(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-10
(54)【発明の名称】トリ細胞株によるウイルスワクチンの生成
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20220203BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220203BHJP
C12N 7/01 20060101ALI20220203BHJP
C12N 7/02 20060101ALI20220203BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20220203BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20220203BHJP
A61K 39/12 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
C12N5/071
C12N5/10 ZNA
C12N7/01
C12N7/02
A61P31/14
A61P37/04
A61K39/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021534236
(86)(22)【出願日】2019-12-12
(85)【翻訳文提出日】2021-08-13
(86)【国際出願番号】 FR2019053036
(87)【国際公開番号】W WO2020120910
(87)【国際公開日】2020-06-18
(32)【優先日】2018-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503161615
【氏名又は名称】ウニベルシテ クロード ベルナール リヨン 1
(71)【出願人】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(71)【出願人】
【識別番号】507241492
【氏名又は名称】アンスティトゥート・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシャルシュ・メディカル・(インセルム)
(71)【出願人】
【識別番号】517325825
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ラヴァル
(71)【出願人】
【識別番号】599082883
【氏名又は名称】トランジェーヌ
【氏名又は名称原語表記】TRANSGENE
(71)【出願人】
【識別番号】514077888
【氏名又は名称】エコール ノルマル シュペリウール ドゥ リヨン
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】マニュエル・ローザ-カラトラヴァ
(72)【発明者】
【氏名】ギイ・ボワヴァン
(72)【発明者】
【氏名】ジュリア・デュボワ
(72)【発明者】
【氏名】マリオ・アンドレ・ピゾルノ
(72)【発明者】
【氏名】オリヴィエ・テリエ
(72)【発明者】
【氏名】オーレリアン・トラヴェルシエ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C085
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA95X
4B065AB01
4B065CA44
4B065CA45
4C085AA03
4C085BA51
4C085CC05
4C085CC08
4C085CC31
4C085DD06
4C085DD62
4C085EE01
4C085GG10
(57)【要約】
本発明は、第09070703号によりEuropean Collection of Cell Cultures(ECACC、ソールズベリー、英国)に2009年7月7日に申請された、ヒトメタニューモウイルスに由来する弱毒株からなるウイルスワクチンの生成のための、不死化細胞株ECACC 09070703の使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第09070703号によりEuropean Collection of Authenticated Cell Cultures(ECACC、ソールズベリー、英国)に2009年7月7日に申請された、ヒトメタニューモウイルスに由来する弱毒ウイルス株からなるウイルスワクチンの生成のための、不死化細胞株ECACC 09070703の使用。
【請求項2】
前記弱毒株が、メタニューモウイルスのSHタンパク質をコードする遺伝子及び/又はGタンパク質をコードする遺伝子の不活化により遺伝的に修飾されていることを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記弱毒株が、少なくとも1つの外因性遺伝子の導入により遺伝的に修飾されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
前記弱毒株が、配列番号1の配列により表すゲノム配列を含むヒトメタニューモウイルスに由来することを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
次の工程:
a)ECACC 09070703株の培養細胞を、ヒトメタニューモウイルスに由来する弱毒ウイルス株に感染させる工程と、
b)工程(a)において感染させた前記細胞を2~14日の期間、適する培地中で培養する工程と、
c)工程(b)の間に生成した前記弱毒ウイルス株の感染性ウイルス粒子からなるウイルスワクチンを回収する工程と
を含む、請求項1から4のいずれか一項に規定のウイルスワクチンを生成するための方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法により得られるウイルスワクチン。
【請求項7】
請求項6に記載のウイルスワクチン、及び少なくとも1つの薬学的に許容される溶媒を含む、医薬組成物。
【請求項8】
経鼻経路による投与に適する、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
その治療的使用のための、請求項6に記載のワクチン又は請求項7若しくは8に記載の組成物。
【請求項10】
ウイルス感染症、特には、ニューモウイルスによる、特には、ヒトメタニューモウイルス及び/又はヒト呼吸器合胞体ウイルスによる、感染症の予防における使用のための、請求項6に記載のワクチン又は請求項7若しくは8に記載の組成物。
【請求項11】
小児の使用を意図することを特徴とする、請求項9又は10に記載の使用のための、ワクチン又は組成物。
【請求項12】
- 不死化細胞株ECACC 09070703、及び
- 配列番号1の配列により表すゲノム配列を含むヒトメタニューモウイルスに由来する弱毒ウイルス株
を含む、請求項5に記載の方法の実施のためのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニューモウイルス型ウイルス、及び生弱毒ウイルス株からなるウイルスワクチンの生成のための不死化トリ細胞株の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ニューモウイルス
ニューモウイルスは、主に、5歳未満の幼児、高齢者及び免疫不全患者である、リスクを有する集団における、急性気道感染症、例えば、細気管支炎、気管支炎又は肺炎の原因となるウイルスである。
【0003】
これまでにパラミクソウイルス(Paramyxoviridae)科に含まれていたメンバーであるニューモウイルス(Pneumoviridae)科は、負極性の一本鎖RNAを有するエンベロープウイルスを含み、これは、
- オルトニューモウイルス(orthopneumovirus)亜科を代表するヒト呼吸器合胞体ウイルス(hRSV)、及び
- メタニューモウイルス(metapneumovirus)亜科を代表する(国際ウイルス分類委員会(International Committee on Taxonomy of Viruses、ICTV)による)ヒトメタニューモウイルス(hMPV)
を含む。
【0004】
現在のところ、このようなhMPV及び/又はhRSVウイルスに対して、市販されているワクチンも特異的かつ有効な治療も存在しない。
【0005】
hRSVは、幼児における呼吸器感染症の原因となることが最も多い。高伝染性のこのウイルスは、2歳未満の乳児に主に感染する。
【0006】
hMPVも、幼児における下気道の急性感染症に帰し得る入院率の5~15%の原因となる、小児の細気管支炎の主な原因のうちの1つである。hMPVによる感染後に入院する小児の平均年齢は、6~12か月であり、すなわち、0~3か月の間に主に生じるhRSVに起因する入院の平均年齢よりも遅い。
【0007】
また、両ウイルスは、非入院小児における上及び下気道感染症診察の12~15%の原因となる病原因子である。
【0008】
治療に関しては、副作用を免れないリバビリン、又は代わりに非常に高価な静注免疫グロブリンを、hRSVによる感染症と同様にhMPVによる感染症の重症例の治療のために、場合によって使用し得る。
【0009】
他の種類の治療、例えば、融合阻害ペプチド、硫酸化グリコサミノグリカン、RNA阻害物質及び特定の免疫調節物質は、開発中であり、及び/又は特性決定の途上である。
【0010】
今日広範に好まれる、通常の臨床方法は、患者を呼吸補助(酸素の投与又は機械化した人工呼吸)下に置くこと、並びに気管支拡張剤、コルチコステロイド及び/又は抗生物質を投与して二次的細菌感染症を予防及び/又は治療することによる、感染症の症候の本質的治療からなる。
【0011】
ニューモウイルス感染症の予防のために開発されたワクチン接種戦略
ワクチン接種に関しては、hMPVにより標的とされる主な集団が乳児、幼児及び高齢者であるため、有効かつ安全なワクチンの問題を決して、このような年齢層に劇的な影響を有する重度の呼吸器疾患を減少させることが重要である。
【0012】
したがって、ニューモウイルス、例えば、hMPV及び/又はhRSVに対するワクチンの開発は、健康上の主要な課題だけでなく、(i)このような感染症と関連する治療及び入院の重要なコストを削減し、(ii)二次的細菌感染症に関連する抗生物質の使用を削減することにより耐性の出現を制限する目的を有する、現実の社会経済的問題をも表す。
【0013】
種々のワクチン戦略が、今日までに開発されている(Mazurら、2018)。
【0014】
例えば、Novavax社は、「不活性ナノ粒子」ワクチン候補を開発した。このワクチンは、遺伝的に修飾して免疫原性を高めた、hRSV由来のFタンパク質を提示するナノ粒子からなる。このワクチン候補は、妊婦を対象とし、このためin uteroで胎児の一過性免疫を生じさせるために使用し得る。
【0015】
また、GSK社は、in uteroで胎児を免疫化する妊婦を対象とする、hRSVのFタンパク質に由来する組換え抗原に基づくワクチンを開発している。
【0016】
別の方法は、ニューモウイルス抗原を発現させることによる、非病原性ウイルスベクター、例えば、アデノウイルスの使用からなる。3つの主要なニューモウイルス抗原(F、N及びM2.1タンパク質)をコードするアデノウイルスからなる、新生児を対象とするワクチン候補が、GSK社により現在、開発中である。
【0017】
このようなワクチン方法は、種々の形態による組換えタンパク質の注射又は発現に基づく。しかし、このような方法の弱点は、このようなタンパク質に固有の低い免疫原性であり、わずかな免疫応答を天然に誘発するのみである。したがって、殆どの場合、潜在的に有害なアジュバント、例えば、アルミニウム塩の追加が予想されるはずである。
【0018】
したがって、弱毒化したウイルス株からなる、いわゆる「生弱毒」ワクチンの使用に基づく方法が好まれる。実際、生弱毒ワクチンは、多くの利点を有する。
- これらは、鼻腔内経路により投与され、野生型ウイルスの天然の侵入経路を模倣し、これによりhMPV及び/又はhRSV感染後に生理学的に観察される応答にかなり類似する免疫応答を誘発し得る。
- これは、過剰炎症反応と関連するものと、これまでに記載されていない戦略である(不活化ワクチンの投与後に観察し得る場合)。
- このワクチン戦略は、アジュバントの追加を必要とせず、生弱毒ワクチンは、良好な免疫反応を生じるのに天然に十分免疫原性である。
【0019】
このような方法は、6か月からの小児のワクチン接種のために特に興味深い。
【0020】
産業規模での生弱毒ウイルスワクチンの調製と関連する障壁
このようなウイルスワクチンは、in vitroで培養する、ウイルスの宿主細胞上でのウイルス複製の工程により生成する。このような細胞の選択は、基本原理的であり、これらは、一度にかつ同時に
(i)このウイルスの宿主細胞である、すなわち、ウイルスによる感染及びこのウイルス複製に対して許容的な細胞であり、
(ii)「産業化可能な」細胞である、すなわち、産業規模でのワクチン生成のための現行規制に従う細胞でなければならない。
【0021】
今日まで、ニューモウイルス感染症に対する許容能及び生弱毒ワクチン候補の生成能を有する、登録された産業的細胞株は存在しない。
【0022】
培養下で「接着」形態の実験細胞株、例えば、
- イヌ細胞株であるMDCK細胞株、
- 種々のウイルス試験のための細胞培養下で一般に使用するアフリカミドリザル腎臓細胞株であるVero細胞株、
- ヒト由来の細胞株であるPERC6細胞株、及び
- ATCCにおいて第CCL-7号により入手可能であり、種々のウイルスによる感染症の試験に一般に使用する、アカゲザル腎臓細胞に由来する細胞株であるLLC-MK2細胞株
は、特定のワクチン候補(Table 1(表1)~Table 3(表3)を参照)の実験開発に使用されているが、このような接着細胞株は、産業規模で使用するのに必要な特性を有しなかった。
【0023】
ウイルス型複製能を有するワクチンの生成では、「産業化可能な」、すなわち、安定(「頑強」)、非接着の、血清(例えば)の非存在下で培養可能で、ヒト又は動物への投与を意図するウイルスワクチンの生成に対する規制上の要件に従う、細胞株を確立している。
【0024】
2つの型の細胞株を、特に慣習的に使用する。
- VALNEVA社により開発されたEB66(登録商標)細胞株は、アヒル胚細胞に由来する株であり、いくつかのウイルスワクチンの開発が既に可能となっている。
- ProBioGen社より販売されているAGE1.CR(登録商標)細胞株は、トリ(gallinacea)又はヒトのいくつかの細胞型に由来する。特には、AGE1.CR.pIX(登録商標)株は、ノバリケン細胞に由来する(Jordanら、2009)。この非常に安定な株は、アルファウイルス及びパラミクソウイルスゲノムに由来するベクターの産業規模での生成が可能となり、ポックスウイルスの増殖に効力を有する。
【0025】
しかし、今日まで、hRSV及びhMPVの生成は、当業者に周知の、このような確立された細胞株上では実行可能でなかった。
【0026】
本発明は、hMPV及び/又はhRSVに由来するウイルスベクターの複製、特には、特定のhMPVウイルス株に由来する生弱毒ウイルスワクチンの複製を可能とする、産業化可能な不死化アヒル細胞株の同定に関する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0027】
【特許文献1】国際公開第2007/077256号
【特許文献2】国際公開第2009/004016号
【特許文献3】国際公開第2012/001075号
【特許文献4】国際公開第2005/014626号
【特許文献5】米国特許第8,841,433号
【特許文献6】仏国特許出願公開第1856801号
【特許文献7】国際出願PCT/FR2019/051759
【非特許文献】
【0028】
【非特許文献1】Mazurら、2018
【非特許文献2】Jordanら、2009
【非特許文献3】Petiotら、2018
【非特許文献4】Huckら、2006
【非特許文献5】Nidairaら、2012
【非特許文献6】Herfst, de Graafら2008
【非特許文献7】Wei, Zhangら2014
【非特許文献8】Yu, Liら2012
【非特許文献9】Liu, Shuら2013
【非特許文献10】Zhang, Weiら2014
【非特許文献11】Biacchesi, Skiadopoulosら2004
【非特許文献12】Biacchesi, Phamら2005
【非特許文献13】Buchholz, Biacchesiら2005
【非特許文献14】Schickli, Kaurら2008
【非特許文献15】Pham, Biacchesiら2005
【非特許文献16】Karron, San Mateoら2017
【非特許文献17】Tang, Schickliら2003
【非特許文献18】Tang, Mahmoodら2005
【非特許文献19】Russell, Jonesら2017
【非特許文献20】Bukreyevら、1997
【非特許文献21】Tengら、2001
【非特許文献22】Krarup Aら2015
【非特許文献23】Duboisら、2017
【非特許文献24】Biacchesiら、2004
【非特許文献25】Aertsら、2015
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0029】
現在のところ、気道の急性感染症の原因となる、ニューモウイルスによる感染症の予防を可能とするワクチンは存在しない。これは、ある程度、in vitroでのこのようなウイルスの複製が困難であるためである。特には、このようなウイルスは、公知かつ十分に確立した産業化可能な細胞株、例えば、EB66(登録商標)及びAGE1.CR(登録商標)株上で増殖可能であると、これまでに記載されていない。
【課題を解決するための手段】
【0030】
本発明は、hMPV及び/又はhRSVによる感染症の予防を意図する生弱毒ウイルスワクチンの複製を可能とする、「産業化可能な」細胞株の同定に関する。
【0031】
より詳細には、本発明は、第09070703号により2009年7月7日にEuropean Collection of Authenticated Cell Cultures(ECACC、ソールズベリー、英国)に寄託された、ヒトメタニューモウイルスに由来する弱毒株からなるウイルスワクチンの生成のための、不死化細胞株ECACC 09070703の使用に関する。
【0032】
このウイルスワクチンは、特に、配列番号1により表すゲノム配列を含むヒトメタニューモウイルスに由来する弱毒株であり得る。
【0033】
特定の実施形態によれば、このウイルスワクチンは、少なくとも1つの外因性遺伝子、特には、例えばF融合タンパク質のような、hRSVに由来する抗原をコードする遺伝子の導入により遺伝的に修飾した弱毒ウイルス株である。
【0034】
また、本発明は、次の工程:
a)アクセス番号第09070703号によりECACCに寄託された株の培養細胞を、ヒトメタニューモウイルスに由来する弱毒ウイルス株に感染させる工程と、
b)工程(a)において感染させたこの細胞を2~14日の期間、適する培地中で培養する工程と、
c)工程(b)の間に生成したこの弱毒ウイルス株の感染性ウイルス粒子からなるウイルスワクチンを回収する工程と
を含む、ヒトメタニューモウイルスに由来する弱毒株からなるウイルスワクチンを生成するための方法に関する。
【0035】
また、本発明は、上記の方法により得られるようなウイルスワクチン、並びにこのウイルスワクチン及び少なくとも1つの薬学的に許容される溶媒を含む医薬組成物に関する。
【0036】
別の態様によれば、本発明は、医薬としての使用のための、このウイルスワクチン又はこの医薬組成物に関する。
【0037】
より詳細には、本発明は、ウイルス感染症、特には、ニューモウイルスによる、より詳細には、ヒトメタニューモウイルス及び/又はヒト呼吸器合胞体ウイルスによる感染症の予防又は治療における使用のための、このウイルスワクチン又はこの医薬組成物に関する。
【0038】
また、本発明は、少なくとも
- 不死化細胞株ECACC 09070703、及び
- 配列番号1の配列により表すゲノム配列を含むヒトメタニューモウイルスに由来する弱毒ウイルス株、特には、配列番号2又は配列番号3で表すゲノム配列のうちの1つを含む弱毒ウイルス株
を含む、ウイルスワクチンを生成するための方法を実行するためのキットに関する。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1a】DuckCelt(登録商標)-T17細胞における野生ウイルス株C-85473の複製能を、野生株CAN98-75、CAN97-82及びCAN99-81の複製能と比較して示す図である。50%を超える細胞が死ぬと、動態は停止する(*)。細胞量の監視をウイルス感染後の日数の関数として示す。
【
図1b】DuckCelt(登録商標)-T17細胞における野生ウイルス株C-85473の複製能を、野生株CAN98-75、CAN97-82及びCAN99-81の複製能と比較して示す図である。50%を超える細胞が死ぬと、動態は停止する(*)。ウイルス負荷(TCID50/ml)の監視をウイルス感染後の日数の関数として示す。
【
図2a】DuckCelt(登録商標)-T17細胞における野生組換えC-85473WT(GFP)並びに弱毒ΔSH-C-85473(GFP)及びΔG-C-85473(GFP)ウイルスの複製能を示す図である。感染後の細胞増殖を示す。偽細胞は、感染しなかった。
【
図2b】DuckCelt(登録商標)-T17細胞における野生組換えC-85473WT(GFP)並びに弱毒ΔSH-C-85473(GFP)及びΔG-C-85473(GFP)ウイルスの複製能を示す図である。組換えウイルスC-85473WT(GFP)、ΔSH-C-85473(GFP)及びΔG-C-85473(GFP)の感染性を示す。感染細胞の割合は、14日のウイルス動態の間にフローサイトメトリー(このような組換えウイルスにより発現するGFP発現の検出)により評価する。
【
図2c】DuckCelt(登録商標)-T17細胞における野生組換えC-85473WT(GFP)並びに弱毒ΔSH-C-85473(GFP)及びΔG-C-85473(GFP)ウイルスの複製能を示す図である。組換えウイルスC-85473WT(GFP)、ΔSH-C-85473(GFP)及びΔG-C-85473(GFP)のウイルス複製を示す。ウイルス生成は、培養培地中1mlあたりの感染性粒子数(TCID
50/mlで表す)を定量することにより、感染後2~3日毎に14日のウイルス動態の間採取した試料から測定する。
【
図3a】LLC-MK2細胞並びに3D再構成ヒト呼吸器上皮モデル及び気液界面における培養モデル(MucilAir(商標))における、DuckCelt(登録商標)-T17細胞で生成した組換えウイルスΔSH-C-85473(GFP)及びΔG-C-85473(GFP)の複製能を示す図である。LLC-MK2細胞の細胞叢(左側)及びMucilAir(商標)健常再構成ヒト呼吸器上皮(右側)を組換えhMPVΔSH-C-85473にMOI(感染多重度)がそれぞれ0.01及び0.1で感染させた。写真は、感染後3、5、7、12及び17日後に呼吸器上皮について撮影した。
【
図3b】LLC-MK2細胞並びに3D再構成ヒト呼吸器上皮モデル及び気液界面における培養モデル(MucilAir(商標))における、DuckCelt(登録商標)-T17細胞で生成した組換えウイルスΔSH-C-85473(GFP)及びΔG-C-85473(GFP)の複製能を示す図である。LLC-MK2細胞の細胞叢(左側)及びMucilAir(商標)健常再構成ヒト呼吸器上皮(右側)を組換えhMPVΔG-C-85473にMOI(感染多重度)がそれぞれ0.1及び0.65で感染させた。写真は、感染後3、5、7、12及び17日後に呼吸器上皮について撮影した。
【
図3c】LLC-MK2細胞並びに3D再構成ヒト呼吸器上皮モデル及び気液界面における培養モデル(MucilAir(商標))における、DuckCelt(登録商標)-T17細胞で生成した組換えウイルスΔSH-C-85473(GFP)及びΔG-C-85473(GFP)の複製能を示す図である。感染上皮の頂端極におけるウイルス分泌を、感染後5、7、12及び17日に実行した頂端膜側の洗浄物からRT-qPCR(Nウイルス遺伝子のコピー数)により評価した。弱毒組換えウイルスΔSH-C-85473及びΔG-C-85473のウイルス複製を、DuckCelt(登録商標)-T17細胞で生成した野生組換えウイルスC-85473のそれと比較した。RT-qPCRによる検出閾値は、Nウイルス遺伝子10コピーである。
【
図3d】LLC-MK2細胞並びに3D再構成ヒト呼吸器上皮モデル及び気液界面における培養モデル(MucilAir(商標))における、DuckCelt(登録商標)-T17細胞で生成した組換えウイルスΔSH-C-85473(GFP)及びΔG-C-85473(GFP)の複製能を示す図である。感染上皮におけるウイルス複製を、感染後17日目に上皮ライセートからRT-qPCR(Nウイルス遺伝子のコピー数)により評価した。弱毒組換えウイルスΔSH-C-85473及びΔG-C-85473のウイルス複製を、DuckCelt(登録商標)-T17細胞で生成した野生組換えウイルスWT C-85473のそれと比較した。RT-qPCRによる検出閾値は、Nウイルス遺伝子10
1コピーである。
【
図4】DuckCelt(登録商標)-T17細胞上で生成した組換えウイルスΔSH-C-85473(GFP)及びΔG-C-85473(GFP)がin vivoでの弱毒特性を保存することを示す図である。4~6週齢のBALB/cマウスを鼻腔内経路により、DuckCelt(登録商標)-T17細胞上で生成した5×10
5TCID
50のワクチン候補ΔSH-C-85473若しくはΔG-C-85473、又は対照としての培養培地(偽)に感染させた。感染マウスの体重及び死亡率の監視を毎日、感染後9日間実行し、非感染マウス(偽)と比較した。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明は、第09070703号により2009年7月7日にEuropean Collection of Authenticated Cell Cultures(ECACC、ソールズベリー、英国)に寄託された、ヒトメタニューモウイルスに由来する弱毒ウイルス株からなるウイルスワクチンの生成のための、不死化細胞株ECACC 09070703の使用に関する。
【0041】
ECACC細胞株第09070703号
したがって、本発明は、第09070703号によりEuropean Collection of Authenticated Cell Cultures(ECACC)に寄託され、文献、特には、国際出願の国際公開第2007/077256号、国際公開第2009/004016号及び国際公開第2012/001075号においてこれまでに記載されている、DuckCelt(登録商標)-T17細胞株の新規使用に関する。
【0042】
このような出願は、不死化トリ細胞株の調製、及びウイルス複製のためのこの使用に関する。
【0043】
「不死化細胞株」の用語は、その機能特性を失うことなく、in vitroでの培養下で少なくとも35回の継代培養の間の増殖(新たな培養培地による細胞の希釈)が可能な細胞を指す。
【0044】
簡潔には、第09070701号、第09070702号及び第09070703号によりECACCに寄託された、国際公開第2012/001075号に記載される細胞株は、アヒル(ノバリケン(Cairina moschata))胚細胞に由来し、次のヌクレオチド配列:
- RNA 12S及び13Sをコードするアデノウイルスのゲノムに由来するE1A領域のヌクレオチド配列、並びに
- アヒルテロメラーゼ逆転写酵素(dTERT)をコードする遺伝子
の導入により不死化した。
【0045】
このような細胞株の主な目的は、ウイルス、例えば、ポックスウイルス、アデノウイルス、レトロウイルス、ヘルペスウイルス及びインフルエンザウイルスの複製のための、これらの使用である。
【0046】
最近では、Petiot及び共同研究者は(Petiotら、2018)、第09070703号によりECACCに寄託されたトリ細胞株DuckCelt(登録商標)-T17を、種々の由来(ヒト、トリ、ブタ)のインフルエンザウイルスの感染性粒子の生成のために、有利に使用可能であることを実証した。
【0047】
ヒトメタニューモウイルスの弱毒ウイルス株
メタニューモウイルス及び/又はヒト呼吸器合胞体ウイルスによる感染症の予防及び/又は治療を可能とするウイルスワクチンの生成を目的として、かなりの研究が現在、行われている。
【0048】
特には、ヒトメタニューモウイルスに由来する弱毒ウイルス株が、ワクチンとして調製及び提唱されている。
【0049】
hMPVの臨床株の遺伝子解析により、接着表面(G)及び融合(F)糖タンパク質の配列多様性に主に基づいて、2つの主要な群(遺伝子型A及びB)及び「マイナーな」亜群(A1、A2、B1及びB2)を定義することが可能となった。次いで、このような群は、亜系統、例えば、A2a、A2b及びA2cに更に細分可能であることが示された(Huckら、2006; Nidairaら、2012)。
【0050】
広範に研究されているウイルス株の中でも、遺伝子型A1に属するNL00-1株、遺伝子型A2に属するCAN97-83株、及び遺伝子型B2に属するCAN98-75株が引用され得る。
【0051】
本出願では、「ウイルス」及び「ウイルス株」の用語は、無差別に使用して、これまでに同定されたような特定のウイルス株を指す。
【0052】
本発明における認識では、「由来株」は、いわゆる「原」ウイルス株のゲノムにおける遺伝子修飾の導入により得られる組換えウイルス株を意味すると理解される。原株は、有利には、野生株、例えば、臨床単離株である。
【0053】
ウイルス株の病原性は、所与の生物におけるウイルス増殖の速さの程度と対応し、このため、浸潤速度を意味すると理解される。したがって、「病原性を減弱すること」は、生物におけるウイルスの浸潤速度を低下させることを意味すると理解される。
【0054】
この弱毒化は、ウイルス株の複製能の低下、標的細胞の感染能の低下、又は代わりに生物のウイルス感染により誘発された病態の減退の形態をとり得る。
【0055】
ウイルス株は、野生ウイルス(WT)と比較して複製能の低下を示す場合、及び/又はこのようなウイルス株により、特には、合胞体(ウイルス感染後の隣接細胞の融合)の感染激増のさらなる制限が生じる場合、in vitroで弱毒化されると考えられる。in vivoでは、弱毒ウイルス株は、野生ウイルス株よりも低い最大負荷で複製し、及び/又は比較的軽度の病態を誘発する(体重減少又は炎症プロファイル又は病理組織学的障害に関して)。
【0056】
したがって、「弱毒ウイルス株」は、本発明における認識では、組換えウイルスを意味すると理解され、この病原性は、原ウイルス株の病原性と比較して低下する、すなわち、原ウイルス株の病原性未満である。
【0057】
ウイルス株の病原性を測定するために、in vitro、ex vivo又はin vivoでの試験、例えば、in vitroでの複製能試験(TCID50/mlウイルスアッセイ又は定量的PCRによるウイルスゲノムの定量により測定する)、in vitro及びex vivoでの細胞変性作用の進行の顕微鏡観察による監視(例えば、3D再構成ヒト呼吸器モデル及び気液界面における培養モデルにおいて)、又は病態の臨床徴候の監視及びin vivoでの感染モデルにおける肺ウイルス負荷の測定を実行し得る。
【0058】
以下のTable 1(表1)、Table 2(表2)及びTable 3(表3)では、生弱毒ワクチンを野生hMPVウイルス株から得るために開発中の種々の方法を列挙する。
【0059】
【0060】
レ点は、使用した細胞が、そのウイルス株によりウイルス感染し易い/ウイルス感染に許容的であることを示す。
【0061】
次の略語は、in vivoでの試験モデルのために使用し、Mはマウス、Hはハムスター、CRはコットンラット、CMはカニクイザル、AGMはアフリカミドリザル、Chはチンパンジー、Rhはアカゲザル、及びSCIDは重症複合免疫不全症である。
【0062】
略語「aa」は、アミノ酸を指し、「aa172」は、タンパク質配列における172番目のアミノ酸を指す。
【0063】
点変異は、当業者に公知の命名法に従って表す。
【0064】
【0065】
開発されTable 2(表2)に記載されたすべての弱毒ウイルス株は、亜群A2の野生株CAN97-83に由来する。
【0066】
次の略語を使用する。
Δ:遺伝子の全欠失。Φ=非弱毒又は更に複製可能。
【0067】
【0068】
次の略語を使用する。
TM=膜貫通ドメイン、PIV=パラインフルエンザウイルス、SeV=センダイウイルス。
【0069】
hMPVに由来する他の弱毒株は、以下に要約する出願又は特許において記載されている。
【0070】
国際出願の国際公開第2005/014626号は、次に指定するいくつかのhMPV株に関する:CAN97-83、CAN98-75及びHMPV00-1。この出願では、CAN97-83を指し、この病原性を弱毒化するように遺伝的に修飾した、組換えhMPV株を記載する。提唱された修飾は、G及び/又はSHタンパク質をコードする遺伝子の全欠失に特に関する。
【0071】
米国特許第8,841,433号は、他のhMPV単離株及びワクチンの調製のためのこの使用について、更に記載する。
【0072】
仏国特許出願公開第1856801号では、配列番号1の配列により表すゲノム配列を含むヒトメタニューモウイルスの臨床株C-85473に由来する弱毒株を記載し、ワクチン候補として提唱している。このような弱毒株は、配列番号1のこの配列の1つ又は複数の遺伝子修飾、特には、このメタニューモウイルス株のSHタンパク質をコードする遺伝子及び/又はGタンパク質をコードする遺伝子の不活化を含む。
【0073】
ヒトメタニューモウイルスに由来するこのような弱毒ウイルス株はすべて、産業的に開発して、予防及び/又は治療目的で多数の患者への投与を意図するワクチンを大規模に生成することが可能なワクチン候補である。
【0074】
しかし、この目的を達成するために、細胞を同定して、同定された弱毒ウイルス株を産業規模で複製することを助けることが必要である。
【0075】
産業細胞株、例えば、EB66(登録商標)及びAGE1.CR.pIX(登録商標)株について実行した試験では、ヒトメタニューモウイルスに由来する種々のウイルス株の複製を十分に得ることが可能とはならなかった。
【0076】
本発明は、ヒトメタニューモウイルスに由来するこのような弱毒株の複製のための産業規模でのウイルス生成に適する機能特性を有する、不死化細胞株を同定する、この必要性に応えることを目的とする。
【0077】
本発明の実施形態によれば、この弱毒株は、メタニューモウイルスのSHタンパク質をコードする遺伝子及び/又はGタンパク質をコードする遺伝子の不活化により遺伝的に修飾されている。
【0078】
遺伝子修飾は、本発明における認識では、原ヌクレオチド配列のすべての修飾、例えば、1つ又は複数のヌクレオチドの欠失、1つ又は複数のヌクレオチドの付加、及び1つ又は複数のヌクレオチドの置換を指す。このような修飾は、遺伝的リーディングフレームの移行、又はコード配列の中位への終止コドンの導入が可能となるすべての修飾を特に含む。
【0079】
ウイルス株の病原性の弱毒を意図する遺伝子修飾の中でも、遺伝子修飾では、培養下のウイルスの増殖に必須ではないタンパク質をコードする1つ又は複数の遺伝子の不活化又は欠失さえも可能となることが特に知られている。
【0080】
本発明における認識では、遺伝子の不活化は、遺伝子産物がもはや発現しないか、非活性形態で発現するか、このタンパク質の活性が存在しないほど非常に少量で発現するように、この遺伝子を修飾することを指す。遺伝子のこの不活化は、当業者に周知の技術のいずれかにより実行し得る。特には、遺伝子の不活化は、遺伝子における点変異の導入、遺伝子のコード配列の部分的若しくは全欠失、又は代わりに遺伝子のプロモーターの修飾により得てもよい。このような種々の遺伝子修飾は、当業者に周知の分子生物学的技術のいずれか1つに従って実行する。
【0081】
例えば、ヒトメタニューモウイルスの弱毒ウイルス株は、SH、G及び/又はM2-2アクセサリータンパク質をコードする遺伝子の欠失により得られている(Table 2(表2)を参照)。
【0082】
SHタンパク質は、II型膜タンパク質であり、この機能は、未だ完全には特性決定されていない。hRSVの場合では、SHタンパク質をコードする遺伝子の欠失により、in vitroで複製可能な組換えウイルスが生成され、この病原性は、マウスの上気道においては減弱されるが、この下気道においては減弱されない(Bukreyevら、1997)。hMPVの場合では、SHタンパク質の機能は、未だ評価中である。
【0083】
Gタンパク質も、II型膜タンパク質であり、このC末端は、細胞の外部に存在する。このタンパク質は、ウイルス構成物の構築及びin vitroでの複製に必須ではない。hRSVでは、このタンパク質をコードする遺伝子の欠失により、マウスの気道の感染の間に株の病原性が減弱することが示されている(Tengら、2001)。hMPVでは、Gタンパク質の機能は、未だ評価中である。
【0084】
本発明の実施形態によれば、弱毒ウイルス株は、遺伝子修飾が、Gタンパク質及びSHタンパク質をコードする2つの遺伝子の不活化を含む点において特徴づけられる。
【0085】
別の特定の実施形態によれば、2つの遺伝子の不活化は、Gタンパク質及びSHタンパク質をコードする一方若しくは他方又は両方の遺伝子の完全欠失と対応する。
【0086】
本発明の実施形態によれば、この弱毒株は、少なくとも1つの外因性遺伝子の導入により遺伝的に修飾されている。
【0087】
この外因性遺伝子は、特には、ウイルス抗原をコードする遺伝子であり得る。
【0088】
本発明における認識では、「ウイルス抗原」は、個人の免疫系が異物として認識し、この個人における免疫応答、特には、特異的抗体の生成を生じる、ウイルスにより発現するタンパク質エレメント又は別の性質のエレメントを意味すると理解される。
【0089】
ウイルス抗原は、少なくとも1つのインフルエンザウイルス、又は少なくとも1つのニューモウイルス科ウイルス、例えば、hRSV、又は少なくとも1つのパラミクソウイルス科ウイルス、例えば、パラインフルエンザウイルスにより発現する抗原から特に選択され得る。
【0090】
より詳細には、このウイルス抗原は、hRSVのFタンパク質の全部又は一部、及びインフルエンザ又はパラインフルエンザウイルスのヘマグルチニンの全部又は一部から選択され得る。別の実施形態によれば、このウイルス抗原は、論文に記載のような融合前の安定化立体構造のhRSVのFタンパク質である(Krarup Aら2015)。
【0091】
外因性ウイルス抗原を加えて含むこのような弱毒ウイルス株では、患者へのこの投与の間に、発現した外因性ウイルス抗原及びhMPVの両方に対する多重の免疫応答の発生が可能となる。このような株では、いくつかのウイルスに対する複合的免疫応答を得、加えて単回投与が可能となり、これは、高度に有利である。
【0092】
hMPV C-85473のウイルス株
本発明の好ましい実施形態によれば、この弱毒株は、配列番号1の配列により表すゲノム配列を含むヒトメタニューモウイルスに由来する。
【0093】
好ましくは、この弱毒株は、C-85473を指すヒトメタニューモウイルスのウイルス株に由来し、これは、カナダにおける患者試料から単離した。この株は、メタニューモウイルスの亜群A1に属する。
【0094】
13394ヌクレオチドを含むウイルス株C-85473の完全ゲノム配列は、仏国特許出願公開第1856801号において初めて開示された。これは、ここで、配列表において配列番号1の参照により表す。
【0095】
C-85473株は、高い頻度及び/又は高い感染度で標的細胞内に侵入可能となる、高い膜融合能により特徴づけられる(Duboisら、2017)。この株の高い膜融合能により、特に、拡張し、非常に多数の細胞核からなる、合胞体、すなわち、多核巨細胞の生成が可能となる。
【0096】
本発明の好ましい実施形態によれば、弱毒ウイルス株は、配列番号1の配列により表すゲノム配列を含む、このC-85473株に由来する。
【0097】
このC-85473株に導入していわゆる「由来」株を得る遺伝子修飾の目的は、この原株の病原性の減弱であり、このゲノムの同一性の修飾ではない。
【0098】
特には、このような遺伝子修飾は、ウイルスの増殖に必須ではない、さもなければ「アクセサリータンパク質」と呼ぶタンパク質、例えば、SH及びGタンパク質をコードする遺伝子のみに関する。
【0099】
有利なことには、「弱毒」とするために遺伝的に修飾したこの株では、原株rC-85473のFタンパク質のペプチド配列は修飾せず、このため原株と同一のペプチド配列を有する。
【0100】
専ら好ましい方法では、弱毒ウイルス株は、
(i)SHタンパク質をコードする遺伝子の不活化により遺伝的に修飾したC-85473株に由来するウイルス株、
(ii)Gタンパク質をコードする遺伝子の不活化により遺伝的に修飾したC-85473株に由来するウイルス株、並びに
(iii)SHタンパク質をコードする遺伝子及びGタンパク質をコードする遺伝子の不活化により遺伝的に修飾したC-85473株に由来するウイルス株
から選択される。
【0101】
実施形態(i)を例示するウイルス株は、特には、配列番号2に表すようなヌクレオチド配列を含む、本出願の実施例において使用する株である。
【0102】
実施形態(ii)を例示するウイルス株は、特には、配列番号3に表すようなヌクレオチド配列を含む、本出願の実施例において使用する株である。
【0103】
本発明の実施形態によれば、弱毒ウイルス株C-85473のヌクレオチド配列は、加えて、少なくとも1つの外因性遺伝子の導入により遺伝的に修飾し得る。
【0104】
したがって、弱毒ウイルス株C-85473は、少なくとも1つの外因性遺伝子を含むゲノム配列を有する。この外因性遺伝子は、特には、ウイルス抗原をコードする遺伝子であり得る。
【0105】
このウイルス抗原は、少なくとも1つのインフルエンザウイルス、又は少なくとも1つのニューモウイルス科ウイルス、例えば、hRSV、又は少なくとも1つのパラミクソウイルス科ウイルス、例えば、パラインフルエンザウイルスにより発現する抗原から特に選択され得る。
【0106】
より詳細には、このウイルス抗原は、hRSVのFタンパク質の全部又は一部、及びインフルエンザ又はパラインフルエンザウイルスのヘマグルチニンの全部又は一部から選択され得る。
【0107】
別の実施形態によれば、このウイルス抗原は、好ましくは、論文に記載のような安定化した融合前立体構造の、hRSVのFタンパク質である(Krarup Aら、2015)。
【0108】
配列番号1の配列により表すゲノム配列を含むC-85473株に由来するこのような弱毒株の他の特性は、仏国特許出願公開第1856801号及び国際出願PCT/FR2019/051759に記載されている。
【0109】
弱毒ウイルス株の起源
本発明の実践において使用する弱毒ウイルス株は、種々の起源に由来し得る。
【0110】
弱毒ウイルス株は、ニューモウイルス、特には、hMPV又はhRSVによるウイルス感染症に罹患している患者から単離されていてもよい。実際、特定の感染性ウイルス株は、弱毒特性を自然発生的に有し得る。
【0111】
また、弱毒ウイルス株は、非弱毒ウイルス株から遺伝的に修飾されていてもよい。
【0112】
第1の実施形態によれば、弱毒ウイルス株は、培養細胞上でのこのウイルスの複製により得られ得る。このように生成した感染性ウイルス粒子の凍結試料は、学術研究所又は病院により特に供給され得る。
【0113】
第2の実施形態によれば、弱毒ウイルス株は、特には、Biacchesiら、2004及びAertsら、2015の論文に記載されている逆遺伝学技術を使用してDNA配列から得られ得る。
【0114】
組換えhMPVの生成を可能とするこの技術の原理は、例えば、バクテリオファージT7のRNAポリメラーゼを構成的に発現するように修飾した、ハムスター腎臓細胞株(BHK-21)の使用に基づく(BHK-T7又はBSR-T7/5細胞)。
【0115】
ゲノムエレメントは、5つのプラスミドエレメント:hMPVのアンチゲノムをコードする1つのプラスミド及び転写機構のウイルスタンパク質をコードする4つの「サテライト」プラスミド(L、P、N及びM2-1)に拡張する。
【0116】
hMPVアンチゲノムプラスミド及び4つの「サテライト」プラスミドのこのような細胞における同時トランスフェクション後、ウイルスゲノム鎖に対応するRNA鎖(マイナスRNA鎖)は、T7ポリメラーゼによりこのプロモーターから転写される。
【0117】
hMPVのウイルス転写に関与する4つのタンパク質は、実際、トランスフェクト宿主細胞により発現して、活性RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRP)複合体を構成する。したがって、この機能性ウイルスポリメラーゼは、ゲノムRNAをウイルスmRNAに転写し、次いで鋳型鎖の転写により、これをウイルスゲノムRNAの新たな分子に複製する。
【0118】
したがって、ゲノムRNAによるウイルスタンパク質の翻訳及び構築により、トランスフェクトBHK-T7細胞の細胞膜からの、感染性hMPV粒子の出芽が可能となる。次いで、感染に許容的なLLC-MK2細胞(ATCC CCL-7)の同時培養物への追加の結果、組換えウイルスの増幅が可能となる。
【0119】
したがって、本出願に記載の配列及び適切な宿主細胞から、当業者は、このような配列のうちの1つを含む機能性組換えエンベロープウイルスを生成することが可能である。
【0120】
ウイルスワクチンを生成するための方法
別の態様によれば、本発明は、次の工程:
a)ECACC 09070703株の培養細胞を、ヒトメタニューモウイルスに由来する弱毒ウイルス株に感染させる工程と、
b)工程(a)において感染させたこの細胞を2~14日の期間、適する培地中で培養する工程と、
c)工程(b)の間に生成したこの弱毒ウイルス株の感染性ウイルス粒子からなるウイルスワクチンを回収する工程と
を含む、上に定義するようなウイルスワクチンを生成するための方法に関する。
【0121】
工程(a)において使用する弱毒ウイルス株は、特に、上記の技術のうちの1つにより、得られている。
【0122】
この方法は、任意選択であり、ここでは示さない追加の工程を含み得ることが理解される。
【0123】
その上、特定の実施形態によれば、この方法は、完全に上述の3つの連続的工程(a)、(b)及び(c)からなり得る。
【0124】
感染工程(a)は、適切な条件下、例えば、次のような条件下で実行する。
- 感染培地は、DuckCelt(登録商標)-T17細胞株に適し、4mMのL-グルタミン、0.1%~0.5%のプルロニック(登録商標)及び最終量0.1μg/ml~3μg/mlのトリプシンを補ったOptiPRO(商標)SFM(Gibco(商標))培養培地であり得る。トリプシンは、感染の間だけでなくウイルス生成の期間中2~3日毎に培地に添加する。
- 細胞の細胞密度は、0.5×106~5×106細胞/mlである。
- 弱毒ウイルス株による感染は、1~0.0001の感染多重度(MOI)で実行する。
【0125】
感染細胞の培養工程(b)は、当業者に周知の、細胞の正常な増殖に適切な条件下で実行する。特には、
- 細胞を懸濁下でバイオ生成するための装置は、TubeSpin(登録商標)型又はKuhner型振盪プラットフォームインキュベーター上の50ml~200mlのフラスコ、又はApplikon BioTechnology社の500ml~2リットルバイオリアクターminiBioReactor型、又はSartorius Stedim Biotech社のUniVessel SU型であり得る。
- 培養培地の温度は33~37℃であり、pHは7~7.4であり、100~200rpmで撹拌し、酸素含量は40~60%である。
【0126】
細胞培養工程は、細胞増殖及びウイルスの複製能に応じて2~14日持続し得る。培養工程は、3~12日、又は4~10日、又は代わりに5~9日、又は6~8日の期間、特に実行し得る。
【0127】
感染性ウイルス粒子の回収工程(c)は、当業者に周知の任意の技術、例えば、生成培養培地の清澄後、ウイルス粒子の精製、濃縮及び定量工程により実行する。
【0128】
別の態様によれば、本発明は、上記の方法により得ることが可能なウイルスワクチンに関する。このウイルスワクチンは、記載する方法の工程(c)において回収した感染性ウイルス粒子からなる。
【0129】
別の実施形態によれば、本発明は、上記の方法により得られるウイルスワクチンに関する。
【0130】
医薬組成物
別の態様によれば、本発明は、このウイルスワクチン、及び少なくとも1つの薬学的に許容される溶媒を含む、医薬組成物に関する。
【0131】
本発明における認識では、「薬学的に許容される溶媒」は、溶媒又は賦形剤、すなわち、治療特性を有しない「不活性」成分を意味すると理解される。このような溶媒又は賦形剤は、著しい有害作用又は禁止される副作用もなく、個人又は動物に投与し得る。
【0132】
通常、医薬組成物において使用する他の活性成分、例えば、アジュバント及び/又は賦形剤も、この組成物中に存在し得る。
【0133】
本発明による医薬組成物は、少なくとも1つの有効量のウイルスワクチンを含むことが理解される。
【0134】
「有効量」は、本発明における認識では、それを投与する生物における免疫反応を引き起こすのに十分な弱毒ウイルス株の量を意味すると理解される。
【0135】
また、本医薬組成物は、ワクチン組成物となるものを指し得る。
【0136】
本発明による医薬組成物は、経口、舌下、又は吸入による投与に特に適する。
【0137】
特定の実施形態によれば、本発明による医薬組成物は、吸入による投与、すなわち、経鼻及び/又は経口投与に適する。
【0138】
吸入は、気道による吸収を指す。これは、特には、懸濁下で気体、微小滴又は粉体の形態の特定の物質の治療目的の化合物の吸収のための方法である。
【0139】
吸入による2種類の投与:
- 組成物が粉体の形態である場合のガス注入による投与、及び
- 組成物が、エアロゾル(懸濁液)又は溶液、例えば、圧縮水溶液の形態である場合の噴霧による投与
を区別する。
【0140】
次いで、噴霧器又はスプレーの使用を、医薬組成物を投与するために推奨する。
【0141】
したがって、ここで考えられる医薬組成物のガレノス形態は、粉体、液滴の水性懸濁液、又は圧縮溶液から有利に選択される。
【0142】
好ましい実施形態によれば、本発明による医薬組成物は、経鼻経路、特には、吸入による投与に適する。
【0143】
このような組成物は、予防ワクチンとして使用し得る、すなわち、病原性ウイルスによる生物の感染前に特定の免疫応答を刺激することを意図する。
【0144】
また、このような組成物は、治療ワクチンとして使用し得る、すなわち、病原性ウイルスによる生物の感染と同時に特定の免疫応答を刺激することを意図する。
【0145】
治療的使用
また、本発明は、医薬としてのその使用、換言すれば、その治療的使用のための、上記のようなウイルスワクチン又は記載するような医薬組成物に関する。
【0146】
有利なことには、このウイルスワクチン又はこの医薬組成物は、ウイルス感染症の治療及び/又は予防のための療法において使用する。
【0147】
「ウイルス感染症の治療」の表現は、生物においてウイルスによる感染症と闘うことを指す。目的は、感染性ウイルス負荷(感染価)を生物において低下させ、好ましくは、生物からウイルスを完全に根絶させることである。また、「治療」の用語は、ウイルス感染症(呼吸器症候群、腎不全、発熱等)と関連する症候を減弱させる作用を指す。
【0148】
「ウイルス感染症の予防」の表現は、生物における感染症の発症を予防すること、又はこのリスクを少なくとも低下させることを指す。この予防作用の結果、この生物の細胞は、ウイルス感染に対してそれほど許容的ではなくなり、このため、このウイルスによる感染に対して更に抵抗性となる。加えて、生物において、特定の免疫細胞が有利に成長して、上述のウイルスと特異的方法で闘い、これにより生物の細胞へのこの侵入を制限することが可能となる。
【0149】
より詳細には、本発明は、ウイルス感染症、特には、ニューモウイルスによる、特には、ヒトメタニューモウイルス及び/又はヒト呼吸器合胞体ウイルスによる、感染症の予防における使用のための、上記のようなウイルスワクチン又は医薬組成物に関する。
【0150】
第1の実施形態によれば、このウイルスワクチン又はこの医薬組成物は、ニューモウイルスによる感染症の予防において使用する。
【0151】
第2の実施形態によれば、このウイルスワクチン又はこの医薬組成物は、ヒトメタニューモウイルスによる感染症の予防において使用する。
【0152】
第3の実施形態によれば、このウイルスワクチン又はこの医薬組成物は、オルトニューモウイルスによる、特には、ヒト呼吸器合胞体ウイルスによる、感染症の予防において使用する。
【0153】
別の態様によれば、本発明は、ウイルス感染症、特には、ニューモウイルスによる、より詳細には、ヒトメタニューモウイルス及び/又はヒト呼吸器合胞体ウイルスによる感染症の治療における使用のための、上記のようなウイルスワクチン又は医薬組成物に関する。
【0154】
実際、このウイルスワクチン又はこれを含む医薬組成物は、特定の場合かつ特定の条件下で、このようなウイルスのうちの1つに既に感染した個人、特には、成人個人の治療方法において使用し得る。
【0155】
また、本発明は、上記のような有効量のウイルスワクチン又はこれを含む医薬組成物を、このようなウイルスに感染し易い個人に投与する工程を含む、ヒトにおけるウイルス感染症、特には、ニューモウイルスによる、より詳細には、ヒトメタニューモウイルス及び/又はヒト呼吸器合胞体ウイルスによる感染症を予防するための方法に関する。
【0156】
ウイルス感染症の予防及び/又は治療におけるその使用のための、このワクチン又はこの組成物は、あらゆる種の個人を対象とし、いかなる種の個人、新生児だけでなく高齢の成人個人をも対象とする。
【0157】
本発明の好ましい実施形態によれば、ウイルス感染症の予防及び/又は治療におけるその使用のための、このワクチン又はこの組成物は、小児の使用を意図する、すなわち、小児集団に投与することを意図する。
【0158】
本発明における認識では、小児集団は、18歳未満の人、より詳細には、5歳未満の幼児、及び乳児からなる個人の集団を指す。
【0159】
実際、ニューモウイルス科のウイルスは、いわゆる「無感作の」免疫を示す傾向を有し、このため年長の個人ほど丈夫ではない個人に主に感染する。
【0160】
最終的には、本出願はまた、
- 不死化細胞株ECACC 09070703、及び
- 配列番号1の配列により表すゲノム配列を含むヒトメタニューモウイルスに由来する弱毒ウイルス株
を含む、ウイルスワクチンを調製するための方法の実践のためのキットに関する。
【0161】
この弱毒ウイルス株は、特に、このメタニューモウイルス株のSHタンパク質をコードする遺伝子及び/又はGタンパク質をコードする遺伝子の不活化により、特に、遺伝的に修飾されていてもよい。
【0162】
加えて、この弱毒ウイルス株は、少なくとも1つの外因性遺伝子を含むゲノム配列を有し得る。この外因性遺伝子は、特には、別のウイルスに由来するウイルス抗原、例えば、hRSVのFタンパク質の全部若しくは一部、及び/又はインフルエンザ若しくはパラインフルエンザウイルスのヘマグルチニンの全部若しくは一部をコードする遺伝子であり得る。
【0163】
好ましい態様によれば、このウイルス株は、特には、本出願の実施例に記載の株:
i)配列番号2に表すようなヌクレオチド配列を含み、任意選択で、少なくとも1つの外因性遺伝子を加えて含むウイルス株、又は
ii)配列番号3に表すようなヌクレオチド配列を含み、任意選択で、少なくとも1つの外因性遺伝子を加えて含むウイルス株
のうちの1つである。
【0164】
また、このキットは、例えば、細胞株の増殖に適する培養培地のような他の要素、及び/又は生弱毒ウイルスワクチンの調製のための理想的条件を明示する使用法を含む。
【実施例】
【0165】
(実施例1)
亜群A1(C-85473及びCAN99-81)、亜群B1(CAN97-82)及び亜群B2(CAN98-75)の野生ウイルス株の複製のためのDuckCelt(登録商標)-T17細胞株の使用
DuckCelt(登録商標)-T17細胞を、速度175rpmのKuhner振盪機のTubeSpin50ml内OptiPro+L-グルタミン4mM最終培地中に、37℃で5%CO2及び湿度85%により培養し、培地10ml中1×106細胞/mlに希釈する。これらに亜群A1(C-85473及びCAN99-81)、亜群B1(CAN97-82)及び亜群B2(CAN98-75)の野生ウイルス株(無GFP)を感染多重度(MOI)0.01で0.5μg/mlのトリプシン(T6763 Sigma社)の存在下に感染させた。
【0166】
細胞を2~3日毎にトリパンブルーを用いて計数して、ウイルス感染の間の細胞増殖並びに細胞死を評価する。結果は、
図1aに示す。
【0167】
ウイルス生成は、培養培地中1mlあたりの感染性粒子数(TCID
50/mlで表す)を定量することにより、感染後2~3日毎に最大14日採取した試料から測定する。結果は、
図1bに示す。
【0168】
細胞死が50%超に達すると、すなわち、ウイルス株C-85473の感染後8日目並びにウイルス株CAN99-81、CAN97-82及びCAN98-75の感染後14日目に、ウイルス複製動態は停止する。
【0169】
結果は、DuckCelt(登録商標)-T17細胞の感染の間にウイルスC-85473のみが増幅し、ウイルス負荷が7日で2log10を超えて上昇することを示す。ウイルスCAN98-75では、感染後4~9日でウイルス生成は低く、一方、ウイルスCAN99-81及びCAN97-82では、感染後最大14日に初期接種未満又は検出閾値未満のレベルで検出可能であることを実証する。
【0170】
まとめると、ウイルス株C-85473は、DuckCelt(登録商標)-T17細胞上での複製能が、他のhMPVウイルス株の能力よりも非常に著しく高い。特には、感染後8日で観察された細胞死のレベルは、この株のこの細胞株上での感染能が著しいことを示す。
【0171】
(実施例2)
野生株C-85473 WTウイルス株、緑色蛍光タンパク質(GFP)の発現による組換えウイルス株、並びに組換えウイルス株ΔSH-C-85473(GFP)及びΔG-C-85473(GFP)の複製のためのDuckCelt(登録商標)-T17細胞株の使用
この実施例において使用するウイルス株は、次のゲノム配列:
- 配列番号4で表す、配列C-85473WT-GFP、
- 配列番号5で表す、配列ΔSH-C-85473-GFP、
- 配列番号6で表す、配列ΔG-C-85473-GFP
を有する。
【0172】
DuckCelt(登録商標)-T17細胞は、速度175rpmのKuhner振盪機のTubeSpin50ml内OptiPro+L-グルタミン4mM最終培地中に、37℃で5%CO2及び湿度85%による培養下で維持する。
【0173】
感染前に、細胞を培養培地10ml中1×106細胞/mlに希釈し、次いで、野生組換えhMPV(C-85473WT)、又はSHタンパク質をコードするゲノム配列の欠失株(ΔSH-C-85473)若しくはGタンパク質をコードするゲノム配列の欠失株(ΔG-C-85473)を感染多重度(MOI)0.01で0.5μg/mlのトリプシン(T6763 Sigma社)の存在下に感染させる。「偽」細胞は、感染しておらず、実験の陰性対象を成す細胞である。
【0174】
細胞を感染後2~3日毎にトリパンブルーを用いて計数して、ウイルス感染の間の細胞増殖を評価する。得られた結果は、
図2aに示す。
【0175】
細胞死が50%超に達すると、すなわち、平均14日後に、ウイルス複製動態は停止する。
【0176】
感染細胞の割合は、14日のウイルス動態の間にフローサイトメトリー(組換えウイルスにより発現するGFPの発現の検出)により評価する。得られた結果は、
図2bに示す。
【0177】
ウイルス生成は、培養培地中1mlあたりの感染性粒子数(TCID
50/mlで表す)を定量することにより、感染後2~3日毎に14日の動態の間採取した試料から測定する。得られた結果は、
図2Cに示す。
【0178】
得られた結果は、4つの独立的実験を表す。
【0179】
このような結果は、このような培養下及びウイルス感染条件下で、DuckCelt(登録商標)-T17細胞が、(i)感染後7日で最大濃度に達し、(ii)感染後9~11日で、野生ウイルス株並びに修飾ウイルス株ΔSH-C-85473及びΔG-C-85473により80%を超えて感染することを示す。
【0180】
3つのウイルス株のウイルス生成のピークは、感染後11日に位置する。
【0181】
まとめると、結果は、DuckCelt(登録商標)-T17株が、「許容的」であり、組換えウイルスC-85473並びに特には、生弱毒ウイルスΔSH-C-85473及びΔG-C-85473に感染させることができ、ウイルス粒子の生成が可能であることを示す。
【0182】
(実施例3)
実施例2の培養方法により得られたウイルス粒子の特性決定
本実施例は、組換えウイルスC-85473WTと比較した、DuckCelt(登録商標)-T17細胞上で生成した組換えウイルスΔSH-C-85473及びΔG-C-85473の複製能の
(i)サル腎臓上皮細胞LLC-MK2(ATCC-CCL7)、並びに
(ii)3D再構成ヒト肺上皮モデル(MucilAir(商標)、Epithelix社)及び気液界面における培養モデル
における測定に関する。
【0183】
LLC-MK2細胞の細胞叢及びMucilAir(商標)健常再構成ヒト呼吸器上皮を
- 組換えhMPVΔSH-C-85473にMOI(感染多重度)がそれぞれ0.01及び0.1で、
- 組換えhMPVΔG-C-85473にMOI(感染多重度)がそれぞれ0.01及び0.65で
感染させた。
【0184】
感染後3、5、7、12及び17日に撮影した感染細胞の写真を
図3a(ΔSH-C-85473)及び
図3b(ΔG-C-85473)に示す。
【0185】
感染の5日から、感染上皮におけるウイルス複製及びこれらの頂端極におけるウイルス分泌を、それぞれ上皮ライセート及び頂端膜側の洗浄物からRT-qPCR(Nウイルス遺伝子のコピー数)により評価した。
【0186】
結果は、
図3c(膜側洗浄物)及び
図3d(上皮ライセート)に示す。
【0187】
得られた結果は、DuckCelt(登録商標)-T17細胞上で生成した生弱毒ウイルスΔSH-C-85473及びΔG-C-85473が、機能性であり、LLC-MK2細胞、及び特には、再構成3Dヒト肺上皮モデル(MucilAir(商標)、Epithelix社)において感染する能力を保存することを示す。
【0188】
弱毒株ΔSH-C-85473及びΔG-C-85473は、
図3dに示すように、野生ウイルスC-85473と比較したヒト上皮モデルにおいて、経時的に殆ど持続しない形で殆ど複製せず、一方、DuckCelt(登録商標)-T17(及び副次的にはLLC-MK2)細胞上でのこれらの複製率は、非常に良好であることに留意すべきである。
【0189】
生物の条件に生理学的に近いこのヒト感染モデルにおいて得られた結果に関しては、このような2つの特性により、これらは優れたワクチン候補となり、このような弱毒ウイルス株はin vitroで容易に生成可能となるが、生体に導入する場合、非常にわずかなリスクを有するのみである。
【0190】
(実施例4)
DuckCelt(登録商標)-T17細胞上で生成した組換えウイルスΔSH-C-85473及びΔG-C-85473はin vivoで弱毒特性を保存する。
4~6週齢のBALB/cマウスを鼻腔内経路により
- DuckCelt(登録商標)-T17細胞上で生成し超遠心分離により濃縮した5×105TCID50のワクチン候補ΔSH-C-85473若しくはΔG-C-85473、又は
- 対照としてのOptimem培養培地(偽)(1群あたり10マウス)
に感染させた。
【0191】
マウスの体重及び死亡率の監視を毎日、感染後9日間実行した。結果は、
図4に示す。得られた結果は、DuckCelt(登録商標)-T17細胞上で生成した生弱毒ウイルスΔSH-C-85473又はΔG-C-85473に感染したマウスが、病態の徴候又は死亡率を示さず、これによりDuckCelt(登録商標)-T17細胞上で生成したこのようなウイルスの弱毒特性を実証することを示す。
【0192】
【配列表】
【国際調査報告】