(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-08
(54)【発明の名称】筋ジストロフィーの治療のための併用療法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/864 20060101AFI20220201BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20220201BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20220201BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20220201BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20220201BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20220201BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220201BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20220201BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20220201BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20220201BHJP
A61K 35/761 20150101ALI20220201BHJP
C12N 7/01 20060101ALN20220201BHJP
A61K 31/7088 20060101ALN20220201BHJP
A61K 38/46 20060101ALN20220201BHJP
【FI】
C12N15/864 100Z
C12N15/113 Z ZNA
C12N15/12
C12N15/09 110
A61P21/00
A61K48/00
A61P43/00 105
A61K9/08
A61K47/22
A61K47/02
A61K35/761
C12N7/01
A61K31/7088
A61K38/46
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021533367
(86)(22)【出願日】2019-12-11
(85)【翻訳文提出日】2021-08-10
(86)【国際出願番号】 US2019065718
(87)【国際公開番号】W WO2020123645
(87)【国際公開日】2020-06-18
(32)【優先日】2018-12-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】521254373
【氏名又は名称】ソリッド・バイオサイエンシーズ・インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100107386
【氏名又は名称】泉谷 玲子
(72)【発明者】
【氏名】ラム,センディル
(72)【発明者】
【氏名】シュナイダー,ジョエル
(72)【発明者】
【氏名】モーガン,キャシー・イェ
(72)【発明者】
【氏名】ツェン,ウェン・アレン
(72)【発明者】
【氏名】オズソロック,ファティ
(72)【発明者】
【氏名】ソウステック-クレーマ,メーガン
(72)【発明者】
【氏名】レイズ,エリック
(72)【発明者】
【氏名】マンダーバ,サラット
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C084
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA91X
4B065AA93Y
4B065AA95X
4B065AA95Y
4B065AB01
4B065AC14
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4B065CA23
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4B065CA44
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4C076BB13
4C076BB15
4C076BB21
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4C086MA03
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4C086MA17
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4C086NA14
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4C086ZB21
4C087AA01
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4C087CA12
4C087MA05
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4C087MA55
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA94
4C087ZB21
(57)【要約】
本明細書に記載の本発明は、遺伝子治療ベクター、例えば、機能性タンパク質(微小ヒトマイクロジストロフィン遺伝子産物等)ならびにRNAi配列(siRNA、shRNA、miRNA)、アンチセンス配列、遺伝子編集酵素のガイド配列(CRISPR/Cas9のsgRNA、またはCRISPR/Cas12aのcrRNA等)、及び/またはマイクロRNAに対する1つ以上のさらなるコード配列を共発現するアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、ならびに筋ジストロフィー、例えば、DMD/BMDに罹患した対象を治療するための該ベクターの使用方法を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含む組み換えウイルスベクター:
a)目的の機能性遺伝子またはタンパク質(GOI)をコードするポリヌクレオチド、例えば、筋ジストロフィーの治療に有効なもの、ここで、前記ポリヌクレオチドは、3’-UTRコード領域を含み、前記ポリヌクレオチドによってコードされる前記機能性タンパク質の発現を高める異種イントロン配列の直ぐ3’側にあるもの、
b)前記ポリヌクレオチドに作動可能に連結され、その発現を駆動する制御要素(例えば、筋特異的制御要素)、ならびに
c)前記イントロン配列または前記3’-UTRコード領域に挿入された1つ以上のコード配列、
ここで、前記1つ以上のコード配列は、独立して、RNAi配列(siRNA、shRNA、miRNA)、アンチセンス配列、遺伝子編集酵素のガイド配列、マイクロRNA(miRNA)及び/またはmiRNA阻害物質をコードするもの。
【請求項2】
前記組み換えウイルスベクターが、組み換えAAV(アデノ随伴ウイルス)ベクターである、請求項1に記載の組み換えウイルスベクター。
【請求項3】
前記1つ以上のコード配列が、前記3’-UTRコード領域に、またはポリアデニル化(ポリA)シグナル配列(例えば、AATAAA)の後に挿入される、請求項1または2に記載の組み換えウイルスベクター。
【請求項4】
前記機能性GOIの発現が、前記1つ以上のコード配列の存在下で実質的に影響を受けない(例えば、前記1つ以上のコード配列が挿入されていない以外は同一の対照構築物と比較して)、請求項1~3のいずれか1項に記載の組み換えウイルスベクター。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の組み換えウイルスベクターであって:
a)前記ポリヌクレオチドが、機能性ジストロフィンタンパク質をコードするジストロフィンマイクロ遺伝子またはミニ遺伝子であり、及び/または
b)前記制御要素が、前記ジストロフィンミニ遺伝子に作動可能に連結され、その発現を駆動する筋特異的プロモーターである、前記組み換えウイルスベクター。
【請求項6】
前記機能性ジストロフィンタンパク質が、マイクロD5であり、及び/または前記筋特異的プロモーターが、CKプロモーターである、請求項5に記載の組み換えウイルスベクター。
【請求項7】
前記1つ以上のコード配列が、欠陥ジストロフィンのエクソンのスキッピング、例えば、ジストロフィンのエクソン45~55のいずれか1つ、またはジストロフィンのエクソン44、45、51、及び/または53のスキッピングを誘導するエクソンスキッピングアンチセンス配列を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の組み換えウイルスベクター。
【請求項8】
前記マイクロRNAが、miR-1、miR-133a、miR-29c、miR-30c、及び/またはmiR-206である、請求項1~7のいずれか1項に記載の組み換えウイルスベクター。
【請求項9】
前記マイクロRNAが、miR-29cであり、標的配列用にデザインされたmiR-29cのガイド鎖のプロセシングを促進する修飾隣接骨格配列を任意に有する、請求項8に記載の組み換えウイルスベクター。
【請求項10】
前記修飾隣接骨格配列が、miR-30、-101、-155、または-451に由来するか、またはそれに基づく、請求項9に記載の組み換えウイルスベクター。
【請求項11】
宿主細胞での前記マイクロRNAの発現が、前記宿主細胞での前記マイクロRNAの内因性の発現と比較して、少なくとも約1.5~15倍(例えば、約2~10倍、約1.4~2.8倍、約2~5倍、約5~10倍、約2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、または約15倍)上方制御される、請求項8~10のいずれか1項に記載の組み換えウイルスベクター。
【請求項12】
前記RNAi配列が、サルコリピンに対するshRNA(shSLN)である、請求項1~11のいずれか1項に記載の組み換えウイルスベクター。
【請求項13】
前記1つ以上のコード配列が、1つ以上の同一または異なるサルコリピンに対するshRNA(shSLN)をコードする、請求項1~12のいずれか1項に記載の組み換えウイルスベクター。
【請求項14】
前記shRNAが、サルコリピンのmRNA及び/またはサルコリピンタンパク質の発現を少なくとも約50%減少させる、請求項12または13に記載の組み換えウイルスベクター。
【請求項15】
前記GOIが、CRISPR/Cas9であり、前記ガイド配列が、sgRNA(一本鎖ガイドRNA)であるか、または、前記GOIが、CRISPR/Cas12aであり、前記ガイド配列が、crRNAである、請求項1~14のいずれか1項に記載の組み換えウイルスベクター。
【請求項16】
前記RNAi配列(siRNA、shRNA、miRNA)、前記アンチセンス配列、前記CRISPR/Cas9のsgRNA、前記CRISPR/Cas12aのcrRNA及び/または前記マイクロRNAが、1つ以上の標的遺伝子、例えば、炎症遺伝子、NF-κBシグナル伝達経路の活性化因子(例えば、TNF-α、IL-1、IL-1β、IL-6、NF-κB活性化受容体(RANK)、及びToll様受容体(TLR))、NF-κB、NF-κBによって誘導される下流の炎症性サイトカイン、ヒストンデアセチラーゼ(例えば、HDAC2)、TGF-β、結合組織増殖因子(CTGF)、コラーゲン、エラスチン、細胞外マトリックスの構成成分、グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ(G6PD)、ミオスタチン、ホスホジエステラーゼ-5(PED-5)またはACE、VEGFデコイ受容体1型(VEGFR-1またはFlt-1)、及び造血プロスタグランジンDシンターゼ(HPGDS)の機能に拮抗する、請求項1~15のいずれか1項に記載の組み換えウイルスベクター。
【請求項17】
請求項1に記載の組み換えウイルスベクターであって:
福山型先天性筋ジストロフィー(FCMD)患者において、
a)前記ポリヌクレオチドが、機能性フクチン(FKTN)タンパク質をコードし、及び/または
b)前記1つ以上のコード配列が、欠陥FKTN遺伝子の正確なエクソン10のスプライシングを回復するエクソンスキッピングアンチセンス配列をコードする、前記組み換えウイルスベクター。
【請求項18】
請求項1に記載の組み換えウイルスベクターであって:
メロシン欠損型先天性筋ジストロフィー1A型(MDC1A)患者において、
a)前記ポリヌクレオチドが、機能性LAMA2タンパク質をコードし、及び/または
b)前記1つ以上のコード配列が、欠陥LAMA2遺伝子のC末端のGドメイン(エクソン45~64)、特に、G4及びG5の発現を回復するエクソンスキッピングアンチセンス配列をコードする、前記組み換えウイルスベクター。
【請求項19】
請求項1に記載の組み換えウイルスベクターであって:
DM1患者において、
a)前記ポリヌクレオチドが、機能性DMPKタンパク質、またはCLCN1遺伝子をコードし、及び/または
b)前記RNAi配列(siRNA、shRNA、miRNA)、前記アンチセンス配列、または前記マイクロRNA(miRNA)が、欠陥DMPK遺伝子の変異転写産物の伸長リピートを標的とし、もしくは、CLCN1遺伝子のエクソン7Aのスキッピングにつながるエクソンスキッピングアンチセンス配列をコードする、前記組み換えウイルスベクター。
【請求項20】
請求項1に記載の組み換えウイルスベクターであって:
ジスフェリン異常症(LGMD2BまたはMM)患者において、
a)前記ポリヌクレオチドが、機能性DYSFタンパク質をコードし、及び/または
b)1つ以上のコード配列が、欠陥DYSF遺伝子のエクソン32のスキッピングにつながるエクソンスキッピングアンチセンス配列をコードする、前記組み換えウイルスベクター。
【請求項21】
請求項1に記載の組み換えウイルスベクターであって:
LGMD2C患者において、
a)前記ポリヌクレオチドが、機能性SGCGタンパク質をコードし、及び/または
b)1つ以上のコード配列が、欠陥LGMD2C遺伝子(例えば、Δ-521TのSGCG変異を有するもの)のエクソン4~7のスキッピングにつながるエクソンスキッピングアンチセンス配列をコードする、前記組み換えウイルスベクター。
【請求項22】
前記異種イントロン配列が、配列番号1である、請求項1~21のいずれか1項に記載の組み換えウイルスベクター。
【請求項23】
前記1つ以上のコード配列が、前記イントロン配列に挿入される、請求項1~22のいずれか1項に記載の組み換えウイルスベクター。
【請求項24】
前記機能性タンパク質の発現が、前記1つ以上のコード配列の挿入による悪影響を受けない、請求項1~23のいずれか1項に記載の組み換えウイルスベクター。
【請求項25】
前記ベクターが、血清型AAV1、AAV2、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAVrh74、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、またはAAV13の組み換えAAVベクターである、請求項1~24のいずれか1項に記載の組み換えウイルスベクター。
【請求項26】
前記制御要素が、ヒト骨格アクチン遺伝子素、心筋型アクチン遺伝子素、筋細胞特異的エンハンサー結合因子mef、筋クレアチンキナーゼ(MCK)、切断型MCK(tMCK)、ミオシン重鎖(MHC)、C5-12、マウスクレアチンキナーゼエンハンサー要素、骨格速筋トロポニンc遺伝子素、遅筋心筋トロポニンc遺伝子素、遅筋トロポニンi遺伝子素、低酸素誘導性核内因子、ステロイド誘導性因子、またはグルココルチコイド応答エレメント(gre)である、請求項1~25のいずれか1項に記載の組み換えウイルスベクター。
【請求項27】
前記制御要素が、WO2017/181015の配列番号10または配列番号11のヌクレオチド配列を含む、請求項1~26のいずれか1項に記載の組み換えウイルスベクター。
【請求項28】
請求項1~27のいずれか1項に記載の組み換えウイルスベクターを含む組成物。
【請求項29】
医薬組成物である請求項28に記載の組成物であって、さらに、治療上適合性のある担体、希釈剤、または賦形剤を含む、前記組成物。
【請求項30】
前記治療上許容される担体、希釈剤、または賦形剤が、10mMのpH6.0のL-ヒスチジン、150mMの塩化ナトリウム、及び1mMの塩化マグネシウムを含む滅菌水溶液である、請求項29に記載の組成物。
【請求項31】
少なくとも1.6×10
13のベクターゲノムを有する水溶液約10mLの剤形である、請求項29または30に記載の組成物。
【請求項32】
1ミリリットルあたり少なくとも2×10
12のベクターゲノムの効力を有する、請求項29~31のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項33】
細胞内で前記組み換えウイルスベクター(例えば、前記組み換えAAVベクター)を生成し、前記細胞を溶解して前記ベクターを得ることを含む、請求項28~32のいずれか1項に記載の組成物を生成する方法。
【請求項34】
前記ベクターが、血清型AAV1、AAV2、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAVrh74、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、またはAAV13の組み換えAAVベクターである、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
治療を必要とする対象における筋ジストロフィーまたはジストロフィン異常症を治療する方法であって、治療有効量の請求項1~27のいずれか1項に記載の組み換えウイルスベクター(例えば、前記組み換えAAVベクター)、または請求項28~32のいずれか1項に記載の組成物を前記対象に投与することを含む、前記方法。
【請求項36】
前記組み換えAAVベクターまたは前記組成物が、筋肉注射、静脈内注射、非経口投与または全身投与によって投与される、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記筋ジストロフィーが、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、ベッカー型筋ジストロフィー、福山型先天性筋ジストロフィー(FCMD)、ジスフェリン異常症、筋緊張性ジストロフィー、及びメロシン欠損型先天性筋ジストロフィー1A型、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSHD)、先天性筋ジストロフィー(CMD)、または肢帯型筋ジストロフィー(LGMDR5またはLGMD2C)である、請求項35または36に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の参照
本出願は、2018年12月12日に出願された米国仮特許出願第62/778,646号の優先権及びその出願日の利益を主張する。その全内容は、参照することにより本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
筋ジストロフィー(MD)は、進行性衰弱及び筋肉量の損失を引き起こす疾患群である。筋ジストロフィーでは、異常遺伝子(突然変異遺伝子)は、健康な筋肉を形成するために必要な機能性の野生型タンパク質を産生しない。
【0003】
筋ジストロフィーは、罹患患者の生活の質を深刻に悪化させる。デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)は、新生男児の5,000人に1人が罹患する最も深刻な筋肉疾患の1つである。これは、ジストロフィン結合タンパク質複合体(DAPC)のメンバーをコードする遺伝子の突然変異に起因する最もよく特徴付けられた筋ジストロフィーである。これらのMDは、DAPCによる筋細胞膜鞘-細胞骨格連結の喪失に関連する膜の脆弱性に起因する。
【0004】
具体的には、DMDはDMD遺伝子の突然変異によって引き起こされ、DMDのmRNAの減少及びジストロフィンまたは機能的ジストロフィン、すなわち、ジストロフィン結合タンパク質複合体(DAPC)に関連する427kDaの筋細胞膜鞘タンパク質の欠如につながる(Hoffman et al.,Cell 51(6):919-928,1987)。DAPCは、筋細胞膜鞘において、細胞外マトリックス(ECM)及び細胞骨格間に、ジストロフィン、すなわち、アクチン結合タンパク質、及びアルファ-ジストログリカン、すなわち、ラミニン結合タンパク質を介した構造的関連を形成する複数のタンパク質で構成されている。これらの構造的関連は、収縮時に筋細胞膜を安定させ、収縮による損傷を防ぐように作用する。
【0005】
DMD遺伝子突然変異の結果としてのジストロフィンの損失により、ジストロフィン糖タンパク質複合体が破壊され、筋膜の脆弱性が増加する。筋形質へのカルシウムの流入、プロテアーゼ及び炎症性サイトカインの活性化、ならびにミトコンドリア機能不全等の一連の事象は、進行性の筋変性をもたらす。さらに、神経型一酸化窒素合成酵素(nNOS)の転位は、組織虚血、酸化ストレスの増加、及び修復の障害に寄与する。疾患の進行は、筋壊死、線維化、及び脂肪組織置換の増加、ならびにその後の筋生検で見られる線維サイズの変化の程度がより大きいことによって特徴付けられる。
【0006】
蓄積されたエビデンスは、細胞内Ca2+(Ca2+
i)の異常な上昇が、DMDにおける疾患の進行を開始し、永続させる重要な早期の病原性事象であることを示唆している。筋小胞体/小胞体Ca2+ATPase(SERCA)ポンプの正常機能は、サイトゾルからの>70%のCa2+除去及び適切な筋収縮の主要因である。SERCA活性の低下は、それ故、DMDにおけるCa2+
i過負荷及び筋機能不全の主な原因と考えられている。
【0007】
現在のところ、DMDの治療法はない。標準治療としては、コルチコステロイド(プレドニゾンまたはデフラザコート等)を投与し、筋力及び機能を安定させること、独立歩行を延長させること、ならびに脊柱側彎及び心筋症を遅延させること、ビスホスフォネート、ならびにデノスマブ及び組み換え副甲状腺ホルモンが挙げられる。
【0008】
遺伝子治療の出現により、DMD治療の研究及び臨床試験は、ジストロフィン機能を少なくとも部分的に回復させることを目的とした遺伝子置換または他の遺伝子治療に焦点を合わせている。これらには、ジストロフィン遺伝子の機能性コピー、例えば、ジストロフィンミニ遺伝子の供給、またはエクソンスキッピング及びナンセンス変異抑制による欠陥ジストロフィン遺伝子産物の修復が含まれる。
【0009】
しかしながら、ジストロフィンの突然変異によって引き起こされる影響の範囲は広いため、ジストロフィンの一次突然変異に関連する他の二次的症状を治療する必要がある。
例えば、ジストロフィンの損失は、ジストロフィン結合タンパク質複合体(DAPC)の損失につながり、これは次に、nNOSによる一酸化窒素(NO)の産生、及びHDAC2の異常なN-ニトロシル化につながる。かかる異常にN-ニトロシル化されたHDAC2は、クロマチンから解離し、特定のマイクロRNAのカスケードの阻害を解放し、これが次に、線維化及び酸化ストレスの増加等の多数の下流の事象につながる。
【0010】
特に、線維化に関しては、ジストロフィンが損失すると、膜の脆弱性により、筋細胞膜鞘の分裂及びカルシウムの流入が生じ、カルシウム活性化プロテアーゼ及び分節状線維壊死を誘発する(Straub et al.,Curr.Neurol.10(2):168-175,1997)。この制御不能な筋変性と筋再生のサイクルは、最終的に筋幹細胞集団を枯渇させ(Sacco et al.,Cell 143(7):1059-1071,2010、Wallace et al.,Annu Rev Physiol 71:37-57,2009)、進行性筋衰弱、筋内膜炎症、及び線維性瘢痕を引き起こす。
【0011】
ジストロフィンまたはマイクロジストロフィンによる膜安定化がないため、DMDでは、制御不能な組織の傷害と修復のサイクルが現れ、最終的に結合組織の増殖を介して、失われた筋線維が線維性瘢痕組織で置き換わる。
【0012】
DMDと診断された最低年齢(例えば、4~5歳)で行われた筋生検は、顕著な結合組織の増殖を明らかにしている。筋線維症は、様々な点で有害である。それは、結合組織バリアを介した筋内膜栄養素の正常な通過を減らし、血流を減らし、筋肉から血管由来の栄養成分を奪い、機能的には、四肢拘縮による歩行の早期喪失の一因となる。時間の経過とともに、筋肉の著しい線維化による治療の課題が増加する。これは、連続した時点での結合組織の増殖を比較する筋生検で観察され得る。この過程は悪化を続け、歩行の喪失につながり、特に、車椅子に依存している患者では、加速して制御不能になる。
【0013】
従って、線維性浸潤は、DMDでは深刻であり、任意の治療の可能性を妨げる重大な障害である。この関連で、単独の遺伝子置換療法は、DMDの幼児にすでに存在する重度の線維化によって通常は妨げられる。
【0014】
線維症は、コラーゲン及びエラスチン等のECM基質タンパク質の過剰な沈着を特徴とする。ECMタンパク質は主に、サイトカイン、例えば、ストレス及び炎症に反応して活性化した線維芽細胞によって放出されるTGFから産生される。DMDの主な病理学的特徴は、筋線維の変性及び壊死であるが、病理学的帰結としての線維症は、同等の影響を与える。線維性組織の過剰産生は、筋再生を制限し、DMD患者の進行性筋衰弱の一因となる。
【0015】
ある研究では、最初のDMD筋生検での線維化の存在が、10年間の追跡調査での運動転帰不良と高度に相関した(Desguerre et al.,J Neuropathol Exp Neurol 68(7):762-767,2009)。これらの結果は、線維化がDMDの筋機能不全の主要原因であることを示しており、線維性組織を減少させる治療法を開発する必要性を強調している。
【0016】
mdxマウスで試験されたほとんどの抗線維化治療は、TGF経路の阻害を通じて線維化サイトカインのシグナル伝達をブロックするように作用する。
マイクロRNA(miRNA)は、約22ヌクレオチドの一本鎖RNAであり、mRNAの3’UTR内の塩基と対合することにより転写後レベルで遺伝子抑制を仲介し、翻訳を阻害するか、またはmRNAの分解を促進する。該miRNAの5’末端にある7bpのシード配列は、該miRNAを標的とし、さらなる認識は、該標的配列の残部及びその二次構造によって提供される。miRNAは筋疾患の病理において重要な役割を果たし、問題の筋ジストロフィーの型に独自に依存する発現プロファイルを示す(Eisenberg et al.,Proc Natl Acad Sci U.S.A.104(43):17016-17021,2007)。相次ぐエビデンスは、心臓、肝臓、腎臓、及び肺等の多くの臓器でmiRNAが線維化過程に関与していることを示唆している(Jiang et al.,Proc Natl Acad Sci U.S.A.104(43):17016-17021,2007)。
【0017】
最近、miR-29の下方制御が心筋線維化に寄与することが示された(Cacchiarelli et al.,Cell Metab 12(4):341-351,2010)。miR-29の発現低下は、ヒトDMD患者の筋肉と遺伝的に関連していた(Eisenberg et al.,Proc Natl Acad Sci U.S.A.104(43):17016-17021,2007)。
【0018】
miR-29ファミリーは、2つのバイシストロン性miRNAクラスターから発現する3つのファミリーメンバーからなる。miR-29aは、miR-29b(miR-29b-1)と共発現し、miR-29cは、miR-29bの第2のコピー(miR-29b-2)と共発現する。miR-29ファミリーは、保存されたシード配列を共有しており、miR-29aとmiR-29bは、各々、miR-29cと1塩基異なるのみである。さらに、mdxマウス筋へのmiR-29プラスミド(miR-29a及びmiR-29b-1のクラスター)のエレクトロポレーションは、ECM成分、コラーゲン及びエラスチンの発現レベルを低下させ、処理後25日以内で筋肉部位におけるコラーゲン沈着を大幅に減少させた(Cacchiarelli et al.,Cell Metab 12(4):341-351,2010)。
【0019】
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、複製欠損パルボウイルスであり、その一本鎖DNAゲノムは、約4.7kbの長さであり、145ヌクレオチドの末端逆位配列(ITR)を含む。
【0020】
AAVは、例えば、遺伝子治療において、外来DNAを細胞に送達するためのベクターとして魅力的な独自の機能を有する。培養細胞のAAV感染は非細胞変性であり、ヒト及び他の動物の自然感染は無症状及び無症候である。さらに、AAVは多くの哺乳類細胞に感染するため、インビボで多くの異なる組織を標的にすることが可能になる。さらに、AAVは、分裂が遅い細胞及び非分裂細胞への形質導入を引き起こし、基本的にそれらの細胞の生涯にわたって、転写活性のある核エピソーム(染色体外因子)として存続することができる。AAVのプロウイルスゲノムは、プラスミドにクローン化されたDNAとして感染性であり、これにより、組み換えゲノムの構築が可能になる。さらに、AAVの複製、ゲノムのカプシド形成及び組み込みを指示するシグナルはAAVゲノムのITR内に含まれているため、該ゲノムの内部約4.3kbの一部またはすべて(複製及び構造カプシドタンパク質、rep-capをコードする)は、外来DNA、例えば、プロモーター、目的のDNA及びポリアデニル化シグナルを含む遺伝子カセットと交換され得る。rep及びcapタンパク質は、transで提供され得る。AAVの別の重要な特徴は、これが非常に安定した豊富なウイルスであるということである。アデノウイルスの不活化に使用される条件(56°~65℃で数時間)に容易に耐えるため、AAVの低温保存はそれほど重要ではない。AAVは、凍結乾燥される場合もある。最後に、AAVに感染した細胞は、重複感染に対して耐性はない。
【0021】
複数の研究により、筋肉では、長期(>1.5年)の組み換えAAV媒介タンパク質発現が実証された。Clark et al.,Hum Gene Ther 8:659-669(1997)、Kessler et al.,Proc Nat.Acad Sc.U.S.A.93:14082-14087(1996)、及びXiao et al.,J Virol 70:8098-8108(1996)を参照されたい。Chao et al.,Mol Ther 2:619-623(2000)及びChao et al.,Mol Ther 4:217-222(2001)も参照のこと。さらに、筋肉は高度に血管新生されているため、組み換えAAV形質導入により、Herzog et al.,Proc Natl Acad Sci U.S.A.94:5804-5809(1997)及びMurphy et al.,Proc Natl Acad Sci U.S.A.94:13921-13926(1997)に記載の通り、筋肉注射後の体循環において導入遺伝子産物が出現した。さらに、Lewis et al.,J Virol 76:8769-8775(2002)は、骨格筋線維が、正確な抗体グリコシル化、フォールディング、及び分泌に必要な細胞因子を有することを示し、筋肉は、分泌タンパク質治療の安定発現が可能であることを示している。
【0022】
AAVベクターを使用した遺伝子治療は、この部門への多大な投資を奨励しているが、商業化には重要な課題が残る。組み換えウイルスベクターの生産は複雑であると考えられており、生産のスケールアップは技術的に大きな課題であり、商業化には大きな障壁であると見なされる。
【0023】
具体的には、AAVベースのウイルスベクターについて報告されている臨床用量は、治療領域に応じて、患者あたり1011~1014のゲノム粒子(ベクターゲノム、vg)に及ぶ。従って、より広い遺伝子治療開発の観点から、現在のスケールアップアプローチは、後の相(例えば、第II/III相)の追跡を進めるために必要な投与回数を供給するには不十分であり、ひいては、遺伝子治療薬の開発を遅らせている。これは、臨床試験の大部分が非常に小規模で、患者数<100人(場合によっては<10人)で行われ、ごくわずかな量の製品を生成する接着細胞トランスフェクション過程を使用しているという事実によって裏付けられている。後の相の進展に必要なウイルスの予測量を現在の生産性(例えば、単一の10層セルファクトリーから5×1011vg)と比較すると、このアプローチが、「標準」遺伝子治療の適応症はもちろん、高用量及び小患者コホートの超希少疾患であっても後の相に対する材料要件及び市場のニーズには不十分であるという現実の懸念がある。
【0024】
Clement及びGriegerが最近の総説(Molecular Therapy-Methods&Clinical Development(2016)3,16002、doi:10.1038/mtm.2016.2)で述べているように、「臨床環境でのrAAVの使用は、極めて大量の高純度rAAV粒子の生成が可能な生産及び精製システムに対する差し迫ったニーズを強調している。典型的なFDA承認治験薬には、毒物学、安全性、用量、及び生体内分布の評価のための広範な前臨床研究が含まれており、ベクターの要件は、多くの場合、1E15~1E16のベクターゲノムの範囲に達する。かかる量を製造することは、技術的には実現可能であるが、現在の生産システムを用いた場合、依然として信じられないほどの努力を意味する。」
この問題は、体系的に(局所的にの対語として)送達されることが望ましいAAVベクターの場合に特に緊急である。最近の論文において、Adamson-Small et al.(Molecular Therapy-Methods&Clinical Development(2016)3,16031、doi:10.1038/mtm.2016.31)は、以下のように述べている。「ベクターの生産及び精製における現在の制約は、特に、全身投与が検討される場合、臨床候補ベクターの広範な実施を妨げる。…これは、しばしば高AAV用量での全身投与に依存する全身への遺伝子導入が必要になる可能性がある場合、筋ジストロフィー等の先天性遺伝性疾患の治療に特に当てはまる。」実際、筋ジストロフィーの臨床試験におけるrAAVの以前の研究では、全身投与を支援するために必要な量を生成するための大規模な生産能力が多くの場合不足しているために、筋肉注射を介してベクターを送達している。併用療法における2つのAAVベクターの体系的送達は、その併用療法に必要な高品質のAAVベクターを十分な量生産するという点で、さらに大きな課題をもたらす。
【0025】
従って、DMD及び他の筋ジストロフィーに罹患した患者の機能改善には、遺伝子の回復及び線維化等のいくつかの二次カスケードに関連する症状の軽減の両方が必要である。代替的にまたはさらに、筋ジストロフィーは、異なる疾患の原因となる経路を同時に標的とする治療から利益を得る可能性がある。より効果的なDMD及び他の筋ジストロフィーの治療のための遺伝子回復法と組み合わせられ得るかかる二次カスケード症状(例えば、線維化)を軽減する方法が必要である。かかる併用療法は、特に、遺伝子治療ベクターの体系的送達において、両方の治療成分を標的組織に送達するのに十分な量の遺伝子治療ベクターを生産するという重要な臨床的及び商業的課題もまた克服しなければならない。
【発明の概要】
【0026】
本明細書に記載の本発明は、遺伝子治療用のウイルスベクターを提供し、該ベクターは、第1のポリペプチドまたは第1のRNA、及び第2のポリペプチドまたは第2のRNAを同時にコードするポリヌクレオチド配列を含む。
【0027】
例えば、該ベクターは、第1の治療用タンパク質及び第2の治療用RNAを同時にコードし得る。
しかしながら、該第1のもしくは該第2のRNAのいずれか、またはその両方は、タンパク質もポリペプチドも産生しない非コードRNAでもよい。かかる非コードRNAは、マイクロRNA(miR)、shRNA(低分子ヘアピン型RNA)、piRNA、snoRNA、snRNA、exRNA、scaRNA、長鎖ncRNA、例えば、Xist及びHOTAIR、アンチセンスRNA、またはそれらの前駆体でよく、好ましくは治療効果、例えば、がん、自閉症、アルツハイマー病、軟骨毛髪形成不全、難聴、及びプラダー・ウィリー症候群、特に、DMD/BMDを含めた様々な型の筋ジストロフィー(MD)等の疾患と関連するものを有する。
【0028】
かかる非コードRNAはまた、CRISPR/Cas9タンパク質の単一または複数のガイドRNA(複数可)の場合もあれば、CRISPR/Cas12a(かつてはCpf1)タンパク質のCRISPR RNA(crRNA)の場合もある。
【0029】
従って、1つの態様では、本発明は、以下を含む組み換えウイルスベクターを提供する:a)目的の機能性遺伝子またはタンパク質(GOI)をコードするポリヌクレオチド、例えば、筋ジストロフィーの治療に有効なもの、ここで、該ポリヌクレオチドは、3’-UTRコード領域を含み、該ポリヌクレオチドによってコードされる機能性タンパク質の発現を高める異種イントロン配列の直ぐ3’側にあるもの、b)該ポリヌクレオチドに作動可能に連結され、その発現を駆動する制御要素(例えば、筋特異的制御要素)、ならびにc)該イントロン配列または該3’-UTRコード領域に挿入された1つ以上のコード配列、ここで、該1つ以上のコード配列は、独立して、RNAi配列(siRNA、shRNA、miRNA)、アンチセンス配列、遺伝子編集酵素のガイド配列(CRISPR/Cas9の一本鎖ガイドRNA(sgRNA)、またはCRISPR/Cas12aのacrRNA等)、マイクロRNA(miRNA)、及び/またはmiRNA阻害物質をコードするもの。
【0030】
ある特定の実施形態では、該組み換えウイルスベクターは、組み換えAAV(アデノ随伴ウイルス)ベクターまたは組み換えレンチウイルスベクターである。
関連する態様では、本発明は、以下を含む組み換えAAV(rAAV)ベクターを提供する:a)筋ジストロフィーの治療に有効な機能性タンパク質をコードするポリヌクレオチド、ここで、該ポリヌクレオチドは、3’-UTRコード領域を含み、該ポリヌクレオチドによってコードされる機能性タンパク質の発現を高める異種イントロン配列の直ぐ3’側にあるもの、b)該ポリヌクレオチドに作動可能に連結され、その発現を駆動する筋特異的制御要素、ならびにc)該イントロン配列または該3’-UTRコード領域に挿入された1つ以上のコード配列、ここで、該1つ以上のコード配列は、独立して、RNAi配列(siRNA、shRNA、miRNA)、アンチセンス配列、マイクロRNA(miRNA)、及び/またはmiRNA阻害物質をコードするもの。
【0031】
特定の実施形態では、本明細書に記載の本発明は、以下を含むウイルスベクター、例えば、組み換えAAVベクターを提供する:a)機能性マイクロジストロフィンタンパク質(例えば、マイクロD5)をコードするジストロフィンマイクロ遺伝子またはミニ遺伝子、ここで、該ジストロフィンマイクロ遺伝子またはミニ遺伝子は、3’-UTRコード領域を含み、該ジストロフィンマイクロ遺伝子またはミニ遺伝子の発現を高める異種イントロン配列の直ぐ3’側にあるもの、b)該ジストロフィンマイクロ遺伝子またはミニ遺伝子に作動可能に連結され、その発現を駆動する筋特異的制御要素、ならびにc)該イントロン配列または該3’-UTRコード領域に挿入された1つ以上(例えば、1、2、3、4、または5つ)のコード配列(複数可)、ここで、該1つ以上のコード配列(複数可)は、独立して、RNAi配列(siRNA、shRNA、miRNA)、アンチセンス配列、マイクロRNA(miRNA)、及び/またはmiRNA阻害物質をコードするもの。
【0032】
ある特定の実施形態では、該機能性ジストロフィンタンパク質は、マイクロD5であり、及び/または該筋特異的制御要素/プロモーターは、CKプロモーターである。
本発明は、一部は、該1つ以上のコード配列(複数可)を、ある特定の位置、例えば、異種イントロンに挿入することができると同時に、該機能性タンパク質(例えば、該ジストロフィンミニ遺伝子産物)のみまたは該1つ以上のコード配列のみを含む同様のベクター構築物と比較して発現を大幅に低下させることなく、機能性タンパク質(ジストロフィンマイクロ遺伝子またはミニ遺伝子産物等)及び1つ以上のコード配列の両方を、感染標的細胞(例えば、筋細胞)内部で発現させることができるという驚くべき発見に基づいている。
【0033】
ある特定の実施形態では、該1つ以上のコード配列は、該3’-UTRコード領域に、またはポリアデニル化(ポリA)シグナル配列(例えば、AATAAA)の後に挿入される。
【0034】
ある特定の実施形態では、該機能性GOIの発現は、該1つ以上のコード配列の存在下で実質的に影響を受けない(例えば、該1つ以上のコード配列が挿入されていない以外は同一の対照構築物と比較して)。
【0035】
ある特定の実施形態では、該組み換えAAV(rAAV)ベクターにおいて:a)該ポリヌクレオチドは、機能性5-スペクトリン様リピートジストロフィンタンパク質(例えば、マイクロD5、参照することにより本明細書に組み込まれるUS10,479,821に記載の通り)をコードするジストロフィンミニ遺伝子であり、及び/または、b)該筋特異的制御要素は、ジストロフィンミニ遺伝子に作動可能に連結され、その発現を駆動するCKプロモーターである。
【0036】
ある特定の実施形態では、該1つ以上のコード配列は、欠陥ジストロフィンのエクソンのスキッピング、例えば、ジストロフィンのエクソン45~55のいずれか1つ、またはジストロフィンのエクソン44、45、51、及び/または53のスキッピングを誘導するエクソンスキッピングアンチセンス配列を含む。
【0037】
ある特定の実施形態では、該マイクロRNAは、miR-1、miR-133a、miR-29c、miR-30c、及び/またはmiR-206である。例えば、該マイクロRNAがmiR-29cの場合、該miR-29cは、標的配列用にデザインされたmiR-29cのガイド鎖のプロセシングを促進する修飾隣接骨格配列を任意に有する。該修飾隣接骨格配列は、他のmiR配列、例えば、miR-30、-101、-155、または-451に由来する場合もそれに基づく場合もある。
【0038】
ある特定の実施形態では、宿主細胞での該マイクロRNAの発現は、該宿主細胞での該マイクロRNAの内因性の発現と比較して、少なくとも約1.5~15倍(例えば、約2~10倍、約1.4~2.8倍、約2~5倍、約5~10倍、約2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、または約15倍)上方制御される。
【0039】
ある特定の実施形態では、該RNAi配列は、サルコリピンに対するshRNA(shSLN)である。
ある特定の実施形態では、該1つ以上のコード配列は、1つ以上の同一または異なるサルコリピンに対するshRNA(shSLN)をコードする。
【0040】
ある特定の実施形態では、該shRNAは、サルコリピンのmRNA及び/またはサルコリピンタンパク質の発現を少なくとも約50%減少させる。
ある特定の実施形態では、該GOIは、CRISPR/Cas9であり、該ガイド配列は、sgRNAであるか、または、該GOIは、CRISPR/Cas12aであり、該ガイド配列は、crRNAである。
【0041】
ある特定の実施形態では、該RNAi配列(siRNA、shRNA、miRNA)、該アンチセンス配列、該CRISPR/Cas9のsgRNA、該CRISPR/Cas12aのcrRNA及び/または該マイクロRNAは、1つ以上の標的遺伝子、例えば、炎症遺伝子、NF-κBシグナル伝達経路の活性化因子(例えば、TNF-α、IL-1、IL-1β、IL-6、NF-κB活性化受容体(RANK)、及びToll様受容体(TLR))、NF-κB、NF-κBによって誘導される下流の炎症性サイトカイン、ヒストンデアセチラーゼ(例えば、HDAC2)、TGF-β、結合組織増殖因子(CTGF)、コラーゲン、エラスチン、細胞外マトリックスの構成成分、グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ(G6PD)、ミオスタチン、ホスホジエステラーゼ-5(PED-5)またはACE、VEGFデコイ受容体1型(VEGFR-1またはFlt-1)、及び造血プロスタグランジンDシンターゼ(HPGDS)の機能に拮抗する。
【0042】
ある特定の実施形態では、福山型先天性筋ジストロフィー(FCMD)患者において、該ベクター、例えば、該組み換えAAV(rAAV)ベクターでは、a)該ポリヌクレオチドは、機能性フクチン(FKTN)タンパク質をコードし、及び/またはb)該1つ以上のコード配列は、欠陥FKTN遺伝子の正確なエクソン10のスプライシングを回復するエクソンスキッピングアンチセンス配列をコードする。
【0043】
ある特定の実施形態では、メロシン欠損型先天性筋ジストロフィー1A型(MDC1A)患者において、該ベクター、例えば、該組み換えAAV(rAAV)ベクターでは、a)該ポリヌクレオチドは、機能性LAMA2タンパク質をコードし、及び/またはb)該1つ以上のコード配列は、欠陥LAMA2遺伝子のC末端のGドメイン(エクソン45~64)、特に、G4及びG5の発現を回復するエクソンスキッピングアンチセンス配列をコードする。
【0044】
ある特定の実施形態では、DM1患者において、該ベクター、例えば、該組み換えAAV(rAAV)ベクターでは、a)該ポリヌクレオチドは、機能性DMPKタンパク質、またはCLCN1遺伝子をコードし、及び/またはb)該RNAi配列(siRNA、shRNA、miRNA)、該アンチセンス配列、または該マイクロRNA(miRNA)は、欠陥DMPK遺伝子の変異転写産物の伸長リピートを標的とし、もしくは、CLCN1遺伝子のエクソン7Aのスキッピングにつながるエクソンスキッピングアンチセンス配列をコードする。
【0045】
ある特定の実施形態では、ジスフェリン異常症(LGMD2BまたはMM)患者において、該ベクター、例えば、該組み換えAAV(rAAV)ベクターでは、a)該ポリヌクレオチドは、機能性DYSFタンパク質をコードし、及び/またはb)1つ以上のコード配列は、欠陥DYSF遺伝子のエクソン32のスキッピングにつながるエクソンスキッピングアンチセンス配列をコードする。
【0046】
ある特定の実施形態では、LGMD2C患者において、該ベクター、例えば、該組み換えAAV(rAAV)ベクターでは、a)該ポリヌクレオチドは、機能性SGCGタンパク質をコードし、及び/またはb)1つ以上のコード配列は、欠陥LGMD2C遺伝子(例えば、Δ-521TのSGCG変異を有するもの)のエクソン4~7のスキッピングにつながるエクソンスキッピングアンチセンス配列をコードする。
【0047】
ある特定の実施形態では、該異種イントロンコード配列は、配列番号1である。
ある特定の実施形態では、該1つ以上のコード配列は、該イントロン配列に挿入される。
【0048】
ある特定の実施形態では、該機能性タンパク質の発現は、該1つ以上のコード配列の挿入による悪影響を受けない。
ある特定の実施形態では、該ベクターは、血清型AAV1、AAV2、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAVrh74、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、またはAAV13のものである。ある特定の実施形態では、該ベクターは、既知の血清型の派生体である。ある特定の実施形態では、該派生体は、様々な症状に対する医薬組成物または遺伝子治療に関して所望の組織特異性もしくは指向性、所望の免疫原性プロファイル(例えば、対象患者の免疫系による攻撃に影響されない)、または他の所望の特性を示し得る。
【0049】
ある特定の実施形態では、該筋特異的制御要素は、ヒト骨格アクチン遺伝子素、心筋型アクチン遺伝子素、筋細胞特異的エンハンサー結合因子mef、筋クレアチンキナーゼ(MCK)、切断型MCK(tMCK)、ミオシン重鎖(MHC)、C5-12、マウスクレアチンキナーゼエンハンサー要素、骨格速筋トロポニンc遺伝子素、遅筋心筋トロポニンc遺伝子素、遅筋トロポニンi遺伝子素、低酸素誘導性核内因子、ステロイド誘導性因子、またはグルココルチコイド応答エレメント(gre)である。
【0050】
ある特定の実施形態では、該筋特異的制御要素は、WO2017/181015(参照することにより本明細書に組み込まれる)の配列番号10または配列番号11のヌクレオチド配列を含む。
【0051】
本発明の別の態様は、該ベクターのいずれか、例えば、本発明の組み換えウイルス(AAV)ベクターを含む組成物を提供する。
ある特定の実施形態では、該組成物は、さらに治療上適合性のある担体、希釈剤、または賦形剤を含む医薬組成物である。
【0052】
ある特定の実施形態では、該治療上許容される担体、希釈剤、または賦形剤は、10mMのpH6.0のL-ヒスチジン、150mMの塩化ナトリウム、及び1mMの塩化マグネシウムを含む滅菌水溶液である。
【0053】
ある特定の実施形態では、該組成物は、少なくとも1.6×1013のベクターゲノムを有する水溶液約10mLの剤形である。
ある特定の実施形態では、該組成物は、1ミリリットルあたり少なくとも2×1012のベクターゲノムの効力を有する。
【0054】
本発明の別の態様は、細胞内で該ベクター、例えば、該組み換えAAVベクターを生成し、該細胞を溶解して該ベクターを得ることを含む、本主題の組成物を生成する方法を提供する。
【0055】
ある特定の実施形態では、該ベクターは、AAV1、AAV2、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAVrh74、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、またはAAV13ベクターである。
【0056】
本発明の別の態様は、治療を必要とする対象において筋ジストロフィーまたはジストロフィン異常症を治療する方法を提供し、該方法は、治療有効量の該組み換えベクターのいずれか1つ、例えば、本発明の組み換えAAVベクター、または本発明の組成物のいずれか1つを該対象に投与することを含む。
【0057】
ある特定の実施形態では、該組み換えベクター、例えば、該組み換えAAVベクターまたは該組成物は、筋肉注射、静脈内注射、非経口投与または全身投与によって投与される。
【0058】
ある特定の実施形態では、該筋ジストロフィーは、デュシェンヌ型筋ジストロフィーまたはベッカー型筋ジストロフィーである。
ある特定の実施形態では、該筋ジストロフィーは、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、ベッカー型筋ジストロフィー、福山型先天性筋ジストロフィー(FCMD)、ジスフェリン異常症、筋緊張性ジストロフィー、及びメロシン欠損型先天性筋ジストロフィー1A型、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSHD)、先天性筋ジストロフィー(CMD)、または肢帯型筋ジストロフィー(LGMDR5またはLGMD2C)である。
【0059】
本発明の別の態様は、対象におけるDMDまたは関連(related)/関連(associated)疾患を予防または治療するためのキットを提供し、該キットは、1つ以上のベクター、例えば、本明細書に記載の組み換えAAV、または本明細書に記載の組成物、使用説明書(書記、印刷、電子/光学記憶媒体、もしくはオンライン)、及び/または包装を含む。ある特定の実施形態では、キットは、併用療法のための既知のMD(例えば、DMD)治療薬も含む。
【0060】
実施例または特許請求の範囲にのみ記載されているものを含め、本明細書に記載の任意の1つの実施形態は、当該組み合わせが明示的に請求権を放棄させるものでない限り、または不適切でない限り、本発明の任意の1つ以上の他の実施形態と組み合わせることができることを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【
図1】2つのITR配列間に、目的の遺伝子(GOI)、例えば、以下に記載のマイクロジストロフィン、ミニジストロフィンまたはジストロフィンミニ遺伝子(例えば、以下に記載の5-スペクトリン様リピートマイクロD5ジストロフィンタンパク質)及び非タンパク質コードRNA(ncRNA)、例えば、shRNAに対する1つ以上(すなわち、示されるように5つ)のさらなるコード配列を含む代表的な組み換えウイルス(例えば、レンチウイルスまたはAAV)ベクターを示す概略図を示す(正確な縮尺ではない)。該さらなるncRNA(例えば、shRNA)コード配列は、同じでも異なっていてもよく、この図では、目的の遺伝子(GOI)コード領域(例えば、マイクロジストロフィンコード配列)の遺伝子に対して5’の異種イントロン配列内であるように見えるが、該さらなるコード配列の位置は、そのように限定されない。すなわち、該コード配列は、該AAVベクター内の他の場所、例えば、3’-UTR領域内に配置してもよいし、該異種イントロン及び該3’-UTR領域の両方に配置してもよい。該AAVベクターゲノムの転写時、該GOIまたはジストロフィンミニ遺伝子(例えば、マイクロD5)mRNA及び該さらなるコード配列を融合RNAとして含む予備プロセスmRNAが産生される。さらなるプロセシング後、該GOI、例えば、ジストロフィンミニ遺伝子mRNA(抗DMD薬として)及び該さらなるコード配列、例えば、示されているshRNAが分離される。
【
図2A】単一のさらなるマイクロRNA29cコード配列が、該3’-UTR領域に挿入される組み換えウイルス(例えば、レンチウイルスまたはAAV)ベクターの1つの特定の実施形態を示す。転写及びさらなるプロセシングにより、マイクロジストロフィンのマイクロD5(「SGT-001」と表示)のmRNA及び機能性miR29cマイクロRNAが創出される。この例示的な非限定的な例における、TAG終止コドン、AATAAAポリAシグナル配列、及びmiR-29c挿入配列(偶然CAである)にはすべて下線が引かれていることに留意されたい。この図では、miR29cコード配列は、ポリAシグナル配列の後に挿入されるように描かれたが、同じものを他の場所、例えば、ポリAシグナル配列の前にある成熟mRNAの3’-UTR領域に挿入することもできる。
図12も参照されたい。
【
図2B】単一のさらなるサルコリピン(SLN)shRNAコード配列(shSLN)が、異種イントロンに挿入される組み換えウイルス(例えば、レンチウイルスまたはAAV)ベクターの別の特定の実施形態を示す。転写及びさらなるプロセシングにより、マイクロジストロフィンのマイクロD5(SGT-001と表示)のmRNA及び機能性サルコリピンshRNAが創出される。この場合もやはり、該shSLNの挿入位置は、例示のみを目的としており、本開示に従って他の場所、例えば、3’-UTR領域、またはポリAシグナル配列の前もしくは後のいずれかに挿入することができる。
【
図3】マイクロD5(SGT-001と表示)マイクロジストロフィンのみをコードするAAVベクター(左)、異種イントロンでマイクロRNA29cをさらにコードするAAVベクター(中央)、及び異種イントロンでサルコリピンshRNAをさらにコードするAAVベクター(右)が感染した細胞における核のDAPI染色、及びジストロフィンの免疫蛍光染色を示す。パーセンテージ値は、トランスフェクション効率、または正常にトランスフェクトされた細胞のパーセンテージを表す。
【
図4】サルコリピン-ルシフェラーゼレポーター融合をコードするAAVベクターを示す概略図である。サルコリピンに対するshRNAの標的位置も示されている。
【
図5】マイクロD5とshSLNの両方を発現するAAVベクター(「SGT001+SLN」)によって細胞をコトランスフェクトした場合、マイクロD5のみを発現するAAVベクター(「SGT001」)によってコトランスフェクトされた細胞と比較して、C2C12細胞におけるサルコリピン-ルシフェラーゼ融合レポーターの発現が86.8%減少することを示す。
【
図6A】C2C12細胞における内因性サルコリピン発現(トランスフェクションの6日後)が、マイクロD5及びshSLNをコードするAAVベクターによってトランスフェクトされたC2C12細胞(「SGT001-shSLN」と表示)において、マイクロD5のみをコードするAAVベクターによってトランスフェクトされたC2C12細胞(「SGT-001」と表示)と比較して、55%減少したことを示す。
【
図6B】内因性SLN発現の免疫蛍光染色画像を示す。
図6Aのデータは、これに基づいて編集した。
【
図7】C2C12細胞におけるshSLNの発現(マイクロD5ジストロフィンとshSLNの両方をコードするAAVベクターをトランスフェクトすることによる)が、内因性SLNの機能を低下させ、筋小胞体へのカルシウムの再取り込みが、経時的に影響を受けることを示す。対照は、マイクロD5ジストロフィンのみをコードしshSLNを含まないAAVベクターによってトランスフェクトされた細胞、及び非トランスフェクト細胞を含む。Y軸の相対蛍光強度は、カルシウムプローブFluo-8の蛍光強度の測定値に基づく。
【
図8A】SGT-001-shSLN(マイクロD5ジストロフィンとshSLNの両方をコードするAAVベクター)によってトランスフェクトされたC2C12細胞におけるマイクロジストロフィンの発現が、SGT-001(マイクロD5ジストロフィンをコードするAAVベクター)のみによってトランスフェクトされたC2C12細胞のそれよりも、トランスフェクションの1日後(1d)、すなわち、約20%のレベルで遅れたが、該マイクロD5ジストロフィンミニ遺伝子の発現が、トランスフェクションの6日後(6d)、すぐに追いついたことを示す(誤差の範囲内で)。
【
図8B】トランスフェクションの1日後の外因性マイクロD5ジストロフィンミニ遺伝子発現の免疫蛍光染色画像を示す。
図8Aのデータは、これに基づいて編集した。
【
図8C】トランスフェクションの6日後の外因性マイクロD5ジストロフィンミニ遺伝子発現の免疫蛍光染色画像を示す。
図8Aのデータは、これに基づいて編集した。
【
図9】マウスSLNのいくつかの例示的なshRNAデザインを示す。
【
図10】マウス(サブジェクト)及びヒト(クエリー)のサルコリピン配列間のヌクレオチド配列比較、及びマウスまたはヒト特異的shRNAの可能なshRNAデザイン、ならびにマウスとヒトに共通のshRNAを示す。
【
図11】ジストロフィンミニ遺伝子(マイクロD5、「SGT-001」と表示)をコードするAAVベクター内の代表的な位置が、1つ以上のコード配列、例えば、miR-29cコード配列(示されているもの)またはSLNに対するshRNAのコード配列の挿入点としての役割を果たすことができることを示す。具体的には、SGT-001ミニ遺伝子のイントロン内の複数の位置を使用することができるが、ジストロフィンミニ遺伝子の発現への悪影響の欠如により、一部の位置(Imir2等)がより好ましい場合がある。
【
図12】本主題の組み換えウイルス(例えば、レンチウイルスまたはAAV)ベクターの1つの代表的かつ非限定的実施形態を示す概略図である(正確な縮尺ではない)。示されているこの特定の実施形態では、制御要素は、筋特異的プロモーターCK8であり、GOIは、機能性DMD遺伝子(マイクロジストロフィンまたはμDys)の型である。RNAi、miRNA等のコード配列は、該ベクターの「転写産物」が示されている範囲、例えば、GOIの前のイントロン、3’-UTR領域、またはポリAシグナル配列の後に挿入することができる。該プロモーターによる転写の結果、最初の融合転写産物が得られる。
【
図13】ヒトiPS由来心筋細胞における相対的miR-29c発現レベルの変化(μDysのみを発現する対照ベクターに対する比)を、miR-29cをコードする様々な組み換えウイルス(例えば、AAV)ベクターに関して、該ウイルスベクターの単独のコード配列として(「ソロ」構築物)、または本開示の融合構築物の一部として(「融合」構築物)のいずれかで示す。
【
図14】分化したC2C12細胞またはマウス心筋細胞におけるmiR-29cの相対的発現レベルを、miR-29cをコードする様々な組み換えAAVベクターに関して、該ウイルスベクターの単独のコード配列として(「ソロ」構築物)、または本開示の融合構築物の一部として(「融合」構築物)のいずれかで示す。
【
図15】本開示のshSLN-μDys融合構築物、及び同じshSLNコード配列を発現するいくつかのソロ構築物による、マウスSLNタンパク質発現レベルの約50%のノックダウン(下段)を示す。上段はローディング対照である。
【
図16】分化したC2C12筋管またはマウス心筋細胞におけるsiSLN(転写shSLN由来のプロセスsiRNA産物)の相対的発現レベルを、shSLNをコードする様々な組み換えAAVベクターに関して、該ウイルスベクターの単独のコード配列として(「ソロ」)、または本開示の融合構築物の一部として(「融合」)のいずれかで示す。
【
図17】ヒトiPS由来の心筋細胞における、shSLNをコードするいくつかの主題の融合構築物による最大約90%のヒトSLNのmRNAのノックダウンを示す。
【
図18】ヒトiPS由来の心筋細胞における、いくつかのHum-shSLN-μDys融合構築物の正規化されたμDysのmRNAレベルを示す。
【
図19】変性アガロースゲルの画像であり、miR-29cコード配列を有するソロ及び融合構築物におけるほぼ無傷のAAVゲノムを示唆している。
【
図20A】AAV9ベクターで本発明のmiR-29c-μDys融合構築物を用いた左腓腹筋における約1.4~2.8倍のmiR-29c発現の上方制御を示す。
【
図20B】AAV9ベクターで本発明のmiR-29c-μDys融合構築物を用いた横隔膜における約1.4~2.8倍のmiR-29c発現の上方制御を示す。
【
図20C】AAV9ベクターで本発明のmiR-29c-μDys融合構築物を用いた左心室における約1.4~2.8倍のmiR-29c発現の上方制御を示す。
【
図21】腓腹筋において、miR-29c上方制御融合AAV9ベクターによるRNA及びタンパク質レベルでのμDys発現の低下がないことを示す。
【
図22】shSLN-μDys融合構築物のμDysのみのAAV9に対するAAV9媒介性の発現を介した横隔膜、左腓腹筋(左腓腹筋)、及び心房における最大50%のmSLNのmRNAの下方制御をそれぞれ示す。最大50%のmSLNのmRNAの下方制御は、舌でも観察された(データは示さず)。
【
図23】AAV9のshSLN-μDys融合構築物を介した横隔膜における同様のレベルのμDysのRNA/タンパク質発現を示す。同様の結果が舌及び心房でも得られた(データは示さず)。
【
図24】AAV9のmiR-29cソロ及びmiR-29c-μDys融合構築物が血清CKレベルを低下させることを示す。
【
図25】AAV9のmiR-29cソロ及びmiR-29c-μDys融合構築物が血清TIMP1レベルを低下させることを示す。
【
図26】いくつかのAAV9のmiR-29c-μDys融合ベクターまたはAAV9のshSLN-μDys融合ベクター由来の腓腹筋におけるmiR-29cまたはshSLNベクターのほぼ同様の生体内分布を示す。
【
図27】肝臓における、miR-29c-μDys融合及びshSLN-μDys融合対μDysソロ構築物のAAV9ベクターの同様の力価を示す。
【
図28】横隔膜における、本発明の融合構築物のμDys構築物単独に対する追加的な効果を、それらが2つの線維化マーカー遺伝子に与える影響に基づいて示す。
【
図30】miR-30E骨格配列に基づく代表的な修飾miR-29c構築物の予測2D構造を示す。
【
図31】miR-101骨格配列に基づく代表的な修飾miR-29c構築物の予測2D構造を示す。
【
図32】miR-451骨格配列に基づく代表的な修飾miR-29c構築物の予測2D構造を示す。
【発明を実施するための形態】
【0062】
線維化及び細胞内Ca2+の異常な上昇等の様々な二次カスケード症状を治療するための並行したアプローチがなければ、エクソンスキッピング、終止コドンリードスルー、または遺伝子置換療法の利点が完全に達成される可能性は低い。小分子またはタンパク質補充戦略であっても、筋線維症を含めたかかる二次カスケード事象の症状を軽減するアプローチなしでは失敗する可能性がある。例えば、AAVマイクロジストロフィンで処理された既存の線維化を有する老齢mdxマウスにおける以前の研究では、完全な機能回復を達成することができないことが示された(Human molecular genetics 22:4929-4937,2013)。また、DMD心筋症の進行には心室壁の瘢痕化及び線維化が伴うことも知られている。
【0063】
本発明は、1つには、患者を治療するための遺伝子治療法に関し、これは、ジストロフィン及びその機能の欠陥を、代替の機能性ジストロフィンミニ遺伝子を提供することによって補償するだけでなく、同じ遺伝子治療ベクターにおいて1つ以上のさらなるコード配列を使用して1つ以上の二次カスケード遺伝子を直接標的とし、ひいては、1つのコンパクトなベクターにて体系的送達用の併用療法を達成する。
【0064】
実際には、本発明、特に本発明の組み換えAAV(rAAV)ベクターは、DMDの治療に限定されない。本発明は、遺伝子が欠損している他の筋ジストロフィーの治療に適用可能である。例えば、本発明の組み換えAAV(rAAV)ベクターは、筋ジストロフィーを治療するための機能性タンパク質及び/または1つ以上のコード配列(非コードRNA、例えば、RNAi配列、アンチセンスRNA、miRNA等)を提供することができる。該機能性タンパク質は、筋ジストロフィーの欠陥遺伝子産物の野生型代替物を提供するか、または、非野生型であるにもかかわらず筋ジストロフィーの治療に有効な代替物(例えば、5-スペクトリン様マイクロD5ジストロフィンミニ遺伝子産物)を提供する。
【0065】
従って、1つの態様では、本発明は、以下を含む組み換えウイルスベクター、例えば、組み換えレンチウイルスまたはAAV(rAAV)ベクターを提供する:a)治療を必要とする患者/対象/個体における筋ジストロフィーの治療に有効な機能性タンパク質をコードするポリヌクレオチド、ここで、該ポリヌクレオチドは、3’-UTRコード領域を含み、該ポリヌクレオチドによってコードされる機能性タンパク質の発現を高める異種イントロン配列の直ぐ3’側にあり、ここで、該機能性タンパク質の対応する野生型は、筋ジストロフィーでは欠損しているか、または、該機能性タンパク質は、野生型ではないにもかかわらず、筋ジストロフィーの治療に有効であるもの、b)該ポリヌクレオチドに作動可能に連結され、その発現を駆動する制御要素(例えば、筋特異的制御要素)、ならびにc)該イントロン配列もしくは該3’-UTRコード領域または該機能性タンパク質の発現カセットの他の場所に挿入された1つ以上のコード配列、ここで、該1つ以上のコード配列は、独立して、RNAi配列(siRNA、shRNA、miRNA)、アンチセンス配列、マイクロRNA(miRNA)、及び/またはmiRNA阻害物質をコードするもの。
【0066】
関連する態様では、本明細書に記載の本発明は、酵素ベースの遺伝子編集システムの2つ以上の成分、例えば、標的ゲノム部位/標的ゲノム配列でDNA二重鎖切断(DSB)を創出することができる標的配列特異的(改変)ヌクレアーゼ、及び該(野生型または所望の)標的ゲノム配列と一致するドナーまたは鋳型配列等を同時に送達する/発現させるためのウイルスベクターとしても使用することができる。かかるシステムにより、該標的細胞内で内因性相同組み換え(HR)プロセスを利用して、欠陥のある/望ましくない標的ゲノム配列を削除し、それを所望の標的ゲノム位置で野生型または他の所望の配列と置き換えることが可能になる。
【0067】
例えば、該標的配列特異的(改変)ヌクレアーゼとしては、メガヌクレアーゼ(LAGLIDADGファミリーのもの等)及び固有の標的ゲノム配列を認識するそのバリアント、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、ならびにCRISPR/Cas遺伝子編集酵素が挙げられ得る。
【0068】
例えば、CRISPR/Casの場合、本主題のベクターは、ドナー配列以外の、またはドナー配列に加えて、1つ以上の標的配列(複数可)を標的とするために望ましい配列(複数可)を有する1つ以上の遺伝子編集ガイド配列(複数可)、及び該ウイルスベクターによってGOIとしてコードされ得る適合性の編集酵素を同時に送達することができる。かかるウイルス送達システムを使用して、細胞、組織、または生物に生じる望ましくない配列を所望の配列で置換することができる。CRISPR/Cas酵素システムの一例は、CRISPR/Cas9またはCRISPR/Cas12a(かつてはCpf1)、及び標的細胞に対して必要な1つ以上のガイド配列(例えば、Cas9の場合は一本鎖ガイドRNAもしくはsgRNA、またはCas12aの場合はcrRNA)である。Cas9には、野生型Cas9及びその機能性バリアントが含まれる。いくつかのCas9バリアントは、マイクロジストロフィン遺伝子とほぼ同じサイズであり、本発明のウイルスベクターによってコードされる機能性GOIであり得る。Cas12aは、Cas9よりもさらに小さく、同様にGOIとしてコードされ得る。ある特定の実施形態では、該ウイルス構築物によってコードされるCas遺伝子は、UTR及び/またはイントロン要素を有する場合もあれば、有さない場合もある。
【0069】
関連する態様では、本発明は、エキソビボまたはインビボ遺伝子治療で用いる組み換えレンチウイルスベクターを提供する。エキソビボ遺伝子治療では、培養宿主細胞は、主題のウイルスベクターを使用してインビトロでトランスフェクトされ、目的の遺伝子を発現し、その後、体内に移植される。インビボ遺伝子治療は、遺伝物質を標的組織に挿入する直接的な方法であり、形質導入は患者自身の細胞内で行われる。従って、本発明のレンチウイルスベクターは、以下を含み得る:a)治療を必要とする患者/対象/個体における筋ジストロフィーの治療に有効な機能性タンパク質をコードするポリヌクレオチド、ここで、該ポリヌクレオチドは、3’-UTRコード領域を含み、該ポリヌクレオチドによってコードされる機能性タンパク質の発現を高める異種イントロン配列の直ぐ3’側にあり、ここで、該機能性タンパク質の対応する野生型は、筋ジストロフィーでは欠損しているか、または、該機能性タンパク質は、野生型ではないにもかかわらず、筋ジストロフィーの治療に有効であるもの、b)該ポリヌクレオチドに作動可能に連結され、その発現を駆動する制御要素(例えば、筋特異的制御要素)、ならびにc)該イントロン配列もしくは該3’-UTRコード領域または該発現カセットの他の場所に挿入された1つ以上のコード配列、ここで、該1つ以上のコード配列は、独立して、RNAi配列(siRNA、shRNA、miRNA)、アンチセンス配列、マイクロRNA(miRNA)、及び/またはmiRNA阻害物質をコードするもの。
【0070】
本明細書で使用される場合、文脈次第で、「融合」という用語は、異なる意味を有する場合があり、融合タンパク質、2つ以上のコード配列(例えば、GOIのコード配列及び該GOIの3-UTR領域またはイントロン配列に挿入された/埋め込まれた1つ以上のRNAi剤のコード配列等)が存在し得る融合RNA転写産物、ならびに該ウイルスベクターが該GOI及び該1つ以上のRNAi剤のコード配列を含む融合構築物等を含む。
【0071】
ある特定の実施形態では、該1つ以上のコード配列は、該3’-UTRコード領域に、またはポリアデニル化(ポリA)シグナル配列(例えば、AATAAA)の後に挿入される。
【0072】
ある特定の実施形態では、該機能性GOIの発現は、該1つ以上のコード配列の存在のために上方制御または下方制御される(例えば、該1つ以上のコード配列が挿入されていない以外は同一の対照構築物と比較して)。
【0073】
ある特定の実施形態では、該機能性GOIの発現は、該1つ以上のコード配列の存在下で実質的に影響を受けない(例えば、該1つ以上のコード配列が挿入されていない以外は同一の対照構築物と比較して)。
【0074】
本明細書で使用される、「筋ジストロフィー(MD)」は、健康な筋肉を形成するのに必要な野生型のタンパク質の産生を妨げる異常な遺伝子または遺伝子突然変異による進行性衰弱及び筋肉量の損失を特徴とする疾患群を含む。MDは、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)、ベッカー型筋ジストロフィー(BMD)、先天性筋ジストロフィー(CMD)、特に、特定された遺伝子突然変異を有するもの、例えば、福山型先天性筋ジストロフィー(FCMD)及びメロシン欠損型先天性筋ジストロフィー1A型(MDC1A)を含めた後述のもの、ジスフェリン異常症(LGMD2B及び三好ミオパチー)、筋緊張性ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー(LGMD)、例えば、LGMD2C、ならびに顔面肩甲上腕型(FSHD)を含む。
【0075】
本明細書で使用される、「患者」、「対象」、及び「個体」は、同義で使用され、本主題の方法で治療される、診断される、及び/または生体試料が取得される哺乳類(例えば、ヒト)対象を含む。通常、該対象は、DMD及び本明細書に記載の他の関連疾患、ならびにいくつかの実施形態では、DMDならびに関連する心筋症及びジストロフィー性心筋症に罹患しているか、または罹患する可能性が高い。特定の実施形態では、対象は、ヒト小児または青年(例えば、18歳、15歳、12歳、10歳、8歳、5歳、3歳、1歳、月齢6か月、月齢3か月、月齢1か月未満等)である。特定の実施形態では、該小児または青年は男子である。別の特定の実施形態では、対象は、成人(例えば、≧18歳)、例えば、成年男子である。
【0076】
完全長ジストロフィン遺伝子は、2.6mbであり、79エクソンをコードする。11.5-kbのコード配列が、427-kDのタンパク質になる。ジストロフィンは、N末端ドメイン、桿状ドメイン、システインリッチドメイン、及びC末端ドメインを含めた4つの主要なドメインに分割することができる。桿状ドメインは、さらに、24のスペクトリン様リピート及び4つのヒンジに分割することができる。
【0077】
機能性「ジストロフィンミニ遺伝子」または「ジストロフィンマイクロ遺伝子」は、24個未満のスペクトリン様リピート及び遺伝子治療送達ベクター(アデノウイルス及びレンチウイルス)と適合性の1つ以上のヒンジ領域を有し、US7001761、US6869777、US8501920、US7892824、US10479821、及びUS10166272(すべて参照することにより本明細書に組み込まれる)に記載されている。
【0078】
1つの実施形態では、該筋ジストロフィーは、DMDまたはBMDであり、該組み換えAAV(rAAV)ベクターにおいて:a)該ポリヌクレオチドは、機能性5-スペクトリン様リピートジストロフィンタンパク質(参照することにより本明細書に組み込まれるUS10,479,821に記載のマイクロD5ジストロフィンタンパク質等)をコードするジストロフィンミニ遺伝子であり、及び/または、b)該筋特異的制御要素は、ジストロフィンミニ遺伝子に作動可能に連結され、その発現を駆動するCKプロモーターである。
【0079】
本明細書で使用される、「マイクロD5」、「SGT-001によってコードされるマイクロジストロフィンミニ遺伝子」、または略して「SGT-001」は、N末端からC末端へ、ヒト完全長ジストロフィンタンパク質のN末端アクチン結合ドメイン、ヒンジ領域1(H1)、スペクトリン様リピートR1、R16、R17、R23、及びR24、ヒンジ領域4(H4)、及びC末端ジストログリカン結合ドメインを含む特定の改変5リピートマイクロジストロフィンタンパク質を指す。この5リピートマイクロジストロフィン及び関連するジストロフィンミニ遺伝子のタンパク質配列は、US10,479,821及びWO2016/115543(参照することにより本明細書に組み込まれる)に記載されている。
【0080】
ある特定の実施形態では、該ジストロフィンミニ遺伝子は、例えば、特定のスペクトリン様リピート、及び/またはスペクトリン様リピートの数に関してマイクロD5とは異なる(例えば、ヒトジストロフィンのスペクトリン様リピートを最低4、5、または6個含み、好ましくは、1、2、または3個の最N末端及び/または最C末端リピートを含む)機能性ジストロフィンタンパク質をコードする。該ヒトジストロフィンの1つ以上のスペクトリン様リピートは、ユートロフィンまたはスペクトリン由来のスペクトリン様リピートでも置換され得る。ある特定の実施形態では、該ジストロフィンミニ遺伝子は、AAVウイルスベクターの5kbのパッケージング制限より小さく、好ましくは、4.9kb、4.8kb、4.6kb、4.5kb、4.4kb、4.3kb、4.2kb、4.1kb、または4kb以下である。
【0081】
ある特定の実施形態では、該ジストロフィンミニ遺伝子は、例えば、マイクロD5に対して、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、または89%、より典型的には、少なくとも90%、91%、92%、93%、または94%、さらにより典型的には、少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性であるマイクロジストロフィンタンパク質をコードし、該タンパク質は、マイクロジストロフィン活性を保持する。
【0082】
ある特定の実施形態では、該マイクロジストロフィンは、マイクロDマイクロジストロフィンをコードするポリヌクレオチド配列に対して、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、または89%、より典型的には、少なくとも90%、91%、92%、93%、または94%、さらにより典型的には、少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有するヌクレオチド配列によってコードされる。該ポリヌクレオチドは、任意に、哺乳類、例えば、ヒトでの発現用にコドン最適化される。
【0083】
ある特定の実施形態では、該ヌクレオチド配列は、ストリンジェントな条件下で、マイクロD5マイクロジストロフィン、またはその相補体をコードする核酸配列にハイブリダイズし、機能性マイクロジストロフィンタンパク質をコードする。
【0084】
「ストリンジェントな」という用語は、当技術分野でストリンジェントであると通常理解される条件を指すために使用される。ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーは、主に温度、イオン強度、及びホルムアミド等の変性剤の濃度によって決まる。ハイブリダイゼーション及び洗浄のためのストリンジェントな条件の例は、0.015M塩化ナトリウム、65~68℃の0.0015Mクエン酸ナトリウムまたは0.015M塩化ナトリウム、0.0015Mクエン酸ナトリウム、及び42℃の50%ホルムアミドである。Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory,(Cold Spring Harbor,N.Y.1989)を参照されたい。
【0085】
よりストリンジェントな条件(より高温度、より低イオン強度、より高ホルムアミド、または他の変性剤等)もまた使用され得るが、ハイブリダイゼーションの速度が影響を受ける。デオキシオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションが関係している場合、さらなる例示的なストリンジェントなハイブリダイゼーション条件としては、37℃(14塩基オリゴの場合)、48℃(17塩基オリゴの場合)、55℃(20塩基オリゴの場合)、及び60℃(23塩基オリゴの場合)で6×SSC0.05%ピロリン酸ナトリウム中での洗浄が挙げられる。
【0086】
非特異的及び/またはバックグラウンドのハイブリダイゼーションを減少させる目的で、他の薬剤をハイブリダイゼーション及び洗浄緩衝液に含めてもよい。例は、0.1%ウシ血清アルブミン、0.1%ポリビニルピロリドン、0.1%ピロリン酸ナトリウム、0.1%ドデシル硫酸ナトリウム、NaDodS04、(SDS)、フィコール、デンハルト溶液、超音波処理したサケ精子DNA(または他の非相補的DNA)、及び硫酸デキストランであるが、他の適切な薬剤を使用することもできる。これら添加剤の濃度及び種類は、ハイブリダイゼーション条件のストリンジェンシーに実質的に影響を与えることなく変更することができる。ハイブリダイゼーションの実験は、通常、pH6.8~7.4で行われるが、典型的なイオン強度条件では、ハイブリダイゼーションの速度は、pHにほとんど依存しない。Anderson et al.,Nucleic Acid Hybridisation:A Practical Approach,Ch.4,IRL Press Limited(Oxford,England)を参照されたい。これらの可変要素に対応し、異なる配列近縁性のDNAにハイブリッドを形成させるため、当業者によってハイブリダイゼーション条件が調整され得る。
【0087】
さらなるジストロフィンミニ遺伝子配列は、例えば、US2017/0368198(参照することにより本明細書に組み込まれる)、及びWO2017/181015(参照することにより本明細書に組み込まれる)の配列番号7に見出すことができる。
【0088】
ある特定の実施形態では、マイクロD5等の任意のジストロフィンミニ遺伝子をコードするヌクレオチド配列は、本開示のタンパク質配列に基づく任意のものであり得る。好ましくは、該ヌクレオチド配列は、ヒトでの発現用にコドン最適化される。
【0089】
該マイクロジストロフィンタンパク質は、筋収縮時の筋膜を安定させる。例えば、マイクロジストロフィンは、筋収縮時に衝撃吸収材として機能する。
ある特定の実施形態では、該1つ以上のコード配列のうちの少なくとも1つは、DMDにおける二次カスケード遺伝子の1つを標的とする。
【0090】
例えば、ある特定の実施形態では、該1つ以上のコード配列のうちの少なくとも1つは、マイクロRNA、例えば、miR-1、miR-133a、miR-29、特にmiR29c、miR-30c、及び/またはmiR-206をコードする。例えば、miR-29cは、結合組織の3つの主要な成分(例えば、コラーゲン1、コラーゲン3及びフィブロネクチン)を直接減少させ、線維化を低減する。
【0091】
本明細書で使用される、「線維化」は、骨格筋、心筋、肝臓、肺、腎臓、及び膵臓等の損傷時の組織における、細胞外マトリックス(ECM)成分の過剰または無秩序な沈着ならびに異常な修復過程を指す。沈着するECM成分には、フィブロネクチン及びコラーゲン、例えば、コラーゲン1、コラーゲン2またはコラーゲン3が含まれる。
【0092】
本明細書で使用される、「miR-29」は、miR-29a、-29b、または-29cのうちの1つを指す。ある特定の実施形態では、miR-29は、miR-29cを指す。
【0093】
いかなる特定の理論にも拘束されることを望むものではないが、発現したmiR29(miR-29a、miR-29b、またはmiR-29c等)は、コラーゲン及びフィブロネクチン遺伝子の3’UTRに結合し、これら標的遺伝子の発現を下方制御すると考えられる。
【0094】
別の実施形態では、該1つ以上のコード配列のうちの少なくとも1つは、RNAi配列、例えば、サルコリピンに対するshRNA(shSLN)をコードする。該1つ以上のコード配列は、同一または異なるサルコリピンに対するshRNA(shSLN)をコードし得る。ある特定の実施形態では、該shRNAは、サルコリピンのmRNA及び/またはサルコリピンタンパク質の発現を少なくとも約50%減少させる。
【0095】
本明細書で使用される、「サルコリピン(SLN)」、「サルコリピンタンパク質」、「SLNタンパク質」、「サルコリピンポリペプチド」及び「SLNポリペプチド」は、同義で使用され、SLN遺伝子の発現産物、例えば、アミノ酸配列(MGINTRELFLNFTIVLITVILMWLLVRSYGY)(配列番号1)、受託番号NP_003054.1を有する天然のヒトSLNタンパク質を含む。該用語は、好ましくは、該ヒトSLNを指す。該用語は、バリアントSLNタンパク質を指すために使用される場合もあり、該バリアントは、配列番号1とは、1アミノ酸、2アミノ酸、3アミノ酸、4アミノ酸、5アミノ酸、6アミノ酸、7アミノ酸、または8アミノ酸異なり、任意に、該相違は、残基2~5、10、14、17、20、及び30、好ましくは、2~5及び30にある。該用語は、残基6~29で配列番号1と同一であるか、または残基6~29で最大1、2、もしくは3個の保存的置換、例えばL→I及び/またはI→Vによって異なるバリアントSLNタンパク質を指すために使用される場合もある。任意に、該バリアントSLNは、G30Q置換を有する。該バリアントは、天然のSLNタンパク質の機能活性を示し、これには、SLNのリン酸化、脱リン酸化、ニトロシル化及び/またはユビキチン化、またはSERCAへの結合、及び/または、例えば、ATP加水分解に由来するCa2+輸送の脱共役によって、SERCAによる筋小胞体へのカルシウムの取り込み速度を低下させること、または、エネルギー代謝及び体重増加の調節におけるその役割が含まれ得る。
【0096】
本明細書で使用される、「SLN遺伝子」、「SLNポリヌクレオチド」、及び「SLN核酸」は同義で使用され、天然のヒトSLNコード核酸配列、例えば、該天然のヒトSLN遺伝子(RefSeq受託:NM_003063.2)、SLNのcDNAが転写され得る配列を有する核酸、及び/または前述のものの対立遺伝子バリアント及びホモログ、例えば、本明細書に記載のバリアントSLNのいずれかをコードするポリヌクレオチドを含む。該用語には、二本鎖DNA、一本鎖DNA、及びRNAが含まれる。
【0097】
別の実施形態では、本主題のベクターの1つ以上のさらなるコード配列は、ジストロフィン遺伝子の欠損に起因する二次カスケード事象のうちの1つに関連する任意の他の遺伝子、例えば、炎症遺伝子、NF-κBシグナル伝達経路の活性化因子(例えば、TNF-α、IL-1、IL-1β、IL-6、NF-κB活性化受容体(RANK)、及びToll様受容体(TLR))、NF-κB、NF-κBによって誘導される下流の炎症性サイトカイン、ヒストンデアセチラーゼ(例えば、HDAC2)、TGF-β、結合組織増殖因子(CTGF)、コラーゲン、エラスチン、細胞外マトリックスの構成成分、グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ(G6PD)、ミオスタチン、ホスホジエステラーゼ-5(PED-5)またはACE、VEGFデコイ受容体1型(VEGFR-1またはFlt-1)、及び造血プロスタグランジンDシンターゼ(HPGDS)を標的とし得る。該1つ以上のさらなるコード配列は、上記標的遺伝子の機能に拮抗するRNAi配列(siRNA、shRNA、miRNA)、アンチセンス配列、及び/またはマイクロRNAであり得る。
【0098】
本主題の組み換えベクターのデザインは、1つ以上(例えば、1、2、3、4、5)のかかる二次カスケード遺伝子または経路、例えば、SLN、マイクロRNA等を同時に標的とすることができる。
【0099】
例えば、ある特定の実施形態では、本主題のベクターのさらなるコード配列のうちの1つは、SLNの発現を下方制御し、ひいては、SERCAによるカルシウムの再取り込みを増加させることによってジストロフィー筋での二次欠陥である細胞内Ca2+の異常な上昇を少なくとも部分的に軽減するようにデザインされたRNAi配列(siRNA、shRNA、miRNA)またはアンチセンス配列であり得る。
【0100】
ある特定の代替的な実施形態では、二次カスケード遺伝子の1つを標的とする代わりに、またはそれに加えて、該1つ以上のコード配列のうちの少なくとも1つは、欠陥のある内因性ジストロフィンのエクソン、例えば、ジストロフィンのエクソン45~55のいずれか1つ、またはジストロフィンのエクソン44、45、51、及び/または53のスキッピングを誘導し、ひいては、ジストロフィンミニ遺伝子(例えば、マイクロD5)の治療効果をさらに高めるエクソンスキッピングアンチセンス配列でもよい。
【0101】
本明細書で使用される、「エクソンスキッピング」または「スプライススイッチング」アンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)は、RNase-H耐性であるアンチセンス配列の一種であり、pre-mRNAのスプライシングを調節し、該pre-mRNAのスプライシング欠陥を修正するように作用する。アンチセンスを介したエクソンスキッピング療法では、AONは通常、特定のスプライシングシグナルをブロックし、ある特定のエクソンの特異的スキッピングを誘導するように使用される。これが、変異転写産物のリーディングフレームの修正をもたらし、それが、内部欠損であるが部分的に機能性のタンパク質に翻訳され得る。
【0102】
特定の態様では、本発明は、ジストロフィンミニ遺伝子コード配列(マイクロD5/SGT-001等)、及びジストロフィン機能の損失に起因する二次カスケードに関与する1つ以上のさらなる標的遺伝子を標的とするための1つ以上のさらなる配列の両方をコードする組み換えAAV(rAAV)ベクターを提供する。かかる構築物は、ジストロフィンミニ遺伝子、及び該ジストロフィンミニ遺伝子の5’の異種イントロン、及び/または該ジストロフィンミニ遺伝子の3’-UTR領域に挿入された1つ以上のさらなるコード配列の両方を含む。
【0103】
具体的には、1つの態様では、本発明は、以下を含む組み換えAAV(rAAV)ベクターを提供する:a)機能性マイクロジストロフィンタンパク質をコードするジストロフィンミニ遺伝子、ここで、該ジストロフィンミニ遺伝子は、3’-UTRコード領域を含み、該ジストロフィンミニ遺伝子の発現を高める異種イントロン配列の直ぐ3’側にあるもの、b)該ジストロフィンミニ遺伝子に作動可能に連結され、その発現を駆動する筋特異的制御要素、ならびにc)該イントロン配列または該3’-UTRコード領域に挿入された1つ以上(例えば、1、2、3、4、または5つ)のコード配列(複数可)、ここで、該1つ以上のコード配列(複数可)は、独立して、RNAi配列(siRNA、shRNA、miRNA)、アンチセンス配列、マイクロRNA(miRNA)、及び/またはmiRNA阻害物質をコードするもの。
【0104】
例えば、該rAAVベクターは、miR-29(例えば、miR-29c)を発現するポリヌクレオチド配列、例えば、miR-29c標的ガイド鎖(ACCGATTTCAAATGGTGCTAGA、参照することにより本明細書に組み込まれるWO2017/181015の配列番号3)、miR-29cガイド鎖(TCTAGCACCATTTGAAATCGGTTA、参照することにより本明細書に組み込まれるWO2017/181015の配列番号4)ならびに天然のmiR-30骨格及びステムループ(GTGAAGCCACAGATG、参照することにより本明細書に組み込まれるWO2017/181015の配列番号5)を含むヌクレオチド配列を含み得る。
【0105】
miR-30骨格にmiR-29cのcDNAを含む例示的なポリヌクレオチド配列は、WO2017/181015(参照することにより本明細書に組み込まれる)の配列番号2及び
図1に示される。
【0106】
ある特定の実施形態では、該マイクロRNA-29コード配列は、miR-29cをコードする。
ある特定の実施形態では、miR-29cは、標的配列用にデザインされたmiR-29cのガイド鎖のプロセシングを促進する修飾隣接骨格配列を任意に有する。例えば、該修飾隣接骨格配列は、miR-30(miR-30E)、-101、-155、または-451のものに由来する場合もそれに基づく場合もある。
【0107】
ある特定の実施形態では、該マイクロRNAは、miR-1、miR-133a、miR-30c、及び/またはmiR-206である。
ある特定の実施形態では、宿主細胞での該マイクロRNAの発現は、該宿主細胞での該マイクロRNAの内因性の発現と比較して、少なくとも約1.5~15倍(例えば、約2~10倍、約1.4~2.8倍、約2~5倍、約5~10倍、約2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、または約15倍)上方制御される。
【0108】
ある特定の実施形態では、本発明のベクターは、サルコリピン(SLN)の機能に拮抗するアンチセンス配列、またはRNAi配列(siRNA、shRNA、miRNA等)をコードする。ある特定の実施形態では、本発明のベクターは、サルコリピンの機能に拮抗するshRNA(shSLN)をコードする。例示的なshSLN配列としては、
図9及び10に開示するもの(例えば、
図9の下線付きの配列、及び
図10の強調表示された配列)が挙げられる。さらなる例示的なshSLN配列としては、WO2018/136880(参照することにより本明細書に組み込まれる)に開示される配列番号7~11が挙げられる。
【0109】
本発明はまた、1つには、遺伝子治療ベクター、例えば、該1つ以上のコード配列(複数可)、及び該ジストロフィンミニ遺伝子を発現するレンチウイルスまたはAAV、ならびにそれを筋肉に送達し、ジストロフィン機能を回復しつつ二次カスケード症状を軽減及び/または予防する方法に関する。
【0110】
1つの実施形態では、該筋ジストロフィーは、既知の遺伝的欠陥、例えば、フクチン遺伝子またはFKRP(フクチン関連タンパク質)遺伝子と関連する先天性筋ジストロフィー(CMD)である。従って、ある特定の実施形態では、該先天性筋ジストロフィーは、福山型先天性筋ジストロフィー(FCMD)である。
【0111】
先天性筋ジストロフィー(CMD)は、出生時またはその間近に明らかになる筋ジストロフィーの一群である。ある特定の実施形態では、本発明の方法及びrAAVは、CMD、特に、タイチン(心筋症を伴うCMD)、SEPN1(デスミン封入を伴うCMD、もしくは(初期の)脊髄性固縮を伴うCMD)、インテグリン-アルファ7(インテグリンアルファ7変異を伴うCMD)、インテグリン-アルファ9(関節過弛緩を伴うCMD)、プレクチン(家族性接合部型表皮水疱症を伴うCMD)、フクチン(福山型CMDもしくはMDDGA4)、フクチン関連タンパク質(FKRP)(筋肥大を伴うCMDもしくはMDC1C)、LARGE(MDC1D)、DOK7(筋無力症候群を伴うCMD)、ラミンA/C(脊髄性固縮及びラミンA/C異常を伴うCMD)、SBP2(脊髄性固縮及びセレンタンパク質欠損を伴うCMD)、コリンキナーゼベータ(ミトコンドリアの構造的異常を伴うCMD)、ラミニンアルファ2(メロシン欠損CMDもしくはMDC1A)、POMGnT1(Santavuori筋・眼・脳病)、COLGA1、COL6A2、もしくはCOL6A3(Ullrich CMD)、B3GNT1(ウォーカー・ワールブルグ症候群:MDDGA型)、POMT1(ウォーカー・ワールブルグ症候群:MDDGA1型)、POMT2(ウォーカー・ワールブルグ症候群:MDDGA2型)、ISPD(MDDGA3、MDDGA4、MDDGB5、MDDGA6、及びMDDGA7)、GTDC2(MDDGA8)、TMEM5(MDDGA10)、B3GALNT2(MDDGA11)、またはSGK196(MDDGA12)等の遺伝子に既知の遺伝的欠陥を有するCMDの治療に使用することができる。
【0112】
従って、本発明のレンチウイルスまたはrAAVベクターは、治療を必要とする対象のCMDを治療するため、CMDにおいて欠陥のある野生型遺伝子(上記で挙げたもの等)のいずれか、またはその機能的等価物をコードするポリヌクレオチドを含み得る。1つ以上のさらなるコード配列は、RNAi配列(siRNA、shRNA、miRNA)、アンチセンス配列、または変異CMD遺伝子を排除または修飾するマイクロRNA(miRNA)、または該野生型遺伝子機能の喪失によって上方制御される二次カスケード遺伝子をコードし得る。
【0113】
例えば、福山型先天性筋ジストロフィー(FCMD)は、変異FKTN遺伝子が原因であり、該1つ以上のさらなるコード配列は、エクソンスキッピングアンチセンスオリゴヌクレオチドをコードし、正しいエクソン10スプライシングを、該患者における欠陥のあるFKTN遺伝子において修復する。
【0114】
別の例では、該先天性筋ジストロフィーは、65エクソンのLAMA2遺伝子の突然変異によって引き起こされるメロシン欠損型先天性筋ジストロフィー1A型(MDC1A)である。
【0115】
従って、本発明のレンチウイルスまたはrAAVベクターは、機能性LAMA2タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含み得る。該1つ以上のさらなるコード配列は、α-ジストログリカンとの相互作用の仲介にとって最も重要なLAMA2のC末端のGドメイン(エクソン45~64)、特にG4及びG5の発現を回復するエクソンスキッピングアンチセンス配列をコードし得る。例えば、該変異LAMA2遺伝子のエクソン4は、MDC1Aを治療するためにスキップされ得る。
【0116】
1つの実施形態では、該筋ジストロフィーは、筋緊張性ジストロフィー(DM)、例えば、DM1またはDM2である。
従って、本発明のレンチウイルスまたはrAAVベクターは、DM1における欠陥のある機能性筋緊張性ジストロフィープロテインキナーゼ(DMPK)タンパク質、またはDM2における機能性CCHC型ジンクフィンガー核酸結合タンパク質遺伝子(CNBP)タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含み得る。該1つ以上のさらなるコード配列は、DMPK遺伝子またはCNBP遺伝子の変異転写産物の伸長リピートを標的とし、RNaseによって分解するために使用することができるRNAi配列(siRNA、shRNA、miRNA)、アンチセンス配列、またはマイクロRNA(miRNA)をコードし得る。該1つ以上のさらなるコード配列は、DM1患者のCLCN1遺伝子のエクソン7Aのスキッピングをもたらすエクソンスキッピングアンチセンス配列もコードする場合がある。
【0117】
1つの実施形態では、該筋ジストロフィーは、ジスフェリン(DYSF)遺伝子の突然変異によって引き起こされるジスフェリン異常症であり、肢帯型筋ジストロフィー2B型(LGMD2B)及び三好ミオパチー(MM)を含む。
【0118】
従って、本発明のレンチウイルスまたはrAAVベクターは、LGMD2BまたはMMで欠陥のある機能性DYSFタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含み得る。該1つ以上のさらなるコード配列は、ジスフェリン異常症患者で欠陥のあるDYSF遺伝子のエクソン32のスキッピングをもたらすエクソンスキッピングアンチセンス配列をコードする場合もある。
【0119】
1つの実施形態では、該筋ジストロフィーは、肢帯型筋ジストロフィー(LGMD)であり、4つのサルコグリカン遺伝子、すなわち、α(LGMD2D)、β(LGMD2E)、γ(LGMD2C)及びδ(LGMD2F)遺伝子のうちのいずれか、特に、SGCG遺伝子によってコードされるγサルコグリカン(LGMD2C)の突然変異によって引き起こされる。
【0120】
従って、本発明のレンチウイルスまたはrAAVベクターは、LGMDで欠陥のある機能性サルコグリカンタンパク質、例えば、LGMD2Cで欠陥のあるSGCG遺伝子をコードするポリヌクレオチドを含み得る。該1つ以上のさらなるコード配列は、欠陥LGMD2C遺伝子、例えば、Δ-521TのSGCG変異を有するもののエクソン4~7のスキッピングをもたらすエクソンスキッピングアンチセンス配列をコードする場合もある。
【0121】
1つの実施形態では、該筋ジストロフィーは、DUX4遺伝子の突然変異によって引き起こされる顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSHD)である。
従って、該1つ以上のさらなるコード配列は、DUX4または下流の標的、例えば、PITX1の発現を低下させるRNAi配列(siRNA、shRNA、miRNA)、アンチセンス配列、またはマイクロRNA(miRNA)をコードする場合もある。
【0122】
ある特定の実施形態では、該1つ以上のさらなるコード配列は、DUX4の3’-UTRを標的とし、その発現を低下させるエクソンスキッピングアンチセンス配列をコードする。これは、DUX4コード配列が、完全に該遺伝子の第1のエクソンに位置するため、及び該mRNAの3’UTRの要素を標的とするエクソンスキッピングが、許容状態のポリアデニル化を妨害するか、またはイントロン1もしくは2のスプライシングを妨害し、ひいては機能性DUX4のmRNAを破壊することができるためである。
【0123】
顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSHD)は、進行性の筋変性によって臨床的に特徴付けられる遺伝性の常染色体優性疾患である。これは、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)及び筋緊張性ジストロフィーに次いで3番目に多い筋ジストロフィーである。FSHDは、4番染色体上のマクロサテライトリピートのサブセットの病原性短縮によって遺伝的に特徴付けられ、ダブルホメオボックスプロテイン4(DUX4)遺伝子の異常な発現をもたらす。
【0124】
FSHDには、2つの型、すなわち、FSHD1及びFSHD2がある。FSHD1は、全FSHD患者の95%以上に発症する最も一般的な形態である。遺伝分析により、FSHD1は、4番染色体上のマクロサテライトD4Z4リピート配列の遺伝的短縮に関連付けられている。一方、FSHD2は、正常数のD4Z4リピートを有するが、代わりに、染色体18pにSMCHD1遺伝子におけるヘテロ接合突然変異、クロマチン修飾因子を含む。FSHD1及びFSHD2の患者は、同様の臨床像を共有する。
【0125】
現在の薬物療法は、FSHDを治すものではないが、FSHD症状の管理に焦点を当てており、ミオスタチン阻害物質ラスパテルセプトや抗炎症生物製剤(ATYR1940)を含む。抗炎症生物製剤の原則は、FSHD患者の筋病理に一般に見られる炎症を抑制し、表現型の進行を遅らせることである。従って、本主題の1つ以上のコード配列は、ミオスタチンまたは炎症経路の遺伝子に対するRNAi試薬またはアンチセンスRNAをコードし得る。それと同時に、該RNAi試薬、例えば、低分子干渉RNA(siRNA)及び低分子ヘアピンRNA(shRNA)、もしくはマイクロRNA(miRNA)、またはアンチセンスオリゴヌクレオチドは、筋障害性DUX4遺伝子及びその下流のpaired-likeホメオドメイン転写因子1(PITX1)等の分子の発現をノックダウンするために使用することができる。実際に、インビトロ研究では、アンチセンスオリゴをFSHD患者の一次骨格筋細胞に投与し、かつAAVベクターを使用してDUX4マウスモデルに送達されたDUX4に対するmiRNAを使用することにより、DUX4のmRNA発現の抑制に成功したことが示されている。さらに、PITX1発現の抑制の成功は、インビボではすでに全身的に実証されている。
【0126】
ある特定の実施形態では、該1つ以上のさらなるコード配列は、同じ配列(例えば、siRNA、shRNA、miRNA、またはアンチセンス)をコードすることができ、ひいては、該さらなるコード配列のコピー数は、投与を考慮して調節または微調整され得る。
【0127】
ある特定の実施形態では、該1つ以上のさらなるコード配列は、異なる配列をコードして、異なる標的を標的とする場合もあれば、同じ標的を標的とする場合もある。例えば、ある特定の実施形態では、1つのさらなるコード配列は、標的に対するアンチセンスであり、別のさらなるコード配列は、同じ標的に対するshRNAである。代替的に、2つのさらなるコード配列は、両方ともshRNAであるが、それらは、同じ標的の異なる領域を標的とする。
【0128】
ある特定の実施形態では、該機能性タンパク質、例えば、ジストロフィンミニ遺伝子産物の発現は、該1つ以上のコード配列(複数可)の挿入による悪影響を受けない。
1990年代初頭までに、イントロンを含まない多くの導入遺伝子は、インビトロでは組織培養細胞中で完全に発現するものの、インビボ(例えば、該導入遺伝子を有するトランスジェニックマウス)では同じ導入遺伝子の発現ができず、ある特定の異種イントロン配列を、該導入遺伝子のプロモーター及び該(イントロンを含まない)コード配列間に挿入することで、インビボでの導入遺伝子の発現が大きく向上することが分かった。
【0129】
特に、Palmiter et al.(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.88:478-482, 1991、参照することにより本明細書に組み込まれる)は、メタロチオネインプロモーター及び成長ホルモン導入遺伝子間に挿入されたいくつかの異種イントロンが、導入遺伝子の発現を改善することを示し、導入遺伝子の発現を改善するための一般的な戦略として、ある特定の異種イントロンの付加を提供した。これらとしては、天然のrGHの第1のイントロン、ラットインスリンII(rIns-II)遺伝子のイントロンA、hβG遺伝子のイントロンB、及びSV40の小tイントロンから選択される異種イントロンが挙げられる。
【0130】
同様の発見は、Choi et al.(Mol.Cell.Biol.11(6):3070-3074,1991、参照することにより本明細書に組み込まれる)によっても確認された。彼らは、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)の細菌遺伝子に連結されたヒトヒストンH4プロモーターを有するトランスジェニックマウスにおいて、230-bPの異種ハイブリッドイントロンが転写単位に存在することで、CAT活性が大きく(該介在配列を正確に削除した類似導入遺伝子と比較して、5~300倍)向上することを報告した。このハイブリッドイントロンは、アデノウイルスのスプライスドナー及び免疫グロブリンGのスプライスアクセプターからなり、該動物の広範囲の組織で発現を刺激した。該ハイブリッドイントロンは、組織培養中で組織プラスミノーゲン活性化因子及び第VIII因子の発現を刺激したため、Choiは、このマウスで見られた向上は、CATに特異的である可能性は低く、代わりにトランスジェニックマウスでの任意のcDNAの発現に一般に適用可能であると結論付けた。
【0131】
従って、ある特定の実施形態では、本主題のレンチウイルスまたはrAAVベクターにおける異種イントロンは、天然のrGHの第1のイントロン、ラットインスリンII(rIns-II)遺伝子のイントロンA、hβG遺伝子のイントロンB、SV40の小tイントロン、及びChoiのハイブリッドイントロンからなる群から選択される。
【0132】
ある特定の実施形態では、該異種イントロン配列は、以下の配列番号1である:
GTATCAAGGTTACAAGACAGGTTTAAGGAGACCAATAGAAACTGGGCTTGTCGAGACAGAGAAGACTCTTGCGTTTCTGATAGGCACCTATTGGTCTTACTGACATCCACTTTGCCTTTCTCTCCACAG。
【0133】
ある特定の実施形態では、該1つ以上のさらなるコード配列は、該異種イントロン配列(配列番号1)にすべて挿入されるか、または該3’-UTR領域にすべて挿入されるか、または両方の領域に挿入される。例えば、該マイクロRNA-29cコード配列は、以下の配列番号2にあるようなイントロンコード配列に挿入することができる:
GTATCAAGGTTACAAGACAGGTTTAAGGAGACCAATAGAAACTGGGCTTGTCGAGACAGATCTCTTACACAGGCTGACCGATTTCTCCTGGTGTTCAGAGTCTGTTTTTGTCTAGCACCATTTGAAATCGGTTATGATGTAGGGGGAAGAAGACTCTTGCGTTTCTGATAGGCACCTATTGGTCTTACTGACATCCACTTTGCCTTTCTCTCCACAG。
【0134】
配列番号2におけるmiR-29c配列は、
ATCTCTTACACAGGCTGACCGATTTCTCCTGGTGTTCAGAGTCTGTTTTTGTCTAGCACCATTTGAAATCGGTTATGATGTAGGGGGA(配列番号3)である。
【0135】
ある特定の実施形態では、該レンチウイルスまたはrAAVは、該ポリヌクレオチド(該ジストロフィンミニ遺伝子等)及び該さらなるコード配列(複数可)に隣接する2つのレンチウイルスまたはAAVのLTR/ITR配列をさらに含む。
【0136】
ある特定の実施形態では、本発明のレンチウイルスまたはrAAVベクターは、筋特異的制御要素に作動可能に連結され得る。例えば、該筋特異的制御要素は、ヒト骨格アクチン遺伝子素、心筋型アクチン遺伝子素、筋細胞特異的エンハンサー結合因子MEF、筋クレアチンキナーゼ(MCK)、tMCK(切断型MCK)、ミオシン重鎖(MHC)、C5-12(合成プロモーター)、マウスクレアチンキナーゼエンハンサー要素、骨格速筋トロポニンC遺伝子素、遅筋心筋トロポニンC遺伝子素、遅筋トロポニンI遺伝子素、低酸素誘導性核内因子、ステロイド誘導性因子、またはグルココルチコイド応答エレメント(GRE)であり得る。
【0137】
ある特定の実施形態では、筋特異的制御要素は、該異種イントロン配列に対して5’であり、これは、該ジストロフィンミニ遺伝子に対して5’であり、これは、翻訳終止コドン(TAG等)、ポリAアデニル化シグナル(AATAAA等)、及びmRNA切断部位(CA等)を含む3’-UTR領域を含む。
【0138】
ある特定の実施形態では、該筋特異的制御要素は、WO2017/181015の配列番号10または配列番号11のヌクレオチド配列を含む。
WO2017/181015の配列番号10:
【0139】
【0140】
WO2017/181015の配列番号11:
【0141】
【0142】
ある特定の実施形態では、本発明のrAAVベクターは、MCKエンハンサーのヌクレオチド配列(参照することにより本明細書に組み込まれるWO2017/181015の配列番号10参照)及び/またはMCKプロモーターの配列(参照することにより本明細書に組み込まれるWO2017/181015の配列番号11参照)を含む筋特異的制御要素に作動可能に連結され得る。
【0143】
ある特定の実施形態では、該rAAVは、さらに、該ジストロフィンミニ遺伝子及び該さらなるコード配列に作動可能に連結され、それらの転写を駆動することが可能なプロモーターを含む。
【0144】
例示的なプロモーターは、CMVプロモーターである。
ある特定の実施形態では、該rAAVは、さらに、ポリA配列を転写mRNAに挿入するためのポリAアデニル化配列を含む。
【0145】
ある特定の実施形態では、本発明のrAAVベクターは、血清型AAV1、AAV2、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAVrh.74、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12またはAAV13のものである。
【0146】
本発明の別の態様は、ウイルスベクター、例えば、本発明のrAAVベクターの生成方法を提供し、該方法は、任意のウイルスベクター、例えば、本発明のrAAVベクターでトランスフェクトされた細胞を培養すること、及び該ウイルス、例えば、rAAV粒子を、該トランスフェクトされた細胞の上清から回収することを含む。
【0147】
本発明の別の態様は、該ウイルスベクターのいずれか、例えば、本発明の組み換えAAVベクターを含むウイルス粒子を提供する。
本発明の別の態様は、筋ジストロフィーにおいて、欠陥があるか、または該筋ジストロフィーの治療に有効な機能性タンパク質(マイクロジストロフィンタンパク質等)、及び1つ以上のさらなるコード配列(複数可)を生成する方法を提供し、該方法は、宿主細胞内で本発明の機能性タンパク質(例えば、マイクロジストロフィン)及び該コード配列産物(例えば、RNAi、siRNA、shRNA、miRNA、アンチセンス、マイクロRNAまたはその阻害物質)を共発現する主題の組み換えAAVベクターで宿主細胞を感染させることを含む。
【0148】
本発明の別の態様は、治療を必要とする対象において筋ジストロフィー(DMDもしくはBMD等)またはジストロフィン異常症を治療する方法を提供し、該方法は、治療有効量のウイルスベクター、例えば、本発明の組み換えAAVベクター、または本発明の組成物を該対象に投与することを含む。
【0149】
本発明は、該ウイルスベクターのいずれか、例えば、本発明のAAVベクターを、ジストロフィン異常症または筋ジストロフィー、例えば、DMDもしくはBMDまたは任意の他のMD、特に、欠陥ジストロフィン関連筋ジストロフィーと診断された患者に、好ましくは、該対象で線維化等の1つ以上の二次カスケード症状が認められる前に、または該対象の筋力が減少する前に、または該対象の筋肉量が減少する前に投与することを企図する。
【0150】
本発明はまた、該ウイルスベクターのいずれか、例えば、本発明のrAAVを、ジストロフィン異常症または筋ジストロフィー、例えば、DMDもしくはBMDまたは任意の他のMD、特に、ジストロフィン関連筋ジストロフィーに罹患し、線維化等の1つ以上の二次カスケード症状をすでに発症している対象に投与し、これら対象においてさらなる疾患の進行を防止または減速することを企図する。
【0151】
本発明の別の態様は、筋ジストロフィーにおいて欠損しているか、または該筋ジストロフィーの治療に有効な機能性タンパク質をコードするヌクレオチド配列(例えば、マイクロジストロフィンタンパク質)及び該1つ以上のさらなるコード配列を含む組み換えウイルスベクター、例えば、AAVベクターを提供する。
【0152】
ある特定の実施形態では、本発明は、機能性マイクロジストロフィンタンパク質、例えば、マイクロD5をコードするヌクレオチド配列に対して、少なくとも85%、90%、95%、97%、または99%の同一性を有するヌクレオチド配列を含むrAAVを提供する。
【0153】
該ウイルスベクター、例えば、rAAVベクターは、筋特異的プロモーター、例えば、MCKプロモーター、該ジストロフィン遺伝子の発現を高めるのに有効な異種イントロン配列、該マイクロジストロフィン遺伝子のコード配列、ポリAアデニル化シグナル配列、これらの配列に隣接するITR/LTRリピートを含み得る。該ウイルスベクター、例えば、rAAVベクターは、任意にさらに、細菌宿主での増幅のためのアンピシリン耐性及びプラスミド骨格配列またはpBR322複製起点を含んでもよい。
【0154】
1つの態様では、本発明の組み換えAAVベクターは、AAV1、AAV2、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAVrh.74、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12またはAAV13である。
【0155】
本発明の方法のいずれかでは、該rAAVベクターは、筋肉注射または静脈内注射によって投与することができる。
本発明の方法のいずれかでは、該ウイルスベクター、例えば、rAAVベクターまたは組成物は、全身投与される。例えば、該ウイルスベクター、例えば、rAAVベクターまたは組成物は、注射、注入または移植によって非経口投与される。
【0156】
本発明の別の態様は、該ウイルスベクターのいずれか、例えば、本発明のrAAVベクターを含む組成物、例えば、医薬組成物を提供する。
ある特定の実施形態では、該組成物は、さらに治療上適合性のある担体または賦形剤を含み得る医薬組成物である。
【0157】
別の実施形態では、本発明は、ジストロフィン異常症または筋ジストロフィー、例えば、DMDまたはベッカー型筋ジストロフィーに罹患した対象を治療するための本主題の機能性タンパク質(例えば、マイクロジストロフィン)及び該1つ以上のさらなるコード配列を共発現するウイルスベクターのいずれか、例えば、rAAVベクターを含む組成物を提供する。
【0158】
本発明の組成物(例えば、医薬組成物)は、筋肉注射または静脈内注射用に製剤化することができる。本発明の組成物は、全身投与用、例えば、注射、注入または移植による非経口投与用に製剤化することもできる。さらに、該組成物のいずれかは、ジストロフィン異常症または筋ジストロフィー、例えばDMD、ベッカー型筋ジストロフィーまたは任意の他のジストロフィン関連筋ジストロフィーに罹患した対象に投与するために製剤化される。
【0159】
さらなる実施形態では、本発明は、ジストロフィン異常症または筋ジストロフィー、例えば、DMD、ベッカー型筋ジストロフィーまたは任意の他のジストロフィン関連筋ジストロフィーに罹患した対象を回復させるための薬剤の調製のための主題の機能性タンパク質(例えば、マイクロジストロフィン)及び該1つ以上のさらなるコード配列を共発現する該ウイルスベクターのいずれか、例えば、本発明のrAAVベクターの使用を提供する。
【0160】
本発明は、DMDと診断された患者に対して、1つ以上の二次カスケード症状、例えば、線維化が該対象で認められる前に投与するための薬剤の調製用の該ウイルスベクターのいずれか、例えば、本発明のAAVベクターの使用を企図する。
【0161】
本発明はまた、筋ジストロフィーに罹患し、線維化等の二次カスケード症状をすでに発症している対象に対して該ウイルスベクターのいずれか、例えば、本発明のrAAVを投与し、これら対象において疾患の進行を防止または減速するための薬剤の調製用の該ウイルスベクターのいずれか、例えば、本発明のAAVベクターの使用を企図する。
【0162】
本発明はまた、筋ジストロフィー、例えば、DMD/BMDの治療用の薬剤の調製のための主題の機能性タンパク質、例えば、マイクロジストロフィン、及び該1つ以上のさらなるコード配列を共発現するウイルスベクター、例えば、本発明のrAAVベクターの使用を提供する。
【0163】
本発明の使用のいずれかでは、該薬剤は、筋肉注射用に製剤化することができる。さらに、該薬剤のいずれかは、筋ジストロフィー、例えばDMDまたは任意の他のジストロフィン関連筋ジストロフィーに罹患した対象に投与するために製剤化され得る。
【0164】
本発明はまた、筋ジストロフィー患者において、主題の機能性タンパク質(例えば、マイクロジストロフィン)及び該1つ以上のさらなるコード配列を共発現する遺伝子治療ベクター、例えば、rAAVベクターを提供する。
【0165】
本明細書に記載の本発明の任意の1つの実施形態は、実施例にのみまたは上記もしくは下記のセクションの1つにのみ、あるいは本発明の1つの態様に記載の実施形態を含め、本発明の任意の1つ以上のさらなる実施形態と組み合わせることができることを理解されたい。
【0166】
AAV
本明細書で使用される、「AAV」という用語は、アデノ随伴ウイルスの標準的な省略形である。アデノ随伴ウイルスは、同時感染するヘルパーウイルスによってある特定の機能が提供される細胞でのみ増殖する一本鎖DNAパルボウイルスである。特徴付けられているAAVには少なくとも13の血清型が存在する。AAVの概説及び総説は、例えば、Carter,1989,Handbook of Parvoviruses,Vol.1,pp.169-228、及びBerns,1990,Virology,pp.1743-1764,Raven Press,(New York)(参照することにより本明細書に組み込まれる)に見出すことができる。しかしながら、様々な血清型は、遺伝子レベルでも構造的及び機能的に非常に密接に関連していることがよく知られているため、これらの同じ原則がさらなるAAVの血清型に適用されることが十分に予想される。例えば、Blacklowe,1988,Parvoviruses and Human Disease,J.R.Pattison,ed.のpp.165-174、及びRose,Comprehensive Virology 3:1-61(1974)を参照されたい。例えば、すべてのAAVの血清型は、相同rep遺伝子によって媒介される非常に類似した複製特性を明らかに示し、すべてが、AAV2で発現するような3つの関連するカプシドタンパク質を有する。近縁性の程度は、ゲノムの長さに沿った血清型間の広範なクロスハイブリダイゼーションを明らかにするヘテロ二本鎖分析、及び「末端逆位配列」(ITR)に対応する末端での類似の自己アニーリングセグメントの存在によってさらに示唆される。同様の感染性パターンもまた、各血清型の複製機能が同様の調整制御下にあることを示唆する。
【0167】
本明細書で使用される、「AAVベクター」は、AAVの末端リピート配列(ITR)が隣接する1つ以上の目的のポリヌクレオチド(または導入遺伝子)を含むベクターを指す。かかるAAVベクターは、rep及びcap遺伝子産物をコードし、発現するベクターでトランスフェクトされた宿主細胞に存在する場合、感染性ウイルス粒子に複製及びパッケージ化され得る。
【0168】
「AAVビリオン」または「AAVウイルス粒子」または「AAVベクター粒子」は、少なくとも1つのAAVカプシドタンパク質及びカプシド形成されたポリヌクレオチドAAVベクターからなるウイルス粒子を指す。該粒子が異種ポリヌクレオチド(すなわち、哺乳類細胞に送達される導入遺伝子等の野生型AAVゲノム以外のポリヌクレオチド)を含む場合、これは、通常、「AAVベクター粒子」または単に「AAVベクター」と称される。従って、かかるベクターは、AAVベクター粒子内に含まれるため、AAVベクター粒子の生成は、AAVベクターの生成を必然的に含む。
【0169】
本発明の組み換えAAVゲノムは、本発明の核酸分子及び核酸分子に隣接する1つ以上のAAVのITRを含む。
AAVには複数の血清型があり、該AAVの血清型のゲノムのヌクレオチド配列は既知である。例えば、AAV血清型2(AAV2)ゲノムのヌクレオチド配列は、Srivastava et al.,J Virol 45:555-564(1983)に示され、Ruffing et al.,J Gen Virol 75:3385-3392(1994)によって修正された。ともに参照することにより本明細書に組み込まれる。他の例として、AAV-1の全ゲノムは、GenBank受託番号NC_002077(参照することにより本明細書に組み込まれる)に示され、AAV-3の全ゲノムは、GenBank受託番号NC_001829(参照することにより本明細書に組み込まれる)に示され、AAV-4の全ゲノムは、GenBank受託番号NC_001829(参照することにより本明細書に組み込まれる)に示され、AAV-5のゲノムは、GenBank受託番号AF085716(参照することにより本明細書に組み込まれる)に示され、AAV-6の全ゲノムは、GenBank受託番号NC_001862(参照することにより本明細書に組み込まれる)に示され、AAV-7及びAAV-8のゲノムの少なくとも一部は、GenBank受託番号AX753246(参照することにより本明細書に組み込まれる)及びAX753249(参照することにより本明細書に組み込まれる)にそれぞれ示され(AAV-8に関しては米国特許第7,282,199号及び第7,790,449号も参照のこと)、AAV-9のゲノムは、参照することにより本明細書に組み込まれるGao et al.,J.Virol 78:6381-6388(2004)に示され、AAV-10のゲノムは、参照することにより本明細書に組み込まれるMol.Ther.13(1):67-76(2006)に示され、AAV-11のゲノムは、参照することにより本明細書に組み込まれるVirology 330(2):375-383(2004)に示される。AAVrh74血清型は、参照することにより本明細書に組み込まれるRodino-Klapac et al.,J.Trans.Med.5:45(2007)に記載されている。
【0170】
rAAVゲノムのAAVのDNAは、組み換えウイルスが由来し得る任意のAAV血清型からのものであってもよく、これには以下に限定されないが、AAV血清型AAV-1、AAV-2、AAV-3、AAV-4、AAV-5、AAV-6、AAV-7、AAV-8、AAV-9、AAV-10、AAV-11、AAV-12、AAV-13、Rh10、Rh74、及びAAV-2i8が含まれる。
【0171】
偽型rAAVの生成は、例えば、参照することにより全体として本明細書に組み込まれるWO01/83692に開示されている。
他の型のrAAVバリアント、例えば、カプシドの突然変異を有するrAAVも企図される。例えば、Marsic et al.,Molecular Therapy,22(11):1900-1909(2014)を参照されたい。様々なAAV血清型のゲノムのヌクレオチド配列は、当技術分野で既知である。
【0172】
ある特定の実施形態では、骨格筋特異的発現を促進するために、AAV1、AAV6、AAV8、またはAAVrh.74が使用され得る。
ある特定の実施形態では、本主題のAAVベクターのAAV血清型は、AAV9である。
【0173】
ウイルスDNA複製(rep)、カプシド形成/パッケージング、及び宿主細胞染色体組み込みを指示するシス作用性配列は、ITR内に含まれる。3つのAAVプロモーター(それらの相対的なマップ位置からp5、p19、及びp40と呼ばれる)は、rep及びcap遺伝子をコードする2つのAAV内部オープンリーディングフレームの発現を駆動する。
【0174】
これら2つのrepプロモーター(p5及びp19)は、単一のAAVイントロン(例えば、AAV2ヌクレオチド2107及び2227における)の選択的スプライシングを伴って、該rep遺伝子由来の4つのrepタンパク質(rep78、rep68、rep52、及びrep40)の産生をもたらす。repタンパク質は、最終的に該ウイルスゲノムの複製に関与する複数の酵素特性を有する。
【0175】
cap遺伝子は、p40プロモーターから発現され、3つのカプシドタンパク質VP1、VP2、及びVP3をコードする。選択的スプライシング及び非コンセンサス翻訳開始部位は、該3つの関連するカプシドタンパク質の産生に関与する。
【0176】
単一のコンセンサスポリアデニル化部位は、該AAVゲノムのマップ位置95に位置する。AAVのライフサイクル及び遺伝学は、Muzyczka,Current Topics in Microbiology and Immunology 158:97-129(1992)に概説されている。
【0177】
本発明のDNAプラスミドは、本発明のrAAVゲノムを含む。該DNAプラスミドは、該rAAVゲノムを感染性ウイルス粒子に組み立てるため、AAVのヘルパーウイルス(例えば、アデノウイルス、El欠失アデノウイルスまたはヘルペスウイルス)を感染させることができる細胞に移入される。パッケージ化されるAAVゲノム、rep及びcap遺伝子、ならびにヘルパーウイルス機能が細胞に提供されるrAAV粒子を生成する技術は、当技術分野では標準的である。rAAVの生成は、単一の細胞(本明細書ではパッケージング細胞を意味する)内に以下の成分が存在することが必要である:rAAVゲノム、該rAAVゲノムとは別の(すなわち、rAAV内ではない)AAVのrep及びcap遺伝子、ならびにヘルパーウイルス機能。該AAVのrep及びcap遺伝子は、組み換えウイルスが由来し得る任意のAAV血清型からのものであってもよく、rAAVゲノムのITRとは異なるAAV血清型、すなわち、以下に限定されないが、AAV血清型AAV-1、AAV-2、AAV-3、AAV-4、AAV-5、AAV-6、AAV-7、AAVrh.74、AAV-8、AAV-9、AAV-10、AAV-11、AAV-12及びAAV-13等からのものでよい。
【0178】
パッケージング細胞を生成する方法は、AAV粒子生成に必要なすべての成分を安定的に発現する細胞株を創出することである。例えば、AAVのrep及びcap遺伝子が欠如したrAAVゲノムを含むプラスミド(または複数のプラスミド)、rAAVゲノムとは別のAAVのrep及びcap遺伝子、ならびに選択可能なマーカー、例えば、ネオマイシン耐性遺伝子が、細胞のゲノムに組み込まれる。AAVゲノムは、細菌のプラスミドに、GCテーリング(Samulski et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.79:2077-2081,1982)、制限エンドヌクレアーゼ切断部位を含む合成リンカーの付加(Laughlin et al.,Gene 23:65-73,1983)等の手順によって、または直接的な平滑末端ライゲーション(Senapathy&Carter,J.Biol.Chem.259:4661-4666,1984)によって導入されている。該パッケージング細胞株を次にアデノウイルス等のヘルパーウイルスに感染させる。この方法の利点は、これらの細胞が選択可能であること及びrAAVの大規模生産に適していることである。
【0179】
適切な方法の他の例では、プラスミドではなくアデノウイルスまたはバキュロウイルスを用いて、rAAVゲノム及び/またはrep及びcap遺伝子をパッケージング細胞に導入する。
【0180】
rAAV生成の一般的原理は、例えば、Carter,Current Opinions in Biotechnology 1533-1539,1992、及びMuzyczka,Curr.Topics in Microbial.and Immunol.158:97-129,1992)に概説されている。様々なアプローチが、Ratschin et al.,Mol.Cell.Biol.4:2072,1984、Hermonat et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.81:6466,1984、Tratschin et al.,Mol.Cell.Biol.5:3251,1985、McLaughlin et al.,J.Virol.62:1963,1988、及びLebkowski et al.,Mol.Cell.Biol.7:349,1988、Samulski et al.,J.Virol.63:3822-3828,1989、米国特許第5,173,414号、WO95/13365、及び対応する米国特許第5,658,776号、WO95/13392、WO96/17947、PCT/US98/18600、WO97/09441(PCT/US96/14423)、WO97/08298(PCT/US96/13872)、WO97/21825(PCT/US96/20777)、WO97/06243(PCT/FR96/01064)、WO99/11764、Perrin et al.,Vaccine 13:1244-1250,1995、Paul et al.,Human Gene Therapy 4:609-615,1993、Clark et al.,Gene Therapy 3:1124-1132,1996、米国特許第5,786,211号、米国特許第5,871,982号、及び米国特許第6,258,595号に記載されている。前述の文書は、rAAVの生成に関連する該文書のセクションに特に重点を置いて、参照することにより全体として本明細書に組み込まれる。
【0181】
ある特定の実施形態では、本発明のAAVベクターは、Adamson-Small et al.(Molecular Therapy-Methods&Clinical Development(2016)3,16031;doi:10.1038/mtm.2016.31、参照することにより本明細書に組み込まれる)に記載の方法、すなわち、高力価及び高品質のアデノ随伴9型ベクターを、HSVプラットフォームを使用して生産するための拡張性のある方法に従って生産される。これは、完全単純ヘルペスウイルス(HSV)ベースの生産及び精製方法であり、10層のCellSTACKのHEK293生成細胞あたり1×1014を超えるrAAV9ベクターゲノム、または最終的な完全に精製された生成物中、細胞あたり1×105を超えるベクターゲノムを生成することが可能である。これは、トランスフェクションベースの方法に比べて5~10倍の増加を表す。さらに、この方法によって生産されたrAAVベクターは、トランスフェクションベースの生産と比較して、高い形質導入単位対ベクターゲノム比及び低い空対充実比によって示される総カプシドタンパク質量の減少によって示される感染性の増加を含め、改善された生物学的特性を示した。この方法は、大規模医薬品安全性試験実施基準(GLP)ならびに製造管理及び品質管理に関する基準(GMP)のrAAV9ベクターの生産に容易に適用することもでき、前臨床及び臨床試験を可能にし、後の相及び商業生産に向けたプラットフォームを構築する。この研究ではAAV9が使用されたが、この方法は、他の血清型にも拡張可能である可能性が高く、前臨床研究、初期相の臨床試験、ならびに遺伝子疾患及び障害に対する遺伝子治療ベースの薬物の大規模な世界的開発の間のギャップを埋めるはずである。
【0182】
本発明は、従って、感染性rAAVを生成するパッケージング細胞を提供する。1つの実施形態では、パッケージング細胞は、安定に形質転換されたがん細胞、例えば、HeLa細胞、293細胞及びPerC.6細胞(同族293系統)であり得る。別の実施形態では、パッケージング細胞は、形質転換されたがん細胞ではない細胞、例えば、低継代293細胞(アデノウイルスのElで形質転換されたヒト胎児腎細胞)、MRC-5細胞(ヒト胎児線維芽細胞)、WI-38細胞(ヒト胎児線維芽細胞)、Vero細胞(サル腎細胞)及びFRhL-2細胞(アカゲザル胎仔肺細胞)である。
【0183】
本発明の組み換えAAV(すなわち、感染性カプシド形成rAAV粒子)は、rAAVゲノムを含む。例示的な実施形態では、両方のrAAVのゲノムは、AAVのrep及びcapのDNAを欠き、換言すれば、該ゲノムのITR間に、AAVのrepのDNAもcapのDNAも存在しない。本発明の核酸分子を含むように構築され得るrAAVの例は、参照することにより全体として本明細書に組み込まれる国際特許出願第PCT/US2012/047999号(WO2013/016352)に記載されている。
【0184】
該rAAVは、当技術分野で標準的な方法、例えば、カラムクロマトグラフィーまたは塩化セシウム勾配によって精製され得る。ヘルパーウイルスからrAAVベクターを精製する方法は、当技術分野で既知であり、例えば、Clark et al.,Hum.Gene Ther.10(6):1031-1039,1999、Schenpp and Clark,Methods Mol.Med.69:427-443,2002、米国特許第6,566,118号及びWO98/09657に開示されている方法を含む。
【0185】
さらなるコード配列
マイクロD5等のジストロフィンタンパク質のコード配列に加えて、本発明の組み換えベクターは、ジストロフィンの損失に関連する、またはこれに起因する二次合併症/二次カスケードの1つにおける標的遺伝子(複数可)のための1つ以上のさらなるコード配列も含む。
【0186】
ある特定の実施形態では、本発明のベクターは、特定のジストロフィン遺伝子突然変異を修正することができるエクソンスキッピングアンチセンス配列をコードする。
例えば、該エクソンスキッピングアンチセンス配列は、対象における欠損ジストロフィン遺伝子のプレメッセンジャーRNA(pre-mRNA)スプライシング時に特定のエクソンのスキッピングを誘導し、リーディングフレームの回復及び内部切断型タンパク質の部分的産生をもたらし、ベッカー型筋ジストロフィーで見られるジストロフィンタンパク質の発現と類似している。
【0187】
ある特定の実施形態では、該エクソンスキッピングアンチセンス配列は、フレーム破壊エクソン(突然変異エクソン)及び/または隣接するエクソンをスキップまたはスプライスし、正しい転写リーディングフレームを回復し、短くなったが機能性のジストロフィンタンパク質を産生する。
【0188】
ある特定の実施形態では、該エクソンスキッピングアンチセンス配列は、単一のエクソンスキッピングを誘導する。ある特定の実施形態では、該エクソンスキッピングアンチセンス配列は、複数のエクソンスキッピング、例えば、エクソン45~55のうちの1つ以上、またはそのすべてのスキッピング(すなわち、天然のエクソン44が直接エクソン56に結合される)を誘導する。例えば、11個のアンチセンス配列を一緒に使用して、エクソン45~55を含む11個のエクソンすべてをスキップすることができる。10個のAONのカクテルを、mdx52マウスモデル(エクソン52を削除)に使用して、エクソン45~51及び53~55のスキップを誘導し、機能性ジストロフィンの発現を回復させた。
【0189】
ある特定の実施形態では、該エクソンスキッピングアンチセンス配列は、ジストロフィンのpre-mRNAのエクソン51のスキッピングを誘導する。エクソン51のスキッピングの成功で、理論的には、すべてのDMD患者の約14%を治療することができる。
【0190】
ある特定の実施形態では、該エクソンスキッピングアンチセンス配列は、ジストロフィン遺伝子のエクソン51のエクソンスプライスエンハンサー(ESE)部位を標的とし、ひいては、エクソン51のスキップを引き起こし、切断されたが部分的に機能性のジストロフィンタンパク質を産生する。
【0191】
ある特定の実施形態では、該エクソンスキッピングアンチセンス配列は、エクソン44、45、及び53のうちの1つ以上のスキッピングを誘導する。
ある特定の実施形態では、該エクソンスキッピングアンチセンス配列は、カシメルセン(エクソン45)、NS-065/NCNP-01もしくはゴロジルセン(エクソン53)、またはエテプリルセンもしくはExondys51(エクソン51)のものと同じ標的配列を標的とする。
【0192】
ある特定の実施形態では、該エクソンスキッピングアンチセンス配列は、福山型先天性筋ジストロフィー(FCMD)患者における突然変異FCMD/FKTN遺伝子の潜在スプライシングドナー及び/またはアクセプター部位を標的とし、正しいエクソン10のスプライシングを回復する。
【0193】
福山型先天性筋ジストロフィー(FCMD)は、まれな常染色体劣性疾患であり、日本で2番目に一般的な形態の小児筋ジストロフィーである。FCMD(FCMD、FKTNとしても知られる)の原因となる遺伝子は、推定グリコシルトランスフェラーゼであるタンパク質フクチンをコードし、ジストロフィン結合糖タンパク質複合体(DAGC)のメンバーであるα-ジストログリカンをグリコシル化する。FCMDの病因は、フクチン遺伝子の3’-非翻訳領域(UTR)へのSINE-VNTR-Alu(SVA)レトロトランスポゾンの祖先挿入により、エクソン10の新たな潜在スプライスドナー、及び該SVA挿入部位での新たな潜在スプライスアクセプターが活性化され、ひいては該潜在ドナー及びアクセプター部位間で異常なmRNAのスプライシングが誘導されることによって生じる。その結果、FCMDのエクソン10が早期切断される。FCMD患者の細胞及びインビボでのモデルマウスでは、該潜在スプライス調節領域を標的とする3つのビボPMOのカクテルが、病原性SVAエクソントラッピングを防止し、正常なFKTNタンパク質レベル及びα-ジストログリカンのO-グリコシル化を回復させることが示された。
【0194】
ある特定の実施形態では、該アンチセンス配列は、3-または4-ヌクレオチドリピートの病的な伸長、例えば、DM1患者におけるDMPK遺伝子の3’-UTR領域でのCTCトリプレットリピート、またはDM2患者におけるCNBP遺伝子の第1のイントロン内のCCTGリピートを標的とする。
【0195】
筋緊張性ジストロフィー(DM)は、成年期の筋ジストロフィーの最も一般的な形態である。筋緊張性ジストロフィー1型(DM1)及び筋緊張性ジストロフィー2型(DM2)に分類され得るのは、常染色体優性疾患である。DM1は、筋緊張性ジストロフィープロテインキナーゼ(DMPK)遺伝子の3’-UTR領域のCTCトリプレットの病的伸長によって引き起こされるが、DM2は、CCHC型ジンクフィンガー核酸結合タンパク質遺伝子(CNBP)の第1のイントロンにおけるCCTGトラクトの病的伸長によって引き起こされる。リピートが伸長した転写RNA凝集体から生じるRNAの機能獲得毒性は、異常なスプライシング(スプライセオパシー(spliceopathy))につながる。有毒なRNAの凝集体は、マッスルブラインドライク(Muscleblind-like)(MBNL)タンパク質及びCUG結合タンパク質1(CUGBP1)等の選択的スプライシング調節因子の機能を、前者の核内RNA焦点内で封鎖及び枯渇させることにより、ならびに後者の発現及びリン酸化を高めることによりDM1において破壊する。MBNL及びCUGBP1タンパク質の機能の変化は、標的遺伝子、すなわち、それぞれ、インスリン抵抗性、筋緊張、筋衰弱、及びジストロフィー筋過程(すべて筋緊張性ジストロフィーの典型的な症状)に関連する、インスリン受容体(INSR)、筋クロライドチャネル(CLCN1)、ブリッジングインテグレーター1(BIN1)、及びジストロフィン(DMD)のpre-mRNAの異常なスプライシングにつながる。
【0196】
従って、DMPK遺伝子のCUGリピートの伸長は、MBNL1タンパク質を隔離し、いくつかの下流の遺伝子で異常なスプライシングを引き起こし、それにより、DM1表現型が生じる。一方、アンチセンスオリゴヌクレオチドを用いて、RNaseによる分解のための変異転写産物のかかる伸長リピートを標的とし、それにより、下流の遺伝子のスプライシングを回復させることができる。2’-O-メトキシエチルギャップマーAONは、変異RNA転写産物のRNase Hによる伸長CUGの分解を標的とし、変異mRNA転写産物の減少及びタンパク質発現の回復をもたらすために使用されている。
【0197】
ある特定の実施形態では、該エクソンスキッピングアンチセンス配列は、DM1患者のCLCN1遺伝子のエクソン7Aのスキッピングをもたらす。
DM1患者ではクロライドチャネル1(CLCN1)が筋緊張を引き起こすため、この遺伝子の異常なスプライシングを修正することによってもDM1を治療することができる。超音波照射したバブルリポソームとともにPMO(ホスホロジアミデートモルフォリノオリゴマー)を使用してDM1マウス(HSALR)の筋肉へのPMOの送達を高めることで、CLCN1のエクソン7Aのスキッピングがインビボで達成され、骨格筋で筋緊張及びClcn1タンパク質発現が改善された。
【0198】
ある特定の実施形態では、該エクソンスキッピングアンチセンス配列は、DYSF突然変異を有するジスフェリン異常症(例えば、LGMD2BまたはMM)患者でのエクソンスキッピングのため、DYSF遺伝子のエクソン17、32、35、36、及び/または42、好ましくは、エクソン32及び/または36を標的とする。
【0199】
ジスフェリン異常症は、ジスフェリン(DYSF)遺伝子の突然変異によって引き起こされる筋ジストロフィーを包含する総称である。ジスフェリン遺伝子は、筋膜損傷の修復に必要な筋細胞膜鞘タンパク質をコードする。これは、カルシウム依存性C2脂質結合ドメイン及び不可欠な膜貫通ドメインからなる。2つの一般的なジスフェリン異常症、すなわち、肢帯型筋ジストロフィー2B型(LGMD2B)及び三好ミオパチー(MM)があり、どちらも臨床的に異なる表現型及び常染色体劣性遺伝を有する。LGMD2Bは、近位筋衰弱を特徴とし、MMは、遠位筋衰弱を特徴とする。LGMD2BとMMの初期臨床表現型は異なる。しかしながら、病気が進行するにつれて、両方の状態の臨床症状は重複し、より類似したものになり、患者は四肢近位及び遠位の両方で筋衰弱を経験する。ジスフェリン欠損筋線維は、膜修復に欠陥がある。
【0200】
ジスフェリン異常症は、1つには、わずか10%の野生型レベルの発現の切断型変異DYSFタンパク質を有する患者において観察される軽度の表現型のため、アンチセンスオリゴヌクレオチドを用いたエクソンスキッピングによって治療することができる。具体的には、複合ヘテロ接合女性患者のLGMD2Bの症例では、該患者は、イントロン31に、1つのヌル対立遺伝子及びの他の対立遺伝子にDYSF分岐点突然変異を有していた。エクソン32の天然のインフレームスキッピングにより、野生型レベルの約10%で発現する切断型ジスフェリンタンパク質が生じ、これは、ヌル突然変異を部分的に補完するのに十分であった。該患者は軽度の症状を示し、70歳で歩行可能であった。近年、患者の細胞でのエクソン32のスキッピングにより、疑似ジスフェリン発現レベルがもたらされ、これにより、低浸透圧及び筋細胞膜鞘に局在するレーザー損傷にさらされた処理細胞の膜修復がインビトロでレスキューされたことが示された。
【0201】
ある特定の実施形態では、該エクソンスキッピングアンチセンス配列は、LAMA2の突然変異を有するメロシン欠損型先天性筋ジストロフィー1A型(MDC1A)患者におけるエクソンスキッピングのため、LAMA2遺伝子のエクソン4を標的とする。ある特定の実施形態では、エクソンスキッピングにより、α-ジストログリカンとの相互作用の仲介にとって最も重要なC末端のGドメイン(エクソン45~64)、特にG4及びG5の発現を回復する。
【0202】
メロシン欠損型先天性筋ジストロフィー1A型(MDC1A)は、ラミニン-α2鎖の発現を完全にまたは部分的に欠損させる65エクソンのLAMA2遺伝子の突然変異によって引き起こされる。ラミニン-α2鎖は、ベータ1(β1)、及びガンマ1(γ1)鎖とともに、ラミニン-211またはメロシンとして知られるヘテロ三量体ラミニンアイソフォームの一部であり、神経筋接合部を含めた骨格筋の基底膜及びシュワン細胞(末梢神経)で特に発現される。ラミニン-α2は、ジストロフィン-ジストログリカン複合体(DGC)と相互作用し、骨格筋及び末梢神経における細胞のシグナル伝達、接着、及び組織の完全性を仲介する。いつでも当てはまるというわけではないが、ラミニン-α2の部分的発現は、軽度のMDC1Aを引き起こし、ラミニン-α2の完全な欠如は、重度のMDC1Aを引き起こす。C末端のGドメイン(エクソン45~64)、特にG4及びG5は、α-ジストログリカンとの相互作用の仲介にとって最も重要である。G4及びG5を排除する突然変異は、部分切断型ラミニン-α2発現の存在下でも深刻な表現型と関連がある。
【0203】
PMOを介したエクソン4のスキッピングがオープンリーディングフレームを修正し、切断型ラミニン-α2鎖の回復及び患者の寿命のわずかな延長をもたらすという点で、エクソンスキッピングは、MDC1Aの治療のために探求されてきた。
【0204】
ある特定の実施形態では、該エクソンスキッピングアンチセンス配列は、Δ-521TのSGCG突然変異の肢帯型筋ジストロフィー2C型患者の治療のため、LGMD2C/SGCG遺伝子における最も一般的なΔ-521T突然変異のエクソン4~7のスキッピング、及びリーディングフレームの回復を誘導し、内部切断型SGCGタンパク質を産生する。ある特定の実施形態では、エクソンスキッピングは、野生型SGCGタンパク質の細胞内、膜貫通、及び最遠カルボキシ末端を保持する内部切断型SGCGタンパク質の発現を回復する。
【0205】
ジストロフィン結合タンパク質(DAP)は、筋細胞膜内の複合体であり、その膜貫通成分は、細胞骨格を成熟筋線維の細胞外マトリックスに連結し、筋細胞膜の完全性の維持に不可欠である。DGC内のサルコグリカンサブ複合体は、4つの1回貫通膜貫通サブユニット:α-、β-、γ-、及びδ-サルコグリカンからなる。α~δ-サルコグリカン遺伝子、すなわち、α(LGMD2D)、β(LGMD2E)、γ(LGMD2C)及びδ(LGMD2F)は、横紋筋において主に(β)または排他的に(α、γ及びδ)発現される。該4つのサルコグリカン遺伝子のいずれかの突然変異は、おそらく該サルコグリカン複合体の不安定化により、他のサルコグリカンタンパク質の二次欠乏症を引き起こし、サルコグリカン異常症、すなわち、常染色体劣性肢帯型筋ジストロフィー(LGMD)を引き起こす可能性がある。α~δ遺伝子における疾患を引き起こす突然変異は、筋細胞膜のジストロフィン結合タンパク質(DAP)複合体内で崩壊を引き起こす。
【0206】
ヒトでは、γサルコグリカン(LGMD2C)は、SGCG遺伝子によってコードされるタンパク質である。重症小児常染色体劣性筋ジストロフィー(SCARMD)は、γ-サルコグリカン遺伝子で、マイクロサテライトマーカーと分離する進行性の筋消耗性疾患である。γ-サルコグリカン遺伝子の突然変異は、γ-サルコグリカン異常症が、通常の発生率よりも高い北アフリカのマグレブ諸国で最初に報告された。LGMD2C患者で最も一般的な突然変異の1つであるΔ-521Tは、γ-サルコグリカン遺伝子のエクソン6のヌクレオチド塩基521~525における5つのチミン鎖からのチミンの欠失である。この突然変異は、リーディングフレームをずらし、γ-サルコグリカンタンパク質の不在ならびにβ-及びδ-サルコグリカンの二次的な低下をもたらし、ひいては重度の表現型を引き起こす。該突然変異は、マグレブの集団及び他の諸国の両方で生じる。
【0207】
エクソンスキッピングは、得られる内部切断型SGCGタンパク質が、γ-サルコグリカンを欠くショウジョウバエモデルにおいて、異種細胞発現試験において、及びトランスジェニックマウスにおいて、γ-サルコグリカンの欠損を修正するために機能的及び病理学的な利点をもたらすという点で、Δ-521Tの突然変異を有するLGMD2Cの治療のために探索されてきた。ヒト筋疾患の細胞モデルも作成され、変異ヒトγ-サルコグリカンをコードするRNAで複数のエクソンスキッピングが誘導され得ることが示された。
【0208】
ある特定の実施形態では、本発明のベクターは、サルコリピン(SLN)の機能に拮抗するアンチセンス配列、またはRNAi配列(siRNA、shRNA、miRNA等)をコードする。ある特定の実施形態では、本発明のベクターは、サルコリピンの機能に拮抗するshRNA(shSLN)をコードする。
【0209】
例示的なshSLN配列としては、
図9及び10に開示するもの(例えば、
図9の下線付きの配列、及び
図10の強調表示された配列)が挙げられる。さらなる例示的なshSLN配列としては、WO2018/136880(参照することにより本明細書に組み込まれる)に開示される配列番号7~11が挙げられる。
【0210】
さらなるshSLN配列は、以下に示すヒトSLNのmRNA配列を使用して、当技術分野で認識されている任意の方法に基づいてデザインされ得る。
【0211】
【0212】
ある特定の実施形態では、本発明のベクターは、1つ以上の標的遺伝子、例えば、炎症遺伝子の機能に拮抗するアンチセンス配列、またはRNAi配列(siRNA、shRNA、miRNA等)をコードする。
【0213】
IκBキナーゼ/核内因子-カッパB(NF-κB)のシグナル伝達は、DMDの動物モデル及び患者の両方において、免疫細胞及び再生筋線維で持続的に上昇する。さらに、DMDの筋肉では、TNF-αならびにIL-1及びIL-6等のNF-κBの活性化因子が上方制御される。従って、NF-κBのシグナル伝達カスケードの成分、例えば、NF-κB自体、その上流の活性化因子及び下流の炎症性サイトカインを阻害することは、欠損ジストロフィン遺伝子の置換/修復と併せて対象患者を治療するのに有益である。
【0214】
従って、ある特定の実施形態では、本発明のベクターは、1つ以上の炎症遺伝子、例えば、NF-κB、TNF-α、IL-1(IL-1β)、IL-6、NF-κB活性化受容体(RANK)、及びToll様受容体(TLR)の機能に拮抗するアンチセンス配列、またはRNAi配列(siRNA、shRNA、miRNA等)をコードする。
【0215】
ある特定の実施形態では、本発明のベクターは、ヒストンデアセチラーゼ、例えば、HDAC2の機能に拮抗するアンチセンス配列、またはRNAi配列(siRNA、shRNA、miRNA等)をコードする。DMDでは、筋細胞膜鞘でのジストロフィンの不在により、一酸化窒素合成酵素(nNOS)が非局在化及び下方制御され、これにより、HDAC2のS-ニトロシル化及びそのクロマチン結合が変化する。NO経路が欠損しているジストロフィン欠損mdxマウスでは、HDAC2の活性が特異的に増加した。対照的に、mdx動物におけるnNOS発現のレスキューは、ジストロフィーの表現型を改善した。さらに、デアセチラーゼ阻害物質は、ジストロフィー筋線維に強い形態機能的な効果をもたらした。実際、ヒストンデアセチラーゼ阻害物質であるギビノスタットは、DMDの潜在的な疾患修飾治療として評価段階にある。データは、マウスとヒトの両ジストロフィー細胞において、ジストロフィンの不在は、miRNAの特定のサブセットに結合するHDAC2と相関し(下記参照)、ジストロフィンのレスキュー時に、HDAC2がこれらのプロモーターから放出されることを示している。
【0216】
ある特定の実施形態では、本発明のベクターは、TGF-β、または結合組織増殖因子(CTGF)の機能に拮抗するアンチセンス配列、RNAi配列(siRNA、shRNA、miRNA等)、またはマイクロRNAをコードする。筋ジストロフィーにおけるTGF-βレベルの上昇は、衛星細胞の活性化を阻害することにより線維化を刺激し、筋肉再生を損なう。TGF-βの発現を減少させるアンギオテンシンIIタイプ1受容体遮断薬であるロサルタンを含め、筋ジストロフィーのマウスモデルで抗線維化剤が試験されている。HT-100(ハロフジノン)は、筋ジストロフィーにおいてTGF-β/Smad3経路を介して線維化を防ぐことも示されている。一方、線維化の病因における中心的なメディエーターである結合組織増殖因子の作用を阻害する完全ヒトモノクローナル抗体であるFG-3019は、特発性肺線維症(IPF)の患者での非盲検第2相試験で評価されている。
【0217】
ある特定の実施形態では、本発明のベクターは、マイクロRNA(miR)、例えば、miR-1、miR-29c、miR-30c、miR-133、及び/またはmiR-206をコードする。デュシェンヌ型状態の野生型状態に対する異なったHDAC2のニトロシル化状態が、マイクロRNA遺伝子の特定のサブセットの発現を脱調節する。同定されたマイクロRNAによって制御されるいくつかの回路、例えば、miR-1をG6PD酵素及び細胞のレドックス状態に結合するもの、またはmiR-29を細胞外タンパク質及び線維化過程に結合するものは、いくつかのDMDの病因を説明する。mdxで下方制御された筋特異的(myomiR)miR-1及びmiR-133、ならびに普遍的なmiR-29c及びmiR-30cは、エクソンスキッピング処理された動物において野生型レベルまで回復した。該mdxモデルによると、エクソンスキッピングを介してジストロフィン合成が回復した場合、miR-1、miR-133a、miR-29c、miR-30c、及びmiR-206のレベルは増加したが、miR-23aの発現は変化しなかった。
【0218】
ある特定の実施形態では、本発明のベクターは、DMDまたはその関連疾患において上方制御されるマイクロRNAの機能を阻害するマイクロRNA阻害物質をコードする。例えば、炎症性miR-223の発現レベルは、mdxマウスの筋肉では上方制御され、エクソンスキッピング処理マウスでは下方制御される。その減少は、エクソンスキッピングによるジストロフィンレスキューに起因して、観察された筋肉の炎症状態の改善と一致する。
【0219】
該mdx動物は、広範な線維化変性を受け、miR-29は、コラーゲン、エラスチン、及び細胞外マトリックスの構造成分等の線維化変性に関与する重要な因子のmRNAを標的とすることが示されている。mdxマウスでは、miR-29の発現が不良であり、コラーゲン(COL1A1)及びエラスチン(ELN)のmRNAが上方制御された。従って、miR-29cの発現は、DMD患者における線維化変性を、1つには、コラーゲン及びエラスチンの発現、ならびにコラーゲン及びエラスチンの発現に関連する病的な細胞外マトリックスの修飾を下方制御することを介して軽減する。
【0220】
ある特定の実施形態では、本発明のベクターは、G6PD(グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ)の機能に拮抗するアンチセンス配列、またはRNAi配列(siRNA、shRNA、miRNA等)をコードする。ジストロフィー筋における1つの重要な問題は、疾患の進行に関与することが示唆されている酸化ストレスに対する感受性及び反応である。G6PDは、ペントースリン酸経路の細胞質内酵素であり、NADPHのレベルを維持することによって細胞に還元エネルギーを供給する。これにより、還元型グルタチオンと酸化型グルタチオン(GSH/GSSG)の比が高くなる。GSHは、細胞を酸化的障害から保護する主要な抗酸化分子である。G6PDのmRNAは、mdxの筋内で脱調節されている。それは、その3’-UTR領域に、miR-1ファミリーの3つの推定結合部位を含み、miR-1及びmiR-206は、G6PD発現を抑制することができる。実際、G6PDとmiR-1の発現の間には逆相関があり、C2筋芽細胞のインビトロでの分化は、miR-1のレベルの増加が、G6PDタンパク質、mRNAレベル、及びGSH/GSSG比の減少と相関していることを示した。miR-1が下方制御されているmdxマウスでは、G6PDはWT筋より高レベルで検出されたが、miR-1が回復するエクソンスキッピング処理されたmdxでは、G6PDの量が減少した。特に、mdxマウスでは、G6PDレベルの増加は、GSH/GSSG比の減少を伴った。
【0221】
ある特定の実施形態では、本発明のベクターは、ミオスタチンの機能に拮抗するアンチセンス配列、またはRNAi配列(siRNA、shRNA、miRNA等)をコードする。ミオスタチンは、筋肉量の負の調節因子である。内因性ミオスタチンの阻害または遮断は、DMDを含めた多くの種類の筋ジストロフィーに共通する重度の筋肉消耗を補償する。ミオスタチン遮断抗体であるMYO-029は、BMD及びその他のジストロフィーを有する成人被験者を対象とした臨床試験中である。フォリスタチンならびにPF-06252616(NCT02310764)及びBMS-986089等のミオスタチン阻害物質を使用した他の臨床試験も実施されている。
【0222】
ある特定の実施形態では、本発明のベクターは、ホスホジエステラーゼ-5(PED-5)もしくはACE、またはVEGFデコイ受容体1型(VEGFR-1もしくはFlt-1)の機能に拮抗するアンチセンス配列、またはRNAi配列(siRNA、shRNA、miRNA等)をコードする。ジストロフィンの損失は、神経型一酸化窒素合成酵素の転位及び筋肉由来の一酸化窒素の減少を微小血管系にもたらし、機能性筋虚血及びさらなる筋障害につながる。従って、ホスホジエステラーゼ-5もしくはACE、またはVEGFデコイ受容体1型(VEGFR-1もしくはFlt-1)のいくつかの阻害物質が、筋肉への血流を増加させる戦略の一部として試験されており、ホスホジエステラーゼ-5またはACEのいずれかの医薬品阻害を含む。
【0223】
ある特定の実施形態では、本発明のベクターは、造血プロスタグランジンDシンターゼ(HPGDS)の機能に拮抗するアンチセンス配列、またはRNAi配列(siRNA、shRNA、miRNA等)をコードする。プロスタグランジンD2(PGD2)は、様々な炎症細胞によって産生され、造血PGDシンターゼ(HPGDS)は、DMD患者の壊死筋で発現することが分かっている。HPGDS阻害物質の投与により、DMDのmdxマウスモデルにおいて、PGD2の尿代謝産物であるテトラノル-PGDMの尿排泄が減少し、筋壊死が抑制された。新規HPGDS阻害物質であるTAS-205は、DMD治療に関して臨床試験で評価されている。
【0224】
RNAi及びアンチセンスのデザイン
RNA干渉(RNAi)では、内因性の標的mRNAに相補的であり、これに結合する低RNA分子が創出される。かかる結合は、該標的mRNAの分解を含めた該標的mRNAの機能的不活化につながる。
【0225】
該RNAi経路は、植物や動物を含めた多くの真核生物に見出され、細胞質で酵素ダイサーによって開始され、長い二本鎖RNA(dsRNA)または低分子ヘアピンRNA(shRNA)分子を、約21ヌクレオチドの低分子二本鎖断片siRNAに切断する。各siRNAは次に、2つの一本鎖RNA(ssRNA)、すなわち、パッセンジャー鎖とガイド鎖に巻き戻される。パッセンジャー鎖は分解され、ガイド鎖がRNA誘導サイレンシング複合体(RISC)に組み込まれる。最もよく研究されている結果は、転写後遺伝子サイレンシングであり、これは、ガイド鎖がmRNA分子内の相補配列と対合し、RISCの触媒成分であるアルゴノート2(Ago2)による切断を誘導する場合に生じる。一部の生物では、最初はsiRNAのモル濃度が制限されるにもかかわらず、このプロセスが全身に広がる。
【0226】
siRNA及びshRNA以外に、RNA干渉の中心となる別のタイプの低RNA分子は、マイクロRNA(miRNA)である。
マイクロRNAは、特に発達段階の遺伝子発現の調節を支援する、ゲノム的にコードされた非コードRNAである。成熟型miRNAは、構造的にはsiRNAと同様であるが、成熟に達する前に、最初に大幅な転写後修飾を受ける必要がある。miRNAは、非常に長いRNAコード遺伝子から、pri-miRNAとして知られる一次転写産物として発現され、これが次に、細胞核内で、RNase III酵素Drosha及びdsRNA結合タンパク質DGCR8からなるマイクロプロセッサ複合体によって、pre-miRNAと呼ばれる70ヌクレオチドのステムループ構造までプロセシングされる。このpre-miRNAがサイトゾルに輸送されると、そのdsRNA部分がダイサーによって固定及び切断され、成熟型miRNA分子が生成され、この2本の鎖が、パッセンジャー鎖とガイド鎖に分離され得る。このmiRNAのガイド鎖は、siRNAのガイド鎖と同様、同じRISC複合体に組み込まれ得る。
【0227】
従って、2つのdsRNA経路、miRNA及びsiRNA/shRNAは、どちらも、miRNAまたはsiRNAの成熟型機能性ガイド鎖を生成するために、骨格配列を有する前駆体分子(pri-miRNA、pre-miRNA、及びdsRNAまたはshRNA)のプロセシングを必要とし、どちらの経路も最終的にはRISC複合体に合流する。
【0228】
RISCへの組み込み後、siRNAは、標的mRNAと塩基対を形成してそれを切断し、それが翻訳鋳型として使用されることを防ぐ。しかしながら、siRNAとは異なり、miRNAを搭載するRISC複合体は、潜在的な相補性に関して細胞質mRNAをスキャンする。破壊的な切断(Ago2による)の代わりに、miRNAは、mRNAの3’-UTR領域を標的とし、通常はそこで不完全な相補性で結合し、ひいては翻訳のためのリボソームの接近をブロックする。
【0229】
miRNA、特に動物のmiRNAは通常、標的との塩基対合が不完全であり、同様の配列を有する多くの異なるmRNAの翻訳を阻害するという点で、siRNAとmiRNAは異なる。対照的に、siRNAは通常、完全に塩基対を形成し、単一の特定の標的でのみmRNAの切断を誘導する。
【0230】
歴史的には、RNAiの応用には、siRNA及びshRNAが使用されてきた。siRNAは通常、20~25ヌクレオチド長の二本鎖RNA分子である。siRNAは、標的mRNAを、それらが細胞内で分解されるまで一時的に阻害する。shRNAは通常、約80塩基対の長さであり、ヘアピン構造を創出する内部ハイブリダイゼーションの領域を含む。前述のように、shRNA分子は細胞内でプロセシングされてsiRNAを形成し、これが次に遺伝子発現をノックダウンする。shRNAの1つの利点は、より長期のまたは安定した発現、ひいては標的mRNAのより長いノックダウンのためにそれらをプラスミドベクターに組み込むこと及びゲノムDNAに統合することができることである。
【0231】
shRNAのデザインは市販されている。例えば、Cellectaは、ヒト全ゲノムshRNAライブラリまたはマウスDECIPHER shRNAライブラリ(約10,000のマウス遺伝子を標的とする)を使用して、任意の標的遺伝子(例えば、19,276のタンパク質コードヒト遺伝子すべて)に対するRNAiスクリーニングサービスを提供している。ThermoFisher Scientificは、AmbionのSilencer Select siRNA(クラシック21量体)を提供しており、これには、製造元によれば、siRNAデザイン、オフターゲット効果予測アルゴリズム、及び化学における最新の改善が組み込まれている。
【0232】
ThermoFisher Scientificはまた、内因性成熟型miRNAを模倣するようにデザインされた、化学修飾された低分子二本鎖RNA分子であるAmbion(登録商標)Pre-miR(商標)miRNA前駆体分子も提供している。かかるPre-miR miRNA前駆体を使用すると、miRNA活性の上方制御によるmiRNAの機能解析が可能になり、miRNAの標的部位の同定及び検証、標的遺伝子の発現を調節するmiRNAのスクリーニング、及び標的遺伝子(SLN等)または細胞過程の機能に影響を与えるmiRNAのスクリーニングに使用することができる。
【0233】
ThermoFisher Scientificはさらに、内因性マイクロRNA(miRNA)分子に特異的に結合して阻害するようにデザインされた、化学修飾された一本鎖核酸であるAmbion(登録商標)Anti-miR(商標)miRNA阻害物質を提供している。
【0234】
アンチセンス配列のデザインもまた、多くの商業的及び公的供給源、例えば、IDT(Integrated DNA Technologies)及びGenLinkから市販されている。デザイン上の考慮事項としては、オリゴ長、標的mRNAの二次/三次構造、標的mRNA上のタンパク質結合部位、標的mRNAまたはアンチセンスオリゴのいずれかにおけるCGモチーフの存在、アンチセンスオリゴにおける四重体の形成、及びアンチセンスの活性を向上するまたは低下させるモチーフの存在を挙げてもよい。
【0235】
エクソンスキッピングアンチセンスオリゴのデザインは、当技術分野で既知である。例えば、標的部位の選択、オリゴの長さ、オリゴの化学、及びRNA鎖に対する融解温度等の要因を考慮に入れ、効果的なエクソンスキッピングオリゴヌクレオチドのデザインについて詳しく論じたShimo et al.によるCamilla Bernardini(ed.),Duchenne Muscular Dystrophy:Methods and Protocols,Methods in Molecular Biology,vol.1687,DOI 10.1007/978-1-4939-7374-3_10,Chapter 10(Springer Science+Business Media LLCにより発行),2018)を参照されたい。複数のエクソンをスキップするためのアンチセンスオリゴのカクテルの使用についても論じられている。取り扱われている特定の遺伝子及び筋ジストロフィーには、DMD(デュシェンヌ型筋ジストロフィー)、LAMA2(メロシン欠損型CMD、DYSF(ジスフェリン異常症、FKTN(福山型CMD)、DMPK(筋緊張性ジストロフィー、及びSGCG(LGMD2C)が含まれる。その全内容は、参照することにより本明細書に組み込まれる。
【0236】
例えば、罹患疾患遺伝子におけるタンパク質/遺伝子配列及びその突然変異は、NCBI及びライデン筋ジストロフィーページ(Leiden muscular dystrophy pages)からオンラインで公開されている。効率的なエクソンスキッピングの潜在的な標的部位は、www.umd.be/HSFのヒューマンスプライシングファインダーのウェブサイトを使用して取得することができる。標的mRNAの二次構造は、例えば、Albany.eduウェブサイトのmfodウェブサーバーを使用して評価することができる。オリゴの長さは通常8~30量体である。オリゴのGC含量の計算は、ノースウェスタン大学のサーバーにあるOligoCalcのWebサイトで可能である。任意の標的外配列の検索は、GGGenomeのウェブサイトを使用して行うことができる。オリゴの融解温度は、sg.idtdna.comのLNAオリゴ予測ツールまたはOligoAnalyzer3.1ソフトウェアで推定することができる。
【0237】
RNAi(miR、siRNA、shRNA)のガイド鎖生成の改善
ある特定の実施形態では、該コード配列は、RNAi試薬、例えば、miR、siRNA、またはshRNAをコードする。
【0238】
ある特定の実施形態では、miR及び/またはshRNA/siRNAのデザインに関して、成熟型miRまたは成熟型siRNAが生成される野生型骨格配列を修飾して、ガイド鎖生成を改善すること及びパッセンジャー鎖の生成を最小化/排除することができる。成熟型miR/siRNA/shRNAの両方の鎖(切断後)は、理論上、RISC複合体に組み込まれ、RNAiのガイド鎖になり得るため、例えば、オフターゲット効果(例えば、パッセンジャー鎖がRISCに搭載された場合の意図しない標的配列の切断に起因する)を低減または最小化するために、RISK複合体において、デザインされたガイド鎖の利用を選択的に高め、大部分相補的なパッセンジャー鎖の利用を最小限に抑えることが有利である。
【0239】
この目標(リーディング鎖の生成を高め、パッセンジャー鎖の生成を最小化/排除する)を達成するために使用することができる1つのアプローチは、所望のガイド鎖を含むデザインされた成熟型miR/siRNA/shRNA配列が、ガイド鎖の生成に有利に働きかつパッセンジャー鎖の生成に不利な他のmiR配列の骨格配列の内部に埋め込まれているハイブリッド構築物を使用することによる。
【0240】
この原理は、いくつかの修飾miR-29c構築物及びshSLN構築物のデザインに示されているが、同じ原理は、任意の他の配列を標的とする他のRNAi試薬に容易に採用することができる。
【0241】
以下に示すすべてのデザインについて、採用するデザイン戦略としては、天然の骨格配列の2D及び3D構造を維持するために、隣接する骨格配列、ループ配列、及びパッセンジャー鎖のヌクレオチド配列の改変が挙げられる。これに関連して、miRNA/shRNAデザインの場合、天然の骨格配列の2D/3D構造は、主に、ステムループと隣接する骨格ポリヌクレオチド配列間の距離、中心ステムの構造、バルジの位置及び/またはサイズ、ステム内の任意の内部ループ及びミスマッチの存在及び局在等を指す。選択されたmiR-30E、miR-101、及びmiR-451の骨格配列に基づくmiR-29cハイブリッド構築物のある特定の例示的な2D構造マップを、以下に実例として提供する。
【0242】
A.miR-30骨格配列を有するハイブリッドmiR-29c(29c-M30E)
Fellmann et al.(Cell Rep.5(6):1704-1713, 2013、参照することにより本明細書に組み込まれる)は、いわゆる「shRNAmir」、すなわち、内因性マイクロRNA文脈に埋め込まれた合成shRNAの最適プロセシングに極めて必要な基本的なステムの保存要素の3’を特定することによる、実験的miR-30骨格を最適化するための体系的なアプローチを記載している。得られた「miR-E」と呼ばれる最適化骨格は、成熟型shRNAのレベル及びノックダウン効果を大きく増加させた。このアプローチは、既存のmiR及びshRNA試薬をmiR-Eに容易に変換し、より効果的なmiR及びshRNAを生成することができる。
【0243】
この技術を適用して、29c-M30Eハイブリッド配列が、所望の成熟型miR-29c配列、及びFellmann et al.に記載の改変/最適化miR-30骨格配列に基づいて生成された。この29c-M30E配列(その予測2D構造については
図29参照)は、以下の実施例で使用される下記の本主題のウイルスベクターに組み込まれている:μDys-29c-M30E-i2、EF1A-29c-M30E、U6-29c-M30E。以下の29c-M30Eの5’→3’配列は、連続配列であり、該連続配列の異なるセグメントを示すために異なるラインに人為的に分離されている。
【0244】
【0245】
具体的には、上記の連続配列において、中央のラインは、パッセンジャー鎖配列、二重下線付きループ配列、及び成熟型miR-29cガイド配列を表す。該パッセンジャー配列及びガイド配列は、互いに逆相補的であり、スナップバックして、介在ループ配列とともにステムループ構造を形成することができることに留意されたい。しかしながら、完全な逆相補配列は必要ではないことに留意されたい。内部にバルジ等がある可能性があるため、該2本の鎖は、場合によっては必ずしも互いに100%相補的ではない(本サブセクションの最後の配列におけるガイド鎖及びパッセンジャー鎖を参照のこと)。上のライン及び下のラインは、ガイド配列の生成を高め、パッセンジャー鎖の生成を最小化するように最適化されたM30Eの隣接骨格配列を表す。
【0246】
同様のデザインで、ヒトSLNを標的とするsiRNAが、miR-30E-hSLN-c1において同じM30E骨格配列に埋め込まれている(本パラグラフの直上及び直下の配列の上行及び下行、ならびに二重下線付きのループ配列を比較されたい)。ただし、ガイド鎖及びパッセンジャー鎖は異なる。このいわゆるc1-M30E配列は、以下の実施例で使用される下記の本主題のウイルスベクターに組み込まれている:c1-M30E-i2、c1-M30E-3UTR、及びc1-M30E-pa。
【0247】
【0248】
ヒトSLNもまた標的とする同様にデザインされた第2のsiRNAが、miR-30E-hSLN-c2において同じM30E骨格配列に埋め込まれている(本パラグラフの直上及び直下の配列の上行及び下行、ならびに二重下線付きのループ配列を比較されたい)。ただし、ガイド鎖及びパッセンジャー鎖は異なる。このいわゆるc2-M30E配列は、以下の実施例で使用される下記の本主題のウイルスベクターに組み込まれている:c2-M30E-i2、c2-M30E-3UTR、及びc2-M30E-pa。
【0249】
【0250】
天然のmiR-30骨格配列(「M30N」)を使用した修飾miR-29cの配列も、比較として以下に提供する。この場合のガイド鎖は、ループ配列の5’にあることに留意されたい。このM30N骨格配列も同様にガイド鎖の生成を高めたが、調べた実験系のM30E骨格配列よりも程度は低かった(データは示さず)。
【0251】
【0252】
B.miR-101骨格配列を有するハイブリッドmiR-29c(29c-101)
miR-101骨格配列を使用した異なるmiR-29cハイブリッド(29c-101、その予測2D構造については
図30参照)を、本明細書における同じ命名規則を使用して以下に示す。ここで、上行と最後の2行は、miR-101骨格配列を表し、2番目の行は、パッセンジャー鎖、ループ配列、及びガイド鎖を有する成熟型miR-29cである。この29c-101配列は、以下の実施例で使用される下記の本主題のウイルスベクターに組み込まれている:μDys-29c-101-i2、μDys-29c-3UTR-101。
【0253】
【0254】
C.miR-155骨格配列を有するハイブリッドmiR-29c(29c-155)
miR-155骨格配列を使用した異なるmiR-29cハイブリッド(29c-155)を、本明細書における同じ命名規則を使用して以下に示す。ここで、上行と下行は、miR-155の隣接骨格配列を表し、2番目の行は、ガイド鎖、ループ配列、及びパッセンジャー鎖を有する成熟型miR-29cである。この29c-155配列は、以下の実施例で使用される下記の本主題のウイルスベクターに組み込まれている:EF1A-29c-155。
【0255】
【0256】
同様にmiR-155骨格配列を使用した別のmiR-29cハイブリッド(29c-19nt)を、本明細書における同じ命名規則を使用して以下に示す。ここで、上行と下行は、miR-155の隣接骨格配列(直上の配列におけるものと同一)を表し、2番目の行は、ガイド鎖、ループ配列、及びパッセンジャー鎖を有する成熟型miR-29cである。ここでのループ配列は、上記の配列の17ntループの代わりに、19ntであることに留意されたい。この29c-19nt配列は、以下の実施例で使用される下記の本主題のウイルスベクターに組み込まれている:EF1A-29c-19nt、29c-19nt-μDys-pA、29c-19nt-μDys-3UTR。
【0257】
【0258】
D.miR-155骨格配列を有するハイブリッドshSLN(shmSLN-v2及びc1/c2-m155)
shSLNを含むmiR-155骨格配列を、本明細書における同じ命名規則を使用して以下に示す。ここで、上行と下行は、miR-155の隣接骨格配列を表し、2番目の行は、ガイド鎖、ループ配列(19nt)、及びパッセンジャー鎖を有するマウスSLNを標的とする成熟型shRNA(shmSLN)である。このshmSLN-v2配列は、以下の実施例で使用される下記の本主題のウイルスベクターに組み込まれている:EF1A-mSLN、融合-v1、μDys-shmSLN-v1。
【0259】
【0260】
shSLNを含むmiR-155骨格配列を、本明細書における同じ命名規則を使用して以下に示す。ここで、上行と下行は、miR-155の隣接骨格配列を表し、2番目の行は、ガイド鎖、ループ配列(19nt)、及びパッセンジャー鎖を有するマウスSLNを標的とする別の成熟型shRNA(shmSLN)である。上記の類似/関連するshmSLN配列と比較して、余分なジヌクレオチド塩基対TT:AA(または厳密には、siRNAの3’末端のUU)の存在は、生成されたガイド鎖siRNAの効力の増加と関連している。このshmSLN-v2配列は、以下の実施例で使用される下記の本主題のウイルスベクターに組み込まれている:EF1A-mSLN-v2、融合-v2、μDys-shmSLN-v2。
【0261】
【0262】
別のshSLNを含むmiR-155骨格配列を、本明細書における同じ命名規則を使用して以下に示す。ここで、上行と下行は、miR-155の隣接骨格配列を表し、2番目の行は、ガイド鎖、ループ配列(19nt)、及びパッセンジャー鎖を有するヒトSLNを標的とする成熟型shRNAである。このc1-m155配列は、以下の実施例で使用される下記の本主題のウイルスベクターに組み込まれている:c1-m155-pa、c1-m155-i2、c1-m155-3UTR。
【0263】
【0264】
別のshSLNを含むmiR-155骨格配列を、本明細書における同じ命名規則を使用して以下に示す。ここで、上行と下行は、miR-155の隣接骨格配列を表し、2番目の行は、異なるガイド鎖、ループ配列(19nt)、及びパッセンジャー鎖を有するヒトSLNを標的とする成熟型shRNAである。このc2-m155配列は、以下の実施例で使用される下記の本主題のウイルスベクターに組み込まれている:c2-m155-pa、c2-m155-i2、c2-m155-3UTR。
【0265】
【0266】
E.miR-451骨格配列を有するハイブリッドmiR-29c(29c-451)
miR-451骨格配列を使用したmiR-29cハイブリッド(29c-451、その予測2D構造については
図31参照)を、本明細書における同じ命名規則を使用して以下に示す。ここで、上2行と下2行は、miR-451の隣接骨格配列を表し、3番目の行は、ガイド鎖、ループ配列、及びパッセンジャー鎖を有する成熟型miR-29cである。
【0267】
【0268】
F.U6駆動miR-29c及びshSLN
以下の実験のセクションでは、miR-29cのみまたはshSLNのみを発現するある特定の「ソロ」ウイルスベクター構築物の使用についても説明する。かかるソロ発現カセットは、強力なPol III U6プロモーターによって駆動される。この強力なU6プロモーターは、隣接するヌクレオチド配列なしで、pre-miRNAまたはshSLNを直接生成するため、かかる配列は、修飾miR-29cまたは修飾shSLN配列には属さない。しかしながら、比較の目的で、かかる配列も同じ命名法を使用してここに記載する。
【0269】
該U6プロモーターによって駆動されるmiR-29cを以下に示す(U6-29c-v1)。ここで、2番目の行は、パッセンジャー鎖、ループ配列、及びガイド鎖を有する成熟型miR-29cである。これは、pGFP-U6-shAAV-GFPベクターで「ソロ」対照ベクターを生成するために使用されている。以下の連続配列の最初の行のヌクレオチドは、U6プロモーターの転写開始部位後の最初の5ヌクレオチドであり、T6の転写終結配列は、以下の連続配列の最後の行のクローニングに使用された配列の前にある。
【0270】
【0271】
該U6プロモーターによって駆動されるshSLNを以下に示す(U6-shmSLN-v1)。ここで、2番目の行は、パッセンジャー鎖、ループ配列、及びガイド鎖を有する成熟型shSLNである。これは、実施例のU6-shmSLN-v1ベクターで使用されている。
【0272】
【0273】
該U6プロモーターによって駆動されるshSLNを以下に示す(U6-mSLN-v4)。ここで、2番目の行は、パッセンジャー鎖、ループ配列、及びガイド鎖を有する成熟型shSLNである。これは、実施例のU6-mSLN-v4ベクターで使用されている(
図15参照)。
【0274】
【0275】
組成物及び医薬組成物
別の実施形態では、本発明は、本発明のrAAVを含む組成物を企図する。本発明の組成物は、rAAV及び医薬的に許容される担体を含む。該組成物は、他の成分、例えば、希釈剤及びアジュバントも含んでよい。許容される担体、希釈剤及びアジュバントは、レシピエントに無害であり、好ましくは、使用される用量及び濃度で不活性であり、これらとしては、緩衝剤、例えば、リン酸、クエン酸、もしくは他の有機酸、抗酸化物質、例えば、アスコルビン酸、低分子量ポリペプチド、タンパク質、例えば、血清アルブミン、ゼラチン、もしくは免疫グロブリン、親水性ポリマー、例えば、ポリビニルピロリドン、アミノ酸、例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン、もしくはリジン、単糖、二糖、及び他の炭水化物、すなわち、グルコース、マンノース、もしくはデキストリン等、キレート剤、例えば、EDTA、糖アルコール、例えば、マンニトールもしくはソルビトール、塩形成性対イオン、例えば、ナトリウム、及び/または非イオン性界面活性剤、例えば、Tween、pluronic、もしくはポリエチレングリコール(PEG)が挙げられる。
【0276】
投薬及び投与
本発明の方法において投与されるrAAVの力価は、例えば、特定のrAAV、投与方法、治療目標、個体、及び標的とされる細胞型(複数可)に応じて変化し、当技術分野で標準的な方法で決定され得る。rAAVの力価は、1mlあたり、約1×106、約1×107、約1×108、約1×109、約1×1010、約1×1011、約1×1012、約1×1013から、約1×1014まで、またはそれを超えるDNase耐性粒子(DRP)に及び得る。用量は、ウイルスゲノムの単位(vg)で表される場合もある。
【0277】
標的細胞にインビボまたはインビトロでrAAVを形質導入する方法は、本発明によって企図される。該インビボ法は、本発明のrAAVを含む組成物の有効用量または有効複数回用量を、それを必要とする動物(ヒトを含む)に投与するステップを含む。該用量が障害/疾患の発症前に投与される場合、該投与は予防的である。該用量が障害/疾患の発症後に投与される場合、該投与は治療的である。本発明の実施形態では、有効用量は、治療される障害/疾患状態に関連する少なくとも1つの症状を緩和(排除または軽減)する用量であり、それにより、障害/疾患状態への進行が遅延または防止され、障害/疾患状態の進行が遅延または防止され、疾患の程度が弱まり、疾患の寛解(部分または完全)がもたらされ、及び/または生存期間が延長される。本発明の方法による予防または治療に対して企図される疾患の例は、PMDまたは他のミエリン産生、変性、再生、または機能の欠陥を特徴とする疾患である。
【0278】
投与に関して、有効量及び治療有効量(本明細書では用量とも呼ばれる)は、最初は、インビトロアッセイ及び/または動物モデルでの試験の結果に基づいて推定され得る。例えば、細胞培養で決定されたIC50を含む循環濃度範囲を達成するように、動物モデルにおける用量が処方され得る。かかる情報は、目的の対象での有用な用量をより正確に決定するために使用され得る。
【0279】
該組成物の有効用量の投与は、当技術分野で標準的な経路によるものでよく、筋肉内、非経口、静脈内、経口、口腔、経鼻、経肺、頭蓋内、骨内、眼内、直腸、または膣内を含むがこれらに限定されない、本発明のrAAVのAAV成分(特に、該AAVのITR及びカプシドタンパク質)の投与経路(複数可)及び血清型(複数可)は、当業者によって、治療される感染及び/または疾患状態ならびに該1つ以上のコード配列及び/またはマイクロジストロフィンを発現する標的細胞/組織(複数可)を考慮して選択及び/または適合され得る。
【0280】
具体的には、本明細書に記載の製剤は、限定されないが、注射、注入、灌流、吸入、洗浄、及び/または摂取によって投与され得る。投与経路としては、静脈内、皮内、動脈内、腹腔内、病変内、頭蓋内、関節内、前立腺内、胸膜内、気管内、鼻腔内、硝子体内、膣内、直腸内、局所、腫瘍内、筋肉内、膀胱内、心膜内、臍内、眼内、粘膜、経口、皮下、及び/または結膜下が挙げられ得るが、これらに限定されない。
【0281】
本発明は、本発明の併用療法を含む本発明のrAAV及び組成物の有効用量の局所投与または全身投与を提供する。例えば、全身投与は循環系への投与であり、全身が影響を受ける。全身投与には、経腸投与、例えば、消化管からの吸収、及び注射、注入または移植による非経口投与が含まれる。
【0282】
特に、本発明のrAAVの実際の投与は、動物の標的組織、例えば、骨格筋に該rAAV組み換えベクターを輸送する任意の物理的方法を使用することによって達成され得る。本発明による投与には、筋肉、血流及び/または直接肝臓への注射が含まれるが、これらに限定されない。リン酸緩衝生理食塩水にrAAVを再懸濁するだけで、筋組織での発現に有用な媒体を提供するのに十分であることが実証されており、rAAVと同時投与することができる担体または他の成分に対する制限は知られていない(ただし、DNAを分解する組成物は、rAAVでは普通に回避するべきである)。rAAVのカプシドタンパク質は、rAAVが目的の特定の標的組織、例えば、筋肉を標的とするように修飾され得る。例えば、その開示が参照することにより本明細書に組み込まれるWO02/053703を参照されたい。
【0283】
医薬組成物は、注射製剤または経皮輸送によって筋肉に送達される局所製剤として調製され得る。筋肉注射及び経皮輸送の両方に対する多数の製剤が以前に開発されており、本発明の実施において使用することができる。該rAAVは、投与及び取り扱いを容易にするための任意の医薬的に許容される担体とともに使用することができる。
【0284】
本明細書に開示する方法で投与されるrAAVの用量は、例えば、特定のrAAV、投与方法、治療目標、個体、及び標的とされる細胞型(複数可)に応じて変化し、当技術分野で標準的な方法で決定され得る。
【0285】
特定の対象に投与される実際の投与量は、医師、獣医、または研究者によって、体重、状態の重症度、疾患の型、以前のまたは併用される治療的介入、該対象の特発性疾患、及び/または投与経路を含めた物理的及び生理的因子等であるが、これらに限定されないパラメータを考慮して決定される場合もある。
【0286】
投与される各rAAVの力価は、1mlあたり、約1×106、約1×107、約1×108、約1×109、約1×1010、約1×1011、約1×1012、約1×1013、約1×1014から、または約1×1015まで、またはそれを超えるDNase耐性粒子(DRP)に及び得る。用量は、ウイルスゲノムの単位(vg)で表される場合もある(すなわち、それぞれ、1×107vg、1×108vg、1×109vg、1×1010vg、1×1011vg、1×1012vg、1×1013vg、1×1014vg、1×1015vg)。用量は、体重1キログラム(kg)あたりのウイルスゲノムの単位(vg)で表される場合もある(すなわち、それぞれ、1×1010vg/kg、1×1011vg/kg、1×1012vg/kg、1×1013vg/kg、1×1014vg/kg、1×1015vg/kg)。AAVの力価を測定する方法は、Clark et al.,Hum.Gene Ther.10:1031-1039,1999に記載されている。
【0287】
例示的な用量は、約1×1010~約1×1015ベクターゲノム(vg)/キログラム体重に及び得る。いくつかの実施形態では、用量は、1×1010vg/kg体重、1×1011vg/kg体重、1×1012vg/kg体重、1×1013vg/kg体重、1×1014vg/kg体重、または1×1015vg/kg体重を含み得る。用量は、1×1010vg/kg/日、1×1011vg/kg/日、1×1012vg/kg/日、1×1013vg/kg/日、1×1014vg/kg/日、または1×1015vg/kg/日を含み得る。用量は、0.1mg/kg/日~5mg/kg/日または0.5mg/kg/日~1mg/kg/日または0.1mg/kg/日~5μg/kg/日または0.5mg/kg/日~1μg/kg/日に及び得る。他の非限定的な例では、用量は、1μg/kg/日、5μg/kg/日、10μg/kg/日、50μg/kg/日、100μg/kg/日、200μg/kg/日、350μg/kg/日、500μg/kg/日、1mg/kg/日、5mg/kg/日、10mg/kg/日、50mg/kg/日、100mg/kg/日、200mg/kg/日、350mg/kg/日、500mg/kg/日、または1000mg/kg/日を含み得る。治療有効量は、治療計画の過程(すなわち、数日、数週間、数ヶ月等)において、単回投与により達成される場合もあれば、複数回投与により達成される場合もある。
【0288】
いくつかの実施形態では、該医薬組成物は、少なくとも1.6×1013のベクターゲノムを有する水溶液10mLの剤形である。いくつかの実施形態では、該剤形は、1ミリリットルあたり少なくとも2×1012のベクターゲノムの効力を有する。いくつかの実施形態では、該剤形は、10mMのpH6.0のL-ヒスチジン、150mMの塩化ナトリウム、及び1mMの塩化マグネシウムを含む滅菌水溶液を含む。いくつかの実施形態では、該医薬組成物は、10mMのpH6.0のL-ヒスチジン、150mMの塩化ナトリウム、及び1mMの塩化マグネシウムを含む10mLの滅菌水溶液の剤形に含まれ、少なくとも1.6×1013のベクターゲノムを有する。
【0289】
いくつかの実施形態では、該医薬組成物は、1×1010~1×1015のベクターゲノムを含む10mLの水溶液、1×1011~1×1014のベクターゲノムを含む10mLの水溶液、1×1012~2×1013のベクターゲノムを含む10mLの水溶液、または約1.6×1013以上のベクターゲノムを含む10mLの水溶液を含む剤形であり得る。いくつかの実施形態では、該水溶液は、約10mMのpH6.0のL-ヒスチジンと、150mMの塩化ナトリウム、及び1mMの塩化マグネシウムを含む滅菌水溶液である。いくつかの実施形態では、該剤形は、1ミリリットルあたりのベクターゲノム(vg/mL)約1×1011超、約1×1012vg/mL超、約2×1012vg/mL超、約3×1012vg/mL超、または約4×1012vg/mL超の効力を有する。
【0290】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つのAAVベクターは、医薬組成物の一部として提供される。該医薬組成物は、例えば、少なくとも0.1%w/vの該AAVベクターを含み得る。いくつかの他の実施形態では、該医薬組成物は、該医薬組成物の重量あたり2%~75%の化合物、または該医薬組成物の重量あたり25%~60%の化合物を含み得る。
【0291】
いくつかの実施形態では、該剤形はキットに含まれる。該キットはさらに、該剤形の使用説明書を含んでもよい。
筋肉注射の目的のため、滅菌水溶液だけでなく、ゴマ油もしくは落花生油等のアジュバント溶液または水性プロピレングリコール溶液も使用することができる。かかる水溶液は、必要に応じて緩衝化することができ、該希釈液は最初に生理食塩水またはグルコースで等張にされる。遊離酸(DNAは酸性リン酸基を含む)または薬理学的に許容される塩としてのrAAVの溶液は、ヒドロキシプロピルセルロース等の界面活性剤と適切に混合した水中で調製され得る。rAAVの分散体もまた、グリセロール、液体ポリエチレングリコール及びそれらの混合物中及び油中で調製され得る。通常の保存条件及び使用条件下、これらの調製物は、微生物の増殖を防止するための防腐剤を含む。これに関連して、使用される無菌水性媒体はすべて、当業者に周知の標準的な技術で容易に得られる。
【0292】
いくつかの実施形態では、注射用に、製剤は水溶液として、例えば、限定されないが、ハンクス液、リンゲル液、及び/または生理食塩水を含む緩衝液として作製され得る。該溶液は、懸濁剤、安定剤及び/または分散剤等の配合剤を含んでもよい。代替的に、該製剤は、凍結乾燥状態及び/または粉末形態であってもよく、使用前に適切な媒体対照(例えば、パイロジェンフリーの滅菌水)で構成される。
【0293】
本明細書に開示する任意の製剤は、有利には、研究、予防、及び/または治療処置用であるかどうかにかかわらず、投与の利益を上回る可能性のある重大な副反応、アレルギー反応、または他の有害反応を生じさせないものを含む、任意の他の医薬的に許容される担体(複数可)を含み得る。例示的な医薬的に許容される担体及び製剤は、それに関連する教示に関して、参照することにより本明細書に組み込まれるRemington’s Pharmaceutical Sciences,18th Ed.,Mack Printing Company,1990に開示されている。さらに、製剤は、米国FDAのDivision of Biological Standards and Quality Control及び/または他の関連する米国及び外国の規制機関によって要求される、無菌性、発熱性、一般的安全性、及び純度の基準を満たすように調製され得る。
【0294】
例示的な一般的に使用される医薬的に許容される担体は、増量剤もしくは充填剤、溶媒もしくは共溶媒、分散媒、コーティング、界面活性剤、抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸、メチオニン、及びビタミンE)、防腐剤、等張剤、吸収遅延剤、塩、安定剤、緩衝剤、キレート剤(例えば、EDTA)、ゲル、結合剤、崩壊剤、及び/または滑沢剤を含み得るが、これらに限定されない。
【0295】
例示的な緩衝剤は、クエン酸緩衝剤、コハク酸緩衝剤、酒石酸緩衝剤、フマル酸緩衝剤、グルコン酸緩衝剤、シュウ酸緩衝剤、乳酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、ヒスチジン緩衝剤、及び/またはトリメチルアミン塩を含み得るが、これらに限定されない。
【0296】
例示的な防腐剤は、フェノール、ベンジルアルコール、メタ-クレゾール、メチルパラベン、プロピルパラベン、塩化オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム、ハロゲン化ベンザルコニウム、塩化ヘキサメトニウム、アルキルパラベン(メチルまたはプロピルパラベン等)、カテコール、レゾルシノール、シクロヘキサノール、及び/または3-ペンタノールを含み得るが、これらに限定されない。
【0297】
例示的な等張剤は、三価以上の糖アルコール(例えば、グリセリン、エリスリトール、アラビトール、キシリトール、ソルビトール、及び/またはマンニトール)を含むがこれらに限定されない多価糖アルコールを含み得る。
【0298】
例示的な安定剤は、有機糖、多価糖アルコール、ポリエチレングリコール、硫黄含有還元剤、アミノ酸、低分子量ポリペプチド、タンパク質、免疫グロブリン、親水性ポリマー、及び/または多糖類を含み得るが、これらに限定されない。
【0299】
製剤はまた、デポー製剤でもよい。いくつかの実施形態では、かかる長時間作用型製剤は、限定されないが、移植(例えば、皮下もしくは筋肉内)または筋肉注射によって投与され得る。従って、例えば、化合物は、適切なポリマー及び/または疎水性材料(例えば、許容される油中エマルションとして)もしくはイオン交換樹脂で、または難溶性誘導体として(例えば、難溶性塩として)製剤化され得る。
【0300】
さらに、様々な実施形態では、該AAVベクターは、持続放出システム、例えば、該AAVベクターを含む固体ポリマーの半透性マトリックスを使用して送達され得る。様々な持続放出材料が確立されており、当業者には周知である。持続放出カプセルは、その化学的性質に応じて、投与後数週間から100日以上にわたって該ベクターを放出する。
【0301】
注射用途に適した医薬担体、希釈剤または賦形剤としては、滅菌注射剤溶液または分散体の即時調製用の滅菌水溶液または分散体及び滅菌粉末が挙げられる。すべての場合で、当該形態は、無菌でなければならず、容易にシリンジを通過する程度に流動性でなければならない。これは、製造及び保管条件下で安定でなければならず、細菌及び真菌等の微生物の汚染作用から保護されなければならない。該担体は、溶媒の場合も分散媒の場合もあり、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコール等)、それらの適切な混合物、及び植物油を含む。適切な流動性は、例えば、レシチン等のコーティングの使用によって、分散体の場合は必要とされる粒径の維持によって、及び界面活性剤の使用によって維持され得る。微生物の作用の抑制は、様々な抗細菌剤及び抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサール等によってもたらされ得る。多くの場合、等張剤、例えば、糖または塩化ナトリウムを含むことが好ましい。注射剤組成物の持続的吸収は、吸収を遅延させる薬剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンの使用によってもたらされ得る。
【0302】
無菌注射剤溶液は、必要量のrAAVを、必要に応じて上記に列挙した様々な他の成分とともに適切な溶媒に組み込み、その後、濾過滅菌することによって調製される。一般に、分散体は、滅菌された活性成分を、基本的な分散媒及び上記に列挙したものから必要な他の成分を含む滅菌媒体に組み込むことによって調製される。滅菌注射剤溶液の調製用の滅菌粉末の場合、好ましい調製方法は、真空乾燥及び凍結乾燥技術であり、これにより、活性成分に加えて任意のさらなる所望の成分の粉末が、予め滅菌濾過されたその溶液から得られる。
【0303】
rAAVによる形質導入は、インビトロで行われる場合もある。1つの実施形態では、所望の標的筋細胞は、該対象から取り出され、rAAVで形質導入され、該対象に再導入される。代替的に、同系または異種筋細胞を使用することができ、ここでは、これらの細胞は、不適切な免疫応答を該対象内で生じない。
【0304】
対象への形質導入及び形質導入細胞の再導入に適した方法は、当技術分野で既知である。1つの実施形態では、細胞は、インビトロで、例えば、適切な培地中でrAAVを筋細胞と混合すること、及び目的のDNAを有する細胞を、従来の技術、例えば、サザンブロット及び/またはPCRを使用して、または選択可能なマーカーを使用してスクリーニングすることにより、形質導入することができる。形質導入細胞は、その後医薬組成物に製剤化することができ、該組成物は、様々な技術、例えば、筋肉内、静脈内、皮下及び腹腔内注射、または、例えば、カテーテルを用いた平滑筋及び心筋への注射により、該対象に導入され得る。
【0305】
本発明のrAAVによる細胞の形質導入は、該1つ以上のさらなるコード配列及びマイクロジストロフィンの持続的な共発現をもたらす。本発明は、従って、該1つ以上のさらなるコード配列及びマイクロジストロフィンを共発現するrAAVを動物、好ましくはヒトに投与/送達する方法を提供する。これらの方法には、組織(筋肉等の組織、肝臓及び脳等の器官、ならびに唾液腺等の腺を含むが、これらに限定されない)を本発明の1つ以上のrAAVで形質導入することが含まれる。形質導入は、組織特異的制御要素を含む遺伝子カセットを用いて行われ得る。例えば、本発明の1つの実施形態は、筋肉特異的制御要素によって指示される筋細胞及び筋組織を形質導入する方法を提供し、該制御要素としては、限定されないが、アクチン及びミオシン遺伝子ファミリーに由来するもの、例えば、myoD遺伝子ファミリー由来のもの(Weintraub et al.,Science 251:761-766,1991参照)、筋細胞特異的エンハンサー結合因子MEF-2(Cserjesi and Olson,Mol Cell Biol 11:4854-4862,1991)、ヒト骨格アクチン遺伝子(Muscat et al.,Mol Cell Biol 7:4089-4099,1987)、心筋型アクチン遺伝子、筋クレアチンキナーゼ配列要素(Johnson et al.,Mol Cell Biol 9:3393-3399,1989)、及びマウスクレアチンキナーゼエンハンサー(mCK)要素に由来する制御要素、骨格速筋トロポニンC遺伝子、遅筋心筋トロポニンC遺伝子及び遅筋トロポニンI遺伝子に由来する制御要素:低酸素誘導性核内因子(Semenza et al.,Proc Natl Acad Sci U.S.A.88:5680-5684,1991)、ステロイド誘導性因子及びグルココルチコイド応答エレメント(GRE)を含むプロモーター(Mader and White,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.90:5603-5607,1993参照)、ならびに他の制御要素が挙げられる。
【0306】
筋肉組織は、それが重要器官ではなく、かつ近づきやすいため、インビボでのDNA送達の魅力的な標的である。本発明は、形質導入された筋線維からのmiRNAとマイクロジストロフィンの持続的な共発現を企図する。
【0307】
本明細書で使用される、「筋細胞」または「筋組織」は、あらゆる種類の筋肉に由来する細胞または細胞群を意味する(例えば、骨格筋及び平滑筋、例えば、消化管、膀胱、血管または心臓組織に由来するもの)。かかる筋細胞は、分化していても未分化でもよく、例えば、筋芽細胞、筋細胞、筋管、心筋細胞及び心筋芽細胞であり得る。
【0308】
「形質導入」という用語は、該1つ以上のさらなるコード配列及び該マイクロジストロフィンのコード領域を、インビボまたはインビトロのいずれかで、レシピエント細胞による該1つ以上のさらなるコード配列及びマイクロジストロフィンの共発現をもたらす本発明の複製欠損性のrAAVを介して、該レシピエント細胞に投与/送達することを指すために使用される。
【0309】
従って、本発明は、該1つ以上のさらなるコード配列及びマイクロジストロフィンをコードするrAAVの有効用量(または複数回用量、本質的に同時に投与されるか、または間隔を置いて投与される)を、それを必要とする患者に投与する方法を提供する。
【0310】
AAVの生成
AAVベクターの必要な複製(rep)及び構造(cap)タンパク質をコードする遺伝子は、AAVベクターから削除されており、送達されるべき配列を残りの末端リピート配列間に挿入することが可能である。従って、AAVベクターの増殖には、ヘルパーウイルスだけでなく、感染細胞に送達される必要があるrep及びcapタンパク質をコードする遺伝子が必要である。代替的に、rep及びcapタンパク質をコードする遺伝子は、生成に使用される細胞に存在することが必要である。
【0311】
本発明の方法に適したAAVベクターは、当技術分野で認められている方法のいずれかを使用して生成することができる。最近の総説で、Penaud-Budloo et al.(Molecular Therapy:Methods&Clinical Development Vol.8,pages 166-180,2018)は、rAAVを生成するために最も一般的に使用される上流方法の総説を示した。該総説に記載の各方法は、参照することにより本明細書に組み込まれる。
【0312】
パッケージング細胞株(HEK293)の一過性トランスフェクション
特に、ある特定の実施形態では、該AAVベクターは、パッケージング細胞株、例えば、HEK293細胞の一過性トランスフェクションを使用して生成される。これは、ヒト胚性HEK293細胞へのプラスミドトランスフェクションを含む、最も確立されたAAVの生成方法である。通常、HEK293細胞は、ベクタープラスミド(目的の遺伝子、例えば、該ジストロフィンミニ遺伝子及び該1つ以上のさらなるコード配列の両方をコードする本主題のポリヌクレオチドを含む)、及び1つまたは2つのヘルパープラスミドによって、リン酸カルシウムまたはカチオン性ポリマーであるポリエチレンイミン(PEI)を用いて同時にトランスフェクトされる。
【0313】
該ヘルパープラスミド(複数可)は、4つのRepタンパク質、AAVの3つの構造タンパク質VP1、VP2、及びVP3、AAP、及びアデノウイルス補助機能E2A、E4、及びVARNAの発現を可能にする。rAAV複製に必要なさらなるアデノウイルスE1A/E1B補因子は、HEK293生成細胞で発現される。Rep-cap及びアデノウイルスヘルパー配列は、2つの別々のプラスミドにクローニングされるか、または1つのプラスミドに結合されるため、トランスフェクションのための3つのプラスミド系及び2つのプラスミド系の両方が可能である。3つのプラスミドのプロトコルは、ある血清型から別の血清型に容易に切り替えることができるcap遺伝子を備えた汎用性を提供する。
【0314】
該プラスミドは通常、従来の技術により、E.coliにおいて、細菌起源の抗生物質耐性遺伝子を使用して、またはミニサークル技術によって生成される。
接着性のHEK293細胞における一過性トランスフェクションは、rAAVベクターの大規模製造に使用されている。最近では、HEK293細胞はまた、長期にわたり経済的に実行可能な浮遊条件にも適応している。
【0315】
HEK293株は、無血清浮遊F17、Expi293、または他の製造元の特殊培地で維持される浮遊HEK293細胞を除き、通常、L-グルタミン、5%~10%のウシ胎児血清(FBS)、及び1%ペニシリン-ストレプトマイシンを含むDMEMで増殖させる。接着細胞の場合、動物由来成分による汚染を制限するため、AAVの生成時にFBSの割合を減らすことができる。
【0316】
一般に、rAAVベクターは、血清型に応じて、プラスミドのトランスフェクションの48~72時間後に細胞ペレット及び/または上清から回収される。
組み換えバキュロウイルスによる昆虫細胞の感染
バキュロウイルスSf9のプラットフォームは、哺乳類細胞におけるGMP準拠の拡張可能な代替AAV生成方法として確立されている。これは、粗製収穫物で細胞あたり最大2×105ベクターゲノム(vg)を生成することができる。
【0317】
現在のプロトコルは、2つの組み換えバキュロウイルス、すなわち、Rep78/52及びCapの合成を可能にするバキュロウイルス発現ベクター(BEV)、及びAAVのITRに隣接する目的の遺伝子を運ぶ組み換えバキュロウイルスによるSf9昆虫細胞の感染を含む。いくつかの無血清培地は、浮遊でのSf9細胞の増殖に適応化される。
【0318】
該デュアルバキュロウイルスSf9生成システムは、これらの安全性の問題に関して他の生成プラットフォームと比べて多くの利点を有する:(1)無血清培地の使用、(2)Sf細胞株での外来ウイルス転写産物の発見にもかかわらず、昆虫に感染するウイルスのほとんどは、哺乳類細胞では能動的に複製しない、及び(3)バキュロウイルス以外に、昆虫細胞でのrAAV生成にヘルパーウイルスは必要ない。
【0319】
ある特定の実施形態では、Rep及びCapタンパク質を発現する安定なSf9昆虫細胞株が使用されるため、感染性rAAVベクターを高収率で生成するためには1つのみの組み換えバキュロウイルスの感染が必要とされる。
【0320】
rHSVベクターによる哺乳類細胞の感染
HSVは、許容細胞でのAAVの複製用のヘルパーウイルスである。従って、HSVは、ヘルパーとして、及びAAVゲノムの複製及び生成細胞へのパッケージングを支援する必須のAAV機能を送達するためのシャトルとしての両方の役割を果たし得る。
【0321】
rHSVとの重感染に基づくAAV生成では、大量のrAAVを効率的に生成することができる。高い総収量(最大1.5×105vg/細胞)に加えて、該方法は、ウイルス力価の改善によって測定される明らかに品質が向上したrAAVストックを創出する点でさらに有利である。
【0322】
本方法では、細胞、通常はハムスターBHK21細胞株またはHEK293及び派生体に、1つはAAVのITRで囲まれた目的の遺伝子を搭載し(rHSV-AVV)、2つ目は所望の血清型のAAVのrep及びcapのORFを有する(rHSVrepcap)2つのrHSVを感染させる。2~3日後、該細胞及び/または培地を回収し、rAAVを複数の精製ステップで精製して、細胞不純物、HSV由来の混入物、及びパッケージ化されていないAAVのDNAを除去する。
【0323】
従って、いくつかの実施形態では、HSVは、AAV感染のヘルパーウイルスとしての役割を果たす。いくつかの実施形態では、AAVの増殖は、ICP27が欠失したHSVの非複製突然変異体を使用して達成される。
【0324】
哺乳類細胞で組み換えAAVウイルス粒子を生成するある特定の方法は、当技術分野で知られており、過去10年間で改善されてきた。例えば、米国出願公開第20070202587号は、2つ以上の複製欠損組み換えHSVベクターによる該細胞の重感染に基づく、哺乳類細胞における組み換えAAVの生成について記載している。米国出願公開第20110229971号及びThomas et al.(Hum.Gene Ther.20(8):861-870,2009)は、浮遊培養に適応化させた哺乳類細胞の組み換えHSV1型の重感染を使用した、拡張可能な組み換えAAVの生成方法について記載している。Adamson-Small et al.(Hum.Gene Ther.Methods 28(1):1-14,2017)は、該HSV系を用いた無血清浮遊製造プラットフォームでのAAVの生成方法の改良を記載している。
【0325】
哺乳類の安定細胞株
rAAVベクターはまた、rep及びcap遺伝子を安定して発現する安定した哺乳類の生成細胞を使用して、効率的かつ拡張可能に生成され得る。かかる細胞は、野生型のAd5ヘルパーウイルス(これは遺伝的に安定しており、高力価で容易に生成され得る)に感染し、高レベルのrep及びcapの発現を誘導することができる。感染性rAAVベクターは、これらのパッケージング細胞株に野生型Ad5型を感染させ、プラスミドのトランスフェクションによって、または組み換えAd/AAVハイブリッドウイルスによる感染後にrAAVゲノムを提供することで生成され得る。
【0326】
別の方法として、Adを、ヘルパーウイルスとしてのHSV-1で置き換えることもできる。
適切な安定した哺乳類の生成細胞としては、HeLa由来の生成細胞株、A549細胞、またはHEK293細胞が挙げられ得る。好ましいHeLa細胞株は、HeLaS3細胞、すなわち、浮遊培養に適応化させたHeLaサブクローンである。
【0327】
本明細書に記載の方法を使用して、動物成分を含まない培地中で、好ましくは250-L規模、または2,000-Lの商業規模で、本主題のAAVベクターを製造することができる。
【実施例】
【0328】
実施例1 C2C12細胞でのマイクロD5(SGT001)構築物の発現検証
マイクロD5(SGT-001)のマイクロジストロフィン導入遺伝子が、同じAAVベクターに挿入されたマイクロRNA(miR-29cコード配列等)またはshRNA(SLNに対するshRNA等)のさらなるコード配列がある場合またはない場合で、インビトロで発現することができることを確認するため、C2C12細胞を、インビトロで3種のAAVウイルス構築物:野生型マイクロD5(SGT-001)構築物をコードするもの、マイクロD5(SGT-001)及びmiR-29cの融合構築物をコードするもの、ただし、このmiR-29cコード配列は、マイクロD5(SGT-001)コード配列の5’の異種イントロン領域に挿入されたもの、ならびにマイクロD5(SGT-001)及びSLNに対するshRNAの融合構築物をコードするもの、ただし、このshRNAコード配列は、SGT-001コード配列の5’の異種イントロン領域に挿入されたものに感染させた。
図3を参照されたい。
【0329】
マイクロD5(SGT-001)/miR-29c融合構築物は、ジストロフィンミニ遺伝子産物及びmiR-29cのRNAの両方をコードする最初の転写産物を生成することが予測された。マイクロD5(SGT-001)/SLNに対するshRNA融合構築物は、ジストロフィンミニ遺伝子産物及びshRNAの両方をコードする最初の転写産物を生成することもまた予測された。
【0330】
いかなる特定の理論にも拘束されることを望むものではないが、出願人はまた、融合転写産物のその後のプロセシングが、融合mRNAの早期切断をもたらす可能性があると考えた(ポリAテールの損失を引き起こす等)。これは、この融合構築物に感染させたC2C12細胞でのマイクロジストロフィンの発現が、このさらなるコード配列を有さない野生型マイクロジストロフィン構築物に感染させたものと比較して、低下したことに寄与した可能性がある。
図3を参照されたい。
【0331】
しかしながら、この実験では、マイクロD5(SGT-001)構築物が、所望のマイクロジストロフィンタンパク質を正常に発現したこと(マイクロジストロフィン遺伝子産物に特異的な抗体を使用した免疫蛍光染色からも明らかなように)、及びこの発現が、わずかにレベルが低下/阻害/抑制されたが、miR-29cまたはshRNA融合構築物に感染させたC2C12細胞で持続することを確認した。
【0332】
同様の実験を、miR-29cコード配列が、プロモーターとマイクロD5(SGT-001)コード配列間の異種イントロンの異なる位置に挿入された他の融合構築物についても行った。これらの様々な融合構築物Imir2、Imir3、Imir4、及びImir5の挿入位置については、
図11を参照されたい。
【0333】
挿入されたコード配列を含む場合または含まない場合でイントロン配列をPCRにより増幅した後、挿入を確認し、その増幅産物を電気泳動で分析した。例えば、88-bpのmiR-29cコード配列の挿入により、PCT増幅産物のサイズは100bp弱増加した。
【0334】
この融合構築物をその後いくつかの実験で使用して、感染したC2C12細胞におけるマイクロD5(SGT-001)の発現が影響を受けるかどうかを特定した。
この特定の実験では、shRNAのコード配列の存在が、トランスフェクトされたC2C12細胞におけるマイクロジストロフィンの発現を、トランスフェクションの1日後に最初は妨げたことが明らかである。しかしながら、マイクロジストロフィンの発現はすぐに追いつき、トランスフェクション後6日目までに、トランスフェクトされたC2C12細胞におけるマイクロジストロフィンの発現は、AAVベクターのshRNAに対するさらなるコード配列の有無にかかわらず、実質的に同じであった。
図8A~8Cを参照されたい。
【0335】
このデータは、本主題のAAV構築物が、マイクロジストロフィン遺伝子の発現に大きな影響を与えることなく、shRNAまたはマイクロRNAに対するさらなるコード配列を包含することができることを実証する。
【0336】
実施例2 サルコリピン(SLN)に対するshRNAの機能アッセイ
本実施例は、本主題のAAVベクターに挿入されたSLNに対するshRNA(shSLN)のコード配列が、SLNの発現を低下させる機能性shRNAを生成することができることを実証する。
【0337】
図4は、AAVベクターによってコードされるサルコリピン-ルシフェラーゼ融合レポーターを示す概略図である。ルシフェラーゼ保有レポーター、及びshSLNを含むまたは含まないマイクロD5をコードするAAVをC2C12細胞にコトランスフェクトした後、コードされたshSLNがSLN-ルシフェラーゼ融合の発現を減少させる能力は、ルシフェラーゼが生成するシグナルに基づいて評価することができる。
【0338】
図5は、かかるコトランスフェクション実験の代表的な結果を示す。具体的には、1つの実験では、SLN-ルシフェラーゼ融合レポーター構築物を、マイクロD5のみをコードするAAVベクター(「SGT001」)とコトランスフェクトすることにより、強いルシフェラーゼシグナルが生じた。一方、別の実験では、SLN-ルシフェラーゼ融合レポーター構築物を、マイクロD5及びshSLNをコードするAAVベクター(「SGT001+SLN」)とコトランスフェクトすることにより、ルシフェラーゼシグナルが86.7%減少した。これは、shSLNが発現したこと、及びshSLNが標的遺伝子(マイクロD5-ルシフェラーゼ融合)の発現を減少させるのに有効であったことを示唆している。
【0339】
図6Aは、サルコリピンの直接免疫染色に基づくshRNA(SLN)の機能試験の結果を示す。マイクロD5(SGT-001)ジストロフィンミニ遺伝子及びshRNAのコード配列(shSLN)をコードするAAV9ベクターをトランスフェクトしたC2C12細胞では、内因性SLN発現は、マイクロD5(SGT-001)ジストロフィンミニ遺伝子のみをコードする同じベクターでトランスフェクトしたC2C12細胞と比較して55%減少した。
図6Bの免疫蛍光画像を参照されたい。
【0340】
このAAVベクターにおけるshRNA(SLN)コード配列の機能を、筋小胞体へのカルシウム再取り込みの測定に基づいてさらに調べた。
筋小胞体(小胞体)Ca2+-ATPase(SERCA)は、筋細胞における筋小胞体の内腔に、細胞質ゾルからのCa2+のATP依存性の輸送を触媒する膜貫通タンパク質である。SLN遺伝子によってコードされるサルコリピンは、ATPの加水分解速度に影響を与えることなく、筋小胞体におけるCa2+の蓄積を減少させることによっていくつかのSERCAを調節する小さな膜貫通プロテオリピドである。サルコリピンの消耗により、心房のCa2+過渡振幅が増加し、心房収縮力が高まる。さらに、サルコリピンヌルマウスの心房では、イソプロテレノール刺激に対する反応が鈍化しており、サルコリピンが心房におけるベータ-アドレナリン作動性反応のメディエーターであることを示している。
【0341】
従って、機能性shRNA(SLN)は、内因性SLNの発現レベルを低下させ、SERCAへのSLNの結合を減らし、ひいては、筋小胞体へのカルシウムの再取り込みの障害を減らすことが期待される。表現型的には、機能性shRNA(SLN)の発現の効果は、SERCA2a等のSERCAの過剰発現と同様であり、ラットでの過剰発現は、右心室乳頭筋の弛緩時間を短縮することが示されており、筋小胞体へのより速いカルシウムの再取り込みを示唆している。
【0342】
実際、筋小胞体へのより速いカルシウムの再取り込みが
図7に示されている。これは、カルシウム結合色素Fluo-8によって放出された正規化された蛍光シグナルを示している。
【0343】
Fluo-8(Abcam)は、細胞透過性媒体親和性の緑色蛍光カルシウム結合色素である。これは、約390nMのKdで細胞内カルシウムに結合する。Ca2+の結合によりその蛍光強度が増加する。
【0344】
Fluo-8シグナルのより速い減少は、非トランスフェクトC2C12細胞、及びマイクロD5(SGT-001)ジストロフィンミニ遺伝子のみをコードするAAVベクターを感染させたC2C12細胞と比較して、マイクロD5(SGT-001)-shSLNをコードするAAVベクターを感染させたC2C12細胞において細胞質カルシウムの減少がより速いことを表している。
【0345】
一方、マイクロD5(SGT-001)ジストロフィンミニ遺伝子の発現は、細胞をAAV構築物に感染させてから数日後(例えば、6日)でも、shSLNコード配列の存在またはshSLN発現によって大きく影響されないが、マイクロD5(SGT-001)ジストロフィンミニ遺伝子の発現は、最初は減少した(すなわち、感染の1日後)。
図8A~8Cを参照されたい。
【0346】
比較すると、感染の6日後、内因性SLN発現は55%減少する。
図6Aを参照されたい。これは、
図5のSLN-ルシフェラーゼレポーターアッセイで見られた86%の減少と合っている。
【0347】
これらのデータは、マイクロジストロフィンとshSLNの両方を共発現する本主題のAAVベクターが、同じAAVベクターで両方の導入遺伝子を効率的に発現することができる一方で、shSLNの発現は長期にわたりマイクロジストロフィンミニ遺伝子の発現に悪影響を与えないという見解を支持する。
【0348】
さらに、発現されたshSLNは、ルシフェラーゼレポーターアッセイ及び内因性SLN発現の直接測定の両方に基づいて、機能性であると思われる。
実施例3 融合構築物からのコード配列のインビトロ発現
本発明の融合ウイルスベクターは、目的の機能性遺伝子またはタンパク質(GOI)だけでなく、ある特定のRNAi、アンチセンス、sgRNA、miRNAまたはそれらの阻害物質の1つ以上のコード配列も発現することができる。本発明の組み換えウイルスベクターの代表的な非限定的な構成を
図12に示す。例えば、本発明の組み換えウイルスベクターは、融合AAVベクター、例えば、ある型の機能性ジストロフィン遺伝子、例えば、前述のμDys遺伝子のいずれか1つを発現するようにデザインされたAAV9ベクターであり得る。同じ融合ベクターはまた、最初の転写産物のイントロン内、3’-UTR内、またはポリAシグナルの後、例えば、組み換えAAV9ベクターのポリAシグナルの後であるが転写終結配列の前、または転写終結配列の後に、1つ以上のさらなるコード配列(複数可)を発現する。
【0349】
さらなるコード配列がmiR-29c等のmiRNAをコードする場合、成熟型miR-29c配列の周囲の配列が他のmiRNA、例えば、miR-30、-101、-155、または-451のものから得られるように、miR-29cコード配列の骨格配列を修飾することができる。(上記参照)。天然のmiR-29cの周辺配列をmiR-30、-101、-155、または-451からのもので置き換えると、miR-29cの標的配列を標的とするようにデザインされたmiR-29cの1本の鎖(すなわち、ガイド鎖)の生成を高める(すなわち、miR-29cの標的配列を標的とするのに有用ではないその相補的パッセンジャー鎖の生成を低下させる)ことができることが分かっている。
【0350】
対照として、いくつかのいわゆるソロ発現構築物を同じベクターバックグラウンドで生成した。これらのソロ発現構築物は、μDys遺伝子を発現しないが、代わりにEGFPまたはGFP等のレポーター遺伝子を発現し得る。
【0351】
例えば、1つのかかるソロベクターは、すべてEF1Aプロモーターから、EGFPコード配列の上流のイントロン配列に挿入されたmiR-29cコード配列を発現する可能性がある。miR-29cコード配列の骨格配列は、miR-30、-101、-155、または-451のものによって修飾される場合もある。
【0352】
別のかかるソロベクターは、shRNA、例えば、SLNを標的とする/その発現を下方制御するshSLNを発現する場合もある。このshRNAの発現は、短いRNA転写産物の強力な転写を生成するRNA Pol IIIによって使用され得るU6プロモーターによって駆動される場合もある。このshRNAコード配列は、GFPのコード配列の前のU6転写カセットのイントロンに挿入され得る。
【0353】
いくつかのかかる代表的な融合またはソロベクターを使用して、ヒトiPS由来の心筋細胞をインビトロでトランスフェクトし、感染した心筋細胞におけるmiR-29cの発現を測定し、その結果を
図13に示した。
【0354】
具体的には、5種のソロ構築物、5種の融合構築物、及び対照のμDys発現構築物を、標準的な手順に従って、ヒトiPS由来の心筋細胞にトランスフェクトした。成熟型miR-29cのレベルは、TaqmanステムループQPCRで測定した。調べた5種のソロ構築物は、U6またはEF1A駆動型のmiR-29c発現カセットをmiR-30骨格でデザインしたもの(EF1A-29c-M30E及びU6-29c-M30E)ならびにmiR-155骨格でデザインしたもの(EF1A-29c-19nt及びEF1A-29c-155)を含む。調べた5種の融合構築物は、miR-29c発現カセットを、miR-101骨格でデザインし(μDys-29c-101-i2及びμDys-29c-3UTR-101)、miR-30骨格でデザインし(μDys-29c-M30E-i2)、ならびにmiR-155骨格でデザインし(29c-19nt-μDys-3UTR及び29c-19nt-μDys-pa)、μDys発現カセットに対してイントロン(i2)、3’UTR(3UTR)及びpA後(pa)部位の位置に挿入されたものを含む。
【0355】
本発明の融合構築物は、感染させたヒトiPS由来の心筋細胞において、類似の構築物を用いたμDysのみを発現する対照(ひいては、内因性miR-29c発現のバックグラウンドレベルのみが存在するもの)と比較して、概してmiR-29cを2~11倍で過剰発現したことが明らかである。
【0356】
図13のデータを生成するために使用した特定の融合構築物は、以下を含む:
29c-19nt-μDys-3UTR:修飾miR29cをmiR-155骨格に含み、μDys発現カセットの3’-UTR領域(ポリAアデニル化シグナル配列の前)に挿入されたもの。
【0357】
29c-19nt-μDys-pA:同じ修飾miR29cコード配列をmiR-155骨格に含み、μDys発現カセットのポリAアデニル化シグナル配列の後に挿入されたもの。
【0358】
μDys-29c-M30E-i2:修飾miR29cコード配列をmiR-30E骨格に含み、μDys発現カセットのイントロン領域に挿入されたもの。
μDys-29c-101-i2:修飾miR29cコード配列をmiR-101骨格に含み、μDys発現カセットのイントロン領域に挿入されたもの。
【0359】
μDys-29c-3UTR-101:修飾miR29cコード配列をmiR-101骨格に含み、μDys発現カセットの3’-UTR領域に挿入されたもの。
一方、miR-29cを発現するソロ構築物は、感染させたヒトiPS由来の心筋細胞において、μDysのみを発現する同じ対照ベクターと比較して、概してmiR-29cを6~73倍で過剰発現した。
【0360】
図13のデータを生成するために使用した特定のソロ構築物は、以下を含む:
EF1A-29c-M30E:修飾miR29cコード配列をmiR-30E骨格に含み、EF1Aプロモーターによって駆動されるもの。
【0361】
U6-29c-M30E:修飾miR29cコード配列をmiR-30E骨格に含み、Pol III U6プロモーターによって駆動されるもの。
U6-29c-v1:miR29cコード配列がPol III U6プロモーターによって駆動されるもの。
【0362】
EF1A-29c-19nt:修飾miR29cコード配列をmiR-155骨格に含み、EF1Aプロモーターによって駆動されるもの。
EF1A-29c-155:別の修飾miR29cコード配列をmiR-155骨格に含み、EF1Aプロモーターによって駆動されるもの。
【0363】
これらの構築物からのmiR-29cの(優先的な)生成を示す同様の傾向は、これらの構築物をMoulyのヒトの健康な初代筋芽細胞及びマウスC2C12不死化筋芽細胞株を含めた他のインビトロ細胞系で評価した際にも得られた(データは示さず)。μDys発現カセットへのmiR-29c要素の挿入は、μDysのmRNA産生に大幅な減少をもたらさない。
【0364】
いくつかの選択された融合組み換えウイルスベクターを含むAAV9ウイルス粒子を同様に使用して、分化したC2C12の筋管及び初代マウス心筋細胞に感染させ、miR-29cの発現をこれらの細胞でも確認した。μDysのみを発現する対照に対して正規化した後の相対的miR-29c発現として表される結果を含む
図14を参照されたい。
【0365】
この実験では、μDysの産生は、対照群と比較して大きく影響されないと思われた。さらに、miR-29cのパッセンジャー鎖のレベルは、レベルの増加を示さなかった。
一方、本主題の融合構築物からのshSLNの発現、及びかかる融合構築物に感染させたマウス細胞におけるSLNの約50%の下方制御の結果を、それぞれ
図16及び15に示した。
【0366】
具体的には、μDysのみを発現する3種のソロ構築物ならびにμDys及びshSLNを発現する2種の融合構築物を、SLN-Myc/DDK(Myc-DDKタグ付きSLN。DDKは、商標登録されたSigma AldrichのFLAG(登録商標)タグと同じであり、Myc-DDKタグは、抗Mycまたは抗DDK抗体を用いて検出することができる)を安定に過剰発現するマウスC2C12細胞にトランスフェクトした。このマウスC2C12安定細胞株は、SLN-Myc/DDKをコードするベクターのレンチウイルス形質導入と、それに続く安定細胞株の選択によって生成された。融合構築物の1つ「融合-v2」またはμDys-shmSLN-v2は、Mycタグ特異的抗体を介して検出されたSLNタンパク質発現レベルで約50%のノックダウンを示した。
図15を参照されたい。
【0367】
図15で使用された様々な構築物を以下に示す。
μDys:μDysのGOIのみをコードする対照AAV9ベクター。
EF1A-mSLN:マウスSLNを標的とするshRNAのみを発現するソロ構築物。このshRNAコード配列の転写は、EF1Aプロモーターによって駆動される。
【0368】
EF1A-mSLN(V2):マウスSLNを標的とするshRNAのみを発現する別のソロ構築物。このshRNAコード配列の転写は、EF1Aプロモーターによって駆動される。
【0369】
EF1A-mSLN(V4):マウスSLNを標的とするshRNAのみを発現するさらに別のソロ構築物。このshRNAコード配列の転写は、EF1Aプロモーターによって駆動される。
【0370】
融合-v1:μDysのGOI及びマウスSLNを標的とするshRNAのコード配列の両方を発現する本発明の融合構築物。
融合-v2:μDysのGOI及びマウスSLNを標的とするshRNAのコード配列の両方を発現する本発明の別の融合構築物。
【0371】
mSLNの発現は、ある型のmSLNのshRNAをコードする本主題の融合構築物によるマウス細胞の感染により、約50%減少したことが明らかである。
図16は、分化したC2C12筋管またはマウスの初代心筋細胞におけるsiSLN(転写shSLN由来のプロセスsiRNA産物)の相対的発現レベルを、shSLNをコードする様々な組み換えAAV9ベクターに関して、このウイルスベクターの単独のコード配列として(「ソロ」)、または本開示の融合構築物の一部として(「融合」)のいずれかで示す。siRNA産生は、慣用TaqmanステムループQPCRシステムで定量化した。ソロ及び融合構築物の相対的なsiSLN発現レベルを、μDys対照群のレベルに対して正規化したが、対照群ではsiSLN様RNAの生成がほぼないか、または非常にわずかであるため、明らかな高い発現比は参考にはならない可能性がある。それでもなお、調べた両細胞型において、ソロ構築物は、対照群と比較して、強力なU6 Pol IIIプロモーターから約1000倍高いレベルのsiSLNを発現したことは明らかである。一方、調べた融合構築物は、対照と比較して、1~2桁高いレベルのsiSLNを発現した。
【0372】
ヒトSLNを標的とするshRNAを発現する多数のさらなるソロ及び融合構築物も同様に、ヒトiPS由来の心筋細胞で調べた。これらは、ヒトSLNを標的とする6種のソロ構築物及び12種の融合構築物を含む。これらの融合構築物は、shSLN配列をmiR-29及びmiR-155骨格に含み、μDys発現カセットに対してイントロン、3’-UTR、またはpA後部位に挿入された。これらの実験の結果を
図17に要約した。
【0373】
具体的には、いくつかの陰性対照(例えば、複数のμDys及びGFPプラスミド)ならびに陽性対照を
図17の実験で使用した。陰性対照は、以下を含む:μDysのみを発現する2種の構築物(μDys1及びμDys2)(SLNのmRNA発現レベルに影響を与えなかった)、筋特異的プロモーターCK8の下でGFPを発現する構築物(CK8-GFP)(このGFPもSLNのmRNA発現に影響を与えなかった)、ならびに「シグマスクランブル」、すなわち、hSLNを標的とするshSLNのスクランブル配列を発現する構築物(これは、SLNのmRNA発現に影響を与えなかったと予想される)。陽性対照は、「シグマshrna」であり、これは、約80%のhSLNのmRNAを下方制御するhSLN標的化shSLNをコードするSigma製の市販のshRNAプラスミドである。
【0374】
各々が、hSLNを標的とするある型のshRNAを発現し、かつ各々が強力なPol III U6プロモーターの転写制御下にある6種のソロ構築物を調べたところ、概してhSLNのmRNA発現の約80~90%を下方制御することが分かった。
【0375】
6種のソロ構築物及び本発明の4種の融合構築物にわたって、最大90%のhSLNのmRNA発現のダウンダウン(down-down)も観察された。例えば、このc2-m30e-i2構築物は、μDys及びhSLNを標的とするshRNAを共発現する融合構築物である。このshRNAは、M30E骨格配列(上記参照)に埋め込まれ、μDys発現カセットのイントロンに挿入される。ヒトiPS由来の心筋細胞にこの構築物を感染させると、hSLNのmRNAの最大90%がノックダウンされた。
【0376】
これらの融合構築物は、hSLNのmRNA発現に大きく影響を与えたが、同じベクターでのμDysの発現には悪影響を与えるとは思われなかった。
図18に示すように、ヒトSLNを標的とする6種のソロ及び12種の融合構築物を、ヒトiPS由来の心筋細胞にトランスフェクトした。ほとんどの融合構築物は、対照のμDysのみの構築物とほぼ同様の(>50%)μDysのmRNA発現を示した。
【0377】
選択されたソロ及び2種の融合構築物の変性アガロースゲル分析でも、これらのmiR-29c構築物のAAV9ゲノムがほとんど無傷であることが確認された。
図19を参照されたい。
【0378】
実施例4 融合構築物からのコード配列のインビボ発現
この実験は、本主題の融合構築物を使用して、μDysと、別の経路(例えば、SLNの下方制御、及び/またはmiR-29cの上方制御)に影響する1つ以上のさらなるコード配列(複数可)を同時に発現することができ、相乗的な治療効果ではないにしても、ソロ以上を達成することができることを実証する。
【0379】
この一連の実験では、μDys遺伝子をコードするAAV9、及び第2のコード配列、すなわち、miR-29cまたはマウスSLNを標的とするshSLNの構築物を融合する。様々な融合構築物を、用量約5E13vg/kgで(1つの群、すなわち、U6-29c-v1の1E14vg/kgを除く)、6週齢の雄mdxマウスに尾静脈から注射した。次いで、μDys、miR-29c、及びSLNのmRNAの発現を、注射後28日間にわたって観察した。詳細な実験設定を以下に要約する:
【0380】
【0381】
miR-29cの実験群では、調べた2種の融合構築物、すなわち、M30E骨格に含まれ、μDys発現カセットのイントロンに挿入されたもの、及びmiR-101骨格に含まれ、μDys発現カセットの3’-UTR領域に挿入されたものは、左腓腹筋(
図20A)、横隔膜(
図20B)、及び左心室(
図20C)において、1.4~2.8倍のmiR-29cの上方制御をもたらすことが見出された。miR-29c-μDys融合AAV9構築物は、5E13vg/kgの用量で投与した。AAV9中のソロU6プロモーター駆動型miR-29c構築物は、5E13vg/kgの用量では2~11倍の上方制御をもたらし、1E14vg/kgの用量では6~16倍をもたらした。
【0382】
一方、融合AAV9構築物によるmiR-29cの上方制御は、腓腹筋(
図21)、横隔膜(データは示さず)及び左心室(データは示さず)において、μDys産生の減少をもたらさなかった。融合AAV9構築物は、RNA及びタンパク質の両レベルで、対照のμDysのみのAAV9構築物のものと同様のμDys発現を示した。miR-29cのみを発現するソロ構築物は、μDysを産生しないため、μDysレベルの欠如を示した。
【0383】
このshSLN実験群では、調べたshSLN融合AAV9構築物は、横隔膜、左腓腹筋、及び心房(
図22)、ならびに舌(データは示さず)において最大50%のmSLNのmRNAの下方制御をもたらすことが分かった。同様に、融合AAV9構築物によるmSLNのmRNAの下方制御は、RNA及びタンパク質の両レベルで、腓腹筋(
図23)、横隔膜(データは示さず)、及び左心室(データは示さず)において、μDysのみを発現する対照AAV9のものと比較してμDys産生を減少させなかった。shmSLNのみを発現するソロ構築物は、μDysを産生しなかったため、μDysレベルの欠如を示した。横隔膜の結果を示す。舌及び心房でも同様の結果となる。
【0384】
これらのデータは、本主題の融合構築物が、μDys遺伝子及び少なくとも1つのさらなるコード配列、例えば、miR-29cまたはSLNに対するshRNAの両方を同時に発現することができること、ひいては、1つのコード配列、例えば、μDysのみを発現するウイルスベクターと比較して、良好な治療結果を達成することを示す。
【0385】
実施例5 融合構築物からインビボで発現されるコード配列は生物学的に活性である
この実験は、本発明の融合構築物から発現されるコード配列が生物学的に活性であることを実証する。
【0386】
ジストロフィンは、筋細胞膜に構造的安定性をもたらし、筋細胞膜鞘の透過性の増加は、筋線維からのクレアチンキナーゼ(CK)の放出につながる。従って、クレアチンキナーゼ(CK)レベルの上昇は、筋損傷の特徴である。DMD患者では、CKレベルは正常範囲を超えて大幅に増加する(例えば、出生以来正常レベルの10~100倍)。同様に、血清CKレベルは、mdxマウスモデルでは、筋肉の健康状態の一般的な尺度と見なされる。
【0387】
この実験のデータは、AAV9のmiR-29cソロ(1E14vg/kgの高用量で投与)及びmiR-29c-μDys融合(5E13vg/kgの用量で投与)の両構築物が、mdxマウスモデルの血清CKレベルをμDys対照と比較して同程度まで低下させたことを示すことから、DMD患者において、miR-29cを発現することの治療的有用性を示唆している。
【0388】
具体的には、実施例4のインビボ実験で、様々なマウス群の血清CKレベルも測定した。
図24は、μDys単独の発現が血清CKレベルの有意な低下を引き起こしたことを示す。両方とも調べた融合構築物でのμDys及びmiR-29cの共発現により、血清CKレベルも同様に有意に低下した。興味深いことに、miR-29cを単独で発現させると、特に、より高ウイルス用量(のmiR-29cを発現するソロ構築物)を使用した場合に、血清CKレベルが有意に低下した。
【0389】
一方、組織性メタロプロテアーゼ阻害因子1(TIMP-1)は、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)患者の疾患の進行及び/または治療効果を観察するための血清バイオマーカーとして提示されている。これは、健康な対照と比較して、DMD患者ではTIMP-1の血清レベルが有意に高いからである。同様に、TIMP1は、mdxマウスモデルにおける筋肉の健康状態の血清マーカーでもある。
【0390】
従って、実施例4のインビボ実験で、様々なmdxマウス群の血清TIMP1レベルも測定した。
図25の左側のパネルは、μDys単独の発現が血清TIMP1レベルの有意な低下を引き起こしたことを示す。両方とも調べた融合構築物でのμDys及びmiR-29cの共発現により、血清TIMP1レベルも同様に有意に低下した。一方、miR-29cを単独で発現させると、より高ウイルス用量(のmiR-29cを発現するソロ構築物)を使用した場合でも、血清TIMP1レベルは低下しなかった。
【0391】
同様に、
図25の右側のパネルは、μDys単独の発現が血清TIMP1レベルの有意な低下を引き起こしたことを示す。調べた融合構築物でのμDys及びmSLNに対するshRNAの共発現により、血清TIMP1レベルも同様に有意に低下した。一方、mSLNに対するshRNAを単独で発現させても、血清TIMP1レベルは低下しなかった。
【0392】
これらのデータは、本発明の融合構築物からインビボで発現されるコード配列が生物学的に活性であることを示唆する。
実施例6 融合構築物はウイルスベクターの生体内分布を変更しない
実施例4のインビボ実験で、融合ウイルスベクターの生体内分布を、μDysのみを発現するソロウイルスベクターのものと比較した。使用されたすべてのウイルスベクターの生体内分布は、融合構築物がmiR-29cを発現するかshSLNを発現するかにかかわらず、腓腹筋ではほぼ同じであることが見出された。
図26を参照されたい。
【0393】
腓腹筋でのウイルス力価の定量もまた、融合及び対照AAV9で同様のウイルス力価を示した。
実施例7 融合構築物はウイルスベクターの肝臓の生体内分布を変更しない
実施例4のインビボ実験で、融合ウイルスベクターの肝臓レベルを、μDysのみを発現するソロウイルスベクターのものと比較した。使用されたすべてのウイルスベクターのウイルス力価は、融合構築物がmiR-29cを発現するかshSLNを発現するかにかかわらず、肝臓ではほぼ同じであることが見出された。
図27を参照されたい。
【0394】
実施例8 融合構築物を使用する治療効果のμDys単独療法と比較した向上
μDysとmiR-29cの同時発現が、良好な治療効果及び/または線維化等の合併症の減少につながるかどうかを判断するため、2つの線維化マーカー遺伝子、Col3a1及びFn1の発現レベルを、実施例4の様々な融合、ソロ、または対照構築物を投与したマウスで調べた。Col3A1の発現及びFN1の発現は、線維化活性のマーカーとして使用されている。
【0395】
miR-29cのみを発現するソロAAV9ベクターは、5E13vg/kgの低用量及び1E14vg/kgの高用量で、Col3A1及びFN1の発現の減少をもたらした。融合AAV9ベクターもまた、横隔膜においてマーカー遺伝子発現の減少をもたらした。
図28を参照されたい。
【0396】
これらの結果は、横隔膜における、本発明の融合構築物のμDys構築物単独に対する追加的な効果を、それらがこれら2つの線維化マーカー遺伝子に与える影響に基づいて示す。
【0397】
実施例9 酵素ベースの遺伝子編集の送達:CRISPR/Cas及びsgRNA/crRNA
本主題のウイルスベクター、例えば、rAAVウイルスベクターを使用して、標的細胞での標的遺伝子の同時ノックダウンのため、CRISPR/Cas9またはCRISPR/Cas12a(または他の改変もしくは修飾Cas酵素もしくはその相同物)を、標的細胞に、1つ以上のsgRNA(Cas9用)、または1つ以上のcrRNA(Cas12a用)とともに送達することができる。標的細胞の指向性は、CRISPR/Cas及びsgRNA/crRNAをコードする配列が存在するウイルス粒子の指向性によって部分的に制御することができる。
【0398】
例えば、AAVを介した送達の場合、本主題のウイルスベクターにおけるGOIは、CRISPR/Cas9またはCRISPR/Cas12aのコード配列であり得る。Cas9またはCas12aにそれぞれ搭載することができる1つ以上のsgRNAまたはcrRNAは、Cas9/Cas12aの発現カセットのイントロン、3’-UTR、または他の場所から発現され得る。
【0399】
標的細胞を本主題のウイルスベクター、例えば、AAVベクターに感染させると、Casタンパク質及びsgRNA/crRNAが標的細胞内で共発現され、遺伝子編集を媒介する。
【配列表】
【国際調査報告】