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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-10
(54)【発明の名称】NRF-2欠損細胞及びその使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/17 20150101AFI20220203BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220203BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20220203BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220203BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20220203BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220203BHJP
   A61K 35/15 20150101ALI20220203BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20220203BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220203BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220203BHJP
   A61K 38/19 20060101ALI20220203BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20220203BHJP
   C12N 15/113 20100101ALN20220203BHJP
   C12N 15/62 20060101ALN20220203BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20220203BHJP
   C12N 15/63 20060101ALN20220203BHJP
【FI】
A61K35/17 Z
C12N5/10
C12N5/0783
A61P35/00
A61P35/02
A61P43/00 121
A61P43/00 107
A61K35/15 Z
A61K47/68
A61K39/395 C
A61K39/395 L
A61K39/395 E
A61K39/395 T
A61K39/395 G
A61K39/395 U
A61K45/00
A61K38/19
C12N15/12 ZNA
C12N15/113 Z
C12N15/62 Z
C12N15/09 100
C12N15/63 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021532865
(86)(22)【出願日】2019-12-09
(85)【翻訳文提出日】2021-07-20
(86)【国際出願番号】 US2019065227
(87)【国際公開番号】W WO2020123377
(87)【国際公開日】2020-06-18
(31)【優先権主張番号】10-2018-0158428
(32)【優先日】2018-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521208309
【氏名又は名称】ネオイミューンテック, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ホン, チャン ワン
(72)【発明者】
【氏名】リ, ビョン ハ
(72)【発明者】
【氏名】チェ, ドンフン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C084
4C085
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA93Y
4B065AA94X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4C076AA95
4C076BB11
4C076BB13
4C076BB15
4C076BB16
4C076BB24
4C076CC27
4C076CC41
4C076EE59
4C084AA02
4C084AA19
4C084BA44
4C084DA01
4C084MA02
4C084MA66
4C084NA05
4C084ZB021
4C084ZB022
4C084ZB091
4C084ZB092
4C084ZB221
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZB271
4C084ZC412
4C084ZC751
4C085AA13
4C085AA14
4C085AA26
4C085BB11
4C085BB12
4C085BB50
4C085CC05
4C085CC23
4C085CC31
4C085DD62
4C085EE03
4C085GG01
4C085GG02
4C085GG03
4C085GG04
4C085GG05
4C085GG06
4C085GG10
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB37
4C087BB65
4C087CA04
4C087DA32
4C087MA02
4C087MA66
4C087NA05
4C087NA13
4C087NA14
4C087ZB22
4C087ZB26
4C087ZB27
4C087ZC75
(57)【要約】
本開示は、Nrf2発現の調節に基づくT細胞抗がん免疫療法、すなわち、Nrf2標的化免疫細胞、例えば、T細胞による、抗がん療法に関する。本開示は、T細胞におけるNrf2発現に深く干渉することにより、T細胞に対してがん細胞が示す免疫寛容の問題を解決する。言い換えると、Nrf2を標的とすることにより、抗がん免疫療法の効果が改善し得る。本開示は、Nrf2を標的とする新たなT細胞抗がん免疫療法、及び第2世代抗がん免疫療法のためのT細胞を提供し得る。この技術は、CAR-T細胞、工学操作されたT細胞、及びTIL T細胞の調製、ならびにリンパ腫を含む様々な固形癌の治療に適用可能である。これは治療効能を効果的に改善する新たな抗がん療法であるといえる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
低下したレベルのNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質を発現する改変細胞を対象に投与することを含む、それを必要とする前記対象の腫瘍を治療する方法。
【請求項2】
NFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質の前記発現レベルが、参照細胞(例えば、比較的低いレベルのNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質を発現するように改変されていない対応する細胞)と比較して、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、または少なくとも約100%低下する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記投与が、前記対象における腫瘍体積を、参照腫瘍体積(例えば、前記投与前の前記対象における腫瘍体積、及び/または前記投与を受けなかった対象における腫瘍体積)と比較して低減させる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記腫瘍体積が、前記投与後に、前記参照腫瘍体積と比較して、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、または少なくとも約100%低減する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記投与が、前記対象における腫瘍重量を、参照腫瘍重量(例えば、前記投与前の前記対象における腫瘍重量、及び/または前記投与を受けなかった対象における腫瘍重量)と比較して低減させる、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記腫瘍重量が、前記投与後に、前記参照腫瘍重量と比較して、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、または少なくとも約100%低減する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記投与が、前記対象における腫瘍浸潤リンパ球(TIL)の1以上の特性を改善する、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記TILが、同族抗原で刺激されると、参照TIL(例えば、前記投与を受けなかった対象のTIL)と比較して増大した量のIFN-γを産生する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
産生されるIFN-γの前記量が、前記参照TILと比較して、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、または少なくとも約100%以上増大する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記TILがCD8+TILである、請求項7~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記TILがCD4+TILである、請求項7~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記改変細胞が、参照細胞(例えば、比較的低いレベルのNrf2タンパク質を発現するように改変されていない対応する細胞)と比較して増大した酸化ストレス耐性を呈する、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記酸化ストレス耐性が、前記参照細胞と比較して、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、または少なくとも約100%以上増大する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記増大した酸化ストレス耐性が、高濃度の活性酸素種の存在下で増殖する、IFN-γを産生する、及び/またはグランザイムBを発現する能力を含む、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
前記活性酸素種が過酸化水素(H)を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記改変細胞が免疫細胞である、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記免疫細胞が、リンパ球、好中球、単球、マクロファージ、樹状細胞、またはそれらの組み合わせを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記リンパ球が、T細胞、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)、リンホカイン活性化キラー細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、またはそれらの任意の組み合わせを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記リンパ球がT細胞である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記T細胞が、キメラ抗原受容体(CAR)及び/またはT細胞受容体(TCR)、例えば、工学操作されたTCRを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記腫瘍が、乳癌、頭頸部癌、子宮癌、脳癌、皮膚癌、腎癌、肺癌、大腸癌、前立腺癌、肝臓癌、膀胱癌、腎臓癌、膵臓癌、甲状腺癌、食道癌、眼癌、胃の癌(胃癌)、胃腸癌、卵巣癌、癌腫、肉腫、白血病、リンパ腫、骨髄腫、またはそれらの組み合わせを含むがんに由来する、請求項1~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記がんが、大腸癌、皮膚癌、リンパ腫、肺癌、またはそれらの組み合わせである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
追加の治療剤を前記対象に投与することを含む、請求項1~22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記追加の治療剤が、化学療法薬、標的化抗がん療法、腫瘍溶解薬、細胞傷害性薬剤、免疫ベースの療法、サイトカイン、外科手技、放射線手技、共刺激分子の活性化因子、免疫チェックポイント阻害剤、ワクチン、細胞免疫療法、またはそれらの任意の組み合わせを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記追加の治療剤が免疫チェックポイント阻害剤である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記免疫チェックポイント阻害剤が、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、抗LAG-3抗体、抗CTLA-4抗体、抗GITR抗体、抗TIM3抗体、またはそれらの任意の組み合わせを含む、請求項24または25に記載の方法。
【請求項27】
前記追加の治療剤及び前記改変細胞が同時に投与される、請求項23~26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記追加の治療剤及び前記改変細胞が順次投与される、請求項23~26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記改変細胞が、補足的投与、筋肉内投与、皮下投与、点眼、静脈内投与、腹腔内投与、皮内投与、眼窩内投与、脳内投与、頭蓋内投与、脊髄内投与、心室内投与、髄腔内投与、大槽内投与、嚢内投与、腫瘍内投与、またはそれらの任意の組み合わせで投与される、請求項1~28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
キメラ抗原受容体(CAR)発現細胞の抗腫瘍免疫応答を改善する方法であって、低下したレベルのNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質を発現するように前記細胞を改変することを含み、前記NFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質の前記比較的低い発現が、前記細胞の前記抗腫瘍免疫応答を改善する、前記方法。
【請求項31】
前記改変細胞における前記NFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質の前記発現レベルが、参照細胞(例えば、比較的低いレベルのNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質を発現するように改変されていない対応する細胞)と比較して、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、または少なくとも約100%低下する、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記改変細胞が、同族抗原で刺激されると、参照細胞(例えば、比較的低いレベルの前記NFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質を発現するように改変されていない対応する細胞)と比較して増大した量のIFN-γを産生する、請求項30または31に記載の方法。
【請求項33】
産生されるIFN-γの前記量が、前記参照細胞と比較して、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、または少なくとも約100%以上増大する、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記改変細胞が、参照細胞(例えば、比較的低いレベルのNrf2タンパク質を発現するように改変されていない対応する細胞)と比較して増大した酸化ストレス耐性を呈する、請求項30~33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
前記酸化ストレス耐性が、前記参照細胞と比較して、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、または少なくとも約100%以上増大する、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記増大した酸化ストレス耐性が、高濃度の活性酸素種の存在下で増殖する、IFN-γを産生する、及び/またはグランザイムBを発現する能力を含む、請求項34または35に記載の方法。
【請求項37】
前記活性酸素種が過酸化水素(H)を含む、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記細胞を改変することが、前記細胞における前記NFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質の前記発現レベルを低下させることができる遺伝子編集ツールと前記細胞を接触させることを含む、請求項30~37のいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
前記遺伝子編集ツールが、shRNA、siRNA、miRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、CRISPR、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALEN、メガヌクレアーゼ、制限エンドヌクレアーゼ、またはそれらの任意の組み合わせを含む、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記遺伝子編集ツールがshRNAである、請求項38または39に記載の方法。
【請求項41】
前記改変細胞が免疫細胞である、請求項30~40のいずれか1項に記載の方法。
【請求項42】
前記免疫細胞が、リンパ球、好中球、単球、マクロファージ、樹状細胞、またはそれらの組み合わせを含む、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記リンパ球が、T細胞、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)、リンホカイン活性化キラー細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、またはそれらの組み合わせを含む、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記リンパ球がT細胞である、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
キメラ抗原受容体の工学操作のための免疫細胞を調製する方法であって、遺伝子編集ツールと前記免疫細胞を接触させて、NFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質の発現レベルを低下させることを含む、前記方法。
【請求項46】
NFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質の前記発現レベルが、参照細胞(例えば、比較的低いレベルのNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質を発現するように改変されていない対応する細胞)と比較して、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、または少なくとも約100%低下する、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記免疫細胞が、リンパ球、好中球、単球、マクロファージ、樹状細胞、またはそれらの任意の組み合わせを含む、請求項45または46に記載の方法。
【請求項48】
前記リンパ球が、T細胞、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)、リンホカイン活性化キラー細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、またはそれらの任意の組み合わせを含む、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
前記リンパ球がT細胞である、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記遺伝子編集ツールが、shRNA、siRNA、miRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、CRISPR、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALEN、メガヌクレアーゼ、制限エンドヌクレアーゼ、またはそれらの任意の組み合わせを含む、請求項45~49のいずれか1項に記載の方法。
【請求項51】
前記遺伝子編集ツールがshRNAである、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記遺伝子編集ツールをコードする核酸が、発現ベクターから発現される、請求項45~51のいずれか1項に記載の方法。
【請求項53】
キメラ抗原受容体(CAR)を発現するように前記免疫細胞を改変することをさらに含む、請求項45~52のいずれか1項に記載の方法。
【請求項54】
前記CARを発現するように前記免疫細胞を改変することが、前記CARをコードする核酸配列と前記免疫細胞を接触させることを含む、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
前記CARをコードする前記核酸配列が、発現ベクターから発現される、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
前記遺伝子編集ツール及び前記CARが、別々の発現ベクターでコードされる、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
前記遺伝子編集ツール及び前記CARが、同じ発現ベクターでコードされる、請求項55に記載の方法。
【請求項58】
Nrf2発現が低減したT細胞を含む、がんを防止または治療するための医薬組成物。
【請求項59】
前記T細胞が、キメラ抗原受容体(CAR)及び/またはT細胞受容体(TCR)、例えば、工学操作されたTCRを含む、請求項58に記載の医薬組成物。
【請求項60】
請求項30~57のいずれか1項に記載の方法によって調製された細胞。
【請求項61】
キメラ抗原受容体(CAR)及び/またはT細胞受容体(TCR)、例えば、工学操作されたTCRをさらに含む、請求項60に記載の細胞。
【請求項62】
T細胞、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)、リンホカイン活性化キラー細胞、NK細胞、またはそれらの任意の組み合わせである、請求項60または61に記載の細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
このPCT出願は、全体として参照により本明細書に組み込まれる2018年12月10日出願の韓国特許出願第10-2018-0158428号に基づく優先権の利益を主張するものである。
【0002】
EFS-WEBを介して電子提出された配列表の参照
本出願と共に提出された、ASCIIテキストファイルで電子提出された配列表(名称:4241_010PC01_Seqlisting_ST25.txt、サイズ:26,683バイト、作成日:2019年12月9日)の内容は、全体として参照により本明細書に組み込まれる。
【0003】
本開示は、Nrf2発現に基づく細胞ベースの(例えば、T細胞)抗がん免疫療法に関する。特に、本明細書に提供される細胞は、低下したレベルのNrf2を発現するように改変されている。
【背景技術】
【0004】
固形腫瘍中の骨髄系由来サプレッサー細胞(MDSC)は、免疫抑制性腫瘍微小環境(TME)を生成し、次いで、反応性酸素種(ROS)及び/または反応性窒素種(RNS)の高産生によってエフェクターT細胞の抗腫瘍応答を阻害することができる。このような環境は、腫瘍細胞が抗がん免疫応答を逃れることを可能にし、腫瘍発生の特徴のうちの1つであるがん細胞の成長及び転移を促進する。このような環境は腫瘍浸潤リンパ球(TIL)の活性に影響を及ぼすことが知られているが、応答因子に関連性のある研究で、T細胞について行われたものはこれまでにない。核因子E2因子関連因子2(Nrf2)は、酸化ストレス(OS)の原因となる典型的な因子のうちの1つである。がん細胞に対するNrf2の役割については盛んに評価され、蓄積されてきたが、TIL、特に細胞傷害性CD8+T細胞の抗腫瘍応答におけるOSの影響及びOSの原因となるNrf2の役割については研究されていない。
【0005】
腫瘍発生におけるNrf2の役割は議論の的になっている。多くの先行研究は、Nrf2が活性化されると癌化が防止され得ることを示唆したが、他の研究は、癌化が体内におけるNrf2の異常または連続的な活性化によって誘導され得ることを示している。実際、Nrf2の過剰発現は、5年生存率の低下をもたらし、抗がん剤への耐性を誘導し得る。現在の問題は、TILにおけるNrf2について研究が行われておらず、関連性のある研究を行う緊急の必要性があることである。特に、細胞傷害性CD8+T細胞におけるNrf2発現の調節を伴う抗がん免疫療法を開発することが必要である。
がん免疫療法における進歩にもかかわらず、特定の悪性腫瘍(例えば、転移性または難治性の固形腫瘍)を有する患者は、依然として予後がきわめて不良である。そのような患者の中で実際にがんの長期寛解を経験するのはほんの一部であり、多くの患者は抗体に応答しないか、または最初は抗体に応答しても最終的には耐性を発現するかのいずれかである。Sharma,P.,et al.,Cell 168(4):707-723(2017)。したがって、がん患者において、許容できる安全性プロファイル及び高い効能を有する新たな治療選択肢が依然として必要とされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Sharma,P.,et al.,Cell 168(4):707-723(2017)
【発明の概要】
【0007】
本開示の発明者らは、細胞傷害性CD8+T細胞における核因子E2因子関連因子2(Nrf2)を調節する機構を同定し、Nrf2発現を阻害し、細胞傷害性機能が免疫抑制性TMEにおいて持続するT細胞を開発した。さらに、Nrf2欠損ヒトCAR-T細胞は、抗腫瘍サイトカイン、IFNg、及びグランザイムBの産生において、従来のT細胞よりも優れている。
【0008】
本開示の目的は、がんを防止及び治療するための医薬成分を提供することである。いくつかの態様において、本開示は、Nrf2発現が低減または阻害されたT細胞を提供する。
【0009】
上述の問題は、本開示により、すなわち、T細胞におけるNrf2発現の低減または阻害などを伴う、癌化の防止及び治療のための医薬成分を提供することにより、解決することができる。
【0010】
本開示は、細胞(例えば、T細胞)におけるNrf2発現の標的化に基づく抗がん免疫療法に関する。がん細胞は、免疫系による監視を逃れることができ、その主な機構のうちの1つは、T細胞を消耗状態にすることである。本開示は、T細胞におけるNrf2発現に深く干渉すること(すなわち、細胞におけるNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質の発現を低減させること)により、がん細胞の示すT細胞消耗の問題を解決することを可能にする。言い換えると、本開示によれば、固形腫瘍に対する抗がん免疫療法の効果は、細胞におけるNrf2発現を標的とすること(例えば、NFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質の発現を低減または阻害すること)によって改善し得、これが本開示の最大の特徴である。本開示は、細胞におけるNrf2発現の調節に基づく新たなT細胞抗がん免疫療法、及び第2世代抗がん免疫療法のためのT細胞を提供し得る。この技術は、CAR-T細胞、工学操作されたT細胞、及びTIL T細胞の調製、ならびに白血病を含む様々な固形腫瘍の治療に適用可能である。これは治療効能を効果的に改善する新たな抗がん療法であるといえる。
【0011】
本明細書では、低下したレベルのNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質を発現する改変細胞を対象に投与することを含む、それを必要とする対象の腫瘍を治療する方法が提供される。いくつかの態様において、NFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質の発現レベルは、参照細胞(例えば、比較的低いレベルのNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質を発現するように改変されていない対応する細胞)と比較して、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、または少なくとも約100%低下する。
【0012】
いくつかの態様において、本明細書に開示される改変細胞(すなわち、低下したレベルのNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質を発現するもの)の投与は、対象における腫瘍体積を、参照腫瘍体積(例えば、投与前の対象における腫瘍体積、及び/または投与を受けなかった対象における腫瘍体積)と比較して低減させる。特定の態様において、腫瘍体積は、投与後に、参照腫瘍体積と比較して、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、または少なくとも約100%低減する。
【0013】
いくつかの態様において、本明細書に開示される改変細胞(すなわち、低下したレベルのNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質を発現するもの)の投与は、対象における腫瘍重量を、参照腫瘍重量(例えば、投与前の対象における腫瘍重量、及び/または投与を受けなかった対象における腫瘍重量)と比較して低減させる。特定の態様において、腫瘍重量は、投与後に、参照腫瘍重量と比較して、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、または少なくとも約100%低減する。
【0014】
いくつかの態様において、本明細書に開示される改変細胞(すなわち、低下したレベルのNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質を発現するもの)の投与は、対象における腫瘍浸潤リンパ球(TIL)の1以上の特性を改善する。特定の態様において、TILは、同族抗原で刺激されると、参照TIL(例えば、投与を受けなかった対象のTIL)と比較して増大した量のIFN-γを産生する。いくつかの態様において、産生されるIFN-γの量は、参照TILと比較して、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、または少なくとも約100%以上増大する。いくつかの態様において、TILはCD8+TILである。いくつかの態様において、TILはCD4+TILである。
【0015】
いくつかの態様において、改変細胞(すなわち、低下したレベルのNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質を発現するもの)は、参照細胞(例えば、比較的低いレベルのNrf2タンパク質を発現するように改変されていない対応する細胞)と比較して増大した酸化ストレス耐性を呈する。特定の態様において、酸化ストレス耐性は、参照細胞と比較して、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、または少なくとも約100%以上増大する。いくつかの態様において、増大した酸化ストレス耐性は、高濃度の活性酸素種の存在下で増殖する、IFN-γを産生する、及び/またはグランザイムBを発現する能力を含む。いくつかの態様において、活性酸素種は過酸化水素(H)を含む。
【0016】
いくつかの態様において、本明細書に開示される方法で投与され得る改変細胞は、免疫細胞である。特定の態様において、免疫細胞は、リンパ球、好中球、単球、マクロファージ、樹状細胞、またはそれらの組み合わせを含む。いくつかの態様において、リンパ球は、T細胞、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)、リンホカイン活性化キラー細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、またはそれらの組み合わせを含む。特定の態様において、リンパ球はT細胞である。さらなる態様では、T細胞は、キメラ抗原受容体(CAR)及び/またはT細胞受容体(TCR)、例えば、工学操作されたTCRを含む。
【0017】
いくつかの態様において、本明細書に開示される方法で治療することのできる腫瘍は、乳癌、頭頸部癌、子宮癌、脳癌、皮膚癌、腎癌、肺癌、大腸癌、前立腺癌、肝臓癌、膀胱癌、腎臓癌、膵臓癌、甲状腺癌、食道癌、眼癌、胃の癌(胃癌)、胃腸癌、卵巣癌、癌腫、肉腫、白血病、リンパ腫、骨髄腫、またはそれらの組み合わせを含むがんに由来する。特定の態様において、がんは、大腸癌、皮膚癌、リンパ腫、肺癌、またはそれらの組み合わせである。
【0018】
いくつかの態様において、本明細書に開示される腫瘍を治療する方法は、追加の治療剤を対象に投与することを含む。特定の態様において、追加の治療剤は、化学療法薬、標的化抗がん療法、腫瘍溶解薬、細胞傷害性薬剤、免疫ベースの療法、サイトカイン、外科手技、放射線手技、共刺激分子の活性化因子、免疫チェックポイント阻害剤、ワクチン、細胞免疫療法、またはそれらの任意の組み合わせを含む。
【0019】
いくつかの態様において、追加の治療剤は、免疫チェックポイント阻害剤である。特定の態様において、免疫チェックポイント阻害剤は、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、抗LAG-3抗体、抗CTLA-4抗体、抗GITR抗体、抗TIM3抗体、またはそれらの任意の組み合わせを含む。
【0020】
いくつかの態様において、追加の治療剤及び改変細胞は同時に投与される。他の態様において、追加の治療剤及び改変細胞は順次投与される。
【0021】
いくつかの態様において、本明細書に開示される方法で腫瘍を治療するために使用することのできる改変細胞(すなわち、低下したレベルのNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質を発現するもの)は、補足的投与、筋肉内投与、皮下投与、点眼、静脈内投与、腹腔内投与、皮内投与、眼窩内投与、脳内投与、頭蓋内投与、脊髄内投与、心室内投与、髄腔内投与、大槽内投与、嚢内投与、腫瘍内投与、またはそれらの任意の組み合わせで投与される。
【0022】
本開示は、キメラ抗原受容体(CAR)発現細胞の抗腫瘍免疫応答を改善する方法であって、低下したレベルのNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質を発現するように細胞を改変することを含み、NFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質の比較的低い発現が、細胞の抗腫瘍免疫応答を改善する、方法をさらに提供する。いくつかの態様において、改変細胞におけるNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質の発現レベルは、参照細胞(例えば、比較的低いレベルのNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質を発現するように改変されていない対応する細胞)と比較して、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、または少なくとも約100%低下する。
【0023】
いくつかの態様において、改変細胞は、同族抗原で刺激されると、参照細胞(例えば、比較的低いレベルのNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質を発現するように改変されていない対応する細胞)と比較して増大した量のIFN-γを産生する。特定の態様において、産生されるIFN-γの量は、参照細胞と比較して、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、または少なくとも約100%以上増大する。
【0024】
いくつかの態様において、改変細胞は、参照細胞(例えば、比較的低いレベルのNrf2タンパク質を発現するように改変されていない対応する細胞)と比較して増大した酸化ストレス耐性を呈する。特定の態様において、酸化ストレス耐性は、参照細胞と比較して、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、または少なくとも約100%以上増大する。いくつかの態様において、増大した酸化ストレス耐性は、高濃度の活性酸素種の存在下で増殖する、IFN-γを産生する、及び/またはグランザイムBを発現する能力を含む。特定の態様において、活性酸素種は過酸化水素(H)を含む。
【0025】
いくつかの態様において、本明細書に開示される方法における細胞を改変することは、細胞におけるNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質の発現レベルを低下させることができる遺伝子編集ツールと細胞を接触させることを含む。特定の態様において、遺伝子編集ツールは、shRNA、siRNA、miRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、CRISPR、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALEN、メガヌクレアーゼ、制限エンドヌクレアーゼ、またはそれらの任意の組み合わせを含む。いくつかの態様において、遺伝子編集ツールはshRNAである。
【0026】
いくつかの態様において、改変細胞(すなわち、低下したレベルのNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質を発現するもの)は、免疫細胞である。特定の態様において、免疫細胞は、リンパ球、好中球、単球、マクロファージ、樹状細胞、またはそれらの組み合わせを含む。いくつかの態様において、リンパ球は、T細胞、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)、リンホカイン活性化キラー細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、またはそれらの組み合わせを含む。特定の態様において、リンパ球はT細胞である。
【0027】
また本明細書では、キメラ抗原受容体の工学操作のための免疫細胞を調製する方法であって、遺伝子編集ツールと免疫細胞を接触させて、NFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質の発現レベルを低下させることを含む、方法が提供される。いくつかの態様において、NFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質の発現レベルは、参照細胞(例えば、比較的低いレベルのNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質を発現するように改変されていない対応する細胞)と比較して、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、または少なくとも約100%低下する。
【0028】
いくつかの態様において、免疫細胞は、リンパ球、好中球、単球、マクロファージ、樹状細胞、またはそれらの任意の組み合わせを含む。特定の態様において、リンパ球は、T細胞、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)、リンホカイン活性化キラー細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、またはそれらの任意の組み合わせを含む。いくつかの態様において、リンパ球はT細胞である。
【0029】
いくつかの態様において、キメラ抗原受容体の工学操作のための免疫細胞を調製する方法で使用することのできる遺伝子編集ツールは、shRNA、siRNA、miRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、CRISPR、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALEN、メガヌクレアーゼ、制限エンドヌクレアーゼ、またはそれらの任意の組み合わせを含む。特定の態様において、遺伝子編集ツールはshRNAである。
【0030】
いくつかの態様において、本明細書に開示されるキメラ抗原受容体の工学操作のための免疫細胞を調製する方法は、キメラ抗原受容体(CAR)を発現するように免疫細胞を改変することをさらに含む。特定の態様において、CARを発現するように免疫細胞を改変することは、CARをコードする核酸配列と免疫細胞を接触させることを含む。
【0031】
いくつかの態様において、遺伝子編集ツールをコードする核酸は、発現ベクターから発現される。特定の態様において、CARをコードする核酸配列は、発現ベクターから発現される。いくつかの態様において、遺伝子編集ツール及びCARは、別々の発現ベクターでコードされる。他の態様において、遺伝子編集ツール及びCARは、同じ発現ベクターでコードされる。
【0032】
本明細書では、Nrf2発現が低減したT細胞を含む、がんを防止または治療するための医薬組成物が提供される。いくつかの態様において、T細胞は、キメラ抗原受容体(CAR)及び/またはT細胞受容体(TCR)、例えば、工学操作されたTCRを含む。
【0033】
また本明細書では、本明細書に開示される方法によって調製された細胞が提供される。特定の態様において、細胞は、キメラ抗原受容体(CAR)及び/またはT細胞受容体(TCR)、例えば、工学操作されたTCRを含む。いくつかの態様において、細胞は、T細胞、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)、リンホカイン活性化キラー細胞、NK細胞、またはそれらの任意の組み合わせである。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】細胞傷害性CD8+T細胞における、酸化ストレスの増大(H濃度の上昇によって表される)に伴うNrf2 mRNA発現の変化を示す。
図2】担腫瘍マウス及び無腫瘍マウスの組織から単離された様々な細胞集団におけるNrf2 mRNA発現を示す。図示の各細胞は(左から右に)、(i)腫瘍浸潤T細胞(担腫瘍マウス由来)、(ii)腫瘍浸潤B細胞(担腫瘍マウス由来)、(iii)非T及び非B TIL(DN)(担腫瘍マウス由来)、(iv)流入領域リンパ節のT細胞(「dLN」)(担腫瘍マウス由来)、(v)非流入領域リンパ節のT細胞(担腫瘍マウス由来)、(vi)非流入領域リンパ節のT細胞(無腫瘍マウス由来)を含む。
図3】Nrf2欠損マウス及び野生型(WT)マウスにおける黒色腫の成長速度を示す。具体的には、Nrf2-/-マウス及び野生型マウス(すなわち、正常レベルのNrf2を発現するもの)における腫瘍(すなわち、黒色腫)播種後の様々な時点での腫瘍成長の比較を提示する。
図4】Nrf2発現と共に変化した黒色腫増殖(すなわち、成長)の画像を示す。具体的には、野生型マウス(左)及びNrf2-/-マウス(右)から単離された黒色腫腫瘍の画像を提示する。
図5】Nrf2発現と共に変化したリンパ腫増殖を示す。具体的には、Nrf2-/-マウス及び野生型マウス(すなわち、正常レベルのNrf2を発現するもの)における腫瘍(すなわち、リンパ腫)播種後の様々な時点での腫瘍体積の比較を提示する。
図6】Nrf2発現と共に変化したリンパ腫増殖(すなわち、成長)の画像を示す。具体的には、野生型マウス(左)及びNrf2-/-マウス(右)から単離されたリンパ腫腫瘍の画像を提示する。
図7】Nrf2発現と共に変化した野生型マウス及びNrf2-/-マウスの肺におけるがん細胞転移の画像を示す。左側の画像は、代表的な野生型動物(上)及びNrf2-/-動物(下)から単離された肺組織の写真表示である。右側の画像は、野生型動物(上)及びNrf2-/-動物(下)の肺組織の免疫組織化学画像である。画像中、腫瘍は矢印で識別している。
図8】A及びBは、Nrf2発現と共に変化したT細胞媒介性抗腫瘍免疫応答を示す。具体的には、A及びBは、Nrf2-/-動物で観察された抗腫瘍免疫応答の改善がT細胞媒介性であることを示す。次の群について、腫瘍成長(A)及び腫瘍重量(B)の比較を提示している:(i)対照IgG抗体を与えた担腫瘍野生型動物(「WT+IgG」または「白抜きの円形」)、(ii)T細胞枯渇抗CD3抗体を投与した担腫瘍野生型動物(「WT+α-CD3」または「網掛けの円形」)、(iii)対照IgG抗体を与えた担腫瘍Nrf2-/-動物(「Nrf2-/-+IgG」または「白抜きの四角形」)、及び(iv)T細胞枯渇抗CD3抗体を投与した担腫瘍Nrf2-/-動物(「Nrf2-/-+α-CD3」または「黒塗りの四角形」)。
図9】A及びBは、Nrf2-/-動物で観察された抗腫瘍免疫応答の改善がB細胞に依存しないことを提示する。次の群について、腫瘍成長(A)及び腫瘍重量(B)の比較を提示している:(i)対照IgG抗体を与えた担腫瘍野生型動物(「WT+IgG」または「白抜きの円形」)、(ii)B細胞枯渇抗B220抗体を投与した担腫瘍野生型動物(「WT+α-B220」または「網掛けの円形」)、(iii)対照IgG抗体を与えた担腫瘍Nrf2-/-動物(「Nrf2-/-+IgG」または「白抜きの四角形」)、及び(iv)B細胞枯渇抗B220抗体を投与した担腫瘍Nrf2-/-動物(「Nrf2-/-+α-B220」または「黒塗りの四角形」)。
図10】Nrf2発現と共に変化したT細胞活性を示す。具体的には、担腫瘍野生型動物(上)及びNrf2-/-動物(下)から単離された流入領域リンパ節T細胞(「流入領域LNT」)及びTILによるIL-17(y軸)及びIFN-γ(x軸)の産生の比較を提示する。T細胞の2つの異なる分類を、それらのCD4及びCD8発現に基づいてさらに分割している。
図11】養子移入モデルにおけるNrf2欠失毒性CD8+T細胞の抗がん効能を示す。具体的には、野生型マウス、Nrf2+/-マウス、またはNrf2-/-マウスからOVA特異的CD8+T細胞を単離し、EG7-OVA腫瘍細胞を播種した野生型動物に養子移入した。各処置群は次のとおりである:(1)WTマウスにWT細胞、(2)WTマウスにNrf2+/-細胞、及び(3)WTマウスにNrf2-/-細胞。腫瘍播種後の様々な時点における各動物の腫瘍体積の比較を提示する。
図12】本開示、すなわち、細胞傷害性CD8+T細胞におけるNrf2発現の調節を伴う腫瘍免疫療法の流れの概略図である。
図13】A及びBは、MC38(大腸)腫瘍細胞を播種した野生型マウス(白抜きの円形)、Nrf2-/-マウス(黒塗りの四角形)、及びNrf2トランスジェニックマウス(黒塗りの三角形)における抗腫瘍免疫応答の比較を提示する。Aは、腫瘍播種後の様々な時点における各処置群の腫瘍体積を示す。Bは、腫瘍播種後28日目の腫瘍体積の比較を提示する。
図14A】野生型動物(左の縦列、「WT」)、Nrf2トランスジェニック動物(中央の縦列、「Nrf2Tg」)、及びNrf2-/-動物(右の縦列、「Nrf2KO」)から単離されたT細胞が、過酸化水素(H2O2)の存在によってもたらされる酸化ストレス(OS)に抵抗する機能を示す。図14Aにおいて、OS耐性は、H2O2の存在下または非存在下でTCR刺激を受けた際に各動物のT細胞が産生したIFN-γの量によって測定されている。図14Bは、図14Aに提示したフローサイトメトリーデータのグラフ表示である。図14Cにおいて、OS耐性は、グランザイムBの発現によって測定されている。図14Dは、図14Cに提示したフローサイトメトリーデータのグラフ表示である。図14Aと14Cの両方において、(i)最上部の横列に示した細胞は、TCR刺激もH2O2曝露も行わず、(ii)中央の横列に示した細胞は、TCR刺激は行ったがH2O2には曝露せず、(iii)最下部の横列に示した細胞は、TCR刺激とH2O2曝露の両方を行った。フロープロットの各々において、左側の枠内の領域は、活性化された(すなわち、TCR刺激を受けた際に増殖した)T細胞を表し、右側の枠内の領域は、TCR刺激を受けた際に増殖しなかったT細胞を表す。増殖はCFSEプロファイルに基づいて示している。
図14B】野生型動物(左の縦列、「WT」)、Nrf2トランスジェニック動物(中央の縦列、「Nrf2Tg」)、及びNrf2-/-動物(右の縦列、「Nrf2KO」)から単離されたT細胞が、過酸化水素(H2O2)の存在によってもたらされる酸化ストレス(OS)に抵抗する機能を示す。図14Aにおいて、OS耐性は、H2O2の存在下または非存在下でTCR刺激を受けた際に各動物のT細胞が産生したIFN-γの量によって測定されている。図14Bは、図14Aに提示したフローサイトメトリーデータのグラフ表示である。図14Cにおいて、OS耐性は、グランザイムBの発現によって測定されている。図14Dは、図14Cに提示したフローサイトメトリーデータのグラフ表示である。図14Aと14Cの両方において、(i)最上部の横列に示した細胞は、TCR刺激もH2O2曝露も行わず、(ii)中央の横列に示した細胞は、TCR刺激は行ったがH2O2には曝露せず、(iii)最下部の横列に示した細胞は、TCR刺激とH2O2曝露の両方を行った。フロープロットの各々において、左側の枠内の領域は、活性化された(すなわち、TCR刺激を受けた際に増殖した)T細胞を表し、右側の枠内の領域は、TCR刺激を受けた際に増殖しなかったT細胞を表す。増殖はCFSEプロファイルに基づいて示している。
図14C】野生型動物(左の縦列、「WT」)、Nrf2トランスジェニック動物(中央の縦列、「Nrf2Tg」)、及びNrf2-/-動物(右の縦列、「Nrf2KO」)から単離されたT細胞が、過酸化水素(H2O2)の存在によってもたらされる酸化ストレス(OS)に抵抗する機能を示す。図14Aにおいて、OS耐性は、H2O2の存在下または非存在下でTCR刺激を受けた際に各動物のT細胞が産生したIFN-γの量によって測定されている。図14Bは、図14Aに提示したフローサイトメトリーデータのグラフ表示である。図14Cにおいて、OS耐性は、グランザイムBの発現によって測定されている。図14Dは、図14Cに提示したフローサイトメトリーデータのグラフ表示である。図14Aと14Cの両方において、(i)最上部の横列に示した細胞は、TCR刺激もH2O2曝露も行わず、(ii)中央の横列に示した細胞は、TCR刺激は行ったがH2O2には曝露せず、(iii)最下部の横列に示した細胞は、TCR刺激とH2O2曝露の両方を行った。フロープロットの各々において、左側の枠内の領域は、活性化された(すなわち、TCR刺激を受けた際に増殖した)T細胞を表し、右側の枠内の領域は、TCR刺激を受けた際に増殖しなかったT細胞を表す。増殖はCFSEプロファイルに基づいて示している。
図14D】野生型動物(左の縦列、「WT」)、Nrf2トランスジェニック動物(中央の縦列、「Nrf2Tg」)、及びNrf2-/-動物(右の縦列、「Nrf2KO」)から単離されたT細胞が、過酸化水素(H2O2)の存在によってもたらされる酸化ストレス(OS)に抵抗する機能を示す。図14Aにおいて、OS耐性は、H2O2の存在下または非存在下でTCR刺激を受けた際に各動物のT細胞が産生したIFN-γの量によって測定されている。図14Bは、図14Aに提示したフローサイトメトリーデータのグラフ表示である。図14Cにおいて、OS耐性は、グランザイムBの発現によって測定されている。図14Dは、図14Cに提示したフローサイトメトリーデータのグラフ表示である。図14Aと14Cの両方において、(i)最上部の横列に示した細胞は、TCR刺激もH2O2曝露も行わず、(ii)中央の横列に示した細胞は、TCR刺激は行ったがH2O2には曝露せず、(iii)最下部の横列に示した細胞は、TCR刺激とH2O2曝露の両方を行った。フロープロットの各々において、左側の枠内の領域は、活性化された(すなわち、TCR刺激を受けた際に増殖した)T細胞を表し、右側の枠内の領域は、TCR刺激を受けた際に増殖しなかったT細胞を表す。増殖はCFSEプロファイルに基づいて示している。
図15A】Nrf2発現が欠如しているCD19特異的CAR T細胞の生成を示す。CD19 CAR構築物の概略図である。
図15B】Nrf2発現が欠如しているCD19特異的CAR T細胞の生成を示す。Nrf2 mRNAに特異的なshRNAを使用した形質導入CD19 CAR T細胞におけるNrf2 mRNA発現のノックダウンを示す。
図15C】Nrf2発現が欠如しているCD19特異的CAR T細胞の生成を示す。H2O2の存在下で抗CD3刺激後に産生されたIFN-γの量によって測定された、OSに抵抗するCD19特異的Nrf2欠損CAR T細胞の活性を示す。上部に示したデータは、対照CAR T細胞(すなわち、正常レベルのNrf2を発現するもの)に関するものである。
図16】A、B、及びCは、CRISPR/Cas9システムを使用したヒトT細胞におけるNrf2タンパク質発現の結果を示す。A、B、及びCは、Nrf2遺伝子を標的とする3つの異なるガイドRNA(gRNA)とCas9タンパク質を使用した結果を提示する。T7E1解析を使用して、Nrf2遺伝子におけるオンターゲットCRISPR/Cas9編集事象を検出した。示してある割合は、Cas9/gRNA複合体による改変後のNrf2遺伝子における個々のgRNAのインデル変異率を表す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
がん細胞は、免疫系による監視を逃れることができ、その主な機構のうちの1つは、T細胞を消耗状態にすることである。本開示は、T細胞におけるNrf2発現に深く干渉することにより、TILに対してTMEによって誘導される免疫消耗の問題を解決する。言い換えると、Nrf2を標的とすることにより、抗がん免疫療法の効果が改善し得、これが本開示の最大の特徴である。したがって、本開示は、NFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質の発現が低減している改変細胞を投与することを含む、それを必要とする対象の腫瘍を治療する方法に関する。いくつかの態様において、本開示は、CARまたはTCR工学操作細胞の抗腫瘍効能を改善する方法に関する。いくつかの態様において、本開示は、腫瘍に対する免疫細胞の免疫寛容を防止または阻害する方法に関する。
【0036】
I.定義
本開示をより容易に理解することができるように、特定の用語をまず定義する。本出願で使用するとき、本明細書に別段に明記されない限り、次の用語の各々は、下記に示す意味を有するものとする。さらなる定義は本明細書の随所に示される。
【0037】
本開示の随所において、実体に付く「a」または「an」という用語は、1以上のその実体を意味する。例えば、「抗体(an antibody)」は、1以上の抗体を表すものと理解される。したがって、「a」(または「an」)、「1以上」、及び「少なくとも1つ」という用語は、本明細書では同義に使用され得る。
【0038】
さらに、「及び/または」は、本明細書で使用する場合、2つの特定の特徴または構成要素の各々の具体的な開示として解釈され、他方の有無を問わないものとする。したがって、本明細書で「A及び/またはB」などの語句で使用される「及び/または」という用語は、「A及びB」、「AまたはB」、「A」(単独)、及び「B」(単独)を含むことが意図される。同様に、「A、B、及び/またはC」などの語句で使用される「及び/または」という用語は、次の態様:A、B、及びC;A、B、またはC;AまたはC;AまたはB;BまたはC;A及びC;A及びB;B及びC;A(単独);B(単独);ならびにC(単独)の各々を包含することが意図される。
【0039】
本明細書において「含む(comprising)」という言葉で態様が説明されている場合は常に、「からなる(consisting of)」及び/または「から本質的になる(consisting essentially of)」という用語で説明されている他の類似の態様も提供されることを理解されたい。
【0040】
別途定義されない限り、本明細書において使用されるすべての技術用語及び科学用語は、本開示の関連する技術分野における当業者によって一般に理解されるものと同一の意味を有する。例えば、the Concise Dictionary of Biomedicine and Molecular Biology,Juo,Pei-Show,2nd ed.,2002,CRC Press、The Dictionary of Cell and Molecular Biology,3rd ed.,1999,Academic Press、及びthe Oxford Dictionary of Biochemistry and Molecular Biology,Revised,2000,Oxford University Pressは、本開示で使用される用語の多くの一般的な辞書を当業者に提供する。
【0041】
単位、接頭辞、及び記号は、国際単位系(SI)で認められている各形式で示される。数値範囲は、その範囲を定義する数を含む。特記なき限り、アミノ酸配列はアミノからカルボキシの方向で左から右に書かれている。本明細書において提供する見出しは、本明細書全体を参照することにより得ることができる本開示の様々な態様を限定するものではない。したがって、直下で定義する用語は、本明細書全体を参照することによって、より十分に定義される。
【0042】
「約」という用語は、本明細書では、およそ、大体、おおよそ、またはその範囲内の意味で使用される。「約」という用語が数値範囲と共に使用されるとき、それは、示された数値の上下に境界を広げることによってその範囲を修飾する。一般に、「約」という用語は、ある数値を、例えば10パーセント上または下の(より高いかまたはより低い)差異で、記載された値を上回るかまたは下回るように修飾することができる。
【0043】
本明細書で使用する場合、「投与すること」とは、当業者に知られている様々な方法及び送達系のいずれかを使用して、治療剤または治療剤を含む組成物を対象に物理的に導入することを意味する。本明細書に記載される治療剤の様々な投与経路には、例えば注射または注入による、静脈内投与経路、腹腔内投与経路、筋肉内投与経路、皮下投与経路、脊髄投与経路、または他の非経口投与経路が含まれる。「非経口投与」という語句は、本明細書で使用する場合、経腸投与及び局部投与以外の、通常は注射による投与様式を意味し、限定するものではないが、静脈内、腹腔内、筋肉内、動脈内、髄腔内、リンパ内、病巣内、嚢内、眼窩内、心臓内、皮内、経気管、気管内、肺内、皮下、表皮下、関節内、被膜下、くも膜下、心室内、硝子体内、硬膜外、及び胸骨内の注射及び注入、ならびにin vivoエレクトロポレーションを含む。あるいは、本明細書に記載される治療剤は、局部投与経路、表皮投与経路、または粘膜投与経路などの非経口的でない経路によって、例えば、鼻腔内投与、経口投与、膣内投与、直腸投与、舌下投与、または局部投与することができる。また、投与は、例えば1回、複数回、及び/または1以上の長い期間にわたって行うことができる。
【0044】
本明細書で使用する場合、「抗原」という用語は、タンパク質、ペプチド、またはハプテンなどの任意の天然または合成の免疫原性物質を意味する。本明細書で使用する場合、「同族抗原」という用語は、免疫細胞(例えば、T細胞)が認識することにより、免疫細胞の活性化を誘導する(例えば、サイトカイン産生などのエフェクター機能を誘導する、及び/または細胞の増殖のための細胞内シグナルを誘発する)、抗原を意味する。
【0045】
「ポリペプチド」は、少なくとも2つの連続的に連結したアミノ酸残基を含む鎖を意味し、鎖の長さに上限はない。タンパク質中の1以上のアミノ酸残基は、限定するものではないが、グリコシル化、リン酸化、またはジスルフィド結合形成などの修飾を含み得る。「タンパク質」は、1以上のポリペプチドを含み得る。特記なき限り、「タンパク質」及び「ポリペプチド」という用語は同義に使用され得る。
【0046】
「核酸分子」という用語は、本明細書で使用する場合、DNA分子及びRNA分子を含むことが意図される。核酸分子は、一本鎖であっても二本鎖であってもよく、cDNAであってもよい。
【0047】
本明細書で使用する「ベクター」という用語は、連結している別の核酸を輸送することが可能な核酸分子を意味することが意図される。ベクターの一種には「プラスミド」があり、これは、追加のDNAセグメントがライゲートされ得る環状二本鎖DNAループを意味する。別の種類のベクターはウイルスベクターであり、ウイルスベクターの場合、追加のDNAセグメントがウイルスゲノムにライゲートされ得る。特定のベクターは、導入された宿主細胞において自律複製を行うことができる(例えば、細菌の複製起点を有する細菌ベクター及びエピソーム哺乳動物ベクター)。他のベクター(例えば、非エピソーム哺乳動物ベクター)は、宿主細胞に導入されると宿主細胞のゲノムに組み込まれることができ、それによって宿主ゲノムと共に複製される。さらに、特定のベクターは、動作可能に連結した遺伝子の発現を指示することができる。かかるベクターは、本明細書では「組換え発現ベクター」(または単に「発現ベクター」)と称される。一般に、組換えDNA技術において有用な発現ベクターは、多くの場合、プラスミドの形態である。プラスミドは最も一般的に使用される形態のベクターであるため、本明細書において「プラスミド」及び「ベクター」は同義に使用され得る。しかしながら、均等な機能を果たすウイルスベクター(例えば、複製欠損レトロウイルス、アデノウイルス、及びアデノ随伴ウイルス)のような他の形態の発現ベクターも含まれる。
【0048】
「がん」とは、体内の異常細胞の成長がコントロールされないことを特徴とする様々な疾患の広範な群を意味する。細胞の分裂及び成長が制御されないことによって悪性腫瘍が形成され、隣接組織に浸潤し、リンパ系または血流を通って身体の遠位部に転移する場合もある。本明細書で使用する「がん」は、原発性癌、転移癌、及び再発癌を意味する。
【0049】
本明細書で使用する場合、「免疫応答」という用語は、外来作用物質に対する脊椎動物における生物学的応答であり、これらの作用物質及びそれらに起因する疾患から生物を保護する応答を意味する。免疫応答は、免疫系細胞(例えば、Tリンパ球、Bリンパ球、ナチュラルキラー(NK)細胞、マクロファージ、好酸球、マスト細胞、樹状細胞または好中球)、及びこれらの細胞のいずれかまたは肝臓で産生される可溶性高分子(抗体、サイトカイン、及び補体を含む)の作用によって媒介され、脊椎動物の身体において、侵入病原体、病原体に感染した細胞もしくは組織、がん細胞もしくは他の異常細胞、または、自己免疫もしくは病的炎症の場合は、正常なヒトの細胞もしくは組織の選択的標的化、結合、損傷、破壊、及び/または排除をもたらすものである。免疫反応には、例えば、T細胞、例えば、CD4もしくはCD8T細胞などのエフェクターT細胞もしくはTh細胞の活性化もしくは阻害、またはTreg細胞の阻害が含まれる。本明細書で使用する場合、「T細胞」及び「Tリンパ球」という用語は同義であり、胸腺によって産生または処理されるあらゆるリンパ球を意味する。いくつかの態様において、T細胞はCD4+T細胞である。いくつかの態様において、T細胞はCD8+T細胞である。いくつかの態様において、T細胞はNKT細胞である。
【0050】
本明細書で使用する場合、「抗腫瘍免疫応答」という用語は、腫瘍抗原に対する免疫応答を意味する。
【0051】
本明細書で使用する場合、「腫瘍浸潤リンパ球」または「TIL」という用語は、末梢から(例えば、血液から)腫瘍中に遊走したリンパ球(例えば、エフェクターT細胞)を意味する。いくつかの態様において、腫瘍浸潤リンパ球はCD4+TILである。他の態様において、腫瘍浸潤リンパ球はCD8+TILである。
【0052】
免疫応答または免疫系を刺激する能力の増大は、T細胞共刺激受容体のアゴニスト活性の向上及び/または抑制性受容体のアンタゴニスト活性の向上に起因し得る。免疫応答または免疫系を刺激する能力の増大は、免疫応答を測定するアッセイ、例えば、サイトカインまたはケモカインの放出、細胞溶解活性(標的細胞で直接的に、またはCD107aもしくはグランザイムを検出することによって間接的に決定される)、及び増殖の変化を測定するアッセイにおける、EC50または最大活性レベルの増大倍率に反映され得る。免疫応答または免疫系の活性を刺激する能力は、少なくとも10%、30%、50%、75%、2倍、3倍、5倍、またはそれ以上向上し得る。
【0053】
「対象」には、あらゆるヒトまたは非ヒト動物が含まれる。「非ヒト動物」という用語は、限定するものではないが、非ヒト霊長類、ヒツジ、イヌ、ならびにマウス、ラット、及びモルモットなどのげっ歯類といった脊椎動物を含む。いくつかの態様において、対象はヒトである。「対象」及び「患者」という用語は、本明細書では同義に使用される。
【0054】
「治療有効量」または「治療上有効な投与量」という用語は、所望の生物学的結果、治療結果、及び/または予防結果をもたらす薬剤の量を意味する。その結果は、疾患の徴候、症状、もしくは原因のうちの1以上の低減、回復、緩和、減弱、遅延、及び/または軽減、または生物学的システムの任意の他の所望の変化であり得る。固形腫瘍に関して、有効量は、腫瘍を縮小させる及び/または腫瘍の成長速度を減少させる(例えば、腫瘍成長を抑制する)、または他の望ましくない細胞増殖を防止もしくは遅延させるのに十分な量を含む。いくつかの態様において、有効量は、腫瘍の発達を遅延させるのに十分な量である。いくつかの態様において、有効量は、腫瘍の再発を防止または遅延させるのに十分な量である。有効量は、1回以上の投与で投与することができる。有効量の薬物または組成物は、(i)がん細胞の数を低減させ、(ii)腫瘍サイズを縮小し、(iii)末梢器官へのがん細胞の浸潤を阻害し、遅らせ、ある程度緩徐化し、停止する場合もあり、(iv)腫瘍転移を阻害し(すなわち、ある程度緩徐化し、停止する場合もあり、(v)腫瘍成長を阻害し、(vi)腫瘍の発生及び/または再発を防止もしくは遅延させ、及び/または(vii)がんに関連する症状のうちの1以上をある程度軽減することができる。いくつかの態様において、「治療有効量」は、進行固形腫瘍などのがんの著しい減少またはがんの進行の緩徐化(退行)をもたらすことが臨床的に証明されている、本明細書における改変細胞の量である。疾患退行を促進する治療剤の能力は、熟練した医師に知られている様々な方法を使用して、例えば、臨床試験中のヒト対象で、ヒトにおける効能を予測する動物モデル系で、またはin vitroアッセイで薬剤の活性をアッセイすることで評価することができる。
【0055】
本明細書で使用する場合、「標準治療」という用語は、特定の種類の疾患に適切な治療として医療専門家に認められており、医療従事者によって広く使用されている治療を意味する。この用語は、次の用語:「ベストプラクティス」、「標準的医療」、及び「標準療法」のいずれとも同義に使用され得る。
【0056】
例として、「抗がん剤」は、対象のがんの退行を促進するか、またはさらなる腫瘍成長を防止する。特定の態様において、治療有効量の薬物は、がんを消失させるまでに、がんの退行を促進する。「がんの退行を促進する」とは、有効量の薬物を単独で、または抗新生物剤と組み合わせて投与することにより、腫瘍の成長またはサイズの低減、腫瘍の壊死、少なくとも1つの疾患症状の重症度の低下、疾患の無症状期間の頻度増大及び期間延長、または疾患の罹患による機能障害もしくは能力障害の防止をもたらすことを意味する。さらに、治療に関する「有効」及び「有効性」という用語は、薬理学的有効性と生理学的安全性の両方を含む。薬理学的有効性とは、患者のがんの退行を促進する薬物の能力を意味する。生理学的安全性とは、薬物の投与に起因する、細胞、器官、及び/または生物のレベルでの毒性または他の有害な生理学的効果(有害作用)のレベルを意味する。
【0057】
本明細書で使用する場合、「免疫チェックポイント阻害剤」という用語は、1以上のチェックポイントタンパク質を完全にまたは部分的に低減させる、阻害する、干渉する、または調節する分子を意味する。チェックポイントタンパク質は、T細胞の活性化または機能を制御する。CTLA-4ならびにそのリガンドのCD80及びCD86、ならびにPD-1とそのリガンドのPD-L1及びPD-L2など、多数のチェックポイントタンパク質が公知である。Pardoll,D.M.,Nat Rev Cancer 12(4):252-64(2012)。これらのタンパク質は、T細胞応答の共刺激性相互作用または阻害性相互作用の原因である。免疫チェックポイントタンパク質は、自己寛容性、ならびに生理学的免疫応答の期間及び程度を制御し、維持する。免疫チェックポイント阻害剤は、抗体を含むか、または抗体に由来する。
【0058】
本明細書で使用する場合、「酸化ストレス」という用語は、過剰な酸化剤及び/または抗酸化剤レベルの低下を特徴とする状態を意味する。細胞酸化剤は、限定するものではないが、酸素のラジカル(スーパーオキシドアニオン、ヒドロキシルラジカル、及び/またはペルオキシラジカル);例えば、過酸化水素及び一重項酸素などの反応性非活性酸素種;炭素ラジカル;窒素ラジカル;硫黄ラジカル;ならびにそれらの組み合わせを含み得る。いくつかの態様において、酸化ストレスの状態は、例えば、細胞損傷、細胞の機能不全、及び/または細胞死をもたらし得る。
【0059】
本明細書で使用する場合、「改変細胞」という用語は、改変されていない対応する細胞と異なる細胞を意味する。本開示から明らかであるように、本明細書に開示される改変細胞は、参照細胞(例えば、改変されていない対応する細胞)と比較して低下したレベルのNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質を発現する。いくつかの態様において、改変細胞は、外来または外因性の核酸を細胞に導入することによって生成される。特定の態様において、外来または外因性の核酸は、本明細書に開示される遺伝子編集ツールをコードし得る。他の態様において、外来または外因性の核酸は、キメラ抗原受容体(本明細書に記載されるものなど)をコードし得る。核酸は、例えば、電気穿孔(例えば、Heiser W.C.Transcription Factor Protocols:Methods in Molecular Biology(商標)2000;130:117-134を参照されたい)、化学(例えば、リン酸カルシウムまたは脂質)トランスフェクション(例えば、Lewis W.H.,et al.,Somatic Cell Genet.1980 May;6(3):333-47、Chen C.,et al.,Mol Cell Biol.1987 August;7(8):2745-2752を参照されたい)、組換えプラスミドを含む細菌プロトプラストとの融合(例えば、Schaffner W.Proc Natl Acad Sci USA.1980 April;77(4):2163-7を参照されたい)、または精製されたDNAの細胞核への直接的な微量注入(例えば、Capecchi M.R.Cell.1980 November;22(2 Pt 2):479-88を参照されたい)のような、当該技術分野で公知の方法によって細胞に導入することができる。
【0060】
本明細書で使用する場合、「高濃度」という用語は、物質(例えば、反応性酸素種)の適切な対照(例えば、健康な組織または細胞)と比較して正常より高いレベルを意味する。
【0061】
本明細書で使用する場合、「反応性酸素種」という用語は、酸素を含む高反応性化学物質で、他の分子と容易に反応し、損傷を生じる可能性のある改変をもたらすものを意味する。反応性酸素種としては、例えば、酸素イオン、無機及び有機のフリーラジカル及び過酸化物、例えば過酸化水素、スーパーオキシド、ヒドロキシルラジカル、脂質ヒドロペルオキシダーゼ、及び一重項酸素が挙げられる。これらは通常きわめて小さい分子であり、不対原子価殻電子が存在するため反応性が高い。ほぼすべてのがんが、高濃度の反応性酸素種に関連している。Liou,G.,et al.,Free Radic Res 44(5):1-31(2010)。
【0062】
「キメラ抗原受容体」または「CAR」という用語は、本明細書で使用する場合、抗原が細胞外ドメインに結合すると特殊な機能を果たすよう細胞に指示する、細胞内ドメインに結合した抗原特異的細胞外ドメインを有する組換え融合タンパク質を意味する。「人工T細胞受容体」、「キメラT細胞受容体」、及び「キメラ免疫受容体」という用語は各々、本明細書では「キメラ抗原受容体」という用語と同義に使用され得る。キメラ抗原受容体は、MHC非依存性抗原に結合すると共に、その細胞内ドメインを介して活性化シグナルを伝達する能力により、他の抗原結合剤と区別される。
【0063】
キメラ抗原受容体の抗原特異的細胞外ドメインは、抗原、典型的には悪性疾患の表面発現抗原を認識し、特異的に結合する。抗原特異的細胞外ドメインが抗原に特異的に結合するのは、例えば、約0.1pM~約10μM、例えば、約0.1pM~約1μM、または約0.1pM~約100nMの親和性定数または相互作用の親和性(K)で抗原に結合するときである。相互作用の親和性を決定する方法は当該技術分野において公知である。本開示のCARで使用するのに好適な抗原特異的細胞外ドメインは、任意の抗原結合性ポリペプチドであってよく、これは当該技術分野で広範な種類が知られている。いくつかの態様において、抗原結合ドメインは一本鎖Fv(scFv)である。他の抗体ベースの認識ドメイン(cAb VHH(ラクダ科抗体可変ドメイン)及びそのヒト化版、lgNAR VH(サメ抗体可変ドメイン)及びそのヒト化版、sdAb VH(単一ドメイン抗体可変ドメイン)ならびに「ラクダ化」抗体可変ドメインが使用に好適である。いくつかの態様において、一本鎖TCR(scTv、VアルファVベータを含む一本鎖2ドメインTCR)などのT細胞受容体(TCR)ベースの認識ドメインも使用に好適である。
【0064】
本明細書に開示されるキメラ抗原受容体は、抗原が抗原特異的細胞外ドメインに結合すると細胞内シグナルを細胞(CARを発現するもの)に与える細胞内ドメインを含んでもよい。いくつかの態様において、CARの細胞内シグナル伝達ドメインは、キメラ受容体が発現されるT細胞のエフェクター機能のうちの少なくとも1つの活性化の原因である。
【0065】
「細胞内ドメイン」という用語は、CARのうち、抗原が細胞外ドメインに結合するとエフェクター機能シグナルを伝達し、特殊な機能を果たすようT細胞に指示する部分を意味する。好適な細胞内ドメインの非限定的な例としては、T細胞受容体のゼータ鎖またはその相同体のいずれか(例えば、イータ、デルタ、ガンマ、またはイプシロン)、MB 1鎖、829、Fc RIII、Fc RI、及びシグナル伝達分子の組み合わせ、例えばCD3ゼータ及びCD28、CD27、4-1BB、DAP-10、OX40、及びそれらの組み合わせ、ならびに他の同様の分子及び断片が挙げられる。FcγRIII及びFcεRIのような、活性化タンパク質ファミリーの他のメンバーの細胞内シグナル伝達部分を使用してもよい。通常は細胞内ドメイン全体が用いられるが、多くの場合、細胞内ポリペプチド全体を使用する必要はない。細胞内シグナル伝達ドメインの切断部分が用いられ得る場合において、かかる切断部分は、依然としてエフェクター機能シグナルを伝達する限り、インタクトな鎖の代わりに使用されてもよい。したがって、細胞内ドメインという用語は、エフェクター機能シグナルを伝達するのに十分な細胞内ドメインの任意の切断部分を含むことが意図される。典型的に、抗原特異的細胞外ドメインは、膜貫通ドメインにより、キメラ抗原受容体の細胞内ドメインに連結している。膜貫通ドメインは、細胞膜を横断し、CARをT細胞表面に固定し、細胞外ドメインを細胞内シグナル伝達ドメインに接続し、したがってT細胞表面におけるCARの発現に影響を及ぼす。キメラ抗原受容体は、1以上の共刺激ドメイン及び/または1以上のスペーサーをさらに含んでもよい。共刺激ドメインは、サイトカイン産生、増殖、細胞傷害性、及び/または持続性をin vivoで向上させる共刺激性タンパク質の細胞内シグナル伝達ドメインに由来する。「ペプチドヒンジ」は、抗原特異的細胞外ドメインを膜貫通ドメインに接続する。膜貫通ドメインは共刺激ドメインに融合しており、任意選択で、共刺激ドメインは第2の共刺激ドメインに融合しており、共刺激ドメインは、CD3ζに限定されないシグナル伝達ドメインに融合している。例えば、抗原特異的細胞外ドメインと膜貫通ドメインとの間に、またタンデムCARの場合は複数のscFv間にスペーサードメインを含めると、抗原結合ドメイン(複数可)の柔軟性、ひいてはCAR機能に影響が及び得る。好適な膜貫通ドメイン、共刺激ドメイン、及びスペーサーは当該技術分野において公知である。
【0066】
本明細書で使用する場合、「遺伝子編集」という用語は、細胞のゲノムに存在する遺伝情報を変化させるプロセスを意味する。この遺伝子編集は、ゲノムDNAを操作し、遺伝情報の改変をもたらすことによって行われ得る。いくつかの態様において、かかる遺伝子編集は、編集されたDNAの発現に影響を及ぼし得る。他の態様において、かかる遺伝子編集は、編集されたDNAの発現に影響を及ぼさない。いくつかの態様において、本明細書に開示される改変細胞の遺伝子編集は、本明細書に記載される遺伝子編集ツールを使用して行うことができる。遺伝子編集ツールの非限定的な例としては、RNA干渉分子(例えば、shRNA、siRNA、miRNA)、アンチセンスオリゴヌクレオチド、CRISPR、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、メガヌクレアーゼ、制限エンドヌクレアーゼ、またはそれらの任意の組み合わせが挙げられる。
【0067】
本明細書で使用する場合、「ug」及び「uM」という用語は、それぞれ、「μg」及び「μΜ」と同義に使用される。
【0068】
本明細書に記載される様々な態様を、下記のサブセクションでさらに詳細に説明する。
【0069】
II.本開示の方法
IIa.治療方法
本開示は、低下したレベルのNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質を発現する改変細胞を対象に投与することを含む、それを必要とする対象の腫瘍(またはがん)を治療する方法に関する。いくつかの態様において、「低下したレベルのNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質」は、NFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質の発現がないことを含む。
【0070】
「Nrf2」または「核因子赤血球2関連因子2」という用語は、塩基性ロイシンジッパータンパク質転写因子のファミリーに属するタンパク質を意味する。Nrf2は、「核因子赤血球2様2」、「核因子赤血球由来2様2」、「HEBP1」、及び「IMDDHH」としても知られている。
【0071】
ヒトにおいて、Nrf2は、第2染色体に位置するNFE2L2遺伝子によってコードされる。ヒトNrf2アイソフォームは3種が知られている。アイソフォーム1(UniProt:Q16236-1)は、605アミノ酸からなり、古典的配列に選ばれている。アイソフォーム2(UniProt:Q16236-2)は、589アミノ酸からなり、アミノ酸1~16の欠失により古典的配列とは異なる。アイソフォーム3(UniProt:Q16236-3)は、582アミノ酸からなり、アミノ酸1~16の欠失及びアミノ酸135~141の欠失により古典的配列とは異なる。表1(下記)は、3つの既知のNrf2アイソフォームのアミノ酸配列を提示する。
【表1-1】
【表1-2】
【0072】
本明細書で使用する場合、「Nrf2」という用語は、細胞によって天然に発現されるNrf2のあらゆるバリアントまたはアイソフォームを含む。当該技術分野では、次のNrf2の天然バリアントが知られている:(i)アミノ酸31位:G→R;(ii)アミノ酸43位:R→Q;(iii)アミノ酸79位:E→K;(iv)アミノ酸80位:T→K;(v)アミノ酸81位:G→S;(vi)アミノ酸99位:S→P;及び(vii)アミノ酸268位:V→M。したがって、いくつかの態様において、本明細書に開示される改変細胞は、アイソフォーム1に関連する低下したレベルのNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質を発現する。特定の態様において、本明細書に開示される改変細胞は、アイソフォーム2に関連する低下したレベルのNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質を発現する。さらなる態様では、本明細書に開示される改変細胞は、アイソフォーム3に関連する低下したレベルのNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質を発現する。なおもさらなる態様では、本明細書に開示される改変細胞は、すべてのアイソフォームに関連する低下したレベルのNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質を発現する。
【0073】
いくつかの態様において、Nrf2、またはその任意のバリアント及びアイソフォームは、それらを天然に発現する細胞もしくは組織から単離されてもよいし、または組換え的に生成されてもよい。上記のヒトNrf2アイソフォームをコードするポリヌクレオチドの核酸配列を表2(下記)に提示する。
【表2-1】

【表2-2】
【表2-3】

【表2-4】
【0074】
いくつかの態様において、NFE2L2遺伝子の発現レベルは、参照細胞(例えば、比較的低いレベルのNFE2L2遺伝子を発現するように改変されていない対応する細胞)と比較して、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、または少なくとも約100%低下する。いくつかの態様において、Nrf2タンパク質の発現レベルは、参照細胞(例えば、比較的低いレベルのNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質を発現するように改変されていない対応する細胞)と比較して、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、または少なくとも約100%低下する。特定の態様において、NFE2L2遺伝子とNrf2タンパク質の両方の発現レベルが、参照細胞(例えば、比較的低いレベルのNFE2L2遺伝子を発現するように改変されていない対応する細胞)と比較して、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、または少なくとも約100%低下する。
【0075】
いくつかの態様において、腫瘍を治療することは、対象における腫瘍体積を低減させることを含む。したがって、特定の態様において、本開示の改変細胞(すなわち、低下したレベルのNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質を発現するもの)を対象に投与すると、対象における腫瘍体積が参照腫瘍体積と比較して低減する。いくつかの態様において、参照腫瘍体積は、改変細胞の投与前の対象における腫瘍体積である。さらなる態様では、参照腫瘍体積は、投与を受けなかった対応する対象における腫瘍体積である。いくつかの態様において、対象における腫瘍体積は、投与後に、参照腫瘍体積と比較して、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、または少なくとも約100%低減する。
【0076】
いくつかの態様において、腫瘍を治療することは、対象における腫瘍重量を低減させることを含む。特定の態様において、本明細書に開示される改変細胞は、対象に投与すると、対象における腫瘍重量を低減させ得る。いくつかの態様において、腫瘍重量は、投与後に、参照腫瘍重量と比較して、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、または少なくとも約100%低減する。いくつかの態様において、参照腫瘍重量は、改変細胞の投与前の対象における腫瘍重量である。さらなる態様では、参照腫瘍重量は、投与を受けなかった対応する対象における腫瘍重量である。
【0077】
いくつかの態様において、本開示の改変細胞の投与により、対象の腫瘍におけるTIL(例えば、CD4またはCD8)の数及び/または割合が増大し得る。特定の態様において、腫瘍におけるTILの数及び/または割合は、参照(例えば、改変細胞を受けなかった対象または改変細胞の投与前の同じ対象における対応する値)と比較して、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約100%、少なくとも約150%、少なくとも約200%、または少なくとも約300%以上増大する。
【0078】
いくつかの態様において、本開示の改変細胞(すなわち、低下したレベルのNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質を発現するもの)の投与は、対象の腫瘍における制御性T細胞(Treg)の数及び/または割合を低減させ得る。いくつかの態様において、制御性T細胞はCD4制御性T細胞である。いくつかの態様において、制御性T細胞はFoxp3である。特定の態様において、腫瘍における制御性T細胞の数及び/または割合は、参照(例えば、改変細胞の投与を受けなかった対象における対応する数及び/または割合)と比較して、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、または約100%減少する。
【0079】
いくつかの態様において、本明細書に開示される改変細胞の投与により、対象の腫瘍におけるCD8TILのTregに対する比が増大し得る。特定の態様において、CD8TILのTregに対する比は、投与後に、参照(例えば、改変細胞の投与を受けなかった対象の腫瘍におけるTILの数及び/または割合)と比較して、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約100%、少なくとも約125%、少なくとも約150%、少なくとも約200%、少なくとも約250%、または少なくとも約300%増大する。
【0080】
いくつかの態様において、本明細書に開示される改変細胞の投与により、対象の腫瘍における骨髄系由来サプレッサー細胞(MDSC)の数及び/または割合が減少し得る。本明細書で使用する場合、「骨髄系由来サプレッサー細胞」(MDSC)という用語は、骨髄起源、未成熟状態、及びT細胞応答を強力に抑制する能力によって定義される、不均一な免疫細胞集団を意味する。これらは、慢性感染及びがんなどの特定の病理学的状態で増殖することが知られている。特定の態様において、MDSCは、単球性MDSC(M-MDSC)である。他の態様において、MDSCは、多形核MDSC(PMN-MDSC)である。いくつかの態様において、腫瘍におけるMDSCの数及び/または割合は、参照(例えば、改変細胞の投与を受けなかった対応する対象の値)と比較して、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、または約100%減少する。
【0081】
いくつかの態様において、本明細書に開示される改変細胞の投与により、対象の腫瘍におけるCD8TILのMDSCに対する比が増大し得る。特定の態様において、CD8TILのMDSCに対する比は、投与後に、参照(例えば、改変細胞の投与を受けなかった対応する対象の値)と比較して、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約100%、少なくとも約125%、少なくとも約150%、少なくとも約200%、少なくとも約250%、または少なくとも約300%増大する。
【0082】
いくつかの態様において、本明細書に開示される改変細胞(すなわち、低下したレベルのNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質を発現するもの)は、免疫細胞を含む。特定の態様において、免疫細胞は、リンパ球、好中球、単球、マクロファージ、樹状細胞、またはそれらの組み合わせを含む。さらなる態様では、本明細書に開示される改変された免疫細胞はリンパ球である。いくつかの態様において、リンパ球は、T細胞、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)、リンホカイン活性化キラー細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、またはそれらの任意の組み合わせを含む。さらなる態様では、改変された免疫細胞は、キメラ抗原受容体(CAR)をさらに含み得る。いくつかの態様において、改変された免疫細胞は、T細胞受容体、例えば、工学操作されたTCRをさらに含み得る。したがって、特定の態様において、本明細書に開示される改変細胞はT細胞である。いくつかの態様において、本明細書に開示される改変細胞はTILである。いくつかの態様において、本明細書に開示される改変細胞はNK細胞である。いくつかの態様において、本明細書に開示される改変細胞はリンホカイン活性化キラー細胞である。いくつかの態様において、T細胞はCARを含む。他の態様において、本明細書に開示される改変細胞はNK細胞である。特定の態様において、NK細胞はCARを含む。さらなる態様では、本開示の改変細胞は、T細胞とNK細胞の両方を含む。特定の態様において、T細胞とNK細胞の両方がCARを含む。
【0083】
いくつかの態様において、本発明の方法は、あらゆる免疫細胞型を改変するために使用され得る。他の態様において、本発明の方法は、任意の養子細胞移入(ACT)療法(別名、養子細胞療法)のために細胞を改変するために使用される。ACT療法は、自家療法または同種療法であり得る。いくつかの態様において、ACT療法は、限定するものではないが、CAR T療法、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)療法、NK細胞療法、またはそれらの任意の組み合わせを含む。
【0084】
いくつかの態様において、本発明の方法は、TIL療法のためにTILを改変するために使用され得る。がんを治療するための養子細胞移入療法としてのTILの使用は、黒色腫のTIL養子細胞療法を使用し、20年以上にわたって研究されてきた。Rosenberg SA et al.,(July 2011).Clinical Cancer Research 17(13):4550-7(July 2011)。養子T細胞移入療法では、手術によって切除した腫瘍を小さな断片に切り分けたもの、または腫瘍断片から単離した単細胞懸濁液から、TILをex vivoで増殖させる。個々の培養物を複数確立し、別々に増殖させ、特異的腫瘍認識についてアッセイする。TILは数週間にわたって増殖させる。次いで、最も良好な腫瘍反応性を示した特定のTIL株を、通常2週間にわたって抗CD3活性化を使用する「高速増殖プロトコール」(REP)でさらに増殖させる。培養物中で増殖したTILは、ex vivoプロセス中の任意の時点で、NFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質の発現が低減するように改変され得る。REP後の最終的なTILを患者に注入し戻す。このプロセスは、養子移入されたTILが腫瘍部位に十分に接近して包囲できるようにするために、内因性リンパ球を枯渇させる予備的な化学療法レジメンを含む場合もある。
【0085】
いくつかの態様において、本発明の方法は、T細胞受容体、例えば、工学操作されたTCRを含むT細胞を改変するために使用され得る。本明細書で使用する場合、「工学操作されたTCR」または「工学操作されたT細胞受容体」という用語は、選択される、クローニングされる、及び/または後にT細胞集団に導入される主要組織適合抗原(MHC)/ペプチド標的抗原に所望の親和性で特異的に結合するように工学操作されたT細胞受容体(TCR)を意味する。
【0086】
いくつかの態様において、本明細書に開示される改変細胞(すなわち、低下したレベルのNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質を発現するもの)は、1以上の改善された特性を有し得る。特定の態様において、細胞(例えば、免疫細胞、例えば、腫瘍浸潤リンパ球)の1以上の特性を改善することは、腫瘍の治療(例えば、腫瘍体積及び/または腫瘍重量の低減)に役立ち得る。本開示で改善され得る1以上の特性には、がんの治療に有用であり得る細胞(例えば、TIL)のあらゆる特性が含まれる。例えば、特定の態様において、かかる特性は、(i)増殖(expansion)及び/または増殖(proliferation)の増大、(ii)持続性及び/または生存率の増大(例えば、消耗/アネルギー性の低下)、(iii)抗腫瘍活性(例えば、腫瘍細胞を標的とし殺傷する能力)の増大、ならびに(iv)それらの組み合わせを含む。
【0087】
いくつかの態様において、本明細書に開示される改変細胞の増殖(expansion)及び/または増殖(proliferation)は、参照(例えば、改変細胞を受けなかった対象または改変細胞の投与前の同じ対象における対応する値)と比較して、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約100%、少なくとも約150%、少なくとも約200%、または少なくとも約300%以上増大する。いくつかの態様において、本明細書に開示される改変細胞の持続性及び/または生存率は、参照(例えば、改変細胞を受けなかった対象または改変細胞の投与前の同じ対象における対応する値)と比較して、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約100%、少なくとも約150%、少なくとも約200%、または少なくとも約300%以上増大する。さらなる態様では、本明細書に開示される改変細胞の抗腫瘍活性は、参照(例えば、改変細胞を受けなかった対象または改変細胞の投与前の同じ対象における対応する値)と比較して、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約100%、少なくとも約150%、少なくとも約200%、または少なくとも約300%以上増大する。
【0088】
いくつかの態様において、1以上の特性は、腫瘍を治療するのに有用なエフェクター分子を産生する細胞(例えば、TIL)の能力を含み得る。特定の態様において、エフェクター分子はサイトカインを含む。エフェクター分子の非限定的な例には、IFN-γ、TNF-α、IL-2、グランザイムB、パーフォリン、MIP-1β、CD107aまたはそれらの組み合わせが含まれる。したがって、いくつかの態様において、本明細書に開示される改変細胞は、同族抗原(例えば、腫瘍抗原)などの抗原で刺激されると、増大した量のIFN-γを産生することができる。特定の態様において、産生されるIFN-γの量は、参照細胞(例えば、低下したレベルのNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質を発現するように改変されていない対応する細胞)と比較して、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約100%、少なくとも約150%、少なくとも約200%、または少なくとも約300%以上増大する。
【0089】
本明細書に記載されるように、Nrf2は、反応性酸素種及び反応性窒素種などの作用物質によって引き起こされ得る酸化ストレスから細胞を保護するのに重要であるとして、当該技術分野で報告されている。出願者は、本明細書に開示される改変細胞(すなわち、低下したレベルのNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質を発現するもの)が、参照細胞と比較して増大した酸化ストレス耐性を呈することを発見した。いくつかの態様において、参照細胞は、低下したレベルのNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質を発現するように改変されていない対応する細胞である。特定の態様において、本明細書に開示される改変細胞の酸化ストレス耐性は、参照細胞と比較して、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、または少なくとも約100%以上増大する。
【0090】
いくつかの態様において、本明細書に開示される改変細胞は、遺伝子編集ツールを使用して改変されていてもよい。いくつかの態様において、本明細書に開示される改変細胞は、RNAiを使用して改変されていてもよい。いくつかの態様において、本明細書に開示される改変細胞は、アンチセンスオリゴヌクレオチドを使用して改変されていてもよい。本開示の有用な遺伝子編集ツールのさらなる説明は、本明細書の他の箇所で提供する。
【0091】
いくつかの態様において、本明細書に記載される改変細胞は、キメラ抗原受容体を発現するようにさらに改変されていてもよい。いくつかの態様において、改変されたCAR発現細胞は、改善した抗がん特性を有し得る。
【0092】
いかなる理論にも束縛されないが、本開示の改変細胞は、T細胞消耗を低減または防止することができる。
【0093】
細胞が増大した酸化ストレス耐性を呈するかどうかは、当該技術分野で利用可能な任意の方法によって測定することができる。いくつかの態様において、細胞の酸化ストレス耐性が増大する結果、細胞が改善された機能を呈し得る。例えば、特定の態様において、本明細書に開示される改変細胞は、高濃度の活性酸素種の存在下にあっても増殖し得る。いくつかの態様において、本開示の改変細胞は、高濃度の活性酸素種の存在下にあっても細胞溶解性分子を発現し得る。特定の態様において、細胞溶解性分子はグランザイムBを含む。さらなる態様では、本開示の改変細胞は、高濃度の活性酸素種の存在下にあってもサイトカインを産生し得る。いくつかの態様において、サイトカインはIFN-γを含む。いくつかの態様において、活性酸素種は過酸化水素(H)を含む。特定の態様において、本明細書に開示される改変細胞は、高濃度の活性酸素種の存在下にあっても、(i)増殖し、(ii)細胞溶解性分子を発現し、かつ(iii)サイトカインを産生し得る。
【0094】
本明細書に記載されるように、本開示の改変細胞(すなわち、低下したレベルのNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質を発現するもの)は、多様な種類のがんを治療するために使用され得る。本明細書に開示される方法で治療することのできるがん(または腫瘍)の非限定的な例としては、扁平上皮癌、小細胞肺癌(SCLC)、非小細胞肺癌、扁平上皮非小細胞肺癌(NSCLC)、非扁平上皮NSCLC、胃腸癌、腎癌(例えば、明細胞癌)、卵巣癌、肝臓癌(例えば、肝細胞癌)、大腸癌、子宮内膜癌、腎臓癌(例えば、腎細胞癌(RCC))、前立腺癌(例えば、ホルモン不応性前立腺癌)、甲状腺癌、膵臓癌、子宮頸癌、胃の癌、膀胱癌、肝細胞腫、乳癌、結腸癌、及び頭頸部癌(または癌腫)、胃癌、生殖細胞腫瘍、小児肉腫、副鼻腔ナチュラルキラー、黒色腫(例えば、転移性悪性黒色腫、例えば皮膚または眼球内の悪性黒色腫)、骨癌、皮膚癌、子宮癌、肛門領域のがん、精巣癌、卵管癌、子宮内膜癌腫、子宮頸部癌、膣癌、外陰部癌、食道癌(例えば、食道胃接合部癌)、小腸癌、内分泌系癌、副甲状腺癌、副腎癌、軟部組織肉腫、尿道癌、陰茎癌、小児期の固形腫瘍、尿管癌、腎盂癌、腫瘍血管新生、下垂体腺腫、カポジ肉腫、類表皮癌、扁平上皮癌、T細胞リンパ腫、アスベストにより誘導されるものを含む環境誘発癌、ウイルス関連癌またはウイルス起源の癌(例えば、ヒトパピローマウイルス(HPVに関連または由来する腫瘍))、及び2つの主な血液細胞系、すなわち、骨髄細胞系(顆粒球、赤血球、血小板、マクロファージ、及びマスト細胞を産生)またはリンパ細胞系(B細胞、T細胞、NK細胞、及び形質細胞を産生)のいずれかに由来する血液悪性疾患、例えば、あらゆる種類の白血病、リンパ腫、及び骨髄腫、例えば、急性、慢性、リンパ球性及び/または骨髄性の白血病、例えば、急性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(AML)、慢性リンパ球性白血病(CLL)、及び慢性骨髄性白血病(CML)、未分化AML(MO)、骨髄芽球性白血病(Ml)、骨髄芽球性白血病(M2;細胞成熟を伴う)、前骨髄球性白血病(M3またはM3バリアント[M3V])、骨髄単球性白血病(M4または好酸球増加を伴うM4バリアント[M4E])、単球性白血病(M5)、赤白血病(M6)、巨核芽球性白血病(M7)、孤立性顆粒球肉腫、及び緑色腫;リンパ腫、例えば、ホジキンリンパ腫(HL)、非ホジキンリンパ腫(NHL)、B細胞血液悪性病変、例えば、B細胞リンパ腫、T細胞リンパ腫、リンパ形質細胞性リンパ腫、単球様B細胞リンパ腫、粘膜関連リンパ組織(MALT)リンパ腫、未分化(例えば、Ki1)大細胞リンパ腫、成人T細胞リンパ腫/白血病、マントル細胞リンパ腫、血管免疫芽球性T細胞リンパ腫、血管中心性リンパ腫、腸管T細胞リンパ腫、縦隔原発B細胞リンパ腫、前駆Tリンパ芽球性リンパ腫、Tリンパ芽球性;ならびにリンパ腫/白血病(T-Lbly/T-ALL)、末梢T細胞リンパ腫、リンパ芽球性リンパ腫、移植後リンパ増殖性障害、真性組織球性リンパ腫、原発性体液性リンパ腫、B細胞リンパ腫、リンパ芽球性リンパ腫(LBL)、リンパ系の造血性腫瘍、急性リンパ芽球性白血病、びまん性大B細胞リンパ腫、バーキットリンパ腫、濾胞性リンパ腫、びまん性組織球性リンパ腫(DHL)、免疫芽球性大細胞リンパ腫、前駆Bリンパ芽球性リンパ腫、皮膚T細胞リンパ腫(CTLC)(菌状息肉症またはセザリー症候群とも呼ばれる)、及びワルデンシュトレームマクログロブリン血症を伴うリンパ形質細胞性リンパ腫(LPL);骨髄腫、例えば、IgG骨髄腫、軽鎖骨髄腫、非分泌性骨髄腫、くすぶり型骨髄腫(無症候性骨髄腫とも呼ばれる)、孤立性形質細胞腫、及び多発性骨髄腫、慢性リンパ球性白血病(CLL)、ヘアリーセルリンパ腫;骨髄系の造血性腫瘍、線維肉腫及び横紋筋肉腫を含む間葉由来の腫瘍;精上皮腫、奇形腫、線維肉腫、横紋筋肉腫、及び骨肉腫を含む間葉由来の腫瘍;ならびに他の腫瘍、例えば、黒色腫、色素性乾皮症、角化棘細胞腫、精上皮腫、濾胞性甲状腺癌及び奇形腫、リンパ系の造血性腫瘍、例えばT細胞腫瘍及びB細胞腫瘍、例えば、限定するものではないが、小細胞型及び大脳様細胞型を含めたT前リンパ球性白血病(T-PLL)などのT細胞障害;T細胞型の大顆粒リンパ球白血病(LGL);a/d T-NHL肝脾リンパ腫;末梢/胸腺後T細胞リンパ腫(多形性及び免疫芽球性のサブタイプ);血管中心性(鼻)T細胞リンパ腫;頭頸部癌、腎癌、直腸癌、甲状腺癌;急性骨髄性リンパ腫、ならびにそれらの任意の組み合わせが挙げられる。
【0095】
いくつかの態様において、本明細書に開示される改変細胞で治療することのできるがん(または腫瘍)は、乳癌、頭頸部癌、子宮癌、脳癌、皮膚癌、腎癌、肺癌、大腸癌、前立腺癌、肝臓癌、膀胱癌、腎臓癌、膵臓癌、甲状腺癌、食道癌、眼癌、胃の癌(胃癌)、胃腸癌、癌腫、肉腫、白血病、リンパ腫、骨髄腫、またはそれらの組み合わせを含む。特定の態様において、本開示の方法で治療することのできるがん(または腫瘍)は、乳癌である。いくつかの態様において、乳癌は、トリプルネガティブ乳癌(TNBC)である。いくつかの態様において、治療することのできるがん(または腫瘍)は、脳癌である。特定の態様において、脳癌は、グリア芽細胞腫である。いくつかの態様において、本開示の方法で治療することのできるがん(または腫瘍)は、皮膚癌である。いくつかの態様において、皮膚癌は、基底細胞癌(BCC)、皮膚扁平上皮癌(cSCC)、黒色腫、メルケル細胞癌(MCC)、またはそれらの組み合わせである。特定の態様において、頭頸部癌は、頭頸部扁平上皮癌である。さらなる態様では、肺癌は、小細胞肺癌(SCLC)である。いくつかの態様において、食道癌は、食道胃接合部癌である。特定の態様において、腎臓癌は、腎細胞癌である。いくつかの態様において、肝臓癌は、肝細胞癌である。特定の態様において、本開示で治療することのできるがんは、大腸癌、皮膚癌、リンパ腫、肺癌、またはそれらの組み合わせを含む。
【0096】
いくつかの態様において、本明細書に開示される改変細胞は、他の治療剤(例えば、抗がん剤及び/または免疫調節剤)と組み合わせて使用することができる。したがって、特定の態様において、本明細書に開示される腫瘍を治療する方法は、本開示の改変細胞を1以上の追加の治療剤と組み合わせて投与することを含む。そのような薬剤は、例えば、化学療法薬、標的化抗がん療法、腫瘍溶解薬、細胞傷害性薬剤、免疫ベースの療法、サイトカイン、外科手技、放射線手技、共刺激分子の活性化因子、免疫チェックポイント阻害剤、ワクチン、細胞免疫療法、またはそれらの任意の組み合わせを含み得る。いくつかの態様において、本明細書に開示される改変細胞(すなわち、低下したレベルのNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質を発現するもの)は、標準治療による治療(例えば、手術、放射線、及び化学療法)と組み合わせて使用され得る。本明細書に記載される方法は、維持療法、例えば、腫瘍の発生または再発を防止することを目的とした療法として使用することもできる。
【0097】
いくつかの態様において、本開示の改変細胞は、免疫経路の複数の要素を標的とすることができるように、1以上の抗がん剤と組み合わせて使用され得る。そのような組み合わせの非限定的なものとしては、腫瘍抗原提示を向上させる療法(例えば、樹状細胞ワクチン、GM-CSF分泌細胞ワクチン、CpGオリゴヌクレオチド、イミキモド);例えば、CTLA-4及び/またはPD1/PD-L1/PD-L2経路の阻害、及び/またはTregもしくは他の免疫抑制細胞(例えば、骨髄系由来サプレッサー細胞)の枯渇もしくは遮断によって、負の免疫制御を阻害する療法;例えば、CD-137、OX-40、及び/またはCD40もしくはGITR経路を刺激する及び/またはT細胞エフェクター機能を刺激するアゴニストにより、正の免疫制御を刺激する療法;抗腫瘍T細胞の発生頻度を全身的に増大させる療法;例えば、CD25のアンタゴニスト(例えば、ダクリズマブ)を使用して、もしくはex vivoの抗CD25ビーズによる枯渇により、腫瘍中のTregなどのTregを枯渇させるもしくは阻害する療法;腫瘍中のサプレッサー骨髄細胞の機能に影響を及ぼす療法;腫瘍細胞の免疫原性を向上させる療法(例えば、アントラサイクリン);遺伝子改変細胞、例えば、キメラ抗原受容体によって改変された細胞(CAR-T療法)を含む、T細胞もしくはNK細胞の養子移入;インドールアミンジオキシゲナーゼ(IDO)、ジオキシゲナーゼ、アルギナーゼ、もしくは一酸化窒素合成酵素などの代謝酵素を阻害する療法;T細胞のアネルギーもしくは消耗を逆転させる/防止する療法;自然免疫活性化及び/または腫瘍部位の炎症を誘発する療法;免疫刺激サイトカインの投与;免疫抑制サイトカインの遮断;またはそれらの任意の組み合わせが挙げられる。
【0098】
いくつかの態様において、抗がん剤は、免疫チェックポイント阻害剤を含む(すなわち、特定の免疫チェックポイント経路によるシグナル伝達を遮断する)。本発明の方法で使用することのできる免疫チェックポイント阻害剤の非限定的な例は、CTLA-4アンタゴニスト(例えば、抗CTLA-4抗体)、PD-1アンタゴニスト(例えば、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体)、TIM-3アンタゴニスト(例えば、抗TIM-3抗体)、またはそれらの組み合わせを含む。かかる免疫チェックポイント阻害剤の非限定的な例としては、抗PD1抗体(例えば、ニボルマブ(OPDIVO(登録商標))、ペンブロリズマブ(KEYTRUDA(登録商標);MK-3475)、ピディリズマブ(CT-011)、PDR001、MEDI0680(AMP-514)、TSR-042、REGN2810、JS001、AMP-224(GSK-2661380)、PF-06801591、BGB-A317、BI 754091、SHR-1210、及びそれらの組み合わせ);抗PD-L1抗体(例えば、アテゾリズマブ(TECENTRIQ(登録商標);RG7446;MPDL3280A;RO5541267)、デュルバルマブ(MEDI4736、IMFINZI(登録商標))、BMS-936559、アベルマブ(BAVENCIO(登録商標))、LY3300054、CX-072(Proclaim-CX-072)、FAZ053、KN035、MDX-1105、及びそれらの組み合わせ);ならびに抗CTLA-4抗体(例えば、イピリムマブ(YERVOY(登録商標))、トレメリムマブ(チシリムマブ;CP-675,206)、AGEN-1884、ATOR-1015、及びそれらの組み合わせ)が挙げられる。
【0099】
いくつかの態様において、抗がん剤は、免疫チェックポイント活性化因子を含む(すなわち、特定の免疫チェックポイント経路によるシグナル伝達を促進する)。特定の態様において、免疫チェックポイント活性化因子は、OX40アゴニスト(例えば、抗OX40抗体)、LAG-3アゴニスト(例えば抗LAG-3抗体)、4-1BB(CD137)アゴニスト(例えば、抗CD137抗体)、GITRアゴニスト(例えば、抗GITR抗体)、またはそれらの組み合わせを含む。
【0100】
いくつかの態様において、本明細書に開示される改変細胞は、追加の治療剤の投与前または投与後に対象に投与される。他の態様において、改変細胞は、追加の治療剤と同時に対象に投与される。特定の態様において、改変細胞及び追加の治療剤は、薬学的に許容できる担体中の単一の組成物として同時に投与され得る。他の態様において、改変細胞及び追加の治療剤は、別個の組成物として同時に投与される。
【0101】
いくつかの態様において、本開示で治療され得る対象は、ラットまたはマウスなどの非ヒト動物である。いくつかの態様において、治療され得る対象はヒトである。
【0102】
IIb.免疫応答を改善する方法
いくつかの態様において、本開示は、対象の免疫応答を改善する方法に関する。特に、本明細書に開示される方法は、対象の、免疫応答の改善(例えば、増大)、例えば、免疫細胞療法、例えば、キメラ抗原受容体(CAR)発現細胞または工学操作されたT細胞受容体(TCR)発現細胞の免疫寛容の防止、低減、または阻害のために使用され得る。特定の態様において、免疫応答は抗腫瘍免疫応答である。特定の態様において、免疫応答の改善は、免疫寛容の防止、低減、または阻害を含む。したがって、本明細書では、CAR発現細胞またはTCR発現細胞の抗腫瘍免疫応答を改善する方法であって、低下したレベルのNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質を発現するように細胞を改変することを含む、方法が提供される。いくつかの態様において、NFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質の発現低減は、CAR発現細胞またはTCR発現細胞の抗腫瘍免疫応答を改善する。いくつかの態様において、NFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質の発現低減は、CAR発現細胞またはTCR発現細胞の免疫寛容を低減または阻害する。
【0103】
いくつかの態様において、CAR発現細胞またはTCR発現細胞のNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質の発現レベルは、参照細胞(例えば、比較的低いレベルのNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質を発現するように改変されていない対応する細胞)と比較して、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、または少なくとも約100%低下する。特定の態様において、CAR発現細胞またはTCR発現細胞におけるNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質の発現は、改変後に完全に阻害される。
【0104】
いくつかの態様において、改変された(すなわち、低下したレベルのNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質を発現するように改変された)CAR発現細胞またはTCR発現細胞の抗腫瘍免疫応答は、参照抗腫瘍免疫応答(例えば、低下したレベルのNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質を発現するように改変されていない細胞の抗腫瘍免疫応答)と比較して、少なくとも約少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約100%、少なくとも約150%、少なくとも約200%、少なくとも約250%、または少なくとも約300%以上増大する。
【0105】
CAR発現細胞またはTCR発現細胞の抗腫瘍免疫応答は、当該技術分野で公知の様々な方法を使用して測定することができる。例えば、いくつかの態様において、CAR発現細胞またはTCR発現細胞の抗腫瘍免疫応答は、同族抗原での刺激を受けた際に細胞が産生するエフェクター分子の量を測定することにより(例えば、ELISAまたはフローサイトメトリーで)観察され得る。特定の態様において、エフェクター分子は、例えば、腫瘍を治療するのに有用なもののようなサイトカインを含む。エフェクター分子の非限定的な例には、IFN-γ、TNF-α、IL-2、グランザイムB、パーフォリン、MIP-1β、CD107a、またはそれらの組み合わせが含まれる。特定の態様において、サイトカインはIFN-γである。したがって、いくつかの態様において、細胞の抗腫瘍応答の改善は、細胞によって産生されるIFN-γの量の増大を含む。いくつかの態様において、改変されたCAR発現細胞または改変されたTCR発現細胞(すなわち、低下したレベルのNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質を発現するもの)は、同族抗原(例えば、腫瘍抗原)で刺激されると、参照細胞(例えば、比較的低いレベルのNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質を発現するように改変されていない対応する細胞)と比較して増大した量のIFN-γを産生する。特定の態様において、産生されるIFN-γの量は、参照細胞と比較して、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約100%、少なくとも約150%、少なくとも約200%、または少なくとも約300%以上増大する。
【0106】
いくつかの態様において、CAR発現細胞またはTCR発現細胞の抗腫瘍免疫応答は、同族抗原(例えば、腫瘍抗原)での刺激を受けた際の細胞の増殖能力を評価することによって測定することができる。特定の態様において、改変されたCAR発現細胞または改変されたTCR発現細胞(すなわち、低下したレベルのNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質を発現するもの)は、刺激を受けた際、参照細胞(例えば、比較的低いレベルのNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質を発現するように改変されていない対応する細胞)と比較して増大した増殖を呈する。いくつかの態様において、改変されたCAR発現細胞または改変されたTCR発現細胞の増殖は、参照細胞と比較して、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約100%、少なくとも約150%、少なくとも約200%、または少なくとも約300%以上増大する。
【0107】
いくつかの態様において、CAR発現細胞またはTCR発現細胞の抗腫瘍免疫応答は、細胞表面上の異なる表現型マーカーの発現を(例えば、フローサイトメトリーを使用して)観察することによって評価することができる。例えば、特定の態様において、CAR発現細胞またはTCR発現細胞の抗腫瘍免疫応答の(すなわち、NFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質の発現を低減させることによる)改善は、細胞における1以上の免疫チェックポイント阻害剤分子(例えば、PD-1)の発現の低減を含む。したがって、いくつかの態様において、本明細書に開示される改変されたCAR発現細胞または改変されたTCR発現細胞は、1以上の免疫チェックポイント阻害剤を低下したレベルで発現する。特定の態様において、1以上の免疫チェックポイント阻害剤分子の発現レベルは、参照細胞(例えば、比較的低いレベルのNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質を発現するように改変されていない対応する細胞)と比較して、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、または約100%低下する。
【0108】
いくつかの態様において、CAR発現細胞またはTCR発現細胞の抗腫瘍免疫応答の改善は、エフェクター活性(例えば、抗腫瘍活性)に関連するマーカーの発現の増大を含む。エフェクター活性に関連するマーカーの非限定的な例としては、Ki-67、グランザイムB、T-bet、Eomes、CXCR3、またはそれらの組み合わせが挙げられる。当業者には明らかであるように、いくつかの態様において、エフェクター活性に関連するマーカーは、上述のもの(例えば、IFN-γ、TNF-α、IL-2)などのサイトカインであってもよい。特定の態様において、エフェクター活性に関連するマーカーはグランザイムBである。いくつかの態様において、本明細書に開示される改変されたCAR発現細胞またはTCR発現細胞は、参照細胞(例えば、比較的低いレベルのNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質を発現するように改変されていない対応する細胞)と比較して高いレベルのグランザイムBを発現する。特定の態様において、改変されたCAR発現細胞またはTCR発現細胞におけるグランザイムBの発現レベルは、参照細胞と比較して、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約100%、少なくとも約150%、少なくとも約200%、または少なくとも約300%以上上昇する。
【0109】
いくつかの態様において、CAR発現細胞またはTCR発現細胞におけるNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質の発現を低減させると、反応性酸素種(ROS)及び/または反応性窒素種(RNS)によって引き起こされるもののような酸化ストレスに対する、CAR発現細胞またはTCR発現細胞の耐性が増大し得る。いくつかの態様において、酸化ストレス耐性は、参照細胞(例えば、比較的低いレベルのNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質を発現するように改変されていない対応する細胞)と比較して、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約100%、少なくとも約150%、少なくとも約200%、または少なくとも約300%以上増大する。
【0110】
本明細書に記載されるように、細胞の酸化ストレス耐性は、当該技術分野で公知の様々な方法によって測定することができる。いくつかの態様において、酸化ストレス耐性は、細胞が酸化ストレス(例えば、高濃度の活性酸素種)の存在下で機能性及び/または生存能を維持するかどうかを評価することによって観察され得る。特定の態様において、本明細書に開示される改変されたCAR発現細胞は、高濃度の活性酸素種の存在下で増殖し得る。いくつかの態様において、本明細書に開示される改変されたCAR発現細胞は、高濃度の活性酸素種の存在下で細胞溶解性分子を発現し得る。特定の態様において、細胞溶解性分子はグランザイムBを含む。さらなる態様では、本開示の改変されたCAR発現細胞またはTCR発現細胞は、高濃度の活性酸素種の存在下でサイトカインを産生し得る。いくつかの態様において、サイトカインはIFN-γを含む。いくつかの態様において、活性酸素種は過酸化水素(H)を含む。特定の態様において、本明細書に開示される改変されたCAR発現細胞は、高濃度の活性酸素種の存在下で、(i)増殖し、(ii)細胞溶解性分子を発現し、かつ(iii)サイトカインを産生し得る。
【0111】
CAR発現細胞またはTCR発現細胞におけるNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質の発現を低減させるには、細胞における遺伝子及び/またはタンパク質の発現を低減させる当該技術分野で公知の任意の方法を使用することができる。例えば、いくつかの態様において、CAR発現細胞またはTCR発現細胞のNFE2L2遺伝子及びそのコードされるNrf2タンパク質の発現は、NFE2L2遺伝子及びそのコードされるNrf2タンパク質の発現レベルを低減させることができる遺伝子編集ツールと細胞を接触させることによって低減し得る。遺伝子編集ツールの非限定的な例は本明細書の他の箇所に示す。
【0112】
NFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質の発現を低減させる上記の方法は、CAR発現細胞との関連で提供したものであるが、当業者であれば、本明細書に開示される方法が、NFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質の発現を低減させることが所望される任意の細胞に使用され得ることを認識するであろう。いくつかの態様において、改変され得る(すなわち、NFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質の発現を低減させようとする)細胞は、免疫細胞である。特定の態様において、免疫細胞は、リンパ球、好中球、単球、マクロファージ、樹状細胞、またはそれらの組み合わせを含む。いくつかの態様において、リンパ球は、T細胞、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)、リンホカイン活性化キラー細胞、ナチュラル(NK)細胞、またはそれらの組み合わせを含む。特定の態様において、リンパ球はT細胞、例えば、CD4+T細胞またはCD8+T細胞である。さらなる態様では、リンパ球は腫瘍浸潤リンパ球(TIL)である。特定の態様において、TILはCD8+TILである。他の態様において、TILはCD4+TILである。したがって、いくつかの態様において、低下したレベルのNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質を発現するように改変され得るCAR発現細胞は、免疫細胞である。特定の態様において、低下したレベルのNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質を発現するように改変され得るCAR発現細胞は、T細胞(すなわち、CAR T細胞)である。いくつかの態様において、低下したレベルのNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質を発現するように改変され得るCAR発現細胞またはTCR発現細胞は、NK細胞(すなわち、CAR NK細胞)である。
【0113】
いくつかの態様において、改変しようとする細胞と遺伝子編集ツールの接触は、in vivo、in vitro、ex vivo、またはそれらの組み合わせで行うことができる。特定の態様において、接触はin vivoで行われる(例えば、遺伝子療法)。他の態様において、接触はin vitroで行われる。さらなる態様では、接触はex vivoで行われる。
【0114】
IIc.低下したレベルのNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質を含む細胞
いくつかの態様において、本開示は、低下したレベルのNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質を発現する細胞、例えば、免疫細胞、例えば、CAR発現細胞またはTCR発現細胞を提供する。特定の態様において、本開示により生成される免疫細胞、例えば、CAR発現細胞またはTCR発現細胞のNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質の発現は、参照細胞(例えば、比較的低いレベルのNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質を発現するように改変されていない対応する細胞)と比較して、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、または少なくとも約100%低減する。いくつかの態様において、CAR発現細胞またはTCR発現細胞におけるNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質の発現は、完全に阻害される。
【0115】
いくつかの態様において、本開示は、キメラ抗原受容体またはT細胞受容体の工学操作のための細胞を調製する方法であって、遺伝子編集ツールと細胞を接触させて、細胞におけるNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質の発現レベルを低下させることを含む、方法に関する。本明細書に開示されるように、CAR発現細胞またはTCR発現細胞におけるNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質の発現レベルは、様々な方法を使用して低減させることができる。特定の態様において、これらの方法は、本明細書の他の箇所に記載する1以上の遺伝子編集ツールを含む。いくつかの態様において、NFE2L2遺伝子及びそのコードされるNrf2タンパク質の発現は、CAR発現細胞またはTCR発現細胞において、細胞をshRNA(例えば、NFE2L2遺伝子に特異的なもの)と接触させることにより低減する。さらなる態様では、NFE2L2遺伝子及びそのコードされるNrf2タンパク質の発現は、細胞をCRISPR(例えば、CRISPR-Cas9システム)(例えば、NFE2L2遺伝子に特異的なもの)と接触させることにより低減する。
【0116】
いくつかの態様において、遺伝子編集ツールと細胞の接触は、様々な送達経路を含む。一般的に、本明細書に開示される遺伝子編集ツールが、細胞におけるNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質の発現を低減させるには、遺伝子編集ツールが細胞に進入し、目的の遺伝子に結合することができなければならない。いくつかの態様において、目的の分子を細胞に送達する当該技術分野で公知の任意の送達ビヒクルを使用することができる。全体として参照により本明細書に組み込まれる米国特許第10,047,355号B2を参照されたい。使用することのできるベクターに関するさらなる開示は、本開示の他の箇所で提供する。
【0117】
いくつかの態様において、キメラ抗原受容体の工学操作のための細胞を調製する方法は、CARまたはTCRを発現するように細胞を改変することをさらに含む。特定の態様において、CARまたはTCRを発現するように細胞を改変することは、CARをコードする核酸配列と細胞を接触させることを含む。いくつかの態様において、CARをコードする核酸配列は、ベクター(例えば、発現ベクター)から発現される。
【0118】
いくつかの態様において、本明細書に開示される改変細胞で発現され得るCARまたはTCRは、悪性B細胞、悪性T細胞、または悪性形質細胞などの腫瘍細胞で発現される1以上の抗原を標的とする。特定の態様において、CARは、CD2、CD3ε、CD4、CD5、CD7、CD19、TRAC、TCRβ、BCMA、CLL-1、CS1、CD38、APRILタンパク質の細胞外部分、またはそれらの組み合わせから選択される抗原を標的とし得る。CARが結合し得る抗原の他の非限定的な例は、TSHR、CD123、CD22、CD30、CD171、CD33、EGFRvIII、GD2、GD3、Tn Ag、PSMA、ROR1、ROR2、GPC1、GPC2、FLT3、FAP、TAG72、CD44v6、CEA、EPCAM、B7H3、KIT、IL-13Ra2、メソテリン、IL-llRa、PSCA、PRSS21、VEGFR2、LewisY、CD24、PDGFR-β、SSEA-4、CD20、葉酸受容体α、ERBB2(Her2/neu)、MUC1、EGFR、NCAM、プロスターゼ、PAP、ELF2M、エフリンB2、IGF-I受容体、CAIX、LMP2、gplOO、bcr-abl、チロシナーゼ、EphA2、フコシルGM1、sLe、GM3、TGS5、HMWMAA、o-アセチル-GD2、葉酸受容体β、TEM1/CD248、TEM7R、CLDN6、GPRC5D、CXORF61、CD97、CD179a、ALK、ポリシアル酸、PLAC1、GloboH、NY-BR-1、UPK2、HAVCR1、ADRB3、PANX3、GPR20、LY6K、OR51E2、TARP、WTl、NY-ESO-1、LAGE-la、MAGE-Al、レグマイン、HPV E6,E7、MAGE Al、ETV6-AML、精子タンパク質17、XAGE1、Tie 2、MAD-CT-1、MAD-CT-2、Fos関連抗原1、p53、p53変異体、プロステイン、サバイビン及びテロメラーゼ、PCTA-1/ガレクチン8、メランA/MARTl、Ras変異体、hTERT、肉腫転位限界点、ML-IAP、ERG(TMPRSS2 ETS融合遺伝子)、NA17、PAX3、アンドロゲン受容体、サイクリンBl、MYCN、RhoC、TRP-2、CYP1B1、BORIS、SART3、PAX5、OY-TES1、LCK、AKAP-4、SSX2、RAGE-1、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素、RU1、RU2、腸内カルボキシルエステラーゼ、mut hsp70-2、CD79a、CD79b、CD72、LAIR1、FCAR、LILRA2、CD300LF、CLEC12A、BST2、EMR2、LY75、GPC3、FCRL5、IGLL1、ならびにそれらの任意の組み合わせを含む。
【0119】
特定の態様において、本開示の改変細胞は、腫瘍抗原を標的とするT細胞受容体(TCR)を発現し得る。T細胞受容体は、α鎖及びβ鎖という2つの異なる膜貫通ポリペプチド鎖から構成されたヘテロ二量体であり、これらの鎖は各々、鎖をT細胞表面膜内に固定する定常領域と、MHCが提示する抗原を認識し結合する可変領域からなる。TCR複合体は、CD3γε及びCD3δεの2つのヘテロ二量体、ならびに1つのホモ二量体CD3ζを形成する6つのポリペプチドに関連しており、これらが一緒になってCD3複合体を形成している。T細胞受容体工学操作T細胞療法は、これらの複合体を保持するT細胞の改変を利用して、特定の腫瘍細胞によって発現される抗原を特異的に標的とする。
【0120】
いくつかの態様において、改変されたTCR工学操作細胞は、共通の腫瘍関連抗原(共通TAA)及びユニークな腫瘍関連抗原(ユニークTAA)、または腫瘍特異的抗原という主要なタイプを標的とし得る。前者には、限定するものではないが、がん精巣(CT)抗原、過剰発現抗原、及び分化抗原が含まれ得、後者には、限定するものではないが、新生抗原及びオンコウイルス抗原が含まれ得る。ヒトパピローマウイルス(HPV)E6タンパク質及びHPV E7タンパク質は、オンコウイルス抗原の分類に属する。
【0121】
いくつかの態様において、改変されたTCR工学操作細胞は、CT抗原、例えば、MAGE-A1、MAGE-A2、MAGE-A3、MAGE-A4、MAGE-A6、MAGE-A8、MAGE-A9.23、MAGE-A10、及びMAGE-A12を含むがこれらに限定されない黒色腫関連抗原(MAGE)を標的とし得る。いくつかの態様において、改変されたTCR工学操作細胞は、黒色腫及び正常なメラノサイトに主に見出される糖タンパク質(gp100)、T細胞により認識される黒色腫抗原(MART-1)、及び/またはチロシナーゼを標的とし得る。いくつかの態様において、改変されたTCR工学操作細胞は、ウィルムス腫瘍1(WT1)、すなわち、ほとんどの急性骨髄性白血病(AML)、急性リンパ性白血病、ほとんどすべての種類の固形腫瘍、及び数種の決定組織、例えば心臓組織で高発現する過剰発現抗原の1種を標的とし得る。いくつかの態様において、改変されたTCR工学操作細胞は、メソテリンを標的とし得、メソテリンは、中皮腫で高発現するが、気管を含む数種の組織の中皮細胞にも存在する別の種類の過剰発現抗原である。
【0122】
いくつかの態様において、改変されたTCR工学操作細胞は、個々の腫瘍に特異的なランダムな体細胞変異によって形成され得る任意の新生抗原を標的とし得る。
【0123】
いくつかの態様において、本開示の改変された免疫細胞、例えば、CAR T細胞もしくはNK細胞またはTCR工学操作T細胞は、腫瘍抗原のうちのいずれの1つを標的としてもよい。改変されたTCR工学操作細胞が標的とし得る抗原の非限定的な例は、CD2、CD3ε、CD4、CD5、CD7、CD19、TRAC、TCRβ、BCMA、CLL-1、CS1、CD38、APRILタンパク質の細胞外部分、TSHR、CD123、CD22、CD30、CD171、CD33、EGFRvIII、GD2、GD3、Tn Ag、PSMA、ROR1、ROR2、GPC1、GPC2、FLT3、FAP、TAG72、CD44v6、CEA、EPCAM、B7H3、KIT、IL-13Ra2、メソテリン、IL-llRa、PSCA、PRSS21、VEGFR2、LewisY、CD24、PDGFR-β、SSEA-4、CD20、葉酸受容体α、ERBB2(Her2/neu)、MUC1、EGFR、NCAM、プロスターゼ、PAP、ELF2M、エフリンB2、IGF-I受容体、CAIX、LMP2、gplOO、bcr-abl、チロシナーゼ、EphA2、フコシルGM1、sLe、GM3、TGS5、HMWMAA、o-アセチル-GD2、葉酸受容体β、TEM1/CD248、TEM7R、CLDN6、GPRC5D、CXORF61、CD97、CD179a、ALK、ポリシアル酸、PLAC1、GloboH、NY-BR-1、UPK2、HAVCR1、ADRB3、PANX3、GPR20、LY6K、OR51E2、TARP、WTl、NY-ESO-1、LAGE-la、MAGE-Al、レグマイン、HPV E6,E7、MAGE Al、ETV6-AML、精子タンパク質17、XAGE1、Tie 2、MAD-CT-1、MAD-CT-2、Fos関連抗原1、p53、p53変異体、プロステイン、サバイビン及びテロメラーゼ、PCTA-1/ガレクチン8、メランA/MARTl、Ras変異体、hTERT、肉腫転位限界点、ML-IAP、ERG(TMPRSS2 ETS融合遺伝子)、NA17、PAX3、アンドロゲン受容体、サイクリンBl、MYCN、RhoC、TRP-2、CYP1B1、BORIS、SART3、PAX5、OY-TES1、LCK、AKAP-4、SSX2、RAGE-1、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素、RU1、RU2、腸内カルボキシルエステラーゼ、mut hsp70-2、CD79a、CD79b、CD72、LAIR1、FCAR、LILRA2、CD300LF、CLEC12A、BST2、EMR2、LY75、GPC3、FCRL5、IGLL1、ならびにそれらの任意の組み合わせを含む。
【0124】
いくつかの態様において、CARまたはTCRを発現するように調製され得る細胞は、免疫細胞を含む。特定の態様において、免疫細胞は、リンパ球、好中球、単球、マクロファージ、樹状細胞、またはそれらの組み合わせを含む。いくつかの態様において、免疫細胞はリンパ球である。特定の態様において、リンパ球は、T細胞、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)、リンホカイン活性化キラー細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、またはそれらの組み合わせを含む。いくつかの態様において、CARを発現するように調製され得る免疫細胞は、T細胞(CAR T細胞)、例えば、CD8+T細胞またはCD4+T細胞である。特定の態様において、T細胞はナチュラルキラーT細胞(NKT細胞)である。さらなる態様では、免疫細胞はNK細胞(CAR NK細胞)である。
【0125】
いくつかの態様において、本明細書に開示されるCAR発現細胞はCAR T細胞である。特定の態様において、CAR T細胞はモノCAR T細胞である。さらなる態様では、CAR T細胞はゲノム編集されたCAR T細胞である。特定の態様において、CAR T細胞はデュアルCAR T細胞である。いくつかの態様において、CAR T細胞はタンデムCAR T細胞である。いくつかの態様において、本明細書に開示されるCAR発現細胞はCAR NKT細胞である。特定の態様において、CAR NKT細胞はモノCAR NKT細胞である。さらなる態様では、CAR NKT細胞はデュアルCAR NKT細胞である。いくつかの態様において、CAR NKT細胞はタンデムCAR NKT細胞である。かかるCAR T細胞及びCAR NKT細胞の例は、国際出願第PCT/US2019/044195号に提供されている。
【0126】
いくつかの態様において、本明細書に開示される遺伝子編集ツールは、遺伝子編集ツールをコードする核酸配列を含むベクターから発現される。特定の態様において、遺伝子編集ツールをコードする核酸配列と、CARまたはTCRをコードする核酸配列とは、別々のベクター上にある。さらなる態様では、遺伝子編集ツールをコードする核酸配列と、CARまたはTCRをコードする核酸配列とは、同じベクター上にある。
【0127】
本明細書に記載されるように、本明細書に開示される方法によって生成されたCAR発現細胞またはTCR発現細胞(すなわち、低下したレベルのNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質を発現するもの)は、改善した特性を呈し得る。例えば、特定の態様において、本明細書において生成されるCAR発現細胞またはTCR発現細胞は、参照細胞(例えば、比較的低いレベルのNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質を発現するように改変されていないCAR発現細胞またはTCR発現細胞)と比較して高いエフェクター活性を呈し得る。いくつかの態様において、本明細書に開示されるCAR発現細胞またはTCR発現細胞(すなわち、低下したレベルのNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質を発現するもの)は、同族抗原(例えば、腫瘍抗原)などの抗原で刺激されると、増大した量のIFN-γを産生する。いくつかの態様において、産生されるIFN-γの量は、参照細胞(例えば、比較的低いレベルのNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質を発現するように改変されていないCAR発現細胞またはTCR発現細胞)と比較して、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約100%、少なくとも約150%、少なくとも約200%、または少なくとも約300%以上増大する。
【0128】
いくつかの態様において、本開示のCAR発現細胞またはTCR発現細胞は、参照細胞(例えば、比較的低いレベルのNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質を発現するように改変されていないCAR発現細胞またはTCR発現細胞)と比較して増大した酸化ストレス耐性を呈する。特定の態様において、本明細書に記載されるCAR発現細胞またはTCR発現細胞は、高濃度の活性酸素種の存在下で増殖し得る。さらなる態様では、本明細書に開示されるCAR発現細胞またはTCR発現細胞は、高濃度の活性酸素種の存在下で細胞溶解性分子を発現し得る。特定の態様において、細胞溶解性分子はグランザイムBを含む。いくつかの態様において、本明細書に記載される方法によって生成されたCAR発現細胞またはTCR発現細胞は、高濃度の活性酸素種の存在下でサイトカイン(例えば、IFN-γ)を産生し得る。いくつかの態様において、活性酸素種は過酸化水素(H)を含む。
【0129】
IId.遺伝子編集ツール
本開示の細胞を改変するには、1以上の遺伝子編集ツールを使用することができる。遺伝子編集ツールの非限定的な例を下記に開示する。
【0130】
CRISPR/Casシステム
いくつかの態様において、本開示で使用することのできる遺伝子編集ツールは、CRISPR/Casシステムを含む。そのようなシステムは、例えば、Cas9ヌクレアーゼを用いることができ、これは場合により、それを発現させようとする所望の細胞型(例えば、T細胞、例えば、CAR発現T細胞)に合わせてコドン最適化されている。そのようなシステムは、2つの別個の分子を含むガイドRNA(gRNA)を用いることもできる。特定の態様において、2分子gRNAは、crRNA様(「CRISPR RNA」または「ターゲッターRNA」または「crRNA」または「crRNAリピート」)分子と、対応するtracrRNA様(「トランス作用性CRISPR RNA」または「活性化因子RNA」または「tracrRNA」または「スキャフォールド」)分子とを含む。
【0131】
crRNAは、gRNAのDNAターゲティングセグメント(一本鎖)と、gRNAのタンパク質結合セグメントの二本鎖RNA(dsRNA)二重鎖の半分を形成する一続きのヌクレオチドの両方を含む。対応するtracrRNA(活性化因子RNA)は、gRNAのタンパク質結合セグメントのdsRNA二重鎖の残りの半分を形成する一続きのヌクレオチドを含む。したがって、crRNAの一続きのヌクレオチドは、tracrRNAの一続きのヌクレオチドに相補的であり、これとハイブリダイズして、gRNAのタンパク質結合ドメインのdsRNA二重鎖を形成する。したがって、各crRNAに対応するtracrRNAがあるといえる。crRNAはさらに、一本鎖DNAターゲティングセグメントをもたらす。したがって、gRNAは、標的配列(例えば、Nrf2 mRNA)とハイブリダイズする配列、及びtracrRNAを含む。したがって、crRNA及びtracrRNAは(対応するペアとして)ハイブリダイズしてgRNAを形成する。細胞内での改変のために使用される場合、所与のcrRNAまたはtracrRNA分子の正確な配列及び/または長さは、RNA分子が使用される種(例えば、ヒト)に特異的であるように設計され得る。
【0132】
3つの要素(Cas9、tracrRNA、及びcrRNA)をコードする天然に存在する遺伝子は、典型的には、オペロン(複数可)として構築される。天然に存在するCRISPR RNAは、Cas9システム及び生物によって異なるが、多くの場合、21~46ヌクレオチドの長さの2つの直列反復配列(DR)が隣接する21~72ヌクレオチド長のターゲティングセグメントを含む(例えば、WO2014/131833を参照されたい)。S.pyogenesの場合、DRは36ヌクレオチド長であり、ターゲティングセグメントは30ヌクレオチド長である。3’に位置するDRは、対応するtracrRNAに相補的であり、対応するtracrRNAとハイブリダイズし、次いでCas9タンパク質に結合する。
【0133】
あるいは、本明細書で使用されるCRISPRシステムはさらに、コドン最適化されたCas9と共に機能する融合crRNA-tracrRNA構築物(すなわち、単一の転写物)を用いることができる。この1つのRNAはしばしば、ガイドRNAまたはgRNAと称される。gRNAの中で、crRNA部分は所与の認識部位の「標的配列」と識別され、tracrRNAは多くの場合「スキャフォールド」と称される。簡潔に述べると、標的配列を含む短いDNA断片が、ガイドRNA発現プラスミドに挿入される。gRNA発現プラスミドは、標的配列(いくつかの態様ではおおよそ20ヌクレオチド)、ある形態のtracrRNA配列(スキャフォールド)、ならびに細胞内で活性な好適なプロモーター、及び真核細胞内での適切なプロセシングに必要な要素を含む。これらのシステムの多くは、アニールして二本鎖DNAを形成し、次いでgRNA発現プラスミドにクローニングされる特別な相補的オリゴに依存する。
【0134】
次いで、gRNA発現カセット及びCas9発現カセットが細胞に導入される。例えば、Mali P et al.,(2013)Science 2013 Feb.15;339(6121):823-6、Jinek M et al.,Science 2012 Aug.17;337(6096):816-21、Hwang W Y et al.,Nat Biotechnol 2013 March;31(3):227-9、Jiang W et al.,Nat Biotechnol 2013 March;31(3):233-9、及びCong L et al.,Science 2013 Feb.15;339(6121):819-23を参照されたい。これらは各々、全体として参照により本明細書に組み込まれる。また、例えば、WO/2013/176772A1、WO/2014/065596A1、WO/2014/089290A1、WO/2014/093622A2、WO/2014/099750A2、及びWO/2013142578A1を参照されたい。これらは各々、全体として参照により本明細書に組み込まれる。
【0135】
いくつかの態様において、Cas9ヌクレアーゼは、タンパク質の形態で提供され得る。いくつかの態様において、Cas9タンパク質は、gRNAとの複合体の形態で提供され得る。他の態様において、Cas9ヌクレアーゼは、タンパク質をコードする核酸の形態で提供され得る。Cas9ヌクレアーゼをコードする核酸は、RNA(例えば、メッセンジャーRNA(mRNA))またはDNAであり得る。いくつかの態様において、gRNAは、RNAの形態で提供され得る。他の態様において、gRNAは、RNAをコードするDNAの形態で提供され得る。いくつかの態様において、gRNAは、別個のcrRNA及びtracrRNA分子、またはそれぞれcrRNA及びtracrRNAをコードする別個のDNA分子の形態で提供され得る。
【0136】
いくつかの態様において、gRNAは、Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats(CRISPR)RNA(crRNA)及びトランス活性化CRISPR RNA(tracrRNA)をコードする第3の核酸配列を含む。特定の態様において、Casタンパク質は、I型Casタンパク質である。さらなる態様では、Casタンパク質は、II型Casタンパク質である。特定の態様において、II型Casタンパク質は、Cas9である。いくつかの態様において、II型Cas、例えば、Cas9は、ヒトコドン最適化Casである。
【0137】
いくつかの態様において、Casタンパク質は、二本鎖DNA(dsDNA)の両鎖を切断することなく標的核酸配列内に一本鎖切断(すなわち「ニック」)を作ることができる「ニッカーゼ」である。例えばCas9は、反対のDNA鎖の切断を担う2つのヌクレアーゼドメイン(RuvC様ヌクレアーゼドメイン及びHNH様ヌクレアーゼドメイン)を含む。これらのドメインのいずれかに変異があるとニッカーゼが生じ得る。ニッカーゼを生じる変異の例は、例えば、WO/2013/176772A1及びWO/2013/142578A1に見出すことができ、これらは各々、参照により本明細書に組み込まれる。
【0138】
特定の態様において、dsDNAの各鎖の標的部位に特異的な2つの別個のCasタンパク質(例えば、ニッカーゼ)は、別の核酸または同じ核酸上の別個の領域上のオーバーハンギング配列に相補的なオーバーハンギング配列を作ることができる。dsDNAの両鎖上の標的部位に特異的な2つのニッカーゼと核酸を接触させることによって作られるオーバーハンギング末端は、5’または3’のいずれのオーバーハンギング末端であってもよい。例えば、第1のニッカーゼが、dsDNAの第1の鎖に一本鎖切断を作り、第2のニッカーゼが、dsDNAの第2の鎖に一本鎖切断を作ることにより、オーバーハンギング配列を作ることができる。一本鎖切断を作る各ニッカーゼの標的部位は、作られるオーバーハンギング末端配列が、異なる核酸分子上のオーバーハンギング末端配列に相補的となるように選択することができる。2つの異なる核酸分子の相補的なオーバーハンギング末端は、本明細書に開示される方法によってアニールすることができる。いくつかの態様において、第1の鎖上のニッカーゼの標的部位は、第2の鎖上のニッカーゼの標的部位とは異なる。
【0139】
TALEN
いくつかの態様において、NFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質の発現を編集する(例えば、低減または阻害する)ために使用することのできる遺伝子編集ツールは、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)などのヌクレアーゼ剤である。TALエフェクターヌクレアーゼは、原核生物または真核生物のゲノムの特定の標的配列において二本鎖切断を行うために使用することができる配列特異的ヌクレアーゼのクラスである。TALエフェクターヌクレアーゼは、例えば、FokIなどのエンドヌクレアーゼの触媒ドメインに、ネイティブ型もしくは工学操作型の転写活性化因子様(TAL)エフェクター、またはその機能性部分を融合することによって作られる。
【0140】
ユニークなモジュラー型TALエフェクターDNA結合ドメインにより、潜在的に任意のDNA認識特異性を有するタンパク質の設計が可能になる。したがって、TALエフェクターヌクレアーゼのDNA結合ドメインを、特定のDNA標的部位を認識するように工学操作し、したがって、所望の標的配列において二本鎖切断を行うために使用することができる。WO2010/079430、Morbitzer et al.,(2010)PNAS 10.1073/pnas.1013133107、Scholze&Boch(2010)Virulence 1:428-432、Christian et al.,Genetics(2010)186:757-761、Li et al.,(2010)Nuc.Acids Res.(2010)doi:10.1093/nar/gkq704、及びMiller et al.,(2011)Nature Biotechnology 29:143-148を参照されたい。これらはすべて、全体として参照により本明細書に組み込まれる。
【0141】
好適なTALヌクレアーゼ、及び好適なTALヌクレアーゼを調製する方法の非限定的な例は、例えば、米国特許出願第2011/0239315号A1、同第2011/0269234号A1、同第2011/0145940号A1、同第2003/0232410号A1、同第2005/0208489号A1、同第2005/0026157号A1、同第2005/0064474号A1、同第2006/0188987号A1、及び同第2006/0063231号A1(各々参照により本明細書に組み込まれる)に開示されている。
【0142】
様々な態様において、例えば、目的のゲノム遺伝子座にある標的核酸配列またはその近くを切断するTALエフェクターヌクレアーゼが工学操作され、ここで標的核酸配列は、ターゲティングベクターによって改変しようとする配列またはその近くにある。本明細書に提供される様々な方法及び組成物で使用するのに好適なTALヌクレアーゼとしては、本明細書に記載されるターゲティングベクターによって改変しようとする標的核酸配列またはその近くに結合するように特別に設計されたものが挙げられる。
【0143】
いくつかの態様において、TALENの各単量体は、12~25個のTALリピートを含み、各TALリピートは、1bpサブサイトに結合する。特定の態様において、ヌクレアーゼ剤は、独立したヌクレアーゼに作動可能に連結したTALリピートベースのDNA結合ドメインを含むキメラタンパク質である。さらなる態様では、独立したヌクレアーゼはFokIエンドヌクレアーゼである。いくつかの態様において、ヌクレアーゼ剤は、第1のTALリピートベースのDNA結合ドメイン及び第2のTALリピートベースのDNA結合ドメインを含み、第1及び第2のTALリピートベースのDNA結合ドメインの各々は、FokIヌクレアーゼに作動可能に連結しており、第1及び第2のTALリピートベースのDNA結合ドメインは、約6bp~約40bpの切断部位によって分離された標的DNA配列の各鎖中の2つの隣接する標的DNA配列を認識し、FokIヌクレアーゼは二量体化し、標的配列において二本鎖切断を行う。
【0144】
いくつかの態様において、ヌクレアーゼ剤は、第1のTALリピートベースのDNA結合ドメイン及び第2のTALリピートベースのDNA結合ドメインを含み、第1及び第2のTALリピートベースのDNA結合ドメインの各々は、FokIヌクレアーゼに作動可能に連結しており、第1及び第2のTALリピートベースのDNA結合ドメインは、5bpまたは6bpの切断部位によって分離された標的DNA配列の各鎖中の2つの隣接する標的DNA配列を認識し、FokIヌクレアーゼは二量体化し、二本鎖切断を行う。
【0145】
ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)
いくつかの態様において、本開示において有用な遺伝子編集ツールは、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)システムなどのヌクレアーゼ剤を含む。ジンクフィンガーベースのシステムは、ジンクフィンガーDNA結合ドメインと酵素ドメインという2つのタンパク質ドメインを含む融合タンパク質を含む。「ジンクフィンガーDNA結合ドメイン」、「ジンクフィンガータンパク質」、または「ZFP」は、亜鉛イオンの配位によって構造が安定化される結合ドメイン内のアミノ酸配列の領域である1以上のジンクフィンガーを介して配列特異的な様式でDNAに結合するタンパク質またはより大きなタンパク質内のドメインである。ジンクフィンガードメインは、標的DNA配列(例えば、NFE2L2)に結合することにより、酵素ドメインの活性を配列の近傍に指向し、したがって、標的配列近傍の内因性標的遺伝子の改変を誘導する。ジンクフィンガードメインは、実質的にすべての所望の配列に結合するように工学操作することができる。本明細書に開示されるように、いくつかの態様において、ジンクフィンガードメインは、Nrf2タンパク質をコードするDNA配列に結合する。したがって、切断または組換えが所望される標的DNA配列を含む標的遺伝子座(例えば、表1に挙げた標的遺伝子中の標的遺伝子座)を同定した後、1以上のジンクフィンガー結合ドメインを、標的遺伝子座内の1以上の標的DNA配列に結合するように工学操作することができる。ジンクフィンガー結合ドメイン及び酵素ドメインを含む融合タンパク質を細胞で発現させると、標的遺伝子座の改変がもたらされる。
【0146】
いくつかの態様において、ジンクフィンガー結合ドメインは、1以上のジンクフィンガーを含む。Miller et al.,(1985)EMBO J.4:1609-1614、Rhodes(1993)Scientific American February:56-65、米国特許第6,453,242号。典型的には、1つのジンクフィンガードメインは約30アミノ酸長である。個々のジンクフィンガーは、3ヌクレオチド(すなわちトリプレット)配列(または隣接するジンクフィンガーの4ヌクレオチド結合部位と1つのヌクレオチドが重複してもよい4ヌクレオチド配列)に結合する。したがって、ジンクフィンガー結合ドメインが結合するように工学操作される配列(例えば、標的配列)の長さが、工学操作されたジンクフィンガー結合ドメインにおけるジンクフィンガーの数を決定する。例えば、重複するサブサイトにフィンガーモチーフが結合しないZFPでは、6ヌクレオチド標的配列には2フィンガー結合ドメインが結合し、9ヌクレオチド標的配列には3フィンガー結合ドメインが結合する、などということである。標的部位における個々のジンクフィンガーの結合部位(すなわち、サブサイト)は、隣接している必要はなく、複数フィンガー結合ドメインにおけるジンクフィンガー間のアミノ酸配列(すなわち、フィンガー間リンカー)の長さ及び性質に応じて、1つまたは数個のヌクレオチドによって分離していてもよい。いくつかの態様において、個々のZFNのDNA結合ドメインは、3~6個の個々のジンクフィンガーリピートを含み、各々が9~18個の塩基対を認識し得る。
【0147】
ジンクフィンガー結合ドメインは、最適な配列に結合するように工学操作することができる。例えば、Beerli et al.,(2002)Nature Biotechnol.20:135-141、Pabo et al.,(2001)Ann.Rev.Biochem.70:313-340、Isalan et al.,(2001)Nature Biotechnol.19:656-660、Segal et al.,(2001)Curr.Opin.Biotechnol.12:632-637、Choo et al.,(2000)Curr.Opin.Struct.Biol.10:411-416を参照されたい。工学操作されたジンクフィンガー結合ドメインは、天然に存在するジンクフィンガータンパク質と比較して、新規の結合特異性を有し得る。工学操作方法としては、合理的設計及び様々な種類の選択が挙げられるが、これらに限定されない。
【0148】
ジンクフィンガードメインが結合する標的DNA配列の選択は、例えば、米国特許第6,453,242号に開示されている方法に従って行うことができる。当業者には、ヌクレオチド配列の単純な目視検査を標的DNA配列の選択に使用してもよいことが明らかであろう。したがって、本明細書に記載される方法では、任意の手段を標的DNA配列の選択に使用することができる。標的部位は通常少なくとも9ヌクレオチド長を有し、したがって、少なくとも3つのジンクフィンガーを含むジンクフィンガー結合ドメインが結合する。しかしながら、例えば、4フィンガー結合ドメインの12ヌクレオチド標的部位への結合、5フィンガー結合ドメインの15ヌクレオチド標的部位への結合、または6フィンガー結合ドメインの18ヌクレオチド標的部位への結合も可能である。明らかであるように、より大きな結合ドメイン(例えば、7フィンガー、8フィンガー、9フィンガー及びそれ以上)の、より長い標的部位への結合も可能である。
【0149】
ジンクフィンガー融合タンパク質の酵素ドメイン部分は、任意のエンドヌクレアーゼまたはエキソヌクレアーゼから得ることができる。酵素ドメインが由来し得る例示的なエンドヌクレアーゼには、制限エンドヌクレアーゼ及びホーミングエンドヌクレアーゼが含まれるが、これらに限定されない。例えば、2002-2003 Catalogue,New England Biolabs,Beverly,Mass.、及びBelfort et al.,(1997)Nucleic Acids Res.25:3379-3388を参照されたい。DNAを切断するさらなる酵素が知られている(例えば、51ヌクレアーゼ、マングビーンヌクレアーゼ、膵臓DNaseI、ミクロコッカスヌクレアーゼ、酵母HOエンドヌクレアーゼ;Linn et al.,(eds.)Nucleases,Cold Spring Harbor Laboratory Press,1993も参照されたい)。これらの酵素(またはそれらの機能的断片)のうちの1以上を切断ドメイン源として使用することができる。
【0150】
本明細書に記載されるZFPの酵素ドメインとして使用するのに好適な例示的な制限エンドヌクレアーゼ(制限酵素)は、多くの種に存在し、DNAに(認識部位で)配列特異的に結合し、かつ結合部位またはその近くでDNAを切断することができる。特定の制限酵素(例えば、IIS型)は、認識部位から除去された部位でDNAを切断し、分離可能な結合ドメイン及び切断ドメインを有する。例えば、IIS型酵素FokIは、一方の鎖上のその認識部位から9個目のヌクレオチド、かつ他方の鎖上のその認識部位から13個目のヌクレオチドで、DNAの二本鎖切断を触媒する。例えば、米国特許第5,356,802号、同第5,436,150号、及び同第5,487,994号、ならびにLi et al.,(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:4275-4279、Li et al.,(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:2764-2768、Kim et al.,(1994a)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91:883-887、Kim et al.,(1994b)J.Biol.Chem.269:31,978-31,982を参照されたい。したがって、いくつかの態様において、融合タンパク質は、少なくとも1つのIIS型制限酵素の酵素ドメイン、及び1以上のジンクフィンガー結合ドメインを含む。
【0151】
切断ドメインが結合ドメインから分離可能である例示的なIIS型制限酵素は、FokIである。この特定の酵素は、二量体として活性である。Bitinaite et al.,(1998)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 95:10,570-10,575。したがって、ジンクフィンガー-FokI融合物を使用して標的化された二本鎖DNA切断を行うには、各々がFokI酵素ドメインを含む2つの融合タンパク質を使用して、触媒活性のある切断ドメインを再構成することができる。あるいは、ジンクフィンガー結合ドメイン及び2つのFokI酵素ドメインを含む1つのポリペプチド分子を使用してもよい。FokI酵素ドメインを含む例示的なZFPは、米国特許第9,782,437号に記載されている。
【0152】
メガヌクレアーゼ
いくつかの態様において、細胞におけるNrf2発現を制御するために使用することのできる遺伝子編集ツールは、メガヌクレアーゼシステムなどのヌクレアーゼ剤を含む。メガヌクレアーゼは、保存的配列モチーフに基づいて4つのファミリーに分類されており、このファミリーは「LAGLIDADG」、「GIY-YIG」、「H-N-H」、及び「His-Cysボックス」の各ファミリーである。これらのモチーフは、金属イオンの配位及びホスホジエステル結合の加水分解に関与する。
【0153】
HEアーゼは、認識部位が長く、DNA基質におけるいくつかの配列多型を許容することが注目に値する。メガヌクレアーゼのドメイン、構造、及び機能は公知である。例えば、Guhan and Muniyappa(2003)Crit Rev Biochem Mol Biol 38:199-248、Lucas et al.,(2001)Nucleic Acids Res 29:960-9、Jurica and Stoddard,(1999)Cell Mol Life Sci 55:1304-26、Stoddard,(2006)Q Rev Biophys 38:49-95、及びMoure et al.,(2002)Nat Struct Biol 9:764を参照されたい。
【0154】
いくつかの例では、天然に存在するバリアント、及び/または工学操作された誘導体メガヌクレアーゼが使用される。動態、補因子相互作用、発現、最適条件、及び/または認識部位特異性を改変する方法、ならびに活性のスクリーニングは公知である。例えば、Epinat et al.,(2003)Nucleic Acids Res 31:2952-62、Chevalier et al.,(2002)Mol Cell 10:895-905、Gimble et al.,(2003)Mol Biol 334:993-1008、Seligman et al.,(2002)Nucleic Acids Res 30:3870-9、Sussman et al.,(2004)J Mol Biol 342:31-41、Rosen et al.,(2006)Nucleic Acids Res 34:4791-800、Chames et al.,(2005)Nucleic Acids Res 33:e178、Smith et al.,(2006)Nucleic Acids Res 34:e149、Gruen et al.,(2002)Nucleic Acids Res 30:e29、Chen and Zhao,(2005)Nucleic Acids Res 33:e154、WO2005105989、WO2003078619、WO2006097854、WO2006097853、WO2006097784、及びWO2004031346を参照されたい。これらは各々、全体として参照により本明細書に組み込まれる。
【0155】
本明細書では、限定するものではないが、I-SceI、I-SceII、I-SceIII、I-SceIV、I-SceV、I-SecVI、I-SceVII、I-CeuI、I-CeuAIIP、I-CreI、I-CrepsbIP、I-CrepsbIIP、I-CrepsbIIIP、I-CrepsbIVP、I-TliI、I-PpoI、PI-PspI、F-SceI、F-SceII、F-SuvI、F-TevI、F-TevII、I-AmaI、I-AniI、I-ChuI、I-CmoeI、I-CpaI、I-CpaII、I-CsmI、I-CvuI、I-CvuAIP、I-DdiI、I-DdiII、I-DirI、I-DmoI、I-HmuI、I-HmuII、I-HsNIP、I-LlaI、I-MsoI、I-NaaI、I-NanI、I-NcIIP、I-NgrIP、I-NitI、I-NjaI、I-Nsp236IP、I-PakI、I-PboIP、I-PcuIP、I-PcuAI、I-PcuVI、I-PgrIP、I-PobIP、I-PorIIP、I-PbpIP、I-SpBetaIP、I-ScaI、I-SexIP、I-SneIP、I-SpomI、I-SpomCP、I-SpomIP、I-SpomIIP、I-SquIP、I-Ssp6803I、I-SthPhiJP、I-SthPhiST3P、I-SthPhiSTe3bP、I-TdeIP、I-TevI、I-TevII、I-TevIII、I-UarAP、I-UarHGPAIP、I-UarHGPA13P、I-VinIP、I-ZbiIP、PI-MtuI、PI-MtuHIP、PI-MtuHIIP、PI-PfuI、PI-PfuII、PI-PkoI、PI-PkoII、PI-Rma43812IP、PI-SpBetaIP、PI-SceI、PI-TfuI、PI-TfuII、PI-ThyI、PI-TliI、PI-TliII、またはそれらの任意の活性バリアントもしくは断片を含め、任意のメガヌクレアーゼを使用することができる。
【0156】
いくつかの態様において、メガヌクレアーゼは、12~40塩基対の二本鎖DNA配列を認識する。いくつかの態様において、メガヌクレアーゼは、ゲノム内の1つの完全にマッチする標的配列を認識する。いくつかの態様において、メガヌクレアーゼは、ホーミングヌクレアーゼである。いくつかの態様において、ホーミングヌクレアーゼは、「LAGLIDADG」ファミリーのホーミングヌクレアーゼである。いくつかの態様において、「LAGLIDADG」ファミリーのホーミングヌクレアーゼは、I-SceI、I-CreI、I-Dmol、またはそれらの組み合わせから選択される。
【0157】
制限エンドヌクレアーゼ
いくつかの態様において、本開示において有用な遺伝子編集ツールには、I型、II型、III型、及びIV型のエンドヌクレアーゼを含め、制限エンドヌクレアーゼなどのヌクレアーゼ剤が含まれる。I型及びIII型の制限エンドヌクレアーゼは、特定の認識部位を認識するが、通常、ヌクレアーゼ結合部位からの様々な位置で切断し、これは、結合部位(認識部位)から数百塩基対離れている場合がある。II型システムでは、制限活性はメチラーゼ活性とは無関係であり、通常、切断は結合部位内またはその近くの特定の部位で生じる。ほとんどのII型酵素はパリンドローム配列を切断するが、IIa型酵素は非パリンドローム認識部位を認識し、認識部位の外側を切断し、IIb型酵素は、認識部位の外側の両方の部位で二重に配列を切断し、IIs型酵素は、非対称の認識部位を認識し、認識部位から約1~20ヌクレオチドの定義された距離で一方の側で切断する。IV型制限酵素は、メチル化DNAを標的とする。制限酵素は、例えばREBASEデータベース(ウェブページはrebase.neb.com;Roberts et al.,(2003)Nucleic Acids Res 31:418-20)、Roberts et al.,(2003)Nucleic Acids Res 31:1805-12、及びBelfort et al.,(2002)in Mobile DNA II,pp.761-783,Eds.Craigie et al.,(ASM Press,Washington,D.C.)において、さらに記載及び分類されている。
【0158】
本明細書に記載されるように、いくつかの態様において、遺伝子編集ツール(例えば、CRISPR、TALEN、メガヌクレアーゼ、制限エンドヌクレアーゼ、RNAi、アンチセンスオリゴヌクレオチド)は、当該技術分野で公知の任意の手段によって細胞に導入することができる。特定の態様において、特定の遺伝子編集ツールをコードするポリペプチドを細胞に直接導入してもよい。あるいは、遺伝子編集ツールをコードするポリヌクレオチドを細胞に導入してもよい。いくつかの態様において、遺伝子編集ツールをコードするポリヌクレオチドを細胞に導入するとき、遺伝子編集ツールは、細胞内で一過性に、条件的に、または構成的に発現させてもよい。したがって、遺伝子編集ツールをコードするポリヌクレオチドは、発現カセットに含まれ、条件的プロモーター、誘導性プロモーター、構成的プロモーター、または組織特異的プロモーターに作動可能に連結していてもよい。あるいは、遺伝子編集ツールは、遺伝子編集ツールをコードする、または遺伝子編集ツールを含むmRNAとして、細胞に導入される。
【0159】
RNAi
いくつかの態様において、細胞におけるNrf2の発現を低減させるために使用することのできる遺伝子編集ツールは、RNA干渉分子(「RNAi」)を含む。本明細書で使用する場合、RNAiは、内因性遺伝子サイレンシング経路による標的mRNAの分解によって内因性標的遺伝子産物の発現減少を媒介するRNAポリヌクレオチド(例えば、ダイサー及びRNA誘導性サイレンシング複合体(RISC))である。RNAi剤の非限定的な例としては、マイクロRNA(本明細書では「miRNA」ともいう)、低分子ヘアピンRNA(shRNA)、低分子干渉RNA(siRNA)、RNAアプタマー、またはそれらの組み合わせが挙げられる。
【0160】
いくつかの態様において、本開示において有用な遺伝子編集ツールは、1以上のmiRNAを含む。「miRNA」とは、約21~25ヌクレオチド長の天然に存在する小さな非コードRNA分子を意味する。いくつかの態様において、本開示において有用なmiRNAは、Nrf2 mRNA分子に少なくとも部分的に相補的である。miRNAは、翻訳抑制、mRNAの切断、及び/または脱アデニル化によって、内因性標的遺伝子産物(すなわち、Nrf2タンパク質)の発現を下方制御する(例えば減少させる)ことができる。
【0161】
いくつかの態様において、本開示で使用することのできる遺伝子編集ツールは、1以上のshRNAを含む。「shRNA」(または「低分子ヘアピンRNA」分子)とは、二本鎖領域及びループ領域を一端に含みヘアピンループを形成するRNA配列を意味し、これを使用して、遺伝子発現を低減させる及び/またはサイレンシングすることができる。二本鎖領域は通常、ステムの各側で約19ヌクレオチド~約29ヌクレオチド長であり、ループ領域は通常、約3~約10ヌクレオチド長である(3’末端または5’末端の一本鎖オーバーハンギングヌクレオチドは任意選択による)。shRNAをプラスミドまたは非複製的組換えウイルスベクターにクローニングして細胞内に導入すると、shRNAコード配列をゲノムに組み込むことができる。したがって、shRNAは、内因性標的遺伝子(すなわち、Nrf2)翻訳及び発現の安定かつ一貫した抑制をもたらし得る。
【0162】
いくつかの態様において、本明細書に開示される遺伝子編集ツールは、1以上のsiRNAを含む。「siRNA」とは、通常約21~23ヌクレオチド長の二本鎖RNA分子を意味する。siRNAは、RNA誘導性サイレンシング複合体(RISC)と呼ばれる多タンパク質複合体と会合し、その間に「パッセンジャー」センス鎖が酵素的に切断される。次いで、活性化されたRISCに含まれるアンチセンス「ガイド」鎖が配列相同性のためにRISCを対応するmRNAに誘導し、同じヌクレアーゼが標的mRNA(すなわち、Nrf2 mRNA)を切断して、特異的な遺伝子サイレンシングが生じる。特定の態様において、siRNAは、18、19、20、21、22、23または24ヌクレオチド長であり、2塩基のオーバーハングをその3’末端に有する。siRNAは、個々の細胞及び/または培養系に導入して標的mRNA配列(すなわち、Nrf2 mRNA)を分解させることができる。siRNA及びshRNAは、各々が全体として参照により本明細書に組み込まれるFire et al.,Nature 391:19,1998ならびに米国特許第7,732,417号、同第8,202,846号、及び同第8,383,599号にさらに記載されている。
【0163】
アンチセンスオリゴヌクレオチド
いくつかの態様において、細胞におけるNrf2の発現を低減させるために使用することのできる遺伝子編集ツールは、アンチセンスオリゴヌクレオチドを含む。本明細書で使用する場合、「アンチセンスオリゴヌクレオチド」または「ASO」とは、標的核酸と、特に標的核酸上の連続配列とハイブリダイズすることにより、標的遺伝子(すなわち、Nrf2)の発現を調節することができるオリゴヌクレオチドを意味する。アンチセンスオリゴヌクレオチドは本質的に二本鎖ではなく、したがってsiRNAまたはshRNAではない。
【0164】
いくつかの態様において、本開示において有用なASOは一本鎖である。本開示の一本鎖オリゴヌクレオチドは、自己内または自己間の相補性の度合いがオリゴヌクレオチドの全長にわたっておよそ50%未満である限り、ヘアピンまたは分子間二重鎖構造(同じオリゴヌクレオチドの2つの分子間の二重鎖)を形成することができると理解される。いくつかの態様において、本開示において有用なASOは、2’糖修飾ヌクレオシドなどの修飾されたヌクレオシドまたはヌクレオチドを1以上含み得る。ASOに行うことのできる追加の修飾(例えば、Nrf2発現を阻害または低減させるために使用することのできるもの)は、例えば、米国公開第2019/0275148号A1に提示されている。
【0165】
いくつかの態様において、ASOがヌクレアーゼ、例えば、RNアーゼH1などのRNアーゼHを動員することができる場合、ASOは、Nrf2転写物(例えば、mRNA)のヌクレアーゼによる分解を介して、Nrf2タンパク質の発現を低減させることができる。RNアーゼHは、RNA/DNA二重鎖のRNA鎖を加水分解する遍在性酵素である。したがって、特定の態様において、標的配列(例えば、Nrf2 mRNA)に結合すると、ASOはNrf2 mRNAの分解を誘導し、それによってNrf2タンパク質の発現を低減させることができる。
【0166】
いくつかの態様において、ASOは、1以上のモルホリノを含む。本明細書で使用される「モルホリノ」とは、標準的な核酸塩基がモルホリン環に結合し、ホスホロジアミデート結合を介して連結している、改変された核酸オリゴマーを意味する。siRNA及びshRNAと同様に、モルホリノは相補的mRNA配列に結合する。しかしながら、モルホリノは、相補的mRNA配列を標的として分解させるのではなく、mRNA翻訳の立体阻害及びmRNAスプライシングの変化によって機能する。
【0167】
本明細書に開示されるように、遺伝子編集ツールの上記の例は限定を意図するものではなく、当該技術分野で利用可能な任意の遺伝子編集ツールを使用して、NFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質の発現を低減または阻害することができる。
【0168】
III.核酸及びベクター
本明細書に記載されるさらなる態様は、細胞におけるNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質の発現を低減させる遺伝子編集ツールを含む、及び/または本開示の改変細胞で発現され得るキメラ抗原受容体もしくはT細胞受容体をコードする、1以上の核酸分子に関する。核酸は、全細胞に、細胞溶解物に、または部分的に精製された形態もしくは実質的に純粋な形態で存在し得る。核酸は、他の細胞成分または他の夾雑物、例えば、他の細胞核酸(例えば、他の染色体DNA、例えば、天然に単離DNAに連結している染色体DNA)またはタンパク質から、アルカリ/SDS処理、CsClバンディング、カラムクロマトグラフィー、制限酵素、アガロースゲル電気泳動、及び当該技術分野で周知の他の技術を含む標準的技術によって精製されている場合、「単離されている」または「実質的に純粋になっている」。F.Ausubel,et al.,ed.(1987)Current Protocols in Molecular Biology,Greene Publishing and Wiley Interscience,New Yorkを参照されたい。本明細書に記載される核酸は、例えば、DNAまたはRNAであってもよく、イントロン配列を含んでも含まなくてもよい。特定の態様において、核酸はcDNA分子である。本明細書に記載される核酸は、当該技術分野で公知の標準的な分子生物学技術を使用して得ることができる。
【0169】
いくつかの態様において、本開示は、細胞におけるNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質の発現を低減させる遺伝子編集ツールを含む、及び/または本開示の改変細胞で発現され得るキメラ抗原受容体もしくはT細胞受容体をコードする、単離された核酸分子を含む、ベクターを提供する。本明細書に記載されるように、かかるベクターは、低下したレベルのNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質を発現するように細胞(例えば、CAR発現細胞)を改変するために使用することができ、かかる改変細胞は、がんなどの疾患または障害を治療するために使用することができる。
【0170】
本開示で好適なベクターには、発現ベクター、ウイルスベクター、及びプラスミドベクターが含まれる。いくつかの態様において、ベクターは、ウイルスベクターである。
【0171】
本明細書で使用する場合、発現ベクターとは、適切な宿主細胞に導入したときに、挿入されるコード配列の転写及び翻訳のために必要な要素、またはRNAウイルスベクターの場合には、複製及び翻訳に必要な要素を含む、任意の核酸構築物を意味する。発現ベクターは、プラスミド、ファージミド、ウイルス、及びそれらの誘導体を含み得る。
【0172】
本明細書で使用する場合、ウイルスベクターは、限定するものではないが、次のウイルス:モロニーマウス白血病ウイルス、ハーベイマウス肉腫ウイルス、マウス乳房腫瘍ウイルス、及びラウス肉腫ウイルスなどのレトロウイルス;レンチウイルス;アデノウイルス;アデノ随伴ウイルス;SV40型ウイルス;ポリオーマウイルス;エプスタイン・バーウイルス;パピローマウイルス;ヘルペスウイルス;ワクシニアウイルス;ポリオウイルス;ならびにレトロウイルスなどのRNAウイルスに由来する核酸配列を含む。当該技術分野で周知の他のベクターも容易に用いることができる。特定のウイルスベクターは、非必須遺伝子が目的の遺伝子に置き換えられている非細胞変性真核生物ウイルスに基づく。非細胞変性ウイルスにはレトロウイルスが含まれ、レトロウイルスのライフサイクルは、ゲノムウイルスRNAのDNAへの逆転写を含み、その後、宿主細胞DNAにプロウイルスが組込まれる。
【0173】
いくつかの態様において、ベクターはアデノ随伴ウイルスに由来する。他の態様において、ベクターはレンチウイルスに由来する。レンチウイルスベクターの例は、WO9931251、WO9712622、WO9817815、WO9817816、及びWO9818934に開示されており、これらは各々、全体として参照により本明細書に組み込まれる。
【0174】
他のベクターにはプラスミドベクターが含まれる。プラスミドベクターは当該技術分野で広く報告されており、当業者に周知である。例えば、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Second Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989を参照されたい。過去数年間において、プラスミドベクターは、宿主ゲノム内で複製して宿主ゲノム内に組み込まれることがないため、in vivoで遺伝子を細胞に送達するのに特に有利であることが見出されている。しかしながら、宿主細胞に適合するプロモーターを有するこれらのプラスミドは、プラスミド内で作動可能にコードされた遺伝子からペプチドを発現することができる。商業的供給者から入手可能ないくつかの一般的に使用されているプラスミドには、pBR322、pUC18、pUC19、様々なpcDNAプラスミド、pRC/CMV、様々なpCMVプラスミド、pSV40、及びpBlueScriptが含まれる。特定のプラスミドのさらなる例としては、pcDNA3.1、カタログ番号V79020;pcDNA3.1/hygro、カタログ番号V87020;pcDNA4/myc-His、カタログ番号V86320;及びpBudCE4.1、カタログ番号V53220が挙げられ、これらはすべてInvitrogen(Carlsbad,CA.)によるものである。他のプラスミドも当業者には周知である。さらに、プラスミドは、特定のDNA断片を除去及び/または付加するように、標準的な分子生物学技術を使用してカスタム設計することができる。
【0175】
IV.医薬組成物
本明細書では、低下したレベルのNFE2L2遺伝子及び/またはNrf2タンパク質を発現するように改変されている細胞(例えば、本明細書に記載される細胞など)、及び薬学的に許容できる担体、賦形剤、または安定剤を含む組成物がさらに提供される。本明細書に記載されるように、かかる医薬組成物は、がんを防止及び/または治療するために使用され得る。本明細書に記載されるように、いくつかの態様において、本明細書に開示される医薬組成物に存在する改変細胞は、T細胞(例えば、CARまたはTCRを発現するT細胞)またはNK細胞(例えば、CARまたはTCRを発現するNK細胞)などの免疫細胞である。
【0176】
許容できる担体、賦形剤、または安定剤は、用いられる投与量及び濃度でレシピエントに対して無毒であり、リン酸、クエン酸、及び他の有機酸などのバッファー;アスコルビン酸及びメチオニンを含む抗酸化剤;防腐剤(オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド;ヘキサメトニウムクロリド;ベンザルコニウムクロリド、ベンゼトニウムクロリド;フェノールアルコール、ブチルアルコール、もしくはベンジルアルコール;メチルパラベンもしくはプロピルパラベンなどのアルキルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;及びm-クレゾールなど);低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、もしくは免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、もしくはリジンなどのアミノ酸;単糖、二糖、及び他の炭水化物、例えばグルコース、マンノース、もしくはデキストリン;EDTAなどのキレート剤;スクロース、マンニトール、トレハロースもしくはソルビトールなどの糖;ナトリウムなどの塩形成対イオン;金属錯体(例えば、Zn-タンパク質錯体);及び/または非イオン性界面活性剤、例えばTWEEN(登録商標)、PLURONICS(登録商標)もしくはポリエチレングリコール(PEG)を含む。
【0177】
医薬組成物は、対象に対するあらゆる投与経路用に配合され得る。投与経路の特定例としては、筋肉内、皮下、点眼、静脈内、腹腔内、皮内、眼窩内、脳内、頭蓋内、脊髄内、心室内、髄腔内、大槽内、嚢内、または腫瘍内が挙げられる。皮下、筋肉内、または静脈内のいずれかの注射を特徴とする非経口投与も、本明細書では想定される。注射物は、液体の溶液もしくは懸濁液、注射前に液体中の溶液もしくは懸濁液に好適な固体形態、またはエマルジョンのいずれかとして、従来の形態で調製され得る。注射物、溶液、及びエマルジョンはまた、1以上の賦形剤を含む。好適な賦形剤は、例えば、水、食塩水、デキストロース、グリセロール、またはエタノールである。さらに、所望の場合、投与される医薬組成物は、微量の非毒性補助物質、例えば、湿潤剤または乳化剤、pH緩衝剤、安定剤、溶解度向上剤、及び他のかかる薬剤、例えば、酢酸ナトリウム、モノラウリン酸ソルビタン、オレイン酸トリエタノールアミン、及びシクロデキストリンなどを含んでもよい。
【0178】
非経口調製物で使用される薬学的に許容できる担体には、水性ビヒクル、非水性ビヒクル、抗微生物剤、等張剤、バッファー、抗酸化剤、局所麻酔剤、懸濁剤及び分散剤、乳化剤、封鎖剤またはキレート剤、ならびに他の薬学的に許容できる物質が含まれる。水性ビヒクルの例には、塩化ナトリウム注射液、リンゲル注射液、等張デキストロース注射液、滅菌水注射液、デキストロース、及び乳酸加リンゲル注射液が含まれる。非水性非経口ビヒクルとしては、植物由来の固定油、綿実油、トウモロコシ油、ゴマ油、及びピーナッツ油が挙げられる。フェノールまたはクレゾール、水銀剤、ベンジルアルコール、クロロブタノール、メチル及びプロピルp-ヒドロキシ安息香酸エステル、チメロサール、ベンザルコニウムクロリド、及びベンゼトニウムクロリドを含む複数用量容器に包装される非経口調製物に、静菌性または静真菌性の濃度の抗微生物剤を加えてもよい。等張剤は、塩化ナトリウム及びデキストロースを含む。バッファーは、リン酸塩及びクエン酸塩を含む。抗酸化剤は、重硫酸ナトリウムを含む。局所麻酔剤は、塩酸プロカインを含む。懸濁剤及び分散剤は、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及びポリビニルピロリドンを含む。乳化剤は、ポリソルベート80(TWEEN(登録商標)80)を含む。金属イオンの封鎖剤またはキレート剤は、EDTAを含む。薬学的担体は、水混和性ビヒクル用のエチルアルコール、ポリエチレングリコール、及びプロピレングリコール、ならびにpH調整用の水酸化ナトリウム、塩酸、クエン酸、または乳酸も含む。
【0179】
非経口投与用の調製物は、そのまま注射できる無菌溶液、使用直前に溶媒と組み合わされる無菌の乾燥した可溶性製品、例えば凍結乾燥粉末を含み、皮下錠剤、そのまま注射できる無菌懸濁液、使用直前にビヒクルと組み合わされる無菌の乾燥した不溶性製品、及び無菌エマルジョンを含む。溶液は、水性または非水性のいずれであってもよい。
【0180】
静脈内投与される場合、好適な担体には、生理食塩水またはリン酸緩衝食塩水(PBS)、ならびに増粘剤及び可溶化剤(グルコース、ポリエチレングリコール、及びポリプロピレングリコール、ならびにこれらの混合物など)を含む溶液が含まれる。
【0181】
本明細書に提供される医薬組成物は、特定の組織、受容体、または治療される対象の身体の他の領域を標的とするように配合されてもよい。そのような標的化方法の多くが当業者に周知である。本明細書では、そのような標的化方法のすべてが本発明の組成物の使用において想定される。標的化方法の非限定的な例については、例えば、各々が全体として参照により本明細書に組み込まれる米国特許第6,316,652号、同第6,274,552号、同第6,271,359号、同第6,253,872号、同第6,139,865号、同第6,131,570号、同第6,120,751号、同第6,071,495号、同第6,060,082号、同第6,048,736号、同第6,039,975号、同第6,004,534号、同第5,985,307号、同第5,972,366号、同第5,900,252号、同第5,840,674号、同第5,759,542号、及び同第5,709,874号を参照されたい。
【0182】
in vivo投与に使用される組成物は、滅菌されていてもよい。これは、例えば、滅菌濾過膜による濾過によって容易に行われる。
【0183】
本出願で引用されるすべての参考文献、特許、または出願は、米国か外国かを問わず、全体として本明細書に記載されているかのように、参照により本明細書に組み込まれる。何らかの矛盾が生じた場合、本明細書に文章で開示される内容が優先する。
【実施例
【0184】
以下、実施例を参照して本開示を詳細に説明する。記載される実施例は、本開示を単に例示することを目的とするものであり、限定するものではないことを理解されたい。
【0185】
実施例1。腫瘍浸潤T細胞におけるNrf2 mRNA発現レベルの決定
腫瘍浸潤T細胞における核因子E2因子関連因子2(Nrf2)mRNA発現のレベルを決定した。Nrf2は、酸化ストレスによる損傷から細胞を保護するのに重要な役割を果たす。Nrf2と酸化ストレスとの間の関係をよりよく理解するために、既知の酸化ストレス誘導因子である過酸化水素を様々な濃度で用いてT細胞を処置した。図1に示すように、酸化ストレスが増大すると(すなわち、H2O2の濃度が高いと)、T細胞は、より高いレベルのNrf2 mRNAを発現した。[0018]ほぼすべてのがんが、高い酸化ストレスに関連している。この現象をよりよく理解するために、担腫瘍マウスの腫瘍及び/または異なるリンパ節からT細胞を単離した。対照として、健康なマウスのリンパ節からもT細胞を単離した。図2に示すように、腫瘍浸潤T細胞におけるNrf2 mRNA発現のレベルは、担腫瘍マウスの流入領域リンパ節(dLN)またはいずれの他のリンパ節のT細胞の場合と比較しても、きわめて高かった。この結果は、腫瘍浸潤Tリンパ球におけるNrf2発現の選択性を示す。
【0186】
実施例2。Nrf2発現の調節と共に変化した抗がん反応の決定
Nrf2発現の調節が抗腫瘍免疫応答にどのように影響し得るかについて理解し始めるために、Nrf2欠失マウスを調製し、Nrf2発現の調節と共に変化したT細胞媒介性抗がん反応をin vivoで決定した。
【0187】
2-1。がん細胞増殖を阻害する能力の決定
がん細胞増殖を阻害する能力を、Nrf2発現の調節における変化と併せて決定するために、がん細胞をNrf2欠失マウス及び野生型マウスに注射し、次いで腫瘍体積を測定した。具体的には、黒色腫(B16)細胞をNrf2欠失マウス及び野生型マウスに注射し、次いで、腫瘍播種後の様々な時点で腫瘍体積を測定することにより、がん細胞の増殖を観察した。結果を図3及び4に示す。
【0188】
図3及び4に示すように、黒色腫細胞の注射後、がん細胞増殖を阻害する著しい効果がNrf2欠失マウスで観察された。例えば、腫瘍播種後約19日目までに、野生型とNrf2-/-動物との間で腫瘍体積に有意差が認められた。
【0189】
観察された抗腫瘍効果が黒色腫に特有でないことを裏付けるために、リンパ腫細胞をNrf2欠失マウス及び野生型マウスに注射し、次いで、腫瘍播種後の様々な時点で腫瘍体積を測定することにより、がん細胞の増殖を再度観察した。結果を図5及び6に示す。
【0190】
図5及び6に示すように、リンパ腫細胞の注射後、がん細胞増殖を阻害する著しい効果がNrf2欠失マウスで観察され、腫瘍体積が大幅に減少していた。
【0191】
2-2。がん細胞転移を阻害する能力の決定
次に、がん細胞転移を阻害する能力を、Nrf2発現の調節における変化と併せて決定するために、肺癌細胞をNrf2欠失マウス及び野生型マウスに(静脈内)注射し、次いで、がん細胞転移を観察した。結果を図7に示す。
【0192】
図7に示すように、肺癌細胞の注射後、野生型動物の肺では顕著な腫瘍成長が観察され、投与された腫瘍細胞が肺組織に広がったことが示された。これに対し、Nrf2欠失マウスでは、がん細胞転移を阻害する著しい効果が観察された。
【0193】
上記の結果は、がんの治療においてNrf2発現を低減させることの潜在的利益を示唆している。
【0194】
実施例3。Nrf2発現の調節と共に変化したT細胞媒介性抗がん反応の決定
3-1。T細胞媒介性抗がん反応の決定
Nrf2欠失マウスは、様々ながん細胞に対して強い抗がん反応をもたらす。このことは、上述の実施例2において裏付けられた。上述の現象がT細胞媒介性抗がん反応かどうかを決定するために、Nrf2欠失マウス及び野生型マウスがT細胞欠損状態になるような処置を行った。具体的には、抗CD3抗体を投与してT細胞を枯渇させた。担腫瘍の野生型動物及びNrf2欠失動物の両方の動物数体に、抗CD3抗体を与えた(対照動物にはIgG対照抗体を与えた)。次いで、腫瘍播種後の様々な時点で腫瘍体積と腫瘍重量の両方を測定することにより、がん細胞増殖を観察した。結果を図8A及び8Bに示す。
【0195】
図8A及び8Bに示すように、Nrf2欠失マウスがT細胞欠損状態にあったとき、マウスにおけるがん細胞増殖を阻害する効果は消失していた。上述の結果は、Nrf2欠損時の抗がん反応とT細胞との間の密接な関係を裏付けた。
【0196】
Nrf2欠失動物において観察された抗腫瘍免疫応答の向上がT細胞媒介性であることをさらに裏付けるために、担腫瘍の野生型動物とNrf2欠失動物の両方において、抗B220抗体を使用してB細胞を枯渇させた。図9A及び9Bに示すように、B細胞の枯渇は、抗腫瘍免疫応答に影響を及ぼさなかった。Nrf2欠失動物では、腫瘍体積と腫瘍重量の両方が、抗B220抗体を与えた動物と対照IgG抗体を与えた動物の両方で同等であった。
【0197】
上記の結果は、Nrf2欠失動物で観察された抗腫瘍免疫応答が主にT細胞によって媒介されたことを裏付ける。
【0198】
3-2。Nrf2発現の変化と併せたがん毒性CD8 T細胞活性化レベルの決定
Nrf2の欠失がどのようにT細胞機能に影響するかを理解するために、Nrf2発現の変化と併せて変化したがん毒性CD8 T細胞活性化レベルを観察し、それにより、がん毒性CD8 T細胞活性化レベルと抗がん反応との間の関係を裏付けた。具体的には、CD4+T細胞及びCD8+T細胞を、担腫瘍の野生型動物及びNrf2欠失動物から単離した。細胞は、腫瘍(すなわち、TIL)または流入領域リンパ節のいずれかから単離した。次いで、T細胞のTCR刺激を行い、産生されたIFN-γ及びIL-17の量を測定した。結果を図10に示す。
【0199】
図10に示すように、Nrf2欠失マウスでは、がん細胞傷害性CD8 T細胞によって分泌されたIFNγの量の著しい増大が観察された。CD4+T細胞において有意差は観察されなかった。IFN-γ産生の増大は、流入領域リンパ節及び腫瘍から単離された両方のCD8+T細胞で観察された。しかしながら、この差はCD8+TILではより一層劇的であった。上記の結果は、T細胞の応答性及び活性に逆方向に、かつ深く干渉するNrf2の能力を裏付けた。
【0200】
3-3。in vivoモデルにおけるがん毒性CD8 T細胞の抗がん効能の決定
上述の実施例で得られた3-1及び3-2の結果に基づき、in vivoマウスモデルにおけるがん毒性CD8 T細胞の抗がん効能を決定した。具体的には、Nrf2発現欠損処理を施したOVA抗原特異的CD8 T細胞(OT-I細胞)を、がん細胞が移植されたマウスに注射し(OVA抗原を発現させるため)、次いで、がん細胞阻害の効果を観察した。対照として、野生型動物及びNrf2+/-動物のT細胞を単離し、野生型の担腫瘍動物に投与した。結果を図11に示す。
【0201】
図11に示すように、Nrf2欠失特異的CD8 T細胞(OT-I細胞)を注射したマウスでは、著しいがん細胞阻害効果が観察された。Nrf2+/-動物のT細胞を養子移入に使用すると、中等度の効果が観察された。上述の結果は、Nrf2発現が、がん細胞増殖の阻害における反作用(逆干渉)を行い、CD8 T細胞の応答性を減少させ得ることを裏付けた。
【0202】
実施例4:Nrf2発現と抗腫瘍免疫応答との間の関係のさらなる解析
上記実施例で観察された結果をさらに裏付けるため、MC38(大腸)腫瘍細胞を次の動物に投与した:(i)野生型、(ii)Nrf2欠失、及び(iii)Nrf2を過剰発現するトランスジェニックマウス(「Nrf2Tg」)。次いで、先行実施例に記載したように、腫瘍播種後の様々な時点で腫瘍体積を測定することにより、各群における抗腫瘍免疫応答を観察した。
【0203】
図13A及び13Bに示すように、Nrf2発現の欠失は、大腸腫瘍細胞に対する抗腫瘍免疫応答も改善させた。この結果は、Nrf2発現の低減には、多くの異なる種類のがんに対する治療的有用性があり得ることをさらに裏付ける。さらに、上記データは、腫瘍を治療するT細胞の能力がNrf2発現に反比例することを示唆している。例えば、Nrf2トランスジェニック動物では、腫瘍体積が野生型動物と比べてさらに大きかった。
【0204】
実施例5:Nrf2欠失T細胞の酸化ストレス耐性の解析
Nrf2欠失動物のT細胞がより効果的な抗腫瘍免疫応答を開始し得る潜在的機構を同定するために、野生型動物、Nrf2トランスジェニック動物、及びNrf2欠失動物のT細胞がTCR刺激を受けた際にIFN-γ及びグランザイムBを産生する能力を、過酸化水素の存在下と非存在下の両方で測定した。
【0205】
図14A~14Dに示すように、Nrf2欠失動物のT細胞のみが、過酸化水素の存在下でIFN-γ及びグランザイムBを産生することができた。この結果は、Nrf2欠失動物のT細胞が多くの種類のがんにおいて機能性を維持し、誘導される酸化ストレスに対する耐性が高いことを示唆している。
【0206】
実施例6:Nrf2発現が低減したCAR T細胞の構築
上記の結果は、がんを治療するためにNrf2欠失T細胞を使用することの潜在的利益を裏付ける。このような免疫療法の開発を追求して、Nrf2発現が低減したCD19特異的CAR T細胞を構築した。図15Aは、CAR T細胞を生成するために使用した構築物の概略図である。図15Bは、図15Aに提示する構築物を使用してCD19特異的CAR T細胞が生成され、Nrf2 mRNA発現が約50%低減したことを提示する。図15Cに示すように、50%の低減だけでも、CAR T細胞は酸化ストレス耐性の改善を呈した。正常レベルのNrf2を発現した対照CAR T細胞と比較すると、Nrf2発現が低減したCAR T細胞は、著しく高い割合で、過酸化水素の存在下でIFN-γを産生した。
【0207】
次に、T細胞(例えば、CAR T細胞)においてNrf2発現を低減させる他の方法を同定するために、CRISPR/Cas9システムを使用した。図16A、16B、及び16Cは、Nrf2を標的とする3つの異なるガイドRNAを使用した結果を提示する。表3(下記)は、異なるガイドRNAを使用して観察された変異、挿入、及び欠失の数を提示する。示したように、Nrf2欠損ヒトT細胞は、CRISPR/Cas9システム(特に、「Sg3」と識別されたガイドRNA)を使用して、83%の効能をもたらすことに成功した。
【表3】
【0208】
まとめると、上記の結果は、Nrf2発現が低減したCAR T細胞などのCAR発現細胞が、多くの異なるがんのための実行可能な治療選択肢となり得ることを示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14A
図14B
図14C
図14D
図15A
図15B
図15C
図16
【配列表】
2022514219000001.app
【国際調査報告】