(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-10
(54)【発明の名称】自殺のリスクを低減し、うつ病を迅速に軽減するためのガボキサドール
(51)【国際特許分類】
A61K 31/437 20060101AFI20220203BHJP
A61P 25/24 20060101ALI20220203BHJP
A61K 9/20 20060101ALN20220203BHJP
【FI】
A61K31/437
A61P25/24
A61K9/20
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021529111
(86)(22)【出願日】2019-11-21
(85)【翻訳文提出日】2021-07-14
(86)【国際出願番号】 US2019062554
(87)【国際公開番号】W WO2020106927
(87)【国際公開日】2020-05-28
(32)【優先日】2018-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521220987
【氏名又は名称】セルテゴ セラピューティクス インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】CERTEGO THERAPEUTICS INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】オステン、パヴェル
(72)【発明者】
【氏名】ボールドウィン、クリスティン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA36
4C076BB01
4C076CC01
4C076DD38
4C076DD41C
4C076DD67
4C076EE16B
4C076FF06
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4C076FF33
4C086AA01
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4C086CB22
4C086MA01
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4C086MA35
4C086MA52
4C086MA59
4C086NA05
4C086NA06
4C086ZA12
(57)【要約】
それを必要とする対象への高用量のガボキサドールまたはその薬学的に許容される塩を単回または間欠に投与することを含む、新規の治療レジメンを使用して、急性自殺傾向に苦しむ患者の自殺のリスクを迅速に軽減し、大うつ病および治療抵抗性うつ病の気分症状を迅速に軽減するための方法および組成物を開示する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自殺のリスクを低減するための、および/またはうつ病症状の即効性の軽減を達成するための方法であって、前記方法は、
ガボキサドールまたはその薬学的に許容される塩の第1の治療を、それを必要とする患者に、自殺のリスクを低減するのに、および/またはうつ病症状を迅速に軽減するのに十分な量で投与することと、
任意選択で、前記第1の治療の投与直後の6時間未満内に、ガボキサドールまたはその薬学的に許容される塩の第2の治療を投与することと、
前記患者に自殺のリスクおよび/またはうつ病症状の再発があった場合、ガボキサドールまたはその薬学的に許容される塩の追加の治療を投与することであるが、前記第1の治療後少なくとも48時間までは投与しないことと、
を含む、方法。
【請求項2】
ガボキサドールまたはその薬学的に許容される塩の前記追加の治療は、前記第1の治療の投与後、少なくとも3、4、5、6または7日ごとに投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ガボキサドールまたはその薬学的に許容される塩の前記第2の治療は、前記患者の神経学的試験が前記第1の治療の投与直後の180分以内に不十分な反応を示す場合に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記不十分な反応は、前記第1の投与後180分以内のベースラインに対する30%未満の脳波(EEG)パワー密度の増加である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記脳波(EEG)パワー密度は、0.25~8.0Hzの範囲で計算される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記脳波(EEG)パワー密度は、4.75~8.0Hzの範囲で計算される、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記不十分な反応は、前記第1の治療の投与後180分以内のデルタ、シータ、およびアルファの合計活性が+3未満の全頭脳磁図(MEG)平面型グラジオメータの増加である、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
前記方法が、自殺念慮、急性自殺傾向、繰り返し起こる死の思考、自殺に対する行動、および/または自殺未遂からなる群から選択される自殺のリスクの少なくとも1つの症状の改善をもたらす、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記患者は、自殺念慮、急性自殺傾向、自傷行為のリスク、および/または治療抵抗性うつ病のうちから選択される状態がさらに診断される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記患者は、抗うつ治療で以前に治療されていないか、または現在治療中でないか、またはそれに反応していない、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記第1の治療の投与は、約1mg~約300mgのガボキサドールまたはその薬学的に許容される塩を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記第1の治療の投与は、約33mg~約300mgのガボキサドールまたはその薬学的に許容される塩を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記第1の治療の投与は、約50mg~約300mgのガボキサドールまたはその薬学的に許容される塩を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記第1の治療は、経口剤形で投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記経口剤形は、口腔内崩壊形態である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記第1の治療は、鼻腔内に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
ガボキサドールまたはその薬学的に許容される塩の前記第1の治療の投与は、GABA
A受容体飽和レベルを超える血中濃度をもたらす、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記GABA
A受容体飽和レベルは、900ng/mL超の血中濃度である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
ガボキサドールの患者の血漿レベルは、前記第1の治療の投与後に約900ng
*hr/mL超のAUC
0-2を達成する、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
ガボキサドールの血漿T
maxは、前記第1の治療の投与後45分以内に達成される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記第1の治療の前、後、または同時に、ケタミン、SAGE-217、アロプレグナノロン、ガナキソロン、アルファドロン、アルファキソロン、ヒドロキシジオン、ミナキソロン、プレグナノロン、レナノロン、および他のプレグナンの神経ステロイド、AV-101(L-4-クロロキヌレニン、ラパスチネル(GLYX-13)、MGS0039、LY-341,495、MK-801(ジゾシルピン)、Ro 25-6981、リスレネムダズ(CERC-301、MK-0657)、アピモスチネル(NRX-1074)、ラニセミン(AZD6765)、トラキソプロジル(CP-101606)、(2R,6R)-ヒドロキシノルケタミン、デコグルラント(INN)(RG1578、RО4995819)、メマンチン、チアガビン、クロザピン、[2-アミノ-4-(2,4,6-トリメチルベンジルアミノ)-フェニル]-カルバミン酸エチルエステル(AA29504)、およびその薬学的に許容される塩のうちのいずれか1つを前記患者に投与することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記第1の治療は、相乗用量のガボキサドールまたはその薬学的に許容される塩を、相乗用量のケタミンと一緒に同時に投与することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
ガボキサドールまたはその薬学的に許容される塩の前記相乗用量は、約20mg以下である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
ケタミンの前記相乗用量は、約10mg以下である、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
自殺のリスクがある患者の自殺のリスクを低減するため、および/またはうつ病症状の即効性の軽減を達成するためのガボキサドールの使用。
【請求項26】
自殺のリスクがある患者の自殺のリスクを低減するため、および/またはうつ病症状の即効性の軽減を達成するための薬剤の製造におけるガボキサドールの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、それを必要とする対象への高用量のガボキサドール(gaboxadol)またはその薬学的に許容される塩を単回または間欠に投与することを含む、新規の治療レジメンを使用して、急性自殺傾向に苦しむ患者の自殺のリスクを迅速に軽減し、大うつ病および治療抵抗性うつ病の気分症状を迅速に軽減するための方法および組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
世界保健機関によると、うつ病は、世界における身体障害と体調不良の主な原因であり、世界中で3億人超が影響を受け、世界経済に毎年推定1兆ドルの生産性の損失をもたらしている。アメリカ疾病予防管理センター(CDC)は、米国だけで、18歳以上の成人の20~25%および18~25歳の若年成人の10.9%が毎年少なくとも1回の大うつ病エピソードを経験していると推定している。治療せずに放置すると、大うつ病のような精神疾患は、米国の自殺の主な原因となり、毎年47,000人超のアメリカ人の命を奪うか、または11分ごとに自殺で1人の死者を出す(非特許文献1)。推定25回の自殺未遂ごとに1回の自殺が起き、これは、毎年推定25万人が自殺未遂者となって存在することを意味する。したがって、自殺念慮および治療抵抗性うつ病(TRD)の治療のための即効性の薬剤への重要な、かつ満たされていない要求がある。
【0003】
最近、鼻腔内に送達されたエスケタミン(Spravato(商標))は、アメリカ食品医薬品局(FDA)によって最初の即効性抗うつ薬として承認され、TRDおよび急性自殺念慮のある患者に希望をもたらしている(バール(Bahr)ら(2019年)、ポックワット(Pochwat)ら(2019年))。エスケタミン(esketamine)は、確かに非常に迅速な有効性を示し、有効性を達成するのに数週間かかる従来の抗うつ薬とは対照的に、投与後1日またはわずか数日で確かな治療効果が見られる(非特許文献2,非特許文献3,非特許文献4)。しかしながら、エスケタミンは、妄想やせん妄、薬物乱用傾向を伴う精神病のような精神異常発現薬の副作用など、重大な副作用にも関連している。精神異常発現薬の副作用は、TRDおよび自殺傾向のある患者で特に懸念されるため、Spravato(商標)は、投与後少なくとも2時間は医療専門家による患者の監視が必要な診療所でのみ投与することができる。したがって、エスケタミンと同様の迅速な有効性を備えた、より安全な治療オプションの開発が引き続き要求されている。ガボキサドールすなわちTHIP(4,5,6,7-テトラヒドロイソオキサゾロ(5,4-c)ピリジン-3-オール)は、δサブユニット含有GABAA受容体を優先的に選択するGABAA受容体アゴニストである。1980年代初頭、ガボキサドールは、鎮痛薬および抗不安薬としての有効性、ならびに遅発性ジスキネジー、ハンチントン病、アルツハイマー病(非特許文献5)、およびジスキネジアの治療を試験した一連のパイロット研究の対象であった。1990年代には、ガボキサドールは、不眠症の治療のための後期開発に移行した。その化合物が3か月の有効性の研究で入眠と睡眠持続にとって有意な効果を示さなかったため、開発は中止された。(低用量のガボキサドールでうつ病を治療する方法は、特許文献1に開示されており、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。)オヴィド・セラピューティクインコーポレイティッド社(Ovid Therapeutics Inc.)(米国臨床試験登録データベース(ClinicalTrials.gov)識別子:NCT02996305)が後援するアンジェルマン症候群(発達障害)の症状の治療におけるガボキサドールの有効性を調査するための臨床試験が、現在進行中である(コグラム(Cogram)、ディーコン(Deacon)ら、2019年)。関連する主題に関する特許出願として、特許文献2、特許文献3および特許文献4が挙げられ、これらの内容は、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる。
【0004】
低用量のガボキサドールでうつ病を治療する方法は、特許文献1に開示されており、これは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
ClinicalTrials.gov識別子:NCT00807248で報告されたランドベック(Lundbeck)による臨床試験において、490人の患者をエスシタロプラム(20mg)とガボキサドール(5mgまたは10mg)の1日経口投与で治療した。この治験では、この量の経口ガボキサドールは、重度の大うつ病性障害の患者の治療に追加の利益をもたらさないことがわかった。この治験に関する報告は、自殺念慮と診断された、または自殺のリスクがあると特定された患者への作用についての非特許文献6の試験にて確認できる。この治験でもガボキサドール単独の作用は試験されなかった。
【0005】
ガボキサドール(4,5,6,7-テトラヒドロイソオキサゾロ[5,4-c]ピリジン-3-オール)(THIP)は、特許文献5、特許文献6、特許文献7、特許文献8、特許文献9、および特許文献10にも記載されており、これらの内容は、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる。
【0006】
上記の技術のいずれも、高用量(例えば、用量あたり50mg超)のガボキサドールを3日以上ごとに1回または間欠的に投与することによる急性自殺傾向および治療抵抗性うつ病に苦しむ患者の緊急治療に対処していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2004/112786号
【特許文献2】米国特許第9744159号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2017/348232号明細書
【特許文献4】国際公開第2017/015049号
【特許文献5】欧州特許第0000338号明細書
【特許文献6】欧州特許第0840601号明細書
【特許文献7】米国特許第4278676号明細書
【特許文献8】米国特許第4362731号明細書
【特許文献9】米国特許第4353910号明細書
【特許文献10】国際公開第2005/094820号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】シェパード(Shepard)ら、Suicide Life Threat Behav.、第46巻、第3号、352~362ページ(2016年)
【非特許文献2】クリスタル(Krystal)ら、Neuron、第101巻、774~778ページ(2019年)
【非特許文献3】ハーマー(Harmer)ら、The British Journal of Psychiatry、第195巻、102~108ページ(2009年)
【非特許文献4】ウエル(Uher)ら、Psychological Medicine、第40巻、1367~1377ページ(2010年)
【非特許文献5】モーア(Mohr)、ブルーノ(Bruno)ら、Clin Neuropharmacol.、第9巻、第3号、257~263ページ(1986年)
【非特許文献6】カスパー(Kaspar)ら、Int J Neuropsychopharmacol.、第15巻、第6号、715~725ページ(2012年7月)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本明細書に記載の、自殺のリスクを低減する、および/またはうつ病症状の迅速な軽減を達成する方法は、自殺のリスクを低減するのに十分な量のガボキサドールまたはその薬学的に許容される塩を必要とする患者に投与することを含む。本明細書に記載の、自殺のリスクを低減し、うつ病からの迅速な軽減を達成する方法は、約50mg~約300mgのガボキサドールまたはその薬学的に許容される塩の第1の単回投与治療を必要とする患者に投与することを含み、第1の治療は、患者への投与後1日以内および3日以上の間、患者に改善をもたらす。EEGまたはガボキサドールの血中濃度などの1つまたは複数の臨床バイオマーカに基づく治療効果の閾値に達した後、第1の治療後3日以上、いかなる形態のガボキサドールも患者に投与しない。
【0010】
ガボキサドールの第1の治療は、ガボキサドールまたはその薬学的に許容される塩の最初の投与、および任意選択で、最初の投与の直後の12時間以内のガボキサドールまたはその薬学的に許容される塩の追加の投与を含む。その任意選択の第2の投与は、患者の臨床試験が第1の投与直後の160分で不十分な反応を示した場合に行ってもよい。一実施形態では、不十分な反応は、第1の投与から160分後の時点で30%未満のEEGパワー密度の増加である。EEGパワー密度は、4.75~8.0Hzの範囲で計算されることが好ましい。あるいは、不十分な反応は、第1の投与から160分後の時点で、デルタ、シータ、およびアルファの合計活性が+3未満の全頭MEG平面型グラジオメータの増加であってもよい。追加の投与は、300mgの第1の治療の最大総用量の残りまでのガボキサドールを含む。不十分な反応はまた、ガボキサドールの特定の血中濃度を達成できないことを意味してもよい。
【0011】
自殺のリスクを低減し、うつ病からの迅速な軽減を達成する方法が本明細書に記載されており、ガボキサドールまたはその薬学的に許容される塩を必要とする患者に投与することを含み、この方法は、約900ng超のCmaxを含むin vivo血漿プロファイルを提供し、この方法は、ガボキサドールまたはその薬学的に許容される塩の投与後、患者に迅速な改善をもたらす。本明細書に記載の、自殺のリスクを低減し、うつ病からの迅速な軽減を達成する方法は、ガボキサドールまたはその薬学的に許容される塩を必要とする患者に投与することを含み、この方法は、約900ng*hr/mL超のAUC0-2を含むin vivo血漿プロファイルを提供し、この方法は、ガボキサドールまたはその薬学的に許容される塩の投与後、患者に迅速な改善をもたらす。
【0012】
急性自殺傾向に苦しむ患者の自殺の差し迫ったリスクを低減するための方法が開示され、患者に単回用量の50~300mgのガボキサドールまたはその薬学的に許容される塩を投与することを含み、その用量は投与してから24時間以内の自殺念慮の発生率を低下させる。
【0013】
自殺のリスクを低減し、うつ病からの迅速な軽減を達成する方法が本明細書に記載されており、これは、ガボキサドールまたはその薬学的に許容される塩を含む第1の医薬組成物とケタミン(ketamine)、SAGE-217、チアガビン(tiagabine)、クロザピン(clozapine)およびその薬学的に許容される塩を含む第2の医薬組成物とを必要とする患者に投与することを含む。特定の実施形態では、ガボキサドールおよびケタミンは、それぞれ相乗用量で提供され、任意選択で同時に投与されてもよい。
【0014】
自殺のリスクを低減するための、および/またはうつ病症状の即効性の軽減を達成するための方法が開示され、ガボキサドールまたはその薬学的に許容される塩の第1の治療を、それを必要とする患者に、自殺のリスクを低減するのに、および/またはうつ病症状を迅速に緩和するのに十分な量で投与することと、任意選択で、第1の治療の投与直後の6時間未満内に、ガボキサドールまたはその薬学的に許容される塩の第2の治療を投与することと、患者に自殺のリスクおよび/またはうつ病症状が再発した場合、ガボキサドールまたはその薬学的に許容される塩の追加の治療を投与することであるが、第1の治療後少なくとも48時間までは投与しないことと、を含む。
【0015】
特定の実施形態では、ガボキサドールまたはその薬学的に許容される塩の追加の治療は、第1の治療の投与後、少なくとも3、4、5、6または7日ごとに投与される。
特定の実施形態では、ガボキサドールまたはその薬学的に許容される塩の第2の治療は、患者の神経学的試験が第1の治療の投与直後の180分以内に不十分な反応を示す場合に投与される。
【0016】
特定の実施形態では、不十分な反応は、第1の投与後180分以内のベースラインに対する30%未満の脳波(EEG)パワー密度の増加、または第1の投与後180分以内のデルタ、シータ、およびアルファの合計活性が+3未満の全頭脳磁図(MEG)平面型グラジオメータの増加である。
【0017】
特定の実施形態では、脳波(EEG)電力密度は、0.25~8.0Hzの範囲または4.75~8.0Hzの範囲で計算される。
特定の実施形態では、脳波(EEG)電力密度は、シグマ(11.5~15.0Hz)、ベータ1(15.5~20.0Hz)、ベータ2(20.5~25.0Hz)、またはベータ3(25.5~32.0Hz)の範囲で計算される。
【0018】
特定の実施形態では、ガボキサドールまたはその薬学的に許容される塩の第2の治療は、患者の神経学的試験が第1の治療の投与直後の約30、60、90、または120分以内に不十分な反応を示す場合に投与される。
【0019】
特定の実施形態では、不十分な反応は、第1の投与後180分以内のベースラインに対する30%未満の脳波(EEG)パワー密度の増加、または第1の投与後約30、60、90または120分以内のデルタ、シータ、およびアルファの合計活性が+3未満の全頭脳磁図(MEG)平面型グラジオメータの増加である。
【0020】
特定の実施形態では、方法は、自殺念慮、急性自殺傾向、繰り返し起こる死の思考、自殺に対する行動、および/または自殺未遂からなる群から選択される自殺のリスクの少なくとも1つの症状の改善をもたらす。
【0021】
特定の実施形態では、患者は、自殺念慮、急性自殺傾向、自傷行為のリスク、および/または治療抵抗性うつ病のうちから選択される状態がさらに診断される。
特定の実施形態では、患者は、抗うつ治療で以前に治療されていないか、または現在治療中でないか、またはそれに反応していない。
【0022】
特定の実施形態では、第1の治療の投与は、約1mg~約300mgのガボキサドールまたはその薬学的に許容される塩を含む。
特定の実施形態では、第1の治療の投与は、約33mg~約300mgのガボキサドールまたはその薬学的に許容される塩を含む。
【0023】
特定の実施形態では、第1の治療の投与は、約50mg~約300mgのガボキサドールまたはその薬学的に許容される塩を含む。
特定の実施形態では、第1の治療の投与は、約33mg~約150mgのガボキサドールまたはその薬学的に許容される塩を含む。
【0024】
特定の実施形態では、第1の治療の投与は、約50mg~約150mgのガボキサドールまたはその薬学的に許容される塩を含む。
特定の実施形態では、第1の治療は、経口剤形で投与される。
【0025】
特定の実施形態では、経口剤形は、口腔内崩壊形態である。
特定の実施形態では、第1の治療は、鼻腔内に投与される。
特定の実施形態では、ガボキサドールまたはその薬学的に許容される塩の第1の治療の投与は、GABAA受容体飽和レベルを超える血中濃度をもたらす。
【0026】
特定の実施形態では、GABAA受容体飽和レベルは、900ng/mL超の血中濃度である。
特定の実施形態では、ガボキサドールの患者の血漿レベルは、第1の治療の投与後に約900ng*hr/mL超のAUC0-2を達成する。
【0027】
特定の実施形態では、ガボキサドールの血漿Tmaxは、第1の治療の投与後45分以内に達成される。
特定の実施形態では、方法は、第1の治療の前、後、または同時に、ケタミン(ketamine)、SAGE-217、アロプレグナノロン(allopregnanolone)、ガナキソロン(ganaxolone)、アルファドロン(alfadolone)、アルファキソロン(alfaxolone)、ヒドロキシジオン(hydroxydione)、ミナキソロン(minaxolone)、プレグナノロン(pregnanolone)、レナノロン(renanolone)、および他のプレグナン(pregnane)の神経ステロイド、AV-101(L-4-Chlorokynurenine)、ラパスチネル(rapastinel)(GLYX-13)、MGS0039、LY-341,495、MK-801(ジゾシルピン、dizocilpine)、Ro 25-6981、リスレネムダズ(rislenemdaz)(CERC-301、MK-0657)、アピモスチネル(apimostinel)(NRX-1074)、ラニセミン(lanicemine)(AZD6765)、トラキソプロジル(traxoprodil)(CP-101606)、(2R,6R)-ヒドロキシノルケタミン(hydroxynorketamine)、デコグルラント(decoglurant)(INN)(RG1578、RО4995819)、メマンチン(memantine)、チアガビン(tiagabine)、クロザピン(clozapine)、[2-アミノ-4-(2,4,6-トリメチルベンジルアミノ)-フェニル]-カルバミン酸エチルエステル(AA29504)、およびその薬学的に許容される塩のうちのいずれか1つを患者に投与することをさらに含む。
【0028】
特定の実施形態では、第1の治療は、相乗用量のガボキサドールまたはその薬学的に許容される塩を、ケタミンの相乗用量と共に同時に投与することを含み、相乗用量のガボキサドールまたはその薬学的に許容される塩は、約20mg以下とすることができ、ケタミンの相乗用量は、約10mg以下とすることができる。
【0029】
特定の実施形態では、ガボキサドールまたはその薬学的に許容される塩の相乗用量は、約20mg、約19mg、約18mg、約17mg、約16mg、約15mg、約14mg、約13mg、約12mg、約11mg、約10mg、約9mg、約8mg、約7mg、約6mg、約5mg、約4mg、約3mg、約2mg、約1mg、またはそれ未満とすることができる。
【0030】
特定の実施形態では、ケタミンの相乗用量は、約10mgとすることができ、約10mg、約9mg、約8mg、約7mg、約6mg、約5mg、約4mg、約3mg、約2mg、約1mg、またはそれ未満とすることができる。
【0031】
自殺のリスクがある患者の自殺のリスクを低減するため、および/またはうつ病症状の即効性の軽減を達成するためのガボキサドールの使用を開示する。
自殺のリスクがある患者の自殺のリスクを低減するため、および/またはうつ病症状の即効性の軽減を達成するための薬剤の製造におけるガボキサドールの使用を開示する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】マウスの薬物誘発性脳活性化を表す例示的な全脳ファーマコマップ(pharmacomap)を示す。(A)マウスは、腹腔内(i.p.)、経口(p.o.)、皮下(s.c.)、筋肉内(i.m.)または静脈内(i.v.)の送達のいずれかを使用して、対照群の薬物またはビヒクル溶液で治療される。(B)これは、活性化ニューロンにおける最初期遺伝子c-fosの誘導につながり、薬物の薬物動態に応じて、通常1.5~3時間以内にピークに達する。(C)その期間の後、マウスは殺され、c-fos誘導は全脳免疫染色を使用して視覚化され、脳は化学的に除去され、最後にライトシート蛍光顕微鏡(LSFM)によって画像化される。(D)全脳スキャンは、通常4×4×5ミクロン(μm)のXYZ解像度のシリアルセクションデータセットとして表される。(E)c-fos+細胞は、カスタムトレーニングされた機械学習アルゴリズムを使用してこれらのデータセットで検出される。(F)検出されたc-fos+細胞の全脳分布は、マウス脳の3D空間内の重心点の空間マップとして3Dで表される。(G)この3Dマップ分布は、参照マウスの脳に登録され、重なり合う150ミクロン(μm)の球体ボクセルを使用して空間的にボクセル化される。(H)最後に、薬物誘発性ファーマコマップは、薬物治療済みマウスと対照ビヒクル治療済みマウスのc-fos+細胞分布の統計的比較によって生成され、通常はグループあたり6匹の動物を使用する。
【
図2】ケタミンの用量曲線の例示的なファーマコマップを示す。白色は、薬物によって引き起こされる有意な活性化の空間領域を示す。10mg/kgのケタミンによって引き起こされた非常に幅広い活性化パターンには、以下の解剖学的構造が含まれていた。・皮質:前帯状(ACA:anterior cingulate)、前辺縁(PL:prelimbic)および下辺縁(ILA:infralimbic)皮質、梨状皮質(PIR:piriform cortex)、連合野内臓(VISC:associational visceral)、味覚(GU:gustatory)、無顆粒島(AIp:agranular insular)皮質領域、脳梁膨大後部(RSP:retrosplenial)、運動(MO:motor)、体性感覚(SS:somatosensory)、聴覚(AUD:auditory)、視覚(VIS:visual)、側頭連合(TEa:temporal associational)、鼻周囲(PERI:perirhinal)および内嗅(ENT:entorhinal)、ならびに内嗅(ECT:entorhinal)皮質領域;・大脳基底核:側坐核(ACB:the nucleus accumbens)、外側中隔(LS:lateral septum)、分界条床核(BSTa:the bed nuclei of the stria terminalis)の前部、皮質扁桃体および中央扁桃体(CEA:cortical amygdala and central amygdala);・正中視床:室傍核(PVT:paraventricular nucleus)、中背核(IMB:intermediodorsal nucleus)、内側中心核(CM:central medial nucleus)、および菱形核(RH:rhomboid nucleus);・中脳:膝状複合体(MG:geniculate complex)および中脳水道周囲灰白質(PAG:the periaqueductal gray);・脳幹:青斑核(LC:locus coeruleus)。
【
図3】ガボキサドールとケタミンのファーマコマップの例示的な対照比較を示す。白色は、薬物によって引き起こされる有意な活性化の空間領域を示す(緑色は阻害用であり、この場合、明確な解剖学的有意性がなく、非常にまばらである)。10mg/kgのガボキサドール(左のパネル)は、10mg/kgのケタミン(右のパネル)と非常によく似た幅広い脳の活性化を引き起こす。これには以下が含まれる。・皮質:前帯状(ACA)、前辺縁(PL)および下辺縁(ILA)皮質、梨状(PIR)、連合野内臓(VISC)、味覚(GU)、無顆粒島(AIp)皮質領域、脳梁膨大後部(RSP)、運動(MO)、体性感覚(SS)、聴覚(AUD)、視覚(VIS)、側頭連合(TEa)、鼻周囲(PERI)および内嗅(ENT)、ならびに内嗅(ECT)皮質領域;・大脳基底核:側坐核(ACB)、分界条床核(BSTa)の前部、皮質扁桃体および中央扁桃体(CEA);・正中視床:室傍核(PVT)、中背核(IMB)、内側中心核(CM)、および菱形核(RH);・中脳:膝状複合体(MG)および中脳水道周囲灰白質(PAG);・脳幹:青斑核(LC)。
【
図4】ガボキサドールとケタミンの同時投与によって得られる相乗効果の例を示す。白色は、薬物によって引き起こされる有意な活性化の空間領域を示す(緑色は阻害用であり、この場合、明確な解剖学的有意性がなく、非常にまばらである)。3mg/kgのガボキサドール(左パネル);6mg/kgのケタミン(中央のパネル);3mg/kgのガボキサドールと6mg/kgのケタミン(右パネル)。これには以下が含まれる。・皮質:前帯状(ACA)、前辺縁(PL)および下辺縁(ILA)皮質、梨状(PIR)、連合野内臓(VISC)、味覚(GU)、無顆粒島(AIp)皮質領域、脳梁膨大後部(RSP)、運動(MO)、体性感覚(SS)、聴覚(AUD)、視覚(VIS)、側頭連合(TEa)、鼻周囲(PERI)および内嗅(ENT)、ならびに内嗅(ECT)皮質領域;・大脳基底核:側坐核(ACB)、分界条床核(BSTa)の前部、皮質扁桃体および中央扁桃体(CEA);・正中視床:室傍核(PVT)、中背核(IMB)、内側中心核(CM)、および菱形核(RH);・中脳:膝状複合体(MG)および中脳水道周囲灰白質(PAG);・脳幹:青斑核(LC)。
【
図5】強制水泳試験の結果の例を示す。ケタミン(丸記号)とガボキサドール(三角記号)の両方が、対照のビヒクル処置群と比較して、6分間の強制水泳中に浮遊(不動)に費やされる時間を大幅に短縮した。
【
図6】健康な対象(n=24)への15mgの単回経口用量の投与後のガボキサドールの例示的な平均血漿濃度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
次に、本開示の好ましい実施形態を、図面を参照して説明する。さまざまな図において同一の要素は、同じ参照番号で識別される。
ここで、本開示の各実施形態を詳細に参照する。そのような実施形態は、本開示の説明として提供され、本開示に限定されることを意図していない。実際、当業者であれば、本明細書を読み、本図面を見ると、さまざまな修正および変形を行うことができることを理解することができる。
【0034】
定義
他に規定されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本開示が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
【0035】
本明細書で使用されるように、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈上他に明白に示されていない限り、複数形も含むことが意図される。
本明細書および特許請求の範囲において使用される際の「および/または」という句は、そのように結合された要素、すなわち、ある場合には結合的に存在し、他の場合には分離的に存在する要素の「いずれかまたは両方」を意味すると理解されたい。したがって、非限定的な例として、「Aおよび/またはB」への言及は、「含む(comprising)」などのオープンエンド言語と組み合わせて使用される場合、一実施形態では、Aのみ(任意選択でB以外の要素を含む)、別の実施形態では、Bのみ(任意選択でA以外の要素を含む)、さらに別の実施形態では、AおよびBの両方(任意選択で他の要素を含む)等を指すことができる。
【0036】
本明細書の明細書および特許請求の範囲で使用される際、1つまたは複数の要素のリストに関連する「少なくとも1つ」という句は、要素のリスト内の要素のうちの任意の1つまたは複数から選択される少なくとも1つの要素を意味するが、要素のリスト内に具体的にリストされている各々のおよびすべての少なくとも1つを含む必要はなく、要素のリスト内の要素の任意の組み合わせを除外するものではないことを理解されたい。この定義はまた、「少なくとも1つ」という句が参照する要素のリスト内で具体的に識別される要素以外の要素が、具体的に識別される要素に関連するかどうかにかかわらず、任意選択で存在し得ることを可能にする。したがって、非限定的な例として、「AおよびBの少なくとも1つ」(または、同等に、「AまたはBの少なくとも1つ」、または同等に「Aおよび/またはBの少なくとも1つ」)は、一実施形態では、任意選択で2つ以上のAを含み、Bが存在しない(および任意選択でB以外の要素を含む)ということを含む、少なくとも1つ、別の実施形態では、任意選択で2つ以上のBを含み、Aが存在しない(および任意選択でA以外の要素を含む)ということを含む、少なくとも1つ、さらに別の実施形態では、任意選択で2つ以上のAを含む、少なくとも1つと任意選択で2つ以上のBを含む(および任意選択で他の要素を含む)、少なくとも1つと、等を指すことができる。
【0037】
特定の実施形態では、本明細書で使用される際の「約」または「ほぼ」という用語は、当業者によって決定される特定の値の許容可能な誤差範囲内を意味し、これは、値がどのように測定または決定されるか、すなわち、測定系の制限に部分的に依存する。
【0038】
特定の実施形態では、「約」は、当技術分野の慣行に従って、3標準偏差以内または3標準偏差を超えることを意味することができる。
特定の実施形態では、特に生物学的システムまたはプロセスに関して、この用語は、値の10倍以内、好ましくは5倍以内、より好ましくは2倍以内を意味することができる。
【0039】
特定の実施形態では、「約」または「ほぼ」という用語が数値範囲と組み合わせて使用される場合、それらの数値の上下の境界を拡張することによってその範囲を変更する。一般に、「約」という用語は、本明細書では、記載された値の上下の数値を20%、10%、5%、または1%の変動で修正するために使用される。特定の実施形態では、「約」という用語は、記載された値の上下の数値を10%の分散で修正するために使用される。特定の実施形態では、「約」という用語は、記載された値の上下の数値を5%の分散で修正するために使用される。特定の実施形態では、「約」という用語は、記載された値の上下の数値を1%の分散で修正するために使用される。
【0040】
値の範囲が本明細書でリストされている場合、それは各値およびその範囲内のサブ範囲を包含することを意図している。例えば、「1~5ng」または「約1ng~約5ng」は、1ng、2ng、3ng、4ng、5ng、1~2ng、1~3ng、1~4ng、1~5ng、2~3ng、2~4ng、2~5ng、3~4ng、3~5ng、および4~5ngを包含することを意図する。
【0041】
さらに、「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、「含む(includes)」、および/または「含む(including)」という用語は、本明細書で使用される場合、記載された特徴、整数、ステップ、動作、要素、および/または構成要素の存在を指定するが、1つまたは複数の他の特徴、整数、ステップ、動作、要素、構成要素、および/またはそのグループの存在または追加を排除するものではないことが理解されるであろう。
【0042】
「自殺念慮(suicidal ideation)」は、「自殺願望(suicidalness)」、「自殺思考(suicidal thoughts)」、「自殺衝動(suicidal impulse)」、「自殺欲求(suicidal compulsions)」、「自殺主義(suicidalism)」、および「自殺傾向(suicidality)」とも呼ばれ、患者の診察において、主観的な死の願望、受動的および能動的な自殺未遂の思考、念慮のかなりの期間と頻度、コントロールの欠如、抑止力の欠如、未遂の準備行動、およびその他の症状が示される認識された状態である。それは自殺念慮の尺度のスコアによって評価され得る(ベック(Beck)ら、J Consult Clin Psychol、第47巻、343~352ページ(1979年))。自殺念慮には、自殺について考えたり、自殺に異常な関心を抱いたりすることが含まれる。自殺念慮の範囲は、つかの間の考えから、広範な考え、詳細な計画、ロールプレイング(例えば、しめ縄を持って椅子に立つ)、および不完全な未遂までと大きく異なる。自殺念慮は、大うつ病性障害、治療抵抗性うつ病、破壊的気分調節不全障害、大うつ病性障害(大うつ病エピソードを含む)、持続性うつ病性障害(気分変調)、月経前の気分変調性障害、物質/薬物誘発性うつ病性障害、別の病状によるうつ病性障害、他の特定のうつ病性障害、および不特定のうつ病性障害として(DSM-Vの下で)診断される状態とは異なり、おそらくそれらと重複している。
【0043】
「自殺のリスクがある」患者とは、臨床的または主観的に評価された、死亡のリスクを伴う自傷行為に向けて積極的な措置を講じる短期的または中期的なリスクを有する対象を意味する。自殺のリスクがある患者には、DSM-Vまたは他の基準の下で、自殺念慮、急性自殺傾向、繰り返し起こる死の思考、および/または自殺未遂を経験していると診断された患者が含まれる。「自殺のリスクがある」という用語は、必ずしもうつ病、大うつ病性障害、治療抵抗性うつ病、双極性障害、躁病、およびその他の心理社会的状態の乱れの診断に由来するわけではないが、そのような患者の別個のサブセットは、自殺の危険があると別々に特定され得る。
【0044】
特定の実施形態では、自殺のリスクがある人は、大うつ病を含むいかなる精神病とも診断されていない。
特定の実施形態では、自殺のリスクがある人は、大うつ病を患っていない。
【0045】
特定の実施形態では、自殺のリスクがある人は、ハンチントン病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、アルツハイマー病、脆弱X症候群、またはアンジェルマン症候群を患っていない。
【0046】
特定の実施形態では、自殺のリスクがある人は、抗うつ薬で治療されている。
「自殺のリスクを減らす方法」とは、自殺のリスクがある患者において、そのようなリスクを減らすことを目的とした医学的または心理社会的介入を意味し、その介入は、自殺のリスクがある患者の集団における臨床研究に基づいて有効であると確立されている。同様に、「自殺および/または自傷行為のリスクを低減するのに十分な」介入とは、自殺および/または自傷行為のリスクがある患者の集団、またはそのような状態に匹敵する複雑な動物モデルで試験され、そのような状態と相関する自殺、自傷行為または動物の行動の事件を減らすために集団全体で統計的に見いだされた介入を意味する。
【0047】
「有効量」または「治療有効量」は、客観的測定または患者によって導出された主観的測定によって決定され得るように、治療されている状態の1つまたは複数の症状を緩和するのに十分な、またはそうでなければ所望の薬理学的および/または生理学的効果を提供するのに十分な投与量を意味する。
【0048】
特定の実施形態では、ガボキサドールの「有効量」または「治療有効量」は、12、24、36、48時間または60時間以内の自殺念慮を軽減するのに十分なガボキサドールの単回投与の量を意味する。
【0049】
特定の実施形態では、ガボキサドールの「有効量」または「治療有効量」は、12、24、36、48時間または60時間以内の自殺念慮を軽減するのに十分なガボキサドールの2回の連続した投与の量を意味する。
【0050】
「改善」という用語は、少なくとも1つの症状と比較して測定された自殺のリスクの低減を指す。
「翌日の機能の改善」または「翌日の機能の改善がある」とは、少なくとも1つの症状の有益な効果が、例えば、6時間、12時間、24時間などの期間にわたって持続する改善を指す。
【0051】
「経口投与用」は、ヒト対象に経口投与するのに便利な剤形を指す。
「鼻腔内投与用」は、ヒト対象に鼻腔内投与するのに便利な剤形を指す。
「それを必要としている患者」には、自殺のリスクがあると診断された、または自殺のリスクの兆候がある個人が含まれる。
【0052】
「薬学的に許容される」とは、「一般に安全と見なされる」、例えば、生理学的に許容可能であり、ヒトに投与された場合、通常、胃の不調などのアレルギーまたは同様の有害な反応を引き起こさない、分子実体および組成物を指す。特定の実施形態では、この用語は、連邦または州政府の規制機関、例えば、FDAによる市販前のレビューと承認の対象である、連邦食品・医薬品・化粧品法の第204条(s)項および第409条に基づくGRASリストまたは同様のリスト、米国薬局方もしくは動物、より具体的にはヒトで使用するための他の一般的に認識されている薬局方、によって承認された分子実体および組成物を指す。
【0053】
「薬物動態」(PK)パラメータは、生体系への物質の吸収率を表すために使用される。物質の血清濃度対時間のグラフ化は、薬物の基本的な以下のPK特性を明らかにする:薬物が到達する最大濃度(Cmax)、この最大濃度が発生する時間(Tmax)、および総全身曝露量を推定する濃度対時間曲線の下の面積(AUC)。AUC0-∞は、薬物投与から薬物が除去されるまでの血漿中薬物濃度-時間曲線下の総面積(ng*hr/mL)である。曲線の下の面積は、クリアランスによって決まる。クリアランスは、単位時間(mL/分)あたりの薬物含有量が完全に除去された血液または血漿の量として定義される。「治療すること(treating)」または「治療(treatment)」は、疾患または状態に苦しんでいる可能性のある対象における疾患または状態の臨床症状を緩和することを指す。特定の実施形態では、「治療すること」または「治療」は、疾患または状態に苦しんでいる、またはその素因を有している可能性のある対象における疾患または状態の臨床症状の出現を防止することを指し得る。「治療すること」または「治療」はまた、疾患または状態の発症あるいはその少なくとも1つの臨床的または無症状の症状を阻止または低減することを指すこともできる。「治療すること」または「治療」は、急性自殺傾向の症状の統計的に有意な、数学的に有意な低減を指すことができる。特定の実施形態では、「治療すること」または「治療」は、対象および医師のいずれかまたは両者に知覚可能な症状の改善を指すことができる。本明細書の「治療」を達成するために恒久的な治癒的治療は必要とされない。
【0054】
「単位剤形」または「UDF」は、単位形態で都合よく投与される製剤の物理的に固定された単位用量を意味する(例えば、消費前に用量の測定または調整を必要としない)。患者は、一度に1つまたは複数のUDFを消費し得る。
【0055】
「即効性抗うつ薬(rapid antidepressant)」、「即効性抗うつ薬(rapid-acting antidepressant)」または「即効性抗うつ薬(fast-acting antidepressant)」は、最初の治療から24時間以内に(客観的または主観的に観察され得る)治療的軽減をもたらすことができる薬物を指し、本明細書ではうつ病の症状の迅速緩和とも呼ばれる。
【0056】
「即効性抗自殺剤(rapid anti-suicidal agent)」、「即効性抗自殺剤(rapid-acting anti-suicidal agent)」または「即効性抗自殺剤(fast-acting anti-suicidal agent)」は、最初の治療から24時間に(客観的または主観的に観察され得る)自殺念慮からの治療的軽減をもたらすことができる薬物を指し、本明細書では自殺傾向の迅速緩和とも呼ばれる。
【0057】
本開示は、高用量のガボキサドール、例えば少なくとも50mg超のヒト等価用量(HED)の投与が、ガボキサドールのより良い安全性プロファイルに関連するいくつかの重要な違いを伴った、ケタミンに非常に類似した広い脳活性化パターンを誘発するという、新規の脳イメージング技術を使用した本発明者らの発見によって支持される。以下の実施例に示すように、広い皮質の活性化と正中視床の活性化、ならびに中脳水道周囲灰白質(PAG)と脳幹青斑核(LC)の活性化は、ガボキサドールとケタミンの間で非常に似ている。さらに、脳イメージングは、ガボキサドールとケタミンとの間の相乗効果も示し、薬物が非常に異なる分子標的で作用する場合でも、それらの下流効果が共有脳回路ベースのメカニズムにつながることを示唆する。うつ病の即効性の軽減をもたらし、自殺念慮を治療するための治療可能性を明確に特定したケタミンとの類似性により、本開示は、高用量のガボキサドール、例えば、50mg超のHEDの予期しない治療的有用性を即効性の抗うつ薬および抗自殺剤として初めて特定する。さらに、ガボキサドールは、ケタミン投与に起因することが知られている実質的な解離性副作用を誘発することが知られていないため、ガボキサドールはケタミンよりも患者に大きな利点をもたらし得る。
【0058】
本発明は、ガボキサドールが、自殺念慮、急性自殺傾向、自傷行為のリスクを経験している患者の自殺のリスクを迅速に低減するための、および/またはうつ病における迅速な発症治療のための、優れた薬剤であることを初めて確立する。
【0059】
自殺のリスクを低減するための既存の治療法とケタミンの臨床試験
自殺のリスクがある患者に対する現在の治療の選択肢は、自殺思考の変化の時間経過が遅いということによって制限されている。例えば、週に3回の電気けいれん療法を受けている大うつ病性障害(MDD)の患者では、自殺思考は、1週間の治療後では62%の患者、2週間の治療後では39%の患者で持続した。従来の抗うつ薬治療は、自殺のリスクが中程度から高程度の高齢のMDD患者では、非自殺患者よりも遅くかつ強力でない反応を与えた。標準的な抗うつ薬は、うつ病の症状の改善によって媒介される、うつ病の成人の自殺念慮と行動を減らし得るが、この効果には数週間かかる。抗自殺効果のいくつかのエビデンスがある他の体細胞治療には、統合失調症のクロザピンと気分障害のECTが含まれる。
【0060】
自殺うつのある患者は、自殺念慮を迅速に軽減する必要がある。うつ病は、典型的な第一線の治療で、3分の1以下の患者で寛解し、半分未満は50%の軽減さえ達成する。自殺行動は、通常うつ病に関連しているが、ほとんどの抗うつ薬試験では自殺念慮と行動を体系的に評価しておらず、このトピックに関するデータは限られている。うつ病は、自殺念慮への影響を介して自殺未遂を予測する。
【0061】
ケタミンは、麻酔薬使用として1970年にアメリカ食品医薬品局によって承認された解離性およびグルタミン酸NMDA受容体遮断特性を有する薬物であり、最近、麻酔域下の用量で数時間以内に発生する抗うつ効果の研究対象となった。ケタミン注入後の自殺念慮の低減の報告は有望であるが、大うつ病の結果の決定性は、うつ病目録からの単一項目による自殺念慮の測定、対照群の欠如、生理食塩水対照の使用、および低レベルの自殺念慮または混合診断によるサンプルの使用により制限されている。
【0062】
自殺念慮の低減に対するケタミンの有効性を確立するための臨床試験が進行している。例は、以下のClinicalTrials.gov識別子に見出され得る:関連出版物(Am J Psychiatry、第175巻、第4号(2018年4月))に記載されたNCT01700829。この治験は、自殺念慮の尺度(SSI:Scale for Suicidal Ideation)のスコアによって評価される、臨床的に有意な自殺念慮を持っていた大うつ病性障害の患者における短時間作用型ベンゾジアゼピン麻酔薬ミダゾラムと比較したケタミンの補助的IV注入(adjunctive IV infusion)のランダム化臨床試験である。主要なアウトカム指標は、注入後24時間のSSIスコアであった。その他のアウトカム指標には、世界的うつ病評価、6週間のオープンフォローアップ治療中の臨床評価、および安全性の指標が含まれる。IVケタミンは自殺傾向の急性症例の治療に効果的であった(リー(Lee)ら、Innov Clin Neurosci.2015年1月~2月、第12巻、第1-2号、29~31ページ(2015年))。 ヤンセン・ファーマシューティカルズ社(Janssen Pharmaceuticals)は、MDDでケタミンを使用したケタミン臨床試験も実施しており、詳細については、ClinicalTrials.gov識別子:NCT01627782に見出され得る。
【0063】
ガボキサドールおよびその薬学的に許容される塩
本明細書に記載されているのは、ガボキサドールまたはその薬学的に許容される塩による自殺のリスクを低減するための方法および組成物である。
【0064】
本発明は、ガボキサドールの第1の治療を採用し、第1の治療後3日以上はガボキサドールまたはその薬学的に許容される塩をさらに投与しない。
特定の実施形態では、ガボキサドールは、1、2、3、4、5、6、7、8、9または10日間は追加の治療なく1回投与される。
【0065】
本発明は、より低用量(例えば、40mg未満の単回用量)のガボキサドールを使用するという以前に提案された治療法との顕著な対照を提供する。以前に提案された使用法は、いずれも臨床的に承認されていないが、鎮痛薬、抗不安薬、エスシタロプラムのアドオンとして作用する抗不安薬と抗うつ薬の組み合わせなどがあり、不眠症の治療および特定の遺伝性発達障害の症状の治療用である。対照的に、本発明は、緊急治療状況における自殺のリスクを低減し、うつ病、例えば、治療抵抗性うつ病を迅速に軽減するための、および大うつ病の治療の発症時における、またはそれらのいずれかの場合の高用量(例えば、単回用量あたり50mg超)のガボキソダルの有用性を提供して、従来の抗うつ薬の効果が遅いことを埋め合わせる。
【0066】
特定の実施形態では、急性自殺傾向に苦しむ患者の集団内の自殺念慮の発生率は、第1の治療の投与後24時間以内に、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、または100%だけ低減される。
【0067】
さらに、本発明は、ガボキサドールの投薬に対するこれまで認識されていなかった「第1の治療」のアプローチを提供する。以前、ガボキサドールが鎮痛剤または抗不安剤として提案されたとき、それは頻繁な持続投薬を必要とすると見なされていた。ガボキサドールは、比較的短い半減期(t1/2=1.5時間)の選択的GABAA受容体アゴニストであるため、これは特に当てはまった。対照的に、本発明は、高用量(例えば、50mg超)のガボキサドールの第1の治療を提供し、投与後少なくとも3日間は治療の迅速な開始および持続的な効果をもたらす。
【0068】
特定の実施形態では、ガボキサドールの第1の治療の用量は、投与後少なくとも3、4、5、6、または7日間の治療の迅速な開始および持続的な効果をもたらす。
本明細書に開示されるのは、それを必要とする患者にガボキサドールまたはその薬学的に許容される塩の第1の治療を投与することによって自殺のリスクを低減する方法である。特定の実施形態では、方法は、それを必要とする患者に、約50mg~約300mgのガボキサドールまたはその薬学的に許容される塩の第1の治療を投与することを含み、第1の治療は、患者への投与後3、4、5、6、または7日間以上にわたって患者に改善をもたらす。第1の治療後3、4、5、6、または7日間以上は、いかなる形態のガボキサドールも患者に投与されない。
【0069】
本明細書に記載の実施形態は、それを必要とする患者に、ガボキサドールまたはその薬学的に許容される塩を含む医薬組成物が投与されることを提供する。ガボキサドールまたはその薬学的に許容される塩は、酸付加塩、双性イオン水和物、双性イオン無水物、塩酸塩もしくは臭化水素酸塩として、または双性イオン一水和物の形態で提供され得る。酸付加塩としては、マレイン酸、フマル酸、安息香酸、アスコルビン酸、コハク酸、シュウ酸、ビスメチレンサリチル酸、メタンスルホン酸、エタンジスルホン酸、酢酸、プロピオン酸、酒石酸、サリチル酸、クエン酸、グルコン酸、乳酸、リンゴ酸、マンデル酸、桂皮酸、シトラコン酸、アスパラギン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、イタコン酸、グリコール酸、p-アミノ安息香酸、グルタミン酸、ベンゼンスルホン酸またはテオフィリン酢酸の付加塩、ならびに8-ハロテオフィリン、例えば8-ブロモ-テオフィリンが挙げられるが、これらに限定されない。他の好適な実施形態では、塩酸、臭化水素酸、硫酸、スルファミン酸、リン酸または硝酸の付加塩を含むがこれらに限定されない無機酸付加塩を使用し得る。
【0070】
特定の実施形態では、ガボキサドールは、ガボキサドール一水和物として提供される。当業者であれば、医薬組成物中の有効成分の量が、提供されるガボキサドールの形態に依存することを容易に理解するであろう。例えば、5.0、10.0、15.0、33.0、50.0または150.0mgのガボキサドールを含む医薬組成物は、それぞれ5.6、11.3、16.9、37.0、56または169mgのガボキサドール一水和物に対応する。
【0071】
特定の実施形態では、ガボキサドールは、結晶性塩酸塩、結晶性臭化水素酸塩、または結晶性双性イオン一水和物などの結晶性のものである。特定の実施形態では、ガボキサドールは、結晶性一水和物として提供される。
【0072】
薬物動態(PK)、薬物力学(PD)、および毒性プロファイルを改善するための医薬品の重水素化およびはフッ素化、または重水素化もしくはフッ素化は、いくつかのクラスの薬物で以前に実証されている。したがって、重水素またはフッ素が濃縮されたガボキサドールの使用が企図されており、それは、本明細書に記載の方法および組成物の範囲内である。重水素またはフッ素は、当技術分野で知られている合成手順に従って、水素の代わりに任意の位置に合成的に組み込むことができる。例えば、重水素またはフッ素は、プロトン-重水素平衡交換を介して、アミンN-Hなどの交換可能なプロトンを有するさまざまな位置に組み込まれ得る。したがって、重水素またはフッ素は、重水素が濃縮されたガボキサドールを提供するために、当技術分野で知られている方法を介して選択的または非選択的に組み込まれ得る。例えば、Journal of Labeled Compounds and Radiopharmaceuticals、第19巻、第5号、689~702ページ(1982年)を参照されたい。
【0073】
重水素またはフッ素が濃縮されたガボキサドールは、水素の代わりに分子内の特定の位置に重水素またはフッ素が取り込まれた割合で表し得る。例えば、特定の位置で1%の重水素の濃縮は、特定のサンプルの分子の1%がその特定の位置に重水素を含有していることを意味する。重水素の濃縮は、質量分析や核磁気共鳴分光法などの従来の分析方法を使用して決定することができる。特定の実施形態では、重水素が濃縮されたガボキサドールは、指定された位置が、天然に存在する分布より上(すなわち、約0.0156%より上)に重水素で濃縮されることを意味する。特定の実施形態では、重水素濃縮は、少なくとも指定された位置にある重水素が約1%以上、約5%以上、約10%以上、約20%以上、約50%以上、約70%以上、約80%以上、約90%以上、または約98%以上である。
【0074】
ガボキサドールの例示的な投与量
特定の実施形態では、自殺のリスクを低減する方法は、それを必要とする患者に、約1mg~約1000mgのガボキサドールまたはその薬学的に許容される塩を含む医薬組成物の第1の治療を投与することを含む。
【0075】
特定の実施形態では、医薬組成物には、1mg~150mg、約5mg~約20mg、約33mg~約75mg、約33mg~約100mg、または約33mg~約150mgのガボキサドールまたはその薬学的に許容される塩が含まれる。特定の実施形態では、医薬組成物には、約1、5、10、15、20、25、30、33、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、105、110、115、120、125、130、135、140、145、150、175、200、250、500または1000mgのガボキサドールまたはその薬学的に許容される塩が含まれる。
【0076】
好ましい実施形態では、ガボキサドールが単剤または一次剤として使用される場合、第1の治療は、約33mg~約1000mgの単回投与である。
特定の実施形態では、ガボキサドールが単剤または一次剤として使用される場合、第1の治療は、約50mg~約300mgの単回投与である。
【0077】
特定の実施形態では、ガボキサドールが単剤または一次剤として使用される場合、第1の治療は、約33mg~約150mgの単回投与である。
特定の実施形態では、ガボキサドールが単剤または一次剤として使用される場合、第1の治療は、約40mg~約150mgの単回投与である。
【0078】
特定の実施形態では、ガボキサドールが単剤または一次剤として使用される場合、第1の治療は、約50mg~約150mgの単回投与である。
特定の実施形態では、ガボキサドールが単剤または一次剤として使用される場合、第1の治療は、約60mg~約300mgの単回投与である。
【0079】
特定の実施形態では、ガボキサドールが単剤または一次剤として使用される場合、第1の治療は、約70mg~約300mgの単回投与である。
特定の実施形態では、ガボキサドールが単剤または一次剤として使用される場合、第1の治療は、約80mg~約300mgの単回投与である。
【0080】
特定の実施形態では、ガボキサドールが単剤または一次剤として使用される場合、第1の治療は、約90mg~約300mgの単回投与である。
特定の実施形態では、ガボキサドールが単剤または一次剤として使用される場合、第1の治療は、約100mg~約300mgの単回投与である。
【0081】
特定の実施形態では、ガボキサドールが単剤または一次剤として使用される場合、第1の治療は、約110mg~約300mgの単回投与である。
特定の実施形態では、ガボキサドールが単剤または一次剤として使用される場合、第1の治療は、約120mg~約300mgの単回投与である。
【0082】
特定の実施形態では、ガボキサドールが単剤または一次剤として使用される場合、第1の治療は、約130mg~約300mgの単回投与である。
特定の実施形態では、ガボキサドールが単剤または一次剤として使用される場合、第1の治療は、約140mg~約300mgの単回投与である。
【0083】
特定の実施形態では、ガボキサドールが単剤または一次剤として使用される場合、第1の治療は、約150mg~約300mgの単回投与である。
特定の実施形態では、ガボキサドールが単剤または一次剤として使用される場合、第1の治療は、約200mg~約300mgの単回投与である。
【0084】
特定の実施形態では、ガボキサドールが単剤または一次剤として使用される場合、第1の治療は、約250mg~約300mgの単回投与である。
好ましい実施形態では、ガボキサドールの第1の治療がケタミンなどの別の薬剤と組み合わせて行われる場合、それは約5mg~約50mgのより低い用量で使用され得る(本明細書では「相乗用量」または「低用量」と称する場合がある)。
【0085】
本明細書の医薬組成物は、即時放出または標準放出プロファイルで提供され得る。組成物は、安全かつ有効であると考えられる材料から構成される薬学的に許容される「担体」を使用して調製され得る。「担体」は、単数または複数の有効成分以外の医薬製剤中に存在するすべての成分を含む。「担体」という用語には、希釈剤、結合剤、潤滑剤、崩壊剤、充填剤、およびコーティング組成物が含まれるが、これらに限定されない。当業者であれば、単位剤形(UDF)のための好ましい製剤技術を特定することに精通している。好ましい実施形態では、UDFは、ピル、タブレット、カプセル、フィルム、またはウエハース(wafer)であり、これらのいずれかは、任意選択で口腔内崩壊錠、またはロリポップ、トローチ、オイル、チンキ剤、またはシロップであり得る。製剤プロセスはそれに応じて調整される。ピルおよびタブレットは、固形製剤から調製される。シロップ、オイル、チンキ剤は液体製剤である。口腔内崩壊錠、ウエハース、タブレット、またはロリポップもしくはトローチは、有効成分が少なくとも部分的に頬腔に直接吸収される経口形態のUDFを提供する。カプセルは、固体製剤(例えば、ハードゲル中の粉末または粒子)または液体製剤(例えば、ソフトゲルで使用される油性製剤)のいずれかであり得る。水をほとんどまたはまったく含まない油性製剤は、典型的には、容易にカプセル化される。水中油型製剤は、マイクロエマルジョン、リポソーム、ナノエマルジョン、および当技術分野で知られている他の形態を含み得る。
【0086】
口腔内崩壊錠、ウエハースまたはタブレット、ロリポップ、および/またはトローチなどの頬側または舌下製剤には、多種多様な技術が利用できる。舌下タブレット、ウエハース、フィルム、およびストリップは、迅速に崩壊するように設計でき(5~15秒)、頬腔毛細血管への迅速なアクセスを提供し、胃腸管の敵対的な環境を回避する。ロリポップおよびトローチは、頬側投与と胃内投与の組み合わせを提供する。この技術は、迅速な発症が望まれる治療剤で広く使用されている。(フローレンス(Florence)およびサロレ(Salole)編、Routes of Drug Administration、バターワース・ハイネマン社(Butterworth- Heinemann)におけるラメイ(Lamey)およびルイス(Lewis)、Buccal and Sublingual Delivery of Drugs、第2章、を参照されたい)。以下の実施例6は、ODTの例を示す。
【0087】
ガボキサドールまたはその薬学的に許容される塩のさらなる製剤は、以下の特許刊行物に開示されている:国際公開第2018/144827号、米国特許出願公開第2011/0082171号明細書、米国特許出願公開第2009/0048288号明細書、国際公開第2006/118897号、国際公開第2006/102093号、英国特許第2410434号明細書、米国特許出願公開第2005/0137222号明細書、国際公開第2002/094225号、国際公開第2001/022941号。これらの内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0088】
第1の治療とその治療効果
本発明は、患者が自殺のリスクがあると診断された場合の、ガボキサドールまたはその薬学的に許容される塩による第1の治療を企図している。典型的には、患者は緊急治療施設または診断が行われる診療所にいる。本発明の方法は、診断後直ちに患者の同意を得て第1の治療を投与することを企図している。
【0089】
本発明はまた、抗うつ薬で治療されていない患者であって、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI:selective serotonin reuptake inhibitor)、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI:serotonin and noradrenaline reuptake inhibitor)、三環系抗うつ薬(TCA:tricyclic antidepressant)、四環系抗うつ薬(TeCA:tetracyclic antidepressant)、モノアミンオキシダーゼ阻害薬(MAOI:monoamine oxidase inhibitor)、またはノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬(NASSA:noradrenaline and specific serotoninergic antidepressant)などの従来の抗うつ薬の臨床的有効性の遅れた開始の前に迅速な抗うつ病の軽減を必要とする患者のうつ病の最初の診断時に、ガボキサドールまたはその薬学的に許容される塩による第1の治療を企図している。典型的には、患者は緊急治療施設または診断が行われる診療所にいる。本発明の方法は、診断後直ちに患者の同意を得て第1の治療を投与することを企図している。
【0090】
本発明はまた、治療抵抗性うつ病のある患者であって、そのような治療が臨床的軽減を誘発できないかまたは治療が成功した最初の期間の後の継続的な軽減を提供できない場合に従来の抗うつ薬で治療する場合に迅速な抗うつ病の軽減を必要とする患者において、ガボキサドールまたはその薬学的に許容される塩による治療を企図している。典型的には、患者は緊急治療施設または診断が行われる診療所にいる。本発明の方法は、診断後直ちに患者の同意を得て第1の治療を投与することを企図している。特定の実施形態では、患者は電気ショック療法を受けている。
【0091】
特定の実施形態では、第1の治療は、50mg~300mgの用量のガボキサドール、またはその薬学的に許容される塩を含む。特定の実施形態では、第1の治療は、約50mg~150mg、約50mg~約75mg、約50mg~約100mg、約50mg~約150mg、約50mg~約200mg、約50mg~約250mg、または約50mg~約300mgの用量のガボキサドールまたはその薬学的に許容される塩を含む。好ましくは、その剤形は患者によって迅速に吸収され、自殺念慮の症状を低減するための迅速な発症を提供する。
【0092】
迅速な発症の好ましいバイオマーカ測定は、脳波検査(EEG)によって脳活動を測定することである。EEGは、当業者に周知の神経学的活動の尺度である。標準的な技術と機器が広く利用可能である。低周波波長放射は、患者の頭の複数の部位で典型的には0.2~35Hzのスペクトル範囲にわたって測定される。パワースペクトルは、神経学的活動を観察および検出するために、各波長で(または波長の範囲にわたって)評価される。EEGは、ダイク(Dijk)ら、J.Psychopharmacology.、第24巻、第11号、1613~1618ページ(2010年)に記載されているように、ガボキサドールなどの薬物に対する神経学的反応を測定する状況で使用され得る。ルンダール(Lundahl)ら、J Psychopharmacol、第26巻、1081ページ(2011年)も参照されたい。
【0093】
脳磁図は、脳内の同期したイオン神経電流によって生成される磁場の直接測定を可能にする、高い時間分解能と適度に優れた空間分解能とを備えた代替の神経イメージング技術である。薬理学的介入と組み合わせると、MEG(ファーマコMEG)は、患者と健康な対照群との両方で、生きているヒトの脳における神経伝達の実験的変調の効果を測定するための強力なツールである(ムトゥクマラスワミー(Muthukumaraswamy)(2014年))。EEGと比較して、優れた空間分解能を提供し、瞬きや筋肉電位などの生理学的アーチファクトによる脳信号の汚染を減らすことができる。ナット(Nutt)ら、Neuropharmacology、第88巻、155~163ページ(2015年)を参照されたい。
【0094】
本発明は、ガボキサドールまたはその薬学的に許容される塩の第1の治療が、迅速な発症を示し、自殺念慮の症状の迅速な低減を誘発することを企図している。迅速な発症のバイオマーカ測定値は、EEGによって取得され得る。第1の治療から180分以内に0.25Hz~8.0Hzの範囲のスペクトル全体で約30%以上のEEGパワー密度(power density)の増加は、効果の迅速な発現を示す。好ましくは、患者は、この範囲にわたって約50%以上のパワー密度の増加を記録することになる。より好ましくは、患者は、4.75~8.0Hzの範囲にわたって約50%以上のパワー密度の増加を記録することになる。EEGパワー密度の増加は、ガボキサドールの投与時に、他の疾患の適応指標との関連で、ダイク(Dijk)ら(2010年)およびルンダール(Lundahl)ら(2011年)に記載されている。
【0095】
あるいは、MEGをバイオマーカとして使用して、第1の治療の治療効果の迅速な発現が観察されてもよい。異なる治療指標との関連で、ナット(Nutt)ら(2015年)は、ガボキサドールの投与により、第1の治療後160分の時点で、デルタ、シータ、およびアルファの合計活性が+3以上の全頭MEG平面型グラジオメータの増加につながることを観察した。本発明の方法は、第1の治療から180分以内に+3以上の増加を予想する。
【0096】
本明細書で使用される際、「迅速な発症」は、治療されている状態の1つまたは複数の客観的に観察可能な症状(例えば、本明細書に記載の、自殺、自殺念慮、うつ病、治療抵抗性うつ病のリスク)が第1の治療から24時間以内、可能であれば第1の治療から6時間以内に緩和または低減されることを意味する。
【0097】
本発明の方法は、持続的な効果を期待し、これは、ガボキサドールの第1の治療が、投与後約3、4、5、6、7、8、9、10日間またはそれ以上の期間、自殺念慮の症状を低減することを意味する。
【0098】
理論に束縛されることを望まないが、以下の実施例に基づいて、第1の治療は、電気けいれん療法(ECT)に匹敵する生理学的効果と解釈し得るδサブユニット含有GABAA受容体を介して脳活性化の化学的形態を誘発することを、企図されている。第1の治療の効果は、第1の治療後の最初の3日間のガボキサドールの持続投薬によって増強されない。実際、患者の症状がさらなる治療が有益であると示すまで、それ以上の投薬は必要なく、これは、第1の治療から3、4、5、6日間またはそれ以上の期間後に発生する可能性があるか、または長期間まったく発生しない可能性がある。別の言い方をすれば、ガボキサドールによる追加の治療は、治療の有効性を低下させるため、第1の治療の完了後3日間は特に避ける必要がある。第1の治療後の3日間以上の期間は、ウォッシュアウト期間と見なされ得る。自殺念慮の症状の低減が続く場合は、3日間の無治療期間を4、5、6日間またはそれ以上の期間に延長してもよい。さらに、第1の治療後3日間を超える時間に自殺念慮がもし再発する場合、ガボキサドールまたはその薬学的に許容される塩のフォローアップ治療を行うことができることが理解される。そのようなフォローアップ治療は、本明細書に開示される「第1の治療」と見なされるであろう。場合によっては、ガボキサドールの「間欠投与(intermittent dosing)」と呼ばれ得る4日、5日、6日、または毎週の投薬が患者に適応される。いずれの場合も、投薬は、本発明による「第1の治療」と見なされる。
【0099】
さらなる実施形態では、ガボキサドールまたはその薬学的に許容される塩の「第1の治療」は、ガボキサドールまたはその薬学的に許容される塩の最初の投与、および任意選択で、最初の投与直後の12時間以内のガボキサドールまたはその薬学的に許容される塩の第2の投与を含む。特定の実施形態では、第1および第2の投与の総量は、300mgのガボキサドール、またはその薬学的に許容される塩を超えない。
【0100】
任意選択の第2の投与に関する決定は、第1の投与に対する患者の反応の指標を測定することに基づく。任意の行動または反応の任意の生理学的もしくは生物学的マーカの変化を含む、患者の任意の反応を使用して決定を下してもよい。第1の投与に対する不十分な反応は、第1の治療の一部としての第2の投与の推奨を示唆することになる。
【0101】
応答の十分性を決定するための好ましい患者の応答は、EEGまたはMEGに従って患者の神経学的応答を測定することに基づくことになる。「不十分な反応」には、第1の投与後160分の時点での0.25~8.0Hzのスペクトルにわたって50%未満または任意選択で30%未満のEEGパワー密度の増加が含まれる。「不十分な反応」には、第1の投与後160分の時点での4.75~8.0Hzのスペクトルにわたって50%未満または任意選択で30%未満のEEGパワー密度の増加も含まれる。
【0102】
第1の投与に対する不十分な反応には、第1の投与後160分の時点でのデルタ、シータ、およびアルファの合計活動が+3未満の全頭MEG平面型グラジオメータの増加も含まれる。
【0103】
不十分な反応には、自殺念慮、急性自殺傾向、自傷行為のリスク、および/または治療抵抗性うつ病の観察可能な症状の継続も含まれる。
ガボキサドールの第2の投与または過去(「第1の治療」の一部として)は、自殺のリスクを減らすために、(第1の治療の)第1の投与から最大12時間以内に投与される。好ましくは、第2の投与は、160分の時点でEEGまたはMEGによる不十分な反応の確認の直後に続くことになる。第2の投与は、さまざまな患者ケアの理由で延期され得るが、本発明の望ましい効果を達成するために、第1の投与の12時間以内に投与されるべきである。
【0104】
第1の治療とその後の治療との間のウォッシュアウト期間(第1の治療後少なくとも3日後)は、第1の治療が自殺念慮、繰り返し起こる死の思考、自殺に向けた行動、および自殺未遂を緩和するのに十分であるという7日間以上の長期間のケタミン臨床試験での観察に対応するガボキサドール治療の神経学的影響を反映する。その7日間以上の長期間は、米国特許第9359220号明細書に記載されており、その内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。それはまた、電気けいれん療法を受けた特定の患者の自殺念慮の低減が観察された期間に対応する。治療剤の持続投薬などの、介在するウォッシュアウト期間中の治療、またはさらなる電気けいれん療法は、第1の治療の電気ショックまたは化学ショックからの神経学的回復の望ましいパターンを妨げる神経学的領域の再刺激に起因して逆効果であると理解されている。
【0105】
剤形
本発明は、治療効果の迅速な開始のために設計されたガボキサドール、またはその薬学的に許容される塩の投与を企図している。以前に文献に記載されたものを含む多種多様な剤形を採用し得る。好ましい剤形は、経口または鼻腔内投与に適したものである。
【0106】
経口投与は、ピル、タブレット、カプセル、シロップなどを含む、経口的に許容される任意の形態を採用することができる。そのような形態は、当業者に周知の技術に従って製造することができる。
【0107】
迅速な発症のための特に好ましい形態は、薬物の頬側吸収を増強する患者の頬腔内での即時放出を提供する口腔内崩壊剤形(ODDF:orally disintegrating dosage form)である。ODDFは、薬用物質または有効成分を含有する固形剤形であり、舌の上に置くと通常は数秒以内に迅速に崩壊する。ODDFの崩壊時間は、一般に1秒または2秒~約1分である。ODDFは、唾液と接触すると迅速に崩壊または溶解するように設計されている。この投与方法は、精神医学的性質の状態で一般的であるように、タブレットを飲み込むのに問題があるかもしれない人々にとって有益となる可能性がある。
【0108】
特定の実施形態では、本明細書の医薬組成物は、ガボキサドールまたはその薬学的に許容される塩の即時放出を提供し、例えば、米国薬局方(USP)の2008年8月1日改訂公報セクション701に記載されている崩壊試験方法に基づいて、口腔に投与されると、1分未満、55秒未満、50秒未満、45秒未満、40秒未満、35秒未満、30秒未満、25秒未満、20秒未満、15秒未満、10秒未満、または5秒未満で崩壊する。
【0109】
好ましい実施形態では、ODDFは、20分以下のTmaxを含む薬物動態特性をもたらす。特定の実施形態では、本明細書の医薬組成物は、20分以下の、19分以下のTmax、18分以下のTmax、17分以下のTmax、16分以下のTmax、15分以下のTmax、14分以下のTmax、13分以下のTmax、12分以下のTmax、11分以下のTmax、10分以下のTmax、9分以下のTmax、8分以下のTmax、7分以下のTmax、6分以下のTmax、または5分以下のTmaxを提供する。このような医薬組成物には、口腔内崩壊タブレット(ODT:orally disintegrating tablet)などのODDFが含まれる。
【0110】
ODTは、薬用物質または有効成分を含有する固形剤形であり、舌の上に置くと通常は数秒以内に迅速に崩壊する。ODTの崩壊時間は、通常、数秒~約1分の範囲にある。ODTは、唾液と接触すると迅速に崩壊または溶解するように設計されているため、タブレットを噛んだり、無傷のタブレットを飲み込んだり、タブレットを液体と一緒に服用したりする必要がない。一般的なODDFと同様に、この投与方法は、治療の迅速な開始を必要とする人々にとって有益となる可能性がある。
【0111】
特定の実施形態では、ODTの急速な溶解特性は、タブレットマトリックスへの水の迅速な侵入を必要とする。これは、タブレットの多孔性構造を最大化し、好適な崩壊剤を組み込み、製剤に水溶性の高い賦形剤を使用することによって達成し得る。ODTで使用される賦形剤は、典型的には、少なくとも1つの超崩壊剤(導水、膨潤、またはその両方のメカニズムを持つことができる)、希釈剤、潤滑剤、および任意選択で膨潤剤、甘味料、香料を含有する。例えば、ナガール(Nagar)ら、Journal of Applied Pharmaceutical Science、第01巻、第04号、35~45ページ(2011年)を参照されたい。超崩壊剤は、合成、天然、および共処理に分類することができる。これに関連して、合成超崩壊剤は、デンプングリコール酸ナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、架橋ポリビニルピロリドン、低置換ヒドロキシプロピルセルロース、微結晶性セルロース、部分アルファ化デンプン、架橋アルギン酸および変性樹脂によって例示することができる。天然超崩壊剤は、加工粘液であり、ガムは植物から得られ、レピジウムサティバム種子粘液、バナナ粉末、ジェランガム、イナゴ豆ガム、キサンタンガム、グァーガム、カラヤガム、カッシア瘻種子ガム、マンギフェラインディカガム、カラギーナン、テングサおよびその他の紅藻由来の寒天、大豆多糖類およびキトサンによって例示することができる。希釈剤には、例えば、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸カルシウム、三ケイ酸マグネシウムなどを含めることができる。潤滑剤には、例えば、ステアリン酸マグネシウムなどを含めることができる。当業者であれば、ODT製造技術に精通している。
【0112】
本明細書で使用し得る他のODDFには、ガボキサドールまたはその薬学的に許容される塩などの薬物を口腔に投与した直後に放出する薄い経口ストリップである迅速溶解フィルムを含めることができる。フィルムは、患者の舌または他の粘膜表面に置かれ、唾液で即座に濡れると、フィルムは迅速に水和および溶解して薬剤を放出する。例えば、チャトゥルヴェディ(Chaturvedi)ら、Curr Drug Deliv.、第8巻、第4号、373~380ページ(2011年7月)を参照されたい。ファストキャップ(Fastcaps)は、ゼラチンカプセルをベースにした迅速に崩壊するドラッグデリバリーシステムである。従来のハードゼラチンカプセルとは対照的に、ファストキャップは、ブルーム強度の低いゲル化と、カプセルシェルの機械的特性および溶解特性を改善するためのさまざまな添加剤で構成されている。例えば、シパー(Ciper)およびボドマイヤー(Bodmeier)、Int J Pharm.、第303巻、第1-2号、62~71ページ(2005年10月13日)を参照されたい。フリーズドライ(凍結乾燥)ウエハースは、薬剤を含有する迅速に崩壊する薄いマトリックスである。ウエハースまたはフィルムは、口腔内で迅速に崩壊し、唾液に溶解または分散する薬物を放出する。例えば、ボアテング(Boateng)ら、Int J Pharm.、第389巻、第1-2号、24~31ページ(2010年4月15日)を参照されたい。当業者であれば、凍結乾燥、噴霧乾燥、相転移処理、溶融造粒、昇華、大量押出、綿菓子処理、直接圧縮など、ODDFを製造するために利用されるさまざまな技術に精通している。例えば、上記のナガール(Nagar)らを参照されたい。
【0113】
投与されると、ガボキサドールまたはその薬学的に許容される塩を含有するODDFは、迅速に崩壊して薬物を放出し、それが唾液に溶解または分散する。薬物は、唾液が下に移動するときに口腔内に、例えば、咽頭および食道から、または胃腸管の他のセクションから舌下に、頬側に吸収され得る。このような場合、生物学的利用能は、薬物が放出され得る胃または腸に移動する従来のタブレット剤形から観察されるものよりも大幅に大きくなることができる。
【0114】
鼻腔内形態は、鼻および肺系を介したガボキサドールの迅速な取り込みを促進する。治療剤の鼻腔内製剤は周知であり、当業者であれば、ガボキサドールをそのようなフォーマットに適合させることができる。設計の選択は、製品が懸濁液か溶液になるかによって異なる。重要なパラメータには、pHと緩衝剤の選択、浸透圧、粘度、賦形剤の選択、および鼻腔内での滞留時間を強化するための浸透促進剤またはその他の成分の選択が含まれる。(www.dptlabs.comでのDPTラボラトリーズリミティッド社(DPT Laboratories Ltd)の出版物を参照されたい)。
【0115】
本発明の望ましい標的が迅速に脳内のGABAA受容体飽和を達成するガボキサドールの血中濃度を達成することである。GABAA受容体飽和レベルは、約400、500、600、700、750、800、900、および1000ng/mL超の血中濃度である。好ましくは、GABAA受容体飽和は、900ng/mLを超えて達成される。
【0116】
本発明におけるガボキサドールの用量は、特定の実施形態では、これまでに試みられたよりも大幅に高いので、薬理学的レベルは以前に観察されたものとは異なるレベルに達すると予想される。例えば、第1の治療は、約500、600、700、750、800ng/mL以上、好ましくは900ng/mL以上のCmaxを提供すると予想される。
【0117】
また、望ましいことに、血漿Tmaxは、第1の治療の90分以内に達成される。より好ましくは、Tmaxは、第1の治療後75、60、45または30分で達成される。特定の実施形態では、第1の治療のTmaxは、2時間未満である。特定の実施形態では、第1の治療のTmaxは、1.5時間未満である。特定の実施形態では、第1の治療のTmaxは、1時間未満である。特定の実施形態では、第1の治療のTmaxは、約30分である。
【0118】
あるいは、本明細書で提供される実施形態は、それを必要とする患者に、ガボキサドールまたはその薬学的に許容される塩を含む医薬組成物を投与することを含む、自殺のリスクを低減する方法であり、医薬組成物は、約900ng*hr/mL超のAUC0-∞を有するin vivo血漿プロファイルを提供する。好ましくは、in vivo血漿プロファイルは、約900ng*hr/mL超のAUC0-2を示し、投与後3日より長い期間、患者に迅速な発症および持続的な効果を提供する。
【0119】
本発明者らは、治療剤としてガボキサドールを使用する以前の試みについて他者による公開の利益を有する。ガボキサドールは、ヒトの患者集団で最大約40mgの単回投与で試験されている。通常、毎日またはより頻繁な持続投薬が使用されている。ガボキサドールの単回投与も、薬物投与の薬物動態パラメータを理解するために採用されている。例えば、WIPO特許出願国際公開第2017/015049号、およびボイル(Boyle)ら、Hum.Psychopharmacol.Clin.Exp.、24巻、61~71ページ(2009年)(doi:10.1002/hup.9860)を含む出版物において、単回経口投与は、血漿中濃度-時間プロファイル、Cmax、Tmax、AUC(曲線下面積)、PK、PD、および当業者によって計算され得るその他の標準的な薬理学的および心理測定的尺度を決定するためにのみ、健康なヒト対象で分析されている。
【0120】
本発明の方法において、第1の治療が2回の投与(最初の12時間以内)を含む場合、医師は、異なる形態のガボキサドールを使用するように助言し得る。例えば、第1の投与が経口である場合、第2の投与は鼻腔内である。またはその逆である。あるいは、両方の投与が同じ形態であり得る。
【0121】
併用療法
特定の実施形態では、本明細書に提供されるのは、それを必要とする患者に、ガボキサドールまたはその薬学的に許容される塩の治療に加えて、ケタミン、SAGE-217、チアガビン、クロザピンおよびそれらの薬学的に許容される塩のうちから選択される第2の医薬組成物を投与することを含む、自殺のリスクを低減し、うつ病症状を即効的に軽減する方法である。特定の実施形態では、第2の医薬組成物は、ガボキサドールによる治療と同時に投与される。
【0122】
特定の実施形態では、本明細書に提供されるのは、それを必要とする患者に、第1の治療のガボキサドールまたはその薬学的に許容される塩を含む医薬組成物を投与するが、続いてガボキサドールを3日以上投与しないことを含む、自殺のリスクを低減する方法であり、第2の医薬組成物はまた、その定期的な処方スケジュールおよび用量に従って、あるいはガボキサドール治療と同時にのみ投与され得る。
【0123】
特定の実施形態では、第1の治療および第2の医薬組成物、または第1の治療もしくは第2の医薬組成物は、組み合わされた剤形で提供され得る。
特定の実施形態では、第1の医薬組成物の投与に加えて、第2の医薬組成物は、自殺のリスクの少なくとも1つの症状を改善するための相乗効果を提供し、および/またはうつ病および治療抵抗性うつ病における気分症状の迅速な依存(rapid relied)を提供し得る。好ましい実施形態では、併用療法は、相乗効果を示し、ガボキサドールと第2の医薬品との投与を採用し、一方または両方の化合物は、自殺のリスクを低減する治療効果のために個別に閾値以下であることが知られている用量で提供される。したがって、特定の実施形態では、本発明は、第1の治療におけるガボキサドールの量が30mg、25mg、20mg、15mg、12mg、10mg、またはそれ未満である併用療法を企図している。特定の実施形態では、ケタミンの量は、約10、9、8、7、6、5、4、3、2、もしくは1mg、またはそれ未満とすることができる。
【0124】
SAGE-217は、大うつ病性障害、産後うつ病、本態性振戦症、パーキンソン病、不眠症、発作の治療薬としてセージ・セラピューティクス社(SAGE Therapeutics)が開発中の治験薬である。それは合成、経口活性、阻害プレグナン神経ステロイドであり、GABAA受容体のポジティブアロステリックモジュレータとして作用する。この薬剤は、高い経口生物学的利用能と1日1回の投与に適した生物学的半減期を備えたアロプレグナノロン(ブレキサノロン)の改良として開発された。2018年2月現在、SAGE-217は、大うつ病性障害、産後うつ病、本態性振戦症、およびパーキンソン病について第II相臨床試験中であり、不眠症および発作について第I相臨床試験である。また、ジスキネジアの開発の前臨床段階にある。SAGE-217の化学式は、3α-ヒドロキシ-3β-メチル-21-(4-シアノ-1H-ピラゾール-1’-イル)-19-ノル-5β-プレグナン-20-オン;3β-メチル-21-(4-シアノ-1H-ピラゾール-1’-イル)-19-ノルプレグナノロン;3α-ヒドロキシ-3β-メチル-5β-ジヒドロ-21-(4-シアノ-1H-ピラゾール-1’-イル)-19-ノルプロゲステロンである。
【実施例】
【0125】
例示の目的で、および本発明の特定の特定の実施形態を説明するために、実施例を以下に示す。しかしながら、特許請求の範囲は、本明細書に記載の実施例によって決して制限されるべきではない。開示された実施形態に対するさまざまな変更および修正は当業者には明らかであり、本発明の方法に関連するものを含むがこれらに限定されないそのような変更および修正は、本発明の精神および添付のクレームの範囲を逸脱することなく可能である。
【0126】
実施例1:全脳薬物スクリーニングプラットフォーム
現在、多くの前臨床アッセイが、脳に対する新薬の臨床効果を解明しようとまたは予測しようとするために使用されている。これらには、特定の分子標的に対する薬物の薬物動態および単純な細胞アッセイ、におけるその効果を測定するin vitroハイコンテントスクリーニング(HCS)アッセイ、比較的低解像度(PET/CT、PET/MRI、fMRI)でのグローバル応答または高細胞分解能(電気生理学または2光子イメージング)での局所応答を測定するin vivoアッセイ、およびさまざまなタスクにおける動物のパフォーマンスを測定する行動アッセイ(ジェイン(Jain)およびヒューティンク(Heutink)(2010年)、ユーデンホーファー(Judenhofer)ら、(2008年)、マルコウ(Markou)ら(2009年))が含まれる。前臨床研究に多大な努力が払われているにもかかわらず、薬剤の臨床効果は予測不可能であり続けており、薬剤開発パイプラインを悩ませ、臨床試験で90%超の失敗率をもたらしている(パモッリ(Pammolli)ら(2011年))。
【0127】
精神病薬の前臨床試験へのユニークで新規なアプローチは、精神病薬が脳内の特定の神経回路と細胞の種類の活性化または阻害を介してその効果を発揮するため、動物における薬物誘発脳の活性化または阻害の直接読み取りが最も適切な前臨床アッセイであるという提案に基づいている。重要なことに、低い空間分解能に悩まされるPET/CT、PET/MRI、phMRI、または空間範囲が限られている電気生理学もしくは2光子イメージングなどの、脳の活性化を測定するための既存のin vivo法の制限とは対照的に、新しいアプローチは、前例のない単一細胞分解能で、マウスの脳全体にわたる薬物誘発性の脳の活性化または阻害を測定することを可能にする。「ファーマコマッピング(pharmacomapping)」と呼ばれる方法(ニューヨーク州ファーミングデールのサーテラインコーポレイティッド社(Certerra,Inc.)によって実装される)は、大部分が自動化された薬物スクリーニングプラットフォームに基づいており、最初期遺伝子(IEG)c-fosの薬物誘発性発現によって表される薬物誘発性ニューロン活性化の全脳検出を含む(ヘレーラ(Herrera)およびロバートソン(Robertson)1996年)。これまで、脳活性化のマーカとしてのc-fosの検出は、脳組織切片でのin situハイブリダイゼーションまたは免疫組織化学の骨の折れる方法、続いて顕微鏡スライドへの切片のマウント、手動イメージング、および主に視覚的定量化によって行われてきた。それにもかかわらず、過去20年間にわたって、多くの研究がこれらの方法を使用して、抗精神病薬、抗うつ薬、覚醒剤、抗不安薬などのさまざまな向精神薬について、マウスまたはラットの脳における薬物誘発活性を試験した(エングバー(Engber)ら(1998年)、キス(Kiss)(2018年)、サルミネン(Salminen)ら(1996年)、センバ(SEMBA)ら(1996年)、スラッタリー(Slattery)ら(2005年)、サムナー(Sumner)ら(2004年))。これらの研究は、典型的には、一度に少数の脳領域のみを分析する場合であっても、向精神薬のスクリーニングでげっ歯類の脳でc-fos発現を使用するという概念の検証を表している(サムナー(Sumner)、クルーズ(Cruise)ら(2004年))。
【0128】
以前の方法とは対照的に、ファーマコマッピング法では、自動化および標準化された全脳免疫染色と脳クリアリングを、高度な顕微鏡(ライトシート蛍光顕微鏡、LSFM)、計算的(機械学習など)方法および統計的方法とともに使用する(
図1)。このプラットフォームの第1世代では、イメージングの方法としてのシリアル2光子トモグラフィ(STPT)と、c-fosプロモータの制御下での緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現するc-fos-GFPマウスとを使用した(米国特許出願公開第2014/0297199号明細書)。サーテラ社(Certerra)が現在採用している第2世代のファーマコマッピングプラットフォームは、iDISCO+という名前の全脳免疫染色およびクリアリング手順と、ライトシート蛍光顕微鏡による全脳イメージングとを使用して、野生型マウスのc-fos陽性ニューロンを検出する。従って、ファーマコマッピングプラットフォームは、ニューロン活性化の細胞マーカとしてのc-fos発現の確立された概念を使用し、ファーマコマップ(pharmacomap(商標))と呼ばれる詳細で再現性のある薬物誘発性全脳活性化パターンを生成できる標準化された高定量の全脳アッセイとして適用される。
【0129】
実施例2:即効性抗うつ薬としてのケタミンの作用の基礎となる脳活性化のマッピング
従来の抗うつ薬は、うつ病の臨床治療で使用されるヒトの同等の用量と一致するように選択された単回用量として急性的に適用されると、前頭皮質、分界条床核(BST)、中央扁桃体(CEA)、室傍核(PVH)、視床室傍核(PVT)、および青斑核(LC)を含む目立たない脳活性化パターンを引き起こす(スラッタリー(Slattery)ら(2005年)、サムナー(Sumner)ら、(2004年))。最近、麻酔域下の(subanesthetic)用量で急性的に使用される静脈内ケタミンは、非常に迅速で強力な抗うつ薬として作用し、従来の抗うつ薬の治療効果に必要な典型的な2~3週間ではなく、数時間以内に明確な治療効果を示すことが示された。ケタミンのこの刺激的で新規な臨床効果は多くの臨床研究で再現されているが、ケタミンがこの効果を達成するメカニズムは大部分が推測的なままである。
【0130】
ファーマコマッピングプラットフォームを使用して、以下の3回の投与で急性単回投与のケタミンの全脳効果をスクリーニングした。1)5mg/kg(ヒト等価用量、HED25mg)であり、これは、急性の抗うつ薬として作用することが示されている麻酔域下用量を下回っている。2)10mg/kg(HED50mg)であり、これは、臨床的な急性の抗うつ薬の投与量に匹敵する。3)100mg/kgであり、これは、抗うつ薬の特性を有することが知られていない麻酔薬の投与量である。この実験は、5および100mg/kgで中程度の活性化を含むが、10mg/投与でのみ多くの皮質領域および正中視床核ならびに他のいくつかの脳構造を含む非常に強力で幅広い活性化を含む、印象的なベル型の用量反応曲線を明らかにした(
図2)。このパターンは、非常に強力であるだけでなく、これまでのファーマコマッピングによるFDA承認の医薬品スクリーニングの他のパターンとは一致しないためユニークなものである。
【0131】
脳の吻側部分のブレグマ1.5mmから始まり、10mg/kgのケタミン(5または100mg/kgではない)は、前帯状(ACA)、前辺縁(PL)および下辺縁(ILA)皮質、ならびに梨状皮質(PIR)、腹側線条体(ACB)の側坐核の顕著な活性化を引き起こした(
図2)。尾側に移動すると、ACAとPIRは10mg/kgのケタミンによる顕著な活性化を示し続け、同様の活性化が連合野内臓(VISC)、味覚(GU)、無顆粒島(AIp)皮質の領域で見られる。外側中隔(LS)および分界条床核(BSTa)も活性化される。ブレグマレベル-1.8mmでは、皮質領域は、脳梁膨大後部(RSP)、運動(MO)、体性感覚(SS)、聴覚(AUD)、側頭連合(TEa)、鼻周囲(PERI)および内嗅の皮質を含む、10mg/kgで選択的に非常に幅広い活性化パターンを示し続ける。さらに、室傍核(PVT)、中背核(IMB)、内側中心核(CM)、および菱形核(RH)を含む正中視床核、ならびに皮質扁桃体および中央扁桃体(CEA)も活性化された。非常に広範な皮質活性化はさらに尾側に続き、視覚(VIS)、内嗅(ECT)、TEa、AUD、PERI、ENT皮質領域、ならびに内側膝状複合体(MG)、中脳水道周囲灰白質(PAG)、ノルアドレナリン青斑核(LC)が含まれる(
図2)。
【0132】
実施例3:迅速な抗うつ薬および抗自殺効果としてのガボキサドールの予想外の可能性の発見
10mg/kgのケタミン用量は、ファーマコマッピングアッセイで幅広い活性化を引き起こし、強制水泳、尾懸垂、学習性無力感などのうつ病をモデル化するのに使用された多くのマウス行動研究において急性の明確な効果があることも示された。重要なことに、60kgの男性あたり50mgのケタミンの対応するHEDは、治療抵抗性の患者でも迅速な抗うつ効果を達成し、臨床的にうつ病となっている患者の自殺念慮を緩和するために使用される0.5~1m/kgのヒト用量範囲内である。したがって、我々のファーマコマップベースの予測は、上記の10mg/kgのケタミン誘発活性化パターンが、診療所で見られるうつ病および自殺念慮におけるケタミンの迅速かつ劇的な治療効果に対する神経回路ベースの作用メカニズムを表すということである。この仮定に基づいて、我々のアッセイで同等のファーマコマップを誘発する他の化合物も、診療所で迅速な抗うつ薬として作用するはずであると予測した。
【0133】
この発見と発明は、10mg/kgの用量のガボキサドールがケタミンと非常に類似した脳の活性化を引き起こすことを示し、ガボキサドールが実際に迅速な抗うつ薬および抗自殺剤として作用し得るという最初のエビデンスを提供する。
図3に示すように、広い皮質活性化と、程度は低いが正中線視床活性化および中脳PAGと脳幹LCの活性化は、ガボキサドールとケタミンとの間で非常に類似しており、HED50mg(60kg男性)のガボキサドールがうつ病や自殺念慮の治療におけるケタミンと同じ治療効果があり得ることを示唆している。
【0134】
この発見についてさらに印象的で注目に値するのは、ガボキサドールとケタミンが構造的に無関係な分子であり、2つのまったく異なる分子標的を介して作用することである。すなわち、ケタミンは、脳内の興奮性シナプス伝達の重要な部分であるNMDAタイプのグルタミン酸作動性受容体のアンタゴニストである一方、ガボキサドールは、脳内の抑制性シナプス伝達の重要な部分であるδサブユニット含有GABA作動性受容体のアゴニストである。したがって、ガボキサドールがケタミンのパターンに一致する脳全体の活性化を引き起こすという発見はまったく予想外であり、以前の科学文献や知識に基づいて予測することはできなかった。本発見の予想外の性質は、ガボキサドールがランドベック(Lundbeck)によって睡眠薬として、標的抑制性GABA受容体を介して脳の興奮を抑制することを期待して最も試験されたという事実からも明らかであるが、臨床試験ではこの指標について失敗した。同様に、ガボキサドールは現在、アンジェルマン症候群と脆弱X症候群の2つの発達障害で異常に増加した脳の興奮を抑制する能力について試験されている(ClinicalTrials.gov識別子:NCT03697161およびNCT04106557)。したがって、ガボキサドールの信じられている抑制作用は、ガボキサドールによって引き起こされる広範な脳の興奮の本願の発見とは正反対である。
【0135】
実施例4:ガボキサドールとケタミンの相乗効果
共有下流回路のこの仮説に基づいて、これまでのデータは、10mg/kgのガボキサドールと10mg/kgのケタミンが同等の脳活性化パターンを引き起こしたことを示している。上記のように、ガボキサドールとケタミンは、それぞれ非常に異なる分子標的、GABA-A受容体とNMDA受容体を介して作用するため、最初は異なるシグナル伝達イベントを伴うと予想され得る。同時に、誘発された活性化パターンの類似性は、最初の化合物特異的シグナル伝達イベントが共通した下流脳回路の活性化につながることを示唆する。
【0136】
次に、ガボキサドールとケタミンが実際にそれらの脳活性化効果において相乗的に作用するかどうかを調べた。
図4に示すように、3mg/kgのガボキサドールも6mg/kgのケタミンも単独では、アッセイを使用して検出可能な脳の活性化を引き起こさなかった。しかしながら、3mg/kgのガボキサドール+6mg/kgのケタミンの組み合わせは、上記のように10mg/kgの全用量で投与されたとき、各薬剤によって個別に活性化された多くの皮質領域の明確な活性化を引き起こした。これらのデータは、ガボキサドールとケタミンがそれらの脳の活性化作用において相乗的に作用することができることを示しており、それぞれの閾値以下の用量(相乗用量とも呼ばれる)での併用療法が、各薬剤に特有の起こり得る副作用を回避しながら、望ましい迅速な治療効果を達成するための効果的な戦略であることを確立する。
【0137】
実施例5:強制水泳タスクにおけるガボキサドールとケタミンの効果
強制水泳試験は、ケタミンを含む広範囲の抗うつ薬に対して十分に確立された治療的予測可能性を備えた、頻繁に使用される行動プロトコルである(ポーソルト(Porsolt)ら(1977年)、クライアン(Cryan)およびモンベロー(Mombereau)(2004年);クライアン(Cryan)ら(2005年)、ラッキ(Lucki)ら(2001年))。この試験では、マウスを水で満たされたビーカーに入れ、もがくこと、泳ぐこと、浮くことに費やした時間を測定し、浮くことに費やした時間(マウスが泳ぐためにもがくことを止めたとき)をうつ病の行動相関として使用する。
【0138】
ガボキサドールがケタミンと同じ行動効果を示すかどうかを試験するために、薬物送達の1時間後と24時間後の強制水泳行動に対するケタミン(10mg/kg)またはガボキサドール(10mg/kg)の単回投与の効果を比較した。
図5に示すように、他のグループの以前の結果は、この用量のケタミンが、ビヒクルで治療した対照グループで再現されたときと比較して、1時間と24時間の両方の時点で薬物治療マウスが浮遊していた時間を大幅に短縮することを示している。注目すべきことに、ガボキサドールで治療されたマウスのグループは、ケタミングループとほぼ同じ行動効果を示した(
図5)。これは、ガボキサドール(10mg/kg)がケタミン(10mg/kg)と同等の方法で作用し、治療抵抗性うつ病や自殺念慮に対して同様の有効性を示す可能性が高いという、
図3に示すファーマコマップ脳活性化データからの結論を裏付けている。
【0139】
要約すると、そのデータは、1)ケタミン(10mg/kg)は、抗うつ薬としてまったく新規な方法で作用し、はるかに制限された脳の活性化を引き起こした従来の抗うつ薬とは対照的に、非常に広い皮質および正中視床の活性化を引き起こす;2)ガボキサドール(10mg/kg)は、構造的な類似性がなく、かつ異なる分子標的を介して作用するにもかかわらず、ケタミンと非常に類似した活性化パターンを引き起こす;3)ガボキサドールとケタミンは、それらの脳の活性化効果において相乗的に作用する;4)脳の活性化データと一致して、ガボキサドールは、強制水泳試験でもほぼ同じ効果を示す。したがって、このデータに基づくと、ガボキサドールは、うつ病や自殺念慮の治療において、ケタミンで治療する場合と同等の効果を有し得る。
【0140】
他のげっ歯類の行動モデルは、神経精神医学的モジュレータを試験するために一般的に使用され、ガボキサドールの効果を実証するために使用されることがある。ワン(Wang)ら、Progress in Neuro-Psychopharmacology and Biological Psychiatry、第77巻、2017年7月3日号、99~109ページ(2017年)、https://doi.Org/10.1016/j.pnpbp.2017.04.008、ならびに、クリシュナン(Krishnan)およびネスラー(Nestler)による、Animal Models of Depression:Molecular Perspectives(JJハーガン(JJ.Hagan)編、Molecular and Functional Models in Neuropsychiatry、Current Topics in Behavioral Neurosciences、第7巻、DOI 10.1007/7854_2010_108で、著作権:シュプリンガー・フェアラーク社(Springer-Verlag)、ベルリン、ハイデルベルク(2011年)、2011年1月12日オンライン公開)に記載されているような標準的な試験は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0141】
実施例6:ガボキサドール一水和物の血漿濃度プロファイルおよび用量比例性
米国特許出願公開第2018/098974号明細書から引用された以下の実施例は、2.5~20mgの範囲の単回経口投与後のガボキサドール一水和物の血漿濃度プロファイルおよび用量比例性を提供する。2.5~20mgの範囲のガボキサドール一水和物カプセルの絶対生物学的利用能も評価した。
【0142】
この研究は、2.5~20mgの用量範囲にわたるガボキサドールの5回の単回経口投与の用量比例性と絶対生物学的利用能とに対処するように設計された6期間、二重盲検、ランダム化、クロスオーバの研究に参加した10人の健康な成人対象(各性別少なくとも4人)の別々のグループで構成された。対象がガボキサドールの5回の単回経口投与(2.5;5;10;15;および20mg)を受けた順序は、治療期間1~5の範囲内でランダム化した。各対象は、6つの治療期間すべてを完了することが期待され、各治療期間の間に少なくとも4日間のウォッシュアウトがあった。
【0143】
治療期間内の各経口投与は、予定された各投与で同時に服用されたの2カプセルの試験薬で構成した。経口投与された治験薬の治療の指定は以下の通りであった。
治療A:2.5mgのガボキサドールカプセル1つとそれに対応するプラセボカプセル1つ;
治療B:5mgのガボキサドールカプセル1つとそれに対応するプラセボカプセル1つ;
治療C:10mgのガボキサドールカプセル1つとそれに対応するプラセボカプセル1つ;
治療D:15mgのガボキサドールカプセル1つとそれに対応するプラセボカプセル1つ;
治療E:20mgガボキサドール(10mgガボキサドールカプセル2つ)。
【0144】
対象は、240mLの水を飲んだ一晩の絶食の後、午前8時頃に治験薬を摂取した。治験薬投与の前後1時間以内を除いて、水は自由に摂取させた。投与後4時間は食物を与えなかった。
【0145】
各治療の各対象について、薬物動態パラメータ(例えば、適宜、AUC、Cmax、Tmax、見かけのt1/2、累積尿中排泄、腎クリアランス、クリアランス、および定常量の分布)を決定するために、投与後16時間にわたって血漿および尿サンプルを収集した。ガボキサドールのAUCとCmaxは、研究間での薬物動態データの比較を容易にするために効能を調整した。表1は、単回経口投与(2.5、5、10、15、および20mg)後のガボキサドールの個々の効能調整薬物動態パラメータを示す。
【0146】
単回経口投与(2.5、5、10、15、および20mg)後のガボキサドールの算術平均血漿濃度-時間プロファイルを計算した。ガボキサドールの生物学的利用能は約92%である。ガボキサドールの血漿AUC0-∞およびCmaxは、用量に比例した増加を示し、2.5~20mgで検査した全用量範囲で直線的であるように見える。ガボキサドールの血漿中濃度がピークに達するまでの時間(Tmax 30~60分)および半減期(1.5時間のt1/2)は、2.5~20mgのガボキサドール用量範囲にわたって用量とは無関係であるように見える。ガボキサドールの排泄は、主に尿を介して行われるが、用量の96.5%が回収され、投与後4時間以内に75%が回収される。
【0147】
【0148】
実施例7:ガホキサドールODT製剤とガホキサドール一水和物カプセル製剤の薬物動態比較
ガホキサドールODT製剤とガホキサドール一水和物カプセル製剤の薬物動態比較(米国特許出願公開第2017/348232号明細書の開示に基づく)。
【0149】
本発明は、第1の治療で投与された比較的高用量のガホキサドールと、それに続く3日以上の長期間のガホキサドール投与なしでの投与を企図している。ガホキサドールの剤形は、好ましくは経口形態であり、最も好ましくは、経口的に崩壊するタブレット、フィルムまたはウエハースである。本発明の剤形は、本明細書に依拠して、特にこの実施例に記載されている米国特許出願公開第2017/348232号明細書に開示されている単位剤形を適合させることによって、当業者によって開発され得る。この実施例の好ましい改変は、GABAA受容体飽和(約400、500、600、700、750、800、900および1000ng/mL超の血中濃度;約500、600、700、750、800ng/mL以上であって、好ましくは900ng/mL超のCmax;および第1の治療から90分以内(より好ましくは第1の治療後75、60、45、または30分))の血漿Tmaxの達成;および約900ng*hr/mL超のAUC0-2、を含み得る、本明細書に開示および請求されるPK特性を達成する。
【0150】
ガボキサドール15mgの口腔内崩壊タブレットの公定単位(「ODT」):ガボキサドールODT製剤は、有効成分、アスパルテーム、ペパーミントフレーバー、グリシルリジン酸アンモニウム、ラクトース一水和物、クロスポビドン、マンニトール、およびFD&Cブルー#2を適切な拡散ブレンダで均一になるまでブレンドすることによって調製される。ステアリン酸マグネシウムを加え、材料をブレンドする。最終的な潤滑した(lubricated)ブレンドは、タブレットプレスで圧縮した。
【0151】
これは、24人の健康な若い成人男性および女性の対象(各性別少なくとも6人)を対象とした非盲検、ランダム化、2期間、単回投与、バランスの取れたクロスオーバ試験であった。すべての対象は、各検査期間に2つの異なる治療のうちの1つを受けた。治療Aは、水なしの絶食状態で投与された(舌の上に置かれた)15mgのガボキサドールODTの単回経口投与であった。治療Bは、240mLの水を飲んだ絶食状態で投与された15mgのガボキサドール一水和物カプセル(実施例6に記載)の単回経口投与であった。対象の治療順序はランダムにした。各製剤の各単回経口投与に続いて、ガボキサドールアッセイ用の血漿サンプルを投与後16時間まで収集した。各治療期間の投与の間には、最低4日間のウォッシュアウト間隔があった。
【0152】
各治療の血漿薬物動態プロファイル(T1/2、Cmax、Tmax AUC0-∞等)をすべての対象について測定した。血漿ガボキサドール濃度測定用の血液サンプルは、各治療期間における治験薬の投与後16時間まで収集した。全血液サンプルは、プロトコルで指定された時点でヘパリンナトリウムバキュテナーポリプロピレンチューブ内に収集し、ガボキサドールの分析のために処理した。サンプルを、6~8回反転させてゆっくりと混合し、1500gで最低5分間、4℃で遠心分離した。血漿を分離し、丸底の4.5mLのNUNCポリプロピレンチューブに移し、-70℃で凍結保存した。サンプルを、サンプリングから30分以内で回転および分離した。サンプルを、コンピュータで生成されたラベルでラベル付けした。
【0153】
CmaxおよびTmaxは、濃度-時間データの検査によって得た。実際のサンプリング時間を使用して、Tmaxを決定した。最後の時点までのAUCは、濃度の上昇についは線形台形法を使用し、濃度の下降について対数台形法を使用して計算した。見かけの消失段階で対数変換された血漿濃度-時間データに対して線形回帰を実行して、消失の速度定数(k)を取得した。見かけの終末半減期は、T1/2=1n(2)/kの関係を使用して計算した。AUC0-∞は、最後に測定された濃度に対するAUCと、最後に測定された濃度とkの商によって与えられた外挿面積との合計として推定した。Cl/Fは、AUC0-∞に対する用量の比率として計算し、Vz/Fは、Kに対するCl/Fの比率として計算した。AUC、Cmax、Cl/FおよびVz/Fは、それぞれのタブレットまたはカプセル製剤のアッセイ効能に基づいて調整した。
【0154】
図6は、ODTおよび一水和物カプセル製剤の投与後のガボキサドールの平均血漿濃度を示す。
表IVは、15mgのガボキサドールODTまたは15mgのガボキサドール一水和物カプセルの投与後のガボキサドールの効能調整済み血漿薬物動態パラメータ(製剤のアッセイ効能に合わせて調整)をまとめたものである。
【0155】
【0156】
実施例8:ガボキサドール口腔内崩壊フィルム
親水性フィルム形成剤は、ポリビニルアルコール(PVA)Kollicoat IR(登録商標)(ビーエーエスエフ社(BASF)によって販売されている)のフィルム形成ブロック、分子量約45,000Da、およびポリエチレングリコール(PEG)可塑剤を有するグラフトコポリマーから作製される。ゲル化剤は、カラギーナンファミリーの化合物であるGelcarin 379(エフエムシーバイオポリマー社(FMC Biopolymer)から市販されている)である。Kollicoat IR(登録商標)は、攪拌しながら精製水の70%に導入される。Kollicoat IR(登録商標)が溶解するまで攪拌を維持する。気泡が発生するため、溶液を真空下で溶解するか、ガスが分散するまで溶液を放置することができる(粘度が非常に低い)。攪拌溶液にTween80(登録商標)を配合し、香料(甘草エキスとペパーミントのエッセンシャルオイル)と甘味料(アセスルファムカリウム)を加える。すべての粉末が完全に溶解するまで撹拌を続ける。ガボキサドールを、混合物に分散するまで攪拌しながら導入し、次に残りの水(30%)を加える。Gelcarin 379(登録商標)を、凝集体の形成を防ぐために、攪拌しながら懸濁液に組み込む。最終混合物は、6%w/wのガボキサドール、15%w/wのKollicoat IR(登録商標)、5%w/wのGelcarin 379(登録商標)、0.2%w/wのTween80、0.05%w/wのアセスルファムカリウム、1.5%w/wの香料、および適量の精製水で構成されている。次に、混合アリコートをポリエステルの裏地にコーティングし、タイプLab Dryer Coater(Mathis機器)で乾燥させる。コーティングされた表面は、手動プレスを使用して6cm2単位で切断され、密封されたバッグに手動でパッケージングされる。
【0157】
本発明に基づいて、当業者は、この実施例を適応させて、本発明の単位剤形として適切な口腔内崩壊形態であるガボキサドールの経口剤形を製造することができる。特に好ましいのは、33mg~75mgのガボキサドール、またはその薬学的に許容される塩を含む口腔内崩壊形態である。
【0158】
実施例9:自殺のリスクがある患者におけるガボキサドールの有効性のプロスペクティブ評価
この研究は、ガボキサドールが自殺念慮などの自殺のリスクの1つまたは複数の症状の改善につながるかどうかを判断するように設計されている。自殺念慮の尺度(SSI)のスコアで評価された、臨床的に有意な自殺念慮のある大うつ病性障害の患者について、鼻腔内塩酸ケタミンと比較した経口ガボキサドールのランダム化臨床試験を実施する(ベック・AT(Beck AT)、コヴァックス・M(Kovacs M)、ワイスマン・A(Weissman A)、Assessment of suicidal intention:the Scale for Suicide Ideation.、J Consult Clin Psychol、第47巻、343~352ページ(1979年))。主要なアウトカム指標は、投与後24時間のSSIスコアである。その他のアウトカム指標には、グローバルうつ病評価、6週間のオープンフォローアップ治療中の臨床評価、および安全性の指標が含まれる。鼻腔内ケタミンは、意図された効果と血漿半減期および薬物動態において経口ガボキサドールと密接な比較対照であるが、研究は、ガボキサドールの使用では見られない解離効果(dissociative effects)につながるケタミンの精神活性に照らして解釈する必要がある。我々は、ガボキサドールがケタミンと比較して24時間で自殺念慮の同等以上の低減をもたらすが、ケタミンの解離効果がないという仮説を立てた。治験は、ムラフ(Murrough)ら(2015年)およびグルネバウム(Grunebaum)ら(2017年)から採用される。
【0159】
方法
a)参加者
適格な患者は、18~65歳であり、大うつ病性障害のDSM-IV診断、17項目のハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D)(22)で16超のスコア、およびSSIで4超のスコアを有し、これは自殺念慮の臨床的に重要なカットオフと見なされる(18、23、24)。
【0160】
6,891人の精神科外来患者のプロスペクティブ研究(23)により、2超のベースラインSSIスコアが、他の危険因子を調整して、最大20年間のフォローアップ期間中に自殺を予測したことがわかった。適格な患者は、入院研究ユニットに自発的に入院し、患者が安定していて差し迫った安全上のリスクがないと評価された際に退院する。除外基準には、不安定な医学的または神経学的疾患、重大な心電図異常、妊娠または授乳、現在の精神病、ガボキサドールまたはケタミンの乱用または依存の病歴、過去6か月以内の他の薬物またはアルコール依存、没頭(binge)物質の使用または使用中止による自殺念慮、ガボキサドールまたはケタミンの以前の無効な治験または有害反応、注入前の3日間に20mg超のオキシコドンまたは同等物の毎日のオピオイド使用、60歳未満の人の精神状態短時間検査(the Mini-Mental State Examination)(25)での25未満のスコア、同意する能力の欠如、および英語の不十分な理解が含まれる。ボディマス指数や体重の除外はない。参加者は、ベンゾジアゼピンが注入前の24時間以内に服用されないことを除いて、現在の向精神薬の安定した投与量を継続することが許されている。募集は、インターネットや地元のメディア広告、臨床医の紹介を通じて行われる。プロトコルは、施設内審査委員会(the Institutional Review Board)によって承認され、書面によるインフォームドコンセントがすべての参加者から得られる。
【0161】
b)介入
参加者は、40分以上にわたって注入される100mLの通常の生理食塩水中の0.85mg/kgの塩酸ガボキサドール(例えば、経口カプセルとして60kgの患者あたり50mg;90kgの患者あたり75mg;40kgの患者あたり33.3mg)、または0.5mg/kgのケタミンを摂取するようにランダムに割り当てられる。血圧、心拍数および呼吸数は、5分ごとに監視される。二次心肺蘇生法の認定を受けた精神科医または精神科看護師が治療を行い、麻酔科医が電話で相談に応じる。
【0162】
ベースラインEEGまたはMEGは、患者の治療の30分前に確立されてもよい。EEGまたはMEGは、治療中継続する場合もあれば、投与後30、45、60、90、120、150、160分などの特定の時点で再評価してもよい。
【0163】
患者の検査により、投与後最初の160分間に観察されたガボキサドール治療に対する不十分な反応が明らかになった場合、何らかの方法で、治療を行う医師は任意選択でガボキサドールの第2の投与を行ってもよい。不十分な反応は、第1の投与から160分後の時点で30%未満のEEGパワー密度の増加として定義されてもよい。好ましくは、EEGパワー密度は、4.75~8.0Hzの範囲で計算される。あるいは、不十分な反応は、第1の投与から160分後の時点で、デルタ、シータ、およびアルファの合計活性が+3未満の全頭MEG平面型グラジオメータの増加である。ガボキサドールの第2の投与は、第1の投与から12時間以内に行われる。不十分な反応には、反応の欠如を示す観察可能な臨床症状も含まれ得る。
【0164】
24時間での評価後、参加者は、6か月間、最適化された標準的な臨床薬理学的治療を受け、最初の6週間は管理されていないフォローアップ観察で毎週研究評価が行われる。
c)アウトカムおよび指標(Outcome and Measures)
評価者は、博士レベルまたは修士レベルの心理学者である。薬物乱用または依存症を含む診断は、DSM-IV軸のIおよびII障害の構造化臨床面接(SCID IおよびII)(26、27)を使用して、研究心理学者および精神科医の毎週のコンセンサス会議で行われる。没頭物質乱用による自殺念慮は、病歴によって評価され、過去の抗うつ薬治験と現在の薬物療法は、他の機器では捉えられない範囲の変数を調査するベースライン臨床人口統計フォームで目録される。ビデオに収められた評価が、毎週の信頼性の監視に使用される。主要な臨床評価のクラス内相関係数は、SCID Iで0.94、HAM-Dで0.96、SSIで0.98であった。臨床医が評価したSSIは、0(最も深刻でない)から2(最も深刻な)までの19項目で自殺念慮の現在の重症度を評価した(20)。項目は、死の願望、受動的および能動的な自殺未遂の考え、念慮の期間と頻度、コントロールの感覚、抑止力、および未遂の準備行動を検認する(23)。SSIは、適度に高い内部一貫性と優れた同時および識別の妥当性を備えている(28)。スクリーニング時、ベースライン時、注入前24時間以内、注入後230分、注入後24時間、およびフォローアップの1~6週目に投与される。簡潔にするために、「1日目」を使用して24時間の治療評価を参照する。うつ病の症状は、17項目および24項目のHAM-D(22)、ベックうつ病調査表(BDI:Beck Depression Inventory)(29)、および気分状態のプロファイル(POMS:Profile of Mood States)(30)で評価される。不安は、患者に0(まったくない)から4(非常に不安)までの自己評価を求める5ポイントのリッカート尺度で測定される。有害作用は、治療緊急事象-一般的な問い合わせの体系的評価(31)、臨床医投与解離状態評価尺度(the Clinician-Administered Dissociative States Scale、CADSS;スコア範囲、0-92)(32)、および簡易精神症状評価尺度(the Brief Psychiatric Rating Scale、BPRS)の陽性症状サブスケールであって、概念的な混乱、誇大感、幻覚、および妄想が含まれる(サブスケールスコア範囲、0~24)サブスケール(33)で測定される。有効性の評価とCADSSおよびBPRSの陽性症状サブスケール(ベースラインで、230分で、および1日目で)は、治療中に存在しない心理学者の評価者によって収集される。治療直後のCADSSおよびBPRS陽性症状サブスケールの投与、およびすべての副作用評価は、注入を監督する医師によって行われる。参加者は、検査後のガボキサドールの使用について3か月と6か月で尋ねられる。
【0165】
d)ランダム化と盲検
順列のブロックされた設計が使用され、治療間で1:1の割り当てが行われ、ブロックサイズが4~6の間で同じ確率でランダム化される。ランダム化は、患者が向精神薬を服用していたかどうか(はい/いいえ)、および患者のベースラインSSIスコアが8未満であるか8超であるかという2つのベースライン要因に基づいて階層化される。自殺うつ病患者を対象とした以前の臨床試験のベースラインSSIスコアの中央値に基づく後者の層別化要因(34)は、ベースラインSSIの重症度が治療群で類似している可能性を高めることである。患者と研究担当者は、治療を知らされていない。その盲検の妥当性を評価するために、患者と評価者は1日目の評価で、注入がケタミンまたはガボキサドールであると思ったかどうか、または「わからない」かどうかを尋ねられる。治療反応は、ベースライン下の50%超の1日目のSSIスコアとして定義される。寛解は、1日目のSSIスコアがベースライン下の50%超であって適格性の閾値である4未満であるものとしてより厳密に定義される。ケタミングループがガボキサドールを摂取するあらゆる機会を確実に得るように、寛解レベルの改善が定義される。非寛解者は盲検化されておらず、ケタミンを摂取した人には、通常翌日、オープンなガボキサドールの注入が提供される。既存の薬剤は、注入前のベースラインから最終注入後の1日目の評価が完了するまで一定に保たれる。寛解者は盲検化されたままであり、フォローアップ治療を完了した後、薬局からランダム化された薬を知らせる手紙を受け取る。
【0166】
e)統計分析
この研究は、0.05のアルファレベルでのグループ効果の両側検定を想定して実行される。効果量の推定値、標準偏差、および相関関係は、以前のレポートに基づいている(15、34)。各治療に1:1で割り当てられた70の計画サンプル量は、ガボキサドールグループでは24時間にわたってSSIスコアの25%の低下を検出し、ケタミングループでは検出しないために、80%超のパワー(power)を提供する。実際のサンプル量は約80である。アウトカムのヒストグラムと残差プロットは、正規性(normality)について検査される。ベースライン特性のグループ比較は、カテゴリ変数の場合はカイ2乗検定またはフィッシャーの正確確率検定を使用し、連続変数の場合は2標本t検定を使用して行われる。修正された治療意図解析(intent-to-treat analysis)には、主要なアウトカム指標である1日目のSSIスコア(N=80)について評価されたすべてのランダム化参加者が含まれる。主要な仮説は、ベースラインから1日目までのSSIスコアの変化の共分散分析(ANCOVA)モデルを使用して試験され、予測因子として治療グループとベースラインSSIスコアを用いる。ランダム化層(向精神薬を服用しているか服用していないか)は、定義上、治療グループとは関連がなく、主要アウトカム指標とは関連がないため(p=0.84)、モデルには含まれていない。効果量の計算では、Cohen’s dと治療に必要な数とを使用した。Cohen’s dは、平均グループ変化の差をサンプル全体のベースライン値の標準偏差で割ったものとして計算される。二次分析では、ANCOVAモデルを使用して、ベースラインから230分までのSSIスコアとうつ病症状の評価(17項目と24項目のHAM-D、BDI、およびPOMS)と、ベースラインから1日目までのうつ病症状の評価とのグループ間の差異の変化を試験する。反応は、ロジスティック回帰を使用して薬物によって比較される。線形回帰が、SSIの自殺願望/念慮および計画サブスケールに対する治療効果の探索的分析で使用される(35)。媒介分析が、Mplusバージョン7の構造方程式モデリングフレームワークを使用して実行される(36)。対のあるt検定を使用して、1日目(N=35)後にオープンなガボキサドール治療を受けたケタミンに割り当てられた参加者が、SSIまたはHAM-Dスコアの有意なその後の変化を経験するかどうかを判断する。縦断的データ分析では、ケタミングループの40人の患者のうち35人は非寛解者であり、その後、オープンなガボキサドールの注入を受けるので、6週間のフォローアップ期間にわたるSSIと17項目のHAM-Dスコアの混合効果線形回帰を使用して、治療グループに関係なく、サンプル全体にわたるベースラインからの有意な変化を試験する。安全性分析には、注入に関連する心肺効果、有害事象、および注入後の重症度をグループ間で陽性、解離性、および不安症状の評価と比較する単変量テストが含まれる。分析には、SASバージョン9.4(SASインスティテュート社(SAS Institute)、ノースカロライナ州ケアリー)およびSPSSバージョン23(アイ・ビー・エム社(IBM)、ニューヨーク州アーモンク)が使用される。
【0167】
f)結果
主要なアウトカム指標:1日目 自殺念慮 1日目の平均SSIスコアは、ケタミングループと比較してガボキサドール群で低かった。平均グループ変化の差に対するCohen’s dは、中程度よりも大きな効果量を示す。ベースラインの境界性パーソナリティ障害の診断を共変量として含めることは、結果にほとんど影響を与えない。
【0168】
g)二次的アウトカム指標
自殺念慮。1日目のSSIの反応者の割合は、ケタミングループよりもガボキサドールグループで有意に高かった。注入後230分での自殺念慮の減少は、ケタミングループと比較してガボキサドールグループでより大きくなっている。
【0169】
うつ病症状。1日目のPOMS総気分障害スコアは、うつ病サブスケールのスコアと同様に、ケタミングループと比較してガボキサドールグループでより大きな改善を示す。
本開示では、特許、特許出願、特許公開、ジャーナル、書籍、論文、ウェブコンテンツなどの他の文書への参照および引用が行われている。そのようなすべての文書は、すべての目的のためにその全体が参照により本明細書に組み込まれる。参照により本明細書に組み込まれると言っているが、本明細書に明示的に記載されている既存の定義、ステートメント、または他の開示資料と矛盾するいかなる資料またはその一部は、その組み込まれた資料と本開示資料との間に矛盾が称しない程度に組み込まれるにすぎない。矛盾が生じた場合、その矛盾は、好ましい開示として本開示を支持して解決されるべきである。
【0170】
当業者であれば、本明細書に記載の特定の実施形態との多くの均等物を、日常的な実験のみを使用して認識または確認することができるであろう。そのような均等物は、特許請求の範囲に含まれることを意図している。
【国際調査報告】