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特表2022-513599Staphylococcus細菌の栄養要求性株
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-09
(54)【発明の名称】Staphylococcus細菌の栄養要求性株
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/21 20060101AFI20220202BHJP
   C12N 15/54 20060101ALI20220202BHJP
   A61K 35/74 20150101ALI20220202BHJP
   A61K 41/00 20200101ALI20220202BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220202BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20220202BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220202BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220202BHJP
   C12N 15/61 20060101ALN20220202BHJP
【FI】
C12N1/21 ZNA
C12N15/54
A61K35/74 A
A61K41/00
A61K45/00
A61P17/00
A61P35/00
A61P43/00 121
C12N15/61
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021526566
(86)(22)【出願日】2019-11-14
(85)【翻訳文提出日】2021-07-08
(86)【国際出願番号】 US2019061439
(87)【国際公開番号】W WO2020102507
(87)【国際公開日】2020-05-22
(31)【優先権主張番号】62/768,485
(32)【優先日】2018-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519445624
【氏名又は名称】アジトラ インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュース, リチャード
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA53X
4B065AB01
4B065BA01
4B065BA23
4B065CA44
4C084AA12
4C084AA19
4C084NA06
4C084NA14
4C084ZA891
4C084ZB262
4C084ZC75
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC71
4C087CA09
4C087CA12
4C087NA06
4C087NA14
4C087ZA89
4C087ZB26
4C087ZC75
(57)【要約】
本開示は、成長に関してD-アラニンに依存する組換えStaphylococcus細菌(例えば、S.epidermidis)を提供する。1つの局面において、本開示は、2種の不活性化アラニンラセマーゼ遺伝子(Δalr1Δalr2);および不活性化D-アラニンアミノトランスフェラーゼ(dat)遺伝子を含む組換えStaphylococcus細菌を特徴とする。別の局面において、本開示は、組換えStaphylococcus細菌を作製する方法を特徴とする。別の局面において、本開示は、被験体において発疹を処置または防止する方法であって、上記方法は、本明細書で記載される局面または実施形態のうちのいずれか1つの組換えStaphylococcus細菌の集団を、上記被験体において発疹を処置または防止するために有効な量で上記被験体に投与する工程を包含する方法を特徴とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組換えStaphylococcus細菌であって、
2種の不活性化アラニンラセマーゼ遺伝子(Δalr1Δalr2);および
不活性化D-アラニンアミノトランスフェラーゼ(dat)遺伝子、
を含む組換えStaphylococcus細菌。
【請求項2】
前記Staphylococcus細菌は、成長に関してD-アラニンに依存する、請求項1に記載の組換えStaphylococcus細菌。
【請求項3】
前記Staphylococcus細菌は、Staphylococcus epidermidis(S.epidermidis)およびその亜種である、請求項1に記載の組換えStaphylococcus細菌。
【請求項4】
前記Staphylococcus細菌は、1またはこれより多くのさらなる変異をさらに含む、請求項1に記載の組換えStaphylococcus細菌。
【請求項5】
組換えStaphylococcus細菌を作製する方法であって、前記方法は、
(i)D-アラニンアミノトランスフェラーゼ(dat)ノックアウトを含むプラスミドを、Staphylococcus株(SEΔalr1Δalr2)のコンピテント細胞に形質転換する工程;
(ii)形質転換した細胞において前記ノックアウトプラスミドの存在を検出する工程;
(iii)工程(ii)において識別された前記形質転換した細胞をインキュベートする工程;および
(iv)単離したコロニーを精製する工程、
を包含する方法。
【請求項6】
前記単離したコロニーを、D-アラニン栄養要求性に関して試験する工程をさらに包含する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
形質転換体におけるノックアウトプラスミドの存在は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を使用して検出される、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記組換えStaphylococcus細菌は、Staphylococcus epidermidis(S.epidermidis)およびその亜種である、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
請求項5に記載の方法によって生成される、組換えStaphylococcus細菌。
【請求項10】
請求項1~4または9のいずれか1項に記載の組換えStaphylococcus細菌を含むキット。
【請求項11】
被験体において発疹を処置または防止する方法であって、前記方法は、前記被験体に、請求項1~4または9のいずれか1項に記載の組換えStaphylococcus細菌の集団を、前記被験体において発疹を処置または防止するために有効な量において投与する工程を包含する方法。
【請求項12】
発疹を有する前記被験体は、がん処置を受けている最中である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記がん処置は、放射線療法である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記がん処置は、化学療法である、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記化学療法は、上皮増殖因子インヒビターを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記化学療法は、チェックポイントインヒビターを含む、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権の主張
本出願は、2018年11月16日出願の米国仮特許出願第62/768,485号(その内容全体は、全ての目的のためにその全体において本明細書に参考として援用される)の利益を主張する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
アラニンラセマーゼは、細菌細胞壁におけるペプチドグリカン層の生合成において重要な構築ブロックである、l-アラニンをd-アラニンに変換することを触媒するピリドキサールリン酸含有ホモダイマー酵素である。アラニンラセマーゼは、代表的には、真核生物には存在しないが、原核生物の中では広範に分布し、これは、この酵素を、新規な抗菌物質の開発のための魅力的な標的にしている。
【0003】
D-アラニンは、細菌細胞壁形成に必須であるが、どの遺伝子がD-アラニン生合成経路において極めて重要であるかを決定することは、より複雑であることが判明した。細菌は、1種または2種のアラニンラセマーゼ遺伝子のいずれかを含む。2種の遺伝子を有する種では、一方は、構成的に発現されかつ同化性である一方で、他方は、誘導性でありかつ異化性である(Strych, U.ら, 2007. BMC Microbiol. 7:40; Strych U.ら, Curr. Microbiol. 41:290-294; Strych U.ら, FEMS Microbiol. Lett. 196:93-98)。これらの遺伝子は、細胞壁生合成に必要とされるD-アラニンを供給し、これらの細菌のうちのいくつかでのノックアウト研究は、アラニンラセマーゼ酵素が外因性D-アラニンの非存在下での増殖に必須であることを確立した(Franklin, F. C., and W. A. Venables. 1976. Mol. Gen. Genet. 149:229-237; Hols, P.ら, J. Bacteriol. 179:3804-3807; Palumbo, E.ら, FEMS Microbiol. Lett. 233:131-138; Steen, A.ら, J. Bacteriol. 187:114-124; Wijsman, H. J. 1972. Genet. Res. 20:269-277)。
【0004】
二重アラニンラセマーゼ遺伝子ノックアウトS.epidemidis株(SEΔalr1Δalr2)を、以前に開発した。しかし、その二重ノックアウト株は、Bacillus subtilis、Escherichia coliおよびいくつかの他の細菌種とは対照的に、D-アラニン栄養要求性を示さなかった。
従って、本開示は、成長に関してD-アラニンに依存するStaphylococcus細菌の必要性に対処する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Strych, U.ら, 2007. BMC Microbiol. 7:40
【非特許文献2】Strych U.ら, Curr. Microbiol. 41:290-294
【非特許文献3】Strych U.ら, FEMS Microbiol. Lett. 196:93-98
【非特許文献4】Franklin, F. C., and W. A. Venables. 1976. Mol. Gen. Genet. 149:229-237
【非特許文献5】Hols, P.ら, J. Bacteriol. 179:3804-3807
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の要旨
本開示は、成長に関してD-アラニンに依存する組換えStaphylococcus細菌に関する。
【0007】
1つの局面において、本開示は、2種の不活性化アラニンラセマーゼ遺伝子(Δalr1Δalr2);および不活性化D-アラニンアミノトランスフェラーゼ(dat)遺伝子を含む組換えStaphylococcus細菌を特徴とする。1つの実施形態において、上記Staphylococcus細菌は、成長に関してD-アラニンに依存する。別の実施形態において、上記Staphylococcus細菌は、Staphylococcus epidermidis(S.epidermidis)およびその亜種である。1つの実施形態において、上記Staphylococcus細菌は、1またはこれより多くのさらなる変異をさらに含む。
【0008】
別の局面において、本開示は、組換えStaphylococcus細菌を作製する方法であって、上記方法は、(i)D-アラニンアミノトランスフェラーゼ(dat)ノックアウトを含むプラスミドを、Staphylococcus株(SEΔalr1Δalr2)のコンピテント細胞に形質転換する工程;(ii)上記ノックアウトプラスミドの存在を、形質転換した細胞において検出する工程;(iii)工程(ii)において識別した上記形質転換した細胞をインキュベートする工程;および(iv)単離したコロニーを精製する工程、を包含する方法を特徴とする。1つの実施形態において、上記方法は、上記単離されたコロニーをD-アラニン栄養要求性に関して試験する工程をさらに包含する。別の実施形態において、形質転換体におけるノックアウトプラスミドの存在は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を使用して検出される。さらに別の実施形態において、組換えStaphylococcus細菌は、Staphylococcus epidermidis(S.epidermidis)およびその亜種である。1つの実施形態において、上記組換えStaphylococcus細菌は、前述の方法によって生成される。
【0009】
別の局面において、本開示は、本明細書で記載される局面または実施形態のうちのいずれか1つの組換えStaphylococcus細菌を含むキットを特徴とする。
【0010】
別の局面において、本開示は、被験体において発疹を処置または防止する方法であって、上記方法は、上記被験体に、本明細書で記載される局面または実施形態のうちのいずれか1つの組換えStaphylococcus細菌の集団を、上記被験体において発疹を処置または防止するために有効な量において投与する工程を包含する方法を特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、三重遺伝子ノックアウトを有するS.epidermidis株(SEΔalr1Δalr2Δdat)におけるD-アラニン栄養要求性の観察を示す。SE1423ノックアウトプラスミドでの形質転換、プラスミド組み込みおよびそのプラスミド骨格の除去の後に、細胞を、コロニーのためにプレートした。25個のコロニーを、2枚の異なるプレート上にパッチ状にまとめ、そのプレートを30℃において一晩インキュベートした。左:TSAプレート; 右:TSA+アンヒドロテトラサイクリン(2μg/mL)+D-アラニン(40μg/mL)。3個のコロニー(#7、#12および#18。赤丸で強調)が、D-アラニンを補充したTSA上で増殖できたに過ぎない。
【0012】
図2-1】図2Aおよび図2Bは、三重ノックアウト株(SEΔalr1Δalr2Δdat)のPCR試験の結果を示す。TSA+アンヒドロテトラサイクリン(2μg/mL)+D-アラニン(40μg/mL)のプレート上のパッチからの細胞を、PCR反応においてテンプレートとして使用した: クローン#7; KOクローン #12; KOクローン #18; 野生型SE; SE1423KOプラスミドDNA(ベクター。コントロールとして)。図2A: PCRを、プライマー1423-5Fおよび1423-3Rを使用して行って、野生型SE1423遺伝子座(2.3KbのPCR生成物)およびSE1423ノックアウト(1.5KbのPCR生成物)を区別した。図2B: PCRを、プライマー1423-Fおよび1423-Rを使用して行って、野生型SE1423遺伝子座に特異的な0.7KbのPCR生成物を検出した。予測されるように、そのPCR生成物は、SE1423ノックアウトプラスミドおよび推定SE1423ノックアウトSEクローンから生成されなかった。結果から、クローン#7、#12および#18において成功裡のSE1423欠失が確認された。
図2-2】図2Aおよび図2Bは、三重ノックアウト株(SEΔalr1Δalr2Δdat)のPCR試験の結果を示す。TSA+アンヒドロテトラサイクリン(2μg/mL)+D-アラニン(40μg/mL)のプレート上のパッチからの細胞を、PCR反応においてテンプレートとして使用した: クローン#7; KOクローン #12; KOクローン #18; 野生型SE; SE1423KOプラスミドDNA(ベクター。コントロールとして)。図2A: PCRを、プライマー1423-5Fおよび1423-3Rを使用して行って、野生型SE1423遺伝子座(2.3KbのPCR生成物)およびSE1423ノックアウト(1.5KbのPCR生成物)を区別した。図2B: PCRを、プライマー1423-Fおよび1423-Rを使用して行って、野生型SE1423遺伝子座に特異的な0.7KbのPCR生成物を検出した。予測されるように、そのPCR生成物は、SE1423ノックアウトプラスミドおよび推定SE1423ノックアウトSEクローンから生成されなかった。結果から、クローン#7、#12および#18において成功裡のSE1423欠失が確認された。
【発明を実施するための形態】
【0013】
発明の詳細な説明
I.定義
別段定義されなければ、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般に理解される意味を有する。以下の参考文献は、本発明において使用される用語のうちの多くの一般的な定義を、当業者に提供する: Singletonら, Dictionary of Microbiology and Molecular Biology(第2版. 1994); The Cambridge Dictionary of Science and Technology(Walker編, 1988); The Glossary of Genetics, 第5版, R. Riegerら(編), Springer Verlag(1991);およびHale & Marham, The Harper Collins Dictionary of Biology(1991)。本明細書で使用される場合、以下の用語は、別段特定されなければ、以下に帰する意味を有する。
【0014】
冠詞「a(1つの、ある)」および「an(1つの、ある)」は、その冠詞の文法上の対象の1つまたは1つより多い(すなわち、少なくとも1つ)に言及するために本明細書で使用される。例示すると、「1つの要素(an element)」は、1つの要素または1より多くの要素を意味する。
【0015】
用語「含む、包含する」とは、語句「が挙げられるが、これらに限定されない」を意味するために本明細書で使用され、その語句と交換可能に使用される。
【0016】
用語「または」とは、文脈が明らかに別のことを示さなければ、用語「および/または」を意味するために本明細書で使用され、その用語と交換可能に使用される。
【0017】
用語「のような、例えば」とは、語句「例えば、が挙げられるが、これらに限定されない」を意味するために本明細書で使用され、その語句と交換可能に使用される。
【0018】
本明細書で使用される場合、用語「栄養要求性の」または「栄養要求性」とは、生物がその成長に必要とされる特定の有機化合物を合成できないことをいう。栄養要求性株は、この特徴を示す生物である。
【0019】
本明細書で使用される場合、用語「alrA」および「alr」とは、alrA遺伝子の通常のアレルを含む、D-アラニンラセマーゼ遺伝子に言及する。
【0020】
本明細書で使用される場合、用語「dat」および「SE1423」とは、dat遺伝子の通常のアレルを含む、D-アラニンアミノトランスフェラーゼ遺伝子に言及する。
【0021】
本明細書で使用される場合、用語「ポリペプチド」または「タンパク質」とは、生物学的分子、または鎖の中で一緒に結合するアミノ酸残基から構成される高分子に言及する。本明細書で使用されるポリペプチドの定義は、アミノ酸残基の1またはそれより多くの長鎖から構成されるタンパク質(概してより高分子量)およびいくつかのアミノ酸の小さなペプチド(概してより低分子量)を包含することが意図される。他の実施形態において、1個のアミノ酸は、技術的にはポリペプチドではないものの、本発明の範囲内にあるとも考えられる。
【0022】
本発明の目的に関する用語「単離された」とは、生物学的物質(細胞、核酸またはタンパク質)の本来の環境(それが天然に存在する環境)から除去されたその生物学的物質を示す。例えば、植物または動物において天然の状態で存在するポリヌクレオチドは、単離されていないが、これが天然に存在する隣接する核酸から分離されたその同じポリヌクレオチドは、「単離された」と考えられる。
【0023】
「単離された核酸分子」(例えば、単離されたプロモーターなど)は、その核酸の天然の供給源に存在する他の核酸分子から分離されているものである。例えば、ゲノムDNAに関して、用語「単離された」は、そのゲノムDNAが天然に関連付けられている染色体から分離されている核酸分子を含む。好ましくは、「単離された」核酸分子は、その核酸分子が由来する生物のゲノムDNAにおいてその核酸分子に天然に隣接している配列を含まない。
【0024】
本明細書で使用される場合、用語「遺伝的エレメント」とは、宿主細胞においてポリペプチドをコードする領域を含むポリヌクレオチド、あるいは複製、転写もしくは翻訳、またはそのポリペプチドの発現にとって重要な他のプロセスを調節するポリヌクレオチド領域、あるいはポリペプチドをコードする領域およびこれに作動可能に連結された発現を調節する領域の両方を含むポリヌクレオチドに言及することが意味される。遺伝的エレメントは、エピソームエレメントとして;すなわち、宿主細胞ゲノムとは物理的に独立した分子として複製するベクター内に含まれ得る。それらは、プラスミド内に含まれ得る。遺伝的エレメントはまた、それらの天然の状態ではなく、むしろ、とりわけ、精製されたDNAの形態においてもしくはベクターにおいて、単離、クローニングおよび宿主細胞への導入のような操作後に、宿主細胞ゲノム内に含まれ得る。
【0025】
本明細書で使用される場合、「プロモーター」は、構造遺伝子の転写を指向するDNA配列に言及することが意味される。代表的には、プロモーターは、構造遺伝子の転写開始部位に近い、遺伝子の5’領域に位置する。プロモーターが誘導性プロモーターである場合、転写の速度は、誘導因子に応答して増大する。例えば、プロモーターは、これが特定の組織タイプにおいて関連するコード領域を転写することにおいてのみ活性であるように、組織特異的様式で調節され得る。
【0026】
本明細書で使用される場合、用語「宿主細胞」とは、形質転換もしくはトランスフェクトされているか、または外因性ポリヌクレオチド配列による形質転換もしくはトランスフェクションの能力がある細胞に言及することが意味される。
【0027】
本明細書で使用される場合、用語「ポリヌクレオチド」とは、一般に、任意のポリリボヌクレオチドまたはポリデオキシリボヌクレオチドに言及し、これらは、改変されていないRNAもしくはDNAであってもよいし、改変されたRNAもしくはDNAであってもよい。従って、例えば、本明細書で使用される場合のポリヌクレオチドは、とりわけ、1本鎖および2本鎖DNA、1本鎖および2本鎖領域または1本鎖、2本鎖および3本鎖領域の混合物であるDNA、1本鎖および2本鎖RNA、ならびに1本鎖および2本鎖領域の混合物であるRNA、1本鎖もしくは、より代表的には、2本鎖、もしくは3本鎖、または1本鎖および2本鎖領域の混合物であり得るDNAおよびRNAを含むハイブリッド分子に言及する。さらに、本明細書で使用される場合のポリヌクレオチドは、RNAもしくはDNAまたはRNAおよびDNAの両方を含む3本鎖領域に言及する。このような領域にある鎖は、同じ分子に由来してもよいし、異なる分子に由来してもよい。上記領域は、上記分子のうちの全てまたは1もしくはこれより多くを含んでいてもよいが、より代表的には、上記分子のうちのいくつかの領域のみが関わる。三重螺旋領域の分子のうちの1つは、しばしば、オリゴヌクレオチドである。本明細書で使用される場合、用語ポリヌクレオチドは、1個もしくはこれより多くの改変された塩基を含む、上記で記載されるとおりのDNAまたはRNAを含む。従って、安定性に関してまたは他の理由に関して改変された骨格を有するDNAまたはRNAは、その用語が本明細書で意図されるように「ポリヌクレオチド」である。さらに、2例だけ挙げると、通常でない塩基(例えば、イノシン)または改変された塩基(例えば、トリチル化塩基を含むDNAまたはRNAは、その用語が本明細書で使用されるようにポリヌクレオチドである。非常に種々の改変が、当業者に公知の多くの有用な目的に役立つDNAおよびRNAに対して行われていることが認識される。本明細書で使用される場合の用語ポリヌクレオチドは、ポリヌクレオチドのこのような化学的に、酵素的にまたは代謝的に改変された形態、ならびにウイルスおよび細胞(とりわけ、単純な細胞および複雑な細胞を含む)に特徴的なDNAおよびRNAの化学的な形態を含む。用語ポリヌクレオチドはまた、しばしばオリゴヌクレオチドとしても言及される短いポリヌクレオチドを含む。「ポリヌクレオチド」および「核酸」はしばしば、本明細書で交換可能に使用される。
【0028】
本明細書で使用される場合、用語「放射線療法は、強烈なエネルギーの線を使用して、がん細胞を殺滅するがん処置のタイプに言及することが意味される。
【0029】
本明細書で使用される場合、用語「化学療法」とは、薬物を使用して、がん細胞を殺滅するがん処置のタイプに言及することが意味される。
【0030】
本明細書で使用される場合、用語「発疹」とは、放射線療法または化学療法の任意の皮膚関連副作用に言及する。発疹は、代表的には、軽度の落屑、丘疹、ざらつき、つっぱり感、ならびにおそらく皮膚の掻痒および熱感によって特徴づけられる。これは、斑状丘疹状発疹(湿疹のような海綿状を呈する炎症性皮膚炎)、掻痒感、苔癬様反応、乾癬、ざ瘡様発疹、白斑様病変、自己免疫皮膚病(例えば、水疱性類天疱瘡、皮膚筋炎、円形脱毛症)、サルコイドーシスまたは爪および口腔粘膜の変化が挙げられるが、これらに限定されない。
【0031】
II.組成物
本開示は、D-アラニン栄養要求性株である三重ノックアウトStaphylococcus細菌を記載する。本開示は、二重アラニンラセマーゼ遺伝子ノックアウトおよびアラニンアミノトランスフェラーゼ遺伝子(dat, SE1423)ノックアウトを有するように遺伝的に変化している、操作されたStaphylococcus細菌(例えば、Staphylococcus epidermidisのような)を提供する。本開示は、所望のD-アラニン栄養要求性を有する三重ノックアウトS.epidermidis株(SEΔalr1Δalr2Δdat)を提供する。
【0032】
D-アラニンは、ペプチドグリカン層構造を有する細菌にとって必須の構成要素である。D-アラニンが必須であることは、ペプチドグリカン鎖の架橋においてジペプチド D-アラニル-D-アラニンの重要な役割から来ている。本開示に記載されるように、二重アラニンラセマーゼ遺伝子ノックアウトS.epidemidis株(SEΔalr1Δalr2)を、以前に開発した。しかし、その二重ノックアウト株は、Bacillus subtilis、Escherichia coliおよびいくつかの他の細菌種とは対照的に、D-アラニン栄養要求性を示さなかった。S.epidermidisにおけるグルタミン酸ラセマーゼ(L-グルタミン酸およびD-グルタミン酸を相互変換する)およびD-アラニンアミノトランスフェラーゼ(D-アラニンおよびD-グルタミン酸を相互変換する)の存在は、アラニンラセマーゼの迂回路を提供し得ると考えられた。従って、本開示は、D-アラニン栄養要求性を示す二重ノックアウト株(SEΔalr1Δalr2)においてアラニンアミノトランスフェラーゼ遺伝子(dat, SE1423)のノックアウトを提供する。
【0033】
本開示は、D-アラニンアミノトランスフェラーゼの活性が低減され、それによって、細胞をD-アラニン栄養要求性株とするように、dat遺伝子またはそのホモログにおいて欠失を有する遺伝的に操作された細菌宿主細胞を提供する。別の実施形態において、細菌細胞は、D-アラニンアミノトランスフェラーゼの活性が低減され、それによって、細胞をD-アラニン栄養要求性株とするように、datオペロンに影響を及ぼす別の遺伝子またはオペロンにおいて欠失を含むように遺伝的に操作される。
【0034】
細菌株
本発明は、遺伝的に変化した微生物、例えば、細菌を提供する。本明細書で記載される方法は、任意のStaphylococcus細菌細胞において、その細胞におけるdatのタンパク質ホモログをコードする遺伝子を不活性化もしくはノックアウトすることによって、またはこのタンパク質の発現もしくは活性を別の方法で不活性化することによって行われる得ることが企図される。株をStaphylococcus属に割り当てることは、クラスターを形成し、カタラーゼを生成し、適切な細胞壁構造を有する(ペプチドグリカンタイプおよびタイコ酸の存在を含む)グラム陽性球菌およびDNAのG+C含有量が30~40モル%の範囲であることを必要とする。例としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:S.aureus群(S.argenteus、S.aureus、S.schweitzeri、S.simiaeを含む); S.auricularis群(S.auricularisを含む); S.carnosus群(S.carnosus、S.condimenti、S.massiliensis、S.piscifermentans、S.simulansを含む); S.epidermidis群(S.capitis、S.caprae、S.epidermidis、S.saccharolyticusを含む); S.haemolyticus群(S.devriesei、S.haemolyticus、S.hominisを含む); S.hyicus-intermedius群(S.agnetis、S.chromogenes、S.felis、S.delphini、S.hyicus、S.intermedius、S.lutrae、S.microti、S.muscae、S.pseudintermedius、S.rostri、S.schleiferiを含む); S.lugdunensis群(S.lugdunensisを含む); S.saprophyticus群(S.arlettae、S.cohnii、S.equorum、S.gallinarum、S.kloosii、S.leei、S.nepalensis、S.saprophyticus、S.succinus、S.xylosusを含む); S.sciuri群(S.fleurettii、S.lentus、S.sciuri、S.stepanovicii、S.vitulinusを含む); S.simulans群(S.simulansを含む); S.warneri群(S.pasteuri、S.warneriを含む)。1つの実施形態において、Staphylococcus細菌は、Staphylococcus epidermidisである。
【0035】
遺伝子構築物
本発明は、標準的な分子生物学技術、例えば、(Sambrookら 2001)に記載されるものを利用する。pJB38(Bossら, 2013)は、pJB38(アレル交換E.coli-staphylococcalシャトルベクター)に基づき、機能性を改善するために、プラスミド上に追加のデザイン特徴をさらに含むノックアウトベクターのプラスミド骨格として使用した(Bose, J.Lら., Applied and environmental microbiology. 2013;79(7):2218-2224)。特異的プライマーを、SE1423ノックアウトを作製するためにデザインした(表1)。
【表1-1】
【0036】
プラスミドは、クローニング宿主としてTop10 E.coliを使用して、標準的な分子生物学技術を使用して、pJB38におけるEcoRI-SalI部位で重複するPCR生成物をクローニングすることによって、構築される。クローンを選択し、プライマー1423-5Fおよび1423-3R(表1)を使用するPCRによってスクリーニングして、PCR生成物を検出した。正確なSE1423ノックアウトプラスミド(pJB-1423KO)のクローンを、dam/dcm E.coli株Gm2163へと形質転換した。プラスミドDNAを、Qiagen Midi Prep Kitを使用することによって2つのGm2163形質転換体クローンから単離し、上記のように、EcoRIおよびSalIでの制限消化によってチェックした。
【0037】
組換えStaphylococcus細菌の使用
本発明のStaphylococcus細菌を、疾患を処置するために、そのまま使用し得るか、または治療用ポリペプチドを発現するように改変され得る。1つの例では、本発明のStaphylococcus細菌は、皮膚の疾患または障害を処置するために使用され得る。別の実施形態において、本発明のStaphylococcus細菌は、皮膚の疾患または障害を処置するために治療用ポリペプチドまたはそのフラグメントを発現するように改変され得る。
【0038】
発疹は、がん処置(例えば、放射線療法または化学療法)の使用の最も一般的な副作用のうちの1つである。研究は、化学療法薬(例えば、上皮増殖因子レセプター(EGFR)インヒビター、または免疫チェックポイントインヒビター)の使用が、その処置された患者のうちのおよそ30~100%において発疹の出現をもたらすことを示した(Fabbrociniら, Skin Appendage Disord. 2015, 1(1):31-7、およびSibaudら, Am J Clin Dermatol. 2018, 19(3):345-361(本明細書に参考として援用される))。EGFRインヒビターの例としては、モノクローナル抗体 セツキシマブ(Erbitux(登録商標))およびパニツムマブ(Vectibix(登録商標))、ならびに低分子チロシンキナーゼインヒビター エルロチニブ(Tarceva(登録商標))およびゲフィチニブ(Iressa(登録商標))が挙げられるが、これらに限定されない。EGFRインヒビターの例としては、細胞傷害性Tリンパ球関連抗原-4(CTLA-4)、プログラムされた細胞死タンパク質1(PD-1)またはプログラムされた死リガンド1(PD-L1)を標的化するモノクローナル抗体が挙げられるが、これらに限定されない。これらの薬物の使用によって現れる発疹状態は、これらの患者のクオリティー・オブ・ライフに影響を及ぼし得、ときおり、その治療の中止をもたらし得る。
【0039】
よって、1つの局面において、本開示は、被験体において発疹を処置または防止する方法であって、上記方法は、上記被験体に、本明細書で記載される局面または実施形態のうちのいずれか1つの組換えStaphylococcus細菌の集団を、上記被験体において発疹を処置または防止するために有効な量において投与する工程を包含する方法を特徴とする。1つの実施形態によれば、発疹を有する被験体は、がん処置を受けている最中である。1つの実施形態によれば、上記がん処置は、放射線療法である。1つの実施形態によれば、上記がん処置は、化学療法である。1つの実施形態によれば、上記化学療法は、上皮増殖因子インヒビターを含む。1つの実施形態によれば、上記化学療法は、チェックポイントインヒビターを含む。
【0040】
製剤
本発明に従う使用のための製剤は、治療上有効な量の所望のポリペプチドを生成するために、任意の薬学的に有効な量の組換えStaphylococcus細菌、例えば、遺伝的に操作された微生物、例えば、細菌の重量で少なくとも約0.01%、約0.05%、約0.1%、約0.2%、約0.3%、約0.4%、約0.5%、約0.6%、約0.7%、約0.8%、約0.9%、約1.0%、約1.5%、約2.0%、約3.0%、約4.0%、約5.0%、約6.0%、約7.0%、約8.0%、約9.0%、約10.0%、約11.0%、約12.0%、約13.0%、約14.0%、約15.0%、約16.0%、約17.0%、約18.0%、約19.0%、約20.0%、約25.0%、約30.0%、約35.0%、約40.0%、約45.0%、約50.0%またはこれより多くを含み得、その上限は、遺伝的に操作された微生物、例えば、細菌の重量で約90.0%であることは、さらに明らかである
【0041】
代替の実施形態において、本発明に従う使用のための製剤は、例えば、組換えStaphylococcus細菌の重量で、少なくとも約0,01%~約30%、約0.01%~約20%、約0.01%~約5%、約0.1%~約30%、約0.1%~約20%、約0.1%~約15%、約0.1%~約10%、約0.1%~約5%、約0.2%~約5%、約0.3%~約5%、約0.4%~約5%、約0.5%~約5%、約1%~約5%、またはこれより多くを含み得る。
【0042】
III.方法
本開示は、(i)D-アラニンアミノトランスフェラーゼ(dat)ノックアウトを含むプラスミドを、Staphylococcus株のコンピテント細胞(SEΔalr1Δalr2)へと形質転換する工程;(ii)形質転換した細胞において上記ノックアウトプラスミドの存在を検出する工程;(iii)工程(ii)において識別した形質転換した細胞をインキュベートする工程;および(iv)単離したコロニーを精製する工程を包含する組換えStaphylococcus細菌を作製する方法を特徴とする。好ましい実施形態において、形質転換体におけるノックアウトプラスミドの存在は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を使用して検出される。ある特定の実施形態において、上記方法は、D-アラニン栄養要求性に関して単離したコロニーを試験する工程をさらに包含する。
【0043】
IV.キット
本発明はまた、キットを提供する。1つの局面において、本発明のキットは、(a)本発明の組換えStaphylococcus細菌および(b)その使用説明書を含む。本発明の組成物は、上で記載される。いくつかの実施形態において、本発明の組成物は、成長に関してD-アラニンに依存する組換えStaphylococcus細菌を含む。
【0044】
本発明は、以下の実施例によってさらに例証され、その実施例は、さらなる限定とした解釈されるべきではない。本出願全体を通じて引用される全ての図面ならびに全ての参考文献、特許および公開された特許出願、ならびに図面の内容は、それらの全体において本明細書に明示的に参考として援用される。
【実施例
【0045】
以下の実施例は、本発明の範囲内の実施形態をさらに記載し、示す。実施例は、単に例証する目的で示され、本発明の限定として解釈されるべきではない。なぜならその多くのバリエーションは、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく可能だからである。
【0046】
本発明は、1つの実施形態において、Staphylococcus epidermidis(S.epidermidis)発現系の生成を記載し、それによって、発現プラスミドは、抗生物質の使用なしに維持され得る。本実験は、D-アラニン栄養要求性株であるS.epidermidis株を開発しようとする長期にわたる努力を示す。二重アラニンラセマーゼ遺伝子ノックアウトS.epidermidis株(SEΔalr1Δalr2)を以前に開発した。しかし、その二重ノックアウト株は、Bacillus subtilis、Escherichia coliおよびいくつかの他の細菌種とは対照的に、D-アラニン栄養要求性を示さなかった。S.epidermidisにおけるグルタミン酸ラセマーゼ(L-グルタミン酸およびD-グルタミン酸を相互変換する)およびD-アラニンアミノトランスフェラーゼ(D-アラニンおよびD-グルタミン酸を相互変換する)の存在は、S.aureusおよびListeria monocytogenesにおいて報告されるように、アラニンラセマーゼの迂回路を提供し得ると考えられた。従って、本発明は、D-アラニン栄養要求性を示す三重ノックアウトS.epidermidis株(SEΔalr1Δalr2Δdat)を開発するために、二重ノックアウト株(SEΔalr1Δalr2)におけるアラニンアミノトランスフェラーゼ遺伝子(dat, SE1423)のノックアウトを記載する。
【0047】
実施例1: SE1423(D-アラニンアミノトランスフェラーゼ)の欠失のためのベクター
pJB38(Bossら, 2013)を、ノックアウトベクターのプラスミド骨格として使用した。特異的プライマーを、SE1423ノックアウトを作製するために設計した(表1)。
【表1-2】
【0048】
5’および3’隣接領域のPCR生成物を生成した(それぞれ、0.5Kbおよび1.0Kb)。次いで、それらを、重複PCRにおいてテンプレートとして使用して、5’および3’隣接領域両方を含む大きなPCR生成物(1.5Kb)を生成した。その重複PCR生成物を、クローニング宿主としてTop10 E.coliを使用して、pJB38においてEcoRI-SalI部位でクローニングした。クローンを選択し、プライマー1423-5Fおよび1423-3Rを使用するPCRによってスクリーニングして、1.5KbのPCR生成物を検出した。プラスミドDNAをまた単離し、EcoRIおよびSalIによって消化して、ベクター骨格(7.0Kb)および挿入物(1.5Kb)の両方のフラグメントを検出した。正確なSE1423ノックアウトプラスミド(pJB-1423KO)のクローンを、dam/dcm E.coli株Gm2163へと形質転換した。プラスミドDNAを、Qiagen Midi Prep Kitを使用することによって2つのGm2163形質転換体クローンから単離し、EcoRIおよびSalIでの制限消化(上記のとおり)によってチェックした。
【0049】
実施例2. 三重ノックアウト株(SEΔalr1Δalr2Δdat)の生成
Gm2163から単離したpJB-1423KOプラスミドを、TAS+クロラムフェニコール(10μg/mL)のプレートを使用して、S.epidermidis株のコンピテント細胞(SEΔalr1Δalr2)へと形質転換した。形質転換体におけるpJB-1423KOプラスミドの存在を、プライマー1423-5F(EcoRI)および1423-3R(SalI)を使用して、1.5KbのPCR生成物を検出することによって確認した。試験した全ての26個のクローンにおいて、1.5KbのPCR生成物を観察した一方で、2.3KbのPCR生成物を、SE宿主細胞に由来する細胞溶解物を含む反応において観察した。2つの確認したクローンの細胞は、TSA+Cm(10μg/mL)+D-アラニン(40μg/mL)の新しいプレート上で画線培養した。プレートを、相同組換えを介するプラスミド組み込みに関して、43℃において24時間、インキュベートした。単離したコロニーを、43℃において精製のために再び画線培養した。4個の単離されたコロニーを、2回目の相同組換えを介してプラスミド骨格を除外するために、250mL バッフル付き振盪フラスコ中で50mL TSB+D-アラニン(40μg/mL)へと接種した。その培養物を、30℃において24時間振盪した。0.5mL 培養物のアリコートを、50mL 新鮮培地を含むフラスコへと移した。移動を3回反復した。そのフラスコからの細胞を、TSA+アンヒドロテトラサイクリン(ATC 2μg/mL)+D-アラニン(DA, 40μg/mL)上でプレートした。30℃でのインキュベーションの2日後に、約100~200個のコロニーは、10-5希釈において100μlの培養物でプレートしたプレート上に形成された。上記コロニーのさらなる分析を、以下に記載する。
【0050】
実施例3. 三重ノックアウト株(SEΔalr1Δalr2Δdat)におけるD-アラニン栄養要求性に関する試験
TSA+ATC+DAプレートからの合計25個の単離されたコロニーを、TASプレート上におよびTAS+ATC+DAプレート上にパッチ状にまとめた。プレートを、30℃において一晩インキュベートした。全てのクローンを、D-アラニン補充プレート(TSA+ATC+DA)上で十分に増殖させた。図1に示されるように、3個のクローン(#7、#12および#18)は、D-アラニン補充なしのTSA上では増殖できず、D-アラニン栄養要求性を示した。栄養要求性の表現型を、TSA+ATC+DAプレート上のパッチからの細胞をTSAプレート上で再びパッチ上にまとめたときに、再び観察した。TSA+ATC+DAプレートからの幾つかのクローンが、野生型SE1423遺伝子座を保持することが予測されたことに留意のこと。なぜなら第2回の相同組換えが、SE1423をノックアウトすることなく、プラスミド骨格の除去を生じ得たからである。
【0051】
D-アラニン栄養要求性株であるクローンを、さらに分析した。これらの1423KO SEクローンを、TSA+Cm(10μg/mL)上でパッチ状にまとめた場合、それらは増殖しなかった。これは、クロラムフェニコール選択マーカーを含むプラスミド骨格の第2回の相同組換えの間の除去を示す。プライマーJB-Cm-FおよびJB-Cm-R(表1)を使用するPCRはまた、抗生物質耐性マーカーの喪失を確認した(データは示さず)。プライマー1423-5Fおよび1423-3Rを使用するPCRは、これらのKOクローンにおいて1.5KbのPCR生成物を検出した一方で、SE宿主に由来するPCR生成物は、予測されるように、2.3Kbであった(図2A)。野生型SE細胞は、プライマー1423-Fおよび1423-R(ともに、SE1423コード配列に特異的)を使用して、0.7KbのPCR生成物を生成した;このPCR生成物は、KOプラスミドDNAから、および推定KOクローンから検出されなかった(図2B)。
【0052】
従って、全ての実験データに基づいて、SE1423(dat, D-アラニンアミノトランスフェラーゼ)を、成功裡に二重アラニンラセマーゼ遺伝子ノックアウト株において欠失し、三重ノックアウトS.epidermidis株(SEΔalr1Δalr2Δdat)を生成したことが結論づけられ得る。さらに、所望のD-アラニン栄養要求性が、三重ノックアウト株にいて観察された。
【0053】
D-アラニンは、細菌細胞ペプチドグリカンの合成に必要とされる。B.subtilisおよびE.coliでは、D-アラニン栄養要求性のためにアラニンラセマーゼ遺伝子を欠失することは十分であった。しかし、S.epidermidisにおいてこの表現型を確立するには、2種のアラニンラセマーゼ遺伝子(alr1、alr2)およびD-アラニンアミノトランスフェラーゼ遺伝子dat(SE1423)を、ノックアウトしなければならない。明らかに、グルタミン酸ラセマーゼおよびD-アラニンアミノトランスフェラーゼの組み合わせは、S.aureus MRSA132(Moscosoら, 2017)およびListeria monocytogenes(Thompsonら, 1998)において報告されるように、アラニンラセマーゼへの実行可能な迂回路を提供する。S.epidermidisゲノムは第3の推定アラニンラセマーゼホモログ(SE1769)を含むが、この研究において使用される実験条件下でD-アラニン栄養要求性のためにこの遺伝子をノックアウトすることは必要ではない。
【0054】
D-アラニン栄養要求性S.epidermidis株の成功裡の開発に伴って、次の工程は、選択マーカーとしてアラニンラセマーゼ遺伝子を含む発現ベクターを使用してその株を形質転換することである。形質転換体は、D-アラニン宿主栄養要求性のプラスミド補完によって選択される。
【0055】
均等物
当業者は、本明細書で記載される発明の具体的実施形態に対する多くの均等物を認識するか、または単に慣用的な実験法を使用して確認し得る。このような均等物は、以下の請求項によって包含されることが意図される。
参考文献
【化1】
図1
図2-1】
図2-2】
【配列表】
2022513599000001.app
【国際調査報告】