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▶ レオン−ナノドラッグズ ゲーエムベーハーの特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-09
(54)【発明の名称】タクロリムスを含むナノ粒子
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/436 20060101AFI20220202BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20220202BHJP
   A61K 9/51 20060101ALI20220202BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20220202BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20220202BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20220202BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20220202BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20220202BHJP
   A61K 31/706 20060101ALN20220202BHJP
【FI】
A61K31/436
A61K9/14
A61K9/51
A61K9/70
A61K47/32
A61K47/10
A61K47/38
A61P37/06
A61K31/706
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021531426
(86)(22)【出願日】2019-12-04
(85)【翻訳文提出日】2021-07-08
(86)【国際出願番号】 EP2019083691
(87)【国際公開番号】W WO2020115140
(87)【国際公開日】2020-06-11
(31)【優先権主張番号】102018130848.5
(32)【優先日】2018-12-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517303247
【氏名又は名称】レオン-ナノドラッグズ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】特許業務法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】バイアー,ヴォルフガング
(72)【発明者】
【氏名】ホルストコッテ,エルケ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA30
4C076AA65
4C076AA89
4C076BB22
4C076CC07
4C076EE07F
4C076EE07Q
4C076EE16F
4C076EE16Q
4C076EE23F
4C076EE23N
4C076EE32F
4C076EE32Q
4C076EE33F
4C076EE33Q
4C076EE48F
4C076EE48Q
4C076FF36
4C076FF43
4C076FF68
4C076GG26
4C086AA01
4C086AA04
4C086AA10
4C086CB22
4C086EA04
4C086EA05
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA05
4C086MA32
4C086MA38
4C086MA57
4C086NA10
4C086ZB08
(57)【要約】
本発明は、タクロリムスを含むナノ粒子、タクロリムスを含むナノ粒子を提供する方法、および前記方法によって得られるタクロリムスを含むナノ粒子に関する。本発明は、医薬として使用するための、タクロリムスを含むナノ粒子にも関する。本発明は、さらに、タクロリムスを含む前記ナノ粒子を含有する粘膜付着性頬側フィルム、および特に小児患者の医薬としての使用のための前記粘膜付着性頬側フィルムに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タクロリムスまたはその塩を含むナノ粒子であって、約10~約400nmの粒径を有する、ナノ粒子。
【請求項2】
≦約0.4の多分散性指数を有する、請求項1に記載のナノ粒子。
【請求項3】
少なくとも1種の安定化剤および/または界面活性剤をさらに含む、請求項1または2に記載のナノ粒子。
【請求項4】
少なくとも1種の安定化剤が、ポリビニルピロリドン、ビニルピロリドン-/酢酸ビニル-コポリマー、ポリエチレングリコールならびに/またはセルロース誘導体、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、および/もしくはカルボキシメチルセルロース(CMC)を含む、請求項3に記載のナノ粒子。
【請求項5】
タクロリムスまたはその塩を含有するナノ粒子を製造する方法であって、
a)有機溶媒中のタクロリムスまたはその塩の溶液を用意するステップと;
b)タクロリムスまたはその塩に対して液体の非溶媒を用意するステップと;
c)a)からの有機溶媒の流れをb)からの非溶媒の流れと衝突させることによって、タクロリムスまたはその塩を含有するナノ粒子を析出させるステップと;
d)10~400nmの大きさ、および好ましくは≦約0.4の多分散性指数を有するナノ粒子を分離するステップと
を含む、方法。
【請求項6】
溶媒が、エタノール、メタノール、アセトン、および/またはテトラヒドロフランを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
非溶媒が水を含む、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
溶媒および/または非溶媒が、少なくとも1種の安定化剤、好ましくはポリビニルピロリドン、ビニルピロリドン-/酢酸ビニル-コポリマー、ポリエチレングリコールならびに/またはセルロース誘導体、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、および/もしくはカルボキシメチルセルロース(CMC)をさらに含む、請求項5から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
非溶媒が、非イオン性界面活性剤および/またはイオン性界面活性剤をさらに含む、請求項5から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
流体の流れが、約1m/秒~約100m/秒、好ましくは約50m/秒の速度で衝突する、請求項5から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
溶媒と非溶媒の体積比が、約1:1~約1:5の間である、請求項5から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
請求項5から11のいずれか一項に記載の方法によって得られる、タクロリムスを含むナノ粒子。
【請求項13】
医薬としての使用のため、特に固形臓器移植拒絶反応の予防および/または処置での使用のための、請求項1から4、または12のいずれか一項に記載のナノ粒子。
【請求項14】
小児患者を処置する医薬としての使用のため、特に小児患者の固形臓器移植拒絶反応の予防および/または処置での使用のための、請求項1から4、または12のいずれか一項に記載のナノ粒子。
【請求項15】
請求項1から4、または12のいずれか一項に記載のナノ粒子を含有する少なくとも1つのマトリックス層、および少なくとも1種のポリマーを含む、粘膜付着性頬側フィルム。
【請求項16】
少なくとも1種のポリマーが、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エンドウデンプン、プルラン、ポリ(メタ)アクリレート、ポリビニルカプロラクタム-ポリ酢酸ビニル-ポリエチレングリコールグラフトコポリマー、キトサン、アラビアゴム、デキストラン、デキストリン、アルギネート、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンおよび/またはビニルピロリドン-酢酸ビニル-コポリマーを含む、請求項15に記載の粘膜付着性頬側フィルム。
【請求項17】
少なくとも1つのマトリックス層が、着色剤、香味料、甘味料、味マスキング剤、乳化剤、増強剤、pH調節剤、湿潤剤、防腐剤および/または酸化防止剤を含む群から選択される少なくとも1種のアジュバントをさらに含む、請求項15または16に記載の粘膜付着性頬側フィルム。
【請求項18】
少なくとも1つのマトリックス層の1つの面上に、好ましくはタクロリムスが不透過性の1つの裏地層を含む、請求項15から17のいずれか一項に記載の粘膜付着性頬側フィルム。
【請求項19】
医薬としての使用のための、特に固形臓器移植拒絶反応の予防および/または処置での使用のための、請求項15から18のいずれか一項に記載の粘膜付着性頬側フィルム。
【請求項20】
小児患者処置用医薬としての使用のための、特に小児患者の固形臓器移植拒絶反応の予防および/または処置での使用のための、請求項15から18のいずれか一項に記載の粘膜付着性頬側フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タクロリムスを含むナノ粒子、タクロリムスを含むナノ粒子を提供する方法、および前記方法によって得られるタクロリムスを含むナノ粒子を対象とする。本発明は、医薬として使用するための、特に小児科で、より詳細には特に小児患者の固形臓器移植拒絶反応の処置で医薬として使用するための、タクロリムスを含むナノ粒子をさらに対象とする。本発明は、タクロリムスを含む前記ナノ粒子を含有する粘膜付着性頬側フィルム、および特に小児科で、より詳細には、特に小児患者の固形臓器移植拒絶反応の処置で医薬として使用するための、前記粘膜付着性頬側フィルムをさらに対象とする。
【背景技術】
【0002】
フジマイシンまたはFK506としても知られるタクロリムスは、臓器拒絶反応のリスクを低下させるために、主として同種異系臓器移植の後に使用される免疫抑制薬である。タクロリムスは、T細胞の発生および増殖を促進する分子であるインターロイキン2の産生を抑制することによってこれを達成し、生体の獲得(または適応)免疫応答に不可欠である。
【0003】
タクロリムスは、化学的には、細菌ストレプトミセス・ツクバエンシス(Streptomyces tsukubaensis)を含有した土壌試料の発酵ブロスにおいて最初に発見された、23員マクロライドラクトンである。タクロリムスの経口製剤が20年以上市場に出されてきた事実にもかかわらず、容易で患者の簡便な利用を可能にする最適な小児製剤はまだ入手できていない。
【0004】
タクロリムスは約822Daの分子量を有する親油性化合物であり、実質的に水に不溶性(0.004mg/ml)であり、生物学的利用能が低くなっている。
【0005】
生物学的利用能が低減され、むしろ予測不可能であるさらなる要因は、腸および肝臓中のCYP3A4/5によるタクロリムスの広範な初回通過代謝、P-糖タンパク質媒介薬物排出、遺伝的変異、食物摂取量および併用薬の影響である。
【0006】
このことは、薬物の許容できる生物学的利用能を達成するために、精巧な製剤を必要とする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、水溶性が増加した形態でのタクロリムス、およびこうした形態のタクロリムスを提供するための方法を提供することが、本発明の目的であった。タクロリムスの頬側吸収による初回通過代謝を回避またはバイパスし、従って、より高くより予測可能な生物学的利用能に変換する、患者にタクロリムスを送達するための治療システムを提供することが、さらに本発明の目的であった。さらに、タクロリムスを送達するための治療システムは、胃腸管のpHおよび消化酵素に起因する分解から薬物を保護すべきであり、頬側経路に比較して作用の迅速な開始を提供すべきであり、且つ薬物投与の容易で簡便な方法であるべきである。それは、さらに、経鼻胃管を介する薬物投与に関連する障害を回避すべきであり、且つ物理的な形状、状態、大きさおよび表面に融通性があるべきである。そのうえ、治療システムは、正確な投与、およびタクロリムスの味をマスキングする可能性を与えることを可能にすべきである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
これらの目的は、請求項1に記載のナノ粒子によって、すなわち約10~約400nmの粒径を有するタクロリムスまたはその塩を含むナノ粒子によって解決される。本発明者らは、ナノメートル範囲にあるこうしたナノ粒子は、溶出時間の著しい減少および飽和溶解度の増加を示すことを驚くべきことに見出した。
【0009】
こうしたナノ粒子は、請求項5に記載の方法を使用して、すなわち、
a)有機溶媒中のタクロリムスまたはその塩の溶液を用意するステップと;
b)タクロリムスまたはその塩に対して液体の非溶媒、好ましくは水を用意するステップと;
c)a)からの有機溶媒の流れをb)からの非溶媒の流れと衝突させることによって、タクロリムスまたはその塩を含有するナノ粒子を析出させるステップと;
d)10~400nmの大きさ、および好ましくは≦約0.4の多分散性指数を有するナノ粒子を分離するステップと
を含む、タクロリムスまたはその塩を含有するナノ粒子を製造する方法を使用することによって、提供することができる。
【0010】
そのうえ、本発明者らは、請求項15に記載の粘膜付着性頬側フィルム、特に、タクロリムスまたはその塩を含む前述のナノ粒子を含有する少なくとも1つのマトリックス層(matrix layer)、および患者にタクロリムスを送達するための治療システムとしての少なくとも1種のポリマーを含む、粘膜付着性頬側フィルムを明らかにした。こうした粘膜付着性頬側フィルムは、特に、小児患者、すなわち子供にタクロリムスを送達するのに好適である。
【0011】
第1に、本発明は、約10~約400nm、好ましくは約100~約200nmの粒径を有する、タクロリムスまたはその塩を含むナノ粒子に関する。
【0012】
こうしたナノ粒子は、単一分子と比較して、溶出時間の著しい減少および飽和溶解度の増加を示すという利点を有する。
【0013】
本発明によるナノ粒子は、さらに好ましくは、ナノ粒子が約≦0.4、好ましくは約≦0.2の多分散性指数を有することを特徴とする。
【0014】
ナノ粒子の粒径は、例えば、動的光散乱(DLS)(例えば、Malvern Instruments Ltd.製Malvern Zetasizer ZS90を使用)を使用する好適な方法によって決定されるそれらの直径として定義される。DLSは、ブラウン運動を測定し、これを粒子の大きさに関連付ける。ブラウン運動は、粒子を取り囲む溶媒分子による衝撃に起因する、粒子のランダムな動きである。粒子または分子が大きいほど、ブラウン運動は遅いであろう。小さい粒子ほど溶媒分子によってさらに「蹴られ」、より速く動く。粘度についての情報が必要であるので(液体の粘度がその温度と関係があるので)、正確にわかる温度がDLSには必要である。本測定では、25℃の温度を使用する。この温度を、測定中に一定に保持する。ブラウン運動の速度は、並進拡散係数(translational diffusion coefficient)(D)によって定義される。粒子の大きさは、ストークス-アインシュタインの式を使用することによって並進拡散係数から計算される。
【0015】
【数1】
【0016】
[式中、d(H)は流体力学的径であり、Dは並進拡散係数であり、kはボルツマン定数であり、Tは絶対温度であり、ηは粘度である]。ストークス-アインシュタインの式によって得られる直径は、粒子と同じ並進拡散係数を有する球の直径である。粒子の並進拡散係数は、粒子「コア」の大きさだけではなく、拡散速度に影響を与える任意の表面構造、ならびに媒体中のイオンの濃度および種類に依存するであろう。Malvern Zetasizerシリーズは、好適な光学的装置を使用して検出した時に、散乱光の強度が変動する割合を決定することによって、ブラウン運動に起因して粒子が拡散する速度を測定する。Zetasizer Nano ZS90シリーズでは、検出器の位置は90°である。多分散性指数(PDI)と共にz-平均径は、ISO 22412:2008で定義される、DLS測定強度自己相関関数のキュムラント分析(cumulant analysis)から計算される。PDIは、0~1を尺度とする粒径分布の幅の無次元推定値である。Malvern Instrumentsによれば、PDI≦0.4を有する試料は、単分散であると考えられる。
【0017】
多分散性指数(PDI)は、動的光散乱(DSL)測定から得られる、ナノ粒子の粒径分布を規定するパラメータである。上で述べたように、PDIは、Malvern Zetasizerを使用してメーカーの手引きに従って測定され得る。PDI値が小さいほど、粒径分布の幅は狭い。一般に、多分散性指数PDIは、粒径分布の幅の尺度として使用される。従って、粒子または懸濁液中の粒子は、一般に単分散および多分散の要素へ分割され得る。単分散、例えば均一な懸濁液/粒子に対して、狭い粒径分布が与えられる。多分散系の懸濁液/粒子に対して、粒径はかなり変動する。単分散粒子が好ましい。
【0018】
粒径およびPDIは、特定の物質、例えば、医薬活性成分の溶出速度に影響を与える重要な要因である。従って、同等の平均粒子径だが著しく異なるPDIを有する、1つの医薬活性成分の2つのナノ粒子集団の溶出を比較すると、より高いPDIのナノ粒子ではより遅い溶出、より低いPDIのナノ粒子ではより速い溶出を有し、それらのナノ粒子の溶出挙動に著しい変化をもたらす可能性がある。従って、粒径に加えて、PDIはナノ粒子の品質に影響を与える可能性がある。
【0019】
本発明によるナノ粒子は、好ましくは、ナノ粒子が少なくとも1種の安定化剤をさらに含むことを特徴とする。
【0020】
安定化剤は、特に本発明によるナノ粒子を含む医薬組成物において、本発明によるナノ粒子を安定させる機能を有する。
【0021】
安定化剤は、好ましくはナノ粒子の表面上に吸着され、これが今度はナノ粒子の安定性を改善する。
【0022】
少なくとも1種の安定化剤は、特に限定されないが、こうした目的の当業者に公知である、任意の好適で医薬として許容できるポリマーを含むことができる。安定化剤は、溶媒または非溶媒に添加することができる。好ましくは、少なくとも1種の安定化剤は、ポリビニルピロリドン(PVP)、ビニルピロリドン-/酢酸ビニル-コポリマー、ポリエチレングリコールならびに/またはセルロース誘導体、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、および/もしくはカルボキシメチルセルロース(CMC)を含む。
【0023】
本発明によるナノ粒子は、さらに好ましくは、少なくとも1種の(両親媒性剤である)界面活性剤をさらに含むことを特徴とする。好ましくは、界面活性剤は、硫酸ドデシルナトリウム(SDS)、ポリソルベート、ポロキサマー(polaxamer)などの両親媒性トリブロックコポリマー、親水性ブロック(例えば、PEG)および、例えば、ポリスチレン(PS)、ポリ-ε-カプロラクトン(PCL)、ポリ乳酸(PLA)、もしくはポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA)からなる疎水性ブロックを有する両親媒性ジブロックコポリマー、D-α-トコフェロールポリエチレングリコール1000スクシネート(TPGS)、デオキシコール酸もしくはその塩、ホスファチジルコリン、ならびに/またはキトサンを含む。
【0024】
非常に好ましい実施形態では、ナノ粒子は少なくとも1種の安定化剤および少なくとも1種の界面活性剤を含む。
【0025】
さらなる態様では、本発明は、タクロリムスまたはその塩を含有するナノ粒子を製造する方法を対象とし、この方法は、
a)有機溶媒中のタクロリムスまたはその塩の溶液を用意するステップと;
b)タクロリムスまたはその塩に対して液体の非溶媒、好ましくは水を用意するステップと;
c)a)からの有機溶媒の流れをb)からの非溶媒の流れと衝突させることによって、タクロリムスまたはその塩を含有するナノ粒子を析出させるステップと;
d)10~400nmの大きさ、および好ましくは≦約0.4の多分散性指数を有するナノ粒子を分離するステップと、
を含む。
【0026】
溶媒は、タクロリムスを溶解することができる任意の種類の流体物質である。
【0027】
本発明による「非溶媒」という用語は、非溶媒の流体の流れを、流体混合物の流体の流れと衝突させることによって、タクロリムス含有ナノ粒子を析出させることができる任意の流体物質を記述する。このため、本発明の意味における「非溶媒」は、狭く、例えば、タクロリムスが不溶性である物質として解釈されるべきではない。好ましくは、非溶媒は、1mg/mlを超えるタクロリムスを溶解することができない。
【0028】
上述の、タクロリムスまたはその塩を含有するナノ粒子を製造する方法は、好ましくはマイクロジェット反応器において実行される。
【0029】
「マイクロジェット反応器」という用語は、国際公開第2017129177号に規定される全ての形状寸法を含む。この特許出願の内容は、参照により本明細書に組み込まれる。国際出願第2017129177号は、反応器ハウジングによって囲まれた反応器チャンバーの中、および共有衝突地点の上へ、ポンプ、好ましくは高圧ポンプによって注入される、少なくとも2つの液体媒体を含み、各媒体は1つのノズルを通して注入される、化学的または物理的プロセスを開始するためのシステムを提供している。反応器チャンバーの開口を通して、ガス、蒸発液体、冷却液または冷却ガスは、反応器内部、とりわけ液体ジェットの衝突地点におけるガス雰囲気を維持し、得られた生成物を冷却するように導入される。得られた生成物および余剰ガスは、ガス入力側の正の圧力、または生成物およびガス排出側の負の圧力によって、さらなる開口を介して、反応器ハウジングから除去される。非溶媒の中への溶媒の拡散によって、非常に限定された粒径および粒径分布を有するナノ粒子が形成される。
【0030】
従って、本発明の方法は、好ましくは制御された溶媒/非溶媒析出物を含み、溶媒および非溶媒の流れは、約1m/秒~約100m/秒、好ましくは約50m/秒の高速度を有する衝突ジェット(impinging jet)として衝突する。それによって、レイノルズ数は好ましくは約500より高い。上に示した速度は、各衝突する流れの速度である、すなわち、流体混合物の流体の流れと非溶媒の流体の流れの両方が、この速度を有することに注目される。
【0031】
溶媒および非溶媒は、好ましくは通常約1000μmより小さい(例えば、約500μm、または約300μmより小さい)ノズルを通して、約1バールより高い圧力で噴霧される。約10バールより高い圧力、さらに約50バールより高い圧力も同様に好適である。圧力は、圧力調節器によって調節され得る。
【0032】
2つの流れは反応器内で衝突し、ここで非常に迅速な混合が行なわれる。混合時間は通常約1ミリ秒未満、好ましくは約0.5ミリ秒未満、さらにより好ましくは約0.1ミリ秒未満である。溶媒および非溶媒の流れの流速は、約600 l/時間超に到達し得る。従って、2つの衝突ジェット(または流れ)は、反応器内で衝突し、ここで析出が行なわれ、反応器の形状寸法に応じてディスク状の構造を形成する。
【0033】
本発明による方法は、さらに好ましくは溶媒が、エタノール、メタノール、アセトン、テトラヒドロフラン、酢酸、アセトニトリル、アニソール、1-ブタノール、2-ブタノール、酢酸ブチル、クロロホルム、シクロヘキサン、1,1-ジエトキシプロパン、1,1-ジメトキシメタン、1,2-ジメトキシエタン、1,4-ジオキサン、2,2-ジメトキシプロパン、ジクロロメタン、ジエチルエーテル、ジ-イソ-プロピルエーテル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルホルムアミド、2-エトキシエタノール,酢酸エチル、ギ酸エチル、エチレングリコール(1,2-エタンジオール)、ギ酸、ヘプタン、ヘキサン、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピル、2-メトキシエタノール、2-メチル-1-プロパノール、3-メチル-1-ブタノール、1-メチル-2-ピロリドン、酢酸メチル、メチルt-ブチルエーテル、メチルブチルケトン、メチルシクロヘキサン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルテトラヒドロフラン、n-メチルピロリドン、1-ペンタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、ペンタン、石油エーテル、酢酸プロピル、ピリジン、スルホラン、t-ブチルアルコール、2,2,4-トリメチルペンタン(i-オクタン)、トルオール、トリクロロ酢酸、トリクロロエチレン、トリフルオロ酢酸および/またはキシロールを含むことを特徴とする。
【0034】
好ましくは、タクロリムスは、約10mg/ml~約500mg/mlの濃度で溶媒中に溶解する。
【0035】
本発明による方法は、さらに好ましくは、溶媒または非溶媒が、少なくとも1種の安定化剤、好ましくはポリビニルピロリドン、ビニルピロリドン-/酢酸ビニル-コポリマー、ポリエチレングリコール、ならびに/またはセルロース誘導体、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、および/もしくはカルボキシメチルセルロース(CMC)をさらに含むことを特徴とする。
【0036】
安定化剤は好ましくは、少なくとも1種の界面活性剤、例えば、硫酸ドデシルナトリウム(SDS)、ポリソルベート、ポロキサマーなどの両親媒性トリブロックコポリマー、親水性ブロック(例えばPEG)および、例えば、ポリスチレン(PS)、ポリ-ε-カプロラクトン(PCL)、ポリラクチド(PLA)、またはポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA)からなる疎水性ブロックを有する両親媒性ジブロックコポリマー、D-α-トコフェロールポリエチレングリコール1000スクシネート(TPGS)、デオキシコール酸もしくはその塩、ホスファチジルコリンならびに/またはキトサン、と組み合わせることができる。界面活性剤は、安定化剤なしで使用することもできる。
【0037】
好ましくは、少なくとも1種の安定化剤は、溶媒または非溶媒に対して約10mg/ml~約200mg/mlの濃度で、溶媒中に存在する。
【0038】
好ましくは、少なくとも1種の界面活性剤は、溶媒または非溶媒に対して約1mg/ml~約200mg/mlの濃度で存在する。
【0039】
好ましくは、溶媒と非溶媒の体積比は、約1:1~約1:10の間、より好ましくは約1:2~約1:5の間、より好ましくは約1:2~約1:4の間である。
【0040】
従って、上述のように形成されたナノ粒子は、好ましくは、最終的な医薬製剤にさらに処理される。最終的な医薬製剤が水性である場合、好ましくは第1の有機溶媒は、設定された許可限界に従って除去されなければならない。これは、ダイアフィルトレーションプロセスまたは凍結乾燥(lyophilization)プロセスを使用することによって、実現させることができる。pHおよび浸透圧モル濃度は、適宜、ダイアフィルトレーションプロセス中に容易に調整することができる。固形剤形が目標とされる場合、全てのナノ粒子懸濁液は、好ましくは乾燥プロセス(例えば、湿式造粒または流動層造粒、噴霧乾燥)によってさらに処理される。得られた粉末は、一般的な製薬プロセスによってさらに処理され得る。
【0041】
本発明は、上述の方法によって得られる、タクロリムスを含むナノ粒子にも関する。
【0042】
本発明は、さらに、医薬としての使用のための、記述されたまたは記述された方法によって得られるナノ粒子に関する。
【0043】
本発明は、さらに、固形臓器移植拒絶反応の予防および/または処置での使用のための、記述されたまたは記述された方法によって得られるナノ粒子に関する。
【0044】
本発明は、さらに、小児患者を処置する医薬としての使用のための、記述されたまたは記述された方法によって得られるナノ粒子に関する。
【0045】
本発明は、さらに、小児患者の固形臓器移植拒絶反応の予防および/または処置での使用のための、記述されたまたは記述された方法によって得られるナノ粒子に関する。
【0046】
「小児患者」とは、約18歳以下、好ましくは28日から17歳までの年齢の子どもと理解すべきである。
【0047】
本発明は、さらに、記述されたまたは記述された方法によって得られるナノ粒子の、頬側投与に関する。
【0048】
本発明は、さらに、記述されたまたは記述された方法によって得られるタクロリムスを含有するナノ粒子を含有する、少なくとも1つのマトリックス層を含む粘膜付着性頬側フィルムに関する。
【0049】
粘膜付着性頬側フィルムは、口腔に直接配置されるまたは口腔粘膜に貼られ、そこで溶解する少なくとも1種の医薬活性物質を含有する、薄いフィルムである。特に、これらは活性成分を含有する薄いポリマー系フィルムであり、粘膜、特に口腔粘膜に貼られた時、活性成分を粘膜の中へ直接放出する。活性成分は、フィルム中に溶解、乳化または分散され得る。口腔粘膜の非常に良好な血液循環によって、血液循環の中への活性物質の迅速な移動が確実になる。
【0050】
この送達システムは、活性成分が大部分は粘膜を通して吸収され、従って、錠剤形態にある活性成分の従来の送達形態で起こる「初回通過代謝」は回避されるという利点を有する。さらに、こうした粘膜付着性頬側フィルムは、胃腸管のpHおよび消化酵素に起因する分解から、タクロリムスが保護されるという利点を有する。粘膜付着性頬側フィルムは、経口経路に比較して迅速な作用の開始をさらに提供する。粘膜付着性頬側フィルムは、薬物投与の特に容易な方法であり、従って小児科での使用に特に好適である。そのうえ、こうした粘膜付着性頬側フィルムは、経鼻胃管を介した薬物の投与に関連する障害を回避し、物理的な形状、状態、大きさおよび表面に融通性がある。そのうえ、粘膜付着性頬側フィルムは、正確な投与およびタクロリムスの味をマスキングする可能性を与えることを可能にする。
【発明を実施するための形態】
【0051】
好ましい実施形態では、本発明による粘膜付着性頬側フィルムは、少なくとも1種のポリマーが、水溶性および/または水膨潤性ポリマーを含むことを特徴とする。
【0052】
水溶性/水膨潤性ポリマーは、共通の特徴が水または水性溶媒におけるそれらの溶解性/膨潤性である、化学的に非常に異なる天然または合成ポリマーを含む。必要条件は、これらのポリマーが、水溶解性/水膨潤性に対して十分な数の親水基を有し、且つ架橋されていないことである。親水基は、非イオン性、アニオン性、カチオン性および/または両性イオン性であり得る。
【0053】
好ましくは本発明による粘膜付着性頬側フィルムの少なくとも1種のポリマーは、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エンドウデンプン、プルラン、例えば、商品名Eudragit(Evonik)によって公知であるポリ(メタ)アクリレート、例えば、商品名Soluplus(BASF)によって公知であるポリビニルカプロラクタム-ポリ酢酸ビニル-ポリエチレングリコールグラフトコポリマー、キトサン、アラビアゴム、デキストラン、デキストリン、アルギネート、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンおよび/またはビニルピロリドン-酢酸ビニル-コポリマーからなる群から選択される。
【0054】
これらのポリマーは、乾燥して、粘膜に貼られた場合に医薬として許容できる時間内に溶解または膨潤し、従って、粘膜中にタクロリムスを放出する、薄く安定なフィルムを形成するという利点を有する。これは、活性成分の比較的迅速な利用能および好ましくは残留物のないタクロリムスの投与という利点を有する。
【0055】
好ましい実施形態では、本発明による粘膜付着性頬側フィルムは、少なくとも1種のポリマーが粘膜付着性頬側フィルム中に、粘膜付着性頬側フィルムの全重量に対して、約10~約99.9重量%の量で含有されることを特徴とする。
【0056】
別の好ましい実施形態では、本発明による粘膜付着性頬側フィルムは、タクロリムスを含むナノ粒子が、粘膜付着性頬側フィルムの全重量に対して、約0.1~約20重量%の量で粘膜付着性頬側フィルムに含有されることを特徴とする。
【0057】
本発明による粘膜付着性頬側フィルムは、さらに好ましくは、粘膜付着性頬側フィルムが、染料、充填剤、崩壊剤、香味料、甘味料、味マスキング剤、乳化剤、増強剤、pH調節剤、湿潤剤、防腐剤および/または酸化防止剤を含む群から選択される少なくとも1種のアジュバントを含むことを特徴とする。
【0058】
これらのアジュバントのそれぞれは、好ましくは、粘膜付着性頬側フィルムの全重量に対して、約0.01~約10重量%の量で、粘膜付着性頬側フィルム中に含有される。
【0059】
本発明による粘膜付着性頬側フィルムは、さらに好ましくは、粘膜付着性頬側フィルムの坪量が約20~約300g/m2、好ましくは約50~約200g/m2であることを特徴とする。
【0060】
これは好ましくは、約20μm~約500μm、好ましくは約50μm~約300μmの層の厚さに相当する。
【0061】
本発明による粘膜付着性頬側フィルムは、好ましくは、約0.2mg~約18mg、好ましくは約0.3mg~約18mgの範囲の送達タクロリムスの日用量を達成するように設計される。当然、日用量は、患者の体重に依存する。好ましくは、日用量は1kg当たり約0.2~約0.4mg、より好ましくは1kg当たり約0.3mgである。この目的のために、粘膜付着性頬側フィルムは、好適な大きさ、例えば、約2cm2~約6cm2の範囲で提供される。
【0062】
本発明による粘膜付着性頬側フィルムは、マトリックス層の1つの面上に、同じまたは異なるポリマーを含む少なくとも1つのさらなる層を含有し得る。
【0063】
少なくとも1つの追加層は、粘膜付着性頬側フィルムの安定化にも貢献し得る。
【0064】
少なくとも1つの追加層は、医薬として許容できる接着剤を使用して、またはホットシールして、マトリックス層上に接着することができる。
【0065】
好ましくは、さらなる層は、好ましくはタクロリムスが不透過性の裏地層である。従って、本発明による粘膜付着性頬側フィルムは、少なくとも1つのマトリックス層の1つの面上に、好ましくはタクロリムスが不透過性の1つの裏地層を好ましくは含む。
【0066】
さらなる実施形態では、本発明による粘膜付着性頬側フィルムは、ポリエチレン紙、ポリプロピレンまたはポリエチレンテレフタレート箔から製造することができる、脱着可能なキャリア箔(carrier foil)上に配置される。キャリア箔は、粘膜付着性頬側フィルムの貼り付けの前に取り除かれる。
【0067】
本発明は、さらに、医薬としての使用について記述された、粘膜付着性頬側フィルムに関する。
【0068】
本発明は、さらに、固形臓器移植拒絶反応の予防および/または処置での使用について記述された、粘膜付着性頬側フィルムに関する。
【0069】
本発明は、さらに、小児患者処置用医薬としての使用について記述された、粘膜付着性頬側フィルムに関する。
【0070】
本発明は、さらに、小児患者の固形臓器移植拒絶反応の予防および/または処置での使用について記述された、粘膜付着性頬側フィルムに関する。
【国際調査報告】