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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-09
(54)【発明の名称】アンフィポール
(51)【国際特許分類】
   C08L 89/00 20060101AFI20220202BHJP
   C08L 33/02 20060101ALI20220202BHJP
   C08F 220/06 20060101ALI20220202BHJP
   C08F 220/56 20060101ALI20220202BHJP
   C07K 1/14 20060101ALN20220202BHJP
【FI】
C08L89/00
C08L33/02
C08F220/06
C08F220/56
C07K1/14
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021531702
(86)(22)【出願日】2019-12-03
(85)【翻訳文提出日】2021-08-03
(86)【国際出願番号】 EP2019083563
(87)【国際公開番号】W WO2020115083
(87)【国際公開日】2020-06-11
(31)【優先権主張番号】18306606.7
(32)【優先日】2018-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505351201
【氏名又は名称】セントレ ナシオナル デ ラ ルシェルシェ シエンティフィーク
(71)【出願人】
【識別番号】520105924
【氏名又は名称】ユニベルシテ ドゥ パリ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE PARIS
(74)【代理人】
【識別番号】100158920
【弁理士】
【氏名又は名称】上野 英樹
(72)【発明者】
【氏名】ジュスティ, ファブリス
(72)【発明者】
【氏名】マルコネ, アナイス
(72)【発明者】
【氏名】ゾーネン, マヌエラ
【テーマコード(参考)】
4H045
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045EA35
4H045EA65
4H045GA01
4J002AD00W
4J002BG01X
4J002GB00
4J100AK08P
4J100AM21Q
4J100AM21R
4J100BC02Q
4J100BC02R
4J100BC04Q
4J100BC04R
4J100BC43Q
4J100BC43R
4J100CA04
4J100CA05
4J100DA36
4J100EA06
4J100FA03
4J100FA19
4J100JA53
(57)【要約】
本発明は、膜タンパク質の可溶化及び安定化を可能とする式I
のポリマー化合物に関し、それは特にこの化合物を使用することを含む、膜タンパク質と形成する複合体及び膜タンパク質を可溶化及び安定化する方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性の膜タンパク質-両親媒性ビニルポリマーの複合体であって、該両親媒性ビニルポリマーは、式Iであり、
【化1】
ここで、Mはアルカリ金属であり、好ましくはLi、Na、Kから選択され、
、R、R、Rはそれぞれ独立して、水素原子又はメチル基であり、
、R、Rはそれぞれ独立して、水素原子及び直鎖状又は分岐状(C1~C8)アルキルから選択された基であり、
10は、直鎖状又は分岐状(C1~C5)アルキルから選択された基であり、
及びRはそれぞれ独立して、
-水素(この場合Xは単結合である)、
-少なくとも6つの炭素原子の直鎖状若しくは分岐状アルキル、少なくとも6つの炭素原子の直鎖状若しくは分岐状アルケニル、又は少なくとも6つの炭素原子の直鎖状若しくは分岐状アルキニル(この場合Xは単結合である)、
-未置換の又は1つ以上の基によって置換された(C3~C10)シクロアルキル又は(C3~C10)(ヘテロ)シクロアルキルであって、前記1つ以上の基は、直鎖状、環状若しくは分岐状(C1~C8)アルキル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルケニル、及び直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキニルから選択され、この場合Xは単結合であるか、又は直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキレン、直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルケニル、及び直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルキニルから選択され、
-多価不飽和又は1価不飽和の、未置換の又は1つ以上の基によって置換された(C3~C10)シクロアルケニル又は(C3~C10)(ヘテロ)シクロアルケニルであって、前記1つ以上の基は、直鎖状、環状若しくは分岐状(C1~C8)アルキル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルケニル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキニルから選択され、この場合Xは単結合であるか、又は直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキレン、直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルケニレン、及び直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルキニレンから選択され、
-未置換の又は1つ以上の基によって置換された多価不飽和又は1価不飽和の多環式化合物であって、前記1つ以上の基は、直鎖状、環状若しくは分岐状(C1~C8)アルキル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルケニル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキニルから選択され、この場合Xは単結合であるか、又は直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキレン、直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルケニレン、及び直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルキニレンから選択され、又は
-未置換の又は1つ以上の基によって置換されたフェニルであって、前記1つ以上の基は、直鎖状、環状若しくは分岐状(C1~C8)アルキル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルケニル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキニルから選択され、この場合Xは単結合であるか、又は直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキレン、直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルケニレン、及び直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルキニレンから選択され、
から選択された基であり、
又はR基のうちの一方が、少なくとも6つの炭素原子の直鎖状若しくは分岐状アルキル、少なくとも6つの炭素原子の直鎖状若しくは分岐状アルケニル、若しくは少なくとも6つの炭素原子の直鎖状若しくは分岐状アルキニル、又は水素原子であって、Xが単結合である場合、他方のR又はR基は、
-未置換の又は1つ以上の基によって置換された(C3~C10)シクロアルキル又は(C3~C10)(ヘテロ)シクロアルキルであって、前記1つ以上の基は、直鎖状、環状若しくは分岐状(C1~C8)アルキル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルケニル、及び直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキニルから選択され、この場合Xは単結合であるか、又は直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキレン、直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルケニレン、及び直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルキニレンから選択され、
-多価不飽和又は1価不飽和の、未置換の又は1つ以上の基によって置換された(C3~C10)シクロアルケニル又は(C3~C10)(ヘテロ)シクロアルケニルであって、前記1つ以上の基は、直鎖状、環状若しくは分岐状(C1~C8)アルキル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルケニル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキニルから選択され、この場合Xは単結合であるか、又は直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキレン、直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルケニレン、及び直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルキニレンから選択され、
-未置換の又は1つ以上の基によって置換された多価不飽和又は1価不飽和の多環式化合物であって、前記1つ以上の基は、直鎖状、環状若しくは分岐状(C1~C8)アルキル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルケニル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキニルから選択され、この場合Xは単結合であるか、又は直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキレン、直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルケニレン、及び直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルキニレンから選択され、又は
-未置換の又は1つ以上の基によって置換されたフェニルであって、前記1つ以上の基は、直鎖状、環状若しくは分岐状(C1~C8)アルキル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルケニル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキニルから選択され、この場合Xは単結合であるか、又は直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキレン、直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルケニレン、及び直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルキニレンから選択され、
から選択され、
ここでw、x、y、zは、構成単位のそれぞれの割合に対応し、
-xは20~90%であり、
-yは0~80%であり、
-wは0~80%であり、
-zは0~60%であり、ただしw+x+y+z=100%であり、y又はwは少なくとも10%である
ことを特徴とする、水溶性の膜タンパク質-両親媒性ビニルポリマーの複合体。
【請求項2】
式Iの前記両親媒性ビニルポリマーにおいて、MはNaであることを特徴とする、請求項1に記載の水溶性の膜タンパク質-両親媒性ビニルポリマーの複合体。
【請求項3】
式Iの前記両親媒性ビニルポリマーにおいて、w及び/又はyが25%以上であることを特徴とする、請求項1に記載の水溶性の膜タンパク質-両親媒性ビニルポリマーの複合体。
【請求項4】
式Iの前記両親媒性ビニルポリマーにおいて、R10がイソプロピル基であることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の水溶性の膜タンパク質-両親媒性ビニルポリマーの複合体。
【請求項5】
式Iの前記両親媒性ビニルポリマーにおいて、xが75%以下であることを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載の水溶性の膜タンパク質-両親媒性ビニルポリマーの複合体。
【請求項6】
式Iの前記両親媒性ビニルポリマーにおいて、w及び/又はyが25%~50%であり、zが0%~40%、好ましくは15%~40%であることを特徴とする、請求項1から5のいずれかに記載の水溶性の膜タンパク質-両親媒性ビニルポリマーの複合体。
【請求項7】
式Iの前記両親媒性ビニルポリマーにおいて、
-R及び/又はRが、請求項1に記載されたものから選択された(C~C)シクロアルキルであるか、又は
-R及び/又はRがフェニルであり、好ましくは該フェニルは、メチル基若しくはエチル基を用いてパラ置換され、
ここでXは単結合であるか、又は直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキレン、直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルケニレン、及び直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルキニレンから選択されることを特徴とする、請求項1から6のいずれかに記載の水溶性の膜タンパク質-両親媒性ビニルポリマーの複合体。
【請求項8】
式Iの前記両親媒性ビニルポリマーにおいて、
-R、R、R、R、R、R、Rが水素原子であり、
-R及び/又はRが(C~C)シクロアルキルであり、かつXは単結合であり、
-R10がイソプロピル基であり、
-xが35%又は50%であり、
-yが25%以上であり、
-wが0%又は25%であり、
-zが0%、15%又は40%であり、ただしw+x+y+z=100%である
ことを特徴とする、請求項1から7のいずれかに記載の水溶性の膜タンパク質-両親媒性ビニルポリマーの複合体。
【請求項9】
前記両親媒性ビニルポリマーが、
【表1】
から選択されることを特徴とする、請求項1から8のいずれかに記載の水溶性の膜タンパク質-両親媒性ビニルポリマーの複合体。
【請求項10】
式Iの前記両親媒性ビニルポリマーが、アフィニティ標識、蛍光プローブ、又は免疫刺激分子をグラフト重合することによって官能化されることを特徴とする、請求項1から9のいずれかに記載の水溶性の膜タンパク質-両親媒性ビニルポリマーの複合体。
【請求項11】
脂質化合物を更に含むことを特徴とする、請求項1から10のいずれかに記載の水溶性の膜タンパク質-両親媒性ビニルポリマーの複合体。
【請求項12】
1つ以上の膜タンパク質が安定化されることを特徴とする、請求項1から11のいずれかに記載の複合体を含む水溶液。
【請求項13】
前記膜タンパク質又は前記膜タンパク質の混合物を含有する、生体膜又は合成膜由来のタンパク質分画が、式Iの前記ビニルポリマーに組み込まれる可溶化及び/又は安定化ステップを含む、請求項12に記載の膜タンパク質溶液を調製する方法。
【請求項14】
前記1つ以上の膜タンパク質が、原核細胞若しくは真核細胞で発現される1つ以上の組み換えタンパク質、及び/又はタンパク質密度が高い特殊化された膜で発現される1つ以上の天然タンパク質であることを特徴とする、請求項13に記載の膜タンパク質溶液又は膜タンパク質の混合物を調製する方法。
【請求項15】
前記タンパク質分画又は前記膜タンパク質の混合物を界面活性剤媒体と結合することによって、前記膜タンパク質又は前記膜タンパク質の混合物を可溶化するステップを最初に含むことを特徴とする、請求項14に記載の膜タンパク質溶液又は膜タンパク質の混合物を調製する方法。
【請求項16】
リン脂質の小胞若しくはリン脂質の混合物の小胞、好ましくは1、2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DMPC)の小胞を用いて、前記膜タンパク質又は前記膜タンパク質の混合物を含有する前記タンパク質分画を融合するステップを最初に含むことを特徴とする、請求項14に記載の膜タンパク質溶液又は膜タンパク質の混合物を調製する方法。
【請求項17】
前記膜タンパク質を含有する前記タンパク質分画の溶液が、ミセル形態の界面活性剤媒体中の膜タンパク質の水溶液でないことを特徴とする、請求項14又は16に記載の膜タンパク質溶液又は膜タンパク質の混合物を調製する方法。
【請求項18】
請求項1から9のいずれかに記載の式Iのポリマーであって、w=0であり、Rが、
-未置換の又は1つ以上の基によって置換された(C3~C10)シクロアルキル又は(C3~C10)(ヘテロ)シクロアルキルであって、前記1つ以上の基は、直鎖状、環状若しくは分岐状(C1~C8)アルキル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルケニル、及び直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキニルから選択され、又は
-未置換の又は1つ以上の基によって置換されたフェニルであって、前記1つ以上の基は、直鎖状、環状若しくは分岐状(C1~C8)アルキル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルケニル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキニルから選択され、
から選択される基であり、
ここでXは単結合であるか、又は直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキレン、直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルケニレン、及び直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルキニレンから選択される、ポリマー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、「アンフィポール」と呼ばれる新たな両親媒性ポリマーに関する。
【背景技術】
【0002】
これらの両親媒性ポリマーは、界面活性剤を使用して膜タンパク質を膜から抽出したときに、水溶液中で膜タンパク質を安定化することができることが最新技術において知られている。
【0003】
膜タンパク質は、細胞ゲノムによってコードされるタンパク質の約30%を占め、多くの重要な細胞機能(シグナリング、分泌、遊走、接着、恒常性、エネルギ産生など)に関与する。膜タンパク質は、モノマー又はオリゴマーであり得る。その膜タンパク質は、膜に組み込まれることにより、膜脂質のアルキル鎖と相互作用する膜貫通部分のαヘリックス又はβシートへと高度に構造化される。
【0004】
膜タンパク質が呈する多数の機能及び酵素活性により、膜タンパク質は薬理的標的又は選択の生物工学的手段となっている。しかしながら、溶液中での膜タンパク質の機能及び構造の研究、並びに治療学的又は生物工学的手段の開発における膜タンパク質の使用は、膜タンパク質の大量生産、精製、及び活性立体構造の維持を伴い、更に膜タンパク質は膜から抽出されると一般に不安定である。このような水溶液中での不安定性は、膜タンパク質の凝集を防ぐために界面活性剤が必要となるので重要である。実際には、これらのタンパク質の膜外ドメインの表面は、主に親水性側鎖を有するアミノ酸で覆われ、またこれらのタンパク質の膜貫通ドメインは疎水性鎖を有するアミノ酸で覆われるため、膜タンパク質は、水分子間の水素結合ネットワークの崩壊を最小限にするために、膜タンパク質の溶液中での凝集を促進する疎水性効果により水に非常に不溶性である。
【0005】
十分な量の膜タンパク質を生成するための多くの方法や、これらの精製(収率は多くの場合に限定される)、可溶化、及び水溶液中での安定化のための化学分子の多くの選択肢が存在する。
【0006】
市販の界面活性剤は、タンパク質を可溶化することができるものの、上述したように、特に界面活性剤の解離力によって、程度の差はあるが急速なタンパク質の変性及び不活性化を引き起こす。更に界面活性剤は、溶液中で界面活性剤の臨界ミセル濃度(CMC)を超える濃度に維持する必要がある。他方では、アンフィポール(特許文献1)などの界面活性剤は、タンパク質を可溶化することができるものの、提供する可溶化特性がかなり低い。アンフィポールは、膜タンパク質を、小さな複合体の形態でその天然の可溶性立体構造に維持することができるものとして定義される、両親媒性ポリマーである(非特許文献1)。最も一般的に使用及び研究されているアンフィポールはA8-35である。これは、オクチルアミン側鎖及びイソプロピルアミン側鎖とグラフト重合したポリアクリル酸バックボーンと、35%のグラフト重合していないカルボン酸基と、25%のオクチル鎖(オクチルアミン)とグラフト重合したカルボン酸誘導体と、40%のイソプロピル基(イソプロピルアミン)とグラフト重合したカルボン酸基とからなる。タイプA8-35アンフィポールは一般に、界面活性剤を用いての膜の事前の可溶化を必要とし、その界面活性剤はその後に、そのCMC下での界面活性剤の希釈(これはタンパク質も希釈するという欠点を有する)又はビーズへのその吸着によって、アンフィポールに置き換えられる。他の両親媒性ポリマーが開発されている。その中で、界面活性剤による事前の可溶化を行わずに膜分画から膜タンパク質を直接可溶化することができるという特徴を示す、SMA(スチレン-マレイン酸コポリマー、特許文献2)及びこれらの誘導体を挙げることができる。しかしながら、合成後に単純に精製されるアンフィポールとは異なり、SMAは、生物工学的用途についてタンパク質のその後の使用を不可能とする不純物を常に含有する。
【0007】
組み換えタンパク質であるかどうかにかかわらず、タンパク質、特に膜タンパク質を精製するための方法は一般に経験的なものであり、特にタンパク質、(微小)生物、又は膜の組成に応じて予測が困難であり、これらの条件下で最も有効な作用剤を特定するために、膜タンパク質を可溶化及び/又は安定化するための様々な作用剤の継続的な試験が広く実施されている。
【0008】
この状況において、高い生物工学的関心の対象である膜タンパク質の生成のための新たな別の手段の提供が望まれる。特に、膜タンパク質の可溶化特性及び安定化特性の両方を有するポリマーが特に有効であり、これは現在存在しない。本発明の対象である新たなアンフィポールは、この要求を満たす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第98/27434号
【特許文献2】国際公開第2011/004158号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Zoonens & Popot、2014年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って本発明は、膜タンパク質を可溶化及び安定化するための新たな化合物を提供することを目的とする。より具体的には、本発明は、膜タンパク質の十分な安定化を可能としながら改善された可溶化特性を有する、新たなアンフィポールの両親媒性ビニルポリマーに関する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的のために、本発明は、式I
【化1】
の両親媒性ビニルポリマーに関し、ここで、
はアルカリ金属であり、好ましくはLi、Na、Kから選択され、
、R、R、Rはそれぞれ独立して、水素原子又はメチル基であり、
、R、Rはそれぞれ独立して、水素原子及び直鎖状又は分岐状(C1~C8)アルキルから選択された基であり、
10は、直鎖状又は分岐状(C1~C5)アルキルから選択された基であり、
及びRはそれぞれ独立して、
-水素(この場合Xは単結合である)、
-少なくとも6つの炭素原子の直鎖状若しくは分岐状アルキル、少なくとも6つの炭素原子の直鎖状若しくは分岐状アルケニル、又は少なくとも6つの炭素原子の直鎖状若しくは分岐状アルキニル(この場合Xは単結合である)、
-未置換の又は1つ以上の基によって置換された(C3~C10)シクロアルキル又は(C3~C10)(ヘテロ)シクロアルキルであって、その1つ以上の基は、直鎖状、環状若しくは分岐状(C1~C8)アルキル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルケニル、及び直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキニルから選択され、この場合Xは単結合であるか、又は直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキレン、直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルケニル、及び直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルキニルから選択され、
-多価不飽和又は1価不飽和の、未置換の又は1つ以上の基によって置換された(C3~C10)シクロアルケニル又は(C3~C10)(ヘテロ)シクロアルケニルであって、その1つ以上の基は、直鎖状、環状若しくは分岐状(C1~C8)アルキル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルケニル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキニルから選択され、この場合Xは単結合であるか、又は直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキレン、直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルケニレン、及び直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルキニレンから選択され、
-未置換の又は1つ以上の基によって置換された多価不飽和又は1価不飽和の多環式化合物であって、その1つ以上の基は、直鎖状、環状若しくは分岐状(C1~C8)アルキル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルケニル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキニルから選択され、この場合Xは単結合であるか、又は直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキレン、直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルケニレン、及び直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルキニレンから選択され、
-未置換の又は1つ以上の基によって置換されたフェニルであって、その1つ以上の基は、直鎖状、環状若しくは分岐状(C1~C8)アルキル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルケニル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキニルから選択され、この場合Xは単結合であるか、又は直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキレン、直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルケニレン、及び直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルキニレンから選択され、
から選択された基であり、
又はR基のうちの一方が、少なくとも6つの炭素原子の直鎖状若しくは分岐状アルキル、少なくとも6つの炭素原子の直鎖状若しくは分岐状アルケニル、少なくとも6つの炭素原子の直鎖状若しくは分岐状アルキニル、又は水素原子であって、Xが単結合である場合、他方のR又はR基は、
-未置換の又は1つ以上の基によって置換された(C3~C10)シクロアルキル又は(C3~C10)(ヘテロ)シクロアルキルであって、その1つ以上の基は、直鎖状、環状若しくは分岐状(C1~C8)アルキル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルケニル、及び直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキニルから選択され、この場合Xは単結合であるか、又は直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキレン、直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルケニレン、及び直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルキニレンから選択され、
-多価不飽和又は1価不飽和の、未置換の又は1つ以上の基によって置換された(C3~C10)シクロアルケニル又は(C3~C10)(ヘテロ)シクロアルケニルであって、その1つ以上の基は、直鎖状、環状若しくは分岐状(C1~C8)アルキル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルケニル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキニルから選択され、この場合Xは単結合であるか、又は直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキレン、直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルケニレン、及び直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルキニレンから選択され、
-未置換の又は1つ以上の基によって置換された多価不飽和又は1価不飽和の多環式化合物であって、その1つ以上の基は、直鎖状、環状若しくは分岐状(C1~C8)アルキル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルケニル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキニルから選択され、この場合Xは単結合であるか、又は直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキレン、直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルケニレン、及び直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルキニレンから選択され、及び
-未置換の又は1つ以上の基によって置換されたフェニルであって、その1つ以上の基は、直鎖状、環状若しくは分岐状(C1~C8)アルキル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルケニル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキニルから選択され、この場合Xは単結合であるか、又は直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキレン、直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルケニレン、及び直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルキニレンから選択され、
から選択され
ここでw、x、y、zは、構成単位のそれぞれの割合に対応し、
-xは20~90%であり、
-yは0~80%であり、
-wは0~80%であり、
-zは0~60%であり、ただしw+x+y+z=100%であり、y又はwは少なくとも10%である。
ある任意の特徴によると、式Iの両親媒性ビニルポリマーは、w=0であり、Rが次から選択される基であるようにされる。
-未置換の又は1つ以上の基によって置換された(C3~C10)シクロアルキル又は(C3~C10)(ヘテロ)シクロアルキルであって、その1つ以上の基は、直鎖状、環状若しくは分岐状(C1~C8)アルキル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルケニル、及び直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキニルから選択され、
-未置換の又は1つ以上の基によって置換されたフェニルであって、その1つ以上の基は、直鎖状、環状若しくは分岐状(C1~C8)アルキル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルケニル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキニルから選択され、
ここでXは単結合であるか、又は直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキレン、直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルケニレン、及び直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルキニレンから選択される。
【0013】
他の任意の特徴によると、式Iの両親媒性ビニルポリマーは次のようにされる。
-R及び/又はRが、上記で特定された(C6~C8)シクロアルキルであり、又は
-R及び/又はRがフェニルであり、好ましくはそのフェニルは、メチル基若しくはエチル基を用いてパラ置換され、
ここでXは単結合であるか、又は直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキレン、直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルケニレン、及び直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルキニレンから選択される。
【0014】
他の任意の特徴によると、式Iの両親媒性ビニルポリマーは次のようにされる。
-R及び/又はRが、上記で特定された(C6~C8)シクロアルキルであり、ここでXは好ましくは単結合若しくはCH2であり、
-R及び/又はRがフェニルであり、好ましくはそのフェニルはメチル基若しくはチル基を用いてパラ置換され、ここでXは単結合であり、又は
-R及び/又はRがスチレニル基であり、ここでXは単結合である。
【0015】
他の任意の特徴によると、式Iの両親媒性ビニルポリマーは次のようにされる。
-金属MがNaであるか、
-R10がイソプロピル基であるか、
-xが75%以下であるか、
-w及び/又はyが25%以上であるか、
-w及び/又はyが25%~50%であり、zが0%~40%、好ましくは15%~40%であり、又は
-アフィニティ標識、蛍光プローブ、又は免疫刺激分子をグラフト重合することによって官能化される。
【0016】
別の任意の特徴によると、式Iのビニルポリマーは次のようにされる。
-R、R、R、R、R、R、Rが水素原子であり、
-R及び/又はRが(C~C)シクロアルキルであり、かつXは単結合であり、
-R10がイソプロピル基であり、
-xが35%又は50%であり、
-yが25%以上であり、
-wが0%又は25%であり、
-zが0%、15%又は40%であり、ただしw+x+y+z=100%である。
【0017】
別の任意の特徴によると、式Iのビニルポリマーは、表1に列挙した化合物から選択される。
【0018】
本発明のビニルポリマーはアンフィポールであり、換言すると本発明のビニルポリマーは、膜タンパク質を、小さな複合体の形態で、その天然の立体構造で可溶性に維持することができる。従って、別の側面では、本発明は、i)膜タンパク質又は膜タンパク質の混合物及びii)上述のような少なくとも1つの両親媒性ビニルポリマー化合物で形成される、水溶性複合体に関する。
【0019】
ある任意の特徴によると、このようにして形成された水溶性複合体は、脂質化合物を更に含むようにされる。
【0020】
更に、本発明のポリマーは、膜タンパク質を水溶液中で安定化することができる。従って、本発明の目的は、i)膜タンパク質又は膜タンパク質の混合物と、ii)本発明の少なくとも1つの両親媒性ビニルポリマー化合物とで形成され、その両親媒性ビニルポリマー化合物中において上記膜タンパク質が水溶液中で安定化される、水溶性複合体である。従って本発明の別の目的は、このような複合体を含む溶液である。
【0021】
本発明はまた、1つ以上の膜タンパク質の水溶液を調製する方法に関する。その方法は、上記膜タンパク質又は上記膜タンパク質の混合物を含有する、生体膜又は合成膜由来のタンパク質分画が、上述のようなビニルポリマーと結合される、可溶化及び/又は安定化ステップを含む。
【0022】
任意の特徴によると、この方法は次のようである。
-上記1つ以上の膜タンパク質が、原核細胞若しくは真核細胞で発現される組み換えタンパク質、及び/又はタンパク質密度が高い特殊化された膜で発現される天然タンパク質であるか、
-上記膜タンパク質又は上記膜タンパク質の混合物を可溶化するステップが、界面活性剤媒体を用いて予め実施されるか、
-上記膜タンパク質又は上記膜タンパク質の混合物を含有する上記タンパク質分画を融合するステップが、リン脂質の小胞若しくはリン脂質の混合物の小胞、好ましくは1、2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DMPC)の小胞を用いて予め実施されるか、又は
-上記膜タンパク質を含有する上記タンパク質分画の溶液が、ミセル形態の界面活性剤媒体中の上記1つ以上の膜タンパク質の溶液でない。
【0023】
本発明の膜タンパク質-アンフィポール複合体は、これらのタンパク質をその天然形態で可溶化及び安定化することができることにより、これらのタンパク質の生物工学的利用を可能とする。従って、本発明の複合体を、試薬キット、特に本発明の少なくとも1つの複合体を免疫学的試薬として含む診断キットでの試薬として使用することもまた、本発明の目的である。また、本発明の複合体は、診断又は活性測定のために、本発明のアンフィポールによって上述のように精製及び可溶化された上記膜タンパク質の活性を利用する装置に付随されることができる。
【0024】
本発明の他の利点及び特徴は、添付の図面を参照して、説明のための非限定的な例として与えられる以下の説明を読むことで明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明のアンフィポール、A8-35、及びこれらのバクテリオロドプシン(BR)との複合体で形成された粒子の立体排除クロマトグラフィ分析である。V=死容量、V=全容量。
図2】遠心分離前(黒色のバー)又は遠心分離後(灰色のバー)の、BRと本発明のアンフィポールの複合体形成
図3】様々な環境におけるBRの熱変性
図4】DMPC小胞との融合前(A)又は融合後(B)のハロバクテリウム・サリナルムの紫膜のA8-35、SMA、又は本発明のアンフィポールでの可溶化
図5】DMPC小胞に予め融合された紫膜からA8-35、SMA、又は本発明のポリマーによって抽出したBRの定量化(A)、及び50℃での6時間の培養後のこれらの複合体の熱安定性の分析(B)。各実験の最初及び最後に測定された吸光度値の比が報告されている。
図6】紫膜の抽出。(A)DMPC小胞に予め融合された紫膜のBRのA8-35、SMA、又は本発明のポリマーによる可溶化の定量化(灰色のバー)及び熱安定性(黒色のバー)であり、各条件で少なくとも3回実施した+/-SD値を伴う。(B)50℃での6時間の培養により、SMA又はポリマー19及び23で形成された複合体の熱不安定化反応速度。554nmで測定した吸光度値は、試料の培養前に測定したものを用いて正規化された。
図7】SMA、本発明のポリマー、又はDDMの存在下における、大腸菌の形質膜で過剰発現されたYidC-GFPタンパク質の可溶化反応速度。(A)YidC膜タンパク質に融合されたGFPの蛍光を明らかにする電気泳動ゲルの写真、及び(B)1時間の培養後にDDMの存在下で測定された蛍光を基準とした、ゲルの画像からの蛍光定量化のグラフ表示
図8】A8-35、SMA、及び本発明のアンフィポールでのシビレエイのAChRを多く含む膜の可溶化。各条件の上清(S)及びペレット(C)に対応する試料をアクリルアミドゲル上にプレーティングし、アクリルアミドゲルは泳動後にクマシーブルーで染色した。矢印は、シビレエイのAchRサブユニット及びNa/KATPaseに対応するバンドの位置を示す。ペレット中に存在するタンパク質は可溶化されず、上清中のタンパク質が可溶化されたタンパク質に相当する。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、水性媒体中での膜タンパク質の可溶化及び安定化を可能とする新たなアンフィポールに関する。特に、本発明の新たなアンフィポールは、膜タンパク質の可溶化に使用される基準ポリマーに比べて、改善された可溶化及び/又は安定化特性を有する。そして膜タンパク質と形成される複合体は、これらの膜タンパク質の生物工学的利用及び研究に特に適している。
【0027】
以下の記載では、用語「アンフィポール」は、膜タンパク質を、小さな複合体の形態で、その天然の立体構造で可溶性に維持することができるビニルポリマーを指す。
【0028】
用語「ビニル」は、その一般的な意味において、アクリルポリマーを包含する。
【0029】
用語「膜タンパク質」は、単数形又は複数形で互換的に使用され、それは膜タンパク質の混合物を包含し、又は実質的に単一タイプのタンパク質を含む調製物を包含する。本発明の意味において、膜タンパク質は、膜をその両側で通過し、従って少なくとも1つの膜貫通ドメインを含むタンパク質であり、又は膜と相互に作用する少なくとも1つの疎水性ドメインを含むタンパク質である。膜タンパク質は、補因子と結合した又はしていない、モノマー又はオリゴマーであり得る。
【0030】
本発明の意味において、「安定化された」膜タンパク質は、天然立体構造、及び好ましくはその生物学的活性の少なくとも一部を(たとえこの活性が一時的に遮断される場合があっても)保持する、可溶化された膜タンパク質に相当する。
【0031】
本発明の意味において、用語「特殊化された膜」は、例えばミトコンドリアのクリステ、葉緑体のチラコイド、小胞体又は筋小胞体などの真核細胞のオルガネラを包含する。「特殊化された膜」はまた、一体となっているかどうかにかかわらず、少なくとも50%の膜タンパク質、又は少なくとも60%、又は少なくとも70%の膜タンパク質を含む、タンパク質密度が高い膜も包含し、これは例えば、細菌ハロバクテリウム・サリナルムの紫膜(最高75%のバクテリオロドプシンを含み得る)であり、残部は脂質又は他の分子を含む。
【0032】
本発明の意味において、用語「生体膜」は、細菌、菌類、真核細胞などの細胞又は生物から抽出された又はそれら由来のいずれかの脂質膜を意味する。語句「合成生体膜」は、合成の脂質又は天然に発生する脂質を用いて再構成、組み換え、又は修飾されたいずれかの脂質膜を意味する。従って例えば、限定するものではないが、合成膜は、1つ以上の合成脂質が添加された、生物から抽出された脂質膜;合成脂質から作られた膜;又は意図的に混合された天然脂質及び/若しくは合成脂質から再構成された脂質膜に相当し得る。
【0033】
本発明の意味において、用語「タンパク質分画」は、求められる又は分析される膜タンパク質を含有する細胞分画を含む。従ってそれは、程度の差はあるが清澄及び/又は精製された細胞ホモジネートであり得る。膜タンパク質の場合、用語「タンパク質分画」は特に、膜分画又は細胞コンパートメントに相当する分画などのこのホモジネートの分画を指す。
【0034】
従って本発明は、式I
【化2】
の両親媒性ビニルポリマーに関し、ここで、
はアルカリ金属であり、好ましくはLi、Na、Kから選択され、
、R、R、Rはそれぞれ独立して、水素原子又はメチル基であり、
、R、Rはそれぞれ独立して、水素原子及び直鎖状又は分岐状(C1~C8)アルキルから選択された基であり、
10は、直鎖状又は分岐状(C1~C5)アルキルから選択された基であり、
及びRはそれぞれ独立して、
-水素(この場合Xは単結合である)、
-少なくとも6つの炭素原子の直鎖状若しくは分岐状アルキル、少なくとも6つの炭素原子の直鎖状若しくは分岐状アルケニル、又は少なくとも6つの炭素原子の直鎖状若しくは分岐状アルキニル(この場合Xは単結合である)、
-未置換の又は1つ以上の基によって置換された(C3~C10)シクロアルキル又は(C3~C10)(ヘテロ)シクロアルキルであって、その1つ以上の基は、直鎖状、環状若しくは分岐状(C1~C8)アルキル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルケニル、及び直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキニルから選択され、この場合Xは単結合であるか、又は直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキレン、直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルケニレン、及び直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルキニレンから選択され、
-多価不飽和又は1価不飽和の、未置換の又は1つ以上の基によって置換された(C3~C10)シクロアルケニル又は(C3~C10)(ヘテロ)シクロアルケニルであって、その1つ以上の基は、直鎖状、環状若しくは分岐状(C1~C8)アルキル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルケニル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキニルから選択され、この場合Xは単結合であるか、又は直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキレン、直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルケニレン、及び直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルキニレンから選択され、
-未置換の又は1つ以上の基によって置換された多価不飽和又は1価不飽和の多環式化合物であって、その1つ以上の基は、直鎖状、環状若しくは分岐状(C1~C8)アルキル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルケニル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキニルから選択され、この場合Xは単結合であるか、又は直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキレン、直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルケニレン、及び直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルキニレンから選択され、又は
-未置換の又は1つ以上の基によって置換されたフェニルであって、その1つ以上の基は、直鎖状、環状若しくは分岐状(C1~C8)アルキル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルケニル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキニルから選択され、この場合Xは単結合であるか、又は直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキレン、直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルケニレン、及び直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルキニレンから選択され、
から選択された基であり、
又はR基のうちの一方が、少なくとも6つの炭素原子の直鎖状若しくは分岐状アルキル、少なくとも6つの炭素原子の直鎖状若しくは分岐状アルケニル、少なくとも6つの炭素原子の直鎖状若しくは分岐状アルキニル、又は水素原子であって、Xが単結合である場合、他方のR3又はR7基は、
-未置換の又は1つ以上の基によって置換された(C3~C10)シクロアルキル又は(C3~C10)(ヘテロ)シクロアルキルであって、その1つ以上の基は、直鎖状、環状若しくは分岐状(C1~C8)アルキル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルケニル、及び直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキニルから選択され、この場合Xは単結合であるか、又は直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキレン、直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルケニレン、及び直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルキニレンから選択され、
-多価不飽和又は1価不飽和の、未置換の又は1つ以上の基によって置換された(C3~C10)シクロアルケニル又は(C3~C10)(ヘテロ)シクロアルケニルであって、その1つ以上の基は、直鎖状、環状若しくは分岐状(C1~C8)アルキル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルケニル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキニルから選択され、この場合Xは単結合であるか、又は直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキレン、直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルケニレン、及び直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルキニレンから選択され、
-未置換の又は1つ以上の基によって置換された多価不飽和又は1価不飽和の多環式化合物であって、その1つ以上の基は、直鎖状、環状若しくは分岐状(C1~C8)アルキル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルケニル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキニルから選択され、この場合Xは単結合であるか、又は直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキレン、直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルケニレン、及び直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルキニレンから選択され、又は
-未置換の又は1つ以上の基によって置換されたフェニルであって、その1つ以上の基は、直鎖状、環状若しくは分岐状(C1~C8)アルキル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルケニル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキニルから選択され、この場合Xは単結合であるか、又は直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキレン、直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルケニレン、及び直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルキニレンから選択され、
から選択され、
ここでw、x、y、zは、構成単位のそれぞれの割合に対応し、
-xは20~90%であり、
-yは0~80%であり、
-wは0~80%であり、
-zは0~60%であり、ただしw+x+y+z=100%であり、y又はwは少なくとも10%である。
【0035】
先の段落の規定から、R及びR基のうちの一方が、少なくとも6つの炭素原子の直鎖状若しくは分岐状アルキル、少なくとも6つの炭素原子の直鎖状若しくは分岐状アルケニル、又は少なくとも6つの炭素原子の直鎖状若しくは分岐状アルキニル、あるいは水素原子であり、ここでXは単結合であり、他方のR又はR基は上記で特定及び規定された通りである場合、w及びyは0でないことは明らかである。
【0036】
ある特定の実施形態では、式Iのポリマーは次のようにされる。
はアルカリ金属であり、好ましくはLi、Na、Kから選択され、
、R、R、Rはそれぞれ独立して、水素原子又はメチル基であり、
、R、Rはそれぞれ独立して、水素原子及び直鎖状又は分岐状(C1~C8)アルキルから選択された基であり、
10は、直鎖状又は分岐状(C1~C5)アルキルから選択された基であり、
及び/又はRはそれぞれ独立して、
-未置換の又は1つ以上の基によって置換された(C3~C10)シクロアルキル又は(C3~C10)(ヘテロ)シクロアルキルであって、その1つ以上の基は、直鎖状、環状若しくは分岐状(C1~C8)アルキル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルケニル、及び直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキニルから選択され、この場合Xは単結合であるか、又は直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキレン、直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルケニレン、及び直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルキニレンから選択され、
-多価不飽和又は1価不飽和の、未置換の又は1つ以上の基によって置換された(C3~C10)シクロアルケニル又は(C3~C10)(ヘテロ)シクロアルケニルであって、その1つ以上の基は、直鎖状、環状若しくは分岐状(C1~C8)アルキル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルケニル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキニルから選択され、この場合Xは単結合であるか、又は直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキレン、直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルケニレン、及び直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルキニレンから選択され、
-未置換の又は1つ以上の基によって置換された多価不飽和又は1価不飽和の多環式化合物であって、その1つ以上の基は、直鎖状、環状若しくは分岐状(C1~C8)アルキル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルケニル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキニルから選択され、この場合Xは単結合であるか、又は直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキレン、直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルケニレン、及び直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルキニレンから選択され、
-未置換の又は1つ以上の基によって置換されたフェニルであって、その1つ以上の基は、直鎖状、環状若しくは分岐状(C1~C8)アルキル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルケニル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキニルから選択され、この場合Xは単結合であるか、又は直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキレン、直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルケニレン、及び直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルキニレンから選択され、
から選択された基であり、
ここでw、x、y、zは、構成単位のそれぞれの割合に対応し、
-xは20~90%であり、
-yは0~80%であり、
-wは0~80%であり、
-zは0~60%であり、ただしw+x+y+z=100%であり、y又はwは少なくとも10%である。
【0037】
ある特定の実施形態では、式Iのポリマーは次のようにされる。
はアルカリ金属であり、好ましくはLi、Na、Kから選択され、
、R、R、Rはそれぞれ独立して、水素原子又はメチル基であり、
、R、Rはそれぞれ独立して、水素原子及び直鎖状又は分岐状(C1~C8)アルキルから選択された基であり、
10は、直鎖状又は分岐状(C1~C5)アルキルから選択された基であり、
及びRはそれぞれ独立して、
-水素(この場合Xは単結合である)、
-少なくとも6つの炭素原子の直鎖状若しくは分岐状アルキル、少なくとも6つの炭素原子の直鎖状若しくは分岐状アルケニル、又は少なくとも6つの炭素原子の直鎖状若しくは分岐状アルキニル(この場合Xは単結合である)、
-未置換の又は1つ以上の基によって置換された(C3~C10)シクロアルキル又は(C3~C10)(ヘテロ)シクロアルキルであって、その1つ以上の基は、直鎖状、環状若しくは分岐状(C1~C8)アルキル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルケニル、及び直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキニルから選択され、この場合Xは単結合であるか、又は直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキレン、直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルケニレン、及び直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルキニレンから選択され、
-多価不飽和又は1価不飽和の、未置換の又は1つ以上の基によって置換された(C3~C10)シクロアルケニル又は(C3~C10)(ヘテロ)シクロアルケニルであって、その1つ以上の基は、直鎖状、環状若しくは分岐状(C1~C8)アルキル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルケニル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキニルから選択され、この場合Xは単結合であるか、又は直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキレン、直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルケニレン、及び直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルキニレンから選択され、
-未置換の又は1つ以上の基によって置換されたフェニルであって、その1つ以上の基は、直鎖状、環状若しくは分岐状(C1~C8)アルキル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルケニル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキニルから選択され、この場合Xは単結合であるか、又は直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキレン、直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルケニレン、及び直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルキニレンから選択され、
から選択された基であり、
又はR基のうちの一方が、少なくとも6つの炭素原子の直鎖状若しくは分岐状アルキル、少なくとも6つの炭素原子の直鎖状若しくは分岐状アルケニル、少なくとも6つの炭素原子の直鎖状若しくは分岐状アルキニル、又は水素原子であって、Xが単結合である場合、他方のR3又はR7基は、
-未置換の又は1つ以上の基によって置換された(C3~C10)シクロアルキル又は(C3~C10)(ヘテロ)シクロアルキルであって、その1つ以上の基は、直鎖状、環状若しくは分岐状(C1~C8)アルキル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルケニル、及び直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキニルから選択され、この場合Xは単結合であるか、又は直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキレン、直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルケニレン、及び直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルキニレンから選択され、
-多価不飽和又は1価不飽和の、未置換の又は1つ以上の基によって置換された(C3~C10)シクロアルケニル又は(C3~C10)(ヘテロ)シクロアルケニルであって、その1つ以上の基は、直鎖状、環状若しくは分岐状(C1~C8)アルキル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルケニル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキニルから選択され、この場合Xは単結合であるか、又は直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキレン、直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルケニレン、及び直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルキニレンから選択され、又は
-未置換の又は1つ以上の基によって置換されたフェニルであって、その1つ以上の基は、直鎖状、環状若しくは分岐状(C1~C8)アルキル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルケニル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキニルから選択され、この場合Xは単結合であるか、又は直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキレン、直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルケニレン、及び直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルキニレンから選択され、
から選択され
ここでw、x、y、zは、構成単位のそれぞれの割合に対応し、
-xは20~90%であり、
-yは0~80%であり、
-wは0~80%であり、
-zは0~60%であり、ただしw+x+y+z=100%であり、y又はwは少なくとも10%である。
【0038】
ある特定の実施形態では、R及び/又はRは、少なくとも6つの炭素原子の直鎖状若しくは分岐状アルキル、少なくとも6つの炭素原子の直鎖状若しくは分岐状アルケニル、又は少なくとも6つの炭素原子の直鎖状若しくは分岐状アルキニルから選択された基であり、ここでXは単結合である場合に、上記アルキル、アルケニル、又はアルキニルは、18個未満、17個未満、16個未満、15個未満、14個未満、13個未満、12個未満、11個未満、10個未満、9個未満、8個未満、又は7個未満の炭素原子を有する。
【0039】
本発明のアンフィポールの平均モル質量は、100,000g・mol-1未満、好ましくは2000~50,000g・mol-1である。
【0040】
以下は本発明の実施形態であり、それらはそれらの中の別の1つ又はいくつかと組み合わされても、組み合わされなくてもよい。
【0041】
ある特定の実施形態では、MはNaである。
【0042】
ある特定の実施形態では、y及び/又はwは25%以上である。実際には、実験の項で示されるように、この割合でグラフト重合したポリマーは特に有効である。
【0043】
ある特定の実施形態では、R、R、Rは水素である。
【0044】
ある特定の実施形態では、w=0であり、Rは、未置換の又は1つ以上の基によって置換された(C3~C10)シクロアルキル又は(C3~C10)(ヘテロ)シクロアルキルから選択された基であって、その1つ以上の基は、直鎖状、環状若しくは分岐状(C1~C8)アルキル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルケニル、及び直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキニルから選択され、この場合Xは単結合であるか、又は直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキレン、直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルケニレン、及び直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルキニレンから選択される。好ましくは、Xは単結合であり、Rは、C6シクロアルキル、好ましくはC7シクロアルキル、より好ましくはC8シクロアルキルである。あるいは、Xは直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキレン、好ましくはメチル又はエチルである。
【0045】
別の特定の実施形態では、w=0であり、Rは、未置換の又は1つ以上の基によって置換されたフェニルであり、その1つ以上の基は、直鎖状、環状若しくは分岐状(C1~C8)アルキル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルケニル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキニルから選択され、この場合Xは単結合であるか、又は直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキレン、直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルケニレン、及び直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルキニレンから選択される。好ましくは、Xは単結合であり、上記フェニルはパラ置換されている。より好ましくは一置換の場合、上記フェニルはC1~C8直鎖状アルキルを用いてパラ置換され、更に好ましくは、そのパラ直鎖状アルキルはメチル基又はエチル基から選択される。
【0046】
一実施形態では、w=0であり、Rは、未置換の又は1つ以上の基によって置換されたフェニルであり、その1つ以上の基は、直鎖状、環状若しくは分岐状(C1~C8)アルキル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルケニル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキニルから選択され、Xは、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキレン、好ましくはC1アルキレン又はC2アルキレンから選択される。
【0047】
ある特定の実施形態では、w及びyは0でなく、R及びRは互いに独立して、
-未置換の又は1つ以上の基によって置換された(C3~C10)シクロアルキル又は(C3~C10)(ヘテロ)シクロアルキルであって、その1つ以上の基は、直鎖状、環状若しくは分岐状(C1~C8)アルキル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルケニル、及び直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキニルから選択され、この場合Xは単結合であるか、又は直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキレン、直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルケニレン、及び直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルキニレンから選択され、
-多価不飽和又は1価不飽和の、未置換の又は1つ以上の基によって置換された(C3~C10)シクロアルケニル又は(C3~C10)(ヘテロ)シクロアルケニルであって、その1つ以上の基は、直鎖状、環状若しくは分岐状(C1~C8)アルキル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルケニル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキニルから選択され、この場合Xは単結合であるか、又は直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキレン、直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルケニレン、及び直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルキニレンから選択され、
-未置換の又は1つ以上の基によって置換された多価不飽和又は1価不飽和の多環式化合物であって、その1つ以上の基は、直鎖状、環状若しくは分岐状(C1~C8)アルキル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルケニル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキニルから選択され、この場合Xは単結合であるか、又は直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキレン、直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルケニレン、及び直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルキニレンから選択され、又は
-未置換の又は1つ以上の基によって置換されたフェニルであって、その1つ以上の基は、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルケニル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキニルから選択され、この場合Xは単結合であるか、又は直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキレン、直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルケニレン、及び直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルキニレンから選択され、
であり、
好ましくは、R及びRは互いに独立して、
-C6シクロアルキル、好ましくはC7シクロアルキル、より好ましくはC8シクロアルキル、
-フェニルであって、より好ましくは一置換の場合に直鎖状C1~C8アルキルによってパラ置換され、より好ましくはパラ位置にあるその直鎖状アルキルは、メチル基又はエチル基から選択され、この場合Xは単結合であり、又は
-未置換の又は1つ以上の基によって置換されたフェニルであって、その1つ以上の基は、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキル、直鎖状、環状若しくは分岐状(C1~C8)アルケニル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキニルから選択された1つ以上の基によって置換され、Xは、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキレン、好ましくはC1アルキレン又はC2アルキレンから選択され、
であり、
より好ましくは、R及びRは互いに異なる。
【0048】
別の特定の実施形態では、R3及び/又はR7は、未置換の又は1つ以上の基によって置換された(C3~C10)シクロアルキル又は(C3~C10)(ヘテロ)シクロアルキルから選択された基であり、その1つ以上の基は、直鎖状、環状若しくは分岐状(C1~C8)アルキル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルケニル、及び直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキニルから選択され、この場合Xは単結合であるか、又は直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキル、好ましくはメチル又はエチルから選択される。
【0049】
別の特定の実施形態では、R及び/又はRは、未置換の又は1つ以上の基によって置換されたフェニルであり、その1つ以上の基は、直鎖状、環状若しくは分岐状(C1~C8)アルキル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルケニル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキニルから選択され、この場合Xは単結合であるか、又は直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキレン、好ましくはメチル又はエチルから選択される。好ましくは、Xは単結合であり、上記フェニルはパラ置換されている。より好ましくは一置換の場合、上記フェニルはC1~C8直鎖状アルキルを用いてパラ置換され、より好ましくは、そのパラ直鎖状アルキルはメチル基又はエチル基から選択される。
【0050】
別の実施形態では、zは0でなく、好ましくはR10はその場合にイソプロピル基であり、より好ましくはR10はイソプロピル基であって、R及び/又はRを含む構成単位に関して、Xは、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキレン、直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルケニレン、及び直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルキニレンから選択され、R3及び/又はR7は、
-未置換の又は1つ以上の基によって置換された(C3~C10)シクロアルキル又は(C3~C10)(ヘテロ)シクロアルキルであって、その1つ以上の基は、直鎖状、環状若しくは分岐状(C1~C8)アルキル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルケニル、及び直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキニルから選択され、
-多価不飽和又は1価不飽和の、未置換の又は1つ以上の基によって置換された(C3~C10)シクロアルケニル又は(C3~C10)(ヘテロ)シクロアルケニルであって、その1つ以上の基は、直鎖状、環状若しくは分岐状(C1~C8)アルキル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルケニル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキニルから選択され、
-未置換の又は1つ以上の基によって置換された多価不飽和又は1価不飽和の多環式化合物であって、その1つ以上の基は、直鎖状、環状若しくは分岐状(C1~C8)アルキル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルケニル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキニルから選択され、又は
-未置換の又は1つ以上の基によって置換されたフェニルであって、その1つ以上の基は、直鎖状、環状若しくは分岐状(C1~C8)アルキル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルケニル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキニルから選択され、
から選択される。
【0051】
ある特定の実施形態では、式Iの両親媒性ビニルポリマーは、以下の表1に列挙された化合物から選択され、ここでMはアルカリ金属であり、好ましくはLi、Na、Kから選択され、ある特定の実施形態では、MはNaである。
【表1】
【0052】
上述の通り、本発明のビニルポリマー中において、種々の構成単位の割合w、x、y、及びzは、w+x+y+z=100%であることを条件として変動し得る。そこでは、その割合はプラス又はマイナスでの10%の精度で特定される。従って、例えばある構成単位に関する割合が50%と指定されている場合、この構成単位は本発明のポリマーにおいて45%~55%で存在し得ることが理解される。
【0053】
ある特定の実施形態では、xは75%以下である。
【0054】
別の実施形態では、w及び/又はyは25%~50%であり、zは0%~40%、好ましくは15%~40%である。
【0055】
ある特定の実施形態では、w+yは25%以上、好ましくは50%未満である。
【0056】
別の特定の実施形態では、本発明によるポリマーは、以下の表2で特定されている割合w、x、y、及びzを有する表1の化合物から選択される。
【表2】
【0057】
実験の項において実証されるように、本発明の化合物である両親媒性ビニルポリマーは、特にA8-35又はSMAなどの他のポリマーに比べて、膜タンパク質の可溶化及び安定化に特に適した新たなアンフィポールである。そして、膜タンパク質を用いて形成される複合体は、膜タンパク質の研究及びこれらのタンパク質の生物工学的利用に関して、特に関心の対象である。タンパク質のその天然状態での安定化及び/又はその活性の少なくとも部分的な維持は、これらの用途には必須であるが、実験の項において実証されるように、本発明のポリマーは膜タンパク質の可溶化及びこの安定化を可能にする。特に、可溶化は界面活性剤を用いずに実施されることができ、これは特に利点がある。
【0058】
本発明の複合体中での膜タンパク質の種類に関する制限はない。生命工学的観点から、病理に関連することが知られている膜タンパク質、薬剤の標的としての膜タンパク質、又は免疫原性である可能性が高い膜タンパク質が特に好ましい。
【0059】
従って、可能性のあるこれらの複合体の用途は、例えば次のものである。
-液体又は固体媒体でのNMR、電子顕微鏡検査、
-診断:可溶性の、又はリンパ球によって搬送される、循環抗体の探索、
-ワクチン接種又は抗体産生:免疫原としての膜タンパク質の提示、
-膜タンパク質が酵素である場合の膜タンパク質の酵素活性の検出/使用、
-薬理学における、薬学的関心の対象である分子に対する細胞受容体の親和性の測定
【0060】
この観点から、官能化された本発明のポリマーは特に利点がある。当業者は、本発明のポリマーの使用目的に関連する官能化手段を特定することができるであろう。一例として、限定するものではないが、そのような手段はLe Bon他(2014年)によって示されたものから選択されることができる。
【0061】
上述の通り、本発明の目的は、本出願に記載されているような本発明のポリマーと、膜タンパク質とによって形成される複合体である。ある特定の実施形態では、上述の用途のために、本発明の複合体は、水溶液中に、凍結乾燥形態で、又は本発明のポリマーに対してグラフト重合される官能基によってマトリックスで固定化されて若しくは表面に固定化されて存在することができる。
【0062】
当業者は、膜タンパク質の十分な可溶化及び/又は安定化を得るための、本発明のポリマーと膜タンパク質の間の最適な質量比を実験的に定める方法を分かるであろう。アンフィポールA8-35についての界面活性剤交換の特定の実施形態では、タンパク質:アンフィポール比は、1:0.1~1:10、好ましくは1:1~1:7.5、より好ましくは1:1.5~1:5である。
【0063】
実験の項で説明されるように、これらの化合物はアンフィポールであり、これらはタンパク質の安定性に、従って活性に悪影響を及ぼすことが知られている界面活性剤を使用することなく、膜タンパク質を安定化及び/又は可溶化することができる。従って有利には、一実施形態では、この複合体は界面活性剤を実質的に含まない。
【0064】
別の実施形態では、本発明の水溶性複合体は、脂質、又は脂質の混合物を含む。これらは、実験の項に記載されているように膜タンパク質を希釈するのに有用である場合があり、又はこれらは、複合体内の可溶化及び安定化された膜タンパク質が由来する生物若しくはオルガネラの膜に由来するものであり得る。ある特定の実施形態では、上記脂質は、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DMPC)である。
【0065】
効果的には、水溶性複合体は、実験の項で提示されているバクテリオロドプシンの可溶化及び安定化に関する実験によって示されているように、膜タンパク質に関連する多量体タンパク質の全てのサブユニット又はいずれかの補因子を含んでもよい。
【0066】
上述の通り、本発明は、本発明のポリマーとの複合体中に存在する1つ以上の安定化された膜タンパク質の水溶液を調製する方法にも関する。
【0067】
A8-35などの従来技術のアンフィポールとの膜タンパク質複合体を調製する方法は、従来技術において公知であり、この方法は、膜タンパク質を界面活性剤媒体と組み合わせることによる、膜タンパク質の事前の可溶化を含む。その方法はこれに続いて、その界面活性剤の濃度を臨界ミセル濃度未満の濃度まで低下させることによって、その界面活性剤をアンフィポールで置換するステップを含む。界面活性剤の濃度の低下は、希釈、例えばBio-Beads(登録商標)SM-2への界面活性剤の吸着、透析、分子ふるいでの分離、又は勾配によってなされることができる。しかしながら、この追加のステップは、通常は膜タンパク質含有複合体の収率又は最終濃度を犠牲にして行われる。
【0068】
本発明の新たなアンフィポールは、界面活性剤調製物を用いたこの事前の可溶化ステップなしに、膜タンパク質を可溶化する能力を有する。従って本発明の目的は、膜タンパク質の可溶化及び/又は安定化のための、本発明のポリマーの使用である。
【0069】
別の特定の実施形態では、本発明による膜タンパク質溶液又は膜タンパク質の混合物を調製する方法は、界面活性剤調製物を用いた溶解のステップを含まず、可溶化は本発明のポリマーのうちの1つを用いて行われる。更なる特定の実施形態では、そのポリマーは、次のようにして選択された式Iのポリマーから選択される。
-w=0であり、Rは、未置換の又は1つ以上の基によって置換された(C3~C10)シクロアルキル又は(C3~C10)(ヘテロ)シクロアルキルから選択された基であって、その1つ以上の基は、直鎖状、環状若しくは分岐状(C1~C8)アルキル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルケニル、及び直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキニルから選択され、ここでXは単結合であるか、又は直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキレン、直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルケニレン、及び直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルキニレンから選択される。好ましくは、Xは単結合であり、RはC6シクロアルキル、好ましくはC7シクロアルキル、より好ましくはC8シクロアルキルである、
-w=0であり、Rは、未置換の又は1つ以上の基によって置換されたフェニルであり、その1つ以上の基は、直鎖状、環状若しくは分岐状(C1~C8)アルキル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルケニル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキニルから選択され、ここでXは単結合であるか、又は直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキレン、直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルケニレン、及び直鎖状若しくは分岐状(C2~C8)アルキニレンから選択される。好ましくは、Xは単結合であり、上記フェニルはパラ置換されている。より好ましくは一置換の場合、上記フェニルはC1~C8直鎖状アルキルを用いてパラ置換され、更に好ましくは、そのパラ直鎖状アルキルはメチル基又はエチル基から選択される。
【0070】
一実施形態では、w=0であり、R7は、未置換の又は1つ以上の基によって置換されたフェニルであり、その1つ以上の基は、直鎖状、環状若しくは分岐状(C1~C8)アルキル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルケニル、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキニルから選択され、Xは、直鎖状若しくは分岐状(C1~C8)アルキレン、好ましくはC1アルキレン又はC2アルキレンから選択される。
【0071】
本発明のアンフィポールは、前駆体としてポリアクリル酸を有する。従って、本発明のアンフィポールの合成は、Gohon他(2006年)に記載されている他のアンフィポールの合成に極めて類似している。上記で特定された基をポリアクリル酸前駆体に対して、その基によって運ばれる一級アミンとその前駆体よって運ばれるカルボキシレート基の一部の間のアミド結合の形成によってランダムにグラフト重合させるためにこのプロトコルを適合する方法は、特段の困難なく当業者には分かるであろう。好ましくは、この反応は、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)の存在下で、N-メチルピロリドン(NMP)中で行われる。その合成は連続して行われることができ、各ステップがある特定の構成単位のグラフト重合からなる。
【実施例
【0072】
次の略語が、以下の実施例で使用される。
-OTG:オクチルチオグルコシド
-DMPC:ジミリストイルホスファチジルコリン
-BR:バクテリオロドプシン
-SERCA1a:筋小胞体/小胞体Ca2+-ATPase 1a
-SMA:次の式のスチレン-マレイン酸コポリマー
【化3】
SMA(2:1)は、スチレン3分の2とマレイン酸3分の1とからなる。SMA(3:1)は、スチレン4分の3とマレイン酸4分の1とからなる。
-A8-35:次の式のアンフィポール
【化4】
ここでx=~35%、y=~40%、及びz=~25%である。
-A8-75:上記と同様であるが、x=~75%、y=~25%、及びz=0%である。
-E.coli:大腸菌
-DDM:n-ドデシル-β-D-マルトピラノシド
-GFP:緑色蛍光タンパク質
-AChR:アセチルコリン受容体
-EDTA:エチレンジアミン四酢酸
-CHAPS:3-[(3-コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1-プロパンスルホナート水和物
-SDS:ドデシル硫酸ナトリウム
-Tris:トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン
【0073】
以下の実験データは、本発明の新たなアンフィポールを研究するために、膜分画及び/又はタンパク質を用いて得られたものである。これらの実施例は非限定的なものであり、特に、本発明のアンフィポールの相対的な効率は、考察される膜分画又は膜タンパク質に応じて変わり得る。それでも、基準ポリマーに対する本発明のアンフィポールの改善される可溶化及び/又は安定化特性は、全体的に当てはまる。
【0074】
1.実施例1 本発明のアンフィポールの合成
上述の通り、本発明のアンフィポールは、前駆体としてポリアクリル酸を有する。従って、本発明のアンフィポールの合成は、Gohon他(2006年)に記載されているA8-35の合成に極めて類似している。これは、基をポリアクリル酸前駆体に対して、グラフト重合されるその基によって運ばれる一級アミンとその前駆体によって運ばれるカルボキシレート基の一部の間のアミド結合の形成によって、ランダムにグラフト重合させることからなる。この反応は、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)の存在下で、N-メチルピロリドン(NMP)中で行われる。異なる複数の構成単位のグラフト重合及び獲得は、連続的な方法で行われることができる。特に、zが0でない場合、前駆体のカルボキシレート基の一部に対するその基のグラフト重合は、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)/DCCの存在下で、NMP中で2番目のステップにおいて行われる。
【0075】
その後、アンフィポールがその酸形態で得られる。合成後、ポリマーをpH=3での3サイクルの沈殿によって精製し、続いてpH=10で可溶化した。その後、ポリマーを脱イオン水に対して透析して、凍結乾燥した。
【0076】
ポリマーの化学組成を、pH測定試験に加えて、プロトン及び炭素のNMR分析によって明らかにした。
【0077】
化合物23の合成の実施例
100mLの二口フラスコの中で、1.00gのポリアクリル酸(1当量、13.89mmol)を20mLのN-メチル-2-メチル(NMP)に溶解させる。この媒体を60℃で4時間に亘り撹拌に置く。884.3mgのシクロオクチルアミン(0.50当量、6.94mmol)を2mLのNMPに溶解させ、得られた溶液を反応媒体に、反応媒体を攪拌しながら滴下して添加する。アミンの添加の完了後、撹拌を10分間継続し、その後に予め4mLのNMPに溶解させた1.58gのDCC(0.55当量、7.64mmol)を、反応媒体に滴下して添加する。全ての試薬を添加した後、反応媒体を撹拌しながら1時間に亘って60℃に維持し、その後4時間に亘って加熱せずに撹拌したままにする。
【0078】
室温になったら、反応媒体を焼結フィルタ(孔径4)でろ過し、1.5gのナトリウムメタノラート(2当量、27.8mmol)をろ液に添加する。撹拌を約15分間継続する。
【0079】
その後、反応媒体を260mL(10当量体積)の精製脱イオン水(Milli-Q(登録商標))に注ぎ、水酸化ナトリウム(11N)を用いてpHを10(pH紙)に調整する。溶液を激しい撹拌状態に約30分に亘って維持した後、焼結フィルタ(孔径4)でろ過する。得られたろ液を、激しく撹拌しながら21mLの2N塩酸(3当量、42mmol)に手作業で滴下して添加する。この添加は、先端がミリポアフィルタシステム(直列の0.45μmのPESと0.2μmの酢酸セルロースのフィルタ)に接続されたシリンジにより行われる。
【0080】
添加が完了したら、得られた懸濁液を焼結フィルタ(孔径4)でろ過し、その沈殿物を、1.9mL(1.5当量、21mmol)の11N水酸化ナトリウムの添加後に、50mLの「Milli-Q(登録商標)」水に溶解させる。この沈殿/可溶化サイクルを4回繰り返した後、最終的に得られた塩基性溶液を、4.5×10-3N水酸化ナトリウム溶液に対して24時間透析し(カットオフ分子量8000g・mol-1であるスペクトラポア膜)、その後に凍結乾燥した。
【0081】
当業者は、特にポリアクリル酸のカルボキシレート基と反応することになるアミンの選択を変えることによって、このプロトコルを適応させて本発明の他のアンフィポールを特に困難なく得られるであろう。
【0082】
2.実施例2 立体排除クロマトグラフィ(SEC)による本発明のアンフィポール粒子の分析
材料及び方法
Superose 12/HR又は12 10/300 GL カラム(GE Healthcare)を使用した。
【0083】
カラムを、20mM Tris(pH8.0)-100mM NaClバッファ(図1A)、又は20mMリン酸ナトリウム(pH7.0)-100mM NaClバッファ(図1B)中で平衡化した。
【0084】
BR/アンフィポール複合体(図1C)に関しては、紫膜をOTG(実施例2を参照)中で可溶化した後、BR/アンフィポール質量比1:5でBRをアンフィポールと複合体化した。カラムを、20mM リン酸ナトリウム(pH7.0)-100mM NaClバッファ中で平衡化した。
【0085】
20mM リン酸ナトリウム(pH7.0)-100mM NaClバッファ中で、溶出を行った。
【0086】
結果
SECによって得られた本発明のポリマーの溶出プロファイルを、A8-35のものと比較した(図1A及びB)。溶液中で、A8-35は、約9~10の分子を含む40kDaの均質で密集した球状の粒子を形成することが知られている(Giusti他、2014年、Gohon他、2006年)。A8-35と比較して、試験した本発明のポリマーはより広い溶出ピークを有する。この結果は、本発明のアンフィポールにおける環の存在によって説明されることができ、その環はA8-35の直鎖状オクチル鎖よりも柔軟性が低く、従って球形粒子の形成に有利でないため、より大きくて均質でない粒子が形成される。
【0087】
また、本発明のアンフィポールのアミド結合とシクロアルキル基との間の炭素原子の数は、そのアンフィポールが形成する粒子のサイズ及び均質性に影響を及ぼすようである。実際には、アミド結合とシクロアルキル環の間に炭素を添加することにより(図1Aの化合物3及び化合物11の溶出プロファイルを参照)、アンフィポールA8-35と同様の溶出プロファイルを有するより均質な粒子を生じる。しかしながら、炭素原子2つの存在では(図1Aの化合物17)、より大きくて均質が低い粒子を生じる。フェニル基とグラフト重合されたアンフィポール(例えば化合物2又は4)に関して、溶出プロファイルは、これらのポリマーによって形成された粒子が40kDa超のサイズを有し、A8-35と比較して均質でないことを示している。均質性は、エチル基の添加により大きく改善され(例えば化合物8の溶出プロファイル)、A8-35の粒径とより一致した粒径を生じる。
【0088】
興味深いことに、化合物11及び8とバクテリオロドプシン(BR)とによって形成された複合体の溶出プロファイルは、BR/A8-35複合体と同様の均質性及びサイズを有する(図1C)。
【0089】
従って本発明のポリマーは、水性媒体中において、均質性に関してタンパク質精製方法に対応する粒子自己組織化特性を示す、カスタマイズ可能な手段を構成する。これらの粒子は、当技術分野における基準であるアンフィポールA8-35によって形成される粒子に匹敵するものである。
【0090】
3.実施例3 安定化効果の研究
本発明のアンフィポールの膜タンパク質安定化効果を、2つのモデルとなる膜タンパク質、SERCA1a(筋小胞体/小胞体Ca2+-ATPase 1a)及びハロバクテリウム・サリナルムのバクテリオロドプシンについて試験した。
【0091】
材料及び方法
使用したモデルとなる膜タンパク質
SERCA1aは、その輸送機能を果たすためにATP分子の加水分解を必要とするカルシウムポンプである。このタンパク質は「P型」ATPaseファミリーに属し、その膜貫通領域は、カルシウムイオンの通過を可能とするために、大きな振幅の立体構造変化を示す。
【0092】
BRの紫色は、その天然立体構造を示すものである。BRはその折り畳まれた形態において、シッフ塩基の形成によってレチナール(発色団)に可逆的に共有結合する。この塩基のプロトン化は、RBが膜に埋め込まれているか又は水溶液中で可溶化されているかに応じて、レチナールの吸収ピークを~380nm(遊離形態)から570nm又は~555nm(結合形態)まで変える。そして554nmにおける吸光度は、BRの天然立体構造を示す。
【0093】
SERCA1a生成及び活性測定
Champeil他(1985年)に記載されているプロトコルに従って、ウサギの筋小胞体の小胞を筋組織から用意した。これらの膜は、SERCA1aを非常に多く含む。
【0094】
SERCA1aのATPase活性を、複数の酵素反応と結びつけることによって、間接的に測定した。その試験を、試料中で一定のATP濃度を維持するために、及びNADHの340nmにおける吸光度の低下を経時的に測定することによりATPの消費を観察するために、ピルビン酸キナーゼ(0.1mg/mL)及び乳酸脱水素酵素(0.1mg/mL)の存在下で行った。試料バッファは、100mMのKCl、1mMのMg2+、0.1mMのCa2+、50mMのTes-Tris(20℃でpH7.5)、及び1~5mMのATPを含有する。試験を実施するために、反応媒体は1mMのホスホエノールピルビン酸及び0.15mMのNADHも含有する。
【0095】
紫膜の生成及びBR/アンフィポール複合体の調製
BR/アンフィポール複合体の調製は、次のステップで行われる。
i)ハロバクテリウム・サリナルムの培養を行い、紫膜に相当する膜分画を、Oesterhelt & Stoeckenius (1971年)に既に記載されているプロトコルに従って精製した。
ii)紫膜を、撹拌しながら暗所において低温室で48時間に亘って培養するために、10mMのリン酸ナトリウム-100mMのNaCl-100mMのOTGのバッファ中で可溶化した。試料を、6℃、200,000gで20分間遠心分離した。上清をOTGを含有しないバッファで希釈して、界面活性剤濃度を100mMから18mMまで低下させた。
iii)界面活性剤置換及びBR/アンフィポール複合体の調製
BRの濃度を、554nmにおける吸光度を測定することによって明らかにした。添加されるアンフィポールの量を、1:5のBR/アンフィポール質量比に対応して、試料中に存在するBRの質量に基づいて計算した。4℃で20分の培養後、ポリスチレンビーズ(Bio-Beads(登録商標)SM2、BioRad)を、その質量が試料中に存在する界面活性剤の質量の20倍となるようにして添加した。撹拌を伴う4℃で2時間の培養後、ビーズを除去した。
【0096】
BR/A8-35又はBR/A8-75複合体(陽性対照)及び本発明のアンフィポールとのBR複合体の形成を、ポリスチレンビーズ(Bio-Beads(登録商標)、BioRad)への吸着による界面活性剤の置換及び除去のプロトコルに従って実施した。
【0097】
OTG及びアンフィポールの存在下での20分の培養後、20:1のBio-Beads(登録商標)/OTG質量比でBio-Beads(登録商標)をその混合物に添加し、4℃で2時間培養した。各試料の554nmにおける吸光度を、100,000gでの20分の遠心分離の前後で測定した。BRの割合を、遠心分離の前にOTGで測定された吸光度に関して計算した。
【0098】
BRの熱変性
試験される種々の可溶化剤に対するBRタンパク質の比は、20mMリン酸ナトリウム(pH7.0)-100mM NaClバッファ中で1:5である。試料を各温度で30分間培養し、氷上で冷却した後、554nmにおける吸光度を読み取った。界面活性剤(OTG、オクチルチオグルコシド)中のBR試料について、遠心分離ステップを実施してタンパク質凝集体を除去した。554nmにおける試料の吸光度を、タンパク質を含有しないバッファを基準として用いて、UV可視分光光度計で測定した。吸光度値は4℃で測定した吸光度に対して正規化されている。
【0099】
結果
化合物11は、SERCA1aのATPase活性をA8-35よりも大きく阻害するようであることが観察された(図示せず)。アンフィポールの阻害効果はその安定化効果に関連し得るため、化合物11はSERCA1aをA8-35よりも効果的に安定化すると考えられる。
【0100】
A8-35、A8-75、又は本発明のアンフィポールと複合体化されたBRの熱安定性を分析した。まず、可溶性BRをその天然形態に維持するこれらのポリマーの能力を、554nmにおける上清の吸光度を測定することによって分析した。
【0101】
Bio-Beads(登録商標)による界面活性剤の除去後での、25%の疎水性環状基及び75%の未修飾カルボキシレート基を含む本発明のアンフィポールとの複合体化後の試料中における天然形態のBRの割合は、基準としてApol A8-75を用いて観察されたもの(これはBRの安定化に関して特に不十分である)よりも高い(図2A及びB)。この結果は、環状基がアンフィポールの安定化効果を増大させることを示している。化合物7及び1は、変性に関してA8-75「よりも穏やか」である。しかしながら、BRの安定性は、環とアミド結合の間の炭素数が増大することに伴って、A8-75の不安定化のレベルと同様の不安定化のレベルに達するまで低下する(例えば化合物17と複合体化されたBR)。この効果は、フェニル基よりも、シクロアルキル基とグラフト重合されたアンフィポールでより顕著である(図2B、化合物2、12、22)。
【0102】
アンフィポール付加の効果
本発明のアンフィポールの付加の影響を、イソプロピル基でのポリマーのグラフト重合率を増大させることにより研究した。その増大は、アンフィポールの全体的な付加の低減をもたらす。このようにして(最高40%のイソプロピル基のグラフト重合率によって)得られた付加の減少は、Bio-Beads(登録商標)の存在下でのアンフィポールによる界面活性剤の置換後に、試料中に天然形態で存在するBRの率を改善する(例えば化合物7及び13の吸光度を比較)。逆に、付加密度が低下する場合、上清中に見られるBRの量の減少が見られ(例えば化合物11と化合物15とを比較)、これはBRの凝集によるものであり得る。
【0103】
より高いグラフト重合率を有するアンフィポール(シクロアルキル及び/又はフェニル基50%、未修飾カルボキシレート基50%)に関して、環とアミド結合の間の炭素数の増加による不安定化効果は、大幅に低減される(図2C)。
【0104】
50%のシクロアルキル基及び/又はフェニル基とグラフト重合された本発明のアンフィポールは、SMA(2:1)と同等の又はSMA(3:1)よりも高い付加密度を有する。しかしながら、化合物4を除いて、試験した全てのアンフィポールは、これら2つのSMAよりも多くの天然形態のBRを提供する(図2)。
【0105】
本発明のアンフィポールと複合体化されたBRの熱安定性を、Bio-Beads(登録商標)を用いたアンフィポールによる界面活性剤の交換後に天然状態のままであるBRの分画について試験した。試料の554nmにおける吸光度を、温度に応じて観察した。吸光度の降下は、タンパク質の変性を示す(図3)。
【0106】
BR/A8-35複合体の場合、タンパク質の変性は、得られたシグモイドの勾配によって示されるように非常に狭い温度範囲内で起こり、ここで分子融解温度(Tm)はおよそ63℃である(図3A)。OTG界面活性剤におけるタンパク質のTmは大幅に低く(~47℃、図3A)、これはOTGにおけるタンパク質の安定化がより弱いことを示す。同様のTmが、SMA(3:1)又はSMA(2:1)と複合体化されたタンパク質に関して観察され、それぞれ~45℃及び~49℃である。逆に、本発明のアンフィポールを用いて得られたTmは、SMAでのTmよりも大幅に高く、いくつかについてはBR/A8-35複合体のTmに匹敵するか、又はこれよりも高い(例えば、Tmがそれぞれ~57℃及び~66℃である化合物4及び3、図3B)。
【0107】
従って、安定化に関して、本発明のアンフィポールはSMAより効果的であり、少なくとも基準アンフィポールA8-35と同程度に効果的であり得、又はSERCA1に関して得られた結果によって示唆されるように、それより効果的でさえあり得る。
【0108】
4.実施例4 膜タンパク質密度が高い膜に対する本発明のアンフィポールの可溶化効果の評価
界面活性剤とは異なり、A8-35は、筋小胞体の小胞由来のSERCA1を効果的に可溶化しないことが知られている(Champeil他、2000年)。一般的には、膜タンパク質は常に界面活性剤を用いて可溶化され、界面活性剤はその後に膜タンパク質を安定化させるためにA8-35と交換される。
【0109】
逆に、スチレン-マレイン酸(SMA)コポリマーは、界面活性剤を用いた可溶化ステップの必要なしに、膜タンパク質の可溶化を可能とすることが知られているポリマーであり、SMAによって取り囲まれた膜タンパク質及び脂質を含む脂質粒子(SMA脂質粒子、略してSMALP)の形成をもたらす。しかしながら、上述のとおり、SMA中でのBRの安定性は、A8-35と複合体化された同じタンパク質と比較して相対的に劣る。
【0110】
SMA、A8-35、及び本発明のアンフィポールの可溶化特性を、膜タンパク質を程度の差はあるが多く含む異なる種類の膜(E.coli、シビレエイの発電器官、コナミドリムシのチラコイドの膜、ハロバクテリウム・サリナルムの紫膜)について比較した。得られた結果は試験した膜に特有のものであり、異なるポリマーの異なる特性を示している。従って、これらのモデルとなる膜のうちの1つについて効果が弱いポリマーが、その特定のタンパク質及び/又は脂質組成により、別の種類の膜に対してかなり効果的であり得る。
【0111】
材料及び方法
ハロバクテリウム・サリナルム紫膜、コナミドリムシチラコイド膜、シビレエイ発電器官膜又は大腸菌膜の分画の用意
上述の通り、ハロバクテリウム・サリナルムの紫膜を、Oesterhelt & Stoeckenius(1971年)に記載されているプロトコルに従って用意する。
【0112】
シビレエイの発電器官から抽出された天然の状態でアセチルコリン受容体(AChR)を多く含む膜を、Sobel他(1977年)に記載されているプロトコルに従って用意する。
【0113】
コナミドリムシチラコイド膜を、Pierre他(1995年)に記載されているプロトコルに従って用意する。
【0114】
GFPにC末端融合したYidCタンパク質を過剰発現する大腸菌膜を、細胞粉砕器(Constant Systems)を用いた細菌の機械的溶解後に用意する。細胞残屑及び破壊されていない細胞を、低速遠心分離によって除去する。上清を回収し、膜を高速遠心分離(100,000gで1時間)によってペレット化する。E.coli膜の用意のためのプロトコルはAngius他(2018年)に記載されている。
【0115】
DMPC小胞を用いた紫膜分画の希釈
DMPC小胞(50mg/mL)を、直径100nmの細孔に調整されたポリカーボネート膜(Whatman)を10回通過させて押出成形によって成形した。DMPC小胞及び紫膜を、1:5のBR:DMPC質量比が得られるように混合した後、Knowles他(2009年)に既に記載されているプロトコルに従って、超音波処理浴中で30分間培養する。試料バッファは、20mMのリン酸ナトリウム(pH7.0)、100mMのNaClを含有する。
【0116】
OTG中での紫膜の可溶化
OTG(100mM)中での可溶化を、上述の通り実施した。試料を4℃で1時間培養した後で遠心分離(20分、100,000g)し、544nmにおける吸光度測定のために上清を回収した。
【0117】
SMA又は本発明のアンフィポールによる紫膜の可溶化
各条件について、BR/SMA又はアンフィポール質量比は1:6.25であり、BR/DPMC質量比は1:5である。使用するバッファは、上述の通り20mMリン酸ナトリウム(pH7.0)-100mM NaClである。
【0118】
試料を室温で一晩、撹拌しながら培養し、その後100,000gで20分間遠心分離し、上清に対して吸光度測定を実施した。
【0119】
吸光度を、超遠心分離ステップの前に測定した吸光度値に対して正規化した。
【0120】
本発明のアンフィポール、SMA、又はDDMによる、組み換え膜タンパク質を過剰発現するE.coli膜の可溶化
YidCは、グラム陰性細菌の、6つの膜貫通ドメインを有する、進化的に保存された膜タンパク質である。GFPに融合された組み換え型を、本発明のアンフィポールの特性を研究するための膜可溶化「レポーター」タンパク質として使用する。
【0121】
E.coli膜抽出物中に存在する全ての膜タンパク質を、比色試験を用いて試験する。タンパク質濃度を、20mM Tris(pH8)-150mM NaClバッファを用いて、2mg/mLに調整する。
【0122】
可溶化に関して、総タンパク量/アンフィポール又はSMAの質量比は1:1である。界面活性剤の存在下での対照試料の場合、総タンパク量/DMDの質量比は1:5である。上述の通り、全ての条件において使用したバッファは、20mMのTris(pH8.0)、150mMのNaClからなる。
【0123】
試料を4℃で2時間、撹拌しながら培養する。可溶化反応速度を観察するために、培養の最初の1時間は15分毎に、その次の1時間は30分毎に、各試験管からアリコートを採取する。
【0124】
各試料採取において、試料を250,000gで10分間遠心分離する。上清から分離されたペレットを、5%のSDSを含有する20mM Tris(pH8)、150mMNaClバッファを用いて、可溶化の初期体積に再懸濁する。
【0125】
これらの試料に、アクリルアミドゲルでの蛍光測定に対応する青色ローディングダイを添加する。これは、Drew他(2008年)に記載されているプロトコルに従って調製した青色ローディングダイである。各条件の上清及びペレットに対応する、上述した時間で採取した試料を、12%アクリルアミドゲル上にプレーティングする。
【0126】
Tris-グリシン(pH8.3)を含有する泳動バッファ中で、SDSの存在下において電気泳動を実施する。ゲルでのタンパク質の泳動を、1時間に亘ってゲル毎に100V及び20mAの電流を流すことによって行う。
【0127】
泳動の完了後、各ゲルを「Milli-Q(登録商標)」水に入れて、レーザスキャナ(λexcitation=495nm、λemission=519nm)で撮影したゲルの蛍光写真により、GFPの蛍光を測定することができる。
【0128】
ImageJソフトウェアにより、蛍光を定量する各バンドの領域を統合することができる。結果を、界面活性剤(DDM、1時間)で得られた蛍光に対して正規化した。
【0129】
本発明のアンフィポール、SMA、又はCHAPSによるAChRを多く含むシビレエイ膜の可溶化-AchRの可溶化
AchRは、内在性膜タンパク質である。シビレエイの発電器官はこのタンパク質を特に多く含む。従ってこの器官は、アセチルコリン受容体を研究するための重要な源であり、モデルである。
【0130】
シビレエイ膜の抽出物中に存在する全ての膜タンパク質を、比色試験を用いて試験する。タンパク質濃度を、5mM NaP(pH7.2)-100mM NaCl-1mM EDTAバッファを用いて1mg/mLに調整する。
【0131】
可溶化に関して、総タンパク量/アンフィポール又はSMAの質量比は1:5である。対照試料の場合、即ち界面活性剤の存在下では、総タンパク量/CHAPSの質量比は1:4である。
【0132】
試料を、4℃で1時間に亘って撹拌しながら培養した後、100,000gで20分間遠心分離する。上清から分離されたペレットを、5mM NaPi(pH7.2)-100mM NaCl-1mM EDTAバッファを用いて、可溶化の初期体積に再懸濁する。
【0133】
各条件の上清及びペレットに対応する試料を、Laemmli(1970年)に記載されているプロトコルに従って青色ローディングダイと混合した後、10%アクリルアミドゲル上にプレーティングする。
【0134】
Tris-グリシンpH8.3を含有する泳動バッファ中で、SDSの存在下において電気泳動を実施する。ゲルでのタンパク質の泳動を、ゲル毎に100V及び20mAの電流を流すことによって1時間に亘って行う。
【0135】
泳動の完了後、各ゲルをクマシーブルーで染色して、ゲルの写真を白色光下で撮影する。
【0136】
結果
ポリマーの可溶化効率は、膜タンパク質が抽出される膜の組成(タンパク質及び脂質の両方に関し)に密接に関係することが観察された。実際には、A8-35であるか、本発明のアンフィポールであるか、更にはSMAであるかにかかわらず、試験したポリマーはいずれも、ハロバクテリウム・サリナルムの紫膜(図4A)やコナミドリムシのチラコイドの膜(図示せず)などのタンパク質を多く含む膜を可溶化できないが、一方でこれらのほとんどは、YidC-GFPなどの組み換えタンパク質を過剰発現するE.coliの膜を可溶化することができる(図7を参照)。それでもやはり、本発明のアンフィポールは総じて、A8-35ポリマー又はSMAよりも有効である。
【0137】
ハロバクテリウム・サリナルムの紫膜は、25%の脂質に対して75%のBRを含む。この特異な組成により、SMAによるその可溶化は、脂質中でBRタンパク質を「希釈する」ために、膜を予めDPMC小胞と融合させる場合にのみ可能である(Knowles他、2009年、Orwick-Rydmark他、2012年)。この条件下では、本発明のアンフィポールもBRを可溶化することができるが、A8-35は効果のないままである(図4B)。
【0138】
フェニル基とのグラフト重合を含む本発明のアンフィポールに関しては、芳香族部位に対するエチル基の添加により、可溶化特性を向上させることができることが観察される(化合物4、6、及び8に関する可溶化されたBRの割合を比較)。なお、パラ位(4位)又はオルト位(1位)におけるエチル基の配置は、化合物8及び24が同等の可溶化を提供していることから(図4B)、重要でないようであることに留意されたい。
【0139】
シクロアルキルとグラフト重合した本発明のアンフィポールは、BRの可溶化に特に有効である。特に化合物23は、SMA(2:1)と同程度有効であることが分かっているが(ペレットサイズを比較)、上清中に天然形態で存在するBRの量は、SMA(2:1)又はSMA(3:1)によって得られるものよりも高い。化合物21は、SMA(2:1)より大幅に有効である。
【0140】
更に、本発明によるBR/脂質/アンフィポール複合体の立体排除クロマトグラフィ分析は、その複合体が、SMAを用いて得られるものよりもサイズに関してはるかに均質であることを示し、それは特にタンパク質特性化技術において利点がある(図示せず)。
【0141】
本発明のポリマーの、E.coli膜で過剰発現された膜タンパク質YidC-GFPを抽出する効率も試験し、A8-35及びSMAと比較した。タンパク質/ポリマー比を1:1に設定することによって、即ち低ポリマー濃度で行うことによって、本発明のアンフィポールポリマーは、A8-35及びSMAよりも、関心対象の組み換えタンパク質のより良好な抽出効率を有する。実際には、2時間の培養の後、本発明のアンフィポールポリマーの存在下において抽出されるタンパク質の量は、A8-35又はSMAの存在下での約35%に対して、約80%である。更に、関心対象の膜タンパク質の抽出反応速度がより速い(図7)。従って、本発明のアンフィポールは、低濃度において有効であり、かつより迅速な抽出を可能にし、これは特に組み換え膜タンパク質の製造との関連において、特に利点がある。
【0142】
本発明のポリマーの、シビレエイの発電器官の膜からアセチルコリン受容体(AChR)を抽出する効率も試験した。1:5のタンパク質/ポリマー比において、本発明のポリマーは、A8-35及びSMA(2:1)よりも良好かつSMA(3:1)に匹敵する、関心対象の膜タンパク質の抽出効率を示す(図8、Sが記された列を比較)。驚くべきことに、オクチルアミン鎖を含み、従ってシクロヘキシルエチルアミン基(化合物19でのように)及びシクロオクチルアミン基(化合物23でのように)と同数の炭素原子を有し、同一の割合(50%)でグラフト重合される対照ポリマー(A8-50)は、AchRの抽出において、本発明のポリマーよりも効果的でない。この結果は、疎水性基の分子構造が、本発明のアンフィポールにおいて重要な役割を果たしている可能性があることを示す。
【0143】
注目すべきは、本発明のアンフィポールはまた、シビレエイの発電器官の膜のナトリウム-カリウムポンプの可溶化においても、A8-50又はA8-35よりも非常に有効である。
【0144】
より低いポリマー濃度において、本発明のアンフィポールはやはり、AchR又はナトリウム-カリウムポンプの可溶化において、A8-35、A8-50及びSMA3-1よりも有効であることが分かった(データは示されない)。
【0145】
5.実施例5 膜からの直接抽出後の膜タンパクに対するアンフィポールの安定化効果の研究
BRに対する本発明のアンフィポールの安定化効果を、OTGによる可溶化ステップ及びそれに続くアンフィポールによるOTGの交換ステップを用いない紫膜の可溶化の直後に試験した。
2つの独立した実験セットを行った。第1の実験の結果を図5A及びBに示す。第2の一連の実験については、各条件を少なくとも3回実施した(図6)。
【0146】
材料及び方法
事前形成されたDMPC小胞と融合後の紫膜の可溶化
(i)上述の通り、Orwick-Rydmark他(2012年)に記載されているプロトコルに従って紫膜をDMPC小胞に融合させた後、アンフィポールを用いた可溶化ステップを開始した。室温での24時間の培養の後、試料を100,000×gで20分間遠心分離した。上清をペレットから分離した。
(ii)上清の554nmにおける吸光度(これは天然状態のBRの量を反映する)を測定した。この値を、遠心分離前に測定した値に対してプロットすることにより、可溶化効率の定量化をした(図5Aと、図6Aの灰色のバー)。これは、上清中で可溶化された天然状態のBRの割合を提供する。
【0147】
BRの安定性の評価
可溶化後、試料を50℃で6時間培養し、その後に554nmにおける吸光度を測定した。吸光度値を、培養前に測定された初期吸光度値に対して正規化した(図5B及び図6B)。図6Aの黒色のバーは安定したBRの量に対応し、遠心分離前(即ち可溶化ステップの前)のBRの初期量に対して正規化されている。BRの変性反応速度を観察するために、試料の554nmにおける吸光度を1時間毎に測定することによって、この実験を繰り返した(図6B)。
【0148】
基準ポリマー、即ちA8-35及び2つのSMAを比較すると、SMAの可溶化能力は、BRの低い安定化能力と相関している。逆に、BRを限られた程度で可溶化するA8-35は、BRを効果的に安定化させる(図5A、B及び図6A)。
【0149】
試験された本発明のポリマーは、BRをSMA(3:1)と同程度に効果的に可溶化することができる一方で、このタンパク質をA8-35と少なくとも同程度に効果的に安定化させることができる(化合物19及び23と基準ポリマーの吸光度を比較。図5A、B及び図6)。
【0150】
6.結論
従って、提供した実験データは、本発明の新たなアンフィポールが、特に利点のある新たなポリマーであることを示している。実際には、膜タンパク質の精製には、その立体構造及び安定性を維持しながらそれを可溶化させることが必要であり、可溶化は特に解離力を有する界面活性剤の使用を伴い、その解離力は一般に膜タンパク質の少なくとも部分的な変性を経時的にもたらすために、これらの2つのステップは対立するように思えるかもしれない。モデルとなる膜タンパク質に基づき、結果は、本発明の新たなアンフィポールが、膜タンパク質の精製のための興味深い可溶化特性を有し、その一方でこれらのタンパク質の安定性、従ってその立体構造及び生物学的活性を維持することを示しており、それは生物工学的用途での膜タンパク質の研究又は使用において必須であり、そして従来技術のポリマーでは観察されていない。更に、本発明のポリマーは低濃度でも有効であり、それはこれらの用途において特に利点がある。
【0151】
参考文献
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図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【手続補正書】
【提出日】2021-08-04
【手続補正1】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図2
【補正方法】変更
【補正の内容】
図2
【手続補正書】
【提出日】2021-08-04
【手続補正1】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図2
【補正方法】変更
【補正の内容】
図2
【国際調査報告】