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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-09
(54)【発明の名称】低神経毒性HSVベクター
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/86 20060101AFI20220202BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20220202BHJP
   A61K 35/763 20150101ALI20220202BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220202BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220202BHJP
   C12N 15/113 20100101ALN20220202BHJP
【FI】
C12N15/86 Z
C12N7/01
A61K35/763
A61P35/00
A61P43/00 105
C12N15/113 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021529751
(86)(22)【出願日】2019-11-29
(85)【翻訳文提出日】2021-05-26
(86)【国際出願番号】 US2019063838
(87)【国際公開番号】W WO2020113151
(87)【国際公開日】2020-06-04
(31)【優先権主張番号】62/773,119
(32)【優先日】2018-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】519038541
【氏名又は名称】ヴァイロジン バイオテック カナダ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100111501
【弁理士】
【氏名又は名称】滝澤 敏雄
(72)【発明者】
【氏名】ジア ウィリアム
(72)【発明者】
【氏名】シュルジェンコ ドミトリー ヴイ
(72)【発明者】
【氏名】リー アイ-ファン
(72)【発明者】
【氏名】ムラド ヤナル エム
(72)【発明者】
【氏名】リウ シャオフ
(72)【発明者】
【氏名】リウ グオユ
(72)【発明者】
【氏名】ブ シュエシャン
(72)【発明者】
【氏名】デルワー ザヒド
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90Y
4B065AA95X
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA01
4B065CA24
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BC83
4C087CA08
4C087CA12
4C087NA14
4C087ZB21
4C087ZB26
(57)【要約】
改変された腫瘍溶解性ヘルペスウイルスゲノムを有する組換え単純ヘルペスウイルスが提供され、ここで、当該改変ヘルペスウイルスゲノムは、ICP34.5遺伝子の第一又は第一及び第二のコピーに動作できるように連結されている少なくとも1つのmiRNA標的配列を有する。さらにまた、そのような組換え単純ヘルペスウイルスを有する医薬組成物とともに、癌を有する対象動物の治療でそのような組成物を使用する方法が提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
改変された腫瘍溶解性ヘルペスウイルスゲノムを含む組換え単純ヘルペスウイルスであって、当該改変ヘルペスウイルスゲノムが、ICP34.5遺伝子の第一又は第一及び第二のコピーに動作できるように連結されている少なくとも1つのmiRNA標的配列を含む、前記組換え単純ヘルペスウイルス。
【請求項2】
miRNAが以下から成る群から選択される、請求項1に記載の組換え単純ヘルペスウイルス:mIR-122、miR-124、miR-124*、miR-127、miR-128、miR-129、miR-129*、miR-132、mIR-133a、mIR133b、miR-135b、miR-136、miR-136*、miR-137、miR-139-5p、miR-143、mIR-145、miR-154、miR-184、miR-188、miR-204、mIR216a、miR-299、miR-300-3p、miR-300-5p、miR-323、miR-329、miR-337、miR-335、miR-341、miR-369-3p、miR-369-5p、miR-376a、miR-376a*、miR-376b-3p、miR-376b-5p、miR-376c、miR-377、miR-379、miR-379*、miR-382、miR-382*、miR-409-5p、miR-410、miR-411、miR-431、miR-433、miR-434、miR-451、miR-466b、miR-485、miR-495、miR-539、miR-541、miR-543*、miR-551b、miR-758、及びmiR-873。
【請求項3】
miRNA標的部位がmiR-124及びmiR-143に対する結合部位の5つのコピーを含む、請求項2に記載の組換え単純ヘルペスウイルス。
【請求項4】
腫瘍溶解性ヘルペスウイルスがHSV-1である、請求項1に記載の組換え単純ヘルペスウイルス。
【請求項5】
ゲノムが糖タンパク質B(gB)をコードする遺伝子に融合誘導性変異をさらに含む、請求項4に記載の組換え単純ヘルペスウイルス。
【請求項6】
糖タンパク質B(gB)コード遺伝子がアミノ酸876の後ろで終結する糖タンパク質B変種をコードする、請求項5に記載の組換え単純ヘルペスウイルス。
【請求項7】
改変腫瘍溶解性ヘルペスウイルスゲノムが、ICP6、ICP0、ICP4、ICP27、ICP47、ICP24、及びICP56から成る群から選択される少なくとも1つのウイルス遺伝子に追加の変異又は改変を含む、請求項1に記載の組換え単純ヘルペスウイルス。
【請求項8】
少なくとも1つのウイルス遺伝子が天然のプロモータを置換することによって改変される、請求項7に記載の組換え単純ヘルペスウイルス。
【請求項9】
免疫刺激因子及びチェックポイント遮断ペプチドから成る群から選択される非ウイルスタンパク質をコードする少なくとも1つの核酸をさらに含み、当該少なくとも1つの核酸が腫瘍特異性プロモータに動作できるように連結されている、請求項1に記載の組換え単純ヘルペスウイルス。
【請求項10】
非ウイルスタンパク質が、IL12、IL15、IL15受容体アルファサブユニット、OX40L、及びPD-L1ブロッカーから成る群から選択される、請求項9に記載の組換え単純ヘルペスウイルス。
【請求項11】
請求項1から9のいずれかの項に記載の組換え単純ヘルペスウイルスの治療的に有効な量を提供する工程を含む、腫瘍細胞を溶解する方法。
【請求項12】
請求項1から9のいずれかの項に記載の組換え単純ヘルペスウイルス及び医薬的に許容できる担体を含む、治療組成物。
【請求項13】
請求項12に記載の組成物の治療的に有効な量を投与する工程を含む、癌を罹患する対象動物の癌を治療する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)本特許出願は、米国仮特許出願No.62/773,119(2018年11月29日出願)(前記出願は参照によってその全体がすべての目的のために本明細書に含まれる)の35 U.S.C.§119eに基づく権利を主張する。
(技術分野)
本発明は概して低神経毒性を有するHSVベクターに関する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍溶解性ウイルス療法は癌治療のための有望で新規な治療アプローチとして認められている。なぜならば、腫瘍溶解ウイルスは、強力な腫瘍溶解を引き起こし全身的な腫瘍特異性免疫を誘発するが、一方、化学療法又は放射線治療よりも顕著に少ない副作用を生じるからである。
種々のOVの中で、単純ヘルペスウイルス1型(“HSV-1”)系OVはもっとも進歩したものである。例えば、ヘルペスウイルス系OV(T-Vec)はメラノーマ治療のために米国食品医薬局に承認されている。HSVベクターの代表例には、米国特許7,223,593号、7,537,924号、7,063,835号、7,063,851号、7,118,755号、8,277,818号及び8,680,068号に記載されているものが含まれる。
腫瘍溶解性ヘルペスウイルスベクターに関する1つの難題はHSVの神経向性的性質である。神経侵襲性は主としてウイルスタンパク質ICP34.5によって媒介され、このことは、腫瘍溶解性ウイルス療法で用いられるベクターからICP34.5を欠失させるという一般的戦略につながる。しかしながら、ICP34.5の完全な欠失は、広範囲の組織でウイルス複製能力をほぼ10倍低下させる。本発明は、従来のHSVベクターに関する一定の難題を克服し、さらに他の関連する利点を提供する。
背景技術で考察された内容の全てが必ずしも先行技術であるというわけではなく、先行技術で考察された結果として単に先行技術であると仮定されてはならない。これらの方針にしたがえば、背景技術で考察された又はそのような内容に関連する先行技術の問題のいずれの認識も、先行技術であると明言されていないかぎり先行技術とみなされてはならない。むしろ、背景技術のいずれの内容の考察も、目下の問題に対する本発明者のアプローチの部分とみなされるべきであり、前記はまたそれ自体でかつそれだけで刷新的であり得る。
【発明の概要】
【0003】
簡単に述べると、本出願は組換え単純ヘルペスウイルス(“oHSVベクター”とも称される)に関し、前記組換えウイルスは、ICP34.5の3’非翻訳領域に少なくとも2つのmiRNA標的配列を有する少なくとも1つのICP34.5遺伝子を含む。ある種の実施態様では、少なくとも2つのmiRNA標的配列は同じmiRNAの標的である。他の実施態様では、少なくとも2つのmiRNA標的配列は、以下から成る群から選択されるmiRNAの標的である:mIR-122、miR-124、miR-124*、miR-127、miR-128、miR-129、miR-129*、miR-132、mIR-133a、mIR133b、miR-135b、miR-136、miR-136*、miR-137、miR-139-5p、miR-143、mIR-145、miR-154、miR-184、miR-188、miR-204、mIR216a、miR-299、miR-300-3p、miR-300-5p、miR-323、miR-329、miR-337、miR-335、miR-341、miR-369-3p、miR-369-5p、miR-376a、miR-376a*、miR-376b-3p、miR-376b-5p、miR-376c、miR-377、miR-379、miR-379*、miR-382、miR-382*、miR-409-5p、miR-410、miR-411、miR-431、miR-433、miR-434、miR-451、miR-466b、miR-485、miR-495、miR-539、miR-541、miR-543*、miR-551b、miR-758、及びmiR-873。慣例により、より頻繁に最終生成物として見いだされる鎖はmiRNAと示され、より稀なパートナーはmiRNA*と示される。
他の実施態様では、組換え単純ヘルペスウイルスは改変ICP27又はICP4遺伝子をさらに含み、当該改変は5’UTR、プロモータ-調節領域、又は5’UTR及びプロモータ-調節領域の両方の取換えである。いくつかの実施態様では、5’UTRはFGF遺伝子に由来する。
【0004】
ある種の実施態様では、組換え単純ヘルペスウイルスは、少なくとも1つの免疫刺激因子、チェックポイント遮断ペプチド又は両方をコードする遺伝子配列をさらに含む。
本開示はまた、ICP34.5の3’非翻訳領域に少なくとも2つのmiRNA標的配列を有する少なくとも1つのICP34.5遺伝子を含む組換え単純ヘルペスウイルスを投与する工程を含む、癌を治療する方法を提供する。
この簡単な[発明の概要]は一定の概念を単純化した形で導入するために提供されてあり、前記概念は、下記の[発明を実施するための形態]でさらに詳細に記載される。別に明言される場合を除いて、この簡単な[発明の概要]は、特許請求の範囲の内容の重要な又は本質的な特徴を識別することを意図せず、特許請求の範囲の内容の範囲を限定することも意図しない。
1つ以上の実施態様の詳細は下記の記載において説明される。1つの例示的実施態様と関連して例証又は記載される特徴は、他の実施態様の特徴と組み合わされ得る。他の特徴、目的及び利点は本記載、図面及び特許請求の範囲から明白であろう。加えて、本明細書で参照される全ての特許及び特許出願の開示は参照によってその全体が本明細書に含まれる。
本開示の例示的特徴、その性質及び種々の利点は、付随の図面及び下記の多様な実施態様に関する詳細な説明から明白であろう。非限定的かつ非網羅的な実施態様が付随の図面を参照しながら説明され、前記図面では、同じ標識又は参照番号は、特段に規定されないかぎり種々の図面を通して同じ部分を指す。図面中の要素のサイズ及び相対的位置は必ずしも縮尺通りに描かれているわけではない。例えば、種々の要素の形状は、図面の判読性を改善するために選択され、拡大され、配置される。描かれた要素の個々の形状は図面の認識を容易にするために選択されている。1つ以上の実施態様が、以下の付随図面を参照しながら下記で説明される:
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1】ICP34.5の3’非翻訳領域に異なる3つのmiRNA標的を有する例示的HSVベクターの模式図である。
図2】改変γ34.5遺伝子及び改変ICP4又はICP27遺伝子を有する例示的HSVベクターの模式図である。
図3】正常マウス及びヒト脳腫瘍(U87)保持マウスの脳内のICP27、ICP4及びICP47の発現レベルを示すグラフである。
図4】ニューロン細胞及び腫瘍細胞(LNCaP及びA549)におけるICP34.5及びβ-アクチンの発現を示すウェスタンブロットである。
図5】転写及び翻訳二重調節ウイルスの模式図である。
図6】プラットフォームウイルスで用いることができる種々の調節エレメントを示す。
図7】CXCR4-TF-Fc-h1215ウイルス又はCXCR4-TF-Fc-h1215-miRウイルスのどちらかを頭蓋内注射した後のマウスの脳切片写真である。脳切片は、ウサギポリクローナル抗HSV一次抗体及び蛍光ラット抗ウサギ二次抗体で染色した。
図8A】種々のMOIでウイルスを感染させた後の細胞生存のグラフである。図8Aは、肺腫瘍細胞A549及び正常肺細胞BEAS-2bの細胞生存を示す。
図8B】種々のMOIでウイルスを感染させた後の細胞生存のグラフである。図8Bは、肺腫瘍細胞A549及び正常肺細胞HPL1Dの細胞生存を示す。
図8C】種々のMOIでウイルスを感染させた後の細胞生存のグラフである。図8Cは肺腫瘍細胞A549、PC9、H460、H23S、H1975の細胞生存を示す。
図9】A549肺腫瘍細胞及びBEAS-2b正常肺細胞におけるVG182LFウイルスの複製を示すグラフである。
図10】hVG161又はhVG182LF感染後のA549肺腫瘍細胞及びLNCaP前立腺腫瘍細胞におけるIL-12の増加(倍率増加)を示す棒グラフである。
図11A】種々の肺腫瘍細胞におけるVG182LFウイルスの複製を示す。図11A:H1975細胞。
図11B】種々の肺腫瘍細胞におけるVG182LFウイルスの複製を示す。図11B:H460細胞。
図11C】種々の肺腫瘍細胞におけるVG182LFウイルスの複製を示す。図11C:PC9細胞。
図12】ビヒクル又はVG182LFウイルスのどちらかによる処置後1週間のH1975腫瘍保持ヌードマウスにおける腫瘍サイズを示すグラフである。
図13A】腫瘍中のマイクロRNAの選別リストを開示する。これらのマイクロRNAはhttps://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmedのPubMed及びhttp://www.mirbase.org/のマイクロRNAデータベース(“mIBRASE”)で見出すことができる(前記はいずれも参照によってその全体が本明細書に含まれる)。
図13B図13A続き。
図14A】293FT細胞における、感染後6時間のmiR-143トランスフェクション効率、感染後6時間のウイルス遺伝子発現、及び感染後24時間のウイルス複製をそれぞれ示すグラフである。
図14B図14A続き。
図14C図14B続き。
図15】マウスの脳及び脊髄切片のHSV-1免疫染色を示す写真である。マウスの皮下にコントロールビヒクル、野生型HSV-1、ICP34.5欠失HSV-1変種(VG161)、又はgbのカルボキシル末端の融合誘導性変異(fusogenic mutation)(gB-876t)とともにICP34.5の3’UTR中にmiR-143及びmiR-124に対する結合部位をコードする変種(VG301)を注射した。
図16】以下のいずれかを皮下に注射されたマウスの生存曲線を示すグラフである:野生型HSV-1、ICP34.5欠失HSV-1変種(VG161)、又はgbのカルボキシル末端の融合誘導性変異(gB-876t)とともにICP34.5の3’UTR中にmiR-143及びmiR-124に対する結合部位をコードする変種(VG301)。
図17】融合アッセイの結果を示す写真である。前記アッセイでは、細胞を固定してギムザ染色し、ウイルスプラーク及びウイルス誘発細胞融合により生じる合胞体を可視化した。gBのカルボキシル末端に融合誘導性変異を持つ(+gB-876t)又は持たない(-gB-876t)組換え腫瘍溶解性HSV-1を細胞に感染させた。
【発明を実施するための形態】
【0006】
発明の詳細な説明
本発明は、以下の好ましい発明の実施態様の詳細な説明及び本明細書に含まれる実施例を参照することによってより容易に理解され得る。
本明細書で用いられる“マイクロRNA”又は“miRNA”という用語は、動物及び植物を含む広範囲の生物で発現される短い(典型的には21-25ヌクレオチド)内因性の一本鎖RNAファミリーを指す。ヒトでは1000を超える固有のmiRNAが発現される。miRNAはメッセンジャーRNA(mRNA)で見出される特異的な標的配列と結合する。mRNA分子中の相補性又は部分的相補性配列(標的配列)との結合は、mRNAの開裂、そのポリAテールの短縮により増加する分解、及び直接的な翻訳抑止によって遺伝子発現のダウンレギュレーションをもたらす。腫瘍中のマイクロRNAの選別リスト(関連文献とともに)は図13A及び13Bで提供される(前記リスト及び関連文献は参照によってその全体が本明細書に含まれる)。
“腫瘍溶解性ヘルペスウイルス”又は“oHSV”という用語は、一般的には腫瘍細胞で複製し前記を殺滅することができるヘルペスウイルスを指す。一定の実施態様では、より選択的に腫瘍細胞を標的とするように当該ウイルスを操作することができる。腫瘍溶解性ヘルペスウイルスの代表的な例には、米国特許7,223,593号、7,537,924号、7,063,835号、7,063,851、7,118,755号、8,216,564号、8,277,818号、及び8,680,068号に記載される(前記のいずれも参照によってその全体が本明細書に含まれる)。
本明細書で用いられる“治療する”および“治療”という用語は、有益な又は所望の結果(臨床的結果を含む)を得るためのアプローチを意味する。有益な又は所望の臨床的結果には、検出可能であれ検出不能であれ、1つ以上の症候若しくは症状の軽減又は緩和、疾患の範囲の縮小、疾患の安定化(すなわち悪化しない)状態、疾患の拡大の予防、疾患進行の遅滞又は鈍化、病期の緩和又は一時押え、疾患の再発の減少、及び(部分的であれ完全であれ)寛解が含まれる(ただしこれらに限定されない)。“治療する”および“治療”という用語はまた、治療を受けなかった場合に予想される生存期間と比較した生存の延長を意味することができる。
【0007】
癌の代表的な形態には癌腫、白血病、リンパ腫、骨髄腫及び肉腫が含まれる。更なる例には以下の癌が含まれる(ただしそれらに限定されない):胆管、脳(神経膠芽腫)、乳房、子宮頸部、結腸直腸、CNS(例えば聴神経腫、星状細胞腫、頭蓋咽頭腫(craniopharyogioma)、上衣腫、神経膠芽腫、血管芽腫、髄芽腫、髄膜腫(menangioma)、神経芽腫、希突起神経膠腫、松果体腫及び網膜芽腫)、子宮内膜、造血細胞(例えば白血病及びリンパ腫)、腎臓、喉頭、肺臓、肝臓、口腔、卵巣、膵臓、前立腺、皮膚(例えばメラノーマ及び扁平上皮細胞癌腫)、及び甲状腺の癌。癌は、固形腫瘍(例えば肉腫、例えば線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫及び骨原性肉腫)を含むことができ、びまん性(例えば白血病)又は前記の何らかの組合せでもよい(例えば固形腫瘍及び播種性又はびまん性癌細胞の両方を有する転移癌)。
治療に特に好ましい癌には、肺腫瘍、乳房及び前立腺腫瘍、神経膠芽腫、胃腸管(及び関連器官、例えば食道、胆管癌、肛門、胃、腸、膵臓、結腸及び肝臓)の腫瘍、及び全ての表面の注射可能腫瘍(例えばメラノーマ)が含まれる。
良性腫瘍及び望ましくない細胞増殖の他の症状もまた治療され得る。
本明細書の多様な実施態様の更なる理解のために、多様な実施態様を記載する以下の節が提供される:A.腫瘍溶解性ヘルペスウイルス;B.マイクロRNA;C.治療組成物;及びD.投与。
【0008】
A.腫瘍溶解性ヘルペスウイルス
単純ヘルペスウイルス(HSV)1及び2型は、ヒトに感染するヘルペスウイルス科のメンバーである。HSVゲノムは2つの固有の領域を含み、これらの領域は固有長(UL)及び固有短(Us)領域と称される。これらの領域の各々は1対の逆位末端リピート配列によってフランキングされる。約75の既知オープンリーディングフレームが存在する。ウイルスゲノムは、例えば癌療法で使用される腫瘍溶解性ウイルスを開発するために操作されてきた。HSVの腫瘍特異的複製は、HSV ICP34.5(γ34.5とも呼ばれる)遺伝子の変異によって付与され得る。HSVはICP34.5の2つのコピーを含む。ICP34.5の一方又は両方のコピーを不活化させる変異体は、神経病毒性を欠き(すなわち非病毒性/非神経病毒性)かつ腫瘍溶解性であることが知られている。HSVの腫瘍選択的複製はまた重要なウイルス遺伝子(例えばICP27及び/又はICP4)の発現を制御することによって付与され得る。
【0009】
適切な腫瘍溶解性HSVは、HSV-1又はHSV-2(任意の実験室株又は臨床単離株を含む)のどちらかに由来し得る。いくつかの実施態様では、oHSVは、実験室株HSV-1株17、HSV-1株F、又はHSV-2株HG52の1つであっても又はこれらの株由来であってもよい。他の実施態様では、oHSVは非実験室株JS-1であっても、この株由来であってもよい。他の適切なHSV-1ウイルスには以下が含まれる:HrrR3(Goldstein and Weller, J. Virol. 62, 196-205, 1988)、G2O7(Mineta et al. Nature Medicine. 1(9):938-943, 1995;Kooby et al. The FASEB Journal, 13(11):1325-1334, 1999);G47デルタ(Todo et al. Proceedings of the National Academy of Sciences. 2001; 98(11):6396-6401);HSV 1716(Mace et al. Head & Neck, 2008; 30(8):1045-1051;Harrow et al. Gene Therapy. 2004; 11(22):1648-1658);HF10(Nakao et al. Cancer Gene Therapy. 2011; 18(3):167-175);NV1020(Fong et al. Molecular Therapy, 2009; 17(2):389-394);T-VEC(Andtbacka et al. Journal of Clinical Oncology, 2015; 33(25):2780-8);J100(Gaston et al. PloS one, 2013; 8(11):e81768);M002(Parker et al. Proceedings of the National Academy of Sciences, 2000; 97(5):2208-2213);NV1042(Passer et al. Cancer Gene Therapy. 2013; 20(1):17-24);G2O7-IL2(Carew et al. Molecular Therapy, 2001; 4(3):250-256);rQNestin34.5(Kambara et al. Cancer Research, 2005; 65(7):2832-2839);G47Δ-mIL-18(Fukuhara et al. Cancer Research, 2005; 65(23):10663-10668);並びに下記PCT出願に記載されたベクター:PCT/US2017/030308(発明の名称:癌細胞で強化された複製を示すHSVベクター(“HSV Vectors with Enhanced Replication in Cancer Cells”))及びPCT/US2017/018539(発明の名称:腫瘍溶解性ヘルペスウイルスとともにStat1/3阻害剤を用いる組成物及び方法(“Compositions and Methods of Using Stat1/3 Inhibitors with Oncolytic Herpes Virus”))(上記のいずれも参照によってその全体が本明細書に含まれる)。
【0010】
oHSVベクターは、本明細書に開示するようにその3’UTRにおいてmiRNA標的配列に関して改変された少なくとも1つのγ34.5遺伝子を有し、ベクター内に非改変γ34.5遺伝子は存在しない。いくつかの実施態様では、oHSVは2つの改変γ34.5遺伝子を有し、他の実施態様では、oHSVはただ1つのγ34.5遺伝子を有し、かつ、これは改変されている。いくつかの実施態様では、改変γ34.5遺伝子をin vitroで構築し、ウイルス遺伝子の置き換えとしてoHSVベクターに挿入する。改変γ34.5遺伝子がただ1つのγ34.5遺伝子の置き換えであるとき、他のγ34.5を欠失させる。どちらかの天然のγ34.5遺伝子を欠失させることができる。ある実施態様では、末端リピート(γ34.5遺伝子及びICP4遺伝子を含む)を欠失させる。本明細書で考察するように、改変γ34.5遺伝子は追加の変化(例えば外因性プロ―モーターを持つ)を含むことができる。
oHSVは追加の変異を含むことができ、前記変異は不能化変異(例えば欠失、置換、挿入)を含むことができ、ウイルスの病毒性又はその複製能力に影響を及ぼすことができる。例えば、変異はICP6、ICPO、ICP4、ICP27、ICP47、ICP24、ICP56の任意の1つ以上で生じ得る。好ましくは、これら遺伝子の1つにおける変異(場合により適切な場合には当該遺伝子の両方のコピーで生じる)は、対応する機能性ポリペプチドを発現するHSVの不能(又は能力の低下)をもたらす。いくつかの実施態様では、ウイルス遺伝子のプロモータは、標的細胞で選択的に活性を有するか、又は誘導性物質のデリバリーに際して誘導され得るか若しくは細胞性事象に際して或いは特定の環境で誘導され得るプロモータで置換することができる。
ある種の実施態様では、ICP4又はICP27の発現は、外因性プロモータ(例えば腫瘍特異性プロモータ)によって制御される。例示的な腫瘍特異性プロモータには、サバイビン、CEA、CXCR4、PSA、ARR2PB又はテロメラーゼが含まれる。他の適切な腫瘍特異性プロモータは単一の腫瘍タイプに特異的であってもよく、これらは当業界で公知である。他のエレメントも存在し得る。いくつかの事例では、エンハンサー(例えばNFkB/oct4/sox2エンハンサー)が存在する。5’UTR(例えば成長因子遺伝子(例えばFGF)由来5’UTR)もまた外因性であり得る。例示的構築物については図2を参照されたい。
【0011】
oHSVはまた、起源が非HSVである遺伝子及びヌクレオチド配列を有することができる。例えば、プロドラッグをコードする配列、サイトカイン若しくは他の免疫刺激因子、腫瘍特異性プロモータ、誘導性プロモータ、エンハンサーをコードする配列、宿主細胞と相同な配列がとりわけoHSVゲノムに存在し得る。例示的な配列は、IL12、IL15、IL15受容体アルファサブユニット、OX40L、PD-L1ブロッカー又はPD-1ブロッカーをコードする。生成物をコードする配列のためには、それらは、プロモータ配列及び発現に必要な又は所望される他の調節配列(例えばエンハンサー、ポリアデニル化シグナル配列)に動作できるように連結される。
ウイルス遺伝子の調節領域は、発現に影響を及ぼす応答エレメントを含むように改変することができる。例示的な応答エレメントには、NF-κB、Oct-3/4-SOX2、エンハンサー、サイレンサーのための応答エレメント、cAMP応答エレメント、CAATエンハンサー結合配列、及びインシュレータが含まれる。他の応答エレメントもまた含まれ得る。ウイルスプロモータは異なるプロモータと取換えることができる。プロモータの選択は、多数の要件、例えばHSVベクターの推奨される使用、患者の治療、疾患の状況又は症状、及び(誘導性プロモータのための)誘導物質の適用の容易さに左右されるであろう。癌の治療のためには、プロモータが置換されるときは概して細胞特異性又は組織特異性又は腫瘍特異性プロモータで置換されるであろう。腫瘍特異性、細胞特異性及び組織特異性プロモータは当業界で公知である。他の遺伝子エレメントもまた改変できる。例えば、ウイルス遺伝子の5’UTRは外因性UTRで取換えることができる。
【0012】
B.マイクロRNA
上述したように、本発明は少なくとも2つのmiRNA標的配列を有するoHSVを提供する。簡単に記せば、miRNAはmRNA内の標的配列と(典型的には3’-非翻訳領域(3’-UTR)で)結合する。結合は“シード領域”と呼ばれる、miRNAの5’末端から約2-8ヌクレオチドに配置される領域で開始するか又は前記領域を必要とし得る。部分的相補性が存在するとき、5’末端は3’末端よりも標的配列に対してより大きな同一性を有する傾向がある。より高い相補性は、mRNAの抑止を特にmRNA開裂を通して強化することができる。
個々のmiRNA及びmiRNA群は一定の組織タイプにおいて独占的に又は優先的に発現され得る。ニューロン細胞で豊富な又は独占的であるmiRNAには以下が含まれる:mIR-122、miR-124、miR-124*、miR-127、miR-128、miR-129、miR-129*、miR-132、mIR-133a、mIR133b、miR-135b、miR-136、miR-136*、miR-137、miR-139-5p、miR-143、mIR-145、miR-154、miR-184、miR-188、miR-204、mIR216a、miR-299、miR-300-3p、miR-300-5p、miR-323、miR-329、miR-337、miR-335、miR-341、miR-369-3p、miR-369-5p、miR-376a、miR-376a*、miR-376b-3p、miR-376b-5p、miR-376c、miR-377、miR-379、miR-379*、miR-382、miR-382*、miR-409-5p、miR-410、miR-411、miR-431、miR-433、miR-434、miR-451、miR-466b、miR-485、miR-495、miR-539、miR-541、miR-543*、miR-551b、miR-758、及びmiR-873。慣例により、より頻繁に最終生成物として見出される鎖はmiRNAとして示され、より稀なパートナーはmiRNA*として示される。腫瘍中のマイクロRNAの選別リストは(関連文献とともに)図13A及び13Bで提供される(前記リスト及び関連文献は参照によってその全体が本明細書に含まれる)。
【0013】
miRNA標的配列はγ34.5遺伝子の3’UTRに挿入される。タンデム状態で挿入される少なくとも2つのmiRNA標的配列が存在する。少なくとも3つの、少なくとも4つの、少なくとも5つの、少なくとも6つの、少なくとも10の、及びそのように続く数の標的配列が存在し得る。他の実施態様では、10、20、50、又は100未満の標的配列が存在する。標的配列の最適数は、ICP34.5の発現レベルをアッセイすることによって決定できる。多数のmiRNA標的配列が全て同じmiRNAに結合してもよく、又は異なるmiRNAに結合してもよい。標的配列はクラスター状態であってもよく(例えば図1)、前記クラスターでは、例えば第一のmiRNAと結合するタンデム状態の少なくとも2つの標的配列が存在し、この標的配列の後には第二のmiRNAと結合するタンデム状態の少なくとも2つの標的配列が続き、この標的配列の後には第三のmiRNAと結合する少なくとも2つの標的配列が続く。また別には、異なるmiRNAと結合する多数のmiRNA標的配列が特定の順序で存在しなくてもよい。さらにまた、各miRNA標的配列の一コピーだけが存在してもよい。いくつかの実施態様では、3-5の異なるmiRNA標的配列が存在する。他の実施態様では、各標的配列の3-5コピーが存在する。他の実施態様では、3-5の異なるmiRNA標的配列が存在し、これら標的配列の各々の3-5コピーがクラスター状態で存在する。例示的構築物については図1を参照されたい。
多数のmiRNA標的配列は介在配列無しに隣接するか、又は1から約25若しくは1から約20若しくは1から約15若しくは1から約10若しくは1から約5若しくは3から約10若しくは5から約10の介在ヌクレオチドを有することができる。介在ヌクレオチドは3’UTRと類似のG+C含量を有するように選択でき、好ましくはポリアデニル化シグナル配列を含まないように選択できる。介在ヌクレオチドを選択するための他の配慮は当業界では公知である。
【0014】
本発明のある種の実施態様では、本明細書に記載されるoHSVは、転写及び翻訳の両方の二重調節(“TTDR”とも称される)を利用するために構築される。そのようなベクターの例示的な図解は図5に提供される。略記すれば、ある種の好ましい実施態様では、ICP34.5遺伝子の翻訳制御は、miR-124及びmiR-143に対する結合部位の5コピーをICP34.5遺伝子の3’-UTRに挿入することによって達成される。プラットフォームウイルスベクターの重要な要素はまた、腫瘍特異性プロモータを用いるICP27遺伝子(ウイルス複製に必須の遺伝子)の転写制御を含むことができる。
腫瘍溶解性組換えウイルスの構築のためのバックボーンとして、非常に多様なHSV-1株(株17、株KOS、株F、及び株McKraeを含む)を用いることができる。全てのウイルス変異誘導は、細菌人工染色体(BAC)でクローン化したHSV-1ゲノムで実施される標準的なラムダRed-媒介組換え操作技術を用いて大腸菌(Escherichia coli)で実施できる(全般的には以下を参照されたい:Tischer BK, Smith GA, Osterrieder N. Methods Mol Biol. 2010;634:421-30. doi: 10.1007/978-1-60761-652-8_30. PMID: 20677001;Tischer BK, von Einem J, Kaufer B, and Osterrieder N., BioTechniques 40:191-197, Feb. 2006(以下の補充資料を含む:doi: 10.2144/000112096;及びTischer BK, Smith, GA and Osterrieder N. Chapter 30, Jeff Braman (ed.), In Vitro Mutagenesis Protocols: Third Edition, Methods in Molecular Biology, vol. 634, doi: 10.1007/978-1-60761-652-8_30, Springer Sceince+Business Media, LLC 2010)。
【0015】
腫瘍特異性プロモータはまた、免疫調節因子IL12/IL15/IL15RA(抗腫瘍免疫を押し上げる)をコードするカセットの発現を駆動するために用いることができる。免疫調節因子発現カセットはhCEA、hCXCR4又はPSAプロモータによって制御でき、ウイルス遺伝子発現及び複製に負の影響を持たない場所(例えばウイルス遺伝子間US1/US2、UL3/UL4及び/又はUL50/UL51)でウイルスゲノムに挿入できる。多様なマウスモデルでのin vivo試験を容易にするために、ヒトIL12の代わりにマウスIL12を発現する他の組換えウイルスを構築できる。ヒトIL15は、マウス細胞におけるその活性のためにマウス特異的腫瘍溶解性ウイルスに留めおくことができる。
ベクターは、C-末端R-ペプチドを欠くテナガザル白血病ウイルス(GALV)のenvタンパク質の融合形(ウイルスの細胞毒性を強化する)をコードする発現カセットを含むことができる。他の実施態様では、発現カセットはHSV-1糖タンパク質Bの融合形をコードすることができる。ある種の好ましい実施態様では、糖タンパク質Bは、(例えばgBのアミノ酸876の後で生じる欠失により)切縮めることができる(“gB-876”)。当該カセットは、ウイルス遺伝子発現及び複製に負の影響を持たない場所(例えばウイルス遺伝子間US1/US2、UL3/UL4及び/又はUL50/UL51)でウイルスゲノムに挿入することができる。
BAC組換え操作は、大腸菌での変異誘導を容易にするために、ウイルスゲノム内に外因性BAC DNAが存在することを必要とする。BAC配列は、もっとも通例的にはウイルス遺伝子間に(例えばUS1/US2、UL3/UL4及び/又はUL50/UL51)又はチミジンキナーゼ(TK)遺伝子に(天然のTKの発現を破壊することができる)挿入される。TK欠損ウイルスベクターはHSV-1チミジンキナーゼ(TK)遺伝子のための発現カセットを含むことができ、前記TK遺伝子はウイルスゲノムの非コード領域に挿入される構成的プロモータの制御下にある。外因性TK遺伝子の存在は、グアノシンアナログ(例えばガンシクロビル及びアシクロビル)による通例的な処理に対してウイルスを感受性にすることによってウイルスの安全性を高める。
【0016】
また別の実施態様では、当初破壊されたTKを別のTKを挿入する代わりに回復させるか、又はTK遺伝子を破壊し取換えも回復も全く実施せずに神経毒性をさらに低下させることができる(TKヌルウイルスは潜伏期から再活性化できない)。たとえTKが破壊されたとしても、ウイルスはそれらの機能についてTKに左右されない薬剤による処理に対してなお感受性を有するであろう。例えば、ホスカルネット及びシドフォビルはウイルスDNAポリメラーゼを阻害し、TK依存性ではない。
重要なHSV-1転写調節因子ICP27の発現を駆動するプロモータは、腫瘍特異性プロモータ(例えばhCEA、hCXCR4、PSA又はプロバシン(ARR2PB))で置き換えることができる。神経病毒性因子ICP34.5をコードするウイルス遺伝子の3’UTRもまたマイクロRNA認識エレメントの多数のコピーの挿入によって改変し、高レベルの対応するマイクロRNAを含む組織でICP34.5の生成を停止させることができる。例示的な実施態様では、5コピーのmiR-124及び5コピーのmiR-143認識エレメントをICP34.5の3’UTRにタンデムに挿入することができる。
ウイルスゲノムの末端リピート領域を完全に欠失させて全体的ゲノムサイズを減少させ、トランスジーン挿入のためにより大きな空きを作り出すことができ、欠失TRを操作して、ICP47遺伝子の天然のプロモータの破壊を回避する(前記は正常状態では末端リピートの部分である)。末端リピート領域の代わりに内部リピート領域を欠失させることによって同様な改変を実施できる。本明細書で考察する例示的エレメントの更なる詳細は図6に図解される。
【0017】
C.治療組成物
疾患(例えば癌)の作用を予防、治療又は緩和するために用いることができる治療組成物が提供される。より具体的には、本明細書に記載の少なくとも1つの腫瘍溶解性ウイルスを含む治療組成物が提供される。
ある種の実施態様では、組成物はさらに医薬的に許容できる担体を含むであろう。“医薬的に許容できる担体”という語句は、腫瘍溶解性ウイルスの生物学的活性の有効性に干渉せず、前記組成物が投与される対象動物に対して有毒ではない任意の担体、希釈剤又は賦形剤を包含することが意図される(全般的には以下を参照されたい:Remington: The Science and Practice of Pharmacy, Lippincott Williams & Wilkins; 21st ed. (May 1, 2005 and in The United States PharmacopE1A: The National Formulary (USP 40-NF 35及び補遺)。
本明細書に記載の腫瘍溶解性ウイルスの事例では、適切な医薬的に許容できる担体の非限定的な例には、リン酸緩衝生理食塩水、水、エマルジョン(例えば油/水エマルジョン)、多様なタイプの湿潤剤、無菌溶液、及び他のものが含まれる。追加される医薬的に許容できる担体には、腫瘍溶解性ウイルスを含有するゲル、生体吸収性マトリックス素材、移植成分、又は任意の他の適切なビヒクル、デリバリー用若しくは分配用手段又は素材が含まれる。そのような担体は在来的方法で処方して、有効な用量で対象動物に投与できる。追加される医薬的に許容できる賦形剤には水、生理食塩水、ポリエチレングリコール、ヒアルロン酸及びエタノールが含まれるが、ただし前記に限定されない。医薬的に許容できる塩はまた本明細書では、例えば鉱酸塩(塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩など)、及び有機酸の塩(例えば酢酸塩、プロピオン酸塩、マロン酸塩、安息香酸塩など)を含むことができる。oHSVを癌細胞にデリバリーするために用いることができる、そのような医薬的に許容できる(医薬等級の)担体、希釈剤及び賦形剤は、好ましくは当該組成物を与えられる個体(対象動物)で免疫応答を誘発しないであろう(かつ好ましくは過度の毒性無しに投与されるであろう)。
【0018】
本明細書で提供される組成物は多様な濃度で提供され得る。例えば、腫瘍溶解性ウイルスの投薬は約106から約109 pfuの範囲で提供され得る。さらに別の実施態様では、投薬は約106から約108 pfu/mLの範囲で、大きな病巣(例えば>5cm)を有する患者では最大4mL、小さな病巣(例えば<0.5cm)を有する患者ではより少量(例えば最大で0.1mL)が2-3週間毎の治療で注射され得る。
本発明のある種の実施態様では、標準より低い投薬量を用いることができる。したがってある種の実施態様では、約106 pfu/mL未満(最大4mLを2-3週間毎に患者に注射)が患者に投与され得る。
組成物は安定な保存寿命に資する温度で貯蔵することができ、室温(約20℃)、4℃、-20℃、-80℃、及び液体窒素での温度が含まれる。in vivoでの使用が意図される組成物は保存料を含まないので、貯蔵は一般的にはより低温であろう。組成物は乾燥(例えば凍結乾燥)又は液体形で貯蔵され得る。
【0019】
D.投与
本明細書に記載の組成物に加えて、癌を緩和するためにそのような組成物を用いる多様な方法が提供され、前記方法は、本明細書に記載のoHSVの有効な用量を対象動物に投与する工程を含む。
“有効な用量”及び“有効量”という用語は、標的癌の治療を達成するために十分である腫瘍溶解性ウイルスの量、例えば標的腫瘍サイズ又は腫瘍量(load)を減少させるために、そうでなければ標的腫瘍細胞の増殖速度を妨げるために有効である量を指す。より具体的には、そのような用語は、必要な投薬量及び治療期間で所望の結果を達成するために有効な腫瘍溶解性ウイルスの量を指す。例えば、癌治療の関係では、本明細書に記載の組成物の有効な量は、寛解を誘発し、腫瘍負荷を減らし、及び/又は腫瘍拡散若しくは癌の増殖を予防する量である。有効な量は、複数の要件(例えば対象動物の病期、年齢、性別及び体重の他に医薬の処方、投与経路など)にしたがって変動し得るが、それにもかかわらず当業者は当該量を日常的に決定することができる。
治療組成物は、癌を有すると診断された又は癌を有すると疑われる対象動物に投与される。対象動物はヒトでも非ヒト動物でもよい。
【0020】
本組成物は癌を治療するために用いられる。本明細書で用いられる“治療する”および“治療”という用語は、有益な又は所望の結果(臨床的結果を含む)を達成するためのアプローチを意味する。有益な又は所望の臨床的結果には、検出可能であれ検出不能であれ、1つ以上の症候若しくは症状の軽減又は緩和、疾患の範囲の縮小、疾患の安定化(すなわち悪化しない)状態、疾患の拡大の予防、疾患進行の遅滞又は鈍化、病期の緩和又は一時押え、疾患の再発の減少、及び寛解(部分的であれ完全であれ)が含まれる(ただし前記に限定されない)。“治療する”および“治療”という用語はまた、治療を受けなかった場合に予想される生存と比較して生存延長を意味することができる。
【0021】
癌の代表的な形態には癌腫、白血病、リンパ腫、骨髄腫及び肉腫が含まれる。更なる例には以下の癌が含まれる(ただしそれらに限定されない):胆管、脳(神経膠芽腫)、乳房、子宮頸部、結腸直腸、CNS(例えば聴神経腫、星状細胞腫、頭蓋咽頭腫(craniopharyogioma)、上衣腫、神経膠芽腫、血管芽腫、髄芽腫、髄膜腫(menangioma)、神経芽腫、希突起神経膠腫、松果体腫及び網膜芽腫)、子宮内膜、造血細胞(例えば白血病及びリンパ腫)、腎臓、喉頭、肺臓、肝臓、口腔、卵巣、膵臓、前立腺、皮膚(例えばメラノーマ及び扁平上皮細胞癌腫)、GI(例えば食道、胃及び結腸)及び甲状腺の癌。癌は、固形腫瘍(例えば肉腫、例えば線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫及び骨原性肉腫)を含むことができ、びまん性(例えば白血病)又は前記の何らかの組合せでもよい(例えば固形腫瘍及び播種性又はびまん性癌細胞の両方を有する転移癌)。癌はまた在来治療(例えば在来の化学療法及び/又は放射線療法)に耐性であってもよい。
治療に特に好ましい癌には、肺腫瘍、乳房及び前立腺腫瘍、神経膠芽腫、胃腸管(及び関連器官、例えば食道、胆管癌、肛門、胃、腸、膵臓、結腸及び肝臓)の腫瘍、及び全ての表面の注射可能腫瘍(例えばメラノーマ)が含まれる。良性腫瘍及び望ましくない細胞増殖の他の症状もまた治療され得る。
本明細書に記載の組換え単純ヘルペスウイルスは、例えば経口、外用、非経口、全身性、静脈内、筋肉内、眼内、髄腔内、腫瘍内、皮下又は経皮ルートによって投与できる。ある種の実施態様では、腫瘍溶解性ウイルスはカニューレで、カテーテルで、又は直接注射でデリバリーできる。投与部位は腫瘍内でも腫瘍から遠い部位でもよい。投与ルートはしばしば標的とされる癌のタイプに左右されるであろう。
【0022】
腫瘍溶解性ウイルスの至適な又は適切な投薬レジメンは、患者のデータ、患者の診察、及び多様な臨床的要件(例えば対象動物のサイズ、体表面積、年齢、性別、及び投与される具体的な腫瘍溶解性ウイルス、投与時間及びルート、治療される癌のタイプ、患者の全般的な健康状態、及び患者が受けている他の薬剤療法を含む)に基づき担当医によって当業界の技術範囲内で容易に決定される。ある種の実施態様にしたがえば、本明細書に記載の腫瘍溶解性ウイルスを用いる対象動物の治療は、追加の治療タイプ(例えば化学療法剤(例えばエトポシド、イフォスファミド、アドリアマイシン、ビンクリスチン、ドキシサイクリン、及び他のもの)を用いる化学療法)と併用され得る。
本明細書に記載の組換え単純ヘルペスウイルスは、臨床使用のための医薬及び医薬組成物として処方でき、医薬的に許容できる担体、希釈剤、賦形剤又はアジュバントと組合わせることができる。処方物は少なくとも部分的には投与経路に左右されるであろう。適切な処方物は無菌的媒体中にウイルス及び阻害物質を含むことができる。処方物は液体、ゲル、ペースト又は固体形であり得る。処方物は対象動物又は医療専門家に提供できる。
好ましくは治療的に有効な量が投与される。前記量は対象動物に利益を示すために十分な量である。投与される実際の量及び投与のタイムコースは、少なくとも部分的には癌の性質、対象動物の状態、デリバリー部位、及び他の要件に左右されるであろう。
本発明のさらに他の実施態様では、腫瘍溶解性ウイルスは、多様な方法で、例えば腫瘍内に、静脈内に、又は腫瘍の外科的切除後に投与され得る。
本発明を広範囲にかつ包括的に本明細書に記載してきた。当該包括的開示に含まれるより狭い範囲の種及び亜属のグループの各々もまた本発明の部分を形成する。これは、条件付きで又は属に由来する一切の内容を除去する負の制限付きで(除去される事柄が具体的に本明細書に列挙されているか否かにかかわらず)本発明の包括的記載を含む。
【0023】
以下は本発明の開示の追加の例示的実施態様である:
1)ICP34.5の3’非翻訳領域に少なくとも2つのmiRNA標的配列を有する少なくとも1つのICP34.5遺伝子を含む組換え単純ヘルペスウイルス。関連する実施態様では、改変された腫瘍溶解性ヘルペスウイルスゲノムを含む組換え単純ヘルペスウイルスが提供され、当該改変ヘルペスウイルスゲノムは、ICP34.5遺伝子の第一の又は第一及び第二のコピーに動作できるように連結された少なくとも1つのmiRNA標的配列を含む。
2)当該少なくとも2つのmiRNA標的配列が同じmiRNAの標的である、実施態様1に記載の組換え単純ヘルペスウイルス。
3)当該少なくとも2つのmiRNA標的配列が以下から成るグループから選択されるmiRNAの標的である、実施態様1又は2のどちらかに記載の組換え単純ヘルペスウイルス:mIR-122、miR-124、miR-124*、miR-127、miR-128、miR-129、miR-129*、miR-132、mIR-133a、mIR133b、miR-135b、miR-136、miR-136*、miR-137、miR-139-5p、miR-143、mIR-145、miR-154、miR-184、miR-188、miR-204、mIR216a、miR-299、miR-300-3p、miR-300-5p、miR-323、miR-329、miR-337、miR-335、miR-341、miR-369-3p、miR-369-5p、miR-376a、miR-376a*、miR-376b-3p、miR-376b-5p、miR-376c、miR-377、miR-379、miR-379*、miR-382、miR-382*、miR-409-5p、miR-410、miR-411、miR-431、miR-433、miR-434、miR-451、miR-466b、miR-485、miR-495、miR-539、miR-541、miR-543*、miR-551b、miR-758、及びmiR-873。慣例により、より頻繁に最終生成物として見いだされる鎖はmiRNAとして示され、より稀なパートナーはmiRNA*として示される。本発明のある種の実施態様では、実施態様1、2又は3に記載の組換え単純ヘルペスウイルスが提供され、ここで、当該miRNA標的部位はmiR-124及びmiR-143に対する結合部位の1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、又は6つを超えるコピーを含む。
【0024】
4)さらに改変ICP27又はICP4遺伝子を含む、実施態様1-3のいずれかに記載の組換え単純ヘルペスウイルスであって、当該改変が5’UTRの置き換えである前記単純ヘルペスウイルス。他の実施態様では、ICP27又はICP4遺伝子は天然のプロモータの置き換えによって改変される。本発明の特に好ましい実施態様では、ICP27は、天然のプロモータのhCEAプロモータ又はhCXCR4プロモータによる置換によって改変される。
5)さらに改変ICP27を含む、実施態様1、2、3又は4のいずれかに記載の組換え単純ヘルペスウイルス、ここで、当該改変はICP27の完全なプロモータ-調節領域の取換えである。上記の更なる実施態様では、単純ヘルペスウイルスはHSV-1である。実施態様1、2、3又は4のいずれか1つの更なる実施態様では、組換え単純ヘルペスウイルスは、さらに糖タンパク質B(gB)をコードする遺伝子に融合誘導性変異を含む。関連する実施態様では、糖タンパク質B(gB)をコードする遺伝子は、アミノ酸876の後ろで終結する糖タンパク質B変種をコードする。さらに他の実施態様では、実施態様1、2、3又は4のいずれか1つに記載の組換え単純ヘルペスウイルスが提供され、ここで、当該ゲノムはさらに糖タンパク質B(gB)をコードする改変遺伝子を含み、当該改変遺伝子はアミノ酸876の後ろで終結する糖タンパク質B変種をコードする。さらにまた別の実施態様では、当該組換え単純ヘルペスウイルスは、ICP6、ICP0、ICP4、ICP27、ICP47、ICP24及びICP56から成る群から選択される少なくとも1つのウイルス遺伝子に追加の変異又は改変を含む。ある種の好ましい実施態様では、追加の変異又は改変はウイルス遺伝子の非コード領域に存在する。
【0025】
6)少なくとも1つの免疫刺激因子をコードする遺伝子配列をさらに含む、実施態様1、2、3、4又は5のいずれかに記載の組換え単純ヘルペスウイルス。代表的な免疫刺激因子には、IL12、IL15、IL15受容体アルファサブユニット、OX40L、及びPD-L1ブロッカーが含まれる。
7)免疫刺激因子又はチェックポイント遮断ペプチドをコードする遺伝子配列をさらに含む、実施態様1、2、3、4、5又は6のいずれかに記載の組換え単純ヘルペスウイルス。実施態様1、2、3、4又は5の更なる特徴では、当該組換え単純ヘルペスウイルスは、免疫刺激因子、抗体及びチェックポイント遮断ペプチドから成る群から選択される非ウイルスタンパク質をコードする少なくとも1つの核酸をさらに含む。関連する実施態様では、当該少なくとも1つの核酸は腫瘍特異性プロモータに動作できるように連結される。
8)実施態様1-7のいずれかに記載の組換え単純ヘルペスウイルスを投与する工程を含む、癌を治療する方法。治療されるべき特に好ましい癌には、肺腫瘍、乳房及び前立腺腫瘍、神経膠芽腫、胃腸管(及び関連器官、例えば食道、胆管癌、肛門、胃、腸、膵臓、結腸及び肝臓)の腫瘍、及び全ての表面の注射可能腫瘍(例えばメラノーマ)が含まれる。
【0026】
以下は本発明のさらに別の実施態様である:
9)改変腫瘍溶解性ヘルペスウイルスゲノムを含む組換え単純ヘルペスウイルスであって、当該改変ヘルペスウイルスゲノムは、ICP34.5遺伝子の第一又は第一及び第二のコピーに動作できるように連結されている少なくとも1つのmiRNA標的配列を含む。好ましい実施態様では、当該単純ヘルペスウイルスは、腫瘍細胞と比較して非形質転換細胞では有意に低レベルの機能的ICP34.5タンパク質を生成する。
10)ICP34.5遺伝子の第二のコピーが不活性化変異を含む、実施態様9に記載の組換え単純ヘルペスウイルス。
11)ICP34.5遺伝子の第一又は第一及び第二のコピーに動作できるように連結された2つから10のmiRNA標的配列を含む、実施態様9に記載の組換え単純ヘルペスウイルス。
12)ICP34.5遺伝子の第一又は第一及び第二のコピーに動作できるように連結された2つのmiRNA標的配列を含む、実施態様10又は11に記載の組換え単純ヘルペスウイルス。
13)miRNA標的配列がICP34.5遺伝子の第一又は第一及び第二のコピーの3’非翻訳領域に挿入されている、実施態様10又は11に記載の組換え単純ヘルペスウイルス。
14)miRNA標的配列が3’非翻訳領域にタンデムに挿入されている、実施態様13に記載の組換え単純ヘルペスウイルス。
15)2から10のmiRNA標的配列が単一miRNAと結合する、実施態様10又は11に記載の組換え単純ヘルペスウイルス。
16)2から10のmiRNA標的配列が少なくとも2つの異なるmiRNAと結合する、実施態様10又は11に記載の組換え単純ヘルペスウイルス。
【0027】
17)miRNAが以下から成るグループから選択される、実施態様15又は16に記載の組換え単純ヘルペスウイルス:mIR-122、miR-124、miR-124*、miR-127、miR-128、miR-129、miR-129*、miR-132、mIR-133a、mIR133b、miR-135b、miR-136、miR-136*、miR-137、miR-139-5p、miR-143、mIR-145、miR-154、miR-184、miR-188、miR-204、mIR216a、miR-299、miR-300-3p、miR-300-5p、miR-323、miR-329、miR-337、miR-335、miR-341、miR-369-3p、miR-369-5p、miR-376a、miR-376a*、miR-376b-3p、miR-376b-5p、miR-376c、miR-377、miR-379、miR-379*、miR-382、miR-382*、miR-409-5p、miR-410、miR-411、miR-431、miR-433、miR-434、miR-451、miR-466b、miR-485、miR-495、miR-539、miR-541、miR-543*、miR-551b、miR-758、及びmiR-873。慣例により、より頻繁に最終生成物として見いだされる鎖はmiRNAと示され、より稀なパートナーはmiRNA*と示される。
18)miRNA標的部位がmiR-124及びmiR-143に対する結合部位の5コピーを含む、実施態様17に記載の組換え単純ヘルペスウイルス。
19)腫瘍溶解性ヘルペスウイルスがHSV-1である、実施態様9に記載の組換え単純ヘルペスウイルス。
20)改変ヘルペスウイルスゲノムがICP6、ICP0、ICP4、ICP27、ICP47、ICP24及びICP56から成る群から選択される少なくとも1つのウイルス遺伝子に追加の変異又は改変を含む、実施態様9に記載の組換え単純ヘルペスウイルス。好ましい実施態様では、当該コード配列は無傷のままであり、かつ前記ウイルス遺伝子は天然のままのプロモータを腫瘍特異性プロモータで取換えられることによって改変される。
21)追加の変異又は改変がウイルスの病毒性又はその複製活性に影響を及ぼす、実施態様20に記載の組換え単純ヘルペスウイルス。
22)変異又は改変ウイルス遺伝子がICP4及び/又はICP27である、実施態様20に記載の組換え単純ヘルペスウイルス。
23)変異又は改変が外因性5’非翻訳領域とのICP4及びICP27遺伝子の動作可能な連結を含む、実施態様22に記載の組換え単純ヘルペスウイルス。
【0028】
24)さらに改変ICP27又はICP4遺伝子を含み、当該改変が5’UTRの置き換えである、実施態様23に記載の組換え単純ヘルペスウイルス。
25)さらに改変ICP27を含み、当該改変がICP27の完全なプロモータ-調節領域の置き換えである、実施態様22に記載の組換え単純ヘルペスウイルス。ある種の実施態様では、当該ICP27プロモータはhCEA又はhCXCR4プロモータで置換される。ある種の実施態様では、プロモータ領域のほんの一部分が置換され、天然のままの5’UTRは保持される。
26)さらに免疫刺激因子、抗体及びチェックポイント遮断ペプチドから成る群から選択される非ウイルスタンパク質をコードする少なくとも1つの核酸を含み、当該少なくとも1つの核酸が腫瘍特異性プロモータに動作できるように連結されている、実施態様25に記載の組換え単純ヘルペスウイルス。
27)非ウイルスタンパク質がIL12、IL15、IL15受容体アルファサブユニット、OX40L、及びPD-L1ブロッカーから成る群から選択される、実施態様26に記載の組換え単純ヘルペスウイルス。
28)さらにC-末端R-ペプチドを欠くテナガザル白血病ウイルスのenvタンパク質の融合変種をコードする核酸配列を有する発現カセットを含み、場合によって核酸がHSV-1チミジンキナーゼをコードする、実施態様1から27のいずれか1つに記載の組換え単純ヘルペスウイルス。他の実施態様では、HSV-1糖タンパク質Bの融合形をコードする核酸配列を有する発現カセットを含む、実施態様1から27のいずれか1つに記載の組換え単純ヘルペスウイルスが提供される。ある種の好ましい実施態様では、糖タンパク質Bは、(例えばgBのアミノ酸876の後で生じる欠失により)短縮することができる。
29)ウイルスゲノムの少なくとも1つの内部又は末端リピート領域が欠失する、実施態様1から28のいずれか1つに記載の組換え単純ヘルペスウイルス。ある種のさらに別の実施態様では、実施態様1から28のいずれか1つに記載の組換え単純ヘルペスウイルスは、ICP34.5の3’UTRに5x miR-124及び5x miR-143結合部位を有し、末端リピートは欠失している(ICP0、ICP4及びICP34.5の第二のコピーも欠失している)。
30)上記実施態様1から29のいずれかに記載の組換え単純ヘルペスウイルスの治療的に有効な量を提供する工程を含む、腫瘍細胞を溶解させる方法。
31)上記実施態様1から29のいずれかに記載の組換え単純ヘルペスウイルス及び医薬的に許容できる担体を含む、治療組成物。
32)実施態様31に記載の組成物の治療的に有効な量を投与する工程を含む、癌を罹患する患者の癌を治療する方法。治療されるべき特に好ましい癌には、肺腫瘍、乳房及び前立腺腫瘍、神経膠芽腫、胃腸管(及び関連器官、例えば食道、胆管癌、肛門、胃、腸、膵臓、結腸及び肝臓)の腫瘍、及び全ての表面の注射可能腫瘍(例えばメラノーマ)が含まれる。
【実施例1】
【0029】
正常マウス脳及びヒト脳腫瘍U87におけるHSV-1前初期遺伝子発現
本実施例では、マイクロRNA調節ウイルスの注射後24時間におけるHSV-1前初期遺伝子発現を正常マウス脳とヒト脳腫瘍U87とで比較した。腫瘍を持たない5匹のヌードマウス、及び頭蓋腔にヒトU87脳腫瘍を保持する5匹のヌードマウスに、合計1x106 PFU/マウスのCXCR4-miRウイルス又はコントロールCXCR4ウイルスのどちらかを1回頭蓋内注射した。CXCR4-miRウイルスを操作して5つのmiR-124/143結合部位をタンデムにICP34.5の3’UTR内に挿入するとともにウイルスICP27遺伝子を改変して天然のICP27プロモータを腫瘍特異性CXCR4プロモータと置換した。構築物はまた、分泌可能なIL12/IL15/IL15RAのための発現カセット及びPD-L1とのPD-1結合を阻害する分泌可能なペプチドのために発現カセットを含む。CXCR4ウイルスはマイクロRNA結合部位を欠く野生型ICP34.5を含むが、それ以外はCXCR4-miRウイルスと同一である。
ウイルスの前初期遺伝子ICP27、ICP4及びICP47の正常脳組織及び腫瘍組織における発現をRT-qPCRを用いて注射後24時間で測定した。CXCR4-miRウイルスの遺伝子発現レベルの変化をCXCR4ウイルスの遺伝子発現と比較することによって決定した。アクチンの発現を正規化に用いた。調整p-値をBonferroni-Sidakの方法を用いて計算した。
図3は、CXCR4-miRウイルス処置マウスは正常な脳組織では全ての被検ウイルス遺伝子の発現で非常に有意な(p<0.01)減少を示すが、腫瘍内では高レベルのウイルス遺伝子発現を維持することを示す。これらの結果は、ICP34.5遺伝子発現のmiRNAウイルス依存ダウンレギュレーションは、脳腫瘍組織と対比して正常脳組織ではHSV-1複製を低下させることを示唆する。
【実施例2】
【0030】
ニューロン及び腫瘍細胞におけるICP34.5の発現
本実施例は、CXCR4-miRウイルス又はコントロールCXCR4ウイルスのどちらかを注射した後のニューロン及び腫瘍細胞におけるICP34.5タンパク質の発現を示す。マウスニューロン細胞(LNCap細胞)及びA549細胞をCXCR4-miRウイルス又はCXCR4ウイルスのどちらかで処理した。注射後16時間で細胞をペレット化し、ダルベッコーリン酸緩衝生理食塩水(Dulbecco’s Phosphate Buffer Saline)(PBS)で洗浄し、1mMのフッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF)及びプロテアーゼ阻害剤カクテルを含むRIPA緩衝液(10mM Tris-Cl(pH 8.0)、1mM EDTA、1% Triton X-100、0.1%デオキシコール酸ナトリウム、0.1% SDS、140mM NaCl)中、氷上で40分間インキュベートすることによって溶解させた。続いて、溶解物を13,000rpm、4℃で10分間遠心分離して上清を収集した。
各サンプルにおけるICP34.5タンパク質レベルはウェスタンブロット分析で決定した。BSAアッセイを用いて合計タンパク質濃度を測定した。タンパク質溶解物(30-40μg)を4xのSDSローディング色素と混合し、続いて95℃で10分間加熱した。続いてサンプルをローディングして10%SDS-PAGEで電気泳動し、続いてニトロセルロース膜に移した。その後、膜を5%のBSAを含むTris-緩衝生理食塩水+Tween 20(TBST)中で室温にて1時間ブロッキングした。ブロッキングした膜を抗ICP34.5又はβ-アクチン抗体とともに4℃で一晩インキュベートした。続いて、膜をTBSTで3x10分間洗浄し、対応する二次抗体とともに室温で1時間インキュベートした。TBSTを用いた10分間の3回洗浄後に、強化化学発光(ECL)試薬とともに膜を1分間インキュベートし、続いてBIO-RAD ChemiDoc XRS+画像化系に暴露した。ImageJを用いてバンド強度を定量した。
図4にウェスタンブロットの結果を示す。“miRNA”と示した列は、ICP34.5遺伝子の3’UTRにmiRNA結合エレメントを含む(+)又は前記結合エレメントを欠く(-)ウイルスに細胞を感染させたか否かを示す。ICP34.5の発現は、miRNA結合エレメントを含むウイルスに感染したニューロン細胞で低いことが判明した。対照的に、腫瘍細胞では、miRNA結合エレメントを含む又は前記を欠くウイルス構築物に感染した細胞で発現は類似していた。
【実施例3】
【0031】
マイクロRNAベースの腫瘍溶解ウイルスプラットフォーム
本実施例は、いくつかの例示的な操作されたウイルスゲノムを有するマイクロRNA系腫瘍溶解性ウイルスプラットフォームを提供する。このプラットフォームは、本明細書では“転写および翻訳二重調節”(TTDR)と称される。基本的プラットフォームのHSV-1系ベクターは図5に図解される。プラットフォームHSV-1ウイルスの重要な特徴は、miR-124及びmiR-143に対する結合部位5コピーをICP34.5遺伝子の3’UTRに挿入することによるICP34.5遺伝子の翻訳制御である。このプラットフォームベクターの重要なエレメントはまた、ICP27遺伝子(ウイルス複製に必須の遺伝子)の転写制御(腫瘍特異性プロモータを用いる)を含むことができる。
組換え腫瘍溶解性ウイルス構築用バックボーンとして多様なHSV-1株を用いることができ、それらには株17、株KOS、株F、株McKraeなどが含まれる。全てのウイルス変異誘導は、細菌人工染色体(BAC)でクローン化したHSV-1ゲノムで実施される標準的なラムダRed-媒介組換え操作技術を用いて大腸菌で実施できる(全般的には以下を参照されたい:Tischer BK, Smith GA, Osterrieder N. Methods Mol Biol. 2010;634:421-30. doi: 10.1007/978-1-60761-652-8_30. PMID: 20677001;Tischer BK, von Einem J, Kaufer B, and Osterrieder N., BioTechniques 40:191-197, Feb. 2006(以下の補充資料を含む:doi: 10.2144/000112096;及びTischer BK, Smith, GA and Osterrieder N. Chapter 30, Jeff Braman (ed.), In Vitro Mutagenesis Protocols: Third Edition, Methods in Molecular Biology, vol. 634, doi: 10.1007/978-1-60761-652-8_30, Springer Sceince+Business Media, LLC 2010)。
【0032】
腫瘍特異性プロモータはまた、免疫調節因子IL12/IL15/IL15RA(前記は抗腫瘍免疫を押し上げる)をコードするカセットの発現を駆動するために用いることができる。免疫調節因子発現カセットはhCEA、hCXCR4又はPSAプロモータによって制御でき、ウイルス遺伝子発現及び複製に負の影響を持たない場所(例えばウイルス遺伝子間US1/US2、UL3/UL4及び/又はUL50/UL51)でウイルスゲノムに挿入できる。多様なマウスモデルでのin vivo試験を容易にするために、ヒトIL12の代わりにマウスIL12を発現する他の組換えウイルスを構築できる。ヒトIL15は、マウス細胞におけるその活性のためにマウス特異的腫瘍溶解性ウイルスに留めおくことができる。
ベクターは、C-末端R-ペプチドを欠くテナガザル白血病ウイルス(GALV)のenvタンパク質の融合形(ウイルスの細胞毒性を強化する)をコードする発現カセットを含むことができる。また別には、発現カセットは糖タンパク質Bの融合形(例えば切縮めgB876t)をコードすることができる。カセットは、ウイルス遺伝子発現及び複製に負の影響を持たない場所(例えばウイルス遺伝子間US1/US2、UL3/UL4及び/又はUL50/UL51)でウイルスゲノムに挿入することができる。
ウイルスベクターはまた、HSV-1チミジンキナーゼ(TK)遺伝子のための発現カセットを含むことができ、この発現カセットはウイルス遺伝子間US1/US2、UL3/UL4及び/又はUL50/UL51に挿入される。BAC配列が大腸菌での変異誘導を容易にするためにウイルスゲノムに挿入されるならば、元の天然のTK遺伝子は破壊される。外因性TK遺伝子の存在は、グアノシンアナログ(例えばガンシクロビル及びアシクロビル)による通例的治療に対してウイルスを感受性にすることによってウイルスの安全性を高める。
【0033】
重要なHSV-1転写調節因子ICP27の発現を駆動するプロモータは、腫瘍特異性プロモータ(例えばhCEA、hCXCR4、PSA又はプロバシン(ARR2PB))で置換することができる。神経病毒性因子ICP34.5をコードするウイルス遺伝子の3’UTRもまたマイクロRNA認識エレメントの多数のコピーの挿入によって改変し、高レベルの対応するマイクロRNAを含む組織においてICP34.5の生成を停止させることができる。例示的な実施態様では、5コピーのmiR-124及び5コピーのmiR-143認識エレメントをICP34.5の3’UTRにタンデムに挿入することができる。
ウイルスゲノムの末端リピート領域を完全に欠失させて全体的ゲノムサイズを減少させ、トランスジーン挿入のためにより大きな空きを作り出すことができ、欠失TRを操作して、ICP47遺伝子の天然のプロモータの破壊を回避する(前記は正常状態では末端リピートの部分である)。本明細書で考察する例示的エレメントの更なる詳細は図6に図解される。
得られた組換えウイルスをQiagen HiSpeed MidiPrepキットを用いて単離し、Vero細胞にトランスフェクトしてウイルスを回収できる(例えばリポフェクタミン2000が用いられる)。全ての改変領域の照準配列決定及び制限プロファイリングを用いてゲノムの完全性を検証できる。最終的な組換えウイルスの安定性は、連続継代並びにウェスタンブロット及びELISAによるトランスジーンの発現の周期的検証によって確認することができる。
このプラットフォームに関して5例の例示的実施態様を下記の表に示す。肺癌(又は上皮細胞起原の他の癌、例えば腎癌及び乳癌)の治療ために2つのウイルスを、前立腺癌の治療のために3つのウイルスを操作した。
【0034】
【実施例4】
【0035】
ICP34.5発現のマイクロRNA媒介調節はin vivoで神経病毒性低下を生じる
マウスの頭蓋内に一用量(5x107 PFU/mL)のCXCR4-TF-Fc-h1215-miRウイルス(ICP34.5a遺伝子の3’UTRに5つのmiR-124及びmiR-143エレメントが挿入されている)又は前記挿入を欠くコントロールCXCR4-TF-Fc-h1215ウイルスのどちらかを注射した。両方のウイルス構築物はまた、CXCR4プロモータ駆動ICP27遺伝子、UL3とUL4との間に挿入されたTF+Fc PD-L1ブロッカー発現カセット、及びヒトIL12、IL15及びIL15受容体アルファサブユニットを発現するカセットで置換した末端リピート領域を含む。
感染に続いて、ウサギポリクローナル抗HSV一次抗体及びAlexaFluor 488結合ラット抗ウサギ二次抗体によるネズミ脳切片の染色によって感染の範囲が可視化された。図7に示すように、miR-制御ICP34.5を含むウイルスを感染させたマウスは、注射針の通り道に沿ってのみ検出可能ウイルスを示し、一方、野生型ICP34.5を含むウイルスは脳全体に広く播種された。
【実施例5】
【0036】
VG182LFウイルスはin vitroで選択的に肺癌細胞を殺滅する
肺癌細胞(A549)又は正常肺細胞(BEAS-2b及びHPL1D)を、MOIを増加させながらVG182LFウイルスと72時間インキュベートした。感染に続いて、MTTアッセイを用いて細胞生存性を測定した。図8A及び8Bに示すように、VG182LFウイルスは、正常肺細胞と対比して用量依存態様で肺癌細胞の殺滅増加を示すことが明らかになった。
下記の表は各細胞株について決定したIC50値を提供し、肺癌細胞株(A549)と比較して、正常肺細胞HPL1D及びBEAS-2bのIC50でそれぞれ6.54倍及び18.93倍の増加が存在することを示す。
【0037】

これらのデータは、腫瘍殺滅増加は、ICP34.5遺伝子発現のマイクロRNA制御並びにICP27及びIL12/IL15/IL15RA遺伝子の発現駆動のための腫瘍特異性プロモータの使用と連関することを示す。
この実験をさらなる肺癌細胞株を用いて繰返した。図8Cに示すように、VG182LFウイルスは市場で入手できる非常に多様な肺癌細胞を効率的に殺滅する。各細胞株の計算IC50値を下記の表に示す。
【実施例6】
【0038】
VG182LFはin vitro肺癌細胞で選択的に複製する
肺癌細胞(A549)及び正常肺細胞(BEAS-2b)を0.1のMOIのVG182LFウイルスで種々の時間処理した。感染後に、ウイルスを採集しVero細胞で滴定した。図9に示すように、VG182LFウイルスは肺癌細胞で首尾よく複製するが、正常肺細胞では複製しない。48時間の時点で、6x106を超えるウイルス粒子力価がA549肺癌細胞から得られ、一方、BEAS-2b正常肺細胞からは有意なウイルスは得られず、ICP34.5のマイクロRNA制御並びに、ICP27及びIL12/IL15/IL15RAの発現駆動のための腫瘍特異性プロモータの使用は、正常細胞におけるウイルス複製に負の影響を及ぼすが、腫瘍細胞でのウイルス複製を促進することが示唆された。
A549肺腫瘍細胞又はLNCaP前立腺腫瘍細胞におけるVG182LFウイルスの複製を調べた。略記すれば、細胞をVG161(コントロール)又はVG182LFウイルスのどちらかに12又は24時間感染させた。続いて細胞を採集し、抗ヒトIL-12p70抗体で細胞内染色した。ヒトIL-12陽性細胞をフローサイトメトリーで検出し、ヒトIL-12の倍率増加を計算した。図10に示すように、ヒトIL-12の発現増加はウイルス複製増強と正の相関を示す。
種々の肺癌細胞株におけるVG182LFウイルスの複製能力を評価した。肺癌細胞株H1975、PC9及びH460由来の細胞を0.1のMOIのVG182LFウイルスで処理し、感染後0、6、24、及び48時間で上清を採集した。各サンプルのウイルスをVero細胞で滴定した。この実験のデータは図11A-Cに示され、滴定値は3つの生物学的レプリカの平均を表す。これらのデータは、感染後48時間でウイルスは各肺癌細胞株で有意なレベルまで複製できることを示す。
【実施例7】
【0039】
H1975肺癌モデルにおけるVG182LFのin vivo抗腫瘍有効性
H1975腫瘍担持ヌードマウスを移植から1週間後にVG182LFで処置した。5.65x107 PFU/マウスのVG182LFを2日間隔で3回注射した。ビヒクル処置マウスは処置開始後12日で人道的エンドポイントに達し、これらを犠牲にした。図12に示すように、VG182LFウイルス処置マウスは、ビヒクル処置コントロールと比較して劇的に低下する腫瘍増殖を示し、処置開始から29日後になお生存していた。
【実施例8】
【0040】
培養トランスフェクト細胞におけるICP34.5発現miR-媒介制御
HSV-1タンパク質ICP34.5はニューロンでの効率的なウイルス複製に要求されるが、非ニューロン培養細胞(例えば293FT細胞)における複製に関してはあまり重要ではない。本実施例では、293FT細胞におけるICP34.5発現に影響を及ぼすmiR-143の能力を評価した。
初めにmiR-143を0日目に細胞にトランスフェクトした。コントロールとして、293FT細胞にスクランブルmiRをトランスフェクトするか、或いは全くトランスフェクトしなかった。トランスフェクションから20時間後に細胞を洗浄し、続いて組換え腫瘍溶解性HSV-1を感染させた(MOI=1)。この組換えウイルスは、gBのカルボキシル末端の融合誘導性変異(gB-876t)とともに、ICP34.5の3’UTR中にmiR-143及びmiR-124に対する結合部位をコードする。感染後6時間でRNA単離のために細胞を採集して遺伝子発現及びトランスフェクション効率を測定し、感染後0時間及び24時間でDNA単離のために細胞を採集してウイルス複製を測定した。
図14Aに示すように、miR-143をトランスフェクトした細胞においてRT-qPCRにより感染後6時間で高レベルのmiR-143が検出され、一方、非トランスフェクト細胞及びスクランブルmiRトランスフェクト細胞は無視できるレベルのmiR-143を示した。図14Bに示すように、感染後6時間でRT-qPCRにより判定したウイルス遺伝子発現は、以前にmiR-143をトランスフェクトしたサンプルにおけるICP34.5発現の有意な減少を明示し、一方、miR結合部位を含まない別のウイルス遺伝子(ICP27)では同様な減少は観察されなかった。ウイルス複製を感染後24時間でqPCRにより定量してICP27のコピーを測定した(各コピーは別個のウイルスゲノムに対応する)。図14Cに示すように、miR-143又はスクランブルmiRをトランスフェクトしたサンプルを比較したとき、ウイルス複製レベルは有意には相違せず、miR-143トランスフェクトサンプルで観察されたICP34.5の発現の劇的な減少はウイルスコピー数の減少によるものではないことが示唆された。
【実施例9】
【0041】
ICP34.5のmiR調節は神経病毒性を阻止することによって安全性を改善する
本実施例では、DBA/2マウス(各グループでN=3)の皮下に以下のいずれかを注射した:ビヒクルコントロール、野生型HSV-1、ICP34.5が欠失し融合誘導性変異を持たないVG161ウイルス変種、又はgBのカルボキシル末端の融合誘導性変異(gB-876t)とともにICP34.5の3’UTR中にmiR-143及びmiR-124に対する結合部位をコードするVG301ウイルス変種。感染後6日でサンプルをHSV-1免疫染色のために採集した。図15に示すように、激しいウイルス複製パターンが、野生型HSV-1注射マウスの脳及び脊髄の両方で観察された。対照的に、VG161又はVG301変種のどちらかを注射されたマウスのニューロン組織ではウイルス複製は観察されず、ICP34.5のmiR調節は、神経病毒性の防止でICP34.5の完全欠失と全く同じように有効であることが示唆された。
残りの野生型HSV-1注射マウスは神経学的症候を急速に発達させたので安楽死させねばならなかったが、一方、VG161又はVG301変種のどちらかで処置した残りの全マウスは図16に示すように実験の全期間中健康を維持した。これらの結果は、ICP34.5のmiR調節を利用するOV誘発神経病毒性防止の安全性及び有効性を支持する更なる証拠を提供する。さらにまた、VG301変種の融合誘導性変異は有病率又は死亡率の増加をもたらさないと結論できる。
【実施例10】
【0042】
腫瘍溶解性HSV-1における融合誘導性変異の評価
本実施例では、A549wt及びBPH1細胞に組換え腫瘍溶解性HSV-1を感染させた(前記HSV-1はgBのカルボキシル末端中に融合誘導性変異をコードする(+gB-876t))。コントロールとして、A549wt及びBPH1細胞に融合誘導性変異を欠くHSV-1(-gB-876t)を感染させた。感染から48時間後に、細胞を固定し、ギムザ染色してウイルスプラーク及びウイルス誘発細胞融合により生じる合胞体を可視化した。図17に示すように、融合誘導性変異保持ウイルス感染細胞では大量の細胞対細胞融合が観察されたが、融合誘導性変異を欠くウイルスを感染させた細胞では最小限の融合が明瞭であった。
【0043】
本発明を本明細書で広範囲に包括的に記載してきた。当該包括的開示に含まれるより狭い範囲の種及び亜属のグループの各々もまた本発明の部分を形成する。これは、条件付きで又は属に由来する一切の内容を除去する負の制限付きで(除去される事柄が具体的に本明細書に列挙されているか否かにかかわらず)本発明の包括的記載を含む。
本明細書及び添付の特許請求の範囲で用いられるように、単数形“a”、“an”及び“the”は、文脈が明瞭にそうでないことを示さないかぎり複数の関連語を含み、“X及び/又はY”という用語は“X”若しくは“Y”又は“X”及び“Y”の両方を意味し、名詞の後の“s”は当該名詞の複数形及び単数形を示すこともまた理解されるべきである。加えて、本発明の特色又は特徴がマーカッシュ群として記載される場合、本発明は、当該マーカッシュ群の任意の個々のメンバー及び任意のメンバーサブグループを包含し、かつまたそれにより当該マーカッシュ群の任意の個々のメンバー及び任意のメンバーサブグループとして記載されることが意図され、かつ当業者はそのことを認識しているであろう。さらに出願人は、当該マーカッシュ群の任意の個々のメンバー及び任意のメンバーサブグループに具体的に言及するために出願又は特許請求の範囲を訂正する権利を留保する。
本明細書で用いられる用語類は具体的に実施態様を記載することだけを目的とし制限することを意図しないことは理解されるべきである。さらに、本明細書で特段に規定されないかぎり、本明細書で用いられる用語類には、関連業界において公知のその慣例的な意味を与えるべきであることもまた理解されるべきである。
本明細書を通して“実施態様”という語及び前記の変型は、当該実施態様に関連して記載される具体的な特色、構造又は特徴が少なくとも1つの実施態様に含まれることを意味する。したがって、本明細書の多様な場所における“ある実施態様では”という語句の出現は、必ずしも全てが同じ実施態様を指しているわけではない。さらにまた、当該具体的な特色、構造又は特徴は、1つ以上の実施態様で任意の適切な態様で組合わせられ得る。
【0044】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で用いられるように、単数形“a”、“an”及び“the”は、内容及び文脈が明瞭にそうでないことを示さないかぎり複数(すなわち1つ以上)の関連語を含む。さらにまた、接続語の“及び”並びに“又は”は、内容及び文脈が場合に応じて明瞭に包含性又は排除性を示さないかぎり、“及び/又は”を含むために一般的にもっとも広い感覚で用いられることは留意されるべきである。したがって、代替語(例えば“又は”)の使用は、当該代替物の1つ、両方、又はその任意の組合せを意味すると理解されるべきである。加えて、本明細書で“及び/又は”として列挙されるとき、“及び”並びに“又は”の合成語は、関連項目又は考えの全てを含む実施態様及び関連項目又は考えの全て未満を含む1つ以上の他の代替実施態様を包含することが意図される。
文脈がそうでないことを要求しないかぎり、本明細書及び以下の添付の特許請求の範囲を通して、“含む(comprise)”並びに同義語及びその変種(例えば“有する(have)”及び“含む(include)”)は、“含む(comprise)”の変種(例えば“comprises”及び“comprising”)と同様に、開放的、包括的感覚(例えば“~を含むが、ただしそれらに限定されない”)であると解されるべきである。“本質的に~から成る(consisting essentially of)”という用語は、特許請求の範囲を指定の材料若しくは工程、又は特許請求される本発明の基本的若しくは新規な特徴に実質的に影響を及ぼさないものに制限する。
この文書で用いられるいずれの見出しも、読者の当該文書の概覧を容易にするためにのみ用いられ、本発明又は特許請求の範囲をどのような態様においても制限するものと解されてはならない。したがって、当該見出し及び本明細書で提供される概要は単に便宜上のものであり、実施態様の範囲又は意味と解釈されてはならない。
【0045】
ある範囲の値が本明細書で提供される場合、当該範囲の上限及び下限の間の各介在値(文脈が明瞭にそうでないことを示さないかぎり下限の単位の1/10まで)並びに任意の他の記載の又は当該記載の範囲中の介在値は本発明に包含される。これらのより小さな範囲に独立して含まれ得るより小さな範囲の上限及び下限もまた本発明に包含されるが、当該記載の範囲内の任意の指定排除限界にしたがう。記載の範囲が一方の又は両方の限界を含む場合、それら含まれる限界の一方又は両方を排除する範囲もまた本発明に含まれる。
例えば、本明細書で提供される任意の濃度範囲、百分率範囲、比率範囲、又は整数範囲は、特段の指定がなければ当該列挙された範囲内の任意の整数値、適切な場合は、その分数(例えば整数の1/10及び1/100)を含むと理解されるべきである。さらにまた、任意の物理的特色(例えばポリマーサブユニット、サイズ又は厚さ)に関して本明細書で列挙される任意の数字の範囲は、特段の指定がなければ、当該列挙された範囲内の任意の整数を含むと理解されるべきである。本明細書で用いられるように、“約”という用語は、特段の指定がなければ指定範囲、値、又は構造の±20%を意味する。
【0046】
本出願で引用され及び/又は出願データシートで列挙される米国特許、米国特許出願公開、米国特許出願、外国特許、外国特許出願及び非特許刊行物はいずれも参照によってその全体が本明細書に含まれる。そのような文書は、刊行物に記載される例えば材料及び方法論(前記は本記載の発明に関連して用いることが可能である)の説明及び開示を目的として参照により含まれ得る。上記及び本文を通して考察される刊行物は、ひとえに本出願の出願日前のそれらの開示内容を提供する。この中のいずれも、先発明のためにいずれの参照刊行物にも本発明者らが先行する資格を持たないということの容認と解されるべきではない。
本明細書で参照又は記述される全ての特許、刊行物、化学記事、ウェブサイト、及び他の文書並びに資料は、本発明が属する業界の技術レベルの指標であり、そのような参照文書及び資料の各々はこれにより、あたかも参照によってその全体が個々に又はその全体が本明細書で説明されたかのように本明細書に含まれる。出願人は、そのような特許、刊行物、化学記事、ウェブサイト、電子的に利用可能な情報、及び他の参照資料又は文書から任意及び全ての資料及び情報を本明細書に物理的に取り込む権利を留保する。
一般的には、以下の特許請求の範囲で用いられる用語が、明細書及び特許請求の範囲で開示される具体的な実施態様に対して特許請求の範囲を制限すると解してはならないが、そのような特許請求の範囲が資格を与える等価物の完全な範囲に加えて全ての可能な実施態様が含まれると解されるべきである。したがって、特許請求の範囲は開示によって制限されない。
【0047】
さらにまた、特許の書面による記述部分は全ての特許請求の範囲を含む。さらにまた、全ての特許請求の範囲(全ての本来の特許請求の範囲とともに任意の及び全ての優先権書類に由来する特許請求の範囲を含む)は、参照によってその全体が明細書の書面による記述部分に含まれ、出願人は、当該書面による記述又は当該出願の任意の他の部分に、任意の及び全てのそのような特許請求の範囲を物理的に取り込む権利を留保する。したがって、例えばどのような状況下であっても、特許請求の範囲の正確な文言が特許書類の明細書に代わりに記載されていないという主張に基づいて当該特許が特許請求の範囲について書面による記載を提供してないと解釈してはならない。
当該特許請求の範囲は法に従って解釈されるであろう。しかしながら、さらにいずれかの特許請求の範囲又はその部分の解釈について申し立てられた又は認識された解釈の容易さ若しくは困難さにもかかわらず、どのような状況下にあっても、当該出願の審査中の特許請求の範囲又はその任意の部分のいずれの調整若しくは修正も、本特許が先行技術の一部を形成しない任意の及び全ての等価物に対して一切の権利を放棄したと解釈してはならない。
他の非限定的な実施態様が以下の特許請求の範囲に存在する。具体的な例若しくは非限定的な実施態様又は本明細書に具体的に及び/又は明瞭に開示された方法に特許が限定されると解釈してはならない。どのような状況下にあっても、審査官又は特許庁の他のいずれかの係官若しくは職員が行う任意の陳述によっては、そのような陳述が出願人の答弁書で具体的にかつ無制限又は無条件に明確に採用されていないかぎり、特許が制限されると解釈してはならない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図9
図10
図11A
図11B
図11C
図12
図13A
図13B
図14A
図14B
図14C
図15
図16
図17
【国際調査報告】