IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ポスコの特許一覧

特表2022-513993穴拡げ性に優れた高強度熱延鋼板及びその製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-09
(54)【発明の名称】穴拡げ性に優れた高強度熱延鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20220202BHJP
   C22C 38/06 20060101ALI20220202BHJP
   C22C 38/38 20060101ALI20220202BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20220202BHJP
【FI】
C22C38/00 301W
C22C38/06
C22C38/38
C21D9/46 T
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021534941
(86)(22)【出願日】2019-12-18
(85)【翻訳文提出日】2021-07-02
(86)【国際出願番号】 KR2019017979
(87)【国際公開番号】W WO2020130614
(87)【国際公開日】2020-06-25
(31)【優先権主張番号】10-2018-0165148
(32)【優先日】2018-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】パク、 キョン-ス
【テーマコード(参考)】
4K037
【Fターム(参考)】
4K037EA02
4K037EA06
4K037EA11
4K037EA15
4K037EA16
4K037EA23
4K037EA25
4K037EA27
4K037EA31
4K037EB06
4K037FA02
4K037FA03
4K037FB00
4K037FC03
4K037FC04
4K037FD04
4K037JA06
(57)【要約】
本発明の一側面による穴拡げ性に優れた高強度熱延鋼板は、重量%で、炭素(C):0.12%以上0.30%未満、マンガン(Mn):0.1~2.5%、シリコン(Si):0.5%以下(0%を除く)、ホウ素(B):0.0005~0.005%、リン(P):0.02%以下、硫黄(S):0.01%以下、残りの鉄(Fe)及び不可避不純物を含み、95体積%以上のマルテンサイトを微細組織として含み、引張強度(TS)と穴拡げ性(HER)の積が30,000MPa%以上であることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、炭素(C):0.12%以上0.30%未満、マンガン(Mn):0.1~2.5%、シリコン(Si):0.5%以下(0%を除く)、ホウ素(B):0.0005~0.005%、リン(P):0.02%以下、硫黄(S):0.01%以下、残りの鉄(Fe)及び不可避不純物を含み、
95体積%以上のマルテンサイトを微細組織として含み、
引張強度(TS)と穴拡げ性(HER)の積が30,000MPa%以上である、穴拡げ性に優れた高強度熱延鋼板。
【請求項2】
前記熱延鋼板は、重量%で、クロム(Cr):0.5%以下及びチタン(Ti):0.005~0.2%のうち1種以上をさらに含む、請求項1に記載の穴拡げ性に優れた高強度熱延鋼板。
【請求項3】
前記微細組織は、フェライト、ベイナイト、炭化物、及び残留オーステナイトのうち1種以上を合計5体積%以下含む、請求項1に記載の穴拡げ性に優れた高強度熱延鋼板。
【請求項4】
前記熱延鋼板の引張強度(TS)は1,250MPa以上である、請求項1に記載の穴拡げ性に優れた高強度熱延鋼板。
【請求項5】
前記熱延鋼板の穴拡げ性(HER)は20%以上である、請求項1に記載の穴拡げ性に優れた高強度熱延鋼板。
【請求項6】
前記熱延鋼板の厚さは1.5mm以下である、請求項1に記載の穴拡げ性に優れた高強度熱延鋼板。
【請求項7】
重量%で、炭素(C):0.12%以上0.30%未満、マンガン(Mn):0.1~2.5%、シリコン(Si):0.5%以下(0%を除く)、ホウ素(B):0.0005~0.005%、リン(P):0.02%以下、硫黄(S):0.01%以下、残りの鉄(Fe)及び不可避不純物を含むスラブを再加熱する段階;
前記再加熱されたスラブを熱間圧延して熱延鋼板を提供する段階;
前記熱間圧延の終了時点から5秒以内に前記熱延鋼板の冷却を開始し、50~1,000℃/sの冷却速度で350℃以下の冷却終了温度まで前記熱延鋼板を冷却する段階;及び
前記冷却された熱延鋼板を巻取る段階;を含む、穴拡げ性に優れた高強度熱延鋼板の製造方法。
【請求項8】
前記スラブは、重量%で、クロム(Cr):0.5%以下及びチタン(Ti):0.005~0.2%のうち1種以上をさらに含む、請求項7に記載の穴拡げ性に優れた高強度熱延鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用の衝突部材用部品及び構造物支持台などの素材として用いられる熱延鋼板に関するものであり、詳細には高強度の特性を備えながらも、穴拡げ性に優れた熱延鋼板及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の衝突部材用部品及び構造物支持台などの素材として利用される鋼材は、安全性確保のために高強度の特性が要求されるだけでなく、設計者の要求に合わせて、様々な形に加工されるため、穴拡げ性(Hole Expansion Ratio、HER)のような加工性が要求される。但し、鋼材の強度及び加工性は両立し難い物性であるため、鋼材の強度及び加工性を同時に確保するための様々な研究が進められている。
【0003】
熱延鋼板の高強度性及び高成形性を同時に確保するための方法として、以下の特許文献が公知されている。
【0004】
特許文献1は、合金元素の添加による析出強化によって強度を確保する技術を提案する。すなわち、特許文献1は、Ti、Nb、V及びMoなどの合金元素を添加して高強度の特性を確保しようとするが、これらの合金元素は高価元素であって、製造費用が過度に増加し、経済性の側面で好ましくない。
【0005】
特許文献2~4は、フェライト及びマルテンサイトの二相組織を利用するか、オーステナイトを残留させてフェライト、ベイナイト、マルテンサイトの複合組織を活用して、強度及び延性を確保する技術を提案する。但し、このようなフェライトや残留オーステナイトは、延性には優れるものの強度が低下して高強度の特性を十分に確保できないという技術的困難性が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】韓国公開特許第10-2005-113247号公報(2005.12.01.公開)
【特許文献2】特開2005-298967号公報(2005.10.27.公開)
【特許文献3】米国特許出願公開第2005-0155673号明細書(2005.07.21.公開)
【特許文献4】欧州特許出願公開第1396549号明細書(2004.03.10.公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の一側面によると、穴拡げ性に優れた高強度熱延鋼板及びその製造方法が提供することができる。
【0008】
本発明の課題は、上述した内容に限定されない。通常の技術者であれば、本明細書の全体内容から本発明のさらなる課題を理解するのに何ら困難がない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面による穴拡げ性に優れた高強度熱延鋼板は、重量%で、炭素(C):0.12%以上0.30%未満、マンガン(Mn):0.1~2.5%、シリコン(Si):0.5%以下(0%を除く)、ホウ素(B):0.0005~0.005%、リン(P):0.02%以下、硫黄(S):0.01%以下、残りの鉄(Fe)及び不可避不純物を含み、95体積%以上のマルテンサイトを微細組織として含み、引張強度(TS)と穴拡げ性(HER)の積が30,000MPa%以上であることができる。
【0010】
上記熱延鋼板は、重量%で、クロム(Cr):0.5%以下及びチタン(Ti):0.005~0.2%のうち1種以上をさらに含んでもよい。
【0011】
上記微細組織は、フェライト、ベイナイト、炭化物、及び残留オーステナイトのうち1種以上を合計5体積%以下含んでもよい。
【0012】
上記熱延鋼板の引張強度(TS)は、1,250MPa以上であってもよい。
【0013】
上記熱延鋼板の穴拡げ性(HER)は、20%以上であってもよい。
【0014】
上記熱延鋼板の厚さは1.8mm以下であってもよい。
【0015】
本発明の一側面による穴拡げ性に優れた高強度熱延鋼板の製造方法は、重量%で、炭素(C):0.12%以上0.30%未満、マンガン(Mn):0.1~2.5%、シリコン(Si):0.5%以下(0%を除く)、ホウ素(B):0.0005~0.005%、リン(P):0.02%以下、硫黄(S):0.01%以下、残りの鉄(Fe)及び不可避不純物を含むスラブを再加熱する段階;上記再加熱されたスラブを熱間圧延して熱延鋼板を提供する段階;上記熱間圧延の終了時点から5秒以内に上記熱延鋼板の冷却を開始し、50~1000℃/sの冷却速度で350℃以下の冷却終了温度まで上記熱延鋼板を冷却する段階;及び上記冷却された熱延鋼板を巻取る段階;を含むことができる。
【0016】
上記スラブは、重量%で、クロム(Cr):0.5%以下及びチタン(Ti):0.005~0.2%のうち1種以上をさらに含んでもよい。
【0017】
上記課題の解決手段は、本発明の特徴をすべて列挙したものではなく、本発明の様々な特徴とそれに伴う利点及び効果は、以下の具体的な実施例を参照して、より詳細に理解することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一側面によると、高強度性を備えながらも、穴拡げ性(HER)が顕著に向上した熱延鋼板及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、穴拡げ性に優れた高強度熱延鋼板及びその製造方法に関するものであり、以下では、本発明の好ましい実施例を説明する。本発明の実施例は、様々な形に変形することができ、本発明の範囲が以下で説明される実施例に限定されるものと解釈されてはならない。本実施例は、当該発明が属する技術分野における通常の知識を有する者に本発明をさらに詳細に説明するために提供されるものである。
【0020】
以下、本発明の鋼組成についてより詳細に説明する。特に断りのない限り、鋼組成の含有量を示す%は重量を基準とする。
【0021】
本発明の一側面による穴拡げ性に優れた高強度熱延鋼板は、重量%で、炭素(C):0.12%以上0.30%未満、マンガン(Mn):0.1~2.5%、シリコン(Si):0.5%以下(0%を除く)、ホウ素(B):0.0005~0.005%、リン(P):0.02%以下、硫黄(S):0.01%以下、残りの鉄(Fe)及び不可避不純物を含むことができる。また、本発明の一側面による穴拡げ性に優れた高強度熱延鋼板は、重量%で、クロム(Cr):0.5%以下及びチタン(Ti):0.005~0.2%のうち1種以上をさらに含んでもよい。
【0022】
炭素(C):0.12%以上0.30%未満
炭素(C)は、鋼の強度向上に効果的に寄与する元素であるため、本発明は、熱延鋼板の強度を確保するために、一定水準以上の炭素(C)を含むことができる。また、炭素(C)含有量が一定水準以下の場合、熱間圧延後の冷却時に低温組織が多量に形成されて、本発明が目的とする微細組織を確保することができない問題が生じる可能性があるため、本発明は、0.12%以上の炭素(C)を含むことができる。炭素(C)含有量は、0.125以上であることが好ましく、0.13%以上であることがより好ましい。これに対し、炭素(C)が過剰に添加される場合、強度は向上するものの、穴拡げ性(HER)及び溶接性は低下する問題が生じる可能性があるため、本発明における炭素(C)含有量を0.30%未満に制限することができる。炭素(C)含有量は、0.29%以下であることが好ましく、0.28%以下であることがより好ましい。
【0023】
マンガン(Mn):0.1~2.5%
マンガン(Mn)は、鋼の強度及び硬化能の向上に効果的に寄与する元素である。また、マンガン(Mn)は、鋼の製造工程中に不可避に流入する硫黄(S)と結合してMnSを形成するため、硫黄(S)によるクラック発生を効果的に防止することが可能な元素でもある。したがって、本発明は、このような効果を達成するために0.1%以上のマンガン(Mn)を含むことができる。マンガン(Mn)含有量は、0.3%以上であることが好ましく、0.5%以上であることがより好ましい。但し、マンガン(Mn)が過剰に添加される場合、残留オーステナイトによる引張強度の低下が懸念されるだけでなく、溶接性及び経済性の側面で好ましくないため、本発明におけるマンガン(Mn)含有量の上限を2.5%に制限することができる。マンガン(Mn)含有量は、2.3%以下であることが好ましく、2.1%以下であることがより好ましい。
【0024】
シリコン(Si):0.5%以下(0%を除く)
シリコン(Si)は、酸素との親和力が強い元素であるため、多量に添加される場合、表面スケールによる表面品質の低下を引き起こす可能性があり、溶接性の側面でも好ましくない。したがって、本発明におけるシリコン(Si)含有量の上限を0.5%に制限することができる。シリコン(Si)含有量は、0.4%以下であることが好ましく、0.3%以下であることがより好ましい。但し、シリコン(Si)は、脱酸剤として作用するだけでなく、鋼の強度向上に寄与する元素でもあるため、本発明におけるシリコン(Si)含有量の下限から0%を除くことができる。
【0025】
ホウ素(B):0.0005~0.005%
ホウ素(B)は、鋼の硬化能の向上に効果的に寄与する元素であって、少量の添加によっても熱間圧延後の冷却時にフェライト及びパーライトなどの低温組織への変態を効果的に抑制することが可能な元素である。したがって、本発明は、このような効果を達成するために0.0005%以上のホウ素(B)を含むことができる。ホウ素(B)含有量は、0.0007%以上が好ましく、0.0009%以上であることがより好ましい。これに対し、ホウ素(B)が過剰に添加される場合、ホウ素(B)が鉄(Fe)と反応して粒界脆性を引き起こす可能性があるため、本発明におけるホウ素(B)含有量の上限を0.005%に制限することができる。ホウ素(B)含有量は、0.003%以下であることが好ましく、0.002%以下であることがより好ましい。
【0026】
リン(P):0.02%以下
リン(P)は、結晶粒界に偏析されて鋼の靭性の低下を引き起こす主要元素である。したがって、リン(P)含有量を可能な限り低く制御することが好ましい。したがって、リン(P)含有量を0%に制限することが理論上最も有利である。但し、リン(P)は、製鋼工程中、鋼中に不可避に流入する不純物であるため、その含有量を0%に制御するには、過度な工程の負荷が誘発される可能性がある。したがって、本発明は、このような点を考慮して、リン(P)含有量の上限を0.02%に制限することができる。
【0027】
硫黄(S):0.01%以下
硫黄(S)は、MnSを形成して析出物の量を増加させ、鋼を脆化させる主要元素である。したがって、硫黄(S)含有量を可能な限り低く制御することが好ましい。したがって、硫黄(S)含有量を0%に制限することが理論上最も有利である。但し、硫黄(S)も製鋼工程中、鋼中に不可避に流入する不純物であるため、その含有量を0%に制御するには、過度な工程の負荷が誘発される可能性がある。したがって、本発明は、このような点を考慮して、硫黄(S)含有量の上限を0.01%に制限することができる。
【0028】
クロム(Cr):0.5%以下
クロム(Cr)は、鋼の硬化能の形成に寄与する元素であるため、本発明は、このような効果を達成するためにクロム(Cr)を含むことができる。但し、高価元素であるクロム(Cr)が過剰に添加されることは経済的な側面で好ましくなく、クロム(Cr)が過剰に添加される場合、溶接性を低下させるおそれがあるため、本発明におけるクロム(Cr)含有量の上限を0.5%に制限することができる。クロム(Cr)含有量は、0.4%以下であることが好ましく、0.3%以下であることがより好ましい。
【0029】
チタン(Ti):0.005~0.2%
一般的に、チタン(Ti)は、炭素(C)及び窒素(N)と結合して炭化物及び窒化物を形成することが知られている元素である。本発明は、硬化能を確保するためにホウ素(B)を鋼中に必須に添加するが、鋼中に含まれる窒素(N)及びホウ素(B)が結合する場合、本発明が目的とするホウ素(B)の添加効果を達成することができなくなる。これに対し、チタン(Ti)が添加される場合、ホウ素(B)と結合する前の窒素(N)がチタン(Ti)と結合して窒化物を形成するため、ホウ素(B)の添加効果をより効果的に向上させることができる。したがって、本発明は、このような効果を達成するために0.005%以上のチタン(Ti)を添加することができる。チタン(Ti)含有量は、0.01%以上であることが好ましく、0.015%以上であることがより好ましい。但し、チタン(Ti)が過剰に添加される場合、スラブ製造段階での連鋳性が低下する問題が生じるため、本発明におけるチタン(Ti)含有量の上限を0.2%に制限することができる。チタン(Ti)含有量は、0.17%以下であることが好ましく、0.15%以下であることがより好ましい。
【0030】
本発明は、上述した鋼組成以外に、残りはFe及び不可避不純物を含むことができる。不可避不純物は、通常の鉄鋼製造工程で意図せずに混入することができるものであり、これを全面排除することはできず、通常の鉄鋼製造分野の技術者であれば、その意味を容易に理解することができる。また、本発明は、上述した鋼組成以外の他の組成の添加を全面的に排除するものではない。
【0031】
以下、本発明の微細組織についてより詳細に説明する。
【0032】
本発明の発明者は、鋼の強度及び穴拡げ性(HER)を同時に確保することが可能な条件について研究を行った。従来には、鋼の強度及び加工性は両立不可能な物性として広く認識されたが、本発明の発明者は深く研究した結果、鋼の微細組織の種類だけでなく、特定微細組織の分率が鋼の強度及び穴拡げ性(HER)の両立に大きな影響を与える条件であることを導出することができた。
【0033】
本発明の一側面による熱延鋼板は、マルテンサイトを基地組織として含み、マルテンサイトの分率は、全体の熱延鋼板の体積に対して95体積%以上であることができる。本発明は、硬質組織であるマルテンサイトを95%以上含むため、高強度性を効果的に確保すると同時に穴拡げ性(HER)を効果的に確保することができる。
【0034】
本発明の一側面による熱延鋼板は、マルテンサイト以外の組織が含まれることを全面的に排除するものではない。但し、フェライト、ベイナイト、炭化物、及び残留オーステナイトなどは、強度確保に好ましくないため、その合計分率を5体積%以下に制限することができ、3体積%以下に厳しく制限することがより好ましい。
【0035】
また、本発明の一側面による熱延鋼板は、上述した組織以外にセメンタイト及び析出物などを残部組織としてさらに含んでもよい。
【0036】
したがって、本発明の一側面による熱延鋼板は、1,250MPa以上の引張強度(TS)及び20%以上の穴拡げ性(HER)を満たすことができる。特に、本発明の一側面による熱延鋼板は、引張強度(TS)と穴拡げ性(HER)の積が30,000MPa%以上の水準で強度及び加工性を効果的に両立することができる。
【0037】
さらに、本発明の一側面による熱延鋼板は、その厚さが特に制限されるものではない。但し、本発明の一側面による熱延鋼板は、優れた強度及び加工性を備えるため、薄物化によって最終製品の経済性及び軽量性の確保に効果的に寄与することができる。したがって、本発明の一側面による熱延鋼板の厚さは1.8mm以下であってもよく、1.5mm以下であることがより好ましい。
【0038】
以下、本発明の製造方法についてより詳細に説明する。
【0039】
本発明の一側面による穴拡げ性に優れた高強度熱延鋼板の製造方法は、上述した鋼組成から備えられるスラブを再加熱する段階;上記再加熱されたスラブを熱間圧延して熱延鋼板を提供する段階;上記熱間圧延の終了時点から5秒以内に上記熱延鋼板の冷却を開始し、50~1000℃/sの冷却速度で350℃以下の冷却終了温度まで上記熱延鋼板を冷却する段階;及び上記冷却された熱延鋼板を巻取る段階;を含むことができる。
【0040】
スラブ再加熱及び熱間圧延
本発明のスラブ鋼組成は、上述した熱延鋼板の鋼組成と対応するため、本発明のスラブ鋼組成に関する説明は、上述した熱延鋼板の鋼組成に関する説明に代える。
【0041】
通常のスラブ製造工程によって製造されたスラブは、一定温度範囲で再加熱することができる。十分な均質化処理のために再加熱温度の下限を1,050℃に制限することができ、経済性及び表面品質を考慮して、再加熱温度の上限を1,350℃に制限することができる。
【0042】
再加熱されたスラブは熱間圧延によって1.8mm以下の厚さ、好ましくは1.5mm以下の厚さで仕上げ圧延することができる。本発明は、熱間圧延は、通常の条件によって行うことができるが、圧延荷重の制御及び表面スケールの低減のための仕上げ圧延温度は800~950℃の範囲であってもよい。また、本発明は、熱間圧延によって薄い厚さの熱延鋼板を製造するため、先行材と後行材を分離せず、連続的に圧延する連続圧延が熱延鋼板の厚さを確保する側面でより好ましい。
【0043】
冷却
熱間圧延直後の熱延鋼板に対して急冷条件の冷却を実施することができる。
【0044】
本発明は、熱延鋼板の微細組織を厳しく制御するために、本発明の冷却は、熱間圧延直後の5秒以内に開始されることが好ましい。熱間圧延後の冷却開始の時点までの時間が5秒を超える場合、大気中での空冷により本発明が意図していないフェライト、パーライト及びベイナイトが形成される可能性があるためである。熱間圧延後の冷却開始時点までの時間は、3秒以内であることがより好ましい。
【0045】
また、熱間圧延直後の熱延鋼板は、50~1,000℃/sの冷却速度で350℃以下の冷却終了温度まで冷却することができる。冷却速度が50℃/s未満の場合、冷却中のフェライト、パーライト及びベイナイトへの変態が起こるため、本発明が目的とする微細組織を確保することができないという問題点が存在する。本発明は、目的とする微細組織を確保するために、冷却速度の上限を特に限定しないが、設備の限界及び経済性を考慮して、冷却速度の上限を1,000℃/sに制限することができる。また、冷却終了温度が350℃を超える場合にもフェライト、パーライト及びベイナイトへの変態が避けられないため、本発明が目的とする微細組織を確保することができないという問題点が存在する。
【0046】
以上の製造方法によって製造された熱延鋼板は、1,250MPa以上の引張強度(TS)及び20%以上の穴拡げ性(HER)を確保し、引張強度(TS)と穴拡げ性(HER)の積が30,000MPa%以上の水準で強度及び加工性を効果的に両立することができる。
【実施例
【0047】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。下記実施例は、本発明を例示して、より詳細に説明するためのものにすぎず、本発明の権利範囲を限定するためのものではない点に留意する必要がある。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項と、それから合理的に類推される事項によって決定されるものであるためである。
【0048】
(実施例)
下記表1の組成を有するスラブを製造した後、下記表2の条件を用いて、熱延鋼板の試験片を製造した。それぞれのスラブは、通常の製造方法により製造され、1,050~1,350℃の温度範囲で再加熱されて均質化処理された。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
表2の条件で製造された各試験片に対して微細組織及び機械的物性を測定し、表3に示した。微細組織は、光学顕微鏡及び走査電子顕微鏡を用いて測定した後、イメージ分析を介して評価した。機械的物性のうち引張強度はDIN規格を用いてC方向に引張試験を実施し、評価した。機械的物性のうち穴拡げ性(HER)はJFST 1001-1996規格で評価し、各試験片のホール(hole)を加工した後、パンチで押し上げて破断が生じる時までの穴拡げ性を測定した。
【0052】
【表3】
【0053】
本発明の合金組成及び製造条件をすべて満たす試験片1~試験片11の場合、95体積%以上のマルテンサイトの分率及び30,000MPa%以上の引張強度(TS)と穴拡げ性(HER)の積をすべて満たすことが確認できた。また、試験片1~試験片11の場合、1,250MPa以上の引張強度及び20%以上の穴拡げ性(HER)をすべて満たすことが確認できた。
【0054】
一方、本発明の合金組成及び製造条件のいずれか一つ以上を満たしていない試験片12~20の場合、マルテンサイトの分率が95体積%未満であるか、引張強度(TS)と穴拡げ性(HER)の積が30,000MPa%未満であることが確認できた。
【0055】
具体的には、試験片12は圧延終了後の冷却開始までの時間が5秒を超える場合として、本発明が目的とするマルテンサイトの分率を確保できず、引張強度が低下したことが確認できた。
【0056】
試験片13は冷却速度が遅い場合であり、試験片14は冷却終了温度が高い場合として、マルテンサイトへの変態が十分に起きず、本発明が目的とする引張強度または穴拡げ性(HER)を確保できなかったことが確認できた。
【0057】
試験片15は炭素(C)含有量が低い場合であり、試験片16はホウ素(B)含有量が低い場合として、マルテンサイトの分率が50体積%にも満たしていなかったため、引張強度が低下したことが確認できた。
【0058】
試験片17はマンガン(Mn)含有量が高い場合であって、マルテンサイトへの変態が十分に起きず、残留オーステナイトが形成されており、引張強度には優れるものの、穴拡げ性(HER)は低下したことが確認できた。
【0059】
試験片18~試験片20は、それぞれ、シリコン(Si)、リン(P)及び硫黄(S)の含有量が高い場合であって、引張強度は高いものの、穴拡げ性(HER)は低下したことが確認できた。
【0060】
したがって、本発明の一側面による熱延鋼板は、1,250MPa以上の引張強度(TS)及び20%以上の穴拡げ性(HER)を満たし、特に、引張強度(TS)と穴拡げ性(HER)の積が30,000MPa%以上の水準であることから、強度及び加工性を効果的に両立できたことが確認できた。
【0061】
上記において、実施例を挙げて本発明を詳細に説明したが、これと異なる形態の実施例も可能である。したがって、以下に記載された請求項の技術的思想及び範囲は実施例に限定されない。
【国際調査報告】