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特表2022-513579プログラニュリン関連障害を処置及びモニタリングするための方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-09
(54)【発明の名称】プログラニュリン関連障害を処置及びモニタリングするための方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20220202BHJP
   G01N 33/92 20060101ALI20220202BHJP
   A61K 49/00 20060101ALI20220202BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220202BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20220202BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20220202BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20220202BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20220202BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20220202BHJP
   C12Q 1/06 20060101ALI20220202BHJP
   C07K 14/47 20060101ALN20220202BHJP
【FI】
G01N27/62 V
G01N27/62 C
G01N27/62 X
G01N33/92 Z
A61K49/00
A61K45/00
A61P27/02
A61P25/28
A61P25/16
A61P9/10 101
A61P1/16
C12Q1/06
C07K14/47 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021521044
(86)(22)【出願日】2019-10-15
(85)【翻訳文提出日】2021-05-17
(86)【国際出願番号】 US2019056351
(87)【国際公開番号】W WO2020081575
(87)【国際公開日】2020-04-23
(31)【優先権主張番号】62/746,293
(32)【優先日】2018-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/884,492
(32)【優先日】2019-08-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518086619
【氏名又は名称】デナリ セラピューティクス インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Denali Therapeutics Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】アスタリータ ジュゼッペ
(72)【発明者】
【氏名】デヴォス サラ エル.
(72)【発明者】
【氏名】ディ パオロ ギルバート
(72)【発明者】
【氏名】ローガン トッド ピー.
(72)【発明者】
【氏名】ワン ジュンファ
【テーマコード(参考)】
2G041
2G045
4B063
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041EA04
2G041EA06
2G041FA10
2G041FA12
2G041GA09
2G045AA25
2G045CA25
2G045CA26
2G045CB01
2G045CB03
2G045CB07
2G045CB30
2G045DA61
2G045FA36
2G045FB03
2G045FB06
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QQ70
4B063QQ72
4B063QR45
4B063QR46
4B063QR72
4B063QR77
4B063QS36
4B063QX01
4C084AA16
4C084NA20
4C084ZA02
4C084ZA15
4C084ZA16
4C084ZA33
4C084ZA45
4C085HH20
4C085KA36
4C085KB59
4C085LL13
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA13
4H045BA15
4H045BA41
4H045CA40
4H045EA50
(57)【要約】
本開示は、PGRN関連障害の処置のための化合物をスクリーニングするための方法及び材料、またはPGRN関連障害の処置のための化合物もしくは投与レジメンに対する対象の応答をモニタリングするための方法及び材料を提供する。PGRN関連障害を有する対象を特定及び処置するための方法及び材料もまた、提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プログラニュリン(PGRN)関連障害の処置のための化合物を評価するための、またはPGRN関連障害の処置のための化合物、医薬組成物、もしくはそれらの投与レジメンに対する対象の応答をモニタリングするための方法であって、
(a)PGRN関連障害を有する対象からの試験試料において1種以上のビス(モノアシルグリセロ)ホスフェート(BMP)種の存在量を測定する工程であって、前記試験試料または前記対象が前記化合物またはその医薬組成物で処置されている、前記工程と、
(b)工程(a)で測定された前記1種以上のBMP種と1つ以上の参照値との間の存在量の差を比較する工程と、
(c)前記化合物、前記医薬組成物、またはそれらの投与レジメンが、PGRN関連障害の処置のための1種以上のBMP種レベルを改善させるかどうかを前記比較から判定する工程と
を含む、前記方法。
【請求項2】
別の試験試料または対象を別の化合物で処置する工程と、
前記1種以上のBMP種レベルを改善させる候補化合物を選択する工程と
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(d)前記化合物を前記試験試料または前記対象に投与する量または頻度を維持または調整する工程と、
(e)前記化合物を前記試験試料または前記対象に投与する工程と
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
PGRN関連障害を有しているかまたは有するリスクがある対象を特定するための方法であって、
(a)対象からの試験試料において1種以上のBMP種の存在量を測定する工程と、
(b)工程(a)で測定された前記1種以上のBMP種と1つ以上の参照値との間の存在量の差を比較する工程と、
(c)前記対象がPGRN関連障害を有しているかどうかを前記比較から判定する工程と
を含む、前記方法。
【請求項5】
PGRN関連障害の処置のための前記1種以上のBMP種レベルを改善させるための化合物を前記対象に投与する工程をさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記化合物が、PGRN、PGRN誘導体、またはそれらの医薬組成物である、請求項1~3または5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記参照値が、参照対象または参照対象集団から得た参照試料において測定される、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記参照対象または前記参照対象集団が、健常対照である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記参照対象または前記参照対象集団が、PGRN関連障害を有していないか、または低下したPGRNレベルを有していない、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記PGRN関連障害を有しているかまたは有するリスクがある対象が、健常対照またはPGRN関連障害に無関係である対照と比較して、骨髄由来マクロファージにおいて上昇したBMP種レベルを有している、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記PGRN関連障害を有しているかまたは有するリスクがある対象が、健常対照またはPGRN関連障害に無関係である対照と比較して、肝臓、脳、脳脊髄液、血漿、または尿において低下したBMP種レベルを有している、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記PGRN関連障害を有しているかまたは有するリスクがある対象の試験試料におけるBMP種の存在量が、健常対照またはPGRN関連障害に無関係である対照などの対照の参照値と比較して、少なくとも約1.2倍、1.5倍、または2倍の差を有する、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記PGRN関連障害を有しているかまたは有するリスクがある対象の試験試料におけるBMP種の存在量が、健常対照またはPGRN関連障害に無関係である対照などの対照の参照値と比較して、少なくとも約1.2倍~約4倍の差を有する、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記参照値が、処置前の前記BMP種の値である、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記改善されたBMP種レベルが、前記健常対照または前記PGRN関連障害に無関係である対照などの対照の参照値と比較した、前記処置前のBMP種レベルに対する改善である、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記改善されたBMP種レベルが、前記対照と比較して、15%未満、10%未満、または5%未満の差を有する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記試験試料、前記参照試料、または前記1つ以上の参照値が、細胞、組織、全血、血漿、血清、脳脊髄液、間質液、唾液、尿、リンパ液、もしくはそれらの組み合わせを含むか、またはそれらに関連する、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記細胞が、末梢血単核細胞(PBMC)、骨髄由来マクロファージ(BMDM)、網膜色素上皮(RPE)細胞、血球、赤血球、白血球、神経細胞、ミクログリア細胞、脳細胞、大脳皮質細胞、脊髄細胞、骨髄細胞、肝細胞、腎細胞、脾細胞、肺細胞、眼細胞、絨毛膜絨毛細胞、筋細胞、皮膚細胞、線維芽細胞、心臓細胞、リンパ節細胞、またはそれらの組み合わせである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記細胞が、培養細胞である、請求項17または18に記載の方法。
【請求項20】
前記培養細胞が、BMDMまたはRPE細胞である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記組織が、脳組織、大脳皮質組織、脊髄組織、肝組織、腎組織、筋組織、心臓組織、眼組織、網膜組織、リンパ節、骨髄、皮膚組織、血管組織、肺組織、脾組織、弁組織、またはそれらの組み合わせを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項22】
前記試験試料が、エンドソーム、リソソーム、細胞外小胞、エクソソーム、微小胞、またはそれらの組み合わせを含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記1種以上のBMP種が、2種以上のBMP種を含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記1種以上のBMP種が、BMP(16:0_18:1)、BMP(16:0_18:2)、BMP(18:0_18:0)、BMP(18:0_18:1)、BMP(18:1_18:1)、BMP(16:0_20:3)、BMP(18:1_20:2)、BMP(18:0_20:4)、BMP(16:0_22:5)、BMP(20:4_20:4)、BMP(22:6_22:6)、BMP(20:4_20:5)、BMP(18:2_18:2)、BMP(16:0_20:4)、BMP(18:0_18:2)、BMP(18:0e_22:6)、BMP(18:1e_20:4)、BMP(20:4_22:6)、BMP(18:0e_20:4)、BMP(18:2_20:4)、BMP(18:1_22:6)、BMP(18:1_20:4)、BMP(18:0_22:6)、またはそれらの組み合わせを含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記1種以上のBMP種が、BMP(18:1_18:1)、BMP(18:0_20:4)、BMP(20:4_20:4)、BMP(22:6_22:6)、BMP(20:4_22:6)、BMP(18:1_22:6)、BMP(18:1_20:4)、BMP(18:0_22:6)、BMP(18:3_22:5)、またはそれらの組み合わせを含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記試験試料が、BMDMを含み、前記1種以上のBMP種が、BMP(18:1_18:1)を含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
前記試験試料が、血漿、尿、脳脊髄液(CSF)、及び/または脳組織もしくは肝組織を含み、前記1種以上のBMP種が、BMP(22:6_22:6)を含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記試験試料が、肝組織を含み、前記1種以上のBMP種が、BMP(22:6_22:6)、BMP(18:3_22:5)、またはそれらの組み合わせを含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記試験試料が、CSFまたは尿を含み、前記1種以上のBMP種が、BMP(22:6_22:6)を含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記試験試料が、CSFを含み、前記1種以上のBMP種が、BMP(18:1_18:1)を含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記試験試料が、ミクログリアを含み、前記1種以上のBMP種が、BMP(18:3_22:5)を含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
前記1種以上のBMP種の存在量が、液体クロマトグラフィー-質量分析法(LC-MS)、液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析法(LC-MS/MS)、ガスクロマトグラフィー-質量分析法(GC-MS)、ガスクロマトグラフィー-タンデム質量分析法(GC-MS/MS)、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、またはそれらの組み合わせを使用して測定される、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
前記1種以上のBMP種の存在量を測定する場合、内部BMP標準物質が使用される、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
前記内部BMP標準物質が、前記対象及び/または前記参照対象もしくは前記参照対象集団において天然に存在しないBMP種を含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記内部BMP標準物質が、BMP(14:0_14:0)を含む、請求項33または34に記載の方法。
【請求項36】
前記PGRN関連障害が、PGRNの発現、処理、グリコシル化、細胞取り込み、輸送、及び/または機能に関連する障害である、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
前記対象が、グラニュリン(GRN)遺伝子において1つ以上の変異を有する、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項38】
前記PGRN関連障害が、PGRNレベルの低下に関連する、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
前記PGRN関連障害が、神経変性疾患である、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項40】
前記PGRN関連疾患が、前頭側頭型認知症(FTD)、神経セロイドリポフスチン症(NCL)、ニーマン・ピック病A型(NPA)、ニーマン・ピック病B型(NPB)、ニーマン・ピック病C型(NPC)、C9ORF72関連筋萎縮性側索硬化症(ALS)/FTD、孤発性ALS、アルツハイマー病(AD)、アテローム性動脈硬化、ゴーシェ病、パーキンソン病、及び加齢黄斑変性(AMD)からなる群から選択される疾患である、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項41】
前記対象及び/または前記参照対象が、ヒト、非ヒト霊長類、げっ歯類、イヌ、またはブタである、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項42】
前記PGRNレベルの低下に関連する障害を有する対象が、PGRNノックアウトマウスまたはPGRNノックアウトラットである、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項43】
PGRN関連障害の処置のための化合物またはその投与レジメンを試験するためのキットであって、前記対象からの試験試料において1種以上のBMP種の存在量を測定するためのBMP標準物質を含む、前記キット。
【請求項44】
前記BMP標準物質が、前記対象において天然に存在しないBMP種を含む、請求項43に記載のキット。
【請求項45】
前記BMP標準物質が、BMP(14:0_14:0)を含む、請求項43または44に記載のキット。
【請求項46】
前記対象から前記試料を得るための試薬、前記試料を処理するための試薬、前記1種以上のBMP種の存在量を測定するための試薬、またはそれらの組み合わせをさらに含む、請求項43~45のいずれか1項に記載のキット。
【請求項47】
使用説明書をさらに含む、請求項43~46のいずれか1項に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年10月16日に出願された米国仮出願第62/746,293号及び2019年8月8日に出願された米国仮出願第62/884,492号の利益を主張し、それらの開示は、あらゆる目的のためにそれらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
背景
前頭側頭型認知症(FTD)は、認知症を有する全患者の5~10%、及び65歳未満で認知症を発症した患者の10~20%を占める、進行性の神経変性障害である(Rademakers et al.,Nat Rev Neurol.8(8):423-34,2012(非特許文献1))。いくつかの遺伝子がFTDに関連付けられているが、FTDにおいて最も頻繁に変異する遺伝子のうちの1つがGRNであり、これは、ヒト染色体17q21に位置し、システインリッチなタンパク質であるプログラニュリン(プロエピセリン及びアクログラニンとしても既知)をコードする。GRNにおける浸透性の高い変異は、家族性FTDの常染色体優性形態の原因として、2006年に最初に報告された(Baker et al.,Nature.442(7105):916-9,2006(非特許文献2)、Cruts et al.,Nature.2006 Aug 24;442(7105):920-4(非特許文献3)、Gass et al.,Hum.Mol.Genet.15(20):2988-3001,2006(非特許文献4))。最近の推定では、GRN変異は、家族歴が陽性であるFTD患者の5~20%、及び孤発性症例の1~5%を占めると示唆されている(Rademakers et al.、上掲)。PGRN関連障害の処置のための化合物及び関連する療法を評価するための新しい方法(そのような処置に対する患者の応答をモニタリングすることを含む)、ならびにこれらの障害の処置から利益を得ることができる対象を特定するための新しい方法に対する必要性が存在する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Rademakers et al.,Nat Rev Neurol.8(8):423-34,2012
【非特許文献2】Baker et al.,Nature.442(7105):916-9,2006
【非特許文献3】Cruts et al.,Nature.2006 Aug 24;442(7105):920-4
【非特許文献4】Gass et al.,Hum.Mol.Genet.15(20):2988-3001,2006
【発明の概要】
【0004】
説明
一態様では、本開示は、プログラニュリン(PGRN)関連障害の処置のための化合物を評価するための、またはPGRN関連障害の処置のための化合物、医薬組成物、もしくはそれらの投与レジメンに対する対象の応答をモニタリングするための方法を提供し、この方法は、(a)PGRN関連障害を有する対象からの試験試料において1種以上のビス(モノアシルグリセロ)ホスフェート(BMP)種の存在量を測定する工程であって、試験試料または対象が化合物またはその医薬組成物で処置されている、工程と、(b)工程(a)で測定された1種以上のBMP種と1つ以上の参照値との間の存在量の差を比較する工程と、(c)化合物、医薬組成物、またはそれらの投与レジメンが、PGRN関連障害の処置のための1種以上のBMP種レベルを改善させるかどうかを比較から判定する工程とを含む。
【0005】
いくつかの実施形態では、本明細書に提供される方法は、別の試験試料または対象を別の化合物で処置する工程と、1種以上のBMP種レベルを改善させる候補化合物を選択する工程とをさらに含む。
【0006】
いくつかの実施形態では、本明細書に提供される方法は、(d)化合物を試験試料または対象に投与する量または頻度を維持または調整する工程と、(e)化合物を試験試料または対象に投与する工程とをさらに含む。
【0007】
一態様では、PGRN関連障害を有しているかまたは有するリスクがある対象を特定するための方法が提供され、この方法は、(a)対象からの試験試料において1種以上のBMP種の存在量を測定する工程と、(b)工程(a)で測定された1種以上のBMP種と1つ以上の参照値との間の存在量の差を比較する工程と、(c)対象がPGRN関連障害を有しているかどうかを比較から判定する工程とを含む。
【0008】
いくつかの実施形態では、本明細書に提供される方法は、PGRN関連障害の処置のための1種以上のBMP種レベルを改善させるための化合物を対象に投与する工程をさらに含む。いくつかの実施形態では、PGRN関連障害の1つ以上の徴候または症状のうちの少なくとも1つは、処置後に改善する。
【0009】
いくつかの実施形態では、処置は、PGRN、その誘導体、またはそれらの医薬組成物を対象に投与する工程を含む。いくつかの実施形態では、PGRN誘導体は、PGRNが血液脳関門を通過することを可能にする化学部分またはペプチド断片を含有する。いくつかの実施形態では、処置は、複数の対象または試験試料に化合物のライブラリーを投与する工程を含む。
【0010】
いくつかの実施形態では、参照値は、参照対象または参照対象集団から得た参照試料において測定される。いくつかの実施形態では、参照値は、参照試料において測定された1種以上のBMP種の存在量である。いくつかの実施形態では、参照試料は、試験試料と同じ種類の細胞、組織、または体液である。いくつかの実施形態では、異なる種類の細胞、組織、または体液からの少なくとも2つの参照値が測定される。
【0011】
いくつかの実施形態では、参照試料は、健常対照である。いくつかの実施形態では、参照対象または参照対象集団は、PGRN関連障害を有していないか、または低下したPGRNレべルを有していない。特定の実施形態では、参照対象または参照対象集団は、そのような障害のいかなる徴候または症状も有していない。
【0012】
いくつかの実施形態では、BMP種レベルは、健常対照またはPGRN関連障害に無関係である対照と比較して、PGRN関連障害を有しているかまたは有するリスクがある対象の骨髄細胞からインビトロで得た骨髄由来マクロファージにおいて上昇している。
【0013】
いくつかの実施形態では、BMP種レベルは、健常対照またはPGRN関連障害に無関係である対照と比較して、PGRN関連障害を有しているかまたは有するリスクがある対象の肝臓、脳、脳脊髄液、血漿、または尿において低下している。
【0014】
いくつかの実施形態では、PGRN関連障害を有しているかまたは有するリスクがある対象の試験試料におけるBMP種の存在量は、健常対照またはPGRN関連障害に無関係である対照などの対照の参照値と比較して、少なくとも約1.2倍、1.5倍、または2倍の差を有する。他の実施形態では、PGRN関連障害を有しているかまたは有するリスクがある対象の試験試料におけるBMP種の存在量は、健常対照またはPGRN関連障害に無関係である対照などの対照の参照値と比較して、約1.2倍~約4倍の差を有する。いくつかの実施形態では、参照値と比較した差は、約2倍~約3倍である。いくつかの実施形態では、対象は、PGRNレベルの低下に関連する障害及び/またはPGRNレベルの低下に関連する障害の1つ以上の徴候もしくは症状を有する。
【0015】
いくつかの実施形態では、参照値は、処置前のBMP種の値である。いくつかの実施形態では、対象は、PGRNレベルの低下またはPGRN関連障害について処置され、試験試料は、処置を開始する前に対象から得た1つ以上の処置前の試験試料、及び処置を開始した後に対象から得た1つ以上の処置後の試験試料を含む。いくつかの実施形態では、方法は、1種以上の処置後のBMP種のうちの少なくとも1種の存在量が、健常対照と比較して、1種以上の処置前のBMP種に対して改善を示す場合、対象が処置に応答していると判定する工程をさらに含む。
【0016】
いくつかの実施形態では、方法は、(a)対象から得た試験試料において1種以上のビス(モノアシルグリセロ)ホスフェート(BMP)種の存在量を測定する工程と、(b)化合物、医薬組成物、またはそれらの投与レジメンで試験試料または対象を処置する工程と、(c)処置された対象から得た試験試料において1種以上のBMP種の存在量を測定する工程と、(d)工程(a)及び工程(c)で測定された1種以上のBMP種の存在量を比較する工程と、(e)化合物または投与レジメンがPGRN関連障害の処置のためのBMPレベルを改善させるかどうかを判定する工程とを含む。
【0017】
いくつかの実施形態では、2つ以上の処置後の試験試料を、処置を開始した後の異なる時点で得、この方法は、処置後の試料において測定された1種以上のBMP種のうちの少なくとも1種の存在量が、処置前の試料において測定された対応する1種以上のBMP種の存在量よりも、a)骨髄由来マクロファージ(BMDM)において低い場合、またはb)肝臓、脳、脳脊髄液、血漿、もしくは尿において高い場合、対象が処置に応答していると判定する工程をさらに含む。いくつかの実施形態では、対象は、処置後の試料において測定された1種以上のBMP種のうちの少なくとも1種の存在量が、処置前の試料において測定された対応する1種以上のBMP種の存在量よりも、a)BMDMにおいて少なくとも約1.2倍低い場合、またはb)肝臓、脳、脳脊髄液、血漿、もしくは尿において少なくとも約1.2倍高い場合、処置に応答していると判定される。
【0018】
いくつかの実施形態では、改善されたBMP種レベルは、健常対照またはPGRN関連障害に無関係である対照などの対照の参照値と比較した、処置前のBMP種レベルに対する改善である。いくつかの実施形態では、改善されたBMP種レベルは、処置前のBMP種レベルの対照に対する値よりも、対照に近い値である。いくつかの実施形態では、改善されたBMP種レベルは、対照と比較して、15%、10%、または5%未満の差を有する。いくつかの実施形態では、改善されたBMP種レベルは、健常対照と比較して、10%または5%未満の差を有する。いくつかの実施形態では、改善されたBMP種レベルは、健常対照と比較して、5%未満の差を有する。
【0019】
いくつかの実施形態では、方法は、1種以上の処置後の試験試料のうちの少なくとも1つにおいて測定された、1種以上のBMP種のうちの少なくとも1種の存在量が、健常対照の対応する参照値とほぼ同じである場合、対象が処置に応答していると判定する工程をさらに含む。
【0020】
いくつかの実施形態では、試験試料、参照試料、または1つ以上の参照値は、細胞、組織、全血、血漿、血清、脳脊髄液、間質液、唾液、尿、大便、気管支肺胞洗浄液、リンパ液、精液、母乳、羊水、もしくはそれらの組み合わせを含むか、またはそれらに関連する。いくつかの実施形態では、細胞は、末梢血単核細胞(PBMC)、骨髄由来マクロファージ(BMDM)、網膜色素上皮(RPE)細胞、血球、赤血球、白血球、神経細胞、ミクログリア細胞、脳細胞、大脳皮質細胞、脊髄細胞、骨髄細胞、肝細胞、腎細胞、脾細胞、肺細胞、眼細胞、絨毛膜絨毛細胞、筋細胞、皮膚細胞、線維芽細胞、心臓細胞、リンパ節細胞、またはそれらの組み合わせである。いくつかの実施形態では、細胞は、培養細胞である。いくつかの実施形態では、培養細胞は、BMDMまたはRPE細胞である。
【0021】
いくつかの実施形態では、組織は、脳組織、大脳皮質組織、脊髄組織、肝組織、腎組織、筋組織、心臓組織、眼組織、網膜組織、リンパ節、骨髄、皮膚組織、血管組織、肺組織、脾組織、弁組織、またはそれらの組み合わせを含む。いくつかの実施形態では、試験試料及び/または参照試料は、細胞及び/または組織から精製されており、エンドソーム、リソソーム、細胞外小胞、エクソソーム、微小胞、またはそれらの組み合わせを含む。
【0022】
いくつかの実施形態では、1種以上のBMP種は、2種以上のBMP種を含む。いくつかの実施形態では、1種以上のBMP種は、BMP(16:0_18:1)、BMP(16:0_18:2)、BMP(18:0_18:0)、BMP(18:0_18:1)、BMP(18:1_18:1)、BMP(16:0_20:3)、BMP(18:1_20:2)、BMP(18:0_20:4)、BMP(16:0_22:5)、BMP(20:4_20:4)、BMP(22:6_22:6)、BMP(20:4_20:5)、BMP(18:2_18:2)、BMP(16:0_20:4)、BMP(18:0_18:2)、BMP(18:0e_22:6)、BMP(18:1e_20:4)、BMP(18:3_22:5)、BMP(20:4_22:6)、BMP(18:0e_20:4)、BMP(18:2_20:4)、BMP(18:1_22:6)、BMP(18:1_20:4)、BMP(18:0_22:6)、またはそれらの組み合わせを含む。
【0023】
いくつかの実施形態では、1種以上のBMP種は、BMP(18:1_18:1)、BMP(18:0_20:4)、BMP(20:4_20:4)、BMP(22:6_22:6)、BMP(20:4_22:6)、BMP(18:1_22:6)、BMP(18:1_20:4)、BMP(18:0_22:6)、BMP(18:3_22:5)、またはそれらの組み合わせを含む。
【0024】
いくつかの実施形態では、試験試料は、培養細胞を含み、1種以上のBMP種は、BMP(18:1_18:1)を含む。いくつかの実施形態では、試験試料は、血漿、組織、尿、脳脊髄液(CSF)、及び/または脳組織もしくは肝組織を含み、1種以上のBMP種は、BMP(22:6_22:6)を含む。いくつかの実施形態では、試験試料は、肝組織を含み、1種以上のBMP種は、BMP(22:6_22:6)、BMP(18:3_22:5)、またはそれらの組み合わせを含む。いくつかの実施形態では、試験試料は、CSFまたは尿を含み、1種以上のBMP種は、BMP(22:6_22:6)を含む。いくつかの実施形態では、試験試料は、CSFを含み、1種以上のBMP種は、BMP(18:1_18:1)を含む。いくつかの実施形態では、試験試料は、ミクログリアを含み、1種以上のBMP種は、BMP(18:3_22:5)を含む。
【0025】
いくつかの実施形態では、1種以上のBMP種の存在量は、液体クロマトグラフィー-質量分析法(LC-MS)、液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析法(LC-MS/MS)、ガスクロマトグラフィー-質量分析法(GC-MS)、ガスクロマトグラフィー-タンデム質量分析法(GC-MS/MS)、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される方法を使用して測定される。いくつかの実施形態では、内部BMP標準物質を使用して、工程(a)中の1種以上のBMP種の存在量を測定、及び/または対応する参照値を決定する。いくつかの実施形態では、内部BMP標準物質は、対象及び/または参照対象もしくは参照対象集団において天然に存在しないBMP種を含む。いくつかの実施形態では、内部BMP標準物質は、BMP(14:0_14:0)を含む。
【0026】
いくつかの実施形態では、PGRN関連障害は、PGRNの発現、処理、グリコシル化、細胞取り込み、輸送、及び/または機能に関連する障害である。いくつかの実施形態では、対象及び/または参照対象もしくは参照対象集団は、PGRNレベルの低下及び/またはPGRNレベルの低下に関連する障害を有し、試験試料は、候補化合物と接触している。いくつかの実施形態では、対象及び/または参照対象もしくは参照対象集団は、PGRNレベルの低下に関連する障害の1つ以上の徴候または症状を有する。いくつかの実施形態では、対象及び/または参照対象もしくは参照対象集団は、グラニュリン(GRN)遺伝子に変異を有する。いくつかの実施形態では、GRN遺伝子における変異は、PGRNの発現及び/または活性を低下させる。いくつかの実施形態では、PGRN関連障害は、アテローム性動脈硬化、ゴーシェ病、または加齢黄斑変性(AMD)である。いくつかの実施形態では、PGRN関連障害は、ゴーシェ病1型である。いくつかの実施形態では、PGRN関連障害は、TDP-43に関連する障害である。他の実施形態では、TDP-43関連障害は、ADまたはALSである。
【0027】
いくつかの実施形態では、PGRN関連障害は、神経変性疾患である。いくつかの実施形態では、神経変性疾患は、前頭側頭型認知症(FTD)、神経セロイドリポフスチン症(NCL)、ニーマン・ピック病A型(NPA)、ニーマン・ピック病B型(NPB)、ニーマン・ピック病C型(NPC)、C9ORF72関連筋萎縮性側索硬化症(ALS)/FTD、孤発性ALS、アルツハイマー病(AD)、ゴーシェ病2型及び3型、ならびにパーキンソン病からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、対象及び/または参照対象は、ヒト、非ヒト霊長類、げっ歯類、イヌ、またはブタである。
【0028】
別の態様では、本開示は、対象におけるPGRNレベルをモニタリングするためのキットを提供する。いくつかの実施形態では、キットは、対象から得た試験試料及び/または参照対象もしくは参照対象集団から得た参照試料において1種以上のBMP種の存在量を測定するための、ビス(モノアシルグリセロ)ホスフェート(BMP)標準物質を含む。いくつかの実施形態では、BMP標準物質は、対象及び/または参照対象において天然に存在しないBMP種を含む。いくつかの実施形態では、BMP標準物質は、BMP(14:0_14:0)を含む。
【0029】
いくつかの実施形態では、キットは、対象及び/または参照対象から試料を得るための試薬、試料を処理するための試薬、1種以上のBMP種の存在量を測定するための試薬、またはそれらの組み合わせをさらに含む。いくつかの実施形態では、キットは、使用説明書をさらに含む。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】A及びBは、各々がFcポリペプチド二量体及びPGRNを含有する、融合タンパク質F1及びF2の概略図をそれぞれ示す。Aでは、PGRNのN末端は、Fcポリペプチド二量体のC末端に-GGGGSGGGGS-(配列番号:1)のリンカーを介して融合されている。Bでは、PGRNのC末端は、Fcポリペプチド二量体のN末端に(GS)(配列番号:1)のリンカーを介して融合されている。融合タンパク質F1及びF2は、実施例1にさらに記載されている。
図2A】野生型と比較して、Grnノックアウトマウスの骨髄由来マクロファージ(BMDM)におけるビス(モノアシルグリセロ)ホスフェート(BMP)種のレベルが上昇したことを示す。GrnノックアウトマウスのBMDMを、実施例1のPGRN融合タンパク質F1及びF2で処理することにより、BMP(18:1_18:1)レベルの上昇が低下したことを示す。
図2B】野生型と比較して、Grnノックアウトマウスの骨髄由来マクロファージ(BMDM)におけるビス(モノアシルグリセロ)ホスフェート(BMP)種のレベルが上昇したことを示す。GrnノックアウトマウスのBMDMを、実施例1のPGRN融合タンパク質F1及びF2で処理することにより、BMP(20:4_20:4)レベルの上昇が低下したことを示す。
図2C】GrnノックアウトマウスのBMDMを、組換えPGRNまたは実施例2のレンチウイルスによって発現されたPGRNで処理することにより、BMPレベル(総BMPならびにBMP(18:1_18:1))の上昇が低下したことを示す。総BMPのデータを示す。
図2D】GrnノックアウトマウスのBMDMを、組換えPGRNまたは実施例2のレンチウイルスによって発現されたPGRNで処理することにより、BMPレベル(総BMPならびにBMP(18:1_18:1))の上昇が低下したことを示す。BMP(18:1_18:1)のデータを示す。
図3A】野生型と比較して、Grnノックアウトマウスの末梢肝臓、血漿、及び尿においてBMP44:12が低下したことを示す。
図3B】野生型と比較して、脳脊髄液(CSF)及び中枢神経系(CNS)の脳においてBMP44:12が低下したことを示す。
図4】2~19か月齢の範囲のGrnノックアウトマウスが、野生型と比較して、血漿のBMP44:12において年齢非依存性の低下を示したことを示す。
図5】A及びBは、GrnノックアウトマウスをPGRN融合タンパク質F1及びF2で処理することにより、肝臓のBMP44:12及び20:4_20:4レベルが上昇したことを示す。
図6】GrnノックアウトマウスをPGRN融合タンパク質F1及びF2で処理することにより、血漿のBMP44:12レベルが上昇したことを示す。
図7】GrnノックアウトマウスをPGRN融合タンパク質F1及びF2で処理することにより、尿のBMP44:12レベルが上昇(クレアチンに対して正規化)したことを示す。
図8】GrnノックアウトマウスをPGRN融合タンパク質F1及びF2で処理することにより、CSFのBMP44:12レベルが上昇したことを示す。
図9】A及びBは、GrnノックアウトマウスをPGRN融合タンパク質F1及びF2で処理することにより、脳のBMP44:12及び20:4_20:4レベルがそれぞれ上昇したことを示す。
図10A】臨床的に正常な対照と比較して、孤発性及びGrn FTD患者試料においてBMP18:1_18:1及び22:6_22:6が低下したことを示す。
図10B】臨床的に正常な対照と比較して、孤発性及びGrn FTD患者試料においてBMP18:1_18:1及び22:6_22:6が低下したことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
定義
本明細書で使用される場合、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈が別段明確に指示しない限り、複数の指示対象を含む。したがって、例えば、「細胞」への言及は、2つ以上のそのような細胞などを含み得る。
【0032】
本明細書で使用される場合、「約」及び「およそ」という用語は、数値または範囲で指定された量を修正するために使用される場合、その数値ならびに当業者に既知の値からの妥当な偏差、例えば、±20%、±10%、または±5%が、詳述された値の意図する意味の範囲内であることを示す。
【0033】
用語「存在量」は、分子、化合物、または薬剤(例えば、ビス(モノアシルグリセロ)ホスフェート(BMP)分子)の量または濃度を指す。この用語には、絶対量または絶対濃度、ならびに相対量または相対濃度が含まれる。いくつかの実施形態では、参照標準物質(例えば、内部BMP標準物質)は、(例えば、試料中に)存在する分子、化合物、もしくは薬剤の絶対量もしくは絶対濃度を決定するために較正に使用され、及び/または存在する分子、化合物、もしくは薬剤の相対量もしくは相対濃度を決定するために対照に正規化される。
【0034】
「PGRNレベル」という用語は、対象内または試料(例えば、対象から得た試料)中のいずれかに存在するプログラニュリンの量、濃度、及び/または活性レベルを指す。PGRNレベルは、存在するPGRNの絶対量、絶対濃度、及び/または絶対活性レベルを指すことができるか、あるいは相対量、相対濃度、及び/または相対活性レベルを指すことができる。この用語はまた、存在するPGRNポリペプチド及び/またはPGRN mRNA(例えば、GRN遺伝子から発現されるもの)の量または濃度も指す。
【0035】
「プログラニュリン」または「PGRN」という用語(「プロエピセリン」及び「アクログラニン」としても既知)は、ヒト染色体17q21に位置する遺伝子GRNによってコードされる、システインリッチなタンパク質である。PGRNは、リソソームタンパク質であるとともに、保存されたグラニュリンペプチドの7.5回のタンデム反復からなる分泌タンパク質であり、その各々は、約60アミノ酸長であり、様々な細胞外プロテアーゼ(例えば、エラスターゼ)及びリソソームプロテアーゼ(例えば、カテプシンL)による切断によって放出され得る(Kao et al.,Nat Rev Neurosci.18(6):325-333,2017)。一般に、PGRNは、先天免疫の制御において、ならびにPGRNが様々なカテプシン及び他の加水分解酵素の活性及びレベルを調節するリソソームの機能において、細胞自律的役割及び細胞非自律的役割の両方を果たすと考えられている(Kao et al.、上掲)。PGRNはまた、神経栄養性機能を有し、神経突起伸長及び神経細胞生存を促進する(Kao et al.、上掲)。PGRNポリペプチドは、ヒトPGRN配列を含み得る。PGRNポリペプチドは、例えば、最初の17個のアミノ酸がシグナルペプチドを構成する、未成熟PGRNであり得る。PGRNポリペプチドはまた、例えば、17個のアミノ酸のシグナルペプチドが切断されている、成熟PGRNでもあり得る。他の非限定的な例として、PGRNポリペプチドは、未成熟または成熟した形態のいずれかで、マウス(NCBI参照番号NP_032201.2)、ラット(NCBI参照番号NP_058809.2またはNP_001139314.1)、またはチンパンジー(NCBI参照番号XP_016787144.1またはXP_016787145.1)などの非ヒト種からの配列を含み得る。「プログラニュリン誘導体」または「PGRN誘導体」という用語は、修飾されたPGRNを指す。PGRNに体内の特定の領域を標的とさせる修飾などの、PGRNのドラッガビリティを高めるための修飾、及び/またはその薬物動態学的もしくは薬力学的特性を改善するための修飾を行うことができる。他の修飾を行って、その製造及び/または貯蔵寿命を支援することができる。PGRN誘導体は、Fcポリペプチドの二量体に付着したPGRNを含む、Fc融合タンパク質を含むことができる。
【0036】
「PGRN関連障害」という用語は、発現、処理、グリコシル化、細胞取り込み、輸送、及び/または機能を含む、PGRNに関連する任意の病態を指す。「PGRNレベルの低下に関連する障害」という用語は、細胞、組織、及び/または対象内の正常な生理的機能を可能にするには不十分な(すなわち、可能にするには低すぎる)PGRNのレベルから直接または間接的に生じる任意の病態、ならびにそのような状態の前兆を指す。いくつかの実施形態では、障害は、神経変性疾患及び/またはリソソーム蓄積症である。
【0037】
「骨髄由来マクロファージ」または「BMDM」という用語は、哺乳動物の骨髄(例えば、対象から得た骨髄)からインビトロで生成されるかまたはそれに由来する、マクロファージ細胞を指す。非限定的な例として、BMDMは、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)などのサイトカインの存在下で、未分化骨髄細胞を培養することによって生成することができる。
【0038】
「処置」、「処置する」などの用語は、概して、所望の薬理学的及び/または生理学的効果を得ることを意味するように本明細書で使用される。「処置する」または「処置」は、患者の生存における緩和、寛解、改善、生存期間もしくは生存率の向上、症状を減少させることもしくは障害を患者にとってより耐えられるものにすること、変性もしくは減退の速度を緩慢にすること、または患者の身体的もしくは精神的幸福を向上させることなどのあらゆる客観的及び主観的パラメータを含む、神経変性疾患(例えば、前頭側頭型認知症(FTD)、アテローム性動脈硬化、ゴーシェ病、アルツハイマー病(AD)、神経セロイドリポフスチン症(NCL)、ニーマン・ピック病A型(NPA)、ニーマン・ピック病B型(NPB)、ニーマン・ピック病C型(NPC)、C9ORF72関連筋萎縮性側索硬化症(ALS)/FTD、加齢黄斑変性(AMD)、及びパーキンソン病)を含む、疾患の処置または改善における成功のあらゆる兆候を指し得る。症状の処置または改善は、客観的または主観的パラメータに基づくことができる。処置の効果は、処置を受けていない個体もしくは個体のプールと、または処置前の同じ患者もしくは処置中の異なる時点での同じ患者と比較することができる。
【0039】
本明細書で互換的に使用される場合、「対象」、「個体」、及び「患者」という用語は、ヒト、非ヒト霊長類、げっ歯類(例えば、ラット、マウス、及びモルモット)、ウサギ、イヌ、ウシ、ブタ、ウマ、及び他の哺乳動物種を含むがこれらに限定されない、哺乳動物を指す。一実施形態では、対象は、ヒトである。
【0040】
本明細書で使用される場合、薬剤の「治療量」または「治療有効量」は、対象において疾患の症状を処置する薬剤の量である。
【0041】
「投与する」という用語は、薬剤、化合物、または組成物を、所望の生物学的作用部位に送達する方法を指す。これらの方法としては、局所送達、非経口送達、静脈内送達、皮内送達、筋肉内送達、皮下送達、髄腔内送達、経口送達、結腸送達、直腸送達、または腹腔内送達が挙げられるが、これらに限定されない。
【0042】
ビス(モノアシルグリセロ)ホスフェート(BMP)
(例えば、試料において、細胞において、組織において、及び/または対象において)PGRNレベルをモニタリングする方法が本明細書に提供され、PGRNレベルを判定することは、(例えば、試料、細胞、組織、及び/または対象において)ビス(モノアシルグリセロ)ホスフェート(BMP)の存在量を測定することを含む。BMPは、式Iに示す構造を有する、(例えば、後期エンドソーム及びリソソーム内に通常存在するpHで)負に荷電したグリセロリン脂質である。
【0043】
BMP分子は、2つの脂肪酸側鎖を含む。式IのR及びR’は、独立して選択された飽和または不飽和脂肪族鎖を表し、脂肪族鎖の各々は、典型的には、14、16、18、20、または22個の炭素原子を含有する。脂肪酸側鎖が不飽和の場合、脂肪酸側鎖は、1、2、3、4、5、または6つ以上の炭素-炭素二重結合を含有することができる。さらに、BMP分子は、1つまたは2つのアルキルエーテル置換基を含有することができ、一方または両方の脂肪酸側鎖のカルボニル酸素は、2つの水素原子で置き換えられている。
【0044】
特定のBMP種を記載するために本明細書で使用される命名法は、2つの脂肪酸側鎖を有する種を指し、脂肪酸側鎖の構造が、BMP形式で括弧内に示される(例えば、BMP(18:1_18:1))。数字は、「脂肪酸炭素原子の数:二重結合の数」の標準的な脂肪酸の表記形式に従う。接頭辞「e-」は、アルキルエーテル置換基の存在を示すために使用され、脂肪酸側鎖のカルボニル酸素は、2つの水素原子で置き換えられている。例えば、「BMP(16:0e_18:0)」中の「e」は、16個の炭素原子を有する側鎖がアルキルエーテル置換基であることを示す。
【0045】
BMPは、他のグリセロリン脂質においては観察されないsn-1;sn-1’構造配置を有する(すなわち、リン酸結合型グリセロール炭素に基づく)という点で珍しい。BMPの合成には、多くのアシル化及びジアシル化ステップが関与し、トランスアシラーゼ活性が関与する。これにより、グリセロール骨格が再配向され、珍しい構造配置が生成される。sn-1;sn-1’配置は、多数のホスホリパーゼによる切断に対するBMPの耐性と、後期エンドソーム及びリソソームにおけるその安定性に寄与すると考えられている。BMPは、多数の異なる細胞の種類において少量見られるが、BMP含有量は、マクロファージ、ならびに肝臓及び他の組織の種類のリソソームにおいて有意に高い。
【0046】
消化器官としての機能と一致して、リソソームは、大量の加水分解酵素を酸性pH(すなわち、約4.6~約5のpH)で含有する。様々な細胞成分及び外来抗原が、リソソームへの取り込み及び送達のために細胞表面上の受容体によって捕捉される。細胞内では、マンノース-6-リン酸受容体などの受容体が結合し、加水分解酵素を生合成経路からリソソームに迂回させる。捕捉された分子は、エンドソームとして既知の中間の不均一な細胞小器官のセットを通過する。エンドソームは、加水分解酵素及び他の材料をリソソームに送る前に受容体を再利用する、選別ステーションとして機能する。そこで、加水分解酵素が活性化され、不要な材料が消化される。特に、成熟または「後期」エンドソーム及びリソソームの内部小胞及び/または膜は、大量のBMPを含有する。
【0047】
リソソームのpHで負に荷電され、BMPは、酸性pHで正に荷電され、活性化のための水-脂質界面を必要とする管腔酸ヒドロラーゼとドッキングすることができる。このように結合することにより、BMPは、酸性スフィンゴミエリナーゼ、酸性セラミダーゼ、酸性ホスホリパーゼA2、及びトリアシルグリセロールとコレステロールエステルを加水分解する能力を有する酸性リパーゼを含む、多くのリソソーム脂質分解酵素を刺激することができる。
【0048】
エンドソーム膜はリソソーム膜の続きであり、それらは、材料を選別し、原形質膜及び小胞体に再利用するように機能する。したがって、細胞内に取り込まれる低密度リポタンパク質(LDL)は後期エンドソームに到達し、構成要素であるコレステロールエステルとトリグリセリドは酸性リパーゼによって加水分解される。後期エンドソームまたはリソソーム内に含有されるBMPリッチな膜の特徴的なネットワークは、遊離コレステロールの収集及び再分配点として機能することによりコレステロール輸送を調節するという点で、コレステロール恒常性の重要な要素である。例えば、リソソーム膜を抗BMP抗体とインキュベートすると、かなりの量のコレステロールが蓄積する。
【0049】
本開示の方法のいくつかの実施形態では、単一のBMP種の存在量が測定される。いくつかの実施形態では、2種以上のBMP種の存在量が測定される。いくつかの実施形態では、表1のBMP種のうちの少なくとも2、3、4、または5種以上の存在量が測定される。2種以上のBMP種の存在量が測定される場合、異なるBMP種の任意の組み合わせを使用することができる。
【0050】
いくつかの実施形態では、2種以上のBMP種の存在量を合計することができ、総存在量を参照値と比較することになる。例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100、101、102、103、104、105、106、107、108、109、110、111、112、113、114、115、116、117、118、119、120、121、122、123、124、125、126、127、128、129、130、131、132、133、134、135、136、137、138、139、140、141、142、143、144、145、146、または147種以上のBMP種(例えば、表1に列挙されているBMP種)の各々の存在量を合計し、次いで、総存在量を参照値と比較することができる。
【0051】
場合によっては、1種以上のBMP種は、ある種類の試料において、例えば、組織ベースの試料または血液試料に対する細胞ベースの試料(例えば、培養細胞)などのように、別の試料と比較した場合、差次的に(例えば、より豊富にまたはより少なく)発現され得る。したがって、いくつかの実施形態では、1種以上のBMP種の選択(すなわち、存在量の測定のための選択)は、試料の種類に依存する。いくつかの実施形態では、1種以上のBMP種は、例えば、試料(例えば、試験試料及び/または参照試料)が骨髄由来マクロファージ(BMDM)である場合、BMP(18:1_18:1)を含む。他の実施形態では、1種以上のBMP種は、例えば、試料が組織(例えば、脳組織、肝組織)、または血漿、尿、もしくはCSFを含む場合、BMP(22:6_22:6)を含む。
【0052】
いくつかの実施形態では、内部BMP標準物質(例えば、BMP(14:0_14:0))を使用して、試料において1種以上のBMP種の存在量を測定、及び/または参照値を決定(例えば、参照試料において1種以上のBMP種の存在量を測定)する。例えば、既知量の内部BMP標準物質を試料(例えば、試験試料及び/または参照試料)に添加して、較正点として機能させることができ、それによって試料中に存在する1種以上のBMP種の量を判定することができる。いくつかの実施形態では、BMPを試料から抽出または単離するのに使用する試薬(例えば、メタノール)を、内部BMP標準物質で「スパイク」する。典型的には、内部BMP標準物質は、対象内で天然に生じないものである。
【0053】
PGRN関連障害を有しているかまたは有するリスクがある対象の特定
いくつかの実施形態では、対象(例えば、標的対象)は、試験試料における少なくとも1種(例えば、少なくとも1、2、3、4、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、105、110、115、120、125、130、135、140、または145種以上)のBMP種(例えば、表1に列挙されているBMP種)の存在量が健常対照またはPGRN関連障害に無関係である対照の対応する細胞、組織、または体液の参照値よりも高い場合(試験試料がBMDMである場合)、または低い場合(試験試料が肝臓、脳、脳脊髄液、血漿、もしくは尿である場合)、PGRN関連疾患を有しているか、または低下したPGRNレベルを有していると判定される。
【0054】
いくつかの実施形態では、対象(例えば、標的対象)は、BMP(16:0_18:1)、BMP(16:0_18:2)、BMP(18:0_18:0)、BMP(18:0_18:1)、BMP(18:1_18:1)、BMP(16:0_20:3)、BMP(18:1_20:2)、BMP(18:0_20:4)、BMP(16:0_22:5)、BMP(20:4_20:4)、BMP(22:6_22:6)、BMP(20:4_20:5)、BMP(18:2_18:2)、BMP(16:0_20:4)、BMP(18:0_18:2)、BMP(18:0e_22:6)、BMP(18:1e_20:4)、BMP(20:4_22:6)、BMP(18:0e_20:4)、BMP(18:2_20:4)、BMP(18:1_22:6)、BMP(18:1_20:4)、BMP(18:0_22:6)、及びBMP(18:3_22:5)からなる群から選択されるBMP種のうちの少なくとも1種(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、または23種すべて)の存在量が健常対照またはPGRN関連障害に無関係である対照の対応する細胞、組織、または体液の参照値と比較してBMDMにおいて上昇している場合、または肝臓、脳、脳脊髄液、血漿、もしくは尿において減少している場合、PGRN関連疾患を有しているか、または低下したPGRNレベルを有していると判定される。
【0055】
いくつかの実施形態では、対象(例えば、標的対象)は、BMP(18:1_18:1)、BMP(18:0_20:4)、BMP(20:4_20:4)、BMP(22:6_22:6)、BMP(20:4_22:6)、BMP(18:1_22:6)、BMP(18:1_20:4)、BMP(18:0_22:6)、及びBMP(18:3_22:5)からなる群から選択されるBMP種のうちの少なくとも1種(例えば、1種、2種、3種、4種、5種、6種、7種、または8種すべて)の存在量が健常対照またはPGRN関連障害に無関係である対照の対応する細胞、組織、または体液の参照値と比較してBMDMにおいて上昇している場合、または肝臓、脳、脳脊髄液、血漿、もしくは尿において減少している場合、PGRN関連障害を有しているか、または低下したPGRNレベルを有していると判定される。
【0056】
いくつかの実施形態では、対象は、BMP(18:1_18:1)レベルが健常対照またはPGRN関連障害に無関係である対照の参照値と比較してBMDMにおいて上昇している場合、PGRN関連障害を有しているか、または低下したPGRNレベルを有していると判定される。他の実施形態では、対象は、BMP(22:6_22:6)が健常対照またはPGRN関連障害に無関係である対照の参照値と比較して血漿、尿、脳脊髄液(CSF)、及び/または脳組織もしくは肝組織において低下している場合、PGRN関連障害を有しているか、または低下したPGRNレベルを有していると判定される。他の実施形態では、対象は、BMP(22:6_22:6)レベル及び/またはBMP(18:3_22:5)レベルが肝組織において低下している場合、PGRN関連障害を有しているか、または低下したPGRNレベルを有していると判定される。他の実施形態では、対象は、BMP(18:3_22:5)レベルがミクログリアにおいて低下している場合、PGRN関連障害を有しているか、または低下したPGRNレベルを有していると判定される。
【0057】
いくつかの実施形態では、対象(例えば、標的対象)は、(例えば、試験試料において測定された)少なくとも1種のBMP種の存在量が健常対照またはPGRN関連障害に無関係である対照の対応する細胞、組織、または体液の参照値と比較して少なくとも約1.1倍(例えば、約1.1倍、1.2倍、1.3倍、1.4倍、1.5倍、2倍、2.5倍、3倍、3.5倍、4倍、4.5倍、5倍、5.5倍、6倍、6.5倍、7倍、7.5倍、8倍、8.5倍、9倍、9.5倍、または10倍以上)BMDMにおいて高い場合、または肝臓、脳、脳脊髄液、血漿、もしくは尿において低い場合、PGRN関連障害を有しているか、または低下したPGRNレベルを有していると判定される。
【0058】
いくつかの実施形態では、対象(例えば、標的対象)は、(例えば、試験試料において測定された)少なくとも1種のBMP種の存在量が参照値(例えば、対応する参照値)よりも少なくとも約1.2倍~約4倍(例えば、少なくとも約1.2倍、1.3倍、1.4倍、1.5倍、1.6倍、1.7倍、1.8倍、1.9倍、2倍、2.1倍、2.2倍、2.3倍、2.4倍、2.5倍、2.6倍、2.7倍、2.8倍、2.9倍、3倍、3.1倍、3.2倍、3.3倍、3.4倍、3.5倍、3.6倍、3.7倍、3.8倍、3.9倍、または4倍)高い場合、PGRN関連障害を有しているか、または低下したPGRNレベルを有していると判定される。いくつかの実施形態では、対象は、少なくとも1種のBMP種の存在量が健常対照またはPGRN関連障害に無関係である対照の対応する細胞、組織、または体液の参照値と比較して約2倍~約3倍(例えば、約2倍、2.1倍、2.2倍、2.3倍、2.4倍、2.5倍、2.6倍、2.7倍、2.8倍、2.9倍、または3倍)BMDMにおいて高い場合、または肝臓、脳、脳脊髄液、血漿、もしくは尿において低い場合、PGRN関連障害を有しているか、または低下したPGRNレベルを有していると判定される。
【0059】
処置に対する応答のモニタリング
一態様では、本開示は、対象(例えば、標的対象)におけるPGRNレベルをモニタリングするための方法を提供する。別の態様では、化合物、医薬組成物、もしくはそれらの投与レジメンに対する対象の応答、またはPGRN関連障害の処置のための任意の療法もしくは治療薬に対する応答をモニタリングするための方法が提供される。
【0060】
典型的には、試験試料における1種以上のBMP種の各々の存在量を、1つ以上の参照値(例えば、対応する参照値)と比較することになる。いくつかの実施形態では、BMP値は、処置前に、及び処置後の1つ以上の時点で測定される。より後の時点で測定された存在量の値を、処置前の値、ならびに健常対照または罹患対照の値などの対照値と比較して、対象が療法に対してどのように応答しているかを判定することができる。1つ以上の参照値は、試験試料の細胞、組織、または体液に対応する異なる細胞、組織、または体液からのものであり得る。
【0061】
いくつかの実施形態では、参照値は、参照試料において測定された1種以上のBMP種の存在量である。参照値は、測定された存在量の値(例えば、参照試料において測定された存在量の値)である場合もあれば、または測定された存在量の値から導出もしくは外挿される場合もある。いくつかの実施形態では、参照値は、例えば、参照値を複数の試料または対象集団から得る場合、値の範囲である。さらに、参照値は、単一の値(例えば、測定された存在量の値、平均値、もしくは中央値)として、または標準偏差もしくは標準誤差を伴うかもしくは伴わない値の範囲として、表すことができる。
【0062】
2つ以上の試験試料を(例えば、対象から)得る場合、それらを得る時点は、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、もしくは60分間以上;約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、もしくは24時間以上;約1、2、3、4、5、6、もしくは7日間以上;約1、2、3、4、5、6、7、8、9、もしくは10週間以上;またはさらに長い期間、間隔を空けることができる。3つ以上の試験試料を得る場合、各試験試料を得るときの間の時間間隔は、すべて同じであってもよく、間隔はすべて異なっていてもよく、またはそれらの組み合わせであってもよい。
【0063】
いくつかの実施形態では、第1の試験試料と第2の試験試料の両方を、対象が処置された後に対象(例えば、標的対象)から得る。すなわち、第1の試験試料を、第2の試験試料よりも、処置中のより早い時点で対象から得る。いくつかの実施形態では、第1の試験試料を、対象がPGRNレベルの低下に関連する障害について処置される前に得(すなわち、処置前の試験試料)、第2の試験試料を、対象がPGRNレベルの低下に関連する障害について処置された後に得る(すなわち、処置後の試験試料)。いくつかの実施形態では、2つ以上(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10個以上)の処置前及び/または処置後の試験試料を対象から得る。さらに、得る処置前及び処置後の試験試料の数は、同じである必要はない。
【0064】
いくつかの実施形態では、測定されたBMP種の存在量が参照値の約1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、または20%以内である場合、対象は処置に応答していないと判定され得る。
【0065】
対象(例えば、標的対象)が、(例えば、PGRNレベルの低下に関連する障害のための)処置に応答していない場合、いくつかの実施形態では、1つ以上の治療剤(例えば、PGRN)の投与量を変更(例えば、増加)及び/または投与間隔を変更する(例えば、投与間の時間を短縮する)。いくつかの実施形態では、対象が処置に応答していない場合、異なる治療剤が選択される。いくつかの実施形態では、対象が処置に応答していない場合、1つ以上の治療剤を中止する。
【0066】
BMP検出技法
いくつかの実施形態では、抗体を使用して、1種以上のBMP種の存在量を検出及び/または測定することができる。抗体に結合したBMP種は、顕微鏡検査法または酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)などによって検出することができる。
【0067】
他の実施形態では、本開示の方法に従って、質量分析法(MS)を使用して、1種以上のBMP種の存在量を検出及び/または測定する。質量分析法は、化合物をイオン化し、得られたイオンをそれらの質量電荷比(m/Q、m/q、m/Z、またはm/zと略される)によって選別する技法である。気体、液体、または固体形態で存在し得る試料(例えば、BMP分子を含む試料)をイオン化し、次いで、得られたイオンを電場及び/または磁場を通じて加速させ、それにより、イオンをそれらの質量電荷比によって分離する。イオンは、最終的にイオン検出器に衝突し、質量スペクトログラムが生成される。検出したイオンの質量電荷比を、それらの相対存在量と一緒に使用して、場合により、既知の質量(例えば、分子全体もしくはインタクトな分子の既知の質量)を検出したイオンの質量と相関させることによって、及び/または質量スペクトログラムで検出されたパターンの認識によって、親化合物(複数可)を特定することができる。
【0068】
質量分析計は、典型的には、少なくとも4つの主要な構成要素:(1)試料導入装置(例えば、気化器)、(2)イオン化装置、(3)イオン経路、及び(4)イオン検出器を含む。さらに、質量分析計は、一般的に、試料を導入装置に適した形態に変換、及び/または試料内に存在する化合物を分離する装置を含み、これは、いくつかの実施形態では、クロマトグラフィー装置(例えば、液体クロマトグラフィーまたはガスクロマトグラフィー)、またはマトリックス支援レーザー脱離/イオン化法(MALDI)もしくは固体試料に適した別の技法のための固体の標的であり得る。質量分析計はまた、一般的に、検出シグナルのシグナル処理のための装置(例えば、アナログ-デジタル変換器(ADC))、及び/または検出シグナルの処理、分析、及び表示のためのソフトウェアも含む。
【0069】
試料導入装置は、後続の処理及び分析に必要とされる、固体または液体の検体の気相への転移を容易にする。イオン化装置は、例えば、ハードイオン化法(例えば、電子イオン化法)、またはソフトイオン化法(例えば、高速原子衝撃法(FAB)、化学イオン化法(CI)、エレクトロスプレーイオン化法(ESI)、MALDI、または大気圧化学イオン化法(APCI))に利用することができる。ESI法は、ある長さのキャピラリーチューブに溶液を通過させることを含み、そのチューブの末端には高い正電位または負電位が印加されている。チューブの末端に到達した溶液は、溶媒蒸気中に溶液の極小の液滴を含む噴流または噴霧へと気化される。この液滴の噴霧は、凝縮を防止し溶媒を蒸発させるためにわずかに加熱された、蒸発室を通って流動する。液滴が小さくなるにつれ、類似の電荷間の自然な反発作用によりイオンならびに中性分子が放出されるまで、表面電荷密度が増加する。
【0070】
イオン経路中で、イオンは、大気圧近傍環境から、イオンをそれらの質量電荷比に従って分離する質量分析計の低圧(例えば、高真空)環境へと移行し、イオン検出器に向かって移動される。イオン検出器は、一般的に、イオンによる衝突に応答して電子のカスケードを放出する電子増倍管またはマイクロチャンネルプレートである。
【0071】
異なる種類の質量分析計を使用することができ、それらの例としては、セクターフィールド質量分析計、飛行時間型(TOF)質量分析計、及び四重極型質量分析計が挙げられる。セクターフィールド質量分析計は、静電場及び/または磁場を使用して、イオン経路及び/または速度を変更し、イオンの質量電荷比に従ってイオンの軌道を効果的に曲げる。より高い電荷及び/またはより小さな質量のイオンは、より低い電荷及び/またはより大きな質量のイオンよりも大きく偏向する。TOF質量分析計は、電場を使用して特定の電位によってイオンを加速させ、イオンが検出器に衝突するまでに要する時間を測定する。すべてのイオンが同じ電荷を有している場合、それらの速度はそれらの質量の関数としてのみ異なり、より小さな質量のイオンが最初に検出器に衝突する。四重極型質量分析計は、4本の平行棒の1つ以上のセット(4本の平行棒のセットは四重極として既知である)を用いて、4本の棒の間に作られた四重極電場(例えば、高周波(RF)四重極電場)を通過する際に、イオンの経路を安定化または不安定化させる振動する電場を発生させる。具体的には、質量電荷比の特定の範囲内のイオンのみが、任意の所与の時間で質量分析計を通過することができる。しかしながら、棒の電位を変化させることによって、幅広い範囲の質量電荷比を迅速に掃引することができる。質量電荷比は、連続的に、または不連続な飛び(discrete jump)を特定してのいずれかで掃引することができる。
【0072】
単一の質量分析計(例えば、四重極)を使用する単一質量分析法(MS)に対し、タンデム質量分析法(MS/MS)は、一連の質量分析計(例えば、3つの質量分析計)を使用して、複数のラウンドの質量分析法を実施し、典型的には、ラウンドの間に分子断片化ステップを有する。非限定的な例として、MS/MS装置は、一般的に、3つの四重極型質量分析計を用いる。第1の四重極(Q1)は、目的の種またはタンパク質をより大きな不均一な集団から分離する、第1の質量フィルタとして機能することができる。第2の四重極(Q2)は、Q1を通過したイオンを安定化させる、衝突室として機能することができ、イオンが衝突する低圧力ガスを充満させて、イオンの断片化を引き起こすことができる(衝突誘起断片化(CID))。第3の四重極(Q3)は、Q2で生成された断片を分離して検出器に送る、第2の質量フィルタとして機能することができる。あるいは、空間的タンデム質量分析法を実施する代わりに、四重極イオントラップを使用しかつ電場が経時的に変化する場合などに、単一の質量分析計を使用して、タンデム質量分析法を経時的に実施することができる。簡潔に述べると、四重極イオントラップは、四重極型質量分析計と同じ物理学的原理に基づいて作動するが、イオンは四重極内にトラップされ(すなわち、イオンが脱出するのに必要な時間よりも速く電場が変化して)、四重極によって発生した電場を変化させることによって、経時的に選択的に放出される。
【0073】
いくつかの方法を断片化のために使用することができ、それらの方法としては、CID、電子捕獲解離(ECD)、電子移動解離(ETD)、赤外多光子解離(IRMPD)、黒体赤外放射解離(BIRD)、電子脱離解離(EDD)、及び表面誘起解離(SID)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0074】
タンデム質量分析計を使用して、フルスキャン、プロダクトイオンスキャン、プリカーサーイオンスキャン、ニュートラルロススキャン、及び選択(または多重)反応モニタリング(SRMまたはMRM)スキャンを含む、異なる種類の実験を実行することができる。フルスキャン実験では、両方の質量分析計(例えば、Q1及びQ3)の全体の質量範囲(またはその一部)をスキャンし、第2の質量分析計(例えば、Q2)はいかなる衝突ガスも含有しない。これにより、試料中に含有されるすべてのイオンを検出することができる。プロダクトイオンスキャン実験では、特定の質量電荷比を第1の質量分析計(例えば、Q1)用に選択し、第2の質量分析計(例えば、Q2)を衝突ガスで充満させて、選択した質量電荷比を有するイオンを断片化し、次いで、第3の質量分析計(例えば、Q3)の全体の質量範囲(またはその一部)をスキャンする。これにより、選択したプリカーサーイオンのすべての断片イオンを検出することができる。プリカーサーイオンスキャン実験では、第1の質量分析(例えば、Q1)の全体の質量範囲(またはその一部)をスキャンし、第2の質量分析計(例えば、Q2)を衝突ガスで充満させて、スキャン範囲内のイオンを断片化し、特定の質量電荷比を第3の質量分析計(例えば、Q3)用に選択する。プロダクトイオンの検出の間の時間と、その検出の直前に選択した特定の質量電荷比とを相関させることにより、この種類の実験によって、ユーザーは、どのプリカーサーイオン(複数可)が目的のプロダクトイオンを生成させた可能性があるのかを判定することができる。ニュートラルロススキャン実験では、第1の質量分析計(例えば、Q1)の全体の質量範囲(またはその一部)をスキャンし、第2の質量分析計(例えば、Q2)を衝突ガスで充満させて、スキャン範囲内のすべてのイオンを断片化し、第3の質量分析計(例えば、Q3)を、プリカーサースキャン範囲内のすべての潜在的なイオンに生じた単一の特定の質量の断片化誘起喪失に対応する特定の範囲にわたってスキャンする。この種類の実験により、目的の特定の化学基(例えば、メチル基)を共通して喪失したすべてのプリカーサーの特定が可能となる。MRM実験では、ある特定の質量電荷比を第1の質量分析計(例えば、Q1)用に選択し、第2の質量分析計(例えば、Q2)を衝突ガスで充満させ、第3の質量分析計(例えば、Q3)を別の特定の質量電荷比用に設定する。この種類の実験により、第3の質量分析計において選択された生成物に断片化されることが既知である分子の特異性の高い検出が可能となる。MS及びMS/MS法は、あらゆる目的のためにその全体が参照により本明細書に組み込まれる、Grebe et al.Clin.Biochem.Rev.(2011)32:5-31にさらに記載されている。
【0075】
さらに、MS及びMS/MS技術は、液体クロマトグラフィー(LC)またはガスクロマトグラフィー(GC)技法と連結させることができる。そのような液体クロマトグラフィー-質量分析法(LC-MS)、液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析法(LC-MS/MS)、ガスクロマトグラフィー-質量分析法(GC-MS)、及びガスクロマトグラフィー-タンデム質量分析法(GC-MS/MS)の方法により、典型的にはMSまたはMS/MS単独で可能であるものよりも強化された質量分解及び質量測定が可能となる。
【0076】
液体クロマトグラフィーは、流体が均一に微細物質のカラムを通って、またはキャピラリー通路を通って浸透する際に、流体溶液の1つ以上の構成成分を選択的に遅延させるプロセスを指す。遅延は、1つ以上の固定相とバルク流体(すなわち、移動相)との間において、流体が固定相(複数可)に対して動く際の、混合物構成成分の分布の結果として生じる。「高圧液体クロマトグラフィー」としても知られている場合がある高速液体クロマトグラフィー(HPLC)は、移動相を圧力下で固定相、典型的には、高密度に圧縮されたカラムに押し通すことにより分離度が向上した、LCの変形である。
【0077】
さらに、「超高圧液体クロマトグラフィー」または「超高性能液体クロマトグラフィー(UPLC)」としても既知である、超高速液体クロマトグラフィー(UHPLC)は、従来のHPLC技法よりもはるかに高い圧力を使用して実施される、HPLCの変形である。
【0078】
いくつかの実施形態では、カラム内の粒径は、約2.0μm未満(例えば、約1.9μm、1.8μm、1.7μm、1.6μm、または1.5μm以下)である。いくつかの実施形態では、粒径は、約1.7μmである。
【0079】
いくつかの実施形態では、カラムの作動圧力は、約400bar~約1,000bar(例えば、約400、450、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950、または1,000bar)である。
【0080】
いくつかの実施形態では、クロマトグラフィー中、カラムの温度は、約40℃~約60℃(例えば、約40℃、41℃、42℃、43℃、44℃、45℃、46℃、47℃、48℃、49℃、50℃、51℃、52℃、53℃、54℃、55℃、56℃、57℃、58℃、59℃、または60℃)の間の温度で維持される。いくつかの実施形態では、カラムは、約55℃の温度で維持される。
【0081】
いくつかの実施形態では、カラムの流量は、約0.10mL/分~約0.50mL/分(例えば、約0.10mL/分、0.11mL/分、0.12mL/分、0.13mL/分、0.14mL/分、0.15mL/分、0.16mL/分、0.17mL/分、0.18mL/分、0.19mL/分、0.20mL/分、0.21mL/分、0.22mL/分、0.23mL/分、0.24mL/分、0.25mL/分、0.26mL/分、0.27mL/分、0.28mL/分、0.29mL/分、0.30mL/分、0.31mL/分、0.32mL/分、0.33mL/分、0.34mL/分、0.35mL/分、0.36mL/分、0.37mL/分、0.38mL/分、0.39mL/分、0.40mL/分、0.41mL/分、0.42mL/分、0.43mL/分、0.44mL/分、0.45mL/分、0.46mL/分、0.47mL/分、0.48mL/分、0.49mL/分、または0.50mL/分)である。いくつかの実施形態では、流量は、約0.40mL/分である。
【0082】
勾配溶出は、2つの溶媒(例えば、A溶媒及びB溶媒)を使用して行うことができる。いくつかの実施形態では、A溶媒は、水中の10mMギ酸アンモニウム+0.1%ギ酸であり、B溶媒は、0.1%ギ酸を含むアセトニトリルである。いくつかの実施形態では、勾配は、以下の方法、すなわち、A5%及びB95%で1分間、A50%及びB50%に6分間かけて変更、A5%及びB95%に0.1分間かけて変更、次いでA5%及びB95%で4.9分間維持する方法により生成される。LC、HPLC、またはUHPLCによって化合物が分離されると、それらを質量分析計に導入することができる。
【0083】
ガスクロマトグラフィーは、分解せずに気化することができる化合物を分離及び/または分析するための方法を指す。移動相は、典型的には不活性ガス(例えば、ヘリウム)または非反応性ガス(例えば、窒素)である、キャリアガスであり、固定相は、典型的には、「カラム」として機能するガラス管または金属管内部の不活性固体支持体上に配置された、微視的な液体またはポリマー層である。目的のガス状化合物がカラム内の固定相と相互作用するにつれて、それら化合物は、差次的に遅延され、異なる時点でカラムから溶出する。次いで、分離した化合物を、質量分析計に導入することができる。
【0084】
いくつかの実施形態では、抗体ベースの方法を使用して、1種以上のBMP種の存在量を検出及び/または測定する。好適な方法の非限定的な例としては、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、免疫蛍光法、及び放射免疫測定法(RIA)技法が挙げられる。ELISA、免疫蛍光法、及びRIA技法を実施するための方法は、当該技術分野において既知である。
【0085】
本開示の方法において、試料が検出に十分な量のBMPを含み、それによりその存在量を測定することができる限り、任意の数の試料の種類を試験試料及び/または参照試料として使用することができる。非限定的な例としては、細胞、組織、血液(例えば、全血、血漿、血清)、体液(例えば、脳脊髄液、尿、気管支肺胞洗浄液、リンパ液、精液、母乳、羊水)、大便、唾液、またはそれらの任意の組み合わせが挙げられる。好適な細胞の種類の非限定的な例としては、骨髄由来マクロファージ(BMDM)、血球(例えば、末梢血単核細胞(PBMC)、赤血球、白血球)、神経細胞(例えば、脳細胞、大脳皮質細胞、脊髄細胞)、骨髄細胞、肝細胞、腎細胞、脾細胞、肺細胞、眼細胞(例えば、網膜色素上皮(RPE)細胞などの網膜細胞)、絨毛膜絨毛細胞、筋細胞、皮膚細胞、線維芽細胞、心臓細胞、リンパ節細胞、またはそれらの組み合わせが挙げられる。いくつかの実施形態では、試料は、細胞の一部を含む。いくつかの実施形態では、試料は、細胞または組織から精製されている。精製試料の非限定的な例としては、エンドソーム、リソソーム、細胞外小胞(例えば、エクソソーム、微小胞)、及びそれらの組み合わせが挙げられる。
【0086】
いくつかの実施形態では、試料(例えば、試験試料及び/または参照試料)は、培養細胞である細胞を含む。非限定的な例としては、BMDM及びRPE細胞が挙げられる。BMDMは、例えば、PBMCを含む試料を入手し、その中に含有される単球を培養することによって得ることができる。
【0087】
好適な組織試料の種類の非限定的な例としては、神経組織(例えば、脳組織、大脳皮質組織、脊髄組織)、肝組織、腎組織、筋組織、心臓組織、眼組織(例えば、網膜組織)、リンパ節、骨髄、皮膚組織、血管組織、肺組織、脾組織、弁組織、及びそれらの組み合わせが挙げられる。いくつかの実施形態では、試験試料及び/または参照試料は、脳組織または肝組織を含む。いくつかの実施形態では、試験試料及び/または参照試料は、血漿を含む。
【0088】
PGRN欠損に関連する障害
PGRNは、リソソーム恒常性の維持及び脂質代謝の調節に関与し、PGRN欠損は、リソソーム機能障害(Evers et al.Cell Reports 20:2565-2574,2017)に関連している。同様に、多くの疾患が、未消化のまたは部分的に消化された高分子の蓄積を特徴とするリソソーム蓄積症に起因するかまたは関連付けられる可能性があり、これは、最終的には細胞及び生物の機能障害ならびに臨床的異常をもたらす。リソソーム蓄積症は、蓄積された基質の種類によって定義され、コレステロール蓄積症、スフィンゴリピド症、オリゴ糖症(oligosaccharidoses)、ムコ脂質症、ムコ多糖症、リポタンパク質蓄積症、神経セロイドリポフスチン症などに分類され得る。場合によっては、リソソーム蓄積症には、リソソーム酵素の正常な翻訳後修飾に必要なタンパク質または適切なリソソーム輸送に重要なタンパク質などの、高分子の蓄積をもたらすタンパク質における欠損または異常も含まれる。PGRN欠損に起因するかまたは関連付けられ、リソソーム蓄積症をもたらす可能性がある疾患の非限定的な例としては、前頭側頭型認知症(FTD)(例えば、GRN-FTD、MAPT-FTD、C9ORF72-ALS/FTD)、アテローム性動脈硬化、ゴーシェ病、アルツハイマー病(AD)、遅発性AD、神経セロイドリポフスチン症(NCL)、ニーマン・ピック病A型(NPA)、ニーマン・ピック病B型(NPB)、ニーマン・ピック病C型(NPC)、C9ORF72関連筋萎縮性側索硬化症(ALS)/FTD、パーキンソン病、及び加齢黄斑変性(AMD)が挙げられる。
【0089】
前頭側頭型認知症(FTD)は、進行性の神経変性障害である。FTDは、前頭葉及び側頭葉に選択的な影響を呈する、臨床的、病理学的、及び遺伝的に不均一である疾患の範囲を含む(Gazzina et al.,Eur J Pharmacol.817:76-85,2017)。FTDの臨床症状には、行動及び性格の変化、前頭部の実行障害、及び言語機能障害が挙げられる。臨床表現型の相違に基づいて、行動障害型FTD(bvFTD)、及び非流暢/失文法型PPA(avPPA)または意味型PPA(svPPA)のいずれかであり得る原発性進行性失語(PPA)などの、異なる症状が特定されている。これらの臨床症状はまた、大脳皮質基底核症候群(CBS)、進行性核上性麻痺(PSP)、及び筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの非定型パーキンソニズムと重複する場合がある(Gazzina et al.,Eur J Pharmacol.817:76-85,2017)。FTDは、神経細胞及びアストロサイト中のタウ病変、または神経細胞中の細胞質ユビキチン封入体を含む、様々な神経病理学的特徴を伴う。43kDaの分子量を有するトランス活性化DNA結合タンパク質(TDP-43)は、FTDの症例の大部分ならびにALSにおいて蓄積する、最も顕著なユビキチン化タンパク質病変である(Petkau and Leavitt,Trends Neurosci.37(7):388-98,2014)。FTDは、早発性認知症の重大な原因であり、症例の最大80%が45~64歳の間に発症する。この疾患はまた、顕著な家族性要素を呈し、約30~50%の症例で疾患の家族歴が報告されている(Petkau and Leavitt、上掲)。
【0090】
いくつかの遺伝子がFTDに関連付けられているが、FTDにおいて最も頻繁に変異する遺伝子のうちの1つがGRNであり、これは、ヒト染色体17q21に位置し、システインリッチなタンパク質であるPGRN(プロエピセリン及びアクログラニンとしても既知)をコードする。最近の推定では、GRN変異は、家族歴が陽性であるFTD患者の5~20%、及び孤発性症例の1~5%を占めると示唆されている(Rademakers et al.、上掲)。GRN関連FTDにおける神経変性及び疾患過程の根底にある正確な分子機構及び細胞機構は不明であるが、患者の脳の組織分析と組み合わせたGrnノックアウトマウスの表現型の特性評価により、炎症及びリソソーム異常の両方が疾患の中核をなすことが示唆されている(Kao et al.,Nat Rev Neurosci.18(6):325-333,2017)。実際、大量のグリオーシスが患者の皮質領域に存在し(Lui et al.,Cell.165(4):921-35,2016)、リソソーム障害を意味するリソソーム色素であるリポフスチンが、前駆症状性の個体及び患者の両方を含む変異GRN保因者の眼及び皮質において報告されている(Ward et al.,Sci.Transl.Med.9(385),2017)。
【0091】
70を超えるGRN疾患変異が報告され、遺伝子全体にわたってマッピングされており、結果として、それらは機能喪失(LOF)対立遺伝子であると確認または予測されている(Ji et al.J Med Genet.54:145-154,2017)。FTDに関連付けられる大部分のヘテロ接合性変異は、主にナンセンスmRNA減衰の結果としてのmRNAレベルの約50%の低下、及びPGRNタンパク質レベルの同等の低下を引き起こす(Petkau and Leavitt、上掲、Kao et al.、上掲)。低レベルのPGRNはまた、前駆症状性の個体を含む保因者の血液(血清)及び脳脊髄液(CSF)においても見られる(Finch et al.,Nat Rev Neurosci.18(6):325-333,2017、Goossens et al.,Alzheimers Res.Ther.10(1):31,2018、Meeter et al.,Dement.Geriatr.Cogn.Dis.Extra.6(2):330-340,2016)。したがって、ハプロ不全は、GRN関連FTDにおける主要な疾患機構であると考えられており、保因者のPGRNレベルを上昇させる治療的アプローチが、FTDの発症年齢ならびに進行を遅延させる可能性があることを示唆している(Petkau and Leavitt、上掲、Kao et al.、上掲)。この考えは、遺伝子TMEM106Bの変異体がPGRNレベルを25%増強させ、かつGRN関連FTDの発症年齢を13年遅延させることを示す、ヒト遺伝学研究によって裏付けられる(Nicholson and Rademakers,Acta Neuropathol.132(5):639-651,2016)。
【0092】
ホモ接合性のGRN変異もまた報告されているが、保因者は、リソソーム蓄積症である神経セロイドリポフスチン症(NCL)(バッテン病、出生数100,000中の発症数1~2.5、Cotman et al.,Curr.Neurol.Neurosci.Rep.13(8):366,2013)として既知の幅広く異なる臨床表現型を呈する(Smith et al.,Am.J.Hum.Genet.90(6):1102-7,2012、Almeida et al.,Neurobiol.Aging.41:200.e1-200.e5,2016)。GRNは、実際、NCLに関連付けられていると報告されている14個の神経セロイドリポフスチン症(CLN)遺伝子のうちの1つであり、GRNは、CLN11としても既知である(Kollmann et al.,Biochim.Biophys.Acta.1832(11):1866-81,2013)。
【0093】
GBA遺伝子にホモ接合性変異を保有するゴーシェ病患者は、血清中に低レベルのPGRNを有する(Jian et al.,EBioMedicine 11:127-137,2016)。GBAにヘテロ接合性変異を有するパーキンソン病患者もまた、低レベルのPGRNを有する。
【0094】
GRNにおける変異体は、ADに関連付けられており(Rademakers et al.,上掲、Brouwers et al.,Neurology.71(9):656-64,2008、Lee et al.,Neurodegener.Dis.8(4):216-20,2011、Viswanathan et al.,Am.J.Med.Genet.B.Neuropsychiatr.Genet.150B(5):747-50,2009)、TDP-43病変は、AD患者の脳において一般的である(Youmans and Wolozin,Exp.Neurol.237(1):90-5,2012)。また、PGRN遺伝子の送達は、ADのマウスモデルにおいてアミロイド負荷を減少させることも示されている(van Kampen and Kay,PLoS One.12(8):e0182896,2017)。
【0095】
ニーマン・ピック病A型及びB型(NPA及びNPB)は、酸性スフィンゴミエリナーゼをコードする遺伝子(SMPD1)における変異に起因する。ニーマン・ピック病C型(NPC)は、コレステロール輸送に関与する遺伝子、すなわち、NPC1及びNPC2における変異に起因する(Kolter and Sandhoff,Annu Rev Cell Dev.Biol.21:81-103,2005、Kobayashi et al.,Nat Cell Biol.1(2):113-8,1999)。
【0096】
ALS症例の大多数はTDP-43病変を呈し、これは、GRN変異を保有する患者にも共通している(Petkau and Leavitt,Trends Neurosci.37(7):388-98,2014、Rademakers et al.,Nat.Rev.Neurol.8(8):423-34,2012)。すべてのALS症例のなかでも、C9ORF72遺伝子内のGGGGCC反復伸長は、ALSの最も一般的な原因であり、FTDの重大な原因である。北米及びヨーロッパ集団において報告された平均変異頻度は、家族性ALS患者が37%、孤発性ALS患者が6%、家族性FTD患者が21%、及び孤発性FTD患者が6%である(Rademakers et al.、上掲)。さらに、GRN関連FTDにおいて保護的であるTMEM106B変異体はまた、C9ORF72遺伝子内に反復伸長を保有するFTD患者においても保護的である(van Blitterswijk et al.,Acta Neuropathol.127(3):397-406,2014)。
【0097】
AMDは、変性疾患であり、先進国における失明の主要な原因である。AMDは、網膜の中心近傍の小さな点であり鮮明な中心視覚に必要な眼の一部である黄斑に、損傷を引き起こす。眼内の変性変化及び視覚の喪失は、リソソーム機能の障害及び網膜後部の有害なタンパク質の蓄積に起因し得る(Viiri et al.,PLoS One.8(7):e69563,2013)。疾患が進行するにつれて、中心視覚領域における網膜の感覚細胞が損傷し、中心視覚の喪失に至る。
【0098】
キット
別の態様では、本開示は、対象(例えば、試験対象及び/または参照対象もしくは参照対象集団)においてPGRNレベルをモニタリングする際に使用するためのキットを提供する。いくつかの実施形態では、キットは、(例えば、対象から得た試験試料において、及び/または参照対象もしくは参照対象集団から得た参照試料において)1種以上のビス(モノアシルグリセロ)ホスフェート(BMP)種の測定または較正に使用するためのものである。いくつかの実施形態では、キットは、(例えば、試験試料及び/または参照試料などの試料において)1つ以上のBMP種の存在量を測定または較正するために使用することができる、BMP標準物質(例えば、内部BMP標準物質)を含む。いくつかの実施形態では、BMP標準物質は、対象において天然に存在しないBMP種を含む。いくつかの実施形態では、BMP標準物質は、ヒト、非ヒト霊長類、げっ歯類、イヌ、及び/またはブタにおいて天然に存在しないBMP種を含む。いくつかの実施形態では、BMP標準物質は、ヒトにおいて天然に存在しないBMP種を含む。いくつかの実施形態では、BMP標準物質は、BMP(14:0_14:0)を含む。
【0099】
いくつかの実施形態では、キットは、1つ以上の試薬をさらに含む。例えば、いくつかの実施形態では、キットは、(例えば、対象から)試験試料及び/または(例えば、参照対象または参照対象集団から)参照試料を得るための試薬、試料を処理する(例えば、試験試料及び/または参照試料から1種以上のBMP種を単離または精製する)ための試薬、試料(例えば、試験試料及び/または参照試料)において1種以上のBMP種の存在量を測定するための試薬、及び/または試料(例えば、試験試料及び/または参照試料)において1種以上のBMP種の存在量を較正するための試料を含む。
【0100】
いくつかの実施形態では、キットは、本明細書に記載の方法を実践するための指示(例えば、プロトコール)を含有する説明用資料(例えば、対象(例えば、試験対象及び/または参照対象もしくは参照対象集団)におけるPGRNレベルをモニタリングするキットを使用するための説明書)をさらに含む。説明用資料は、典型的には、書面または印刷物で構成されるが、そのようなものに限定されない。そのような説明書を保管することができ、それらをエンドユーザーに伝達することができる任意の媒体が、本開示により企図される。そのような媒体としては、電子記憶媒体(例えば、磁気ディスク、磁気テープ、磁気カートリッジ、磁気チップ)、光学媒体(例えば、CD-ROM)などが挙げられるが、これらに限定されない。そのような媒体には、そのような説明用資料を提供するインターネットサイトへのアドレスが含まれ得る。
【実施例
【0101】
以下の実施例は、例示目的のためのみに提供され、いかなる様式でも本開示を限定することを意図しない。
【0102】
試料調製
細胞(例えば、骨髄由来マクロファージ(BMDM))をPBSで十分に洗浄し、内部標準物質としてBMP(14:0_14:0)でスパイクしたメタノールでBMP種を抽出した。BMP種をメタノールで抽出した後、試料をボルテックス混合し、4℃で20分間、14,000rpmで遠心分離した。次いで、さらなる分析のために、上清を液体クロマトグラフィー-質量分析用バイアルに移した。
【0103】
組織試料を計量し(例えば、20mg)、次いで、TissueLyserホモジナイザー(Qiagen,Valencia,CA,USA)を使用して、BMP(14:0_14:0)でスパイクしたメタノール(200μL)中でホモジナイズした。ホモジネートを、4℃で20分間、14,000rpmで回転させた。次いで、さらなる分析のために、上清を液体クロマトグラフィー-質量分析用バイアルに移した。
【0104】
生体液(10μL)を、BMP(14:0_14:0)含有メタノール(100μl)でタンパク質沈殿させ、4℃で20分間、14,000rpmで回転させた。次いで、さらなる分析のために、上清を液体クロマトグラフィー-質量分析用バイアルに移した。
【0105】
リピドミクス手順
全体的手順:脂質抽出中、動物群及び試料採取物をランダム化した。
【0106】
尿からの脂質及び代謝物の抽出:尿をThermo Matrixチューブに採取し、-80℃で保存した。尿を氷上で解凍し、4℃で10分間、1,000×gで遠心分離して、微粒子を除去した。10μLの尿を、2.0mLのSafe-Lockエッペンドルフチューブ(Eppendorfカタログ番号022600044)に、及び内部標準物質混合物(試料あたり2μL)を含有するMSグレードの氷冷メタノール200μLに移した。試料を、5分間、2,500rpmでボルテックスした。試料を、4℃で20分間、21,000×gで遠心分離した。メタノール上清を、96ウェルプレート中のLCMSガラスバイアルに移した。試料を、LCMSにかけるまで、-80℃で保存した。
【0107】
血漿からの脂質及び代謝物の抽出:血漿試料を氷上で解凍した。血漿/血清(10μL)または尿(20μL)を、2mLのSafe-Lockエッペンドルフチューブ(Eppendorfカタログ番号022600044)に移した。内部標準物質混合物(試料あたり2μL)を含有するMSグレードの氷冷メタノール(200μL)を、5分間ボルテックスして、次いで、4℃で20分間、21,000×gで遠心分離した。リピドミクス分析及びメタボロミクス分析のために、メタノール上清を、96ウェルプレート中のLCMSガラスバイアルに移した。試料を、LCMSにかけるまで、-80℃で保存した。
【0108】
脳からの脂質及び代謝物の抽出:マウス脳の前頭皮質(18~20mg)を、5mmのステンレス鋼ビーズ(QIAGENカタログ番号69989)を含有する、ドライアイス中に保存された2mLのSafe-Lockエッペンドルフチューブ(Eppendorfカタログ番号022600044)に移した。内部標準物質混合物(試料あたり2μL)を含有するMSグレードのメタノール(400μL)を添加した。組織を、TissueLyserを用いて、冷蔵室内で30秒間、25Hzでホモジナイズして、次いで、4℃で20分間、21,000×gで遠心分離した(ビーズはチューブ内に残した)。メタノール上清を、新しい1.5mLのエッペンドルフバイアルに移し、-20℃で1時間放置して、タンパク質をさらに沈殿させた。バイアルを、4℃で20分間、21,000×gで遠心分離して、リピドミクス分析及びメタボロミクス分析のために、メタノール上清をLCMSガラスバイアルに移した。試料を、LCMSにかけるまで、-80℃で保存した。
【0109】
CSFからの脂質及び代謝物の抽出:CSFを、ピペット法によりマウスから採取した。CSF(5μL)を、ガラスバイアル中の内部標準物質混合物(試料あたり0.2μL)を含有するMSグレードの氷冷MeOH(100μL)に直接添加した。CSF及びMeOHを含むガラスバイアルを5分間ボルテックスし、直接LCMSにかけた。
【0110】
肝臓からの脂質及び代謝物の抽出:肝臓(20mg)を、5mmのステンレス鋼ビーズ(QIAGENカタログ番号69989)を含有する、ドライアイス中に保存された2mLのSafe-Lockエッペンドルフチューブ(Eppendorfカタログ番号022600044)に移した。次いで、内部標準物質混合物(試料あたり2μL)を含有するMSグレードのメタノール(400μL)を添加した。組織を、TissueLyserを用いて、(冷蔵室内で)30秒間、25Hzでホモジナイズして、4℃で20分間、21,000×gで遠心分離した(ビーズはチューブ内に残した)。メタノール上清を、新しい1.5mLのエッペンドルフバイアルに移し、-20℃で3時間放置して、タンパク質をさらに沈殿させた。バイアルを、4℃で20分間、21,000×gで遠心分離して、リピドミクス分析及びメタボロミクス分析のために、メタノール上清をLCMSガラスバイアルに移した。試料を、LCMSにかけるまで、-80℃で保存した。
【0111】
液体クロマトグラフィー-質量分析法
BMP分析を、エレクトロスプレー質量分析法(Sciex 6500+QTRAP、Sciex,Framingham,MA,USA)と連結した液体クロマトグラフィー(Shimadzu Nexera X2システム、Shimadzu Scientific Instrument,Columbia,MD,USA)により実施した。各分析のために、5μLの試料を、55℃で、0.40mL/分の流量を使用して、BEHアミド1.7μm、2.1×150mmカラム(Waters Corporation,Milford,Massachusetts,USA)に注入した。移動相Aを、10mMギ酸アンモニウム+0.1%ギ酸を含む水で構成した。移動相Bを、0.1%ギ酸を含むアセトニトリルで構成した。勾配を以下の通り、すなわち、0.0~1.0分をB95%で、1.0~7.0分でB50%まで、7.0~7.1分でB95%まで、及び7.1~12.0分をB95%でプログラムした。エレクトロスプレーイオン化を、以下の設定、すなわち、カーテンガスを25で、衝突ガスを中等度に設定し、イオンスプレー電圧を-4500で、温度を600で、イオン源ガス1を50で、イオン源ガス2を60で、コリジョンエネルギーを-50で、CXPを-15で、DPを-60で、EPを-10で、滞留時間を20ミリ秒で使用して、陰イオンモードで実施した。Analyst 1.6.3(Sciex)を多重反応モニタリングモード(MRM)で使用して、データ収集を実施した。BMP種を、表1に報告されているMRM遷移パラメータを使用して検出した。BMP種を、内部標準物質としてBMP(14:0_14:0)を使用して定量化した。BMP種を、それらの保持時間及びMRM特性に基づいて特定した。同位体のオーバーラップの補正後、MultiQuant 3.02(Sciex)を使用して定量化を実施した。BMP種を、総タンパク質量、組織重量、または生体液体積のいずれかに対して正規化した。タンパク質濃度を、ビシンコニン酸(BCA)アッセイ(Pierce,Rockford,IL,USA)を使用して測定した。
【0112】
プリカーサー(Q1)[M-H]及びプロダクトイオン(Q3)m/zトランジションを使用して、BMP種を測定した。BMP種を、表1に従ってQ1値及びQ3値から特定した。略称は、本明細書では2つの側鎖を有する種を指すものとして使用し、脂肪酸側鎖の構造を、BMP形式で括弧内に示す(例えば、BMP(18:1_18:1))。数字は、脂肪酸炭素原子の数:二重結合の数の、標準的な脂肪酸の表記形式に従う。接頭辞「e-」は、アルキルエーテル置換基の存在を示すために使用され(例えば、BMP(16:0e_18:0))、脂肪酸側鎖のカルボニル酸素は、2つの水素原子で置き換えられている。あるいは、BMP種を、炭素原子の総数:二重結合の総数に従って総称的に指すことができ、類似の値を有する種は、それらのQ1値及びQ3値によって区別することができる。
【0113】
(表1)BMP種及びMRM遷移パラメータ
【0114】
実施例1.組換え融合タンパク質の発現及び単離
組換えFc二量体:PGRN融合タンパク質をExpi293(Thermo-Fisher)で発現させるために、細胞を、製造業者(Thermo-Fisher)の説明書に従って、Expifectamine(商標)293/プラスミドDNA複合体を用いて、2×10個の細胞/mLの密度でトランスフェクトした。トランスフェクション後、オービタルシェーカー(Infors HT Multitron)中、6~8%のCOの湿潤雰囲気で、細胞を37℃でインキュベートした。トランスフェクション後の翌日、Expifectamine(商標)トランスフェクションエンハンサー1及び2を培養物に添加した。トランスフェクション後の96時間後、遠心分離によって培地上清を採集した。清澄化した上清にEDTA不含プロテアーゼ阻害剤(Roche)を追加して、-80℃で保存した。
【0115】
組換え融合タンパク質の単離のために、清澄化した培地上清をHiTrap MabSelect SuReプロテインAアフィニティーカラム(GE Healthcare Life Sciences)に充填し、洗浄緩衝液I(pH7.4のPBS緩衝液)及び洗浄緩衝液II(pH7.4のPBS緩衝液及び150mMのNaCl)で洗浄した。融合タンパク質を、150mMのNaClを含むpH3.0の50mMのQBクエン酸塩緩衝液中に溶出した。溶出直後に、アルギニン-コハク酸塩緩衝液(1Mのアルギニン、685mMのコハク酸、pH5.0)を添加して、pHを調整した。タンパク質凝集体を、Superdex 200 increase 16/60 GLカラム(GE Healthcare Life Sciences)でのサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって、単分散融合タンパク質から分離した。SECの移動相を、アルギニン-コハク酸塩のpH5.0の緩衝液中に維持した。すべてのクロマトグラフィーステップを、AKTA pureシステムまたはAKTA Avantシステム(GE Healthcare Life Sciences)上で実施した。
【0116】
PGRN融合タンパク質F1及びF2を、図1A及び1Bに示す。F1では、PGRNは、そのN末端で、-Gly-Gly-Gly-Gly-Ser-Gly-Gly-Gly-Gly-Ser-((G4S))(配列番号:1)を介してFcポリペプチドのうちの1つに融合された。F2では、PGRNは、そのC末端で、(G4S)(配列番号:1)を介してFcポリペプチドのうちの1つに融合された。F1とF2の両方で、プログラニュリンに融合したFcポリペプチドは、別のFcポリペプチドのヒンジ領域においてジスルフィド結合を介して共有結合し、Fcヘテロ二量体を形成した。
【0117】
実施例2.Grnノックアウトマウス由来のBMDMの処理
BMDMを、Trouplin et al.(J.Vis.Exp.2013(81)50966)に記載の方法と同様の方法を使用して(ただし、分化を誘導するために、組換えM-CSFを細胞増殖培地に直接添加して)、野生型マウス及びGrnノックアウトマウスの骨髄からインビトロで得た。BMDMを、50nMの実施例1のPGRN融合タンパク質F1及びF2、またはRSV(呼吸器合胞体ウイルス)対照で、72時間処理した。細胞脂質を、内部標準物質混合物を含有するメタノールの添加により抽出し、BMP存在量を、Q-trap 6500(SCIEX)上で液体クロマトグラフィー-質量分析法(LC-MS/MS)により測定した。図2A及び2Bに示すように、BMP(18:1_18:1)及びBMP(20:4_20:4)の存在量は、野生型対照と比較して、未処理Grnノックアウトマウス由来のBMDMにおいて増加した。さらに、図2C及び2Dに示す別個の実験(3回の技術的反復)では、総BMP及びBMP(18:1_18:1)の存在量は、組換えPGRN(Adipogen)またはレンチウイルスによって発現されたPGRNのいずれかで処理されたGrnノックアウトBMDMにおいて減少した。
【0118】
グラニュリン(GRN)ノックアウト動物由来のBMDMにおいて存在量の増加が見出されたBMP種を、表2に示す。特に顕著な存在量の増加を示した種に、星印を付す。
【0119】
(表2)GrnKOマウスのBMDMにおいて上昇したBMP種
【0120】
実施例3.表現型を回復させるためのGrnKOマウスの処理
実施例1の融合体1及び融合体2プログラニュリン融合タンパク質を、Grn WT及びGrn KOマウスに尾静脈を介して注射して、末梢及びCNSのGrn KO表現型を単回の50mg/kgの注射後に回復させることができるかどうかを判定した。
【0121】
材料及び方法
動物:この研究に使用したマウスは、JAX Laboratoriesから入手し、3~5か月齢のGrn KOマウス21匹(雄n=12、雌n=9)及びGrn WTマウス10匹(雄n=5、雌n=5)から構成されていた(表3)。少なくとも研究開始の7日前に、動物を標準的条件の飼育場に収容し、飼料及び水を自由摂取させた。
【0122】
(表3)研究計画/実験群
【0123】
動物の実験群への割り当て:マウスを、同腹仔、性別、及び年齢の間の差異を考慮して、各実験群に均等に分配した。
【0124】
処方:Fc二量体:PGRN融合タンパク質である融合体1及び融合体2を、それぞれ5.05mg/mL及び4.90mg/mLの生理食塩水で使用した。
【0125】
全体的手順:実験条件を、組織を採取する際に交互にした。動物群及び試料採取物をランダム化した。
【0126】
生存中の手順:3mmのランセット(GoldenRodアニマルランセット)を使用して、顎下出血を実施した。血漿の採取:血液をEDTAチューブ(Sarstedt Microvette 500 K3E、参照番号201341102)に採取し、10回穏やかに反転させた。少量(100μL未満)の血液については、血液を、キャピラリーチューブを備えたEDTAチューブ(Sarstedt Microvette 100 K3E、参照番号201278100)に採取した。EDTAチューブを、血漿の調製まで、冷蔵庫内で直ちに保存した。保存してから調製するまでの時間は、1時間以下であった。採取時間及び処理時間は一貫していた。チューブを、4℃で7分間、12,700rpmで遠心分離した。血漿(最上層)を、ゴムシール付きの0.6mLマトリックスチューブに移した。マトリックスチューブをドライアイス上で急速冷凍してから、-80℃に移行させた。尿の採取:尿を、プラスチックの計量ボートにマウスを拘束し、ほとんどのマウスに計量ボート内に尿を排出させることにより採取した。尿をp200ピペットで採取し、ゴムシール付きの0.6mLマトリックスチューブに移した。マトリックスチューブをドライアイス上で急速冷凍してから、-80℃に移行させた。
【0127】
末端体液/組織採取手順:動物を、2.5%のアバチンの腹腔内(i.p.)注射により深く麻酔をかけ、次いで、組織を以下に記載の通りの順序で採取した。
【0128】
心臓内灌流前に採取した試料:血漿の採取:血液を、25ゲージ針を装着した1mLのTerumoツベルクリンシリンジ(参照番号SS-01T2516)(EDTAによる前処理なし)を使用して、心臓穿刺により採取した。次いで、針を取り外し、血液をEDTAチューブ(Sarstedt Microvette 500 K3E、参照番号201341102)に移し、10回穏やかに反転させた。この手順の後、採取後の方法を、生存中の手順において前述したように続けた。脳脊髄液の採取:後頸部の3つの筋層を小型剪刀及び鉗子で引き剥がし、露出した大槽の周囲領域を焼灼して血液からの汚染を防止し、膜をQ-tip及びPBSで洗浄した。膜を乾燥させ、大槽を28 1/2ゲージのインスリンシリンジ針の先端で穿刺した。次いで、p20ピペットを、先ほど穿刺した孔に手早く配置し、CSFをピペットチップ内に吸い上げた。CSFを0.5mLのLo-bindエッペンドルフチューブに入れ、4℃で7分間、12,700rpmで回転させた。CSF上清を0.5mLのLo-bindエッペンドルフチューブに移し、ドライアイス上で急速冷凍してから、-80℃に移行させた。
【0129】
心臓内灌流後に採取した試料については、動物を、蠕動ポンプ(Gilson Inc.Minipuls Evolution F110701)を使用して、氷冷PBSで5分間、5mL/分の流量で経心的に灌流した。採取の間に切開及び事前の重み付けが可能な組織については、試料を直接1.5mLのエッペンドルフチューブに入れた。組織を、以下の順序で採取した。肝臓(灌流後):約150mgの肝臓を1.5mLのエッペンドルフチューブに採取した。エッペンドルフチューブをドライアイス上で急速冷凍してから、-80℃に移行させた。眼:両眼を取り外し、筋肉及び視神経を取り外して、眼を1本の1.5mLのエッペンドルフチューブに入れた。エッペンドルフチューブをドライアイス上で急速冷凍してから、-80℃に移行させた。脳:嗅球及び小脳を除く右半球を採取し、計量してから、1.5mLのエッペンドルフチューブに入れた。エッペンドルフチューブをドライアイス上で急速冷凍してから、-80℃に移行させた。
【0130】
図3~9に示すように、PGRN融合タンパク質F1及びF2の投与による、肝臓、血漿、尿、CSF、及び脳におけるBMPレベルの増加及び回復が見られた。
【0131】
実施例4.FTD患者試料のCSFにおけるBMP変化
国立老化研究所(NIA)により付与される共同契約助成(U24 AG21886)の下で政府支援を受けている、アルツハイマー病全国細胞貯蓄所(NCRAD)からの試料を、この研究に用いた。孤発性FTD患者(n=25)、GRN変異型FTD患者(n=16)、及び臨床的に正常な対照対象(n=20)からのCSF試料を、盲検化し、ランダム化し、メタノールによる代謝物/脂質抽出を行い、定量LC/MS/MSプラットフォーム上で分析した。分析対象物の同一性を本物の化合物で確認し、各分析対象物のシグナルを、対応する内部標準物質に対して正規化した。孤発性及びGRN FTD患者試料のCSFにおけるBMP18:1_18:1及び22:6_22:6の減少が、臨床的に正常な対照と比較して観察された(図10A及び10B)。
【0132】
本明細書に記載の実施例及び実施形態は、例示目的のためのみであり、それらを考慮した様々な修正または変更が当業者に提案され、本出願の趣旨及び範囲ならびに添付の特許請求の範囲内に含まれるべきであることが理解される。本明細書に引用される配列アクセッション番号の配列は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0133】
略式の配列表
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
【配列表】
2022513579000001.xml
【手続補正書】
【提出日】2021-06-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】追加
【補正の内容】
【配列表】
2022513579000001.app
【国際調査報告】