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  • 特表-PNPLA3発現のバイオマーカー 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-09
(54)【発明の名称】PNPLA3発現のバイオマーカー
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/92 20060101AFI20220202BHJP
   C12Q 1/60 20060101ALI20220202BHJP
   C12N 15/113 20100101ALN20220202BHJP
【FI】
G01N33/92 Z
C12Q1/60 ZNA
C12N15/113 130Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021534267
(86)(22)【出願日】2019-12-12
(85)【翻訳文提出日】2021-06-15
(86)【国際出願番号】 EP2019084791
(87)【国際公開番号】W WO2020126780
(87)【国際公開日】2020-06-25
(31)【優先権主張番号】62/781,904
(32)【優先日】2018-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】391008951
【氏名又は名称】アストラゼネカ・アクチエボラーグ
【氏名又は名称原語表記】ASTRAZENECA AKTIEBOLAG
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】リリェブラード,マティアス
(72)【発明者】
【氏名】ニルソン,ラルフ ゲー
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045CA25
2G045CA26
2G045CB01
2G045DA80
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ70
4B063QR45
4B063QR47
4B063QR72
(57)【要約】
本開示は、PNPLA3遺伝子発現を測定するための新規のバイオマーカー、及びPNPLA3に関連する疾患の処置、予防、又は改善のために新規のバイオマーカーを使用する方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
PNPLA3に関連する疾患の処置を必要とする患者においてCE 16:1/16:0比を測定することを含む、PNPLA3に関連する疾患のスクリーニング及び/又は診断のための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
配列表
本出願は、電子形式の配列表と共に出願されている。配列表は、2018年12月19日に作成された1kbサイズの200834-US-PSP-SEQUENCE LISTING_ST25.txtという名称のファイルとして提供される。配列表の電子形式の情報は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
説明
本開示は、遺伝子発現を測定するための新規のバイオマーカー及びこの新規のバイオマーカーを使用する方法に関する。本開示の少なくとも1つの実施形態は、PNPLA3(仮想タンパク質dJ796I17.1;アジポヌトリン;DJ796I17.1の3つを含むパタチン様ホスホリパーゼドメイン)の発現を測定するための新規のバイオマーカー及びバイオマーカーを使用する方法を含み、これは、PNPLA3に関連する疾患の処置、予防、又は改善に有用であり得る。
【背景技術】
【0003】
PNPLA3は、ER中及び脂質液滴上に発現するパタチン様ホスホリパーゼドメイン含有ファミリーの481アミノ酸メンバーである。ヒトでは、PNPLA3は、肝臓の肝細胞では高度に発現するが、脂肪組織の発現は5分の1である(非特許文献1)。PNPLA3は、循環タンパク質ではなく、肝細胞を標的とし、標的の関与をモニタリングするための適切な代理組織が存在しないため、タンパク質の発現及び有効性を決定するのに適した機構的に誘導される標的関与バイオマーカーが存在しない。従って、標的関与を測定するバイオマーカー、及びPNPLA3核酸を標的とする化合物による処置に対する応答のモニタリングが明らかに必要とされている。
【0004】
本出願人は、患者の血漿又は肝臓におけるパルミトレイン酸コレステリルとパルミチン酸コレステリル(CE 16:1/16:0)の比(「CE 16:1/16:0比」)が、PNPLA3に関連する疾患の予測、診断、及び/又は予後判定に使用できる新規のバイオマーカーを表すことを見出した。CE 16:1/16:0比は、ステアロイル-CoAデサチュラーゼ-1(「SCD1」)活性によって調節される。SCD1は、デノボ脂質生成、PARα活性、多価不飽和脂肪酸、及びコレステロールレベルを能動的に調節する酵素である(非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5、非特許文献6)。特に、SCD1は、脂肪酸パルミチン酸コレステリル16:0を脂肪酸16:1パルミチン酸コレステリルに変換する酵素であるため、CE 16:1/16:0比の変化は、SCD1活性の変化による可能性が高い。さらに、PNPLA3の減少は、SCD1活性を減少させ、その後、コレステリルエステルに取り込まれているCE 16:1/16:0比の減少をもたらす。従って、PNPLA3肝臓レベルが、これらの経路の1つ又はいくつかを介してSCD1活性を調節している可能性が高い。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Huang et al,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 2010.107:7892-7
【非特許文献2】Lee et al,Am J Clin Nutr.2015,101(1):34-43
【非特許文献3】Chong et al,Am J Clin Nutr.2008,87(4):817-23
【非特許文献4】Miller et al,PNAS 1996,93(18)9443-48
【非特許文献5】Oosterveer et al.J.Biol.Chem.2009;284:34036-44;Ntambi,J.Lipid Res.1999.40:1549-58
【非特許文献6】Kim et al,J.Lipid Res.2002,43,1750-57
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
従って、本開示は、PNPLA3の発現を測定するためのバイオマーカーCE 16:1/16:0比、及びPNPLA3に関連する疾患の処置においてCE 16:1/16:0比を使用する方法に関する。さらに、新規のバイオマーカーは、PNPLA3に関連する疾患の処置に使用されるPNPLA3核酸を標的とする化合物の用量調整を可能にし、これにより、PNPLA3に関連する疾患の処置を受けている患者の最適な処置が可能になる。
【0007】
バイオマーカーは、「治療的介入に対する正常な生物学的プロセス、発病プロセス、又は薬理学的応答の指標として客観的に測定され、評価される特徴」と説明することができる(Wagner et al.,Clin.Pharmacol.Ther.2015;98(1):2-5)。バイオマーカーは、特定の状態又は疾患に関連する任意の識別可能且つ測定可能な指標であり、バイオマーカーの存在又はレベルと、状態又は疾患のいくつかの側面(状態若しくは疾患に対する感受性又は状態若しくは疾患の処置に使用される薬物に対する応答の存在、そのレベル若しくはレベルの変化、そのタイプ、その段階を含む)との間に相関が存在する。この相関は、定性的、定量的、又は定性的及び定量的の両方であり得る。場合によっては、バイオマーカーを使用して、状態若しくは疾患の存在、レベル、タイプ、若しくは段階、状態若しくは疾患に対する感受性、又は処置に対する応答を予測又は検出することができる。バイオマーカーは、研究及び開発プログラムの効率を改善することによって将来の薬物の発見及び開発において一層重要な役割を担うことになると考えられる。バイオマーカーは、診断剤、疾患進行のモニター、処置のモニター、及び臨床転帰の予測因子として使用することができる。例えば、様々なバイオマーカーの研究プロジェクトが、特定の癌のマーカー、並びに特定の循環器疾患及び免疫疾患のマーカーを同定しようとしている。新たな有効なバイオマーカーの開発は、医療及び薬物開発コストの有意な低減と、広範な疾患及び状態の処置における顕著な改善との両方をもたらすと考えられる。
【0008】
本開示の少なくとも1つの実施形態では、CE 16:1/16:0比は、PNPLA3の発現についてのバイオマーカーとして患者の血漿で測定される。例えば、2型糖尿病とNAFLDに罹患している個人の集団は、0.3の平均CE 16:1/16:0比を有すると確認されている(Eriksson et al.Diabetologia 2018;61:1923-1934)。少なくとも1つの実施形態では、平均CE 16:1/16:0比の0.3未満への低下は、PNPLA3発現の対応する低下を示す。
【0009】
他の実施形態では、パルミトレイン酸コレステリルとパルミチン酸コレステリルの比(CE 16:1/16:0)を、PNPLA3に関連する疾患のスクリーニング及び/又は診断に使用することができる。例えば、0.3を超える平均CE 16:1/16:0比の測定値は、PNPLA3に関連する疾患の処置に関連する化合物による治療を患者が必要としていることを示す。さらに別の例では、平均CE 16:1/16:0比の0.3未満への低下は、PNPLA3に関連する疾患の処置に関連する化合物に患者が反応したことを示す。少なくとも1つの実施形態では、疾患は、肝損傷、脂肪症、肝線維症、肝炎症、肝瘢痕若しくは肝硬変、肝不全、肝腫大、トランスアミナーゼの上昇、又はPNPLA3に関連する肝疾患を有するかそのリスクのある患者の肝脂肪蓄積から選択される。特定の実施形態では、疾患は、NAFLD、脂肪肝、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、肝硬変、肝細胞癌、アルコール性肝疾患、アルコール性脂肪性肝炎(ASH)、HCV肝炎、慢性肝炎、遺伝性ヘモクロマトーシス、又は原発性硬化性胆管炎である。
【0010】
他の実施形態では、パルミトレイン酸コレステリルとパルミチン酸コレステリルの比(CE 16:1/16:0)を使用して、PNPLA3に関連する疾患の活性及び/又は進行をモニタリングすることができる。例えば、0.3を超える平均CE 16:1/16:0比の測定値は、PNPLA3に関連する疾患の処置に関連する化合物によるさらなる治療を患者が必要としていることを示す。さらに別の例では、平均CE 16:1/16:0比の0.3未満への低下は、PNPLA3に関連する疾患の処置に関連する化合物に患者が反応したことを示す。少なくとも1つの実施形態では、疾患は、肝損傷、脂肪症、肝線維症、肝炎症、肝瘢痕若しくは肝硬変、肝不全、肝腫大、トランスアミナーゼの上昇、又はPNPLA3に関連する肝疾患を有するかそのリスクのある患者の肝脂肪蓄積から選択される。特定の実施形態では、疾患は、NAFLD、脂肪肝、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、肝硬変、肝細胞癌、アルコール性肝疾患、アルコール性脂肪性肝炎(ASH)、HCV肝炎、慢性肝炎、遺伝性ヘモクロマトーシス、又は原発性硬化性胆管炎である。
【0011】
他の実施形態では、この比を使用して、PNPLA3に関連する疾患の処置のための方法における化合物の有効性を予測することができる。少なくとも1つの実施形態では、疾患は、肝損傷、脂肪症、肝線維症、肝炎症、肝瘢痕若しくは肝硬変、肝不全、肝腫大、トランスアミナーゼの上昇、又はPNPLA3に関連する肝疾患を有するかそのリスクのある患者の肝脂肪蓄積から選択される。特定の実施形態では、疾患は、NAFLD、脂肪肝、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、肝硬変、肝細胞癌、アルコール性肝疾患、アルコール性脂肪性肝炎(ASH)、HCV肝炎、慢性肝炎、遺伝性ヘモクロマトーシス、又は原発性硬化性胆管炎である。少なくとも1つの実施形態では、平均CE 16:1/16:0比の0.3未満への低下は、PNPLA3発現の対応する低下を示す。
【0012】
さらに別の実施形態では、パルミトレイン酸コレステリルとパルミチン酸コレステリルの比(CE 16:1/16:0)を使用して、PNPLA3に関連する疾患の処置に使用されるPNPLA3核酸を標的とする化合物の用量を調整することができる。少なくとも1つの実施形態では、疾患は、肝損傷、脂肪症、肝線維症、肝炎症、肝瘢痕若しくは肝硬変、肝不全、肝腫大、トランスアミナーゼの上昇、又はPNPLA3に関連する肝疾患を有するかそのリスクのある患者の肝脂肪蓄積から選択される。特定の実施形態では、疾患は、NAFLD、脂肪肝、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、肝硬変、肝細胞癌、アルコール性肝疾患、アルコール性脂肪性肝炎(ASH)、HCV肝炎、慢性肝炎、遺伝性ヘモクロマトーシス、又は原発性硬化性胆管炎である。本開示の少なくとも1つの実施形態では、PNPLA3核酸を標的とする化合物の用量は増加される。別の実施形態では、PNPLA3核酸を標的とする化合物の用量は低減される。
【0013】
本明細書の診断方法は、1人又は複数の患者から事前に採取された試料を使用して行うことができる。このような試料は、冷凍により保存するか、又はホルマリン-パラフィン若しくは他の媒体中で固定して包埋することができる。或いは、新鮮な試料を含む試料を得て使用することができる。
【0014】
特定の実施形態は、患者がPNPLA3核酸を標的とする化合物で処置されている、PNPLA3に関連する疾患の活性及び/又は進行をモニタリングする方法を提供する。特定の実施形態では、化合物は、以下の化学構造を有するION 916333又はその塩を含むか又はそれからなる。
【化1】
【0015】
特定の実施形態では、化合物は、以下の化学構造を有するION 975616又はその塩を含むか又はそれからなる。
【化2】
【0016】
特定の実施形態では、化合物は、以下の化学構造を有する975616のナトリウム塩を含むか又はそれからなる。
【化3】
【0017】
特定の実施形態では、化合物は、以下の化学構造を有するION 975613又はその塩を含むか又はそれからなる。
【化4】
【0018】
特定の実施形態では、化合物は、以下の化学構造を有する975613のナトリウム塩を含むか又はそれからなる。
【化5】
【0019】
特定の実施形態では、化合物は、以下の化学構造を有するION 975612又はその塩を含むか又はそれからなる。
【化6】
【0020】
特定の実施形態では、化合物は、以下の化学構造を有する975612のナトリウム塩を含むか又はそれからなる。
【化7】
【0021】
特定の実施形態では、化合物は、以下の化学構造を有するION 916789又はその塩を含むか又はそれからなる。
【化8】
【0022】
特定の実施形態では、化合物は、以下の化学構造を有する916789のナトリウム塩を含むか又はそれからなる。
【化9】
【0023】
特定の実施形態では、化合物は、以下の化学構造を有するION 916602又はその塩を含むか又はそれからなる。
【化10】
【0024】
特定の実施形態では、化合物は、以下の化学構造を有する916602のナトリウム塩を含むか又はそれからなる。
【化11】
【0025】
前述のいずれの実施形態でも、化合物又はオリゴヌクレオチドは、PNPLA3をコードする核酸に対して少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%相補的であり得る。
【0026】
特定の実施形態では、化合物は、本明細書に記載される修飾オリゴヌクレオチド及びコンジュゲート基を含む。特定の実施形態では、コンジュゲート基は、修飾オリゴヌクレオチドの5’末端において修飾オリゴヌクレオチドに結合されている。特定の実施形態では、コンジュゲート基は、修飾オリゴヌクレオチドの3’末端において修飾オリゴヌクレオチドに結合されている。特定の実施形態では、コンジュゲート基は、少なくとも1つのN-アセチルガラクトサミン(GalNAc)、少なくとも2つのN-アセチルガラクトサミン(GalNAc)、又は少なくとも3つのN-アセチルガラクトサミン(GalNAc)を含む。
【0027】
特定の実施形態では、本明細書で提供される化合物又は組成物は、修飾オリゴヌクレオチドの薬学的に許容され得る塩を含む。特定の実施形態では、この塩は、ナトリウム塩である。特定の実施形態では、この塩は、カリウム塩である。
【0028】
以下の実施例及び図面は、当業者に本発明の様々な態様を作成及び使用する方法の完全な開示及び説明を提供するために提示されており、発明者らが発明と見なす発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】PNPLA3サイレンシング後の野生型及び148Mノックインマウスの血漿と肝臓の両方で測定されたCE 16:1/16:0比を示す。
図2】PNPLA3 ASOの単回投与後の血漿CE 16:1/16:0と肝臓PNPLA3 mRNAとの相関を示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
実施例
強い肝臓を標的としたGalNAc共役アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)、ION 975616を用いたPNPLA3サイレンシングが、野生型及び148Mノックインマウスの両方で、血漿及び肝臓のリピドミクスに及ぼす影響を調べた。脂肪合成高ショ糖食、又はフルクトース、トランス脂肪酸、及びコレステロールを多く含むNASH食をマウスのコホートに与えて、著しい肝臓の脂肪症、炎症、及び線維症を誘発させた。血漿及び肝臓の脂質組成を、UPLC-MS/MSと直接注入(ショットガン)の組み合わせを使用して調べた。パルミトレイン酸コレステリルとパルミチン酸コレステリルの比(CE 16:1/16:0)は、PNPLA3サイレンシング後に血漿及び肝臓の両方で低下した(図1)。この効果は、PNPLA3遺伝子型にも食事にも無関係であった。加えて、PNPLA3 ASOの単回投与後、血漿CE 16:1/16:0と肝臓PNPLA3 mRNAとの間に相関が存在した(図2)。ヒト血漿又は血清中のパルミトレイン酸コレステリルとパルミチン酸コレステリルの比(CE 16:1/16:0)は、液体又はガスクロマトグラフィーを使用した分離後の質量分析検出によって測定することができる。
図1
図2
【配列表】
2022513885000001.app
【国際調査報告】