IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ランタン ファーマ インコーポレイテッドの特許一覧

特表2022-513349イルジンおよびバイオマーカーを使用した固形腫瘍癌の治療方法
<>
  • 特表-イルジンおよびバイオマーカーを使用した固形腫瘍癌の治療方法 図1
  • 特表-イルジンおよびバイオマーカーを使用した固形腫瘍癌の治療方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-07
(54)【発明の名称】イルジンおよびバイオマーカーを使用した固形腫瘍癌の治療方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/122 20060101AFI20220131BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220131BHJP
   A61K 31/17 20060101ALI20220131BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20220131BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20220131BHJP
   G01N 33/574 20060101ALI20220131BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALN20220131BHJP
【FI】
A61K31/122
A61P35/00
A61K31/17
G01N33/68
G01N33/53 M
G01N33/574 Z
C12Q1/68
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021545268
(86)(22)【出願日】2019-10-14
(85)【翻訳文提出日】2021-06-04
(86)【国際出願番号】 US2019056039
(87)【国際公開番号】W WO2020081414
(87)【国際公開日】2020-04-23
(31)【優先権主張番号】62/745,382
(32)【優先日】2018-10-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521093439
【氏名又は名称】ランタン ファーマ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アディティア クルカミ
(72)【発明者】
【氏名】ユヴァネシュ ヴェダラジュ
(72)【発明者】
【氏名】ウメーシュ カサド
(72)【発明者】
【氏名】アルン アサイザンビ
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4C206
【Fターム(参考)】
2G045AA26
2G045DA12
2G045DA13
2G045DA14
2G045DA36
2G045FB01
2G045FB02
2G045FB03
2G045FB06
4B063QA01
4B063QA05
4B063QA13
4B063QQ03
4B063QQ42
4B063QQ53
4B063QQ61
4B063QQ98
4B063QS10
4B063QS14
4C206AA01
4C206AA02
4C206CB24
4C206HA29
4C206MA01
4C206MA04
4C206NA05
4C206ZB26
(57)【要約】
固形腫瘍癌に罹患する対象が、イルジンを用いた治療から利益を受ける可能性を判定する方法が本明細書において開示される。さらに、当該判定に基づく治療方法も開示される。いくつかの実施形態において、マーカーのProstaglandin reductase 1(PTGR1)、Protein Tyrosine Phosphatase Non-Receptor Type 14(PTPN14)、Aspartate Beta-Hydroxylase(ASPH)が、1つ以上の遺伝子とともに、または単独で、イルジンを用いた治療を強化または誘導するために使用されてもよい。ある実施形態では、当該タンパク質または当該遺伝子は、発現され、またはメチル化されてもよい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的化薬剤治療を用いた固形腫瘍癌の治療方法であって、
以下の式:
【化1】
の化合物を用いた治療に対して感受性である癌を有する患者を特定すること、を含み、
式中、R1、R2およびR3は独立して、(C1-C4)アルキル、メチルまたはヒドロキシルである、方法。
【請求項2】
生物学的サンプル中のその組み合わせのPTGR1の発現レベルを測定する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
生物学的サンプル中のPTPN14の発現レベルを測定する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
生物学的サンプル中のASPHの発現レベルを測定する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記癌が、新たに診断された、再発した、または難治性である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
遺伝子の発現に基づき標的化薬剤治療を改変することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
PTGR1、PTPN14、またはASPHがメチル化される、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
イルジンが、以下の構造:
【化2】
を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記癌が、結腸直腸癌、膵臓癌、原発性肝癌、腎癌、卵巣癌、子宮癌、肺癌、乳癌、前立腺癌、肉腫、または脂肪組織の癌である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
固形腫瘍を治療する方法または固形腫瘍治療を管理する方法であって、
以下の式:
【化3】
を有するイルジン、またはその薬学的に許容可能な塩、溶媒和物もしくは立体異性体を用いた治療に感受性である固形腫瘍癌を有する患者を特定すること、および
前記患者に、前記イルジンの治療有効量を投与すること、を含む方法。
【請求項11】
前記生物学的サンプルが、血液、血漿、血清または組織生検である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記生物学的サンプル中のPTGR1の発現レベルを測定する工程をさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記生物学的サンプル中のPTPN14の発現レベルを測定する工程をさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記生物学的サンプル中のASPHの発現レベルを測定する工程をさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
固形腫瘍を有する患者における治療に対する応答性を予測する方法であって、
前記患者から生物学的サンプルを取得すること、
前記生物学サンプル中のPTGR1、PTPN14、ASPH、またはそれらの組み合わせの発現レベルを測定すること、および
前記生物学的サンプル中の発現レベルと、固形癌を有していない対象由来の生物学的サンプルの発現レベルとを比較すること、を含み、
前記固形腫瘍を有していない対象のレベルと比較した、前記患者由来の前記生物学的サンプル中の発現レベルの増加は、以下の式:
【化4】
の化合物、またはその薬学的に許容可能な塩、溶媒和物、もしくは立体異性体を用いた治療に対する効果的な応答の可能性を示す、方法。
【請求項16】
イルジンにより癌において抗癌効果が生じる可能性があるかを判定するためのキットであって、癌におけるPTGR1、PTPN14、ASPH、またはそれらの組み合わせのレベルを、固形腫瘍を有する対象由来と比較した、前記患者由来の生物学的サンプルの通常値と比較して判定する手段を含む、キット。
【請求項17】
前記癌が、結腸直腸癌、膵臓癌、原発性肝癌、腎癌、卵巣癌、子宮癌、肺癌、乳癌、前立腺癌、肉腫、または脂肪組織の癌である、請求項16に記載のキット。
【請求項18】
イルジンにより癌において抗癌効果が生じる可能性があるかを判定するためのキットであって、癌細胞においてPTGR1、PTPN14、ASPH、またはそれらの組み合わせに対応するmRNA、DNAおよび/またはタンパク質のレベルを判定するための手段を含む、キット。
【請求項19】
前記イルジンが、以下:
【化5】
を有する、請求項16または18に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年10月14日に出願された米国仮特許出願第62/745,382号明細書の利益を主張するものであり、当該出願はその全体で本明細書に参照により援用される。
【0002】
本発明は、癌患者に投与される抗癌剤(例えば、イルジン(illudins))に対する癌患者の感受性の判定における使用のためのマーカー、および当該マーカーの応用に関するものであり、当該マーカーは、当該癌患者が当該抗癌剤に対する治療応答性を有するかを判定することができる。
【背景技術】
【0003】
イルジンは化学的に修飾され、癌の治療に使用されている。イルジンであるイロフルベン(Irofulven)は、真菌毒素のイルジンSの化学修飾型である。イロフルベンはDNAアルキル化剤であり、独特な機序を有している。このイルジンはDNAおよびタンパク質に損傷を与える剤であり、急速に分裂する悪性腫瘍細胞を標的とする。イロフルベンは腫瘍細胞内に入り、DNAとタンパク質標的に結合することによってDNA複製と細胞分裂に干渉する。その結果、腫瘍細胞は停止状態となり、死に至る(アポトーシス)。研究によって、特定の用量で腫瘍細胞はイロフルベンの二重損傷活性に高度に感受性であり、一方で正常な細胞はこの細胞殺傷剤に対してわずかな応答しか示さないことが判明している。すべての固形癌がイルジンに感受性というわけではなく、イルジン感受性の対象を判定する方法は困難であった。
【0004】
特に前立腺癌、卵巣癌、肝癌、および腎癌などの固形腫瘍患者に対する診断および治療戦略の近年の発展にも関わらず、スクリーニングと治療に関し、多くの重大な知識格差が存在している。診断の時点で対象を応答性群へと最適に階層化するための遺伝的プロファイルをはじめとする患者の特性に関する知識は不充分である。さらに、これら癌を発症、またはこれら癌によって死亡するリスク因子に関する知識も不充分であり、臨床診療に現実社会のエビデンスを効果的に導入することも不足している。この知識不足は、どの対象が特定の治療で最良の転帰となるかの予測が最適化されていないことを意味している。それに加えて、どの対象が不必要な、または不適切な治療で害を受ける可能性があるか、または治療を伴わなくても問題なく管理される可能性があるかについての現行の予測も乏しいままである。
【0005】
したがって、治療方法、および対象がイルジン治療に応答性であるか、または多少なりとも応答性である可能性があるかを判定する方法に対するニーズが存在する。特に本出願が目的とするのはこのニーズである。
【発明の概要】
【0006】
本出願は、固形腫瘍癌に罹患する対象が、イルジンを用いた治療から利益を受ける可能性を判定する方法に関する。さらに、当該判定に基づく治療方法にも関する。いくつかの実施形態において、マーカーのProstaglandin reductase 1(PTGR1)、Protein Tyrosine Phosphatase Non-Receptor Type 14(PTPN14)、Aspartate Beta-Hydroxylase(ASPH)は、1つ以上の遺伝子とともに、または単独で、本方法において使用される。ある実施形態では、当該タンパク質または当該遺伝子は、発現され、またはメチル化される場合がある。
【0007】
標的化薬剤治療を用いて固形腫瘍癌を治療する方法は、
以下の式:
【0008】
【化1】
【0009】
の化合物を用いた治療に対して感受性である癌を有する患者を特定することを含み、
式中、R1、R2およびR3は独立して、(C1-C4)アルキル、メチルまたはヒドロキシルである。
【0010】
定義
「対象」という用語は、限定されないが、霊長類(例えば、ヒト)、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、ウサギ、ラットまたはマウスをはじめとする動物を指す。「対象」と「患者」という用語は、例えばヒト対象、1つの実施形態ではヒトなどの哺乳類対象に関連して、本明細書において相互交換可能に使用される。
【0011】
「治療する」、「治療すること」および「治療」という用語は、状態または当該状態と関連した症状のうちの1つ以上を緩和すること、もしくは消滅させること、または状態自体の原因を緩和すること、もしくは根絶させることを含むことが意図される。
【0012】
「管理する」、「管理すること」、および「管理」という用語は、特定の疾患、障害または状態にすでに罹患している患者において、当該疾患、障害または状態の再発を予防すること、および/または当該疾患、障害もしくは状態に罹患している患者が寛解に留まる時間を延長させることを包含する。当該用語は、当該疾患、障害もしくは状態の閾値、発展および/または期間を調節すること、または当該疾患、障害もしくは状態に対して患者が応答する状況を変えることを包含する。
【0013】
「予防する」、「予防すること」、および「予防」という用語は、傷害、疾患もしくは状態、またはその付随する症状の発生を遅延させる、および/または発生させない方法、対象が傷害、疾患または状態となることを妨げる方法、または傷害、疾患、もしくは状態となる対象のリスクを低下させる方法を含むことが意図される。
【0014】
化合物を用いた治療に関連した、「感受性」および「感受性である」という用語は、治療される疾患、障害もしくは状態の進行を軽減させる、または減少させることにおける、化合物の有効性の程度を指す相対的な用語である。例えば、「感受性が増加した」または「治療に対して感受性である」という用語は、化合物に関連付けられて疾患、傷害または状態の治療に関して使用される場合、少なくとも3%、特に少なくとも5%以上の治療有効性における増加を指す。
【0015】
本明細書において使用される場合、および別段の規定が無い限り、化合物の「治療有効量」という用語は、疾患、傷害もしくは状態の治療または管理において治療上の利益をもたらすために充分な量、または疾患、障害もしくは状態の存在と関連した1つ以上の症状を遅延させる、もしくは最小化させるために充分な量である。化合物の治療有効量とは、単独の治療剤の量、または疾患、障害もしくは状態の治療または管理において治療利益をもたらす他の治療剤と併用された治療剤の量を意味する。「治療有効量」という用語は、治療全体を改善する量、疾患、傷害もしくは状態の症状または原因を減少させる、または回避させる量、または別の治療剤の治療有効性を強化する量を包含し得る。
【0016】
本明細書において使用される場合、「効果的な患者応答」とは、患者に対する治療利益における何らかの増加を指す。「効果的な患者応答」は、例えば、疾患、障害または状態の進行速度における、5%、7.5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、60%、70%、75%、80%、90%または100%の低下であり得る。「効果的な患者応答」は、例えば、疾患、障害または状態の身体的症状における、5%、7.5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、60%、70%、75%、80%、90%または100%の低下であり得る。「効果的な患者応答」は、例えば、遺伝子発現、細胞数、分析結果などの任意の適切な手段により測定されたときの患者の応答における、5%、7.5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、60%、70%、75%、80%、90%、100%、120%、140%、150%、170%、180%、190%、200%またはそれ以上の増加であり得る。
【0017】
疾患、障害または状態における改善は、完全奏功または部分奏功として特徴付けられ得る。「完全奏功」とは、任意の過去の異常な放射線学的検査、骨髄および脳脊髄液(CSF)または異常なモノクローナルタンパク質の測定結果の正常化を伴う、臨床的に検出可能な疾患の非存在を指す。「部分奏功」とは、新たな病変がない場合のすべての測定可能な疾患、障害または状態の負荷量(すなわち、対象に存在する悪性細胞の数、または腫瘍塊の測定体積、または異常なモノクローナルタンパク質の量)における少なくとも約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%の減少を指す。「治療」という用語は、完全奏功と部分奏功の両方を予期する。
【0018】
「難治性または耐性」という用語は、患者が、たとえ集中治療の後であっても、治療に応答しない状況を指す。例えば、患者は、リンパ系、血液および/または血液形成組織(例えば、骨髄)において残存癌細胞(例えば、白血病細胞またはリンパ腫細胞)を有する可能性がある。
【0019】
本明細書において使用される場合、「判定すること」、「測定すること」、「審査すること」、「評価すること」、および「分析すること」という用語は概して測定の任意の形態を指し、要素の存在または非存在を判定することを含む。これらの用語は、定量的および/または定性的な判定の両方を含む。評価は、相対的または絶対的であってもよい。「~の存在を評価すること」は、存在する何らかの量を判定すること、ならびに存在か非存在かを判定することを含み得る。
【0020】
「単離された」および「精製された」という用語は、物質(例えば、DNA/mRNAまたはタンパク質)が存在するサンプルの大部分を当該物質が構成するよう、物質を単離することを指す。すなわち当該物質が自然状態で、または非単離状態で典型的に存在するよりも多くを構成するよう、物質を単離することを指す。典型的にはサンプルの大部分とは、例えば、サンプルの1%超、2%超、5%超、10%超、15%超、20%超、25%超、30%超、40%超、50%超、またはそれ以上、通常はサンプルの90%~100%以下を含む。例えば、単離されたDNA/mRNAのサンプルは典型的には、少なくとも約1%の総mRNAを含み得る。ポリヌクレオチドの精製技術は当分野に公知であり、例えば、ゲル電気泳動、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、フローソーティング、および密度に従う沈殿が挙げられる。
【0021】
本明細書において使用される場合、「サンプル」という用語は、素材または素材の混合物に関連し、典型的には、必ずではないが液状の形態であり、対象の1つ以上の構成要素を含有する。
【0022】
本明細書において使用される場合、「生物学的サンプル」とは、生物学的対象から取得されたサンプルを指し、インビボまたは原位置(in situ)で取得され、到達され、もしくは収集された生物学的な組織または液体が起源のサンプルを含む。また生物学的サンプルには、前癌性もしくは癌性の細胞または組織を含有する生物学的対象の領域に由来するサンプルも含まれる。そうしたサンプルは、限定されないが、哺乳動物から単離された器官、組織、分画および細胞であり得る。例示的な生物学的サンプルとしては限定されないが、細胞溶解物、細胞培養物、細胞株、組織、口腔組織、消化管組織、器官、細胞小器官、生物学的液体、血液サンプル、尿サンプル、皮膚サンプルなどが挙げられる。生物学的サンプルとしては限定されないが、全血、部分精製血液、PBMC、組織生検などが挙げられる。
【0023】
本明細書において使用される場合、および別段の示唆が無い限り、「光学的に純粋」という用語は、化合物の1つの光学異性体を含み、当該化合物の他の異性体を実質的に含まない組成物を意味する。例えば、1つのキラル中心を有する化合物の光学的に純粋な組成物は、当該化合物の反対側の鏡像異性体を実質的に含まない。2つのキラル中心を有する化合物の光学的に純粋な組成物は、当該化合物の他のジアステレオマーを実質的に含まない。典型的な光学的に純粋な化合物は、当該化合物の1つの鏡像異性体を約80重量%超、および当該化合物の他の鏡像異性体を約20重量%未満で含み、または当該化合物の1つの鏡像異性体を約90重量%超、および当該化合物の他の鏡像異性体を約10重量%未満で含み、または当該化合物の1つの鏡像異性体を約95重量%超、および当該化合物の他の鏡像異性体を約5%未満で含み、または当該化合物の1つの鏡像異性体を約97重量%超、および当該化合物の他の鏡像異性体を約3重量%未満で含み、または当該化合物の1つの鏡像異性体を約99重量%超、および当該化合物の他の鏡像異性体を約1重量%未満で含む。
【0024】
本明細書において使用される場合、「イルジン」という用語は、以下の式I:
【0025】
【化2】
【0026】
を伴う化合物を含む。
1、R2、およびR3は独立して、(C1-C4)アルキル、メチル、またはヒドロキシルである。イルジンという用語は、ヒドロキシメチルアシルフルベン(HydroxyMethylAcylfulvene、HMAF、イロフルベン)を含む場合があり、当該化合物は以下の式II:
【0027】
【化3】
【0028】
を有する。
【0029】
イルジンという用語は、(-)-ヒドロキシウレアメチルアシルフルベン((-)-HydroxyUreaMethylAcylfulvene)を含む場合があり、当該化合物は以下の式III:
【0030】
【化4】
【0031】
を有する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1図1は、ヒドロキシウレアメチルアシルフルベンの例示的な遺伝子シグネチャーの相対的な重要性を示す。この相対的な変動性重要度グラフにおいて遺伝子の重み付け分析が実施され、癌におけるヒドロキシウレアメチルアシルフルベンのシグネチャーにおける上位10個の遺伝子に関する相対的ランキングが分析された。データから、PTGR1(Prostaglandin reductase 1)、次いでPTPN14とASPHが、ヒドロキシウレアメチルアシルフルベン感受性の遺伝子シグネチャーであることが示される。
図2図2は、ヒドロキシウレアメチルアシルフルベンに対する陽性応答とのPTGR1とPTPN14の関連性を示す。この感受性分析グラフにおいて、lekprofile関数を使用して、LP-184遺伝子シグネチャー全体にわたり、応答性変動に対する遺伝子発現の効果が検証された。PTGR1(Prostaglandin reductase 1)の高発現は、LP-184に対する陽性応答と相関していた。PTPN14は、次点の高相関遺伝子であった。本実験は、癌細胞パネルに対して実施された。
【0033】
上述の実施形態は単なる例示であることが意図されており、当業者であればルーチンを超えない実験を使用して特定の化合物、材料および手順の多くの均等を認識し、または確認することができるであろう。そのような均等のすべてが、本実施形態の範囲内にあるとみなされ、添付の請求の範囲に包含される。
【発明を実施するための形態】
【0034】
抗癌剤感受性判定マーカーのうちの1つのメンバーとしては、単独または1つ以上の遺伝子と併用される遺伝子マーカーのProstaglandin reductase 1(PTGR1)、Protein Tyrosine Phosphatase Non-Receptor Type 14(PTPN14)、Aspartate Beta-Hydroxylase(ASPH)が挙げられる。ある実施形態では、タンパク質遺伝子は、発現され、またはメチル化される場合がある。Prostaglandin reductase 1(PTGR1)は、エノン還元酵素活性を伴う高度に誘導性の酵素である。マーカーのPTGR1は、イルジン系治療に対する感受性と相関し、またはイルジン系治療に対する真のレスポンダーと相関していた。このマーカーを単独で、または他と併用して使用することで、患者に対する個別化医療をベースとした治療を可能にする、予測バイオマーカーをベースとしたスクリーニング検査が開発され、癌(例えば、前立腺癌)の治療におけるギャップを減少させることができる。本発明者らは、固形腫瘍癌を有する対象において循環する、固形腫瘍に関連した変異型の核酸配列またはタンパク質配列の検出が、イルジンを用いた治療に対し対象が感受性であるかを正確に判定し得ることを見出した。
【0035】
特定の実施形態では、PTGR1、PTPN14、ASPH遺伝子のDNAはメチル化される。DNAメチル化は、DNA分子にメチル基が付加されるプロセスである。メチル化は、配列を変えることなくDNAセグメントの活性を変えることができる。遺伝子プロモーターに位置づけられている場合、DNAメチル化は遺伝子の転写を抑制するよう作用することが多い。
【0036】
固形腫瘍癌(例えば、前立腺癌、卵巣癌、肝癌、腎癌および甲状腺癌)の治療方法または管理方法は、
以下の式:
【0037】
【化5】
【0038】
のイルジン、またはその薬学的に許容可能な塩、溶媒和物もしくは立体異性体を用いた治療に感受性である癌を有する患者を特定すること、および
当該患者に、当該イルジンの治療有効量を投与することを含む。
【0039】
固形腫瘍を治療する方法または固形腫瘍治療を管理する方法は、
以下の式:
【0040】
【化6】
【0041】
を有するイルジン、またはその薬学的に許容可能な塩、溶媒和物もしくは立体異性体を用いた治療に感受性である固形腫瘍癌を有する患者を特定すること、および
当該患者に、当該化合物の治療有効量を投与することを含む。
【0042】
固形腫瘍を有する患者における治療に対する応答性を予測する方法であって、
当該患者から生物学的サンプルを取得すること、
当該生物学的サンプル中のPTGR1、PTPN14、ASPH、またはそれらの組み合わせの発現レベルを測定すること、および
当該生物学的サンプル中の発現レベルを、固形腫瘍を有さない対象由来の生物学的サンプルの発現レベルと比較すること、を含み、
固形腫瘍を有さない対象由来のレベルと比較した、当該患者由来の生物学的サンプル中の発現レベルの増加は、以下の式:
【0043】
【化7】
【0044】
の化合物またはその薬学的に許容可能な塩、溶媒和物もしくは立体異性体を用いた治療に対する効果的な応答の可能性を示す、方法。
【0045】
固形腫瘍を有する患者における治療に対する応答性を予測する方法であって、
当該患者から生物学的サンプルを取得すること、
当該生物学的サンプル中のPTGR1、PTPN14、ASPH、またはそれらの組み合わせの発現レベルを測定すること、および
当該生物学的サンプル中のPTGR1、PTPN14、ASPH、またはそれらの組み合わせの発現レベルを、固形腫瘍を有さない対象由来の生物学的サンプルの発現レベルと比較すること、を含み、
固形腫瘍を有さない対象由来のレベルと比較した、当該患者由来の生物学的サンプル中のPTGR1、PTPN14、ASPH、またはそれらの組み合わせの発現レベルの低下は、以下の式:
【0046】
【化8】
【0047】
の化合物またはその薬学的に許容可能な塩、溶媒和物もしくは立体異性体を用いた治療に対する効果的な応答の可能性を示す、方法。
【0048】
本明細書の1つの実施形態において、イルジン、またはその薬学的に許容可能な塩を用いた治療に感受性である固形腫瘍癌を有する患者を特定すること、および当該化合物の治療有効量を当該患者に投与すること、を含む、固形腫瘍癌を治療または管理する方法が提供される。ある実施形態では、本明細書において、イルジンである追加の活性剤の治療有効量を投与することをさらに含む方法が提供される。
【0049】
1つの実施形態では、イルジンは、21日サイクルまたは別のサイクルの1日目に1回、投与される。
【0050】
別の実施形態では、イルジンは、一つ以上の第二の活性成分とともに投与されてもよい。そのような活性成分は、他の抗癌剤、または癌患者の治療に使用される剤であってもよい。
【0051】
上述のように、固形腫瘍癌は、結腸直腸癌、膵臓癌、原発性肝癌、腎癌、卵巣癌、子宮癌、肺癌、乳癌、前立腺癌、肉腫および脂肪組織の癌からなる群から選択されてもよい。
【0052】
1つの実施形態では、以下の遺伝子のうちの1つ以上が、PTGR1とともにマーカーとして使用されて、イルジン系の抗癌剤に対する感受性が判定されてもよい:TNFRSF1B、LCK、TAL1、GNG12、S100A10、CD247、ATP1B1、LAMC1、PTPRC、PTPN7、PTPN14、CAPN2、ENAH、LCT、CXCR4、ITGA4、CASP10、HDAC4、NUP210、WWTR1、PFN2、MLF1、CD38、RHOH、ITK、LCP2、HIST1H3B、MYB、IKZF1、PIK3CG、MET、NRF1、TRBC1、PTPRN2、PTK2B、ASPH、NFIB、CNTRL、PRKCQ、MYOF、CTBP2、LM02、CD3D、TWF1、NCKAP1L、CKAP4、LCP1、CFL2、TJP1、ALDH1A2、TLE3、TNFRSF12A、PRKCB、NFATC3、WWOX、CBFA2T3、ATP2A3、GIPC1、HAUS5、MAP4K1、SDC4、APP、SLC38A5、WAS、およびIL2RG。
【0053】
別の実施形態では、以下の遺伝子マーカーのうちの1つ以上が使用されてもよい:WWTR1、HIST1H3B、ASPH、MYOF、CTBP2、CBFA2T3、およびSDC4。別の実施形態では、1つ以上のマーカーがPTGR1と組み合わせられ、以下の遺伝子のうちの1つ、それ以上、またはすべてと、PTGR1が組み合わせられた:PTPN14、ITGA4、HDAC4、ITK、IKZF1、PIK3CG、NRF1、ASPH、およびPRKCQ。一部の実施形態では、感受性は、100%に近づき得る。
【0054】
さらに別の実施形態では、PTGR1とSDC4の2つのマーカーが、マーカーとして使用されてもよい。
【0055】
PTGR1の遺伝子組み合わせが使用される場合、抗癌剤感受性エンハンサーのスクリーニングは、イルジン系抗癌剤暴露後のPTGR1の遺伝子組み合わせの発現における変動を指標として採用することによって実施することができる。すなわち、インビトロまたはインビボで、イルジン系抗癌剤暴露前にPTGR1遺伝子組み合わせレベルを減少させる物質、または発現変動を促進する物質、またはイルジン系抗癌剤暴露後にレベルを上昇させる物質は、抗癌剤に対する感受性を強化する。それに加えて、インビトロの場合、発現の変動を促進する物質、または標的癌細胞に対応する抗癌剤暴露後にレベルを上昇させる物質は、イルジン系抗癌剤に対する感受性を強化する物質としての役割を果たし得る(すなわち、抗癌剤感受性エンハンサー)。
【0056】
抗癌剤に対する、検体の感受性を判定する方法を実施するために、検体中に存在する物質のいずれかを測定するプロトコールを含むキットが採用される。キットは、これら物質のいずれかを測定するための試薬、試薬使用に関する取扱説明書の表示、イルジン系抗癌剤に対する感受性の有無を判定するための標準、などを含有する。標準には、これら代謝関連物質の(相対的)標準レベル、(相対的)高閾値レベル、(相対的)低閾値レベル、測定に影響を与える因子、効果の程度、が含まれる。これら物質レベルは、選択されたイルジン系抗癌剤に適合するように設定されてもよい。感受性判定は、標準に基づき、同じ様式で実施されてもよい。
【0057】
イルジン系抗癌剤のスクリーニングは、指標としてイルジン系抗癌剤感受性判定マーカーを使用して実施され得る。すなわち、インビトロまたはインビボで抗癌剤感受性判定マーカーのレベルを変化させることができる物質は、抗癌剤として判断される。例えば、インビトロの場合、様々な癌細胞において、物質への暴露後に抗癌剤感受性判定マーカーのレベルを変化させる物質は、抗癌剤としての役割を果たし得る。また、癌担持動物において、動物への物質投与後に抗癌剤感受性判定マーカーレベルが変化する場合、当該物質は、抗癌剤としての役割を果たし得る。抗癌剤が薬理学的効果を呈すると予測される場合、抗癌剤感受性判定マーカーレベルの上昇は、腫瘍縮小の発生前、または殺細胞作用の出現前に観察される。ゆえに指標として抗癌剤感受性判定マーカーレベルに基づくスクリーニングは、より短期間で、被験物質が有用な抗癌剤としての役割を果たすか否かの判定を行うことができ、それに伴い、抗癌剤開発にかかる労力やコストが大幅に低下すると予測される。
【0058】
癌が、抗癌剤に対する感受性を有さない場合、当該抗癌剤からは薬理学的効果を期待できない。そのような薬学的効果のない抗癌剤が患者に投与され続けた場合、癌が進行し、副作用が悪化する可能性がある。ゆえに、抗癌剤感受性判定マーカーは、抗癌剤への治療応答の判定に採用されるだけでなく、薬学的効果がない抗癌剤の継続投与により生じる副作用の悪化予防にも大きく貢献する可能性がある。
【0059】
そのようにして取得された抗癌剤感受性エンハンサーと、当該エンハンサーの感受性強化標的であるイルジン系抗癌剤を組み合わせて採用することで、イルジン系抗癌剤の治療効果は劇的に向上される。イルジン系抗癌剤感受性エンハンサーと、当該エンハンサーの感受性強化標的である抗癌剤の組み合わせは、両方の成分を含有する組成物であってもよく、または個々の成分を含有する製剤の併用薬であってもよい。
【0060】
進行中のスクリーニングプログラムの一環として対象から参照値が取得される場合には特に対象のモニタリングが支援される。あるいは参照値は、固形腫瘍癌を有さない対象母集団から取得されてもよい。
【0061】
検証用の細胞は、限定されないが、外科的切除の際に、限定されないが針生検、コア生検、または吸引などの生検の際に、または例えば血液、尿、脳脊髄液、嚢胞液などの液体サンプルからの収集を含む、当分野に公知の任意の方法により取得されてもよい。DNA/mRNAの測定方法としては限定されないが、ポリメラーゼ連鎖反応、in situハイブリダイゼーション、ゲル電気泳動、配列解析、およびマイクロアレイ分析、またはそれらの組み合わせが挙げられる。タンパク質の測定方法としては限定されないが、質量分析法、1-Dまたは2-Dのゲル系分析システム、クロマトグラフィー、酵素結合型免疫吸着分析法(ELISA)、放射免疫分析法(RIA)、酵素免疫分析法(EIA)、ウェスタンブロッティング、免疫沈降、および免疫組織化学法が挙げられる。抗体アレイまたはタンパク質チップが採用されてもよい。対象において、剤により抗癌効果が生じる「可能性が高い」とは、検証されるパラメーター(例えば、PTGR1、PTPN14、およびASPHのmRNA、メチル化されたDNAおよび/またはタンパク質、実施例1に列挙される遺伝子またはエクソンの発現のレベルなど)において、対象が、当該剤が顕著な抗癌効果を生じさせない他の対象よりも、当該剤が顕著な抗癌効果を生じさせる他の対象とより類似していること、を意味する。対象において、剤により抗癌効果が生じる「可能性が低い」とは、検証されるパラメーターにおいて、対象が、当該剤が顕著な抗癌効果を生じさせる他の対象よりも、当該剤が顕著な抗癌効果を生じさせない他の対象とより類似していること、を意味する。
【0062】
医薬組成物は、個々の単一単位の剤形の製剤で使用され得る。本明細書において提供される医薬組成物および剤形は、本明細書において提供される免疫調節性化合物、またはその薬学的に許容可能な塩、溶媒和物、水和物、立体異性体、もしくはプロドラッグを含む。本明細書において提供される医薬組成物および剤形は、1つ以上の賦形剤をさらに含み得る。
【0063】
本明細書において提供される医薬組成物および剤形は、一つ以上の第二の活性成分も含み得る。その結果、本明細書において提供される医薬組成物および剤形は、本明細書に開示される活性成分(例えば、免疫調節性化合物)を含む。最適な第二の活性成分または追加の活性成分の例は、本明細書に開示されている。
【0064】
本明細書において提供される方法を実施するためのキットおよび組成物も予期される。ある実施形態では、本明細書において、抗癌化合物の有効性の判定に有用なキットが提供される。ある実施形態では、本明細書において、患者の治療における化合物の有効性の分析に有用なキットが提供される。一部の実施形態では、本明細書において、免疫調節性化合物の効果の判定に有用なキットが提供される。キットは、固形支持体と、生物学的サンプル中の少なくとも1つのバイオマーカーの遺伝子、タンパク質または糖タンパク質の発現の検出手段を含む。そうしたキットは、例えば、尿試験紙、膜、チップ、ディスク、試験紙、フィルター、マイクロスフィア、スライド、マルチウェルプレート、または光ファイバーなどを採用してもよい。キットの固形支持体は、例えば、プラスチック、シリコン、金属、樹脂、ガラス、膜、粒子、沈殿物、ゲル、ポリマー、シート、球、多糖、キャピラリー、フィルム、プレートまたはスライドであってもよい。生物学的サンプルは、例えば、細胞培養物、細胞株、組織、口腔組織、消化管組織、器官、細胞内小器官、生物学的液体、血液サンプル、尿サンプル、または皮膚サンプルであってもよい。
【0065】
1つの実施形態では、本明細書において提供されるキットは、本明細書において提供されるイルジン化合物、またはその薬学的に許容可能な塩、溶媒和物、または水和物を含む。キットはさらに、限定されないが本明細書に開示される活性剤などの追加の活性剤を含んでもよい。
【実施例
【0066】
本明細書において提供されるある実施形態は、以下の非限定的な実施例により解説される。
【0067】
実施例1に示されるように、マルチオミクス分子プロファイルが判明している癌細胞株パネルからのインビトロでのイルジン(LP-184)感受性データの分析によって、10個の遺伝子(ASPH、HDAC4、IKZF1、ITGA4、ITK、NRF1、PIK3CG、PRKCQ、PTGR1およびPTPN14)のシグネチャーが明らかとなった。それら遺伝子は盲検試験で最大で100%を含む正確性でイルジン感受性を予測することができた。これら10個の遺伝子の遺伝子発現、DNA変異、DNAメチル化、およびタンパク質発現の状態はさらに、イルジン(LP-184)感受性との相関に関してコンピューター計算された。表1に示されるように、これら10個の遺伝子のうち3個の遺伝子が、マルチオミクスレベルでイルジンの生物活性と有意に高い相関があることが明らかとなった。それら遺伝子は、PTGR1、PTPN14、およびASPHである。それら3個の遺伝子は、図1にあるイルジン(LP-184)感受性を判定する中で、相対的な重要性に関し、最も高い遺伝子重み付けも有していた。それら3つの遺伝子は、図2に示されるように、イルジンのレスポンダーまたは非レスポンダーとしてサンプルを分類する際に最も突出した遺伝子であることが明らかとなった。まとめると、癌においてイルジン(LP-184)に対する感受性を判定し、応答を予測する新規の遺伝子セットが確立された。
【0068】
実施例1
【0069】
【表1】
図1
図2
【国際調査報告】