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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-08
(54)【発明の名称】ナトリウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0568 20100101AFI20220201BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20220201BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20220201BHJP
【FI】
H01M10/0568
H01M4/13
H01M4/587
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021533605
(86)(22)【出願日】2019-12-12
(85)【翻訳文提出日】2021-06-11
(86)【国際出願番号】 GB2019053519
(87)【国際公開番号】W WO2020120967
(87)【国際公開日】2020-06-18
(31)【優先権主張番号】1820358.8
(32)【優先日】2018-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514065058
【氏名又は名称】ファラディオン リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】セイヤーズ,ルース
(72)【発明者】
【氏名】バーカー,ジェレミー
(72)【発明者】
【氏名】ルドラ,アシシュ
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ03
5H029AK03
5H029AK18
5H029AL08
5H029AM07
5H029DJ18
5H029HJ01
5H029HJ02
5H029HJ04
5H029HJ07
5H050AA08
5H050BA15
5H050CA07
5H050CA29
5H050CB09
5H050FA20
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA04
5H050HA07
(57)【要約】
本発明は、カソードおよびアノードを有するナトリウムイオン二次電池であって、前記カソードは、少なくとも一つの層状ニッケル含有ナトリウム酸化物材料を含む、1または2以上のカソード電極活物質を有し、前記アノードは、アノード基板上に配置されたアノード電極活物質の層を有し、前記アノード電極活物質は、1または2以上の無秩序炭素含有材料を有し、前記アノード電極活物質の層の質量は、前記アノード基板の単位平方メートル当たり、80gm-2未満であり、さらに、前記アノード電極活物質の層の質量に対する前記カソード電極活物質の質量の比は、0.1から10であり、前記アノード基板上の前記アノード電極活物質の層の厚さは、100μm未満である、ナトリウムイオン二次電池に関する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソードおよびアノードを有するナトリウムイオン二次電池であって、
前記カソードは、1または2以上の正極活性物質を有し、前記アノードは、アノード基板上に配置された負極活物質の層を有し、
前記負極活物質は、1または2以上の無秩序炭素含有材料を有し、
i)前記負極活物質の層の質量は、前記アノード基板の単位平方メートル当たり80g以下であり、
ii)前記負極活物質の層の質量に対する前記正極活物質の質量の比は、0.1から10であり、
iii)前記アノード基板上の前記負極活物質の層の厚さは、100μm以下である、ナトリウムイオン二次電池。
【請求項2】
前記アノード基板の単位平方メートル当たりの前記負極活物質の層の質量は、25gm-2超、80 gm-2未満である、請求項1に記載のナトリウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記アノード基板の単位平方メートル当たりの前記負極活物質の層の質量は、40gm-2~75gm-2である、請求項1に記載のナトリウムイオン二次電池。
【請求項4】
前記負極活物質の層の質量に対する前記正極活物質の質量の比は、0.5~10である、請求項1に記載のナトリウムイオン二次電池。
【請求項5】
前記アノード基板上の前記負極活物質の層の厚さは、80μm以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載のナトリウムイオン二次電池。
【請求項6】
前記正極活物質の1または2以上は、一般式

A1±δM1 VM2 WM3 XM4 YM5 ZO2-c

の化合物であり、
ここで、
Aは、ナトリウム、カリウムおよびリチウムから選択される1または2以上のアルカリ金属であり、
M1は、酸化状態が+2の1または2以上の酸化還元活性金属を有し、
M2は、酸化状態が0よりも大きく、+4以上の酸化状態の金属を有し、
M3は、酸化状態が+2の金属を有し、
M4は、酸化状態が0よりも大きく、+4以下の酸化状態の金属を有し、
M5は、酸化状態が+3の金属を有し、
ここで、
0≦δ≦1;
V>0;
W≧0;
X≧0;
Y≧0;
WとYの少なくとも1つは、0よりも大きく、
Z≧0;
Cは、0≦c<2の範囲であり、
ここで、V、W、X、Y、ZおよびCは、電気化学的中性を維持するように選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載のナトリウムイオン二次電池。
【請求項7】
前記無秩序炭素含有負極活物質の構造は、非黒鉛化性の非結晶質アモルファス構造である、請求項1に記載のナトリウムイオン二次電池。
【請求項8】
前記負極活物質は、硬質カーボンを含む、請求項1に記載のナトリウムイオン二次電池。
【請求項9】
前記負極活物質は、硬質カーボン/X複合体を有し、
ここで、Xは、元素形態または化合物形態のいずれかにおいて、リン、硫黄、インジウム、アンチモン、錫、鉛、鉄、マンガン、チタン、モリブデンおよびゲルマニウムから選択された、1または2以上である、請求項1に記載のナトリウムイオン二次電池。
【請求項10】
前記負極活物質は、1または2以上の別の材料を有し、該別の材料は、ナトリウムイオンを貯蔵でき、非金属、非金属含有化合物、金属、金属含有化合物、および金属含有合金から選択される、請求項1に記載のナトリウムイオン二次電池。
【請求項11】
カソードおよびアノードを有し、
前記カソードは、1または2以上の正極活物質を有し、前記アノードは、アノード基板上に配置された負極活物質の層、好ましくは均一な層を有し、
前記負極活物質の層は、1または2以上の無秩序炭素含有材料を有し、
前記負極活物質の層は、約0.8を超える容積比表面積(VSSA)を有する、請求項1に記載のナトリウムイオン二次電池。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載のナトリウムイオン二次電池の製造方法であって、
a.1または2以上の正極活物質を有するカソードを、負極活物質の層で被覆されたアノード基板を有するアノード、および電解質とともに組み立て、ナトリウムイオン電池を形成するステップと、
b.前記ナトリウムイオン電池を第1の電圧までサイクル処理するステップと、
を有し、
i)前記アノード基板の単位平方メートル当たりの前記アノード活物質の層の質量は、80gm-2以下であり、
ii)前記負極活物質の層の質量に対する前記正極活物質の質量の比は、0.1~10であり、
iii)前記アノード基板上の前記負極活物質の層の厚さは、100μm以下である、製造方法。
【請求項13】
請求項1~11のいずれか1項に記載の、少なくとも2つのナトリウムイオン二次電池を有する電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、優れたアノード活物質容量および安定なサイクル特性を示すナトリウムイオン電池に関する。また、本願では、これらのナトリウムイオン二次電池を製造する方法、およびそのようなナトリウムイオン二次電池を含む電池が提供される。
【背景技術】
【0002】
ナトリウムイオン電池は、今日一般に使用されているリチウムイオン電池と多くの点で類似している。両方とも、アノード(負極)、カソード(正極)、および電解質材料を含む再利用可能な二次電池であり、両方とも、エネルギー貯蔵が可能であり、同様の反応機構を介して充放電することができる。ナトリウムイオン(またはリチウムイオン)電池が充電されると、Na(またはLi)イオンがカソードから脱インターカレートし、アノードに挿入される。一方、荷電バランス電子は、カソードから、充電器を含む外部回路を通り、電池のアノードに入る。放電の間は、逆向きに同じプロセスが発生する。
【0003】
近年、リチウムイオン電池技術は、大きな注目を集め、今日使用されているほとんどの電子装置に、好適な携帯用電池として提供されている。しかしながら、リチウムは、安価な金属源ではなく、大規模な用途に使用するには高コストであることが憂慮されている。一方、ナトリウムイオン電池技術は、多くの利点を提供すると考えられる。ナトリウムは、リチウムよりも充分豊富に存在し、将来のエネルギー貯蔵に関し、特に、電力グリッドにエネルギーを貯蔵するような大規模な用途において、より安価で耐久性のある方法が提供されることが期待されるからである。現在、ナトリウムイオン蓄電池を実用化するための研究が進められている。
【0004】
より注意を要する分野の1つは、ナトリウムイオン電池の電気化学的性能を最適化するための設計である。
【0005】
国際公開第2017/073056号には、有用な二次ナトリウム電池を達成する方法として、ナトリウムイオン電池におけるパッシブ電圧制御の方法が記載されている。具体的には、この方法には、正極活物質の質量に対する負極活物質の質量の比を制御して、それが0.37超、1.2未満となるようにするステップが含まれる。これは、0.833~2.70の範囲のカソード:アノード活物質質量比(ここでは「C/A質量バランス」と称される)に相当する。国際公開第2017/073056号に明示的には開示されていないが、この技術の発明者との共同研究から、彼らがアノード基板の平方メートル当たり100~130gm-2の負極活物質を含有するアノードを使用していることが理解される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、優れたアノードおよびカソード活物質容量、ならびに安定したサイクル特性を示すナトリウムイオン二次電池を提供することである。また、本発明のナトリウムイオン二次電池は、コスト効果が高く、製造が簡単である。この目的のため、出願人は、0.833~2.70の範囲のC/A質量比を使用することは、有用なアノード第一脱ナトリウム化能を有するナトリウムイオン二次セルを提供する上での一方法ではあるが、他の選択されたセル構造パラメータと組み合わせて、C/A比を選択することにより、これらのアノード容量をさらに増加させることができるという、予想外のことを見出した。以下、出願人は、これらの驚くべき結果を説明し実証する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
従って、本発明では、
カソードおよびアノードを有するナトリウムイオン二次電池であって、
前記カソードは、1または2以上の正極活性物質を有し、前記アノードは、アノード基板上に配置された負極活物質の層、好ましくは均一な層を有し、
前記負極活物質は、1または2以上の無秩序炭素含有材料を有し、
i)前記負極活物質の層の質量は、前記アノード基板の単位m2当たり80g以下であり、
ii)前記負極活物質の層の質量に対する前記正極活物質の質量の比は、0.1から10であり、
iii)前記アノード基板上の前記負極活物質の層の厚さは、100μm以下であり、好ましくは80μm以下である、ナトリウムイオン二次電池が提供される。
【0008】
明確化のため、単位「gm-2」(グラム/平方メートル)は、基板の単位面積(m2)当たりの活性電極材料の質量(g)を表し、本願では「GSM」とも称される。
【0009】
本願において、「アノード電極活物質」は、「負極活物質」と等価であり、「カソード電極活物質」は「正極活物質」と等価である。
【0010】
以下の特定の例に示されるように、カソードおよびアノードの電極活物質の質量の比は、重要である。しかし、出願人によれば、アノード電極活物質の質量は、アノード容量の結果にさらに大きな制御を及ぼすことが認められ、カソード電極活物質の一定質量に対して、アノード活物質の質量が減少するにつれて、有意に改善されたアノード容量の結果が観測されている。また、出願人によれば、Na電析の問題が起こり得るので、80g-2を超える質量のアノード電極活物質を使用することは、好ましくないことが見出されている。Na電析は、各種理由から極めて望ましくない。第一に、充電サイクル(アノードでのナトリウム化)において、いったんNa電析が生じると、一般的に使用されているナトリウムイオン電解質のほとんどの場合、放電サイクルにおいて、これを効率的に除去することが難しくなる。これは、そのようなサイクルごとに、セルのクーロン効率が低下し、Na電析が生じる各通過サイクルごとに、供給されたセル容量が(カソードからのナトリウムのロスのため)顕著におよび徐々に低下することを意味する。第2に、各充電サイクル中のNa電析、および放電サイクル中の非効率的な除去が繰り返されると、アノード上に堆積したNa金属がデンドライト形態で成長し、これにより電池が内部で短絡し、これにより、爆発が生じ得る。これは、明らかに、重大な安全上の危険となり得る。最も有望なアノードの最初の脱ナトリウム化容量(例えば、270mAh/g以上の値)の結果の一部は、アノード基板の平方メートル当たりの負極活物質の層の質量が25gm-2超、80gm-2未満の場合に得られ、最良のアノードの最初の脱ナトリウム容量の結果は、アノード基板の平方メートル当たりの負極活物質層の質量が40gm-2から75gm-2、好ましくは40gm-2から65gm-2である場合に得られ、それと同時に、平方メートル当たりの負極活物質の質量が、これらの後者の2つの範囲内にあるときに、最も高いサイクル安定性(すなわち、単位サイクル当たりの最小容量フェード)が得られる。
【0011】
本発明による特に好ましいナトリウムイオン二次電池において、負極活物質の層の質量に対する正極活物質の質量の比(すなわち、C/A質量バランス)は、0.5~10、好ましくは1.0~10、さらに好ましくは1~5、理想的には2.0~3.5、特に好ましくは2.0~2.75である。これらの好ましい範囲内のC/A質量バランスを有するナトリウムイオン電池は、極めて高いアノード第一脱ナトリウム化容量を示すとともに、優れたサイクル安定性の予期せぬ利点をもたらす。最も好ましいナトリウムイオン電池は、C/A比が2.05~2.90の範囲であって、記載された好ましい範囲内のアノード電極活物質質量を有するものである。
【0012】
二次電池セルの製造の間、アノードまたはカソードの電極活物質の層を、基板、例えば集電体箔上に形成し、次に、コーティング基板を一連のローラに通すことにより、被覆基板を「カレンダー」処理し、基板上に電極材料の均一な厚さを得ることが一般的である。典型的なナトリウムイオン電池では、アノード電極活物質のカレンダー後の厚さは、100μm~140μmの範囲であり、カソード電極活物資の厚さは、80~110μmである。驚くべきことに、本出願人によれば、同様の密度のアノード電極活物質の層に関し、インターカレーションおよび脱インターカレーションの間、アノード電極活物質内に輸送されるナトリウムイオンの能力と、アノード電極活物質の厚さとの間には、明確な関係があることが見出されている。特に、本出願人によれば、アノード電極活物質の層が薄い場合、同等の密度を有するアノード電極材料のより厚い層に比べて、不相応で予想外に高いアノード第一脱ナトリウム化容量が生じることが観測されている。本発明のナトリウムイオン二次電池に使用されるアノード基板上の負極活物質の層の厚さは、前述の値、すなわち≦100μmであり、好ましくは≦80μmである。
【0013】
本発明によるナトリウムイオン二次電池は、ナトリウムイオンの挿入および脱着が可能な、任意の既知の正極活物質を有してもよい。好適な例には、TiS2のような金属硫化物化合物、金属酸化物化合物、リン酸塩含有化合物、ポリアニオン含有化合物、プルシアンブルー類似体、および以下の一般式のニッケル酸塩または非ニッケル酸塩化合物が含まれる:

A1±δM1 VM2 WM3 XM4 YM5 ZO2-c

ここで、
Aは、ナトリウム、カリウムおよびリチウムから選択される1または2以上のアルカリ金属であり、
M1は、酸化状態が+2の1または2以上の酸化還元活性金属、好ましくは、ニッケル、銅、コバルト、およびマンガンから選択された、酸化状態が+2の1または2以上の酸化還元活性金属を有し、
M2は、酸化状態が0よりも大きく、+4以上の酸化状態の金属を有し、
M3は、酸化状態が+2の金属を有し、
M4は、酸化状態が0よりも大きく、+4以下の酸化状態の金属を有し、
M5は、酸化状態が+3の金属を有し、
ここで、
0≦δ≦1;
V>0;
W≧0;
X≧0;
Y≧0;
WとYの少なくとも1つは、0よりも大きく、
Z≧0;
Cは、0≦c<2の範囲であり、
ここで、V、W、X、Y、ZおよびCは、電気化学的中性を維持するように選択される。
【0014】
理想的には、金属M2は、1または2以上の遷移金属を有し、好ましくは、マンガン、チタンおよびジルコニウムから選択され;M3は、好ましくは、マグネシウム、カルシウム、銅、スズ、亜鉛およびコバルトから選択された1または2以上の遷移金属を有し;M4は、1または2以上の遷移金属を有し、好ましくは、マンガン、チタンおよびジルコニウムから選択され;M5は、好ましくは、アルミニウム、鉄、コバルト、スズ、モリブデン、クロム、バナジウム、スカンジウムおよびイットリウムから選択された、1または2以上を有する。任意の結晶構造を有するカソード活物質を使用してもよく、好ましくは、構造は、O3またはP2、またはその誘導体である。具体的には、カソード材料は、相の混合物を有し、すなわち、幾つかの異なる結晶形態を含む不均一構造を有してもよい。
【0015】
前述のように、負極活物質アノードは、不規則構造を有する炭素系材料であり、有利には、そのような材料は、それ自体が充電/放電プロセス中のナトリウムイオンの挿入および抽出に役立つ。好ましい炭素材料の正確な構造は、未だ解明されていないが、一般的には、非黒鉛化性、非結晶性、アモルファス炭素構造を有する場合に理想的である。硬質カーボンまたは軟質カーボンを使用してもよいが、1または2以上の「硬質カーボン」材料を含むアノードが特に好ましい。「硬質カーボン」は層を有するが、これらの層は、整然と積層されておらず、無秩序に積層された炭素層の間に形成された、マイクロポア/ナノポア(ミクロンサイズまたはナノサイズのポア)を有する。巨視的レベルでは、硬質カーボンは等方性である。典型的には、アノードの使用に適した硬質カーボンは、炭素含有出発材料(例えば、ショ糖、バイオマス、コーンスターチ、グルコース、有機ポリマー(例えば、ポリアクリロニトリルまたはレゾルシノール-ホルムアルデヒドゲル)、セルロース、石油コークス、コールタール、またはピッチコークス)から製造されてもよい。まず、合成樹脂のような熱可塑性バインダと混合され、次に約1200℃に加熱される。市販の硬質カーボンには、クレハ社、クラレケミカル社、およびクレハ社により販売されているものが含まれる。
【0016】
本発明によるナトリウムイオンセルでは、無秩序な炭素ベースのアノード材料は、単独で使用されても、またはナトリウムイオンを貯蔵可能な、任意の他の好適な負極(アノード)活物質(さらなる材料と称される)と組み合わせて使用されてもよい。そのようなさらなる材料には、金属、金属含有化合物、金属合金、非金属、および非金属含有化合物が含まれてもよい。これらは、Na15Sn4、Na3Sb、Na3Ge、およびNa15Pb4を含む高容量アノードとして、あるいは、前述のようなナトリウムイオンを貯蔵できる、非金属、金属、または金属合金のような、1または2以上の他の材料との複合材として、定められる。金属または非金属は、元素または化合物の形態であってもよい。特に好ましいアノード活物質は、硬質カーボン/X複合材料を含み、ここでXは、リン、硫黄、インジウム、アンチモン、スズ、鉛、鉄、マンガン、チタン、モリブデンおよびゲルマニウムから選択された、1または2以上である。これは、元素形態または化合物の形態であり、酸素、炭素、窒素、リン、硫黄、ケイ素、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素から選択された、1または2以上を有することが好ましい。好ましくは、Xは、P、S、Sn、SnO、SnO2、SnF2、Fe2O3、Fe3O4、MoO3、TiO2、Sb、Sb2O3、SnSbおよびSbOから選択された、1または2以上である。
【0017】
また、アノードの導電性を改善するため、二次炭素含有材料が、前述のアノード活物質と組み合わせて使用されてもよい。特に、例えば、活性炭素材料、粒子状カーボンブラック材料、グラフェン、カーボンナノチューブおよびグラファイトが挙げられる。粒子状カーボンブラック材料の例には、BET窒素表面積が約62m2/gであるTimcal社から市販されているもの、またはBET窒素表面積が約<900m2/gであり、好ましくはBET窒素表面積が約770 m2/gであるカーボンブラック材料が含まれる。これらは、ゴム組成物の特殊な炭素として、Imerys GraphiteおよびCarbon社から市販されている。100~1000m2/gのBET窒素表面積を有するカーボンナノチューブ、通常約2630m2/gの表面積を有するグラフェン、および>3000m2/gのBET窒素表面積を有する活性炭素材料も使用し得る。
【0018】
驚くべきことに、アノード基板の単位平方メートル当たり≦80gm-2の負極活物質の質量、0.1~10の範囲のC/A質量バランス、およびアノード基板上の≦100μmの負極活物質の厚さを使用した結果としての、アノードの第一脱着容量に対する正の効果は、セルに使用される電解質の組成にかかわらず、およびアノード電極を製造する際に使用されるバインダの種類にかかわらず、維持されることが認められる。これらの観測結果は、以下に示す特定の例で検証されている。
【0019】
また本出願人によれば、本発明のナトリウムイオン二次電池が充電され、アノードがナトリウム化されると、y-軸に対する電位(V)対Na/Naに対するx軸のアノード活物質容量(mAh/g)のグラフは、負の急峻な勾配「勾配」領域を示し(0mAh/gでの約1.20~1.30Vで始まり、0.10V対Na/Na超まで低下する)、次に、これは、平坦となり(典型的には、約0超~0.10V対Na/Na)、X軸と実質的に平行である「プラトー」領域が得られることが留意されている。重要なことは、アノード上の活物質の質量および厚さが減少するとともに、「プラトー」領域に由来する容量は、「スロープ」領域に由来する容量と比較して、大きく増加することである。さらに、本出願人によれば、減少するアノード活物質の質量と、増加するアノード比容量との間の関係は、直線的であることが見出されている。アノード上の活物質の厚さがナトリウムイオン電池の可逆容量に直接影響を及ぼすことは、注目に値し、そのような現象が認識されたのは、初めてであると考えられる。
【0020】
本願において、「プラトー容量」は、硬質カーボンアノードの脱ナトリウム化曲線における、~0.15V(対Na/Na)下における、3EセルにおいてC/10の定電流サイクル速度でサイクルした際の容量寄与として定義される。一方、「傾斜容量」では、C/10の速度で、3Eセルにおける~0.15から2V対Na/Naの間の脱ナトリウム化硬質カーボンアノード活性容量が参照される。
【0021】
特に、本発明のナトリウムイオン二次電池は、好ましくは、0乃至6:1のプラトー:傾斜容量比の特定の範囲を有し、より好ましくは0.5乃至5:1、有利には1乃至5:1の範囲を有する。最も好ましいプラトー:傾斜容量比は、1.2乃至5.0:1であり、理想的には1.4乃至4.75:1である。
【0022】
従って、本発明のナトリウムイオン二次電池は、アノード電極活物質のプラトー:傾斜可逆容量比により特徴付けられる。これは、3または4以上の電極フルセル構成で測定された、0乃至6:1、好ましくは0.5乃至5:1、さらに好ましくは1乃至5:1、特に好ましくは1.2乃至5.0:1、および理想的には1.4乃至4.75:1の、アノード活物質容量(mAh/g)(x-軸)とセル電位(V)対Na/Na+(y-軸)の間のプロットから導出される。0mAh/gのプラトー可逆容量は、セルがプラトー領域に到達しないように、例えば、軽量のC/A質量バランスを選択し、および/またはセルを例えば3.7~1.Vに脱定格化するように、セルをサイクルすることにより得ることができる。P:S比0は、容量寄与の全てが傾斜領域の結果であることを意味する。
【0023】
別の態様では、本発明により、前述の少なくとも2つのナトリウムイオン二次セル、好ましくは少なくとも3つのナトリウムイオンセルを有する電池が提供される。
【0024】
さらに別の実施形態では、本発明により、
前述のいずれか1項に記載のナトリウムイオン二次電池の製造方法であって、
a.1または2以上の正極活物質を有するカソードを、負極活物質の層で被覆されたアノード基板を有するアノード、および電解質とともに組み立て、ナトリウムイオン電池を形成するステップと、
b.前記ナトリウムイオン電池を第1の電圧までサイクル処理するステップと、
を有し、
i)前記アノード活物質の層の質量は、前記アノード基板の単位平方メートル当たり80gm-2以下であり、
ii)前記負極活物質の層の質量に対する前記正極活物質の質量の比は、0.1~10であり、
iii)前記アノード基板上の前記負極活物質の層の厚さは、100μm以下である、製造方法が提供される。
【0025】
本出願人は、別の興味深く有用な現象を見出した。これは、ナトリウムイオン二次電池の特性のさらなる改善に使用され得る。ナトリウムイオン二次電池が最初の充/放電サイクルを受けると、硬質カーボンアノードの容量に、約20%の不可逆的ロスが観測される。層状酸化物活性カソード材料にも、同様の不可逆的容量が観測される。これは、セルの「第1サイクルロス」として知られている。従来のセルの調製手順は、最初の4セル形成サイクル中に、電圧(典型的には4.20~1.00VでのC/10)を印加し、次に、後続の(「ポスト」または「動作」)セルサイクル(例えば、4.00~1.00V、4.10~1.00V、または4.20~1.00VでのC/5)において、低電圧または同じ電圧を使用する、形成サイクルを採用することにより、「第1サイクルロス」の影響を排除する(市販のセルに現れないようにする)。第1サイクルロスの処置と同様、この手順は、セルの寿命を延ばすことが知られている。驚くべきことに、出願人によれば、ポスト形成サイクルの安定性に、さらなる正の効果が観測されることが見出されている。これは、「ポスト」形成サイクル(すなわち、セルが作動中の際)が「脱定格」であり、すなわち、「ポスト」形成サイクルが4.20~1.00VでのC/5での代わりに、4.00~1.00V、または4.10~1.00VでのC/5で実施される場合に、観測される。また、本出願人によれば、4.20~1.00VでのC/10の代わりに、4.00~1.00VでのC/10(または4.10~1.00VでのC/10)で形成サイクルを実施することにより、「ポスト形成」(動作)サイクルにおけるカソードおよびアノードの容量に大きな改善が得られることが観測されている。これらの観察の詳細は、以下の具体的な例に示されている。
【0026】
前述のように、また以下の特定の実施例で実証されているように、本出願人によれば、硬質カーボンの低GSM効果は、活性材料(硬質カーボンの種類)、バインダまたは電解質の変更の結果として、もたらされるのではなく、アノード電極に使用される硬質カーボンのGSM、C/A質量バランス、およびアノード材料の厚さの結果としてのみ、生じることが見出されている。
【0027】
本発明の別の実施形態では、カソードおよびアノードを有するナトリウムイオン二次電池であって、
前記カソードは、1または2以上の正極活物質を有し、前記アノードは、アノード基板上に配置された負極活物質の層、好ましくは均一な層を有し、
前記負極活物質の層は、1または2以上の無秩序炭素含有材料を有し、
(i)前記負極活物質の層の質量は、前記アノード基板の単位m当たり、≦80gであり、
(ii)前記負極活物質の層の質量に対する前記正極活物質の質量の比は、0.1から10であり、
(iii)前記アノード基板上の前記負極活物質の層の厚さは、≦100μm、好ましくは≦80μmであり、
(iv)前記負極活物質の層は、約0.8超の容積比表面積(VSSA)を有し、好ましくは0.8超~500、特に好ましくは0.8~400、理想的には0.8~300、特に0.8~200の容積比表面積(VSSA)を有する、ナトリウムイオン二次電池が提供される。
【0028】
別の態様では、本発明により、カソードおよびアノードを有するナトリウムイオン二次電池であって、
前記カソードは、1または2以上の正極活物質を有し、前記アノードは、アノード基板上に配置された負極活物質の層、好ましくは均一な層を有し、
前記負極活物質の層は、1または2以上の無秩序炭素含有材料を有し、
前記負極活物質の層は、0.8超の容積比表面積(VSSA)を有し、好ましくは0.8超~500、特に好ましくは0.8~400、理想的には0.8~300、特に0.8~200の容積比表面積(VSSA)を有する、ナトリウムイオン二次電池が提供される。
【0029】
以下、図面を参照して本発明について説明する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】ニッケル酸塩系のNa0.833Ni0.317Mn0.467Mg0.1Ti0.117O2カソード、および市販の硬質カーボンアノード(クラレ社から入手可能)を用いた、アノードの活性比容量(mAh/g)に対する電位(V対Na/Na)における、3Eフルセルにおけるサイクル1のアノードプロフィールを示した図である。表1に記載のいくつかの異なる質量のアノード活物質を用いた。
図2】ニッケル酸塩系のNa0.833Ni0.317Mn0.467Mg0.1Ti0.117O2カソード、および市販の硬質カーボンアノード(クラレ社から入手可能)を用いた、同様の活性GSM値を有するアノードのアノードの活性比容量(mAh/g)に対する電位(V対Na/Na)における、3Eフルセルにおけるサイクル1のアノードプロフィール対する、異なる電解質の使用の影響を示した図である。
図3】ニッケル酸塩系のNa0.833Ni0.317Mn0.467Mg0.1Ti0.117O2カソードを用いた、アノード活性GSMの範囲にわたる、アノードの活性比容量(mAh/g)に対する電位(V対Na/Na)における、3Eフルセルにおけるサイクル1のアノードプロフィールに対する、無煙炭から誘導された市販の硬質カーボンの使用の影響を示した図である。
図4】ニッケル酸塩系のNa0.833Ni0.317Mn0.467Mg0.1Ti0.117O2カソードを用いた、2つの異なるアノード活性GSMにわたる、アノードの活性比容量(mAh/g)に対する電位(V対Na/Na)における、3Eフルセルにおけるサイクル1のアノードプロフィールに対する市販のバイオマス由来の硬質カーボンの影響を示した図である。
図5】ニッケル酸塩系のNa0.833Ni0.317Mn0.467Mg0.1Ti0.117O2カソード、および市販の硬質カーボンアノード(クラレ社から入手可能)を用いた、2つの異なるアノード活性GSMにわたる、アノードの活性比容量(mAh/g)に対する電位(V対Na/Na)における、3Eフルセルにおけるサイクル1のアノードプロフィールに対する硬質カーボンアノード中の水性バインダの使用の影響を示した図である。
図6】ニッケル酸塩系のNa0.833Ni0.317Mn0.467Mg0.1Ti0.117O2カソード、および市販の硬質カーボンアノード(クラレ社から入手可能)を用い、異なるアノード活性GSMおよびC/A質量バランスを用いた、3Eフルセルにおける長期サイクル特性を示すための、サイクル数に対するアノード活性比容量(mAh/g)のプロットを示した図である。
図7】ニッケル酸塩系のNa0.833Ni0.317Mn0.467Mg0.1Ti0.117O2カソード、および市販の硬質カーボンアノード(クラレ社から入手可能)を用い、異なるアノード活性GSMおよびC/A質量バランスを用いた、3Eフルセルにおける長期サイクル特性を示すための、サイクル数に対するカソード活性比容量(mAh/g)のプロットを示した図である。
図8】市販の硬質カーボンアノード(クラレ社から入手可能)を用いた、カソード(ニッケル酸塩系のNa0.833Ni0.317Mn0.467Mg0.1Ti0.117O2)、およびアノード活性比容量、およびサイクル安定性に対する、定格低下および電圧窓形成の効果を示すための、サイクル数に対するアノード活性比容量(mAh/g)のグラフを示した図である。
図9】ニッケル酸塩系のNa0.833Ni0.317Mn0.467Mg0.1Ti0.117O2カソード、および市販の硬質カーボンアノード(クラレ社から入手可能)を用いた3Eフルセルを用いた際の、一定のアノード活性GSMおよびほぼ一定のC/A質量バランス値で、サイクル1およびサイクル4においてアノードプロファイルに生じたことを示すための、アノードの活性比容量(mAh/g)に対する電位(V対Na/Na)のグラフを示した図である。
図10】54.20GSMのアノード電極活物質および2.71のC/A質量バランスを有するアノードを用いた、1AhフルセルFPC180905の長期サイクルを示した図である。カソードは、ニッケル酸塩系のNa0.833Ni0.317Mn0.467Mg0.1Ti0.117O2材料であり、アノードは、市販の硬質カーボン(クラレ社から入手可能)である。
図11】ニッケル酸塩系のNa0.833Ni0.317Mn0.467Mg0.1Ti0.117O2カソード、および市販の硬質カーボンアノード(クラレ社から入手可能)を有する3Eフルセルを用いた、アノード活性比容量(mAh/g)対アノード活性GSMのグラフを示すとともに、初期サイクル安定性に対するアノード活性GSMの影響を示した図である。
図12】ニッケル酸塩系のNa0.833Ni0.317Mn0.467Mg0.1Ti0.117O2カソード、および市販の硬質カーボンアノード(クラレ社から入手可能)を有する3Eフルセルを用いた、アノード活性比容量(mAh/g)対C/A質量バランスのグラフを示すとともに、初期サイクル安定性に対するC/A質量バランスの影響を示した図である。
図13】Na0.833Fe0.200Mn0.483Mg0.0417Cu0.225O2カソード材料、および市販の硬質カーボン(クラレ社から入手可能)40.25GSM活性アノードを有するナトリウムイオン電池のカソード活性比容量(mAh/g)とサイクル数の間のグラフを示した図である。
図14】HC/Fe2Pアノード活物質およびニッケル酸塩系のNa0.833Ni0.317Mn0.467Mg0.1Ti0.117O2カソードを用いた、2つのセルの特性のアノードの活性比容量(mAh/g)に対する電位(V対Na/Na)のプロットを示した図である。活性アノード材料が、あるセル(PCFA614)では74.27gm-2の質量で使用され、他方のセル(711042)では55.25gm-2の質量で使用された際の、これらのセルのアノード活性比容量が比較される。
図15】HCアノード活物質およびニッケル酸塩系のNa0.833Ni0.317Mn0.467Mg0.1Ti0.117O2カソードを使用した3Eフルセルの特性のアノード活性比容量(mAh/g)に対する電位(V対Na/Na)のプロットを示した図である。アノード活物質は、52.2gm-2の質量で使用され、セルには、1.596の質量バランスが使用される。
図16】HCアノード活物質および予備ナトリウム化されたTiS2カソードを用いた3Eフルセルの特性のアノード活性比容量(mAh/g)に対する電位(V対Na/Na)のプロットを示した図である。アノード活物質は、62.9gm-2の質量で使用され、セルには、0.918の質量バランスが使用される。
図17】HCアノード活物質および酸素欠損ニッケル酸塩系のNa0.833Ni0.317Mn0.467Mg0.1Ti0.117O2-δカソードを用いた電池の性能のアノード活性比容量(mAh/g)に対する電位(V対Na/Na)のプロットを示した図である。アノード活物質は、52.9 gm-2の質量で使用され、セルには、2.86の質量バランスが使用される。
図18】本発明による2つの3Eフルセル(A3PC268およびAC3PC238)と、2つの比較3Eフルセル(A3PC231およびA3PC225)の第1充電のサイクル数に対する容量保持率(%)のプロットを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
(本発明によるナトリウムイオン電池の製造方法)
本発明によるナトリウムイオン電池は、以下の例示的な方法を用いて作製した。
【0032】
正極は、活性材料、導電性カーボン、バインダおよび溶媒のスラリーを基板上に溶媒キャスティングすることにより調製される。使用される導電性カーボンは、Timcal社から市販されている。バインダとして、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)を用い、溶媒としてN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を用いた。スラリーをアルミニウム箔上にキャストし、溶媒の大部分が蒸発するまで加熱し、電極膜が形成される。次に、電極を約120℃で動的真空下で乾燥させる。電極膜は、重量パーセント表記で、以下の成分を有する:89%の活性材料(ドープされたニッケル酸塩含有組成物)、5%の導電性カーボン、および6%のPVdF結合剤。
【0033】
負極は、硬質カーボン活性材(例えば、クラレ社から市販されている)、導電性カーボン、バインダおよび溶媒のスラリーを基板上に溶媒キャスティングすることにより調製される。使用される導電性カーボンは、例えば、Timcal社から市販されている。バインダとして、PVdFを用い(特定の実施例に別段の記載がない限り)、溶媒としてN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を用いた。スラリーをアルミニウム箔上にキャストし、溶媒の大部分が蒸発するまで加熱し、電極膜が形成される。次に、電極を約120℃の動的真空下でさらに乾燥させる。本研究で評価した電池の全てにおいて、負極膜は、重量パーセント表記で、以下の成分を有する:88%の活性材料、3%の導電性カーボン、および9%のPVdFバインダ、または92%の活性材料、2%の導電性カーボン、および6%のPVdFバインダ。これらの電極配合物の間で、実用上、電気化学的な差異は観察されなかった。
【0034】
セルの製造前に、カソード電極およびアノード電極の両方をカレンダーし、動的真空下で再び一晩乾燥させる。次に、両電極をアルゴン充填グローブボックス(存在するO2およびH2Oの量は5ppm未満)のポーチ内に配置する。3電極(3E)セルでは、2つのセパレータ層を使用し、2電極(2E)セルでは、1つのセパレータ層のみを使用する。以下の表1に示したものを除き、全てのセルでは、例えば旭化成社から入手可能な一般的なポリエチレンセパレータが使用される。3Eセルでは、Na金属片は、2つのセパレータ層の間、およびカソードとアノードの間に配置され、Na片がアノードおよび/またはカソードのフットプリント内に入らないようにされる。次に、セルアセンブリに電解質が充填される。電解質は、以下の表1に示されている場合を除き、EC:DEC:PC=1:2:1重量比における0.5mのNaPF6であり、以下の表1に示されている場合を除き、全てのセルには、ニッケル酸塩系のカソード活物質Na0.833Ni0.317Mn0.467Mg0.1Ti0.117O2が使用され、アノードには、市販の硬質カーボン(例えば、クラレ社から入手可能)が使用される。最後に、真空シーラーを用いて、ポーチがグローブボックス内に密封される。以降、セルは、電気化学的評価に供される。
【0035】
(セル評価)
以下のように、定電流サイクル法を用いてセルを評価する。
【0036】
セルは、予め設定された電圧限界の間の所与の電流密度で、定電流下でサイクルされる。MTI社(米国カリフォルニア州リッチモンド)またはMaccor社(米国オーケー州タルサ)の市販の電池サイクラーが使用される。充電の際に、アルカリイオンは、カソードから抽出され、X/硬質カーボンアノード材料に挿入される。放電の際に、アルカリイオンは、アノードから抽出され、カソード活物質に再挿入される。
【0037】
上記の方法を用いて、多数のナトリウムイオン電池を準備した。下記の表1には、活性アノードGSM、厚さおよびC/A質量バランスの異なる範囲を用いた、3Eサイクル結果を示す。プラトー容量:斜面容量比(P:S比)も示されている。また、2電極(2E)セルデータも示されている。
【0038】
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
*印の付いた例は、比較例であり、すなわち評価した組成物は、本発明によるものではない。
【0039】
(アノード活物質の質量がアノード活物質の容量に及ぼす影響)
前述の表1に示された結果により示されるように、3Eフルセルを含むナトリウムイオン電池におけるアノード活性第一脱ナトリウム比容量(mAh/g)は、約85gm-2から約20gm-2の範囲にわたってアノード電極活物質の質量が減少するとともに増加することが認められる。さらに、特に高いアノード活性第一脱ナトリウム比容量(500mAh/g以上)は、低いアノード活物質質量(低GSM)が高いC/A質量バランス比(例えば、7を超えるC/A比)と結びついた際に得られる。驚くべきことに、アノード活物質の質量を約52g-2に維持すると(例えば、サンプルA3PC118、A3PC117、A3PC129、A3PC119、A3PC140、A3PC133およびA3PC103)、アノード第一脱ナトリウム容量は、約272mAh/gから379mAh/gに増加する。これはC/A質量比を2.31から3.41に増加させた結果として理解される。
【0040】
図1には、硬質カーボン材料(例えば、クラレ社から市販されている)の異なる質量(GSM)を用いた3Eフルセルのアノードプロファイルを示す。図には、各セルのC/A質量バランスが示されている。全てのセルでは、電解質として、重量比EC:DEC:PC=1:2:1における0.5mのNaPF6が使用される。結果から、軽量のGSMアノードでは、より重いGSMアノードよりも有意に高い容量が得られること、および対応する充電された条件下において、より軽量のGSMアノードのアノード電位は、それらが完全に充電された状態では、より重いGSMアノード電位よりも有意に高いことが確認される。この点は、性能の観点からだけではなく、安全性の観点からも非常に重要である。すなわち、完全に充電された状態での高いアノードの絶対電位は、それが「ナトリウム電析電位」(対Na/Naで0V未満)からさらに離れていることを意味し、従って、電池の安全性が高められる。これらの事実は、軽いGSMアノードは、商業的な観点から、重いGSMアノードよりも有意な利点を提供することを示す。
【0041】
また、図1には、重いGSMアノードおよび高いC/A質量バランスを用いたフルセルは、Na電析につながる欠点があることを示しており、これは、特に低容量値ではそうである。具体的には、図1には、83.27gm-2の活性アノード材料を使用するフルセルでは、フルセルの最初の充電サイクルにおいて、約335mAh/gのナトリウム化容量でNa電析が開始されることを示す。Na電析能は、第1回目のナトリウム化プロセスでは、約68 mAh/gと推定される(この値は、Na/Naに対して0V未満であったアノードサイクル曲線の部分に対応する)。これは、図1の矢印で示されている特徴的なオーバー電位スパイクから明らかである。この電池で観察された最初の脱ナトリウム化能力は、335mAh/gであるが、Na電析能を考慮すると、硬質カーボン活性材料へのナトリウム貯蔵による最初の有効な脱ナトリウム化能は、267~300mAh/gに低下する。
【0042】
これに対して、前述のように、図1には、より軽いGSMアノードフルセルでは、有意に高い完全充電アノード電位(約80~83mV)において、より高い脱ナトリウム化容量(それぞれ、53.09または36.88GSMアノードに対して364または450mAh/g)が得られることが確認される
従って、高GSM硬質カーボンアノードは、ナトリウムイオンフルセルにおいてNa電析を誘導する傾向があり、これは、より低質量のアノード活物質を用いたナトリウムイオンセルよりも十分に低い容量値で生じると結論される。
【0043】
(アノード活物質の容量に及ぼす異なる電解質の影響)
より低質量のアノード活物質を用いた電池のアノード容量の増大が、使用されるナトリウムイオン電解質の組成により影響されるかどうかを評価するため、実験を行った。2つのセル(A3PC47とA3PC80)を準備した。前者では、重量比で1:2:1のEC:DEC:PC中に、0.5mのNaPF6を含む電解質を用い、後者では、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(テトラグリム)中に1mのNaBF4を含むエーテル系電解質を用いた。
【0044】
図2に示されているように、2つの3EフルセルA3PC47およびA3PC80のアノードプロフィールは無視できる差であった。前者のセルは、29.27GSM活性材料硬質カーボン電極に対して、518mAh/gの第一脱ナトリウム化アノード容量を示し、後者のセルは、24.90 GSM活性硬質カーボン電極に対して、520mAh/gの第一脱ナトリウム化アノード容量を示す。
【0045】
従って、より低質量のアノード電極活性材料を含むセルにより示される好ましいアノード容量は、使用されるナトリウムイオン電解質とは無関係であることがわかった。
【0046】
(アノード活物質容量に対する異なる硬質カーボン材料の使用の影響)
アノードの最初の脱ナトリウム化容量が、アノード電極活物質の性質(組成および/またはソース)に影響されるかどうかを評価するため、さらに2つの実験を行った。
【0047】
これらの実験の最初に、「Welsh Anthracite」の商標名で販売され、Supaheat Fullから入手可能な、無煙炭(石炭の一種)由来の市販の硬質カーボンアノード材料を用いて、3つの3Eフルセルを準備した。一つのセル(A3PC64)には、103.98 gm-2のアノード電極活物質を用い、他方のセル(A3PC106)には、62.16gm-2のアノード電極活物質を用い、最後のセル(A3PC107)には、51.51gm-2のアノード電極活物質を使用した。
【0048】
図3に示すように、前述の結果と一致するように、アノード材料のより低質量(それぞれ、51.51gm-2および62.16gm-2)を含む2つの3Eフルセルの場合、第1サイクルのアノード容量プロファイル(300mAh/gおよび240mAh/g)、およびC/A質量バランス値(それぞれ、3.38および2.69)は、アノード活物質が高質量(103.98gm-2)のセルのアノード容量(196mAh/g)およびC/A質量バランス値(1.83)と比較して、いずれも高くなった。
【0049】
2番目の実験では、バイオマス由来の市販の硬質カーボンアノード材料を用いて、2つの3Eフルセルを準備した。この材料は、中国のBTR社により商品名「BHC-240」の名称で販売されている。一つのセル(A3PC143)では81.36gm-2のアノード電極活物質が使用され、他方のセル(A3PC136)では、42.58gm-2のアノード電極活物質が使用される。
【0050】
図4では、低質量のアノード材料(42.58gm-2)および高C/A質量バランス値(3.63)を含む3Eフルセルの場合、第1サイクルのアノード容量プロファイル(410mAh/g)は、高質量のアノード材料(81.36gm-2)および低C/A質量バランス値(1.87)を有するセルのアノード容量(242mAh/g)に比べて、より高いことが再度、確認されている。
【0051】
これらの結果は、アノード活物質として使用される硬質カーボンの性質は、アノード容量特性に関係しないことを示すものと考えられる。
【0052】
(アノード活物質容量に対するアノード内の異なるバインダの使用の影響)
本実験では、3Eフルセルにおいて、非水系のPVdFバインダの代わりに、水溶液系カルボキシメチルセルロース(CMC):スチレンブタジエンゴム(SBR)バインダを使用することにより、アノード容量が影響を受けるかどうかを調査した。2つのセルを準備した。一つ(A3PC120)は、活性アノード材料が59.04gm-2で、C/A質量バランスが2.62の硬質カーボンアノードを用い、他方(A3PC141)では、活性アノード材料が80.85gm-2で、質量バランスが1.92の硬質カーボンアノードを用いた。他の全ての態様、すなわちCMCおよびSBRに基づく水性バインダの使用、カソードの選択、および市販の硬質カーボンアノード(例えば、クラレ社から入手可能)の選択に関しては、2つのセルは同一であった。図5に示すように、80.85gm-2のアノード活物質を有するより重いセルでは、フルセルの最初の放電サイクルにおいて234mAh/gを達成できた。一方で、アノード活物質のより軽い質量(59.04gm-2)を有するセルでは、320mAh/gであった。従って、より低質量のアノード活物質を使用するセルでの硬質カーボンの増大した容量は、使用されるバインダのタイプに影響されず、任意のバインダ種において、この傾向が示されると予想される。
【0053】
(本発明の3E完全セルの長期サイクル結果)
図6および図7には、表1に示された異なる質量のアノード活物質を有する、いくつかの3Eフルセルの長期サイクル特性を示す。具体的には、図6には、活性アノードの比容量に基づく容量対サイクル寿命を示し、図7には、活性カソード比容量の対応するグラフを示す。全てのセルにおいて、C/5(「ポスト形成」サイクル)でのサイクルの前に、C/10(「形成」サイクル)で、最初の4サイクルが実施された。図6および図7には、選定されたセルの最後のサイクルの容量保持率(第5サイクル容量、または第1「ポスト」サイクル容量に対する)が記載されていることに留意する必要がある。
【0054】
図6図7、および表1に示した結果から、いくつかの傾向を特定することができる:
・低いC/A質量バランス(すなわち、1.9~2.56のC/A質量バランス)を有する軽いGSMアノード(例えば、約52または62のGSM値)では、高いC/A質量バランス(すなわち、3.0より大きいC/A質量バランス)とは反対に、サイクル安定性が大きく促進される。52のGSMアノードの場合、A3PC118のサイクル安定性がA3PC119のサイクル安定性と比較され、一方、62のGSMアノードの場合、A3PC110およびA3PC91のサイクル安定性がA3PC93のサイクル安定性と比較される。
・任意の軽いGSMアノード(例えば、約52または62のGSM値)の場合、C/A質量バランスが低下すると、カソード比容量が増加する(A3PC118がA3PC119と比較され、A3PC110またはA3PC91がA3PC93と比較される)。
・上記の観察結果は、より重いC/A質量バランスが使用された際の、硬質カーボンのより深いナトリウム化の結果として、軽いGSMアノードで観察された低いクーロン効率に基づく。この理由のため、高いC/A質量バランス(約5より大きい)を有し、極めて低いGSMアノード(30GSM未満)を用いた電池は、極めて低い第1サイクルクーロン効率(50~60%未満)を示す傾向があり、これが、そのようなセルが、低いカソード容量を示し、また低いサイクル安定性を示す理由である。例えば、17.11 GSMアノードおよび7.09C/A質量バランスを用いたA3PC127では、最初の放電サイクルにおいて、わずか72.8mAh/gのカソード容量が得られる。
【0055】
(形成される電圧窓の定格を変更することがサイクルの安定性およびアノード比容量に与える影響)
本実験では、サイクル安定性およびアノード比容量に対する形成電圧窓の「脱定格」の影響が調査される。
【0056】
厚さ66μmで51.64gm-2の活性アノード材料および3.27のC/A質量バランスを有するセルA3PC140を、4.20~1.00V(形成サイクル中)において、C/10で4回、サイクルし、次に4.00~1.00V(「ポスト形成サイクル」)において、C/5でサイクルした。図6および7に示すように、「ポスト」サイクルの「脱定格」後、このセルは、134の「ポスト」サイクルにわたって極めて高い安定性を示した。カソード容量保持率は94%である。
【0057】
脱定格の効果とプロトコル形成をさらに調べるため、厚さ66μmで、52.36g-2の活性アノード材料、および3.32のC/A質量バランスを有する別の同様のセルA3PC153を作製した。次に、形成過程の間、4.00~1.00Vにおいて、C/10で4回サイクルした。次に「ポスト」サイクル過程中、同じ電圧4.00~1.00Vにおいて、C/5でサイクルした。この実験の背景にある原理は、4.20~1.00Vでの4つの形成サイクルと、4.00~1.00での4つの形成サイクルの効果を調べることである。図8および図9には、サイクル数に対して得られた、それぞれのカソードおよびアノードの容量、ならびに第1および第4の形成サイクルにおけるアノードのプロファイルを示す。また、図8には、(1回目の「ポスト」サイクル容量に対する)100回目の「ポスト」サイクルの容量保持率を示す。結果から次のことがわかる:
・4.00~1.00Vで4回の形成サイクルを用い、これらのセルが、その後、「ポスト」サイクルされると、4.20~1.00Vで4回の形成サイクル(カソード:85.5対80.5mAh/g;アノード:284.1対264.8mAh/g)を用いた場合に比べて、「ポスト」サイクルでの同様のサイクル安定性(100回の「ポスト」サイクルで約93%または94.5%の保持)において、カソードおよびアノードの容量が有意に改善される。
図9のアノードプロファイルは、4.20~1.00Vでの形成が容量に及ぼす有害な影響を示している。この理由は、4.20~1.00Vにより、完全に充電された状態でのアノードのナトリウム化がより顕著となり、これが光GSMアノードのクーロン効率に悪影響を及ぼすためであると考えられる。図9に示すように、クーロン効率は、A3PC140セルのサイクル1における75.5%(4.20~1.00Vで4回の形成サイクルを受けた)から、サイクル4における96.2%まで増加する一方、セルA3PC153(4.00~1.00Vで4回の形成サイクルを受けた)は、最初のサイクルでは、わずかに高いクーロン効率(76.8%)を示すものの、第4サイクルでは99.2%という有意に改善された効率が得られる。この最後の観察は、低い4.00~1.00Vのセル形成電圧を用いた場合に、カソードからのNa損失が減少した結果であると考えられ、これにより、カソード(さらにはアノード)の最初の高い「ポスト」放電容量が観察された理由が説明される。
【0058】
上記の結果から、脱定格軽量GSMアノードは、まず4.20~1.00V(形成サイクル中)から、4.00~1.00V(「ポスト」サイクル中)、さらに形成および「ポスト」形成サイクルの両方に4.00~1.00Vを使用することにより、サイクル安定性を高めるための良好な戦略が提供されることが考えられる。4.00~1.00Vでのサイクルは、極めて安定であり、「ポスト」サイクルにおいて得られる容量は、4.00~1.00Vで形成が実施される場合、より高くなる。このような脱定格サイクルプロトコルを用いることにより、軽いGSMアノードを用いても、より重いC/A質量バランス(>3)を用いることが可能となる。
【0059】
(本発明によるセルの長期サイクル安定性)
図10は、1AhのフルセルFPC180905のサイクル数に対する比容量のグラフである。これは、54.20gm-2の活性アノード材料(例えば、クラレ社から市販されている)の質量、65μmのアノード材料の厚さ、および2.71のC/A質量バランスを有する。図10に示すように、このセルは、325.71mAh/gという高いアノード比容量を有し、その88.2%は90サイクル後に保持される。そのため、このセルは、極めて高いサイクル安定性を有する。
【0060】
(特定のエネルギーに対するC/Aアノードマスバランスの変化の影響)
以下の表は、97.23の重いGSMアノードに対して比較された、軽いGSMアノード(約50~54の活性アノードGSM)を用いて評価された、全ての1Ahセルについての各種関連法を提供する。記載のエネルギー密度は、第1回の「ポスト」サイクル(4回の形成サイクル後)のエネルギー密度である。示されているように、異なるセルは、異なる電圧窓でサイクルされている。これらの結果が示すように、軽いGSMアノードを有する本発明のセルのエネルギー密度は、重い(>80gm-2)質量のアノード活物質を含むセルよりも一貫して優れている。
【0061】
【表2】
(初期サイクル安定性に及ぼすアノード活物質の質量、およびC/Aアノード質量バランスの影響に関するさらなる研究)
上記の実験結果を考慮すると、低質量のアノードを含むセルは、高アノード容量を提供する上で非常に有利であることは明らかである。ただし、そのような電池は、形成プロセスの間、必ずしも、最良の初期サイクル安定性を提供しない。この観察結果は、図11に明確に示されている。図には、極めて低質量のアノード、特に約30gm-2未満の場合、セルは、最初の3サイクルにわたって最も低いサイクル安定性を示す一方、高質量アノードでは、かなり安定的であることを示す。さらに、図12に示すように、C/A質量バランスは、最初の3サイクルにわたる初期サイクル安定性にも影響を及ぼす。図11で評価された同じセルに関し、質量バランスが約7.5および6.0のセル(アノード質量が約30g-2未満のセル)は、最も低い初期サイクル安定性を示す一方、質量バランスが約3.5以下のセルでは、安定性が改善される。
【0062】
また、図11および図12は、高いアノード容量(好ましくは、少なくとも270mAh/g)、および優れた初期サイクル安定性を有するセルを製造するため、アノード質量およびC/A質量バランスに関する最適範囲があることを同定するために使用されてもよい。具体的には、45 gm-2~75gm-2のアノード質量、および約2.0~3.5のC/A質量バランスを有するセルが特に好ましい。
【0063】
(非ニッケル酸塩カソード活物質を有するセルの特性の検討)
前述の表1に示されているように、セル811023は、カソード活物質として、Na0.833Fe0.200Mn0.483Mg0.0417Cu0.225O2と、質量40.25gm-2のタイプ1の硬質カーボンアノードと、3.13のC/A質量バランスとを有する。図13には、サイクル数に対する比容量のグラフを示すが、図から、本発明によるセル内で使用された場合の非ニッケル酸カソード活物質は、336.45mAh/gの第一脱ナトリウム化容量を極めて良好に達成し、20サイクル後にこの97.2%を保持することが示されている。
【0064】
この結果から、アノードGSMの減少に伴うアノード比容量の増加の好ましい効果は、使用するカソードのタイプとは無関係であることが説明される。
【0065】
(アノード特性に及ぼす硬質カーボン/Fe2Pアノードの影響に関する検討)
硬質カーボン複合体アノード(前述の「X」と混合した硬質カーボン)が、アノードGSMの減少にともない、アノード比容量の増加傾向を示すかどうかを調査した。この例では、コーンスターチから調製された、(「ファラジオン硬質カーボン」と呼ばれる)別の種類の硬質カーボンを使用した。前述の表1には、それぞれ、それぞれ、74.27gm-2および55.25gm-2の異なる量のHC/Fe2Pアノード活物質を用いたセルPCFA614および711042の組成を示す。図14には、これらの2つのセルのサイクル104の性能のアノード比容量(mAh/g)に対する電位(V対Na/Na)のプロットを示す。この図からは、より高いアノード容量を形成する低質量のアノードに関する前述の一般的な傾向が確認されるのみならず、そのような硬質カーボン/Fe2P(HC/X)アノードにより、極めて高いサイクル安定性を有するセルが形成されることが示されている。これらの結果から、アノードGSMの減少に伴うアノード容量の増加の傾向は、異なる種類の硬質カーボン/X複合アノードによって示されていることは明らかである。
【0066】
(1.0未満のカソード/アノード質量バランス、および非ニッケル酸塩カソード材料の効果に関する検討)
図15および16に示されるように、3Eフルセルのアノードプロファイルには、硬質カーボン材料(例えば、クラレ社から市販されている)の低質量(GSM)、および低C/A質量バランス(サンプル50のC/A=1.596、およびサンプル51のC/A=0.918)が使用される。両電池において、電解質として、質量比で、EC:DEC:PC=1:2:1の0.5mのNaPF6を用いた。この結果から、そのような軽いGSMアノードでは、優れた容量が提供されるとともに、ナトリウム化金属硫化物材料(TiS2)のような、他の非ニッケル酸塩材料を活性カソード材料として使用できることが確認される。また、この例では、そのような電池に使用される場合、C/A質量バランスは、使用されるカソードおよびアノード活物質に大きく依存することが繰り返される(従って、カソードおよびアノード活物質のそれぞれの容量は、C/A質量バランスのどの範囲を使用することができるかを実際に決定する)。
【0067】
(酸素欠損型ニッケル酸塩カトード材料を用いる効果に関する検討)
図17には、酸素欠損ニッケル酸塩カソード材料を用いたセルのアノード比容量(mAh/g)に対する電位(V対Na/Na)のプロットを示す。本発明による他のセルでは、アノードGSMは、≦80/m2(すなわち、52.9)であり、C/A比は、0.1~10の範囲(すなわち、2.86)であり、観察されるように、酸素欠損ニッケル酸塩カソード材料を有するセルは、完全に酸素化されたニッケル酸塩カソード材料を使用したセルと同様の方法で機能する。
【0068】
(低GSMアノード系セルの充電許容能を示すための検討)
図17には、図に示すように、各種速度で充電し、一定のC/5速度で放電した際の、3Eフルセルの容量保持率とサイクル数の関係を示す。これらのセルでは、低GSM(試料54および56)、またはクラレ社から市販されている硬質カーボンもしくはBTRから市販されている硬質カーボン(グレードBHC-240)のいずれかの比較GSMアノード(試料53および55)が使用される。2つの硬質カーボン含有セルを比較すると、本発明による低GSMアノードセル(A3PC268)は、2Cのような高速充電速度において、比較GSMセル(A3PC231)よりも良好な容量保持率を示すことが観察される。この傾向は、BTRから入手可能な硬質カーボン材料においても認められる。さらに、本発明による低GSMセル(A3PC238)は、2Cのような速い速度で充電された場合、対応する比較GSMアノードセル(A3PC225)よりも、より安定な方法でサイクルすることができる。
【0069】
この例では、低GSMアノードについての別の驚くべき、重要で商業的に関連する結果が明らかであり、すなわち、本発明のセルでは、80を超えるアノード材料のGSMを有する比較セルに比べて、より迅速に充電できることは明らかである。
【0070】
(アノード材料の重量(GSM)と、I)アノード材料のポロシティ、およびII)アノード材料の容積比表面積との関係に関する検討)
X線コンピュータ断層撮影(CT)は、非破壊的に電池電極の内部の3D画像を構築する上で有用なツールである。CTでは、そのような3Dマップ画像を構築することにより、電極レベルでの電池材料の形態の可視化および定量化が可能となる。特に、まず、電池電極に関する2つの重要な物理的パラメータを明らかにすることができる。一つは、ポロシティであり、これは、%の単位で定めることができる(電極の総体積に対する電極内の空隙体積の比として定義される)。第2は、その体積比表面積、VSSAである。これは、m2/m3の単位で決定することができる。
【0071】
上記の結果が示すように、硬質カーボンの低いGSM効果は、活性材料(硬質カーボンの種類)、バインダ、または電解質の変化の結果としてもたらされたものではなく、(アノード材料の厚さが100μm未満で、C/Aが0.1~10の範囲にある場合)、アノード電極に使用される硬質カーボンのGSMの結果のみにより、もたらされる。本出願人は、硬質カーボン電極のポロシティおよびVSSAが、そのGSMとともにどのように変化するかを調べ、以降に示すように、興味深い全く予期せぬ結果を得た。
【0072】
CT測定は、2サンプルで実施した。
【0073】
以下の表3に詳述するように、比較サンプル57として記載されたサンプルでは、99.09のGSMアノード活性、および113μmのコーティング厚さが使用される。
サンプル58として記載されたサンプルは、本発明によるものであり、52.91のGSMアノード活性、および60μmのコーティング厚さを有する。
混乱を避けるため、これらの両方のサンプルについて、CT測定は、硬質カーボン電極上で実施されていることが留意される(電気化学的セル中においてではない)。
【0074】
以下の表3には、CTスキャンの結果をまとめて示す。
【0075】
【表3】
上記の結果が示すように、サンプル58は、比較サンプル57のほぼ2倍(1.92)のVSSA値を示す。この改善されたVSSA値は、本発明による全ての低GSM硬質カーボン電極で見られる、有意に高い容量の説明に役立つ。低GSMアノードの高い容量が、これらの単位体積当たりの増加した表面積に起因することは明らかである。これは、単に、より多くの硬質カーボン活性材料が、ナトリウム貯蔵のためにアクセス可能であることを意味する。換言すれば、電解質-硬質カーボン界面領域は、低GSMアノードの場合、増加し、所与の体積当たりの「より多くの」硬質カーボン活性材料に対するこのアクセスの結果、電極のより高いナトリウム貯蔵容量が得られる。
【0076】
サンプル57と58のVSSAは、かなり異なっているが、これらの2つのサンプルは、ポロシティに大きな差はないことに注意することが重要である。文献の研究では、(硬質カーボン粉末に対するBETのような技術により得られる)ポロシティの差で、異なる硬質カーボンが異なる容量(および異なるプラトー:傾き容量比)を有する理由が説明される傾向にあるため、これは、極めて予想外の結果である。しかしながら、前述のCT実験からの本出願人の結果は、重要な特徴はポロシティではなく、VSSAであり、これにより、硬質カーボン電極によって得られる容量、およびそのプラトー:傾斜容量の比が大きく定められることを示す。第1サイクル効率、電極の密度等のような、ある電気化学的特性の態様を定める上で、硬質カーボン電極のポロシティは、依然重要であることは、当業者には明らかである。しかしながら、本例に見られるように、VSSAもまた、極めて重要なパラメータであり、本願により、このことが初めて明らかにされた。
【0077】
単純な線形外挿に基づけば、80GSMのアノード活性GSM(本発明のセルで使用されるサンプルのしきい値GSM値)の場合、VSSA値は、0.993となる。ただし、このVSSA値には、ある誤差がある場合があり、これは、硬質カーボンの種類によって、僅かにまたは相応に変化する可能性があることが理解される必要がある。また、炭素添加剤およびバインダの種類によって、VSSA値が影響を受け得ることが予想される。また、そのようなVSSA値にも大きな影響が生じることが予想される。従って、本発明は、活物質層が0.80を超えるVSSA値を有する、任意の負極活物質(好ましくは無秩序炭素、およびさらに好ましくは硬質カーボン)-含有電極に関する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
【手続補正書】
【提出日】2021-06-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソードアノード、およびテトラフルオロホウ酸ナトリウム(NaBF 4 )またはヘキサフルオロリン酸ナトリウム(NaPF 6 )を含む電解質を有するナトリウムイオン二次電池であって、
前記カソードは、1または2以上の正極活性物質を有し、前記アノードは、アノード基板上に配置された負極活物質の層を有し、
前記負極活物質は、1または2以上の無秩序炭素含有材料を有し、
i)前記負極活物質の層の質量は、前記アノード基板の単位平方メートル当たり80g以下であり、
ii)前記負極活物質の層の質量に対する前記正極活物質の質量の比は、0.1から10であり、
iii)前記アノード基板上の前記負極活物質の層の厚さは、100μm以下である、ナトリウムイオン二次電池。
【請求項2】
前記アノード基板の単位平方メートル当たりの前記負極活物質の層の質量は、25gm-2超、80 gm-2未満である、請求項1に記載のナトリウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記アノード基板の単位平方メートル当たりの前記負極活物質の層の質量は、40gm-2~75gm-2である、請求項1に記載のナトリウムイオン二次電池。
【請求項4】
前記負極活物質の層の質量に対する前記正極活物質の質量の比は、0.5~10である、請求項1に記載のナトリウムイオン二次電池。
【請求項5】
前記アノード基板上の前記負極活物質の層の厚さは、80μm以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載のナトリウムイオン二次電池。
【請求項6】
前記正極活物質の1または2以上は、一般式

A1±δM1 VM2 WM3 XM4 YM5 ZO2-c

の化合物であり、
ここで、
Aは、ナトリウム、カリウムおよびリチウムから選択される1または2以上のアルカリ金属であり、
M1は、酸化状態が+2の1または2以上の酸化還元活性金属を有し、
M2は、酸化状態が0よりも大きく、+4以下の酸化状態の金属を有し、
M3は、酸化状態が+2の金属を有し、
M4は、酸化状態が0よりも大きく、+4以下の酸化状態の金属を有し、
M5は、酸化状態が+3の金属を有し、
ここで、
0≦δ≦1;
V>0;
W≧0;
X≧0;
Y≧0;
WとYの少なくとも1つは、0よりも大きく、
Z≧0;
Cは、0≦c<2の範囲であり、
ここで、V、W、X、Y、ZおよびCは、電気化学的中性を維持するように選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載のナトリウムイオン二次電池。
【請求項7】
前記無秩序炭素含有負極活物質の構造は、非黒鉛化性の非結晶質アモルファス構造である、請求項1に記載のナトリウムイオン二次電池。
【請求項8】
前記負極活物質は、硬質カーボンを含む、請求項1に記載のナトリウムイオン二次電池。
【請求項9】
前記負極活物質は、硬質カーボン/X複合体を有し、
ここで、Xは、元素形態または化合物形態のいずれかにおいて、リン、硫黄、インジウム、アンチモン、錫、鉛、鉄、マンガン、チタン、モリブデンおよびゲルマニウムから選択された、1または2以上である、請求項1に記載のナトリウムイオン二次電池。
【請求項10】
前記負極活物質は、1または2以上の別の材料を有し、該別の材料は、ナトリウムイオンを貯蔵でき、非金属、非金属含有化合物、金属、金属含有化合物、および金属含有合金から選択される、請求項1に記載のナトリウムイオン二次電池。
【請求項11】
カソードおよびアノードを有し、
前記カソードは、1または2以上の正極活物質を有し、前記アノードは、アノード基板上に配置された負極活物質の層、好ましくは均一な層を有し、
前記負極活物質の層は、1または2以上の無秩序炭素含有材料を有し、
前記負極活物質の層は、約0.8を超える容積比表面積(VSSA)を有する、請求項1に記載のナトリウムイオン二次電池。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載のナトリウムイオン二次電池の製造方法であって、
a.1または2以上の正極活物質を有するカソードを、負極活物質の層で被覆されたアノード基板を有するアノード、および電解質とともに組み立て、ナトリウムイオン電池を形成するステップであって、前記電解質は、テトラフルオロホウ酸ナトリウム(NaBF 4 )またはヘキサフルオロリン酸ナトリウム(NaPF 6 )を含む、ステップと、
b.前記ナトリウムイオン電池を第1の電圧までサイクル処理するステップと、
を有し、
i)前記アノード基板の単位平方メートル当たりの前記アノード活物質の層の質量は、80gm-2以下であり、
ii)前記負極活物質の層の質量に対する前記正極活物質の質量の比は、0.1~10であり、
iii)前記アノード基板上の前記負極活物質の層の厚さは、100μm以下である、製造方法。
【請求項13】
請求項1~11のいずれか1項に記載の、少なくとも2つのナトリウムイオン二次電池を有する電池。
【国際調査報告】