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特表2022-513329滑液膜由来の間葉系幹細胞及びその用途
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-07
(54)【発明の名称】滑液膜由来の間葉系幹細胞及びその用途
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0775 20100101AFI20220131BHJP
   A61K 35/28 20150101ALI20220131BHJP
   A61P 19/08 20060101ALI20220131BHJP
   A61P 19/00 20060101ALI20220131BHJP
   A61L 27/18 20060101ALI20220131BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20220131BHJP
   A61L 27/54 20060101ALI20220131BHJP
   C12N 9/72 20060101ALN20220131BHJP
   C12N 9/70 20060101ALN20220131BHJP
   C12N 9/68 20060101ALN20220131BHJP
   C07K 2/00 20060101ALN20220131BHJP
   C07K 14/78 20060101ALN20220131BHJP
【FI】
C12N5/0775 ZNA
A61K35/28
A61P19/08
A61P19/00
A61L27/18
A61L27/38
A61L27/38 111
A61L27/38 112
A61L27/38 300
A61L27/54
C12N9/72
C12N9/70
C12N9/68
C07K2/00
C07K14/78
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021543107
(86)(22)【出願日】2019-09-27
(85)【翻訳文提出日】2021-05-26
(86)【国際出願番号】 KR2019012602
(87)【国際公開番号】W WO2020067774
(87)【国際公開日】2020-04-02
(31)【優先権主張番号】10-2018-0116496
(32)【優先日】2018-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】521129141
【氏名又は名称】ヒエラバイオ インコーポレイテッド
(71)【出願人】
【識別番号】515054778
【氏名又は名称】インジェ ユニバーシティ インダストリー アカデミック コーポレーション ファウンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】リ,ソン チン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヒチョン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,ヨン-イル
【テーマコード(参考)】
4B050
4B065
4C081
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B050CC07
4B050LL01
4B065AA90X
4B065BD44
4B065CA44
4C081AB04
4C081AB05
4C081BA12
4C081CA161
4C081CD28
4C081CD34
4C081DA12
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB42
4C087NA14
4C087ZA96
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA09
4H045CA40
4H045EA20
(57)【要約】
本発明は、滑液膜組織とヒドロゲルを用いて滑液膜由来の間葉系幹細胞を製造する方法、上記方法で製造された滑液膜由来の間葉系幹細胞、上記滑液膜由来の間葉系幹細胞を含む骨または軟骨損傷治療用薬学組成物、滑液膜組織及びヒドロゲルを含む間葉系幹細胞培養用組成物及びキットに関する。本発明の製造方法を用いると、滑液膜から幹細胞を効果的に抽出して得ることができ、このように得られた滑液膜由来の間葉系幹細胞は骨または軟骨損傷を効果的に治療することができるため、骨または軟骨の損傷を治療する方法に大きく寄与することができる。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)滑液膜組織をヒドロゲル内に陥入させて培養して培養物を得る段階;及び
(b)上記得られた培養物でヒドロゲルを分解して上記滑液膜組織からヒドロゲル内に移動及び増殖した間葉系幹細胞を回収する段階を含む、滑液膜由来の間葉系幹細胞の製造方法。
【請求項2】
上記ヒドロゲルは、コラーゲン(collagen)、ゼラチン(gelatin)、コンドロイチン(chondroitin)、ヒアルロン酸(hyaluronic acid)、アルギン酸(alginic acid)、マトリゲル(MatrigelTM)、キトサン(chitosan)、ペプチド(peptide)、フィブリン(fibrin)、PGA(polyglycolic acid)、PLA(polylactic acid)、PEG(polyethylene glycol)、ポリアクリルアミド(polyacrylamide)及びこれらの組合わせで構成された群から選択される物質で構成される、請求項1に記載の滑液膜由来の間葉系幹細胞の製造方法。
【請求項3】
上記ヒドロゲルの分解は、コラゲナーゼ、ゼラチナーゼ、ウロキナーゼ、ストレプトキナーゼ、TPA(tissue plasminogen activator)、プラスミン(plasmin)、ヒアルロニダーゼ及びこれらの組合わせで構成された群から選択される酵素の処理により行われる、請求項1に記載の滑液膜由来の間葉系幹細胞の製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の方法で製造され;細胞表面にCD29、CD44、CD73及びCD90が発現される免疫学的特性を有する、滑液膜由来の間葉系幹細胞。
【請求項5】
上記間葉系幹細胞は、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞及びこれらの組合わせで構成された群から選択される細胞に分化され得る、請求項4に記載の滑液膜由来の間葉系幹細胞。
【請求項6】
請求項4に記載の滑液膜由来の間葉系幹細胞、その培養物または上記間葉系幹細胞から分化された細胞を有効成分として含む、骨または軟骨損傷治療用薬学組成物。
【請求項7】
上記間葉系幹細胞は、支持体と混合された形態である、請求項6に記載の骨または軟骨損傷治療用薬学組成物。
【請求項8】
上記支持体は、PLGAスキャフォールドである、請求項7に記載の骨または軟骨損傷治療用薬学組成物。
【請求項9】
上記薬学組成物は、BMP-7をさらに含む、請求項6に記載の骨または軟骨損傷治療用薬学組成物。
【請求項10】
滑液膜組織及びヒドロゲルを含む間葉系幹細胞培養用組成物。
【請求項11】
請求項10に記載の間葉系幹細胞培養用組成物を含む間葉系幹細胞培養用キット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滑液膜由来の間葉系幹細胞及びその用途に関し、より具体的には、本発明は、滑液膜組織とヒドロゲルを用いて滑液膜由来の間葉系幹細胞を製造する方法、上記方法で製造された滑液膜由来の間葉系幹細胞、上記滑液膜由来の間葉系幹細胞を含む骨または軟骨損傷治療用薬学組成物、滑液膜組織及びヒドロゲルを含む間葉系幹細胞培養用組成物及びキットに関する。
【背景技術】
【0002】
骨(bone)は、人体の軟組織と体重を支え、内部機関を囲んで内部臓器を外部の衝撃から保護する。また、筋肉や臓器を構造的に支えるだけでなく、体内のカルシウムや他の必須無機質、即ち、リンやマグネシウムのような物質を貯蔵する人体の重要な部分の一つである。
【0003】
人体を構成する骨の間には関節が存在する。関節は頭蓋骨や歯の歯根のように互いに接する二つの骨や軟骨の間に可動性がほぼないかまたは全くない不動性関節と、動物の腕または脚の骨や顎骨のように両方の骨の間に結合組織が多く、可動性が大きい可動関節、連合関節及び半関節に分けられる。一般に、関節とは可動関節を言い、この可動関節は両方の骨が靭帯のみで結合している靭帯結合と滑液膜性結合に分けられる。滑液膜性結合は、関節が結合組織性の袋(関節嚢)で覆われているもので、関節嚢の内側は潤滑油の役割をする滑液を分泌し、外部には多くの靭帯が付着していて関節を補強する。
【0004】
幹細胞(stem cell)とは、組織を構成する各細胞に分化する前段階の細胞であり、未分化の状態で無限増殖が可能であり、特定分化刺激により多様な組織の細胞に分化され得る潜在的可能性を有する細胞をいう。
【0005】
幹細胞は、分化可能性に応じて大きく胚性幹細胞(embryonic stem cell: ES cell)と成体幹細胞(adult stem cell(組織特異的幹細胞(tissue specific stem cell))に分けられる。胚性幹細胞は、受精卵が形成された後、子宮内膜に着床する前の初期段階である胚盤胞(blastocyst)胚中、胎児に発生する細胞塊(inner cell mass: ICM)から分離された幹細胞であり、全ての組織の細胞に分化され得る潜在力を有する細胞である。
【0006】
一方、組織特異的幹細胞は、胚発生過程が進行され、胚の各臓器が形成される段階に示される各臓器に特異的な幹細胞であり、その分化能が一般にその組織を構成する細胞のみに限定(multipotent)される。代表的な組織特異的幹細胞は、骨髄(bone-marrow)に存在する造血幹細胞(hematopoietic stem cell)と血球細胞以外の結合組織(connective tissue)細胞に分化される間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell)がある。造血幹細胞は、赤血球、白血球等、各種血球細胞に分化され、間葉系幹細胞は、骨芽細胞(osteoblast)、軟骨芽細胞(chondroblast)、脂肪細胞(adipocyte)及び筋芽細胞(myoblast)などに分化される。
【0007】
最近になってヒトから胚性幹細胞の分離が成功した後、その臨床的適用に関心が高まっている。幹細胞の適用分野として最も注目されているのは細胞代替療法のための細胞供給源としての利用である。
【0008】
間葉系幹細胞から軟骨発生細胞(chondrogenic cell)、さらに軟骨細胞(chondrocyto)への分化、即ち、軟骨分化(chondrogenic differentiation)には、サイトカインや成長因子が関与している。正確なメカニズムは明らかになっていないが、軟骨細胞への分化において、TGF-β(transforming growth factor beta), IGF(insulin-like growth factor), BMP(bone morphogenic protein), FGF(fibroblast growth factor)などが重要な役割を担うことが知られている。これにより、幹細胞のこのような分化能力を用いて、損傷した関節組織を再生及び抗炎症などの治療に応用するために間葉系幹細胞の研究について報告されている(米国特許登録番号第6835377号(特許文献1))。また、損傷した軟骨治療用に使用可能な細胞としては、患者の自己軟骨細胞以外の代替細胞資源として骨髄幹細胞(Majumdar M. K. et al., J. Cell. Physiol. 185: 98-106, 2000(非特許文献1))、臍帯血(Gang E. J. et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 321: 102-108, 2004(非特許文献2))、そして滑液膜(Fickert S. et al., Osteoarthritis Cartilage 11: 790-800, 2003(非特許文献3))などが研究されている。しかし、現在幹細胞を用いた骨疾患または抗炎症の治療において大きな効果が示されておらず、特に、軟骨幹細胞を用いた骨疾患または抗炎症の治療については報告されていない。
【0009】
このような背景の下で、本発明者らは、軟骨損傷の治療に用いられる新たな幹細胞を開発するために多様な研究を行った結果、滑液膜組織に由来した間葉系幹細胞が軟骨損傷を効果的に治療することができることを確認し、本発明を完成した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許登録番号第6835377号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Majumdar M. K. et al., J. Cell. Physiol. 185: 98-106, 2000
【非特許文献2】Gang E. J. et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 321: 102-108, 2004
【非特許文献3】Fickert S. et al., Osteoarthritis Cartilage 11: 790-800, 2003
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の一つの目的は、滑液膜組織とヒドロゲルを用いて滑液膜由来の間葉系幹細胞を製造する方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、上記方法で製造された滑液膜由来の間葉系幹細胞を提供することにある。
本発明のもう一つの目的は、上記滑液膜由来の間葉系幹細胞を含む骨または軟骨損傷治療用薬学組成物を提供することにある。
本発明のもう一つの目的は、滑液膜組織及びヒドロゲルを含む間葉系幹細胞培養用組成物を提供することにある。
本発明のもう一つの目的は、上記組成物を含む間葉系幹細胞培養用キットを提供することにある。
本発明のもう一つの目的は、骨または軟骨損傷治療用薬学組成物の製造のための上記滑液膜由来の間葉系幹細胞の用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した目的を達成するための本発明の一実施様態は、滑液膜組織とヒドロゲルを用いて滑液膜由来の間葉系幹細胞を製造する方法及び上記方法で製造された滑液膜由来の間葉系幹細胞を提供する。具体的には、滑液膜由来の間葉系幹細胞の製造方法は、(a)滑液膜組織をヒドロゲル内に陥入させて培養して培養物を得る段階;及び(b)上記得られた培養物でヒドロゲルを分解して上記滑液膜組織からヒドロゲル内に移動及び増殖した間葉系幹細胞を回収する段階を含む。
【0014】
本発明の用語「滑液膜(synovium, synovial membrane, synovial stratum)」とは、潤滑膜または滑膜とも言い、関節腔を囲んでいる関節包の内層を構成する疎性結合組織を意味するが、上記滑液膜には毛細血管が発達しており、滑液の交換を活発に行うことが知られている。上記滑膜は、関節によりその体積が相違し、場合によってはシワを形成して関節腔内で脂肪体を囲み、関節の腔所を埋める形態を示すこともある。
【0015】
本発明において、上記滑液膜は、間葉系幹細胞を分離するための源泉組織と理解され得る。
【0016】
本発明の用語「ヒドロゲル(hydrogel)」とは、水を分散媒として含むゲルを意味する。上記ヒドロゲルは、主に冷却により流動性を喪失したり3次元網目構造と微結晶構造を有する親水性高分子が水を含有して膨張することにより生成されるが、電解質高分子を含むヒドロゲルは高吸水性を示すため、吸水性高分子として多方面に実用化されている。
【0017】
本発明において、上記ヒドロゲルを構成する親水性高分子は、滑液膜由来の間葉系幹細胞の製造過程に用いられる限り、特にこれに制限されないが、一例として、コラーゲン(collagen)、ゼラチン(gelatin)、コンドロイチン(chondroitin)、ヒアルロン酸(hyaluronic acid)、アルギン酸(alginic acid)、マトリゲル(MatrigelTM)、キトサン(chitosan)、ペプチド(peptide)、フィブリン(fibrin)、PGA(polyglycolic acid)、PLA(polylactic acid)、PEG(polyethylene glycol)、ポリアクリルアミド(polyacrylamide)などであってもよく、これらの混合物であってもよい。
【0018】
本発明で提供する滑液膜由来の間葉系幹細胞を製造する方法の(a)段階において、滑液膜組織をヒドロゲル内に陥入させる方法は、特にこれに制限されないが、滑液膜組織とヒドロゲルを構成する親水性高分子を混合し、上記親水性高分子をヒドロゲルに変換させる方法;ヒドロゲルを形成し、上記ヒドロゲルの内部に滑液膜組織を物理的に投入する方法などにより行われてもよい。
【0019】
上記(a)段階において、滑液膜組織が陥入したヒドロゲルの培養は当業界において幹細胞培養に適していることが知られている通常の培地に滑液膜組織が陥入したヒドロゲルを浸漬した後に行われてもよい。
【0020】
上記培地は、特にこれに制限されないが、一例として、DMEM(Dulbecco's modified Eagle medium)またはKeratinocyte-SFM(Keratinocyte serum free medium)を用いることができ、他の例として、D-media(Gibco)を用いることができる。
【0021】
上記培地は、多様な種類の添加剤をさらに含み得るが、一例として、等張液中の中性緩衝剤(例えば、リン酸塩及び/又は高濃度重炭酸塩)、タンパク質栄養分(例えば、血清、例えば、FBS、血清代替物、アルブミン、または必須アミノ酸及び非必須アミノ酸、例えば、グルタミン)、脂質(脂肪酸、コレステロール、血清のHDLまたはLDL抽出物)、その他の成分(例えば、インシュリンまたはトランスフェリン、ヌクレオシドまたはヌクレオチド、ピルビン酸塩、任意のイオン化形態または塩である糖源、例えば、グルコース、セレニウム、グルココルチコイド、例えば、ヒドロコルチゾン及び/又は還元剤、例えば、β-メルカプトエタノール)などを添加剤として用いることができる。また、細胞の癒着などを防止するために、抗凝集剤(anti-clumping agent)を添加剤として用いることもできる。
【0022】
また、本発明で提供する滑液膜由来の間葉系幹細胞を製造する方法の(b)段階において、上記ヒドロゲルの分解はヒドロゲル内の幹細胞には影響を及ぼさないながらも、ヒドロゲルを分解することができる限り、特にこれに制限されないが、一例として、酵素反応を用いる方法により行われてもよく、他の例として、コラゲナーゼ、ゼラチナーゼ、ウロキナーゼ、ストレプトキナーゼ、TPA(tissue plasminogen activator)、プラスミン(plasmin)、ヒアルロニダーゼなどのヒドロゲルを形成する親水性高分子の結合を切断する酵素を用いる方法により行われてもよい。
【0023】
一方、本発明で提供する滑液膜由来の間葉系幹細胞を製造する方法により製造された間葉系幹細胞は、その細胞表面にCD29、CD44、CD73及びCD90が発現される免疫学的特性を示し、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞及びこれらの組合わせで構成された群から選択される細胞に分化され得る特性を示す。
【0024】
特に、上記間葉系幹細胞を軟骨細胞に分化させる時、BMP-7を処理すれば、軟骨細胞への分化効率が顕著に増加することができる。
【0025】
また、PLGAスキャフォールドを用いれば、上記間葉系幹細胞の増殖を促進させることができる。
【0026】
本発明の他の実施様態は、上記滑液膜由来の間葉系幹細胞、その培養物または上記間葉系幹細胞から分化された細胞を有効成分として含む骨または軟骨損傷治療用薬学組成物を提供する。
【0027】
本発明の用語「治療」とは、上記滑液膜由来の間葉系幹細胞、その培養物または上記間葉系幹細胞から分化された細胞などを投与し、骨または軟骨損傷の症状を好転させたり有益にする全ての行為を意味する。
【0028】
本発明の一実施例によると、膝関節の軟骨及び大腿骨を損傷させた部位に、滑液膜由来の間葉系幹細胞を注入した結果、損傷した骨及び軟骨を再生する治療効果を示し、このような治療効果はBMP-7により向上することを確認した。
【0029】
本発明において、上記滑液膜由来の間葉系幹細胞は、損傷した骨または軟骨部位を治療する効果を奏することができるが、このような治療効果は、上記間葉系幹細胞が支持体と混合された形態のものを用いる場合に向上する。具体的には、上記支持体上に滑液膜由来の間葉系幹細胞が付着された形態で培養されたものを用いる時、上記治療効果が増加することができ、表面にBMP-7が結合した形態の支持体を用いる場合、上記治療効果がさらに向上する。
【0030】
本発明において、上記支持体は、滑液膜由来の間葉系幹細胞の治療効果に影響を与えない限り、特にこれに制限されないが、一例として、PLGAスキャフォールドであってもよい。
【0031】
本発明で提供する薬学組成物に含まれた上記滑液膜由来の間葉系幹細胞の水準は、特にこれに制限されないが、一例として、1ml当たり1.0×10個~1.0×10個、他の例として、1.0×10個~1.0×10個、更に他の例として、1.0×10個の細胞を含んでもよい。
【0032】
上記薬学組成物は、凍結されないままで用いられたり、今後使用のために凍結されてもよい。凍結されるべき場合、標準冷凍保存剤(例えば、DMSO、グリセロール、エピライフ(Epilife(R))細胞凍結培地(Cascade Biologics))が凍結前の細胞集団に添加されてもよい。
【0033】
また、上記薬学組成物は、薬学的分野において通常の方法により患者の身体内投与に適した単位投与型の製剤に剤形化させて投与することができ、上記製剤は、1回または数回の投与により効果的な投与量を含む。このような目的に適した剤形としては、非経口投与製剤として注射用アンプルのような注射剤、注入バッグのような注入剤、及びエアロゾル製剤のような噴霧剤などが好ましい。上記注射用アンプルは、使用直前に注射液と混合調剤することができ、注射液としては、生理食塩水、ブドウ糖、マンニトール、リンゲル液などを用いることができる。また、注入バッグは塩化ポリビニルまたはポリエチレン材質のものを用いることができ、バクスター(Baxter)、ベクトンディッキンソン(Becton Dickinson)、メドセップ(Medcep)、ナショナルホスピタルプロダクツ(National Hospital Products)またはテルモ(Terumo)社の注入バッグを例示することができる。
【0034】
上記薬学組成物には、上記滑液膜由来の間葉系幹細胞以外にも一つまたはそれ以上の薬学的に許容可能な通常の不活性担体、例えば、注射剤の場合には、保存剤、無痛化剤、可溶化剤または安定化剤などを、局所投与用製剤の場合には、基剤(base)、賦形剤、潤滑剤または保存剤などをさらに含んでもよい。
【0035】
それだけでなく、本発明で提供する薬学組成物は、上記滑液膜由来の間葉系幹細胞以外にも骨または軟骨損傷の治療を補助したり、上記滑液膜由来の間葉系幹細胞の活性を維持したり、上記滑液膜由来の間葉系幹細胞の分化を促進する多様な成分をさらに含み得るが、一例として、抗炎症製剤、幹細胞動員因子、成長誘導因子などをさらに含み得る。
【0036】
本発明の薬学組成物は、当業界において通常用いる投与方法を用いて移植及びその他の用途に用いられる他の幹細胞と共に混合物の形態で投与することができ、望ましくは、治療が必要な患者の疾患部位に直接生着または移植したり腹腔に直接移植または注入することが可能であるが、これに制限されない。また、上記投与は、カテーテルを用いた非外科的投与及び疾患部位切開後に注入または移植など、外科的投与方法がいずれも可能であるが、カテーテルを用いた非外科的投与方法がより好ましい。また、常法により非経口的に、例えば、直接病変に投与する以外に造血系幹細胞移植の一般的方法である血管内注入による移植も可能である。
【0037】
上記幹細胞の1日投与量は特にこれに制限されないが、一例として、1.0×10~1.0×1010細胞/kg体重を1回または数回に分けて投与することができ、他の例として、1.0×10~1.0×10細胞/kg体重を1回または数回に分けて投与することができる。しかし、有効成分の実際の投与量は治療しようとする疾患、疾患の重症度、投与経路、患者の体重、年齢及び性別などの種々の関連因子に照らして決定されなければならないと理解されるべきであり、従って、上記投与量は如何なる面でも本発明の範囲を限定するものではない。
【0038】
本発明の更に他の実施様態は、滑液膜組織及びヒドロゲルを含む間葉系幹細胞培養用組成物及び上記組成物を含む間葉系幹細胞培養用キットを提供する。
【0039】
上述した通り、滑液膜組織をヒドロゲル内に陥入させて培養する場合、上記滑液膜に由来した間葉系幹細胞を効果的に製造することができるため、上記滑液膜組織及びヒドロゲルを含む組成物は間葉系幹細胞培養用組成物として用いられる。
【0040】
また、間葉系幹細胞培養用キットは、上記間葉系幹細胞培養用組成物と上記間葉系幹細胞の培養に必要な溶液、装置などの多様な構成要素を含み得る。
【0041】
上記構成要素は、特にこれに制限されないが、一例として、テストチューブ、適切なコンテナ、反応緩衝液(pH及び緩衝液濃度は多様)、培養容器、培養用培地、滅菌水などになり得る。
【0042】
本発明の更に他の実施様態は、骨または軟骨損傷治療用薬学組成物の製造のための上記滑液膜由来の間葉系幹細胞の用途を提供する。
【0043】
薬学組成物の製造のための上記滑液膜由来の間葉系幹細胞は、許容される補助剤、希釈剤、担体などを混合することができ、その他の活性製剤と共に複合製剤として製造され、活性成分の相乗作用を有することができる。
【0044】
本発明の組成物、用途、治療方法で言及された事項は互いに矛盾しない限り、同様に適用される。
【発明の効果】
【0045】
本発明の製造方法を用いれば、滑液膜から幹細胞を効果的に抽出して得ることができ、このように得られた滑液膜由来の間葉系幹細胞は、骨または軟骨損傷を効果的に治療することができるため、骨または軟骨の損傷を治療する方法の開発に大きく寄与できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1a】滑液膜の切片を14日間培養した結果を示す顕微鏡写真である。
図1b】synMSCを継代15世代間、継代培養した結果を示す顕微鏡写真であり、Passage 1は継代1世代(P1)を示し、Passage 5は継代5世代(P5)を示し、Passage 15は継代15世代(P15)を示す。
図2a】synMSCの陽性エピトープに対する単クローン抗体で免疫染色した結果を示す写真である。
図2b】synMSCの陰性エピトープに対する単クローン抗体で免疫染色した結果を示す写真である。
図2c】synMSCの免疫染色時に発色された蛍光を定量分析した結果を示すグラフである。
図3a】synMSCを脂肪細胞に分化誘導した後、Oil Red O染色を行った結果を示す蛍光顕微鏡写真である。
図3b】synMSCから分化された脂肪細胞から測定されたOil Red O染色水準を定量分析した結果を示すグラフである。
図3c】synMSCを骨細胞に分化誘導した後、Alizarin Red S染色を行った結果を示す蛍光顕微鏡写真である。
図3d】synMSCから分化された骨細胞から測定されたAlizarin Red S染色水準を定量分析した結果を示すグラフである。
図3e】synMSCを骨細胞に分化誘導した後、ALP活性によるBCIP/NBTの発色水準を示す蛍光顕微鏡写真である。
図3f】synMSCから分化された骨細胞から測定されたALP活性を定量分析した結果を示すグラフである。
図4a】対照群であるBMSCsとP3 synMSCを対象にH&E染色及びalcian blue染色を行った結果を示す顕微鏡写真である。
図4b】BMSCsとP3 synMSCを対象にH&E染色水準を定量分析した結果を示すグラフである。
図4c】BMSCsとP3 synMSCを対象にalcian blue染色水準を定量分析した結果を示すグラフである。
図5a】P3 synMSC(対照群)、P3 synMSCから分化された軟骨細胞(比較群)及びBMP-7を用いてP3 synMSCから分化された軟骨細胞(実験群)から測定されたsGAGs(sufated glycosaminoglycan)水準を定量分析した結果を示すグラフである。
図5b】P3 synMSC(対照群)、P3 synMSCから分化された軟骨細胞(比較群)及びBMP-7を用いてP3 synMSCから分化された軟骨細胞(実験群)で発現された軟骨マーカータンパク質(SOX-9、アグリカン(aggrecan)及び第2型コラーゲン)の発現水準を測定した結果を示す電気泳動写真である。
図5c】P3 synMSC(対照群)、P3 synMSCから分化された軟骨細胞(比較群)及びBMP-7を用いてP3 synMSCから分化された軟骨細胞(実験群)で発現された軟骨マーカータンパク質(SOX-9、アグリカン(aggrecan)及び第2型コラーゲン)の発現水準を定量分析した結果を示すグラフである。
図6a】PLGAスキャフォールドを用いてP3 synMSCを培養した後、生存細胞数の変化を分析した結果を示すグラフである。
図6b】PLGAスキャフォールドを用いてP3 synMSCを培養する時、培養期間の経過による形態変化を示す走査電子顕微鏡写真である。
図7】PLGAスキャフォールド(PLGA scaffold)、PLGAスキャフォールド上にsynMSCが培養された培養物(PLGA/SynMSC)及びBMP-7が結合したPLGAスキャフォールド上にsynMSCが培養された培養物(PLGA/SynMSC/BMP-7)が移植されたウサギ関節の大腿骨をH&E染色、Safranin-O染色及び第2型コラーゲンの抗体を用いた免疫染色を行った結果を示す顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、本発明を、実施例を通じてより詳細に説明する。ただし、下記実施例は、本発明を例示するものに過ぎず、本発明の内容が下記実施例に限定されるものではない。
【0048】
実施例1:滑液膜由来の間葉系幹細胞の収得
ウサギ(ニュージーランド白ウサギ、6-48週齢、雄性)の両方の膝関節の膝蓋上包(suprapatellar pouch)から滑液膜を得た。得られた滑液膜を細切りにして滑液膜の切片を得た後、これをPBSで洗浄した。上記洗浄された滑液膜の切片を100μg/mlアミノメチル安息香酸が含まれ、1unit/mlのトロンビンが溶解したDMEM培地に懸濁させ、これを40mmol/L塩化カルシウムが含まれ、0.5%フィブリノーゲンが溶解したDMEM培地と1:1(v/v)で混合してヒドロゲルを形成した。約200mgの滑液膜の切片を含む上記ヒドロゲル10mlを100mm培養容器に入れ、37℃で2時間加湿チャンバで培養した後、これに10mlの1次成長培地(90% DMEM-Ham's F12, 10% fetal bovine serum, 10 ng/ml epidermal growth factor (EGF), 2 ng/ml basic fibroblast growth factor (bFGF), 10 ng/ml insulin-like growth factor (IGF)及び10 μg/ml gentamycin)を加え、37℃で14日間加湿チャンバで培養した。培養が終了した後、培地を除去し、5000unitsウロキナーゼと30%仔ウシ血清を含むDMEM培地を加えてヒドロゲルを形成するフィブリンを分解した後、これを遠心分離(150g,5分)し、滑液膜由来の間葉系幹細胞(synMSC)を得た(図1a)。
【0049】
図1aは、滑液膜の切片を14日間培養した結果を示す顕微鏡写真である。
【0050】
上記得られたsynMSCをPBSで2回洗浄し、2次成長培地(10% v/v FBS with 10 U/ml antibiotics, 10 ng/ml EGF, and 2 ng/ml bFGF in DMEM/Ham’s F-12 (1,1) mixture)に懸濁させた後、7日間継代培養して80~90%の飽和度に到達する時に培養を終了した。その後、上記培養物に2.5%(w/v)トリプシン-EDTA溶液を処理して細胞を分離した後、遠心分離して継代1世代(P1)のsynMSCを得た。その後、同一の方法を反復遂行して5つの相違する系列の継代15世代(P15)synMSCを得た(図1b)。
【0051】
図1bは、synMSCを継代15世代間、継代培養した結果を示す顕微鏡写真であり、Passage 1は継代1世代(P1)を示し、Passage 5は継代5世代(P5)を示し、Passage 15は継代15世代(P15)を示す。
【0052】
図1bで見られるように、滑液膜由来の間葉系幹細胞(synMSC)は、15回継代培養しても形態的特性を維持することが分かった。
【0053】
実施例2:synMSCの免疫表現型分析
実施例1で得られた多様な継代世代のsynMSCの中で継代3世代(P3)のsynMSCを対象に、細胞表面のエピトーププロファイルを分析した。この時、エピトープではCD29、CD34、CD44、CD45、CD73及びCD90を対象とした。
【0054】
概ね、96ウェルプレートにウェル当たり1×10個のP3 synMSCを分注して培養し、培養が終了した後、1%BSAを含むPBST(0.05%Tween20を含むPBS)を加えてブロッキングした。続いて、上記エピトープに対するそれぞれの単クローン抗体(抗マウスCD29、抗ウサギCD44、抗ヒトCD73PE-Cyanine7、抗ヒトCD90PE-CyTM7、抗CD34 PerCPCy5.5及び抗ウサギCD45)を加えて反応させた。反応が終了した後、細胞をPBSで3回洗浄し、1%BSA及び2次抗体(goat anti-mouse IgG labeled with Alexa Fluor 488, 1:100)を加えた後、暗室で追加で反応させた。反応が終了した後、細胞を再度PBSで3回洗浄し、DAPI(Molecular probes, OR, USA)を加えた後、室温の暗室でカウンタ染色を行った。染色が終了した後、 Operetta174; High Content Imaging System(PerkinElmer, MA, USA)でスキャンし、蛍光強度を定量分析した(図2a~2c)。この時、対照群としては、エピトープに対する単クローン抗体の代わりにAlexa Fluor488塩素抗マウスIgG(H+L)を処理したものを用いた。
【0055】
図2aは、synMSCの陽性エピトープに対する単クローン抗体で免疫染色した結果を示す写真であり、図2bはsynMSCの陰性エピトープに対する単クローン抗体で免疫染色した結果を示す写真であり、図2cはsynMSCの免疫染色時に発色された蛍光を定量分析した結果を示すグラフである。
【0056】
図2a~2cで見られるように、synMSCの細胞表面にはCD29、CD44、CD73及びCD90が発現され、CD34及びCD45は発現されていないことを確認した。
【0057】
実施例3:synMSCの分化能分析
実施例3-1:脂肪細胞への分化
脂肪分化誘導培地(0.5mM isobutyl-methylxanthin, 1 μM dexamethasone, 10 μM insulin, 200 μM indomethacin, 1% antibiotic in DMEM)が入れられた48ウェルプレートの各ウェルにウェル当たり1×10個のP3 synMSCを分注して単層で8日間培養して脂肪細胞に分化を誘導した。対照群としては、基礎培地(10% FBS in DMEM)で培養したものを用いた。培養が終了した細胞に4%パラホルムアルデヒドを処理して固定させ、脂肪細胞の特徴である細胞内脂質液胞を検出するためにOil Red O染色を行った後、蛍光顕微鏡で観察した(図3a)。その後、染料の含量を定量分析するために染色された細胞にイソプロパノールを加えて染料を抽出し、540nmにおける吸光度を測定した(図3b)。
【0058】
図3aは、synMSCを脂肪細胞に分化誘導した後、Oil Red O染色を行った結果を示す蛍光顕微鏡写真であり、図3bは、synMSCから分化された脂肪細胞から測定されたOil Red O染色水準を定量分析した結果を示すグラフである。
【0059】
図3a及び3bで見られるように、synMSCを脂肪細胞に分化誘導すれば、8日後に細胞内で脂質液泡が検出され、これは、Oil Red O染色により検証された。
【0060】
したがって、synMSCは脂肪細胞への分化能を示すことが分かった。
【0061】
実施例3-2:骨細胞への分化
骨形成誘導培地(100 nM dexamethasone, 50 μg/ml ascorbate-2-phosphate, 10mM β-glycerophosphate, 1% antibiotic suspended in DMEM)が入れられた48ウェルプレートの各ウェルにウェル当たり1×10個のP3 synMSCを分注して14日間培養して骨細胞に分化を誘導した。対照群としては、基礎培地(10% FBS in DMEM)で培養したものを用いた。培養が終了した細胞に4%パラホルムアルデヒドを処理して固定させ、ALP(alkaline phosphatase)の基質であるBCIP/NBT(Sigma Aldrich, MO, USA)を加えて反応させた。反応が終了した後、骨細胞の特徴である石灰質を検出するためにAlizarin Red S染色を行った後、蛍光顕微鏡で観察し、その染色水準を定量分析した(図3c及び3d)。
【0062】
図3cは、synMSCを骨細胞に分化誘導した後、Alizarin Red S染色を行った結果を示す蛍光顕微鏡写真であり、図3dは、synMSCから分化された骨細胞から測定されたAlizarin Red S染色水準を定量分析した結果を示すグラフである。
【0063】
図3c及び3dで見られるように、synMSCを骨細胞に分化誘導すれば、14日後に細胞内で石灰質が検出され、これは、Alizarin Red S染色により検証された。
【0064】
また、図3eは、synMSCを骨細胞に分化誘導した後、ALP活性によるBCIP/NBTの発色水準を示す蛍光顕微鏡写真であり、図3fは、synMSCから分化された骨細胞から測定されたALP活性を定量分析した結果を示すグラフである。
【0065】
図3e及び3fで見られるように、synMSCを骨細胞に分化誘導したら、14日後に骨分化マーカーとして知られているALPの活性が約3倍増加することを確認した。
【0066】
従って、synMSCは骨細胞への分化能を示すことが分かった。
【0067】
実施例3-3:軟骨細胞への分化
軟骨誘導培地(1% calf serum, 1× ITS, 0.1mM dexamethasone, 50 μg/ml ascorbate-2-phosphate suspended in DMEM)が入れられたポリ-D-リシンがコーティングされた6ウェル培養用プレートの各ウェルにウェル当たり1×10個のP3 synMSCを分注して2週間培養して軟骨細胞に分化を誘導した。培養2日目にP3 synMSCからスフェロイドが形成され、2日置きに培地を交換した。培養が終了した後、培養産物であるスフェロイドを得、これに4%パラホルムアルデヒドを2時間処理して固定させた。続いて、遠心分離(300g,5分)してスフェロイドを得、得られたスフェロイドをPBSで3回洗浄した後、50~100%に増加した含量のエタノール溶液を順次処理してスフェロイドを脱水させた。その後、上記スフェロイドをパラフィンに包埋させ、4μmの厚さの薄片を得た後、H&E染色及びalcian blue染色を行った。核部位はnuclearfast redで対照染色した(図4a~4c)。この時、対照群としては、BMSCs(bone marrow derived stem cells)を同一条件で分化誘導した結果物を用いた。
【0068】
図4aは、対照群であるBMSCsとP3 synMSCを対象にH&E染色及びalcian blue染色を行った結果を示す顕微鏡写真であり、図4bは、BMSCsとP3 synMSCを対象にH&E染色水準を定量分析した結果を示すグラフであり、図4cは、BMSCsとP3 synMSCを対象にalcian blue染色水準を定量分析した結果を示すグラフである。
【0069】
図4a~4cで見られるように、同一の条件で軟骨分化を行う場合、対照群であるBMSCsから分化された軟骨細胞よりもP3 synMSCから分化された軟骨細胞の水準が顕著に高い水準を示すことを確認した。特に、H&E染色を行った結果、BMSCsから分化された軟骨細胞よりP3 synMSCから分化された軟骨細胞が約9倍高い水準を示し、alcian blue染色を行った結果、BMSCsから分化された軟骨細胞よりP3 synMSCから分化された軟骨細胞が約13倍高い水準を示すことを確認した。
【0070】
したがって、synMSCは軟骨細胞への分化能を示すことが分かった。
【0071】
実施例3-4:軟骨細胞への分化に及ぼすBMP-7の効果
実施例3-4-1:BMP-7を用いたsynMSCの軟骨細胞分化誘導
BMP-7(50ng/ml)が添加された軟骨誘導培地を用いる以外は、上記実施例3-3と同様にP3 synMSCから軟骨細胞の分化を誘導した。この時、対照群としては、軟骨誘導培地ではなく基礎培地(10% FBS in DMEM)を用いた培養物を用い、比較群としては、上記実施例3-3と同様にP3 synMSCから軟骨細胞の分化を誘導したものを用いた。
【0072】
実施例3-4-2:SGAGs(sulfated glycosaminoglycan)含量分析
上記実施例3-4-1で得られた対照群、比較群及び実験群を対象にsGAGs(sufated glycosaminoglycan)を定量分析した。
【0073】
概ね、各試料の細胞抽出物にBlyscan染料を加え、振盪条件で30分間反応させた後、遠心分離(12,000rpm,10分)して沈殿物を得た。得られた沈殿物に解離試薬(dissociation reagent)を加えて懸濁液を得、656nmで吸光度を測定した(図5a)。
【0074】
図5aは、P3 synMSC(対照群)、P3 synMSCから分化された軟骨細胞(比較群)及びBMP-7を用いてP3 synMSCから分化された軟骨細胞(実験群)で測定されたsGAGs(sufated glycosaminoglycan)水準を定量分析した結果を示すグラフである。
【0075】
図5aで見られるように、P3 synMSCから分化された軟骨細胞(比較群)に比べてBMP-7を用いてP3 synMSCから分化された軟骨細胞(実験群)で顕著に高い水準のsGAGSが検出されることを確認した。
【0076】
実施例3-4-3:軟骨マーカーの発現水準分析
上記実施例3-4-1で得られた対照群、比較群及び実験群を対象に軟骨マーカータンパク質(SOX-9、アグリカン(aggrecan)及び第2型コラーゲン)の発現水準をRT-PCRを用いて分析した。
【0077】
概ね、各試料の細胞を破砕し、Trizol試薬(Invitrogen,CA)を用いてそれぞれの総RNAを抽出した。抽出されたそれぞれの総RNAをTOPscriptTM One-step RT PCR kit(Enzynomics, Daejeon, Korea)に適用してそれぞれのcDNAを合成した。合成されたそれぞれのcDNAを鋳型とし、下記プライマーを用いたPCRを行ってそれぞれの増幅産物を得、これらの水準を定量分析した(図5b及び5c)。この時、内部対照群としては、GAPDHを用いた。
【0078】
【0079】
図5bは、P3 synMSC(対照群)、P3 synMSCから分化された軟骨細胞(比較群)及びBMP-7を用いてP3 synMSCから分化された軟骨細胞(実験群)で発現された軟骨マーカータンパク質(SOX-9、アグリカン(aggrecan)及び第2型コラーゲン)の発現水準を測定した結果を示す電気泳動写真であり、図5cは、P3 synMSC(対照群)、P3 synMSCから分化された軟骨細胞(比較群)及びBMP-7を用いてP3 synMSCから分化された軟骨細胞(実験群)で発現された軟骨マーカータンパク質(SOX-9、アグリカン(aggrecan)及び第2型コラーゲン)の発現水準を定量分析した結果を示すグラフである。
【0080】
図5b及び5cで見られるように、P3 synMSCから分化された軟骨細胞(比較群)に比べてBMP-7を用いてP3 synMSCから分化された軟骨細胞(実験群)で軟骨マーカータンパク質(SOX-9、アグリカン(aggrecan)及び第2型コラーゲン)が顕著に高い水準に発現されることを確認した。
【0081】
実施例4:細胞増殖に及ぼすPLGAスキャフォールドの効果
実施例4-1:PLGAスキャフォールドの製作
PLGAをジクロロメタン(DCM)に溶解させて得た20%(w/v)重合体溶液を17-gauge針が備えられた10ml注射器に入れて湿式放射した後、ローラを用いてPLGA繊維を得た。得られたPLGA繊維を48時間乾燥させた後、-70℃で3日間真空乾燥させて残留溶媒を除去した。
【0082】
上記得られたPLGA繊維を用いて3次元形態のPLGAスキャフォールドを形成し、これを1.0M PBS(pH7.4)に浸漬し、37℃で60rpmで攪拌してPLGAが分解された酸性副産物を除去した。酸性副産物が除去されたPLGAスキャフォールドをPBSで3回洗浄し、48時間真空乾燥し、P3 synMSC培養用3次元スキャフォールドを製作した。
【0083】
実施例4-2:PLGAスキャフォールドの効果
上記実施例4-1で製作したPLGAスキャフォールドにエタノールを処理して湿潤させた後、1個当たり1×10個のP3 synMSCを接種し、PBSで2回洗浄した後、2次成長培地で7日間培養した。培養が終了した後、 colorimetric CCK-8 assay(Dojindo Molecular Technologies Inc., MD, USA)を用いて生存細胞数を分析し、走査電子顕微鏡(SEM)で形態を分析した(図6a及び6b)。この時、対照群としては、同一の条件でP3 synMSCを24ウェルプレートで培養したものを用いた。
【0084】
図6aは、PLGAスキャフォールドを用いてP3 synMSCを培養した後、生存細胞数の変化を分析した結果を示すグラフであり、図6bは、PLGAスキャフォールドを用いてP3 synMSCを培養する時、培養期間の経過による形態変化を示す走査電子顕微鏡写真である。
【0085】
図6a及び6bで見られるように、24ウェルプレートよりはPLGAスキャフォールドを用いる場合、P3 synMSCの培養効率が増加することを確認したが、これは、経時によりPLGAスキャフォールドに対するP3 synMSCの付着率が増加し、これにより増殖率が増加したためであると分析された。
【0086】
実施例4-3:BMP-7が結合したPLGAスキャフォールドの製作
組換えヒトBMP-7タンパク質(3μg)を10μLのPBSに溶解させた後、アセトン/エタノール(9:1)溶媒で0.2%(w/v)PLGAと共に乳化させ、BMP-7の油中水(water-in-oil)懸濁液(1:100 w/o ratio)を得、これを17-gauge針が備えられた10ml注射器に入れて電気噴霧法(10 kV voltage, 0.033 ml/min flow rate)でPLGA繊維に放射し、PLGA繊維状にカプセル化されたBMP-7が結合した形態のPLGAスキャフォールドを製作した。
【0087】
実施例5:synMSCを用いた軟骨損傷の治療
上記実施例4-1で製作したPLGAスキャフォールド(PLGA scaffold)、実施例4-2で製作したPLGAスキャフォールド上にsynMSCが培養された培養物(PLGA/SynMSC)及び実施例4-3で製作したBMP-7が結合したPLGAスキャフォールド上にsynMSCが培養された培養物(PLGA/SynMSC/BMP-7)をそれぞれ準備し、これらを用いてそれぞれ1mmの厚さと10mm長さのインプラントを製作した。
【0088】
一方、平均体重3.2kgである4月齢の雄性ニュージーランド白ウサギにキシラジン(5mg/kg)を筋肉内注射して全身麻酔し、膝関節を切開して膝蓋骨を露出させた。露出された膝蓋骨から約1mmの厚さの軟骨を除去し、歯科用ドリルで大腿骨の溝に三つの骨軟骨欠陥(直径2mm及び深さ3mm)を生成した。上記生成された欠陥部位に先に製作したそれぞれのインプラントを移植して手術を終了し、トラマドール(5mg/kg)及びオキシテトラサイクリン(20mg/kg)を注射した後、一般的な条件で飼育した。
【0089】
6週間後、それぞれのウサギを犠牲にして、これらの膝部位から大腿骨を摘出した後、10%中性緩衝ホルマリン(pH 7.4, BBC Biochemical, Mount Vernon, USA, WA)溶液を用いて5日間固定した。固定された大腿骨に0.5%EDTA溶液を処理して石灰質を除去した後、パラフィンに包埋した。包埋された大腿骨を細切りにして4μm厚さの組織薄片を得、得られた組織薄片を対象にH&E染色及びSafranin-O染色を行った(図7)。
【0090】
また、上記組織薄片を3%過酸化水素メタノール溶液に30分間浸漬して内因性ペルオキシダーゼの活性を抑制した後、これにproteinase K(Sigma-Aldrich, MO, USA)を加え、37℃で10分間反応させた。反応が終了した後、上記組織切片を第2型コラーゲンの抗体(Calbiochem, CA, USA, dilution 1:100)で染色し、Vectastain Elite ABC-Peroxidase kit (Vector Laboratories Inc., CA, USA)を用いた免疫染色を行った。抗体反応はVector SG (Vector Laboratories Inc., CA, USA)を用いて発色させ、nuclear fast solutions (Vector Laboratories Inc., CA, USA)を用いて対照染色した(図7)。
【0091】
図7は、PLGAスキャフォールド(PLGA scaffold)、PLGAスキャフォールド上にsynMSCが培養された培養物(PLGA/SynMSC)及びBMP-7が結合したPLGAスキャフォールド上にsynMSCが培養された培養物(PLGA/SynMSC/BMP-7)が移植されたウサギ関節の大腿骨をH&E染色、Safranin-O染色及び第2型コラーゲンの抗体を用いた免疫染色を行った結果を示す顕微鏡写真である。
【0092】
図7で見られるように、損傷した部位を治療しない対照群の場合には、軟骨層が再生されず、単に繊維組織のみで覆われており、Safranin-O染色が行われなかった。しかし、PLGAスキャフォールドインプラントが移植された部位は軟骨層が形成されたが、軟骨細胞が少なく含まれて薄い軟骨層が形成され、プロテオグリカンも少量で形成された。また、PLGAスキャフォールド上にsynMSCが培養された培養物インプラントが移植された部位は細胞水準が増加し、表面に軟骨が再生されることを確認した。最後に、BMP-7が結合したPLGAスキャフォールド上にsynMSCが培養された培養物インプラントが移植された部位は厚い軟骨層が再生され、第2型コラーゲンも多量に存在することを確認した。
【0093】
したがって、上記synMSCは、損傷した骨及び軟骨を再生する治療効果を示し、このような治療効果はBMP-7により向上することが分かった。
【0094】
以上の説明から、本発明が属する技術分野の当業者であれば、本発明がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施されうることが理解できるだろう。これに関連し、以上で記述した実施例はあくまで例示的なものであり、限定的なものでないことを理解すべきである。本発明の範囲は上記詳細な説明よりは、後述する特許請求の範囲の意味及び範囲、そしてその等価概念から導かれるあらゆる変更または変形された形態が本発明の範囲に含まれるものと解釈すべきである。
図1a
図1b
図2a
図2b
図2c
図3a
図3b
図3c
図3d
図3e
図3f
図4a
図4b
図5a
図5b
図5c
図6a
図6b
図7
【配列表】
2022513329000001.app
【国際調査報告】