(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-10
(54)【発明の名称】血液に基づく腫瘍遺伝子変異量が、非小細胞肺がんの全生存期間の予測に役立つ
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6827 20180101AFI20220203BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220203BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220203BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220203BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220203BHJP
A61K 31/337 20060101ALI20220203BHJP
A61K 33/243 20190101ALI20220203BHJP
A61K 31/7068 20060101ALI20220203BHJP
A61K 31/519 20060101ALI20220203BHJP
A61K 31/282 20060101ALI20220203BHJP
C12Q 1/6837 20180101ALI20220203BHJP
G01N 33/574 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
C12Q1/6827 Z
A61P35/00
A61P43/00 121
A61K45/00
A61K39/395 N
A61K31/337
A61K33/243
A61K31/7068
A61K31/519
A61K31/282
C12Q1/6837 Z
G01N33/574 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021532834
(86)(22)【出願日】2019-12-11
(85)【翻訳文提出日】2021-07-20
(86)【国際出願番号】 IB2019060676
(87)【国際公開番号】W WO2020121226
(87)【国際公開日】2020-06-18
(32)【優先日】2018-12-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504333972
【氏名又は名称】メディミューン,エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】レナード,コウスツブ
(72)【発明者】
【氏名】ヒッグス,ブランドン ダブリュ.
(72)【発明者】
【氏名】ラジャ,ラジブ ジー.
(72)【発明者】
【氏名】ブロホーン,フィリップ ゼット.
(72)【発明者】
【氏名】シー,ハン
(72)【発明者】
【氏名】クジオラ,マイク
【テーマコード(参考)】
4B063
4C084
4C085
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4B063QA13
4B063QA19
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4B063QQ42
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4C206MA03
4C206MA04
4C206NA05
4C206ZB26
4C206ZC75
(57)【要約】
本開示は、全般的には、デュルバルマブ、トレメリムマブ、及び/又は化学療法剤で処置された患者の全生存期間を予測するための、血液に基づく腫瘍遺伝子変異量の使用に基づいて、非小細胞肺がんの患者を処置する方法に関する。本開示はまた、免疫療法に対する感受性又は耐性に関連する循環腫瘍DNAにおける変異の同定に基づいて、非小細胞肺がんの患者を処置する方法にも関する。
【選択図】
図1-1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
がんの処置の成功の予測を、それを必要とする患者において行う方法であって、前記方法が、前記患者の腫瘍遺伝子変異量(TMB)を決定するステップを含み、高いTMBの場合に処置の成功が予測される方法。
【請求項2】
高いTMBが、≧12~≧20変異/メガベース(mut/Mb)と定義される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
高いTMBが、≧16変異/メガベース(mut/Mb)と定義される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
高いTMBが、≧20変異/メガベース(mut/Mb)と定義される、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記がんの処置が、デュルバルマブでの処置を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記がんの処置が、トレメリムマブでの処置をさらに含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記がんの処置が、化学療法剤での処置をさらに含む、請求項5又は請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記化学療法剤が、アブラキサン、カルボプラチン、ゲムシタビン、シスプラチン、ペメトレキセド、又はパクリタキセルのうち少なくとも1つを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記患者が、セリン/トレオニンキナーゼ11遺伝子(STK11)、Kelch様ECH結合タンパク質1遺伝子(KEAP1)、ATリッチな相互作用ドメイン含有タンパク質1A遺伝子(ARID1A)、又はK-Ras遺伝子のうち少なくとも1つに体細胞変異を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
がんの処置を、それを必要とする患者において行う方法であって、
(a)前記患者のTMBを決定するステップ、
(b)前記TMBが高いか又は低いかを決定するステップ、及び
(c)TMBが高い場合には処置をするか若しくは処置を継続し、又はTMBが低い場合には処置をしないか若しくは処置を中止するステップ
を含む方法。
【請求項11】
高いTMBが、≧12~≧20変異/メガベース(mut/Mb)と定義される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
高いTMBが、≧16変異/メガベース(mut/Mb)と定義される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
高いTMBが、≧20変異/メガベース(mut/Mb)と定義される、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記処置が、デュルバルマブでの処置を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記処置が、トレメリムマブでの処置をさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記処置が、化学療法剤での処置をさらに含む、請求項14又は請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記化学療法剤が、アブラキサン、カルボプラチン、ゲムシタビン、シスプラチン、ペメトレキセド、又はパクリタキセルのうち少なくとも1つを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
処置の成功が、標準治療と比較した際のOSの増加により決定される、請求項1又は請求項10に記載の方法。
【請求項19】
前記患者が、セリン/トレオニンキナーゼ11遺伝子(STK11)、Kelch様ECH結合タンパク質1遺伝子(KEAP1)、ATリッチな相互作用ドメイン含有タンパク質1A遺伝子(ARID1A)、又はK-Ras遺伝子のうち少なくとも1つに体細胞変異を有する、請求項10に記載の方法。
【請求項20】
がんの処置の成功の予測を、それを必要とする患者において行う方法であって、前記方法は、前記患者が、ATリッチな相互作用ドメイン含有タンパク質1A遺伝子(ARID1A)に体細胞変異を有するかどうかを決定するステップを含み、体細胞変異がある場合に処置の成功が予測される、方法。
【請求項21】
前記がんの処置が、デュルバルマブでの処置を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記がんの処置が、トレメリムマブでの処置をさらに含む、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記がんの処置が、化学療法剤での処置をさらに含む、請求項21又は請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記化学療法剤が、アブラキサン、カルボプラチン、ゲムシタビン、シスプラチン、ペメトレキセド、又はパクリタキセルのうち少なくとも1つを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
がんの処置を、それを必要とする患者において行う方法であって、
(a)前記患者が、セリン/トレオニンキナーゼ11遺伝子(STK11)、Kelch様ECH結合タンパク質1遺伝子(KEAP1)、ATリッチな相互作用ドメイン含有タンパク質1A遺伝子(ARID1A)、又はK-Ras遺伝子のうち少なくとも1つに体細胞変異を有するかどうかを決定するステップ;及び
(b)患者が、セリン/トレオニンキナーゼ11遺伝子(STK11)、Kelch様ECH結合タンパク質1遺伝子(KEAP1)、ATリッチな相互作用ドメイン含有タンパク質1A遺伝子(ARID1A)、又はK-Ras遺伝子のうち少なくとも1つに体細胞変異を有する場合には、処置をするか又は処置を継続するステップ
を含む方法。
【請求項26】
前記処置が、デュルバルマブでの処置を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記処置が、トレメリムマブでの処置をさらに含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記処置が、化学療法剤での処置をさらに含む、請求項26又は請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記化学療法剤が、アブラキサン、カルボプラチン、ゲムシタビン、シスプラチン、ペメトレキセド、又はパクリタキセルのうち少なくとも1つを含む、請求項28に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、全般的には、デュルバルマブ及び/若しくはトレメリムマブ、並びに/又は化学療法剤で処置された患者の全生存期間を予測するための、血液に基づく腫瘍遺伝子変異量の使用に基づいて、非小細胞肺がんの患者を処置する方法に関する。本開示はまた、免疫療法に対する感受性又は耐性に関連する循環腫瘍DNAにおける変異の同定に基づいて、非小細胞肺がんの患者を処置する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
処置前の腫瘍遺伝子変異量(「TMB」)が高い非小細胞肺がん(「NSCLC」)の患者は、免疫チェックポイント阻害薬で処置した後に転帰の改善を示した(Yarchoan et al.,N.Engl.J.Med.377(25):2500-01(2017);Snyder et al.,N.Engl.J.Med.371(23):2189-99(2014);Le et al.,Science 357(6349):409-13(2017);Rizvi et al.,Science 348(6230):124-28(2015);Rizvi et al.,J.Clin.Oncol.36(7):633-41(2018);Hellmann et al.,Cancer Cell 33(5):843-52(2018);Carbone et al.,N.Engl.J.Med.376(25):2415-26(2017);Hellmann et al.,N.Engl.J.Med.378(22):2093-104(2018))。血液中で測定されるTMBはまた、NSCLC患者のPD-1/L1療法に対する応答を強化するための新規で有望な手法としても浮かび上がってきた(Gandara et al.,Ann.Oncol.28(Suppl 5):v460-v496(2017);Planchard et al.,Ann.Oncol.29(Suppl 4):iv192-iv237(2018))。報告によると、血液TMB(「bTMB」)の高いNSCLC患者は、第一選択治療及び第二選択治療の両方において、無増悪生存期間及び奏効率が改善したことが示された。しかしながら、抗PD-1/L1抗体で処置したNSCLC患者において、組織TMB(「tTMB」)又はbTMBのいずれかと、全生存期間との間の相関性は示されていない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本開示は、がんの処置の成功の予測を、それを必要とする患者において行う方法であって、当該方法が、当該患者の腫瘍遺伝子変異量(TMB)を決定するステップを含み、高いTMBの場合に処置の成功が予測される方法を提供する。
【0004】
本開示はまた、がんの処置を、それを必要とする患者において行う方法であって、(a)当該患者のTMBを決定するステップ、(b)当該TMBが高いか又は低いかを決定するステップ、及び(c)TMBが高い場合には処置をするか若しくは処置を継続し、又はTMBが低い場合には処置をしないか若しくは処置を中止するステップを含む方法も提供する。
【0005】
本開示は、がんの処置の成功の予測を、それを必要とする患者において行う方法であって、当該方法は、当該患者が、ATリッチな相互作用ドメイン含有タンパク質1A遺伝子(ARID1A)に体細胞変異を有するかどうかを決定するステップを含み、体細胞変異がある場合に処置の成功が予測される方法をさらに提供する。
【0006】
本開示は、がんの処置を、それを必要とする患者において行う方法であって、(a)当該患者が、セリン/トレオニンキナーゼ11遺伝子(STK11)、Kelch様ECH結合タンパク質1遺伝子(KEAP1)、ATリッチな相互作用ドメイン含有タンパク質1A遺伝子(ARID1A)、又はK-Ras遺伝子のうち少なくとも1つに体細胞変異を有するかどうかを決定するステップ;及び(b)患者が、セリン/トレオニンキナーゼ11遺伝子(STK11)、Kelch様ECH結合タンパク質1遺伝子(KEAP1)、ATリッチな相互作用ドメイン含有タンパク質1A遺伝子(ARID1A)、又はK-Ras遺伝子のうち少なくとも1つに体細胞変異を有する場合には、処置をするか又は処置を継続するステップを含む方法をさらに提供する。
【0007】
本開示の他の特徴及び利点は、詳細な説明及び特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1-1】TMB解析に含まれる遺伝子のリストを示す。
【
図2】デュルバルマブ(D)対化学療法(CT)、又はデュルバルマブ及びトレメリムマブ(D+T)対化学療法(CT)で処置した、腫瘍細胞(TC)≧25%にPD-L1発現がある患者の全生存期間を示す。
【
図3】デュルバルマブ対化学療法、又はデュルバルマブ及びトレメリムマブ対化学療法で処置した、腫瘍細胞(TC)≧25%にPD-L1発現がある患者の無増悪生存期間(PFS)を示す。
【
図4】一次解析集団を示す。解析は、処置の期間及び対象のサブグループの共変量でのCox比例ハザードモデルを使用して実行した。サブグループは、性別、年齢、免疫細胞PD-L1発現、組織学的所見、喫煙歴、及び人種によるものとした。パフォーマンスステータスによるサブグループの解析は事後にした。*97.54%CIが示されている。
【
図5】MYSTIC試験における2つのTMB測定ツールの相関関係を示す。相関プロットは、符号する血液及び組織を有する患者352名のTMBデータに基づいている。基準線は線形回帰を使用して推定されている。
【
図6A】ITT集団並びに血液TMB及び組織TMBが評価可能な集団における全生存期間を示す。
【
図6B】ITT集団並びに血液TMB及び組織TMBが評価可能な集団における全生存期間を示す。
【
図6C】ITT集団並びに血液TMB及び組織TMBが評価可能な集団における全生存期間を示す。
【
図7】血液TMBのカットオフ値を横断する全生存期間の解析を示す。
【
図8】血液TMBが、≧16mut/Mb及び<16mut/Mbの患者の全生存率を示す。
【
図9】血液TMB及びPD-L1に基づく患者サブグループの交わりを示すベン図を示す。*パーセンテージは、治療企図集団(無作為化した全患者;N=1118)から計算される。
【
図10】血液TMBが≧20mut/Mb及び<20mut/Mbの患者の全生存率を示す。
【
図11】血液TMBが≧20mut/Mb及び<20mut/Mbの患者の無増悪生存期間(PFS)を示す。
【
図12A】血液TMBが≧10mut/Mb及び<10mut/Mbの患者の全生存率を示す。
【
図12B】血液TMBが≧10mut/Mb及び<10mut/Mbの患者の全生存率を示す。
【
図14】デュルバルマブ及びトレメリムマブ(D+T)対化学療法(CT)で処置した、腫瘍細胞(TC)≧50%)にPD-L1発現がある患者の全生存期間(OS)を示す。
【
図15】デュルバルマブ及びトレメリムマブ(D+T)対化学療法(CT)で処置した、腫瘍細胞(TC)≧1%)にPD-L1発現がある患者の全生存期間(OS)を示す。
【
図16】bTMBが高い、又は腫瘍細胞(TC)<1%を組み合わせると、有症率は改善されるが、有効性は減少することを示す。
【
図17】bTMBが高い、又は腫瘍細胞(TC)≧25%を組み合わせると、有症率は改善されるが、有効性は減少することを示す。
【
図18】MYSTIC試験における患者の遺伝子KEAP1、STK11、及びARID1Aの変異の保有率を示す。324名(評価可能な943名中)の患者が、3つの遺伝子KEAP1、STK11、又はARID1Aのうち1つに変異を有していた。
【
図19】組織学的所見及び処置による変異の保有率を示す。STK11及びKEAP1の変異は、扁平上皮性の組織学的所見のある患者と比較して、非扁平上皮性の組織学的所見のある患者の方に保有率が高かった。STK11、KEAP1、及びARID1Aの変異の保有率は、処置群間で均衡が取れていた。
【
図20】bTMBの状態による変異の保有率を示す。
【
図21】PD-L1発現による変異の保有率を示す。
【
図22】患者の変異の状態による、デュルバルマブ及びトレメリムマブ(デュルバルマブ+トレメリムマブ)、デュルバルマブ単剤療法(デュルバルマブ)、又は化学療法での処置の客観的奏効率を示す。
【
図23】デュルバルマブ及びトレメリムマブ、デュルバルマブ単剤療法、又は化学療法で処置した、変異が評価可能な患者全員における、KEAP1m対KEAP1wtの全生存期間を示す。デュルバルマブ及びトレメリムマブ、デュルバルマブ単剤療法、又は化学療法で処置した患者を各群に含めた;m=変異陽性;mOS=全生存期間中央値;wt=野生型。
【
図24】デュルバルマブ単剤療法対化学療法、又はデュルバルマブ+トレメリムマブ対化学療法で処置した患者における、KEAP1m対KEAP1wtの全生存期間を示す。
【
図25】変異が評価可能な患者全員における、STK11m対STK11wtの全生存期間を示す。デュルバルマブ及びトレメリムマブ、デュルバルマブ単剤療法、又は化学療法で処置した患者を各群に含めた。
【
図26】デュルバルマブ単剤療法対化学療法、又はデュルバルマブ+トレメリムマブ対化学療法で処置した患者における、STK11m対STK11wtの全生存期間を示す。
【
図27】変異が評価可能な患者全員における、STK11m/KEAP1m対野生型、及びSTK11m/KRASm対野生型の全生存期間を示す。デュルバルマブ及びトレメリムマブ、デュルバルマブ単剤療法、又は化学療法で処置した患者を各群に含めた。
【
図28】変異が評価可能な患者全員における、ARID1Am及びARID1Awtの全生存期間を示す。デュルバルマブ及びトレメリムマブ、デュルバルマブ単剤療法、又は化学療法で処置した患者を各群に含めた。
【
図29】デュルバルマブ単剤療法対化学療法、又はデュルバルマブ+トレメリムマブ対化学療法で処置した患者における、ARID1Am対ARID1wtの全生存期間を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示は、全般的には、デュルバルマブ及び/若しくはトレメリムマブ、並びに/又は化学療法剤で処置された患者の全生存期間を予測するための、血液に基づく腫瘍遺伝子変異量の使用に基づいて、非小細胞肺がんの患者を処置する方法に関する。本開示はまた、免疫療法に対する感受性又は耐性に関連する循環腫瘍DNA(ctDNA)における変異の同定に基づいて、非小細胞肺がんの患者を処置する方法にも関する。
【0010】
本開示は、少なくとも一部は、特有の患者の部分集団のbTMBによる同定に基づいている。本明細書に記載しているとおり、トレメリムマブと併用するデュルバルマブ処置について、bTMBは、PD-L1発現のレベルより、全生存期間の予測に役立った。一部の実施形態では、デュルバルマブ単剤療法処置+/-化学療法剤についても、bTMBは、PD-L1発現のレベルより、全生存期間の予測に役立つ。さらなる実施形態では、トレメリムマブと併用するデュルバルマブ処置+/-化学療法剤について、bTMBは、PD-L1発現のレベルより、全生存期間の予測に役立つ。
【0011】
本開示に従って使用される場合、他に指示がない限り、全ての技術用語及び科学用語は、当業者に広く理解されている意味と同じ意味を有すると理解されるものとする。文脈により他の意味が要求されない限り、単数形の用語は複数を含むものとし、複数形の用語は単数を含むものとする。
【0012】
一部の実施形態では、がんの処置の成功予測を、それを必要とする患者において行う方法であって、当該方法が、当該患者の腫瘍遺伝子変異量(TMB)を決定するステップを含み、高いTMBの場合に処置の成功が予測される方法が、本明細書において提供される。
【0013】
「腫瘍遺伝子変異量」又は「TMB」とは、腫瘍中に見られる変異の量を指す。TMBは、様々な腫瘍型によって異なる。一部の腫瘍型は他の腫瘍型より変異率が高い。TMBは、当分野で公知の種々のツールによって測定することができる。ある特定の実施形態では、これらのツールは、Foundation Medicine及びGuardant Healthの測定ツールである。本明細書に記載しているとおり、特定の遺伝子群中で変異をコードする潜在的な新生抗原を評価すると、トレメリムマブと併用するデュルバルマブでの処置について相関性があることが分かった。腫瘍が有する腫瘍遺伝子変異量が高レベルであるか又は低レベルであるかの決定は、類似の腫瘍を有する参照集団と比較し、発現の中央値又は平均レベルを決定することによって行うことができる。一部の実施形態では、高いTMBは、≧12~≧20変異/メガベース(mut/Mb)と定義される。他の実施形態では、高いTMBは、≧16変異/メガベース(mut/Mb)と定義される。他の実施形態では、高いTMBは、≧20変異/メガベース(mut/Mb)と定義される。
【0014】
本明細書で使用する場合、「MYSTIC」という用語は、Study NCT02453282を指し、これは、NSCLCにおける標準治療に対する、トレメリムマブを併用するか又は併用しないデュルバルマブの、第III相、非盲検、第一選択治療試験である。
【0015】
一部の実施形態では、本方法はデュルバルマブでの処置を含む。「デュルバルマブ」という用語は、本明細書で使用する場合、米国特許第9,493,565号明細書(「2.14H9OPT」と呼ばれている)に開示されているとおり、PD-L1に選択的に結合し、PD-L1がPD-1受容体及びCD80受容体に結合するのを遮断する抗体を指し、当該特許はその全体が参照により本明細書に援用される。デュルバルマブのフラグメント結晶化可能(Fc)ドメインは、IgG1重鎖の定常ドメイン内に三重変異を含有する。これは、補体成分C1q、及び抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(「ADCC」)の媒介を担うFcγ受容体への結合を減少させる。デュルバルマブは、ヒトT細胞活性化のPD-L1媒介による抑制をin vitroで軽減することができ、異種移植モデルにおいて、腫瘍増殖をT細胞依存性の機序によって阻害する。
【0016】
一部の実施形態では、本明細書に開示されている方法は、トレメリムマブでの処置を含む。「トレメリムマブ」という用語は、本明細書で使用する場合、米国特許第8,491,895号明細書(「クローン11.2.1」と呼ばれている)に開示されているとおり、CTLA-4ポリペプチドに選択的に結合する抗体を指し、当該特許はその全体が参照により本明細書に援用される。トレメリムマブは、ヒトCTLA-4に対して特異的であり、関連するヒトタンパク質に対して交差反応性はない。トレメリムマブは、CTLA-4の阻害効果を遮断し、したがってT細胞活性化を増強する。トレメリムマブは、Fc受容体に対して最小の特異的結合を示し、ナチュラルキラー(NK)ADCC活性を誘導せず、プレートに結合して凝集した後は阻害シグナルを送達しない。
【0017】
一部の実施形態では、本明細書に開示されている方法は、アブラキサン、カルボプラチン、ゲムシタビン、シスプラチン、ペメトレキセド、又はパクリタキセルのうち少なくとも1つを含む化学療法剤での処置を含む。一部の実施形態では、化学療法剤は、アブラキサン+カルボプラチン、ゲムシタビン+シスプラチン、ゲムシタビン+カルボプラチン、ペメトレキセド+カルボプラチン、ペメトレキセド+シスプラチン、又はパクリタキセル+カルボプラチンを含む。
【0018】
一部の実施形態では、本明細書に開示されている方法は、デュルバルマブ、トレメリムマブ、及び化学療法剤での処置を含む。他の実施形態では、本明細書に開示されている方法は、デュルバルマブ及び化学療法剤での処置を含む。他の実施形態では、本明細書に開示されている方法は、デュルバルマブでの処置を含む。
【0019】
一部の実施形態では、患者は、セリン/トレオニンキナーゼ11遺伝子(STK11)、Kelch様ECH結合タンパク質1遺伝子(KEAP1)、ATリッチな相互作用ドメイン含有タンパク質1A遺伝子(ARID1A)、又はK-Ras遺伝子のうち少なくとも1つに体細胞変異を有する。STK11及びKEAP1の変異の状態は、転移性非小細胞肺がん(mNSCLC)の患者においてOSの予後因子であった。一部の実施形態では、STK11又はKEAP1が変異したmNSCLCは、STK11又はKEAP1が野生型のmNSCLCの患者と比較して、より短いOSの予後因子である。一部の実施形態では、ARID1Aの変異は、デュルバルマブ+トレメリムマブ処置を受けている患者において、OSの改善を予測するバイオマーカーとして使用される。
【0020】
「ARID1A」という用語は、「完全長の」未処理のARID1A、及び細胞におけるプロセシングから得られる任意の形態のARID1Aを包含する。この用語はまた、ARID1Aの天然の変異体、例えば、スプライス変異体又は対立遺伝子変異体も包含する。
【0021】
「KEAP1」という用語は、「完全長の」未処理のKEAP1、及び細胞におけるプロセシングから得られる任意の形態のKEAP1を包含する。この用語はまた、KEAP1の天然の変異体、例えば、スプライス変異体又は対立遺伝子変異体も包含する。
【0022】
「STK11」という用語は、「完全長の」未処理のSTK11、及び細胞におけるプロセシングから得られる任意の形態のSTK11を包含する。この用語はまた、STK11の天然の変異体、例えば、スプライス変異体又は対立遺伝子変異体も包含する。
【0023】
「K-Ras」という用語は、「完全長の」未処理のK-Ras、及び細胞におけるプロセシングから得られる任意の形態のK-Rasを包含する。この用語はまた、K-Rasの天然の変異体、例えば、スプライス変異体又は対立遺伝子変異体も包含する。
【0024】
一部の実施形態では、がんの処置を、それを必要とする患者において行う方法であって、
(a)当該患者のTMBを決定するステップ、
(b)当該TMBが高いか又は低いかを決定するステップ、及び
(c)TMBが高い場合には処置をするか若しくは処置を継続し、又はTMBが低い場合には処置をしないか若しくは処置を中止するステップ
を含む方法が、本明細書において提供される。
【0025】
TMBが高いかどうかの決定は、腫瘍型によって異なる場合がある。腫瘍が有する腫瘍遺伝子変異量が高レベルであるか又は低レベルであるかの決定は、類似の腫瘍を有する参照集団と比較し、発現の中央値又は平均レベルを決定することによって行うことができる。一部の実施形態では、TMBのレベルは、低い(1~5変異/mb)、中間(6~15変異/mb)、及び高い(≧16変異/mb)と分けられる。
【0026】
一部の実施形態では、処置の成功は、標準治療と比較した際のOSの増加により決定される。「標準治療」(SOC)及び「白金を用いる化学療法」とは、アブラキサン、カルボプラチン、ゲムシタビン、シスプラチン、ペメトレキセド、又はパクリタキセルのうち少なくとも1つを含む化学療法処置を指す。一部の実施形態では、SOCは、アブラキサン+カルボプラチン、ゲムシタビン+シスプラチン、ゲムシタビン+カルボプラチン、ペメトレキセド+カルボプラチン、ペメトレキセド+シスプラチン、又はパクリタキセル+カルボプラチンを含む。
【0027】
本明細書で使用する場合、全生存期間(「OS」)とは、処置日に始まり、任意の原因による死亡までの期間に関する。OSは、例えば、12カ月、18カ月、及び24カ月などの期間内の全生存率を指す場合がある。
【0028】
一部の実施形態では、がんの処置の成功の予測を、それを必要とする患者において行う方法であって、当該方法は、当該患者が、ATリッチな相互作用ドメイン含有タンパク質1A遺伝子(ARID1A)に体細胞変異を有するかどうかを決定するステップを含み、体細胞変異がある場合に処置の成功が予測される方法が、本明細書において提供される。
【0029】
一部の実施形態では、がんの処置を、それを必要とする患者において行う方法であって、(a)当該患者が、セリン/トレオニンキナーゼ11遺伝子(STK11)、Kelch様ECH結合タンパク質1遺伝子(KEAP1)、ATリッチな相互作用ドメイン含有タンパク質1A遺伝子(ARID1A)、又はK-Ras遺伝子のうち少なくとも1つに体細胞変異を有するかどうかを決定するステップ;及び(b)患者が、セリン/トレオニンキナーゼ11遺伝子(STK11)、Kelch様ECH結合タンパク質1遺伝子(KEAP1)、ATリッチな相互作用ドメイン含有タンパク質1A遺伝子(ARID1A)、又はK-Ras遺伝子のうち少なくとも1つに体細胞変異を有する場合には、処置をするか又は処置を継続するステップを含む方法が、本明細書において提供される。
【0030】
「患者」という用語は、ヒト及び非ヒト動物、特に哺乳動物を含むものとする。
【0031】
一部の実施形態では、本明細書に開示されている方法は、対象を腫瘍障害及び/又はがん障害について処置することに関する。一部の実施形態では、がんは、黒色腫、乳がん、膵がん、肺がん(例えば、非小細胞肺がん(NSCLC)及び小細胞肺がん(SCLC))、肝細胞癌、胆管癌若しくは胆道系がん、胃がん、食道がん、頭頚部がん、腎がん、子宮頚がん、大腸がん、又は尿路上皮膀胱がんから選択される。
【0032】
「処置」又は「処置する」という用語は、本明細書で使用する場合、治療処置を指す。処置を必要とする者には、がんを有する対象が含まれる。一部の実施形態では、本明細書に開示されている方法は、腫瘍を処置するために使用することができる。他の実施形態では、腫瘍の処置には、腫瘍増殖の阻害、腫瘍減少の促進、又は腫瘍増殖の阻害及び腫瘍減少の促進の両方が含まれる。
【0033】
「投与」又は「投与すること」という用語は、本明細書で使用する場合、所望の効果を達成するために、任意の適切な経路により、1種又は複数種の化合物を供給する、接触させる、及び/又は送達することを指す。投与には、以下に限定されないが、経口、舌下、非経口(例えば、静脈内、皮下、皮内、筋肉内、関節内、動脈内、滑液嚢内、胸骨内、くも膜下腔内、病巣内、又は頭蓋内の注射)、経皮、局所、頬側、経直腸、経腟、経鼻、経眼、吸入による、及びインプラントが含まれ得る。
【0034】
「医薬組成物」又は「治療用組成物」という用語は、本明細書で使用する場合、対象に適切に投与された場合に所望の治療効果を誘導することができる化合物又は組成物を指す。一部の実施形態では、本開示は、薬学的に許容される担体及び本開示の少なくとも1つの抗体の治療有効量を含む医薬組成物を提供する。
【0035】
本開示を限定することなく、本開示の複数の実施形態が、説明する目的で以下に記載される。
【実施例】
【0036】
以下の実施例は、本開示の特定の実施形態及びその様々な使用を例証するものである。これらは、説明する目的でのみ記載されており、決して本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【0037】
実施例1:転移性非小細胞肺がんにおける、トレメリムマブを併用する又は併用しないデュルバルマブ
本明細書に記載されているMYSTIC試験は、転移性NSCLCの第一選択処置として、トレメリムマブを併用する又は併用しないデュルバルマブを、白金を用いる化学療法と比較する第3相試験であった。
【0038】
患者
ステージIVのNSCLCの成人患者が、以前に進行性/転移性NSCLCの全身療法を受けたことがなく、米国東海岸癌臨床試験グループ(Eastern Cooperative Oncology Group)のパフォーマンスステータス0~1、固形がんの治療効果判定のための新ガイドライン(Response Evaluation Criteria in Solid Tumors version 1.1:RECIST v1.1)によって測定可能な疾患(Chaft et al.,Cancer Res.78(13 Suppl)(abstr.CT113)(2018))、及び無作為化前に既知の腫瘍PD-L1発現状態を有していた場合に、その患者を適格とした。感作性EGFR変異又はALK再構成を有する患者、及び症候性の不安定な脳転移を有する患者は除外した。
【0039】
試験デザイン及び処置
患者を、PD-L1 TC≧25%対<25%、及び組織学的所見によって層別化し、デュルバルマブ20mg/kgを4週間毎に、デュルバルマブ20mg/kgとトレメリムマブ1mg/kgとの併用を4週間毎に(4用量まで)、又は白金を用いる2剤併用化学療法を4~6サイクル受けるように、1:1:1の比で無作為化した。患者は、客観的疾患進行(RECISTv1.1による)、処置の中止を必要とする有害事象(AE)の発症、又は同意撤回まで、処置を継続した。
【0040】
評価項目及び査定
主要評価項目は、全てPD-L1 TC≧25%の患者において、両方の免疫療法群の、化学療法と比較した際の全生存期間(OS;無作為化から任意の原因による死亡までの時間)、及びデュルバルマブとトレメリムマブとの併用の、化学療法と比較した際の無増悪生存期間(PFS;無作為化から、盲検下第三者による中央判定(blinded independent central review[BICR])による客観的疾患進行又は死亡までの時間)とした。主要評価項目は、PD-L1 TC≧25%の患者において評価することにした。副次的評価項目には、デュルバルマブ対化学療法のPFS、両方の免疫療法群の、化学療法と比較した際の客観的奏効率(ORR)及び奏効期間(DOR)(全てPD-L1 TC≧25%の患者において)、並びに安全性及び忍容性を含めた。TMBを含むバイオマーカー間の関係の調査、及び臨床転帰も判定した。
【0041】
PD-L1発現は、中央検査所にて、VENTANA PD-L1(SP263)免疫組織化学(IHC)アッセイ(Ventana Medical Systems,Tucson,AZ,USA)を使用し、複数のカットオフ値を使用して評価した(Rebelatto et al.,Diagn.Pathol.11(1):95(2016))。スクリーニングの前3カ月以内に得られた腫瘍サンプルを許容した。Dako PD-L1 IHC 22C3 pharmDxアッセイとVENTANA PD-L1(SP263)IHCアッセイとの間に、ダイナミックレンジにわたって解析による強力な一致が示された(Hirsch et al.,J.Thorac.Oncol.12(2):208-22(2017);Ratcliffe et al.,Clin.Cancer Res.23(14):3585-91(2017))。
【0042】
腫瘍反応は、最初の48週間は6週間毎に、次いで疾患進行が確認されるまで8週間毎に画像撮影を実行し、RECISTv1.1を使用して、BICRによって査定した。患者を生存期間について追跡した。AEは、アメリカ国立がん研究所(National Cancer Institute)の有害事象共通用語規準(Common Terminology Criteria for Adverse Events version4.03)に従ってグレード付けした。
【0043】
血液TMBは、500遺伝子から構成されるGuardantOMNI次世代シークエンシングプラットフォーム(Guardant Health,Redwood City,CA,USA)を使用して評価した(
図1)。
図1に示されている全ての遺伝子は、TMBの潜在的な識別子であり、各遺伝子又は遺伝子の組合せの関連性は患者によって様々である。
【0044】
OMNI TMBアルゴリズムは、体細胞の一塩基変異体(SNV)、短い挿入/欠失(インデル)、コピー数増幅及び融合を組み込んでおり、無細胞の循環腫瘍DNA含量が低い血液サンプルでTMBを計算するように最適化されている(Merck Sharp & Dohme.Keytruda(登録商標)(ペムブロリズマブ)の製品特性の概要。2019年3月更新。次で参照可能:https://www.medicines.org.uk/emc/product/6947/smpc(最終アクセス2019年5月1日);Reck et al.,N.Engl.J.Med.375(19):1823-33(2016))。同義及び非同義の両方のSNV及びインデルは含まれ、シェディング(shedding)値が低いもの、多様性が低いもの、並びにクローン性造血、生殖系列及び発がん性ドライバー又は薬物耐性機序に関連するものは除外された。組織TMBは、FoundationOne組織次世代シークエンシングプラットフォーム(Foundation Medicine,Cambridge,MA,USA)を使用して評価した。そのアルゴリズムは以前に記載されている(Merck Sharp & Dohme.Keytruda(登録商標)(ペムブロリズマブ)処方情報。2019年4月更新。次で参照可能:https://www.merck.com/product/usa/pi_circulars/k/keytruda/keytruda_pi.pdf(最終アクセス2019年5月1日))。
【0045】
統計解析
デュルバルマブとトレメリムマブとの併用群及び化学療法群における一次PFS解析で231例のPFSイベントを得るために、並びに各処置群の比較における一次OS解析で225例のOSイベントを得るために、PD-L1 TC≧25%の480名を含む患者約1092名が必要であった。
【0046】
有効性は、無作為化した全患者、又はPD-L1発現若しくはTMBレベルに基づくこの集団の部分集団を含む、治療企図(ITT)ベースで解析した。安全性解析には、試験処置を少なくとも1用量(処置集団として)受けた全患者を含めた。第1種の過誤を5%(両側)に制御するため、評価項目、解析集団、及び処置レジメンにおいて、階層的多重検定手順をゲートキーピング戦略と共に使用した。一次PFS解析は、層別ログランク検定を使用し、組織学的所見について補正し、Cox比例ハザードモデルを使用して推定したハザード比(HR)及び99.5%信頼区間(CI)を用いて行った。一次OS解析は、同様の方法を使用し、デュルバルマブ、及びデュルバルマブとトレメリムマブとの併用を、それぞれ化学療法と比較するために、両側97.54%Ci及び98.77%Ciで推定したHRを用いて行った。生存曲線は、カプラン・マイヤー法を使用して作成した。
【0047】
PD-L1 TC≧1%及びITT集団で行った二次解析では、層別化をPD-L1発現状態(TC≧25%対TC<25%)について追加で補正した。ORRを処置群間で比較するためのオッズ比及び95%CIを、ロジスティック回帰モデルを使用して計算し、PFS及びOSと同じ因子について補正した。事前に指定したTMB解析は、非層別ログランク検定を使用し、Cox比例ハザードモデルを使用して推定したHR及び95%Ciを用いて行った。
【0048】
結果
無作為化した患者1118名のうち、1092名(97.7%)が、少なくとも1用量の試験処置を受けた(369名がデュルバルマブ、371名がデュルバルマブとトレメリムマブとの併用、及び352名が化学療法を受けた)。化学療法群において、最も一般的なレジメンは、扁平上皮性及び非扁平上皮性の組織学的所見を有する患者において、それぞれ、ゲムシタビンとカルボプラチンとの併用(49.5%)、及びペメトレキセドとカルボプラチンとの併用(54.5%)とした。合計488名の患者がPD-L1 TC≧25%を有していた(一次解析集団;無作為化した患者の43.6%)。PD-L1 TC≧25%の患者のベースライン患者背景及び疾患特性は、ITT集団とほぼ一致しており、処置群間で均衡が取れていた。
【0049】
PD-L1 TC≧25%の患者のうち、デュルバルマブ群の25名、デュルバルマブとトレメリムマブとの併用群の18名、及び化学療法群の1名が試験処置を持続した。これらの患者のうち、デュルバルマブ群の5名及びデュルバルマブとトレメリムマブとの併用群の1名は、進行の間中処置を受け、デュルバルマブとトレメリムマブとの併用群の5名はトレメリムマブで再処置を受けた。試験処置の中止後、デュルバルマブ群の患者73名(44.8%)、デュルバルマブとトレメリムマブとの併用群の61名(37.4%)、及び化学療法群の95名(58.6%)は、続いて全身性のがん治療を受けた。これらの患者のうち、免疫療法を受けたのは、デュルバルマブ群では73名のうち10名(13.7%)、デュルバルマブとトレメリムマブとの併用群では61名のうち5名(8.2%)、化学療法群では95名のうち64名(67.4%)であった。
【0050】
1.有効性
追跡調査によるOS中央値は30.2カ月(範囲、0.3~37.2)であった。PD-L1 TC≧25%の患者において、デュルバルマブ、及びデュルバルマブとトレメリムマブとの併用は、化学療法と比較して、OSの統計的に有意な改善はなかった。OS中央値は、デュルバルマブでは16.3カ月、それに対し、化学療法では12.9カ月であった(死亡のHR、0.76;97.54%CI、0.56~1.02;P=0.036)(
図2)。24カ月のOS率は、デュルバルマブ群で38.3%(95%CI、30.7~45.7)、化学療法で22.7%(16.5~29.5)であった。最も計画的にデュルバルマブで処置された患者サブグループは、化学療法と比較して、OSに数値的な改善があった(
図4)。デュルバルマブとトレメリムマブとの併用では、OS中央値は11.9カ月であり、24カ月のOS率は35.4%(95%CI、28.1~42.8)(化学療法に対する死亡のHR、0.85;98.77%CI、0.61~1.17;P=0.202)であった(
図2)。ITT集団内、及び様々なPD-L1発現レベル(TC<1%、≧1%、≧25~49%、及び≧50%)により定義したサブグループ内のOSが表1に示されている。
【0051】
【0052】
追跡調査によるPFS中央値は10.6カ月(範囲、0~18)であった。デュルバルマブ群と化学療法群との間のPFS(副次的評価項目;
図3)、又はデュルバルマブとトレメリムマブとの併用群と化学療法群との間のPFS(主要評価項目;
図3)に統計的有意差はなかった。PFS中央値は、デュルバルマブとトレメリムマブとの併用では3.9カ月(95%CI、2.8~5.0)、それに対し、化学療法では5.4カ月(4.6~5.8)であり(疾患進行又は死亡のHR、1.05;99.5%CI、0.72~1.53;P=0.705);12カ月のPFS率は、デュルバルマブとトレメリムマブとの併用では25.8%(95%CI、18.9~33.1)、それに対し、化学療法では14.3%(8.4~21.7)であった。
【0053】
PD-L1 TC≧25%の患者におけるORRは、デュルバルマブ群で35.6%、デュルバルマブとトレメリムマブとの併用群で34.4%、化学療法群で37.7%であった(表2)。DOR中央値は、化学療法での4.4カ月に対して、免疫療法群では未到達であった。12カ月時点で、免疫療法処置群の方が、反応を持続した患者が多かった(デュルバルマブ群、デュルバルマブとトレメリムマブとの併用群、及び化学療法群において、それぞれ、61.3%、54.9%、及び18.0%)(表2)。
【0054】
【0055】
無作為化した患者1118名のうち、809名(72%)及び460名(41%)にそれぞれ由来する血液及び組織の処置前サンプルが、TMB用に評価可能であった。TMB値はPD-L1発現レベルと相関性がなかった(血液:Spearmanの順位相関係数=0.05、Pearsonの相関係数=0.01;組織:Spearmanの順位相関係数=0.09、Pearsonの相関係数=0.06)。符号する両サンプルを有する患者(n=352;無作為化した患者の31%)において、bTMB及びtTMBは相関していた(Spearmanの順位相関係数=0.6、Pearsonの相関係数=0.7;
図5)。bTMB及びtTMBが評価可能な集団のベースライン特性はITT集団と一致しており、処置群間で均衡が取れていた。TMBが評価可能な集団のOSは、3つの処置群においてITT集団と一致していた(
図6A~6C)。死亡のHRは、bTMBの閾値が上がるにつれて、化学療法に対するデュルバルマブとトレメリムマブとの併用について徐々に改善した(
図7~8)。血液TMB≧20mut/Mbは、デュルバルマブとトレメリムマブとの併用及び利益を得る患者集団にとって、臨床的に意義のある効果量に基づいて、さらなる解析をするために選択した。関連して、tTMB≧10mut/Mbを、NSCLCにおけるニボルマブとイピリムマブとの併用の過去の試験においてPFS及び反応の予測に役立つと示された閾値(Hellmann et al.,N.Engl.J.Med.378(22):2093-104(2018);Ready et al.,J.Clin.Oncol.37(12):992-1000(2019))に基づいて、試験した。tTMBの10mut/Mbを超える閾値でのさらなる解析については、サンプルサイズが小さいことにより、制限された。bTMB≧20mut/Mb又はtTMB≧10の患者では、喫煙歴及び扁平上皮性の組織学的所見のある患者の割合が、対応するTMBがそれより低いサブグループと比較して大きかった。bTMB≧20mut/Mb集団とPD-L1 TC≧25%集団との間の交わりは極小であった(無作為化した患者の9%;
図9)。
【0056】
血液TMB≧20mut/Mbは、化学療法に対するデュルバルマブとトレメリムマブとの併用について、OSの改善に関連していた(中央値、21.9対10.0カ月;未調整の死亡のHR、0.49[95%CI、0.32-0.74];
図10);24カ月のOS率は、デュルバルマブとトレメリムマブとの併用では48.1%(95%CI、35.5~59.7)、それに対し、化学療法では19.4%(11.0-29.5)であった。対照的に、bTMB<20mut/Mbの患者では、化学療法に対するデュルバルマブとトレメリムマブとの併用について、OSの改善はなかった(中央値、8.5対11.6カ月;未調整の死亡のHR、1.16[95%CI、0.93-1.45];
図10)。血液TMB≧20mut/Mbであり、bTMB<20mut/Mbでないことは、化学療法に対するデュルバルマブとトレメリムマブとの併用について、PFS(
図11)及びORR(表3)の改善にも関連していた。
【0057】
【0058】
デュルバルマブ単剤を受けているbTMB≧20mut/Mbの患者については、OS中央値は12.6カ月であった(化学療法に対する未調整の死亡のHR、0.72;95%CI、0.50~1.05)。デュルバルマブに対するデュルバルマブとトレメリムマブとの併用について、死亡のHRは0.74であり(95%CI、0.48~1.11;
図10)、トレメリムマブのさらなる寄与を裏付けた。
【0059】
組織TMB≧10mut/Mbであり、tTMB<10mut/Mbでないことは、化学療法に対する両方の免疫療法群において、数値的により長いOSに関連していた。OS中央値は、デュルバルマブとトレメリムマブとの併用では16.6カ月、デュルバルマブでは18.6カ月、化学療法では11.9カ月であった。死亡のHRは、化学療法に対するデュルバルマブとトレメリムマブとの併用では0.72(95%CI、0.48~1.09)であり、化学療法に対するデュルバルマブでは0.70(0.47~1.06)であった(
図12A~12B)。
【0060】
2つの血液に基づくアルゴリズムは、化学療法と比較した際のD+Tの転帰の改善を示した(V2及びV3;
図13を参照)。V3より単純であるため、V2アルゴリズムを選択したが、両者とも同様の予測可能性を示した。
【0061】
MYSTICにおけるD+Tについて、使用した切点にかかわらず、TMBは、PD-L1発現レベルよりOSの予測に役立った。これは高PD-L1発現と相関性はなく、このため、特有の患者の部分集団をbTMBで同定した(
図9)。加えて、bTMBとPD-L1発現とを組み合わせると、患者の有症率が増加するが、効果量が減少する(
図16及び17)。
【0062】
2.安全性
実処置期間中央値は、デュルバルマブでは16.0週間(範囲、0.4~148.6);併用群においては、デュルバルマブ及びトレメリムマブで、それぞれ16.0週間(0.6~161.3)及び12.0週間(0.6~32.0);及び化学療法では17.9週間(1.1~137.4)であった。
【0063】
試験責任医師により処置関連(TRAE)であると判断された全てのグレードのAEは、デュルバルマブ、デュルバルマブとトレメリムマブとの併用、及び化学療法で処置した患者のうち、それぞれ、54.2%、60.1%、及び83.0%に発生した。グレード≧3のTRAEの比率は、デュルバルマブ(14.9%)、及びデュルバルマブとトレメリムマブとの併用(22.9%)の方が化学療法(33.8%)より低く、デュルバルマブ群においては、中止に至るTRAEが発生した患者がより少なかった(それぞれ、5.4%対13.2%及び9.4%)。処置関連の死亡は、デュルバルマブ群では患者2名(0.5%)、デュルバルマブとトレメリムマブとの併用群では6名(1.6%)、及び化学療法群では3名(0.9%)に発生した。PD-L1 TC≧25%の一次解析集団及びbTMB≧20mut/Mbの集団における安全性は、全安全性評価集団と一致していた。
【0064】
免疫介在性のAEは、デュルバルマブ群では患者の13.6%、デュルバルマブとトレメリムマブとの併用群では28.3%、及び化学療法群では3.4%報告された。これらのイベントは、それぞれ、患者の4.1%、10.8%、及び0.6%におけるグレード3又は4のものであった。
【0065】
解析により、本試験においてデュルバルマブとトレメリムマブとの併用での最適なOS効果、及びPFSと反応の両方における臨床的に重要な改善のために、bTMBの閾値を≧20mut/Mbと特定した。
【0066】
実施例2:mNSCLCにおける免疫療法に対する感受性又は耐性と関連するctDNAの変異:MYSTIC試験からの解析
この実施例では、選択した変異と生存期間の転帰との間の関係を調査した。ベースライン血漿検体由来の循環腫瘍DNAを、GuardantOMNIプラットフォームを使用してプロファイル解析した。サンプルは、患者1003名(ITT集団の89.7%)から入手可能であった。943サンプルについて、変異の評価が可能であった。生存期間の転帰は、STK11、KEAP1、若しくはARID1A、又はKRASに、非同義の体細胞変異がある又はない患者において解析した。
【0067】
この試験により、各処置群にわたり、転移性NSCLC(「mNSCLC」)を有し、セリン/トレオニンキナーゼ11遺伝子(STK11)又はKelch様ECH結合タンパク質1遺伝子(KEAP1)に変異を有する患者において、対応する変異のない患者と比較して、不良度合いがより大きい転帰が認められたことが示された。D+Tを受けた患者において、ATリッチな相互作用ドメイン含有タンパク質1A遺伝子変異(ARID1Am)は、ATリッチな相互作用ドメイン含有タンパク質1A野生型遺伝子(ARID1wt)と比較して、生存期間延長の利益と関連していた。
【0068】
変異が評価可能な集団において、STK11m、KEAP1m、及びARID1Amの出現頻度は、それぞれ16%、18%、及び12%であった(19%、20%、及び11%[非扁平上皮性];7%、13%、及び15%[扁平上皮性])(
図18~21)。各処置群において、STK11m又はKEAP1mを有する患者は、STK11wtを有するmNSCLC患者よりOS中央値(「mOS」)が短く(D、10.3対13.3カ月;D+T、4.4対11.3カ月;CT、6.7対13.1カ月)、又はKEAP1wtを有するmNSCLC患者よりOS中央値(「mOS」)が短かった(D、7.6対14.6カ月;D+T、9.2対11.3カ月;CT、6.3対13.3カ月)(
図22~27)。D+T群において、ARID1Amを有する患者は、ARID1Awtを有するmNSCLC患者よりmOSが長かった(D、8.6対13.7カ月;D+T、23.2対9.8カ月;CT、10.6対12.4カ月)(
図28~29)。
【0069】
本明細書に記載されている特許及び刊行物は全て、それぞれ独立した特許及び刊行物が、参照により援用されるように明確に個々に指示されているかのような場合と同程度まで、参照により本明細書に援用される。本願の任意の項において任意の参考事項を引用又は特定しても、そのような参考事項が本発明に対する先行技術として利用可能であるとの容認と解釈されるべきではない。
【国際調査報告】