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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-07
(54)【発明の名称】造血幹細胞の拡大
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20220131BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20220131BHJP
   A61K 35/28 20150101ALI20220131BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20220131BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220131BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220131BHJP
   A61K 38/36 20060101ALI20220131BHJP
   A61K 38/22 20060101ALI20220131BHJP
   A61K 38/19 20060101ALI20220131BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220131BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20220131BHJP
   C12N 5/0789 20100101ALN20220131BHJP
   C12N 5/0775 20100101ALN20220131BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20220131BHJP
   C12N 15/861 20060101ALN20220131BHJP
   C12N 15/864 20060101ALN20220131BHJP
   C12N 15/867 20060101ALN20220131BHJP
   C12N 15/866 20060101ALN20220131BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20220131BHJP
   C07K 14/52 20060101ALN20220131BHJP
   C07K 14/475 20060101ALN20220131BHJP
【FI】
C12N5/10
A61P7/00
A61K35/28
A61K35/76
A61P43/00 105
A61K48/00
A61K38/36
A61K38/22
A61K38/19
A61K45/00
A61K31/7088
C12N5/0789
C12N5/0775
C12N15/12
C12N15/861
C12N15/864 100
C12N15/867
C12N15/866
C12N15/09 110
C07K14/52
C07K14/475
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021547946
(86)(22)【出願日】2019-10-31
(85)【翻訳文提出日】2021-05-18
(86)【国際出願番号】 EP2019079865
(87)【国際公開番号】W WO2020089411
(87)【国際公開日】2020-05-07
(31)【優先権主張番号】2018904125
(32)【優先日】2018-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516300656
【氏名又は名称】メゾブラスト・インターナショナル・エスアーエールエル
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】シルヴィウ・イテスク
(72)【発明者】
【氏名】ポール・シモンズ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C086
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BC11
4B065BC13
4B065CA44
4C084AA02
4C084AA13
4C084BA44
4C084DA01
4C084DB01
4C084DC10
4C084MA02
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA511
4C084ZA512
4C084ZB211
4C084ZB212
4C084ZC202
4C084ZC412
4C086AA01
4C086EA16
4C086MA03
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA51
4C086ZB21
4C086ZC75
4C087AA01
4C087AA03
4C087BB44
4C087BB64
4C087BC83
4C087MA02
4C087NA14
4C087ZA51
4C087ZB21
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA09
4H045DA05
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本開示は、ヒト造血幹細胞を拡大するための方法及び組成物に関する。本開示はまた、拡大されたHSCの使用を伴う治療方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
造血幹細胞を拡大する方法であって、
表現型CD34+を有する造血幹細胞が拡大するように、間葉系前駆細胞又は幹細胞(MLPSC)及び少なくとも1つのヒストンデアセチラーゼ阻害剤(HDACi)の存在下で造血細胞集団を培養する工程
を含む前記方法。
【請求項2】
表現型(i)CD34+、CD90+、又は(ii)CD34+、CD45RA-、CD90+、CD49f+を有する造血幹細胞が、少なくとも5倍、又は少なくとも10倍、又は少なくとも20倍、又は少なくとも40倍拡大される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
HDACiが、バルプロ酸(VPA)、トリコスタチン(TSA)、DLS3、MS275、SAHA、及びHDAC6阻害剤l61からなる群から選択される、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
HDACiがVPA又はTSAである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
造血細胞がまた、幹細胞因子(SCF)、flt3リガンド(FL)、TPO、IL3及びIL6からなる群から選択される1つ以上の増殖因子の存在下で培養される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
造血細胞が、SR1及びUM171からなる群から選択される1つ以上の幹細胞再生剤の存在下で培養される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
MLPSCが免疫選択によって単離され、培養拡大される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
MLPSCが、培養拡大された間葉系幹細胞である、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
造血細胞集団が、骨髄、臍帯、末梢血、肝臓、胸腺、リンパ又は脾臓に由来する、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
表現型(i)CD34+、CD90+、又は(ii)CD34+、CD45RA-、CD90+、CD49f+を有する細胞を培養拡大後に単離して、表現型(i)CD34+、CD90+、又は(ii)CD34+、CD45RA-、CD90+、CD49f+を有する細胞の富化した集団を提供する工程を更に含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
表現型CD34+、CD45RA-、CD90+、CD49f+を有する細胞を培養拡大後に除去して、表現型CD34+、CD49f-を有する細胞の富化した集団を提供する工程を更に含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
表現型(i)CD34+、CD90+、又は(ii)CD34+、CD45RA-、CD90+、CD49f+を有する富化細胞に異種核酸を導入する工程を更に含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
表現型CD34+、CD49f-を有する富化細胞に異種核酸を導入する工程を更に含む、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
MLPSCが、培養拡大中に表現型CD34+、CD45RA-、CD90+、CD49f+を有する造血幹細胞に移動される異種核酸分子を含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
異種核酸が発現ベクターの形態で存在する、請求項12から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
発現ベクターが、レンチウイルス、バキュロウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス(AdV)、アデノ随伴ウイルス(AAV)及びそれらの組換え型からなる群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
異種核酸が、凝固因子、ホルモン又はサイトカインからなる群から選択されるタンパク質をコードする、請求項12から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
異種核酸がCRISPRシステムである、請求項12から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
CRISPRシステムが、Cas発現ベクター、及び造血幹細胞中の内因性遺伝子に特異的なガイド核酸配列を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
CRISPRシステムが、HSC中の内因性遺伝子に特異的なガイド核酸配列と複合体化されたCas9タンパク質を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
発現ベクター又はCRISPRシステムが誘導性プロモーターを含む、請求項15から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
造血幹細胞を、誘導性プロモーターを活性化する薬剤に曝露する工程を更に含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
請求項1から12又は14から22のいずれか一項に記載の方法によって得られる表現型(i)CD34+、CD90+、又は(ii)CD34+、CD45RA-、CD90+、CD49f+を有する造血幹細胞を含む組成物。
【請求項24】
表現型(i)CD34+、CD90+、又は(ii)CD34+、CD90+、CD45RA-、CD49f+、及びMLPSCを、それぞれ少なくとも1:20、又は少なくとも1:10、又は少なくとも1:5、又は少なくとも1:4.5、又は少なくとも1:4の比で有する造血幹細胞を含む組成物。
【請求項25】
HDACiを更に含む、請求項23又は請求項24に記載の組成物。
【請求項26】
表現型(i)CD34+、CD90+、又は(ii)CD34+、CD45RA-、CD90+、CD49f+、MLPSC及びHDACI阻害剤を有する造血幹細胞を含む組成物。
【請求項27】
(i)CD34+、CD90+、又は(ii)CD34+、CD90+、CD45RA-、CD49f+細胞が異種核酸分子を含む、請求項23から26のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項28】
異種核酸が、凝固因子、ホルモン又はサイトカインからなる群から選択されるタンパク質をコードする、請求項27に記載の組成物。
【請求項29】
異種核酸がCRISPRシステムを含む、請求項27に記載の組成物。
【請求項30】
表現型CD34+、CD90+、CD45RA-、CD49f+を有する造血幹細胞が、組成物中の全細胞の少なくとも2%を構成する、請求項23から29のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項31】
組成物が、少なくとも105細胞、107細胞、108細胞又は109細胞の全量の細胞を含む、請求項23から30のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項32】
それを必要とする対象における血液学的障害を治療する方法であって、対象に請求項23から31のいずれか一項に記載の組成物に投与する工程を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ヒト造血幹細胞(HSC)を拡大するための方法及び組成物に関する。本開示はまた、拡大されたHSCの使用を伴う治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
造血幹細胞(HSC)は、固有の自己再生能力を有し、血液及び免疫系内の全てのタイプの成熟細胞を生じさせる。これらの特徴は、HSC移植の広範な臨床的有用性を提供しているが、HSC(ヒト骨髄、動員末梢血、及び臍帯血)の主要源はドナー供給として依然として限られている。これらの問題は、レシピエントに良好に適合したドナーを探す必要性によって更に複雑になり、それによって、適切であり、信頼性のあるドナー材料の供給を確保する上で複雑性が高まっている。更に、遺伝子突然変異に起因する疾患を被っている患者は、遺伝子治療技術から非常に有益であり、自家材料は、エクスビボで操作され、修正された遺伝的欠陥の修正後に戻される。種々のタイプの移植カテゴリーにおいて、HSCのエクスビボ拡大及び遺伝子操作のための効果的な技術を開発することは、既存のドナーインフラストラクチャーの外に、容易で再生可能な資源を提供し、遺伝子突然変異により引き起こされる疾患の治療のための新しい遺伝子治療技術を確立することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2004/85630号
【特許文献2】米国特許第5486359号
【特許文献3】特許公開国際公開第2007/145227号
【特許文献4】米国特許第5,578,475号
【特許文献5】米国特許第6,020,202号
【特許文献6】米国特許第6,051,429号
【特許文献7】米国特許第6,723,561号
【特許文献8】米国特許第6,627,442号
【特許文献9】国際公開第2006/108229号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Kishimoto、Ann. review of 1 mm. 23:1 2005
【非特許文献2】Smith, M Aら、ACTA Haematologica、105、3:143、2001
【非特許文献3】Hannum C、Nature 368 (6472): 643~8
【非特許文献4】Kaushansky K (2006)、N. Engl. J. Med. 354 (19): 2034~45
【非特許文献5】Nottaら、(2011) Science 333: 218~221
【非特許文献6】Boitanoら、(2010) Science 329: 1345~1348
【非特許文献7】Faresら、(2014) Science 345: 1509~1512
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
胚性幹細胞(ESC)の場合とは異なり、培養におけるHSCの拡大は、一般的に、原始表現型又は「幹細胞性」の喪失を犠牲にする。「幹細胞性」を失うことなくHSC集団の拡大を増強するために外因性因子を適用することができるかどうかは不明である。したがって、再生可能な治療資源としての移植のための細胞の利用可能性を増加させるために、多数のヒトHSCを生成し、拡大する方法の必要性が依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本出願人は、成人、臍帯血、iPS細胞、胎児又は胚の供給源を含む任意の供給源に由来する造血細胞の開始集団からHSCを拡大する方法を開発した。一実施形態では、本方法は、造血細胞の開始集団内の原始HSCを優先的に拡大する。原始HSCは、表現型CD34+、CD45RA-、CD90+、CD49f+を有する。
【0007】
このようにしてHSCを拡大する能力は、移植、並びに血液学及び腫瘍学の疾患及び障害のための他の療法に有利である。本明細書における方法に記載されるように、HSC数は、エクスビボで有意に増加させることができる。幹細胞数を増加させる方法は、しばしば十分な幹細胞を欠く自己ドナー移植に有用である。幹細胞数を増加させる方法はまた、臍帯血を成人患者に有用とすることを可能にし、それによって同種移植の使用を拡大する。
【0008】
したがって、本開示は、造血幹細胞を拡大する方法であって、
表現型CD34+を有する造血幹細胞が拡大するように、間葉系前駆細胞又は幹細胞(MLPSC)及び少なくとも1つのヒストンデアセチラーゼ阻害剤(HDACi)の存在下で造血細胞の集団を培養する工程を含む方法を提供する。
【0009】
一例において、表現型CD34+、CD90+を有する造血幹細胞が拡大される。別の実施形態では、表現型CD34+、CD90+、CD45RA-を有する造血幹細胞が拡大される。別の実施形態では、表現型CD34+、CD45RA-、CD90+、CD49f+を有する造血幹細胞が拡大される。別の実施形態では、CD34+、CD45RA-、CD90+、CD49f+である造血幹細胞は、CD34+、CD49f-である造血幹細胞と比較して優先的に拡大される。
【0010】
一実施形態では、CD34+細胞数の少なくとも20倍、又は少なくとも30倍、又は少なくとも40倍、又は少なくとも5倍、又は少なくとも60倍、又は少なくとも70倍、又は少なくとも80倍、又は少なくとも90倍、又は少なくとも100倍の増加はHSC拡大を示す。
【0011】
一実施形態では、開始細胞集団は、少なくとも105、106、107、108又は109細胞のCD34+細胞の絶対数に達するのに十分な時間培養される。
【0012】
一実施形態では、CD34+、CD45RA-、CD90+、CD49f+造血幹細胞の総数は、造血細胞の開始集団と比較した場合、少なくとも2倍、又は少なくとも5倍、又は少なくとも10倍、又は少なくとも20倍、又は少なくとも30倍、又は少なくとも40倍、又は少なくとも44倍、又は少なくとも50倍増加される。
【0013】
別の実施形態では、培養後の全細胞集団におけるCD34+、CD45RA-、CD90+、CD49f+造血幹細胞のパーセンテージは、造血細胞の開始集団と比較した場合、少なくとも1%、若しくは少なくとも1.5%、若しくは少なくとも2%、若しくは少なくとも5%、又はそれ以上である。
【0014】
一実施形態では、開始共培養集団は、約3億個、若しくは約4億個、若しくは約5億個、又はそれ以上のMLPSCを含む。
【0015】
一実施形態では、開始共培養集団は、約3000万個、若しくは約4000万個、若しくは約5000万個、又はそれ以上のCD34+細胞を含む。
【0016】
一実施形態では、開始共培養集団は、約150万個、若しくは約200万個、若しくは約250万個、又はそれ以上のCD34+、CD45RA-、CD90+、CD49f+細胞を含む。
【0017】
一実施形態では、HDACiは、バルプロ酸(VPA)、トリコスタチン(TSA)、DLS3、MS275、SAHA、及びHDAC6阻害剤l61からなる群から選択される。
【0018】
一実施形態では、造血細胞はまた、s(SCF)、GM-SCF、M-CSF、G-CSF、MGDF、EPO、FLT3-リガンド、IL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-6、IL-7、IL-11、TNFα又はトロンボポエチンからなる群から選択される1つ以上の増殖因子の存在下で培養される。
【0019】
別の実施態様では、造血細胞はまた、1つ以上の幹細胞再生剤の存在下で培養される。幹細胞再生剤は、例えば、SR1又はUM171であり得る。
【0020】
別の実施形態では、MLPSCは、免疫選択によって単離される。例えば、MLPSCは、STRO-1+間葉前駆細胞であり得、又は培養拡大されたその子孫であり得る。別の実施形態では、間葉系前駆細胞若しくは幹細胞間葉系幹細胞、又は培養拡大されたその子孫。
【0021】
造血細胞の集団は、骨髄、臍帯又は臍帯血、末梢血、肝臓、胸腺、リンパ、脾臓又はiPS細胞を含む任意の供給源に由来し得ることが理解される。
【0022】
一実施形態では、造血細胞は、確立された接着性MLPSC細胞培養物に添加される。MLPSCは、コンフルエンスまで培養され、再移植され、再培養されて、フィーダー層を提供し、それに造血細胞が共培養のために添加される。
【0023】
細胞は、約2日間、若しくは3日間、若しくは4日間、若しくは5日間、若しくは6日間、若しくは7日間、若しくは8日間、若しくは9日間、若しくは10日間、若しくは12日間、若しくは15日間、若しくは20日間又はそれ以上の期間、共培養することができる。
【0024】
本明細書に記載される培養条件は、MLPSCからHSCへの、異種核酸又はCRISPRシステム等の遺伝的ペイロードの移動を容易にすることができるMLPSCとHSCの間の接触を可能にする。
【0025】
したがって、一実施形態では、MLPSCは、培養拡大中に表現型CD34+を有する造血幹細胞に移動される異種核酸分子を含む。一実施形態では、MLPSCは、培養拡大中に表現型CD34+、CD45RA-、CD90+、CD49f+を有する造血幹細胞に移動される異種核酸分子を含む。
【0026】
別の実施形態では、CD34+、CD45RA-、CD90+、CD49f+細胞は、培養拡大後の免疫選択によって単離され、CD34+、CD45RA-、CD90+、CD49f+細胞の豊化された集団を提供する。この細胞集団は、対象への投与後の長期の再生に有用であり得る。
【0027】
別の実施形態では、CD34+、CD45RA-、CD90+、CD49f+細胞は、培養拡大後の免疫選択によって除去され、CD34+、CD49f-細胞の富化された集団を提供する。この細胞集団は、対象への投与後の早期好中球/血小板回復に有用であり得る。
【0028】
一実施形態では、CD34+、CD45RA-、CD90+、CD49f+細胞の富化された集団は、例えば、異種核酸によるトランスフェクションによって、遺伝的操作に供される。
【0029】
一実施形態では、CD34+、CD49f-細胞の富化された集団は、例えば、異種核酸によるトランスフェクションによって、遺伝的操作に供される。
【0030】
異種核酸は、発現ベクターの形態で存在し得る。適切な発現ベクターとしては、限定されないが、プラスミド、ファージ、自律複製配列(ARS)、ウイルス、セントロメア、及び人工染色体構造が挙げられる。一例では、発現ベクターは、レンチウイルス、バキュロウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス(AdV)、アデノ随伴ウイルス(AAV)、及びその組換え型からなる群から選択されるウイルスベクターである。
【0031】
別の実施形態では、異種核酸は、凝固因子、ホルモン又はサイトカインからなる群から選択されるタンパク質をコードする。
【0032】
別の実施形態では、異種核酸は、CRISPRシステム又はその成分を含む。例えば、CRISPRシステムは、Cas発現ベクター、及びHSC中の内因性遺伝子に特異的なガイド核酸配列を含み得る。例えば、CRISPRシステムは、HSC中の内因性遺伝子に特異的なガイド核酸配列と複合体化されたCas9タンパク質を含み得る。
【0033】
別の実施形態では、発現ベクター又はCRISPRシステムは、誘導性プロモーターを含む。
【0034】
別の実施形態では、本方法は、誘導性プロモーターを活性化する薬剤にHSCを曝露することを含む。
【0035】
本開示はまた、本開示による方法によって得られたHSCを含む組成物を提供する。一実施形態では、本開示による方法によって得られる組成物は、表現型CD34+、CD45RA-、CD90+、CD49f+を有するHSCを含む。
【0036】
本開示はまた、表現型CD34+、CD45RA-、CD90+、CD49f+を有するHSC、及びMLPSCを少なくとも1:35、又は少なくとも1:30、又は少なくとも1:20、又は少なくとも1:10、又は少なくとも1:5、又は少なくとも1:4.5、又は少なくとも1:4のそれぞれの比で含む組成物を提供する。
【0037】
本開示はまた、表現型CD34+、CD45RA-、CD90+、CD49f+を有するHSC、及びMLPSCを含む組成物を提供し、表現型CD34+、CD45RA-、CD90+、CD49f+を有する細胞は、全細胞集団の少なくとも10%又は少なくとも20%を構成する。
【0038】
一実施形態では、組成物は、HDACiを更に含む。
【0039】
本開示はまた、表現型CD34+、CD45RA-、CD90+、CD49f+を有する造血幹細胞、MLPSC及びHDACI阻害剤を含む組成物を提供する。
【0040】
組成物の一実施形態では、HSCは、異種核酸分子を含む。
【0041】
別の実施形態では、異種核酸は、凝固因子、ホルモン又はサイトカインからなる群から選択されるタンパク質をコードする。
【0042】
別の実施形態では、異種核酸は、CRISPRシステム又はその成分を含む。例えば、CRISPRシステムは、Cas発現ベクター、及びHSC中の内因性遺伝子に特異的なガイド核酸配列を含み得る。例えば、CRISPRシステムは、HSC中の内因性遺伝子に特異的なガイド核酸配列と複合体化されたCas9タンパク質を含み得る。
【0043】
一実施形態では、表現型CD34+、CD45RA-、CD90+、CD49f+を有するHSCは、組成物中の総細胞数の少なくとも5%、又は少なくとも10%、又は少なくとも20%、又は少なくとも30%を構成する。
【0044】
別の実施形態では、組成物は、少なくとも105細胞、少なくとも106細胞、少なくとも107細胞、少なくとも108細胞又は少なくとも109細胞の全量の細胞を含む。
【0045】
本開示はまた、HSCをトランスフェクトする方法であって、
間葉系前駆細胞又は幹細胞(MLPSC)及び少なくとも1つのヒストンデアセチラーゼ阻害剤(HDACi)の存在下でHSC集団を培養すること
を含む方法が提供され、MLPSCは、少なくとも1つの異種核酸分子を含み、
培養条件は、MLPSCからHSCへの異種核酸分子の移動を可能にする。
【0046】
一実施形態では、HSCは、表現型CD34+を有する。別の実施形態では、HSCは、表現型CD34+、CD45RA-、CD90+、CD49f+を有する。
【0047】
異種核酸は、発現ベクターの形態で存在し得る。適切な発現ベクターとしては、限定されないが、プラスミド、ファージ、自律複製配列(ARS)、ウイルス、セントロメア、及び人工染色体構造が挙げられる。一例では、発現ベクターは、レンチウイルス、バキュロウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス(AdV)、アデノ随伴ウイルス(AAV)、及びその組換え型からなる群から選択されるウイルスベクターである。
【0048】
別の実施形態では、異種核酸は、凝固因子、ホルモン又はサイトカインからなる群から選択されるタンパク質をコードする。
【0049】
別の実施形態では、異種核酸は、CRISPRシステム又はその成分を含む。例えば、CRISPRシステムは、Cas発現ベクター、及びHSC中の内因性遺伝子に特異的なガイド核酸配列を含み得る。例えば、CRISPRシステムは、HSC中の内因性遺伝子に特異的なガイド核酸配列と複合体化されたCas9タンパク質を含み得る。
【0050】
別の実施形態では、発現ベクター又はCRISPRシステムは、誘導性プロモーターを含む。
【0051】
別の実施形態では、本方法は、誘導性プロモーターを活性化する薬剤にHSCを曝露することを含む。
【0052】
本開示はまた、上述の方法に従ってトランスフェクトされたHSCを含む組成物を提供する。
【0053】
本開示はまた、本開示の組成物を対象に投与することを含む、それを必要とする対象における血液学的障害を治療する方法を提供する。
【0054】
全体を通じて使用されるように、対象は、個体を意味する。したがって、対象は、例えば、ネコ及びイヌ等の飼育動物、家畜(例えば、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、及びヤギ)、実験動物(例えば、マウス、ウサギ、ラット、及びモルモット)、哺乳動物、非ヒト哺乳動物、霊長類、非ヒト霊長類、げっ歯類、鳥類、爬虫類、両生類、魚類、及び任意の他の動物を含む。対象は、場合により、霊長類又はヒトのような哺乳動物である。
【0055】
一実施形態では、対象はヒトである。ヒトは、成人又は小児患者であり得る。
【0056】
本開示の方法及び組成物は、一連の血液学的障害の治療に使用され得ることが理解される。
【0057】
例えば、本開示の方法及び組成物は、血小板の数及び/又は機能の障害、例えば血小板減少症、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、又はウイルス感染、薬物乱用若しくは悪性腫瘍に関連する障害の治療に用いることができる。
【0058】
別の例では、本開示の方法及び組成物は、貧血等の赤血球の数及び/又は機能の障害の治療に使用することができる。治療され得る貧血の例としては、再生不良性貧血、自己免疫性溶血性貧血、失血性貧血、クーリー貧血、ダイヤモンド-ブラックファン貧血、ファンコニ貧血、葉酸塩(葉酸)欠乏性貧血、溶血性貧血、鉄欠乏性貧血、悪性貧血、鎌状赤血球貧血、サラセミア又は真性赤血球増加症が挙げられる。
【0059】
一例では、本開示の方法及び組成物は、アルファ又はベータサラセミアの治療に使用される。
【0060】
別の例では、本開示の方法及び組成物は、リンパ球の数及び/又は機能の障害、例えばT細胞又はB細胞欠損によって引き起こされる障害の治療に使用することができる。リンパ球の数及び/又は機能の障害の例は、AIDS、白血病、リンパ腫、ホジキンリンパ腫、慢性感染症、例えば粟粒結核、ウイルス感染症、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、又は遺伝性疾患、例えば無ガンマグロブリン血症、ディジョージ異常、ウィスコット・アルドリッチ症候群、又は毛細血管拡張性運動失調である。
【0061】
別の例では、本開示の方法及び組成物は、放射線療法又は化学療法又は悪性置換の結果であり得る、多系列骨髄不全の障害の治療に使用することができる。例えば、この障害は、骨髄線維症、急性骨髄性白血病(AML)、骨髄異形成症候群(MDS)、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、色素性骨髄性白血病(CML)、慢性リンパ性白血病(CLL)、非ホジキンリンパ腫(NHL)、ホジキン病(HD)、多発性骨髄腫(MM)、又は骨に播種した二次性悪性腫瘍であり得る。
【0062】
別の例では、本開示の方法及び組成物は、先天性代謝異常の治療に使用される。例えば、先天性代謝異常は、ムコ多糖症、ゴーシェ病、異染性白質ジストロフィー及び副腎白質ジストロフィーからなる群から選択される。
【0063】
本発明は、広範囲の動物に適用可能である。例えば、対象は、ヒト、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、又はヒツジ等の哺乳動物であり得る。一実施形態では、対象はヒトである。
【0064】
別の実施形態では、本開示の方法は、免疫抑制剤を投与することを更に含む。免疫抑制剤は、移植された造血細胞が機能的であることを可能にするのに十分な時間投与され得る。免疫抑制剤は、限定されないが、以下:プレドニゾン、ブデソニド及びプレドニゾロン等のコルチコステロイド;シクロスポリン及びタクロリムス等のカルシニューリン阻害剤;シロリムス及びエベロリムス等のmTOR阻害剤;アザチオプリン、レフルノミド及びミコフェノール酸塩等のIMDH阻害剤;アバタセプト、アダリムマブ、エタネルセプト、インフリキシマブ又はリツキシマブ等の生物学的製剤等のうちの1つ以上から選択され得る。
【0065】
一例では、免疫抑制剤はシクロスポリンである。シクロスポリンは、5~40mg/kg体重の投薬量で投与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
図1】(i)HDACiなし、(ii)TSA又は(iii)VPAとともに、MPCの存在又は非存在下で5日間培養した後のウェルあたりのCD34+細胞の絶対数を示す図である。
図2】(i)HDACiなし、(ii)TSA又は(iii)VPAとともに、MPCの存在又は非存在下で5日間培養した後のウェルあたりのCD34+CD90+細胞のパーセンテージを示す図である。
図3】(i)HDACiなし、(ii)TSA又は(iii)VPAとともに、MPCの存在又は非存在下で5日間培養した後のウェルあたりのCD34+CD90+細胞の絶対数を示す図である。
図4】(i)HDACiなし、(ii)TSA又は(iii)VPAとともに、MPCの存在又は非存在下で5日間培養した後のウェルあたり原始HSC表現型(CD34+CD90CD49f+)を示す細胞の絶対数を示す図である。
図5】(i)HDACiなし、(ii)TSA又は(iii)VPAとともに、MPCの存在又は非存在下で10日間培養した後のウェルあたりのCD34+細胞のパーセンテージを示す図である。
図6】(i)HDACiなし、(ii)TSA又は(iii)VPAとともに、MPCの存在又は非存在下で10日間培養した後のウェルあたりのCD34+細胞の絶対数を示す図である。
図7】(i)HDACiなし、(ii)TSA又は(iii)VPAとともに、MPCの存在又は非存在下で10日間培養した後のウェルあたりのCD34+CD45RA-CD90+細胞のパーセンテージを示す図である。
図8】(i)HDACiなし、(ii)TSA又は(iii)VPAとともに、MPCの存在又は非存在下で10日間培養した後のウェルあたりのCD34+CD45RA-CD90+細胞の絶対数を示す図である。
図9】(i)HDACiなし、(ii)TSA又は(iii)VPAとともに、MPCの存在又は非存在下で10日間培養した後のウェルあたりの原始HSC表現型(CD34+CD90CD49f+)を示す細胞の絶対数を示す図である。
図10】(i)HDACiなし、(ii)TSA又は(iii)VPAとともに、MPCの存在又は非存在下で10日間培養した後のウェルあたり原始HSC表現型(CD34+CD90CD49f+)を示す細胞のフローサイトメトリー分析を示す図である。
図11】FACSによって単離されたCD34+CD38-CD45RA-CD90+CD49f+細胞は、MethoCult(商標)H4435富化(Stem cell Technologies社)中で培養され、培養14日目にコロニー形成効率について試験された。全体的なコロニー形成効率は0.42%であった。
【発明を実施するための形態】
【0067】
実施形態の説明
一般的な実装方法及び定義
本明細書全体で、特に断りがない限り、又は文脈上別段の定めがない限り、単一の工程、物質の組成物、工程群又は物質の組成物群への言及は、それらの工程の1つ及び複数(すなわち、1つ以上)、物質の組成物、工程群、又は物質の組成物群を包含するようになる。
【0068】
当業者は、本明細書に記載される開示は、具体的に記載されたもの以外の変形及び修飾に対して感受性であることを理解する。本開示は、全てのこのような変形及び修飾を含むことを理解されたい。本開示はまた、本明細書において言及又は指示される工程、特徴、組成物及び化合物の全て、個々に又は集合的に、及び前記工程又は特徴のいずれか及び全ての組合せ又は任意の2つ以上を含む。
【0069】
本開示は、例示の目的のみを意図した、本明細書に記載される特定の実施形態によって範囲が限定されるものではない。機能的に同等な生成物、組成物及び方法は、明らかに本開示の範囲内にある。
【0070】
本明細書に開示されるいずれもの例は、特に明記しない限り、他のいずれもの例に準用されるものと解釈されるものとする。
【0071】
別途明確に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、当業者により一般的に理解されるものと同じ意味を有するものと解釈されるものとする(例えば、細胞培養、分子遺伝学、幹細胞分化、免疫学、免疫組織化学、タンパク質化学、及び生化学)。
【0072】
特に断らない限り、本開示において利用される幹細胞、細胞培養、及び外科技術は、当業者に周知である標準的な手順である。このような技術は、Perbal、1984; Sambrook & Green、2012; Brown、1991; Glover & Hames、1995及び1996; Ausubel.、1987(現在までの全ての改訂を含む)、Harlow & Lane、1988;及びColiganら、1991(現在までの全ての改訂を含む)等の供給源における文献全体で記載及び説明される。
【0073】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数及び単数形の用語「1つ(a)」、「1つの(an)」、及び「その(the)」は、例えば場合により、その内容が明確に別段の指示をしない限り、複数の指示対象を含む。
【0074】
用語「対象」とは、本明細書で使用される場合、ヒト及び非ヒト動物を含む哺乳動物を指す。より具体的には、哺乳動物はヒトである。「対象」、「患者」又は「個人」等の用語は、文脈上、本開示において互換的に使用することができる用語である。特定の例では、対象は、成人又は子供(小児)対象であり得る。
【0075】
「有効量」とは、所望の治療的又は予防的結果を達成するために、必要な投薬量及び時間での少なくとも有効な量を指す。有効量は、1つ以上の投与において提供することができる。本開示のいくつかの例では、用語「有効量」は、先に記載されたような疾患又は状態の治療を実施するのに必要な量を指すために使用される。有効量は、治療される疾患又は状態に応じて、また、体重、年齢、人種的背景、性別、健康状態及び/又は身体的状態、並びに治療される哺乳動物に関連する他の要因に応じて変化し得る。典型的には、有効量は、開業医による日常的な試行及び実験によって決定することができる比較的広い範囲(例えば、「投薬量」の範囲)に入る。有効量は、治療期間にわたって、単回投薬又は反復投薬で1回若しくは数回投与することができる。
【0076】
本明細書で使用される場合、用語「治療」とは、臨床病理学の経過中に治療される個体又は細胞の自然経過を変化させるように設計された臨床的介入を指す。治療の望ましい効果には、疾患の進行速度を減少させること、疾患状態を改善又は緩和すること、及び寛解又は予後の改善が含まれる。例えば、疾患に関連する1つ以上の症状が軽減又は除去される場合、個体は「治療」が成功する。
【0077】
「造血幹細胞移植(HSCT)」は、例えば、骨髄又は末梢血に由来し得る多分化能造血幹細胞を含む移植片である。移植は、いくつかの非幹細胞、例えば、DC及び/又はリンパ球等のAPCを含み得る。
【0078】
用語「成人」とは、本明細書で使用される場合、18歳以上のヒト対象を意味する。
【0079】
用語「小児」とは、本明細書で使用される場合、出生から17歳までの年齢範囲のヒト対象を意味する。
【0080】
用語「移植片」とは、本明細書で使用される場合、骨髄、血液(例えば、全血又は末梢血単核細胞(PBMC))、血液産物、又は造血細胞が存在する固形臓器から選択される生物学的試料を指す。
【0081】
用語「同種」とは、本明細書で使用される場合、特に、個体の細胞の表面に発現される主要組織適合性複合体(MHC)及び副組織適合性剤に関して、個体の遺伝的特徴がレシピエントのものと異なる個体によって提供される移植片(例えば、造血細胞)を指す。
【0082】
用語「自己」とは、本明細書で使用される場合、対象自身の細胞を使用する移植片(例えば、骨髄又は末梢血中に存在する造血細胞)を指す。細胞は、通常、対象が治療(例えば、化学療法)を受ける前に採取され、保存され、次に、対象に再注入される。
【0083】
用語「及び/又は」、例えば「X及び/又はY」は、「X及びY」又は「X又はY」のいずれかを意味するものと理解されるものとし、両者の意味又はいずれかの意味に対する明示的な裏付けを提供するものと解釈されるものとする。
【0084】
本明細書で使用される場合、「約」という用語は、別段の記載がない限り、指定された値の+/-10%、より好ましくは+/-5%を指す。
【0085】
本明細書全体で、用語「含む(comprise)」、又は「含む(comprises)」若しくは「含んでいる(comprising)」等の変形は、記述された要素、整数若しくは工程、又は要素、整数若しくは工程のグループを包含することを意味するが、任意の他の要素、整数若しくは工程、又は要素、整数若しくは工程のグループを排除することは意味しないものと理解される。
【0086】
造血幹細胞
「造血幹細胞」(HSC)とは、本明細書で使用される場合、顆粒球(例えば、前骨髄球、好中球、好酸球、好塩基球)、赤血球(例えば、網状赤血球、赤血球)、血小板(例えば、巨核芽球、血小板産生巨核球、血小板)、及び単球(例えば、単球、マクロファージ)を含むより成熟した血液細胞に自己再生し、分化する能力を有する未成熟血液細胞を指す。
【0087】
このような細胞は、CD34+細胞を含み得るか又は含み得ないことは、当該技術分野において公知である。CD34+細胞は、CD34細胞表面マーカーを発現する未熟細胞である。CD34+細胞は、上記で定義される幹細胞特性を有する細胞の亜集団を含むと考えられる。HSCは、多能性幹細胞、多分化能幹細胞(例えば、リンパ球系幹細胞)、及び/又は特定の造血系統に関与した幹細胞を含むことが、当該技術分野において周知である。特定の造血系列に関与した幹細胞は、T細胞系列、B細胞系列、樹状細胞系列、ランゲルハンス細胞系列及び/又はリンパ組織特異的マクロファージ細胞系列であり得る。
【0088】
長期の再生及び生着が可能なヒトHSCは、表現型において「原始」と考えられ、CD34、CD49f、及びCD90を発現する。一実施形態では、原始細胞は、表現型CD34+、CD45RA-、CD90+、CD49f+を有する。一実施形態では、それらはまた、CD38及び任意の系統制限抗原の発現を欠いている。一実施形態では、原始HSCは、CD34+CD45RA-CD49f+CD90+CD38-Lin-細胞(LT-HSC)として定義される。
【0089】
間葉系前駆細胞又は幹細胞
本明細書で使用される場合、用語「間葉系前駆細胞又は幹細胞」とは、多能性を維持しながら自己再生する能力、及び間葉起源、例えば骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、間質細胞、線維芽細胞及び腱、又は非中胚葉起源、例えば肝細胞、神経細胞及び上皮細胞のいずれかの多数の細胞型に分化する能力を有する未分化多分化能細胞を指す。
【0090】
用語「間葉系前駆細胞又は幹細胞」は、親細胞とその未分化子孫の両方を含む。この用語はまた、間葉前駆細胞(MPC)、多分化能間質細胞、間葉系幹細胞、血管周囲間葉前駆細胞、及びそれらの未分化子孫を含む。
【0091】
間葉系前駆細胞又は幹細胞は、自家、同種、異種、同系(syngeneic)又は同系(isogeneic)であり得る。自己細胞は、それらが再移植される同じ個体から単離される。同種細胞は、同種のドナーから分離される。異種細胞は、別の種のドナーから単離される。同系(syngeneic)又は同系(isogeneic)の細胞は、双生児、クローン、又は高度に近交系の研究動物モデル等の遺伝的に同一の生物から単離される。
【0092】
間葉系前駆細胞又は幹細胞は、主として骨髄に存在するが、例えば、臍帯血及び臍帯、成体末梢血、脂肪組織、骨梁及び歯髄を含む多様な宿主組織に存在することも示されている。
【0093】
間葉系前駆細胞又は幹細胞は、宿主組織から単離され、免疫選択によって富化され得る。例えば、対象からの骨髄吸引物は、STRO-1又はTNAPに対する抗体を用いて更に処理されて、間葉系前駆細胞又は幹細胞の選択を可能にすることができる。一例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、Simmons & Torok-Storb、1991に記載されるSTRO-1抗体を用いることによって富化することができる。
【0094】
STRO-1+細胞は、骨髄、血液、歯髄細胞、脂肪組織、皮膚、脾臓、膵臓、脳、腎臓、肝臓、心臓、網膜、脳、毛包、腸、肺、リンパ節、胸腺、骨、靭帯、腱、骨格筋、真皮、及び骨膜に見出される細胞であり、中胚葉及び/又は内胚葉及び/又は外胚葉等の生殖系列に分化することができる。したがって、STRO-1+細胞は、限定されないが、脂肪、骨、軟骨、弾性、筋肉、及び線維性結合組織を含む、多数の細胞型に分化することができる。これらの細胞が侵入する特異的な系統-関与及び分化経路は、増殖因子、サイトカイン、及び/又は宿主組織によって確立された局所的微小環境条件等の機械的影響及び/又は内因性の生物活性因子からの種々の影響に依存する。
【0095】
用語「豊富化された」は、本明細書で使用される場合、細胞の未処理集団(例えば、それらの天然環境における細胞)と比較した場合に、1つの特定の細胞型の割合又は多数の特定の細胞型の割合が増加する細胞の集団を記載する。一例では、STRO-1+細胞について富化された集団は、少なくとも約0.1%又は0.5%又は1%又は2%又は5%又は10%又は15%又は20%又は25%又は30%又は50%又は75%のSTRO-1+細胞を含む。この点に関して、用語「STRO-1+細胞について富化された細胞の集団」は、用語「X%のSTRO-1+細胞を含む細胞の集団」を明示的に支持するために用いられ、X%は、本明細書に記載されるパーセンテージである。STRO-1+細胞は、一部の例では、クローン原性コロニー、例えば、CFU-F(線維芽細胞)又はそのサブセット(例えば、50%若しくは60%若しくは70%若しくは70%若しくは90%若しくは95%)を形成することができ、この活性を有することができる。
【0096】
一例では、細胞集団は、選択可能な形態でSTRO-1+細胞を含む細胞調製物から富化される。この点に関して、用語「選択可能な形態」は、細胞がSTRO-1+細胞の選択を可能にするマーカー(例えば、細胞表面マーカー)を発現することを意味すると理解される。マーカーはSTRO-1であり得るが、必ずしもそうである必要はない。例えば、本明細書に記載及び/又は例示されるように、STRO-2及び/又はSTRO-3(TNAP)及び/又はSTRO-4及び/又はVCAM-1及び/又はCD146及び/又は3G5を発現する細胞(例えば、MPC)はまた、STRO-1を発現する(及びSTRO-1brightであり得る)。したがって、細胞がSTRO-1+であるという表示は、細胞がSTRO-1発現によって選択されることを意味しない。一例では、細胞は、少なくともSTRO-3発現に基づいて選択され、例えば、それらはSTRO-3+(TNAP+)である。
【0097】
細胞又はその集団の選択への言及は、必ずしも特定の組織源からの選択を必要としない。本明細書に記載されるように、STRO-1+細胞は、多種多様な供給源から選択されるか又はそれから単離されるか又はそれから富化され得る。とは言え、一部の例では、これらの用語は、STRO-1+細胞、又は脈管形成された組織、又は周皮細胞(例えば、STRO-1+周皮細胞)を含む組織、又は本明細書に記載される組織を含む任意の1つ又はそれより多くの組織からの選択を支持する。
【0098】
一例では、本開示の間葉系前駆細胞又は幹細胞は、TNAP+、VCAM-1+、THY-1+、STRO-2+、STRO-4+(HSP-90β)、CD45+、CD146+、3G5+からなる群から個別に又は集合的に選択される1つ以上のマーカーを発現する。
【0099】
「個別に」とは、本開示が、記載されたマーカー又はマーカーのグループを別々に包含すること、及び、個々のマーカー又はマーカーのグループが本明細書に別々に列挙されない場合があるにもかかわらず、添付の特許請求の範囲が、このようなマーカー又はマーカーのグループを互いに別々に及び分割して定義することができることを意味する。
【0100】
「集合的に」とは、本開示が、記載されたマーカー若しくはマーカーのグループの任意の数又は組合せを包含すること、及び、このようなマーカー若しくはマーカーのグループの数又は組合せが本明細書に具体的に列挙されない場合があるにもかかわらず、添付の特許請求の範囲が、このようなコンビネーション又はサブコンビネーションを、マーカー又はマーカーのグループの任意の他のコンビネーションから別々に及び分離して定義することができることを意味する。
【0101】
所与のマーカーについて「陽性」であると称される細胞は、マーカーが細胞表面上に存在する程度に依存して、そのマーカーの低(lo又はdim又はdull)、中間(median)、又は高(bright、bri)レベルのいずれかを発現することができ、これらの用語は、細胞の選別プロセス又は細胞のフローサイトメトリー分析において使用される蛍光又は他のマーカーの強度に関する。低(lo又はdim又はdull)、中間(median)、又は高(bright、bri)の区別は、選別又は分析される特定の細胞集団上で使用されるマーカーとの関連で理解される。与えられたマーカーに対して「陰性」であると呼ばれる細胞は、必ずしもその細胞が完全に存在しないということではない。この用語は、マーカーがその細胞により比較的非常に低いレベルで発現され、検出可能に標識された場合に非常に低いシグナルを生成すること、又はバックグラウンドレベル、例えばアイソタイプ対照抗体を用いて検出されたレベルを超えて検出不可能であることを意味する。
【0102】
用語「bright」又はbriは、本明細書で使用される場合、検出可能に標識された場合に比較的高いシグナルを生成する細胞表面上のマーカーを指す。理論によって制限されることを望まないが、「bright」細胞は、試料中の他の細胞よりも多くの標的マーカータンパク質(例えば、STRO-1抗体によって認識される抗原)を発現することが提案される。例えば、STRO-1bri細胞は、蛍光活性化細胞選別(FACS)分析によって決定した場合、FITCをコンジュゲートさせたSTRO-1抗体で標識されると、非bright細胞(STRO-1lo/dim/dull/intermediate/median)よりも大きな蛍光シグナルを産生する。一例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、骨髄から単離され、STRO-1+細胞の選択によって富化される。この例では、「bright」細胞は、開始試料中に含まれる最も明るく標識された骨髄単核細胞の少なくとも約0.1%を構成する。他の例では、「bright」細胞は、開始試料中に含まれる最も明るく標識された骨髄単核細胞の少なくとも約0.1%、少なくとも約0.5%、少なくとも約1%、少なくとも約1.5%、又は少なくとも約2%を構成する。一例では、STRO-1bright細胞は、「バックグラウンド」、すなわち、STRO-1-である細胞と比較して、STRO-1表面発現の2logの大きさの高い発現を有する。対照的に、STRO-1lo/dim/dull及び/又はSTRO-1intermediate/median細胞は、2log未満の規模で、より高いSTRO-1表面発現の発現を示し、典型的には約1log又は「バックグラウンド」未満である。
【0103】
一例では、STRO-1+細胞はSTRO-1brightである。一例では、STRO-1bright細胞は、STRO-1lo/dim/dull又はSTRO-1intermediate/median細胞と比較して優先的に富化される。
【0104】
一例では、STRO-1bright細胞は、更に、TNAP+、VCAM-1+、THY-1+、STRO-2+、STRO-4+(HSP-90β)及び/又はCD146+のうちの1つ以上である。例えば、細胞は、1つ以上の前述のマーカーについて選択され、及び/又は1つ以上の前述のマーカーを発現するように示される。この点に関して、マーカーを発現することが示された細胞は、特異的に試験する必要はなく、むしろ以前に富化された又は単離された細胞を試験することができ、その後、また、同じマーカーを発現すると合理的に推定することができる。
【0105】
一例では、STRO-1bright細胞は、血管周囲マーカー3G5の存在によって特徴付けられる、国際公開第2004/85630号に定義される血管周囲間葉前駆細胞である。
【0106】
本明細書で使用される場合、用語「TNAP」は、組織非特異的アルカリホスファターゼの全てのアイソフォームを包含することが意図される。例えば、この用語は、肝臓アイソフォーム(LAP)、骨アイソフォーム(BAP)及び腎臓アイソフォーム(KAP)を包含する。一例では、TNAPはBAPである。一例では、TNAPとは、寄託受託番号PTA-7282に基づくブダペスト条約の規定に基づいて、2005年12月19日にATCCに寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生されたSTRO-3抗体に結合することができる分子を指す。
【0107】
更に、一例では、STRO-1+細胞は、クローン原性CFU-Fを生じさせることができる。
【0108】
一例では、STRO-1+細胞のかなりの割合が、少なくとも2つの異なる生殖系列に分化することができる。細胞が関与し得る系統の非限定的な例には、骨前駆細胞;胆管上皮細胞及び肝細胞に対して多分化能である肝細胞前駆体;オリゴデンドロサイト及び星状細胞に進行するグリア細胞前駆体を生成し得る神経制限細胞;ニューロンに進行するニューロン前駆体;心筋及び心筋細胞の前駆体、グルコース応答性インスリン分泌性膵ベータ細胞系が含まれる。他の系統には、限定されないが、象牙芽細胞、象牙質産生細胞及び軟骨細胞、並びに以下:網膜色素上皮細胞、線維芽細胞、ケラチノサイト等の皮膚細胞、樹状細胞、毛包細胞、腎管上皮細胞、平滑筋及び骨格筋細胞、精巣前駆細胞、血管内皮細胞、腱、靭帯、軟骨、脂肪細胞、線維芽細胞、骨髄間質、心筋、平滑筋、骨格筋、周皮細胞、血管、上皮、グリア、神経細胞、星状細胞及び希突起膠細胞の前駆細胞が含まれる。
【0109】
一例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は間葉系幹細胞(MSC)である。MSCは、均一組成物であり得るか又はMSCに富化された混合細胞集団であり得る。均一なMSC組成物は、接着した骨髄又は骨膜細胞を培養することによって得ることができ、MSCは、固有のモノクローナル抗体で同定される特異的な細胞表面マーカーによって同定され得る。プラスチック接着技術を用いてMSCに富化された細胞集団を得るための方法は、例えば、米国特許第5486359号に記載される。従来のプラスチック接着単離によって調製されたMSCは、CFU-Fの非特異的なプラスチック接着特性に依存している。MSCの代替供給源としては、限定されないが、血液、皮膚、臍帯血、筋肉、脂肪、骨、及び軟骨膜が挙げられる。
【0110】
間葉系前駆細胞又は幹細胞は、使用前に凍結保存することができる。
【0111】
間葉系前駆細胞又は幹細胞の凍結保存は、当該技術分野において公知である低速冷却方法又は「高速」凍結プロトコルを用いて行うことができる。好ましくは、凍結保存の方法は、非凍結細胞と比較して、凍結保存された細胞の類似の表現型、細胞表面マーカー及び増殖速度を維持する。
【0112】
凍結保存組成物は、凍結保存溶液を含み得る。凍結保存溶液のpHは、典型的には6.5~8、好ましくは7.4である。
【0113】
凍結保存溶液は、無菌の非発熱性等張液、例えば、PlasmaLyteA(商標)等を含み得る。100mLのPlasmaLyteA(商標)は、526mgの塩化ナトリウム、USP(NaCl);502mgのグルコン酸ナトリウム(C6H11NaO7)、368mgの酢酸ナトリウム三水和物、USP(C2H3NaO2・3H2O);37mgの塩化カリウム、USP(KCl);及び30mgの塩化マグネシウム、USP(MgCl2・6H2O)を含む。これは抗菌剤を含まない。pHを水酸化ナトリウムで調整する。pHは7.4(6.5~8.0)である。
【0114】
凍結保存溶液は、Profreeze(商標)を含み得る。凍結保存溶液は、追加的に又は代替的に培地を含み得る。
【0115】
凍結を容易にするために、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の凍結保護剤が、通常、凍結保存溶液に添加される。理想的には、凍結保護剤は細胞及び患者に対して非毒性であり、非抗原性であり、化学的に不活性であり、解凍後に高い生存率をもたらし、洗浄せずに移植を可能にすべきである。しかしながら、最も一般的に使用される凍結保護剤であるDMSOは、いくらかの細胞毒性を示す。ヒドロキシレチルデンプン(HES)は、凍結保存溶液の細胞毒性を低減するために、代用物として、又はDMSOと組み合わせて使用することができる。
【0116】
凍結保存溶液は、DMSO、ヒドロキシエチルデンプン、ヒト血清成分及び他のタンパク質バルキング剤のうちの1つ以上を含み得る。一例では、凍結保存溶液は、約5%ヒト血清アルブミン(HSA)及び約10%DMSOを含む。凍結保存溶液は、更に、1つ以上のメチルセルロース、ポリビニルピロリドン(PVP)及びトレハロースを含み得る。
【0117】
一実施形態では、細胞は、42.5%Profreeze(商標)/50%αMEM/7.5%DMSO中に懸濁され、制御された速度の冷凍庫に冷却される。
【0118】
本発明の好ましい実施形態では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、健康なボランティアの骨髄から富化された間葉系前駆細胞又は幹細胞に由来するマスター細胞バンクから得られる。このような供給源に由来する間葉系前駆細胞又は幹細胞の使用は、間葉系前駆細胞又は幹細胞ドナーとしての役割を果たすことができ、又は直ちに治療を必要とし、間葉系前駆細胞又は幹細胞を生成するのに要する時間中に、再発、疾患に関連した衰退若しくは死亡のリスクが高い、利用可能な適切な家族メンバーを有しない対象にとって特に有利である。
【0119】
単離又は濃縮された間葉系前駆細胞又は幹細胞は、培養により、エクスビボ又はインビトロで拡大することができる。当業者に理解されるように、単離又は富化された間葉系前駆細胞又は幹細胞は、凍結保存され、解凍され、次に、培養によりエクスビボ又はインビトロで更に拡大され得る。
【0120】
培養された間葉系前駆細胞又は幹細胞は、インビボでの細胞とは表現型的に異なる。例えば、一実施形態では、それらは、以下のマーカー、CD44、NG2、DC146及びCD140bのうちの1つ以上を発現する。
【0121】
培養された間葉系前駆細胞又は幹細胞は、インビボにおいて細胞と生物学的に異なり、インビボで大部分が非周期(休止)細胞と比較してより高い増殖速度を有する。
【0122】
一例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞について富化された細胞集団は、血清が補足された培養培地、例えば、10%ウシ胎児血清(FBS)及び2mMグルタミンが補足されたダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中で、約6000~7000個の生存細胞/cm2で播種され、一晩、37℃、20%O2で培養容器に接着させる。一実施形態では、細胞は、約6000、6100、6200、6300、6400、6500、6600、6700、6800、6810、6820、6830、6840、6850、6860、6870、6880、6890、6890、6900、6910、6920、6930、6940、6970、6980、6990、又は7000個の生存細胞/cm2、好ましくは約6850~6860個の生存細胞/cm2で播種される。次に、培養培地を置換し、T細胞との共培養及びT細胞により発現されるIL-2Rαの量を決定する前に、細胞を計68~72時間、37℃、5%O2で培養する。
【0123】
HSC培養条件
HSCは、HSCを含有するか若しくはHSCに発生する可能性を有する任意の細胞又は細胞集団から培養され得る。一実施形態では、細胞の開始集団は、少なくとも0.1%の造血幹細胞を含む。一実施形態では、HSCは初代細胞である。典型的には、初代細胞は組織から直接得られる。初代細胞を得る方法は、当該技術分野において周知である。
【0124】
造血細胞の開始集団は、例えば、対象の組織試料から又は培養物から採取することができる。採取とは、細胞の除去又は分離と定義される。これは、酵素的、非酵素的、遠心分離、電気的、若しくはサイズベースの方法等の多数の方法を使用して、又は好ましくは、培養培地(例えば、細胞がインキュベートされる培地)若しくは緩衝溶液を使用して細胞を洗浄することによって達成される。細胞は、場合により回収され、分離され、更に拡大される。
【0125】
造血幹細胞拡大のための開始細胞集団を培養する条件は、例えば、開始細胞集団、所望の最終細胞数、及びHSCの所望の最終割合に依存して変化する。
【0126】
細胞は、約2日間、若しくは3日間、若しくは4日間、若しくは5日間、若しくは6日間、若しくは7日間、若しくは8日間、若しくは9日間、若しくは10日間、若しくは12日間、若しくは15日間、若しくは20日間、又はそれ以上の期間、共培養することができる。例えば、細胞を少なくとも2週間、又は少なくとも4週間共培養することができる。
【0127】
一実施形態では、培養培地は無血清培地である。
【0128】
HSCの拡大は、上記されるサイトカイン及び増殖因子の混合物が補足された基礎培地中で行うことができる。基礎培地は、典型的には、アミノ酸、炭素源、ビタミン、血清タンパク質(例えば、アルブミン)、無機塩、二価陽イオン、緩衝液、及びHSCの拡大に使用するのに適した任意の他の要素を含む。HSCを拡大する方法に適したこのような基礎培地の例としては、限定されないが、StemSpan(登録商標)SFEM-血清不含拡大培地(StemCell Technologies社、Vancuver、Canada)、StemSpan(登録商標)H3000-合成培地(StemCell Technologies社、Vancuver、Canada)、CellGro(登録商標)SCGM(CellGenix社、Freiburg Germany)、StemPro(登録商標)-34 SFM(Invitrogen社)が挙げられる。
【0129】
培養培地は、サイトカイン等の1つ以上の追加因子の有効量を含み得る。適切な因子としては、インスリン様増殖因子(IGF)、IL-1、IL-3、IL-6、IL-11、G-CSF、GM-CSF、SCF、FLT3-L、トロンボポエチン(TPO)、エリスロポエチン、及びそれらの類似体が挙げられる。本明細書で使用される場合、「類似体」には、天然に存在する形態としての生物学的活性を有するサイトカイン及び増殖因子の任意の構造変異体を含み、これには、限定されないが、TPO受容体に対するアゴニスト抗体等の天然に存在する形態又はサイトカイン受容体アゴニスト(例えば、特許公開国際公開第2007/145227号等に詳述されるVB22B sc(Fv)2)と比較した場合に、生物学的活性が増強又は減少した変異体が含まれる。サイトカイン及び増殖因子の組合せは、HSC及び前駆細胞を拡大する一方で、最終分化細胞の産生を制限するように選択される。1つの具体的な実施形態では、1つ以上のサイトカイン及び増殖因子は、SCF、Flt3-L及びTPOからなる群から選択される。1つの具体的な実施形態では、少なくともTPOは、HSC拡大に適した条件下で、血清不含培地中で使用される。
【0130】
ヒトIL6又はインターロイキン-6は、B細胞刺激因子2としても公知であり、(Kishimoto、Ann. review of 1 mm. 23:1 2005)によって記載されており、市販されている。c-kitリガンド、肥満細胞増殖因子又はスチール因子としても公知であるヒトSCF又は幹細胞因子が記載されており(Smith, M Aら、ACTA Haematologica、105、3:143、2001)、市販されている。Flt3-L又はFLT-3リガンドは、FLとも呼ばれ、flt3-受容体に結合する因子である。これは(Hannum C、Nature 368 (6472): 643~8)に記載されており、市販されている。TPO又はトロンボポエチンは、巨核球増殖因子(MGDF)又はc-Mplリガンドとしても公知であり、(Kaushansky K (2006)、N. Engl. J. Med. 354 (19): 2034~45)に記載されており、市販されている。
【0131】
組成物及び投与
HSCを含む組成物は、薬学的に許容される担体中で調製され得る。用語「薬学的に許容される担体」とは、本明細書で使用される場合、間葉系前駆細胞又は幹細胞の貯蔵、投与を容易にし、及び/又は生物学的活性を維持する物質の組成物を指す。
【0132】
一例では、担体は、レシピエントにおいて顕著な局所的又は全身的な有害作用を生じさせない。薬学的に許容される担体は、固体であるか又は液体であり得る。薬学的に許容される担体の有用な例としては、限定されないが、間葉系前駆細胞又は幹細胞の生存率及び活性に影響を与えない希釈剤、溶媒、界面活性剤、賦形剤、懸濁剤、緩衝剤、滑沢剤、アジュバント、ビヒクル、乳化剤、吸収剤、分散媒、被覆剤、安定剤、保護コロイド、接着剤、増粘剤、チキソトロピック剤、浸透剤、封鎖剤、足場、等張性及び吸収遅延剤が挙げられる。適切な担体の選択は、当業者の技術の範囲内である。
【0133】
本開示の組成物は、簡便には単位投薬形態で提供することができ、当該技術分野において周知である任意の方法によって調製することができる。用語「投薬単位形態」とは、本明細書で使用される場合、治療される対象のための単一投薬量として適した物理的に離散した単位を指し;各単位は、薬学的担体と関連して所望の治療効果又は予防効果を生じるように計算された所定量の活性化合物を含む。間葉系前駆細胞又は幹細胞の用量は、治療されるべき対象の疾患状態、年齢、性別、及び体重等の因子に応じて変化し得る。
【0134】
例示的な用量は、少なくとも約1×106細胞を含む。例えば、用量は、約1.0×106~約1.1×1010個、例えば、約1.1×106~約1×109細胞、例えば、約1.2×106~約1×108細胞、例えば、約1.3×106~約1×107細胞、例えば、約1.4×106~約9×106細胞、例えば、約1.5×106~約8×106細胞、例えば、約1.6×106~約7×106細胞、例えば、約1.7×106~約6×106細胞、例えば、約1.8×106~約5×106細胞、例えば、約1.9×106~約4×106細胞、例えば、約2×106~約3×106細胞を含み得る。
【0135】
一実施形態では、用量は、約5×105~2×107細胞、例えば、約6×106細胞~約1.8×107細胞を含む。用量は、例えば、約6×106細胞又は約1.8×107細胞であり得る。
【0136】
HSCは、組成物の細胞集団の少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、又は少なくとも約95%を含む。
【0137】
本開示の組成物は、治療されるべき特定の疾患状態に適した経路によって投与することができる。例えば、本開示の組成物は、全身的に、すなわち、非経口的に、静脈内に、又は注射によって投与することができる。本開示の組成物は、特定の組織又は臓器を標的とすることができる。
【0138】
最適な治療反応を与えるために、投薬レジメンを調整することができる。例えば、単一のボーラスを投与することができ、複数の分割された用量を経時的に投与し得るか、又は治療状況の緊急性によって示されるように用量を比例的に減量又は増量し得る。投与を容易にし、投薬量を均一にするために、非経口組成物を投薬単位形態に処方することが有利であり得る。
【0139】
一部の実施形態では、細胞組成物による治療の開始前に患者を免疫抑制することは必要ではなく又は望ましくないことがある。これは、全身的又は局所的な免疫抑制剤の使用を通じて達成することができるか、又はカプセル化デバイスの細胞を送達させることによって達成することができる。細胞は、細胞に必要とされる栄養及び酸素、並びに細胞が免疫液性因子及び細胞に対してまだ不透過性である治療因子を透過させることができるカプセル内にカプセル封入され得る。好ましくは、カプセル化剤は、低アレルギー性であり、標的組織内に容易に及び安定に位置し、移植された構造に更なる保護を提供する。移植された細胞に対する免疫応答を低減又は除去するためのこれらの手段及び他の手段は、当該技術分野において公知である。別法として、細胞は、それらの免疫原性を低減させるために遺伝子組換えされ得る。
【0140】
HSCは、他の有益な薬物又は生物学的分子(増殖因子、栄養因子)とともに投与され得ることが理解される。他の薬剤とともに投与される場合、それらは、一緒に、単一の医薬組成物中で、又は別々の医薬組成物中で、他の薬剤と同時に若しくは順次(他の薬剤の投与の前又は後のいずれかで)投与され得る。同時投与され得る生物活性因子には、抗アポトーシス剤(例えば、EPO、EPOミメティボディ、TPO、IGF-I及びIGF-II、HGF、カスパーゼ阻害剤);抗炎症剤(例えば、p38 MAPK阻害剤、TGF-ベータ阻害剤、スタチン、IL-6及びIL-1阻害剤、PEMIROLAST(商標)、TRANILAST(商標)、REMICADE(商標)、SIROLIMUS(商標)、及びTEPOXALIN(商標)等の非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、TOLMETIN(商標)、SUPROFEN(商標));免疫抑制剤/免疫調節剤(例えば、シクロスポリン、タクロリムス等のカルシニューリン阻害剤);mTOR阻害剤(例えば、SIROLIMUS(商標)、EVEROLIMUS(商標));抗増殖剤(例えば、アザチオプリン、ミコフェノール酸モフェチル);コルチコステロイド(例えば、プレドニゾロン、ヒドロコルチゾン);モノクローナル抗IL-2Rアルファ受容体抗体(例えば、バシリキシマブ、ダクリズマブ)、ポリクローナル抗T細胞抗体(例えば、抗胸腺細胞グロブリン(ATG);抗リンパ球グロブリン(ALG);モノクローナル抗T細胞抗体OKT3)等の抗体;抗血栓剤(例えば、ヘパリン、ヘパリン誘導体、ウロキナーゼ、PPack(デキストロフェニルアラニンプロリンアルギニンクロロメチルケトン)、アンチトロンビン化合物、血小板受容体拮抗薬、抗トロンビン抗体、抗血小板受容体抗体、アスピリン、ジピリダモール、プロタミン、ヒルジン、プロスタグランジン阻害剤、及び血小板阻害剤);及び抗酸化剤(例えば、プロブコール、ビタミンA、アスコルビン酸、トコフェロール、コエンザイムQ-10、グルタチオン、L-システイン、N-アセチルシステイン)、並びに局所麻酔薬が含まれる。
【0141】
遺伝子組換え細胞
一実施形態では、HSC又はMLPSCは、例えば、目的のタンパク質、例えば、治療的及び/又は予防的利益を提供するタンパク質を発現及び/又は分泌するために、遺伝子組換えされる。
【0142】
用語「核酸」とは、本明細書で使用される場合、プリン塩基及びピリミジン塩基、又は他の天然の、化学的若しくは生化学的に修飾された、非天然の又は誘導体化されたヌクレオチド塩基を含む、リボヌクレオチド又はデオキシリボヌクレオチドのいずれかの長さのヌクレオチドのポリマー形態を指す。本発明の実施形態のポリヌクレオチドは、デオキシリボポリヌクレオチド(DNA)、リボポリヌクレオチド(RNA)、又はリボポリヌクレオチドのDNAコピー(cDNA)の配列を含み、これらは天然源から単離され、組換え的に生成され、又は人工的に合成され得る。ポリヌクレオチドの更なる例は、ポリアミドポリヌクレオチド(PNA)である。ポリヌクレオチド及び核酸は、一本鎖又は二本鎖として存在し得る。ポリヌクレオチドの骨格は、典型的には、RNA若しくはDNA、又は修飾若しくは置換された糖又はリン酸基に見出され得るように、糖及びリン酸基を含むことができる。ポリヌクレオチドは、メチル化ヌクレオチド及びヌクレオチド類似体等の修飾されたヌクレオチドを含み得る。ヌクレオチドの配列は、非ヌクレオチド成分によって中断され得る。核酸、ポリヌクレオチド及びポリヌクレオチド等のヌクレオチドで作られたポリマーはまた、本明細書ではヌクレオチドポリマーと称され得る。
【0143】
本開示のHSC又はMLPSCは、上記の参照核酸を導入するために修飾され得る。用語「導入される」は、本開示との関連で、本開示による間葉系前駆細胞又は幹細胞の核又は細胞質への核酸の導入を指すために使用される。
【0144】
HSC又はMLPSCは、核酸が任意の適切な人工操作手段によって細胞内に移動された場合、又は細胞が核酸を受け継いだ、元々改変された細胞の子孫である場合、「修飾される」とみなされる。
【0145】
「遺伝子改変される」、「トランスフェクトされる」、「形質導入される」、又は「遺伝的に形質転換される」といった用語はまた、本開示との関連で、修飾された間葉系前駆細胞又は幹細胞を指すために、互換的に使用することができる。HSC又はMLPSCは、安定又は一過性の様式で修飾することができる。
【0146】
ある例では、HSC又はMLPSCは、核酸を発現するベクターを導入するために修飾することができる。細胞における発現のための多数のベクターは、当該技術分野において公知である。ベクター成分としては、一般的に、限定されないが、シグナル配列、オリゴヌクレオチド等の核酸をコードする配列、エンハンサーエレメント、プロモーター、及び転写終結配列のうちの1つ以上が挙げられる。
【0147】
例示的な発現ベクターには、プラスミド、ファージ、自律複製配列(ARS)、ウイルス、セントロメア、人工染色体、染色体、又は本開示による間葉系前駆細胞又は幹細胞中で核酸を発現することができる他の構造が含まれる。
【0148】
間葉系前駆細胞又は幹細胞にトランスフェクトするための適切なベクタープラスミドには、米国特許第5,578,475号、第6,020,202号、及び6,051,429号に記載される脂質/DNA複合体が含まれる。DNA-脂質複合体を作製するための適切な試薬には、リポフェクタミン(Gibco/Life Technologies社、#11668019)及びFuGENE(商標)6(Roche Diagnostics Corp.社、#1814443);及びLipoTAXI(商標)(Invitrogen Corp.社、#204110)が含まれる。
【0149】
別の例では、HSC又はMLPSCは、ウイルス発現ベクターを用いて核酸を導入するために修飾される。例示的なウイルス発現ベクターには、レンチウイルス、バキュロウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス(AdV)、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)等の組換え型を含むアデノ随伴ウイルス(AAV)、及びそれらの誘導体、例えば自己相補性AAV(scAAV)及び非統合性AVが含まれる。
【0150】
一例では、ウイルスベクターは複製欠損である。この例では、複製遺伝子が欠失されるか又は高活性プロモーターを含む発現カセットで置換される。例えば、AVとの関連で、E1/E3遺伝子を欠失又は置換することができる。AAVとの関連で、E1A及びE1B遺伝子を欠失又は置換することができる。例示的な高活性プロモーターには、CMV、EF1a、SV40、PGK1、Ubc、ヒトベータアクチン、CAG、TRE、UAS及びAc5が含まれる。
【0151】
ある例では、HSC又はMLPSCは、AVベクター又はその組換え形態を使用して核酸を導入するために修飾される。種々のAV血清型は、核酸を導入するために細胞を修飾するのに適していることがある。一例では、AV血清型1(AV1)は、間葉系前駆細胞又は幹細胞を修飾するために使用される。別の例では、AV2は、間葉系前駆細胞又は幹細胞を修飾するために使用される。他の例では、AV3、AV4、AV7、AV8、AV9、AV10、AV11、AV12又はAV13は、HSC又はMLPSCを修飾するために使用される。別の例では、AV5は、HSC又はMLPSCを修飾するために使用される。別の例では、AV6は、間葉系前駆細胞又は幹細胞を修飾するために使用される。
【0152】
一例では、HSC又はMLPSCは、AAVベクター又はその組換え形態を使用して核酸を導入するために修飾される。種々のAAV血清型はまた、HSC又はMLPSCを修飾するのに適していることがある。
【0153】
ある例では、AAV血清型1(AAV1)は、HSC又はMLPSCを修飾するために使用される。別の例では、AAV2は、HSC又はMLPSCを修飾するために使用される。他の例では、AAV3、AAV4、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12又はAAV13は、HSC又はMLPSCを修飾するために使用される。別の例では、AAV5は、HSC又はMLPSCを修飾するために使用される。別の例では、AAV6は、HSC又はMLPSCを修飾するために使用される。
【0154】
最適ベクターは、当該技術分野において公知である種々の技術を用いて同定することができる。ある例では、間葉系前駆細胞又は幹細胞は、緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現する種々のベクターと接触/トランスフェクトすることができる。この例では、最適なベクターは、トランスフェクション/形質導入効率、GFP発現レベル、向細胞性、及び/又はGFP発現の持続性に基づいて同定することができる。
【0155】
ウイルス形質導入法は、当該技術分野において公知である(例えば、米国特許第6,723,561号;第6,627,442号)。種々のウイルス発現ベクター系がまた、Miltenyi Biotech社(MACSductin)、Sigma-Aldrich社(ExpressMag)及びThermo Fisher Scientific社(ViraPower) 等の商業的供給業者から入手可能である
【0156】
修飾の効率が100%であることは稀であり、通常、修飾が成功した細胞について集団を富化することが望ましい。ある例では、修飾された細胞は、新しい遺伝子型の機能的特徴を利用することによって富化され得る。修飾された細胞を富化する1つの例示的な方法は、ネオマイシン等の薬物に対する耐性を用いる正の選択である。
【0157】
共培養HSCへの送達
一例では、本開示は、異種核酸又はそれを発現するベクターを含むように修飾されたMLPSCとの共培養を介して、HSCに接触させることによって核酸をHSCに送達する方法を包含する。疑義を避けるために、HSC細胞に送達される核酸は、修飾された間葉系前駆細胞又は幹細胞に導入される核酸である。
【0158】
核酸の移動は、MLPSCとHSCの間の直接的又は間接的な接触を介して起こり得る。「直接的な接触」は、本開示との関連で使用され、核酸の移動を容易にする、HSCと修飾されたMLPSCの間の物理的な接触を指す。例えば、標的細胞及び修飾されたMLPSCは、共通のコネキシン(すなわち、HSCと修飾された間葉系前駆細胞又は幹細胞の両方によって発現されるコネキシン)を介して直接的に接触することができる。この例では、共通コネキシンは、ギャップ結合を介して、MLPSCからHSCへの核酸の移動を容易にする。一例では、ギャップ結合はCx40によって形成される。別の例では、ギャップ結合はCx43によって形成される。別の例では、ギャップ結合は、Cx45、Cx32及び/又はCx37によって形成される。
【0159】
「間接的接触」は、本開示との関連で使用され、直接的接触を伴わないMLPSCからHSCへの核酸の送達を指す。例えば、標的細胞に近接した修飾されたMLPSCは、標的細胞と間接的に接触し得る。一例では、HSCと間接的に接触する修飾されたMLPSCは、エキソソームを介して標的細胞に核酸を送達することができる。
【0160】
別の例では、HSCと直接的に接触する修飾されたMLPSCは、共通コネキシンを介して、及び間接的にエキソソームを介して、標的細胞に核酸を送達することができる。
【0161】
別の例では、HSCは、修飾されたMLPSCと共通のコネキシンを有する。一例では、HSCはCx40を発現する。別の例では、HSCはCx43を発現する。別の例では、標的細胞は、Cx45、Cx32及び/又はCx37を発現する。
【0162】
当業者は、本開示の広範な一般的範囲から逸脱することなく、上記された実施形態に対して多数の変形及び/又は修飾を行うことができることを理解する。したがって、本実施形態は、全ての点において、例示的であり、限定的ではないと考えるべきである。
【実施例
【0163】
(実施例1)
間葉系前駆細胞又は幹細胞(MLPSC)の免疫選択
健常成人ボランティア(20~35歳)から骨髄(BM)を採取した。簡単に説明すると、40mlのBMを後腸骨稜からリチウム-ヘパリン抗凝固剤含有チューブに吸引する。
【0164】
骨髄単核細胞(BMMNC)は、Zannettinoら、1998によって既に記載されているLymphoprep(商標)(Nycomed Pharma社、Oslo、Norway)を用いた密度勾配分離によって調製された。400×gで30分間、4℃にて遠心分離した後、バフィー層を移動ピペットで除去し、5%ウシ胎児血清(FCS、CSL Limited社、Victoria, Australia)を含有するHank's平衡塩溶液(HBSS;Life Technologies社、Gaithersburg, MD)で構成される「HHF」中で3回洗浄する。
【0165】
STRO-3+(又はTNAP+)細胞は、Gronthos & Simmons、1995; 及びGronthos、2003によって既に記載される磁気活性化細胞選別によって単離された。簡単に説明すると、約1~3×108個のBMMMNCは、HHF中の10%(v/v)正常ウサギ血清からなるブロッキング緩衝液中で氷上にて20分間インキュベートされる。細胞は、ブロッキング緩衝液中の10μg/ml溶液のSTRO-3 mAbの200μlとともに氷上で1時間インキュベートされる。その後、細胞は、400×gでの遠心分離によりHHF中で2回洗浄される。HHF緩衝液中のヤギ抗マウスγ-ビオチン(Southern Biotechnology Associates社, Birmingham, UK)の1/50希釈液を添加し、細胞を氷上で1時間インキュベートする。細胞は、上記のようにMACS緩衝液(1%BSA、5mM EDTA及び0.01%アジ化ナトリウムを補足したCa2+及びMg2+を含まないPBS)中で2回洗浄され、最終容量の0.9ml MACS緩衝液中に再懸濁される。
【0166】
100μlのストレプトアビジンマイクロビーズ(Miltenyi Biotec社; Bergisch Gladbach, Germany)を細胞懸濁液に添加し、氷上で15分間インキュベートする。細胞懸濁液を2回洗浄し、0.5mlのMACS緩衝液中に再懸濁し、続いてミニMACSカラム(MSカラム、Miltenyi Biotec社)上に装填し、0.5mlのMACS緩衝液を用いて3回洗浄して、STRO-3 mAbに結合しない細胞(2005年12月19日に受託番号PTA-7282でAmerican Type Culture Collection (ATCC)に寄託された-国際公開第2006/108229号を参照されたい)を回収した。更に1mlのMACS緩衝液を添加した後、カラムを磁石から除去し、TNAP+細胞を陽圧によって単離する。各画分からの細胞のアリコートをストレプトアビジン-FITCで染色し、純度をフローサイトメトリーにより評価することができる。
【0167】
(実施例2)
HSCと間葉系前駆細胞又は幹細胞(MLPSC)の共培養
細胞::CB CD34+(Stem Cell Technologies社)
【0168】
培地:以下を補足したStemSpan SFEM(StemCell Technologies社):
●ヒト低密度リポタンパク質(Stem Cell Technologies社)10μg/ml
●増殖因子(「SFT」):
〇rHu-SCF 100ng/ml
〇rHu-FLT3リガンド 100ng/ml
〇rHu-TPO 50ng/ml
〇(全ての組換えサイトカインはR&D Systems社からのものである)
【0169】
小分子:
SR1(500nM);UM171(35nM);トリコスタチンA(TSA、50nM);バルプロ酸(VPA、500μM)(全てStem Cell Technologies社製)
【0170】
アッセイ条件:
-1日目 アルファ-MEM/10%FBS中の2×24ウェルプレートに50,000個/ウェルでプレートしたMPC(MCBCC006)
0日目 ウェルあたり10,000個のCD34+細胞を2つの24ウェルプレートの各ウェルに播種した。MPC含有ウェルを最初に洗浄して、FBS培地を除去した。
残りのCD34+細胞をStemSpan/SFT/SR-1+UM171におけるT-25フラスコ中で同じ濃度で培養した。これは、フローサイトメトリー分析のセットアップのためのバルク細胞を提供し、多色分析のための電子補償設定を画定することであった。
3日目 全群に1.5mLの培地を除去し、2.0mLの新鮮培地+添加物で置き換えることにより供給した。
5日目 フローサイトメトリー分析:各ウェルから1.5mLの培養培地を採取した。懸濁液(MPCなし)群については、これは、最初に培地を上下に吸引し、CD34+細胞を完全に懸濁させた後、1.5mLの懸濁液を除去することによって達成された。+MPC群については、MPCフィーダー層を無傷のままにするようにCD34+細胞を再懸濁した。細胞を各ウェルから除去した後、それらを2.0mLの新鮮な培地+添加物で置き換えた。全てのウェルについて細胞カウントを行った。これは、FACS分析によって同定された集団の発生率だけでなく、その絶対数を決定するためにも必要であった。
8日目 全群に2.0mLの培地を除去し、2.0mLの新鮮な培地及び添加物に置き換えて供給した。
10日目 フローサイトメトリー分析:各ウェルの完全な内容物を採取した。懸濁液(MPCなし)群については、これは、最初に培地を上下に吸引し、CD34+細胞を完全に懸濁させた後、懸濁液を除去することによって達成された。+MPC群については、(5日目について上記されるように)懸濁液中のCD34+細胞を最初に採取した。次に、MPC層に付着したCD34+細胞を、37℃でPBS中の0.05%トリプシン-EDTAへの短時間の曝露(5分間)によって脱着し、トリプシンを10%FBSでクエンチングし、脱着した細胞は、先に採取された懸濁画分とともにプールされて、10日目の採取を示した。
【0171】
フローサイトメトリー分析:
臍帯血について記載された表現型CD34+CD45RA-CD90+CD49f+(Nottaら、(2011) Science 333: 218~221)に従って、CD34+細胞、及び候補造血幹細胞(HSC)を含む関連亜集団の同定及び定量を可能にするために、4色フローサイトメトリー分析を行った。全ての抗体コンジュゲートは、製造業者が推奨する濃度で使用された。
【0172】
上述のように、StemSpan/SFT/SR-1+UM171中のCD34+細胞のバルク培養は、5日目と10日目の両方で使用され、フローサイトメトリー分析の設定を確立し、補正設定を確立した。以下の抗体/抗体の組合せを用いた染色を行った。
1. 細胞単独
2. PE-Cy7/FITC/PE/APCアイソタイプ(プール)
3. CD34-PECy7
4. CD45RA-FITC
5. CD90-PE
6. CD49f-APC
7. CD34-PECy7/CD45RA-FITC/IgG1-PEアイソタイプ/CD49f-APC
8. CD34-PECy7/CD45RA-FITC/CD90-PE/ラットIgG2aアイソタイプ-APC
9. CD34-PECy7/CD45RA-FITC/CD90-PE/CD49f-APC
各群を4色のパネル(9)で染色した。
【0173】
結果
臍帯血由来CD34+ HSCは、以下の存在下、免疫選択されたMPCの存在下及び非存在下で培養された:
SFT
SFT+VPA
SFT+SR-1
SFT+SR-1+UM171
SFT+UM171
SFT+SR-1+TSA
SFT+TSA
SFT+SR-1+VPA:
SFT+UM171+TSA
SFT+UM171+VPA
SFT+SR-1+UM171+TSA
SFT+SR-1+UM171+VPA
【0174】
培養5日目におけるCD34+細胞の数、及び候補HSC表現型(CD34+CD45RA-CD90+CD49f+)を含む種々のサブセットの数を示す結果を図1図4に示し、培養10日目を図5図9に示す。培養10日目のフローサイトメトリー分析の結果を図10に示す。
【0175】
図9は、MPC及びHDACi(TSA又はVPAのいずれか)の存在が、MPC又はHDACiの非存在下よりも、原始HSC表現型CD34+CD45RA-CD90+CD49f+を有するCD34+細胞の実質的に大きな拡大をもたらすことを示す。
【0176】
図10は、MPCとのCD34+細胞の共培養がHDACiと顕著に相乗し、原始表現型CD34+CD45RA-CD90+CD49f+を有するHSCの生成を増強することを示す。
【0177】
これらの結果は、特に培養中の原始HSCにおける実質的な増加を示す。例えば、共培養された細胞の開始集団は、約100,000個のMPC及び約10,000個のCD34+細胞を含む。これらの10,000個のCD34+細胞のうち、約500個は、原始表現型CD34+CD45RA-CD90+CD49f+を有する。MPC、SFV及びVPとの共培養で10日後、例えば、CD34+細胞の数は約800,000個に増加し、CD34+CD45RA-CD90+CD49f+細胞の数は約22,000細胞に増加した。これは、10日間にわたるCD4+CD90+CD49f+細胞数の約44倍の増加を表す。
【0178】
10日間にわたり、培養中のMPC数は一定(約100,000細胞)であった。したがって、CD34+CD45RA-CD90+CD49f+細胞:MPCの比率は、10日間で1:200から1:4.5に増加した。
【0179】
比較のために、本開示の前にCD34+細胞を拡大するための最先端の方法は、SFT、SR-1及びUM171の存在下及びMPCの非存在下でCD34+細胞を培養することを伴う(Boitanoら、(2010) Science 329: 1345~1348; Faresら、(2014) Science 345: 1509~1512)。図9に示されるように、これらの条件下で10日間の培養期間後に存在するCD34+CD45RA-CD90+CD49f+細胞の数は非常に少なかった(約800細胞未満)。
【0180】
CD34+CD38-CD45RA-CD90+CD49f+細胞は、MPC、SFV及びVPAとの共培養において10日後にFACSにより単離された。次に、これらの単離された細胞は、IL-3、IL-6、G-CSF、GM-CSF、SCF及びEPOを含有し、コロニー形成単位(CFU)アッセイにおける造血前駆細胞の増殖及び計数に有用である、完全なメチルセルロースベース培地であるMethoCult(商標)H4435 Enriched(Stem cell Technologies社)中で培養された。コロニーを培養14日目にスコア化し、コロニー形成効率について試験した。図11に示されるように、単離されたCD34+CD38-CD45RA-CD90+CD49f+細胞は、赤血球前駆細胞(BFU-E)、顆粒球-マクロファージ前駆細胞(CFU-GM、CFU-G及びCFU-M)、並びに多分化能顆粒球、赤血球、マクロファージ及び巨核球前駆細胞(CFU-Mix)を生じさせるクローン原性造血前駆体を含んでいた。全体的なコロニー形成効率は0.42%であった。
【0181】
(実施例3)
末梢血又は臍帯血からのCD34+細胞の拡大
約2500万個のMPCを動物成分不含培地中で約5日間培養拡大して、約4億~5億個のMPCを含む細胞集団を得る。次に、MPCを洗浄し、HSC移植を必要とする対象の末梢血から、又は臍帯血から得られた約5000万個のCD34+細胞との共培養に置く。この段階で、全CD34+集団内に表現型CD34+CD45RA-CD90+CD49f+の約250万個の原始HSCが存在するであろう。次に、細胞をHDAC阻害剤の存在下で約10日間、無血清培地中で共培養し、その後、表現型CD34+CD45RA-CD90+CD49f+のHSCを約100,000,000細胞に拡大した。
【0182】
この段階で、全細胞集団を、HSC移植を必要とする対象に投与するために使用することができる。
【0183】
或いは、CD34+CD45RA-CD90+CD49f+細胞は、免疫選択によって、例えば、CD49f抗原に結合する抗体を用いて単離され、長期の再生及び生着に特に適しているこれらの細胞の精製された集団を提供することができる。CD34+CD45RA-CD90+CD49f+細胞を枯渇させた残りの細胞集団は、早期好中球/血小板回復に特に有用であるCD34+CD49-細胞について富化される。
【0184】
免疫選択されたCD34+CD45RA-CD90+CD49f+細胞は、例えば、治療用タンパク質をコードする遺伝子配列を含むウイルスベクターを用いた形質導入によって、又はCRISPRシステムの使用等によって、遺伝子組換えに供することができる。
【0185】
参考文献
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【国際調査報告】