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特表2022-513747成形性及び高温特性に優れた低Crフェライト系ステンレス鋼及びその製造方法
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  • 特表-成形性及び高温特性に優れた低Crフェライト系ステンレス鋼及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-09
(54)【発明の名称】成形性及び高温特性に優れた低Crフェライト系ステンレス鋼及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20220202BHJP
   C22C 38/50 20060101ALI20220202BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20220202BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/50
C21D9/46 R
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021532855
(86)(22)【出願日】2019-02-20
(85)【翻訳文提出日】2021-06-09
(86)【国際出願番号】 KR2019002017
(87)【国際公開番号】W WO2020122320
(87)【国際公開日】2020-06-18
(31)【優先権主張番号】10-2018-0158651
(32)【優先日】2018-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】特許業務法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジョン,イル チャン
(72)【発明者】
【氏名】イム,ジン ウ
(72)【発明者】
【氏名】ユ,ハン ジン
【テーマコード(参考)】
4K037
【Fターム(参考)】
4K037EA01
4K037EA04
4K037EA05
4K037EA12
4K037EA13
4K037EA15
4K037EA18
4K037EA20
4K037EA23
4K037EA25
4K037EA27
4K037EA28
4K037EA31
4K037EB03
4K037EB07
4K037EB08
4K037EB09
4K037FA03
4K037FB00
4K037FF03
4K037FG00
4K037FJ07
4K037FK06
4K037FL02
(57)【要約】
【課題】Cr含量の増加またはNb添加なしでも高Crフェライト系ステンレス鋼に対応する高温強度及び高温耐酸化性に優れ、かつ成形性を確保した低Crフェライト系ステンレス鋼及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の低Crフェライト系ステンレス鋼は、重量%で、C:0.005~0.015%、N:0.005~0.015%、Si:0.5~1.5%、Mn:0.1~0.5%、Cr:9~14%、Ti:0.1~0.3%、Cu:0.3~0.8%、Al:0.01~0.05%、Sn:0.005~0.15%、残りのFe及び不可避な不純物からなり、下記式(1)及び(2)を満たすことを特徴とする。
(1)Cu+Si=1.3
(2)Si+Cu+10*Sn≦3.0
ここで、Si、Cu、Snは、各元素の含量(重量%)を意味する。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.005~0.015%、N:0.005~0.015%、Si:0.5~1.5%、Mn:0.1~0.5%、Cr:9~14%、Ti:0.1~0.3%、Cu:0.3~0.8%、Al:0.01~0.05%、Sn:0.005~0.15%、残りのFe及び不可避な不純物からなり、
下記式(1)及び(2)を満たすことを特徴とする成形性及び高温特性に優れた低Crフェライト系ステンレス鋼。
(1)Cu+Si=1.3
(2)Si+Cu+10*Sn≦3.0
(ここで、Si、Cu、Snは、各元素の含量(重量%)を意味する)
【請求項2】
重量%で、Ni:0.3%以下、P:0.04%以下及びS:0.002%以下をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の成形性及び高温特性に優れた低Crフェライト系ステンレス鋼。
【請求項3】
基地組織内の1~500nmサイズのCu析出相を0.03重量%以上含むことを特徴とする請求項1に記載の成形性及び高温特性に優れた低Crフェライト系ステンレス鋼。
【請求項4】
900℃の高温強度が12MPa以上であることを特徴とする請求項1に記載の成形性及び高温特性に優れた低Crフェライト系ステンレス鋼。
【請求項5】
延伸率が30%以上であることを特徴とする請求項1に記載の成形性及び高温特性に優れた低Crフェライト系ステンレス鋼。
【請求項6】
下記式(3)を満たすことを特徴とする請求項1に記載の成形性及び高温特性に優れた低Crフェライト系ステンレス鋼。
(3)(Si+5*Sn)/Ti=5.0
(ここで、Si、Sn、Tiは、各元素の含量(重量%)を意味する)
【請求項7】
重量%で、C:0.005~0.015%、N:0.005~0.015%、Si:0.5~1.5%、Mn:0.1~0.5%、Cr:9~14%、Ti:0.1~0.3%、Cu:0.3~0.8%、Al:0.01~0.05%、Sn:0.005~0.15%、残りのFe及び不可避な不純物からなり、下記式(1)及び(2)を満たすフェライト系ステンレス鋼冷延鋼板を冷延焼鈍熱処理する段階と、
450~550℃の温度範囲まで急冷して5分以上維持する段階と、を含むことを特徴とする成形性及び高温特性に優れた低Crフェライト系ステンレス鋼の製造方法。
(1)Cu+Si=1.3
(2)Si+Cu+10Sn≦3.0
(ここで、Si、Cu、Snは、各元素の含量(重量%)を意味する)
【請求項8】
前記冷延焼鈍鋼板は、
基地組織内の1~500nmサイズのCu析出相を0.09重量%以上含むことを特徴とする請求項7に記載の成形性及び高温特性に優れた低Crフェライト系ステンレス鋼の製造方法。
【請求項9】
前記冷延焼鈍鋼板の900℃の高温強度は、14.5MPa以上であることを特徴とする請求項7に記載の成形性及び高温特性に優れた低Crフェライト系ステンレス鋼の製造方法。
【請求項10】
前記冷延鋼板は、下記式(3)を満たすことを特徴とする請求項7に記載の成形性及び高温特性に優れた低Crフェライト系ステンレス鋼の製造方法。
(3)(Si+5*Sn)/Ti=5.0
(ここで、Si、Sn、Tiは、各元素の含量(重量%)を意味する)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形性及び高温特性に優れた低Crフェライト系ステンレス鋼びその製造方法に係り、より詳しくは、高温強度及び高温耐酸化性に優れており、かつ成形性を確保できる低Crフェライト系ステンレス鋼及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フェライト系ステンレス鋼材は、高価な合金元素の添加が少ないにもかかわらず耐食性に優れ、オーステナイト系ステンレス鋼材に比べて価格競争力が高い。特にCr含量が9~14%の低Crフェライト系ステンレス鋼材は、原価競争力がさらに優れ、常温から800℃の排ガス温度範囲に対応する排気系部品など(Muffler、Ex-manifold、Collector coneなど)に用いられている。
しかし、高温強度と高温耐酸化性が高Cr及びNb添加鋼に比べて劣位であるため用途拡大に制約があった。高温強度と高温耐酸化性を向上させるため、Cr含量を上方調整するか、またはNbを添加することは、製造原価を上昇させる原因となるので、低Crフェライト系ステンレス鋼にNbを添加せずに高温特性を向上させることができる開発研究が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的とするところは、Ci、Si、Snの含量を最適化して固溶強化及び析出強化を活用することにより、Cr含量の増加またはNbを添加せずに高Crフェライト系ステンレス鋼に対応する高温強度及び高温耐酸化性に優れ、かつ成形性を確保した低Crフェライト系ステンレス鋼及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の成形性及び高温特性に優れた低Crフェライト系ステンレス鋼は、重量%で、C:0.005~0.015%、N:0.005~0.015%、Si:0.5~1.5%、Mn:0.1~0.5%、Cr:9~14%、Ti:0.1~0.3%、Cu:0.3~0.8%、Al:0.01~0.05%、Sn:0.005~0.15%、残りのFe及び不可避な不純物からなり、下記式(1)及び(2)を満たすことを特徴とする。
(1)Cu+Si=1.3
(2)Si+Cu+10*Sn≦3.0
ここで、Si、Cu、Snは、各元素の含量(重量%)を意味する。
【0005】
上記低Crフェライト系ステンレス鋼は、重量%で、Ni:0.3%以下、P:0.04%以下及びS:0.002%以下をさらに含むことができる。
また、上記低Crフェライト系ステンレス鋼は、基地組織内の1~500nmサイズのCu析出相を0.03重量%以上含むことがよい。
さらに、上記低Crフェライト系ステンレス鋼は、900℃の高温強度が12MPa以上であうことが好ましい。
【0006】
上記低Crフェライト系ステンレス鋼の延伸率は30%以上であることがよい。
上記低Crフェライト系ステンレス鋼は、下記式(3)を満たすことができる。
(3)(Si+5*Sn)/Ti=5.0
ここで、Si、Sn、Tiは、各元素の含量(重量%)を意味する。
【0007】
本発明の成形性及び高温特性に優れた低Crフェライト系ステンレス鋼の製造方法は、重量%で、C:0.005~0.015%、N:0.005~0.015%、Si:0.5~1.5%、Mn:0.1~0.5%、Cr:9~14%、Ti:0.1~0.3%、Cu:0.3~0.8%、Al:0.01~0.05%、Sn:0.005~0.15%、残りのFe及び不可避な不純物からなり、下記式(1)及び(2)を満たすフェライト系ステンレス鋼冷延鋼板を冷延焼鈍熱処理する段階と、450~550℃の温度範囲まで急冷して5分以上維持する段階と、を含むことを特徴とする。
(1)Cu+Si=1.3
(2)Si+Cu+10*Sn≦3.0
ここで、Si、Cu、Snは、各元素の含量(重量%)を意味する。
【0008】
前記冷延焼鈍鋼板は、基地組織内の1~500nmサイズのCu析出相を0.09重量%以上含むことがよい。
前記冷延焼鈍鋼板の900℃の高温強度は、14.5MPa以上であることが好ましい。
また、前記冷延鋼板は、下記式(3)を満たすことができる。
(3)(Si+5*Sn)/Ti=5.0
ここで、Si、Sn、Tiは、各元素の含量(重量%)を意味する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、本発明の実施例による低Crフェライト系ステンレス鋼は、Si及びCuの固溶強化効果とともに微細Cu析出相を分布させて高温強度を既存鋼に対して30%以上増加させることができ、Si及びSnの表面濃化により高温耐酸化性も向上させることができる。
また、合金元素の含量の相違による成形性の劣位を防止でき、本発明による製造方法を適用する場合、高温強度特性がより優秀になる効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の式(1)と式(3)による高温特性の相関関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施例による成形性及び高温特性に優れた低Crフェライト系ステンレス鋼は、重量%で、C:0.005~0.015%、N:0.005~0.015%、Si:0.5~1.5%、Mn:0.1~0.5%、Cr:9~14%、Ti:0.1~0.3%、Cu:0.3~0.8%、Al:0.01~0.05%、Sn:0.005~0.15%、残りのFe及び不可避な不純物からなり、下記式(1)及び(2)を満たす。
(1)Cu+Si=1.3
(2)Si+Cu+10*Sn≦3.0
ここで、Si、Cu、Snは、各元素の含量(重量%)を意味する。
【0012】
以下、本発明の実施例について添付図面を参照して詳細に説明する。
以下の実施例は、本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者に本発明の思想を十分に伝達するために提示するものである。本発明は、ここで提示した実施例に限定されず、他の形態で具体化されてもよい。図面は、本発明を明確にするため、説明とは関係のない部分の図示を省略し、理解を助けるため、構成要素のサイズを多少誇張して表現することがある。
また、どの部分がどのような構成要素を「含む」とするとき、これは特に反対の記載のない限り、他の構成要素を除外するのではなく、他の構成要素をさらに含むことができることを意味する。
単数の表現は、文脈上明らかに例外がない限り、複数の表現を含む。
【0013】
本発明者らは、低原価である低Crフェライト系ステンレス鋼の高温強度及び高温耐酸化性を向上させるため、様々な検討を行った結果、以下の知見を得た。
一般的に、排気系用のフェライト系ステンレス鋼には、高温強度のためにNbが添加されるが、Nbは、相対的に原料費が高価で製造原価を上昇させる原因となるので、Nbの添加は好ましい開発方向ではない。高温強度を増大させるためには、置換型固溶強化元素が効率的であることが広く知られている。特に置換型固溶強化元素を添加するとき、Fe、Crに対して重量及び原子半径において差が大きいほど、固溶強化効果は、さらに大きくなる。元素周期表においてSi、Cu、Snなどの合金元素は、Fe、Crと位置がかなり離れており、重量及び原子半径において差があるため、既存のNbを置き換えることができると判断し、高温強度増加のために成分の最適化を行った。
【0014】
一方、高温耐酸化性のためには、一般的にCr含量を高めるが、Crも原料費が高価で製造原価を上昇させる原因となるので、好ましい開発の方向ではない。高温耐酸化性のためには、高温に長時間さらされる場合、特定の元素が表面に緻密に濃化されてFe酸化膜の生成を抑制しなければならない。本発明では、表面に濃化されてもよい元素としてSi、Cu、Sn候補を選定し、高温耐酸化性のために成分の最適化を行った。
上記事項を含めて本発明では、以下のように成分系の条件及び数式を満たさなければならない。
【0015】
本発明の一実施例による成形性及び高温特性に優れた低Crフェライト系ステンレス鋼は、重量%で、C:0.005~0.015%、N:0.005~0.015%、Si:0.5~1.5%、Mn:0.1~0.5%、Cr:9~14%、Ti:0.1~0.3%、Cu:0.3~0.8%、Al:0.01~0.05%、Sn:0.005~0.15%、残りのFe及び不可避な不純物からなる。
以下、本発明の実施例における合金成分元素の含量の数値限定理由について説明する。以下では、特に言及がない限り、単位は重量%である。
【0016】
Cの含量は、0.005~0.015%である。
C含量が0.015%を超える場合、Crと結合してCr23析出物が生成されて基地内の局部的なCrの枯渇により高温耐酸化性が低下する。また、0.005%未満でCの含量を制御するためには、製鋼VOD工程費が増加して好ましくない。したがって、Cの含量を0.005~0.015%の範囲に制限する。
【0017】
Nの含量は、0.005~0.015%である。
鋼中のNは、0.015%を超える場合、固溶Nの濃度は、限界に達し、Crと結合してCrN析出物が生成されて基地内の局部的なCrの枯渇により高温耐酸化性が低下する。また、0.005%未満でNの含量を制御するためには、製鋼VOD工程比が増加して好ましくない。したがって、Nの含量を0.005~0.015%の範囲に制限する。
【0018】
Siの含量は、0.5~1.5%である。
Siは、高温強度増加のための固溶強化元素であるとともに、表層部にSi濃化酸化膜を形成し、高温耐酸化性も増加させる。上記の二つの効果のために、少なくともSi含量が0.5%以上必要とされ、1.5%を超える場合、素材の加工性が大きく劣位となるため、Si含量を上記のとおり制限する。
【0019】
Mnの含量は、0.1~0.5%である。
Mnは、鋼中に不可避に含まれる不純物であり、オーステナイトを安定化させる役割を果たす。低Crフェライト系ステンレス鋼においてMn含量が0.5%を超える場合、熱延または冷延後の焼鈍熱処理時にオーステナイトの逆変態が発生し、延伸率に悪影響を及ぼす。したがって、Mnの含量を上記のとおり制限する。
【0020】
Crの含量は、9~14%である。
Crは、ステンレス鋼において酸化を抑制する不動態皮膜の形成のために添加される必須元素である。安定した不動態皮膜を形成するためにCr含量を9%以上添加しなければならない。しかし、本発明は、Crを低減した低原価の鋼を開発することが目的であるため、上限を14%に制限する。より好ましくは、10.5~12.5%の範囲である。
【0021】
Tiの含量は、0.1~0.3%である。
Tiは、溶接部の耐食性の増大のために0.1%以上添加されることが必須である。Tiは、C、Nと結合してTi(C、N)析出物を形成して固溶C、Nの量を下げ、Cr枯渇層の形成を抑制する役割を果たす。しかし、Tiの含量が0.3%を超える場合、表層部のTi成分が酸素と反応して黄色く変色する。したがって、Ti含量を上記のとおり制限する。
【0022】
Cuの含量は、0.3~0.8%である。
Cuは、固溶強化元素であって、Nbに代って高温強度に寄与する元素である。また、Cuは、適切な熱処理により微細析出物を生成させると、析出強化の効果により、さらに高温強度の増大を期待できる。したがって、0.5%以上添加する。しかし、Cuを添加しすぎた場合、高温熱間加工性が阻害される虞があるので、その量を0.8%以下に制限する。
【0023】
Alの含量は、0.01~0.05%である。
Alは、製鋼操業中に脱酸のために添加される元素である。Al含量が0.05%を超える場合には、表層部のAlが酸素と反応して不均一な酸化層を形成し、高温耐酸化性に悪影響を及ぼす。したがって、Al含量を上記のとおり制限する。
【0024】
Snの含量は、0.005~0.15%である。
Snは、高温強度増加のための固溶強化元素であるとともに、表層部にSn濃化酸化膜を形成し、高温耐酸化性を増加させる。上記の二つの効果のために少なくともSnの含量が0.005%以上添加されなければならない。しかし、0.15%を超える場合、熱間圧延時にSnが結晶粒界面に偏析されて結晶粒間の結合力を弱め、表層部に微細クラックを誘発させる。したがって、Sn含量の上限を0.15%以下に制限する。
【0025】
また、本発明の一実施例によれば、Ni:0.3%以下、P:0.04%以下及びS:0.002%以下をさらに含んでもよい。
Niの含量は、0.3%以下である。Niは、鋼中に不可避に含まれる不純物で、0.01%以上含まれてもよく、オーステナイトを安定化させる役割を果たす。低Crフェライト系ステンレス鋼においてNi含量が0.3%を超える場合、熱延または冷延後の焼鈍熱処理時にオーステナイトの逆変態が発生して延伸率に悪影響を及ぼす。したがって、Niの含量を上記のとおり制限する。
Pの含量は、0.04%以下である。Pは、鋼中に含まれる不可避な不純物であり、酸洗時に粒界腐食を起こしたり、熱間加工性を阻害させるため、その含量を0.04%以下に調節する。
Sの含量は、0.002%以下である。Sは、鋼中に含まれる不可避な不純物であり、結晶粒界に偏析されて熱間加工性を阻害するので、その含量を0.002%以下に制限する。
【0026】
上記の合金元素を除いたフェライト系ステンレス鋼の残りは、Fe及びその他の不可避な不純物からなる。
【0027】
一方、本発明の一実施例による成形性及び高温特性に優れた低Crフェライト系ステンレス鋼は、下記式(1)~(3)を満たすことができる。
(1)Cu+Si=1.3
高温強度は、通常、固溶強化と析出強化によって影響を受ける。Cu、Siは、代表的な固溶強化元素であるので、高温強度の増加のために添加することが好ましい。CuがCu析出相として析出すると、析出強化効果により高温強度がより効果的に増加することになる。また、Siの含量が増加する場合、Cuは、固溶限界度が低くなるため、Cu析出相の析出がより容易になる。これにより、基地組織内の1~500nmサイズのCu析出相は0.03重量%以上の析出が可能となる。したがって、Cu+Si含量を1.3%以上の範囲で制御することがよい。
上記固溶強化及び析出強化の効果により、本発明による低Crフェライト系ステンレス鋼は、900℃における高温強度が12MPa以上を示すことができる。
【0028】
(2)Si+Cu+10*Sn=3.0
Si、Cu、Sn合金元素は、それぞれ高温強度や高温耐酸化性を助勢する影響を及ぼすが、素材をあまりにも硬質化させると延伸率が劣位となり、成形性が低下する。本発明では、Si、Cuを添加し、高温強度を向上させるとともに、式(3)を同時に満たす場合、延伸率30%以上を確保して成形性の劣位を防止することができる。したがって、素材加工性を確保するために、Si、Cu、Snの含量の関係を上記の範囲に制御する。
【0029】
(3)(Si+5*Sn)/Ti=5.0
高温酸化において、低Crフェライト系ステンレス鋼でSi、Snが添加される場合には、Si、Snの均一な酸化皮膜が先に形成されて異常酸化を抑制させる。しかし、Ti添加の場合には、Ti酸化皮膜が不均一に形成され、Ti酸化皮膜そのものが黄色を示すため、高温変色が現れる。したがって、Si、Sn、Tiの含量を上記の範囲に制御し、高温耐酸化性を向上させることが好ましい。
【0030】
次に、本発明の一実施例による成形性及び高温特性に優れた低Crフェライト系ステンレス鋼の製造方法について説明する。
本発明の成形性及び高温特性に優れた低Crフェライト系ステンレス鋼の製造方法は、通常の製造工程を経て冷延鋼板に製造でき、上記の合金成分の組成を含み、式(1)~(3)を満たすフェライト系ステンレス鋼の冷延鋼板を冷延焼鈍熱処理する段階と、450~550℃の温度範囲まで急冷して5分以上維持する段階と、を含む。
【0031】
例えば、上記の合金成分の組成を含むスラブを熱間圧延し、熱間圧延された熱延鋼板を焼鈍熱処理し、冷間圧延して冷延鋼板に製造できる。
冷延鋼板は、冷延焼鈍工程において通常の再結晶熱処理以後、450~550℃の温度範囲まで急冷し、5分以上保つことができる。上記冷却及び維持により同じ成分系においてCu析出相の析出を増加させることができ、高温強度をさらに向上させることができる。
これによる冷延焼鈍鋼板は、基地組織内の1~500nmサイズのCu析出相を0.09重量%以上含んでもよく、900℃の高温強度は、14.5MPa以上であってもよい。
【0032】
以下、本発明の好適な実施例について、より詳細に説明する。
実施例
ステンレス鋼lab scale溶解及びIngot生産設備を活用し、以下の表1に記載した合金成分系で20mmのバーサンプルを製造した。その後、1,200℃で再加熱して6mmの熱間圧延後、1,100℃で熱延焼鈍を行い、2.0mmで冷間圧延後、1,100℃で焼鈍熱処理した。一部の発明に対してのみ熱処理後、500℃まで急冷して7分ほど維持した後、空冷して冷延焼鈍鋼板を製造し、残りの発明例及び比較例は、焼鈍熱処理後に空冷した。
【0033】
【表1】
【0034】
各冷延焼鈍鋼板に対してCu析出相の分率を測定し、500℃で1時間経過後に変色が発生するかどうかを確認した。また、900℃の高温強度及び常温における延伸率を測定し、表2に示した。
【0035】
【表2】
表1に記載した比較例及び発明例は、Cu、Si、Snの含量を異にしたもののほか、C、N、Cr、Tiなどの合金元素は、本発明の成分系の含量の範囲内に制御した。
【0036】
比較例1~4は、Cuの含量が0.3%に満たないため、式(1)の値が1.3未満であり、これによって微細Cu析出相の量が低くなった。固溶強化及び析出強化の効果に乏しく、高温強度が12MPa未満で低くなることが確認できた。
比較例1~3は、Si及びSnの含量がTiの含量に比べて少ないので、式(3)を満たすことができず、表層のSi及びSn濃化酸化皮膜が十分に形成されず、高温変色が発生した。比較例4は、Cuの含量が低いだけで、Siの含量が高く式(3)を満たすので、変色は発生せず、式(3)による高温耐酸化性の確保を確認できた。
比較例5及び6は、Snの含量が高いので、式(2)の値が3.0を超えており、これによって延伸率が他の比較例に対して5.0%近く減少することが確認できた。
【0037】
発明例1は、本発明の成分系の組成と式(1)及び(2)を満たす。高温における変色は発生したが、式(1)を満たしてCu析出物が0.05重量%析出され、高温強度が12MPa以上を示した。また、式(2)を満たして高温強度を確保するとともに、延伸率が33.3%測定されて成形性も優れていることが確認できた。
発明例2~4は、Si、Cu、Snの含量を最適化して式(1)~(3)をすべて満たし、これによって高温強度13.5MPa以上及び延伸率30.8%以上を示し、高温変色も発生しなかった。
発明例5~7は、Si、Cu、Snの含量を最適化して式(1)~(3)をすべて満たすだけではなく、本発明による熱処理後の冷却スケジュールを適用したことを示す。延伸率は、30.3%以上を確保し、熱処理後の急冷及び維持時間を満たした結果、微細Cu析出相が0.09重量%以上観察され、高温強度は、14.6MPa以上でさらに高かった。特に、発明例5及び6は、15MPa以上の高温強度を示した。
【0038】
図1は、本発明による実施例の式(1)及び式(3)の値を示したグラフである。図1によって高温強度及び高温耐酸化性に関する式(1)及び(3)の相関関係を確認できる。
【0039】
以上、本発明の例示的な実施例を説明したが、本発明は、これに限定されず、当該技術分野における通常の知識を有する者であれば、以下に記載する請求範囲の概念と範囲を逸脱しない範囲内で、様々な変更及び変形が可能であることを理解できるだろう。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明によるフェライト系ステンレス鋼は、Cr含量の増加及びNb添加なしで既存の鋼種の高温特性を30%以上増大させることができるため、原料費の削減が可能である。
図1
【国際調査報告】