(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-08
(54)【発明の名称】AIMP2-DX2およびmiR-142の標的核酸を含むベクター、ならびにその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/861 20060101AFI20220201BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20220201BHJP
C12N 15/867 20060101ALI20220201BHJP
C12N 15/869 20060101ALI20220201BHJP
C12N 15/863 20060101ALI20220201BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20220201BHJP
A61K 35/761 20150101ALI20220201BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20220201BHJP
A61P 25/14 20060101ALI20220201BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20220201BHJP
【FI】
C12N15/861 Z ZNA
C12N15/864 Z
C12N15/867 Z
C12N15/869 Z
C12N15/863 Z
A61K35/76
A61K35/761
A61P25/00
A61P25/14
C12N15/12
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021533360
(86)(22)【出願日】2020-03-16
(85)【翻訳文提出日】2021-06-10
(86)【国際出願番号】 IB2020052395
(87)【国際公開番号】W WO2020188472
(87)【国際公開日】2020-09-24
(31)【優先権主張番号】10-2019-0030126
(32)【優先日】2019-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】521254203
【氏名又は名称】ジェネロス カンパニー, リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】チェ, ジン ウ
【テーマコード(参考)】
4C087
【Fターム(参考)】
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BC83
4C087CA12
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA01
4C087ZA22
(57)【要約】
本発明は、AIMP2スプライス改変体およびmiR-142標的核酸を含む組換えベクター、ならびにその多様な適法範囲に関する。上記AIMP2改変体は、ニューロン細胞および脳組織において特異的に発現され得ることから、関連産業において有益に使用され得る。本発明の目的は、miR-142-3pの標的配列を含む組換えベクターを提供することである。加えて、本発明は、miR-142-3pの標的配列を含む組換えベクターを含む遺伝子キャリアを提供し得る。加えて、本発明は、組換えベクターを実体に投入する段階を含む、ニューロンにおいて異種遺伝子を送達および発現する方法を提供し得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エキソン2欠失AIMP2改変体(AIMP2-DX2)遺伝子およびmiR-142標的核酸を含む、組換えベクター。
【請求項2】
前記AIMP2-DX2に作動可能に連結されたプロモーターをさらに含む、請求項1に記載のベクター。
【請求項3】
前記プロモーターは、レトロウイルス(LTR)プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター、MTプロモーター、EF-1アルファプロモーター、UB6プロモーター、ニワトリβ-アクチンプロモーター、CAGプロモーター、RPE65プロモーターまたはオプシンプロモーターである、請求項2に記載のベクター。
【請求項4】
前記miR-142標的核酸は、前記AIMP2-DX2遺伝子に対して3’側にある、請求項1~3のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項5】
前記AIMP2-DX2遺伝子は、配列番号2と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項6】
前記AIMP2-DX2遺伝子は、配列番号2のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を有する、請求項5に記載のベクター。
【請求項7】
前記AIMP2-DX2遺伝子は、配列番号1のヌクレオチド配列と少なくとも90%同一であるヌクレオチド配列を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項8】
前記AIMP2-DX2遺伝子は、配列番号1のヌクレオチド配列を有する、請求項7に記載のベクター。
【請求項9】
前記miR-142標的核酸は、ACACTAを含むヌクレオチド配列を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項10】
前記miR-142標的核酸は、ACACTAおよび配列番号5の1~17個のさらなる連続するヌクレオチドを含むヌクレオチド配列を含む、請求項9に記載のベクター。
【請求項11】
前記miR-142標的核酸は、配列番号5のヌクレオチド配列(TCCATAAAGTAGGAAACACTACA)と少なくとも50%同一のヌクレオチド配列を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項12】
前記miR-142標的核酸は、配列番号5のヌクレオチド配列を含む、請求項11に記載のベクター。
【請求項13】
前記miR-142標的核酸は、ACTTTAを含むヌクレオチド配列を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項14】
前記miR-142標的核酸は、ACTTTAおよび配列番号7の1~15個のさらなる連続するヌクレオチドを含むヌクレオチド配列を含む、請求項13に記載のベクター。
【請求項15】
前記miR-142標的核酸は、配列番号7のヌクレオチド配列(AGTAGTGCTTTCTACTTTATG)と少なくとも50%同一のヌクレオチド配列を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項16】
前記miR-142標的核酸は、配列番号7のヌクレオチド配列を含む、請求項15に記載のベクター。
【請求項17】
前記miR-142標的核酸は、2~10回反復される、請求項1~16のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項18】
前記ベクターは、ウイルスベクターである、請求項1~17のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項19】
前記ウイルスベクターは、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルス、レトロウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、MLV(マウス白血病ウイルス)、ASLV(トリ肉腫/白血病)、SNV(脾臓壊死ウイルス)、RSV(ラウス肉腫ウイルス)、MMTV(マウス乳房腫瘍ウイルス)、または単純ヘルペスウイルスベクターである、請求項18に記載のベクター。
【請求項20】
前記ウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)、アデノウイルス、レンチウイルス、レトロウイルス、ワクシニアウイルス、または単純ヘルペスウイルスベクターである、請求項18に記載のベクター。
【請求項21】
神経疾患の処置の必要性のある被験体において神経疾患を処置する方法であって、前記方法は、請求項1~20のいずれか1項に記載のベクターを投与する工程を包含する、方法。
【請求項22】
前記神経疾患は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、アルツハイマー病、パーキンソン病、網膜変性、軽度認知障害、多発梗塞性認知症、前頭側頭葉型認知症、レビー小体型認知症、ハンチントン病、神経変性疾患、代謝性脳障害、鬱病、てんかん、多発性硬化症、大脳皮質基底核変性症、多系統萎縮症、進行性核上性麻痺、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症、脊髄小脳失調症、原発性側索硬化症、脊髄性筋萎縮症、または脳卒中である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記神経疾患は、ALSである、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記処置は、運動活動を改善するか、または前記被験体の寿命を延ばす、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記ベクターは、脳または脊髄に投与される、請求項21~24のいずれかに記載の方法。
【請求項26】
前記ベクターは、定位固定注射によって脳に投与される、請求項25に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
電子提出された配列表への言及
本出願とともに提出された、ASCIIテキストファイルにおいて電子提出された配列表(ファイル名: 2493-0003WO01- Sequence Listing_ST25.txt;サイズ: 6KB;および作成日: 2020年3月16日)の内容は、その全体において本明細書に参考として援用される。
【0002】
発明の分野
AIMP2-DX2およびmiR-142の標的配列を含むベクター、ならびにその使用が、本明細書で開示される。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
哺乳動物の脳は、神経幹細胞の分裂、分化、生存および死滅を含む一連のプロセス、ならびにシナプスの形成などを受けた後、全身の神経ネットワークの確立を通じて複雑な機能を実施し得る。動物の脳におけるニューロンは、それらが成熟した状態の間ですら、神経の成長において必要な広い範囲の物質を連続して生成し、それによって、軸索および樹状突起の成長を誘導する。さらに、それらは連続して分化を受けるといわれている。なぜなら新たな学習および記憶が実施されるときには常に、神経ネットワークの絶え間ないシナプス再編およびシナプス接続が存在するからである。ニューロンは、これらが、ストレスに起因する、細胞分化およびシナプス形成およびアポトーシスのプロセスにおいて、標的由来生存因子(例えば、神経成長因子)を受容できない場合に、アポトーシスを受け、細胞傷害性薬剤は、脳変性障害の主要な原因になる。動物の末梢神経系が損傷される場合、中枢神経系とは異なり、軸索は、長期間にわたって再生される。損傷した神経の背後にある軸索は、ワーラー変性として公知のプロセスによって変性され、神経の細胞本体は、軸索の再成長を再び開始すると同時に、シュワン細胞が、再生プロセス(分裂後の生存および消失を経て標的神経の決定、その後、分化などを再び受けることを含む)を受けた後に再生される。
【0004】
世界中で、毎年、神経変性疾患の出現が連続して増大する傾向があるとともに、高齢者集団において急激に増大する。最終的な防止および処置方法は、未だ発見されていないことから、このような疾患を処置するにあたって、優れた有効性を有する薬物もなお存在しない。加えて、これらの障害に使用される既存の薬物および治療は、長期投与から生じる副作用および毒性を頻繁に示す。さらに、それらは、症状の程度を一時的に低減するか、または疾患の完全な処置よりむしろ症状の進行を遅らせるという効果を有するに過ぎないので、副作用および毒性を低減しながら、決定的な処置努力の結果を伴う物質を発掘し開発することは急務である。
【0005】
ヒト被験体に対する遺伝子治療に関して、およそ600事例の臨床試験が実施されており、1990年に初めて臨床試験を開始して以来、2002年まで進行中であった。2003年にヒトゲノム配列分析の完了を拠り所として、新たな遺伝子療法の開発は、多様な遺伝子範囲の発掘を経て、将来的に加速すると思われる。しかし、今までに承認されてきた遺伝子療法のうちの75%は、単一遺伝子疾患(例えば、がんまたは嚢胞性線維症など)に標的化され、神経障害または再生のための遺伝子療法薬物は活発に開発されていない(Recombinant DNA consultation paper of NIH, USA (2002); Gene Therapy Clinical Trials, J. Gene Med. (2002) www.wiley.co.uk/genmed)。にもかかわらず、パーキンソン病の感覚ニューロンの処置および再生に関する神経成長因子(例えば、NT-3およびグリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)を使用することによる遺伝子療法の開発は、既に試みられている(GDNFファミリーリガンドは、成熟感覚ニューロンにおける軸索成長の間に多数の事象を活性化する(Mol. Cell. Neurosci. 25:4453-4459(2004))。神経系の障害に関連して大脳の機能に関する神経科学研究全体の進歩が低迷しているので、神経系の種々の慢性障害の処置薬物の開発はまた、困難に直面している。
【0006】
多くの方法でアポトーシスと関連する腫瘍サプレッサーである、AIMP2の選択的スプライシング改変体としてのAIMP2-DX2は、AIMP2の機能を妨げることによってアポトーシスを抑制することが公知である。これは、TRAF2のAIMP2/p38媒介性ユビキチン化によるTNF-a誘導性アポトーシス、ならびにTRAF2のユビキチン化の抑制および炎症マーカーであるCox-2の出現の抑制を通じて、TNF-a誘導性アポトーシスを抑制することによって、腫瘍の生成を促進するAIMP2の競合的インヒビターとして作用するAIMP2/p38のスプライス改変体であるAIMP2-DX2を制御することによって達成される。加えて、AIMP2-DX2が、既存の肺がん誘導因子として確認されたことが報告されており、既存の研究では、がん細胞において広範囲にわたって出現したAIMP2-DX2(これは、AIMP2の改変体である)が、AIMP2のがん抑制機能に干渉することによって癌を誘導することが確認された。さらに、正常細胞におけるAIMP2-DX2の出現は、細胞のがん化を進行させるが、他方で、AIMP2-DX2の出現を抑制すると、がんの増殖は抑制され、それによって、処置効果を示すことが発見された。
AIMP2-DX2が、神経疾患を処置するにあたって有用であり得ることもまた、決定されている(KR10-2015-0140723(2017)およびUS2019/0298858(2019年10月23日公開))。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Recombinant DNA consultation paper of NIH, USA (2002)
【非特許文献2】Gene Therapy Clinical Trials, J. Gene Med. (2002) www.wiley.co.uk/genmed
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明の要旨
miR-142を標的化する配列(例えば、miR-142-3pおよび/またはmiR-142-5p標的核酸)を含む組換えベクターは、AIMP2スプライス改変体の発現を、神経組織および脳組織において選択的に制御し得る。
【0009】
エキソン2欠失AIMP2改変体(AIMP2-DX2)遺伝子およびmiR-142標的核酸を含む組換えベクターが、本明細書で開示される。
【0010】
上記ベクターは、上記AIMP2-DX2に作動可能に連結されたプロモーターをさらに含み得る。上記プロモーターは、レトロウイルス(LTR)プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター、MTプロモーター、EF-1アルファプロモーター、UB6プロモーター、ニワトリβ-アクチンプロモーター、CAGプロモーター、RPE65プロモーターまたはオプシンプロモーターであり得る。
【0011】
上記miR-142標的核酸は、上記AIMP2-DX2遺伝子に対して3’側にあり得る。上記miR-142標的核酸は、上記AIMP2-DX2遺伝子に対して5’側にあり得る。
【0012】
上記AIMP2-DX2遺伝子は、配列番号2と少なくとも90% 同一であるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を有し得る。上記AIMP2-DX2遺伝子は、配列番号2のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を有し得る。
【0013】
上記AIMP2-DX2遺伝子は、配列番号1のヌクレオチド配列と少なくとも90% 同一のヌクレオチド配列を有し得る。上記AIMP2-DX2遺伝子は、配列番号1のヌクレオチド配列を有し得る。
【0014】
上記miR-142標的核酸は、ACACTAを含むヌクレオチド配列を含み得る。上記miR-142標的核酸は、ACACTAおよび配列番号5の1~17個のさらなる連続するヌクレオチドを含むヌクレオチド配列を含み得る。
【0015】
上記miR-142標的核酸は、配列番号5のヌクレオチド配列(TCCATAAAGTAGGAAACACTACA; miR-142-3p)と少なくとも50% 同一のヌクレオチド配列を含み得る。上記miR-142標的核酸は、配列番号5のヌクレオチド配列を含み得る。
【0016】
上記miR-142標的核酸は、ACTTTAを含むヌクレオチド配列を含み得る。上記miR-142標的核酸は、ACTTTAおよび配列番号7の1~15個のさらなる連続するヌクレオチドを含むヌクレオチド配列を含み得る。
【0017】
上記miR-142標的核酸は、配列番号7のヌクレオチド配列(AGTAGTGCTTTCTACTTTATG; miR-142-5p)と少なくとも50% 同一のヌクレオチド配列を含み得る。上記miR-142標的核酸は、配列番号7のヌクレオチド配列を含み得る。
【0018】
上記miR-142標的核酸は、2~10回反復され得る。
【0019】
上記ベクターは、ウイルスベクターであり得る。上記ウイルスベクターは、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルス、レトロウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、MLV(マウス白血病ウイルス)、ASLV(トリ肉腫/白血病)、SNV(脾臓壊死ウイルス)、RSV(ラウス肉腫ウイルス)、MMTV(マウス乳房腫瘍ウイルス)、または単純ヘルペスウイルスベクターであり得る。上記ウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)、アデノウイルス、レンチウイルス、レトロウイルス、ワクシニアウイルス、または単純ヘルペスウイルスベクターであり得る。
【0020】
必要性のある被験体において神経疾患を処置する方法がまた本明細書で開示され、上記方法は、本明細書で開示されるベクターのうちのいずれかを投与する工程を包含する。
【0021】
上記神経疾患は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、アルツハイマー病、パーキンソン病、網膜変性、軽度認知障害、多発梗塞性認知症、前頭側頭葉型認知症、レビー小体型認知症、ハンチントン病、神経変性疾患、代謝性脳障害、鬱病、てんかん、多発性硬化症、大脳皮質基底核変性症、多系統萎縮症、進行性核上性麻痺、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症、脊髄小脳失調症、原発性側索硬化症、脊髄性筋萎縮症、または脳卒中であり得る。上記神経疾患は、ALSであり得る。
【0022】
上記処置は、運動活動を改善し得るか、または上記被験体の寿命を延ばす。
【0023】
上記ベクターは、脳または脊髄に投与され得る。上記ベクターは、定位固定注射によって脳に投与され得る。
【0024】
本発明の目的は、miR-142-3pの標的配列を含む組換えベクターを提供することである。
【0025】
加えて、本発明は、miR-142-3pの標的配列を含む組換えベクターを含む遺伝子キャリアを提供し得る。
【0026】
加えて、本発明は、組換えベクターを実体に投入する段階を含む、ニューロンにおいて異種遺伝子を送達および発現する方法を提供し得る。
【0027】
加えて、本発明は、1)プロモーター;2)作動を可能にするプロモーターと連結された標的タンパク質をコードする塩基配列;および3)上記塩基配列の 3’UTRに挿入された、miR-142-3pを標的化する塩基配列を含む発現カセット、を提供し得る。
【0028】
加えて、本発明は、エキソン2の喪失を伴うAIMP-2スプライス改変体をコードする塩基配列、および上記塩基配列の3’UTRに連結された、miR-142-3pを標的化する塩基配列を含む、神経変性疾患の防止的または治療的調製物を提供し得る。
【0029】
前述の目的を達成するために、本発明は、miR-142-3pの標的配列を含む組換えベクターを提供する。
【0030】
加えて、本発明は、miR-142-3pの標的配列を含む組換えベクターを含む遺伝子キャリアを提供する。
【0031】
加えて、本発明は、組換えベクターを実体に投入する段階を含む、ニューロンにおいて異種遺伝子を送達および発現させる方法を提供する。
【0032】
加えて、本発明は、1)プロモーター;2)作動を可能にするプロモーターと連結された標的タンパク質をコードする塩基配列;および3)上記塩基配列の3’UTRへと挿入された、miR-142-3pを標的化する塩基配列を含む発現カセット、を提供する。
【0033】
加えて、本発明は、エキソン2の喪失を伴うAIMP-2スプライス改変体をコードする塩基配列および上記塩基配列の3’UTRへと連結された、miR-142-3pを標的化する塩基配列を含む、神経変性疾患の防止的または治療的調製物を提供する。
【0034】
本発明の組換えベクターは、miR-142-3pを、AIMP2の末端の標的配列へと挿入し、CD45由来細胞、特に、リンパ系および白血球におけるその発現の抑制を制御することによって、腫瘍におけるAIMP2スプライス改変体の過剰発現の副作用を制御するという効果を有する。従って、本発明の組換えベクターは、AIMP2スプライス改変体が、ニューロンにおいてのみ特異的に発現され得、かつ身体の種々の組織の中でも、脳組織においてのみ選択的に発現され得ることから、関連産業において有益に使用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】
図1は、本発明の組換えベクターを図示する。
【0036】
【
図2】
図2は、インビトロ環境下での本発明の組換えベクターの神経細胞特異的発現効果を示す。
【0037】
【
図3】
図3は、インビボ環境下での本発明の組換えベクターの神経細胞特異的発現効果を示す。
【0038】
【
図4】
図4は、miR142-3pTの4回反復(下線を付す)を伴うmiR142-3pT(標的)配列を示す。
【0039】
【
図5】
図5Aは、1×、2×、および3× 反復を伴うmiR142-3p、および変異体の模式図を示す。
図5Bは、miR-142-3pTの1×、2×、および3× 反復を伴うDX2発現に際するmiR142-3p阻害を示す。
【0040】
【
図6】
図6は、コア結合配列が、DX2阻害において重要であることを示す。Tseq ×3反復を有するベクター(これは、DX2の有意な阻害を示した(
図5B))、およびDX2構築物を、コントロールとして使用した。100pmolのmiR-142-3p処理は、Tseq ×3ベクターを有意に阻害したが、DX2および変異配列は、阻害しなかった。
【0041】
【
図7】
図7は、scAAV2-DX2-miR142-3pの髄腔内投与後に脊髄から抽出された全RNAを示す。qRT-PCRを行った。
【0042】
【
図8】
図8は、インビトロ環境下での本発明の組み換えベクターの神経細胞特異的発現効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0043】
発明の詳細な説明
AIMP2-DX2は、アポトーシスと関連する、腫瘍抑制因子AIMP2の選択的スプライシング改変体である。AIMP2-DX2は、AIMP2の機能を抑制することによって、腫瘍のアポトーシスを阻害することが公知である。
【0044】
KR 10-1067816(2011)は、AIMP2-DX2のインヒビターが炎症性疾患を処置し得ることを記載している。KR 10-1067816(2011)はまた、AIMP2/p38がTRAF2のユビキチン化を促進して、TNF-α誘導性アポトーシスを調節すること、およびAIMP2-DX2(AIMP2/p38のスプライス改変体)が、TRAF2のユビキチン化を阻害し、従って、TNF-α誘導性アポトーシスを阻害するようにAIMP2の競合的インヒビターとして働き、それによって、腫瘍生成を促進し、Cox-2(炎症マーカー)の発現を阻害することを開示する。
【0045】
加えて、AIMP2-DX2は、肺がん誘導因子として以前に同定されている。研究において、AIMP2-DX2(AIMP2の改変体である)が、がん細胞に共通しており、AIMP2のがん阻害機能に干渉し、従って、がんを引き起こすことが見出された。正常細胞におけるAIMP2-DX2の発現が、細胞のがん化をもたらすのに対して、AIMP2-DX2の発生の阻害ががん細胞の増殖を阻害し、がん処置効果を生じることもまた、見出された。また、研究によって、AIMP2-DX2標的の阻害が、タキソールおよびシスプラチンのような従来の抗がん薬に応答しない卵巣がんの処置をもたらし得ることが、動物モデルを通じて示された。しかし、AIMP2-DX2自体は、正常細胞を形質転換する発がん能力を有しない。
【0046】
AIMP2-DX2が神経疾患を処置し得ることも、決定されている(US2019/0298858 A1)。
【0047】
エキソン2欠失AIMP2改変体(AIMP2-DX2)遺伝子およびmiR-142標的核酸を含む組換えベクターが、本明細書で開示される。本明細書で記載されるベクターは、ニューロン細胞においてDX2を特異的に発現し得るが、造血細胞(例えば、白血球およびリンパ系球)においてはそうでない。従って、本明細書で記載されるベクターは、神経疾患を処置するために、ニューロン細胞を特異的に標的化するにあたって有用であり得る。
【0048】
AIMP2-DX2ポリペプチド(配列番号2)は、AIMP2(配列番号3)のスプライス改変体であり、ここでAIMP2の第2のエキソン(配列番号4)が省かれている。具体的には、AIMP2-DX2遺伝子は、配列番号1に示される塩基配列を有し、AIMP2-DX2ポリペプチドは、配列番号2に示されるアミノ酸配列を有する。
【0049】
いくつかの実施形態において、AIMP2-DX2遺伝子は、配列番号2と少なくとも90% 同一、少なくとも93% 同一、少なくとも95% 同一、少なくとも96% 同一、少なくとも97% 同一、少なくとも98% 同一、少なくとも99%同一であるか、またはその中の任意の範囲の% 同一であるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を有し得る。AIMP2-DX2遺伝子は、配列番号2のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を有し得る。
【0050】
AIMP2-DX2遺伝子は、配列番号1のヌクレオチド配列と少なくとも90% 同一、少なくとも93% 同一、少なくとも95% 同一、少なくとも96% 同一、少なくとも97% 同一、少なくとも98% 同一、少なくとも99%同一であるか、またはその中の任意の範囲の% 同一であるヌクレオチド配列を有し得る。AIMP2-DX2遺伝子は、配列番号1のヌクレオチド配列を有し得る。
【0051】
miR-142標的核酸は、ACACTAを含むヌクレオチド配列を含み得る。miR-142標的核酸は、ACACTAおよび配列番号5の1~17個のさらなる連続するヌクレオチドを含むヌクレオチド配列を含み得る。例えば、miR-142標的核酸は、ACACTAおよび配列番号5に示されるとおりのACACTAの5’側または3’側に連続する、合計1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、または17個のさらなるヌクレオチドを含むヌクレオチド配列を含み得る。
【0052】
miR-142標的核酸は、配列番号5のヌクレオチド配列(TCCATAAAGTAGGAAACACTACA; miR-142-3p)と少なくとも50% 同一、少なくとも60% 同一、少なくとも70% 同一、少なくとも80% 同一、少なくとも90% 同一、または少なくとも95% 同一のヌクレオチド配列を含み得る。miR-142標的核酸は、配列番号5のヌクレオチド配列を含み得る。
【0053】
miR-142標的核酸は、ACTTTAを含むヌクレオチド配列を含み得る。miR-142標的核酸は、ACTTTAおよび配列番号7の1~15個のさらなる連続するヌクレオチドを含むヌクレオチド配列を含み得る。例えば、miR-142標的核酸は、ACTTTAおよび配列番号7に示されるとおりのACTTTAの5’側または3’側に連続する合計1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、または15個のさらなるヌクレオチドを含むヌクレオチド配列を含み得る。
【0054】
miR-142標的核酸は、配列番号7のヌクレオチド配列(AGTAGTGCTTTCTACTTTATG; miR-142-5p)と少なくとも50% 同一、少なくとも60% 同一、少なくとも70% 同一、少なくとも80% 同一、少なくとも90% 同一、または少なくとも95% 同一のヌクレオチド配列を含み得る。miR-142標的核酸は、配列番号7のヌクレオチド配列を含み得る。
【0055】
マイクロRNA(miRNA)は、遺伝子発現を制御するように機能する非コードRNA分子である。miRNAは、mRNA分子内の相補的配列と塩基対合することを介して機能する。miRNAは、タンパク質コード遺伝子の標的メッセンジャーRNA(mRNA)転写物に結合し得、それらの転写を負に制御し得るか、またはmRNA分解を引き起こし得る。現在、2000超のヒトmiRNAが同定されており、miRbaseデータベースが公に利用可能である。多くのmiRNAは、組織特異的様式において発現され、組織特異的機能および分化を維持するにあたって重要な役割を有する。
【0056】
miR-142-3pおよび/またはmiR-142-5pをAIMP2-DX2の末端の標的配列に挿入し、cd45由来細胞、特に、リンパ系および白血球においてAIMP2-DX2発現の抑制を制御することによって、腫瘍におけるAIMP2-DX2改変体の過剰発現の副作用を制御し得る組換えベクターが、本明細書で開示される。従って、上記AIMP2-DX2改変体は、ニューロン細胞においてのみ発現され得るか、または脳組織においては選択的に発現され得るが、他のタイプの細胞または組織においてはそうでない。
【0057】
本発明は、miR-142-3pおよび/またはmiR-142-5pの標的配列を含む組換えベクターを提供する。エキソン2欠失AIMP2改変体(AIMP2-DX2)遺伝子ならびにmiR-142-3pおよび/またはmiR-142-5p 標的核酸を含む組換えベクターが、本明細書で開示される。
【0058】
用語「組み換えベクター」とは、適切な宿主細胞において標的タンパク質またはRNAとして発現され得るベクター、およびその挿入された遺伝子が適切に発現されることを可能にする本質的に作動可能に連結された制御因子を含む遺伝子構築物に言及する。
【0059】
用語「作動可能に連結される」とは、核酸発現制御配列と、一般的な機能を実施する標的化されたタンパク質およびRNAをコードする核酸配列との間の機能的連結に言及する。例えば、それは、上記核酸配列の作動のために連結されている、プロモーターおよびタンパク質またはRNAをコードする核酸配列の発現に影響を及ぼし得る。組換えベクターとの作動可能な連結は、遺伝子組み換え技術(これは、対応する技術分野において周知である)を使用することによって製造され得、領域特異的DNA切断および連結のために対応する技術分野において概して公知の酵素を使用する。
【0060】
上記組換えベクターは、AIMP2-DX2に作動可能に連結されるプロモーターをさらに含み得る。いくつかの実施形態において、上記プロモーターは、レトロウイルス(LTR)プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター、MTプロモーター、EF-1アルファプロモーター、UB6プロモーター、ニワトリβ-アクチンプロモーター、CAGプロモーター、RPE65プロモーター、またはオプシンプロモーターである。
【0061】
用語「マイクロRNA(miRNA)」とは、約20個、21個、22個、23個、または24個のヌクレオチドから構成される非コードRNAであり、遺伝子発現を制御するという役割を果たす。上記miRNAは、遺伝子の転写後ステージとして作用し、哺乳動物の場合には、遺伝子発現のうちのおよそ60%が、miRNAによって制御されることは公知である。miRNAは、生きている身体の内部でのプロセスの多様な範囲において重要な役割を果たし、がん、心臓障害、および神経関連障害との相関を有することが開示されている。miRNA(これは、1本鎖RNAである)、このmiRNAの標的配列は、2本鎖の成熟前RNAの中での標的遺伝子の発現が抑制され得る限りにおいて、使用され得る。例えば、miR-142-3pおよびmiR-142-5pは、miR-142に存在し、その標的核酸のうちのいずれかは、本発明において使用され得る。「miR-142」とは、miR-142-3pおよびmiR-142-5pの両方に言及し、望ましくは、miR-142-3pであり得る。
【0062】
miR-142標的核酸は、AIMP2-DX2遺伝子に対して5’側または3’側にあり得る。
【0063】
「miR-142-3p」は、その遺伝子の転座がアグレッシブB細胞白血病において起こり、造血組織(骨髄、脾臓および胸腺など)において発現することが公知である領域に存在し得る。加えて、miR-142-3pは、胎仔マウスの肝臓(マウスの造血組織)における発現が確認されて、造血系の分化に関与することが公知である。
【0064】
いくつかの実施形態において、上記miR-142-3pおよび/またはmiR-142-5p標的核酸は、少なくとも2~10回、少なくとも2~8回、少なくとも2~6回、少なくとも4回、またはその回数の任意の範囲もしくは回数、反復される。
【0065】
本発明の実施の一例として、上記miR-142-3pは、番号3で示される塩基配列を含み得る。加えて、miR-142-3pを標的化する配列は、miR-142-3pと相補的に結合する配列番号4を有する塩基配列を含み得る。上記相補的配列を含む本発明のmiR-142-3p標的配列は、番号5で示される塩基配列であるが、これに限定されない。
【0066】
上記組換えベクターは、異種プロモーター、および上記プロモーターにおいて作動可能に連結される異種遺伝子をさらに含み得る。
【0067】
本発明において「異種遺伝子(」とは、生物学的に適切な活性化を伴うタンパク質またはポリペプチド、および標的化された生成物(免疫原または抗原性タンパク質もしくはポリペプチド)の暗号化された配列、または処置活性化タンパク質もしくはポリペプチドを含み得る。
【0068】
ポリペプチドは、宿主細胞において内因性タンパク質の発現の欠乏または非存在を補足し得る。遺伝子配列は、DNA、cDNA、合成DNA、RNAまたはその組み合わせを含む多様な範囲の供給物から誘導され得る。上記遺伝子配列は、天然のイントロンを含むかまたは含まないゲノムDNAを含み得る。加えて、ゲノムDNAは、プロモーター配列またはポリアデニル化配列とともに獲得され得る。ゲノムDNAまたはcDNAは、種々の方法において獲得され得る。ゲノムDNAは、対応する分野において公に知られている方法を通じて、適切な細胞から抽出および精製され得る。あるいは、mRNAは、上記細胞から分離されることによって、逆転写または他の方法によってcDNAを生成するために使用され得る。あるいは、ポリヌクレオチド配列は、RNA配列に相補的である配列(例えば、アンチセンスRNA配列)を含み得、上記アンチセンスRNAは、個体の細胞において相補的なポリヌクレオチドの発現を抑制するために、上記個体に投与され得る。
【0069】
本発明の目的下では、上記異種遺伝子は、本発明のエキソン2の喪失を伴うAIMP-2スプライス改変体であり、miR-142-3p標的配列は、上記異種遺伝子の3’ UTRに連結され得る。AIMP2タンパク質の配列(312aaバージョン: AAC50391.1またはGI: 1215669; 320aaバージョン: AAH13630.1、GI: 15489023、BC0 13630.1)は、文献中に記載される(312aaバージョン: Nicolaides, N.C., Kinzler, K.W. and Vogelstein, B. Analysis of the 5’ region of PMS2 reveals heterogeneous transcripts and a novel overlapping gene, Genomics 29 (2), 329-334 (1995)/ 320 aaバージョン: Generation and initial analysis of more than 15,000 full-length human and mouse cDNA sequences, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 99 (26), 16899-16903 (2002))。
【0070】
本発明の用語「AIMP2スプライス改変体」とは、エキソン1~4の中でエキソン2の部分的または完全な喪失に起因して生成される改変体をいう。よって、上記改変体は、AIMP2タンパク質およびヘテロダイマーを形成することによるAIMP2の正常な機能の干渉を表す。加えて、上記AIMP2スプライス改変体が細胞または組織において過剰発現される場合、がんが誘導され得る。従って、がんの誘導を抑制するために、組織特異的発現を誘導することが必要である。
【0071】
本発明の組換えベクターは、配列番号1および5を含み得る。
【0072】
用語、ヌクレオチドまたはアミノ酸配列と「%の配列相同性」、「% 同一性)」または「% 同一」とは、例えば、その2つの最適に配置された配列を、その比較ドメインと比較することによって確認され得、その比較ドメインにおける塩基配列のうちのいくつかは、その2つの配列の最適な配置に関する参照配列(付加も欠失も含まない)と比較して、付加または欠失(すなわち、ギャップ)を含み得る。
【0073】
本発明のタンパク質は、その天然タイプのアミノ酸配列を有するもののみならず、本発明の範囲において改変アミノ酸配列を有するものをも含む。
【0074】
本発明のタンパク質の改変体は、天然のアミノ酸配列および1より多くのアミノ酸残身の欠失、挿入、非保存的もしくは保存的置換、またはこれらの組み合わせに起因して、異なる配列を有するタンパク質を表す。全体として分子の活性化を改変しないタンパク質およびペプチドにおけるアミノ酸の変化は、対応する分野において知られている(H.Neurath, R.L.Hill, The Proteins, Academic Press, New York, 1979)。
【0075】
タンパク質またはその改変体は、自然に抽出もしくは合成を通じて(Merrifield, J. Amer. Chem. Soc. 85: 2149-2156, 1963)、またはDNA配列に基づいて遺伝子組み換え法を通じて(Sambrookら, Molecular Cloning, Cold Spring Harbour Laboratory Press, New York, USA, 第2版, 1989)製造され得る。
【0076】
アミノ酸変異は、アミノ酸側鎖の置換基の相対的類似性(例えば、親水性、疎水性、電荷およびサイズなど)に基づいて起こる。アミノ酸側鎖の置換基のサイズ、形状およびタイプの分析によれば、アルギニン、リジンおよびヒスチジンが、正電荷を有する残基であり;アラニン、グリシンおよびセリンが類似のサイズを有し;フェニルアラニン、トリプトファンおよびチロシンが類似の形状を有することは、認められ得る。従って、このような考慮事項に基づけば、アルギニン、リジンおよびヒスチジン;アラニン、グリシンおよびセリン;ならびにフェニルアラニン、トリプトファンおよびチロシンは、生物学的に機能的に等価であるとみなされ得る。
【0077】
1またはこれより多くの変異を導入するにあたって、アミノ酸の疎水性指数が考慮され得る。疎水性指数は、疎水性および電荷に従って各アミノ酸に割り当てられる:イソロイシン(+4.5);バリン(+4.2);ロイシン(+3.8);フェニルアラニン(+2.8);システイン(+2.5);メチオニン(+1.9);アラニン(+1.8);グリシン(-0.4);スレオニン(-0.7);セリン(-0.8);トリプトファン(-0.9);チロシン(-1.3);プロリン(-1.6);ヒスチジン(-3.2);グルタミン酸(-3.5);グルタミン(-3.5);アスパラギン酸(-3.5);アスパラギン(-3.5);リジン(-3.9);およびアルギニン(-4.5)。
【0078】
タンパク質の相互作用的な生物学的機能を割り当てるにあたって、疎水性アミノ酸指数は、非常に重要である。置換が類似の疎水性指数を有するアミノ酸で行われる場合にのみ、類似の生物学的活性化を有することが可能であるということは、周知の事実である。疎水性指数を参照することによって変異を導入するという事象においては、望ましくは±2以内の、より望ましくは±1以内の、およびさらにより望ましくは±0.5以内の疎水性指数の差異を有するアミノ酸の間で置換を実施のこと。
【0079】
一方で、類似の親水性値を有するアミノ酸の間での置換が、等価な生物学的活性化を有するタンパク質を誘導することはまた、周知である。米国特許第4,554,101号に示されるように、以下の親水性値が、アミノ酸残基の各々に割り当てられる:アルギニン(+3.0);リジン(+3.0);アスパラギン酸(+3.0±1);グルタミン酸(+3.0±1);セリン(+0.3);アスパラギン(+0.2);グルタミン(+0.2);グリシン(0);スレオニン(-0.4);プロリン(-0.5±1);アラニン(-0.5);ヒスチジン(-0.5);システイン(-1.0);メチオニン(-1.3);バリン(-1.5);ロイシン(-1.8);イソロイシン(-1.8);チロシン(-2.3);フェニルアラニン(-2.5);トリプトファン(-3.4)。
【0080】
親水性値を参照することによって1またはこれより多くの変異を導入するという事象においては、望ましくは±2以内、より望ましくは±1以内、およびさらにより望ましくは±0.5以内の親水性値の差異を有するアミノ酸の間で置換を実施のこと。
【0081】
全体として分子の活性化を改変しないタンパク質におけるアミノ酸の変化は、対応する分野において知られている(H. Neurath, R.L.Hill, The Proteins, Academic Press, New York, 1979)。最も一般的に起こる変化は、Ala/Ser、Val/Ile、Asp/Glu、Thr/Ser、Ala/Gly、Ala/Thr、Ser/Asn、Ala/Val、Ser/Gly、Thy/Phe、Ala/Pro、Lys/Arg、Asp/Asn、Leu/Ile、Leu/Val、Ala/GluおよびAsp/Glyを非組むアミノ酸残基間のものである。本発明のベクターシステムは、対応する産業において知られる多様な方法を通じて構築され得る。その具体的な方法は、Sambrookら.(2001), Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Pressによって記載されており、この論文は、本明細書のこの陳述において参考文献として特定される。
【0082】
本発明のベクターは、クローニングのためまたは発現のための代表的なベクターとして構築され得る。加えて、本発明のベクターは、宿主細胞として原核生物細胞または真核生物細胞とともに構築され得る。本発明のベクターが組み換えベクターであり、かつ原核生物細胞が宿主として使用される場合、転写の実施のための強力なプロモーター(例えば、tacプロモーター、lacプロモーター、lacUV5プロモーター、1ppプロモーター、pL Xプロモーター、pRXプロモーター、rac5プロモーター、ampプロモーター、recAプロモーター、SP6プロモーター、trpプロモーターおよびT7プロモーターなど)、暗号解読および転写の開始のためのリボソーム結合部位/暗号解読終結配列を含めることは、一般的である。E.coli(例えば、HB101、BL21、DH5aなど)を宿主細胞として使用する場合、E.coliのトリプトファン生合成経路のプロモーターおよびオペレーター部位(Yanofsky, C.(1984), J. Bacteriol., 158: 1018-1024)およびファージXの左側プロモーター(pLXプロモーター、Herskowitz, I. and Hagen, D.(1980), Ann. Rev. Genet., 14: 399-445)は、制御部位として使用され得る。
【0083】
一方で、本発明において使用され得るベクターは、ウイルスベクター、直線状DNAおよびプラスミドDNAから構成される群から選択される1より多くの種であり得る。
【0084】
本発明において「ウイルスベクター」とは、所望の細胞、組織および/または器官に遺伝子または遺伝物質を送達し得るウイルスベクターをいう。
【0085】
ウイルスベクターは、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルス、レトロウイルス、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)、MLV(マウス白血病ウイルス)、ASLV(トリ肉腫/白血病)、SNV(脾臓壊死ウイルス)、RSV(ラウス肉腫ウイルス)、MMTV(マウス乳房腫瘍ウイルス)および単純ヘルペスウイルスから構成される群から選択される1より多くの種を含み得るが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、ウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)、アデノウイルス、レンチウイルス、レトロウイルス、ワクシニアウイルス、または単純ヘルペスウイルスベクターであり得る。
【0086】
レトロウイルスは、宿主細胞のゲノムにとって組み込み機能を有しかつヒトの身体に有害であるが、組み込み時の正常細胞の機能の抑制、ならびに多様な範囲の細胞に感染する能力、増殖が容易である、およそ1~7kbの外部遺伝子を収容する、および複製欠損ウイルスを生成することを含む特徴を有する。しかし、レトロウイルスは、有糸分裂後の細胞に感染させる、インビボ条件下での遺伝子送達、およびインビトロ条件下で体細胞を増殖させる必要があるということにおける困難を含む欠点を有する。加えて、レトロウイルスは、がん原遺伝子へと組み込まれ得る場合に突然変異するというリスクを有し、それによって、細胞壊死の可能性を示す。
【0087】
一方で、アデノウイルスは、中程度のレベルのサイズにある細胞核においても複製する、臨床的に非毒性である、外部遺伝子が挿入された場合にすら安定である、遺伝子の再編成も喪失もない、真核生物細胞の形質転換、および宿主細胞染色体に組み込まれた場合にすら高レベルで安定して発現を受ける、を含むクローニングベクターとして種々の利点を有する。アデノウイルスの良好な宿主細胞は、ヒトにおいて造血性、リンパ性および骨髄腫の原因である細胞である。しかし、アデノウイルスが直線状のDNAであることから増殖は困難であり、ウイルス感染率が低いとともに、感染したウイルスを回収することは容易でない。加えて、送達された遺伝子の発現は、1~2週間の間に最も広範囲にわたり、その細胞のうちのいくらかにおいてのみ、3~4週間にわたって発現が持続する。別の論点は、高い免疫-抗原性を有することである。
【0088】
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、近年好まれてきた。なぜならそれは、前述の問題を補うことができ、遺伝子療法因子として多くの利点を有するからである。アデノ随伴ウイルスはまた、アデノ衛星ウイルスともいわれる。アデノ随伴ウイルス粒子の直径は20nmであり、ヒトの身体にはほぼ害がないことは公知である。よって、欧州では、遺伝子療法因子としてのその販売が認められた。
【0089】
AAVは、複製に補助的ウイルスを必要とする1本鎖を有するプロウイルスであり、AAVゲノムは、4,680bpを有し、感染細胞の第19染色体の特異的領域へと挿入され得る。導入遺伝子は、各145bpを有する2つの逆方向末端反復(ITR)配列部分およびシグナル配列部分によって接続されるプラスミドDNA(plasma DNA)に挿入される。トランスフェクションは、AAV repおよびcap部分を発現する他のプラスミドDNAとともに実施され、アデノウイルスは、補助的ウイルスとして添加される。AAVは、遺伝子を送達する宿主細胞の範囲が広い、反復投与時に免疫学的副作用がほとんどない、および遺伝子発現の期間が長いという利点を有する。さらに、AAVゲノムが宿主細胞の染色体に組み込まれたとしても安全であり、宿主の遺伝子発現を改変も再編成もしない。
【0090】
アデノ随伴ウイルスは、合計で4つの血清型を有することが公知である。標的遺伝子の送達において使用され得る多くのアデノ随伴ウイルスの血清型の中で、最も広く研究されているベクターは、アデノ随伴ウイルス血清型2であり、嚢胞性線維症、血友病およびカナバン病の臨床用の遺伝子送達において現在使用されている。加えて、近年、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)の可能性は、がん遺伝子療法の分野においてますます増している[4]。本発明において使用したのはまた、アデノ随伴ウイルス血清型2であった。適切なウイルスベクターを選択し、適用することは可能であるが、これに限定されない。
【0091】
加えて、本発明のベクターが組み換えベクターであり、宿主として真核生物細胞を使用する場合、哺乳動物細胞のゲノムに由来するプロモーター(例:メタロチオネインプロモーター)または哺乳動物ウイルスに由来するプロモーター(例:ポストアデノウイルスプロモーター、ワクシニアウイルス7.5Kプロモーター、SV40プロモーター、サイトメガロウイルスプロモーターおよびHSV TKプロモーター)が使用され得る。具体的には、それは、レトロウイルスのLTR、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター、MTプロモーター、EF-1アルファプロモーター、UB6プロモーター、ニワトリβ-アクチンプロモーター、CAGプロモーター、RPE65プロモーターおよびオプシンプロモーターから構成される群から選択されるプロモーターから構成される群より選択される1より多くの種を含み得るが、これらに限定されない。さらに、それは、転写終結配列としてポリアデニル化配列を有する。
【0092】
本発明のベクターは、タンパク質の精製をより容易にするために必要とされる場合に、他の配列と融合され得る。その融合される配列(例えば、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(Pharmacia, USA)、マルトース結合タンパク質(NEB, USA)、FLAG(IBI, USA)および6×His(ヘキサヒスチジン;Quiagen, USA)など)が、例えば、使用され得るが、これらに限定されない。加えて、本発明の組み換えベクターは、選択マーカーとして対応する産業において一般に使用される抗生物質(例としては、アンピシリン、ゲンタマイシン、カルベニシリン、クロラムフェニコール、ストレプトマイシン、カナマイシン、ジェネティシン、ネオマイシンおよびテトラサイクリンが挙げられる)に対する耐性遺伝子を含み得る。
【0093】
加えて、本発明は、miR-142の標的配列(例えば、miR-142-3pおよび/またはmiR-142-5p)を含む組換えベクターを含む遺伝子キャリアを提供する。
【0094】
本発明において用語「遺伝子移入」とは、概して、転写および発現のために、細胞に遺伝物質を送達することを含む。その方法は、タンパク質発現および処置目的に理想的である。多様な範囲の送達法(例えば、DNAトランスフェクションおよびウイルス形質導入)が知られる。それは、送達される遺伝子の高い送達効率および高レベルの発現、ならびに必要であれば、自然に優しいことまたは疑似タイプ化を通じて、特異的レセプターおよび/または細胞タイプを標的化する可能性に起因するウイルス媒介性遺伝子移入を表す。
【0095】
遺伝子キャリアは、本発明の組換えベクターへと形質転換されている、形質転換された実体であり得、形質転換は、核酸を有機的な実体、細胞、組織、または器官へと導入する全ての方法を包含し、対応する分野において知られるように、宿主細胞に従って、適切な標準的技術を選択および実施することが可能である。このような方法としては、エレクトロポレーション、原形質の融合、リン酸カルシウム(CaPO4)沈殿、塩化カルシウム(CaCl2)沈殿、炭化ケイ素線維の使用との混合、アグロバクテリウム媒介性形質転換、PEG、硫酸デキストランおよびリポフェクタミンなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0096】
遺伝子キャリアは、ニューロンにおける異種遺伝子の発現の目的のためである。よって、上記キャリアは、CD45由来細胞において異種遺伝子の発現を抑制し、脳組織において異種遺伝子の発現を増大し得る。CD45のうちの大部分には、造血細胞に位置する膜貫通プロテイントリシンホスファターゼがある。細胞は、細胞表面上に位置する上記分子に従って定義され得、CD45は、全ての白血球群およびBリンパ球の細胞マーカーである。本発明の遺伝子キャリアは、CD45由来細胞、特に、リンパ球および白血球範囲の細胞において発現されなくてもよい。
【0097】
遺伝子キャリアはさらに、薬理学的に使用されることが許容されるキャリア、賦形剤または希釈剤を含み得る。
【0098】
加えて、本発明は、組換えベクターを対応する実体に導入する段階を含む、ニューロンにおいて異種遺伝子を送達および発現する方法を提供する。
【0099】
上記方法は、大脳組織において異種遺伝子の発現を増大させ得、他の組織において異種遺伝子発現を制御し得る。
【0100】
加えて、本発明は、1)プロモーター;2)作動を可能にするプロモーターと連結された、標的タンパク質をコードする塩基配列;および3)上記塩基配列の3’UTRに挿入された、miR-142-3pを標的化する塩基配列を含む発現カセット、を提供する。本発明は、1)プロモーター;2)作動を可能にするプロモーターと連結された、標的タンパク質をコードする塩基配列;および3)上記塩基配列の3’UTRに挿入された、miR-142-5pを標的化する塩基配列を含む発現カセット、を提供する。
【0101】
本発明において用語「発現カセット」とは、標的タンパク質をコードする遺伝子、ならびにプロモーターおよびシグナルペプチドをコードする塩基配列を含むことから、シグナルペプチドの下流で作動可能に連結された標的タンパク質の生成および分泌のために発現を実施し得る単位カセットに言及し得る。本発明の分泌発現カセットは、分泌システムと混合して使用され得る。標的タンパク質の効率的生成を補助し得る多様な範囲の因子が、このような発現カセットの中および外に含まれ得る。
【0102】
加えて、本発明は、エキソン2の喪失を伴うAIMP-2スプライス改変体をコードする塩基配列および上記塩基配列の3’UTRに連結されたmiR-142-3pを標的化する塩基配列を含む、神経変性疾患のための防止的または治療的調製物を提供する。
【0103】
よって、必要性のある被験体において神経疾患を処置する方法がまた、本明細書で開示され、上記方法は、本明細書で開示されるベクターのうちのいずれかを投与する工程を包含する。上記神経変性疾患は、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、網膜変性、軽度認知障害、多発梗塞性認知症、前頭側頭葉型認知症、レビー小体型認知症、ハンチントン病、神経変性疾患、代謝性脳障害、鬱病、てんかん、多発性硬化症、大脳皮質基底核変性症、多系統萎縮症、進行性核上性麻痺、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症、脊髄小脳失調症、原発性側索硬化症、脊髄性筋萎縮症および脳卒中から構成される群から選択される1より多くの疾患であり得るが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、上記神経疾患は、ALSである。上記処置は、記憶、ジスキネジア、運動活動を改善し得る、および/または神経疾患(例えば、ALS、アルツハイマー病、またはパーキンソン病)を有する被験体の寿命を延ばし得る。いくつかの実施形態において、上記処置は、運動活動を改善し得る、および/または神経疾患(例えば、ALS)を有する被験体の寿命を延ばし得る。
【0104】
本明細書で開示されるベクターは、アポトーシス阻害、ジスキネジア改善、および/または酸化的ストレス阻害をもたらし得るが、これらに限定されず、従って、神経疾患を防止または処置し得る。
【0105】
本発明において用語「処置」とは、脳変性障害を有する実体に、本発明に従う薬理学的因子を適用する結果として、神経変性疾患の完全な処置のみならず、神経変性疾患の全体的な症状における部分的な処置、改善および低減をも含む。
【0106】
本発明において用語「防止」とは、脳変性障害を有する実体に、本発明に従う薬理学的因子を適用することによって、認知障害、行動障害および脳神経の破壊のような症状または現象を抑制または遮断することによって、神経変性疾患の全体的な症状の発生を予め防止することを表す。
【0107】
活性成分以外のアジュバントは、本発明に従う薬理学的因子に加えて含まれ得る。任意のアジュバントが、対応する技術分野において公知である限りにおいて、制限なく使用され得るが、例えば、フロイントの完全アジュバントおよび不完全アジュバントをさらに含めることによって、免疫性を増大させることは可能である。
【0108】
本発明に従う薬理学的因子は、活性成分と薬理学的に許容されるキャリアとを混合させた形態において製造され得る。ここで、薬理学的に許容されるキャリアは、薬理学の分野において一般に使用されるキャリア、賦形剤および希釈剤を含む。本発明に従う薬理学的因子に使用され得る薬理学的に許容されるキャリアとしては、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、デンプン、アカシアガム、アルギネート、ゼラチン、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、セルロース、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、ステアリン酸マグネシウムおよびミネラルオイルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0109】
本発明に従う薬理学的因子は、散剤、粒剤、丸剤、カプセル剤、懸濁液剤、エマルジョン、シロップ剤およびエアロゾールなどのような経口投与タイプ、ならびに外用、坐剤薬または消毒注射液剤などを含む種々の形式において、それらそれぞれの一般的製造法に従って製造されることによって、使用され得る。
【0110】
調製物へと製造される場合、一般に使用される希釈剤または賦形剤(例えば、充填剤、増量剤、結合剤、保湿剤、崩壊剤および界面活性剤など)は、製造時に使用され得る。経口投与のための固体調製物としては、丸剤、錠剤、散剤、粒剤およびカプセル剤の調製物が挙げられ、このような固体調製物は、1種より多くの賦形剤(例えば、デンプン、炭酸カルシウム、スクロース、ラクトースおよびゼラチン)と活性成分とを混合することによって製造され得る。加えて、滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウムおよびタルク)はまた、単純な賦形剤に加えて使用され得る。経口投与のための液体製剤としては、懸濁液剤、内服用の液剤、オイルおよびシロップ剤などが挙げられ、一般に称される希釈剤である水および流動パラフィン以外に、種々の賦形剤(例えば、保湿剤、甘味剤、矯味矯臭剤および保存剤など)が含まれる。非経口投与のための調製物としては、滅菌済み水性液剤、非水性溶媒、懸濁剤、オイル、凍結乾燥剤および坐剤が挙げられる。植物性オイル(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールおよびオリーブ油)、および注射用エステル(例えば、エチラート)は、非水性溶媒および懸濁液剤として使用され得る。坐剤用の薬剤としては、ウイテプソール、tween 61、カカオ脂、ラウリン油およびグリセロゼラチンなどが挙げられ得る。
【0111】
本発明に従う薬理学的因子は、多様化したチャネルを通じて実体に投与され得る。経口投与、ならびに静脈内注射、筋肉注射、皮下注射および腹腔内注射のような投与の全ての形態が、認識され得る。
【0112】
本発明に従う治療剤の投与の望ましい用量は、調製物の生成法、投与形式、患者の年齢、体重および性別、疾患の症状の程度、食べ物、投与期間、投与経路、排出速度および反応感度などを含む種々の要因に依存して異なる。にも関わらず、それは、対応する製造業者によって適切に選択され得る。
【0113】
しかし、処置効果に関して、熟練の医師は、標的化処置のために有効用量を決定および処方し得る。例えば、処置薬剤は、静脈内注射、皮下注射および筋肉注射、ならびにマイクロニードルを使用することによる脳室または脊髄への直接注射を含む。多数回の注射および反復投与が可能であり、例えば、その有効用量は、ベクターの場合には、0.05~15mg/kgであり、組換えウイルスの場合には、5×1011~3.3×1014 ウイルス粒子(2.5×1012~1.5×1016 IU)/kgであり、細胞の場合には、5×102~5×107 細胞/kgである。望ましくは、上記用量は、1週間に2~3回の投与の割合において、ベクターの場合には、0.1~10mg/kgであり、組換えウイルスの場合には、5×1012~3.3×1013 粒子(2.5×1013~1.5×1015 IU)/kgであり、細胞の場合には、5×103~5×106 細胞/kgである。上記用量は、厳密には制限されない。むしろ、それは、患者の状態および神経障害の出現の程度に従って、改変され得る。他の皮下脂肪および筋肉注射、ならびに罹患した領域への直接投与のための有効用量は、10cmの間隔を空けて1週間に2~3回の割合において、9×1010~3.3×1014 組換えウイルス粒子である。上記用量は、厳密には制限されない。むしろ、それは、患者の状態および神経障害の出現の程度に従って、改変され得る。より具体的には、本発明に従う薬理学的因子は、1×1010~1×1012 vg(ウイルスゲノム)/mLの組換えアデノ随伴ウイルスを含み、一般には、1×1012 vgを2日ごとに1回、2週間にわたって注射することが推奨される。上記薬理学的因子は、1日に1回、またはその1日を通じて数回の投与のために用量を分割することによって投与され得る。
【0114】
薬学的調製物は、多様な範囲の経口投与および非経口投与が可能な形式において生成され得る。いくつかの実施形態において、本明細書で開示されるベクターは、脳または脊髄に投与され得る。いくつかの実施形態において、本明細書で開示されるベクターは、定位固定注射によって脳に投与され得る。
【0115】
経口管理薬剤としては、丸剤、錠剤、硬質および軟質のカプセル剤、液体、懸濁液剤、オイル、シロップ剤および粒剤などが挙げられる。これらの薬剤は、活性成分に加えて、希釈剤(例:ラクトース、デキストロース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、セルロースおよび/またはグリシン)および滑剤(例:シリカ、タルク、ならびにステアリン酸およびそのマグネシウム塩またはカルシウム塩、ならびに/またはポリエチレングリコール)を含み得る。加えて、丸剤は、結合剤(例えば、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、デンプンペースト、ゼラチン、トラガカント、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムおよび/またはポリビニルピロリドン)を含み得、状況に応じて、崩壊剤(例えば、デンプン、アガー、アルギン酸もしくはそのナトリウム塩または類似の混合物)、ならびに/または吸収剤、着色剤、矯味矯臭剤、および甘味料を含み得る。上記薬剤は、一般的な混合、造粒またはコーティング法によって製造され得る。
【0116】
加えて、注射用薬剤は、非経口投与調製物の代表的な形態である。このような注射用薬剤のための溶媒としては、水、リンゲル液、等張性生理食塩水および懸濁物が挙げられる。上記注射用薬剤の滅菌した不揮発性油は、溶媒または懸濁媒体として使用され得、モノグリセリドおよびジグリセリドを含む任意の非刺激性不揮発性油は、このような目的で使用され得る。加えて、上記注射用薬剤は、脂肪酸(例えば、オレイン酸)を使用し得る。
【0117】
さらなる実施形態A~Xが続く。
【0118】
A. miR-142-3p標的化配列を含む、組換えベクター。
【0119】
B. 実施形態Aに関して、前記miR-142-3pは、塩基配列番号3で示される、組換えベクター。
【0120】
C. 実施形態Aに関して、前記miR-142-3p標的化配列は、miR-142-3p配列と相補的に結合する配列である、組換えベクター。
【0121】
D. 実施形態Aに関して、前記miR-142-3p標的化配列は、塩基配列番号4で示される、組換えベクター。
【0122】
E. 実施形態Aに関して、前記miR-142-3p標的化配列は、塩基配列番号5で示される、組換えベクター。
【0123】
F. 実施形態Aに関して、前記標的化されるmiR-142-3pは、塩基配列番号4で示され、90%より高い相同性を有する塩基配列で示される、組換えベクター。
【0124】
G. 実施形態Aに関して、前記標的化されるmiR-142-3pは、塩基配列番号5で示され、90%より高い相同性を有する塩基配列で示される、組換えベクター。
【0125】
H. 実施形態Aに関して、前記組換えベクターは、異種プロモーターおよびプロモーターに作動可能に連結された異種遺伝子をさらに含む、組換えベクター。
【0126】
I. 実施形態Hに関して、miR-142-3p標的化配列は、前記異種遺伝子の3’ UTRに挿入されている、組換えベクター。
【0127】
J. 実施形態Hに関して、前記異種遺伝子は、エキソン2の欠失を伴うAIMP2改変体である、組換えベクター。
【0128】
K. 実施形態Hに関して、前記異種プロモーターは、レトロウイルス(LTR)プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター、MTプロモーター、EF-1アルファプロモーター、UB6プロモーター、ニワトリβ-アクチンプロモーター、CAGプロモーター、RPE65プロモーターおよびオプシンプロモーターからなる群より選択されている、組換えベクター。
【0129】
L. 実施形態Aに関して、前記組換えベクターは、ウイルスベクター、直線状のDNAおよびプラスミドDNAからなる群より選択される1より多くのタイプである、組換えベクター。
【0130】
M. 実施形態Lに関して、前記ウイルスベクターは、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルス、レトロウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、MLV(マウス白血病ウイルス)、ASLV(トリ肉腫/白血病)、SNV(脾臓壊死ウイルス)、RSV(ラウス肉腫ウイルス)、MMTV(マウス乳房腫瘍ウイルス)および単純ヘルペスウイルスからなる群より選択される1より多くの種に由来するベクターである、組換えベクター。
【0131】
N. 実施形態Aに関して、前記組換えベクターは、配列番号7で示される塩基配列を含む、組換えベクター。
【0132】
O. miR-142-3pの標的配列を含む組換えベクターを含む、遺伝子キャリア。
【0133】
P. 実施形態Oに関して、前記遺伝子キャリアは、ニューロンにおいて異種遺伝子を発現する、遺伝子キャリア。
【0134】
Q. 実施形態Oに関して、前記遺伝子キャリアは、CD45由来細胞において異種遺伝子の発現を抑制する、遺伝子キャリア。
【0135】
R. 実施形態Oに関して、前記遺伝子キャリアは、脳組織において異種遺伝子の発現を増大させる、遺伝子キャリア。
【0136】
S. 異種遺伝子をニューロンに送達し、ニューロンにおいて発現させる方法であって、前記方法は、前記実施形態Aに記載の組換えベクターを実体に投与する段階を包含する方法。
【0137】
T. 実施形態Sに関して、異種遺伝子の発現を増大させ、他の組織において異種遺伝子の発現を制御する方法。
【0138】
U. 以下:
1)プロモーター;
2)プロモーターに作動可能に連結された標的タンパク質をコードする塩基配列;および
3)前記塩基配列の3’UTRに挿入されたmiR-142-3p標的塩基配列を含む発現カセット、
を含む実施形態。
【0139】
V. 実施形態Uに関して、前記標的タンパク質は、エキソン2を欠失させたAIMP-2改変体タンパク質である、発現カセット。
【0140】
W. エキソン2を欠失させたAIMP-2改変体をコードする塩基配列を有する、前記塩基配列の3’UTRに挿入されたmiR-142-3p標的塩基配列を含む、神経変性疾患のための防止的または処置的調製物。
【0141】
X. 実施形態Wに関して、前記神経変性疾患は、アルツハイマー病、パーキンソン病、ルー・ゲーリック病(筋萎縮性側索硬化症)、網膜変性、軽度認知障害、多発梗塞性認知症、前頭側頭葉型認知症、レビー小体型認知症、ハンチントン病、神経変性疾患、代謝性脳障害、鬱病、てんかん、多発性硬化症、大脳皮質基底核変性症、多系統萎縮症、進行性核上性麻痺、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症、脊髄小脳失調症、原発性側索硬化症、脊髄性筋萎縮症および脳卒中からなる群より選択されるが、これらに限定されない1またはこれより多くの疾患である。
【0142】
本発明は、以下の実施例を使用することによってより詳細に説明される。しかし、以下の実施例は、本発明の概念を特定する目的に過ぎず、本発明の適用をそのような例に限定しない。
【実施例】
【0143】
実施例1. 組換えベクターの生成
CD45の大部分は、造血細胞の膜貫通プロテインチロシンホスファターゼであり、これは、細胞表面上の上記分子に従って上記細胞を定義するために使用され得る。CD45は、全ての白血球群およびBリンパ球のマーカーである。本発明者らは、CD45由来細胞、特に、リンパ球および白血球範囲の細胞において発現されることなく、ニューロンにおいてのみ特異的に発現される組換えベクターを生成した。その組換えベクターは、アミノアシルtRNAシンセターゼ複合体相互作用多機能タンパク質2(AIMP2)のエキソン2が欠失しているスプライス改変体を含み、AIMP2スプライス改変体の発現を制御し得るmiRNAを挿入することによる。
【0144】
AIMP2のスプライシングを実施したことによって、腫瘍のシグナル伝達と関連するTRAF2(TNFレセプター関連因子2)を分解する機能を有しないAIMP2スプライス改変体が、TRAF2との結合においてAIMP2と競合することによって、AIMP2の機能を妨げることから、AIMP2スプライス改変体は、AIMP2の腫瘍の抑制作用に干渉することによって、腫瘍において過剰発現されることが確認された。
【0145】
従って、本発明の組換えベクターを、ニューロンにおいてのみAIMP2スプライス改変体の特異的発現を誘導し、腫瘍においてAIMP2スプライス改変体の発現を抑制するために、上記のように生成した。
【0146】
1-1. AIMP2改変体の生成
【0147】
AIMP2は、アミノアシル-tRNAシンセターゼ(ARSs)の形成に関与するタンパク質のうちの1つであり、腫瘍抑制因子として作用する。AIMP2のエキソン2が欠失している改変体を発現するプラスミドを構築するために、AIMP2スプライス改変体のcDNAを、pcDNA3.1-mycでクローニングした。EcoR 1およびXho 1リンカーをH322 cDNAに結合したプライマーを使用することによってAIMP2スプライス改変体を増幅した後に、pcDNA3.1-mycにおけるサブクローニングを、EcoRlおよびXho 1を使用することによって実施した。
【0148】
本発明のAIMP2改変体は、配列番号1のヌクレオチド配列および配列番号2のアミノ酸配列を有する。
【0149】
1-2. miRNAのソートおよびその標的配列の選択
【0150】
上述のように、本発明のAIMP2改変体が腫瘍において過剰発現されることを確認した。よって、AIMP2改変体発現を制御し得る、miRNAおよびその標的を、白血球およびリンパ系関連細胞においてAIMP2改変体の発現を抑制するが、同時にニューロン(標的細胞)において安全に発現されるように選択した。
【0151】
この目的のために、白血球およびリンパ系関連細胞を生じる造血細胞においてのみ特異的に発現されるmiR-142-3pを、標的として選択した。miR-142-3pのみを標的化する配列を生成するために、マウスB細胞のマイクロアレイデータおよびmiR-142-3pによって標的化される遺伝子のコンピュータープログラミング(mirSVR score)を使用した。上記miR-142-3pは、配列番号3で示される塩基配列である。miR-142-3pを標的化する配列を、miR-142-3pと相補的に結合する塩基配列番号4で示した。MiR-142-3p標的配列は、配列番号5のヌクレオチド配列を有し得る。
【0152】
本発明のmiR-142-3p標的配列は、クローニングのための制限酵素(Nhe 1およびHind III、Bmt 1)部位配列(ccagaagcttgctagc)および制限酵素(Hind H)部位配列(aagcttgtag)を含む。それは、配列番号5のヌクレオチド配列が、これらを接続するリンカー(tcacおよびgatatc)とともに4回反復されているものを含む(
図4; 配列番号6)。
【0153】
1-3. 組換えベクターの生成
【0154】
本発明の組換えベクターを生成するために、miR-142-3p標的配列(配列番号5)を、本発明のAIMP2改変体(配列番号1)の3’UTRに挿入した。AIMP-2改変体およびmiR-142-3p標的配列の接続は、塩基配列番号6で示され、具体的には、NheIおよびHindIII部位を使用することによって切断および挿入された。組換えベクターは、
図1に示される。
【0155】
実施例2. 組換えベクターの神経細胞特異的発現の確認
2-1. インビトロ条件下でのニューロン特異的発現効果の確認
【0156】
miR142-3pは、造血細胞においてのみ特異的に発現されることから、AIMP2改変体の発現の程度を、本発明の組換えベクターのmiR142-3p標的配列の発現に従って、本発明のAIMP2改変体のノックダウンに従う特異的細胞において確認した。
【0157】
具体的には、本発明の組換えベクターの処理なしの群(偽)、空/コントロールベクター処理群(NCベクター)、単一のAIMP2改変体ベクター処理群(pscAAV_DX2)および本発明の組換えベクター(pscAAV-DX2-miR142-3pT)で処理した群が存在した。全ベクターの濃度は、μg/μlの単位にあり、各群は、2.5μl(2.5μg)で処理した。処理群の各々において、処理を、AIMP2改変体のノックダウンを確認して、THP-1細胞株(ヒト白血球単球細胞)およびSH-SY5Y細胞株(神経芽腫)に対して行った。qPCRを、以下の表1中のプライマーを使用することによって実施した(変性 15秒、ならびに30秒間、60℃の温度下で40サイクルにわたってアニーリングおよび伸長)。
【0158】
結果として、AIMP2改変体が、偽およびNCベクター群において発現されないことを確認うぃた。加えて、単一のAIMP2改変体ベクター処理群(pscAAV-DX2)のTHP-1細胞株およびSH-SY5Y細胞株の両方における発現が存在することを確認し、それによって神経細胞特異的発現が誘導されないことを確認した。他方で、AIMP2改変体が、本発明の組換えベクターで処理した群において、SH-SY5Y細胞株においてのみ特異的に発現されることを確認した(
図2)。
【表1】
【0159】
2-2. インビボ条件下での神経細胞特異的発現効果の確認
【0160】
具体的には、空/コントロールベクター処置群(NCべくテアー)、単一のAIMP2改変体ベクター処置群(pscAAV-DX2)および本発明の組換えベクター(pscAAV-DX2-miR142-3pT)で処置した群が存在した。108 vg/μlの濃度を有するウイルスの各々10μl(109 vg)での実質内処置を行った。処置群の各々のマウスへの頭蓋内注射後、1週間後に、大腸組織、肺組織、大脳組織、肝臓組織、腎臓組織、胸腺組織、脾臓組織および末梢血単核細胞(PBMC)においてAIMP2の発現を確認した。qPCRを、以下の表1中のプライマーを使用することによって実施した(変性 15秒間、ならびに30秒間、60℃の温度下で40サイクルにわたってアニーリングおよび伸長)。
【0161】
結果として、AIMP2改変体の発現は、脳組織においてのみ特異的に増大し、本発明の組換えベクターで処置した群においてニューロンに非常に集中することを確認した(
図3)。他方で、AIMP2改変体の発現は、脳組織以外の組織において妨げられることを確認した。
【0162】
実施例3. 材料および方法
3-1. qRT-PCR
【0163】
全RNAを、脊髄から、TRIzol(Invitrogen, Waltham, MA, USA)を使用して、製造業者のプロトコールに従って単離した。抽出したRNAを、定量のための分光光度計(ASP-2680, ACTgene, USA)によって定量した。cDNAを作製するために、SuperScript III First-Strand(Invitrogen)を使用して、製造業者のプロトコールによって逆転写を行った。得られたcDNAを、SYBRグリーンPCRマスターミックス(ThermoFisher Scientific, USA)を使用してリアルタイムPCRに使用した。複製した結果の発現データを、2-ΔΔCt統計分析に使用し、GADPH発現を正規化に使用した。
【0164】
3-2. 動物
【0165】
この研究において使用するhSOD1 G93Aトランスジェニックマウス(B6.Cg-Tg(SOD1*G93A)1Gur/J)を、the Jackson Laboratories(Bar Harbor, ME, USA)から購入した。年齢を合わせたWTコントロールマウスもまた使用した。動物を、Seoul National University(Republic of Korea)の動物施設において、特定病原体のない条件および一定の環境条件(21~23℃ 温度、50~60% 湿度および12時間明/暗サイクル)の下で個々のケージの中で飼育した。全ての実験手順を、Seoul National University動物実験委員会(SNUIACUC, 2017年8月7日)のガイドラインに従って行い、この研究は、本発明者らの地元の倫理委員会「SNUIACUC」によって承認された(承認番号SNU-170807-1)。発症前段階において、同じ年齢の雌性マウスに、AAV-GFPおよびDX2ベクターを投与した。AAV-DX2形質導入を、直接腰椎穿刺によって髄腔内注射した。Hamiltonシリンジ(Hamilton, Switzerland)を用いて合計8μl(4μl/点)のAAV-GFPまたはDX2ベクターを2点においてゆっくりと注射した(1μl/分)。一方で、注射したベクターの喪失を防止するために、針をゆっくりと抜いた。
【0166】
3-3. miR142-3p阻害実験
【0167】
DX2発現に対するmiR-142-3p阻害は、×1 miR-142-3p標的配列から観察できた。HEK293細胞を、×1、×2、および×3反復miR-142-3p標的配列ベクターで、ならびにリポフェクタミン2000(Invitrogen, US)を使用して100pmol miR-142-3pでも一過性にトランスフェクトし、次いで、48時間インキュベートした。DX2 mRNAの量をPCRによって分析した。DX2発現に対するmiR142-3p阻害を、Tseq ×1反復miR142-3p標的配列から観察した(
図5B)。
【0168】
実施例4.
4-1. コア結合配列の阻害効果のために生成した3タイプのベクター
【0169】
Tseq ×1は、1つのコア結合配列を含み、Tseq ×2は、2つのコア結合配列を含み、Tseq ×3は、3つのコア結合配列を含む(
図5A)。
【0170】
DX2発現に対するmiR142-3p(100pmol)阻害は、×1 反復miR142-3p標的配列から観察され始めた。HEK293細胞を、×1、×2、および×3 反復miR-142-3p T seqベクターで、ならびにリポフェクタミン2000(Invitrogen, US)を使用して100pmol miR-142-3pでも一過性にトランスフェクトし、次いで、48時間インキュベートした。DX2 mRNAの量をPCRによって分析した。miR142-3p標的配列中のコア結合配列の数が増大されると、DX2発現に対するmiR142-3p阻害はまた、増大した。Tseq ×3 コア配列含有ベクターは、有意な阻害を示した(
図5B)。
【0171】
4-2. コア配列変異
【0172】
マウスB細胞マイクロアレイデータおよびmiR-142-3p標的遺伝子のmirSVRスコアを使用して、コア配列を推定した。コア配列の4つの領域を、以下のとおりに置換した: (5’-AACACTAC-3’ → 5’-CCACTGCA-3’)(元の配列については
図4を、および模式図については
図5Aを参照のこと)。
【0173】
4-3. コア結合配列は、重要なDX2阻害である
【0174】
4つのコア配列を置換した(
図5A)。HEK293細胞を、DX2-miR-142-3p T seq ×3 反復ベクター(Tseq3×)で、またはコア配列変異ベクター(mut)で、およびリポフェクタミン2000(Invitrogen, US)を使用することによって100pmol miR-142-3pでも一過性にトランスフェクトし、次いで、48時間インキュベートした。DX2 mRNAの発現をPCRによって分析した。DX2の有意な阻害を示したTseq ×3反復ベクター(
図5B)およびDX2構築物を、コントロールとして使用した。100pmolのmiR142-3p処置は、Tseq ×3ベクターを有意に阻害したが、DX2およびmut配列は、阻害されなかった(
図6)。
【0175】
4-4. ALSマウスモデルにおける組織分布データ
【0176】
脊髄由来の全RNAを、scAAV2-DX2-miR142-3pの髄腔内投与後に抽出した。qRT-PCRを行った。DX2発現は、局所的な注射部位である脊髄においてのみ制限されるべきである。hSOD1 G93Aトランスジェニックマウスにおいて、scAAV-DX2 miR142-3pは、髄腔内投与で発現した。コントロールビヒクル注射は、脊髄においてのみの発現を示したが、脳でも坐骨神経でも発現を示さなかった(
図7)。
【0177】
実施例5.
実施例2において、HEK293T細胞を、組換えAAV2粒子を生成するために必要な構成要素の全てをコードするOxgene(UK)の3種のプラスミドで共トランスフェクトした。
【0178】
HEK293T細胞をまた、組み換えベクターとしておよびAAV粒子を生成するためではない、AIMP2-DX2またはDX2-miR142標的ヌクレオチドの挿入を伴うpSF-AAV-ITR-CMV-EGFP-ITR-KanR(Oxgene, UK)のみでトランスフェクトした。
【0179】
DX2コードベクター(2μg)およびDX2-miR142標的配列コードベクター(2μg)を、THP-1細胞(ヒト単球、CD45+ 細胞)およびSH-SY5Y(ニューロン細胞)へとトランスフェクトした。48時間後、細胞を採取し、mRNAを単離した。合成したcDNAを用いて、DX2の発現をリアルタイムPCRによって分析した。
【0180】
DX2発現レベルは、SH-SY5Yをトランスフェクトした、DX2コードベクターとDX2-miR142標的配列コードベクターとの間で類似であったのに対して、DX2発現は、THP-1をトランスフェクトしたDX2-miR142標的配列コードベクターにおいて劇的に減少した。従って、miR142-3pは、THP-1細胞においてのみ機能した(
図8)。
【0181】
具体的実施形態の前述の説明は、本発明の一般的概念から逸脱することなく、他者が当該分野の技術の範囲内の知識を適用することによって、種々の適用のために容易に改変および/または適合させ得る本発明の包括的な性質を非常に十分に明らかにする。従って、このような適合および改変は、本明細書で示される教示およびガイダンスに基づいて、開示される実施形態の意味および均等の範囲内にあることが意図される。本明細書の用語法または語法が教示およびガイダンスに鑑みて、当業者によって解釈されるべきであるように、本明細書中の語法および用語法は説明目的であって限定目的ではないことは、理解されるべきである。
【0182】
本発明の広さおよび範囲は、上記の例示的実施形態のうちのいずれかによって限定されるべきであるのではなく、以下の請求項およびそれらの均等物に従ってのみ規定されるべきである。
【0183】
本明細書で記載される種々の局面、実施形態、および選択肢の全ては、任意のおよび全てのバリエーションにおいて組み合わされ得る。
【0184】
本明細書で言及される全ての刊行物、特許、および特許出願は、各個々の刊行物、特許、および特許出願が参考として援用されることが具体的にかつ個々に示されるのと同程度まで、本明細書に参考として援用される。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2021-06-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エキソン2欠失AIMP2改変体(AIMP2-DX2)遺伝子およびmiR-142標的核酸を含む、組換えベクター。
【請求項2】
前記AIMP2-DX2に作動可能に連結されたプロモーターをさらに含む、請求項1に記載のベクター。
【請求項3】
前記プロモーターは、レトロウイルス(LTR)プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター、MTプロモーター、EF-1アルファプロモーター、UB6プロモーター、ニワトリβ-アクチンプロモーター、CAGプロモーター、RPE65プロモーターまたはオプシンプロモーターである、請求項2に記載のベクター。
【請求項4】
前記miR-142標的核酸は、前記AIMP2-DX2遺伝子に対して3’側にある、請求項1~3のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項5】
前記AIMP2-DX2遺伝子は、配列番号2と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項6】
前記AIMP2-DX2遺伝子は、配列番号2のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を有する、請求項5に記載のベクター。
【請求項7】
前記AIMP2-DX2遺伝子は、配列番号1のヌクレオチド配列と少なくとも90%同一であるヌクレオチド配列を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項8】
前記AIMP2-DX2遺伝子は、配列番号1のヌクレオチド配列を有する、請求項7に記載のベクター。
【請求項9】
前記miR-142標的核酸は、ACACTAを含むヌクレオチド配列を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項10】
前記miR-142標的核酸は、ACACTAおよび配列番号5の1~17個のさらなる連続するヌクレオチドを含むヌクレオチド配列を含む、請求項9に記載のベクター。
【請求項11】
前記miR-142標的核酸は、配列番号5のヌクレオチド配列(TCCATAAAGTAGGAAACACTACA)と少なくとも50%同一のヌクレオチド配列を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項12】
前記miR-142標的核酸は、配列番号5のヌクレオチド配列を含む、請求項11に記載のベクター。
【請求項13】
前記miR-142標的核酸は、ACTTTAを含むヌクレオチド配列を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項14】
前記miR-142標的核酸は、ACTTTAおよび配列番号7の1~15個のさらなる連続するヌクレオチドを含むヌクレオチド配列を含む、請求項13に記載のベクター。
【請求項15】
前記miR-142標的核酸は、配列番号7のヌクレオチド配列(AGTAGTGCTTTCTACTTTATG)と少なくとも50%同一のヌクレオチド配列を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項16】
前記miR-142標的核酸は、配列番号7のヌクレオチド配列を含む、請求項15に記載のベクター。
【請求項17】
前記miR-142標的核酸は、2~10回反復される、請求項1~16のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項18】
前記ベクターは、ウイルスベクターである、請求項1~17のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項19】
前記ウイルスベクターは、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルス、レトロウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、MLV(マウス白血病ウイルス)、ASLV(トリ肉腫/白血病)、SNV(脾臓壊死ウイルス)、RSV(ラウス肉腫ウイルス)、MMTV(マウス乳房腫瘍ウイルス)、または単純ヘルペスウイルスベクターである、請求項18に記載のベクター。
【請求項20】
前記ウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)、アデノウイルス、レンチウイルス、レトロウイルス、ワクシニアウイルス、または単純ヘルペスウイルスベクターである、請求項18に記載のベクター。
【請求項21】
神経疾患の処置の必要性のある被験体において神経疾患を処置する
ための組成物であって、
請求項1~20のいずれか1項に記載のベクター
を含む、
組成物。
【請求項22】
前記神経疾患は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、アルツハイマー病、パーキンソン病、網膜変性、軽度認知障害、多発梗塞性認知症、前頭側頭葉型認知症、レビー小体型認知症、ハンチントン病、神経変性疾患、代謝性脳障害、鬱病、てんかん、多発性硬化症、大脳皮質基底核変性症、多系統萎縮症、進行性核上性麻痺、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症、脊髄小脳失調症、原発性側索硬化症、脊髄性筋萎縮症、または脳卒中である、請求項21に記載の
組成物。
【請求項23】
前記神経疾患は、ALSである、請求項22に記載の
組成物。
【請求項24】
前記
組成物は、運動活動を改善するか、または前記被験体の寿命を延ばす、請求項23に記載の
組成物。
【請求項25】
前記
組成物は、脳または脊髄に投与される、請求項21~24のいずれかに記載の
組成物。
【請求項26】
前記
組成物は、定位固定注射によって脳に投与される、請求項25に記載の
組成物。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0184
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0184】
本明細書で言及される全ての刊行物、特許、および特許出願は、各個々の刊行物、特許、および特許出願が参考として援用されることが具体的にかつ個々に示されるのと同程度まで、本明細書に参考として援用される。
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
エキソン2欠失AIMP2改変体(AIMP2-DX2)遺伝子およびmiR-142標的核酸を含む、組換えベクター。
(項目2)
前記AIMP2-DX2に作動可能に連結されたプロモーターをさらに含む、項目1に記載のベクター。
(項目3)
前記プロモーターは、レトロウイルス(LTR)プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター、MTプロモーター、EF-1アルファプロモーター、UB6プロモーター、ニワトリβ-アクチンプロモーター、CAGプロモーター、RPE65プロモーターまたはオプシンプロモーターである、項目2に記載のベクター。
(項目4)
前記miR-142標的核酸は、前記AIMP2-DX2遺伝子に対して3’側にある、項目1~3のいずれか1項に記載のベクター。
(項目5)
前記AIMP2-DX2遺伝子は、配列番号2と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を有する、項目1~4のいずれか1項に記載のベクター。
(項目6)
前記AIMP2-DX2遺伝子は、配列番号2のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を有する、項目5に記載のベクター。
(項目7)
前記AIMP2-DX2遺伝子は、配列番号1のヌクレオチド配列と少なくとも90%同一であるヌクレオチド配列を有する、項目1~4のいずれか1項に記載のベクター。
(項目8)
前記AIMP2-DX2遺伝子は、配列番号1のヌクレオチド配列を有する、項目7に記載のベクター。
(項目9)
前記miR-142標的核酸は、ACACTAを含むヌクレオチド配列を含む、項目1~8のいずれか1項に記載のベクター。
(項目10)
前記miR-142標的核酸は、ACACTAおよび配列番号5の1~17個のさらなる連続するヌクレオチドを含むヌクレオチド配列を含む、項目9に記載のベクター。
(項目11)
前記miR-142標的核酸は、配列番号5のヌクレオチド配列(TCCATAAAGTAGGAAACACTACA)と少なくとも50%同一のヌクレオチド配列を含む、項目1~8のいずれか1項に記載のベクター。
(項目12)
前記miR-142標的核酸は、配列番号5のヌクレオチド配列を含む、項目11に記載のベクター。
(項目13)
前記miR-142標的核酸は、ACTTTAを含むヌクレオチド配列を含む、項目1~8のいずれか1項に記載のベクター。
(項目14)
前記miR-142標的核酸は、ACTTTAおよび配列番号7の1~15個のさらなる連続するヌクレオチドを含むヌクレオチド配列を含む、項目13に記載のベクター。
(項目15)
前記miR-142標的核酸は、配列番号7のヌクレオチド配列(AGTAGTGCTTTCTACTTTATG)と少なくとも50%同一のヌクレオチド配列を含む、項目1~8のいずれか1項に記載のベクター。
(項目16)
前記miR-142標的核酸は、配列番号7のヌクレオチド配列を含む、項目15に記載のベクター。
(項目17)
前記miR-142標的核酸は、2~10回反復される、項目1~16のいずれか1項に記載のベクター。
(項目18)
前記ベクターは、ウイルスベクターである、項目1~17のいずれか1項に記載のベクター。
(項目19)
前記ウイルスベクターは、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルス、レトロウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、MLV(マウス白血病ウイルス)、ASLV(トリ肉腫/白血病)、SNV(脾臓壊死ウイルス)、RSV(ラウス肉腫ウイルス)、MMTV(マウス乳房腫瘍ウイルス)、または単純ヘルペスウイルスベクターである、項目18に記載のベクター。
(項目20)
前記ウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)、アデノウイルス、レンチウイルス、レトロウイルス、ワクシニアウイルス、または単純ヘルペスウイルスベクターである、項目18に記載のベクター。
(項目21)
神経疾患の処置の必要性のある被験体において神経疾患を処置する方法であって、前記方法は、項目1~20のいずれか1項に記載のベクターを投与する工程を包含する、方法。
(項目22)
前記神経疾患は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、アルツハイマー病、パーキンソン病、網膜変性、軽度認知障害、多発梗塞性認知症、前頭側頭葉型認知症、レビー小体型認知症、ハンチントン病、神経変性疾患、代謝性脳障害、鬱病、てんかん、多発性硬化症、大脳皮質基底核変性症、多系統萎縮症、進行性核上性麻痺、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症、脊髄小脳失調症、原発性側索硬化症、脊髄性筋萎縮症、または脳卒中である、項目21に記載の方法。
(項目23)
前記神経疾患は、ALSである、項目22に記載の方法。
(項目24)
前記処置は、運動活動を改善するか、または前記被験体の寿命を延ばす、項目23に記載の方法。
(項目25)
前記ベクターは、脳または脊髄に投与される、項目21~24のいずれかに記載の方法。
(項目26)
前記ベクターは、定位固定注射によって脳に投与される、項目25に記載の方法。
【国際調査報告】