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特表2022-514018冷間曲げ性に優れた高強度構造用鋼材及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-09
(54)【発明の名称】冷間曲げ性に優れた高強度構造用鋼材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20220202BHJP
   C22C 38/06 20060101ALI20220202BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20220202BHJP
   C21D 8/02 20060101ALI20220202BHJP
【FI】
C22C38/00 301A
C22C38/06
C22C38/58
C21D8/02 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021535061
(86)(22)【出願日】2019-12-06
(85)【翻訳文提出日】2021-07-27
(86)【国際出願番号】 KR2019017148
(87)【国際公開番号】W WO2020130436
(87)【国際公開日】2020-06-25
(31)【優先権主張番号】10-2018-0165284
(32)【優先日】2018-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】特許業務法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チョ,ジェ-ヨン
(72)【発明者】
【氏名】イ,イル-チョル
(72)【発明者】
【氏名】カン,サン-ドク
【テーマコード(参考)】
4K032
【Fターム(参考)】
4K032AA01
4K032AA02
4K032AA04
4K032AA08
4K032AA11
4K032AA14
4K032AA16
4K032AA17
4K032AA19
4K032AA21
4K032AA22
4K032AA23
4K032AA24
4K032AA27
4K032AA29
4K032AA31
4K032AA35
4K032AA36
4K032BA01
4K032CA02
4K032CA03
4K032CB01
4K032CB02
4K032CC03
4K032CC04
4K032CD02
4K032CD03
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、冷間曲げ性に優れた高強度構造用鋼材及びその製造方法を提供することにある。
【解決手段】本発明の冷間曲げ性に優れた高強度構造用鋼材は、重量%で、C:0.02~0.1%、Si:0.01~0.6%、Mn:1.7~2.5%、Al:0.005~0.5%以下、P:0.02%以下、S:0.01%以下、N:0.0015~0.015%、残りはFe及びその他の不可避不純物からなり、厚さ方向に沿って外側の表層部と内側の中心部が微細組織的に区分され、上記表層部は焼戻しベイナイトを基地組織として含み、上記中心部はベイニティックフェライトを基地組織として含むことを特徴とする。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.02~0.1%、Si:0.01~0.6%、Mn:1.7~2.5%、Al:0.005~0.5%、P:0.02%以下、S:0.01%以下、N:0.0015~0.015%、残りはFe及びその他の不可避不純物からなり、
厚さ方向に沿って外側の表層部と内側の中心部が微細組織的に区分され、
前記表層部は、焼戻しベイナイトを基地組織として含み、
前記中心部はベイニティックフェライトを基地組織として含むことを特徴とする冷間曲げ性に優れた高強度構造用鋼材。
【請求項2】
前記表層部は、前記鋼材の上部側の上部表層部及び前記鋼材の下部側の下部表層部を含み、
前記上部表層部及び下部表層部は、前記鋼材の厚さに対して3~10%の厚さでそれぞれ備えられることを特徴とする請求項1に記載の冷間曲げ性に優れた高強度構造用鋼材。
【請求項3】
前記表層部は、第2組織としてフレッシュマルテンサイトをさらに含み、
前記焼戻しベイナイト及び前記フレッシュマルテンサイトは95面積%以上の分率で前記表層部に含まれることを特徴とする請求項1に記載の冷間曲げ性に優れた高強度構造用鋼材。
【請求項4】
前記表層部は、残留組織としてオーステナイトをさらに含み、
前記オーステナイトは5面積%以下の分率で前記表層部に含まれることを特徴とする請求項3に記載の冷間曲げ性に優れた高強度構造用鋼材。
【請求項5】
前記ベイニティックフェライトは95面積%以上の分率で前記中心部に含まれることを特徴とする請求項1に記載の冷間曲げ性に優れた高強度構造用鋼材。
【請求項6】
前記表層部の微細組織の結晶粒の平均粒径は、3μm以下(0μmを除く)であることを特徴とする請求項1に記載の冷間曲げ性に優れた高強度構造用鋼材。
【請求項7】
前記中心部の微細組織の結晶粒の平均粒径は、5~20μmであることを特徴とする請求項1に記載の冷間曲げ性に優れた高強度構造用鋼材。
【請求項8】
重量%で、Ni:0.01~2.0%、Cu:0.01~1.0%、Cr:0.05~1.0%、Mo:0.01~1.0%、Ti:0.005~0.1%、Nb:0.005~0.1%、V:0.005~0.3%、B:0.0005~0.004%、Ca:0.006%以下のうち1種または2種以上をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の冷間曲げ性に優れた高強度構造用鋼材。
【請求項9】
前記鋼材の引張強度は800MPa以上であり、前記表層部の高傾角粒界の分率は、45%以上であることを特徴とする請求項1に記載の冷間曲げ性に優れた高強度構造用鋼材。
【請求項10】
様々な先端部の曲率半径(r)を有する複数の冷間曲げ治具を適用して前記鋼材を180°冷間曲げ加工した後、鋼材表層部のクラック発生有無を観察し、前記先端部の曲率半径(r)が順に減少するように、前記冷間曲げ治具を適用する冷間曲げ試験において、
前記鋼材の厚さ(t)に対する前記鋼材の表層部にクラックが発生する時点の前記冷間曲げ治具の先端部の曲率半径(r)の比率である臨界曲率比(r/t)が1.0以下であることを特徴とする請求項1に記載の冷間曲げ性に優れた高強度構造用鋼材。
【請求項11】
重量%で、C:0.02~0.1%、Si:0.01~0.6%、Mn:1.7~2.5%、Al:0.005~0.5%、P:0.02%以下、S:0.01%以下、N:0.0015~0.015%、残りはFe及びその他の不可避不純物からなるスラブを1050~1250℃の温度範囲で再加熱し、
前記スラブをTnr~1150℃の温度範囲で粗圧延して粗圧延バーを提供し、
前記粗圧延バーを5℃/s以上の冷却速度でMs~Bs℃の温度範囲まで1次冷却し、
前記1次冷却された粗圧延バーの表層部が復熱処理により(Ac1+40℃)~(Ac3-5℃)の温度範囲で再加熱されるように維持し、
前記復熱処理された粗圧延バーを仕上げ圧延し、
前記仕上げ圧延された鋼材を5℃/s以上の冷却速度でBf℃以下の温度範囲まで2次冷却することを特徴とする冷間曲げ性に優れた高強度構造用鋼材の製造方法。
【請求項12】
前記スラブは、重量%で、Ni:0.01~2.0%、Cu:0.01~1.0%、Cr:0.05~1.0%、Mo:0.01~1.0%、Ti:0.005~0.1%、Nb:0.005~0.1%、V:0.005~0.3%、B:0.0005~0.004%、Ca:0.006%以下のうち1種または2種以上をさらに含むことを特徴とする請求項11に記載の冷間曲げ性に優れた高強度構造用鋼材の製造方法。
【請求項13】
前記粗圧延バーは、前記粗圧延の直後の水冷により1次冷却されることを特徴とする請求項11に記載の冷間曲げ性に優れた高強度構造用鋼材の製造方法。
【請求項14】
前記1次冷却は、前記粗圧延バーの表層部の温度基準でAe3+100℃以下の温度で開始されることを特徴とする請求項11に記載の冷間曲げ性に優れた高強度構造用鋼材の製造方法。
【請求項15】
前記粗圧延バーはBs~Tnr℃の温度範囲で仕上げ圧延されることを特徴とする請求項11に記載の冷間曲げ性に優れた高強度構造用鋼材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造用高強度鋼材及びその製造方法に係り、より詳細には、鋼組成、微細組織及び製造工程を最適化することにより、冷間曲げ加工に特に適した高強度構造用鋼材及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、建築構造物、輸送用鋼管、橋梁などの大型化の傾向に合わせて、引張強度800MPa以上の高強度構造用鋼材の開発に対する要求が増大しつつある実情である。従来には、このような高強度特性を満たすために、焼入れ-焼戻し(Quenching-Tempering)などの熱処理方法を適用して鋼材を生産したが、最近では、生産コストの低減及び溶接性の確保などの理由で圧延後の冷却によって生産される鋼材が既存の熱処理鋼材を代替している。
【0003】
圧延後の冷却によって生産される鋼材の場合には、組織の微細化によって衝撃靭性が向上するが、過度の冷却により鋼板表層部から厚さ方向にベイナイトまたはマルテンサイトなどの延伸率が劣化した組織が形成されるために、全体の鋼材の延伸率が著しく低下する。このような鋼材の延伸率の低下は、鋼材の加工において、技術的な制約として影響するようになる。特に、圧延後の冷却によって生産される鋼材を冷間曲げ加工する場合には、図1に示したように、鋼材の加工部側の表面に、最も大きい塑性が発生し、鋼材の加工部には鋼材の表面から厚さ方向に向かってクラック(C)が発生するようになる。したがって、高強度特性を備えながらも、冷間曲げなどの加工によっても加工部側の表面のクラックの発生を積極的に抑制することができる構造用鋼材の開発が要求されている。
【0004】
特許文献1では、鋼材の表層部を細粒化する技術を提案しているが、表層部が等軸フェライト結晶粒及び伸長フェライト結晶粒を主体とすることから、引張強度800MPa級以上の高強度鋼材には適用できないという問題が存在する。また、特許文献1では、表層部を細粒化するために、表層部が復熱処理される間に圧延工程を必ず行う必要があることから、圧延工程の制御には困難が伴う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-020835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、冷間曲げ性に優れた高強度構造用鋼材及びその製造方法を提供することにある。
【0007】
本発明の課題は、上述した内容に限定されない。通常の技術者であれば、本明細書の全体内容から、本発明のさらなる課題を理解するのに何ら困難がない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の冷間曲げ性に優れた高強度構造用鋼材は、重量%で、C:0.02~0.1%、Si:0.01~0.6%、Mn:1.7~2.5%、Al:0.005~0.5%、P:0.02%以下、S:0.01%以下、N:0.0015~0.015%、残りはFe及びその他の不可避不純物からなり、厚さ方向に沿って外側の表層部と内側の中心部が微細組織的に区分され、上記表層部は焼戻しベイナイトを基地組織として含み、上記中心部はベイニティックフェライトを基地組織として含むことを特徴とする。
【0009】
上記表層部は、上記鋼材の上部側の上部表層部及び上記鋼材の下部側の下部表層部を含み、上記上部表層部及び下部表層部は、上記鋼材の厚さに対して3~10%の厚さで、それぞれ備えられることができる。
【0010】
上記表層部は、第2組織としてフレッシュマルテンサイトをさらに含み、上記焼戻しベイナイト及び上記フレッシュマルテンサイトは95面積%以上の分率で上記表層部に含まれることができる。
【0011】
上記表層部は、残留組織としてオーステナイトをさらに含み、上記オーステナイトは5面積%以下の分率で上記表層部に含まれることができる。
【0012】
上記ベイニティックフェライトは95面積%以上の分率で上記中心部に含まれることができる。
【0013】
上記表層部の微細組織の結晶粒の平均粒径は、3μm以下(0μmを除く)であることができる。
【0014】
上記中心部の微細組織の結晶粒の平均粒径は、5~20μmであることができる。
【0015】
上記鋼材は、重量%で、Ni:0.01~2.0%、Cu:0.01~1.0%、Cr:0.05~1.0%、Mo:0.01~1.0%、Ti:0.005~0.1%、Nb:0.005~0.1%、V:0.005~0.3%、B:0.0005~0.004%、Ca:0.006%以下のうち1種または2種以上をさらに含むことができる。
【0016】
上記鋼材の引張強度は800MPa以上であり、上記表層部の高傾角粒界の分率は、45%以上であることができる。
【0017】
様々な先端部の曲率半径(r)を有する複数の冷間曲げ治具を適用して上記鋼材を180°冷間曲げ加工した後、鋼材表層部にクラック発生有無を観察し、上記先端部の曲率半径(r)が順に減少するように、上記冷間曲げ治具を適用する冷間曲げ試験において、上記鋼材の厚さ(t)に対する上記鋼材の表層部にクラックが発生する時点の上記冷間曲げ治具の先端部の曲率半径(r)の比率である臨界曲率比(r/t)が1.0以下であることができる。
【0018】
本発明の冷間曲げ性に優れた高強度構造用鋼材は、重量%で、C:0.02~0.1%、Si:0.01~0.6%、Mn:1.7~2.5%、Al:0.005~0.5%、P:0.02%以下、S:0.01%以下、N:0.0015~0.015%、残りはFe及びその他の不可避不純物からなるスラブを1050~1250℃の温度範囲で再加熱し、上記スラブをTnr~1150℃の温度範囲で粗圧延して粗圧延バーを提供し、上記粗圧延バーを5℃/s以上の冷却速度でMs~Bs℃の温度範囲まで1次冷却し、上記1次冷却された粗圧延バーの表層部が復熱処理により(Ac1+40℃)~(Ac3-5℃)の温度範囲で再加熱されるように維持し、上記復熱処理された粗圧延バーを仕上げ圧延し、上記仕上げ圧延された鋼材を5℃/s以上の冷却速度でBf℃以下の温度範囲まで2次冷却して製造することを特徴とする。
【0019】
上記スラブは、重量%で、Ni:0.01~2.0%、Cu:0.01~1.0%、Cr:0.05~1.0%、Mo:0.01~1.0%、Ti:0.005~0.1%、Nb:0.005~0.1%、V:0.005~0.3%、B:0.0005~0.004%、Ca:0.006%以下のうち1種または2種以上をさらに含むことができる。
【0020】
上記粗圧延バーは、上記粗圧延の直後の水冷により1次冷却することができる。
【0021】
上記1次冷却は、上記粗圧延バーの表層部の温度基準でAe3+100℃以下の温度で開始されることができる。
【0022】
上記粗圧延バーはBs~Tnr℃の温度範囲で仕上げ圧延することができる。
【0023】
上記課題の解決手段は、本発明の特徴を全て列挙したものではなく、本発明の様々な特徴とそれに伴う利点及び効果は、下記の具体的な実施例を参照して、より詳細に理解することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によると、引張強度800MPa以上の高強度特性を備えながらも、冷間曲げ性に優れた構造用鋼材及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】冷間曲げ加工によって加工部側の表面にクラックが発生した従来材を撮影した写真である。
図2】本発明の一実施例に係る鋼材の試験片の断面を撮影した写真である。
図3図2の試験片の上部表層部(A)及び中心部(B)の微細組織を観察した写真である。
図4】冷間曲げ試験の一例を概略的に示した図面である。
図5】本発明の製造方法を実現するための設備の一例を概略的に示した図面である。
図6】本発明の復熱処理による表層部の微細組織の変化を概略的に示した概念図である。
図7】復熱処理到達温度と表層部の高傾角粒界の分率及び臨界曲率比(r/t)との間の関係を実験的に測定して示したグラフである。
図8】試験片B-1及び試験片B-4に対して0.3の曲率比(r/t)の条件で冷却曲げを行った後の断面観察写真である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、冷間曲げ性に優れた高強度構造用鋼材及びその製造方法に関するものであり、以下では、本発明の好ましい実施例を説明する。本発明の実施例は、様々な形に変形することができ、本発明の範囲が以下で説明される実施例に限定されるものと解釈されてはならない。本実施例は、当該発明が属する技術分野における通常の知識を有する者に本発明をさらに詳細に説明するために提供されるものである。
【0027】
以下、本発明の鋼組成についてより詳細に説明する。以下、特に断りのない限り、各元素の含有量を示す%及びppmは重量を基準とする。
【0028】
本発明の一側面による冷間曲げ性に優れた高強度構造用鋼材は、重量%で、C:0.02~0.1%、Si:0.01~0.6%、Mn:1.7~2.5%、Al:0.005~0.5%、P:0.02%以下、S:0.01%以下、N:0.0015~0.015%、残りはFe及びその他の不可避不純物からなることができる。また、本発明の一側面による冷間曲げ性に優れた高強度構造用鋼材は、重量%で、Ni:0.01~2.0%、Cu:0.01~1.0%、Cr:0.05~1.0%、Mo:0.01~1.0%、Ti:0.005~0.1%、Nb:0.005~0.1%、V:0.005~0.3%、B:0.0005~0.004%、Ca:0.006%以下のうち1種または2種以上をさらに含むことができる。
【0029】
炭素(C):0.02~0.10%
炭素(C)は、本発明において、硬化能を確保する重要な元素である。また、炭素(C)は、本発明において、ベイニティックフェライト組織の形成に大きく影響を及ぼす元素でもある。したがって、炭素(C)は、このような効果を達成するために適切な範囲内で鋼中に含まれる必要があり、本発明は、炭素(C)含有量の下限を0.02%に制限することができる。但し、炭素(C)含有量が一定範囲を超える場合には、、鋼材の低温靭性が低下するため、本発明は、炭素(C)含有量の上限を0.10%に制限することが好ましい。したがって、本発明の炭素(C)含有量は、0.02~0.10%であることができる。さらに、溶接用構造物に提供される鋼材の場合には、、溶接性確保の側面で、炭素(C)含有量の範囲を0.03~0.08%に制限することがより好ましい。
【0030】
シリコン(Si):0.01~0.6%
シリコン(Si)は、脱酸剤として用いられる元素であり、強度向上及び靭性向上に寄与する元素である。したがって、本発明は、このような効果を得るために、シリコン(Si)含有量の下限を0.01%に制限することができる。シリコン(Si)含有量の下限は0.05%であることが好ましく、0.1%であることがより好ましい。但し、シリコン(Si)含有量が過度に添加される場合には、低温靭性及び溶接性の低下が懸念されるため、本発明は、シリコン(Si)含有量の上限を0.6%に制限することができる。シリコン(Si)含有量の上限は0.5%であることが好ましく、0.45%であることがより好ましい。
【0031】
マンガン(Mn):1.7~2.5%
マンガン(Mn)は、固溶強化によって強度向上に有用な元素であり、経済的に硬化能を高めることができる元素でもある。したがって、本発明は、このような効果を得るために、マンガン(Mn)含有量の下限を1.7%に制限することができる。マンガン(Mn)含有量の下限は1.72%であることが好ましく、1.75%であることがより好ましい。但し、マンガン(Mn)が過度に添加される場合には、過度の硬化能の増加により溶接部の靭性が大きく低下することがあるため、本発明は、マンガン(Mn)含有量の上限を2.5%に制限することができる。マンガン(Mn)含有量の上限は2.4%であることが好ましく、2.35%であることがより好ましい。
【0032】
アルミニウム(Al):0.005~0.5%
アルミニウム(Al)は、経済的に溶鋼を脱酸することができる代表的な脱酸剤であり、鋼材の強度向上に寄与する元素でもある。したがって、本発明は、このような効果を達成するためにアルミニウム(Al)含有量の下限を0.005%に制限することができる。アルミニウム(Al)含有量の下限は0.01%であることが好ましく、0.015%であることがより好ましい。但し、アルミニウム(Al)が過度に添加される場合には、連続鋳造時の連鋳ノズルの目詰まりを引き起こすことがあるため、本発明は、アルミニウム(Al)含有量の上限を0.5%に制限することができる。アルミニウム(Al)含有量の上限は0.3%であることが好ましく、0.1%であることがより好ましい。
【0033】
リン(P):0.02%以下
リン(P)は、強度向上及び耐食性向上に寄与する元素であるが、衝撃靭性を大きく阻害する虞があるため、可能な限りその含有量を低く維持することが好ましい。したがって、本発明のリン(P)含有量は0.02%以下であることが好ましく、0.15%以下であることがより好ましい。
【0034】
硫黄(S):0.01%以下
硫黄(S)は、MnSなどの非金属介在物を形成し、衝撃靭性を大きく阻害する元素であるため、可能な限りその含有量を低く維持することが好ましい。したがって、本発明は、硫黄(S)含有量の上限を0.01%に制限することができ、0.005%であることがより好ましい。但し、硫黄(S)は、製鋼工程で不可避に流入される不純物であることから、0.001%未満の水準に制御することは、経済的な側面で好ましくない。
【0035】
窒素(N):0.0015~0.015%
窒素(N)は、鋼材の強度向上に寄与する元素である。しかし、その添加量が過多の場合には、鋼材の靭性が大きく減少するために、本発明は、窒素(N)含有量の上限を0.015%に制限することができ、0.012%であることが好ましい。但し、窒素(N)は、製鋼工程で不可避に流入される不純物であることから、窒素(N)含有量を0.0015%未満の水準に制御することは、経済的な側面で好ましくない。
【0036】
ニッケル(Ni):0.01~2.0%
ニッケル(Ni)は、母材の強度及び靭性を同時に向上させることができるほぼ唯一の元素であって、本発明は、このような効果を達成するために、ニッケル(Ni)含有量の下限を0.01%に制限することができる。ニッケル(Ni)含有量の下限は0.03%であることが好ましく、0.05%であることがより好ましい。但し、ニッケル(Ni)は、高価の元素であることから、過度の添加は経済性の側面で好ましくなく、ニッケル(Ni)の添加量が過多の場合には、溶接性が劣化する虞があるため、本発明は、ニッケル(Ni)含有量の上限を2.0%に制限することができる。ニッケル(Ni)含有量の上限は1.5%であることが好ましく、1.2%であることがより好ましい。
【0037】
銅(Cu):0.01~1.0%
銅(Cu)は、母材の靭性の低下を最小限に抑えながらも強度向上に寄与する元素である。したがって、本発明は、このような効果を達成するため、銅(Cu)含有量の下限を0.01%に制限することができる。銅(Cu)含有量の下限は0.02%であることが好ましく、0.03%であることがより好ましい。但し、銅(Cu)の添加量が過多の場合には、最終製品の表面の品質が阻害される虞があるため、本発明は、銅(Cu)含有量の上限を1.0%に制限することができる。銅(Cu)含有量の上限は0.8%であることが好ましく、0.6%であることがより好ましい。
【0038】
クロム(Cr):0.05~1.0%
クロム(Cr)は、硬化能を増加させて強度の増加に効果的に寄与する元素であるため、本発明は、このような効果を達成するために、クロム(Cr)含有量の下限を0.05%に制限することができる。クロム(Cr)含有量の下限は0.06%であることが好ましい。但し、クロム(Cr)含有量が過多の場合には、溶接性が大きく低下する虞があるため、本発明は、クロム(Cr)含有量の上限を1.0%に制限することができる。クロム(Cr)含有量の上限は0.8%であることが好ましく、0.6%であることがより好ましい。
【0039】
モリブデン(Mo):0.01~1.0%
モリブデン(Mo)は、少量の添加だけでも硬化能を大きく向上させる元素であって、フェライトの生成を抑制し、それによって鋼材の強度を大きく向上させることができる。したがって、本発明は、このような効果を達成するために、モリブデン(Mo)含有量の下限を0.01%に制限することができる。モリブデン(Mo)含有量の下限は0.012%であることが好ましく、0.014%であることがより好ましい。但し、モリブデン(Mo)含有量が過多の場合には、溶接部の硬度を過度に増加させる虞があるため、本発明は、モリブデン(Mo)含有量の上限を1.0%に制限することができる。モリブデン(Mo)含有量の上限は0.7%であることが好ましく、0.5%であることがより好ましい。
【0040】
チタン(Ti):0.005~0.1%
チタン(Ti)は、再加熱時の結晶粒の成長を抑制し、低温靭性を大きく向上させる元素である。したがって、本発明は、このような効果を達成するためにチタン(Ti)含有量の下限を0.005%に制限することができる。チタン(Ti)含有量の下限は0.007%であることが好ましく、0.009%であることがより好ましい。但し、チタン(Ti)含有量が過度に添加される場合には、連鋳ノズルの目詰まりや中心部の晶出による低温靭性の減少などの問題を生じさせる虞があるため、本発明は、チタン(Ti)含有量の上限を0.1%に制限することができる。チタン(Ti)含有量の上限は0.08%であることが好ましく、0.06%であることがより好ましい。
【0041】
ニオブ(Nb):0.005~0.1%
ニオブ(Nb)は、TMCP鋼の製造において重要な役割を果たす元素の一つであり、炭化物または窒化物の形に析出し、母材及び溶接部の強度向上に大きく寄与する元素でもある。また、スラブの再加熱時に固溶されたニオブ(Nb)は、オーステナイトの再結晶を抑制し、フェライト及びベイナイトの変態を抑制して組織を微細化させるため、本発明のニオブ(Nb)含有量の下限は0.005%であることができる。ニオブ(Nb)含有量の下限は0.01%であることが好ましく、0.015%であることがより好ましい。但し、ニオブ(Nb)含有量が過多の場合には、粗大な析出物が生成され、鋼材の端部に脆性クラックを発生させるために、ニオブ(Nb)含有量の上限は0.1%に制限されることができる。ニオブ(Nb)含有量の上限は0.08%であることが好ましく、0.06%であることがより好ましい。
【0042】
バナジウム(V):0.005~0.3%
バナジウム(V)は、他の合金組成に比べて固溶される温度が低く、溶接熱影響部に析出され、溶接部の強度低下を防止することができる元素である。したがって、本発明は、このような効果を達成するために、バナジウム(V)含有量の下限を0.005%に制限することができる。バナジウム(V)含有量の下限は0.008%であることが好ましく、0.01%であることがより好ましい。但し、バナジウム(V)が過度に添加される場合には、鋼材の靭性の低下が懸念されるため、本発明は、バナジウム(V)含有量の上限を0.3%に制限することができる。バナジウム(V)含有量の上限は0.28%であることが好ましく、0.25%であることがより好ましい。
【0043】
ホウ素(B):0.0005~0.004%
ホウ素(B)は、低価の添加元素であるが、少量の添加でも硬化能を効果的に高めることができる有益な元素である。また、本発明におけるホウ素(B)は、粗圧延後の冷却において、低速の冷却条件でもベイナイトの形成に大きく寄与する元素であるため、本発明は、ホウ素(B)含有量の下限を0.0005%に制限することができる。ホウ素(B)含有量の下限は0.0008%であることが好ましく、0.001%であることがより好ましい。但し、ホウ素(B)が過度に添加される場合には、Fe23(CB)を形成して、却って硬化能を低下させ、低温靭性も大きく低下させるために、本発明は、ホウ素(B)含有量の上限を0.004%に制限することができる。ホウ素(B)含有量の上限は0.0035%であることが好ましく、0.003%であることがより好ましい。
【0044】
カルシウム(Ca):0.006%以下
カルシウム(Ca)は、MnSなどの非金属介在物の形状を制御し、低温靭性を向上させる元素として主に用いられる。但し、カルシウム(Ca)の過度の添加は、多量のCaO-CaSの形成及び結合による粗大な介在物の形成を誘発するために、鋼の清浄度の低下及び現場溶接性の低下などの問題が発生することがある。したがって、本発明は、カルシウム(Ca)含有量の上限を0.006%に制限することができ、0.004%であることがより好ましい。
【0045】
本発明は、上述した鋼組成以外に、残りはFe及び不可避不純物からなることができる。不可避不純物は、通常の鉄鋼製造工程で意図せず混入される虞があるため、これを全面排除することはできず、通常の鉄鋼製造分野の技術者であれば、その意味を容易に理解することができる。また、本発明は、上述した鋼組成以外の他の組成の添加を全面的に排除するものではない。
【0046】
本発明の一側面による冷間曲げ性に優れた高強度構造用鋼材は、その厚さが特に限定されるものではないが、10mm以上の厚さを有する構造用厚物鋼材であることが好ましく、20~100mmの厚さで備えられる構造用厚物鋼材であることがより好ましい。
【0047】
以下、本発明の微細組織についてより詳細に説明する。
【0048】
本発明の一側面による冷間曲げ性に優れた高強度構造用鋼材は、鋼材の厚さ方向に沿って微細組織的に区分される鋼材の表面側の表層部及び表層部間に位置する中心部に区分されることができる。表層部は、鋼材の上部側の上部表層部及び鋼材の下部側の下部表層部に区分されることができ、上部表層部及び下部表層部は、鋼材の厚さ(t)に対して3~10%水準の厚さでそれぞれ備えられることができる。
【0049】
表層部は、焼戻しベイナイトを基地組織として含むことができ、フレッシュマルテンサイト及びオーステナイトをそれぞれ第2組織及び残部組織として含むことができる。表層部内で焼戻しベイナイト及びフレッシュマルテンサイトが占める分率は95面積%以上であることができ、表層部内でオーステナイト組織が占める分率は5面積%以下であることができる。表層部内でオーステナイト組織が占める分率は、0面積%であることもできる。
【0050】
中心部はベイニティックフェライトを基地組織として含むことができ、中心部内でベイニティックフェライトが占める分率は95面積%以上であることができる。目的とする強度の確保側面でのベイニティックフェライトの分率は、98面積%以上であることがより好ましい。
【0051】
表層部の微細組織の結晶粒の平均粒径は、3μm以下(0μmを除く)であることができ、中心部の微細組織の結晶粒の平均粒径は、5~20μmであることができる。ここで、表層部の微細組織の結晶粒の平均粒径は、焼戻しベイナイト、フレッシュマルテンサイト及びオーステナイトのそれぞれの結晶粒の平均粒径が3μm以下(0μmを除く)である場合を意味することができ、中心部の微細組織の結晶粒の平均粒径は、ベイニティックフェライトの結晶粒の平均粒径が5~20μmである場合を意味することができる。より好ましい中心部の微細組織の結晶粒の平均粒径は10~20μmであることができる。
【0052】
図2は、本発明の一実施例に係る鋼材の試験片の断面を撮影した写真である。図2に示すように、本発明の一実施例に係る鋼材試験片は、上部及び下部の表面側の上部及び下部表層部(A、A’)と、上部及び下部表層部(A、A’)間の中心部(B)に区分され、上部及び下部表層部(A、A’)と中心部(B)の境界は、目視で確認できる程度に明確に形成されたことを確認することができる。すなわち、本発明の一実施例に係る鋼材の上部及び下部表層部(A、A’)と中心部(B)は、微細組織的に明確に区分されることを確認することができる。
【0053】
図3は、図2の試験片の上部表層部(A)及び中心部(B)の微細組織を観察した写真であって、図3の(a)及び(b)は、試験片の上部表層部(A)を走査電子顕微鏡(SEM)で観察した写真及び試験片の上部表層部(A)に対してEBSDを用いて撮影した高傾角粒界マップであり、図3の(c)及び(d)は、試験片の中心部(B)を走査電子顕微鏡(SEM)で観察した写真及び試験片の上部表層部(A)に対してEBSDを用いて撮影した高傾角粒界マップである。図3の(a)~(d)に示すように、上部表層部(A)は、平均結晶粒径が約3μm以下である焼戻しベイナイト及びフレッシュマルテンサイトを含むのに対し、中心部(B)は、平均結晶粒径が約15μmであるベイニティックフェライトを含むことを確認することができる。
【0054】
本発明の一側面による冷間曲げ性に優れた高強度構造用鋼材は、微細組織的に区分される表層部及び中心部を備え、中心部はベイニティックフェライトを基地組織として含むため、引張強度800MPa以上の高強度特性を効果的に確保することができる。
【0055】
また、本発明の一側面による冷間曲げ性に優れた高強度構造用鋼材は、微細組織的に区分される表層部及び中心部を備え、比較的細粒化した表層部は、基地組織として焼戻しベイナイト及び第2組織としてフレッシュマルテンサイトを含み、45%以上の高傾角粒界の分率を確保することで、優れた冷間曲げ性を確保することができる。
【0056】
冷間曲げ性に対する評価は、次の冷間曲げ試験を介して評価することができる。図4は、冷間曲げ試験の一例を概略的に示した図面である。図4に示すように、冷間曲げ治具100の先端部は、鋼材110の表面に圧着されるように提供され、鋼材110を180°冷間曲げして、鋼材110の冷間曲げ加工部側の表面におけるクラック発生有無に基づいて、鋼材の冷間曲げ性を評価することができる。つまり、様々な先端部の曲率半径(r)を有する冷間曲げ治具100を利用して、同一組成及び製造方法で製造される複数の試験片について、180°冷間曲げを実施し、順に先端部の曲率半径(r)が減少するように、冷間曲げを実施して試験片の加工部側の表面におけるクラック発生有無に基づいて冷間曲げ性を評価する。このとき、クラックが発生する時点で、試験片の厚さ(t)に対する冷間曲げ治具の先端部の曲率半径(r)の比率である臨界曲率比(r/t)を算出し、算出された臨界曲率比(r/t)が低いほど過酷な冷間曲げ条件下でも鋼材の表面クラック発生が積極的に抑制されるものと解釈されることができる。したがって、本発明の一側面による冷間曲げ性に優れた高強度構造用鋼材は、1.0以下の臨界曲率比(r/t)を備えるため、優れた冷間曲げ性を確保することができる。臨界曲率比(r/t)は0.5以下であることが好ましく、0.4以下であることがより好ましい。
【0057】
以下、本発明の製造方法についてより詳細に説明する。
【0058】
スラブ再加熱
本発明の製造方法に提供されるスラブは、上述した鋼材の鋼組成と対応する鋼組成として備えるため、スラブの鋼組成に関する説明は、上述した鋼材の鋼組成に関する説明に代える。
【0059】
上述した鋼組成に製造されたスラブを1050~1250℃の温度範囲で再加熱することができる。鋳造中に形成されたTi及びNbの炭窒化物を十分に固溶させるためにスラブの再加熱温度の下限は1050℃に制限されることができる。但し、再加熱温度が過度に高い場合には、オーステナイトが粗大になる虞があり、粗圧延後に粗圧延バーの表層部の温度が1次冷却開始温度に到達するまでに過度の時間がかかるため、再加熱温度の上限を1250℃に制限することができる。
【0060】
粗圧延
スラブの形状を調整し、デンドライトなどの鋳造組織を破壊するために再加熱した後に、粗圧延を行うことができる。微細組織の制御のためにオーステナイトの再結晶が停止する温度(Tnr、℃)以上で粗圧延を実施することが好ましく、1次冷却の冷却開始温度を考慮して、粗圧延温度の上限は1150℃に制限することが好ましい。したがって、本発明の粗圧延温度はTnr~1150℃の範囲であることができる。また、本発明の粗圧延は、累積圧下率20~70%の条件で実施されることができる。
【0061】
1次冷却
粗圧延終了後、粗圧延バーの表層部にラスベイナイトを形成するために1次冷却を行うことができる。1次冷却の好ましい冷却速度は、5℃/s以上であることができ、1次冷却の好ましい冷却到達温度は、Ms~Bs℃の温度範囲であることができる。1次冷却の冷却速度が一定水準未満の場合には、ラスベイナイト組織ではなく、ポリゴナルフェライトまたはグラニュラーベイナイト組織が表層部に形成されるため、本発明は、1次冷却の冷却速度を5℃/s以上に制限することができる。また、1次冷却の冷却方式は、特に限定されるものではないが、冷却効率の側面で水冷がより好ましい。一方、1次冷却の冷却開始温度が過度に高い場合には、1次冷却によって表層部に形成されるラスベイナイト組織が粗大になる虞があるため、1次冷却の開始温度は、Ae3+100℃以下の範囲に制限することが好ましい。
【0062】
復熱処理の効果を最大化するために、本発明の1次冷却は粗圧延の直後に実施されることが好ましい。図5は、本発明の製造方法を実現するための設備1の一例を概略的に示した図面である。スラブ5の移動経路に沿って、粗圧延装置10、冷却装置20、復熱処理台30、及び仕上げ圧延装置40が順に配置され、粗圧延装置10及び仕上げ圧延装置40は、それぞれ粗圧延ローラ12a、12b及び仕上げ圧延ローラ42a、42bを備えてスラブ5及び粗圧延バー5’の圧延を行う。冷却装置20は、冷却水を噴射可能なバークーラー(Bar Cooler)25及び粗圧延バー5’の移動を案内する補助ローラ22を備えることができる。バークーラー25は、粗圧延機10の直後方に配置されることが復熱処理効果の最大化の側面でより好ましい。冷却装置20の後方には、復熱処理台30が配置され、粗圧延バー5’は補助ローラ32に沿って移動しながら復熱処理されることができる。復熱処理終了した粗圧延バー5’は、仕上げ圧延装置40に移動し、仕上げ圧延することができる。以上では、図5をもとに、本発明の一側面による冷間曲げ性に優れた高強度構造用鋼材を製造するための設備を説明したが、このような設備1は、本発明を実施するための設備の一例を開示したものに過ぎず、本発明が必ずしも図5に示された設備1によって製造されたものであると限定解釈されてはならない。
【0063】
復熱処理
1次冷却の実施後、粗圧延バーの中心部側の高熱によって粗圧延バーの表層部側が再加熱されるように維持する復熱処理が実施されることができる。復熱処理は粗圧延バーの表層部の温度が(Ac1+40℃)~(Ac3-5℃)の温度範囲に到達するまで実施されることができる。復熱処理により表層部のラスベイナイトは、微細な焼戻しベイナイト及びフレッシュマルテンサイト組織に変形することができ、表層部のラスベイナイトのうち一部は、オーステナイトに逆変態することができる。
【0064】
図6は、本発明の復熱処理による表層部の微細組織の変化を概略的に示す概念図である。
【0065】
図6の(a)のように、1次冷却直後の表層部の微細組織は、ラスベイナイト組織に備えられることができる。図6の(b)に示すように、復熱処理が進むことによって表層部のラスベイナイトは焼戻しベイナイト組織に変形し、表層部のラスベイナイトのうち一部は、オーステナイトに逆変態することができる。復熱処理後の仕上げ圧延及び第2冷却を経ることによって、図6の(c)に示すように、焼戻しベイナイト及びフレッシュマルテンサイトの2相混合組織が形成されることができ、一部オーステナイト組織が残留することができる。
【0066】
図7は、復熱処理到達温度と表層部の高傾角粒界の分率及び臨界曲率比(r/t)との間の関係を実験的に測定して示したグラフである。図7の試験において、本発明の合金組成及び製造方法を満たす条件によって試験片を製作したが、復熱処理時の復熱処理到達温度のみを変えて実験を行った。このとき、高傾角粒界の分率は、EBSDを用いて、15度以上の方位差を有する高傾角粒界の分率を測定して評価し、臨界曲率比(r/t)は、上述の方法によって評価した。図7に示すように、表層部の到達温度が(Ac1+40℃)未満の場合は、15度以上の高傾角粒界が十分に形成されず、臨界曲率比(r/t)が1.0を超えることが確認できる。また、表層部の到達温度が(Ac3-5℃)を超える場合には、15度以上の高傾角粒界が十分に形成されず、臨界曲率比(r/t)が1.0を超えることを確認することができる。したがって、本発明は、復熱処理時の表層部の到達温度を(Ac1+40℃)~(Ac3-5℃)の温度範囲に制限することにより、表層部の組織の微細化、15度以上の高傾角粒界の分率45%以上、臨界曲率比(r/t)1.0以下を効果的に確保することができる。
【0067】
仕上げ圧延
粗圧延バーのオーステナイト組織に不均一微細組織を導入するために、仕上げ圧延を実施する。仕上げ圧延は、ベイナイト変態開始温度(Bs)以上、オーステナイト再結晶温度(Tnr)以下の温度区間で実施することができる。
【0068】
2次冷却
仕上げ圧延終了後の鋼材の中心部にベイニティックフェライトを形成するために2次冷却を行うことができる。2次冷却の好ましい冷却速度は、5℃/s以上であることができ、2次冷却の好ましい冷却到達温度は、Bf℃以下であることができる。2次冷却の冷却方式も特に限定されるものではないが、冷却効率の側面で水冷が好ましい。2次冷却の冷却到達温度が一定範囲を超えるか、冷却速度が一定水準に達していない場合には、鋼材の中心部にグラニュラーフェライトが形成されて強度の低下が懸念されるため、本発明の2次冷却の冷却到達温度をBf℃以下に制限し、冷却速度を5℃/s以上に制限することができる。
【0069】
以下、具体的な実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。
【実施例
【0070】
下記表1の鋼組成を有するスラブを製造し、表1の鋼組成をもとに変態温度を計算して、表2に示した。下記表1においてホウ素(B)、窒素(N)、及びカルシウム(Ca)の含有量は、ppmを基準とする。
【0071】
【表1】
【0072】
【表2】
【0073】
上記表1の組成を有するスラブに対して下記表3の条件により粗圧延、1次冷却及び復熱処理を実施し、表4の条件により仕上げ圧延及び2次冷却を実施した。表3及び表4の条件により製造された鋼材に対する評価結果は、下記表5に示した。
【0074】
それぞれの鋼材に対して表層部の平均結晶粒径、表層部の高傾角粒界の分率、機械的物性及び臨界曲率比(r/t)を測定した。これらのうち、結晶粒径及び高傾角粒界の分率は、EBSD(Electron Back Scattering Diffraction)法によって500m×500mの領域を0.5mステップサイズで測定し、これをもとに隣接する粒子との結晶方位差が15度以上である粒界マップを作成し、平均結晶粒径及び高傾角粒界の分率を評価した。降伏強度(YS)及び引張強度(TS)は、3つの試験片を板幅方向に引張試験を行い、平均値を求めて評価し、臨界曲率比(r/t)は、上述した冷間曲げ試験によって評価した。
【0075】
【表3】
【0076】
【表4】
【0077】
【表5】
【0078】
鋼種A、B、C、D、及びEは、本発明の合金組成を満たす鋼材である。このうち、本発明の工程条件を満たすA-1、A-2、A-3、B-1、B-2、B-3、C-1、C-2、D-1、D-2、E-1、E-2は、表層部の高傾角粒界の分率が45%以上であり、表層部の平均結晶粒大きさが3μm以下であり、引張強度800MPa以上であり、臨界曲率比(r/t)が1.0以下を満たすことが確認できる。
【0079】
本発明の合金組成は満たすものの、復熱処理温度が本発明の範囲を超えるA-4、B-4、C-3、D-3の場合には、表層部の高傾角粒界の分率が45%未満であり、表層部の平均結晶粒大きさが3μmを超え、臨界曲率比(r/t)が1.0を超えることが確認できる。これは、鋼材表層部が二相域熱処理温度区間よりも高い温度で加熱されることで、表層部の組織のすべてがオーステナイトに逆変態した結果、表層部の最終組織がラスベイナイトに形成されたためである。
【0080】
図8の(a)及び(b)は、B-1に対して0.3の曲率比(r/t)の条件で冷却曲げを行った後の断面写真及び表層部の拡大光学写真であり、図8の(c)及び(d)は、B-4に対して0.3の曲率比(r/t)の条件で冷却曲げを行った後の断面写真及び表層部の拡大光学写真である。図8の(a)~(d)に示したように、本発明の合金組成及び工程条件を満たすB-1の場合には、加工部側の表面にクラックが発生していないのに対し、本発明の工程条件を満たしていないB-3の場合には、加工部側の表面にクラック(C)が発生したことが確認できる。
【0081】
本発明の合金組成は満たすものの、復熱処理温度が本発明の範囲に達しないA-5、B-5、C-4、D-4の場合には、表層部の高傾角粒界の分率が45%未満であり、表層部の平均結晶粒大きさが3μmを超え、臨界曲率比(r/t)が1.0を超えることが確認できる。これは、1次冷却時の鋼材の表層部が過度に冷却されて表層部内の逆変態オーステナイトが十分に形成されていないためである。
【0082】
本発明の合金組成は満たすものの、2次冷却の冷却終了温度が本発明の範囲を超えるA-6、B-5及びC-5の場合、または2次冷却の冷却速度が本発明の範囲を満たしていないE-3の場合には、引張強度が800MPa未満の水準で、目的とする高強度特性を確保することができないことが確認できる。さらに、各試験片の中心部の微細組織を観察した結果、本発明の合金組成及び工程条件を満たすA-1、A-2、A-3、B-1、B-2、B-3、C-1、C-2、D-1、D-2、E-1、E-2の場合には、中心部にベイニティックフェライトが形成されたのに対し、本発明の2次冷却条件を満たしていないA-6、B-5、C-5及びE-3の場合には、グラニュラーフェライトが基地組織に形成されたことが確認できる。すなわち、本発明が目的とする高強度特性を確保するためには、中心部の基地組織をベイニティックフェライトで形成することが有効であることが確認できる。
【0083】
本発明の合金組成を満たしていないF-1、G-1、H-1及びI-1の場合には、本発明の工程条件を満たしているにも関わらず、引張強度が800MPa未満の水準であり、本発明が目的とする高強度特性を確保できなかったことが確認できる。
【0084】
したがって、本発明の合金組成及び工程条件を満たす実施例の場合には、引張強度800MPa以上の高強度特性を確保するとともに、臨界曲率比(r/t)1.0以下の優れた冷間曲げ性を確保することが分かる。
【0085】
以上、実施例を挙げて本発明を詳細に説明したが、これと異なる形態の実施例も可能である。よって、以下に記載された請求項の技術的思想及び範囲は実施例に限定されない。
【符号の説明】
【0086】
1 鋼材の製造設備
10 粗圧延装置
12a、12b 粗圧延ローラ
20 冷却装置
22 補助ローラ
25 バークーラー
30 復熱処理台
32 補助ローラ
40 仕上げ圧延装置
42a、42b 仕上げ圧延ローラ
100 冷間曲げ治具
110 鋼材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【国際調査報告】