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特表2022-514125FAS信号伝達抑制用ペプチドを含む肥満、脂肪肝又は脂肪肝炎の予防又は治療用薬学的組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-09
(54)【発明の名称】FAS信号伝達抑制用ペプチドを含む肥満、脂肪肝又は脂肪肝炎の予防又は治療用薬学的組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/08 20190101AFI20220202BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220202BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20220202BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20220202BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20220202BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20220202BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20220202BHJP
   C07K 7/06 20060101ALN20220202BHJP
【FI】
A61K38/08
A61P43/00 111
A61P3/04
A61P3/06
A61P1/16
A61K9/08
A61K9/10
C07K7/06 ZNA
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021553754
(86)(22)【出願日】2019-11-14
(85)【翻訳文提出日】2021-06-02
(86)【国際出願番号】 KR2019015585
(87)【国際公開番号】W WO2020116810
(87)【国際公開日】2020-06-11
(31)【優先権主張番号】10-2018-0154274
(32)【優先日】2018-12-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】521240354
【氏名又は名称】シグネット バイオテック インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】SIGNET BIOTECH INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イ、サン-ギョン
(72)【発明者】
【氏名】チョン、コンホ
(72)【発明者】
【氏名】ウッラ、イルファン
(72)【発明者】
【氏名】ペ、ス ミン
(72)【発明者】
【氏名】イム、ジェ ヨン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076AA16
4C076AA22
4C076BB01
4C076BB11
4C076BB13
4C076BB16
4C076CC16
4C076CC21
4C076CC29
4C076FF12
4C076FF14
4C076FF15
4C076FF36
4C076FF39
4C076FF61
4C076FF63
4C084AA02
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA17
4C084BA23
4C084CA59
4C084MA52
4C084MA55
4C084MA65
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA701
4C084ZA702
4C084ZA751
4C084ZA752
4C084ZC021
4C084ZC022
4C084ZC331
4C084ZC332
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA13
4H045BA14
4H045BA15
4H045EA20
4H045FA10
(57)【要約】
本発明は、Fas信号伝達抑制用ペプチドを有効成分として含む肥満、脂肪肝又は脂肪肝炎の予防又は治療用薬学的組成物に関し、前記Fas信号伝達抑制用ペプチドは、肥満時、肝臓と脂肪組織において多く発現するFasに特異的に結合するため、肥満による炎症部位に対する伝達効率が高く、炎症の主要な信号伝達体系であるFas信号伝達を直接的に抑制して炎症反応を抑制できるため、肥満、脂肪肝又は脂肪肝炎の改善、治療用途として有用に使用されてもよい。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式Iで表されるアミノ酸配列を含むFas信号伝達抑制用ペプチドを有効成分として含む肥満、脂肪肝又は脂肪肝炎の予防又は治療用薬学的組成物。
[一般式I]
Xaa1-Cys-Asp-Glu-His-Phe-Xaa-Xaa
前記一般式において、
Xaa及びXaaは、それぞれ独立して存在しないか、または任意のアミノ酸であり、
Xaaは、存在しないか、またはAla、Gly、Val、Leu、Ile、Met、Pro、Ser、Cys、Thr、Asn及びGlnからなる群から選ばれる。
【請求項2】
前記Fas信号伝達抑制用ペプチドは、下記一般式Iで表されるアミノ酸配列を含むものである、請求項1に記載の肥満、脂肪肝又は脂肪肝炎の予防又は治療用薬学的組成物。
[一般式I]
Xaa-Cys-Asp-Glu-His-Phe-Xaa-Xaa
前記一般式において、
Xaa及びXaaは、それぞれ独立して存在しないか、またはTyr、Phe及びTrpからなる群から選ばれ、
Xaaは、存在しないか、またはGly、Ala、Ser、Thr及びCysからなる群から選ばれる。
【請求項3】
前記Fas信号伝達抑制用ペプチドは、下記一般式Iで表されるアミノ酸配列を含むものである、請求項1に記載の肥満、脂肪肝又は脂肪肝炎の予防又は治療用薬学的組成物。
[一般式I]
Xaa-Cys-Asp-Glu-His-Phe-Xaa-Xaa
前記一般式において、
Xaa及びXaaは、それぞれ独立してTyr、Phe及びTrpからなる群から選ばれ、
Xaaは、Gly、Ala、Ser、Thr及びCysからなる群から選ばれる。
【請求項4】
前記脂肪肝は、非アルコール性脂肪肝であるものである、請求項1に記載の肥満、脂肪肝又は脂肪肝炎の予防又は治療用薬学的組成物。
【請求項5】
前記薬学的組成物は、静脈内、皮下及び経口からなる群から選ばれる経路を介して投与されるものである、請求項1に記載の肥満、脂肪肝又は脂肪肝炎の予防又は治療用薬学的組成物。
【請求項6】
前記薬学的組成物は、注射剤の形態で投与されるものである、請求項1に記載の肥満、脂肪肝又は脂肪肝炎の予防又は治療用薬学的組成物。
【請求項7】
前記一般式Iのアミノ酸配列は、配列番号1~12からなる群から選ばれる配列を含むものである、請求項1に記載の肥満、脂肪肝又は脂肪肝炎の予防又は治療用薬学的組成物。
【請求項8】
前記一般式Iのアミノ酸配列は、配列番号7~12からなる群から選ばれる配列を含むものである、請求項6に記載の肥満、脂肪肝又は脂肪肝炎の予防又は治療用薬学的組成物。
【請求項9】
前記一般式Iのアミノ酸配列は、配列番号10~12からなる群から選ばれる配列を含むものである、請求項7に記載の肥満、脂肪肝又は脂肪肝炎の予防又は治療用薬学的組成物。
【請求項10】
下記一般式Iで表されるアミノ酸配列を含むFas信号伝達抑制用ペプチドを有効成分として含む肥満、脂肪肝又は脂肪肝炎の予防又は治療用薬学的組成物。
[一般式I]
Xaa1-Cys-Asp-Glu-His-Phe-Xaa2-Xaa
前記一般式において、
Xaa及びXaaは、それぞれ独立して存在しないか、または任意のアミノ酸であり、
Xaaは、存在しないか、またはAla、Gly、Val、Leu、Ile、Met、Pro、Ser、Cys、Thr、Asn及びGlnからなる群から選ばれる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Fas信号伝達抑制用ペプチドを有効成分として含む肥満、脂肪肝又は脂肪肝炎の予防又は治療用薬学的組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
肥満は、世界的に非常に急速に広がっており、現在では、世界人口の25%に当たる17億人が過体重(BMI25以上)であり、西欧地域では、BMI30以上の肥満患者が約3億人に達している。また、子供5人のうち1人が小児肥満に該当し、その数が急激に上昇しており、小児肥満が深刻な社会問題として浮上している。特に小児肥満の場合には、脂肪が多いほど性ホルモンの分泌が刺激され、思春期早発症のような成長障害を引き起こし、血液循環と栄養バランスに影響を及ぼし、成長阻害の原因となる。肥満は、主な成人病の危険要素として、高血圧、糖尿病、動脈硬化症、脳卒中、心臓麻痺及び各種の腫瘍などのような成人病の発生に関与し(Wilson et al.,2005、Circulation 112:3066-3072)、病気の進行を促進させることもあるが、肥満によって成人病にかかるリスクは、健常者よりも3倍ないし6倍高いと知られている。したがって、肥満は、単に外見上の問題だけではなく、健康に直結する重大な問題に違いない。
【0003】
特に肥満人口が増加しつつ、体内に残るエネルギーが肝臓に中性脂肪の形で蓄積される非アルコール性脂肪肝患者も増加している。非アルコール性脂肪肝が長く続くと、炎症反応が誘発されて脂肪肝炎に進み、結局、肝硬変、肝がんまで悪化するおそれがあるため、予防と効果的な治療が必要である。
【0004】
現在、肥満治療剤として使用されているノボノルディスク(Novo Nordisk)のサクセンダ(Saxenda、一般名リラグルチド)は、GLP-1類似体であって人体ホルモンであるGLP-1と97%ほど類似し、1日1回皮下に投与する。臨床研究においてサクセンダは、最初の体重に関係なく、肥満人の体重を5~10%減らし、その体重を維持すれば、血糖値と血圧、コレステロール数値、閉塞性睡眠時無呼吸症の改善だけではなく、健康上の多くの利点を得ることができることが分かった。しかし、悪心、嘔吐、下痢、便秘などの副作用があり、減量に成功した人も薬の投与を中断する場合、ヨーヨー現象(体重が元に戻る現象)が現われるため、生活習慣を改善しない限り、肥満を根本的に治療できないのが実情である。
【0005】
本発明者らは、肥満及び脂肪肝の根本的な治療のために研究した結果、脂肪組織以外の肝臓においてもFas受容体が多く発現することを発見し、前記Fas受容体の信号伝達を遮断して炎症反応を抑制することにより、肥満、脂肪肝又は脂肪肝炎を改善できることを確認して本発明を完成した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、Fas信号伝達抑制用ペプチド、前記ペプチドを有効成分として含む肥満、脂肪肝又は脂肪肝炎の予防又は治療用薬学的組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明の一態様は、下記一般式Iで表されるアミノ酸配列を含むFas信号伝達抑制用ペプチドを有効成分として含む肥満、脂肪肝又は脂肪肝炎の予防又は治療用薬学的組成物を提供する。
【0008】
[一般式I]
Xaa-Cys-Asp-Glu-His-Phe-Xaa-Xaa
【0009】
前記一般式において、
Xaa及びXaaは、それぞれ独立して存在しないか、または任意のアミノ酸であり、
Xaaは、存在しないか、またはAla、Gly、Val、Leu、Ile、Met、Pro、Ser、Cys、Thr、Asn及びGlnからなる群から選ばれる。
【0010】
本明細書において用いられた用語の「Fas」は、Fas、FasR(Fas receptor)、APO-1(apoptosis antigen 1)、又はCD95(cluster of differentiation 95)とも呼ばれ、細胞死滅(apoptosis)を調節する腫瘍壊死因子受容体(tumor necrosis factor、TNF)の一種である。Fasがリガンドと結合すると、多重化(multimerization)を介して活性化され、その結果として、複数のアダプター(adaptor)タンパク質がFasに結合する。結合したアダプタータンパク質は、様々な細胞死滅の信号伝達体系を活性化させ、代表的な信号伝達調節因子としては、カスパーゼ、NF-κB、SAPK(stress-activated protein kinase)、Bcl-2ファミリーなどがある。
【0011】
本明細書において用いられる用語の「Fas信号伝達抑制用ペプチド」は、前述のFasに結合して、通常のFasリガンドと逆にFasの下位信号伝達体系を抑制する活性、細胞死滅抑制活性を有するペプチドを意味する。
【0012】
本発明の一具体例において、前記一般式IにおいてXaa及びXaaは、それぞれ独立して存在しないか、または任意のアミノ酸であってもよく、好ましくは、それぞれ独立してTyr、Phe及びTrpからなる群から選ばれてもよい。
【0013】
また、前記一般式Iにおいて、Xaaは、存在しないか、またはAla、Gly、Val、Leu、Ile、Met、Pro、Ser、Cys、Thr、Asn及びGlnからなる群から選ばれてもよく、好ましくは、Gly、Ala、Ser、Thr及びCysからなる群から選ばれてもよい。
【0014】
例えば、1)Xaa及びXaaはすべて存在せず、Xaaのみ存在してもよく、2)Xaa及びXaaのうちいずれかが存在するとともにXaaが存在してもよく、3)Xaa~Xaaがすべて存在しないなど、様々な組み合わせが可能である。
【0015】
本発明の一具体例において、前記一般式Iのアミノ酸配列は、配列番号1~12からなる群から選ばれる配列であってもよく、好ましくは、配列番号7~12からなる群から選ばれてもよく、より好ましくは、配列番号10~12からなる群から選ばれる配列であってもよい。
【0016】
一方、本発明において用いられるFas信号伝達抑制用ペプチドは、ペプチドの向上した安定性、強化された薬理特性(半減期、吸収性、力価、効能など)、変更された特異性(例えば、広範な生物学的活性スペクトル)、減少した抗原性を得るため、ペプチドのN-及び/又はC-末端が修飾(modification)されてもよい。前記数式は、前記ペプチドのN-及び/又はC-末端にアセチル基、フルオレニルメトキシカルボニル基、アミド基、ホルミル基、ミリスチル基、ステアリル基、又はポリエチレングリコール(PEG)が結合された形態であってもよいが、ペプチドの改質、特にペプチドの安定性を向上させることができる成分であれば、制限なく含んでもよい。本明細書において用いられる用語の「安定性」は、生体内のタンパク質切断酵素の攻撃から、本発明のペプチドを保護するインビボ安定性だけでなく、貯蔵安定性(例えば、常温貯蔵安定性)も意味する。
【0017】
本発明において、前記肥満は、肥満の他に、糖尿病、脂肪肝、高脂血症、動脈硬化症、及びこれらの合併症のような肥満関連疾患を含み、前記脂肪肝は、非アルコール性脂肪肝であってもよい。
【0018】
非アルコール性脂肪肝は、運動不足、高熱量食事などの悪い生活習慣によって過剰なエネルギーが肝に中性脂肪の形でたまって発生する疾患をいう。放置する場合、肝炎、肝硬変から肝がんまで進行することがあるが、現在までは、適当な治療薬がなく、運動及び食生活の改善による治療が主に行われている。本発明において、前記非アルコール性脂肪肝は、単に脂肪がたまっているだけであり肝細胞の損傷はほとんどない単純非アルコール性脂肪肝、肝細胞の損傷が激しく、持続する慢性非アルコール性脂肪肝炎、肝硬変症に至る多様な形態の肝疾患を含む。
【0019】
本発明者らは、肥満時に脂肪組織にとともに肝組織においてもFasが多く発現し、特に肝臓では、肥満レベルが増加するにつれて、Fasの発現も比例的に増加することを確認した(図8)。そこで、Fas信号伝達抑制用ペプチドを生体内に投与すると、肥満モデルマウスの肝臓と脂肪組織に特異的に伝達されて(図10)Fasと結合することが分かった(図9)。すなわち、本発明は、脂肪組織及び肝組織に直接的に薬物(Fas信号伝達抑制用ペプチド)を伝達してFas信号伝達による炎症反応、細胞死滅、脂肪蓄積などを抑制し、結果として肥満、脂肪肝又は脂肪肝炎の症状を改善できることを確認したものである(図14図44)。
【0020】
本明細書において用いられる用語の「治療」は、本発明によるFas信号伝達抑制用ペプチド又はこれを含む薬学的組成物の投与により肥満、脂肪肝又は脂肪肝炎関連疾患の症状が好転するか、または有利に変更されるすべての行為を意味する。
【0021】
本明細書において用いられる用語の「投与」は、任意の適切な方法で対象に所定の物質、すなわち、本発明によるFas信号伝達抑制用ペプチド又はこれを含む薬学的組成物を導入することを意味する。これにより、本発明の薬学的組成物は、腹腔内投与、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、経口投与、局所投与、肺内投与、直腸内投与などの方式で投与されてもよいが、静脈内、皮下又は経口を介して投与されることが好ましい。具体的には、本発明の薬学的組成物が肥満の予防又は治療用途として用いられる場合には、静脈内投与が好ましく、脂肪肝又は脂肪肝炎の予防又は治療用途として用いられる場合には、皮下投与が好ましい。
【0022】
本発明の一具体例によると、本発明のFas信号伝達抑制用ペプチドは、静脈注射時(全身伝達時)肝臓と脂肪組織に特異的に伝達され、皮下注射時には、肝臓に特異的に伝達されて(図10)、炎症反応を抑制する特徴がある。また、肥満モデルマウスにFas信号伝達抑制用ペプチドを静脈注射で投与した場合には、体重が増加するが(図24のA)、皮下注射時には、体重が維持される傾向を示した(図37)。これにより、同量のFas信号伝達抑制用ペプチド又はこれを含む薬学的組成物を使用しても、投与経路に応じて肥満、脂肪肝又は脂肪肝炎の治療/改善効果のレベルが異なり得ることが分かる。
【0023】
一方、本発明の薬学的組成物は、静脈内又は皮下投与が容易なように注射剤の形態で投与されてもよい。注射剤として製造される場合、緩衝剤、保存剤、無痛化剤、可溶化剤、等張化剤、安定剤などが混合されてもよく、単位投薬アンプル又は多重投与形態で製造されてもよい。
【0024】
本発明において、「有効成分として含有」という用語は、医学的治療に適用可能な合理的な恩恵/リスク比で疾患を治療するのに十分な量を意味し、有効容量レベルは、患者の疾患の種類、重症度、薬物の活性、薬物に対する感度、投与時間、投与経路及び排出比率、治療期間、同時に使用される薬物を含む要素及びその他の医学分野においてよく知られている要素によって決定されてもよい。本発明によるペプチド又はこれを含む薬学的組成物は、個別治療剤として投与するか、他の治療剤と併用して投与されてもよく、従来の治療剤と順次又は同時に投与されてもよく、単一又は多重投与されてもよい。前記要素をすべて考慮して副作用なしに最小限の量で最大の効果が得られる量を投与することが重要であり、これは当業者によって容易に決定されてもよい。本発明の薬学的組成物の投与量と回数は、治療する疾患、投与経路、患者の年齢、性別、体重、及び疾患の重症度などの様々な関連因子とともに、活性成分の種類に応じて決定される。
【0025】
したがって、本発明の薬学的組成物は、有効成分としてFas信号伝達抑制用ペプチドを含むことに加えて、薬学的に許容される担体をさらに含んでもよい。本発明の薬学的組成物に含まれる薬学的に許容される担体は、製剤時に通常用いられるものであり、ラクトース、デキストロス、スクロース、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アカシアゴム、リン酸カルシウム、アルギネート、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、シロップ、メチルセルロース、メチルヒドロキシベンゾアート、プロピルヒドロキシベンゾアート、タルク、ステアリン酸マグネシウム及びミネラルオイルなどを含むが、これに限定されるものではない。本発明の薬学的組成物は、前記成分の他に、潤滑剤、湿潤剤、甘味剤、香味剤、乳化剤、懸濁剤、保存剤などをさらに含んでもよい。適切な薬学的に許容される担体及び製剤は、Remington's Pharmaceutical Sciences(19th ed., 1995)に詳細に記載されている。
【0026】
本発明の薬学的組成物の適切な投与量は、製剤化方法、投与方式、患者の年齢、体重、性、病的状態、飲食物、投与時間、投与経路、排泄速度、及び反応感応性のような要因によって様々に処方されてもよい。一方、本発明の薬学的組成物の投与量は、好ましくは、1日当たり0.001-1000mg/kg(体重)である。
【0027】
本発明の薬学的組成物は、当該発明が属する技術分野において、通常の知識を有する者が容易に実施できる方法により、薬学的に許容される担体及び/又は賦形剤を用いて製剤化することにより、単位容量の形態で製造されるか、または多容量容器内に内入させて製造されてもよい。このとき、剤形は、オイル又は水性媒質中の溶液、懸濁液又は乳化液の形態であるか、またはエキス剤、粉末剤、顆粒剤、錠剤又はカプセル剤の形態であってもよく、分散剤又は安定化剤をさらに含んでもよい。
【0028】
本発明の他の態様は、下記一般式Iで表されるアミノ酸配列を含むFas信号伝達抑制用ペプチドを提供する。
【0029】
Xaa-Cys-Asp-Glu-His-Phe-Xaa-Xaa
【0030】
前記一般式において、
Xaa及びXaaは、それぞれ独立して存在しないか、または任意のアミノ酸であり、
Xaaは存在しないか、またはAla、Gly、Val、Leu、Ile、Met、Pro、Ser、Cys、Thr、Asn及びGlnからなる群から選ばれる。
【0031】
前記Fas信号伝達抑制用ペプチドは、肥満、脂肪肝又は脂肪肝炎の治療又は改善用薬学的組成物に含まれるFas信号伝達抑制用ペプチドと同一であるため、重複内容は、記載を省略する。
【発明の効果】
【0032】
本発明のFas信号伝達抑制用ペプチドは、肥満時、肝臓と脂肪組織において多く発現するFasに特異的に結合するため、肥満による炎症部位に対する伝達効率が高く、炎症の主要な信号伝達体系であるFas信号伝達を直接的に抑制して炎症反応を抑制できるため、肥満、脂肪肝又は脂肪肝炎の改善、治療用途として有用に使用しうる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1図1は、Fasが常に発現するJurkat細胞株に信号伝達抑制ペプチドであるFBP-8、FBP-A及びFBP-7を処理してFasとの結合の有無を確認した結果である。 Mock=非処理群(いかなるペプチドも処理しない実験群); CtrFBP=陰性対照群(対照ペプチド処理群);FBP-8=YCDEHFCYペプチド処理群; FBP-A=YCDEHFAY処理群及びFBP-7=YCDEHFY処理群。
図2図2は、Jurkat細胞株にFasリガンド(FasL)とFas信号伝達抑制ペプチドであるFBP-8、FBP-A又はFBP-7を同時に処理した後、細胞死滅レベルを確認した結果(A)及び血清においてFBP-8とFBP-7の安定性を確認した結果(B)である。
図3図3は、3T3L1細胞株に様々な濃度のFBP-8を処理した後、細胞毒性の有無を確認した結果である。
図4図4は、3T3L1細胞株にFasリガンド(FasL)とFBP-8を同時に処理した後、細胞死滅レベルを確認した結果である。
図5図5は、3T3L1細胞株にFasリガンド(FasL)とFBP-8を同時に処理した後、炎症反応関連遺伝子の発現レベルを確認した結果である。
図6図6は、3T3L1細胞株にFasリガンド(FasL)とFBP-8を同時に処理した後、細胞培養液において炎症反応関連サイトカインのレベルを確認した結果である。
図7図7は、3T3L1細胞株にFasリガンド(FasL)とFBP-8を同時に処理した後、細胞培養液として放出された遊離脂肪酸(free fatty acid、FFA)の濃度を確認した結果である。
図8図8は、正常体重マウス(NCD)と肥満モデルマウス(HFD)の白色脂肪組織及び肝組織においてFas発現レベル(A及びB)、肥満モデルマウス(HFD)の肝組織において体重によるFas発現の変化(C)及びFas発現細胞の割合(D)を確認した結果である。NCD=正常飼料給与群(normal control diet);HFD=高脂肪飼料給与群(high fat diet);WAT=白色脂肪組織(white adipose tissue);及びLiver=肝組織。
図9図9は、肥満モデルマウス(HFD)の白色脂肪組織と肝組織切片においてFBP-8のFas結合の有無を確認した結果である。
図10図10は、肥満モデルマウス(HFD)に蛍光標識されたFBP-8を皮下注射(A)又は静脈注射(B)で注入し、24時間及び48時間後に各臓器の蛍光分布を確認した結果である。Mock=非投与群(ペプチド非投与);CtrFBP=陰性対照群(対照ペプチド投与);及びFBP-8=FBP-8投与群。
図11図11は、静脈注射でFBP-8を注入した肥満モデルマウスの肝組織切片においてFBP-8の蛍光信号を確認した結果である。
図12図12は、正常体重のマウスに蛍光標識されたFBP-8を静脈注射(IV)又は皮下注射(SC)で注入し、12時間後に各臓器の蛍光分布を確認した結果である。
図13図13は、本発明の一例による動物実験の過程を概略的に示す。
図14図14は、静脈注射でFBP-8を注入した肥満モデルマウスの肝組織切片においてTUNEL染色で死滅細胞の割合を確認した結果である。
図15図15は、静脈注射でFBP-8を注入した肥満モデルマウスの白色脂肪組織切片においてTUNEL染色で死滅細胞の割合を確認した結果である。
図16図16は、静脈注射でFBP-8を注入した肥満モデルマウスの白色脂肪組織において炎症誘発マクロファージ標識遺伝子であるF4/80、CD11cの発現レベルを確認した結果である。
図17図17は、静脈注射でFBP-8を注入した肥満モデルマウスの白色脂肪組織においてCLS(crown-like structure)の面積を確認した結果である。
図18図18は、静脈注射でFBP-8を注入した肥満モデルマウスの白色脂肪組織において炎症反応関連遺伝子の発現レベルを確認した結果である。
図19図19は、静脈注射でFBP-8を注入した肥満モデルマウスの血液において炎症誘発サイトカインのレベルを測定した結果である。
図20図20は、静脈注射でFBP-8を注入した肥満モデルマウスの肝組織においてF4/80、CD11c及びCD206の発現レベルを確認した結果である。
図21図21は、静脈注射でFBP-8を注入した肥満モデルマウスの肝組織において炎症反応関連遺伝子の発現レベルを確認した結果である。
図22図22は、静脈注射でFBP-8を注入した肥満モデルマウスにおいてブドウ糖抵抗性を評価した結果である。
図23図23は、静脈注射でFBP-8を注入した肥満モデルマウスにおいてインスリン感度を評価した結果である。
図24図24は、肥満モデルマウスに静脈注射でFBP-8を投与する過程において、一日飼料の摂取量(A)及び体重の変化(B)を確認した結果である。
図25図25は、静脈注射でFBP-8を注入した肥満モデルマウスの肝組織において脂肪生成遺伝子であるSCD-1(stearoyl-CoA desaturase)の発現レベルを確認した結果である。
図26図26は、静脈注射でFBP-8を注入した肥満モデルマウスの血液において脂肪酸とインスリンの濃度を測定した結果である。
図27図27は、静脈注射でFBP-8を注入した肥満モデルマウスの肝組織と血清において中性脂肪(triglyceride、TG)の濃度を測定した結果である。
図28図28は、静脈注射でFBP-8を注入した肥満モデルマウスの肝組織の形態と重量を確認した結果である。
図29図29は、静脈注射でFBP-8を注入した肥満モデルマウスの肝組織切片において肝臓損傷の程度を確認した結果である。
図30図30は、静脈注射でFBP-8を注入した肥満モデルマウスの血液において肝機能の指標であるALT(alanine aminotransferase)レベルを測定した結果である。
図31図31は、皮下注射でFBP-7を注入した肥満モデルマウスの肝組織切片においてTUNEL染色で死滅細胞の割合を確認した結果である。NCD=正常群(正常飼料給与群);Mock=非投与群(ペプチド非投与);CtrFBP=陰性対照群(対照ペプチド投与);Saxenda=陽性対照群(リラグルチド投与);及びFBP-7=FBP-7投与群。
図32図32は、皮下注射でFBP-7を注入した肥満モデルマウスの肝組織において炎症反応関連マクロファージ標識遺伝子の発現レベルを確認した結果である。
図33図33は、皮下注射でFBP-7を注入した肥満モデルマウスの肝組織において炎症反応関連遺伝子の発現レベルを確認した結果である。
図34図34は、皮下注射でFBP-7を注入した肥満モデルマウスの肝組織においてFas遺伝子の発現レベルを確認した結果である。
図35図35は、皮下注射でFBP-7を注入した肥満モデルマウスの血液において炎症誘発サイトカインのレベルを測定した結果である。
図36図36は、皮下注射でFBP-7を注入した肥満モデルマウスにおいてブドウ糖抵抗性を評価した結果である。
図37図37は、皮下注射でFBP-7を注入した肥満モデルマウスの時間経過による体重を測定した結果である。
図38図38は、皮下注射でFBP-7を注入した肥満モデルマウスの時間経過による飼料摂取量を確認した結果である。
図39図39は、皮下注射でFBP-7を注入した肥満モデルマウスの肝組織形態と重量を確認した結果である。
図40図40は、皮下注射でFBP-7を注入した肥満モデルマウスの肝組織切片において肝組織の損傷程度を確認した結果である。
図41図41は、皮下注射でFBP-7を注入した肥満モデルマウスの肝組織において脂肪蓄積に関与する遺伝子であるPPAR-γの発現レベルを確認した結果である。
図42図42は、皮下注射でFBP-7を注入した肥満モデルマウスの肝組織において中性脂肪レベルを確認した結果である。
図43図43は、皮下注射でFBP-7を注入した肥満モデルマウスの血液において脂肪酸とインスリン濃度を測定した結果である。
図44図44は、皮下注射でFBP-7を注入した肥満モデルマウスの血液において肝機能の指標であるALTのレベルを測定した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。これらの実施例は、単に本発明をより具体的に説明するためのものであり、本発明の要旨に基づいて、本発明の範囲がこれらの実施例によって制限されないことは、当業界で通常の知識を有する者にとって自明であろう。
【0035】
実験方法
1.ペプチド
ペプチドは、下記配列をPEPTRON社(大田、大韓民国)で合成した後、凍結乾燥状態でpH7.4のPBSに溶解させて使用した。最初のペプチドは、先行文献(Proc Natl Acad Sci U S A. 2004 Apr 27;101(17):6599-604)に開示されている。
【0036】
Fas Blocking Peptide(FBP又はFBP-8):YCDEHFCY(配列番号11)
Fas Blocking Peptide7(FBP7):YCDEHF-Y(配列番号10)
Fas Blocking Peptide A(FBPA):YCDEHFAY(配列番号12)
Control Peptide(CTRP):YCNSTVCY(配列番号13)
【0037】
2.細胞培養
ヒト血液がん細胞であるJurkat細胞株とマウス脂肪細胞である3T3L1細胞株は、ATCC(米国)から購入し、Jurkat細胞株は、10%ウシ胎児血清(fetal bovine serum、FBS)、1%ペニシリン、1%ストレプトマイシン及び25mMブドウ糖が含まれたRPMI培養液で培養した。
【0038】
3T3L1細胞株は、10%FBS、1%ペニシリン、1%ストレプトマイシン及び25mMブドウ糖が含まれたDMEM培養液で培養した。3T3L1細胞株は、2x10細胞/ml濃度で前記DMEM培養液に分注して3日間、脂肪細胞成熟化を誘導し、その後、インスリンが含まれた培養液に交換し、さらに3日間、脂肪細胞成熟化を誘導した。その後、前記DMEM培養液で2日間さらに培養して脂肪細胞の完全な成熟化を達成した。
【0039】
3.細胞毒性及び細胞死滅実験
前記1.に記載されたペプチドの細胞毒性実験は、CCK-8分析キット(Dojindo Laboratories、日本)で行った。3T3L1細胞株に様々な濃度(uM)のペプチドを処理し、24時間後に細胞毒性を分析した。
【0040】
3T3L1細胞株にFasL(Fas Ligand)を500ng/ml濃度で処理して細胞死滅を誘導し、Alexa 647と結合されたFBP信号遮断ペプチド(FBP-8、FBP-A及びFBP-7)及びCtrFBPをそれぞれ処理した。ペプチド処理4時間後、細胞をDPBSで洗浄し、FITC-結合アネキシンV(BD pharmingen)を処理してフローサイトメトリーで細胞死滅抑制効果を分析した。
【0041】
4.動物実験
本発明のために行われたすべての動物実験は、漢陽大学校の動物実験倫理委員会の承認を受けた。肥満モデルマウスを作製するため、6週齢のC57BL/6マウスに8週間高脂肪飼料を給与し、マウスの体重が42~44gの範囲になったとき、無作為に実験群によって分類した。その後、実験群によってFBP8 60μg/1回を静脈注射で1週間に2回ずつ、計5週間投与するか(図13)、またはFBP7を毎日2回ずつ皮下注射で投与した。
【0042】
5.組織免疫学的分析
動物実験終了後、マウスを犠牲にして肝組織と白色脂肪組織を分離し、組織切片を作製した。作製した肝組織及び白色脂肪組織切片に95℃の抗原暴露バッファ(antigen retrieval buffer)を25分間処理した後、室温で冷却させた。その後、組織切片に1%ウシ血清アルブミン(BSA)、10%ヤギ血清及び0.05%ツイン20を含むTBST(Tris Based Saline+Tween20)を処理してブロッキング過程を経て、Fas受容体特異的1次抗体と4℃で18時間反応させた。その後、TBSTで組織切片を洗浄し、FITC-結合2次抗体と2時間室温で反応させた。
【0043】
また、ペプチドの組織結合能力を調べるため、Alexa 488が結合されたペプチドと、1次抗体を4℃で18時間反応させた。核は、Hoechst 33342(GE Healthcare)で染色してTBSTで洗浄した後、確認した。
【0044】
各組織切片の蛍光信号は、TCS-SP5共焦点顕微鏡(Leica、ドイツ)で分析した。
【0045】
6.ペプチドの組織伝達有無の分析
肥満モデルマウスに100μgのAlexa647-結合ペプチドを静脈注射で投与し、12時間、24時間及び48時間後に組織を分離してImage station蛍光分析器(Carestream)で、各組織における蛍光信号を分析した。蛍光信号分析後、各組織間の相対的な蛍光強度は、NIHから提供されるImageJプログラムで比較した。
【0046】
また、肝組織において細胞単位のペプチド伝達の有無を確認するため、肥満モデルマウスに100μgのAlexa 488-結合FBPを静脈注射で投与し、12時間、24時間及び48時間後に肝組織を分離して凍結組織切片を作製した。その後、Hoechst 33342で核を染色し、TCS-SP5共焦点顕微鏡で蛍光信号を分析した。
【0047】
7.組織学的分析及びTUNEL分析
肝組織及び白色脂肪組織切片をヘマトキシリン&エオジンで染色した後、光学顕微鏡で組織学的分析を行った。
【0048】
また、各組織に対するTUNEL(terminal deoxynucleotidyl transferase dUTP nick end labeling)分析は、In situ Cell death detection kit(Millipore、米国)で行った。その後、Hoechst 33342で核を染色してTCS-SP5共焦点顕微鏡で蛍光信号を分析し、Image Jプログラムで細胞それぞれの蛍光信号を分析した。
【0049】
8.遺伝子発現レベルの分析
肝組織及び白色脂肪組織からRNAiso(Takara、日本)を用いてmRNAを抽出し、iscript cDNA合成キット(Bio-rad Laboratories、米国)でcDNAを合成した。その後、7500 Fast Real-time PCR system(Applied Biosystems、米国)で遺伝子発現レベルを分析した。各遺伝子の発現レベルは、GAPDH遺伝子の発現レベルで標準化した後、対照群に対する相対的な遺伝子発現量で計算した。
【0050】
9.ブドウ糖過敏症及びインスリン抵抗性の分析
ブドウ糖過敏症の分析のため、12時間空腹状態を維持した各実験群に2g/kg容量のブドウ糖を腹腔注射で注入し、30分、60分及び120分後の血中ブドウ糖の濃度をAccu-check(Roche、米国)で測定した。
【0051】
インスリン抵抗性は、4時間空腹状態を維持した各実験群に0.75U/kg容量のインスリンを腹腔注射で注入した後、30分、60分及び120分後、血中ブドウ糖の濃度を測定して分析した。
【0052】
10.その他の分析
血清及び組織のサイトカインレベルは、ELISA kit(eBioscience、米国)で分析し、肝組織のトリグリセリドレベルは、Triglyceride Assay Kit(Cayman、アメリカ)で確認した。
【0053】
11.統計解析
実験結果に対して互いに異なる実験群が2つである場合、ノンパラメトリックMann-Whitney U分析を用い、実験群が3つ以上の場合、One-way ANOVA分析で統計的有意性を確認した。統計分析は、GraphPad Prism 5プログラムを用いた。P値が0.05以下である場合、統計的有意性があると判断した。
【0054】
実験結果
1.Fas遮断ペプチドのFas発現細胞株に対する結合力及びFas信号制御効果の確認
既に明らかなFas信号伝達抑制ペプチド(YCDEHFCY、FBP-8)以外に、配列を変更した2種のペプチドFBP-A(YCDEHFAY)及びFBP-7(YCDEHFY)に対してFas発現細胞株に対する特異的結合力及び信号制御効果を確認した。
【0055】
Fasが常に発現するJurkat細胞株にFITC-標識Fas抗体を処理し、Alexa647で標識されたFBP-8、FBP-A、FBP-7又は対照ペプチド(YCNSTVCY;CtrFBP)を処理した。その後、蛍光信号を分析した結果、対照群(CtrFBP;対照ペプチド処理群)では、Alexa647信号をほとんど確認できず、対照ペプチドは、Jurkat細胞にほとんど結合しないことが分かり、FBP-8、FBP-A及びFBP-7処理群の場合、互いに類似したレベルでJurkat細胞に結合することが確認できた(図1)。
【0056】
また、Jurkat細胞株にFasリガンド(Fas ligand、FasL)及び信号伝達抑制ペプチドを処理した後、細胞死滅レベルを確認した結果、FBP-8、FBP-A及びFBP-7が全て類似したレベルのFas信号伝達の抑制効果を示した。具体的には、陰性対照群(CtrFBP)は、非処理群(Mock;いかなるペプチドも処理しない実験群)と細胞死滅レベルが類似したが(それぞれ31±2.32%及び29±3.24%)、FBP-8、FBP-A及びFBP-7処理群は、細胞死滅レベルがそれぞれ17±4.11%、15±5.26%及び14±3.22%となっており、非処理群(Mock)と比較して細胞死が効果的に抑制されたことが確認できた(図2のA)。併せて、環状のFBP-8、線状のFBP-8及びFBP-7の血清安定性を確認した結果、FBP-7が最も優れていることが分かった(図2のB)。
【0057】
また、Jurkat細胞株と異なるFas信号体系を有する3T3L1細胞株において同じ実験を行った。分化した3T3L1細胞株にFBP-8を100μMから1000μMまで様々な濃度で処理したとき、細胞毒性は、ほとんどなく(図3)、FasリガンドとFBP-8を同時に処理した場合、非処理群(Mock+)及び陰性対照群(CtrFBP)と比較して細胞死滅が顕著に抑制されたことが確認できた。各実験群の細胞死滅レベルは、それぞれ25±3.31%、23±5.12%及び14±2.98%である(図4)。
【0058】
FBP-8において優れたFas信号伝達抑制効果は、炎症関連遺伝子の発現レベルによっても確認できた。分化した3T3L1細胞株にFasリガンドとFBP-8を同時に処理した場合、炎症関連遺伝子であるFas、TNF-α、MCP-1(monocyte chemoattractant protein-1)、F4/80、IL-6及びiNOS(inducible nitric oxide synthase)の発現が著しく減少したことが観察できた(図5)。
【0059】
このような炎症関連遺伝子の発現抑制は、炎症関連サイトカインの生成減少につながり、FBP-8処理によって細胞培養液内のIL-6及びMCP-1の濃度が減少することが分かった(図6)。これらの結果は、FBP-8処理がFas由来の炎症関連信号伝達体系を効果的に抑制できることを意味する。
【0060】
また、脂肪細胞の炎症は、細胞死滅につながり、最終的には、細胞内に貯蔵された脂肪酸(FFA)が細胞外に放出されるが、FBP-8の処理は、このような細胞外への脂肪酸の放出も有意に抑制した(図7)。
【0061】
2.非アルコール性脂肪肝炎の動物モデルにおいてFas結合ペプチドの肝組織及び白色脂肪組織への特異的結合能力の評価
正常体重のマウスに高脂肪飼料を給与すると、肥満モデルマウスになり、このとき、肝組織又は白色脂肪組織においてFasの発現量が増加する。具体的には、高脂肪飼料給与群(high fat diet、HFD)の白色脂肪組織(white adipose tissue、WAT)と肝組織(liver tissue)においてFas発現量を確認した結果、正常飼料給与群(normal control diet、NCD)と比較して、それぞれ4倍及び3倍増加することが分かった(図8のA及びB)。特に、高脂肪飼料給与群(HFD)の場合、体重が増加するにつれてFasの発現量も比例して増加することが分かった(図8のC)。このような発現増加は、実際の組織においてFas発現細胞の割合が増加したことによりさらに確認でき、正常飼料給与群(NCD)と比較して高脂肪飼料給与群(HFD)の白色脂肪組織及び肝組織においてFas発現細胞の割合がそれぞれ70%及び75%にまで増加した(図8のD)。
【0062】
また、高脂肪飼料給与群(HFD)から分離した肝組織切片及び白色脂肪組織切片にFas特異的抗体と蛍光標識されたFBP-8を処理した場合、染色部位が一致し(図9)、これは肥満によって過発現したFasにFBP-8が効果的に結合することを意味する。
【0063】
実験によって確認したFBP-8のFas特異的結合能力に基づいてFBP-8を静脈注射又は皮下注射で全身伝達したとき、肝組織又は脂肪組織に特異的に伝達され得るか確認した。高脂肪飼料給与群の肥満モデルマウスに蛍光標識されたFBP-8を静脈注射又は皮下注射を介して注入し、24時間及び48時間後に各臓器を分離し、蛍光分布を調査した。
【0064】
その結果、陰性対照群(CtrFBP)と比較して皮下注射で注入されたFBP-8は、肝組織に特異的に伝達され、48時間以降まで肝組織に残っていることが分かった(図10のA)。静脈注射で注入されたFBP-8は、肝組織と白色脂肪組織に特異的に伝達された(図10のB)。肝組織切片の観察結果、静脈注射で注入されたFBP-8は、注射後12時間後から肝組織に効果的に伝達され、注入後48時間までも肝組織に残っていることが分かった(図11)。
【0065】
正常マウスに静脈注射(IV)又は皮下注射(SC)を介してFBP-8を注入した場合、肝組織において有意な蛍光信号を観察できず、FBP-8が肝臓に伝達されないことが確認できた(図12)。
【0066】
図10図12の結果から、肥満によって肝組織及び白色脂肪組織においてFas受容体の発現が増加し、FBP-8は、Fasを発現する肝組織及び白色脂肪組織に特異的に結合することが分かる。
【0067】
3.全身伝達されたFBPによる非アルコール性脂肪肝炎、インスリン抵抗性及び代謝疾患治療の効能評価
静脈注射で注入されたFBP-8が肥満モデルマウスの肝組織と白色脂肪組織に伝達されることを図10及び図11で確認したため、FBPの全身伝達によるFas信号伝達制御によって肝組織及び白色脂肪組織において炎症の緩和、細胞死滅抑制効果が得られるのか確認した。
【0068】
正常マウスに高脂肪飼料を8週間給与して肥満モデルマウスを作製し、1週間に2回ずつFBP-8を静脈注射で計5週間投与した(図13)。5週間後、肥満モデルマウスを犠牲にして白色脂肪組織と肝組織を分離し、TUNEL染色で死滅細胞の割合を分析した。
【0069】
分析結果、肝組織の場合、非投与群(Mock)と陰性対照群(CtrFBP)の死滅細胞の割合は、それぞれ19±5.28%と17±7.98%であるが、FBP-8処理群は、9±2.37%となり、死滅細胞の比率が有意に減少したことが確認できた(図14)。
【0070】
白色脂肪組織の場合、非投与群(Mock)と陰性対照群(CtrFBP)の死滅細胞の割合は、それぞれ55±3.42%と51±2.98%であるが、FBP-8処理群では、31±1.98%となり、死滅細胞の割合が著しく減少したことが分かった(図15)。
【0071】
FBP-8によるFas信号伝達制御の効果は、細胞死滅だけでなく、炎症反応も抑制し、白色脂肪組織において炎症誘発マクロファージ標識であるF4/80、CD11cの発現レベルを確認した結果、陰性対照群(CtrFBP)と比較してFBP-8処理群で有意に減少して白色脂肪組織において炎症反応が抑制されたことが分かった(図16)。
【0072】
また、白色脂肪組織の脂肪細胞の周辺にマクロファージが集まって形成されるCLS(crown-like structure)も陰性対照群(CtrFBP)と比較してFBP-8処理群において顕著に減少し(図17)、白色脂肪組織においてFas、TNF-α、MCP-1、IL-6などの炎症関連遺伝子の発現も陰性対照群(CtrFBP)と比較してFBP-8処理群で減少した(図18)。
【0073】
肥満状態では、白色脂肪組織で生成された炎症誘発サイトカインが血液を介して肝組織に伝達されて炎症を誘発するが、FBP-8処理群において血液中のIL-6及びMCP-1の濃度が減少したことが確認できた(図19)。
【0074】
肝組織においても白色脂肪組織に類似した炎症抑制効果を確認でき、炎症誘発マクロファージ標識であるF4/80及びCD11cの発現レベルが陰性対照群(CtrFBP)と比較してFBP-8処理群で減少し、炎症防止マクロファージ標識であるCD206の発現レベルは、有意な変化はなかった(図20)。Fas、TNF-α、MCP-1、IL-6などの炎症関連遺伝子の発現レベルも陰性対照群(CtrFBP)と比較してFBP-8処理群で有意に減少した(図21)。
【0075】
FBP-8の全身伝達は、肥満モデルマウスにおいてインスリン抵抗性の増加によるブドウ糖代謝障害も改善した。具体的には、ブドウ糖抵抗性の評価(Glucose Tolerance Test、GTT)及びインスリン感度の評価(Insulin Tolerance Test、ITT)において陰性対照群(CtrFBP)は、非投与群(Mock)と類似した血糖の変化を示したが、FBP-8処理群は、陰性対照群(CtrFBP)と比較してブドウ糖代謝が改善されたことを観察できた(図22及び図23)。
【0076】
各実験群において一日の飼料摂取量は、有意な変化がなかったが(図24のA)、FBP-8処理群は、陰性対照群(CtrFBP)と比較して体重増加が鈍化した傾向を示した(図24のB)。
【0077】
FBP-8の全身伝達による肝組織及び白色脂肪組織における炎症の緩和、細胞死滅抑制、ブドウ糖代謝障害の改善は、結果的に肥満によって発生した非アルコール性脂肪肝炎も改善した。
【0078】
具体的には、肥満モデルマウスの肝組織で確認した結果、FBP-8処理群において脂肪生成遺伝子であるSCD-1(stearoyl-CoA desaturase)の発現レベルが陰性対照群(CtrFBP)と比較して30±5.32%程度減少し(図25)、血液中の脂肪酸及びインスリンの濃度も陰性対照群(CtrFBP)と比較して20%程度減少した(図26)。中性脂肪(triglyceride、TG)の濃度は、FBP-8処理群の場合、肝組織で50%、血液で25%程度減少した(図27)。
【0079】
また、陰性対照群(CtrFBP)と比較してFBP-8処理群では、肝組織のサイズが小さく、重量も軽く(図28)、肝組織切片の組織学的分析により、FBP-8処理群において肝組織の損傷が抑制されたことが観察できた(図29)。肝組織の機能を評価する主要な標識である血中ALT(alanine aminotransferase)レベル測定結果からも、陰性対照群(CtrFBP)と比較してFBP-8処理群において30%以上減少したことが確認できた(図30)。
【0080】
4.皮下注射で全身伝達されたFBP-7による非アルコール性脂肪肝炎、インスリン抵抗性及び代謝疾患治療効能の評価
正常マウスに高脂肪飼料を8週間給与して肥満モデルマウスを作製し、毎日2回ずつFBP-7を皮下注射で計3週間投与した。陰性対照群(CtrFBP)としては、対照ペプチド、陽性対照群としては、肥満治療剤として市販されているリラグルチド(Liraglutide;商品名サクセンダ(Saxenda))を投与した。
【0081】
3週間後、マウスを犠牲にして肝組織を分離し、TUNEL染色で死滅細胞の割合を分析した。その結果、FBP-7投与群の死滅細胞の割合は、10±2.45%となり、非投与群(Mock)及び陰性対照群(CtrFBP)より著しく低く、陽性対照群であるリラグルチド投与群(11±4.89%)と類似したレベルを示した(図31)。
【0082】
FBP-7投与により肝組織において炎症反応も抑制された。陰性対照群(CtrFBP)と比較してFBP-7投与群で炎症誘発マクロファージ標識遺伝子であるF4/80及びCD11cの発現レベルが減少し、炎症抑制マクロファージ標識であるCD206の発現レベルは、著しく増加した(図32)。特異的に、リラグルチド投与群と比較してFBP-7投与群においてCD206の発現レベルがより多く増加し、F4/80の発現レベルは、有意に減少した。
【0083】
炎症関連遺伝子であるTNF-α、MCP-1及びIL-6の発現レベルも陰性対照群(CtrFBP)と比較してFBP-7投与群において減少し(図33)、炎症の主要な標識であるFasの発現もFBP-7投与群の肝組織において著しく減少した(図34)。このような肝組織における炎症反応の抑制により炎症誘発サイトカインであるIL-6及びMCP-1の血中濃度も減少した(図35)。
【0084】
FBP-7の全身伝達による炎症反応の抑制効果は、ブドウ糖代謝障害の改善効果にもつながった。ブドウ糖抵抗性評価実験において、FBP-7投与群は、陰性対照群(CtrFBP)と比較して優れた血糖量増加の鈍化効果及び正常血糖回復症を示し、ブドウ糖代謝障害を改善させ、リラグルチドと類似したレベルの改善効果を示した(図36)。
【0085】
このようなブドウ糖代謝障害の改善により、陰性対照群と比較してFBP-7投与群では、体重増加が著しく抑制され(図37)、飼料摂取量も多少減少した様相を示した(図38)。
【0086】
FBP-7投与による肝組織における炎症改善、細胞死滅抑制効果は、最終的に肥満によって誘発される非アルコール性脂肪肝炎を改善した。
【0087】
FBP-7投与群の肝臓は、陰性対照群(CtrFBP)と比較して、組織の重量が減少し(図39)、肝組織切片の組織学的分析においてもリラグルチド投与群と類似したレベルの組織損傷抑制効果を示した(図40)。
【0088】
また、陰性対照群(CtrFBP)と比較して肝臓において脂肪の蓄積に関与する遺伝子であるPPAR-γの発現レベルがFBP-7投与群において減少し、このような発現の減少効果は、陽性対照群であるリラグルチド投与群と比較しても著しく優れたレベルであった(図41)。肝組織内の中性脂肪レベル、血中脂肪酸濃度も陰性対照群(CtrFBP)と比較してFBP-7投与群において有意に減少し(図42及び図43)、肝機能回復指標である血中ALTFBP-7投与群において有意に減少することが確認できた(図44)。
【0089】
本発明のFas信号伝達抑制ペプチドは、肥満モデルマウスに静脈注射で注入時、肝組織と白色脂肪組織に特異的に伝達され、皮下注射で注入時、肝組織に特異的に伝達される。注入後に、肥満時に肝臓と脂肪組織において多く発現するFasに結合し、その後、下位信号伝達を遮断して炎症反応、細胞死滅を抑制し、結果として体重増加、脂肪蓄積などを抑制できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36
図37
図38
図39
図40
図41
図42
図43
図44
【配列表】
2022514125000001.app
【国際調査報告】