理解されるであろう。他の事例では、本発明を不明瞭にしないように、周知の方法、手順、および構成要素は、詳細に説明されていない。
【0017】
本発明は、エチレングリコールと少なくとも1つの遷移金属との反応に基づいて、水素(H2)を貯蔵し、それを要求に応じて放出して、対応する少なくとも1つのオリゴエステルおよび少なくとも1つの水素分子を形成するための方法およびシステムを提供する。オリゴエステルは、別のエチレングリコール分子と再び反応して、さらに少なくとも1つの水素分子およびさらに少なくとも1つのオリゴエステルを形成することが可能である。別の実施形態では、遷移金属は、触媒である。
【0018】
水素分子が充填されると、少なくとも1つのオリゴエステルは、少なくとも1つの水素分子と反応して、少なくとも1つのエチレングリコールを形成する。
【0019】
スキーム1は、水素分子を放出および充填するための本発明のプロセスおよび方法を提示する。
【0020】
スキーム1は、水素の放出および充填プロセスを示す。
スキーム1:
【0021】
【0022】
式中、x、y、およびnは各々独立して、整数である。
【0023】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの遷移金属は、本発明のシステムにおける水素放出および水素充填反応において同じである。
【0024】
いくつかの実施形態では、水素の放出および水素の排出は、本明細書では互換的に使用され、放出システムおよび排出システムも同様に、本明細書では互換的に使用される。
【0025】
いくつかの実施形態では、前述の少なくとも1つの遷移金属は、Mn、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Cu、Agから選択される。いくつかの実施形態では、前述の少なくとも1つの遷移金属は、少なくとも1つの配位錯体に配位されている。いくつかの実施形態では、前述の少なくとも1つの遷移金属は、無機酸化物(例えば、任意にテザーを介して結合された、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、ゼオライト、およびそれらの組み合わせ)、または不溶性ポリマー(例えば、テザーを介して結合された架橋ポリスチレンなど)などの不溶性マトリックス上に支持される。
【0026】
さらなる実施形態では、前述の少なくとも1つの遷移金属は、少なくとも1つのルテニウムピンサー錯体である。別の実施形態では、本明細書で使用される遷移金属は、遷移金属触媒である。
【0027】
ルテニウム錯体
【0028】
いくつかの実施形態では、本発明の方法およびシステムで使用される前述の少なくとも1つのルテニウムピンサー錯体は、式(I)の錯体であり、
【0029】
【0030】
式中、
Mは、-Ru(CO)HX、-Ru(CO)H、-RuHXであり、
Xは、ハロゲン(Cl、Br、I)であり、
mまたはnは、0、1、2であり、
L1およびL2は各々独立して、P(alk1)(alk2)、P(alk1)(アリール)、P(アリール)(アリール)、N(alk1)(alk2)、NH(alk1)、NH(アリール)、NH(ベンジル)、N(alk1)(アリール)、N(アリール)(アリール)、およびヘテロアリールから選択され、式中、alk1、alk2は各々独立して、直鎖または分岐鎖のC1-C10アルキルであり、ヘテロアリールは、ピリジン、ピリミジン、アクリジン、ジヒドロアクリジン、ピロール、キノリンから選択される窒素-アリール誘導体であり、前述の窒素原子は、前述のM原子と配位されており、
A環は、置換または非置換のピリジン、ピリミジン、アクリジン、ジヒドロアクリジン、ピロール、キノリンから選択され、A環は、1つ以上の置換基で置換され、各々は独立して、アルキル、シクロアルキル、アリール、ヘテロシクリル、ヘテロアリール、アルキルシクロアルキル、アルキルアリール、アルキルヘテロシクリル、アルキルヘテロアリール、ハロゲン、ニトロ、アミド、エステル、シアノ、アルコキシ、アルキルアミノ、アリールアミノ、無機支持体、およびポリマー部分からなる群から独立して選択される。
【0031】
いくつかの実施形態では、前述の少なくとも1つのルテニウムピンサー錯体は、Ru-PNNH錯体(式中、L1は、P(alk1)(alk2)であり、L2は、NH(alk1)である)、Ru-PNN錯体(式中、L1は、P(alk1)(alk2)またはP(フェニル)(フェニル)であり、L2は、N(alk1)(alk2)およびヘテロアリールから選択される)、Ru-PNP錯体(式中、L1およびL2は独立して、P(alk1)(alk2)またはP(フェニル)(フェニル)である)、ならびにそれらの任意の組み合わせから選択される。
【0032】
いくつかの実施形態では、A環は、無機酸化物(例えば、任意にテザーを介して結合されるアルミナもしくはシリカ)、または不溶性ポリマー(例えば、架橋ポリスチレンなど)などの不溶性マトリックスに結合される。
【0033】
いくつかの実施形態では、前述の少なくとも1つのルテニウムピンサー錯体は、式A1のRu-ピリジルベースの錯体であり、
【0034】
【化3】
式中、
L
1およびL
2は各々独立して、P(alk
1)(alk
2)、P(alk
1)(アリール)、P(アリール)(アリール)、N(alk
1)(alk
2)、NH(alk
1)、NH(アリール)、NH(ベンジル)、N(alk
1)(アリール)、およびN(アリール)(アリール)から選択され、式中、alk
1、alk
2は各々独立して、直鎖または分岐鎖のC
1-C
10アルキルであり、
L
3は、CO、P(R)
3、P(OR)
3、NO
+、As(R)
3、Sb(R)
3、S(R)
2、ニトリル(RCN)、およびイソニトリル(RNC)からなる群から選択される単座2電子供与体であり、式中、Rは、アルキル、シクロアルキル、アリール、アルキルアリール、ヘテロシクリル、およびヘテロアリールからなる群から選択され、
YおよびZは各々独立して、H、またはハロゲン、OCOR、OCOCF
3、OSO
2R、OSO
2CF
3、CN、OH、OR、N(R)
2、RS、およびSHからなる群から選択される陰イオン配位子であり、式中、Rは、上記で定義されるとおりであり、
Xは、アルキル、アリール、ハロゲン、ニトロ、アミド、エステル、シアノ、アルコキシ、シクロアルキル、アルキルアリール、ヘテロシクリル、ヘテロアリール、無機支持体、およびポリマー部分からなる群から選択されるゼロ、1、2、または3つの置換基を表す。
【0035】
別の実施形態では、ルテニウム錯体は、式A1の構造によって表される。1つの特定の実施形態では、ZはHであり、YはH以外である。別の実施形態では、ZはHである。別の実施形態では、YはClである。別の実施形態では、L3はCOである。別の実施形態では、ZはHであり、YはClであり、L3はCOである。
【0036】
式A1の一実施形態では、ルテニウム錯体は、式B1の構造によって表される。
【0037】
【0038】
式中、X、L1、L2、L3、およびYは、A1の錯体について定義されるとおりである。
【0039】
式A1の別の特定の実施形態では、ルテニウム錯体は、式C1またはD1の以下の構造によって表される。
【0040】
【0041】
式中、XおよびYは、A1の錯体について定義されるとおりであり、Ra、Rb、Rc、およびRdの各々は独立して、アルキル、シクロアルキル、アリール、アルキルアリール、ヘテロシクリル、およびヘテロアリールからなる群から選択される。
【0042】
いくつかの実施形態では、前述の少なくとも1つのルテニウムピンサー錯体は、式A2のRu-ビピリジルベースの錯体であり、
【0043】
【0044】
式中、
L1は、P(alk1)(alk2)、P(alk1)(アリール)、P(アリール)(アリール)、N(alk1)(alk2)、NH(alk1)、NH(アリール)、NH(ベンジル)、N(alk1)(アリール)、およびN(アリール)(アリール)から選択され、式中、alk1、alk2は各々独立して、直鎖または分岐鎖のC1-C10アルキルであり、
L3は、CO、P(R)3、P(OR)3、NO+、As(R)3、Sb(R)3、S(R)2、ニトリル(RCN)、およびイソニトリル(RNC)からなる群から選択される単座2電子供与体であり、式中、Rは、アルキル、シクロアルキル、アリール、アルキルアリール、ヘテロシクリル、およびヘテロアリールからなる群から選択され、
YおよびZは各々独立して、H、またはハロゲン、OCOR、OCOCF3、OSO2R、OSO2CF3、CN、OH、OR、N(R)2、RS、およびSHからなる群から選択される陰イオン配位子であり、式中、Rは、上記で定義されるとおりであり、
X1は、0、1、2、または3つの置換基を表し、
X2は、0、1、2、3、または4つの置換基を表し、式中、X1およびX2のそのような各置換基は独立して、アルキル、シクロアルキル、アリール、ヘテロシクリル、ヘテロアリール、アルキルシクロアルキル、アルキルアリール、アルキルヘテロシクリル、アルキルヘテロアリール、ハロゲン、ニトロ、アミド、エステル、シアノ、アルコキシ、アルキルアミノ、アリールアミノ、無機支持体、およびポリマー部分からなる群から選択され、陰イオンは、単一の負電荷を持つ基を表す。
【0045】
式A2の一実施形態では、ルテニウム錯体は、式B2の構造によって表される。
【0046】
【0047】
式中、X1、X2、L1、L3、およびYは、A2の錯体について定義されるとおりである。
【0048】
式A2の一実施形態では、ルテニウム錯体は、式C2の構造によって表される。
【0049】
【0050】
別の実施形態では、X1、X2、およびYは、A2の錯体について定義されるとおりであり、Ra、Rb、Rc、およびRdの各々は独立して、アルキル、シクロアルキル、アリール、アルキルアリール、ヘテロシクリル、およびヘテロアリールからなる群から選択される。
【0051】
別の実施形態では、ルテニウム錯体は、式A2、B2、またはC2の構造によって表される。1つの特定の実施形態では、ZはHであり、YはH以外である。別の実施形態では、ZはHである。別の実施形態では、Yはハロゲンである。別の実施形態では、YはCIである。別の実施形態では、L3はCOである。別の実施形態では、ZはHであり、YはClであり、L3はCOである。一実施形態では、X1およびX2は存在しない(すなわち、ビピリジン部分は非置換である)。別の実施形態では、L1は、ホスフィン(PRaRb)である。
【0052】
いくつかの実施形態では、前述の少なくとも1つのルテニウムピンサー錯体は、式A3のRu-アクリジンベースの錯体であり、
【0053】
【0054】
式中、
L1およびL2は各々独立して、P(alk1)(alk2)、P(alk1)(アリール)、P(アリール)(アリール)、N(alk1)(alk2)、NH(alk1)、NH(アリール)、NH(ベンジル)、N(alk1)(アリール)、およびN(アリール)(アリール)から選択され、式中、alk1、alk2は各々独立して、直鎖または分岐鎖のC1-C10アルキルであり、
L3は、CO、P(R)3、P(OR)3、NO+、As(R)3、Sb(R)3、S(R)2、ニトリル(RCN)、およびイソニトリル(RNC)からなる群から選択される単座2電子供与体であり、式中、Rは、アルキル、シクロアルキル、アリール、アルキルアリール、ヘテロシクリル、およびヘテロアリールからなる群から選択され、
YおよびZは各々独立して、H、またはハロゲン、OCOR、OCOCF3、OSO2R、OSO2CF3、CN、OH、OR、N(R)2、RS、およびSHからなる群から選択される陰イオン配位子であり、式中、Rは、上記で定義されるとおりであり、
X1およびX2は各々独立して、0、1、2、または3つの置換基を表し、式中、X1およびX2のそのような各置換基は独立して、アルキル、シクロアルキル、アリール、ヘテロシクリル、ヘテロアリール、アルキルシクロアルキル、アルキルアリール、アルキルヘテロシクリル、アルキルヘテロアリール、ハロゲン、ニトロ、アミド、エステル、シアノ、アルコキシ、アルキルアミノ、アリールアミノ、無機支持体、およびポリマー部分からなる群から選択され、陰イオンは、単一の負電荷を持つ基を表す。
【0055】
いくつかの実施形態では、前述の少なくとも1つのルテニウムピンサー錯体は、A4の脱芳香族化Ru-アクリジン錯体であり、
【0056】
【0057】
式中、L1、L2、L3、X1、X2、およびYは、錯体A3について定義されるとおりである。
R1およびR2は各々独立して、水素、アルキル、置換アルキル、シクロアルキル、アリール、ヘテロシクリル、ヘテロアリール、アルキルシクロアルキル、アルキルアリール、アルキルヘテロシクリル、アルキルヘテロアリール、エステル、シアノ、アルコキシ、アルキルアミノ、アリールアミノ、無機支持体に接続されたアルキル基、無機支持体または有機ポリマーなどのポリマー部分に接続されたアルキルアリール基からなる群から選択される。
【0058】
さらなる実施形態では、前述の少なくとも1つのルテニウムピンサー錯体は、
【0059】
【0060】
およびそれらの任意の組み合わせから選択される。
【0061】
いくつかの実施形態では、本発明の前述のシステムおよび方法は、少なくとも1つの有機溶媒をさらに含む。いくつかの実施形態では、前述の少なくとも1つの有機溶媒は、ベンゼン、トルエン、o-、m-、またはp-キシレン、メシチレン(1,3,5-トリメチルベンゼン)、ジオキサン、THF、DME、DMSO、ジグリム、DMF(ジメチルホルムアミド)、バレロニトリル、DMAC(ジメチルアセトアミド)、NMM(N-メチルモルホリン)、ピリジン、n-BuCN、アニソール、シクロヘキサン、およびそれらの組み合わせから選択される。いくつかの実施形態では、本発明の前述のシステムおよび方法は、1つの有機溶媒をさらに含む。他の実施形態では、本発明の前述のシステムおよび方法は、少なくとも2つの有機溶媒の混合物をさらに含む。
【0062】
別の実施形態では、ルテニウム触媒は、固体支持体に吸収され、水素の貯蔵/充填および放出/排出は、溶媒なしで行われる。
【0063】
いくつかの実施形態では、本発明の前述のシステムおよび方法は、少なくとも1つの有機塩基をさらに含む。いくつかの実施形態では、前述の少なくとも1つの有機塩基は、alkOK、alkONa、alkOLi、およびそれらの任意の組み合わせであり、alkは、直鎖または分岐鎖のC1-C8アルキルである。
【0064】
いくつかの実施形態では、本発明の前述のシステムは、約130℃~150℃の温度下で機能している。
【0065】
いくつかの実施形態では、本発明の前述のシステムは、約80ミリバール~110ミリバールの圧力下で機能している。
【0066】
いくつかの実施形態では、水素の前述の排出は、前述のエチレングリコールを前述の少なくとも1つの遷移金属と反応させ、それによって水素およびエチレングリコールのオリゴエステルを形成することによって達成される。
【0067】
いくつかの実施形態では、水素の前述の充填は、前述のエチレングリコールのオリゴエステルを水素と反応させ、それによってエチレングリコールを形成することによって達成される。
【0068】
いくつかの実施形態では、本発明の可逆的水素充填および排出システムは、少なくとも4%、別の実施形態では、少なくとも5%の水素貯蔵容量を有する。
【0069】
いくつかの実施形態では、本発明の可逆的水素充填および排出システムは、少なくとも5.5%の水素貯蔵容量を有する。
【0070】
いくつかの実施形態では、本発明の可逆的水素充填および排出システムは、約4%~約6.5%の水素貯蔵容量を有する。
【0071】
いくつかの実施形態では、本発明の可逆的水素充填および排出システムは、少なくとも6.5%の水素貯蔵容量を有する。
【0072】
本発明はさらに、
(a)エチレングリコールが少なくとも1つの遷移金属と反応し、それによって少なくとも1つの水素分子およびエチレングリコールの少なくとも1つのオリゴエステルを形成する、水素放出プロセスと、
(b)前述のエチレングリコールのオリゴエステルが少なくとも1つの遷移金属および少なくとも1つの水素分子と反応し、それによって少なくとも1つのエチレングリコールを形成する、水素充填プロセスとを含む、可逆的水素充填および排出方法を提供する。
【0073】
EGを利用するための反応経路を
図1Fに概説する。最初に、EGの2つの分子が2-ヒドロキシエチルグリコレート(HEG)に結合され、2当量の水素の放出を伴う金属ピンサー錯体によって触媒される。続いて、HEGは、追加の当量のEGと反応して、同様の方法でより高次のオリゴマーを得ることができる。指摘されるとおり、HSCは、H
2のオリゴマー化および遊離の増加と共に増加する。水素貯蔵システムについて、理想的には同じ触媒を使用して、得られたオリゴマーを水素化してEGに戻すことが可能である必要がある。それにもかかわらず、HEGへのアクセプターレス接触脱水素カップリングでさえ、非常に困難である。EGが所望の変換を受けることに抵抗することを説明し得る考えられる欠点としては、(1)EGが、ピンサー錯体の金属中心をキレート化し、触媒活性を阻止する、(2)考えられるアルコキシ金属錯体と隣接するEGとの間の水素結合が、β-水素化物排除ステップを妨げ、アルデヒド中間体の生成を妨げ得る、(3)HEGが、α-ヒドロキシル基の酸化時に脱水素化されてα-ケトエステルになり、これが、COおよびアルデヒドに容易に分解し、その後に触媒のCO中毒を伴う、(4)水素容量の低い環状副産物((1,3-ジオキソラン-2-イル)メタノール)の望ましくない形成が挙げられ得る。
【0074】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載される本発明の実施形態のいずれかのプロセス/方法は、溶媒の非存在下でニート条件において実施される。しかしながら、他の実施形態では、プロセスは、ベンゼン、トルエン、o-、m-、またはp-キシレン、メシチレン(1,3,5-トリメチルベンゼン)、ジオキサン、THF、DME、DMSO、ジグリム、DMF(ジメチルホルムアミド)、バレロニトリル、DMAC(ジメチルアセトアミド)、NMM(N-メチルモルホリン)、ピリジン、n-BuCN、アニソール、シクロヘキサン、またはそれらの組み合わせなどであるが、これらに限定されない有機溶媒の存在下で実施される。
【0075】
別の実施形態では、可逆的水素充填および排出方法は、有機溶媒を用いて実施される。別の実施形態では、水素放出は、約80ミリバール~110ミリバールの圧力下で機能する減圧下で、無溶媒条件において実施される。
【0076】
システム
【0077】
一実施形態では、本発明は、要求に応じた水素(H2)の貯蔵および放出のためのLOHCシステムに関し、システムは、エチレングリコールと、少なくとも1つの遷移金属とを含む。別の実施形態では、遷移金属は、触媒である。
【0078】
一実施形態では、水素の排出は、前述のエチレングリコールを前述の少なくとも1つの遷移金属と反応させ、それによって水素およびエチレングリコールのオリゴエステルを形成することによって達成される。別の実施形態では、遷移金属は、触媒である。
【0079】
一実施形態では、水素の充填は、前述のエチレングリコールのオリゴエステルを少なくとも1つの遷移金属および少なくとも1つの水素分子と反応させ、それによってエチレングリコールを形成することによって達成される。別の実施形態では、遷移金属は、触媒である。
【0080】
一実施形態では、本発明は、LOHCシステムに関する。別の実施形態では、LOHCシステムは、水素燃料電池に使用される。別の実施形態では、LOHCシステムは、内燃機関に燃料を供給するために使用される。本発明のLOHCは、内燃機関のために、水素燃料電池を動力源とする車両に搭載された水素を放出するか、またはLOHCシステムは、サービスステーション、ガレージ、中央艦隊給油ステーション、および住宅の個人の家、または他の使用場所で水素を貯蔵および放出する。水素の放出は現場での生成であり、個人の家または他の使用場所で生成され得る。水素の放出後、脱水素化合物は、専用の水素化施設に運ばれ、LOHCは、加圧水素および触媒で処理されると回収される。
【0081】
一実施形態では、本発明のLOHCシステムは、車両内の水素ベースの燃料を分配および監視するために使用される。システムは、車両内で水素を貯蔵、放出、および分配するように構成されている。システムはまた、水素をエンジンに送達するように構成された車両上の燃料送達システムと、生成システムを制御し、車両による水素の使用を監視するように構成された制御システムとを含む。
【0082】
本発明は、本発明のLOHCから水素ガスを放出し、水素燃料電池を動力源とする車両および/または内燃機関のために水素貯蔵を使用するための方法を提供する。
【0083】
一実施形態では、LOHCは、保持タンクおよび貯蔵容器に分配するためにポンプで送り込まれ得るか、または注入され得る。液体は、液体輸送および分配のための従来の方法(パイプライン、鉄道車両、タンクローリー)を使用して容易に輸送される。水素は、車両内において現場で生成されるか、または水素を送達し、水素化反応器の現場で脱水素化された基質を回収する脱水素化反応器システムによって生成される。
【0084】
一実施形態では、本発明のシステムは、本発明のLOHCおよび触媒を収集するように構成された反応チャンバと、LOHCおよび触媒を加熱して、水素を放出するように構成された加熱要素と、水素を収集して一時的に貯蔵するように構成された、反応チャンバと流体連通しているバッファタンクと、水素を選択された圧力に加圧するように構成された、バッファタンクと流体連通している圧縮機システムと、選択された量の水素を貯蔵するように構成された、圧縮機システムと流体連通している貯蔵システムと、水素を水素燃料電池または内燃機関に分配するように構成された、貯蔵システムと流体連通している分配システムとを備える。
【0085】
一実施形態では、車両で使用するための本発明のLOHCシステムは、本発明のLOHCおよび触媒を収集するように構成された反応チャンバと、LOHCおよび触媒を加熱して、水素を放出するように構成された加熱要素と、水素を収集して一時的に貯蔵するように構成された、反応チャンバと流体連通しているバッファタンクと、水素を選択された圧力に加圧するように構成された、バッファタンクと流体連通している圧縮機システムと、選択された量の水素を選択された圧力に貯蔵するように構成された、圧縮機システムと流体連通している貯蔵システムと、水素を水素燃料電池または内燃機関に分配するように構成された、貯蔵システムと流体連通している分配システムとを備える。使用済み反応物を使用済みタンクに分配するように構成された、反応チャンバと流体連通している第2の分配システムであって、脱水素化基質は、加圧水素の存在下で収集される。脱水素化された基質の回収は、船内または船外で行われる。
【0086】
化学的定義
【0087】
本明細書で使用される場合、単独でまたは別の基の一部として使用される「アルキル」という用語は、一実施形態では、「C1-C8アルキル」または「C1-C10アルキル」を指し、直鎖および分岐鎖基を示す。非限定的な例は、1~6個の炭素原子を含有するアルキル基(C1-C6アルキル)、または1~4個の炭素原子を含有するアルキル基(C1-C4アルキル)である。飽和アルキル基の例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソ-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、アミル、tert-アミル、およびヘキシルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0088】
アルキル基は、非置換であり得るか、またはハロゲン、ヒドロキシ、アルコキシ、アリールオキシ、アルキルアリールオキシ、ヘテロアリールオキシ、オキソ、シクロアルキル、フェニル、ヘテロアリール、ヘテロシクリル、ナフチル、アミノ、アルキルアミノ、アリールアミノ、ヘテロアリールアミノ、ジアルキルアミノ、ジアリールアミノ、アルキルアリールアミノ、アルキルヘテロアリールアミノ、アリールヘテロアリールアミノ、アシル、アシルオキシ、ニトロ、カルボキシ、カルバモイル、カルボキサミド、シアノ、スルホニル、スルホニルアミノ、スルフィニル、スルフィニルアミノ、チオール、アルキルチオ、アリールチオ、もしくはアルキルスルホニル基からなる群から選択される1つ異常の置換基で置換され得る。任意の置換基は、非置換であり得るか、またはこれらの前述の置換基のいずれか1つでさらに置換され得る。例示として、「アルコキシアルキル」は、アルコキシ基で置換されたアルキルである。
【0089】
本明細書において単独でまたは別の基の一部として使用される「アリール」という用語は、6~14個の環炭素原子を含有する芳香環系を示す。アリール環は、単環式、二環式、三環式などであり得る。アリール基の非限定的な例は、フェニル、1-ナフチルおよび2-ナフチルを含むナフチルなどである。アリール基は、非置換であり得るか、または利用可能な炭素原子を介して、アルキルについて上記で定義された1つ以上の基で置換され得る。アルキルアリール基は、アリール基(例えば、ベンジル)に結合したアルキル基を示す。
【0090】
本明細書において単独でまたは別の基の一部として使用される「ヘテロアリール」という用語は、窒素、硫黄、および酸素から選択される少なくとも1つのヘテロ原子環原子を含有するヘテロ芳香族系を示す。ヘテロアリールは、5個以上の環原子を含有する。ヘテロアリール基は、単環式、二環式、三環式などであり得る。この表現には、ベンゾ複素環も含まれる。窒素が環原子である場合、本発明はまた、窒素含有ヘテロアリールのN-オキシドも企図する。ヘテロアリールの非限定的な例としては、チエニル、ベンゾチエニル、1-ナフトチエニル、チアンスレニル、フリル、ベンゾフリル、ピロリル、イミダゾリル、ピラゾリル、ピリジル、ピラジニル、ピリミジニル、ピリダジニル、インドリル、イソインドリル、インダゾリル、プリニル、イソキノリル、キノリル、ナフチリジニル、キノキサリニル、キナゾリニル、シンノリニル、プテリジニル、カルボリニル、チアゾリル、オキサゾリル、イソチアゾリル、イソキサゾリルなどが挙げられる。ヘテロアリール基は、非置換であり得るか、または利用可能な原子を介して、アルキルについて上記で定義された1つ以上の基で置換され得る。
【0091】
ビピリジン環に結合される無機支持体は、例えば、シリカ、シリカゲル、ガラス、ガラス繊維、チタニア、ジルコニア、アルミナ、および酸化ニッケルであり得る。
【0092】
(環の1つを介して)本発明の錯体に結合されるポリマーは、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリビニルクロリド、ポリビニリデンクロリド、ポリスチレン、ポリメタクリレート、天然ゴム、ポリイソプレン、ブタジエン-スチレンランダムコポリマー、ブタジエンアクリロニトリルコポリマー、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリフェニレンスルフィド、シクロ-オレフィンコポリマー、スチレン-アクリロニトリルコポリマー、ABS、スチレン-無水マレイン酸コポリマー、クロロプレンポリマー、イソブチレンコポリマー、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレンなどから選択される。
【0093】
本明細書で使用される場合、「約」という用語が前に付く数値範囲は、列挙された範囲に限定されると見なされるべきではない。むしろ、「約」という用語が前に付く数値範囲は、本発明による任意の所与の要素について当業者によって受け入れられる範囲、例えば、数値範囲の最大±5%~10%までを含むと理解されるべきである。
【0094】
以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態をより完全に例示するために提示される。しかしながら、それらは決して本発明の広い範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【実施例】
【0095】
材料および方法
【0096】
すべての実験を、M-BRAUN Unilab 1200/780グローブボックスにおいて精製窒素の不活性雰囲気下で、または標準のシュレンク技術を使用して実施した。テフロン(登録商標)コーティングされた磁気撹拌棒を使用して反応物を撹拌した。サーモスタット制御のシリコーン油浴を使用して、高温を維持した。特に明記しない限り、市販の化学物質をさらに精製することなく使用した。エチレングリコール(Acros Organics)を、使用前に4Åの分子ふるい(MS)上でさらに乾燥させた。すべての溶媒を、アルゴン雰囲気下で標準的な手順に従って精製し、4ÅMS上で保存した。ピンサー錯体[Ru(PtBuNNHtBu)H(CO)Cl](Ru-1)、[Ru(PPhNNHtBu)H(CO)Cl](Ru-2)、[Ru(PtBuNNHBn)H(CO)Cl](Ru-3)、[Ru(PtBuNNEt)H(CO)Cl](Ru-4)、[Ru(PtBuNN)H(CO)Cl](Ru-5)、[Ru(PiPrNN)H(CO)Cl](Ru-6)、[Ru(PtBuNPtBu)H(CO)Cl](Ru-7)、および[Ru(PiPrNPiPr)H(CO)Cl](Ru-8)を、文献の手順に従って調製した。有機溶液を、ダイヤフラム真空ポンプを備えたロータリーエバポレーターを使用して濃縮した。分析TLCを、Merckシリカゲル60 F254プレート上で実施した。TLCプレートを、過マンガン酸カリウム(KMnO4)染色剤で処理した後、穏やかに加熱することによって視覚化した。生成物の精製を、シリカゲル60(Merck、粒子径40~63μm)上でのフラッシュカラムクロマトグラフィーによって達成した。
【0097】
NMRスペクトルは、Bruker AMX-300、AMX-400、またはAMX-500のいずれかで室温において記録した。NMRスペクトルの化学シフトは、d6-DMSO(1H NMR:δ=2.50ppm,13C NMR:δ=39.52ppm),CDCl3(1H NMR:δ=7.26ppm,13C NMR:δ=77.16ppm),C6D6(1H NMR:δ=7.16ppm,13C NMR:δ=128.06ppm)、またはd6-アセトン(1H NMR:δ=2.05ppm,13C NMR:δ=29.84,206.26ppm)に対して報告される。1H NMRスペクトルのデータは次のように報告された:化学シフト(ppm)、ピーク形状(s=一重項、d=二重項、t=三重項、q=四重項、m=多重項、dd=二重項の二重項、vt=仮想三重項)、結合定数(Hz)、および積分。13C NMRのデータは、化学シフト(ppm)の観点から報告された。GC分析を、SUPELCO1-2382カラムを備えたHP 6890上で実施した。
【0098】
実施例1
【0099】
単一溶媒を使用したEGの脱水素カップリングの一般的な手順
【0100】
グローブボックスにおいて、エチレングリコール(124.1mg、2.0mmol)を、磁気撹拌棒を備えた100mLシュレンク管にガラスピペットで添加した。グローブボックスにおいて、磁気撹拌棒を含む5mLバイアルを、ルテニウムピンサー錯体Ru(0.02mmol)、tBuOK(0.04mmol)、およびTHF(1.0mL)で充填した。混合物を室温で10分間撹拌し、続いて真空下で溶媒を除去した。残渣を乾燥および脱気した溶媒(4×0.5mL)に溶解し、同じガラスピペットを使用して溶液を上記のシュレンク管に移した。シュレンク管をグローブボックスから取り出し、135℃で指定時間撹拌した。次いで、反応混合物を最初に室温まで冷却し、次いでシュレンク管をガス収集システムに接続して、ガスの体積を測定した。最後に、溶媒を真空下で除去し、メシチレン(139μL、1.0mmol)を内部標準としてシュレンク管に添加した。残渣をd6-アセトンまたはd6-DMSOに溶解し、得られた溶液を短いセライトカラムに通し、次いでNMR分析に供した。
【0101】
結果:
【0102】
EGのアクセプターレス脱水素カップリングの実現可能性を、135℃(浴温)で48時間、還流トルエン中2mol%カリウムtert-ブトキシド(tBuOK)の存在下で、PNNHルテニウム錯体Ru-1、Ru-2、およびRu-3(1mol%充填)を評価することによって検査した。反応の監視は、変換が非常に遅いことを示し、これは、トルエンへのEGの溶解度が低いことに起因する可能性がある(表1、エントリ1~3)。
【0103】
【0104】
実際、変換率は、より極性の溶媒中で53%に増加することができ、18mLの
水素を、触媒としてRu-3を、および1,2-ジメトキシエタン(DME)中の2.0mmolのエチレングリコールを使用して、24時間以内に収集した(表1、エントリ4~6)。
【0105】
実施例2
【0106】
混合溶媒および塩基を使用したEGの脱水素カップリングの一般的な手順
【0107】
グローブボックスにおいて、エチレングリコール(124.1mg、2.0mmol)を、磁気撹拌棒を備えた100mLシュレンク管にガラスピペットで添加した。磁気撹拌棒を含む5mLバイアルを、ルテニウムピンサー錯体Ru(0.02mmol)、tBuOK(0.02~0.04mmol)、およびTHF(1.0mL)で充填した。混合物を室温で10分間撹拌し、続いて真空下で溶媒を除去した。残渣を乾燥および脱気したトルエン(2×0.5mL)に溶解し、同じガラスピペットを使用して溶液を上記のシュレンク管に移した。バイアルを第2の溶媒(2×0.5mL)で洗浄し、溶液をシュレンク管に移した。シュレンク管をグローブボックスから取り出し、135℃または150℃で指定時間撹拌した。次いで、反応混合物を最初に室温まで冷却し、次いでシュレンク管をガス収集システムに接続して、ガスの体積を測定した。最後に、溶媒を真空下で除去し、メシチレン(139μL、1.0mmol)を内部標準としてシュレンク管に添加した。残渣をd6-アセトンに溶解し、得られた溶液を短いセライトカラムに通し、次いでNMR分析に供した。
【0108】
結果:
【0109】
135℃でトルエンとDMEの混合物(v/v=1:1)を使用すると、反応効率はさらに56%に向上した(表1、エントリ7)。温度を150℃に上げると、72時間後に83%の変換率および44mLの水素が得られた(
図2および表1、エントリ8)。反応混合物の核磁気共鳴(NMR)分光法および質量分析方(MS)を介して、HEGを主要な生成物として、より高度なオリゴエステルが観察された。ガスクロマトグラフィー(GC)によって気相を検査すると、水素の純度が99.57%であったことが示された。錯体Ru-1およびRu-2の活性を、混合溶媒システムを使用して検査したが、Ru-3がそれでもやはり最良の結果をもたらした(
図2、上)。濃度(例えば、0.25M、2M、4M)、塩基(例えば、
tBuONa、
tBuOLi)、および他の混合溶媒(例えば、トルエン/1,4-ジオキサン、トルエン/ジグリム)などの他の反応パラメーターをスクリーニングすると、1M溶液、
tBuOK、および溶媒トルエン/DME(v/v=1:1)が最良の結果をもたらしたことが明らかになった(表2)。
【0110】
【0111】
実施例3
【0112】
塩基なしのEGの脱水素カップリングの一般的な手順
【0113】
グローブボックスにおいて、エチレングリコール(124.1mg、2.0mmol)を、ガラスピペットを介して、磁気撹拌棒を備えた100mLシュレンク管に添加した。磁気撹拌棒を含む5mLバイアルを、ルテニウムピンサー錯体Ru-10(0.02mmol)、ならびに乾燥および脱気したトルエン(1.0mL)で充填し、同じガラスピペットを使用して溶液を上記のシュレンク管に移した。バイアルをジメトキシエタン(DME、2×0.5mL)で洗浄し、溶液をシュレンク管に移した。シュレンク管をグローブボックスから取り出し、150℃で72時間撹拌した。次いで、反応混合物を最初に室温まで冷却し、次いでシュレンク管をガス収集システムに接続して、ガスの体積を測定した(合計61mLのガスを収集した)。最後に、溶媒を真空下で除去し、メシチレン(139μL、1.0mmol)を内部標準としてシュレンク管に添加した。残渣をd6-アセトンに溶解し、得られた溶液を短いセライトカラムに通し、次いでNMR分析に供した。1H NMRは、変換率が97%であったことを示した。
【0114】
結果:
【0115】
反応効率をさらに改善するために、本発明者らは、本発明の他のタイプの触媒をスクリーニングした。
図2(中央)に示すように、PNNルテニウムピンサー錯体Ru-4、Ru-5、およびRu-6もこの変換を触媒するが、変換率は低く(26~43%)、水素の発生はより少ない(13~23mL)。PNPルテニウム錯体Ru-7およびRu-8を使用すると、脱水素反応が大幅に遅くなった(
図2、下)。特に、アクリジンベースのPNPルテニウム錯体Ru-9を使用することによって、大幅な改善が達成された。このシステムでは、54mLの水素の形成とともに、94%の変換率が達成された(純度:=99.65%、表3、エントリ9を参照)。
【0116】
【0117】
a反応条件:エチレングリコール(2.0mmol)、Ru cat.(1mol%)、tBuOK(1~2mol%)、トルエン(1.0mL)/DME(1.0mL)、150℃(浴温)で72時間。b変換率を、内部標準としてメシチレンを使用した反応混合物の1H NMRによって決定した。c2mol% tBuOKを使用した。d1mol% tBuOKを使用した。e反応を塩基なしで実施した。
【0118】
粗反応混合物のNMR分光法に基づいて、HEGの収率は33%であると決定され、残りの変換率は、より高次のオリゴエステルに起因した。
【0119】
上記の結果に加えて、本発明者らは、脱芳香族化錯体Ru-10を触媒として使用することを検討し、塩基を含まない条件下で反応を実施した。EGの脱水素カップリングは、1mol%のRu-10の存在下で円滑に進行し、ルテニウム錯体のPNNおよびPNNHファミリーよりも大幅な改善をもたらした(97%の変換率、61mLの水素、99.59%の純度、
図3A)。反応混合物を分析すると、より高次のオリゴマー(最大6までのn)も形成されたことが示された。したがって、Ru-10(1mol%)、およびトルエン/DMEの混合溶媒(v/v=1:1)からなる、塩基を含まない触媒システムは、EGのアクセプターレス脱水素カップリングの最高の性能をもたらした。
【0120】
実施例4
【0121】
反応混合物の逆水素化の一般的な手順
【0122】
グローブボックスにおいて、磁気撹拌棒を含むテフロン(登録商標)管を備えた25mLステンレス鋼オートクレーブを、Ru-10(0.02mmol)で充填した。5mLバイアル内の脱水素化反応混合物を、乾燥および脱気したトルエン(2×0.5mL)に溶解し、溶液をオートクレーブのテフロン(登録商標)管に移した。バイアルをジメトキシエタン(DME、2×0.5mL)で洗浄し、溶液をオートクレーブのテフロン(登録商標)管に移した。オートクレーブをグローブボックスから取り出し、水素で5回パージし、最後に40バールに加圧した。反応混合物を150℃(油浴温度)で48時間撹拌し、次いで氷浴中で室温に冷却した。次いで、反応混合物を25mLバイアルに移し、溶媒を真空下で除去し、メシチレン(139μL、1.0mmol)を内部標準としてシュレンク管に添加した。残渣をd6-アセトンに溶解し、得られた溶液を短いセライトカラムに通し、次いでNMR分析に供した。1H NMRは、変換率が100%であり、エチレングリコールの収率が92%であったことを示した。
【0123】
結果:
【0124】
同様の条件下での逆水素化反応を調査するために、本発明者らは、錯体Ru-10を使用して水素化反応を実施した。興味深いことに、
図3Aに示される反応混合物は、40バールの水素下の1mol%のRu-10、および混合溶媒(トルエン/DME、v/v=1:1)の存在下で、48時間以内に完全に水素化されてEGに戻った(92%のNMR収率)(
図3B)。したがって、EGおよびそのオリゴエステルは、同じピンサールテニウム錯体触媒を使用して相互変換され得る。上記の結果は、EGをベースにした可逆的LOHCシステムが、ピンサー錯体Ru-10を触媒として使用して可能であることを示す。
【0125】
実施例5
【0126】
溶媒を使用しない減圧下でのEGの脱水素カップリングの一般的な手順
【0127】
グローブボックスにおいて、エチレングリコール(2.0mL、35.8mmol)およびRu-10(102.7mg、0.18mmol)を、磁気撹拌棒および還流冷却器を備えた5.0mLフラスコに添加した。反応フラスコを窒素保護条件下でグローブボックスから取り出した。次いで、反応システムを還流冷却器の上部を介して真空ポンプに接続した(すばやく接続)。得られた混合物を、95ミリバールの圧力下、150℃で168時間撹拌した。次いで、反応混合物を最初に室温に冷却し、メシチレン(624μL、4.5mmol)を内部標準として添加した。残渣をd6-アセトンに溶解し、得られた溶液を短いセライトカラムに通し、次いでNMR分析に供した。1H NMRは、変換率が94%であったことを示した。
【0128】
結果:
【0129】
無溶媒反応条件は、システムの最適な水素容量、潜在的に短縮された反応時間、削減されたエネルギー消費、およびより低い設備投資に関して有利であり、したがって、それらは、より環境に優しく、費用効果が高いと考えられる。したがって、無溶媒LOHCシステムは、工業用途にとってより魅力的であり得る。さらに、無溶媒条件は、重合反応を促進することができる。本発明者らは、150℃および減圧(95ミリバール)のニート条件下で、EGの脱水素化反応をより大規模(35.8mmol、2mL)で実施した。これらの条件下で、0.5mol%のRu-10を使用して7日後に94%の変換率が得られた(
図3C)。粗反応混合物の
1H NMRに基づいて、1295mLの水素が形成され、平均オリゴマー化度が3.98であったと推定される。減圧は、生成された水素を効率的に除去し、反応を前進させるために、反応システムを還流下に効果的に保つために使用される。さらに、上記の粗反応混合物を、混合トルエン/DME(1mL/1mL)溶媒中の40バールの水素下の0.5mol%のRu-10の存在下で、60時間以内に完全に水素化してEGに戻すことができた。
【0130】
実施例7
【0131】
機械的研究
【0132】
Ru-10によって触媒されるEGの可逆的脱水素化/水素化に関する機構的洞察を得るために、DFT計算を用いた。重要なことに、全体として、EGからHEGへの脱水素化は、わずか0.6kcal.mol
-1でエネルギー吸収性であると計算され、容易に実行可能かつ可逆的な脱水素化/水素化事象を強調している。最初のステップで、EGは、5配位錯体Ru-10に添加されて、中間体Aを生成することができる(
図4)。この反応は、エネルギーがわずかに下降し(-2.3kcal.mol
-1)、これは、6配位中間体A中の前面アクリジン骨格によってもたらされた歪んだ八面体構造(それぞれ161.6°および169.4°のエクアトリアルP-Ru-OおよびP-Ru-H角度)によって説明され得る。TS
AB(24.7kcal.mol
-1)を介したRu-H結合のプロトン化による脱水素化は、κ2-アルコキシド配位B(-5.1kcal.mol
-1)の形成とともに、1当量のH
2を遊離させる。ヒドロキシ基の脱配位により、TS
BC(7.2kcal.mol
-1)を介したβ-水素化物排除が可能になり、CにおけるRu-H結合(5.9kcal.mol
-1)を再形成する。EGの別の分子では、Cは、協奏的Zimmerman-Traxler様6員遷移状態(TS
CD、23.4kcal.mol
-1)を介して、D(3.7kcal.mol
-1)への脱水素化を受ける。重要なことに、脱水素化(TS
CF1、27.7kcal.mol
-1、
図5)、およびβ-水素化物排除(TS
CF2、12.7kcal.mol
-1、
図5)を介した、EGの添加なしのCからグリオキサールへの経路(15.7kcal.mol
-1、中間体F、
図5)は、速度論的にも熱力学的にも不利である。加えて、より低いHSCでのヘミアセタールからの環状生成物の形成は、高位遷移状態(TS
CG=45.6kcal.mol
-1およびTS
HI=54.2kcal.mol
-1)によって回避される。κ2-ヘミアセタレートDからの別のβ-水素化物排除事象(12.7kcal.mol
-1)により、金属結合エステルE(6.8kcal.mol
-1)が得られる。最後に、脱配位は、活性触媒Ru-10を再形成し、HEGを放出する。注目すべきことに、最も低位の中間体、すなわちBは、Ru-10が不飽和であるにもかかわらず、活性触媒Ru-10よりもわずか5.1kcal.mol
-1だけ安定している。この場合も同様に、より高い安定化は、歪んだ形状(Bにおいてそれぞれ160.8°および165.2°のエクアトリアルP-Ru-O角度)によって妨げられる可能性が最も高く、したがって、より高いエネルギースパンを防ぐ。さらに、芳香族アクリジン骨格は、遷移状態TS
CDおよびTS
DEならびに中間体DおよびEにおける第2のEG単位の添加の際に、OH-π相互作用に関与する。これは、H結合安定化Zimmerman-Traxler様遷移状態を可能にすることによって、グリオキサール経路上のヘミアセタレート形成に有利に働き得るだけでなく(
図5)、側鎖のOH基を結合することによって、環化の際のヘミアセタレートからの水排除も防ぎ得る。これにより、溶液中の非配位EG/HEGとの広範な水素結合も防止され得る。したがって、アクリジン配位子フレームワークの独自の特性により、Ru-10は
図1Fに概説される課題を克服することが可能になる。最後に、律速遷移状態は、脱水素化事象に関連しているが、水素化物の引き抜きは容易に達成される。
【0133】
実施例8
【0134】
錯体Ru-9およびRu-10の合成
【0135】
【0136】
グローブボックスにおいて、磁気撹拌棒を備えたオーブン乾燥した100mLシュレンクフラスコ内で、4,5-ビス(ブロモメチル)アクリジン(2.0g、5.5mmol)をメタノール(25mL)に溶解した。次いで、ジイソプロピルホスファン(1.7g、14.3mmol)を添加した。フラスコを密閉し、グローブボックスから取り出し、50℃で48時間撹拌した。反応混合物を室温まで冷却した後、シュレンクフラスコを再びグローブボックスに入れ、トリエチルアミン(2.2g、21.8mmol)を添加し、得られた溶液を室温で1時間撹拌した。溶媒を真空下で除去し、次いでエーテル(50mL)を添加した。濾過後、ケーキをエーテル(2×10mL)で洗浄し、液相を混合した。真空下で液相からエーテルを除去して、茶色固体として粗生成物を得た。粗生成物を25mLバイアル内の少量のアセトンおよびペンタンに溶解し、これを次いで冷蔵庫(-30℃)に24時間入れた。バイアル内に黄色固体が形成された。液相を除去し、黄色固体を低温ペンタンで洗浄して、所望の生成物を得た。収率:50%(黄色固体、1.2g)1H NMR(400MHz,CDCl3)δ(ppm)=8.67(s,1H),7.92-7.87(m,2H),7.80(d,J=8.4Hz,2H),7.46(dd,J=8.4,6.9Hz,2H),3.79(d,J=2.8Hz,4H),1.90(m,4H),1.13-1.08(m,24H).13C{1H}NMR(101MHz,CDCl3)δ(ppm)=147.01,146.98,139.66,139.58,136.45,130.02,129.90,126.75,125.74,125.72,125.53,24.01,23.86,23.62,23.44,19.99,19.85,19.67,19.56.31P{1H}NMR(162MHz,CDCl3)δ(ppm)=14.52.
【0137】
【0138】
グローブボックスにおいて、磁気撹拌棒を備えたオーブン乾燥した100mLシュレンクフラスコ内で、4,5-ビス((ジイソプロピルホスファニル)メチル)アクリジン(158.2mg、0.36mmol)およびRuHCl(PPh3)3(CO)(286.3mg、0.3mmol)をトルエン(20mL)中に懸濁した。フラスコを密閉し、グローブボックスから取り出し、65℃で2時間撹拌した。反応混合物を室温まで冷却した後、シュレンクフラスコを再びグローブボックスに入れ、溶媒を真空下で除去した。得られた銅色固体をペンタンで数回洗浄して、栗色固体として所望の生成物Ru-9を得た。収率:85%(栗色固体、154.3mg)1H NMR(400MHz,C6D6)δ(ppm)=8.17(s,1H),7.49(d,J=8.2Hz,2H),7.35(d,J=6.9Hz,2H),7.06(t,J=7.5Hz,2H),5.24(d,J=12.4Hz,2H),3.51(m,2H),3.13(m,2H),1.79(q,J=7.3Hz,6H),1.55(m,8H),1.04(q,J=6.3Hz,6H),0.89(q,J=7.5Hz,6H),-16.10(t,J=19.0Hz,1H).13C{1H}NMR(101MHz,C6D6)δ(ppm)=203.44(vt),151.43(vt),142.19,135.76,135.09(vt),129.16,124.72,32.06(vt),25.90(vt),24.16(vt),22.00,20.92,19.50(vt),18.68.31P{1H}NMR(162MHz,C6D6)δ(ppm)=69.79.
【0139】
【0140】
グローブボックスにおいて、磁気撹拌棒を備えた90mLフィッシャー・ポーター管内で、Ru-9(78.7mg、0.13mmol)およびKOH(7.3mg、0.13mmol)を、トルエン(8.0mL)中に懸濁した。フィッシャー・ポーター管をグローブボックスから取り出し、水素で加圧し(2.0バール)、135℃で6時間撹拌した。反応混合物を室温まで冷却した後、フィッシャー・ポーター管を再びグローブボックスに入れ、溶媒を真空下で除去した。得られた固体をペンタンで数回洗浄して、赤色固体として所望の生成物Ru-10を得た。収率:86%(赤色固体、63.8mg)1H NMR(400MHz,C6D6)δ(ppm)=7.23(m,2H),6.96(m,4H),3.78(d,J=14.4Hz,1H),3.60(d,J=14.4Hz,1H),2.98(d,J=12.6Hz,2H),2.64-2.59(m,2H),2.03(m,2H),1.57(m,212H),1.32-1.26(m,6H),1.25-1.20(m,6H),1.08-1.02(m,6H),0.77-0.72(m,6H),20.69(t,H).13C{1H}NMR(101MHz,C6D6)δ(ppm)=210.17(t),153.05(vt),126.56,121.66,119.39,36.56,27.86(vt),25.71(vt),24.29(vt),20.39(vt),19.22,18.73(vt),17.65.31P{1H}NMR(162MHz,C6D6)δ(ppm)=75.67.
【0141】
本明細書では本発明の特定の特徴が図示され、説明されてきたが、多くの修正、置換、変更、および同等物がここで、当業者に思いつくであろう。したがって、添付の特許請求の範囲は、本発明の真の精神趣旨に収まるように、全てのそのような修正および変更を網羅することを意図することを理解されたい。
【国際調査報告】