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特表2022-513355条件付き不死化に関する制御可能な導入遺伝子を含む人工多能性細胞
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-07
(54)【発明の名称】条件付き不死化に関する制御可能な導入遺伝子を含む人工多能性細胞
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/074 20100101AFI20220131BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220131BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20220131BHJP
   C12N 15/85 20060101ALI20220131BHJP
   C12N 15/867 20060101ALI20220131BHJP
   C12N 15/86 20060101ALI20220131BHJP
   C12N 5/0775 20100101ALI20220131BHJP
   C12N 5/0797 20100101ALI20220131BHJP
   C12N 5/0789 20100101ALI20220131BHJP
   C12N 5/077 20100101ALI20220131BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20220131BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20220131BHJP
   C12N 5/0781 20100101ALI20220131BHJP
   C12N 5/0784 20100101ALI20220131BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220131BHJP
   A61K 35/545 20150101ALI20220131BHJP
   A61K 35/28 20150101ALI20220131BHJP
   A61K 35/30 20150101ALI20220131BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20220131BHJP
   A61K 35/32 20150101ALI20220131BHJP
   C07K 14/47 20060101ALN20220131BHJP
   C07K 19/00 20060101ALN20220131BHJP
【FI】
C12N5/074
C12N5/10
C12N15/12
C12N15/85 Z
C12N15/867 Z
C12N15/86 Z
C12N5/0775
C12N5/0797
C12N5/0789
C12N5/077
C12N15/62 Z
C12N5/0783
C12N5/0781
C12N5/0784
A61P43/00 111
A61K35/545
A61K35/28
A61K35/30
A61K35/17 Z
A61K35/32
C07K14/47
C07K19/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021545340
(86)(22)【出願日】2019-10-11
(85)【翻訳文提出日】2021-06-09
(86)【国際出願番号】 GB2019052908
(87)【国際公開番号】W WO2020074925
(87)【国際公開日】2020-04-16
(31)【優先権主張番号】1816670.2
(32)【優先日】2018-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】1816934.2
(32)【優先日】2018-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】521153180
【氏名又は名称】リニューロン リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】ペルズ,スティーブ
(72)【発明者】
【氏名】コルテリング,ラドルフ
(72)【発明者】
【氏名】シンデン,ジョン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AA95Y
4B065AA97Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA02
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB64
4C087BB65
4C087MA16
4C087MA17
4C087MA23
4C087MA27
4C087MA44
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZC02
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA50
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、条件付きで不死化可能な、細胞、例えば、成体幹細胞から形成される人工多能性幹細胞に関する。特に、本発明は、条件付き不死化に関する制御可能な導入遺伝子を含む幹細胞株から形成される人工多能性幹細胞、およびそれらの人工多能性幹細胞の後代に関する。人工多能性幹細胞、それらの多能性細胞由来の後代細胞、それらの細胞を含む組成物、それらの細胞のすべてを生成する方法、およびそれらの細胞のすべての使用も記載される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
条件付き不死化に関する制御可能な導入遺伝子を含む、人工多能性幹細胞。
【請求項2】
条件付き不死化細胞または条件付き不死化幹細胞から得ることができるか、または得られる、多能性幹細胞。
【請求項3】
1つ以上の転写因子により条件付き不死化幹細胞をリプログラミングすることによって得ることができるか、または得られる、請求項1または請求項2に記載の多能性幹細胞。
【請求項4】
C-MYC-ER融合タンパク質を含む、請求項1から3のいずれかに記載の多能性幹細胞。
【請求項5】
c-mycER導入遺伝子を含み、場合によりゲノム中に含む、請求項1から4のいずれかに記載の多能性幹細胞。
【請求項6】
条件付き不死化神経幹細胞から得ることができるか、または得られる、請求項1から5のいずれかに記載の多能性幹細胞。
【請求項7】
条件付き不死化幹細胞株から得ることができるか、または得られる、請求項1から6のいずれかに記載の多能性幹細胞。
【請求項8】
前記幹細胞株は、ECACC受託番号04091601を有するCTX0E03またはECACC受託番号04110301を有するSTR0C05である、請求項7に記載の細胞。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の多能性細胞から誘導される、細胞。
【請求項10】
前記誘導された細胞は、1つ以上の分化のマーカーを発現する幹細胞である、請求項9に記載の細胞。
【請求項11】
前記誘導された細胞は、内胚葉、中胚葉または外胚葉系のものである、請求項9または請求項10に記載の細胞。
【請求項12】
前記誘導された細胞は、
間葉系幹細胞、神経幹細胞、もしくは造血幹細胞;
体細胞(成体)幹細胞;
多能性細胞、少能性細胞もしくは単能性細胞;
高分化細胞;
免疫細胞、場合によりT細胞、NK細胞、B細胞、もしくは樹状細胞からなる一覧から選択される免疫細胞;
軟骨細胞;
脂肪細胞;または
骨細胞
である、請求項9から11のいずれかに記載の細胞。
【請求項13】
多能性幹細胞を生成する方法であって、
条件付き不死化幹細胞をリプログラミングするステップを含む、方法。
【請求項14】
前記リプログラミングするステップは、前記条件付き不死化幹細胞中に、転写因子OCT4、L-MYC、KLF4およびSOX2のうちの1つ以上、および場合によりRNA結合性LIN28を導入することを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記導入された転写因子は、OCT4を含むか、もしくはそれからなり、
前記導入された転写因子は、OCT4およびSOX2を含むか、もしくはそれらからなり、
前記導入された転写因子は、OCT、KLF4およびSOX2を含むか、もしくはそれらからなり、
前記導入された転写因子は、OCT4、KLF4、SOX2およびMYCを含むか、もしくはそれらからなり、または
MYC活性は、リプログラミングされる前記幹細胞においてc-myc-ERTAM導入遺伝子を活性化するために培地に4-OHTを供給することによってもたらされ、リプログラミングプロセスを促進する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記転写因子および任意のLIN28は、前記条件付き不死化幹細胞中に、1つ以上のエピソームプラスミド、または1つ以上のウイルスベクター、場合によりレンチウイルス、レトロウイルスもしくはセンダイウイルスから選択される1つ以上のウイルスベクターを使用して、またはmRNAトランスフェクションによって導入される、請求項14または請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記多能性幹細胞を内胚葉、中胚葉または外胚葉系に分化させるステップをさらに含む、請求項13から16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
前記内胚葉、中胚葉または外胚葉系は、リプログラミングされた前記条件付き不死化幹細胞の系列とは異なる、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記多能性幹細胞を、
間葉系幹細胞、神経幹細胞、もしくは造血幹細胞;
体細胞(成体)幹細胞;
多能性細胞、少能性細胞もしくは単能性細胞;
高分化細胞;
免疫細胞、場合によりT細胞、NK細胞、B細胞または樹状細胞からなる一覧から選択される免疫細胞;
軟骨細胞;
脂肪細胞;または
骨細胞
に分化させる、請求項17または請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記方法の結果もたらされる前記細胞の条件付きで不死化された表現型を再活性化するステップを含む、請求項17から19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
リプログラミングされる前記条件付き不死化幹細胞は、請求項3から8のいずれかにおいて定義される、請求項13から20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
前記方法によって得られる前記細胞を培養するステップ;
前記方法によって得られる前記細胞を継代するステップ;
前記方法によって得られる前記細胞を収集するステップもしくは回収するステップ;
前記方法によって得られる前記細胞を1つ以上の容器に包装するステップ;および/または
前記方法によって得られる前記細胞を1つ以上の賦形剤、安定剤もしくは保存料とともに製剤化するステップ
から選択される1つ以上のステップを含む、請求項13から21のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
請求項13から16、21または22に記載の方法によって得られるか、または得ることができる、多能性幹細胞。
【請求項24】
請求項17から22のいずれかに記載の方法によって得られるか、または得ることができる、細胞。
【請求項25】
請求項1から12、23または24のいずれかに記載の細胞によって産生される、微粒子。
【請求項26】
エクソソームである、請求項25に記載の微粒子。
【請求項27】
請求項1から12、23または24のいずれかに記載の細胞あるいは請求項25または請求項26に記載の微粒子、および1つ以上の薬学的に許容される賦形剤を含む、医薬組成物。
【請求項28】
疾患または障害を、処置を必要とする患者において処置する方法で使用するための、請求項23または24に記載の細胞、請求項25または26に記載の微粒子、あるいは請求項27に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、条件付きで不死化可能な、細胞、例えば、成体幹細胞から形成される人工多能性幹細胞に関する。特に、本発明は、条件付き不死化に関する制御可能な導入遺伝子を含む細胞から生成される人工多能性幹細胞、およびそれらの人工多能性幹細胞の後代に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト多能性幹細胞(hPSC)は、体に見られるあらゆる細胞タイプに分化できる特性である多能性の特性によって定義される。これらは、初期胚(胚盤胞、受精後およそ6.5日)の内部細胞塊由来の胚性幹細胞(hESC)、ならびにトランスダクションおよび特定の転写因子の外因性発現により体細胞を多能性表現型にリプログラミングすることによって生成される人工多能性細胞(hiPSC)を含む。
【0003】
多能性にリプログラミングすることができるような転写因子の基本セットがOKSM(OCT4、KLF4、SOX2、C-MYC)として知られているが、O、K、SもしくはMの代わりになり得るか、またはリプログラミング、確率過程が生じる効率を調節することができる他の因子も知られている。
【0004】
一般に、低継代一次細胞が、人工多能性幹細胞(iPSC)を形成するリプログラミングのための好ましい基材である。そのような細胞は、より高継代の細胞よりも速く分裂する傾向があるという利点を有し、非分裂細胞は、リプログラミングを受けにくい。これらはまた、正倍数体である可能性が高い。成体幹細胞(ASC)も多能性にリプログラミングするための有望な基材をもたらし、リプログラミング因子(例えば、SOX2、KLF4)の内因性発現、および(多/複)能性と関連するよりオープンなクロマチン構造に起因して、より少数の転写因子およびより少ないリプログラミング事象しか必要としない場合が多い。
【0005】
一次細胞よりむしろ不死の哺乳動物細胞から形成されるiPSCのいくつかの例(一般にEBV不死化血液細胞)が存在する。そのような細胞は、一般にEBVまたはがん遺伝子、例えば、シミアンウイルス40ラージT抗原の安定なゲノムの組み込みによって不死化されるため、その臨床的有用性は不確実である。例えば、293FT細胞株は、SV40ラージT抗原を安定して発現し、リプログラミング転写因子のトランスフェクション時に表現型が変化するが、これは、真のiPSCよりもむしろ異常なコロニーを形成する。したがって、そのような不死化細胞由来のiPSC株は、一般に、疾患モデリング、薬物の発見および発生学的研究などのインビトロ用途に限定される。
【0006】
さらに、Skvortsovaらによる研究(Oncotarget, 2018, Vol.9 (No.81), pp35241-35250)は、不死化マウス線維芽細胞株が多能性状態へのリプログラミングに不応性であること、および不死化と関連する異数性およびインビトロ選択がそのような不応性の原因ではなさそうであることを報告している。したがって、多能性状態へのリプログラミングに適した細胞を特定しようとする場合、重大な技術的課題があり、少なくとも一部の不死化細胞はリプログラミングに対して不応性である。
【0007】
多能性幹細胞は、安定であり、インビトロにおいて無制限に培養され得る。しかしながら、その奇形腫形成の能力などの臨床用途に対する課題および大半の分化プロトコルが所望のエンドポイントに対して100%未満の分化をもたらすという問題がある。したがって、治療用集団において残存する多能性細胞からの奇形腫形成の本式のリスク、および望ましくない細胞タイプを患者に一緒に移植する問題が依然としてある。そのような望ましくない部分集団は、治療の効率の低下だけであっても、不明確または負の影響がある可能性もある。これは、所望の治療用細胞タイプが、慢性または急性の減少が患者における病状の原因となる高分化細胞タイプではなく、むしろ、患者の適した組織において最終細胞タイプを生じる後期組織前駆細胞/成体幹細胞集団である場合が多いという事実によって悪化する。後期前駆細胞集団は、インビトロ培養では安定でない場合が多いため、上記の純度問題に加えて、理論において多能性細胞からのその生成が事実上無制限であっても、臨床的使用に許容できるレベルの純度でのスケーラブルな生成は少なからぬ課題である。
【0008】
そのような前駆細胞集団はまた、一般に取り扱いが非常に難しい。それらの細胞が移植に先立って患者または別の人のいずれかから単離される場合(例えば、骨髄細胞)、材料の非常に制限された利用可能性、両人が同時に同じ場所での手術に応じられる要件、適した(例えば、免疫適合性の(immunocompatible))ドナーが得られること、移植される材料純度およびQCの欠如のすべてに関連する困難がそのような処置の一般化を制限する。理論上は、hiPSCなどのhPSCを分化させることによってそのような細胞集団を形成する可能性は、そのような問題を改善するであろうが、その他の課題を提示する。極めて、前駆細胞集団は、インビトロで取り扱うのが難しく、時間とともに安定でなくなる。したがって、その均一でGMPに準拠したスケーラブルな生成は、GMP(医学)品質のiPSCが利用可能であっても、一般に不可能である。大半の分化プロトコルは、100%の効率ではないため、汚染部分集団が治療用細胞集団に存在する可能性がある。
【0009】
臨床的有用性を有する幹細胞を形成することに対するニーズが依然としてある。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、人工多能性幹細胞(iPSC)技術が、条件付き不死化細胞、特に、条件付き不死化幹細胞からiPSCを形成することによって改善され得るという驚くべき認識に基づくものである。
【0011】
本発明の第1の態様は、条件付き不死化に関する制御可能な導入遺伝子を含む人工多能性幹細胞を提供する。制御可能な導入遺伝子は、一般に人工多能性幹細胞に由来する後代の(より分化した)細胞を条件付きで不死化することができる。こうした後代の細胞は、そうでなければ取り扱うのが難しいこともあるため、条件付き不死化導入遺伝子の存在が改善点である。
【0012】
本発明の第2の態様は、条件付き不死化細胞、一般に条件付き不死化幹細胞から得ることができるか、または得られる多能性幹細胞を提供する。
【0013】
本発明の第3の態様は、多能性幹細胞を生成する方法であって、条件付き不死化細胞、一般に条件付き不死化幹細胞をリプログラミングするステップを含む、方法を提供する。本方法は、多能性幹細胞からさまざまな細胞タイプを形成する続くステップをさらに含んでもよい。
【0014】
本発明のさらなる態様は、本発明の任意の方法によって生成される細胞、および任意のそれらの細胞によって生成される微粒子に関する。
【0015】
本発明者らは、条件付き不死化細胞、例えば、幹細胞、例えば、CTX0E03またはSTR0C05細胞株由来の細胞の多能性へのリプログラミングが、他の成体幹細胞または組織前駆細胞集団の形成を可能にすることを発見した。多能性細胞が一旦形成されると、任意の所望の系列、例えば、外胚葉、内胚葉または中胚葉系の細胞をもたらすために、従来の分化プロトコルが使用できる。特定の実施形態において、多能性細胞は、元の条件付き不死化幹細胞の系列とは異なる系列に向けられる。特定の実施形態において、人工多能性細胞は、間葉系幹細胞、神経幹細胞、または造血幹細胞へ分化させることができ、Tリンパ球、NK細胞および樹状細胞などの免疫系の細胞へのさらなる分化を含む。特定の実施形態において、人工多能性細胞は、体細胞(成体)幹細胞、多能性(multipotent)細胞、少能性(oligopotent)細胞もしくは単能性細胞、または高分化細胞に分化されてもよい。
【0016】
下記の実施例は、さまざまな条件付き不死化細胞から本発明により形成されたiPSCが多能性であり、内胚葉、中胚葉および外胚葉系になることができることを示している。実施例は、成体幹細胞(MSC)が本発明のiPSCから形成され得ることをさらに示している。これらのMSCは、多能性であること、ならびに軟骨、脂肪および骨細胞に分化できることが示されている。
【0017】
本発明の人工多能性細胞の、免疫系の機能細胞への分化も記載されている。これらの免疫細胞としては、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞および樹状細胞が挙げられる。当業者には理解されるとおり、これらの細胞は、通常、造血系を介して到達する。
【0018】
細胞、例えば、幹細胞は、c-myc-ERTAM導入遺伝子により条件付きで不死化可能にすることができる。この導入遺伝子は、表現型にいかなる変化も与えることなく増殖および細胞分裂を促進する4-ヒドロキシタモキシフェンを細胞培養培地に添加することによって、神経幹細胞株CTX0E03およびSTR0C05などの幹細胞株の安定でスケーラブルな生成を可能にすることが既に示された。
【0019】
条件付き不死化幹細胞は、一般に、体細胞の幹細胞とも呼ばれる成体幹細胞である。例えば、それは、CTX0E03幹細胞株由来の細胞などの神経幹細胞である場合もあるであろう。CTX0E03神経幹細胞株は、本出願人(ReNeuron Limited)によってEuropean Collection of Authenticated Cell Cultures(ECACC)、Porton Down、UKに寄託され、ECACC受託番号04091601を有する。他の実施形態において、神経幹細胞株は、「STR0C05」細胞株、「HPC0A07」細胞株(これも本出願人によってECACCに寄託された)またはMiljan et al Stem Cells Dev. 2009に開示されている神経幹細胞株であってもよい。
【0020】
条件付き不死化幹細胞は、多能性にリプログラミングされる。多能性表現型を誘導することは、一般に特定のセットの多能性関連遺伝子の生成物、すなわち「リプログラミング因子」を所与の細胞タイプに導入することを伴う。リプログラミング因子の元のセット(山中因子とも呼ばれる)は、転写因子Oct4、Sox2、cMyc、およびKlf4である。リプログラミング因子は、細胞中に、当該技術分野において周知であるとおり、一般にウイルスまたはエピソームベクターを使用して導入される。
【0021】
リプログラミング因子を細胞に導入するのに適したウイルスベクターとしては、レンチウイルス、レトロウイルスおよびセンダイウイルスが挙げられる。リプログラミング因子を導入するための他の技術としては、mRNAトランスフェクションが挙げられる。
【0022】
驚くべきことに、CTX0E03などの特定の条件付き不死化幹細胞を多能性にリプログラミングするためにたった1つの転写因子しか必要とされないことが確認された。例えば、図2B~Dは、OCT4単独でCTX0E03の多能性を誘導することができることを示す。多能性を実現することが確認された転写因子の組み合わせとしては、OCT4およびSOX2;OCT、KLF4およびSOX2;OCT4、KLF4、SOX2およびMYCが挙げられる。したがって、これらの組み合わせを含むか、またはそれからなるリプログラミング因子が本発明に使用するために提供される。図2Cにおいて多能性を首尾よく誘導する因子の組み合わせのそれぞれが、本発明の個々の実施形態として提供される。条件付き不死化幹細胞を多能性に誘導する際に使用するためのリプログラミング因子は、例示された組み合わせを含むか、またはそれからなってもよい。
【0023】
他の不死化因子も当該技術分野において知られており、当業者には明らかであろう。因子の任意の適した組み合わせが使用されてもよく、これは、十分に当業者の能力の範囲内である。例えば、小分子阻害剤によるリプログラミングは、当該技術分野において知られており、同時に、NANOGおよびTET1が他の適した転写因子として知られている。例として、Thomsonおよび同僚は、OKSMの代替物としてNANOG、KLF4、SOX2およびLIN28を使用した。別の例において、TET1は、OCT4の代わりにすることができることが示された。
【0024】
c-myc-ERTAM導入遺伝子の活性は、細胞のMYC活性を再現するため、c-myc-ERTAM誘導性不死化幹細胞をリプログラミングする場合、MYCがん遺伝子を発現するベクターは必須でなく、その理由は、必要とされる場合、この活性は、培地に4-OHTを供給することによってもたらされ、c-myc-ERTAM融合タンパク質を活性化することができるからである。したがって、いくつかの実施形態において、MYC(例えば、MYCリプログラミングベクター)は、別個のリプログラミング因子として使用されない。当業者は、MYC以外の遺伝子を使用する条件付き不死化システムが、それらをリプログラミングするために外因性MYCを必要とする場合もあることを当然認識するであろう。
【0025】
人工多能性細胞は、任意の所望の細胞タイプに分化させることができる。細胞系列または細胞タイプを判定するための技術は、当該技術分野において周知である。一般に、これらの技術は、細胞表面(および/またはOct4などの多能性のマーカーの不在)または細胞内のいずれかの分化のマーカー、例えば、系列特異的な転写因子、細胞形態および機能の存在の判定を伴う。例えば、多能性幹細胞は、一般にカノニカル多能性転写因子OCT4、および細胞表面抗原TRA-1-60およびSSEA-4が陽性であるが、初期分化マーカーSSEA-1を発現しない。
【0026】
内胚葉系のマーカーとしては、GATA6、AFPまたはHNF-アルファが挙げられる。他の内胚葉マーカーとしては、クローディン-6、サイトケラチン19、EOMES、SOX7およびSOX17の1つ以上を挙げることができる。
【0027】
中胚葉系のマーカーとしては、BMP2、ブラキュリまたはVEGFが挙げられる。他の中胚葉マーカーとしては、アクチビンA、GDF-1、GDF-3、およびTGF-ベータのうちの1つ以上を挙げることができる。
【0028】
外胚葉系のマーカーとしては、PAX6、ネスチンまたはTubIIIが挙げられる。他の外胚葉マーカーとしては、ノギン、PAX2およびコーディンのうちの1つ以上を挙げることができる。
【0029】
さまざまな系列への分化は、例えば、図3Dに示される。CTX-iPSCおよびSTR0C-iPSCの内胚葉、中胚葉および外胚葉系への分化は、実施例2(図7)および実施例3(図9)にも示される。実施例2は、以下のマーカーを使用する。
【0030】
【表1-1】
【0031】
多能性細胞は、任意の所望の細胞タイプに分化させることができる。これは、間葉系幹細胞、神経幹細胞、または造血幹細胞を含むことがある。別の実施形態において、体細胞(成体)幹細胞は、本発明の人工多能性細胞の分化から生じる。他の実施形態において、本方法によってもたらされる細胞は、多能性細胞、少能性細胞または単能性細胞である。この実施形態の例は、前駆細胞、例えば、神経前駆細胞の生成であろう。神経前駆細胞は、PloS One (2011) vol. 6 e20692においてNistorおよび同僚によって、場合によって神経変性疾患の処置に潜在的に有用であると記載されている。もたらされる細胞はまた、分化のための既知の技術を使用して、高分化細胞に完全に分化させることができる。この実施形態の例は、Carriおよび同僚(2013年)によって示されるとおり、ハンチントン病において脱落している中型有棘ニューロンへの分化およびそのニューロンのスケーラブルな生成である。Stem Cell Review and Reports, DOI 10.1007/s12015-013-9441-8を参照。特定の実施形態において、造血幹細胞は、T細胞、NK細胞および/または樹状細胞に分化させることができる。したがって、T細胞は、一実施形態として提供される。ナチュラルキラー細胞は、別の実施形態として提供される。樹状細胞がさらに提供される。
【0032】
CTX-iPSCの間葉系幹細胞への分化は、実施例1および図5において示されている。この例において、MSC表現型は、マーカーのCD73、CD90およびCD105が存在するが、CD14、CD20、CD34またはCD45は存在しないことによって特定される。
【0033】
CTX-iPSC-MSCの軟骨、脂肪および骨細胞への分化は、実施例3および図10において示されている。
【0034】
c-myc-ERTAM導入遺伝子に続く4-OHTの培地への添加による(必要に応じて)再活性化は、誘導される細胞集団の無限の増殖を可能にするはずである。CTX0E03自体と類似していることから、これは、事実上無制限の量の治療に有用な細胞集団のインビトロにおけるスケーラブルな生成を可能にすることが予想され、これは、細胞療法が存在しないか、または組織ドナーの利用可能性もしくはhPSCからの分化プロトコルの技術的な制約によって制限されるかのいずれかの、急性または慢性の細胞損失によって特徴づけられる任意の状態のための「すぐに利用できる(off-the-shelf)」療法として使用することができる。
【0035】
本発明の方法は、所望の生成物を得るために必要な場合もある処理、培養または製剤化ステップをさらに含んでもよい。特定の実施形態において、本発明の方法は、典型的には方法の終わりに、以下のステップの1つ以上を含んでもよい:
本方法の結果もたらされる細胞を培養するステップ、
本方法の結果もたらされる細胞を継代するステップ、
本方法の結果もたらされる細胞を収集するステップもしくは回収するステップ、
本方法の結果もたらされる細胞を1つ以上の容器に包装するステップ、および/または
本方法の結果もたらされる細胞を1つ以上の賦形剤、安定剤もしくは保存料とともに製剤化するステップ。
【0036】
条件付き不死化幹細胞、リプログラミングの結果もたらされる多能性細胞、および多能性細胞から得ることができるさらに分化した細胞は、一般に単離または精製される。これらの細胞のいずれかによって産生される微粒子(細胞外小胞)、例えば、エクソソームも、一般に単離または精製される。
【0037】
分化後にもたらされる細胞、およびそれらによって生成される微粒子は、治療に使用することができる。治療は、一般にそれを必要とする個体の疾患または障害のものになる。患者は、一般にヒトになる。
【0038】
さらなる態様において、本発明は、条件付き不死化幹細胞;リプログラミングの結果もたらされる多能性細胞;多能性細胞から得ることができるさらに分化した細胞;またはこれらの細胞のいずれかによって生成される微粒子;および薬学的に許容される賦形剤、担体もしくは希釈剤を含む組成物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1-1】CTX細胞の多能性表現型へのリプログラミングを示す図である。(A)CTXリプログラミングプロセス(HPSC培地:E8/Stemflex;hPSC基質:LN-521/ビトロネクチン-XF)およびリプログラミングに使用され得るOKSMLを発現させるエピソームプラスミド(Epi5キット、Invitrogen)の概略図。CTX培養培地は、所望の場合、c-myc-ERTAM導入遺伝子によりMYC活性を得るために、4-OHTが加えられても、または加えられなくてもよい。トランスフェクションは、リポフェクション、ヌクレオフェクションまたはエレクトロポレーションによってなど、さまざまな方法で実現されてもよい。(B)EGFPシグナルは、トランスフェクションの24時間後におけるトランスフェクション効率を示す。
図1-2】(図1の続き)(C)コロニー周辺の親CTX細胞とは非常に異なる細胞およびコロニー形態を示す、トランスフェクションの15日後のhPSC表現型を有するリプログラミングされたCTX細胞の日の浅いコロニーの例。(D)21日目の終了点のhPSC表現型の(アルカリホスファターゼ陽性、赤く染色された)コロニーを示す6ウェルプレートの例。
図2-1】CTX0E03細胞がさらに少数の因子によりリプログラミング可能であることを示す図である。(A)1つの因子を発現するベクター、pCE-OCT3/4、pCE-SOX2およびpCE-KLF4;4-OHT供給はc-myc-ERTAMによりMYCを模倣する。
図2-2】(図2の続き)(B)挿入図:コロニーカウントのための例のAP染色プレート。中心の画像:転写因子OCT4単独によりリプログラミングされたコロニー。
図2-3】(図2の続き)(C)さまざまな因子の組み合わせにより得られたコロニー数(S-K:pCE-SK、M-L:pCE-UL、S:pCE-SOX2、K:pCE-KLF4、M:4-OHT→d14)。(D)組み合わせの効果を示すベン図(数:x個のコロニーが得られた;ゼロ:コロニーなし)。
図3-1】CTX-iPSCの多能性表現型を示す図である。(A)CTX-iPSCの細胞およびコロニー形態、(ii、iii)は、hPSCに典型的な目立つ核小体を有する小さな緊密に詰め込まれた細胞の高密度のコロニーを再現している人工多能性CTX細胞株の2つの例であり、親CTX細胞(i)の神経細胞表現型とは著しく異なっている。(B)CTX-iPSC株は、酵素マーカーアルカリホスファターゼ(ピンク染色)を発現する。確立されたCTX由来hIPSC株のアルカリホスファターゼ染色。ピンクの着色は、細胞が多能性マーカーTNAPに関して陽性であることを示すため、インビトロにおける酵素触媒による変色反応を実施することができる。
図3-2】(図3の続き)(C)フローサイトメトリーは、CTX-iPSC株が、転写因子OCT4、ならびに細胞表面抗原SSEA-4およびTRA-1-60を含む多能性関連マーカーを発現するが、初期分化マーカーSSEA-1は発現しないことを示す。(i)いくつかのCTX-iPSC株に関する集計表、(ii)1つのCTX-iPSC株に関するデータ例:上の行、左から右に:SSEA-1、OCT4、SSEA-4;下の行、左から右に:TRA-1-60、前方散乱対側方散乱、SSEA-4。
図3-3】(図3の続き)(D)RT-qPCRは、内胚葉、中胚葉および外胚葉へのインビトロ分化時の系列特異的なマーカーのアップレギュレーションを示す(個々のCTX-iPSC株は色によって示される)。
図4】CTX-iPSCにおいて導入遺伝子座を評価する図である。(A)G418における親CTX0E03細胞(一番上、4日目、2行目、10日目)および4日目の5つのCTX-iPSC株(3~7行目)のギムザ染色は、c-myc-ERTAM関連NeoR遺伝子の発現活性を示す。(B)c-myc-ERTAM導入遺伝子を駆動するCMV-IEプロモーターのバイサルファイト変換は、その遺伝子座におけるシトシンメチル化状態を示す(白丸、非メチル化CpG;黒円、メチル化CpG;カンマ、不確定な読み取り)。
図5】例示となるCTX-iPSC由来の治療用細胞集団の生成を示す図である。(A)mTeSR1培地のラミニン-521上の多能性CTX-iPSC(インビトロにおいて多能性を保護するための標準的な培養条件)。(B)MSC培地(α-MEM、10% FCS、25mM HEPES)において(A)の細胞由来のプラスチック付着性の候補の間葉系幹細胞(MSC)。(C)CTX-iPSC-MSCのフローサイトメトリーは、それらが、ISCT基準に従って、MSCマーカーCD73、CD90およびCD105を発現するが、CD14、CD20、CD34またはCD45を発現しないことを示す(青、染色;赤、アイソタイプ対照)。
図6】多能性へのCTXの細胞リプログラミングは、遺伝子発現における劇的な全ゲノムでの変化をもたらすことを示す図であり、ここでは多能性および神経系発生において重要な役割を有する遺伝子の発現調節の例によって示される。シングルセルRNA配列(トランスクリプトーム)データを、CTXの3つのサンプル(緑)、3つのCTX-iPSC細胞株(青)および皮質系列に沿って分化を経た同じCTX-iPSC株(赤)に関して示す(色調、左上パネルを参照)。後者の場合、神経外胚葉遺伝子発現の選択したセットのRT-qPCR分析によって定義されるとおり、最も厳密にCTX自体を再現する時点で分化を中止させた。それぞれのパネルは、シングルセル遺伝子発現データの「tSNEプロット」であり、「雲状のもの」のそれぞれの点は1つの細胞を示す。グレー:発現なし、オレンジ:中程度の発現;赤:高発現。プロットは、CTXにおいて不活性の多能性遺伝子:POU5F1、NANOG、UTF1、TET1、DPP4、TDGF1、ZSCAN10およびGALが、リプログラミングされた細胞では活性化されたことを示す。重要なことに、これらの遺伝子のうち、POU5F1のみがリプログラミングの間に外因的に与えられ、リプログラミング時の内在性遺伝子の活性化を明確に確認する。反対に、CTXによって発現されるいくつかの神経系遺伝子は、多能性へのリプログラミング時、ダウンレギュレートされ(NOGGIN、ADAM12、NTRK3、PAX6)、CTX細胞によって強く発現される遺伝子であるOCIAD2も同様である。GLI3およびPAX6などの神経外胚葉発生に重要ないくつかの遺伝子は、それらが、神経外胚葉の運命を選択するように、多能性細胞の皮質分化時にアップレギュレートされる。
図7】CTX-iPSCが多能性であることのさらなる確認を示す図である。3つの一次胚細胞系列、内胚葉、中胚葉および外胚葉を特定する転写因子などのタンパク質マーカーに対する免疫染色。
図8】別の条件付き不死化成体幹細胞タイプのリプログラミングを示す図である。この図は、別の条件付き不死化成体幹細胞(ASC)株、胎児の線条体細胞由来のSTR0C05の成功したリプログラミングを示す。パネル:A、リプログラミング因子によるトランスフェクションの24日後のリプログラミングされたSTR0C05細胞のコロニー;B、いくつかの細胞が多能性マーカー、アルカリホスファターゼを発現し始めたことを示す、リプログラミングの初期のアルカリホスファターゼ(赤)染色STR0C05細胞;C、確立されたSTR0C05-iPSC株;D、さまざまなトランスフェクション条件に供されたウェルにおいてAP陽性コロニーがさまざまな頻度で出現する;陽性コロニーのないウェル1は、対照としてGFP(非リプログラミング)プラスミドでトランスフェクションされ、リプログラミングされた細胞がないが、ウェル4および6は、生存細胞がほとんどなかった;E、確立されたSTR0C05-iPSC株は、アルカリホスファターゼ陽性であり、F、多能性マーカーSSEA4も陽性であるが、初期分化マーカーSSEA1は陰性である。
図9】STR0C05-iPSCの多能性の確認を示す図である。内胚葉、中胚葉および外胚葉への分化が、3つの一次胚細胞系列を特定するタンパク質マーカー(一般に、転写因子)の同時発現を確認する免疫染色によって示される。
図10】CTX-iPSC由来の成体幹細胞の多能性の確認の図である。候補CTX-iPSC由来の間葉系幹細胞(CTX-iPSC-MSC)は、多能性である。定義されたパネルの細胞表面マーカータンパク質の発現および組織培養プラスチックへの付着に加えて(本出願の主要部分を参照)、この図は、軟骨(グリコサミノグリカンのアルシアンブルー染色によって示される)、脂肪(オイルレッドOによる細胞内脂質滴の染色によって示される)および骨(沈着したカルシウムのアリザリンレッド染色によって示される)へ分化する能力を確認する。
図11】条件付き不死化細胞のリプログラミングによって結果として作り出されたiPSCから分化した成体幹細胞における条件付き不死化導入遺伝子の機能を示す図である。4-ヒドロキシタモキシフェン(4-OHT)の存在下または非存在下において高継代(20継代)まで培養されたCTX-iPSC-MSCのフローサイトメトリープロフィール。この細胞株は、DNAメチル化データが脱メチル化C-MYC-ERTAMプロモーターを有することを示し、その結果、プロモーターが活性であることを意味するものである。この細胞株は、細胞周期が4-OHT/C-MYC-ERTAM系により誘導されるとき、その細胞表面マーカープロフィールをよりよく維持するようである。CD90およびCD105発現は、より一定でより高度に発現され、陰性マーカーCD14、20、34および45は、より一貫して低い。第2のパネルにおいて、4-OHT処理細胞は、分化時に骨を形成するのにより有効であるようであり、4-OHT/C-MYC-ERTAMにより駆動される細胞周期が、そうでなければ、細胞周期からの離脱時に生じるであろう分化および関連する能力喪失をいくぶん阻害することを示唆する。
図12】4-OHTの非存在下または存在下において培養されたCTX-iPSC-MSC株の例のグラフであり、C-MYC-ERTAM導入遺伝子が活性である(4-OHTが存在する)ときに向上したより一貫した増殖挙動を長期に示す。
図13】4-OHTの非存在下または存在下において培養されたCTX-iPSC-MSC株の第2の例のグラフであり、C-MYC-ERTAM導入遺伝子が活性である(4-OHTが存在する)ときに向上したより一貫した増殖挙動を長期に示す。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明者らは、驚くべきことに、条件付き不死化細胞が多能性幹細胞表現型にリプログラミングされ得ることを明らかにした。これは、既存の人工多能性幹細胞を超えた利点を提供する。特に、インビトロにおける不死化および長期培養にもかかわらず、驚くべきことに、神経幹細胞株CTX0E03およびSTR0C05が外因性転写因子によってリプログラミングされ得ることが示された。さらに、条件付きで制御される遺伝子がリプログラミング後も、以前と同様に活性化でき、発現停止できるまであることも驚きである。
【0041】
有利にも、条件付き不死化細胞のリプログラミングは、標準的な(条件付きで不死化されていない)細胞においてよりも少ないリプログラミング因子により達成できる場合が多い。特定の実施形態における成体幹細胞の使用は、同様の利点をもたらす。
【0042】
さらに、細胞の条件付き不死化の性質は、細胞および不死化システムを超えた有益な制御性を提供する。いくつかの実施形態において、これらの利点は、C-MYC-ERTAM条件付き不死化システムによってもたらされる。理論に縛られることを望まないが、多能性にリプログラミングするためのソースとしての条件付き不死化細胞の使用にって、不死化(すなわち、永続的に不死化された)細胞を使用した以前の試みを超える、確認済みの利点をもたらすと考えられる。
【0043】
実施例のCTX-iPSCおよびSTR0C-iPSCなどの本発明の人工多能性細胞は、非常に有用な臨床的供給源である。これらは、所望の系列に沿って分化させて、組織前駆細胞株または成体幹細胞集団などの標的集団を形成することができる。その結果、継続的な増殖を促進し、細胞周期離脱および関連するさらなる分化を防ぐための不死化剤(例えば、4-OHT)の供給は、新しいバッチの細胞療法生成物が必要とされる都度毎に、一次材料から細胞単離を繰り返すこともなく、人工多能性幹細胞からデノボの分化プロトコルを繰り返すこともなく、以前は実現不可能だった臨床上適切な部分集団を、定型的かつスケーラブルに生成可能にするものである。これは、例えば、同種異系の細胞療法用のすぐに利用できる細胞供給源の可能性を提供する。
【0044】
同種異系のすぐに利用できる成体幹細胞療法用集団を大規模に生成するために誘導性不死化を再適用する能力が、特に有益であることが予想される。
【0045】
元の条件付き不死化細胞(例えば、CTX0E03)自体は適していない条件に対するすぐに利用できる処置の大規模生成のために、クローニングまたは精製ステップを使用して、より不均一またはあまり不均一でない分化培養物から所望の治療タイプの純粋な集団を形成することができ、分化プロトコルの効率が不十分な当該技術分野に見られる欠点を回避する。このことは、上記細胞自体または、CTX細胞自体によって産生されるものに対するペイロード分子の代替レパートリーを有する、さまざまな細胞タイプによって産生される微粒子(例えば、エクソソーム)部分の両方に当てはまる。
【0046】
さらに、これらのCTX-iPSC由来の亜株は既に臨床安全性試験(clinical phase safety trial)に合格した細胞株(CTX)から誘導されるため、新しい適応症における効力に関する臨床試験への移行が加速される可能性がある。
【0047】
特定の態様において、本発明は、それぞれ皮質組織および線条体組織由来であるCTX0E03またはSTR0C05神経幹細胞株、それぞれが異なるヒトドナーからの神経幹細胞株などの、条件付き不死化に関する制御可能な導入遺伝子を含むさまざまな神経幹細胞から形成される人工多能性幹細胞、ならびにそれらの人工多能性幹細胞の後代に関する。
【0048】
多能性の誘導およびiPS細胞
高橋および山中が、同時に4つの遺伝子を導入することによってマウス線維芽細胞から胚性幹細胞と類似の特性を有する幹細胞を形成することができることを示してから(Cell. 2006; 126: 663-676)、人工多能性細胞の形成は、当該技術分野において知られている。この原理が2007年にヒト細胞に適用された(Takahashi et al Cell. 2007; 131: 861-872;Yu et al Science. 2007; 318: 1917-1920)。最近の概説が、Shi et al, Nature Reviews Drug Discovery volume 16, pages 115-130 (2017)によって提供される。
【0049】
iPSCは、一般に、特定のセットの多能性関連遺伝子の生成物、すなわち「リプログラミング因子」を所与の細胞タイプに導入することによって誘導される。リプログラミング因子の元々のセット(山中因子とも呼ばれる)は、転写因子Oct4、Sox2、cMyc、およびKlf4である。
【0050】
iPS細胞の形成は、誘導に使用される転写因子に依存する。Oct-3/4およびSox遺伝子ファミリー(Sox1、Sox2、Sox3、およびSox15)の特定の生成物は、誘導プロセスに関与する非常に重要な転写制御因子として特定され、それが存在しないと誘導が不可能になる。しかしながら、Klfファミリー(Klf1、Klf2、Klf4、およびKlf5)、Mycファミリー(c-myc、L-myc、およびN-myc)、Nanog、およびLIN28の特定のメンバーを含む付加的な遺伝子が誘導効率を高めることが特定された。
【0051】
「POU5F1」、「OCT4」および「OCT3/4」は、同じ転写因子に対する同義語である。これは、当該技術分野において一般的にOCT4と呼ばれる転写因子であるが、さらに最近、POU5F1(POUクラス5ホメオボックス1)と改名されている。これらの名称は、当業者には明白なとおり、本明細書においては同義に使用される。
【0052】
リプログラミング因子は、細胞中に、当該技術分野において周知であるとおり、一般にウイルスまたはエピソームベクターを使用して導入される。細胞中にリプログラミング因子を導入するのに適したウイルスベクターとしては、レンチウイルス、レトロウイルスおよびセンダイウイルスが挙げられる。リプログラミング因子を導入するための他の技術としては、mRNAトランスフェクションが挙げられる。
【0053】
例えば、Schlaeger et al Nat Biotechnol. 2015 Jan; 33(1): 58-63によって概説されるとおり、非組み込み型リプログラミング法が当該技術分野において知られている。センダイウイルスリプログラミングでは、リプログラミング因子のセットをコードする複製可能なRNAを標的細胞に形質導入するためにセンダイウイルス粒子が一般に使用される。エピソームリプログラミングでは、長期のリプログラミング因子の発現は、一般に分裂細胞においてエピソームプラスミドDNA複製を促進するエプスタインバーウイルス由来の配列によって達成される。mRNAリプログラミングでは、細胞は、一般にリプログラミング因子をコードするインビトロ転写mRNAによりトランスフェクションされ、外来性の核酸による自然免疫系の活性化を制限するために化学的手段が利用される場合が多い。mRNAの半減期は非常に短いため、hiPSCを誘導するためには、毎日のトランスフェクションが必要とされることが多い。
【0054】
リプログラミング因子のトランスフェクションは、当該技術分野において既知のさまざまな方法において、例えば、リポフェクション、ヌクレオフェクションまたはエレクトロポレーションによって実現されてもよい。
【0055】
下記の一実施例において、条件付きで不死のCTX0E03細胞は、「山中因子」、OCT4、L-MYC、KLF4およびSOX2、ならびにLIN28をコードする標準的な非組み込み型エピソームベクターを使用して多能性にリプログラミングされた。別の実施例において、OCT4単独でCTX0E03の多能性を誘導することが示されている。多能性を実現することが同じく確認された転写因子の組み合わせとしては、OCT4およびSOX2;OCT、KLF4およびSOX2;OCT4、KLF4、SOX2およびMYCが挙げられる。
【0056】
特定の実施形態において、条件付き不死化細胞を多能性にリプログラミングするために、OCT4、L-MYC、KLF4およびSOX2のうちの1、2、3または4つ、ならびにLIN28が使用される。特定の実施形態において、OCT4ならびにL-MYC、KLF4およびSOX2のうちの1つ以上、ならびにLIN28が使用される。いくつかの実施形態において、これらの因子がcMYC-ERTAM条件付き不死化システムと組み合わせて使用される。
【0057】
下記の別の実施例(実施例3)において、STR0C05細胞は、転写因子POU5F1、SOX2、KLF4、L-MYC、LIN28およびp53のドミナントネガティブ阻害因子を発現するリプログラミングプラスミドpCE-hOCT3/4、pCE-hSK、pCE-hULおよびpCEmP53DDによりリプログラミングされた。したがって、特定の実施形態において、本発明による使用のための転写因子は、POU5F1、SOX2、KLF4、L-MYC、LIN28およびp53のドミナントネガティブ阻害因子を含んでも、またはそれらからなってもよい。当業者には明白であろうとおり、これらの1、2、3つ以上が除去されるか、または置き換えられてもよい。特定の実施形態において、POU5F1、SOX2、KLF4、L-MYC、LIN28およびp53のドミナントネガティブ阻害因子のうちの1、2、3、4つ以上が、条件付き不死化細胞を多能性にリプログラミングするために使用される。いくつかの実施形態において、これらの因子がc-myc-ERTAM条件付き不死化システムと組み合わせて使用される。
【0058】
いくつかの実施形態において、MYC活性は、リプログラミングされる幹細胞においてc-myc-ERTAM導入遺伝子を活性化するために培地に4-OHTを供給することによってもたらされ、リプログラミングプロセスを促進する。特定の実施形態において、したがって、個別に添加されるMYCは必要ない。
【0059】
条件付き不死化細胞
本発明は、条件付き不死化細胞を採取し、それが多能性表現型を有するよう誘導する。条件付き不死化細胞は、一般に条件付き不死化幹細胞、例えば、条件付き不死化成体幹細胞である。
【0060】
条件付き不死化細胞は、一般に哺乳動物のもの、より一般にヒトのものである。
【0061】
幹細胞は、当該技術分野において知られている。幹細胞は、増殖する能力、生物の寿命を超えて自己維持または再生を示す能力およびクローン的に関連する後代を形成する能力を有する細胞である。本発明によりリプログラミングされた幹細胞は、一般に多能性細胞である。本発明によりリプログラミングされる幹細胞は、一般に成体(体細胞)幹細胞である。
【0062】
本発明に使用するための幹細胞は、単離される。「単離される」という用語は、それが言及する細胞または細胞集団が天然の環境内にないことを示す。細胞または細胞集団は、周辺組織から実質的に分離されている。いくつかの実施形態において、細胞または細胞集団は、サンプルが少なくとも約75%、いくつかの実施形態において、少なくとも約85%、いくつかの実施形態において、少なくとも約90%、およびいくつかの実施形態において、少なくとも約95%の幹細胞を含む場合に、周辺組織から実質的に分離されている。言い換えると、サンプルは、サンプルが約25%未満、いくつかの実施形態において、約15%未満、およびいくつかの実施形態において、約5%未満の幹細胞以外の材料を含む場合に、周辺組織から実質的に分離されている。そのようなパーセンテージの値は、重量パーセンテージを指す。この用語は、細胞が由来し、培養物中に存在する生物から取り出された細胞を包含する。この用語はまた、細胞が由来し、その後、生物に再び挿入される生物から取り出された細胞も包含する。再び挿入された細胞を含む生物は、細胞が取り出された同じ生物であってもよく、または異なる生物であってもよい。
【0063】
幹細胞は、一般に本発明により生成される後代細胞の任意の将来的なレシピエントと同種異系である。
【0064】
本発明は、条件付き不死化幹細胞、例えば、不死化因子の発現が治療に有効な幹細胞の生成に悪影響を及ぼすことなく制御され得る幹細胞株を使用する。これは、細胞が活性化薬剤を供給されない場合に不活性である不死化因子を導入することによって実現されてもよい。そのような不死化因子は、c-mycERなどの遺伝子であってもよい。c-MycER遺伝子産物は、変異エストロゲンレセプターのリガンド結合ドメインと融合したc-Mycバリアントを含む融合タンパク質である。c-MycERのみが、合成ステロイド4-ヒドロキシタモキシフェン(4-OHT)の存在下において細胞増殖を駆動する(Littlewood et al. 1995)。このアプローチは、インビトロにおける神経幹細胞の制御された増殖を可能にすると同時に、神経幹細胞株中のc-Mycまたはc-Mycコード遺伝子の存在に起因する、宿主細胞の増殖に対するインビボでの望ましくない影響(例えば、腫瘍形成)を回避する。
【0065】
特定の実施形態において、条件付き不死化幹細胞は、以下のものであってもよい:
間葉系幹細胞、任意に骨髄由来幹細胞、子宮内膜再生細胞、間葉系前駆細胞または多能性成体前駆細胞から選択される;
神経幹細胞;
造血幹細胞、任意にCD34+細胞、および/または臍帯血から単離された造血幹細胞、あるいは任意にCD34+/CXCR4+細胞である;
非造血性臍帯血幹細胞(non-haematopoietic umbilical cord blood stem cell);あるいは
脂肪組織由来の間葉系幹細胞。
【0066】
これらの実施形態のそれぞれにおいて、細胞は、一般に哺乳動物のもの、より一般にヒトのものである。
【0067】
一般に、条件付き不死化幹細胞は、神経幹細胞、例えば、ヒト神経幹細胞である。
【0068】
神経幹細胞は、発生の過程においてニューロン、星状細胞および乏突起膠細胞を生じ、成体の脳において多くの神経系細胞に取って代わることができる。本発明による特定の態様に使用するための典型的な神経幹細胞は、とりわけ、神経系の表現型マーカー、Musashi-1、ネスチン、NeuN、クラスIII β-チューブリン、GFAP、NF-L、NF-M、微小管結合タンパク質(MAP2)、S100、CNPase、グリピカン、(とりわけ、グリピカン4)、神経型ペントラキシンII、神経型PAS1、神経成長関連タンパク質43、神経突起成長伸長タンパク質(neurite outgrowth extension protein)、ビメンチン、Hu、インターネキシン、04、ミエリン塩基性タンパク質およびプレイオトロフィンのうちの1つ以上を呈する細胞である。
【0069】
神経幹細胞は、幹細胞株、すなわち、安定して分裂する幹細胞の培養物由来であってもよい。幹細胞株は、単一の所定の供給源を使用して大量に増殖されてもよい。
【0070】
好ましい条件付き不死化神経幹細胞株としては、CTX0E03、STR0C05およびHPC0A07神経幹細胞株が挙げられ、これらは、本特許出願の出願人、ReNeuron Limitedによって、European Collection of Animal Cultures(ECACC)、Vaccine Research and Production laboratories、Public Health Laboratory Services、Porton Down、Salisbury、Wiltshire、SP4 0JGに受託番号04091601(CTX0E03);受託番号04110301(STR0C05);および受託番号04092302(HPC0A07)で寄託されている。これらの細胞の由来および起源は、欧州特許第1645626号明細書および米国特許第7416888号明細書に記載されており、ともに参照によってその全体が本明細書に組み込まれる。
【0071】
CTX0E03(ECACC寄託番号04091601)
CTX0E03は、虚血性脳卒中および肢損傷の治療法としての臨床試験における神経幹細胞株である。これは、C-MYC-ERTAM融合タンパク質の組み込みによって制御可能に不死化され、この融合タンパク質は、ERTAMドメインの合成エストロゲン誘導体4-ヒドロキシタモキシフェン(4-OHT)との結合時に核に移動し、そこでC-MYCドメインが無限の細胞周期を促進する。C-MYC-ERTAMの発現は、細胞表現型に影響を及ぼさないようである。したがって、無制限に多くの患者が、「すぐに利用できる」同種異系療法としてCTXにより処置可能である。導入遺伝子は、4-OHTの除去時および/または患者への移入時に発現停止するすることが示された。
【0072】
CTX0E03細胞株の細胞は、以下の培養条件において培養されてもよい:
・ヒト血清アルブミン 0.03%
・トランスフェリン、ヒト 5μg/ml
・プトレシン二塩酸塩 16.2μg/ml
・インスリンヒト組み換え型 5μ/ml
・プロゲステロン 60ng/ml
・L-グルタミン 2mM
・亜セレン酸ナトリウム(セレン) 40ng/ml
加えて、細胞増殖のための塩基性線維芽細胞成長因子(10ng/ml)、上皮成長因子(20ng/ml)および4-ヒドロキシタモキシフェン(100nM)。細胞は、4-ヒドロキシタモキシフェンの除去によって分化させることができる。一般に、細胞は、5% CO/37℃または5%、4%、3%、2%もしくは1% Oの低酸素条件下のいずれかで培養することができる。これらの細胞株は、首尾よく培養するために血清を必要としない。血清は、多くの細胞株の順調な培養に必要とされるが、多くの混入物を含む。CTX0E03、STR0C05もしくはHPC0A07神経幹細胞株、または血清を必要としない任意の他の細胞株のさらなる利点は、血清による汚染が回避されることである。本発明の一部の実施形態において、例えば、リプログラミングのステップおよび人工多能性幹細胞の培養のステップのためにE8培地を使用することによって、系内に血清なしの状態を維持することができる。
【0073】
CTX培養培地は、所望の場合、c-myc-ERTAM導入遺伝子によりMYC活性を得るために、4-OHTが加えられても、または加えられなくてもよい。
【0074】
CTX0E03細胞株の細胞は、元は12週ヒト胎児の大脳皮質由来の多能性細胞である。CTX0E03細胞株に関する単離、製造およびプロトコルは、Sindenらによって詳細に記載されている(米国特許第7,416,888号明細書および欧州特許第1645626号明細書)。CTX0E03細胞は、「胚性幹細胞」ではない。すなわち、それらは、胚盤胞の内部細胞塊由来の多能性細胞ではない。元の細胞の単離は、胚の破壊を招かなかった。増殖培地では、CTX0E03細胞は、ネスチン陽性で、GFAP陽性細胞は低いパーセンテージである(すなわち、集団は、GFAPに関して陰性である)。
【0075】
CTX0E03は、レトロウイルス感染によって送達されたc-mycER導入遺伝子の単一コピーを含むクローン細胞株であり、4-OHT(4-ヒドロキシタモキシフェン)によって条件付きで制御される。c-mycER導入遺伝子は、4-OHTの存在下において細胞増殖を刺激する融合タンパク質を発現するため、4-OHTの存在下で培養される場合、制御された増殖を可能にする。この細胞株は、クローン性であり、培養において急速に増え(倍加時間50~60時間)、正常なヒト核型(46XY)を有する。これは、遺伝学的に安定で、大量に増殖させることができる。この細胞は、安全で、腫瘍形成性ではない。成長因子および4-OHTの非存在下では、この細胞は、増殖停止を受けて、ニューロンおよび星状細胞に分化する。虚血性損傷脳に移植されると、これらの細胞は、組織損傷の領域にのみ移動する。
【0076】
CTX0E03細胞株の開発は、臨床的使用のための一貫した生成物のスケールアップを可能にした。保存された材料からの細胞の生成は、商業用途用の量で細胞を形成することを可能にする(Hodges et al, 2007)。
【0077】
CTX0E03医薬品は、米国特許第9265795号明細書に記載され、PISCES II試験に使用されたとおり、生細胞の得られたばかりのものとして(PISCES試験の場合と同様に)、または生細胞の凍結懸濁液として提供されてもよい。医薬品は、一般に≦37の継代のCTX0E03細胞を含む。
【0078】
CTX臨床医薬品は、一般に何か月もの品質保持期間を有する、溶媒を含まない賦形剤中の「すぐに利用できる」凍結保存製品(例えば、米国特許第9265795号明細書に記載されているとおり)として製剤化される。この製剤は、一般にトロロクス(6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テトラメチルクロマン-2-カルボン酸)、Na、K、Ca2+、Mg2+、Cl、HPO 、HEPES、ラクトビオナート、スクロース、マンニトール、グルコース、デキストラン-40、アデノシンおよびグルタチオンを含む。これらの賦形剤のうちの1つ以上、例えば、2、3または4つが任意に除去されても、または置き換えられてもよい。一般に、本製剤は、両性非プロトン溶媒、特に、DMSOを含まない。
【0079】
幹細胞製品に対する臨床発売基準は、一般に無菌性、純度(細胞数、細胞生存率)、ならびに臨床製品発売のため、または規制当局に要求される情報のために必要とされる同一性、安定性、および効力の多くの他の試験の尺度を含む。CTX0E03に利用される試験の概要を、下記表1に示す。
【0080】
【表1-2】
【0081】
CTX0E03細胞株は、ヒトPBMCアッセイを使用して免疫原性でないことが以前に証明された。免疫原性がないことは、細胞がホスト/患者免疫系による排除を回避するのを可能にし、それによって有害な免疫および炎症応答なくその治療効果を発揮する。
【0082】
Pollock et al 2006は、脳卒中のラットモデル(MCAo)におけるCTX0E03の移植が、移植後6~12週に感覚運動機能および粗大運動の非対称性の両方において統計学的に有意な改善をもたらしたことを示している。これらのデータは、CTX0E03が治療用細胞株として開発するために必要な適した生物学的および製造特性を有することを示す。
【0083】
Stevanato et al 2009は、CTX0E03細胞が、EGF、bFGFおよび4-OHT除去後インビトロにおいて、およびMCAoラット脳に移植後インビボにおいての両方でc-mycERTAM導入遺伝子発現をダウンレギュレートしたことを確認している。インビボにおけるc-mycERTAM導入遺伝子のサイレンシングは、潜在的な臨床用途に対してCTX0E03細胞のさらなる安全性の特徴をもたらす。
【0084】
Smith et al 2012は、脳卒中(一過性中大脳動脈閉塞)のラットモデルにおけるCTX0E03の前臨床効力試験について記載している。この結果は、CTX0E03移植が、行動機能障害を3か月の時間枠にわたって大きく回復させ、この効果は、その移植の部位に特異的であることを示す。病変の位置が、回復における重要な要素である可能性があり、線条体に限られた脳卒中はより大きな領域の損傷と比較して良好な予後を示す。
【0085】
STR0C05(ECACC寄託番号04110301)
このc-MycERTAM形質導入神経幹細胞株は、12週胎児の線条体由来であった。この株は、bFGF、EGFおよび4-ヒドロキシタモキシフェンの存在下の合成無血清「ヒト培地」を使用して、ラミニンコーティング培養フラスコにおいて維持される。通常の培養において、この細胞株は、3~4日の倍加時間を有するが、短期間培養では、20~30時間の倍加時間が見られた。
【0086】
増殖培地において、この細胞は、ネスチン陽性、β-IIIチューブリン陰性であり、GFAP陽性細胞は低いパーセンテージである。7日間の分化後、βIIIチューブリンの低レベル発現およびGFAPの高発現を伴いネスチンがダウンレギュレートされ、これは、この細胞株の大部分が星状細胞になっていること示唆する。
【0087】
この細胞株は、遺伝学的に正常、男性XYで、50集団倍加を超えて安定なものである。
【0088】
ここに記載される株は、臨床的使用に指定された株を発展させるのに適した品質が保証された条件下で誘導された。供給源の材料として、ヒト神経幹細胞は、機械的粉砕と組み合わせたトリプシンによる酵素消化によって、妊娠12週の胎児GS006の線条体から死後に単離された。培養において確立されると、これらの一次神経系細胞は、c-MycERTAMがん遺伝子によるレトロウイルストランスダクションによって形質転換され(上でCTX0E03細胞株に関して記載されているとおり)、クローン集団細胞株および混合集団細胞株の範囲が単離された。このシリーズのすべての株は、ラミニンコーティング培養製品において、ヒト培地(HM);DMEM:F12+以下に示される指定された補充物を使用して誘導された。
【0089】
ヒト培地(HM)
DMEM:F12、以下に列挙される成分を加えた:
ヒト血清アルブミン 0.03%。
トランスフェリン、ヒト 100μg/ml。
プトレシン二塩酸塩 16.2μg/ml。
インスリン、ヒト組み換え型 5μg/ml。
L-チロキシン(T4) 400ng/ml。
トリヨードサイロニン(T3) 337ng/ml。
プロゲステロン 60ng/ml。
L-グルタミン 2mM。
亜セレン酸ナトリウム(セレン) 40ng/ml。
ヘパリン、ナトリウム塩 10単位/ml。
コルチコステロン 40ng/ml。
加えて、細胞増殖のための塩基性線維芽細胞成長因子(10ng/ml)および上皮成長因子(20ng/ml)。
【0090】
STR0C05増殖特性
通常の培養条件下において、細胞は、T180培養フラスコ中で凍結ストック、一般には2~4百万細胞から増殖させる。数回の培地変更後、コンフルエントなときに細胞を継代する。経過記録から、STR0C05に関する集団倍加時間は、下記グラフに示されるとおり3~4日と推定された。この倍加時間は、対数期増殖よりもゆっくりであり、継代中の細胞喪失も含む。
【0091】
STR0C05に関する対数期増殖のより代表的な評価として、Cyquant蛍光色素(Molecular Probes)を使用した細胞増殖アッセイを設定した。細胞数をTecan Magellan蛍光プレートリーダーを使用して測定する。励起480nm、蛍光520nm。
【0092】
STR0C05細胞を継代し、HM+成長因子中に再懸濁させ、ラミニンコーティング96ウェルストリップウェルプレートに5000細胞/ウェルで播いた。1日毎を基準にプレートからストリップを取り出し(各時点につきn=16ウェル)、培地を除去し、-70℃で細胞を凍結することによって、経時的な試験を行った。
【0093】
時間経過の終点で、凍結したすべてのストリップをプレートに一緒に戻し、Cyquantアッセイにより分析した。簡単に言えば、細胞を溶解バッファーに溶解させた後、Cyquant試薬を添加し、暗所に5分間置いた。各ウェルの150ulのサンプルを、その後、Tecan Magellanプレートリーダーにおける読み取りのために黒色のOptiluxプレートに移した。数値平均化のためにExcelスプレッドシートにデータをエクスポートし、解析のためにGraphPad Prismにさらにエクスポートした。
【0094】
これらの結果は、細胞が7日間にわたり着実に増殖し、推定される倍加時間が20~30時間であったことを示した。
【0095】
STR0C05表現型
神経幹細胞マーカー、ネスチンを染色するため、および分化の成熟マーカー、β-IIIチューブリン(神経細胞)およびGFAP(星状細胞)を染色するために免疫細胞化学を使用してSTR0C05の表現型をプロファイリングした。
【0096】
STR0C05の表現型を、成長因子+4-OHTの存在下および非存在下において判定した。細胞を、最初はSTR0C05ワーキングストックから得た。細胞を継代し、96ウェルプレートに播いた。
【0097】
細胞を、4%パラホルムアルデヒド中において室温で15分間固定し、PBSで洗浄し、0.1% Triton X100/PBSで15分間透過処理をした。非特異的結合を、その後、PBS中の10%正常ヤギ血清(NGS)で室温において1時間ブロッキングした。細胞を、その後、ネスチン抗体(1:200、Chemicon)、β-IIIチューブリン抗体(1:500;Sigma)およびGFAP抗体(1:5000;DAKO)を用いて室温で一晩調べた。PBSで洗浄した後、それらを、その後、1%NGS/PBS中に溶解させたろ過済みAlexa Goat α Mouse 488(1:200;Molecular Probes)およびAlexa Goat α Rabbit 568(1:2500;Molecular Probes)により室温で1時間処理した。それらを、その後、PBSで洗浄してHoechst33342(Sigma)で2分間対比染色した後、蛍光顕微鏡において分析した。
【0098】
培地からの成長因子および4-OHTの除去が、細胞における形態的および表現型の変化を誘導し、これは、ネスチンのダウンレギュレーションに付随して起こる。特に、小さな割合の細胞が神経細胞マーカー、β-IIIチューブリンに関して陽性になり、樹状/軸索突起に延びる丸い細胞体を有する神経細胞の形態を獲得する。しかしながら、より主要な表現型変化は、GFAPのアップレギュレーションであり、これは、星状細胞系列が優勢であることを示唆する。
【0099】
クローン性
STR0C05に対するサザンブロット
2つの別々の実験では、他の細胞株に見られる明らかなバンドとは対照的に、プローブハイブリダイゼーションの証拠がない。
【0100】
細胞集団
本発明は、単離された幹細胞の集団を使用し、それに関するものであり、この集団は、本質的に本発明の幹細胞のみを含み、すなわち、幹細胞集団は実質的に純粋である。多くの態様において、幹細胞集団は、全細胞集団を構成する他の細胞に対して、少なくとも約75%、または少なくとも80%(他の態様において、少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.9%または100%)の本発明の幹細胞を含む。例えば、神経幹細胞集団に関して、この用語は、全細胞集団を構成する他の細胞と比較して、少なくとも約75%、いくつかの実施形態において、少なくとも約85%、いくつかの実施形態において、少なくとも約90%、およびいくつかの実施形態において、少なくとも約95%純粋な神経幹細胞が存在することを意味する。「実質的に純粋な」という用語は、したがって、約25%未満、いくつかの実施形態において、約15%未満、およびいくつかの実施形態において、約5%未満の神経幹細胞ではない細胞を含む本発明の幹細胞の集団を指す。
【0101】
単離された幹細胞は、特定のマーカーに関する特有の発現プロフィールによって特徴づけることができ、他の細胞タイプの幹細胞と識別される。マーカーが本明細書に記載されている場合、その有無が神経幹細胞を識別するために使用されてもよい。
【0102】
神経幹細胞集団は、いくつかの実施形態において、集団の細胞が、マーカーであるネスチン、Sox2、GFAP、βIIIチューブリン、DCX、GALC、TUBB3、GDNFおよびIDOのうちの1、2、3、4、5つ以上、例えば、すべてを発現することを特徴としてもよい。
【0103】
一般に、神経幹細胞は、ネスチン陽性である。
【0104】
「マーカー」とは、生体分子を指し、その存在、濃度、活性、またはリン酸化状態を検出することができ、細胞の表現型を特定するために使用することができる。
【0105】
本発明の幹細胞は、一般に集団の細胞の少なくとも約70%が検出可能なレベルのマーカーを示す場合に、マーカーをもつと見なされる。他の態様において、集団の少なくとも約80%、少なくとも約90%または少なくとも約95%または少なくとも約97%または少なくとも約98%またはそれ以上が検出可能なレベルのマーカーを示す。特定の態様において、集団の少なくとも約99%または100%が、検出可能なレベルのマーカーを示す。マーカーの定量は、定量的RT-PCR(qRT-PCR)の使用により、または蛍光活性化細胞選別(FACS)により検出することができる。当然のことながら、このリストは例として提供されたものに過ぎず、限定することを意図しない。一般に、本発明の神経幹細胞は、集団の細胞の少なくとも約90%が、FACSによって検出される検出可能なレベルのマーカーを示す場合に、マーカーをもつと見なされる。
【0106】
「発現される」という用語は、細胞内のマーカーの存在を示すために使用される。発現されると見なされるためには、マーカーは、検出可能なレベルで存在しなければならない。「検出可能なレベル」とは、マーカーが、qRT-PCR、またはRT-PCR、ブロッティング、マススペクトロメトリーまたはFACS分析などの標準的な実験手法のうちの1つを使用して検出することができることを意味する。遺伝子は、発現が35以下のクロッシングポイント(cp)値(qRT-PCRアレイに対する標準的なカットオフ)で合理的に検出できる場合に、本発明の細胞の集団によって発現されると見なされる。Cpは、増幅曲線が検出閾値と交差する点を表し、交差閾値(crossing threshold)(ct)として報告される場合もある。
【0107】
「発現する」および「発現」という用語は、対応する意味を有する。このcp値未満の発現レベルでは、マーカーは、発現されていないと見なされる。本発明の幹細胞におけるマーカーの発現レベルと、例えば、間葉系幹細胞などの別の細胞における同じマーカーの発現レベルとの間の比較は、好ましくは、同じ種から単離された2つの細胞タイプを比較することによって行われてもよい。好ましくは、この種は哺乳動物であり、より好ましくは、この種はヒトである。そのような比較は、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)実験を使用して都合よく行うことができる。
【0108】
本明細書中で使用される場合、マーカーに関して使用されるとき、「著しい発現」という用語またはその同等の用語「陽性」および「+」は、細胞集団において、細胞のうちの20%超、好ましくは、30%超、40%超、50%超、60%超、70%超、80%超、90%超、95%超、98%超、99%超またはさらにはすべての細胞が前記マーカーを発現することを意味するものと解釈される。
【0109】
本明細書中で使用される場合、マーカーに対して使用されるとき、「陰性」または「-」は、細胞集団において、細胞の20%未満、10%未満、好ましくは、9%未満、8%未満、7%未満、6%未満、5%未満、4%未満、3%未満、2%未満、1%未満が前記マーカーを発現するか、またはそのような細胞がないことを意味するものと解釈される。
【0110】
細胞表面マーカーの発現は、特定の細胞表面マーカーに対するシグナルがバックグラウンドシグナルよりも大きいかどうかを判定するために、例えば、従来法および装置(例えば、市販の抗体および当該技術分野において知られている標準的なプロトコルとともに使用されるBeckman Coulter Epics XL FACSシステム)を使用した特定の細胞表面マーカーに対するフローサイトメトリーおよび/または蛍光活性化細胞選別(FACS)によって判定されてもよい。バックグラウンドシグナルは、各表面マーカーを検出するために使用される特異的抗体と同じアイソタイプの非特異的抗体によって形成されるシグナル強度と定義される。陽性と見なされるマーカーに対して観察される特定のシグナルは、一般にバックグラウンドシグナル強度と比較して、20%超、好ましくは、30%超、40%超、50%超、60%超、70%超、80%超、90%超、100%超、500%超、1000%超、5000%超、10000%超またはそれ以上大きい。目的とする細胞表面マーカーの発現を分析するための代替的な方法としては、目的とする細胞表面マーカーに対する抗体を使用した電子顕微鏡法による視覚的分析が挙げられる。
【0111】
幹細胞の培養および生成
幹細胞培養用の単純なバイオリアクターは、一般的に使用されるT-175フラスコ(例えば、BD Falcon(商標)175cm細胞培養フラスコ、750ml、組織培養処理ポリスチレン、ストレートネック、青いプラグシールスクリューキャップ、BD製品コード353028)などのシングルコンパートメントフラスコである。
【0112】
条件付き不死化幹細胞は、一般にT-175またはT-500フラスコ中で培養される増殖性幹細胞から採取されてもよい。
【0113】
バイオリアクターはまた、当該技術分野において知られているとおり複数のコンパートメントを有してもよい。これらのマルチコンパートメントバイオリアクターは、一般に気体および/または培養培地を収容する1つ以上のコンパートメントから細胞を収容するコンパートメントを分離する1つ以上の膜または仕切りによって分離された少なくとも2つのコンパートメントを含む。マルチコンパートメントバイオリアクターは、当該技術分野において周知である。マルチコンパートメントバイオリアクターの例は、Integra CeLLineバイオリアクターであり、これは、10kDa半透膜によって分離された培地コンパートメントおよび細胞コンパートメントを含み、この膜は、任意の阻害性廃棄物の同時除去とともに細胞コンパートメント中への栄養素の継続的な拡散を可能にする。コンパートメントの個々の疎通性は、培養を機械的に妨げることなく新しい培地を細胞に供給することを可能にする。シリコーン膜は、細胞コンパートメント底部を形成し、細胞コンパートメントに短い拡散経路を与えることによって最適な酸素供給および二酸化炭素レベルの制御をもたらす。任意のマルチコンパートメントバイオリアクターを本発明に従って使用することができる。
【0114】
「培養培地」または「培地」という用語は、当該技術分野において認識され、一般に生細胞の培養に使用される任意の物質または調製物を指す。細胞培養を言及する際に使用される「培地」という用語は、細胞周辺の環境の成分を含む。培地は、固体、液体、気体または相および材料の混合物であってもよい。培地としては、液体増殖培地ならびに細胞増殖を持続しない液体培地が挙げられる。培地としてはまた、寒天、アガロース、ゼラチンおよびコラーゲンマトリックスなどのゼラチン状の培地も挙げられる。例となる気体培地としては、ペトリ皿または他の固体もしくは半固体支持体上で増殖している細胞が曝露される気相が挙げられる。「培地」という用語はまた、それが、まだ細胞と接触させられていなくても細胞培養への使用が意図される材料も指す。言い換えると、培養のために調製される栄養素が豊富な液体が培地である。同様に、水またはその他の液体と混合されたときに細胞培養に適するようになる粉末混合物が「粉末培地」と呼ばれる場合もある。「合成培地」は、化学的に定義された(通常、精製された)成分から生成される培地を指す。「合成培地」は、酵母抽出物およびビーフブロスなどの十分に特徴づけられていない生物抽出物を含まない。「富栄養培地」は、特定の種のほとんどまたはすべての生存可能な形態の増殖を助けるよう設計された培地を含む。富栄養培地は、複雑な生物抽出物を含む場合も多い。「高密度培養の増殖に適した培地」は、他の条件(温度および酸素移動速度など)がそのような増殖を可能にする場合、3以上のOD600に達する細胞培養を可能にする任意の培地である。「基礎培地」という用語は、いかなる特別な栄養補助剤も必要としない、多くのタイプの微生物の増殖を促進する培地を指す。大半の基礎培地は、一般に4つの基本的な化学物質のグループ:アミノ酸、炭水化物、無機塩、およびビタミンから構成される。基礎培地は、一般に、血清、バッファー、成長因子、脂質などの補充物が添加されるより複雑な培地の基礎としての役割を果たす。一態様において、増殖培地は、本発明の細胞の増殖および拡大を助けると同時にその自己再生能力を維持する必須の成長因子を含む複合培地であってもよい。基礎培地の例としては、イーグル基礎培地、最小必須培地、ダルベッコ改変イーグル培地、Medium 199、Nutrient Mixtures Ham’s F-10およびHam’s F-12、McCoy’s 5A、Dulbecco’s MEM/F-12、RPMI 1640、およびイスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0115】
本発明の多能性細胞およびそれらの後代によって産生される微粒子
本発明の多能性幹細胞、およびそれらの細胞から形成される分化細胞は、微粒子を産生することになる。本発明は、一態様において、本発明の人工多能性幹細胞から、またはそれらのiPS細胞から形成される分化細胞から得ることができる微粒子を提供する。これらの微粒子は、治療に使用することができる。
【0116】
本発明の細胞から得られる微粒子はまた、外来性カーゴのための送達ビヒクルとしても使用することができる。カーゴは、いくつかの実施形態において、外来性核酸(例えば、DNAまたはRNA、特に、RNAi薬剤、例えば、siRNAまたは化学修飾siRNA)、外来性タンパク質(例えば、抗体もしくは抗体フラグメント、シグナル伝達タンパク質、またはタンパク質薬物)であってもよい。例えば、トランスフェクションまたはエレクトロポレーションによって、カーゴを微粒子に直接搭載できることが当該技術分野において知られている。微粒子を産生する細胞を操作することにより微粒子の内容物を変えることができることも知られている。
【0117】
微粒子の性質、内容物および特徴は、それらを産生する細胞の影響を受ける。したがって、本発明は、有利にも単一の十分に特徴づけられた出発材料(すなわち、条件付き不死化細胞)から産生される多様な範囲の微粒子を提供する。例えば、微粒子は、iPS細胞またはその細胞由来の任意のさらに分化した細胞、例えば、内胚葉、中胚葉もしくは外胚葉系になった細胞などから、単離することができる。これは、単一の既知の開始細胞からの多くの異なる微粒子の供給を可能にする。
【0118】
「微粒子」は、細胞から放出される直径30から1000nmの細胞外小胞である。これは、生体分子を封入する脂質二重膜によって限定される。「微粒子」という用語は、当該技術分野において知られており、膜粒子、膜小胞、微小胞、エクソソーム様小胞、エクソソーム、エクトソーム様小胞、エクトソームまたはエキソベシクル(exovesicle)を含む、多くの異なる種の微粒子を包含する。さまざまな異なるタイプの微粒子は、直径、細胞内(subcellular)起源、スクロース中におけるその密度、形状、沈殿速度、脂質組成物、タンパク質マーカーおよび分泌の様式(すなわち、シグナルに従う(誘導型)か、または自然に(構成型))に基づいて識別される。一般的な微粒子およびそれらの際だった特徴の4つを下記表1に記載する。特定の実施形態において、微粒子は、エクソソームである。
【0119】
【表1-3】
【0120】
微粒子は、直接的および間接的なメカニズムによりドナー細胞とレシピエント細胞の間でビヒクルの役割を果たすことによって細胞間伝達に関与すると考えられる。直接的なメカニズムは、レシピエント細胞による微粒子およびそのドナー細胞由来の成分(タンパク質、脂質または核酸など)の取り込みを含み、その成分は、レシピエント細胞において生物学的活性を有する。間接的なメカニズムは、微小胞-レシピエント細胞表面相互作用、およびレシピエント細胞の細胞内シグナル伝達の調節をもたらすことを含む。したがって、微粒子は、レシピエント細胞による1つ以上のドナー細胞由来の特性の獲得をもたらすこともある。動物モデルにおける幹細胞療法の効力にもかかわらず、幹細胞は、ホストに生着しないようであることが確認された。したがって、幹細胞療法が有効なメカニズムは、明らかでない。理論に縛られることを望まないが、本発明者らは、神経幹細胞によって分泌される微粒子がそれらの細胞の治療有用性に関与し、したがって、それら自体が治療的に有用であると考える。
【0121】
本発明の微粒子は、細胞に関して本明細書中で定義されるとおり単離される。
【0122】
本発明は、本発明の細胞によって産生される単離された幹細胞微粒子の集団を提供し、その集団は、本質的に本発明の微粒子のみを含み、すなわち、微粒子集団は、純粋である。多くの態様において、微粒子集団は、少なくとも約80%(他の態様において、少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.9%または100%)の本発明の微粒子を含む。
【0123】
特定の実施形態において、微粒子は、エクソソームである。エクソソームの脂質二重膜は、一般にコレステロール、スフィンゴミエリンおよびセラミドが豊富である。エクソソームはまた、1つ以上のテトラスパニンマーカータンパク質を発現する。テトラスパニンには、CD81、CD63、CD9、CD53、CD82およびCD37が挙げられる。CD63は、典型的なエクソソームマーカーである。エクソソームはまた、成長因子、サイトカインおよびRNA、特にmiRNAを含む場合もある。エクソソームは、一般にマーカーTSG101、Alix、CD109、thy-1およびCD133のうちの1つ以上を発現する。Alix(Uniprot受託番号Q8WUM4)、TSG101(Uniprot受託番号Q99816)ならびにテトラスパニンタンパク質CD81(Uniprot受託番号P60033)およびCD9(Uniprot受託番号P21926)は、特徴的なエクソソームマーカーである。
【0124】
Alixは、エンドソームの経路マーカーである。エクソソームは、エンドソーム由来であり、したがって、このマーカーが陽性の微粒子は、エクソソームと特徴づけられる。本発明のエクソソームは、一般にAlixが陽性である。微小胞は、一般にAlixが陰性である。
【0125】
いくつかの実施形態において、エクソソームなどの微粒子は、外来性カーゴを入れることができる。外来性カーゴは、タンパク質(例えば、抗体)、ペプチド、薬物、プロドラッグ、ホルモン、診断用薬剤、核酸(例えば、miRNA、siRNAもしくはshRNAなどのRNAi薬剤、またはDNAもしくはRNAベクター)、炭水化物あるいは他の目的とする分子が可能である。カーゴは、例えば、エレクトロポレーションもしくはトランスフェクションによってエクソソームに直接入れることができ、またはエクソソーム放出前に細胞がカーゴをエクソソームにカプセル化するようにエクソソームを産生する細胞を操作することによってエクソソームに入れることができる。カーゴをエクソソームなどの微粒子に入れることは、当該技術分野において知られている。
【0126】
医薬組成物
本発明の多能性幹細胞は、治療に有用な細胞を形成するために分化させられてもよく、従って、医薬組成物として製剤化することができる。本発明の多能性幹細胞、およびそれらの細胞から形成される分化細胞は、本明細書中の別の場所に記載されているとおり微粒子を産生することになり、それも治療に有用であるため、医薬組成物として製剤化することができる。
【0127】
薬学的に許容される組成物は、一般に、治療用細胞または微粒子に加えて少なくとも1つの薬学的に許容される担体、希釈剤、ビヒクルおよび/または賦形剤を含む。適した担体の例は、乳酸リンゲル液である。そのような成分の十分な解説は、Gennaro (2000) Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 20th edition, ISBN: 0683306472に示されている。
【0128】
「薬学的に許容される」という語句は、適切な医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激症状、アレルギー反応、またはその他の問題もしくは障害なく、利益/リスクの合理的な比で釣り合いのとれた、ヒトおよび動物の組織と接触させる使用に適した化合物、材料、組成物、および/または剤形を指すよう本明細書において利用される。
【0129】
本組成物は、必要に応じて、少量のpH緩衝剤も含んでもよい。本組成物は、BioLife Solutions Inc.、USAから商業的に入手可能なHypothermosol(登録商標)などの保存培地を含んでもよい。適した医薬担体の例は、E W Martinによる「Remington's Pharmaceutical Sciences」に記載されている。そのような組成物は、予防または治療有効量の予防または治療用幹細胞を、好ましくは、精製された形態で、対象への投与に適した形態で提供されるように、適した量の担体とともに含むことになる。製剤は、投与様式に適合させるべきである。好適な実施形態において、医薬組成物は、無菌であり、対象、好ましくは、動物対象、より好ましくは、哺乳動物対象、および最も好ましくは、ヒト対象への投与に適した形態である。
【0130】
本発明の医薬組成物は、さまざまな形態であってもよい。これら形態としては、例えば、半固体、および液体剤形、例えば、凍結乾燥調製物、凍結調製物、液体溶液または懸濁液、注射可能および注入可能な溶液が挙げられる。医薬組成物は、注射可能であるのが好ましい。
【0131】
医薬組成物は、一般に水性形態になる。組成物は、保存料および/または酸化防止剤を含んでもよい。
【0132】
張性を制御するために、医薬組成物は、ナトリウム塩などの生理的塩を含んでもよい。塩化ナトリウム(NaCl)が好ましく、1~20mg/mlの間で存在してもよい。存在してもよい他の塩としては、塩化カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二ナトリウム二水和物、塩化マグネシウムおよび塩化カルシウムが挙げられる。
【0133】
本組成物は、1つ以上のバッファーを含んでもよい。典型的なバッファーとしては、リン酸バッファー、トリスバッファー、ホウ酸バッファー、コハク酸バッファー、ヒスチジンバッファー、またはクエン酸バッファーが挙げられる。バッファーは、一般に5~20mMの範囲の濃度で含まれることになる。本組成物のpHは、一般に、5から8の間、およびより一般に6から8の間、例えば、6.5から7.5の間、または7.0から7.8の間になる。
【0134】
本組成物は、好ましくは無菌である。本組成物は、好ましくは、発熱性物質なしである。
【0135】
一般的な実施形態において、細胞または微粒子は、6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テトラメチルクロマン-2-カルボン酸(Trolox(登録商標))、Na、K、Ca2+、Mg2+、Cl、HP0 、HEPES、ラクトビオナート、スクロース、マンニトール、グルコース、デキストラン-40、アデノシンおよびグルタチオンから選択される1、2、3、4、5、6、7、8、9、10個以上の賦形剤を含む組成物中に懸濁される。一実施形態において、本組成物は、これらの賦形剤のすべてを含む。一般に、本組成物は、両性非プロトン溶媒、例えば、DMSOを含まないことになる。適した組成物、例えば、HypoThermasol(登録商標)-FRSは、商業的に入手可能である。そのような組成物は、細胞が長期間(何時間から何日間)4℃から25℃で保管されるのを可能にするか、または凍結温度(cryothermic temperature)、すなわち、-20℃より低い温度で保存されるのを可能にするため、有利である。解凍後のこの組成物中の幹細胞を、その後、投与することができる。
【0136】
本発明は、理解を明確にするために詳細に記載されてきたが、一定の改変が添付の特許請求の範囲内で行われてもよい。本出願において引用されるすべての刊行物、受託番号、および特許文献は、それぞれが個別にそうであることが示されているのと同じ程度までその全体をあらゆる目的のために参照により本明細書に組み込んだものとする。2つ以上の配列が異なる時点の受託番号と関連づけられる限りにおいて、本出願の有効な出願日の時点の受託番号と関連づけられる配列が意図される。有効な出願日は、問題となっている受託番号を開示している最先の優先出願の日付である。文脈からそうでないことが明らかでない限り、本発明の任意の要素、実施形態、ステップ、特徴または態様は、任意の他のものと組み合わせて実施されてもよい。
【0137】
本発明は、以下の非限定的実施例に関してさらに記載されている。これらの実施例において、本発明者らは、最初に、条件付き不死化神経幹細胞(CTX0E03;本特許出願の出願人、ReNeuron Limitedによって、European Collection of Animal Cultures(ECACC)に受託番号04091601で2004年9月16日に寄託された)が多能性にリプログラミングされ得ることを、いくつかの独立した反復実験に基づいて実証する。これらのiPSCは、その後、間葉系幹細胞(MSC)に分化される。CTX-iPSCの遺伝子のリプログラミングおよび多能性も確認される。
【0138】
本発明者らは、その後、別の条件付き不死化成体幹細胞タイプの成功したリプログラミングを実証する。この株は、STR0C05であり、胎児の線条体細胞由来である(さらに本特許出願の出願人、ReNeuron LimitedによってEuropean Collection of Animal Cultures(ECACC)に受託番号04110301で2004年11月3日に寄託された)。STR0C05からのiPSCの形成およびそれに続くこれらSTR0C-iPSCの内胚葉、中胚葉および外胚葉系への分化が示される。これらのデータは、本発明によって提供される利点が、本発明者らがそれを最初に証明したCTX細胞株に限定されず、任意の条件付きで不死化された成体細胞タイプに広く当てはまることを確認する。
【0139】
実施例は、その後、リプログラミングされたiPSC由来のMSC細胞のさらなる特徴づけを提供し、これらのiPSCから誘導される成体幹細胞タイプを、そのような細胞の通常の限界を超えて増やすことができ、それによって、そのような株から多くの患者の処置を可能にするという発見をより説得力のあるものにする。これらのCTX-iPSC-MSCは、軟骨(シアログリカン(sialoglycan)のアルシアンブルー染色によって示される)、脂肪(オイルレッドOによる細胞内脂質滴の染色によって示される)および骨(沈着したカルシウムのアリザリンレッド染色によって示される)細胞に分化することが示される(図10)。
【0140】
最後に、CTX-iPSC細胞のさらにいっそう詳細な特徴づけが提供される。
【実施例
【0141】
[実施例1]
同種異系細胞療法の臨床スケール製造用の供給源としての誘導的に不死化された成体幹細胞由来のiPSC
序論
・人工多能性幹細胞(iPSC)は、細胞療法の供給源の材料として大きな可能性をもつ
・候補治療用集団は、一般に、高分化細胞ではなく成体幹細胞または組織前駆体(ASC/TP)である
・ASC/TPは、培養および精製するのが難しいことが多い
・ASC/TPの条件付き不死化は、同種異系細胞療法のための細胞のスケーラブルな生成に有益であろう
・CTXは、虚血性脳卒中に対する臨床試験における神経幹細胞株である。これは、培養培地への4-ヒドロキシタモキシフェン(4-OHT)の添加によって制御可能なc-myc-ERTAM導入遺伝子により不死化される
【0142】
CTX0E03の多能性へのリプログラミング
CTX0E03細胞を、「山中因子」(OCT4、L-MYC、KLF4およびSOX2、「OKSM」、ならびにLIN28)をコードする標準的な非組み込み型エピソームベクターを使用して多能性にリプログラミングした(図1)。
【0143】
CTX細胞は、独立して、数回うまくリプログラミングされた。
【0144】
CTX-iPSCは、ヒトiPSCおよびESCに典型的な多くの特徴を共有する。リプログラミング後、細胞形態は、CTX細胞に典型的な伸長した突起を有する神経細胞の表現型から、目立つ核小体およびヒト多能性幹細胞に典型的な「細胞群」に高密度に詰め込まれた細胞間で識別が難しい区画を有する1つの小さな丸い未分化細胞に劇的に変化する(図1C図2)。CTX-iPSCは、21日目の終了点に組織非特異的なアルカリホスファターゼ酵素マーカーを発現する(図1D図3)。
【0145】
CTXリプログラミング要件を分析するためのさまざまな転写因子の組み合わせ。
図2は、CTX0E03細胞がさらに少数の因子によりリプログラミング可能であることを示す。(A)1つの因子を発現するベクター、pCE-OCT3/4、pCE-SOX2およびpCE-KLF4;4-OHT供給はc-myc-ERTAMによりMYCを模倣する。(B)挿入図:コロニーカウントのための例のAP染色プレート。中心の画像:転写因子OCT4単独によりリプログラミングされたコロニー。(C)さまざまな因子の組み合わせにより得られたコロニー数(S-K:pCE-SK、M-L:pCE-UL、S:pCE-SOX2、K:pCE-KLF4、M:4-OHT→d14)。(D)組み合わせの効果を示すベン図(数:x個のコロニーが得られた;ゼロ:コロニーなし)。
【0146】
CTX-iPSCは、古典的なhPSCと多くの特徴を共有する
CTX-iPSCの多能性表現型を図3に示す。
【0147】
(A)OKSML転写因子セットのトランスフェクションによる多能性へのリプログラミングによってCTX細胞から誘導された2つの異なる細胞株(ii、iii)についてのCTX-iPSCの細胞およびコロニー形態評価は、これらのリプログラミングされた細胞株が、hPSCに典型的な目立つ核小体を有する小さな緊密に詰め込まれた細胞の高密度のコロニーを再現し、親CTX細胞(i)の神経細胞の表現型とは著しく異なる。
【0148】
CTX-iPSC株は、図3Bに示されるとおり酵素マーカーアルカリホスファターゼ(ピンク染色)を発現する。
【0149】
ヒト多能性幹細胞に関して予想されるとおり、フローサイトメトリーにより、CTX-iPSCは、カノニカル多能性転写因子OCT4、ならびに細胞表面抗原TRA-1-60およびSSEA-4が陽性であるが、初期分化マーカーSSEA-1は発現していないことが示されている。(図3C)。
【0150】
(D)RT-qPCRは、内胚葉、中胚葉および外胚葉へのインビトロ分化時の系列特異的なマーカーのアップレギュレーションを示す(個々のCTX-iPSC株は色調によって示される)。
【0151】
CTX-iPSCにおけるc-myc-ERTAM導入遺伝子の状態
CTX-iPSCにおける導入遺伝子座の評価を図4に示す。
【0152】
(A)G418における親CTX0E03細胞(1行目、4日目、2行目、10日目)および4日目の5つのCTX-iPSC株(3~7行目)のギムザ染色は、c-myc-ERTAM関連NeoR遺伝子の発現活性を示す。
【0153】
(B)c-myc-ERTAM導入遺伝子を駆動するCMV-IEプロモーターのバイサルファイト変換は、その遺伝子座におけるシトシンメチル化状態を示す(白丸、非メチル化CpG;黒円、メチル化CpG;カンマ、不確定な読み取り)。
【0154】
CTX-iPSCからの治療用細胞集団の誘導
3つの生殖系列(内胚葉、中胚葉、外胚葉)に沿った分化が達成されることをRT-qPCRを使用して示すことができる。CTX-iPSCの治療に適切な細胞タイプへの分化も確認できた。これは、成体幹細胞タイプ(間葉系幹細胞)に関して実証された。当業者には明白であろうとおり、他の細胞タイプも適した培養条件によって形成することができる。特に、Tリンパ球、NK細胞および樹状細胞などの免疫系の細胞は、Themeli et al. (2013) Nature Biotechnology (31), 928-933に開示されている方法によって分化させることができる。
【0155】
図5は、CTX-iPSC由来の治療用細胞集団の生成を示す。(A)mTeSR1培地中でのラミニン-521についてのCTX-iPSC。(B)MSC培地(α-MEM、10% FCS、25mM HEPES)中での、(A)の細胞から誘導されるプラスチック付着性の候補の間葉系幹細胞(MSC)。(C)CTX-iPSC-MSCのフローサイトメトリーは、それらが、ISCT基準に従って、MSCマーカーCD73、CD90およびCD105を発現するが、CD14、CD20、CD34またはCD45を発現しないことを示す(青、染色;赤、アイソタイプ対照)。
【0156】
結論
インビトロにおける不死化および長期培養にもかかわらず、驚くべきことに、神経幹細胞株CTX0E03が外因性転写因子によってリプログラミングできることを示した。
【0157】
CTX-iPSCは、細胞形態、細胞表面の発現、転写因子および酵素マーカー、ならびに多能性によって定義される、低継代の一次細胞から形成される従来のiPSCと外見上、見分けがつかない。
【0158】
CTX-iPSCにおけるc-myc-ERTAM遺伝子座は、少なくとも一部の株において依然として活性のままである。
【0159】
臨床に適切な細胞タイプ(例えば、MSC、免疫細胞、例えば、T細胞、NK細胞および樹状細胞)は、CTX-iPSCから形成されてもよい。
【0160】
CTX-iPSC-MSCにおける4-OHT/c-myc-ERTAM系による細胞周期の誘導は、同種異系療法用のスケーラブルな生成を可能にするであろう。
【0161】
したがって、CTX-iPSCは、非常に有用な臨床的供給源である。これらは、所望の系列に沿って分化させて、組織前駆細胞タイプまたは成体幹細胞集団などの標的集団を形成することができ、その後、継続的な増殖を促進し、細胞周期離脱および関連するさらなる分化を防ぐための4-OHTの供給が、一次材料から細胞単離を繰り返すことなく、以前は実現不可能だった臨床に適切な部分集団の定型化したスケーラブルな生成を可能にするものである。
【0162】
CTX自体は適していない状態に対するすぐに利用できる処置の大規模生成のために、クローニングまたは精製ステップを使用して、より不均一またはあまり不均一でない分化培養物から所望の治療タイプの純粋な集団を形成することができ、分化プロトコルの効率が不十分な当該技術分野に見られる欠点を未然に防ぐ。このことは、上記細胞自体または、CTX細胞自体によって産生されるものに対するペイロード分子の代替レパートリーを有する、さまざまな細胞タイプによって産生されるエクソソーム部分の両方に当てはまる。
【0163】
さらに、これらのCTX-iPSC由来の亜株は既に臨床安全性試験に合格した細胞株(CTX)から誘導されるため、新しい適応症における効力に関する臨床試験への移行が加速される可能性がある。
【0164】
[実施例2]
リプログラミングされたCTX-iPSCの特徴づけ
重要な遺伝子の発現の、リプログラミングにより誘導された調節が示され、これは、CTX細胞が明らかに適切にリプログラミングされたことを確認する。
【0165】
その結果を図6に示す。各パネルは、CTXから作成されたシングルセルトランスクリプトームデータの「tSNE」プロットである。左上の色調は、緑の「雲状のもの」がCTXであり、CTX-iPSCは青であり、皮質分化プロトコルに供された後、そのトランスクリプトームがCTX自体に可能な限り近づいたときに分析されたCTX-iPSCは赤であることを示す。それぞれの雲状のものは、1つの細胞を示す点からなる。グレー:発現なし、オレンジ:中程度の発現;赤:高発現。プロットは、CTXにおいて不活性の多能性遺伝子:POU5F1、NANOG、UTF1、TET1、DPP4、TDGF1、ZSCAN10およびGALが、リプログラミングされた細胞では活性化されたことを示す。重要なことに、これらの遺伝子のうち、POU5F1のみが、リプログラミングの間に外因的に与えられた。反対に、CTXによって発現されるいくつかの神経系遺伝子は、多能性へのリプログラミング時に、ダウンレギュレートされる(NOGGIN、ADAM12、OCIAD2、NTRK3、PAX6)。最後に、GLI3(および大きな程度にPAX6)が、多能性細胞の皮質分化時にアップレギュレートされる。
【0166】
人工多能性幹細胞の生殖系列分化およびその染色(図7および図9
方法
1.CTX-iPSCまたはSTR0C05-iPSCを、必要に応じてヒトラミニン-521コーティング8ウェルチャンバースライドに播いた。その後、それらを、必要に応じて、適した分化培地(StemCell Technologies、カタログ番号05230)で5~7日間処理した後、リン酸緩衝食塩水(PBS)中の4%ホルムアルデヒドにおいて固定し、免疫染色まで4℃で保存した。
2.ウェルを、以下のとおり免疫染色した:
1. 10% NGS/PBS中において室温で30分間インキュベーションすることによって正常ヤギ血清(NGS)でブロッキングした。
2. ウェルを、必要に応じて希釈された(下記表を参照)0.1% PBST(0.1% Triton-X-100/PBS)中の一次抗体:マウス抗-xおよびウサギ抗-yとともに、室温で2~4時間または4℃で一晩インキュベーションした。
3. ウェルを、PBSで10分間、3回洗浄するか、またはPBS中4℃で一晩維持した。
4. ウェルを、PBS中の二次抗体:ヤギ抗マウスIgG-Alexafluor-488(1:300希釈)および/またはヤギ抗ウサギIgG Alexafluor-568(1:2000希釈)とともに室温で2時間インキュベーションした。
5. ウェルを、室温のPBSで3回洗浄した。
6. ウェルを、PBS中で1:10,000に希釈されたHoechst33342で、5分間染色した。
7. ウェルを、PBSで3回、5分間洗浄した。
8. ウェルを、スライドから取り除き、2滴のVectashieldを添加し、カバーガラスを上に置いた後、蛍光顕微鏡法によって調べた。
3.利用した抗体を下記表に示す。
【0167】
【表2】
【0168】
結果:
CTX-iPSCの多能性のさらなる確認は、内胚葉、中胚葉および外胚葉への分化の証拠によってもたらされ、3つの一次胚葉を特定するタンパク質マーカー(一般に、転写因子)の同時発現によって示された。図7のこれらのデータは、以前に示されたRT-qPCRデータを補足するものである。
【0169】
[実施例3]
胎児の線条体細胞のリプログラミング
別の条件付き不死化成体幹細胞タイプも、うまくリプログラミングされた。この株は、胎児の線条体細胞由来のSTR0C05である。
【0170】
方法-STR0C05細胞の多能性へのリプログラミング
1.Thermofisher.comによって販売されているNeonエレクトロポレーション機器を使用して、STR0C05細胞に特異的なトランスフェクション条件の最適な範囲を特定した。この細胞株に適したトランスフェクション条件を特定するために、機器の製造業者によって推奨されているとおり、電圧、パルス持続時間などのさまざまなパラメーターの範囲を使用して、GFP発現プラスミドを細胞にトランスフェクションした場合に得られた緑色の生細胞の発生頻度を評価した。
2.その後、STR0C05細胞を、(1)で特定した条件を使用して、Epi5リプログラミングキット(Thermofisherカタログ番号A15960;転写因子POU5F1、SOX2、KLF4、L-MYC、LIN28およびp53のドミナントネガティブ阻害因子を発現するリプログラミングプラスミド、pCE-hOCT3/4、pCE-hSK、pCE-hULおよびpCEmP53DDを含む)のプラスミドでエレクトロポレーションし、ヒトラミニン-521上に播いた。インキュベーター内で作動するIncucyte Zoom自動化位相差顕微鏡により、ウェルを毎日観察した。
3.1週間後、その細胞を再播種するか、同じウェルに残し、培地をmTeSR1(StemCell Technologiesカタログ番号85850)に変えた。
4.多能性表現型コロニーが生じるまで、ウェルをモニタリングした。
5.十分大きくなったら、個々のコロニーを、ピペットの先端でhLn-521でもコーティングされた24ウェルプレートのウェルに取り、凍結または分析まで増殖させた。
6.以前の研究と同様に、ともに製造業者の説明書に従って、アルカリホスファターゼ染色をStemgentアルカリホスファターゼ染色キット(カタログ番号00-0055)で実施し、FITC結合マウス抗ヒトTRA-1-60抗体(BDカタログ番号560380)を加えたBecton Dickinson Stemflow抗体キット(カタログ番号560477)を用いて、SSEA1およびSSEA4などの多能性幹細胞マーカーに対するフローサイトメトリーを実施した。フローサイトメトリーサンプルをMiltenyi MACSQuant 10フローサイトメーターにおいて分析した。
【0171】
結果
その結果を図8に示す。
パネルAは、リプログラミング因子によるトランスフェクションの24日後のリプログラミングされたSTR0C05細胞のコロニーを示す。
パネルBは、リプログラミングの初期の段階のアルカリホスファターゼ(赤)染色されたSTR0C05細胞を示し、いくつかの細胞が多能性マーカーアルカリホスファターゼを発現することを示す。
パネルCは、確立されたSTR0C05-iPSC株を示す。
パネルDは、AP陽性コロニーがさまざまなトランスフェクション条件に供されたウェルでさまざまな頻度で出現していることを示す:コロニーのないウェル1は、対照としてGFP非リプログラミングプラスミドでトランスフェクションし、リプログラミングされた細胞がなく、ウェル4および6は、生存細胞がほとんどない。
パネルEは、確立されたSTR0C05-iPSC株がアルカリホスファターゼ陽性であることを示す。
パネルFは、その株が、多能性マーカーSSEA4も陽性であるが、初期分化マーカーSSEA1に関しては陰性であることを示す。
【0172】
STR0C05-iPSCの多能性も上の実施例2に記載されている生殖系列分化方法を使用して確認し、その結果を図9に示す。内胚葉、中胚葉および外胚葉への分化が実証されており、CTXに関する図7のとおり、3つの一次胚葉を特定するタンパク質マーカー(一般に、転写因子)の同時発現によって示される。
【0173】
[実施例4]
リプログラミングされたiPSC由来の成体幹細胞は多能性である
CTX-iPSC由来の成体幹細胞の多能性を確認した。予め本発明者らは、候補CTX-iPSC-MSC(間葉系幹細胞)に関する、適切なマーカー発現およびプラスチックに付着する能力を示すフローサイトメトリーのプロフィール例を示した。この実験は、CTX-iPSC-MSCがいくつかの異なる細胞タイプに分化する能力を確認する。
【0174】
方法-多能性を確認するためのCTX-iPSC-MSCの分化
1.脂肪および骨細胞形成の評価のために、CTX-iPSC-MSCを、6ウェル組織培養処理プレートに播き、脂肪生成および骨形成を促進する市販の培地(脂肪生成:StemCell Technologiesカタログ番号05412、骨形成:StemCell Technologiesカタログ番号05465またはR&D systemsカタログ番号CCMN007およびCCM008)を用いて最大28日間インキュベーションした後、固定および染色を行った。軟骨形成の評価のために、CTX-iPSC-MSCを、15mlチューブの底にある集塊としてペレット状にし、軟骨形成培地(StemCell Technologiesカタログ番号05455)とともに培養し、続いて標準的な方法を使用してホルムアルデヒド固定、パラフィン包埋および切片作製を行った。
2.アルシアンブルー染色(軟骨形成):スライド上の切片に蒸留水で水分を与え、3%酢酸で3分間処理した後、3%酢酸中の1%アルシアンブルー、pH2.5で30分間染色した。そのスライドを、その後、流水中で5分間洗浄し、蒸留水中ですすぎ、5%硫酸アルミニウム溶液中の0.1%ヌクレアファストレッドで5分間対比染色した後、画像化した。
3.オイルレッドO染色(脂肪生成):6ウェルプレート中の細胞を、PBSで洗浄し、室温で10分間10%ホルムアルデヒドで固定し、PBSで2回洗浄した。それらを、60%イソプロパノール/40%水中の0.3%オイルレッドOで15分間染色し、再蒸留水で洗浄した後、画像化した。
4.アリザリンレッドS染色(骨形成):6ウェルプレート中の細胞を、PBSで洗浄し、室温で10分間10%ホルムアルデヒドで固定し、PBSで2回洗浄した。それらを、室温において2%アリザリンレッドS溶液、pH4.2で15分間染色し、水で洗浄し、画像化した。
【0175】
結果
図10は、iPSC由来のMSCが、軟骨(シアログリカンのアルシアンブルー染色によって示される)、脂肪(オイルレッドOによる細胞内脂質滴の染色によって示される)および骨(沈着したカルシウムのアリザリンレッド染色によって示される)へ分化する能力を示す。
【0176】
その後、4-OHTの存在下または非存在下において高継代(20継代)まで培養したCTX-iPSC-MSCに関するフローサイトメトリープロフィールを得た。その結果を図11に示す。この試験株は、先に作成したバイサルファイトによるデータで示したように、脱メチル化されたC-MYC-ERTAMプロモーターを有し、その結果、プロモーターがこれらの細胞において依然として活性であることを示唆する株である。興味深いことに、この株は、4-OHTが細胞周期を誘導しているとき、そのマーカープロフィールをよりよく維持するようであり、CD90およびCD105発現はより一定でより高く、陰性マーカーCD14、20、34および45は、より厳重に「オフ」である。(この株は、常により低いCD73発現を示す、場合によっては抗体によるアーティファクト。)第2のパネルにおいて、4-OHT処理細胞は、分化時に骨を形成するのにより有効であるようであり、4-OHTが媒介する細胞周期の強制が、その細胞周期からの離脱および能力の喪失を改善することを示唆する。
【0177】
[実施例5]
リプログラミングされたCTX-iPSC-MSCのさらなる特徴付け
CTX-iPSC-MSC株を、4-OHTの非存在下または存在下で培養した。図12および13の2つの異なるCTX-iPSC-MSC細胞培養物を用いた実験の結果は、4-OHT/C-MYC-ERTAMの存在および活性により向上したより、一貫した長期にわたる増殖を示す。
【0178】
この実施例は、条件付きで不死化されたiPSC-ASCが、より確実により長く増殖させることができることを示す。
【0179】
【表3】
図1-1】
図1-2】
図2-1】
図2-2】
図2-3】
図3-1】
図3-2】
図3-3】
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【国際調査報告】