(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-09
(54)【発明の名称】ヘテロダイマー抗体の作製方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20220202BHJP
C07K 1/107 20060101ALI20220202BHJP
C07K 16/00 20060101ALI20220202BHJP
C07K 1/34 20060101ALI20220202BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20220202BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20220202BHJP
C07K 16/30 20060101ALI20220202BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K1/107 ZNA
C07K16/00
C07K1/34
C07K16/46
C07K16/28
C07K16/30
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021534967
(86)(22)【出願日】2019-12-17
(85)【翻訳文提出日】2021-07-26
(86)【国際出願番号】 IB2019060969
(87)【国際公開番号】W WO2020128870
(87)【国際公開日】2020-06-25
(32)【優先日】2018-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507316398
【氏名又は名称】ゲンマブ エー/エス
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】マーティン ペドロ ホセ アルフォンソ
(72)【発明者】
【氏名】キャパルディ マイケル ティー.
(72)【発明者】
【氏名】コーエン ジェフリー
(72)【発明者】
【氏名】ダッツェル アンドルー
(72)【発明者】
【氏名】サチアマ ジョセフ
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA28
4H045FA10
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、ヘテロダイマー抗体を作製する方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、ヘテロダイマー抗体を作製する方法:
a)第1のCH3領域を含む免疫グロブリンの第1のFc領域を含む第1のホモダイマー抗体と、第2のCH3領域を含む免疫グロブリンの第2のFc領域を含む第2のホモダイマー抗体とを提供する工程であって、第1のCH3領域と第2のCH3領域のアミノ酸配列は異なっており、かつ第1のCH3領域と第2のCH3領域のアミノ酸配列は、第1のCH3領域と第2のCH3領域の間のヘテロダイマー相互作用が第1のCH3領域間のホモダイマー相互作用または第2のCH3領域間のホモダイマー相互作用よりも強いようなものである、工程;
b)第1のホモダイマー抗体と第2のホモダイマー抗体を組み合わせて混合物にする工程;ならびに
c)該混合物を還元剤および周囲の溶存酸素(DO
2)の存在下でインキュベートしてヘテロダイマー抗体を作製する工程であって、該方法が、ヘテロダイマー抗体を作製している間の、該混合物中のパーセント(%)DO
2を測定する工程、該混合物中の%DO
2を制御する工程、または該混合物に酸素を添加する工程のうちの1つまたは複数を欠いている、工程。
【請求項2】
前記混合物中の%DO
2が、工程1b)で約30%以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ヘテロダイマー抗体を作製している間、%DO
2が約10%~約90%である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
工程1b)において、約1:1~約1:2のモル比で第1のホモダイマー抗体と第2のホモダイマー抗体が組み合わされて混合物になる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程1b)において、約1.05:1のモル比で第1のホモダイマー抗体と第2のホモダイマー抗体が組み合わされて混合物になる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記混合物中の免疫グロブリンの総濃度が、約8g/L~約13g/L、例えば約10.5g/Lである、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記混合物が、前記還元剤の存在下で約10分以上インキュベートされる、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記混合物が、前記還元剤の存在下で約10分~約24時間インキュベートされる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記還元剤が、2-メルカプトエチルアミン(2-MEA)、2-MEAの化学的誘導体、L-システインまたはD-システインである、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記混合物中の2-MEAの濃度が、約20mM~40mM、例えば約35mMである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記混合物がバッファーを含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記バッファーが酢酸ナトリウムバッファーを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記バッファーがNaClをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記バッファーが約100mM酢酸ナトリウムおよび約30mM NaClを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記バッファーのpHが約7.3である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記混合物から前記還元剤を除去する工程を含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記還元剤がろ過によって除去される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
ろ過が透析ろ過である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
第1のホモダイマー抗体および第2のホモダイマー抗体が、IgG1、IgG2またはIgG4アイソタイプである、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
SEQ ID NO: 1の野生型IgG1、SEQ ID NO: 2の野生型IgG2、またはSEQ ID NO: 3の野生型IgG4と比較すると、第1のCH3ドメインおよび第2のCH3ドメインが以下の変異を含む、請求項19に記載の方法:
F405L/K409R、野生型/F405L_R409K、T350I_K370T_F405L/K409R、K370W/K409R、D399AFGHILMNRSTVWY/K409R、T366ADEFGHILMQVY/K409R、L368ADEGHNRSTVQ/K409AGRH、D399FHKRQ/K409AGRH、F405IKLSTVW/K409AGRH、Y407LWQ/K409AGRH、T366Y/F405A、T366W/F405W、F405W/Y407A、T394W/Y407T、T394S/Y407A、T366W/T394S、F405W/T394S、T366W/T366S_L368A_Y407V、L351Y_F405A_Y407V/T394W、T366I_K392M_T394W/F405A_Y407V、T366L_K392M_T394W/F405A_Y407V、L351Y_Y407A/T366A_K409F、L351Y_Y407A/T366V_K409F、Y407A/T366A_K409F、T350V_L351Y_F405A_Y407V/T350V_T366L_K392L_T394W、K409D/D399K、K409E/D399R、K409D_K360D/D399K_E356K、K409D_K360D/D399E_E356K、K409D_K370D/D399K_E357K、K409D_K370D/D399E_E357K、K409D_K392D/D399K_E356K_E357K、またはK409D_K392D/D399E_E356K_E357K。
【請求項21】
SEQ ID NO: 1の野生型IgG1、SEQ ID NO: 2の野生型IgG2、またはSEQ ID NO: 3の野生型IgG4と比較すると、第1のFc領域および/または第2のFc領域が、Fcγ受容体(FcγR)、FcRn、またはプロテインAへの第1のFc領域および/または第2のFc領域の結合を調節する1つまたは複数の変異を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
FcγRがFcγRI、FcγRIIa、FcγRIIbまたはFcγRIIIである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
Fcγへの第1のFc領域および/または第2のFc領域の結合を調節する1つまたは複数の置換が、L234A_L235A、F234A_L235A、S228P_F234A_L235A、S228P_L234A_L235A、V234A_G237A_P238S_H268A_V309L_A330S_P331S、V234A_G237A、H268Q_V309L_A330S_P331S、S267E_L328F、L234F_L235E_D265A、L234A_L235A_G237A_P238S_H268A_A330S_P331S、またはS228P_F234A_L235A_G237A_P238Sである、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
FcRnへの第1のFc領域および/または第2のFc領域の結合を調節する1つまたは複数の置換が、M428L_N434S、M252Y_S254T_T256E、T250Q_M428L、N434AおよびT307A_E380A_N434A、H435A、P257I_N434H、D376V_N434H、M252Y_S254T_T256E_H433K_N434F、T308P_N434A、またはH435Rである、請求項21に記載の方法。
【請求項25】
プロテインAへの第1のFc領域および/または第2のFc領域の結合を調節する1つまたは複数の置換が、Q311R、Q311K、T307P_L309Q、T307P_V309Q、T307P_L309Q_Q311R、T307P_V309Q_Q311R、H435R、またはH435R_Y436Fである、請求項21に記載の方法。
【請求項26】
ヘテロダイマー抗体を作製する工程がGMPに準拠した条件下で行われる、請求項1~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
ヘテロダイマー抗体を作製する工程が、ヘテロダイマー抗体を含む原薬の製造中に行われる、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記ヘテロダイマー抗体が二重特異性抗体である、請求項1~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記二重特異性抗体がCD3、CD123、BCMA、EGFR、もしくはc-Met、またはそれらの任意の組み合わせと結合する、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記混合物中の総免疫グロブリンに対する前記還元剤の質量比が、約1.0~約5.0である、請求項1~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記質量比が約1.4~約3.8である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記質量比が約3.3~約4.4である、請求項30に記載の方法。
【請求項33】
以下の工程を含む、ヘテロダイマー抗体を作製する方法:
a)第1のCH3領域を含む免疫グロブリンの第1のFc領域を含む第1のホモダイマー抗体と、第2のCH3領域を含む免疫グロブリンの第2のFc領域を含む第2のホモダイマー抗体とを提供する工程であって、第1のCH3領域と第2のCH3領域のアミノ酸配列は異なっており、かつ第1のCH3領域と第2のCH3領域のアミノ酸配列は、第1のCH3領域と第2のCH3領域の間のヘテロダイマー相互作用が第1のCH3領域間のホモダイマー相互作用または第2のCH3領域間のホモダイマー相互作用よりも強いようなものである、工程;
b)第1のホモダイマー抗体と第2のホモダイマー抗体を組み合わせて混合物にする工程;
c)該混合物を還元剤の存在下でインキュベートする工程;および
d)該還元剤を除去してヘテロダイマー抗体を作製する工程であって、工程c)、工程d)、または工程c)と工程d)の両方において、溶存酸素(DO
2)のパーセント(%)が、約30%以下となるように制御される、工程。
【請求項34】
前記混合物の%DO
2が、約25%以下、20%以下、約15%以下、約10%以下、約9%以下、約8%以下、約7%以下、約6%以下、約5%以下、約4%以下、約3%以下、約2%以下、または約1%以下である、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
%DO
2が窒素のオーバーレイによって制御される、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
工程b)において、約1:1~約1:2のモル比で第1のホモダイマー抗体と第2のホモダイマー抗体が組み合わされて混合物になる、請求項34または35に記載の方法。
【請求項37】
工程b)において、約1.05:1のモル比で第1のホモダイマー抗体と第2のホモダイマー抗体が組み合わされて混合物になる、請求項34または35に記載の方法。
【請求項38】
前記混合物中の免疫グロブリンの総濃度が約10.5g/Lである、請求項33~37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記混合物が前記還元剤の存在下で約10分以上インキュベートされる、請求項33~38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
前記混合物が前記還元剤の存在下で約10分~約24時間インキュベートされる、請求項33~39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
前記還元剤が、2-メルカプトエチルアミン(2-MEA)、2-MEAの化学的誘導体、L-システインまたはD-システインである、請求項33~40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
前記混合物中の2-MEAの濃度が約35mMである、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記混合物がバッファーを含む、請求項33~42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
前記バッファーが酢酸ナトリウムバッファーを含む、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記バッファーがNaClをさらに含む、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記バッファーが約100mM酢酸ナトリウムおよび約30mM NaClを含む、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記バッファーのpHが約7.3である、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記混合物から前記還元剤を除去する工程を含む、請求項33~47のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
前記還元剤がろ過によって除去される、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
ろ過が透析ろ過である、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
第1のホモダイマー抗体および第2のホモダイマー抗体が、IgG1、IgG2またはIgG4アイソタイプである、請求項33~50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項52】
SEQ ID NO: 1の野生型IgG1、SEQ ID NO: 2の野生型IgG2、またはSEQ ID NO: 3の野生型IgG4と比較すると、第1のCH3ドメインおよび第2のCH3ドメインが以下の変異を含む、請求項51に記載の方法:
F405L/K409R、野生型/F405L_R409K、T350I_K370T_F405L/K409R、K370W/K409R、D399AFGHILMNRSTVWY/K409R、T366ADEFGHILMQVY/K409R、L368ADEGHNRSTVQ/K409AGRH、D399FHKRQ/K409AGRH、F405IKLSTVW/K409AGRH、Y407LWQ/K409AGRH、T366Y/F405A、T366W/F405W、F405W/Y407A、T394W/Y407T、T394S/Y407A、T366W/T394S、F405W/T394S、T366W/T366S_L368A_Y407V、L351Y_F405A_Y407V/T394W、T366I_K392M_T394W/F405A_Y407V、T366L_K392M_T394W/F405A_Y407V、L351Y_Y407A/T366A_K409F、L351Y_Y407A/T366V_K409F、Y407A/T366A_K409F、T350V_L351Y_F405A_Y407V/T350V_T366L_K392L_T394W、K409D/D399K、K409E/D399R、K409D_K360D/D399K_E356K、K409D_K360D/D399E_E356K、K409D_K370D/D399K_E357K、K409D_K370D/D399E_E357K、K409D_K392D/D399K_E356K_E357K、またはK409D_K392D/D399E_E356K_E357K。
【請求項53】
SEQ ID NO: 1の野生型IgG1、SEQ ID NO: 2の野生型IgG2、またはSEQ ID NO: 3の野生型IgG4と比較すると、第1のFc領域および/または第2のFc領域が、Fcγ受容体(FcγR)、FcRn、またはプロテインAへの第1のFc領域および/または第2のFc領域の結合を調節する1つまたは複数の変異を含む、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
FcγRがFcγRI、FcγRIIa、FcγRIIbまたはFcγRIIIである、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
Fcγへの第1のFc領域および/または第2のFc領域の結合を調節する1つまたは複数の置換が、L234A_L235A、F234A_L235A、S228P_F234A_L235A、S228P_L234A_L235A、V234A_G237A_P238S_H268A_V309L_A330S_P331S、V234A_G237A、H268Q_V309L_A330S_P331S、S267E_L328F、L234F_L235E_D265A、L234A_L235A_G237A_P238S_H268A_A330S_P331S、またはS228P_F234A_L235A_G237A_P238Sである、請求項53に記載の方法。
【請求項56】
FcRnへの第1のFc領域および/または第2のFc領域の結合を調節する1つまたは複数の置換が、M428L_N434S、M252Y_S254T_T256E、T250Q_M428L、N434AおよびT307A_E380A_N434A、H435A、P257I_N434H、D376V_N434H、M252Y_S254T_T256E_H433K_N434F、T308P_N434A、またはH435Rである、請求項53に記載の方法。
【請求項57】
プロテインAへの第1のFc領域および/または第2のFc領域の結合を調節する1つまたは複数の置換が、Q311R、Q311K、T307P_L309Q、T307P_V309Q、T307P_L309Q_Q311R、T307P_V309Q_Q311R、H435R、またはH435R_Y436Fである、請求項53に記載の方法。
【請求項58】
ヘテロダイマー抗体を作製する工程がGMPに準拠した条件下で行われる、請求項33~57のいずれか一項に記載の方法。
【請求項59】
ヘテロダイマー抗体を作製する工程が、ヘテロダイマー抗体を含む原薬の製造中に行われる、請求項33~57のいずれか一項に記載の方法。
【請求項60】
前記ヘテロダイマー抗体が二重特異性抗体である、請求項33~59のいずれか一項に記載の方法。
【請求項61】
前記二重特異性抗体がCD3、CD123、BCMA、EGFR、もしくはc-Met、またはそれらの任意の組み合わせと結合する、請求項60に記載の方法。
【請求項62】
前記混合物中の総免疫グロブリンに対する前記還元剤の質量比が、約1.0~約5.0である、請求項33~61のいずれか一項に記載の方法。
【請求項63】
前記質量比が約1.4~約3.8である、請求項62に記載の方法。
【請求項64】
前記質量比が約3.3~約4.4である、請求項62に記載の方法。
【請求項65】
請求項1に記載の方法により作製される、単離された二重特異性抗体。
【請求項66】
EGFRおよびc-Metと結合する、請求項65に記載の二重特異性抗体。
【請求項67】
SEQ ID NO: 4の第1の重鎖(HC1)、SEQ ID NO: 5の第1の軽鎖(LC1)、SEQ ID NO: 6の第2の重鎖(HC2)、およびSEQ ID NO: 7の第2の軽鎖(LC2)を含む、請求項65または66に記載の二重特異性抗体。
【請求項68】
CD3と結合する、請求項65に記載の二重特異性抗体。
【請求項69】
請求項33に記載の方法により作製される、単離された二重特異性抗体。
【請求項70】
EGFRおよびc-Metと結合する、請求項69に記載の二重特異性抗体。
【請求項71】
SEQ ID NO: 4の第1の重鎖(HC1)、SEQ ID NO: 5の第1の軽鎖(LC1)、SEQ ID NO: 6の第2の重鎖(HC2)、およびSEQ ID NO: 7の第2の軽鎖(LC2)を含む、請求項69または70に記載の二重特異性抗体。
【請求項72】
CD3と結合する、請求項69に記載の二重特異性抗体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
この出願は、2018年12月18日に出願された米国仮特許出願第62/781,180号の恩典を主張するものであり、その全内容は参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
発明の分野
本発明は、ヘテロダイマー抗体を作製する方法に関するものである。
【0003】
配列表
この出願には、EFS-Webを介して提出された配列表が含まれており、その全内容は参照により本明細書に組み入れられる。2019年12月10日に作成されたASCIIテキストファイルは、JBI6029WOPCT1_ST25.txtという名称で、サイズが21キロバイトである。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
モノクローナル抗体は、特に癌の治療において、治療用分子としての成功が実証されている。二重特異性抗体は、薬物または毒性化合物を標的細胞へ向かわせるために、エフェクター機構を疾患関連部位へと向け直すために、あるいは、例えば腫瘍細胞上に発現された1つまたは複数の標的分子に結合することによって、腫瘍細胞に対する特異性を高めるために使用される可能性があるため、モノクローナル抗体治療の効力と有効性を高めることが期待されている。さらに、2つのモノクローナル抗体の特異性を1つにまとめることにより、二重特異性抗体はより多くの数々の作用機序に関与する可能性がある。
【0005】
これまでに様々なフォーマットの二重特異性抗体とそれらの作製方法が記載されているが、製造プロセスを最適化することによって、二重特異性抗体を大規模に作製するという課題が存在している。
【発明の概要】
【0006】
発明の簡単な概要
本発明は、以下の工程を含む、ヘテロダイマー抗体を作製する方法を提供する:
第1のCH3領域を含む免疫グロブリンの第1のFc領域を含む第1のホモダイマー抗体と、第2のCH3領域を含む免疫グロブリンの第2のFc領域を含む第2のホモダイマー抗体とを提供する工程であって、第1のCH3領域と第2のCH3領域のアミノ酸配列は異なっており、かつ第1のCH3領域と第2のCH3領域のアミノ酸配列は、第1のCH3領域と第2のCH3領域の間のヘテロダイマー相互作用が第1のCH3領域間のホモダイマー相互作用または第2のCH3領域間のホモダイマー相互作用よりも強いようなものである、工程;
第1のホモダイマー抗体と第2のホモダイマー抗体を組み合わせて混合物にする工程;ならびに
該混合物を還元剤および周囲の溶存酸素(DO2)の存在下でインキュベートしてヘテロダイマー抗体を作製する工程であって、該方法が、ヘテロダイマー抗体を作製している間の、該混合物中のパーセント(%)DO2を測定する工程、該混合物中の%DO2を制御する工程、または該混合物に酸素を添加する工程のうちの1つまたは複数を欠いている、工程。
【0007】
本発明はまた、以下の工程を含む、ヘテロダイマー抗体を作製する方法を提供する:
第1のCH3領域を含む免疫グロブリンの第1のFc領域を含む第1のホモダイマー抗体と、第2のCH3領域を含む免疫グロブリンの第2のFc領域を含む第2のホモダイマー抗体とを提供する工程であって、第1のCH3領域と第2のCH3領域のアミノ酸配列は異なっており、かつ第1のCH3領域と第2のCH3領域のアミノ酸配列は、第1のCH3領域と第2のCH3領域の間のヘテロダイマー相互作用が第1のCH3領域間のホモダイマー相互作用または第2のCH3領域間のホモダイマー相互作用よりも強いようなものである、工程;
第1のホモダイマー抗体と第2のホモダイマー抗体を組み合わせて混合物にする工程;
該混合物を還元剤の存在下でインキュベートする工程;および
該還元剤を除去してヘテロダイマー抗体を作製する工程であって、該混合物を該還元剤の存在下でインキュベートする工程、該還元剤を除去してヘテロダイマー抗体を作製する工程、または該混合物を該還元剤の存在下でインキュベートしかつ該還元剤を除去してヘテロダイマー抗体を作製する工程の間、溶存酸素(DO2)のパーセント(%)が、約30%以下となるように制御される、工程。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】
図2は、Fabアーム交換を用いた二重特異性抗体の製造中の還元および限外ろ過/透析ろ過(ultrafiltration/diafiltration:UF/DF)の間のプロセス工程を示す。
【
図3】
図3は、チオール-ジスルフィド交換反応の分子詳細を示す。
【
図4】
図4は、2-MEAの存在下でのFabアーム交換の間に起こり得る反応の概要を示す。
【
図5】
図5は、UF/DFセットアップと、DO
2およびpHセンサーの位置を示した概略図であり、ここで、RmV=相対ミリボルトである。
【
図6】
図6は、UF/DF中の低DO
2条件で二重特異性抗体Aを製造する間に、保持液ライン、透過液ラインおよび注入ラインで測定されたUF/DF中のパーセント(%)DO
2を示す。a.s.:飽和空気(air saturated)。
【
図7】
図7は、UF/DF中の低DO
2条件で二重特異性抗体Bを製造する間に、保持液ライン、透過液ラインおよび注入ラインで測定されたUF/DF中のパーセント(%)DO
2を示す。a.s.:飽和空気。
【
図8】
図8は、低DO
2条件での還元(低DO還元)または周囲DO
2での還元(目標還元)中の経時的なパーセント(%)DO
2を示す。a.s.:飽和空気。
【発明を実施するための形態】
【0009】
発明の詳細な説明
定義
本明細書で引用されている、特許および特許出願を含むがこれらに限定されない、全ての刊行物は、完全に記載されているかのように、参照により本明細書に組み入れられる。
【0010】
本明細書で使用される用語は、特定の態様のみを説明するためのものであり、限定することを意図したものではないことを理解されたい。他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されているものと同じ意味を有する。
【0011】
本明細書に記載されるものと類似または同等の方法および材料はどれも、本発明の試験の実施に使用し得るが、例示的な材料および方法を本明細書に記載する。本発明の説明およびクレームにおいては、以下の用語を使用することにする。
【0012】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用するとき、単数形「a」、「an」、および「the」は、その内容が明確に他を指示しない限り、複数の指示対象を含む。したがって、例えば、「細胞」(a cell)への言及には、2つ以上の細胞の組み合わせなどが含まれる。
【0013】
「含む」(comprising)、「から本質的になる」(consisting essentially of)、および「からなる」(consisting of)という移行用語(transitional term)は、特許用語で一般的に受け入れられている意味を含意することを意図している;すなわち、(i)「含む」(comprising)は、「including」、「containing」または「characterized by」と同義であって、包括的またはオープンエンド(open-ended)であり、記載されていない追加の要素または方法ステップを除外しない;(ii)「からなる」(consisting of)は、クレームで指定されていない要素、ステップ、または成分を除外する;(iii)「から本質的になる」(consisting essentially of)は、クレームの範囲を、指定された材料またはステップと、クレームされた発明の「基本的かつ新規な特徴に実質的に影響を与えないもの」に限定する。また、「含む」という語句(またはそれに等しい語句)で記載された態様は、「からなる」および「から本質的になる」という語句で独立して記載されたものを、態様として提供する。
【0014】
「抗体」は、ジスルフィド結合によって相互に連結された2本の重鎖(HC)と2本の軽鎖(LC)を有する免疫グロブリン分子を指す。各重鎖は、重鎖可変領域(VH)と重鎖定常領域から構成され、重鎖定常領域は、領域CH1、ヒンジ、CH2およびCH3に分割される。各軽鎖は、軽鎖可変領域(VL)と軽鎖定常領域(CL)で構成される。VHおよびVLは、フレームワーク領域(FR)が介在する、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変性の領域にさらに細分することができる。各VHおよびVLは、3つのCDRと4つのFRセグメントで構成され、アミノ末端からカルボキシ末端に向かって次の順序で配置されている:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、およびFR4。抗体には、モノクローナル抗体、例えば、マウス、ヒト、ヒト化およびキメラ抗体、二重特異性または多重特異性抗体が含まれる。
【0015】
「相補性決定領域(CDR)」は、抗原に結合する抗体領域である。VHには3つのCDR(HCDR1、HCDR2、HCDR3)、VLには3つのCDR(LCDR1、LCDR2、LCDR3)がある。CDRは様々な境界描写法(delineation)を用いて定義することができ、例えば、Kabat (Wu et al. (1970) J Exp Med 132: 211-50) (Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, Md., 1991)、Chothia (Chothia et al. (1987) J Mol Biol 196: 901-17)、IMGT (Lefranc et al. (2003) Dev Comp Immunol 27: 55-77) およびAbM (Martin and Thornton (1996) J Bmol Biol 263: 800-15)が使用される。様々な境界描写と可変領域の番号付けの間の対応は説明されている(例えば、Lefranc et al. (2003) Dev Comp Immunol 27: 55-77; Honegger and Pluckthun, J Mol Biol (2001) 309:657-70; International ImMunoGeneTics (IMGT)データベース; Webリソース, http://www_imgt_org参照)。UCL Business PLCによるabYsisなどの利用可能なプログラムを用いて、CDRの境界を描くことができる。本明細書で使用される「CDR」、「HCDR1」、「HCDR2」、「HCDR3」、「LCDR1」、「LCDR2」、および「LCDR3」という用語には、本明細書で明示的に記載されていない限り、上述の方法、Kabat、Chothia、IMGTまたはAbMのいずれかによって定義されたCDRが含まれる。
【0016】
免疫グロブリンは、重鎖定常領域のアミノ酸配列に応じて、IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMの5つの主要なクラスに割り当てられる。IgAおよびIgGは、アイソタイプIgA1、IgA2、IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4としてさらに下位分類される。脊椎動物種の抗体軽鎖は、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、2つの明確に異なるタイプ、すなわちカッパ(κ)およびラムダ(λ)のいずれかに割り当てられる。
【0017】
「抗原結合フラグメント」とは、親の完全長抗体の抗原結合特性を保持する免疫グロブリン分子の一部を指す。例示的な抗原結合フラグメントは、重鎖相補性決定領域(HCDR)1、2および/または3、軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、2および/または3、VH、VL、VHとVL、Fab、F(ab')2、FdおよびFvフラグメント、ならびに1つのVHドメインまたは1つのVLドメインのいずれかからなるドメイン抗体(dAb)である。VHドメインとVLドメインは、合成リンカーを介して一緒に連結されて、様々なタイプの一本鎖抗体のデザインを形成することができ、その場合に、VH/VLドメインは分子内で対合するか、またはVHドメインとVLドメインが別々の鎖によって発現される場合には分子間で対合して、一本鎖Fv(scFv)またはダイアボディなどの一価の抗原結合部位を形成する;例えば、国際特許公開番号(Int. Pat. Publ. No.)WO1998/44001;Int. Pat. Publ. No. WO1988/01649;Int. Pat. Publ. No. WO1994/13804;Int. Pat. Publ. No. WO1992/01047に記載されている。
【0018】
「モノクローナル抗体」とは、抗体分子の実質的に均質な集団から得られる抗体を指し、すなわち、その集団を構成する個々の抗体は、抗体重鎖からのC末端リジンの除去、またはアミノ酸の異性化もしくは脱アミド化、メチオニンの酸化、アスパラギンもしくはグルタミンの脱アミド化などの翻訳後修飾といった、起こり得るよく知られた変化を除いて、同一である。モノクローナル抗体は、通常、1つの抗原性エピトープに結合する。二重特異性モノクローナル抗体は、2つの異なる抗原性エピトープに結合する。モノクローナル抗体は、その抗体集団内で不均一なグリコシル化を持つ可能性がある。モノクローナル抗体は、単一特異性または二重特異性などの多重特異性、一価、二価または多価であり得る。
【0019】
「Fabアーム」とは、抗体の1つの重鎖-軽鎖対を指す。
【0020】
「ホモダイマー形成」とは、同一のCH3アミノ酸配列を有する2本の重鎖の相互作用を指す。
【0021】
「ホモダイマー」とは、同一のCH3アミノ酸配列を有する2本の重鎖を有する抗体を指す。
【0022】
「ヘテロダイマー形成」とは、同一でないCH3アミノ酸配列を有する2本の重鎖の相互作用を指す。
【0023】
「ヘテロダイマー」とは、CH3領域のアミノ酸配列が1つまたは複数のアミノ酸によって異なっている2本の重鎖を有する抗体を指す。
【0024】
「Fc領域」または「Fcドメイン」は、ヒンジ領域の少なくとも一部、CH2領域、およびCH3領域を含む抗体領域を指す。Fc領域は、パパインによる抗体の消化、またはペプシング(pepsing)によって生成させることができ、Fc領域はそれによって得られたフラグメントであり、免疫グロブリンの一方または両方のCH2-CH3領域とヒンジ領域の一部を含む。抗体重鎖の定常ドメインは、抗体のアイソタイプ、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2、IgEを規定する。Fc領域は、細胞表面のFc受容体および補体系のタンパク質と共に抗体のエフェクター機能を仲介する。
【0025】
「CH1領域」または「CH1ドメイン」は、免疫グロブリンのCH1領域を指す。ヒトIgG1抗体のCH1領域は、アミノ酸残基118-215に対応する。しかし、CH1領域は、本明細書に記載される他の抗体アイソタイプのいずれであってもよい。
【0026】
「CH2領域」または「CH2ドメイン」は、免疫グロブリンのCH2領域を指す。ヒトIgG1抗体のCH2領域は、アミノ酸残基231-340に対応する。しかし、CH2領域は、本明細書に記載される他の抗体アイソタイプのいずれであってもよい。
【0027】
「CH3領域」または「CH3ドメイン」は、免疫グロブリンのCH3領域を指す。ヒトIgG1抗体のCH3領域は、アミノ酸残基341-446に対応する。しかし、CH3領域は、本明細書に記載される他の抗体アイソタイプのいずれであってもよい。
【0028】
「ヒンジ」または「ヒンジ領域」は、免疫グロブリンのヒンジ領域を指す。ヒトIgG1抗体のヒンジ領域は、EUナンバリングシステムに従うと、一般にアミノ酸216-230に対応する。「ヒンジ」はまた、上部および下部ヒンジ領域と呼ばれる追加の残基を含むと考えられ、例えばアミノ酸残基216-239を含む。
【0029】
「混合物」は、2つ以上の抗体の水溶液を指す。
【0030】
「還元剤」は、抗体のヒンジ領域にある鎖間ジスルフィド結合を還元することができる作用剤を指す。
【0031】
「GMPに準拠した条件」とは、FDAによって施行される適正製造基準(Good Manufacturing Practice:CGMP)規制に基づいた製造を指す。CGMPは、製造プロセスおよび設備の適切な設計、監視、および管理を保証するシステムを提供する。CGMP規制の順守は、医薬品メーカーが製造作業を適切に管理することを要求することによって、医薬品の同一性、強度、品質、および純度を保証する。これには、強力な品質管理システムの確立、適切な品質の原材料の入手、堅牢な作業手順の確立、製品の品質逸脱の検出と調査、および信頼できる試験室の維持が含まれる。製薬会社のこの正式な管理システムは、適切に実施されれば、汚染、取り違え、偏り、不良、および誤りの事例を防ぐのに役立つ。これにより、医薬品が品質基準を満たしていることが保証される。
【0032】
「原薬」(drug substance)または「DS」とは、医薬品(薬剤)の製造に使用されることを目的とし、薬物の製造に使用される場合には医薬品の有効成分となる、物質または物質の混合物を指す。そのような物質は、疾患の診断、治癒、緩和、治療、または予防において薬理学的活性または他の直接的な効果を提供すること、あるいは身体の構造または機能に影響を与えることを目的としている。
【0033】
「医薬品」(drug product)または「DP」とは、一般的に、しかし必ずしもそうではないが、不活性成分と共に、薬学的活性成分(例えば、原薬)を含有する、完成された剤形、例えば、錠剤、カプセル剤、または溶液剤を指す。
【0034】
「参照製品」(reference product)とは、バイオシミラー製品と比較される承認済みの生物学的製品を指す。参照製品は、とりわけ、安全性および有効性データの完全な補足に基づいて承認され、かつ米国、欧州、または日本の少なくとも1つにおいて承認されたものである。
【0035】
「バイオシミラー」(承認済みの参照製品/生物学的製剤)とは、臨床的に不活性な成分のわずかな違いにもかかわらず、参照製品と高度に類似している生物学的製品を指し、(a)臨床的に不活性な成分のわずかな違いにもかかわらず、生物学的製品が参照製品と高度に類似していることを示す分析試験;(b)動物実験(毒性の評価を含む);および/または(c)1つまたは複数の適切な使用条件(それに対して参照製品のライセンスが与えられておりかつ使用が意図されており、また、それに対するバイオシミラーのライセンス交付が求められている)における安全性、純度、および効力を示すのに十分な臨床試験(免疫原性と薬物動態または薬力学の評価を含む);から得られたデータに基づいて、バイオシミラーと参照製品の間には安全性、純度、および効力の点で臨床的に意味のある違いがない。バイオシミラーは、処方医師の介入なしに、薬局で参照製品に代えて調剤できる互換性の製品であり得る。「互換性」という追加基準を満たすためには、バイオシミラーは、所与の患者において参照製品と同じ臨床結果をもたらすことが期待され、かつバイオシミラーが個体に複数回投与される場合、バイオシミラーと参照製品との交互使用または交換の安全性または効力低下に関するリスクは、そのような交互使用または交換なしで参照製品を使用するリスクよりも大きくはない。バイオシミラーは、参照製品で作用機構が知られている範囲内で、提案された使用条件に対して同じ作用機構を利用する。バイオシミラーについて提案された、ラベルで指示され、推奨され、または示唆される使用条件は、参照製品に対して以前に承認されている必要がある。バイオシミラーの投与経路、剤形、および/または強さは、参照製品のそれらと同じでなければならず、また、バイオシミラーは、そのバイオシミラーが安全で、純粋で、効力があり続けることを保証するように設計された、基準を満たす施設において、製造、加工、包装、または保管されなければならない。バイオシミラーは、参照製品と比較して、バイオシミラーの性能を変化させないと予想されるN末端またはC末端の切断など、アミノ酸配列のわずかな変更を含んでいてもよい。参照製品は、米国、欧州、または日本の少なくとも1つにおいて承認されたものであり得る。
【0036】
「単離された」とは、分子(例えば、合成ポリヌクレオチドまたは抗体などのタンパク質)の均質な集団で、その分子が産生されるシステム、例えば組換え細胞、の他の成分から実質的に分離および/または精製されたもの、ならびに少なくとも1回の精製または分離工程を経たタンパク質を指す。「単離された抗体」は、他の細胞物質および/または化学物質を実質的に含まない抗体を指し、より高い純度、例えば、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の純度に単離された抗体を包含する。
【0037】
「ヒト化抗体」は、少なくとも1つのCDRが非ヒト種に由来し、かつ少なくとも1つのフレームワークがヒト免疫グロブリン配列に由来する抗体を指す。ヒト化抗体はフレームワークに置換を含んでいてもよく、つまり、フレームワークは発現されたヒト免疫グロブリンまたはヒト免疫グロブリン生殖系列遺伝子配列の正確なコピーでなくてもよい。
【0038】
「ヒト抗体」は、ヒト対象に投与した場合に免疫反応が最小となるように最適化された抗体を指す。ヒト抗体の可変領域はヒト免疫グロブリン配列に由来する。ヒト抗体が定常領域または定常領域の一部を含む場合、その定常領域もヒト免疫グロブリン配列に由来する。ヒト抗体の可変領域が、ヒト生殖系列免疫グロブリン遺伝子または再配列免疫グロブリン遺伝子を使用するシステムから得られる場合、ヒト抗体は、ヒト起源の配列に「由来する」重鎖および軽鎖可変領域を含む。そのような例示的なシステムは、ファージ上に表示されたヒト免疫グロブリン遺伝子ライブラリー、およびヒト免疫グロブリン遺伝子座を保有するマウスまたはラットなどのトランスジェニック非ヒト動物である。「ヒト抗体」は、通常、ヒトで発現された免疫グロブリンと比較した場合、アミノ酸の違いを含むが、それは、ヒト抗体およびヒト免疫グロブリン遺伝子座を得るために使用したシステム間の違い、体細胞変異の導入、またはフレームワークもしくはCDRまたはその両方への置換の意図的な導入のためである。典型的には、「ヒト抗体」は、ヒト生殖系列免疫グロブリン遺伝子または再配列免疫グロブリン遺伝子によってコードされるアミノ酸配列に対して少なくとも約80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%同一のアミノ酸配列である。場合によっては、「ヒト抗体」は、ヒトフレームワーク配列解析から得られたコンセンサスフレームワーク配列(例えば、Knappik et al., (2000) J Mol Biol 296:57-86に記載)、またはファージ上に表示されたヒト免疫グロブリン遺伝子ライブラリーに組み込まれた合成HCDR3(例えば、Shi et al., (2010) J Mol Biol 397:385-96、およびWO2009/085462に記載)を含んでもよい。少なくとも1つのCDRが非ヒト種に由来する抗体は、「ヒト抗体」の定義には含まれない。
【0039】
「組換え」とは、異なる供給源からのセグメントが結合されて組換えDNA、抗体、またはタンパク質をもたらす場合に、組換え手段によって調製、発現、作成、または単離されたDNA、抗体、および他のタンパク質を指す。「組換え抗体」には、組換え手段によって調製、発現、作成、または単離された全ての抗体が含まれ、例えば、ヒト免疫グロブリン遺伝子に関してトランスジェニックまたはトランスクロモソーマルである動物(例えば、マウス)、またはそれから作製されたハイブリドーマ(以下でさらに説明)から単離された抗体、抗体を発現するように形質転換された宿主細胞から単離された抗体、組換えのコンビナトリアル抗体ライブラリーから単離された抗体、およびヒト免疫グロブリン遺伝子配列を他のDNA配列にスプライシングすることを含む他の手段によって調製、発現、作成、または単離された抗体、または二重特異性抗体などの、Fabアーム交換を用いてインビトロで作製された抗体が含まれる。
【0040】
「二重特異性」とは、2つの異なる抗原または同じ抗原内の2つの異なるエピトープに特異的に結合する抗体を指す。二重特異性抗体は、他の関連する抗原に対して交差反応性を有してもよく、また、2つ以上の異なる抗原間で共有されるエピトープに結合してもよい。
【0041】
「多重特異性」とは、少なくとも2つの異なる抗原または同じ抗原内の少なくとも2つの異なるエピトープに特異的に結合する抗体を指す。多重特異性抗体は、例えば、2つ、3つ、4つ、または5つの、異なる抗原または同じ抗原内の異なるエピトープに結合し得る。
【0042】
「約」は、当業者によって決定された特定の値の許容可能な誤差範囲内を意味し、これは、一部には、その値がどのように測定または決定されるか、すなわち、測定システムの限界に依存する。特定のアッセイ、結果、または態様に関連して実施例または本明細書の他の箇所で特に明記しない限り、「約」とは、当技術分野での実施ごとに1標準偏差以内、または最大5%の範囲、のいずれか大きい方を意味する。
【0043】
「バリアント」は、例えば、置換、挿入、欠失などの1つまたは複数の改変によって参照ポリペプチドまたは参照ポリヌクレオチドと異なるポリペプチドまたはポリヌクレオチドを指す。
【0044】
「変異」とは、参照配列と比較して、ポリペプチドまたはポリヌクレオチドの配列における人工的または自然発生的な変化を指す。その変化は、1つまたは複数のアミノ酸またはポリヌクレオチドの置換、挿入または欠失であり得る。
【0045】
本明細書全体にわたる抗体定常領域のアミノ酸残基の番号付けは、特に明記しない限り、Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD. (1991)に記載されるEUインデックスに従うものである。抗体定常鎖の番号付けは、例えば、ImMunoGeneTicsウェブサイト、IMGT ScientificチャートのIMGT Webリソースに見い出すことができる。
【0046】
本明細書に記載されるCH3領域の変異は、第1の重鎖の第1のCH3ドメインにおける修飾位置(複数可)/第2の重鎖の第2のCH3ドメインにおける修飾位置(複数可)として表される。例えば、F405L/K409Rは、第1のCH3領域にF405L変異があり、第2のCH3領域にK09R変異があることを意味する。L351Y_F405A_Y407V/T394Wは、第1のCH3領域にL351Y、F40FAおよびY407V変異があり、第2のCH3領域にT394W変異があることを意味する。D399FHKRQ/K409AGRHは、D399がF、H、K、RまたはQで置換され、K409がA、G、RまたはHで置換され得る変異を指す。
【0047】
本明細書では、表1に示すような、標準1文字および3文字アミノ酸コードが使用される。
【0048】
【0049】
本発明の方法
本発明は、Fabアーム交換を用いてヘテロダイマー抗体を作製する方法を提供する。本発明は、少なくとも部分的に、文献(例えば、US2014/0303356参照)に開示されたものに反して、Fabアーム交換中に安定したヘテロダイマー抗体を形成するためには、還元後のジスルフィド結合の再形成に酸素を必要としない、という認識に基づいており、それゆえ、ヘテロダイマー抗体(例えば、二重特異性抗体)の大規模生産におけるプロセス制御のための代替アプローチが提供される。
【0050】
本発明は、以下の工程を含む、ヘテロダイマー抗体を作製する方法を提供する:
第1のCH3領域を含む免疫グロブリンの第1のFc領域を含む第1のホモダイマー抗体と、第2のCH3領域を含む免疫グロブリンの第2のFc領域を含む第2のホモダイマー抗体とを提供する工程であって、第1のCH3領域と第2のCH3領域のアミノ酸配列は異なっており、かつ第1のCH3領域と第2のCH3領域のアミノ酸配列は、第1のCH3領域と第2のCH3領域の間のヘテロダイマー相互作用が第1のCH3領域間のホモダイマー相互作用または第2のCH3領域間のホモダイマー相互作用よりも強いようなものである、工程;
第1のホモダイマー抗体と第2のホモダイマー抗体を組み合わせて混合物にする工程;ならびに
該混合物を還元剤および周囲の溶存酸素(DO2)の存在下でインキュベートしてヘテロダイマー抗体を作製する工程であって、該方法が、ヘテロダイマー抗体を作製している間の、該混合物中のパーセント(%)DO2を測定する工程、該混合物中の%DO2を制御する工程、または該混合物に酸素を添加する工程のうちの1つまたは複数を欠いている、工程。
【0051】
いくつかの態様では、ヘテロダイマー抗体を作製している間、該混合物中の%DO2は約10%~約90%である。
【0052】
いくつかの態様では、該混合物中の%DO2は、変性剤を添加する前の混合物中で約30%以上である。
【0053】
本発明はまた、以下の工程を含む、ヘテロダイマー抗体を作製する方法を提供する:
第1のCH3領域を含む免疫グロブリンの第1のFc領域を含む第1のホモダイマー抗体と、第2のCH3領域を含む免疫グロブリンの第2のFc領域を含む第2のホモダイマー抗体とを提供する工程であって、第1のCH3領域と第2のCH3領域のアミノ酸配列は異なっており、かつ第1のCH3領域と第2のCH3領域のアミノ酸配列は、第1のCH3領域と第2のCH3領域の間のヘテロダイマー相互作用が第1のCH3領域間のホモダイマー相互作用または第2のCH3領域間のホモダイマー相互作用よりも強いようなものである、工程;
第1のホモダイマー抗体と第2のホモダイマー抗体を組み合わせて混合物にする工程;
該混合物を還元剤の存在下でインキュベートする工程;および
該還元剤を除去してヘテロダイマー抗体を作製する工程であって、工程c)、工程d)、または工程c)と工程d)の両方において、溶存酸素(DO2)のパーセント(%)が、約30%以下となるように制御される、工程。
【0054】
いくつかの態様では、該混合物の%DO2は、約25%以下、20%以下、約15%以下、約10%以下、約9%以下、約8%以下、約7%以下、約6%以下、約5%以下、約4%以下、約3%以下、約2%以下、または約1%以下である。
【0055】
いくつかの態様では、%DO2は、該混合物を窒素などの不活性ガスで覆う(overlay)ことで、該混合物から酸素を移すことによって制御される。溶存酸素の濃度は、溶存酸素プローブを利用するなど、公知の方法でモニターすることができる。
【0056】
第1のCH3領域と第2のCH3領域とのヘテロダイマー相互作用の観点から「より強い」とは、第1のCH3領域間のホモダイマー相互作用または第2のCH3領域間のホモダイマー相互作用の最も強いものより2倍超強い、例えば、3倍超強い、4倍超強い、または5倍超強い可能性がある。CH3ドメイン間の相互作用の強さは、質量分析法を用いて測定することができる。例示的なアッセイでは、第1のCH3領域と第2のCH3領域を含む構築物、あるいは両方がCH2領域を含む構築物を、標準的な分子生物学手法を用いて作製する。第1のCH3ドメイン、第2のCH3ドメイン、または第1のCH3ドメインと第2のCH3ドメインを含むサンプルを調製し、10kDa MWCOスピンフィルターカラムを用いて、100mM酢酸アンモニウムpH7にバッファー交換する。連続希釈サンプル(20μM~25nM;モノマー換算)のアリコート(約1μL)を金メッキしたホウケイ酸キャピラリーにロードし、LCT質量分析計(Waters社)で分析する。モノマーシグナルMsは、スペクトル中の全ピークの面積の関数としてのモノマーピークの面積と定義される(Ms/(Ms+Ds)、ここでDs=ダイマーシグナル)。平衡状態でのモノマー濃度[M]eqは、Ms・[M]0と定義され、ここで[M]0はモノマーに換算した総タンパク質濃度である。平衡状態でのダイマー濃度[D]eqは、([M]0-[M]eq)/2と定義される。その後、ホモダイマーのCH3相互作用とヘテロダイマーのCH3相互作用のKDは、[D]eq 対 [M]eq
2のプロットの勾配から抽出される。
【0057】
いくつかの態様では、約1:1のモル比で第1のホモダイマー抗体と第2のホモダイマー抗体を組み合わせて混合物にする。
【0058】
いくつかの態様では、約1.05:1のモル比で第1のホモダイマー抗体と第2のホモダイマー抗体を組み合わせて混合物にする。
【0059】
いくつかの態様では、約1:1.03~約1:2のモル比で第1のホモダイマー抗体と第2のホモダイマー抗体を組み合わせて混合物にする。いくつかの態様では、約1:1.05~1:1.5のモル比で第1のホモダイマー抗体と第2のホモダイマー抗体を組み合わせて混合物にする。いくつかの態様では、約1:1.1~1:1.5のモル比で第1のホモダイマー抗体と第2のホモダイマー抗体を組み合わせて混合物にする。いくつかの態様では、約1:1.1~1:1.4のモル比で第1のホモダイマー抗体と第2のホモダイマー抗体を組み合わせて混合物にする。いくつかの態様では、約1:1.15~1:1.35のモル比で第1のホモダイマー抗体と第2のホモダイマー抗体を組み合わせて混合物にする。いくつかの態様では、約1:1.2~1:1.3のモル比で第1のホモダイマー抗体と第2のホモダイマー抗体を組み合わせて混合物にする。
【0060】
いくつかの態様では、混合物中の免疫グロブリンの総濃度は、約1g/L~70g/Lである。いくつかの態様では、混合物中の免疫グロブリンの総濃度は、約8g/L~約50g/Lである。いくつかの態様では、混合物中の免疫グロブリンの総濃度は、約8g/L~約13g/Lである。ある態様では、混合物中の免疫グロブリンの総濃度は、約9.0g/Lである。ある態様では、混合物中の免疫グロブリンの総濃度は、約9.5g/Lである。ある態様では、混合物中の免疫グロブリンの総濃度は、約10g/Lである。ある態様では、混合物中の免疫グロブリンの総濃度は、約10.5g/Lである。ある態様では、混合物中の免疫グロブリンの総濃度は、約11.0g/Lである。ある態様では、混合物中の免疫グロブリンの総濃度は、約11.5g/Lである。ある態様では、混合物中の免疫グロブリンの総濃度は、約12.0g/Lである。ある態様では、混合物中の免疫グロブリンの総濃度は、約12.5g/Lである。ある態様では、混合物中の免疫グロブリンの総濃度は、約13.0g/Lである。ある態様では、混合物中の免疫グロブリンの総濃度は、約13.5g/Lである。ある態様では、混合物中の免疫グロブリンの総濃度は、約14.0g/Lである。ある態様では、混合物中の免疫グロブリンの総濃度は、約14.5g/Lである。ある態様では、混合物中の免疫グロブリンの総濃度は、約15.0g/Lである。ある態様では、混合物中の免疫グロブリンの総濃度は、約20.0g/Lである。ある態様では、混合物中の免疫グロブリンの総濃度は、約25.0g/Lである。ある態様では、混合物中の免疫グロブリンの総濃度は、約30.0g/Lである。ある態様では、混合物中の免疫グロブリンの総濃度は、約35.0g/Lである。ある態様では、混合物中の免疫グロブリンの総濃度は、約40.0g/Lである。ある態様では、混合物中の免疫グロブリンの総濃度は、約45.0g/Lである。ある態様では、混合物中の免疫グロブリンの総濃度は、約50.0g/Lである。ある態様では、混合物中の免疫グロブリンの総濃度は、約55.0g/Lである。ある態様では、混合物中の免疫グロブリンの総濃度は、約60.0g/Lである。ある態様では、混合物中の免疫グロブリンの総濃度は、約65.0g/Lである。ある態様では、混合物中の免疫グロブリンの総濃度は、約70.0g/Lである。
【0061】
いくつかの態様では、混合物を還元剤の存在下で約10分以上インキュベートする。いくつかの態様では、混合物を還元剤の存在下で約10分~約30時間インキュベートする。いくつかの態様では、混合物を還元剤の存在下で約10分~約24時間インキュベートする。ある態様では、混合物を還元剤の存在下で約15分間インキュベートする。ある態様では、混合物を還元剤の存在下で約20分間インキュベートする。ある態様では、混合物を還元剤の存在下で約30分間インキュベートする。ある態様では、混合物を還元剤の存在下で約40分間インキュベートする。ある態様では、混合物を還元剤の存在下で約50分間インキュベートする。ある態様では、混合物を還元剤の存在下で約1時間インキュベートする。ある態様では、混合物を還元剤の存在下で約2時間インキュベートする。ある態様では、混合物を還元剤の存在下で約3時間インキュベートする。ある態様では、混合物を還元剤の存在下で約4時間インキュベートする。ある態様では、混合物を還元剤の存在下で約4時間インキュベートする。ある態様では、混合物を還元剤の存在下で約5時間インキュベートする。ある態様では、混合物を還元剤の存在下で約6時間インキュベートする。ある態様では、混合物を還元剤の存在下で約7時間インキュベートする。ある態様では、混合物を還元剤の存在下で約8時間インキュベートする。ある態様では、混合物を還元剤の存在下で約9時間インキュベートする。ある態様では、混合物を還元剤の存在下で約10時間インキュベートする。ある態様では、混合物を還元剤の存在下で約11時間インキュベートする。ある態様では、混合物を還元剤の存在下で約12時間インキュベートする。ある態様では、混合物を還元剤の存在下で約13時間インキュベートする。ある態様では、混合物を還元剤の存在下で約14時間インキュベートする。ある態様では、混合物を還元剤の存在下で約15時間インキュベートする。ある態様では、混合物を還元剤の存在下で約16時間インキュベートする。ある態様では、混合物を還元剤の存在下で約17時間インキュベートする。ある態様では、混合物を還元剤の存在下で約18時間インキュベートする。ある態様では、混合物を還元剤の存在下で約19時間インキュベートする。ある態様では、混合物を還元剤の存在下で約20時間インキュベートする。ある態様では、混合物を還元剤の存在下で約21時間インキュベートする。ある態様では、混合物を還元剤の存在下で約22時間インキュベートする。ある態様では、混合物を還元剤の存在下で約23時間インキュベートする。ある態様では、混合物を還元剤の存在下で約24時間インキュベートする。ある態様では、混合物を還元剤の存在下で約25時間インキュベートする。ある態様では、混合物を還元剤の存在下で約26時間インキュベートする。ある態様では、混合物を還元剤の存在下で約27時間インキュベートする。ある態様では、混合物を還元剤の存在下で約28時間インキュベートする。ある態様では、混合物を還元剤の存在下で約29時間インキュベートする。ある態様では、混合物を還元剤の存在下で約30時間インキュベートする。
【0062】
ある態様では、還元剤は2-メルカプトエチルアミン(2-MEA)である。ある態様では、還元剤は2-MEAの化学的誘導体である。ある態様では、還元剤はL-システインである。ある態様では、還元剤はD-システインである。ある態様では、還元剤はグルタチオンである。ある態様では、還元剤はトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィンである。
【0063】
いくつかの態様では、混合物中の還元剤の濃度は、約0.1mM~約1Mである。いくつかの態様では、混合物中の還元剤の濃度は、約1.0mM~約500mMである。いくつかの態様では、混合物中の還元剤の濃度は、約5.0mM~約100mMである。ある態様では、混合物中の還元剤の濃度は約10mMである。ある態様では、混合物中の還元剤の濃度は約15mMである。ある態様では、混合物中の還元剤の濃度は約20mMである。ある態様では、混合物中の還元剤の濃度は約25mMである。ある態様では、混合物中の還元剤の濃度は約30mMである。ある態様では、混合物中の還元剤の濃度は約35mMである。ある態様では、混合物中の還元剤の濃度は約40mMである。ある態様では、混合物中の還元剤の濃度は約50mMである。ある態様では、混合物中の還元剤の濃度は約60mMである。ある態様では、混合物中の還元剤の濃度は約70mMである。ある態様では、混合物中の還元剤の濃度は約80mMである。ある態様では、混合物中の還元剤の濃度は約90mMである。ある態様では、混合物中の還元剤の濃度は約100mMである。
【0064】
いくつかの態様では、混合物中の2-MEAの濃度は、約10mM~約100mMである。いくつかの態様では、混合物中の2-MEAの濃度は、約20mM~約90mMである。いくつかの態様では、混合物中の2-MEAの濃度は、約20mM~約80mMである。いくつかの態様では、混合物中の2-MEAの濃度は、約20mM~約70mMである。いくつかの態様では、混合物中の2-MEAの濃度は、約20mM~約60mMである。いくつかの態様では、混合物中の2-MEAの濃度は、約20mM~約50mMである。いくつかの態様では、混合物中の2-MEAの濃度は、約20mM~約40mMである。ある態様では、混合物中の2-MEAの濃度は約20mMである。ある態様では、混合物中の2-MEAの濃度は約25mMである。ある態様では、混合物中の2-MEAの濃度は約30mMである。ある態様では、混合物中の2-MEAの濃度は約35mMである。ある態様では、混合物中の2-MEAの濃度は約40mMである。
【0065】
いくつかの態様では、総還元剤に対する混合物中の総免疫グロブリンの質量比は、約1.0~約5.0である。いくつかの態様では、総還元剤に対する混合物中の総免疫グロブリンの質量比は、約1.4~約3.8である。いくつかの態様では、総還元剤に対する混合物中の総免疫グロブリンの質量比は、約1.4~約3.5である。いくつかの態様では、該質量比は約1.8~約3.8である。いくつかの態様では、該質量比は約2.3~約3.0である。いくつかの態様では、該質量比は約1.6~約2.1である。いくつかの態様では、該質量比は約1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3.0、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4.0、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、または5.0である。「質量比」は、1リットルあたりのグラム数での総還元剤に対する、1リットルあたりのグラム数での総免疫グロブリンの比を指す。「総免疫グロブリン」は、還元工程の開始時の混合物中の2種の親抗体の量を指す。
【0066】
いくつかの態様では、前記混合物はバッファーを含む。いくつかの態様では、バッファーは酢酸ナトリウムバッファーを含む。いくつかの態様では、バッファーはNaClをさらに含む。いくつかの態様では、バッファーは約100mM酢酸ナトリウムおよび約30mM NaClを含む。ある態様では、バッファーのpHは約7.3である。他のバッファー、例えば、1×ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(DPBS)、リン酸ナトリウムバッファー、リン酸カリウムバッファー、トリスバッファー、ヒスチジンバッファー、またはクエン酸バッファーを使用することもできる。
【0067】
いくつかの態様では、前記方法は、混合物から還元剤を除去する工程をさらに含む。
【0068】
いくつかの態様では、還元剤はろ過によって除去される。
【0069】
いくつかの態様では、ろ過は透析ろ過(ダイアフィルトレーション)である。
【0070】
いくつかの態様では、第1のホモダイマー抗体および第2のホモダイマー抗体は、IgG1、IgG2またはIgG4アイソタイプである。
【0071】
いくつかの態様では、第1のホモダイマー抗体および第2のホモダイマー抗体は、IgG1アイソタイプである。いくつかの態様では、第1のホモダイマー抗体および第2のホモダイマー抗体は、IgG2アイソタイプである。いくつかの態様では、第1のホモダイマー抗体および第2のホモダイマー抗体は、IgG4アイソタイプである。
【0072】
いくつかの態様では、SEQ ID NO: 1の野生型IgG1と比較すると、第1のCH3ドメインと第2のCH3ドメインは以下の変異を含む:F405L/K409R、T350I_K370T_F405L/K409R、K370W/K409R、D399AFGHILMNRSTVWY/K409R、T366ADEFGHILMQVY/K409R、L368ADEGHNRSTVQ/K409AGRH、D399FHKRQ/K409AGRH、F405IKLSTVW/K409AGRH、Y407LWQ/K409AGRH、T366Y/F405A、T366W/F405W、F405W/Y407A、T394W/Y407T、T394S/Y407A、T366W/T394S、F405W/T394S、T366W/T366S_L368A_Y407V、L351Y_F405A_Y407V/T394W、T366I_K392M_T394W/F405A_Y407V、T366L_K392M_T394W/F405A_Y407V、L351Y_Y407A/T366A_K409F、L351Y_Y407A/T366V_K409F、Y407A/T366A_K409F、T350V_L351Y_F405A_Y407V/T350V_T366L_K392L_T394W、K409D/D399K、K409E/D399R、K409D_K360D/D399K_E356K、K409D_K360D/D399E_E356K、K409D_K370D/D399K_E357K、K409D_K370D/D399E_E357K、K409D_K392D/D399K_E356K_E357K、またはK409D_K392D/D399E_E356K_E357K。変異は、SEQ ID NO: 2の野生型IgG2またはSEQ ID NO: 3の野生型IgG4にも導入することができ、その場合、よく知られているように、特定の変異部位の野生型の残基は、野生型IgG1、IgG2およびIgG4間の配列の違いのため、IgG1の残基に対応しない可能性がある。例えば、IgG4変異の野生型/F405L_R409KはIgG1変異のF405L/K409Rに対応し、IgG4変異のR409D/D399KはIgG1変異のK409D/D399Kに対応する。変異は、参照野生型のSEQ ID NO: 1のIgG1、SEQ ID NO: 2のIgG2、およびSEQ ID NO: 3のIgG4と比較される。
【0073】
いくつかの態様では、SEQ ID NO: 1の野生型IgG1、SEQ ID NO: 2の野生型IgG2、SEQ ID NO: 3の野生型IgG4と比較すると、第1のFc領域および/または第2のFc領域は、Fcγ受容体(FcγR)、FcRn、またはプロテインAへの第1のFc領域および/または第2のFc領域の結合を調節する1つまたは複数の変異を含む。
【0074】
いくつかの態様では、FcγRはFcγRI、FcγRIIa、FcγRIIbまたはFcγRIIIである。
【0075】
いくつかの態様では、Fcγへの第1のFc領域および/または第2のFc領域の結合を調節する1つまたは複数の置換は、L234A_L235A、F234A_L235A、S228P_F234A_L235A、S228P_L234A_L235A、V234A_G237A_P238S_H268A_V309L_A330S_P331S、V234A_G237A、H268Q_V309L_A330S_P331S、S267E_L328F、L234F_L235E_D265A、L234A_L235A_G237A_P238S_H268A_A330S_P331S、またはS228P_F234A_L235A_G237A_P238Sである。
【0076】
いくつかの態様では、FcRnへの第1のFc領域および/または第2のFc領域の結合を調節する1つまたは複数の置換は、M428L_N434S、M252Y_S254T_T256E、T250Q_M428L、N434AおよびT307A_E380A_N434A、H435A、P257I_N434H、D376V_N434H、M252Y_S254T_T256E_H433K_N434F、T308P_N434A、またはH435Rである。
【0077】
いくつかの態様では、プロテインAへの第1のFc領域および/または第2のFc領域の結合を調節する1つまたは複数の置換は、Q311R、Q311K、T307P_L309Q、T307P_V309Q、T307P_L309Q_Q311R、T307P_V309Q_Q311R、H435R、またはH435R_Y436Fである。
【0078】
いくつかの態様では、ヘテロダイマー抗体を作製する工程は、GMPに準拠した条件下で行われる。
【0079】
いくつかの態様では、ヘテロダイマー抗体を作製する工程は、ヘテロダイマー抗体を含む原薬の製造中に行われる。
【0080】
いくつかの態様では、ヘテロダイマー抗体は二重特異性抗体である。
【0081】
いくつかの態様では、二重特異性抗体はCD3、BCMAまたはCD123に結合する。
【0082】
いくつかの態様では、ヘテロダイマー抗体を作製する工程は、新(innovator)医薬品の製造中に行われる。
【0083】
いくつかの態様では、ヘテロダイマー抗体を作製する工程は、後発(generic)医薬品の製造中に行われる。
【0084】
Fabアーム交換およびヘテロダイマー形成を促進するFc領域の変異
ヘテロダイマー抗体は、Fabアーム交換を利用して作製することができ、この場合、一方の親ホモダイマー抗体の1つの重鎖とそれに付着した軽鎖(半アーム)が、他方の親ホモダイマー抗体の1つの重鎖とそれに付着した軽鎖に交換されて、2つの重鎖と2つの付着した軽鎖からなるヘテロダイマー抗体が形成される(van der Neut Kolfschoten et al., (2007) Science 317:1554-1557)。
【0085】
2つのホモダイマー親抗体は、抗体のヒンジ領域にあるジスルフィド架橋の還元と再形成の際に、Fabアーム交換とヘテロダイマー抗体形成に有利に働く非対称の変異がCH3領域にあるようにデザインされる。Fabアーム交換反応の説明図を
図1に示す。2つの親ホモダイマー抗体の混合物に還元剤を導入すると、半アームが解離し、非対称のCH3変異がヘテロダイマー抗体の再形成に有利に働く。その後、半アーム間のジスルフィド架橋の再形成により、形成されたヘテロダイマー抗体が安定化する(Gramer et al. (2013) MAbs 5:962-973)。
【0086】
本発明の方法では、本明細書に記載されるような、CH3ヘテロダイマー形成を促進するCH3領域の任意の変異を使用することができる。ヘテロダイマー形成を促進するCH3領域の改変については、いくつかのアプローチが知られている。通常、そのような全てのアプローチでは、第1のCH3領域と第2のCH3領域が相補的な方法で改変されており、各CH3領域(またはそれを含む重鎖)がそれ自体とはもはやホモダイマーを形成できないが、相補的に改変された他のCH3領域とヘテロダイマーを形成せざるを得ないようになっている(第1のCH3領域と第2のCH3領域がヘテロダイマーを形成し、2つの第1のCH3領域間または2つの第2のCH3領域間にホモダイマーが形成されないようになっている)。
【0087】
Fabアーム交換に有利に働くCH3変異には、Duobody(登録商標)変異(Genmab社)、Knob-in-Hole変異(Genentech社)、静電的にマッチした変異(中外製薬、Amgen社、NovoNordisk社、Oncomed社)、SEEDbody(Strand Exchange Engineered Domain body)(EMD Serono社)、および他の非対称変異(Zymeworks社など)が含まれる。
【0088】
Duobody(登録商標)変異(Genmab社)は、例えば、US9,150,663およびUS2014/0303356に開示されており、変異F405L/K409R、野生型/F405L_R409K、T350I_K370T_F405L/K409R、K370W/K409R、D399AFGHILMNRSTVWY/K409R、T366ADEFGHILMQVY/K409R、L368ADEGHNRSTVQ/K409AGRH、D399FHKRQ/K409AGRH、F405IKLSTVW/K409AGRH、およびY407LWQ/K409AGRHを含む。
【0089】
ノブ・イン・ホール(knob-in-hole)変異は、例えば、WO1996/027011に開示されており、CH3領域の界面での変異を含む;ここでは、小さな側鎖を持つアミノ酸(ホール)が第1のCH3領域に導入され、大きな側鎖を持つアミノ酸(ノブ)が第2のCH3領域に導入されることで、第1のCH3領域と第2のCH3領域の間に優先的な相互作用が生じる。ノブとホールを形成する例示的なCH3領域の変異には、T366Y/F405A、T366W/F405W、F405W/Y407A、T394W/Y407T、T394S/Y407A、T366W/T394S、F405W/T394S、T366W/T366S_L368A_Y407Vなどがある。
【0090】
重鎖ヘテロダイマーの形成は、第1のCH3領域に正に帯電した残基、第2のCH3領域に負に帯電した残基を代用することにより、静電相互作用を利用して促進することができ、US2010/0015133、US2009/0182127、US2010/028637またはUS2011/0123532に記載されている。
【0091】
重鎖ヘテロダイマー形成を促進するために使用できる他の非対称の変異には、US2012/0149876またはUS2013/0195849に記載されるような、L351Y_F405A_Y407V/T394W、T366I_K392M_T394W/F405A_Y407V、T366L_K392M_T394W/F405A_Y407V、L351Y_Y407A/T366A_K409F、L351Y_Y407A/T366V_K409F、Y407A/T366A_K409F、またはT350V_L351Y_F405A_Y407V/T350V_T366L_K392L_T394Wがある。
【0092】
SEEDbody変異は、US20070287170に記載されるように、重鎖ヘテロダイマー形成を促進するために、選択したIgG残基をIgA残基で置換することを含む。
【0093】
使用できる他の例示的な変異には、R409D_K370E/D399K_E357K、S354C_T366W/Y349C_T366S_L368A_Y407V、Y349C_T366W/S354C_T366S_L368A_Y407V、T366K/L351D、L351K/Y349E、L351K/Y349D、L351K/L368E、L351Y_Y407A/T366A_K409F、L351Y_Y407A/T366V_K409F、K392D/D399K、K392D/E356K、K253E_D282K_K322D/D239K_E240K_K292D、K392D_K409D/D356K_D399Kがあり、WO2007/147901、WO 2011/143545、WO2013157954、WO2013096291およびUS2018/0118849に記載されている。
【0094】
Fabアーム交換のためのこれらの異なるアプローチは、様々な二重特異性抗体フォーマット、例えば、VH/VLドメインスワップ(domain swap)、CH1/CLドメインスワップ、WO98050431に記載される共通の軽鎖の利用、またはUS9062120に記載されるインサイドアウトテザー軽鎖(inside-out tethered light chain)を含むテザー軽鎖の利用などのVH/VLエンジニアリングを含むもの、と組み合わせることができる。
【0095】
ヘテロダイマー抗体のさらなるエンジニアリング
Fcエンジニアリング
ヘテロダイマー形成を促進するCH3領域の変異に加えて、本発明の方法で使用される抗体は、抗体のエフェクター機能または半減期を調節する変異をFc領域に含むことができる。さらに、本発明の方法で使用される抗体は、プロテインAへの抗体の結合を調節し、それゆえに抗体の精製を容易にするFc変異を含むこともできる。
【0096】
抗体の半減期(例えば、FcRnへの結合)を調節するために変異させ得るFcの位置には、250、252、253、254、256、257、307、376、380、428、434および435の位置が含まれる。単独でまたは組み合わせて行うことができる例示的な変異は、T250Q、M252Y、I253A、S254T、T256E、P257I、T307A、D376V、E380A、M428L、H433K、N434S、N434A、N434H、N434F、H435AおよびH435Rの変異である。抗体の半減期を長くするために行うことができる例示的な単独または組み合わせでの変異は、M428L/N434S、M252Y/S254T/T256E、T250Q/M428L、N434AおよびT307A/E380A/N434Aの変異である。抗体の半減期を短くするために行うことができる例示的な単独または組み合わせでの変異は、H435A、P257I/N434H、D376V/N434H、M252Y/S254T/T256E/H433K/N434F、T308P/N434AおよびH435Rである。
【0097】
Fc領域には、活性化Fcγ受容体(FcγR)への抗体の結合を低下させて、例えば、C1q結合、補体依存性細胞傷害(CDC)、抗体依存性細胞傷害(ADCC)または抗体依存性細胞食作用(ADCP)などの、Fcエフェクター機能を低下させる変異を導入することができる。
【0098】
活性化FcγRへの抗体の結合を低下させ、続いてエフェクター機能を低下させるために変異を起こさせることができるFcの位置には、214、233、234、235、236、237、238、265、267、268、270、295、297、309、327、328、329、330、331および365の位置が含まれる。単独でまたは組み合わせて行うことができる例示的な変異は、IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4におけるK214T、E233P、L234V、L234A、G236の欠失、V234A、F234A、L235A、G237A、P238A、P238S、D265A、S267E、H268A、H268Q、Q268A、N297A、A327Q、P329A、D270A、Q295A、V309L、A327S、L328F、A330SおよびP331Sの変異である。ADCCが低下した抗体をもたらす例示的な組み合わせでの変異は、IgG1のL234A/L235A、IgG2のV234A/G237A/P238S/H268A/V309L/A330S/P331S、IgG4のF234A/L235A、IgG4のS228P/F234A/L235A、全てのIgアイソタイプのN297A、IgG2のV234A/G237A、IgG1のK214T/E233P/L234V/L235A/G236欠失/A327G/P331A/D365E/L358M、IgG2のH268Q/V309L/A330S/P331S、IgG1のS267E/L328F、IgG1のL234F/L235E/D265A、IgG1のL234A/L235A/G237A/P238S/H268A/A330S/P331S、IgG4のS228P/F234A/L235A/G237A/P238S、およびIgG4のS228P/F234A/L235A/G236欠失/G237A/P238Sの変異である。また、IgG2からの残基117-260とIgG4からの残基261-447を含むFcなど、ハイブリッドIgG2/4 Fcドメインを使用することもできる。
【0099】
CDCが低下した抗体をもたらす例示的な変異は、K322A変異である。
【0100】
IgG4の安定性を高めるために、周知のS228P変異をIgG4抗体に導入してもよい。
【0101】
Fc領域には、Fcγ受容体(FcγR)への抗体の結合を高めて、例えば、C1q結合、補体依存性細胞傷害(CDC)、抗体依存性細胞傷害(ADCC)および/または抗体依存性食作用(ADCP)などの、Fcエフェクター機能を高める変異を導入することができる。
【0102】
活性化FcγRへの抗体の結合を高めて、抗体のエフェクター機能を増強させるために変異を起こさせることができるFcの位置には、236、239、243、256、290、292、298、300、305、312、326、330、332、333、334、345、360、339、378、396または430の位置が含まれる(残基の番号付けはEUインデックスに従う)。単独でまたは組み合わせて行うことができる例示的な変異は、G236A、S239D、F243L、T256A、K290A、R292P、S298A、Y300L、V305L、K326A、A330K、I332E、E333A、K334A、A339TおよびP396Lである。ADCCまたはADCPが増加した抗体をもたらす例示的な組み合わせは、IgG1におけるS239D/I332E、S298A/E333A/K334A、F243L/R292P/Y300L、F243L/R292P/Y300L/P396L、F243L/R292P/Y300L/V305I/P396LおよびG236A/S239D/I332Eである。
【0103】
抗体のCDCを高めるために変異を起こさせることができるFcの位置には、267、268、324、326、333、345および430の位置が含まれる。単独でまたは組み合わせて行うことができる例示的な変異は、S267E、F1268F、S324T、K326A、K326W、E333A、E345K、E345Q、E345R、E345Y、E430S、E430FおよびE430Tである。CDCが増加した抗体をもたらす例示的な組み合わせ変異は、IgG1におけるK326A/E333A、K326W/E333A、H268F/S324T、S267E/H268F、S267E/S324TおよびS267E/H268F/S324Tである。
【0104】
「抗体依存性細胞傷害」、「抗体依存性細胞媒介性細胞傷害」または「ADCC」は、抗体被覆標的細胞と、ナチュラルキラー細胞(NK)、単球、マクロファージ、好中球などの溶解活性を持つエフェクター細胞との、エフェクター細胞に発現されたFcγ受容体(FcγR)を介した相互作用に依存する、細胞死を誘導するメカニズムである。例えば、NK細胞はFcγRIIIaを発現するが、単球はFcγRI、FcγRIIおよびFcγRIIIaを発現する。抗体のADCC活性は、抗体が結合するタンパク質を発現する細胞を標的細胞とし、NK細胞をエフェクター細胞として用いるインビトロアッセイにより評価することができる。細胞溶解は、溶解した細胞からの標識(例えば、放射性基質、蛍光色素または天然の細胞内タンパク質)の放出によって検出することができる。例示的なアッセイでは、標的細胞は、1個の標的細胞に対して4個のエフェクター細胞の比で使用される。標的細胞をBATDAで事前に標識し、エフェクター細胞および試験抗体と組み合わせる。サンプルを2時間インキュベートし、上清に放出されたBATDAを測定することにより細胞溶解を測定する。0.67%トリトンX-100(Sigma Aldrich社)を用いた最大細胞傷害と、抗体の非存在下での標的細胞からのBATDAの自然放出によって測定された最小対照に対して、データを正規化する。
【0105】
「抗体依存性細胞食作用」(「ADCP」)は、マクロファージまたは樹状細胞などの食細胞による内在化によって抗体被覆標的細胞を排除するメカニズムを指す。ADCPは、単球由来のマクロファージをエフェクター細胞とし、抗体が結合するタンパク質を発現し、GFPまたは他の標識分子をも発現するように操作された細胞を標的細胞として用いることによって評価することができる。例示的なアッセイでは、エフェクター:標的細胞の比は、例えば4:1であり得る。エフェクター細胞を、本発明の抗体の存在下または非存在下で、標的細胞と4時間インキュベートすることができる。インキュベーション後、アキュターゼ(accutase)を用いて細胞を剥離させてもよい。蛍光標識に結合した抗CD11b抗体および抗CD14抗体でマクロファージを識別し、標準的な方法を用いてCD11+CD14+マクロファージの%GFP蛍光に基づいて%食作用を測定することができる。
【0106】
「補体依存性細胞傷害」または「CDC」は、細胞死を誘導するメカニズムを指し、ここでは、標的に結合した抗体のFcエフェクタードメインが補体成分C1qに結合して、それを活性化し、次にそれが補体カスケードを活性化して標的細胞の死をもたらす。補体の活性化はまた、標的細胞の表面への補体成分の沈着をもたらし、その補体成分が白血球上の補体受容体(例えば、CR3)に結合することによってCDCを促進する。細胞のCDCを測定するには、例えば、RPMI-B(1%BSAを添加したRPMI)にDaudi細胞を1×105細胞/ウェル(50μL/ウェル)でプレーティングし、50μLの試験抗体を0~100μg/mLの最終濃度でウェルに加え、その反応物を室温で15分間インキュベートし、11μLのプールしたヒト血清をウェルに添加して、その反応物を37℃で45分間インキュベートする。パーセント(%)溶解細胞は、標準的な方法を用いたFACSアッセイで%ヨウ化プロピジウム染色細胞として検出することができる。
【0107】
FcγRまたはFcRnへの抗体の結合は、フローサイトメトリーを用いて、各受容体を発現するように操作された細胞で評価することができる。例示的な結合アッセイでは、96ウェルプレートにウェルあたり2×105個の細胞を播種し、BSA Stain Buffer(BD Biosciences社, San Jose, 米国)で4℃にて30分間ブロックする。細胞を氷上で試験抗体と共に4℃で1.5時間インキュベートする。BSA Stain Bufferで2回洗浄した後、細胞をR-PE標識抗ヒトIgG二次抗体(Jackson Immunoresearch Laboratories社)と共に4℃で45分間インキュベートする。細胞をStain Bufferで2回洗浄した後、1:200に希釈したDRAQ7生/死染色試薬(Cell Signaling Technology社, Danvers, 米国)を含む150μLのStain Bufferに再懸濁する。染色された細胞のPEシグナルとDRAQ7シグナルを、Miltenyi MACSQuantフローサイトメーター(Miltenyi Biotec社, Auburn, 米国)で、それぞれB2およびB4チャンネルを用いて検出する。生細胞をDRAQ7排除でゲーティングし、回収された少なくとも10,000の生存イベントの幾何平均蛍光シグナルを測定する。解析にはFlowJoソフトウェア(Tree Star社)を使用する。データを、平均蛍光シグナルに対する抗体濃度の対数としてプロットする。非線形回帰分析を行う。
【0108】
「増強する」または「増強」は、変異のない親抗体と比較して、Fc領域に少なくとも1つの変異がある本発明の抗体のエフェクター機能(例えば、ADCC、CDCおよび/またはADCP)の増強、あるいはFcγ受容体(FcγR)またはFcRnへの結合の増強を意味する。「増強」は、約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%もしくはそれ以上の増強、または統計的に有意な増強であり得る。
【0109】
「低減する」または「低減」は、変異のない親抗体と比較して、Fc領域に少なくとも1つの変異がある本発明の抗体のエフェクター機能(例えば、ADCC、CDCおよび/またはADCP)の低減、あるいはFcγ受容体(FcγR)またはFcRnへの結合の低減を意味する。「低減」は、約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%もしくはそれ以上の低減、または統計的に有意な低減であり得る。
【0110】
「調節する」は、変異のない親抗体と比較して、Fc領域に少なくとも1つの変異がある本発明の抗体のエフェクター機能(例えば、ADCC、CDCおよび/またはADCP)の増強または低減、あるいはFcγ受容体(FcγR)またはFcRnへの結合の増強または低減のいずれかを意味する。
【0111】
本発明の方法で使用される抗体には、プロテインAへの該抗体の結合を調節する変異を導入することができる。完全長の二重特異性抗体を作製および精製するためには、過剰な親分子および/または中間分子から二重特異性抗体を効率的に分離する必要がある。プロテインA結合を調節するFc変異を非対称的に(例えば、一方の重鎖のみに)有する二重特異性抗体は、それゆえ、プロテインAアフィニティーカラムからのそれらの異なった溶出プロファイルに基づいて、親抗体から精製することができる。プロテインA結合を調節するために本発明の方法で使用される抗体に導入され得る例示的な変異は、Q311R、Q311K、T307P_L309Q、T307P_V309Q、T307P_L309Q_Q311R、T307P_V309Q_Q311R、H435R、またはH435R_Y436Fである。
【0112】
糖鎖エンジニアリング
本発明の方法で使用される抗体がADCCを誘導する能力は、そのオリゴ糖成分を改変することによって増強することができる。ヒトIgG1はAsn297でN-グリコシル化されており、グリカンの大部分はよく知られた2分岐G0、G0F、G1、G1F、G2、またはG2Fの形をしている。非組換えCHO細胞によって産生された抗体は、通常、少なくとも約85%のグリカンフコース含有量を有する。Fc領域に結合した2分岐複合型オリゴ糖からコアフコースを除去すると、抗原結合またはCDC活性を変えることなく、改善されたFcγRIIIa結合を介して抗体のADCCが増強される。そのようなmAbは、2分岐複合型のFcオリゴ糖を持つ比較的高い脱フコシル化抗体の発現の成功につながると報告された様々な方法を用いて達成することができ、例えば、培養浸透圧の制御、変異型CHO株Lec13の宿主細胞株としての応用、変異型CHO株EB66の宿主細胞株としての応用、ラットハイブリドーマ細胞株YB2/0の宿主細胞株としての応用、α1,6-フコシルトランスフェラーゼ(FUT8)遺伝子に特異的な低分子干渉RNAの導入、またはβ-1,4-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIIIとゴルジα-マンノシダーゼIIもしくは強力なα-マンノシダーゼI阻害剤であるキフネンシンの共発現などの方法が使用される。
【0113】
本発明の方法で使用されるヘテロダイマー抗体は、フコース含有量が約0%~約15%、例えば、15%、14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%または0%の、2分岐グリカン構造を持つことができる。
【0114】
本発明の方法で使用されるヘテロダイマー抗体は、フコース含有量が約50%、40%、45%、40%、35%、30%、25%、20%、15%、14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%または0%の2分岐グリカン構造を持つことができる。
【0115】
「フコース含有量」とは、Asn297の糖鎖内のフコース単糖の量を意味する。フコースの相対量は、全ての糖構造に対するフコース含有構造のパーセンテージである。これらは、複数の方法で特性評価して定量化することができ、例えば、1)N-グリコシダーゼFで処理したサンプル(例えば、複合体、ハイブリッド、オリゴおよび高マンノース構造)のMALDI-TOF;2)Asn297グリカンの酵素的放出と、その後の誘導体化と、蛍光検出を備えたHPLC(UPLC)および/またはHPLC-MS(UPLC-MS)による検出/定量化;3)Endo Sまたは他の酵素(第1および第2のGlcNAc単糖の間で切断して、第1のGlcNAcに結合したフコースを残す)によるAsn297グリカンの処理の存在下または非存在下での天然または還元型mAbのインタクトプロテイン分析;4)酵素消化(例えば、トリプシンまたはエンドペプチダーゼLys-C)によるmAbの構成ペプチドへの消化と、その後のHPLC-MS(UPLC-MS)による分離、検出および定量化;または5)Asn297でのPNGase Fを用いた特異的な酵素的脱グリコシル化によるmAbタンパク質からのmAbオリゴ糖の分離;を使用する。放出されたオリゴ糖は、フルオロフォアで標識して、様々な補完的技術により分離および同定することができる;そうした補完的技術は、実験質量と理論質量の比較によるマトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)質量分析によるグリカン構造の詳細な特性評価、イオン交換HPLC(GlycoSep C)によるシアリル化度の測定、順相HPLC(GlycoSep N)による親水性基準に従ったオリゴ糖形態の分離と定量化、ならびに高性能キャピラリー電気泳動-レーザー誘起蛍光(HPCE-LIF)によるオリゴ糖の分離と定量化を可能にする。
【0116】
「低フコース」または「低フコース含有量」とは、フコース含有量が約0%~15%の抗体を指す。
【0117】
「正常フコース」または「正常フコース含有量」とは、フコース含有量が約50%以上、典型的には約60%、70%、80%以上、または85%以上の抗体を指す。
【0118】
本発明の方法で使用されるヘテロダイマー抗体は、グリコシル化、異性化、脱グリコシル化、または非天然共有結合修飾、例えばポリエチレングリコール部分の付加(ペグ化)および脂質化、などのプロセスによって翻訳後に修飾され得る。そのような修飾はインビボで起こってもインビトロで起こってもよい。例えば、本発明の方法で使用されるヘテロダイマー抗体は、その薬物動態プロファイルを改善するために、ポリエチレングリコールにコンジュゲート(PEG化)することができる。コンジュゲーションは、当業者に知られている技術によって実施することができる。治療用抗体とPEGとのコンジュゲーションは、機能を妨げずに、薬力学を高めることが示されている。
【0119】
C末端リジン
本発明の方法で使用されるヘテロダイマー抗体は、そのC末端リジン(CTL)が製造中に部分的に除去される可能性がある。製造時には、米国特許出願公開第US20140273092号に記載されるように、細胞外Zn2+、EDTAまたはEDTA-Fe3+の濃度を制御することにより、CTLの除去を最大レベル未満に制御することができる。抗体中のCTL含有量は、公知の方法を用いて測定可能である。
【0120】
本発明の方法で使用されるヘテロダイマー抗体は、C末端リジン含有量が約10%~約90%、約20%~約80%、約40%~約70%、約55%~約70%、または約60%であり得る。
【0121】
本発明の方法で使用されるヘテロダイマー抗体は、C末端リジン含有量が約0%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、または100%であり得る。
【0122】
抗体アロタイプ
本発明の方法で使用されるヘテロダイマー抗体は、任意のアロタイプのものであり得る。アロタイプはFabアーム交換に影響を及ぼさないと予想される。治療用抗体の免疫原性は、輸液反応のリスク増加および治療効果の持続性低下に関連している(Baert et al., (2003) N Engl J Med 348:602-08)。治療用抗体が宿主において免疫反応を誘発する程度は、抗体のアロタイプによって部分的に決定され得る(Stickler et al., (2011) Genes and Immunity 12:213-21)。抗体のアロタイプは、抗体の定常領域配列の特定の位置でのアミノ酸配列の変化と関係している。表2は、選択したIgG1、IgG2およびIgG4アロタイプを示す。
【0123】
【0124】
標的抗原
本発明の方法は、本明細書でも実証されるように、製造中のジスルフィド結合の還元と再形成が抗体のVH/VL領域によって影響されるとは予想されないため、Fabアーム交換を用いて任意の特異性を有するヘテロダイマー抗体を生成するために使用することができる。ヘテロダイマー抗体は、各VH/VL対の特異性に応じて、1つの標的抗原に2つの異なるエピトープで結合することもあれば、2つ以上の標的抗原に結合することもある。ヘテロダイマー抗体が2つの標的抗原に結合する場合、その標的抗原は同じ細胞上にあっても、2つの異なる細胞上にあってもよい。標的抗原は、腫瘍関連抗原、炎症に関与している抗原、T細胞またはB細胞の活性調節に関与している抗原、あるいは一般に、生物学的活性を調節することが望まれるか、または標的を発現する細胞の数を減らすことが望まれる任意の標的であり得る。
【0125】
本発明の方法で使用されるヘテロダイマー抗体が結合し得る例示的な抗原は、
のうちの1つまたは複数である。
【0126】
いくつかの態様では、本発明の方法で使用されるヘテロダイマー抗体は、CD3に結合する。
【0127】
いくつかの態様では、本発明の方法で使用されるヘテロダイマー抗体は、CD3および腫瘍関連抗原(TAA)に結合する。
【0128】
いくつかの態様では、本発明の方法で使用されるヘテロダイマー抗体は、CD123とCD3およびBCMAとCD3に結合する。
【0129】
いくつかの態様では、本発明の方法で使用されるヘテロダイマー抗体は、EGFRおよびc-Metに結合する。
【0130】
いくつかの態様では、EGFRとc-Metに結合するヘテロダイマー抗体は、SEQ ID NO: 4の第1の重鎖(HC1)、SEQ ID NO: 5の第1の軽鎖(LC1)、SEQ ID NO: 6の第2の重鎖(HC2)、およびSEQ ID NO: 7の第2の軽鎖(LC2)を含む。
【0131】
本発明はまた、本発明の方法によって作製された二重特異性抗体を提供する。
【0132】
本発明はまた、本発明の方法によって作製された、EGFRとc-Metに結合する二重特異性抗体を提供する。
【0133】
本発明はまた、本発明の方法によって作製された、SEQ ID NO: 4の第1の重鎖(HC1)、SEQ ID NO: 5の第1の軽鎖(LC1)、SEQ ID NO: 6の第2の重鎖(HC2)、およびSEQ ID NO: 7の第2の軽鎖(LC2)を含む、EGFRとc-Metに結合する二重特異性抗体を提供する。
【0134】
ホモダイマー抗体およびヘテロダイマー抗体の作製
第1のホモダイマー抗体および第2のホモダイマー抗体は、バイオリアクターなどの培養容器内で一緒にまたは別々に産生され得る。第1のホモダイマー抗体および第2のホモダイマー抗体は、宿主細胞内で共発現させることにより、または各ホモダイマー抗体を産生する別個の宿主細胞を用いることにより、産生される。後者の場合、宿主細胞は同じ起源であっても異なる起源であってもよい。
【0135】
「宿主細胞」とは、少なくとも1つの抗体重鎖と1つの抗体軽鎖を発現する1つまたは複数のベクターが導入されている細胞を指す。「宿主細胞」は、特定の対象細胞だけでなく、そのような細胞の子孫と、特定の対象細胞から作られた安定な細胞株をも指す。突然変異または環境の影響により、特定の改変が次の世代で起こる可能性があるため、そのような子孫は親細胞と同一ではないかもしれないが、本明細書で使用する「宿主細胞」という用語の範囲内にまだ含まれる。
【0136】
そのような宿主細胞は、真核細胞、原核細胞、植物細胞または古細菌細胞であり得る。大腸菌(Escherichia coli)、桿菌、例えば枯草菌(Bacillus subtilis)、および他の腸内細菌科、例えば、サルモネラ属、セラチア属、各種シュードモナス属菌は、原核宿主細胞の例である。酵母などの他の微生物も発現に有用である。サッカロミセス属(例えば、出芽酵母(S. cerevisiae))およびピキア属は、適切な酵母宿主細胞の例である。例示的な真核細胞は、哺乳類、昆虫、鳥類または他の動物起源のものであり得る。哺乳類の真核細胞には、ハイブリドーマまたはミエローマ細胞株などの不死化細胞、例えば、SP2/0(American Type Culture Collection (ATCC), Manassas, VA, CRL-1581)、NS0(European Collection of Cell Cultures (ECACC), Salisbury, Wiltshire, UK, ECACC No. 85110503)、FO(ATCC CRL-1646)およびAg653(ATCC CRL-1580)マウス細胞株が含まれる。例示的なヒトミエローマ細胞株はU266(ATTC CRL-TIB-196)である。その他の有用な細胞株には、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞に由来するもの、例えば、CHOK1SV(Lonza Biologics社, Walkersville, MD)、Potelligent(登録商標)CHOK2SV(Lonza社)、CHO-K1(ATCC CRL-61)またはDG44が含まれる。
【0137】
1つまたは複数の抗体重鎖および軽鎖を発現させるために使用できる例示的なベクターには、pWLneo、pSV2cat、pOG44、PXR1、pSG(Stratagene社)、pSVK3、pBPV、pMSGおよびpSVL(Pharmacia社)、pEE6.4(Lonza社)およびpEE12.4(Lonza社)、ならびにLonza社のXceedシステムで使用されるベクターが含まれる。
【0138】
第1のホモダイマー抗体および第2のホモダイマー抗体は、それらを別個の宿主細胞で発現させることによって産生され得る。この場合、第1のホモダイマー抗体および第2のホモダイマー抗体は、それらを還元剤の存在下で混合してFabアーム交換を開始する前に、精製することができる。精製は、プロテインAクロマトグラフィーなどの公知の方法を用いて達成され得る。あるいは、第1のホモダイマー抗体および第2のホモダイマー抗体を含む培養培地を混ぜ合わせ、そこに還元剤を加えてFabアーム交換を開始させることもできる。第1のホモダイマー抗体および第2のホモダイマー抗体が共発現によって産生される場合、これらの抗体もまた、プロテインAクロマトグラフィーを用いて精製することができる。
【0139】
ヘテロダイマー抗体を作製するためのFabアーム交換は、本明細書に記載される。第1のホモダイマー抗体および第2のホモダイマー抗体の濃度、還元剤、還元剤の濃度、還元時間、溶存酸素濃度、反応を行う温度、使用するバッファーなどのプロセス条件は、本明細書に記載されるように、高収率・高純度でヘテロダイマー抗体を生成するために、最適化される。
【0140】
Fabアーム交換後、得られたヘテロダイマー抗体をさらに精製することができる。精製方法としては、プロテインA、プロテインGクロマトグラフィーの組み合わせ、他の方法のアフィニティークロマトグラフィー、例えば、抗原結合または抗イディオタイプ抗体への結合に基づくアフィニティークロマトグラフィー、チオアフィニティー、イオン交換、疎水性相互作用、ハイドロキシアパタイトクロマトグラフィー、および他の混合モード樹脂などがある。さらなる方法は、精製されたヘテロダイマー抗体を得るために、例えば塩またはポリエチレングリコールによる沈殿を用いることもできる。
【0141】
本発明の方法のプロセスに適した装置は公知である。宿主細胞によるホモダイマー抗体の発現は、例えば、一般にバイオリアクターなどの反応容器内で行うことができる。還元および酸化工程は、第1のホモダイマー抗体および/または第2のホモダイマー抗体の発現と同じバイオリアクター内で行ってもよいし、別の反応容器で行ってもよい。反応容器とそれを支えるプロセス配管は、使い捨てまたは再利用可能で、標準的な材料(プラスチック、ガラス、ステンレススチールなど)で作られる。反応容器は、混合、散布、ヘッドスペースガス補給、温度制御を備えており、かつ/または温度、重量/体積、pH、溶存酸素(DO)、および酸化還元電位を測定するためのプローブでモニターすることができる。このような技術は全て、製造プラントの標準的な単位操作(unit operation)内で一般的であり、当業者によく知られている。
【0142】
本発明を一般的な用語で説明してきたが、本発明の態様を以下の実施例においてさらに開示することにする;これらの実施例は、特許請求の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例】
【0143】
実施例1. 一般的な方法
cSDS
キャピラリードデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動は、分子量に基づいてタンパク質を分離する。分析には、温度制御されたカートリッジにフューズドシリカ(fused silica)キャピラリーを搭載した市販のキャピラリー電気泳動システムを使用した。試験品を内部標準およびアルキル化試薬と混合し、定められた時間と温度で加熱してタンパク質を変性させた。次に、サンプルを電圧による動電学的手法で注入した後、あらかじめ定められた期間にわたりより大きな電場を適用して分析した。検出は220nmの吸光度で行い、純度は内部標準後の電気泳動図の他の全てのピークに対するメインピークの補正ピーク面積を計算することによって決定した。
【0144】
IEX-HPLC
残存する親のホモダイマー抗体に対する二重特異性抗体のパーセントは、イオン交換高速液体クロマトグラフィー(IEX-HPLC)で測定した。イオン交換クロマトグラフィーは、分子の表面電荷の差を利用して分離を達成する。IEX-HPLCは、Thermo Scientific社製のPropac WCX-10(4mm ID×150mm,10μm粒子を充填)を用いて行った。種の分離は、塩グラジエントおよび/またはpHグラジエントを用いて行った。グラジエント濃度が増加すると、各抗体とカラムとの全体的な表面相互作用が中和され、280nmで溶出が検出される。各IgGの相対量は、ピーク面積のカウントを比較することで測定した。
【0145】
HIC-HPLC
疎水性相互作用クロマトグラフィー法は、タンパク質をそれらの疎水性に基づいて分離する。タンパク質は塩分濃度が高い条件下ではカラムに保持され、塩分濃度を下げることで溶出される。高塩濃度のバッファー条件では、タンパク質の溶媒和が減少するため疎水性領域が露出して、HIC固定相への結合が促進される。サンプルを東ソーのTSKgel Butyl-NPR(4.6mm×10cm,2.5μm非多孔質樹脂ベースのビーズ)カラムに注入し、硫酸アンモニウムのグラジエントで溶出した。280nmでの吸光度をモニターし、参照標準注入と比較してピークを同定した。
【0146】
RP-HPLC(シスタミンの検出)
逆相高速液体クロマトグラフィーは、固定相媒体との疎水性結合相互作用に基づいて、移動相の溶質分子を分離する。2-MEAと酸化型二量体シスタミンの疎水性の違いを利用して、RP-HPLCで分析し、測定値を標準曲線と比較して定量化した。ヘキサンスルホナート/アセトニトリル移動相系を用いたPhenomenex Luna 18(4.6mm×150mm,3μm)カラムを使用して、有機溶媒を増加させる段階グラジエントで2つの種を分離した。これらの種は220nm(2-MEA)および255nm(シスタミン)での吸光度をモニターすることで検出し、ピーク面積をそれらの相対標準曲線と比較した。
【0147】
単一および二重特異性(200mlスケールで行われたもの)の一般的な抗体作製スキームとスケール
各単一特異性抗体は、個々の哺乳動物細胞バンクから解凍し、増殖させて、バイオリアクターで別々に発現させた。生産用バイオリアクターには強化培地を補充し、顕著な細胞死の前に収穫した。バイオリアクターを遠心分離および/またはろ過によって回収し、単一特異性抗体をアフィニティープロテインAクロマトグラフィーで別々に捕捉した。その後、捕捉された単一特異性抗体を取得して、FAE段階で組み合わせるまで冷凍保存した。
【0148】
実施例2. Fabアーム交換を用いた二重特異性抗体の製造中のプロセスの改善
二重特異性抗体は、2つのホモダイマー親抗体のCH3ドメインに非対称の変異を導入し、続いて分子間ジスルフィド結合を還元および再形成することにより、Fabアーム交換を用いて作製された。非対称のCH3ドメイン変異は、ホモダイマー親抗体よりもヘテロダイマー二重特異性抗体の優先的な形成を引き起こす。
【0149】
製造中のプロセスのロバスト性を確保するために、製造中の様々なパラメータの可能な閾値と範囲を理解するための実験が設計された。抗体のジスルフィド結合の再形成は酸素と遊離金属の存在に依存することが示されたが、それは、EDTAおよび酸素フリーの条件が抗体のシステインのジスルフィド結合への再酸化を抑制したためである(US2014/0303356)。それゆえ、Fabアーム交換を用いた二重特異性抗体の製造中の溶存酸素(DO2)と金属の量を制御する必要性を検討するための研究を開始した。
【0150】
図2は、Fabアーム交換による二重特異性抗体の製造中のジスルフィド結合の還元および再形成の製造工程を示す。
【0151】
理論的には、2-メルカプトエチルアミン(2-MEA)などの還元剤で還元した後の抗体ジスルフィド結合の再形成は、様々な経路で起こる可能性がある。例えば、チオール-ジスルフィド交換は、ジスルフィド結合の還元と再形成から成り得る。チオール-ジスルフィド交換が進行するためには、2-MEAなどの還元剤が、チオール-ジスルフィド交換が進行するためのそのチオラート(RS
-)形態である必要がある。
図3は、チオール-ジスルフィド交換反応の分子詳細を示す。親抗体のジスルフィド結合を還元するために、チオラートアニオン(
図3で丸で囲まれた部分)がジスルフィド結合の硫黄原子を攻撃して、硫黄原子の1つを移動させ、2-MEAチオラートとの新しいジスルフィド結合を形成する。
【0152】
以下に示すヘンダーソン・ハッセルバルヒの式(Henderson-Hasselbalch equation)を用いると、2-MEAチオール(SH)とチオラートアニオン(S
-)の比率は、pHと2-MEAチオールpK
aに大きく依存する。
【0153】
したがって、ジルスルフィド結合の還元と全体的なFabアーム交換は、2-MEAのプロトン化チオール形態がその脱プロトン化チオラートアニオン形態に比べて有利な、低pHで抑制されるようになる。より高いpHでは、平衡がチオラートの方にシフトし、ジスルフィド結合の還元とチオール-ジスルフィド交換が可能になる。
【0154】
2-MEAの存在下でFabアーム交換中に起こり得る反応の概要を
図4に示す。Fabアーム交換の間に、バッファー交換(UF/DF中)による2-MEAなどの還元剤の除去は、ヘテロダイマー二重特異性抗体のジスルフィド結合の再形成を可能にするが、ジスルフィド再形成プロセスは、複数の反応経路を経て起こる。酸素の存在下では、
図4の反応2に示されるように、酸素はプロトン化チオラートと反応して、ヘテロダイマー二重特異性抗体のジスルフィド結合の再形成を促進し得る。酸素の存在はまた、
図4の反応4に示されるように、溶液中の残留2-MEAチオールを枯渇させて、シスタミン二量体と水を形成し得る。したがって、二重特異性抗体の効率と収率を改善するためには、Fabアーム交換中に十分に高濃度の2-MEAを使用する必要がある。
【0155】
しかし、チオラートジスルフィド交換とジスルフィド結合の再形成は、酸素の非存在下でもまだ可能であり得る。酸素の乏しい条件下では、バッファー交換プロセス中に2-MEAの濃度が低下するため、抗体チオール基と2-アミノエチルジスルフィドFab中間体は、
図4の反応1を逆方向に進めて、2-MEAチオラートの生成と同時に、二重特異性ヘテロダイマー抗体のジスルフィド結合を再形成する。バッファー交換プロセスの間により多くの2-MEAが除去されるため、この反応は引き続き逆方向へと推し進められるであろう。
【0156】
実施例3. UF/DF中の低DO2条件下での二重特異性抗体Aの製造
実験的方法
この実験では、還元中および2-MEA添加後23時間まで周囲DO2レベルが存在し、その後、UF/DF中の%DO2を最小限に抑えるために窒素オーバーレイ(nitrogen overlay)を行った。このアプローチは、還元段階では酸素が存在し、ジスルフィド結合の再形成段階では酸素が存在しないという条件を反映していた。
【0157】
二重特異性抗体Aは、BCMAおよびCD3に結合し、IgG4アイソタイプであり、両方の重鎖にS228P、F234A、L235Aの置換(「PAA置換」)があり、一方の重鎖の405位にFと409位にR、他方の重鎖の405位にLと409位にKがあって、ヘテロダイマー形成が促進されている。これらの親抗体をp1A-IgG4PAAF405R409およびp2A-IgG4PAAL405K409と名付けた。
【0158】
親抗体p1A-IgG4PAAF405R409およびp2A-IgG4PAAL405K409を細胞培養バイオリアクターから回収し、プロテインAアフィニティークロマトグラフィーで精製した。
【0159】
p1A-IgG4PAAF405R409とp2A-IgG4PAAL405K409を指示されたモル比または1:1.06で用いて、親抗体の1つを意図的に制限することにより溶液を調製した。次に、この混合物を、101mM酢酸ナトリウム、105mMトリス塩基、pH7.3を用いてpH7.3に調整し、総IgG濃度が10.5g/Lになるように希釈した。50mM酢酸ナトリウム、800mM 2-MEA pH5.0のストック溶液を親mAb混合物に加えた。UF/DF前の最終的な還元バッファー組成は、約100mM酢酸ナトリウム、約35mM 2-MEA、約30mM NaCl、pH7.3であった。還元された親mAb溶液を24℃で23時間インキュベートし、続いてUF/DF保持液容器に移した。限外ろ過(UF)と透析ろ過(DF)を開始する前に、ジスルフィド架橋の再形成中のDO2を枯渇させるために保持液容器に該容器のヘッドスペースを経由して窒素のオーバーレイを供給し、UFおよびDFプロセスの全体を通して維持した。透析ろ過バッファーを介してDO2が添加されるのを防ぐために、処理中は透析ろ過バッファー(100mMトリス-酢酸、30mM NaCl pH7.5)に窒素を散布した。インラインDO2センサーを使用して、UFおよびDF工程の開始前に、保持液DO2が5%DO2未満のレベルに達していたこと、および透析ろ過バッファーが1%DO2未満のレベルに達していたことを確認した。
【0160】
UFおよびDFプロセスの全体を通して、DO2レベルをUF/DF中に供給液注入ライン、保持液ライン、および透過液ラインで測定したところ、いずれも<4%DO2に保たれていた。透析ろ過バッファーは<1%DO2のレベルに維持された。UF/DFシステムは、11回の透析ろ過容量(DV)に対して14.5psiの膜間差圧(transmembrane pressure)を目標にして、54mL/minのクロスフロー速度で維持した。インキュベーション後の全てのプロセスは室温(18~22℃)で行った。UF/DFの完了後、回収された保持液を1.0M酢酸でクエンチし、さらなるジスルフィド結合の形成を最小限に抑えるためにpH5.0に調整し、2~8℃で保存した。また、UF/DFの完了後、追加の透析ろ過バッファーの導入による材料の起こりうる酸化を防ぐために、さらなるバッファー回収フラッシュ洗浄は行わなかった。
【0161】
UF/DFセットアップは、処理中に3箇所でDO
2を測定できるようにした。供給液注入ライン、保持液ライン、および透過液ラインでの%DO
2のインラインモニタリングを
図5に示す。DO
2を下げると、そのレベルは透過液で5%未満、注入口/保持液で3%未満のままであった。表3は、UF/DFプロセスのパラメータと性能の概要を示す。
【0162】
【0163】
表4は、2-MEAの添加前および添加後のオフライン%DO
2、pH、および導電率測定の概要を示す。
図6は、保持液、透過液、および注入の各ラインで測定されたUF/DF中のパーセント(%)DO
2を示す。再循環中の保持液への窒素オーバーレイ後に、時間の経過とともに%DO
2は透過液で3.2%、保持液で1.5%、供給液で1.4%に安定した。
【0164】
非還元cSDS分析を用いて、形成されたヘテロダイマー二重特異性抗体のジスルフィド結合の完全性を測定した(非還元cSDSでのヘテロダイマー抗体の%純度として測定)。抗体Aの純度は97.59%と測定された。
【0165】
この研究は、還元中の周囲%DO2(89~13%の範囲)および低%DO2環境(UF/DF中の<4%DO2)の下で、二重特異性抗体Aが高レベルのジスルフィド結合形成(非還元cSDSでの%純度により反映)を伴って形成されることを実証した。以前には、チオールをジスルフィド結合へと酸化して二重特異性抗体を安定化させるためにDO2が必要であると考えられていた。
【0166】
【0167】
この研究中に存在する酸素のレベルは、UF/DF中のチオールの酸化に寄与するのに十分ではないと計算された。以下の計算では、
図4の反応2で表される反応を用いてチオールの酸化が起こるためには、溶液中の30%超のDO
2濃度が必要であることを示した。
【0168】
この研究では、存在する抗体量の全てのチオールを酸化させる理論的%DO
2飽和溶液を計算するために、以下の仮説を立てた:
・ IgG溶液:10g/L
・ モルS-S(還元および酸化されるジスルフィド結合)/モルmAb
・ 1/2モルO
2/モルS-S(チオールからジスルフィド結合を生成するために酸素が必要な場合、
図4の反応2を参照のこと)
・ 空気飽和水中の酸素溶解度=7ppm(g O
2/106g溶液)=100%飽和
・ mAb MW:150kDa
【0169】
4ジスルフィド/モルmAbが酸化され、かつO2が全てのチオールの酸化のために必要である場合、10mg/mL抗体溶液を酸化するための%溶存DO2濃度を計算するには:
1. (10mg mAb/mL溶液) * (モルmAb/150000g mAb) * (2モルS-S/モルmAb) * (1/2モルO2 /モルS-S) * (1000mL/1L) (1g/1000mg)=6.67×10-4モルO2 /L溶液
2. (6.67×10-5モルO2 /L溶液) * (31.998g O2 /1モルO2) * (1L/1000g)=2.13×10-6g O2 /g溶液
3. (2.13×10-6g O2 /g溶液) * (106g溶液)=2.13g O2 /106g溶液=2.13ppm
4. 空気飽和水 約7g O2 /106g溶液=7ppm
5. 2.13ppm/7ppm=30%O2飽和溶液が必要
【0170】
動作温度での2%DO2は0.192mg/mLまたは6.00μMに相当し、3%DO2は0.288mg/Lまたは8.99μMに相当し、4%DO2は0.384mg/Lまたは11.29μMに相当し、5%DO2は0.480mg/mLまたは14.99μMに相当した。30%DO2は2.88mg/mLまたは90μMに相当した。
【0171】
これは、UF/DF工程中に酸素の非存在下でジスルフィド結合の再形成を可能にする酸素非依存性の化学反応経路が存在したことを示している。2-MEAが溶液から除去されると、
図4の反応1の逆反応がヘテロダイマー二重特異性抗体のジスルフィド架橋の再形成を推進している可能性がある。
【0172】
結論:UF/DF中にDO2レベルを<4%に維持することは、ジスルフィド結合の形成に大きな影響を与えなかった。UF/DFの完了時に、二重特異性抗体の純度は>97%であった。
【0173】
実施例4. UF/DF中の低DO2での二重特異性抗体Bの製造
この実験では、還元中および2-MEA添加後23時間まで周囲DO2レベルが存在し、その後、UF/DF中の%DO2を最小限に抑えるために窒素オーバーレイを行った。このアプローチは、還元段階の間は酸素が存在し、ジスルフィド結合の再形成の間は酸素が存在しないという条件を反映していた。
【0174】
二重特異性抗体Bは、CD123およびCD3に結合し、IgG4アイソタイプであり、両方の重鎖にS228P、F234A、L235A置換(「PAA置換」)があり、一方の重鎖の405位にFと409位にR、他方の重鎖の405位にLと409位にKがあって、ヘテロダイマー形成が促進されている。これらの親抗体をp1B-IgG4PAAF405R409およびp2B-IgG4PAAL405K409と名付けた。
【0175】
親抗体p1B-IgG4PAAF405R409およびp2B-IgG4PAAL405K409を細胞培養バイオリアクターから回収し、プロテインAアフィニティークロマトグラフィーで精製した。
【0176】
p1B-IgG4PAAF405R409およびp2B-IgG4PAAL405K409の溶液を調製し、101mM酢酸ナトリウム、105mMトリス塩基、pH7.3を用いてpH7.3に調整し、総IgG濃度が10.5g/Lになるように希釈した。50mM酢酸ナトリウム、800mM 2-MEA pH5.0のストック溶液を親混合物に加えた。UF/DF前の最終的な還元バッファー組成は、約100mM酢酸ナトリウム、約35mM 2-MEA、約30mM NaCl、pH7.3であった。還元された親溶液を24℃で23時間インキュベートし、続いてUF/DF保持液容器に移した。限外ろ過(UF)と透析ろ過(DF)を開始する前に、ジスルフィド架橋の再形成中のDO2を枯渇させるために保持液容器に該容器のヘッドスペースを経由して窒素のオーバーレイを供給し、UFおよびDFプロセスの全体を通して維持した。透析ろ過バッファーを介してDO2が添加されるのを防ぐために、処理中は透析ろ過バッファー(100mMトリス-酢酸、30mM NaCl pH7.5)に窒素を散布した。インラインDO2センサーを使用して、UFおよびDF工程の開始前に、保持液が5%DO2未満のレベルに達しており、透析ろ過バッファーが1%未満のレベルに達していたことを確認した。
【0177】
UFおよびDFプロセスの全体を通して、DO2レベルをUF/DF中に供給液注入ライン、保持液ライン、および透過液ラインで測定したところ、いずれも<4%DO2に保たれていた。透析ろ過バッファーは<1%DO2のレベルに維持された。UF/DFシステムは、11回の透析ろ過容量(DV)に対して15.0psiの膜間差圧を目標に、42mL/minのクロスフロー速度で維持した。インキュベーション後の全てのプロセスは室温(18~22℃)で行った。UF/DFの完了後、3mLサンプルを採取し、pH7.5の未調整のまま、直ちに-70℃で保存してさらなる酸化を防いだ。回収された保持液の残りのバルクを1.0M酢酸でクエンチし、さらなるジスルフィド結合の形成を最小限に抑えるためにpH5.0に調整した。その後、バルク材料を-70℃で保存した。追加の透析ろ過バッファーの導入による材料の起こりうる酸化を防ぐために、UF/DFの完了後さらなるバッファー回収フラッシュ洗浄を行わなかったが、収率は通常観察されるよりも低かった。
【0178】
UF/DFセットアップは、処理中に3箇所でDO
2を測定できるようにした。供給液注入ライン、保持液ライン、および透過液ラインでの%DO
2のインラインモニタリングを
図5に示す。DO
2を下げると、そのレベルは透過液で5%未満、注入口/保持液で3%未満のままであった。
【0179】
表5は、UF/DFプロセスのパラメータの概要を示す。
図7は、保持液、透過液、および注入の各ラインで測定されたUF/DF中の%DO
2を示す。表6は、オフライン%DO
2、pH、および導電率測定の概要を示す。
【0180】
【0181】
【0182】
非還元cSDS分析を用いて、pH7.5の凍結サンプルとpH5.0のバルク材料の両方について、形成された二重特異性抗体のジスルフィド結合の完全性を測定した。pH7.5の二重特異性抗体調製物の純度は97.16%と測定され、pH5.0の抗体調製物の純度は97.27%と測定された。
【0183】
この研究は、還元中の周囲%DO2(83~24%の範囲)およびUF/DF中の低%DO2環境(<4%DO2)の下で、二重特異性抗体Bが高レベルのジスルフィド結合形成を伴って形成されたことを実証した。
【0184】
この研究と実施例2に記載した研究の両方から、Fabアーム交換中にジスルフィド架橋を再形成するには、UF/DF工程中に酸素は必要でないことが示された。
【0185】
結論:Fabアーム交換を用いて二重特異性抗体Bを製造するUF/DF工程中にDO2のレベルを4%未満に維持することは、ジスルフィド結合形成に大きな影響を与えなかった。UF/DFの完了時に、非還元cSDSは%純度>97%を実証した。
【0186】
実施例5. UF/DF中のEDTAの存在下に低DO2での二重特異性抗体Aの製造
二重特異性抗体の製造中は、遊離金属イオンが製造プロセスに導入される機会がある。原料からのバッファーの調製中および金属部材からの浸出の際に、これらの遊離金属イオンがFabアーム交換の酸化還元反応に関与するようになる可能性がある。Fabアーム交換における微量金属の起こり得る影響を調べるために、Fabアーム交換時のEDTAの添加について検討した。EDTAの添加によって溶液中に存在しうる遊離金属イオンが封鎖されたが、こうした遊離金属イオンはジスルフィド結合再形成の酸化反応を触媒する可能性がある。
【0187】
p1A-IgG4PAAF405R409とp2A-IgG4PAAL405K409を1.05:1.00のモル比で用いて、溶液を調製した。次に、この混合物を、101mM酢酸ナトリウム、105mMトリス塩基、pH7.3を用いてpH7.3に調整し、総IgG濃度が10.5g/Lになるように希釈した。50mM酢酸ナトリウム、800mM 2-MEA pH5.0のストック溶液を親mAb混合物に添加した。UF/DF前の最終的な還元バッファー組成は、約100mM酢酸ナトリウム、約35mM 2-MEA、約30mM NaCl、pH7.3であった。この還元された親溶液を24℃で23.5時間インキュベートした。インキュベーションの完了時に、UF/DFの開始前に溶液中に存在しうる遊離金属イオンをキレート化するために、500mM EDTA、pH8.0のストック溶液を、2mM EDTAを目標にして、還元された親混合物に添加した。また、EDTAは、100mMトリス-酢酸、30mM NaCl、2mM EDTA、pH7.5を目標に、透析ろ過バッファーにも添加した。これは、UF/DFバッファー交換中に追加の遊離金属イオンが導入されないようにするために行った。還元工程の間はEDTAを添加せず、この工程中に自然に起こり得るジスルフィドの酸化とシスタミン形成を可能にした。
【0188】
続いて、EDTAを含む還元された親溶液をUF/DF保持液容器に移し、UFの開始前に、保持液からDO2を枯渇させるために保持液容器に該容器のヘッドスペース経由で窒素のオーバーレイを供給して、UFおよびDFプロセスの全体を通して維持した。透析ろ過バッファーを介してDO2が添加されるのを防ぐために、処理中は透析ろ過バッファーに窒素を散布した。インラインDO2センサーにより、UFおよびDF工程の開始前に、保持液のDO2レベルが2%DO2未満のレベルに達し、透析ろ過バッファーが1%DO2未満のDO2レベルに達したことを確認した。
【0189】
UFおよびDFプロセスの全体を通して、DO2レベルを供給液注入ライン、保持液ライン、および透過液ラインでUF/DF中に測定したところ、いずれも<4%DO2に保たれていた。透析ろ過バッファーは<1%DO2のレベルに維持された。UF/DFシステムは、11回の透析ろ過容量(DV)に対して14.5psiの膜間差圧を目標にして、58mL/minのクロスフロー速度で維持した。インキュベーション後の全てのプロセスは室温(18~22℃)で行った。UF/DFの完了後、9mLサンプルを採取し、pH7.5の未調整のまま、直ちに-70℃で保存してさらなる酸化を防いだ。回収された保持液の残りのバルクを1.0M酢酸でクエンチし、さらなるジスルフィド結合の形成を最小限に抑えるためにpH5.0に調整した。続いて、pH5.0のバルク二重特異性抗体サンプルを-70℃で保存した。UF/DFの完了後は、追加の透析ろ過バッファーの導入による材料の起こりうる酸化を防ぐために、バッファーの回収フラッシュ洗浄を行わなかった。表7は、UF/DFプロセスのパラメータと性能をまとめたものである。
【0190】
【0191】
非還元cSDS分析を用いて、pH7.5の凍結サンプルとpH5.0のバルク材料の両方について、形成された二重特異性抗体のジスルフィド結合の完全性を測定した。pH7.5の二重特異性抗体調製物の純度は97.44%であり、pH5.0の二重特異性抗体調製物の純度は97.39%であると測定された。
【0192】
この研究は、UF/DF中の低%DO2環境および最小限の利用可能な遊離金属イオンの下で、二重特異性抗体Aが高レベルのジスルフィド結合形成を伴って形成されることを実証した。今回の研究は、酸化反応を触媒するための遊離金属イオンが、Fabアーム交換のUF/DF中に必要とされない可能性があることを実証した。
【0193】
結論:実験の結果から、Fabアーム交換でUF/DFの前に、還元された親混合物にEDTAを加えても、ジスルフィド結合の形成には影響がないことがわかった。UF/DFの完了時に、非還元cSDSは%純度>97%をもたらした。
【0194】
実施例6. 還元およびUF/DFの間の周囲DO2条件と低DO2条件でのFabアーム交換の比較
この研究は、2-MEA還元の間にいくつかのDO2媒介酸化が起こっているのではないかという仮説を評価するためにデザインされた。
【0195】
本研究では、親抗体p1B-IgG4PAAF405R409およびp2B-IgG4PAAL405K409を用いてFabアーム交換を行った。溶液中のp1B-IgG4PAAF405R409とp2B-IgG4PAAL405K409の混合物を調製し、101mM酢酸ナトリウム、105mMトリス塩基、pH7.3を用いてpH7.3に調整し、総IgG濃度が10.5g/Lになるように希釈した。親抗体を含む混合物を2つの別々の容器に分けた。一方の容器には、窒素のオーバーレイをヘッドスペース経由で容器に供給し、%DO
2<5%が達成されるまで親混合物からDO
2を枯渇させた。他方の親混合物容器は、還元反応の対照として周囲空気条件下のままにした。50mM酢酸ナトリウム、800mM 2-MEA pH5.0のストック溶液をそれぞれの親混合物に加えた。UF/DF前の最終的な還元バッファー組成は、約100mM酢酸ナトリウム、約35mM 2-MEA、約30mM NaCl、pH7.3であった。両方の還元された親溶液を24℃で24時間インキュベートし、両容器の%DO
2を測定した;その結果を
図8に示す。低%DO
2還元容器は、インキュベーション全体を通して窒素のオーバーレイの下で維持され、24時間にわたって<2%DO
2のままであった。周囲空気下にあった容器では、2-MEAを加えた後に約40%DO
2への初期%DO
2低下が見られたが、その後%DO
2は徐々に直線的に増加して>90%DO
2に戻った。UF/DFプロセスのパラメータと性能の概要を表8に示す。
【0196】
【0197】
還元中に、容器上のサンプリングポートを介して両容器からサンプルを取得した。各サンプル採取前にポートをフラッシュ洗浄し、10%v/vシスタミンRP-HPLC移動相、20mMヘキサンスルホナート、pH2.0バッファーを加えてサンプルを直ちにクエンチした;各サンプルは、分析前にpH<5に低下していたことが確認された。全ての時点で、非還元cSDSによりジスルフィド結合の完全性を分析し、RP-HPLCにより残留2-MEA/シスタミンの濃度を分析した。
【0198】
残留2-MEA/シスタミンの分析には、5kDa分子量保持フィルターによる抗体の除去を含む、追加のサンプル調製が必要であった。非還元cSDSによる%純度および残留2-MEA/シスタミンの結果を表9に報告する。
【0199】
24時間の還元インキュベーションの完了時に、低%DO2容器をUF/DFシステムに移した。保持液容器に該容器のヘッドスペース経由で窒素のオーバーレイを供給し続けて、保持液からのDO2の枯渇を継続し、UFおよびDFプロセスの全体を通して窒素オーバーレイを維持した。また、バッファーを介してDO2が添加されるのを防ぐために、処理中は透析ろ過バッファーにも窒素を散布した。インラインDO2センサーを使用して、UFおよびDF工程の開始前に、保持液が5%DO2未満のレベルに達しており、透析ろ過バッファーが1%DO2未満のレベルに達していたことを確認した。
【0200】
UFおよびDFプロセスの全体を通して、DO2レベルを供給液注入ライン、保持液ライン、および透過液ラインでUF/DF中に測定したところ、いずれも<4%DO2に保たれていた。透析ろ過バッファーは<1%DO2のレベルに維持された。UF/DFシステムは、100mMトリス-酢酸、30mM NaCl、pH7.5のバッファーを用いて、12回の透析ろ過容量(DV)に対して14.5psiの膜間差圧を目標に、55mL/minのクロスフロー速度で維持した。インキュベーション後の全てのプロセスは室温(18~22℃)で行った。UF/DFの完了後、回収された保持液を1.0M酢酸でクエンチし、pH5.0に調整して、さらなるジスルフィド結合の形成を最小限に抑えた。続いて、バルク材料を-70℃で保存した。UF/DFの完了後は、追加の透析ろ過バッファーの導入による材料の起こりうる酸化を防ぐために、さらなるバッファー回収フラッシュ洗浄は行わなかった。
【0201】
低DO2%容器と周囲DO2の対照容器の両方において、非還元cSDSによるジスルフィドの完全性およびRP-HPLCによる残留2-MEA/システアミンを還元およびUF/DFの全体を通して様々な時点で測定した。
【0202】
データの概要を表9に示す。この実験では、酸素欠乏条件下でのFabアーム交換反応のみがUF/DFを通して継続された。残留する2-MEAとシスタミンは、両Fabアーム交換条件での還元中にのみ測定した;しかし、酸素欠乏条件でのUF/DF中には、サンプルを取得して、起こりうるジスルフィド結合の再形成を非還元cSDSにより測定した。
【0203】
【表9】
*最初のt=0サンプルは、親混合物の2-MEA添加(spike)の直後に採取した。還元とUF/DFの両方の間にジスルフィド結合の還元および再形成の速度を測定するために、サンプル時点が取られた。
【0204】
結論:このデータは、酸素非依存的経路が、還元およびUF/DF中に酸素の非存在下でジスルフィド結合の形成を媒介するという仮説を支持している。
【0205】
Fabアーム交換を酸素欠乏条件下で行った場合、還元の間に最小限のシスタミン形成とジスルフィド結合の再形成が観察された。2-MEAの存在下で24時間のインキュベーションが完了するまでに、1.6mMのシスタミンと14.74%のインタクトな抗体のみが観察された。それにもかかわらず、抗体サンプルをUF/DFで処理すると、2-MEAが除去されるにつれて、ジスルフィド結合の再形成のレベルが上がっていくことが明らかになった。DVの終了時(DV12)に、形成されたpH5.0の二重特異性抗体調製物は、%純度が90.59%であると測定された。
【0206】
周囲DO
2では、ジスルフィド結合の還元が速やかに起こり、還元開始から30分後には親抗体の約86%が還元された。溶液中に残留2-MEAが引き続き存在しても、残りの還元過程でジスルフィド結合の再形成が観察された。還元段階の完了時には、抗体の71%が無傷のジスルフィド結合を持っていた。還元インキュベーション中のシスタミン二量体の形成、ならびに二重特異性抗体の形成レベルの上昇は、酸素が、
図4に示されるそれぞれ反応4および反応2によって、消費されていることを示した。これは、2-MEAの顕著な枯渇および二量体化合物シスタミンへの変換(
図4の反応4)を示したRP-HPLCデータによって裏付けられた。
【0207】
この研究は、還元段階中のDO
2が、IgGのHC-HCおよびLC-HC鎖間ジスルフィド結合の形成を触媒するが、ジスルフィド結合が酸素欠乏条件下でも再形成されるため、インタクトな二重特異性抗体の形成にとって必須ではないことを明らかにした。透析ろ過の間に、酸素の非存在下でさえも、2-MEAを除去すると、
図4の反応1の逆反応によって、ジスルフィド結合の再形成が起こった。
【0208】
実施例7. 高濃度の親抗体を利用して周囲DO2下でのFabアーム交換を用いる二重特異性EGFR/c-Met抗体の作製
この研究は、ホモダイマー混合物のより高いタンパク質濃度およびタンパク質に対する還元剤の様々な質量比が酸化されたヘテロダイマー抗体をもたらすという仮説を評価するためにデザインされた。
【0209】
本研究では、二重特異性EGFR/cMet抗体を使用した。EGFR/cMet抗体は、SEQ ID NO: 4の第1の重鎖(HC1)、SEQ ID NO: 5の第1の軽鎖(LC)、SEQ ID NO: 6の第2のHC(HC2)、およびSEQ ID NO: 7の第2のLC(LC2)を含む。
【0210】
本研究では、親のEGFR抗体およびc-Met抗体(いずれもIgG1アイソタイプ)を用いて、Fabアーム交換を行った。溶液中の親抗体のろ過・中和済みプロテインA溶出液の混合物を調製し、209.5mM酢酸ナトリウム、300mM NaCl、pH7.9を用いてpH7.9に調整し、総IgG濃度が10~35g/Lとなるように希釈した。50mM酢酸ナトリウム、800mM 2-MEA pH5.0のストック溶液を各親混合物に添加して35、50、または100mMの目標還元剤濃度とした。両方の還元された親溶液を21.5℃、24℃のいずれかに制御して、または周囲の室温に放置したままで、3時間インキュベートした。3時間後、インキュベートした混合物を限外ろ過し、10mMトリス、7.8mM酢酸、pH7.5に対して透析ろ過した。動作条件と分析結果の概要を表10に示す。今回の研究は、温度範囲21.5~24℃、還元剤濃度35~100mM、およびホモダイマー混合物タンパク質濃度10~35g/Lの条件下で酸化型ヘテロダイマーを実証した。二重特異性抗体の完全性と純度は、実施例1に記載の方法を用いて、NR-cSDSとIHC-HPLCの両方で評価した。
【0211】
【0212】
【配列表】
【国際調査報告】