(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-09
(54)【発明の名称】阻害剤産生が低下した細胞およびその使用方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/00 20060101AFI20220202BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20220202BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20220202BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20220202BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220202BHJP
C12N 15/53 20060101ALI20220202BHJP
C12N 15/54 20060101ALI20220202BHJP
C12P 21/00 20060101ALN20220202BHJP
C12N 9/10 20060101ALN20220202BHJP
C12N 9/04 20060101ALN20220202BHJP
C12N 9/16 20060101ALN20220202BHJP
【FI】
C12N1/00 G
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N15/53
C12N15/54
C12P21/00
C12N9/10
C12N9/04
C12N9/16 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021531519
(86)(22)【出願日】2019-12-03
(85)【翻訳文提出日】2021-07-16
(86)【国際出願番号】 IB2019060398
(87)【国際公開番号】W WO2020115655
(87)【国際公開日】2020-06-11
(32)【優先日】2018-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-11-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】593141953
【氏名又は名称】ファイザー・インク
(74)【代理人】
【識別番号】100133927
【氏名又は名称】四本 能尚
(74)【代理人】
【識別番号】100147186
【氏名又は名称】佐藤 眞紀
(74)【代理人】
【識別番号】100174447
【氏名又は名称】龍田 美幸
(74)【代理人】
【識別番号】100185960
【氏名又は名称】池田 理愛
(72)【発明者】
【氏名】エミリー アン デウィッチマン
(72)【発明者】
【氏名】バーヌ チャンドラー ムルクトラ
(72)【発明者】
【氏名】ジェフリー ジョセフ ミッチェル
(72)【発明者】
【氏名】ジョン ジョセフ スカーシェリ
【テーマコード(参考)】
4B050
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B050CC03
4B050LL01
4B050LL03
4B064AC06
4B064CC03
4B064CC24
4B064DA01
4B064DA13
4B065AA01X
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4B065AA90Y
4B065AB01
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4B065BB15
4B065BC02
4B065CA44
4B065CA46
(57)【要約】
本発明は、細胞による成長および/または生産性阻害剤の合成のレベルが低下するように細胞が改変されている、細胞培養方法に関する。本発明はまた、特に高細胞密度の哺乳動物細胞の培養物における、細胞の成長および生産性を改善させるための細胞培養方法にも関する。本発明はさらに、細胞培養物中において細胞成長および/または生産性が改善された細胞を生成する方法、およびそのような方法によって得られたまたは得ることができる細胞に関する。
【選択図】
図1-1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)細胞培養培地中に細胞を提供して、細胞培養プロセスを開始させること
を含む、細胞培養方法であって、細胞が、細胞による成長または生産性阻害剤の合成のレベルを低下させるように改変されており、阻害剤が、フォーメートまたはグリセロールである、方法。
【請求項2】
阻害剤がフォーメートであり、細胞が、1つまたは複数の遺伝子の発現を改変させるように改変されており、遺伝子が以下:セリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼ(サイトゾル)(SHMT1)、セリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼ(ミトコンドリア)(SHMT2)、C-1-テトラヒドロ葉酸合成酵素(サイトプラズマ)(MTHFD1)、一機能性C-1-テトラヒドロ葉酸合成酵素(ミトコンドリア)(MTHFD1L)、二機能性メチレンテトラヒドロ葉酸脱水素酵素/シクロヒドロラーゼ(ミトコンドリア)(MTHFD2)、二機能性メチレンテトラヒドロ葉酸脱水素酵素/シクロヒドロラーゼ2様(MTHFD2L)、およびミトコンドリア葉酸輸送体(SLC25A32)のうちの1つまたは複数からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
阻害剤がグリセロールであり、細胞が、1つまたは複数の遺伝子の発現を改変させるように改変されており、遺伝子が以下:グリセロール-3-リン酸脱水素酵素(サイトプラズマ)(GPD1)、グリセロール-3-リン酸脱水素酵素(ミトコンドリア)(GPD2)、およびホスホグリコール酸ホスファターゼ(PGP)のうちの1つまたは複数からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
1つまたは複数の遺伝子が、遺伝子発現を減少させるように改変されている、請求項2または3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
(ii)細胞培養培地中の阻害剤フォーメートまたはグリセロールを、(a)C2を超えない濃度、または(b)少なくともC1かつC2を超えない濃度に維持すること
をさらに含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
阻害剤がフォーメートであり、C1が0.001mMであり、C2が、20mM、15mM、10mM、8mM、6mM、4mM、または2mMである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
阻害剤がグリセロールであり、C1が0.001mMであり、C2が、20mM、15mM、10mM、8mM、6mM、4mM、または2mMである、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
ステップ(ii)が、フォーメートまたはグリセロールの濃度を測定するステップを含み、
a)測定した濃度がC2を超える場合、細胞培養培地中のフォーメートもしくはグリセロールの前駆体の濃度は、細胞培養培地に提供されるフォーメートもしくはグリセロールの前駆体の量をそれぞれ低下させることによって減少される、または、
b)測定した濃度がC1未満である場合、細胞培養培地中のフォーメートもしくはグリセロールの濃度は、フォーメートもしくはグリセロールをそれぞれ細胞培養培地に加えることによって増加される、
請求項5から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
フォーメートまたはグリセロールの濃度が、NMR、HPLC、またはUPLCを使用して測定され、オンラインであってよい、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
pHセンサーを使用して細胞培養物のpHをモニタリングし、事前に決定されたpH値を上回る上昇に応答して、グルコースを細胞培養物に供給する、前述の請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
細胞培養物が流加培養物である、前述の請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
細胞培養方法が増殖期および産生期を含み、ステップ(ii)が増殖期中に適用される、請求項5から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
1つまたは複数の遺伝子の発現を改変させることが、
(a)遺伝子の遺伝子欠失、破壊、置換、点突然変異、複数点突然変異、挿入突然変異もしくはフレームシフト突然変異、または
(b)1つもしくは複数の遺伝子を含む1つもしくは複数の核酸を、任意選択で発現可能な構築体もしくは発現可能なベクター構築体として、細胞内に導入すること
を含む、請求項1から12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
細胞による成長または生産性阻害剤の合成のレベルを低下させる1つまたは複数の改変遺伝子を含む細胞であって、阻害剤がフォーメートまたはグリセロールである、細胞。
【請求項15】
阻害剤がフォーメートであり、細胞が、1つまたは複数の遺伝子の発現を改変させるように改変されており、遺伝子が以下:セリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼ(サイトゾル)(SHMT1)、セリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼ(ミトコンドリア)(SHMT2)、C-1-テトラヒドロ葉酸合成酵素(サイトプラズマ)(MTHFD1)、一機能性C-1-テトラヒドロ葉酸合成酵素(ミトコンドリア)(MTHFD1L)、二機能性メチレンテトラヒドロ葉酸脱水素酵素/シクロヒドロラーゼ(ミトコンドリア)(MTHFD2)、二機能性メチレンテトラヒドロ葉酸脱水素酵素/シクロヒドロラーゼ2様(MTHFD2L)、およびミトコンドリア葉酸輸送体(SLC25A32)のうちの1つまたは複数からなる群から選択される、請求項14に記載の細胞。
【請求項16】
阻害剤がグリセロールであり、細胞が、1つまたは複数の遺伝子の発現を改変させるように改変されており、遺伝子が以下:グリセロール-3-リン酸脱水素酵素(サイトプラズマ)(GPD1)、グリセロール-3-リン酸脱水素酵素(ミトコンドリア)(GPD2)、およびホスホグリコール酸ホスファターゼ(PGP)のうちの1つまたは複数からなる群から選択される、請求項14に記載の細胞。
【請求項17】
1つまたは複数の遺伝子が、遺伝子発現を減少させるように改変されており、遺伝子の欠失、破壊、置換、点突然変異、複数点突然変異、挿入突然変異またはフレームシフト突然変異が、改変遺伝子に適用される、請求項14から16のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項18】
遺伝子発現の減少が、対応する未改変細胞中における遺伝子の活性と比較して、90パーセント以下、80パーセント以下、70パーセント以下、60パーセント以下、50パーセント以下、45パーセント以下、40パーセント以下、35パーセント以下、30パーセント以下、25パーセント以下、20パーセント以下、15パーセント以下、10パーセント以下、5パーセント以下、2.5パーセント以下のレベルのうちのいずれかの、それぞれの改変遺伝子の発現または活性をもたらす、請求項17に記載の細胞。
【請求項19】
細胞がCHO細胞である、請求項1から18のいずれか一項に記載の方法または細胞。
【請求項20】
細胞が異種組換えタンパク質を発現する、請求項1から19のいずれか一項に記載の方法または細胞。
【請求項21】
細胞によって産生された組換えタンパク質を得ること、および精製することをさらに含む、請求項20に記載の方法または細胞。
【請求項22】
細胞成長または生産性が対照培養物と比較して増加しており、前記対照培養物が、未改変の細胞を含むこと以外は同一である、請求項1から21のいずれか一項に記載の方法または細胞。
【請求項23】
細胞成長が最大生細胞密度によって決定され、対照培養物と比較して少なくとも5%増加している、請求項22に記載の方法または細胞。
【請求項24】
生産性が、発現された組換えタンパク質の力価によって決定され、対照培養物と比較して少なくとも5%増加している、請求項22に記載の方法または細胞。
【請求項25】
細胞培養物の最大生細胞密度が、1×10
6個の細胞/mL、5×10
6個の細胞/mL、1×10
7個の細胞/mL、5×10
7個の細胞/mL、1×10
8個の細胞/mL、または5×10
8個の細胞/mLより高い、請求項23に記載の方法または細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞による成長および/または生産性阻害剤の合成のレベルが低下するように細胞が改変されている、細胞培養方法に関する。本発明はまた、特に高細胞密度の哺乳動物細胞の培養物における、細胞の成長および生産性を改善させるための細胞培養方法にも関する。本発明はさらに、細胞培養物中において細胞成長および/または生産性が改善された細胞を生成する方法、およびそのような方法によって得られたまたは得ることができる細胞に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質は、診断剤および治療剤としてますます重要となっている。ほとんどの場合、商用適用のためのタンパク質は、細胞培養物中において、異常に高いレベルの特定の目的タンパク質を産生するように操作および/または選択された細胞から産生される。細胞培養条件の最適化がタンパク質の商業生産の成功に重要である。哺乳動物細胞は非効率的な代謝を有しており、それにより、それらが大量の栄養素を消費し、そのうちの顕著な量を副産物へと変換することをもたらす。副産物は培養物中に放出され、培養の間に蓄積される。培養中の細胞の慣用の阻害剤であることが知られているラクテートおよびアンモニアは、培養物中において高いレベルまで蓄積され、一定濃度を超えると培養中の細胞の成長および生産性を阻害し始める、細胞代謝の2つの主要な副産物である。細胞培養培地中のラクテートおよびアンモニアの量を低下させることを目的とする細胞培養方法が開発されており、哺乳動物細胞の成長および生産性を増加させることができる。しかし、細胞成長は、ラクテートおよびアンモニアの濃度が低く保たれている場合でさえも依然として遅くなり、それにより、最大細胞密度および細胞の生産性が制限される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
したがって、タンパク質の至適産生のための、改善された細胞培養系を開発する必要性が存在する。具体的には、生細胞密度および/または力価の増加をもたらす細胞培養方法、特に、成長および/または生産性阻害剤の合成のレベルを低下させるように改変された細胞の必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、(i)細胞培養培地中に細胞を提供して、細胞培養プロセスを開始させることを含む、細胞培養方法であって、細胞が、細胞による成長および/または生産性阻害剤の合成のレベルが低下するように改変されている、方法に関する。
【0005】
本発明はさらに、細胞による成長および/または生産性阻害剤の合成のレベルを低下させる1つまたは複数の改変遺伝子を含む細胞であって、具体的には、阻害剤がフォーメート(formate)またはグリセロールであり、1つまたは複数の改変遺伝子が、セリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼ(サイトゾル)(SHMT1)、セリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼ(ミトコンドリア)(SHMT2)、C-1-テトラヒドロ葉酸合成酵素(サイトプラズマ)(MTHFD1)、一機能性C-1-テトラヒドロ葉酸合成酵素(ミトコンドリア)(MTHFD1L)、二機能性メチレンテトラヒドロ葉酸脱水素酵素/シクロヒドロラーゼ(ミトコンドリア)(MTHFD2)、二機能性メチレンテトラヒドロ葉酸脱水素酵素/シクロヒドロラーゼ2様(MTHFD2L)、ミトコンドリア葉酸輸送体(SLC25A32)、グリセロール-3-リン酸脱水素酵素(サイトプラズマ)(GPD1)、グリセロール-3-リン酸脱水素酵素(ミトコンドリア)(GPD2)、およびホスホグリコール酸ホスファターゼ(PGP)から選択され、改変が遺伝子発現を増加または減少させる、細胞、ならびに、組換えタンパク質またはポリペプチドを発現させるための、前述の細胞の使用に関する。
【0006】
一部の実施形態では、(i)細胞培養培地中に細胞を提供して、細胞培養プロセスを開始させることを含む、細胞培養方法であって、細胞が、細胞による成長または生産性阻害剤の合成のレベルを低下させるように改変されており、阻害剤が、フォーメートまたはグリセロールである、方法を本明細書中に提供する。任意選択で、阻害剤は、フォーメートであり、細胞は、1つまたは複数の遺伝子の発現を改変させるように改変されており、遺伝子は以下:セリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼ(サイトゾル)(SHMT1)、セリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼ(ミトコンドリア)(SHMT2)、C-1-テトラヒドロ葉酸合成酵素(サイトプラズマ)(MTHFD1)、一機能性C-1-テトラヒドロ葉酸合成酵素(ミトコンドリア)(MTHFD1L)、二機能性メチレンテトラヒドロ葉酸脱水素酵素/シクロヒドロラーゼ(ミトコンドリア)(MTHFD2)、二機能性メチレンテトラヒドロ葉酸脱水素酵素/シクロヒドロラーゼ2様(MTHFD2L)、およびミトコンドリア葉酸輸送体(SLC25A32)のうちの1つまたは複数からなる群から選択される。任意選択で、阻害剤は、フォーメートであり、細胞は、セリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼ(ミトコンドリア)(SHMT2)の発現を改変させるように改変されている。任意選択で、阻害剤は、グリセロールであり、細胞は、1つまたは複数の遺伝子の発現を改変させるように改変されており、遺伝子は以下:グリセロール-3-リン酸脱水素酵素(サイトプラズマ)(GPD1)、グリセロール-3-リン酸脱水素酵素(ミトコンドリア)(GPD2)、およびホスホグリコール酸ホスファターゼ(PGP)のうちの1つまたは複数からなる群から選択される。任意選択で、阻害剤は、グリセロールであり、細胞は、ホスホグリコール酸ホスファターゼ(PGP)の発現を改変させるように改変されている。1つまたは複数の遺伝子は、遺伝子発現を減少させるように改変されていてもよい。本方法は、(ii)細胞培養培地中の阻害剤フォーメートまたはグリセロールを、(a)C2を超えない濃度、または(b)少なくともC1かつC2を超えない濃度に維持することをさらに含んでいてもよい。任意選択で、阻害剤は、フォーメートであり、C1は0.001mMであり、C2は、20mM、15mM、10mM、8mM、6mM、4mM、または2mMである。任意選択で、阻害剤は、グリセロールであり、C1は0.001mMであり、C2は、20mM、15mM、10mM、8mM、6mM、4mM、または2mMである。
【0007】
一部の実施形態では、上記に提供したステップ(ii)を含む本明細書中に提供する方法において、ステップ(ii)は、フォーメートまたはグリセロールの濃度を測定するステップを含み、a)測定した濃度がC2を超える場合、細胞培養培地中のフォーメートもしくはグリセロールの前駆体の濃度は、細胞培養培地に提供されるフォーメートもしくはグリセロールの前駆体の量をそれぞれ低下させることによって減少される、または、b)測定した濃度がC1未満である場合、細胞培養培地中のフォーメートもしくはグリセロールの濃度は、フォーメートもしくはグリセロールをそれぞれ細胞培養培地に加えることによって増加される。フォーメートまたはグリセロールの濃度は、NMR、HPLC、またはUPLCを使用して測定されてもよく、オンラインであってよい。任意選択で、pHセンサーを使用して細胞培養物のpHをモニタリングし、事前に決定されたpH値を上回る上昇に応答して、グルコースを細胞培養物に供給する。
【0008】
本明細書中に提供する方法の一部の実施形態では、細胞培養は流加培養である。
【0009】
本明細書中に提供する方法の一部の実施形態では、細胞培養方法は、増殖期および産生期を含み、ステップ(ii)は、増殖期中に適用される。
【0010】
本明細書中に提供する方法の一部の実施形態では、1つまたは複数の遺伝子の発現を改変させることは、(a)遺伝子の遺伝子欠失、破壊、置換、点突然変異、複数点突然変異、挿入突然変異もしくはフレームシフト突然変異、または、(b)1つもしくは複数の遺伝子を含む1つもしくは複数の核酸を、任意選択で発現可能な構築体もしくは発現可能なベクター構築体として、細胞内に導入することを含む。
【0011】
一部の実施形態では、細胞による成長または生産性阻害剤の合成のレベルを低下させる1つまたは複数の改変遺伝子を含む細胞であって、阻害剤がフォーメートまたはグリセロールである、細胞を、本明細書中に提供する。任意選択で、阻害剤は、フォーメートであり、細胞は、1つまたは複数の遺伝子の発現を改変させるように改変されており、遺伝子は以下:セリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼ(サイトゾル)(SHMT1)、セリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼ(ミトコンドリア)(SHMT2)、C-1-テトラヒドロ葉酸合成酵素(サイトプラズマ)(MTHFD1)、一機能性C-1-テトラヒドロ葉酸合成酵素(ミトコンドリア)(MTHFD1L)、二機能性メチレンテトラヒドロ葉酸脱水素酵素/シクロヒドロラーゼ(ミトコンドリア)(MTHFD2)、二機能性メチレンテトラヒドロ葉酸脱水素酵素/シクロヒドロラーゼ2様(MTHFD2L)、およびミトコンドリア葉酸輸送体(SLC25A32)のうちの1つまたは複数からなる群から選択される。任意選択で、阻害剤は、フォーメートであり、細胞は、セリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼ(ミトコンドリア)(SHMT2)の発現を改変させるように改変されている。任意選択で、阻害剤は、グリセロールであり、細胞は、1つまたは複数の遺伝子の発現を改変させるように改変されており、遺伝子は以下:グリセロール-3-リン酸脱水素酵素(サイトプラズマ)(GPD1)、グリセロール-3-リン酸脱水素酵素(ミトコンドリア)(GPD2)、およびホスホグリコール酸ホスファターゼ(PGP)のうちの1つまたは複数からなる群から選択される。任意選択で、阻害剤は、グリセロールであり、細胞は、ホスホグリコール酸ホスファターゼ(PGP)の発現を改変させるように改変されている。任意選択で、1つまたは複数の遺伝子は、遺伝子発現を減少させるように改変されており、遺伝子の欠失、破壊、置換、点突然変異、複数点突然変異、挿入突然変異またはフレームシフト突然変異は、改変遺伝子に適用される。遺伝子発現の減少は、対応する未改変細胞中における遺伝子の活性と比較して、90パーセント以下、80パーセント以下、70パーセント以下、60パーセント以下、50パーセント以下、45パーセント以下、40パーセント以下、35パーセント以下、30パーセント以下、25パーセント以下、20パーセント以下、15パーセント以下、10パーセント以下、5パーセント以下、2.5パーセント以下のレベルのうちのいずれかの、それぞれの改変遺伝子の発現または活性をもたらしてもよい。任意選択で、細胞は、1つまたは複数の遺伝子の発現を改変させるように改変されており、遺伝子は、セリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼ(サイトゾル)(SHMT1)、セリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼ(ミトコンドリア)(SHMT2)、C-1-テトラヒドロ葉酸合成酵素(サイトプラズマ)(MTHFD1)、一機能性C-1-テトラヒドロ葉酸合成酵素(ミトコンドリア)(MTHFD1L)、二機能性メチレンテトラヒドロ葉酸脱水素酵素/シクロヒドロラーゼ(ミトコンドリア)(MTHFD2)、二機能性メチレンテトラヒドロ葉酸脱水素酵素/シクロヒドロラーゼ2様(MTHFD2L)、およびミトコンドリア葉酸輸送体(SLC25A32)のうちの1つまたは複数からなる群から選択され、細胞培養培地中のフォーメートの濃度は、培養の14、13、12、11、10、9、8、7、または6日目に、20mM、15mM、10mM、8mM、6mM、4mM、または2mM未満であり、細胞培養物の接種は0日目である。任意選択で、細胞は、遺伝子セリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼ(サイトゾル)(SHMT2)の発現を改変させるように改変されており、細胞培養培地中のフォーメートの濃度は、培養の14、13、12、11、10、9、8、7、または6日目に、20mM、15mM、10mM、8mM、6mM、4mM、または2mM未満であり、細胞培養物の接種は0日目である。任意選択で、細胞は、1つまたは複数の遺伝子の発現を改変させるように改変されており、遺伝子は、グリセロール-3-リン酸脱水素酵素(サイトプラズマ)(GPD1)、グリセロール-3-リン酸脱水素酵素(ミトコンドリア)(GPD2)、およびホスホグリコール酸ホスファターゼ(PGP)のうちの1つまたは複数からなる群から選択され、細胞培養培地中のグリセロールの濃度は、培養の14、13、12、11、10、9、8、7、または6日目に、20mM、15mM、10mM、8mM、6mM、4mM、または2mM未満であり、細胞培養物の接種は0日目である。任意選択で、細胞は、遺伝子ホスホグリコール酸ホスファターゼ(PGP)の発現を改変させるように改変されており、細胞培養培地中のグリセロールの濃度は、培養の14、13、12、11、10、9、8、7、または6日目に、20mM、15mM、10mM、8mM、6mM、4mM、または2mM未満であり、細胞培養物の接種は0日目である。任意選択で、細胞は、遺伝子ホスホグリコール酸ホスファターゼ(PGP)の発現を低下させるように改変されており、対応する未改変細胞と比較して細胞のラクテートの合成のレベルは低下している。任意選択で、細胞は、遺伝子ホスホグリコール酸ホスファターゼ(PGP)の発現を改変させるように改変されており、細胞培養培地中のラクテートの濃度は、培養の14、13、12、11、10、9、8、7、または6日目に、20mM、15mM、10mM、8mM、6mM、4mM、または2mM未満であり、細胞培養物の接種は0日目である。任意選択で、細胞は、遺伝子ホスホグリコール酸ホスファターゼ(PGP)の発現を低下させるように改変されており、対応する未改変細胞と比較して細胞のラクテートおよびグリセロールの両方の合成のレベルが低下している。
【0012】
本明細書中に提供する方法または細胞の一部の実施形態では、細胞はCHO細胞である。
【0013】
本明細書中に提供する方法または細胞の一部の実施形態では、細胞は異種組換えタンパク質を発現する。本明細書中に提供する方法は、細胞によって産生された組換えタンパク質を得ること、および精製することをさらに含んでいてもよい。
【0014】
本明細書中に提供する方法または細胞の一部の実施形態では、細胞成長または生産性は対照培養物と比較して増加しており、前記対照培養物は、未改変の細胞を含むこと以外は同一である。任意選択で、細胞成長は、最大生細胞密度によって決定され、対照培養物と比較して少なくとも5%増加している。任意選択で、生産性は、発現された組換えタンパク質の力価によって決定され、対照培養物と比較して少なくとも5%増加している。細胞培養物の最大生細胞密度は、1×106個の細胞/mL、5×106個の細胞/mL、1×107個の細胞/mL、5×107個の細胞/mL、1×108個の細胞/mL、または5×108個の細胞/mLより高くてもよい。
【0015】
フォーメートまたはグリセロールの合成のレベルを低下させる1つまたは複数の改変遺伝子を含む細胞に関与する、本明細書中に提供する一部の実施形態では、細胞は、Bcat1、Bcat2、Bckdha/b、Dbt/Dld、Ivd、Acadm、Mccc1、Mccc2、Auh、Hmgcl、Fasn、Pah、PCBD1、QDPR、Mif、Got1、Got2、Nup62-il4i1、Hpd、Hgd、Gstz1、およびFahから選択される1つまたは複数の遺伝子中における改変をさらに含有する。遺伝子はBcat1であってもよい。改変は、遺伝子発現を減少させるためのものであってもよい。改変は、遺伝子発現を増加させるためのものであってもよい。任意選択で、遺伝子はBcat1であり、改変は、遺伝子発現を減少させるためのものである。フォーメートまたはグリセロールの合成のレベルを低下させる1つまたは複数の改変遺伝子を含む細胞に関与する、本明細書中に提供する一部の実施形態では、細胞は、すべての目的のために本明細書中に参考として組み込まれているWO2017/051347号に記載されているように、1つまたは複数の遺伝子中に改変をさらに含有する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1-1】
図1A慣用の流加哺乳動物細胞培養物における、経時的な細胞密度のレベル、フォーメート、およびグリセロールを示す図である。X軸は細胞培養の時間(日数)であり、Y軸は生細胞密度(10
6個の細胞/ml中)または代謝物濃度である。グラフに示した値は、アンモニア(mM)(菱形)、ラクテート(g/L)(三角)、および細胞密度(四角)である。
【
図1-2】
図1Bグルコース制限流加(HIPDOG)哺乳動物細胞培養物における、経時的な細胞密度のレベル、フォーメート、およびグリセロールを示す図である。X軸は細胞培養の時間(日数)であり、Y軸は生細胞密度(10
6個の細胞/ml中)または代謝物濃度である。グラフに示した値は、アンモニア(mM)(菱形)、ラクテート(g/L)(三角)、および細胞密度(四角)である。
【
図2-1】
図2A慣用の流加哺乳動物細胞培養物(四角)またはグルコース制限流加(HIPDOG)哺乳動物細胞培養物(菱形)のいずれかにおける、経時的なフォーメートのレベルを示す図である。X軸は細胞培養の時間(日数)であり、Y軸はフォーメート濃度(mM)である。
【
図2-2】
図2B慣用の流加哺乳動物細胞培養物(四角)またはグルコース制限流加(HIPDOG)哺乳動物細胞培養物(菱形)のいずれかにおける、経時的なグリセロールのレベルを示す図である。X軸は細胞培養の時間(日数)であり、Y軸はフォーメート濃度(mM)である。
【
図3-1】
図3A様々な濃度のグリセロールの、CHO細胞の生細胞密度(VCD)に対する効果を示す図である。具体的には、0、2、または4mMのグリセロールのいずれかを添加したCHO培養物の生細胞密度を示す(左から右に、それぞれのグリセロール濃度は、培養の0、3、および6日目に示されるVCD値を有する)。生細胞密度をY軸に示す(10
6個の細胞/ml中)。
【
図3-2】
図3B様々な濃度のフォーメートの、CHO細胞の生細胞密度(VCD)に対する効果を示す図である。具体的には、0、2、4、または6mMのフォーメートのいずれかを添加したCHO培養物の生細胞密度を示す(左から右に、それぞれのフォーメート濃度は、培養の0、4、および5日目に示されるVCD値を有する)。生細胞密度をY軸に示す(10
6個の細胞/ml中)。
【
図4-1】
図4A標準の流加培養プロセスおよび低アミノ酸-流加培養プロセスにおけるセリンのレベルを示す図である。X軸は細胞培養の時間(日数)であり、Y軸はセリン濃度(mM)である。グラフに示した値は、標準の流加培養物(菱形)または低アミノ酸培養物(四角)におけるセリン濃度である。
【
図4-2】
図4B図4Aに示した標準の流加培養プロセスおよび低アミノ酸-流加培養プロセスにおけるフォーメートのレベルを示す図である。X軸は細胞培養の時間(日数)であり、Y軸はフォーメート濃度(mM)である。グラフに示した値は、標準の流加培養物(菱形)または低アミノ酸培養物(四角)におけるフォーメート濃度である。
【
図5】フォーメート代謝経路の態様を示す図である。
【
図6】グリセロール代謝経路の態様を示す図である。
【
図7】i)PGP遺伝子のCRISPR遺伝子編集を受けやすい様々なクローン細胞系(クローン377、406、343、609、878)、ii)対照クローン(クローン217)、およびiii)形質移入していない(宿主)細胞系の溶解物の免疫ブロットを示す図である。溶解物を、抗PGP抗体(上パネル)および抗B-アクチン抗体(下パネル、ローディングコントロールとして役割を果たす)を用いてプロービングした。
【
図8-1】
図8A示した様々なクローンの培養物からの使用済み培地中における、経時的なグリセロールの濃度を示す図である(黒い丸:完全KO PGPクローン343、609、878、黒い四角:部分的KO PGPクローン377および406、白い四角、破線:対照クローン217、白い四角、実線:宿主細胞)。(様々なKOクローンについて別々の線が提供されているが、本明細書中の本図および他の図において、完全KOクローンのそれぞれの間に有意な重複が存在するためこれらはしばしば1本の線に見え、部分的KOクローンのそれぞれの間に有意な重複が存在するためこれらはしばしば1本の線に見える)。
【
図8-2】
図8B示した様々なクローンの経時的な比グリセロール産生を示す図である(ピコグラム(pcg)/細胞/日)(黒い丸:完全KO PGPクローン343、609、878、黒い四角:部分的KO PGPクローン377および406、白い四角、破線:対照クローン217、白い四角、実線:宿主細胞)。
【
図9】示した様々なクローンの培養物からの使用済み培地中における、経時的なラクテートの濃度を示す図である(黒い丸:完全KO PGPクローン343、609、878、黒い四角:部分的KO PGPクローン377および406、白い四角、破線:対照クローン217、白い四角、実線:宿主細胞)。
【
図10】i)SHMT2遺伝子のCRISPR遺伝子編集を受けやすい様々なクローン細胞系(クローン277、482、746)、ii)対照クローン(クローン425)、およびiii)形質移入していない(宿主)細胞系の溶解物の免疫ブロットを示す図である。溶解物を、抗SHMT2抗体(上パネル)および抗B-アクチン抗体(下パネル、ローディングコントロールとして役割を果たす)を用いてプロービングした。
【
図11】示した様々なクローンの培養物からの使用済み培地中における、経時的なフォーメートの濃度を示す図である(黒い四角:SHMT2 KOクローン746および277、黒い丸、破線:対照クローン425、黒い丸、実線:宿主細胞)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
一部の実施形態では、細胞培養物のための細胞、方法、および培地を本明細書中に提供する。
【0018】
一部の実施形態では、本発明は、フォーメートおよびグリセロールから選択される少なくとも1つの代謝物の濃度が細胞培養培地中において低レベルで維持される細胞培養方法を提供する。
【0019】
本発明者らは、たとえば、多量の組換え目的タンパク質を産生させることを目的とする流加細胞などの、細胞培養物中、特に高密度細胞培養物中において、細胞の成長が、細胞培養培地中におけるフォーメートおよびグリセロールなどの代謝物の蓄積によって阻害されたことを予想外に発見した。これらの代謝物の阻害効果は、細胞培養培地中におけるその濃度を、それらが細胞成長を阻害するレベル未満に維持することによって、制限することができる。これらの阻害性代謝物(フォーメートおよびグリセロール)は、成長および/または生産性阻害剤としてみなし得る(かつ本明細書中で言及し得る)。また、フォーメートおよびグリセロールの阻害効果は、特に、1つまたは複数の改変遺伝子が、セリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼ(サイトゾル)(SHMT1)、セリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼ(ミトコンドリア)(SHMT2)、C-1-テトラヒドロ葉酸合成酵素(サイトプラズマ)(MTHFD1)、一機能性C-1-テトラヒドロ葉酸合成酵素(ミトコンドリア)(MTHFD1L)、二機能性メチレンテトラヒドロ葉酸脱水素酵素/シクロヒドロラーゼ(ミトコンドリア)(MTHFD2)、二機能性メチレンテトラヒドロ葉酸脱水素酵素/シクロヒドロラーゼ2様(MTHFD2L)、ミトコンドリア葉酸輸送体(SLC25A32)、グリセロール-3-リン酸脱水素酵素(サイトプラズマ)(GPD1)、グリセロール-3-リン酸脱水素酵素(ミトコンドリア)(GPD2)、およびホスホグリコール酸ホスファターゼ(PGP)から選択される場合に、細胞中の1つまたは複数の遺伝子を、細胞によるフォーメートまたはグリセロールの合成のレベルを低下させるように改変させることによっても制限することができる。任意選択で、遺伝子SHMT1、SHMT2、MTHFD1、MTHFD1L、MTHFD2、MTHFD2L、およびSLC25A32のうちの1つまたは複数は、細胞によって産生されるフォーメートのレベルを低下させるように改変してもよい。任意選択で、遺伝子GPD1、GPD2、およびPGPのうちの1つまたは複数は、細胞によって産生されるグリセロールのレベルを低下させるように改変してもよい。
【0020】
セリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼ、サイトゾル(SHMT1)
セリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼ(SHMT1)は、セリンおよびテトラヒドロフォレートからグリシンおよび5,10-メチレンテトラヒドロフォレートへの可逆的変換を触媒するサイトゾル酵素である。例示的なSHMT1アミノ酸配列は、UniProt ID番号:P50431(マウス)、Q6TXG7(ラット)、およびP34896(ヒト)の下で提供されている。
【0021】
セリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼ、ミトコンドリア(SHMT2)
セリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼ(SHMT2)は、セリンおよびテトラヒドロフォレートからグリシンおよび5,10-メチレンテトラヒドロフォレートへの可逆的変換を触媒するミトコンドリア酵素である。例示的なSHMT2アミノ酸配列は、UniProt ID番号:Q9CZN7(マウス)、Q5U3Z7(ラット)、およびP34897(ヒト)の下で提供されている。
【0022】
C-1-テトラヒドロ葉酸合成酵素(サイトプラズマ)(MTHFD1)
C-1-テトラヒドロ葉酸合成酵素(サイトプラズマ)/MTHFD1(メチレンテトラヒドロ葉酸脱水素酵素としても知られる(NADP+依存性))は、テトラヒドロフォレート相互転換(たとえば、5,10-メチレンテトラヒドロフォレート+NADP+から5,10-メテニルテトラヒドロフォレート+NADPHへ)に関与している酵素である。例示的なMTHFD1アミノ酸配列は、以下のUniProt ID番号の下で提供されている:Q922D8(マウス)、P27653(ラット)、およびP11586(ヒト)。
【0023】
一機能性C-1-テトラヒドロ葉酸合成酵素(ミトコンドリア)(MTHFD1L)
一機能性C-1-テトラヒドロ葉酸合成酵素(ミトコンドリア)/MTHFD1L(メチレンテトラヒドロ葉酸脱水素酵素としても知られる(NADP+依存性)1様)は、ホルミルテトラヒドロ葉酸合成酵素活性を有する酵素である。例示的なMTHFD1Lアミノ酸配列は、以下のUniProt ID番号の下で提供されている:Q3V3R1(マウス)、B2GUZ3(ラット)、およびQ6UB35(ヒト)。
【0024】
二機能性メチレンテトラヒドロ葉酸脱水素酵素/シクロヒドロラーゼ(ミトコンドリア)(MTHFD2)
二機能性メチレンテトラヒドロ葉酸脱水素酵素/シクロヒドロラーゼ(ミトコンドリア)/MTHFD2(メチレンテトラヒドロ葉酸脱水素酵素としても知られる(NAD+依存性))は、テトラヒドロフォレート相互転換(たとえば、5,10-メチレンテトラヒドロフォレート+NAD+から5,10-メテニルテトラヒドロフォレート+NADHへ)に関与している酵素である。例示的なMTHFD2アミノ酸配列は、以下のUniProt ID番号の下で提供されている:P18155(マウス)、D4A1Y5(ラット)、およびP13995(ヒト)。
【0025】
二機能性メチレンテトラヒドロ葉酸脱水素酵素/シクロヒドロラーゼ2様(MTHFD2L)
二機能性メチレンテトラヒドロ葉酸脱水素酵素/シクロヒドロラーゼ2様/MTHFD2L(メチレンテトラヒドロ葉酸脱水素酵素としても知られる(NADP+依存性)2様)は、テトラヒドロフォレート相互転換(たとえば、5,10-メチレンテトラヒドロフォレート+NAD+から5,10-メテニルテトラヒドロフォレート+NADHへ)に関与している酵素である。例示的なMTHFD2Lアミノ酸配列は、以下のUniProt ID番号の下で提供されている:D3YZG8(マウス)、D3ZUA0(ラット)、およびQ9H903(ヒト)。
【0026】
ミトコンドリア葉酸輸送体(SLC25A32)
ミトコンドリア葉酸輸送体/SLC25A32(溶質輸送体ファミリー25、メンバー32としても知られる)は、ミトコンドリアの内膜を横切るフォレートの輸送に関与している酵素である。例示的なSLC25A32アミノ酸配列は、以下のUniProt ID番号の下で提供されている:Q8BMG8(マウス)、B2GV53(ラット)、およびQ9H2D1(ヒト)。
【0027】
グリセロール-3-リン酸脱水素酵素(サイトプラズマ)(GPD1)
グリセロール-3-リン酸脱水素酵素/GPD1(グリセロール-3-リン酸脱水素酵素1(可溶性)としても知られる)は、NAD+依存性グリセロール3-リン酸脱水素酵素活性を有するサイトプラズマ酵素である。例示的なGPD1アミノ酸配列は、以下のUniProt ID番号の下で提供されている:P13707(マウス)、O35077(ラット)、およびP21695(ヒト)。
【0028】
グリセロール-3-リン酸脱水素酵素(ミトコンドリア)(GPD2)
グリセロール-3-リン酸脱水素酵素/GPD2(グリセロールリン酸脱水素酵素2、ミトコンドリアとしても知られる)は、FAD+依存性グリセロール3-リン酸脱水素酵素活性を有するミトコンドリア酵素である。例示的なGPD2アミノ酸配列は、以下のUniProt ID番号の下で提供されている:Q64521(マウス)、P35571(ラット)、およびP43304(ヒト)。
【0029】
ホスホグリコール酸ホスファターゼ(PGP)
ホスホグリコール酸ホスファターゼ/PGPは、「グリセロール-3-リン酸ホスファターゼ」(G3PP)および「アスパルテートに基づく遍在的Mg(2+)依存性ホスファターゼ」(AUM)としても知られる。これはホスファターゼ活性を有しており、グリセロール-3-ホスフェートをグリセロールへと加水分解する。例示的なPGPアミノ酸配列は、以下のUniProt ID番号の下で提供されている:Q8CHP8(マウス)、D3ZDK7(ラット)、およびA6NDG6(ヒト)。
【0030】
上記列挙した遺伝子のそれぞれについて、他の生物(たとえばチャイニーズハムスター(Cricetululus griseus))中における対応する遺伝子は、たとえば、目的生物中の遺伝子の、上記提供した配列との配列相同性に基づいて、当分野の技術者によって容易に同定することができる。たとえば、チャイニーズハムスター遺伝子は、CHOGenome.orgもしくはKEGG Genomeから入手可能か、または、全米バイオテクノロジー情報センター(NCBI)BLAST検索ツールを介したBLAST検索を介して同定し得る。
【0031】
細胞培養培地中の代謝物濃度を低レベルで制御することを含む方法
一態様では、本発明は、(i)細胞培養培地中に細胞を提供して、細胞培養プロセスを開始させることを含む、細胞培養方法であって、細胞が、細胞による成長および/または生産性阻害剤の合成のレベルが低下するように改変されている、方法を提供する。一部の実施形態では、成長および/または生産性阻害剤はフォーメートおよび/またはグリセロールである。
【0032】
一部の実施形態では、細胞は、フォーメート代謝(たとえばフォーメート合成またはフォーメート異化)に関与している1つまたは複数の細胞代謝経路中の1つまたは複数の遺伝子の発現を変調させるように改変されている。一部の実施形態では、細胞は、フォーメート代謝に関与している1つまたは複数の遺伝子の発現を変調させるように改変されており、遺伝子は、SHMT1、SHMT2、MTHFD1、MTHFD1L、MTHFD2、MTHFD2L、およびSLC25A32から選択される。一部の実施形態では、細胞は、細胞によるフォーメートの産生を減少させるように改変されており、遺伝子SHMT1、SHMT2、MTHFD1、MTHFD1L、MTHFD2、MTHFD2L、およびSLC25A32のうちの1つまたは複数の発現が低下する。一部の実施形態では、細胞は、細胞によるフォーメートの産生を減少させるように改変されており、遺伝子SHMT1、SHMT2、MTHFD1、MTHFD1L、MTHFD2、MTHFD2L、およびSLC25A32のうちの1つまたは複数の発現が増加する。
【0033】
一部の実施形態では、細胞は、セリン代謝に関連する分枝経路である1つまたは複数の細胞代謝経路中の1つまたは複数の遺伝子の発現を変調させ、その結果、細胞によるフォーメート生成の産生を低下させるように改変されている。遺伝子は、MTHFR、TYMS、MTFMT、およびGART/ATICのうちの1つまたは複数から選択されてもよい。一部の実施形態では、細胞は、細胞によるフォーメートの産生を減少させるように改変されており、遺伝子MTHFR、TYMS、MTFMT、およびGART/ATICのうちの1つまたは複数の発現が低下する。一部の実施形態では、細胞は、細胞によるフォーメートの産生を減少させるように改変されており、遺伝子MTHFR、TYMS、MTFMT、およびGART/ATICのうちの1つまたは複数の発現が増加する。
【0034】
一部の実施形態では、細胞は、グリセロール代謝(たとえばグリセロール合成またはグリセロール異化)に関与している1つまたは複数の細胞代謝経路中の1つまたは複数の遺伝子の発現を変調させるように改変されている。一部の実施形態では、細胞は、グリセロール代謝に関与している1つまたは複数の遺伝子の発現を変調させるように改変されており、遺伝子は、GPD1、GPD2、およびPGPから選択される。一部の実施形態では、細胞は、細胞によるフォーメートの産生を減少させるように改変されており、遺伝子GPD1、GPD2、およびPGPのうちの1つまたは複数の発現が低下する。一部の実施形態では、細胞は、細胞によるフォーメートの産生を減少させるように改変されており、遺伝子GPD1、GPD2、およびPGPのうちの1つまたは複数の発現が増加する。
【0035】
一部の実施形態では、本明細書中に提供する改変細胞は、SHMT1、SHMT2、MTHFD1、MTHFD1L、MTHFD2、MTHFD2L、SLC25A32、GPD1、GPD2、またはPGP遺伝子を含む発現可能な核酸またはベクター構築体を含む。
【0036】
一部の実施形態では、本明細書中に提供する方法は、グリセロールまたはフォーメートを細胞培養培地中において濃度C2未満に維持することを含み、C2は2mMである。一部の実施形態では、C2は、50mM、40mM、30mM、20mM、15mM、10mM、8mM、6mM、4mM、2.5mM、2mM、1.5mM、1mM、0.9mM、0.8mM、0.7mM、0.6mM、0.5mM、0.4mM、0.3mM、0.2mM、0.1mM、0.05mM、0.04mM、0.03mM、0.02mM、0.01mM、0.005mM、0.004mM、0.003mM、0.002mM、または0.001mMである。一部の実施形態では、C2は6mMである。一部の実施形態では、C2は0.4mMである。一部の実施形態では、C2は1mMである。一部の実施形態では、C2は0.5mMである。
【0037】
一部の実施形態では、本明細書中に提供する方法は、フォーメートまたはグリセロールのうちの少なくとも1つの濃度を測定するステップを含む。
【0038】
一部の実施形態では、測定した濃度が事前に決定された値を超える場合、細胞培養培地中におけるフォーメートまたはグリセロールのうちの少なくとも1つの前駆体の濃度を、細胞に提供される前駆体の量を低下させることによって減少させる。前記事前に決定された値は、前記前駆体の濃度の減少が、フォーメートまたはグリセロールの濃度がC2を超えて上昇することを防ぐように選択する。事前に決定された値は、C2に等しいことができる、またはC2の一定の百分率であることができる。一部の実施形態では、百分率はC2の50、55、60、65、70、75、80、85、90、または95%である。一部の実施形態では、百分率はC2の80%である。
【0039】
ラクテートおよびアンモニアの濃度
一部の実施形態では、ラクテートおよびアンモニアなどの細胞の成長を阻害する他の代謝物も細胞培養培地中において低レベルで維持される。ラクテートおよびアンモニアを低レベルに保つ方法は当業者に知られている。
【0040】
たとえば、ラクテートは、WO2004104186号、Gagnonら、Biotechnology and Bioengineering、第108巻、第6号、2011年6月(Gagnonら)、またはWO2004048556号に開示されている方法を使用することによって、細胞培養物中で低レベルに保つことができる。
【0041】
細胞培養方法
本明細書中で使用する用語「培養物」および「細胞培養物」とは、細胞集団の生存および/または成長に適した条件下で、培地中に懸濁させた細胞集団をいう。当業者には明らかであるように、一部の実施形態では、本明細書中で使用するこれらの用語は、細胞集団と集団を懸濁させる培地とを含む組合せをいう。一部の実施形態では、細胞培養物の細胞は哺乳動物細胞を含む。
【0042】
本発明は、所望のプロセス(たとえば、組換えタンパク質(たとえば抗体)の産生)に従順な任意の細胞培養方法を用いて使用し得る。非限定的な例として、細胞をバッチまたは流加培養において培養してよく、培養は組換えタンパク質(たとえば抗体)の十分な発現の後に終了させ、その後、発現されたタンパク質(たとえば抗体)を収集する。あるいは、別の非限定的な例として、細胞をバッチ-リフィードにおいて培養してよく、培養は終了させず、新しい栄養素および他の構成成分を定期的または連続的に培養物に加え、その間に発現された組換えタンパク質(たとえば抗体)を定期的または連続的に収集する。他の適切な方法(たとえばスピンチューブ培養)が当分野で知られており、本発明を実施するために使用することができる。
【0043】
一部の実施形態では、本発明に適した細胞培養は流加培養である。本明細書中で使用する用語「流加培養」とは、培養プロセスの開始の後の一時点または複数時点で、追加の構成成分を培養物に提供する、細胞を培養する方法をいう。そのような提供された構成成分は、典型的には、培養プロセス中に枯渇した、細胞のための栄養構成成分を含む。流加培養は、典型的にはある時点で停止させ、培地中の細胞および/または構成成分を収集し、任意選択で精製する。一部の実施形態では、流加培養は供給培地を添加した基本培地を含む。
【0044】
細胞は、実務家によって選択された任意の好都合な体積において成長させ得る。たとえば、細胞は、体積が数ミリリットルから数リットルの範囲である小スケールの反応器中で成長させ得る。あるいは、細胞は、体積が少なくとも約1リットルから10、50、100、250、500、1000、2500、5000、8000、10,000、12,000、15000、20000、もしくは25000リットル、またはそれより多い範囲である、あるいはその間の任意の体積である、大スケールの商用のバイオリアクター中で成長させ得る。
【0045】
細胞培養物の温度は、細胞培養物が生存可能に保たれる温度の範囲、および高レベルの所望の生成物(たとえば組換えタンパク質)が産生される範囲に主に基づいて選択される。一般に、ほとんどの哺乳動物細胞が約25℃~42℃の範囲内で良好に成長し、所望の生成物(たとえば組換えタンパク質)を産生することができるが、本開示によって教示される方法はこれらの温度に限定されない。特定の哺乳動物細胞は、約35℃~40℃の範囲内で良好に成長し、所望の生成物(たとえば組換えタンパク質または抗体)を産生することができる。特定の実施形態では、細胞培養物は、細胞培養プロセス中の一時点もしくは複数時点で20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、または45℃の温度で成長させる。当業者は、細胞の特定の要求および実務家の特定の産生要件に応じて、細胞を成長させる適切な温度または複数の温度を選択することができるであろう。細胞は、実務家の要求および細胞自体の要件に応じて、任意の時間の間成長させ得る。一部の実施形態では、細胞は37℃で成長させる。一部の実施形態では、細胞は36.5℃で成長させる。
【0046】
一部の実施形態では、細胞は、実務家の要求および細胞自体の要件に応じて、初期増殖期(または増殖期)中により長いまたはより短い時間の間成長させ得る。一部の実施形態では、細胞は、事前に決定された細胞密度に達するために十分な期間の間成長させる。一部の実施形態では、細胞は、邪魔されずに成長させた場合に細胞が最終的に達するであろう最大細胞密度の所定の百分率である細胞密度に達するために十分な期間の間成長させる。たとえば、細胞は、最大細胞密度の1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、または99パーセントである所望の生細胞密度に達するために十分な期間の間成長させ得る。一部の実施形態では、細胞は、細胞密度が培養1日あたり15%、14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、または1%を超えて増加しなくなるまで成長させる。一部の実施形態では、細胞は、細胞密度が培養1日あたり5%を超えて増加しなくなるまで成長させる。
【0047】
一部の実施形態では、細胞は、定義された期間の間成長させる。たとえば、細胞培養物の開始濃度、細胞を成長させる温度、および細胞の内因性成長速度に応じて、細胞は、0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20日、またはそれより多い日数の間、好ましくは4~10日間の間成長させ得る。一部の事例では、細胞は、1カ月間またはそれより長く成長させ得る。本発明の実務家は、タンパク質産生要件および細胞自体の要求に応じて、初期増殖期の持続期間を選択することができるであろう。
【0048】
細胞培養物は、細胞への酸素供給および栄養素の分散を増加させるために、初期培養期中に撹拌または振盪させ得る。本発明に従って、当業者は、それだけには限定されないが、pH、温度、酸素供給などを含めた、初期増殖期中のバイオリアクターの特定の内部条件を制御または調節することが有益である場合があることを理解されよう。
【0049】
初期増殖期の終わりに、二組目の培養条件を適用させ、培養物中において代謝シフトが起こるように、培養条件のうちの少なくとも1つをシフトさせ得る。代謝シフトは、たとえば、細胞培養物の温度、pH、重量モル浸透圧濃度、または化学インダクタンスレベルの変化によって達成することができる。非限定的な一実施形態では、培養物の温度をシフトさせることによって培養条件をシフトさせる。しかし、当分野で知られているように、温度のシフトは、適切な代謝シフトを達成することができる唯一の機構ではない。たとえば、そのような代謝シフトは、それだけには限定されないが、pH、重量モル浸透圧濃度、および酪酸ナトリウムレベルを含めた他の培養条件をシフトさせることによっても達成することができる。培養シフトのタイミングは、タンパク質産生要件または細胞自体の要求に基づいて、本発明の実務家によって決定されるであろう。
【0050】
培養物の温度をシフトさせる場合、温度シフトは少しずつであり得る。たとえば、温度変化を完了させるまでに数時間または数日間かかり得る。あるいは、温度シフトは急激であり得る。たとえば、温度変化は数時間未満で完了し得る。ポリペプチドまたはタンパク質の商用の大スケール産生において標準的であるものなどの適切な産生および制御装置を考慮すると、温度変化は1時間未満以内にさえ完了し得る。
【0051】
一部の実施形態では、細胞培養の条件が上述のようにシフトされた後、細胞培養物を、続く産生期の間、細胞培養物の生存および生存度に貢献し、商用的に十分なレベルでの所望のポリペプチドまたはタンパク質の発現に適切である、二組目の培養条件下で維持する。
【0052】
上述のように、それだけには限定されないが、温度、pH、重量モル浸透圧濃度、および酪酸ナトリウムレベルを含めたいくつかの培養条件のうちの1つまたは複数をシフトさせることによって、培養物をシフトさせ得る。一部の実施形態では、培養物の温度をシフトさせる。この実施形態によれば、続く産生期中、培養物を、初期増殖期の温度または温度範囲よりも低い温度または温度範囲に維持する。上述のように、複数の別個の温度シフトを用いて、細胞密度もしくは生存度を増加させ得る、または組換えタンパク質の発現を増加させ得る。
【0053】
一部の実施形態では、細胞は、所望の細胞密度または産生力価に到達するまで、続く産生期に維持し得る。本発明の別の実施形態では、細胞は、続く産生期中に定義された期間の間成長させる。たとえば、続く増殖期の開始時の細胞培養物の濃度、細胞を成長させる温度、および細胞の内因性成長速度に応じて、細胞は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、またはそれより多い日数の間成長させ得る。一部の事例では、細胞は、1カ月間またはそれより長く成長させ得る。本発明の実務家は、ポリペプチドまたはタンパク質産生要件および細胞自体の要求に応じて、続く産生期の持続期間を選択することができるであろう。
【0054】
細胞培養物は、細胞への酸素供給および栄養素の分散を増加させるために、続く産生期中に撹拌または振盪させ得る。本発明に従って、当業者は、それだけには限定されないが、pH、温度、酸素供給などを含めた、続く増殖期中のバイオリアクターの特定の内部条件を制御または調節することが有益である場合があることを理解されよう。
【0055】
一部の実施形態では、細胞は組換えタンパク質を発現し、本発明の細胞培養方法は、増殖期および産生期を含む。
【0056】
本明細書中に提供する細胞培養方法の一部の実施形態では(たとえば、(i)細胞培養培地中に細胞を提供して、細胞培養プロセスを開始させること であって、細胞による成長および/または生産性阻害剤の合成のレベルが低下するように改変されている細胞を提供する、第1のステップを含むもの)、本方法は、(ii)細胞培養培地中の阻害剤フォーメートまたはグリセロールを、(a)C2を超えない濃度、または(b)少なくともC1かつC2を超えない濃度に維持することをさらに含む。一部の実施形態では、C2は、0.005、0.01、0.05、0.1、0.2、0.5、1、2、5、または10mMである。一部の実施形態では、C1は、0.001、0.005、0.01、0.05、0.1、0.2、0.5、1、2、または5mMであり、C2は、0.005、0.01、0.05、0.1、0.2、0.5、1、2、5、または10mMであり、C2はC1よりも高い値である。細胞培養方法の一部の実施形態では、ステップ(ii)は、細胞培養方法の全体にわたって適用される。一部の実施形態では、ステップ(ii)は、細胞培養方法の一部にわたって適用される。一部の実施形態では、ステップ(ii)は、事前に決定された生細胞密度が得られるまで適用する。一部の実施形態では、本発明の細胞培養方法は、増殖期および産生期を含み、ステップ(ii)は、増殖期中に適用される。一部の実施形態では、本発明の細胞培養方法は増殖期および産生期を含み、ステップ(ii)は増殖期の一部にわたって適用される。一部の実施形態では、本発明の細胞培養方法は、増殖期および産生期を含み、ステップ(ii)は、増殖期および産生期中に適用される。ステップ(ii)では、用語「維持すること」とは、アミノ酸または代謝物の濃度を特定のレベルを超えてまたはそれ未満に、培養プロセス全体(収集まで)にわたって、または、たとえば、増殖期、増殖期の一部、もしくは事前に決定された細胞密度が得られるまでなどの培養プロセスの一部にわたって維持することをいうことができる。
【0057】
一実施形態では、遺伝子ノックダウンは、遺伝子の発現もしくは活性、またはコードされている分子(たとえばタンパク質)の活性を、未改変の細胞におけるものと比較して、90パーセント以下、80パーセント以下、70パーセント以下、60パーセント以下、50パーセント以下、45パーセント以下、40パーセント以下、35パーセント以下、30パーセント以下、25パーセント以下、20パーセント以下、15パーセント以下、10パーセント以下、5パーセント以下、2.5パーセント以下のレベルのうちのいずれかの、コードされている分子の発現または活性まで低下させる。
【0058】
一部の実施形態では、SHMT1、SHMT2、MTHFD1、MTHFD1L、MTHFD2、MTHFD2L、SLC25A32、GPD1、GPD2、またはPGP遺伝子ノックダウンは、遺伝子の発現もしくは活性、またはコードされている分子(たとえばタンパク質)の活性を、未改変の細胞におけるものと比較して、90パーセント以下、80パーセント以下、70パーセント以下、60パーセント以下、50パーセント以下、45パーセント以下、40パーセント以下、35パーセント以下、30パーセント以下、25パーセント以下、20パーセント以下、15パーセント以下、10パーセント以下、5パーセント以下、2.5パーセント以下のレベルのうちのいずれかの、SHMT1、SHMT2、MTHFD1、MTHFD1L、MTHFD2、MTHFD2L、SLC25A32、GPD1、GPD2、またはPGPの、コードされている分子の発現または活性まで低下させる。
【0059】
ノックダウンは、減少したレベルで発現させる同定された遺伝子に適用した、たとえば、遺伝子の欠失、破壊、置換、点突然変異、複数点突然変異、挿入突然変異またはフレームシフト突然変異のうちの任意の1つまたは複数によって、あるいは、CRISPR/CAS9もしくはCRISPR干渉もしくは干渉RNA、干渉mRNAもしくは干渉アプタマー、またはsiRNAもしくはsiRNA干渉、またはジンクフィンガー転写因子もしくはジンクフィンガーヌクレアーゼもしくは転写活性化剤様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)の抑圧によって、あるいは、阻害性分子または低分子阻害剤、たとえばタンパク質または酵素活性の活性阻害剤などの阻害剤を使用することによって、達成することができる。
【0060】
一部の実施形態では、遺伝子の活性を低下させることは、上述の方法のうちの任意のものによって宿主細胞(たとえばCHO細胞)中の遺伝子をノックダウンし、その後、異なる種由来のオーソロガスの対応する遺伝子を宿主細胞内にさらに導入することを含み得る。たとえば、CHO細胞中のSHMT2遺伝子のノックダウンの後、魚由来のオーソロガスSHMT2遺伝子をCHO細胞内に導入してよく(たとえばUniProt参照番号A9LDD9、ゼブラフィッシュSHMT2)、ゼブラフィッシュSHMT2タンパク質はCHO細胞中において活性であるが、内在性SHMT2タンパク質と比較してSHMT2活性が低下している。
【0061】
一部の実施形態によれば、改変は、成長および/もしくは生産性阻害剤ならびに/またはその中間体の生合成を抑制、低下、または妨げ、一部の実施形態では、改変は、成長および/または生産性阻害剤の生合成を抑制、低下、および妨げる。一部の実施形態によれば、改変は、細胞培養物中において細胞成長および/または生産性が改善された細胞を生じる。
【0062】
一部の実施形態では、1つまたは複数の遺伝子の発現を改変させることは、
(a)増加もしくは減少したレベルで発現される、同定された遺伝子、または突然変異を含む同定された遺伝子に適用される遺伝子の欠失、破壊、置換、点突然変異、複数点突然変異、挿入突然変異もしくはフレームシフト突然変異のうちの任意の1つもしくは複数、あるいは
(b)遺伝子を含む1つまたは複数の核酸を、任意選択で発現可能な核酸またはベクター構築体として、細胞内に導入すること、
(c)CRISPR/CAS9もしくはCRISPR干渉もしくは干渉RNA、干渉mRNAもしくは干渉アプタマー、またはsiRNAもしくはsiRNA干渉、またはジンクフィンガー転写因子もしくはジンクフィンガーヌクレアーゼもしくは転写活性化剤様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)の使用による、遺伝子発現の抑圧または活性化
を含む。
【0063】
1つまたは複数の遺伝子の発現を改変させることが干渉RNA(RNAi)の使用を含む場合、適切なRNAiとしては、遺伝子産物のレベルを減少または増加させる、すなわち1つまたは複数の遺伝子を標的化するRNAiが挙げられる。たとえば、RNAiはshRNAまたはsiRNAであることができる。「低分子干渉」もしくは「短鎖干渉RNA」、またはsiRNAとは、目的の遺伝子または1つもしくは複数の遺伝子を標的化する、ヌクレオチドのRNA二重鎖である。「RNA二重鎖」とは、RNA分子の2つの領域間の相補的対合によって形成される構造体をいう。siRNAの二重鎖部分のヌクレオチド配列が標的化遺伝子のヌクレオチド配列と相補的であるという点で、siRNAは遺伝子を「標的化」している。一部の実施形態では、siRNAの二重鎖の長さは30個未満のヌクレオチドである。一部の実施形態では、二重鎖は、29、28、27、26、25、24、23、22、21、20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、または10個のヌクレオチドの長さであることができる。一部の実施形態では、二重鎖の長さは19~25個のヌクレオチドの長さである。siRNAのRNA二重鎖部分は、ヘアピン構造の一部であることができる。二重鎖部分に加えて、ヘアピン構造は、2つの配列間に位置する、二重鎖を形成するループ部分を含有し得る。ループは長さが変動することができる。一部の実施形態では、ループは、5、6、7、8、9、10、11、12、または13個のヌクレオチドの長さである。また、ヘアピン構造は、3’または5’オーバーハング部分も含有することができる。一部の実施形態では、オーバーハングは、0、1、2、3、4、または5個のヌクレオチドの長さの3’または5’オーバーハングである。「低分子ヘアピンRNA」、またはshRNAは、siRNAなどの干渉RNAを発現するようにすることができるポリヌクレオチド構築体である。
【0064】
一部の実施形態では、ベクターは、プロモーター配列、定方向クローニング部位、エピトープタグ、ポリアデニル化配列、および抗生物質耐性遺伝子のうちの1つまたは複数を含有する。一部の実施形態では、プロモーター配列はヒトサイトメガロウイルス前初期プロモーターであり、定方向クローニング部位はTOPOであり、エピトープタグは抗V5抗体を使用した検出のためのV5であり、ポリアデニル化配列は単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ由来であり、抗生物質耐性遺伝子はブラストサイジンである。
【0065】
前述の実施形態の一部の実施形態では、1つまたは複数の遺伝子は、一部の実施形態では遺伝子の突然変異によって、一部の実施形態では野生型遺伝子のコピーを、任意選択で発現可能なベクターとして、細胞内に導入することによって、遺伝子発現を増加させるように改変されている。
【0066】
一部の実施形態では、SHMT1、SHMT2、MTHFD1、MTHFD1L、MTHFD2、MTHFD2L、SLC25A32、GPD1、GPD2、またはPGPの遺伝子発現は、遺伝子ノックダウンまたはノックアウトのいずれかによって低下する。一部の実施形態では、SHMT1、SHMT2、MTHFD1、MTHFD1L、MTHFD2、MTHFD2L、SLC25A32、GPD1、GPD2、またはPGPのノックダウンは、未改変の細胞と比較して、90パーセント以下、80パーセント以下、70パーセント以下、60パーセント以下、50パーセント以下、45パーセント以下、40パーセント以下、35パーセント以下、30パーセント以下、25パーセント以下、20パーセント以下、15パーセント以下、10パーセント以下、5パーセント以下、2.5パーセント以下のレベルのうちのいずれかの、SHMT1、SHMT2、MTHFD1、MTHFD1L、MTHFD2、MTHFD2L、SLC25A32、GPD1、GPD2、またはPGPの発現または活性をもたらす。
【0067】
細胞
細胞培養物しやすい任意の細胞を本発明に従って利用し得る。一部の実施形態では、細胞は哺乳動物細胞である。本発明に従って使用し得る哺乳動物細胞の非限定的な例としては、BALB/cマウス骨髄腫系(NSO/l、ECACC番号:85110503)、ヒト網膜芽細胞(PER.C6、CruCell、オランダLeiden)、SV40によって形質転換させたサル腎臓CV1系(COS-7、ATCC CRL 1651)、ヒト胚性腎臓系(293または懸濁培養中での成長用にサブクローニングした293細胞、Grahamら、J.Gen Virol.、36:59、1977)、ベビーハムスター腎細胞(BHK、ATCC CCL 10)、チャイニーズハムスター卵巣細胞+/-DHFR(CHO、UrlaubおよびChasin、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、77:4216、1980)、マウスセルトリ細胞(TM4、Mather、Biol.Reprod.、23:243~251、1980)、サル腎細胞(CV1 ATCC CCL 70)、アフリカミドリザル腎細胞(VERO-76、ATCC CRL-1 587)、ヒト子宮頸癌細胞(HeLa、ATCC CCL 2)、イヌ腎細胞(MDCK、ATCC CCL 34)、バッファローラット肝細胞(BRL 3A、ATCC CRL 1442)、ヒト肺細胞(W138、ATCC CCL 75)、ヒト肝細胞(Hep G2、HB 8065)、マウス乳癌(MMT 060562、ATCC CCL51)、TRI細胞(Matherら、Annals N.Y.Acad.Sci.、383:44~68、1982)、MRC5細胞、FS4細胞、およびヒト肝細胞癌系(Hep G2)が挙げられる。一部の好ましい実施形態では、細胞はCHO細胞である。一部の好ましい実施形態では、細胞はGS細胞である。
【0068】
さらに、任意の数の市販されているおよび市販されていないハイブリドーマ細胞系を、本発明に従って利用し得る。本明細書中で使用する用語「ハイブリドーマ」とは、不死化細胞と抗体産生細胞との融合から生じる細胞または細胞の子孫をいう。そのように生じたハイブリドーマは、抗体を産生する不死化細胞である。ハイブリドーマを作製するために使用する個々の細胞は、それだけには限定されないが、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、およびヒトを含めた任意の哺乳動物源由来であることができる。一部の実施形態では、ハイブリドーマは、ヒト細胞とネズミ骨髄腫細胞系との融合の産物であるヘテロハイブリッド骨髄腫融合物の子孫を、続いて形質細胞と融合させた場合に生じるトリオーマ細胞系である。一部の実施形態では、ハイブリドーマは、たとえばクアドローマなどの、抗体を産生する任意の不死化ハイブリッド細胞系(たとえばMilsteinら、Nature、537:3053、1983を参照)である。当業者には、ハイブリドーマ細胞系が、最適な成長のために異なる栄養要件を有し得るおよび/または異なる培養条件を要求し得ることが理解され、必要に応じて条件を改変することができるであろう。
【0069】
細胞培養培地中または細胞(細胞ペレット試料)中の代謝物濃度を同定および/または測定することを含む方法
オフラインおよびオンライン測定方法を含めた当業者に知られている任意の方法によって、代謝物を同定することができるおよび/または代謝物(たとえばグリセロールもしくはフォーメート)の濃度を測定することができ、そのような測定法はまた、メタボロミクス分析またはメタボロミクス測定も構成する。細胞培養培地または細胞の試料、たとえば細胞ペレットに適用する。
【0070】
代謝物の同定および/または濃度は、細胞培養中に1回または数回測定することができる。一部の実施形態では、代謝物濃度は、連続的に、断続的に、30分毎、1時間毎、2時間毎、1日2回、1日1回、または2日毎に測定する。好ましい実施形態では、代謝物の同定および/または濃度は1日1回測定する。
【0071】
本明細書中で使用するオフライン測定方法とは、濃度などのパラメーターの測定が自動でなく、細胞培養方法に組み込まれていない方法をいう。たとえば、前記試料中において特定の濃度を測定することができるように試料を細胞培養培地から手動で採取する測定方法は、オフライン測定方法であるとみなされる。
【0072】
本明細書中で使用するオンライン測定方法とは、濃度などのパラメーターの測定が自動であり、細胞培養方法に組み込まれている方法をいう。
【0073】
たとえば、ラマン分光分析を使用する方法はオンライン測定方法である。あるいは、試料を反応器から引き出し、それをプログラミングされた様式で機器に移す自動サンプラーを備えた、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)または超高性能液体クロマトグラフィー(UPLC)に基づく技術の使用は、オンライン測定方法である。
【0074】
代謝物の同定および/または濃度は、当業者に知られている任意の方法によって測定することができる。オンラインまたはオフライン方法において代謝物を同定するおよび/またはその濃度を測定するための好ましい方法としては、たとえば、高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)、超高性能液体クロマトグラフィー(UPLC)、もしくは液体クロマトグラフィー質量分析(LCMS)などの液体クロマトグラフィー、核磁気共鳴(NMR)、またはガスクロマトグラフィー質量分析(GCMS)が挙げられる。
【0075】
一部の実施形態では、代謝物の同定および/または濃度は、細胞培養培地の試料を採取し、前記試料中の前記少なくとも1つの代謝物の濃度を測定することによって、オフラインで測定する。一部の実施形態では、代謝物の同定および/または濃度はオンラインで測定する。一部の実施形態では、代謝物の同定および/または濃度は、ラマン分光分析を使用してオンラインで測定する。一部の実施形態では、代謝物の同定および/または濃度は、試料を反応器から引き出し、それをプログラミングされた様式で機器に移す自動サンプラーを備えた、HPLCまたはUPLCに基づく技術を使用して、オンラインで測定する。代謝物の同定は、代謝物の存在および/またはそれが何であるかを決定することを含む。
【0076】
細胞の成長および生産性の改善
上述の方法の一部の実施形態では、細胞成長および/または生産性は対照培養物と比較して増加しており、前記対照培養物は、改変細胞または細胞を生成する方法によって生成された細胞を含まない(すなわち細胞は未改変である)こと以外は同一である。
【0077】
上述の方法の一部の実施形態では、本発明の方法は細胞成長を改善させるための方法である。一部の実施形態では、本発明の方法は、高細胞密度の高密度細胞培養物中における細胞成長を改善させるための方法である。
【0078】
本明細書中で使用する高細胞密度とは、1×106個の細胞/mL、5×106個の細胞/mL、1×107個の細胞/mL、5×107個の細胞/mL、1×108個の細胞/mL、もしくは5×108個の細胞/mLを超える、好ましくは1×107個の細胞/mLを超える、より好ましくは5×107個の細胞/mLを超える細胞密度をいう。
【0079】
一部の実施形態では、上述の方法は、細胞密度が1×106個の細胞/mL、5×106個の細胞/mL、1×107個の細胞/mL、5×107個の細胞/mL、1×108個の細胞/mL、または5×108個の細胞/mLを超える細胞培養物中において細胞成長を改善させるためのものである。一部の実施形態では、方法は、最大細胞密度が1×106個の細胞/mL、5×106個の細胞/mL、1×107個の細胞/mL、5×107個の細胞/mL、1×108個の細胞/mL、または5×108個の細胞/mLを超える細胞培養物中において細胞成長を改善させるためのものである。
【0080】
一部の実施形態では、細胞成長は、生細胞密度(VCD)、最大生細胞密度、または積算生細胞数(IVCC)によって決定する。一部の実施形態では、細胞成長は、最大生細胞密度によって決定する。
【0081】
本明細書中で使用する用語「生細胞密度」とは、所定体積の培地中に存在する細胞数をいう。生細胞密度は、当業者に知られている任意の方法によって測定することができる。好ましくは、生細胞密度は、Bioprofile Flex(登録商標)などの自動細胞計数計を使用して測定する。本明細書中で使用する用語、最大細胞密度とは、細胞培養中に達成される最大細胞密度をいう。
【0082】
本明細書中で使用する用語「細胞生存度」とは、所定の組の培養条件または実験変動下で生存する、培養中の細胞の能力をいう。当業者は、細胞生存度を決定するための多数の方法のうちの1つが本発明に包含されることを理解されよう。たとえば、生細胞の膜を通過しないが、死滅したまたは死滅しつつある細胞の破壊された膜を通過することができる色素(たとえばトリパンブルー)を使用して、細胞生存度を決定し得る。
【0083】
本明細書中で使用する用語「積算生細胞数(IVCC)」とは、生細胞密度(VCD)曲線下面積をいう。IVCCは以下の式を使用して計算することができる:IVCCt+1=IVCCt+(VCDt+VCDt+1)×(Δt)/2
[式中、Δtはtとt+1時点との間の時間差である]。IVCCt=0は無視できると想定できる。VCDtおよびVCDt+1は、tおよびt+1時点での生存細胞密度である。
【0084】
本明細書中で使用する用語「力価」とは、たとえば、所定量の培地体積中の細胞培養物によって産生された、組換えによって発現させたタンパク質の総量をいう。力価は、典型的には、培地1リットルあたりのタンパク質のグラム数の単位で表す。
【0085】
上述の方法の一部の実施形態では、細胞成長は、対照培養物と比較して少なくとも5%、10%、15%、20%、または25%増加している。一部の実施形態では、細胞成長は、対照培養物と比較して少なくとも10%増加している。一部の実施形態では、細胞成長は、対照培養物と比較して少なくとも20%増加している。
【0086】
上述の方法の一部の実施形態では、生産性は力価および/または体積生産性によって決定する。
【0087】
本明細書中で使用する用語「力価」とは、たとえば、所定量の培地体積中の細胞培養物によって産生された、組換えによって発現させたタンパク質の総量をいう。力価は、典型的には、培地1リットルあたりのタンパク質のグラム数の単位で表す。
【0088】
上述の方法の一部の実施形態では、生産性は力価によって決定する。一部の実施形態では、生産性は、対照培養物と比較して少なくとも5%、10%、15%、20%、または25%増加している。一部の実施形態では、生産性は、対照培養物と比較して少なくとも10%増加している。一部の実施形態では、生産性は、対照培養物と比較して少なくとも20%増加している。
【0089】
上述の方法の一部の実施形態では、細胞培養物の最大細胞密度は、1×106個の細胞/mL、5×106個の細胞/mL、1×107個の細胞/mL、5×107個の細胞/mL、1×108個の細胞/mL、または5×108個の細胞/mLより高い。一部の実施形態では、細胞培養物の最大細胞密度は5×106個の細胞/mLより高い。一部の実施形態では、細胞培養物の最大細胞密度は1×108個の細胞/mLより高い。
【0090】
細胞培養培地
本明細書中で使用する用語「培地」、「細胞培養培地」、および「培養培地」とは、成長中の哺乳動物細胞を養う構成成分または栄養素を含有する溶液をいう。典型的には、栄養素としては、最小限の成長および/または生存のために細胞によって要求される、必須および非必須アミノ酸、ビタミン、エネルギー源、脂質、ならびに微量元素が挙げられる。また、そのような溶液は、それだけには限定されないが、ホルモンおよび/もしくは他の成長因子、特定のイオン(ナトリウム、塩化物、カルシウム、マグネシウム、およびリン酸など)、緩衝剤、ビタミン、ヌクレオシドもしくはヌクレオチド、微量元素(通常は非常に低い最終濃度で存在する無機化合物)、高い最終濃度で存在する無機化合物(たとえば鉄)、アミノ酸、脂質、ならびに/またはグルコースもしくは他のエネルギー源を含めた、最小限の速度より高く成長および/または生存を増強させる、さらなる栄養素または補助的構成成分も含有し得る。一部の実施形態では、培地は、細胞の生存および増殖に最適なpHおよび塩濃度に有利に配合する。一部の実施形態では、培地は、細胞培養を開始した後に加える供給培地である。
【0091】
多種多様な哺乳動物成長培地を本発明に従って使用し得る。一部の実施形態では、細胞は、培地の構成成分が既知かつ制御されている様々な既知組成培地のうちの1つにおいて成長させ得る。一部の実施形態では、細胞は、培地のすべての構成成分が既知および/または制御されていない複合培地において成長させ得る。哺乳動物細胞培養物のための既知組成の成長培地は、過去数十年にわたって大規模に開発および発表されている。特定培地のすべての構成成分が十分に特徴づけられており、したがって、特定培地は血清または加水分解物などの複雑な添加剤を含有しない。初期の培地配合は、タンパク質産生を考慮せずまたは僅かしか考慮せずに、細胞成長および生存度の維持を許可するように開発された。より最近では、培地配合は、生産性の高い組換えタンパク質産生細胞培養物を支持するという明確な目的をもって開発されている。そのような培地は、本発明の方法における使用に好ましい。そのような培地は一般に、高密度での細胞の成長および/または維持を支持するために多量の栄養素、特にアミノ酸を含む。必要な場合は、これらの培地は、本発明の方法において使用するために、当業者によって改変することができる。たとえば、当業者は、本明細書中に開示する方法における基本培地または供給培地としてのその使用のために、これらの培地中のフェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、および/またはメチオニンの量を減少させ得る。
【0092】
複合培地のすべての構成成分が十分に特徴づけられているのではなく、したがって、複合培地は、とりわけ、単純および/または複合炭素源、単純および/または複合窒素源、ならびに血清などの添加剤を含有し得る。一部の実施形態では、本発明に適した複合培地は、本明細書中に記載の特定培地の他の構成成分に加えて、加水分解物などの添加剤を含有する。
【0093】
一部の実施形態では、特定培地は、典型的にはおよそ50個の化学実体または構成成分を既知の濃度で水中に含む。これらのほとんどは、インスリン、IGF-1、トランスフェリン、またはBSAなどの1つまたは複数の十分に特徴づけられたタンパク質も含有するが、他のものはタンパク質構成成分を必要とせず、したがって無タンパク質特定培地と呼ばれる。培地の典型的な化学成分は5つの大分類に分けられる:アミノ酸、ビタミン、無機塩、微量元素、および整った分類がなされないその他の分類。
【0094】
細胞培養培地は、補助的構成成分を添加してもよい。本明細書中で使用する用語「補助的構成成分」とは、それだけには限定されないが、ホルモンおよび/または他の成長因子、特定のイオン(ナトリウム、塩化物、カルシウム、マグネシウム、およびリン酸など)、緩衝剤、ビタミン、ヌクレオシドもしくはヌクレオチド、微量元素(通常は非常に低い最終濃度で存在する無機化合物)、アミノ酸、脂質、ならびに/またはグルコースもしくは他のエネルギー源を含めた、最小限の速度より高く成長および/または生存を増強させる構成成分をいう。一部の実施形態では、補助的構成成分を初期細胞培養物に加え得る。一部の実施形態では、補助的構成成分は細胞培養の開始後に加え得る。
【0095】
典型的には、微量元素である構成成分とは、マイクロモル濃度またはより低いレベルで含まれる様々な無機塩をいう。たとえば、一般的に含まれる微量元素は、亜鉛、セレン、銅などである。一部の実施形態では、鉄(二価鉄または三価鉄の塩)を微量元素として初期細胞培養培地中にマイクロモル濃度で含めることができる。また、マンガンも、微量元素の中で二価陽イオン(MnCl2またはMnSO4)としてナノモル濃度からマイクロモル濃度の範囲でしばしば含められる。数々のあまり一般的でない微量元素が通常ナノモル濃度で加えられる。
【0096】
一部の実施形態では、本発明の方法において使用する培地は、細胞培養物中においてたとえば1×106個の細胞/mL、5×106個の細胞/mL、1×107個の細胞/mL、5×107個の細胞/mL、1×108個の細胞/mL、または5×108個の細胞/mLなどの高細胞密度を支持するために適した培地である。一部の実施形態では、細胞培養物は、哺乳動物細胞の流加培養物、好ましくはCHO細胞の流加培養物である。
【0097】
タンパク質の発現
上述のように、多くの場合、細胞を、高レベルの所望の生成物(たとえば、組換えタンパク質または抗体)を産生するように選択または操作する。しばしば、細胞は、高レベルの組換えタンパク質を産生するように人の手によって、たとえば、目的タンパク質をコードしている遺伝子の導入によっておよび/またはその遺伝子(内在性であれ導入されたものであれ)の発現を調節する遺伝的制御要素の導入によって、操作される。
【0098】
特定のタンパク質は、細胞成長、細胞生存度、または、最終的に目的タンパク質の産生を何らかの様式で制限する細胞の何らかの他の特徴に対して有害な効果を有し得る。特定のタンパク質を発現するよう操作された1つの特定の種類の細胞集団間でさえも、特定の個々の細胞がより良好に成長する、より多くの目的タンパク質を産生する、またはより高い活性レベル(たとえば酵素活性)を有するタンパク質を産生するような、細胞集団内のばらつきが存在する。本発明の特定の実施形態では、細胞系は、細胞を培養するために選択された特定の条件下での頑強な成長のために、実務家によって経験的に選択される。一部の実施形態では、特定のタンパク質を発現するよう操作された個々の細胞は、細胞成長、最終細胞密度、パーセント細胞生存度、発現されたタンパク質の力価、または実務家によって重要とみなされるこれらもしくは任意の他の条件の任意の組合せに基づいて、大スケール産生のために選択される。宿主細胞中において発現可能な任意のタンパク質を本教示に従って産生させ、本発明の方法に従ってまたは本発明の細胞によって産生させ得る。本明細書中で使用する用語「宿主細胞」とは、本明細書中に記載の目的タンパク質を産生するように本発明に従って操作された細胞をいう。タンパク質は、細胞に内在性の遺伝子から、または細胞内に導入された異種遺伝子から発現させ得る。タンパク質は自然に存在するものであり得るか、または操作されたもしくは人の手によって選択された配列を有し得る。
【0099】
本発明に従って望ましく発現させ得るタンパク質は、しばしば、興味深いまたは有用な生物学的または化学的活性に基づいて選択される。たとえば、本発明は、任意の薬学的または商用的に関連性のある酵素、受容体、抗体、ホルモン、調節因子、サイトカイン、抗原、結合剤などを発現させるために用い得る。一部の実施形態では、培養中の細胞によって発現されるタンパク質は、抗体もしくはその断片、ナノボディ、単一ドメイン抗体、糖タンパク質、治療的タンパク質、成長因子、凝固因子、サイトカイン、融合タンパク質、薬学的原薬、ワクチン、酵素、またはSmall Modular ImmunoPharmaceutical(商標)(SMIP)から選択される。当業者は、任意のタンパク質を本発明に従って発現させ得ることを理解し、その特定の要求に基づいて産生させる特定のタンパク質を選択することができるであろう。
【0100】
抗体
薬学的または他の商用の薬剤として現在使用されているまたは調査されている多数の抗体を考慮すると、抗体の産生は本発明に従って特に興味深い。抗体は、特定の抗原と特異的に結合する能力を有するタンパク質である。宿主細胞中において発現させることができる任意の抗体を本発明に従って産生させてよく、本発明の方法に従ってもしくは本発明の細胞によって産生させ得る。一部の実施形態では、発現させる抗体はモノクローナル抗体である。
【0101】
一部の実施形態では、モノクローナル抗体はキメラ抗体である。キメラ抗体は、複数の生物に由来するアミノ酸断片を含有する。キメラ抗体分子は、たとえば、マウス、ラット、または他の種の抗体からの抗原結合ドメインを、ヒト定常領域と共に含むことができる。キメラ抗体を作製するための様々な手法が記載されている。たとえば、Morrisonら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.、81、6851(1985)、Takedaら、Nature、314、452(1985)、Cabillyら、米国特許第4,816,567号、Bossら、米国特許第4,816,397号、Tanaguchiら、欧州特許公開EP171496号、欧州特許公開第0173494号、英国特許GB 2177096B号を参照されたい。
【0102】
一部の実施形態では、モノクローナル抗体はヒト抗体由来であり、これは、たとえば、リボソームディスプレイもしくはファージディスプレイライブラリの使用(たとえば、Winterら、米国特許第6,291,159号およびKawasaki、米国特許第5,658,754号を参照)、またはネイティブ免疫系の他の構成成分をインタクトに残したままでネイティブ抗体遺伝子を失活させてヒト抗体遺伝子で機能的に置き換えた異種移植種の使用(たとえばKucherlapatiら、米国特許第6,657,103号を参照)によるものである。
【0103】
一部の実施形態では、モノクローナル抗体はヒト化抗体である。ヒト化抗体とは、アミノ酸残基の大多数がヒト抗体に由来しており、したがってヒト対象へと送達した場合に任意の潜在的な免疫反応を最小限にするキメラ抗体である。ヒト化抗体では、相補性決定領域中のアミノ酸残基は、少なくとも部分的に、所望の抗原特異性または親和性を与える非ヒト種からの残基で置き換えられている。そのような変更された免疫グロブリン分子は、当分野で知られているいくつかの技法のうちの任意のものによって作製することができ(たとえば、Tengら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.、80、7308~7312(1983)、Kozborら、Immunology Today、4、7279(1983)、Olssonら、Meth.Enzymol.、92、3~16(1982))、好ましくは、すべて本明細書中に参考として組み込まれているPCT公開WO92/06193号またはEP0239400号の教示に従って作製することができる。ヒト化抗体は、たとえば、Scotgen Limited、英国Middlesex、Twickenham、2 Holly Roadによって商用生成することができる。さらなる参考には、すべて本明細書中に参考として組み込まれているJonesら、Nature、321:522~525(1986)、Riechmannら、Nature、332:323~329(1988)、およびPresta、Curr.Op.Struct.Biol.、2:593~596(1992)を参照されたい。
【0104】
一部の実施形態では、上述のモノクローナル、キメラ、またはヒト化抗体は、自然界のいかなる種におけるいかなる抗体中においても自然に存在しないアミノ酸残基を含有し得る。これらの外来残基は、たとえば、モノクローナル、キメラ、またはヒト化抗体に対して新規または改変された特異性、親和性、またはエフェクター機能を与えるために利用することができる。一部の実施形態では、上述の抗体は、毒素、低分子量の細胞毒性がある薬物、生物学的応答調節物質、および放射性核種などの、全身性薬物療法のための薬物とコンジュゲートさせ得る(たとえばKunzら、Calicheamicin derivative-carrier conjugates、US20040082764 A1号を参照)。
【0105】
一般に、本発明の実務家は目的タンパク質を選択し、その正確なアミノ酸配列を知っているであろう。本発明に従って発現させる任意の所定のタンパク質は、それ自身の特定の特徴を有していてよく、培養細胞の細胞密度または生存度に影響を与えてもよく、同一培養条件下で成長させた別のタンパク質よりも低いレベルで発現させてもよく、行った正確な培養条件およびステップに応じて異なる生物活性を有していてよい。当業者は、細胞成長ならびに任意の所定の発現されたタンパク質の産生および/または活性レベルを最適化するために、本発明の教示による特定のタンパク質を産生させるために使用するステップおよび組成物を適切に改変させることができるであろう。
【0106】
宿主細胞内へのタンパク質の発現のための、遺伝子の導入
一般に、細胞内に導入された核酸分子は、本発明に従って発現させることが所望されるタンパク質をコードしており、本発明の方法に従って、または本発明の細胞内におよび本発明の細胞によって、導入および発現させ得る。あるいは、核酸分子は、細胞による所望のタンパク質の発現を誘導する遺伝子産物をコードしていてよい。たとえば、導入された遺伝物質は、内在性または異種タンパク質の転写を活性化させる転写因子をコードしていてよい。その代わりにまたはそれに加えて、導入された核酸分子は、細胞によって発現されるタンパク質の翻訳または安定性を増加させ得る。
【0107】
目的タンパク質の発現を達成するために十分な核酸を哺乳動物宿主細胞内に導入するために適した方法は、当分野で知られている。たとえば、そのそれぞれが本明細書中に参考として組み込まれている、Gethingら、Nature、293:620~625、1981、Manteiら、Nature、281:40~46、1979、Levinsonら、EP 117,060号、およびEP117,058号を参照されたい。哺乳動物細胞では、遺伝物質を哺乳動物細胞内に導入する一般的な方法としては、Grahamおよびvan der Erb(Virology、52:456~457、1978)のリン酸カルシウム沈殿方法またはHawley-Nelson(Focus、15:73、1993)のlipofectamine(商標)(Gibco BRL)方法が挙げられる。哺乳動物細胞宿主系形質転換の一般的側面は、Axel、1983年8月16日発行の米国特許第4,399,216号によって記載されている。遺伝物質を哺乳動物細胞内に導入するための様々な技法については、Keownら、Methods in Enzymology、1989、Keownら、Methods in Enzymology、185:527~537、1990、およびMansourら、Nature、336:348~352、1988を参照されたい。核酸を導入するために適した追加の方法としては、たとえばBioRad(商標)によるGenePulser XCell(商標)電気穿孔機を使用して用いるもののように、電気穿孔が挙げられる。
【0108】
一部の実施形態では、導入する核酸は裸核酸分子の形態である。たとえば、細胞内に導入された核酸分子はタンパク質をコードしている核酸および必要な遺伝的制御要素のみからなり得る。あるいは、タンパク質をコードしている核酸(必要な調節要素を含む)をプラスミドベクター内に含有させ得る。哺乳動物細胞中におけるタンパク質の発現のための適切なベクターの非限定的な代表例としては、pCDNA1、pCD、Okayamaら、Mol.Cell Biol.、5:1136~1142、1985を参照、pMClneo ポリ-A、Thomasら、Cell、51:503~512、1987を参照、pAC373またはpAC610などのバキュロウイルスベクター、CDM8、Seed、B.Nature、329:840、1987を参照、およびpMT2PC、Kaufmanら、EMBO J.、6:187~195、1987を参照が挙げられ、そのそれぞれがその全体で本明細書中に参考として組み込まれている。一部の実施形態では、細胞内に導入する核酸分子はウイルスベクター内に含有される。たとえば、タンパク質をコードしている核酸は、ウイルスゲノム(または部分ウイルスゲノム)内に挿入し得る。タンパク質の発現を指示する調節要素は、ウイルスゲノム内に挿入される核酸と共に含め得る(すなわち、ウイルスゲノム内に挿入された遺伝子と連結している)、またはウイルスゲノム自体によって提供されることができる。
【0109】
裸DNAは、DNAおよびリン酸カルシウムを含有する沈殿物を形成することによって、細胞内に導入することができる。あるいは、裸DNAは、DNAおよびDEAE-デキストランの混合物を形成し、混合物を細胞とインキュベートすることによって、または、細胞およびDNAを一緒に適切な緩衝剤中でインキュベートし、細胞を高電圧電気パルス(たとえば電気穿孔による)に供することによっても、細胞内に導入することができる。裸DNA細胞を導入するためのさらなる方法は、DNAを、陽イオン性脂質を含有するリポソーム懸濁液と混合することによる。その後、DNA/リポソーム複合体を細胞と共にインキュベートする。また、裸DNAは、たとえば微量注入によって細胞内に直接注入することもできる。
【0110】
あるいは、裸DNAは、DNAを、細胞-表面受容体のためにリガンドとカップリングされている、ポリリシンなどの陽イオンと複合体形成させることによっても、細胞内に導入することができる(たとえば、そのそれぞれがその全体で本明細書中に参考として組み込まれている、Wu,G.およびWu,C.H.J.Biol.Chem.、263:14621、1988、Wilsonら、J.Biol.Chem.、267:963~967、1992および米国特許第5,166,320号を参照)。DNA-リガンド複合体と受容体との結合は、受容体媒介性エンドサイトーシスによるDNAの取り込みを容易にする。
【0111】
特定の核酸配列、たとえばタンパク質をコードしているcDNAを含有するウイルスベクターの使用は、核酸配列を細胞内に導入するための一般的な手法である。ウイルスベクターを用いた細胞の感染は、細胞の大部分が核酸を受け入れるという利点を有しており、これは、核酸を受けた細胞を選択する必要性を除去することができる。さらに、たとえばウイルスベクター中に含有されるcDNAによって、ウイルスベクター内にコードされている分子は、ウイルスベクター核酸を取り込んだ細胞中において一般に効率的に発現される。欠損レトロウイルスは、遺伝子療法目的のために遺伝子移入において使用するために、十分に特徴づけられている(総説にはMiller,A.D.、Blood、76:271、1990を参照)。目的タンパク質をコードしている核酸がレトロウイルスゲノム内に挿入されている、組換えレトロウイルスを構築することができる。さらに、レトロウイルスゲノムの一部分を除去して、レトロウイルスを複製欠損にすることができる。その後、そのような複製欠損レトロウイルスを、ヘルパーウイルスの使用を介して標準の技法によって標的細胞を感染させるために使用することができる、ビリオン内にパッケージングする。
【0112】
アデノウイルスのゲノムは、目的タンパク質をコードしておりそれを発現するが、正常な溶菌ウイルス生活環において複製するその能力に関して失活されているように、操作することができる。たとえば、Berknerら、BioTechniques、6:616、1988、Rosenfeldら、Science、252:431~434、1991、およびRosenfeldら、Cell、68:143~155、1992を参照されたい。アデノウイルス株Ad型5dl324またはアデノウイルスの他の株に由来する適切なアデノウイルスベクター(たとえば、Ad2、Ad3、Ad7など)が当業者に知られている。組換えアデノウイルスは、有効な遺伝子送達ビヒクルとなるために分裂細胞を必要とせず、気道上皮(Rosenfeldら、1992、上記に引用)、内皮細胞(Lemarchandら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、89:6482~6486、1992)、肝細胞(HerzおよびGerard、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、90:2812~2816、1993)、および筋肉細胞(Quantinら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、89:2581~2584、1992)を含めた多種多様な細胞種を感染させるために使用することができる点で有利である。さらに、導入されたアデノウイルスDNA(およびそれに含有される外来DNA)は、宿主細胞のゲノム内に組み込まれずエピソームのまま保たれ、したがって、導入されたDNAが宿主ゲノム内に組み込まれる状況(たとえばレトロウイルスDNA)において、挿入突然変異の結果起こる可能性がある潜在的な問題が回避される。さらに、アデノウイルスゲノムの外来DNAについての保有能力は、他の遺伝子送達ベクターと比較して大きい(8キロ塩基まで)(上記に引用のBerknerら、Haj-AhmandおよびGraham、J.Virol.、57:267、1986)。現在使用されているほとんどの複製欠損アデノウイルスベクターは、ウイルスE1およびE3遺伝子のすべてまたは一部について欠失しているが、アデノウイルス遺伝物質の80%ほどまでを保持している。アデノ随伴ウイルス(AAV)とは、アデノウイルスまたはヘルペスウイルスなどの別のウイルスを、効率的な複製および生産的な生活環のためのヘルパーウイルスとして必要とする、天然に存在する欠損ウイルスである。(総説にはMuzyczkaら、Curr.Topics in Micro.and Immunol.、158:97~129、1992を参照)。また、これは、そのDNAを非分裂細胞内に組み込み、高頻度の安定な組込みを示し得る、数少ないウイルスのうちの1つでもある(たとえば、Flotteら、Am.J.Respir.Cell.Mol.Biol.、7:349~356、1992、Samulskiら、J.Virol.、63:3822~3828、1989、およびMcLaughlinら、J.Virol.、62:1963~1973、1989を参照)。300塩基対と少ないAAVを含有するベクターをパッケージングすることができ、組み込むことができる。外因性DNAのための空間は約4.5kbに制限される。Tratschinら(Mol.Cell.Biol.、5:3251~3260、1985)に記載のものなどのAAVベクターを使用して、DNAを細胞内に導入することができる。AAVベクターを使用して様々な核酸が様々な細胞種内に導入されている(たとえば、Hermonatら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、81:6466~6470、1984、Tratschinら、Mol.Cell.Biol.、4:2072~2081、1985、Wondisfordら、Mol.Endocrinol.、2:32~39、1988、Tratschinら、J.Virol.、51:611~619、1984、およびFlotteら、J.Biol.Chem.、268:3781~3790、1993を参照)。
【0113】
核酸分子を細胞集団内に導入するために使用した方法が大部分の細胞の改変および細胞によるタンパク質の効率的な発現をもたらす場合、改変細胞集団は、集団内の個々の細胞のさらなる単離またはサブクローニングなしに使用し得る。すなわち、さらなる細胞単離が必要なく、タンパク質の産生のために細胞培養物を播種するために集団をすぐに使用することができるように、細胞集団によるタンパク質の十分な産生が存在し得る。あるいは、タンパク質を効率的に産生する数個の細胞または単一の細胞から均質細胞集団を単離および拡大することが望ましい場合がある。核酸分子を、目的タンパク質をコードしている細胞内に導入する代わりに、導入された核酸は、細胞によって内在的に産生されるタンパク質の発現レベルを誘導するまたは増加させる別のポリペプチドまたはタンパク質をコードしていてもよい。たとえば、細胞は、特定のタンパク質を発現することができてもよいが、細胞のさらなる処理なしではそうすることができない場合がある。同様に、細胞は、所望の目的のためには不十分な量のタンパク質を発現する場合がある。したがって、目的タンパク質の発現を刺激する薬剤は、細胞によるそのタンパク質の発現を誘導するまたは増加させるために使用することができる。たとえば、導入された核酸分子は、目的タンパク質の転写活性化または上方調節する転写因子をコードしていてよい。そのような転写因子の発現は、立ち代って、目的タンパク質の発現、または目的タンパク質のより頑強な発現をもたらす。
【0114】
特定の実施形態では、タンパク質の発現を指示する核酸は、宿主細胞内に安定に導入される。特定の実施形態では、タンパク質の発現を指示する核酸は、宿主細胞内に一過的に導入される。当業者は、その実験の必要性に基づいて、核酸を細胞内に安定にまたは一過的に導入するかどうかを選択することができるであろう。目的タンパク質をコードしている遺伝子は、1つまたは複数の調節性遺伝的制御要素と連結していてもよい。特定の実施形態では、遺伝的制御要素はタンパク質の構成的発現を指示する。特定の実施形態では、目的タンパク質をコードしている遺伝子の誘導性発現をもたらす遺伝的制御要素を使用することができる。誘導性遺伝的制御要素(たとえば誘導性プロモーター)の使用は、細胞中におけるタンパク質の産生の変調を可能にする。真核細胞において使用するための潜在的に有用な誘導性遺伝的制御要素の非限定的な例としては、ホルモン調節性要素(たとえばMader,S.およびWhite,J.H.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、90:5603~5607、1993を参照)、合成リガンド調節性要素(たとえばSpencer,D.M.ら、Science、262:1019~1024、1993を参照)、および電離放射線調節性要素(たとえば、Manome,Y.ら、Biochemistry、32:10607~10613、1993、Datta,R.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、89:10149~10153、1992を参照)が挙げられる。当分野で知られているさらなる細胞特異的または他の調節系を本発明に従って使用し得る。
【0115】
当業者は、本発明の教示に従って細胞が目的タンパク質を発現することを引き起こす遺伝子を導入する方法を選択することができ、任意選択で適切に改変させることができるであろう。
【0116】
発現されたタンパク質の単離
一般に、典型的には、本発明に従って発現されたタンパク質を単離および/または精製することが望ましい。特定の実施形態では、発現されたタンパク質は培地内に分泌され、したがって、細胞および他の固形物を、遠心分離または濾過によって、たとえば精製プロセスの第1のステップとして除去し得る。
【0117】
あるいは、発現されたタンパク質は宿主細胞の表面に結合していてもよい。たとえば、培地を除去し、タンパク質を発現する宿主細胞を精製プロセスの第1のステップとして溶解させ得る。哺乳動物宿主細胞の溶解は、ガラスビーズによる物理的破壊および高pH条件への曝露を含めた、当業者に周知の任意の数の手段によって達成することができる。
【0118】
発現されたタンパク質は、それだけには限定されないが、クロマトグラフィー(たとえば、イオン交換、親和性、サイズ排除、およびヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー)、ゲル濾過、遠心分離、もしくは示差的溶解度、エタノール沈殿、ならびに/またはタンパク質を精製するための任意の他の利用可能な技法を含めた、標準の方法によって単離および精製し得る(たとえば、そのそれぞれが本明細書中に参考として組み込まれている、Scopes、Protein Purification Principles and Practice、第2版、Springer-Verlag、New York、1987、Higgins,S.J.およびHames,B.D.(編)、Protein Expression:A Practical Approach、Oxford Univ Press、1999、およびDeutscher,M.P.、Simon,M.I.、Abelson,J.N.(編)、Guide to Protein Purification:Methods in Enzymology(Methods in Enzymology Series、第182巻)、Academic Press、1997を参照)。特にイムノアフィニティークロマトグラフィーでは、タンパク質を、タンパク質に対して産生させ、固定支持体に固定した抗体を含む、アフィニティーカラムと結合させることによって、タンパク質を単離し得る。あるいは、インフルエンザコート配列、ポリヒスチジン、またはグルタチオン-S-トランスフェラーゼなどの親和性タグを標準の組換え技法によってタンパク質に付着させて、適切なアフィニティーカラムを通すことによって容易な精製を可能にすることができる。精製プロセス中のタンパク質の分解を低下または排除するために、フッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF)、ロイペプチン、ペプスタチン、またはアプロチニンなどのプロテアーゼ阻害剤を任意またはすべての段階で加え得る。プロテアーゼ阻害剤は、発現されたタンパク質を単離および精製するために細胞を溶解しなければならない場合に、特に有利である。
【0119】
当業者には、正確な精製技法は、精製するタンパク質の特徴、タンパク質を発現させる細胞の特徴、および/または細胞を成長させた培地の組成に応じて変動することが理解されよう。
【0120】
薬学的配合物
本発明の特定の好ましい実施形態では、産生されたポリペプチドまたはタンパク質は薬理学的活性を有し、医薬品の調製において有用となるであろう。上述の本発明の組成物は、対象に投与し得る、または、最初に、それだけには限定されないが、非経口(たとえば静脈内)、皮内、皮下、経口、経鼻、気管支、眼、経皮(局所)、経粘膜、直腸、および経膣の経路を含めた、任意の利用可能な経路による送達用に配合し得る。本発明の医薬組成物は、典型的には、哺乳動物細胞系から発現させた精製したポリペプチドまたはタンパク質、送達剤(すなわち、上述の陽イオンポリマー、ペプチド分子輸送体、界面活性剤など)を、薬学的に許容できる担体と組み合わせて含む。本明細書中で使用する言葉「薬学的に許容できる担体」としては、薬学的投与に適合した、溶媒、分散媒、コーティング、抗細菌および抗真菌剤、等張および吸収遅延剤などが挙げられる。また、補助的活性化合物も組成物内に取り込ませることができる。
【0121】
本発明に従って発現されたポリペプチドまたはタンパク質は、必要に応じて様々な間隔で、様々な期間にわたって、たとえば、週に1回を約1~10週間、2~8週間、約3~7週間、約4、5、または6週間などの間、投与することができる。当業者は、それだけには限定されないが、疾患または障害の重篤度、以前の処置、対象の全体的な健康および/または年齢、ならびに存在する他の疾患を含めた特定の要因が、対象を有効に処置するために必要な用量およびタイミングに影響を与える場合があることを理解されよう。一般に、本明細書中に記載のポリペプチドまたはタンパク質を用いた対象の処置は、単一の処置を含むことができ、または、多くの場合は一連の処置を含むことができる。適切な用量はポリペプチドまたはタンパク質の効力に依存する場合があり、また、たとえば事前に選択された所望の応答が達成されるまで増加する用量を投与することによって、特定のレシピエントに任意選択であつらえてもよいことが、さらに理解されよう。任意の特定の動物対象のための特定の用量レベルは、用いる具体的なポリペプチドまたはタンパク質の活性、対象の年齢、体重、全体的な健康、性別、および食習慣、投与の時間、投与経路、排泄速度、任意の薬物の組合せ、ならびに変調させる発現または活性の度合を含めた、様々な要因に依存し得ることが理解されよう。
【0122】
本発明は、非ヒト動物を処置するための組成物の使用を含む。したがって、用量および投与方法は、獣医学的薬理学および医学の既知の原理に従って選択し得る。指針は、たとえばAdams,R.(編)、Veterinary Pharmacology and Therapeutics、第8版、Iowa State University Press、ISBN:0813817439、2001中に見つけ得る。医薬組成物は、投与の指示と共に容器、パック、またはディスペンサー中に含めることができる。
【0123】
一部の態様では、本明細書中に提供する任意の実施形態を、どちらもすべての目的のために本明細書中に参考として組み込まれている、WO2017051347号(「細胞および細胞培養方法」)ならびにWO2015140708号(「細胞培養方法」)中に提供される方法、細胞、または他の実施形態と組み合わせて使用し得る。
【0124】
米国仮特許出願第62/776,190号(2018年12月6日出願)および第62/932,096号(2019年11月7日出願)の内容が、すべての目的のために本明細書中に参考として組み込まれている。
【0125】
以下の実施例は例示目的のみで提供し、いかなる様式でも本発明の範囲を限定することを意図しない。実際、本明細書中に示し、記載したものに加えた本発明の様々な改変が、前述の説明から当業者に明らかとなるであろうし、また添付の特許請求の範囲内にある。本出願全体にわたって引用したすべての図およびすべての参考文献、特許、および公開特許出願の内容は、明確に本明細書中に参考として組み込まれている。
【実施例】
【0126】
(実施例1)
CHO細胞の流加(HiPDOG)培養物中に蓄積される代謝副産物としてのフォーメートおよびグリセロール
目的
本実験は、哺乳動物細胞のグルコース制限および慣用の流加培養物中に蓄積されるフォーメートおよびグリセロールのレベルを同定するために実施した。
【0127】
材料および方法
細胞および培地
グルタミン合成酵素発現系を利用し、組換え抗体を発現するCHO細胞を、本実験において使用した。2種類の培地を本実験で使用した。1つ目の培地は「培地A」であり、これは培養の0日目に実験の接種に使用する。2つ目の培地は「培地B」であり、これは、慣用およびHIPDOG流加プロセスの供給培地として使用した濃縮栄養素培地である(次のセクションで説明する)。培地Aはインスリン非含有培地9(US7294484号、表14)の強化型であり、炭酸水素ナトリウムおよび塩化カリウムの濃度のわずかな相違を有し、ポリビニルアルコールの代わりにPluronic F68を含有する。これは、10%のグルタミン非含有培地5(US7294484号、表7)を加えることによって、ならびに8つのアミノ酸(Glu、Tyr、Gly、Phe、Pro、Thr、Trp、およびVal)の濃度をさらに上げることによって強化した。アミノ酸の濃度を以下の表1に列挙する。
【0128】
【0129】
培地Bは培地5(US7294484号、表7)と同じ組成を有するが、より高いレベルのアミノ酸(2.5倍)を有する。培地B中のアミノ酸の濃度を表2に示す。
【0130】
【0131】
バイオリアクターのセットアップ
慣用の流加プロセスおよびグルコース制限流加プロセスの2つの条件を用いた。グルコース制限流加プロセス(本明細書中以降HIPDOG培養)では、HIPDOGプロセスを使用してグルコースを制限した(Gagnonら、2011)。HIPDOG制御の作動中に使用したpH不感帯は7.025+/-0.025であった。
【0132】
慣用のプロセスは、標的とする接種材料の細胞密度(1E6個の細胞/mL)、使用する培地、培養体積(1.1L)、培養物に毎日加える供給培地の量、ならびに温度(36.5℃)、pH(6.9~7.2)、および撹拌速度(267rpm)を含めたプロセスパラメーターに関してはHIPDOGプロセスと同一であった。唯一の相違はグルコースレベルであり、慣用の培養物では、これは2~5日目にわたって2g/Lより高く維持され、HIPDOG培養物では、細胞が乳酸も消費し始める(培養物のpHのわずかな上昇によって観察される)点までグルコースレベルが下がり、HIPDOG技術/供給戦略を開始させるまで、グルコースを細胞によって自然に消費させた。5日目の後は、必要に応じてグルコースを供給することによって、どちらの条件のグルコースレベルも2g/Lより高い濃度で維持した。また、5日目の後は、どちらの培養物も12日目まで同様に処置した。どちらの条件についても生細胞密度、細胞培養培地中のラクテートおよびアンモニア濃度を毎日測定した。使用した基本培地は培地Aであり、使用した供給培地は培地Bであった。
【0133】
培養代謝物の分析には、使用済み培地試料および細胞ペレット試料を収集し、それぞれの条件について行った二つ組の反応器の実行から分析した。分析用に考慮した時点は、0、2、3、5、7、9、および10日目を含む。NMR技法を用いて、2つの培養物の様々な時点においてフォーメートおよびグリセロールが蓄積された濃度を評価した。試料調製および用いたNMR方法の詳細を以下に記載する。
【0134】
NMR試料調製、データ獲得、および処理
1000μLのそれぞれの試料を、Nanosep 3K Omegaマイクロ遠心濾過チューブを使用して60分間濾過し、630μLの濾過した試料をNMR分析に使用した。これらのフィルターはグリセロールで保存されており、したがって、いくらかの微量のグリセロールが分析に見られ得る。内部標準溶液をそれぞれの試料溶液に加え、生じた混合物を30秒間渦攪拌した。700μLの遠心分離した溶液を、データ獲得のためにNMRチューブに移した。NMRスペクトルは、オートチューニングを備えた低温冷却した1H/13C三重共鳴生体分子プローブを装着したVarian4チャネルVNMRS 700MHz NMR分光計で獲得した。使用したパルスシーケンスは1D-tnnoesyであり、水で990ミリ秒のプレサチュレーションおよび4秒の獲得時間であった。スペクトルは、298Kでの32個の過渡および4個の定常状態スキャンを用いて収集した。Chenomx NMR Suite 8.0中のプロセッサモジュールを使用して、スペクトルを処理し、cnxファイルを作成した。Chenomx NMR Suite 8.0中のプロファイラモジュールを使用して、332個の化合物が含有するChenomx化合物ライブラリバージョン9を用いて、化合物を同定および定量した。報告目的のために、プロファイリングした濃度を、NMRチューブの内容物ではなく元の試料の組成を反映するように補正した。試料調製中、内部標準を導入することによって、および必要な場合は少ない試料の分析体積を増加させるために、それぞれの試料を希釈した。
【0135】
結果
最初、慣用およびHIPDOG培養物のどちらにおいても細胞は指数関数的に成長し、それぞれ6日目および7日目にピーク細胞密度に到達し、HIPDOG培養物ははるかに高い細胞密度のピークであった(
図1Aおよび1B)。HIPDOGプロセスにおけるラクテートレベルは、HIPDOG制御の適用が原因で低く保たれた(2日目~5日目)一方で、ラクテートレベルは、慣用の流加培養物の事例では非常に高レベルまで蓄積された。また、グルタミン合成酵素発現系を含む細胞の使用によって、慣用およびHIPDOG培養中にアンモニアも低レベルで維持された。力価(目的タンパク質の量/1リットルの細胞培養培地)を培養の最後に測定した(12日目)。慣用のプロセスでは、12日目での力価は2.3g/Lであり、HIPDOGプロセスでは、12日目での力価は4g/Lであった。HIPDOG培養物は、慣用のプロセスと比較してより高い力価に到達した。細胞密度および力価値の相違は、2つの培養物間で観察されたラクテート蓄積の相違の結果であることが有望である。
【0136】
培養物中のフォーメートおよびグリセロールレベルを、NMR手法を使用して定量した。
図2Aおよび2Bは、HiPDOGおよび慣用の流加培養物中におけるフォーメートおよびグリセロールの時間経過濃度プロフィールを示す。どちらの条件においても、フォーメートは5日目までに4~5mMの範囲まで蓄積される。5日目の後、濃度プロフィールは2つの条件間でわずかに異なっている。他方で、グリセロールは、HiPDOGおよび慣用の流加条件のどちらにおいても培養の経過中に蓄積され、どちらの培養物も10日目までに10mMを超える濃度に到達する。フォーメートおよびグリセロールは、それぞれセリン異化および解糖経路の副産物であることが知られている。セリンはグリシンおよびスレオニンから生合成されることができるため、グリシンおよびスレオニンさえもフォーメート産生に貢献することができる。
【0137】
(実施例2)
培養中のCHO細胞の増殖能力に対するフォーメートおよびグリセロールの効果のプロービング
目的
フォーメートおよびグリセロールは、それぞれセリン異化および解糖経路の副産物であり、これらは、CHO細胞のHiPDOGおよび慣用の流加培養物中に蓄積されることが観察された。これらの培養物中において、フォーメートおよびグリセロールについて観察された蓄積のピークレベルはそれぞれ5mMおよび10mMであった。本実験は、HiPDOGまたは慣用の流加培養物において観察された濃度範囲内または未満で、CHO細胞の成長に対するこれら2つの化合物の効果を個々にプロービングするために設定した。
【0138】
材料および方法
組換え抗体を産生するCHO細胞(細胞系Aまたは細胞系B)を、低細胞密度(0.1E6個の細胞/mL)で、様々な条件下で、3つ組で6ウェルプレート培養物中に接種した。0日目におけるそれぞれのウェルの作業体積は4mLであった。細胞系Aは、新鮮な培地Aまたは様々な濃度のフォーメートを添加した新鮮な培地Aのどちらか中で接種した。細胞系Bは、新鮮な培地Aまたは様々な濃度のグリセロールを添加した新鮮な培地Aのどちらか中で接種した。フォーメートについて試験した濃度は[0、2、4、および6mM]であり、グリセロールでは[0、2、および4mM]であった。6ウェルプレートは、振盪プラットフォーム上、36.℃、5%の二酸化炭素でインキュベートした。すべての条件における細胞成長を5または6日間モニタリングした。
【0139】
結果
図3Aおよび3Bは、CHO細胞の成長に対するフォーメートまたはグリセロールの独立した効果を示す。新鮮な培地中で成長させた細胞は非常に良好に成長した。グリセロール(
図3A)またはフォーメート(
図3B)を2mMより高い濃度で添加した新鮮な培地中で細胞を培養した場合に、細胞成長は抑制された。このことは、フォーメートおよびグリセロールが細胞成長を独立して阻害することを実証している。フォーメートはセリン(またはグリシンもしくはスレオニン)異化の代謝副産物であり、グリセロールはグルコース代謝(解糖)の代謝副産物である。
【0140】
(実施例3)
CHO細胞の流加培養物中における、セリン添加の制限を介したフォーメートの蓄積の評価。
目的
本実施例の主目的は、セリンの供給を制限することによる、CHO細胞のHiPDOG培養物中におけるフォーメートの蓄積の低下を評価することであった。
【0141】
材料および方法
細胞およびバイオリアクターのセットアップ
組換え抗体を発現するCHO細胞(細胞系C)を本実施例で使用した。2つの条件を本実施例の一部として試験した:A)セリンを含めて低レベルの10個のアミノ酸を有するHiPDOG培養物(低AA)、B)正常なアミノ酸濃度を有するHiPDOG培養物(対照)。実験は12日間実施した。
【0142】
種培養からの指数関数的に成長中の細胞を、約1×106個の細胞/mLで、典型的な流加プロセス(典型的なレベルのアミノ酸を有する)または低アミノ酸流加プロセスを用いる生産バイオリアクター内に接種した。低アミノ酸条件下では、ロイシン、イソロイシン、バリン、メチオニン、セリン、スレオニン、グリシンおよびチロシンを含めた10個のアミノ酸の濃度を、培養の最初の7日間の間約0.5mMに維持し、その後、これらが1mMを超えて増加することを許可した。生細胞密度、グルコース、ラクテート、アンモニア、およびアミノ酸濃度を、12日目まで毎日測定した。どちらの条件についても、培養体積(1L)ならびに温度(36.5℃)、pH、および撹拌速度(259rpm)を含めたプロセスパラメーターは同一であった。培養のHiPDOG相(0日目~7日目)中のpHは7.025+/-0.025であり、HiPDOG相後(7日目~12日目)では7.05+/-0.15であった。対照条件において使用した基本培地は培地Aであり、低アミノ酸条件において使用したものは、チロシン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン、セリン、グリシン、スレオニン、ロイシン、イソロイシン、およびバリンを含めた低濃度のアミノ酸を有する、培地Aの改変型であった。どちらの条件にも使用した供給培地は、実施例1において記載した培地Bの改変型であった。培地Bの改変型におけるアミノ酸レベルは、この培地Bを半連続的な様式で供給することで送達されるアミノ酸の量が、培養物によって取り込まれるアミノ酸の量とほぼ等しいように、調節した。使用した供給速度は、培養物中の完全な生細胞に比例的であった。どちらの条件からの上清試料も、実施例1に記載のNMR技術を使用して、フォーメートレベルについて分析した。培養アミノ酸レベルはアミノ酸分析方法を使用して測定した。
【0143】
アミノ酸分析
10μLの標準のアミノ酸混合溶液または使用済み培地試料(10倍希釈試料)のどちらかを、70μLのAccQTag Ultraホウ酸緩衝液(Waters UPLC AAA H-Class Applications Kit[176002983])と混合し、1.0mLのAccQ.Tag Ultra試薬希釈剤に事前に溶かした20μLのAccQTag試薬を加えた。反応を10分間55℃で進行させた。液体クロマトグラフィー分析を、二成分溶媒マネージャー、自動サンプラー、カラムヒーター、およびPDA検出器を装着したWaters Acquity UPLCシステム上で行った。分離カラムはWaters AccQTag Ultraカラム(2.1mm内径×100mm、1.7μm粒子)であった。カラムヒーターは55℃に設定し、移動相の流速は0.7mL/分に維持した。溶出液Aは10%のAccQTag Ultra濃縮液溶媒Aであり、溶出液Bは100%のAccQTag Ultra溶媒Bであった。非線形分離勾配は、0~0.54分(99.9%のA)、5.74分(90.0%のA)、7.74分(78.8%のA)、8.04~8.64分(40.4%のA)、8.73~10分(99.9%のA)であった。1マイクロリットルの試料を分析用に注入した。PDA検出器は260nmに設定した。事前に決定されたアミノ酸の溶出時間を使用して、それぞれの試料についてクロマトグラム上の特定のアミノ酸ピークを同定した。アミノ酸濃度は、ピーク下面積と標準溶液(アミノ酸標準H、Thermo Scientific、PI-20088)を使用して作成した検量線とを使用して推定した。
【0144】
結果
セリンの濃度を、低AA条件において0.5mM付近または未満に維持することに成功した(
図4A)。低AA条件におけるセリンレベルのそのような制限は、フォーメートのより低い蓄積をもたらした(
図4B)。
【0145】
(実施例4)
CHO細胞をフォーメート産生の抑制に向かって代謝的に操作するための遺伝子標的を決定するための実験。
目的
CHO細胞における成長阻害剤フォーメートの生合成の原因を調査した。フォーメートはセリン異化の副産物であり、哺乳動物細胞のミトコンドリアおよびサイトゾルにおいて起こることが知られている(
図5)。セリンのミトコンドリアおよびサイトゾル異化経路において関連性のある異化酵素をコードしている遺伝子の発現(mRNA)レベルを、RNA配列分析を使用してプロービングした。遺伝子発現データに基づいて、代謝操作のための標的が、フォーメート産生に向かうセリン流動を抑制する努力の一環として同定された。
【0146】
材料および方法
Pfizer専売のRNA配列データベースに照会して遺伝子発現レベルのベースライン予想を提供し、その延長で、セリン異化に関与している主要酵素のあり得る酵素活性を提供した。RNA配列データは、細胞系Cと同じ宿主を共有するCHO細胞系Dから由来するものであった。分析した酵素としては、SHMT1、SHMT2、MTHFD1、MTHFD1L、MTHFD2、MTHFD2L、SLC25A32が挙げられる。B-アクチンのRNA配列データを参照して含めた。データは、読取り/キロ塩基の転写物/百万個のマッピングされた読取り(RPKM)として報告した。
【0147】
結果
フォーメート生合成をもたらすセリン異化に関与している酵素の遺伝子発現レベルを表3に示す。セリンのミトコンドリアおよびサイトゾル異化経路の両方における酵素が発現される。しかし、ミトコンドリア異化経路における最初の酵素、SHMT2は、対応するサイトゾル異化酵素、SHMT1よりも高いレベルで発現される。ミトコンドリア経路がより活性であり得ることを示唆している。SHMT2が最初の酵素であるため、SHMT2酵素の活性を遺伝学的に抑制することで、フォーメート産生を有意に低下させることができる。
【0148】
【0149】
(実施例5)
フォーメートの産生を抑制するための、CHO細胞におけるSHMT2発現レベルの下方調節
SHMT2の発現は、遺伝子発現を低下させる(ノックダウン)または遺伝子を作動不能にする(ノックアウト)分子生物学的技法を使用して、下方調節の標的とする。しばしばRNA干渉(RNAi)と呼ばれる、遺伝子発現をノックダウンする技法としては、マイクロRNA(miRNA)、低分子干渉RNA(siRNA)、およびアンチセンスRNA(asRNA)が挙げられる。遺伝子発現をノックアウトする技法としては、クラスター形成し、規則的に間隔が空いた短い回文構造の反復(CRISPR)、転写活性化剤様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、および亜鉛フィンガーヌクレアーゼ(ZFN)が挙げられる。SHMT2発現が低下するよう操作された細胞系、または作動不能にされたSHMT2遺伝子は、立ち代って、SHMT2酵素活性が低下または排除されており、その延長で、より少ないフォーメートを産生する。操作された細胞は、流加条件において、細胞外環境における成長、生産性、およびフォーメート蓄積のレベルについてアッセイする。操作された細胞は、フォーメートの産生の低下が原因で、より高い細胞密度まで成長し、より高いレベルのタンパク質を産生する。
【0150】
(実施例6)
CHO細胞をグリセロール産生の抑制に向かって代謝的に操作するための遺伝子標的を決定するための実験。
目的
CHO細胞における成長阻害剤グリセロールの生合成の原因を調査した。グリセロールはグリセロール-3-リン酸の既知の副産物である(
図6)。最近では、膵臓B細胞および肝細胞中において、酵素ホスホグリコール酸ホスファターゼ(PGP)の作用によって、グリセロール-3-リン酸がグリセロールへと変換されることが報告されている(Mugaboら、2016)。グリセロール-3-リン酸(phospate)は、解糖中間体であるジヒドロキシアセトンリン酸(DHAP)の、サイトゾルグリセロール-3-リン酸脱水素酵素(GPD1)酵素による酵素的変換の産物である。グリセロールの生合成における関連性のある酵素の遺伝子発現レベルを、RNA配列分析を使用してプロービングした。遺伝子発現データに基づいて、代謝操作のための標的が、グリセロール産生に向かうグリセロール-3-リン酸流動を抑制する努力の一環として同定された。
【0151】
材料および方法
Pfizer専売のRNA配列データベースに照会して遺伝子発現レベルのベースライン予想を提供し、その延長で、グリセロール(gycerol)-3-リン酸からグリセロールへの変換に関与している主要酵素のあり得る酵素活性を提供した。RNA配列データは、細胞系Cと同じ宿主を共有するCHO細胞系Dから由来するものであった。研究に含まれる酵素は、GPD1、GPD2、およびPGPであった。B-アクチンのRNA配列データを参照して含めた。データは、読取り/キロ塩基の転写物/百万個のマッピングされた読取り(RPKM)として報告した。
【0152】
結果
グリセロール-3-リン酸の代謝、したがってグリセロール蓄積に関与している主要遺伝子のRNA配列データを表4に示す。遺伝子PGP、GPD1、およびGPD2は5~21のRPKM値を有しており、遺伝子(および潜在的に対応するタンパク質)の発現ならびにCHO細胞におけるこのノードでの酵素活性の可能性を示唆している。PGP遺伝子が発現される際、PGP酵素の活性を遺伝学的に抑制することは、グリセロール産生を潜在的に低下させることができる。
【0153】
【0154】
(実施例7)
グリセロールの産生を抑制するための、CHO細胞におけるPGP遺伝子発現の下方調節
PGPの発現は、遺伝子発現を低下させる(ノックダウン)または遺伝子を作動不能にする(ノックアウト)分子生物学的技法を使用して、下方調節の標的とする。しばしばRNA干渉(RNAi)と呼ばれる、遺伝子発現をノックダウンする技法としては、マイクロRNA(miRNA)、低分子干渉RNA(siRNA)、およびアンチセンスRNA(asRNA)が挙げられる。遺伝子発現をノックアウトする技法としては、クラスター形成し、規則的に間隔が空いた短い回文構造の反復(CRISPR)、転写活性化剤様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、および亜鉛フィンガーヌクレアーゼ(ZFN)が挙げられる。PGP発現が低下するよう操作された細胞系、または作動不能にされたPGP遺伝子は、立ち代って、PGP酵素活性が低下または排除されており、その延長で、より少ないグリセロールを産生する。操作された細胞は、流加条件において、細胞外環境における成長、生産性、およびグリセロール蓄積のレベルについてアッセイする。操作された細胞は、グリセロールの産生の低下が原因で、より高い細胞密度まで成長し、より高いレベルのタンパク質を産生する。
【0155】
(実施例8)
減弱したPGP発現レベルを有するCHOクローンの開発
背景および目的
グリセロールは、流加培養物の細胞培養培地中に高レベルまで蓄積され、時折、培養14日目までに約19mMが測定される。2mM以上のグリセロール濃度は成長阻害効果を有することが示されており(
図3A)、栄養素炭素の消耗をもたらし、培養環境の容積モル浸透圧濃度の増加をもたらす。したがって、ノックダウンまたはノックアウト戦略を通じてグリセロール産生経路に関与している主要酵素のタンパク質発現を変調させることによる、グリセロール産生の抑制を試みた。ホスホグリコール酸ホスファターゼ(PGP)は、グリセロール-3-リン酸からのリン酸基の加水分解によってグリセロールを生じる酵素として仮定された。本実験の目的は、CRISPR CAS9手法を使用して、PGP遺伝子の完全または部分的なノックアウト(KO)を有する安定なCHOクローン細胞系を開発することであった。
【0156】
材料および方法
PGPのエクソンを標的化するガイドRNA(gRNA)を、gRNA設計アルゴリズムを使用して設計した。候補gRNA配列をコードしているDNA構築体を、Cas9 mRNAと共に組換え抗体産生CHO細胞系(以降、野生型(WT)と呼ぶ)内に同時形質移入し、GeneArt Genomic切断検出アッセイを使用してgRNAの有効性を評価した。性能が上位の2つのgRNAを利用して突然変異クローン細胞系を確立した。突然変異クローンは、PGP DNA配列中における変更を検出するためのサンガーシーケンシングを使用して同定した。溶解物を候補突然変異クローンから、WT(形質移入していない)細胞系から、およびgRNA/Cas9で形質移入した対照細胞系から収集したが、PGP座位でのDNAの変更は示さなかった。等量の細胞溶解液を使用してSDS-PAGEゲルを実行し、免疫ブロッティングを行って、PGP発現レベルにおける変化を検出した。
【0157】
結果
PGPのレベルが低下した安定なノックアウトクローンを、Cas9 mRNAを用いた2つの独立したgRNAの形質移入を介して作製した(
図7)。PGP発現の減少(
図7、上のバンド)が、複数の突然変異クローン細胞系における2つの独立した実験で観察された。残留PGP発現が、生じたクローンのうちの2つ(クローン377、406)において観察され、部分的KOが示唆されたが、PGP発現は他のクローン(クローン343、609、878)の溶解物において検出不可能であり、完全なKOが示唆された。対照クローン217(PGPに向けられたgRNA/Cas9を用いて形質移入したが、PGP座位でのDNAの変更は示さなかった)および野生型宿主(形質移入していない)細胞系は、KOクローンのどれよりもPGP発現が高かった(
図7)。
【0158】
(実施例9)
流加培養物中におけるグリセロール産生に対する低下したPGPタンパク質レベルの効果の調査
背景および目的
本実験の目的は、PGP発現の低下が、流加培養物中におけるグリセロールレベルおよびグリセロール産生の減少をもたらすかを理解することであった。
【0159】
材料および方法
実施例8に記載の野生型宿主(WT)、PGPノックアウト(PGPΔ)、および対照クローンを、1.0E6個の細胞/mLの密度で、ambr細胞培養容器中に接種した。このシステムは、バイオリアクター条件を、温度、pH、および栄養素供給を良好に制御することができる、より小さなスケールで模倣することを意図する。細胞をこのシステムにおいて12日間培養し、6、8、および11日目にサンプリングした。BioHTバイオプロセス分析器を使用してグリセロールレベルを測定し、グリセロールレベルの変化を経時的にモニタリングし、細胞数を正規化することによって比グリセロール産生速度を計算した。
【0160】
結果
PGPΔ培養物の使用済み培地は、mgのグリセロール/リットル(
図8A)および比グリセロール産生(ピコグラム(pcg)/細胞/日、
図8B)の両方によって測定して、全体的により低いグリセロール濃度を示した。クローン343、609、および878からの使用済み培地は、クローン377、406、対照クローン、およびWTからのものよりも有意に低いレベルのグリセロールを示したため、グリセロール低下の度合はPGPタンパク質低下の度合と相関していた(
図8A)。比グリセロール産生の減少は、PGPΔクローン中のPGP発現レベルとも相関していた(
図8B)。
【0161】
(実施例10)
流加培養物中におけるラクテートの蓄積に対する低下したPGPタンパク質レベルの効果の調査。
背景および目的
本実験は、PGPタンパク質発現レベルを低下させることが細胞培養培地中のラクテートレベルに対して効果を有するかを決定するために行った。
【0162】
材料および方法
実施例8および9に記載の野生型宿主(WT)、PGPノックアウト(PGPΔ)、および対照クローンを、1.0E6個の細胞/mLの密度で、ambr容器中に接種した。このシステムは、バイオリアクター条件を、温度、pH、および栄養素供給を良好に制御することができる、より小さなスケールで模倣することを意図する。細胞をこのシステムにおいて12日間モニタリングし、1、2、4、5、6、7、8、10、11、および12日目にサンプリングした。ラクテートレベルはBioprofile Nova Flexを使用して測定した。
【0163】
結果
PGPタンパク質発現の低下は、完全なKO PGPΔクローンの事例で見られたように、細胞培養環境中のラクテート蓄積の減少をもたらした(
図9)。ラクテート産生の比速度もこれらのクローンにおいて低かった(データ示さず)。
【0164】
(実施例11)
減弱したSHMT2発現レベルを有するCHO細胞系の開発
背景および目的
フォーメートは、流加培養物の細胞培養培地中に高レベルまで蓄積され、培養8日目までに約6mM、14日目までに10mM以上の濃度が測定される。2mM以上のフォーメート蓄積は、成長阻害効果を有することが以前に示されている(
図3B)。ノックダウンまたはノックアウト戦略を通じて炭素代謝に関与している酵素のタンパク質発現を変調させることによる、フォーメート産生の阻害を本実験において試みた。本実験の目的は、SHMT2タンパク質発現のレベルが低下した安定なCHOクローンを開発することであった。SHMT2は、セリンからグリシンとメチレン-テトラヒドロフォレート(THF)への切断を触媒するミトコンドリア酵素である。酵素MTHFD2/MTHFD2Lはメチレン-THFを10-ホルミル-THFへと変換し、これがその後、MTHFD1Lによってフォーメートへと変換される。
【0165】
材料および方法
SHMT2のエクソンを標的化するガイドRNA(gRNA)を、gRNA設計アルゴリズムを使用して設計した。候補gRNA配列をコードしているDNA構築体を、Cas9 mRNAと共に組換え抗体産生CHO細胞系(以降、野生型(WT)と呼ぶ)内に同時形質移入し、GeneArt Genomic切断検出アッセイを使用してgRNAの有効性を評価した。性能が上位の2つのgRNAを利用して突然変異クローン細胞系を確立した。突然変異クローンは、SHMT2 DNA配列中における変更を検出するためのサンガーシーケンシングを使用して同定した。溶解物を候補突然変異クローン細胞系から、WT(形質移入していない)細胞系から、およびgRNA/Cas9で形質移入した対照細胞系から収集したが、SHMT2座位でのDNAの変更は示さなかった。等量の細胞溶解液を使用してSDS-PAGEゲルを実行し、免疫ブロッティングを行って、SHMT2発現レベルにおける変化を検出した。
【0166】
結果
SHMT2タンパク質レベルが低下したクローンを、Cas9 mRNAを用いた2つの独立したgRNAの形質移入を介して作製した(
図10)。SHMT2タンパク質発現の減少が、複数の突然変異クローン細胞系における2つの独立した実験で観察され、これらのクローン(クローン482、746、および277)中における部分的KOが示唆された。対照クローン425(SHMT2に向けられたgRNA/Cas9を用いて形質移入したが、SHMT2座位でのDNAの変更は示さなかった)および野生型宿主(形質移入していない)細胞系は、KOクローンのどれよりもSHMT2発現が高かった(
図10)。
【0167】
(実施例12)
流加培養物中におけるフォーメート産生に対する低下したSHMT2タンパク質レベルの効果の調査
背景および目的
本実験の目的は、SHMT2タンパク質発現の低下が、流加培養物中におけるフォーメート産生および蓄積の減少をもたらすかを理解することであった。
【0168】
材料および方法
実施例11に記載の野生型宿主(WT)、SHMT2ノックアウト(SHMT2Δ)、および対照CHOクローンを、1.0E6個の細胞/mLの密度で、ambr容器中に接種した。このシステムは、バイオリアクター条件を、温度、pH、および栄養素供給を良好に制御することができる、より小さなスケールで模倣することを意図する。細胞をこのシステムにおいて12日間モニタリングし、6、8、および11日目にサンプリングした。BioHTバイオプロセス分析器を使用してフォーメートレベルを測定し、フォーメートレベルの変化を経時的にモニタリングし、細胞数を正規化することによって比フォーメート産生速度を計算した。
【0169】
結果
SHMT2Δ培養物の使用済み培地は、mgのフォーメート/リットル(
図11)によって測定して、全体的により低いフォーメート濃度を示した。
【0170】
参考文献
Matthew Gagnon, Gregory Hiller, Yen-Tung
Luan, Amy Kittredge, Jordy DeFelice, Denis Drapeau (2011)「グルコースのハイエンドなpH制御送達が、CHO流加培養物中におけるラクテートの蓄積を有効に抑制する(High-End pH-controlled delivery of glucose effectively suppresses
lactate accumulation in CHO Fed-batch cultures)」. Biotechnology and Bioengineering 108(6):1328-1337
Yves Mugabo, Shangang Zhao, Annegrit
Seifried, Sari Gezzar, Anfal Al-Mass, Dongwei Zhang, Julien Lamontagne, Camille
Attane, Pegah Poursharifi, Jose Iglesias, Erik Joly, Marie-Line Peyot, Antje Gohla, S. R. Murthy
Madiraju,およびMarc Prentki (2016)「哺乳動物グリセロール-3-リン酸ホスファターゼの同定:膵臓β細胞および肝細胞における、代謝およびシグナル伝達における役割(Identification of a mammalian glycerol-3-phosphate phosphatase: Role
in metabolism and signaling in pancreatic β-cells and hepatocytes)」. PNAS E430-439
【国際調査報告】