(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-09
(54)【発明の名称】遅れ破壊に高い耐性を有するプレス硬化部品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20220202BHJP
C22C 38/58 20060101ALI20220202BHJP
C21D 9/00 20060101ALI20220202BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20220202BHJP
C21C 7/04 20060101ALI20220202BHJP
C22C 21/02 20060101ALN20220202BHJP
【FI】
C22C38/00 301S
C22C38/00 301T
C22C38/58
C21D9/00 A
C21D9/46 G
C21D9/46 J
C21C7/04 B
C22C21/02
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021530874
(86)(22)【出願日】2018-12-18
(85)【翻訳文提出日】2021-07-21
(86)【国際出願番号】 IB2018060219
(87)【国際公開番号】W WO2020128571
(87)【国際公開日】2020-06-25
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】レミー,ブランディーヌ
(72)【発明者】
【氏名】スチューレル,ティエリー
(72)【発明者】
【氏名】リュカ,エマニュエル
(72)【発明者】
【氏名】ボワ,ジャンニ
【テーマコード(参考)】
4K013
4K037
4K042
【Fターム(参考)】
4K013BA08
4K013BA14
4K013CB01
4K013EA18
4K037EA01
4K037EA02
4K037EA06
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4K037EA14
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4K037EB06
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4K042AA25
4K042BA01
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4K042CA02
4K042CA06
4K042CA09
4K042CA10
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4K042DA06
4K042DC02
4K042DC03
4K042DC04
4K042DE05
4K042DE06
(57)【要約】
本発明は、遅れ破壊に対して高い耐性を有するプレス硬化被覆鋼部品に関し、被膜はプレコートのアルミニウム又はアルミニウムベースの合金又はアルミニウム合金への鉄の拡散から生じる(Fex-Aly)金属間化合物を含み、鋼の化学組成は重量で、0.16%≦C≦0.42%、0.1%≦Mn≦3%、0.07%≦Si≦1.60%、0.002%≦Al≦0.070%、0.02%≦Cr≦1.0%、0.0005≦B≦0.005%、0.002%≦Mg≦0.007%、0.002%≦Ti≦0.11%、0.0008%≦O≦0.005%、ここで(Ti)×(O)2×107≦2、0.001%≦N≦0.007%、0.001%≦S≦0.005%、0.001%≦P≦0.025%、及び任意に以下のリスト、すなわち、0.005%≦Ni≦0.23%、0.005%≦Nb≦0.060%から選択される1種以上の元素を含み、残余はFe及び不可避的不純物であり、微細組織は少なくとも95%のマルテンサイトを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遅れ破壊に対して高い耐性を有するプレス硬化被覆鋼部品であって、被膜はプレコートのアルミニウム又はアルミニウムベースの合金又はアルミニウム合金への鉄の拡散から生じる(Fe
x-Al
y)金属間化合物を含み、
該鋼の化学組成は重量で、
0.16%≦C≦0.42%
0.1%≦Mn≦3%
0.07%≦Si≦1.60%
0.002%≦Al≦0.070%
0.02%≦Cr≦1.0%
0.0005≦B≦0.005%
0.002%≦Mg≦0.007%
0.002%≦Ti≦0.11%
0.0008%≦O≦0.005%
ここで(Ti)×(O)
2×10
7≦2
0.001%≦N≦0.007%
0.001%≦S≦0.005%
0.001%≦P≦0.025%
及び任意に以下のリストから選択される1種以上の元素を含み、
0.005%≦Ni≦0.23%
0.005%≦Nb≦0.060%
残余はFe及び不可避的不純物であり、
微細組織は少なくとも95%のマルテンサイトを含む、プレス硬化被覆鋼部品。
【請求項2】
0.18%≦C≦0.35%である、請求項1に記載のプレス硬化被覆鋼。
【請求項3】
0.55%≦Mn≦1.40%である、請求項1又は2に記載のプレス硬化被覆鋼。
【請求項4】
Si≦0.30%である、請求項1~3のいずれか一項に記載のプレス硬化被覆鋼。
【請求項5】
酸化物、炭窒化物、硫化物及び酸硫化物の平均サイズd
avが1.7μm未満であり、以下の条件(C1)又は(C2)の少なくとも1つが満たされる、請求項1~4のいずれか一項に記載のプレス硬化被覆鋼。
-(C1): 面積単位当たりのMgO及びMgO-Al2O3粒子の数の合計N
(MgO+MgO-Al2O3)は、1mm
2当たり90より大きく、
-(C2): 面積単位当たりのMgO-TixOy粒子の数N
(MgO-TixOy)は、1mm
2当たり100より高く、その平均サイズは1μmより低い。
【請求項6】
該微細組織がベイナイト及び/又はフェライトを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のプレス硬化被覆鋼部品。
【請求項7】
その厚さが0.8~4mmの間に含まれる、請求項1~6のいずれか一項に記載のプレス硬化被覆鋼部品。
【請求項8】
その引張強さが1400~2000MPaの間に含まれる、請求項1~7のいずれか一項に記載のプレス硬化被覆鋼部品。
【請求項9】
その降伏応力が1000MPaより高い、請求項1~8のいずれか一項に記載のプレス硬化被覆鋼部品。
【請求項10】
以下の連続する工程を含む、遅れ破壊に対して高い耐性を有するプレス硬化被覆鋼部品を製造するための方法。
- 0.16%≦C≦0.42%、0.1%≦Mn≦3%、0.07%≦Si≦1.60%、0.002%≦Al≦0.070%、0.02%≦Cr≦1.0%、0.0005%≦B≦0.005%、0.002%≦Ti≦0.11%、0.001%≦O≦0.008%、ここで(Ti)×(O)
2×10
7≦2、0.001%≦N≦0.007%、及び任意に、0.005%≦Ni≦0.23%、0.005%≦Nb≦0.060%、0.001%≦S≦0.005%、0.001%≦P≦0.025%を含み、残余はFe及び不可避の不純物である溶鋼を提供する工程、次いで
- 請求項1~4のいずれか一項に記載の化学組成を有する溶鋼を得るためにMg又はMg合金を添加する工程であって、温度T
additionはT
liquidus~(T
liquidus+70℃)の間に含まれる工程、次いで
- 半製品の形態に該溶鋼を鋳造する工程であって、Mg又はMg合金を加えてから溶鋼の凝固開始までの間に経過する持続時間t
Dが30分未満である工程、次いで
- 該半製品を1250~1300℃の間に含まれる温度に加熱して、加熱した半製品を得る工程、次いで
- 該半製品を圧延して、圧延鋼板を得る工程、次いで
- 該圧延鋼板をアルミニウム又はアルミニウムベースの合金又はアルミニウム合金でプレコートし、プレコート鋼板を得る工程、次いで
- 該プレコート鋼板を切断して、プレコート鋼ブランクを得る工程、次いで
- 該プレコート鋼ブランクを加熱して、完全なオーステナイト組織を有する加熱ブランクを得る工程、次いで
- 該加熱ブランクをホットプレス成形して、ホットプレス成形部品を得る工程、次いで
- プレス工具内で維持しながら該ホットプレス成形部品を冷却して、少なくとも95%のマルテンサイトを含む微細組織を有するプレス硬化被覆鋼部品を得る工程。
【請求項11】
該持続時間t
Dが1分未満である、請求項10に記載のプレス硬化被覆鋼部品を製造する方法。
【請求項12】
該持続時間t
Dが10秒未満である、請求項10に記載のプレス硬化被覆鋼部品を製造する方法。
【請求項13】
該半製品の表面における冷却速度Vsが30℃/秒より高い、請求項10~12のいずれか一項に記載のプレス硬化被覆鋼部品を製造する方法。
【請求項14】
該加熱が、890~950℃の間に含まれる温度θ
mまで1~10分間の間に含まれる総滞留時間t
mの間行われる、請求項10~13のいずれか1項に記載のプレス硬化被覆鋼部品を製造する方法。
【請求項15】
該プレコート鋼ブランクの加熱が、+10~+25℃の間に含まれる露点を有する雰囲気の炉内で行われる、請求項10~14のいずれか一項に記載のプレス硬化被覆鋼部品を製造する方法。
【請求項16】
該プレコート鋼板の厚さが0.8~4mmの間に含まれる、請求項10~15のいずれか一項に記載のプレス硬化被覆鋼部品を製造する方法。
【請求項17】
該プレス硬化被覆鋼部品の引張強さが、1400~2000MPaの間に含まれる、請求項10~16のいずれか一項に記載のプレス硬化被覆鋼部品を製造する方法。
【請求項18】
該プレス硬化被覆鋼部品の降伏応力が、1000MPaより高い、請求項10~17のいずれか一項に記載のプレス硬化被覆鋼部品を製造する方法。
【請求項19】
請求項1~9のいずれか一項に記載のプレス硬化部品、又は請求項10~18のいずれか一項により製造されたプレス硬化部品の、自動車車両の構造部品又は安全部品の製造のための使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱され、プレス成形され、急速に冷却される鋼板から製造され、遅れ破壊に高い耐性を有する高い引張機械的特性を提供する鋼プレス硬化部品に関する。このようなプレス硬化部品は、複雑な形状を有することができ、自動車又はトラック車両における侵入防止機能又はエネルギー吸収機能を保証する。
【背景技術】
【0002】
自動車産業における最近のホワイトボディ構造の製造のために、ホットスタンピングあるいはホットプレス成形方法とも呼ばれるプレス硬化方法は、高い機械的強度を有する鋼部品の製造のための急速に成長する技術であり、車両衝突時の高い耐性と共に軽量化を得ることを可能にする。バンパー、ドア又はレール、ピラーなどのような車両部品は、例えば、この方法で製造することができる。
【0003】
アルミニウムめっきされたプレコート板又はブランクを用いるプレス硬化の実施は、特に、公表文献FR2780984号及びWO2008053273号から知られている。具体的には、熱処理可能なアルミニウムめっきされた鋼板を切断してブランクを得、炉内で加熱し、プレス内に迅速に移し、熱間成形し、プレスダイ内で冷却する。炉内の加熱中、アルミニウムプレコートは基材の鋼と合金化され、これにより脱炭及びスケール形成からの鋼表面の保護を保証する化合物を形成する。加熱は、鋼基材の一部又は全部をオーステナイトに変換することが可能な温度範囲で行う。その後、プレスダイからの熱抽出から生じる冷却段階の間にオーステナイトはマルテンサイト及び/又はベイナイトのような微細組織成分に変態し、鋼の組織硬化を達成する。その後、プレス硬化後に高い硬度及び機械的強度が得られる。
【0004】
22MnB5鋼組成では、部品の変形区域でも完全なマルテンサイト組織が望まれる場合、冷却速度は50℃/秒より高くなければならない。約500MPaの引張強さから出発して、最終プレス硬化部品は完全にマルテンサイトの微細組織及び約1500MPaの引張強さ値を有する。
【0005】
このような強度レベルは、多くの用途にとって満足できるものである。しかし、車両のエネルギー消費を減らす要求は、機械的強度が更に高くなるであろう(そのことは、その引張強度が1800又は2000MPaにすら達する可能性があることを意味する。)部品の使用により、さらに軽量な車両の探索へと駆り立てる。高強度レベルは、一般に、プレス硬化部品における完全な又は非常に顕著なマルテンサイト微細組織と関連している。この種の微細組織は遅れ破壊に対する耐性がより低いことが認識されている。すなわち、プレス硬化後、製造された部品は、以下の3つの要因の連動の下でしばらく経過した後亀裂又は破壊が出現しやすくなる可能性がある。
- 顕著なマルテンサイト微細構造、
- 十分なレベルの加えられた応力又は残留応力の存在、
- 十分な量の拡散性水素。この元素は、ホットスタンピング及びプレス硬化の工程の前にブランクの炉内での加熱中に導入され得る。すなわち、炉内に存在する水蒸気が解離して、ブランク表面に吸着され得る。これは、炉雰囲気中の水蒸気がAlプレコートと反応するため、プレコートしたアルミニウムメッキされた鋼ブランクを加熱した場合に特に当てはまり、高温でのこの元素の高い溶解度のために鋼基材中に拡散する水素を発生させる。しかし、プレス硬化部品を室温まで冷却すると、Alコートがバリアとして働くため、水素がその部分から流出するのをほとんど妨げている。このように、上記の条件が同時に満たされれば、最終的に遅延亀裂が生じる可能性がある。
【0006】
Alプレコートされたプレス硬化部品の遅れ破壊の問題を解決するために、応力のレベル及び応力拡大係数のレベルを最小にするように加熱炉の雰囲気及びブランクの切断の条件を厳密に制御することが提案された。水素脱気を可能にするために、ホットスタンプ部品に熱的後処理を行うことも提案された。水素吸着を低減する鋼板表面への特定のコートの堆積も提案された。しかし、さらなる制約及びコストを削減し、プレス硬化方法の制御の変化を必要としないであろうより単純な方法が、遅れ破壊のリスクを回避するための材料を望んでいる業界によって求められている。
【0007】
そこで、1400~2000MPaの間に含まれる引張強さTS及びTS値に対して高い値を持ちながら遅れ破壊の閾値σDFに対する耐性、すなわちσDF≧3×1016×TS-4.345+100、(σDF及びTSはMPaで表される)を同時に提供するプレス硬化アルミニウムめっき部品を作製する方法が探されている。高いTS及び高いσDFを同時に得ることが特に望まれているが、達成が困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】仏国特許第2780984号明細書
【特許文献2】国際公開第2008/053273号
【発明の概要】
【0009】
遅れ破壊に対する耐性は、規格SEP1970:「Test of the resistance of Advanced High Strength Steels(AHSS) for automotive applications against production related hydrogen induced brittle fracture」のガイドラインに従って測定される。σDFを評価するために、半径10mmの打ち抜き穴を含む試験片を一定の引張応力に供した。穴は、遅れ破壊の開始を促進する可能性のある損傷を誘発する、巨視的な応力集中及び局所的な塑性変形を作り出す。σDFは、この荷重に供した試験片の断面積に対する公称試験荷重の比として定義される。σDFは、加えられた異なる力で実施した試験から測定する。具体的には、96時間の試験の前に破壊が生じた場合は、より低い引張応力値の下でさらに試験を実施する。このように、破壊が起こらなくなるまで応力レベルを低下させる。遅れ破壊が起こらない臨界値である閾値σDFを定義するためには、破壊のない3つの試験片が必要である。したがって、この試験は、材料に対して厳密かつ判別的であると考えられる。
【0010】
上記問題を解決するために、本発明は、遅れ破壊に対し高い耐性を有するプレス硬化被覆鋼板に関し、被膜はプレコートのアルミニウム又はアルミニウムベースの合金又はアルミニウム合金への鉄の拡散に起因する(Fex-Aly)金属間化合物を含み、ここで、鋼の化学組成は、重量で、0.16%≦C≦0.42%、0.1%≦Mn≦3%、0.07%≦Si≦1.60%、0.002%≦Al≦0.070%、0.02%≦Cr≦1.0%、0.0005≦B≦0.005%、0.002%≦Mg≦0.007%、0.002%≦Ti≦0.11%、0.0008%≦O≦0.005%、ここで(Ti)×(O)2×107≦2、0.001%≦N≦0.007%、0.001%≦S≦0.005%、0.001%≦P≦0.025%、及び任意に以下のリスト、すなわち、0.005%≦Ni≦0.23%、0.005%≦Nb≦0.060%から選択される1種以上の元素を含み、残余はFe及び不可避の不純物であり、微細組織が少なくとも95%のマルテンサイトを含む。
【0011】
第1の実施形態によれば、プレス硬化被覆鋼は、0.18%≦C≦0.35%を含む。
【0012】
第2の実施の形態によれば、プレス硬化被覆鋼は、0.55%≦Mn≦1.40%を含む。
【0013】
第3の実施形態によれば、プレス硬化被覆鋼は、Si≦0.30%を含む。
【0014】
一実施形態によれば、酸化物、炭窒化物、硫化物及び酸硫化物の平均サイズdavは1.7μm未満であり、条件(C1)又は(C2)の少なくとも1つが満たされる。
- (C1): 面積単位当たりのMgO及びMgO-Al2O3粒子の数の合計N(MgO+MgO-Al2O3)は1mm2当たり90より高い、
- (C2):面積単位当たりのMgO-TixOy粒子の数N(MgO-TixOy)は1mm2当たり100より高く、その平均サイズは1μmより小さい。
【0015】
好ましくは、微細組織は、ベイナイト及び/又はフェライトを含む。
【0016】
別の実施形態によれば、プレス硬化被覆鋼部品の厚さは、0.8~4mmの間に含まれる。
【0017】
一実施形態によれば、プレス硬化被覆鋼部品の引張強さは、1400~2000MPaの間に含まれる。
【0018】
好ましくは、プレス硬化被覆鋼部品の降伏応力は1000MPaより高い。
【0019】
また、本発明は、以下の連続する工程を含む、遅れ破壊に対して高い耐性を有するプレス硬化被覆鋼部品を製造するための方法に関するものである。
- 0.16%≦C≦0.42%、0.1%≦Mn≦3%、0.07%≦Si≦1.60%、0.002%≦Al≦0.070%、0.02%≦Cr≦1.0%、0.0005%≦B≦0.005%、0.002%≦Ti≦0.11%、0.001%≦O≦0.008%、ここで(Ti)×(O)2×107≦2、0.001%≦N≦0.007%、及び任意に、0.005%≦Ni≦0.23%、0.005%≦Nb≦0.060%、0.001%≦S≦0.005%、0.001%≦P≦0.025%を含み、残余はFe及び不可避の不純物である溶鋼を提供する工程、次いで
- 前述したような化学組成を有する溶鋼を得るためにMg又はMg合金を添加する工程であって、温度TadditionはTliquidus~(Tliquidus+70℃)の間に含まれる工程、次いで
- 半製品の形態に該溶鋼を鋳造する工程であって、Mg又はMg合金を加えてから、溶鋼の凝固開始までに経過する持続時間tDが30分未満である工程、次いで
- 該半製品を1250~1300℃の間に含まれる温度で加熱し、加熱した半製品を得る工程、次いで
- 該半製品を圧延して、圧延鋼板を得る工程、次いで
- 該圧延鋼板をアルミニウム又はアルミニウムベースの合金、又はアルミニウム合金でプレコートし、プレコート鋼板を得る工程、次いで
- 該プレコート鋼板を切断して、プレコート鋼ブランクを得る工程、次いで
- 該プレコート鋼ブランクを加熱して、完全なオーステナイト組織を有する加熱ブランクを得る工程、次いで
- 該加熱ブランクをホットプレス成形して、ホットプレス成形部品を得る工程、次いで
- プレス工具内で維持しながらホットプレス成形部品を冷却して、少なくとも95%のマルテンサイトを含む微細組織を有するプレス硬化被覆鋼部品を得る工程。
【0020】
一実施形態によると、持続時間tDは1分未満である。
【0021】
別の実施形態によると、持続時間tDは10秒未満である。
【0022】
好ましくは、プレコートブランクの加熱は、890~950℃の間に含まれる温度θmまで、1~10分の間に含まれる総滞留時間tmの間行う。
【0023】
さらに好ましくは、プレコート鋼ブランクの加熱は、+10~+25℃の間に含まれる露点を有する雰囲気を有する炉内で行われる。
【0024】
好ましい実施形態によれば、製造は、0.8~4mmの間に含まれる厚さを有するプレコート鋼板から実施される。
【0025】
好ましくは、製造は、プレス硬化被覆鋼部品の引張強さが1400~2000MPaの間に含まれるように実施される。
【0026】
好ましくは、製造は、プレス硬化被覆鋼部品の降伏応力が1000MPaよりも高くなるように実施される。
【0027】
本発明はまた、自動車車両の構造部品又は安全部品の製造のために、前記のプレス硬化部品又は前記の方法に従って製造されたプレス硬化部品の使用に関する。
【0028】
本発明は、添付の図面を参照しながら、制限を導入することなく、詳細に記載され、実施例によって例示される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明によるプレス硬化部品における粒子の母集団の分布サイズを例示する。
【
図2】参考のプレス硬化部品における粒子の母集団の分布サイズを示す。
【
図3】本発明のプレス硬化部品及び参考のプレス硬化部品の引張強さの関数としての遅れ破壊の閾値を示す。
【
図4】本発明の実施形態に従ったプレス硬化部品及び参考のプレス硬化部品の膨張率測定試験における挙動を示す。
【
図5】本発明の別の実施形態によれば、本発明によるプレス硬化部中のMg含有粒子の存在下の冷却中に起こったベイナイト形成を示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明によるプレス硬化部品の組成及び微細組織の特徴を、これから説明する。鋼組成は、重量で表される以下の元素を含むか、又は特にそれらからなる。
【0031】
- 0.16~0.42%の間に含まれる炭素含有率。この元素はプレス硬化後に得られる焼入れ性及び引張強さに大きな役割を果たす。0.16重量%未満の含有率では、プレス硬化後に1400MPaの引張強さレベルTSに達することはできない。0.42重量%を超える含有率では、遅れ破壊のリスクは、高価な被覆又は元素の添加、露点制御が実施されなければならない場合よりも増大するであろう。
【0032】
0.18~0.35重量%の間に含まれる炭素含有率であれば、溶接性を満足なレベルに保ち、製造コストを制限しながら安定的に目標特性を得ることができる。
【0033】
- 脱酸剤としての役割に加えて、マンガンは焼入れ性を高める。その含有率はプレスにおける冷却時の十分に低い変態開始温度Ms(オーステナイト→マルテンサイト)を得る(これはプレス硬化部品の引張強さを高めることができる)ために、0.1重量%より多くなければならない。マンガン含有率を3%に制限することにより、遅れ破壊に対する耐性の向上が得られる。マンガンはオーステナイト結晶粒界で偏析し、水素の存在下で粒間破断のリスクを増大させる。0.55%~1.40%の間のマンガン含有率は、より高い応力耐食性を得るのにより特に適している。
【0034】
- 鋼のケイ素含有率は0.07%~1.60重量%の間に含まれる。ケイ素含有率が0.07%を超えると、さらなる硬化が得られ、ケイ素は溶鋼の脱酸に寄与する。しかし、その含有率は、溶融めっき処理における被覆性を損なうであろう表面酸化物の過剰な生成を避けるために、1.60%に制限しなければならない。この点で、ケイ素含有率は0.30%より低いことが好ましい。
【0035】
- 0.002%以上の量では、アルミニウムは精緻化中の液体金属の脱酸を可能にし、窒素の析出に寄与する元素である。その含有率が0.070%を超えると、延性を低下させる傾向のある、製鋼中の粗大なアルミネートを形成する可能性がある。
【0036】
- クロムは焼入れ性を高め、プレス硬化後に所望の引張強さレベルを得るのに寄与する。1.0重量%に等しい含有量を超えると、プレス硬化部品の機械的特性の均一性に及ぼすクロムの効果は飽和する。0.02%より高い量では、この元素は引張強さの増加に寄与する。
【0037】
- 0.0005重量%より高い含有量では、ホウ素は焼入れ性を大幅に増加させる。オーステナイト結晶粒界に拡散することにより、ホウ素はリンの粒間偏析を防ぐことで好ましい影響を及ぼす。0.005%を超えると、Bの効果は飽和する。
【0038】
- マグネシウムは、本発明において特に重要な元素である。ホットプレス成形における部品の冷却工程中に、効率的にベイナイト及び/又はフェライト形成を誘発するために、及び/又はマルテンサイトラス構造を微細化するために、面積単位当たりのMgO、MgO-Al2O3又は微細MgOtixOyのような十分な数の粒子を作り出すため、0.002重量%以上の含有率が必要である。さらに説明したように、本発明者らは、これらの粒子の存在下でベイナイト及び/又はフェライトが、面積分率で5%未満の量であっても、マルテンサイト母材中に存在すると、顕著に引張応力を減少させることなく、遅れ破壊に対する耐性を大幅に増加させることを証拠付けた。0.007%より高いマグネシウム含有率は、過度に高い脱酸レベルを導き、したがって、酸素含有率がベイナイト及び/又はフェライト生成、及び/又はマルテンサイト微細化に関して活性である十分な数の粒子を提供するには低すぎる可能性がある。
【0039】
- 窒素と結合するには、0.002重量%以上のチタン含有率が必要である。したがって、チタンはホウ素が窒素と結合することを防止し、遊離ホウ素が焼入れ性を高めるために利用可能である。チタン含有率が重量0.011%以下であれば、液体段階で粗い炭窒化チタンの析出(プレス硬化部品の靭性を大幅に低下させる)を避けることが可能となる。
【0040】
- 酸素含有量が0.0008%以上の場合、単位面積当たりの酸化物の十分な数を作ることが可能であり、これがベイナイト及び/又はフェライト生成、及び/又はマルテンサイト微細化を効率的に誘発する。しかし、酸素含有率が0.005%を超えると、酸化物が粗くなる傾向があり、面積単位当たりの活性粒子数が減少する。
【0041】
- チタン及び酸素の含有率は、個別にだけでなく、互いに考慮して選択されなければならない。より具体的には、(Ti)×(O)2×107は2以下でなければならず、Ti及びOの含有率は重量パーセントで表される。
【0042】
(Ti)×(O)2×107が2より高いと、粗大な酸化物が析出し、ベイナイト及び/又はフェライト形成、及び/又はマルテンサイト微細化がほとんど起こらない傾向がある。
【0043】
また、本発明者らは、以下の粒子のいくつかの特徴が存在する場合、遅れ破壊に対する高い耐性が得られることを証明した。
- 酸化物、炭窒化物、硫化物及び酸硫化物の平均サイズは1.7μm未満である。粒子の平均サイズdavの特徴は、走査型電子顕微鏡で研磨した試験片を観察することによって測定される。統計学的に代表的なデータを得るためには、少なくとも2000個の粒子を検討する。いったん1個の粒子の存在が特定されると、その性質は粒子全体の走査によるエネルギー分散分光法によって決定される。各粒子(i)の最大サイズ(dmax(i))及び最小サイズ(dmin(i))は画像解析によって決定され、次いで各粒子の平均サイズdav(i)は、((dmax(i))+(dmin(i))/2によって計算され、その後、davは、性質(酸化物、炭窒化物、硫化物又は酸硫化物)に関係なく、(i)粒子に対するdav(i)の平均値として得られる。
- 理論によって拘束されるつもりはないが、粒子のより高い(表面/体積)比は、ベイナイト及び/又はフェライト形成の強化、及び/又はマルテンサイト微細化をもたらすため、1.7μm未満の粒子の平均サイズは、遅れ破壊耐性を高めると考えられる。さらに、1.7μm未満にdavを限定することは、外部応力下での破壊開始のリスク低下に寄与する。
【0044】
また、本発明者らは、特定の粒子の特徴に関して(C1)及び(C2)として参照される2つの条件のうち少なくとも1つが満たされると、遅れ破壊に対するより高い耐性が得られることを証明した。
- (C1): 面積単位当たりのMgO及びMgO-Al2O3粒子の合計N(MgO+MgO-Al2O3)が、1mm2当たり90より高い、
- (C2): 面積単位当たりのMgO-TixOy粒子の数N(MgO-TixOy)が、1mm2当たり100より高く、その平均サイズは1μmよりも小さい。
【0045】
本発明者らは、これらの粒子が、ホットプレス成形中にブランクが受ける熱機械処理に関して、すなわち、950℃までのオーステナイトドメインにおける加熱及びプレス成形中の変形に関して、安定であることを証拠付けた。というのは、これらの粒子が、部品の最も変形した領域においても破壊しないことが観察されたからである。このように、プレス硬化前のブランク中の粒子の特徴(性質、サイズ、個数)は、プレス硬化後の部品の特徴と類似している。
【0046】
理論によって拘束されるつもりはないが、Mg含有酸化物(すなわち、MgO、MgO-Al2O3、MgO-TixOy)は、ホットプレス成形における冷却工程中のベイナイト及び/又はフェライト形成の促進、及び/又はマルテンサイト微細化(それにより、遅れ破壊に対する耐性が高まる)に特に効率的であり、正の効果を得るためには、これらの酸化物の数を十分多くしなければならないと考えられる。
【0047】
- 0.001%を超える窒素含有率は、オーステナイト結晶粒成長を制限する(Ti(CN)、又はNbが存在する場合、Ti-Nb(VN)若しくはNb(CN)の析出物を得ることを可能にする。ただし、粗い窒化物/炭窒化物の析出物の形成を避けるために、その含有率は0.007%に制限しなければならない。
【0048】
硫黄及びリンは、過剰な量では脆さを増す傾向がある。これが、硫化物及び酸硫化物の形成が多すぎないように、硫黄含有率を0.005重量%に制限する理由である。しかし、硫黄含有率が非常に低い、すなわち0.001%未満である場合は、それが有意な追加の利益をもたらさない限り、達成するために不必要にコストがかかる。
【0049】
同様の理由で、リン含有率は0.001~0.025重量%の間に含まれる。この元素は、過剰な含有率ではオーステナイト結晶粒の結合部に偏析し、粒間破断による遅れ破壊のリスクを高める。
【0050】
任意に、鋼組成は、0.005~0.23重量%の間に含まれる含有率のニッケルを含むこともできる。プレス硬化鋼基材の表面に位置する場合、Niは、主に高温でのブランクへの水素の侵入に対するバリアを作ることにより、遅れ破壊に対する感受性を著しく低下させる。Ni含有量が0.005%未満では改善が認められない。しかし、ニッケルの添加はコストがかかるので、その任意の添加は0.23%に制限される。
【0051】
- 鋼組成は、任意にニオブを含んでもよい。0.005重量%より高い含有率で存在する場合、Nbは、ブランクの加熱中のオーステナイト結晶粒成長を制限するのに寄与し得る炭窒化物を形成する。しかし、その含有率は、熱間圧延中の再結晶を制限する能力(これは圧延力及び製造の困難性を増加させる)のために0.060%を超えてはならない。
【0052】
鋼の組成の残余は鉄及び精緻化に起因する不可避の不純物である。
【0053】
本発明によるプレス硬化部分の製造方法を、これから説明する。
【0054】
0.16%≦C≦0.42%、0.1%≦Mn≦3%、0.07%≦Si≦1.60%、0.002%≦Al≦0.070%、0.02%≦Cr≦1.0%、0.0005%≦B≦0.005%、0.002%≦Ti≦0.11%、0.001%≦O≦0.008%、ここで(Ti)×(O)2×107≦2、0.001%≦N≦0.007%、及び任意に、0.005%≦Ni≦0.23%、0.005%≦Nb≦0.060%、0.001%≦S≦0.005%、0.001%≦P≦0.025%を含み、残余はFe及び不可避の不純物である溶鋼が提供される。
【0055】
この段階では、マグネシウムによるさらなる脱酸により、この含有率が少し現象する可能性があることが、溶鋼の酸素含有率において考慮される。
【0056】
溶鋼がレードル内にあるか、レードルと連続鋳造施設との間に配置されたタンディッシュにあるか、又は連続鋳造施設の上部に置かれたタンディッシュ内にあるか、鋼が完全に液体であり、その後すぐに凝固し始める間に、製鉄所でMgの添加が行われる。Mgの沸点が低いため、この添加は溶鋼に高い供給速度で供給されるワイヤーにより行うことが好ましい。これにより、十分な長さのワイヤーが溶鋼中に浸漬され、溶鋼静圧のおかげでMgの蒸発を妨げることができる。溶鋼中のMgの添加及びその溶存酸素との反応及び最終的にはいくつかの既存酸化物の還元のために、MgO及び/又はMgO-Al2O3及び/又はMgO-TixOy酸化物が析出する。TixOyはTi2O3、Ti3O5などのような化合物を指す。溶鋼中にMgを添加する温度Tadditionは、Tliquidus(鋼の液相線温度)~(Tliquidus+70°C)の間に含まれる。Tadditionが(Tliquidus+70℃)より高ければ、平均サイズが1.7μmを超える粗大な析出物が生成される可能性があり、これにより遅れ破壊耐性が低下する。
【0057】
Mg添加場所(レードル、タンディッシュ又は連続鋳造施設の初期部)が何でも、Mg添加から溶鋼の凝固開始までの間に経過する持続時間tDは30分を超えてはならない。さもなければ、Mg又はMg含有酸化物のデカンテーションは重要になり過ぎる可能性があり、鋼が一旦凝固したら、これらの粒子の数が不足する可能性がある。
【0058】
デカンテーション現象を最小化するために、タンディッシュ中で添加を行い、これによりtDを1分より短くすることができる。
【0059】
さらに高度な最小化のために、10秒より短いtDで添加を行う。これは、それ自体公知の装置である中空ジェットノズルのような連続鋳造施設の上部に浸漬されたノズルにおける添加により達成することができる。
【0060】
鋼がスラブ又はインゴットのような半製品の形態に鋳造されると、半製品の凝固が始まる。凝固は半製品表面の冷却速度Vsが30℃/秒より高くなるような方法で行われる。これは、平均サイズが1.7μmを超える粗大な析出物を避けるのに寄与する。
【0061】
その後に前記半製品を圧延して、圧延鋼板を得る。それは熱間圧延鋼板又はさらに冷間圧延鋼板の形態であってもよく、厚さは0.8~4mmの範囲である。この厚さ範囲は、産業用プレス硬化工具、特にホットスタンピングプレスに適している。
【0062】
圧延板は、上記の範囲内で均一な厚さ又は不均一な厚さを有することができる。後者の場合には、それ自体が知られている方法、例えば、個々の状況に合わせた圧延によって得ることができる。
【0063】
その後、圧延板をプレコートする。本発明の関連で、プレコートは、ホットプレス成形に先行し、プレコート中への鋼の拡散を引き起こす熱処理にまだ供していない平な鋼板の表面に施される被膜を指す。
【0064】
プレコートは、アルミニウム又はアルミニウムベースの合金(すなわち、プレコートの重量パーセントにおいてアルミニウムが主元素である)又はアルミニウム合金(すなわち、プレコートにおいてアルミニウムが重量パーセントにおいて50%よりも高い)であることができる。
【0065】
プレコート鋼板は、約670~680℃の温度の浴で溶融めっきすることにより得ることができ、正確な温度はアルミニウムベースの合金又はアルミニウム合金の組成に依存する。好ましいプレコートは、板を浴で溶融めっきすることにより得られるAl-Siであり、これは、重量%で、5~11%のSi、2~4%のFe、任意に0.0015~0.0030%のCaを含み、残余は精錬から生じる不純物である。このプレコートの特徴は、プレス硬化方法の熱サイクルに特に適応する。
【0066】
鋼板の各側のプレコート厚さは10~35μmの間に含まれる。プレコート厚さが10μm未満では、プレス硬化後の耐食性が低下する。プレコート厚さが35μmを超える場合、鋼基材からの鉄との合金化は、プレコートの外部部分においてより困難であり、それは、プレス硬化の直前の加熱工程における液相の存在のリスクを増加させ、このため炉内のローラの汚染のリスクを増加させる。
【0067】
平らなプレコート鋼板は、この段階では通常フェライト-パーライト微細組織を有し、その後切断されて、プレコート鋼ブランクを得るが、その輪郭形状は、最終的なプレス硬化部品の形状と関係して多かれ少なかれ複雑であり得る。
【0068】
プレコート鋼ブランクは、その後温度θmまで加熱される。加熱は単一区域の炉又は多区域の炉で有利に行われる。すなわち、後者の場合は、独自の加熱手段及び設定パラメータを有する異なる区域を有する。加熱は、バーナー、放射管、放射電気抵抗などの機器によって、又は誘導によって行うことができ、これらの手段は、独立して、又は組み合わせて提供される。鋼ブランクの組成及び微細組織の特徴により、炉の雰囲気の露点のコストのかかる制御は必要ない。したがって、露点は+10~+25℃の間に含まれることが有利である。
【0069】
プレコート鋼ブランクは、初期鋼微細組織をオーステナイトに変態させることを可能とする最高温度θmまで加熱される。
【0070】
鋼組成、被膜の特徴及びブランク厚さの範囲によれば、温度θmは890~950℃の間に含まれることが有利であり、炉内の総滞留時間tmは1~10分の間に含まれる。この熱処理の間、プレコートは、鋼基材元素からの拡散によって、プレス硬化部品の表面上の被膜に変化する。この被膜は、プレコートへの鉄の拡散から生じる(Fex-Aly)金属間化合物を含む。
【0071】
θmに維持した後、加熱ブランクを素早く成形プレスに移し、熱間成形して部品を得る。次いで、適正な冷却速度を確保し、収縮及び相変態における不均一性による歪みを回避するために、部品をプレス工具内に保持する。この部品は、主に工具との熱伝達による伝導によって冷却される。目標の微細組織によれば、ツーリングは、冷却速度を増加させるように冷却剤循環を含むことができ、又は冷却速度を下げるように加熱カートリッジを含むことができる。したがって、このような手段の実施により、基材組成の焼入れ性を考慮に入れることによって、冷却速度を正確に調節することができる。冷却速度は、部品内で均一であってもよく、又は冷却手段によって区域毎に変化してもよく、これにより局所的に増加した強度又は増加した延性特性を達成することが可能になる。
【0072】
高い引張強さを達成するために、プレス硬化部品の微細組織は95%を超えるマルテンサイトを含む。冷却速度は臨界マルテンサイト冷却速度より高くなるように鋼組成に応じて選ぶ。0.18~0.24%Cを含むホウ素鋼の好ましい実施形態として、750~400℃での冷却速度は40℃/秒よりも高い。
【実施例】
【0073】
表1に従った組成の鋼を精巧に作った。組成を重量%で表しており、残余はFe及び不可避の不純物である。
【0074】
鋳物をTLiquidus~TLiquidus+70℃の間に含まれる温度でMg合金を添加することにより微細化し、鋼組成に対する液相線の温度は約1490℃である。Mg合金の添加から溶鋼の凝固開始の間に経過する持続時間tDは、tDが45分である鋼RBを除いて、30分未満である。
【0075】
冷却速度が30℃/秒より低い鋼RFを除き、全ての鋳物について30℃/秒より高い冷却速度Vsを得るように凝固を実施した。
【0076】
得られた半製品を1200~1255℃で2時間加熱し、さらに仕上げ温度900℃で厚さ2.4mmまで熱間圧延した。これらの熱間圧延板を厚さ1.2mmまで冷間圧延し、次にAl-Siでプレコートした。プレコート鋼板をその後切断して、プレコート鋼ブランクを得た。
【0077】
酸化物、炭窒化物、硫化物及び酸硫化物の母集団の特徴を、少なくとも2000個の粒子を分析することによって、板の圧延方向に沿って観察した研磨試験片について、上述の方法論によって決定した。
【0078】
【0079】
プレス硬化部品を表2の条件で製作した。θm=900℃では鋼の組織はオーステナイトである。第1の乾燥気体フラックスと水分を含む第2の気体フラックスを混合することによって露点を制御し、第2のフラックスの相対量は異なる露点の値を達成することを可能にするものであった。プレス硬化部品を、それらの組成及びプレス硬化製造方法に従って参照記号を付した。例えば、IA2は、ブランクの形態で切断し、その後条件2に従ってプレス硬化した鋼IAを指す。
【0080】
【0081】
全ての場合において、微細組織は少なくとも95%のマルテンサイトを含み、この量を面積分率又は容積分率のいずれかで表す。被膜はAl-Siプレコートへの鉄の拡散から生じる(Fex-Aly)金属間化合物を含む。プレス硬化部品の粒子に関する特徴を表3に示す。
【0082】
【0083】
引張特性(降伏応力YS、引張強さTS)を、ISO6892-1規格に従ってプレス硬化部品について測定し、表4に報告する。
【0084】
上で記載したように、プレス硬化部品の遅れ破壊σDFに対する耐性を規格SEP1970のガイドラインに従って測定した。半径10mmの打ち抜き孔を有する試験片を、最終的な破断まで、96時間の間一定の引張応力に供した。σDF値も表4で報告した。
【0085】
【0086】
図3に示すように、本発明によるプレス硬化部品IA2~ID2は、σ
DFが3×10
16×TS
-4.345+100MPaの値を著しく超えるため、遅れ破壊に対する高い耐性を示す。
【0087】
図1にプレス硬化部品IA2における粒子の粒径分布を示す。粒子の大部分は非常に細かく、平均サイズd
avは1.1μmである。
【0088】
Mgを適切な含有量で含んでいても、プレス硬化部RA2は、高すぎる含有率Ti×(O)2を有し、MgO及びMgO-Al2O3粒子を含まず、その(MgO-TixOy)粒子の平均サイズは1μmを超える。
【0089】
プレス硬化部品RB1はMg及びAlの含有率が低すぎ、持続時間tDは30分よりも長い。MgO、MgO-Al2O3、MgO-TixOyの代わりに複合(Mn-Mg)酸化物が存在し、したがって条件(C1)も(C2)も満たさない。
【0090】
プレス硬化部品RC2は高すぎる含有率Ti×(O)2を有し、粒子の平均サイズが大きすぎ、条件(C1)も(C2)も満たさない。
【0091】
プレス硬化部品RD1はMgを有さず、Si含有率が低すぎるため、遅れ破壊耐性が不十分である。
【0092】
プレス硬化部品RE2はMgを有さず、Ti×(O)2の含有率が高すぎ、粒子の平均サイズが大きすぎるため、遅れ破壊耐性も不十分である。
【0093】
Mg含有率が低すぎ、O含有率が高すぎ、凝固時の冷却速度が低すぎるため、RF1中の粒子の平均サイズは、
図2に見られるように大きすぎ、条件(C1)も(C2)も満たさない。
【0094】
プレス硬化部品RG2はMgを有さず、その平均粒径があまりにも重要であり、条件(C1)も(C2)も満たさない。
【0095】
プレス硬化部品RH2はMgを有さず、O及びTi×(O)2の含有率が高すぎ、粒子の平均サイズが大きすぎるため、その遅れ破壊耐性が不十分である。
【0096】
プレス硬化部品RI2はMgを有さず、粒子の平均サイズが大きすぎるため、その遅れ破壊耐性も不十分である。
【0097】
また、
図4は、IA2(発明)及びRI2(参考)の膨張率測定によって得られた変態曲線を比較したものである。これらの曲線は、試験片を900℃で加熱し、750から400℃の間、80℃/秒の冷却速度で冷却することによって得られる。
【0098】
加熱工程の間、2つの試験片は同様に挙動し、完全なオーステナイト変態を起こす。冷却工程中、それらの変態動力学は異なる。すなわち、RI2は、マルテンサイト変態が始まる温度である、約400℃前に同素変態を示さない。したがって、RI2の微細組織は完全にマルテンサイトである。対照的に、IA2は、約650℃で始まる第1の変態、続いて、マルテンサイト開始を示す約400℃での第2の変態を示す。金属組織学的観察は、MgO及びMgO-Al2O3粒子の存在下で、150℃/秒という高い冷却速度でも、ベイナイト変態が起こったことを明らかにする。走査型電子顕微鏡で得られた
図5は、これらの微細組織の特徴を示している。ベイナイト分率はIA2では5%未満であるが、この特徴は高いσ
DF値を得るのに寄与している。したがって、驚くべき方法で、完全なマルテンサイト変態を伴わなくても高い引張値を達成することが可能であり、特定粒子の存在下で少量のベイナイトが遅れ亀裂に対する高い耐性を達成するのに大きく寄与することが実証される。
【0099】
このように、本発明により製造されたプレス硬化被覆鋼部品は、車両の構造部品又は安全部品の製造のために有利に使用することができる。
【国際調査報告】