(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-09
(54)【発明の名称】6XXXアルミニウム合金
(51)【国際特許分類】
C22C 21/02 20060101AFI20220202BHJP
C22C 21/06 20060101ALI20220202BHJP
C22F 1/05 20060101ALI20220202BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20220202BHJP
【FI】
C22C21/02
C22C21/06
C22F1/05
C22F1/00 623
C22F1/00 604
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 640A
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 691B
C22F1/00 694B
C22F1/00 685Z
C22F1/00 694A
C22F1/00 602
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021531352
(86)(22)【出願日】2019-12-03
(85)【翻訳文提出日】2021-06-01
(86)【国際出願番号】 US2019064148
(87)【国際公開番号】W WO2020117748
(87)【国際公開日】2020-06-11
(32)【優先日】2018-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520119242
【氏名又は名称】アーコニック テクノロジーズ エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】ARCONIC TECHNOLOGIES LLC
(74)【代理人】
【識別番号】110001438
【氏名又は名称】特許業務法人 丸山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ホッシュ,ティモシー エイ.
(72)【発明者】
【氏名】モーイ,ダーク シー.
(72)【発明者】
【氏名】ベル,シリル エフ.
(57)【要約】
改善された特性の組み合わせを有する新規の6xxxアルミニウム合金が開示される。新規の6xxxアルミニウム合金は概して、0.65~0.85重量%のSiと、0.40~0.59重量%のMg((Mgの重量%)/(Siの重量%)が0.47~0.90である)と、0.05~0.35重量%のFeと、0.04~0.13重量%のMnと、0~0.20重量%のCuと、0~0.15重量%のCrと、0~0.15重量%のZrと、0~0.15重量%のTiと、0~0.10重量%のZnと、0~0.05重量%のVと、を含み、残りがアルミニウムおよび不純物である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
6xxxアルミニウム合金であって、
0.65~0.85重量%のSiと、
0.40~0.59重量%のMgと
((Mgの重量%)/(Siの重量%)が0.47~0.90である)、
0.05~0.35重量%のFeと、
0.04~0.13重量%のMnと、
0~0.20重量%のCuと、
0~0.15重量%のCrと、
0~0.15重量%のZrと、
0~0.15重量%のTiと、
0~0.10重量%のZnと、
0~0.05重量%のVと、を含み、
残りがアルミニウムおよび不純物である、6xxxアルミニウム合金。
【請求項2】
前記6xxxアルミニウム合金が、少なくとも0.675重量%のSi、または少なくとも0.70重量%のSiを含む、請求項1に記載の6xxxアルミニウム合金。
【請求項3】
前記6xxxアルミニウム合金が、0.825重量%以下のSi、または0.80重量%以下のSiを含む、請求項1または2のいずれか一項に記載の6xxxアルミニウム合金。
【請求項4】
前記6xxxアルミニウム合金が、少なくとも0.425重量%のMg、または少なくとも0.45重量%のMg、0.475重量%のMg、または少なくとも0.50重量 のMgを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の6xxxアルミニウム合金。
【請求項5】
前記6xxxアルミニウム合金が、0.57重量%以下のMgを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の6xxxアルミニウム合金。
【請求項6】
前記(Mgの重量%)/(Siの重量%)が、少なくとも0.50、または少なくとも0.52、または少なくとも0.54、または少なくとも0.56、または少なくとも0.58、または少なくとも0.60である、請求項1~5のいずれか一項に記載の6xxxアルミニウム合金。
【請求項7】
前記(Mgの重量%)/(Siの重量%)が、0.88以下、または0.86以下、または0.84以下、または0.82以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載の6xxxアルミニウム合金。
【請求項8】
前記6xxxアルミニウム合金が、少なくとも0.08重量%のFeを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の6xxxアルミニウム合金。
【請求項9】
前記6xxxアルミニウム合金が、0.32重量%以下のFe、または0.28重量%以下のFe、または0.26重量%以下のFeを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の6xxxアルミニウム合金。
【請求項10】
前記6xxxアルミニウム合金が、少なくとも0.02重量%のCu、または少なくとも0.04重量%のCu、または少なくとも0.06重量%のCu、または少なくとも0.07重量%のCu、または少なくとも0.08重量%のCu、または少なくとも0.09重量%のCuを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の6xxxアルミニウム合金。
【請求項11】
前記6xxxアルミニウム合金が、0.19重量%以下のCu、または0.18重量%以下のCu、または0.17重量%以下のCuを含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の6xxxアルミニウム合金。
【請求項12】
前記6xxxアルミニウム合金が、少なくとも0.05重量%のMnまたは少なくとも0.06重量%のMnを含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の6xxxアルミニウム合金。
【請求項13】
前記6xxxアルミニウム合金が、0.12重量%以下のMn、または0.11重量%以下のMn、または0.10重量%以下のMnを含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の6xxxアルミニウム合金。
【請求項14】
前記6xxxアルミニウム合金が、少なくとも0.01重量%のCr、または少なくとも0.02重量%のCrを含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の6xxxアルミニウム合金。
【請求項15】
前記6xxxアルミニウム合金が、0.10重量%以下のCr、または0.08重量%以下のCr、または0.06重量%以下のCr、または0.05重量%以下のCrを含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の6xxxアルミニウム合金。
【請求項16】
前記6xxxアルミニウム合金が、0.10重量%のZr、または0.05重量%以下のZr、または0.03重量%以下のZr、または0.01重量%以下のZrを含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の6xxxアルミニウム合金。
【請求項17】
前記6xxxアルミニウム合金が、0.10重量%以下のTi、または0.08重量%以下のTi、または0.05重量%以下のTiを含む、請求項1~16のいずれか一項に記載の6xxxアルミニウム合金。
【請求項18】
前記6xxxアルミニウム合金が、0.05重量%以下のZn、または0.03重量%以下のZn、または0.01重量%以下のZnを含む、請求項1~17のいずれか一項に記載の6xxxアルミニウム合金。
【請求項19】
前記6xxxアルミニウム合金が、0.03重量%以下のV、または0.01重量%以下のVを含む、請求項1~18のいずれか一項に記載の6xxxアルミニウム合金。
【請求項20】
前記6xxxアルミニウム合金が、合計で0.15重量%以下の前記不純物を含み、前記6xxxアルミニウム合金が、各々が0.05重量%以下の前記不純物を含む、請求項1~19のいずれか一項に記載の6xxxアルミニウム合金。
【請求項21】
前記6xxxアルミニウム合金が、合計で0.10重量%以下の前記不純物を含み、前記6xxxアルミニウム合金が、各々が0.03重量%以下の前記不純物を含む、請求項1~20のいずれか一項に記載の6xxxアルミニウム合金。
【請求項22】
6xxxアルミニウム合金であって、
0.70~0.80重量%のSiと、
0.49~0.59重量%のMgと、
((Mgの重量%)/(Siの重量%)が0.61~0.84である)
0.09~0.29重量%のFeと、
0.06~0.10重量%のMnと、
0.09~0.17重量%のCuと、
0.01~0.05重量%のCrと、
0.01~0.05重量%のTiと、
0.05重量%以下のZnと、
0.05重量%以下のVと、
0.05重量%以下のZrと、を含み、
残りがアルミニウムおよび不純物である、6xxxアルミニウム合金。
【請求項23】
方法であって、
(a)請求項1~22のいずれかに記載の6xxxアルミニウム合金を鋳造製品として鋳造することと、
(b)前記鋳造製品を中間ゲージ製品へと熱間圧延することであって、
(i)前記中間ゲージ製品の出口温度が、290℃以下であり、前記中間ゲージ製品のアニールが、前記熱間圧延後に完了されるか、または
(ii)前記中間ゲージ製品の出口温度が、400~480℃である、熱間圧延することと、
(c)前記中間ゲージ製品を最終ゲージ製品に冷間圧延することと、を含み、
前記中間ゲージ製品が、受け入れたままの厚さを有し、
前記最終ゲージ製品が、最終厚さを有し、
前記冷間圧延が、前記最終厚さを達成するために、前記受け入れたままの厚さを少なくとも50%低減することを含む、方法。
【請求項24】
前記冷間圧延後に、前記最終ゲージ製品を溶体化熱処理し、次いでクエンチすることを含み、
前記溶体化熱処理が、前記最終ゲージ製品をピーク金属温度に加熱することを含み、
前記ピーク金属温度が、593℃以下である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記クエンチ後、前記最終ゲージ製品を人工的にエージングすることを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記人工的なエージングが、焼付け塗装することを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
前記クエンチ後、前記最終ゲージ製品を少なくとも3日間自然エージングすることを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項28】
前記最終ゲージ製品が、主に再結晶化された微細構造を実現する、請求項23に記載の方法。
【請求項29】
前記最終ゲージ製品が、45マイクロメートル以下、または40マイクロメートル以下の面積加重平均粒径を実現する、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記最終ゲージ製品が、少なくとも20マイクロメートル、または少なくとも25マイクロメートル、または少なくとも30マイクロメートルの面積加重平均粒径を実現する、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記最終ゲージ製品が、少なくとも10%の立方体集合組織を含む、請求項28に記載の方法。
【請求項32】
6xxxアルミニウム合金シート製品であって、
0.65~0.85重量%のSiと、
0.40~0.59重量%のMgと、
((Mgの重量%)/(Siの重量%)が0.47~0.90である)
0.05~0.35重量%のFeと、
0.04~0.13重量%のMnと、
0~0.20重量%のCuと、
0~0.15重量%のCrと、
0~0.15重量%のZrと、
0~0.15重量%のTiと、
0~0.10重量%のZnと、
0~0.05重量%のVと、を含み、
残りがアルミニウムおよび不純物であり、
前記6xxxアルミアルミニウム合金シート製品が、1.5~4.0mmの厚さを有し、
前記6xxxアルミニウム合金シート製品が、主に再結晶された微細構造を有し、
前記6xxxアルミニウム合金シート製品が、5~45マイクロメートルの加重平均粒径を実現し、
前記6xxxアルミニウム合金シート製品が、少なくとも10%の立方体集合組織を含む、6xxxアルミニウム合金シート製品。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
アルミニウム合金は様々な用途で有用である。しかしながら、多くの場合、アルミニウム合金の1つの特性を、別の特性を劣化させることなく改善することは難しい。例えば、合金の耐食性を減少させることなく、合金の強度を高めることは困難である。アルミニウム合金の目的の他の特性には、2つを挙げると、成形性および臨界破壊歪みが含まれる。
【発明の概要】
【0002】
広い意味では、本開示は、とりわけ、強度、成形性、曲げ、および/または耐食性の改善された組み合わせなどの、特性の改善された組み合わせを有する新規の6xxxアルミニウム合金に関する。
【0003】
i.組成
概して、新規の6xxxアルミニウムリチウム合金は、0.65~0.85重量%のSiと、0.40~0.59重量%のMgと(Mgの重量%対Siの重量%の比が、0.47:1~0.90:1(Mg:Si)である)、0.05~0.35重量%のFeと、0.04~0.13重量%のMnと、0~0.20重量%のCuと、0~0.15重量%のCrと、0~0.15重量%のZrと、0~0.10重量%のTiと、0~0.05重量%のVと、0~0.05重量%のZnを含み(いくつかの例では、それらから本質的になるか、またはそれらからなる)、残りがアルミニウムおよび不純物である。
【0004】
新規の6xxxアルミニウム合金中のマグネシウム(Mg)およびシリコン(Si)の量は、特性(例えば、強度、成形性)の改善された組み合わせに関し得る。一般に、新規の6xxxアルミニウム合金は、0.40~0.59重量%のMgを含む。一実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、少なくとも0.425重量%のMgを含む。別の実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、少なくとも0.45重量%のMgを含む。さらに別の実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、少なくとも0.475重量%のMgを含む。別の実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、少なくとも0.50重量%のMgを含む。一実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、0.57重量%以下のMgを含む。一実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、0.49~0.59重量%のMgを含む。
【0005】
一般に、新規の6xxxアルミニウム合金は、0.65~0.85重量%のSiを含む。一実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、少なくとも0.675重量%のSiを含む。別の実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、少なくとも0.70重量%のSiを含む。一実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、0.825重量%以下のSiを含む。別の実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、0.80重量%以下のSiを含む。一実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、0.70~0.80重量%のSiを含む。
【0006】
概して、新規の6xxxアルミニウム合金は、マグネシウム対シリコンの重量比が0.47:1~0.90:1、すなわち、Mgの重量%対Siの重量%の比が、0.47:1~0.90:1(Mg:Si)となるように、シリコンおよびマグネシウムを含む。一実施形態では、Mgの重量%対Siの重量%の比は、少なくとも0.50:1(Mg:Si)である。別の実施形態では、Mgの重量%対Siの重量%の比は、少なくとも0.52:1(Mg:Si)である。さらに別の実施形態では、Mgの重量%対Siの重量%の比は、少なくとも0.54:1(Mg:Si)である。別の実施形態では、Mgの重量%対Siの重量%の比は、少なくとも0.56:1(Mg:Si)である。さらに別の実施形態では、Mgの重量%対Siの重量%の比は、少なくとも0.58:1(Mg:Si)である。別の実施形態では、Mgの重量%対Siの重量%の比は、少なくとも0.60:1(Mg:Si)である。一実施形態では、Mgの重量%対Siの重量%の比は、0.88:1以下(Mg:Si)である。別の実施形態では、Mgの重量%対Siの重量%の比は、0.86:1以下(Mg:Si)である。さらに別の実施形態では、Mgの重量%対Siの重量%の比は、0.84:1以下(Mg:Si)である。別の実施形態では、Mgの重量%対Siの重量%の比は、0.82:1以下(Mg:Si)である。一実施形態では、Mgの重量%対Siの重量%の比は、0.61:1~0.84:1(Mg:Si)である。
【0007】
鉄(Fe)は、概して、新規の6xxxアルミニウム合金に含まれ、0.05~0.35重量%のFeの範囲である。一実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、少なくとも0.08重量%のFeを含む。別の実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、少なくとも0.10重量%のFeを含む。さらに別の実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、少なくとも0.12重量%のFeを含む。別の実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、少なくとも0.15重量%を含む。一実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、0.32重量%以下のFeを含む。別の実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、0.30重量%以下のFeを含む。さらに別の実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、0.28重量%以下のFeを含む。一実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、0.09~0.26重量%のFeを含む。
【0008】
新規の6xxxアルミニウム合金中のマンガン(Mn)の量は、特性(例えば、成形性)の改善された組み合わせに関し得る。一般に、新規の6xxxアルミニウム合金は、0.04~0.13重量%のMnを含む。一実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、少なくとも0.05重量%のMnを含む。別の実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、少なくとも0.06重量%のMnを含む。一実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、0.12重量%以下のMnを含む。別の実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、0.11重量%以下のMnを含む。別の実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、0.10重量%以下のMnを含む。一実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、0.06~0.10重量%のMnを含む。
【0009】
新規の6xxxアルミニウム合金は、任意に、銅(Cu)を含んでもよく、最大0.20重量%のCuの量である(例えば、強化目的のため)。一実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、少なくとも0.02重量%のCuを含む。別の実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、少なくとも0.04重量%のCuを含む。さらに別の実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、少なくとも0.06重量%のCuを含む。別の実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、少なくとも0.07重量%のCuを含む。さらに別の実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、少なくとも0.08重量%のCuを含む。別の実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、少なくとも0.09重量%のCuを含む。一実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、0.19重量%以下のCuを含む。別の実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、0.18重量%以下のCuを含む。さらに別の実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、0.17重量%以下のCuを含む。一実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、0.09~0.17重量%のCuを含む。
【0010】
新規の6xxxアルミニウム合金は、任意に、クロミウム(Cr)を含んでもよく、最大0.15重量%のCrの量である(例えば、粒子構造制御のため)。一実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、少なくとも0.01重量%のCrを含む。別の実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、少なくとも0.02重量%のCrを含む。一実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、0.10重量%以下のCrを含む。別の実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、0.08重量%以下のCrを含む。さらに別の実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、0.06重量%以下のCrを含む。別の実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、0.05重量%以下のCrを含む。一実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、0.01~0.05重量%のCrを含む。
【0011】
新規の6xxxアルミニウム合金は、任意に、ジルコニウム(Zr)を含んでもよく、最大0.15重量%のZrの量である(例えば、粒子構造制御のため)。一実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、0.10重量%以下のZrを含む。別の実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、0.05重量%以下のZrを含む。さらに別の実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、0.03重量%以下のZrを含む。別の実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、0.01重量%以下のZrを含む。
【0012】
新規の6xxxアルミニウム合金は、最大0.15重量%のTiを含み得る。チタン(Ti)は、任意に、粒微細化目的など、新規の6xxxアルミニウム合金中に存在し得る。一実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、少なくとも0.005重量%のTiを含む。別の実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、少なくとも0.010重量%のTiを含む。さらに別の実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、少なくとも0.0125重量%のTiを含む。一実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、0.10重量%以下のTiを含む。別の実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、0.08重量%以下のTiを含む。さらに別の実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、0.05重量%以下のTiを含む。一実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金中のチタンの目標量は、0.03重量%のTiである。一実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、0.01~0.05重量%のTiを含む。
【0013】
亜鉛(Zn)は、任意に、新規の6xxxアルミニウム合金中に、最大0.10重量%のZnの量で存在してもよい。一実施形態では、新規の合金は、0.05重量%以下のZnを含む。別の実施形態では、新規の合金は、0.03重量%以下のZnを含む。別の実施形態では、新規の合金は、0.01重量%以下のZnを含む。
【0014】
バナジウム(V)は、任意に、新規の6xxxアルミニウム合金中に、最大0.05重量%のVの量で存在してもよい。一実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、0.03重量%以下のVを含む。別の実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、0.01重量%以下のVを含む。
【0015】
上述されるように、新規のアルミニウム合金のバランスは、概して、アルミニウムおよび不純物である。一実施形態では、6xxxアルミニウム合金は、合計で0.15重量%以下の不純物を含み、6xxxアルミニウム合金は、各々が0.05重量%以下の不純物を含む。別の実施形態では、6xxxアルミニウム合金は、合計で0.10重量%以下の不純物を含み、6xxxアルミニウム合金は、各々が0.03重量%以下の不純物を含む。
【0016】
記述されない限り、元素の量を示すとき、表現「最大」は、その元素組成が任意であり、その特定の組成成分の量がゼロであることを含むことを意味する。記述されない限り、すべての組成割合は、重量パーセント(重量%)単位である。
【0017】
ii.加工および製品形態
新規の6xxx合金は、インゴットまたはビレット、鍛錬製品形態(シート、プレート、鍛造物、および押出物)、成形鋳造物、付加製造製品、および粉末冶金製品を含む、様々な製品形態で有用であり得る。一実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、圧延製品である。例えば、新規の6xxxアルミニウム合金は、シート形態で製造され得る。一実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金から作製されるシートは、1.5mm~4.0mmの厚さを有する。
【0018】
一実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、インゴット鋳造および熱間圧延を使用して製造される。一実施形態では、方法は、インゴットを均質化することと、最終ゲージを有する圧延製品にインゴットを圧延することと(熱間圧延および/または冷間圧延により)、圧延生成物を溶体化熱処理することであって、溶体化熱処理が、圧延製品のMg2Siの一部または実質的にすべてが固溶体に溶解されるように、圧延製品をある温度におよびある時間加熱することを含む、溶体化熱処理することと、溶体化熱処理後、圧延製品をクエンチ(例えば、水または空気クエンチ)することと、である、新規の6xxxアルミニウム合金のインゴットを鋳造する工程を含む。クエンチ後、圧延製品は、人工的にエージングされ得る。いくつかの実施形態では、1つ以上のアニーリング工程は、圧延工程(例えば、第1のゲージへの熱間圧延、アニーリング、最終ゲージへの冷間圧延)の前または後に完了されてもよい。人工的にエージングされた製品は、塗装することができ(例えば、自動車部品に対して)、したがって、焼付け塗装サイクルに供されてもよい。一実施形態では、新規の合金から製造される圧延アルミニウム合金製品は、自動車に組み込まれてもよい。
【0019】
一実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金製品は、連続鋳造により鋳造される。連続鋳造の下流では、製品は、(a)圧延され(熱間および/または冷間)、(b)任意にアニーリングされ(例えば、熱間圧延の後および任意の冷間圧延工程の前)、(c)溶体化熱処理およびクエンチされ、(d)任意に冷間加工され(溶体化熱処理後)、e)人工的にエージングされてもよく、すべての工程(a)~(e)は、連続鋳造工程に対してインラインまたはオフラインで行ってもよい。連続鋳造および関連する下流工程を使用して新規の6xxxアルミニウム合金製品を製造するためのいくつかの方法は、例えば、米国特許第7,182,825号、米国特許出願公開第2014/0000768号、および米国特許出願公開第2014/036998号に記載されており、それら各々は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。人工的にエージングされた製品は、塗装することができ(例えば、自動車部品に対して)、したがって、焼付け塗装サイクルに供されてもよい。
【0020】
一実施形態では、熱間圧延は、中間ゲージ製品への熱間圧延を含み、中間ゲージ製品は、290℃以下の温度で熱間圧延装置から出る。熱間圧延後、任意のアニーリングを完了してもよい。熱間圧延および任意のアニーリング後、中間ゲージ製品を、最終ゲージまで冷間圧延してもよい。
【0021】
別の実施形態では、熱間圧延は、中間ゲージ製品への圧延を含み、中間ゲージ製品は、400~480℃の温度で熱間圧延装置から出る。熱間圧延後、次いで、中間ゲージ製品は、最終ゲージまで冷間圧延されてもよく、すなわち、この実施形態では、熱間圧延後および冷間圧延前にアニーリングを必要としない。
【0022】
冷間圧延が完了すると、冷間圧延は一般に、中間ゲージの厚さを最終ゲージの厚さに低減させることを含む。一実施形態では、冷間圧延は、少なくとも50%の冷間圧延を含む。別の実施形態では、冷間圧延は、少なくとも60%の冷間圧延を含む。さらに別の実施形態では、冷間圧延は、少なくとも65%の冷間圧延を含む。一実施形態では、冷間圧延は、85%以下である。
【0023】
当業者に既知であるように、「冷間圧延XX%」などは、XXCR%を意味し、XXCR%は、アルミニウム合金本体がT1の第1の厚さからT2の第2の厚さに低減されたときに達成される厚さ低減の量であり、T1は、中間ゲージの厚さであり、T2は、その厚さである。言い換えれば、XXCR%は、以下に等しい。
XXCR%=(1-T2/T1)*100%
例えば、アルミニウム合金本体が、15.0mmの第1の厚さ(T1)から3.0mmの第2の厚さ(T2)まで冷間圧延されたとき、XXCR%は80%である。「冷間圧延80%」および「冷間圧延80%」などの句は、XXCR%=80%の表示と同等である。
【0024】
一実施形態では、溶体化熱処理中のピーク金属温度は、504℃~593℃の範囲内である。ピーク金属温度は、溶体化熱処理中に合金製品によって実現される最高温度である。
【0025】
一実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金製品は、ANSI H35.1(2009)によって定義されるT4テンパーに加工され、すなわち、新規の6xxxは、溶体化熱処理され、次いで、クエンチされ、次いで、実質的に安定した状態まで自然にエージングされる。一実施形態では、自然なエージングの量は30日であり、新規の6xxxアルミニウム合金のT4特性は、30日間の自然なエージングで測定される。
【0026】
一実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、ANSI H35.1(2009)によって定義されるT6テンパーに加工され、すなわち、新規の6xxxは、溶体化熱処理され、次いで、クエンチされ、次いで、人工的にエージングされる。一実施形態では、人工的なエージングは、焼付け塗装することを含む。一実施形態では、人工的なエージングは、焼付け塗装からなる。一実施形態では、焼付け塗装は、新規の6xxxアルミニウム合金製品を180℃に加熱し、次いで、20分間保持することを含む。
【0027】
一実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、ANSI H35.1(2009)によって定義されるT8テンパーに加工され、すなわち、新規の6xxxは、溶体化熱処理され、次いで、クエンチされ、次いで、冷間加工(例えば、延伸)され、次いで、人工的にエージングされる。一実施形態では、人工的なエージングは、焼付け塗装することを含む。一実施形態では、人工的なエージングは、焼付け塗装からなる。一実施形態では、焼付け塗装は、新規の6xxxアルミニウム合金製品を180℃に加熱し、次いで、20分間保持することを含む。
【0028】
iii.微細構造
A.再結晶化
新規の6xxxアルミニウム合金の加工の工程は、新規のアルミニウム合金本体製品が、主に再結晶化された微細構造を実現するように達成され得る。主に再結晶化された微細構造は、アルミニウム合金本体が少なくとも51%の再結晶化された粒(体積画分で)を含むことを意味する。新規の6xxxアルミニウム合金製品の再結晶化の程度は、適切なSEMおよびコンピュータソフトウェアによってEBSDを用いて分析された材料の適切な金属組織学試料を使用して決定され、粒内方位差を決定することができる。一実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金製品は、少なくとも60%再結晶化される。別の実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金製品は、少なくとも70%再結晶化される。さらに別の実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金製品は、少なくとも80%再結晶化される。別の実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金製品は、少なくとも90%再結晶化される。さらに別の実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金製品は、少なくとも95%再結晶化される。別の実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金製品は、少なくとも98%またはそれ以上再結晶化される。
【0029】
B.粒径(Grain Size)および集合組織(Texture)
新規の6xxxアルミニウム合金製品は、微細な粒径を実現し得る。一実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金製品は、45マイクロメートル以下の面積加重平均粒径(area weighted average grain size)を実現する。別の実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金製品は、40マイクロメートル以下の面積加重平均粒径を実現する。一実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金製品は、少なくとも20マイクロメートルの面積加重平均粒径を実現する。別の実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金製品は、少なくとも25マイクロメートルの面積加重平均粒径を実現する。さらに別の実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金製品は、少なくとも30マイクロメートルの面積加重平均粒径を実現する。
【0030】
新規の6xxxアルミニウム合金製品は、固有の集合組織を実現し得る。集合組織とは、結晶構造の粒子の少なくとも一部の好ましい方位(orientation)を意味する。マッチスティック(matchsticks)を例えとして用いて、マッチスティックで構成される材料を考える。マッチスティックが材料内に完全に無作為な様式で含まれる場合、その材料は無作為な集合組織を有する。しかしながら、それらのマッチスティックのうちの少なくとも一部のヘッドが、方位磁石が北を指すように同じ方向を指して整列している場合、材料は、整列されたマッチスティックに起因して少なくともいくらかの集合組織を有するであろう。同じ原理が、結晶性材料の粒子に適用される。
【0031】
アルミニウム合金製品の製造からもたらされる集合組織構成要素は、いくつかを挙げると、銅、S集合組織、ブラス、立方体、およびゴス集合組織のうちの1つ以上を含み得る。これらの集合組織構成要素の各々は、以下の表1に定義される。
【表a】
【0032】
以下の表は、本明細書に開示される新規の6xxxアルミニウム合金によって実現され得る集合組織構成要素および範囲の非限定的な例である。
【表b】
【0033】
本特許出願の目的のために、粒径および集合組織は、以下の通りに測定および正規化されるものとする。
・Phillips XL-30 FESEMまたは同等のものが使用される。
・電子後方散乱回折(EBSD)パターンは、EDAX EBSD Digiview 5検出システム、または同等のものを使用して収集される。EBSD取得は、EDAX TSL EBSD Data Collection(OIM)(商標)ソフトウェア、バージョン7または同等のものを使用して行われる。
・試料は、長手方向(L)×短手方向(short transverse)(ST)平面の分析のために断面化および研磨され、例えば、断面化され、固定された試料の平面を研削し、連続した微細グリットで0.05μmのコロイド状シリカ(SiO
2)に研磨することによって、標準的な金属組織学的分析のために調製される。最後の工程は、45分間の振動研磨である。
・金属組織学的調製後、試料を1分あたり25回転で回転させながら、試料を、試料表面上の3kVおよびグレージング角度入射(10度)で操作される適切なブロードビームアルゴンイオンミリングシステム(例えば、日立IM4000Plus)を用いて、15分間イオンミリングする。
・データ取得パラメータは、20kVの電子ビームエネルギー、70度の試料傾斜角を有するスポットサイズ5を含み、0.8マイクロメートルステップサイズおよび正方形グリッドスキャンタイプが使用される。
・EBSDパターンは、バックグラウンド減算および正規化強度ヒストグラムを含む、8x8ビニングおよび画像補正処理を使用して収集される。マップの寸法は、長手(L)方向(すなわち、シート製品の圧延方向)で800マイクロメートルの短手(ST)方向の完全な厚さとする。
・取得されたデータを分析するために使用されるソフトウェアは、EDAX TSL OIM(商標)8データ分析パッケージまたは類似のものであるべきである。データ分析には、2段階クリーンアップ手順が含まれた。第1の工程は、最小信頼度指数(CI)が0.1で、粒子許容角度が5度であるデータに適用される、Neighbor Orientation Correlationレベル2のクリーンアップである。第2の工程は、1回の反復に対して、5度の粒子許容角度および粒子あたり最低5点を使用するGrain Dilation法である。
・粒子は、5度の粒子許容角度で、粒子あたり最低5点を有するようことが定義される。一実施形態では、ソフトウェアは、概して、ASTM E112-12,§13によるHeyn線形切片法(Heyn linear intercept method)を介して、粒径(平均粒子直径)を決定する。
・別の実施形態では、個々の粒径は、各粒子内の点の数を数え、各点の面積を乗じる(ステップサイズの2乗)ことによって決定される。
・以下の方程式を使用して、粒径(すなわち、同等の円直径)を計算してもよい。
【数1】
式中、Aiは、上記により測定された各個々の粒子の面積である。「vi」は、粒子が円であると仮定して計算された個々の粒径である。数平均粒径であるv-bar_nは、viの算術平均である。
【数2】
・「面積加重平均粒径」は、以下の方程式を使用して計算され得る。
【数3】
式中、Aiは、上記による各個々の粒子の面積であり、viは、上記のように計算された個々の粒径である。「v-bar_a」は、面積加重平均粒径である。
・存在する集合組織構成要素(立方体(Cube)%、ゴス(Goss)%、ブラス(Brass)%、S%、銅(Copper)%)の定量化は、特定の集合組織構成要素に割り当てられる測定された点の数の割合として決定される。方位差角度が理想的な方位から13.74度未満逸脱する場合、点は集合組織構成要素に割り当てられる。この数値割合に100を乗じて、試料中の各集合組織構成要素のパーセンテージを求める。
【0034】
iv.特性(Properties)
上述されるように、本明細書に開示される新規の6xxxアルミニウム合金は、特性の改善された組み合わせを実現し得る。一実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、LT(long transverse)(長い横断)方向で、90~110MPaのT4引張降伏強度を実現する。一実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、LT(長い横断)方向で、少なくとも21%のT4一様伸びを実現する。一実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、LT(長い横断)方向で、少なくとも0.245のT4 n値(10~20%)を実現する。この段落の目的のために、T4特性は、30日間の自然エージングの後に測定される。
【0035】
本特許出願の目的のために、張力降伏強度および一様伸び(uniform elongation)は、ASTM E8およびB557に従って測定される。本特許出願の目的のために、10~20%の歪みを用いて、ASTM E646に従って「n値(10~20%)」が測定される。
【0036】
一実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、180℃で20分間、焼付け塗装によって人工的にエージングしたときに、少なくとも160MPaのT6(0%の予歪み/伸び)引張降伏強度を実現する。別の実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、180℃で20分間、焼付け塗装によって人工的にエージングしたときに、少なくとも170MPaのT6(0%の予歪み/伸び)引張降伏強度を実現する。さらに別の実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、180℃で20分間、焼付け塗装によって人工的にエージングしたときに、少なくとも180MPaのT6(0%の予歪み/伸び)引張降伏強度を実現する。
【0037】
一実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、溶体化熱処理後1~3%延伸し(stretched)、次いで、180℃で20分間、焼付け塗装によって人工的にエージングしたときに、少なくとも215MPaのT8引張降伏強度を実現する。
【0038】
一実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、2以上のヘム評価を実現する。ヘム評価は、以下の実施例に定義される。別の実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、1のヘム評価を実現する。
【0039】
一実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、少なくとも125°のVDA曲げ角を実現する。VDA試験は、製品を30日間自然にエージングし、次いで、製品をL(長手)方向に10%延伸し、次いで、VDA 238-100曲げ試験仕様(https://www.vda.de/en/services/Publications/vda-238-100-plate-bending-test-for-metallic-materials.html)に従ってVDA曲げ試験を実施することによって試験される。別の実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、少なくとも130°のVDA曲げ角を実現する。さらに別の実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、少なくとも135°のVDA曲げ角を実現する。別の実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、少なくとも140°のVDA曲げ角を実現する。さらに別の実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、少なくとも143°のVDA曲げ角を実現する。
【0040】
一実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金には、リューダース変形(Ludering)が不在である。リューダース変形は、製品を8日間自然にエージングし、次いで、製品をL(長手)方向に10%延伸することによって試験される。リューダース線(Luder lines)が肉眼で見える場合、製品にはリューダース変形が不在ではない。リューダース線が肉眼で見えない場合、製品にはリューダース変形が不在である。
【0041】
一実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、
図1の「好ましいプロパティボックス」に示される特性の組み合わせを実現する。これらの実施形態のいくつかでは、新規の6xxxアルミニウム合金は、少なくとも140°のVDA曲げ角を実現する。上記で同定された特性のうちの他のものも実現され得る。
【0042】
一実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、
図2の「好ましいプロパティボックス」に示される特性の組み合わせを実現する。これらの実施形態のいくつかでは、新規の6xxxアルミニウム合金は、少なくとも140°のVDA曲げ角を実現する。上記で同定された特性のうちの他のものも実現され得る。
【0043】
一実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、
図3の「好ましいプロパティボックス」に示される特性の組み合わせを実現する。これらの実施形態のいくつかでは、新規の6xxxアルミニウム合金は、少なくとも140°のVDA曲げ角を実現する。上記で同定された特性のうちの他のものも実現され得る。
【0044】
一実施形態では、新規の6xxxアルミニウム合金は、
図4の「好ましいプロパティボックス」に示される特性の組み合わせを実現する。これらの実施形態のいくつかでは、新規の6xxxアルミニウム合金は、少なくとも140°のVDA曲げ角を実現する。上記で同定された特性のうちの他のものも実現され得る。
【0045】
図は、本明細書の一部を構成し、本発明の例示的な実施形態を含み、様々な対象物およびその特徴を例示する。加えて、図に示される任意の測定値、仕様などは、例示的であり、限定的ではないことを意図する。したがって、本明細書に開示される特定の構造的および機能的詳細は、限定として解釈されるべきではなく、本発明を様々に用いることを当業者に教示するための単に代表的な根拠として解釈されるべきである。
【0046】
本開示に対する様々な実施形態は、添付図面への参照によりさらに説明され、同様の構造はいくつかの図を通して同様の数字により表記される。示される図面は必ずしも縮尺通りではなく、代わりに、概ね本発明の原理を説明することに重点が置かれている。さらに、いくつかの特徴は、特定の構成要素の詳細を示すために誇張される場合がある。
【0047】
開示されているそれらの利点および改良点の中でも、本発明の他の目的および利点は、添付の図面と共に以下の説明から明らかになるであろう。本発明の詳細な実施形態は、本明細書に開示されているが、しかしながら、開示された実施形態は、様々な形態で具現化され得る本発明を単に例示するものであることを理解されたい。さらに、本発明の様々な実施形態に関連して得られる各実施例は例示的であり、限定的ではないことが意図される。
【0048】
明細書および特許請求の範囲全体を通して、以下の用語は、文脈が別途明確に指示していない限り、本明細書に明示的に関連する意味を取る。本明細書で使用される「一実施形態では」および「いくつかの実施形態では」という句は、必ずしも同じ実施形態(複数可)を指さないが、それを指す場合もある。さらに、本明細書で使用される「別の実施形態では」および「いくつかの他の実施形態では」という句は、必ずしも異なる実施形態を指さないが、それを指す場合もある。したがって、以下に説明するように、本発明の様々な実施形態を、本発明の範囲または精神から逸脱することなく、容易に組み合わせてもよい。
【0049】
加えて、本明細書で使用される場合、「または」という用語は包括的な「または」であり、文脈が別途明確に指示していない限り、「および/または」という用語と同等である。「に基づく」という用語は排他的ではなく、文脈が別途明確に指示していない限り、記述されていない追加的な要因に基づくことができる。さらに、本明細書全体を通して、「a」、「an」、および「the」の意味は、文脈が別途明確に指示していない限り、複数の参照を含む。「in」という意味は、文脈が別途明確に指示していない限り、「in」および「on」を含む。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
【
図5】様々な例の合金について、そのままの(T4)テンパーでの引張降伏強度(焼付け塗装後、予歪み(pre-strain)なし、すなわち、T6)対n値(10~20%)を示すグラフである。
【0055】
【
図6】様々な例の合金について、そのままの(T4)テンパーでの引張降伏強度(焼付け塗装後、予歪みなし、すなわち、T6)対一様伸びを示すグラフである。
【0056】
【
図7】様々な例の合金について、そのままの(T4)テンパーでの引張降伏強度(焼付け塗装後、2%予歪み、すなわち、T8)対n値(10~20%)を示すグラフである。
【0057】
【
図8】様々な例の合金について、そのままの(T4)テンパーでの引張降伏強度(焼付け塗装後、2%予歪み、すなわち、T8)対一様伸びを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0058】
以下の実施例は、本発明を説明することを意図しており、決して本発明を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0059】
<実施例1:合金組成>
以下の表1に示す組成を有するアルミニウム合金を、インゴットとして鋳造した。
【表1】
【0060】
次いで、インゴットを均質化し、次いで、290℃以下の出口温度で中間ゲージに熱間圧延した。次いで、合金を、0.95または1.2mmの最終ゲージに冷間圧延した。冷間圧延量(中間ゲージから最終ゲージへの低減)を以下の表2に提供する。次いで、最終ゲージ製品を、様々なピーク金属温度(表2に示す)に加熱することによって溶体化熱処理し、その後、合金をすぐに空気クエンチした。クエンチ後、表2に示されるように、いくつかの合金を延伸したが、他の合金は延伸しなかった。次いで、すべての合金を30日間自然にエージングし、その後、次いでいくつかの合金を延伸し、その後、いくつかの合金(延伸および非延伸の両方)を、180℃に加熱し、次いで、この温度で20分間保持し、次いで、室温まで冷却することによって人工的にエージングした。2%の延伸(予歪み)を実験室で完了し、典型的な成形動作をシミュレートした。
【0061】
次いで、様々なテンパー(T4、T6、T8)における合金の機械的特性を測定し、その結果を以下の表3に提供する。機械的特性を、ASTM E8、ASTM B557に従って試験した。別段の指示がない限り、報告された機械的特性値はすべてLT(長い横断)方向であり、6標本の平均に基づく。「n値」を、10~20%の歪みを使用して、ASTM E646に従って測定した。
【表2-1】
【表2-2】
【表3-1】
【表3-2】
【0062】
すべての加工条件について、本発明の合金は、非発明合金よりも高い引張降伏強度(TYS)および極限降伏強度(UTS)を達成した。さらに、本発明の合金は、より低いピーク金属温度でより少ない強度損失を示した。本発明の合金はまた、概して、ほとんどの加工条件下で、非発明合金よりも高い伸びおよび高いn値を有し、成形性の改善を示した。
【0063】
<実施例2:ヘム性能試験>
選択した実施例1の合金を、L方向に15%延伸することによってヘム性能について試験し、その後、フラットヘム試験を行った。延伸は、30日間自然にエージングされ、かつその後人工的なエージングをすることなく合金上で完了し、すなわち、合金は、15%の延伸の前にT4テンパーであった。各加工条件に対して4つのヘムを完了した。次いで、ヘム評価を以下のスケールに従って評価した。
【表c】
以下の表4は、A1およびA2合金について達成されたヘム評価を示す。
【表4】
【0064】
A1合金は、A2合金よりも多くの鉄を有する。業界関係者は、鉄含有量が高いほどヘム性能が劣ると関連付けている。しかしながら、A1合金は、A2合金よりも優れたヘム性能を示した。さらに、より高い鉄含有量は、冷間加工のレベルがより低い試料におけるヘム性能を改善した(例えば、合金A1-22、A1-23、およびA1-24は、65%の冷間加工を有し、同じゲージであるが81%のみの冷間加工であった、合金A1-10、A1-11、およびA1-12と同じヘム性能を示した)。
【0065】
<実施例3:VDA曲げ性能試験>
選択された実施例1をL方向に10%延伸し、VDA 238-100曲げ試験仕様(https://www.vda.de/en/services/Publications/vda-238-100-plate-bending-test-for-metallic-materials.html)に従って試験した。VDAは、「ドイツ自動車工業会(“Verband der Automobilindustrie”)」の略である。延伸は、30日間自然にエージングされ、かつその後人工的なエージングをすることなく合金上で完了し、すなわち、合金は、10%の延伸の前にT4テンパーであった。以下の表5は、選択された実施例2の合金のVDA曲げ試験結果を示す。
【表5】
【0066】
65%の冷間加工では、A1合金は、A2合金よりも改善された曲げを示した。少なくとも鉄含有量の差がこの特性の差に寄与したと考えられる。(2°の差は、達成された曲げ角度のこれらのレベルにおける材料差である。)
【0067】
<実施例4:リューダース変形>
実施例1の合金の選択された試料は、8日間自然エージングされ、次いで、LT方向に10%延伸され、その後、塗料のコーティングが塗布された。塗装後、合金を調べて、リューダース帯が存在するかどうかを判定した。以下の表6は、選択された実施例2の合金の引張降伏強度およびリューダース帯の結果を示す。
【表6】
【0068】
表6に示されるように、非発明合金のみが、リューダース帯の存在を示した。合金加工の範囲について、発明合金には、いかなるリューダース帯も存在しなかった。
【0069】
<実施例5:集合組織と粒径>
実施例2から選択されたA1試料の粒径および集合組織の測定値を、走査電子顕微鏡での電子後方散乱検出を介して得た。粒度および集合組織の測定値の結果を以下の表7に示す。さらに、SEMを介して得られた粒子構造画像を、
図1~4に示す。
【表7】
【0070】
表7は、より高いレベルの冷間加工により、A1合金は、より微細な(より小さな)粒子構造およびより高いレベルの立方体集合組織を有することを示す。
図1~4は、合金A1-1、A1-10、A1-19、およびA1-22の、SEMを介して得られた粒子構造画像を示す。合金A1-1、A1-10、A1-19、およびA1-22のこれらの画像から得られた加重平均粒径は、それぞれ32μm、32μm、34μm、および41μmであった。ここでも、より高いレベルの冷間加工により、A1合金は、より微細な(より小さな)粒子構造を有する。同じ加工の発明合金および非発明合金を、粒径測定のために比較すると、合金A1-1は、合金B1-1よりも粗い粒子構造を有していた。
【0071】
したがって、いくつかの実施形態では、本明細書に開示される新規の合金は、20マイクロメートル~45マイクロメートルの粒径面積加重平均を有し得る。一実施形態では、新規の合金は、30~40マイクロメートルの粒径を有する。
【0072】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示される新規の合金は、シート形態であってもよく、以下の集合組織特性を有する。
【表d】
【0073】
本開示の様々な実施形態を詳細に記載してきたが、これらの実施形態の変更および改変を当業者が思い付くことは明らかである。しかしながら、このような変更および改変が本開示の趣旨および範囲内であることは明白に理解されるべきである。
【手続補正書】
【提出日】2021-06-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
6xxxアルミニウム合金であって、
0.65~0.85重量%のSiと、
0.40~0.59重量%のMgと、
但し、(Mgの重量%)/(Siの重量%)が0.47~0.90であり、
0.05~0.35重量%のFeと、
0.04~0.13重量%のMnと、
0~0.20重量%のCuと、
0~0.15重量%のCrと、
0~0.15重量%のZrと、
0~0.15重量%のTiと、
0~0.10重量%のZnと、
0~0.05重量%のVと、を含み、
残部がアルミニウムおよび不純物である、6xxxアルミニウム合金。
【請求項2】
前記6xxxアルミニウム合金が、少なくとも0.675重量%のSi、または少なくとも0.70重量%のSiを含む、請求項1に記載の6xxxアルミニウム合金。
【請求項3】
前記6xxxアルミニウム合金が、0.825重量%以下のSi、または0.80重量%以下のSiを含む、請求項1に記載の6xxxアルミニウム合金。
【請求項4】
前記6xxxアルミニウム合金が、少なくとも0.425重量%のMg、または少なくとも0.45重量%のMg、または少なくとも0.475重量%のMg、または少なくとも0.50重量のMgを含む、請求項1に記載の6xxxアルミニウム合金。
【請求項5】
前記6xxxアルミニウム合金が、0.57重量%以下のMgを含む、請求項1に記載の6xxxアルミニウム合金。
【請求項6】
前記(Mgの重量%)/(Siの重量%)が、少なくとも0.50、または少なくとも0.52、または少なくとも0.54、または少なくとも0.56、または少なくとも0.58、または少なくとも0.60である、請求項1に記載の6xxxアルミニウム合金。
【請求項7】
前記(Mgの重量%)/(Siの重量%)が、0.88以下、または0.86以下、または0.84以下、または0.82以下である、請求項1に記載の6xxxアルミニウム合金。
【請求項8】
請求項1に記載の6xxxアルミニウム合金から製造された6xxxアルミニウム合金シート製品であって、
前記6xxxアルミアルミニウム合金シート製品が、1.5~4.0mmの厚さを有し、
前記6xxxアルミニウム合金シート製品が、主に再結晶された微細構造を有し、
前記6xxxアルミニウム合金シート製品が、5~45マイクロメートルの加重平均粒径を実現し、
前記6xxxアルミニウム合金シート製品が、少なくとも10%の立方体集合組織を含む、6xxxアルミニウム合金シート製品。
【請求項9】
6xxxアルミニウム合金であって、
0.70~0.80重量%のSiと、
0.49~0.59重量%のMgと、
但し、(Mgの重量%)/(Siの重量%)が0.61~0.84であり、
0.09~0.29重量%のFeと、
0.06~0.10重量%のMnと、
0.09~0.17重量%のCuと、
0.01~0.05重量%のCrと、
0.01~0.05重量%のTiと、
0.05重量%以下のZnと、
0.05重量%以下のVと、
0.05重量%以下のZrと、を含み、
残部がアルミニウムおよび不純物である、6xxxアルミニウム合金。
【請求項10】
方法であって、
(a)請求項1~7または9のいずれかに記載の6xxxアルミニウム合金を鋳造製品として鋳造することと、
(b)前記鋳造製品を中間ゲージ製品へと熱間圧延することであって、
(i)前記中間ゲージ製品の出口温度が、290℃以下であり、前記中間ゲージ製品のアニールが、前記熱間圧延後に完了されるか、または
(ii)前記中間ゲージ製品の出口温度が、400~480℃である、熱間圧延することと、
(c)前記中間ゲージ製品を最終ゲージ製品に冷間圧延することと、を含み、
前記中間ゲージ製品が、受け入れたままの厚さを有し、
前記最終ゲージ製品が、最終厚さを有し、
前記冷間圧延が、前記最終厚さを達成するために、前記受け入れたままの厚さを少なくとも50%低減することを含む、方法。
【請求項11】
前記冷間圧延後に、前記最終ゲージ製品を溶体化熱処理し、次いでクエンチすることを含み、
前記溶体化熱処理が、前記最終ゲージ製品をピーク金属温度に加熱することを含み、
前記ピーク金属温度が、593℃以下である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記最終ゲージ製品が、主に再結晶化された微細構造を実現する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記最終ゲージ製品が、45マイクロメートル以下、または40マイクロメートル以下の面積加重平均粒径を実現する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記最終ゲージ製品が、少なくとも10%の立方体集合組織を含む、請求項13に記載の方法。
【国際調査報告】