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特表2022-514019脆性亀裂開始抵抗性に優れた構造用極厚物鋼材及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-09
(54)【発明の名称】脆性亀裂開始抵抗性に優れた構造用極厚物鋼材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20220202BHJP
   C22C 38/16 20060101ALI20220202BHJP
   C21D 8/02 20060101ALI20220202BHJP
【FI】
C22C38/00 301A
C22C38/16
C21D8/02 B
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021535065
(86)(22)【出願日】2019-12-02
(85)【翻訳文提出日】2021-08-04
(86)【国際出願番号】 KR2019016840
(87)【国際公開番号】W WO2020130417
(87)【国際公開日】2020-06-25
(31)【優先権主張番号】10-2018-0165448
(32)【優先日】2018-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】特許業務法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イ,ハク-チョル
【テーマコード(参考)】
4K032
【Fターム(参考)】
4K032AA04
4K032AA14
4K032AA16
4K032AA17
4K032AA22
4K032AA23
4K032AA24
4K032AA27
4K032AA29
4K032AA35
4K032BA01
4K032CA02
4K032CB01
4K032CB02
4K032CC02
4K032CC03
4K032CD02
4K032CD03
(57)【要約】
【課題】脆性亀裂開始抵抗性に優れた構造用極厚物鋼材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る脆性亀裂開始抵抗性に優れた構造用極厚物鋼材及びその製造方法は、重量%で、C:0.03~0.08%、Mn:1.6~2.2%、Ni:0.6~1.3%、Nb:0.005~0.03%、Ti:0.005~0.02%、Cu:0.1~0.4%、P:100ppm以下、S:40ppm以下、H:1.5ppm以下、残部はFe及びその他の不可避不純物からなり、微細組織は、アシキュラーフェライト及びグラニュラーベイナイトの合計が面積分率で80%以上であり、鋼材の厚さ中心を基準に±1mmの領域で単位面積1mm当たり30μm以上の大きさを有するクラックの総長さの合計が130μm以下であり、降伏強度が500MPa以上であることを特徴とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.03~0.08%、Mn:1.6~2.2%、Ni:0.6~1.3%、Nb:0.005~0.03%、Ti:0.005~0.02%、Cu:0.1~0.4%、P:100ppm以下、S:40ppm以下、H:1.5ppm以下、残部はFe及びその他の不可避不純物からなり、
微細組織は、アシキュラーフェライト及びグラニュラーベイナイトの合計が面積分率で80%以上であり、
鋼材の厚さ中心を基準に±1mmの領域で単位面積1mm当たり30μm以上の大きさを有するクラックの総長さの合計が130μm以下であり、
降伏強度が500MPa以上であることを特徴とする脆性亀裂開始抵抗性に優れた構造用極厚物鋼材。
【請求項2】
前記微細組織の残部組織は、上部ベイナイト、島状マルテンサイト(MA)及び擬似パーライトのうち1種以上であることを特徴とする請求項1に記載の脆性亀裂開始抵抗性に優れた構造用極厚物鋼材。
【請求項3】
前記鋼材は-10℃で母材CTOD平均値が0.4mm以上であり、中心部の衝撃遷移温度が-40度以下であることを特徴とする請求項1に記載の脆性亀裂開始抵抗性に優れた構造用極厚物鋼材。
【請求項4】
重量%で、C:0.03~0.08%、Mn:1.6~2.2%、Ni:0.6~1.3%、Nb:0.005~0.03%、Ti:0.005~0.02%、Cu:0.1~0.4%、P:100ppm以下、S:40ppm以下、H:1.5ppm以下、残部はFe及びその他の不可避不純物からなる溶鋼を用意する段階、
前記溶鋼を連続鋳造して鋼スラブを得る段階、
前記鋼スラブを1000~1150℃の温度で再加熱する段階、
前記再加熱された鋼スラブを900~1150℃の温度で粗圧延する段階、
前記粗圧延された鋼スラブを1/4t(t:鋼材厚さ)を基準にAr3以上の温度で仕上げ圧延して熱延鋼材を得る段階、及び
前記熱延鋼材を3℃/s以上の冷却速度で300~600℃の温度まで冷却する段階を含み、
前記溶鋼を用意する段階は、溶鋼を15~40分間RH精錬することを含むことを特徴とする脆性亀裂開始抵抗性に優れた構造用極厚物鋼材の製造方法。
【請求項5】
前記粗圧延時の総累積圧下率は30%以上であることを特徴とする請求項4に記載の脆性亀裂開始抵抗性に優れた構造用極厚物鋼材の製造方法。
【請求項6】
前記仕上げ圧延時の総累積圧下率は40%以上であることを特徴とする請求項4に記載の脆性亀裂開始抵抗性に優れた構造用極厚物鋼材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脆性亀裂開始抵抗性に優れた構造用極厚物鋼材及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、国内外の船舶などの構造物の設計において、極厚物、高強度鋼材の開発が求められている。一方、構造物の設計時に高強度鋼を用いる場合には、構造物の軽量化による経済的利益とともに、板の厚さを薄くすることができるため、加工及び溶接作業の容易性を同時に確保することができる。
【0003】
一般的に、高強度鋼を極厚物材で製造する場合は、総圧下率の低下に伴い、組織全体に十分な変形が行われないため、組織が粗大になり、強度確保のための急速冷却時に厚い厚さによって、表面部-中心部間の冷却速度の差が発生するようになり、これによって表面部にベイナイトなどの粗大な低温変態相が生成されて靭性の確保に困難がある。
【0004】
特に、構造物の安定性を示す脆性亀裂開始抵抗性の場合には、従来は海洋構造物のみが保障される傾向にあったが、最近では、超大型船舶などの造船分野の主要構造物に対しても保証が要求されるケースが増加している。しかし、粗大な低温変態相が生成されたり、中心部に不均質な欠陥が存在する場合、脆性亀裂開始抵抗性が非常に低下する現象が発生するため、極厚物高強度鋼材の脆性亀裂開始抵抗性を向上させることが非常に困難な状況である。
【0005】
また、脆性亀裂開始抵抗性の場合は、一般的に溶接部の物性を保証することに対する研究がメインで行われてきたが、最近では母材自体の脆性亀裂開始抵抗性に対する保証が増えている。しかし、極厚物材の生産時、多量の合金元素の添加及び圧下比の減少によって中心部に生成される欠陥を除去することが非常に難しく、このような残存欠陥によって母材自体の脆性亀裂開始抵抗性を保証することが非常に困難な状況であり、このような残存欠陥は、溶接部の脆性亀裂開始抵抗性も低下させるようになる。
【0006】
従来の降伏強度500MPa以上の極厚物高強度鋼材の場合には、溶接部の脆性亀裂開始抵抗性を向上させるために、特許文献1のようにTiNを用いた溶接熱影響部の微細組織を微細化したり、特許文献2のように酸化物冶金(oxide metallurgy)を利用して溶接熱影響部にフェライトを形成させたり、或いは、MA相を低減させるための低合金成分を設計して適用しようと努力したが、これは溶接部の脆性亀裂開始抵抗性の向上には、一部役に立つが、脆性亀裂開始抵抗性の低下に主な影響を与える残存欠陥に対する根本的な対策とは言えないため、新たなアプローチが必要な状況である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010-095781号公報
【特許文献2】特開2009-138255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、脆性亀裂開始抵抗性に優れた構造用極厚物鋼材及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の脆性亀裂開始抵抗性に優れた構造用極厚物鋼材は、重量%で、C:0.03~0.08%、Mn:1.6~2.2%、Ni:0.6~1.3%、Nb:0.005~0.03%、Ti:0.005~0.02%、Cu:0.1~0.4%、P:100ppm以下、S:40ppm以下、H:1.5ppm以下、残部はFe及びその他の不可避不純物からなり、微細組織は、アシキュラーフェライト及びグラニュラーベイナイトの合計が面積分率で80%以上であり、鋼材の厚さ中心を基準に±1mmの領域で単位面積1mm当たり30μm以上の大きさを有するクラックの総長さの合計が130μm以下であり、降伏強度が500MPa以上であることを特徴とする。
【0010】
本発明の脆性亀裂開始抵抗性に優れた構造用極厚物鋼材の製造方法は、重量%で、C:0.03~0.08%、Mn:1.6~2.2%、Ni:0.6~1.3%、Nb:0.005~0.03%、Ti:0.005~0.02%、Cu:0.1~0.4%、P:100ppm以下、S:40ppm以下、H:1.5ppm以下、残部はFe及びその他の不可避不純物からなる溶鋼を用意する段階、上記溶鋼を連続鋳造して鋼スラブを得る段階、上記鋼スラブを1000~1150℃の温度で再加熱する段階、上記再加熱された鋼スラブを900~1150℃の温度で粗圧延する段階、上記粗圧延された鋼スラブを1/4t(t:鋼材厚さ)を基準にAr3以上の温度で仕上げ圧延して熱延鋼材を得る段階、及び上記熱延鋼材を3℃/s以上の冷却速度で300~600℃の温度まで冷却する段階を含み、上記溶鋼を用意する段階は、溶鋼を15~40分間RH精錬することを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、鋼材の中心部の欠陥を効果的に低減させ、脆性亀裂開始抵抗性に優れた構造用極厚物鋼材及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態に係る脆性亀裂開始抵抗性に優れた構造用極厚物鋼材について説明する。まず、本発明の合金組成について説明する。但し、下記で説明される合金組成の単位は、特に断りのない限り、重量%を意味する。
【0013】
C:0.03~0.08%
Cは、本発明において、基本的な強度を確保するために最も重要な元素であるため、適切な範囲内で鋼中に含有される必要がある。上記C含有量が0.08%を超えると、母材及び溶接熱影響部に大量のMA相及び低温変態相が生成され、靭性が低下し、0.03%未満になると、強度の低下を招くため、上記C含有量は、0.03~0.08%の範囲を有することが好ましい。上記C含有量の下限は、0.035%であることがより好ましく、0.037%であることがさらに好ましく、0.04%であることが最も好ましい。上記C含有量の上限は、0.075%であることがより好ましく、0.07%であることがさらに好ましく、0.065%であることが最も好ましい。
【0014】
Mn:1.6~2.2%
Mnは、固溶強化により強度を向上させ、低温変態相が生成されるように硬化能を向上させる有用な元素であるため、本発明が得ようとする500MPa以上の降伏強度を満たすためには、1.6%以上添加される必要がある。しかし、2.2%を超える場合には、過度の硬化能の増加により、上部ベイナイト及びマルテンサイトの生成を促進し、衝撃靭性及び脆性亀裂開始抵抗性を大きく低下させるため、上記Mn含有量は、1.6~2.2%の範囲を有することが好ましい。上記Mn含有量の下限は、1.65%であることがより好ましく、1.7%であることがさらに好ましく、1.8%であることが最も好ましい。上記Mn含有量の上限は、2.15%であることがより好ましく、2.1%であることがさらに好ましく、2.05%であることが最も好ましい。
【0015】
Ni:0.6~1.3%
Niは、低温で転位の交差すべり(cross slip)を容易にして衝撃靭性及び硬化能を向上させて強度を向上させるために重要な元素であって、500MPa以上の降伏強度を有する高強度鋼における衝撃靭性及び脆性亀裂開始抵抗性を向上させるためには、0.6%以上添加されることが好ましい。しかし、1.3%を超える場合には、硬化能が過度に上昇し、低温変態相が生成されるにつれ、靭性を低下させる問題があり、製造コストを上昇させる虞もある。したがって、上記Ni含有量は、0.6~1.3%の範囲を有することが好ましい。上記Ni含有量の下限は、0.65%であることがより好ましく、0.7%であることがさらに好ましく、0.75%であることが最も好ましい。上記Ni含有量の上限は、1.25%であることがより好ましく、1.2%であることがさらに好ましく、1.15%であることが最も好ましい。
【0016】
Nb:0.005~0.03%
Nbは、NbCまたはNbCNの形態で析出し、母材の強度を向上させる。また、高温で再加熱時に固溶されるNbは、圧延時にNbCの形態で非常に微細に析出されてオーステナイトの再結晶を抑制して組織を微細化させる効果がある。上記効果のためには、Nbが0.005%以上添加されることが好ましいが、0.03%を超える場合には、鋼材の端部に脆性クラックを引き起こし、母材に多量のMA相を生成させて脆性亀裂開始抵抗性を低下させることができる。したがって、上記Nb含有量は、0.005~0.03%の範囲を有することが好ましい。上記Nb含有量の下限は、0.008%であることがより好ましく、0.01%であることがさらに好ましく、0.012%であることが最も好ましい。上記Nb含有量の上限は、0.027%であることがより好ましく、0.025%であることがさらに好ましく、0.023%であることが最も好ましい。
【0017】
Ti:0.005~0.02%
Tiは、再加熱時にTiNに析出して母材及び溶接熱影響部の結晶粒の成長を抑制し、低温靭性を大きく向上させる。上記効果を確保するためには、0.005%以上添加されることが好ましい。しかし、0.02%を超えて添加される場合には、連鋳ノズルの目詰まりや中心部の晶出による低温靭性の減少が誘発されることがある。したがって、上記Ti含有量は、0.005~0.02%の範囲を有することが好ましい。上記Ti含有量の下限は、0.007%であることがより好ましく、0.08%であることがさらに好ましく、0.01%であることが最も好ましい。上記Ti含有量の上限は、0.018%であることがより好ましく、0.016%であることがさらに好ましく、0.014%であることが最も好ましい。
【0018】
Cu:0.1~0.4%
Cuは、硬化能を向上させて固溶強化を起こし、鋼材の強度を向上させるために主要な元素であり、鋼材に焼戻しを適用する場合は、イプシロンCu析出物の生成を介して降伏強度を上げるために主要な元素であるため、0.1%以上添加されることが好ましい。しかし、0.4%を超える場合には、製鋼工程で高温脆性(hot shortness)によるスラブの割れを発生させることがあるため、上記Cu含有量は、0.1~0.4%の範囲を有することが好ましい。上記Cu含有量の下限は、0.12%であることがより好ましく、0.15%であることがさらに好ましく、0.18%であることが最も好ましい。上記Cu含有量の上限は、0.38%であることがより好ましく、0.35%であることがさらに好ましく、0.32%であることが最も好ましい。
【0019】
P:100ppm以下
Pは、結晶粒界に脆性を誘発したり、粗大な介在物を形成させて脆性を誘発したりする元素であって、脆性亀裂伝播抵抗性を向上させるために、100ppm以下に制御することが好ましい。上記P含有量は、90ppm以下であることがより好ましく、80ppm以下であることがさらに好ましく、60ppm以下であることが最も好ましい。
【0020】
S:40ppm以下
Sは、Pと同様に結晶粒界に脆性を誘発したり、粗大な介在物を形成させて脆性を誘発したりする元素であって、脆性亀裂伝播抵抗性を向上させるために、40ppm以下に制御することが好ましい。上記S含有量は、30ppm以下であることがより好ましく、20ppm以下であることがさらに好ましく、10ppm以下であることが最も好ましい。
【0021】
H:1.5ppm以下
Hは、多量存在する場合は、冷却終了後に介在物などに集積されてHIC(Hydrogen Induced Cracking)を誘発し、微細クラックを生成させる元素であって、脆性亀裂開始抵抗性を向上させるためには、1.5ppm以下に制御することが好ましい。上記H含有量は、1.3ppm以下であることがより好ましく、1.1ppm以下であることがさらに好ましく、0.9ppm以下であることが最も好ましい。
【0022】
本発明の他の成分は、鉄(Fe)である。但し、通常の製造過程では、原料や周囲環境から意図されない不純物が不可避に混入することがあるため、これを排除することはできない。これらの不純物は、通常の製造過程の技術者であれば、誰でも分かるものであるため、そのすべての内容を特に本明細書に記載しない。
【0023】
本発明の極厚物鋼材は、微細組織がアシキュラーフェライト及びグラニュラーベイナイトの合計が面積分率で80%以上であることが好ましい。このように、本発明では、アシキュラーフェライトとグラニュラーベイナイトの混合組織を主組織として含むことにより、高強度を確保するとともに、アシキュラーフェライトが先に核生成されるようにすることで、ベイナイト相の粒度粗大化を防止するようにして高い靭性を同時に確保することができる。上記アシキュラーフェライト及びグラニュラーベイナイトの合計が80面積%未満の場合には、上記効果が十分に得られない。したがって、上記アシキュラーフェライト及びグラニュラーベイナイトの合計は80面積%以上であることが好ましく、85面積%以上であることがより好ましく、90面積%以上であることがさらに好ましく、95面積%以上であることが最も好ましい。一方、本発明の極厚物鋼材の残部微細組織は、上部ベイナイト、島状マルテンサイト(MA)及び擬似パーライトのうち1種以上であることができる。本発明では、上記残部微細組織が少なく形成されるほど好ましい。ここで、擬似パーライトとは、ラメラ構造が壊れて微細な大きさを有するパーライト組織を意味する。
【0024】
本発明の極厚物鋼材は、厚さ中心を基準に±1mmの領域で単位面積1mm当たり30μm以上の大きさを有するクラックの総長さの合計が130μm以下であることが好ましい。このように鋼材の中心部に生成される欠陥を抑制することにより、母材の脆性亀裂開始抵抗性を向上させることができる。上記クラックの総長さの合計は、110μm以下であることがより好ましく、100μm以下であることがさらに好ましく、90μm以下であることが最も好ましい。
【0025】
本発明が提供する極厚物鋼材は、降伏強度が500MPa以上であることができる。また、-10℃での母材CTOD平均値が0.4mm以上であり、中心部の衝撃遷移温度が-40度以下であることができる。本発明の極厚物鋼材は、上記のように優れた降伏強度及び脆性亀裂開始抵抗性を確保することで構造用鋼材として好ましく用いることができる。
【0026】
以下、本発明の一実施形態に係る脆性亀裂開始抵抗性に優れた構造用極厚物鋼材の製造方法について説明する。
【0027】
まず、上述した合金組成を有する溶鋼を用意する。上記溶鋼を用意する際には、溶鋼を15分以上RH精錬することで、H含有量を1.5ppm以下に制御することができる。上記RH精錬時間が15分未満の場合には、Hを十分に低減させ難く、脆性亀裂開始抵抗性を向上させることが困難である。一方、40分を超える場合には、H低減効果に比べて経済的・費用的の側面から不利な欠点がある。したがって、上記RH精錬時間は15~40分であることが好ましい。上記RH精錬時間の下限は、18分であることがより好ましく、20分であることがさらに好ましく、25分であることが最も好ましい。上記RH精錬時間の上限は、38分であることがより好ましく、36分であることがさらに好ましく、34分であることが最も好ましい。
【0028】
以後、上記溶鋼を連続鋳造して鋼スラブを得る。上記連続鋳造は、当該技術分野で通常的に利用されるすべての方法を適用することができる。
【0029】
上記鋼スラブを1000~1150℃の温度で再加熱する。上記再加熱温度は1000℃以上であることが好ましいが、これは鋳造中に形成されたTi及び/またはNbの炭窒化物を固溶させるためである。但し、過度に高い温度で再加熱する場合には、オーステナイトが粗大になる虞があるため、上記再加熱温度は1150℃以下であることがよい。したがって、上記再加熱温度は1000~1150℃であることが好ましい。上記再加熱温度の下限は、1010℃であることがより好ましく、1030℃であることがさらに好ましく、1050℃であることが最も好ましい。上記再加熱温度の上限は、1120℃であることがより好ましく、1100℃であることがさらに好ましく、1080℃であることが最も好ましい。
【0030】
上記再加熱された鋼スラブを900~1150℃の温度で粗圧延する。上記粗圧延は、鋼スラブの形状を調整するためのものであり、併せて、上記粗圧延により鋳造中に形成されたデンドライトなどの鋳造組織の破壊とともに粗大なオーステナイトの再結晶を介して粒度を小さくする効果も得ることができる。このためには、上記粗圧延温度がオーステナイトの再結晶が停止する温度(Tnr)以上、すなわち、900℃以上であることが好ましい。一方、上記粗圧延温度が1150℃以上である場合には、オーステナイトが粗大になる虞がある。したがって、上記粗圧延温度は900~1150℃であることが好ましい。上記粗圧延温度の下限は920℃であることがより好ましく、930℃であることがさらに好ましく、940℃であることが最も好ましい。上記粗圧延温度の上限は、1100℃であることがより好ましく、1080℃であることがさらに好ましく、1060℃であることが最も好ましい。
【0031】
一方、十分な再結晶を起こして組織を微細化するために、上記粗圧延時の総累積圧下率を30%以上に制御することが好ましい。上記粗圧延時の総累積圧下率は40%以上であることがより好ましく、45%以上であることがさらに好ましく、50%以上であることが最も好ましい。
【0032】
上記粗圧延された鋼スラブを1/4t(t:鋼材厚さ)を基準にAr3(フェライト生成温度)以上の温度で仕上げ圧延して熱延鋼材を得る。上記仕上げ圧延は、上記粗圧延された鋼スラブのオーステナイト組織を変形オーステナイト組織に変えて、内部に電位を導入するためのものである。上記仕上げ圧延温度がAr3未満の場合には、厚さ方向に微細組織の全体に空冷フェライトが多量生成されて500MPa以上の降伏強度を確保することが困難であることがある。したがって、上記仕上げ圧延温度はAr3以上であることが好ましい。上記仕上げ圧延温度はAr3+20℃以上であることがより好ましく、Ar3+40℃以上であることがさらに好ましく、Ar3+60℃以上であることが最も好ましい。
【0033】
一方、中心部の微細組織を微細化して脆性亀裂開始抵抗性を向上させるためには、上記仕上げ圧延時の総累積圧下率を40%以上に制御することが好ましい。上記仕上げ圧延時の総累積圧下率は45%以上であることがより好ましく、50%以上であることがさらに好ましく、53%以上であることが最も好ましい。
【0034】
上記熱延鋼材を3℃/s以上の冷却速度で300~600℃の温度まで冷却する。上記冷却時の冷却速度が3℃/s未満であるか、冷却終了温度が600℃を超える場合には、微細組織が軟化することによって降伏強度が500MPa以下になることがある。一方、冷却終了温度が300℃未満の場合には、冷却終了後のHが外部に抜け出すことが難しくなるため、中心部の微細クラックを誘発する可能性が高い。より詳細には、Hの固溶度が高いオーステナイト組織が冷却によってHの固溶度が低いアシキュラーフェライト及びグラニュラーベイナイトなどの微細組織に変態し、このとき、上記Hは鋼材の外部に抜け出すようになる。しかし、冷却終了温度が300℃未満の場合には、Hが鋼材の外部に抜け出す時間が十分でななくなり、鋼材の内部に残存するようになる。このように、残存するようになるHは、クラックの開始点として作用するようになるため、上記冷却終了温度は300℃以上であることが好ましい。上記冷却速度は3.1℃/s以上であることがより好ましく、3.5℃/s以上であることがさらに好ましく、3.7℃/s以上であることが最も好ましい。上記冷却終了温度の下限は、320℃であることがより好ましく、340℃であることがさらに好ましく、360℃であることが最も好ましい。上記冷却終了温度の上限は、560℃であることがより好ましく、530℃であることがさらに好ましく、500℃であることが最も好ましい。
【実施例
【0035】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。但し、下記実施例は、本発明を例示して、より詳細に説明するためのものにすぎず、本発明の権利範囲を限定するためのものではない点に留意する必要がある。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項と、それから合理的に類推される事項によって決定されるものであるためである。
【0036】
(実施例)
下記表1のRH精錬時間の間、溶鋼を精錬して下記表1の合金組成を有する溶鋼を用意した後、上記溶鋼を連続鋳造して400mm厚さの鋼スラブを製造した。上記鋼スラブを1080℃の温度で再加熱した後、1030℃の温度で粗圧延を実施して200mm厚さのバーを製造した。上記粗圧延時の累積圧下率は50%で適用した。上記粗圧延後、700~850℃で仕上げ圧延して下記表2の厚さを有する熱延鋼材を得た後、下記表2の条件で冷却した。
【0037】
このように製造された鋼材に対して微細組織、降伏強度、中心部の衝撃遷移温度を測定した後、その結果を表2に示した。また、鋼材に対して全厚さCTOD試験を-10℃で実施し、その結果を表2に示した。さらに、鋼材の厚さ中心を基準に±1mmの領域で鋼材の長さ方向に各20枚ずつ光学撮影した後、1mm当たり30μm以上の長さを有するクラックの総長さを計算した後、その結果を下記表に示した。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
本発明で提案する合金組成及び製造条件を満たす発明例1~5の場合は、鋼材の中心部の微細組織を80%以上のアシキュラーフェライト及びグラニュラーベイナイトの混合相に確保することができ、鋼材の厚さ中心を基準に±1mmの領域で単位面積1mm当たり30μm以上の大きさを有するクラックの総長さの合計が130μm以下であることが分かる。これにより、500MPa以上の降伏強度、0.4mm以上の母材CTOD平均値及び-40℃以下の中心部の衝撃遷移温度を確保していることが分かる。
【0041】
比較例1の場合、本発明で提示する合金組成は満たすものの、冷却終了温度が本発明の範囲を超えることによって、降伏強度が500MPa以下であることが分かる。
【0042】
比較例2の場合、本発明で提示する合金組成は満たすものの、冷却終了温度が本発明の範囲よりも低く、Hが十分に拡散して外に抜け出せず、中心部のクラック長さが130μmを超えるようになって、中心部の衝撃遷移温度が-40℃を超え、脆性亀裂開始抵抗性を示す-10℃でのCTOD試験で0.4mm未満の値を有することが分かる。
【0043】
比較例3の場合、本発明で提示するCの範囲よりも高い値を有することで、過度な硬化能のために大量の上部ベイナイト組織が形成され、これにより、中心部の衝撃遷移温度が-40℃を超えることが分かる。
【0044】
比較例4の場合、本発明で提示するMnの範囲よりも高い値を有することで、過度な硬化能のために大量の上部ベイナイト組織が形成され、これにより、中心部の衝撃遷移温度が-40℃を超え、中心部の偏析帯に微細クラックが多量に発生して-10℃でのCTOD試験で0.4mm未満の値を有することが分かる。
【0045】
比較例5の場合、本発明で提示するC及びMnの範囲よりも低い値を有することで、硬化能が不足して大量のポリゴナルフェライト及びパーライト組織が形成され、これにより、降伏強度が500MPa以下であることが分かる。
【0046】
比較例6の場合、本発明で提示するNi及びCuの範囲よりも高い値を有することで、過度な硬化能のために大量の上部ベイナイト組織が形成され、これにより、中心部の衝撃遷移温度が-40℃を超え、中心部の偏析帯に微細クラックが多量に発生して-10℃でのCTOD試験で0.4mm未満の値を有することが分かる。
【0047】
比較例7の場合、本発明で提示するTi及びNbの範囲よりも高い値を有することで、過度な析出物の生成及び硬化能の上昇により大量の上部ベイナイト組織が形成され、これにより、中心部の衝撃遷移温度が-40℃を超えることが分かる。
【0048】
比較例8及び9の場合、精錬時間が十分でないことにより、本発明で提示するHの範囲よりも高い値を有することで、中心部に大量の微細クラックが生成され、これにより、-10℃でのCTOD試験で0.4mm未満の値を有することが分かり、特に、比較例9の場合には、中心部の衝撃遷移温度が-40℃を超えることが分かる。
【国際調査報告】