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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-10
(54)【発明の名称】神経毒プレフィルドバイアル
(51)【国際特許分類】
   A61J 1/05 20060101AFI20220203BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220203BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20220203BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20220203BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
A61J1/05 315A
A61K45/00
A61K38/16
A61K9/08
A61P25/00
A61J1/05 315B
A61J1/05 310
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021518883
(86)(22)【出願日】2019-10-07
(85)【翻訳文提出日】2021-04-06
(86)【国際出願番号】 EP2019077042
(87)【国際公開番号】W WO2020074419
(87)【国際公開日】2020-04-16
(31)【優先権主張番号】18199175.3
(32)【優先日】2018-10-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】511202045
【氏名又は名称】メルツ ファルマ ゲーエムベーハー ウント コンパニー カーゲーアーアー
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】特許業務法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フォクト,マルクス
【テーマコード(参考)】
4C047
4C076
4C084
【Fターム(参考)】
4C047AA05
4C047BB12
4C047BB14
4C047BB16
4C047BB20
4C047BB21
4C047BB22
4C047BB24
4C047BB30
4C047CC04
4C047DD02
4C047DD03
4C047DD04
4C076AA12
4C076BB11
4C076CC01
4C076FF36
4C084AA03
4C084AA17
4C084BA44
4C084CA04
4C084DA33
4C084MA17
4C084MA66
4C084NA03
4C084ZA01
(57)【要約】
本発明は、神経毒、好ましくはボツリヌス毒素の水性製剤で少なくとも部分的に満たされたバイアル、そのバイアルの製造およびその使用に関する。神経毒の水性製剤は、長期間そのバイアル内で安定である。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経毒、好ましくはボツリヌス毒素の水性製剤で少なくとも部分的に満たされたバイアルであって
開放端および閉鎖端を有する本体と、
前記本体に接続され、その前記開放端を密封する針貫通可能部材であって、前記針貫通可能部材および前記本体が前記神経毒の水性製剤で少なくとも部分的に満たされた内部空洞を画定する、針貫通可能部材と、
任意で、前記本体上に取り付けられ、前記針貫通可能部材の露出面を覆うキャップと、を含み、
前記本体が、前記神経毒の水性製剤と少なくとも部分的に接触している最内層を構成する第1の層、前記第1の層の上に配置された第2の層、および前記第2の層が前記第1の層と第3の層との間に挟まれるように前記第2の層の上に配置された前記第3の層を含む多層材料で作られており、
前記第1の層が、環状オレフィンポリマー(COP)、環状オレフィンコポリマー(COC)、もしくはそれらの混合物を含むか、またはそれらからなり、
前記第2の層が、ポリアミド(PA)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、エチレンビニルアルコールコポリマー(EVOH)、もしくはそれらの任意の混合物を含むか、またはそれらからなり、
前記第3の層が、環状オレフィンポリマー(COP)、環状オレフィンコポリマー(COC)、ポリエステル(PES)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、ポリアミド(PA)(ナイロン)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、ポリエチレン/アクリロニトリルブタジエンスチレン(PE/ABS)、ポリカーボネート(PC)、ポリカーボネート/アクリロニトリルブタジエンスチレン(PC/ABS)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリオキシメチレン(POM)、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)、熱可塑性エラストマー(TPE)、ポリフタルアミド(PPA)、ポリ(p-フェニレンスルフィド)(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリフェニルスルホン(PPSU)、ポリスルホン(PSU)、ポリカーボネート(PC)、ポリカーボネート/ポリエチレンテレフタレートブレンド(PC/PET)、PCEM(ポリ[2-(9-カルバゾール-9-イル)エチルメタクリレート])、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)、スチレンアクリロニトリル樹脂(SAN)、またはそれらの任意の混合物もしくはコポリマーを含むか、またはそれらからなる、バイアル。
【請求項2】
前記針貫通可能部材が、ポリアミド(PA)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、エチレンビニルアルコールコポリマー(EVOH)、イソプレンゴム(IS)、ブタジエンゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、スチレン-ブタジエンゴム、およびそれらの混合物、
好ましくは、ブチルゴムもしくはハロゲン化ブチルゴムまたはそれらの混合物、より好ましくは、ブロモブチルゴムまたはクロロブチルゴムを含むか、またはそれらからなる、請求項1に記載のバイアル。
【請求項3】
前記多層材料が、前記第3の層が前記第2の層と第4の層との間に挟まれるように第3の層の上に配置された前記第4の層をさらに含む、請求項1または2に記載のバイアル。
【請求項4】
前記第4の層が、環状オレフィンポリマー(COP)、環状オレフィンコポリマー(COC)、ポリエステル(PES)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、ポリアミド(PA)(ナイロン)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、ポリエチレン/アクリロニトリルブタジエンスチレン(PE/ABS)、ポリカーボネート(PC)、ポリカーボネート/アクリロニトリルブタジエンスチレン(PC/ABS)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリオキシメチレン(POM)、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)、熱可塑性エラストマー(TPE)、ポリフタルアミド(PPA)、ポリ(p-フェニレンスルフィド)(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリフェニルスルホン(PPSU)、ポリスルホン(PSU)、ポリカーボネート(PC)、ポリカーボネート/ポリエチレンテレフタレートブレンド(PC/PET)、PCEM(ポリ[2-(9-カルバゾール-9-イル)エチルメタクリレート])、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)、スチレン-アクリロニトリル樹脂(SAN)、またはそれらの任意の混合物もしくはコポリマーを含むか、またはそれらからなる、請求項3に記載のバイアル。
【請求項5】
周囲と接触している外面を含み、前記外面が抗菌物質を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のバイアル。
【請求項6】
前記抗菌物質が、元素銀または銀含有化合物、元素銅もしくは銅含有化合物、元素ジンクもしくはジンク含有化合物、元素チタンもしくはチタン含有化合物、元素モリブデンもしくは、モリブデン含有化合物、元素タングステンもしくはタングステン含有化合物、有機抗菌化合物、またはそれらの任意の組み合わせを含む、請求項5に記載のバイアル。
【請求項7】
前記内部空洞が前記神経毒の水性製剤で部分的に満たされ、ガスまたはガス混合物をさらに含み、前記ガスまたはガス混合物が少なくとも80%の不活性ガス、特に窒素またはアルゴンを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のバイアル。
【請求項8】
前記水性製剤が、25℃および常圧で測定した場合に、25℃および常圧(約1.013バール)で前記水性製剤に可溶な酸素の最大量と比較して、20%未満の酸素を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載のバイアル。
【請求項9】
前記本体が、前記開放端を含むネック部分と、前記ネック部分に接続され、かつ前記閉鎖端を含む底部分とを有し、前記ネック部分が、少なくとも部分的に前記水性製剤を含まず、好ましくは完全に前記水性製剤を含まず、前記底部分は前記水性製剤を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載のバイアル。
【請求項10】
前記神経毒が10U/ml~1000U/mLの濃度で前記水性製剤中に存在する、請求項1~9のいずれか一項に記載のバイアル。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の、神経毒、好ましくはボツリヌス毒素の水性製剤で少なくとも部分的に満たされたバイアルを製造するための方法であって、
a)請求項1~10のいずれか一項で定義されている本体を提供するステップと、
b)神経毒の水性製剤で少なくとも部分的に前記本体を満たすステップと、
c)針貫通可能部材で前記本体の前記開放端を密封するステップと、を含む、方法。
【請求項12】
ステップb)の前に、前記本体が不活性ガス、好ましくは窒素またはアルゴンで満たされる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記神経毒の水性製剤が、ステップb)またはステップc)の前に、不活性ガス、好ましくは窒素またはアルゴンで脱気または飽和される、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
神経毒の水性製剤を貯蔵するための、請求項1~10のいずれか一項において定義される本体の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経毒、好ましくはボツリヌス毒素の水性製剤で少なくとも部分的に満たされたバイアルそのバイアルの製造およびその使用に関する。神経毒の水性製剤は、長期間、そのバイアル内で安定している。
【背景技術】
【0002】
医薬製品の安定性は、十分に長期間にわたって安全および効果的な使用を保証するために最も重要である。残念ながら、ほとんどの医薬製品の性能(安全性、信頼性、および有効性)は時間の経過とともに劣化する。薬物の劣化の原因には、化学的分解(例えば、加水分解、酸化、還元、ラセミ化)、微生物汚染、およびその他のメカニズム(例えば、沈殿)が含まれる。
【0003】
タンパク質の有効成分はしばしば変化しやすい性質を持ち、本質的に不安定である。これは、タンパク質含有医薬組成物の製造、再構成、および/または貯蔵中の生物学的活性の喪失につながる。これらの問題は、結合の形成または切断(例えば、加水分解、酸化、ラセミ化、β-脱離およびジスルフィド交換)をもたらす化学的不安定性、および/または共有結合の切断修飾がない(例えば、変性、表面への吸着、および非共有結合の自己凝集)タンパク質の二次以上の構造の物理的不安定性に起因し得る。
【0004】
分解反応は一般に水性製剤において最も速く、固体剤形において最も遅いため、タンパク質有効成分はしばしば凍結乾燥(すなわちフリーズドライ(freeze-dried))製品として製剤化される。しかしながら、凍結乾燥製品は、一般に、使用前に薬学的に許容される液体(例えば、生理食塩水)で再構成されなければならず、これは潜在的なエラーの原因である。したがって、凍結乾燥された医薬製品は、他のすぐに使用できる剤形よりも利便性が低いと考えられている。さらに、凍結乾燥製品は、溶液製剤と比較して、製造するのに、はるかに高価で時間がかかる。さらに、再構成プロセス中に管理ミスが発生し、不正確な投与または無菌状態の問題をもたらし得る。
【0005】
上記を考慮して、タンパク質有効成分の水性製剤は、一般的に非常に求められている。しかしながら、水性製剤は多くの欠点を必然的に伴う。特に、一般に水性製剤においては分解反応が速いことが示されている。一方では、これはタンパク質有効成分自体の変化しやすい性質によるものである。他方、タンパク質有効成分の水性製剤を包装するために使用される包装材料もまた、タンパク質有効成分の分解において重要な役割を果たす。たとえば、プラスチックで作られている包装材料(例えば、バイアル、注射器)は、タンパク質(例えば、神経毒)を不安定化することが知られており、これは、材料自体の性質が原因なだけでなく、包装材料の製造に使用される添加物(例えば、可塑剤)も原因と考えられている。プラスチック材料のさらなる欠点は、それらのガス透過性であり、酸素がタンパク質有効成分の水性製剤に拡散する可能性があるため、これは、タンパク質有効成分(例えば、神経毒)を非常に頻繁に不安定化する。
【0006】
したがって、ガラスが通常使用され、タンパク質有効成分のパッケージングの現在の業界標準として考えられている。しかし、ガラスは欠点がないわけではない。たとえば、ガラスは高い破損のリスクを有し、そして水性製剤のpHに影響を与え得る。さらに、水性製剤のガラスへの接触角が低いため、例えば注射器で水性製剤を取り出した後、液滴のような残留物がガラス容器内に残り得る。これを考慮して、従来技術では、バイアルなどの容器からこの「取り出し可能な容積」を増加/最適化する試みがなされてきた。
【0007】
WO00/15245は、高濃度のボツリヌス毒素タイプB(約2500U/mL)の液体製剤を開示しており、これは、ガラスバイアル中に5℃で最大30ヶ月間保存された場合、安定である。ただし、この安定性は、溶液のpHを5~6の酸性pHに下げるよう緩衝することによってのみ達成され、注射時に痛みを引き起こす。
【0008】
今日、当技術分野における多大な努力にもかかわらず、神経毒、特にボツリヌス毒素の水性製剤を安全で、便利で、および長期に貯蔵を可能にする利用可能な包装材料はまだない。この理由ため、凍結乾燥は依然としてすべての選択肢の中で最良であると考えられており、その結果、神経毒は一般に凍結乾燥製品の形で製造され、使用前に再構成される。
【0009】
したがって、上記の欠点を克服する神経毒の水性製剤の包装に適した材料が強く求められている。特に、水性製剤中の神経毒に対する不安定化効果が低減され、それによって神経毒の貯蔵安定性が改善されるプラスチック材料に対する高い需要がある。
【0010】
発明の目的
上記を考慮して、本発明の目的は、長い貯蔵寿命を有し、使用するのに便利であり、かつ製造するのに安価な神経毒の剤形を提供することである。
【発明の概要】
【0011】
上記の目的は、神経毒の優れた長期安定性によって特徴づけられる神経毒の水性製剤で少なくとも部分的に満たされたバイアルを提供することによって解決される。さらに、神経毒の水性製剤で少なくとも部分的に満たされたバイアルは、使用が便利であり、製造が安価であると特徴づけられる。
【0012】
第1の態様では、本発明は、神経毒の水性製剤で少なくとも部分的に満たされたバイアルを提供する。バイアルは、開放端と閉鎖端を有する本体を含む。さらに、バイアルは、その本体に接続され、その開放端を密封する針貫通可能部材を含む。針貫通可能部材および本体は、その神経毒の水性製剤で少なくとも部分的に満たされた内部空洞を画定する。任意で、バイアルは、その本体上に取り付けられ、その針貫通可能部材の露出面を覆うキャップを含む。本体は、最内層を構成する第1の層を含む多層材料で作られている。第1の層は、神経毒の水性製剤と少なくとも部分的に接触している。さらに、多層材料は、第1の層の上に配置された第2の層と、第2の層が第1の層と第3の層との間に挟まれるように、第2の層の上に配置された第3の層とを含む。第1の層は、環状オレフィンポリマー(COP)、環状オレフィンコポリマー(COC)、もしくはそれらの混合物を含むか、またはそれらからなる。第2の層は、ポリアミド(PA)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、エチレンビニルアルコールコポリマー(EVOH)もしくはそれらの任意の混合物を含むか、またはそれらからなる。第3の層は、環状オレフィンポリマー(COP)、環状オレフィンコポリマー(COC)、ポリエステル(PES)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、ポリアミド(PA)(ナイロン)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、ポリエチレン/アクリロニトリルブタジエンスチレン(PE/ABS)、ポリカーボネート(PC)、ポリカーボネート/アクリロニトリルブタジエンスチレン(PC/ABS)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリオキシメチレン(POM)、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)、熱可塑性エラストマー(TPE)、ポリフタルアミド(PPA)、ポリ(p-フェニレンスルフィド)(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリフェニルスルホン(PPSU)、ポリスルホン(PSU)、ポリカーボネート(PC)、ポリカーボネート/ポリエチレンテレフタレートブレンド(PC/PET)、PCEM(ポリ[2-(9-カルバゾール-9-イル)エチルメタクリレート])、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)、スチレン-アクリロニトリル樹脂(SAN)、またはそれらの任意の混合物もしくはコポリマーを含むか、またはそれらからなる。
【0013】
別の態様では、本発明は、神経毒の水性製剤で少なくとも部分的に満たされたそのバイアルを製造するための方法を提供する。この方法は、a)本明細書で定義される本体を提供するステップと、b)神経毒の水性製剤で本体を少なくとも部分的に満たすステップと、c)針貫通可能部材で本体の開放端を密封するステップとを含む。
【0014】
さらなる態様において、本発明は、神経毒の水性製剤を貯蔵するための、本明細書に記載されるような本体の使用を提供する。
【0015】
本発明のさらなる実施形態は、添付の従属請求項に記載されている。本発明は、以下の本発明の詳細な説明および実施例を参照することにより、より十分に理解され得る。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、神経毒、特にボツリヌス毒素の水性製剤が、低温(例えば、2~8℃)、周囲温度(例えば、25℃)そして、高温(例えば、30℃)でさえも、本明細書に記載されているとおりのバイアルに保存された場合、長期間安定であるという驚くべき発見に基づいている。
【0017】
第1の態様では、本発明は、神経毒の水性製剤で少なくとも部分的に満たされたバイアルに関する。好ましくは、神経毒はボツリヌス毒素である。
【0018】
バイアルは、開放端および閉鎖端を有する本体を含む。好ましくは、開放端および閉鎖端は、互いに反対側に配置される。
【0019】
バイアルは、その本体に接続され、その開放端を密封する針貫通可能部材をさらに含む。本体および針貫通可能部材は、その神経毒の水性製剤で少なくとも部分的に満たされた内部空洞を画定する。たとえば、針貫通可能部材は隔膜である。
【0020】
任意で、バイアルは、その本体上に取り付けられ、その針貫通可能部材の露出面を覆うキャップを含む。好ましくは、キャップは、その本体上に回転可能に取り付けられる。
【0021】
本体は、最内層を構成する第1の層を含む多層材料で作られている。第1の層は、神経毒の水性製剤と少なくとも部分的に接触している。多層材料は、第1の層の上に配置された第2の層と、第2の層が第1の層と第3の層との間に挟まれるように第2の層の上に配置された第3の層とをさらに含む。
【0022】
第1の層は、環状オレフィンポリマー(COP)、環状オレフィンコポリマー(COC)、もしくはそれらの混合物を含むか、またはそれらからなる。第2の層は、ポリアミド(PA)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、エチレンビニルアルコールコポリマー(EVOH)もしくはそれらの任意の混合物を含むか、またはそれらからなる。第3の層は、環状オレフィンポリマー(COP)、環状オレフィンコポリマー(COC)、ポリエステル(PES)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、ポリアミド(PA)(ナイロン)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、ポリエチレン/アクリロニトリルブタジエンスチレン(PE/ABS)、ポリカーボネート(PC)、ポリカーボネート/アクリロニトリルブタジエンスチレン(PC/ABS)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリオキシメチレン(POM)、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)、熱可塑性エラストマー(TPE)、ポリフタルアミド(PPA)、ポリ(p-フェニレンスルフィド)(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリフェニルスルホン(PPSU)、ポリスルホン(PSU)、ポリカーボネート(PC)、ポリカーボネート/ポリエチレンテレフタレートブレンド(PC/PET)、PCEM(ポリ[2-(9-カルバゾール-9-イル)エチルメタクリレート])、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)、スチレン-アクリロニトリル樹脂(SAN)、またはそれらの任意の混合物もしくはコポリマーを含むか、またはそれらからなる。
【0023】
本明細書で使用される「バイアル」という用語は、シールを備えた任意の容器を指す。特に、バイアルは管状形態または瓶様形状を有し、かつ製剤を収容、貯蔵、および/または輸送するのに適している。好ましくは、バイアルは滅菌に対して安定である。好ましくは、バイアルは化学的に不活性である。好ましくは、バイアルは1チャンバーバイアルである。好ましくは、バイアルは、開放端から閉鎖端まで延びる中心軸を含む管状形態または瓶様形状を有する。
【0024】
本明細書で使用される「部分的に満たされた」という用語は、本体および針貫通可能部材によって画定される内部空洞の容積の100%未満が神経毒の水性製剤によって占められていることを意味する。言い換えれば、内部空洞は神経毒の水性製剤で完全に満たされていない。したがって、神経毒の水性製剤によって占められていない特定の容積が内部空洞に残っている。この容積は「ヘッドスペース容積」とも呼ばれ、通常は空気などのガスで占められる。好ましくは、ヘッドスペース容積は、不活性ガス、例えば窒素によって占められている。
【0025】
本明細書で使用される「水性製剤」または「神経毒の水性製剤」という用語は、水溶液、懸濁液、分散液または乳濁液を指すことを意図し、好ましくは水溶液を指す。「水性製剤」は、緩衝液を含んでもよく、または緩衝液を含まなくてもよい。好ましい緩衝液は、リン酸緩衝液などのほぼ生理学的pH、好ましくは約pH=5.8~8.0、より好ましくは約pH=6.0~7.5、より好ましくは約pH=6.5~7.5、より好ましくは約pH=6.8~7.2、さらにより好ましくは、約pH=7で活性である緩衝液である。
【0026】
本発明の文脈内で、神経毒の水性製剤は、様々な他の薬学的に許容される物質、例えば、塩(例えば、塩化ナトリウム)、安定化タンパク質(例えば、アルブミン、ゼラチン)、糖(例えば、グルコース、フルクトース、ガラクトース、トレハロース、スクロースおよびマルトース)、炭水化物ポリマー(例えば、ヒアルロン酸およびポリビニルピロリドン(PVP))、ポリオール(例えば、グリセロールおよびマンニトール、イノシトール、ラクチトール、イソマルト、キシリトール、エリスリトール、ソルビトールのような糖アルコール)、アミノ酸、ビタミン(例えば、ビタミンC)、亜鉛、マグネシウム、麻酔薬(例えば、リドカインのような局所麻酔薬)、界面活性剤(例えば、Tween、ポリソルベート)などの、単独またはそれらの組み合わせのいずれか、を含み得る。本明細書で使用される「薬学的に許容される」という用語は、哺乳動物、特にヒトの組織との接触に適した化合物または物質を指す。
【0027】
神経毒の水性製剤は、特に、塩化ナトリウムを、好ましくは0.01~2%(w/v)または0.1~2.0%(w/v)の濃度で、より好ましくは0.8から1.0%の濃度(w/v)、最も好ましくは0.9%(w/v)の濃度で含み得る。
【0028】
神経毒の水性製剤は、特に、安定化タンパク質、特にアルブミン(例えば、ヒト血清アルブミンまたはウシ血清アルブミン)、好ましくはヒト血清アルブミン(HSA)を含み得る。神経毒の水性製剤中の安定化タンパク質(例えば、アルブミン、特にヒト血清アルブミン)の濃度は、0.01~10.0mg/ml、0.01~5.0mg/ml、0.05~5.0mg/ml、0.1~2.0mg/ml、0.2~2.0mg/ml、または0.2~1.5mg/mlであり得る。
【0029】
神経毒の水性製剤は、特に、グルコース、フルクトース、ガラクトース、トレハロース、スクロースおよびマルトースなど、特にラクトースおよびスクロース、またはそれらの組み合わせの糖を含み得る。神経毒の水性製剤中の糖、特にラクトースまたはスクロースの濃度は、0.1~40mg/ml、0.1~20mg/ml、0.2~10mg/ml、または0.3~5mg/mlの範囲であり得る。
【0030】
神経毒の水性製剤は、特に、塩化ナトリウムおよびヒト血清アルブミンなどの安定化タンパク質を含み得、好ましくは、塩化ナトリウムの濃度は、0.1~2.0%(w/v)、特に0.8~1.0である。%(w/v)または0.9%(w/v)であり、安定化タンパク質の濃度は0.01~40mg/ml、特に0.01~10.0mg/mlである。
【0031】
神経毒の水性製剤は、特に、塩化ナトリウム、安定化タンパク質、および単糖および二糖から選択される糖を、好ましくは前の段落に示される濃度で含み得る。特に、神経毒の水性製剤は、(i)塩化ナトリウム、ヒト血清アルブミンおよびラクトース、または(ii)塩化ナトリウム、ヒト血清アルブミンおよびスクロース、または(iii)塩化ナトリウム、ヒト血清アルブミン、ラクトースおよびスクロースを含み得る。好ましくは、塩化ナトリウムの濃度は、0.1~2.0%(w/v)(例えば、0.8~1.0%(w/v)であり、安定化タンパク質の濃度は、0.01~40.0mg/ml(例えば、0.01~10.0mg/ml)であり、スクロースおよび/またはラクトースの濃度は0.1~40mg/mlである。
【0032】
神経毒の水性製剤は、特に、Xeomin(登録商標)またはBocouture(登録商標)(Merz Pharmaceuticals GmbH)、Botox(登録商標)(Allergan,Inc.)またはDysport(登録商標)(Ipsen,Ltd.)の再構成溶液であり得、特に再構成は0.1~2.0%(w/v)塩化ナトリウム、特に0.9%(w/v)の水溶液(すなわち生理食塩水)で行われる。
【0033】
好ましくは、神経毒の水性製剤は、6.0~7.5、6.0~7.4、6.0~7.3、6.1~7.5 6.1~7.4、6.5~7.5、6.1~7.3、6.2~7.2、6.3~7.1、および6.5~7.0のpHを有する。6.0~7.4または6.1~7.3の範囲内のpHが有利である。
【0034】
神経毒の水性製剤は、リン酸緩衝液、リン酸-クエン酸緩衝液、乳酸塩緩衝液、酢酸緩衝液などの緩衝液を含んでもよく、または含まなくてもよい。さらに、神経毒の水性製剤は、アミノ酸(例えば、メチオニン)および/または界面活性剤(例えば、ポリソルベート80などのポリソルベート)を含まなくてもよい。神経毒の水性製剤はまた、防腐剤を含まなくてもよく、一般的には含まれない。
【0035】
本明細書で使用するための神経毒の好ましい水性製剤は、水、ボツリヌス毒素(例えば、ボツリヌス毒素の神経毒性成分、好ましくはA型)、塩化ナトリウムおよびヒト血清アルブミンを含み、さらに任意で単糖または二糖、好ましくラクトースまたはスクロースを含み得る。
【0036】
本明細書で使用するための別の好ましい神経毒の水性製剤は、水、5~200U/mlまたは10~150U/mlなどの濃度のボツリヌス毒素(例えば、ボツリヌス毒素の神経毒性成分、好ましくはタイプA)、0.5%~1.5%w/vなどの濃度の塩(例えば、塩化ナトリウム)、0.1%~2%w/vなどの濃度の糖(例えば、グルコース、フルクトース、ガラクトース、トレハロース、スクロースおよびマルトースなどの単糖または二糖)、および0.005%~4%w/v、0.01%~3%w/v、または0.1%~1%w/vなどの濃度の安定化タンパク質(例、アルブミン)を含む。
【0037】
本明細書で使用するためのさらに好ましい神経毒の水性製剤は、本質的に、水、ボツリヌス毒素(例えば、ボツリヌス毒素タイプAの神経毒性成分)、塩化ナトリウム、スクロース、およびアルブミン(例えば、ヒト血清アルブミン;HSA)からなる。上記の成分の濃度は、以下の範囲、5~200U/mlまたは10~125U/ml(ボツリヌス毒素)、0.5%~1.5%w/vまたは0.7%~1.1%w/v(塩化ナトリウム)、0.1%~2%w/vまたは0.2%~1%w/v(スクロース)、0.005%~1%w/v、0.01%~0.5%w/v、0.05%~3%w/vまたは0.1%~1.5%w/v(HSA)であり得る。本明細書で使用するためのさらに好ましい神経毒の水性製剤は、例えば、ボツリヌス毒素タイプAの神経毒性成分の5~200U/mlを含む生理食塩水(0.9%塩化ナトリウム)で再構成されたXeomin(登録商標)溶液である。
【0038】
本明細書で使用される「本質的になる」という用語は、示されたもの以外の物質が微量にのみ含まれること、例えば、神経毒の水性製剤を処方するために使用される成分に含まれる避けられない不純物、および精製手順の結果としての単離されたボツリヌス毒(例えば、ボツリヌス毒素タイプAの神経毒性成分)に含まれる少量の不純物(例えば、非常に低い残留量の緩衝液、キレート剤など)を意味することを意図する。
【0039】
本明細書で使用される「神経毒」という用語は、神経系の細胞に悪影響を与える任意のポリペプチド、特にニューロンに入り、神経伝達物質の放出を阻害する任意のポリペプチドを意味する。より具体的には、「神経毒」という用語は、Clostridium細菌によって産生される任意のポリペプチド(クロストリジウム(clostridial)の神経毒)、すなわち、神経系の細胞に悪影響を及ぼし、特にニューロンに入り、神経伝達物質の放出を阻害する、Clostridium細菌によって産生される任意のポリペプチド(クロストリジウム(clostridial)の神経毒)を包含する。本明細書で使用される場合、「神経毒」は、天然に存在するか、または組換え性であり得る。本発明の文脈内において、神経毒は、好ましくはボツリヌス毒素、特に血清型Aのボツリヌス毒素である。本明細書で使用される「ボツリヌス毒素」という用語は、ボツリヌス毒素複合体および/または神経毒性成分、すなわち関連する非毒性タンパク質を含まない純粋な神経毒ポリペプチド(「150kDa」ポリペプチドと呼ばれることもある)を指す。
【0040】
一般に、COPは、シクロオレフィンの開環メタセシス重合とそれに続く水素化によって調製され、COCは、シクロオレフィンとエチレンまたはα-オレフィンとの共重合によって得られる。
【0041】
COPおよびCOCは耐破壊性があり、ガラスのような透明度を備え、アルカリ金属イオンを放出しないことが示されている。したがって、COPおよびCOCは水性製剤のpHに影響を与えない。さらに、COPおよびCOCは、含む抽出物および浸出物が非常に少量であり、神経毒-ポリマー相互作用に関して不活性であると考えられる。特に、COPおよびCOCは通常、神経毒の吸着が低い傾向を示す。
【0042】
特に特定の種類のCOPまたはCOCには限定されない。例えば、三井によるAPEL(登録商標)または「TOPAS Advanced Polymers GmbH」によるTOPAS(登録商標)の商品名で商品化されているCOCを使用することができる。ゼオンによるZeonex(登録商標)およびZeonor(登録商標)ならびに日本合成ゴムによるArton(登録商標)の商品名で商品化されているCOPは、とりわけ、使用し得る。好ましくは、商品名Zeonex690Rで商品化されたCOPが使用される。
【0043】
好ましくは、第1の層は、COPを含むか、またはそれからなる。第1の層がCOPからなることが特に好ましい。
【0044】
好ましくは、第2の層は、PAを含むか、またはそれからなる。第2の層がPAからなることが特に好ましい。PAは酸素透過性が低く、周囲からバイアルへの酸素の拡散を防ぎ、それによって神経毒を酸化に対して保護し、したがって分解から保護することが示されている。PAの正確な性質は特に制限されない。例えば、ほんの数例を挙げると、PA6、PA6.6、PA11、PA12、PA69、PA612、PA46、およびPA6/12が使用され得る。好ましくは、商品名GrivoryG21で商品化されたPA、ポリアミド6I/6Tコポリマー(ナイロン6I/6T)が使用される。
【0045】
別の好ましい実施形態によれば、第2の層は、PVDC、EVOH、もしくはそれらの混合物を含むか、またはそれらからなり、これらはまた、低い酸素透過性を示すことが知られている。好ましくは、第2の層は、PVDC、EVOHまたはそれらの混合物からなる。
【0046】
好ましくは、第3の層は、COPを含むか、またはそれからなる。第3の層がCOPからなることが特に好ましい。
【0047】
別の好ましい実施形態によれば、第3の層は、環状オレフィンコポリマー(COC)、ポリエステル(PES)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、ポリアミド(PA)(ナイロン)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、ポリエチレン/アクリロニトリルブタジエンスチレン(PE/ABS)、ポリカーボネート(PC)、ポリカーボネート/アクリロニトリルブタジエンスチレン(PC/ABS)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリオキシメチレン(POM)、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)、熱可塑性エラストマー(TPE)、ポリフタルアミド(PPA)、ポリ(p-フェニレンスルフィド)(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリフェニルスルホン(PPSU)、ポリスルホン(PSU)、ポリカーボネート(PC)、ポリカーボネート/ポリエチレンテレフタレートブレンド(PC/PET)、PCEM(ポリ[2-(9-カルバゾール-9-イル)エチルメタクリレート])、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)、スチレン-アクリロニトリル樹脂(SAN)、またはそれらの任意の混合物もしくはコポリマーを含み得るか、またはそれらからなり得る。
【0048】
好ましい実施形態によれば、本体は、3つの層、すなわち、上記のような第1の層、第2の層、および第3の層からなる多層材料で作られている。
【0049】
特に好ましい実施形態によれば、本体は、3つの層からなり、次の層シーケンス、COP-PA-COPを有する多層材料で作られている。
【0050】
例えば、Gerresheimer Bunde GmbHから市販されている第1のCOP層、第2のPA層および第3のCOP層を含む、Gx MultiShell(登録商標)バイアルが、本発明のバイアルの本体として使用され得る。
【0051】
上記のように、神経毒は好ましくはボツリヌス毒素である。ボツリヌス毒素は、特定の種類のボツリヌス毒素に限定されない。例えば、血清型、A、B、C(C、Cα、CおよびCβを含む)、D、E、F、GおよびHのボツリヌス毒素が使用され得る。好ましくは、神経毒は、血清型A、BまたはEであり、特に好ましくは血清型AまたはBである。例えば、血清型Aの純粋な神経毒成分(すなわち、150kDaの神経毒ポリペプチド)を含み、Clostridiumボツリヌス菌毒素複合体の他のタンパク質(すなわち、異なる血球凝集素および非毒性、非血球凝集タンパク質)を欠いている、Xeomin(登録商標)(incobotulinumtoxin、MerzPharma GmbH&Co.KGaA)が使用され得る。本発明で使用し得るボツリヌス毒素のさらなる例は、Botox(登録商標)(オナボツリヌス毒素A、Allergan, Inc.)またはDysport(登録商標)(アボボツリヌス毒素A、Ipsen Ltd.)である。
【0052】
好ましくは、神経毒は、10U/mL~1000U/mL、より好ましくは10U/mL~200U/ml、最も好ましくは50U/ml~100U/mlの濃度で水性製剤中に存在する。
【0053】
針貫通可能部材は、セプタム、スクリューキャップ、コルクの栓、プラスチックまたはゴム(リップクロージャーおよびクリンプクロージャー)、フリップトップまたはスナップキャップであり得る。好ましくは、針貫通可能部材はゴム栓であり、ゴムは好ましくはイソプレンゴム(IS)、ブタジエンゴム(例えば、ポリブタジエン、BR)、ブチルゴム(例えば、イソブチレンおよびイソプレンのコポリマー、IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(例えば、クロロブチルゴム、CIIR、およびブロモブチルゴム、BIIR)、スチレン-ブタジエンゴム(スチレンおよびブタジエンのコポリマー、SBR)またはそれらの混合物である。特に好ましくは、針貫通可能部材は、ブチルゴムまたはハロゲン化ブチルゴムまたはそれらの混合物である。さらにより好ましくは、針貫通可能部材は、ブロモブチルゴムまたはクロロブチルゴム、特に好ましくはブロモブチルゴムである。
【0054】
針貫通可能部材は、コーティングされていない、特にシリコーン処理されていなくてもよく、または部分的または完全に、例えばポリマー材料でコーティングされていてもよい。本発明の範囲内で、針貫通可能部材は、部分的または完全にシリコーン処理され得る。特に、針貫通可能部材は、部分的または完全に架橋シリコーンでコーティングされ得る。本発明によれば、針貫通可能部材は、シリコーンコーティング、特に架橋シリコーンコーティングで部分的または完全にコーティングされたハロゲン化ブチルゴム(例えば、クロロまたはブロモブチルゴム)であり得る。特に好ましい実施形態によれば、針貫通可能部材は、針貫通可能部材の一部または全体を被覆し、好ましくは針貫通可能部材全体を被覆することができる架橋シリコーンのコーティングを含むブロモブチルゴム栓である。針貫通可能部材はまた、着色された成分、例えば、無機または有機染料を含み得る。
【0055】
好ましくは、針貫通可能部材は、ゴム材料、好ましくは上記で定義されたゴム材料を含むか、またはそれからなる。
【0056】
例えば、架橋シリコーンのコーティングを含むブロモブチルゴム栓であるWestar(登録商標)RS栓(ゴム混合物4023/50)が針貫通可能部材として使用し得る。
【0057】
針貫通可能部材はまた、ポリアミド(PA)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、エチルビニルアルコールコポリマー(EVOH)もしくはそれらの任意の混合物を含み得るか、またはそれらからなり得る。このようにして、針貫通可能部材を介した潜在的な酸素吸気を制限することができる。
【0058】
好ましい実施形態によれば、多層材料はさらに第4の層を含む。第4の層は、第3の層が第2の層と第4の層との間に挟まれるように第3の層の上に配置される。第4の層の存在は、他の層を保護し、バイアルの機械的安定性を高める。
【0059】
好ましくは、第4の層は、環状オレフィンポリマー(COP)、環状オレフィンコポリマー(COC)、ポリエステル(PES)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、ポリアミド(PA)(ナイロン)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、ポリエチレン/アクリロニトリルブタジエンスチレン(PE/ABS)、ポリカーボネート(PC)、ポリカーボネート/アクリロニトリルブタジエンスチレン(PC/ABS)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリオキシメチレン(POM)、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)、熱可塑性エラストマー(TPE)、ポリフタルアミド(PPA)、ポリ(p-フェニレンスルフィド)(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリフェニルスルホン(PPSU)、ポリスルホン(PSU)、ポリカーボネート(PC)、ポリカーボネート/ポリエチレンテレフタレートブレンド(PC/PET)、PCEM(ポリ[2-(9-カルバゾール-9-イル)エチルメタクリレート])、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)、スチレン-アクリロニトリル樹脂(SAN)、またはそれらの任意の混合物もしくはコポリマーを含むか、またはそれらからなる。
【0060】
多層材料が上記のように第4の層を含む場合、第3の層および第4の層は、好ましくは、同じ材料からならない。
【0061】
好ましい実施形態によれば、バイアルは、周囲と接触し、抗菌物質を含む外面を含む。
【0062】
好ましくは、抗菌物質は、元素銀もしくは銀含有化合物、元素銅もしくは銅含有化合物、元素ジンクもしくはジンク含有化合物、元素チタンもしくはチタン含有化合物、元素モリブデンもしくはモリブデン含有化合物、元素タングステンもしくはタングステン含有化合物、有機抗菌化合物またはそれらの混合物を含む。好ましくは、抗菌物質は、コロイド銀、銀塩(例えば、AgClまたはAgNO酸化銀、TiO、MoO、MoO、ΖnΜoO4、MoN、MoC、MoSi、MoS、WC、WN、WSi、WO、トリクロサン、ポリヘキサニドまたはそれらの任意の混合物から選択される。
【0063】
バイアルの外面に抗菌物質を提供することにより、バイアルの外面に存在する可能性のある微生物、特に病原性微生物の存在は、完全に回避されないにしても、大幅に最小限に抑え得る。バイアルの外面に付着している病原性微生物は、これらの微生物が神経毒の水性製剤に誤って導入される可能性があるため、潜在的な汚染源を引き起こす。例えば、これは、使用者(例えば、医師)が最初に誤ってバイアルの外面に針で触れ、次に同じ針を、針貫通可能部材を通してバイアルに導入するときに起こり得る。したがって、バイアルの外面に抗菌物質を提供することにより、汚染のリスクを大幅に減らし得る。
【0064】
好ましい実施形態によれば、内部空洞は、水性製剤で部分的に満たされ、ガスまたはガス混合物をさらに含み、すなわち、内部空洞は、ガスまたはガス混合物によって占められる「ヘッドスペース容積」を含む。ガスまたはガス混合物は、少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも93%、より好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも99%、より好ましくは99%超の不活性ガスを含む。不活性ガスは、好ましくは窒素およびアルゴン、より好ましくは窒素から選択される。
【0065】
水性製剤に溶解したガスと「ヘッドスペース容積」に存在するガスとの間の平衡が時間とともに形成されるため、水性製剤に存在する酸素は、水性製剤から「ヘッドスペース容積」へ拡散し、「ヘッドスペース容積」に存在する不活性ガスは水性製剤に拡散する。このようにして、水性製剤中の酸素の量が減少し、それによって神経毒を酸化に対してさらに保護する。
【0066】
好ましくは、神経毒の水性製剤は、20%未満、好ましくは15%未満、より好ましくは10%未満、より好ましくは5%未満、より好ましくは3%未満、より好ましくは2%未満、より好ましくは1%未満の酸を含む。パーセンテージは、25℃および常圧で測定された、25℃および常圧(約1.013バール)での水性製剤に可溶な酸素の最大量に対する相対値である。神経毒の水性製剤に溶解した酸素の量は、ASTMD888-18に従って決定される。
【0067】
好ましくは、バイアルは、1.0~20.0mL、より好ましくは2.0~18.0mL、より好ましくは5.0~15.0mL、より好ましくは7.0~12.0mL、より好ましくは8.0~11.0mL、より好ましくは8.5~9.5mL、より好ましくは9.0~9.5mL、そして最も好ましくは約9.4mLの総容積を有する。別の好ましい実施形態によれば、バイアルは、1.0~3.0mL、好ましくは約2.0mLの総容積を有する。総容積とは、ネック部分が存在する場合、ネック部分を含むバイアル本体の総容積を意味する。
【0068】
好ましくは、本体は、開放端を含むネック部分と、そのネック部分に接続された閉鎖端を含む底部分とを有し、ネック部分は、水性製剤を少なくとも部分的に含まず、底部分は、水性製剤を含む。好ましくは、ネック部分は、水性製剤を完全に含まない。この実施形態では、ネック部分は、好ましくは、上記のように不活性ガスで占められている。ネック部分は通常、上で定義した針貫通可能部材を収容し、ゆえに、水性製剤と針貫通可能部材との間の接触は、バイアルの直立またはわずかに傾斜した態勢で回避されるため、これはさらに有利である。好ましくは、ネック部分の最小内径は、底部分の最大内径の80%未満、好ましくは75%未満、より好ましくは70%未満、より好ましくは60%未満、より好ましくは50%未満、より好ましくは40%未満である。ネック部分の最小内径は、底部分の最大内径の55%~80%、より好ましくは60%~80%、より好ましくは60%~75%、より好ましくは65%~70%、および最も好ましくは66%~68%であることが特に好ましい。
【0069】
狭いネック部分のこの形状は、バイアルがわずかに振られたり、傾いたりなどした場合でも、水性製剤が本質的に底部分に留まるという効果をもたらす。したがって、水性製剤と針貫通可能部材との間の接触が最小限に抑えられる。水性製剤と針貫通可能部材との間の接触は、針貫通可能部材が抽出物または浸出物を含むか、さもなければ神経毒を不安定化する場合、特に不利になり得る。
【0070】
本発明による神経毒の水性製剤で少なくとも部分的に満たされたバイアルの好ましい実施形態は、開放端および閉鎖端を有する本体と、その本体に接続され、その開放端を密封する針貫通可能部材であって、針貫通可能部材および本体がその神経毒の水性製剤で少なくとも部分的に満たされた内部空洞を画定している針貫通可能部材と、任意で、その本体上に取り付けられ、その針貫通可能部材の露出面を覆うキャップとを含み、含み本体は、神経毒の水性製剤と少なくとも部分的に接触している最内層を構成する第1の層、第1の層の上に配置された第2の層、および第2の層が第1の層と第3の層との間に挟まれるように第2の層の上に配置された第3の層を含む多層材料で作られており、含み第1の層は環状オレフィンポリマー(COP)を含むか、またはそれからなり、第2の層はポリアミド(PA)を含むか、またはそれからなり、第3の層は環状オレフィンポリマー(COP)を含むか、またはそれからなり、神経毒の水性製剤は上記で定義されたとおりであり、水、ボツリヌス毒素、塩化ナトリウムおよびヒト血清アルブミンを含む水性ボツリヌス毒素製剤、または水、ボツリヌス毒素、塩化ナトリウム、ヒト血清アルブミンならびにラクトースおよび/またはスクロースを含む水性ボツリヌス毒素製剤であり得る。
【0071】
本発明による神経毒の水性製剤で少なくとも部分的に満たされたバイアルの好ましい実施形態は、開放端および閉鎖端を有する本体と、その本体に接続され、その開放端を密封する針貫通可能部材であって、針貫通可能部材および本体がその神経毒の水性製剤で少なくとも部分的に満たされた内部空洞を画定している、針貫通可能部材と、任意で、その本体上に取り付けられ、その針貫通可能部材の露出面を覆うキャップとを含み、含み本体は、神経毒の水性製剤と少なくとも部分的に接触している最内層を構成する第1の層、第1の層の上に配置された第2の層、および第2の層が第1の層と第3の層との間に挟まれるように第2の層の上に配置された第3の層を含む多層材料で作られおり、含み第1の層は環状オレフィンポリマー(COP)を含むか、またはそれからなり、第2の層はポリアミド(PA)を含むか、またはそれからなり、第3の層は環状オレフィンポリマー(COP)を含むか、またはそれからなり、神経毒の水性製剤は上記で定義されたとおりであり、水、ボツリヌス毒素、塩化ナトリウムおよびヒト血清アルブミンを含む水性ボツリヌス毒素製剤、または水、ボツリヌス毒素、塩化ナトリウム、ヒト血清アルブミンならびにラクトースおよび/またはスクロースを含む水性ボツリヌス毒素製剤であり得、含みその針貫通可能部材は、上で定義されたとおりであり、架橋シリコーンのコーティングを含むブロモブチルゴム栓であり得る。
【0072】
第2の態様では、本発明は、第1の態様の神経毒の水性製剤で少なくとも部分的に満たされたバイアルを製造するための方法に関する。
【0073】
この方法は、少なくとも以下の、
a)上記で定義された本体を提供するステップと、
b)神経毒の水性製剤で少なくとも部分的に体を満たすステップと、
c)針貫通可能部材で本体の開放端を密封するステップとを含む。
【0074】
好ましくは、本体は、ステップb)の前に、不活性ガス、好ましくは窒素またはアルゴン、より好ましくは窒素で満たされている。
【0075】
本体が神経毒の水性製剤で部分的に満たされている場合、「ヘッドスペース容積」は、ステップb)の後に、不活性ガス、好ましくは窒素またはアルゴンで満たされ得る。
【0076】
また好ましくは、神経毒の水性製剤は、ステップb)またはステップc)の前に、不活性ガス、好ましくは窒素またはアルゴン、より好ましくは窒素で脱気または飽和される。
【0077】
任意で、この方法は、キャップが針貫通可能部材の露出面を覆うように、キャップを本体に取り付けるステップd)を含む。
【0078】
第3の態様では、本発明は、神経毒、好ましくはボツリヌス毒素の水性製剤を貯蔵するための、第1の態様に記載した本体の使用に関する。
【0079】
好ましくは、本体は、神経毒の水性製剤を3ヶ月超、好ましくは6ヶ月超、より好ましくは9ヶ月超、より好ましくは12ヶ月超、より好ましくは15ヶ月超、より好ましくは18ヶ月超、より好ましくは24ヶ月超の期間貯蔵するために使用され、貯蔵温度は冷蔵庫の温度(すなわち2℃~8℃)または25+/-2℃の標準試験温度であり得る。神経毒、特にボツリヌス毒素の水性製剤は、これらの温度条件で長期間安定であることが示されており、「安定」は、保管期間の最初の初期活性と比較した、20%以下、特に15%以下または10%以下の毒素活性の喪失として定義される。毒素活性は、適切な有効性法、例えば、WO2013/049508およびWO2014/207109に開示されている細胞ベースのアッセイによって決定され得る。
【0080】
ここで、本発明は、以下の非限定的な例によってさらに説明される。
【実施例
【0081】
以下の実施例は、当技術分野における期待および一般的な信念に反して、本明細書で定義されるようにバイアルに保存された神経毒、特にボツリヌス毒素の水性製剤が、標準的な冷蔵庫温度で長期間にわたって優れた安定性を示すことを示す(2~8℃)、標準試験温度(25℃)、さらには高温(30℃)。
【0082】
材料および方法
水性ボツリヌス毒素製剤は、0.9%塩化ナトリウム溶液を使用して、市販の100U Xeomin(登録商標)組成物を再構成することによって調製した。
Xeomin(登録商標)製剤のpHを8より上に設定した。
WO2013/049508およびWO2014/207109に開示されているように細胞ベースのアッセイを用いて一定時間の貯蔵後Xeomin(登録商標)製剤の活性が決定された。
【0083】
結果
安定性試験の結果を以下の表1に示す。
【表1】
【0084】
表1から明らかなように、本明細書に記載のようにバイアルが保存された場合、Xeomin(登録商標)製剤は、低温(例えば2~8℃)、周囲温度(例えば、25℃)、さらに上昇した温度(例えば、30℃)で長期間安定である。例えば、Xeomin(登録商標)製剤の活性は、25℃で6ヶ月間、標準的なガラスバイアル中およびプラスチックバイアル中で保存すると、それぞれ77%および72%に低減するが、Gx MultiShell(登録商標)バイアル中に同じ条件で保存した場合、Xeomin(登録商標)製剤は90%の活性を示す。pH>8の非常に不安定な条件が存在したため、これは特に驚くべきことである。バイアルを30℃で1ヶ月および3ヶ月保存すると、同様の向上した保存安定性が観測された。
【国際調査報告】