(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-09
(54)【発明の名称】口腔の感染症を治療するためのサッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディの菌株
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20220202BHJP
A61K 36/064 20060101ALI20220202BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20220202BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20220202BHJP
A61K 8/9728 20170101ALI20220202BHJP
A61Q 11/00 20060101ALI20220202BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220202BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220202BHJP
A61K 6/69 20200101ALI20220202BHJP
A23L 33/14 20160101ALI20220202BHJP
【FI】
C12N1/20 E
A61K36/064
A61P1/02
A61P31/04
A61K8/9728
A61Q11/00
A61K45/00
A61P43/00 121
A61K6/69
A23L33/14
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021534241
(86)(22)【出願日】2019-12-19
(85)【翻訳文提出日】2021-07-30
(86)【国際出願番号】 EP2019086265
(87)【国際公開番号】W WO2020127699
(87)【国際公開日】2020-06-25
(32)【優先日】2018-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506261567
【氏名又は名称】ルサッフル・エ・コンパニー
【氏名又は名称原語表記】LESAFFRE ET COMPAGNIE
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【氏名又は名称】岩池 満
(72)【発明者】
【氏名】バレエ ナタリー
(72)【発明者】
【氏名】デシェルフ アメリー
(72)【発明者】
【氏名】デハイ-ハーメル エロディー
【テーマコード(参考)】
4B018
4B065
4C083
4C084
4C087
4C089
【Fターム(参考)】
4B018MD81
4B018ME14
4B065AA80X
4B065BD10
4B065CA41
4B065CA44
4C083AA031
4C083CC41
4C083DD08
4C083DD12
4C083DD16
4C083DD17
4C083DD21
4C083DD22
4C083DD41
4C083EE33
4C084AA22
4C084MA52
4C084MA57
4C084NA05
4C084ZA67
4C084ZB35
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC12
4C087CA09
4C087MA02
4C087MA52
4C087MA57
4C087NA14
4C087ZA67
4C087ZB35
4C089AA06
4C089AA09
4C089BE13
(57)【要約】
本発明は、虫歯及び歯周病等の口腔の感染症の治療及び/又は予防のための、サッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディの酵母菌株に関する。この菌株は、単独で、又はサッカロマイセス・セレビシエの酵母菌株の不活化乾燥形態と組み合わせて使用することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における口腔の感染症の予防及び/又は治療において使用するための、サッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ酵母菌株、又はこのサッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ酵母菌株とサッカロマイセス・セレビシエ酵母菌株の不活化乾燥形態との組み合わせ。
【請求項2】
前記サッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ酵母が乾燥した生の形態にあることを特徴とする請求項1に記載の使用するためのサッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ酵母菌株、又はこのサッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ酵母菌株とサッカロマイセス・セレビシエ酵母菌株の不活化乾燥形態との組み合わせ。
【請求項3】
前記サッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ酵母菌株が、2007年8月21日にCNCMに番号I-3799で寄託された菌株であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の使用するためのサッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ酵母菌株、又はこのサッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ酵母菌株とサッカロマイセス・セレビシエ酵母菌株の不活化乾燥形態との組み合わせ。
【請求項4】
前記サッカロマイセス・セレビシエ酵母菌株が、2007年10月17日にCNCMに番号I-3856で寄託された菌株であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の使用するためのサッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ酵母菌株、又はこのサッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ酵母菌株とサッカロマイセス・セレビシエ酵母菌株の不活化乾燥形態との組み合わせ。
【請求項5】
対象における口腔の感染症の予防及び/又は治療において使用するための、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の酵母菌株サッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ、又は組み合わせを含む栄養補助食品。
【請求項6】
前記栄養補助食品が、吸うためのロゼンジ、キャンディ、チューインガム、口腔内分散可能な粉末若しくはスティック若しくはサシェの形で水に希釈される粉末、吸う又は噛む錠剤、ガム、カプセル、錠剤、ドロップ、又は計量キャップ付きバイアルの形態にあることを特徴とする請求項5に記載の使用するための栄養補助食品。
【請求項7】
対象における口腔の感染症の予防及び/又は治療において使用するための、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のサッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ酵母菌株、又は組み合わせを含む準医薬組成物又は化粧料組成物。
【請求項8】
前記準医薬組成物又は化粧料組成物が、練り歯磨き、洗口剤、口腔用スプレー、口腔用クリーム若しくはゲル、口腔内分散可能なシート、口腔内に直接振りかけるべき粉末、口腔内分散可能な粉末若しくはスティック若しくはサシェの形で水に希釈される粉末、又は計量キャップ付きバイアルの形態にあることを特徴とする請求項7に記載の使用するための準医薬組成物又は化粧料組成物。
【請求項9】
対象における口腔の感染症の予防及び/又は治療において使用するための医薬組成物であって、有効量の、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のサッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ酵母菌株、又は組み合わせと、少なくとも1種の生理的に許容できる賦形剤とを含む医薬組成物。
【請求項10】
前記医薬組成物が、局所投与又は経口投与を意図したものであることを特徴とする請求項9に記載の使用するための医薬組成物。
【請求項11】
前記医薬組成物が、鎮静活性、抗刺激活性、鎮痛活性、疼痛逃避活性、抗炎症活性、治癒活性、抗生物活性、解熱活性、又は抗真菌活性を有する少なくとも1種の追加の医薬活性成分をさらに含むことを特徴とする請求項9又は請求項10に記載の使用するための医薬組成物。
【請求項12】
対象における口腔の感染症の予防及び/又は治療において使用するための、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のサッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ酵母菌株、又は組み合わせを含む歯科用医療装置。
【請求項13】
前記歯科用医療装置が、歯科用インプラント、歯科用クラウン、歯科用ブリッジ、歯科用オンレイ、又は歯科用補綴具であることを特徴とする請求項12に記載の使用するための歯科用医療装置。
【請求項14】
前記感染症が虫歯、歯肉炎又は歯周炎であることを特徴とする、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の使用するためのサッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ酵母菌株若しくは組み合わせ、又は請求項5若しくは請求項6に記載の使用するための栄養補助食品、又は請求項7若しくは請求項8に記載の使用するための準医薬組成物若しくは化粧料組成物、又は請求項9から請求項11のいずれか1項に記載の使用するための医薬組成物、又は請求項12若しくは請求項13に記載の使用するための歯科用医療装置。
【請求項15】
前記感染症が歯周病原性菌及び/又はう蝕原性菌によって誘発されることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の使用するためのサッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ酵母菌株若しくは組み合わせ、又は請求項5若しくは請求項6に記載の使用するための栄養補助食品、又は請求項7若しくは請求項8に記載の使用するための準医薬組成物若しくは化粧料組成物、又は請求項9から請求項11のいずれか1項に記載の使用するための医薬組成物、又は請求項12若しくは請求項13に記載の使用するための歯科用医療装置。
【請求項16】
歯周病原性菌が、アグリゲイティバクター・アクチノミセテムコミタンス、フソバクテリウム・ヌクレアタム、ポルフィロモナス・ジンジバリス、プレボテラ・インターメディアから選択され、かつ/又はう蝕原性菌がストレプトコッカス・ミュータンスであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の使用するためのサッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ酵母菌株若しくは組み合わせ、又は請求項5若しくは請求項6に記載の使用するための栄養補助食品、又は請求項7若しくは請求項8に記載の使用するための準医薬組成物若しくは化粧料組成物、又は請求項9から請求項11のいずれか1項に記載の使用するための医薬組成物、又は請求項12若しくは請求項13に記載の使用するための歯科用医療装置。
【請求項17】
前記感染症が、医学的治療の副作用であるか、又は免疫不全に罹患している患者において存在するか若しくは発症若しくは再発する可能性があるか、又は前記対象が妊婦、高齢者、子供、若しくは炎症性亢進表現型を有する患者であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の使用するためのサッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ酵母菌株若しくは組み合わせ、又は請求項5若しくは請求項6に記載の使用するための栄養補助食品、又は請求項7若しくは請求項8に記載の使用するための準医薬組成物若しくは化粧料組成物、又は請求項9から請求項11のいずれか1項に記載の使用するための医薬組成物、又は請求項12若しくは請求項13に記載の使用するための歯科用医療装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
親特許出願
本特許出願は、2018年12月19日に出願されたフランス特許出願番号FR18 73321の優先権を主張する。このフランス特許出願の内容は、参照によりその全体が組み込まれる。
【0002】
発明の分野
本発明は、口腔衛生の分野に関する。より詳細には、本発明は、虫歯及び歯周病等の口腔の感染症の治療及び/又は予防において、単独で又は不活化された乾燥サッカロマイセス・セレビシエ酵母と組み合わせて使用される、サッカロマイセス・セレビシエ・変種ブラウディ(サッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ)株に関する。
【背景技術】
【0003】
人間において、口腔は、複雑で内部に開放された生態系であり、検出された700種以上の細菌種を含む多数の微生物が生息している(Ghannoumら、PLoS Pathog.、2010;6:e1000713;Marshら、Periodontol.、2000、55:16-35;Pasterら、Periodontol.、2000、42:80-87)。ある個体では、常在する細菌種の数は150から250まで様々である。これらの種のほとんどは常在菌であり、この生態系のバランスを維持するために必要である。しかしながら、特定の状況(炭水化物の大量摂取、タバコの使用、加齢や思春期又は妊娠等の生理的変化)では、このバランスが崩れ、口腔内の感染症を発症することがある。
【0004】
口腔内の主な感染症は、虫歯(う蝕)と歯周病である。虫歯は、歯の硬組織の脱灰によって発現する多菌性疾患である。この脱灰は、歯垢の中に存在する発酵菌が酸を産生することに起因する。ミュータンス群連鎖球菌及び乳酸菌(乳酸桿菌)が主なう蝕原性菌(虫歯菌)と考えられている。世界保健機関(WHO)の口腔衛生に関する報告書では、特に若年層における虫歯の有病率の高さが指摘されている。世界の他の地域と比較して、先進国(北米、オーストラリア、欧州、日本)では、砂糖を非常に多く含む食事をしているため、これらの国々では小児虫歯のリスクが非常に高くなっている。
【0005】
歯周病は、歯周組織(すなわち、骨と歯肉粘膜という歯を支える組織)に影響を与える一群の病態である。これらの疾患は、歯肉炎と歯周炎の2つに大別される。歯肉炎は、表層の歯周組織に限定されたあらゆる炎症である。歯周炎は、歯周組織の進行した感染性病変であり、歯肉炎に続いて起こることが多い。特定の細菌の存在と激しい炎症反応により、歯周組織が破壊される。健康な状態から歯周病の状態に変化すると、嫌気性菌やグラム陰性菌が豊富な細菌叢に移行していく。この現象を嫌気性ドリフトと呼ぶ。歯周病に最も頻繁に関与する細菌種としては以下のものが挙げられる:フソバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)及びポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)。これらが共凝集することで、これらの細菌の生存率と病原性が向上するようである(Diazら、Microbiology、2002、148:467-472;Saitoら、FEMS Immunol.Med.Microbiol.、2008、54:349-355;Polakら、J.Clin.Periodontol.、2009、36:406-410)。
【0006】
エナメル質や象牙質のみが侵されている虫歯の治療には、複合材や銀のアマルガムを使った詰め物が含まれる。歯がひどく損傷している場合には、歯科医師はクラウン(かぶせ物)を用いた修復を行い、神経が侵されている場合には、根管治療が行われる必要がある。未処置の虫歯は進行し続け、最終的には細菌が歯根の下の歯槽骨を攻撃し、痛みを伴う膿瘍を引き起こし、この膿瘍になると、抗生物質で治療した後、機械的な治療に進まなければならない。抗生物質は、歯周病の治療において、スケーリング及びルートプレーニング、掻爬、歯科手術と組み合わせて、又はこれらの一般的な歯周病治療の前や後に細菌を減少させるための単独治療としても使用される。
【0007】
抗生物質の大量使用は、選択圧をもたらし、抗生物質に耐性のある微生物の集団を発生させる懸念があり、全体的に治療効果を低下させる。当初は散発的であったこれらの耐性は、今や大規模で憂慮すべきものとなっている。菌種の中には、多剤耐性である、すなわち複数の抗生物質に耐性を持つものもあれば、完全耐性である、すなわち利用可能なすべての抗生物質に耐性を持つものもある。幸いなことに、後者のケースはまだ稀であるが、この現象は増加しており、医師は治療の行き詰まりを感じている。このように、抗生物質耐性が増加し、心配されている現在の状況において、科学者や医療関係者は、口腔の感染症の治療及び/又は予防を含め、新たな治療戦略を特定しようとしている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Ghannoumら、PLoS Pathog.、2010;6:e1000713
【非特許文献2】Marshら、Periodontol.、2000、55:16-35
【非特許文献3】Pasterら、Periodontol.、2000、42:80-87
【非特許文献4】Diazら、Microbiology、2002、148:467-472
【非特許文献5】Saitoら、FEMS Immunol.Med.Microbiol.、2008、54:349-355
【非特許文献6】Polakら、J.Clin.Periodontol.、2009、36:406-410
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、驚くべきことに、サッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ酵母菌株が、他のプロバイオティクスと比較して、歯周病菌やう蝕原性菌の増殖を阻害する能力が向上していることを見出した。これらの菌株の一つが、例えば、本出願人が2007年8月21日にCNCM(Collection Nationale de Cultures de Microorganismes(国立微生物培養コレクション)、25 rue du Docteur Roux、75724 Paris Cedex 15、France(ドクター・ルー通り25番地、75724 パリ Cedex 15、フランス)に番号I-3799で寄託した酵母菌株サッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディである。
【0010】
また、本発明者らは、サッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ酵母菌株と、乾燥不活化形態のサッカロマイセス・セレビシエ酵母菌株との間の相乗効果により、特定の歯周病菌やう蝕原性菌の増殖を顕著に阻害することを明らかにした。そのようなサッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ酵母菌株の1つは、例えば、既に上述した菌株番号I-3799である。このようなサッカロマイセス・セレビシエ酵母菌株は、例えば、本出願人が、2007年10月17日にCNCMに番号I-3856で寄託したサッカロマイセス・セレビシエ株である。
【0011】
本発明の目的は、このように、対象における口腔の感染症の予防及び/又は治療において使用するための、サッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ酵母菌株、又はこのサッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ酵母菌株とサッカロマイセス・セレビシエ酵母菌株の不活化乾燥形態との組み合わせである。
【0012】
特定の実施形態では、上記サッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ酵母は、乾燥した生の形態にある。
【0013】
特定の実施形態では、サッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ酵母菌株は、2007年8月21日にCNCMに番号I-3799で寄託された菌株である。
【0014】
特定の実施形態では、酵母株菌サッカロマイセス・セレビシエは、2007年10月17日にCNCMに番号I-3856で寄託された菌株である。
【0015】
本発明は、対象における口腔の感染症の予防及び/又は治療において使用するための、上で定義されたサッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ酵母菌株、又はこのサッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ酵母菌株とサッカロマイセス・セレビシエ酵母菌株の不活化乾燥形態との組み合わせを含む栄養補助食品にも関する。
【0016】
特定の実施形態では、当該栄養補助食品は、吸うためのロゼンジ、キャンディ、チューインガム、口腔内分散可能な粉末若しくはスティック若しくはサシェの形で水に希釈される粉末、吸う若しくは噛む錠剤、ガム、カプセル、錠剤、ドロップ、又は計量キャップ付きバイアルの形態にある。
【0017】
本発明は、対象における口腔の感染症の予防及び/又は治療において使用するための、上で定義されたサッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ酵母菌株、若しくはこのサッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ酵母菌株とサッカロマイセス・セレビシエ酵母菌株の不活化乾燥形態との組み合わせを含む準医薬組成物又は化粧料組成物にも関する。
【0018】
特定の実施形態では、当該準医薬組成物又は化粧料組成物は、練り歯磨き、洗口剤、口腔用スプレー、口腔用クリーム若しくはゲル、口腔内分散可能なシート、口腔内に直接振りかけるべき粉末、口腔内分散可能な粉末若しくはスティック若しくはサシェの形で水に希釈される粉末、又は計量キャップ付きバイアルの形態にある。
【0019】
本発明はさらに、対象における口腔の感染症の予防及び/又は治療において使用するための医薬組成物であって、有効量の上で定義したサッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ酵母菌株、又はこのサッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ酵母菌株とサッカロマイセス・セレビシエ酵母菌株の不活化乾燥形態との組み合わせと、少なくとも1種の生理学的に許容できる賦形剤とを含む医薬組成物に関する。
【0020】
特定の実施形態では、当該医薬組成物は、局所投与又は経口投与を意図したものである。
【0021】
特定の実施形態では、当該医薬組成物は、鎮静活性、抗刺激活性、鎮痛活性、疼痛逃避活性、抗炎症活性、治癒活性、抗生物活性、解熱活性、又は抗真菌活性を有する少なくとも1種の追加の医薬活性成分をさらに含む。
【0022】
本発明は、対象における口腔の感染症の予防及び/又は治療において使用するための、上で定義したサッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ酵母菌株、又はこのサッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ酵母菌株とサッカロマイセス・セレビシエ酵母菌株の不活化乾燥形態との組み合わせを含む歯科用医療装置にも関する。
【0023】
特定の実施形態では、当該歯科用装置は、歯科用インプラント、歯科用クラウン、歯科用ブリッジ、歯科用オンレイ、又は歯科用補綴具である。
【0024】
特定の実施形態では、本発明に従って予防又は治療される感染症は、虫歯、歯肉炎、又は歯周炎である。
【0025】
特定の実施形態では、本発明に従って予防又は治療されるべき感染症は、医学的治療の副作用であるか、又は免疫不全に罹患している患者において存在するか若しくは発症若しくは再発する可能性があるか、又は妊婦、高齢者、子供、若しくは炎症性亢進表現型を有する患者に存在する。
【0026】
本発明の特定の好ましい実施形態のより詳細な説明を以下に示す。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】(a)好気性条件又は(b)嫌気性条件のもとで、(A)病原種であるフソバクテリウム・ヌクレアタム(Fn)、プレボテラ・インターメディア(Prevotella intermedia)(Pi)、アグリゲイティバクター・アクチノミセテムコミタンス(Aggregatibacter actinomycetemcomitans)(Aa)、ポルフィロモナス・ジンジバリス(Pg)の存在下でサッカロマイセス・セレビシエ菌株番号I-3856を用いて得られたハローの結果であり、(B)病原種であるフソバクテリウム・ヌクレアタム(Fn)、プレボテラ・インターメディア(Pi)、アグリゲイティバクター・アクチノミセテムコミタンス(Aa)、及びポルフィロモナス・ジンジバリス(Pg)の存在下でサッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ菌株番号I-3799を用いて得られたハローの結果である。
【
図2】歯周病菌4種(A~D)及びう蝕原性菌2種(E及びF)を含む14種のバイオフィルム中の異なる細菌種に対する、サッカロマイセス・セレビシエ菌株番号I-3856(I-3856);サッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ菌株番号I-3799(ブラウディ);及び対照(対照)の効果。(A)アグリゲイティバクター・アクチノミセテムコミタンス(Aa)、(B)フソバクテリウム・ヌクレアタム(Fn)、(C)ポルフィロモナス・ジンジバリス(Pg)、(D)プレボテラ・インターメディア(Pi)、(E)ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)(Sm)、(F)ストレプトコッカス・ソブリナス(Streptococcus sobrinus)。値は3つの試料(N=3)の平均値±SEを表す。* p<0.05対対照;** p<0.01対対照;*** p<0.001対対照;**** p<0.0001対対照。
【
図3(1)】歯周病菌4種(A~D)及びう蝕原性菌2種(E及びF)を含む14種のバイオフィルムの異なる細菌種に対する、サッカロマイセス・セレビシエ菌株番号I-3856の不活化乾燥形態(IY);サッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ菌株番号I-3799(ブラウディ);サッカロマイセス・セレビシエ菌株番号I-3856の不活化乾燥形態とサッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ菌株番号I-3799との組み合わせ(IY+ブラウディ);及び対照の効果。(A)アグリゲイティバクター・アクチノミセテムコミタンス(Aa)、(B)フソバクテリウム・ヌクレアタム(Fn)、(C)ポルフィロモナス・ジンジバリス(Pg)、(D)プレボテラ・インターメディア(Pi)。値は3つの試料(N=3)の平均値±SEを表す。* p<0.05対対照;** p<0.01対対照;*** p<0.001対対照;**** p<0.0001対対照;# p<0.05対栄養(Nutri);$ p<0.05対ブラウディ。
【
図3(2)】歯周病菌4種(A~D)及びう蝕原性菌2種(E及びF)を含む14種のバイオフィルムの異なる細菌種に対する、サッカロマイセス・セレビシエ菌株番号I-3856の不活化乾燥形態(IY);サッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ菌株番号I-3799(ブラウディ);サッカロマイセス・セレビシエ菌株番号I-3856の不活化乾燥形態とサッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ菌株番号I-3799との組み合わせ(IY+ブラウディ);及び対照の効果。(E)ストレプトコッカス・ミュータンス(Sm)、(F)ストレプトコッカス・ソブリナス。値は3つの試料(N=3)の平均値±SEを表す。* p<0.05対対照;** p<0.01対対照;*** p<0.001対対照;**** p<0.0001対対照;# p<0.05対栄養;$ p<0.05対ブラウディ。
【
図4】LPS抗原接種後のヒト初代単球による以下の異なる炎症パラメータの分泌に対するサッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディCNCM I-3799酵母の用量反応曲線:(A)IL-6、(B)IL-8、(C)IL-10、(D)MCP-1、(E)PGE-2、及び(F)イソプロスタン。値は、3人のドナーに対して行った二重実験の平均±SE(n=6)として表している。*** p<0.001対対照、**** p<0.0001対対照。
【
図5】ヒト初代歯肉線維芽細胞による以下の異なる炎症パラメータの分泌に対するサッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディCNCM I-3799酵母の用量反応曲線。(A)IL-6、(B)IL-8、(C)PGE-2、及び(D)イソプロスタン。値は3回の実験の平均値±SE(n=3)として表している。*** p<0.001対対照、**** p<0.0001対対照。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は、上述したように、歯周病原性菌及びう蝕原性菌の増殖を阻害する能力を有するサッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ酵母菌株、並びに口腔の感染症の治療及び/又は予防における、単独での、又は乾燥され不活化されたサッカロマイセス・セレビシエ酵母との組み合わせによるその使用に関する。
【0029】
I. サッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ酵母菌株
表現「酵母菌株」は、酵母細胞の比較的均質な集団を指す。酵母菌株はクローンから得られ、クローンは単一の酵母細胞から得られた細胞の集団である。
【0030】
本発明に関して用いることができるサッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディは、例えば、2007年8月21日に本出願人がCNCM(Collection Nationale de Cultures de Microorganismes、ドクター・ルー通り25番地、75724 パリ Cedex 15、フランス)に番号I-3799で寄託した菌株である。
【0031】
このサッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ株は、本出願人自身によって国際公開第2009/103884号パンフレットに先に記載されており、腸の病理、障害若しくは病気の予防及び/又は治療に有用であると提示されている。
【0032】
本発明の文脈において、サッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディの酵母菌株は、出発株を培養(又は増殖)することによって得られる酵母細胞の形態にある。サッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ株は、任意の適切な方法で培養することができる。サッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ株を培養するためのプロセスは当該技術分野で公知であり、当業者は各菌株の性質に応じて各菌株に対する培養条件を最適化する方法を知っている。酵母細胞は、例えば、参考書「Yeast Technology」、第2版、1991年、Reed及びNagodawithana、出版社Van Nostrand Reinhold(ISBN 0-442-31892-8)に記載されているような培地で、サッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ株を増殖させることにより得ることができる。
【0033】
従って、例えば、工業的規模では、本発明の文脈で使用できるサッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ酵母は、以下の
サッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ株(例えば、菌株番号I-3799)を、最初は半嫌気性条件で、次に好気性条件(酸素を多く含む培地/雰囲気)で、複数の工程において培養培地中で培養して、出発酵母細胞の増殖を得る工程と、
このようにして生成された酵母細胞を遠心分離によって分離して、酵母乾燥物を12%~25%含む液体酵母クリームを得る工程と
を含むプロセスによって得ることができる。
【0034】
本発明の文脈で使用されるサッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ酵母は、生きた酵母の形態にある。「活性酵母」と同義である「生きた酵母」という用語は、代謝的に活性である酵母細胞の集団を指す。
【0035】
本発明の文脈で使用される生きた酵母は、乾燥酵母の形態にある。乾燥酵母は含水率が低いことが特徴であり、一般的には90%超の酵母乾燥物含量、好ましくは92%~98%の乾燥物含量、例えば94.5%~96.5%の乾燥物含量を含む。乾燥酵母の利点の1つは、その長い保存期間である。
【0036】
従って、サッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ酵母を製造する上記プロセスは、乾燥形態の酵母を得るために、その後の乾燥工程を含むこともできる。この乾燥工程の後には、粉砕操作を行ってもよいし、行わなくてもよい。乾燥は、例えば、凍結乾燥、流動床乾燥、ドラム乾燥又は噴霧乾燥であってもよい。凍結乾燥の場合、マルトデキストリン又はラクトースタイプの担体を使用することができる。
【0037】
II. サッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ酵母菌株と乾燥不活化サッカロマイセス・セレビシエ酵母菌株の組み合わせ
上に示したように、本発明者らは、サッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ酵母菌株(例えばサッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ酵母菌株番号I-3799)と乾燥不活化形態のサッカロマイセス・セレビシエ酵母菌株との相乗効果により、歯周病原性菌及びう蝕原性菌の増殖を有意に阻害することを明らかにした。本明細書中で互換的に使用される「相乗効果」及び「相乗作用」という用語は、2種の酵母菌株の協調作用が、それらが独立して作用した場合に期待される効果の合計よりも大きな効果を生み出すこと、又はそれぞれが単独で作用した場合には達成できなかった効果を生み出すことを指す。
【0038】
サッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ酵母と組み合わせて使用されるサッカロマイセス・セレビシエ酵母は、乾燥した不活化酵母である。本明細書中で互換的に使用される「不活化酵母」及び「失活酵母」という用語は、もはや生きていない酵母、すなわち代謝が不可逆的に停止した酵母を指す。本発明に係る不活化酵母は、任意の適切な方法で得ることができる。当業者にとっては周知である適切な技術には、酵母の熱処理、噴霧処理、ドラム乾燥、又はこれらの処理の任意の組み合わせが含まれる。不活化酵母は、一般に乾燥した形態で見られる。乾燥酵母は含水率が低いことが特徴であり、一般的には90%超の酵母乾燥物含量、好ましくは92%~98%の乾燥物含量、例えば94.5%~96.5%の乾燥物含量を含む。乾燥酵母の利点の1つは、その長い保存期間である。
【0039】
当該組み合わせに使用されるサッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ酵母菌株は、任意のサッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディの酵母菌株であることができる。
【0040】
当該組み合わせに使用される乾燥不活化サッカロマイセス・セレビシエ酵母菌株は、任意のサッカロマイセス・セレビシエ株であることができる。
【0041】
ある特定の実施形態では、サッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ株と組み合わせて本発明の文脈で不活化乾燥形態で使用されるサッカロマイセス・セレビシエ酵母菌株は、2007年10月17日に、番号I-3856でCNCMに寄託されたサッカロマイセス・セレビシエ株である。このサッカロマイセス・セレビシエ株は、本出願人自身によって、国際公開第2009/103884号パンフレットにおいてこれまでに記載されており、この文書には、このサッカロマイセス・セレビシエ株が腸の病理、障害若しくは病気の予防及び/又は治療に有用であると提示されており、国際公開第2014/009656号パンフレットにおいてもこれまでに記載されており、この文書には、このサッカロマイセス・セレビシエ株が膣内のカンジダ菌の過剰増殖を制御し、膣カンジダ症は外陰部カンジダ症の再発を防止するのに有効であると提示されている。
【0042】
ある特定の実施形態では、本発明の文脈で不活化乾燥形態のサッカロマイセス・セレビシエ酵母菌株と組み合わせて使用されるサッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ酵母菌株は、2007年8月21日に番号I-3799でCNCMに寄託されたサッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ酵母菌株である。
【0043】
用語「組み合わせ」は、本明細書で使用される場合、サッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ(例えば、菌株番号I-3799)と、不活化乾燥形態のサッカロマイセス・セレビシエ(例えば、菌株番号I-3856)との混合物を指す。この混合物は、任意の割合で調製することができる。従って、好ましくは、この組み合わせは、サッカロマイセス・セレビシエ菌株番号I-3799と、不活化乾燥形態のサッカロマイセス・セレビシエとの比率が、約90:10(w/w=重量/重量)から約10:90(w/w)の範囲で構成される。従って、サッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディI-3799と不活化乾燥形態のサッカロマイセス・セレビシエとの比率は、例えば、約90:10(w/w)、約80:20(w/w)、約70:30(w/w)、約60:40(w/w)、約50:50(w/w)、約40:60(w/w)、約30:70(w/w)、約20:80(w/w)又は約10:90(w/w)であってもよい。数に関して本明細書で使用される「約」という用語は、一般に、その数値が可能な値の100%を超える場合を除いて、その数値のいずれかの方向(数値よりも大きい又は小さい)に10%の範囲内に入る数を含む。
【0044】
本発明のある特定の実施形態では、不活化乾燥形態のサッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディI-3799とサッカロマイセス・セレビシエI-3856との比率は、約50:50(w/w)である。
【0045】
III. 口腔の感染症の治療及び/又は予防におけるサッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ酵母菌株及びその組み合わせの使用
従って、本発明は、口腔の感染症の治療及び/又は予防のための、サッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ酵母菌株(例えば菌株番号I-3799)、又はこのサッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ酵母菌株(例えば菌株番号I-3799)とサッカロマイセス・セレビシエ株(例えば菌株番号I-3856)の不活化乾燥形態との組み合わせに関する。本発明は、対象における口腔の感染症の治療方法及び/又は予防方法であって、その対象に有効量のサッカロマイセス・セレビシエ株(例えば菌株番号I-3799)、又はこのサッカロマイセス・セレビシエ株(例えば菌株番号I-3799)とサッカロマイセス・セレビシエ株(例えば菌株番号I-3856)の不活化乾燥形態との組み合わせを投与する工程を含む方法にも関する。本発明は、口腔の感染症の治療及び/又は予防のための医薬品の製造のための、サッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ株(例えば、菌株番号I-3799)、又はこのサッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ株(例えば、菌株番号I-3799)とサッカロマイセス・セレビシエ株(例えば、菌株番号I-3856)の不活化乾燥形態との組み合わせの使用にも関する。
【0046】
本発明の文脈において、「治療」は、以下を目的とした方法を意味する:(1)疾患若しくは臨床状態の発症を遅らせるか若しくは防止すること、(2)疾患の症状の進行、増悪若しくは悪化を遅らせるか若しくは停止すること、(3)疾患の症状の改善をもたらすこと、及び/又は(4)疾患を治癒すること。治療薬は、防止的作用(「予防」と呼ばれる)のために疾患の発症前に投与されてもよいし、又は治療的作用のために疾患の発症後に投与されてもよい。
【0047】
本明細書中で用語「対象」は、口腔感染の犠牲者となる可能性があるが、必ずしもそのような感染を有しているわけではない哺乳類、より具体的にはヒトを指す。「対象」という用語は、特定の年齢を指すものではなく、それゆえ、新生児(新生仔)、子供、青年、成人、及び高齢者を含む。対象が口腔の感染症に罹患している(すなわち、罹患しているとすでに診断されている)場合、本明細書中で「対象」の代わりに「患者」という用語が用いられることがある。
【0048】
用語「口腔の感染症」は、病原性微生物の感染に起因する口腔内の局所的な病状を指す。口腔の感染症には、虫歯や歯周病が含まれる。
【0049】
「虫歯」又は「う蝕」という用語は、エナメル質、象牙質、及び/又は歯髄/セメントに損傷を与える歯の感染症を指す。う蝕原性菌、すなわち、う蝕の発生を促進する細菌としては、以下のものが挙げられる:ストレプトコッカス・ミュータンス(平滑面及び近位面のう蝕を促進する)、ストレプトコッカス・ミュータンス及び乳酸菌(裂溝う蝕を促進する)、アクチノマイセス・ビスコーサス(Actinomycetes viscosus)及びアクチノマイセス・ネスランディイ(Actinomycetes naeslundi)(根面う蝕及び象牙質と歯根のコロニー形成を促進する)、並びに乳酸桿菌(象牙質及び歯根のコロニー形成を促進する)。歯のコロニー形成は、連鎖球菌から始まり、次に放線菌、最後に乳酸桿菌となる。細菌の優勢は、病変の深さによって変化する。ミュータンス連鎖球菌は初期の病変に関連するが、乳酸桿菌は後に深い病変に現れる。また、以下の病原体が虫歯の発生と関連することが知られている:ストレプトコッカス・ソブリナス及び乳酸桿菌。
【0050】
用語「歯周病」は、歯を支える組織、すなわち骨や歯肉に影響を及ぼす疾患及び病態を意味する。これらは、歯の周りの歯肉線上に病原性細菌やその毒素が蓄積されることによって起こる感染症である。主な歯周病は、歯肉炎及び歯周炎である。歯肉炎は、歯の周りの歯肉の炎症である。この状態は、治療すれば元に戻る。他方で、歯周炎は、歯肉と歯を支える骨が劣化する、より重度の病態である。例えば以下の細菌も、歯周病の発生に関連することが知られている:ポルフィロモナス・ジンジバリス、トレポネーマ・デンティコラ(Treponema denticola)、タンネレラ・フォーサイセンシス(Tannerella forsythensis)、アグリゲイティバクター・アクチノミセテムコミタンス、アクチノバチルス・アクチノミセタムコミタンス(Actinobacillus actinomycetemcomitans)、アクチノマイセス・オドントリティカス(Actinomycetes odontolyticus)、アクチノマイセス・ネスランディイ(Actinomycetes naeslundii)、フソバクテリウム・ヌクレアタム、カンピロバクター・レクタス(Campylobacter rectus)、ペプトストレプトコッカス・ミクロス(Peptostreptococcus micros)、プレボテラ・メラニノゲニカ(Prevotella melaninogenica)、プレボテラ・インターメディア、キャプノサイトファーガ(Capnocytophaga)、エイケネラ(Eikenella)、バクテロイデス(Bacteroidetes)、ユーバクテリウム・サフェヌム(Eubacterium saphenum)、P.エンドドンタリス(P.endodontalis)、プレボテラ・デンティコラ(Prevotella denticola)、パルビモナス・ミクラ(Parvimonas micra)、フィリファクター・アロシス(Filifactor alocis)、デスルフォブルブス(Desulfobulus)種、及びシネルギステス(Synergistetes)種。
【0051】
Guerraらのメタアナリシスによれば、ヒトの口腔内マイクロバイオームで600種の細菌が特定されている。しかしながら、口腔内マイクロバイオームにおける種の53%はまだ同定されておらず、35%は培養できない。
【0052】
本発明に係る口腔の感染症の治療方法及び/又は予防方法は、有効量のサッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ株(例えば、菌株番号I-3799)、又はこのサッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ株(例えば、菌株番号I-3799)とサッカロマイセス・セレビシエ株(例えば、菌株番号I-3856)の不活化乾燥形態との組み合わせを対象に投与する工程を含む。この有効量は、1回以上の用量で投与されてもよく、医師又は歯科医師によって決定されることが可能である。投与すべき正確な量は、患者の年齢、体重、一般的な状態、虫歯や歯周病の重症度及び/又は程度等に応じて、患者ごとに異なる可能性がある。投与すべき有効量は、所望の治療効果(すなわち、口腔の感染症の予防又は口腔の感染症の治療)に応じても変わる可能性がある。
【0053】
好ましくは、サッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ(例えば菌株番号I-3799)、又はこのサッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ(例えば菌株番号I-3799)とサッカロマイセス・セレビシエ(例えば菌株番号I-3856)の不活化乾燥形態との組み合わせの投与は、口腔への局所的な効果を有する経口投与であるが、しかしながら、特定の実施形態では、酵母(又は組み合わせ)を飲み込んでもよい(以下参照)。
【0054】
例えば、乾燥形態のサッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ酵母(例えば、菌株番号I-3799)と不活化乾燥形態のサッカロマイセス・セレビシエ酵母(例えば、菌株番号I-3856)の組み合わせの投与量は、1mg~10g、好ましくは100mg~5gの混合物の範囲であってもよい。
【0055】
生きたサッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ酵母の推奨濃度は、1・107~1・1011CFU/gの間、好ましくは5・108~1・1010CFU/gであってもよい。
【0056】
本発明に係る治療方法は、口腔の感染症、特に歯肉炎又は歯周炎の最初のエピソード(症状の出現)又は再発を治療するために使用することができる。いずれの場合も、患者は以前に標準的な抗生物質で治療を受けていてもよい。あるいは、サッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ(例えば、菌株番号I-3799)、又はこのサッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ(例えば、菌株番号I-3799)とサッカロマイセス・セレビシエ酵母(例えば、菌株番号I-3856)との組み合わせが患者に処方される最初の治療であってもよい。
【0057】
また、本発明に係る治療方法は、口腔の感染症が最初のエピソード(初発)であるか再発であるかにかかわらず、患者の口腔の感染症を予防するためにも用いることができる。これは、歯周病の原因となることが知られている医学的治療を受けている患者の場合に当てはまる可能性があり、その例としては、免疫抑制剤、フェニトイン(抗てんかん薬)、ニフェジピン等のカルシウム拮抗薬(狭心症、不整脈、高血圧等様々な心臓病の治療に用いられる)等が挙げられる。上記のことは、例えばシェーグレン症候群等の疾患、HIV感染、コントロールされていない糖尿病、特定の内分泌疾患、ビタミンB欠乏症等の栄養失調や吸収不良等と関連する、免疫力が低下している患者にも当てはまる可能性がある。上記のことは、唾液の分泌量が減少している患者(例えば特定の高齢者)にも当てはまる可能性がある。上記のことは、喫煙者やストレスを感じている人にも当てはまる可能性がある。上記のことは、妊娠初期から口腔疾患の予防を始めることができる妊娠中の女性にも当てはまる可能性がある。最後に、上記のことは、炎症性亢進表現型の人、つまり、同じ強さの攻撃に対して、歯周の破壊に大きな役割を果たす因子である炎症性サイトカイン(PGE2、IL-1、TNF)の過剰産生を伴って反応することにより、悪化した炎症反応を誘発する傾向がある人にも当てはまる可能性がある。
【0058】
特定の実施形態では、本発明に係る治療薬が単独で投与される。言い換えれば、サッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ酵母(例えば菌株番号I-3799)、又はこのサッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ酵母(例えば菌株番号I-3799)とサッカロマイセス・セレビシエ酵母(例えば菌株番号I-3856)の不活化乾燥形態との組み合わせは、可能な殺菌性洗口剤を除いて、投与される唯一の薬剤である。
【0059】
他の実施形態では、本発明に係る治療薬は、別の治療剤と組み合わせて投与され、例えば、標準的な抗生物質若しくは防腐剤の投与と、及び/又はスケーリング、ルートプレーニング、掻爬、充填、修復若しくは根管治療等の機械的処置若しくは外科的処置と組み合わせて投与される。
【0060】
IV. 栄養補助食品、化粧料組成物及び医薬組成物
上に示したように、サッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ株(例えば菌株番号I-3799)、又はこのサッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ株(例えば菌株番号I-3799)とサッカロマイセス・セレビシエ株(例えば菌株番号I-3856)の不活化乾燥形態との組み合わせは、そのまま、又は調製物若しくは組成物として投与されてもよい。
【0061】
従って、特定の実施形態では、サッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ株(例えば菌株番号I-3799)、又はこのサッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ株(例えば菌株番号I-3799)とサッカロマイセス・セレビシエ株(例えば菌株番号I-3856)の不活化乾燥形態との組み合わせは、吸うためのロゼンジ、キャンディ、チューインガム、口腔内分散可能な粉末若しくはスティック若しくはサシェの形で水に希釈される粉末、吸う若しくは噛む錠剤、ガム、カプセル、錠剤、ドロップ、又は計量キャップ付きバイアル等の形で栄養補助食品の中に存在する。
【0062】
他の実施形態では、サッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ株(例えば、菌株番号I-3799)、又はこのサッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ株(例えば、菌株番号I-3799)とサッカロマイセス・セレビシエ株(例えば、菌株番号I-3856)の不活化乾燥形態との組み合わせは、練り歯磨き、洗口剤、口腔用スプレー、クリーム又は口腔用ゲル、口腔内分散可能なシート、又は口腔内に直接振りかけることができる粉末、口腔内分散可能な粉末若しくはスティック若しくはサシェ剤の形で水に希釈される粉末、計量キャップ付きバイアル等の形態の準医薬組成物(又は化粧料組成物)の中に存在する。
【0063】
さらなる他の実施形態では、サッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ株(例えば菌株番号I-3799)、又はこのサッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ株(例えば菌株番号I-3799)とサッカロマイセス・セレビシエ株(例えば菌株番号I-3856)の不活化乾燥形態との組み合わせは、少なくとも1種の生理学的に許容できる賦形剤とともに医薬組成物の中に存在する。従って、より具体的には、本発明に係る医薬組成物は、有効量のサッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ酵母菌株(例えば菌株番号I-3799)、又はこのサッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ酵母菌株(例えば菌株番号I-3799)とサッカロマイセス・セレビシエ株(例えば菌株番号I-3856)の不活化乾燥形態との組み合わせと、少なくとも1種の生理学的に許容できる賦形剤とを含む。本発明に係る医薬組成物は、処方箋が必要な医薬製剤又は店頭で入手可能な医薬製剤として分類することができる。
【0064】
本発明の文脈において、「生理学的に許容できる賦形剤」は、活性成分(本発明では、サッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ株又はその組み合わせ)の生物学的活性の有効性を妨げず、かつ、投与される濃度において、患者又は対象に対して過度に毒性を示さない任意の媒体又は添加物を意味すると理解される。生理学的に許容できる賦形剤は、哺乳動物、特にヒトへの投与に適した賦形剤であってよい。
【0065】
本発明に係る医薬組成物は、所望の治療効果/予防効果を達成するのに有効な、投与量と投与経路の任意の組み合わせを用いて投与することができる。既に述べたように、投与すべき正確な量は、患者の年齢、体重、一般的な状態、口腔感染の重症度及び程度、関連する口腔疾患(虫歯、歯肉炎、歯周炎)の性質等に応じて、患者ごとに異なる可能性がある。投与経路(局所的又は全身的)は、細菌感染の重症度及び程度に応じて、並びに/又は患者の年齢及び/若しくは健康状態に応じて選択することができる。
【0066】
例として、本発明の目的は、サッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ酵母(例えば菌株番号I-3799)とサッカロマイセス・セレビシエ酵母(例えば菌株番号I-3856)の不活化乾燥形態との組み合わせを、1mg~10g、好ましくは100mg~5gの量で使用するための上で定義された医薬組成物であり、この量は1日に1回以上投与されてもよい。
【0067】
サッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ酵母の推奨濃度は、1・107~1・1011CFU/g、好ましくは5・108~1・1010CFU/gであることができる。
【0068】
本発明に係る医薬組成物の製剤は、その組成物の使用が意図される投与経路及び投与量に応じて変わってもよい。本発明の医薬組成物は、少なくとも1種の生理学的に許容できる賦形剤を用いて製剤化された後、ヒトへの投与に適した任意の形態、例えば、錠剤、糖衣錠、カプセル、ドロップ、シロップ、乳剤、軟膏、ペースト、ゲル、粉末、サシェ、注射液等の形態にあってもよい。当業者であれば、所定の種類の製剤の調製に最も適した担体及び賦形剤を選択する方法を知っている。本発明に係る組成物は、防腐剤、甘味料、香料、増粘剤、染料、湿潤剤、崩壊剤、吸収促進剤、滑沢剤等の添加剤をさらに含んでいてもよい。
【0069】
特定の実施形態では、本発明に係る医薬組成物は、1つの活性剤、つまりサッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ酵母(例えば菌株番号I-3799)、又はこのサッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ酵母(例えば菌株番号I-3799)とサッカロマイセス・セレビシエ酵母(例えば菌株番号I-3856)の不活化乾燥形態との組み合わせのみを含む。このような医薬組成物は、特に、別の生体微生物又は生体微生物の組み合わせを含まない。
【0070】
他の実施形態では、本発明に係る医薬組成物は、さらに、少なくとも1種の追加の医薬活性成分(すなわち、サッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ酵母又は組み合わせの酵母に加えて)を含有する。「医薬活性成分」とは、その投与が治療効果を有するか、若しくはその投与が投与先である患者若しくは対象の健康若しくは一般的な状態に有益な効果を有するあらゆる化合物又は物質を意味すると理解される。
【0071】
従って、医薬活性成分は、医薬組成物の投与によって予防又は治療される口腔の細菌感染に対して活性であってもよいし、口腔の感染症に関連する状態又は症状(例えば、痛み又は発熱又は口臭)に対して活性であってもよいし、当該医薬組成物の活性成分(複数種可)の利用可能性及び/又は活性を高めてもよい。
【0072】
本発明の組成物中に存在してもよい医薬活性成分の例としては、限定されるものではないが、(サッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ酵母に、又はこのサッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ酵母と不活化乾燥形態のサッカロマイセス・セレビシエ酵母との組み合わせに影響を与えずに)鎮静活性、抗刺激活性、鎮痛活性、疼痛逃避活性、抗炎症活性、治癒活性、抗生物活性、解熱活性、又は抗真菌活性を有する活性成分等が挙げられる。
【0073】
さらなる他の実施形態では、サッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ株(例えば菌株番号I-3799)、又はこのサッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ株(例えば菌株番号I-3799)とサッカロマイセス・セレビシエ株(例えば菌株番号I-3856)の不活化乾燥形態との組み合わせは、歯科用医療装置、例えば歯科用インプラント、歯科用クラウン、歯科用ブリッジ、歯科用オンレイ、歯科用補綴具(義歯)等の上/中に存在する。
【0074】
特に定義されていない限り、本明細書で使用されているすべての技術用語及び科学用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般的に理解されているものと同じ意味を持つ。同様に、本明細書で言及されているすべての刊行物、特許出願、特許、及び他の参考文献は、参照により組み込まれる。
【実施例】
【0075】
以下の実施例は、本発明の特定の実施形態を説明する。しかしながら、例及び図は、説明のために提供されるだけであり、決して本発明の範囲を限定するものではないことを理解されたい。
【0076】
歯周病原性菌及びう蝕原性菌に対する各種プロバイオティクスの効果
A.試験したプロバイオティクス及び歯周病原性菌又はう蝕原性菌
酵母産物。後述の試験では、2種類の生きた乾燥酵母及び1種類の不活化した乾燥酵母を評価した。
【0077】
上記2種類の生きた酵母は
・ サッカロマイセス・セレビシエ菌株番号CNCM I-3856(2007年10月17日に本出願人がCNCMに寄託したもの)、及び
・ サッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ株番号CNCM I-3799(上述済み)
である。
【0078】
上記不活化し乾燥酵母は、
・ サッカロマイセス・セレビシエ株番号I-3856(上述済み)の不活化乾燥形態
である。
【0079】
14種の複合バイオフィルムの組成:
歯周病原性菌及びう蝕原性菌。用いた歯周病原性菌には、以下のものが含まれる。
・ プレボテラ・インターメディア(旧称:バクテロイデス・インターメディアス(Bacteroides intermedius)。これは、歯肉炎及び歯周炎等の歯周の感染症に関与する偏性嫌気性のグラム陰性病原細菌であり、急性壊死性潰瘍性歯肉炎に多く見られる。
・ ポルフィロモナス・ジンジバリス。これは、嫌気性、非運動性、グラム陰性、棒状の病原性細菌で、口腔内に生息し、歯周病の一部の形態に関与している。
・ フソバクテリウム・ヌクレアタム。これは、嫌気性で侵入性、付着性、及び炎症性の細菌であり、ヒトの口腔内には異物であるが、豊富に存在し、口腔内の他の種と結びつく能力があるため、歯周プラークの重要な構成要素となって歯周病に関与している。
・ アグリゲイティバクター・アクチノミセテムコミタンス。これは、ヒトの生理的な口腔内細菌叢に属する小型で成長の遅い通性好気性嫌気性のグラム陰性細菌であり、歯周病にある役割を果たす。
【0080】
用いたう蝕原性菌には、以下のものが含まれる。
・ ストレプトコッカス・ミュータンス。これはグラム陽性球菌で、口腔内常在菌の一部であり、食物の糖分と結合して乳酸に変換することで虫歯の原因となる。
・ ストレプトコッカス・ソブリナス。これは、グラム陰性、非運動性の嫌気性細菌で、う蝕患者の歯垢中に大量に存在する。
【0081】
口腔の常在菌。本研究で使用した口腔の常在菌には、以下のものが含まれる:ストレプトコッカス・サングイニス(Streptococcus sanguinis)、ストレプトコッカス・ゴルドニ(Streptococcus gordonii)、ストレプトコッカス・サリバリウス(Streptococcus salivarius)、ストレプトコッカス・ミティス(Streptococcus mitis)、ストレプトコッカス・オラリス(Streptococcus oralis)、アクチノマイセス・ビスコーサス(Actinomyces viscosus)、アクチノミセス・ネスルンディ(Actinomyces naeslundii)、及びベイロネラ・パルブーラ(Veillonella parvula)。
【0082】
B.6種の病原種に対する酵母の抗菌活性
プロトコル。ハロー手法を用いて、寒天プレート上の常在菌及び病原菌の阻害率を検出し、定量化した。この手法は競合試験であり、互いに近接し、それぞれが異なる細菌種を含む2つのスポットを寒天プレートに接種することからなる。その後、一方が他方の増殖を阻害する能力を評価することができる。
【0083】
寒天プレートには、600nmでの光学密度(OD600)が0.5(これは約108CFU/mLの濃度に相当する)になるように調整した2種類の酵母(生)のうちの一方の培養液を播種した。BHI-2寒天プレートは、ヘミン、メナジオン又は血液を含んでいなかった。各スポットは、濃度108CFU/mLの2種の生きた酵母のうちの1つの培養液7μLを含んでいた。
【0084】
24時間の好気的又は嫌気的なインキュベーションの後、寒天プレートには、酵母種を含むスポットに近接して、病原種(フソバクテリウム・ヌクレアタム(Fn)、プレボテラ・インターメディア(Pi)、アグリゲイティバクター・アクチノミセテムコミタンス(Aa)、及びポルフィロモナス・ジンジバリス(Pg))の培養液7μLを再び24時間接種した。
【0085】
寒天プレートを、嫌気性又は好気性の条件で合計48時間インキュベートした。48時間のインキュベーション後、阻害面の検査と較正(定規を使用)を行い(表1)、各寒天プレートの標準的な写真(寒天プレートとカメラの距離)を撮影した(
図1)。
【0086】
2種類の生きた酵母を用いて試験した病原菌は以下の通りであった:フソバクテリウム・ヌクレアタム(Fn)、プレボテラ・インターメディア(Pi)、アグリゲイティバクター・アクチノミセテムコミタンス(Aa)、及びポルフィロモナス・ジンジバリス(Pg)。
【0087】
【0088】
【0089】
表1は、特定の口腔内病原菌の増殖が有意に阻害された場合の阻害距離の測定結果を提供する。
【0090】
得られた結果は、サッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ株は、嫌気性条件下で、病原種であるプレボテラ・インターメディア、アグリゲイティバクター・アクチノミセテムコミタンス及びポルフィロモナス・ジンジバリスの増殖を有意に阻害することを示す。
【0091】
加えて、アグリゲイティバクター・アクチノミセテムコミタンスの増殖は、サッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ株によって好気性条件下でも阻害された。
【0092】
表1は、嫌気性条件下でのプレボテラ・インターメディアの増殖に対して、他の細菌及び病原菌と比較して、最も大きなオーダーの阻害が観察されたことを示す。
【0093】
図1では、サッカロマイセス・セレビシエCNCM I-3856株は、上記病原菌種の有意な阻害を示さなかったことも認められる。
【0094】
結論。サッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ株のみが、寒天プレート上の口腔内病原体の増殖を阻害した。
【0095】
C.14種を含む複合バイオフィルムの組成に対する酵母産物の効果の評価
1)検討した生きた酵母の効果
バイオリアクターのプロトコル。BIOSTAT B TWIN(登録商標)リアクター(Sartorius(ザルトリウス)、ドイツ)内で多種類の生物群集を形成した。750mLのBHI-2(2.5g/Lムチン、1.0g/L酵母エキス、0.1g/Lシステイン、2.0g/L炭酸水素ナトリウム、0.25%(v/v)グルタミン酸を添加したブレインハートインフュージョン(BHI))を含む培地を、5.0mg/mLヘミン、1.0mg/mLメナジオン及び200μL/L Antifoam Y-30(Sigma(シグマ)、セントルイス、米国)とともに上記バイオリアクターに添加した。この混合物に300rpmで連続的に撹拌しながら100%の窒素(N2)及び5%の二酸化炭素(CO2)をバブリングすることにより、この混合物を、pHを6.7±0.1に設定して37℃で24時間予備還元した。24時間後、ストレプトコッカス・ミュータンス(E)、ストレプトコッカス・ソブリナス(F)、プレボテラ・インターメディア(D)、ポルフィロモナス・ジンジバリス(C)、フソバクテリウム・ヌクレアタム(B)、及びアグリゲイティバクター・アクチノミセテムコミタンス(A)の培養液を光学濃度1.4になるように添加し、上記バイオリアクター混合液に加えた。培地は最初の48時間は交換せず、その後は200mL/24時間の割合で交換した。
【0096】
培養プロトコル。サッカロマイセス・セレビシエ菌株番号I-3856(I-3856)及びサッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ菌株番号I-3799(ブラウディ)の培養物(一晩実施)を、BHI-2(上記組成参照)中で600nmの光学密度(OD600)が0.5(約1・108CFU/mL)になるように調整した。これらの調整した培養物の1800μLのアリコートを、各ウェルの底にヒドロキシアパタイトディスクを含む24ウェルプレートに接種した。上記バイオリアクターからの14種のバイオフィルム混合物を200μLずつ各ウェルに加えた。対照は、上記14種の試料を200μL、BHI-2を1800μL含んでいた。この24ウェルプレートを微好気性条件(酸素6%)で24時間インキュベートした。その後、上清を除去し、ヒドロキシアパタイトディスクに付着したバイオフィルムをリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄した。1500μLの0.05% トリプシン-EDTAを用いて37℃、230rpmで45分間バイオフィルムを剥離し、エッペンドルフチューブに移して遠心分離(6010×g、5分間)した。トリプシンを除去した後、バイオフィルムペレットを500μLのPBSに再懸濁し、Qiagen(キアゲン)の説明書に従ってDNA抽出を行い、qPCRによって解析した。
【0097】
生きた酵母で得られた結果。得られた結果を
図2(A~F)に示す。
【0098】
サッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ株は、歯周病菌アグリゲイティバクター・アクチノミセテムコミタンス(A)、フソバクテリウム・ヌクレアタム(B)、ポルフィロモナス・ジンジバリス(C)及びプレボテラ・インターメディア(D)、並びにう蝕原性菌ストレプトコッカス・ミュータンス(E)を有意に阻害できることが認められる。
【0099】
結論。上記の寒天プレート実験で実証されていたサッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ株の口腔内病原菌に対する阻害活性は、バイオフィルム実験により、多種類の生物群集で確認された。
【0100】
2)株サッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディI-3799(ブラウディ酵母)、株サッカロマイセス・セレビシエI-3856の不活化乾燥形態(IY酵母)、及びそれらの組み合わせの効果
酵母産物(ブラウディ及びIY)をそれぞれ100mLのPBSに37℃で溶解し、3分間ボルテックスした。これらの溶液10mLを6010×gで10分間遠心分離した。上清を除去し、「ブラウディ」酵母ペレットを平均5・108CFU/mLの濃度に調整してBHI-2に懸濁した。「IY」酵母ペレットを、1:5に希釈した上記バイオリアクター混合物の試料を含む溶液に懸濁した。
【0101】
・以下のものを第1のウェルに入れた:BHI-2に懸濁した「ブラウディ」酵母の溶液1mL、及び「IY」を含まない1:5に希釈した上記バイオリアクター混合物1mL(「ブラウディ」単独条件)。
・以下のものを第2のウェルに入れた:酵母溶液「IY」及び上記バイオリアクター混合液を1:5に希釈したものを1mL、並びに「ブラウディ」を含まないBHI-2を1mL(「IY」単独条件)。
・以下のものを第3のウェルに入れた:BHI-2に懸濁した「ブラウディ」酵母溶液1mL、並びに「IY」の酵母液及び上記バイオリアクター混合液を1/5に希釈したものを1mL(ブラウディ+IY併用条件)。
・以下のものを第4のウェルに入れた:1/5に希釈した上記バイオリアクター混合液を1mL、及びBHI-2を1mL。このウェルは、対照ウェルを構成する。
【0102】
24ウェルプレートを微好気性条件(酸素6%)で24時間インキュベートした。その後、上清を除去し、ヒドロキシアパタイトディスクに付着したバイオフィルムをPBSで洗浄した。1500μLの0.05% トリプシン-EDTAを用いて37℃、230rpmで45分間バイオフィルムを剥離し、エッペンドルフチューブに移して遠心分離(6010×g、5分間)した。トリプシンを除去した後、バイオフィルムペレットを500μLのPBSに再懸濁し、Qiagenの説明書に従ってDNA抽出を行い、qPCRによって解析した。
【0103】
【0104】
【0105】
これらの結果は、2種の菌株のそれぞれが個別に(サッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ(ブラウディ)及び不活化サッカロマイセス・セレビシエ(IY))、及びそれらの組み合わせが、2種の歯周病原菌アグリゲイティバクター・アクチノミセテムコミタンス又はAa(A)及びフソバクテリウム・ヌクレアタム又はFn(B)、並びにう蝕原性菌ストレプトコッカス・ミュータンス又はSm(E)の増殖を有意に抑制することができることを示す。さらに、表2は、IY+ブラウディの組み合わせのδが、個別に取ったIYのδとブラウディのδとの和よりも大きいことを示す。
【0106】
図3(C)によれば、ポルフィロモナス・ジンジバリス又はPg(C)の増殖は、不活化されたサッカロマイセス・セレビシエ酵母(IY)だけでなく、上記組み合わせによっても阻害されたが、サッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ株(ブラウディ)によっては有意に阻害されなかった。さらには、表2により確認されるとおり、不活化酵母(IY)とブラウディ+IYの組み合わせとの間の阻害の有意差を認めることができ、これは、ポルフィロモナス・ジンジバリス(C)の増殖の阻害に対する上記組み合わせの相乗作用を明らかにする。
【0107】
図3(D)によれば、プレボテラ・インターメディア又はPi(D)の増殖は、サッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ株だけでなく、上記組み合わせによっても阻害されたが、不活化酵母(IY)によっては有意に阻害されなかった。さらには、表2により確認されるとおり、ブラウディ株とブラウディ+IYの組み合わせとの間の阻害の有意差を認めることができ、これは、プレボテラ・インターメディア(D)の増殖の阻害に対する上記組み合わせの相乗作用を明らかにする。
【0108】
結論。このように、サッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ株と不活化乾燥サッカロマイセス・セレビシエ株との組み合わせは、口腔内病原体の増殖の阻害のスペクトルが少ないサッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディ株と不活化サッカロマイセス・セレビシエ酵母を個別に摂取した場合とは対照的に、使用した多菌種モデルにおいてほとんどの病原体の増殖抑制を誘導することが示された。
【0109】
サッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディI-3799の抗炎症効果
以下に示す研究の目的は、ヒト初代単球及び歯肉線維芽細胞の炎症パラメータに対する酵母サッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディCNCM I-3799の潜在的な抗炎症効果を評価することである。
【0110】
A.ヒト初代単球における抗炎症能の評価
ヒト初代単球における炎症パラメータの刺激及び測定。ヒト初代単球は、健康なヒト血液ドナーのバフィーコートから分離・濃縮した。ELISA実験のために、この細胞を24ウェルプレートに播種した(1mL中におよそ500,000個の細胞/mL)。この細胞をLPS(10ng/mL)と24時間インキュベートした。酵母試料(4.3E6 CFU~4.3E8 CFU/mLまでの範囲の5つの用量、すなわち:0.1mg/mL、1mg/mL、2.5mg/mL、5mg/mL、10mg/mL)を、LPS処理の30分前に細胞培養液に直接添加した。陽性対照として、デキサメタゾンを用いた(1μM及び10μMの2用量)。24時間後、上清を取り出し、遠心分離して、MCP-1、IL-8、IL-6、IL-10、イソプロスタン、PGE2の濃度を評価した。EIA(PGE2及びイソプロスタン、Cayman(ケイマン)製)又はELISA(MCP-1、IL-6、及びIL-8、eBioscience(イー・バイオサイエンス)製)における濃度は、製造業者のプロトコルに従って評価した。各投与量は、3人の異なるドナーのバフィーコートを用いて6回検討した(バフィーコートあたりn=2、合計n=6)。
【0111】
統計解析。有意水準0.5でのダネット(Dunnett)の多重比較検定を用いた一元配置ANOVA。
【0112】
結果。得られた結果を
図4に示す。これらの結果は、サッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディCNCM I-3799株は、ヒトの初代単球において、用量依存的な抗炎症効果を有することを示す。より正確に言えば、S.ブラウディCNCM I-3799株は、2.5mg/mL(1
E8 CFU/mL)~10mg/mL(4.3
E8 CFU/mL)の用量で、IL-6、IL-10、MCP-1、PGE-2及びイソプロスタンの分泌を阻害することができ、サイトカインIL-8は10mg/mL(4.3
E8 CFU/mL)の最小用量で阻害される。低用量(0.1~1mg/mL又は4.3
E6~4.3E
7 CFU/mL)で、S.ブラウディCNCM I-3799は抗炎症性サイトカインIl-10の分泌を促進することができ、「免疫トレーニング」効果が示唆された。さらに高用量では、炎症性サイトカイン及びPGE-2/イソプロスタンマーカーの阻害から、抗炎症作用、並びに疼痛及び骨破壊の発症に関与するプロスタグランジン経路の阻害が示唆される。
【0113】
B.ヒト初代歯肉線維芽細胞における抗炎症能の評価
ヒト初代歯肉線維芽細胞におけるIL-8、IL-6、イソプロスタン及びPGE2の測定。Provitro(プロビトロ)(ベルリン、ドイツ)から供給されたヒト初代歯肉線維芽細胞の培養物を、供給者のプロトコルに従って維持した。刺激の前に、ELISA実験のために24ウェルプレートに細胞を播種した。細胞は、無刺激(無刺激対照)又はIL-1β(10U/mL)とともに24時間インキュベートした。酵母試料は、IL-1β処置の30分前に、5用量(0.1mg/mL;1mg/mL;2.5mg/mL;5mg/mL;10mg/mL)で添加した(n=3)。陽性対照として、デキサメタゾンを用いた(1用量、1μM)。24時間後、上清を回収して遠心分離し、IL-6、IL-8、イソプロスタン、PGE2の濃度を、製造業者のプロトコルに従って、EIA(PGE2及びイソプロスタン、Cayman製)又はELISA(IL-6及びIL-8、eBioscience製)により評価した。各投与量を少なくとも3回検討した。
【0114】
結果。得られた結果を
図5に示す。これらの結果は、サッカロマイセス・セレビシエ・ブラウディCNCM I-3799株は、ヒト初代歯肉線維芽細胞において、用量依存的な抗炎症作用を有することを示す。具体的には、S.ブラウディCNCM I-3799は、1mg/mL(4.3
E7 CFU/mL)~10mg/mL(4.3E
8 CFU/mL)の用量で、IL-6、IL-8、PGE-2及びイソプロスタンの分泌を阻害することができる。炎症性サイトカイン及びPGE-2/イソプロスタンマーカーの阻害から、抗炎症作用、並びに疼痛及び骨破壊の発生に関与するプロスタグランジン経路の阻害が示唆される。
【国際調査報告】