(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-07
(54)【発明の名称】遺伝子編集に基づく癌処置
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20220131BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20220131BHJP
C12N 15/55 20060101ALI20220131BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220131BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220131BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20220131BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20220131BHJP
C12N 5/09 20100101ALN20220131BHJP
A61K 31/713 20060101ALN20220131BHJP
A61K 38/46 20060101ALN20220131BHJP
【FI】
C12N15/09 100
C12M1/00 A ZNA
C12N15/55
C12N5/10
A61P35/00
A61P35/02
A61K48/00
C12N5/09
A61K31/713
A61K38/46
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2021546469
(86)(22)【出願日】2019-10-18
(85)【翻訳文提出日】2021-05-28
(86)【国際出願番号】 EP2019078408
(87)【国際公開番号】W WO2020079243
(87)【国際公開日】2020-04-23
(32)【優先日】2018-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】521158990
【氏名又は名称】フンダシオン デル セクトール プブリコ エスタタル セントロ ナシオナル デ インベスティガシオネス オンコロギカス カルロス 3 (エフ.エス.ピー. シーエヌアイオー)
【氏名又は名称原語表記】FUNDACION DEL SECTOR PUBLICO ESTATAL CENTRO NACIONAL DE INVESTIGACIONES ONCOLOGICAS CARLOS III (F.S.P. CNIO)
【住所又は居所原語表記】C/ Melchor Fernandez Almagro, 3, 28029 Madrid, Spain
(71)【出願人】
【識別番号】521163765
【氏名又は名称】フンダシオン インスティテュート デ インベスティガシオン コントラ ラ レウセミア ホセプ カレラス
【氏名又は名称原語表記】FUNDACION INSTITUTO DE INVESTIGACION CONTRA LA LEUCEMIA JOSEP CARRERAS
【住所又は居所原語表記】Calle Muntaner 383, 3r 2, 08021 Barcelona, Spain
(74)【代理人】
【識別番号】100133503
【氏名又は名称】関口 一哉
(72)【発明者】
【氏名】ロドリゲス ペラレス, サンドラ
(72)【発明者】
【氏名】トレス ルイス, ラウル
(72)【発明者】
【氏名】マルティネス-ラゲ, マルタ
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4B029AA23
4B029BB11
4B029CC01
4B029GA03
4B029GA08
4B029GB10
4B065AA93X
4B065AB01
4B065AC20
4B065BA02
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4B065CA46
4C084AA13
4C084CA18
4C084DC01
4C084NA14
4C084ZB26
4C084ZB27
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB26
4C086ZB27
(57)【要約】
本発明は、癌細胞を排除する方法であって、当該細胞が、非癌細胞に存在しない融合遺伝子の発現、または癌誘導遺伝子の発現もしくは過剰発現の誘導をもたらすゲノム増幅もしくは再編成のいずれかをもたらすゲノム再編成を含み、当該方法は、(a)ゲノムを少なくとも2つの部位で切断することであって、当該切断が、当該癌細胞のゲノムの欠失、逆位、フレームシフト、修復を伴わない切断および/または挿入のいずれかをもたすこと、及び又は(b)当該融合遺伝子もしくは癌誘導遺伝子の発現産物を少なくとも1つの部位で切断すること、を含む方法に関する。
【選択図】
図10B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌細胞を排除する方法であって、当該細胞が、非癌細胞に存在しない融合遺伝子の発現、または癌誘導遺伝子の発現もしくは過剰発現の誘導をもたらすゲノム増幅もしくは再編成のいずれかをもたらすゲノム再編成を含み、
a.前記ゲノムを少なくとも2つの部位で切断することであって、前記切断が、前記癌細胞のゲノムの欠失、逆位、フレームシフト、修復を伴わない切断および/または挿入のいずれかをもたすこと、および/または
b.前記融合遺伝子もしくは癌誘導遺伝子の発現産物を少なくとも1つの部位で切断すること、を含む方法。
【請求項2】
前記癌細胞が、非癌細胞に存在しない前記再編成された遺伝子の発現をもたらす、好ましくは非癌細胞に存在しない融合遺伝子の発現をもたらすゲノム再編成を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ゲノムを切断することが、欠失、逆位、フレームシフト、修復を伴わない前記切断またはそれらの任意の組み合わせをもたらす、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記方法が、2つの部位で、または3つの部位で、または4つの部位でゲノムを切断することを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記ゲノム再編成が、EWSR1-FLI1、BCR-ABL、DNAJB1-PRKACA、EML4-ALK、PAX3-FOXO1及びTPM3-NTRK1から選択される融合遺伝子の発現をもたらし、好ましくは融合遺伝子EWSR1-FLI1またはBCR-ABLの発現をもたらす、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記癌細胞がゲノム増幅を含み、前記方法が、少なくとも2つの部位、または少なくとも10の部位、または少なくとも100の部位で前記ゲノムを切断することを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記ゲノム増幅が染色体または染色体外である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記切断がコード領域または調節領域以外のゲノム領域にあり、好ましくは前記切断がイントロン領域にあり、より好ましくは前記切断が前記スプライス部位以外のゲノム増幅のイントロン領域にある、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記ゲノム増幅が、MYCN、MYC、FOXO1、ERBB2(Her2)、EGFR、MET、FGFR2、CCND1、MDM2、RAB25、MDM4、KRAS、AURKA、TERTおよびそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つの遺伝子を含み、好ましくは遺伝子MYCNまたはMYCを含む、請求項6~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記切断部位の少なくとも2つがイントロンにある、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記切断が、CRISPR関連タンパク質、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)および転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)から選択されるエンドヌクレアーゼによって行われる、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記切断が、Casタンパク質、好ましくはCas9またはCas13、より好ましくはCas9によって行われる、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
少なくとも1つのガイドRNA(gRNA)がゲノムの切断を標的化するために使用され、好ましくは少なくとも2つのgRNAがゲノムの切断を標的化するために使用される、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
前記エンドヌクレアーゼの標的が、癌細胞に存在し、非癌細胞には存在しない融合遺伝子のイントロンにあり、前記標的が患者特異的ではない、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
キットオブパーツであって、好ましくはジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)および転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)から選択される少なくとも2つのエンドヌクレアーゼを備え、前記エンドヌクレアーゼが少なくとも2つの部位で前記ゲノムを特異的に切断し、前記切断が、欠失、フレームシフトおよび/またはゲノムへの挿入、好ましくは欠失および/またはフレームシフトのいずれかをもたらす、キットオブパーツ。
【請求項16】
キットオブパーツであって、好ましくはジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)および転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)から選択されるエンドヌクレアーゼを含むキットオブパーツであって、前記エンドヌクレアーゼがコード領域または調節領域以外のゲノム領域、好ましくはゲノム増幅のイントロン領域でゲノムを特異的に切断し、より好ましくは前記切断がスプライス部位以外のイントロン領域にある、キットオブパーツ。
【請求項17】
キットオブパーツであって、
a.CRISPR関連エンドヌクレアーゼ、好ましくはCasタンパク質、より好ましくはCas9またはCas13、最も好ましくはCas9と、
b.癌誘導遺伝子の過剰発現の誘導をもたらすゲノム増幅をもたらす、癌細胞に存在するゲノム再編成における標的化ドメインを有する少なくとも1つのgRNA、または非癌細胞に存在しない融合遺伝子の発現、または癌誘導遺伝子の発現もしくは過剰発現の誘導をもたらす再編成のいずれかをもたらす、癌細胞に存在するゲノム再編成における標的化ドメインを有する少なくとも2つのgRNAと、を備える、キットオブパーツ。
【請求項18】
請求項15~17に記載のキットオブパーツであって、
a.配列番号1のアミノ酸配列を有するヌクレアーゼと、
b.配列番号2および配列番号3のヌクレオチド配列を有するgRNAの対;または配列番号4および配列番号5のヌクレオチド配列を有するgRNAの対;または配列番号128もしくは配列番号129および配列番号130もしくは配列番号131のヌクレオチド配列を有するgRNAの対;または配列番号132もしくは配列番号133および配列番号134もしくは配列番号135のヌクレオチド配列を有するgRNAの対;または配列番号136もしくは配列番号137および配列番号138もしくは配列番号139のヌクレオチド配列を有するgRNAの対;または配列番号140もしくは配列番号141および配列番号142もしくは配列番号143のヌクレオチド配列を有するgRNAの対と、を備えるキットオブパーツ。
【請求項19】
請求項17に記載のキットオブパーツであって、
a.配列番号1のアミノ酸配列を有するヌクレアーゼと、
b.配列番号148もしくは配列番号149、またはその両方のヌクレオチド配列を有する少なくとも1つのgRNAと、を備える、キットオブパーツ。
【請求項20】
請求項17に記載のキットオブパーツであって、
a.配列番号1のアミノ酸配列を有するヌクレアーゼと、
b.配列番号152もしくは配列番号153、またはその両方のヌクレオチド配列を有する少なくとも1つのgRNAと、を備える、キットオブパーツ。
【請求項21】
請求項17に記載のキットオブパーツであって、
a.配列番号1のアミノ酸配列を有するヌクレアーゼ;および
b.配列番号152、または配列番号154、または配列番号155、または配列番号156、または配列番号157、または配列番号158、または配列番号159、または配列番号160、または配列番号161、または配列番号162、または配列番号163、または配列番号164、または配列番号165を有する少なくとも1つのgRNAと、を備える、キットオブパーツ。
【請求項22】
核酸であって、
a CRISPR関連エンドヌクレアーゼ、好ましくはCasタンパク質、より好ましくはCas9またはCas13、さらにより好ましくはCas9;
b.融合遺伝子の発現産物中に標的化ドメインを有する少なくとも1つのgRNA、または非癌細胞に存在しない融合遺伝子の発現、または癌誘導遺伝子の発現もしくは過剰発現の誘導をもたらすゲノム増幅もしくは再編成のいずれかをもたらす、癌細胞に存在するゲノム再編成における標的化ドメインを有する少なくとも一対のgRNA、に対するコード化配列を含む、核酸。
【請求項23】
前記少なくとも1つのgRNAが、癌細胞に存在し、非癌細胞には存在しないゲノム増幅において、好ましくは前記ゲノム増幅の遺伝子間領域またはイントロン領域において、より好ましくはスプライス部位以外の癌遺伝子のイントロン領域に標的化ドメインを有する、請求項1に記載の核酸。
【請求項24】
核酸であって、
a.配列番号1のアミノ酸配列を有するヌクレアーゼ、ならびに
b.配列番号2および配列番号3のヌクレオチド配列を有するgRNAの対;または配列番号4および配列番号5のヌクレオチド配列を有するgRNAの対;または配列番号128もしくは配列番号129および配列番号130もしくは配列番号131のヌクレオチド配列を有するgRNAの対;または配列番号132もしくは配列番号133および配列番号134もしくは配列番号135のヌクレオチド配列を有するgRNAの対;または配列番号136もしくは配列番号137および配列番号138もしくは配列番号139のヌクレオチド配列を有するgRNAの対;または配列番号140もしくは配列番号141および配列番号142もしくは配列番号143のヌクレオチド配列を有するgRNAの対、に対するコード化配列を含む、核酸。
【請求項25】
核酸であって、
a.配列番号1のアミノ酸配列を有するヌクレアーゼ、および
b.配列番号148もしくは配列番号149、またはその両方のヌクレオチド配列を有する少なくとも1つのgRNA、に対するコード化配列を含む、核酸。
【請求項26】
核酸であって、
a.配列番号1のアミノ酸配列を有するヌクレアーゼ、および
b.配列番号152もしくは配列番号153、またはその両方のヌクレオチド配列を有する少なくとも1つのgRNA、に対するコード化配列を含む、核酸。
【請求項27】
核酸であって、
a.配列番号1のアミノ酸配列を有するヌクレアーゼ、および
b.配列番号152、または配列番号154、または配列番号155、または配列番号156、または配列番号157、または配列番号158、または配列番号159、または配列番号160、または配列番号161、または配列番号162、または配列番号163、または配列番号164、または配列番号165を有する少なくとも1つのgRNA、に対するコード化配列を含む、核酸。
【請求項28】
癌の処置のための、好ましくは線維層板型肝細胞癌、非小細胞肺癌、肺胞横紋筋肉腫、神経膠芽腫、結腸直腸癌、急性リンパ性白血病、ユーイング肉腫、膀胱癌、神経芽腫、髄芽腫、乳癌、胃癌、口腔扁平上皮癌、骨肉腫、卵巣癌、網膜芽細胞腫、精巣胚細胞腫瘍または副腎皮質癌の処置のための、請求項1~15の方法、請求項16~21のキットオブパーツまたは請求項22~27の核酸の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物医学の分野に属し、癌細胞が選択的に排除される遺伝子編集に基づく癌処置に関する。
【背景技術】
【0002】
特異的な再発性染色体再編成は、癌の非常に一般的で周知の特徴である。染色体異常、特に転座、欠失および逆位によって影響を受ける遺伝子は、2つのカテゴリー、すなわち新たな染色体状況の結果として強制発現を受ける癌原遺伝子、またはブレークポイントが関与する2本の染色体上の影響を受けた遺伝子のイントロン内にある融合遺伝子に分類される。後者は、染色体転座のより一般的な結果であり、2つの異なる遺伝子のコード配列の融合の結果として新たなキメラ遺伝子の作成をもたらす1。次世代シーケンシング(NGS)技術の導入は、遺伝子融合の状況を劇的に変化させて、融合を同定するための根本的に新たな手段を提供した。NGSを使用して、多数(9,000を超える)の遺伝子融合が現在同定されている2。これまでに、300を超える様々な遺伝子を含む350を超える再発性融合遺伝子が同定されている10。発癌性融合遺伝子の産物は多様であるが、それらは主に転写因子およびチロシンキナーゼ(TK)の2つの群に分類することができる。
【0003】
融合遺伝子は、腫瘍形成において重要な機能を有し、標的遺伝子に対して複数の効果を有することが多いため、非常に強力な癌突然変異であり、単一の「突然変異」では、それらは発現を劇的に変化させ、調節ドメインを除去し、オリゴマー化を強制し、タンパク質の細胞内位置を変化させるか、または新規結合ドメインに結合することができる。これは、いくつかの新生物が特定の融合遺伝子の存在に従って分類または管理されるという事実に臨床的に反映される3。融合遺伝子は腫瘍特異的であり、したがって治療の重要な標的であり、レチノイン酸受容体-αのPML-RARα融合を有する前骨髄球性白血病はレチノイン酸で処置され4、慢性骨髄性白血病のBCR-ABL融合遺伝子は、イオン性標的薬グリベック(STI-571)の標的である5。
【0004】
遺伝子融合が発癌の開始において重要で初期段階を表すという強力な証拠がある。第1に、それらは通常、特定の腫瘍表現型と密接に相関している6~10。第2に、処置の成功は、疾患関連キメラの減少または根絶に対応することが示されている11~14。そして最後に、インビトロでの融合転写物のサイレンシングは、腫瘍形成能の逆転、増殖および/または分化の減少をもたらす15、16。
腫瘍特異的治療標的としての遺伝子融合産物
【0005】
キメラRNAおよびタンパク質産物は染色体再編成(転座、欠失または反転)を有する細胞でのみ生じることから、遺伝子融合は腫瘍特異的分子を産生する。これらの特有の分子は、潜在的な腫瘍特異的治療標的である。治療標的としての遺伝子融合産物の1つの重要な問題は、それらの細胞内位置である。治療分子の細胞内送達は困難であるが、それらの腫瘍特異性は、新たな標的療法を開発するための重要な動機となる因子である。DNAからmRNAおよびタンパク質への遺伝情報の流れは、治療試薬が介在し得るいくつかの点を有する。遺伝子融合を標的とするためのいくつかのアプローチが開発されており、その中には以下のものが含まれる。
1.-標的化タンパク質:小分子、イントラボディおよびアプタマー。
【0006】
2.-標的化mRNA:アンチセンス、リボザイムおよびRNAi。
【0007】
3.-標的化DNA:ゲノム編集:直接遺伝子編集を可能にする任意の所望の位置でゲノムに標的化切断を生成することができるCRISPR-Cas9システムを使用して、ヒト癌を処置するための遺伝子型特異的アプローチを提供する融合遺伝子を作製する染色体DNAブレークポイントを標的化することができる17。Cas9は、単一ガイドRNA(sgRNA)によって特定の20bpのDNA配列を標的とすることができるDNAエンドヌクレアーゼである18、19。Luoのグループ20は、Cas9ニッカーゼ媒介ゲノム編集を使用することにより、前立腺癌および肝細胞癌にそれぞれ見られる融合遺伝子TMEM-CCDC67およびMAN2A1-FERの患者特異的染色体ブレークポイントにHSV1-tkを挿入することができた。HSV1-tkの誘導後にこれらの染色体ブレークポイントを有する腫瘍をガンシクロビルで処置すると、細胞培養で細胞死がもたらされ、ヒト前立腺および肝臓癌を異種移植したマウスでは腫瘍サイズおよび死亡率が減少した。遺伝子型特異的ではあるが、この治療アプローチは、今日では低効率(0.1~10%)に関連するノックイン戦略に依拠している。一方、このアプローチは、各特定の患者の処置のための新たな標的化ツール(sgRNAおよびドナーテンプレート)の設計および開発と共に、おそらくより転座に関与するイントロンの配列決定研究が必要になる、患者特異的なブレークポイント配列の以前の知識に依存する。このアプローチはまた、TKランダムインテグレーションに関連する野生型細胞死事象に関連し得る。
【0008】
正常細胞に存在しない癌融合遺伝子を標的とするが、より効率的で患者特有の戦略を使用を使用しないという同じ方向で作業して、本発明者らは、融合癌遺伝子を含む大きなゲノム領域の標的化された欠失に基づいて、根本的に単純で、多用途で、非常に効率的で、臨床的に関連する遺伝子編集アプローチを開発し、それらの対応する野生型対立遺伝子のエクソン領域を変化させずに残した。CRISPR-Cas9アプローチは、正常な対応物を残しつつ、再発性融合遺伝子を有する癌細胞を選択的に破壊するための効率的な(30~80%)ノックアウト戦略に基づく。
【0009】
国際公開第2016094888号明細書は、CRISPRおよびガイドRNAおよびCasタンパク質を含む組成物の使用に関し、具体的には、融合遺伝子である癌特異的標的配列のブレークポイント遺伝子座に自殺遺伝子を導入するための使用に関する。
【0010】
遺伝子増幅は、癌、特に固形腫瘍で頻繁に観察され、腫瘍の進展に寄与すると考えられている。遺伝子増幅とは、ゲノムの制限された領域のコピー数の体細胞的に獲得された増加を指す。増幅は、優勢に作用する癌遺伝子の過剰発現をもたらすゲノム機構である31。アンプリコンとして知られるこれらの増幅領域は、キロベース~数十メガベースに及ぶ場合があり、増幅領域に複数の発癌遺伝子ならびにパッセンジャー遺伝子を含むことができる32。増幅事象は、古典的には、二重微小の細胞遺伝学的特徴、自己複製染色体外要素、またはゲノム領域の複数のコピーが染色体に統合される均一に染色する領域に関連付けられている33。ゲノム増幅を構成するDNA配列のコピー数は様々に記載されているが、一般に、同じ染色体上の隣接する非増幅マーカーと比較して4倍または5倍を超えると見なされる。二倍体ゲノムでは、これは8コピー超に相当する。TCGA分析により、14種の癌タイプにおいて統計的に増幅された461個の遺伝子が同定された34。しかしながら、癌増幅遺伝子として同定された遺伝子の一部は、アンプリコン中のパッセンジャー遺伝子であり得る。コピー数対発現分析により、73個の潜在的なドライバー遺伝子が明らかになった31。増幅された癌遺伝子の機能を阻害するために、いくつかの標的療法が開発されている。これらの治療法には、EGFRに対するゲフィチニブおよびエルロチニブを含むチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)、またはモノクローナル抗体、例えば、ERBB2の場合はトラスツズマブ、EGFRの場合はセツキシマブなどの分子標的療法が含まれる35。
【0011】
しかしながら、融合タンパク質関連癌および増幅関連癌の両方に対して、より堅固で特異的な治療法が必要とされている。普遍的であり、患者特異的ではなく、より効率的であり、癌細胞にのみ作用し、処置の副作用を最小限に抑える、癌に対する治療ツールが依然として必要とされている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】a.1型(FLI1エクソン6に融合したEWSR1エクソン7)および2型(FLI1エクソン5に融合したEWSR1エクソン7)EWSR1-FLI1融合遺伝子座の概略図。融合遺伝子を編集するために使用されるEWSR1遺伝子のイントロン3およびFLI1遺伝子のイントロン8を標的とするsgRNAが示される。b.Cas9編集(edition)によって生成された切断型DNAの概略図。c.EWSR1およびFLI1 WTイントロンの標的部位に対する遺伝子編集効果。a.EWSR1およびFLI1 WT遺伝子の概略図。両方の遺伝子を標的とするsgRNAを示す。d.スプライシング機構によるインデル除去の概略図。pLVX-U6E3.2-H1F8.2-Cas9-2A-eGFPベクターの概略図。
【
図2】a.ゲノム編集によって生成されたEWSR1-FLI1キメラタンパク質および切断型タンパク質。b EWSR1-FLI1タンパク質(1型)のアミノ酸配列。EWSR1またはFLI1に対応する残基をそれぞれ黒色または灰色で示す。c.編集されたEWSR1-FLI1切断型タンパク質のアミノ酸配列。欠失された残基は、取り消し線で示され、突然変異後のリーディングフレームの変化によって生成された新たな残基は、二重下線で示されている。未成熟停止コドンはアスタリスクで示されている。
【
図3】EWSR1-FLI1 DNAの分析。a.sgE3.2およびsgF8.2によって標的化されたDNA遺伝子座に隣接するオリゴを使用した編集および対照A673 ES細胞株のゲノムPCR分析の結果を示すアガロースゲル電気泳動。300bpのPCRフラグメントは、sgEW3.2によって標的化される遺伝子座とsgFLI8との間のDNAフラグメントの欠失を示す。PCR分析を、形質導入後(pt)2日目、4日目および6日目に細胞培養物からのDNAを使用して行った。アルブミンをPCR反応の内部対照として使用する。b.PCRバンドのサンガーシーケンシング分析。代表的な欠失配列およびクロマトグラムを示す。
【
図4】EWSR1-FLI1 RNAの分析。a.編集および対照A673 ES細胞から得たEWSR1-FLI1 RT-PCR産物のアガロースゲル電気泳動。RT-PCR分析を、ptの2日目、4日目および6日目に細胞培養物からのRNAを使用して行った。矢印は、野生型(961bp)および欠失(150bp)RT-PCR産物のサイズを示す。RT-PCR反応の内部対照としてGAPDHを使用する。b.Sangerおよびクロマトグラムによって得られた代表的な欠失cDNA配列。
【
図5】EWSR1-FLI1タンパク質の分析。ウエスタンブロット分析によるA673 ES細胞におけるEWSR1-FLI1タンパク質発現。ウエスタンブロット分析を、細胞培養物由来のタンパク質を使用してptの3日目、6日目および10日目に行った。GAPDHをアッセイの内部対照として使用する。
【
図6】増殖および腫瘍形成能のインビトロアッセイ。a.A673およびRD-ES ESおよびU2OS骨肉腫(EWSR1-FLI
-)実験細胞および対照細胞の増殖速度アッセイ曲線。b.コロニー形成アッセイ。2%クリスタルバイオレット染色後のウェルの代表的な画像を、A673、RD-ESおよびU2OS実験細胞および対照細胞について示す。A673、RD-ESおよびU2OSコロニー形成アッセイで形成されたコロニーの数のグラフ表示。p値を表す(**P<0.005;***P<0.0005)。
【
図7】インビトロアッセイにおけるアポトーシス。a.ヨウ化プロピジウム染色およびフローサイトメトリーを用いてDNAプロファイルを分析した。細胞アポトーシスのパーセンテージは、Sub-G1ピークのパーセンテージを用いて計算される。黒色のプロットはA673対照細胞を表し、灰色のプロットは実験的EWSR1-FLI1欠失A673細胞を表す。b.カスパーゼ3免疫染色を使用して、アポトーシス細胞の数を分析した。細胞アポトーシスのパーセンテージは、分析された視野当たりのカスパーゼ3陽性細胞のパーセンテージを使用して計算される。黒色の点はA673対照細胞を表し、灰色の点は実験的EWSR1-FLI1欠失A673細胞を表す。
【
図8】ゲノム編集特異性分析。a.sgE3.2およびsgF8.2を形質導入されたWTヒト間葉系幹細胞(hMSC)の正常な核型を有する代表的なGバンド化中期(methaphase)。b.EWSR1遺伝子状態のFISH分析。概略図は、EWSR1ブレークアパート蛍光インサイチュハイブリダイゼーション(FISH)プローブ(Kreatech KBI-10750)の構造および原理を示す。融合シグナルが別々のシグナルに分割される場合、ブレークが定義される。共局在化融合シグナルは、正常染色体(複数の場合がある)を同定する22。対照および実験hMSCの代表的なFISH画像。c.sgE3.2およびsgF8.2を形質導入されたhMSCにおいてコピー数多型(CNV)を示さない全ゲノムを網羅する高密度アレイ比較ゲノムハイブリダイゼーション(aCGH)分析のプロファイルプロットの結果。
【
図9】エクスビボレンチウイルスEWSR1-FLI1遺伝子編集。a.レンチウイルスベクターおよびエクスビボ処置のためのアプローチを示す図である。A673 ES細胞にpLVX-U6E3.2-H1F8.2-Cas9-2A-eGFPまたは対照ベクターを形質導入し、免疫抑制マウスに移植する。次いで、異種移植マウスを観察し、測定し、細胞注入の30日後に屠殺する。b.皮下細胞注入後28日間にわたる腫瘍成長(mm3)。プロットは中央値および範囲を示す。p値を表す(*P<0.05、**P<0.005)。c.マウスを30日後に屠殺し、その腫瘍を収集した。写真は、対照マウスおよび実験マウスの代表的な腫瘍を示す。D.A673 ES実験細胞および対照細胞に対するKi-67増殖マーカーおよびカスパーゼ3アポトーシスマーカー免疫染色アッセイの代表的な画像。e.実験または対照A673細胞を注入したマウスを比較する生存曲線。
【
図10】インビボアデノウイルスEWSR1-FLI1遺伝子編集。a.対照Cas9およびsgE3.2、sgF8.2およびCas9アデノウイルスベクター、ならびにインビボ遺伝子編集アッセイに使用されるスケジュールを示す図である。A673 ES細胞を免疫不全マウスの側腹部に注射し、規定のサイズに達したとき、アデノウイルス、対照ベクターおよびPBSを異種移植腫瘍に4回(3日ごとに)注入する。次いで、異種移植マウスを観察し、測定し、細胞注入の30日後に屠殺する。b.23日間にわたる腫瘍成長(mm3)。プロットは中央値および範囲を示す。p値を表す(*P<0.05、**P<0.005)。マウスを25日後に屠殺し、その腫瘍を収集した。写真は、対照マウスおよび実験マウスの代表的な腫瘍を示す。c.A673ユーイング肉腫実験細胞および対照細胞に対するCas9免疫染色アッセイの代表的な画像。d.A673ユーイング肉腫実験細胞および対照細胞に対するKi-67増殖およびカスパーゼ3アポトーシスマーカー免疫染色アッセイの代表的な画像。sgRNAs-Cas9実験アデノウイルスベクター、Cas9対照アデノウイルスベクターまたはPBSで処置したマウスを比較する生存曲線。
【
図11】a.BCR-ABL1融合遺伝子の概略図。融合遺伝子を編集するために使用されるBCRのイントロン8およびABL1遺伝子の1つを標的とするsgRNAが示される。b.Cas9編集(edition)によって生成されたBCR-ABL1キメラおよび切断型タンパク質の概略図。b.BCR-ABLタンパク質のアミノ酸配列(p210)。BCRまたはABLに対応する残基は、それぞれ黒色または灰色で示されている。ABL DNA結合ドメインには下線が引かれている。編集されたBCR-ABL切断型タンパク質のアミノ酸配列。欠失された残基は、取り消し線で示され、突然変異後のリーディングフレームの変化によって生成された新たな残基は、斜体で示されている。未成熟停止コドンはアスタリスクで示されている。BCR-ABL1 RNAの分析およびインビトロ生存率。BCRイントロンとABL1イントロンの両方を標的とする4対(BA1、BA2、BA3およびBA4)のsgRNAを試験した。b.実験および対照のK562慢性骨髄性白血病細胞株から得られたBCR-ABL1 RT-PCR産物を示すアガロースゲル電気泳動。RT-PCR分析を、ヌクレオフェクション後2日目に細胞培養物からのRNAを使用して行った。矢印は、野生型(1125bp)および欠失(458bp)RT-PCR産物のサイズを示す。GAPDHをRT-PCR反応の内部対照として使用する。Sangerおよびクロマトグラムによって得られた代表的な欠失cDNA配列を下部に示す。c.コロニー形成アッセイ。K562実験細胞および対照細胞の2%クリスタルバイオレット染色後のウェルの代表的な画像を示す。K562コロニー形成アッセイで形成されたコロニーの数のグラフ表示。p値を表す(***P<0.0005)。d.インビトロアッセイにおけるアポトーシス。ヨウ化プロピジウム染色およびフローサイトメトリーを用いてDNAプロファイルを分析した。細胞アポトーシスのパーセンテージは、Sub-G1ピークのパーセンテージを用いて計算される。黒色のプロットはK563対照細胞を表し、灰色のプロットは実験BA1、BA2、BA3およびBA4編集K562細胞を表す。
【
図12】インビボアデノウイルスBCR-ABL1遺伝子編集。a.皮下細胞注射および4回のインビボアデノウイルス処置(3日ごと)後の30日間にわたる腫瘍成長(mm3)。プロットは中央値および範囲を示す。p値表す(**P<0.05)。b.マウスを30日後に屠殺し、その腫瘍を回収した。写真は、対照および実験マウスの代表的な腫瘍を示す。c.sgRNAs-Cas9実験および対照アデノウイルスベクターで処置したマウスを比較する生存曲線。
【
図13】増幅された遺伝子のイントロンCRISPR媒介標的化を表す戦略であり、正常細胞および増幅を伴う細胞におけるゲノム構造を例示する。
【
図14】代表的なFISH画像を示す図である。プローブとしてMYCNを用いた。SKNASはMYCNの2つのコピーを提示する。IMR32はHSR増幅を示す。LAN5は、二重微小増幅を示す。
【
図15】MYCNイントロンのCRISPR媒介性標的化はインビトロ細胞増殖を阻害する。非標的化sgRNA(sgNT)または野生型(WT)細胞でトランスフェクトした、編集されたIMR32、LAN5およびSKNAS(sgMYCN)の増殖速度アッセイ曲線。(n=3)。編集されたおよび対照IMR32細胞からのRT-PCR産物。分析は、ptの3日目に細胞の抽出されたRNAを使用して行った。RT-PCR反応の内部対照としてGAPDHを用いた。
【
図16】SKNAS対照細胞株(a)、IMR32(b)およびLAN5(C)のコロニー数の統計分析(n=3)。
【
図17】A.処置したSKNAS、IMR32およびLAN5細胞株(sgMYCN)または対照(WTおよびsgNT)におけるヨウ化プロピジウム染色およびフローサイトメトリーによるDNAプロファイル分析。B.G2分析のグラフ表示。(n=3)。
【
図18】抗H2AX抗体で染色されたsgMYCNをコードする構築物でトランスフェクトしたSKNAS、IMR32およびLAN5の代表的な免疫蛍光画像であり、DNA損傷フォーカスを可視化する。DNAをDAPIで対比染色した。
【
図19】MYC遺伝子を標的化する2つのsgRNA(sgMYC-1およびsgMYC-2)、非標的化sgRNA(sgNT)または野生型(対照)細胞をトランスフェクトしたMDB-HTB-185髄芽腫細胞株の増殖速度アッセイ曲線。(n=3)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、特定の部位でゲノムを切断するエンドヌクレアーゼ(複数の場合がある)を特異的に使用して癌細胞を排除する方法を提供し、その結果、癌誘導遺伝子が選択的に排除され、それによって癌細胞が排除される。
【0014】
切断は、非癌細胞に存在しない融合遺伝子の発現、または癌誘導遺伝子の発現もしくは過剰発現の誘導をもたらすゲノム増幅もしくは再編成のいずれかをもたらすゲノム再編成を対象とする。本発明者らは、ゲノム再編成が生じている特定の配列(ブレークポイント)に依存しないため、普遍的な(患者特異的ではない)処置を設計するための単純で直接的な方法を見出した。融合遺伝子および融合タンパク質が存在する癌の場合、本発明は、融合タンパク質の短縮または排除を可能にし、それは次に癌細胞の死をもたらす。しかしながら、より重要なことに、本発明は、ゲノムのコード領域の改変がゲノム再編成を有する細胞、すなわち癌細胞においてのみ起こるため、副作用が最小限の治療法を提供する。癌細胞が1つ以上の癌遺伝子を含む増幅領域を含む癌の場合、本発明の方法は、癌細胞ゲノムが不可逆的な方法で損傷を受け、癌細胞は細胞死を運命づけられているが、正常細胞は影響を受けないままであるため、極めて堅固である。
【0015】
したがって、第1の態様は、癌細胞を排除する方法であって、当該細胞が、非癌細胞に存在しない融合遺伝子の発現、または癌誘導遺伝子の発現もしくは過剰発現の誘導をもたらすゲノム増幅もしくは再編成のいずれかをもたらすゲノム再編成を含み、当該方法は、(a)ゲノムを少なくとも2つの部位で切断することであって、当該切断が、当該癌細胞のゲノムの欠失、逆位、フレームシフト、修復を伴わない切断および/または挿入のいずれかをもたすこと、または(b)当該融合遺伝子もしくは癌誘導遺伝子の発現産物を少なくとも1つの部位で切断すること、を含む方法に関する。
【0016】
本明細書で使用される場合、「切断すること」、「切断する」または「切断」という用語は、二本鎖DNAであるゲノムを指す場合、両方のDNAのチェーンまたは鎖が切断されることを意味する。当該用語が二本鎖であるDNAまたはRNA分子を指す場合、両方のチェーンまたは鎖が切断されることを意味する。当該用語が一本鎖であるDNAまたはRNA分子を指す場合、それは1本のチェーンまたは鎖のみが切断されていることを意味する。ゲノム切断時に、二本鎖分子が切断されると、切断の結果として粘着性末端および平滑末端の両方が生成され得る。
【0017】
ゲノム再編成がゲノム増幅をもたらす癌細胞を排除するために本発明の方法が使用される場合、切断は、切断されたDNAが切断部位で修復され得ないゲノム損傷をもたらす。したがって、修復を伴わない切断は、ゲノム増幅の断片化をもたらし、最終的には癌細胞の死をもたらす。
【0018】
本明細書で使用される「融合遺伝子」という用語は、遺伝子のコード化領域、ならびに調節領域およびプロモーターなどの他の非コード化配列を意味する。第1の態様の好ましい実施形態では、ゲノム再編成は、EWSR1-FLI1、BCR-ABL、DNAJB1-PRKACA、EML4-ALK、PAX3-FOXO1およびTPM3-NTRK1から選択される融合遺伝子の発現をもたらし、好ましくは融合遺伝子EWSR1-FLI1またはBCR-ABLの発現をもたらす。好ましい実施形態では、癌細胞は、ユーイング肉腫細胞、好ましくは融合遺伝子EWSR1-FLI1の発現をもたらすゲノム再編成を含むユーイング肉腫細胞である。好ましい実施形態では、癌細胞は骨髄性白血病細胞、好ましくは融合遺伝子BCR-ABLの発現をもたらすゲノム再編成を含む骨髄性白血病細胞である。
【0019】
本明細書で使用される場合、「癌誘導遺伝子」という用語は、癌を引き起こす可能性がある癌遺伝子または癌原遺伝子を指す。
【0020】
好ましい実施形態では、癌誘導遺伝子の発現の誘導または過剰発現をもたらす当該ゲノム増幅または再編成は、非癌細胞には存在しない。
【0021】
好ましい実施形態において、本方法は、少なくとも2つ、3つ、4つもしくは5つの部位またはさらなる切断部位で切断することを含み、例えば、遺伝子増幅の場合、切断部位は、増幅された遺伝子の反復が存在するのと同じ数の部位で生じ得る。したがって、本方法は、ゲノム再編成が癌誘導遺伝子の数百回の反復を含む場合、少なくとも2つの部位から数百の部位で切断することを含み得る。好ましい実施形態において、本方法は、同じまたは異なる切断部位を標的とする切断の連続的な反復を含む。好ましい実施形態では、本方法は、2つの部位で切断し、続いて、同じであっても異なっていてもよい2つの部位で切断することを含む。この連続的な切断のために、ネステッドgRNAが使用され得る。
【0022】
好ましい実施形態では、切断は、少なくとも1つのエンドヌクレアーゼによって行われる。当該エンドヌクレアーゼは、Cas9などのCRISPR関連タンパク質またはその機能的等価物であってもよく、その標的部位はガイドRNAの配列によって駆動される。また、切断は、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)または転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)などのエンドヌクレアーゼによって行われてもよい。これらの場合、標的部位はヌクレアーゼに固有のものであり、したがって、ゲノムを少なくとも2つの部位で切断するためには少なくとも2つのヌクレアーゼが必要であろう。これらのアプローチはいずれも、これらのドメインのタンパク質-DNA相互作用の原理を適用して、固有のDNA結合特異性を有する新たなタンパク質を操作することを含む。これらの方法は、多くの用途で広く成功している。
【0023】
第1の態様の方法の好ましい実施形態では、癌細胞は、非癌細胞に存在しない再編成された遺伝子の発現をもたらすゲノム再編成を含む。好ましくは、癌細胞は、非癌細胞に存在しない融合遺伝子の発現をもたらす。
【0024】
第1の態様の方法の好ましい実施形態では、当該方法は、2つの部位、または3つの部位、または4つの部位でゲノムを切断することを含む。好ましくは、当該方法は、ゲノムを2つの部位で切断することにある。好ましくは、当該方法は、ゲノムを3つの部位で切断することにある。好ましくは、当該方法は、ゲノムを4つの部位で切断することにある。
【0025】
第1の態様の方法の好ましい実施形態では、癌細胞はゲノム増幅を含み、当該方法は、少なくとも2つの部位、または少なくとも10の部位、または少なくとも100の部位でゲノムを切断することを含む。別の好ましい実施形態では、ゲノム増幅は、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10、少なくとも11、少なくとも12、少なくとも13、少なくとも14、少なくとも15、少なくとも16、少なくとも17、少なくとも18、少なくとも19、少なくとも20、少なくとも21、少なくとも22、少なくとも23、少なくとも24、少なくとも25、少なくとも26、少なくとも27、少なくとも28、少なくとも29、少なくとも30、少なくとも31、少なくとも32、少なくとも33、少なくとも34、少なくとも35、少なくとも36、少なくとも37、少なくとも38、少なくとも39、少なくとも40、少なくとも41、少なくとも42、少なくとも43、少なくとも44、少なくとも45、少なくとも46、少なくとも47、少なくとも48、少なくとも49、少なくとも50、少なくとも51、少なくとも52、少なくとも53、少なくとも54、少なくとも55、少なくとも56、少なくとも57、少なくとも58、少なくとも59、少なくとも60、少なくとも61、少なくとも62、少なくとも63、少なくとも64、少なくとも65、少なくとも66、少なくとも67、少なくとも68、少なくとも69、少なくとも70、少なくとも71、少なくとも72、少なくとも73、少なくとも74、少なくとも75、少なくとも76、少なくとも77、少なくとも78、少なくとも79、少なくとも80、少なくとも81、少なくとも82、少なくとも83、少なくとも84、少なくとも85、少なくとも86、少なくとも87、少なくとも88、少なくとも89、少なくとも90、少なくとも91、少なくとも92、少なくとも93、少なくとも94、少なくとも95、少なくとも96、少なくとも97、少なくとも98、少なくとも99、少なくとも100のコピーの切断のため標的化される増幅されたゲノム領域を含むため、ゲノムは、標的配列のコピー数と同じ数の部位で切断される。第1の態様の方法の好ましい実施形態では、ゲノム増幅は染色体または染色体外である。
【0026】
第1の態様の方法の好ましい実施形態では、切断がコード領域または調節領域以外のゲノム領域にあり、好ましくは切断がイントロン領域にあり、より好ましくは切断がスプライス部位以外のイントロン領域にある。具体的には、ゲノム再編成がゲノム増幅をもたらす場合、切断はコード領域または調節領域外の遺伝子間領域内であり得る。
【0027】
本発明者らは、本発明の方法が、G2において細胞周期を停止させ、最終的に癌細胞の細胞死を引き起こす癌細胞におけるDNA損傷をもたらすことから、本発明の方法が、ゲノム増幅を含む癌細胞を排除するために使用される場合(正常細胞は当該増幅を含まない)に特に有利であることを見出した。この方法は、癌細胞に特異的かつ排他的に向けられ得る放射線療法と同程度に有効であり、本発明の方法はゲノム増幅を受けていない正常細胞に影響を及ぼさないため、副作用が最小限に抑えられるという非常に大きな利点がある。
【0028】
第1の態様の方法の好ましい実施形態において、ゲノム増幅は、MYCN、MYC、FOXO1、ERBB2(Her2)、EGFR、MET、FGFR2、CCND1、MDM2、RAB25、MDM4、KRAS、AURKA、TERTおよびそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つの遺伝子を含み、好ましくは遺伝子MYCNまたはMYCを含む。
【0029】
第1の態様の方法の好ましい実施形態において、癌細胞は、神経芽腫細胞、好ましくは遺伝子MYCNを含むゲノム増幅を含む神経芽腫細胞であるか、または癌細胞が髄芽腫細胞、好ましくは遺伝子MYCを含むゲノム増幅を含む髄芽腫細胞である。
【0030】
第1の態様の方法の好ましい実施形態において、ゲノムを切断することは、ゲノムの損傷、欠失、逆位、フレームシフトまたはそれらの任意の組み合わせをもたらす。
【0031】
第1の態様の方法の好ましい実施形態では、切断部位の少なくとも2つがイントロンにある。本発明の方法は、好ましくはイントロン領域における癌細胞のゲノムの切断を含む。これらの領域は、スプライシングとして知られるプロセス中に除去される。イントロンは、スプライス部位と呼ばれる保存された配列での切断によって一次転写物から除去される。これらの部位は、イントロンの5’および3’末端に見出される。最も一般的には、除去されるRNA配列は、その5’末端でジヌクレオチドGUで始まり、その3’末端でAGで終わる。これらのコンセンサス配列は、保存されたヌクレオチドの1つを変化させるとスプライシングの阻害をもたらすので、重要であることが知られている。イントロンのコンセンサス配列は(IUPAC核酸表記で)、G-G-[切断]-G-U-R-A-G-U(ドナー部位)...イントロン配列...Y-U-R-A-C(アクセプター部位の20~50ヌクレオチド上流の分岐配列)...Yリッチ-N-C-A-G-[切断]-G(アクセプター部位)である。
【0032】
本発明者らは、癌細胞のゲノムを2つの部位で切断すると、切断された配列がそれ自体を同じ位置であるが逆向きに挿入し(逆位)、これにより、融合タンパク質が産生されない(逆位が切断型タンパク質をもたらす)か、または癌誘導遺伝子の発現もしくは過剰発現が防止されるため、癌細胞の死をもたらすことが起こり得ることを観察した。
【0033】
「ゲノム再編成」という表現は、欠失、挿入またはゲノム増幅を指す。また、ゲノム再編成は、融合タンパク質の産生をもたらすものなどの染色体領域の転座であり得る。
【0034】
好ましいゲノム再編成を以下の表1に列挙する。
【0035】
【0036】
【0037】
ゲノム再編成を含むより好ましい癌は、線維層板型肝細胞癌、非小細胞肺癌、肺胞横紋筋肉腫、神経膠芽腫、結腸直腸癌、急性リンパ性白血病、ユーイング肉腫、膀胱癌、神経芽腫、髄芽腫、乳癌、胃癌、口腔扁平上皮癌、骨肉腫、卵巣癌、網膜芽細胞腫、精巣胚細胞腫瘍または副腎皮質癌である。
【0038】
挿入は、数ヌクレオチドから数百または数千ヌクレオチド以上までサイズが異なってもよい。当該挿入は、コード化配列または非コード化配列を含んでもよい。挿入はまた、ゲノムを少なくとも2つの部位で切断した後に挿入される自殺遺伝子を含む場合がある。挿入されたDNAは、内因性または外因性のいずれかであってもよい。
【0039】
好ましい実施形態では、ゲノムが切断され、切断が挿入をもたらす場合、当該挿入は切断の修復の結果であり、外因性DNAの挿入ではない。
【0040】
好ましい実施形態において、ゲノム再編成は挿入以外である。好ましい実施形態において、ゲノム再編成は、自殺遺伝子以外の配列の挿入である。
【0041】
第1の態様の好ましい実施形態において、少なくとも2つの切断部位は、欠失後の融合遺伝子から生じる成熟mRNAが短縮されるか、またはフレームシフトのために異なる配列を有するように選択されたイントロンにある。1つのプロモーターを別の遺伝子のコード配列に結合する転座の場合、sgRNAの一方はその標的ドメインをイントロンに有し、他方はプロモーター配列の前または後にあるが当該配列に影響を及ぼさずにその切断部位を有するので、このプロモーターによって制御される野生型遺伝子の発現は変化しない。
【0042】
癌細胞は、融合遺伝子をもたらすゲノム再編成と、癌誘導遺伝子、例えば癌遺伝子の発現の誘導または過剰発現をもたらすゲノム再編成の両方を含み得る。また、癌細胞は、融合遺伝子をもたらすゲノム再編成と、癌誘導遺伝子、例えば癌遺伝子の発現の誘導または過剰発現をもたらすゲノム増幅の両方を含み得る。
【0043】
融合遺伝子の場合、癌細胞のみが融合遺伝子を有し、癌誘導遺伝子の発現の誘導または過剰発現をもたらすゲノム再編成の場合、それらの細胞のみが当該ゲノム再編成を有するので、本発明の方法は、癌細胞において排他的に少なくとも2つの部位でゲノムの切断を達成する。増幅の場合、gRNAの標的ドメイン(したがって、切断配列)は、標的ドメインが同じであるため、1つのgRNAのみが使用されるが、少なくとも2つの切断部位が存在するように繰り返される。増幅の場合の切断部位の数は反復回数に依存するが、単一のgRNAのみが必要である。したがって、この場合、少なくとも2つの部位における切断は、それらの部位が異なる標的ドメイン配列を有することを意味しない。遺伝子増幅は、染色体アームの制限された領域のコピー数の増加である。増幅されたコピー(複数の場合がある)は、親対立遺伝子と同じ染色体上に出現し得るが、他の染色体(複数の場合がある)または染色体外無動原体エレメントにも転座し得る。増幅されたDNAを、染色体外物質(二重微小、DM)において、遺伝子座(均質染色領域、HSR)においてタンデムに、またはゲノムのいくつかの領域に分布して(相互分散して)、差次的に編成することができる38。いくつかの癌遺伝子増幅は特定の腫瘍に関連し、通常は予後不良の指標となる32、36。DMは、多数のヒト腫瘍で観察されている染色体外DNAの小さな断片であり、DMはクロマチンから構成され、細胞分裂中に細胞の核内で複製する。典型的な染色体とは異なり、それらはDNAの環状断片から構成され、セントロメアまたはテロメアを含まない。増幅された癌遺伝子は、増殖および生存に関して細胞に選択的利点を与える。DNA増幅は、通常、アンプリコンに含まれる遺伝子の発現の対応する増加をもたらす。アンプリコンは非常に大きく(一般にサイズ範囲は100kb~数メガベースである)、いくつかの遺伝子を含むことができるが、一方の遺伝子(通常は癌遺伝子)が増幅の主な標的であり、過剰発現された場合に癌性細胞に増殖または生存の利点を提供すると考えられている33。DMと同様に均一に染色する領域(HSR)は、増幅されたDNAセグメント(アンプリコン)のコピーを含み、セグメントに含まれる遺伝子の細胞過剰発現をもたらす。単一のHSRには、通常、タンデム配列に配置された多くのアンプリコンコピーが存在する。
【0044】
遺伝子増幅とは、その転写速度の増加ではなく、同じ遺伝子のコピー数の増加を指す。これは、遺伝子の3コピー(増幅)から10コピー(中程度に増幅)または100コピー~1000コピー(高度に増幅)を産生する、何度も繰り返された遺伝子重複に起因する。遺伝子増幅の例は、ゲノム内でタンデム(エンド-ツーエンド(end-to-end))アレイにクラスター化されて見出されるリボソーム遺伝子およびヒストン遺伝子である。胚発生に見られるような活発に増殖または分化する組織では、同じ遺伝子の複数のコピーによってのみ提供され得る大量のリボソームRNAが必要とされる。遺伝子増幅は、癌ゲノムにおいて比較的頻繁にある事象である。64個の既知のドライバー癌遺伝子の増幅依存的過剰発現が587個の腫瘍において見出され(40%)、頻繁に観察された遺伝子は、結腸直腸癌ではMYC(25%)およびMET(18%)、肺扁平上皮癌ではSKP2(21%)、肝臓癌ではHIST1H3B(19%)およびMYCN(13%)、消化管間質腫瘍ではKIT(57%)、組織全体にわたる扁平上皮癌ではFOXL2(12%)であった。
【0045】
第1の態様の好ましい実施形態では、切断は、国際公開第2016094888号明細書に開示されているもののような自殺遺伝子のような外因性遺伝子の挿入を生じない。
【0046】
本発明の別の態様は、癌細胞を排除する方法であって、当該細胞が、非癌細胞に存在しない融合遺伝子の発現をもたらすゲノム再編成を含み、当該方法が、当該融合遺伝子の発現産物を少なくとも1つの部位で切断することを含む、方法に関する。
【0047】
融合遺伝子のmRNAの切断は癌細胞に特異的であり、mRNAの分解をもたらし、融合タンパク質の翻訳を妨げ、ひいては癌細胞の死をもたらす。
【0048】
この態様の好ましい実施形態では、切断はエンドヌクレアーゼCas13を使用して行われる。融合遺伝子のRNAのCas13の切断は、癌細胞を排除し、細胞内のRNAの分解をもたらし、最終的にその死をもたらす。Cas13酵素は、CRISPR RNA(crRNA)ガイドRNA標的化CRISPRエフェクターである21~27。単一のcrRNAのガイダンスの下で、Cas13は、相補的配列を有する標的RNAに結合して切断することができる。この機構を介して、CRISPR-Cas13システムは、哺乳動物細胞におけるmRNA発現を効果的にノックダウンすることができ、RNA干渉技術に匹敵する有効性および改善された特異性を有する28、29。X.Zhaoおよび共同研究者ら30は、膵臓癌モデルにおける変異KRAS-G12D mRNAの効率的かつ特異的なノックダウンのためにCRISPR-Cas13システムを操作できることを実証した。
【0049】
この態様の好ましい実施形態では、1種のgRNAのみが使用される。このgRNAは、融合遺伝子の発現産物中にその標的化ドメインを有する。好ましいgRNAは、融合遺伝子DNAJB1-PRKACA、EML4-ALK、PAX3-FOXO1およびTPM3-NTRK1の発現産物をそれぞれ切断するのに有用な、配列番号135、配列番号136、配列番号137および配列番号138の配列によってコードされるものである。
【0050】
第2の態様は、好ましくはジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)および転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)から選択されるエンドヌクレアーゼを備えるキットオブパーツであり、当該エンドヌクレアーゼがコード領域または調節領域以外のゲノム領域、好ましくはゲノム増幅のイントロン領域でゲノムを特異的に切断し、より好ましくは当該切断がスプライス部位以外のイントロン領域である、キットオブパーツに関する。当該キットオブパーツは、好ましくは発現ベクター中にエンドヌクレアーゼまたは当該エンドヌクレアーゼをコードする配列を含み得る。
【0051】
第3の態様は、メッセンジャーRNA(mRNA)を切断することができるエンドヌクレアーゼ、例えばCRISPR関連タンパク質Cas13もしくは当該Cas13に由来する別のエンドヌクレアーゼ、またはそれらの機能的等価物(または当該エンドヌクレアーゼをコードする配列)と、癌細胞に存在し、非癌細胞には存在しない融合遺伝子の発現産物中にその標的化ドメインを有する少なくとも1つのgRNA、好ましくは1つのgRNAと、を備えるキットオブパーツに関する。好ましい実施形態では、キットは、配列番号126のヌクレアーゼまたはその機能的等価物と、配列番号144、配列番号145、配列番号146および配列番号147から選択されるgRNAとを備える。好ましい実施形態では、キットは、配列番号126のヌクレアーゼまたはその機能的等価物と、配列番号144、配列番号145、配列番号146および配列番号147から選択されるgRNAとから本質的になる。好ましくは、配列番号126のヌクレアーゼをコードする配列は、配列番号127である。
【0052】
第4の態様は、メッセンジャーRNA(mRNA)を切断することができるヌクレアーゼ、例えばCRISPR関連タンパク質Cas13もしくは当該Cas13に由来する別のエンドヌクレアーゼ、またはその機能的等価物をコード化する核酸、および癌細胞に存在し、非癌細胞には存在しない融合遺伝子の発現産物中にその標的化ドメインを有する少なくとも1つのgRNA、好ましくは1つのgRNAをコード化する核酸に関する。好ましい実施形態では、核酸は、配列番号126のヌクレアーゼまたはその機能的等価物、ならびに配列番号144、配列番号145、配列番号146および配列番号147から選択されるgRNAをコード化する。
【0053】
第5の態様は、癌の処置のための、好ましくは線維層板型肝細胞癌、非小細胞肺癌、肺胞横紋筋肉腫、神経膠芽腫、結腸直腸癌、急性リンパ性白血病、ユーイング肉腫、膀胱癌、神経芽腫、髄芽腫、乳癌、胃癌、口腔扁平上皮癌、骨肉腫、卵巣癌、網膜芽細胞腫、精巣胚細胞腫瘍または副腎皮質癌の処置のための、前述の方法、キット、または核酸の使用に関する。
【0054】
第1の態様の方法の好ましい実施形態において、切断は、CRISPR関連タンパク質、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)および転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)から選択されるエンドヌクレアーゼによって行われる。好ましくは、切断は、Casタンパク質、好ましくはCas9またはその機能的等価物によって行われる。好ましい実施形態において、エンドヌクレアーゼの標的は、癌細胞に存在し、非癌細胞には存在しない融合遺伝子のイントロンにあり、当該標的は患者特異的ではない。当該エンドヌクレアーゼの標的は、イントロンもしくはエクソン、またはプロモータならびに5’および3’末端を含む非コード配列にあり得る。好ましい実施形態では、当該エンドヌクレアーゼの標的は、コード配列または調節配列にない。好ましい実施形態では、エンドヌクレアーゼ(複数の場合がある)の標的は、プロモーター、エンハンサーまたは任意の他の調節配列を含むエクソンまたは非コード配列内にない。好ましい実施形態では、当該エンドヌクレアーゼの標的はイントロンにある。より好ましい実施形態では、標的は、スプライス部位以外のイントロン配列にある。例えば、切断のための標的は、特にゲノム増幅をもたらす再編成の場合、遺伝子間配列であり得る。
【0055】
第1の態様の方法の好ましい実施形態において、少なくとも2つのガイドRNAが、ゲノムの切断を標的とするために使用される。
【0056】
本発明の第2の態様は、キットオブパーツであって、好ましくはジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)および転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)から選択される少なくとも2つのエンドヌクレアーゼを備え、当該エンドヌクレアーゼが少なくとも2つの部位(核エンドヌクレアーゼは1つの特異的部位で切断する)で当該ゲノムを特異的に切断し、当該切断が、欠失、フレームシフトおよび/またはゲノムへの挿入、好ましくは欠失および/またはフレームシフトのいずれかをもたらすキットオブパーツに関するものである。
【0057】
好ましい実施形態では、キットオブパーツは、好ましくはジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)および転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)から選択されるエンドヌクレアーゼを備え、当該エンドヌクレアーゼがゲノム増幅のイントロン領域でゲノムを特異的に切断し、好ましくは切断がスプライス部位以外のイントロン領域にある。
【0058】
好ましい実施形態では、キットオブパーツは、少なくとも2つのZFNまたは少なくとも2つのZFNをコードする核酸を含む。別の好ましい実施形態では、キットオブパーツは、少なくとも2つのTALENまたは少なくとも2つのTALENをコードする核酸を含む。別の好ましい実施形態では、キットオブパーツは、少なくとも1つのZFNおよび少なくとも1つのTALEN、または少なくとも1つのZFNおよび少なくとも1つのTALENをコードする核酸を含む。
【0059】
好ましい実施形態において、キットオブパーツは、(a)CRISPR関連エンドヌクレアーゼ、好ましくはCasタンパク質、より好ましくはCas9またはCas13、さらにより好ましくはCas9またはその機能的等価物と、(b)ゲノムの切断を標的化するために使用される少なくとも1つのgRNA、好ましくはゲノムの切断を標的化するために使用される少なくとも2つのgRNAと、を備える。好ましい実施形態では、キットオブパーツは、(a)CRISPR関連エンドヌクレアーゼ、好ましくはCasタンパク質、より好ましくはCas9もしくはCas13またはその機能的等価物、さらにより好ましくはCas9と、(b)非癌細胞に存在しない融合遺伝子の発現、または癌誘導遺伝子の発現もしくは過剰発現をもたらすゲノム増幅もしくは再編成のいずれかをもたらす、癌細胞に存在するゲノム再編成における標的化ドメインを有する少なくとも一対のgRNAと、を備える。好ましい実施形態では、キットオブパーツは、CRISPR関連エンドヌクレアーゼ、好ましくはCasタンパク質、より好ましくはCas9もしくはCas13またはその機能的等価物、さらにより好ましくはCas9と、非癌細胞に存在しない融合遺伝子の発現、または癌誘導遺伝子の発現もしくは過剰発現をもたらすゲノム増幅もしくは再編成のいずれかをもたらす、癌細胞に存在するゲノム再編成における標的化ドメインを有する少なくとも1つのgRNA、好ましくは一対のgRNAと、を備える。本明細書で使用される場合、「ガイドRNA」および「単一ガイドRNA」という用語は同じ意味で使用され、「gRNA」および「sgRNA」と略される。
【0060】
本発明のキットオブパーツの好ましい実施形態は、(a)配列番号1のアミノ酸配列を有するヌクレアーゼと、(b)配列番号2および配列番号3のヌクレオチド配列を有するgRNAの対;または配列番号4および配列番号5のヌクレオチド配列を有するgRNAの対;または配列番号128もしくは配列番号129および配列番号130もしくは配列番号131のヌクレオチド配列を有するgRNAの対;または配列番号132もしくは配列番号133および配列番号134もしくは配列番号135のヌクレオチド配列を有するgRNAの対;または配列番号136もしくは配列番号137および配列番号138もしくは配列番号139のヌクレオチド配列を有するgRNAの対;または配列番号140もしくは配列番号141および配列番号142もしくは配列番号143のヌクレオチド配列を有するgRNAの対と、を備える。
【0061】
本発明のキットオブパーツの好ましい実施形態は、(a)配列番号1のアミノ酸配列を有するヌクレアーゼと、(b)配列番号148もしくは配列番号149、またはそれらの両方のヌクレオチド配列を有する少なくとも1つのgRNAと、を備える。本発明のキットオブパーツの別の好ましい実施形態は、(a)配列番号1のアミノ酸配列を有するヌクレアーゼと、(b)配列番号148もしくは配列番号149、または配列番号152もしくは配列番号153、またはそれらの組み合わせのヌクレオチド配列を有する少なくとも1つのgRNAと、を備える。
【0062】
本発明の別の態様は、(a)CRISPR関連エンドヌクレアーゼ、好ましくはCasタンパク質、より好ましくはCas9もしくはCas13またはそれらの機能的等価物、さらにより好ましくはCas9;および(b)融合遺伝子の発現産物中に標的化ドメインを有する少なくとも1つのgRNA、または非癌細胞に存在しない融合遺伝子の発現、または癌誘導遺伝子の発現もしくは過剰発現の誘導をもたらすゲノム増幅もしくは再編成のいずれかをもたらす、癌細胞に存在するゲノム再編成における標的化ドメインを有する少なくとも一対のgRNA、に対するコード化配列を含む核酸に関する。
【0063】
この態様の一実施形態では、少なくとも1つのgRNAは、癌細胞に存在し、非癌細胞には存在しないゲノム増幅、好ましくはコード領域または調節領域以外のゲノム領域、より好ましくは当該ゲノム増幅のイントロン領域、より好ましくはスプライス部位以外の癌遺伝子のイントロン領域に標的化ドメインを有する。
【0064】
本発明の別の態様は、(a)CRISPR関連エンドヌクレアーゼ、好ましくはCasタンパク質、より好ましくはCas9もしくはCas13またはそれらの機能的等価物、さらにより好ましくはCas9;および(b)融合遺伝子の発現産物中に標的化ドメインを有する少なくとも1つのgRNA、あるいは非癌細胞に存在しない融合遺伝子の発現、または癌誘導遺伝子の発現もしくは過剰発現の誘導をもたらすゲノム増幅もしくは再編成のいずれかをもたらす、癌細胞に存在するゲノム再編成における標的化ドメインを有する少なくとも一対のgRNA、に対するコード化配列を本質的に含む核酸に関する。当該核酸は、当業者によく知られており、標的癌細胞におけるエンドヌクレアーゼおよびgRNAの発現を可能にするプロモーター、エンハンサーなどの他のエレメントを含み得る。
【0065】
本発明の特に好ましい実施形態は、(a)配列番号1のアミノ酸配列、好ましくは配列番号32のコード化配列を有するヌクレアーゼ、ならびに(b)配列番号2および配列番号3のヌクレオチド配列を有するgRNAの対;または配列番号4および配列番号5のヌクレオチド配列を有するgRNAの対;または配列番号128もしくは配列番号129および配列番号130もしくは配列番号131のヌクレオチド配列を有するgRNAの対;または配列番号132もしくは配列番号133および配列番号134もしくは配列番号135のヌクレオチド配列を有するgRNAの対;または配列番号136もしくは配列番号137および配列番号138もしくは配列番号139のヌクレオチド配列を有するgRNAの対;または配列番号140もしくは配列番号141および配列番号142もしくは配列番号143のヌクレオチド配列を有するgRNAの対、に対するコード化配列を含む核酸に関する。
【0066】
4つの好ましい癌について、好ましいgRNA対を以下に列挙する(各疾患に対し各切断部位について2つのgRNAを提供する):
線維層肝細胞癌。
【0067】
融合遺伝子DNAJB1-PRKACA
>DNAJB1
配列番号128:
位置11252;鎖:1;配列:GATGTCGCGTGTCGCTGAAA;PAM:GGG;特異性スコア:98.2633296;効率スコア:46.297448948149196
配列番号129:
位置12068;鎖:1;配列:CAGGAGCCGACCCCGTTCGT;PAM:GGG;特異性スコア:95.6957217;効率スコア:54.78256070394193
>PRKACA
配列番号130:
位置:1935;鎖:1;配列:GTCGGAACTATTGGTCGAAA;PAM:AGG;特異性スコア:94.8121995;効率スコア:49.440679428197285
配列番号131:
位置:846;鎖:1;配列:CATGGCACGTATGACCGCTG;PAM:GGG;特異性スコア:91.353957;効率スコア:69.65437430185875
非小細胞肺癌。融合遺伝子EML4-ALK
>EML4
配列番号132:
位置:42262641;鎖:1;配列:ACTTATAAGTATAGGGAATC;PAM:AGG;特異性スコア:73.9472732;効率スコア:41.01080196055957
配列番号133:
位置:42263040;鎖:-1;配列GGATTAGTTGAAAGACTGCC:;PAM:TGG;特異性スコア:71.6133454;効率スコア:42.03495303486019
>ALK
配列番号134:
位置:698882;鎖:1;配列:GTCCACTAAATGTGACGCCC;PAM:AGG;特異性スコア:92.5531067;効率スコア:54.886608266105895
配列番号135:
位置:698375;鎖:1;配列:GAGGACAAGCCTTGACATTC;PAM:AGG;特異性スコア:73.6854929;効率スコア:31.53386778402246
肺胞横紋筋肉腫。融合遺伝子PAX3-FOXO1
>PAX3
配列番号136:
位置:96631;鎖:1;配列:TGCAGTCAGATGTTATCGTC;PAM:GGG;特異性スコア:92.4221555;効率スコア:51.18110845580498
配列番号137:
位置:95396;鎖:1;配列:TACTGGAACTCCTAGATCCG;PAM:AGG;特異性スコア:87.0387327;効率スコア:65.91762085633988
>FOXO1
配列番号138:
位置:108815;鎖:1;配列:CAATGGTCCTTTGTCAAACG;PAM:AGG;特異性スコア:83.6621655;効率スコア:62.541738049196596
配列番号139:
位置:108095;鎖:-1;配列:TGGCAACGTGAACAGGTCCA;PAM:AGG;特異性スコア:76.5677517;効率スコア:64.81592708499454
神経膠芽腫。融合遺伝子TPM3-NTRK1
>TPM3
配列番号140:
位置:23359;鎖:-1;配列:AACCTGAATACATGGTAAGG;PAM:AGG;特異性スコア:71.2689516;効率スコア:62.792710664503396
配列番号141:
位置:23653;鎖:1;配列:TACTCTTGCTCATCAAGCAG;PAM:GGG;特異性スコア:69.2115539;効率スコア:60.98480800289473
>NTRK1
配列番号142:
位置:156877732;鎖:1;配列:CTGGATGAGCAAGCGCTGTA;PAM:TGG;特異性スコア:90.0534004;効率スコア:47.93006273145852
配列番号143:
位置:156877536;鎖:-1;配列:TCAGAGAAGGACTAGACCGA;PAM:GGG;特異性スコア:86.3585081;効率スコア:68.2983905554927
好ましいgRNAを、少なくとも癌遺伝子を含むゲノム増幅に関連するいくつかの好ましい癌について以下に列挙する。
神経芽腫:
遺伝子MYCN:gRNA:CTGTCGTAGACAGCTTGTAC(配列番号148)
遺伝子MYCN:gRNA:CGGTCGCAATCTGGGTCACG(配列番号149)
髄芽腫:
遺伝子MYCN:gRNA:CTGTCGTAGACAGCTTGTAC(配列番号148)
遺伝子MYCN:gRNA:CGGTCGCAATCTGGGTCACG(配列番号149)
遺伝子MYC:gRNA:CATCTCCGTATTGAGTGCGA(配列番号152)
遺伝子MYC:gRNA:CCCGTTAACATTTTAATTGC(配列番号153)
横紋筋肉腫:
遺伝子FOXO1:gRNA:ACTGTATAGCTGTACTCGGG(配列番号154)
結腸癌:
遺伝子MYC:gRNA:CATCTCCGTATTGAGTGCGA(配列番号152)
乳癌:
遺伝子ERBB2(Her2):gRNA:GTGGAATGCAGGTGTCATAC(配列番号155)
神経膠芽腫:
遺伝子EGFR:gRNA:CATGTTGGTACATCCATCCG(配列番号156)
肺癌:
遺伝子MET:gRNA:GTTGCCGGTATAAGAGACAG(配列番号157)
胃癌:
遺伝子FGFR2:gRNA:GACGCAAGCATTAAACCGGG(配列番号158)
口腔扁平上皮癌:
遺伝子CCND1:gRNA:CTGGGTAAAGGGTCGCCCGA(配列番号159)
骨肉腫:
遺伝子MDM2:gRNA:CGGACCGATCACCTGAGATG(配列番号160)
卵巣癌:
遺伝子RAB25:gRNA:GCCCTAGCGTCATACCACAA(配列番号161)
網膜芽細胞腫:
遺伝子MDM4:gRNA:GCACTTACTCAACGGTCTCG(配列番号162)
精巣生殖細胞腫瘍:
遺伝子KRAS:gRNA:TACTAGCCTAGGAAATACTG(配列番号163)
膀胱癌:
遺伝子AURKA:gRNA:CGTACGGAGAACTTGCAGCT(配列番号164)
副腎皮質癌:
遺伝子TERT:gRNA:GACGCTTATCTGACTCGGCG(配列番号165)
【0068】
本発明の別の態様は、
a.配列番号1のアミノ酸配列を有するヌクレアーゼ、および
b.配列番号148もしくは配列番号149、またはその両方のヌクレオチド配列を有する少なくとも1つのgRNA、に対するコード化配列を含む核酸である。
【0069】
本発明の別の態様は、
a.配列番号1のアミノ酸配列を有するヌクレアーゼ、および
b.配列番号148もしくは配列番号149、または配列番号152もしくは配列番号153、またはそれらの両方のヌクレオチド配列を有する少なくとも1つのgRNA、に対するコード化配列を含む核酸である。
【0070】
本発明の別の態様は、
a.配列番号1のアミノ酸配列を有するヌクレアーゼ、および
b.配列番号152、または配列番号154、または配列番号155、または配列番号156、または配列番号157、または配列番号158、または配列番号159、または配列番号160、または配列番号161、または配列番号162、または配列番号163、または配列番号164、または配列番号165を有する少なくとも1つのgRNA、に対するコード化配列を含む核酸である。
【0071】
本発明の別の態様は、癌の処置のための、好ましくは線維層板型肝細胞癌、非小細胞肺癌、肺胞横紋筋肉腫、神経膠芽腫、結腸直腸癌、急性リンパ性白血病、ユーイング肉腫、膀胱癌、神経芽腫、髄芽腫、乳癌、胃癌、口腔扁平上皮癌、骨肉腫、卵巣癌、網膜芽細胞腫、精巣胚細胞腫瘍または副腎皮質癌の処置のための、本発明の方法のいずれか1つ、または本発明のキットオブパーツもしくは本発明の核酸のいずれか1つの使用に関する。好ましくは、非癌細胞に存在しない融合遺伝子の発現、または癌誘導遺伝子の発現もしくは過剰発現の誘導をもたらすゲノム増幅もしくは再編成のいずれかをもたらす、癌細胞に存在するゲノム再編成がある癌の処置のためのものである。より好ましくは、非癌細胞には存在しないが、癌細胞に特異的に融合遺伝子および融合タンパク質が存在する癌の処置のためのものである。さらにより好ましくは、表1に列挙される癌の処置のためのものである。好ましくは、本発明のキットオブパーツは、各特定の癌タイプにおいて有用であることが知られている特定の送達システムによって、処置を必要とする患者に送達される。送達系、例えばウイルスベクター、アデノウイルスベクター、レンチウイルスベクター、AAVおよび他の送達系、例えばナノ粒子およびマクロ複合体を使用することができる。本発明のキットオブパーツの投与は、患者の標的組織または癌細胞に応じて、異なる方法で行うことができる。したがって、投与は、患者の必要性に応じて、経口または非経口、皮下、筋肉内または静脈内、ならびに髄腔内、頭蓋内などであり得る。
【実施例】
【0072】
CRISPR-Cas9による融合遺伝子の正確な欠失。
【0073】
融合遺伝子欠失(または再編成)戦略が癌を処置するための良好な遺伝子治療アプローチであるかどうかを解明するために、本発明者らは、臨床的に関連する転写融合の2つの主要なクラスを代表する2つのよく特徴付けられた融合遺伝子である、EWSR1-FLI1ユーイング肉腫(ES)転写因子およびBCR-ABL慢性骨髄性白血病(CML)チロシンキナーゼ融合遺伝子を試験モデルとして選択した。
【0074】
小児の骨に関与する2番目に一般的な癌であるユーイング肉腫(ES)は、RNA結合タンパク質EWSR1の強力なトランス活性化ドメインをETSタンパク質のDNA結合ドメイン、最も一般的にはFLI1と融合する染色体転座を特徴とする。EWSR1-FLI1は転写因子として作用し、多くの研究がES細胞のEWSR1-FLI1発現に対する厳密な依存性を実証している。EWSR1エクソン7をFLI1エクソン6(いわゆる1型)またはFLI1エクソン5(いわゆる2型)に融合する2つの主要なEWSR1-FLI1サブタイプが記載されている(
図1a)。EWSR1-FLI1融合遺伝子の2つの異なるアイソフォームである1型および2型を有する2つのES細胞株(A673およびRD-ES)をモデル系として選択した。
【0075】
ESおよびCMLが試験モデルとして選択されているが、全体的なアプローチは、融合遺伝子の発現またはゲノム編集による除去または改変が腫瘍細胞の死を引き起こし得る染色体再編成によって生じる癌遺伝子の強制発現に依存するすべての新生物に潜在的に適用可能であることに留意することが重要である。
EWSR1-FLI1融合遺伝子を標的とするsgRNAの選択
【0076】
同じCRISPRツールを用いてEWSR1-FLI1の両方のアイソフォームを選択的に標的化するために、EWSR1のイントロン3およびFLI1のイントロン8を標的化するsgRNA対を設計した(
図1aおよび表2)。標的イントロンは、第1に、融合遺伝子の重要な機能ドメインを含む大きな欠失を生成するために、第2にFLI1遺伝子の残りの3’領域のフレームシフトを誘導するために、第3にヒト患者においてブレークポイントを有する全てのホットスポットイントロンを含むように選択された。イントロン領域におけるsgRNAの設計は、野生型(WT)遺伝子におけるオンターゲットイントロンのNHEJ修復によって生成されたインデルがmRNAにおいて除去されるので、非腫瘍細胞における野生型EWSR1およびFLI1タンパク質の改変を保証しなかった。これは、スプライシング機構が、Cas9ヌクレアーゼによって生成された二本鎖ブレーク(DSB)の非相同末端結合(NHEJ)修復後に野生型遺伝子のイントロンの両方のsgRNAのオンターゲット部位に生成された任意のインデルを除去するからである(
図1c)。その結果、欠失は、同じ染色体中の両方のオンターゲットイントロン領域との融合遺伝子を有する細胞でのみ起こる(
図1a)。
【0077】
表2.CRISPRに基づく遺伝子編集に使用したsgRNA配列。PCR、RT-PCRおよびNGS分析に使用したオリゴヌクレオチド配列。
【0078】
【0079】
標準的なsgRNA設計原理に従うcrispr.mit.edu/およびbenchling.com/crisprウェブツールを使用して、各イントロン領域に対して2つのsgRNAを設計し、ゲノムの残りの部分と比較して標的に固有のPAM配列の上流にある標的化配列を確実に選択し、予測されるオフターゲット事象が可能な限り少ないものを選択した。sgRNA、sgEWSR13.2(以下、sgE3.2(配列番号2))およびsgFLI18.2(sgF8.2(配列番号3))を、2つの異なるRNAポリメラーゼIIIプロモーター(U6およびH1)から類似のsgRNA発現レベルを駆動し、2A自己切断ペプチドによるCas9およびGFPタンパク質の同時調節発現を駆動するpLVX-U6E3.2-H1F8.2-Cas9-2A-eGFP(以下、pLV-U6EH1F-C9G)にクローニングした(
図1d)。それぞれEWSR1およびFLI1のイントロン3および8の切断は、27.67kbの欠失をもたらし、EWSR1トランス活性化ドメインの重要な部分の除去を、FLI1 DNA結合ドメイン全体のフレームシフト変化と共にもたらすはずである(
図1bおよび2)。配列番号6は、EWSR1-FLI1キメラタンパク質のアミノ酸配列であり、配列番号7は、編集されたEWSR1-FLI1切断型タンパク質のアミノ酸配列であり、両方とも
図2に表されている。A673細胞にpLV-U6EH1F-C9Gベクターを形質導入し、その後の分析のために形質導入の2日後、4日後および6日後(pt)に全ゲノムDNAを単離した。2日間のpt DNAディープシークエンシング分析は、EWSR1では61.8のインデル頻度を示し、FLI1オンターゲット部位では66.2%のインデル頻度を示した(表3)。
【0080】
表3オンターゲットEWSR1およびFLI1部位のNGS分析。a,c.EWSR1およびFLI1遺伝子座分析の概要(sgRNA配列、染色体位置、全リードおよび効率)。b,d.誘導されたA673編集細胞におけるEWSR1およびFLI1遺伝子座のインデル。野生型(WT)配列を各図の上部に列挙する。sgRNA配列には下線が引かれており、同定された変異は太字フォントで示されている。-、欠失。
【0081】
インビトロでのEWSR1-FLI1融合遺伝子の標的化
【0082】
それぞれ1型または2型のEWSR1-FLI1アイソフォームを有する2つのES細胞株、A673およびRD-ESをモデル系として選択した。本発明者らは、最初に、pLV-U6EH1F-C9GがA673にEWSR1-FLI1融合遺伝子欠失を生成する能力を調べた。融合遺伝子を含まない骨肉腫U2OS細胞株およびsgRNA配列を含まない空のpLV-U6#H1#-C9Gベクターをそれぞれ細胞株およびベクター対照として使用した。ptの2日目、4日目および6日目に抽出されたイントロン標的部位にまたがるゲノムDNA領域のPCR分析により、特有のΔ27.67kb欠失産物が明らかになり、その配列をサンガー配列決定によって確認した(
図3)。同様に、sgE3.2およびsgF8.2の同時発現は、qRT-PCRおよびウエスタンブロット分析によって示されるように、EWSR1-FLI1 mRNAおよびタンパク質の確実な減少をもたらした(
図4および
図5)。
KO欠失CRISPRベースのアプローチでEWSR1-FLI1融合遺伝子を標的化すると、インビトロで癌細胞の生存、増殖および腫瘍形成能が阻害される
【0083】
EWSR1-FLI1の標的化された欠失が癌細胞の死を誘導し得るかどうかを調べるために、インビトロで腫瘍形成能のアッセイを行った。pLV-U6EH1F-C9Gおよび対照プラスミドを形質導入したA673、RD-ESおよびU2OSを、軟寒天アッセイで増殖速度およびコロニー形成に供した。増殖速度アッセイは、A673およびRD-ESの両方におけるEWSR1-FLI1欠失が、それらの対応する対照細胞と比較して細胞増殖を有意に抑制し、U2OS細胞に影響を及ぼさないことを実証した(
図6a)。さらに、A673細胞およびRD-ES細胞におけるCas9およびsgRNAの同時発現は、コロニー形成アッセイおよび軟寒天アッセイにおいてそれぞれコロニー数の61.5%および73.3%の有意な減少をもたらし、CRISPRを使用したEWSR1-FLI1の欠失がES癌細胞の生存および腫瘍形成能を阻害することを示唆した。U2OS細胞におけるCas9およびsgRNAの発現は、コロニー数を有意に変化させなかった(
図6b)。まとめると、本発明者らのデータは、EWSR1-FLI1欠失が腫瘍抑制活性に不十分であり、細胞増殖を阻害することを示す。特に、本発明者らは、ptの3日目、6日目および8日目のEWSR1-FLI1欠失の後に有意な細胞死の増加が続き、A673-pLV-U6#H1#-C9G対照細胞と比較して、断片化されたDNAを提示する細胞の数によって測定された6日目の細胞死増加の20%のピーク(subG1ピーク)が観察された(
図7a)。Casp3活性化分析により、これらの結果が確認された(
図7b)。したがって、融合遺伝子欠失は、ES癌細胞におけるアポトーシス死をもたらす。
EWSR1-FLI1融合遺伝子ターゲッティングは非常に特異的である
【0084】
pLV-U6EH1F-C9Gを形質導入されたヒト間葉系幹細胞(hMSC)において、EWSR1およびFLI1野生型遺伝子の切断がWT細胞におけるゲノム変化を誘導し得るかどうかを評価するために、核型分析およびFISH分析を行った。Gバンド化中期(methaphases)は、正常な核型を示し(
図8a)、EWSR1ブレークアパートプローブを用いたFISH分析は、変化したFISHシグナルを示さなかった(
図8b)。同様に、全ゲノムを網羅する高密度アレイ比較ゲノムハイブリダイゼーション(aCGH)分析は、コピー数多型(CNV)を示さなかった(
図8c)。これらのデータは、癌EWSR1-FLI1融合遺伝子の治療標的化が非常に特異的であり、WT細胞を妨害しないことを示唆する。一方、オフターゲット部位で誘導された変異を同定できるかもしれないため、本発明者らは、A673、RD-ESおよびhMSC細胞の形質導入後7日目に、標的部位(それぞれEWSR1およびFLI1のオフターゲット部位1~9/10)に対して最も高い相同性を有する19のゲノム領域のアンプリコンの次世代シーケンシング(NGS)を行った。全てのリードのいずれも、予測されたオフターゲット部位に突然変異を有しない(表4)。
標的化EWSR1-FLI1融合遺伝子欠失は、異種移植腫瘍の部分寛解を誘導する
【0085】
インビボでEWSR1-FLI1欠失の効果を決定するために、ヌードマウスの脇腹に、対照pLV-U6#H1#-C9GおよびpLV-U6EH1F-C9G形質導入A673細胞を皮下移植した(
図9a)。対照細胞を注入したマウスは、28日間の分析中に腫瘍の指数関数的増殖を示した。対照的に、pLV-U6EH1F-C9G細胞を注射したマウスは、A673対照細胞によって産生されたものよりも劇的に小さい皮下腫瘍を生じた(
図9bおよびc)。さらに、エクスビボCRISPR編集細胞は、H&E(ヘマトキシリンおよびエオシン)染色によって示されるように、対照よりもCRISPR編集細胞において著しく減少した生存腫瘍細胞数およびより広範な壊死領域を示し、対照腫瘍と比較して、KI67増殖マーカーの有意な65%の減少およびカスパーゼ-3タンパク質発現の有意な25%の増加レベルを明らかにした(
図9d)。重要なことに、pLV-U6EH1F-C9G細胞を異種移植したマウスは、試験の35日間で関連する死亡率を示さなかったが、全ての対照は2週間の細胞注入後に屠殺する必要があった(
図9e)。これらの結果により、EWSR1-FLI1エクスビボ融合遺伝子編集の治療有効性が確認された。
【0086】
表4.hMSC、A673およびRDES細胞のpt7日目のアンプリコンベースの次世代シーケンシング(NGS)分析による、オンターゲット部位との相同性が最も高い、最も可能性の高いオフターゲット部位のインデル分析。オンターゲット配列を各パネルの上部に列挙する。オンターゲット配列とのヌクレオチドの違いを太字フォントで示す。全てのリードのいずれも、予測されたオフターゲット部位に突然変異を有しない。
【0087】
CRISPR-Cas9によるEWSR1-FLI1融合遺伝子の標的化はインビボで腫瘍成長を遮断する
【0088】
CRISPR融合遺伝子欠失がインビボで無胸腺マウスにおけるヒト癌成長を制御できるかどうかを評価するため、本発明者らはアデノウイルス送達アプローチを使用した。野生型A673細胞を無胸腺マウスの脇腹に皮下注射した(0日目)。異種移植された腫瘍を、約150mm
3のサイズに達するまで2週間(10日目)成長させた。次いで、これらの腫瘍に、2.5×10
9プラーク形成単位(pfu)のAd/sgE3.2sgF8.2Cas9、Ad/Cas9またはPBSを10、13、16および19日目に4回注射した(
図10a)。sgRNAおよびCas9ヌクレアーゼのアデノウイルス送達は、有意な腫瘍成長阻害をもたらし、298.66(
+92.77)mm
3の平均腫瘍サイズをもたらした(P<0.05)。PBSまたはAd/Cas9のいずれかで処置した対照群の腫瘍体積は経時的に増加し、処置終了時にそれぞれ1143.98(
+337.59)mm
3または1345.25(
+685.16)mm
3の平均サイズに達した(
図10b)。そのため、EWSR1-FLI1編集実験細胞は、対照と比較して腫瘍サイズをそれぞれ83.5%減少させた。Cas9抗体を使用する免疫組織化学染色により、Ad/sgEWSR1-sgFLI1-Cas9を注射した腫瘍におけるCas9タンパク質の発現が確認された(
図10c)。融合遺伝子欠失アプローチの抗腫瘍有効性を、組織学的および免疫組織化学的分析によってさらに調査した。H&E染色は、対照よりもCRISPR編集細胞において生存腫瘍細胞の数が著しく減少し、より広範囲の壊死領域を明らかにした。さらに、CRISPR編集細胞は、対照腫瘍と比較して80%低いレベルのKI67増殖マーカーを示した(
図10d)。融合遺伝子欠失腫瘍は、対照腫瘍と比較してカスパーゼ-3タンパク質発現の約30%の増加を示した(
図11d)。重要なことに、Ad/sgE3.2sgF8.2Cas9で処置したマウスは、試験の80日間で関連する死亡率を示さなかったが、対照はすべて、2週間の細胞注射後に屠殺する必要があった(
図10e)。これらの結果は、EWSR1-FLI1融合遺伝子によって駆動されるインビボ腫瘍を処置するための融合遺伝子編集アプローチの治療有効性を確認した。
K562細胞における慢性骨髄性白血病チロシンキナーゼBCR-ABL融合遺伝子の標的化のための戦略
【0089】
そのような遺伝子編集アプローチが融合遺伝子駆動体癌処置のための普遍的なアプローチとして使用され得るかどうかを評価するため、本発明者らは古典的なチロシンキナーゼ融合遺伝子を欠失させるための同様の戦略を再現した。本発明者らは、CMLの遺伝的異常の特徴であるt(9;22)(q34;q11)転座によって作製されたBCR-ABL1を選択する。BCR-ABL1は構成的に活性なチロシンキナーゼを作り出し、制御されない増殖をもたらす。本発明者らは、上記と同じ方法論的アプローチに従った。簡潔には、BCRイントロン8およびABLイントロン1領域を標的とする4対のsgRNAを設計した(
図11aおよび表2)。NHEJに続いて、これらはゲノムBCR-ABL1 DNAの133.9kbの欠失をもたらすであろう。欠失が成功すると、ABL1 DNA結合ドメイン全体のフレームシフト変化と共に、BCR Dbl相同性(DH)ドメインの大部分が除去されるであろう。4つのsgRNAの組み合わせをクローニングして、pLV-U6BH1A-C9G(BA1、BA2、BA3およびBA4)ベクターを作製した。次いで、本発明者らは、BCR-ABL1融合遺伝子のp210アイソフォームを有するCML患者由来のK562細胞においてBCR-ABL1標的化欠失を生成する効率を調べた。RT-PCRおよびサンガーシーケンシングによって、ヌクレオフェクションの24時間後にBCR-ABL mRNAの効率的な減少が確認された(
図11b)。メチルセルロース寒天上でのコロニー形成アッセイにより、BCR-ABL1の標的化欠失がK562細胞の増殖および死の劇的な減少を誘導することが確認された。定量的データ解析は、BCR-ABL1欠失がコロニー形成を約85%まで有意に抑制したことを示した(
図11c)。培養72時間後のK562実験細胞および対照細胞におけるsgRNAの4つの組み合わせを用いたSubG1分析の定量的データ解析は、対照細胞と比較して、BCR-ABL1欠失細胞におけるアポトーシスの有意な増加を示した(P<0.05)。(
図11d)。
【0090】
インビボでのBCR-ABL1欠失効果を評価するために、上記と同じ戦略的アプローチに従って、無胸腺マウスの脇腹にK562細胞を皮下注射した。3週間の成長後、腫瘍に2.5×10
9プラーク形成単位(pfu)のAd/sgBA1-Cas9またはPBSを16、19、22および24日目に4回注射した。標的化sgRNAおよびCas9ヌクレアーゼの両方のアデノウイルス送達は、有意な腫瘍成長阻害をもたらし、128.77(±63.53)mm
3の平均腫瘍サイズをもたらした(P<0.05)。PBSで処置した対照群の腫瘍体積は経時的に増加し、処理の6日後に平均サイズ1853.91mm
3に達した(
図12aおよびb)。重要なことに、Ad/sgBA1Cas9で処置したマウスは、試験の60日間で関連する死亡率を示さなかったが、全ての対照は2週間の細胞注射後に屠殺する必要があった。
ESおよびCML癌細胞株におけるEWSR1-FLI1およびBCR-ABL1のmRNA発現の確実なCRISPR-CAS13媒介性ノックダウン
【0091】
CRISPR-Cas13システムを使用してEWSR1-FLI1およびBCR-ABL1 mRNAの可能な限り高いサイレンシングを達成するために、Cas13タンパク質およびcrRNAをレンチウイルスベクターLV-Cas13-crRNAから発現させる。一連のcrRNAを試験して、最も効率的なものを選択する(代表例を表5に示す)。一連のcrRNA中のガイドフラグメントは、EWSR1-FLI1およびBCR-ABL1ブレークポイントを含むすべての位置をカバーする。Cas13-crRNAレンチウイルス形質導入されたESまたはCML癌細胞のEWSR1-FLI1またはBCR-ABL1 mRNA発現レベルの分析は、形質導入後に減少を示す。最も高いEWSR1-FLI1またはBCR-ABL1 mRNAノックダウンを産生するcrRNAを、その後の実験のために選択する。
【0092】
表5.crRNA
>crRNA DNAJB1-PRKACA
配列番号144 GCTACGGGGAGGAAGTGAAAGAATTCTTAG
>crRNA EML4-ALK
配列番号145 GGAAAGGACCTAAAGTGTACCGCCGGAAGC
>crRNA PAX3-FOXO1
配列番号146 GGCAGTATGGACAAAAATTCAATTCGTCAT
>crRNA TPM3-NTRK1
配列番号147 GATAAACTCAAGGAGACACTAACAGCACAT
CRISPR-Cas13によるEWSR1-FLI1およびBCR-ABL1ノックダウンは非常に特異的であり、ESおよびCML癌細胞の増殖を阻止する
CRISPR-Cas13媒介性のEWSR1-FLI1およびBCR-ABL mRNAノックダウンの抗腫瘍効果をESおよびCML癌細胞において評価する。最初に、本発明者らは、Cas13およびcrRNAのLV形質導入が時間依存的にEWSR1-FLI1およびBCR-ABL mRNA発現レベルを有意に低下させることを確認する。長期および軟寒天細胞培養をsubG1アッセイと共に使用して、CRISPRCas13系で処理した細胞における細胞増殖速度およびアポトーシスレベルを測定する。LV-Cas13-crRNAベクターによる形質導入は、ESおよびCML癌細胞の増殖を有意に抑制し、アポトーシス細胞率を増加させる。CRISPR-Cas13システムで処置した後、対照細胞の増殖またはアポトーシス速度に明らかな変化はない。
【0093】
CRISPR-Cas13によるKRAS-g12dノックダウンは、インビボで腫瘍成長を阻害する。
【0094】
インビボでのCRISPR-Cas13系の抗腫瘍効力を調べるため、皮下ESまたはCML異種移植片を有するマウスを、アデノウイルスベクターによって送達される最適化されたCRISPR-Cas13系の反復腫瘍内注射で処置する。対照群と比較して、Cas13-crRNA処置腫瘍群は有意な体積減少を示す。EWSR1-FLI1またはBCR-ABL1ノックダウンアプローチの抗腫瘍有効性を、組織学的および免疫組織化学的分析によってさらに調査する。H&E染色は、対照よりも処置細胞において生存腫瘍細胞の数が著しく減少し、より広範な壊死領域を明らかにする。さらに、CRISPR編集細胞は、対照腫瘍と比較してより低いレベルのKI67増殖マーカーを示す。融合mRNAノックダウン腫瘍は、対照腫瘍と比較してカスパーゼ-3タンパク質発現の増加を示す。重要なことに、Ad/Cas13-crRNAで処置したマウスは、試験中の死亡率が低い。
ゲノム増幅を含む癌細胞の排除
【0095】
増幅を標的化するための効率的なNHEJ CRISPR媒介性ゲノム編集戦略が達成された。このアプローチは、増幅された遺伝子のイントロン配列を標的化して、遺伝子のコピーが増幅された領域に存在する限り、複数のDNA切断を誘導することに基づいていた。遺伝子編集に基づくアプローチは、生殖系列非増幅細胞のエクソン配列またはタンパク質発現に影響を及ぼすことなく、遺伝子増幅を有する細胞における欠失および損傷のみを誘導した(
図13)。神経芽細胞腫
【0096】
MYCNが症例の25%で増幅されていることが見出され、高リスク疾患および予後不良と相関する、小児の最も一般的な頭蓋外固形腫瘍である神経芽腫の細胞モデルを使用した。MYCN遺伝子の第1イントロンを標的とした。
【0097】
MYCNプローブを用いたFISH分析を使用して増幅のタイプを決定してMYCN増幅を検出するため、神経芽腫細胞株SKNAS、IMR32およびLAN5を特性評価した。FISH分析は、IMR32細胞株における相同染色領域(HSR)MYCN増幅およびLAN5における二重微小ベースの増幅の存在を示したが、SKNASはMYCN増幅を全く保有せず、陰性対照として使用した(
図14)。
【0098】
インビトロアッセイを実施して、MYCNのイントロン領域を標的とすることの機能的結果を調べた。非標的化ガイド(sgNT)ではなく、MYCNを標的とするガイド(sgMYCN)での形質導入は、コロニーアッセイではIMR32およびLAN5成長(
図15)ならびにクローン形成能(
図16)の確実な減少をもたらしたが、これらのパラメータは対照SKNAS細胞では変化しなかった(非MYCN増幅)(
図15および
図16)。これらの観察結果と一致して、増殖表現型は、sgMYCNで処置した場合、増幅細胞株の死滅(
図15)およびMYCN RNAレベルの低下(
図15)を伴っていた。
【0099】
これらの観察結果とも一致して、sgMYCN IMR32およびLAN5で処置した場合、ヨウ化プロピジウム染色で測定して、細胞がG2細胞周期期で停止したのに対して、SKNASでは正常な細胞周期進行が観察されたことが観察された(
図17)。
【0100】
免疫蛍光抗H2AXは、sgMYCNで処置した後、MYCN増幅細胞株においてDNA修復フォーカスの増加を示した(
図18)。
髄芽腫
【0101】
別のモデル、すなわち、MYC増幅癌遺伝子が高リスク神経芽細胞腫の約50%に存在し、高リスク疾患および予後不良と相関する、小児における最も一般的な癌性脳腫瘍である髄芽腫の細胞モデルを使用した。MYC遺伝子のイントロン1つを、MYCが増幅された髄芽腫細胞株において欠失および損傷を生じさせ、増幅を伴わずに細胞の生殖系列を保証するために標的化した。髄芽腫細胞株MDB-HTB-185を使用した。インビトロアッセイを実施して、MYCのこのイントロン領域を標的とすることの機能的結果を調べた。
【0102】
2つの配列、すなわちsgMYC-1(配列番号152)およびsgMYC-2(配列番号153)を設計した。sgRNAをLentiCRIPSRv2プラスミドにクローニングした。LVCas9_NTではなく、LVCas9_MYC-1およびLVCas9_MYC-2による形質導入は、確実なMDB-HTB-185細胞死をもたらした(
図19)。
【0103】
癌の他の例は、当該癌において説明されるアンプリコン中に存在する癌遺伝子の非コードおよび非調節ゲノム領域に向けられたgRNAを使用してアッセイされる。sgRNAをLentiCRIPSRv2プラスミドにクローニングし、これを対応する癌の細胞株に形質導入する。それらは以下の通りである。
sgRNAの設計およびレンチウイルスコンストラクトの作製
【0104】
sgRNAを、オンラインBenchling CRISPR gRNA Designツール(http://www.benchling.com)を用いて設計した。選択されたsgRNAは、高い特異性ランクおよび低い潜在的オフターゲット効果37に基づいていた。sgRNAをLentiCRIPSRv2プラスミドにクローニングした。使用したsgRNAの配列は、sgMYCN:CGGTCGCAATCTGGGTCACG(配列番号148)およびsgNT:CCGCGCCGTTAGGGAACGAG(配列番号149);sgMYC-1:CATCTCCGTATTGAGTGCGA(配列番号152)、sgMYC-2:CCCGTTAACATTTTAATTGC、およびsgNT:CCGCGCCGTTAGGGAACGAG(配列番号153)に対するものである。
qRT-PCR分析
【0105】
RT-PCR増幅を、Q5 Taq DNAポリメラーゼ(NEB)を使用して行った。ABI-Prism7900HT検出システム(ThermoFisher Sci)を使用して、2×SYBR Green Master Mix(ThermoFisher Sci)を含む96ウェルプレートでqRT-PCRを行った。発現レベルをハウスキーピング遺伝子GAPDHに対して正規化した。使用したプライマーは、RT-MYCN-fw:GAGACACCCGCGCAGAATC(配列番号150)およびRT-MYCN-RV:CGTTCTCAAGCAGCATCTCC(配列番号151)であった。
細胞培養
【0106】
IMR32、LAN5およびSKNASは、Dra Africa Gonzalez Murillo(マドリッドのニノ・ヘスス病院)から寄贈された。IMR32およびLAN5細胞をRoswell Park Memorial Institute培地(Gibco)中で維持し、SKNASを、両方とも1% Glutamax(Life Technologies)、10mg/ml抗生物質(ペニシリンおよびストレプトマイシン)(Gibco)および10%ウシ胎児血清(FBS)(Life Technologies)を添加したダルベッコ改変イーグル培地(Lonza)中で維持した。全ての細胞を、加湿インキュベータ中、5%CO2、5%O2雰囲気で37℃で培養した。この研究で使用した全ての細胞株は、マイコプラズマ汚染について陰性であった。
【0107】
MDB-HTB-185細胞株を、1%Glutamax(Life Technologies)、10mg/ml抗生物質(ペニシリンおよびストレプトマイシン)(Gibco)および10%ウシ胎児血清(FBS)(Life Technologies)を補充したAlpha MEM培地(Gibco)中で維持した。細胞を、加湿インキュベータ中、5%CO2、5%O2雰囲気で37℃で培養した。この研究で使用した全ての細胞株は、マイコプラズマ汚染について陰性であった。
イムノアッセイ
【0108】
DNA修復フォーカスを検出するために、形質導入細胞を、ポリ-L-リジン(Cultek)でコーティングしたカバーガラス上に播種した。72時間後、細胞をd-PBS(Sigma)で2回洗浄し、4%パラホルムアルデヒド(PFA;Electron Microscope Sci)中、室温(RT)で12分間固定し、PBS中0.3%Triton X-100(Sigma)で透過処理し、PBS中3%正常ヤギ血清(NGS;シグマ)で室温で1時間ブロックした。その後、サンプルを、1%NGSを補充したPBSで希釈した抗H2AX抗体(1/500;SIGMA)と4℃で一晩インキュベートし、次いで、Alexa Fluor-594コンジュゲート化二次抗体(1/500;ThermoFisher Sci)とRTで1時間インキュベートした。最後に、サンプルをDAPI(Vecotor Labs)で対比染色し、風乾し、Vectashield封入剤(Vector Labs)に封入した。594nm(赤チャネル、H2AX検出)および405nm(青色チャネル、核DAPI染色)で励起した2つのレーザーを備えたLeica DM5500B顕微鏡で画像を取得した。データを、1024×1024ピクセルの解像度で連続的に収集し、Cytovision v7.4ソフトウェア(Leica Biosystem)を使用して行われたすべての実験を表す。
蛍光インサイチュハイブリダイゼーション(FISH)
【0109】
MYCN増幅FISHプローブ(Vysis)を使用して、MYCN染色体増幅を検出した。5mmの組織切片をキシレン中で脱パラフィンし、エタノール中で再水和した。組織切片を2-[N-モルホリノ]エタンスルホン酸(MES、DAKO)で前処理し、続いてペプシン消化(DAKO)した。脱水後、試料をEWSR1/FLI1プローブの存在下、66℃で10分間変性させ、ハイブリダイザー機(DAKO)中、37℃で一晩放置してハイブリダイゼーションさせた。次いで、スライドを63℃で20×SSC-Tween20緩衝液で洗浄し、蛍光封入剤(DAPI)に封入した。FISHシグナルは、組織全体にわたって二重融合シグナルを有する核の数を数えることによって手動でスコア化した。FISH画像を、Zytovision画像解析システム(Applied Imaging Ltd.、英国)を実行するPCに接続されたCCDカメラ(Photometrics SenSysカメラ)を使用してキャプチャした。
【0110】
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