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特表2022-513542高感度分子解析のための組成及び方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-09
(54)【発明の名称】高感度分子解析のための組成及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/14 20060101AFI20220202BHJP
【FI】
A61B8/14
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2020548972
(86)(22)【出願日】2019-03-13
(85)【翻訳文提出日】2020-10-15
(86)【国際出願番号】 IB2019000242
(87)【国際公開番号】W WO2019175664
(87)【国際公開日】2019-09-19
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518269625
【氏名又は名称】トラスト バイオソニックス インク
【氏名又は名称原語表記】TRUST BIOSONICS INC.
(71)【出願人】
【識別番号】520348484
【氏名又は名称】リチャク ジョシュア
【氏名又は名称原語表記】RYCHAK, Joshua
(74)【代理人】
【識別番号】110003018
【氏名又は名称】特許業務法人IPアドバンス
(72)【発明者】
【氏名】リチャク ジョシュア
(72)【発明者】
【氏名】カン シ-サン
(72)【発明者】
【氏名】ワン チュン-シン
【テーマコード(参考)】
4C601
【Fターム(参考)】
4C601DE06
4C601DE10
4C601DE14
4C601EE09
4C601JC04
4C601JC06
4C601JC15
4C601JC37
4C601KK02
(57)【要約】
【課題】 高感度分子解析のための標的結合マイクロバブルの存在の特定に適した方法を提供する。
【解決手段】 超音波分子イメージングの文脈において標的結合マイクロバブルの存在を確かめる方法が示される。動的スケーリング超音波分子イメージングと呼ぶこの方法は、分子イメージング標的を発現する領域内及び参照領域内の時間変動挙動コントラスト剤に依拠する。本方法の使用を可能にする超音波コントラスト剤の組成も示される。本発明は疾患の診断や治療のモニタリングに超音波分子イメージングを用いる際有用である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
関心領域(ROI)内のコントラスト信号の強度を定量化する方法であって、
疾患の1つ又は複数の標的分子マーカーの存在をイメージングするために被験者の標的組織に標的指向性コントラスト剤を投与し、
血液プール内を循環する前記コントラスト剤の量を示す参照領域を動的スケーリング時間変動式手順で選択し、
選択された前記参照領域を含む前記標的組織をイメージングし、
前記動的スケーリング時間変動式手順で罹患領域の強度を定量的に判定することを含み、
前記標的指向性コントラスト剤は前記罹患領域内で発現された前記疾患の1つ又は複数の分子マーカーに結合されるように構成される、方法。
【請求項2】
前記動的スケーリング時間変動式手順は、
a.単一の視野を示す時系列の画像を提供し、
b.1つ又は複数の関心領域及び1つ又は複数の対応する参照領域を選択し、
c.参照スケーリングされた画像及び/又は参照スケーリングされた信号強度を生成し、前記関心領域及び参照領域は前記時系列内の同じ瞬間に取得され、
d.参照スケーリングされた前記信号強度の時間強度関係を定量的に判定するために前記時系列内の2つ以上の画像に対して(c)のスケーリング処理を実行し、参照スケーリングされた前記信号強度は前記罹患領域で増加し非罹患領域で減少する、ことを含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記参照領域及び関心領域について同期した別々の画像シーケンスが取得される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
動的にスケーリングされた画像内の各画素の値を定数でスケーリングすることを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記手順は線形化された音響出力の単位で実行される、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記手順は線形化された音響振幅の単位で実行される、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
動的にスケーリングされた前記画像又は動的にスケーリングされた前記画像の変化率に由来する比率画像を色分けすることを更に含む、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
動的にスケーリングされた前記画像にローパスフィルタをかけることにより平滑化を行うことを更に含む、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
動的にスケーリングされた前記画像を非線形に圧縮することを更に含む、請求項2に記載の方法。
【請求項10】
前記参照領域はマイクロバブルの蓄積がごく僅かか全く起こらない領域と定義される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
参照スケーリングされた前記コントラスト信号強度は、前記参照領域の信号ピークと除去との間のいくつかの時点において1つ又は複数の標的領域内で算出される、請求項2に記載の方法。
【請求項12】
参照スケーリングされた前記コントラスト信号強度はピーク信号において及びその後の関心時点において算出され、前記2つの時点間の平均勾配が算出される、請求項2に記載の方法。
【請求項13】
前記標的指向性コントラスト剤は、0.1μmと2.0μmとの間、0.2μmと2.0μmとの間、0.3μmと2.0μmとの間、0.4μmと2.0μmとの間、0.5μmと2.0μmとの間、0.6μmと2.0μmとの間、又は0.7μmと2.0μmとの間の数量平均直径を有するマイクロバブルである、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記標的指向性コントラスト剤は、0.7μmと2.0μmとの間の数量平均直径を有するマイクロバブルである、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記標的指向性コントラスト剤はマイクロバブルである、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
請求項1に従って被験者内の疾患を検出する方法であって、
1~10分間、前記被験者内の視野をイメージングしかつコンピュータ可読媒体に前記一連の画像を保存し、
取得された前記時系列の画像に対し請求項2の方法を実行し、
スケーリングされた一連の画像又は時間強度曲線などのスケーリングされた信号グラフをユーザに表示し、
スケーリングされた前記信号群の変化率に基づいて疾患を判定することを含む方法。
【請求項17】
前記視野は心臓、腎臓、肝臓、胸部、腫瘍、前立腺などを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記視野は心臓を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
左室腔が参照領域であり、心筋が標的領域である、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
線形化された前記コントラスト信号に対して動的スケーリング手順が行われる、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
標的領域内の関心分子マーカーのレベルを判定するために用いられる動的スケーリング時間変動式手順であって、
a.経時的に標的組織の一連の画像を取り込み、
b.前記画像内で標的指向性コントラスト剤信号を有する関心領域を選択し、
c.前記画像内で標的指向性コントラスト剤信号を有しないが循環するコントラスト剤信号を有する関心参照領域を選択し、
d.前記参照領域の信号強度を用いて各時点における前記標的領域の信号強度をスケーリングし、
e.前記異なる時点における前記標的組織の参照スケーリングされた画像又は強度を生成し、
f.参照スケーリングされた前記画像又は強度を用いて前記標的組織内の前記関心分子マーカーのレベルを判定することを含む手順。
【請求項22】
前記手順は線形化された音響出力の単位で実行される、請求項21に記載の手順。
【請求項23】
前記手順は線形化された音響振幅の単位で実行される、請求項21に記載の手順。
【請求項24】
動的にスケーリングされた前記画像又は動的にスケーリングされた前記画像の変化率に由来する比率画像を色分けすることを更に含む、請求項21に記載の手順。
【請求項25】
動的にスケーリングされた前記画像にローパスフィルタをかけることにより平滑化を行うことを更に含む、請求項21に記載の手順。
【請求項26】
動的にスケーリングされた前記画像を非線形に圧縮することを更に含む、請求項21に記載の手順。
【請求項27】
参照スケーリングされた前記信号強度は、前記参照領域のピーク信号と除去との間のいくつかの時点において1つ又は複数の標的領域内で算出される、請求項21に記載の手順。
【請求項28】
参照スケーリングされた前記信号強度はピーク信号において及びその後の関心時点において算出され、前記2つの時点間の平均勾配が算出される、請求項21に記載の手順。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
超音波を利用して診断上有用な画像を生成する技術は従来技術において十分に説明されている。超音波イメージングは高いフレームレートで実行でき(日常的に最大毎秒数十フレームを実現可能)、電離放射線の使用を伴わず、その装置は他のイメージング装置に比べて価格が安くかつ可搬性が高い。これらの特性により超音波画像診断は広範な疾患状態の評価や様々な生体組織のイメージングに有用なものになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0002】
【特許文献1】特表2011-521237号公報
【発明の概要】
【0003】
本発明によれば、本発明は動的スケーリング方式で得られる時系列の超音波分子画像を解析することにより関心領域(ROI)内のコントラスト信号の大きさを定量化する方法が提供する。この方法は、疾患の標的分子マーカーの存在をイメージングするために被験者の標的組織にマイクロバブルなどの標的指向性コントラスト剤を投与し、血液プール内を循環するコントラスト剤の量を示す参照領域を動的かつ時間変動する方式で選択し、選択された前記参照領域を含む前記標的組織をイメージングし、及び前記動的スケーリング時間変動式手順で疾患領域の強度を定量的に判定することを含み、前記標的指向性コントラスト剤は疾患領域内で発現された前記疾患分子マーカーに結合されるように構成される。
【0004】
一態様において、前記動的スケーリング時間変動式手順は、
a.単一の視野を示す時系列の画像を提供し、
b.1つ又は複数の関心領域及び1つ又は複数の対応する参照領域を選択し、
c.参照スケーリングされた画像及び/又は参照スケーリングされた信号強度を生成し、前記関心領域及び参照領域は前記時系列内の同じ瞬間に取得され、
d.参照スケーリングされた前記信号強度の時間強度関係を定量的に判定するために前記時系列内の2つ以上の画像に対して(c)のスケーリング処理を実行し、参照スケーリングされた前記信号は前記罹患領域で増加し非罹患領域で減少する、ことを含む
【0005】
本明細書において言及された全ての文献、特許、及び特許出願は、個々の文献、特許、又は特許出願が参照により援用されると具体的かつ個別に示されるのと同様に本明細書に参照により援用されている。
【0006】
本発明の新規の特徴は特に添付の特許請求の範囲に記載されている。本発明の特徴及び利点は、本発明の原則が適用される説明用実施形態を記載する以下の詳細な記述及び添付の図面を参照することにより良く理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は非破壊イメージングを用いた標的マイクロバブルの挙動を表す簡易時間強度曲線を示す。2つの関心領域-イメージング標的が発現されていないもの(健康組織)(図1(A))及びイメージング標的が発現されているもの(標的組織)(図1(B))-が示されている。標的結合マイクロバブルがt4でそうであるように、後期のイメージング窓が下の曲線上に確認される。
図2図2はバーストリフィルイメージング法を用いた標的マイクロバブルの挙動を表す簡易時間強度曲線を示す。2つの関心領域-イメージング標的が発現されていないもの(健康組織)(図2(A))及びイメージング標的が発現されているもの(標的組織)(図2(B))-が示されている。破壊的バーストがt2で行われる。標的結合マイクロバブル信号の強度が下のグラフ上に確認される。
図3図3は本発明の実施による超音波分子イメージングの一般例の一実施形態を示す。標的組織は2つの領域-領域(関心疾患が存在しない)B及び領域C(当該疾患が存在する)-からなる。第3の領域(A)は参照領域である。下の図3(B)は1回のイメージングの各時点で得られた各領域の代表的画像を示す。ピクセル強度(ここでは灰色の濃淡で示される)はコントラスト信号強度に対応する。各領域内の数値は所定の時点のコントラスト信号強度を表す。
図4図4は簡略化された図3(B)に対応する典型的な時間強度曲線を示す。図4(A)では、コントラスト信号強度が領域B(疾患なし)及び領域A(参照領域)の時間の関数としてグラフ化されている。図4(B)では、コントラスト信号強度が領域C(疾患あり)及び領域A(参照領域)の時間の関数としてグラフ化されている。時間軸目盛のt4とt5の間に破断があることに注意されたい。
図5-1】図5-1は図3図4のデータに対応する動的スケーリング曲線を示す。図5(A)、図5(B)には図3(B)のコントラスト信号の強度対時間曲線が示されている。図5(C)にはそれぞれ非疾患領域及び疾患領域における各時点の参照スケーリングされたコントラスト信号強度が示されている。
図5-2】図5-2は図3図4のデータに対応する動的スケーリング曲線を示す。図5(D)にはそれぞれ非疾患領域及び疾患領域における各時点の参照スケーリングされたコントラスト信号強度が示されている。図5(E)、図5(F)にはそれぞれ非疾患領域及び疾患領域における各時点の参照スケーリングされたコントラスト信号強度の瞬間的勾配が示されている。
図5-3】図5(G)、図5(H)にはそれぞれ非疾患領域及び疾患領域におけるt1とその後の各時点との間の参照スケーリングされたコントラスト信号強度の平均勾配が示されている。
図6図6図3の簡略化された画像に対応する参照スケーリングされた画像を示す。各領域内の数値は所定の時点の参照スケーリングされたコントラスト信号強度を表す。
図7図7図3の簡略化された画像に対応する比率画像を示す。各領域内の数値はピーク時点と表示された各時点の間での参照スケーリングされたコントラスト信号強度の変化率を表す。正や負の値を表すため各画像には灰色の濃淡がつけられている。定義上参照領域における比率画像は一様にゼロであり、ここでは省略されている。
図8図8は心筋虚血再灌流障害のイヌモデルにおけるP-セレクチンの典型的な超音波分子画像を示す。図8(A)、図8(B)にはそれぞれ虚血にさらされていない健康なイヌ及び10分のLAD虚血及びその後90分の再灌流にさらされた同じ動物の、イメージング実験の各時点における代表的な超音波分子イメージング画像が示されている。図8(C)、図8(D)にはそれぞれ左室腔及び前心筋における(音響出力の単位で表される)コントラスト信号強度を表す対応する時間強度曲線が示されている。
図9図9は、音響出力(図9(A))及び音響振幅(図9(B))の単位で示される、図8の画像から導出された参照スケーリングされたコントラスト信号強度を示す。
図10図10は心筋虚血再灌流のイヌモデルにおける典型的な動的スケーリング超音波分子イメージングを示す。図10(A)は虚血後心筋(四角)及び健康心筋(菱形)におけるマイクロバブル投与後の各時点の参照スケーリングされたコントラスト信号強度を示す。図10(B)、図10(C)はそれぞれマイクロバブル投与の1分後と3分後の間とマイクロバブル投与の1分後と5分後の間(図10(C))の参照スケーリングされたコントラスト信号強度の平均勾配を示す。エラーバーは n=6の動物のSEMを表す。
図11図11は心筋虚血再灌流のイヌモデルにおける典型的な動的スケーリング超音波分子イメージングを示す。画像は虚血後イヌにおけるP-セレクチンを標的としたマイクロバブル投与前後の各時点で得られた短軸の収縮末期である。図11(A)、11Bはそれぞれコントラスト強度画像及びコントラスト強度を線形化することにより導出された対応するコントラスト信号強度画像を示す。図11(C)は虚血リスク領域(矢印)を表す代表的な短軸断面のフタロシアニンブルー染色を示し、図11(D)は参照スケーリングされた画像を示す。矢印は増大するコントラスト信号の領域を強調している。
図12図12は心筋虚血再灌流のイヌモデルにおける典型的な動的スケーリング超音波分子イメージングを示す。画像は虚血後イヌにおける陰性対照へのマイクロバブル投与前後の各時点で得られた短軸の収縮末期を示す。図12(A)はコントラスト強度画像を示し、図12(B)は虚血リスク領域(矢印)を表す代表的な短軸断面のフタロシアニンブルー染色を示し、図11Cは参照スケーリングされた画像を示す。
図13図13は標的指向性マイクロバブルの説明図である。3つのシェル形成成分-シェル形成界面活性剤、疎水アンカー及び親水部からなる第2界面活性剤、並びに標的指向化リガンド、親水部、及び疎水アンカーからなる標的指向化構成体-が説明されている。
図14図14は実施例6のように生成された典型的なP-セレクチンを標的としたマイクロバブルを示す。図14(A)、図14(B)はエレクトロゾーンセンシングによって得られた代表的なサイズ分布の下端及び全範囲をそれぞれ示す。図14(C)はP-セレクチンを標的としたマイクロバブルの3つの代表的なロットについて得られたサイズ情報を示す。
図15図15は心筋虚血再灌流損傷のイヌモデルにおけるP-セレクチンの典型的な超音波分子イメージングを示す。90分の虚血後のイヌの心臓において得られた代表的な超音波分子イメージング画像が示されている。図15(A)、15(B)、15(C)はそれぞれ実施例8の調製物を用いて調製したP-セレクチンを標的としたマイクロバブル、実施例6のように調製しその後実施例8に記載されたように拡大したP-セレクチンを標的としたマイクロバブル、及び実施例6のように調製した最適径を有するP-セレクチンを標的としたマイクロバブルの投与の約1分後に得られた画像を示す。矢印はコントラスト信号が損失した領域を示す。
図16図16はヒトの心筋における虚血性損傷の超音波分子イメージングの例のある特定の実施形態を示す。この例では、標的組織は心筋であり、2つの領域-領域B(心筋が事前に虚血にさらされていない)及び領域C(事前に虚血を受けている)-を含むものとする。左室腔(A)は参照領域である。下の図はイメージング中の各時点で得られた代表的な画像を示す。ピクセル強度(ここでは灰色の濃淡で示される)はコントラスト信号強度に対応する。各領域内の数値は所定の時点のコントラスト信号強度を表す。
図17-1】図17-1は図16のデータに対応する動的スケーリング曲線を示す。図17(A)はコントラスト信号強度対時間曲線を示し、図17(B)は経時的に参照スケーリングされたコントラスト信号強度を示し、図17(C)はt=60秒と90秒、180秒、及び300秒との間の参照スケーリングされたコントラスト信号強度の平均勾配を示す。
図17-2】図17(D)は参照スケーリングされた画像を示し、図17(E)は対応する比率画像を示す。
図18図18は動的スケーリング超音波分子イメージングによって治療に対する反応をモニタリングする方法という更に別の実施形態を示す。図18(A)、18(B)はそれぞれ肯定的な治療反応を示す患者及び否定的な反応を示す患者の筋肉領域(標的領域)及び隣接する動脈(参照領域)における時系列の簡易コントラスト信号強度画像を示す。一連のコントラスト信号強度に対応する比率画像が患者毎に右端に示されている。図18(C)、18(D)、18(E)はそれぞれ強い反応を示す患者、中間の反応を示す患者、及び弱い反応を示す患者に対して治療中の各日に実行された動的スケーリング超音波分子イメージングによって得られた比率画像を示す。
図19図19は動的スケーリング時間変動式手順の典型的なフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
コントラスト剤(マイクロバブル及び関連する組成物)を使用することにより超音波イメージングの有用性が広がる。以下の2種類の超音波コントラスト剤が広く使われている:1)主に血流イメージング及び境界検出に用いられる非標的指向性コントラスト剤、及び2)一般に分子イメージングに用いられる標的指向性コントラスト剤。いずれの場合も生体適合ガスがコントラスト生成物質となる。その気相は通常、気体を安定化し所望の薬物動態学的及び薬力学的特性を付与するシェルによってカプセル化されている。標的指向性コントラスト剤の場合、シェルは特定の分子又は細胞種に対するコントラスト剤の保持を媒介できる物質を用いて調製される。例えば、表1を参照して、代表的な非標的指向性マイクロバブルを説明する。代表的な標的指向性マイクロバブルは、例えば、US08/958,993(Klaveness他)及びUS14/639,055(Rychak他)に記載されている。これらの及び他の全ての参照される特許、特許出願、及び文献はその全体が参照により本明細書に援用されている。
【0009】
【表1】
【0010】
本発明の文脈においてはいくつかのコントラスト剤特性を検討することが重要である。マイクロバブルは一般に約1~20μmの直径を有する多分散系である。サイズ分布が広いことは一部の環境において有利である。これは広範なイメージング周波数や組織深度にわたるイメージングが容易になるからである。マイクロバブルによって生成される超音波コントラスト信号の有用性/有効性はサイズとともに増減すると言われており、小径の(2.0μm以下の径の)マイクロバブルは一般に超音波イメージングでは敬遠される(Sontum他, 1999;Gorce他, 2000)。実質的に全ての市販のヒト用マイクロバブル製品は2μm超の平均直径を有する。
【0011】
実質的に単分散のマイクロバブルがFeshiten他(2009)などの文献の中で報告されている。このような調製物はニッチの用途、例えば、小動物における超高周波イメージングにおいては有利な場合があるが、臨床用途においては低周波数イメージングが要求されるため一般に望ましくない。
【0012】
標的指向性マイクロバブルの場合、シェルへの標的指向化リガンドの抱合の重要性が高い。標的指向化リガンドは生体適合性を有しかつ標的の分子又は細胞へのマイクロバブルの特異的かつ確実な接着を媒介することが望ましい。これまで抗体、融合タンパク質、ペプチド、核酸、炭水化物、及びポリマーが標的指向化リガンドとして用いられている。
【0013】
標的指向性マイクロバブルは通常、ボーラス静注として投与される。場合によっては、動脈内投与を用いてもよい。
超音波を用いたコントラストイメージング
【0014】
マイクロバブルを用いて高コントラスト超音波画像を生成することができる機序はこれまで十分に説明されている(例えば、Vannan及びKuersten,2000を参照)。簡単に言えば、イメージングされた体積内のマイクロバブルはまず超音波トランスデューサーにより生成された入射超音波エネルギーによって刺激される。この刺激はしばしば振動と呼ばれるマイクロバブルの機械的活性化を引き起こす。次にこの活性化によりエコーと呼ばれる第2の音響信号が生成される。エコー信号の強度はイメージングされた体積内の活性マイクロバブルの濃度に比例する。このエコーは超音波トランスデューサーにより受信され電子信号に変換されその後処理されて画像が生成される。
【0015】
超音波により得られた信号はユーザに画像として表示される前に同装置より修正される。そのような修正には、受信された広範囲の音響信号をビデオ表示モニターに表示可能な画素値範囲に適合させるのに必要なダイナミックレンジ圧縮(例えば、「ログ圧縮」)が含まれる。このような修正は顕著な画像特徴を強調しながら視覚的に訴求力のある表示を生成するのに役立つが、マイクロバブルの濃度と表示された画素の強度との関係を変えてしまう。
【0016】
本発明の文脈では、「コントラスト強度」という用語は、ユーザに対して表示される信号(すなわち、圧縮と後処理が施された信号)に言及する際用いられる。他方、「コントラスト信号強度」という用語は、圧縮と後処理が施されていない同じ信号に言及する際用いられる。本明細書で用いられるコントラスト信号強度はマイクロバブルの濃度と直接比例し、他方、コントラスト強度の場合この関係が変化する場合があることに留意されたい。
【0017】
マイクロバブルにより生成されるエコーの振幅及び位相は、組織や他の生体物質により生成されるエコーのものとは実質的に異なる。これにより2種類の信号を分離でき、コントラスト剤によって生成されたエコーに由来する画像を生成することができる。マイクロバブルコントラスト剤を検出可能ないくつかのイメージング手法が当技術分野で知られている。本発明にとって特に重要なのは、イメージング過程でマイクロバブルが過度に破壊されないように低い機械的指標(MI)で動作する手法である。高MIイメージング手法と低MIイメージング手法との違いはPorter他(2014)の中で考察されている。代表的な非破壊コントラストイメージング手法はパワーパルスインバージョンとコントラストパルスシーケンス(CPS)である。多くの場合、コントラスト画像は組織のみに由来する画像(例えば、Bモード画像)と実質的に同時に生成できるため、2つの画像の位置合わせが可能である。コントラスト画像を組織画像とは異なるカラーマップでコード化されたオーバーレイとして便利に表示してもよい。また、コントラスト信号をUS12/084934(Frinking他)に記載されるような線形化された単位で表示してもよい。これは圧縮と後処理によって変化するマイクロバブル濃度と表示された信号の強度との比例関係を維持するのに役立つ。
標的結合マイクロバブルの検出
【0018】
超音波分子イメージングにおいて標的指向性マイクロバブルを使用する際の課題は、標的結合マイクロバブルから発生するコントラスト信号が関心イメージング領域を通過するマイクロバブルから発生するコントラスト信号から容易に識別できないということである。すなわち、静止したマイクロバブルにより生成されるコントラスト信号の強度は、通常のコントラスト超音波画像上に表示された際、動くマイクロバブルにより生成されるコントラスト信号のものと実質的に同一である。標的結合マイクロバブルにより生成される信号は分子イメージング研究における関心信号を含むため、標的結合マイクロバブルの特定は重要性が高い。
【0019】
分子標的がまばらに発現されることが標的結合マイクロバブルの特定という問題をより難しくしている。この場合、標的結合マイクロバブルの数は循環するマイクロバブルの数より相当少ない。標的指向性マイクロバブルの数が例外的に少ないと考えられる典型的な疾患状態として、マイクロバブルが結合する場合のある限定された領域を提供する動脈硬化性プラークが挙げられる。CD62などの低コピー数で発現される標的分子も例外的に少ない標的指向性マイクロバブルの結合に寄与していると考えられる。
【0020】
従って、関心イメージング領域において標的結合マイクロバブルの存在を明確に特定する方法が求められている。このような方法は標的の発現が少ないものや高度な動きを伴うものを含む幅広い組織種での使用に対してロバストかつ適していなければならない。いくつかの解決法が提案されてきたが、以下の説明から明らかなようにいずれも広範な臨床現場での採用を不可能にする重大な欠陥を有する。
【0021】
循環マイクロバブルから標的指向性マイクロバブルを識別する以下の3種類の方法が説明されている:1.後期イメージング、2.バーストリフィルイメージング、3.時間フィルタリング法。各方法の機能を順に検討していく。以下の説明から明らかなように、当技術分野で示されたそれらの方法には多くの臨床イメージング状況での広範な使用に対する適格性を損なう重大な欠点がある。
後期におけるイメージング
【0022】
後期イメージングは恐らく最も簡単な方法であり、本質的に、循環(非標的結合)コントラスト剤がROIからなくなるように十分な長さの時間がコントラスト剤の投与後に経過するのを待つことからなる(所謂「後期」)。画像が後期で得られた場合、確認されたコントラスト信号のほとんど又は全ては標的結合コントラスト剤によるものとする。この方法は、例えば、Smeege他(2017)で実行されている。
【0023】
以下の例はこの方法の使用法と制約を示している。ROI内での標的指向性マイクロバブルの挙動は(一般に時間強度曲線と呼ばれる)コントラスト信号強度と時間を示すグラフとして理解することができる。図1はイメージング標的が発現されている仮定の組織(罹患組織)及びイメージング標的が存在しない仮定の組織(非罹患組織)における簡易時間強度曲線の図である。ベースラインの(コントラスト前の)コントラスト信号強度が点線で示されている。
【0024】
図1の時間強度曲線は以下の3つの時期に分けることができる:1)t0とt1の間に発生する早期;2)t1とt3の間に発生する中期;及び3)t3とt5の間に発生する後期。これらの時期を以下に更に説明する。
【0025】
マイクロバブルのボーラス投与直後の早期にコントラスト信号強度の急激な増加が確認される。これは血流によるマイクロバブルのROIへの侵入によるものである。早期に確認されたコントラスト信号においては循環マイクロバブルが優勢であり、標的結合マイクロバブルの数はROI内のマイクロバブル総数のごく一部である。このため、早期における罹患組織と非罹患組織との時間強度曲線は同じように見える。
【0026】
中期では、コントラスト信号強度は血液プールからのマイクロバブルの除去により減少する。どの時点で確認されるコントラスト信号強度も標的指向性マイクロバブルと循環マイクロバブルの組み合わせによるものである。マイクロバブルが血液プールから除去される速度は、マイクロバブル投与量、投与経路、心臓の状態(心拍数、収縮性)、換気状態(酸素飽和度、 医療用補助酸素の使用)、及び他の患者固有の要因によって決まる。
【0027】
後期はほとんどの又は実質的に全ての循環マイクロバブルが血液プールから除去された期間と定義され、ROI内で確認されるいずれのコントラスト信号も主に標的結合マイクロバブルの存在によるものである。従って後期は理論的にはROIを標的指向性マイクロバブルの存在について評価する便利な時間的イメージング窓となる。
【0028】
実際には、標的結合マイクロバブルに由来するコントラスト信号強度は後期において減少し最終的にコントラスト前のレベルに戻る。この信号損失は、コントラスト信号を生成するマイクロバブルの保全性を損なう(超音波により引き起こされるマイクロバブル破壊とは独立した)ガス交換や他の機序による標的結合マイクロバブルの破壊に起因する。標的結合信号の減衰が発生する速度は先験的には知られておらず、マイクロバブルの組成、ROIの位置、局部的な血液ガス組成、標的結合マイクロバブルの密度、微小循環状態などのいくつもの要因に依存する。実際には、後期における信号の減衰は一般に中期の信号の減衰よりも遅い。ただし2つの時期間の差が僅かである場合もある。この場合、時間強度曲線から2つの時期を識別することが困難又は不可能になり、この方法の使用には不確実性が伴う。
【0029】
上記の説明は、標的結合マイクロバブルの存在を推測する手段として後期のイメージング窓に依拠する場合以下に記載する少なくとも1つのリスクがあることを示している。すなわち、コントラスト信号強度は経時的に減少するため、イメージング窓を「見落とし」疾患は存在しないと誤って結論づける恐れがある。この問題は、後期の信号がコントラスト前のベースラインに非常に近い、まばらに発現するイメージング標的の場合特に顕著である。
【0030】
より重要なのは、マイクロバブルが中期に血液プールから除去される速度が先験的に分からないため、後期の画像を取り込むためにイメージングを開始する時期を見積もることが実際に困難であるということである。表2にはVEGFR2を分子標的としたいくつかの臨床及び動物研究において用いられた後期のイメージング窓がまとめられている。研究間に相当な違いがあるのが分かる。
【0031】
研究環境では、上記の問題は陰性対照実験を用いることにより克服される。例えば、被験者に、標的に固有の保持が著しい度合いで発生しない陰性対照マイクロバブルを投与する。コントラスト信号強度がコントラスト前のレベルに戻る時点を用いて所定の実験環境での後期の開始時期を規定してもよい。
【0032】
実際の環境では、一般に陰性対照は使用できない。標的指向性剤と組み合わせて用いる陰性対照イメージング剤を調製することにより不要なコストと規制上の問題が発生する。また、急性治療環境において(疾患が存在しない場合に行われる)ベースラインスキャンがほとんどの患者に利用可能であるとは考えにくい。更に、後期の発生を待つことにより超音波検査にとって不要かもしれないワークフローが発生する。
【0033】
【表2】
【0034】
簡単な後期イメージングだけが分子イメージングの文脈において標的結合マイクロバブルの存在の特定に適した方法ではなく、また低濃度の標的結合マイクロバブルに対して感度が悪いことは上記の説明から明らかである。当業者は本発明の実施に従って適切なマイクロバブルの使用法を容易に理解するであろう。
バーストリフィルイメージング
【0035】
バーストリフィル法により投与後の中期又は後期に循環マイクロバブルから標的結合マイクロバブルを識別することができる。この方法では短時間(1秒まで)高出力(一般にMI>0.3)超音波シーケンスを照射して視野内でマイクロバブルを「破裂させる」ことが必要になる。これによりコントラスト信号がほとんど瞬間的に取り除かれる。その後非破壊イメージングが再開される。確認されるいずれのコントラスト信号も視野に入る循環マイクロバブルに由来するものであるとする。破裂前のコントラスト信号強度から破裂後のコントラスト信号強度を減算することにより、標的結合マイクロバブルのみによる信号強度を求めることができる。この減算手順はデジタル画像処理を用いて画像に対して行ってもよい。
【0036】
この方法は図2に示す時間強度曲線にまとめられている。この場合、バーストシーケンスを中期に(t2で)実行する。ただし、後期に(例えば、t3で)実行しても同様の効果が得られよう。
【0037】
この方法は、例えば、Lindner他(Circulation, 2001)やRychak他(Mol Imaging, 2007)で行われてきた。
【0038】
この方法の主な問題点は、高出力超音波を用いてマイクロバブルを破壊しなければならず、これが不要な生体作用を引き起こす場合があることである。高出力超音波によるマイクロバブルの破壊は、心臓の早発性心室収縮(van Der Wouw他, 2000)、微小血管血流の変化(Hu他, 2013)、及び隣接細胞の一過性透過処理(Miller他, 2008)と相互に関係があることが確認されている。従って、安全性の観点からはマイクロバブルの破壊を必要としないイメージング法が好ましい。
動きに基づく方法及びフィルタリング法
【0039】
時間成分や周波数成分に基づいて標的結合マイクロバブルを特定する様々な方法が提案されている。これらの方法はマイクロバブル投与後の中期に有利に用いられてもよく、超音波スキャンを実行しながら基本的にリアルタイムに行われてもよい。
【0040】
Willmann他(2017)にはビデオシーケンスの簡単な目視評価により静止したマイクロバブルから動くマイクロバブルを識別する方法が記載されている。緩やかな組織運動の存在下にある高濃度循環マイクロバブルに対してこの方法を実行するのは困難でありユーザ側に専門知識が求められることは明らかである。広範に利用されるためには、ユーザの専門知識に依拠しない定量的な方法が好ましい。
【0041】
コンピュータに基づくフィルタリング法も説明されている。例えば、US12/084933(Frinking他)には、標的結合マイクロバブルを自由に循環するマイクロバブルから分離するためにコントラスト信号をタイムドメイン内でフィルタリングすることができるアルゴリズムが開示されている。分離するマイクロバブルの検出を可能にするためにこの方法を改良したものがUS12/520839(Frinking他)に記載されている。RFデータに対して実行されるフレーム間平均化法がHu他(Am J. Nucl Med Mol Imaging, 2013)の中で報告されている。
【0042】
US11/237221(Phillips他)及びUS11/805,151(Guracar)には、コントラスト剤の相対運動を経時的に追跡することにより標的結合マイクロバブルを特定する方法が開示されている。例えば、US11/237221(Phillips他)、US11/885723(Gaud他)、及びDayton他(2003 IEEE Ultrasonics Symposium)には、それぞれのエコーのスペクトル内容に基づいて標的結合マイクロバブルから循環マイクロバブルを識別する方法が開示されている。
【0043】
上記の方法の主な問題点は、それらが複数の連続したイメージングフレームの空間的位置合わせを必要とし、これが組織運動の存在下では困難な場合があるということである。また、フィルタリングに基づく方法は高濃度の循環マイクロバブルの存在下にある低濃度の標的結合マイクロバブルに対して感度が悪い場合がある。
【0044】
医療に対して幅広い恩恵をもたらす可能性があるにもかかわらず、標的指向性マイクロバブル製品はまだ臨床用に市販化されていない。同様に、標的指向性マイクロバブル用の分析ソフトウェアパッケージも臨床用に市販化されていない。
【0045】
本発明は、経時的に各時点で関心領域(ROI)内のコントラスト信号強度を確実に定量化する動的スケーリング超音波分子イメージングと呼ぶ方法を含む。この方法は特定の組成のマイクロバブルコントラスト剤とともに最も有効に用いられる。一部の実施形態では、本方法を適切に調製されたマイクロバブルとともに用いて疾患の標的分子マーカーの存在をイメージングする。本発明は、コントラスト信号がどのように経時的に変化しているかを判定して現時点の最新技術に存在する不確実性を低減させる確実な方法をユーザに提供する。
【0046】
ある実施形態では、本発明の方法は参照領域という概念を用いる。ここで「参照領域」とは、イメージングされている患者内部の、瞬間的なコントラスト信号が血液プール内を循環するコントラスト材料の量を表す部位に対応する画像領域を指す。参照領域内のコントラスト信号が経時的に変化する速度は、マイクロバブルの投与量、投与経路、疾患状態(例えば、心拍数やポンプ効率などの心臓の状態)、換気状態(酸素飽和度、補助酸素の使用)などの、特定の患者やイメージング条件に固有である場合のあるいくつもの要因の影響を受ける。これらの変数はイメージングデータの解釈を混乱させる場合がある。本出願で説明される参照領域は、動的スケーリングの要素として用いられる(以下に説明)ことに加え、イメージング対象間や環境間で比較を行うための基礎を提供する。
【0047】
本発明の文脈で用いられる参照領域はまた、マイクロバブルが極僅かに蓄積するか全く蓄積しない領域と定義される。従って、参照領域は確実にこの条件が満たされるように注意深く選択しなくてはならない。更に、マイクロバブルはイメージング対象を発現しない領域内での不要な蓄積を最小化するように調製しなくてはならない。
【0048】
血液で満たされ循環流を受ける腔を含む関心領域は参照領域として用いられるのに広く適している。典型的な参照領域は左心室腔である。一部の実施形態では、参照領域には大動脈の内腔、大静脈、大腿動脈、頸動脈、腎動脈、腎静脈などが含まれる。他の実施形態では、参照領域は、病変から離れた又は病状がない骨格筋などの、空間的に一様な微小循環を示す血管に富んだ任意の組織を指す。一部の実施形態では、脂肪組織などの血管に富んでいない組織、又は固形腫瘍などの混乱した血管系を示す組織は参照領域として用いない。
【0049】
一部の実施形態では、脾臓、肝臓、自然免疫細胞の密度が高い他の部位などの、疾患が存在しない場合マイクロバブル(コントラスト剤)が蓄積することが分かっている組織は、本発明の文脈では参照領域としての使用に適さない。
【0050】
標的組織に対する参照領域の向きは本発明の文脈では重要ではない。すなわち、参照領域は標的組織のための栄養血管でなくてもよい。ただし、そのような参照領域を単に便利さで選択してもよい。
【0051】
説明を簡単にするために、参照領域は標的組織と同一のイメージング視野内で取得するのが好ましい。標的組織に近接する参照領域を選択することによりイメージング環境に関連する変数に対応する能力、すなわち、深度依存効果が得られるが、標的組織に近接する参照領域を用いなくてもよい。例えば、2つトランスデューサー又は1つの多次元トランスデューサーから2つ以上のイメージング視野を利用し、その画像の1つを参照領域用に、それ以外の画像を離れた標的組織用に用いることが考えられる。特定の標的組織に適した参照領域の例を特定実施例9~14に示す。
【0052】
任意の瞬間における参照領域内のコントラスト信号強度は、本明細書で瞬間参照強度Iref(t)と呼ぶ単一の数値で表すことができる。瞬間参照コントラスト信号強度を最も簡単に参照領域内の全画素の平均強度(算術平均)と定義してもよい。中央値、トリム平均、自乗平均(平方平均)などの他の数学的表現もコントラスト信号強度の再現可能な表現となる限りIref(t)を定義するために用いてもよい。
【0053】
以下に説明するように、本発明において参照領域を用いることにより固有の時間変動挙動を特定することができ、これによって標的指向性マイクロバブルを用いた疾患診断が容易になる。
動的スケーリング
【0054】
参照領域内の瞬間コントラスト信号強度を用いて同じ瞬間の関心領域内のコントラスト信号強度をスケーリングすることができる。本明細書で動的スケーリングと呼ぶこの手順は、超音波分子イメージングデータの確実な評価を容易にするという思わぬ行為につながる。
【0055】
本発明に示した動的スケーリングという概念を超音波画像に適用してもよく、時間強度曲線という形でグラフにしてもよい。
【0056】
この方法の詳細をまず概略的に説明し、その後実際の実験の文脈で説明する。
【0057】
図3(A)は本発明の一般的な実施を示す。生存している患者の組織(標的組織)が疾患をかかえている疑いがある。超音波分子イメージング法を用いて疾患が存在するかどうかを判定し、存在する場合部位又は部位群を特定することが望ましい。本例で用いられる標的指向性マイクロバブルは疾患存在領域に特異的に接着するように調製され(すなわち、標的指向化構成体が罹患領域内に発現される適当な分子標的に結合するように選択され)、疾患不在領域には基本的に接着しないように調製されるものとする。
【0058】
説明を簡単にするために、イメージングされる標的組織は2つのサブ領域、疾患が実際には存在しないもの(領域B)と疾患が実際に存在するもの(領域C)と、を含んでいるものとする。本例の趣旨から、2つのサブ領域は隣接していなくてもよい。第3の関心領域である領域Aを参照領域として用いる。領域Aは上述した参照領域になる基準を満たしているものとする。標的組織と参照領域は同じイメージング視野内に位置していなくてもよいことに留意されたい。ただし、各領域から得られたイメージングデータは時間的に位置合わせする必要がある。
【0059】
図3(B)の画像は標的指向性マイクロバブルを投与した後の3つの領域のそれぞれの一連の簡易超音波画像を示す。コントラスト信号強度は0.01~4000の目盛り(任意の単位)の灰色の度合いで示される。マイクロバブル投与前は(コントラスト前)、コントラスト信号は全ての領域で一様に低い。全ての関心領域で同様のレベルのコントラスト前信号を生成するために各領域でゲインの調整をしてもよい。ただし、これは必須ではない。ゲインは、コントラスト前信号がゼロではなくてもダイナミックレンジの下端にあるように設定するのが好ましい。
【0060】
マイクロバブル剤のボーラス投与後、コントラスト信号強度は参照領域において急速に増加する。その後ピークに達し、その後コントラスト信号は血液プールからのマイクロバブルの除去により徐々に減少する(中期)。循環マイクロバブルが実質的に完全に参照領域から取り除かれた時点と定義される後期におけるコントラスト信号は、実質的にコントラスト前信号と同じである。
【0061】
同様の流入挙動-ピークに達するコントラスト信号の急増-が早期に2つの標的領域において認められる。図3(B)の例において、ピーク時のコントラスト信号強度は2つの標的組織領域(領域B、C)よりも参照領域(領域A)において高い。ただし、これは用いられる動的スケーリング法に対する必須の要求事項ではない。その後中期において標的領域のコントラスト信号は減衰する。この減衰は主に血液プールからのマイクロバブルの除去により生じる。上述のように、コントラスト信号が減衰する速度はいくつもの変数に依存し患者毎に異なる場合がある。
【0062】
標的罹患領域(領域C)内のコントラスト信号強度は非罹患領域(領域B)や参照領域(領域A)内のそれより遅く減衰することが分かる。これは罹患領域内の標的発現部位に蓄積したマイクロバブルの存在に起因する。これらのマイクロバブルは血液プール除去機序によってイメージング組織から取り除かれない。非罹患領域では標的は確認されず、当技術分野で認められた適切なマイクロバブルを用いた場合、マイクロバブルは蓄積されずにこの領域を自由に通過する。参照領域の定義に従って、マイクロバブルは参照領域には保持されない。
【0063】
イメージング研究が早期濃染(wash-in)ピークから後期に進むにつれて、罹患領域と非罹患領域とのコントラスト信号強度の差はより顕著になる。上述のように、標的結合マイクロバブルの存在によるコントラスト信号は(ガス交換によるマイクロバブルのシェル全体の収縮などの)物理力によるマイクロバブルの破壊により減衰する。この減衰は血液プールからの循環マイクロバブルの除去よりゆっくりと発生する。ただし、全ての領域のコントラスト信号強度が経時的にコントラスト前のベースラインに向かう(極めて後の時期)。
【0064】
画像に示された時間変動挙動は所謂「時間強度曲線」(TIC)の形で示すことができる。所定の領域内のコントラスト強度又はコントラスト信号強度が時間の関数としてグラフ化される。図4(A)、図4(B)には、非罹患領域(図4(A))及び罹患領域(図4(B))の時間強度曲線が示され、これらの時間強度曲線上に参照領域の時間強度曲線(点線)が重ねられている。図3に示されるコントラスト剤の流入・流出時期を示す以下の特定時点がx軸上に示されている:t-1(コントラスト前ベースライン)、t0(コントラストの投与)、t1(ピーク信号)、t2(中期の代表的時点)、t4(後期の代表的時点)、及びt5(極めて後の時期)。ここではt5が標的結合マイクロバブルによるコントラスト信号が完全に取り除かれる時点と定義されることに留意されたい。
【0065】
各領域の時間強度曲線は流入期において同様の挙動を示す、すなわち、コントラストが投与され次第コントラスト信号強度の上昇が始まりピーク(t1)に達する。この後t1とt3との間で信号強度が減衰する。血液プールからのマイクロバブルの除去はt3で終了し、その時点で参照領域内のコントラスト信号はベースラインに戻る。同様に本例では、非罹患領域内のコントラスト信号がt3でコントラスト前のベースラインに達する。しかしながら、罹患領域(図4(B))内のコントラスト信号はベースラインに達しない。その後この領域内のコントラスト信号は除去時期(t1~t3)より遅い速度で減衰する(t3~t5)。十分長い時間の後この領域内のコントラスト信号もベースラインに達する(t5)。
【0066】
本発明は参照領域内の瞬間コントラスト信号強度を用いて同じ時点の関心標的領域内のコントラスト信号をスケーリングすることを含む。これは、関心標的領域内のコントラスト信号強度を同じ時点の参照領域内のコントラスト信号強度で除算することにより最も簡単に達成できる。図3に示す例で、領域Aが参照領域となり、領域B、Cが疾患の存在が疑われる標的領域である。
【0067】
図4(A)、図4(B)の時間強度曲線の例に適用された動的スケーリング処理の対応する結果が図5(A)~図5(F)に示される。非罹患領域(領域B、図5(A))のグラフは、この領域にマイクロバブルが蓄積せずマイクロバブルがt1とt4の間でこの領域から除去されるため、経時的に減少する。
【0068】
関心罹患領域(領域C、図5(B))のスケーリングされたコントラスト信号強度はまったく異なる挙動を示す。スケーリングされた信号はt1とt4の間で増加する。
【0069】
図5(C)及び図5(D)のグラフには3つの顕著な特徴が認められる。罹患領域と非罹患領域の方向性の違いはすぐに明白である、すなわち、参照スケーリングされた信号は罹患領域では増加し非罹患領域では減少している。図5(E)、図5(F)には参照スケーリングされたコントラスト信号強度の瞬間勾配が示され、非罹患領域(図5(E))については(僅かに)負又はゼロの勾配が示され罹患領域(図5(F))については正の勾配が示されている。
【0070】
第2に、2つの領域の違いは参照領域のピーク信号と参照領域からの完全流出の間で(t1とt4の間で)検出できる。すなわち、動的スケーリング法は(後期だけでなく)幅広い時間窓にわたる関心罹患と非罹患領域との間のコントラスト信号の違いを判定するのに役立つ情報を提供する。
【0071】
第3に、参照領域のピーク信号(t1)とt1とt4の間の任意の時点の間のスケーリングされたコントラスト信号の平均勾配は、罹患領域(例えば、心筋)では正である。同じ時点間の平均勾配が非罹患領域では(本例では)ゼロ未満である。図5(G)、図5(H)にはt1とt4までの各時点の間の平均勾配がグラフ化されている。非罹患領域(図5(G))の平均勾配は平均が算出される期間がt1で始まる限り期間の長さとは関係なく負であることが分かる。罹患領域(図5(H))についてはその逆が正しい、すなわち、平均勾配は至る所で正である。
【0072】
これらの特性に基づいて、任意の関心標的領域において確認されるコントラストが循環マイクロバブルではなく標的結合マイクロバブルに起因するかどうかを確かめる確実かつ簡単な方法が提供される。
【0073】
この方法の一実施形態では、参照領域のピーク信号と除去の間のいくつかの時点で1つ又は複数の標的領域の参照スケーリングされたコントラスト信号強度を算出する。その後これらの値を領域毎にグラフ化し、各領域の信号が標的結合マイクロバブルによるものか非標的結合マイクロバブルによるものかを確かめるために曲線の形状を評価する。そのようにグラフ化された曲線が上向きである場合、標的結合マイクロバブルが存在すると結論付ける。曲線が下向きである、又は大部分が水平である場合、標的結合マイクロバブルは存在しないと結論付ける。一部の実施形態では、2、3、4、5、6、又はそれ以上の時点が方法の中で評価される。特定の実施形態では、5つの時点を方法の中で評価する。
【0074】
方法の一部の実施形態では、ピーク信号時点及びその後の関心時点において参照スケーリングされたコントラスト信号強度を算出し、これら2つの時点の間の平均勾配を算出する。平均勾配の差がゼロを上回る場合、確認された信号は標的結合マイクロバブルによるものであり、従って当該疾患が存在すると結論付ける。求められた差がゼロ又は負である場合、関心領域内への標的指向性マイクロバブルの摂取はないと結論付ける。
【0075】
診断の結論への信頼性を高めるためにピーク信号を達成した後2つ以上の時点でこの処理を繰り返してもよい。例えば、ピーク信号の1分後、3分後、及び5分後にコントラスト信号強度の差を算出しその結果を平均してもよい。
【0076】
ここに記載した動的スケーリング法を半又は完全自動化されたやり方で行ってもよい。また、この処理を超音波検査中に超音波スキャナ上で動作するソフトウェアを用いて、又は検査後にコンピュータのワークステーションで動作するソフトウェアを用いて実行してもよい。
【0077】
図5(G)、図5(H)から明らかなように、任意の時点とその後の時点の間の参照スケーリングされたコントラスト信号強度の差は、2つの時点が参照領域のピーク信号と参照領域からのマイクロバブルの除去の間にあるという条件で、罹患組織については正、非罹患組織については負(又はゼロ)である。同様に、この方法は中期において標的結合マイクロバブルの存在(不存在)を確定するのに特に有用である。
【0078】
この動的スケーリング法はまた、イメージング時点が一貫しているという条件で、標的指向性マイクロバブルの蓄積の異なる度合いを識別するのに適している。例えば、平均の参照スケーリングされた勾配が4である場合、それは同一のイメージング窓において参照スケーリングされた勾配が2である場合よりも標的指向性マイクロバブルの蓄積の度合いが大きいことを表している。従って、この方法は単に(標的指向性マイクロバブルの有無を確定することにより)疾患を検出するのに有用なだけでなく、疾患の重症度を評価するのにも有用である。一部の事例において、この特性は治療に対する患者又は患者群の反応を長期的に追跡するという文脈において有用である、又は疾患の重症度に基づいて治療に先立って患者を分類するのに有用である。
参照スケーリングされた画像の生成
【0079】
本発明はユーザに標的結合マイクロバブルの存在を効率的に判定できるようにする画像を生成する方法を含む。これを画像に対して動的スケーリングの概念を適用することにより達成してもよい。一部の実施形態では、これを画素毎に、又は画素群毎に行う。
【0080】
参照スケーリングされた画像を生成することは、標的指向性マイクロバブルの蓄積における空間的関係やばらつきを評価する際有用であり、例えば、関心標的領域内の標的指向性マイクロバブル信号の異質性が重要な情報を伝えると考えられる場合有用な場合がある。また、参照スケーリングされた画像の生成が定量的分析を解釈する際の有用な補助になる場合がある(時間強度グラフと平均勾配)。
【0081】
まず、この参照スケーリングされたコントラスト画像という概念を図3の簡易二次元画像セット上に示す。図6ではセットの各画像が再処理されており、新しい画素値が参照スケーリングされたコントラスト信号強度を表している。より具体的には、2つの標的領域について再スケーリングされた画像が示されており、括弧内の数値はスケーリングされたコントラスト信号強度を表している。非罹患領域(領域B)ではスケーリングされた信号が低くピーク信号と後期の間で減少していることが分かる。対照的に、罹患領域(領域C)では同じ期間において増加している。非罹患領域と罹患領域との違いは後期で最も大きい。ただし、違いはピーク信号と後期の間の全ての時点において明白である。
【0082】
参照スケーリングされた画像を生成する手順を、時系列の二次元画像について以下に説明する。ここで、画素はxとyの空間的次元と1つの時間的次元における座標により特定される。Ia、b(t)は時点tにおける位置a、bに位置する画素のコントラスト信号強度を表す。また、Iref(t)は時点tにおける参照領域のコントラスト信号強度を表す。イメージング視野内の各画素の参照スケーリングされたコントラスト信号強度I*a、b(t)は以下のように算出される。
I*a、b(t)=Ia、b(t)/Iref(t)
ケーリングされた画像は、画像内の画素毎にIa、b(t)をI*a、b(t)で置き換えることにより生成される。この処理は参照領域のピーク信号と関心領域内のコントラスト信号の完全な損失の間の一時点又は各時点で実行してもよい。
【0083】
スケーリングされた画像は、解釈を混乱させる場合のある患者個有の変数から独立して再現可能なやり方でコントラスト信号強度を表すのに有用である。そのため、治療処置の前後に患者の反応を評価する場合などに比較を行うのに有用である。また、度合いが低い場合のある標的指向性マイクロバブルの蓄積の可視化を向上させるのにも有用である。この文脈において、スケーリングされた画像を(図6に示されるような)時間シーケンスとして便利に示してもよい。画像の、標的指向性マイクロバブルの蓄積が発生した領域は経時的に増加する信号(I*a、b(t))を示し、他方、標的指向性マイクロバブルの蓄積が発生していない領域は減少する信号を示す。
【0084】
スケーリング手順は(例えば、同じイメージングフレーム内の)Ia、b(t)と同一の時点から算出されたIref(t)を用いて実行されるものとするというのが本発明の要求事項である。
【0085】
実際には、イメージング視野全体ではなく1つ又は複数の関心領域に対してのみ参照スケーリングを適用するのが便利な場合がある。例えば、スケーリング処理を参照領域及び病変が疑われる部位に対応する関心領域にのみ適用してもよい。スケーリングされた画像をコントラスト強度画像又は輝度(Bモード)画像上のオーバーレイとして便利に表示してもよい。細部を目立たせるためのカラーマップでオーバーレイを表示してもよい。例えば、標的の密度が低い場合、細部を目立たせた色で小さな差を表現してマイクロバブルの保持状態の変化の可視化を助けるようにカラーマッピング機能を選択してもよい。
【0086】
関係のない情報の目立った部分を減らすために、又は画像の重要な特徴を強調するために、追加の処理をスケーリングされた画像に施してもよい。例えば、空間的ドメインにおいて画像にローパスフィルタをかけてもよい。例えば、画像を定数乗算器(例えば、ゲイン係数)によりスケーリングしてもよい。例えば、画像を画素表示値の全範囲を利用するように正規化してもよい。
【0087】
実際に、一部の実施形態では、ピーク信号(t1)はマイクロバブルコントラスト剤のボーラス投与の1秒後と30秒後の間に発生する。実際、一部の実施形態では、コントラストの完全な除去(t5)が3分後と60分後との間で発生している。
【0088】
実際に、所定の画像データセットのフレーム毎よりも特定の時点でのみスケーリングされた画像を生成する方が便利な場合がある。例えば、代表的なスケーリングされた画像を10秒後、1分後、及び5分後に生成してもよく、標的指向性マイクロバブル保持の存在を評価するために参照スケーリングされたコントラスト信号強度の傾向を様々な標的領域で観察してもよい。
【0089】
動的スケーリング法を同じ方法で3次元画像に対して行ってもよいことは明らかである。この場合、スケーリングされる単位は空間的3座標(a、b、c)及び時間的次元(t)によって定義されるボクセルである。
【0090】
図19は、標的組織内の関心分子マーカーのレベルを決定するための参照スケーリングされた画像又は強度を用いた動的スケーリング時間変動式手順の典型的なフローチャートを示す。
【0091】
一部の実施形態では、動的スケーリング時間変動式手順は、経時的に標的組織の一連の画像を取り込み、前記画像内の、標的指向性コントラスト剤信号を有する関心領域を選び、前記画像内の、標的指向性コントラスト剤信号を有しないが循環コントラスト剤信号を有する関心参照領域を選び、前記参照領域の信号強度を用いて各時点における前記標的領域の信号強度をスケーリングし、前記異なる時点における前記標的組織の参照スケーリングされた画像又は強度を生成し、参照スケーリングされた前記画像又は強度を用いて前記標的組織内の関心分子マーカーのレベルを決定することを含む。
【0092】
特定の実施形態では、動的スケーリング時間変動式手順は線形化された音響出力の単位で実行される。特定の実施形態では、この手順は線形化された音響振幅の単位で実行される。特定の実施形態では、前記動的スケーリング時間変動式手順は更に動的にスケーリングされた前記画像又は動的にスケーリングされた前記画像の変化率に由来する比率画像を色分けすることを含む。特定の実施形態では、前記動的スケーリング時間変動式手順は更に動的にスケーリングされた前記画像にローパスフィルタをかけて平滑化を行うことを含む。特定の実施形態では、前記動的スケーリング時間変動式手順は更に動的にスケーリングされた前記画像を非線形に圧縮することを含む。特定の実施形態では、参照スケーリングされた前記信号強度は、前記参照領域のピーク信号と除去との間のいくつかの時点において1つ又は複数の標的領域内で算出される。特定の実施形態では、参照スケーリングされた前記信号強度はピーク信号及びその後の関心時点において算出され、前記2つの時点間の平均傾斜が算出される。
比率画像の生成
【0093】
本発明は、ここでは比率画像と呼ぶ第2の種類のスケーリングされた画像を生成する方法も含む。この場合、各画素の値は、スケーリングされたコントラスト信号強度が規定された期間に変化する比率を表す。
【0094】
比率画像は参照スケーリングされたコントラスト信号が変化する比率についての情報を伝えるものであり、一部の用途では一連のスケーリングされた画像より便利な場合がある。例えば、複数の患者間の相対的な違いを評価する際、患者当たり一枚の比率画像を比較する方が各患者の一連のスケーリングされた画像を比較するより好ましい場合がある。あるいは、一部の用途では、比率画像が参照スケーリングされた画像より高感度の、所望の情報を伝送するためのパラメータになりうる。
【0095】
図7図3に示されたイメージングデータセットに対応する比率画像を示す。ここで、各画像は、それぞれ負と正の比率を表す青と赤の濃淡に色分けされている。非罹患領域(領域B)が経時的に次第により青くなり、参照スケーリングされたコントラスト信号強度の一層負の比率を示しているのが分かる。対照的に、罹患領域(領域C)は経時的に次第により赤くなる。スケーリングされた比率画像、特に後期に取得されたものは、所定の空間的領域内の標的指向性マイクロバブルの蓄積の有無を示す簡単で便利な方法を提供する。 時点t=t2での比率I**a、b(t)は以下のように算出される。
I**a、b(t)=[I*a、b(t2)-I*a、b(t1)]/[t2―t1]
ここで、I*a、b(t)は時点tにおける画素(a、b)のスケーリングされたコントラスト信号強度、t1は参照領域のピーク信号が達成される時点、t2はt1と関心領域からのコントラストの除去の間の任意の時点である。
【0096】
比率画像は、画像の(標的結合マイクロバブル信号の領域を示す)スケーリングされたコントラスト信号強度が経時的に増加する領域を特定するのに有用である。比率画像は、標的結合マイクロバブルによるコントラスト信号強度が低い場合のある低標的発現の場合に特に有用である。
【0097】
スケーリングされた画像の文脈で説明した考察は比率画像にも当てはまる。例えば、比率画像を、比率の正、ゼロ、及び負の値が異なるカラーパレットにマッピングされた(例えば、正が赤、 ゼロが黒、 負が青)オーバーレイとして便利に表示してもよい。
【0098】
実際に、t1とt3(t1は参照領域内のピーク信号の時点と定義され、t3は参照領域内のコントラスト信号強度がコントラスト前のベースラインに戻る時点である)の間の任意の2つの時点の間でパラメトリックな比率画像を生成することは便利であるかもしれない。
【0099】
一実施形態では、比率画像を参照領域のピーク信号と完全流出の間の任意の2つの時点から得られた画像を用いて生成する。より好ましい実施形態では、比率画像を参照領域のピーク信号とその後の参照領域の完全流出前の任意の時点で得られた画像を用いて生成する。
実験
【0100】
標的指向性マイクロバブルの蓄積の可視化を向上させる動的スケーリング法の有用性を一時的心筋虚血のイヌモデルで評価した。左前下行冠状動脈の一時的な結紮を用いて短期の虚血及びその後の心筋の完全な再灌流をシミュレートした。この損傷は危険領域全体にわたってCD62の急激な発現を引き起こすため、これを急性虚血後損傷をイメージングするための分子イメージング標的として用いることが示唆される。CD62は他の細胞接着分子に比べて少ないコピー数で発現されることが知られている(McEver, 2001)ため、この実験はイメージング標的の密度が低い例を表している。この実験の更なる詳細を実施例7に示す。
【0101】
P-セレクチンを標的とするマイクロバブルを実施例6の方法に従って生成した。P-セレクチンに結合する組み換え型ヒトIgG融合タンパク質を標的指向化リガンドとして用い、ヒト、マウス、及びイヌのP-セレクチンの機能性をインビトロで確認した。
【0102】
動物に麻酔をかけ、その後近位左前下行冠状動脈を結紮することにより開胸虚血を施した。10分虚血した後、結紮を解除し心筋に再灌流させた。再灌流の30分後及び90分後に動的スケーリング法を用いて分子イメージングを行った。虚血の導入に先立って陰性対照として開胸動物もイメージングした。一部の動物には、無関係のIgG融合タンパク質を標的指向化リガンドとして調製した陰性対照マイクロバブルを投与した。
【0103】
マイクロバブルを静脈注射でボーラス投与した。イメージングを1分間隔で低MIで行った。同じ視野を5分のイメージング時間中維持した状態で左心室の短軸画像を得た。
【0104】
イメージングデータをオフラインで解析した。(潅流イメージングで輪郭が描かれる危険領域を含む)前心筋を囲むROI及び左室腔(参照領域)を描いた。各ROI内の平均コントラスト信号強度を音響振幅又は振幅出力の線形単位で算出した。
【0105】
イメージング終了後、LADの縫合糸を再度締め、危険領域の輪郭を描くためにフタロシアニンブルー溶液を心臓穿刺により投与した。その後動物を麻酔薬の過剰摂取により犠牲にし、撮影用に心臓を切除し、洗浄し、1センチまでの薄片にスライスした。
【0106】
虚血後及び健康な対照動物の両方にマイクロバブルを投与した後早期において同様のコントラスト増強パターンを確認した。コントラストの増強をマイクロバブル投与後10秒以内に左室腔内で視認でき、その後数心拍以内に心筋内で検出した(図8(A)、図8(B))。3分後及び5分後に虚血後の対照の心筋内で健康な対照と比べて若干高いコントラスト増強を確認した。5分後に左室腔内でコントラスト信号を視認できた(図8(C))。
【0107】
時間強度分析により虚血後の動物では投与の3分後及び5分後における持続したレベルのコントラスト増強が明らかになり(図8(D))、他方、健康な動物では3分後までにコントラスト信号強度がコントラスト前のベースライン近くまで戻った。
【0108】
本発明の動的スケーリング法を左室腔を参照領域とし心筋を標的領域として時系列の画像に対して行った。図9(A)、図9(B)に見られるように、虚血後動物ではイメージング期間中(マイクロバブル投与の1~5分後)参照スケーリングされた信号の増加を確認した。対照動物では同期間中参照スケーリングされた信号は若干減少した。分析を音響出力(図9(A))及び音響振幅(図9(B))の線形単位で実行した際同様の結果が見られた。
【0109】
この実験を5つの追加の動物において繰り返した。平均の参照スケーリングされた信号が虚血後の心臓ではコントラスト剤投与の1分後と5分後の間に一貫して増加し、健康な心臓では減少することが判明した(図10(A))。1分後と3分後の間(図10(B))及び1分後と5分後の間(図10(C))の参照スケーリングされた信号の平均勾配を算出した。どちらの場合も、勾配は虚血後心筋では正、非罹患心筋では負だった。
線形化
【0110】
好ましい実施形態では、動的スケーリング法をビデオモニターに表示される圧縮コントラスト強度にではなく線形コントラスト信号に対して行う。ここで定義される線形信号を用いることにより局部のマイクロバブル濃度とコントラスト信号強度との比例関係が維持される。
【0111】
コントラスト強度画像の線形化を、圧縮機能及びコントラスト強度画像の生成において施される任意の追加の後処理を逆にすることによって行ってもよい。
【0112】
一部の実施形態は、ここに記載された関心領域内のコントラスト信号強度を定量化する方法に従って被験者における疾患を検出する方法を提供する。前記方法は、1分-10分の間の時間に被験者内で視野をイメージングしかつ一連の画像をコンピュータ読み取り可能媒体に保存し、得られた前記時系列の画像に対して動的スケーリング時間変動式手順を実行し、ユーザに対しスケーリングされた画像シーケンス又は時間強度曲線などのスケーリングされた信号グラフを提供し、及びスケーリングされた前記信号の変化率に基づいて疾患を判定することを含む。一部の実施形態では、前記視野は心臓、腎臓、肝臓、胸部、腫瘍、前立腺などを含む。一部の実施形態では、前記視野は心臓を含む。特定の実施形態では、左室腔が参照領域であり、心筋が標的領域である。特定の実施形態では、動的スケーリング法を線形化されたコントラスト信号に対して実行する。
【0113】
上述のように、図11図12は虚血再灌流の90分後に生きたイヌに対して実行したイメージング研究を示す。虚血領域はエクスビボで染色によって特定した。損傷部位を示す代表的な短軸片(及び標的指向性マイクロバブルの蓄積が考えられる部位)が図11(C)に示されている。この場合の標的はCD62であり、CD62は確認された条件下で比較的少ないコピー数で発現する。
【0114】
図11の一番上の列(A)は、CD62を標的としたマイクロバブルの投与前及び投与後3時点における時系列の代表的な収縮末期短軸コントラスト強度画像を示す(標的指向性マイクロバブルの詳細を実施例6に示す)。この画像セット内の画素値は圧縮及び後処理の後に受信されたエコーを表し、また既存の超音波イメージング手法を用いてユーザに対して表示される信号である。心筋及び左室腔内のコントラスト信号が経時的に減少するのが分かるが、確認された信号が標的結合マイクロバブルによるものか循環マイクロバブルによるものかは判定できない。
【0115】
図11(B)は信号線形化後の同一信号を示す。この画像内の画素値は本発明に定義されたコントラスト信号強度を表し、局部のマイクロバブル濃度に比例する。心筋内の信号と左室腔内の信号の強度の大きな違いがこの画像セットにおいて明らかである。この線形画像ではユーザは心筋内の標的結合マイクロバブルの存在を評価できない。この領域内の信号が低いからである。そのため、線形画像は局部のマイクロバブル濃度を直接可視化できるようにするが、この場所における標的結合マイクロバブルの存在を特定するのには適していない。
【0116】
図11(D)は線形画像を動的スケーリングした後の同じ画像を示す。マイクロバブル投与の1分後に左室腔内には信号が認識されるが、心筋内には低い信号が確認されるか実質的に信号が確認されない。3分後に低い信号が罹患領域の前心筋内で認識され、5分後までにかなりの信号が確認される。この一連の画像はスケーリングされたコントラスト信号の増加傾向を示し、これは標的指向性マイクロバブルの存在を示している。動的にスケーリングされた画像シーケンスは、標的結合マイクロバブルによるコントラスト信号の存在を特定する確実で比較的簡単な手段を提供する。
【0117】
この実験を(例えば、CD62に対するマイクロバブルの保持を可能にしない標的指向化リガンドを用いて生成された)陰性対照マイクロバブルを用いて同じ動物において繰り返した。図12(A)に示されたコントラスト強度画像は、LV及び心筋内の信号が経時的に減少するという意味で図11(A)のものと同様に見える。
【0118】
図12(C)は線形化と動的スケーリングを行った後の同一の画像シーケンスを示す。全ての時点でLV内に信号が認識される。心筋内では極僅かな信号が確認され、またどの領域でも時間依存の増加は確認されない。動的にスケーリングされた表示により標的結合マイクロバブルが不在であることを確実に判定できる。
7.イメージング条件
【0119】
本発明は非破壊イメージング手法を用いる。非破壊イメージングは、超音波ビームによるマイクロバブルの破壊に起因するコントラスト信号の変化が10%以下になるという特徴を有する。
【0120】
本発明の実施によれば、参照領域内の信号は全ての時点において非ゼロである。これは、超音波スキャナのゲインをコントラスト前画像に存在するノイズがダイナミックレンジの下端にあるようなレベルに設定することにより最も便利に達成される。このゲインは、参照領域内のコントラスト前のコントラスト信号強度がフルダイナミックレンジの0.01%と5%の間であるように優先的に設定される。
【0121】
一部の実施形態では、本発明は時系列の各画像は直前の画像から独立しているものとすると規定する。これはパーシステンスなどの時間フィルタリングをしないで済ますことにより達成される。時間フィルタリング法は、例えば、US12/084933(Frinking他)に開示されているが、このような方法は本発明での使用に適していない。
【0122】
一部の実施形態では、本発明は一貫したイメージング視野の維持を規定する。これはパラメトリックな画像を生成するのに重要である。少なくとも2つの一貫した視野が要求され、第1の視野はピーク信号時点又はその直後であることが好ましく、第2の視野は参照領域からのコントラスト剤の除去時点又はその僅かに前である。好ましい実施形態では、各時点で複数の画像を取得し、最も良く整合したフレームを選択する。
【0123】
一部の実施形態では、本発明はコントラスト画像内では少数の画素しか飽和しない、又は実質的に全く画素が飽和しないと規定する。好ましい実施形態では、関心領域又は参照領域において5%未満の画素が飽和する。より好ましい実施形態では、前記部位において1%未満の画素が飽和する。最も好ましい実施形態では、前記部位において画素が飽和しない。これは本発明で説明したように調製したマイクロバブルを使用しかつ超音波システムゲインを設定する標準的な方法に従うことにより優先的に達成される。
【0124】
一部の実施形態では、本発明は標的分子が不在(すなわち、特異的結合が少ない又は存在しない)である場合マイクロバブルは蓄積が少ない、又は実質的に蓄積しないと規定する。好ましい実施形態では、全ての接着マイクロバブルの5%未満が非特異的な機序により保持される。より好ましい実施形態では、全ての接着マイクロバブルの1%未満が非特定的に保持される。これは本発明で説明したように調製したマイクロバブルを用いることにより優先的に達成される。
【0125】
超音波画像が取得される速度は(フレームレート)は本発明の用途に関連する。本発明を用いて標的結合マイクロバブルを検出する際(毎秒10、30、又はそれ以上のフレーム数の範囲の)高いフレームレートは要求されない。実際、以下の項目8に記載されるように調製したマイクロバブルを用いた場合、マイクロバブルが破壊される可能性があるため高いフレームレートは好ましくない。本発明の文脈では、毎秒10フレーム未満のフレームレートが望ましい。
【0126】
一部の場合では、生理学的トリガー(例えば、心臓をイメージングする際のECG上のゲイティング)を容易にするようにフレームレートを設定する必要がある場合がある。一部の場合では、毎分1フレーム(0.016Hz)取得するようにフレームレートを設定してもよい。一部の場合では平均する目的で、1分間隔で2、3、又は5画像取得するのが便利な場合がある。
【0127】
マイクロバブルコントラスト剤に対し高感度を有し組織信号を高度に拒絶するコントラスト別のイメージングモードを用いて画像を取得するのが好ましい。典型的なイメージングモードとして、どちらも低い機械的指標で(マイクロバブルに対し非破壊で)動作可能なコントラストパルスシーケンス(CPS)とパワーパルスインバージョンが挙げられる。
8. コントラスト剤(例えば、マイクロバブル)の調製に関する考察
【0128】
本発明の動的スケーリング分子イメージング法は、特定の特性を示すように調製されたマイクロバブルを用いて最も有利に実行される。マイクロバブルのサイズ分布、特に大きなマイクロバブルの存在は重要性が高い。また、マイクロバブルの薬力学が重要であり、非特異的な蓄積は最大限避ける必要がある。マイクロバブル製品に動的スケーリング分子イメージングで使用された際望ましい特性を発揮させるようにマイクロバブルの組成を選択してもよい。当業者はここに記載された方法のための、本発明の実施に基づいた任意の適切なコントラスト剤を容易に認識するであろう。
【0129】
例えば、上記の方法は、超音波イメージング上に参照領域内のマイクロバブル濃度の正確な表示を取得することを求める。また、この方法は非破壊イメージング法を用いて、好ましくは低い機械的指標で、行う必要がある。機械的指標が低いと超音波が組織を貫通する能力が制限されて深い組織が可視化できなくなる場合がある。循環マイクロバブルであろうと標的結合マイクロバブルであろうと、マイクロバブルが深い構造を陰で覆うのは望ましくない。一部の実施形態では、このことは、左室腔内の高濃度の循環マイクロバブルが事実上下壁を覆い隠しうる心臓イメージングの文脈において特に重要である。この問題はマイクロバブル製品を小さい直径を持つように調製することにより改善される場合があることが分かっている。一部の実施形態では、動的スケーリング法を用いる場合に0.1と2.0μmの間、0.2μmと2.0μmの間、0.3μmと2.0μmの間、0.4μmと2.0μmの間、0.5μmと2.0μmの間、0.6μmと2.0μmの間、又は0.7μmと2.0μmの間の個数平均直径を有するマイクロバブルが推奨される。また、調製の際の大型と小型のマイクロバブルの濃度は低くなくてはならない。好ましい実施形態では、直径が10μmを超えるマイクロバブルの個数濃度が1%未満である。より好ましい実施形態では、直径が8μmを超えるマイクロバブルの個数濃度が1%未満である。最も好ましい実施形態では、直径が5μmを超えるマイクロバブルの個数濃が1%未満である。
【0130】
本発明での使用に要求されるサイズ特性を達成するには、3つの成分からなるマイクロバブルシェルが必要である。第1の成分は、マイクロバブルの気体コアの周りにカプセル化バリアを形成するのに役立つシェル形成界面活性剤である。第2の成分は、その存在がマイクロバブルのサイズを調整するのに役立つ第2の界面活性剤である。第3の成分は、標的指向化リガンドをマイクロバブルシェルの外部表面に固定化するのに役立つ標的指向化構成体である。また各シェル成分はマイクロバブルの薬物動態学的挙動を調節することができる。これら3つのシェル形成成分のいずれかを欠いたマイクロバブルは本発明の文脈での使用に適していない。図13は本発明での使用に適した代表的な3つのシェル成分から成るマイクロバブルを示す。一部の実施形態では、標的指向性コントラスト剤は、シェル形成界面活性剤、第2の界面活性剤、及び標的指向化構成体を含むマイクロバブルである。
【0131】
シェル形成界面活性剤は、カプセル化された気体を安定化できかつ十分な可塑性を提供してマイクロバブルが低いMI超音波によって刺激された際非破壊的に振動できるようにする任意の両親媒性、生体適合性物質であってよい。実際に、一部のジアシルリン脂質がこれらの特性を提供する。特に、長さの炭素数が16と20の間の飽和ジアシルテールを有するホスファチジルコリンが有用である。
【0132】
タンパク質や合成ポリマーからなるシェル形成界面活性剤は硬質のシェルを提供する傾向があるため本発明の文脈では望ましくない。同様に、長いアシル鎖テール、特に20を超えるものを有するリン脂質は本発明での使用に望ましくない。
【0133】
ホスファチジルセリンなどの免疫細胞に対する非特異的なマイクロバブルの保持を促進することが知られているシェル形成界面活性剤は、本発明の文脈において好ましくない。
【0134】
正味電荷を提供しないシェル形成界面活性剤は好ましい。その点で、ホスファチジルコリン及びホスファチジルエタノールアミン、特にジステロイルホスファチジルコリンは有用である。荷電したリン脂質及び脂肪酸は本発明の文脈ではシェル形成脂質としての使用に適していない。本発明での使用に適していない典型的な物質として、1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP)、ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホセリン(DPPS)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-(1′-rac-グリセロール)(DSPG)、及び1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-リン酸(DSPA)が挙げられる。
【0135】
第2の界面活性剤の存在は、本発明の文脈において望ましい小径のマイクロバブルを優先的に安定化させるのに役立つ。マイクロバブルシェル内に強く固定でき親水性ポリマー基を備えた両親媒性物質は第2の界面活性剤として適している。頭部基がグラフトされたPEG脂質はこれらの特性を示しており、その点で有用である。特に、500と5000の間の平均分子量を有する頭部基がグラフトされたPEGを持つ(長さの炭素数が16と20の間の)飽和ジアシルホスファチジルエタノールアミンが好ましい。第2の界面活性剤を用いずに調製されたマイクロバブルは本発明の文脈では望ましくない。
【0136】
PEG(ステアリン酸PEG40)の脂肪酸エステルなどの一本鎖脂肪酸で固定された第2の界面活性剤はマイクロバブルシェル内に弱く固定されるため、本発明での使用には適していない。
【0137】
本発明での使用に適した標的指向化構成体は、脂質シェルへ挿入するための疎水性アンカー、リガンドとマイクロバブルシェルの間のスペイサの役割を果たす親水性部、及び対象とする分子標的へマイクロバブルを結合するための標的指向化リガンドを含む。標的指向化構成体はマイクロバブルが合成され次第シェルの中に組み込まれてもよく、調製後に無傷のマイクロバブルに挿入されてもよい。
【0138】
親水部が屈曲性高分子鎖を含む標的指向化構成体が好ましい。好ましい実施形態では、高分子鎖はポリエチレングリコール(PEG)である。一実施形態では、PEGの平均分子量は500と5,000の間である。より好ましい実施形態では、PEGの平均分子量は2,000である。
【0139】
標的指向化構成体のアンカーでの使用に適した疎水性部の例として、分岐及び非分岐アルキル鎖、環状化合物、芳香族残基、並びに縮合芳香族及び非芳香族環状系が挙げられる。一部の場合では、疎水性部はコレステロールや関連する化合物などのステロイドから成るであろう。好ましい種として、脂質、ステロイド、及び疎水性ポリアミノ酸が挙げられる。より好ましい実施形態では、アンカーは長さの炭素数が16~20の飽和ジアシルテールを有するホスファチジルエタノールアミンである。
【0140】
本発明での使用に適した標的指向化リガンドは、対象とする分子標的が発現されるイメージング標的内の部位へのマイクロバブルの確実かつ特異的な保持を媒介することができる生体物質又は合成物質である。抗体、複合糖質、ペプチド、融合組換えタンパク質、炭水化物、核酸、小分子などの多くの生体分子が、本発明の文脈において標的指向化リガンドとしての使用に広く適している。一部の場合では、標的指向化構成体の親水性スペイサへの抱合に適した部分を有する標的指向化リガンドを合成することが望ましい場合がある。 例えば、組換えタンパク質を末端システインで発現させてもよい。一部の場合では、化学架橋剤を用いて標的指向化リガンドを親水性スペイサに抱合させることが望ましい場合がある。
【0141】
血管の区画からのマイクロバブルの血管外漏出は不要な非特異的保持を引き起こす可能性があるため、本発明の文脈においては望ましくない。マイクロバブルのサイズ分布の下限は、マイクロバブルの血管外漏出の可能性を減少させるように注意深く調整しなくてはならない。好ましい実施形態では、エコー源性のマイクロバブルの10%未満が0.7μm未満の直径を有する。
【0142】
マイクロバブルシェルの組成は、任意の特定の用途に望ましいマイクロバブルのサイズ特性、薬物動態学的特性及び接着特性を得るために変更してもよい。上述のように、0.7と2.0μmの間の平均直径を有し、5μmを超える粒子の数量が1%未満であり、0.7μm未満のエコー源性粒子が10%未満であるマイクロバブルが本発明において望ましい。このようなマイクロバブルを以下の考察に従って調製してもよい。
【0143】
標的指向化構成体の(モル)密度は0.1%と5%の間であることが好ましい。アンカー分子の最適密度は、分子標的に対する標的指向化リガンドの親和性と関係している。リガンドの親和性が低い場合、標的指向化構成体の密度は上記範囲の上端であるのが好ましい。リガンドの親和性が高い場合、標的指向化構成体の密度が低くても許容可能かもしれない。
【0144】
第2の界面活性剤の(モル)密度は5%と25%の間であることが好ましい。第2の界面活性剤の最適密度は親水部のサイズと関係している。大きな親水部を有する第2の界面活性剤(例えば、DSPE-mPEG-5000)の場合、上記範囲の下端の密度が所望のサイズ範囲内でマイクロバブルを生成するのに適している場合がある。小さな親水部を有する第2の界面活性剤(例えば、DSPE-mPEG-500)の場合、より高い密度が要求される場合がある。
【0145】
シェル形成界面活性剤の(モル)密度は75%未満であってはならない。
【0146】
特定の実施形態では、マイクロバブルの気体コアは生理的温度で気体になるパーフルオロカーボンからなる。特に好ましい実施形態では、C3F8が気体コアとして用いられる。
【0147】
一部の実施形態は、動的スケーリング法で得られる時系列の超音波分子画像を解析することにより関心領域(ROI)内のコントラスト信号強度を定量化する方法を提供する。この方法は、疾患の標的分子マーカーの存在をイメージングするために被験者の標的組織にマイクロバブルなどの標的指向性コントラスト剤を投与し、動的な時間変動方式で血液プール内を循環するコントラスト剤の量を表す参照領域を選択し、選択された前記参照領域を含む前記標的組織をイメージングし、前記動的スケーリング時間変動式手順で罹患領域の強度を定量的に判定することを含み、前記標的指向性コントラスト剤は前記罹患領域内で発現される前記疾患分子マーカーに結合されるように構成される。特定の実施形態では、参照領域はマイクロバブルが極僅かに蓄積する又は全く蓄積しない領域と定義される。一部の実施形態では、前記標的指向性コントラスト剤は、0.1μmと 2.0μmの間、0.2μmと2.0μmの間、0.3μmと2.0μmの間、0.4μmと2.0μmの間、0.5μmと2.0μmの間、0.6μmと2.0μmの間、又は0.7μmと2.0μmの間の数量平均直径を有するマイクロバブルである。一部の実施形態では、前記標的指向性コントラスト剤は、0.7μmと2.0μmの間の数量平均直径を有するマイクロバブルである。一部の実施形態では、前記標的指向性コントラスト剤はマイクロバブルである。特定の実施形態では、前記標的指向性コントラスト剤は、表2の標的指向性マイクロバブルなどからなるグループから選択されるマイクロバブルである。
【0148】
一部の実施形態は、a.単一の視野を示す時系列の画像を提供し、b.1つ又は複数の関心領域及び1つ又は複数の対応する参照領域を選択し、c.参照スケーリングされた画像及び/又は参照スケーリングされた信号強度を生成し、前記関心領域及び参照領域は前記時系列における同じ時点に得られ、d.参照スケーリングされた前記強度の時間強度関係を定量的に判定するために前記時系列の画像の2つ以上の画像に対して(c)のスケーリング処理を実行することを含み、前記参照スケーリングされた信号は罹患領域では増加し非罹患領域では減少する、動的スケーリング時間変動式手順を提供する。特定の実施形態では、参照領域と関心領域について同期した別々の画像シーケンスが得られる。特定の実施形態では、動的スケーリング時間変動式手順は動的にスケーリングされた画像内の各画素の値を定数によりスケーリングすることを含む。特定の実施形態では、動的スケーリング時間変動式手順は線形音響出力の単位で実行される。特定の実施形態では、前記手順は線形音響振幅の単位で実行される。特定の実施形態では、動的スケーリング時間変動式手順は動的にスケーリングされた画像、又は動的にスケーリングされた画像の変化率に由来する比率画像を色分けすることを更に含む。特定の実施形態では、動的スケーリング時間変動式手順は動的にスケーリングされた画像にローパスフィルタをかけて平滑化を行うことを更に含む。特定の実施形態では、動的スケーリング時間変動式手順は動的にスケーリングされた画像を非線形に圧縮することを更に含む。特定の実施形態では、参照スケーリングされたコントラスト信号強度を、参照領域のピーク信号と除去との間のいくつかの時点で1つ又は複数の標的領域で算出する。特定の実施形態では、参照スケーリングされたコントラスト信号強度をピーク信号及びその後の関心時点で算出し、2つの時点間の平均勾配を算出する。
定義
【0149】
「マイクロバブル」とは、生体適合性シェルにより安定化され、超音波コントラスト剤としての使用に適した気体カプセル化球体を指す。このような薬剤は、当技術分野においてマイクロバルーン、ナノバブル、マイクロカプセルなどの多くの名称で知られている。マイクロバブルという用語の使用は、カプセル化された気体成分の存在が超音波コントラスト信号の生成を担うそのような任意の粒子を指す。
【0150】
「標的指向化リガンド」又は「リガンド」は、本発明の組成物とともにインビトロ又はインビボで組織、細胞、受容体、及び/又はマーカー基の標的化を促進する任意の材料又は物質を指す。ここで用いられる「標的」、「標的指向性」、及び「標的指向化」という用語は、標的指向化リガンド及びそれらを含む組成物が組織、細胞、及び/又は受容体と結合する、又はそれらに向けられる能力を指す。標的指向化リガンドは合成、半合成、又は自然発生のものであってよい。標的指向化リガンドの働きをする材料又は物質として、例えば、抗体、糖タンパク質、及びレクチンを含むタンパク質、ペプチド、ポリペプチド、単糖及び多糖を含む糖類、ビタミン、ステロイド、ステロイド類似体、ホルモン、補因子、生物活性剤、並びにヌクレオシド、ヌクレオチド、及びポリヌクレオチドを含む遺伝物質が挙げられる。
【0151】
「イメージング標的」、「標的受容体」、又は「分子標的」とは、疾患又は他の医学的に重要な状態の有無と相関関係がある細胞内の又は細胞の表面上の分子構造を指す。本発明の文脈では、イメージング標的はマイクロバブルコントラスト剤にとって接触可能である。典型的な種類のイメージング標的として、ペプチドホルモン用細胞表面受容体、神経伝達物質、抗原、補体フラグメント、ステロイドホルモン用免疫グロブリン及び細胞質受容体、並びにキナーゼ受容体が挙げられる。
【0152】
「動物モデル」は、実験的研究で用いられるヒト以外の生物と定義される。動物モデルには、マウス、ラット、カエル、ゼブラフィッシュ、非ヒト霊長類、ウマ、イヌ、ネコ、ブタ、及び昆虫が含まれるがそれらに限定されない。
【0153】
「非破壊イメージング」は、マイクロバブルコントラスト剤の可視化を当該薬剤の破壊を引き起こさずに可能にするように設計された超音波イメージングと定義される。一般に、これは低い(約0.30未満)機械的指標を用いることにより実現される。破壊イメージングと非破壊イメージングの違いはPorter他(2014)で考察されている。典型的な非破壊コントラストイメージング法はパワーパルスインバージョンとコントラストパルスシーケンス(CPS)である。
【0154】
「関心領域(ROI)」は、疾患の有無がイメージング法によって評価される超音波画像内の空間的に規定された領域と定義される。例として、心筋、腎皮質、及び動脈プラークが挙げられる。
【0155】
「標的組織」は、疾患の存在が疑われ、部位の存在及び範囲を評価するために超音波分子イメージングを用いることが予定されている解剖学的領域と定義される。標的組織は、疾患(罹患組織)の領域と正常組織の領域の両方を含んでいてもよい。
【0156】
「罹患組織」又は「罹患領域」は、関心疾患が存在しイメージング標的が非罹患組織内より高い標的密度で存在する生体組織又は臓器と定義される。
【0157】
「正常組織」又は「非罹患組織」は、関心疾患が存在せずイメージング標的が存在しないか罹患組織内より相当低い標的密度で存在する生体組織又は臓器と定義される。
【0158】
「参照領域」は、特異的又は非特異的機序によるマイクロバブルの保持が顕著な度合いで発生しないことが知られている空間的に規定された領域と定義される。参照領域は標的組織とは空間的に異なる。
【0159】
「スケーリングされた画像」又は「参照スケーリングされた画像」は、表示された画素値が同じ時点におけるコントラスト信号強度と適切な参照領域のコントラスト信号強度との商を表す超音波画像と定義される。スケーリングされた画像に定数を乗算してもよく、他の処理工程(例えば、ローパス空間フィルタリング)を施してもよい。
【0160】
「比率画像」は、表示された画素値がスケーリングされたコントラスト信号強度が所定の期間にわたって変化する比率を表す超音波画像と定義される。比率画像に定数を乗算してもよく、他の処理工程(例えば、ローパス空間フィルタリング)を施してもよい。
【0161】
「標的密度」又は「標的発現レベル」は、投与された超音波コントラスト剤にとって接触可能な標的分子の有効濃度と定義される。
【0162】
「コントラスト信号強度」は、関心領域内のコントラスト剤に由来するエコー信号の強度と定義される。特定の動作理論に縛られたくないが、コントラスト信号強度を、エコー出力、エコー振幅、RMS二乗振幅、又は手元のイメージング条件下で関心領域内のコントラスト剤の濃度に直接比例する他の任意の量で表してもよい。
【0163】
「コントラスト強度」又は「ビデオ強度」は、ビデオ表示装置上での表示用に処理を行った後の関心領域内のコントラスト剤に由来するエコー信号の強度と定義される。前記の処理には、ダイナミックレンジ圧縮、カラーマッピング、及び画像を診断に役立つものにする他の後処理調整が含まれる。
【0164】
ここで用いられる調製、組成、又は成分について「許容可能」とは、治療を受けている被験者の健康全般に対して持続的な有害作用を及ぼさないことを意味する。
【0165】
「担体」とは、細胞や組織への化合物の取り込みを容易にする比較的非毒性の化合物又は薬剤を指す。
【0166】
「希釈剤」とは、送達に先立って化合物を希釈するために用いられる化合物を指す。また、希釈剤はより安定した環境を提供することができるため希釈剤を用いて化合物を安定化させてもよい。当技術分野では(pH調節又は維持も提供可能な)緩衝液に溶解した塩が希釈剤として用いられるが、リン酸緩衝生理食塩溶液に限定されない。
【0167】
「被験者」又は「患者」は哺乳動物を包含する。哺乳動物の例には、以下の哺乳類綱が含まれるがこれらに限定されない:ヒト、チンパンジーなどの非ヒト霊長類並びに他の類人猿及びサル種;牛、馬、羊、山羊、豚などの家畜;ウサギ、犬、猫などの家畜;ラット、マウス、モルモットなどの齧歯類を含む実験動物。一実施形態では、哺乳動物はヒトである。
【0168】
特定の実施形態では、水性懸濁液は1つ又は複数のポリマーを懸濁剤として含む。ポリマーには、セルロース系ポリマー(例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース)などの水溶性ポリマー及び架橋カルボキシル含有ポリマーなどの非水溶性ポリマーが含まれる。本明細書に記載した特定の医薬組成物には、例えば、カルボキシメチルセルロース、カルボマー(アクリル酸ポリマー)、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリアクリルアミド、ポリカルボフィル、アクリル酸/アクリル酸ブチルコポリマー、アルギン酸ナトリウム、及びデキストランから選択される粘膜接着性ポリマーが含まれる。
【0169】
本明細書に記載した様々な実施形態又は選択肢の全てはあらゆるバリエーションで組み合わせ可能である。以下の実施例は単に本発明を説明するのに役立つものであり、いかなる風にも本発明を限定するものと解釈されるべきではない。
実施例
実施例1.脂質エマルジョンの調製
【0170】
マイクロバブルシェル形成成分を含むエマルジョンを以下のように調製した。50 mLの0.9%注射グレードNaCl(生理食塩水;Baxter社製)を、発熱物質を除去したガラスバイアルの中に置き、水槽の中で70℃に加熱した。生理食塩水に対し、100mgのジステロイルホスファチジルコリン(DSPC)、65mgのジステロイルホスファチジルエタノールアミン-PEG(2000)(DSPE-mPEG(2000))、及び5mgのDSPE-PEG(2000)-PDP(全て粉末形態、Avanti Polar Lipids社から購入)を添加した。脂質を20分間低出力超音波処理(Cole-Parmer社の超音波処理器CP-505を用いて9W)により可溶化した。超音波処理中、目に見える固体が存在しない状態で分散液が不透明から半透明に移行するのが確認された。
【0171】
マイクロバブルの生成に先立ち、エマルジョンを最大6時間空気のない状態で保存した。
【0172】
他の乳化法がこの方法の文脈において適切であることは当業者には明白であろう。
【0173】
上記の方法が上述の第8節で説明した考察に従って多様なリン脂質及びPEG-脂質種の取り込みを可能にするように修正できることは当業者には明白であろう。
実施例2.超音波処理による典型的なマイクロバブルの調製
【0174】
リン脂質シェルにカプセル化されたオクタフルオロプロパン(C3F8)気体コアを含むマイクロバブルを実施例1のエマルジョンから調製した。まず50mlのエマルジョンを70°Cに加熱し、その後C3F8ガス(純度99%;Fluoromed社製)を散布しながらマイクロバブルを高出力超音波処理(40Wで30秒)により生成した。この方法により1mL当たり最大4E9の濃度のデカフルオロブタンの脂質安定化マイクロバブルの、多分散で右に歪んだ分散液が生成された。得られたマイクロバブル分散液をその後室温まで冷却させた。マイクロバブルに取り込まれていないシェル形成材料を、当該分散液をC3F8ガスのヘッドスペースを持つ100 mLの密封したガラスバイアルの中で1000XG、15°Cで10分間遠心分離し(Allegra 6Rバケット遠心分離機; Beckman-Coulter社製)細い針で下澄液を回収することにより除去した。その後マイクロバブルを、生理食塩水中に300g/Lのグリセリンと300g/Lのプロピレングリコールを含有するpH5~6.5の緩衝液(生理食塩水/グリセリン/プロピレングリコール緩衝液)の中で1mL当たり2~4E9の濃度で再度懸濁させた。
【0175】
この方法で4ロットのマイクロバブルを生成した。各ロットのサイズ分布をエレクトロゾーンセンシング(Beckman-Coulter社製Multisizer IV)により評価した。数加重の平均値と中央値を表3に示す。
【表3】
実施例2のように調整されたマイクロバブルの特性

実施例3.振盪による典型的なマイクロバブルの調製
【0176】
マイクロバブルを調製する他の方法として、手動の振盪又は高速機械攪拌により脂質混合物の主要な相転移温度の周辺の温度でC3F8が充填された密封バイアルの中で実施例1のエマルジョンを攪拌する方法が挙げられる。高速機械攪拌法はマイクロバブルのサイズ及びサイズ分布を有効に調整できるため好適である。本実施形態では、機械式撹拌機を4550rpmで用いる。これにより、攪拌時間を10~60秒に規制することにより、得られたマイクロバブルを0.8~2μmの平均直径を有するように調整できる。
実施例4.典型的な標的指向性マイクロバブルの一工程調製
【0177】
まず、標的指向化構成体を、空気のない状態の室温で6時間チオール化環状RGDペンタペプチド(Peptides International社製)を等モルのDSPE-PEG(5000)-マレイミド(Avanti社製)と反応させることにより調製した。その後、サイズ排除クロマトグラフィーにより反応物からペプチド-PEG-脂質の標的指向化構成体を精製した。
【0178】
実施例1の方法により、脂質エマルジョンを2.0mg/mLのDSPC、1.0mg/mLのDSPE-mPEG(1000)、及び1.0mg/mLの前記ペプチド-PEG-DSPE標的指向化構成体からなる混合物から調製した。実施例2のように、この分散液を加熱し超音波処理によりマイクロバブルを調製した。
【0179】
同様の標的指向化構成体を様々な標的指向化リガンドを用いて調製してもよいことは当業者には明白であろう。例えば、Smeege他(2017)のようにヒトVEGFR2への特異性を有する二量体ペプチドをPEG-脂質アンカーに抱合させてもよく、その後実施例1に記載した乳化工程中に脂質-PEG-ペプチドを残存するシェル形成成分と混合してもよい。
実施例5.典型的な標的指向性マイクロバブルの2工程調製
【0180】
VCAM-1に対して特異性を有するヒト化モノクローナル抗体を0.1M酢酸ナトリウム緩衝液(pH5)の中で5mg/mLに濃縮し、その後室温で30分10 mM過ヨウ素酸ナトリウムと反応させた。その後抗体を新鮮な酢酸緩衝液に交換し、室温で1時間ヘテロ二官能性架橋剤PDPH(ピリジルジチオール及びヒドラジド)(5mM)を用いて培養した。その後抗体をゲルろ過(Zebaカラム)により10 mM EDTA、pH7.4のDPBSに精製した。この手順により、保護されたチオール基が優先的にFc領域に結合された状態で抗体が誘導体化された。
【0181】
実施例1の方法により脂質エマルジョンを2.0mg/mLのDSPC、1.0mg/mLのDSPE-mPEG(1000)、及び0.2mg/mLのDSPE-PEG(2000)-PDPからなる混合物から調製した。実施例2のように、この分散液を加熱しマイクロバブルを超音波処理により生成した。マイクロバブルを1mMトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン系還元剤(TCEP; Pierce社製)で培養して安定したPDP残留物を反応性スルフヒドリル形態に変換した。還元剤及び還元副産物を、マイクロバブルをDPBS/グリセリン/プロピレングリコール緩衝液の中で15℃で3回洗浄することにより除去した。その後マイクロバブルを最終容量1.0mLにおいて2E11μm/mLに濃縮した。5.0mgのPDPH抱合抗体を濃縮マイクロバブル分散液に加え、4℃で穏やかな端から端までの回転をするC3F8ヘッドスペースの下で密封ガラスバイアルの中で16時間反応させた。未反応の抗体を、10分間1000XGでマイクロバブルを遠心分離することにより除去した。その後マイクロバブルを2E9per mLに再濃縮し、C3F8ガスのヘッドスペースを有する3.0mLのガラスバイアルに保存した。
【0182】
マイクロバブル表面への抗体の抱合が成功したことをフローサイトメトリーにより確認した。5マイクロリットルのマイクロバブル分散液を室温で20分間FITC抱合抗ヒトIgGを用いて培養した。マイクロバブルを、アイソタイプコントロールを用いて培養されたマイクロバブルと比較してFITCの存在についてフローサイトメトリーにより解析した。
【0183】
多様な標的指向化リガンドがここで説明した方法でマイクロバブルの表面に抱合されうることは当業者には明らかであろう。例えば、VEGFR2の標的化を、Anderson他(2010)に記載されるように単鎖のヒトVEGFタンパク質をチオエーテル結合により抱合することにより達成してもよい。
実施例6.典型的なP-セレクチンを標的とするマイクロバブルの調製
【0184】
動的スケーリング分子イメージングによるP-セレクチンのイメージングに適したマイクロバブルを以下のように調製した。2.0mg/mLの18:0 DSPC(Avanti Polar Lipids社製、#850365)、1.3mg/mLのDSPE-mPEG(2000)(Avanti社製、 #880120)、及び0.5mg/mLのDSPE-PEG(2000)-PDP(Avanti社製 #880127)から、実施例1のようにエマルジョンを超音波処理により調製した。実施例2のように、分散液をC3F8ガスの存在下で加熱かつ超音波処理してマイクロバブルを生成し、その後洗浄した。この手順により1mL当たり2-4E9の濃度のC3F8の脂質安定化マイクロバブルの多分散分散液が生成された。その後マイクロバブルを室温で30分間4.0mMトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン(Thermo社製 #777720)の中で培養してPDPを反応性スルフヒドリルに変換し、その後3回洗浄して還元剤を除去した。その後マイクロバブルを室温で4時間その後4℃で12時間5モル当量のセレクチン結合標的指向化リガンドを用いて培養した。ここで用いられる標的指向化リガンドは、内在性ヒトP-セレクチン結合糖タンパク質の細胞外部に融合したヒトIgG1 Fcドメインからなる組換えタンパク質である。チオエーテル結合によってマイクロバブル表面へ抱合できるように反応性マレイミド基(SMCC; Thermo社製 #22360)を用いて標的指向化リガンドを調製した。抱合後、マイクロバブルを3回洗浄して遊離リガンドを除去し、C3F8ガスのヘッドスペース下の4℃で最大3カ月保存した。このようなロットを3つ調製し、以下に説明するように解析した。
【0185】
シェルの組成を逆相HPLCにより評価した。シェル形成界面活性剤(DSPC)が87.7%(モル)、第2の界面活性剤(DSPE-mPEG(2000))が8.2%、及び標的指向化構成体(DSPE-PEG(2000)-リガンド)が4.0%を構成した。サイズ分布をエレクトロゾーンセンシングにより評価した。数量では、マイクロバブルはそれぞれ1.4μmと1.2μmの平均直径と中間直径を示した。全マイクロバブルの0.3%は直径が5μm超であり、7.3%は直径が0.7μm未満だった。代表的なサイズ分布を図14に示す。
【0186】
マイクロバブルのイヌのP-セレクチンへの特異的接着を静的接着アッセイにより評価した。初代イヌ内皮細胞(CnAEC; Cell Applications社製)を96又は24ウェルプレートでほぼコンフルエントになるまで増殖させた。実験の日、3時間LPS(最終濃度100ng/mL)で培養することにより細胞を刺激してP-セレクチンを発現させた。マイクロバブルを1mL当たり1x10のマイクロバブル濃度に希釈し、40μLのアリコートを各ウェルに添加した。プレートをマイクロバブルが細胞と接触できるように5分間逆さにし、その後100μLの培養液で3回すすいだ。細胞単層膜に結合したままのマイクロバブルの数をウェル毎に10視野において透視顕微鏡(Zeiss Axioskop社製、x200)で判定し、n=4ウェルを各条件について測定した。陰性対照として、ウェルを20μg/mLの組み換えヒトPSGL-1で前処理してセレクチン媒介結合をブロックした。P-セレクチンブロッカー(視野毎に2~3マイクロバブル)で前処理された無刺激細胞又は刺激細胞上よりも約10倍のマイクロバブル(視野毎に>30)がLPS刺激単層上に結合されているのが確認された。
【0187】
そのように調製されたマイクロバブルが動的参照スケーリング分子イメージングで使用されるための基準を満たすことは上述の説明から明らかだろう。
【0188】
実施例7で説明されるように、本例で調製されたマイクロバブルを用いてイヌ心筋内の急激な再灌流損傷をイメージングした。
実施例7:イヌ心筋におけるP-セレクチンのイメージング
【0189】
標的指向性マイクロバブルの蓄積の可視化を向上させる動的スケーリング法の有用性を一時的心筋虚血のイヌモデルにおいて評価した。左前下行枝の一時的結紮を用いて短期虚血をシミュレートした。この損傷は危険領域全体にわたってCD62の急激な発現を引き起こすため、これを分子イメージング標的として用いることが示唆される。CD62は他の細胞接着分子に比べて少ないコピー数で発現されることが知られている(McEver, 2001)ため、この実験はイメージング標的の密度が低い例を表す。
【0190】
実施例6のようにP-セレクチンを標的としたマイクロバブルを調製した。3ロットのマイクロバブルを調製し本例のインビボイメージング実験で使用した。
【0191】
6匹の成体の雄のビーグルをインビボのイメージング実験で用いた。動物に麻酔をかけ、その後近位左前下行冠状動脈を結紮することにより開胸虚血を施した。虚血領域を非標的指向性マイクロバブル(Targestar-P; Targeson社製)を用いて心筋潅流イメージングにより評価した。10分虚血した後、結紮を解除し心筋に再灌流させた。P-セレクチンを標的とするように調製したマイクロバブルを用いた分子イメージングを再灌流して30分及び90分の時点で実行した。虚血の導入に先立ち陰性対照として開胸動物もイメージングした。一部の動物には、無関連のIgG融合タンパク質を標的指向化リガンドとして調製された陰性対照マイクロバブルを投与した。
【0192】
超音波イメージングを2.0 MHzの中心周波数で動作する4V1cプローブを用いてSequoia c512(Siemens Medical Solutions社製)上で行った。ダイナミックレンジを60 dBに設定し、後処理環境をS1/0/0/7とし、機械指標を0.17と0.23の間とした。Cadence社のCPSを用いてコントラストイメージングを実行した。
【0193】
マイクロバブルを1kg当たり4E7マイクロバブル(1投与量当たり最大300μL)のボーラスとして投与し、その後10mLの生理食塩水をフラッシュした。5分の期間に1分間隔で低MIのイメージングを行った。5分のイメージング期間中同じ視野を維持した状態で短軸画像を取得した。
【0194】
イメージングデータをオフラインで解析した。(潅流イメージングにより輪郭を描かれた危険領域を含む)前心筋を取り巻くROI、(危険領域から離れた)側壁、及び左室腔が描写された。各ROI内の平均コントラスト信号強度を音響振幅又は音響出力の線形単位で算出した。各データポイントについて4つの収縮末期フレームを平均した。
【0195】
イメージング終了後、LADの縫合糸を再度締め、危険領域の輪郭を描くためにフタロシアニンブルー溶液を心臓穿刺により投与した。その後動物を麻酔薬の過剰摂取により犠牲にし、撮影用に心臓を切除し、洗浄し、1cm以下の薄片にスライスした。
【0196】
虚血後と健康な対照動物の両方でマイクロバブル投与後の早期に同様のコントラスト増強パターンが確認された。コントラスト増強がマイクロバブル投与から10秒以内に左室腔内で見られるようになり、その後数心拍以内に心筋内で検出された(図8(A)、図8(B))。3分後と5分後に健康な対照と比べて虚血後の対照で心筋内において若干大きなコントラスト増強が確認された。5分後に左室腔内でコントラスト信号が見えるようになった(図8(C))。
【0197】
時間強度分析により虚血後動物では投与の3分後及び5分後に持続的レベルのコントラスト増強が明らかになり(図8(D))、他方、健康な動物では3分後までにコントラスト信号強度がコントラスト前のベースライン近くまで戻った。
【0198】
本発明の動的スケーリング手順を、左室腔を参照領域とし心筋を標的領域として時系列の画像に対して行った(図9)。虚血後動物ではイメージング期間において(マイクロバブル投与後の1~5分)参照スケーリングされた信号の増加が確認された。対照動物では同期間において参照スケーリングされた信号は若干減少した。解析を音響出力(図9(A))及び音響振幅(図9(B))の線形単位で実行したとき同様の結果が見られた。
【0199】
この実験をn=5の動物で繰り返した。平均化された参照スケーリングされた信号が、虚血後の心臓ではコントラスト剤投与の1分後と5分後の間で一貫して増加し健康な心臓では減少することが分かった(図10(A))。1分後と3分後の間(図10(B))及び1分後と5分後の間(図10(C))の参照スケーリングされた信号の平均勾配を算出した。いずれの場合でも、勾配は虚血後心筋については正、非罹患心筋については負だった。
実施例8:典型的なマイクロバブルの調製
【0200】
リン脂質シェルにカプセル化されたオクタフルオロプロパンの気体コアからなるマイクロバブルを以下のように調製した。100mgの脂質DSPC(Avanti社製)、50mgのPEG-40ステアリン酸(Sigma社製)、及び1mgのDSPE-PEG-2K-PDP(Avanti社製)から実施例1の方法に従ってエマルジョンを調製した。その後C3F8ガスの存在下で超音波処理によりマイクロバブルを調製した。HPLCで評価したシェルの組成はDSPC(第1の界面活性剤)が75%、PEG40S(第2の界面活性剤)が24%、DSPE-PEG(2000)-PDP(標的指向化構成体)が1%だった。その後、実施例5のように、マイクロバブルをP-セレクチンを認識した組換えタンパク質に抱合させた。この調製により、エレクトロゾーンセンシングにより評価される多分散の右に歪んだ分散液が生成された。数加重の平均直径と中央値径はそれぞれ2.7μmと2.6μmだった。マイクロバブルの2.7%は直径が5μm超だった。
【0201】
第2の実験において、リン脂質シェルにカプセル化されたオクタフルオロプロパンの気体コアからなるマイクロバブルを実施例6の組成を用いて調製した。その後マイクロバブルを、3分間PBSを入れたバイアルの中で沈殿させ、分散液の底部50%を除去し廃棄した。バイアルの容量を新鮮なPBSで補充し、上記の手順を更に3回繰り返した。この手順により小径のマイクロバブルの大部分が取り除かれ、大径のマイクロバブルの中に濃縮した調製物が残った。濃縮した分散液の平均直径と中間値径はそれぞれ2.3μmと2.1μmだった。マイクロバブルの2.16%は直径が5μm超だった。
【0202】
本例で調製したマイクロバブルを用いて実施例7で説明したようにイヌ心筋内の急性再灌流損傷をイメージングした。両調製物とも投与後の少なくとも最初の1分間後部心筋を顕著にシャドーイングしたことが分かった(図15(A)~図15(C))。また、左室腔の内部はシャドーイングにより不均質だった。これにより動的スケーリング法が使用できなくなった。標的領域(後部心筋)を可視化できず、参照領域(左室腔)がシャドーイングにより信号落ちを示したからである。対照的に、実施例6のように調製したマイクロバブルは動的スケーリング分子イメージング(実施例7)に適していることが分かった。
実施例9:ヒトの心筋における急性虚血再灌流損傷のイメージング
【0203】
本発明の動的スケーリング分子イメージング法は、冠動脈疾患を患う患者に一般に発生する急性虚血再灌流損傷の検出に有用である。 この場合、この状態において微小血管内皮上にアップレギュレートされるP-セレクチン(CD62)(Jones他, 2000;Thomas他, 2010)を分子イメージング標的として用いてもよい。マイクロバブルを、特異的にCD62と結合する標的指向化リガンドを用いて調製した。適切なマイクロバブルが特定の実施例6に開示されている。
【0204】
本例では説明を簡単にするために左の心臓の簡易短軸図を用いる。図16に示すように、心臓は以下の3つの領域に分かれている:A)左室内腔、B)虚血から離れCD62がアップレギュレートされていない心筋領域、及びC)一時虚血にさらされCD62がアップレギュレートされた心筋領域。
【0205】
図16の下の図は、P-セレクチンを標的としたマイクロバブル調製物を投与後の一連のコントラスト超音波画像を示す。各領域内の数値は灰色の度合いで表されるコントラスト信号強度を示す。マイクロバブルの投与前は(コントラスト前)、コントラスト信号は全ての領域で一様に低い。マイクロバブルの投与後、コントラスト信号は画像の全ての領域で増加しピークを達成する;左室腔内のピーク信号はこの領域の血液(従ってコントラスト材料)の密度がより高いために周囲の心筋内より著しく高い。その後コントラスト信号はマイクロバブルが血液プールから除去されるにつれて減衰する。
【0206】
心筋の標的罹患領域内のコントラスト信号強度は非罹患領域や左室腔内よりもゆっくりと減衰する。これは罹患領域内のP-セレクチン発現部位に蓄積したマイクロバブルの存在によるものである。標的は非罹患領域では確認されず、マイクロバブルが項目7で説明した考察に従って調製されたとすると、マイクロバブルは蓄積せずにこの領域を自由に通過する。同様に、マイクロバブルは左室腔内に保持されない。左室腔の内部がこのイメージング研究のために本発明の文脈で用いられる参照領域の働きをすることは明らかである。
【0207】
図17は本例のために導出された時間強度曲線を示す。図17(A)(線形目盛)にはコントラスト信号強度がグラフ化されており、心筋の虚血後領域と非虚血領域の差が最小限であることは明らかである。図17(B)には参照スケーリングされた信号がグラフ化されており、2つの心筋領域の違いは容易に目に見える。t=60秒とt=90秒、t=180秒及びt=300秒との間の参照スケーリングされた信号の平均勾配が図17(C)にグラフ化されている。虚血後領域内の平均勾配が経時的に増加し、他方、非虚血領域の勾配はゼロのままか僅かに負であることが分かる。
【0208】
図17(D)には参照スケーリングされた画像が示されている。3つの領域のそれぞれにおける数値は参照スケーリングされたコントラスト信号強度を表している。再度色分けされた各領域はスケーリングされたコントラスト信号強度を表している。スケーリングされたコントラスト信号強度は虚血後領域内で経時的に増加し、その他の領域では一定のままか僅かに減少していることが分かる。
【0209】
図17(E)は比率画像を示している。ここで、各領域内の数値は、参照スケーリングされたコントラスト信号強度がピーク強度と現時点の間で変化した比率を表している。比率は標的指向性マイクロバブルの蓄積が発生する領域内では全ての時点で正、その他の領域では負であることが分かる。また、罹患領域と非罹患領域との差が経時的に増大している。
実施例10:ヒトにおける虚血後腎臓損傷の検出
【0210】
本発明の方法は、腎臓移植の文脈で発生する場合がある腎臓内の虚血再灌流損傷の検出に有用である。この場合、内皮接着分子VCAM-1が疾患の分子マーカーの働きをする(Hoyt他, 2015)。虚血後損傷は限局性ではなく腎臓全体に関わり、VCAM-1のアップレギュレーションは腎皮質全体に期待される。従って、本例では腎皮質が標的領域となり、腎静脈を参照領域として用いることができる。
【0211】
(特定の実施例4及び実施例5に記載した方法を用いて調製した)VCAM-1標的マイクバブルを、虚血後腎臓損傷を患っている疑いのある患者に静脈投与した。マイクロバブルの投与後0~15分にわたり非破壊超音波コントラストイメージング法を用いて腎臓をイメージングした。全イメージング期間にわたり腎実質及び主腎静脈の代表的断面を囲む単一の視野を取得し維持した。
【0212】
イメージング期間中1分間隔でコントラストモード画像を選択した。画像を線形化し、腎静脈の内腔内の平均コントラスト信号強度を画像毎に算出した。(腎皮質を含む)腎実質内の画素を各画像における参照コントラスト信号強度でスケーリングして時系列の参照スケーリングされたコントラスト信号強度画像を生成した。
【0213】
一連の画像を吟味し、標的領域内のスケーリングされた信号の傾向を評価した。標的領域内の増加傾向は虚血後損傷についての肯定的な知見を構成し、他方、負又はゼロの傾向は否定的な知見を構成している。
実施例11:ヒトにおける不安定なアテローム性動脈硬化性プラークの検出
【0214】
本発明の方法は、不安定なアテローム性動脈硬化疾患の文脈で発生する場合のあるプラーク内炎症の検出に有用である。この場合、細胞接着分子JAM-Aが疾患の分子マーカーの働きをする(Zhang他, 2016)。本例では、頸動脈内で発見されたアテローム性動脈硬化性プラークの本体が標的領域であり、プラークの遠位にある頸動脈の内腔が参照領域となりうる。
【0215】
(特定の実施例4及び5の方法によりヒト化JAM-A結合抗体を用いて調製された)標的指向性マイクロバブルを、不安定なアテローム性動脈硬化症を患っていることが疑われる患者に対して静脈投与した。マイクロバブル投与後0~15分にわたり非破壊コントラスト超音波イメージング法を用いて頸動脈の一部をイメージングした。全イメージング期間にわたりプラーク及びプラークのない血管部分を含む単一の視野を取得し維持した。
【0216】
イメージング期間中3分間隔で収縮末期コントラストモード画像を選択した。画像を線形化し、参照領域及び標的領域内の平均コントラスト信号強度を画像毎に算出した。各時点で3つの収縮末期画像について平均コントラスト信号強度を判定し、結果を平均した。各時点について標的領域の平均コントラスト信号強度を参照領域のそれで除算し、商を時間の関数としてグラフ化した。
【0217】
一連の参照スケーリングされた時間強度曲線を吟味し、標的領域内のスケーリングされた信号の傾向を評価した。標的領域内の増加傾向は虚血後損傷についてのポジティブな知見を構成し、他方、負又はゼロの傾向はネガティブな知見を構成している。
実施例12:卵巣病変の特定
【0218】
本発明の方法は悪性が疑われる卵巣病変の評価に有用である。この場合、血管新生促進受容体型チロシンキナーゼVEGFR2が疾患の分子マーカーの働きをする(Willmann他, 2017)。本例では、卵巣内の病変部位がB-mode超音波により特定され標的領域となり、体積のある大腿の骨格筋が参照領域となる。
【0219】
(特定の実施例4及び実施例5に記載した方法を用いて調製した)VEGFR2を標的とする指向マイクロバブルを、卵巣の悪性腫瘍の疑いのある患者に対して静脈投与した。マイクロバブル投与後0~10分にわたり非破壊コントラスト超音波イメージング法を用いて病変を含む卵巣領域をイメージングした。また、同じ期間に第2の超音波トランスデューサーを用いて大腿の骨格筋の断面をイメージングした。
【0220】
マイクロバブル投与の1分後と10分後に卵巣及び骨格筋のそれぞれから1つの収縮末期コントラストモード画像を選択した。画像を線形化し、画像毎に参照領域及び標的領域内の平均コントラスト信号強度を算出した。2つの時点のそれぞれにおける標的領域の平均コントラスト信号強度を参照領域のそれで除算し、平均勾配を算出した。
【0221】
参照スケーリングされたコントラスト信号強度の平均勾配を吟味し、卵巣病変内への標的指向性マイクロバブルの取り込みの存在を評価するために用いた。正の勾配はマイクロバブルの確実な蓄積の証拠と見なされ、従って病変が悪性である可能性と見なされる。ゼロ又は負の勾配はマイクロバブルの蓄積がない証拠となろう。
実施例13:ヒトにおける悪性乳房病変の特定
【0222】
本発明の方法は悪性腫瘍が疑われる乳房病変の評価に有用である。この場合、血管新生促進受容体型チロシンキナーゼVEGFR2が疾患の分子マーカーの働きをする(Willmann他, 2017)。本例では、乳房内の病変がB-mode超音波により特定され標的領域となり、左心室の内部が参照領域になる。
【0223】
(特定の実施例4及び実施例5に記載された方法を用いて調製した)VEGFR2を標的とするマイクロバブルを、乳房の悪性腫瘍を患っている疑いのある患者に静脈投与した。マイクロバブル投与後0~18分にわたり病変を含む乳房領域を非破壊コントラスト超音波イメージング法を用いてイメージングした。また、同じ期間、左室腔を第2の超音波トランスデューサーを用いて同様にイメージングした。
【0224】
マイクロバブル投与の1分後と10分後に乳房及び左室腔のそれぞれから1つの 収縮末期コントラストモード画像を選択した。画像を線形化し、画像毎に参照領域及び標的領域内の平均コントラスト信号強度を算出した。2つの時点のそれぞれにおける標的領域の平均コントラスト信号強度を参照領域のそれで除算し、平均勾配を算出した。
【0225】
参照スケーリングされたコントラスト信号強度の平均勾配を吟味し、乳房病変内への標的指向性マイクロバブルの取り込みの存在を評価するために用いた。正の勾配はマイクロバブルの確実な蓄積の証拠と見なされ、従って病変が悪性である可能性と見なされる。ゼロ又は負の勾配はマイクロバブルの蓄積がない証拠となろう。
【0226】
ここに記載されるように算出した勾配が診断の役に立たないと判断された場合、(例えば、勾配が悪性腫瘍を有する他の患者において確認された勾配強度に比べてほんの僅かに正である場合)、この処理を後の時点で繰り返す。この場合、平均の参照スケーリングされた勾配を1分後及び15分後に取得した画像を用いて算出する。
実施例14:ヒトにおける血管新生療法に対する反応の評価
【0227】
本発明の方法は、例えば、末梢血管疾患の治療における、血管新生促進療法に対する患者の反応を評価するのに有用である。この場合、インテグリンαvβ5が陽性の血管新生反応の分子マーカーになりうる(Leong-Poi他, 2005)。所望の血管新生反応が微小循環のレベルで発生するため、足の骨格筋の代表的断面を標的領域として用いることができる。大腿動脈の内腔を参照領域として用いてもよい。
【0228】
(特定の実施例4及び実施例5に記載された方法を用いてペプチド標的指向化リガンドを用いて調製した)αvβ5インテグリンを標的とするマイクロバブルを、血管新生促進治療を含む治療過程で末梢動脈疾患を患っている疑いのある患者に静脈投与した。マイクロバブル投与後0~6分にわたり非破壊超音波コントラストイメージング法を用いて足をイメージングした。全イメージング期間にわたり骨格筋及び主な大腿動脈の代表的断面を囲む単一の視野を取得し維持した。
【0229】
マイクロバブル投与の1分後及び6分後に1つのコントラストモード画像を選択した。画像を線形化し、1分後と6分後の間の参照スケーリングされたコントラスト信号強度の勾配を算出した。このデータを用いて、骨格筋領域内の画素が再度色付けされて参照スケーリングされたコントラスト信号強度の勾配を表わす比率画像を生成した。
【0230】
このイメージング手順を治療の過程で定期的に、例えば、(治療開始の)5日前、5日目、15日目、30日目、60日目、及び120日目に、繰り返した。
【0231】
患者の治療レジメンの有効性を確かめるために、治療の過程で得られた一連の比率画像を吟味した。正の比率を示す標的領域の面積の付随的増加を伴う治療中の比率の増加傾向は治療効果についての肯定的知見と見なされる。増加傾向がないこと又は治療中のどの時点にも正の比率を示す意味のある骨格筋領域がないことは治療の失敗の証拠と見なされ、治療レジメンの変更が保証されるべきことを示唆している。
【0232】
図18は患者における血管新生療法に対する反応をイメージングする簡易な例を示す。標的領域(筋肉)と参照領域(隣接する動脈の内腔)がそれぞれ四角と円で表されている。図18(A)、18(B)は、順調な血管新生反応を示す患者(A)と血管新生反応を示さない患者(B)のコントラスト信号強度画像と対応する比率画像を示す。比率画像では、全ての負の比率値が値0を割り当てられ黒にカラーマッピングされている。正の比率値は白までの灰色の増加する濃淡にマッピングされている。
【0233】
図18(C)、図18(D)、図18(E)は血管新生促進療法の過程の各日に得られた一連の比率画像を示す。画像は治療に対して強い反応を示す患者(図18(C))、中間の反応を示す患者(図18(D))、及び乏しい反応を示す患者(図18(E))に対して予測される知見を表す。
【0234】
本発明の好適な実施形態をここで図示及び説明してきたが、このような実施形態は単に例示目的で示されていることは当業者には明白であろう。本発明から逸脱しない限り数多くの変形物、変更、及び代用物が当業者にとって発生しよう。ここに記載した本発明の実施形態への種々の代替物が本発明を実施する際採用される場合があることを理解すべきである。以下の請求項が本発明の範囲を定義しそれらの請求項の範囲内の方法や構造及びその均等物が本発明の範囲に含まれることが意図されている。
図1
図2
図3
図4
図5-1】
図5-2】
図5-3】
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17-1】
図17-2】
図18
図19
【国際調査報告】