(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-07
(54)【発明の名称】シトラマル酸、シトラコン酸又は2-オキソ酪酸からのL-2-アミノ酪酸の生成
(51)【国際特許分類】
C12P 13/04 20060101AFI20220131BHJP
C12P 1/00 20060101ALI20220131BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20220131BHJP
C12N 1/21 20060101ALN20220131BHJP
C12N 5/10 20060101ALN20220131BHJP
C12N 1/19 20060101ALN20220131BHJP
【FI】
C12P13/04
C12P1/00 Z
C12N15/09 Z
C12N1/21
C12N5/10
C12N1/19
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021543601
(86)(22)【出願日】2019-10-04
(85)【翻訳文提出日】2021-06-01
(86)【国際出願番号】 IB2019058461
(87)【国際公開番号】W WO2020070699
(87)【国際公開日】2020-04-09
(31)【優先権主張番号】201841037493
(32)【優先日】2018-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521149688
【氏名又は名称】アンナ・ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】アキラ・ティー
(72)【発明者】
【氏名】パドマプリヤ・ジー
(72)【発明者】
【氏名】アニタ・ジャネト・ローシュニー・ワイ
(72)【発明者】
【氏名】タミルセルヴァン・ジェー
(72)【発明者】
【氏名】ニキル・サンギス
(72)【発明者】
【氏名】マハラクシュミ・ナタラジャン
(72)【発明者】
【氏名】パンディラジ・スップラム
(72)【発明者】
【氏名】ラマリンガム・エス
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AE03
4B064CA01
4B064CA19
4B064CA21
4B064CA31
4B065AA01X
4B065AA23X
4B065AA26X
4B065AA72X
4B065AA90X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA27
(57)【要約】
本発明は、シトラマル酸又はシトラコン酸のような容易に利用できる経済的な基質並びにLeuCD、LeuB、及びValDH、又はIlvEのような酵素からの、遺伝子操作した株を使用した無細胞系及び生体内変換方法による、重要な薬剤中間体、L-2-アミノ酪酸(L-2-ABA)の調製に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無細胞系において、シトラマル酸又はシトラコン酸から選択される基質の酵素的生体内変換によってL-2-アミノ酪酸を生成する方法であって、酵素が、イソプロピルリンゴ酸イソメラーゼ、イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼ、及びバリンデヒドロゲナーゼである方法。
【請求項2】
前記酵素が、粗製若しくは精製された形態又は固定化された形態である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の酵素的生体内変換によってL-2-アミノ酪酸を生成する方法であって、
a)酵素LeuCD、LeuB、及びValDHを発現させるために、leu B、leu CD、及びvalDHを組み込むように微生物宿主細胞を形質転換する工程、
b)宿主細胞を採取し、溶解して、粗製ライセートを得る工程、
c)任意選択で、粗製ライセートから酵素を分離し、精製し、且つ/又は固定化する工程、
d)7~9のpHで、粗製ライセート若しくは精製された酵素、又は固定化酵素を使用して、シトラマル酸又はシトラコン酸から選択される基質を変換する工程
を含む方法。
【請求項4】
MnCl
2、KCl、NAD
+、アンモニウム塩、及び緩衝液等のコファクターを更に含んでいてもよい、請求項1又は3に記載の方法。
【請求項5】
L-2-アミノ酪酸生成が、12~18時間で少なくとも80g/Lである、請求項1から4に記載の方法。
【請求項6】
基質の好適な宿主の全細胞内又は透過処理された細胞内での全細胞生体内変換によってL-2-アミノ酪酸を生成する方法であって、基質がシトラマル酸又はシトラコン酸から選択され、酵素がイソプロピルリンゴ酸イソメラーゼ、イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼ及びアミノ酸デヒドロゲナーゼ、又はトランスアミナーゼBである、方法。
【請求項7】
アミノ酸デヒドロゲナーゼが、バリンデヒドロゲナーゼから選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
請求項6に記載の全細胞内又は透過処理された細胞内での全細胞生体内変換によってL-2-アミノ酪酸を生成する方法であって、
a)valDHを組み込むように微生物宿主を形質転換する工程、
b)任意選択で、leu B若しくはleu CD又は両方を組み込む工程、
c)シトラマル酸又はシトラコン酸から選択される基質を加える工程、及び
d)L-2-アミノ酪酸を得るために、好適な培地中で前記酵素を発現するために20℃~37℃の温度で宿主を培養する工程
を含む方法。
【請求項9】
形質転換の工程が、ilvD及びilvIHをノックアウトする工程を更に含む、請求項6又は請求項8に記載の方法。
【請求項10】
形質転換の工程が、ackA、tdcD、及びptaをノックアウトする工程を更に含む、請求項6又は請求項8に記載の方法。
【請求項11】
好適な宿主が、大腸菌、乳酸菌、及びクロストリジウム種菌、並びに酵母等の、細菌及び真核生物である、請求項6又は請求項8に記載の方法。
【請求項12】
L-2-アミノ酪酸生成が、15~20時間で少なくとも20g/L又は少なくとも40g/Lである、請求項6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子操作株を使用した無細胞系及び生体内変換の方法による、重要な薬剤中間体、L-2-アミノ酪酸(L-2-ABA)の調製、並びにその費用効果の高い適用に関する。
【背景技術】
【0002】
L-2-ABAは、L-ホモアラニンとしても知られる非天然4C脂肪族アミノ酸であり、重要な薬剤、すなわち抗てんかん薬レベチラセタム、ブリバラセタム、及び抗結核薬エタンブトールの合成に重要なキラル中間体である。L-2-ABAは化学的方法によって生成されたが、そのような方法は望ましくないラセミ混合物をもたらす。L-2-ABAはまた、グルコース発酵によっても生成され、そのような方法では、生産性レベルが5g/lと低い。
【0003】
EP2539444は、10g/Lの2-ケト酪酸を加えたM9培地での野生型大腸菌(E. coli)BW25113培養物の播種、及び37℃で24時間のインキュベーションを開示している。24時間後、HPLC分析から、182mg/lのL-ホモアラニンしか生成されなかったことが示された。分岐鎖アミノ酸アミノトランスフェラーゼIlvEをBW25113中でクローン化し、過剰発現させ、これによってL-ホモアラニンの生成は1.2g/Lまで増加した。10g/Lアミノドナーグルタミン酸の追加供給によって、L-ホモアラニン力価は更に3.2g/Lまで増加した。この実験によって、IlvE2等のトランスアミナーゼがケト酪酸をL-ホモアラニンへとアミノ化することができたことが実証された。しかしながら、アミノ基転移は可逆的反応過程であるため、反応均衡を制御するためには高濃度のグルタミン酸を必要とした。そのような極端な条件下であっても、2-ケト酪酸からのL-ホモアラニンへのアミノ基転移の変換率は32%に過ぎなかった。
【0004】
CN109777788は、ロイシンデヒドロゲナーゼの酵素活性を発現させるための、ロイシンデヒドロゲナーゼ変異体の一種及び組換え細菌大腸菌BL21-pET28a-BtLDH007を開示している。大腸菌BL21-pET28a-BtLDH007が、L-2-アミノ酪酸を生成する2-ケト酪酸の形質転換のために使用された。1Lの形質転換システムにおいて、0.015~0.02mol/LのNaH2PO4-Na2HPO4緩衝液(pH8.0)に2-ケト酪酸80g/Lを溶解し、20g/Lの湿潤細胞塊、10g/Lの濃度のギ酸アンモニウム、1.0g/Lの濃度のNAD+、1500U/Lまでのギ酸デヒドロゲナーゼ酵素が加えられ、4mol/L NaOH溶液でpH8.0に調節し、30℃の温度、3vvmの通気、撹拌速度300rpmが用いられている。
【0005】
CN107012178は、アラニンデヒドロゲナーゼ及びギ酸デヒドロゲナーゼの助けにより2-ケト酪酸を触媒して、L-2-アミノ酪酸を生成することを開示している。
【0006】
EP0983372は、L-2-アミノ酪酸を作製する方法であって、a)L-スレオニンを、2-ケト酪酸の生成に適切な条件下でスレオニンデアミナーゼと反応させる工程、b)2-ケト酪酸、L-アスパラギン酸、及びトランスアミナーゼ酵素を、オキサロ酢酸及びL-2-アミノ酪酸を生成するのに適切な条件下で反応させる工程、c)オキサロ酢酸をピルビン酸に形成させる工程、d)ピルビン酸を、アセト乳酸を生成するのに適切な条件下でアセト乳酸シンターゼ酵素と反応させる工程、e)アセト乳酸をアセトインに形成させる工程、及びf)アセトイン及びL-2-アミノ酪酸を別々に回収する工程を含む方法を開示している。
【0007】
CN105331650は、グリセロールデヒドロゲナーゼとL-アミノ酸デヒドロゲナーゼとが段階的に反応する組換え大腸菌によって、α-アミノ酪酸及びジヒドロキシアセトンを共生成する方法を開示している。この方法は、グリセロールデヒドロゲナーゼ遺伝子とL-アミノ酸デヒドロゲナーゼ遺伝子とを通した組換え共発現ベクターを確立し、遺伝子組換え細菌、大腸菌(Escherichia coli)へ変換し;一方では、L-スレオニンデアミナーゼを発現させる組換え大腸菌を確実に樹立し;大腸菌で、効率的に共発現させたグリセロールデヒドロゲナーゼ及びL-アミノ酸デヒドロゲナーゼによってコファクターの循環を促進することができ、いかなる外因性のコファクターも加える必要はなく、コファクター循環式再生系を使用して、安価な基質、すなわちL-スレオニンデアミナーゼ及びグリセリンを介して付加価値の高いα-アミノ酪酸及びジヒドロキシアセトンを共生成することができることを特徴としている。5L発酵タンクでのα-アミノ酪酸の収量は、41.2g/Lに達している。
【0008】
注釈:本特許は、コファクターNADHを再循環させるために、グリセロールデヒドロゲナーゼを利用すること提示する。コファクターを再循環させるために、グリセロールデヒドロゲナーゼのために別の基質を追加しなければならない場合、方法の費用効果は悪くなる。
【0009】
CN102517351、CN102212567B、及びCN109679978は、スレオニンからL-2-アミノ酪酸を生成する方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】EP2539444
【特許文献2】CN109777788
【特許文献3】CN107012178
【特許文献4】EP0983372
【特許文献5】CN105331650
【特許文献6】CN102517351
【特許文献7】CN102212567B
【特許文献8】CN109679978
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、従来技術で直面する問題を解決するものであり、L-2-ABAを、酵素又は組換え細胞に基づく生成方法を使用することによって、より安価な基質を使用することによる無細胞系及び生体内変換プロセスによって生成するものである。より安価な基質からの価値の高い重要な薬剤中間体L-2-ABAの生成は、大きな経済的価値をもたらす。
【0012】
L-2-ABAは、基質の酵素的変換を使用して生成されてきたものの、その方法は効率が悪く、高価で大量利用が容易ではない出発物質を使用する。
【0013】
従って、高収量のL-2-ABAを生成する、効率的で費用がより安価である方法が依然として必要とされている。
【0014】
よって、本発明者は、非常に効率的な酵素により触媒される酸化還元が平衡である経路を介するL-2-ABAの生成のためにより安価な基質を利用する、無細胞系及び全細胞生体内変換を使用する実現可能な技術を提供する。
【0015】
本発明の目的は、高収量のL-2-ABAを生成する、効率的で費用効果の高い方法を提供することである。
【0016】
本発明の別の目的は、シトラマル酸又はシトラコン酸等のより安価な基質を使用してL-2-ABAを生成する方法を提供することである。
【0017】
本発明の更なる目的は、無細胞系における酵素的生体内変換によって、シトラマル酸又はシトラコン酸等のより安価な基質を使用してL-2-ABAを生成する方法を提供することである。
【0018】
本発明の更に別の目的は、効率的な酵素を使用してL-2-ABAを生成する方法を提供することである。
【0019】
本発明の更に別の目的は、遺伝子改変株を使用する生体内変換によって、重要な薬剤中間体L-2-ABAを調製することである。
【0020】
本発明の更に別の目的は、ラージスケールの生成及び工業生産まで、容易に規模の変更が可能である、L-2-ABAを生成する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
一態様において、本発明は、無細胞系において、シトラマル酸又はシトラコン酸から選択される基質からの酵素的生体内変換によって高収量のL-2-ABAを生成する方法を提供する。
【0022】
別の態様において、本発明は、酵素、すなわちイソプロピルリンゴ酸イソメラーゼ、イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼ、アミノ酸デヒドロゲナーゼ/トランスアミナーゼBを使用する方法を提供する。
【0023】
更なる態様において、本発明は、無細胞系によって高収量のL-2-ABAを生成する方法であって、
a)酵素LeuCD、LeuB、及びValDHを発現させるために、leu B、leu CD、及びvalDHを組み込むように微生物宿主細胞を形質転換する工程、
b)宿主細胞を採取し、溶解して、粗製ライセートを得る工程、
c)任意選択で、粗製ライセートから酵素を分離し、精製し、且つ/又は固定化する工程、
d)7~9のpHで、粗製ライセート若しくは精製された酵素、又は固定化酵素を使用してシトラマル酸又はシトラコン酸から選択される基質を変換する工程
を含む方法を提供する。
【0024】
別の態様において、本発明は、無細胞系によって高収量のL-2-ABAを生成する方法であって、
a)酵素LeuCD、LeuB、及びIlvEを発現させるために、leu B、leu CD、及びilvEを組み込むように微生物宿主細胞を形質転換する工程、
b)宿主細胞を採取し、溶解して、粗製ライセートを得る工程、
c)任意選択で、粗製ライセートから酵素を分離し、精製し、且つ/又は固定化する工程、
d)7~9のpHで、粗製ライセート若しくは精製された酵素、又は固定化酵素を使用してシトラマル酸又はシトラコン酸から選択される基質を変換する工程
を含む方法を提供する。
【0025】
更に別の態様において、本発明は、シトラマル酸、シトラコン酸、又は2-オキソ酪酸から選択される基質から、好適な宿主における全細胞生体内変換によって高収量のL-2-ABAを生成する方法を提供する。
【0026】
更に別の態様において、本発明は、シトラマル酸、シトラコン酸、又は2-オキソ酪酸から選択される基質から、透過処理された細胞である好適な宿主中における全細胞生体内変換によって高収量のL-2-ABAを生成する方法を提供する。
【0027】
更に別の態様において、本発明は、全細胞又は透過処理された細胞中での生体内変換を含む、L-2-ABAを生成する方法であって、
a)valDH又はilvEを組み込むように微生物宿主を形質転換する工程、
b)任意選択で、leu B又はleu CDを組み込む工程、
b)シトラマル酸若しくはシトラコン酸又は2-オキソ酪酸から選択される基質を加える工程、及び
c)L-2-ABAを得るために、好適な培地中で前記酵素を発現させるために20℃~37℃の温度で宿主を培養する工程
を含む方法提供する。
【0028】
更に別の態様において、本発明は、シトラマル酸、シトラコン酸、又は2-オキソ酪酸から選択される基質から、好適な宿主において酵素的生体内変換によって、全細胞又は透過処理された細胞中で高収量のL-2-ABAを生成する方法であって、ilvD及びilvIHをノックアウトする工程を含み得る方法を提供する。
【0029】
更に別の態様において、本発明は、シトラマル酸、シトラコン酸、又は2-オキソ酪酸から選択される基質から、好適な宿主における酵素的生体内変換によって、全細胞又は透過処理された細胞中で高収量のL-2-ABAを生成する方法であって、ackA、tdcD、及びptaをノックアウトする工程を含み得る方法を提供する。
【0030】
本発明をより完全に理解するために、ここで、添付図面と併せて以下の説明を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】スレオニンからの調製(a)と比較して、代替のイソロイシン生合成経路によるL-2-アミノ酪酸の調製(b)の例示的な実施形態を示す図である。
【
図2】L-2-アミノ酪酸の調製のための無細胞酵素的生体内変換の例示的な実施形態を示す図である。
【
図3】L-2-アミノ酪酸の調製のための全細胞酵素的生体内変換の例示的な実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本開示は、本開示において明確に例示されていない、本開示の考えられる実施形態が多数あり得るように、本開示は、説明した特定の系及び方法論に限定されないことが理解されるであろう。説明の中で使用される専門用語は、特定の変形又は実施形態を説明する目的のためのものに過ぎず、本開示の範囲を限定することを意図するものではないことも、理解されるべきである。
【0033】
本発明は、シトラコン酸又はシトラマル酸のようなより安価な基質を高価な生成物(L-2-ABA)に変換する一連の反応を行う酵素経路の構築に関するものであり、その結果、方法に付加価値を与えると考えられる。
【0034】
本発明において、シトラコン酸又はシトラマル酸等の基質からL-2-ABAを生成する方法は、様々な供給源から遺伝子、すなわちleu B、leu CD、valDH、又はilvEを分離する工程、及びこれらの対応する酵素を発現させるために前記遺伝子で好適な宿主細胞を形質転換する工程を含む。生体内変換のための宿主には、大腸菌、乳酸菌、及びクロストリジウム種菌(Clostridium sp.)、並びに種々の酵母等の細菌及び真核生物由来のものが含まれ得る。
【0035】
本発明において、L-2-ABAを生成するための多段階合成経路は、代替のイソロイシン経路である。この経路では、酵素、シトラマル酸シンターゼ(CimA)によるピルビン酸とアセチルCoAとの縮合から、シトラマル酸(2-メチルリンゴ酸)が形成される。シトラマル酸は、イソプロピルリンゴ酸イソメラーゼ(Leu CD複合体)によってシトラコン酸(2-メチルマレイン酸)に、次いでD-エリスロ3-メチルリンゴ酸(D-erythro 3-methyl malate)に変換され、D-エリスロ3-メチルリンゴ酸は、NAD+を必要としCO2を放出するイソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼ(Leu B)によって更に2-OB(2-オキソ酪酸)へと酸化される。ロイシン生合成に関係する酵素、Leu CD及びLeu Bは、シトラマル酸からの2-OBの形成を触媒することができる。2-OBは、L-2-ABAの直前の前駆体である。L-2-ABAは非天然アミノ酸であるため、天然酵素は効率的な変換には利用できない。しかしながら、類似構造を有する基質を触媒するアミノ酸デヒドロゲナーゼ及び分岐鎖アミノトランスフェラーゼは、2-OB(ケト酸基質)をそれぞれ各アミノ酸とL-2ABAとに変換することができる。
【0036】
2-OBからL-2ABAへの変換のために、ストレプトマイセス種菌(Streptomyces sp.)のバリンデヒドロゲナーゼ(ValDH)並びに大腸菌及びクロストリジウム種菌の分岐鎖アミノトランスフェラーゼ(IlvE)を選択した。
【0037】
シトラマル酸又はシトラコン酸からL-2-ABAへの経路は、熱力学的に好都合である。Leu Bにより触媒される反応は、NAD+のNADHへの変換を必要とし、CO2を放出する。バリンデヒドロゲナーゼにより触媒される最終反応は、アンモニアとNAD+を再生させる還元剤NADHとを必要とする、2-OBのL-2-ABAへの還元的アミノ化である。従って、コファクターは再循環され得るため、最後の2段階では酸化還元は平衡であり、放出されたCO2の連続的除去によって、より高収量のための多段階合成経路が作動され、無細胞系及び生体内変換のいずれでも合成が促進される。
【0038】
本発明者らは、驚くべきことに、遺伝子leu CD、leu B、valDH/ilvE含む合成経路の構築によって基質がL-2-ABAへ変換され得、この経路は105s-1M-1の範囲のkcat/kmを有する非常に効率的なものであり、方法を実現可能なものにすることを明らかにした。
【0039】
一実施形態において、本発明は、イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼ(LeuB)、イソプロピルリンゴ酸イソメラーゼ(Leu CD複合体)、バリンデヒドロゲナーゼ(ValDH)を利用する無細胞系におけるL-2-ABAの調製方法に関する。この方法は、バリンデヒドロゲナーゼ(ValDH)の代わりに分岐鎖アミノトランスフェラーゼ(IlvE)を利用することもできる。前記酵素は、所望の変換をもたらすための所要のコファクター及びその他の成分を含んだ、粗製又は固定化された形態のどちらかである。
【0040】
遺伝子を運搬する組換えプラスミド、すなわちpColaDuet-1LeuCD、pETDuet-1LeuB、pETDuet-1ValDHそれぞれで、宿主細胞を形質転換した。これらの細胞を天然培地で培養し、IPTG(イソプロピル-β-D-チオガラクトシド)によって酵素発現を誘導した。培養条件は、酵素の可溶性発現が最大で得られるように供給する。細胞を採取し、溶解して、酵素放出する。粗製ライセート又は精製された酵素のいずれかを、変換方法に使用する。培養、採取、溶解、及び酵素の分離技術は、当業者には公知である。
前記実施形態において、L-2-ABAを生成する方法は、
a)酵素LeuCD、LeuB、及びValDHを発現させるためにleu B、leu CD、valDH、及びilvEを組み込むように微生物宿主細胞を形質転換する工程、
b)宿主細胞を採取し、溶解して、粗製ライセートを得る工程、
c)任意選択で、粗製ライセートから酵素を分離し、精製する工程、
d)7~9のpHで、粗製ライセート又は精製された酵素を使用してシトラマル酸又はシトラコン酸から選択される基質を変換する工程
を含む。
【0041】
本方法では、バリンデヒドロゲナーゼ(ValDH)の代わりに、分岐鎖アミノトランスフェラーゼ(IlvE)も利用することができる。酵素は、最大比活性が得られるような条件下で、組換え発現宿主中で過剰生産される。
【0042】
常用の技術及び技法を使用する基質の変換の場合、精製された酵素の代わりに固定化酵素も使用することができる。
【0043】
基質の変換は、効率的な変換に必要なコファクター及び成分をすべて含む系で行われる。そのようなコファクター及び成分は、MnCl2、KCl、NAD+、アンモニウム塩、及び緩衝液から選択される。
【0044】
粗製、精製された、又は固定化酵素を使用する方法は、12~18時間で少なくとも80g/L又は少なくとも100g/L生成する。
【0045】
イソプロピルリンゴ酸イソメラーゼは、メタノカルドコックス・ヤンナスキイ(Methanocaldococcus jannaschii)、大腸菌、アカパンカビ(Neurospora crassa)から得られる。イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼは、メタノカルドコックス・ヤンナスキイ、サーモフィルス種菌(Thermophilus sp.)、大腸菌、アシディチオバシラス・フェロオキシダンス(Acidothiobacillus ferroxidans)、スルホロブス種菌(sulfolobus sp.)、バチルス・スブチリス(Bacillus subtilis)から探索された。アミノ酸デヒドロゲナーゼは、ストレプトマイセス種菌、アルガリゲネス・フェカリス(Alcaligenes faecalis)、キタサトスポラ・オーレオファシエンス(Kitasatospora aureofaciens)から探索されたバリンデヒドロゲナーゼ、又はバチルス種菌から探索されたロイシンデヒドロゲナーゼであってもよい。
【0046】
別の実施形態において、L-2-ABAを、経路の3つの酵素、すなわちLeuCD、LeuB、ValDHを発現する遺伝子を保持する細胞によって、シトラマル酸又はシトラコン酸から、全細胞生体内変換によって生成することができる。ここで使用する宿主細胞は、大腸菌である。遺伝子を、pCOlaDuet-1 BCD ValDH又はpETDuet-1 CD、pCOlaDuet-1 LeuB ValDHのいずれかとして宿主細胞へ導入した。シトラマル酸又はシトラコン酸を、コファクター及び成分を含有する好適な培地中で増殖させた組換え細胞に加える。培地は、グルコース、KH2PO4、(NH4)2HPO4、Na2EDTA、MgSO4、チアミンHCl、微量金属、更にアンモニウム塩の形態のアンモニア源を含んでいてもよい。酵素の可溶性発現のために、ソルビトール又はグリセロール等の浸透圧保護剤を培地に加えてもよい。特定のプラスミド及び菌株に適切な抗生物質を添加した。新鮮培地は、基質の発現及び変換の間はMgSO4を除いて交換した。任意選択で、基質の取込みを向上させるために、細胞を透過処理した。変換は20℃~37℃で行い、HPLCで定量化した。
【0047】
別の実施形態において、L-2-ABAを生成する方法は、全細胞又は透過処理された細胞中での生体内変換を含む。この方法は、
a)valDH又はilvEを組み込むように微生物宿主を形質転換する工程、
b)任意選択で、leu B又はleu CDを組み込む工程、
b)シトラマル酸、シトラコン酸、又は2-オキソ酪酸から選択される基質を加える工程、及び
c)L-2-ABAを得るために、好適な培地中で前記酵素を発現させるために20℃~37℃の温度で宿主を培養する工程
を含む。
【0048】
生体内変換のための宿主には、大腸菌、乳酸菌、及びクロストリジウム種菌、並びに種々の酵母等の、細菌及び真核生物由来のものが含まれ得る。
【0049】
宿主は、3つのすべての酵素、すなわちLeuCD、LeuB、ValDHを発現するように形質転換してもよい。別の実施形態において、Ilveを発現させるために、valDHの代わりにilveを組み込んでもよい。
【0050】
一部の実施形態において、宿主細胞は、天然酵素としてLeuCD又はLeuBを含有していてもよい。そのような実施形態において、基質は、2-オキソ酪酸又はシトラマル酸若しくはシトラコン酸であり得る。
【0051】
イソプロピルリンゴ酸イソメラーゼは、メタノカルドコックス・ヤンナスキイ、大腸菌、アカパンカビから得られる。イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼは、メタノカルドコックス・ヤンナスキイ、サーモフィルス種菌、大腸菌、アシディチオバシラス・フェロオキシダンス、スルホロブス種菌、バチルス・スブチリスから探索された。アミノ酸デヒドロゲナーゼは、ストレプトマイセス種菌、アルガリゲネス・フェカリス、キタサトスポラ・オーレオファシエンスから探索されたバリンデヒドロゲナーゼ、又はバチルス種菌から探索されたロイシンデヒドロゲナーゼであってもよい。
【0052】
本発明者らはまた、副産物イソロイシンをもたらす経路の遮断は、2-OBをL-2-ABA形成のために利用可能にするように遮断するべきであり、よってより高収量のL-2-ABAの生成が促進されることも明らかにした。従って、ilvD又はilvIHがノックアウトされている非機能性イソロイシン経路を有する宿主を使用することが望ましい。又は、バリン、スルホメツロンメチル、イミダゾリノン、トリアゾロピリミジン類、ピリミジニルオキソベンゾアート(pyrimidinyloxobenzoate)類、スルホニルアミノカルボニルトリアゾリノン類等の、AHAS複合体に対する阻害剤を使用することが望ましいと考えられる。
【0053】
更に、L-2-ABA形成のための2-OBの有用性を向上させるために、プロピオニルCoA及びプロピオン酸をもたらす経路を遮断してもよい。従って、酢酸キナーゼ(ackA)、プロピオン酸キナーゼ(tdcD)、リン酸アセチルトランスフェラーゼ(pta)がノックアウトされている非機能性プロピオニルCoA及びプロピオン酸経路を有する宿主を使用することが望ましい。
【0054】
全細胞又は透過処理された細胞中でL-2-ABAを生成する方法によって20g/Lの生成が得られ、又は15~20時間で少なくとも40g/Lが生成され得る。
【0055】
次に、様々な供給源からのアミノ酸生合成に関与する遺伝子、すなわちLeuB、Leu CD、ValDHを含む合成経路を構築することによる、シトラコン酸からL-2-ABAを生成する完全な方法を、本発明の例示的な実施形態の包括的な理解を助けるために示したに添付の実験に照らして、段階的に説明するものとする。理解を助けるために、方法の多様な具体的詳細が含まれるが、これらは、単に例示的であるとみなされるべきものである。当業者は上記説明を最も広い範囲で利用することができると考えられる。従って、好ましい実施形態及び実施例も、単に説明的なものであり、決して開示を限定するものではないとみなされるべきである。
【0056】
本発明者は、pETDuet-1及びpCOLADuet-1ベクターをNovogen社から入手した。大腸菌株BL21DE3 Codon plus RPは、IIT Madras大学に依頼して入手した。
【0057】
A.無細胞酵素的生体内変換実験
I.シトラコン酸のL-2-ABAへの変換
実験1
酵素的無細胞変換実験は、10mM~2Mのシトラコン酸を、粗製細胞ライセート又は部分的若しくは完全な精製物として使用される酵素LeuCD、LeuB、及びValDHによって触媒される10mM~2MのL-2-ABAへ変換させるように設定した。
【0058】
遺伝子を運搬する組換えプラスミド、すなわち:pColaDuet-1LeuCD、pETDuet-1LeuB、pETDuet-1ValDHそれぞれで、大腸菌を形質転換した。これらの細胞を天然培地中で培養し、IPTG(イソプロピル-β-D-チオガラクトシド)によって酵素発現を誘導した。培養条件は、酵素の可溶性発現が最大で得られるように供給する。細胞を採取し、溶解して、酵素を放出させる。粗製ライセート又は精製された酵素のいずれかを変換方法のために使用する。
【0059】
シトラコン酸のL-2-ABAへの変換は、pH7~pH9の範囲で行う。粗製ライセート又は精製された酵素を、変換に必要なその他の成分が存在している変換反応物に加える。LeuCDによってシトラコン酸はD-エリスロ3-メチルリンゴ酸へ変換され、D-エリスロ3-メチルリンゴ酸はLeuBによって2-OBへ変換される。酵素LeuBによる変換には、1~50mMのMnCl2、10mM~300mMのKClが必要である。最後の2段階では、反応は酸化還元が平衡であるため、NAD+は100μM~15mMしか必要とされない。ValDHによって触媒される最後の段階では、反応物に10mM~2Mアンモニウム塩を供給する還元的アミノ化によって、2-OBはL-2-ABAへ変換される。この段階で必要なNADHは、前の段階から得られ、NAD+として再生する。変換は、10ml~5Lのスケールのいずれかの容積のバイオリアクター中で、25℃~37℃の温度で行った。
【0060】
実験2:
酵素的無細胞変換実験は、10mM~2Mシトラコン酸を、粗製細胞ライセート又は部分的若しくは完全な精製物として使用される酵素LeuCD、LeuB、及びIlvEによって触媒される10mM~2MのL-2-ABAへ変換させるように設定した。
【0061】
遺伝子を運搬する組換えプラスミド、すなわち:pColaDuet-1LeuCD、pETDuet-1LeuB、pETDuet-1IlvEそれぞれで、大腸菌又は酵母を形質転換した。これらの細胞を天然培地中で培養し、IPTGによって酵素発現を誘導した。培養条件は、酵素の可溶性発現が最大で得られるように供給する。細胞を採取し、溶解して、酵素を放出させる。粗製ライセート又は精製された酵素のいずれかを変換方法のために使用する。
【0062】
シトラコン酸のL-2-ABAへの変換は、pH7~pH9の範囲で行う。粗製ライセート又は精製された酵素を、変換に必要なその他の成分が存在している変換反応物に加える。LeuCDによってシトラコン酸はD-エリスロ3-メチルリンゴ酸へと変換され、D-エリスロ3-メチルリンゴ酸はLeuBによって2-OBへ変換される。酵素LeuBによる変換には、1~50mMのMnCl2、10mM~300mMのKCl、及びNAD+が必要とされる。ilvEによって触媒される最後の段階で、反応で10μM~2mMのピリドキサールPO4、10mM~2Mのグルタミン酸が供給されるアミノ基転移によって、2-OBはL-2-ABAへと変換される。
【0063】
変換は、10ml~5Lのスケールのいずれかの容積のバイオリアクター中で、25℃~37℃の温度で行った。
【0064】
B.組換え細胞を使用する全細胞生体内変換実験
実験3:過剰発現したLeuB、LeuCD、ValDHを含有する細胞によるシトラコン酸生体内変換
L-2-ABAは、経路の3つの酵素、すなわちLeuCD、LeuB、ValDHを発現する遺伝子を保持する細胞によって、シトラマル酸又はシトラコン酸から、全細胞生体内変換によって生成され得る。ここで使用する宿主細胞は、大腸菌である。遺伝子を、pCOlaDuet-1 BCD valDH又はpETDuet-1 CD、pCOlaDuet-1 LeuB valDHのいずれかとして宿主細胞へ導入した。1g~100g/Lの量のシトラマル酸又はシトラコン酸のいずれかを、5~50g/Lのグルコース、KH2PO4、(NH4)2HPO4、Na2EDTA、MgSO4、チアミンHCl、微量金属、更にアンモニウム塩の形態のアンモニア源を含有する合成培地中で増殖させた組換え細胞に加える。ソルビトール又はグリセロール等の浸透圧保護剤を、酵素の可溶性発現のための培地に加えてもよい。特定のプラスミド及び菌株に適切な抗生物質を添加した。新鮮培地は、基質の発現及び変換の間はMgSO4を除いて交換した。別法として、基質の取込みを向上させるために、細胞を透過処理する。変換は20℃~37℃で実行し、HPLCで定量化した。
【0065】
実験4:過剰発現したLeuB、LeuCD、IlvEを含有する細胞によるシトラコン酸生体内変換
L-2-ABAは、経路の3つの酵素、すなわちLeuCD、LeuB、ilvEを発現する遺伝子を保持する細胞によって、シトラマル酸又はシトラコン酸から、全細胞生体内変換によって生成され得る。ここで使用する宿主細胞は、大腸菌である。遺伝子を、pCOlaDuet-1 BCD IlvE又はpETDuet-1 CD、pCOlaDuet-1 LeuBIlvEのいずれかとして宿主細胞へ導入した。1g~100g/Lの量のシトラマル酸又はシトラコン酸のいずれかを、5~50g/Lのグルコース、KH2PO4、(NH4)2HPO4、Na2EDTA、MgSO4、チアミンHCl、微量金属、更にグルタミン酸を含有する合成培地中で増殖させた組換え細胞に加える。ソルビトール又はグリセロール等の浸透圧保護剤を、酵素の可溶性発現のための培地に加えてもよい。特定のプラスミド及び菌株に適切な抗生物質を添加した。別法として、基質の取込みを向上させるために、常用の技法を使用して、トルエン、ツイーン、キレート剤等の試薬を使用して、細胞を透過処理する。変換は20℃~37℃で行い、HPLCで定量化した。2.7g/Lシトラコン酸を宿主細胞に与えた場合、宿主の天然酵素、すなわちLeuCD、LeuB、IlvEは、基質をL-2-ABAへと変換した(Table 2(表2))。
【0066】
実験5:過剰発現したValDH(天然LeuB及びLeuCD)を含有する細胞によるシトラコン酸生体内変換
L-2-ABAは、遺伝子valDHを保有する細胞によって、シトラマル酸又はシトラコン酸から、全細胞生体内変換によって生成され得る。基質の2-OBへの変換は、宿主細胞中で天然酵素LeuCD、LeuBによって行われる。ここで使用する宿主細胞は、大腸菌である。遺伝子を、pCOlaDuet-1 valDH又はpETDuet-1valDHのいずれかとして宿主細胞へ導入した。1g~100g/Lの量のシトラマル酸又はシトラコン酸のいずれかを、グルコース酵母エキスのような天然培地、又は5~50g/Lのグルコース、KH2PO4、(NH4)2HPO4、Na2EDTA、MgSO4、チアミンHCl、微量金属、更にアンモニウム塩の形態のアンモニア源を含有し得る合成培地中で増殖させた組換え細胞に加える。ソルビトール又はグリセロール等の浸透圧保護剤を、酵素の可溶性発現のための培地に加えてもよい。新鮮培地は、基質の発現及び変換の間はMgSO4を除いて交換した。特定のプラスミド及び菌株に適切な抗生物質を添加した。別法として、基質の取込みを向上させるために、細胞を透過処理した。変換は20℃~37℃で行い、HPLCで定量化した。
【0067】
実験6:天然/過剰発現したIlvE(天然LeuB及びLeuCD)を含有する細胞によるシトラコン酸生体内変換
L-2-ABAは、天然LeuCD、LeuB、及びIlvEを含有する宿主細胞によって、シトラコン酸又はシトラマル酸の全細胞生体内変換によって生成され得る(Table 2(表2))。
【0068】
L-2-ABAはまた、過剰発現したIlvEを保有する細胞によっても、シトラマル酸又はシトラコン酸から、全細胞生体内変換によって生成され得る。基質の2-OBへの変換は、宿主中に存在する天然酵素LeuCD、LeuBによって行われる。ここで使用する宿主細胞は、大腸菌である。遺伝子を、pCOlaDuet-1 ilvE又はpETDuet-1 ilvEのいずれかとして宿主細胞へ導入した。1g~100g/Lの量のシトラマル酸又はシトラコン酸のいずれかを、グルコース酵母エキスのような天然培地、又は5~50g/Lのグルコース、KH2PO4、(NH4)2HPO4、Na2EDTA、MgSO4、チアミンHCl、微量金属、更にグルタミン酸を含有する合成培地中で増殖させた組換え細胞に加える。ソルビトール又はグリセロール等の浸透圧保護剤を、酵素の可溶性発現のための培地に加えてもよい。特定のプラスミド及び菌株に適切な抗生物質を添加した。別法として、基質の取込みを向上させるために、細胞を透過処理した。変換は20℃~37℃で行い、HPLCで定量化した。
【0069】
実験7:過剰発現したValDH(天然LeuB及びLeuCD)を含有する細胞による2-オキソ酪酸生体内変換
L-2-ABAは、遺伝子valDHを保有する細胞によって、2-オキソ酪酸から全細胞生体内変換によって生成され得る。ここで使用する宿主細胞は、大腸菌である。遺伝子を、pCOlaDuet-1 valDH又はpETDuet-1valDHのいずれかとして宿主細胞へ導入した。1g~100g/Lの量の2-オキソ酪酸を、グルコース酵母エキスのような天然培地、又は5~50g/Lのグルコース、KH2PO4、(NH4)2HPO4、Na2EDTA、MgSO4、チアミンHCl、微量金属、更にアンモニウム塩の形態のアンモニア源を含有し得る合成培地中で増殖させた組換え細胞に加える。ソルビトール又はグリセロール等の浸透圧保護剤を、酵素の可溶性発現のための培地に加えてもよい。新鮮培地は、基質の発現及び変換の間はMgSO4を除いて交換した。特定のプラスミド及び菌株に適切な抗生物質を添加した。別法として、基質の取込みを向上させるために、細胞を透過処理した。変換は20℃~37℃で行い、HPLCで定量化した(Table 2(表2))。
【0070】
【0071】
結果及び考察:
Table 1(表1)は、酵素LeuCD、LeuB、ValDHによって触媒された、無細胞系における、シトラコン酸からの2-ABAの生成量を示す。250mMのシトラコン酸の場合、99.6%の変換が得られた。一方、100mM及び50mMシトラコン酸の場合、それぞれ96%及び86%が得られた。
【0072】
【0073】
Table 2(表2)は、宿主細胞の天然酵素、すなわちLeuCD、LeuB、IlvEによって触媒された、全細胞生体内変換における、シトラコン酸からの2-ABAの生成量を示す。24時間で、消費された2.1g/Lのシトラコン酸から100mg/Lの生成物力価が得られた。消費された残りのシトラコン酸は、イソロイシン及びプロピオン酸の生成に転じた。これは、提示のノックアウト株(イソロイシン及びプロピオン酸生成経路酵素をノックアウト)で同じ実験を実施することによって減少され得る。
【0074】
Table 2(表2)は、宿主中で天然ilvEによって、更にクローン中で過剰発現したバリンデヒドロゲナーゼによって触媒された、全細胞生体内変換における、2-オキソ酪酸からの2-ABAの生成量を示す。24時間で、それぞれ宿主及びクローン中で、10g/Lの2-オキソ酪酸から0.25g/L及び6g/Lの生成物力価が得られた。消費された残りの2-オキソ酪酸は、イソロイシン及びプロピオン酸の生成に転じた。これは、提示のノックアウト株(イソロイシン及びプロピオン酸生成経路酵素をノックアウト)で同じ実験を実施することによって減少され得る。
【0075】
発明の利点:
本発明は、L-2-ABAを高収量の生成する代替方法を提供する。本方法は、シトラマル酸又はシトラコン酸のようなより安価な基質を利用するため、経済的である。シトラマル酸又はシトラコン酸の価格は、1kg当たり約US$0.5~US$15である。これに対して、現行の利用可能な方法は、食品及び製薬グレードのような高価な基質を使用している。更に、食品グレードのスレオニンは、精製方法を難しいものにしている。
【0076】
更に、上記で開示したように、本方法では、L-2-ABA調製のための経路を操作し、この経路は酸化還元が平衡である。これに対して、スレオニンからの方法では、酸化還元が平衡ではなく、よってコファクターNADHを再循環させるために更なる酵素が必要である。
【0077】
シトラコン酸からのL-2-ABAの調製で利用される酵素は、105s-1M-1の範囲のkcat/kmを有し、スレオニン方法で利用される酵素と比べて非常に効率的である。この酵素は効率的なものであるため、酵素生成の規模を小さくすることができ、ひいては生成の費用を削減することとなる。よって、シトラコン酸又はシトラマル酸からのL-2-ABAの調製は、工業規模においてきわめて実行可能なものである。
【国際調査報告】