(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-09
(54)【発明の名称】拡開アンカ
(51)【国際特許分類】
F16B 13/06 20060101AFI20220202BHJP
F16B 13/04 20060101ALI20220202BHJP
【FI】
F16B13/06 B
F16B13/04 E
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021533701
(86)(22)【出願日】2019-12-02
(85)【翻訳文提出日】2021-07-09
(86)【国際出願番号】 EP2019083305
(87)【国際公開番号】W WO2020120196
(87)【国際公開日】2020-06-18
(31)【優先権主張番号】102018132029.9
(32)【優先日】2018-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514271866
【氏名又は名称】フィッシャーヴェルケ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】fischerwerke GmbH & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Klaus-Fischer-Strasse 1, D-72178 Waldachtal, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】パトリック プファウ
【テーマコード(参考)】
3J025
【Fターム(参考)】
3J025AA07
3J025BA04
3J025BA07
3J025CA01
3J025CA05
3J025EA05
(57)【要約】
本発明は、拡開アンカであって、スリーブ形の区分(4)、拡開体(3)および拡開部材(2)を備え、拡開部材(2)は複数の拡開エレメント(5)を有しており、拡開エレメント(5)は、非拡開状態においてスリーブ形の区分(4)および拡開体(3)に一体的に結合されている、拡開アンカに関する。拡開部材(2)はさらに結合エレメント(6)を有しており、結合エレメント(6)は、スリーブ形の区分(4)と拡開体(3)とを、非拡開状態および拡開状態においても一体的に結合している。本発明によれば、結合エレメント(6)は拡開体(3)に形状結合式に結合されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
拡開アンカであって、スリーブ形の区分(4)、拡開体(3)および前記スリーブ形の区分(4)と前記拡開体(3)との間に配置された拡開部材(2)を備え、該拡開部材(2)は複数の拡開エレメント(5)を有しており、該拡開エレメント(5)は、非拡開状態において前記スリーブ形の区分(4)および前記拡開体(3)に一体的に結合されており、
前記拡開体(3)は、拡開ねじ(15)により、前記スリーブ形の区分(4)に向かって運動可能であり、これにより、前記拡開エレメント(5)が拡開時に目標分離箇所(21)において前記拡開体(3)から外れて、前記拡開エレメント(5)が、拡開状態において前記拡開体(3)から分離されているように、前記拡開体(3)が前記拡開部材(2)を拡開し、
前記拡開部材(2)は結合エレメント(6)を有しており、該結合エレメント(6)は、前記スリーブ形の区分(4)と前記拡開体(3)とを、非拡開状態および拡開状態においても一体的に結合している、拡開アンカにおいて、
前記結合エレメント(6)は前記拡開体(3)に形状結合式に結合されていることを特徴とする、拡開アンカ。
【請求項2】
前記結合エレメント(6)は、前記拡開体(3)に面した端部において、それぞれ少なくとも1つの形状結合エレメント(9)を有しており、該形状結合エレメントは、前記拡開体(3)に形状結合式に係合する、請求項1記載の拡開アンカ。
【請求項3】
前記形状結合エレメント(9)は、前記スリーブ形の区分とは反対側の先端部を備えて、楔状に構成されている、請求項2記載の拡開アンカ。
【請求項4】
前記拡開体(3)は第1のプラスチックから成っており、前記拡開部材(2)は第2のプラスチックから製造されている、請求項1から3までのいずれか1項記載の拡開アンカ。
【請求項5】
前記第1のプラスチックは繊維強化されている、請求項4記載の拡開アンカ。
【請求項6】
前記第1のプラスチックは前記第2のプラスチックとほぼ同一の溶融温度を有している、請求項4または5記載の拡開アンカ。
【請求項7】
前記両方のプラスチックはポリアミドである、請求項4から6までのいずれか1項記載の拡開アンカ。
【請求項8】
前記拡開エレメント(5)は前記拡開体(3)に材料結合式に結合されている、請求項1から7までのいずれか1項記載の拡開アンカ。
【請求項9】
前記材料結合式の結合は、前記拡開アンカ(1)の製造時に前記拡開エレメント(5)および/または前記拡開体(3)の溶融による局所的な溶着により形成される、請求項8記載の拡開アンカ。
【請求項10】
前記拡開エレメント(5)と前記拡開体(3)との間の前記材料結合式の結合部が、前記拡開エレメント(5)と前記拡開体(3)との間の目標分離箇所(21)を形成する、請求項8または9記載の拡開アンカ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前提部に記載の特徴を備えた拡開アンカに関する。
【背景技術】
【0002】
独国特許出願公開第2558459号明細書からは、このような種類の拡開アンカが知られている。この拡開アンカは、プラスチックから一体的に製造されている。拡開アンカは、石膏ボードで板囲いされている乾式壁構造にとって一般的であるような、背後に中空室が位置しているプレート建材に取付け部材を取り付けるために設けられている。公知の拡開アンカの前端部は、拡開体を有している。この拡開体は、ねじによって後方に向かってスリーブ形のつばへと引っ張ることができ、これにより拡開脚部が拡開させられ、プレート建材の背面に押圧される。公知の拡開アンカの耐荷重挙動は、ねじが拡開体を拡開脚部に押圧する力と、拡開脚部がこの力をプレート体にどれくらい良好に伝達することができるかとに、直接に依存している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、先行技術から公知の拡開アンカに比べて耐荷重挙動が改善されている拡開アンカを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この課題は、本発明によれば、請求項1に記載の特徴を備えた拡開アンカによって解決される。本発明に係る拡開アンカは、取付け部材を取付けベースに、特にプレート建材、特に石膏ボードに取り付ける働きをする。拡開アンカは、長手方向軸線に沿って延びており、円筒によって輪郭を示すことができる。この円筒の高さは、長手方向軸線の方向に延びており、円筒の底面および頂面は、拡開アンカの前端部および後端部を成している。「前端部」とは、本明細書では、穿孔内への拡開アンカの計画通りの導入時に、最初に穿孔内に導入される、拡開アンカの端部を意図している。拡開アンカは、スリーブ形の区分と、拡開体と、拡開部材とを有している。拡開部材は、スリーブ形の区分と拡開体との間に配置されている。特に、拡開体は、拡開アンカの前端部を形成する。拡開体は、特に円錐形の後方区分または斜面を備えた後方区分を備えた円筒形の基本形状を有している。この後方区分は、拡開部材に面しているか、または拡開部材に係合する。これに対して、スリーブ形の区分は、特に拡開アンカの後端部を形成する。スリーブ形の区分は、特につばおよび/または別のストッパエレメントを有しており、このストッパエレメントは、拡開アンカを穿孔内にどの程度差し込むことができるかを制限する。拡開部材は、少なくとも2つの拡開エレメントを有している。これらの拡開エレメントは、非拡開状態では、スリーブ形の区分および拡開体に一体的に結合されている。特に、拡開エレメントは、スリーブ形の区分に枢着結合されており、結合している枢着部は、特に局所的な材料弱化部により形成され、たとえば拡開アンカの長手方向軸線周りで周方向に延びる溝により形成される。「非拡開状態」は、拡開アンカが計画通りに穿孔内に導入されている状態であり、この状態において拡開体は拡開部材にまだ一体的に固く結合されており、このことは拡開アンカに、穿孔内への打込みのために必要となる安定性を与える。
【0005】
拡開アンカは、長手方向軸線に沿って、または長手方向軸線に沿って平行に延びる中心のねじ通路を有している。このねじ通路内に、拡開ねじをねじ込むことができる。長手方向軸線とねじ通路とは、穿孔内への拡開アンカの導入方向に対して平行に延びている。拡開ねじにより、拡開体を、拡開エレメントに対して相対的にスリーブ形の区分に向かって運動させることができ、これにより、拡開体は、拡開エレメントを長手方向軸線に対して半径方向で互いに離れるように押圧し、拡開部材を周方向に拡張させる、つまり拡開させる。拡開時に、拡開エレメントは、目標分離箇所において拡開体から外れる。非拡開状態において、目標分離箇所は、拡開体と拡開エレメントとの固い結合部を形成する。それぞれ少なくとも1つの目標分離箇所が、1つの拡開エレメントと拡開体との間に形成されている。目標分離箇所を介した結合により、拡開アンカは、十分な強度を有しており、特に長手方向軸線に対して垂直な軸線を中心とした屈折または屈曲に対する強度を有しており、これにより拡開アンカを、比較的大きな軸方向の圧力でも、狭い穿孔内に導入することができる。拡開時に、この目標分離箇所は破壊されるので、拡開エレメントは、拡開状態では、拡開体から分離されている。拡開体からの分離により、拡開エレメントは、その後端部にだけで、スリーブ形の区分に結合されている。したがって、拡開エレメントの前端部を、拡開時に拡開体により遠くに、かつ小さな力で半径方向外方に向かって運動させ、かつたとえば拡開アンカが取り付けられる石膏ボードの背面に押し付けることができる。
【0006】
拡開ねじが、取付けベースから取付け部材を外すために、再び拡開アンカからねじり出される場合、結合エレメントは、拡開体が、拡開アンカの残りの部分から外れて、たとえば取付けベースの中空室内に落ちてしまうことを阻止する。拡開部材は、結合エレメントの少なくとも2つを有している。これらの結合エレメントは、スリーブ形の区分と拡開体とを非拡開状態でも、拡開状態でも一体的に結合する。つまり、拡開エレメントとは異なり、結合エレメントは、拡開時にも、直接的または間接的に結合されている拡開体またはスリーブ形の区分から分離しない。
【0007】
本発明によれば、結合エレメントが、拡開体に形状結合式に結合されている。つまり、結合エレメントは、形状結合エレメントによって拡開体に係合する。係合は、定義された画定された空間内で行われる。この空間は、特に結合エレメントのネガ像を成す。これにより、拡開体と結合エレメントとの間で計画通りの使用時に解離不能な固い結合が生じる。特に、形状結合エレメントと拡開体との間で、定義された境界面が生じ、この境界面は、形状結合エレメントから拡開体への移行部を定義する。本明細書では、形状結合エレメントが拡開体の部分に背後から係合し、これにより、結合エレメントと拡開体との間の付加的な材料結合部が生じない場合でも、拡開体が結合エレメントに引張り強度をもって結合されているように、特に拡開体に設けられた相補的な切欠き、開口または切込み部に係合するエレメントが「形状結合エレメント」と呼ばれる。
【0008】
形状結合式の結合により、拡開体および/または拡開アンカの残りの部分を別個に製造し、拡開体および/または残りの部分の製造後にようやく互いに結合することが可能である。これにより、拡開体を、結合エレメントおよび/または拡開エレメントが製造されている材料よりも固い材料から拡開体を製造することが可能であり、結合エレメントおよび/または拡開エレメントは、たとえば、拡開体よりも脆くなく、より強靱な材料から製造されているが、この材料は、拡開体が製造されている材料よりも小さな硬さを有している。
【0009】
好適には、結合エレメントが、拡開体に面した端部において、それぞれ少なくとも1つの形状結合エレメントを有しており、この形状結合エレメントが、拡開体に形状結合式に係合する。複数の形状結合エレメントが設けられていてもよい。好適には、形状結合エレメントが、スリーブ形の区分とは反対の側の先端部を備えて、楔状に構成されている。「楔状」は、特に矢印先端部形、円錐台形、円錐形、錐台形またはピラミッド形に構成されているか、または略三角形の横断面を有している形状結合エレメントの基体を含み、基体の底面は、形状結合エレメントの後端部を形成する、つまりスリーブ形の区分に面している。つまり、形状結合エレメントの後端部は、拡開アンカの長手方向軸線に対する半径方向平面に関して、形状結合エレメントの前端部よりも大きな横断面を有している。特に、底面は、拡開アンカの長手方向軸線に対する半径方向平面に延びており、底面は、特にスリーブ形の区分に対して凹状に湾曲している。このように構成された形状結合エレメントは、拡開体に良好に結合され、拡開体において比較的大きな面をアクティブにすることができるので、形状結合エレメントと拡開体との間で十分に高い引張り力を伝達することができ、この力は、拡開体が拡開ねじのねじり出し時に結合エレメントから外れることを阻止する。
【0010】
本発明に係る拡開アンカの1つの好適な構成では、拡開体が第1のプラスチックから成っており、拡開部材が第2のプラスチックから成っている。特に、本発明に係る拡開アンカは、多成分射出成形法において少なくとも2種のプラスチック成分から製造され、このことは、拡開アンカの簡単で廉価な製造を可能にする。特にまず、拡開部材が、特にスリーブ形の区分と一緒に射出成形され、次いで拡開体が射出成形される。形状結合エレメントは、拡開体の射出成形時に拡開体のプラスチックによって少なくとも部分的に形状結合式に取り囲まれる。特にスリーブ形の区分および拡開部材は、第2のプラスチックから一体的に製造されている。
【0011】
特に、拡開体が製造されている第1のプラスチックは、繊維強化されている。「繊維強化」とは、本明細書では、プラスチック母材中に強化繊維が埋め込まれていることを意図している。プラスチックのための慣用の強化繊維は、特にガラス繊維または炭素繊維であるが、このことは、本発明の枠内における別の繊維の使用を排除しない。強化繊維の使用により、拡開体の材料特性を調節することができる。特に拡開体は、第1のプラスチックの繊維強化に基づいてより硬く、拡開部材よりも高い強度を有している。これに対して拡開部材は、拡開体よりも強靱かつ容易に変形可能であり、したがって石膏ボードの背面において、概して取付けベースにおいて力伝達のためにより良好に当て付けられるか、または適合することができる。これに対して、より硬い拡開体は、拡開エレメントを取付けベースに対して押圧するために最良に適している。拡開体の変形は不都合だろう。したがって、このように構成された拡開アンカは、極めて良好な拡開挙動および耐荷重挙動を有している。特に第2のプラスチックは繊維強化されていない。
【0012】
さらに、第1のプラスチックが、第2のプラスチックとほぼ同一の溶融温度を有していると有利である。「ほぼ同一」とは、本明細書において、一方のプラスチックが射出成形時に既に固い別のプラスチックに固着するように一体射出成形され、一体射出成形されたプラスチックが、既に前もって射出成形された、特に既に固いプラスチックを溶融し、つまりこの固いプラスチックを少なくとも局所的にかつ少なくとも表面的に軟らかくして、両プラスチックが結合し、プラスチック間で材料結合式の結合部が製造されるように、溶融温度が選択されていることを意図している。特に、溶融温度は、30ケルビン度以下、特に20ケルビン度以下、特に10ケルビン度以下しか離れていない。
【0013】
好適には、両方のプラスチックは、ポリアミドである。特に第1のプラスチックは少なくとも20重量パーセントのガラス繊維が補強材として埋め込まれているポリアミドである一方で、第2のプラスチックは同一のポリアミドであるが、最大で10重量パーセントのガラス繊維を有しているか、特に繊維補強材を有していない。
【0014】
拡開エレメントは、拡開体に好適には材料結合式に結合されている。拡開エレメントと拡開体との間の材料結合式の結合部は、拡開エレメントと拡開体との間の目標分離箇所を形成する。「材料結合式に結合」とは、拡開エレメントが拡開体に結合されている目標分離箇所が、材料結合式の結合部により形成されることを意味している。特に、材料結合式の結合部は、拡開体および/または拡開エレメントの製造時に直接に形成される。好適には、材料結合式の結合部は、拡開アンカの製造時の拡開エレメントおよび/または拡開体の溶融による局所的な溶着により形成される。たとえば、まず拡開部材が、特にスリーブ形の区分と一緒に製造され、特に第2のプラスチックから一体的に製造される。次いで第1のプラスチックから成る拡開体が、拡開部材に固着するように一体射出成形される。この場合に、第1のプラスチックが、特にほぼ同一の溶融温度を有している第2のプラスチックを溶融し、これにより、第1のプラスチックと第2のプラスチックとが局所的に材料結合式に結合される。その際に目標分離箇所、つまり拡開エレメントと拡開体とが材料結合式に結合されている箇所が形成される。目標分離箇所のこのような種類の製造において有利であるのは、結合のために、つまり目標分離箇所の形成のために付加的な接着材を使用する必要がなく、したがって、付加的な方法ステップが不要であり、それにもかかわらず拡開体と拡開エレメントを互いに異なるプラスチックから形成するか、または互いに異なって補強されたプラスチックから形成することができることである。
【0015】
さらに、同様に第2のプラスチックから成る形状結合エレメントも、拡開体との形状結合式の結合部に対して付加的に、拡開体に材料結合式に結合されていてよく、しかも同様に、拡開アンカの製造時の溶融による溶着により結合されていてよい。
【0016】
拡開ねじのねじ込み時に、拡開部材に関する拡開体の回転角度をたとえば約90°または約180°に制限するために、拡開アンカは、特に拡開部材に関する拡開体の回転角度制限部を有している。この回転角度制限部は、たとえば回転ストッパから成っている。
【0017】
拡開エレメントの拡開のために、傾斜した螺旋面が拡開面として拡開体に形成されていてよい。「傾斜」とは、拡開面の外周ラインが拡開アンカの長手方向軸線に対して傾斜して延びていることを意図している。拡開面の外周ラインは、直線である必要はなく、拡開面は、クラウニング状、中空円形(Hohlrund)、波形等であってもよい。同時に、拡開体の拡開面は、螺旋面であってよく、つまり周方向および半径方向で長手方向軸線から内方から外方に向かって延びている。傾斜した螺旋面としての拡開体の拡開面の構成により、拡開体は、拡開エレメント間での拡開体の運動により、かつ/または拡開エレメント間での拡開体の回転により拡開エレメントを拡開する。「拡開エレメント間」とは、いずれの場合も、拡開体の拡開面が少なくとも部分的に拡開エレメントの間に位置し、拡開体の別の部分が、拡開エレメントの外側に位置していることを意味している。
【0018】
拡開ねじのねじ山係合のために、拡開体に、受け部材が配置されていてよい。受け部材は、特に残りの拡開体とは別個に製造された、拡開体に配置されている部材である。受け部材は、特に拡開ねじのための貫通開口を有している。貫通開口内には、片持ちアーム形の受けエレメントが、拡開ねじの雄ねじ山とのねじ山係合のために突入する。これにより、円形の孔縁部によるよりも、様々なねじ径および/またはねじ山へのより大幅な適合が可能である。片持ちアーム形の受けエレメントを備えた貫通開口内に、たとえば機械ねじのねじ山と同様に木ねじのねじ山がねじ込まれる。特に、受け部材は、金属薄板打抜き部材であり、この金属薄板打抜き部分は、特に拡開体の製造時に第1のプラスチックの射出成形時にこのプラスチックにより形状結合式に取り囲まれるか、または拡開体の射出成形後に拡開体に結合される。
【0019】
本発明を以下に図面に示した実施例に基づき詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明に係る拡開アンカを非拡開状態において示す斜視図である。
【
図2】
図1に示した拡開アンカを穿孔内で拡開された状態で示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図面に図示された本発明に係る拡開アンカ1は、拡開部材2と拡開体3とを有している。拡開体2は、以下で「第2のプラスチック」と呼ばれる一種のプラスチック、本実施例ではポリアミドから成っている。拡開部材2にはスリーブ形の区分4が続いており、このスリーブ形の区分4は、環状または管形としても解釈することができ、拡開アンカ1の後方部分を形成する。スリーブ形の区分4は、後端部において、環状に延びるつば22と、回転防止リブ23とを有している。
【0022】
拡開部材2の拡開エレメント5は、スリーブ形の区分4に枢着結合されている。これらのストリップ形の拡開エレメント5と、ロッド形の結合エレメント6とは、周面にかつ長手方向軸線Lに対して平行に、スリーブ形の区分4から前方に向かって突出している。実施例では、拡開アンカ1の拡開部材2は、2つの拡開エレメント5と2つの結合エレメント6とを有している。拡開エレメント5および結合エレメント6はそれぞれ対峙して配置されているので、結合エレメント6は、拡開アンカ1の周面において拡開エレメント5の間に位置している。拡開エレメント5も結合エレメント6も、拡開体3から遠方の後端部において、スリーブ形の区分4に一体的に移行しており、このスリーブ形の区分4と一緒に、拡開エレメント5および結合エレメント6は、射出成形法において第2のプラスチックから一体的に製造されている。
【0023】
拡開体3は、拡開部材2に対して同軸的に、拡開エレメント5および結合エレメント6の、拡開体3に近い、かつしたがってスリーブ形の区分4からは遠方の端部に配置されている。拡開体3は、一部は拡開エレメント5の間に位置していて、一部は軸方向で拡開エレメント5の外側に位置している。拡開体3は軸方向の貫通孔7を有しており、この貫通孔7は、拡開部材2のスリーブ形の区分4の貫通開口に対して同心的であるがより小さな直径を有しており、貫通開口のように、拡開ねじ15のためのねじ通路の一部を形成する。拡開部材2のスリーブ形の区分4に面した端面において、拡開体3は2つの傾斜した螺旋面を拡開面8として有している。これらの拡開面8は、それぞれ周方向で180°未満にわたって延びている。傾斜した螺旋面は、半径が周方向で拡大する円錐台面とも解釈することができる。拡開体3が拡開エレメント5の間で移動させられた場合、長手方向軸線Lに対する傾斜に基づいて、拡開体3の拡開面8は、拡開部材2の拡開エレメント5を互いに離れるように押圧する。その螺旋形状に基づいて、つまり周方向での半径の拡大に基づいて、拡開体3の拡開面8は、拡開体3が拡開部材2に対して回転し、拡開面8が拡開エレメント5間に位置している場合、拡開部材2の拡開エレメント5を互いに離れるように押圧する。拡開エレメント5を互いに離れるように押圧することを、拡開エレメント5または拡開アンカ1の拡開と呼ぶこともできる。つまり、拡開エレメント5は、拡開エレメント5間での拡開体3の運動によっても、拡開エレメント5間での拡開体3の回転によっても、かつ両運動の組み合わせによっても拡開させられる。
【0024】
拡開体3、拡開部材2およびスリーブ形の区分4は、全て同一のポリアミドから成っている。しかし、拡開体3は、プラスチック母材中に30重量パーセントのガラス繊維の繊維補強材を有している。拡開体3のこの補強されたポリアミドは、以下で「第1のプラスチック」と呼ばれる。これに対して、拡開部材およびスリーブ形の区分4が製造されている、補強されていないポリアミドは、既に述べたように「第2のプラスチック」と呼ばれる。
【0025】
拡開体3と、拡開エレメント5の、拡開体3に面した前端部との間には、非拡開状態において、目標分離箇所21が位置している。これらの目標分離箇所21において、拡開エレメント5は拡開体3に一体的かつ材料結合式に結合されている。目標分離箇所21は面状であり、長手方向軸線Lに対して傾斜して延びている。目標分離箇所21は、拡開アンカ1の射出成形時に、拡開エレメント5に固着するように拡開体3を一体的に射出成形することにより形成されている。両方のプラスチックがほぼ同一の溶融温度を有しているので、拡開体3の一体射出成形時に、前もって既に射出成形されていた拡開エレメント5の前端部において局所的な溶融が生じる。ほぼ同一の溶融温度に基づいて、拡開部材5の前端部の第2のプラスチックは、第1のプラスチックの一体射出成形よって、両プラスチックが互いに結合し、これにより材料結合式の結合箇所、すなわち目標分離箇所21が発生するほど加熱される。非拡開状態では、スリーブ形の区分4は、拡開エレメント5および結合エレメント6を介して拡開体3に一体的かつ固く結合されているので、拡開アンカ1は、狭い穿孔18(
図2)内に導入するために十分に安定的である。
【0026】
結合エレメント6は、拡開体3に面した端部に形状結合エレメント9を有している。形状結合エレメント9は、拡開アンカ1に対して半径方向で、拡開アンカ1の周面に向かって見て、矢印先端部の形状を有している。矢印先端部の底面は、スリーブ形の区分4に面している。結合エレメント6の形状結合エレメント9は、拡開体3の周面に設けられた相補的な切欠き10内に収容されているので、結合エレメント6は、その形状結合エレメント9により拡開体3を拡開部材2に結合する。結合エレメント6の形状結合エレメント9と相補的な切欠き10とは、結合エレメント6を拡開体3に形状結合式に結合する。結合エレメント6に固着するように拡開体3を一体的に射出成形することにより、形状結合エレメント9は、拡開体3を製造する第1のプラスチックの射出成形時にこの第1のプラスチックにより形状結合エレメント9を取り囲む際の溶融による局所的な溶着によって、拡開体3に付加的に材料結合式に結合されている。
【0027】
図2において確認することができるように、拡開体3が、拡開ねじ15により、拡開エレメント5間で運動させられた場合、結合エレメント6を、図示されているように圧縮させ、かつ/または、図示とは異なり外方に向かって、または周方向で屈折または屈曲させることができる。拡開部材2に対する拡開体3の回転時に結合エレメント6はS字形または螺旋形に変形する。結合エレメント6のこのような変形または別の変形の組み合わせも可能である。しかし、形状結合式の結合に基づいて、結合エレメント6と拡開体3とは、この変形状態においても、互いに固く結合されている。
【0028】
拡開部材2に対する拡開体3の回転を制限するために、拡開体3は、その拡開面8の領域において、拡開体3の軸方向の平面内で互いに対向して配置された2つのストッパ面19を有している。これらのストッパ面19は、半径方向で一方の側から拡開体3を見て、互いに反対側に位置しており、したがって周方向で見て同一の周方向に向いている。拡開部材2に対する拡開体3の回転時に、ストッパ面19は、結合エレメント6または拡開エレメント5に衝突し、これにより拡開部材2に対する拡開体3の回転角度を約90°に制限する。ストッパ面19は、回転ストッパ20としても解釈することができる。ストッパ面19は、拡開エレメント5間で拡開体3が回転した場合に、拡開面8が拡開エレメント5を最大限に拡開するように、拡開部材2に対する拡開体3の回転角度を制限する。
【0029】
拡開体3の拡開面8の、スリーブ形の区分4とは反対の側に、円筒形の区分11が接続しており、この円筒形の区分11の、拡開部材2のスリーブ形の区分4とは反対側の半径方向の端面に、受け部材12が配置されている。受け部材12は、金属薄板から打ち抜かれた、1つの孔13を有する孔付きディスクであり、この孔13内に、片持ちアーム形の受けエレメント14が突入している。半径方向内方に突入している受けエレメント14は、アーチ形に内方に向かって、かつスリーブ形の区分4から離れる方向で前方に向かって湾曲している。受けエレメント14により、受け部材12は、拡開ねじ15の様々なねじ径および様々なねじ山形状に適合することができる。なお、拡開ねじ15としては、たとえば、機械ねじと同様に、木ねじを用いることも可能である。
【0030】
受け部材12は、拡開体3の、スリーブ形の区分4とは反対側の端面から、周面において互いに対して軸平行に突出した2つの舌片16の間に保持されており、これらの舌片は、互いに面した内面にスリットを有しており、これらのスリットに受け部材12を形成する孔付きディスクが挿入される。
【0031】
本実施例では石膏ボード17である取付けベースに、または取付けベース内に取付け部材24(
図2)を取り付けるために、拡開アンカ1は、
図2において確認することができるように、本明細書では穿孔18とも呼ばれる一貫した孔内に導入され、この場合に、拡開体3と、拡開エレメント5の自由端とが、背面側でボード17から突出し、拡開部材2は、ボード17の正面と面一に整合するように穿孔18内に埋め込まれており、つば22は、拡開アンカ1の穿孔18内への導入を制限する。拡開のために、拡開ねじ15が、スリーブ形の区分4を通じて、かつ拡開部材2の拡開エレメント5と結合エレメント6との間を通って、拡開体3の軸方向の貫通孔7に導入され、拡開体3およびその受け部材12にねじ込まれて貫通する。拡開ねじ15のねじ山は、拡開体3の貫通孔7に食い込むことができる。スリーブ形の区分4の貫通開口の直径は、拡開体3の貫通孔7の直径よりも大きいので、拡開ねじ15のねじ山は、スリーブ形の区分4の貫通開口には食い込まない。拡開体3の貫通孔7内における拡開ねじ15のねじ山係合とは無関係に、拡開ねじ15のねじ山は、受け部材12の受けエレメント14に係合する。回転により、拡開ねじ15は、拡開体3を拡開エレメント5の間に引っ張り、これにより拡開体3の拡開面8が拡開エレメント5を互いに離れるように押圧する、つまり拡開する。拡開は、拡開ねじ15による拡開体3の回転によっても行うことができる。拡開エレメント5は、目標分離箇所21において拡開体3から外れるので、目標分離箇所21は拡開を妨げない。目標分離箇所21は単に材料結合式の結合であるので、予め規定された力を加えた場合に正確に定義された箇所における分離が可能である。
【0032】
拡開によって、拡開アンカ1は、アンカ孔18にアンカ固定されている。
図2では、拡開した拡開エレメント5が、石膏ボード17の背面に背後から係合している。
【0033】
拡開ねじ15が拡開された拡開アンカ1からねじり出されると、結合エレメント6は、再びほぼ当初の軸平行な方向に延び、拡開体3を軸方向または少なくともほぼ軸方向で拡開部材2において保持する。結合エレメント6は、スリーブ形の区分4を通って、拡開部材2の拡開エレメント5と結合エレメント6との間に再び通された拡開ねじ15が、拡開体3の軸方向貫通孔7に進入し、拡開エレメント5または拡開アンカ1を拡開するためにねじ込まれ、締め付けることができるように、拡開体3を拡開部材2において位置調整して保持する。
【符号の説明】
【0034】
1 拡開アンカ
2 拡開部材
3 拡開体
4 スリーブ形の区分
5 拡開エレメント
6 結合エレメント
7 拡開体3の貫通孔
8 拡開面
9 形状結合エレメント
10 切欠き
11 円筒形の区分
12 受け部材
13 孔
14 受けエレメント
15 拡開ねじ
16 舌片
17 石膏ボード
18 穿孔
19 ストッパ面
20 回転ストッパ
21 目標分離箇所
22 つば
23 回転防止リブ
24 取付け部材
L 長手方向軸線
【国際調査報告】