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特表2022-514099高強度足部を有するT型レールの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-09
(54)【発明の名称】高強度足部を有するT型レールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 9/04 20060101AFI20220202BHJP
   C21D 8/00 20060101ALI20220202BHJP
   C21C 7/10 20060101ALI20220202BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20220202BHJP
   C22C 38/46 20060101ALN20220202BHJP
   C22C 38/28 20060101ALN20220202BHJP
【FI】
C21D9/04 A
C21D8/00 A
C21C7/10 Z
C22C38/00 301Z
C22C38/46
C22C38/28
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021535696
(86)(22)【出願日】2018-12-20
(85)【翻訳文提出日】2021-08-11
(86)【国際出願番号】 IB2018060411
(87)【国際公開番号】W WO2020128589
(87)【国際公開日】2020-06-25
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ウーリン,レイモンド
(72)【発明者】
【氏名】ロイヤー,ザカリー
(72)【発明者】
【氏名】マッカロー,ジェイソン
(72)【発明者】
【氏名】ペリー,リチャード・エル
(72)【発明者】
【氏名】スティーブンソン,ブルース
【テーマコード(参考)】
4K013
4K032
4K042
【Fターム(参考)】
4K013BA08
4K013BA09
4K013EA18
4K013EA20
4K013EA28
4K032AA01
4K032AA06
4K032AA11
4K032AA16
4K032AA19
4K032AA21
4K032AA23
4K032AA27
4K032AA29
4K032AA31
4K032AA35
4K032AA36
4K032BA00
4K032CA02
4K032CA03
4K032CC04
4K032CD05
4K032CD06
4K042AA04
4K042CA06
4K042CA08
4K042CA10
4K042CA12
4K042CA13
4K042DC02
4K042DD04
4K042DD05
4K042DE05
4K042DE06
(57)【要約】
高強度足部焼入れT型レールの製造方法、及び、前記方法により製造されたT型レール。
前記方法は、以下のステップを含む;
炭素鋼T型レールを提供するステップであって、前記鋼T型レールが700~800℃の間の温度で提供されるステップ;
前記鋼T型レールを、冷却するステップであって、x軸に冷却時間を秒で表し、y軸に前記鋼T型レールの足部の表面温度を℃で表した、xy座標のグラフ上にプロットした場合に、xy座標で、(0秒,800℃)、(80秒,675℃)、(110秒,650℃)、及び(140秒,663℃)、を結ぶ上側の線によって定義される、上側冷却速度境界プロットと、xy座標で、(0秒,700℃)、(80秒,575℃)、(110秒,550℃)、及び(140秒,535℃)、を結ぶ下側の線によって定義される、下側冷却速度境界プロットとの間にある領域を維持するような冷却速度で冷却するステップ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高強度足部焼入れT型レールの製造方法であって、以下のステップ:
炭素鋼T型レールを提供するステップであって、前記鋼T型レールが700~800℃の間の温度で提供されるステップ;
前記鋼T型レールを、冷却するステップであって、x軸に冷却時間を秒で表し、y軸に前記鋼T型レールの足部の表面温度を℃で表した、xy座標のグラフ上にプロットした場合に、
xy座標で、(0秒,800℃)、(80秒,675℃)、(110秒,650℃)及び(140秒,663℃)、を結ぶ上側の線によって定義される、上側冷却速度境界プロットと、
xy座標で、(0秒,700℃)、(80秒,575℃)、(110秒,550℃)及び(140秒,535℃)、を結ぶ下側の線によって定義される、下側冷却速度境界プロットと
の間にある領域を維持するような冷却速度で冷却するステップ
を含む方法。
【請求項2】
前記炭素鋼T型レールが、重量%で表して、以下:
炭素:0.74~0.86、
マンガン:0.75~1.25、
ケイ素:0.10~0.60、
クロム:最大0.30、
バナジウム:最大0.01、
ニッケル:最大0.25、
モリブデン:最大0.60、
アルミニウム:最大0.010、
硫黄:最大0.020、
リン:最大0.020
を含み、
並びに、残部が鉄及び残留物である組成を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記炭素鋼T型レールが、重量%で表して、以下:
炭素:0.84~1.00、
マンガン:0.40~1.25、
ケイ素:0.30~1.00、
クロム:0.20~1.00、
バナジウム:0.04~0.35、
チタン:0.01~0.035、
窒素:0.002~0.015、
を含み、
並びに、残部が鉄及び残留物である組成を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記炭素鋼T型レールが、重量%で表して、以下:
炭素:0.86~0.9、
マンガン:0.65~1.0、
ケイ素:0.5~0,6、
クロム:0.2~0.3、
バナジウム:0.04~0.15、
チタン:0.015~0.03、
窒素:0.005~0.015、
を含み、
並びに、残部が鉄及び残留物である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記T型レールが、完全にパーライトである微細組織を有する足部部分を有する、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記T型レールが、完全にパーライトである微細組織を有する足部部分を有する、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記T型レールが、完全にパーライトである微細組織を有する頭部部分を有する、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記T型レールの前記足部が、前記T型レール足部の底面から9.5mmの深さで、少なくとも350HBの平均ブリネル硬度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
グラフにプロットされた、0秒~80秒の冷却速度が、約1.25℃/秒~2.5℃/秒の間の範囲内にある平均を有し、グラフにプロットされた、80秒~110秒の冷却速度が、約1℃/秒~1.5℃/秒の間の範囲内にある平均を有し、グラフにプロットされた、110秒~140秒の冷却速度が、約0.1℃/秒~0.5℃/秒の間の範囲内にある平均を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
炭素鋼T型レールを提供する前記ステップが、以下のステップを含む、請求項1に記載の方法:
約1600℃~約1650℃の温度で鋼溶融物を形成するステップであって、マンガン、ケイ素、炭素、クロムを順次添加することにより、その後、チタン及びバナジウムを任意の順序で又は組み合わせて添加することにより、前記溶融物を形成するステップ;
前記溶融物を真空脱気して、さらに、酸素、水素、及び他の潜在的に有害な気体を除去するステップ;
前記溶融物を鋼片に鋳造するステップ;
前記鋳造した鋼片を、約1220℃に加熱するステップ;
分塊圧延機に前記鋼片を複数回通して圧延し、「圧延された」鋼片にするステップ;
前記圧延された鋼片を、再加熱炉へ配置するステップ;
前記圧延された鋼片を、約1220℃に再加熱し、均一なレール圧延温度にするステップ;
前記圧延された鋼片を、デスケーリングするステップ;
前記圧延された鋼片を、粗圧延機、中間圧延機、及び仕上圧延機に順次通して、仕上鋼レールを作製するステップであって、前記仕上圧延機が1040℃の仕上出口温度を有し、
約900℃超で前記仕上鋼レールをデスケーリングし、均一な二次酸化物を前記上に得、並びに、
約700℃~800℃まで前記仕上レールを空気冷却するステップ。
【請求項11】
前記鋼レールを冷却する前記ステップが、前記レールを140秒間水で冷却することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記鋼レールを水で冷却する前記ステップが、前記鋼レールを水のスプレー噴射で冷却することを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記水のスプレー噴射に含まれる水が、8~17℃の間の温度に維持される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記鋼レールを水のスプレー噴射で冷却する前記ステップが、前記水の噴射を、前記レール頭部の上部、前記レール頭部の側部、及び前記レールの足部に向けることを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記鋼レールを水のスプレー噴射で冷却する前記ステップが、前記鋼レールを前記水のスプレー噴射を含む冷却チャンバーに通すことを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記冷却チャンバーが2つの区画を含み、各区画の水の流速は、各区画における冷却の要求事項に応じて変化する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記冷却チャンバーの第1の/投入口の区画で最大量の水が施用され、初析セメンタイトの形成を抑制し、及び700℃未満でパーライト変態の開始を起こさせるために十分に迅速な冷却速度を生み出す、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記冷却チャンバーの前記第1の/投入口の区画での水の流速が、15~40m/時の間であり、及び前記冷却チャンバーの第2の/最後の区画での水の流速が、5~30m/時の間である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記鋼レールを冷却する前記ステップが、前記レールを140秒間水で冷却する前記ステップの後、前記レールを空気冷却して周囲温度にすることをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鋼レールに関し、より詳細には、T型レールに関する。具体的には、本発明は、高強度足部(base)を有するT型レール、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アメリカ合衆国及び世界中で、貨物及び旅客両方のサービス用途において、硬頭T型レールが開発され、及び利用されてきた。これらのレールは、より高い降伏強度及び引張強度などの、機械的特性の改善をもたらしてきた。このことは、これらのT型レール頭部に対し、耐疲労性、耐摩耗性、及び最終的にはより長い耐用年数を与えてきた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
荷重が増大し、及びレール締結装置がより剛直なものになるにつれ、レール足部が懸案事項となってきた。今では、足部は、より高い塑性変形、及びそれに伴う疲労損傷に耐えなければならない。現在のところ、増大した足部の強度/硬度に対する、鋼レールの業界標準仕様が存在しない。「圧延したままの」足部からなるレールが、すべての用途で使用されている。そこで、現在常用されているものより高い強度/硬度を有する足部からなるT型レールが、当業界で真に必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、高強度/硬度を有するT型レールの製造方法、及び、その方法により製造されたT型レールに関する。本方法は、700~800℃の間の温度で炭素鋼T型レールを提供するステップ及び、鋼T型レールを、x軸に冷却時間を秒で表し、y軸に鋼T型レールの足部の表面温度を℃で表した、xy座標のグラフ上にプロットした場合に:xy座標で、(0秒,800℃)、(80秒,675℃)、(110秒,650℃)、及び(140秒,663℃)、を結ぶ上側の線によって定義される、上側冷却速度境界プロットと、xy座標で、(0秒,700℃)、(80秒,575℃)、(110秒,550℃)、及び(140秒,535℃)、を結ぶ下側の線によって定義される、下側冷却速度境界プロットとの間にある領域を維持するような冷却速度で冷却するステップを含む。
【0005】
炭素鋼T型レールは、重量パーセントで:炭素:0.74~0.86;マンガン:0.75~1.25;ケイ素:0.10~0.60;クロム:最大0.3:バナジウム:最大0.01;ニッケル:最大0.25;モリブデン:最大0.60;アルミニウム:最大0.010;硫黄:最大0.020;リン:最大0.020;及び、残部を主成分である鉄で含む、AREMA標準化学組成を有してもよい。
【0006】
代わりに、炭素鋼T型レールは、重量パーセントで:炭素:0.84~1.00;マンガン:0.40~1.25;ケイ素:0.30~1.00;クロム:0.20~1.00:バナジウム:0.04~0.35;チタン:0.01~0.035;窒素:0.002~0.0150;並びに、残部を鉄及び残留物で含む、化学組成を有してもよい。
【0007】
さらに、炭素鋼T型レールは、重量パーセントで:炭素:0.86~0.9;マンガン:0.65~1.0;ケイ素:0.5~0,6;クロム:0.2~0.3:バナジウム:0.04~0.15;チタン:0.015~0.03;窒素:0.005~0.015;並びに、残部を鉄及び残留物で含む、化学組成を有してもよい。
【0008】
T型レールは、完全にパーライトである微細組織を有する足部部分を有してもよく、及び、T型レール足部の底面から9.5mmの深さで、少なくとも350HBの平均ブリネル硬度を有してもよい。
【0009】
0秒~80秒の冷却速度は、約1.25℃/秒~2.5℃/秒の間の範囲内にある平均を有してよい。さらに、80秒~110秒の冷却速度は、約1℃/秒~1.5℃/秒の間の範囲内にある平均を有してよい。最後に、110秒~140秒の冷却速度は、約0.1℃/秒~0.5℃/秒の間の範囲内にある平均を有してよい。
【0010】
炭素鋼T型レールを提供するステップは、さらに以下のステップを含む:
鋼を、約1600℃~約1650℃の温度で融解し、その後、マンガン、ケイ素、炭素、クロムを添加し、その後、チタン、バナジウムを、任意の順序で、及び任意の組み合わせで添加し、鋼溶融物を形成するステップ;
溶融物を真空脱気して、さらに、酸素、水素、及び他の潜在的に有害な気体を除去するステップ;
溶融物を鋼片に鋳造するステップ;
鋳造した鋼片を、約1220℃に加熱するステップ;
分塊圧延機に鋼片を複数回通して圧延し、「圧延された」鋼片にするステップ;
圧延された鋼片を、再加熱炉へ置くステップ;
圧延された鋼片を、約1220℃に再加熱し、均一なレール圧延温度にするステップ;
圧延された鋼片を、デスケーリングするステップ;
圧延された鋼片を、その後、粗圧延機、中間圧延機、及び仕上圧延機に通して、仕上鋼レールを作成するステップであって、仕上圧延機が1040℃の仕上出口温度を有し、900℃超で仕上鋼をデスケーリングし、均一な二次酸化物を表面に得、並びに、約700℃~800℃まで仕上レールを冷却するステップ。
【0011】
鋼レールを冷却するステップは、レールを水で140秒間冷却するステップを含んでよい。鋼レールを水で冷却するステップは、鋼レールを水のスプレー噴射で冷却することを含んでよい。水のスプレー噴射に含まれる水は、8~17℃の間の温度に維持されてよい。鋼レールを水のスプレー噴射で冷却するステップは、水の噴射を、レール頭部の上部、レール頭部の側部、及びレールの足部に向けることを含んでよい。鋼レールを水のスプレー噴射で冷却するステップは、鋼レールを水のスプレー噴射を含む冷却チャンバーに通すことを含んでよい。
【0012】
冷却チャンバーは2つの区画を含んでよく、各区画の水の流速は、各区画における冷却の要求事項に応じて変化してもよい。冷却チャンバーの、第1の/投入口の区画で最大量の水が施用され、初析セメンタイトの形成を抑制し、700℃未満でパーライトの変態が開始されるように、十分に迅速な冷却速度を生み出してよい。冷却チャンバーの第1の/投入口の区画の水の流速は、15~40m/時の間でよく、冷却チャンバーの第2の/最後の区画の水の流速は、5~30m/時の間でよい。鋼レールを冷却するステップは、さらに、レールを水で140秒間冷却するステップの後に、レールを周囲温度まで空気冷却するステップを含んでよい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】T型レールの足部断面の模式図であり、具体的には、硬度が測定される、T型レールの足部上の位置を示している。
図2】T型レールの断面、及びT型レールを冷却するために使用される水のスプレー噴射を図示している。
図3】本発明の8本のレールの冷却曲線をプロットしている。
図4】レール頭部の温度℃対1本のレールが冷却チャンバーに投入されてからの時間をプロットしており、破線が、本発明の冷却領域の上側及び下側の境界を指していることを示している。
【0014】
<発明の詳細な説明>
本発明は、鋼組成及び加速された足部の冷却を組合せて、高強度/硬度足部を有するT型レールを製造することに関する。
【0015】
<本発明の方法に有用なレールの組成-AREMA鋼レール->
本発明の方法に有用なT型レールの鋼組成は、AREMA標準化学鋼レールである。このAREMA標準組成は、下記を(重量%で)含む:
炭素:0.74~0.86、
マンガン:0.75~1.25、
ケイ素:0.10~0.60、
クロム:最大0.30、
バナジウム:最大0.01、
ニッケル:最大0.25、
モリブデン:最大0.60、
アルミニウム:最大0.010、
硫黄:最大0.020、
リン:最大0.020、
並びに、残部を鉄及び残留物で含む。
【0016】
<代替の組成>
本発明のTレールを形成することができる第2の組成は、下記の組成(重量%)であり、
鉄を事実上の残部とする:
炭素:0.84~1.00(好ましくは、0.86~0.9)、
マンガン:0.40~1.25(好ましくは、0.65~1.0)、
ケイ素:0.30~1.00(好ましくは、0.5~0.6)、
クロム:0.20~1.00(好ましくは、0.2~0.3)、
バナジウム:0.04~0.35(好ましくは、0.04~0.15)、
チタン:0.01~0.035(好ましくは、0.015~0.03)、
窒素:0.002~0.015(好ましくは、0.005~0.015)、
並びに、残部を鉄及び残留物で含む。
【0017】
炭素は、高強度であるレール特性を達成するのに、不可欠である。炭素は鉄と結合し、炭化鉄(セメンタイト)を形成する。炭化鉄は高硬度に寄与し、及びレール鋼に高強度を付与する。炭素含有量が高いと(約0.8重量%超のC、任意に、約0.9重量%)、炭化鉄(セメンタイト)の体積分率がより高くなり、従来的な共析晶(パーライト)鋼の体積分率を超えて形成し続ける。新規な鋼において、より高い炭素含有量を利用する一つの方法は、冷却(足部の焼入れ)を加速して、オーステナイト粒界における、有害な初析セメンタイトのネットワーク形成を抑制することである。下記の通り、より高い炭素レベルは、通常の脱炭により、レール表面において軟質フェライトが形成することをもまた回避する。換言すれば、鋼が十分な炭素を有し、鋼の表面が亜共析晶となることを防止する。1重量%超の炭素レベルでは、望ましくないセメンタイトのネットワークが形成し得る。
【0018】
マンガンは、液体鋼の脱酸剤であり、硫化マンガンの形態で硫黄を結び付け、かくして、脆くて、熱間延性に悪影響を及ぼす硫化鉄の形成を防止するために添加される。マンガンは、パーライト変態の核形成を遅延させ、かくして、変態温度を低下させて、パーライト層間隔を減少させることによって、パーライトの硬度及び強度にも寄与する。高いレベルのマンガンは、固化の間に望ましくない内部偏析を発生させ、及び特性を劣化させる微細組織を発生させる。例示的実施形態において、マンガンは従来の硬頭鋼組成レベルより低下しており、連続冷却変態(CCT)曲線の「先端」を、より短い時間、例えば、曲線を左に移動させる。一般に、より多くのパーライト及び、より少ない変態生成物(ベイナイトなど)が「先端」の近くに形成される。例示的実施形態に従うと、この移動を利用すべく最初の冷却速度が加速され、及び、冷却速度は加速されて先端近くでパーライトを形成する。より高い冷却速度で硬頭化プロセスを行うことで、より微細な(及びより硬い)パーライト微細組織の形成が促進される。本発明の組成では、不安定化を生じさせることなく、より高い冷却速度で、足部の焼入れが行われてよい。かくして、マンガンは、偏析を減少させて、望ましくない微細組織の形成を防止するために、1%未満に保たれる。マンガンのレベルは、硫化マンガンの形成を通じて硫黄を結び付けるために、好ましくは、約0.40重量%超に維持される。高い硫黄含有量は、高いレベルの硫化鉄を生成し得、及び脆性の増大につながり得る。
【0019】
ケイ素は、もう1つの液体鋼の脱酸剤であり、及び、パーライト中におけるフェライト相の強力な固溶強化剤である(ケイ素は、セメンタイトとは結合しない)。ケイ素は、オーステナイト中での炭素の活性を変化させることによって、先に析出したオーステナイトの粒界上における、連続した初析セメンタイトのネットワーク形成をもまた抑制する。ケイ素は、セメンタイトのネットワーク形成を防止するために、好ましくは、少なくとも約0.3重量%のレベルで存在し、熱間圧延中の脆化を回避するために、1.0重量%を超えないレベルで存在する。
【0020】
クロムは、パーライト中のフェライト相及びセメンタイト相の固溶強化を提供する。
【0021】
バナジウムは、変態中に過剰の炭素及び窒素と結合し、炭化バナジウム(炭窒化物)を形成し、パーライト中におけるフェライト相の硬度及び強度を改善する。バナジウムは、炭素に関して鉄と効果的に競合し、かくして、連続したセメンタイトのネットワーク形成を防止する。炭化バナジウムは、特に、本発明により実践されるレベルのケイ素の存在下で、オーステナイトの粒径を微細化して、オーステナイト粒界での連続した初析セメンタイトのネットワーク形成を破壊する。0.04重量%未満のバナジウムのレベルでは、連続したセメンタイトのネットワークを抑制するのに不十分な、炭化バナジウム析出物しか生成しない。0.35重量%超のレベルでは、鋼の伸び特性にとって有害となり得る。
【0022】
チタンは、窒素と結合し、鋼の焼入れ及び圧延中に、オーステナイト粒界を固定する窒化チタン析出物を形成し、かくして、過剰なオーステナイト粒子の成長を防止する。この粒子の微細化は、900℃超の仕上温度でのレールの加熱及び圧延中に、オーステナイト粒界の成長を制限するのに重要である。粒子の微細化により、延性と強度の良好な組合わせが提供される。0.01重量%超のチタンのレベルが、8%超、例えば8~12%といった伸び率を生み出し、引張伸びにとって好ましい。0.01重量%未満のチタンのレベルでは、平均伸びが8%未満に減少し得る。0.035重量%超のチタンのレベルでは、オーステナイト粒子の成長を制限するのに効果がない、粗大なTiN粒子が生成し得る。
【0023】
窒素は、チタンと結合しTiN析出物を形成するのに重要である。典型的には、自然発生的な量の窒素不純物が、電気炉溶融プロセスで存在する。さらに窒素を組成に添加し、典型的には、窒素をチタンと結合させて窒化チタン析出物を形成するのに十分な窒素レベルである、0.002重量%超の窒素のレベルにすることが望ましくあり得る。一般的には、0.0150重量%超の窒素レベルは必要ではない。
【0024】
第2の組成物は、硬度を増すための、より高い体積分率のセメンタイトとの過共析物である。T型レールを溶接する際に、変態生成物(ベイナイト及びマルテンサイト)の形成をより低く防止するために、マンガンを意図的に減少させる。より高い硬度を提供して、先に析出したオーステナイトの粒界上における、初析セメンタイトのネットワーク形成を抑制するために、ケイ素のレベルを増加させる。若干より高いクロムは、より高い硬度を付加するためである。チタンの添加は、窒素と結合し、オーステナイト相中に析出するサブミクロンの窒化チタン粒子を形成させる。これらのTiN粒子は、熱サイクル中にオーステナイト粒界を固定し、粒子の成長を防止し、結果、オーステナイト粒径はより微細になる。バナジウムの添加は、炭素と結合し、パーライト変態中に析出するサブミクロンの炭化バナジウム粒子を形成させ、結果、強力な焼入れ効果を示す。ケイ素と併用したバナジウムの添加、及び加速された冷却によって、初析セメンタイトのネットワーク形成が抑制される。
【実施例
【0025】
図1は、T型レールの足部断面の模式図である。図1は、その硬度(本明細書に使用されるように、硬度という用語はブリネル硬度を意味する)が測定され及び本明細書で報告される、T型レール足部上の位置を示している。位置F及びHは足部の縁部の近くにあり、一方、位置Gは足部の中心部にある。試験は、足部の底面から9.5mmの深さにある素材について行った。
【0026】
未処理の、圧延されたままの、AREMA標準化学鋼からなるT型レールの、足部の中心点(G)平均硬度は、約320である。
【0027】
本発明の方法を経たいくつかの試料鋼の、点F、G、及びH、及び平均の硬度は、表1に示されている。
【0028】
【表1】
【0029】
本発明に適したレールの平均足部硬度は、足部の全ての点で350(好ましくは、360)を超える。本発明のレールの中心点(G)の平均硬度は370を超え、いくつかのレールでは380さえ超える。かくして、本発明に適したレールの平均足部硬度は、従来技術の中心点硬度を40ポイント超える。従来技術のレールの中心点平均硬度対本発明のレールの硬度との比較では、本発明のレールは50ポイントも高く、さらに良好である。
【0030】
加工前の鋼レールの製造において、鋼の製造は、鋼を溶融状態で維持するのに十分高い温度範囲で行われてよい。例えば、温度は、約1600℃~約1650℃の範囲であってよい。合金元素は、任意の特定の順序で溶融鋼に添加されてよいが、チタン及びバナジウムなどの特定の元素を酸化から保護するように、添加順序を調整するのが望ましい。例示的実施形態によると、液体鋼を脱酸するためのフェロマンガンとして、マンガンが最初に添加される。次いで、液体鋼をさらに脱酸するためのフェロシリコンの形態で、ケイ素が添加される。次に炭素、続いてクロムが添加される。バナジウム及びチタンは、それぞれ最後から2番目及び最後のステップで添加される。合金元素の添加後、鋼は真空脱気され、さらに、酸素、及び、水素などの他の有害ガスが除去される。
【0031】
脱気後、液体鋼は、3ストランド連続鋳造機で鋳造され、鋼片(例えば、370mm×600mm)となってよい。鋳造速度は、例えば、0.46m/秒下で設定されてよい。鋳造中、ラドルの底からタンディッシュ(溶融した鋼を下にある3つの金型に分配するための保持容器)内へ延伸して、タンディッシュの底からそれぞれの型に延伸するセラミック管を含む、シュラウドによって、液体鋼は酸素(空気)から保護される。液体鋼は、鋳型内で電磁的に撹拌され、均一化を高め、かくして、合金の偏析を最小限にしてもよい。
【0032】
鋳造後、鋳造鋼片は約1220℃まで加熱され、及び、分塊圧延機に複数回(例えば、15回)通す中で圧延されて、「圧延された」鋼片となる。圧延された鋼片は、「高温」の状態で再加熱炉へ送られ、1220℃で再加熱されて、均一なレール圧延温度を提供する。デスケーリング後、圧延された鋼片は、粗圧延機、中間圧延機、及び、仕上圧延機に複数回(例えば、10回)通す中で、レールへと圧延される。仕上げ温度は、望ましくは、約1040℃である。圧延されたレールは、足部の焼入れに先立ち、約900℃超で再び脱気されて、レール上に均一な二次酸化物を得てもよい。レールは、約700℃~800℃に空気冷却されてよい。
【0033】
本発明の冷却方法を、レールがいまだ約700℃~800℃であるこの時点で、新規に製造された鋼レールに直接適用することが好ましいが、一方、レールが周囲温度まで冷却され、後に、本発明の方法の開始温度である約700℃~800℃に再加熱されてもよい。
【0034】
<本発明の方法>
レールミルの最終工程を出た後、レール(いまだ、オーステナイト状である)は、足部焼入れ機に送られる。700℃~800℃の間の表面温度で開始し、レールは、T型レールの断面、及びT型レールを冷却するのに使用される水スプレー噴射を図示している、図2に示されるよう構成された、一連の水スプレーノズルに通される。
【0035】
図2より、トップヘッドウォータースプレー1、2つのサイドヘッドウォータースプレー2、及び、フットウォータースプレー3を含む、水スプレーノズルの構成を見ることができる。100メートルの長さを有し、及びチャンバー内に何百もの冷却ノズルを含む、冷却チャンバー内の長手方向に、スプレーノズルが配置されている。レールは、0.5~1.0メートル/秒の速度で、スプレーチャンバーを通して移動する。物性の一貫性のために、水の温度は、8~17℃に制御されている。
【0036】
水の流速は、冷却チャンバーの2つの独立した区画内で制御されており、各区画は、50メートルの長さである。例えば、115Eプロファイル(115ポンド/ヤード)の方法においては、足部に対するスプレー水流速は、50メートルの区画毎に調整され、T型レールの足部中に微細なパーライト微細組織を獲得するため、適切な冷却速度を達成するようになっている。図3は、チャンバーの区画を連続して通過した、本発明の8本のレールの冷却曲線をプロットしている。特に、図3は、レール足部温度℃対チャンバーの第1の区画に入ってからの時間をプロットしている。
【0037】
本発明の重要な部分は、冷却チャンバーの2つの独立した区画の冷却速度を制御することである。これは、2つの区画のそれぞれで、水の流れ、特に、各区画のベースノズルへの全体の流れを精密に制御することで達成される。図3に関連して、上で議論した本発明の8本のレールにおいて、第1の50メートルの区画におけるベースノズルへの水の流速は、15~40m/時であり、第2の区画では、5~30m/時である。レールは最後の区画を出た後、空気冷却され、周囲温度となる。このように、水の流れを分割することで、レール足部中の硬度レベル及び硬度の深さに影響が出る。図3中の8本のレールのうち最初のものの冷却曲線を図4にプロットし、水を分割することの結果を示している。特に、図4は、レール頭部温度℃対1つのレールがチャンバーの第1の区画に入ってからの時間をプロットしている。破線は、本発明の冷却領域の上部及び下部の境界を示している。
【0038】
第1の区画で最大量の水が施用され、初析セメンタイトの形成を抑制して、700℃未満(600℃~700℃の間)でパーライト変態を開始するよう、十分に迅速な冷却速度が生み出される。パーライト変態の開始温度が低いほど、パーライト層間隔が微細になり、レール硬度が高くなる。T型レールの足部が、パーライトへの変態を開始すると、パーライト変態による熱が加えられ(これは、変態熱と呼ばれる)、適切な量の水を施用しない限り、冷却工程が大幅に遅延する。実際には、表面温度はそれ以前よりさらに高温になり、これは再輝現象として知られている。この過剰な熱を取り除き、及び700℃未満でパーライト変態を連続して引き起こすことを可能とするためには、水の流れを高いレベルで制御することが要求される。第2の区画での水の流れは、レール表面から熱を連続して引き出す。この追加の冷却は、良好な深さの硬度を得るために必要である。
【0039】
上述のように、図5の破線は、本発明の冷却領域及び、本発明の3つの冷却レジームを示している。冷却領域の第1の冷却レジームは、冷却チャンバーに投入された0~80秒にまたがる。冷却領域のこのレジームでは、冷却曲線が、上部冷却限界線、及び下部冷却限界線(図4の破線)に囲まれている。上部冷却限界線は、約800℃の温度での時間t=0秒から、約675℃の温度でのt=80秒にまたがっている。下部冷却限界線は、約700℃の温度での時間t=0秒から、約575℃の温度でのt=80秒にまたがっている。
【0040】
冷却領域の第2のレジームは、冷却チャンバーに投入された80~110秒にまたがる。冷却領域のこのレジームでは、冷却曲線が、再び、上部冷却限界線、及び下部冷却限界線(図4の破線)に囲まれている。上部冷却限界線は、約675℃の温度での時間t=80秒から、約650℃の温度でのt=110秒にまたがっている。下部冷却限界線は、約575℃の温度での時間t=80秒から、約550℃でのt=80秒にまたがっている。
【0041】
冷却領域の第3のレジームは、冷却チャンバーに投入された110~140秒にまたがる。冷却領域のこのレジームでは、冷却曲線が、再び、上部冷却限界線、及び下部冷却限界線(図4の破線)に接している。上部冷却限界線は、約650℃の温度での時間t=110秒から、約635℃の温度でのt=140秒にまたがっている。下部冷却限界線は、約550℃の温度での時間t=80秒から、約535℃でのt=80秒にまたがっている。
【0042】
冷却領域の3つのレジームのうち、冷却速度は3つの段階がある。冷却チャンバーに投入された最初の80秒にまたがる段階1では、冷却速度は約1.25℃/秒~2.5℃/秒の間であり、温度は525℃~675℃の間に低下する。80秒~110秒にまたがる段階2では、冷却速度は約1℃/秒~1.5℃/秒の間であり、温度は550℃~650℃の間に低下する。110秒~140秒にまたがる段階3では、冷却速度は約0.1℃/秒~0.5℃/秒の間であり、温度は535℃~635℃の間に低下する。その後、レールは空気冷却され、周囲温度となる。
【0043】
他に述べない限り、本明細書で言及される全てのパーセンテージは、重量による。
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】